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泣き虫
ジョーは泣き虫なの。
みんな、知らないと思うけど。
本当に、ジョーは泣き虫さんなの。




彼は静かに泣く。

褐色の瞳に映す、やわらかな光がゆっくりと消えていき
彼はそおっと瞼を閉じる。

じっと瞳を閉じたまま、彼は微動だにせず、佇む。

ゆっくりと瞼を開けると綺麗な、とても綺麗な光が彼の頬をに流れ落ちる。

夏の夜空に輝く流れ星よりも、早く、優雅に、美しく
きらきら輝いて流れ落ちる。


私は彼の涙に願う。




泣かないで。



====

「ジョー?」
「・・・・」

彼は何も言わない。
黙ったまま、私の腕を掴み、いつもより少し乱暴に私を抱き寄せると、
髪に顔を埋めてしまう。

彼の涙が、私の髪に、頬に、首筋に落ちる。

「ジョー?」

私は何度も彼の名前を呼びながら、小さくなってしまった彼を抱きしめる。
力一杯、私の命で、魂で、抱きしめる。

私の抱擁を受け止めて、彼も私を強く抱きしめる。

「・・・フランソワーズ」

声にならない声で、私の名前を呼んだ。
その声に答えるように、私はぎゅうっと腕に力を込める。

「・・・フランソワーズ」

私は何も、訊かない。

何も言わない彼だから。
私は何も訊いたりしない。

ただ、彼を抱きしめる。
私が持っているものを全てを捧げて・・・。

少ししてから、彼が私を抱きしめる腕の力が緩まった。
私もそれに倣って、腕を緩める。

彼はもう、泣いてはいない。


「フランソワーズ、君のことが好きで、愛おしくて、・・・苦しい」



ジョーは泣き虫。

溢れる気持ちを、私を愛する気持ちをコントロールすることが出来なくて。

ジョーは泣き虫。


「愛してる、どうしたらいいんだろう・・・愛してるよ、フランソワーズ」

ジョーは泣き虫。



「痛いんだ。こんなに・・・こんなに幸せなのに、君のことをこんなに好きなのに
この胸は痛むんだ。君を好きになれば、深く愛すれば愛するほどに・・・」




ジョーは泣き虫なの。
私を愛し続ける限り、彼は泣き続ける。


泣かないで、と願いながら、私はあなたの涙がいとおしい。


end.




・あとがき・

これが私の中9と3の基本形かもしれません。
最強のサイボーグの島村っちは、こころが能力についていってなくて。
サイボーグとして強度が低いフランソワーズは、こころがとても強くて。

アンバランスな2人だけど、そんな2人だからこそ、ぴったりと合う。
そういう感じで・・・す?



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Day by Day・6
(6)

幼い頃からバレエ一筋で芸術のために全ての時間を捧げてきたフランソワーズにとって、ごく普通の少女が経験する「恋」にとても疎かったような気がする。
フランソワーズの今までの人生で、一度も異性を好きになったことはない、と言うのはウソになるけれども、今までの彼女のそれは、現実に出会うことが難しい歌手やダンサー、またはフランソワーズのお気に入りのストーリーに出てくるヒーローにたいしてだ。

彼女の美しい容姿と、奥ゆかしい性格に繊細な優しさは、多くの異性を魅了して沢山の情熱的な愛の告白を受けた経験はあるが、フランソワーズ自体にあまり興味がなかったらしく、熱烈に愛の言葉を捧げていた人が気がつけば自然と彼女から去って行っていた、と言うのがいつものパターンだった。友人達のように恋人が欲しいと思ったことは幾度もあるけれども、現実問題として何よりもバレエが全てだったため、口で言うほど真剣には思っていなかったのだろう。

今となっては恋の一つや二つ、経験しておくべきだったかもしれない。

生身であった時に。
人として人を愛することが出来た、その時に。



ーーーそういえば、「彼」との関係は恋だったのかしら?
 今までなぜ思い出さなかったの?

B.Gに連れ去られる直前まで・・・
フランソワーズには、1人。とても仲が良かった青年がいた。
彼は同じバレエスクールに通っていた3つ年上の才能ある青年だった。
毎日、一緒にスクールに通い、公演を観に行ってはカフェで声を張り上げて観たばかりの公演の内容にけんか腰で討論した。
何度かフランソワーズのアパルトマンにも訪れたことがあり、ジャンとも・・・面識があった。サイボーグに改造される前のフランソワーズの生活の中で、「彼」が唯一フランソワーズが関わった・・・異性のはずだった。

ーーーああ、そっか、そうだわ。アランのこと思い出さないはずだわ・・・。


####

コズミ邸から戻ってきた翌日に、彼女のカバンから消えたスーパーガンが部屋に置かれていた。
彼女の部屋は相変わらず、ベッドと熱を出したときに運び込まれた簡易テーブルにスチールのイスのみだった。今はベッドの枕元に、フランソワーズの新しい友人である耳の異様に長い白い”うさぎざん”がいる。

スーパーガンを手に取ると、嫌なほどに手に馴染みながら気持ちがすぅと落ち着く。
愛らしい縫いぐるみよりも、戦車を爆破させ、人を殺すことができる、この小さな銃が一番こころの平穏を与えてくれるのだった。



「応援、よろしくお願いします、ね」



不意にさくらの声が頭の中に響いた。
意味がないと解っていても耳を塞ぎたくなった。

正直に、彼女が羨ましかった。
綺麗な女の子、艶やかな黒いストレートの髪に、思い切り声を上げて笑った顔には、三日月のように細くなった線のような目が、とても愛らしい。

生身の彼女。
数回しかあったことしかないジョーにほのかな想いを寄せて、自分のそんな気持ちにまっすぐに行動できる素直さ。明るくとってもおしゃべりだが、会話の内容を聞く限り、相手の様子をちゃんとみながら話しているし、とても頭の回転が速い。女の子らしい、女の子だった。

戦いの中で出会い守らなければならなかった、今までの女の子たちとは、違うような気がした。

平和な世界で、ごく自然に出会った異性。
特別なことは何もない。

普通が特別なのだ。


もしかしたら、ジョーはさくらさんを好きになるかもしれない。


彼女といれば、戦いのことなど考える必要もない。
彼女といれば、年齢相応の恋愛と生活ができる。
彼女といれば、ジョーも望んでいるだろう、本物の日常が手に入る。

本物の日常。

いつまでも続く、当たり前の毎日。


もしもそうなったとき、私はどうするんだろう?
みんなは?
このまま何事もなく、B.G.の陰も自然に消えていったら?

どうなってしまうの?

私は一体、だれ?なんなの?


####

「映画に行かないかい?」

ランドリールームでアイロンがけをしていたフランソワーズに、ピュンマは訊ねた。

「なあに?突然、映画って・・・?」
「みんなで行こうよ」
「・・・みんな?」
「そう、ジェットにジョーにボクにさくら、そしてきみ!」
「・・・もう決まったみたいな言い方ね?」
「ジェットがネットでチケットを買ったんだよ、5枚」
「いつなのかしら?」
「明日だよ」
「まあ、急なのね?」
「よくわからないんだけど、ネットで試写会の申し込みをしたらチケットが
当たったみたいでさ」
「5枚も?」
「詳しくは知らないよ、でもジェットは5枚あるって言ってるし」
「・・・私ではなくて、アルベルトは?」
「行きたくないの?」
「そう言うワケじゃないけれど・・・」

「じゃあ決まり!」

嬉しそうに白い歯をきらりと見せて笑い、ピュンマはさっさとランドリールームから出て行った。フランソワーズは大げさにため息をついてみせる。


「応援、よろしくお願いします、ね」



さくらの声が聞こえた。


その声を振り払うかのように激しく首を左右に振る。
力任せにそうしたせいで、軽い目眩がフランソワーズを襲った。
持っていたアイロンの方に体が傾いていく。
地面がゆらりと沈んだように感じた。

「あぶない」

彼女の体を大きな手で軽々と支えたのは、ジェロニモだった。

「・・・ああ・・・ありがとう」

彼は、外に干していた洗濯物を取り込んで、アイロンがけをしているフランソワーズの元にそれを運んできたところだった。

「何か聞こえたのか?」

大きなからだを、小さくしてフランソワーズの様子をうかがえるように視線を合わせるジェロニモ。

「いいえ、ちょっと・・・」

変なところを見られてしまった気恥ずかしさから、頬が火照るのがわかる。

「・・・何も怖いことなどない。道は常に続いている、ただ信じて歩いていけばいい」
「?・・・ジェロニモ」
「それだけだ。道は常に続いている、太陽は沈むがまた、昇る。陰は光がなければ陰にならない。陰がなければそれが光とわからない」

ジェロニモは大きな手で、優しくフランソワーズの背中をなでてランドリールームから去っていった。


道は常に続いている。
じゃあ、その道は何処へ続いているの?



明日の予定を決めるぞ!とジェットに呼び止められたので、夕食後のリビングで、グレートが入れてくれた紅茶を飲みながら、明日の予定を訊く。今リビングにいるのはジェット、ピュンマ、グレートとフランソワーズである。ジョーの姿が見えなかったが、アルベルトと一服するために庭に出ているようだった。まだカーテンがひかれていないガラス戸には、部屋の明かりに反射したリビングの様子を映しだしていたけれども、注意深く見れば、ジョーとアルベルトが作り出す白い煙が見えないこともない。

「映画は夜なんだね?」
「ああ、明日の5時だ!」
「映画だけ見るの?それとも、もう少し早く街に出る?って言うか会場はどこ?」
「会場はXXX駅内にある”シアター10”だ。ここからだと・・・電車の方がよさそぉだな?」
「でも、さくらちゃんはどうするの?車だったら、コズミ邸に行って彼女を拾って行けると想うけど?」
「まあ、平日だしなぁ。そんなに混んでるはずないしなあ。おい!ジョー、車だせるか~~?」
「そんな大声ださないでよ!もう!」

突然、大声でジョーに向かって叫んだジェット、その声が聞こえたのか、彼は火のついた煙草を手にしたまま、庭へと続くガラス戸を開けた。煙が部屋に入ってこないように、煙草を持つ手を自分の背後に隠す。

「車にしたほうがいいんだ? いいよ、出せるよ」
「ジョー、コズミ邸によって、さくらちゃんを拾っていこうかって言ってるんだけど・・・どっちがいいかな?現地で落ち合うのと」
「・・・コズミ博士の家からだとどっちも一緒だと思う。でも5人か・・・ちょっと狭いね」

今ギルモア邸が所有する車は3台ある。
今回のようにメンバーの足となる車は普通乗用車だ。
もう一台は何処から手に入れたのか、救急車並の大きさのバンで、そしてなぜか、軽トラック。日本の地理にも車を運転慣れしているジョーが主に運転手となっている。

「そんなに長く乗ってるわけじゃねーし、大丈夫だろ?」
「じゃあ、いいよ。狭い思いをするのは、キミたちで俺じゃないからね」
「それじゃあ、いつものじゃない方で行こうよ?」
「あれは・・・街中では目立つ」

「いつも、いつも・・・ジョーにばかり運転させて悪いわよ、電車はどうして駄目なの?」

ジョーが再びガラス戸を閉めて、庭へ戻ったことを確認してから
フランソワーズは呟いた。

「いいんだよ!あいつは好きで運転してんだから」
「・・・私、まだ日本の電車やバスに乗ったことないのよね」

「ええ?! そうなの?」
「ううぇええ? んだ、そりゃ?!」

ピュンマとジェット2人が奇妙な驚きのリアクションをフランソワーズに見せたとき、ジョーは煙草の香りをさせながらリビングへ戻ってきた、が、そのままキッチンへと向かう。自分でコーヒーサーバーに残っていたのをマグに淹れて、リビングへ入ってきた。ジェットとピュンマが並んで座っていたソファは、男が3人座っても十分に余裕があるが、ジョーは対になっていた、もう一つのソファ、フランソワーズの隣に座った。

ジョーがは運んできた外の空気に混じる煙草と珈琲の香り。
意味もなく、彼が男であると意識させられる。
ギルモア邸に女はフランソワーズしかいないのであるが、なぜか「男」としてフランソワーズが意識してしまうのはジョーにたいしてだけだった。そのことに気づかされるたびに、彼女の胸に焦りと、熱く火照る想い、そして必ずその後にやってくる絶望に近い憔悴感。

「ジョー、こいつまだ日本の交通機関を使ったことがねぇってよ」

ジョーは隣に座るフランソワーズをちらりとみる。

「そうだろうね。買い出しは車がないと無理だから」
「って!そういう問題じゃねぇだろう?」
「フランソワーズが、あまり外出しないことは知ってたけど・・・」

ここに居を構えた時、メンバー内で最低限の生活のルールを決めた。それはサイボーグとして生きる彼らにとって、必要不可欠なものであったからだ。それ以外は自由だった。それぞれが、好きな時間に外出することができた。その場合、必ず連絡できる状態であること。単独行動の場合は回線を開いておくこと。単独での外泊の場合は事前に宿泊先を知らせること。全員に配られた携帯電話には、日本国内のみであるが、それぞれの現時在地が解るように、特殊な改造を施されてもいた。

「だって、別に・・・生活には困らないもの」
「日本って面白いよ?この間、ボク”はとバス”で観光してきたんだ」
「ジェロニモとだろ?」
「そう!すっごく面白かったよ、浅草!煙をねこうやってかぶるんだよ!」
「・・・」

いつの間にか。
彼らはいつの間にか、自分の時間を楽しんでいる。

ピュンマは日本の古い神社やお寺に興味があるらしく、ジョーを捕まえてはガイドブックを見せて色々と質問している姿を何度か見たことがあった。

ジェットとピュンマは明日の予定から見事に打線していた。
フランソワーズも得に何も言わない。ジョーも黙って彼らの話を聞いていた。

ティーカップにうっすら残る、茶色の液体。
このまま放っておいたら、グレートが一目惚れしたと言う、とても綺麗なカップに茶色い線のシミをつけてしまう。漂白してもいいけれど、それだと綺麗に描かれた繊細な花の絵柄が傷んでしまう。
テーブルからカップを手に取り、両手で包み込む。
一滴ほどの液体は、フランソワーズがカップを傾けると、傾けた方向へ流れていく。

ーーーグレートはどこでこのティーカップセットを買ってきたのかしら?


「電車、乗ってるみる?」

「電車とバス、乗ってみたい?」

耳元で聞こえたジョーの優しい声に、驚いて顔を上げてジョーみた。
彼は口元を微かに緩めて、フランソワーズの顔をのぞき込むように首を傾けていた。

「あの・・・」
「どっちでもいいよ」

フランソワーズもはっきりと言えばどちらでも良かった。
できれば映画にさえ行きたくはなかった。

映画は、よくわからない○リウッドのサスペンス・アクションだった。

「車にしようよ! 映画だけなんて面白くないから、ちょっと早くに出てから、さくらちゃんを拾ってドライブなんてどお?」

ピュンマの一言で、全てが決まった。


ドライブのために、明日9時にはここ、ギルモア邸を出る。
11時ごろにさくらを拾い、新しく出来たばかりの水族館へ行くことになった。
もちろん、全てピュンマの意見だった。


####

ジョーの運転の技術もそうだが、道路が空いていたせいもあって1時間近くも早くコズミ邸につき、予定よりもかなり早い時間に、目的地であったXXX水族館についた。

平日の所為で人もまばら。同じ服を着た団体がいる。・・・多分どこかの日本の学生たちだと想われた。
さくらは「水族館は夏に観るモノなのに」っとずっと笑っていた。
なぜ夏と限定するのか、フランソワーズは不思議に思っていたが、日本人は目で見て涼むと言う文化があると、ピュンマが教えた。熱い夏に、海の生物、水にを見ることで、熱さを凌ぐ。そういうことで夏の水族館はたくさんの人が訪れるという。風鈴と同じような効果なのかな?と、フランソワーズは考えた。

チケットを購入するときに、係の女性に英語で対応された。
留学生のグループに思われてたのだろう。
チケットは、何も言わなくても学生料金になっていた。

広く白と水色で統一されたエントランスを抜けると、3階吹き抜けの大きなグラスが立ちはだかる。そこに広がったのは神秘的な海の世界。

一日かけて早足で見てまわっても全部は周りきれないくらいに大きかった。

12時を過ぎたところで、時間に正確なジェットの腹時計が鳴った。
館内のフードコートで昼食を取ることにする。レストランもあったが、手軽に済まそうということと、日本では珍しいファスト・フードショップもあったので、ジェットの希望が通り、そういうことになった。

「日本のバーガーはボリュームがなくって、小せえからやっぱ不満なんだよな~」
ジェットがトレーに乗せてきたのは、アメリカで有名なバーガーチェーン「バーガー・○ング」の一番大きいサイズ・セットだった。

それぞれが好きな店で食べたいものを購入し、席へ戻ってくる。

フランソワーズはクラムチャウダーとパンを購入し、甘い物が欲しくて、レジ近くにあっ3枚入りのクッキーを買い、珈琲は頼まないつもりだったが、多分クッキーを食べてると欲しくなるだろうと、珈琲も買い足した。
ピュンマもフランソワーズと同じ店で買った。彼はBLTサンドとサラダにスプライトを注文している。
ジョーとさくらは、まだ何を食べるか決めかねているようで、2人歩いている姿が見えた。

「気になる?」

無意識に、2人を目で追っていたフランソワーズに、それを咎める風でもなくピュンマが話しかける。

「・・・私は別に・・・」

トレーを持ってピュンマとフランソワーズはジェットのいる席へと歩き出す。

「そう?気にならないの?・・・ボクは気になるな~」
「・・・どうして?」
「だってさ、さくらちゃん可愛いもん」
「そう・・・ね、とっても魅力的な子よね」
「うん、だからジョーもジェットもきっとさくらちゃんのこと好きだよ」
「・・・ええ、そうね」
「でもさ」
「・・・・」

「フランソワーズの方がもっと、もっと素敵だと思うよ」

フランソワーズは足を止めて、ピュンマを見る。

「ジョーもジェットも、さくらちゃんよりもフランソワーズの方が大好きだとも思うよ」

ピュンマはにっこりと満面の笑顔で自信満々に宣言する。

「・・・ありがとう」

フランソワーズは正直に嬉しかった。
ピュンマの言葉にこころから感謝しする。しかし、一瞬にしてその喜びは消え去り、頭の中に浮かんだのは・・・

ーーー同じサイボーグの仲間だから。








===== へ 続 く
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Day by Day・7
(7)

ジョーとさくらは、ブッフェタイプの量り売りの店で昼食を買って戻ってきた。2人が席についた時にはすでにジェットは食べ終わり、満足げにコーラを飲んでいた。

食後、ピュンマは見たいところがあると言い、別行動をすると言い出した。誰もそれを嫌がりはしない。車を停めている駐車場に3時に集合と言うことで、話がついた。

さくらは熱帯魚などの小さい魚たちが見たいという。
彼女は、ちらり とフランソワーズに視線を送る、多分ジョーと2人になりたいのだろう。ジェットは2人について行くかもしれないから、彼を引き留めるのが、さくらを応援すると言う形になる、と頭の中で機械的に考えたフランソワーズ。

「私は、せっかくだからみんなにお土産を買いに行くわ、ジェットはどうするの? 良かったら付き合ってよ」
「・・・・おお、いいぜ」

さくらはフランソワーズの言葉を聞くとほぼ同時に、ジョーの腕に自分の腕を絡めて、彼を引っ張った。

「じゃあ、ジョーは私につきあってね!!」
「ああ・・・」

お土産用のショップは、エントランスの右側に大きく場所を取っていた。
店の中でフランソワーズは、みんなへのお土産にいろんな海の生き物を象ったクッキーの詰め合わせを手に取った。とても凝った作りで、日本のこういう細やさがフランソワーズは好きだった。
博士には、何も飾り気のない研究室に飾ってもらおうと、綺麗な海の写真を数枚。そしてイワンには、イルカの刺繍が施されたベビー用タオルケットにした。ずっとイワン用に軽くて丈夫なものを探していたのだが、季節的な所為か、フランソワーズが欲しいと思っていた物がなかなか見つけられなかったのだ。今、手に持っているそれは、肌触りも良くフランソワーズが探していた理想のものとピッタリだった。

「イワンにか?」
「そう!ずうっと探していたのよ、素敵だわ、ここで見つけられるなんて!!ほら、イルカの刺繍が可愛いでしょ?ふふふ、ドルフィン号用にも、色違いを買っておこうと思うの」
「ふ~ん」
「ジェットは、何か買うの?」
「オレか?・・・別にここじゃあ欲しいもんはねぇかな~、そういうおめぇは?」
「私?」
「自分のもんは買わないのかよ?」
「・・・私も特に、ないかな・・・」

ジェットはフランソワーズの顔を見つめる。
いつもと違って、彼は戯ける様子もなく・・・その態度は、フランソワーズがよく知るジェットだと思った。彼との付き合いは長い。普段の彼は何かとてもはしゃいでいる感じがするが、本来の彼はとても落ち着いた・・・アルベルトと性格的によく似た部分があることを、フランソワーズは知っている。そんなことを言ったら、アルベルトは怒るかもしれないが。

「なんであんなコト言ったんだ?」
「なあに?」
「なんで、オレなんだよ?ジョーに付き合ってもらえば良かったじゃねぇか」
「・・・あら、あなたは私と一緒が嫌なのね?」
「そうじゃねーよ」
「じゃ、いいじゃない」
「本当にいいのかよ」
「ええ、いいのよ」
「お前、バカだろ?」
「まあ!失礼ね!」
「ジョーも大概バカだけど、お前も相当だな」
「なによ、それ!失礼ね、あなたよりはバカじゃないわよ!」
「い~や、お前はオレより確実にバカだよ」
「もう!」

フランソワーズはこれ以上話しても意味がない、とばかりに手に持った品と一緒にレジへと向かう。精算している時に、ショップの入り口から見慣れた栗色の髪の青年が、黒髪の少女と一緒に店に入ってくるのが見えた。フランソワーズは思わず、2人を意識的に見ないようにした。
それから数秒ほど間を開けて、ジェットがジョーを呼ぶ声が聞こえた。

「何を買ったの?」

ジョーとさくらに合流したジェットとフランソワーズ。
ジョーはフランソワーズの手にある水族館のロゴが入った袋を見て訊ねた。

「ええ、みんなへのお土産と、博士に・・・。イワンにね、ずっと探していた素敵なものを見つけたのよ」
「良かったね。それで、キミの分は?」
「?」
「キミは何も要らないの?」
「ジェットと同じことを訊くのね?」

「ジョー、ちょっと見て~!」

少し離れたところから、さくらがジョーを呼ぶ。
ジョーは振り返り、そのままさくらの方へ歩き出す。

その後ろ姿を見ながら、ふいに、赤いあの服を着ているジョーの背中と重なった。
ジョーであってジョーでない、009の後ろ姿と。

「フランソワーズ、もしかしたらピュンマがもう待ってるかもしれねぇから、先に行ってようぜ」

ジェットはジョーから預かった車の鍵を見せる。
さくらは買い物をするつもりらしく、ジェットの言葉に頷き2人は駐車場へと向かった。
駐車場にピュンマの姿はなかったが、5分もしないうちに、彼は小走りで駆け寄ってきた。

「ごめん!待たせたかな?」
「いんや、俺たちも来たトコだ、ジョーとさくらはショップで買い物中」
「そうなんだ」

15分ほど待っただろうか。
ジョーとさくらが駐車場に戻ってきたとき、さくらはとても大きなシャチの縫いぐるみを両手に抱えていた。

「可愛いでしょ!!」

縫いぐるみをぎゅううっと抱きしめて笑う。


ずうっと、ずうっと遠い昔にフランソワーズは・・・さくらのように笑ったことがあるのを思い出した。


####

映画館は駅ビルの最上階にあった。
”シアター10”と言う単純なネーミングの通りに、10のシアターがあり、様々な映画を上映している。駅ビル地下の駐車場に車を停めたとき、開場まで20分ほど時間に余裕があった。「さすがジョーだね」と、ピュンマが笑った。
予定していた時間よりも遅く水族館を後にしたのだが、予定通りに駅ビルに到着した。

「褒めてくれても、何も出ないよ」

少し照れたように、ピュンマに答える。

「ええ?褒め損なの、ボク?」

笑ったまま少し困ったような顔をする。

####

映画は前評判も良く、その通りに面白かった。
ジェットは映画にとても満足していたし、ピュンマも興奮してストーリーについて語り、さくらは、好きだった映画の俳優が出ていたと言ったが、どうしてもその俳優の名前が出てこないらしく、「思い出せそうなのに思い出せなくって気持ち悪い!」っと叫ぶ。ジョーは、エレベーターに乗り込む前に、フランソワーズが見入っていたポスターを少し離れたところから見ていた。

フランソワーズは、うっとりと・・・輝く宝石のような瞳を潤ませて、夢見る少女のようにポスターを見入っていたかと思うと、その下に書かれていた文字か写真かに、大きな目をさらに大きく見開いて・・・時を止めた。


”パリ・○○○バレエ団海外公演・眠りの森の美女”
”天才・Choreography、コレオグラフィー/アラン・モルディエ 来日”

大きく目立つように書かれた文字と写真。


車に乗り込んだ時の彼女の顔色は、夜のライトのせいではなく異様に白かった。


####

さくらをコズミ邸まで送っていき、ギルモア邸へ戻る車内。
ジェットとピュンマは後部座席で眠り込んでいた。
さくらが居なくなった後、ジェットが「狭いから前に乗れ!」っとフランソワーズを助手席に押し込んだ。

こころなしか、いつもよりゆっくりと走っているように感じる。

バックミラーでジョーは後部座席で熟睡する2人を確認して、その目線をフランソワーズへ ちらり と向けた。

「気分・・・が悪い?」
「ううん、大丈夫よ、ちょっと・・・疲れたのかもしれないわ」
「そう。寝ていてもいいよ?」

ジョーの言葉に、首を左右にふる。

「・・・・ジョー?」
「なに?」
「ありがとう」
「なにが?」
「お友達」
「・・・うん」

車が走り去る音。
エンジン音。
風をきる音。

信号が赤で止まると、微かに聞こえる街のざわめき。

穏やかな寝息。

「フランソワーズは・・・」

アクセルを踏み、車を走らせる。
右折するために、ハンドルをきる。

「フランソワーズ、キミは・・・」
「私たちは・・・何処へ向かっているのかしら?」



「・・・明日だよ」




「そこは、戦いのある明日?それとも何もない平和な明日?」

「キミがいる明日」

「・・・私がいる明日?」

「うん」

「ジョーは・・・何処へ行くのかしら?みんなは・・・何処へ行くの?」

「何処にも行かないと思う」
「違う、そう言う意味じゃなくって・・・」
「同じだよ。ずっと一緒に居る。何処に行っても、同じ場所に還ってくる」

「・・・サイボーグだから?」

夜の海が見えはじめた。
なだらかなカーブが続く。
いつもより丁寧にそのカーブに沿って車を走らせる。


「人で在り続ける限り、仲間である限り、フランソワーズが・・・キミが生きるている明日が続いていく限り」


「・・・ジョー・・・私、怖いわ。この穏やかな、平和な日々が怖いの。あんなに求めていたのに、焦がれいたのに・・・。可笑しいでしょ?ずっと、ずうっと戻りたいと願っていた生活が今、あるのに。それが怖いの・・・。求めてしまうの、003に戻りたいって思ってしまうの。戦いの中に身を置いたほうが楽だったって・・・思うの」

「可笑しくない・・・。俺も怖かったから。自分が島村ジョーなのか、009なのか、わからなくなる時があったから。自分が何処にいるのか解らなかった。でも・・・」

「でも・・・?」

「つまんないことだって、わかったから。そう言うことを考えることが」

ゆっくりとアクセルから足を離し、ブレーキを踏む。
車が止まる。
窓の向こうから、波の音が聞こえる。

「つまらない・・・ことかしら」

ジョーは、ゆっくりとフランソワーズの方を向いた。

「俺は生きてるから、今を。生きてるんだよ、フランソワーズ。俺たちは、平和な日常でも、戦いの中でも・・・生きてるんだ、明日を生きるために。だから、何も変わらない。同じだよ」

「・・・・わからないわ」

「うん。・・・でもきっと、わかるよ」

「・・・・怖くないって思えるかしら?」

「怖くないって思えばいい」

「そんなの、無理よ」

「無理じゃない」

「無理よ!」

「どうして?」

「だって、怖いもの!」

「平和な日々が消えて、また戦いの日が続くことが?戦いの日々が訪れずに、平和な日常が続くこと?・・・自分がどこに居るのかわからない?」

「そうよ!」

「でも、キミはキミだから。何も変わらないし、同じなんだ」

「・・・ジョー、私はあなたみたいに、強くない」


ジョーはフランソワーズの言葉に驚く。


「なにを言ってるんだい、キミは・・・俺より強いくせに」


「そんな・・・」
「たぶん、みんなの中で一番キミが強いと思う」


ジョーはフランソワーズが今までみたことがないほどに、温かく穏やかに微笑んだ。


「キミが一番強いよ」


####

車はギルモア邸に着いていた。
ガレージへ車を戻す前に、ピュンマとジェットを起こし、フランソワーズと2人を先に邸へ帰らせれた。ガレージに車を戻し、エンジンを切ってドアを開けると、邸に戻ったはずのジェットが立っていた。

「ったく、色気のね~話しばっかしやがって、面白くねぇぞ。せっかく寝ててやったのによ」
「ああ、やっぱり”フリ”だったんだ」
「気づいてたのかよ?」
「・・・当然」

ジェットは手に持っていた、缶ビールをジョーに差し出す。
ジョーはそれを受け取り、車のドアを閉めてプルトップを開ける。
ジェットはガレージから出て、玄関先の柵にもたれかかり、ジョーは玄関脇に置きっ放っなしになっている錆びたスチールイスに腰掛けた。

「まあ、でも。あいつがあんなコトで悩んでるとはな~・・・あいつに相応しい日常が、望んでいた生活が手には入って・・・・喜んでんだって、幸せだろうって、オレは思っていたのによ。一番にそれを味わって欲しかったやつが、一番・・・それを拒んでいたってか?」
「拒んでいたんじゃなく、実際に手に入れた平和だからそれを失うことが怖くて、臆病になってるだけ、さ。手にしたからこそ、怖いんだ・・・」
「はっ!オレはそんなに繊細にできてねぇんで、わかんね~よ。そんなの」
「ジェットは、それでいいんだ。ジェットはジェットなりにもう、解決してるだろ?」

ジョーの言葉を聞きながら、缶ビールをぐいっと半分まで一気に飲み込む。

「で。お前はさ、どう思ってんだよ?」
「何を?」
「すっとぼけんなよ、あいつだよ、あいつ!」
「あいつって誰さ?」
「だ~か~ら~!!」

「俺ももう疲れたから、寝る」

「おい!待てよ!!逃げんなよっっっ!」
「おやすみ」

「おい、待ちやがれ!ジョー!!!!!!」


ばたん っと玄関のドアが閉まる。



「くっそ!」

ジェットは残りのビールを飲み干すと、力任せにそれを握りつぶし、思い切り海に向かって投げた。




ーーー私たちは・・・何処へ向かっているのかしら?

ーーー・・・明日だよ

ーーーそこは、戦いのある明日?それとも何もない平和な明日?


ーーー  キ ミ が い る 明 日  ーーー


「な~にが、”キミがいる明日”だよ!っなに好きなら、とっととくっつきやがれ!・・・あいつの不安や恐怖なんてあっという間に吹き飛ぶじまうってぇのによ!」





===== へ 続 く


下のnextで8へすすみます。 ⇒ 続きを読む
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Day by Day・8
(8)

明日の朝はいつもより早く起きなければならない。
宵っぱりな上に、朝が弱いジョーは、早めにシャワーを浴びて部屋に戻ろうとしていた。
リビングで1人酒を楽しんでいた、グレートにふいに呼び止められる。

「もう寝るのか?」
「早いからね、明日」
「ああ、また”あの娘”と出かけるって言ってたな、買い物だろ?」
「アルベルトとピュンマもね」
「フランソワーズも一緒か?」
「そう」
「・・・ジョー、お前に頼みっていうか、まあこれは、全員の願いであるからして。なんていうかな、役としてはお前が一番似合ってるし、姫も素直になるだろうからして・・・ちょっと、ここ、座れや、ジョー」


####

ジョーはいつもの車に、アルベルト、ピュンマ、フランソワーズを乗せてコズミ邸へ向かった。コズミ邸で待っていたのは、さくら。ピュンマは博士に頼まれた書籍類を両手一杯にもって、さくらと入れ替わる。
4人を乗せた車は、雑誌で取り上げられる、今一番人気のショッピング・モールの駐車場へと滑り込む。ここにある「店」が今日の目的地だった。

日本で唯一支店を出す「ローレライ」と言うセレクトショップは、遠く海外に住むさくらの母親が指定した店だった。彼女の家はどうやらそれなりに「裕福」らしく、独り暮らしではないにしろ、自分の手をはじめて離れて暮らす娘を心配して、その店で服を購入しろと言われた、と言う。
来週、さくらの通う予定の、日本でも指折りのお嬢様大学が催す、9月入学の編入生・帰国子女のための交流会を兼ねたパーティが開かれるという。
さくらの母親が、娘が恥をかかずにすむようにと、自分が指定した店で、その日に着るドレスを購入するように、と強く言ってきたのだ。

ショッピング・モールは郊外にあり、流石に車がないと不便な場所であったため、コズミ博士を通して「お願い」されたのだ。
車が要ると言われれば、同行するのは自然とジョーということになる。その電話を取ったのは偶然にも、留守にしていたギルモアに代わってアルベルトだったことで、なぜか彼も同行することになった。男2人でドレスの買い物に付き合うのは、どうかと思うと言う意見があり、あまり気乗りしないフランソワーズも行くことになった。

ショッピング・モール内でもトップ・フロアにある店舗は、ここまで来るまでにひやかしで観ていた店とは大きく異なった。

店に一歩踏み入れたさくらに、アルベルトと同世代?くらいの品の良い女性が4人のそばにやってきた。

「真鍋さまでございますか?」
「ええ、さくらです」

さくらは臆することなく答えた。その様子を観る限り、慣れているのであろう。

「いらっしゃいませ。さくらさま、お母様より承っております」
「お願いしますね」
「今日の担当の藤川と申します、ヨロシクお願い致します」

女性はにっこりと微笑み、さくらと同行した3人を観た。

「いらっしゃいませ。紳士物も取りそろえておりますので、どうぞ気軽に手に取ってみて下さいね。そちらのお嬢様も、私どもの店はカジュアルなものもございますので、お気に召したものがございましたら、遠慮せずにお試し下さい」

場違いなところに来てしまった・・・と思う3人の緊張を察したのか、優しく話しかける。
「じゃあ、私、ちょっと母が選んだって言うドレスを試着してきます、着てくるから意見を聞かせてね!」

さくらは3人に向かってそう言ったが、視線は常にジョーに向けられていた。
店の中にある試着室へと案内されるさくらを見送って、所在なさげに立ちつくすジョーとアルベルト。フランソワーズは、やはり女の子。店内に並べられている品々を、マネキンが着る美しいワンピースに、いつの間にか吸い寄せられて店の中を歩きまわる。
広すぎる店内にいる客は、平日のためなのか、この店が特別な・・・所為なのか。
試着室に居るさくらを除いて3人のみ。
ふらふらと歩くフランソワーズを目で追いながら、入り口の壁際に立つジョー。そんな彼の隣に突っ立っていたはずのアルベルトは、いつの間にか移動して、店内左奥にある紳士物が置いてある場所にいた。何にたいしても自分流の拘りがあるアルベルトだ。この店の雰囲気にでなく、その質に興味があるのだろう。

ジョーは軽くため息をついて、また視線をフランソワーズに戻す。
彼女は先ほどから、マネキンが着ている薄いサーモンピンクの春物のワンピースを見ている。そうかと思うと、またふらふらと歩き出した・・・・かと思うと、引き寄せられるかのように、また同じマネキンに近づいていく。

彼女はそのワンピースを触りたいのか、手を出そうとするが、一瞬躊躇して・・・すっと両手を後ろにまわし、細く、白い左の手首を右手で握った。

きゅっとフランソワーズの右手に込められただろう力が、ジョーは同じ力で自分のの心臓を握りしめられたような感覚に陥った。

ふと、自分に向けられた視線に気がついた。
50代に手が届きそうな、小柄なショートヘアがよく似合う女性が立っていた。退屈そうに壁際に立っている、ジョーが気になるのだろうか?ジョーは壁から離れ、まっすぐにその女性に向かって歩き出す。
ネームタグに”入江”と書かれてた文字が見えた距離にまで近づくと、ジョーは、女性に話しかけた。



入江は、笑顔でフランソワーズのそばに近づいてきた。

「こちらでよろしいですか?」

ワンピースに見入っていたフランソワーズは、女性が近づいてきたことに全く気がつかなかったのだろう、とても驚いた。

「素敵な色でしょう?先週入荷したばかりの春物ですよ」
「え・・・ええ。とても可愛らしいワンピースですね」

フランソワーズは入江の笑顔につられて、笑顔で答える。

「この色はフランソワーズさまの髪の色にも、瞳の色にもとても映えると思われますよ、ご試着なさいますか?」
「あの・・・!?」

突然、入江の口から自分の名前が出てきたので、彼女はさらに驚いた。
フランソワーズのそのようすを嬉しそうに見ながら、入江は話し続ける。

「全て島村さまよりお話は承っておりますから、ご安心下さい。さあ、お好みのものがございましたら遠慮なくお申し付け下さい!今は春物がメインに商品を出しておりますが、夏物もございますから、ね!」

この小柄な日本人女性の言葉がどこかよその国の言葉に聞こえる。
話しが飲み込めないフランソワーズは、助けを求めるように、店内にいるであろう、ジョーとアルベルトの姿を探した。アルベルトではなく、ジョーは入江から少し離れた場所に立って、フランソワーズを見ていた。
ジョーは動揺の色を表情に出すフランソワーズに気づき、少しだけ恥ずかしそうに、けれどもしっかりとした足取りで彼女のそばまでやってくると、ハッキリと言った。

「僕は・・・こういうのわからないから、入江さんにお願いしたよ」

「え?ジョー??」

「好きなのを選んで。僕がぜんぶ買うから」

ジョーはそういうと、入江に向かって広い店内にある品々を示しながら話しかけた。

「入江さん、あそこの棚にある白の・・・シャツ?と水色のスカート?ひらひらしたのがついてる・・・それと、右側の人形が来てるレースみたいなのと、その隣にある棚の黄緑色のこれに似た感じのを、彼女が見ていたから」

「!?」

入江は満面の笑みでジョーを見た。
そして「少々お待ち下さい」とレジの奥にあるスタッフルームに小走りに向かい、ドアの奥に向かって何事か話している。

入江と共にスタッフルームから出てきた若い女性は、先ほどジョーが入江に話した品々を手際よく集めて、試着室へと運び、フランソワーズが見ていたワンピースも、マネキンの隣にハンガーで掛けられていたサイズが違うものを同じように試着室へと運ぶ。

「ほかにございますか?」

「・・・・」

呆然とジョーの顔を見つめるフランソワーズ。
何か面白いものを見つけたような、悪戯っ子のような笑みを浮かべるジョーは、入江に言う。

「入江さんも彼女に似合うと思う物を選んで下さい。彼女はフランスから服らしい服を何も持ってこなかったので、お願いします」
「はい、かしこまりました。でしたらコーディネートも考えて選ばさせていただいてよろしいでしょうか?」
「・・・いい?フランソワーズ?」

フランソワーズは、ジョーと入江の顔を交互にみる。
ジョーはフランソワーズにかわって、入江に答えた。

「いいみたいですよ、フランソワーズをお願いします」


そんな3人の姿を遠くから、興味深げに眺めているアルベルトがいた。
入江に手を引っ張られて、試着室へ連れて行かれるフランソワーズを見送ったジョーが振り返った先にアルベルトを見つけて、彼に歩み寄った。

ジョーが口を開こうとしたが、一寸早くアルベルトが話し出した。

「これはこれは、王子様。姫のご機嫌はいかがでしたか?」

ジョーをからかうような、グレートの口まねをするアルベルトはよっぽど機嫌がいいようだ。

「やっぱり、見てたんだ?」
「お前にしては、えらく気が利いたことをするじゃないか?」
「・・・そう?」
「誰の入れ知恵だ?」
「グレート・・・こうでもしないと、フランソワーズはずっと冬服のまま春も夏も過ごすだろうって言われた」
「・・・まあ、あのままだったらそうだろうな?」
「今日は、さくらも服を買うための買い物だから、ちょうどいいって、昨日教わった」
「教わった?」
「彼女に有無を言わせずに服を買わせる方法」
「それが、あれか?」
「そう」

ジョーは夕べのことを思い出す。


ーーー・・・ジョー、お前に頼みっていうか、まあこれは、全員の願いであるからして。なんていうかな、役としてはお前が一番似合ってるし、姫も素直になるだろうからして・・・ちょっと、ここ、座れや、ジョー。

グレートは、ぱんぱんっと自分が座るソファの隣を叩いた。
酒は飲んでいるが、いつにもまして真剣な顔で言われたので、ジョーは言われるがままに、席に着いた。

「なに?」
「・・・フランソワーズのことさ」
「フランソワーズ?」
「明日は、さくら・・ちゃんだっけかなあ?その娘の服を選びに、わざわざ今流行の店に行くんだってな?」
「ああ、うん。車がないと不便な郊外にあるんだ」
「うむ・・・でな。お前、フランソワーズの服とか気になったことないか?」
「フランソワーズの?」
「姫は・・・ドルフィン号では気にならなかったかもしれんが、こう・・なあ、平和な生活の中で、あの服の数は・・・少なすぎると思わないか?」
「・・・俺そういうの、わからないから」

グレートは自分の手にあったグラスをテーブルに置いた。

「そうか、まあ、そうかもなあ。でも、やっぱり女の子があれは、可哀相だ・・・ジョー、お前そのさくらちゃんって娘と、何回も会っててどう思った?」
「どうって?」
「・・・較べるって言うのは口が悪いが・・・多分、なあ女の子として、フランソワーズはあまり良い身なりじゃないだろ?もちろん、そんな服なんてもんに左右されないくらいに、姫はどんな宝石にも負けないほどに美しい、どんなに香り豊かに咲き乱れる花々も、フランソワーズのそばに置けば、色あせてしまうくらいに、姫は美少女だがな!・・・でも、それだけじゃあ・・・。せっかくこんなに平和なんだ、姫にだって年相応、と言うか、その、改造される以前のような、女の子が女の子らしい生活を取り戻してやりたいって、な」
「それは、俺らが言うことじゃない。彼女自身がどうしたいかだと思う」
「正論だ」

グレートはグラスを持ち上げ、グラスの中にある液体を飲み干した。

「だがな、ジョー。誰しも一歩踏み出せない時、誰かが背中を押してやることで、前へ踏み出すきっかけになることも事実だ。そういうのも大切だと、思わんか?」
「それが、フランソワーズには必要?」
「きっかけはなんだっていい、ただ男として、何か女性にしてやるんだったら、そして今の姫のためには、この方法が良いんじゃないかと、思ってな。ジョーできるか?」
「・・・それが、フランソワーズのためになるなら」
「あのままだと、姫は、春になろうと、季節が夏になろうとも、セーターを着たまま過ごすことになるぞ?」
「?!」
「なる、ならない、は。ジョー、お前次第だ!」

グレートはジョーに向かってウィンクをし、ジョーのために用意したシナリオを語り始めた。



ジョーは夕べの出来事を包み隠さず全てアルベルトに話した。

「ふん、グレートが考えつきそうなことだが、ジョー、それが正解だ」


####

さくらの母親が用意したドレスは4着あった。
出されたそれらは今のさくらの気分に合う物ではなかったので、今日の担当だと言う藤井に素直にそのことを伝えると、彼女は心得えたもので、さくらからどういう物がいいのか意見を聞き、試着室から出て行った。
さくらは、藤井が見立ててくるであろうドレスがくるまで、ジョーと話していようと、無駄に広い試着用の個室のドアを開けた。

ドアを出てさくらの目に飛び込んできたのは、鏡の前に立つフランソワーズだった。

「とってもお似合いですよ、フランソワーズさま。春物ですが、トルソー部分がベアトップなので、こちらのレースの羽織物や、カーディガン、もしくはショールなどをお使い頂く方が、普段にはよろしいかと思います。こちらの白のジャケットも素敵ですよ。さすがに室内でないと、こう、肩を出してしまうデザインは寒いですから」

さくらは、目の前にいるその女性がフランソワーズだとは、わからなかった。
さくらが知っているフランソワーズは、いつも彼女の年令にしては、地味で保守的な・・・口悪く言えば古めかしい服装で、お洒落することが不得意な印象を持っていたが、初めて一緒にショッピングしたときに彼女がアドヴァイスをしてくれたセンスの良さは、さくらも舌をを巻いたのを覚えている。
今回、できればジョーと2人でここを訪れたかったが、アルベルトは予定外だったが、フランソワーズの同行を良く思ったのは、純粋にドレスを決めるときに相談に乗って欲しかったからだ。

さくらは彼女が一度も・・・いや。以前水族館に行ったときに買った土産物以外の買い物をしているところみたことがなかった。

今、目の前にいる艶やかで美しい女性が、あのフランソワーズだとは信じられなかった。フランソワーズは、個室から出てきたさくらに気づき、恥ずかしそうに微笑んだ。

「お母様がお選びになったという、ドレスはどうなさったの?」

その声は、さくらの知るフランソワーズの声だった。
さくらは今あらためて、服によって女性がこれほどまでに変わるのかと思い知った。
たしかに、フランソワーズは目を見張るほどの美しい女性だった。けれども、それだけだと思っていたのだ。綺麗な人。綺麗な髪。綺麗な目。綺麗な肌。綺麗な躯。
さくらが表現するフランソワーズはただの「綺麗」という音を使う女性だった。

「あの、フランソワーズさん?」
「?ええ、さくらさん・・・どうなさったの?お母様がお選びになったドレスはお気に召さなかったのかしら?」

フランソワーズが少し困ったように首を少し傾けて、小鳥のような愛らしい仕草をみせた。

「あ・・・ええ、イメージと違うから、今ね・・た、担当の人に新しくいくつか持ってきてもらって、そ、それら、と一緒に考えようと思ってるの」

さくらは明らかにワンピースを着たフランソワーズに動揺していた。
フランソワーズの着ているものは、少し大胆に肩を出すタイプなだけで、とてもシンプルなもの。さくらはそんなワンピースを何枚も持っていたし、飽きてもいた。

フランソワーズはきちんと、そのワンピースをを着こなしていた。
まるで、彼女のために作られたオートクチュールのように。

入江はそんなフランソワーズの姿に、自分の娘のように視線でフランソワーズを見ている。
「このワンピースが一番お似合い!せっかくですから、島村さまにも見て頂かないと、せっかく買って頂くんですもの、ここでフランソワーズさまだけが楽しんでいては島村さまに失礼ですよ」

さくらは、店員の言う「島村」と言う名字に聞き覚えがなかった。

「ね、ジョーはまだ店の中にいる?」
「ええ、いると思うわ」
「わ、私、ドレスがそろうまで、彼と話してる」

入江は2人の会話を聴いて、にっこりと微笑む。

「フランソワーズさまもご一緒に、さあ」

入江は恥ずかしがるフランソワーズをさくらと一緒に強引に試着室から連れ出した。



ジョーは息をのむ。

恥ずかしそうに、その頬を染めて・・・さくらと入江に隠れるように現れたフランソワーズは、明るい照明にきらきらと輝く細絹のような美しい亜麻色の髪をゆったりと揺らし、剥き出しになった華奢な肩、その白い肌は真っ新な雪のように輝き、眩しい。
ほっそりとした肢体は春色に相応しい薄いコーラルピンク色のソリッドタイプののワンピースに包まれている。
線の細い躯には不似合いな豊かな胸を、柔らかなシフォンが幾重にも重ねられたデザインが包み、なだらかにウェスト部分まで繋がっている。ゆったりとしたデザインだが、生地がとても柔らかくピッタリとフランソワーズの肢体に合っている。ロウ・ウェストのカッティングにもかかわらず、体の凹凸が同性から見て羨ましいほどにはっきりしていて、バランスがとれていることがわかる。
フレアに広がるようにデザインされたスカート部分だが、細く長い足に沿うようにフランソワーズの膝頭上で戯れるが、フランソワーズが一歩踏み出すごとに、揺れる裾から露わになる、彼女が滅多に見せることがない太ももが、生々しくジョーの眼に飛び込んでくる。

「そんな隠れるようにしてらしたら、島村さまがちゃんと見ることができませんよ、さあ、フランソワーズさま」

入江はフランソワーズの背中を押して、ぐいっと彼女をジョーの目の前に立たせた。
じょーの隣に立ち、試着室から出てきたフランソワーズに、アルベルトが満足そうに微笑んだかと思うと、その肘でどんっっとジョーの脇腹叩く。

「よく似合ってるじゃないか、フランソワーズ。お前のために作ったみたいだな、それは・・・ちょっとまわってみせろ」

入江はアルベルトの言葉に、満足そうに頷いた。

アルベルトは、フランソワーズの柔らかな小さな手を自分の顔近くまで持ち上げ、フランソワーズがターンがしやすいようにリードする。
長年バレエで鍛えてた、日ごろから魅せる優雅な動きは、特にそのターンに活かされた。スローモーションのように、ふうわり と、ジョーの目の前でまわってみせる。
アルベルトは、ジョーの目にフランソワーズがターンする姿が隅々までみることができるように、心がける。くるり と、優雅にまわってみせた時、フランソワーズがおこした風から彼女が纏う香りがジョーに届いた。それはフランソワーズがフランソワーズである証拠で、ジョーが幾度も彼女を守るために、その躯を抱きしめたときに一瞬香る、それだ。

「よし、アンコールだ」

調子に乗って、もう一度フランソワーズにターンを要求するアルベルトは嬉しそうだ。
促されてフランソワーズは、いつの間にか笑っていた。
とても幸せそうに、神秘的な色を持つ瞳を細めてジョーを観た。


風に舞う亜麻色の髪。

ジョーを捕らえた瞳。

広がる柔らかなスカート。

細く白い、しなやかな足。


瑞々しく潤いを持った唇からこぼれたのは、自分の名前だった。

「・・・ジョー?」




「島村さま、あまりにもフランソワーズさまお綺麗なので、言葉がみつからないのでございましょうが、黙ったままでは女性は不安になってしまいますよ?」


憧れるかのように眩しげに、フランソワーズに魅入ってしまっている青年を少しからかう口調で注意した。

「あ・・・・・」

アルベルトはフランソワーズから手を離し、ジョーの隣に立ったかと思うと、背中を軽く叩いた。

「え・・・と・・・・・うん」

何を1人納得してるのか、ジョーは深く頷いた。
そして彼の甘いベージュの瞳はやさしく、フランソワーズの瞳をみて言った。


「こんど、いっしょに・・・あのポスターのパリの・・・バレエ公演を観にいこう・・・か?」




####

さくらは、藤井の意見となぜかアルベルトの意見もあり、ラベンダー色のタイトなドレスを選んだ。それは、さくらの母親が用意していた4着のうちの1枚だった。

さくらがそのドレスに決めた一番の理由、それはジョーの一言だった。

「キミらしいね」

ただ、その一言を訊いただけで、さくらはこのドレスに決めた。


ジョーは言葉通り、フランソワーズが選んだものと、入江がフランソワーズのために選んだ物を、すべて彼が購入した。フランソワーズが店内で観ていたものを中心に、それらに合わせて入江は春から夏にかけての2シーズンに必要なものをコーディネートした。もちらん、あのワンピースも含まれていた。品数はさほど多くないが、いろいろな組み合わせによって大きく印象がかわるように、入江が色々と工夫したのだ。

「お前ばっかりが格好が良いっていうのが、気に入らん」

アルベルトはそう言って入江をに声をかけた。

「服はこいつがすべて責任持つが、オレは靴と、そうだな必要な小物を担当しようと思うんだが?」

財布から例のカードを入江に渡したアルベルトにたいして、入江は驚いたように彼をみたが、すぐに笑顔で答えた。

「お姫様には王子様は2人もいらないんですけれど・・・あまりお節介なことをなさったら、背中に大きな蹄の痣が消えなくなってしまいますよ?」

くすくすと笑いながら、入江はアルベルトからカードを受け取り、フランソワーズのために2足のパンプスと夏用のサンダルも2足。そしてカジュアルな踵がない黒のバレエシューズを1足選び、ショルダーバッグ、夏に向けてのカゴバッグに、一年中使えそうなトートバッグを選んだ。

精算時にジョーとアルベルトにカードを返すとき、入江は付け足すように言った。

「アクセサリー類は、どちらか本当のフランソワーズさまの王子様が、
彼女のために選んでプレゼントなさってくださいね」


####

2人の荷物は嵩張らないように、きれいにまとめられた。
それらを手慣れた様子でジョーは車のトランクへ移ししていく。
アルベルトは内ポケットから出した煙草に火をつけ、ジョーにもそれを勧めた。

さくらとフランソワーズは、レディス・ルームに行っていた。
フランソワーズは得に用はなかったのだけれど、さくらが彼女の腕をつかんで放す様子がなかったために、付き合うような形になった。

彼女たちが戻り4人は車に乗り込み、コズミ邸に車を走らせた。

ギルモア邸に戻ってきた時間は、意外にも早く、張大人が用意した夕食に間に合った。
ジョーとアルベルトが両手に持った、大きく店名のロゴが入った、いくつもの袋を見たメンバーたちは、嬉しそうに微笑み合う。コズミ邸から一緒に戻ってきたピュンマは、コズミ博士行きつけの和菓子屋で購入した、華やかな色とりどりの和菓子を自慢げに、夕食後のデザートとしてみんなに振る舞った。なんでも今日は、「雛祭り」といって女の子のためのお祝いの日だと言う。

グレートは特に嬉しそうにして、ジョーが自室へ戻るとき、彼の肩に ぽんっ!と手を置くと、グレート得意のウィンクをして、囁いた。

「ジョー、よくやった!ミッション・コンプリートだ!」


翌日。

キッチンに立つフランソワーズの装いは、少し胸元が開いたライトブルーのコットンの半袖に、お揃いの色の七分丈カーディガンは、袖に細いベルベットのリボンが通されている。黒の膝丈のボックススカートは、ウェスト部分に太いベルトのようなリボンをフランソワーズの細いウェストを強調するように飾られたいた。

派手でもなく、地味でもなく。
それは一見、なんともない普段着だったが、上質な生地であつらえられ、計算されたカッティング。彼女が動くたびに、フランソワーズの良さをぐんっと引き立たせた。


ジョーの部屋に置かれたパソコンに繋がるプリンターに、昨晩、彼が予約したものの確認証明書がプリントされたままだった。

ーーーーーーーーーーーー
島村ジョーさま

パリ・○○○バレエ団海外公演・眠りの森の美女

チケットのご予約承りました。

チケット ?・・・・・・

ご予約日 ○月○日○曜日

公演日  △月△日△曜日

ーーーーーーーーーーーー



===== 9 へ 続きます

・ちょっと呟く・

あれ?
島村っちさん???
デート?
・・・・まだ駄目~(笑)


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彼は泣く。


ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。

カフェ”Audrey”に冬のオリジナル・チョコレートケーキが並んだころ、明るい栗色の髪と端正な顔立ちの青年は、すれ違う女性達の視線を一身に浴びながら、そんなことは慣れている、という風に・・・全く気にしないというか、気づいていないと言った方がいいのか、同性からみて、かなり嫌味な態度・・・と、思わずにはいられない、が。それは彼が纏う独特な雰囲気によって、全てが許された。


「よう!」
「久し振り」


オレの名前は、大地。
このカフェのオーナーの弟で、バイト中。

この気障で物腰の柔らかい・・・ルックスの良い・・・(くそ!!)
男はの名前は、今をときめくF1ドライバー、島村ジョー・・・


オレの恋敵だった奴だ。


「テーブル?」
「うん」


オレは、ジョーを店の奥の目立たない席へ案内する、彼がそれを望んでいることを知っているから。


「あ、っそうか。今日だったけ?」


オレは、テーブルに水とおしぼりを置きながら思い出した。
フランソワーズさんは今、2週間の地方公演に参加していて、今日、彼女は戻ってくるんだ。
バレエ団がチャーターしたバスで戻ってくるはず・・・。


「そう、今日だよ」

ジョーは男のオレにむかって、日本人には珍しい褐色の・・・
色素の薄いその瞳を柔らかい光で輝かせながら、ゆったり と微笑んだ。
彼の・・・東洋人とも西洋人とも云えない、神秘的で魅力的な顔立ちで、微笑まれたら男のオレでも、心臓が どきり と飛び跳ねる。


「な、な、何にするんだよ!」


オレは乱暴に注文を取る。
ジョーは気にすることなく、一言。


「珈琲」
「何も食わね~の?」
「・・・多分、フランソワーズが食べたがると思うから、その時に」
「おう、わかった」
「新作、出たんだ」
「ああ・・・出たよ」


オレは軽くため息をつく。


「今回はなに?」
「・・・・オレに言わせたいのかよ」
「それが仕事だろ?」


ジョーは意地悪くニヤリと笑う。そんな表情も・・・
嫌味なくらいにさまになる。


顔がいい男は得だよなぁ。



「”包まれた愛にとろけるショコラ”
 
”キミの瞳が輝く瞬間(とき)を重ねて”{チョコレートスポンジにホワイトチョコのクリーム)
 
”冬の吐息は甘いチョコレート”(ブラウニー)

”手のひらにの小さな恋”(生チョコレート)だよ!」


オレが少し大げさに新作を読み上げた。
これらのネーミングはパティシエである、オレの兄貴が全部考える。

いったい、どうやったらこんな名前を平然とつけられるのか・・・。

同じ血が流れているとは思えない。





ジョーはくくくっと喉を鳴らして笑った。


「今回も抜群のセンスだね、フランソワーズが喜ぶよ」



フランソワーズ・・・さん。
彼の恋人の名前。


亜麻色の髪を綺麗にカチューシャでまとめて、長く柔らかな睫に縁取られた、大きな宝石のように輝く美しいパライバトルマリン色の瞳。
華奢な肢体はバレエで鍛えられてすらりと姿勢がよく、ころころとよく変わる表情の豊かさに、瑞々しいサクランボ色の愛らしいくちびるからこぼれる、涼やかな笑い声。
パリ生まれのパリ育ち。生粋のフランス女性はこの男の・・・愛する女性であり、オレの失恋相手で、





まだちょっと好きだったりしたりする。












オレは一度ジョーのいるテーブルを離れて、珈琲を淹れる。


「あら、島村っちさん、いらしてるの?」


厨房から顔を出した、オレの義姉・萌子はフランソワーズさんと、とても仲が良く、義姉さんとバレエ団の新進プリマ・香奈恵さんがそろったら最強だ。

ジョーのことを”島村っち”と呼ぶのは香奈恵さんの影響。







「そっか~、今日だったわね。フランちゃんが戻ってくるの。迎えにきたのね~」

義姉さんの独り言とは思えない声の大きさに、毎度、呆れつつ・・・。
オレはジョーの珈琲をトレイに乗せた。


「あら、珈琲だけ?」
「フランソワーズさんが後で何か食べたがるだろうから、今はいいって」
「や~ね!甘い物は別腹よ」

そういうと義姉さんは厨房へ行き、ランチタイムの時間は過ぎていたが、今日のオススメランチのサンドイッチを、簡単に皿に盛ったものをトレイに乗せた。


「残りもので悪いけど、これはサービスよ!」


オレは義姉さんのこういうところを尊敬している。

ジョーのテーブルに戻り、珈琲とサンドイッチを乗せた皿を置いた。
彼は持ってきていた雑誌から目を離し、驚いたようにオレをみた。


「ランチタイムの残りもんで悪いけど、だってさ。サービスだ」


ジョーはオレから視線を外し、レジに立つ義姉さんを見つけて笑顔で会釈した。
密かに、義姉さんはジョーのファンだったりして・・・
そのジョーの仕草にものすごく照れながら同じように会釈しかえした。


「いつも・・・悪いな・・・ありがとう」


もしかしたら、義姉さんはジョーが昼飯を食べてないって、
わかったのかな?女の感ってやつ?














