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Cyborg 009 二次創作”ブログ”小説サイト


恋愛機能搭載型サイボーグ保管中
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MEMO
MEMO
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KSK装置を使用します!

第一部「Day by Day」・完結・・・・目次へ
第二部『Little by Little』・連載中・・・目次へ



______

☆こちらは、連載物のページでございます☆
 


blogを作った記念に書き始めましたので、”長い”です(笑)

この連載ものは、ただただ思いつくままに9と3を通しての、00メンバーの日常(+ミッション?)を書きつづっていく予定です。

で・す・が!

ここのテーマは!
9と3の片思いな日常なのであります。

忍耐力のない私は、切ない系に堪えきれず(読むのは好きでけど)
すれ違っても一瞬で、常にらぶらぶ・いちゃいちゃにしてしまう傾向なんです。

出来るだけじらして、切なくして、もう片思いの定番をやりつくした先の
ゴールは「両想い」であります。

どこまで続くかは・・・私がじれったい2人の関係に堪えられるかどうかにかかっています(笑)
もう、カメのように遅々として進まない展開になると思いますが・・・
気長にお付き合い下さることをお願いいたします。

ACHIKO的には切なく、ちょっとドキドキしつつ・・・
少女漫画の王道を目指したい!

・・・ですが、すでにひっついてしまいそうな勢いで(汗)


(最近なんて、両想いになっても続けちゃえ!なんて思ってます。9/20/08’)


と。とにかくですね!!がんばりますので!
感想などを頂けると嬉しいです!


注)お嬢さんは平ゼロの設定で・・・第一世代となっております。
 (話しの都合です・・・ということで、もちろん第一世代の1,2,4,もそう言うことです。)
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イベントもの!置き場
***

☆ここは・・・そのまんまです。 誕生日とか、9月攻めとか3月攻めとか・・・00さん関連を。  (その他、achiko設定の93使用のイベントはそちら(各カテゴリ-)へどうぞv)

MENU

   
下に行けばいくほど古いです!

2014 EVENT

1月の出来事」・・・お誕生日な2日間(*^_^*) bg_23_10.gif 1.1/2014マンガのちから展@大阪!2014」…レポート1枚w

2013 EVENT

93DAYをみなさまへ(*^_^*) フリーイラストですのでご自由にお持ち帰りください。(画像縮小のみ加工OKです) 「93day2013/Free illustration!bg_23_10.gif ぷちぷち93の2人が再び!/4コマ漫画? 「14日限定。bg_23_10.gif ぷちぷち93の2人で39の日!/4コマ漫画? 「Le 9, Mars,2013.

2012 EVENT

フランソワーズの誕生日/1,24,2012 「Souhaite-moi bonne chance (前)」 「Je vous souhaite bonne chance(後)

2011 EVENT

ジョー誕.5月16日! 「マジパンで大胆に!?」/絵は006が実は・・? 「on the promise 」/絵と単文で5月16日前のふたり?

2010 EVENT

ぷちぷち93・イラストで93!』/9月3日2010! bg_23_10.gif ジョー誕.5月16日! 『ぷちぷち93/イラスト(?)』achiko絵。 『BELIEVE』/いただいたイラスト2nd.ver!と文です。 bg_23_10.gif バレンタイン・デー!その一口が、幸せ。』”ツンデレと無自覚に五題”でバレンタイン・デー!Fortune Fate bg_23_10.gif 次の日がG博士の誕生日って・・イベント続きだなあ 『1月25日に感謝しますbg_23_10.gif お嬢さんのお誕生日2010だよっ! 『『兄と妹で五題』で3誕』/2010 Fortune Fate bg_23_10.gif

2009 EVENT

shan01.jpg /Xmas! (続きものとなってます・・・、しかもお話アップは26日から始まる_汗) banner画像/ミントbulue bg_23_10.gif 2009年9月だよ! 芽吹く(お話として形になる)前の妄想たち♪ banner_nothing.jpg ・・・を植えてみました。 9月30日まで続けます 。・・・としてましたが、 データが吹っ飛んだので、続いてます。・・・40話埋まるまで続けます。 banner画像/ミントbulue bg_23_10.gif> 七夕の日の拍手に置いた、お話です。 「星嫌いbg_23_10.gif ジョー誕.5月16日 犬を拾った七日間 (5.11~17までの連日連載) 『犬を拾った月曜日』 『飼い方に悩んだ火曜日』 『手放す決意の水曜日』 『飼い主探し木曜日』 『情が移った金曜日』 『優しい誰かに預けた土曜日』 『犬のいない日曜日fofa88-01.gifさまよりいただいきました。 bg_23_10.gif ♪ヴァレンタイン・デー! ~キミとチョコレート5題~ 『投げられたマーブルチョコレート』 『甘くないのが好きなんでしょう?』 『生チョコ気分』  (溶けやすいから触らない) 『溶けるくらい見つめて告白(入れ替えようを使用)待ってたってアゲナイ  』(欲しいならおいでよ)
fofa88-01.gifさまよりいただいきました。 bg_23_10.gif2009年09イヤーだよ!  あけましておめでとうございます!! 『ギルモア邸は今日も平和です』 (新年そうそう・・・allです。allにするとちょっぴり出番がすくなくなる3) bg_23_10.gif3誕/09’    「キミがいれた紅茶の後に・・・bg_23_10.gif

2008 EVENT

♪クリスマスだよ! 『May wish...』(00ズにフォーカス・・・3、一言・・・汗) 『プレゼントは25日の朝(包装紙・リボンはきちんと再利用)』(切ない→らぶらぶオオカミ) 『僕の赤』(・・・また告白もの・・・汗) 『イワンは密かに願いを叶えた』(allで93・・・9って極端♪) 『銀色の 』(・・・ちょい切ない?・・・けどまあ、幸せです) 『もうすぐクリスマスがやってくる』(らぶらぶ目的で書いてみました) bg_23_10.gif ♪ハロウィンだよ!08’ 『 イタダキもの!』で、妄想しちゃいましたとさ! (パラレルしてます・・・続きがリンクさせていただいている、サイト様へと♪) bg_23_10.gif ♪9月だよ!9(3)+誰かさん! 『彼女とぼくと末っ子と/9.1.08’』 『そういうことかよ?/9.2.08’』 『ちゅ。/9.3.08’』 『子犬を散歩へつれて行く理由/9.4.08’』 『頼む。/9.5.08’』 『今日のランチは/9.6.08'』 『おせっかい/9.07.08'『距離/9.08.08'』 『雨の日/9.09.08'』 『今日/9.9.08'(allなので、博士もw)』 bg_23_10.gifジョー誕/08’たくさんあるので(笑)別ページに飛びます。 (初めてのイベントもの♪でした・・・) bg_23_10.gif
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Day by Day/目次



第一部・「Day by Day」

<あらすじ>

B.Gとの長い戦いの後に日本に居を構えることになった00サイボーグのメンバーたち。
戦いに疲れたこころと体を癒しながら、「人」として「日常」を取り戻そうと、それぞれが日々を大切に過ごし始めた。
そんな中、1人フランソワーズだけが・・・・。


『ギルモア邸/人として』


『さくら』
10. 11.

『バレエ編/彼女を知る人』
12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20.

『バレエ編/告白』
21. 22. 23.

『コズミ邸/春』
24. 25. 26.

『バレエ編/甦る想い』
27. 28.

『好きと言う気持ち』
29. 30.31.

『ミッション/始まり』
32.33.34.35.36.37.38.

『続 ミッション/All for you』
39.40.41.

『続 ミッション/想いの形』
42.43.44.45.46.47.48.

『続 ミッション/距離』
49.50.51.52.53.54.55.56.57.58.
mission人物関係図(55を読まれてからにしてください。).


『続 ミッション/瞳をそらさずに』
59.60.61.62.63.64.65.66.67.

『続・ミッション/夢想の霧』
68.69.70.

『続・ミッション/FULFILLMENT』
71.72.73.74.

『新章への序章含む、Day by Day 完』
75.


注)連載ものなので、第一部から第二部へと話しはそのまま続いてます。
  伏線も続いてます。
  なんら変わってません。
  タイトルが変わっただけ、とも言う・・・(爆)



第二部へ続きます・・・。

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Little by Little /目次
連載中です。

第二部・「Little by Little」
 


<あらすじ>

日本に定住の地を定めた00サイボーグたち。
平穏な生活に慣れ始め、009ではない、003ではない、ジョー、フランソワーズである時間が、彼らの関係を少しずつ変えていくなか・・・
コズミが学会に参加した先で、手に入れたもの。
それをきっかけに新たなミッションが始まった。
今までと違う戦い方に、手に入れた平和の中で再び”戦う”ことへの、思いに戸惑いつつも、無事に解決、したが・・・


『あやめ祭/絡まった糸』
.2.3.4.5.6.7.8.910.

『あやめ祭/真夏の世の夢』
11.12.13.14.15.

『あやめ祭/はじめの一歩』
16.17.18.19.20.21.22


『夏/始まりがあれば』
23.24.25.26.27.28.


『さよならへの階段』

29

last up -8/01/12'




MEMOにある『ヨミに咲く花の種』の中にある、カテゴリー『side.s@Lxo9』に連載もののこぼれエピソードを置いています。現在は当麻くんと9の寮生活妄想・・中


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オレが好きになった人は島村ジョーの彼女だった
長いタイトルだな・・・(〃_ 〃)ゞ ポリポリ
一般青年の一人称から見た93です。

うちの看板93でございます、です(笑)

いや、93よりも”大地”くんが・・・かな?
オリジナル・キャラクターの彼です。
一般青年からみた、93のらぶっぷりを!と言う事で始まりました。
私は一人称は苦手。と、言うか、書けないと思い込んでいたのですが、あらあらあら。
大地くんのお陰で開眼!です(笑)
何を思ったのか、書くぞ!と、思い立って1日でだ~~~~~~~っと書き上げた、ものすごく思い入れが強い作品です。

大地くんがいなかったら、BLOGを始めてなかったと言ってもいいかもです、ね。
ここに、私の”お話作り”の基本があるのかもしれません。ってことで、
ブログを始めるにあたり、ここの大地君を主人公(?)に読み切り・シリーズ化にしました。

島村っちとあだ名がついている9は、レーサーですが、”今から”の人なのです。ハリケーン・ジョーのニックネームの前。
3はバレエスクールに通ってます。週末は一般のレッスン・アシスタントなんかしたり、たまに舞台も出てるダンサーです。

らぶらぶ度すごいですよ・・・。


全ての苦難を乗り越えた先のらぶらぶ93と言う事で、そんな2人にからむ”大地”くんを御楽しみください。

 
加速装置で目次へgo

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大地くんシリーズ・・・目次











オレが好きになった人は島村ジョーの彼女だった


本編からどうぞ!
本編 + 後書き
番外編 + 後書き

******
*LINK記念に、このお話を
 「COCOA Brown」のSPRITE_3rdさまにお贈りしました。
 美しい写真に彩られて・・・掲載してくださいました。


******



本編から、その後の大地くんワールド!

下にいくほど新しいです!

(大地くん・シリーズで!とリクエストいただいたお話もここにあります)


彼は泣く
(+あとがき・泣かせてしまいました。)

その瞬間(とき)
(+あとがき・えっと・・・自分で書いておきながら、予定外の方向へ・・・・)

3分間
(+あとがき・・・昔書いたのほじってみた・・・ちょっと不満(笑)+α

可愛い人 
(+あとがき 無計画で書いてしまった結果です。
でも掲載するという暴挙にでる +αとんでもないもの書いてしまった? 
先に謝っときます。ごめんなさい。萌子さんに語っていただきました。)

愛おしくて。愛おしくて。愛おしくて。
(本編のその後。の話です・・・「39記念・2008」に無理矢理してみました。(笑)

SCENARIO
(R15・・・・?がどのあたりなのか、よくわかりませんが、桃色な表現が使われています。
93デー・2008ですから、仕方ありません・・・・>言い訳)

フォーマルハウト
(秋です・・・Jが揺れてしまいました。短いです。)

Trick or treat!
(08年のハロウィンです。・・・9最後に2言しか・・・笑。)

VIOLET
(2/14/09’・・・R-15???)

You are the reason
(大地くんに出会う前の、ヘタレ9と3に香奈恵さん・・・と?)

My sweet pumpkin
(10月鈴鹿と知ってかいたのですが、なんも関係がない内容です。
大地くんと9と萌子さんとのある日。レース前でちょっといつもよりものりがよい9?)





short story

(基本93が出てこないお話たち)
↑古い / ↓新しい

#7/7/2008 His circumstance
#夏休みです。in the dog days of summer
#8のお誕生日2008’8月20日19時53分
#4のお誕生日2008’9月19日の嵐の予感.. 
#2のお誕生日2009’2月2日/逆チョコっての知ってるか?
#大地くんのお誕生日/私が好きになった人は島村ジョーの彼女に片思い。3.9.09'
new夏休みを前にして/青い鳥と青春のカゴ6.24.11’




スペシャル!


left_up3_anime.gif8月16日の出来事/イラストをいただきました〜!


お題配布ネタ!




大地くんにキリ番リクエスト!


*キリリク・ストーリー「333」番のメ・・ンさまへ
 本編・長いから略して「オレ島」(笑)のジョー視点の物語!「ヤキモチJOE!」
 「SIDE.J

*キリリク・ストーリー「099」番の・・・里さまへ
 ヘタレ島村っちの成長記録でございます。
 「STEP BY STEP」 +練習した作品(

*キリリク・ストーリー「1003」番の・~☆さまへ
 島村っちの見失ったものは・・・一般女性の視点から見た9の葛藤と3の愛。
 「月の船

*キリリク・ストーリー「939」番の・・・里さまへ
 F1・ジョー/お嬢さんがジョーの遠征先にやってきた!
 チームメイトたちが見た、”ハリケーン・ジョー”ではない彼?
(これ以上ないくらい、激甘です・・・(/ω\) ハジカシー)
Envy

*キリリク・ストーリー「9999番」のy・・・・さまへ
いつものカフェで、いつもの時間に。
温かい日常とお気に入りのひとときの中に、当たり前のことが、すごく贅沢にかんじることも。
 「Evergreen

☆お話をy・・・さまのHPに置いていただけることになりました。
読むなら、ぜひ、そちらで!!(読みやすい上に、雰囲気がいいです♪)



ーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょっと真面目な文章に疲れてこんなので遊んでしまいました・・・・。


(ご報告)
以前はここからカフェAudreyのメニューと、大地くん設定のストーリーに沿った時間の流れの表(?)をおいていましたが、このページを改装するために撤去いたしました。
またいつの日か再掲いたしたいと思いますので、そのときまで気長にお待ちください・・・。








トップ素材写真>ミントブルー
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2/14 (2008)
2月14日

====
街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられている。

朝からキッチンに甘いチョコレートの香りが漂う。
2月14日は、バレンタインデー・女の子が好きな人に想いを告げる日。
1月の終わり頃から、CMにはピンク色の製菓会社の「売り上げにご協力を!」と
宣言しているような、ものが流れ始めた。

日本は祭り文化。祭り好き。
日本に住む00メンバーは簡単にそのように解釈していた。

CMを初めて瞳にしたフランソワーズは、デパートやスーパーで見たその雰囲気に
すっかり感化されたようすで、
「みんなに美味しいチョコレートケーキをごちそうするわ!」と、張り切っているのである。

「みんな」じゃないだろう?
特に日本では。

00メンバーたちの顔にはしっかりそう書かれていたが、
フランソワーズは気づく様子もなく。
14日の朝から、今日のお茶に出すケーキ作りに励んでいた。

3時。
リビングルームには、
博士、イワン(昼の時間)ジェット、アルベルト、ジェロニモ、張大人、
グレート、ピュンマ、そしてフランソワーズ。
お茶とケーキが綺麗に並べられたリビングのテーブル。
イワンには特別にちょっとチョコレート風味のミルクが用意されていた。

今日のこの日に居なければいけないはずのジョーの姿が見えない。
そして、数を数えても、ジョーの分がない。
メンバーの顔に「?」マークが浮かんでいる。
だが、それをわざわざ口に出すメンバーも居なかった。

フランソワーズは、チョコレートケーキを切り分けながら、
1人1人に配っていく。

「博士、いつもありがとうございます、でも徹夜は少し控えて下さいましね?」

「ジェット、もう少しお部屋の片づけしてね? ふふふ。いつもありがとう」

「アルベルト、煙草を少し減らしてくれるって言った約束をまもってくれてるのね?
ありがとう」

「ジェロニモ、この間の苗から可愛らしい芽が出たのよ!ありがとう。春が楽しみだわ」

「張大人、お口に合うか解らないけれど・・・いつも美味しい御飯をありがとう」

「グレート、この間貸してくれた本、本当に素敵だったわ、ありがとう」

「ピュンマ、いつもお世話になりっぱなし、私も少しは貴方を見習わないと
・・・いつもありがとう」

「イワン、いつも助けてくれてありがとう。ふふふ。今日のミルクは
ちょっと甘いかしら?」

全員にケーキと日ごろの感謝の気持ちを添えて。
けれども、メンバーの顔から「?」マークは残ったままである。

「さてと!それじゃあ後はお願いしますわ。博士」

全員がケーキを口にしたのを確かめて、そそくさと部屋へ
戻っていくフランソワーズ。
彼女の部屋の扉が閉まる音を聞いた、メンバーたちが一斉に口を開いた。

「おいおいおい、ケンカでもしたのかよ~!」
「ジョーは一体どこいったアル?」
「そう言えば、朝から見かけないね?・・・まだ寝てるってことはないよね?」
「・・・ありえる。」
「ジョー、出かけた」
「お、ジェロニモ知ってるのか?」
「我が輩も、出かける所をみたぞ」
グレートとジェロニモは2人で頷き合う。

そんなメンバーたちの会話を聴きながら、
博士は美味しそうにチョコレートケーキを頬張り、ずずずと、コーヒーを啜って
「なんじゃ?みんな知らんのか?」
呆れたように言い放った。
「博士は知っているのですか?」
アルベルトがすぐに質問を返す。

「ジョーはコズミ君の所じゃ、ちょっと所用を頼まれての。
なんでも・・・・」

「じゃあ、博士行って参ります」

いつの間に1階に降りてきたのだろうか、

フランソワーズは、リビングの入り口に立っていた。
その姿にメンバー達は息をのむ。

フランソワーズは、ピンク色の薄いシフォンが幾重にも重なった
胸下切り替えのエンパイヤ・スタイルのAラインのワンピースに、
それより少し濃い色のショール。まだ肌寒い時期にも関わらず、
肩がむき出しになっていて、砂浜に打ち上げられた貝のように輝く
白い肌が眩しい。髪は軽くアップされていて、パールで飾られた大きめの
バレッタで留められている。

「おお、おお、綺麗じゃの。楽しんでおいで。
夕食の心配はせんでいいからの、ジョーにもよろしく伝えておいておくれ」

フランソワーズは博士に綺麗だと言われ、少し恥ずかしそうに、頬を染める。
「はい、ありがとうございます」
フランソワーズが笑顔で博士に挨拶をする声と同時に、
タイミングよく外から車のクラクションが鳴る、その音は紛れもなく、
ジョーの車のそれだ。

「ジョーはもう帰って来ておるのか?」
「んふふ、彼はもう30分も車の中で待ってるんです、家に入ればいいのに、
恥ずかしいからって」
「なんじゃ、それは・・・恥ずかしいって何をイマサラ・・・」
「一緒にケーキを食べたかったんですけれど・・・」
「なに、ケーキは逃げやせん、帰ってからゆっくり食べればいい」
「はい。」
再び、クラクションが短く3回鳴る。
「行きなさい、ジョーが待ちくたびれておるよ」

「はい!行って参ります」

フランソワーズはキラキラと瞳を輝かせ、博士の頬にキスをする。
その場に呆けている、メンバーにさっと目線で挨拶をして、玄関へ急いだ。


そして、中断された話しを再び再会させた。
「・・・なんでも、コズミ君が知り合いからもらったというチケットを
どうしても、ジョーは譲って欲しいと願い出たそうでな・・・
それを譲ってもらう代わりに、ジョーはコズミ君の仕事を手伝っておったのよ、
3日くらい前からじゃったかの?」

「「「「「「「チケット?」」」」」」

「うむ。なんでもフランソワーズが観たがっておった
来日中の○○○バレエ団の初演チケットだそうな、今日がその日らしい」


玄関の扉が開き、
ドレスアップしたフランソワーズの姿が現れると、
言い合わせていた時間に遅れたフランソワーズに、少し苛立っていたことなど
あっという間に忘れてしまった。

「ごめんなさい、ジョー」
口では謝っているが、フランソワーズの顔は喜びと興奮で輝いていて
ちっとも、悪いとは思っていないことは明かである。
家の中で彼女の支度が整うのを待てばいいのに、「外で待つ」と
言ったのはジョー自身。
ドレスアップしたフランソワーズと、滅多に着ることのないスーツにネクタイ姿のジョー。
そんな姿を仲間達に見送られるなんて・・・。

「どうしたの?」
「・・・ん? いいや・・・・」
こういう時は、綺麗だね、よく似合うよ。などの言葉をかけてあげるべきなのかもしれない。
けれども、なかなかその言葉は、ジョーの胸からノドを通り、彼の声帯を揺らすことがない。

助手席の車のドアを開け、ジョーも運転席へ。
フランソワーズは、すぐにでもジョーが車を出すと思っていたのに、
彼はエンジンをかけずに、じっと彼女をみつめている。

そして・・・。
彼の手は、彼女の肩に。
お互いの頬が吸い寄せられるように、ゆっくりと近づいて行く。
ジョーの少し緊張した小さな声が、彼女の耳をくすぐる。

「チョコレートよりも、フランソワーズが一番のプレゼント・・・だよ。僕には」

ーーーー
いつもと同じ優しいキスが、今日は少しだけ甘いような気がする。
それはどんなチョコレートよりも甘いもので、僕しか味わうことができない甘さ。

 
時間がないから、今はここまで。
彼女が観たがっていたバレエ公演のチケットと、彼女が行きたがっていたレストランへの予約。
そして・・・このキスの甘さを存分に味わえる場所も確保済み。

僕は半分日本人だけど、半分は違うんだ。
たまには、こんな僕でもいいんじゃないか?
いつも他のメンバーたちに先を越されてるんだ。

大変だったんだよ。このチケットを手に入れるの・・・。
あっという間に売り切れてしまって、コズミ博士の友人がやっとの思いで手に入れたものを
どうにか譲ってもらいたくって・・・。

こんなに頑張ったんだから、今夜が楽しみだよ。



=======


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それが、僕


お題を最後まで読んで下さってありがとうございました!企画SS。



「それが、僕」


####



歩き出した。空を流れる雲に歩調を合わせて。
歩き出した。左足を一歩前に出してみる。

歩き出した。もう、止めることはできない。





誰にも、歩き出した僕を・・・・止められない。























キミが好きだ。
















キミが好きだ。














ずっと、ずっと、ずっと・・・・好きだった。






















誰よりも、キミが好きだ。






















伝えたい。

キミに伝えたい!!!


















フランソワーズ、キミが好きだ。

























「好きだよ」


「なあに?・・・突然」

「フランソワーズが好き」


晴れた午後。
梅雨入り前の明るい季節。
つきぬけるような青い空の下。


「好きだよ、フランソワーズ」



フランソワーズは大きな瞳をくりっとさせて、その愛らしいくちびるで微笑んだ。


「ありがとう」


今日の分の洗濯物を庭に干し終えて、彼女は洗濯かごを手にもった。


「好きだ」


「私もジョーが好きよ?」

「・・・・それは、イワンを好きとかと一緒の好き、だろ?」


「・・・・・・・・いけない?」



ジョーに背を向けて、庭からリビングルームへと戻っていく。
その背にむかってジョーは言った。



「ダメだよ・・・・僕の好きとは、違う」

「・・・どう、違うの?」





「好きだよ、フランソワーズが好きだ」



フランソワーズはぴたり、と足を止めた。
ジョーは足を止めてしまったフランソワーズに近づく。
フランソワーズはジョーの近づいてくる気配に、慌ててリビングルームに入っていこうとした。



手に持った洗濯かごが、落ちた。








「僕は、キミだけが好きなんだ」








彼女の躯に腕をまわして力を込める。
フランソワーズの背中に、自分の躯をぴたりとあわせる。
その細い肩に流れる、甘い香りのするハチミツ色の髪に、くちびるをよせて囁いた。





「・・・・キミが好き。それが、僕」





「それが、ジョー?」

「うん。キミが好きでいることが、僕」

「私を、好き・・・?」

「キミが好き。フランソワーズが好き・・・・キミだけが好き・・・それが、僕なんだ」




フランソワーズの躯が動く。
ジョーはその動きに合わせて腕の力を緩め、彼女を自分の方へむくように誘導する。



「ジョーが、私を、好き?」
「僕は、キミが好き」



フランソワーズの瞳の中に、恋する1人の青年。



「それが、僕」




近づいてくるジョーの瞳。
いつの間にかフランソワーズの頬にそえられた、少し震えを感じる手。





「             」





声にならない、フランソワーズの答え。









つきぬけるように晴れた青い空。
雲は風に流れて。




歩き出した。僕は彼女と一緒に。
歩き出した。彼女と手を繋いで。



彼女の手を離さない。


それが、僕。


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青の世界
「好き」と言葉にしてしまうのは、とても簡単なコトかもしれない。
この気持ちを素直に表すのは、「好き」と言う言葉が一番適しているかもしれない。

言ってしまえば、楽になるのも確か。
けれども、言ったからこそ失ってしまう感覚も、あるのかもしれない。

この想いを、どう表したらいいんだろう?
この想いは、言葉として言い表すことができるのだろうか?


====
「複雑に考える必要があるのか?」

ジョーは先日買ってきたばかりのウィスキーを手に、
004こと、アルベルトの部屋を訪ねていた。
グラスについだ茶色の液体に、歪な形の氷が浮かぶ。
アルベルトの言葉にただ黙って聞いているジョーの視線の先には、
彼の部屋の窓から見える、月明かりに照らされた、夜の海。
そして不規則なリズムでうつ波の音。

「このまま・・・の・・・」
「ん?」

ジョーは掠れるような音で答える。

「このまま・・・じゃ・・・ダメなのかな?」
「おまえさんは、このままの関係がいいのかい?」
「ーーーーよく・・・わからない。でも、彼女がそばに居て、笑ってくれて。
みんなが居て、それ以上を求めてもいいのかな?」

「誰か、求めちゃダメだとでも言ったのか?」

アルベルトの問いに、小さく首を横に振る。

「好きなんだろ?」

アルベルトがもつ、グラスの氷がカランっと音を立てて崩れる。
その音に誘われるように、ジョーはアルベルトの持つグラスを見た。
視線はそこにあるものの、ジョーの目は彼のグラスを見てはいなかった。

ジョーの瞳には、今日の昼の出来事が。
フランソワーズのその顔が思い浮かぶ。

====
ギルモア邸から歩いて5分ほどの場所にに広がる白い砂浜。
午前中に済ませた、洗濯と掃除。
お昼の準備には少し早い、中途半端な時間。
フランソワーズは、ほんの少しの自分だけの時間を、この砂浜で過ごすことが多い。

食後の運動。と理由をつけて、たびたびジョーはフランソワーズのこの時間を
共有するようになって早3ヶ月。

彼女が「そろそろお昼ね」と声をかけるまで、海を眺め、
そして風のように跡が残らない日常の過ぎゆく淡い会話を重ねていく。

その日は、とても綺麗な青空が広がっていた。
梅雨明け一番の初夏を告げる夏の青。
海と空との境界線が解らないほどに、世界は青かった。

ジョーはただ、海なのか、空なのか解らないその一面の青い世界を見入っていた。
少し離れたところから、フランソワーズは彼の背中越しから、
その世界を感じていた。

「変なカンジだね」
「・・・?・・・なにが?」

自分の後ろに立つ、フランソワーズへは視線を向けずに
ジョーは彼女に話しかけた。

「君の瞳を見なくても、今、君の瞳を見てるような気がする。」
「?」
「今日の空、かな? 海・・・なのかな・・・君の蒼い瞳の色に一番近いよ」
「・・・」
「ずっと、見ていたいね、この色を。すごく気持ちがいい」

ジョーは独り言のように、話し続ける。
今日の、彼はいつになく素直に自分の感じたことを音にする。
この美しい青いの世界が、彼の気持ちを素直にさせているのかもしれない。

「僕の一番好きな色なのかも・・・な・・・・」

ジョーの言葉に、フランソワーズは胸を熱くさせる。
少しずつ、自分とジョーの距離が近づいているのを感じつつある、この頃。
日に日に、彼への想いも強まっていく。
戦いの中では保たれていた、仲間として、最強のサイボーグ、009への尊敬と
信頼の気持ちが、いつしか、彼が不意に見せる本来の「島村ジョー」の姿によって
恋心と変わっていくのはそう時間がかからなかった。

期待してもいいのかもしれない?
彼も私と同じ気持ちを?

何度も不定しつつも、毎日の小さなふれ合いが、彼女の胸を淡い期待に染めていく。

何も話さなくなったフランソワーズに、ジョーはやっと視線を青い海と空から離し、
フランソワーズへと移した。

「どうしたの?」
ジョーはゆっくりと、フランソワーズに歩み寄る。
フランソワーズはいつの間にか自分が、俯いて足下を見つめていたことに気づく。
「フランソワーズ? 気分でも悪いの?」
ジョーは何も答えない、そして俯いたままの彼女の顔を見るために、
下から覗き込むような仕草で話しかける。

「フランソワーズ?」

突然に彼女の目の前に現れた、優しい褐色の瞳。
心配そうに覗く、その目にフランソワーズの顔がが映し出される。

大きく、彼女の心臓が跳ねる。
全身の血が一気に自分の胸に集まっていく。




「私、ジョーが好き」





波の音にかき消されそうなほど、小さな声。
けれどもはっきりと、その唇から発せられた言葉。
彼女の顔を見つめるジョーにとって、聞き逃すはずがない。





「好きなの」


声にならない声で、もう一度言う。


フランソワーズはぐっと、瞳を閉じる。
彼を直視できないから。
彼の瞳が、自分の言葉と同時に大きく揺れたのを見てしまったから。


告白するつもりはなかった。
勢い、と言うか。
場の雰囲気、というか、空気に飲まれてしまった、後悔と恥ずかしさ。
言いようのない不安と、もう抑えることができないほどに高まってしまった
彼への気持ち。

凍ってしまった時間。

体を堅くして、呼吸の仕方も忘れてしまっているかのように立ちつくすフランソワーズは、
自分から離れていく、ジョーの足音だけを聴いていた。

彼の足音が聴こえなくなった時、
彼女はその場に崩れるように、座り込み、呆然と先ほどまでジョーが眺めていた
世界を見つめた。

「バカ・・・」

彼女の瞳から溢れる涙は、透明で、ただ冷たいものだった。


====
ジョーは早足でその場を離れた。
何も考えることができなかった。
ずっとフランソワーズの声が、あの言葉が繰り返される。

ギルモア邸の玄関のドア勢いで開け、キッチンへと走り込む。
無造作に置かれたコップをつかみ、水道の蛇口を乱暴にひねる。
勢いよく流れる水をコップに注ぎ、一気に渇いた喉へと流し込む。
ガンッと、乱暴にコップを流し場に置いた。


「私、ジョーが好き」


彼女は確かに言った。
あのフランソワーズが、自分に向かって言ったのだ。



嬉しい。

それと同じくらいに

どうして。

そして今の生活が、今までの関係が音をたてて崩れていく。
不自然な怒りが、彼の心を支配する。

「お? ジョー、居たのか?」

間延びした、ジェットの声がキッチンの向こう側から聞こえてきた。

「なあ、お前さ、フランソワーズ知らないか?」

正直に、今、一番聴きたくない名前を出されて、ジョーの肩が震えた。
そんなことに気づきもせず、ジェットはジョーに話しかける。
「腹減ってさ~、そろそろ昼飯の用意してくんねーかな?って
言いたかたんだけどよ~」

「  」
「あ?なんか言ったか?」

ジョーの声が聞こえたが、はっきりとは聴き取れなかったジェット。

「知らない!」
「!!」

ジェットはその声の大きさ、鋭さに驚く。
普段のジョーでは、あり得ないその声に、ジェットは反射的に
ジョーの肩に手をかけようとした。

「おい、なんか・・・あったのか?」
「五月蠅い!」

彼の手を振り払い、その場から逃げ去るように自室へと
駆け足で階段を上っていく。
そんなジョーの後ろ姿を、ただ呆然と見送るジェット。

「なんなんだよ?・・・・・いったい・・・・」

わけがわからない。っと言った様子で短いため息をつき、リビングへと戻った。

「ケンカしたのか?」

リビングで、冷めたコーヒーに手をかけたアルベルトは、
平穏な日常生活では聴くことがないほどの鋭い声に、
思わずキッチンの方へと視線が向かう。
と、同時に、ものすごい早さで自室へと戻るジョーの姿を目撃し、
その跡を追うように、キッチンから出てきたジェットに話しかけた。

「ケンカも、何も・・・わけわかんね~よ!!」
「また、何か余計なことでも言ったんだろう?」
「言ってねーよ!ただ、フランソワーズがどこか聞いただけだっつーの。
なのに、あいつってばよ!”知らない!””五月蠅い!”だぜ?」

大げさに肩をすくめて、お手上げのポーズを取る、ジェット。

「・・・・ふん。フランソワーズとケンカか?」
「ってーか、フランソワーズは何処だよ?」
「この時間なら、外だろ。例の散歩だと、思うが?」
「腹減ったんだよな~・・・オレ」

ジェットの言葉に、ちらりと壁に掛かっている時計を見る、アルベルト。
時は、正午を過ぎていた。

====
空になった手元の缶をひょいっと近くのゴミ箱へと投げ入れる。

「初めてだよ、女の子のことをこんなに大切に想うのは。すごく不思議なんだ。
彼女が嬉しいと、僕も嬉しい。彼女が哀しいと、僕も哀しい。
・・・なんて言ったらいいのかな。
ちゃんと言葉にすることが、難しいんだけどさ。ずっと、
そばに居て欲しいんだ。・・・ただ・・・」

アルベルトは自分で空になったグラスに新しい液体を注ぎながら、
酔いの勢いで話すジョーの言葉を聴いている。
酒の力でも借りない限り、いくら男同士でも、ジョーの場合はこんなことは話せない。

「ただ、なんだ?」

アルベルトは、注がれたグラスへと氷を足す。
その動作を見ながら、自分の手にとった新しいビールの缶を少し強く握る。
アルミ缶が凹む音が、一瞬、波の音を遮る。

「・・・ただ、怖いんだよ」
「怖い?」
「特別・・・な人になってしまうだろ?」
「・・・それで?」
「だから、今までと違うようになるだろう?」
「どうして?」
「特別だから」
「今までも、そうだっただろう?おまえさんにとって、あの娘は特別だったろう?」
「そう・・・だよ。だって、女の子だしさ」
「それだけか?」
「・・・それだけって・・・」
アルベルトは、グラスをゆったりと持ち上げ、一口、
舌に乗せるように液体を味わう。
彼の眼はじっと、ジョーを見ている。
その視線からは彼が何を考えているのか、読み取ることは出来ない。

「じゃあ、訊くが・・・フランソワーズじゃない娘が、003だったら、
お前、どうだったと思う?」
「003がフランソワーズじゃないなんて、考えられないよ」
「例えばさ。今までお前が出会った女の子たちが、
003となっていた可能性もあるんだ。
フランソワーズとだって、003と、009として出会わないで、
もっと違った形で出会っていたら、お前さんは、どうだったんだろうな?」

「想像できないよ・・・そんなの・・・・」

「仲間の中で唯一、彼女だけが女の子だ。だから好きになったのか? 
お前さんの言う特別って
なんなんだろうな?」
「・・・・フランソワーズだから、さ。でも、考えられないから・・・それに、
それに・・・彼女は・・・」

ジョーは、言葉を濁す。そして、彼の言葉はアルベルトの問いに対して
答えになっていなかった。

「信じられないな。ジョー、お前は本当に、あの009かい?」
くくく、っと低く嗤い、彼独特の唇の動きをを見せる。

ジョーは何も答えない。

的確に、そして素早く状況判断し、絶対の自信と決断力で、チームをまとめ上げ、
どんな窮地に陥っても、激しい戦渦のなかでも、微塵もその強さを揺るがすことがない、
世界最強のサイボーグ戦士、009。

今、自分の目の前にいる青年が、最強の戦士009だと言って紹介されても、
絶対に誰も信じないだろう。
アルベルトは6本目のビールに手をかけたジョーを見て、戦いの中で接していた彼と、
今の彼を較べていた。同じ人物を較べると言う行為自体、おかしいが。と自ら訂正しつつも、
009と島村ジョーの差があまりにも違い過ぎて、自分でも不思議な感覚に陥っていた。

「なあ、ジョーよ。フランソワーズは綺麗な娘だよな?」

突然、話題が変わり、驚いたようにアルベルトを見るが、
彼の言葉にジョーは大きく首を縦に振る。

「あんな別嬪さんは、滅多にお目にかかれない。その容姿にも負けないくらい、
心も綺麗だし、思いやりもある、そして強い。辛い・・・ことも色々あったが・・・
なあ、あの娘がいてくれたお陰で、
どれだけ俺らが救われたか、・・・言わなくてもわかるだろ?」

アルベルトの言葉に同意するように、首を縦に振り続ける。



「そんな娘が、好きになった奴が・・・ジョー、お前さんなんだ」




====
部屋に響く時計の秒針の音がフランソワーズの気持ちを、紛らわす。
無心でいたいがために、秒針の音だけに集中するけれども、
いつしか、その音も耳から遠ざかっていった。


いったいどうやって、今日という日を過ごしたのか、フランソワーズは覚えていない。
とにかく、今、自分の部屋の、自分のベッドに居ることだけが、解っている。

その後、ジョーとは会っていない?
会っていたのかもしれない。
お昼に?それとも、夕食のとき?
自分は、昼食の用意をしたのだろうか?夕食は食べたのだろうか?

