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Evergreen

まどろみの光が暖かく、レースで飾られたフレンチ窓を覗き込む。
穏やかに流れゆく時間は、ライムポトフに降り注いで。
目に鮮やかに映る生命の輝きの色は、忙殺されるのが当たり前の、荒んだこころと体に、本来あるべき姿を思い出させてくれ・・・・る?







「ったく、なあにが不満なのよっ?!」


そんな静寂を打ち破る!
今日も元気に(?)カフェ・Audreyに響き渡るのは香奈恵さんの声!


「・・・大地さん、”雨上がりの虹にかけた一言を”(ミックス・フルーツゼリーとムース重ね/テーブル用)を追加していいからしら?」
「はい、・・・でも、大丈夫ですか?5つ目ですよ・・?」



不機嫌な果実って、何の言葉だっただろう?
どこかで聞いたことがある、響き。


ドラマだったかな?

映画?







そんな事は、どうでもいい!
今、オレの目の前にいる彼女に、似合ってしまった言葉だと思うからだ。



不機嫌な果実。
不機嫌なフランソワーズさん。




「ええ!大丈夫よ。心配してくださってありがとう、優しいのね、大地さんって」


不機嫌・・・?
にっこりと微笑んだフランソワーズさんの、明るく、花が咲きゆれる・・・ような、それは今日、なんだかすこし無理している感じがする。


なんだろう?


やっぱり、今日のフランソワーズさんは、機嫌が悪い。と、言うよりも少しだけ・・・落ち込んでいる?

原因はなんっすか?!







「あんたねえ、言わずにこころの中に溜め込むの、止めなさい!」
「・・・・でも、言ってもどうしようないんですもの」


いつものフランソワーズさんなら、ここで愛らしい頬をぷっと膨らませて、形よい唇を尖らせる仕種を見せるように思えた。
けれども、今日は香奈恵さんからの視線から逃れるように、斜めにすこし俯いて、視線をテーブルに落とす。


「ほ~ら!やっぱり何か不満があるんでしょ!踊りにも出てたわよっあんなんじゃあ、受からないわよ?」
「入団テストは受けません」


ぱっと、顔を上げて、まっすぐにこぼれ落ちそうなほどに大きな瞳に強い意志を持った宝石が煌る。


「ああったくっ!!なんでよっ、はっきり言えば、受ける必要なんてないのよ?あんたが首を縦にさえ振ってくれれば、カンパニーはいつでもあんたをソリストとして迎え入れる準備があるんだからっ」


大げさなリアクションだけれど、さすがバレリーナ!!
動きが絵になる・・・。


「プロになるつもりはないの、そこまでストイックに踊れないもの・・・」
「あ~あ~、そうよね、そうでしょうね!!ちょっとプライベートに不満があっただけで、あんなに踊りに影響が出るようじゃあ、無理だわね!」


香奈恵さんの言葉に、むっとしたフランソワーズさんは、いつになく、空色の瞳を鋭く、香奈恵さんを睨んだ。
長くてしっとりとした睫は揺るがずに、宝石のように輝く碧を縁取る。


「踊りには、出してないわ!」


チェリーカラーの形よいふっくらとした、艶めくくちびるが早口に香奈恵さんに抗議する。


「で~テ~ま~し~た!」


おどけるように言葉をのばしながら、レモネードがそそがれたグラスのストローを銜えた。


「出してません!」


きっぱりと言い切るフランソワーズさんは、今までに見た事がないほど・・・。


えええ?!・・・ふ、2人がケンカ?!


オレはテーブルから離れる事が出来ず、そのままトレーを抱えて立ちつくし、2人を見守る。
・・・怖くて、止めにはいるなんて、こと、出来ません・・・。




「じゃあ、出してないって言える根拠はなによおっ!」


口に含んだレモネードを、喉に通して、潤った香奈恵さんの声が響く。
腕を組んで椅子に背を預けた香奈恵さんの瞳が、細く辛辣にフランソワーズさんを睨んだ。


「・・・・出てないの!踊っていた私が出てないって言うのだから、影響なんてないわ」
「ケーキ5つ目よ?前のときは確か・・・島村っちのイギリス滞在が1週間のびた理由を言い忘れただけで・・・・、島村っちには文句のひとつも言わずに、・・・ここでケーキバイキング並みに食べてたわよね?」
「ジョーのお仕事だもの、理由を聞いても私には関係ないの。あのときは・・・・と、とにかくっ香奈恵さんにはわからないわ!」


ぷっと、やわらかな頬を膨らませて、顔をそらした。
その動きに、きらきらのハチミツ色の絹糸が追いかけて、光が舞散り、花の香りがオレに届く。


尖らせた唇が、可愛い!
目元がちょっぴり潤んでますっ!