####

ジョーが3杯目の珈琲を頼んだとき、外はすでに暗く。
彼は何度も携帯電話のデジタル時計を確認していた。


「・・・フランソワーズさん、何時に着くって?」
「3時前には、バレエスクールにバスが着くと言ってたよ」

オレは店に掛けられている時計を観た。
すでに、ジョーは4時間近くこのテーブルでフランソワーズさんを乗せたバスを待っている。
カフェは大通りに面しているため、バスが通ればすぐにわかる。バレエスクールはここから点滅信号を挟んだ向かい側にあるから、大型バスが通ればすぐにわかる。


ジョーは、何度も携帯からメールを送り、時々立ち上がってフランソワーズさんの携帯にコールしていたが、彼は何も言わず席に戻ってくるので、繋がらないのだろう。






さすがに”道路が混んでいた”が理由にはならなくなってきた。

義姉さんも心配になったのか、一緒にバスに乗っている香奈恵さんに店の電話から連絡してみる。だまって受話器を置いて、オレに向かって力無く首を横にふった。








カフェ”Audrey”の閉店時間は少し早く、8時。

ジョーはそれを知っているので、レシートを持って立ち上がろうとしたが、義姉さんもフランソワーズさんが、一緒にいるであろう香奈恵さんが心配なのだろう。店は閉めるがそのまま、ここで待っていたらいい。と、ジョーに言った。






オレも、ジョーにそうするように言った。

彼は、少し悩んだが俺たちの好意を素直に受けた。
義姉さんは時計を観た。







「・・・本当に、どうしたのかしら?」


ジョーとオレは窓側のテーブルに移動する。
もう客はいない。


兄貴はこれから厨房で明日の準備をするから、店は閉めてはいるが、まだ義姉さんもオレも普通にカフェにいる時間だ。

だからジョーに気にするな、と念を押す。










彼は何度も携帯をチェックするが、その様子はいたって冷静で・・・・落ち着いていた。
一度、”家の者”が心配していると思うと言い、携帯で自宅に電話した。



聞き慣れない名前が耳に入った。





「もしもし?・・・ああ、アルベルト?・・・・・・ああ、まだだ。
・・・・・そう。いや・・・カフェにいる・・・・・・・・もう少し待つつもりだ・・・・・
大丈夫だと思うが、万が一の場合も考えて・・・・・
そこまでじゃ・・・うん、そうだね、ありがとう、俺は大丈夫だよ。
また連絡する・・・うん、うん・・・じゃあ」









人の電話を聞いてはいけないと思いながらも、オレは・・・ジョーの”家の人間”にたいする会話に少し、いや・・・かなり違和感を感じた。
家族の会話に聞こえない。こういうのをなんて言うのを、なんと言っていいのかわからないが、テレビドラマの刑事ものや・・・、なんかそういうものを思い出させるような会話だった。


テーブルに戻ってきたジョーが、初めてオレの前で・・・ため息を吐いた。





それはとても小さなものだったが、ひどくオレを安心させた。

オレと義姉さんばかりがオロオロと焦っていて、彼は落ち着いていたから。
普通は逆なんじゃあ?っと思うが。


これがF1と言う、命をかけて走るレーサーの精神力って言うか、忍耐力・・・強さなのかな・・っと思ったが!
それと、愛する恋人のことは別物だと思い、少し腹が立つ!!!









心配じゃあないのか!?












オレの方が不安に胸が押しつぶされそうになる。

ジョーは、フランソワーズさんのこと心配じゃあないのかよ!

オレの怒りとフランソワーズさんを心配する焦りに気がついてないのか、ジョーはとりとめのない話しをする。オレも、ジョーの仕事の話しや通っている大学の話しをする。
厨房で手伝っていた義姉さんも、ときどき俺たちの様子を観にやってくる。







時計が、11時を指そうとしていたとき。

交通量が減った大通りに響く大型車のエンジン音が響いた。
窓ガラスに差し込んだ一瞬の強いライト。

観光バスは点滅信号を越えて、バレエスクールの前に ぴたり と停まった。
オレは慌てて店を飛び出した。











ドアのベルが ちりりんっといつもよりも強く鳴った。


ベルの音に気がついて義姉さんも厨房から小走りに出てきてオレの後に続く。
ジョーは・・・ゆっくりと席を立ち、一度閉まったドアを丁寧に開けた。









ドアのベルが ちりりんっと、いつもより静かに鳴る。

暗闇の中、俺たち3人はバスを睨むように見守る。
ドアが開き、バスの運転手が座席下にあるバスのトランクを開ける。
ガヤガヤと女性の甲高い・・・悲鳴のような賑やかな声が聞こえ始めた。


オレは何気なくジョーを観た。


「・・・・え?」


オレ・・・
オレは・・・・
生まれて初めて・・・
こんなに綺麗なものを生まれて初めて観た。










ジョーは、泣いていた。












カフェから漏れる光により陰影が濃くなったその顔に、微かに震える睫が落とす陰。
まっすぐに立ち、躯をバスの方へ向けたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。

彼は何かに堪えるように、少し唇を噛みしめて俯くと、何かを決意したかのように厳かに顔を上げる。
そして、瞼を開く・・・淡い褐色の瞳は普段より色が濃くなり

闇が見えた。





ジョーの瞳の闇が揺れた。








その瞬間、彼の眼から・・・この世の中にこんなに清らかな、透明なものが存在するのかと、


オレの胸に感動を与えた・・・。





ひとしずくの涙が彼の頬を伝う。


まるで意図的に作られた・・・映像のように。





隣に立つ、義姉さんもジョーに魅入られている。






バスから、1人の少女の姿。
夜の暗闇に光るネオンに照らされて、亜麻色の髪が地上に降る星のように輝いた。


彼女はまっすぐにこちらに向かってくる。
アスファルトに響くヒールの音が、少しずつ近づいてくる。


その音が作るリズムが少しずつ・・・早くなる。



彼女の白い肌が浮き彫りになる。
彼女が着ている服が、風に揺れる。



彼女は両手を広げ、走ってくる。


はあっ っと 彼女が大きくはいた息が、
オレの耳に届いたとき




「・・・フランソワーズ」





ジョーの声が天上から降ってきた。


フランソワーズさんは、勢いよくジョーの胸に飛び込み、彼を強く、強く、強く抱きしめた。

ジョーはただ、抱きしめられている。

ゆっくり と、フランソワーズさんはその腕を離し、彼女の白い手がジョーの腕から彼の頬を包むように移動する。
ジョーの瞳からは流れ続ける・・・清らかな涙。

フランソワーズさんは、愛おしそうにジョーの顔を見つめて微笑んだ。


「・・・ジョー 泣かないで・・・」



フランソワーズさんは美しい声で囁いた。
ジョーはその声に反して、・・・涙を流す。



「ジョー・・・? 大丈夫よ。私はどこにも行かないわ
      

        私はここにいるわ

  ジョー・・・・     

                          愛してるわ  ジョー


       ねえ・・・ジョー?

 

    私の還る場所は     

                                        あなたの腕の中なのよ?」











彼女は背伸びをして、ジョーの頬に、額に、瞼に、口元に、沢山のキスをする。

ジョーはそこでやっと腕をフランソワーズさんの背中にまわして、彼女を抱き寄せた。

フランソワーズさんのキスは続く。

それに答えるように、ジョーの腕の力は強まっていった。

フランソワーズさんは、引き寄せられたジョーの躯に全身の体重を預けて、彼の首に腕をまわした。

ジョーは、フランソワーズさんの髪にその泣き顔を隠すように埋めていった。














そして、ジョーの躯の中に溜まっていた不安の闇を全てはき出すかのように、




長く・・・深いため息を吐いた。




ことば には できない。



深く。気高く。甘く。切なく。強く。愛おしく。優しく。美しく。




愛し合う。




彼らは、愛し合っている。




これほどまでに、全身全霊・・・魂で愛し合ってる人はいるだろうか?



オレも義姉さんも・・・息ができない。少しでも音を出せば、この美しい恋人達の愛が汚れそうで。
ただ、ただ彼らの抱擁を見つめているだけ。

義姉さんの目に涙が浮かんでいるのは、気のせいだろうか?
オレの鼻の奥がつーんっとひきつっているのは・・・なんでだろう?




綺麗だ。

そんな陳腐なことばしか思い浮かばない、オレが情けない。








「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉおおお!人前で、公共の場で、何してんのよ、フランソワーズ!!!島村っち!!!」









あっという間に場の雰囲気を壊した、甲高い・・・・少し苛立った声の主。

はっとその声の主を観る。


「香奈恵さん!」

彼女の名前を叫んだのは義姉さんだった。
香奈恵さんは、両肩に1つずつ大きなスポーツバッグを掲げ、3つのスーツケースの上に無理矢理乗せた沢山の土産物っぽい紙袋・・・に、手で転がせないスーツケースを足で蹴りながら運んできた。


「っっっっったく!フランソワーズ!!!自分の荷物ぐらい先に取ってから島村っちといちゃつきなさいよおおおおおおお!」





・・・・明らかに、怒っている。



彼女のスッピンの顔やボサボサの髪から、長時間バスに押し込められていた疲れがありありと現れていた。


ジョーに抱きしめられたまま、フランソワーズさんは首だけを、香奈恵さんにの方に傾けて言った。











「ごめんなさい、香奈恵さん。・・・だってジョーは泣き虫さんなのよ?」











彼女は、それはそれは嬉しそうに言った。


さすがに・・・さすがの、香奈恵さんも何も言うことができないだろう。


ふか~~~~~~~~~~~~く
疲労のため息を吐き、ドサドサと荷物を地面に落とす。

オレは、今回ばかりは香奈恵さんに同情した。




本当に、ジョーは泣き虫だった・・・。
でも、フランソワーズさんはそんなジョーが一番好きなんだと思う。







やってらんね~!!!












end.





















・あとがき・

「俺が好きになった人は島村ジョーの恋人だった」シリーズ第一弾!

”彼は泣く”でした。
えっと、SSの”泣き虫”を書いた後に、
人前でジョーを泣かせてみたくなったんです(笑)
私、意地悪ですね・・・。

どういう状況で泣かせようか迷ったんですが・・・。

連載ものが・・・ねえ、ラブラブできなくて、
しかも、大地君ってばもう、すんごく動かしやすくって!

一般青年から観た39です。
そして3と9から人がもつ愛の深さを知る・・・みたいな?(^◇^;)> イヤァ~

大地君の成長を
9と3の恋愛と一緒に。

この世界はACHIKOはスラスラ書けちゃうので・・・シリーズ化!

またお会いしましょう(笑)
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その瞬間(とき)

偶然に出会ったその人をオレは好きになった。
オレの恋した気持ちは、あの頃とかわりなく存在する。
まだ、彼女が好きだ・・・正直に言えば。


きらきら と輝くハチミツ色の髪は、風に揺られて、さらさら と靡く。

小さな顔には少し大きすぎる、しっとりとした長い睫に縁取られた、こぼれ落ちてしまいそうな、光の加減で蒼から碧へ移り変わる瞳の色は、この世のどんな美しい宝石も色あせてしまう。

瑞々しい潤いのある唇の色は、常夏の赤い実がどんな魔法を使っても、その色を作りだすことはできないとおもう。

天女が織る布は、この天上と地上のどこを探しても匹敵するものはないほどに、柔らかく、清く、美しく、その白さは生まれたばかりの魂までも、くすませてしまうと詠われるが、彼女の肌に較べれば、
天女の織る布なんてオレのバスタオルとかわらない。

細く、華奢な肢体。
バレエで鍛えられた優雅な仕草。
不似合いなほどに、彼女の豊かな胸は・・・オレが男なんだって認識させられた。

彼女と出会えたことが、奇跡なのに。
彼女と言う人が、この世に存在することは、神さまのイタズラなのかな?

この奇跡の出会いに感謝しながらも。
オレはその奇跡を手に入れることは叶わなかった。

彼女にはすでに心に決めた人がいたから・・・。











####

春を前にして、日差しが温かい。
ランチタイム・ラッシュを過ぎれば少し店が楽になる。

白と淡い黄色で統一された店内には、食後の紅茶の香りが広がり、パティシエである兄貴が、今日2回目のパンを焼く。
焼きたてのパンの香りに誘われて、カフェ前の大通りを歩く人たちが、ちらり と窓越しにこちらを振り向きながら、歩き去る。

昼間の忙しさか、春のせいなのか。
穏やかな空気がオレを眠りに誘いかける、が。こんなところ(バイト中)に寝てしまうわけにはいかない、オレ。

いくら身内の店だと言っても、それはそれ。これはこれ。

けじめは、けじめ。

オレ、大人!

・・・おれ、オトナ?




ドアのチャイムが ちりりんっ と鳴る。




奴がきた。



店内で見る限り、彼の髪色は日本人にしては明るいブラウンだが、陽にあたるとそれは、淡い栗色へと変化する。
整った顔立ちは日本人離れをしているが、かといって西洋人と言われても困る。
なんと形容していいのかわからないぐらいに調和された、その造形は、少し甘い作りになっていて、道行く女性たちが99.9%の確率で足を止め、彼に出会ったこと自慢げに話すことになるんだろう。

オレよりも背が高く、細身な優男の印象だけど、職業柄、その辺の男よりもしっかり作りこまれている。
見たくなくてもたまに見えてしまう、腕や首周り、腰などのポイントが、明らかに鍛えられた躯だと主張している。


こんな奴がいることが、この世の罪だ。


奴は、カフェのドアを開けて、店内に入ってくる。
レジ前に立つオレを見つけて、人懐っこい・・・笑顔をみせる。
それは同性のオレでさえ、心臓の音が一度大きく跳ねてしまう。


そんな顔をすることを・・・本人は、自覚なし。

当たり前すぎて気づかないだけなのか?

奴のキャッチフレーズはきっと・・・
「老若男女問わず、恋のときめき・プレゼント」



・・・見境が無さ過ぎる!


「よ!らっしゃい!」
「なに?その八百屋か魚屋みたいな挨拶は・・・」

奴は声までパーフェクトだ。
優しく、淡く、耳に心地よく響くテノールのそれは、耳元で吐息交じりに囁かれれば、女神さまだって彼に跪いてしまうだろう・・・って、なんでオレがそんなことを想像しなきゃいかんのだ?!


「野郎用の営業だ」
「はは、似合ってるよ・・・席、いい?」


オレは奴を「彼女」の定番の席に座らせる。
奴がここに来るのは、「彼女」のためだから。


彼女の名前は、オレの奇跡。
フランソワーズさん。

奴の名前は、オレの失恋原因。
島村ジョー。


オレの恋は、この男のせいで終わった。
まあ、オレが勝手にこの男の「彼女」を好きになっただけなんだけど。

オレの胸の痛みは、信じられないほどに軽く。
失恋したとわかった翌日には、失恋原因の、この世の女で俺に惚れない女はいない!と言う台詞が似合いそうな・・・。



島村ジョーとは友人関係。





オレってこころが広~い!


テーブルに着いたジョーにメニューを渡す。


「何にする?」
「珈琲・・・あとは」
「フランソワーズさんが来てから?」
「先に食べると、怒る・・・」
「そして、ジョーは泣くっと!」
「うるさい」


オレはジョーの分と、自分の分の珈琲を淹れる。
我が儘が云えるは、身内の店!


珈琲をトレイに載せて戻ってきた時、
ジョーが、ウィンドウの外を・・・愛おしそうに見つめていた。
いつもある有り触れた風景を、ジョーはもう二度と見られない、と。
とても眩しそうに、そして、切なげにに見入っている・・・姿をオレはよく見かける。




それは、彼がF1レーサーだからだろうか?

刹那の判断ミスで、命を落とす。
限界に挑み続ける過酷な職業。
テレビや雑誌で垣間見る世界はいいとこ取りで、ジョーと知り合うまで、本当の意味で・・・何も知らなかった。


「オレ、いまから休憩な」
「サボんなよ・・」
「マジで休憩なんだよ、付き合ってやるよ」
「いらない」
「オレの優しさがわかんないのか?」
「わかりたくもない」
「ああ!なんでフランソワーズさんのような可憐で美しい、清らかな聖女が、こんな男の彼女なんだ?!」


オレはわざと大げさに言う。

トレーから珈琲を2つ、テーブルに置いてジョーの向かい側に座る。
ジョーはオレが持ってきた珈琲の香りを少し楽しんでから、カップを持ち上げた。
男のくせに長い睫が、ジョーの顔に陰をつくる。





オレの人生の7不思議の一つ。



じいっとオレは、ジョーをみる。


オレとジョーはそんなに年は変わらない。
・・・そういえば、正確な年令しらねーや・・・

けれども、ジョーはオレなんかよりも、10年も20年も生きてきたような・・・もう何もかも知ってしまっているような、変な風に落ち着いている。

義姉さんは、たまに言う。
フランソワーズさんも、ジョーも・・・大変な人生を歩んできたんじゃないかって。
それがどんな人生なのか、目の前にいるジョーからは何も見えないし、訊こうとも思わない。
人には、みんなそれなりに「色々」だし。


この2人と出会ってから。
この2人を知ってから。
オレはいつも疑問に思う。


どうして、フランソワーズさんはジョーがいいんだろう?
どうして、ジョーは、ランソワーズさんなんだろう?

この2人が一緒に居るとき。
悔しいけれど、オレは幸せを感じる。
胸がじんわり温かくなる。
それと同じくらいに、切なくなる。

不思議な気持ちが入り交じる。


オレがじいいいいいっとジョーをみていた。
ジョーはオレの視線に居心地が悪そうだった。


「そんなに見るなよ、気持ち悪い」
「なあ、訊いていいか?」
「なに?・・・やらしーこと?」
「!!??ちげーよ! ここは女性に人気のカフェだぞ!昼間だぞ!・・・・・・・それは後だ」


むかつくことに、こいつは今はフランソワーズさん一筋だけど、それ以前は、経験豊富だってことが先日わかった。

・・・・それはまた別の話だけれども。


「で、何?」
「なんでフランソワーズさんなんだ?」
「?」
「お前だったら、もっとこう・・・フランソワーズさんとは違う意味ですごい女性と付き合っても不思議じゃね~し」


よく、3流ゴシップ誌なんかが、ジョーのルックスと来期注目のF1レーサーって言う目立つ職業から、いろんなことを書き立てているのを知ってる。

でも実際に、それらが・・・まったくの嘘とは言い難いことも・・・先日発覚。


・・・それは、まあ、別の話・・・



オレは知ってる。

どんな女性が言い寄っても、それこそ神に命令されても、ジョーはフランソワーズさんを手放すことはないってことを。

だから、それはなんでなんだろう?





「フランソワーズだから」





一言で片付けやがった!


「答えになってね~じゃん、それ!」
「彼女が、フランソワーズだから、フランソワーズなんだよ」
「フランソワーズ、フランソワーズって、名前言ってるだけじゃん。
じゃあ、もしもフランソワーズさんが、フランソワーズさんじゃなかったら
どうすんだよ?」



「・・・フランソワーズはフランソワーズだから。

違うなんてあり得ない。

彼女は理屈じゃない。

存在する・・・なんて言うのかな、

俺の存在理由だから」


ジョーの瞳がまっすぐにオレをみる。
色素が薄い褐色のその瞳に ゆらり と闇がみえた。




「じゃ、フランソワーズさんがどこかへ行ったら?」

「この命が続く限り探す」

「・・・フランソワーズさんが他の男を好きになったら?」
「あり得ないけど、そうなったら・・・う・・・ん・・・・」
「泣く?」
「まあ・・・泣く・・・かなあ・・」
「やっぱりな!」
「でも・・・俺・・・」
「?」
「フランソワーズが幸せなら、それでいい」
「諦めるのかよ?」
「形は変わるけど、愛し続ける」
「他の男のもんなんだぜ?」
「それでも、彼女が生きてる限り、幸せであるかぎり、俺は・・・それでいい」
「取り戻そうとか、お前が他の男のものになるくらいなら、俺と死んでくれ!とか、そういう激しいもんはないのかよ?」
「・・・・・それって我が儘。フランソワーズの気持ちを無視してる」
「そうか~?・・・ってフランソワーズさんはいっつも、”ジョーはワガママ!”って言うけど?」


「言っただろう?
俺が存在する理由はすべてフランソワーズだから。
でも、
彼女のこころは、魂は自由。
彼女が生きていて、幸せなら、その形がどう変わろうとも
俺は・・・愛し続けられる・・・」


だんだん、ジョーの声が強くなる。
だんだん、ジョーの声が熱を帯びる。
だんだん、ジョーの声が掠れていく。




俺はジョーの瞳の中にある闇に魅了されていく。



「大地」

「ん?」

「好きだけじゃ生きていけない。

けれど、

好きという気持ちが、

それ以上のものに育ったら・・・

それが全ての理由になると、俺は思う。

生きる意味・・・俺が生きる意味は、

フランソワーズが生きてるから。

それだけ。

彼女が居ない世界に、俺は居ない。

彼女がどんな姿になろうと、

彼女のこころが、

魂が、

この世に生き続けるかぎり

俺はこの全てをかけて・・・

俺が

俺である限り

フランソワーズだけ・・・

愛してる、よ。」


ジョーは真剣だ。


オレの思いつきのような・・・質問でも、ジョーは、フランソワーズさんのことだから、命を、魂をかけて答える。

オレの・・・薄っぺらいこころに、ジョーはがんがん入り込み、オレの知らない、オレが味わったことがない、新しい何かを刻みつけていく。


普段はあり得ないくらいに、恥ずかしがり屋なのに、だ。
こういう時だけ、映画やドラマの中でしか語られないような科白を、真顔で、本気で、話す男が・・・島村ジョーだ。


「・・・・人生、女の稼ぐ金だけが全て。で、生きてるっている、依存しきったヒモとかわらいように聞こえるのは、なぜだ?」




悔しいから、ごまかしてみた。(ごまかしになってるのか?)


ジョーからいつも色んなことを、教わる。
男として、人として・・・俺に深さが加わる。
それが、すごく嬉しくて、恥ずかしい。




実は尊敬しているし、憧れても・・・いたりする。

だからか・・・な?

失恋しても正直、ジョーと会えたから。
それもオレにとっちゃー奇跡なのかもしれない。



いや、別に!
ジョーが「好き」とかじゃねえぞ!
そこ、違うからなっっ言っとくけどさ、オレはノーマルだ!!



「う・・・なんだよ、それ・・・人が一生懸命、質問に答えてやってるのに」

「まあまあ。そんだけフランソワーズさんが好きってことか・・・」

「言葉じゃ表現できない方が大きい」




確かにそうかもしれない。

ジョーとフランソワーズさんをひと目・・・
ひと目みるだけで、すべてが胸に刻まれる。
きっと彼らの関係を語ることはどんな言語の天才だって無理だと思う。



ドアのチャイムが ちりりんっと鳴った。
「その瞬間(とき)」オレの人生が、決まった。



噂の彼女が店内に入ってくる。
今日もまた愛らしく、美しい。

テーブル席の方へ、誰かを捜すような仕草を一瞬だけみせてから、彼女はまっすぐにオレたちのテーブルにやってきた。


そして・・・・。



この世界は彼らだけの世界だと宣言された・・・。



テーブル席にやってきたフランソワーズさんは、ジョーを見るなり、彼女のその細い腕で抱きしめた。

みんながフランソワーズさんを見る。
まず、世界から音が消えた。

彼女はジョーを抱きしめながら彼の頬にキスをした。

そして、世界から彼ら以外の色が失われた。

ジョーの膝の上に乗るようにして、彼女は強く、より、深く、
彼をその腕に抱きしめて、彼もまた彼女を・・・強く、より、熱く、抱きしめた。

時が かちり と とまる。

彼と彼女だけが息をすることを許された世界。






「ジョー、1人でケーキ食べてないわよね?」







世界に音が戻った。
世界が色鮮やかに、光る。
時間が流れ出す。


彼らは、人に、この世に溶け込んだ。


不思議なことに、誰も彼らを見ない。
まるで存在していないかのように。
彼らが・・・真っ昼間から、抱き合っているのにもかかわらず。


「食べたらキミ・・・怒るだろ・・・・・・?」















####

まだ、オレが知らない遠い未来の話し。

オレが戯れで書いた短編小説を、大学の先輩が冗談で、ある出版社の新人賞に応募した。佳作に入賞して・・担当がついた。

本になった。

もっともっと名のある賞に送られた。

・・・賞をもらってしまった・・・


幸か不幸か・・・オレの出世作となり、名前が残ってしまった。
オレが書いた、人生最初で最後の恋愛をテーマにした話し。

シリーズ化や連載ものにしないか、映画やドラマにしないか、と散々言われた。



断った。



オレは二度と愛や恋については書けなくなっていた。
もう、オレが表現できるすべてがそれに、書かれていたから。




今だにその短編は、再版がかかりファンレターが届く。
来年には、7カ国語に翻訳されるらしい。

印税はすべて
必要のない戦争で
家族や親を失った、こどもたちのため寄付されるようにした。



彼らはそれを喜んでくれると思ったから。



その短編は・・・
ジョーとフランソワーズさんを書いたもの。
(当たり前だけど)

様々な理由から、架空の話し、としたけれど、
それは嘘で・・・すべて、実際にオレが体験した、目にしたこと。

オレは、2人に出会えてよかった。
オレは、2人をずっと忘れない。
オレは、2人を信じてる。
オレは、2人が、この世のどこかで愛し続けていることを、知っている。

だから

みんなに2人のことを知ってほしかったんだ。

愛が存る。

魂で共鳴し
魂で語り合い

魂は偶然にも2つ別れて

一つは遠い東の島国へ。
一つは遠いヨーロッパの国へ。

それは出会うべくして出会った。

どんな形であろうとも。

形じゃない。




「フランソワーズを愛した人」
著書・井川大地



兄貴はセンスがない!っと
オレの本(全てのタイトル)を見るたびに怒る。

よけいなお世話だ。












end.



・あとがき・
シリーズ第二弾「その瞬間(とき)」

このお話は、大地くんが失恋して1ヶ月経つか経たないかくらいの時期です。


あれ?・・・ギャグの予定だったのに(笑)

ジョーと大地はどんな風に仲がいいのか書いてみよ~っとしたら、
なんで?なんで?こうなっちゃうの?
大地君、好青年っていうか、真面目くん過ぎますよ?
ジョー・・・君も、もう少し肩の力を抜いてください・・・。


しかも「ついでに」大地君。
キミの将来が決まったよ・・・(笑)


フランソワーズはシリーズ化してから、
一言くらいしか出演しない(笑)
まあ、他ではメインで動いてますからいいっすよね?

次回は香奈恵さんとフランソワーズでいきましょう・・・か?

では!
・・・あ、キリリクつくってみようかな・・・と思ってます。
このコーナー限定(笑)
大地くん、いじってみませんか? もれなく9,3ついてきます(笑)


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+α(飲み)
注意!
フランソワーズと香奈恵さんの2人飲みの様子です。
イメージ崩したくない方はお戻り下さい。
(っていってもたいした内容ではない・・・・)


*********************************
「香奈恵さんって・・・大地さんのこととってもかまうのね?」

「だって、面白い!・・・島村っちも前はからかいがいがあったのに・・・
あんなに早く、”男”になるんだもん、面白くないわ!
今じゃ、私が何言っても動揺しないしさ~・・・逆にこっちが色々言われて・・・
む か つ く!」

「? ジョーは生まれたときから性別は男よ?」

「・・・・(ー'`ー;) そう言う意味じゃないのよ、フランソワーズ」

「ねえ、香奈恵さん大地さんのこと好きなのかしら?」

「萌子っちと同じような感じよ?」

「弟・・・ね?」

「そう! 真面目一本の、今時珍しいくらい純情青年!いや~いいね!潤うね!」

「・・・じ、ジョーではもう、潤わないの?香奈恵さん・・・」

「・・・島村っちで潤ってどうするの?他人の男にたかるほど、不自由してないわ」

「・・・・ジョーは、みんなに愛されるのよ?この間も告白されて困ってたわ」

「あの男は~!! なんでそう色気を振りまいて歩いてんのよ!
フェロモン垂れ流すなって、散々言ってるのに!レーサーより女で稼げ!」

「・・・そんな!ヒドイわ!!ジョーはそんな風に言わないで!!
 垂れ流してるんじゃなくて、どんなに抑えても・・・・滲み出てしまうの・・・・
もう・・その・・・あの・・・えっと・・・だから・・・ねえ・・・振りまいて・・・
ない・・・の・・・よ?」

「なんで、そこであんたが照れるの?!」

「・・・・・・・・・(///∇///)」

「あ!何か思い出したな~!! やらしーこと!」

「・・・・・・・・・(///∇///)」

「人前でチューするわ! 抱き合うわ! 平気でやっちゃうあんたなのに・・・
なんで島村っちのこと話すだけで、そうなるの?」

「・・・・・・・・じ、ジョーが・・・言ったの、
思いだして、しまうんだもの・・・
ど、どんなに離れていても、、、わ、わ、わた、私、がジョーのことを・・・
誰かに、話しているのが、わかるって・・・・き、き、聞こえるって。
私が、か、か、か、彼を想ってるっていう、こ、とだ、だから!
その、その間、ジョー・・・ジョーは、わ、私を、だ、だ、だ、だ、抱いてる時と
同じくらい幸せに・・・・・・・・こ、こ、こ、こ、興奮するって・・///////////」

「ほう~!じゃあ、今頃ジョーは1人寂しくホテルの部屋で
あんたのせいで、疼く体を持て余してると?」

「?!・・・・・・そ、そんな!!」

「フランソワーズのせいだわ!あのフェロモン!
あんたが口に出すたびに、あの男がそんな風なら・・・世界中の潤いたい女が
集まってくるわけね~!うん、うん。」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「あははは!!自業自得よ!・・・・いいな~・・・」

「?」

「私も男、育ててみようかな~・・・」

「?!」

「うん、自分好みがそうそうにいないから、どうせなら一から仕込むの」

「・・・」

「逆光源氏!」

「大地さんで?」

「どうしてそこで、弟の名前が出てくるの?

「・・・・育てがいがありそう?」

「・・・・フランソワーズ、けっこう言うわね」

「んふ♪ 大地さん可愛いって思うの、別に萌子さんや香奈恵さんだけじゃないのよ?」

「・・・・」

「・・・・やきもちやく?」

「・・・・」

「私も一緒に大地さんのこといじめたら、やく?」

「いじめてごらんなさいな」

「?」

「あんたが、大地をいじめはじめたら、ジョーが大変なことになるわよ~(笑)」

「?」




っとに、本人に自覚ないってあんたのことを言うのよね。


魔性の女は天使の微笑みを持ってるって、

そんなの

言い尽くされた科白じゃない!



「可哀相に・・・弟も・・・・そしてジョーも」


「?」


end.



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お出かけno.9 ~スーパーにて.5~
イワンが昼の時間のときにだけ、フランソワーズとジョーが使う、合い言葉。

「ジョー、買い忘れたものがあるの・・・」

彼女はかならず、イワンが起きているときに何かを買い忘れる。
以前、買い出しのときにフランソワーズがイワンを一緒に連れて行こうとして、他のメンバーたちから、荷物が多いからと、彼らは彼らなりにフランソワーズを思って言ったのだが、当のフランソワーズは、それがショックだったらしい。

彼女は、彼女なりの理由があってイワンを買い出しに連れて行きたいようだ。
それ以来、彼女は「わざと」買い忘れをする。

「・・・・車をだすよ、先に行って準備してる」

ジョーがそう言うと、嬉しそうにフランソワーズは こくん と頷き、彼女のピンク色のスリッパは心地よい足音で ぱたぱた と リズムを作りながら、ギルモアの研究室に居るイワンを連れ出す用意をする。

フランソワーズは、ジョーの「その」言葉から”車にベビー用シートの準備”をしてくれることがわかるのだ。

3人のお出かけの日は、イワンはフランソワーズから「よそ行き」用の服を着せてもらう。こうやって買い物に連れ出されることに、イワン自身はどうおもっているのかジョーはわからない。この「お出かけの日」にイワンが持つ超人的な能力をなかったことにするように、過ごす。


####

ギルモア邸の玄関前まで車を移動してフランソワーズからイワンを受けとり、彼をしっかりと、ベビーシートに座らせる。

「痛くない?・・・だいじょうぶか?・・・」

イワンの様子をみながら、ジョーは安全ベルトの調節をする、が。この時もイワンは何も言わずに、ただジョーの手をみているだけだった。

後部座席に座っていたフランソワーズが、心配そうにのぞき込む。

「だいじょうぶ?」
「ああ・・・これでいいと思う」

ジョーはシートベルトから手を離し、イワンの頭を優しく撫でる。
そして、運転席に乗り込んでから、フランソワーズの方へ振り返った。

「それで?新しくできた大型スーパーは、どこ?」


####

通い慣れたスーパーとはちょうど、反対側の街に、米からやってきた輸入食料品がメインとなった
大型スーパーが開店したのは、昨日。

フランソワーズが行きたくて、そわそわしていたのをジョーはよく知っていた。今日の買い忘れは、ボディ・ソープに、スポンジなどの掃除道具のストック用のもの。

「必要なときに限って、なくなっちゃうのよ?不思議だわ!」

彼女はイワンを抱きながら、きょろきょろ と、できたてホヤホヤのスーパーを見渡す。オープンした翌日なだけあり、広々と普段通うスーパーの2倍はある通路でも、人とぶつからないように、気を付けなければならなかった。

イワンを抱きながら歩くフランソワーズは見ている方が危なっかしく、ジョーは彼女を庇うように歩いていたが、しまいにはフランソワーズの腕からイワンを取り上げて、片手で軽々と大切にイワンを抱きながら、空いたもう片方の腕はしっかりと、フランソワーズの背にまわしていた。

「ジョーは心配性ね?」

ジョーの腕に抱かれるイワンをのぞき込むように見るフランソワーズ。
イワンも人の波が面白いのか、きょろきょろと視線を色々なところへむけていたのでフランソワーズに負けないくらいに、好奇心をくすぐられているようだ。

少し興奮しているのか、ふくふく としたイワンの頬が、いつもより少し紅い。

「ほら、フランソワーズ。危ないから前をみて歩く」

イワンに話しかけていたために、彼らの横を急ぎ足で通り過ぎようとした女性と、フランソワーズは軽くぶつかってしまったが、フランソワーズの背にまわされているジョーの腕が彼女を守る。女性とフランソワーズは目線で、お互いにぶつかったことを謝った。

「今日は食料品はいいんだろ?また来たらいいから、向こうの方へ行こう。・・・必要なものはそっちだろ?」

ジョーはそう言いながら、フランソワーズの背を力任せに押して、方向転換を促した。フランソワーズは背中にジョーの腕からかかる力と、温かさにちょっとだけ抵抗して、「しょうがない人ね」という表情をつくるが、その蒼い瞳には幸せの色が溢れている。

####

移動した生活用品のコーナーは、幾分か食料品売り場よりも人が薄れていた。
輸入品の多くは米からの物が多かったが、ときおり見つけるヨーロッパからのものを見つけては、フランソワーズは手にとって、ジョーに一つ、一つ商品の説明や、それにまつわる彼女の小さな物語を彼女の愛らしい唇から、涼やかに話している。

イワンがときどき、身をよじって抱き心地が悪いことを訴えるのでその度に、ジョーはイワンが心地よく過ごせるように抱き直す。そうやってジョーがイワンを抱き直すたびに、フランソワーズはジョーに寄り添い、イワンの様子を伺いながら、彼らに話しかける。

「んっと、これでいいか、イワン?」

「イワン? だいじょうぶかしら? ジョー、やっぱり私がイワンを・・・」

「だめだ、キミ危ないから・・・イワンを絶対に落とす」

「まあ!イワンはティッシュの箱じゃないわ!」

「・・・だめ」

ジョーは少し考える「フリ」をして、とても真剣な顔でフランソワーズにイワンを抱かせることを拒んだ。

「イ~ワ~ン~、そんな堅い腕に抱っこされてるより、私の方がいいわよね?」

世界最強のサイボーグを骨抜きにする、華やかで愛らしい笑顔をたたえながら、フランソワーズは両手を広げて、イワンに「こっちにいらっしゃい」とアピールする。ジョーはその笑顔をなるべく見ないようにしながら、イワンを両腕で、この世で一番大切な宝物のように抱えこむ。

「だめだって言ってるだろ、フランソワーズ。キミ、買い物しないと。イワンを抱きたかったら、さっさと終わらせろよ」

「あら、イワンを抱きながら買い物できるわよ!」

「・・・それをを見ていて危ないから、俺がイワンを抱いてるんだろ?」

「い~♪わ~♪ん~♪」

ジョーとは話しにならない!と、ばかりにイワンに甘い声をかける。

当のイワンは2人のやり取りをだまって訊いている。
口に加えた黄色のおしゃぶりが まぐ もぐ と動いている。


「ちょっ、フランソワーズ・・・無理に・・・危ないから!」


商品棚から離れた、エスカレーターが2階へと向かう登り口付近に作られた、買い物客が少しばかりの休憩ができるように置かれている、5脚ある黄緑と黄色で彩られたベンチの一角。


「ジョー、ほら諦めて、ね? いっわっん~♪」


日本人とは明らかに違う、明るいハチミツ色の明るい髪を可愛いらしく揺らす、少女のあどけなさが抜けきっていない、人目を引きつける容姿の女性が・・・

白銀の髪を持つ赤ちゃんは ぷくぷく ふくふく とした頬を紅くして、落ち着いた青色の、品の良いベビー服の上に、小さくお洒落なベビー用パーカーを着せられたイワンと言うなの赤ちゃんを・・・・


スポーツか何かで鍛えているのか、しっかりとした体つきだが、その動きは柔らかく、栗色の前髪が揺れるたびにのぞく優しい褐色の瞳が、困ったように瞬きするけれど、彼の目元は幸せに微笑んで・・・・

愛おしそうに青年の腕に寄りかかり、赤ちゃんをその腕に抱きたいと、青年に甘えるように訴えていた。


想像し得る印象からは、子どもを持つには少しばかり、早いのでは?と思われる2人。
そんな彼らの会話やり取りに、行き交う人々は足を止めて・・・口元をほんのり緩め、くすくすと笑い、囁きながら通り過ぎる。


「みて、可愛い赤ちゃんを取り合ってる~。お母さんは外国の人かな?」

「あらあら、若いお父さんとお母さんねえ、どっちも抱っこしていたいのね~」

「赤ちゃんが可愛くて仕方がないんだ~、なんか可愛いカップル~、あ、夫婦か。」

「ふふふ、ちょっとあそこの2人、夫婦かしら?やだ、赤ちゃんを取り合ってるわよ?」

「お、新米夫婦か?・・・出来ちゃった婚・・・?いいな~美人な・・・ぐあh!」



足を止めて2人を見守る人が、少しずつ、少しずつ・・・増えていく。

幸せな笑い声が、少しずつ、少しずつ・・・広がっていく。



「いわん~♪、い~わん~♪が、だ~き~た~い~♪」

「・・・だ。め。なんだよ、その変な歌・・・」

「ジョ~お♪は、怒りんぼ~♪」

「・・・フランソワーズ・・・・・」

「ね?ね?ジョー、疲れたでしょ?」

「・・・・・・キミがそうやって寄りかかるから・・・重い」

「失礼ね!私が重いなんて!ねえ、聴いたイワン?ジョーが私を重いって言うのよ?そんな意地悪なジョーの腕にいていいの?」


イワンは何も言わない。
面白そうに2人を交互に眺めて、ときどき、もごもごもご とおしゃぶりを揺らすだけ。


「・・・・最近、顔丸いよ?」

「な!」


ぷうううっとフランソワーズは、頬を膨らまして抗議する。
反射的に、ジョーの腕に添えられていた彼女の手に力が入った。

「・・・痛い、痛いって・・・いてっっ・・・はいはい。キミは軽いです。羽のように軽いから、キミを片手で持ち上げられるだろ、俺は・・・」

フランソワーズの顔をのぞき込み、ジョーは明らかにフランソワーズの機嫌を損ねたことを、彼女の瞳の色で悟った。一瞬、イタズラっこのような表情を見せて、大げさにジョーは言った。


「・・・・・降参・・・ほら。イワンを抱きたいんだろ?笑えよ、笑って・・・」


フランソワーズはじっとジョーの顔をみつめて、その顔は、まだ怒っている「フリ」をしている。


「・・・機嫌を直すんだったら、キミがイワンを抱いて、買い物を済ませて・・・」


ジョーはもう気づいている、フランソワーズが怒っていないことを。けれども彼はあえて知らない「フリ」をする。


「・・・帰りに大地の店でケーキを食べて帰ろう・・・? そういえばイワン、ああいう店、まだ一度も行ったところないだろ?」


フランソワーズはジョーの顔をみつめたまま、ゆっくりと少しだけ離れる。
ジョーとフランソワーズは正面にきちんと向き合う。


「はい。イワン、フランソワーズにかわる、よ?」


ジョーは そおおっ と腕に抱いていたイワンを、少し膝を折ってフランソワーズの胸元へ運び、フランソワーズは優しく丁寧に そおおっ と下から支えるように、イワンをジョーの手から受け取り、抱きしめる。


「んふふ、イワン~♪」


フランソワーズは、やっと自分の腕の中に戻ってきたイワンを愛おしそうに頬ずりをし、額にキスをひとつ。イワンはくすぐったいのか、少しだけ手足を ぱたぱた と動かした。

そんなフランソワーズとイワンの様子を、嬉しそうに、愛おしそうに、ジョーは温かく見守りながら、自分の腕からなくなってしまったぬくもりに少し淋しさを感じるが、その空いた腕を愛しい人の背にまわしたとき、




わあああっと浜辺に打ち寄せる波のような・・・笑い声。
ほんの数分間だけの出来事。
3人を取り囲むように・・・人は集まっていた。


フランソワーズは、恥ずかしさから真っ赤な顔で逃げるようにその場を立ち去ろうと、ジョーを促す・・・が、ジョーはにっこりと笑って、何事もないように、いつものペースで悠然と構えていた。

ジョーのそんな態度に、恥ずかしがる自分。が、恥ずかしくなったのか、フランソワーズはジョーの背中に隠れるように、人々の目線から身を隠そす。


買い物もそこそこに、駐車場に戻らされたジョーは、「せっかく来たのに」と不満そうだった。が、彼が本気でそうは思っていないことをフランソワーズはわかっている。

車に乗り込み、イワンのシートベルトを確認する。
大きなジョーの手が、イワンのお腹の上を行ったり、来たり。

それを見ていたイワンが、ぐううっと彼のからだを前に傾けたと思うと、小さな、小さな、もみじの手が きゅう っとジョーの人差し指を握った。


<ジョー、マタ 連レテ来テ・・・ふらんそわーずモ一緒がイイ>


「・・・ん。今度は負けないよ?フランソワーズに取られないように、しっかり抱っこしてやる。な?」

<ジョー・・・ソレは ムリ。君ハふらんそわーずニハ 勝テナイ ネ♪>

end.




・あとがき・

1がらみの9と3でした・・・。
私は一体、何が書きたかったんでしょ?

これ、大地くんの名前を出してしまったので、
これをプロローグにして、えっと・・・
あっちと繋げようかな?

って思いついたので、これは今はこちらで保管しますが、
「大地くん」とこ用に続きがかけたら、移動しま~す!
(書かなかったら・・・永久ここに居座ることでしょう・・・)
赤ちゃん連れてきたら大地君びっくりするかな???っと(笑)

行き当たりばた子と呼んで下さい・・・m(;∇;)m 


でもこのジョーは、あっちのジョーじゃないような・・・(ー’`ー;) ウーン。

====
大地君と繋げました・・・(^_^;) ⇒ 続きを読む
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3分間
オレの人生7不思議、その1.
男のくせに、しっとりと長い睫で目元に陰を作ってしまう男(=ジョー)
(最近、下睫もくるりん、としてたこと発覚)

オレの人生7不思議、その2.
堂々と人前でジョーを抱きしめるわ、キスするわ・・・。
流石パリジェンヌ!なのに、なんでジョーのことを話すときは、
あんなに恥ずかしがるんだろう・・・?意味ないっすよ・・・。

オレの人生7不思議、その3.
龍 香奈恵(りゅう かなえ)24歳。
その存在自体が・・・?。


温かな春の日差し。桜はもう散ってしまったけれど、空はだんだん高くなるばかり。
その青さが、季節が変わりきったことを証明するかのように、
新緑芽吹いた黄緑色の木々とのコントラストによって、オレの浮かれた気分に拍車をかける。

穏やかに気温も上昇し、今日から外でのオープンカフェも再開する。
余計な仕事も増えてしまうが、オープンカフェでアルバイトという、
名前の魅力がイメージ先行か。活きの良いバイトも2人ほど増え、相変わらずの日々。
大学の方も春のほのぼのさ加減に負けないくらいに、順調。



ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。
カフェ"Audrey”にようこそ!


季節が変わると言うことは、当然、新メニューも加わるということ。
1週間ほど前にウンウン唸る兄貴がいた。そんなに悩む必要があるのか、疑問だ。
普通にチョコレートケーキ1.2.3.でいいと思うだけどなあ。


「本当にあんた、あのお兄さんと血、繋がってるの?」


いつもの時間・・・ではないけれど、いつもの席。
淡い光を受けて眩しいくらいに白いコットンの、裾がレースで縁取られたカーテンが、
フレンチスタイルの出窓によく似合っている。テーブルには花を飾らずに、
室内の黄色と白のイメージカラーとバランス良く、ライムグリーンやポトフ、
アイビーで飾る。それがお洒落だと言って下さるお客様に申し訳ないが、
真実は、花は枯れて、手間がかかる。花代もばかにならない=観葉植物、
長生き。手間いらず。と、言う打算的な考えなんです!っとは
口が裂けても言えない、オーナーの弟です。

メニューを渡さなくてもすでに、この店のものはしっかり頭に入ってる、
義姉さんのお得意さま中のお得意さまたち。いつもは夕方にやってくる2人が、
今日は珍しくランチタイム・ラッシュが終わる頃の時間にやってきた。

「ご注文は?」

営業スマイルも板に付いてきたオレ。口の悪い香奈恵さんの相手はしない・・・。
香奈恵さんは慣れたもので、そんなオレの態度も痛くも痒くもないらしい。
テーブルに頬づえをついて、少し尖った顎を乗せる。
左右にひっぱた大きな口はキラリと怪しげに光り、女を主張しているが、
目元に残るそばかすのせいで、彼女の物言いや態度よりも年令が若いことを
主張している。切り長い涼しげな、猫のように少しつり上がった目は、
面白そうに目の前に座るパリジェンヌに注がれて、腰近くまで伸ばされた艶がある黒髪は、
彼女の背中で戯れる。数ヶ月前、正式バレエ団に迎えられた新進のプリマドンナ・・・
そんなことを言われても、今のオレには、ただの意地悪な義姉さんのお得意様だ。

バレーリーナのイメージはやはり・・・・

オレの目の前に、ちょこんと座り、窓からこぼれ落ちた陽に輝く亜麻色の髪は
天使の輪を作り出す。白く透き通る肌は頬を少しばかり桜色の染めて、
彼女が新メニューのどれを試そうか、真剣に悩んでいる証拠。
全部頼みたい気持を一生懸命に抑えているのか、少しばかり噛みしめる
、「瑞々しく潤った果実のように、食べ頃な彩りの唇」から・・・・
オレは彼女が言うであろう言葉をまつばかり。

「ああ!だめよ・・・決められないわ!!」

困ったように、泣きそうに・・・。
大きな夏の空色よりも明るく、深い蒼瞳を悩ましげに潤ませて、
それらを縁取る長く軽やかにカールしている睫を揺らし、眉根を寄せて、
オレに助けを求めるように彼女はオレを見上げた。

最高です!
今日も可愛いです!
素敵です!

フランソワーズさん!

オレはうっとりと彼女の悩ましげな顔に見惚れてしまう・・・。

「ちょっと、弟・・・・私には注文を尋ねないの?」
「・・・オレの名前は大地です」
「あんたには、立派すぎるから、名前負けしなくなったら愛を込めて読んであげるわよ」
「・・・愛は遠慮させていただきます」

「ああん、もう!どうしたらいいのお?・・・香奈恵さんはどれになさるのぉ?」

悩ましげな、少し鼻にかかった甘い声・・・やばいです、その声は!!

「フランソワーズ、ちょっと落ち着きなさいよ・・・じゃないと真っ昼間から
弟がやばいことになるでしょ!」

何を言い出すんだ!香奈恵さん!

「?・・・どうして???」
「・・・あんた、鏡を見なさい・・・」
「あら、鏡ならちゃんとレッスンの時も、朝も夜も見てるわ?」
「・・・ねえ、島村っちは、あんたにどういう教育をしてるわけ?」
「?・・・じ、じ、ジョーが、わ、私を教育?」

話しがまったく見えていないフランソワーズさんに、香奈恵さんは大きくため息を吐く。

この純粋可憐な麗しい聖女に、そんな下世話な話が通じるもんか!
オレはちょっと、得意げになる。

「・・・弟、私はアイスティーと」
「待って、待って!私まだ決まってないわ!」

フランソワーズさんを無視するかのようにオーダーしだす香奈恵さん。

「・・・いつ決まるのよ?」
「・・・”キミに言いたい春の告白”(イチゴミルフィーユ}
”甘酸っぱい愛は耳元に”(アップルゼリーのケーキ)
”食べ頃のキミはぼくのもの”(5種のマカロン・セット)
”小鳥のように愛を歌えば”(春のフルーツ・ケーキ)
”とまどいも愛おしさ”(紅茶ケーキ)の全部が美味しそうなの・・・!!」

新作のケーキたちの名前を読み上げた、その声をオレは一生忘れない・・。

「・・・2つくらいここで頼んで、あと持って帰って島村っちと食べたら?」

「・・・」



あれ?