あの告白をした時と変わらない波の音。
耳を澄ませて、集中すれば・・・ジョーが作る「音」を聴くことが出来る。
彼を「視る」ことも出来る。

自分の思い上がりに腹が立つ。

彼との距離が近づいていた?なんてバカなことを思いこんでいたんだろう。
今まで少しずつ重ねてきた、大切な彼との日々をたった一言で壊してしまった。
頭では解っていたことなのに。
いままでの関係が、ジョーと自分にとっては一番良い関係が成り立ちつつあったのに。
自らの手でそれを壊してしまった。

後悔。

けれど、あの告白は紛れもなく自分の本当の気持ち。

もう、どうしたらいいのか解らない。
どんな顔をしてジョーに会えばいいのか解らない。
時間を戻せるのなら、今すぐにでもあの時に戻りたい。
そして、全てをなかったことに、重い鎖をつけて深い海の底へと沈めてしまいたい。

「・・・・バカだな、私って」


眠ることもできない。
このまま永遠に朝が来なければいいとも思う。
いっそのこと、「何か」が起これば、こんなことに悩んでいる暇がなくなり、
再び003として009との日々が始まるのに。
仲間として。

そんな考えが浮かんだ瞬間に、なんて身勝手な、我が儘な子なんだろうと、
自分が情けなくなってくる。

逃げ出したい。

何もかも捨てて逃げ出したい気持ちになっていたフランソワーズの耳に、
自分の部屋の戸をノックする音が聞こえた。

聞き間違えではない。

息を殺して、自分が不在であることをドアの外に居る人に伝えようとする。
数秒、間を開けて、2度ほどドアをノックする音が再び聞こえた。
それは、1度目よりも確実にしっかりとした戸を叩く音だった。
フランソワーズは、ベッドから起きあがるのも億劫で、人と会うという行為も
今の彼女にとって、とてつもなくエネルギーを必要とする行為だったため、
このまま、自分が不在、もしくは
もうすでに夢の中の住人となっているように、思われたかった。



====
「もっと単純なもんだよ、男と女なんてな。」
「それは、アルベルト・・・・だからだろ?」
「いや、誰にとってもさ。欲しいと思うか、思わないか。」
「・・・欲しい?」

「抱きたいか、抱きたくないか。」

呟くように発せられた言葉に、ジョーは非難の目でアルベルトを睨み、
そして自分の顔がアルコールの所為ではなく、
紅く染まる顔を止めることが出来なかった。

「おいおい、そんな・・・お前だってイマサラ、女を知りませんってわけじゃあ、
ないだろう?」
ジョーの素直な反応に、愉快そうに嗤うアルベルト。
「・・・そうだけど。」
「フランソワーズは、そういうものの対象外、なにかい?天使様か、聖母様かい?」

正直、ジョーはフランソワーズを「女」として見てしまう自分に嫌悪感を抱いていた。
そういう行為を彼女に求める自分が、とても汚いモノのように感じているのが
本音だったりもする。

「・・・アルベルト、怖いんだよ。ただ、怖いんだ。・・・嬉しかった、
すごく嬉しかったんだよ、僕。
フランソワーズが、僕と同じ気持ちだったことが・・・・でも、
でもさ。だから、怖いんだよ。
いつか、僕は・・・・彼女を、大切な彼女を傷つけてしまうことが、そ
して失ってしまうことが、さ。」



「違うだろ、ジョー。自分が傷つくのが、自分が彼女を失ってしまうのが、
怖いんだろ?」



しっかりとした、そして強い言葉で、アルベルトはハッキリと言い切った。
その言葉に、ジョーは全身の血が退いていくのを感じ、
手足が冷たくなっていき、体を1ミリも動かすことができなくなった。


「お前さん、自分しかみえてないんだよ、結局は。フランソワーズのこと、
ちゃんと見ろ。あの娘は、幻でもなんでもない、ちゃんとした、生きている女なんだよ。
・・・逃げるな。」

====
「フランソワーズ・・・起きてる?」
部屋の戸を叩いた主は、ジョーだった。
ジョーの声を聴いた瞬間に、フランソワーズは、自分の体温が
一気に上がるのを感じると同時に、息をするのも苦しいほどに、
胸が締めつけられた。

なんと答えたらいいのか、どうしていいのかわからない。
体はジョーの声を聴いた時点で、身構えてしまい、動こうにも動かすことができない。

「遅くに・・・ごめんね。」

ジョーのささやくような声をフランソワーズは聴き逃さなかった。

彼がドアから離れる音も、彼女の耳は捕らえていた。

待って。
行かないで。

気持ちはジョーを引き留めるけれども、
声を出すことも、動くこともできない。


彼女の耳は、ジョーの足音をしっかりと聴いている。彼が自分の部屋を離れ、
そして彼の部屋の中へと消えていくのを黙って聞いていた。


フランソワーズは気が付いた。
自分は、あの告白以来、彼と一言も口をきいておらず、会ってもいない。
もう何日も過ぎてしまった、遠い昔のことのように思うが、
それは事実、今日、正確には昨日の昼前に起こったこと。


====
「ジョー? 彼はアルベルトのところだよ?なんか、飲んでるみたいだけど?」

今晩の夕食は大人に任せっきりだった。
大人が、ジョーとアルベルトが夕食の時間になっても姿を見せないので、
ピュンマに呼びに言ってくれと頼まれていた会話を聴いていたのだ。

「なんだよ?オレ達はのけ者かよ~!!」と、抗議の声を高らかにあげるジェット。
「珍しいよね、2人きりって。でも、たまにはいいんじゃない?ジェットと飲んだら、いつも
どんちゃん騒ぎになってしまうしさ。」

楽しそうに、ジョーとアルベルトの2人の呑み会を邪魔しないでおこうと、
ジェットを宥めるピュンマ。
彼は、その持ち前の気配り上手な性格で、すでに平和な日常に起こった
「何か」感じ取ったのしれない。

「食は大切アルね!何も食べずに飲む、空きっ腹にはよくないアルよ~?!」

そういうと、大人はキッチンへと向かい、手早く夕食の中から、
酒のつまみになりそうなものをお皿に盛りつけて、部屋へ運んで行った。

フランソワーズは、そこに居た。
けれども、ただ居ただけ。
そこで自分が、どのように過ごし、どういう風にみんなと接していたのか、
わからなかった。


====
彼女は眠ることが出来ず、朝を迎えた。
考えることも放棄してしまったかのように、日が昇るとともに寝間着のまま、
昨日、自分がジョーに気持ちを打ち明けた場所へと自然と足がむかっていた。

「ここに来たって、時間は昨日にはもどらないのよ?」

朝日によってキラキラと輝く海の水面を見つめ、
だんだんと色濃くなる空を仰ぐ。

昨日と変わらない、同じ青の世界。

けれども、昨日と今日はまったく違う、自分とジョーも・・・。

このまま、どこかへ行ってしまおうか?
そんな思いに駆られ、ゆっくりと波に誘われるかのように、
海へと歩き出すフランソワーズ。


履いていたサンダルを脱ぎ、

海水に包まれる素足。

退いては押し戻ってる波が、フランソワーズを誘う。

まだ海の水は思いの外冷たくて、体がその冷たさに震えた。

耳に心地よく響く波の音。

白い光を強く放つ太陽。

今自分は、海に立っているのか、空に浮いているのか・・・。





すべては、彼が好きだと言った青一色の世界。
彼が好きな色の世界。








「フランソワーズ!!!!!!!!!!」

自分の腕を強く引っ張る、誰かが居た。
すぐには、それがジョーだとは解らなかった。


「何してるんだ!いったい!!」


気が付けば、フランソワーズは胸下まで海水に浸かっていた。
「・・・え?」

呆然と自分を叱咤する相手をみつめる。

「寝ぼけてるの!?」

彼女の瞳は何も見ていないのと同じようだった。


「なんでこんな朝早くに海なんか・・・それも、そんな格好で!!」

海水に濡れたフランソワーズを抱きかかえたまま、
ジョーはフランソワーズを連れ帰り、着替えるように言い渡した。

====
アルベルトの部屋を後にして、自室に戻る途中、
フランソワーズの部屋を訪ねた昨夜。
結局、フランソワーズの部屋から何も反応がなかったので、大人しく部屋へ戻り、
眠れない時間を過ごしたジョーは、日の出と共に、
彼の部屋付きのバルコニーで滅多に吸うことのない煙草に火をつけた。
その時、彼の部屋から見える白浜に見覚えのある、亜麻色の髪の人を見つけた。

(フランソワーズ??・・・こんなに朝早く・・・に?・・・)

彼の瞳は、彼女から離れることなく、じっと様子をみつめていた、そのとき。
ゆっくりとした歩調で、彼女が海の中へと進んでいく姿を見たのだ。
一瞬、何が起こったのか、わからなかった。
どんどんと、海の中へと飲み込まれていく彼女の姿に、恐怖を感じた。

(何考えてんだよ!)

慌てて、火をつけただけの煙草をバルコニーの手すりに擦りつけ、
そのまま2階から飛び降り、彼女の元へと走った。
なりふり構わず、そのまま海へと入りフランソワーズの腕を引っ張った。

大きな声で彼女の名を叫んでいたが、その声はまったくと言っていいほどに、
フランソワーズには届いていなかった。

彼女の瞳は、昨日の朝「お早う」と言ってくれた時に見た美しい蒼い輝きを失っていた。

====

フランソワーズの部屋の前で2度、3度と深呼吸をし、
ドアをノックした。

部屋の中からは、何も反応がない。
それも、予想できた。
もう一度ノックをして、それでも反応がなかったので、ドアノブに手をかけ、
ゆっくりとそれを回した。鍵はかかっておらず、金具が擦れ合わさる音と独特な、
金属音と共にそっと、ドアを開けた。
普段なら、絶対にこんなことはしないジョーだが、今は・・・。

「フランソワーズ?・・・・入るよ?」

返事はない。
けれども、彼女はベッドの上、ナイトスタンドに近い位置に座っていた。
「着替えて・・・ないの?」
海水に濡れたままの寝間着。先ほどジョーが見た姿のままのフランソワーズに、
ジョーはため息をつき、早足で自分の部屋からタオルを持ってきて、
フランソワーズに手渡した。

「風邪ひくよ?」

「・・・そんな簡単に風邪ひかないわ」

フランソワーズは、ジョーを見ない。ずっと俯いたまま。
彼女の声は震えていて、とても小さかった。

「まだ、泳ぐには早すぎるよ?」

「・・・・」

フランソワーズは動かない。
ジョーが差し出したタオルは、彼女のヒザの上に置かれているだけの状態で、
彼女の布団は彼女の寝間着と同じように、海水を含んで濡れていた。

「そんな格好で、ベッドの上に座ったりするから・・・」

ジョー自身、こんな状態のフランソワーズをどうしたらいいのか、わからなかった。
このまま自分が居ても、彼女は何も動かないだろう、なら、
自分が居ない方が良いだろうと思っていた。

ふうっと、ため息をついた時、フランソワーズの言葉が耳に入った。

「ごめんなさい・・・・ジョー、ごめんなさい・・・・・・・
あなたを、困らせるつもりないから・・・・・・・・」

小さな、小さな声だった。

彼女は俯いたまま、ジョーの顔を見ずに言葉を続ける。

「ジョー、ごめんなさい・・・・、怒ってるでしょ?
仲間なのにね。そう、大切な仲間なのよ・・・・・・・だから、気にしないで。
・・・・・・・あの、・・・・・・・あの・・・・・・・き、きの、、、、うの、、、、、、こと」

「・・・」

「ごめ・・・・・んなさ・・・・・・い・・・・・・・どう、か・・・忘れて・・・?」



忘れて?


ジョーは彼女の言葉を一つと聞き逃さないように、集中した。
それくらい小さな、小さな、微かなな声だった。


薄い生地で作られた寝間着は、濡れた所為もあって、
ぴったりとフランソワーズの体ラインを現していた。白に近いピンク色のそれは、
うっすらと彼女の肌を写し出してもいた。細く、
しなやかなフランソワーズの体のラインが、一目でわかる。

そんな姿のフランソワーズを意識してしまったとたんに、
ジョーにあのアルベルトの言葉を思い出させた。

”抱きたいか、抱きたくないか”

かっと、体が熱くなる。
全身に燃えるような、電流がかけめぐる。


今、目の前に居るのは、
今までの”フランソワーズ”ではななかった。

何かが変わった。
それが「何か」考えなくてもジョーはわかる。


ぐっと、拳を作り握りしめた手が汗ばんでいるのがわかる。

「・・・フランソワーズ、謝らないで。」

====
今日も、いつもと同じ朝だった。
キッチンにはフランソワーズが立ち、忙しそうに朝食の用意をしている。
彼女はいつもより少し寝坊をしたらしい。
ダイニングには、朝が早い彼らがすでに集まっていた。
アルベルトは今朝届いた新聞を読みながら濃いめに入れたコーヒー飲む。
ピュンマは部屋からパソコンを持ってきて、メールをチェックしてる。
ジェロニモは、庭に作った花壇の水やりを終え、
キッチンいるフランソワーズに「手伝いはいるか?」と
声をかけたが、「今は大丈夫よ」と言う返事を受けて静かに席につく。
普段ここに居るメンバーではない、グレートは自分で入れた紅茶に舌鼓を打っていた。

いつもの朝の風景だが、
そこには見えない会話が飛び交っていた。

驚きの声と、からかいの声。
そしてどこかくすぐったいような、嬉しいような、気恥ずかしいような。

「ちょ・・・と、ジョー!!何やってるの?!焦げてる!!」
「え?!」

<今日「も」焦げてるみたいだよ、僕らの朝食>

ピュンマが台所から聞こえたフランソワーズの声に反応する。

<手伝っているのか、邪魔をしているのか・・・>
<ねえ、いつになったらちゃんと焦げてない朝ご飯が食べられるんだろう?>


いつぐらいからだろう。
朝の弱いジョーがフランソワーズと、朝食を作るためにキッチンに立つようになったのは。


いつもどこか不安げで、落ち着かない様子が捨てられた子犬のようで、
ある一定の距離以上は誰も寄せ付けない雰囲気をまとっていた彼。
仲間として、様々な経験から少しずつ、変わってきた彼だったけれど、
彼の瞳に宿す、何かに怯えたような光は消えることはなかった。

仲間を信頼しているのは確かだった。けれども、
ジェットと冗談を言い合って、お腹が痛いと言って笑い続けた時でも、
ピュンマと日本のお盆について、
説明していた自分が逆に彼から間違いを指摘された時でも、
博士が彼のメンテナンス中にちょっとしたサプライズをした時でも、
アルベルトがピアノを弾いてみせた時でも、
張大人が彼の誕生日にスペシャルメニューを用意した時でも、
ジェロニモが子猫を拾ったときでも、
グレートが、彼に変身してイタズラをした時でも、

どんな戦いの中にその身を置いても、

常に彼のこころの奥底には「孤独」の色がつきまとっていた。
そして彼の「外側」にしか自分たちは触れていない。
常に何か壁越しで彼に接していると、感じずには居られなかった日々。




朝、初めてキッチンに立つ2人をみたとき、
全員が全員、ジョーの変化に驚いた。


その仕草は、ゆったりと自信をもっていた。
物腰が落ち着く。とは、こういうことを言うのかもしれない。
慌ただしく、右へ左へと歩き回るフランソワーズの後ろに、
優しく彼女を包み込むような雰囲気で立ち、フランソワーズを見守るジョー。
フランソワーズに頼まれて、コップやお皿を取り出す、その動き一つ一つに
眼を奪われてしまうほど優美で、そして繊細なジョーの仕草。
時折、振り返ってお願いごとをするフランソワーズと交わす声も、
昨日と今日では雲泥の差で、優しく透き通るように・・・けれど、しっかりと芯の通った、
柔らかな声。人はこんなに優しい声を発することが出来るのか?と
誰もが疑問に思ってしまう。

おおらかで、ゆるやかな温かい雰囲気など、今まで一度たりともジョーの身から
発せられたことは、ない、はずである。


今、仲間たちの眼に映る彼は、
戦闘時の「009」でも、親から捨てられた過去を持つ「ジョー」でもない。

新しい「ジョー」だった。


その瞳に「怯えた色」は陰を潜め、新しい光が宿っている。

昨日と同じジョーであるはずが、ジョーでない・・ような。
突然の彼の変貌ぶりに、キッチンのドアに呆然と立ちつくした、
グレート、張大人、ピュンマ、ジェロニモ、そして朝から博士と共に
アメリカへ出発することになっていたために、普段は起きない時間に起きていたジェット。

面白いものが見られるぞ、と彼らをキッチンへ追いやった
アルベルトは、コーヒーを片手に、ダイニングで新聞を読んでいた。


「やだ! どうしたの?!」

フランソワーズの驚きの声に、一同がやっとジョーから視線をはずす。
ジョーもフランソワーズの声によってやっと、キッチンのドア前に立ち自分を凝視する
仲間達を見やった。

「なに?・・・」

少し戸惑ったように、けれども特別驚いた様子もないジョー。


「まあ!珍しい。ジェットが起こされる前に起きてるなんて!」
「う・・・ああ・・・あ、うん。」

急に話題を振られて、生返事をするジェットだが、彼の視線はフランソワーズではなく
ジョーに注がれていた。

「おいおい、通れないじゃないか・・・いったい朝から何事じゃい?」

キッチンのドアへと通じる廊下から、ギルモア博士の声。
博士の腕には先日目覚めたばかりのイワンが抱かれていた。

「あ、お、お早うゴザイマス、博士」

博士の声にいち早く答えたピュンマは、固まっていた思考をとくことに成功した。
彼らはもたもたとドアから移動し、キッチンへの道をあける。

「お早う。フランソワーズ、イワンのミルクはできてるかのう?」

そう言って、キッチンへと入っていった博士は、数分ほど前のみんなと同じように
ジョーを見つめ、固まってしまった。

その日の朝食は、
異様なほど静かだったが、フランソワーズとジョー以外の人間にとっては
朝の食卓で(脳内)会話がこの上なく盛り上がったことはことは言うまでもない。

====
アルベルトは、ジョーの口からその後、どうしたのか、何があったのかは訊いていない。
彼自身、訊く必要もないと思っていた。
それが良い方向へ行っていたのなら、なおさらである。
逆に結果が悪くなり、今後の「仲間」として動くときに支障が出ようとも、
彼にとってはさほど問題ではなかった。

ジョーもフランソワーズも、いつかはぶつかる問題であったから。
ぶつかるなら、早ければ早いほうがいい。
まだ、2人の気持ちが同じ方向へ向いているほど、
お互いが純粋な気持ちであればあるほど。
時間が経ち、沈殿した行き場を失った想いが積もれば積もるほど、
水が濁るように、
気持ちにも素直さがなくなり、意味のないすれ違いや勘違い、
誤解が生まれてしまう。

フランソワーズのは、それに近かった。
自分で自覚したのが早かっただけに・・・。
告白したのは結果的に偶然であったとしても、
遅かれ早かれ、ジョーに自分の気持ちを伝えなければならない状況に
追い込まれただろう、と。

ジョーのが張り巡らせた壁は、
自分たち、仲間に向けたものではなく、アルベルトの眼から見れば
フランソワーズ、ただ1人にに向けてのものだったのではないか、と彼は思う。
今となっては確かめる方法はないけれども。


仲間たちは突然のジョーの変身に驚いていたが、
あれが、本来のジョーの姿なのだ。


自分から逃げるのをやめて。
相手からも逃げることをやめて。

自分と向かい合い、
相手と向かい合い。

そして
一歩前に出てみた世界は、
彼を本来の姿へと導き、そして「男」としても成長させた。


人の想いを受け止める、自分の想いに責任をとる。
その覚悟が出来たということ。

護るものが出来たということ。


変わらない方が変だろう?


「なあに?ニヤニヤしちゃって・・・気持ち悪いわ。」
「ん? 嗤っていたか?」
「ええ、どうせスケベなコトでも考えていたのでしょ?」
「・・・まあな」
「!!」

食後のコーヒーを飲み終えて、
リビングでくつろいでいたアルベルトが、どこを見る風でもなく、
ニヤニヤとしていた様子がおかしくて、フランソワーズは声をかけた。

「出かけるのか?」

軽く自分がからかわれたことに気づいていたフランソワーズは、
少し頬を膨らませるような仕草で、アルベルトを睨んだ。
そんなコトはお構いなしに、話しかけるアルベルト。

「ええ、ジョーと下へ」
「たまには街まで連れて行ってもらえばいいだろうに・・・」
「夕方にはスーパーへ出かけるもの」

ジョーとフランソワーズはデートするわけでもなく、
依然と変わらず、昼食の前にギルモア邸近くの海へと散歩にでかける。

夏も終わりに近づいてきた。



====
空は高く、青く。
海は深く、青く。


フランソワーズは、ジョーの背中越しに、空と海を眺めていた。



「・・・フランソワーズ、謝らないで。」



遠くなく、それでも近くはない、あの日。

莫迦な自分は彼が好きがだと行った世界へ逃げたかった、あの日。

彼の手によってその世界から引き戻された、あの日。






「・・・フランソワーズ、謝らないで。」


ジョーはゆっくりとフランソワーズの所へ近づいてきた。
彼は床に膝をつき、俯いたフランソワーズの顔を覗く。
フランソワーズは思わず全身に力を入れて、身を固くし、
体育座りのように両膝を腕に抱いて、顔を埋めた。

丸く、小さくなるその姿は、全てを否定するように。

「・・・・忘れることなんて出来ないよ」

喉の奥から絞り出すような声。

「忘れたく、ないよ・・・・。でも正直に、言うと困る。」

ジョーの「困る」という言葉に、彼女の体が揺れた。

「僕なんかが、君の気持ちを受け止める資格なんてないんだから。
・・・・・・僕は、こんなにダメな人間なんだし。」

フランソワーズは黙って彼の言葉を聞いている。

「独りの方が、楽だと思ってた。独りでいる方が慣れてたから。
人を・・・信じるのはとってもエネルギーがいるって、知ってる?
期待をすれば、期待をするだけ・・・疲れるんだよ。
どんなに求めても得られないものを、いつまでも追いかけ続けるって、
本当に強い人じゃないと、堪えられないんだ。

諦めるってことを覚えたのは、いつだろうな・・・。
でも、諦めきれない場合はどうすればいいんだろう?

・・・だったら、逃げてしまえばいいんだよね。
何もかも「知らない」ように自分をコントロールすれば、
それだけで、僕は楽だったんだよ。

君の気持ちも知りたくなかった。
今までの生活が心地よかった分・・・・余計に。」

ぐっと堅く握られたフランソワーズの手にさらに力がはいる。

「・・・・でも、はっきりと君の口から聴いてしまったんだよね。
もう、知らないふりはできないし、君を避けることも出来ない。
だから・・・ねえ、フランソワーズ」

ジョーはゆっくりとフランソワーズの手の上に自分の手を重ねてた。
そして、その手は彼女の手から肘、二の腕を優しくなでるように、上へと上がっていき、
彼女の肩で止まる。

「・・・フランソワーズ」

ゆっくりと彼女の名前をささやく。
何度も、何度も。

「フランソワーズ」

ジョーの手は、彼女の髪を優しくなでていた。
彼女の髪は海水で、濡れている。
冷たくなったその髪を愛おしそうになで続けるジョー。

「フランソワーズ」

ジョーは少しずつ顔を彼女の耳元近くまで近づけて、
フランソワーズの名前を呼び続ける。

「・・・・フランソワーズ、僕はまだ本当の意味で
人を好きになったコトがないんだよ。・・・人を好きになるっていう感覚が
イマイチ解らないんだ。どこかにそういう感情を忘れてきてしまったのかな。
・・・それとも生まれたときから、持ち合わせていなかったのかもしれない」

フランソワーズはこんなに長く、たくさんの話しを、
彼自身の気持ちを語るジョーを知らない。

次第に、彼の言葉に誘われるかのように、
全身をまとっていた力が徐々に緩まっていくのがわかる。
それでも、ジョーの顔を直視する勇気はまだなかった。

ジョーも少しずつではあるが、彼女の力が抜けていくのを
その手で感じていた。

「そんな、僕でも・・・君のことが気になって仕方がないんだ。
君が哀しいと、すごく辛い。君の姿が見えないと、胸の奥がぐっと苦しくなる。
君が笑ってくれると・・・ぼくはその日一日がすごく特別なことのように感じる。

こんな風に人を想うことって生まれて初めてで、
怖かった。

すごくビックリして、こんな気持ちで君を見てたらダメだと思った。」

ジョーはぴたりと、その手を止めた。

「もしも、もしも・・・・。この気持ちを君に知られて、
君が、僕のもとから去っていったらと思うと、怖かった。
だから、君に知られたくなかったし、君が僕のことを好きになって欲しくないとも思った」

ぴたり、と止めたジョーの手に微かな振動を感じた。
ゆっくりと、ゆっくりと、フランソワーズは顔を上げていく。
髪が邪魔をして、彼女の横顔が隠れているため、その表情を見ることができない。

「・・・私が好きになったんだもの。かってに・・・・
ジョーの気持ちとか、関係・・・なかったの・・・」

細い声でフランソワーズは答えた。

「僕は、最低な人間だよ?」

フランソワーズは微かに首を横に振る。
ゆらり、と彼女髪が揺れる。

「君を傷つけるだけで、何もしてあげられない」

同じように、首を横に振る。

「僕は、いったい誰なのか、自分でもよくわかってないんだよ。
そんな中途半端な人間なんだよ」

少しずつ左右に首を振る力が強くなっていく。

「・・・はっきり言って、自信がないんだ。君は特別だけど
それが好きって言うことなのか、どうか・・・それでも・・・


君は待っててくれる?



僕が、ちゃんと・・・・・・・」

ジョーは言葉を続けることが出来なかった。


突然に彼の顔を覆ったフランソワーズのからだ。
しっかりと、彼の頭を胸に抱きしめた。


「・・・・僕がちゃんと君に好きって言える、その日まで」



彼の言葉は、フランソワーズの胸の中に消えていった。



「・・・私、ジョーが好き。
あなたが、どう感じても、おもっても、私の気持ちは変わらないの。
だから、あなたの気持ちを待つなんて考えない。

ずっと、好きだから。

好きでいてもいい?

私は、ジョーを好きでいてもいい?」


ジョーはゆっくりとフランソワーズの包容から離れた。
そして、彼女の顔をしっかりとみつめる。

綺麗な碧の瞳が涙に溢れている。
ナイトスタンドにある、小さな電球の光に照らされて、
キラキラと輝いている。

====
「好き」と言葉にしてしまうのは、とても簡単なコトかもしれない。
この気持ちを素直に表すのは、「好き」と言う言葉が一番適しているかもしれない。

言ってしまえば、楽になるのも確か。
けれども、言ったからこそ失ってしまう感覚も、あるのかもしれない。

この想いを、どう表したらいいんだろう?
この想いは、言葉として言い表すことができるのだろうか?




「愛してる」







ざああっと、強い風が舞う。
「キャア・・・」っと小さなフランソワーズの悲鳴。
風に巻き上げられた砂が彼女の眼に入ってしまったのか、
彼女はごしごしと手でこする。

彼女の声を聴いて、振り返ったジョーは慌てて彼女に駆け寄り、
眼をこする手を止める。

「ダメだよ、こすったら・・・・」
「う~・・・・だって、砂が・・・」

彼女は眼に涙を溜めて、訴える。
どうやら左眼に砂が入った様子で、彼女はウィンクするように固めを閉じている。

ジョーはフランソワーズの顔に手を添えて、自分の方へ傾けさせる。
顎を突き出すように、ジョーの方をみる、フランソワーズ。

「眼、開けられる?」

痛がる彼女の眼をのぞき込む。

「・・・」
「・・・・ああ、大丈夫。砂はとれてるみたいだよ?」



空と海のように
澄んだ青い瞳。


吸い込まれるような、青い世界がジョーの目に映る。



「愛してる」



「・・・え?」

声にならない、唇だけの動き。
彼女はそのジョーの唇の動きを読んだ。


青い世界は閉じられた。
ジョーはそれ以上、何も言わない。
フランソワーズも、何も言うことができない。

ゆっくりと重ねられた唇から、先ほどジョーが吸っていた煙草の香り。


end.

N.B.G投稿作品
(いつもお世話になってます・・・)


後書きへ





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オレが好きになった人は島村ジョーの彼女だった

年離れた兄夫婦が念願のカフェをオープンして3年になる。
オレは兄を頼って上京し、2浪してやっとこさ希望の大学へ通う日々。
都合の良い人材+勝手気ままに働ける気軽さから、カフェを手伝い始めて半年。


いや・・・本音を言うとそれだけじゃない。


カフェで働く前は、ほんの暇つぶしと兄が自慢する
新作ケーキやらパンなどを目当てに、たまに顔を出す程度だった。

家でも会えるのに、わざわざ店に行くのは自分の腹を満足させるため。
義姉さんはそんなオレを「無銭飲食!」と非難するが、その瞳はいつも優しく、
「身内」だからこその甘いサービスをしてくれる。



ランチタイムを過ぎて、ゆったりとした空気を感じられるようになった午後。

白と淡い黄色で統一された暖かな色調の店内は、大きなフレンチスタイルの出窓に、
白いレースのカーテンが光に揺れている。

テーブルに飾られているのは、花ではなく、ライムグリーンの鮮やかな観葉植物。
男1人でこういう雰囲気のカフェでお茶を楽しんでいるのは、端から見てどうなんだろう?
身内の店と言う立て前はあるものの、ふとコーヒーから目線をはずして
店内に目を向けると、女性客が目立つ。

あとは男女のカップルだ。



近くにできた新しいビルに、名のあるバレエ団が一般向けのスクールを始めたらしく、
それも手伝ってか、日に日に女性客が増えていくらしい。
凄く綺麗で愛らしいフランス人お客さんととても親しくなったと、義姉さんは嬉しそうに
報告してきたのはいつだったろう?