あっ、そんな事を言ってる場合じゃない!


けど、



フランソワーズさんの横顔が、伏せ気味の長い睫が落とす、頬の影が・・・何か、いじらしくみえて、線の細い華奢な肩を抱き寄せてあげたくなる。


そんな衝動を、ぐっと胸に抱えたトレーで我慢する。
したくても、したいけどっ、できないっ・・・・・オレ。





「あら、どうかしら?言ってみなさいよ、わからないときはちゃあんと、わからないって言ってあげるわよ?」


胸前に組んでいた腕をテーブルに乗せて、尖った顎をフランソワーズさんへと突き出すように、香奈恵さんは彼女の逸らされた、潤む宝石を覗き込んだ。


「手をつないで堂々とデートなさっていた、香奈恵さんにはわからないのっ」




え?!



おおおおっ!

香奈恵さんが?!

手をつないで?!


・・・・なんか、想像できないっす!
手をつなぐって言うより、こう・・男の腕にしなだれかかる、腕を組む方が彼女らしいっていうか・・・。




「・・・・はあ?」


香奈恵さんの声は、間の抜けた空気まじりの力ないもの。に、含まれた少しばかりの驚きは、彼女の呆けた顔と、何度もまたたきを繰り返す、マスカラたっぷりの睫でわかる。




「あら、香奈恵さん彼氏ができたのお?」
「違うわよ、あれはただの”ボーイフレンド”の1人!」


義姉さん、タイミング良すぎ!
・・・あ。

フランソワーズさんが注文した、”雨上がりの虹にかけた一言を”(ミックス・フルーツゼリーのムース重ね/テーブル用)と、新しいアップルティ。そしてダージリンのホットに、”キスだけが知ってる秘密”(3層のチョコレートケーキ)一緒にトレーに乗せてやってきた義姉さん。




じ、地獄耳・・・・。


ついでに香奈恵さんの隣の席に座り、・・・トレーのものをさっさとテーブルに移して、俺に手に、萌子義姉さんの持ってきたトレーを突き出した。



はい。

義姉さん、休憩っすね?
休憩っていうか・・・あの・・もう、働かないっすよね?


オレは義姉さんのトレーを受け取りつつ、抗議の視線をむける。と、義姉さんはにっこり笑って一言。


「なんのために、大地がいるのよ?働きなさい!」



・・・・・ええ?!

オレだけ働くのかよっ!
オレだって、気になるんだよっ義姉さん、ひでえ!


と、思っていたら、開いていた席のイスに指差した。



「ぼおっと立つなら仕事する。座るなら大人しくしてなさい!」




ああんっ!さすが義姉さんっ!!
さきほどの言葉は却下しますっ。萌子さま、さまっ!

オレは、さっと隣のテーブルのイスに座り、体だけを香奈恵さん、義姉さん、そしてフランソワーズさんのテーブルの方へとむけた。
ありがたいことに、ランチタイムのラッシュを過ぎた今、カフェ内はそれほど忙しくなく、レジに立つバイトの2人の話し声さえも聞こえてくる。

そんなの聴いてる場合じゃない!!




「あんた、見てたの?」
「・・・・偶然、見かけたの」


へえ、意外とそういうのって珍しくないですか?


「いつ?」
「2日前,フォー・シーンズのホテルで・・・」


フランソワーズさんは、熱々のアップルティーのカップにくちびるを添えると、ふう、と息を吹きかけた。

テーブルに広がるアップルティに、少しシナモンを着替えた香りが広がる。



・・・フォー・シーンズ・・・?

げ!
超一流ホテルっ

さすが、新進気鋭のプリマドンナ、今注目されてるだけあるっすね!
(この間、香奈恵さんの取材をうちのカフェでしたんですよ~)



「なんで、アンタがそんなところにいたのよ?」
「食事に行っていたの」


そんなところに?!
誰とっすか!?