香奈恵さんの言葉に、フランソワーズさんが手に持っていたメニューに
顔を隠すように俯いた。彼女の肩に寄り添っていた、
亜麻色の髪が哀しげに彼女の横顔を隠した。

「えっと・・・フランソワーズさん?」

「ジョー・・・もう行ったの・・・」

涙交じりの声。
ただ、メニューが決まらないだけじゃなかった・・・。
今思えば、今日のフランソワーズさんはいつもより、少しはしゃいだ感じだった、が、
それは一生懸命に明るく振る舞おうとしていただけなんだと気がついた・・・。

「どういう意味?」

香奈恵さんはメニューを人差し指で、ついっとテーブルに押し、
隠れたフランソワーズさんの顔をみようとするが、フランソワーズさんは
メニューにしがみつくように、そのままメニューと一緒に ぱたり。
と テーブルに突っ伏した。

きらきらと輝く彼女の髪が、テーブルに広がる。
髪の隙間から見えた彼女の首筋・・・華奢な背中へとなめらかにつながる。

「・・・お休みがなくなったの」
「はあ?!」

香奈恵さんはフランソワーズさんのその言葉に、身を乗り出した。

「・・・・・・緊急で戻らなくちゃいけなくて・・・・・・・”ごめん、行く”って・・・
それで・・・もうベッドにいなくって・・・」
「帰ってきたのいつよ!?」
「・・・2日前」

オレは美しいフランソワーズさんの後頭部も気になるが・・・香奈恵さんの沸々と
わき上がりつつある怒りに、恐怖心を抱きつつある。

だけど、オレの予想に反して、香奈恵さんはこれ見よがしに大きなため息をついただけで、
それ以上は何も言わなかった。

「ほら、弟!」
「は、はい!!」
「私はレモン・アイスティ!あと、新作全部持ってきて!それと、
この子が好きな”恋の始まりはアップルパイ”と
”七つの恋のタルト・季節の予感”もね!あと・・・」
「か、香奈恵さん?まじで?」

次々にオーダーを出す香奈恵さんにストップをかけようとしたとき、
後ろから ゴイ~ンっと義姉さんにトレーで叩かれた。

「大地!お客様に口答えしない!」
「いっつあ~~~~~~~~~!!!」
「さすが萌子っち!やるう~♪ フランソワーズにはアップルティね」
「ほら!さっさと行く!歩く!働く!」

ああ・・・最強コンビがオレを苛める・・・。

オレは義姉さんに背中を蹴られながら、厨房へと歩く。
フランソワーズさんが気になって、ちらり と彼女の座るテーブルを盗み見た。
義姉さんは、その手をフランソワーズさんの背中を優しく、優しく撫でていた。
香奈恵さんは、フランソワーズさんの後頭部をくしゃくしゃっと撫でてから、
何事かを話しかけている。その時の香奈恵さんは・・・オレの前では絶対に
見せないくらいに、ほがらかに、優しい口元で・・・細い目をさらに細めて・・・
フランソワーズさんに、多分、元気の魔法をかけているところだった。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、香奈恵さんが可愛かった。


オレは出来るだけ早く、けれど盛りつけは特別に!っと兄貴に頼み、飲み物を用意する。
トレーに用意された飲み物を乗せたき・・・





bおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんっっっっっ





耳を覆いたくような爆音がカフェに轟いた。
店中の客が一斉に外へ注目する。
オープンスペースに居た客は、その音に耳を塞ぎながら不満そうに立ち上がり、
一言文句でも言いたげな勢いだった。

それは○○ダの大型二輪スポーツクルーザーだ・・・個性的ななデザインで、
真っ白なボディに黒いラインがアクセントになっており、精悍なイメージのフロントフェイス、
スマートにまとめられているが、あんな厳ついバイクを軽々と乗りこなす人物は・・・
パステルカラー溢れる春の世界にはまったく不似合い極まりない。

ライダースーツは黒。
ヘルメットも、黒。

怪しい黒ずくめの男は、乱暴にバイクをカフェに横付けしたかと思うと、
早足でカフェに入ってくる。その場違いな男に、店中が・・・息をのんだ。


ドアのチャイムが ちりりんっとなる。
店が、人が、空気が、全てが、その男に飲み込まれる。


義姉さんが、その異様な空気に立ち向かうように、動いた。
店中が義姉さんのすべてを見守る。
オレも、大切な義姉さんに何かあったら!と身構えた。
トレーをそのままに、レジからその男の前に立ちはだかる。




こういう時、なんて言えばいいんだ!!
ジョーならなんて言う?!






男は、足を止めることなく手慣れた手つきでヘルメットを外す。


「?!」

「あらららら・・・まあ!」



明るい栗色の髪が、
ふわりと。

褐色の瞳が、
きらりと。

人を魅了する、
東洋と西洋の神秘的な・・・それが


黒い呪縛から解き放たれた・・・。



男は乱暴にオレにヘルメットを押しつけた。


「大地、3分だけしかいられない!計ってろ!」


「え?!」



人が見ている。
人が注目している。



男は、いつもの席で、いつもと違った様子で座る彼女に近づく。
香奈恵さんはニヤリと笑って立ち上がり、男とすれ違いざまに一言、何かを呟いた。
男はそれに軽く頷いただけ。



亜麻色の髪が美しい女性は振り返ってイスから立ち上がり、驚いたように男をみた。
男はそのまま女性を力強く抱きしめた。




男は囁いた。

「 行 っ て き ま す の キ ス は ?  」



男は、女性の頬に自分の頬をすりよせ、
右腕は腰から背中、そして女性の後頭部へと移り、愛おしそうにその指に髪を絡め、
彼女の頭を上向きに傾けさせて。




”瑞々しく潤った果実のように、食べ頃な彩りの唇”を・・・・。






きっちり3分間。







オレ
なまの大人チュー・・・初めて見た・・・・・・。




角度を少しずつ変えながら。
甘い息づかいが、空気を伝う。
時折切なげに聞こえる、女性の喉を鳴らすような声は
男の名前を呼んでいる・・・。

男は彼女の唇をこの世の美酒と言わんばかりに酔っていく。
深く味わいつくそうと、彼女と繋がる唇に熱を込める。



どこかで撮影でもしてるのか?

ここは現実なのか?

これは仕組まれたどっきりショー?



映画館で見るどんなキスシーンよりも・・・印象的で。
オレは絶対に後悔すると思う。
こんなものを見せつけられたら、
今後どんな映画やドラマのラブシーンもドキドキしなくなる!
色褪せる!面白くなくなってしまう!


なんてことをしてくれた!
ジョー!

オレは今後、不感症と言われるんだぞ!
てめえのそのキスシーンのせいだ!


「島村っちさん!3分よ!」


義姉さん、しっかり計ってたんだ・・・。

ジョーは義姉さんの声に反応する。
ゆっくり と 繋がれた熱情を引き離す。

瞼を閉じたままのフランソワーズさんの額に、軽くキス。


「行くよ」

「行ってらっしゃい」



フランソワーズさんは極上の微笑みでジョーを見送る。


ジョーはオレからヘルメットを奪い取るようにして、
店から去った。


午後2時46分マイナス3分。
オレの人生にこの3分間は必要ない!


店の前から荒々しい轟音が走り去る。


春の心地よい、ほんのりとした陽の光が窓に射して、
オレは眩しくて、眩しくて。
お客様に出した、グラスの氷が からん っと音をたてた。

いつもの時間、いつものランチタイム・ラッシュも終わりに近づいてきてる。
今日も店は忙しい・・・。


何事もなかったかのように店が、人が動き出す、が。
けれどもあんなシーンを見せられたら・・・簡単には忘れられない。
ちらり ちらり と客はフランソワーズさんを見る。
でもそれは・・・いやらしい視線でも、好奇心な視線でも、なんでもない。

魔法のような出来事を惜しむような視線。
誰もがきっと明日には忘れてしまうだろう。
誰が、どこで、どんな風にキスをしたか・・・・。

けれど、キスシーンを見るたびに、ちょっとだけ。
ほんの一瞬だけ、ジョーとフランソワーズさんの・・・熱が蘇るんだ。


視線なんてそんなことはちっても気にしないといわんばかりに、
潤んだ瞳と・・・キスの・・・ジョーの余韻が残る唇にそっと指先でなぞる。

フランソワーズさんがイスに座り直すのを確認して、
香奈恵さんも席に戻ろうと歩き出したとき、香奈恵さんはオレをみて意地悪く笑った。

「頼んだの、早くもってきてよ!」
「お、おう!」
「それと、あれくらいでビビってたら、あの子たちと付き合ってけないわよ~」
「?!」

香奈恵さんの言葉に義姉さんがの瞳が きらりんっ と光った。

「今日以上のことがあるの!長いこと接客業やってるけど、こんなの初めてよ!?」

義姉さん、そんな四六時中こういうことが、あっちのこっちのカフェであったら、
もうドラマも映画も、空想も妄想も入りません・・・。小説なんて売れなくなるよ?

「ふっふっふっふ。訊きたい?」

義姉さんは力強く、何度も何度も頷いた。

「じゃあ飲もう!どうせ明後日は店の定休日でしょ?島村っちがいない時しか
フランソワーズを飲ませられないのよ~。
明日の夜、飲みましょ!うちで!いろいろいろいろいろいろいろいろいろいろいろあるから♪」

香奈恵さんはそう言いながら、ちらり とオレをみた。

「弟、島村っちはね、前はあんなんじゃなかったのよ?」
「え・・・?」
「2人が付き合う前は、ほんとヘタレでね~・・・苦労したのよ?フランソワーズ・・・」
「付き合う前・・・知ってるんすか?」
「あの子がスクールに来たばかりのころはまだ、フランソワーズの片思いだったのよ」
「ええ?!」
「だから、女次第で男は変わるのよ。男磨きたかったら、いい女捕まえな!」

香奈恵さんは面白そうにオレにウィンクをして、
フランソワーズさんの席へと歩きだした。その後ろ姿を見て、思った。
香奈恵さんはちゃんとプロのバレエダンサーだって。
その動きは、しなやかで、足音もなく、重力を感じさせない歩き方だった。

彼女の背中で風に触れて流れる髪が、オレの胸のどこかに残った。



香奈恵さんの後ろ姿は、可憐と言うよりも・・・力強く。けれど柔らかい・・・・。
オレは、彼女の後ろ姿に惹かれた。


ん?


んんん?


んんなあああああ?




ジョー!!!!!!!責任取りやがれ!!!!!!!


end.






・あとがき・
シリーズ第3弾!
「3分間」

えっと、一応。
このお話はすでに適当~に書いてあったものなんです。
(当時は、大地君ではなく、いろんな男の子がいろいろフランちゃんにアプローチするものの、最後でいつも島村っちに美味しいく横取りさてしまう・・・という展開)

切ったりはったり文章作業だっなので、流れにが不安。
う~ん・・・ネタの展開の仕方がやはり似ているのは(1,2ともそうだし)私の趣味?

ちょっと頭をリフレッシュして
別の流れを考えます!
short storyのイワンのがらみをこっちに繋げて書いてみようかな・・・
違う展開になるかな?


バイクはなぜ?かっていうと。
車だと間に合わなさそうだから(笑)
島村っちは経験豊富なので・・・裏道もバイクで
やってはいけない乗り方知ってます!

バイク描写・・・修行しますx100000(ノ_<。)うっうっうっ

描写ネタがワンパターンになりつつあるので修行にでないと!
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Day by Day・9
(9)

さくらの部屋に、もうすぐ着る予定のラベンダー色のドレスがかかっている。
実は、それはあまり・・・さくらが好きではないタイプの甘い雰囲気のドレスだった。

親の仕事上、海外での生活が彼女の年令の2/3以上をしてめている。そのためなのか、容姿にたいして掛けられる言葉は、アジア人のアジア人らしいシャープなイメージをもたれていた。さくら自身も、女の子が女の子らしい、カラフルな色のふわふわとした、甘い洋菓子のようなモノは好まなかったので、周りが持ってくれるイメージが心地よかった。

「きみらしいね」

そのラベンダー色が、さくらに良く似合っていたことはさくら自身、鏡の前に立つ自分で確認済みである。けれども、タイトに躯にぴったりと沿うよう作られていながら、裾や胸元、腕周りのデザインが、どうもゴテゴテと飾り付けられた印象で、さくらは嫌いなピアノの発表会に無理矢理に着せられた、ピンクの綿飴のような、生地をむやみに遣い、膨らませるだけスカートを膨らまし、過度に装飾を施した品のないドレスを思い出した。

「きみらしいね」

ジョーは、言った。
その言葉は、試着室から出てきたさくらを見て、ぽつり、と呟くように、彼独特なすこし照れたような、笑顔に添えて。

意見をもとめるつもりがなかった予定外の人物、アルベルトは、細かにさくらのドレス選びにアドヴィイスをくれた。彼のそれは、はっきりとして的確な、・・・大人の男性の意見だったので、さくらは次第にアルベルトの意見を参考にしていた。フランソワーズは、突然に自分の分のショッピングをすることになったために、さくらのドレスを選ぶ余裕がなかったかのように思えたが、さくらが試着室にいるあいだ、始終彼女のようすを伺い、あれこれと世話を焼いた。

「きみらしいね」

ジョーは、さらり と言った。
フランソワーズの時と違い・・・一言だけだけれど、さらり と言った。

「きみらしいね」

その一言に浮かれて、さくらは決めた。

「きみらしいね」

ジョーが自分をこのドレスのイメージを持っていてくれていることが、嬉しかった。


き み ら し い ね


でもそれは、本当にそうなんだろうか?
帰る前に、どうしてもレディス・ルームに行きたかったが、1人では行きたくなかった。
だから、無理矢理にフランソワーズの腕を引っ張り、付き合ってもらった。

さくらは知らないうちにフランソワーズにたいして、女性特有な目線・・・視点で自分は彼女を下にみていたような気がした。それは彼女があのワンピースを着たときにハッキリ、とした。

今までどちらからと言うと、そういう目で他の女性や友人たちをみなかった、と言えるほど、さくらは人が良く、聖人のようなできた人間ではない。それなりに嫉妬や虚栄心。プライドに、自分が生まれた環境、人格形成の上での後天的影響は、それなりに気をつけてはいたものの、無意識に態度に出ていた経験がある。

今回は、態度には出ていなかったとしても、明らかにさくらのこころの奥底ではそういう気持を持って、さくらはフランソワーズに接していたように思われた、いや、思う。

レディス・ルームでさくらは鏡越しにフランソワーズをみた。


コズミ邸は完全なら日本ならではの、日本の家。
広い敷地に雄大に構える屋敷は、観光客らしき人がたまに紛れ込む。
コズミは、そんな迷い人にお気に入りの和菓子と、ちょっとだけ濃く淹れた緑茶を振る舞うのが趣味だった。

コズミがさくらのために、本宅にのみある2階を全てを彼女用にした。
年若い女性なので、色々とプライベートも必要だろうと言う心遣いと、コズミ邸で唯一フローリングの床があるのは、その2階のみだっためだ。

日本人でありながら、日本での生活経験が皆無に近いさくらのために、少しでも過ごし慣れた環境に近いものを、とコズミがそうしたのだ。

彼女の家から運ばれてきた、フル・サイズのベッドに両手両足を広げてうつぶせに倒れているさくらの目の端に、カバーにかけられたドレスの肩先についていラベンダーよりも少し薄い色のレースが見えた。

ジョーはフランソワーズの装いに、何もコメントもせず、褒めもしなかった。
彼が口数少なく、シャイな正確なのはさくらもこの数回のグループ行動でよく理解した。
けれども、さくらがそれなりの質問で、答えを求めたらジョーはきちんとそれに答えていた。
優しく甘いベージュの瞳を少しだけ細めて、その目元は少しだけ困惑の色を見せるけれど、
口元は穏やかに微笑みながら。

さくらは、いつも待っていればよかった。
彼女は好きなことを、話せばよかった。
ときどき甘えて見せて、そして、ときどき拗ねてみせて。
ちょっと我が儘を言ってみた後に、ちゃんとごめんなさいをする。
大げさかな?と不安になりつつも明るい声で笑う。
媚びにはならないように、品良くお願いをする。

そうして待っていれば。
電話がかかって「好きだ」と言われる。
街を歩きながら、「好きだ」言われる。
お茶をしていたら、ふいに手を握られて「好きだ」と言われる。

2人きりになれなかったら、むこうがそれなりに、そう言う状況になるように、
努力してくれた。


待っていたら、かってに好きになってくれる。

さくら自身もそうなるように、ちょっとした魔法を使うけれども。


どうやら、ジョーには今までの魔法は効かないらしい。
しかも、相当手強い恋敵が出現してしまった。
彼女自身はそれを認めたくないのか、知らないのか、知らないふりをしているのか、言いたくないのか、気づかれたくないのか、何か都合が悪いのか、本当に彼女が言ったとおりに大切な家族なのか・・・。

アルベルトのフランソワーズとジョーにたいする接し方は、さくらの恋を応援してくれる、年離れた従兄弟のそれに似ていたような気がする。

わざわざフランソワーズにターンさせた。着飾った女性にそうやってまわって見せろと促すのは普通だけれども、それをなぜにジョーの目の前で、彼がよく彼女を見ることができるように気を遣いながら、2回も くるり くるり と彼女を踊らせる必要はあったのだろうか?

ジョーはあんなに眩しそうに、フランソワーズを見るなんて!

自分が着たドレスを見せた時のジョーの反応。
フランソワーズがワンピースを着て見せた時のジョーの反応。

さくらにたいしては、いくつか賛辞の言葉を口にしたが、
フランソワーズには、一言も言うことができなかった。


「バレエ公演って・・・何よ・・・それ」


車の中でさくらは、ジョーの言葉が頭から離れなかった。
さくらもそのポスターのことを知っていた。

あの、水族館と映画の日。
珍しく、フランソワーズがそのポスターに見入っていたために、
エレベーターのドアが開いて、乗り込んだジェットとさくらに気づかなかった。
ジェットはそんなフランソワーズに声をかけようと口を開いたと思ったら、ニヤニヤしながら彼は、ピュンマの方を振り返って言った。彼は「開」のボタンを押している。

「先に行ってようぜ、フランソワーズが興味があるもんが貼ってあるみたいだしよ!」

ピュンマは何も言わずに、「開」のボタンから「閉」のボタンに指を置き換えた。

「待って!ジョーもまだよ!」
「ああ?ジョーがフランソワーズを連れてくるからいいんだよ、あれで。1人にしたら可哀相だろ、フランソワーズが」

エレベーターの扉が閉まる。
さくらの視界から世界が切り離される。
完全に切り離される、その扉の向こうで、ジョーがフランソワーズに近づいて、彼女の肩に触れた姿が、さくらの瞳に焼き付いた。

フランソワーズは振り返り、ジョーは笑っていた。
チンっと無機質なベルの音が、さくらの胸を意地悪く抓った。

「応援してくれるってお願いしたのに」

フランソワーズはさくらのお願いに、yesともnoとも返事をしてない。
ただ作り物のような綺麗すぎる顔に微笑みを貼り付けていただけ。
その時に、フランソワーズのチャームポイントである、深く不思議な碧い瞳は光を捕らえることなく、夜の海のように静かに揺らいでいたことを覚えている。

「別に、応援なんていらないわよ」

さくらは仰向きに体制を替えて、未だに見慣れ慣れない天井を睨んだ。

「応援なんていらないわよ!そっちがそうやって逃げてるんだったら、それでいいわ!!あとで泣いて、色々言ってきても遅いんだから。ウジウジとしてればいいわ、私はそういうの向いてないのよ、自分の気持ちに責任もてない子なんて、応援してもらうだけ邪魔よね」


####


「こんにちは!!」


街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられていたのを確認してから、ドアのインターフォンを慎重に押した。

滅多に鳴ることがないインターフォンのチャイムの音が、静かなギルモア邸の午後を揺るがした。その邸に身を寄せている誰もが、日常では見ることができないほどに、殺気を帯びた目を鋭く光らせ、素早い身のこなしで・・・戦い慣れた戦士へと瞬きが追いつかぬほど早く身を変えた。

インターフォンのチャイムがもう一度、鳴る。
誰もが刹那に今日、この邸に訪れる予定がある者がいたかどうか、思い出す。
いや、予定はない。

リビングに居た者、部屋に居た者、庭に居た者・・・。
全員が一斉に、通信回路を開く。

<誰だ?>
<今日は予定はないはずだ>
<おい、フランソワーズ!>

<・・・・さくら・・・さん?>

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

ギルモア邸から緊張の糸が切れた。
誰もが深い安堵の息をつき、やれやれ・・っと、呆れている。

いつ、どこで、どのように、再び「それ」が始まるかわからない。
彼らは常に、それに備えていた、備えていなければならなかった。

愛らしい訪問者を歓迎しながらも、平和な日常にふと訪れた嫌な緊張感は、簡単には彼ら胸の内に穏やかさ得るには、しばしの時間が必要とされた。

さくらを出迎えたのは、勢いが良い赤毛の髪に、長い鼻。派手なTシャツの上に じゃらり とぶら下がるシルバーアクセサリー。

「よ!」

「えへへ~・・・遊びに来ちゃった!」


観音開きタイプの右側だけを開けて、ジェットはさくらを見た。

さらさら と風に揺れる直毛の黒い髪。猫が目を閉じたような感じの切れ長の瞳に恥ずかしさと、イタズラが成功した、好奇心旺盛な瞳が ぱちぱち っと素早く瞬き、目の前に立つ、自分よりはるかに背が高い、ジェットを見上げた。

「急だなああ、ビックリすじゃねえかよ・・・ったく、連絡くらい入れてくれや・・・・」

面倒臭そうに、彼は赤毛の髪を がりがり と掻きむしった。

「だって、いつも来てもらってるし!サプライズ~!!」

自分がプレゼントだ、とでも言いたげに、両手を広げてジェットにハグをする。
彼女の日本人とする外見からみえれば、それはとても大胆な行動に思えるが、彼女が育った生活習慣からは、自然な好意だった。ジェットも、さくらからの友好的なハグを優しく受け止めた。

「お邪魔してもいい?」
「ここまで来たやつを追い返せるせるかよ・・!入れ」
「美味しいケーキを買ってきたの!」

さくらはジェットによってギルモア邸のリビングに通された。
もの珍しそうに目線をいろんな所へ飛ばしながら、勧められるままにソファに腰を下ろす。
そこには、青みがかった銀色の髪を持つ、きりっとした目元が涼やかなアルベルトが新聞を広げてくつろいでいた。アルベルトは、新聞紙から目線を上げて、さくらを見る。
彼独特の左口角を上げて、嗤う。

「いらっしゃい。今日は来る予定だったのか?」

大きな、大きなソファに座ったさくらは、子猫のようだ。
アルベルトの問いに、さくらは照れたように頬を染めて首を左右に振った。

「サプライズだってよ!」

どかああっ と、ソファに飛び乗るようにさくらの隣に座ったジェットは 彼らしくもない、少しキツイ目線をアルベルトに投げかけた。

「とっても、とっても美味しいケーキを買ったから、いつもお世話になってるお礼がしたくて、来てしまったんです。連絡したかったんですけれど・・・電話はいつもおじ様がなさってから、私うっかりしていて・・・」

「誰に訊いた?ここの場所を・・・」
「えっと、最寄り駅は知っていたし。バスもそこから海方面へは2本しか出てなかったから、駅員さんに訊いて、街じゃない方を教えてもらったんです」
「・・・頭が良いな。探偵になれそうだ」
「海の音しか聞こえないような、辺鄙なところだよってピュンマが言ってたの、思い出したんです」
「ふ~ん・・・それだけでここ、わかったのかよ?」
「バスの運転手さんに、事情を話して・・・そしたら、最後のバス乗車停のところから、20分も歩いた先に、どっかの気まぐれな金持ちが趣味のように不便そうなところに建てた、人が住んでないと思う洋館があるって訊いて・・・」

そのバスの運転手は、地元の人間なのだろう。
最終のバス停からギルモア邸までは、ずっと坂道が続く。滅多に人は寄りつかない。
たまにみかける人間がいたととすれば、少し遠くまで足を伸ばした、海に来ることを目的としたグループか、地元の人間がふらりと海岸に散歩のようにやってくるくらいで、ギルモア邸が存在することに気づきもしない。そのために、ここはまさしく人に忘れ去れた土地だった。彼らにとってはこれ程に都合が良い土地はそう滅多にない。

「人が住んでないと思う洋館に、1人でよく来たな?」
「・・・あの・・・私、ご迷惑だったんでしょうか・・・?」

アルベルトのそれは、質問というよりも尋問に近い気がした。
さくらは小さな体をより小さくして、不安げな瞳をアルベルトに投げかけた。
「ああ、すまん。気にしないでくれ・・・ほら、ここはこの通り、怪しい赤毛もいれば、どでかいインディアンも暮らしているし、かと思えば赤子もいる・・・ちょっと妙ちきりんな、構成でな。変な勘ぐりをされたくなくて・・・まあ、そういうことで。すまん。歓迎するよ」

アルベルトは、さくらを怖がらせた感覚に、バツが悪そうに、眉がしらを寄せると謝りまた、新聞に目を移した。

「日本って、変なところで知りたがりですものね!お節介というか・・・」

彼女の独り言のような言葉に、アルベルトはもう何も言わない。
口を開けば、また、尋問することになる。と知っているからだ。

「いらっしゃい!さくらちゃん」

2階の階段から小気味よいスリッパの音が、明るい青年の声と混じる。
声の主を全身で見ようと、さくらはソファで身をよじった。

「ピュンマ!! サプライズ~!」

ピュンマの笑顔を見て、自分の気持ちをもう一度盛り上げようと、明るい声で彼の名前を呼びながら、両手を広げた。
ソファの背を挟んで2人はハグをする。

「ビックリしたよ~!来るなんて訊いてなかったから」
「だってサプライズだから!」
「あははは、そうだね。君のそれは成功だよ!」

2人はニコニコと微笑み愛ながら、包容をといた。

「あれ、何?」
「お土産!!いつもお世話になってるから、とっても有名なケーキ屋さんなの!!」

ピュンマが指さしたその箱は、上等な包みに金色のロゴに店名が書かれ、厳かにテーブルに置かれていた。

「みんなでもらっていいのかな?」
「モチロン!!そのために買ってきたの!」
「じゃあ、ついでだからちょっと早いけどお茶にしようよ、ジェット、アルベルト。・・・あれ?フランソワーズは?彼女はキッチンにいるの?」
「そうじゃね~の?なんか甘ったるい臭いさせてたし・・・」
「ねえ、ピュンマ」
「何?」
「ジョーは今日、いるの?」
「ああ、ジョー?いるよ?・・・さっき見かけたけど・・・」
「っっんだよ、結局、このケーキもサプライズも、ジョーのためじゃん、さくら!」
「ちがうわよ!みなさんによ!・・・でもいっつもジョーが車を運転してくれるし、ジェットは全然、しないじゃない?」
「あいつは好きで運転してるんだぜ?オレの広~~~~~~~~~~~~いこころで、あいつの好きなことをちゃんとやさせてやってるんだよ、オレ優しいんだぜ?」
「都合の良い優しさじゃない、それ~?・・・そうやって何人ガールフレンドがいるの?」

ジェットは少し胸をはるような仕草をみせて答えた。

「数えられね! それぐらいモテんだよ。オレ!!」


####

ドアのチャイムが鳴った。
今日は誰も来ないはずだ。

体が一瞬にして強ばった。
手に持っていたものをキッチンシンクに投げ入れた。

目と耳のスイッチを入れる。

通信回路が開いたと同時に襲われる音の洪水は、ここが街中でないことにこころから感謝した。

目に映し出される壁向こうの風景。
少しずつ、向こう側との物理的距離が、彼女が持つ特別なそれによって、縮まっていく。

もう一度チャイムが鳴る。

玄関から聞こえる、それを視るために微かに首を左へと傾ける。
そこに見えたのは・・・

<・・・・さくら・・・さん?>



小刻みに震える躯。
震えが留まらない。

いつでも、戦いに戻るためのこころの準備はしていた。
いつでも、日常の中の自分を律していた。

「それ」が来たかもかもしれない。っと思わせられただけで。
こんなにも動揺してしまった、自分が情けなかった。

恥ずかしかった。
悔しかった。

痛い。


フランソワーズは自分の腕で自分を抱きしめる。
ぎゅうっと自分が出し切れる力を込めて・・・。


怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!



襲い狂う爆撃音。
爆煙が彼女の喉を通る。
雨のように降り注ぐ弾丸。
巻き上がる砂煙に混じって、石のように投げ捨てられた。

人。
サイボーグ。
人。
サイボーグ。



サイボーグ。


耳に流れ込むは人の悲鳴。
最後の叫び。
断末魔。

目に映り込んでくるのは、死。

人。
サイボーグ。
人。
サイボーグ。
人。
人。
人。
自分。




「フランソワーズ!!!!!」


009の声。
彼はなぜナンバーで呼ばないのだろう?

ああ、彼がいれば大丈夫。
この戦いはもうすぐ終わるわ。

彼が・・・きっと。

きっと、その背中で・・・。


その腕・・・・で・・・・・。






「フランソワーズ!!!!!」






ジョーはフランソワーズの腕を掴み、彼女を自分の方へと振り返らせた。
彼女の瞳は、何も意思をもっていない。
ただの蒼いガラス玉が、ジョーの顔を映していた。

フランソワーズの躯の震えが、ジョーが彼女に触れる部分から嫌という程伝わってくる。



彼女は「あの日」と同じように、自分を自分の腕で抱いている。


そうやって堪えてきた、彼女を知ってしまった。
そうやって励ましてきた、彼女を視てしまった。




「009、大丈夫よ・・・」


彼女の色を亡くした唇から漏れた・・・抑揚のない声。
その声は、戦場で傷つきながらも自分は戦えると、まだ自分は戦れると、訴えるときの彼女の強さ。

なぜ、フランソワーズが?
なぜ、フランソワーズだ?
なぜ、フランソワーズに?


なぜ、フランソワーズはこんなに苦しまなくてはいけないんだ?!

僕が、守りたい。
僕が、助けたい。

俺が。
僕が。

俺が、抱きしめたい。
俺が、その闇を・・・引き受ける。



「ここにいる、ここに、いるから!!!」
ジョーは震える彼女をその腕に、抱きしめた。



駄目だ。
抱いたら駄目だ。

彼女の躯は、柔らかく。
彼女の震えが、愛おしく。
彼女の髪から香る、それに・・・酔う。


駄目だ。
彼女は違う。
彼女は俺と違う世界の人だ。




彼女は・・・・

迷い込んだだけなんだ、黒い森に。
でもキミはきづいてるはずだ。
明るい月の光がキミをみていることを。

キミはちゃんと、知っている。
その月の光の先に、闇を抜ける道があることを。

キミは、夜に少し冒険をしたんだ。
そして迷い込んでしまっただけ。

ちゃんと、還るための道はキミのために輝いてる。


だから、俺は駄目だ。


キミをこの闇に引き留めていたいから!
この闇の中で生きる俺だから!



「・・・ここにいるから・・・それしかできないから」



####

キッチンへと続く扉は開いていた。
赤毛の男は、ただ・・・悲痛の顔で見守っていた。

ーーーなんで、そうなんだよ?お前らは!


腹が立つ。
腹が立って、腹が立って、仕方がない。



けれども、それを自分がどうにも出来ないことも、知っている。


「ジェット・・・?」

ジョーはジェットが扉の陰に隠れるようにして立っていることに、気がついた。
自分の理性が勝ったことに安堵の息を吐いたが、自身の腕に抱いたフランソワーズを離すことが出来なかった。

「・・・おお、オレ。悪ぃ・・・邪魔したな」

それだけ言い、立ち去ろうとした彼をジョーは呼び止めた。

「ギルモア博士を呼んでくれ」


ジェットは改めて2人をしっかりと見た。
抱き合っているように見えたシルエットは、今は違う。
ぐったりとジョーの腕に、糸が切れた操り人形のようにもたれかかる、フランソワーズの姿は、明らかに彼女の意識がそこにないことが伺われた。

「どうしたんだ!?」

ジェットは反射的に2人に近づき、フランソワーズの様子をみた。

真っ白い、真っ白い、顔。


「・・・多分、貧血だと思う・・・」


####

2階へ行くためには、リビングを通らなければならない。
さすがに今、さくらがいるためにそれは諦めた。

キッチンから続く廊下から、メディカル・ルームへと運ぶ。
ジョーはフランソワーズを自室へ連れて行きたいと思ったが、仕方がない。
ジェットと軽く話しのつじつまを合わせる。

フランソワーズはギルモア博士と出かけたことにした。
回線を通じて、短く状況を説明する。
誰からも何も言葉が返ってこない=全員が了承したのだ。

ジェットは明るい調子で、「フランソワーズがいねえ!誰が茶を用意するんだよ~!」と
戯けて見せた。
ピュンマが、「じゃあ、僕が淹れるよ。グレートが居てくれたらヨカッタのにね」と、キッチンへ向かう。

キッチンに漂う甘い香りにピュンマの胸は痛かった。
彼女が3時のお茶のために、ブラウニーを作っていたことがわかった・・・。
それは、ピュンマがリクエストしたから。

たしか、2日前・・・だ。
たまたま雑誌に載っていた、それに指をさして言ったのだ。

「これ、何?」
「ブラウニーよ?ピュンマ知らないの?」
「う~ん・・・有名なケーキなの?」
「定番中の定番よ!」
「へええ。食べたことあるのかなあ、ボク?判らないや・・!」
「作ってあげる」
「え!本当!!」
「やだ、そんなに難しいものじゃないのよ?これ。意外と簡単につくれちゃうの」
「それでも、すごいよ!」
「んふふふ。じゃあ、さっそく外に出てる張大人に電話して、材料をお願いしましょ!」

嬉しそうに、楽しそうに、とても素敵なことを発見したような笑顔のフランソワーズ。


ピュンマは自分の胸元のシャツを・・・・握りしめていた。


####

<ジョー、お前はリビングへ来い。部屋かどっかにお前が居ることになっている>

アルベルトから通信が入る。
無視したいが、そうもいかない。

余計な詮索をされないために。
コズミ博士の知り合いだろうが、友人だろうが、絶対に怪しい形跡を残すことは許されない。

ジョーは立ち上がり、ドアノブを回する。

「・・・心配ない、ジョー。久方ぶりに勢いよくスイッチを入れた所為で、ちょっとビックリしただけじゃ、時期に元気に目を覚ます」

ギルモアの言葉に、ジョーは背を向けたままリビングへ向かう。

「フランソワーズを・・・お願いします。博士」



=====10 へ 続 く

・ちょっと呟く・

さくらちゃんが動いたら
お話がぐんっと進み始めましたな~・・・。
(5)くらいでここまでいきたかったのですが(汗)

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Day by Day・10
(10)





ピュンマが淹れたお茶は美味しかった。
さくらが言う、”とても美味しい有名なお店のケーキ”は、たしかに普段買い出しへ行くスーパーやデパートでは買うことは難しいだろう。でもそれよりも美味しいものが、少なからず、ここに居るメンバーにとっては、何よりも楽しみにしているものが、あった。それは今日のお茶に出されるはずだった。

フランソワーズが3時のおやつに作る御菓子たち。
今日はブラウニーの予定だった。



ギルモア邸内の冒険に、海岸への散歩。
さくらは、彼らと一緒に過ごした時間の中で、今日が一番リラックスしていたし、楽しかった。それは、彼らの住む邸を見た所為なのか、少しだけ彼らの・・・ジョーのプライベートを見ることが出来たからなのか。それどもフランソワーズがいないせいなのかは、わからないが、それらを突き詰めて考えるつもりはない、さくら。

小さなヒールがある靴は、砂浜を歩くには向いていない。
彼女はその靴を脱いで、走る。
まだ冷たい海水に触れては、可愛い悲鳴を上げた。

グレートがジェロニモと一緒にギルモア邸に戻ってきて、張大人にお小言を言われながら、今日の買い出しの戦利品を手にキッチンへ向かう。ジェロニモも大きな箱を軽々と手についていく。さくら、ジョー、そしてジェットの3人は海岸へ出ている。

大まかな報告を受けて、外出組だった3人は、各々にため息をついた。
キッチンで見た・・・フランソワーズが何か御菓子を作っていた跡を目にしたとき、そのため息は、深く・・・・哀しみも含まれたものとなった。

ジェロニモは、グレートの肩をとんっと叩く。

「フランソワーズは強い。大丈夫だ・・・まだちょっと時間が必要」
「ああ、わかっちゃあいるが・・・楽しめる時にちゃんと楽しまないと・・・いつ今だって・・・なあ、わからんのだからして・・・早ければ早いほど、我が輩としては嬉しいねえ」

ジェロニモはグレートの気持ちを理解するかのように、深く頷いた。

「大丈夫だ。彼女はちゃんと笑っている」







####

「ピュンマは一緒に海に行かなかったアルか?」

張々湖は脱いだコートを自室に置きに行ったとき、きちんと閉められていなかったピュンマの部屋の中を覗き、彼がぼうっと立っている姿を見て声をかけた。

「あ、おかえり・・」
「ただいまアル!」
「・・・・今日の晩ご飯は、張大人が作るんだね?」
「・・・・そうネ・・・フランソワーズはムリさせちゃダメね」
「うん・・・」
「ピュンマ、またフランソワーズは作ってくれるヨ、毎日だってピュンマのために作ってくれるアルよ!」
「そんなの、ボク太っちゃうよ?」

力無く微笑んだ青年の顔に、張々湖はゆっくりと部屋に入り、その両手をとって力強く握った。

「今日はピュンマの好きな蒸し餃子にするネ。いっぱいエビをいれて、スペシャルにするよ!」
「・・・うん!・・・・楽しみにしてるよ!!」
「さあ!いっぱい作るからネ!!!手伝って欲しいアル」

ピュンマを強引に部屋から連れ出し、2人はキッチンへと向かう。

ジェロニモから回線で張々湖へ、フランソワーズがそのままにしていたモノを片づけたと連絡が入っていた。









####

昼の時間がもうすぐ終わる、イワンはメディカル・ルームでゆらゆらとクーファンを浮かせながら、彼のママでもあるフランソワーズを見ていた。
彼は、彼女が何を思い、何か考えているか、知りたい気持にかられるが、それは絶対にしてはいけないことだと、小さな胸に一生懸命に言い聞かせていた。

夜の時間が近づくと、イワンは現実と夢の境目で、時折その力を暴走させてしまうことがある。その度に大きな被害をドルフィン号に与えてしまうために、彼自身もどうにかしたいと願っていた。そう簡単に・・・解決出来ないと思われいた。が、しかし、それはごく単純な問題であったことが
証明された。
夜の眠りにつくまでの間フランソワーズに抱っこしてもらいながら、彼女がその小さなイワンの背中を優しく、優しく とん とん とん とん とん っとたたいていればいいのだ。
それが彼が悪夢をみずに、超人的な能力を暴走させることなく、健やかに長い眠りにつくための必要な儀式。

まもなく彼はその儀式が必要な時間が近づいていた。

「イワン、お前もわかっとるじゃろ?心配はいらん、フランソワーズは大丈夫じゃ」

ギルモアの言葉を聞かずとも、そんなことはわかっているイワンだけれども、小さな胸に滲むそれは、そういう問題ではないのだ。頭ではわかっていても、こころがついていかない。

ただイワンはフランソワーズが笑って、「ちゃんと全部飲まないとダメよ」と言う言葉が聞きたかった。








####

ここにさくらを長いさせるつもりはない。
ジェットはそれを諭されないように、上手くさくらをコズミ邸まで連れ帰ることに、成功しつつあった。多分さくらはジョーが送ってくれると思いこんでいるだろう。ジョーも、そのつもりなのかもしれない。しかし、今日は。今日だけは、ジェットはそうさせないつもりだった。

「オレの運転テクニックみせてやるぜ!」

彼女を海岸へ連れて行き、そのままジェットはギルモア邸には戻らせることなく、彼女をコズミ邸まで送り届けようと思っていた。

「ええ?!私まだ死にたくな~~~~~~い!」
「ひっで!お前、それはオレの運転をみてからいえよ!」
「ねえ~、ジョ~~!!!本当にジェットは運転出来るの~~~?」

ジョーは2人から少し離れたところで、煙草に火を付ける。
さくらは驚いて、ジョーをみた。
ジェットは、面白くなさそうな顔を一瞬浮かべた。

ジョーは喫煙者だが、夜、誰かが吸っているときに付き合いで吸うか、酒が入ったときくらいにしか手に取らない。それ以外で彼が煙草を手に取るのは・・・理由は分かり切っている。彼は今、自分のこころを占める、それをなんとか落ち着かせようと、努力しているのだ。

「ええ?!ジョーって煙草を吸うの?!」

深く吸い込み、肺に浸す毒。
ふうっと口からその残骸をはき出して・・・ジョーはさくらをみた。
言葉にせずにただ頷く。

「オレも吸うぜ?珍しくね~よ、そんなの」
「いや・・・ジェットは吸っていてあたりまえ?みたいな?」
「は~~~~~~あ?お前、オレのことどんなイメージもってんだよ?!」
「う~ん・・・悪戯っ子?で不良?真面目に学校さぼってそう?」
「ああ?真面目に学校をサボるって日本語おかしいぞ?この、日本人!」

ざああっとジェットがわざとらしく蹴り上げた足が、砂を持ち上げる。

「イメージよ、イメージ!」
「じゃあ、ジョーはどうなんだよ!!」
「ええ?ジョーのイメージ?」
「そう、アイツも意外と、色々悪い子してんだぜ?」
「ジョーが?!」
「おうよ!オレより経験豊富だぜ?」

ジェットがニヤリと嗤ってみせた。
さくらは信じられない、と言うように目を見開いてジョーをみる。


彼は海を見ていた。
彼がはき出す煙は天高く昇り行く前に雲に紛れて消えていく。
彼が煙草をその・・長い指に挟んでスローモーションのように遅い仕草で口へと運んでいく。手のひらで覆ってしまうように、口元に持ってきた煙草のフィルターを、乾いた唇に押し入れる。彼の胸が動いた。瞼を閉じて吸い込んでいくその毒に酔っていく。長い睫が目元に陰をつくる。冷えた海風が長い前髪を揺らす。彼の唇を独り占めしていたフィルターが離れた瞬間、ふうううっと白い・・・彼の肺を冒した煙が綺麗だった。

ジョーはとても絵になる。
ずっと見ていたくなる。

それだけじゃあ、もう物足りない。
それに気がついたのは、さくら自身。


だから、欲しいのだ。
彼の彼を彼が彼で、自分だけの人になってほしい。


「おい!ジョー!!風も出てきた、戻るぞぉ!!それからぁ今日はオレが送ってくぜ!運転ができることを証明してやんだかんな!」
「ええ~!!やだああああ、死にたくないもん!ジョーが送って!」

ジョーはちらりと2人に目線を送っただけで答えない。

「ねええええええ!ジョー、私はまだ死にたくない~~~~!ジェットの運転なんて怖い!」



さくらは、簡単に言う。

死。という言葉を。

本当の恐怖を・・・彼女は知らないのかもしれない。

戦場をみてない人。
戦う必要がない人。
死体も、爆煙も、弾丸も、映画や小説の世界だと思う人。

両親が居て、学校に通って、友達とおしゃべりをして、美味しい御菓子を買い、お洒落をして、ボーイフレンドと口げんかをして・・・・毎日を繰り返す、幸せ。


フランソワーズだって。
フランソワーズだって、それを望んでもいいはずだ。

フランソワーズだから。
フランソワーズだからこそ、そんな世界が似合うんだ。

どうして、フランソワーズなんだ?
どうして、フランソワーズが選ばれた?
どうして、フランソワーズが?


003がフランソワーズでよかったと思う。
フランソワーズがサイボーグで嬉しかった。

003を守れるのはボクだけ。
フランソワーズを守りたいとオレは思う。

彼女をここから出してあげないと。
彼女にここは似合わない。


完全に闇が彼女を取り込む前に。



「ジョー?」


「あ。ごめん。なにか言った?」








####

車はまっすぐにコズミ邸へ向かう。
予定どおりに、彼女をギルモア邸に戻らせずにそのまま駐車場へと向かわせた。車を運転するのは、ジェット。

「気持わりぃほど、大人しい~じゃん、どうしたよ?さっきまでの元気は?」

車に乗り込み、ジョーと別れてから一言も口をきかないさくら。
10分ほどして、その沈黙に堪えられなくなったのか、ジェットが声をかけた。

「・・・ジョーは今日・・何かあったの?」
「あ?」
「なんだか、様子がおかしかったもん」
「そうかあ?あいつはいつもぼ~~~っとしてるぜ?」
「・・・そうかな?今日はいつものジョーじゃなかった気がする」
「ふ~ん・・」
「何か、知ってる?」

さくらは運転するジェットはみない。
深く体を助手席のシートに預けて、フロントガラスから見える、伸びた道を視線をさだめているだけ。

「まあ、あいつも色々あるんだろうよ?」
「色々って?」
「色々は、色々だっっ!」
「・・・話してくれたら、ちゃんと相談に乗るのにな、私」

拗ねたように、唇を尖らせたさくらを ちらり とみた。

「ジョーはやめとけ」
「・・・なによ、それ?」
「おめ~の手にはおえないよ・・・あいつはヤバイ」
「意味わかんない~~」
「傷つくのは、さくらだぜ?」
「・・・まだわかんないじゃん。やってみなくちゃ・・・助けてよジェット!」
「・・・・・いや、それは無理」
「ふん、弱虫!可愛い女の子が助けを求めてるのに!」
「だから、やめとけってアドバイスしてんじゃん」
「なによお、ジェットは・・・・」
「?」


「ねえ、ジョーは・・・ううん。フランソワーズさんは誰か好きな人いるの?」



ぱあああっとクラクションを鳴らしながら走り去った車。
日が落ちて、ネオンが意味もなく明るい。
通り過ぎる車のライトが、車内を不規則に照らし出す。

「なんだよ、急に。なんでフランソワーズが出てくんだ?そこ?」

「ライバルかもしんないから」

「相手になんね」

「・・・私が?」

「両方」

「????」

「ジョーと相思相愛は、これのオレだ!」









####

ガレージでジェットとさくらと別れ、ギルモア邸の玄関から直接、自室に戻った。
来ていた上着をイスに置き、プリントしたまま放っておかれた1枚の紙を手に取る。電気をつけない暗い部屋の中でも、彼は紙に印刷されたその文字を読むことが出来る。
丁寧に4つに折り、ジーンズの後ろポケットにしまい込んで部屋を出た。
足は、そのままリビングを抜け、キッチンで忙しく夕食の支度をしている、張大人と、エビの背わたを取り除くことに集中しているピュンマがいた。

彼らを目の端で捕らえつつ、何も言わずに通り過ぎる。
その足は、一番狭い部屋に作られた、主にメンテナンス後に用意られる部屋に向かう。

そこにフランソワーズがいるからだ。


寝ているのか、起きているのかわからないが、彼女の部屋に人らしい気配がなかったために、まだここに居ると思われた。

堅いドアを2,3回ノックする。

返事はない。

もう一度、先ほどよりも強くノックをしてみたが、同じく返事がなく、遠慮がちにドアノブをまわしてみた。10cmほど開けたドアの隙間から、目だけで部屋を覗いてみる。
自分がこの部屋を出たときと、変わらない様子が目に入る。
ギルモアはもう、ここには居ないようだったので、それだけが、自分が居た時と違っていた。

ドアを開ける音が立たないように、慎重に開け、そして足音を消して、シングルサイズの細いベッドに寝かせられている彼女、フランソワーズを観た。

少しばかり顔色に血の気が戻り、唇も赤みを取り戻しつつあった。
白いシーツが彼女の肩までしっかりと引き上げられている。
胸のあたりが上下していることから、彼女がちゃんと生きていることが確認できた。

生きている。

それが解っただけで、・・・ジョーは安堵の息をはく。

それでも、より強く彼女が生きていると言うことを確かめたくて、彼女の口元まで顔を近づけ、耳を寄せる。
微かに聞こえる、息づかいにジョーは目元が柔らかく緩まった。

そのまま そろり と彼女のそばに置いてある折りたたみイスに腰掛ける。
枕元に寄せたイスに座り、ただ彼女の寝顔をみつめる。

以前だったなら・・・戦いの日々だったなら、
立場は逆だったことが多かった。

ジョーが戦いに傷つき、ギルモアの治療後にベッドで寝させられたとき、目を開ければ飛び込んでくる、哀しげに揺れる星が瞬く夏の夜空・・・を思い起こさせる紺碧の瞳。彼女の、その瞳を観るたびに、ジョーは自分が生きていることを、戻ってこれらことを実感するのだ。

目が覚めたとき、それを観ることが叶わなかったときには、ひどく寂しい気持ちに駆られ、そして、今いる場所はこの世なのか、あの世に来てしまったのかが解らずに酷く混乱したりした。

ジョーは冷たい無機質な部屋で彼女を1人、目覚めさせることのが嫌だった。
まだ目が覚めていないなら、そばに居てあげたかった。
もしも、目が覚めていたら・・・嫌なことを忘れさせるためにも、彼女が見入っていたあの、ポスターの公演のチケットを手に入れたことを教えたかった。
それが少しでも彼女を喜ばす方法ならば。

穏やかな寝息が、ジョーの胸にあった不安を取り除いていく。

彼女のしっとりとした長い睫が微かに揺れる。
瞼が ぴくり と痙攣した。

眉根が軽いラインを作る。
形良い唇から、掠れた彼女の言葉にならない音が漏れる。

首を左右にふってみせた。

ライトで鈍く光る亜麻色の髪と枕が生んだ摩擦の音が耳に響く。

「う・・・・ん・・・?・・・・」

ジョーは彼女が意識を取り戻し始めてたことを知ると、今の場所よりも気持ち後ろへ下がり、距離を取った。

「・・・あ・・・れ・・・・・わた・・・し?」

フランソワーズの瞳はうっすらと開かれ、天井につけらえた剥き出しの蛍光灯を眩しげに観た。

「フランソワーズ?」

彼女の名前を呼んでみた。

ジョーの声に答えるように、自分の名前を呼ばれたために、フランソワーズは首だけを動かして、声の主を確認する。

「・・・・j、ジョー?」

彼女の口ら自分の名前。
ここでやっと、本当の意味でジョーは安心した。

「フランソワーズ、気分は?」
「き ぶ・・・ん?」
「少し・・・だけ、いつもより少し勢いよくスイッチを入れたから、だ。そうだよ?」
「ああ・・・そう・・・そう・・・な、の? ごめんなさい」

しっかりと開いた瞳は、最後に観た瞳と違い、ちゃんと生気を取り戻している。

「謝る必要はないよ?」
「・・・でも、迷惑を、か・・かけて、しまったわ・・・」
「迷惑じゃない」
「いいえ、ジョー・・・違うわ・・・ちゃんとしてなくて・・・ちゃんと出来なくて・・・ごめんなさい」
「何を?・・・何がだい?」

「さくらさん・・でヨカッタ・・・」
「?」
「これが、もし、これがもしも・・・危険な・・・戦いの始まり・・だったらきっとダメだったわ、私。 みんな・・みんなに迷惑を・・・・」

このまま話せば、彼女は自分を追いつめていくことが、手に取るようにわかる。
フランソワーズの言葉を聞き、彼女らしい。と、思ういながら、
彼は彼女の言葉には何も返事をせずに、首を微かに左右に振った。


「・・・バレエって見に行ったことある・・んだろうね?」

突然の話題にフランソワーズは ぼかん っと、ジョーを観た。
ジョーが何を意図して、そのような話を切り出すか、探ることもせずにただ、?マークを浮かべた顔。その顔はほんの数秒前の後悔の色は微塵もなく、純粋にただ驚いている。

「バレエ」

ジョーはもう一度言う。

「バレエ、観に行ったこと、あるよね?」
「・・・え、ええ。も、もちろん・・・」
「俺・・・はないんだ」
「・・・」

フランソワーズは、もう先ほどのことなど考えることよりも、ジョーの口から出てくる言葉に集中していた。

「誘ったの・・・俺だよ・・ね?・・・2回とも」
「?」
「覚えてないかな?」

フランソワーズは必死で霧のかかった、鈍くなった頭を動かす。
確かに、そのような言葉をジョーの口から聴いた覚えがある。
覚えがあるけれども、それは一体何処で?

・・・そう。それは・・・
さくらが、ドレスを買うために向かったショッピングモールで1回、それよりも前にも1度?
あの、映画館がある駅ビルのインフォメーションセンターで。

「興味ある?・・・チケット予約しておこうか」

エレベーターに乗り遅れてしまったフランソワーズ、それは自分だけだと思っていたら、背後にジョーが立っていた。

ふいにフランソワーズの肩におかれた手に、飛び上がるほどの驚いた。
なぜなら、その時フランソワーズの世界は、バレエのことで頭はいっぱいになっていたために、ジョーがすぐそばに居たことに気がつかなかったからだ。


「バレエがどうか・・・し、たの?」

ジョーはフランソワーズが自分の言葉に応えたことが嬉しかった。
少し腰を浮かせて、部屋から持ってきた1枚の紙をポケットから引き抜くと、それをフランソワーズの目の前に差し出した。

「お礼」

ジョーは彼女が観やすいように紙を広げた。
フランソワーズはゆっくりと文字に目を走らせながら、その紙を白い手で受け取る。

「ずっと、日本食を作ってくれた、お礼がしたかったから。行こう」

ジョーが差し出した紙に印刷された文字。
あの、ポスターの初日公演・S席のチケットを予約した・・・証明書。

「・・・・嬉しい・・・・・観たかったの・・・」

彼女の口元から笑みが零れた。




彼女の笑顔が、ジョーを闇から1歩遠ざけた。










====11 へ 続 く

・ちょっと呟く・

え? 29だったの?
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僕=キミ
「珈琲飲む?」
って訊いても何も答えないから、自分の分だけ用意する。

けれど、いつの間にか私のマグは、彼の手の中。
全部、彼に飲まれてしまった。

あらら。また取られちゃった。


こういうことが沢山ある。

私の紅茶。
私のエプロン。
私のフォーク。
私のクッキー。

私のボールペン。
私のお茶碗。
私の本。
私の携帯。

私のコップ。
私のシーツ。
私のお箸。
私のタオル。

私のキーホルダー。
私のパソコン。
私のキャンドル。
私のシャンプー。

私のベッド。
私のイス。
私の枕。
私の・・・・・




私のなのに。

全部、私専用なのよ?



「もう!ジョー、それ私のなの!」

全部飲まれてしまった
何もないってないお気に入りのマグ。

珈琲がそこにあったという温もりと
彼の唇があてられた痕だけが残ってる。


彼は 不思議そうな顔をして

「なに怒ってるの?」

「もう~、珈琲いるかってきいたら何も言わないから
ジョーの分、いれなかったのに結局私の飲んじゃうんだもの」

「?」

「今度から、ちゃんと言ってちょうだいね?
すぐ私のものを取っちゃうんだもん」

「?」

彼はわからない、と言いたげに首を横に傾けた。

「いっつも私のばっかり使うじゃない」

「・・・キミの?」

「そう!私の!」

「僕のだよ?」




キ ミ の も の は 、 ぜ ん ぶ 僕 の も の

僕の紅茶。
僕のエプロン。
僕のフォーク。
僕のクッキー。

僕のボールペン。
僕のお茶碗。
僕の本。
僕の携帯。

僕のコップ。
僕のシーツ。
僕のお箸。
僕のタオル。

僕のキーホルダー。
僕のパソコン。
僕のキャンドル。
僕のシャンプー。

僕のベッド。
僕のイス。
僕の枕。
僕の・・・・・


僕のフランソワーズ!

end.


・あとがき・
9が旧○ャイアン化!

思いつきです・・・
部屋片づけないと・・・(笑)
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可愛い人
short storyにあるお話しを
「プロローグ(?)」にしてみました!
お話はこちらを読んで頂けると嬉しいです。

=======

気温は春らしく暖かくなりつつ、日もつられて長くなりはじめた今日この頃。
昼間はジャケットを着ていても少し汗ばむようになったが、
さすがに日が落ちてしまうと、まだ寒い。
気を許してしまえば、簡単に風邪をひいてしまいそうだ。

一日もあと1時間24分ほどで終わる。
・・・今日はallでカフェに入っていたので・・・もう疲れた。
身内の店なだけに、ある程度のワガママは効くものの、
それに見合っただけの働きを要求されるのも事実だ。

義姉さんはきっちりしてるからなあ・・・。

店内は平日なせいか、もうテーブル席に着く客はいなかった。
時折、店のチャイムを軽やかに鳴らす客も、自宅用に包んで足早に自宅へと帰っていく。
義姉さんはオープンカフェのスペースをいつもより早めに片づけ始めた。
さすがに今日は少し冷え込んでいる。外で茶を飲みたいやつなんて、いないだろう。

ああ、足が棒だよ!
まったく・・・。
オレ、扁平足気味なんだよな~・・・。


ドアのチャイムが ちりり~んっと鳴る。
いつもより間延びした音は・・・1人客ではないことを知らせてくれる。

多分、今日はこれが最後のお客様。

「いらっしゃいませ・・・」

疲れているオレの声は、こころなしか覇気がない。
客の顔を見ずに、つい客の足下を観てしまった。
履き込んでいるが、綺麗に手入れをされた靴。

最後は男の客かよ!


「随分、疲れてるな?」

聞き慣れた・・・スッキリとしたテノールの声にオレは驚いた。
よく知るその人物は、この店を訪れる時間がだいたい決まっている、
お得意様中のお得意様・・・の彼氏だ。
オレはもう、営業用のオレでいる必要がなくなった。

「~~~んだよ、ジョーかよ・・・」

面倒だけど、奴のパーフェクトなモテ顔を観なければならない。

ん?

「フランソワーズ、ちゃんと中に入れよ、ドアを閉める」

あああああ!フランソワーズさんもご一緒ですか~~(喜)

オレは勢いよく顔を上げると、ジョーが身をよじってドアを支えている姿が目に入った。
オレの方へ向けられた背中がは広く、一見しただけでは解らないが・・・
着ている服の下に隠された肢体は、きっと彫刻にでもなってしまうかのように完璧なのかもしれない。
・・・こいつの弱点は「泣き虫」と「フランソワーズさん」意外にないのか?!