カフェのドアが開く。

ちりりんっと耳に心地よいチャイムの音。
鈴の音に誘われて、オレは入り口に視線をむける。
接客用の義姉さんの「いっらっしゃいませ」と言う声は、何度聞いても慣れない。


「また、来ちゃいました」





涼しげで、柔らかく、愛らしい声の主にオレは一瞬で恋をした。



細身で華奢な躰、すらりと伸びた手足に、砂浜に打ち上げられた

貝のように輝く白い肌。小さな顔に整った鼻と、サクランボのような艶やかな唇。

長く クルリ とカールした睫に縁取られた大きなエメラルドグリーンのこぼれ
落ちそうな大きな瞳は、光の加減によっては深い碧色に見えるときもある、
トルマリンのような色彩。

絹糸のような光り輝く柔らかな亜麻色の髪はゆったりと彼女の肩にそっと寄り添うように、
彼女が歩くたびに ゆらり と靡く。

それらを顔の邪魔にならないように、
彼女の魅力的な瞳に近い緑色のカチューシャでとめていた。シンプルなペールピンクの
ワンピースに、薄手の7部袖のカーディガン。


そして、細い手首に巻かれ白銀色のとても繊細なプレスレットは、
彼女が唯一身に付けているアクセサリー。









少し恥ずかしそうに義姉さんと話す彼女の日本語を聴く限り、絶対にその容姿からは
予想できないほど綺麗な発音だった。

じっと彼女をみつめるオレの視線に、「カン」の良い義姉さんは何かを感じたらしく、
オレの隣の席に彼女を案内した。




「フランソワーズさん、こっちは旦那の弟で「大地」って言うの。」


彼女が席につくなり、義姉さんはオレに彼女を紹介する。
行動派の義姉さんは、いままで「彼女」らしい「彼女」を持ったことがないオレに、
何度かこうやって店に来る「お薦め」の女性を紹介する。


止めてくれ!と、何度か頼んだが一向に止める気配がなく・・・


けれどもこの時ばかりは義姉さんの「お節介」にこころから感謝した。




「まあ、初めましてフランソワーズです・・・「大地」さん?とても素敵なお名前ですね」


彼女の微笑みはとても華やかで、オレは慌ててその笑顔を眼に焼き付けた。
頭の中でカメラのシャッター音が聞こえた気がする。











こんなに綺麗な人が、この世にいていいのだろうか?















その日から1週間後。

オレはカフェで客から注文を取り、意味不明なケーキの名前を覚え、接客用の
愛想笑いを覚えた。
兄は自分の後輩の高田さんと2人、常に厨房にいる。
接客は義姉さんと2,3人のバイトと、姉の友人の美恵子さん。
彼女の場合は従業員と言ってもいいかもしれない。




フランソワーズさんは、週1、2のペースでここへ来る。
どうやらスクールへ金曜日と土曜日の午後に来ている様子で、時々席には着かずに
焼き菓子やクッキー、ケーキなどをお持ち帰りする。
その数はいつもバラバラで、ケーキの場合2個だったり、6個だったり・・・12個
だったり・・・。

義姉は高校時代から接客業をしているので、客の「後ろ」が見えるらしい。

いわゆる「どういう生活」をしているか。
カフェに来る客なんて常連の親しい人以外は、一期一会と言っていい。
多くの人と接していくうちに、義姉さんは義姉さんなりの人を視る眼が養われたと言う。
けれども不思議とフランソワーズさんだけは「視えない」らしい。
まったく読めないからこそ、義姉さんはフランソワーズに惹かれていき、つい声を
かけてしまったと言った。



ドアのチャイムがちりりんっと鳴る。
オレの気持ちを弾ませるように。



「あら、お手伝いなさってるの?」


彼女はオレを覚えていてくれていた。



「んふふ、先週にお義姉さまから教えていただいたの、新作のケーキが今日からだって」


嬉しそうに、ちょっと恥ずかしそうに彼女は言った。



「この間のチョコレートムースが・・・・、包んで頂けるかしら?」


彼女は小鳥のように首を横に傾ける仕草が、どれだけオレのこころをかき乱すか知らない。




「とっても紅茶に五月蠅い知り合いがいるの。きっとこれなら気に入るわ!」


世紀の大発見のように、はしゃぐその姿がオレの胸を鷲づかみにする。




彼女が店に入ってくる前から、オレは彼女を捜す。
彼女の姿を店の窓から見えた瞬間、オレは彼女しか見えなくなる。


兄貴も義姉さんもそんなオレをからかうことない。
ここ最近、オレは彼女専用になっている。

義姉さんは、さりげなく彼女の「視えないプライベート」な情報を仕入れてくる。
やはりバレエスクールで彼女を知らない人は居ないらしく、何より聞き出し上手な
義姉さんは、さりげなく情報源の女性達にサービスをして、このオレを応援してくれる。





・・・・おもしろがってる風に思えないこともないけれど。













「フランソワーズさんは、ここから1時間ほどの所に住んでいて、親代わりの方と、
その方が引き取ったと言う赤ちゃんのお世話をしているんですって。

日本人のハウスメイトが居るみたいで、日本語を教えてもらったようよ。

意外と車に詳しくって、カーレースを見に行ったらしいわ、この間。

お兄さんがいたんだって。

バレエは3歳くらいから始めたそうよ。

大学は電子工学を専攻していたけれども、卒業はしなかったらしいわ、頭良いのね~。

フランス語に英語、日本語、そしてドイツ語なんかも話せるらしいわよ?

親代わりの方を博士って呼んでいるそうよ。人の出入りが激しいらしくって、家事が
大変だ~!って言ってたって。

デパートでよくお買い物をするんですって、日本のサイズがあわなくって、探すのに
苦労してるそうよ。

お誕生日は1月24日ですって。」








義姉さんは夕飯の時にオレに自慢げに彼女の情報を披露する。
お陰で、「今日のフランソワーズさん」と言う時間が出来てしまった。








恥ずかしいことに、義姉さんのそういった行動から、あっという間にバレエス
クールに通う”情報源”のお嬢さん方に、自分がフランソワーズさんに片思いで
あることがばれてしまった・・・が、別に嫌じゃなかった。
彼女を好きだと思う気持ちに何も偽りはないし、隠すつもりはない。

義姉さんがちょっとしたサービスをするためか、「頑張って!」と情報提供者
たちが応援してくれているような気がしないでもない。

ここは勝手に「応援してくれている」と思っておこう。



ここ最近のフランソワーズさんは、
かならず「チョコレートムース・ビターかホワイト」を1つか2つ買っていく。
それを買って帰る時のフランソワーズさんは、宝物のようにそっとチョコレート
ムースの入った袋を、腕に抱き帰っていく。
その動きや、去っていく後ろ姿を見つめながら、自分が彼女の隣に立ち、並んで
く姿を想像して変に気恥ずかしくなってしまう。



「観た~?!」
「観た観た! 昨日来てたでしょ! 噂の車の人!!」
「すっごいカッコイイよね~~~~~! その辺のタレントやモデルなんかよりも!」
「ねえ、絶対うちのスクールの関係者に知り合いがいるのよ、
彼があそこに車を停めてる時、スクールがオーバーナイトの時じゃない?!」
「あら、ナナ子も気づいたの? 彼女を待ってるのかな~、えええ、嫌だな~。」
「彼女がいるとしたら、誰??ねえ、誰だと思う~??」
「弓ちゃんが遠くだからだけど写メしたって!後で送ってもらおうよ~」



今日は一段と声が大きく、はしゃいでいるな・・・。



土曜日のバレエのレッスンを終えて、必ずケーキを食べに来る3人の少女たち。
彼女たちはフランソワーズさんのクラスの生徒らしく、主な情報はここから流出している。



「あらあら、何の話?」


彼女たちに紅茶のお代わりをサービスしながら、話題に入っていく義姉。
上手い。


そのとき、
ちりりんっと入り口のチャイムがなる。

一瞬、店中の空気がピンっととまり、女性客の視線が、入り口に立つ人物に
集中する。
賑やかだった店内が、急に静かになったかと思うと、ひそひそとした異様な
囁きが響き始めた。




なんなんだ?


店中の視線を一身に浴びているその人物は、何事もないようにレジに立つオレに
心持ち早足で近づいてくる。


薄茶色の褐色の髪は、とても自然な色で、それによく合う甘いベージュがかった瞳。
日本人・・・だと思うが、純粋な日本人と言うには彫りが深く、ハッキリとした顔立ちだが、
作りは愛らしく、古い小説の科白を使うところ、「甘いマスク」と言うのがピッタリに思える。

オレがそんな顔なら、鬱陶しそうな長い前髪なんか切ってしまって、自慢するところだけれども。
オレよりも幾分背が高く、手足の長さが・・・

同じ人間かと疑いたくなるくらいに長い。
その上、腰の位置も高い。(嫌な奴)華奢な優男なイメージを持ったが、レジの前まで来た、
「彼」を間近でみると、スポーツか何かで体を鍛えているとすぐに解った。
男のくせに、睫が長く陰をつくっているのが不思議でならなかった。



「・・・・自宅用に包んでもらえますか?」


ナチュラルな優しいテノールの声が、その容姿とあまりにも似合いすぎていて、嫌味を
通り越している。

彼の第一声に店内がまた、異様な空気につつまれる。


ああ・・・「彼」の所為なのか、とイマサラながらに気づいた。
たしかに、カッコイイ。

その辺では滅多に観られない、見栄えのいい奴だ。




「はい。お決まりでしたらおっしゃって下さい」


機械的に接客をする。
テーブル席から義姉さんがものすごい勢いでやってくる。
「彼」を近くで観たいのだろう。



「いらっしゃいませw」


彼の背後から、普段よりもまた一段と丁寧な造った声を出した。
さっと、義姉とレジを替わる。
男の接客なんて、しないですむならそれに越したことはない。



「・・・えっと。」



彼は、ポケットから携帯電話を取り出して、メールをチェックしはじめる。
そして一字一句間違えずに、ケーキの名前を事務的に読み上げた。



「”オレンジとシトラスのミントな出会い”
・・・”淡い春はイチゴとフランボワーズのタルト”
・・・・・?”ブルーベリーの囁きに添えたケーキ”
・・・・・・・?”NYはチーズケーキの思い出”?
?・・・・・・・・・・・”恋心はチョコレート気分”?
・・・・・・?・・・・・・・・”出会いはきっとレモンパイ”・・・?
・・・・?・・・・・・・・・”君の頬のように柔らかシフォン・・・・・?
”恋の始まりはアップルパイ”・・・・・?」



彼の声が小さくフェイドアウトしていくのがわかる。

そして、彼に同情してしまうオレ。




この店のケーキのネーミングは、パティシエでもある兄貴に一任されている。
オレは未だに兄貴のそのセンスを理解できないでいるが、一部女性には絶大なる
人気があると、義姉は言う。が。オレは信じてはいない。

義姉さんは慣れたように、読み上げられたケーキを箱に詰めていく。
は~っと軽いため息をついた彼は、携帯を元のポケットに押し込む。
彼の手首から キラリ と光るもモノが目に飛び込んできた。



とても細い白銀のブレスレット。
男物のアクセサリーにしては珍しく感じた。




「以上でよろしいでしょうか?」


義姉は心持ち弾んだ声で訊ねた。



「あ、それと、チョコレートムースのビターとホワイトを」
「・・・はい、かしこまりました、少々お待ち下さいね」



耳慣れない曲が突然流れ出す。
彼は、小さな声で「失礼」と言い、電話に出た。




「・・・うん、そうだよ。・・・・・君の言った店にいるよ・・・」


とても落ち着いた、柔らかく囁くような話し方。
絶対にもてるんだろうな・・・こういう人って。




「言われた通りの・・え? ちゃんと言ったさ、ケーキの名前・・・見せてないよ、
メールは・・・」



電話の相手は、どうやらこの店のケーキをお願いした相手のようだ。




「ドライアイスの方はいかがなさいますか?」



電話で話している彼に、遠慮がちに義姉は問いかけた。




「あ・・・ちょっとまって、・・・スミマセン。お願いします。・・・・切るよ?
・・・あとで。」



彼は、店内で携帯を取ったことをさり気なく謝った。
気にしないで下さい、と義姉は笑顔で対応した。




「それにしても、よくご存じですね?当店のケーキの名前って常連のお客様くらいしか、
覚えて下さってないんですよ?」


精算のためにレジを打ちながら、話しかける。
テーブル席に呼ばれることがないので、そのままオレは、義姉さんの隣に立って、
2人のやりとりを聴いていた。




「ああ・・・家の者がよく買ってきてくれるので。でも、・・・・・ケーキの名前は
・・・今日初めてしりました」



ほんの少し口角を上げただけの笑みだったが、その表情は男のオレから観てもとても印象深い、
・・・魅力的なものだった。




「あら、それじゃあ、うちのお得意様なのかしら?」
「・・・・とてもよくして頂いてるみたいで。」
「・・・?」
「客として通っているのに、まるで”お友達の家へ遊びに行ってるみたい”だと、
きいてます」



オレは彼のその言い方で、もしかしたら、義姉さんがよくサービスをするバレエ
スクールの家の人かと思った。


義姉さんは不思議そうに彼の顔を見る。そして、少し不安な色をした視線をオレに
ちらりと寄越した。
オレは義姉さんのそんな視線を気づかずに、失礼がない程度に客である彼を観ている。




「・・・あの、差し支えがなければ、そのよくいらしてくださるお客様のお名前を
伺ってもよろしいかしら?」



先ほどよりも少し声色が下がっている。




「・・・・彼女の名前はフランソワーズです、いつもよくして頂いて、ありがとうございます」



オレは、自分の耳を今日ほど信じられなかったことはない。
彼の口から出た、オレの想い人の名前。
彼女の笑う顔が思い浮かんだ。


義姉はオレの動揺を隣で、肌で感じたようだ。
確認するように、目の前にいる少し恥ずかしそうに口角を上げて微笑む、
魅力的な笑顔を見せる彼に訊き返した。




「フランソワーズさん?あの、バレエスクールの?」
「はい。・・・・今日は所用でこちらに伺えないので、僕が代わりに」
「まあ、そうでしたの。またご来店頂くのこころからお待ちしています、とお伝え下さいね」
「はい、ありがとうございます」



彼はケーキを受け取り、軽く会釈して去っていく。
















ドアのチャイムがちりりんっと鳴る。
なんて冷たい音なんだろう。














彼が店を出たのを確認すると、例のお嬢さん達がきゃ~!っと悲鳴を上げた。



「今日はすっごくラッキー!!!!」
「こんなに近くで会えるなんて!」
「みんなに自慢しよーね!ね!ね!」
「声聴いちゃった!声! すっごく素敵!想像以上だわ!」
「いや~ん、もうあの立ち姿、横顔、すべてがパーフェクト!」



きゃー、きゃーと騒ぐ黄色い声は、どこか遠い国の出来事のようで。
彼女の一番のプライベート知った喜びどころか、一番知りたくなかったコトを知って
しまった気がする。




「何、呆けているのよ! 彼は”家の者”って言ったのよ。親戚かもしれないし、私らみたいに
義姉弟かもよ?まだ彼女の恋人とは決まってないわよ!」


義姉は バン!!っとオレの背中を叩いて、オレを現実世界へ引き戻した。



「さ!働いた、働いた!」


テーブル席には、レジでの会話が聞こえてなかったらしく、さっそく”彼女たち”は
義姉さんにむけて手を振って呼び寄ていた。




















夜。

自室のベッドにもぐり込み、難く目を閉じれば、
フランソワーズさんの笑顔しか思い浮かばない。


彼女がオーダーするときに、癖のように左手の人差し指をとん、とん、っと2回。
彼女の綺麗に象られた顎に添えられる。


彼女のテーブルにハーブティーを運ぶと、彼女は、胸をいっぱいにハーブティの香りを吸い込み、
甘いため息をつく。


彼女のお気に入りのケーキは3種類。

常に新作のケーキはチェックしていて、定番は’”七つの恋のタルト・季節の予感”
”恋の始まりはアップルパイ”を温めてヴァニラアイスを添えたもの。
”キスの甘さを味わうムース(ホワイトチョコレートのムース)”
ちなにみ、彼女がよく買うチョコレートムースのビターの名前は、
”君を想う・恋はビター”だ。




・・・・彼女の名前はフランソワーズです、いつもよくして頂いて、ありがとうございます。










彼の嫌味なほど清々しい声が、頭の中でBGMのように繰り返し、綺麗な
フランソワーズさんの姿とかぶっていく。
一度も観たことがない、2人が2人で寄り添って歩く姿を、安易に想像
できてしまった自分が腹立たしく、ムカついて、ワケの解らない苛立ちに、
ノドがヒリヒリと痛み出す。
普段意識していない筋肉が、びりびりと硬直していく。








悔しい。



誰だよ、あいつ!

何者なんだよ!何様だ!

胸が痛い。

情けない。

オレは一体、どうしたいんだ?!



フランソワーズさんは、笑う。
キラキラと不思議な瞳の色を輝かせて。
大好きなケーキを頬張って、うん!っと納得する仕草。











ああ、本当にオレは彼女が好きなんだ。

オレ、本気なんだ。


本気で・・・フランソワーズさんのこと好きだ。












知りたい。

もっと彼女を知りたい。

一緒に歩きたい。

話したい。

触れたい。

あの笑顔をオレだけのものにしたい。




オレのものにしたい。
オレだけ人になって欲しい。


もっと近くに。
もっと、彼女を感じたい。


何度も、何度もフランソワーズさんの笑顔を思い出す。





























名前も知らない、フランソワーズさんの”家の者”である彼が店を訪れた翌週。





土曜日の夕方4時。


少しずつ春が過ぎ去ろうとした季節。
じめじめとした梅雨の訪れを待つ、突き抜けた青空が茜色に染まろうとしていた。


ドアのチャイムがちりりんっと鳴る。
少し切なく、胸に響いた。




「あら、いらっしゃいませ」



義姉が、フランソワーズさんに明るく挨拶をする。




「こんにちは。」



厨房で賄い?らしきものを食べていたオレは、彼女の声が聞こえたのと同時に、
食べかけの賄い?らしきものを片づけずに店へと飛び出した。
兄貴は「大地!」と叱咤した声をかけるが、諦めたようにテーブルのそれを
片づけてくれる。

年の離れた弟は可愛いようだ。










今日は彼女1人ではなかった。

一瞬、オレは奴が居ると、身構えたが違った。
何度かこの店にも来て下さったことがある、女性だった。




「い、い、いらっしゃいませ」


彼女が笑うと、周りに花が咲いたように輝く。


「そちらのお席へどうぞ」


義姉は2人を窓に近いテーブル席へ案内して、オレの方へ歩いて来る。
すれ違いざまに、ぽんっ と易しく背中を叩かれた。

その勢いに乗って、彼女たちのために水とおしぼりを用意して、あたふたと、
テーブルへむかう。


「こんにちは、大地さん。」
「こんにちは、フランソワーズさん」


オレは、彼女の側にコースターを置いて、グラスを乗せる。
オレが出来る最大級の笑顔をここで使わなくて、いつ使う!


「あら、いつの間に仲良くなったの?」
「ふふ。香奈恵さんが、公演で忙しくしていらした間によ」
「やだ、意外と手が早いのね!」


香奈恵の言葉に、フランソワーズは目を見開いて驚き、「ひどいわ、
そんな言い方しないで!」っと
拗ねてみせた。


ーーーすごく可愛い・・・。


そんな彼女たちのやり取りをウットリと観ていたオレ。
香奈恵と呼ばれる女性の視線を感じて、自分の気持ちを隠すように少し
ひっくりかえった声でオーダーを尋ねた。


「ご、ちゅ、ご注文はおきまりですか?」


香奈恵さんは、なにかニヤニヤとした笑いを浮かべ、意味ありげな顔で
オレを見上げ、そしてフランソワーズさんを観た。
彼女は香奈恵さんのそんな視線にまったく気づかずに、メニューを真剣に観ていた。


「!!新作が出てるのね!」


メニューに貼った今月の新作の部分を指をさす。
細くて白い、女性らしいフランソワーズさんの手。


「はい。今月は3つ」
「あら、じゃあ、3つとも持ってきて、それと私はオレンジ・ペコ」
「香奈恵さん!3つも食べるの?!」
「フランソワーズの分も入ってるのよ!1人で食べるわけないわよ。どうせ
3つとも味見したいんでしょ?あなた」


香奈恵の言葉に、嬉しそうに恥ずかしそうに、にんまりとした笑顔。


「私はアップル・ティをお願いします。」
















彼女たちのオーダーした物をテーブルへと運ぶ。
どんな会話をしているのか、ものすごく気になった。

オレのそんな気持ちを察したのか、お節介虫がむずむずと動き出したのか、
彼女たちのテーブルへむかった義姉。


「久し振りね~香奈恵さん、公演で北の方をまわってたって訊きましたよ、お疲れ様。」
「あら、こんにちは。またここへ寄らせてもらうわね!」


香奈恵は義姉にむかって慣れたようにウィンクする。


「ええ、ええ、いつでもいらしてね、大歓迎よ!もうすぐしたら、夏用のランチに
替わるから、いらして!そうそう!フランソワーズさん。先週はいらっしゃらなかったから、
体調を崩されたのかと思ったわ」


香奈恵の次ぎに、フランソワーズへと話を持って行く。


「先週は香奈恵さんの公演の打ち上げやパーティで色々と忙しかったんです。
でも、毎週末いただいていたケーキを急に食べられない!って思うととっても
寂しくなっちゃって・・・」


「お家の方が代わりにいらっしゃたのよ」


そう言って、義姉さんは香奈恵の方を観る。


「フランソワーズもとうとう、島村っちをパシリに使うまでに成長したのね!」
「ええ!」


香奈恵の言葉に飛び上がらんばかりに驚くフランソワーズさん。
しっかり義姉は、”島村”と言う名前を聞き漏らささずにそれが誰なのか詮索する。


「島村さん? 先週店にいらして下さった方かしら?」


フランソワーズの顔が一気に紅くなっていく。


「モデルや芸能人顔負けの、とってもハンサムな憂いのある、母性本能を擽らせる
男の人だった?」
「香奈恵さん!」
「ええ、先週来て下さった方は、本当に素敵な人だったわよ、もう店中の女の子たちが
夢中になってたもの」
「やっぱり、島村っちじゃない」


イヒヒっと大きな口を左右に引っ張ってイタズラッ子のように笑う。


「か、か、彼が、少し早く迎えに来てしまったってメールが来たから、
だったら待ってる間に、お、お願いしたのよ。彼もここのケーキのファンだもの!」
「ほ~!島村っちは、甘党なの?」
「ここのオレンジピールのクッキーと、コーヒー・紅茶のゼリー(夏季限定)それと、
チョコレートムース」


香奈恵さんが思うほど甘党ではないってこと言いたかったようだが、それは
逆効果だったようだ。


「あららら、よくそんなにスラスラと言えるわねえ?」


からかうように言う香奈恵にたいして、間をおかずに反撃するフランソワーズさん。


「家のみんなの好みは全部言えるわ!ジョーだけじゃないわ!」
「ふ~~~~~ん」


香奈恵さんはテーブルに両肘をついて、少し尖った顎を長い両手に包み込む
ように乗せて、じいいいっとフランソワーズさんをみつめた。
フランソワーズさんは、なるべく香奈恵さんと目を合わさないようにしている。
また何を言い出すか解らない。


そんな2人のやり取りを、さも楽しそうに訊いている義姉さん。
彼女に香奈恵さんは言った。


「何か参考になった? 他に訊きたいことは?私も協力するわよ?」


香奈恵さんの言葉に驚く様子を見せることなく、にんまりと笑う。


「そうなの?じゃあ、参加させてもらってもいいかしら?」


そう言うと、近くでサーブしていたバイトの1人に、


「私、休憩ね!ダージリンと、”恋する気持ちはいつでもイチゴ気分”持ってきて!」
「ねえ、萌子さん、それってショートケーキでしょ?」
「うちのショートケーキは”恋する気持ちはいつでもイチゴ気分”な味なのよ?」


オレは義姉(萌子)さんが彼女たちの席に座り込んでいるのを観て、不安になった。
自分の気持ちを自分で言う前に、フランソワーズさんに知られてしまうんじゃないか?
いくら大切な、お世話になっている義姉さんでも、そこまでしてもらう必要はない。




オレだって男だ!
ちゃんと決めるときは、自分でと思っている。




そんなオレの気持ちを無視すかのように、彼女たちのテーブルから華やかな話し声と
笑い声が聞こえてくるが、内容まではさっぱり。

もっと耳がよければ・・・・っと彼女たちのテーブルを通り過ぎるたびに、胸が
不安の波に襲われた。


彼女たち3人の会話は3時間も続いた。
もう義姉さんは”休憩”ではなくなっている。



彼女たちの話しが止んだきっかけは、フランソワーズさんの携帯が鳴ったからだ。


「いけない!もうこんな時間!! お夕飯の支度が・・・」
「も~、主婦は大変ね・・・ってたまにはいいじゃない?遊んだって」
「でも・・・だめよ。もうそんなに・・・一緒にいられないもの・・・・・」
「いつだっけ?」


香奈恵とフランソワーズの会話についていけない萌子は、2人の顔を交互に見ている。


「もうすぐ。・・・まだ正式に発表してないだけで、もうほとんど決まったようなものなの。
発表されたら、一年の半分以上は海外(向こう)よ・・・・」




フランソワーズは電話をかけ直してくると言って、店から出る。
残された香奈恵と萌子は目を合わせる。


「何の話?」
「島村っちの話」
「何してる人なの?」
「レーサー」
「レーサー?!」
「そう、Fワンって訊いたことあるでしょ?」
「ええ。響きだけは知ってるわ。一時期凄かったわよね?」
「そ、島村っちは、F3ってとこで走ってるレーサーで、実力が認められて
F1ってところに出世するんだって。チームが替わるらしいから、日本には
いられないらしいの。私も詳しくはわからないんだけどね」
「・・・一緒に住んでるのよね?」
「そう。親代わりの人が同じ”博士”なんだって。他にも何人か一緒に住んでるらしいわ」
「・・・でも、恋人同士ではない」
「はっきりと訊いたことはないわね、フランソワーズは、あの通り」
「でも、フランソワーズさんは島村っちを好き」
「ええ、観たとおり、話したとおりに、訊いたとおり」
「で、肝心の島村っちは?」
「・・・確認したことないけど、それはそれは、蝶よ花よ、お姫様よって扱ってるわよ、
彼女のこと。島村っちにはいつも上手くはぐらかされちゃう。意外と慣れてるわよ~、女の扱い。
人は見かけによらないって言うのの見本みたいな人」
「妹?」
「・・・っぽい時もあるけど、フランソワーズが姉っぽいときもあるし、普段の口ぶりでは、
母親?・・・」
「母親!?」
「なんか、色々ワケ有りなんだって、彼。」
「可愛い義弟のためとはいえ・・・。ちょっと難しいわね。彼が上手く海外に出て、その寂しさを
埋めるって言う古典的な手しか思い浮かばないわ」


そんな2人の会話の内容も、何も知らずに席に戻ってきたフランソワーズは、
少し恥ずかしそうに「ジョーが迎えに来てくれるっていうの」っと報告した。


「無理っぽい?」
「努力はしてみたら?」












香奈恵とフランソワーズさんが精算しようとしたけれども、萌子は楽しかったからと、
やんわりと断った。2人は素直に義姉さんの気持ちに感謝する。





島村っち、ことジョーは、思いの外早くにカフェに着いた。
店の外から彼の車を見つけるや否や、走るように外へ出るフランソワーズさん。

ウロウロとレジの前に立っていた大地は、カフェの目の前に停められたスポーツカーに驚いた。
義姉である萌子に促されて、フランソワーズと香奈恵を見送るために、外へ出る。

義姉さんはは、そっと囁くようにオレに早口で言った。


「彼はあなたのライバルよ!詳しくは家でね」










ちりりんっとドアのチャイムが”さようなら”っと鳴る。
客はフランソワーズさんと、香奈恵さんが最後だった。

オレは店前に停められた派手(?)なスポーツカーに威圧された。
フランソワーズさんは助手席の窓を コン コンっと2回ノックする。
ウィンドウが卸され、車の中の人物と短く言葉を交わすと、運転席のドアが開いた。








ーーー奴だ。











彼は、エンジンを切ってこちらに向かって歩いてくる。
やはり、腹が立つほどに格好良く、ジーンズに長袖のTシャツと言う、ラフな服装にも
かかわらずスポーツカーに乗ってるいるのが、背伸びでもなんでもなく、似合っていた。





「久し振りね~!島村っち!!元気そうじゃない」


香奈恵さんは、大きな声で奴に挨拶した。
島村(っち?)って言うのか、と変に納得したオレ。


「お久しぶりです」


奴は、少し戸惑ったように、笑った。香奈恵さんは少し苦手なのかもしれない。
そして、義姉とオレの方に向き直し、頭を下げた。


「フランソワーズがお世話になりました。お茶などをごちそうして頂いたそうで・・・。
夜遅くまでお邪魔してしまって・・・、申しわけありません」
「そんな、フランソワーズさんはうちのお得意さまですもの!!今日は、お客様として
いらしてもらったのに、引き留めたのは私なんですから」
「ありがとうございます。今後もフランソワーズがご迷惑をおかけすると思いますが、
よろしくお願いします」


島村に促されて、フランソワーズさんも倣うかのように、ペコリと頭を下げた。


「ごちそうさまでした!とても楽しかったです」


義姉との会話を訊いて、オレは少し自分が情けなく感じた。
目の前にいる”島村”は、オレよりも幼く見えるが、見えるだけで、オレよりもオトナだった。



ーーーオレは、同じような立場になったときに、こんな風にちゃんとした態度を取れるのか?
挨拶できるんだろうか?



ふと、オレは島村の隣に立つフランソワーズさんを観た。
彼女はほんのりと頬をピンク色に染めて、紺碧の潤んだ瞳で、じっと島村を見つめている。



ーーー・・・彼女は、フランソワーズさんは島村が好きなんだ。






その瞳は明らかに、オレに告げている。
フランソワーズさんは、オレを見るときあんな瞳をしない。

胸に重たい鉛のようなものが埋められた気がした。
肩が妙に張って痛い。




ーーー・・・島村は?





オレは彼の真意を探るようにみたが・・・何もわからない。


「香奈恵さん」


フランソワーズさんの声で、オレの考えは途切れた。


「ジョーが家までお送りしますって」


フランソワーズさんの言葉に、島村は、香奈恵に向かって微笑んだ。




ーーー島村ジョーって言うのか・・・気障な名前。




香奈恵さんは、ジョーの申し出を受けて、3人で帰っていった。

フランソワーズさんを乗せた車が見えなくなるまで、オレと義姉さんは、外に居た。


「・・・ねえ、大地、頑張るの?諦めるの?」
「・・・・なんだよ」


オレは投げやりに答えた。


「私、色々訊いたのよ。諦めるなら、教えない。頑張れるのなら、話すわ」
「・・・・あんな奴ただの気障な坊ちゃんだろ?親の金だろ?どーせ!」
投げやりに悪態をつくおれの態度に、ふふんっと面白そうに、自慢げに胸を反らす義姉さん。
「レーサーなんだって」
「?!・・・レーサー・・・?」
「プロのF3っていうところで運転していて、今度は出世してF1レーサーになるんですって」




レーサー?!
F1!!!




「そういう専門雑誌に、たくさん彼は載ってるらしいわよ。有名人なんだって」


翌日、書店が開店すると同時に、オレがF1関連の雑誌を買い占めたことは、当然の行動だった。












そして、オレは大学受験に失敗したときよりも、落ち込んだ。








周りにもそれとなく、「ハリケーン・ジョー」を知ってるか?と訊いた。
10人中7人は知っていた。
F1を知らないのにも関わらず、知ってると言った女2人。









プライベートは一切公表しない、日本人期待の新人レーサー。
一体彼は何者だ!謎の日本人レーサー、ハリケーン・ジョー
プライベートは謎!モデル顔負けのルックスのレーサー。













来期にF1進出か!と大きく特集を組まれている。
ああ、確かに有名人だ。こりゃ。
ざ~~っと広げたのは、カフェのスタッフルーム。



義姉さんは、オレの買ってきた雑誌たちを見ながら、「ま~!へ~!! すご~い!」と
感嘆の声を上げている。


オトナだよ、オトナ。


オレはやっとこさ苦労して大学に入った上に身内のカフェで思いを寄せる女性に会うため(だけ)に、
バイトを始めた一般人。



















ドアのチャイムがちりりんっと鳴る。
いつも、いつも同じ音でオリジナリティがない。






「ま~、島村っちの正体を知って落ち込んでるの?」


出会い頭早々に、何を言うんだ・・・この香奈恵さんって言うひとは!