「誰とよ?」
「ジョーと」


・・・スミマセン。
当然ですよね。

相手はF1ドライバーに昇格した、若手ナンバーワンっすからねえ。
なんか契約金、すごいらしいっすね・・・。



「・・・・で、何が不満なの?あんたもデートしてたんじゃないっおあいこよ?!ついでに泊まったんでしょ?どうせ!私はバーに行ったのよ、飲みよ、飲み!それだけなのっ、アンタの方が良い思いしてるじゃないっ」


オレからすれば、・・・はい、お互いさまですねえ。



そういえば、・・・・オレ、最後にデートしたのいつだろう・・・。
あ、香奈恵さんの、プリマになったお披露目パーティの前に、・・・フランソワーズさんとデパートへ行って以来?

あれ?
それ、デートって言えるのか?


最後はジョーが迎えにきたし・・・・。


え?



それを含まなかったら、オレ・・・っ!!
か、考えるの止めようっ。うん、集中、集中!





「手を・・・繋いでいたんですもの・・・」
「何よ?それが悪いの?」


呆れたように、香奈恵さんはテーブルの上に頬杖をついて、尖った顎をそこへ乗せると、小さな溜め息をついた。
フランソワーズさんは小さな声で「悪くないわ」と呟き、銀色のスプーンを手に、”雨上がりの虹にかけた一言を”(ミックス・フルーツゼリー)の、ゼリーをつついた。


「そうよお、手をつないでデートくらい、この大地でもしたことあるわよ?フランちゃん、なにを今更!」


義姉さんっ、余計なお世話ですっ!
余計な一言ですっ!


・・・遠い昔の話しです・・・・。



「・・・だって、私とジョーは・・そういうの、そういう、その・・・しないもの」
「しまくってるじゃない!」


手にのせていた顎を浮かせて叫んだ、香奈恵さんの発言に一票!


「違うの!そういう、・・・の、・・・じゃなくて。あ、萌子さん」


フランソワーズさんは、義姉さんの顔をみて、隣の空いたイスの上に置いていた、紙袋を手に取って義姉さんに見せた。


「・・・ありがとうございました、今日持ってきたんです」
「ああ、はいはい。面白かったでしょう?」
「とっても!”蜂蜜とミツバ”に”恋コンプレックス”、”恋愛パンフレット”、”桜と男子”夢中で読んでしまったの、続きお願いできます?」




・・・・義姉さんが集めてる少女漫画だった。
兄貴の書斎には、義姉さんのコレクション用棚もあり、たまに読んでます。
後学のためですっ!

べ、別に、ファンレターとか出してないっすよ!!
・・・・出して、ないっす、よ。

葉書くらいの、もんっすよ・・。








「・・・・・それのせい、でしょ?」


頷くような動きで、香奈恵さんは顎でフランソワーズさんの隣にある、紙袋を指した。


フランソワーズさんが名を挙げた、漫画の内容的にいっても・・・そう思います。
影響受けてますね!




「おかしいわ・・・だって・・・だって、私とジョーは、こういう風な・・・こと、なかったもの」


拗ねるような言い方をして、ゼリーをぱくぱくと、形良いくちびるへと運んでいく。





---え?フランソワーズさんと、ジョーにはなかったんですか?



「ある方が不思議だわよ」
「え?」


ええ?


「あんたと知り合ってから、ずっと見てきてるけど、だって変なのよっ!!島村っちとアンタって」


つうっと銜えたストローが色づいて、吸い込まれていく先は、その大きなくちびるが、自分のチャームポイントだと、知っている香奈恵さんの喉を潤す。

香奈恵さん用の甘さ控え目のレモネード。


「変、かしら?」


フランソワーズさんの、つるりと輝く白水晶の小さな手に、ほんのり色づく桜貝の爪。
その手が持つ銀色のスプーンが、ゼリーの層を抜けて、ムースを掬う。
フルーツ・ミックスゼリーの下は、さっぱりしたヴァニラビーンズ・ムースに少しばかりのミントのさっぱり感。



「じゃあ、言ってごらんなさいな」
「何を?」


何をっすか?