フランソワーズさんが店内に入ったことを確認してから、ジョーはドアを閉めた。

ドアのチャイムが ちりんっっと跳ねた。

オレの心臓は・・・口の中から飛び出した!



フランソワーズさんの細く麗しい白い腕に抱かれた、その物体はなんすっか?!

彼女はその華奢な線に不似合いな豊かな胸元に、大切そうに抱きかかえるのは・・・
黄色のタオルケットの中から、薄いアイスブルーに近い、少し癖っ毛のある銀髪のような髪がのぞく。
小さな、小さな、生まれたばかりの・・・人間?!


絶対に嘘だ!

絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、
絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、


絶対に!

これは夢だ!!

そんな華奢で、細くて、美しいフランソワーズさんの体から出てくるはずがない!



「っっく・・・っっっっっははははははh!!! 大地、なんて顔してんだよ!」

ジョーがの笑い声オレの耳に響く。

うるさい!ジョー!オレはそれどこじゃないんだ!
てんめ~~~!純粋無垢な白き光の可憐な天使になにしやがったあああああああああああ!


・・・・ん? 

ジョーお前でもそんな風に笑うんだ・・・へえ~。
って、感心してる場合じゃあねぇぇぇ!


ジョーは、ひ~、ひ~、っと苦しそうに笑い、肩を揺らして前屈みに体を折る。
珍しいって言うか、なんかお前・・・ガキみてぇ・・・だぞ?

「も!!ジョー、失礼よ!! そんなに笑ったらいけないのよっ」
「っっっく、っっく・・・はは・・はっはははっっは。・・・ご、ご、ごめん、くっくっっく!
ダメ。俺・・・とま、とまらない・・よ・・・は・・はははっっっ」


そんなに俺の顔は面白いのかっっ!


フランソワーズさんは笑い転げるジョーの傍らに立ち、彼に触れたいという
思いがあるのだろうが、その両腕には赤ん坊を抱いているために
叶わないらしく、それならと、彼女は自分の二の腕を
ジョーが笑い揺らす腕に押し当てた。

「笑いすぎよ、もう!」

ぷうっと膨らました紅い頬に、少し尖らせた抗議の唇。
フランソワーズさんが抱く赤ん坊の手が、ジョーに向かって伸ばされたのが見えた。
その白く小さな、小さな、小さな爪と動いているのが不思議だ・・・。

ジョーは体制を整えようと、フランソワーズさんに背を向けた。が、それを
追いかけるように彼女はジョーの顔のぞき込むように動いた。

「・・・もう・・・笑い上戸なんだから!普段めったに声を上げて笑わないから、
一回笑い始めたら、とまらなくなっちゃうのよ?」

それって・・・いやあ、違うんじゃないっすか・・・?
フランソワーズさんってたまに・・・不思議なことをおっしゃいますね?

「いったい何の騒ぎ~?」

オープンカフェ・スペースの片づけから店内に戻ってきた義姉さんは、
ジョーの声に誘われるかのように戻ってきた。
その義姉さんの声をきっかけに、やっと笑いを抑えていつもの彼に戻ろうとしていた。

「あらあらあら、いらっしゃいませ!フランちゃんに島村っちさん・・・に?」

義姉さんの視線はしっかりフランソワーズさんが胸に抱く、
その黄色いタオルケットに包まれた・・・赤ん坊に目が・・・とまったかと思えば、
猛ダッシュで彼女にぶつからんばかりにフランソワーズさんに近づき、
その腕の中に居る赤ん坊をみた。

「イワンくん!ね?!」


イワン?


フランソワーズさんはいつもの笑顔なのに、いつもと違う・・・笑みで
義姉さんに向かって言った。

「そうなの!私の可愛い寝ぼスケ王子様のイワンよ」

彼女は義姉さんによく赤ん坊の顔が見えるように体をよじった。

「イワン、ほら。ご挨拶」

いつの間にか”いつもの”ジョーに戻った彼が、フランソワーズさんの背後から、
彼女の腕の中の赤ん坊をのぞき込むように、イワンと言う名の赤ん坊に話しかけた。
ジョーの手は、そっとフランソワーズさんの肩に添えられている。

「はじめまして~♪イワンくん、ようこそ!カフェ"Audrey”へ♪」

義姉さんが赤ん坊の ぶくり とした頬を つんっとつつくと、
イワンは、手を伸ばしてその指を きゅう っと握った。

「可愛い!」

きらりっと瞳を輝かせて、義姉さんはフランソワーズさんを観る。

「んふふふ~。うちの王子様はハンサムさんでしょ?」

そう言って、フランソワーズさんはジョーを見上げた。

いつもと同じ、いつもの2人。
同じ人。同じ顔。

でも、今日はイワンくんが一緒のせいなのか、
2人の雰囲気が違う気がするのは・・・オレの錯覚だろうか?

フランソワーズさんの少女のような きらり と光る、朝の媚薬と言われた
薔薇の花びらで生まれる朝露のように神聖な雰囲気は、ときどき人を寄せ付けない
厳しさがある。隙がない・・・っと言えばいいのかもしれない、けれど。
カフェで働くようになってから、色々な人と出会うことで、今まで見えなかった彼女が
見えてきた。フランソワーズさんと親しくなったせいかもしれないけれど。

彼女には人の波にとけ込んで消えてしまうときと、
この世界は自分に似合わないとばかりに、この世のものではない衣を身に纏うときがある。

ジョーも・・・似ていた。
2人が纏うこの世ではない衣は、オレが・・・・・・・・・いや。
オレの周りの人間すべてから身を隠し、彼らは生きているような気にさせた。

強さ。

それは特別な強さ。

でも今日は・・・

今日の2人は’いつもより”すごく身近に感じる。
どこでも居そうな・・・カップルだ(夫婦とは言いたくない!)
通りすがりに、彼女の抱くイワンに「可愛い赤ちゃん」と声をかけられれば、
たちまちに立ち話が始まって、きっとジョーは彼女の背中をつつきながら、
早く行こう。と催促をする。そんな2人の姿がオレの脳裏を駆け抜けた。


義姉さんはケーキを買いにきたジョーとフランソワーズさんを
無理矢理(?)にテーブル席に座らせて、
さっさと入り口のドアに「CLOSED」のプレートを下げてしまった。

オレは2人分の珈琲に、アップルティとアイス珈琲を淹れた。
テーブルに運び、ジョーの隣に座った。
フランソワーズさんの隣には義姉さんが陣取ってイワンくんと遊ぶのに熱中している。
オレが席に着くと義姉さんはオレに意見をきくように話しかけた。

「外国の赤ちゃんって日本の赤ちゃんより可愛いって思うのなんでかしらね~?
赤ちゃんはみんな一緒で可愛いのに、不思議よね~、ほら大地!」

フランソワーズさんから抱かせてもらっているイワンくんをオレに見せようと、
テーブルに身を乗り出す義姉さん、ああ!アイス珈琲がアブねえよ!
オレがそう思ったときには、ジョーの手がすでに義姉さんの前からそれを移動させた。

ちっ!隙がねえ!

オレは横目でそんなジョーを観ながら、イワンくんをみる。

っひゃ~・・・可愛いなあ・・・。

まるまる と ふくふく とした 白い頬を 紅くして、
まぐ もぐ まぐ もぐ と揺らす黄色いプラスティックのおしゃぶりが動く。

オレには妹弟がいないし、身内の中ではオレが一番年が若い。
その所為で滅多に子どもや赤ん坊に関わることがなかったから、こうやって間近に
じっくりと観るのは、初めてだ。
本当にちっちゃい手だな・・・。動くのか?

オレのそんな考えを読んだように、イワンくんの手が ぐー・ばー っと動いた。

「?!」
「あら、上手におててを動かすのね~♪」

気のせいか?
イワンくんがこちらを観て・・・ちょっと自慢げに微笑んだのは?

「大地も抱っこしてみる?」
「ええ?!」

コーヒーカップを手に、面白いおもちゃを見つけた子どもみたいに、
嬉々とした瞳でオレの顔を見るジョーは、いつもより少しだけ・・・幼い感じ?

「お、お、オレは、いいよ!怖い・・し、壊しちゃいそーだし!」
「っはh!大丈夫だよ、フランソワーズだって抱っこできるんだし」
「なあに、それ・・・!」
「スーパーで、すごく危なかった。・・・落としたじゃないか・・・」
「!! 落としたのはティッシュの箱ですっ」
「ティッシュの箱でよかったよ、ほんと」
「ま!」
「危なかった」
「危なくないです」
「危ないよ?」
「大丈夫です。毎日ちゃんと私がお世話してるもの」
「・・・イワンは大変だな」

ふっと口の端をあげて笑うジョー。
こいつ・・・なんか今日はやっぱりいつもと違う。
フランソワーズさんよりも、こいつの方が・・・。

「イワンがなんで大変なの?」

ぷうっと拗ねた表情が、可愛いです!フランソワーズさん!
少し怒ってるいる仕草に、今日は一段と澄んだ幸せな光が鮮明に輝く淡い瞳。

「フランソワーズのお世話」
「私がイワンのお世話をしてるのよ」
「いや、逆だよ。きっと」

2人のやりとりに きょろきょろ と視線を泳がすイワンくんと、
そんなイワンくんをしっかり抱いた義姉さんは、ジョーとフランソワーズさんを
楽しそうに眺めている。

義姉さんは、意外とこういう2人のやりとりをあまり見たことがないかも。
ジョーと一緒にいるときは、あまりこの2人のテーブルには近づかない。
っていうか、だいたいオレがサーブするから、自然とそうなるのか・・・・・・。

「萌・・・!」

厨房から兄貴の声。

オレたちは声の方へ振り返ると、レジ近くに料理人らしい、あの白い仕事着から
日常着に着替えた兄貴と、高田さん(兄貴の後輩。この店のもう一人の料理人)が立っていた。

「おう、兄貴、仕事終わったのか?」
「あらあら、お疲れさまでした!」

兄貴と高田さんは自分たち用に入れたコーヒーを手に、俺たちがいたテーブルの
隣の席に座った。

「こんばんは・・・えっとフランちゃんと島村っちさん・・・だよね?」

兄貴・・・
何度も会ってますよ・・・あんまり交流なかったかもしれないけど。

「こんばんは」

フランソワーズさんが微笑んで兄貴と高田さんに丁寧に挨拶をする。
高田さんはフランソワーズさんの、その花が咲いたような輝く笑顔に、
顔を赤らめて「いや~・・・・・・こんばんはデス」なんて照れている。

気持ち、わかります!

「こんばんは。すみません・・・お邪魔しています。
いつもフランソワーズが大変よくしていただいて・・・ありがとうございます。
何も挨拶もせずに申し訳ありません。島村と申します。
以前は龍さん(香奈恵さんの名字)のパーティでお世話になりました。
いつも奥様の、萌子さんには大変お世話になっております、
ついつい甘えてしまって今晩もまた、このように長いしてしまって、
お疲れのところ・・・申し訳ないです。」

ジョーは姿勢を正して、きちんと大人の、社会人としての挨拶をこなす。
学生のオレにはまだわからない、っていえば逃げていることになるかもしれないが、
オレよりも社会人として生きているジョーは、自然にそれをこなしてしまう。
レーサーって人付き合いも大切らしい。
特にスポンサーには絶対的に逆らえない、と言っていた。

ここまで自然に振る舞えるようになるまで、
ジョーはどれくらいの時間を費やしたのだろう?

「あ、いやあ・・・そんな島村っちさん、あ、いえいえ、こちらこそお~
いつもあの!っ萌がいや~、妻がいろいろと、その、ねえ」

・・・・・・兄貴
オレ、今しっかりと兄貴と兄弟だって感じてるよ、情けないくらいに!

もじもじと頭を掻きながら、ジョーの言葉に恐縮する兄貴。
そんな兄貴を見る義姉さんは、はあああっと深いため息をつきつつも、
ちょっと幸せそうに微笑んでいる。
まあ、こんな兄貴のことが好きで嫁になったんだからねえ。

「こんばんは、えっとフランソワーズさんに、島村さん?高田です」

さらっと挨拶をする高田さんはパティシエのイメージからかけ離れた、
5分刈りの短い短髪に柔道選手のようながっしりとした、黒く日焼けした肌。
兄貴の後輩なのに、彼の方が先輩のように見える。
兄貴、しっかり~!!

兄貴はジョーのまっすぐな態度から逃げるように、助けてくれっと
ちらちら と隣の義姉さんを見る。

「ほら~!ダイ!噂のイワンくんを連れてきてくれたのよ」

義姉さんは視線を受けて、兄貴の方へ向き直してイワンくんをお披露目する。
ちなみにうちの兄貴の名前は「大輝」です。

「おお!君がか~」

兄貴は嬉しそうに、義姉さんの腕に抱かれたイワンくんに顔を近づけた。
高田さんものぞきこむ。

「うちの子もこんなときがあったんだよな~!」
「高田さん、お子様がいらっしゃるんですか?」

フランソワーズさんが興味深げに訪ねた。

「え、ええ!1人・・・娘が」
「舞子ちゃんって言うのよ~、可愛いわよ~!」
「今年で11歳になるんです」
「高田さんが17歳の時のお子さんなのよっ」
「まあ・・・すてきですね!そんなに早い時期にお子様をもたれたなんて、
高田さんはとてもしっかりなさった責任ある方なんですね」

そのコメントが素敵です!

「いやぁ、お恥ずかしい・・・」
「あの、話しの途中で申し訳ないが、その、萌、あの」
「ああ、はい、はい!フランちゃん、島村っちさん、お夕飯まだでしょ?」

義姉さんの言葉に2人は顔を見合わせて、フランソワーズさんが義姉さんの
問いに答えるように頷いた。

「よかったら一緒に近くにできた和食屋さんに行かない?
今日はそこで夕食の予定なのよ!一緒に行きましょ!」

義姉さんの言葉に、フランソワーズさんはさっとジョーをみる。
彼女はすべての判断を彼にゆだねるように・・・。

「すみません、そうとも知らずについ長居をしてしまい・・・
誘ってくださってありがとうございます、ぜひ。と、言いたいのですが、
イワンは午後からずっと外ですし・・・家の方にも何も言わずにここへ来たので
申し訳ないですが、今回は・・・」
「いいじゃない!ねえ、フランちゃん!こういう機会でもないと
一緒にご飯ってなかなかないもの~、もう少し私もイワンくんと遊びたいわ」
「いや、一緒してくださると、大勢の方が楽しいですから、是非!」

義姉さんを援護するように言い添える兄貴に、高田さんも頷きながらジョーに言う。

「おれの知り合いの店なんですよ、旨いんで行きませんか?ここから徒歩で10分も
かからんのですよ」
「ジョー、行こうぜ、飯一緒に食ったことねーじゃん」

ジョーは少し困ったようにフランソワーズさんを見る。
彼女はにっこりと微笑むだけだ。

・・・もしかして、瞳と瞳で会話してるっすか?

フランソワーズさんはイワンくんを義姉さんから受け取り、
その頬に愛おしそうにキスをした。
彼女の蜂蜜色した美味しそうな髪がイワンくんの顔にかかる。
イワンくんは美しいそれを、小さな指で そろっと触れた。

そんな二人の様子を黙って見ていたジョー。
やっぱり、今日のジョーはいつもと違う。
いつもより彼を身近に感じる。

その上なんと言うか、大きく何か・・・包み込むように暖かい。
そばにいると・・・変な表現だけど、守られてるんだって・・・思えてくる。
男のオレでもだ。いや、変な意味じゃないんだ!!けど・・・
安心する。なにもかもこいつに任せていれば怖くないって。

なんだろう、これ?


「フランソワーズ」

ジョーは優しく、愛する女性の名前を呼ぶ。
彼女はゆっくりと顔をあげて、微笑みを絶やさずに頷いた。

「イワンのために用意していたミルクはまだ2本あるわ、車の中に」
「・・・じゃあ、萌子さんのお誘いに甘えさせていただこうか・・・
ご一緒させていただいて、本当によろしいですか?」

ジョーは改めて、兄貴、義姉さん、高田さん、そしてオレの顔を順に
確認するようにみてから、魅力的な少し甘えた笑顔をみせた。

「もちろんよ!!!!お誘いしたのは、私たちですもの!」

義姉さんは兄貴がいるのにも関わらず、そんなジョーの笑顔で女子高生のように、
恥ずかしそうに顔を赤くしてから、飛び上がらんばかりに喜んだ。


ジョーは家に連絡を入れるついでに、イワンのミルクなどを持ってくる、と言う。
今から行く和食屋はジョーたちの停めている駐車場と反対方向にあるから、
彼は一度車に戻るために立ち上がった。

オレたち3人はテーブルからジョーを見送った。
フランソワーズさんはイワンを抱いて立ち上がり、カフェの入り口まで
ジョーを見送り、たった数分間だけの別離になぜ、「行ってきますのキス」が
必要なのか・・・。

・・・前のオレだったらわからなかった。

前に見せつけられた大人チューではなくて、チュッと軽く触れ合うような、
お菓子のおまけに描かれた、小さな女の子と男の子のイラストの、そんなキス。

ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。
夜の街に早足で去る、ジョーの後ろ姿を窓から見送った。

テーブル席に戻ってきたフランソワーズさんは、イワンくんを一度抱きなおす。
イワンくんは店に来てから大人しく、とてもいい子だ。

赤ちゃんって意外と聞き分けがいいんだな~。

「っっとに、フランちゃんて、すごいわね・・・」

それが義姉さんの第一声。
ジョーがいなくなったら、いつもの調子だ。
・・・義姉さん、いつからそんなにジョーを意識してんですか?

「どうして?」

イワンくんの背中を ぽん ぽん とリズムよくたたきながら
フランソワーズさんは不思議そうに義姉さんをみた。
義姉さんの顔は紅い。
ついでに兄貴も紅くて、高田さんなんて、面識がないこの「噂」の2人の
話しを聞かされてはいたが、・・・あまり信じていなかったようで、実際に目にして
ひどく動揺しているのが手に取るようにわかった。

そうっすよね!
驚くっすよね!普通!!
平気なんですよ、この2人は!

オレがまだフランソワーズさんに出会ったころの2人の方が
もう少し、常識があったと思われます!

原因は、
原因を・・・・!

・・・・・・・今のオレにはわかってしまう。

ジョーが日本を離れ、1年の半分以上を海外(向こう)で暮らすことが決まってから。
2人は、時間を惜しむように、少しでもその時間を2人のものであるように、
そういう意識が、こういう行動に繋がっているって、オレは知ってる。

だから。
別に。

好きなだけ、好きなだけ、なんでもすればいいと思う。
・・・2人がそれでいいんだったら!

ちょっとは、人の目も考えて欲しいかもしんないけど。
もう、オレはそういう覚悟ができてるから。

「義姉さん、これが普通なんだよ、フランソワーズさんとジョーには」
「・・・さすがフランスの方ですね!!」

兄貴が何か感動してるぞ?

「?ジョーは日本人ですよ?」
「え?そうなんですか?いや、名字は日本人ですけれど・・・って、
島村さんの話しでなくって、えっとあれ?」

混乱してます、高田さん。

「そうよね~、ちょっと色素薄いし、見ようによっては
日本人にはみえないわよね~、島村っちさん!テレビでスラスラと英語で
インタビューに答えてる時は特にそう思うわ!」
「ジョーのお父様は、日本の方ではないの」

フランソワーズさんは、少し困ったような微笑みを浮かべて静かに言った。

「あらら!じゃあハーフだったのね、そりゃー格好良いわ!」

ハーフならカッコいいて、誰が決めたよ?
そういうのをステレオタイプって言うんだよ・・・義姉さん。

「でも、内緒にしておいて下さいね、ジョーは・・・あまりそれをよく思ってませんから」
「私は憧れてたのよ~、ハーフとか!」

明るく言い切る義姉さんに、同意するかのように高田さんが頷いた。

「おれの家の近くにインターナショナル・スクールがあって、
よく見かけてたんだけど、本当に格好が良いやつが多かったよ?」
「島村っちさんも、なんて言うか、なあ。雰囲気がなあ、こう・・・ちょっと独特な雰囲気っていうかなあ・・・
男に奇麗とか絵になるとかって言うと失礼かなあ?って思うけど、さあ。
彼を見てると、どうしても、そういう言葉が似合うんだなあ・・・色気があるよ、うん。
それに・・・こう、1人にすると危ないって言うか、なんか面倒をみたくなるっていうか、
かまいたくなるっていうかあ・・・女の人の母性本能ってやつが
ちょっとわかる気がするんだよなあ。彼を見てるとお。
だから萌、お前大変だな。
構いたがり、世話好きのおせっかいなお前からみたら、もおおおお
手取り足とり、世話したくて、うずうずうううってするだろお?」

「まあ!さすが私の旦那ね、ダイ!その通り!」

・・・オレとまったく反対の。
そんな風にジョーのことが見えるなんて・・・信じられない!

「兄貴、や義姉さんには、そういう風に見えてんだ・・・」
「大地はどう見えてんだ?」
「オレとそんなに年かわんねぇのに、大人だなあ・・・ってよ」

オレの言葉を聞いて、兄貴に義姉さん、そして高田さんまで大声で笑った。

ええ?!

オレ、そんなに面白いこと言ったかよ!?

「まだまだお子様だなあ、大地、島村っちさんのどこが大人だよお」
「もうう!イワン君に負けないくらい、可愛いじゃなあい!」

可愛い!?
ジョーが?!

フランソワーズさんの顔がみるみる熟れたトマトのように紅くなっていく。
っと言うことは!フランソワーズさんも、そう思ってるんっすか?!

「ほおうら!フランちゃんだって、ねえ?」

隣の席に座るフランソワーズさんを見て、彼女の背中をなでながら、義姉さんは
彼女に同意を求めるように顔をのぞくが、フランソワーズさんは俯いてしまった。

そして一言、彼女の愛らしい唇から零れた。


「・・・j、・・・じ・・・ジョーはすごく可愛い人なの・・・」


ジョーは母性本能をくすぐるほどに、お子様で。
イワンくんに負けないくらい、可愛いだとお?!



どうなってんだよ~!

泣き虫で、可愛い人!?


ジョー!テメーは何者だ!!


<ハ~、オ腹空イタヨ・・・ジョー、早ku戻っテ来ナイト大変ダヨ?>





は!!今なんか声が聞こえたぞ?!



end?





・あとがき・


えっと、
short storyの「お出かけno.9 ~スーパーにて.5~」の
あとがきにもあります通りに、↑の話しに大地くんの名前を出したので、
こっちにひっつけてみたらどうなるの?大作戦(!?)でございました。

調子に乗って何も考えずに書いていたら、あらあらあらあら!
予定よりも長くなる、長くなる!
和食屋風景まで書いていたら、本編より確実に長くなる!!!

ので、

ここで一旦切ってみました(汗)


続きを書くか、また別の方法で大地くんファミリーとご飯へgo!を
書くかは、未定ですm(。。)m(スミマセン)

はった複線もぜんぜん解決してない・・・申し訳ないです・・・。
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2008~20103月あたりまでこっそり載せていた絵たち/まとめ (ACHIKO)
↓隠していたわけじゃないのですが、aboutかどっかのACHIKOって名前にリンクさせていたページです。
こんな前置きを書いてました。


ああ・・・見つかってしまいました。
何か、別のを期待していらしたら、すみません(笑)

元々、”文章”じゃなく”絵”の方だった私なんですが・・。
あまりの下手さに、そっちから足を洗って○年。
(絵はずーっと描いてましたねえ・・・ゲーマーでしたー_汗)

辺境の地で出会ったmy師匠!rugbyさんに、ゼロナイ絵をおねだりしまくって、嫌がらせ(?)的に迫りまくっていた、私ですが・・・ふと、した拍子に、久々にペンを握りました。

なんだか、とってもそういう気分だったんですね。
そういうわけでして、どういうわけなのか、本人もよくわかってないのですが、
お絵描き掲示板なるものを発見したので、スキャンが面倒なラグビーさん(笑)とデジで遊んでいたものたちです。(/ω\) ハジカシー(笑)

あ、私には自分絵というモノがございませんので、
その時読んだ、見たものに大きく影響されてしまいます・・・画風ばらっばらっ!!






そういうわけでして。
いちいち『ヨミ~』の方に移すの面倒だな☆ということにして、このページを公開して、『ヨミ~』の方にリンクはりました。


***********************


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2010/ヴァレンタイン・デーの拍手画像として置いてましたー。
0048 copychoco03.pngFracho.jpg

ハロウィーン♪↓エントランスに使いました。
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あ。↓れはエントランスです
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これがこうなって、こうなる・・・みたいな。

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(旧ゼロ)白黒アニメを観て・・・です。

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バナー作りの謎を追え!

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・・・メインのタイトルがちっさー(涙)



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ドルフィン号へ戻ろう・・

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アジアゴ・ベーグルが大好物です(私が)

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色塗りしろよー。

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一筆書きジェット(笑)


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資料なしでどこまで、平ジョーできるかチャレンジー。

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しい・ペインターで。

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防護服って難しいですっ!!
赤い・・・(涙)ロマンチックじゃないのは、3の表情のせい。


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バックグラウンドがんばってみた。
ジョーとクビクロじゃない白い犬(笑)



塗り絵


塗り絵ヴァージョン(笑)


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topに出していたものです。


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暑中お見舞い申し上げます08’PINKヴァージョン
もう少し小さくすればよかったなあ・・・周りがでかい(笑)




色塗り制服


「でい~」のミッション編・制服の色を塗ってみた・・・。
ふう。あくまでも参考です。




******************
ACHIKOってこんな人。ってのが丸わかり・・・汗。
っていうか、シャーペン書き殴りやめましょう・・・。勢いだけでここに載せるなんて、無謀・・・( p_q) シクシク



1.baddream1_convert_20080704080329.jpg 2. baddream2_convert_20080704081053.jpg 3. baddream3_convert_20080704081308.jpg 4. baddream4_convert_20080704090413.jpg 5. baddream5_convert_20080704092907.jpg


*****************************

少女漫画


少女漫画っすね?

花見?


特に意味はございません。

バトル29


バトルです。こういうの描きたいですが、参考資料がないと無理。

2人


お詫び(笑)の品として出しました。意外と気に入ってます。





素材おかりしました!

自然いっぱいの素材集」さま
+++++++++++



↓ここからは、お絵描きツール使用

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扉を開けたら着替え中(1)
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(2)
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フリー絵です。ウッシー島村は御持ち帰りいただけます。ってしたんです。


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牛<

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牛年におこったことです。・・・テレビあるからいっかーと思ったら、今年(09’)に全米地上波になるので(怒)$50で変な機会を買わないといけんと!?・・・もうやだー。

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遊びすぎ~・・・・。
マウスなんで、小指が痛くなるのデス・・・なんで?
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blogをお借りしているFC2に・・・お絵かき機能があった・・・・(^_^;)
遊んでみた。・・・むいてないです・・・。
なんでこんなに乙女チック?
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+α(萌子『興奮モード』で語った結果)
(注)会話文のみで構成されています。

イメージが崩れるのがやだ!って言う方はお引き取りください・・・。
こちらは、その・・・キャラたちの楽屋みたいなもんです・・・?

=====

「ほんと、大地ってばあの島村っちさんの可愛らしさがわかんないなんて!
どこを見てんでしょ!」

「・・・・・・男の方にはわからないのかしら?」

「いいや! あの大地がお子ちゃまなのよ! うちの旦那はかなり理解してくれてるわよ~!」

「旦那さま、アーティスト的な才能を、お持ちのようですものね! 
ケーキのお名前も凝っていらっしゃるし、観察力のすぐれた方で、素敵ですね」

「え?! やだ!そんな!ちょっと!も~!!あのすっとぼけた男がそんなああああ~(///∇///)」

「・・・・・・・・・萌子さん」

「ま、うちのなんて、置いておいて!! やっぱり可愛さナンバー1は、島村っちさんよね!」

「大地さんも、可愛いでしょう?」

「あれと、それは、全くかぶることがない、別ジャンルの可愛さよ!」

「・・・」

「いじって効果のある可愛さと、見ていて きゅうううううってなる可愛さの違い! 
でも島村っちさんには、うちの大地もさすがに敵わないわ~!!」

「・・・」

「同じことをさせても反応が違うじゃない~!」

「・・・た、例えば、萌子さん?」

「大地の場合、すぐ拗ねるの!素直すぎてあの子の行動パターンなんて、
もう予想がつきすぎてさ!こっちが思ったことをそのまんま出してくれるから
、単純明快で気持ちがいいくらい、いじるのが楽しいのよ~!
先が見える楽しさっていうの、”こうやったら、こうするでしょ?”って
予想しながらいじってみたら、もうその通りなんだもん・・・!」

「・・・」

「でも、あまりにもワンパターンで、最近ちょっと物足りない?
なんかを悟り始めてるっぽいし、じーさん?みたいな気もしないでもない
。花の大学生なのにバイトばっかしだし。合コンとかってもう古いのかしら?
 サークルとかも入ってないし・・・やだ、あの子・・・・・・大学に友達いるのかしら・・・?」

「・・・・・・・・大地さんなら、大丈夫だと思います!とても人懐っこくて、
素直な方だから、人にたいして偏見も壁もなくって、
だから、だからジョーも、大地さんには・・・・・・ちょっとこころ許している気がするもの」

「え? 大地に?大地なんかに!?」

「ええ、大地さんに。彼が持っていないものを持っていらっしゃる方だから
、ジョーはちょっと、うらやましいって思ってるのかも・・・」

「へ~~~、大地なんかに!」

「え、ええ、そう。大地さんに」

「は~~~!あれよ、あの大地よ?」

「は、はい。そうです・・・」

「あの、島村っちさんが!」

「ええ、ジョーが・・・そうありたかったと、思うような生き方をなさってると思います」

「ほわあああああ!」

「あ、あの・・・萌子さん?」

「ご、ごめんなさい・・・ちょっと信じられなくって(笑)」

「そ、それで・・・・・・」

「?」

「j、ジョーを、その、萌子さんが、jい、ジョーを可愛いって思われるのは、どこなんですか?」

「あら、そんなのフランちゃんが一番よく知ってるでしょ?私がもっとストックを増やしたいわ!」

「(ストック???)あの、でも・・・私と一緒ではないときに、お店にいる、
彼を・・・知りたいです・・・・・・」

「え~~~~~!」

「!!!」

「ここで出すの~?なんかもったいないな~」

「じ、じゃあ、私も一つだしますから!!!交換しましょ!」

「あ、それいいわね!」

「ま~、島村っちさんの魅力と言えば、あのギャップ力でしょ! 
神様に特別に創られたような容姿に、あの男らしく落ち着いた物腰・・・・・・
恥ずかしげに口元ではにかむ姿がすでに!!可愛い!!
の に も か か わ ら ず!
可愛い系かと思えば、ワイルドなのよね、行動は!!そのバランスが絶妙よ!
愛らしい容姿に、ワイルドな行動力!そして何よりそのこころの中にひた隠す、
お母さんに甘えたがる、寂しん坊な少年のままの繊細な感受性! 
けっこう物言いとか単調なのに、
もう全身で”寂しい!抱きしめて!僕を暖めて!”って、
うああああああああああああああああああああ!!可愛すぎる!可愛いすぎる! 
もう!きゅううううううううううううううううううううううううううって抱きしめて、
『大丈夫よ?そばに居てあげるから』いい子、いい子してあげたいの~~~~~っっに!!!
彼ってば、絶対にはね除けちゃうのよ!そんなの必要ないって!俺は大丈夫だ!って!!
やせ我慢がすっごく可愛いの!それで、それで、それで!!
彼がいやがるのを、無理矢理に抱きしめちゃうと、もうこっちが疲れちゃうくらいに、
もう、べった~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~り甘えるのよ!
甘えてくれるの~~! あの口調で、あの行動で、あの顔で!

でしょ? フランちゃん?・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・あれ?

どこ?????

どこ行っちゃったのおおお? 

帰ってらっしゃい~~~~~~!!」



<フランちゃん、家に走って帰る@ジョーの部屋>

「ど、どうした?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「な、なんで泣く?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「え???」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「フランソワーズ? 泣いてたらわからない、よ?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「何があった? 言えよ・・・」

「・・・    。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「俺に言えないことかよ?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「誰が、キミを泣かせるの?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「な? 俺がキミを泣かせたやつ、放っておけると思う?」

「・・・・・・も、もえ、、、もえこ、、、さ、、、さん!」

「ええ?」

「だって、だって、ジョーのこと、ちゃんと知ってるんだもん!。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「・・・俺を?」

「そう!・・・そうなの~!!!」

「・・・・・・・・・あり得ないよ、キミ以上に俺を知ってるなんて」

「!でも、わ、わ、わ、私が、わた、私が、知ってる、
わた、私が思う、じ、じj、ジョーを、全部言ったもん!!!!!」

「・・・言っただけ、だろ?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「フランソワーズ、言うなら、分析なら誰だってできる。
プロだっている。俺はそんなに複雑な人間じゃないから、
見る人が見れば、理解できるよ、俺なんて簡単に、ほかのメンバーだって
よく知ってるだろ?俺のこと?」

「で、で、で、で、も! 萠、萌子さん、が!!」

「ん、じゃあ。萌子さんが知らない俺をフランソワーズが知っていれば満足?」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。 そんなの、っそんなの、もうないわ!」

「あるよ」

「。・°°・(;>_<;)・°°・。」

「口では言えないこと、いっぱい知ってる、だろ?」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ほら、  ____________とか」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「_________とか、_________は?」

「(///へ///)」

「なに? もう泣かない?あ、こら・・・・・・・・・逃げちゃ、だめ。ダメだよ」

「も、もう、だ、だいじょうぶ!」

「だめ」

「あ、ありがとう、もう平気よ!」

「だめだよ」

「j、じ。ジョー!!」

「これからもっと、教えてあげる、な?」

「やだ! ジョーってわがまま!」

「そうだよ、フランソワーズにだけに。ね?」



end.



ごめんなさい。すみません。
書いてしまいました・・・ジョーのイメージ大爆発です。

本質はやっぱりワガママなんですよね、うちのは、結局。

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愛おしくて。愛おしくて。愛おしくて。
ジョーがイギリスから帰ってくる。

5ヶ月近くをずっと海外(向こう)で過ごしている間、ジョーとは電話とメールのみだと聞いた。

あまり話すのが得意でない。と、言うジョーは、フランソワーズさんが日々の出来事を電話で話し続けると言う。

彼は「うん、そう、よかったね」などの言葉と相づちばかりらしい。

あとは必要な連絡事項を話して終わってしまうの!っと、
彼女は少しだけ唇を尖らせて拗ねてみせたその姿は、いつものように天使のように愛らしく、妖精のように可憐で、うっとりと見惚れてしまう美しさは、ただ、容姿に恵まれただけでは得られない。彼女の くるくる とよく変わる、豊かな表情と、バレエを長く踊ってきたせいなのか、ゆるやかに動く仕草は、柔らかく優雅で、彼女が動くたびに、きらきら と 光の雫が舞っていく。
オレはそんなフランソワーズさんから目を離すことができなくなってしまう、

相変わらずのオレ・・・。

それでも、彼女は幸せそうで。
遠く離れた恋人との距離をまったく感じさせなくて・・・

怒っているのか、嬉しいのか、恥ずかしいのか、心配なのか・・・
ジョーのことが話題になると、頬をうす桃色に染めて話す姿は、彼がいなくなった日常を、ちゃんと彼女なりに受け止めて暮らしていることの証明で、フランソワーズさんの強さに尊敬した。

ジョーが抱きしめるたびに彼の腕の中に消えてしまうほどに小さくて、華奢なフランソワーズさんのことを

「彼女のような強い人を知らない」

と、何度もはにかんだ笑みで言う。

少女のようなフランソワーズさんを、それも、自分が愛する女性にたいしての賛辞としては、ちょっと物珍し言い方をする、ジョー。
まあ、やつはフランソワーズさんにとって、

「すごく可愛い人で泣き虫さん」らしいから・・・バランスがいいのか?


そういえば・・・ジョーがイギリスへと去った後、
彼女の麗しいふくよかな唇からは、「逢いたい、恋しい、寂しい」などの単語を一度も訊いたことがない、オレ。
もしかしたら、彼女はオレではなくて、香奈恵さんや義姉さんには言っているかもなあ。っと、思っていたけど、彼女たちもフランソワーズさんから一度もそういう言葉を訊かないと、逆に心配していた。

心配されていた通り。と、言ったらおかしいかもしれないけれど、「ジョーが帰ってくる日」と、もう2週間も前から指折り数えて楽しみにしていたフランソワーズさんは、彼を空港へは迎えに行かないばかりか・・・・・・。
なんと・・・家にも帰りたくないと言い始めたのだ・・・。


ドアのチャイムが ちりりん っと鳴る。
店を訪れたのは、香奈恵さんだ。

義姉さんがさっき、店の電話から彼女の携帯に連絡していたのを知っている。
ジョーの乗る飛行機が空港へ着くのは夜の10時。
まだ十分に間に合う時間。

今日のフランソワーズさんはいつもの席には座らなかった。
彼女は自ら、店で一番目立たない奥方の席に座る。
道ばたに咲く名もない花のように。
ただ、座って居る。

彼女の好きなケーキのオーダーも入らず、お気に入りのアップルティもなく、注文されたのはアメリカン。
ミルクも砂糖も入れずにちびちびと黒い液体を、いつもよりピンクがかった形よい唇にあてて、舐めるように飲んでいる。

「いったい、どうしたって言うのよ?」

義姉さんに呼び出された香奈恵さんは、待ち合わせでもしていたかのように、何事もなくフランソワーズさんの真向かいの椅子に座り、携帯を乱暴にテーブルに置いた。

義姉さんが香奈恵さんのためにアイスティを用意している。
ここではオレの出番はない・・・。

けれど、オレはフランソワーズさんが心配で、ちらちらと彼女の様子を盗み見てしまい、今日は仕事が手に着かない。
そんなオレに、いつもなら義姉さんの鉄拳が飛んでくるはずだけど、今日は飛んでこないのが、それは、それで問題だよな・・・。

香奈恵さんのアイスティと、ちゃっかり自分の分のレモネードをトレーに乗せて、フランソワーズさんのテーブルへ向かう、義姉さん。

はいはい。
あとの事は、オレに任せてくれ!
だから、フランソワーズさんのことしっかり頼んだよ!


昨日から降り続く雨のせいで、客足が遠いのが幸いしてか店内は、2、3組のお客様のみ。
こういう日はケーキなんか買って帰る人は滅多にいない。
できれば、オレも彼女たちの席に着きたい。

遠目で様子をうかがう事はできても会話までは聞こえてこない・・・。
まあ、会話してるようにも見えないけどさ。

ずっと、香奈恵さんと義姉さんの口ばかりが動いていて、フランソワーズさんは ぴくり とも、その唇を動かさない。珈琲を飲むとき以外は。
彼女が注文した珈琲は、冷めてしまってアイス珈琲になってるのがわかる。けど、何度オレが新しいものにしようとしても、彼女はただ首をふって断った。

その顔は微笑んでいるけれど、
いつものような・・・
周りに花が咲くような明るさが、その微笑みは持ち合わせていない。

おかしい。

ジョーが帰ってくる日なのに。
あんなに楽しみにしていたのに。



彼の部屋を掃除したの。

彼と一緒にスーパーへ行くの。

イワンを連れてドライブに行くの。

お土産はいらないって言ったのに、お土産だけのために新しいスーツケースを買ったって言うのよ!

彼の好きなご飯を毎日作るの。

彼がソファで昼寝がしたいって言うの。

2週間だけだから、ずうっと家にいればいいのに、けど、彼はどっかに連れて行きたいって言うの。

一緒にチョコレートムースを食べるわ!

・・・だから彼が帰ってくる日に買いにきますね。



すぐに買って、テーブルに着かずに帰ると思ってたのになあ。



「黙ってたら、何もわからないわよっ!」
「フランちゃん・・・島村っちさんと喧嘩でもしたの?」

フランソワーズさんは、力なく首を左右にふった。
いつもより心なしか艶がない・・・風に戯れる事なく重力に従順に従うだけの、亜麻色の髪。

「あんなに、あれするんだ!これもするんだ!って2週間しかないのに、いっぱい予定を考えてた、あんたじゃないの!」
「ねえ、私たちに言えないなにか、なのかしら?」

「・・・・・・・・・」

フランソワーズさんの口が、少しだけ冷たい息を吐いた。

「まあ、空港へは迎えに行かなくてもいいわよ、島村っちのことだから、フランソワーズが夜に一人で空港で待ってるなんて知ったら、機長を殴って自分が飛行機を操縦して、予定時間を繰り上げて空港にくるわっっ」

香奈恵さんのその言葉に、驚く事もなく義姉さんは深く頷いた。


そんなキャラだっけ・・・ジョーって??


「もしも一人で空港へ行くのが心細いのだったら、うちの大地を貸してあげるわよ?」


いや、別にフランソワーズさんと一緒にジョーを迎えに空港へ行くのは、いいけど。
(嬉しかったりするけど、行きしなは!)

オレ、義姉さんの持ち物っぽいんですけど? その発言だと・・・。


「・・・違うの」
「「?」」

「逢いたくないの、ジョーに」

「「「!?」」」


逢いたくない?!
フランソワーズさんが、ジョーに!?


オレの足は彼女たちの席へ自然と足を動かしていた。
テーブルまで近づいて、オレの意思とは関係なく口が動いた!

「逢いたくないって!!フランソワーズさんっっ、そんなのジョーが訊いたらっあいつ、絶対に、絶対に泣くよ!!」

「うん」

・・・・・・あり?

速攻で返事が返ってきて、オレは拍子抜け。

「ちょっと大地!参加するなら立ってないで座んさない!」

義姉さんに腕を引っ張られ、隣のテーブルの椅子を引いてオレは会話に参加することになった。
幸い、今日はバイトが2人も入っているから、店は大丈夫だと判断した上でそう言ったのだろう。
どんなことがあっても、しっかり者の義姉さんだしな。

「・・・で? なんでそうなるのよ・・・逢いたくないなんて、フランソワーズらしくないじゃない!」

オレが座るのを待ってから、香奈恵さんがフランソワーズさんに話すことを促した。

「・・・理由なんかないわ」
「理由なく、フランちゃんが島村っちさんに逢いたくないなんて、信じられないわよ!」

オレは義姉さんの言葉に深く頷いた。

フランソワーズさん、変だよ。
彼女が着ている今日のワンピースは・・・・ジョーに買ってもらったお気に入りなのを、オレは知ってるよ?

彼女にしては珍しい色の、新緑を想い出すはっきりとしたグリーンのツルツルした光沢のある生地で出来た、とてもシンプルなワンピース。女の子の服なんてよくわからないけれど、それはフランソワーズさんのサイズをきっちり採寸されたように、彼女にぴったりだった。ウェストの部分だけをはっきりと絞り込んだそれは、彼女のほっそりとした部分をより強調させている。膝丈のスカートは緩やかに流れて、彼女が歩く度に、彼女の足の形がうっすらと形作る。同じ生地のリボンをいつものカチューシャのようにつけて、レースのカーディガンを羽織っている。
そして、いつもつけている白銀色のとても細いブレスレット。
ジョーも同じ物をつけているのに気がついたのは、いつだったかな?

「逢えないの」
「なんでよ?」
「逢いたくないと、逢えないじゃあ意味が違ってくるわ」

オレは余計な口は挟まない。
こういうときは、男は余計なことをベラベラ話すのはよくない、らしい・・・。

「・・・jy、ジョーを困らせる、から」
「困らせる?」

「そう。困らせて、きっと・・・彼は私のワガママを叶えてくれるの」
「何よ!それ、あんたのこと心配してんのに・・・惚気てどうすんの?!」

香奈恵さんは呆れたように、どかっと机に頬杖をついて、そのちょっと尖った顎を乗せる。

「痛いの」

フランソワーズさんはずっとテーブルの下で、左手首にある、白銀色のそれを大切そうに そうっ と撫でている。ときどきオレの耳に しゃらり っ と、柔らかい音が聞こえた。

「肌寂しいって言葉があるわ・・・それを、通り超してしまって痛い・・・・の・・・」

フランソワーズさんの語尾が、震えた。

「だ~か~らっ!帰ってくるじゃない、今日!いっぱい死ぬほど、触って、抱いてもらえばいいじゃないの!そんなの、フランソワーズが言わなくたって島村っちの方が我慢ができないわよ、5ヶ月よ!5ヶ月もご無沙汰なんでしょ!」

ストレートです・・・ね・・・香奈恵さん。

「だめよ。・・・だめなの。ジョーに、ジョーにあったら、もう・・・彼に触れたら、彼にふ、触れられ、た、ら・・・もう・・・だ・・・め・・・・・・・・・・もう、も・・・・」


フランソワーズさんは首をうなだれて、その表情は綺麗な亜麻色のカーテンの奥にしまわれた。
彼女の華奢な肩が、冬越えを待つ小鳥のように細かく震える。左手のブレスレットを撫でていた右手が、その細いきらめきを隠すように、手首と一緒に強く握りしめた。

密やかに聞こえる、店の中にいる男女のカップルは明るい声で話している。
静かな店内に響くその声が、古いドラマのエキストラが演じるカップルらしいカップルの会話で、降り続く雨の音と混じって異国語に聞こえた。

「何が、だめなの?フランちゃん・・・?」

「・・・痛い、

痛いの。

寂しくて、

淋しくて、


ジョーが、

恋しくて、

逢いたくて、

逢いたくて、

逢いたくて、

苦しくて、

息ができなくて、

なんで生きているのか、わからなくなるの。


痛くて、

辛くて、

心臓が動いているのが、不思議なの。


彼がいないのに。

彼はいないから。


なぜ、私は笑ってるの?


彼がいなくても笑えるの?


御飯を食べてるの。


彼がいなくてもちゃんと朝が来るの。


彼の声が、

聴きたくて、

電話じゃだめなの。


ちゃんと聴きたいの。


触れたいの。

彼の声に。

彼の。

彼を。

もう、想い出せないの。

たった5ヶ月で。

たった5ヶ月なのに。


彼はどういう風に私に触れてくれていたの?


彼はどういう風に私を抱きしめてくれたの?


彼はどういう風に私を愛してくれたの?


怖いの。

痛いの。

逢ったら想い出すもの。

全部、想い出してしまうわ・・・


きっと


きっと



もう




離れていられない。
もう、離れていたくなくて。

言うの。

私はばかだから。

きっと言ってしまうの

行かないで。

そばにいて。

離れないで。

抱きしめて。

キスをしてって・・・言ってしまう・・・


ジョーが

愛おしくて。愛おしくて。愛おしくて。


ジョーが

愛おしくて。


私はワガママになるのよ・・・


そして、彼はそれを叶えてくれるもの・・・


だから

逢えないの。

逢いたくないの。

私が望んだのよ?


私が、行かないって決めたのに。


いまさら、よ。


彼は何度も、一緒に行こうって言ってくれたのに


今、逢ったら
何もかも捨ててそばにいてって言うわ

そして

彼は

私のために

そばにいるの


彼はそういう人だもん」



彼女は泣なかない。
声は震えて、弱々しく、掠れる声は甘く、切なく、オレの耳を擽った。


ジョー、お前知ってるのか?
彼女はぜんぜん強くないじゃん!

こんなに、お前を求めてるんだぞ!
それをお前は知ってるのか!?


オレはジョーに激しく腹が立った。


何が「強い」だ!
甘えてんなよ!!

お前が可愛くて、泣き虫だからって
「強い人」でいることを、フランソワーズさんに押しつけてるだけじゃんか!


「だからね・・・」

フランソワーズさんはゆっくりと顔をあげる。
さらり っと、亜麻色のカーテンの幕が開く。

彼女は・・・微笑んでいた。
ほんのりと、曇一つなく晴れた空色の瞳を恥ずかしげに潤ませて。

しっかりと頭を上げ、照れ隠しのように愛らしく、ちょっとだけ小鳥のように左に首を傾けてフランソワーズさんは言った。

「まだ、ジョーに逢うこころの準備が足りなかったの・・・でも、なんだか、もう大丈夫・・・こうやって気持ちを訊いてもらえたから、だいじょうぶ・・・」


そんな!
そんな!!
そんなに簡単なわけないじゃん!


オレの唇はすっかり乾ききっている。
長く彼女の告白を訊いていたオレの舌は口の中で上顎にひっついしまって動かない。
オレはどうやって口を開けて良いのか忘れたみたいな感覚に、驚いた。


「それ、島村っち知らないでしょ?」

黙ってフランソワーズさんの言葉を受け止めていた香奈恵さんの声が、酷くキツイ物言い聞こえて・・・オレは、2度続けて驚かされた。

「・・・言わないもの、・・・・言えないわ」

フランソワーズさんが「そういうのを知っていた」と、ばかりに、彼女の大きな口が、にっこりと左右に引っ張られる。




「だってさ!島村っち!!しっかり訊いてた?!」



?!



フランソワーズさんのからだが、跳ねた。

オレは香奈恵さんの言葉に3度続けて驚いた。



香奈恵さんの左手に、携帯電話。
液晶画面に「島村っち」と読める文字とスピーカーの・・・マークが点滅している。


香奈恵さんは魅力的な意地悪い微笑みをフランソワーズさんにむけた。
その手にある携帯電話は、彼女の耳に押し当てられている。


「・・・・・か。か。かな・・・え・・・さ・・っん?」


やっと絞り出したフランソワーズさんの声はさっきとは違う震えがおこる。
義姉さんも香奈恵さんと同じようにフランソワーズさんにむかって
にっこり微笑んでいる。

も、も、も、もしかして知ってたの?
その携帯の向こうには・・・ジョーが?!


「フランソワーズは知ってるでしょ?私が今日、空港にバレエ団を代表して、来期にお呼びするゲストダンサーのマネジャーをお送りしたの。その時さ、偶然に会ったのよ島村っちに!
島村っちてば、フランソワーズに早く会いたくて、2便早い飛行機にキャンセルがあるって知って、それに飛び乗って帰ってきたのに、邸に電話しても誰も出なくて、フランソワーズの携帯も電源が入ってなくて、すごく心配してたのよ~!私が彼をみつけて声をかけた時に、萌子っちからちょうど電話がきてさ!その場で全部島村っちは知ることになっちゃったのよ」

香奈恵さんの言葉に、頷く義姉さんは、香奈恵さんの言葉を受け継いだ。

「ごめんなさいね、フランちゃん。でも、島村っちさんに・・・頼まれちゃって・・・。”頑固で絶対に自分の弱さを見せるのが嫌いなフランソワーズは、こうでもしないと、ちゃんとした彼女の気持ちを、彼女の口から訊くことができないから”って言われて・・・」


「・・・・じ、じ、じゃ、ジョーは・・・もう日本で・・
どこに、どこにいるんだよ!?」

オレは興奮して、舌がもつれた。
知りたい!あいつは今、どこにいるんだよ!!

「ここの裏。ここの裏の階段のところに居るわよ、フランソワーズ」


?!



香奈恵さんが、自分の耳に押し当てていた携帯電話を、フランソワーズさんの耳にあてた。

フランソワーズさんは、まっすぐに香奈恵さんを観ている。
その顔は、驚くほどに・・・。


[・・・・フランソワーズ]

ジョーの声。
電話越しの、ジョーの声。

[・・・・フランソワーズ・・・・こ こ に い る・・・・・・]



フランソワーズさんは勢いよく立ち上がり倒してしまったイスも気にせずに、走り出す。
彼女はレジ奥の通路から厨房へと走る。

厨房に居た兄貴も、高田さんも驚かない。

彼女のために壁際により、ジョーへと繋がる扉の道をあける、

彼女のために。


勢いよく開けられた、扉。
そこにあるのは、非常階段か?と、思えないほど、優雅に螺旋を描いた、花々に飾られた階段。

そこは。

ジョーとフランソワーズさんが将来を誓った場所。


彼は、戻ってきた。

彼女のために。

彼女は走る。

彼のために。



「ジョー! ジョー! ジョー!!!!!!!」

フランソワーズさんは叫ぶ。


愛おしい。愛おしい。愛おしい。
彼の名前を。




ジョーは両手を広げて、彼女を待つ。



愛おしい。愛おしい。愛おしい。
彼女をその腕に抱くために。


フランソワーズさんは、その背に光る羽を大きく広げて
彼の腕の中へと舞い降りる。


彼は天上から訪れた、亜麻色に輝く天使の輪を持つ彼女を
その腕に閉じこめた。



「ただいま・・・」


愛おしい。愛おしい。愛おしい人。


愛おしい。愛おしい。狂うほどに愛おしい人。


その頬に自分の頬をする寄せて。

「俺も・・・痛かった・・・・・。

でも、それよりも・・・

キミが、俺に・・・

そばに居てくれって言ってくれないことが・・・

キミは、

俺がいなくても、

平気なのか・・って。

淋しくないのか?

俺がいなくて、寂しくないのか?

恋しく想い、その胸を痛めて、

息もできないほどに、苦しんでいるのは、俺だけなのか?

不安だった。

怖かった。

もう、キミをこの腕に抱くことが叶わないのかと・・・

もう、キミは俺を求めてくれないのかと・・・


離れていた間。

キミの声を電話越しに聴いてる間。

キミのメールを読んでいる間。

キミを夢に見た日の朝。

キミが好きな花をみつけた時に。

キミと同じ髪色の人をみかけた時に。

キミが

愛おしくて。

愛おしくて。

愛おしくて。

フランソワーズが


愛おしくて。


壊れてしまう・・・


俺はキミに求められていないと、壊れてしまう・・・」



フランソワーズさんは

彼の額にキスをひとつ。

瞼にキスをひとつ。

両頬にキスをひとつずつ。



「そばにいて。何もかも捨ててそばにいて。抱きしめて。キスをして。愛して」
「そばにいる。何もかも捨ててそばにいる。抱きしめる。キスをする。愛してる」



ーーーーー2週間後。

ジョーは再びイギリスへ。
フランソワーズさんは・・・・。


ドアのチャイムが ちりりんっと鳴った。
今日もオレはカフェでバイトに励む・・・給料上げて欲しいこの頃。

「こんにちは!」

耳に心地よい春風が届く。



「・・・一緒に行かなくて良かったんですか?」
「・・・心配してくれて、ありがとう。大地さん」

彼女は微笑む。
明るく色とりどりの花々が咲くような、輝く笑顔。

「・・・離れて・・・あんなに、あんなに辛い気持ちだったのに?」

俺の言葉に、彼女は恥ずかしそうに少し視線を下げた。
大きな青空色の瞳を縁取る、長い睫が彼女の目元に陰を作る。

「んふふ。とっても、とっても辛くて死んじゃいそうだったわ!」

彼女は ぱっ と顔を上げて、オレにウィンクをひとつ。

「?!」

「でも、ジョーはちゃんと受け止めてくれたもの。
私の辛くて死んじゃいそうなくらい痛い想いを、全部。

いっぱい愛してくれたの。

前よりも、もっと もっと もっと

彼が


愛おしくて。愛おしくて。愛おしくて。


一緒に居たら

私の愛で

彼のこころが

いっぱいになっちゃって

再起不能なまでに

壊れちゃったら困るもの!!」




愛し、愛される、彼女は最高に強いと思う。



ジョー、お前・・・大変だな・・・・。









彼が 愛おしくて。愛おしくて。愛おしくて。
私は壊れてしまう・・・。












end.



・あとがき・

初心に戻る・・・(笑)
本編の続きって言うか、その後。
と、言っていいかもしれませんね。

ジョーが海外でF1レーサーとして暮らし始めたばかりの、
初めての帰国ってことで。

久し振り?にフランちゃんメインにお話がすすんだな~・・・。

は!!!(3月9日!)
39の日ではないですか?!

これ・・・39記念にしちゃいましょ!
(そんなのでいいのか?!)