香奈恵さんをテーブルに案内した。オレは機嫌が悪い。
よくない態度と思いつつ。オレの気持ちも知ってる相手だし義姉さんの友人だから許されると
決めつけた。


「島村っちなら、どんなに不機嫌でも辛くても、そんな態度は取らないわ」


香奈恵さんのその一言に、ガツン!っと頭を殴られた。


「彼は、どんな時でもそつなく対応するし、社会を知ってるわよ」
「・・・」
「スポーツカーを乗り回して、F1で期待されるヒーローだものね。」
「・・・」
「私、今日はレモネードね、それと”午後の甘い口づけ”のクッキーセット」
「・・・かしこまりました。少々お待ち下さい」


オレと入れ違いで義姉さんが、香奈恵さんのテーブルへ近づく。


「いらっしゃいませ、香奈恵さん」
「昨日はありがとね」
「いえいえ。こうやってまた足を運んで下さる大切なお客様ですもの。でも・・・
あまり可愛い義弟を虐めないでくださる?私の楽しみを奪わないで?」
「あはは。そうね、あまりにも拗ねてから、つい・・・まあ、お詫びといっちゃあなんだけどさ。
私ね今度正式にバレエ団のプリマになるの」
「まあああああ!すごいじゃない!すごいじゃない!おめでとう!!!」
「それでまあ、たいしたことはしないつもりなんだけどさ。小さいバレエ団だし。それでも
形だけでもお披露目パーティを関係者を集めて行う予定でさ。大げさにしたくないし、だから、
ここでランチ形式のパーティできないかな?」
「!!??うちで?!」
「ここからだと色々便利なのよ、バレエ団のオフィスは、あのビルに移動したし、人も
入れ替わり立ち替わりで、・・・友人くらいよ、長居するのは。昼間だけだけど、前日の
夕方から当日丸一日、○日の金曜日なんだけど?」
「用意するのは?」
「乾杯用のシャンパンはこっちで用意するし、いつもの美味しいランチを立食用に数を
作ってもらって、あとは自慢のケーキをお腹一杯味わえたらいいわ!」























香奈恵さんの祝賀会とお披露目パーティの日までにあっという間だった。
フランソワーズさんは、香奈恵さんのお願いで今回のパーティを準備するお手伝い
のために、頻繁にカフェに訪れるようになった。










嬉しい誤算。
香奈恵さんに感謝!





彼女と今までのカフェのウェイターとその客では出来なかった話しをする。









彼女をもっと好きになった。
彼女をもっと知りたくなった。
彼女ともっと一緒にいたい。









彼女の好きな物は、甘いお菓子。
彼女の好きなのは、バレエと、イワンと言う赤ちゃんのほっぺ。
彼女が好きなことは、朝のカフェ・ラテを作る時間。
彼女が好きな場所は、家近くの海岸を、砂浜を歩くこと。
彼女が今がんばっていることは、日本食の”さしすせそ”をマスターすること。
彼女が好きな日本食は、甘めの親子どんぶりに、
最近ちょっと食べられるようになった卵かけ納豆半パック御飯。









オレすげー!

オレ、がんばってると思う!








今日、言うんだ!

彼女と一緒に出かけたいから。
大丈夫、彼女は断ったりしない。








もう作戦は立ててある。












「フランソワーズさん」

最後の打ち合わせにカフェに訪れたフランソワーズさんに声をかけると、
満面の笑みでオレを迎えてくれる。以前よりも親しくなった証拠だ。


今日も彼女は綺麗だった。



もうオレの頭からは島村なんて二文字はとっくの昔に抹殺されている。








「なにかしら?」
「あの・・・せっかくなんで香奈恵さんに何かプレゼントをしようと・・・それで・・・
よかったら一緒に何かプレゼントをしませんか?」
「そうね!素敵ね、そうしよかしら?・・・お花を送ろうかと思っていたの、私。でも、
多分当日は沢山頂くんでしょうから、何か記念になるものだと、素敵ね?」
「それで・・・一緒に買い物へ、もし明日お時間があれば・・・」
「明日?午後からは空いてるわ、でもそんなに遅くまでは・・・」
「いえ!ほんとに、プレゼントを買うだけなんで!」
「そお?なら大丈夫よ!じゃあ、○駅のデパートでいいかしら?あのデパートは香奈恵さんが
いつも買い物に行かれる所なの!きっと素敵なプレゼントが見つかるわ!」








もう、こんなに幸せでいいんでしょうか?

オレ・・・。

初めてフランソワーズさんと、デートって言ってもいいんだよね?

























フランソワーズさんとの約束は、午後二時半に○駅前のデパート正面入り口。
待ち合わせ時間よりも10分ほど早く着いたのにも関わらず、もうそこに彼女が居た。

細身で華奢だけど、すらりと伸びた姿勢の良いフランソワーズさん。
薄い水色のワンピースの裾は、透けるようなレースから、彼女の長くほっそりとした足。
小さな足には、いつもより踵が高い白い靴、ストラップがキラキラと光っていて、留め具の
部分にビーズの花がついている。
ハイウェストの切り替えのせいか、いつもより・・・胸が強調されているように感じる。
襟ぐりも、鎖骨がしっかりと出るほどに大きくひらいていて、彼女の首周りがはっきりわかる。
パフスリーブと言われる袖で、肩口でふんわりと膨らんでそのままおおきく、ゆったり彼女の
二の腕を包んだ袖口から、彼女の白い腕がすらりと出ている。


ワンピースとお揃いの色のカチューシャが、彼女らしい。



そして、いつものように細い手首に巻かれ白銀色のとても繊細なプレスレットは、今日も
彼女が唯一身に付けているアクセサリーだった。









彼女がオレをみつけて、左手を振る。
きらり とブレスレットが光り、さらり と彼女の手首から腕に移動した。




ーーーどうしよう。本当に、彼女はなんて素敵なんだ。






「すみません!お待たせしたみたいで!」
「いいえ、道が空いていたから、思いの外早く着いてしまったの」


浮かれるオレは、彼女の言葉にさほど気にしなかった。


「えっと・・・あの、ここからは、お願いしてもいいですか?改めて考えると、何を
プレゼントしたらいいか・・・まったく解らなくて・・・・」


オレは正直に言った。
彼女とのデートにこぎ着けるために、香奈恵さんを使ったんだ。
けれども、香奈恵さんにはこんなにフランソワーズさんと一緒に過ごす時間とチャンスを
もらったから、お礼も兼ねたプレゼントにしたかったけれど、ハッキリ言って何を贈ったら
いいのか、検討がつかない。


「ええ、もちろん!実はいくつか候補があるのよ。一緒に見て、決めましょう!」


オレは改めて、彼女に惚れる。

惚れ直す。









好きで、好きで、好きで。











この気持ちを貴女に伝えたい!


2時間ほど2人でデパート内を歩き回った。










ああでもない、これでもない。
香奈恵さんの、好みじゃない。
香奈恵さんらしくない。














プレゼントは、シルバーのフォトフレームに、彼女の名前と彼女がプリマとして
正式に迎えられる日。
3日後のパーティの日付を入れてもらった。

オレの予定していた予算よりも大幅に越えてしまったけれども、それが一番のプレゼントだと、
フランソワーズさんと一緒に納得したので、満足だった。

綺麗にラッピングされて、メッセージカードも添えた。

彼女は大切にその紙袋を腕に抱えている。

うちのカフェでチョコレートムースを買って帰る時のように。







「それ、オレが持って帰りますよ、当日、フランソワーズさんも来られるんでしょう?」
「ええ、もちろん。私は関係者ですもの」
「・・・あ、失礼しました、フランソワーズさんは大切な、大切なパーティの係でしたもんね」
「そうよ!もう、香奈恵さんのために走り回ったのよ、私。忘れられたら困るわ!」





オレの失言に拗ねるフランソワーズさん。


嬉しい。普通の何気ない会話が、本当に、嬉しくて、嬉しくて!

このまま帰るのは、もったいない。


オレは、ちらり と時間を確認する。まだ5時前。
ずっと歩きっぱなしで、正直ノドも渇いているし、足も疲れた。



ーーーお茶に誘ってもいいだろうか?








「ねえ、まだ少し時間があるから、どこかでお茶しましょ?」


どきり。 とオレの心臓が跳ねた。
フランソワーズさんが、オレと同じことを考えてくれていたんだ!


「ええ、そうですね!」
「あんなに美味しいお料理やケーキをいつもいただいてる大地さんだから、どこへ
行けばいいのかしら?」
「ど、ど、どこでもいいですよ?!」
「そお?・・・なんだか緊張しちゃうわ。でも、このデパート内でもいいかしら?」
「ええ、もちらん」
「じゃあ、8階に行きましょう!コーヒーがとても美味しいって友人が教えてくれたの。
その人はちょっと五月蠅いのよ、コーヒーに!!」


















フランソワーズさんが案内してくれた珈琲店は、世界各国の豆が買える店の奥にある、
とても小さな喫茶室だった。





メニューを見てオレは戸惑った。

珈琲だけで、この数!・・・一体どうしたら・・・。
フランソワーズさんは、オレの動揺に気づいたらしく、オレに顔を近づけて囁いた。


「私もね、美味しいって言うのはわかるのよ、でも一体、何が何の豆で、どうしたら
いいのかわからないの。だからいつも「水出し珈琲をホットで」って云うって教えて
もらったのしか頼まないのよ? だから一緒のでいいかしら」


今までに経験したことがないほどに至近距離にあるフランソワーズさんの顔。

なんて睫が長いんだろう。

蒼味がかった碧色と言うか・・・小さい頃にはまった石図鑑で見た、「パライバ・トルマリン」
と言う宝石に近い色。
吸い寄せられるように、オレの視線は、彼女の愛らしい形・・・







いつもよりピンク色が濃くなった唇に・・・・。









「ご注文はおきまりですか?」


ウェイトレスの声にオレは、慌てて彼女から離れる。


「ええ、水出し珈琲をホットで2つ。それと・・・オリジナルバナナケーキもお願いします」




ーーー本当に甘いものが好きなんだ・・・。









店中に漂う珈琲の香り。
その中で、ときどき場違いなほどフローラルな香りに気づく。
フランソワーズさんが、手で髪を後ろに凪がす時。


その香りをもっと、もっと味わいたい。

楽しい。

珈琲は生まれて初めて飲んだもののように美味しくて、帰ったら絶対に兄貴に
教えてやらないと!っとオレは息巻いた。
ときどき、フランソワーズさんが彼女の小さなショルダーバックの中の携帯をチェック
している姿が気になったが、遅くなることは出来ないと言っていたので、時間を見ているのだろう。

正直に言うと、時間なんか忘れてしまって欲しかった。
このまま彼女と夕飯でも行きたかった。








できたら、このまま・・・健全な男子が想像するのは、ひとつ!




その前にきちんと自分の気持ちを伝えるのは、もちろんだけどさ。





ーーーまずは、夕食に・・・。










「あの・・・」
「?」

オレが彼女をディナーに誘おうとしたとき、彼女の携帯が鳴った。















時間は6時11分。

フランソワーズさんは、ぱっと携帯を手に取って、「ごめんなさい」とオレに謝り、
慌てて店から出て行った。

勢いがそがれてしまったと当時に、不安が胸を突き上げる。
彼女の携帯に電話をかけた見えない相手に、無償に腹が立った。


そういえば・・・オレは彼女の携帯の番号を知らない。


不安は寂しさにすり代わった。



何が、デートだ。
何が、夕食だ。
何が、健全な男子だ!



その前に、携帯の番号が先だろう?
今後のためにも・・・。






1分もしないうちに、彼女はぱたぱたと席へを戻ってきた。


「ごめんなさい」
「いいえ!大丈夫ですよ・・・」
「あの、さっき大地さん何を・・・」


彼女は自分の電話のために僕の会話を遮ったことを気にしていたのだ。


「いや、大したことじゃないんです!えっとなんだったかな???」






オレは、乾いた笑いでさっきの会話をごまかした。
なぜそうしたのか解らなかったけれど、とにかくフランソワーズさんの電話の相手が気になった。
抹殺したはずの二文字が、頭の中をぐるぐる回っている。


「それより・・・電話、大丈夫ですか?あの・・・時間を気にしてるみたいだったから」


オレの言葉に彼女は俯いて、そして少し小さな声で言った。


「・・・・あの・・・ジョーがここに来るの、このあと少し家の買い物をして帰りたかったから、
荷物があると大変でしょ?だから車で来てもらうように、お願いしたの」











メガトン級のハンマーがオレの頭を直撃した。




オレのデートはもしかして、「家のお買い物」と同レベル?

そして今頃になって待ち合わせの時に言った彼女の言葉を思い出した。









ーーいいえ、道が空いていたから、思いの外早く着いてしまったのーー









「あのお・・・今日の行きしなも?送ってもらったんですか?」


フランソワーズさんは、ゆっくりと顔を上げる。
その顔は彼女の白い首から耳までピンク色に染めている。
照れている・・・、彼女は明らかに、島村について話すことに照れているのだ。




フランソワーズさんは、ゆっくりと こくん と頷いた。


「今日は、バレエのレッスンもなかったし・・・。電車で行くと言ったんだけど、
買ったばかりの新しい靴で、いつもより踵が高いから・・・て。ジョーは心配性だから、
時間が許す限り、送り迎えをしてくれるの・・・。車の運転が好きだし」





ーーーああ、ああ、そうですよね。





車好きっすよね?
運転嫌いじゃ、F1レーサーなんてなれませんものね!












オレは思いっきり毒づいた。これは、フランソワーズさんに対してではなく、完全に島村にたいしてだ。


「あの・・・ごめんなさい」
「え?!」
「せっかく誘って頂いたのに、勝手に予定を入れてしまったから」


まさか、そんな風に謝ってくるとは想像もしてなかったので、慌ててオレは否定した。


「遅くなってはダメだって言ってたじゃないですか!もう6時も過ぎたし、予定通りですよ?!」



オレの言葉に安心したのか、ほっとした表情をみせた。





・・・そんな顔をされると、この後にもオレが予定をいれても良かったんではないだろうか?と、
変な期待をしてしまった。



そんな邪な考えをしたときに、島村は店に現れた。
彼は店内を見渡すような動きもなく、まっすぐにフランソワーズさんとオレの席へとやってくる。


「こんにちは」
「あ・・・はい、こんにちは・・・」






島村はオレに頭を下げて挨拶をする。







ーーーバカ丁寧な奴だ。









「ジョー、何か飲む?」


フランソワーズさんは、席を隣に移して彼に座るように促す。島村はそれに従うが、
彼に気が付いたウェイトレスに何も要らない。と、
言う動作を見せた。


「今日の買い物って、食料品がメイン?」
「なぜ?・・・そうね買いたい物は少しあるかしら、でもイワンのミルクが一番ね」


島村はごく自然に、フランソワーズさんに出された水の入ったグラスに手を出して、一口飲む。
それが当然というような動作で、2人が隣り合って座る姿をみるのが辛い。


「帳大人から連絡があって14人のディナーの予約が突然キャンセルになったらしい」
「あら、ひどいわね」
「それで、材料もいいのがそろってるから、みんなで食べにこいって」
「久し振りね、お店でいただくの」
「さっき、博士やみんなを帳大人のところへ送っていった」
「そう」
「ごめん」
「それじゃあ仕方ないもの。気にしてないわ、こうやって大地さんがお茶につきあってくれていたし」


フランソワーズさんは前髪で隠れた、島村の顔を見ようと少しのぞき込むような仕草をした。
島村は、フランソワーズさんの方へ首を傾けて、微笑んだ。


そして突然、オレに向かって言った。





「今日はありがとう、フランソワーズに付き合ってもらって・・・大変だったでしょ?」
「え・・・?!」
「彼女、買い物し出すと、我を忘れて歩き回るから・・・」
「いえ・・・そんな・・・そうでもないですよ。はい。」


オレはなんでこんなに緊張しているんだろう?


「ジョーひどいわ、私そんなに無理させてないわ、大地さんに!ジョーと一緒だと見つから
ないような、素敵なプレゼントを大地さんとみつけたのよ、ね?」


彼女は怒ったように、オレに同意を求めるが、オレは、どう返事して良いのか、わからなかった。
この島村を前にして、オレはいったいどのようにふるまえばいいのだろうか?
店ならば、ウェイターとして・・・毅然とした態度で彼に接することができる。







でも今は・・・
ただのオレ、ただの、井川大地だ・・・。なんて頼りないんだろう。


「彼を脅したら、ダメだよ?困ってるじゃないか・・・」
「脅してなんかいないわ!」
「夕飯どうする?帳大人の店?それとも他に行く?」


フランソワーズさんは、島村の「他に行く?」という言葉に、ぱっと顔が輝いた。
それは当然、彼も気が付いている。


「じゃあ、コレに履き替えて。買い物を済ませて一度荷物を置いてから出かけようか。
大人には電話してくるから」


島村は、手に持っていた白い紙袋をフランソワーズさんの膝に置いた。
薄い金色でブランド名が書かれているが、読めない。


「靴擦れ、痛いだろ?・・・・で、大地さんはどうする?一緒に夕飯食べに行く?そうすると
・・・・また、フランソワーズの買い物に付き合ってもらうことになるけれど?」


フランソワーズさんは、「あ・・」と小さく声を出す。
そんな彼女を無視するかのように、彼は店を後にする。
手にはいつもまにかフランソワーズさんの携帯を持っていた。


「フランソワーズさん?・・・どうしたんですか?靴擦れって・・・?」


オレは彼が店を出てからようやく、まともに口が回り始めた。
フランソワーズさんはじっと、紙袋の中を見ている。


「・・・今日の靴、新しいから」


消えそうな声で呟いた彼女。
オレは思い出した、さっきの会話を・・・。









ーー買ったばかりの新しい靴で、いつもより踵が高いから・・・て。ジョーは心配性だからーー











「靴を・・・持ってきてくれたんですか?」


彼女は目線を紙袋から外すことなく頷く。
ぱらり と 彼女の肩にかかっていた髪が彼女の横顔を隠した。



そしてもそもそと、紙袋から、踵の低い・・・オレも見覚えのある銀色の・・・彼女が
普段履き慣れている靴を取り出し、新しい白の、踵の高い華奢な靴から履き替え、紙袋にしまった。


「バレエでトウシューズを履いてるし、すぐ傷だらけになっちゃうから・・・靴擦れなんて
気にしなくてもいいのに・・・ねえ?」

フランソワーズさんはやっとオレの方に顔を上げた。











その表情は、今日一日一緒にいた中で、一番綺麗な・・・笑顔だった。



悔しい。




ぎゅっと胸を捕まれた。
それは天使の矢がささったのと同じ痛み。
だけれども、天使はこんなに切ない気持ちを与えたりはしないだろう。

オレは恋をしている。
この美しいフランス人女性に、本気で恋をしている。
でも、彼女にはすでにオレではない想い人がいる。


フランソワーズさんは靴を履き替えてから、「行きましょう」とオレを促した。
彼女がレシートの紙を持ったので、慌ててそれを取り返そした。


「ここはオレが!」
「そんな、ここくらい私にお願い。だって、いつもいつも大地さんのお義姉さまに
よくしていただいているし、たくさんサービスしていただいてるのよ?ここは、私に、ね?」
「けど・・・フランソワーズさん、ここは・・・」
「じゃ、間をとって」


いつの間に側にいたのか ふわり、とオレとフランソワーズさんの手にあったレシートを
魔法でも使ったのかのように、島村は奪ってすたすたとレジへ進んでいった。
呆気にとられてみていたオレは、慌てた。
けれども、間に合わず・・・島村のさりげない、オレにはない行動が






・・・・どんどんオレを追いつめていく。








悔しい。













店から出てきたオレとフランソワーズさんを待っていた島村。
レジで精算していたはずの奴のほうが、早く店を出てるってどういうことだよっ!



そんなオレの気持ちも知らず、島村はおれに問いかけた。



「・・・・で?」
「え?・・・なんですか?」
「一緒に飯喰いに行く? そうなると、買い物にも付き合ってもらって、
一度家まで行かないといけなくなるし・・・遅くなってしまうけど・・・」
「あ・・・」
「そんな誘い方失礼だわ、ジョー!!お夕飯をご一緒するなら、帳大人のところへ
行きましょうよ。今日のお買い物はまた明日出直せばいいもの・・・」
「・・・・電話したよ?さっき」
「またかけ直せばいいコトよ?」
「じゃあ、君がかけなよ?」
「あら、どうして?」
「・・・・・」


正直言うと、とても魅力的な誘いだった。
島村から言い出したのは、腹が立つけれど・・・もう少しフランソワーズさんと一緒にいたかった。
邪魔者はいるけれど。
興味もあった、もしかしたら彼女の住む家に行ける!
これで住所は解ったようなものだし。



それよりも、オレは・・・島村とあと数時間も一緒にいるのかと思うと、とてつもない疲労感に
襲われた。


「今日は・・・いいです。店の片づけを手伝うって約束もあるし・・・誘って下さって
ありがとうございます」

オレは固まりつつある脳みそをなんとか動かして、それだけを言い切ることに集中した。


「じゃあ、送っていくよ」
「そ・・・そんな!大丈夫です!!・・・まだ買い物をされるんでしょ?僕も店に帰る前に
寄りたいところもあるから・・・ここで・・・」


自分を褒めてやりたい。
本当にこころの底から、今日の自分を褒めたかった。


「・・・大地さん、気になさらなくてもいいのよ?車の方が楽よ?」
「いいえ、大丈夫ですよ、フランソワーズさん。今日はどうもありがとうございました。この
プレゼントは、ちゃんとお店の方で預かっておきますから・・・」


オレは手に持った、2人で買った香奈恵さんへのプレゼントをこれ見よがしに、自分の胸に抱え込んだ。
フランソワーズさんは笑って、「お願いします」と言った。




ーーーやっぱり可愛い。




「・・・じゃあ、また。フランソワーズがお世話になりました・・・あと、これを・・・」


そう言って、オレとフランソワーズさんが初めて一緒にお茶した店のロゴが入った袋を
オレに持たせた。


「この店のオリジナル。珈琲マニアなドイツ人の友人が、これに目がなくってね・・・美味しいから、
よかったら飲んでみて」
「あ・・・そんな・・・」
「いつも君のお義姉さんにはお世話になってるから・・・気持ち程度でわるいけど」
「・・・・ありがとうございます」


彼の行為を断るのは・・・大人げないと思った。
オレの隣に立っていたはずのフランソワーズさんが、いつの間にか島村の隣に立っていた。



「それじゃあ、気を付けて帰って下さいね?今度お会いするのは、香奈恵さんのパーティね!」
「そうですね」
「さようなら!」
「・・・サヨウナラ」


オレは、2人がエレベーターに乗って、その扉が閉まるのを見送った。
フランソワーズさんと島村は今から、地下の食料品売り場と、イワンという名の赤ちゃんのために、
ミルクを買い、一度、彼らの家へ帰って、荷物を置いて・・・もしかしたら、島村は彼女の靴擦れが
ヒドイから外ではなく、家で食べようと言うかもしれない。
キッチンに立とうとするフランソワーズさんを宥めて、彼が作れるくらいの・・・想像しかできないけれど、
朝食のような夕飯を2人で食べるのかもしれない。

もしかしたら・・・2人には行きつけの店があって、レーサーになるくらい運転好きな島村と、
ドライブがてらちょっと遠くへ行くのかもしれない。














オレは泣いた。


自分が泣いてるなんて、気がつかなかった。
ぽろぽろ ぽろぽろ と、オレの気持ちに反して涙が出てくる。

止まらない。
そして、その涙を拭うことも億劫で。
人がオレを見てるのは知っていたけれども、そんなことはどうでもよかった。




ただ

オレは泣いた。















好きなんです。
フランソワーズさん。
















貴女が、好きで。好きで。好きで。どうしようもないんです、オレ。












持って帰った珈琲は、もう二度と飲みたくないほどに美味しかった。


























香奈恵さんのパーティ前日の夕方。

フランソワーズさんが・・・・カフェに来た。
当然のように、島村のあのスポーツカーに送られて。

電話で済んでしまうような、小さな確認と、小さな、小さな変更内容だったのにも関わらず。
フランソワーズさんは、これから明日の準備で大変だろうからと、夕食につまんで下さいと、
お弁当を差し入れてくれた。





彼女の手作りの日本食のお弁当だった。


「まだまだ修行中で・・・ジョーに味見してもらわないと変になっちゃうんだけど・・・
プロの方に食べて頂くのは・・・どうしようっと思ったけれど、これから準備が一番忙しいし、
お夕食はしっかり食べた方がいいと思って・・・」


フランソワーズさんの手に持てきれない分を島村が運ぶ。
準備のために、10人ほどスタッフが居たけれど、それでもフランソワーズさんが作ってくれた
お弁当の量は、十二分な量だった。





義姉さんは、すごく、すごく喜んだ。


「今日はピザでも頼もうかって話してた所なの、嬉しい!ありがとう!!助かったわ~!!」


義姉さんは感動のあまり、フランソワーズに抱きついた。
一緒にいた女性スタッフも一緒になってフランソワーズさんに抱きついた。




ーーーついでにオレも抱きつきたかった・・・。









フランソワーズさんのお弁当は5種類の具違いのおにぎりに、炊き込み御飯。
おかずは、それぞれがタッパに入っていて、だし巻き卵、トリの唐揚げ、お煮染め、レンコンの
甘辛煮、ほうれん草のおひたし、昆布巻き、大根の煮物・・・。
まるで、遠足か花見のような・・・とても豪華なお弁当だった。

ちゃんと取り皿として、紙皿にお箸、紙コップにウーロン茶2literが3本。

そして何より、美味しかった。




「・・・日本人の私より日本食上手いかも・・・」
「・・・私、お煮染めとか作れないよ?だし巻きって・・・知らない・・・作り方」


義姉さん以外の若い女性スタッフが ぽつり ぽつり と呟いた。
男性陣は「あんな嫁が欲しい~~~~~~~~~!」と雄叫びを上げる。




オレもここは一緒に叫んでみた。



「なあ、大地・・・お前本気であのフランソワーズさん・・・ゲットできね?」


兄貴が義姉さんのいないところでオレに頼んだ。





オレだって出来るならゲットしたい!
出来るなら・・・まだ諦めてないんだよ!


諦めきれるもんか!


こんなにすごい女性は、一生に一度でも出会えるかどうか解らないくらい、貴重なんだ!
そのチャンスがオレに巡ってきたんだから。手放すなんてバカだ!!





















翌日の午後1時。

香奈恵さんのパーティが始まった。







何社かバレエ専門誌の記者やカメラマンも来ていて、オレが想像するよりもずっと派手だったし、
彼女のためにお祝いに駆けつけた人予想していた人数を遙かに超えていた。
店内から溢れるように、オープンカフェスペースにも人が集まっている。
今日は、空も香奈恵さんをお祝いするように、清々しい暖かな風と突き抜けるような青空。







気持ちのいい日だった。









フランソワーズさんと島村は、予定時間よりも少し早くカフェへ来た。
彼女の姿を見つけたスタッフは、口々に昨日のお弁当のお礼を言う。

彼女は頬を桜色に染めて、


「まだまだ、勉強しないと味付けに自身がなくて、1人だと・・・不安なんです」


と、謙虚な姿勢だった。
そんな彼女を遠目に見ながら、オレは考えたくもないことを考えてしまった。




ーーー・・・あの弁当は全部、島村好みの味付け・・・



準備や訪問客への接待、食事や飲み物の補給などをこなしていく。

満足にフランソワーズさんと話しが出来ない。
一緒に香奈恵さんとプレゼントを渡したいのに。









そんな思いを抱えながら、時間はどんどん進んでいき、気が付けば・・・店内はオレでさえ
見たことのある人たちばかりで、関係者か、香奈恵さんの友人と思われる人達ばかりになっていた。





















時間は4時を過ぎたところ。

店内とオープンスペースを見たが、フランソワーズさんの姿がなかった。
もう帰ったのか?っと思ったが、彼女が何も言わずに帰るはずがない。
この後、今回の準備にかかわったスタッフと香奈恵さんの友人で、ディナーの予約を取っていると
言っていた。



そこにもフランソワーズさんは参加する予定のはず。






島村は知らないけど!









オレがきょろきょろと挙動不審な動きをしたのを目に留めた義姉さんが、っぽん!っと
オレの肩を叩いた。


「お疲れさま!がんばったわね。もうほとんどスタッフか、彼女の友人だから休んで良いわよ」
「・・・うん、あのさ」


義姉さんは、オレの訊きたいことをオレの口から訊かなくても解る。と、いうカンジで答えた。


「フランソワーズなら、裏じゃない?島村っちが煙草を吸えるとこないか?って訊いてきたから、
彼女も一緒なんじゃない?」
「煙草~?!」


いつの間に義姉さんはフランソワーズさんのことを「さん」なしで呼ぶようになったんだろう?
島村っち・・・て・・・。




そんなことよりも、島村は煙草を吸うのか?
フランソワーズさんに変な煙草の臭いがつくじゃないか!







オレは慌てて厨房を抜けて、裏口のドアの前にたった。
厨房にはもう、誰もいない。
兄貴も高田さんもすでにパーティの一員になっている。
ドアを開けるのに少し躊躇った。2,3回深呼吸をしてドアノブを回した。









ーーーゆっくりと、そ~っと・・・。










何もこそこそする必要ない、はずのオレだけれど。
ただフランソワーズさんにいつ、プレゼントを渡すのかを訊くためだ。
ついでに、島村の煙草の害から彼女を護りたかった。


ドアの開く音に気を付けながら、オレは外の様子を伺った。

兄夫婦のカフェはは5階建ての小さなビルの1階のスペースに作られている。
けっして大きくはないけれども、カフェには十分の広さだと思う。
2階から上は、どんな人たちがそこを借りているのかよくは知らない。
兄貴と義姉さんはちゃんと把握しているに違いない。

裏は、これが非常階段か?と解らないようなお洒落な作りになっていた。
ゆったりと螺旋を描き、階段の幅も狭い。広さは十分に取られていて、手すりには計算された感覚で
花を植えたプランターがぶら下がっている。
オレは花の名前なんて知らないが、そこには色とりどりの小さな花が咲き乱れていて、裏路地に
面しているのにもかかわらず、隣り合ったビルのゴミ置き場が見えるのにもかかわらず、とても
長閑な雰囲気を保っていた。





ドア越しから乗り出すように体を外へと向ける。



声が聞こえてきた。
次ぎに、彼らの姿が。






階段からこちら側のドアは見えないようになっているはず。
設計上の防犯のためだ。
けれども2人の姿はオレから見ることができた。
ちょっと無理な姿勢をしなければならなかったけれども。


島村は、フランソワーズさんが自分の隣の位置に腰掛けようとしているの制していた。





「せっかくの、服が汚れるよ?」
「だって、まだ吸うんでしょ?」
「・・・苦手なの、知ってるだろ?」
「じゃあ、後から来たら良かったのに」
「二度手間になるから」
「私は電車でも良かったのよ?」


この明るい空の下、島村の煙草を吸う姿はあまり似合わない。
いつものカジュアルな格好ではなく、彼は濃紺のスラックスに白いシャツ、そして
ジャケットを着ていたが、それは何処かへやってしまって、今は袖をまくり上げ、
シャツのボタンを3つほど開けて男の癖にえらく綺麗な鎖骨と整った筋肉が ちらり 
と見える。無骨な鍛えられた腕から伸びた手、その指に煙草が挟まれていた。


彼はフランソワーズさんに煙草を持っていない方の手を差し出す。
彼女はその手を取った。







「きゃあ!」と彼女の小さな悲鳴が、オレの体を一瞬にして緊張させた。


島村はぐいっと力任せに彼女を引き寄せて、軽々と彼女を抱いた瞬間にフランソワーズさんは、
島村の膝の上に座って、彼の腕の中に納まった。


煙草を持ったままでそういうことをするのは、とても危ない!
オレは、彼女が火傷や、彼女の綺麗なドレスが焦げなかったか心配してしまった。





けれども、それは大丈夫だったようで・・・。
島村がフランソワーズさんを抱く姿は、まるで世界中のすべての目から彼女を隠すように見えた。




「も!ビックリするじゃない!」


彼の膝に抱かれながらフランソワーズさんは、島村の突然の行動に抗議するが
その声は・・・嬉しそうに思えた。


「服、汚さなくて済むだろ?」
「煙草の臭いがついちゃうわ」
「あとで、シャワーを浴びれば?」


気にすることなく島村は ふうっ と、煙を吐き出す。
彼女に煙がいかないように配慮した動きが見える。


「この後に、今回のパーティのスタッフと香奈恵さんのお友達とレストランへ二次会
(打ち上げ)に行くんだもの」
「君も行くの?」
「・・・香奈恵さんにぜひって誘われているの」
「そう」
「・・・ジョーも誘われているのよ?」


フランソワーズさんの言葉に「困ったな」と苦笑いをする。


「何杯飲んだ?」
「・・・3杯」
「ウソはダメだよ?」
「ウソじゃないわ」
「ワインは、だろ?」
「・・・お祝いだもの!」
「それで?何杯飲んだ?」
「うう・・・・シャンパンを2杯、赤を2杯、白が・・・1杯」
「もうダメだからね」
「!?」
「それ以上はダメ」
「だって、レストラン!」
「だめ」
「ジョーは車で、自分が飲めないからって!」
「俺?酒は飽きるほど飲んでるよ、いつも。でも君、今日はおしまい」
「ひどーい!」
「酔ってるね?」


彼は再び、煙草を口に含んで ふう っとはき出した。
そんな風に煙草を吸う彼の姿をみつめるフランソワーズさん。


「これくらいじゃ、酔わないわ・・・・。じゃあ、もうここでは飲まないから煙草、それで
終わりにしてくれる?」
「ヤダ」
「なにそれ」
「いやだ」
「ジョーって我が儘!」


フランソワーズさんは怒ってない。
面白そうにクスクスと笑っている。
島村の膝の上で、彼の腕の中で。
彼女は彼の胸に自分の頬を押しつけるようにもたれかかっている。
甘えている。島村に全身で甘えていた。




「俺は我が儘です。知らなかったの?イマサラ・・・」
「知ってるわよ」
「じゃあ、我が儘ついでに」
「なあに?」














「一緒に来いよ」




フランソワーズさんの笑顔が凍った。
時間が止まった。
オレの息も止まった。





世界中が・・・島村の言葉に足を止めた。


彼は、最後の煙を吐き出すと、階段にそれを擦りつけて火を消す。




「イギリスに決まった。契約に来月行く・・・1週間くらい。年明け早々に、向こうで生活を
始める。グレートが色々助けてくれる。こっちへは・・・上手くいって2,3ヶ月に1度、
2週間くらい・・・かな。戻ってこられるのは。オフシーズンにならないかぎり難しい。」



フランソワーズさんは、腕を伸ばして彼の首にしがみついた。
その動きがなんとも優雅で綺麗で・・・とても危うかった。
彼女の背に両腕をまわして、抱きしめて、あの美しい亜麻色の髪に顔を埋める島村。














「一緒に来い」


苦しそうに、喘ぐように、切なそうに、絞り出した声。


そのまま2人は動かなかった。





どれくらい時間が過ぎただろう、不意にフランソワーズさんの声が聞こえた。
耳を凝らさないと、街の雑音に消えてしまうくらい小さな声。











「・・・・行かない」


「・・・行こう」


「行かないわ・・・・私」


「一緒がいい」


「・・・行かない」


「来てよ」


「・・・だめ」


「・・・・泣くよ、俺」


「泣けば?」


「・・・・そばにいて」


「いるわ、ずっとジョーのそばに」


「一緒に行こう」


「・・・・だめ。でもずっと一緒にいるのよ、私」


「泣くよ、ウソじゃない。キミがいないと眠れない」


「泣いたらいいわ、少しくらい寝なくても平気よ」


「息が出来なくなる」


「それくらい平気でしょ?」


「キミがいないと・・・生きていけない」


「私は死なないわ、生き続ける。だからジョーも生きていける」


「俺を苛めて楽しいかよ?」


「苛めてなんかないわ。信じてるの」








ゆっくりとフランソワーズは、島村の首から腕を放し、
真正面から彼の顔をまっすぐに見つめた。


「この躯も髪もこころも魂でさえ、この世にただ1人の島村ジョーを愛してる私、
フランソワーズ・アルヌールの全てがあなたのものよ、ジョー。私の気持ちは常にあなたと
一緒にあるの。私が還る場所は永遠にあなたの腕の中以外ないわ。同じ地球にいるのよ?
大気圏外じゃないわ。日本とイギリスなんてとても近いじゃない。私はあなたの夢を信じてるの。
ジョーが夢を叶えたときに、私を迎えに来て」



「・・・・きみがいないと無理だよ」

「あなたは出来るわ、私がいなくても」

「俺はそんなに強くない」

「・・・じゃあ、私のために強くなって」

「そばにいてくれないと、強くなれない」

「そんなの本当の強さじゃないわ。私は強い人が好き」

「・・・いじめっこ」



降参・・・っと言うように、彼は彼女に今まで見たことがないような最高の笑顔をつくる。



「だって兄さんが、私は世界で一番綺麗で可愛い妹だから、嫁にやるなら、世界一の男じゃないと
駄目だ!!!ってずっと言っていたんですもの」

「・・・本気で?」

「ええ、本気で」

「・・・参ったな・・・それ、かなり難しいよ?」

「ジョーなら大丈夫よ」

「買いかぶりすぎ」

「あら、私が欲しくないの?」

「欲しい」

「じゃあ、世界一最速の男になって私を手に入れて」

「もう、世界一だと思うけど?」

「私、贅沢なの」

「・・・そうなの?」

「ええ。そうなの。だから世界中の人が私の男は世界一なんだって知って欲しいの」

「・・・本気で?」

「ええ、本気よ。大声で言いたいの。ジョーは私のものよ!って」

「言ったらいいよ、今でも」

「まだ駄目よ、ジョーは泣き虫だもの」

「・・・・」





ふうっとため息をついた島村。






「待っていてくれるんだ?」

「あんまり待たせないでね? 疲れちゃうわ」

「・・・・努力します」

「ええ、がんばってね!」








フランソワーズさんは ぎゅうううう と島村をその腕に抱きしめた。
彼もそれに答えるように彼女を強く抱きしめる。









「寂しいよ」

「私だって寂しいわよ」

「・・・泣きそう」

「・・・・いいけど? 見られてもいいなら」

「・・・知ってたの?」

「私を誰だと思てるの?」

「・・・はい。よく存じ上げております」






2人はそのまま、動かない。
オレは2人を邪魔することが出来ない。


ただ黙って、変な風に使った筋肉に謝りながら、音を立てないように、細心の注意を払いながら
ドアを閉めた。



その後、2人がどんな会話を交わしたのか知らない。
島村がフランソワーズさんの胸の中で泣いたかどうかも、解らない。








来年、2人は別々の国で生活を始める。

フランソワーズさんは、島村について行かない。
島村は、フランソワーズさんを連れて行かない。








ーーーオレにも・・・チャンスがあるのかな・・・・。






初めからあったのかな・・・・。






























オレが戻ったときには、簡単にではあるがカフェ内の片づけが始まっていた。
明日から2日間、カフェは臨時休業の張り紙を出す。
片づけと、今日のために来てくれたバイトの子たちのために。







フランソワーズさんは島村と一緒に店内に戻ってきたのは、それから10分も経っていなかった。
彼女は、オレを見つけると花が咲いた笑顔で駆け寄ってきた。









・・・微かにオレの鼻に薫った煙草の臭い。












「ごめんなさいね、探してくれたのかしら?」


彼女の言葉に、オレは大げさに首を横に ぶんぶん と振った。


「そうなの? 香奈恵さんの二次会には参加なさるのかしら大地さん?」
「あ・・・うん。そのつもりです。兄夫婦も参加するから一緒に」
「それはよかったわ!プレゼントやお花は今から香奈恵さんのお家に運ぶんですって。でも、
やっぱりちゃんと開けてみて欲しいから、二次会でプレゼントを渡したいの」
「あ、はい。じゃ僕が持って行きますよ」
「ありがとう!!」


フランソワーズさんに寄り添うように、彼女の後ろに立っていた島村。
香奈恵さんは、フランソワーズさんが途中席を外していたことを知っているのか、

「や~っと戻ってきた!」と言って、オレと島村さんを残して彼女をどこかへと連れ去った。






壁際で、バレエ関係者の輪に入る2人を眺めるオレたち。


「・・・大地さん」
「・・・年、そんなに代わらないと思うんですけど・・・」
「いくつ?」
「21」
「・・・そうか、かわらないね」
「だから、大地でいいっすよ」
「じゃあ、僕もジョーでいい。敬語もいらないよ」


さっき聞き耳を立てていた時の話し方とずいぶん印象が違う。


「・・・何か?」

ジョーはじっとオレを見ていた。
睨むとかそういうカンジではなく・・・たまに兄貴がオレをそういう目でみるのにひどく似ている。


「・・・変な話しを聴かせてしまったなっと思って」
「?!気がついてたのかよ!」
「・・・ごめん、でもあの時は・・・こっちの話しを優先したかったから・・・」
「島・・・ジョーが謝るなんておかしいよ、オレが勝手に盗み聞きしたんだし」
「でも、ごめんな」
「・・・・何にたいしてっすか?」
「さあ・・・」


彼の曖昧な微笑みが、オレの胸を剔った。









痛い。










けれども嫌な痛さじゃない。


「ジョーって泣き虫って本当?」



オレは胸の痛みをごまかすように彼に言ってみた。


ジョーは大きな目をさらに大きく見開いて驚いたかと思うと、あっという間に首から耳、そして
顔を真っ赤に染め上げた。
彼は手で口を覆って、ショックを隠そうとするが、その動きが余計に・・・彼の慌て具合を強調させた。


「わ・・・忘れてくれ。それ」


吐き捨てるように言った。





ーーーなんだよ、こいつ。









「よく泣くんだ、彼女の前で」
「!!!!」


オレはちょっと楽しくなってきた。
ニヤリ、とオレは彼を見て笑う。


「どれくらい泣き虫なんだよ?」
「!!!!!!!」




ーーーなんだよ、こいつ。オレよりぜんぜんお子様な反応じゃねーか。





彼の顔はこれでもかって言うほどに紅く。
瞳が恥ずかしさで潤んでいる。
こういう顔が母性本能を擽る、食べちゃいたい顔なのかもな、っと思った。


「やだ!島村っちさんどうなさったの?!」


義姉さんが、オレとジョーが話しているを不思議に思ったのか、兄貴と一緒に俺たちのそばに
やってきたが、ジョーの紅くなった顔に、潤んだブラウンの瞳。
そして狼狽えている姿に、目を丸くして驚いたかと思うと、しっかり母性本能を擽られていた。
そんな義姉さんの様子を兄貴は、「やっぱり顔がいいと得なんだね~」とのんびりとしたコメントをした。


「義姉さん、島村っちさんって何それ?」


意外と、オレはジョーのことが気に入ったかも。


「だって、香奈恵さんが「島村っち」って呼ばれるからつい・・・」


ジョーはなんとか体制を整えようと努力している。


「ジョーでいいじゃんか、フランソワーズさんも「さん」なしになってんだし」


「そうもいかないわよ! また違うもの」












3年後、ジョーはフランソワーズさんと約束した通りに、世界一最速の男としてドライバーズ
ライセンス一位を獲得した。













「一緒じゃん」
「大地、あんたはいつの間に島村っちさんとそんなに仲良くなったのよ」














その2ヶ月後、店に遊びにきたフランソワーズさんの左薬指に特別な指輪が輝いていた。



















「今さっき、すっげー秘密つきで」


オレの言葉に、少しずつ冷静さを取り戻しつつあったジョーは再び元の紅い顔に戻っていった。


「ええ?何?秘密って?」


義姉さんの目が興味有り!とばかりにキラキラと輝いた。























ーーー・・・・オレは訊ねた。


ドアの入り口のチャイムがちりりんっと鳴る。


「こんにちは~!」
「いらっしゃいませ、フランソワーズさん」


彼女は相変わらずここへ週1,2回のペースでやって来る。
フランソワーズさんの婚約者でオレの自慢の友人は、ここ最近ずっと色んなメディアから
追いかけ回されている。


秘密主義で、プライベートに関することを一切公表しなかったハリケーン・ジョーが、F1ドライバーズ
ライセンス一位を取得後、安定した途端にいきなりの婚約発表だ。



オレは彼女に、水の入ったグラスとおしぼりをテーブルに置いた。


「ジョー生きてるの?」
「・・・生きてるけど・・・・泣いてるわ」


その答えにオレは ぶっ と吹き出してしまった。


「だから発表なんてしなくてもいいって言ったのに、私」


彼女は明らかに怒っている。
久し振りに戻ってきた彼と一緒に出かけられないためにストレスが溜まっていると、香奈恵さんが
言っていたのを思い出す。


「でも・・・フランソワーズさんが言ったんでしょ?」
「?」
「覚えてないの?ここのカフェの裏でさ・・・・












ーーーーじゃあ、世界一最速の男になって私を手に入れて。

ーーーーもう、世界一だと思うけど?

ーーーー私、贅沢なの

ーーーー・・・そうなの?

ーーーーええ。そうなの。だから世界中の人が私の男は世界一なんだって
知って欲しいの。

ーーーー・・・本気で?






ーーーーええ、本気よ。大声で言いたいの。ジョーは私のものよ!って。






「!?」
「オレ全部覚えてるよ?あいつのプロポーズ。記者会見で言いたかったんじゃねーの?
フランソワーズは俺のものだ!って大声で。君みたいに」
「やだ!!!!!そんなこと覚えてるの?!」
「しっかりとね。だってオレ、その日に失恋したんだもん」
「・・・あら、そうなの?」
「そうだよ・・・可哀相だったんだぜオレ」
「・・・」










「でもまあ、仕方ないっすな。

オレが好きになった人は島村ジョーの彼女だった、んだかさ」











彼女は出会ったころと全く変わらずに綺麗だ。
その微笑みは世界一の男を虜にして、その上、彼が唯一頭が上がらないんだから。






世界最強なのかもしれない。










「ねえ、あいつちゃんとプロポーズし直したの?」
「気になる?」
「泣きながらお願いしたとか?」
「あら、ジョーは決めるときはちゃんと決めてくれるもの」
「はい、ご馳走様です」
「んふふふ、特別に教えてあげても良いわ、大地さんなら、ね。でも、誰にも言わないでね?」
「もちろん!」













「もう、待てないよ。これ以上は・・・・世界一の次は宇宙一って言い出す前に、君が欲しい」



























end.
				
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あとがき・オレの好きになった人は島村ジョーの彼女だった
最後まで読んで下さってありがとうございました。

ええっと、こちらはのテーマは
「一般青年から見た、93」です。
ついでに、プロポーズまで島村っちにして頂きました(笑)

一般青年・大地君目線で、ラブラブしていただいた9と3.

島村っちの設定ですが。
社会人としての「表の顔」は「平ゼロ+原作」を意識。
メンバーや、(特に)フランソワーズにたいしては「新ゼロ」の不良少年ちょい色っぽい?
泣き虫な(笑)な9なのでした。

多分、今後も島村っちの基本設定はこれかもしれません。
安定したら、きちんと設定ページを作りたいです。

今回のオリキャラ?と言っていいんでしょうか?
井川 大地くん、気に入ってしまったので、今後もどこかで活用しようかな?っと。
香奈恵さんも。

このお話は一日でだ~~~~~!っと勢いで書いてしまった思い出のお話。

私らしい「ノリ」が出てるな・・・と思うので、
気に入ってます。

読んで下さってありがとうございました!

N,B,G投稿作品。
(いつもお世話になってます・・・)
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番外編・”キスの甘さを味わうムース”



フランソワーズが通うバレエスクールが新しく建てられたビルに移転してまもなく、彼女がケーキやクッキーを買って帰ってくることが多くなった。
以前も買ってきていたが、一定の店を買い続けているので、かなり気に入いっていることがわかる。

オリジナリティ溢れるケーキに種類豊富なハーブティ、そして何より、カフェの店主の妻、萌子にとても可愛がってもらっているために、”お友達の家へ遊びにいく”ような気軽さでそのカフェに通っている。と、楽しそうにジョーに報告する。


フランソワーズのレッスンは平日だが、彼女はアシスタントとして、土曜日の一般クラスを教えている。

そのために、土曜日にもかかわらず朝が早い。





昨日から降り続いた雨も止み、カーテンの向こう側から白い朝の光が揺れている。
フランソワーズはまだ寝ていたい気持ちもあったが、ここギルモア邸から新しいスクールまで、電車で約1時間かかるために、どう考えても、今起きなければ遅刻してしまう。

まだ少し躰に”甘い疲れ”が残っているが、シャワーを浴びる時間を考えると、時間がない。

フランソワーズは起きあがろうと、その細い腕に力を入れたとき、寝ていたジョーが彼女を後ろからしっかりと抱きしめて、彼女を逃がさないとばかりに、腕に力をいれた。


「・・・ジョー・・・?起きてるの??」

返事はない。

彼は無意識に力を込めて彼女を抱きしめたようだった。
フランソワーズは躰をジョーの方へと寝返りを打った。


「・・・・寝たふりしても、わかるのよ?・・・私」


返事はない。


「もう起きないと、時間がないの。・・・・ねえ」


フランソワーズはジョーの顔を隠す前髪を、優しくかきあげて彼に話しかける。


「・・・買ってきて」


ジョーは起きていた。
彼はウィンクするように、右目だけをゆっくり開いて、悪戯っ子のように微笑んだ。


「あの、チョコレートムースのビターのやつ。買ってくるなら・・・君を解放してあげる。車でおくってあげるよ?」
「あら、珍しいわね、ジョーがリクエストするなんて」


















ドアのチャイムが ちりりん っと鳴る。


「いらっしゃいませ、フランソワーズさん!!」


レジに立っていたのは、カフェ”Audrey”の店主の弟、大地。
1ヶ月前くらいに、彼の義姉である萌子がフランソワーズに紹介したのだ。


「こんにちは、大地さん」

大地はさっとメニューを持ってフランソワーズを席へ案内しようとしたが、彼女は慌ててそれを止めた。


「あ! 今日はもう・・・あの、自宅用に包んでいただける?」
「すみません!つい・・・」


大地は彼女がテーブルにつくものと思いこんでいたようで、彼は恥ずかしそうに謝った。


「何をお包み致しましょうか?」
「”NYはチーズケーキの思い出”と・・・」

フランソワーズは現在ギルモア邸に滞在してるメンバーの顔を思い出す。


「”初恋の苦みを思い出に重ねて”(チョコレートケーキ)と・・・”午後の口づけ”のクッキーセットそれと!キスの甘さを味わうムース(ホワイトチョコレートのムース)に・・・、”君を想う・恋はビター(ビターチョコレートムース)をお願いします!」


大地は丁寧にそれらを箱に詰めていく。そして、「おまけです」と、彼女の好きは’”七つの恋のタルト・季節の予感”も箱に詰めた。


「そんな!申し訳ないわ・・・いつもいつもおまけしてもらって・・・」
「いえいえ!フランソワーズさんは、この店のお得意様中のお得意様ですから、当然ですよ」


このおまけは義姉である萌子でないかぎり、バイト代から引かれるのだか、大地は自分が彼女のレジを打つときは、萌子に負けないほどに彼女にサービスをする。

彼女に少しでも自分の気持ちをアピールするために。フランソワーズはそれらに込められた特別な気持ちに、まったく気づく様子はなく・・・彼の努力は虚しく過ぎていくばかりだった。


今日はテーブルに着かないので、なんとか少しでも長くフランソワーズを引き留めようと、大地は必死にフランソワーズに話しかけようとするが、何を話しかけていいやら、もごもごと口の中で言葉を噛むだけ。

哀れな義弟・大地の姿を見て助け船をだすこころ優しきお節介な萌子。
彼女は笑顔でフランソワーズに近づいて話しかけた。


「今日もありがとうございます、フランソワーズさん」
「こんにちは、萌子さん」
「今日はお持ち帰りだけかしら?」
「ええ、少し早く家に戻りたいので・・・」
「残念!」
「またすぐ来ますから!」


フランソワーズは大げさな仕草を披露する萌子に笑いかけながら、
大地から包んでもらったお菓子たちを受け取った。


「このごろムースがお気に入りなのね?」


フランソワーズのオーダーを聴いていたのだろう、萌子は興味深げに聴いてきた。


「あ・・・ええ・・・そうなの」


萌子の言葉に曖昧に返事をするフランソワーズは、何が恥ずかしいのか、少し俯いて、白く輝く頬を淡いピンクに染めていく。


「? フランソワーズさんのお気に入りじゃなくて、誰かお家の方が好きなのかしら?」


曖昧な返事に萌子は訊ねた。
その質問にフランソワーズはさらに、頬を濃く染め上げていく。


「・・・あまり甘い物を食べないのに、珍しく買ってきてって言われたんです・・・今日。だから早く食べてもらいたくって」


掠れるような、けれども愛おしそうにそれを頼んだ人物について語るフランソワーズを観て、萌子は彼女から「特別」な人がいる気配を感じるが、目の前にいる義弟は、そんなことにまったく感じないのか、デレデレと鼻の下を伸ばして、目の前に恥ずかしそうに佇む可憐なフランス女性を眩しそうに見つめていた。

情けない!とため息をつきながら、萌子はフランソワーズに話しかける。


「じゃあ、今度はそのリクエストしてださった方と一緒にいらしてね。テーブルに出すムースは持ち帰り用とは、少しかえてあるから、是非そちらも試してもらいたいわ!」
「ええ、いつか必ず・・・」


フランソワーズが嬉しそうに微笑んだその笑顔は、女の萌子から観ても華やかで、美しくウットリと見惚れてしまうばかりだった。

フランソワーズが去った後。萌子は ばしっっ! っと大地の背中を叩いた。


「もっとしっかりしなさい!」
























ジョーが夕食前に入浴を済ませ、リビングに入ってきたとき、ちょうどフランソワーズが帰ってきたところだった。


「・・・迎えに行ったのに。電話は?」
「ただいま。今日は香奈恵さんが車だったから送ってくれたの」
「・・・そうなんだ、おかえり。」
「すぐにお夕飯の支度をするわ」


フランソワーズは ぱたぱた とキッチンへ急ぐ、その背中に向かって、「あ、急がなくていい、今日は俺と2人だよ」とジョーは言った。

キッチンからまた ぱたぱた と戻ってくるフランソワーズ。
そんなの知らなかったとばかりに、不思議そうな顔でジョーを観る。


「どうして?」
「博士はイワンとアルベルトを連れてコズミ博士の家。帰ってくるのは明日」
「そうなの?ジェットは?」
「ピュンマを迎えに行ったついでに、彼と一緒に帳大人の店。そのまま飲むみたいだから帰ってこないと思う」
「あらら。本当に2人ね?」
「・・・そうだね、外食する?」


フランソワーズはジョーの申し出は嬉しかったが、それをやんわりと断った。
珍しく彼がリクエストしてきたムースも買ってきていることだから・・・。
ジョーはお風呂上がりの爽やかな石けんの香りをさせながら、フランソワーズをゆったりと抱きしめた。


「疲れてる?」
「少し」
「外の方が楽だろ?」
「・・・うん。だけど、せっかくだからお家でゆっくりしたいわ」
「そう?」
「うん、そう」
「俺が作るよ」
「・・・悪いわ」
「簡単でいいだろ?」
「甘えてもいいの?」
「俺以外の誰に甘えるの?」


フランソワーズはちょっと拗ねた言い方をしたジョーがおかしかった。
ジョーは孤児院を出てからは、1人で家事をこなしてきたらしく、料理も簡単な物だったら作れるし、日本食の味付けなど、フランソワーズに教えられる程度の知識はあった。


「大丈夫よ。私が用意するわ。シチューが冷凍してあるの。帰りに香奈恵さんお薦めのパン屋に連れて行ってもらったのよ。明日の朝の分と一緒にバゲットも買ってきたら、切るわ。それと・・・」
「簡単なサラダなら、俺がやる。シチューくらい温められる。パンも切る。君が風呂から上がったら支度が調ってるさ」


有無を言わせないようなジョーの物言いに、フランソワーズは幸せを感じながら、背中を押されてお風呂場へ向かわせられ、ゆっくりと疲れを癒して、ダイニングへ行くと、ジョーが言っていた通りに、予定通りの夕食が並べられていた。

ジョーが食後に入れた紅茶を渡されて、リビングに居るように。と、夕食の後かたづけもジョーが引き受け、フランソワーズはキッチンから遠ざけられた。


「2人だからこそ、俺に甘えてろ」


ジョーの言葉を思い出しては、胸が温かくなり、頬が緩くなる。


「1人でにやけてる・・・」


フランソワーズが買ってきた、ジョーがリクエストしたムース2つと、大地がおまけしてくれたタルト、そしてジョーの分の珈琲を乗せたトレーと一緒に、彼はリビングのソファに。フランソワーズの隣に座った。

「なに考えてた?」
「内緒」
「またケーキのことだろ?」
「もう、いつもお菓子のことしか考えてないみたい!私」
「考えてるだろ?いつも」
「・・・そんな風に見える?」
「みえる」
「意地悪!」
「でも、好きだろ?ケーキ?」
「好きよ!すっごく好き・・・いけないかしら?」
「・・・・じゃあ、俺とどっちが食べたい?」
「?!」


ジョーの言葉に、ビックリするのと同時に、時々すごく大胆なことを言う彼に、目眩がしたフランソワーズ。
普段は口数が極端に少なく、自分や仲間以外の人の前では、礼儀正しく、大人な対応ができる好青年な彼だが、今日のように2人になると、僕から俺に代わり、態度も大胆になりそして子どもにもなるジョー。(でも泣き虫 笑)

けれども、常にフランソワーズにたいする優しさは変わらない。


「どっち?」
「・・・ジョー、ムース一口もらってもいい?」


フランソワーズは話題を変えようと、トレーからジョーのために買ってきた、ビターチョコレート・ムースとスプーンを取る。


「話しをそらすなよ」
「た・・・食べないの?食べないなら、私が食べちゃうから!」


フランソワーズはムースの入った容器の蓋を開けて、スプーンですくった。
ムースが愛らしいフランソワーズの口の中へ消えた瞬間、「だめ。それ俺の」と、言う声が聞こえたかと思えば、ジョーはあっという間にフランソワーズの唇に自分の唇を重ね、舌で彼女の唇を割って進入し、彼女がムースを味わう前に彼女の舌の上からそれを奪い去った。


「!?・・・な!」
「かってに食べない。それ、俺のだから、だめ」


フランソワーズの手からムースを取り上げようとする、ジョー。


「私が買ってきたんだもん!私も食べる」


突然のキス?に頬を紅くしながら、フランソワーズは怒ったように言う。


「・・・俺が頼んだんだけど?」
「白い方もあるでしょ?」
「・・・俺、ビターを頼んだよ?」
「一口くらい、いいでしょ?」
「だめ」
「食べるもん!」
「だめだよ」


フランソワーズはさっとムースにスプーンを差し込み、口に運ぶと、先ほどと同じように、ジョーの唇に奪い去られるビターチョコレートムース。


「だめだっていっただろ?」


彼女の上に覆い被さるように、ジョーは彼女の逃げ道を塞ぐ。
彼の表情から完全に楽しんでいる様子がうかがえる。


「食べても、味わう前に俺が奪うから」


フランソワーズは観念したのか、ムースとスプーンをジョーに押しつけるように差し出した。


「いらないもん、もう食べない」
「もう終わり?残念・・・君、美味しいのに」
「///////」


真っ赤になってジョーから顔を逸らしたフランソワーズを観て、ジョーは面白そうに微笑む。
彼女の手から、ビターチョコレートムースを取り返すと、満足そうにそれを口にした時、フランソワーズは、ジョーの頬を両手で挟み、彼の唇から自分の口へとムースを奪い返した。

まさか、フランソワーズがそういう行動に出るとは予測できなかったジョーは、呆然と彼女のパライバトルマリンのような宝石の輝きにも負けない瞳をみつめた。


「んふふふ、美味しいわねv」
「・・・・ふ・・・フランソワーズ・・・」


満足そうに微笑むフランソワーズと、彼女に負けないほど顔を紅くしたジョー。
するのと、されるのでは恥ずかしさが違う。

お互いの唇から唇へと奪い、奪われるビターチョコレートムースは、いつの間にか、ホワイトチョコレートムースにまで及び・・・。









その夜は、
”キスの甘さを味わうムース”の名前の通り、たっぷりと甘いキスを味わい・・・。
















ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。

カフェ”Audrey”のテーブルに席に案内されたジョーとフランソワーズ。


「よ!いらっしゃい、こんにちは。フランソワーズさん」


ジョーとフランソワーズに交互に挨拶をする大地。

フランソワーズに失恋したけれども、ジョーとはいつの間にか親しくなった彼は、初めて2人が一緒に客としてテーブルに着いたのに驚いた。


「明日は雪か?・・・珍しいな!2人一緒なんて初めてじゃね?」


メニューを渡しながらニヤニヤと笑う大地。


「一緒に来ようとはずっと思っていたのよ、でもなかなか時間が・・・」
「まあ、ジョーは日本に滅多に居ないし、仕方ねーよな、今日はどうして?」
「レッスンが今日はキャンセルになったのを、私知らなくって・・・ジョーに送ってもらったのに・・・だから、せっかく時間もあるし、ジョーも夕方まで何も予定がないから、ね?」


ジョーはフランソワーズの言葉に頷く。


「そっか、で、何にする?」
「私は、アップルティと・・・・」
「ジョー、お前はビターチョコレートムースだろ?」
「・・・なんで?」
「だって、いつもフランソワーズさんが、お前用に買ってたし・・・」
「・・・ああ、あれはここでは無理」
「はあ?無理?・・・なんだよ、それ?」


ジョーはにっこりとフランソワーズに微笑む。


「あれは、家でしか食べられないよ、な?」


ジョーの言葉に、あっという間に全身を紅くして俯いてしまったフランソワーズ。
2人のそんな姿に?マークを浮かべつつ、「それじゃ、何にする?」と、オーダーを訊ねる大地。

「・・・ダージリンと”今日のランチの・・・・”」
「どれだ?”ほのかな口づけ淡い思い出”のサンドイッチ?”こころ暖か君色スープセット”?”ふわふわな気持ちは恋するオムレツ”か?・・・」


大地はわざとらしく、少し大きめの声で商品の名前を読み上げた。


「サンドイッチ・・・で」
「おう。で、フランソワーズさんは何にするんですか?」
「・・・・オムレツ・・・・」


大地の方を見ずに俯いたまま注文をするフランソワーズの声はとても小さい。

「・・・それと、お土産用に”君を想う・恋はビター(ビターチョコレートムース)”キスの甘さを味わうムース”(ホワイトチョコレートのムース)を・・・」










end.



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あとがき・番外編・”キスの甘さを味わうムース”

えっと・・・(〃_ 〃)ゞ ポリポリ

「オレが好きになった人は島村ジョーの彼女だった」の番外編
”キスの甘さを味わうムース”でした(。-_-。)ポッ

・・・R-15ですか?これ???

がんばってもここまでが限界です・・・。

大地君のカフェに通ってケーキを買って帰った時の9と3はどんなかな?っと。
どんな風に2人で過ごすのかな~?っと。
妄想してみました。

し過ぎましたか?

私の書く「裏?」顔の島村っちは、疑問系が多い!
そして、なぜか言い切ってます(笑)

お嬢さんをからかうのがお好きな様子・・・。




読んでくださってありがとうございました!

N,B,G投稿作品
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彼の香り

街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられている。

住まう人種に統一感がなく、時々、銀髪のドイツ人が、テラスからコーヒーを飲みくつろぐ姿や
道路に面した庭先に、滅多にお目にかかれないとおもわれる、立派な大柄のネイティブ・アメリカンがその大きな手のひらに、小さな花の苗を大切そうに抱える様子や、「アイヤ~!」と日本人が想像するステレオタイプな中国人のかけ声やら、フランス語に英語、たまにロシア語なども交えて聞こえてくる。

この極東の島国には似つかわしい、異国情緒あふれる謎の多い屋敷。








常にその屋敷に身を寄せているのは家主であるアイザック・ギルモア、と、その孫?のような存在の赤子、イワン。
養女か、娘?か、フランソワーズ。そして、居候か、養子?のジョー。

この4人である。

この洋館に移り住んで、まだ1年と経っていなかった。

ギルモア博士がヨーロッパで行われた学会から付き添いのアルベルトと、留学中のピュンマと共に帰ってきた。
彼らを迎えに車を走らせたジョー。
フランソワーズは長旅から帰ってくる3人が少しでも早く、疲れが癒せるようにと、お茶とお菓子を用意し、それぞれの部屋を掃除。ベッドのシーツやカバーなどを新しい物に取り替えて、彼らの帰りを待っていた。

フランソワーズは遠くから聞こえてきたジョーの車のエンジン音を聞き、ポットをコンロに置く。

ギルモア邸の玄関の扉が開くの音が聞こえた。

一番初めにリビングに現れたのはギルモア博士。
目に入れても痛くないほどに、愛情を注ぐフランソワーズが満面の笑みで手を広げて博士の帰宅を喜び、「おかえりなさい、博士」と、優しくささやき、頬を寄せ合う。

その姿を見ながら、「久し振り!!」と元気よく声をかけるピュンマ。
それに続いて「元気だったか?」と彼独特な笑みを口元に浮かべるアルベルト。
久し振りの再会に、フランソワーズは「久し振りね、学校にはなれたの?」「ええ、元気よ!お土産なんて気にしなくて良いのに」と、嬉しそうにその腕に仲間の帰宅の喜びを表現する。

そして最後にリビングに姿を現したジョーに「お疲れ様・・・」と声かける。
彼は口元で少し微笑み、彼女に答える。

ジョーとフランソワーズの間でそれ以上の会話はない。









====

「ん?ジョーおまえなんか・・・つけてるのか?」


博士達が戻った翌日の昼。
キッチンですれ違ったジョーから、いつもとは違う「香り」にきづく。
彼は自分の身をあまり構わないせいか、興味がないのか、香水などのたぐいはつけない。
ほとんど無臭だったりする。風呂上がりの時以外。

ジェットは頻繁に香りを替える。
流行に敏感でファッションにうるさいからな!と言う。

アルベルトは、お気に入りがあるらしく、常に同じ。しかしヘビースモーカーのために
いったい何を使っているのか、解りづらい。

ピュンマとジェロニモは定番の固形タイプを愛用している様子。

張大人は、つねに美味しい香辛料の香り。

グレートは演じる役柄などのイメージに合わせて、その日の気分で香りを選ぶ。

博士でさえ、研究に忙しいといいながらも、常用している香りがある。

イワンは常に赤ちゃん独特のミルクの香り。


「・・・?何・・・の話し?」

朝に弱いジョーは、起き抜けの頭では、ジェットの問いが理解できなかった。

「いや、なんかコロンか、香水かつけてんのかなぁ?って思ってよ!けっこう良い香りじゃね、それ?」

コーヒーをカップに注ぎながら、ジョーは首を横に振る。

「そんなの、つけてないし、持ってない」

そっけない返事だったが、確かに彼から・・・今までと違う香りがする。

ジョーはジェットを無視して、そのままコーヒーとともダイニングテーブルにつき、遅い朝食兼昼直を取る。


ナスと鶏肉のマスタードのホットサンドイッチに、トマトとモッツァレラのチーズのオリーブがけ。イチゴのデザート付き。彼は、できたてのそれをもそもそと食べ始めた。


もちろん用意したのはフランソワーズだ。






====

ジェットは一度気になり始めると、それが頭から離れないタイプだ。

ジョーから香る「それ」がいったいどこのメーカーのものなのか、気になる。
色々と試しているジェットだから、大概のものは言い当てることができるが、ジョーの「それ」はまったく検討がつかない。


それとなくバスルームへおもむき、置かれている棚を開ける。
そこにはメンバーのプライベートな物が所狭いと並べられている。
個人個人に置き場所が決まっているから、誰が誰の物なのか一目でわかる。
ジョーの場所は・・・ほとんど物がない。そして「それ」らしきものが置かれていないのは一目瞭然なのだった。


「何してるの?」


バスルームの前を通りかかったピュンマは、棚と睨めっこしているジェットに声をかけた。


「なあ、最近ジョーのやつ、なんかつけてね~か?」
「・・つける?」
「コロンか、香水か・・・」
「ああ、君もきづいたの?」
「!!やっぱりそうか! でもあいつよぉ、”つけてないし、持ってない”って言いやがったぞ!」

ピュンマは語尾を荒げた物言いのジェットを、面白そうに観ている。

「もちろんジョーは”つけてないし、持ってない”って言うよ。あ、でも”持ってない”は・・・違うかな?」
「はあ?」

謎かけのようなピュンマの答えに、ジェットは間の抜けた返事を返す。

「持ってるけれども、それは・・・持ってるとは言えないな~・・・」

ニヤニヤと笑いながら、バスルームを出て行こうとするピュンマの後を慌てて追う。

「ジェットってジョー並に鈍いんじゃない?」

そんな言葉を残してさっさと自室へ戻るピュンマに猛烈に腹が立つジェット。


”こうなったら何がなんでも、ジョーの香りがなんなのか突き止めてやる!”