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がんばれ!ギルモア博士!
<みんなのメンテ前の打ち合わせ!>

(001の場合)
「イワン、おまえのメンテナンスのことも考えんとなあ」
<必要ナイ>
「・・・一応は、お前もサイボーグじゃ。ちゃんと」
<必要ナイ>
「・・・まあ、イワンの能力なら自己管理もちゃんと」
<必要ナイ>
「・・・じゃが、お前の今後の成長などをちゃんと」
<必要ナイ>
        ・
        ・
        ・
        ・
        ・
     (博士力尽きる)
***************
(002の場合)

「よ!博士、オレのメンテそろそろだろ~!」
「うむ。今回はまあ、そんな大したことはしないつ・・」
「頼みがあんだけどよ!」
「(人の話をきかんか!)・・・頼みってなんじゃ?」
「鼻をそろそろ短く」
嫌じゃ
「・・・・なんでだよ?」
「いろいろ都合があるんじゃ!」
「都合ってなんだよ!!」
「日本の新幹線をみたことがあるじゃろ!」
「・・・ああ」
飛行機もじゃ」
「・・・おお、あるぜ」
「そういう都合じゃ!」
「はあああ?!」
「空気抵抗の問題じゃ!」
「じゃあ!博士のその鼻はなんのためだよ!」
「これか?・・・お前たちを改造するための補助脳がはいっとる!」
「?!」

「うそじゃ!」

***************
(003)

「おお、フランソワーズ。今日はどうしたんじゃ?」
「・・・・」
「ん?フランソワーズや?」
「・・・・・」
「黙っていちゃ、わからんぞ?」
「・・・・・・あの」
「うむ、どうした?」
「・・・・・・申しわけありませんが、博士」
「むう?」
「メンテナンスの日を、変えて頂けませんか?」
「・・・それはなぜじゃ? その日のために、もう準備はすすでおるんじゃぞ?」
「ええ、博士。知っています・・・本当に申しわけありません・・・でも・・・」
「むう・・・なにか、都合が悪いのか?」
「はい・・・」
「まあ、1,2日くらい遅らせてもかまわんが、理由を聞いてもよいかのお?」
「・・・・・・言わないと、いけませんか?」
「い、いや、まあ・・・別に無理にとは言わんが・・・」
「・・・・・・・ジョーがその翌日に帰ってくるんで・・・」
「009がか?・・・ああ、そういえば1週間のOffがとれたと、言っていたなあ」
「できれば・・・ジョーが仕事に戻るまで伸ばしていただけませんか?」
「なに!一週間もか!?」
「・・・メンテナンス後の安静を確保するためです」
「たったの2、3日じゃ、009もお前がメンテナンスの後だと知って入れb・・」
無理です」
「一週間もあr・・」
無理です」
「そんな戻ってきてから、まい・・」
「彼には加速装置がついてますもの///」
「・・・・どういう意味かのう・・・・」

(答え・加速装置なみに手が早い)

***************
(004の場合)

「お前さんが一番時間がかかるの~」
「なにせ、改造率がメンバーで一番ですからね、すみませんね、博士」
「な、何を言う・・・それは儂の科白じゃよ!!」
「っで、今回はどこを中心に見ていくんです?」
「うむ、そうじゃのう・・・どこか不備を感じたことはないかね?」
「いや、今のところ、ありませんねえ」
「うむ。そうか」
「あ!・・・あるとすれば・・」
「!! どうした?!」
「・・・・オレ専用の絶対に聞こえない耳栓が欲しいですね、博士」
「な、なんじゃ? メンテナンスと関係ないじゃないか!」
「いや、ある意味、それが一番のメンテナンスになるかもしれません・・・」
「・・・なにか耳にノイズでもはいるのか?!」
「ええ、もうたっぷり、嫌なほどに・・・隣は003の部屋ですからね、さしあたり・・・・
009が戻ってくれば・・・」
「・・・・・つくろう」
「ありがとうこざいます、博士」

***************
(005の場合)

「さて、何か不都合なことはないか?今回のメンテナスでは、005は調節のみで大丈夫じゃからな」」
「はい。」
「それで、どこか調子が悪いところは、あるかな?」
「ない。」
「うむ、それはなりより」
「はい。」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

(無言のままその日が終わる・・・)

***************
(006の場合)

「どうじゃ、006調子は?」
「アイヤ~!店は繁盛!元気あるネ」
「うむ、うむ。それはなりよりじゃ。それで今度のメンテナンスの日程じゃが・・・」
「簡単には店、休めないアルね、私、新しいコックの教育に忙しいアル!」
「むう・・・そうは言っても、006よ・・」
「時は金なりネ!」
「・・・・いや、体がどうかなってしまって、意味がないじゃろ?」
「たから新人教育が先ネ!」
「・・・・はあ・・・・」

***************
(007の場合)

「どこに言ったんじゃ?!」

(007は今、張大人の店で商店街のマドンナを口説くのに必死で
時間を忘れてます)

***************
(008の場合)

「おお。008・・・よくきたな」
「博士・・・今度はボクに何をするんです?」
「な、な、何をって・・・メンテナンスじゃよ?ただのチェックじゃ!!」
「・・・・」
「008?」
「・・・ちょっと、メンテナンスって訊くと、ナーバスになるんですよね、ボク」

(博士、は!!!っとなって固まったまま、一日が終わる。
ピュンマちょっとトラウマになってます・・・)

***************
(009の場合)

「ジョー・・・、明後日のお前のメンテナンスなんじゃがな・・・」
「はい」
「加速装置を中心に見ていこうと思っとるんじゃ」
「わかりました・・・」
「それで・・・のぉ、言いにくいんじゃが、そのなあ・・・・」
「?」
「メンテナンス後は、お前もよく知っている通り、安静が必要でな」
「はい、もちろんです。仕事は何も入れてませんから、大丈夫です、博士」
「いや、それは・・・うむ。ジョーのことだから、まあ、心配はしておらん。が、
儂が言いたいのは、その・・・儂が言うのもなんだが・・・」
「?」
「・・・・003禁止令を出して良いかの???」
「はい???」
「その・・・なんじゃ、そういうことじゃ!!!!!」

(ジョーしばし真剣に考え込む・・・)

「ああ!・・・博士、そんな、僕だってメンテナンス後は流石に考えてますよ(苦笑)」
「う、うむ・・・まあ、今回は加速装置を触るから、念には念を・・・////」
「1日くらい、大人しくしてますよ」
「・・・・たった1日?!」
「?」
「・・・・その、3,4日。できれば・・・1週間は・・・」
無理です

***************
がんばれ!ギルモア博士


・あとがき・

今回の結果。
やっぱり私の頭は9と3の話ししかつくれないように出来てます。

以上!


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Day by Day・11
(11)









日曜日の前は土曜日。

ギルモア邸へサプライズに行ったのが2週間前の水曜日。
それ以来、さくらはギルモア邸の住人と会っていなかった。

彼らはそう頻繁にここへは訪れない。
最近、彼らが訪れていた理由は、さくらが世話になっているコズミ博士が
客員教授として勤める大学で大きな学会発表が行われるためだった。

そのために、コズミ博士は色々な仕事に忙殺される日々で、さくらのことを心配して年令も近く同じ女性同士ということもあり、ギルモア邸に住むフランソワーズを紹介された。

彼女に会う以前から、ジョーとアルベルとには面識があった。ジョーは必ずギルモア博士の運転手としてコズミ邸へとやってきていた。

コズミ博士の仕事も落ち着いて、さくらも一通りの日本で暮らすのために必要な物を揃え、ギルモア邸へ行く理由も、彼らにお願いするような用事もなく日々が過ぎていく。

”お礼”と言う理由をつけて、サプライズだと言い訪れたギルモア邸だったが、さくらの予想に反した内容だった。
しかも、帰りはきっとジョーが自分を見送ってくれると思いこんでいた、さくらだったが、話しの流れでジェットと2時間近くも狭い車内で過ごすことになってしまったのだ。ジョーと2人きりになるチャンスを逃した。


それは意図的に?
それは偶然に?

最後に言ったジェットのジョーク。
ーーージョーと相思相愛は、これのオレだ!ーーー

思い出すたびに笑いがこみ上げてきていたのは3日前まで。


邪魔されてる?
何か、これ以上・・・近づいてはいけない?

コズミから教えてもらった電話番号を押す指が、頼りなく感じる。

逢いたいと想う気持ちは、好きだと言う証拠。
声が聴きたいという衝動は、好きだとう言う理由。

知人の知り合い、ではない。
私は彼らの友人。
友人なら、用もなく電話をかけても・・・。

さくら自身はじめての積極的な自分からのアプローチ。
待っているだけではこない。
なら、少しぐらいは強引に推し進めなければならない。
海外(向こうで)友人達と打ち明け合った、女同士の恋のテクニック。
知識だけはある、それを裏付けるように、女友達は意中の彼を手に入れた。

あとは、自分次第。
あとは、自分の行動。

呼び出し音が鳴る。
機械音が、心臓の音と重なる。

少しだけ、自分の心臓の音の方が早い。
いや、早くなっている。

『はい・・・』

その声は、聞き覚えのある声。








####

土曜日の夕暮れ時。
キッチンからフランソワーズがクリームシチューを作っている美味しそうな香りが漂ってくる。
日本のレトルトのルーに、その数に、彼女はスーパーでとても驚いていたことを想いだした。


「日本って、なんでも簡単・便利にしてしまう時間短縮の名人ね!」


彼女はレトルトが並べられた棚をひとつ、ひとつ確認しながら歩く姿はどこにでもいる・・・いや、ここ極東に位置する島国の、単一国家民族の中では彼女のその、際だった容姿は普通とは言えなかった。
彼女に送られる数々の視線に本人はまったく気づいていない様子で、周りにいる人間の方がはらはらと気持を焦らせるばかり。

フランソワーズと一緒に行動することが、いることが当然なのだ。

それが彼らの日常。
それが彼らの生活。
それが彼らの仲間。

誰1人として欠けることは許されない。


電話がなった。

リビングに置かれている親機が2度コール音を鳴らす。
その後に続くように、ダイニング、地下、に置かれた子機が合唱を始める。


「はい・・・」


取ったのは、ダイニングでテーブルを布巾で拭いていた、ピュンマ。


『もしもし?あの・・・私、さくらです』
「ああ!さくらちゃん、ピュンマだよ、元気?」
『ええ、ピュンマも元気?』
「うん!・・・どうしたの?」
『いや~、また遊んで欲しいな~って思って!・・・まだ学校始まらないし、当分』

ーーー寂しいんだろうな。

それがピュンマの、さくらにたいするシンプルな感想だった。

さくらが通う予定の大学が始まるまでに、まだ3ヶ月以上も時間がある。
日本には、誰も友達が、知り合いがいないと訊いている。・・・長かった海外生活と自分が日本人でありながら、日本人らしくないと思い込んでしまう、コンプレックスのようなものを抱いていることが、手に取るようにえみた。

「いいね!またどっか行こうよ、どこか行きたいところがあれば、メールかまた電話しておいでよ、ボクもきいておくよ」
『・・・今日、ジョーはどうしてるの?』
「ジョー?さあ、邸にはいると思うけど・・・何?話したい?」
『うん、来週の金曜日とか車を出してもらえたらな~って・・・』

ーーーあ、それ無理だ・・・。

「ジョーじゃないとダメかな?ボクもジェットも運転できるし」
『ジョーは予定があるの?』
「うん、多分出かけると思う」
『そっか、その日じゃなくても別にいいんだけど・・・』
「そう?・・・あ!ちょっと待ってて!」

桜が耳に当てていた受話器の向こうから、衣摺れるの音。
ピュンマが子機を自分の胸に押し当てて、会話がさくらに向こう側の会話を聞こえないようにしている、音。
さくらは耳に集中する。
少しでも、”向こう側”を知るために。

途切れ、途切れに聞こえる頼りない会話の内容。
どうやら、ピュンマがジョーを見つけて、呼び止めたようだ。
彼の名前が耳に入ってきた。

ピュンマがジョーの名前を呼んだ声を聴いただけで、ぎゅううっと受話器を握りしめている自分に、さくらは驚く。こんなに胸が苦しくなるような想いは、どこからやってきたのだろうか、と。








####

ジョーは地下に繋がる階段を上がり、廊下を抜けて夕食の支度をするために”クリームシチュー”の固形ルーの箱と睨めっこしているフランソワーズの姿が目に入った。

お玉を手に持ったまま、彼女の良く見えすぎる瞳には必要のないように思われた仕草。
フランソワーズは箱を上に掲げて、片眼を閉じてウィンクをするような様子で、少しだけ眉間に皺を寄せ、固形ルーが入っていた箱に表記された細かい注意事項や、作り方が表記された文字を一生懸命に読んでいる。
彼女が補助脳で文字をスキャンをし、自動通訳機を通すことで知らない国の言葉を自由自在に聴き、話し、読み、書くことが出来る。それは00サイボーグ全員がもつ機能である。けれども、彼女はそれを不思議なほどに、特に日本語は読み間違え、書き間違え、とんちんかんな勘違いをしてみせた。
ギルモアなど、一度は開頭手術をして何か不備があるのか真剣に調べたいと言っていたぐらいに。生活や戦闘にまったく支障が出ないために、フランソワーズ自身が、大げさです。の一言で、それは却下された。

「・・・あら?この字・・・なんて読むのかしら?」

フランソワーズの唇から零れた言葉を拾ったジョーは、彼女に声をかけようとしたとき、ピュンマに呼び止められた。

「ジョー、電話だよ」

ーーー電話?

ジョーはその目線を一度フランソワーズにむけてから、ピュンマから子機を受け取った。目で「誰?」とピュンマに問う。彼は声に出さず唇で「さ く ら ちゃ ん」とジョーに知らせた。ジョーに子機を渡すと、彼の代わりにキッチンで思い出せない漢字と格闘するフランソワーズに声をかけた。

ジョーは子機を手にダイニングルームへ移動する。
キッチンから、ピュンマが「え~、これくらい読めてよ~!」と言う声が聞こえた。

『もしもし』

ジョーが口を開く前に、耳に当てた受話器からさくらの声。

「もしもし」
『ジョー!!あら、ジョーなのね?』
「そう、僕だよ」
『ピュンマったら何も言わないで替わるから、ビックリしちゃった!』
「どうしたの?」
『・・・う~ん、またみんなと一緒にどこか行きたいって言いたかったの』
「そう。そうだね。暖かくなってきてるし、どこかへ出かけるのはいいかもね」
『来週の金曜日とかは?』
「ああ、ごめん。その日はもう予定があるんだ」

ピュンマの言った通りに、彼は予定がある。
さくらは、別にピュンマを疑っているわけではなかったが、ちゃんと自分で確かめたかったのだ。

『予定?』
「うん、夕方から出かける」
『お仕事か何か?』
「いや、バレエを観に行く」
『ば、・・・・・・・バレエ?』
「ああ、運良くチケットが手には入ったから。バレエのチケットが高くて驚いたよ」
『誰と行くの?』
「フランソワーズと」
『!?・・・・彼女と、ジェット?それともアルベルトやピュンマと一緒に?』
「いや、キャンセルされた予約チケットが2枚だけだったから、2人で」
『そ、そうなんだ!ジョーってバレエに興味があったなんて知らなかったわ!』
「僕は一度も観たことないよ。フランソワーズが行きたそうだったから」
『・・・・優しいね、みんな。すごくフランソワーズさんにたいして、ビックリするくらい優しくするから、時々すごく羨ましくなっちゃう』

それはさくらの本音だ。

何度か一緒に行動している間。
彼らはさくらと話し、さくらに気を遣っていてはくれたが、その視線や行動には常にフランソワーズを配慮したものが見えた。

「?驚くほどのことかな・・・」
『ええ、私はそんな風にされたことがないくらいよ!』
「彼女は、フランソワーズだから」
『・・・何よ、それ。ジョー、それ、意味解らないわよ、そんなの』
「そう、解らないよね、ごめん」

見えない壁がある。
今、その壁が、動くはずのない壁が、さくらのほうへ近づいてジョーとの距離を広げた。

数秒の沈黙。

「もしもし?」
『あ!! 変なの!謝ることないの、に。ジョーは。・・・じゃあさ、その日以外ならいいのかな?・・・私とも遊んでよ!』
「そうだね、その日以外なら・・・みんなにどこへ行きたいか訊いておくよ」

ーーー”みんな”にどこへ行きたいか訊いておくよーーー

『うん・・・・・・また電話してもいいかな?』
「ああ、もしも行きたいところがあったら電話して」

ジョーの口調は優しい。
ジョーは優しい。
ジョーは私にも優しい。
ジョーは、フランソワーズさんにも優しい。

それは同じ優しさ?
それとも・・・?

「じゃあね、さようなら」

ーーーそれだけ?

用件はすんだとばかりに、電話を切ろうとするジョー。

『う、うん。さようなら』

その彼に何も言えなくなった、さくら。

ーーージョーが好きなのはフランソワーズ?
   フランソワーズが好きなのはジョー?

さくらは自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
彼女は恋愛に振り回され、人生がすべて恋や愛を中心で生きていた子をバカにしたことがある。そんなものは、ゲームみたいなもので、振り回されるなんてバカな子っと罵った。さくらは、こころの中でその子に謝る、ごめんなさい、と。

さくらは寝ても覚めてもジョーのことばかりを考えている自分がいる。

今までこんなに1人の人に夢中になったことはあるだろうか?


フランソワーズさん、あなたが・・・。















####

電話を切って立ち上がり、ダイニングの壁に飾り棚があり、その上に置かれた受電機に子機を置く。赤く光っていたランプがグリーンに変わった。

「お、電話か?」

ジェットの正確な腹時計がそろそろ五月蠅くなり出す頃、彼はダイニングに姿を現した。

「ああ、さくらから」
「! へ~、なんか久し振りに聴いたな、その名前」
「どこかへみんなと出かけたいらしい」
「・・・ふ~ん、で。どこだよ?」
「まだ、決めてないみたいだった」
「・・・で、言ってないよな?モチロン」
「何を?」
「何をって、おいジョー、来週のほら、お前とフランソワーズが!」
「言ったけど? ・・・彼女がその日に予定がないか訊いてきたから」
「んあああ!それで正直に”フランソワーズとバレエを観に行く”なんて言ったのかぁ?」
「ああ、・・・問題あるのか?」

きょとん、として不思議そうに、いったい何が問題なのか?と言いたげにジェットの引きつった顔を眺めているジョーにたいして、ジェットは深く、深くため息を吐いた。

「お前・・・火に油を注ぐような真似すんなよ・・・」
「そんな危ないことはしない」
「・・・してるじゃん、したじゃねぇか!今!!」
「バレエをフランソワーズと観にいくことを、さくらに言うのが?」
「おう! ・・・って。気づけよ・・・お前、マジで気づいてないのかあ?あれだけアピールしてるのに・・」
「何に?」

ジェットは倒れ込むようにダイニングの椅子に座り、テーブルに突っ伏した。

「オレは今、すっげ~009に会いたいぜ・・・」
「009?・・・俺じゃないか」
「じゃあ、なんでそんなバカなことしたりすんだよ、009の時のおお、あの状況判断の良さや先読みのセンスなんかが、なぜここに活かされねえええんだよ!」

「何に活かすって?」

ダイニングで話すジョーとジェットの会話に、大きなトレーにパンが入ったカゴ、スプーンやフォーク、取り皿などを積み上げたものを軽々と持ってテーブルに置いたピュンマ。

「訊いてくれ!ピュンマ!」

ピュンマの声に弾かれたように顔を上げたジェット。

「なんだい?」
「こいつは!こいつはさくらに、来週のこと言っちまったんだよ!」
「・・・マジで?」

ピュンマは驚いた顔でジョーを凝視した。ジョーはむっとした表情でピュンマを見返した。
ピュンマもジェットが先ほど漏らしたため息と同じ種類のものを深く、深く吐いた。
その様子を見ながら、ジョーはジェットの隣に座る。

「何がいったい問題なんだよ?」

ピュンマに説明を求めるジョーだが、彼がさっさとトレーの上の物をテーブルに移すとキッチンへ引っ込んでしまった。そしてまたトレーに色々なものを乗せて戻ってくる。

「問題は、キミが優柔不断だって言うことだよ」

ピュンマは一言だけ残して、またキッチンへむかう。
彼の言葉が引っかかったようで、ジョーはイスから立ち上がり、キッチンへと彼を追いかけた。多分、そこにはフランソワーズがいるだろうから、彼女にもジェットやピュンマと同じ意見なのか訊こうと思ったのかもしれない。
ピュンマの後にキッチンへ入ったジョーだが、そこにフランソワーズの姿はなかった。

「フランソワーズなら、さっきイワンに呼び出されて彼の「ママ」になってるよ」

ピュンマは彼のこころを読んだかのように、言った。

「・・・別に。それより優柔不断ってなんだよ」
「その通り、だよ。ふらふらしてないで、おさまるところに、おさまったら、こんなにボクもジェットも、みんなも心配する必要なんてないんだもん」
「・・・おさまるって、なんだよ?」
「やだよ。自分で考えてよ、009・・・ボク蹴られたくないから」
「蹴られる?」
「そう、痛いんだよ。蹴られたら」
「誰に蹴られるんだよ?」
「決まってるじゃないか!! 馬だよ!」








####


フランソワーズはイワンを抱いて、地下のギルモアの書斎に置いてある安楽椅子に座っていた。
彼の小さな背中を一定のリズムで優しく撫でるようにたたきながら、その体を左右に揺らす。

イワンがスムーズに長い15日間の眠りに入りやすいように、彼女なりに色々試してみた結果、薄暗い部屋。書籍独特の紙とインクの香りに囲まれた、ここが彼にとって一番安心して眠ることができる空間であることがわかった。
フランソワーズが夕食用のクリームシチューを味見したとき、自分がホワイトソースから作る物と同じようでいて、まったく違う日本の味にとても驚いた。ピュンマにも味見をしてもらって確認する。彼の感想は「日本!って言う味だね!」だった。本当に素直にそう思ったのだろうけど、フランソワーズはもう少し違う意見が聞きたかった。

書斎には時計が置いておらず、彼女がここへ来るときは必ずメンバーに渡されている携帯を持ち込み、そこに映し出されるデジタル時計で、いつも時間を確認していたのだが、呼びだされた時はキッチンに居たのと、夜の時間までまだ3日も早かったことから、何も準備せずにイワンを抱いて、この書斎に籠もった。

ーーー今、何時ぐらいなのかしら?

ずっとイワンを抱き続け、彼の背中をあやし続けている。
夕食の配膳などをピュンマに任せたきりである。もうすでに夕食を終えて食後のデザートか珈琲あたりを楽しんでいる頃だろうか?それとも・・・もうすでに自室にみな引き上げたころだろうか?

時間の感覚を失って、地下の書斎でイワンと2人。
フランソワーズは、イワンの寝息が先ほどから規則正しいリズムを生み始めていることに気がついていたので、イワンの背中で続けていたその手の動きを止めてみた。
イワンは何も反応せずに、同じリズムで寝息をたてている。
フランソワーズは、体を左右に揺らすことも止めてみた。
同じく、彼は静かだった。

「おやすみなさい、イワン。素敵な夢をみるのよ」

フランソワーズはそおっと彼の柔らかな髪と、ふくふく とした頬に休みのキスをした。

彼が起きないように注意しながら、書庫を出る。
イワンが寝ている間は、オムツとミルクの世話をする以外は常に、ギルモアと同じ部屋で過ごす。
博士が異動すれば、彼も移動することになるために、博士の寝室、研究室、リビング、ダイニングそれぞれにイワン用のベッドが置かれていた。
昼の時間のイワンとさほど替わらないように聞こえるが、フランソワーズがちゃんと目を光らせておかなければ、誰もが夜の時間のイワンのオムツも、ミルクの世話も忘れがちになってしまうのである。それがストレスとなって、彼の強力なSPが爆発されたら、大変な事件となってしまう。

地下にある書庫からゆっくりと階段をあがり、イワンをギルモアの寝室にあるベビーベッドへと連れて行く。ギルモアはまだ研究室に籠もっていることは解っていた。
イワンをきちんと寝かして、寂しくないように、とデパートへ行ったとときに見つけた、肌触りの良いタオル地のクマの縫いぐるみを、イワンの手が触れられ場所に置く。
あのイワンにそんなものが必要あるのか?と、例によってジェットに言われたが、イワンはこのクマの心地よい肌触りが気に入っていることをフランソワーズは知っていた。

もう一度、フランソワーズは愛らしいイワンの頬にキスをして、部屋を出た。
ダイニングルームに入ったとき、壁にかけられたいた時計を見て、フランソワーズは驚く。
もう明け方の5時前だ。彼女は夕食前から一晩中、イワンをあやしていたのだ。

時間を意識したとたに、フランソワーズは急な空腹感に襲われた。
お腹を押さえて、自分しかいないダイニングルームにもかかわらず、あたりをきょろきょろっと見回した。

キッチンに入ると、綺麗に食器が洗われていて、シチューを作った時に使った鍋も片づけられていた。冷凍庫を開けると、残ったそれがきちんと冷凍してあった。

ーーーさすがピュンマ!

思わず笑みが零れる。

朝から夕食用に作ったシチューを食べるのは少し重たい気がしたために、彼女はミルクパンに牛乳を入れて温める。濃いめに煮出した紅茶を混ぜてミルクティを作る。珈琲を飲んだ方がいいのかもしれないが、みんなの朝食を作った後に仮眠を取ることを考えると、今は飲みたいとは思わなかった。

食パンを2枚取り出して、トースターへ放り込む。彼女の好きな洋なしのジャムを冷蔵庫から出す。もうそろそろなくなりそうだったので、キッチンに置いてある買い出し用のメモ帳にそれを書き足した。



人が住んでいないような、静かな邸。

キッチンも、ダイニングも、まだ日の光が入らずに薄暗い。
カーテンが引かれた室内は、地下の書庫とそんなにかわらないような気がするフランソワーズは、多分、イワンはあの書籍独特な香りが好きなのでは、と思った。


小ぶりのトレーに簡単に用意した物を乗せてダイニングテーブルに置く。
座ったときに、軽い目眩に襲われた・・・が、それは今まで意識していなかった疲れと、睡眠不足、そして空腹のためと解っているので、淹れたばかりのミルクティをぐいっと喉に流し込んだ。
いつもよりも1さじ多めに砂糖を入れたミルクティは、甘すぎるような気がしないでもないが、今の自分には必要な糖分量、と自分に言う。ジャムよりも薄くバターを塗ったトーストの方がよかったかもしれない、とも考えた。が、もう立ち上がるのも億劫なので、残ったジャムを使い切ってしまうつもりに、たっぷりとトーストに乗せて口に運んだとき、リビングに繋がるダイニングのドアが開いた。

「大丈夫? そのジャムすごく甘いよ?・・・こんな朝から・・・それって」

ジョーの声と同時にドア近くにあるダイニングの電気がオンになる。
ぱあっと明るくなった室内に、大口を開けてジャムで盛り上がったトーストを頬張るフランソワーズの姿。彼女は振り向くことも、動くこともできない。

ーーーなんで?! なんで、こんな時間に?!

ジョーは宵っぱりで、朝がとことん弱い。
用事がない限りは滅多に朝食を食べずに大概昼食前に起きてくる。



ジョーはそのままキッチンへ向かう。
フランソワーズはジョの足跡がキッチンへ消えてたのを聴き、慌ててミルクティで口の中のものを流し込んだ。キッチンからコーヒーサーバーが動いている音が聞こえ始めた。

「フランソワーズ、トーストってまだある?」

朝の5時を少し過ぎたダイニングルームで朝食を取る、フランソワーズとジョー。
ジョーは自分で珈琲を淹れて、トーストを3枚焼いた。
冷蔵庫からマーガリンをそのままテーブルの上に置き、使う。
フランソワーズが用意したならば、きちんとジャムもマーガリンを小皿に取り分けて使うが、フランソワーズ自身が、ジャムの瓶をテーブルに置いて、瓶から直接ジャムをパンに乗せて食べているので、ひとこと言いたいが言えない状況だった。じぶんは全部食べきってしまうけれども、ジョーの使っているマーガリンはまだたっぷりとある。
冷蔵庫からそんな大きな固まりでテーブルに長く置いておくと品質が・・・、と言いたげな目線を感じたジョーは、「はいはい」と独り言を呟いて、トーストを置いたお皿の端っこにマーガリンをたっぷり乗せて、冷蔵庫へそれを戻した。

「わ、わ、私なにも言ってないわ」

戻ってきて席に戻ったジョーに言った。

「うん、口ではね」
「・・・ごめんなさい」
「気にすることない、よ。キミもそういうことするんだって、わかったし」

ジョーの目線がフランソワーズの前に置かれた、瓶とトーストいっぱいに塗られたジャムを面白そうにみた。

「こ、これは・・・もう少しで・・・なくなるから使い切ってしまおうと・・」

言い訳ではない。
フランソワーズは本当に、そう思い、そうしたのだ。

「そう。じゃあ食べないと、トースト冷めるよ?」


会話のない食卓。

フランソワーズは ぐるぐる 混乱する思考回路に振り回されていたので、ジャムの味も、ミルクティの味も、パンをちゃんと租借して食べているのかも、何も思い出せなかった。
ジョーはぺろっと3枚のトーストを食べてしまい、キッチンで2杯目の珈琲をサーバーから注いで、再びダイニングテーブルに戻ってきた。フランソワーズはやっと2枚目のトーストを半分食べたところで、そこからが食べにくかった。
なぜなら、ジョーはちびちびと珈琲を飲みながら、じいっとフランソワーズを見ているのだ。ただ、見ている。
そんな視線のせいで、パンを頬張ることを躊躇させれた。

「ずっと起きてたの?」

ジョーはフランソワーズがトーストに手を付ける様子がないのをみて話しかけた。

「あ、ええ、そう・・・。書庫には時計がないから、気がついたらこんな時間に」
「昨日の夕飯前から?」
「ええ。なかなかイワンが・・・」
「そう。・・・じゃあ今から寝るんだ?」
「いいえ、みんなの朝食の準備をしてから。昼食までは少し休むつもりだけど」
「みんな、朝食くらい勝手につくるよ?」
「そうだけど・・・」
「寝た方がいいと思う」
「・・・・・」
「来週、観に行けなくなるかもよ?倒れたりして」
「・・・・・だいじょうぶよ、来週だもの」
「わからない。キミのことだから、今から見張っておかないとね」
「そんな、私・・・こどもじゃないわ」
「こどもの方がよかったかも」
「?」
「こどもだったら、ちゃんと、言うと思う。怖いときは怖い。嫌なときは嫌。しんどい時はしんどい。辛いときは辛い。・・・・無理しないから、ね。好きなことも、そう」
「・・・・・・だから、私はもうこどもじゃないもの」
「こどもじゃないんだ」
「そうよ、違うわ」
「うん」

会話をしながら、フランソワーズが少しずつ俯いていった。
いつの間にかそれらを、御飯を作り、掃除をし、洗濯をする、ことをフランソワーズは自分の仕事と思いこんでいた。フランソワーズが何もせずに放っておいても彼らは、彼らでやれるだろう。
全員それなりにちゃんと生活ができる大人だから。フランソワーズがわざわざ、全員のそれらをする必要もない。誰にも頼まれていない。勝手に自分が、フランソワーズがやっているだけのこと。

「いつも、キミの負担になるばっかりで申し訳ないから」
「え・・・」
「出来ることは、自分たちでやるから。だから、無理しないで欲しい。洗濯も、そうじも、食事も、フランソワーズがしてくれることは、とても嬉しいし、感謝してるけど、それに甘えてしまったら、キミに・・・キミの負担になるのが嫌なだけだから」
「・・・・」
「・・・・縛られないでほしい。この邸で、仲間の中でキミが1人だけの女の子だから、だからそういうことを全部しなければいけない、なんてルールも何もないんだ。やりたくないときは、そう言って欲しい。しんどいときも、言って欲しい・・・だから今日みたいにイワンをちゃんと夜の時間のために寝かしつけてくれたキミだから、無理せずに休んで欲しい」
「・・・・ありがとう、そんな風に思っていてくれていたのね?」
「・・・」
「好きなの」
「・・・」
「私は、小さい頃に両親を亡くして兄とずっと2人で暮らしてきたでしょう?だから、洗濯も掃除も、料理も・・・全部。まったく負担じゃないの。むしろ・・・好きなの。そういうのが。だから・・・ね、ありがとう。私は楽しんでるのよ?これでも」

俯いていた顔をゆっくりと上げて、恥ずかしそうに笑うフランソワーズ。
一睡もしていないために、少し疲れた感じはあるが、彼女は白い頬を薄紅色に染めて微笑んでいる。食べていたジャムをちょこっと口元につけて。ジョーに花が咲くように微笑んだ。

「好きなんだ、ね?本当に?」

フランソワーズはジョーの問いに こくん と小さく頷く。

「そう・・・でも、今日は俺の言うことをきいてもらうよ、キミは部屋で休むんだ、いいね?これは・・・009としての命令だから」
「リーダー命令なのね?」
「うん。そうしておかないと、キミは休まない、だろ?」
「・・・・009の、リーダーの命令には逆らうつもりはないわ」

フランソワーズの言葉にジョーは納得したように頷く。
食器を重ねてジャムが入っていた瓶を手に立ち上がろうとしたとき、ジョーは言った。

「俺がやるから、部屋に戻る」
「・・・で、でも」
「これも009としての命令って言ったら?」
「そんな、なんでもに”009の命令”って使うのはずるいわ・・・」
「そうだね、気を付ける。でも今日は聴いておいてくれないかな?」

フランソワーズは態とらしくため息を吐いてみせた。
そして・・・彼女は小さな白い手を ぴし っと敬礼するように自分の額にあてて戯けてみる。

「009、私は部屋に戻ります!あとはヨロシクお願いします」

その仕草が、その微笑みが、その唇が・・・ジョーは愛おしいと思った。

「おやすみなさい・・・ちょっと変ね、朝なのに」

くすくすと笑いながら、フランソワーズがイスから立ち上がると、ジョーも同じように立ち上がった。

一歩踏み出した彼女の腕を無意識につかむ。
ほんの少し自分の方へ引き寄せたつもりが、彼女は不意をつかれたように、大きく体を傾けた。ジョーは両手で彼女を支える。驚いたようにフランソワーズがジョーを見上げた。
空色の瞳が大きく見開くいて、ジョーを、自分の姿を写し取る。

「おやすみ」

ジョーのその褐色の瞳が近づいてくる。
フランソワーズの・・・ちょこっとジャムがついてしまった、甘い口元にジョーの飲んだ珈琲の香りが混じる。音もなく、彼の唇が触れた。

フランソワーズの腕を解放する。
彼女は ぽかん と驚いている。
ジョーはテーブルに置いてあった、彼女が使った食器とジャムの瓶。そして自分が飲んでいたカップを器用に持ってキッチンへと歩いて行く。

遠ざかったジョーの足音。
フランソワーズは、慌てて自室へと駆け込んだ。










=====12 へ 続 く

・ちょっと呟く・

ああ!ダメ!!
まだくっついたら~~!
ひ、ひ、引き離さなければ!
ジョー我慢だ、まだ我慢するんだ!
(3月9日・・・39の日なので、・・・1週間早く出してみました)
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キリ番&リクエストについて

★現在(2009~)いただいたリクエストの進行が大変遅れております。


そのためにキリ番を一時中断させていただきました。
いただいたリクエストを消化しましたら再開したいと思います。




☆キリ番ナンバーを踏まれた方は、blog拍手、mail、コメント欄、
 どの方法でもいいのでお知らせください。

☆私の駄文で申し訳ないですが、 リクエスト内容に沿うお話を
プレゼントさせていただきます。


☆リクエストの内容はもう、なんでもいいです。
 (009関連ならなんでもいいですよ~!
・・・93・39メインじゃなくても、がんばりますよ?)

★。。。大人向けのリクエストはお受けすることはできません・・・
してもいいんですが、ACHIKO が出来る描写ないなら、OKですけど
・・・あんまりないですよ。勉強中です・・・。





*********************

キリ番を踏んでいただきました!!!!


☆33933の、9ハーレムだね!な数字を踏んでくださったのは、

>シ___さま (リクエストをいただきました!)
>花___さま!


☆ 33333番を踏みました!のご報告ありがとうございました!
 リクエストお待ちしております。

 >m___さま (リクエストをいただきました!)
 >花___さま
 >ゆ___さま
 




☆「1093」番をゲットしていただいたのは、・~☆さま!
 リクエストをお待ちしております。


☆「・・・里さま」 10093番を踏みました!のご報告ありがとうございました!
 リクエストお待ちしております。


☆「R・・・さま」 9393番を踏みました!のご報告、ありがとうございました!
 リクエストお待ちしております。






******キリリク・ストーリーたち*****

(下に行くほど新しい)
「大地くん・シリーズ」は”俺の彼女~”のカテゴリーに。
他はShortStoryの方でも保存させていただいてます。

**************


☆「33333番」をゲットしていただいたのは、
 LINKさせていただいたサイトマスターさま! 
 カウンター不思議現象につき、ちょっといつもと違う、私にとっては
とおっても興奮してしまう、リクエストをいただきました♪
 どんなリクエストをいただいたかは・・・
 ぜひこちらから、『特別室・資料室』へgo♪


☆「1003」番をゲットしていただいた「・~☆」さま へ
 『大地くん・シリーズ』で・・・ 
 闇・ジョーで9が相当やばい状態を3の大きな愛で救う!を書かせて頂きました。
 お話はこちら



☆「093」番。R・・・さま へ
   「93中心のほのぼの、9の幸せ~」を書かせて頂きました。
 お話はこちら



☆「099」番。・・・里さま へ
   大地くんシリーズの過去のヘタレ島村さんが→現在の男・島村っちに
成長していく過程をお嬢さん視点と香奈恵視点で・・・お嬢さんが苦労して
手塩に掛けて育てた、男・島村レシピ?
 「お嬢さんの島村さん育児日記」を書かせて頂きました!が 
 お話はこちら




☆「333」番。メ・・ンさま へ
   「3←男 で9がやきもきしている」を書かせて頂きました。
  私自信がやきもちとは無縁の人間でして・・・ヤキモチって
難しいですね(笑)
  思わずネットで「男の心理・やきもち」を調べてしまいました・・・。
  お話はこちら




☆「939」番。「にきり・・・」さま へ
  ミッション中に起こった009のミスから、00メンバー(誰もok)が心身ともに
痛手を負いそんな彼らに支えあってこその自分だ!となる。を、
書かせて頂きました。
 お話はこちら




☆同じく。 「939」番 の 「いま・・」さま へ
テーマは『靴』 で書かせて頂きました。
フランソワーズがそれまで履いたことのない、「大人」な
ヒールを履いているのに、にぶいジョーが気付いて、一人うじうじ悩む・・・・。
フランソワーズは背伸びしたい年頃で、ジョーの為に少しでも大人な女に
なろうとした結果。 
お話はこちら




☆同じく、「939」番 の・・・里さまへ
大地くん・シリーズで、 F1レーサー島村っちの観戦にできかたお嬢さんに、
いつもと違う島村っちを目にするジョーのチームメイト!
お話はこちら

 


☆「9999番」のy・・・・さまへ
 大地くん・シリーズのJ&Fです。
 2人の甘くて、可愛い・・・あんなにラブラブなのに、新鮮さをキープし続ける2人の一コマを。
 お話はこちら
(なんと!お話をy・・・・さんのHPに掲載させていただきました!嬉しい~♪ありがとうございますっ!)




☆『33333番』のう・・・・さまへ
 いただいたリクエストは、大地くん・シリーズの、”カフェ・オードリー”の世界を使用権!!
いいんでしょうか???私がお願いして書いてほしいくらいの、とっても、とっても嬉しいリクエストでございました!!

大地くんの世界を広げてくださった、う・・・さんとは?
さささ、甘い、甘い、彼らの世界へ加速装置!してくださいっ♪





*********************

☆HNを公表させて良い、とおっしゃってくださる場合にはご一報ください。

                                                                            

				
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Day by Day・12
(12)

街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館に移り住み、4ヶ月目を迎えようとしていた。
朝から邸中がなにやら落ち着かない雰囲気に包まれている理由は、009が自ら003のために
バレエ公演のチケットを手に入れ、彼女を連れて行くために出かけると、報告した日付が今日だからだ。

お節介なグレートは、この日のために何気なくジョーに”女性をエスコートする心構え”を
日々、なにかにつけて説いていた。

アルベルトは、さり気なく彼が当日何を着ていくのかを聞き出して、彼がジーンズにTシャツでいかないことに、ほっ と、胸をなで下ろしたが、女性を連れて歩くのだから、それなりのマナーが必要だ。っと、一言言い添える。

ピュンマが街にどうしても行きたい店があると、ジョーに運転を頼み訪れた先は、事前に張大人が調べたメンズ物の店。色々と選ぶのにアドバイスがいると、ジェットも誘っていた。店にはすでにグレートが見立てた”ジョーのためのスーツ”が用意してあったが、それを悟られないように勧めて見事に買わせることに成功させた2人は、普段には使はないと決めた脳派通信で嬉々として仲間に報告した。

ジェロニモは、当日にどうしても車が必要だからと言い、有無を言わせずその日のために、ジョーに車を予約させた。

今日を一番楽しみにしていたのは、ジョーでもフランソワーズでもなく、00メンバーでもない、ギルモア博士なのかもしれない。

自分が自ら先頭に立ちコードナンバー003を生み出すために、まだ年端ない美しい少女と初めて対面したのは、意識を失い手術台に寝かされたフランソワーズだった。

自分の手で、彼女の時間を、人生を、夢を、家族を、人で有り続けることを狂わした罪。
ほかの00メンバーにも区別なく、同じ罪の意識に嘖まれるギルモアだが、特にフランソワーズにたいしては娘のように思い、慕い、可愛がるほどに


・・・1日、1分、1秒でも長く、彼女が幸せでいてくれることを願い続けている。









009である、ジョーから”報告”を受けたのは、ギルモア邸に何の前触れもなく訪れた翌日。

普段の日常生活では極力その能力を使わないようにしていたフランソワーズが、突然のさくらの訪問により、以前よりも強い意識で『眼』と『耳』のスイッチを入れたために起こった視神経への強い負担。が、原因で倒れた。フランソワーズは大事をとり、
翌日は自室で過ごしたために、男ばかりが囲む夕食のテーブルを少し寂しく感じていたギルモアの胸を、喜びいっぱいに満たしたのだ。

「・・・少し先の話しになるけど」

そう言って切り出した時、彼の表情は普段と変わらなかったが、声は”009”のそれに近かった。テーブルに着いていた者が一斉にジョーを観る。

「△月△日△曜日に、フランソワーズを連れて出かける」

009が003と共に出かけ、日程まで指定すると言った事務的な物言いにダイニングルームに緊張が走った。

空気に ピンッ と、糸がはる。
目に見えないそれを、切らないように身を強ばらせた00メンバーたち。
息を止め、最強と謳われる009の次の言葉を待つ全員の目が鋭くジョーを射抜く。


「・・・バレエ公演の初日のチケットが運良く手に入ったんだ」


その場にいた・・・全員が自らの耳を疑った。
ダイニングルームに静かに聞こえる、夜の細波。これほどまでにはっきりとした波の音が、メンバーの集まる部屋に聴こえてくるのは、珍しい。この異様な空気に気づかないのか、無視しているのか、ジョーは淡々と話を続けた。

「彼女にはすでに言ってある。チケットはキャンセルが出た2枚だけだったから、申し訳ないが、
みんなの分は無理だった。出かけるのは夕方からだ。開場に入ったら携帯の電源は切ることになると思うから、”回線”は開いておくけれど、フランソワーズにはせっかくだから楽しんでもらいたいと思う、から。もしものときは僕にチャンネルを合わせて欲しい」

それだけを言い終わると、009、いや、ジョーは止めていた手を動かして食事を続ける。
彼は張大人が作った夕食を1口、2口、口に運んでからやっと、何かがおかしいことに気がついた。

「・・・?」

ジョーは手を止めて、1ミリも動く気配のない全員の顔を不思議そうに見回して一言。

「・・・なにか問題がある、かな?」

と、微かに眉間を寄せて、その褐色の瞳を細めた、とき。ギルモア邸全体が、ジョーを覗いた全員のリアクションで大きく揺れた。

「っっっっっっっっだよ!」
「驚かすな!」
「ビックリするじゃないか!!!!」
「そんな風にいうなんて、デリカシーがないアル!!」
「物には言い方ってのがあるだろう!!!」
「ジョー、緊張してた、だから009の口調」
「こいつがあ!緊張!?っつ~~~~~~~か!てめえっっ!ちゃっかりチケットなんか取って!
しかも2枚だああああああ?!」
「バレエって、もしかしてあの時に見ていたポスターのなのかいっっ?」
「おお!ピュンマ、なんだ?そのポスターって?」
「フランソワーズが熱心に観てたんだよ、前にっ!!なんかスゴい有名な人が来るって!」
「ほうっ、ジョー、それをフランソワーズのために押さえたのかい?」

アルベルトがニヤリっといつもよりも大きくそ唇の端を引き上げた。
それを合図に、全員が息をぴったりと合わせて叫んだ。

「デートだっっ」
「デートあるネ!」
「デートおおおお!」
「デートっ!」
「デート。」
「デーーーーーーーーーーと!」
「デート・・だな」

ジョーは目を丸くして固まり、ただひたすら仲間たちから浴びせられる言葉の嵐が去るのを黙ってやり過ごそうとしていた。

「・・・デート?」

仲間の言葉に、そしてジョー自らが発したその単語に瞳を見開いて驚く。が、その瞬間に彼はその褐色の色を鋭く光らせて素早く全員を睨んで言い放った。

「デートじゃない。失礼だろっ!フランソワーズに」

ジョーのが放った言葉にメンバーは一斉に はああああああああっ と、大きく深い、なんとも言えないため息を吐いた。

ジョーらしい、ジョーだからこその発言に聞こえる。が、フランソワーズのためにチケットを探し、すでに完売されていた公演に、キャンセルを見つけて予約を入れ、彼女から了解を得ている状態であって、それを「デート」と言わないで、何と言うのだろうか?

003と夜の時間の001以外の00メンバーたちは、脳波回線を通さずとも、今の状況を目と目で会話することができるほどに、全員が同じ気持ちで最強のサイボーグにたいする感想伝え合う。

「それはフランソワーズが喜んどっただろう?」

1人、成り行きを見守っていたギルモアが口を開く。

「・・・そうですね。かなり前から観に行きたいと思っていたみたいですけれど、
チケットがもう手に入らないだろうと、諦めていたみたいですから」

ジョーの言葉に、ギルモアは嬉しそうに何度も深く頷く。

「うん、うん。そうじゃろうな。そうじゃ、うむ。あの子は・・・一度は諦めて大学へ通ったらしいが、バレエへの情熱を捨てきれずに・・・バレエ留学をするハズじゃったからなあ」
「・・・バレエで?」
「才能もあったらしい・・・奨学金試験を受けて全額免除を受け入れてくれる先があったそうだ」

00メンバーたちは、フランソワーズがバレエを習っていたことは知っていたが、彼女のプライベートな、深い事情までは知らなかったために、ギルモアの話しに耳を傾けた。

「そんなに・・・?フランソワーズはただずっと・・好きでお稽古を続けていただけでプロとかそういうのじゃないって言ってたよ?」
「ああ、そういえばそう言うよなあ、踊ってみろ!って言ったとき、
好きなだけで上手くないからっとか、なんとか言ってたぜ」

ピュンマとジェットは顔を見合わせて、ギルモアとの会話に参加する。

「・・・忘れたかったんじゃろうなあ、その、その日。・・・留学するその日に・・・・B.Gに、のぅ・・・」



ギルモアはそれ以上、箸をすすめることができず早々に自室へ引きあげた。







####

「ったく!女はなんでこんなに支度に時間がかかんだよ!」

ジェットはイライラとリビング中を歩き回る。
時計をちらちらと観ては、怒ったようなため息をつくのだ。

時計は夕方の5時を指そうとしている。
この時間の邸に珍しく住人が全員リビングルームに集まっていた・・・いや、003以外の、である。

「まだ、車も来てないんだから、なんでジョーじゃなくってジェットが苛つくんだよ?」
「うっせ!」
「昔から女性は支度に時間がかかるのが、常識!そしてそれを待つのが男の喜びと言うものだよ、ジェットはまだ、お子様ってことだな」
「けっっ!女の都合で動くなんて~のが、性に合わなねえんだよ!」
「ったく、座れ。観てるこっちがイライラする」

アルベルトの言葉に、ジェロニモがジェットの襟元を ひょっいっ と掴むと乱暴にジョーが座るソファへと投げた。

「っって~な!」
「・・・ジェットは、なんでそんなにフランソワーズが気になるの?」
「?!」

ジェロニモとアルベルトに文句を言おうと、ソファから立ち上がろうとしたジェットに届いたのは、ジョーからの素朴で、とてもシンプルな質問だった。
一瞬、その言葉の意味がわからなかったジェットは、目を点にして固まる。

「っああ?!」

ジョーにその質問の意味を問いただそうとしたとき、リビングルームの扉が開く音が聞こえた。
実はグレートにも加速装置がついているのでは?と思わずにはいられないほど素早く、彼はリビングのドアに駆け寄り、恭しく頭を下げ、フランソワーズのエスコートを申し出る。

ドアの向こう側から、くすくすっ と、涼やかな笑い声。

「では、姫。みな姫を今か今かと首をなが~~~~~~くして待っておりますぞ」

グレートはイギリス紳士の命にかけて、優雅にフランソワーズの手をとった。
リビングのドアがめい一杯に開かれる。


一歩踏み入れた、フランソワーズの膝よりも心持ち短い、控えめに色づいたシャンパンカラーのスカートが揺れた。




「ドレスなんて、着る機会は絶対にありえませんから・・・」

さくらのために訪れた「ローレライ」の試着室で、フランソワーズにあれこれと世話を焼いていた入江が、さくらが店にきた目的が”ドレス”であること知り、フランソワーズに1着のドレスを店の奥から持ってきて、彼女に勧めたのだ。ここで洋服を買う予定もなかったフランソワーズが、さらにドレスまで勧められ、頑なにそのドレスを試着することを断っていた。あまりにもフランソワーズが頑固なので、入江はジョーではなくアルベルトを味方につけて、フランソワーズに強引に勧めたのだ。フランソワーズも流石にアルベルトと入江に押し切られ、着るだけですよ。と、念を押して着たそのドレスは、しっかりと、ジョーが購入してくれた洋服と一緒に、一番大きな袋に箱詰めにされてコーディネートされた靴とバッグに、メッセージカートを添えられて入っていたのだ。

”このドレスを着るチャンスがあるか、ないかは、フランソワーズさま次第ですよ。”



一枚生地で仕立てられた、柔らかな光沢があるホルダーネック・タイプのドレス。
コルセットのようにしっかりとフランソワーズの華奢な上半身にぴったりとそい、胸元が露わになっているが、彼女のなだらかに浮き立つ鎖骨と、姿勢の良さ、シミ一つなく輝く肌は、彼女に微塵も女を強調するようないやらしさを感じさせない。
彼女の細さを主張するように絞り込まれたウェストには細いベルベットの黒いリボンが ゆるり と2重にまかれ、サイドに小さなリボンとなり、それが唯一のドレスに施された装飾。ウェストから大きく広がる、ギャザーがふんだんに寄せられたスカートは、彼女が瞬きをするだけでも、軽やかに彼女の太腿を撫でて次の一歩を催促する。
フランソワーズの首に伸ばされたホルダー部分、彼女のうなじ部分にもウェストにまかれたベルベットのリボンと同じものが、光沢ある生地とと切り替わり、リボンを結び、なだらかな曲線を描く腰へと伸びて、開いた背中になびく。

うなじ近くでリボンを結ぶために、彼女のトレードマークとも言うべきカチューシャはハズされ同じベルベットの黒の細いリボンだけで、緩くカールがついた亜麻色の髪をたよりなげに結い上げていた。

フランソワーズは足音もなく、リビングへ入る。
グレートは、自慢げに彼女の傍らに立ち、仲間達の前へとエスコートする。

「・・・・」

無言で迎えられたリビングで、不安げに、こぼれ落ちそうなほど大きなブルートパーズの瞳を縁取る、いつもよりも強くカールされた睫が微かな風をおこす。
ピンクに色づいていただけの可憐な唇は今夜、クランベリーのように紅く、よりフランソワーズの口元が鮮やかに輝いていた。

「こりゃ・・・まいったのう、フランソワーズ・・・」

ギルモア博士の、のんびりとした感嘆の息に含まれた声で、やっと”いつも”の仲間たちの調子の良い声がリビングに広がった。

「すごいよ!綺麗だよっっ!!」
「似合う。とても似合っている。」
「フランソワーズは花のようネ!本物の花も、今日のフランソワーズには負けちゃうアルね!」
「買っておいてよかっただろう?」
「・・・いいじゃん!もうちょっと色気が欲しいけどよ!まっっ、フランソワーズなら、んなもんだろ!」

それぞれが、それぞれに、好き勝手にフランソワーズを褒めた。

「フランソワーズ」

ギルモアは隣に座っていたジェロニモにイワンをわたして、ゆっくりとフランソワーズに近づき、濃紺の小さな箱を差し出した。

「・・・これは儂と、イワンからじゃ。いつもいつも世話になっとるからのう」
「!!そんな博士・・・!!!」
「受け取ってくれんかのう? こんな機会でもなければ、儂もイワンも何もしてやれんからのう」
「・・・博士・・・」

フランソワーズは震える手で、ギルモアの手から箱を受け取り、「開けても良いですか?」と小さな声でギルモアに了解を得る。ギルモアは、恥ずかし気に頷いて、さっさとソファに座ってしまった。

「・・・すてき・・・・とても・・・とても綺麗です・・・わ・・」

箱の中に納められていたのは、小さな一粒真珠のピアス。

「つけて行きなさい・・・今日のドレスの邪魔にはならんじゃろ?」

フランソワーズは両手で箱を握りしめて、ギルモアに微笑む。
その唇は「ありがとうございます」と言っていることがわかるが、声になっていなかった。


「行こうか、フランソワーズ。そろそろ車がくる」


ソファから静かに立ち上がったジョーの姿に、フランソワーズは驚いた。
彼は、黒のシンプルなスーツに身を包み、白・・・と言うよりも、シルバーのような少し艶のあるシャツを首元まできっちりと止め、フランソワーズの瞳の色のような、鮮やかなトルマリンのグラデーションがかかったネクタイを締めている。ジョーの手首から覗く袖にはカフスが付けられ、慣れないのか、苦しいのか、時折自分の首とシャツの間に指を挟む。
皺ひとつ入っていない、仕立ての良いそれらの力なのか、少し幼さが残る彼の顔立ちを、
落ち着いた物腰の青年に変えていた。普段のジョーが無言で立つ姿は、人を寄せ付けない壁となっていたが、今はそれが妙に”男”として逞しさとなって、フランソワーズの瞳に映る。

「・・・行くよ?」
「あ・・・・ええ・・・・」

ジョーはフランソワーズの前に立ち、呆然と自分を観る彼女を不思議そうにのぞき込む。

「・・・姫、楽しんで行っておいで」

グレートがそおっとフランソワーズの背中を押す。

「行ってらっしゃい!」
「土産はいらね~ぞ!」
「いそげ。車来る。」
「行っておいで、楽しむんじゃぞ。ジョー、フランソワーズを・・頼むぞ」

歩き出していたジョーはギルモアの声に振り返ってしっかりと頷いた。

「フランソワーズ、夕食はジョーと食べてくるといいネ!!ジョーに美味しい店教えておいたアルyo!」
「ジョー、フランソワーズ・・・何も問題ない、楽しんでこい」

玄関まで見送りに出てきたアルベルトと張大人に2人は並んで立ち、それぞれに頷いて、ギルモア邸の扉の向こうへと・・・・・歩き出した。


「アルルト?」
「アル””ルトだ、・・・なんだ?」
「・・・っっとっってもキレイで、素敵なカップルに見えたアルネ」
「・・・・そうだな」
「お似合いネ」
「ああ」
「・・・・だから、幸せになって欲しいアル。フランソワーズも、ジョーも」
「なるさ、オレたちも、ジョーもフランソワーズも、・・・みんなでな」









####

ジェロニモに言われて予約を入れたBMWは、すでに邸の前で待っていた。
運転手は玄関から出てきた、ドレスアップした初々しいカップルに目を細め、にこやかにドアを開けて、2人を待った。

「すみません・・・」

ジョーは待たせてしまったのか、と思わず謝ったが、運転手は微笑んだまま「いいえ、大丈夫ですよ」と一言囁いた。

フランソワーズを先に車に乗せ、ジョーはその後に続く。

彼らがきちんと車に乗り込んだことを確認してから、運転手は慣れたようにドアを閉め、運転席に乗り込み、何も言わずに車を走らせた。
車が走り出した途端、ジョーは ふうっっとため息を吐いた。フランソワーズは、その音に思わずジョーの顔をのぞき込む。

「・・・人に運転してもらうのって、けっこう緊張するんだよ・・・自分が運転したくなるからかなあ・・・だめだよね・・・さすがに・・・」

そう言うと、ジョーは運転手のハンドルを ちらり と観る。
普通よりもはるかに運転席と後部座席との距離がある車内だが、彼には運転手のハンドルさばきの具合が解るようで、少しだけ拗ねたように、のんびりと言うジョーの言葉にフランソワーズは、ジョーと・・・・”ミッション”や”買い出し”以外で、初めての2人きりの外出のために強張っていた体の力が抜けて、リラックスしていく自分がわかった。

「んふふ、そんなに好きなの?」
「好きって言うか・・・まあ、好きかなあ」
「なんでも運転したがるものね」
「別に、なんでも・・・ってわけじゃあ・・・」
「そう?・・・・よくよく思いだしてみると、いつもジョーが操縦してるような気がするわ」
「・・・まあ、嫌いじゃない、し。出来るならしていたいから」
「心配?」
「え?」
「ハンドルを握っていないと、不安かしら?」
「・・・不安じゃないけど、ちょっと、うん。イライラするかな?」
「まあ!」

フランソワーズは呆れたように、キラキラと宝石のように瞳を輝かせて笑い出す。
ジョーは自分の着ているスーツの内ポケットにしまわれている、2枚のチケットを、無意識にその手で確認をする。
いつもより少しだけ会話が弾む2人は、どちらともなく気持が高揚していることがわかる。

「・・・せっかくだから、つけたら?」
「?」
「イワンとギルモア博士からもらったのを、さ」
「ああ・・・そうね。でも鏡がないと・・・」
「見ていてあげるよ?」
「・・・」
「せっかくだからつけたほうがいいよ」
「ええ、そうするわ」

黒の小さなクラッチバッグにしまわれた、ギルモアとイワンからの贈り物。

「ピアスのホール?あいてたんだね」
「?」

フランソワーズは、そうっと壊れ物のように丁寧に箱を開けて、中の真珠を一粒取り出す。
ゴールドの、とても小さなキャッチをはずしたとき、ジョーは手を出して、「それを持っていようか?」と、言う仕草をする。フランソワーズはイワンのホクロのように小さなそれを、ジョーの手のひらに そうっ と息を止めて、乗せた。

白く細長いしなやかな指で真珠をつまみんで柔らかな耳朶に、金色の針を押し当てる。

「長く・・・ピアスをしていなかったから・・・塞がっちゃったかしら?」
「・・・」

なんとなく、フランソワーズは感覚で金色の針を耳朶の上を走らせた。
つっ と、くぼみに金色の針が引っかかった感覚が指に伝わり、ゆっくりとそれを押し入れる。
ジョーはじっとその指先と、髪を結い上げていることによって露わになっている、首筋からフランソワーズの横顔、ふっくら とした耳朶に、そしれに添えられた指を見つめる。

「ジョー?」
「あ・・・・どうした?」
「ちゃんと、針が通ってるかしら?」

フランソワーズは体をジョーの方へ寄せて、彼女の耳裏をジョーが観やすいよう彼とは反対側へ振り返るように身を捩ったとき、ジョーはいつもよりも強く香る、花。に、一瞬目の前が白く、強く光ったように思えた。

「ジョー・・?」
「・・・あ、うん、だいじょうぶ・・・ちゃんと・・・通ってるよ」

フランソワーズはそのまま片手を耳朶と真珠に添えて、ジョーの手からキャッチを取り、彼女の柔らかな耳朶を通った、針に留めた。

「・・・落ちないかしら?・・・ちゃんと留められてる?」
「うん。しっかりと留まってる」
「よかった、せっかくのプレゼントを落としたら大変ですもの・・・」

フランソワーズはもう片方のピアスも同じようにジョーに訊ねながら、その耳に飾った。両方のフランソワーズの耳朶に光る小さな一粒の真珠は、ドレスともよく合い、そして何よりも彼女が今までそれを持っていなかったのが不思議なくらいだった。

「・・・本当に、久し振りだから・・・変な感じだわ」

落としそうで不安なのか、何度もピアスと耳朶に手をあてて確認をするフランソワーズ。

「大丈夫だよ、なくしたら見つけてあげるし・・・・・・」


ーーーー新しいのを買ってあげるからーーーー


最後の言葉を喉で飲み込み、胸にしまい込む。

一言それをいえばいい。
わかっているジョーだけれど、今それは言わない方がいい気がした。

「そうね、あまり気にしていたらいけないわね・・・きっとバレエに集中できなくなるもの」
「鏡なら、きっと会場にあるよ」
「ええ、そうね。・・・でも・・・」

彼女が飲み込んだ、言葉をジョーには手に取るようにわかった。

ーーー私なんかに、似合うのかしら?ーーー

「・・とても、似合ってるよ」

自分の胸の中で囁いたつもりが、口に出ていたらしく、窓の外を見ていたフランソワーズが ぱ っとジョーの方へと振り向いた。

「え・・・?なあに、ジョー、何か言った?」
「別に・・・何も言ってないよ」
「そう?」
「・・・・うん。あ、もうすぐだね、ここをもう少しすすんだら着くよ」







ジョーとフランソワーズを乗せたBMWは、きいっと赤信号で停まる。

車のエンジン音。

ドアを一枚隔てた、外の世界。

街のざわめき。

歩く音。

走る音。

風の音。

人の声。

電子音。

アスファルトのにおい。

誰が聴いているのか、街に流れ続ける音楽と音楽と・・・音がぶつかり合う。


車内と外を仕切る1枚のドアの向こう。

ただそれだけにもかかわらず、フランソワーズと向こう側は、何も接点がなく
切り離された別世界の住人。


「フランソワーズ、聴く必要ないよ」
「・・・・でも、聞こえてしまうもの」
「聴く必要ない」
「・・・ええ、そうよ。でも・・・」
「聴くな」
「・・・無理よ」
「・・・命令するよ?」
「!!」
「009として、いい? 