こころの中で叫んだその時、リビングから聴いていたのだろう、新聞紙を片手にアルベルトが「蹴られるぞ?」とジェットの横を通り過ぎるときに呟いたが、そんな言葉はまったくジェットの耳には入っていなかった。









ジェットはその香りにピュンマ以外も気づいているのか知りたくて、仲間全員(ジョーを覗く)に尋ねた。

フランソワーズ以外は全員気がきづいていた。


「あら?そうなの???でも、そんな物を購入しているようには思えないけれど・・・」

細々とした日常に必要な買い物はフランソワーズがする。
ジョーは常に彼女の荷物持ち兼運転手となっているので、彼女が「買ってない」と言えば、ジョーは「買ってない」のは、ほぼ確実なのだ。

洗濯物を畳みながらジェットに唐突に質問されて、首をかしげながら、丁寧に答えるフランソワーズ。

「お前は気づかなかったのかよ?他のやつらは知ってたぜ?」

何を得意になっているのか、自慢げに言い放つジェットにたいしてフランソワーズは、まったく余裕で笑い返す。

「そんなこと言われても・・・ねえ」

最後のタオルを綺麗にたたみ終えたフランソワーズは、「そこをどいてね?」と、たたんだばかりのタオル類を引き出しにしまい、個人の衣類は、部屋へと運ぶために、洗濯室から大きなカゴを手に
出て行こうとした。

「フランソワーズ?香水替えたのか???」

自分の横を通り過ぎた彼女の香りが、いつもの物と違う気がした。

「?・・・いいえ、同じ物よ?変なジェットね、どうしたの?あなたのその立派な鼻は飾りかしら?」

クスクスと笑いながらフランソワーズは去っていった。

「だから、後で蹴られるから止めておけ」

イライラしだしたジェットは、アルベルトの独特な嗤いが彼の気持ちをよけいに苛立たせる。

「・・・まあ、お前もジョー並に鈍いってコトが証明されたようなもんだな」
「うるせ~!オレは鈍くねーよ!」
「・・・ヒントをやろうか?」
「!」
「フランソワーズも普段と同じ香水を使っているのに、新しい物みたいな香りだったんだろ?

ジェットは、食い入るようにアルベルトをみつめる。

「まあ香りって言う物は、同じ物を使っていても、それぞれ個人がもつ”体臭”と混ざって、全く違う香りになるっていうからな、香水を替えてないのなら、その香りが変わる”何か”が加わったんだろ?」
「おいおい、アルベルト。それはヒントじゃなくて答えじゃないか」

2人の会話を聴いていたグレートが呆れたように言った。

「これで解らんのなら、こいつはジョーよりも鈍い」

ニヤリ、と嗤うアルベルト。










イライラとしたまま、気分転換に外へ出ようとした時、買い出しに出かけようとする、ジョーとフランソワーズの姿が眼に飛び込んできた。
慌てて自分の姿を2人から見えない位置へと移動させる。

”なんでオレは隠れてんだよ!”

ジョーとフランソワーズがお互いを想い合っているのは、当然、ジェットもしってる。
そこまで好き合っているのなら、さっさとまとまってしまえ!っと常に思っていた彼。

自分が予想していたよりも、コトは順調に進展していたようで・・・。

車庫へ入る入り口で、フランソワーズの体をぴったりとジョーが抱き寄せて、愛おしそうにその髪をなでる。彼にもたれかかるように、その包容を受け止めるフランソワーズは、ジョーを見上げるような仕草。フランソワーズの髪に触れる手が、そっと彼女の頬へと移動したかと思うと、ジョーはフランソワーズの顔へ近づいていく。


「うわあああああああああああああああ!」


突然に眼の前に降ってわいた、ジョーとフランソワーズのラブシーン。

こころの中で叫んだつもりが、実はしっかりと声として出ていたようで・・・。

ジェットの絶叫を聴き、反射的に体を離すジョーとフランソワーズ。
その声は確実にギルモア邸にいる仲間にも聞こえていた。


「蹴られたな」
「ああ、しっかりとな」

グレートとアルベルトのつぶやき。









ジェットは加速装置並の早さでその場から離れていった。

残ったジョーとフランソワーズは、ジェットに見られてしまった恥ずかしさから、その場から動くことができない。

「・・・絶対見られたわよね?」

力無く頷くジョー。

「あんなに驚くなんて、変な人!・・・普段から私たちのこと、ああだ、こうだ、とからかうくせに・・・」

フランソワーズは、ジョーとの淡い恋人同士の時間を邪魔されて少しばかり怒っている。
唇を少しとがらせて、むっとした表情でジェットが先ほどまで居た場所を睨むように見ていた。

「まあ・・・ね。」

そんな怒ったフランソワーズもジョーは可愛く思うらしく、
ジョーはもう一度自分の方へ彼女を抱き寄せ、そっとフランソワーズの耳元で何かを囁いて、彼女の口唇に優しくキスをする。


「ジェットはみんなと違って鈍いから・・・」








答えは簡単なこと。

ジョーの香りはフランソワーズが使っていた香水がうつったのだ。
普段、仲間の目が届かないところでは、彼女と甘いひとときを過ごしているのだろう。
フランソワーズの香水は替わったのではなく、ジョーがもつ「男性」の香りが交じったのだ。
彼の腕の中でその香りは新しいフランソワーズの香りを生み出した。

いつの間にか2人は同じ香りをまとっていた。

本人たちは気づいていない。
常に自分たちの香りに包まれているのだから、お互いにもう判らなくなっているのだろう。


ジェットはその後、2人に対して気まずい様子で、ジョーとフランソワーズを見ないようにしていたが、そんな日は3日も続かず、今では以前よりも(下品?に)2人をからかいはじめた。

昼近くになって起きてきたジョーにたいして

「よ!昨晩も励んでいたのかよ、ジョー!!」
「!?」

お早う(?)の挨拶とばかりに声をかけ、あっという間にジョーに殴られるジェット。



夕方、スーパーへ出かける2人にたいして

「夕食の心配はいらねから、朝帰りでも大丈夫だぞ!大人がいるからな!」と


余計な一言で見送るジェット。

それを聴いたアルベルト、グレート、ピュンマ、ジェロニモ、張大人に思い切り蹴られ続けたのである。


「ジェットにだけは・・・隠しておきたかったのに・・・」

そんなジョーとフランソワーズのつぶやきに、「ヒント」を与えてしまったアルベルトは、こころの中で「スマン」と謝った。
















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カフェ・オ・レ

「おい!ジョーいるか~?」

ノックもせずにかけ声とともに勝手にジョーの部屋のドアを開けるジェット。
ジョーの部屋はオレの部屋、的に彼は普段から勝手に彼の部屋に出入りする。
ジョーはそんなジェットに慣れてしまったのか、何も言わない。
彼が何も言わないことをいいことに、彼はその行為がエスカレートしていっている。
ここ最近では、こうやって声もかけずにいきなりジョーの部屋に入ることもある。
それを見たアルベルトもさすがにジェットを注意したが、ジェットはさらさら直す気がないらしい。

ジョーは最近彼の部屋に居ないことが多い。

今もこの部屋の主はどこかへ行ってしまったのか、うっすらとオレンジがかった光が閉じられたカーテンから滲んでいた。

ジェットの部屋と較べると、何もない簡潔された部屋。


「ちぇ・・・いねぇのかよ、また」

彼は乱暴にジョーの部屋のドアを閉めたために、ばたん!っとドアが悲鳴を上げる。

「ジェット? 何してんのジョーの部屋で?」

ちょうど自室からパソコンを片手に出てきたピュンマと、ジョーの部屋前で鉢合わせしたジェットは、
面白くなさそうに、憮然とした態度でピュンマに訊ねた。

「ジョーしらね?」
「ジョー?・・・ジェット、キミは今、ジョーの部屋から出てきたじゃないか?」
「いねぇんだよ」
「そうなの?どこ行ったんだろうね?」

別に興味ない。とばかりに すたすた と歩いてリビングへと向かうピュンマの後について、ジェットもため息と共に歩き出す。

「ったく、最近あいつめっちゃ付き合い悪ぃんだぜ!」

ピュンマの背中にむかって文句を言うジェット。

「そうなんだ。別にいつも通りじゃない?」
「いや、絶対なんかある!」
「・・・なんでさ?」
「オレの感ってやつさ!」
「・・・たよりにならない「カン」だね・・・」

ピュンマはジョーがどこに居るのか、知ってる様子だが、そんなコトに気づきもしないジェットは、投げやりに どさ!っとリビングの大きなソファに身を埋めてテレビのリモコンに手にした。









=====

「おい・・・」
「なに?」

アルベルトは居心地が悪いのか・・・つい語気を強めてジョーの話しを遮った。

「今の、お前の部屋から聞こえなかったか?」
「・・・ああ? またジェットが俺の部屋にはいったんだよ、きっと」
「用事があったんじゃないのか?」
「きっと、たいしたことないよ」
「・・・そうでもないかもしれんぞ?」
「たいしたことないって、絶対に。それより今度の博士が参加する学会について行く・・・」

ジョーはベッドの上に胡座をかいて座っている。
アルベルトは座り心地が良いはずの、ゆったりとした薄いピンク地に小花模様が散った独りがけ用のソファに遠慮がちに座っていた。愛らしい白の珈琲テーブルは猫足で面がガラスになっている。

こん こん と可愛らしいノックがドアから聞こえ、ジョーやアルベルトの返事も待たずに、フランソワーズは両手に抱えたトレーを抱えて部屋に入ってきた。
ジョーはその姿を見てベッドから飛び降り、彼女の手からトレーを受け取る。

「ありがと」
「どういたしまして♪」

彼は受け取ったトレーをアルベルトの近くのテーブルへと置いた。
フランソワーズは当たり前のようにのベッドに腰をかける。

そう。ここはリビングでもなく、もちろんジョーの部屋でもなく。
ピンクのソファに、猫足テーブルなんかを置く趣味を持ち合わせていないアルベルトなので、彼の部屋でもなく。

フランソワーズの部屋。




「・・・だってさ、ここが一番 ”安全” なんだよ」

ジョーは ふんわり とアルベルトに微笑む。

「・・・オレの部屋でもいいんだぞ?・・・リビングでもダイニングでも、庭でも・・・」

ここ以外ならどこでもいい。と言いたげなアルベルトの様子に、フランソワーズは ぷう っと頬を膨らます。

「あら、私の部屋だと何か問題があって?アルベルト?」

ーーーーああ、大問題だ!!!!!

実際に思っていても、口には出せないアルベルトは、フランソワーズが持ってきた珈琲をその熱さにかかわらず喉に流し込む。
ジョーは自分の分のマグを手に、先ほどいた場所と同じようにベッドの上で胡座をかいて座る。
その隣には、ジョーの手にあるカフェ・オ・レの香りを楽しむからのように瞳を閉じて香りを吸い込みながら少し甘えるようにフランソワーズが座っている。
ジョーはフランソワーズに、「飲む?」と口では言わずに、マグを彼女にそっと差し出すと、彼女は体を少しねじって、瞳で「少しだけ」と伝えるて彼の手から直接、自分が淹れたカフェ・オ・レを飲んだ。
そんなフランソワーズの愛らしい姿を、眩しそうに愛おしげに優しい瞳でみつめるジョー。

そしてそんな2人の姿を見せつけられるアルベルト。

ここはフランソワーズの部屋。
フランソワーズのベッドの上で・・・。



ーーー仲が良いのは、解ったから・・・、もう少し、その・・・なあ。



まだまだ、彼らはアルベルトの考える恋人にはほど遠いようで・・・・。
甘いカフェ・オ・レが似合う2人だから・・・仕方ない・・・と、アルベルト。







======
N.B.G.投稿作品(いつもお世話になってます・・・)


・あとがき・

今回は・・・4が絡んだ93です。
ええ、もう9と3にとってはもう、メンバーの前では遠慮がない(笑)
投稿先で「夫婦」コメントを頂いてしまいました・・・(喜)


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写真


「あれ?これってジョーの財布?」

昼食を終えて、リビングへ珈琲を片手に入ってきたピュンマはリビングのソファに無造作に忘れられていた、茶色い皮財布を見つけた。

今、ギルモア邸には地下の書斎にこもる博士と夜の時間のイワンの3人だけ。

「そそっかしいな~・・・」

ジョーは今日の朝から、フランソワーズとともにコズミ博士の家へ行っている。
フランソワーズと一緒なので、ジョーが財布を忘れたとしても、さほど問題はないと思われたが、向こうで探しているかもしれない、と、ピュンマは携帯のメールでジョーに連絡を入れた。

”ジョー、君の財布をリビングでみつけました。ピュンマ”

5分ほどして、ジョーからの返信メールが届く。

”探していたんだ。ありがとう。ジョー”

ピュンマはジョーからのメールをみて、ニンマリと笑う。
慌てている彼の様子が想像できたのだ。
そんなジョーのとなりで、呆れたように、けれどもきっと優しい微笑みを絶やさずにフランソワーズは、彼を慰めていたのかもしれない。

そうやって二人の様子を思い浮かべだけで、ほんのりとピュンマの胸が温まる。
二人が幸せそうに寄り添い、微笑み合っている姿は、まさに00メンバーにとって平和の象徴であり、彼らが共通して守りたいものであった。

ピュンマはジョーの財布を大切そうに拾い上げる。
物持ちがよい彼らしく、茶色の財布はかなり年期が入っているように思われた。
光沢が失われた、味のあるその財布は持ち主の日常を漂わせている。

他人の、ジョーの財布であるが、自分のものとは違う「何か」が挟まれているのに気がついた。

「?」

普段の彼ならば絶対に、しないであろうことを、今日に限って・・・・無意識に手が動いた。

二つ折りの財布を広げると、カード類を収める仕切りがある。定期などを入れるためだろう、
一部分が透明なプラスティックになっており、仕舞われているカードが何であるか、一目でわかるようになっていた。


「・・・・・・おいおいおいおいおいおいおいおい・・・・・・」


ピュンマの目に飛び込んできたそれは、よく知る仲間の一人で、もちろんジョーが財布に入れて持ち歩くくらい「大切」な人の写真。


「・・・・家でみつけて、しかも見つけたのが僕でよかったね、ジョー」



誰もいないリビングで、一人紅い顔で呟くピュンマ。


「やっぱりやること、やってるんだな~・・・」


ピュンマにとって、妹のように可愛がっているフランソワーズ。
そんな彼女が絶対に普段、仲間たちの前では見せない姿。
恋人である、ジョーだけがみることの許される、それ。

見てはいけないプライベートを見てしまった罪悪感を感じながらも、ピュンマは幸せに頬を緩める。


「これってけっこう良いネタだよね?・・・・うん。」


可愛いみんなのフランソワーズを独り占めしてるんだし。
最近、何かと忙しい僕だしさ。


こんな写真を入れた財布を忘れる彼が、悪いんだし。


うん。


ピュンマは携帯をもう一度取り出して、ジョーにメールを送る。



後日。

無事に戻ってきた財布に安堵しながらも、ピュンマの頼み事を不気味なくらいに快く引き受けるジョーの姿がギルモア邸で見られ、フランソワーズは、まともにピュンマの顔を見ることができないでいた。


(いったい、どんな写真だったかは、みなさまのご想像におまかせいたします。)




N.B.G投稿作品


・あとがき・
読んでくださってありがとうございました!

8が絡んだ93でした。。。
なぜか8さんは、強いです、冷静です、計画的です、爽やかです、でも・・・・(汗)
彼は、しっかり者なのかもしれません(笑)





⇒ 続きを読む
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青の世界・後書き
あとがき。

(実は、これが生まれて初めて書いた、009SSなんです(。-_-。)ポッ)

・・・テーマは3と9の告白。
私の中では絶対にジョーからは告白しない!と言うイメージがあるんです。
なぜ?と言われても、私もなぞなんですけれど。

とっても解りづらい表現でお嬢さんのことを、「この世で一番大切な人」って
仕草やはっきりしない曖昧な言葉で言ってそうなんですれど。
それじゃあ、お嬢さんは欲求不満で・・・って言うか、気づかないですよね?

女性は言って欲しいもんでしょうけれど、
言ってくれないもどかしさ、不安が募って思わず・・・と言う、感じで。

島村っち!しっかりね!

私の中のお嬢さん像は
とっても芯がしっかりしていること。大人しくても、泣き虫でも、彼女は誰よりも強い!

な・の・で
島村っちは、どうしても精神的にお嬢さんに頼りきってしまうのであります・・・。


読んでくださって、ありがとうございました!
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Day by Day ・ 1
微睡みの中に自分はいると、わかっていた。
意識を呼び起こすことも、もう一度夢の中に戻ることも、どちらも自分の意思で向かうことができる。
そんな現実と夢の境目で、フランソワーズは安心していた。

なんの根拠があって、こんなに自分は心地よく安らいでいるのだろうか?




誰かがそばに居る気配がする。
それを確かめたい気もするけれども、からだも意識もそれを拒んでいるように感じた。




フランソワーズは自分の頬に誰かが触れるたように思う。
そして、とても優しく、温かく、大きな手が自分の髪を数度なでられたことを感じる。




ーーー誰?




声にならない声を、見知らぬ相手に投げかける。




兄さん?

それとも・・・。









「・・・おい?・・・起きられるか?」


聞き慣れた低い声。
いつもよりもささやくような声だった。
心地よい微睡みから抜け出すのに、少し時間がかかる。


「・・・辛いか?」

ゆっくりと首を声の主の方へと傾ける。
見慣れた、銀色の髪とアイスブルーの瞳が霧のかかったような視界に現れる。


「・・・ぁる・・あるべる・・・アルベルト?」


瞳がアルベルトの顔をはっきりとした形で捕らえる。
ノドにまったく水気がなく、声を出すのが辛かった。


「・・・どうやら熱が出たようだな?」
「え・・・・?」


いったい自分に何が起きたのだろう?

フランソワーズは自分に起きた状況が把握できていない。
それは発熱の所為でもある。


「奴が、様子が変だって言いにきたんでな。・・・博士は今、コズミのじーさんのところだ。まあ、メンテの後だし・・・少し疲れていたのかもな」



ーーーー熱?



「大したことは、ないと思うが・・・気分はどうだ?」




ーーーー気分?




質問される言葉に反応はするが、それに答えるのがとても億劫で、口を動かすが、ノドにに水気がないために、掠れたような音を紡ぎ出す。


「・・・今日は寝てろ」


そういうとアルベルトは、ぽん、ぽん、っと優しく彼女の頭に2回手を置く。



ーーーーさっきの手とは違う。




「・・・おい、・・彼女を部屋に運んでくれ。その間にオレは博士に電話して、氷でも持ってくる」


アルベルトの声は聞こえるが、話の内容までは思考がついていっていないフランソワーズ。次の瞬間に自分のからだが ふわり と浮かび、そして頬が逞しい胸にもたれかかる。

彼女は夕方から、ここギルモア邸のソファで寝入ってしまっていた。
メンテナンス後間もない彼女なので、みな疲れているのだろうと、そっとそのままにしておいた。が、ジョーは彼女をひと目見るなり、アルベルトを自室から呼んできたのだ。

フランソワーズは誰かに抱きかかえられているが、その、誰かがわからない。
けれども、その人に抱かれるのに、慣れている気がする。

からだに緩い風が触れ、自分が移動しているのがわかるが、振動が伝わってこないので、とても丁寧に、慎重に・・・。
自分を抱き上げてくれている人が庇ってくれているのがわかった。

自分の部屋に入ってきたことは、お気に入りのルームスプレーの香りで理解する。
壊れ物を扱うように、ゆっくりと、ゆっくりと自分のベッドに寝かされた。



ーーーありがとう



フランソワーズは自分が寝ているのか、起きているのかも、熱のために曖昧になっていた。彼女はベッドに横になった瞬間に、自分の額へ甘く柔らかな何かが触れたのを感じる。それは、少しずつ移動し、額から瞼へ、そして熱のために火照った頬へ。


ーーーー?


何が触れたのか彼女は判らない。けれどもそれは彼女を、とてもフランソワーズを安心させる行為であった。


「・・・・すぐによくなるよ」




優しい声。
耳元がくすぐったい。



ーーー009?







####

街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられている。

住まう人種に統一感がなく、時々、甘いマスクを長い髪で隠す、日本人にしては彫りが深い、少し幼い面影が印象的な青年が自分の愛車を磨きあげている姿や、大きな蒼い目が美しい華奢なフランス人の少女が、ベビーカーを押して散歩に出かけようとしていたり、紅い髪と長い鼻、派手な服が街の景色と浮いているアメリカ人青年が、鼻歌まじりにテラスで煙草を吸っている姿が見られた。

たまに聞こえる家族の会話らしきものは、フランス語、ドイツ語、英語、その他の言語が入り交じり、この極東の島国には似つかわしい、異国情緒あふれる謎の多い屋敷。

この洋館に移り住んで、まだ1ヶ月と経っていなかった。







翌朝、ギルモア博士が調合した点滴を受けたことによって、熱もひき、調子がよいので昼から起きあがろうとしたが、そのまま安静にしているようにと言い渡されたために、大人しくベッドの中にいたフランソワーズは、昨日の熱に浮かされいた時に、自分に心地よい安心感を与えてくれて人を想った。なんとなく、あれは009だったのではないか?と、確信に近いものを持ってはいたが、自分がベッドに寝かされた後の「あの」甘く柔らかな感触は、紛れもなくキスだった。



ーーーまさか。あり得ない!




あの009が、自分に優しく触れ、しかもキスをするなんて!!
けれども、あの声は・・・あの優しい、自分を労ってくれるあの声は。確かに009の声だった。



ーーー・・・・すぐによくなるよーーー



頭の中で、何度も「あの声」を思い出す。
また熱がぶり返したかの様に、顔が熱くなり、手足がしびれるような感覚に陥る。
胸がドキドキと早鐘をうち、自分の心臓の早さに躊躇する。



ーーーどうしよう。


フランソワーズはずっと同じコトを繰り返し、繰り返し考えていた。
そんな時に、がちゃり、とノックもなく部屋の扉を開ける音が聞こえた。
驚いて、ベッドから跳ね起きるように上半身を起こす。


「お!わりぃ、寝てるかと思ってよ・・・起きたのか?具合どうだ?」


女性の部屋にノックもせずにドアを開けたことを詫びながら、ジェットが赤毛のツンツンとした彼独特な髪を揺らしながら、フランソワーズの部屋をのぞき込んだ。


「ふふ、大丈夫よ、もう熱はないの・・心配させてしまったわね?ごめんなさい」
「なに謝る必要なんてね~よ!まあ、元気でよかったじゃん」


ヒヒヒっと悪戯っ子のような笑顔をむけるジェットは、づかづかと彼女の部屋に入り、そしてそのベッドに腰をかけた。


「でも、珍しいな。お前が熱出すなんてよ、大分我慢してたんじゃね?」
「・・・そんなことないわよ?メンテナンスの後もちゃんと休んだのに・・・だめね、まだ日本慣れないのかしら?湿気も多いし」
「ふ~ん、確かにこの湿気はたまらんよな~!あ、そうそう!昼飯お前喰えるか?大人が用意してあんだよ」
「・・・そう、でも食欲があまりないの」
「なんだよ、そんなの関係ね~って、ちゃんと喰えよ、オレ持ってくるからさ」


そう言うとジェットはフランソワーズの返事など無視して、さっと部屋から出て行ってしまった。


「っもう・・・」


その夜。
熱が下がっていたのは昼の間だけで、再びフランソワーズは高熱のために寝込んでしまった。自分の躯が、自分のものではないように。



ただ熱い。



体中の間接がキシキシと傷む。
ノドがひりりと乾きを訴える。
自分は泣いているのでないか?と思うほど視界はぼんやりとした歪みを見せた。
耳の奥がちりちりと例えようもない妙な音を捕らえる。
それは熱のために狂ってしまった自分の聴覚を指す。

自分の肺から、喉を通って出される息が妙に熱いために、張大人が火を出すときはこんな感じなのかなぁ。と、フランソワーズはのんびりと考えてしまった。


博士が様子を診に来てくれたとき、「おかしいのぉ・・・」と不安げに呟き、再び熱であつくなった彼女の細い腕に新しい点滴を取り付けた。

リビングに戻ってきたギルモア博士の顔色は優れなかった。娘のように愛おしいフランソワーズの突然の発熱に、博士が一番苦しんでいるように思える。原因がわからない、と言う。風邪のような症状だが、それなら朝の分の薬で十分であり、このように再び前よりもひどい状態でぶり返すとは、博士自身が信じられないと言った。


「・・・精神的なもんかもしれんなあ、まだここにも馴染めんのかのう・・・」


哀しげに呟き、いつもよりも一回り小さくなったその背中を庇うように、ピュンマは博士を寝室で休むように促した。









####

長いドルフィン号での生活に終わりを告げた。

自分たちが居を構えるための必要条件がそろった、忘れられたように海沿いに立つ洋館をリフォームし、移り住んだ日は昨日のことのように思い出せる、が、すでに誰もが新しい邸になじみ始めていた。

広く、新しくなったその邸は、メンバーたちの各々に個室あり、10人が一斉に食事ができる大きなダイニングテーブルに、ジェロニモもが横になってくつろげる、大きな白い皮のソファのセット。張大人がフランソワーズと2人で立っても十分にゆとりある、収納を重視したキッチン。
地下への道は博士の書庫と研究室、そして3つのメディカル・メンテナンスルーム。特別に設えた邸内の道は海へと続く。そこは、ドルフィン号を隠すように作られた海の中の”専用”の出入り口。


誰もが先の戦いで疲れた体とこころを癒すために、この邸で静かに暮らしていた。


「精神的なものか・・・」


博士が呟いた言葉を、もう一度、確認するように呟いたアルベルト。
煙草を口に銜え、そしてすうっと深く肺へと吸い込み、ため息とともにはき出した。


フランソワーズの熱は下がらなかった、3日目の夜。
彼女は熱のために朦朧とした辛い現実の中にいた。







ここは彼女の愛したフランスのアパルトマンではなく、
兄はいない。

ここは、バレエの夏期スクールで過ごした楽しい寮ではなく、
親友のカトリーナは笑わない。

ここは、B.Gによって拉致された研究施設や実験施設でも、
用意されたバトル・フィールドでもなく、暗闇の中で膝を抱えて過ごした
冷たい部屋ではない。

仲間と共に過ごした狭いけれども、守られていると言う確信のある
慣れたドルフィン号の狭い部屋でもなく、
小さな堅い簡易ベッドが波に揺れることもない。


見慣れない天井に、馴染まない大きな柔らかなベッド、ふわふわと歪な枕。
そして真新しいシーツはまだ袋に詰められていたころのビニールの独特な香りが、彼女の熱のために汗ばんだからだにからみつく。


胸の中にふくれあがる不安と恐怖、そして痛みと哀しみ。




怖い。
ここは、どこなの?

怖い。
なぜ、私はここにいるの?


フランソワーズの熱に潤んだ瞳から、その熱にも負けないほどに
熱い涙が零れ落ちる。


彼女は自分の腕で自分を抱く。


そうやって堪えてきた。
そうやって励ましてきた。

今までも。これからも。そして永遠に。

孤独。


いつしか自分の耳にチューニングが狂った雑音と共に、嗚咽が聞こえ始める。
喉に突き上げてくる、空気の固まりが喉を鳴らす。

彼女の海よりも深い蒼い瞳は、淋しさを押し出すように流れ続ける涙は果てることもなく。

部屋に響く、フランソワーズ自身の泣き声。
切ないその孤独な声は、ベッドだけが置かれた部屋に響いた。


誰かが、私の背中をなでた。

誰かが、私を抱きしめた。

誰かが・・・・。





ーーーー 泣くなよ     どうした?
      


      なぜ泣いてるの?             ほら、大丈夫だよ。



                 辛い?    

 


                     熱のせいだね。




・・・・怖くないよ、誰も、君を傷つけたり、ひどい目に遭わすなんてことはないんだ。
     
     


               泣くなって          もう、泣く必要はないんだよ?

 


         熱がまた上がってしまう。     さあ、横になった方がいい。




     大丈夫、僕はここにいるから。

                       どこにも行かないし、そばに居るよ。
 
                ぼくはここにいるんだ。

 
     大丈夫。 すぐによくなるよ。
                     003・・・・

               泣くなよ。
 
        泣かないで。          フランソワーズ    

                もう泣かないで。








ーーーー009?


どうして、彼だと思ったのだろう?

彼は、戦闘中いつも私を庇ってくれていた。
それは私が00メンバーだから。
女だから。
生身に近いサイボーグだから。

けれど一度、戦闘を離れれば、彼は私との間に距離を置く。

彼はその腕に、私以外の女性を何度も守った。
その胸に、私以外の女性が何度も涙を流した。

私は生身に近くても、生身ではないサイボーグ。


あくまでも私はサイボーグなのだ。



彼は、平和な生活の中で私を見ない。
彼は、私と必要最低限のこと以外話さない。
彼は、戦う同志、仲間。



ーーーー009


そう。彼は最後で最強のサイボーグ戦士009


私の願望だ。
私の夢だ。
愚かな私の・・・。



声を聞き届け、そっと部屋に入ってくる。
冷たい水と氷の入った洗面容器にタオル・・・。
そしてよく冷やした飲料水のボトル。

そっとそれらを彼女のベッドサイドに置かれた安定しない簡易テーブルへ置く。

フランソワーズの部屋には他のメンバーよりも少し大きめのベッド。そして熱に苦しむ彼女の看病をするために置かれた、スチールイスと簡易テーブルのみ。開かれたままのクロゼットには、・・・彼らの身を保護するための深紅のそれと黄色のマフラー。そして、数着しかない貴重な彼女の普段着が申し訳なさそうに収められている。


ベッドの隅で小さく丸くなり、自分で自分を抱きしめながら、何かに堪えるように啜り泣く彼女の背中を、彼は遠慮がちに そっ となでた。



何度も。
何度も。




そして、ゆっくりと彼女の躯を包み込むように抱きかかえ、乱れた亜麻色の髪を整えるように、慈しむ。




繰り返し。
繰り返し。




熱で火照った彼女の躯が、可哀相で、辛そうで、そして愛おしくて。


彼には彼女がなぜ泣いているのか解らなかった。
何に怯え、何を恐れ、何を痛み、何を哀しんでいるのか。

彼女の涙を彼の胸で受け止める。
彼女の震えるからだを、彼の腕の中に納める。


ーーーだいじょうぶだよ、フランソワーズ    ・・・すぐによくなるよ・・・








====へ続く



・ちょっと呟く・

UP・2/26・08’
ちょっぴりお直し(6/16/08’)
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ACHIKO@LOVExぜろ9 の 設定は。。。
私はおおいに新ゼロの影響を受けてます。
なので

新ゼロ>原作=平ゼロ のバランスです。

ジョーのイメージは 栗毛+褐色の瞳。(←まさしく新ゼロ)
フランソワーズの方は、亜麻色の髪+碧瞳、もしくはパライバトルマリンのような緑がかった碧かな?

ジョーやフランソワーズの性格は、お話によってかなり変わってくるとは思いますが、

うちのジョーこと、島村っちは、
社会人としての「表の顔」は「平ゼロ+原作」を意識(とっても礼儀正しい好青年)。
メンバーや、(特に)フランソワーズにたいしては「新ゼロ」設定?の
不良少年+孤独な生い立ち(教会経営の孤児院とか)+泣き虫(笑)なジョーなのでした。
フランソワーズに優しい。(←ここ大事)
ほかの女の子にも優しい(←ここ踏みどころ)

今私が、003>009の心境なので、お嬢さんに都合の良いように
島村っちは動いてます(笑)

お嬢さんことフランソワーズの性格は、改めて書く必要なないくらい、
お嬢さんです。。。なんじゃそりゃ?と思われるかもしれませんが。そうなんです!

一途です!


職業も、できたら「ハリケーン ジョー」でいきたいんですが、F1なんて世界はまったくわからず(泣)
響きだけ?  
大学生でもいいんですけどね。出版社とかの翻訳とか。
都合がいいのがギルモア博士の助手!

フランソワーズは、、、バレエしかないっすよね?
でも、プロのように舞台にたつような描写はあまり書かないかもです。
彼女的にプロとしての立場などを考えると、用意にバレエ団への入団を拒んでしまいそうだし。
踊れることが一番!って感じです。

できるだけ、allキャラでがんばりたいですが。
どうにもこうにも、忘れがちな005。。。

書きやすいのは2.4.8を93に絡ませることですね。

イワンも忘れがち。(涙)

何度も書いてますが。。。93/39ラブがメインです!
それしかないです!

それだけです!



こんな感じで、お話を書き進めてますdesu。

楽しんでいただけると、ともてうれしいです。
コメントや感想もよろしくお願いいたします!



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Day by Day ・ 2
(2)





4日目の朝。

泣き腫らした瞳は、昨日のことを夢ではなかったと証明しているように思えた。
目覚めたその部屋には彼の姿はない。

そして、汗にまみれた夜着を脱ぎ捨て、熱いシャワーを浴びた。

すべてを忘れ去ろうと、洗い流そうとする。
シャワーを浴びながら、フランソワーズは耳の調子が未だにおかしいことを確認する。
ずっと聞こえる無機質なノイズは、日に日大きくなっていく。


ーーーこれのせいであんな幻聴を訊いたのよ・・・。








###

5日目の昼。

彼女が不調を訴えた耳の調整が行われた。
博士は、ノイズが酷くて辛かったろうと、自分のことのように悲しんだ。

メンバーのほとんどが彼女の回復をこころから喜び、そして「無理するな」と彼女に家事一切に手を出させない。


「姫は姫らしく、お茶でも飲んで座っていればいいんだよ」


グレートは買い出しに出たときに買ったという、甘ずっぱいジャム挟んだ、花の形を象ったクッキーと一緒に、ティーセットをリビングに用意する。

温かな紅茶の香りを胸いっぱいに吸い込む、両手で小さなカップを包み込むようにして。そして、そっ と口に含んだ、ほんのり甘い紅茶。


「美味しい・・・」
「それは良かった。元気になってくれてほっとしたよ・・・」
「心配をかけてしまって、本当に申し訳ないわ、ごめんなさい・・・」
「な~にを謝る必要がある! 姫のためならたとえ火の中水の中!我々ナイトは
姫を守るために生きているのであるからして・・・」
「ふふ、ありがとう。・・・」
「・・・珍しくあいつがオロオロとして・・・心配しておったよ」
「・・・え?」


グレートは囁くように小さな声で言った。


「みんな心配していたが、あいつは・・・この世の終わりみたいな感じだったかな~」
「・・・誰が?」
「あいつが」
「・・・」
「今回は敵から受けた傷でもなんでもなく、博士さえも原因がわからんって
言ってたしな」
「ただの、風邪よ・・・たぶん」
「我らの姫は・・・もう少し自分を大切してくれると嬉しいんだけどなぁ・・・・」
「・・・グレート?」
「あいつは、本当に死にそうな顔だったぞ?」
「・・・・仲間だもの。009も心配してくれたのね」


それは、グレートに言うというよりも自分に言い聞かせる、と言ったような言葉。


「誰がジョーだと言いましたかな?」
「?!」

グレートの一言に弾かれたように顔を上げ、大きく目を見開いたフランソワーズ。
そんなフランソワーズの様子を、からかうつもりはなく、真剣に見つめ返すグレートだったが、すぐにいつもの戯けた笑顔になり「お茶のお代わりは?」と勧めた。








####

6日目の夜。

帳大人がフランソワーズの回復を祝って、いつもよりも豪華な夕食がギルモア邸のダイニングテーブルを彩った。

フランソワーズはみんなの優しさにとても感謝していたが、たかだか「熱を出した」くらいでここまでしてもらっては、少しばかり気が引ける。ギルモア博士は、そんなフランソワーズの気持ちを察したのか、彼女にそっと囁いた。

「みな、何か”理由”が欲しいんじゃよ・・・どんな小さなことにでも、どんな些細なことにでも、今この時が平和だと確認したいんじゃ・・・」




平和。
戦いのない日常。
当たり前のことが、当たり前にある世界。




不安なのかもしれない。




戦いがないことに。
銃を握っていないことに。
防護服を着ていないことに。

当たり前のことが、当たり前に感じないから。





幸せ が 平和 な この日常 が 怖い。








慣れてしまってはいけないと、自分を律する。
いつまた戦いが始まるか解らない。
だから、甘えは許されない。






美味しい料理を堪能し、いつしかリビングへと移り酒盛りへと変わっていた。

フランソワーズは、夕食の片づけを少し手伝ってから自室へ戻ろうとしたとき、ちょうど2階のバルコニーで一服終えたジョーと、コモンスペースで鉢合わせした。

彼女はにっこりと微笑んで小さな声で「おやすみなさい」と言う。
会ったのが他のメンバーだったなら、彼女はその頬にキスをしていただろう。
けれども、日本人の彼にはその習慣がないらしく、初めてそれを知ったとき、フランソワーズはとても寂しい気持ちになったことを思い出した。フランソワーズにとっても当たり前の習慣が、彼にとっては違う。





当たり前のことが、当たり前でない世界の住人。

ジョーは何も言わない。
フランソワーズも、彼が何かを言うことなんて期待していない。
ジョーの横を通り過ぎて、自室のドアノブに手をかけたとき、ジョーの声がフランソワーズを呼び止めた。



「もう、怖い夢はみてない?」


フランソワーズは、その声に振り返る。


「・・・ひとりで泣くなよ? 泣くときはちゃんと僕を呼んで、いい?」


ジョーはゆっくりとフランソワーズに近づいていき、彼女の肩に手をおく。
その手は緩やかに動き、彼女の頬に触れた。


「おやすみ」


フランソワーズのおでこにキスを一つ。
瞼に、一つ。
そして、両頬に一つずつ。

優しくて甘いおやすみのキス。



ジョーは風のようにその場を立ち去った。
残されたフランソワーズは・・・ただただ立ちつくすだけ。



「・・・ジョー・・・・?」




=====  へ 続く

(チャレンジは片思いのはずなのに・・・らぶらぶ???)
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ことば
「ジョー?」
「ん?」

リビングで雑誌や新聞に眼を通していたジョーに、ダイニングから声をかける。
ジョーは彼女を見ることもなく、返事をして、ちらり、と壁に掛かる時計を見た。

「ああ、博士に言ってくる」

ジョーはすぐにソファから立ち上がり、地下の研究室に籠もるギルモアの所へと足を運んだ。




====数時間後=====



青い空が高く、雲一つない晴天の日。
ギルモア邸にある洗濯機は朝から働き通しである。
長い梅雨があけたばかりの季節、今しなくていつするの?と、いうように、フランソワーズは溜まったリネン類などを片づけていく。
庭に干されたそれらは、空の青とのコントラストがそこに、穏やかな日々があることを
象徴しているかのように、心地良さそうに風と戯れている。

「ジョー!」

庭で洗濯物と格闘していたフランソワーズが、再びジョーを呼んだ。
彼は無言でリビングからフランソワーズを見る。

「うん、わかった」

彼は頷くと、玄関先に置いてある車の鍵を取り出て行った。


ギルモア邸では、そんな風景が日常的に見られる。
フランソワーズは「ジョー」と彼の名前しか呼ばない。
けれども、それだけでジョーは彼女が何を求めているのかがわかるらしい。

ジョーも同じように、「フランソワーズ、あのさ・・・」と言うフレーズを使うと、彼が何を探しているのか、何をフランソワーズに求めているのか、彼女には手に取るようにわかることらしく、それ以上2人の間で会話はない。

普段「人」らしく生活したい彼女が、脳内通信を使っているとは思えない00メンバーたち。

戦場で、何度もシュミレーションを繰り返した状況の中で起こる、極度にとぎすまされた精神の、人知を越えた「感」と言うものがあるのは、ギルモア邸に身を寄せる00メンバーたちは良く解ってる。
彼らも、目と目だけでお互いが何を求めているのか、言葉がなくても相手の意思を読む取ることができる。が、平和なこの世の中でそれらはまったく発揮されない。そんな00メンバーたちをあざ笑うかのように、ジョーとフランソワーズは難なくそれらを日常の中で披露する。






空になった大きな籐の洗濯カゴを手に、スリッパを心地よいリズムで鳴らしながら、フランソワーズはランドリールームへ行ったかと思うと、すぐに玄関へ向かう。どうやら、ジョーに車を出してもらうようだ。


「フランソワーズ、どこかへ出かけるの?」

ピュンマがリビングのソファから身を乗り出すように声をかけた。

「ええ、そうよ。図書館へ博士の本を返しに行くついでに、デパートまで足をのばすつもりなの。イワンの夏服を見にね。夏は寝汗がひどくって・・・数があった方がいいと思うの」

フランソワーズの答えに、リビングに何気なく集まっていたメンバーが納得する。

ああ、彼らは事前に今日の計画を立てていたのだ、と。

「フランソワーズ?」

なかなか玄関から出てこないフランソワーズに痺れを切らしたのか、ジョーが玄関のドアを開けてこちらをのぞき込んでいた。

「今、いきます!」

じゃあね、ピュンマまた後で、とフランソワーズは玄関へと急ぐ。
開けられたリビングのドアから微かに聞こえた2人のやりとり。

「いや、フランソワーズ、あのさ・・・」
「ええ、良いわよ。そうしましょ?」
「ありがと」

パタン と玄関のドアが閉まり、車のエンジン音が遠ざかっていく。
リビングに残るメンバーたちは、お互いの顔を見合わせる。

「・・・さっき、ジョーは何をフランソワーズに言ったんだろ?」

ピュンマの素朴なつぶやき。

「何も言ってねぇよ」
「でも、ジェット。フランソワーズはイイヨって了解したんだよ、ジョーはナニカを頼んだとしか思えないよ?」
「2人にしかわからないこともあるだろうから、気にするな、ピュンマ」
「アルベルト、だってさ。ちょっと・・・」
「ちょっとなんだ?」
「ちょっとは、ちょっとだよ!」

「ピュンマ、ジョーは”帰りに寄りたいところがある”と言った」
「「「「「「!!??」」」」」」

いつからそこに居たのか、ジェロニモがウィンドウから見えるフランソワーズが干した洗濯物の山を見ながらハッキリと言い切った。

「ジェ・・・ジェロニモ?」
「みな、簡単にわかるはず、ジョーとフランソワーズは特別なことはしていない。ただ、相手をちゃんと見ているだけ。毎日どんな仕草も見逃さないように。それだけだ。そうしていると、気持ちを言葉にする前に雰囲気でわかる」

「・・・じゃあ、ジェロニモは・・・わかるの?」

ーーーー彼らの会話も、僕たちが何を思っているのかも?

ピュンマをじっと真剣に見つめ、そして。彼はふっと口角を上げて優しい眼になり微笑んだ。

「わかる。オレたちは仲間だ」

ピュンマは恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに笑う。

「そっか!」



「しかし・・・」
「「「「 ? 」」」」


「解らない方が、良いときもあるのも事実。馬に蹴られたくない」


「「「 !!!!!!!! 」」」」


ジョーとフランソワーズの言葉のないやり取り。
瞳と瞳で、微笑みと笑顔で、空気と仕草で会話する。

そこに含まれている言葉は、どうやら・・・恋人としてのものもあるらしい。



彼らは気づいているのだろうか?
ここに、言葉がいらない人間が1人いることを・・・。


「今日は、夕食は張大人の店・・・行った方がいい」
「オレ、博士に行ってくるわっ」
「じゃあ、電話をしておいた方がいいな」
「・・・彼らはそんなことも伝えているの?」
「ピュンマ、ある程度の経験も必要」

にやり、と普段のジェロニモらしからぬ笑いに、ピュンマは誓う。
無心・・・禅寺にでも通わないと、ジェロニモに全てを知られてしまう!





「・・・経験?」

ピュンマとジェロニモのやり取りを聴きながら、アルベルトはその言葉にひっかかる。

ーーーー今日の酒の肴はやつかな?










end



・あとがき・

ジェロニモさまは、決めるときに決めるのであります。
全てを大きな目とこころで見つめていらっしゃるので、ガキンチョ?カップルな
9と3なんて、もう、嫌なくらいに解ってしまうのでありますが、
そこはジェロニモさまなので、ちゃんと分別あるオトナな行動をなさっています。

ぴゅんま君も恋をしよう!
経験が必要らしいから(笑)


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グリーンアップル

最近のフランソワーズのお気に入りは、食器用洗剤でスポンジいっぱいに泡立てること。
日本の洗剤や掃除用品はとても優れているらしく、キッチン、掃除用品コーナーに
足を一歩踏み込んだら最後、2時間はその場から離れないフランソワーズ。

ジョーの最近のお気に入りは、台所で食器洗いをしているフランソワーズ。
袖をまくってシンクに積まれた食器類を、一生懸命に洗うフランソワーズの後ろ姿を、飽きもせずに見つめている。

フランソワーズの両手が泡に柔らかくつつまれる。
彼女が選んだグリーンアップルの香りがほんのりと漂ってくる。

かちゃかちゃと食器が触れる音、水道の水がゆるゆると流れる音。
ときどき後ろに立つジョーの方を振り返り、幸せそうに微笑むフランソワーズ。
きゅっきゅとスポンジで洗うたびに、フランソワーズのからだが、微かに揺れる。
彼女の美しい亜麻色の髪も、彼女の肩で揺れる。

ジョーはその揺れに誘われるかのように、フランソワーズに近づいていき、そっと抱きしめた。
食器洗いの邪魔するつもりはないけれど、彼女に触れていたい。
ジョーは彼女の腕が自由になるように、背後から彼女の肩を包むように抱き締めた。
フランソワーズの肩にキスをひとつ。

フランソワーズは驚くこともなく、黙々と食器洗いに精を出している。

「なあに?」

少し間を開けて、フランソワーズはジョーにといかけた。
彼女の手は休みなく動いている。

「別に」

そっけなく答えたが、少しだけ腕の力を強めた、ジョー。

「もう少しで終わるわ」
「・・・うん」

フワンソワーズの肩越しから見る泡だらけの手。
汚れた食器を一度水で流し、スポンジの泡で洗っていく。
ジョーはフランソワーズを抱いていた腕を解いて、シンクへと腕を伸ばした。
そして、フランソワーズの手からスポンジと食器をそおっと取る。
ジョーが何をしたいのかフランソワーズは解らなかったが、彼がしたいようにさせるため、何も言わない。

フランソワーズの背後から腕を伸ばして、彼女に代わって食器洗いを始めたジョー。
ジョーがスポンジできゅっきゅと食器を洗うたびに、微かに彼のからだが左右に揺れる。
フランソワーズの左頬にジョーの頬が微かにふれ合う。

「お手伝いしてくれるの?」
「・・・うん」

2人の手は泡だらけ。

ジョーの胸の中にすっぽりと収まるフランソワーズ。
フランソワーズをその腕で包み込むジョー。
2人はふうわりと重なり合ってグリーンアップルの香りに染まる。

蛇口から水がゆるゆると流れる。
泡をゆっくりとその水で流す。

泡で包まれていたジョーの手から、白い泡が消えてなくなった。

フランソワーズは、それが少し寂しくて・・・。
予備のスポンジに、たっぷりと洗剤を含ませて、より沢山の泡を作り出した。

食器はあと2人が飲んだ珈琲カップのみ。

グリーンアップルの香りがする泡だらけの2人の手。
2人の手が重なって、泡の中に隠れてしまう。

お揃いのカップをゆったりと泡に包んでいく。
どれがジョーの手で、フランソワーズの手なのかわからない。

泡の中でふれ合う手と手。



「・・・フランソワーズ」
「なあに?」

「ありがとう」


ーーーーキミといる時間にありがとう。
    キミがくれる幸せにありがとう。
    キミがキミでいてくれることにありがとう。
    
 フランソワーズ、フランソワーズ、フランソワーズ。
 ありがとう。


ボクはキミが好きだよ
ずっと、ずっと、ずっと 好きだよ。
    








end.





N.B.G 投稿作品

・あとがき・
新しい洗剤を買ってきたルームメイト。
とっても良い香りだったのでございます。

ジョーは家庭の温かさを知らずに育ったみたいですので、
小さい頃に経験していそうなことを、あらためてフランソワーズからもらっている。
って言うカンジです?
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Day by Day ・3
(3)




B.Gが確実にこの世から消えた・・・とは言いづらい。
あれだけの巨大な組織が長い間、世界中で暗躍していたのだ。
いつまたどこで、再びその芽が出るか・・・。

00サイボーグ達は、復活を阻止するために。
そして、過去のB.Gが残した忌まわしき遺産とも言うべきものをこの世から消すために。
平和な日々を過ごす傍ら、常にその目を闇に光らせていた。








街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館には小さくギルモア研究所、と表札が掲げられている。

初めに行われた邸のリフォームは、主にギルモア博士が必要とする物から始められた。そして、やっと人らしい身の回りの物を揃えはじめた00メンバーたち。メンバー各個人の部屋にもそれぞれの個性が表れ始めた。

インターネットや、取り寄せた家具などのカタログからそれぞれが必要なものを選んでいった。
ジョーが選んだのはシルバーのデスクトップ用コンピューターの机と、高さと幅のある本棚。これはピュンマとアルベルト、そしてグレートも同じ物を選んでいた。それ以外は、細々としたデスクランプなどの、事務的(?)用品が主だった他のメンバーも似たようなものを選んでいたが、ジェットはテレビにDVDプレイヤーなどの電化製品を中心。アルベルトはゆったりと座れる独りがけ用のソファと間接照明を選び、ジェロニモは日本の「茣蓙」に「座布団」を注文し、みんなに不思議がられていた。帳大人はカーペットや布物に拘りがあるらしく、グレートは自分用のアフタヌーティを楽しむためのテーブルやイスなどを選んでいた。イワンのためのベビーベッドやタンスも忘れていない。

インテリアや部屋作りを一番に楽しむだろうと思われていた、女性であるフランソワーズは、00メンバーが予想していた通りに、嬉々として主にみんなが使うリビング、ダイニング、バスルーム、ランドリールーム、キッチン、ゲストルームなど、より住みよくするために、色々と彼女なりに考えたものを選び出していた。

ふと、ピュンマがフランソワーズが自分の部屋に置くものを何一つ選んでいないことに気がついた。他のメンバーは彼女も一緒になって、カタログやコンピューターに写し出されるものを睨んでいたので、気が付いていない様子であったが、彼は改めに書き出された注文票などをざっと見る。

そこには・・・どう考えても彼女個人の物と考えられる品は書き出されていない。


「・・・?」
「どうした、ピュンマ?」


フランソワーズは帳大人と一緒にお茶を淹れるためにキッチンへとむかったところだった。注文票やメンバーが選んだ物を書き出した紙を見つめながら、首をかしげるピュンマ。


「いや・・・あの、さ・・・フランソワーズは何か頼んだ?」
「うるせ~くらいに、文句言ってたじゃんか、棚の数だの、カゴだの、アイロン台が必要だの!」
「・・・うん、そうだね」


これだから女は面倒臭い!とばかりにジェットは足をテーブルの上に置いた。


「おい、足をおろせ・・・」


アルベルトは、ぱしっ とジェットのマナーの悪い足を叩きながら、ピュンマの持つ紙をのぞき込んだ。


「・・・確かに、それらしいものはないな・・・」
「ね?」
「飾り棚とか言ってたじゃねーか、チェストとかも欲しいだのよ~」
「それ、ゲストルーム用だよ」
「なんだ?姫は何も選んでいなかったのかい?あれだけ一所懸命にカタログを見ていたのに?」
「いらねぇんじゃね?」
「そんなわけないじゃないか。女の子だよ?今だって・・・色々と不便なんじゃないかな?」
「ドルフィン号に居たときより、ましじゃんか」


アルベルトは、ピュンマからそれらの紙を受け取ってまじまじとみつめたとき、焼きたてのクッキーの香りと香ばしい珈琲の香りがリビングに広がった。


「さあ、お茶の時間アル!今日はフランソワーズが焼いたクッキーも一緒ネ!」


キッチンからリビングに入ってきた2人に自然と注目するメンバー、みんなの目線がフランソワーズに集まった。
それぞれに珈琲を配りながら、フランソワーズはみんなの視線が自分にあることに気が付く。


「なに?・・・どうしたのよ?」
「いや、あのさ・・」
「お前は何もいらないのか?」


ピュンマが口を開こうとしたとき、その声と重なるようにアルベルトが少し大きめの声でフランソワーズに訊ねた。そのストレートな物言いに、ピュンマは目を白黒させる。


「・・・オーダーを出すのは明日でしょ? もう少し考えさせて?」


にっこりと微笑み、この話題は終わりとばかりに、地下に籠もるイワンと
ギルモア博士を呼びにそそくさとリビングを去っていった。


「女ってぇもんは、こういうのに時間がかかるんだよな~」










####

地下に用意された、ギルモア専用の研究室にはイワンと、そしてジョーが居た。ジョーがいつの間にリビングからここへ来たのか、フランソワーズはまったく気が付いていなかった。彼はときどき風に流される雲のように、そこに居たかと思っていても、いつの間にか、ふわり とその姿をどこかへと隠してしまう。
今日もみんなと一緒にリビングで賑やかな輪に入っていたはずだった。彼女は彼が必要だと言ったものを、きちんと紙に書いたのを覚えている。


「・・・博士、お茶の用意ができましたので、休憩なさってください。イワンもお腹が空いたでしょ?ミルクを用意したの。ジョー、あなたも・・・」


フランソワーズが声をかけたとき、博士の隣でとても厚い本を膝に抱え込むようにして読んでいたジョーが、ゆっくりと本から視線を外してフランソワーズをみる。
その瞳はとても柔らかな光を宿していた。ジョーの瞳を見てしまったために、彼女の言葉は途中で空気に紛れてしまい音にならなかった。ジョーは視線をギルモアに移し、本を自分が座っていた椅子に置いてから、ギルモアの肩に手を置いて声をかけた。


「博士、お茶だそうですよ。せっかくフランソワーズが淹れてくれたのが、冷めてしまいます。一度リビングへ行きませんか?」


ジョーの座っていたイスの横に置かれていたベビーベッドから、イワンはその小さな手をフランソワーズに向けて差し出した。


<ボク、お腹スイタ>


イワンは短くテレパスでミルクをフランソワーズにねだる。
どうやら彼は自分で移動する気はない様子なので、フランソワーズは彼を抱き上げて、もう一度ギルモアに声をかける。


「博士? こちらにお茶をお運びすることもできますけれど・・・みんながリビングにいるんですもの、せっかくですから博士もいらしてくださりません?」


フランソワーズは丁寧な言葉でギルモアを誘うが、その語尾は父親に甘えるような調子が含まれていた。自分の娘、いや、それ以上の愛情を持って可愛がっているフランソワーズの、そんなお願いを無碍に断ることができないギルモアは、ふう と短い息を吐き、やっと重い腰を上げてリビングへ向かうことにした。ジョーはギルモアを先に部屋から出ることを促し、そしてフランソワーズの後についてリビングへ戻った。

フランソワーズは、何事もなかったかのように日々を重ねていく。「あの日」から一週間が過ぎた。ジョーの態度も今までと変わりなく・・・、自分ばかりが胸を弾ませてしまうことに、少しばかりの淋しさを感じていた。ジョーは誰にたいしても優しい。


ーーーー突然に体調を崩して倒れた、仲間だから・・・彼は気遣ってくれた・・・・。



あのキスも・・・彼は半分は西洋人だし、教会で育ったと聞いている。
自分が知らなかっただけで、日本人はそういう”挨拶”はしない。と自分が思いこんでいただけで、もしかしたら彼にもそういう習慣があったかもしれない? 
仲間同士での”挨拶”は恥ずかしかったのだろうか?




ーーー・・・・他の女の子にはしていたのかもしれない・・・?



なんとか「あの日」の出来事を普通のことと思いこむように努力をして、彼に接するたびにフランソワーズは自分の気持ちを引き締める。


<ふらんそわーず・・・ミルク・・・>


キッチンでその腕に小さなイワンを抱きながら、湯煎で温めた哺乳瓶を握りしめ、じっ と立ちつくすフランソワーズ。イワンは彼女が自分の世界に入ってしまっているのに気がついていたが、それがどんな世界であるか覗くような無粋な真似はしない。彼女が自然とこちらに戻ってくるのをまっていたかったが、流石にお腹が空いて、遠慮がちに声をかけた。


「あ! ごめんさいイワン!」


フランソワーズは慌ててイワンにミルクを与える。少し冷めてしまったミルクだけれど、イワンをそれを一生懸命に飲む。ふくふくとした白い頬にピンク色のくちびるが、本当に愛らしいイワン。イワンの、赤ちゃんが、赤ちゃんらしい姿でいることを、フランソワーズはこころから愛おしく、飽きることなくその姿を優しい微笑みでみつめる。


「・・・粉ミルクって美味しいのかな?」


キッチンの入り口でトレーを抱えたジョーが立っていた。
フランソワーズの心臓がその声にいち早く反応する。
フランソワーズはジョーの方へは振り返らずに、視線はイワンにむけたままで彼の声に答える。


「イワンには御馳走なのよ、でも、毎日こればっかりだとちょっと可哀相になってしまうわ。離乳食くらい、食べられるようになってくれたら・・・イワン、美味しい?」


<トッテモ 美味シイヨ。ジョー、キミも飲ンデミタラ イイヨ。ボク オススメ ノ ブランド ダヨ>


「はは、それじゃあ今度キミと一緒にいただこうかな?」


ジョーは2人の邪魔にならないように、トレー置いて、下げてきたカップや皿をシンクへとうつす。彼がスポンジに手をかけたとき、フランソワーズは優しくそれを止めた。


「置いておいて、私が洗うから」
「・・・ありがと」


フランソワーズに背を向けていたジョーは振り返って、彼女に一歩近づき、ミルクを んぐ、んぐ と微かな優しい音をたてるイワンをのぞき込む。ジョーの動きに揺れる、柔らかな明るいブラウンの長い前髪が、フランソワーズの前髪と重なり合う。

不意にフランソワーズの鼻腔をくすぐるジョーの香りに、フランソワーズの心臓が大きな音を1つ打つ。

それをきっかけに、彼女の心臓は少しずつ鼓動が早くなっていく。今にもふれ合いそうな、彼の額と、自分の額。フランソワーズの意識は否応なくそこへ集中してしまう。


「本当に、美味しそうに飲む、ね」


フランソワーズはイワンからその目線をジョーにうつす。

間近で見る彼は、綺麗だった。
男の人に「綺麗」と言う言葉を使って良いのか、フランソワーズはよく解らないが、彼の東洋の顔立ちに混じる、西洋の色は、バランスが良く神秘的な魅力をジョーにもたらしている。

大きいとは言えないが、この邸のキッチンには窓がある。
まだカーテンは掛けられていないために、その窓から燦々と太陽の光をキッチンに注ぎこむ。


「キミの分の珈琲が冷めてしまったから、淹れ直そうか?」


ジョーの瞳とフランソワーズの瞳がぶつかった。


「クッキーもちゃんと残ってるよ」


微かに口角を上げて、微笑むジョー。
その距離はとても近い。


「キミが作ったクッキーだけどね」


首を少し傾けて、フランソワーズにより近づこうとするジョーの仕草。

早鐘を打つ心臓が、きゅうっ と急停止して、縮こまる。
ぐっと喉の筋肉に力が入って息苦しくなる。


「僕はもう一杯もらうから、キミの分も一緒に、ね?」


何も答えないフランソワーズのそれを、ジョーは勝手に「yes」と受け止めて、フランソワーズから離れて、棚からコーヒーミルに豆を取り出す。

空になった哺乳瓶をいまだに口に含んだままのイワン。
ぼうっとジョーに見とれているフランソワーズに気づいて欲しくて、イワンはいやいやをるすように顔を左右に振った。
フランソワーズの手に力は入っておらず、イワンの口から離れた哺乳瓶は彼女の手から滑り落ちて、空っぽの哺乳瓶は予想以上に大きな乾いた音を立てた。

ジョーはすぐに音に反応する。
フランソワーズも自分の耳に届いたその音に、弛んだ気持ちを叩かれた。
彼女が、慌てて哺乳瓶を拾うために手を伸ばそうとするが、その両腕にはイワンがいる。一瞬イワンを抱く手に戸惑ったときにはすでに、ジョーが哺乳瓶を拾い上げていた。


「・・・だいじょうぶ?」
<ふらんそわーず、疲レテイルミタイ ダネ?>


ジョーの声とイワンのテレパスが重なった。
イワンはフランソワーズの手からふわり、と浮き上がる。


<ボク 博士ノトコロニ 戻ルね。ミルク アリガト>











####

別に疲れてなどいない。
一生懸命にフランソワーズは、自分をコントロールしようとしている。





考える必要のなかったこと。

感じる必要がなかったこと。

思い出す必要がなかったこと。

自分の気持ちに向き合う必要がなかったこと。




今はあれほど焦がれていた「時間」がある。
フランソワーズが求めていた、「日常」がある。





一時的なものかもしれない。けれども手に入れた日常に、彼女はこころの底から喜びを感じながらも、壁一枚隔てた向こう側には恐怖がある。

どんなに平穏な時間を過ごそうと、常にフランソワーズには見えている闇。
闇に飲み込まれそうになったとき、助けを求める自分の手が「彼」に伸ばされる。

仲間以上の関係を求めてはいけない、とウソをつく。
それ以上でも、それ以下であってもいけない。





翌日。
フランソワーズはオーダー表に何も、書き足すことはなく彼女の手によって
注文が送られた。












=====  へ 続く
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Day by Day・4
(4)




1週間も経った頃、注文した家具類などが次々にギルモア邸へ運ばれてきた。
個人の部屋以外のものは、フランソワーズが中心となって片づけられていった。
力は人並み以上の彼らのため、細かい飾りつけ以外は面白いように簡単に片づいていく。メンバーだけで暮らしているからこそ、できること。


人が住んでいる。
人が生活している。


忘れ去られていた洋館が、彼らの手によって蘇る。
珍しくギルモアは邸の中をイワンを抱きながらぐるぐると歩き回る。
よっぽど嬉しいのだろう。始終、彼の顔には深い笑い皺を作ったままだ。

力仕事に精を出すメンバーたちに、早めの夕食の準備に取りかかるフランソワーズをギルモアはキッチンから呼び出した。リビングのテーブルに置かれたのは、2枚のクレジットカード。


「こんな男所帯じゃし、何かとお前さんを頼ることになってしまうと思うからの、こっちは、そのためのもんじゃ。そしてこっちは・・・必要だと思うものがあったら遠慮なく遣いなさい。フランソワーズ専用じゃ。心配せんでも、みんなにも渡してあるから」
「・・・・」
「これから、みんながどう生きるか、ちゃんと考えなくてはな。この世の中を生きていくためには、どうしても必要な物が出てくる。
・・・仕方がないことじゃがな。」


テーブルに置かれた2枚のカードをそっと手に取る。


「ありがとうございます。博士。大切に使わせて頂きます。でも・・・いつかいつかは・・・」




ーーーこのカードを必要としない日が




ギルモアがフランソワーズの言葉をどのように受け取ったかは解らないが、
満足そうに頷いて、ぐるりとリビングを見回した。


「温かいのぉ・・・」


ただ置かれていた、ソファにテーブルだけのリビングに今は、カーペットがひかれ、ジェットとピュンマが選んだ大型テレビにDVDプレイヤーなどの娯楽機器を一つにまとめた薄茶の棚、
セットで左右にDVDやCD、本などを収めるためのガラス戸がついた背の低い棚。
色とりどりのクッションに、壁に掛けらた絵や写真、階段へと続く廊下の壁に飾りだな、その上には観葉植物に花が飾られた花瓶、フランソワーズが選んだ小物類。リビングから庭へと通じるガラス戸に掛けられた、2重になった白のレースとベージの刺繍が施されたカーテン。外で組み立てられているであろう本棚も加わる予定である。

明日にはギルモア用の安楽椅子に、リビング用のイワンのベッドも届く予定だった。


<博士・・・コズミ博士ノコト、忘レテルヨ>
「! おお、そうじゃった、そうじゃった!」


クーファンの中で眠っていると思われたイワンの突然のテレパスに、慌てて現実に引き戻されたギルモア。


「実はな、コズミ博士の友人の娘さんが一時的にだが、彼の家に下宿することになったようで、こちらに来たばかりで友人もいないその娘さんと一緒に、買い物などをフランソワーズに頼めないかと・・・」
「私・・・ですか?」
「う、うむ。年頃も同じようでな。その彼女は父親の仕事の関係で2年ほどフランスに住んでいたこともあるらしくてね、それでフランソワーズさえよければ・・・と」
「・・・でも、買い物と言われても、私はここから近い町のスーパーか商店街くらいしか知りませんのよ?その娘さんも慣れていらっしゃる方と一緒の方が良いのではありませんか?」
「それは、そうじゃがな・・・」
「ジョーに車を出してもらえばいいじゃん!オレも行くぜ、それ!面白そうだしな!」