キミは今日、



ちゃんとフランソワーズとして楽しんで」










======13 へ 続 く



・ちょっと呟く・

・・・職権乱用のジョーでした。

・・・2人きりにしたのが失敗だったなあ。
離れて~・・・・(泣)
らぶらぶ禁止令だすよ?
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Day by Day・13
(13)

ジョーとフランソワーズは、開演時間の40分前に会場となるホールへ訪れた。
日本でも伝統あるこの○XXホールは、2年ほど前に本館と別館に別れ、
新設された別館は近代的で斬新なデザインをしていたために、フランソワーズはその建物を見て、しばし呆然と見上げていた。

「・・・これが?ビル?建物なの?」
「あまり、見たことない?こういうの。最近は全部こういう感じになるよ、流行なんじゃないかな」
「?! 流行でビルを、こんなに凸凹したビルをポンポン建てるの?!日本は・・・」
「・・・ケーキやクッキーを作るみたいには作らないと思うよ」
「・・・・」
「本当に、ギルモア邸にばかり居るんだね、キミは」
「・・・・そうかしら?」
「・・・・そうじゃない?」
「わからないわ」
「・・・少し早いけど、席に着こうか?」

ジョーの言葉に頷きながらも、フランソワーズは困惑した表情でビルを見上げていた。







####

ホールはビルの4階から6階までを贅沢に使って作られていたために、入場するためには一度、エレベーターで6階まで上がらなければならない。
凸凹した近代的と言う都合の良い言葉で飾られた異様なビルの中にあるホールに、フランソワーズは驚いて、大きな瞳をさらに大きくして感動する。


入り口に立ち、チケットを確認するための係員は全員ブラックタイで正装している。
ジョーが見せた2人分のチケットが”S席”であったことから、係員がエントランス内側に控えていた初老の男性に何か合図を送ると、その男性が優雅に2人に近づいてきた。

「こんばんは。ようこそ○XXホールへ、お席の方へご案内させて頂きます」

初老の男は、笑顔で2人を出迎えてゆっくりと足を勧めながら、彼らを指定席に案内し、
2人が席に着いたことを確認した上丁寧に会場の説明する。

「S席からのお客様のご休憩所などはすべて4階になっております。お飲み物や軽食も
ご用意させて頂いてますので、ご自由にお楽しみください。」

男はそう言って軽く会釈をし、付け足すように「楽しんで下さいね、今日は素敵なゲストもお見えなんですよ」っと、初々しい雰囲気の、絵のような恋人たちに囁いた。

「すごいわ・・・私、こんな風にホールに入ったの初めてよ」
「そうなの?・・・知らないから、これが当たり前なのかと思った」

一歩ホールを出たら、上質の絨毯で埋められた広場が広がり、イスやソファがセンス良く置かれている。エレベーターから反対側の壁際にはカウンターバーや、飲み物、軽食を注文できるようになっていた。
開演にはまだ十分に時間があったたので、ジョーはフランソワーズを誘い、教えてもらった喫茶コーナーで珈琲を飲んでいた。








####

近くにあったソファにフランソワーズを座らせて、ジョーは珈琲を2つ頼み、ぱっと目にとまったものも追加した。フランソワーズの隣に座ると、ジョーのすぐ後を追うようにして頼んだ物がトレーに乗せられて運ばれてきた。

ウェイターはテーブルにそれらを置きながら、ちらちら とフランソワーズを盗み見ている。が、フランソワーズはまったく気づく様子がなく、周りの内装や色鮮やかに着飾った人々に夢中になっていた。

ウェイターが去り、香ばしい珈琲の香りに誘われてテーブルに目線を移すと、珈琲が2つ、そして、色とりどりのフルーツがイチゴのソースに和えられて、三角のチョコレートケーキにたっぶりと飾られているお皿がフランソワーズの前に置かれていた。

「美味しそうじゃない?・・・夕食まで時間があいてしまうし、昼もそんなに食べてなかったよね?」
「・・・」
「・・・甘いのが好きだと思ったから」
「ジョーは?・・・食べないの?」
「・・・大丈夫だから。・・・それは甘すぎるよ。俺には、きっと。・・・・いらない?」

フランソワーズは勢いよく、首を左右に振って、いる!と主張する。
あまり行儀が良いとは言えないが、テーブルが低すぎるために、ケーキ皿を膝にかけたナプキンの上に置いて、フォークでチョコレートと、ブルーベリーを乗せて一口頬張る。苦みが濃いスポンジに、しっとりとしたチョコレートクリームとフルーツの甘酸っぱさが口の中に広がり、思わず頬が上がり、笑ってしまう。

「・・・っ、そんなに好きなんだ、ケーキとか、甘いの」

隣でじっとフランソワーズがケーキを頬張る仕草を見ていたジョーは、彼女がケーキを口にした途端、普段は見せない・・・小さな女の子がするような満面の無邪気な笑みに、彼も思わずつられて目元を緩めた。

「美味しいもの!」

フランソワーズは嬉々としてそれらを口に運ぶ。
ジョーに見られていることよりも、そのケーキに意識が集中している。

「すごく甘いと思うんだけど、そういうの」
「甘いから美味しいのよ。でも、このケーキはそんなに甘くないわ!チョコレートのスポンジもクリームも、濃いめでビターなの。フルーツとこのソースが甘くて・・・すごくバランスがよくって美味しい!・・・食べてみて?」

フランソワーズは、つい”昔の癖”でフォークに乗せたケーキを すう っと、ジョーの前に運んだ。それはごく自然で、そうすることが当たり前のように・・・。ジョーは驚いてフランソワーズを見たが、彼女の表情はなぜか真剣そのもので、そして何かを期待している瞳にも見えた。
その瞳がジョーがケーキを食べるのを待っている。

目の前に差し出されたチョコレートケーキの固まりと、名前の解らない赤い実。


ジョーは覚悟を決めて、ばく っとそれを食べた。


フランソワーズの手に、ジョーがフォークをその口で捉えた衝撃が伝わりそこで初めて、自分が何をしたか。に、気がついた。

ジョーの唇が、彼女が持つフォークから離れる。その動きは一瞬だが、フランソワーズにはスローモーションのように見え、手が震え出すのを懸命にこらえた。

呆然とジョーを見つめるフランソワーズに、先ほどの微笑みは消えている。

「美味しいけど、十分に甘い・・・と思う」

照れ隠しなのか、ぼそっ と、普段よりもぶっきらぼうに言いいきり、珈琲カップを手に持ち苦味がある黒い液体を口へ流し込む。その手の動きをフランソワーズは目線で追う。彼女が手にもつフォークはまだ、そのままの状態。

「・・・・ご、ご、ご、ご・・・」

ジョーが珈琲を飲む音で、やっと我に返ったフランソワーズは慌てて手を引っ込めて俯き、ケーキとフルーツをさくさくと、さくさくさくさくさくっと突く。今更ながら、どっと汗が噴き出し、心臓がフルマラソンの距離を全力疾走したかのように、ばくばくと打ち始め、全身の血が高速でぐるぐると駆けめぐる。フランソワーズは自分の顔が張大人の吐く炎よりも紅く、熱いことを知った。

「・・・ご、ご、ごめんなさ・・・いい・・」

小さな声でジョーに謝る。その声は明らかに動揺していることがわかる。

「あ、つ、つ、つい。その、ええっと・・・その、ね。私・・・」

フォークを忙しなく動かしながら何か言おうとしているが、言葉が続けられないらしい。

「・・・?・・・・べ、別に謝ることじゃないよ。・・・キミはそうなんだろ?」
「っっっえ?」

フランソワーズの手が止まる。

「・・・ちゃんと”フランソワーズとして”・・・・、リーダー命令、きいてくれたってことだろ?・・・そういうのが自然に、できる子だったんだね、キミは・・・。」

ジョーの言葉に、フランソワーズは顔を上げてジョーをみた。彼の顔が紅い・・・・。

「・・・・・・・俺は、慣れてないから」

俯いていた顔を上げて自分を見るフランソワーズの視線に堪えられず、彼は ふいっ と、フランソワーズとは反対方向を向いてしまった。ジョーの髪から少しだけ覗く耳が、いつもよりも紅い。

「早く食べないと・・・バレエ始まるよ・・・」

それだけを言い、黙り込んでしまったジョーとフランソワーズは、10分後に鳴った開演ベルに従い席に戻った。










####

自分が振り付けた公演が日本で行われるために、この極東の島国を訪れた。
日本は初めてではなく、ダンサーとして何度か舞台に立った経験もあるが、コリオグラファー、振り付け師としてこの国への訪問は初めてだった。

当初は自分の振り付けた舞台の公演日に合わせての来日スケジュールだったが、仕事もたいして入っていなかったために、少し早いヴァケーションを楽しむつもりで1ヶ月ほど早く日本入りした。
そんな自分を日本側のバレエ団や今回の海外公演のスポンサーたちは心よくもてなしてくれたので、礼のつもりで、今夜の初演にゲストとして舞台で挨拶をすることにした。



それを運命の・・・イタズラと、言っていいのだろうか。



「フランソワーズ・・・・?」

彼女は、わたしの初恋。
彼女は、わたしが求めたパートナー。

もう40年以上も昔に突然に消えた、その人。


S席以上のチケットを購入した客以外入ることができない4階ロビーを抜けると、ホールに入るための入り口と休憩所や喫茶室を兼ねた広場がある。エレベーターとは真逆にある壁に設えられたバーカウンター、飲み物や軽食をオーダーできるようになっていた。
デザインはビルの外観とはかけ離れた重々しい19世紀初頭のヨーロッパのサロンを模写したかのようなデザイン。

そこから少し離れた香染色のソファに座る・・・人目を引くカップルが目に飛び込んできた。
彼らはきらきらと光る初々しさを放っている。
どこかの美術館の展示物から抜け出してきたかのように美しい、この4階に居る人々の平均年令にに較べて若い・・・2人は、本人達は気づいていないようだが、今夜これから始まる舞台の次ぎに、注目を集めているようだった。

そんな2人を見ていると、つい昔を思い出す自分がいる。
バレエ団のリハーサルの後、オペラ座の公演を観た後、たくさんの時間をあのカップルのように2人で珈琲を飲み、ケーキを食べて彼女と過ごした。
彼女は甘い物が大好きで、ホットショコラを頼まないときは必ずケーキか何かを注文する。
そして、・・・先ほどの・・・彼女によく似た亜麻色の髪の女性が、隣に座る黒のスーツを着た青年にしたように、味見を強要するのだ。自分がどれほどに美味しい物を知っているかを自慢するように・・・。

彼女の差し出したそれを食べたと思えば、紅い顔をして彼に背をむけてしまった青年の仕草に、アランは くすり と、笑い、純情な日本青年をこころから応援したくなった。

アランは、そのままそのカップルの近くまで足を進めた。舞台慣れしているとはいえ、スピーチをすることになっているためか、緊張し始めた気持ちを落ち着けようと1杯の白ワインを喉が求めている。

「?!」

青年の陰に隠れてあまり良くは見えなかった女性の姿が、足を進めたためにはっきりとその姿がアランの目に現れる。

その若いカップルの女性は、紛れもなく。
彼が昔に何度もカフェで楽しい時間を過ごした、彼女だった。

天使の輪を作る、美しい亜麻色の髪。
こぼれ落ちそうなほど大きなセリアンブルーの輝く瞳。
その瞳をしなやかに縁取る睫。
形良くふっくらとした、ローズピンクの唇。






忘れるはずがない。

未だに大切に持ち歩く写真はセピア色の彼女だけれども、自分の目に焼け付けた彼女は1ミリとて変わらず、色褪せることなくこころの中に生き続けている。

自分に恋の喜びと苦しみ、そして、切なさと愛しさを教えてくれた彼女。
彼女との想い出は、自分の愚かさを戒める足枷。

後悔の日々。

彼女は40数年前と一寸も変わらない姿で今・・・アランの目の前にいる。



アランは首を振り、自分を叱咤する。

ーーーバカな・・・彼女はもう40年以上も前に行方不明じゃないか!
   もしも、彼女が生きていたとしても、彼女の年令は・・・・自分よりも、たった3つ違っただけ!
   ・・・あの女性なわけがない!

アランは、見れば見るほどに、自分の”フランソワーズ”にしか思えない彼女を鋭く凝視する。
その異様な視線に・・・彼女の隣に座っていた青年が気がついた様子で、アランを見た。
その視線にアランは ぞくり とした寒気を背負いつつ、背中に銃を突きつけられたような不気味な感覚に陥ったために慌てて彼ら2人から視線を逸らす。が、アランはどうしてもあの、”フランソワーズ”に似すぎている女性をこの目でしっかりと、もう一度見たかったが、再びあの青年の視線が自分に向けられるかと思うと、何もできなくなってしまった。

ーーーなんて目だ・・・!

自分はただ、青年の恋人であろう女性にに見惚れてしまっただけなのに、たしかに失礼があったかもしれないがあの人を射るような、いや。殺気だった視線を投げた青年に怒りさえ覚えた。


開演のベルが鳴る。
アナウンスが流れた。








きらびやかに着飾った人々が流れを作ってホールのドアに吸い込まれていく。
彼らもその流れに身を隠すかのように、ホールの中へと吸い込まれていった。


そこに、ぽつん と立ちつくすアラン・モルディエが1人。
テーブルに置かれたカップや食器を片づけるウェイターたちは、彼など気にしない。



「フランソワーズだ、間違いない!!彼女だ!!!!」



もう一度、ロビーに響いたアナウンスが・・・上演が始まることを告げた。


「夢じゃない。彼女だ、わたしのフランソワーズ・・・だ!」


盛大な拍手が鳴り響く。


「すごいわ・・ジョー! ありがとう」

ジョーが手に入れた席はとても良い位置らしく、舞台全体を見渡せる上に、ダンサー達の足下がしっかりと見えるらしい。

「・・・・楽しんで、フランソワーズ」

ホールの明かりが消える。
舞台には豪華な異世界が広がった。













======14 へ 続 く

・ちょっと呟く・

・・・前半部分を書いてる時の私の姿は、誰にもお見せできません・・・

ひ~き~は~な~さ~な~い~と~!!!
か~た~お~も~い~じゃ~な~い~!!!

アラン!がんばれ!!(笑)
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SIDE.J
←こちらの本編を読んでから、お話にお進みください・・・。


フランソワーズがレッスンに通っているバレエ団が、新しい街に移転した。
彼女は毎週末、以前にも増して楽しそうにレッスンへ出かけていき

・・・・この頃、フランソワーズがレッスンからまっすぐに邸に帰ってこない。

バレエ団の新ビル近くにある”とても素敵なカフェ”にあるケーキが、
彼女のお気に入りになって以来、頻繁にそれらをお土産として買って帰ってきていたけれど、
最近はそこで少しばかりお茶をしてくるようになった。

はじめは香奈恵さんと2人で行っていたようだが、どうやら最近は彼女1人で
カフェに行くようになり、今ではスクールに行くたびにその”カフェ”に寄っているようだった。
店のオーナーの奥さんにとても可愛がってもらっているようで、彼女は言った。


”まるでお友達の家に遊びに行ってるみたいなの!”


永遠にキミが喜び溢れる笑顔でいてくれることを、望みながら・・・
俺ではない誰かがキミを輝かせることを・・・

俺の知らないキミが、この世界にどこかに存在する・・・
そんなの・・・許せない。

####
「とっても美味しいのよ!新作のケーキが5つも出たのっ・・・
お店では全部は食べられそうになかったから・・・、2つ食べて、あとの3つを
買って帰ってきたの!」
「・・・そう。・・・で?その新作はキミしか食べられないわけ?」
「ちゃんとジョーの分も博士の分も、みんなの分も買ってきたわ」
「・・・新作は食べさせてくれないんだね?」
「ジョーは甘すぎるのがダメだから、いつも困るのよ?博士はフルーツ系が好きだから
すごく選ぶのが楽しいわ!」
「・・・・人の話しきけよ」
「あら、こんな時間!夕食の支度をしなきゃ!」
「・・・・」

ぴょんっと跳ねるようにソファから降りて、彼女は ぱたぱた とキッチンへ消えていった。

「おい、ジョー」
「なに?」
「いいのかよぉ?」
「なにが?」

ジェットは寝ころんでいた長い躯を のそりっ とL字型のソファの隅から起きあがらせた。

「まあ、バレエはいいことにしようぜ、オレもお前も、みんな好きなことやってんだしなぁ。
でも、そのケーキ屋ってのに入れ込んで・・・あとで辛い目みんのあいつだぜ?お前いいのかよ?」
「・・・ケーキ屋じゃなくて、カフェらしいよ」
「どっちでもいいんだよっ。・・・あんまり”付き合い”が深くなったらなぁ、わかってんだろ?」
「・・・フランソワーズも、わかってるさ」
「香奈恵って女のことは、まあ仕方ないとしてもだぜ?・・・これ以上そういうの増やすのんを
オレは気にくわねぇなっ」

ふんっと鼻を鳴らしてまた ごろり とソファに寝ころんだ。

「・・・・短い間でも、友達ができてもいいんじゃないか?」
「甘め~~~よ!あいつが買ってくるケーキ以上にな!ったく、しっかりしろよ!!・・・っつ~かよお、
お前気づいてのか?」
「何に?」

ジェットは面倒臭そうに、もう一度ソファから長い躯を起きあがらせて立ち上がり、その彼自慢の
鼻をジョーの顔に近づけ、面白そうに目を光らせながら、ニヤリ、と嗤った。

「”ダイチ”さんって誰だよ?」

ジョーは眉間に皺を寄せて、ジェットを睨む。

「だいち?」
「おー、おー、神よ!!!ここに何も知らない可哀相な男が1人!」

ジェットはグレートの芝居がかった物言いを、大げさに真似た。

「誰だよ、そいつ」

ジョーの機嫌はどんどん悪くなる。
その証拠に彼の瞳は鋭い光を宿し始め、鈍い闇の色が滲みはじめた。


「フランソワーズの新しい”これ”だよっ!!」


ニヒヒっと意地悪く嗤いながら、ジェットは親指を立てて見せた。


ーーー男・・・・?


「しっかり捕まえとけよぉっ、色男!モテんのはお前だけじゃねえんだよっ」



ーーーフランソワーズに・・・・・・・男?



####

「ああ!ジェットっ御飯すぐできるから待って!食べないで!」
キッチンから彼女の声。

ジェットは夕食まで待てないのか、ばりっ とスナック菓子の袋が破れる音が聞こえた。
ジョーはソファから立ち上がりリビングの隣、ダイニングルームへと足を進めてキッチンを覗く。
そこには ぴょんぴょん と飛び跳ねてスナック菓子をジェットの手から
取り上げようとするフランソワーズに、自分の頭の上までスナック菓子の袋を掲げたジェットがいる。

「っんだよ、食わせろ!メシもちゃんと食うんだから、いいじゃあねぇっかよ!」
「だめよっそう言って結局食べられなくって変な時間にお腹が空いたって冷蔵庫とか
荒らすんだもの!食べ物がなくって夜中に”腹減った~”って起こされる私の身にもなって!」
「別にいいじゃねえかよっ、夜に起こされたって」
「いやよ!」

ジェットはキッチンのドアに立つジョーの気配に気がついたようで、彼の方を振り向く。
フランソワーズもジェットの視線でそこにジョーがいることに気がついた。

「オレだってそれなりに理解があんだよっ!ナニの時には邪魔しねえって、心配すんなよ」
「っっ!?!?!?」

ジェットの言葉に、フランソワーズが固まってしまった。
ニヤニヤと嗤いながら彼女を見下ろすジェットに、ジョーは軽くため息をつき、素早くジェットが
持っていたスナック菓子を取り上げて、フランソワーズの顔前に持ってくる。

「はい」
フランソワーズは恥ずかしいのか俯いたまま、ジョーから手渡されたスナック菓子を受け取った。

「だ~~~~~~~っ!ジョー邪魔すんなあ!」
「腹減ってるなら、菓子食ったり、邪魔したりしないで夕食の準備を手伝えよ」

淡々と物言うジョーに、ジェットは面白くないらしい。
さっき言った言葉を聞いていたのかっ!と叫びたくなるが、そこはぐっと押さえた。

ーーーっちっっ!ジョーの奴。面白いもんみれると思ったのによ・・・!

####

ジョーはキッチンで、夕食後の珈琲と一緒にフランソワーズが買ってきたケーキを皿に並べるのを手伝っている。

「・・・・今日、部屋に行くよ?」
「?!」

ジョーの突然の言葉に、フランソワーズは手に持っていたケーキをお皿の上に ぼてっ と
落としてしまいケーキの形を崩してしまった。

「・・・それ、誰の分?文句言うやつのだったら、他のと変えた方がいいね」
「j、jy、ジョー・・・今日は、その・・・」
「・・・ジェットに言われたから?」

紅い顔で俯いてしまったフランソワーズ。

「だめ。決めたから」
「・・・・!」
「行く」
「・・・・そ、そんな!」
「嫌?・・・なら、俺を部屋に入れなければいい。鍵を閉めておけばいい」
「!?」

いつも我が儘を言うジョーだが、今日は”いつもの我が儘”ではなく、
強引といった方がいい物言いと、何か冷たいものが含まれた雰囲気にフランソワーズは戸惑う。

「・・・誰?」

空気に混じった、音にならない声。

「・・・?」

「誰だよ」

その声はフランソワーズにしか・・・フランソワーズでさえ聞き取るのが難しい、空気の振動。

「・・・ジョー・・?」
「キミ、俺に言うことない?」
「?」

フランソワーズは不思議そうに、そして困惑の色を瞳にはっきりと宿してジョーを見つめる。
彼女はジョーが何について話しているのか、まったく理解できていないことは、明かである。
ジョーはケーキを乗せた皿をトレーに置いていき、ふうっと短いため息をついてから笑顔をつくる。
ちゃんと笑えているかは自信はない。

「・・・ごめん。困らせるつもりはないよ、気にしないで」

トレーがケーキ皿で埋め尽くされ、それを ひょいっ と軽々と持ち上げる。

「これ。先にもっていく。キミ、夕飯もキレイに食べたのに・・・ケーキ3つも食べていいの?バレリーナが?」

いつものジョーである。

####


ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ だいち
だいち ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ


その夜、ジョーはフランソワーズの部屋を訊ねたが、”お休み”と一言を言っただけで
部屋には入らなかった。フランソワーズもそれをよく解っていたらしく、ジョーの額にキスをひとつ。

結局、ジョーは彼女に”だいち”と言う名前の主について訊ねられないまま、夜を過ごす。
冷たいベッドに横たわり、耳から離れない名詞に苛つきながらじっと天上を見据える。


ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ だいち
だいち ダイチ だいち ダイチ だいち ダイチ


知らない男のそばに寄り添うように立つ、フランソワーズ。
知らない男のそばで天使のように微笑む、フランソワーズ。
知らない男の腕に抱かれて、瞳を潤ます、フランソワーズ。

自分じゃない男が、自分にみせる彼女の全てを・・・。
自分が知らない男が、自分の知らない彼女を知っている・・・。

気が狂いそうになる。
胸の奥に押し込んでいたはずの”もの”がざわざわとうごめき始める。

じっとりとした熱帯夜のような不愉快な温度。
ゆっくりと甘い声でジョーを誘う声。
昔はその声の美しい囁きに身を任せ、酔いしれ、・・・闇に溺れた日々を思い出す。

もう二度と、その闇には囚われないと誓った日。
フランソワーズが、自分を受け入れてくれた日。

俺が生まれたことが、この世の悪。
俺が存在することが、この世の罪。

父が母の元にいない原因は、俺。
母が死ななければならなかった原因は、俺。
サイボーグにされた人々の命を奪ったのは、俺。
助けられたはずの命を、助けられなかったの原因は、俺。

彼女を愛してしまった、俺。
彼女が欲しくて欲しくて、たまらない俺。

彼女は俺以外の男に愛されるべき人。
彼女にはもっと相応しい男がいる。

だから、いつか・・・。
俺の目の前から彼女を連れて行く奴が・・・本当に彼女に相応しい男ならば、
彼女の幸せのために、彼女が彼女らしく生きていくために、俺は・・・・さよならを言える。

言えると、思っていた。
言いたいと思っていた。

フランソワーズのために。
俺が初めて愛した彼女のために。
彼女がすべてだから。


だいち?
ダイチ?

・・・誰だよ?


そいつが、そうなのか?
そいつが、彼女の運命の人なのか?


こんなにも早く・・・現れたのか?




まだ、まだだ!
まだ!

嫌だ・・・!!!

イヤだ!


フランソワーズ!

俺を・・・
俺を・・・捨てないで・・・・・。


お れ を す て な い で

お れ を み す て な い で

お れ を あ い し て

お れ だ け を み て

お れ だ け を 

お れ の も の に な っ て



####

「  j。。・・?」

何処か、ものすごく遠い所からジョーの耳に届く、声。
何かを言っているようだが、一体何を言っているのか聴き取れずに、
彼はその声のする方向へと顔を傾けた。

重く張り付いた瞼をゆっくりと引きはがすように開ける。
光の波に襲われて、ベッドの上に横になっているにもかかわらず、躯が大きく傾いたような
感覚に襲われる。

「・・・x?」

体中の水分がなくなってしまったのか、声を出そうとしたが潤いのない声帯は
空気の振動に反応しなかった。

「ジョー?」

はっきりと耳元に彼女・・・フランソワーズの声が聞こえたとき、やっとジョーはピントがずれていた
意識と躯が結びついた。

目に飛び込んできた、心配げに揺れるセリアンブルーの鮮やかな瞳。

「・・・ジョー?」

「フラン・・ソ・・・ワ・・・ズ?」

ジョーの声にやっとフランソワーズは安心したかのように微笑んだ。

「も!!驚かせないで・・・起こしに来たら・・・すごく魘されていたんですもの・・・どうしたの?」
「魘されてた?」
「ええ・・・とても・・・」

フランソワーズは そうっ と彼の目元を指で拭う。
彼女のヒンヤリとした指が、ジョーの火照った頬にあてられて気持ちよく、
その感覚に身を任せるように瞼を閉じた。

一滴の雫がフランソワーズの指に乗る。

「・・・ジョー?」
「・・・なに?」
「泣いて・・たの?」

ジョー心臓を握りつぶされたような痛みを感じた。

「・・・さあ、寝ていたから・・・わからない、よ?」
「また、変なこと考えてたんじゃないの?」
「変なこと?」
「・・・変なこと」
「どんなこと?」
「・・だから、変なこと!」
「・・・やらしーことならいつも考えてるけど?」
「?!」

ジョーの愉快そうな笑いに、フランソワーズは反射的にベッドから離れようとしたが、
それよりも早くジョーの手はフランソワーズの腕を取り、自分のベッドに引き込んだ。

「j、じ、ジョー!!!」

自分の腕の中でもがくフランソワーズを、その逞しい腕で押さえ込む。

「・・・魘されてたんだ?俺」

フランソワーズは耳元で聞こえたジョーの言葉に ぴたり と、もがくのをやめた。

「何か、俺言ってた?」

フランソワーズは、首を左右に振り、ジョーの質問にNOと答える。

「そう」

ジョーはフランソワーズの額にキスを一つ。
そして瞼に一つ。
両方の頬に一つずつ優しくキスをする。

「おはよう・・・今日もバレエだろ?送ってく」


####

それから2週間。

一度も、フランソワーズの口からは”だいち”と言う単語をジョーは耳にすることがなく、
そしてジョーもフランソワーズに訊かない。


・・・怖くてきけない。


今日もフランソワーズはレッスンの帰りに”お気に入りのカフェ”に行くと言うので、
「今日は仕事ないから迎えに行く、電話して」と、飛び出すように車から出て行く彼女の背に
向かって言った。


胸の中でざらついた”もの”はずっと顔を出したまま。

ジョーはフランソワーズから迎えに来て欲しいとの電話を受けた後に、車を走らせた。
いつも彼が停めるパーキングエリアについたとき、彼女からのメールが届いていることに
気がついた。帰り際にバレエ団から所用を頼まれたらしく、少し遅れると書いてあった。
そのメールを読んでいたとき、送り主であるフランソワーズから電話がはいった。

「フランソワーズ?」
『ジョー?』
「今、メール読んだ・・・思ったより早くついてしまったみたい」
『ごめんなさい』
「いいよ、キミのせいじゃない。待ってる」
『ごめんなさい・・・あと30分くらいかかりそうなの』
「わかった」
『あのね・・・』
「ん?」
『ケーキ食べたいの』
「・・・・で?」
『あの、私のお気に入りのお店のケーキが食べたいの。先週も食べてないし、
今週も食べられないでしょ?今日はピュンマが帰ってくるから色々準備があるから時間がないわ』
「・・・・で?」
『だめ?』
「・・・・どのケーキがいいかメールして」
『うん!メールするから、絶対に読まなきゃだめよ?お店の人に見せたりしたら、ズルっこなんだからっ』
「・・・意味不明だよ、それ」
『すぐメールする!』

5分もせず、フランソワーズから大量の文字が届く。

「これ・・・ケーキの名前????」

フランソワーズが通うバレエ団の新ビルから、十字の点滅信号を挟んだ、斜め向かいの
小さな雑居ビル1階に入ったカフェを見つける。女性が好きそうな、その店の外観を普通の男なら
躊躇してしまうところを、ジョーはまったく興味がないのかスタスタと早足で入っていく。
ドアを開けると小さなチャイムが心地よい音を立てた。

ーーー客が入ってる割に静かだな?

入り口から入って正面に色とりどりのケーキを飾ったウィンドウケース。
ジョーはレジ前に立つ青年に声をかけた。彼のネームタグをちらりと観る。
”井川”と書かれていた。年齢的にみて、まだ二十歳そこそこの真面目そうな
”最近の”若者らしい青年だった。彼は少しおどおどしながら「いらっしゃいませ」と
ジョーに声をかける。

「・・・・自宅用に包んでもらえますか?」

井川と言う青年にお願いしたとき、後ろから小柄なショートヘアの女性が駆け寄ってきたので、
ジョーは振り返る。満面の・・・営業スマイルでジョーに話しかけた女性店員のネームタグも
”井川”となっていた。

「・・・えっと」

ジョーは携帯を取り出して、先ほどフランソワーズが送ってきたメールを開く。

ーーーフランソワーズ・・・俺にこれを読ませて楽しいのか?

そして、彼女から言われた通りに、機械的に一字一句間違えないように注意しながら、
訳のわからない呪文を口にした。

読んでいくうちに頭痛を感じ始める、ジョー。
小柄な女性がてきぱきとケーキを詰めていき、ジョーに訊ねた。

「以上でよろしいでしょうか?」

ーーーあ。

「あ、それと、チョコレートムースのビターとホワイトを」

1通目のフランソワーズのメールに続いて送られてきた2通目に書かれていたケーキの名前は
・・・さすがに気力がなくなったのか、読むのを拒んだ。

ーーーなんだよ、これ・・・キスの甘さ?! 君を想う?!

はあっとため息を吐いたとき、手に持っていた携帯が鳴る。
フランソワーズからだ、とすぐにわかる。が、店内でそれを取ることを躊躇させたが
”もしも”を考えて、その電話を取ることに決めた。一応、向かい側にいる店員に「失礼」と声をかける。

『もしもし、ジョー?』
「そうだよ」
『今どこにいるの?』
「・・・・君の言った店にいるよ」
『んふふふ・・・ちゃんと注文してくれた?』
「言われた通りの」
『ケーキの名前ちゃんと言ったの?』
「ちゃんと言ったさ、ケーキの名前」
『本当に?絶対に?嘘はキライよ?』
「見せてないよ、メールは・・・」

話している途中で女性店員に話しかけれたので、それを機にフランソワーズからの電話を切った。

店の女性店員はジョーがすらすらと呪文のようなケーキの名前をすべて知っていたので、
彼がケーキの精算をしているときに、話しかけてきた。
その女性店員の話し方は、とても丁寧で優しく、ジョーは彼女がフランソワーズが言う、
”萌子”さんなのでは?と思う。その”萌子”さんらしき女性は、ジョーに誰に頼まれたか
知りたがっているようなので、素直に言った。

「・・・・彼女の名前はフランソワーズです、いつもよくして頂いて、ありがとうございます」


その手に大量のケーキを入れた箱を持って、店を出る。
パーキングエリアに停めた車にもたれるようにして立っていたフランソワーズが、
ジョーの姿をみつけて大きく手を振る。

「ジョー!!」

早足でフランソワーズに近づき、大きな箱を彼女の顔に突きつける。

「・・・・俺に何させたいのさ・・・あのケーキの名前言わせて」

####

ギルモア邸に車を走らせる。
フランソワーズはケーキの箱を膝に乗せて、ご機嫌にずっと話し続けていた。

「観たかったわ~!ジョーがケーキを注文しているところ」
「・・・」
「今度、お店に行ったら萌子さんに訊かないと!」
「・・・」
「ふふふ。先週も多食べられなくって今週もダメってわかったら、すごく寂しくなったのよ?
ケーキってすごい魔力よね?」
「・・・キミにしか効かないと思うよ?」
「そお?ギルモア博士も、私が買ってくるのを楽しみにしているわよ?ジョーだって好きじゃない、ムースの」
「・・・食べなくても死なないし」
「まあ!ジョーはこのケーキたちの素晴らしがさわからないのね?・・・まだ食べたりないんだわ!!
ちゃんと味わってる?」
「・・・十分に」

赤信号で車を止める。

「も!大地さんなんて毎日食べてらしても、食べ飽きることないっておっしゃるのよ?」

ジョーの躯が ビクン っと跳ねる。


だいち
ダイチ
大地?


ハンドルを握りしめる手の力を・・・強く力を入れてしまい、パシィイっ とひび割れる音が聞こえた、と
同時に後車からけたたましくクラクションを鳴らされた。

「・・・ジョー?」

いつの間にか青に変わっていた信号。

「・・・ごめん」

クラクションに急かされて、アクセルを踏み込んだ。

「どうしたの?」
「・・・ん。ちょっとぼうっとした」
「疲れたの?」
「・・・・そうかもな」
「・・・・ごめんなさい」
「なんでキミが謝る?」
「だって・・・・・」
「キミが謝る必要ない」
「・・・・でも」
「キミのせいじゃないよ」



ーーー大地って誰だよ?!



車をギルモア邸の車庫に入れる前に、フランソワーズを降ろす。
フランソワーズは不安げに運転席のジョーを見つめたまま立ちつくす、
その姿にジョーは苦笑しつつ、先に邸へ入ることを促した。

「キミがずっと膝に抱えてたんだから、ケーキ傷むよ?早い方が良い」

ジョーは車庫に車を入れ、ドアを閉め鍵を掛ける。



そのまま邸へ戻ればいい。

何も考えずに、今日ピュンマが帰ってきたんだ。
久々に10人、家族が揃う。

フランソワーズがケーキを買いたがったのもきっと、ピュンマにも食べて欲しかったからだろう。
彼女のお気に入りを。

彼女のお気に入りを・・・・。


「誰・・・だよ?」

誰なんだ?


どうしてキミは何も言わない?


男の名前なんて今までキミから何度も聞いた。



その度に、そいつらをスーパーガンで何度も撃ち殺した・・・俺の中で。
キミは知っているの?
俺は何度もそうやってキミを独り占めしたことを。



なんで今回に限ってその名前はキミの口からではなく、ジェットから聴かされた?


さっき・・・車の中でキミはなんて言った?



ーも!大地さんなんて毎日食べてらしても、食べ飽きることないっておっしゃるのよ?ー



あのカフェで働いている?
あのカフェに通っている?

キミは・・・レッスンに行くたびに逢っていた?

そいつと話してた?
何を話した?

そいつに笑った?
俺に笑いかけるように
そいつにもキミは笑った?


誰?

俺の知らないキミを知ってるヤツは誰?

誰?


なんで?
なんでキミは何も言わない?


俺には言いたくない?
言う意味がない?


痛い。
苦しい。

フランソワーズ。


痛い。
苦しい。


助けて。







「・・・おいっ」


力強く、自分の肩を掴んだ熱い手。
ジョーは力無くその手の勢いに ぐらり と躯を傾けた。


「・・・・ったく!バカか?」


低い声で静かに吠える。


「そんなに思い詰めることかよ?お前マゾ?」


ジョーは赤毛の男に顔を向けるが、その視線は彼の顔を見ていない。


「・・・悪ぃ、オレのせいだよな、フラン、呼んだからよ」


ーーーフランソワーズ?


「ジェット!ジョー!!」


ーーーフランソワーズ?


フランソワーズは全速力でジョーに駆け寄り、ジョーを力強く抱きしめた。
ジョーはフランソワーズに抱きしめられたまま。呆然と立ちつくす。


「ジェット!ジョーを苛めないで!!ひどいわ!!」
「・・・オレがきっかけだったのは、謝る。でも!元々はおめえが悪ぃんだよ!こいつに
隠し事なんかすっから!」
「そんなの、私がジョーにするわけないじゃない!!!!」
「へ~へ~、オレは腹減ったんで、行くぜ、てめえらとっとと戻ってこねぇと、メシなくなるからな、
さっさとくだらない”やきもち”をやめさろ!」

ジェットは逃げるように邸へ戻っていく。


ただフランソワーズに抱きしめられていたジョーは、ゆっくりと彼女の腕をほどいて、
まっすぐにフランソワーズを観た。

暗い夜の月明かりの中。
彼女の瞳の中は・・・輝く小宇宙。

その瞳に映るジョー、自分の姿がとても小さく頼りないように見えた。


「だれ?」

「・・・・ジョー?」

「なあ・・・・・・誰だよ?」

「・・・・・・何がききたいの?」

「キミの・・・こころの・・なかに・・は・・誰がいる・・・?」

「・・・・・・ジョー?・・・・・」

「・・・だれ?」

「・・・」

「大地っ・・・て・・・誰?」

「?!」

「だれ?」




フランソワーズは今までの人生で一番無邪気に微笑んだ。




「も!ジョーってもしかして本当におバカさん?」

一度は解かれた腕をもう一度、フランソワーズは力一杯にジョーを抱きしめた。

「大地さんは、あのカフェのオーナーの弟さんで、萌子さんの義弟さん!」

”大地”と言う単語に、ジョーは びくり と躯をふるわせた。


「名前を知ったのはついこの間なのよ?まったく、ジェットってば!!あなたに何をいったのよ?
あのトリ頭は・・・。最近よくケーキとかお茶とかをサービスしてもらったのよ?
とってもよくしてもらってるって話したわよね?」

「大地って名前は・・・聴いてない」

「?・・・あら?そう?」

「・・・・・・・・そう」

「何か問題あるの?・・・大地さんに」

「・・・・・・何も言わないから」

「?」

「ジェットからききたくなかった」

「・・・大地さんのこと?」

「・・・・・キミは何も言わないから」

「不安だった?」

「・・・・・俺のこと・・・もう・・・好きじゃない?」



「ま!あなた以外、私は誰を愛するのよ!・・・好きよ・・・大好き!!」



ジョーはフランソワーズの背中に恐る恐る自分の腕をまわして、そしてゆっくりと彼女の肩に
自分の額を押しつけた。

フランソワーズの頬にかかるジョーの柔らかな髪。
首筋に伝う、水滴。


「ほんとう・・・に?」

「好きよ」

「俺を?」

「愛してる」

「・・・好き・・・?」

「大好きよ」


少しずつ、少しずつ、ジョーはフランソワーズを抱く腕を強めていく。


「大地・・・は?」

「萌子さんの義弟さん、で。お友達になろうと努力中」

「・・・・」

「ジョーだけよ」

「・・・・」

「私を壊していいのは、あなただけ」

「・・・・」

「嬉しい・・・ジョーは壊れてくれるのね?私のために、私を愛してくれているから、
とっても綺麗に壊れてくれるのね?」

「俺以外の男に近づくな・・・」

「無理よ・・・」

「話すな」

「無理」

「笑うな」

「も!無理よ・・・」

「俺だけのキミでいて」

「あなただけの私でいるわ、永遠に」

「・・・・・」

「私を信じられない?」

「信じたい、信じてる。けど・・・」

「怖い?」

「怖い、さ。この腕にずっと抱きしめていられないから」

「じゃあ、壊して・・・」

「・・・・・」

「あなたの腕の中で壊して」

「・・・・・」

「いつでもいいわ、あなただけの私であるために必要なら」

「・・・・・」

「でも、まだ足りないの。まだ満足してないの。あなたはまだ、ちゃんと私を愛せてないもの」

「愛してる」

「愛せてないわ」

「・・・ひどいな・・こんなに、こんなに・・・・壊れてしまうくらいにキミを想っているのに、愛してるのに・・・」

「足りないの。私をみくびらないで。私をその辺の女だと思わないで」

「思ってないよ」

「私が足りないって言えば、足りないのよ?」

フランソワーズはジョーの腕の中で くすり と笑う。
ジョーは彼女の肩から顔を上げて、自分の腕の中にいるフランソワーズを観る。
彼女は満天の星明かりよりも輝く笑顔をジョーにむけて微笑んでいる。


「嬉しいわ・・・ジョーはヤキモチをやいてくれたのね?」

「・・・・」

「いっつも私ばっかりで、つまんなかったもの」

「・・・・キミがヤキモチ?」

「そうよ!いっつもジョーはいろんな子に優しいし!庇うし、助けるし、私なんか
忘れちゃったんじゃないかしら?って何度も思ったわ」

「・・・・・」

「これでおあいこね?あ!でも数的には圧倒的に私の勝ちよ、ヤキモチは!」

「・・・・・まじで?」

「まじで!」


フランソワーズはつま先立ち、小鳥のようなキスをジョーの唇にひとつ。

「ヤキモチを焼かれるって素敵ね!」

「もうヤダ」

「焼いてちょうだい!」

「ヤダ」

「お願いね?」

「・・・・・・やけないよ。もう二度と」

「どうして?」

「俺以外の男をキミに近づけさせる気はない」




####

ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。

今日は金曜日!
フランソワーズさんの日!


「いらっしゃいませ、フランソワーズさん。と、野郎」

「・・・だんだん酷くなるな。俺の扱い」

ジョーは日本にいる間、べった~~りフランソワーズさんのそばを離れない。
オフシーズンに入ってるから、嫌でも毎週のように顔を合わせることになる。

「ちょっとはフランソワーズさんを解放してやれよ・・ったく、いつも一緒じゃあ大変でしょう?
フランソワーズさんも」

くりくりとした大きな空色の瞳は面白そうに輝いている。

「一緒にいないと大変なのよ?大地さん」
「どうしてっすか?」
「だって、ジョーがヤキモチ焼いてしまって1人でず~~~~んっと落ち込んで泣くんだもの、
慰めるのって本当に疲れるのよ?」


ジョーが!?
泣いて!?
1人でず~~~~んっと落ち込むうううううう!?


それは素晴らしい!!!!!



「!!! ふっっっフランソワーズ!!」

ジョーは慌てて彼女を背後から抱きしめたと思うと、その口を塞ぐ。
彼女はバタバタと手足を動かし、抵抗するが・・・それは無駄な努力かと思いきや・・・。

「その話ししっかり聴かせてもらいましょ!」

さすがっ香奈恵さん!
テーブル席についていた香奈恵さんはいつの間にか気配をけして
(何者っすか香奈恵さん・・・)
ジョーを背後から ぎりり っと 彼の腕を拈り上げた。
(バレリーナっすか?本当に?)

「いっっっつ・・・」

拈り上げられた腕に苦悶の表情のジョーは・・・店中の女性のハートを一瞬にして奪うほど・・・
妖艶だった。
まだ昼間だぞ?ジョー・・・それはないぞ。その顔は!

解放されたフランソワーズさんは、こそっとオレに近づいてオレの耳に囁いた。
彼女の甘い息がオレの横顔を擽った。

「あのね、ジョーは私が大地さんに知り合ったばかりのころに、大地さんにヤキモチ焼いたのよ?激しく」

は げ し く~~~~~?


「?!」

間近にあるフランソワーズさんの愛らしい顔にオレは振り返る。

「ホントよ!」

彼女は好奇心旺盛な子猫のようにキラキラと輝く瞳で嬉しそうに微笑んだ。
こんなに間近に彼女の笑顔を見ることが出来るなんて・・・。

今死んでも後悔しません・・・!

「フランソワーズ」

10cmもない距離にあったフランソワーズさんが ふい っと消えた。

「近づくな・・・」

いつの間にか香奈恵さんの腕から逃れたのか、ジョーはオレのそばにいたフランソワーズさんを
自分の腕に抱き込んで、オレから遠ざけた。

「っ!!ジョー!てめぇ!近づくなってなんだよっ」

義姉さんのトレーがオレの後頭部にゴイ~ンっと直撃。

「大地!お客さまは神様です!口!言葉!」

ジョーはその腕に抱いているフランソワーズさんを抱き抱えるように抱き直す。

「フランソワーズに近づくなよ、大地。死にたくなかったら・・・これは俺が」


ーーーー壊すんだから・・・・・・。


「んふふ。ジョー、それをヤキモチって言うのよ?・・・あなたは二度とやかないって言ったけど、
あなたは永遠にヤキモチでいないとダメなのよ?・・・私が好きなら、ね?」

フランソワーズさんは嬉しそうに、ジョーの首に腕をまわしたかと思うと・・・そのローズピンク色の
艶やかな唇を彼のそれにチュっと愛らしい音を立ててキスをした。

「この!!!おおおおおおおおおおお大バカップル!!ここは公共の場だ!」

香奈恵さん・・・あなたの声の大きさがすでに店内の平和を乱してます。




はあ。

カフェ"Audery”に平和は来るのかなあ?

・・・ジョーがヤキモチやきに決まってるじゃん。
あいつの行動自体が、そのまんま。

わかってないな~フランソワーズさん・・・・いい加減にチュッチュッチュッチュッ・・・って
止めて下さいっっっっ(TロT)



end.