いつの間にリビングへやってきたのか、ペットボトルをラッパ飲みしながら、乱暴にフランソワーズの隣に座ったジェット。


「面白いってそんな! ちょっと・・・コップに入れて飲んでよ!それに、ゼ・・・ジョーの都合もあるでしょう?・・・・女同士の買い物に付き合わせるなんて可哀相よ」
「だーかーらー、オレが一緒に行ってやるんじゃあねーかよ!あいつだけだと”可哀相”じゃん」
「まだ、行くとは決めてません!」
「行こうぜ!オレも街まで出たいんだよ」
「勝手に行けばいいじゃない、いつものことでしょ?」
「だ~!博士!その”コズミ博士の友人の娘”って可愛いのかよ?!」
「うむ、素敵なお嬢さんじゃったよ、この間までイギリスに住んでいたらしくてな、
日本の大学に入るためにこちらに戻ってきたと言っておった。名前は”さくら”さんじゃ」
「おお!可愛い名前じゃね~か!決まりだ、博士。フランソワーズが嫌でもオレが友達になってやるよ!」
「ちょっ と!! あなたなんかと友達になったら彼女がヒドイ目に遭うわ!」
「じゃあ、一緒に来たらいいじゃんか」
「!?」
「決まりだ!博士、コズミのじーさんに連絡してくれ。明日でもいいぜ、なあ、ジョー?」


ジェットは庭の方にむけてペットボトルを突き出す。
フランソワーズが驚いたように振り返ったそこには、開け放たれたドアの向こうにジョーが立っていた。


「いいよ」








####

その日の夜のうちに、ギルモアがコズミ博士に連絡を取り、2日後の金曜日に
フランソワーズ、ジェット、ジョーの3人でコズミ邸へ行くことが決まった。


ーーー行きたくない。





フランソワーズはその言葉を必死で飲み込みながらその日を迎えた。









コズミ邸までは車で約2時間ほどかかるが、ジョーの見事な運転とカーナビのお陰で予定よりもかなり早く、コズミ邸に着くことになってしまった。

フランソワーズは車から降りて、コズミ邸の門の前で足を止める。

X島から脱出して身を寄せていた、この邸は自分たちの所為で一度は半壊された・・・。が、今は何事もなかったかのように綺麗に修復されていた。
ジョーや他のメンバーは博士の送迎などで、何度かこのコズミ邸を訪れていたが、フランソワーズは日本に居を構えてから初めての訪問になる。久し振りなためか、些か緊張しているのがわかった。

普段は昼近くまで寝ているはずの、ジェットとジョーだったが流石に今日は朝の食卓を他のメンバーと共にした。


「おい」


ぼうっと邸を見つめているフランソワーズの背中を押して、中へ入ることを促したのはアルベルト。朝食の席で、彼ら3人がコズミ邸に向かうと言うことを聴き、アルベルトとピュンマが同行を訴えた。
コズミ博士から借りていた書籍類を返したい、と言ったアルベルト。
将棋にちょっと興味があるんだ、と言うピュンマ。

狭い車に詰め込まれた5人は、今コズミ邸の座敷に通されて出されたお茶と和菓子に舌鼓をうっていた。


「島村くんの運転と聞いておったでな、多分予定より早く来るとわかっておったよ!」
「大勢で押しかけてしまって、申しわけない」
「いやいやアルベルト君、こちらはいつでも大歓迎じゃ」


そんなやり取りのなか、襖の奥から女性の声が聞こえた。


「失礼します」


ゆっくりと襖があけられ、姿を現した女性は、ストレートの艶やかな黒髪を肩に乗るか乗らないかのところで、切りそろえられ、切れ長のアジア人らしい黒い瞳。薄い唇は上品な桃色に熟れながら微笑をたたえている。白い肌は彼女の若さを象徴するように潤っている。
絵に描いたような日本美人、と言う言葉がぴったりと似合う少女の面差しを残した女性だった。


「紹介しよう、真鍋さくらさんじゃ。さくらさん、こちらがフランソワーズさん、ジェット君、島村くん、ピュンマくんにアルベルト君じゃ。ギルモア君の大切な・・・家族じゃ。そういえば、さくらさんと島村くんは・・・」
「はい、おじ様。ギルモア先生がいらっしゃった時に何度かお会いしました、ね?ジョー?」


さくらと名乗るこの女性とジョーはすでに何度か会ったことがあったと言う。それは事実なのだろう。けれどもジョーは今日まで一言もそんなことは言わなかった。


「なんだよ、お前は彼女と面識あったのかよ!」


拗ねたようにジェットはジョーをなじる。しかしジョーは何事もないように、「ああ、そうだよ」とそっけなく答えた。






簡単な自己紹介を済ませた後、4人、さくら、ジョー、ジェット、フランソワーズは留守番組に見送られて車に乗り込んだ。


「大丈夫かなぁ・・・」


走り去る車を見ながらピュンマは独り言のように呟いた。


「何がだ?」
「・・・わかってるだろう、アルベルトなら。だからここまでついてきたんだろう?」
「オレはじーさんに返す物があったんだ」
「ボクももちろん将棋のためなんだよ?」
「・・・もう、子どもじゃないんだ」
「うん」
「そろそろ、しっかり立ってもらわないと、歩き出せん」
「うん、そうだね」
「・・・手のかかる妹は可愛いがな」
「弟も、悪くないよね?」













####

週末の街だが、金曜日の午後と言うこともあってか、車もスムーズに駐車場へ預けることができた。ジョーの隣、助手席にはさくらが座り、あれこれと色んな質問をして車内での会話に花を咲かせた。その間、フランソワーズはこれと言って何も話さずに、さくらから問いかけられた時のみ会話に参加した。すっかりジェットはさくらと打ち解けていて、昔から知っている友達のように、話し込んでいた。

車から出て、どこへ行こうかさくらがジョーに話しかけようとしたとき、ジョーはフランソワーズの隣に立ち、彼女の肩に手を置いた。突然、声もなくジョーの手が自分の肩に置かれたことに動揺するフランソワーズ、にかまわず彼女を心配そうに見つめる。

「・・・”それ”がないと不安?」
「え・・・」

ジョーが何を言っているのかまったく解らなかったが、ジョーの視線が、彼女が胸に大事そうに抱え込んでいた、白のショルダーバッグを見ていたことから、彼が何を言いたいのか理解出来たのと同時に、フランソワーズは狼狽した。


ーーー知ってるの? 私が”これ”を持ってきていることを、知ってるの?


「車に、置いていかない?」


フランソワーズはジョーの顔をみる。その表情は怒っている様子はなく、いつもより少し哀しみを帯びた色の瞳でフランソワーズをみつめる。


「・・・だって」


フランソワーズは一度大きく深呼吸をする。


「だって、いつ何が起きるかわからないでしょ?もしもを考えて行動するのが私たちじゃなくて?」


そう言うと花が咲くように可憐に微笑んだフランソワーズは、足早にジョーから離れた。




ジョーの足下に何か冷たくて重い金属がぶつかる音が聞こえたような気がした。
自分の目の前にいた、美しい亜麻色の髪の宝石のように輝くパライバ・トルマリンの艶やかな蒼い目をした、この少女が、他人とは絶対に共有できないと思っていた世界を知っている。

同じ世界を共有できる喜びと、そんな世界でしか通じ合えないと言う悔しさ、そして、その世界から救ってあげることができない自分に、ジョーの心臓をぐうっと握りつぶされたような痛みに襲われた。


「ジョー! ジェットと話したんだけど、大通りを歩きながら店を色々と見ていってもいいかな?」


フランソワーズと入れ替わるように、さくらがジョーの隣にたち、そんなに高くない身長のために、後ろに倒れてしまいそうな勢いでジョーと目線を合わせようと首を上へと傾けた。


「好きなところに行ったらいい、よ」


ジョーはさくらと一緒に歩き出した。

フランソワーズは背中にも目があるのかと自分で思ってしまうくらいに、後ろを歩く2人が気になった。さくらが入りたいと言う店に入り、あれこれと物色したり、試着したりする。いくつかの店にはジョーとジェットも店内に入ったが、大概は増えていく紙袋と一緒に外でやり過ごしていた。フランソワーズは勿論、さくらと一緒に店内に入る。

店内に綺麗にディスプレイされている、それらに目を奪われ、心が弾まないと言えばウソになる。

フランソワーズも楽しんでいたが、商品を手にとってもさくらのように購入することはなかった。
彼女が購入を悩んでいる様子だとアドヴァイスをし、一生懸命に話しかけてくる彼女の言葉に優しく答える。

一見、親友のように仲良く見えるが、その実はある一定の距離を保ったままであった。



大通りから少しはずれたカフェで4人は休憩をとることにした。春が近づいているとはいえ、肌寒くまだジャケットは手放せない。


「もっと暖かくなったら外でお茶したいわ~!ね?」


隣に座り、珈琲を手にするジョーに甘えるような目線を送る。


「なんだよ、オレは誘ってくれね~のかよ!」
「もちろん、ジェットでもいいわよ!」
「んだよ!”でも”って、"DEMO”ってなんだぁ?」


3人のやり取りを黙って聞いているフランソワーズ。膝に置かれたバッグを大事そうに片時もその手を離すことはない。彼女の目線はテーブルに置かれた紅茶にのみそそがれいた。


「・・・ズ?」
「フランソワーズ・・・?」


自分の名前が呼ばれていることに、すぐには気がつかなかった。
目線を上げるて飛び込んできたのは、真向かいの席に座るジョーだった。


「あ、ごめんさない」
「んあ?なにぼうううっとしてんだよ?疲れたのか?」


ジェットの言葉に力無く首を横に振りいつものように笑って見せた。


「日本ってすごいな~って思ってたの。こんなにいっぱいお店を巡ったのって本当に・・・・・・・・ほんとうに久し振りだし・・・・」
「フランソワーズさんは、何も買う物とかないんですか?」
「あ・・・フランソワーズでいいわよ、さくらさん。ええっと・・買う物・・・特には・・今は別に。色んなお店を見てるだけでとっても楽しいわ!」



フランソワーズは膝の上のバッグをぎゅっと握りしめた。










夕食はコズミ邸でと言われていたので、6時を過ぎたころには車のある駐車場へと戻ってきた。
さくらが購入したものをトランクへに押し込んで、4人はコズミ邸へと向かう。行きしなと同じように、さくらは助手席に乗り込んで、コズミ邸に着くまでの間おしゃべりを続けた。




ーーー本当によくしゃべる、明るい子。



さくらは、キラキラと黒い目を輝かせながらジョーを見つめる。
小さな形良い唇から流れるように出てくる話しは、どれもとても面白く、相手を疲れさせることもない。身長がこの4人の中で一番小さいせいか、彼女が歩くのが遅い所為なのか、数メートル歩くと一緒に歩いていたジョーと少し距離が出来てしまい、小走りになる。そんな姿がとても愛らしい。

フランソワーズがフランス人形と言われるなら、さくらはまさしく日本人形。


車の窓から見える町並みを、意識することなく見ていたフランソワーズは、日が暮れて暗くなった窓に反射した自分を見つけて堅く目を閉じた。
滅多に日常品や食料品以外の買い出し以外で外へ出ることがないフランソワーズは、さすがに疲れたのだろう、彼女の意識は深く、車の振動に誘われて落ちていった。その手にはしっかりと、誰にも触らせないという意思を持っているかのように、バッグを握っている。


彼女が目を覚ましたのは、見覚えのあるような、ないような・・・木の天井。
はっと、息を飲んで彼女は飛び起きた。
フランソワーズは畳の部屋にひかれた布団の上に寝かせられていた。




ーーーああ、そうか・・・起こしてくれなかったのね?




コズミ邸に着いて車内で眠ってしまったフランソワーズを、誰も起こすつもるはなかったらしく、コズミ博士に頼んで、彼女を寝かせる用意を調えてもらったことがすぐにわかった。

広い家だけれども、003の耳に届く距離にみんなは居た。
話し声が聞こえ、聞き覚えのある声を聴いただけで、フランソワーズは安堵の息を吐く。枕元に置かれた、彼女のバックが目に入り慌ててそれを手に取ると、カバンを開けて中を確認する。



「!?」



そこにあるはずの物がなかった。
彼女が持ち出したスーパーガンが・・・ないのである。

その替わりに、ノートか何かから破いた紙の切れ端と、耳の異様に長い白いウサギの縫いぐるみが変な形で押し込まれていた。



”スーパーガンは今だけ預かります。それとキミの新しい友達です。”



書き殴ったその字を、愛おしそうに指でなぞる。



ーーーいつ、どこで、どんな顔をしてこれを買ったのかしら?



無理矢理バッグに押し込まれていた、窮屈そうにからだを歪めていたフランソワーズの”新しいお友達”を丁寧にその手にもつ。

柔らかな、ふわふわとした短い毛並み。
糸で縫いつけられた、目尻が下がった小さい瞳。
くたくたとした異様に長く作られたウサギの耳は、少しとぼけた印象を作っていた。




「はじめまして、うさぎさん。私の名前はフランソワーズよ。あなたのお名前は?」




=====  へ 続く



・ちょっと呟く・

さすが加速装置を持つ男!
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どうやって?orどうして?

リビングでいつの間にか始まった呑み会。
00メンバー全員と博士も珍しく参加していた。

どんどんと増えていく空き缶・空き瓶の数。
張々湖が作ったツマミもなくなり、買い置きしてあったスナック類をお皿に盛ることもなく、袋のままテーブルに広げられる。

普段は絶対にそんなことは許さないフランソワーズだが、今日はいつもよりも飲んでいるのか、何もお小言を言わずに、大人しく小さな白い手にワイングラスを持ってニコニコと微笑んで少し距離をあけてジョーの隣に座っていた。

恋人同士にしては、少し不自然な距離。
けれども、彼らは他のメンバーの前では常にその距離を保っていた。

まだ付き合い初めて間もない(と、思っているのは本人達のみ)ためか、恥ずかしいのだろう。2人が片思いの間柄だったときの方が、もっと寄り添っていた気がしないでもないメンバーと博士だが、意識的にその距離を作っている、と思えばそれは、それでほほえましい。

飲みの勢いで、そんな2人をからかうような声が上がったのも、自然な成り行き。
2人の様子をじいっと見ていた博士が口を開いた。

「・・・そういえば、ジョーにフランソワーズや、お前たちは、その、いつ頃と、言うか・・・どうして、そういう風になったんじゃ?」

それはメンバー全員が思っていたことだった。
ずっとフランソワーズがジョーに片思いをしていたことは、どんなバカだって気がつく。しかし、想いを寄せられていたジョーは、本人であったがためか、フランソワーズの気持ちになかなか気がつかなかった上に、ジョーもフランソワーズにたいする特別な気持ちを隠していた。
ジョーが必死で隠すフランソワーズへの気持ちを、何を勘違いしたのか、フランソワーズ自身はジョーに嫌われてると思いこみ・・・。なんとも、もどかしいすれ違いをし続けた2人だったが。

気がつけば、2人は恋人同士になっていた。
宣言することはなかったが、夜中にフランソワーズの部屋のドアが開く音が聞こえ始めたのは確かで、昼近くまで寝てるのが常のジョーが、日が昇る前にフランソワーズの部屋から出て行くのを朝の早いメンバーは知っている。

突然に、しかもギルモアからふられた質問に、フランソワーズは大きな蒼い瞳をさらに大きく見開き、ジョーはきょとん、と何を訊かれたのか飲み込めなかった様子だった。

「いい機会だから、話してもらおうか!」

「訊きたいアルね~!! 00メンバーの最大の謎だったアルからネ~」

「おお、素晴らしきは恋の始まり!! 戯曲の参考になるから、頼むよ!」

「おうおうおう!隠すこたぁね~んだよ、イマサラ!あれだけオレらをやきもきさせたんだぜ、ここはしっかり、説明してもらわねぇと、な!」

「幸せは分け合う」

「・・・話せるなら、話してみないか?」

<・・・・ZZZZ>(イワンは夜の時間)

博士の言葉に同調するメンバーたち。

好奇の目にさらされて、俯いてしまうフランソワーズ。
どうやら、彼女はお酒が入ると日ごろのハキハキした物言いなどがなくなって、お人形のように大人
しくなってしまうらしい。

薄桃色に染まった頬に、アルコールの所為で潤んだ瞳。いつもより少し眠たげな目元が普段のフランソワーズよりも大人びて魅せる。

ジョーはゆっくりと博士やメンバーたちの言葉を理解し、手にもっていたグラスを置いた。

「・・・・ ”どうやって” が知りたいの?それとも ”どうして” が知りたいの?」

「「「「「「「 ? 」」」」」」」

ジョーの言葉に一同に?マークが咲き乱れる。

短気なジェットは叫んだ。
「んだよ、それ!なんだっていんだよ、っジョー!! ”どうやって”テメーはフランソワーズと恋人同志になったか、訊いてんだよ!」

「・・・・”どうやって”ね?」

日本人にしては珍しい褐色の瞳が、ゆらり と妖しい光を放つ。
普段のジョーよりも声色がなんとなく009よりな感じがする。
ジョーはジェットの言葉に反応し、アルベルトがするような片方の口角を上げてニヤリと嗤った。端正な顔立ちなジョーが、そのような笑い方をすると・・・女だろうが男だろうが、彼から目を離すことができなくなるほどに、引きつけられて、目を離すことができなくなる。

「・・・・こうやってだよ」

さっとフランソワーズの肩を抱いたとおもった瞬間に、彼女の手にあるグラスを床に置いて、フランソワーズを抱き寄せる。右手で彼女の髪を撫でたかと思うと、その手は流れるようにフランソワーズの顎にかかり、くいっと上を向かせ・・・・。

今。

目の前に繰り広げるは。

恋人同士の 深く、長く、甘く、濃厚な、キス。


ジョーの突然の行動に驚くことなく、フランソワーズはただ黙ってジョーを受け入れ、そして少しずつだが自分からもジョーを求め始める。

何度も角度を変えながら、2人はお互いを求め合う。


いったいどれほどの時間が経ったのだろうか。
ジョーは名残惜しそうに、フランソワーズの唇から離れていく。
フランソワーズは、それを追いかけるように、羽のように軽いキスをする。


水を打ったように静まりかえるリビングに響いたのは、ジョーの声。


「”どうやって”恋人になったかって・・・こうやってだよ?・・・ていうか、”全部”をもっと詳しく教えてあげても良いけど? 俺たちは別に・・・」

ジョーの腕にしっかりと抱きしめられ、その腕の中からフランソワーズは とろり とした瞳で、博士とメンバーたちを見る。

「・・・もう、みんな・・・エッチ・・・ねぇ・・・」

くすり と笑ったフランソワーズは両腕をジョーの首に回して、ジョーの頬に自分の頬をする寄せる。
その気怠そうな動きが、2人の雰囲気をより甘くさせていく。


誰も何も言わない・・・いや、言えない。
こんなジョーを、フランソワーズを誰も知らない。


フランソワーズはジョーの耳元で何かを囁く。
ジョーは面白そうに、それを訊く。


「悪いけど、フランソワーズはもう眠いって、部屋に連れて行くよ? ・・・鍵かけないから、知りたかったらくれば?」

1mmとて動く様子がない、みんなを無視してジョーはフランソワーズを抱き上げて、リビングを去っていった。


その後、誰も彼らの「馴れ初め」を口にするものはいない。
酒の席でも、常に彼ら2人の「酔い具合」を計算した上で、からかうことはあったが・・・・。
博士は、二度と呑み会には参加するこはなかった。

end。



・あとがき・
いわゆる”黒い”島村。黒島っち!
 他の素敵サイトさんのところでみかける黒いジョーを、私が書くと?
あんまり黒くないですね(笑)

どっちかってーと、黒フラン(笑)

ジョーの「・・・・ ”どうやって” が知りたいの?それとも ”どうして” が知りたいの?」の意味は

”どうやって”恋人になったの? = 行動
”どうして”恋人になったの? = 説明

と、言う意味で・・・ジェットが 「どうして、そうなったんだぁ?」って質問してたら、
ちゃんと口で、説明されていたことでしょう。

・・・・”どうやって”でも口で説明はしてますけどね。

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Day by Day・5
(5)




フランソワーズが目を覚ました時には、すでにみんなは夕食を終えていた。
彼女が最近、体調を崩し勝ちだったことをギルモアから聴いていたのだろうか、コズミ博士はフランソワーズを心配して、そのまま泊まっていくことを促した。
今日はコズミ博士の言葉に甘えよう、と言い出したのは、夕食時に出された酒によって気持ちよく酔っているジェットではなく、アルベルトだった。彼にしては珍しい、とフランソワーズは思った。


「それなら、ジョーも飲めるしな」


ジョーは帰りの運転のために出された酒に一切口をつけていなかった。


「せっかくなんじゃ、たまにはウチで遊んでいってくれたまえ!」


嬉しそうに言うコズミ博士。
大きな屋敷に1人住まいでは、やはり寂しいのかもしれない。

通いのお手伝いとして、ミツエ。と、言う女性がいる。
長くコズミの家に出入りしている女性だが、ここ2ヶ月ほど、諸事情により休みを取っていた。

さくらがコズミ博士の元に下宿し始めたのもほんの1ヶ月前ほどからと言う。
しかし、やはり相手は友人の大切な娘であり・・・とても仲が良くみえるが、無意識に何かと気を遣っているのかもしれない。
フランソワーズはコズミ博士が酔っているところを初めて見た。

顔を紅く染めて、八の字眉がさらに目尻とくっつきそうなくらいに下がっている。
いつもより大きな声で話すが、すこし呂律が怪しくなっていた。


「ギルモア博士なら大丈夫だと思うよ。・・・もしかしたらこうなることも予想していたかもね」


冷酒を小さな透明のグラスに手酌で飲むピュンマ。
彼もいつもよりも酒がすすんでいるように思えた。


「フランソワーズは、帰りたい?」

注がれたビールには手を付けずに、ジョーは優しくフランソワーズに訊ねた。
ここで今、「帰りたい」と言えば、ジョーはみんなを置いて自分だけでも連れて帰ってくれるだろう。
確信めいたものが頭によぎる。本音を言えば、帰りたいと思っているフランソワーズだったが・・・
ひと目この酒盛りの場を見てしまったら、「帰りたい」と言うことが酷く我が儘で、みんなが楽しんでいる場を壊すことになる、と思った。
そんな彼女のこころの動きを知っているかのように、ジョーは言葉を続ける。


「今は、キミの気持ちを優先したい、ボクたちのことは気にしなくていい、よ」


ジョーはフランソワーズを安心させるかのように微笑んでみせた。
ジェットとジョーの間に座っていたさくらは、ジョーとフランソワーズのやり取りを聴きながら、ジョーに甘えるように、彼の腕に自分の腕を絡めて甘えた声を出す。


「え~~~~~~~!帰るの~~~~~~~~?ジョー帰っちゃうの???どうしてぇ?みんな楽しいのに、せっかく仲良くなれたのに?」


そんなさくらの甘えた非難の声に同調するように、ジェットもさくらの物真似をして、いつもよりも高音で不気味な声色で文句を言った。


「え~~~~~~~!帰るのかよ~~~~~~?ジョー、お前飲んでね~じゃんかよ~!
なんでだよぉ、みんなで楽しんでんのによぉ!フランソワーズ、お前も飲め!!!」


ぐいっと溢れんばかりにビールが注がれたグラスをフランソワーズに突き出すジェット。無茶させるな、と言いたげに、フランソワーズに突き出されたグラスをひょいっと取り上げたのは、アルベルトだった。


「ジョーの言うとおりだ。フランソワーズ、お前が帰りたいのならオレたちは気にするな、帰ればいい。明日はゆっくりと電車にでも揺られて帰る」


フランソワーズの気持ちや体調を気遣って言ってくれているのは解るが、少しばかり「帰れ」と言われている気がしないでもない。違うと解っていても・・・、素直に「帰りたい」と言えるような雰囲気ではない気がした。


「せっかくですもの。みんな楽しんでちょうだい。ジョー、私は大丈夫よ。コズミ博士もああ仰って下さってるんですもの、今日はお世話になりましょう?」


わざと明るく普段よりも少し強めに言い切った。ジョーはフランソワーズのその返事に、少し首を傾げて表情は、「大丈夫?」と語りかけている。それも解っていたので、フランソワーズは笑顔を始終絶やさずにいることが、今夜の最後の仕事となった。













####

酒盛りは朝方まで続けられたようだったが、フランソワーズは早々にその席を外れて、先ほどまで横になっていた部屋に戻っていた・・・さくらと一緒に。さくらは「もう降参!」と言い、部屋へと戻るフランソワーズと共に酒盛りが行われていた部屋を出た。そして、せっかくだからと、フランソワーズと一緒に寝たいと言ってきたのだ。

酔って勢いのあるさくらに言い負かされて、彼女の申し出を受け入れることしかなかった。
フランソワーズの布団の隣に部屋からもってきた布団を乱暴にひき、フランソワーズは小さなため息をさくらに気づかれないように吐いて、彼女の布団を綺麗に調えた。


「せっかくだもの!!!色々お話しましょ~!」


彼女は寝る気がないらしい。

電気を消さずに、布団へ入り込む。
フランソワーズから口を開くことはない。
今日の車内で話していたように、彼女は明るく会話を始めるものと思われていたが、フランソワーズの予想に反したものだった。


「みなさん、とっても素敵な人たちですね」


しっとりと、その年令よりもずいぶん大人びた声色でフランソワーズに話しかけた。


「・・そう思う?」
「はい!・・・とっても。今日みたいにショッピングできて本当に楽しかったし嬉しかったんです」
「私たちよりも・・・きっと大学へ通えば、もっと素敵なことが沢山あるはずよ」
「そんな・・・今日は本当にすごく楽しみにしていたし、楽しかったです。とっても嬉しかったんですよ、
まさかジョーも一緒だと思ってなかったし」


さくらの言葉に、フランソワーズは反応する。

ーーーああ・・・ジョーが好きなのね?


フランソワーズはこれまでに嫌と言うほど訊ねられた、あの言葉を再び聞いてしまうのかと、憂鬱になる。彼女は胸の中で次ぎに出てくるだろう、さくらの言葉を予想した。


「あの・・・聴いてもいいですか・・・」
「なにかしら?」
「ジョーは彼女がいるんですか?」
「・・・・」
「フランソワーズさんが実は・・・ジョーの彼女・・・さん?」


さくらはフランソワーズが予想した通りの言葉を口にした。
自分のカンの良さというか、これまで何度も訊ねられた経験と話の流れで、彼女”たち”が何を自分に尋ねたいのかがわかってしまう、自分に胸が痛んだ。フランソワーズの口からも再び、何度も言った言葉を口にしなければならない。グレートではないがその科白を言うときの演技力はなかなかのものだと思っている。


「私はジョーの彼女じゃないわ」


さくらの瞳を見つめてしっかりとした口調で、さらに優しく穏やかに、笑顔を保ったまま話しかける。


「彼とは・・・色々な理由があって、縁あって、ギルモア博士を通じて今は一緒に暮らしているけれど、
私にとってジョーは大切な、大切な家族なの。アルベルトやピュンマと同じなの。私には、兄が1人いたんだけれど・・・今は一緒に暮らすことができなくて・・・ね。
それでついジョーやみんなを兄のように慕ってしまうのよ。みんなも私のことを”妹”と思ってると思うわ。だから、ね?さくらさんが心配するようなことはないのよ。私とジョーには・・・それと、彼に彼女がいるって言う話は今のところきいたことがないわ」


淀みなくすらすらと言葉が出てくる。
はっきりと言い切るフランソワーズの言葉は、さくらを安心させたようである。
フランソワーズの笑みに答えるかのように、彼女の顔は喜びと興奮を隠せない笑みが溢れた。


「じゃあ・・・応援してくれすか?」
「え?」
「私、あの・・・まだ数回しかジョーと会ったことがないし、
一日一緒にいたのも今日が初めてだったんです。もっとジョーのこと知りたいし・・・
知って欲しいんです、私のこと。だから”妹”でもある、一緒にいるフランソワーズさんに応援してもらえたらなって・・・駄目ですか?」


フランソワーズは答えることが出来ずにただ、微笑みがその顔に面のように貼り付けていた。
さくらにとっては、その笑顔が”了解した”と、受け止められたと思っていた。














####

昼前にはジェットとコズミ博士以外は全員起きていた。コズミ博士の家には通いのお手伝いさんの「ミツエさん」がいるが、土曜日の今日は彼女にとって休日なので屋敷を訪れることはない。他人の家の台所・・・と、立ち入ることに気が引けたフランソワーズだけれども、さくらが一緒だったので、幾分気持ちは軽かった。

以前にも使ったことがある場所なので、大体の物はどこにあるかが検討がついたが、ギルモア邸では朝はフランソワーズが作りやすいように、と言うか、ほとんど毎日彼女が作るので、彼女好みの朝食となっていた。
トーストとサラダにスープや、ホットチーズサンドにスクランブルエッグやポーチドエッグ。日によって代わるが、完全なる洋食がテーブルに並べられる。

ざっと冷蔵庫などを見たが、コズミ博士は完全なる和食派なようである。
どこにもトーストやパン類が見あたらなかった。


「少し時間がかかっちゃうけど、仕方ないわね・・・」


まずはお米を洗って、お湯をたっぷり用意して。と独り言を呟きながら朝食でなく、昼食の準備に取りかかった。








テーブルに並べられたのは、熱々の白米に、ネギ、豆腐、わかめのおみそ汁。
ほうれん草と黒ごまのお浸しに、だし巻き卵と、野菜炒め、そしてお徳用の冷凍されていた焼き鮭。
席に着いたピュンマと起きたばかりのコズミ博士が感嘆の声を上げる。
アルベルトは緑茶と人数分の湯飲みを乗せたお盆を持って入ってきたさくらに声をかける。


「すごいな・・・、ほとんどを海外で生活していたと聞いていたんだけれど」
「ち、ちがいます!私が作ったんじゃありません!私、料理はまったく駄目なんです!!」


アルベルトの言葉を遮るかのように慌てて、自分ではなく、フランソワーズが全て用意したと言った。


「フランソワーズが!彼女、日本食なんて作れたの!!」


素っ頓狂な声を上げて驚くピュンマ。
彼の記憶では・・・、日本食をギルモア邸で食べた記憶は一切ない。
それどころか、彼女は一度も作ったことがないように思われた。


「ここに居た時に、おみそ汁の作り方は簡単に教えたような・・・気がするが、帳さんも一緒になぁ」


コズミ博士はそう言いながら、ひょいっとだし巻き卵を一切れ口に放り込んだ。
ゆっくりと租借して、にんまりと笑う。


「たいしたもんだ。こりゃ上手い」
「ジョー、きみは知ってた?フランソワーズが日本食を作れたの」
「・・・作ってるから、作れるんだろう、ね」










ジョーはフランソワーズが日本食を作れることに、さほど新鮮な驚きはなかったが、今日のようにきちんとテーブルに用意された昼食には驚きを隠せなかった。

ずいぶん前の話しになるが、戦いの中で重傷を負ったジョーは、食欲がなかなか戻らず帳大人とフランソワーズを悩ませたことがあった。そのときにフランソワーズが「何が一番食べたいの?」と聞かれ、思わず「御飯とみそ汁」と答えたのだ。そんな物がすぐに用意できる環境ではないのはわかっていたが、つい口に出たのは食べ慣れた故国のそれだった。日本から遠く離れた、しかもドルフィン号での生活の中、そんな物が手に入ることはないと思っていたが、ジョーの予想を裏切って、翌日、フランソワーズがトレーに乗せてきたのは、白い御飯とおみそ汁だった。


「あまり上手に作れてないと思うの、ごめんなさい」と、ジョーが箸をつける前に謝ったフランソワーズ。

それ以来、ジョーが怪我をしたり、メンテナンス後の食事は主に”御飯とみそ汁とちょっとした何か”が定番になっていた。アルベルトとピュンマの反応を見る限り、彼らは知らなかったのだと、彼女が自分にだけにそのような食事を作ってくれていたことがわかった。そして、ジョーは彼女がそうやって日本食をたまに作ってくれていたことを、あえてここでは言わなかった。

フランソワーズはいつでも、どんな些細なことでも見逃さずに優しく、相手を思いやることが出来る女性であると、長い共同生活の中、十分に理解していたジョーだったが、今、改めて彼女の優しさに触れた気がした。














ジェットを起こしに部屋へ行っていたフランソワーズが1人で戻ってきて、昼食が始まった。
ジェットはやはり二日酔いがヒドイらしく、まだ起きられそうにないという。
フランソワーズが作った昼食に、口々に驚きと賛辞の言葉がテーブルの上を飛び交うが、フランソワーズはただ「大げさよ・・・食器が良いからそう見えるだけだと思うわ。それに帳大人の方がもっと上手に作れるわ」と、始終、彼女らしい謙虚な姿勢で恥ずかしがっていた。


「これからは、日本食も作ってよ」


ピュンマの言葉に、フランソワーズは微笑みながら「そうね、たまには作ろうかしら?」と曖昧に答えた。











####

ジェットが起き出してきた頃には日がすでに傾き始めたころだった。
思いの外長く滞在してしまったことを詫びながら、車に乗り込む4人。彼らが去るギリギリまで、さくらはジョーとジェットに話しかけていた。


「絶対よ!約束だから忘れないでね!楽しみにしてるから」
「おう!メールすっから、またな!」


そんな内容のやり取りが何度も繰り返され、車はコズミ邸を後にした。





フランソワーズは夕暮れの街を眺めながら、長かった2日間を思い出す。
そして、去り際の玄関先で・・・彼女はとても小さな声でフランソワーズにだけ話しかけた。


「応援、よろしくお願いします、ね」


さくらのその声がずっと耳に残って消えない。

応援と言われても、何をすればいいのかさっぱりわからない。
深く息を吸い込んで一気にはき出すことはせずに、胸に使えた鈍い痛みに触れないように
ゆっくりと息を吐き出していった。








=====  へ 続く




・ちょっと呟く・

こんな感じで・・・いいすっかね?


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