・あとがき・

実はこれ・・・
キリリク「333」をゲットしていただいたメ・・ンさまへ。
「3←男 で9がやきもきしている!!」

の、ために書き始めたのですが・・・どうにも違う気がしまして・・

ジョーにやきもきさせることが、こんなに大変でハードルが高いとは・・・( ̄□ ̄;)ガーン
なんかジョーのくせに~!!
ヤキモチくらいちょちょいと焼いてしまえ~!!!っと怒りを覚えてしまうほどに・・・苦戦中(TロT)

なので、これは一応(借)キリリクとしてリベンジいたします!
>メ・・ンさま、申しわけございません_(._.)_ 
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Day by Day・14
(14)






ホールに盛大な拍手の波が襲う。
第一幕が終わり、暗闇からゆっくりと現実世界へ戻るために、ライトが徐々に時間をかけて明るくなっていく。15分間の休憩を間において第2幕が始まる。

ジョーは何も言わずに、隣に座るフランソワーズを見つめる。
彼女はまだ、夢の世界から現実に戻れないようだった。

ほおおおっっと温かな感嘆の息を吐いて、ようやく彼女は舞台から視線をはずして、自分の手元に視線を落とす。瞳を閉じて、先ほどの舞台の余韻に浸るフランソワーズは、どこからみても純粋にバレエを愛する女性である。

「ジョー・・・」
「なに?」
「ありがとう」

俯き加減だった顔をゆったりと上げて、ジョーを観るフランソワーズは、今にもこぼれ落ちそうな涙に潤んだ水浅黄色の瞳を、過剰なほど強く光る照明に輝かせてジョーを見つめた。
フランソワーズの、砂浜に打ち上げられた貝のように白い肌は、ほんのりと桜色に染まり、彼女の気持ちが高ぶっていることが、手に取るようにわかる。

ジョーは今にも泣き出しそうなフランソワーズに驚きながらも、彼は満たされていた。
彼女が喜んでくれている。それだけで彼は言葉に言い表せられない幸せを感じていることが新しい発見だった。

フランソワーズが瞬きをすると、小さな光の雫が舞う。
ジョーは慌ててポケットにある(グレートがアイロンがけした)ハンカチを取り出し、フランソワーズに渡した。

「・・・どうしていいのかわからないよ。そんな風に泣かれたら・・・」

傷ついて、苦しんで・・・辛い気持ちをひた隠しにして、そっと涙を流すフランソワーズなら、ジョーは何度も守り、励まし、胸に涙を受け止めてきたけれど、今日の涙はジョーが初めて観るフランソワーズの喜びの涙だ。

フランソワーズがずっと、その涙だけで生きて行けたらどんなにいいだろう、と。ジョーが渡したハンカチを目元にあてて、恥ずかしそうに微笑む彼女をみながら、思う。

「ごめんなさい・・・んふふ。変よね?」
「変じゃないよ」
「・・・もう観ることはないと思ってたんですもの」
「・・・・また、来ればいいよ、何度でも」
「来られるかしら?」
「連れてくるよ。君が嫌がっても、引きずってでも連れてくる」
「!!・・・乱暴ね・・・」
「・・・それくらいしか出来ないから」
「ありがとう、ジョー・・・・」

ホール内のライトが一段暗くなる。

「始まるみたいだね?」
「ええ・・・」

開演のベルが鳴り、アナウンスが流れ始める。
休憩に出ていた客達が慌ただしく席へと戻っていく。

フェイドアウトしていく照明の中で、アランは見つけた。
バレエの素晴らしさに胸打ち振るわせて、感動し、涙を流す彼女を。

「・・・見つけたよ、フランソワーズ。わたしのフランソワーズ」

第二幕も素晴らしい踊りで、フランソワーズは第二幕と第三幕の間の休憩時にジョーを大いに困らせた。バレエの素晴らしさに感動し涙する彼女を周りの席の大人たちが、軽く冷やかしたからだ。

第三幕目のカーテンが降りた瞬間、ホールは拍手の嵐に飲み込まれる。

ホール中の観客が立ち上がり、惜しみない拍手をダンサー達に贈る。何度も、何度も、鳴りやまぬ拍手にダンサー達は答える形で舞台に戻ってくる。最後に・・・花束を持った指揮者が舞台に上がり、オーロラー姫を踊ったプリマと抱き合い、握手し、また観客から盛大な拍手が贈られた。係員らしき人物が、マイクを指揮者に渡した。

普段のバレエ公演では観られないパフォーマンスに、会場中が色めきだった。

<今夜はよくおこし下さいました。ありがとうございます!! 普通なら・・・指揮者である私が人前で、
このように、話すことはないのですが、今夜は許して頂きたい・・・っと、言いましても舞台で指揮者が話してはいけない!なんてルールは聴いたことがないのですけどねえ。なぜ今まで、話さなかったんでしょうね?私は自分のコンサートでもアナウンスに頼らず、自分で曲順を発表してもいいと思うんですけどねえ?>

指揮者の戯けた物言いに、会場から柔らかな笑い声が聞こえた。

<え~、今夜は実はとても素晴らしゲストがいらっしゃって下さってます。皆様もご存じだと思いますが、1ヶ月後に振り付け師、アラン・モルディエ氏の新作がここ日本で初演され、ここ○XXホールから、全国、世界へとツアーが始まります。そのアラン氏が今日、特別に、皆様にご挨拶をと、いらっしゃって下さいました!!!>


会場中が驚きと喜びの声と、拍手で紹介されたアラン・モルディエを歓迎する中、1人、先ほどまでに感動を胸に、喜びをその微笑みに讃えていたフランソワーズの顔が真っ青に凍り付く。彼女の躯が緊張に身を固めたことをジョーは見逃さない。

さっと、彼女の手を取り、握りしめる。
その熱い手の感触にフランソワーズはジョーを観た。彼女の瞳は不安と恐怖の色で支配されている。ジョーは、嫌と言うほどこの色の瞳を知っている。

「どうした?」
「・・・・」

フランソワーズはジョーを食い入るように見つめる。
誰もそんな2人を気にしない。会場中が舞台に出てきたアラン・モルディエに注目している。
ジョーはぐっと手に力を入れて、彼女を安心させようとする。
本当なら、抱きしめたい。そんな衝動を必死で押さえながら、ジョーはフランソワーズからの言葉を待つ。

「あの男を知ってるの?・・・・彼は君を視ていた」
「!?」
「開演前に珈琲を飲んでるとき、君を・・・とても強く視ていた」
「・・・私、視られたの?!」

フランソワーズの躯が ビクン と跳ねた。

「・・・困るの?君だということを知られて?」
「・・・・・ジョー・・・」
「話して」
「・・・」
「話すんだ」

フランソワーズの手を握る自分の手に、ジョーは三度、力を入れた。
その力に促されるように、フランソワーズは頷いて、震える唇を開いた。

「彼は・・・彼は、私を知ってるの。・・・・・・40年以上前の私を、人であった、私を・・・彼は視ていたの、B.Gに連れ去られる・・・その瞬間を」

「!!」

「彼は、・・・・彼は同じ・・・・バレエ学校の先輩で・・・・友人・・だったわ。とても、仲が良かったの・・・まさか!まさか!!こんな、こんなところで!」

フランソワーズの声が高くなる。ジョーは慌てて彼女の肩を抱いた。
その抱いた肩が激しく揺れているのが、直接彼に伝わり、彼女が激しく動揺しているのがわかる。

「落ち着いて。落ち着くんだ、フランソワーズ・・・まだ、彼が君だと知ったわけじゃない。常識的に考えても・・・おかしいと思うはずだよ。他人の空似だと、思っているかもしれない」
「でも!・・・変なのよ!!・・・私が乗るはずだった、乗るはずだった飛行機が!!」

フランソワーズはジョーの胸にしがみつくようにして訴えた。
ジョーは周りの様子を伺い、これ以上ここにフランソワーズを居させてはいけないと判断し、彼女に席を立つように促し、彼女を支えるようにして立ち上がった。幸運にも舞台が終わった後にもかかわらず、照明が落とされたままであったことが、彼ら2人が席を立ったことを目立たせなかった。

アランのスピーチは続いている。

<今日、上演前にとても愛らしい2人を見つけました。絵に描いたようなカップルとは、その2人のことを言うのでしょうね・・・。わたしも昔はああやってカフェで、初恋の人、フランソワーズとお茶したものです・・・・>

あと一歩でホールの扉を開けようとしたところで、フランソワーズの足が止まる。

ジョーも息を飲んだ。
2人は一斉に舞台上のアランを観る。

<ずっと忘れていた懐かしい、そんな想い出を蘇らせてくれた2人に、ぜひわたしの公演を観にきてもらいたいので、・・・チケットを用意しました。また愛らしい2人の姿を、わたしの公演の時にも見せていただきたい!>

会場が、アランのそのパフォーマンスにわき上がる。
自分たちのことでは、ないかもしれない。
けれども、彼ははっきりと”フランソワーズ”と言う名前を出した。


「・・・ジョー・・・・」


今、ジョーに支えられるようにして立っている、フランソワーズの震えが一段と酷くなる。
彼女の躯をしっかりと支え直し、抱きとめるようにして早足でホールを出た。

暗いホールから明るいロビーに出たために、軽い目眩が起こる。
ジョーは自分の腕の中にいるフランソワーズを確認し、強くその背を守るようにして、会場を出ようとしたとき、「お待ち下さい!」と聞き覚えのある声に呼び止められた。

ジョーはそのまま足を止めずに会場を去りたかったが、入り口に立つ正装した男が、何事かと、こちらに注目したために、事を荒立てたくなくその足を止めた。
フランソワーズは、ジョーの腕にしがみつくように立っている。
彼女の背にまわした腕に力を込めた。

振り返った先に、自分たちを追いかけてくる人物が上演前に席を案内してくれた初老の男であることが解った。フランソワーズの緊張が少し解ける。

「お、お待ち下さい!」
「・・・何か?」

この男性に何も罪はないが、ジョーは冷たく対応する。

「あの、申しわけありません、決してお時間はお取り致しませんので・・・お急ぎのところ・・・」

男は、ちらり とフランソワーズを観た。フランソワーズはその視線に、躯を大きく震わしてジョーの胸に顔を埋めた。

「何か?彼女の気分が優れないので、車に戻りたいのですが?」
「あ、ああ。ああ・・申しわけありません、これをあなた様方にお渡しするように、頼まれましたので・・・」

男が差し出しはのは、上質な白い封筒だった。

「アラン・モルディエ氏のスピーチをお聴きになられたと思いますが・・・その、氏からお二方へのプレゼントでございます・・・これを受け取ってもらうにと、私は仰せつかった物ですから・・・」
「・・・・ありがとうござます、アラン氏には、お心使い感謝します、チケットをありがとうございました。と
お伝え下さい。・・・すみませんが、彼女の具合が心配なので、失礼します」

ジョーは男から封筒を受け取り、さっと自分の内ポケットにしまう。
それを確認するかのように男は観て、安堵の表情を浮かべた。
これが、この男の仕事なのだ。

ジョーが拒めば、この男が受け止めるまで食い下がってくることが解っていた。
本心は破り捨ててしまいたかった。ジョーは、男を無視するかのように、フランソワーズを連れて会場を後にした。








####

そのままギルモア邸に戻るべきだと思ったが、フランソワーズが嫌がった。
どこでもいいから、と。ジョーに懇願する。
確かに、ギルモア邸に戻れば色々と説明をしなければならないことが出てくる。その前に、彼女は自分の中で頭も、気持ちも整理したいのだろう。と、察したジョーはタクシーを捕まえて、フランソワーズと2人の夕食のために帳大人が調べた店の中で、一番会場から遠い店を選んだ。

タクシーの中、フランソワーズはずっとジョーの手を握ったまま離そうとせずに、その手はずっと震え続けていた。

会場から離れ、窓から見える見知らぬ街並みや、車の振動。
ずっと何も言わずにただ、握り替えしてくる強いジョーの手の温もりに、フランソワーズは徐々に冷静を取り戻してくる。
ジョーも、彼女の蒼白の顔が、少しずつ色を取り戻していっていることから、先ほどから緊張した躯を少し緩めた。

「大丈夫だよ」

何も確証はないが、ジョーはハッキリと言った。
ジョーの言葉に、フランソワーズは力無く頷いた。

「何も、問題ない・・・」

ジョーの言葉、一つ一つにすがるように頷く。
フランソワーズの様子を伺いながら、ジョーは大きく深呼吸をする。
そして、少しだけ力を入れてフランソワーズの手を握った。
フランソワーズは、その手に込められた力に窓の外を見ていた顔を、ジョーの方へと傾けた。
不思議そうな表情をジョーに向ける。

「お腹空いてない?帳大人がオススメの店って、すべて中華だと思っていたら、違うみたいだよ・・・適当に選んだんだけど、ここ・・・タイ料理なんだけど?」

ジョーの言葉に・・・そして張大人がリストアップした店の中から選んだ店がタイ料理。と言う妙な組み合わせに、フランソワーズは瞳をパチパチっと瞬きさせて、今、ジョーが何を言ったのかをもう一度よく考えた。

「タイ料理?」
「そう、タイ料理」
「タイ料理?」
「うん。タイ料理」
「・・・食べたことないわ」
「どっかの居酒屋が適当にタイっぽい料理を出したことあったけど・・・」
「タイっぽい?」
「トムヤムクン・スープのなり損ないとか・・・パッタイの焼きそば風とか?」
「・・・トム?なに?」
「知らない?」

フランソワーズは困惑の表情で頷いた。

「俺もちゃんとしたのはは知らないんだよ、今から行く店は本格的なタイ・レストランみたいだね。フランソワーズは初めてか・・・タイ料理ってすごく美味しいらしいよ」

ジョーは微笑んだ。
これ以上、考える必要ない、と言うように。

ジョーは一言、タクシーの運転手に断ってから携帯電話を手に取り、今から向かうレストランに予約・・・でなないが席の確保をお願いした。
その間も、ジョーはフランソワーズの手を離すことはなく、フランソワーズはそれが嬉しくて、つい頬が緩んでしまい、慌てて窓の方へと首を動かした。






港近くのタイ・レストランは藍色と臙脂色を基調とした落ち着いたアジアン・テイストの店だった。
店内は極力照明を抑えて、キャンドルで演出され、青と赤のグラデーションの布が、キャンドルの光で紫にも見え、とても神秘的な空間を生み出している。

店員に、タイ料理は始めてたど言うことを伝え、薦めてもらったコースを頼んだ。
薄暗い照明の中、はっきりとしないお互いの顔。
声だけが妙にはっきりと浮き彫りになり、ジョーとフランソワーズはそれを頼りに会話する。

ちょっとした空間の演出が、フランソワーズの気持ちをリラックスさせ、初めて見る、味わう料理に気持ちもお腹も満たされたのか、食事が終わるころには、ジョーも大分リラックスしてフランソワーズに接していた。彼女の声はバレエ公演に行く前の彼女とかわらない気がする。



店を出たころには、時計は11時を指そうとしていた。
店からタクシーを呼んでもらおうか。と、フランソワーズに訊ねたら、彼女は少し歩きたい。と、言ったので、そうすることにした。ジョーはフランソワーズがしたいように、させたかった。

暖かくなりつつあるといえ、ショール一枚のフランソワーズに港の風は冷たすぎる。ジョーは上着を脱いで、彼女に着るようにいった。
ジョーの上着を着た彼女は、とても小さく感じさせられた。
袖に彼女の手がすっぽりと隠れ、裾もフランソワーズの太腿あたりに余裕で届いている。こんなにフランソワーズは小さかった?かと、改めに彼女の線の細さ、華奢な躯に驚かされる。



彼女はただ、とぼとぼ と歩く。
どこへ向かってるのかわからない。
ジョーはただ、彼女の隣を歩く。

「・・・なにも訊かないの?」
「・・・訊いて欲しいの?」

沈黙。

フランソワーズは、ぴたり と足を止めてジョーを見上げた。

「兄さんがいたの。・・・ジャンって名前で・・・早くに両親をなくして、ずっと2人だったの」
「うん、ずっと前に話してくれたよね?」
「アラン・・・と知り合ったのは、バレエ学校で先輩だったの」
「・・・うん」
「初めて、パートナーを組んだのが、彼だったの」
「・・・うん」
「それから、ずっと一緒にバレエを踊ってきたわ・・・・あの日まで」
「・・・・」
「一度は、諦めたの、バレエの道を・・・でも忘れられなくって、チャンスだと思ったの。アメリカのバレエ団が奨学金試験を行うことを知って・・・飛びついたわ」
「・・・・そう」

フランソワーズは再び歩き始めた。
ジョーも歩く。

いつの間にか、港から外れて車道に出ていた。
車数が少なく、深夜なこともありかなりのスピードで車が強くライトを照らしながら走り去る。
2人が並ぶには狭い歩道を、ジョーは自分が車道側に立ち、フランソワーズを守るように、その背中に腕を添えて、歩く。

「受かったの。全額奨学金生の枠は5人までだったの・・・私、入ったのよ。その5人の1人に」

その時の興奮を思い出したのか、フランソワーズの声が少し弾み、瞳は哀しみの色を捉えたままにジョーに微笑む。ジョーもつられて弱々しく微笑んだ。

「・・・兄さんはとても喜んでくれたの。離れちゃうけれど・・・いつでも会えるって」

ぶおおんっとオートバイーが歩道近くまで寄って通り過ぎた。
その勢いと風に、ジョーはフランソワーズの背にまわした腕に力が入った。


「・・・バレエ団が指定した日は9月4日だったわ。早めに行って環境になれたかったから8月16日の飛行機を取ったの・・・でも、その日、その便だけキャンセルになって、翌日の17日変えられたの。その16日の・・ま・・え・・・・・・・の10・・日・・・に」


フランソワーズの声が震える。
彼女の髪も・・・ジョーはその腕から、彼女に寄り添う半身から彼女の震えを感じた。
それでも、フランソワーズは歩き続ける。
彼女が足を止めない限り、ジョーは彼女の隣に立ち、歩き続ける。


「ア・・・アラ・ンは、私を好き・・・・・だって。告白して・・くれた・・の」


ジョーの心臓が、どくん っと大きく脈打つ。


「で・・も、でもね・・・わたし・・・その時は・・・留学のこと、で。頭がいっぱい・・・で・・・ね・・・・・・・ことわっった・・・の。それで・・・彼は・・すごく、すごく、傷ついて・・・、男の人・・だもの・・・ね・・・衝動的・・・っていうのかしら?・・・・・襲われ・・・ちゃ・・った」

「?!」


ジョーの足が止まる。


「・・・だいじょう・・ぶ・・だったのよ・・・・私の・・・悲鳴・・を訊いた人が・・・たまたま・・・その日・・・私が通っていた・・・バレエ学校の・・・先生が・・・舞台前で・・自主練習・・・を・・・していて・・ね・・・気づいて・・く・・・れ・・たの・・・」


フランソワーズはジョーの腕に、ぎゅうっと すがるように全身の体重を預けるように自分の腕を絡めた。ジョーはそのままフランソワーズを自分の方へ引き寄せて、抱きしめた。


はああっとフランソワーズは深い息を、ジョーの胸の中で吐いた。


すぐ横で、走り抜ける乗用車が吐き出す排気ガスの臭い。
一瞬だけ浴びる、舞台上のスポットライトのような強過ぎる車のライト。
カーブでタイヤがアスファルトと擦れる音が、妙に生々しい。


「そのこ、と・・・・が・・・原因・・・で・・・彼は・・も・・う・・バレ・・エ・・・学校に・・は・・・いら・・れ・・・な・・・い・・って。連絡・・・が、き。た。・・の、彼は・・・もう・・どこ・・へ、行っても・・・国・・から・・・出て・・・・も・・き・・・とずっと・・私と・・の過去・・がバレエ・・・生命・・・に汚点を・・残したって」


フランソーズを抱く腕を強める。


「・・・彼、どこ・・・に・・・も・・・いなか・・た。その。後。次ぎ・・・に・・アラン・・・に・・・会った・・の・・が。B.Gに・・・拉致さ・・・れ・・た・・・とき」

車のライトに照らされて・・・・輝くその亜麻色の髪に頬を寄せた。

「お・・・とこが・・・言った・・の・・アラン・・に、むか・・て・・thanks・・・って」


「!?」


「わたし・・・が・・・車に・・・つれ・・こ・・まれ・・・る・・・ところ・・を・・ずっと・・・みてた・・・の・・・・・・たす・・け・・て・・って叫んだ・・の」

強く、彼女を抱きしめる。それしか今、ジョーに出来ることは何もない。

「・・・あれ・・・は彼?・・・アラン・・だ・・たの?・・・私も・・・パニックに・・な・・て・た・・ぁら・・・・・見間違え・・・た?」









####

ギルモア邸に帰り着いたとき、時計は午前2時を指していた。
誰もいないリビング。
ジョーは、タクシーの中で泣き寝入ってしまったフランソワーズを抱き上げて、彼女の部屋へと運ぶ。部屋は相変わらずベッドと、彼女が熱を出したときに置かれたスチール製のテーブルと折りたたみイス、そしてベッドの上に置かれた、彼女の新しいお友達。


ドレスを着たままでは・・・辛いかもしれないけれど、ジョーがそれを脱がすわけにはいかない。
髪を結い上げていたリボンだけ、彼はそおっとはずした。簡単に解かれたリボンに解放されて、自由になった亜麻色の髪は、暗闇の中でもカーテンが引かれていない微かな月明かりに照らされ、きらり と光る。

彼女の耳朶を飾る一粒真珠を、ジョーはゆっくりとその手で外す。
ゴールドのキャッチをはずして、真珠を摘み、ゆっくりと彼女のピアスホールから引き抜く。
反対側も同じように。フランソワーズの黒のクラッチバッグの中から、濃紺の小さな箱を取り出し二つの真珠をしまう。

それをテーブルに置いた。







枕に広がる絹糸のような彼女の髪。
その髪から香る、ローズの香り。


なぜ、君だったんだろう?
なぜ、君でなければならなかったんだろう?


ジョーは、そおっと彼女の目元に残る涙を拭う。

そして・・・


柔らかな感触の形良いローズピンクに、ジョーの唇は・・・触れる。


「おやすみ」


ジョーは静かにフランソワーズの部屋のドアを閉めた。
彼の足跡が遠ざかり、遠い向こう側で彼の部屋のドアが閉まった音が聞こえた。

部屋に1人、フランソワーズは再び涙を流す。

「ジョー・・・・・どうして?」

フランソワーズは、自分の唇に残る、彼の香りに・・・酔いきれずその胸は素直に喜べない自分が悔しかった。



ーーーーどうして、キスをしたの?









======15 へ 続 く



・ちょっと呟く・

予定外の方向です!
そばにあるプロットまったく無視ってるよ、おい!
そんなに口チューしたかったのか?!
両想いまで保管計画が~~~!

どうして、キスをしたの?>私が知りたい orz
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大地君で遊んでみました!

注)かなり寝ぼけた頭で書いたので、壊れてます・・・・
  お遊びなので、イメージが壊れるのはヤダ!と仰る方は、引き返して下さい・・・。
  自己責任でお願いします・・・


*カフェでの日常会話集?*

(1)

「ふ、フランソワーズさんでも、な、な、納豆た、食べるんですか!」

「ええ。モチロン!」

「・・・大丈夫でした?」

「・・・初めはね、パックの半分だけを溶き卵にめんつゆを混ぜて御飯にかけないと、
ダメだったの!」

「納豆の味・・・消えてますね?それ」

「少しずつ練習したのよ」

「っっええ?なんで?!そんなの必要ないじゃないですか!」

「必要だったの!」

「?」

「だって・・・ジョーが納豆食べられない人と結婚できないって言うんですもの!」

「?!」

「・・・彼、すごく好きなのよ?納豆・・・毎日食べるもの」

「・・・・」

ジョーが納豆を頬張ってる姿を想像できない、オレ。
ああ、ジョー、お前、日本人なんだなぁ・・・


>実際に私の友人は練習させられた!

*******

(2)

「なあ、ジョー」

「ん?」

「お前とフランソワーズさんって一緒に住んでるんだよな?」

「ああ」

「・・・」

「それがどうした?」

「いつから?付き合い初めて、いつごろから一緒に住み始めたんだ?」

「出会ったその日のうちに。ベッドもシェアした」

なああああああああああああああああ!

「大地!うるさい!!店で叫ぶな!!」

(大地って面白い・・・)




注>003と009として出会ってすぐに、ドルフィン号での生活ですから。
 当たり前っすよ~。

********

(3)

「大地」

「おう、ジョー!いらっしゃい!」

「・・・フランソワーズにケーキを2つ以上食べさせるな」

「げ!それって営業妨害だぞ、ジョー」

「彼女はダンサーだ」

「そんなのフランソワーズさんが一番わかってるだろお?それに、少しくらい太ったって、

彼女はあんなに細いんだし!」

「・・・買い直さないといけないんだ」

「?」

「付き合わされる俺の身にもなれ」

「?」

「もう十分に俺が育てた・・・これ以上は手に余る」

「?」

「好みの問題かもしれないけど」

(義姉さん乱入!)

「あらあら島村っちさん、今はインターネットで買うのがいいのよ?」

「・・・・」

「お家でだから、大丈夫よ!」

「・・・・」

「フランちゃんにメールしておくわね♪」

「・・・・」

「ジョー」

「ん?」

「オレ、さっぱりわかんねー」

「・・・お前のそういうところが、俺は気に入ってる」



結局、最後までわからなかった大地くんでございます。

********

(4)

「(*'へ'*) ぷんぷん」

「あれ?なにを怒ってるんですか?フランソワーズさん・・・」

「ひどいのよ、ジョーって!訊いて、大地さん!!」

「どうしたんですか~(喜)」

「ジョーってお風呂が長いの!」

「ほう!・・・それはそれは・・・」

「もう、すっごく長いの・・・よくあんなに長く入ってられるわ」

「あ、フランスはシャワーが主流なんっすよね?」

「たまにバスタブにも浸かるけど・・・」

ーーーいいな~フランソワーズさんの入浴・・・外国映画みたいだよな~(#^.^#)

「ジョーが長湯だから、のぼせちゃって」

「・・・ジョーが長湯でのぼせたら、大変っすよね・・・

のぼせるのがわかってて、長湯なんすっか?!ジョーのやつ!

(ジョーてめえ!!フランソワーズさんにヌードなんて見せてんじゃねええ!)」

「そうなの!知ってるくせによ!!それにね、いっつも気がついたら、適当にされるんだもん!」

「・・・・適当にされてる???」

「髪を洗った後で、いつも枕が濡れちゃってるのよ!せめてちゃんとタオルを
枕にひいてくれたらいいのに!」

「はあ・・・(混乱中)」

「も!絶対にジョーとお風呂はイヤ! ひどいでしょ?」

「<(T◇T)>わぁああああ!」




>日本のお風呂は広いしね・・・ユニットじゃないしね・・・。
 ヒドイのはフランソワーズです(笑)

********

(5)

「 (///_///) 」

「あれ、ジョー・・・どうしたんだよ?」

「 (///_///) 」

「・・・?」

「 (///_///) 」

「ん?お前・・・なんか今日は・・・いい香り・・・が・・・」

「 (///_///) 間違って、フランソワーズのシャンプーとか使った・・・ら、なんか、

いろんなから声かけられる・・・」

「( ¨)¨)¨)¨)¨)¨)¨) エー!!」

「 (///_///) 」

「・・・オレ、お前を尊敬するよ?」

「 (///_///) 嬉しくない・・・」


********

(6)

「なあ、ジョー」

「ん?」

「いつから人前で、さあ」

「ああ」

「その、(。-_-。)ポッ」

「はっきり言えよ?」

「フランソワーズさんと、いちゃいちゃ・・・平気になった?」

「・・・大地」

「はい」

「俺とフランソワーズは、いちゃいちゃしていない

「Σ( ̄ロ ̄lll) ガビーン」

「するわけないだろ!」

「(°口°;) !!ええ?」

「ったく、何を言い出すかと思えば・・・」

「うそおおん・・・」

「・・・そんな恥ずかしいことできるかよ、俺が!」

「”あれ”がいちゃいちゃじゃなかったら、いったい・・・」

「?」

「(--) 疑いの目」

「大地・・・ちょっと気になるんだが、お前・・・もしかして・・・」

「(゜゜;)/ギク! 
ジョー!昼間だ!ここは女性に人気のカフェだ!それ以上言うな!」


猛ダッシュ! ε=ε=(┌ >)┘


>大地君が逃げたので・・・end!

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Day by Day・15
(15)





昼を過ぎても、フランソワーズは部屋から出てこなかった。
ジョーはいつもよりも早く起き、まずは昨日の帰りが連絡もせずに遅くなったことをギルモアに詫びた。が、ギルモアはただ苦笑するばかりで、「まあ、連絡がないということは、時には良い知らせ、と言うこともあるからのお」とのんびりと答えた。

ジョーはギルモアにリビングへ上がってきて欲しいと頼み、夜の時間のイワンとフランソワーズ以外のメンバーを全員集めた。

ジョーの口から、一通り昨日の出来事とアラン・モルディエと言う人物がフランソワーズとコンタクトを取りたがっている節があることを伝えた。
昨夜、彼女の口から訊いたプライベートな事は省略して。

「これが、それだ」

フランソワーズと自分を席を案内した初老の男に渡されたチケットをテーブルに置いた。
封を切られていないそれに、全員の視線が集まる。

「開けてないアルネ?」
「開けなかったのかい?」
「・・・よく見て」

帳大人とピュンマの言葉に、ジョーは封筒のある部分を指さした。
封筒の端に書かれてある、フランス語らしき文字。
補助脳に付けられた翻訳機を使わなくても読める。


”愛しのフランソワーズへ”


「完全に、彼女が40年前の彼女と同一人物だと解っている・・・てことだな」
「普通なら、他人のそら似で終わるだろ?・・・いくらなんでも、つじつまが合わない。けれども彼は、一目フランソワーズを見ただけで、彼女だと確信した上にこうやって接触しようとしたんだ・・・気になることは、彼女がB.Gに連れ去られる現場にいたこと、だ」

アルベルトはジョーの言葉に深く頷いた。

「・・・調べてみておくれ。もしかしたらアラン氏は・・・B.Gに何らかの形で繋がっているかもしれん」

一同が力強く頷いた。

「んで、その封筒は開けねぇのか?」
「・・・フランソワーズ宛だから、彼女に渡そうと思う」
「やめとけ、よけいに部屋から出てこなくなっちめ~ぞ?」
「けれど、逃げていても仕方がないだろう?現実にこうやって・・・」
「ジョー。それを渡すこと、正しい。」

ジョーはギルモアに封筒を渡した。

「博士、彼女の様子を見にいってあげて下さい・・・できれば、これを博士から渡してもらえたら・・・・」
「うむ。引き受けよう」

短いミーディングを終え、それぞれに散っていく。
まずは、インターネットを使ってアラン・モルディエについて徹底的に調べることから始めた。
ピュンマとグレートが行う。ジェットとアルベルトは日本滞在中のアランのスケジュールを調べることと、彼の行動を見張るために外へ出た。帳大人とジェロニモは留守と連絡係として残る。

ギルモアは地下の研究室へは向かわずに、フランソワーズの部屋を訊ねた。









####

ジョーは車を走らせていた。
さくらから連絡があり、どうしても今日出てきて欲しいという。
コズミ邸からの大学の距離などを考えて、海外(向こう)で持っていた免許証を、国際免許証に書き換えたので自分用の車が欲しいが、今まで親の車を好き勝手に使っていたので、どうやって車を選んだらいいのか、解らないという。

すでに彼女は、候補を3つまで絞ったらしい。
けれども、大きな買い物なだけに決めるのが難しいい、車に詳しいジョーにどうしても一緒に選んで欲しいと頼んだ。


○ヨ○の販売所で彼女の選んだものを見て、彼女の目的と運転経験からジョーは1つを選び出した。オプションのカーナビやアクセサリーなども、彼女の意見を訊ねながら
決めていく。
2時間ほどでそれらの書類が完成し、1週間後にコズミ邸まで届けてくれることになった。

「ありがとう、ジョー!! こんなに全部があっという間に決まっちゃうなんて思ってなかったわ!」

お昼を少し過ぎた時間だったので、販売所の近くのレストランへ入り、昼食を取る2人。

よっぽど車を手に入れたことが嬉しいのか、いつもよりも興奮気味に話し続けるさくらは途中、自分ばかり話していることに気づいて謝った。

「やだ!・・・私ずっと話してる!!もう~ジョーもとめてよ!」
「・・・いや、楽しそうだったし」
「えへへ~・・・楽しいわ!それに嬉しいもの!」
「念願の車だしね、これでどこでも行けるよ」
「本当に!嬉しいわ!!・・・・・それだけじゃないのよ?・・・嬉しいの」
「・・・」

エビドリアを注文して、食後用の紅茶を頼んださくらは、追加で今飲むためのレモネードを頼み、ストローをコップにさして、ぐるぐるとコップの中をかき混ぜる。

「ジョーと2人で、ランチって初めてね!」
「そうだね」
「ねえ、このままどこかドライブに連れて行って!久し振りに会ったんだものっ!みんなは元気?」
「・・・みんな元気だよ」

さくらはコップを自分の方へ引き寄せて、絞りたてなのか、コップの中で勢いよくまわるレモンの粒をストローでつついた。

「また遊びに行きましょうね!」
「そうだね・・・でも」
「?」
「当分は無理かな・・・」
「え?」
「ギルモア博士の研究が、色々とね忙しくなるんだ。これから。みんな仕事が入って
今までみたいにはいかなくなる」
「・・・仕事?」
「うん」

彼女が注文した品が、ウェイトレスよって運ばれてくる。
ジョーは珈琲以外を頼まなかった。

「・・・いつ頃終わるの?」
「はっきりとはわからない」
「ジョーも?」
「僕?」
「ジョーも忙しくなるの?」
「今まで以上にね・・・みんなと一緒に」
「フランソワーズさんも?」
「彼女もだよ、もちろん」

運ばれてきたドリアから香ばしいチーズが焼けた香り。
先ほどまで感じていた空腹感の苛つきが、今は胸へと押し上げられている。
さくらは、スプーンを手に持ち熱いホワイトソースに差し込んだ。ほのかにそれらの熱気が顔にかかる。

「ジョーは食べないの?」
「ごめん、食欲がないんだ・・・気にしないで」
「・・・・珈琲だけじゃ、体に良くないよ?」
「ありがとう・・・でも今は大丈夫」
「そっか・・」
「うん。ありがとう」

熱々の御飯とホワイトソースにチーズがたっぶりとかかったそれを、口に運ぶ。
舌が火傷して、咥内の皮が捲れてしまうほどに熱い。けれど、さくらは気にせずに食べ続けた。
注文したレモネードの氷が溶けてしまい。ただのレモン水になってしたけれども、それを飲み干した。

ジョーが2杯目の珈琲をお代わりを頼む。
さくらは一所懸命に食べ、そして話す。

常に、会話はさくらから。
常に、さくらが話題をつくる。

ジョーは黙って話を聴いて、相づちを打つ。
ときどき、そう。よかったね。などの言葉をかけてくれる。だけ。

ーーーフランソワーズさんにもそうなの?

ふと、彼女の脳裏に・・・あの日の綺麗なサーモンピンクのワンピースを着た彼女の姿がよぎった。

昨日。ジョーはフランソワーズさんと一所にバレエを見にいった。
さくらがネットで調べた、ギルモア邸から行ける距離であったバレエ公演はただ一つ。
OXXホールの眠りの森の美女。

訊きたくない。けれど聴きたい。
気になる。
ずっと、電話でジョーの口から聴いたあの日から。

ーーー『予定?』
   「うん、夕方から出かける」
   『お仕事か何か?』
   「いや、バレエを観に行く」
   『ば、・・・・・・・バレエ?』
   「ああ、運良くチケットが手には入ったから。バレエのチケットが高くて驚いたよ」
   『誰と行くの?』
   「フランソワーズと」
   『!?・・・・彼女と、ジェット?それともアルベルトやピュンマと一緒に?』
   「いや、キャンセルされた予約チケットが2枚だけだったから、2人で」


2人で。
ふたりで。
フタリデ。

ずっと、眠れない日を過ごしたさくら。

本当は、車なんていつでも買えた。
自分で選ばなくても、母に頼みこちらの支店の人に適当にお願いすることもできた。
けれども、なんとかして・・・バレエ公演の翌日の今日、ジョーに会いたかった。
フランソワーズさんがジョーと2人ででかけたのなら、自分もジョーと2人で出かけかった。
フランソワーズさんがジョーと2人で食事をしたのなら、自分もジョーと2人で食事をしたかった。

「ジョーは、さあ」
「?」

食後の紅茶が運ばれてきた。
それにミルクを少しだけ入れる。

「ええっと・・・あのギルモア研究所には、どうしてフランソワーズさんだけ女性なの?」
「え?」

突然の質問にジョーは驚く。
考えたことがなかった、考える必要もないことを質問されて動揺した。
出会ったときから、彼女はいた。


「他に女の人を雇わないのはなんでかなあ?って思って・・・それとも、フランソワーズさんだから、
なにかあるのかな?」
「・・・考えたことなかったよ」
「あらら、そうなの?」
「うん」
「じゃあ、別にフランソワーズさんじゃない人でもよかったの?」
「ええっ?」
「・・・・ちょっと思っただけ。たくさんの男の人の中で生活なんてよくできるな~って」
「・・・・変に思う?」
「変じゃないけど、ちょっとあれ?って思った」
「・・・さくらは」
「!」

今日、はじめてジョーが自分の名前を呼んだため、おもわず身をテーブルに乗せた。

「甘いもの、食べないの?デザートとか・・・」
「ああ!うん。こういう店のは食べないの、だって甘すぎるんだもの・・・」
「甘すぎる?」
「そうよ、砂糖の味しかしないもの・・・!」
「そう」

ジョーは昨日の夜の、レストランでのことを思い出す。
フランソワーズはどこで覚えたのか、日本語の「甘い物は別腹」と言う言葉を口にして、ミルクがたっぷり入ったタイ・アイスティーを飲んでおきながら、季節のフルーツ・ハチミツ漬けを頼んだ。ジョーはとろりとしたシロップに誘われて、フランソワーズの皿からマンゴーを一つフォークにさし、食べた。まったりとした甘いマンゴーにさらにその甘さを強調するようにハチミツが喉を通り、驚いた。

「甘!!」
「大げさよ・・・」
「甘いよ!・・平気なの?キミ???・・・甘いって!!」
「これくらい食べられなくて、どうやってお菓子の味がわかるの?」
「・・・キミが作るクッキーとかケーキはここまで甘くないよ?」
「当たり前よ!ちゃんとみんなが食べられるように、考えてるんだもの」
「そうなの?」
「そうよ!・・・ジョー、あなたが一番甘いものがダメなのよ?あの邸で」
「え?!」
「知らなかったのかしら?」
「そんなの・・・みんな同じ物を食べてるのに?」
「同じじゃないわ」
「ええ?」
「だって、みんな”同じもの”にしてたら、残り物が増えちゃうもの・・・だったら手間がかかるけど、全員がちゃんと食べられる物を作る方がいいわ」
「・・・そんなことしてたの?」
「自然と・・・そうなっちゃったの」
「・・・」

フランソワーズは一口、色鮮やかなフルーツを口の中に入れる。

「ジョーは可哀相ね?こんなに美味しいものがダメだなんて!」


彼女がさも残念そうに言った時の顔を思い出す。
ジョーは無意識に胸が擽られて、頬が上がる。

「・・・ジョー?何が面白いの?」
「あ・・・ごめん」

「やあだ!思い出し笑い?」

突然にジョーの瞳から光が消えたと思った瞬間に、彼は微かに微笑んだ。
その笑みは、とても幸せそうな・・・、さくらの胸が痛む。

ジョーを茶化すような物言いをした。
膝の上にある手は震えている。

「ごめん・・・」

ジョーは長い前髪に顔を隠すように、少し俯いた。
彼自身、自分が笑っていたことに気がついていなかったのだろう。

「ねえ、何がそんなに面白いの?」
「・・・いや、面白いことじゃなく」
「ねえ、何を思い出してたの!気になるわ!!」
「・・・別に」
「教えてよ!女性と一緒にいながら別のことを考えるなんて、失礼よ!さあ、言ってちょうだい!!」
「・・・ただ、女の子はみんな・・・甘い物が好きなんだと思ってたから」
「?」
「それだけだよ」
「えええ~!それだけ?そんなはずないわよっ全然面白くないじゃないっ!ジョーは笑ったのに~~~~~!!」
「いや・・・可哀相って言われたんだ、とても残念そうな顔で・・・僕も甘いものがダメらしくってね」
「甘いものがダメ?って自分で知らなかったの?ジョー・・・?」
「あまり、気にしてなかったよ。邸では普通に食べてたし、クッキーとか色々」


ーーーそういえば・・・。

さくらが初めてギルモア邸を訪れた時に持参した、ケーキをジョーは手をつけていなかった気がした。

「でも研究所では食べられたの?」
「うん」
「同じように甘いクッキーやケーキを?」
「うん・・・」
「どこか、特別なお店の御菓子なの?それ?」
「特別・・・じゃないよ、売ってはいないけどね」
「売ってないって・・・」
「フランソワーズが作るから、いつも」
「?!」

さくらは紅茶のカップを手に持っていなくて、よかった。と、妙なことを思う。
ジョーの話を聴きながら、遠い後ろの方にもう1人、冷静にさくらを見ている自分が居る感覚がある。

「自分でも忘れてたんだ、そういえば苦手だったのに。いつの間に平気でクッキーやケーキを邸で食べていて、外で・・・食べてその甘さに驚かされたよ」
「・・・・フランソワーズさん、とってもお料理が上手だもの・・ね」
「そうだね」
「も、もしかして、ジョーに可哀相ってどうして?」
「甘いもがちゃんと食べられなくて、どうやって御菓子のおいしさがわかるのかって言われたよ、フランソワーズに」
「ふっっふ、フランソワーズさんが言ったの?そんな酷いことを?」
「酷くないよ・・・」

さくらの言葉を否定するように、少しだけジョーの滑舌がよかった。

「彼女は、御菓子のおいしさを知ってるから、俺でも食べられる御菓子を作れたんだから」

ーーー俺?ジョー、今。俺って言った?

「そ、そうなんだ!・・・ねえ、今からどうするっっ」

これ以上、フランソワーズの話をしたくなかった。
彼の口から、彼女のことを聴きたくなかった。
心底、昨日の様子を聴かなくてよかったと、さくらは思う。

ジョーは携帯電話を取り出して、時間を確認する。2時36分と表示されていた。

「ドライブに行きたいわ!・・・当分会えないんでしょ?」

さくらは甘えるように、ジョーに訊ねた。

「ドライブでいいの?」











####

フランソワーズは自分がいつの間に眠ってしまったのか、わからなかった。
起きあがろうとしたとき、枕カバーが彼女を追いかける。
泣いたまま寝てしまったために、それが頬に張りついて奇妙な音を立てて剥がれた。
瞳の周りが熱く、瞼が重い。
頭もすっきりとせず、また風邪を引いてしまったのかと思った。
ドレスを着たまま寝てしまっていたことに気づき、慌ててそれを脱ぎハンガーにかける。
ドレスをざっと見て、クリーニング持って行くべきかもしれない、と思う。港を歩き、潮風に触れている。一日中来ていた上に、そのまま寝てしまったのだ。痛みが出てくるのは当然で、早めにクリーニングへ出して手入れをするべきだと思った。次の買い出しの時に、忘れないように・・・とテーブルに置かれた真四角のポストイットに書き込んむ。

フランソワーズの部屋に付属するシャワールームに行き、いつもよりも熱い湯を浴びる。髪を洗い、お気に入りのボディソープをたっぶりと使う。柔らかな香りに包まれて、ほうっと息を吐き出した。



ーーーあれは夢。そう、きっと夢よ。

指で唇をなぞる。

甦る感触。
彼の息。
彼の香り。
彼の声。

彼の腕の中。
彼の胸の音。

自分の背にまわされた彼の腕。
寄せられた彼の頬。

ずっと握っていてくれた手の力と温もり。

ーーー夢じゃないのね?全部、夢じゃない・・・。


逃げられない。
彼からも。アランからも。現実からも。戦いからも。平和からも。日常からも。

私は逃げることを許されない。

それなら・・・どうする?

どうしたい?

このまま泣き続ける?
時間が過ぎていく、その流れに身を任せる?
それが運命なら、きっと私に相応しい道へと押し流してくれるわ。

・・・でも、それでいいの?
私はまた、同じ事を繰り返すの?


過去を振り返って、泣くだけが私の運命?
サイボーグにされて、戦うだけが私の運命?
戦いの中でみつけた日常に、恐れて暮らすことが私の運命?

違う!

そんなの違う!

私は常に挑戦してきたわ!
どんなに、辛くても諦めなかったわ!

私は結果を求めていたわけじゃない。
私は結果を恐れていたわけじゃない。


覚えているわ・・・。
初めてトウ・ジューズを履いた日を。
毎日、爪を割り、血豆を作って、それでもステップを踏み、トウで立った。
痛みだけじゃない、その先の踊る喜びを知っていたから。

戦いだけじゃない、その先の希望を胸に抱いていたから。

オーロラ姫は、ただ眠って待っていた。
自分の運命をもう一度甦らせてくれる人を。

でも、私は違う。
私は戦士よ!

私には・・・待っていても誰もきてくれない。
自分で目覚めて、自分で立ち上がるしかない。

オーロラ姫は、100年の時を越えた世界に、何をみたのかしら?
私は、40数年先の未来だったこの世界に、何をみるのかしら?

私には仲間がいる。
彼が・・・支えてくれた。
それだけで、もう十分。

きっと、彼は変わらない。
彼の背中を見続けていけばいい。

彼は走り出す。強く、しっかりとしたその歩調を揺るがすことなく。

大丈夫。私はついていける。
私は同じ、彼と同じ・・・00ナンバーのサイボーグ。













でも・・・怖い!














ふわり・・・とフランソワーズは誰かに抱きしめられた感覚に全身をつつまれた。
とても暖かく、優しく自分を抱き、そして囁く。


ーーー こ こ に い る よ。 


    そ ば に い る か ら。
   
    
    一 緒 に 行 こ う。 明 日 へ。
    

    キ ミ の い る 明 日 へ。

    だ い じ ょ う ぶ だ よ。


フランソワーズはその腕に、その温もりに、その囁きに誓う。



行きたい。あなたのいる明日へ・・・・。
行くわ。あなたがいる明日へ!




私は、歩いていく。
いつかあなたの隣で歩くことができるように。





ドアのノックが聞こえた。
心配げな声。

「フランソワーズ・・・儂じゃ」

フランソワーズは「少し待って下さい」と断り、さっと身支度を整えた。
ドアノブをまわし、ドアを開ける。


「ごめんさない。博士・・・寝坊してしまいました」


ギルモアは、改めてフランソワーズの美しさに息をのんだ。






遠くないあの日に彼は言った。

「キミが一番強いよ」




ーーー・・・ジョー、私はあなたみたいに、強くない
ジョーはフランソワーズの言葉に驚く。

ーーーなにを言ってるんだい、キミは・・・俺より強いくせに

ーーーたぶん、みんなの中で一番キミが強いと思う
ジョーはフランソワーズが今までみたことがないほどに、温かく穏やかに微笑んだ。


ーーーキミが一番強いよ



フランソワーズ。キミが一番強いよ












=======16 へ 続 く

・ちょっと呟く

やっと引きはがせた(笑)
精神的なお嬢さんの独り立ち第一歩が書けてホッと一息。
やっぱりバレエと言う肉体的にも精神的にもたたき上げていく世界で
生きてきたお嬢さんですからねえ。
ちょっと環境の変化にとまどっただけっすよね!

ふふふ。
ジョー!もう好き勝手できないよ~ん!
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ありゃ?!
各ページに、「鍵」や「パスワード」をつけることができなかった
このblogが・・・できるようになってしまったようです・・・(@0@)

大人・・・かあ・・・。
地下・・・かあ・・・。
裏・・・・・かあ・・・。
限定・・・かあ・・・。

ちょっと呟いてみる。

ふう・・・。

文章を書いていて、たまにそういうのを書いてみたい気持ちになってしまうのは
なんでなんでしょうねえ?

どれくらい表現力があるかチャンレンジ?

・・・・・・・・・・・心臓爆発なんじゃなくって。

あら、まああ!(恥)+(夢)+(ウットリ)で、どきどき?な
方向ができたら、いいですねえ。





それっぽいことは、ほんの~り書いてたりするんですけれど。
ダイレクトにそれは、どうなんでしょう・・・。

本人は、
読みますけど!
好きですけど!
あこがれてますけど!
(笑)



まだまだ勇気がない・・・っす!

「限定公開」のお知らせを受けて、ちょっと動揺(笑)
狼狽えてます、朝っぱらから!!
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STEP BY STEP








「え?・・・私と付き合う前のジョーはどういう人だったか?」



毎週火曜日は、カフェ"Audrey”の定休日。
なぜ火曜日かって言うと・・・。
訊かない方がいいと思います・・・・。

定休日は、その年によってかわるんです。


・・・兄貴が見たいドラマによって・・・・本当に申し訳ない気持ちで一杯です、オレ。









そんな火曜日の今日。
ドアのチャイムは、一休み。




「CLOSED」と掲げられたドアの向こう側には、昼休みを終えて足早に仕事場へ戻る仕事人たち。
そんな彼らをよそに、俺たち・・・新進プリマドンナの香奈恵さん、
その親友、天使の輪を作りきらきらと陽に輝いて、麗しいローズの香りがオレの鼻腔を擽り酔わせる亜麻色の髪の乙女・・・フランソワーズさん!が、兄貴の新作ランチメニューの試食のために今日は、来てもらった。

この間の、香奈恵さんの発言が気になっていたオレは、ずっと訊きたかったのだ。



ーーー弟、島村っちはね、前はあんなんじゃなかったのよ?2人が付き合う前は、ほんとヘタレでね~・・・。




「なによ、弟~。島村っちを強請るネタ探し?」


いつものように、香奈恵さんはその大きな口を左右に引っ張ってニヤニヤと嗤う。






・・・某歌手にも負けないほど大きいっすよね・・・。


本人はそれが自分の魅力の一つだとわかっているようで、彼女の唇はいつもナチュラルなカラーで・・・しっとりと潤っている。
舞台化粧以外はスッピンに近い香奈恵さんだけれど、きちんと自分を客観的に見ることができる人だと思う。


「ネタになる内容なら使いますけど!・・・なんか気になって・・・だってさあ、ジョーは生まれたときから、あのまんまだった気がして・・・イメージでできねえだもん」
「気色悪いわよ!あんな赤ちゃん!!顔はいいけど!・・・・まあ、確かに、今の島村っちをあの時の島村っち・・・と同じ人物か?と問われて・・・はい。って素直に言えるかと訊かれればちょい疑問かな~?人間はそう簡単に変わることはないって思うけど・・あれはちょっとねえ」
「そお?付き合う前も今も・・・ジョーは何も変わってないわ?・・・少しだけ意地を張るのをやめたかしら?ほんの少しだけ、人に甘える素直さが持てるようになったわね。そして・・・自分を・・・ちょっと許せるようになった・・・・・・ただ、それだけよ」








フランソワーズさんは、そう言ってウィンドウの向こう側を見た。


それは、よくジョーがここでする仕草。

何もない、ごく普通の日常をこの上なく愛しそうに、その1分1秒をすべて瞳に焼き付けておこうとする、見つめる瞳はいつも、オレを不安にさせるほどに切ない。


「・・・それだけって、いったいジョーはどんなヤツだったんっすか?それ?」






フランソワーズさんの言い方をまとめると・・・


すっげー意地っ張りで
素直じゃなくて
甘えるのが下手?
自分を許さない?






そんなやついるのかよ?あ、ジョーか・・・ジョーなのか?





「大地さん・・・ジョーはね・・・NOと言えない人だったのよ。そして絶対に自分の意見を出さなかったの。彼はただそこにいる、だけの人だったの」
「そう!なんて便利な男だ~って思ったもの。しかも中途半端にではなくて、完璧に」
「・・・それってyesマンってこと?なんでも、はい。はい。って言う?」
「ちょっと違うわ・・・。ジョーの場合はひたすら受け身なの・・・流されるままに流れちゃうの」
「受け身・・・流される・・・」


「島村っちの口癖は・・・”キミが好きなようにすればいい””キミがしたいようにすればいい”」
「ジョーの口癖はね・・・”キミが好きなようにすればいい””キミがしたいようにすればいい”」


「み、み、見事なハモりっぷりすね~・・・」
「だって、それしか言わない人だったもの、普段」
「まあ、話すのが好きじゃないって言うのは、わかる気がするけど・・・なんでも言う通りにこなすって・・・別の意味ですげ~・・・」
「島村っちの場合、言葉に出来ないなら行動すればいいのに、前はそれさえも出来なくって・・・いじらしいっていうか。存在感無さ過ぎって言うか・・・。行動しててもわからないっつ~の!あれじゃあ!!」

「・・・彼は、自分が必要とされている。て、感じることにとても敏感なの。自分が生きている理由を探してるみたいに。だから必死でずべてを投げ出してでも、それに答えるの。どんな小さな願い事でも、・・・前の彼だったら、それを叶えるために死んでくれって言われて簡単に死んじゃってたんじゃないかしら?それも、喜んで・・・」
「なんすっか、それ?バカじゃん!」
「そうよ~、弟!島村っちは相当なおバカさんよ~!よかったわね!」







いや、喜べないっす、それ。





「愛して欲しいってすごく、すごく強く求めていながら、それを与えられてもわからないのよ、彼。・・・可愛いでしょ?」




今、ここにいないジョーについて話す、フランソワーズさん。


彼女は・・・オレに向かって冬の日に昼間の陽の光を頬に感じたような穏やかさで、ゆったりとオレに笑いかけた。・・・多分、彼女はオレをみていない。






彼女は、ジョーに笑いかけているんだと思う。
可憐な少女の微笑むではなく、それは、大人の女性の、愛する人をこころから愛しく思っている、と自信にみなぎった笑顔。


「なんか、こんな話ししてると、ちょっと前の島村っちが懐かしいわ~!あれはあれで、うん。面白かったし、可愛かったわよね~!・・・ってすごい昔の話ししてるみたいだけど、まだ2年も経ってないわよねえ?」
「んふふ。そうよ!まだそんな昔の話しじゃないのよ?」


香奈恵さんと、フランソワーズさんは2人で笑い合う。



本当にヘタレだったのかよ?ジョー?
お前、どうやって今みたいになったんだ?




オレの混乱している頭の中を覗いたのかのように、香奈恵さんはオレの顔をじっとみていたら!
いきなり鼻を指で弾いた・・・デコピンならぬ、鼻ピン?!



「よくわかんないでしょ?弟の頭じゃあ!だから、話してあげましょか?ヘタレな弟に島村っちのヘタレだったころを。ね?」




ええ?! まじで!







「それって私が知っているお話かしら?」
「知ってるんじゃない?大体あんた当事者でしょ?でもこれは私から見たヘタレ島村だから、印象違うかもね!」
「・・・あまり”ヘタレ”ってジョーのことを言わないで・・・違うもの!」
「え~・・・?ヘタレだったわよ?あの時は!」
「違うわ!!」




2人がああだ、こうだ、と話しに花を咲かせ始めて・・話しが出てこないんっすけど?



「・・・話し聴かせてください・・・」



オレはぼそっと呟いた。














####


「こんにちは!」
「・・・・・こんにちは」



ーーーまあああああ!美形じゃない!遠目にしか見てなかったけど、これはたいしたもんだわ~!


彼のはにかんだ、そしてちょっと驚いたような笑顔。


ーーーいい仕事しましたねえ、彼のご両親は!



「あなた、フランソワーズを待ってるんでしょ?」


彼は頷く。



「まだ、少し時間がかかるわよ?彼女、さっき呼びだされたから」
「・・そうですか」
「フランソワーズの彼氏?」
「?!」


彼は飛び上がらんばかりの勢いで驚いて、俯いてしまった。


「あら?違うの?あなたいつもここで彼女を待ってるじゃない?」
「・・・・」


彼は俯いたまま、答えない。


「ふ~ん・・・で。私、香奈恵」
「・・・島村です」
「彼氏じゃないんだ?」
「・・・・」
「じゃあ、あの子フリーなのね?」
「・・・・」
「もしも彼氏なんだったら、申し訳なくって」
「・・・・」
「フリーなんだったらいいわ!あの子を紹介してくれって、連日、私の携帯は鳴りっぱなしなのよ!あの子はいっつも”困るわ”って言うばっかりで、彼氏がいるのかどうかはっきりさせないの。こうやって、島村?くんは迎えに来てるしね~!いっつも聴かれるのよ、あの迎えに来る男はフランソワーズの彼か?!って!フランソワーズは聴かれる度に泣きそうになってるから、それ以上追求できないしさ~」
「・・・・」
「って、あなた本当に無口ね?」
「・・・・」


ジョーは俯いていた顔をあげて、苦笑した。


「あなたがおしゃべりな、だけ」









そう言って、可笑しそうに微笑んだ顔と、彼の囁くような声に女である香奈恵の心臓が跳ねた。
跳ねさせない人間が、この世のどこにいるだろう?



「・・・・ジョー?・・・香奈恵さん?」


蚊の鳴くような声を掛けてきたのは、シャワーを浴びて慌てて出てきたために、髪に水滴が残るフランソワーズ。


「ちょっと!濡れたままで出てきたら風邪ひくじゃない!!」


香奈恵の声にびくりっと躯を震わしたものの、足早に2人に近づく。


「ごめんなさい・・・遅れてしまったわ」


フランソワーズはジョーに謝る。
その声に、ジョーはただ首を左右に振る。


「・・・ねえ、フランソワーズ?私ここにいるんだけど?」
「あ・・・香奈恵さん・・・」
「・・・はいはい。いい男の方がいいわよ~、見るなら!」


香奈恵は2人を交互に見る。



その距離に不思議なものを感じた。
恋人同士の距離ではないことが、明らかにわかる。



けれども、2人が同じ空気の中で生きていることも、それと同じくらいにはっきりとしていた。


「あの・・・」


ジョーと香奈恵、2人が一緒に居ることに、あらためてフランソワーズは知ると、不安げにジョーと香奈恵を見た。
ジョーは何も言わずに、彼女の髪から滴る雫を見ている。


「あんたが遅くなるってこと、教えたのよ」
「あ・・・・ありがとう香奈恵さん・・・えっと、ジョー。こちら龍 香奈恵さん。クラスをご一緒させていただいてるの」


ジョーは頷く。
そして、フランソワーズが持つカバンをそっと彼女の肩から受け取る。


「香奈恵さん、彼は・・・島村ジョー・・さ・ん。同じ・・・”養父”の元でお世話になっているの」
「同じ?・・・え?じゃあ、一緒に住んでるの?」
「・・・・」


フランソワーズは愛らしい顔を紅くして俯く。
ジョーは香奈恵の方を向き、何事もないように頷いた。


「ふ~ん、じゃあフランソワーズの彼氏じゃなくって、家族なのね?」


香奈恵の言葉にフランソワーズの方が揺れる。
ジョーはそんな彼女を・・・少し寂しげに見ながら、彼女のカバンからタオルを取り出し、そうっと髪から滴る水滴で濡れた肩にかけた。


「あ、あ、ありがとう」


ジョーはその言葉に頷く。


「香奈恵さん・・・また次のレッスンで、さようなら」


フランソワーズは早々に香奈恵との会話を切り上げた。
それがわかったのか、ジョーはさっと運転席にまわり乗り込む。
フランソワーズも香奈恵から逃げるように車に乗り込んだ。


2人が乗った車を見送る香奈恵。









「・・・・な~んかあるわね~、面白いじゃない!いいじゃな~い!!それ!」







ニヒヒっと、彼女自慢の大きな口を左右に引っ張り意地悪く、笑った。





















車内で、ジョーとフランソワーズは何も話さない。

彼氏。と、訊かれて「はい」と答えたい。が、ジョーからは何も言葉をもらっていないために、それをいつも躊躇させられるフランソワーズ。

自分の気持ちを伝え、それを受け止めてもらったのは確か。
彼も自分と同じ気持ちであることは、色んな場面で感じさせてくれる。
だからこそ彼の安らかな寝息で耳元を擽り、自分の部屋には彼の着替えが置いてある。





「明るい人だね」

ジョーは運転しながら、フランソワーズの様子を伺っていた。


「香奈恵さん?」
「そう」
「ええ!とっても。・・・彼女がいてくれたから、スクールにもすぐに慣れたわ」
「そう」
「ジョー・・・ごめんなさい」
「・・・何に?」
「・・・・全部、よ」
「ふうん・・・」
「私・・・あなたが好きよ。好きなの」


ジョーは何も答えない。
ただ、その夜はいつもよりも長くジョーはフランソワーズの部屋に居た。






ーーージョーはまだ、私の言葉を本当の意味で信じてくれていない。
   
   愛してるのよ?

   こんなに、愛してるのよ?

   何度でも言うわ

   私の喉が潰れたならば、この瞳で言うわ
   この瞳がだめなら、この躯で言うわ

   愛してるの

   愛してるわ!

   気づいて!ジョー!!!
   私は、あなたを愛してるの!!!!!!!!!!















声を出して、全身で、こころで、魂で訴える夜。
ジョーは彼女の強い想いをその腕に抱き、歓喜に身をゆだねながら闇の声を聴く。


ーーー信じたらだめだよ。彼女もそうだよ。いつかきっと捨てるんだよ。
   ジョー、君をね。






























翌週のレッスンの日。

はっきりとフランソワーズがジョーのことを「彼氏」と言わなかったのをいいことに、香奈恵はしつこくフランソワーズを紹介しろと言い寄る男たちの中から、1人”岡野”を選んだ。
彼はバレエ団のポスター撮影の時にアシスタントとして、よくスクールへも来る。ほとんど岡野と彼の師である遠田が、バレエ団の全ての写真関係を担当していた。


「ねえ、今日も彼が迎えに来るの?」
「え?・・・・今日は・・・どうかしら・・・もしも間に合ういそうなら電話をくれることになってるけれど」
「あら、仕事?」
「ええ、もうすぐオーブンシーズンですもの」
「彼、なにやってる人なの?」
「F3のレーサーなの」
「なに?それ?F3?」
「ええっと・・・F1の一つ下のカーレース?」
「はあ?」
「彼、レーシング・ドライバーなの、私もよくわからないのだけど・・・」
「?!・・・あらららら。また絵に描いたようないい男が、これまた小説か漫画の
主人公の設定のようにパーフェクトな響きねえ!」
「・・・そうかしら?」


香奈恵は バン っと勢いよくロッカーの戸を閉めた。


「まあ、仕事ならしょうがないわよ!お茶よ!お茶に行くわよ!もうちょっと別ジャンルの男を用意したわ!」
「?!」

フランソワーズの手をぎゅうっと掴むと、彼女を引きずるかのようにして、香奈恵は”待ち合わせ”の場所へと急いだ。













偶然は偶然を呼ぶ。
奇跡は奇跡を呼ぶ。


良い方へ流れるときは流れる。
悪い方へ流れ始めたとき、その流れを止めるには?























####

香奈恵に連れられた店で待っていた男に、フランソワーズは見覚えがあった。
香奈恵によって簡単に自己紹介を交わし、初めて彼の名前が”岡野”であることがわかった。



「すみません・・・突然でおどろかれたでしょう?アルヌールさん」
「いいえ」
「岡野さんがね、フランソワーズとどうしても知り合いになりたいって!」



そして香奈恵がそうっと耳打ちした。





<ねえ、このことを島村くんが知ったらヤキモチやいてくれるんじゃないの?>








それだけを言い、フランソワーズの耳元からぱっと離れた。
フランソワーズは驚いて、香奈恵を見る。
彼女はただニコニコと笑っているだけだ。








香奈恵のリードで3人の会話が暖まり始めたころ、フランソワーズの携帯がなった。

彼女は慌てて携帯を”マナーモード”にして、液晶画面に出たJOEと言う名前に どきり と心臓を震わせる。







香奈恵さんと一緒なのだから、別に悪いことはしていない。けれども、一緒の席に仲間以外の男性がいたと解ったら、ジョーは・・・離れていってしまうのではないか。と、不安が胸をよぎる。


こんな想いをするくらいなら、ずっと片思いのままの方が良かった、ようにさえ思う。








彼と夜を共にする時間以外、彼と一緒にいてなぜ不安に胸を押しつぶされなければならないのか。自分が不安になるのは、全てジョーのせい。



そう言いきってしまえるほどに。

彼は何も言わない。


何もしない。
何も変わらない。






ーーージョーがヤキモチをやく?まさか!




店内で携帯電話を取ることを躊躇っているフランソワーズを見て、香奈恵が言った。


「少しくらい平気よ!どうせ”お迎え”でしょ?」


香奈恵はジョーの名前もその電話の相手男であることを口に出さなかった。
フランソワーズは、香奈恵の言葉に何も言わず、携帯電話を取る。




『フランソワーズ?』
「ええ」
『今、どこ?』
「あの・・・」




フランソワーズが次の言葉を話そうとしたとき、ぱっ とフランソワーズの手から見事な手さばきで携帯を取り上げた。
岡野はその動きに呆気に取られ、思わず手に持っていたグラスを落としそうになった。


「は~い!香奈恵です~!」
『・・・・・はい。』
「今日、迎えに来られるかわからないって言ってたから、誘っちゃったのよ!」
『・・・・・そうですか』
「今仕事なの?・・・迎えに来るのかしら?」
『・・・・・今日は無理だと、彼女に伝えてください』
「自分の口で彼女に言いなさいよ!」
『・・・・・』
「大丈夫よ!ちゃ~んと彼女を駅まで送っていくから、家の近くで拾ってあげなね」
『・・・・・彼女に代わってください』
「はいは~い」


にこやかにフランソワーズに携帯を返す香奈恵。


『フランソワーズ?』
「あの、今どこに・・・」
『・・・・・・・まだ仕事』


フランソワーズは耳を澄ませる。
聞き慣れた、音が彼女の性能良い耳に届く。



「本当に、仕事?」


訪れる沈黙に、流れるサウンドエフェクトは彼女の良く知る場所の、音。


『・・・・・・ああ』
「じゃあ、私はこのまま、ここに居てもいいの?」
『キミが好きなようにしたらいいよ』









ーーーまたその科白?












「ウソツキ」
『・・・・・・・』
「嘘が下手ね?」
『・・・・・・・』
「今、どこにいるの?」
『キミがしたいようにしたらいいから』
「・・・・・じゃあいいわ!そうする!!」
『フランソワーズ?』
「待ってて!」


フランソワーズは立ち上がり、荷物を手に取る。
そして深々とお辞儀をした。


「ごめんなさい!!! 岡野さん、香奈恵さん!!!私行かなくちゃっっジョーが私から逃げてしまうの!」
「ちょっ!何よそれ~?逃げるって?ま・・まちなっっ!フランソワーズ!!岡野さん!行くわよ!追いかけるわよ!
「ええ?! あ。うえええ?!」


香奈恵はテーブルにお札を投げ置いて、走り去るフランソワーズを追いかけた。
岡野はただ呆然とフランソワーズと香奈恵をテーブルから見送る。
彼は、今の状況にまったくついて行ってない。




ーーーっち!!見かけ倒しで、口ばっかりの男ね!
   ・・・まさかフランソワーズがこんなに大胆な子だとは思ってなかったから、
   明らかに私の人選ミスだけど!








テーブル席に座る岡野をちらりと見て、香奈恵は毒づいた。

3人が居たレストランはバレエスクールのレッスン生や団員の行きつけの場所。2ブロックほどしかフランソワーズが通うスクールから離れていない。彼女は店を出て、すぐに『目』にスイッチを入れた。ジョーがいつもの場所で携帯を眺めながら・・・自分を待っている。


「ちょっ!!あんた足速すぎ~~~~~~!」


後ろから香奈恵の声。
彼女が追いかけてきているのがわかったが、彼女にかまっている暇はない。
人混みをかき分け走るフランソワーズに、行き交う人々の邪険な視線が送られる。
人とぶつからないように気を付けるが、それでも平日の今頃の時間は人が溢れる歩道に、イライラしながらも、その足を止めることはない。





行かないで!
行かないで!

逃げないで!

私から

逃げないで!!
行かないで!!















香奈恵は久々の全力疾走に大きく肩を上下させる。
あっちにこっちにぶつかりながら、やっとフランソワーズの姿を見ることができる距離まで追いついたとき、荒い息をなんとかコントロールしながらまっすぐにフランソワーズを見た・・・。




「愛してるの・・・好きなの」

「・・・・・・」

「好きよ」

「・・・・・・」

「どうして?ねえ、どうして嘘をつくの?」

「・・・・・・」

「愛してる。ジョー、愛してるわ・・・だから」

「・・・・・・」








香奈恵の目にした2人。








ジョーはガードレールの上に腰を掛け、ただ黙って自分の首に腕をまわし、その首元に顔を埋めて愛の言葉を小鳥が歌うように、何度も訴える少女の肩に視線を落としていた。
彼の腕は、重力に逆らうことを拒否したように、だらり と携帯を手にしたまま下がっている。









「ジョー、愛してるわ。愛してる。・・・」










ーーー 一体なんなのよ!!この2人は!



通り過ぎる人の好奇や邪な視線など気にしない。
人がまるで彼らを引き立てるための動くオブジェのように、見える。






「・・・・・・・」

「ジョー・・・ジョー・!・・・愛してるわ!」

「・・・・・・・・」








フランソワーズは、その腕に力を込めて彼の首にしがみつく。

ジョーは愛を囁く彼女に何も答えない。

ジョーは自分を抱きしめる彼女の背にその腕をまわしもしない。

自分の胸に、腕の中に抱きしめない。

ただただ彼女にされるがままに、無表情でそこにいた。








まるで、彼女に興味がないとばかりに。








フランソワーズの愛の言葉も。
フランソワーズの熱い腕も。
フランソワーズの想いも。

なにも彼に届いていない。







ぶらりと下がった腕が、香奈恵の怒りを頂点にまで突き上げた。




なあああああんつ~!!男よ!
可愛い女が人目も憚らずに愛の告白してるっつ~~~~~~~のに!!!!!
その腕で彼女を抱きしめないなんて!抱きとめないなんて!
何様よおおおおおおおおおおお!




香奈恵は考えるより行動の人間。
気がつけば2人の真横に立ち、持っていたカバンに渾身の力を込めてジョーの後頭部を殴りつけた。










「このっっっっっっっっっっっ!軟弱ヘタレ島村あああああああああ!」














ジョーは突然後頭部に受けた衝撃で、前のめりに躯を傾けた。
反射的にフランソワーズを守るように、その腕に抱いて体制を整える。
そして自分に一打を与えた香奈恵を睨み付けた。

フランソワーズは何が起こったのか全くわからずに、ジョーの腕が自分を守るように抱いていることに、驚いた。彼は絶対に”戦闘中”か”プライベート”な時以外、彼女を腕に抱きとめることはないと知っていたために。


「このおおおおおああああ、すっとこどっこおおいいい!!」







フランソワーズは香奈恵の罵声で、今の状況を把握した。
香奈恵が怒っている。
彼女のことだ。ジョーが自分にたいする態度を見て腹を立てたのだろう。
香奈恵はジョーの腕の中にいるフランソワーズの手を取り引っ張る。


「戻るわよ!フランソワーズ!!あんたには相応しくないよ、こんな薄情なダメ男!!ちょっと顔がいいからって!フランソワーズの方が惚れてるからって、調子にのんじゃないわよっっ!」


力一杯に香奈恵はフランソワーズの手を引っ張ったが、ジョーはその腕を緩めなかったために、フランソワーズは、肩に痛みが走る。それを見た香奈恵が咄嗟に言った。


「腕を解きなっっ!!!!」


ジョーは言われた通りに、ぱっと腕を放した。
急にジョーが腕を放したので、勢いでフランソワーズは香奈恵に体当たりするように彼女の方へ倒れ込んだ。


「ああああ!」
「きゃあ!」


2人が重なって倒れる瞬間、ジョーはフランソワーズのウェストに腕をまわし、その体を支え、フランソワーズの手を取ったままの香奈恵の手をジョーが引っ張った。
2人が倒れることなく体制を整えたことが解ると、再びジョーはフランソワーズから腕を解く。








一瞬の出来事だったが、香奈恵は狼狽えない。











「危ないじゃない!」
「・・・・・・」
「急にそんな風に腕を離したら、反動がついて危ないのっわかんないの!」
「・・・・・言われたから離した」
「はああああああああああああ?じゃあ!私が死ねって言ったら死ぬの!?」
「・・・・・・いいよ」
「・・・・え?」
「いいよ」


ジョーは嗤う。
本気だ。と、香奈恵は悟った。


「あんた・・・バカじゃない?」
「・・・・・・」
「あんた、フランソワーズの何?」
「・・・・・・」
「あんたの彼女じゃないの?」
「・・・・・・」







香奈恵は必死に言葉を繋げる。そうしないと飲み込まれそうだからだ。



何に?




「フランソワーズにあんなに好きだの、愛してるだの言われて・・・何様よ?」
「・・・・・・る?」
「へ?」
「フランソワーズが・・・・ちゃんと僕を愛してくれているってわかる?」
「・・・・・」


今度は香奈恵が黙る番。
ジョーの視線が、香奈恵から離れたとき彼女の体から全ての”緊張”が消えた。


「・・・・帰る」


ジョーの言葉にフランソワーズが反応し、ジョーを追いかけようとする。


「待って!ジョー」
「ちょっっ!フランソワーズ!」


香奈恵は慌ててフランソワーズの手を取る。
ジョーは何事もなかったかのように運転席ののドアを開けた。
そして、フランソワーズを見て言った。






「キミがしたいように、すればいいよ」


「・・・私が香奈恵さんと一緒にいたいって言っても止めないの?」


「キミがそうしたいなら、そうしたらいい」


「・・・私が帰りたいって行ったら、連れて帰ってくれるの?」


「キミがそれを望むなら、そうしたらいい」




ジョーが言う。




「キミが好きなようにしたらいい」
「キミがしたいようにしたらいい」









あなたはどうしたいの?
私ではなく、あなたは?

逃げないで。
私から逃げないで。

ちゃんと見て!
私はここに居るの!
私は生きてるの!

前を見て。
私を見て。

そして教えて。
そして伝えて。

愛してる。
愛してる。
愛してる。


信じてる。
あなたを信じてる。


愛してる。
愛してる。
愛してる、から気がついて!!

あなたを愛している私に気がつて!
あなたを信じている私を見て!
あなたを愛している私を抱いて!












あなたは私に愛されてる!!!!!!!!!




「・・・ジョーは?ジョーは決めてくれないの?」
あなたは私のこころに愛されてる!


「・・・・決める?」
あなたは私の瞳に愛されてる!


「ええ、そうよ。私はあなたを愛してるわ。だから、決めて欲しいの」
あなたは私の指先で愛されてる!


「・・・・・」
あなたは私の唇で愛されてる!


「愛してるわ、ジョー。だからあなたを信じてる・・・」
あなたは私の胸で愛されてる!


「・・・・・」
あなたは私の腕で愛されてる!


「・・・・・僕には、キミを、キミの・・・権利はない」
あなたは私の躯に流れる血に愛されてる!


「あるわ、ジョー。私が愛してるあなたにだけ、あるわ」
あなたは私の全てに愛されてる!


「・・・・・」
あなたは私の魂で愛されてる!!








「連れて行ってくれる?それとも、ここに私を置いていく?」



香奈恵は2人のやりとりをぼんやり見守っている。
初めは興味深く集まっていた野次馬たちも、2人の意味のわからないやり取りに、いつの間にか人の流れに消えて行った。










ジョーの端正な、見惚れてしまう程に東洋と西洋のバランスが神秘的に交わった仮面が、ぐしゃり と崩れる。




意図せずに外れてしまった鍵が、開いた。

小さな男の子が顔を出す。











愛して。











俺を愛して。





ちゃんと愛して。









本気で愛して。



強く愛して。

痛いほどに愛して。





教えて。
愛を教えて。

伝えて。
愛を伝えて。







愛されてる?





俺は愛されてる?
ちゃんと愛されてる?







本気で愛されてる?






強く愛されてる?









痛いほどに愛されてる?







教えて。


伝えて。












君は俺を愛してる?
俺は愛されてる?






















キミは俺を愛してくれていますか?



















「・・・・・・・・おいで」


ジョーの頬伝う、光 が 一つ。
            二つ。
            三つ。四つ。 
            五つ。六つ。七つ。八つ・・・・・・・。









重力に逆らってみた。








鉛のように重たい腕を持ち上げた。
こんなに思いものを持ち上げたことは、俺の人生で一度もない。













「・・・・・・・・帰ろう、フランソワーズ」



















ジョーが震える腕を伸ばす、フランソワーズにむけて。


















「・・・・・・・・・俺を愛してくれてるなら、来い」
































なに・・・。
なんなの、この男?
なんで泣いてるの?



バカじゃない?



わからないって言うの?自分が愛されてるのかどうかが?
バカだわ!







私、本物もバカに会っちゃった!











フランソワーズがこんなに愛してるって言い続けても、信じられないなんて!
そんなに自分に自信がないの?

そんなに、怖いのね?
そんなに、好きなのね?
そんなに、失いたくないのね?
そんなに、フランソワーズを愛しているのね?







それで逃げてるなんて、バカじゃない!







逃げてる暇があったら戦いなさいよ!
男でしょ!
愛する女に愛されるために、
愛する女の愛に応えるために、

ちゃっちゃっと立ち上がって、彼女を抱きしめろ!













は~~~~~~~~~!!こいつ!
筋金入りの”ヘタレ”だわ!!!







苦労するわね~・・・フランソワーズ。


















もう一発殴っとこうかしら?
さっきので、ちょっとは頭の配線が正常になったぽいし~?



















「香奈恵さん」


フランソワーズはそおっと香奈恵の両手を握った。


「香奈恵さん、ありがとう」


ふわり っと幸せそうに微笑む。


「ジョーが初めて、私に・・・”お仕事”以外で自分の意思を言ってくれたわ!」
「・・・よかったじゃない!今度もう一発殴ったら、もう少しましになるわよ!」
「んふふふ。そうね!お願いするわ!! また来週、レッスンでね。さようなら」


























その言い方の通り。
羽のように、彼女は重力を感じていないかのように、愛する人の元へ。

運転席のドアはちょっとだけ開いたまま。
鍵はそこに差し込んだまま。






彼は涙を流したまま。
彼女は彼が差し出した手を握る。



優しく、優しく、その手を包むように握る。


「ジョー・・・とっても素敵よ。あなたの泣き顔・・・好きよ。愛してるわ。
 きっとあなた以上に綺麗に泣ける人なんていないわね?」








ジョーはほのかに微笑んだ。
















「私の好きなようにするわ。いい?

私はあなたを私が好きなように愛し続けるわ!

私がしたいようにあなたを好きで、愛するわ!

いい?覚悟してね?

あなたは、私がすきなように、したいようにしたらいいって、

言い続けたんですもの、責任を取って?









私 が 好 き な よ う に あ な た を

私 好 み の 男 に す る わ 」





















####

香奈恵さんの長い話しが終わった。

いつの間にかテーブルには、新作ランチの数々が並び、
隣のテーブルに義姉さん、兄貴に高田さんが香奈恵さんの話に聞き入っていた。



「ってことがあったわけよ!!」

話しきった香奈恵さんは、満足そうに胸を張った。
フランソワーズさんは、横でうん、うん、と何度も、何度も頷いているから、この話は香奈恵さんのでっち上げでもないようです。







・・・でも、オレ的には





「は~~!なあああああんか、大地の”へたれ”と島村っちさんの”へたれ”具合に次元の差を感じてしまうわ!同じ”へたれ”でも、やっぱり島村っちさんの方がカッコイイわ!」

・・・否定できません。





「でもね、その後が大変だったの!!すご~~~~く、
すごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおくっっ!!
大変だったのよ!私が彼を本気で愛してるっていうことを理解してもらって、信じてもらって。そこでやっと彼は、私のことをどう想っているのかを、考えて伝える努力をしようとしてくれるんだけど、それがまた・・・ちょっとずれてるの・・・んふふ。とっても可愛かったけど、もどかしかったわ!彼、伝えるのが苦手だから。それで、手っ取り早く・・・強硬手段?・・・ふふ。それはジョーが、もうどうしていいかわからなくなった、混乱の極地ね!」

「ねえ、あれは犯罪一歩手前だわ!!あれこそ、ヘタレ外道・黒島村っちね・・・」








ヘタレ外道?!
黒島村(っち)?!














「ふふふ。あれはあれで、ジョーは素敵だったわ・・・辛かったし、苦しかったけれど、ジョーはとても綺麗だったんですもの」
「・・・・あんたって、マゾかと思ってたけど、サドなの?」
「私のために苦しんでくれている彼を見て、嬉しいって想うのは変かしら?」


小鳥が首を くいっ と傾げるように愛らしく、さらり と 彼女の髪が靡く。
きらきらと舞う光は眩しく、彼女はこころの底から嬉しそうだ。


「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」


フランソワーズさんって、けっこう・・・・。



「あ・・・島村っちくんじゃないか?」

兄貴がウィンドウを指さす。
ガラスを隔てた向こう側の世界で、彼はまっすぐにカフェに向かって歩いてくる。
ガラスが陽の光に反射してキラキラと輝く世界に・・・ジョーはいた。
存在感がないって話していたフランソワーズさんと、香奈恵さんの話が、オレは信じられなかった。

店の窓枠が彼のために設えて特別な額のよう。
彼は舞台に立っているのか、映画のスクリーンの中にいるのか。
切り抜かれたその世界で・・・その存在を焼き付ける。


「ねえ!ちょっといい?」


香奈恵さんの声で我に返る・・・ち!また見惚れちまったのか!?
ジョーなんかに!(オレはいたってノーマルだ!)




フランソワーズさんはジョーを出迎えるために立ち上がろうとしたが、香奈恵さんに止められた。


「まぁだぁよ!」



ドアのチャイムが愛らしく、ちりりん と鳴る。
チャイムでさえもジョーが好きらしい。




ジョーはドアを開けて一歩店に入る。
テーブル席に座る俺たちに、ヤツ必殺の「老若男女・ときめきプレゼント実施中」の
笑顔をみせたとき・・・



「「「「「「愛してる!!」」」」」」



受け取れ!
フランソワーズさんばっかりじゃなくて、たまには別バージョンもな!









お前の「ヘタレ島村華麗なる成長記~序章・愛から逃げた男~」を聴いたんだ!これからだぜ!!

ふっふっふ( ̄+ー ̄)キラーン















偶然は偶然を呼ぶ。
奇跡は奇跡を呼ぶ。


良い方へ流れるときは流れる。
悪い方へ流れ始めたとき、その流れを止めるには?



「一発殴ればいいのよ!”へたれ”には即効性大!」by香奈恵


















end.































・言い訳・

こちらは「099」番をゲットしていただいた「・・・里」さまへのキリリク
大地くんシリーズの過去のヘタレ島村さんが→現在の男・島村っちに成長していく過程を
お嬢さん視点と香奈恵視点で・・・お嬢さんが苦労して手塩に掛けて育てた、男・島村レシピ?
 「お嬢さんの島村さん育児日記」

だったんですが・・・。


ああ!なんか違う!!

も、も、も、もっと軽快に、楽しいものになるはずが!!!
しかも中途半端?!

お嬢さん視点?これ?
香奈恵さん視点?これ?

ああ・・・キリリクなんてのは、
私にはまだ早かったんでしょうか?
これもリベンジか・・・時間があったら続編決定っすね・・・

「・・・里」さま
申しわけありません・・・こんなんになってしまいました・・・m(;∇;)m
おまけは、イメージを掴むために書いたものです。
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・・・成長中のしまむらさん
注)キリリクのお試し・練習用に書きました。
お話の内容につじつまが合わないことがあると思いますが。
気にしないでください!!
「大地くん・シリーズ」の香奈恵さん一人称
********************

島村ジョー。
彼は私の親友、フランソワーズの彼氏。
F3って言うところで国内レースに出場中。

私からみれば・・・顔だけの男。
まあ、見てくれだけで言えば、神様にgood job!
彼のご両親に「いい仕事しましたね~!!」と褒めたいぐらいだわ。

けど、何よあれ?
ただの優柔不断なへたれ男じゃない!

フランソワーズが自分のことを好きって知っておきながらフラフラと!
しかも、あんただってフランソワーズのことを好きなんでしょ?
彼女が同じレッスン生の男とスクールから出てきたときの、彼の顔なんて、まあ、母性の欠片さえない私でもちょっぴり胸がきゅうっと縮んでしまったわよ!柄にもなく!

たく、えらいもん作ってくれたわね~、神様も!
あんな瞳であんな顔で・・・切なげに見られたら、流石の私もひとたまりもありません!
要注意人物だわ!

危険よ!

ったく、フランソワーズも一体、この男のどこがいいのかしら?
・・・あまり深入りしてはいけないタイプよ、あれ。
女のカンってやつかしら?

危ないわ。

彼は多分、生まれ持ったものなんでしょうけれど・・・。
無意識にその使い方を知ってるんだわ。

フランソワーズが心配なのよ。
彼女に似合う男なんて、この世の中にごろごろ転がってるもの!
男なんて選びたい放題、選り取り見取りのフランソワーズがよりによって、あの男にぞっこんだなんて・・・この世の中上手くいかないものね~・・・。

この間、すったもんだの末に私的には納得できてないんだけど!2人はちゃんとお互いの気持ちを受け止め合って、晴れて”本当の”恋人同士になったんだけどさ~。

以前から”恋人”だったと言うけど・・・人前で彼です!って言えないんじゃあ、カウントされないのよ!

それにしても!
やることだけちゃっちゃと済ましてしまってたってどうよ?
それって・・・。

まあ、付き合う前からちょこちょこ(島村っちが!)手を出してたの知ってるけど!

そういう部分だけしっかりしてるっつーのが、昔は”遊んでた”と言い切ったヤツらしいっつーか。
ったく!!!フランソワーズもフランソワーズよ!!
な~んでそんなに簡単に許しちゃったわけ~?
男なんて、一度自分のものだって確認してしまったら、調子に乗っちゃうのよ!?
恋人同士になっても気を許しちゃいけないんだから!その辺の駆け引きは続いてるのよ!っく~~~~~~~~~!ちゃんと言っておかなかった私のミスだわ!

ああ・・・可愛い私のフランソワーズが・・・

少女のままではいられない~って、なんか歌があったわよね?


ま、いいとして。


でもちょっと、ビックリしたのよね。
この前、2ヶ月ぶりに”本当の”恋人同士となった2人にあったの・・・。

いつも微妙な距離だった2人の間が、ちゃんと恋人同士の距離になっていた。
フランソワーズはいつも通りキラキラと光ってたけど、島村っちがね。
・・・穏やかだった。
別に、それだけなのよ?
それだけなのに、とても安心した自分自身に驚いたわ!

寄り添うように立って、私を待っている間にビルのテナントに入った店のショーウィンドウに飾られた、来シーズンの洋服たち。
フランソワーズはマネキンが着ている服がとても気に入ったようで、島村っちに指を指して何かを言ってたのよ。

「綺麗な色・・・素敵なスカートね」
「・・・・」
「私にはちょっと暗いからしら?あの色・・・でも裾がほら、3重になってるのが素敵!」
「・・・・そうだね」
「あ、でも・・・どうかしら?ちょっと子どもっぽいかしら?」

以前の島村っちならこう言ってたかな?
「キミが好きならいいと思う」「キミだったらなんでも似合う」あたりかしら?

フランソワーズの指が示す、スカートを見てから彼女を見た島村っち。

「似合うと思うけど」
「思うけど?」
「・・・・似たようなの持ってる、よ。キミ。だからこっちのが見たい」
「え?」
「今度、試着しに来よう・・・着て見せて」

あらららら!!あの島村っちが!
自分の意見を言ったわよっっしかも、ちゃんと女の子が喜ぶツボを押さえてます!

なんでも受け身で、NOと言わない便利な子が・・・成長したじゃん!

フランソワーズは島村っちが指したマネキンのスカートを見る。
それは、彼女があまり着ないタイプのもので、ホワイトパール・カラーのシンプルな丈が短めのボックススカート。

「ちょっと、丈が短くない?」
「あれくらいで?・・・・大丈夫だよ、あれくらい」
「・・・・でも太腿が見えるわ」
「水着やバレエのあれに較べたら大丈夫」
「だって街を歩かないもの!」
「見せてもいいよ」
「いやよ」
「俺と一緒のときだけ、な?」
「・・・・」
「自慢したい」
「?」
「フランソワーズの足、俺のだって自慢したい」
「な!!j、ジョー////」


俺?

島村っちが俺?

・・・島村っち、そんな顔で笑えるの?
ちゃんと、笑ってるじゃん!すっごく幸せそうよ、あんた。

そうよ、もっと自信を持ちなよ。
フランソワーズは、あんた以外の男なんて興味ないんだから!

good job島村っち!
今後のあんたが楽しみよv

end.




・言い訳・
こちらは、「099」番のキリリクのために
練習で香奈恵さん視点で書いたものです・・・。
練習作品を出す女それが私。
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Day by Day・16
(16)

霧雨のような雨が降り出した。
春が近づくにつれて、雨が多くなる。
雨が降った後は空気が きりり と冷えたあと、やんわり と空気が軽くなる。
明日はまた暖かくなるだろう。


ジョーとさくらがレストランで遅い昼食を取った後、店を出る。
いつの間にか振り出した雨に、ジョーは空を見上げた。
薄く膜を張る、鈍く光を失ったプラチナのような雲から降り注ぐ雨に、フランソワーズの顔が浮かぶ。一瞬、彼女が泣いているように思えた。だからジョーは、こころの中にいる彼女を優しく抱きしめた。


ーーー  こ こ に い る よ。 


     そ ば に い る か ら。
   
    
     一 緒 に 行 こ う。 明 日 へ。
    

     キ ミ の い る 明 日 へ。
    
     
     だ い じ ょ う ぶ だ よ。


ーーーーキミは強い女性(ひと)。






ぼうっと空を眺めるジョーにさくらは思わず見とれてしまった。
彼は優しく笑っている。

声をかけるのを躊躇わせるほどに、柔らかく、優しく、触れたら溶けてしまいそうに。

「・・・・j・・」

ごくり と唾液を飲み込んで、ジョーに声をかけようとしたとき、携帯が鳴った。
ジョーの携帯だ。

彼はそのまま電話を取る。
さくらに目線で「ごめん」と言ったことがわかる。
彼女は小さく首を振った。

何か、とても貴重な間を、チャンスを逃してしまったかのような後悔の念がさくらの胸に広がった。

「もしもし?」
『よ!オレだよ』
「ああ、どうした?」
『?今誰かと一緒にいるのか?』
「そうだよ」

ジョーはちらりとさくらを見た。
その視線を受けて不思議そうに首を傾げたさくら。

「春だね・・・そろそろ花見の時期かな?」
『一緒にいるのは”さくら”かよぉ?』
「そう」
『ったく!何やってんだよぉ、こんな時に!』
「・・・・こんな時だからだ」

ジェットの後ろから何事かを言うアルベルトの声が聞こえた。
電話に耳を覆いたくなるような、ノイズが走ると、そのアルベルトが電話口に出た。

『ジョー、訊け』
「うん」
『アラン・モルディエは1ヶ月前からヴァケーションで日本を来ている。あの日のスピーチは世話になった関係者への感謝の意を現すためのもので、初めからフランソワーズを追ったものではない』
「そうか」
『偶然だ』
「わかった」
『彼は自分の公演が終わってからも1週間ほど日本に滞在する予定だ。次の公演先のスポンサーも同じ日本らしいから、そのためだ。気になることがある』
「?」
『やつはプロに頼んで、あるチケットの購入者を捜している』
「・・・僕だね?」
『そうだな』
「・・・今から」
『いや、オレとジェットが戻る。やつはこれから4日間は取材や挨拶回りで日本中を飛び回る。003のことはそう、動けないだろう』
「うん」
『そっちをなんとかしろ。当分電話も、訪問も控えさせるんだ、いいな?』
「・・・・わかった」
『じゃあな』

短い電話のやり取りを、聴いてはいけないと思いながらも、耳を傾けていたさくら。
相手が何を言っているのかわからないが、ジョーは電話でも無口なことがわかり、以前、自分が交わした会話の方がよっぽど彼と親しい間柄であることの照明になった、と思った。

「ごめん」
「ううん!・・・お仕事?」
「・・・・」
「ギルモア邸の人?」
「・・・・そう」
「ジョー、戻らないといけないの?」
「・・・・少し早く帰らないといけないかな」
「じゃあ、ドライブは・・・」
「近場でいい?」
「?!」

「2,3時間くらいなら大丈夫だから」
「じゃあ!行きたいところがあるの!」


ジョーの車に乗り込み向かった先は隣町の小さな公園だった。
車を路肩に止めて、さくらの後を追うように歩く。

雨は止んでいた。

「きゃ~~~~~~~~~~!!変わってない!」

町にどこにでもある、ありふれた公園。
真四角の砂場、ブランコ、剥がれたペンキで描かれた像の滑り台に3組の鉄棒。
3つのベンチのとなりに、セメントで作られた無骨な水飲み場。

「ここね!私が公園デビューしたところなの!!
「公園デビュー?」
「そう!小さい頃にここに連れてきてもらって遊んだのよ!近所の人とか、同じ年の子とかに”こんにちは!お友達になりましょ!”って生まれて初めての社交デビューよ!」
「そんなのがあるの?」
「ジョーもしたことあるはずよ!」
「・・・・・そうかな」
「やだ~!すっごく小さくなってる!」
「・・・・」
「あ、小さくなったんじゃなくって、私が大きくなったのよね!」

所々泥濘んだ、水たまりを作った地面も気にせずさくらは、1人で公園を駆け回り、ジョーはベンチの端に座って眺めていた。


帰りの車内でさくらは言った。

「私の本当のお母さんと過ごして以来よ」
「・・・本当の?」
「私の本当のお母さんは、今のお母さんじゃないの。今のお母さんはお父さんの奥さん。私の本当のお母さんは愛人」
「・・・・」
「本当のお母さんと一緒に居たのは4歳までで、今のお母さんとずっと暮らしてきたの・・・本当のお母さんはどこで、何をしているのか知らないわ。訊いたら教えてくれるかなあ?」
「・・・・」
「ここを教えてくれたのは、おじ様。一枚だけもっていた写真を見せたら教えてくれたのよ・・・来る勇気なんかなかったけど。勢いで来ないとこれないと思ったの、ありがとうね!!ジョー・・・今日、ドライブを断られていたら、来なかったと思う・・・一生」
「・・・・」
「あ!勘違いしないでね!!私は今のお母さんも大好きよ!ちょっと子離れできない、変な人だけど、とってもとおおおおおおおおおっても私のことを好きで、いっぱい可愛がってくれてるから!」
「うん、さくらを見ていたら・・・わかるよ」
「・・・え」
「さくらが、とても幸せな家庭で育ったんだって、わかる」
「ほ、ほ、本当に!?」
「うん」
「本当に!!私は、私は幸せに見える?」
「うん、見えるよ」
「・・・・日本に来ることを反対されたんだけど、無理矢理来たの。名乗らなくても、お互いがわからなくても、見せたかったの、どこかの町でどこかの店で、どこかですれ違うかもしれない、私の本当のお母さんに、”私は幸せです!”って」
「うん」
「ジョー、ありがとう」
「うん」
「・・・・ねえ」
「・・・・」
「これ、私の人生のトップシークレット・ベスト3に入るんだからね!」
「・・・そうなんだ」
「そうよ!」
「・・・・」
「だから、ジョーのトップシークレット・ベスト3のうちの一つを教えて!」
「っ?」


「ジョーは誰か好きなの?」



車をコズミ邸前に止めた。
さくらの質問に答えないまま。

「教えてくれないんだ?」
「・・・・」
「・・・それって、私が知ってる人がジョーの好きな人ってことなのかな?」
「ーーーーーい」
「え?・・・ジョー?」
「誰も、いないよ。好きな人はいない」
「?!」
「・・・・うそじゃない?」
「嘘をついても仕方ない」
「いないの?」
「いないよ」
「じゃあ、今から好きになって?」
「?」
「私がジョーの好きな人になりたい」
「・・・・・」
「返事はいらないから!私はそうなると、思ってるわ!!お仕事がんばってね、終わったら連絡ちょうだいね!」

さくらは車から逃げるように飛び降りた。
コズミ邸の門を全速力でくぐり抜け、玄関で靴を脱ぐのももどかしく、階段を駆け上がり部屋に飛び込んだ。



さくらが閉め忘れた助手席のドアを、ジョーは一度車からおりて、閉める。
運転席に戻り、ハンドルを握る。
右手をキィに伸ばし、エンジンをかける。

ジョーの躯に伝わる振動。

アクセルを踏み、ハンドルを切り、来た道を戻る。

ーーー誰も、いないよ。好きな人はいない

好きじゃない。
好きなんて言葉では言い表せない。

だから、好きな人はいない。

好き・・・ではない。

だったら、なんだろう?
この気持ちは、なんと言えばいいのだろう?

好きではない。
好きという気持ちに近い。

とても大切で。
ずっとこの腕の中に閉じこめてしまいたい。
誰にも触れさせずに。
誰にもその存在を知られずに。
自分だけのものにしてしまいたい。

大切すぎて。大切すぎて。大切すぎて。

触れたい。
でも
壊したくない。

抱きしめたい。
でも
傷つけたくない。

矛盾だけが永遠に繰り返すこの気持ちは、好きと言う気持ちなんだろうか?

・・・さくらをみている限り、それはまったく違うものに思う。


好きって・・・・なに?


車を走らせる。
ジョーの瞳はまっすぐに先を見据えている。
彼の瞳に見えないものはない。
ただ走ること。
走り続けること。

後ろから迫り来る闇に追いつかれないように、走り抜かなければならない。

全身の筋肉が痛む。
心臓が絶叫する。
動かない躯。
けれども走り続けないと、闇が来る。

もう走れない。
走れ!

もう走れない。
逃げろ!

「ジョー、大丈夫よ!あなたなら・・・信じてるわ」
「?!」

背後から声が聞こえた。
白い小さな手が、紅い服に包まれた腕に添えられる。

何度も爆風にさらされ泥だらけになった顔で、彼女は言った。
その海よりも深く、天よりも高い瞳を強く、強く、光らせて。


「大丈夫よ、落ち着いて!!あなたなら出来るわ」
「ぜ・・・」

「行きましょう!!」

行こう!

まだ、大丈夫だ。
俺は走ることができる。

キミの言葉があれば。
キミがそばにいてくれれば。


「・・・・・フランソワーズ!」




####

ギルモア邸のリビングのドアを開けたジョーはすぐにソファに座る、フランソワーズに目を奪われた。昨日の彼女の様子から、ひどく疲れているかもしれない。と、ジョーは勝手に思いこんでいた彼の思考は見事に裏切られた。
ドアの音・・・いや、車庫に車を、このギルモア邸に近づいてきたエンジン音ですでに、自分が帰ってくることを知っていただろう、フランソワーズに声を掛けようとしたら、彼女の方が一寸早くジョーに声をかけた。

「ジョー。おかえりなさい」
「あ・・・・・・うん」

フランソワーズがスッキリとした表情でジョーの前で微笑んだ。

「まだお夕飯には少し早いの・・・今日は帳大人が作ってくれるんですって・・・何か飲む?」

フランソワーズはソファから立ち上がりキッチンへ向かおうとして、ジョーに振り返った。

「珈琲よりも紅茶の方が良さそうね?」

くすくす っと笑ってキッチンへ再び歩き出した。
そんなフランソワーズの後ろ姿を見送り、ジョーは全身でため息を吐き、呟いた。

「・・・やっぱりキミは強いんだね」


「立ってないで座っていて?あ、その前にちゃんと手を洗ってきてください!」

ポットに火をかけている途中、ひょっこりと顔をダイニングルームへと続くドアから顔を出した。ジョーは「わかった」とばかりに苦笑しながら手を挙げてバスルームへ向かう。

ーーー迷い込んだ黒い森から、キミはちゃんと自分で抜け出したんだね?


キッチンでフランソワーズは、今にも胸の人工皮膚を打ち破いて心臓が飛び出してしまうんではないか?と、思うほどにその胸は強く激しく早鐘を打つ。
ジョーの乗る車のエンジンを聴いた時から、彼がリビングへ来るまでの間、何度も、何度も同じ言葉を、舞台前の新人役者のように唱えた。

今日、ジョーに会うことが、こんなに緊張することだとは思っていなかった。
できるなら、ジョーが戻ってこないうちに自室へ戻ってしまいたい衝動に駆られたが、ギルモアから渡された封筒について中身がなんであったかを、ジョーに話さなければならない。自分のプライベートのことから、みんなの平和を乱してしまった後悔の念に晒されながらも、003として、もしもアランが・・・なんらかの形でB.Gと関わっているのなら、003として立ち向かわなければならない。フランソワーズには、もうすでにその覚悟が出来ている。

バスルームからジョーが戻ってきたときに、ちょうどフランソワーズがお茶の用意を乗せたトレーを手にリビングへ入ってきた。
L字型のソファに少し距離を開けて並びあって座る。
フランソワーズは、ティーカップに紅茶を注ぎ、ジョーの前に薄卵色のお月様のような丸い形のクッキーをデザート皿にレースのペーパーの上に乗せて、紅茶と一緒に置いた。
それを見て思わずジョーは笑ってしまう。

「今日も作ったの?」

クッキーを摘んで言った。

「毎日は無理よ・・・だから、作るときはその日の分とは別に作り置き用の生地を作って、冷凍してあるの。自然解凍をして、柔らかくなってから、好きな形に切って焼けばいいようにしてあるわ」
「・・・大変じゃない?」
「とっても楽しいわ」

ジョーはクッキーを口に放り込む。さくっと口の中で小気味良い音を立てる。彼がちゃんと美味しく食べられる甘さの、クッキーだ。

「・・・俺には美味しいけど、キミには物足りないんじゃない?」
「そんなことないわよ?」
「そう?」
「まあ!私は別にいつもベタベタに甘い物ばかりが好きってわけじゃないのよ・・・!ちゃんと甘さの善し悪しがわかって、ジョーや他の人より少しだけ甘さの許容範囲が広いだけなの!」
「すごく広そうだね、その許容範囲・・・俺がこのクッキーくらいの大きさだとしたら、キミはギルモア邸くらい?」
「!!」
「あ、ごめん。もっと広い?」
「まあ!ひどいわっ」

ジョーは穏やかに笑う。
フランソワーズも怒っているようで、楽しそうにその瞳は笑っている。

####

「あれ?・・・リビングに入らないの?」

2階から降りてきたピュンマはリビングのドア前に立つ、ジェット、アルベルト、そしてグレートにジェロニモが立っていた。

「・・・入りずれえんだよ!」

いつもの口調だが、その声色は空気に紛れて消えてしまいそうなほどに小さい。
アルベルトが顎でリビングのドアを指す。
中を覗くことが出来ないが、聞き覚えのある2人の声が聞こえる。ドア越しなので何を話しているのかは聞こえないが、その声はとても楽しそうだった。
仲間達の方へ振り返り囁いた。

「あれ、ジョーとフランソワーズ?」

ジェロニモが深く頷く。

「・・・別に入ってもいいんじゃない?」
「お前、蹴られたいのかよ!」

ヒソヒソと話すピュンマとジェット。

「蹴られたくないよ!・・・でも、ちょっと気になることが出てきたし、さ。ボクだって邪魔したくないけどさ!」
「ピュンマ、何か解ったのか?」
「解ったと言うほどのことじゃあ、ないけど・・・まあ、大体」


その時、突然リビングのドアが開いた。
何の前触れもなく開いたために00メンバーであろう彼らが、飛び上がらんばかりに驚いた。ドア向こうから覗く顔は、眉間に皺を寄せたジョーだった。

「・・・そこで何してるんだい?」
「話しをしてたんだよ?」

ピュンマがしれっと答えた。

「・・・報告するならリビングでしてくれ」
「うん。ごめんよ、ジョー。君たちが楽しそうだったから、無粋なミッションの話しで邪魔したくなったんだ」
「・・・・ミッションの方が最重要事項だ」
「今度から気を付けるよ!」

にっこりと笑い、ピュンマはジョーを押しのけるようにしてリビングに入った。

「あ、フランソワーズ、夕飯って何時頃になる?」

ピュンマはテーブルを片づけるフランソワーズに話しかける。
グレート、アルベルトもピュンマに続いてリビングに入っていく。
ジェットはニヤニヤとした意地悪い嗤いでジョーの横を通り過ぎた。

「なにか言えば?言いたいんだろ?」
「日本人が大人しくってシャイで、奥手だって聴いてたけどマジそうなんだなあ!」
「・・・・」
「オレならとっくに・・・おっと!!お子様には耳の毒かぁ?」
「とっくになんだよ?」
「まあ、チューくらいは軽く、なあ!おめえは挨拶のチューも出来ないんだし!」
「・・・くだらない」
「っっんだと!」

ジョーは ふっ と右の口角を上げて嗤った。

「?!」
「想像に任せるよ」
「お、お、おま、お前!まさ、ま、ま。まさか!!」
「アルベルト、調べてくれたスケジュールは見ることが出来るかな?」

ジェットを無視してリビングへ踵を返し、アルベルトに話しかける。

「ジェット。いい加減にしろ。からかうな」

頭上から降ってきたジェロニモの低い声。
彼はその大きな躰にも関わらず、存在していなかったようだが、しっかりとジョーとジェットの傍らで2人の会話を聴いていたのだ。

「ジェロニモ!だってあいつ」
「ジョーも男だ。決める時は決めなければならない。」
「ああ?!」

ジェロニモはこれ以上何も言わないとばかりに、リビングへ入っていった。
ジェットは面白くなさそうに、一度 っち! と舌打ちをし、横柄な態度でリビングへ入った。

まもなく、張大人の用意した夕食が始まる。

======17 へ 続 く

・ちょっと呟く・

黒幕はイワンか~~~!
君たちの防護服はもしや青仕立ての赤マフラーな
進化したサイボーグか~~~~~!

・・・超能力サイボーグ3と9でございます。
さくらちゃんの告白はいずこへ?

修行不足なACHIKOでございました。
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かちり カチリ かちり
何度も繰り返し行われたミーティング。

戦いが始まれば、自然と躯がその通りに動くほどに
何度も何度も行われた。


戦いはいくつもの偶然と奇跡。
戦いはいくつもの経験と実力と・・・?

それぞれが、それぞれに
”神”さまの気分がこちらを向いていて初めて手に入れることができる。


どうやら・・・僕は機嫌を損ねてしまったらしい。


奥歯を何度も噛みしめるが、かちり かちり と
オイル切れの安物のライターのような音だけが喉奥に響く。


絶望的な状況・・・と言うほどではない。

通信回路がナニかに邪魔をされていて通じないのか、仲間達と連絡が取れない。
加速装置が使えなくても、予定していた時間内に目的地につくことができるはずだった。

すでにミッションはコンプリートしている。

自分たちが戻らなければ、このビルを爆破することはできない。
時間内に戻らなければ、彼らも気づくはずだ。






僕は動けない。





地下のエレベーターの中で。
壊れたドアを無理矢理、半分まで閉めた。
躯を外から見えないように、細心の注意を払って隠す。
ドアを背にして、自分と仲間の身を重ねるようにし、視界は常に外が見えるようにしている。


敵はいないことは解っているが、用心に越したことはない。



腕の中で意識を失ったままの仲間を、もう一度確認する。
辛くないように抱き直したとき、くぐもった痛みをこらえるような声が、堅く一文字に結ばれた唇の向こうから漏れる。
慌てて、怪我をしていないか確認する。

外傷はない。


外傷があるとすれば、僕だ。


加速装置の故障・・・は外傷にあたらないか?

上の階で起きた爆発から逃れるために地下へと逃げ込んだときに、爆風に舞う物に左肩を持っていかれた。
どうやら、はずれてしまっているようだ。
だらり と重力に逆らわないように垂れ下がる無意味な物体となったそれは、1mmも動かすことができない。

ただ邪魔なだけ。

大切な仲間に触れることさえできない。

その温もりも。
その柔らかさも。
その愛しさも。

この腕は感じることができない。

右膝下からまったく感覚がない。
動かそうと命令するが、ぴくり とも動かない。
最後の最後で・・・自分の加速装置に過信した、僕の甘さの結果がこれだ。
加速装置は万能じゃない。

何度も言い聞かされてきた。
何度も、何度も、何度も、何度も!!!

それがどうだ!!!

このざまは!!!!!


かちり かちり かちり かちり かちり かちり かちり かちり
カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ

かちり かちり かちり かちり カチリ カチリ カチリ カチリ
カチリ カチリ カチリ カチリ かちり かちり かちり かちり



か ち り か ち り か ち り か ち り か ち り か ち り
か ち り か ち り か ち り か ち り か ち り か ち り

カ・・・


「・・・・009?」
「!?」

003・・・・・

「・・・ここは?」
「地下だよ」


大切な仲間。
大切な女性(ひと)

彼女は、僕の胸に預けていた躯をゆっくりと起こしてまわりを伺った。
何かを探すように、彼女は首をぐるりと回して”視る”。

「・・・・」

彼女はエレベーターの天上の一角を見据えて、動かなくなった。

「・・・どうした?」
「・・・見えないわ」
「!!」


最悪だ。
守りきれなかったんだ!!!!

いつだ?!
いつ?!

ああああ!

なんだって言うんだ!


かちり かちり かちり かちり かちり かちり


これさえ!
これさえ!!!

動け!


「009?」
「あ・・・・」

003は、ぱたり と先ほどと同じように躯を僕の胸に預けた。
彼女の重みが、僕の怒りと不安と・・・苛つきを押し沈める。

「状況を説明して」
「・・・地下のエレベーター内だ。爆発に巻き込まれないように逃げ込んだ」
「通信回路は・・・使えないのね?」
「うん」
「私の”眼”はダメだけど・・・”耳”は大丈夫よ。あなたは・・・・加速装置が、ね?」
「・・・わかる?」

彼女は くすり と微笑んだ。

「”耳”は大丈夫って言ったでしょう? それだけスイッチをカチカチと何度も噛みんでいたら・・・」
「・・・ごめん」
「ほかには?・・・あなたが加速装置の故障くらいで、こんなところに居続けるなんて・・・」

彼女は見えないために、僕の躯の上をその小さな白い手でなぞる。
僕の胸元から、鎖骨へ。両手で首周りを確認し、手を広げるようにして肩へと流れていく。

「!・・・・・左肩が!」
「爆発で少し」

彼女の手はそのまま僕の両腕をなぞっていく。

「左肩から・・・まったくダメなのね?」
「そう・・・ついでに言うと、右膝下も反応なし」
「!!」

彼女は右手をゆっくりと、僕の脇下から下げて行く。
太腿から、膝頭を確認する。

「・・・折れてるのね?」
「・・・痛みはないよ・・・鎮痛剤を飲んだ」
「歩けないの?」
「・・・・左足首をね・・・ここに逃げ込む時に無理をしたみたいだ」
「?!・・・そんな・・・」
「ごめん」


思わず、また加速装置を噛む。

かちり かちり かちり かちり

何の反応もない、ただの奥歯に備え付けられたスイッチ。

夢なのかもしれない。
こんな状況に追い込まれるなんて!

かちり

彼女を危険に晒した!

カチリ

彼女を守れなかった!

かちり

彼女の瞳は何も映さない!

カチリ

動かない躯!

かちり

役立たずの腕!

カチリ

役立たずの足!

かちり

過疎装置を過信した僕!

カチリ

009として最低だ!

かちり

何が最強だ!

カチリ

何が!

かちり

どこが!

カチリ


カチリかちり カチリかちり カチリかちり カチリかちり カチリかちり
かちりカチリ かちりカチリ かちりカチリ かちりカチリ かちりカチリ

「ジョー!」
「・・・・カチリっ!」


彼女の白い手が、僕の躯の上を素早く移動する。
彼女の白い手が、僕の頬を包む。

彼女の唇が、僕の唇に重なる。


かちり












「・・・・っfr・・・・?」
「・・・・・・それ以上、加速装置を噛むなら、迎えが来るまでずっとあなたが噛めないようにするわよ?」

ごめん

「ごめん・・・」

「あなたのせいじゃないわ」

「ごめん」

「いつも、ミーティング通りにいくなんて思わないもの」

「ごめん」

「いつも、成功し続けるなんて変だもの」

ーーーそれでも、勝ち続けなければいけないんだ。

「ごめん」

「失敗じゃないわ。ミッションはコンプリートしてるんだし」

ーーーそれでも、キミは視力を失ってしまった・・・

「ごめん」

「今回は運が悪かったのよ・・・いつも無傷で勝利するなて不自然よ」

ーーーそれでも、それをやり遂げるのが、009なんだ!

「ごめん」

「・・・ジョー?」

「ごめん」

「・・・・謝らないで?」

「・・・・ごめん」



思わず、また噛んだ。


か ち り


彼女の耳にも届いた。


彼女はもう一度、僕の唇を塞ぐ。

深く。
深く。
深く。


僕の歯が、加速装置を噛むことは出来ないように。

彼女の唇を、舌を、傷つけることは出来ない僕を、知っている彼女だから。

深く。
深く。
深く。



長く。
深く。



ふううっと甘い息がかかる。
見えないその瞳は、僕を鏡のように映している。

情けない
最低な

最強のサイボーグ

009・・・?

島村ジョー・・・?

どっちだ?

どっちだっていい・・・。


今の僕は、ただの動かない人形と変わりない。


「・・・・わざと?」
「え?」




彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「・・・・わざとかしら?」
「・・・なに?」

「・・・たまにはいいかもしれないわよ?」
「・・・なにが?」
「いつも、パーフェクトな009は私のために存在してくれないもの」
「?」
「パーフェクトで、格好良い、ヒーローは・・・いつもその腕に、私以外の女性を守るもの」
「・・・」

「009は、みんなの009だから・・・・」

「・・・キミを守りたかった」

「でも、ジョーは・・・私のよ」

「・・・こんな男なんて・・・最低だ!!役立たずもいいところだ!」

「だから、私がいるじゃない」

「?!」

「そんなあなたに、私がいるのよ?・・・パーフェクトな009には私は必要ないもの」

「ねえ、噛まないの?」

「・・・・」

か ち り



かちり カチリ かちり かちり カチリ かちり カチリ  
かちり カチリ かちり カチリ かちり カチリ かちり カチリ・・・


「009、 あなたは、そのままでいいの。
 ジョー、あなたは、そのままでいいの。

最低でも、情けなくても、失敗しても、何をしても。
あなたのせいじゃないわ。


ちょっと、”神”様が私たちに嫉妬しただけよ」




か ち り





か ち り






幸運の女神のキスが、僕を支えてくれている。


かちり。



end.

・言い訳・
なんじゃこりゃ~~~~~~~~~!

「939」番を踏んで頂いた「にきり ・・・」さまへのキリリク・ストーリーです。
えっとお題は・・・
戦闘中リーダーである009のミスでメンバーが(00メンバー誰でもok)心身ともにボロボロになり、
009はメンバー、とくに003さんの支えあってこその自分だと気づく!!

とっても00的に素敵なキリリクだったのにもかかわらず!!
私ってば、私ってば!!!
何を書いているんじゃ~~~~~~~~~!!

9と3以外出てこないし・・・<(T◇T)>わぁああああ!
結局、私が書くと・・・こんなパターンになってしまうのでしょうか?

・・・事件物をやりたい私には、とってもよい機会だ!!っと、思って張り切っていたのに。
リベンジ?
これもリベンジ???

・・・みなさまの感想をお待ちしています・・・

(・_・。)) マイッタナァ
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