「どっちが先に告白した?」
「私」


即答で答えた、フランソワーズさん。
・・・ちょっとだけ、悲しいな、その答えを聴くの・・・。



「で、いつ”恋人”同士になったのよ?」
「・・・どういうのが、その・・・いつから、なの?」


香奈恵さんは、くちびるからストローを離して、身を乗り出すようにしてフランソワーズさんを見る。

少し戸惑い気味に答えたフランソワーズさん。
ゼリーをすくって口へと運ぶ。と、ぱくり。と、食べて、頬がくうっと上がり、瞳を細めた。


ああ、美味しいんですね!



「告白されて、島村っちの答えは?」
「・・・・え?」


笑顔が一瞬にして消えて、驚きと困惑に揺れる宝石の名は、パライバトルマリン。
その瞳が、まっすぐに黒曜石のようなしっとりと熟れた黒を見つめる。


「なんて答えてもらったのよ?島村っちから!」
「な、何も、ただ・・・」
「だた、なあによ?」


言いづらそうに、お皿に添えてあったフルーツを、スプーンで転がしたのは、色鮮やかなフランボワージュ。

銀に弾かれた、恋の色・・・と、同じ色に染まるフランソワーズさんの頬。


「・・・その、あの・・・言葉じゃなかったの」


言葉じゃない?



「はいはい、押し倒されたのよね?その後は?」




・・・・・・・・・あ、そうですか。








くっそ~~~~~~~~~~、ジョーのヤツっ!!









あとで、じっくり話し聴かせてもらうからなああああああああああああ!


っと、握りこぶしを作って、オレは2枚のトレーと一緒に立ち上がった。
義姉さん、自分の分はしっかりテーブルに運んできたのに、・・・オレの分は?






「え?」
「その後は?」








義姉さんは、香奈恵さんとフランソワーズさんのやりとりを聴きながら、黙々とケーキとダージリンを楽しんでいる。
早足に席を離れて、自分の分のアイスコーヒーを用意する。
そんなオレをバイトの2人が笑って見ていて、その内の1人がストローを渡してくれた。

オレは、少し恥ずかしくて、視線を床に落として、また席に戻る。







「いつ、好きとか、愛してるとか言われるようになったの?」
「少しずつ・・・よ。知ってるでしょう?香奈恵さん」
「その間、恋人してたんでしょ?」
「・・・あ、あの」


一段と完熟度が増した、フランソワーズさんの頬の色。


「まあ、しっかり、ちゃっかり”押し倒されて”はいたわけね?ったく、ヘタレのくせにっやることだけは、しっかりやってんだから!だから紛らわしいのよ!!ヘタレはヘタレらしく、うじうじ、もじもじ、清く正しく美しい宝塚交際をしてりゃあいいっていうのに!」
「でも、ジョーだもの・・・」



それでいいんですかっ、フランソワーズさん!
でも、オレ、フランソワーズさんが”ジョーだもの”って言うときの、恥ずかしげに瞳を伏せる瞬間が好きですっ。


席につき、自分が座るテーブルにアイスコーヒーを置く。
コースターを忘れてしまったために、コツン。と、テーブルとグラスがぶつかる、小さな音。


「フランソワーズ、私に島村っちを紹介してくれたとき、”彼氏”って言えなかったでしょ?」
「・・・・そう、だったかしら?」
「今は?」
「え?・・・今?」
「あらぁ、そういえば、島村っちさんのこと、フランちゃんの”彼氏”として紹介してもらってないわ?お家の方。として初めはあったし、・・・島村っちさんもそう言ってたわねえ」


ケーキを食べ終えて、満足そうにダージリンティの香りを吸い込みながら、義姉さんが会話に参加。



「そういうことよっ!少女漫画の定番は告白するまでの心の機微とハプニング。さまざまな試練(トラップ)を乗り越えて、告白して、返事もらって、ドキドキして、少しずつなのよ!初めは手を握る、ほっぺにちゅー、口ちゅー、大人ちゅーっていう段階があるのをじれったく、もったいぶって描いてるの!途中にだって、三角関係や、勘違い、すれ違い!あ・・・ここは、しっかりやってそうよね?・・・ま。と~に~か~く~~~~~っ!」


ずいっ!と、フランソワーズさんにむけて指差した。
フランソワーズさんの瞳がその指先に向かうので、少しだけ寄り目になって・・・・ああ、・・・おどけた感じの表情が!

オレの心の中にだけ存在する、”フランソワーズさんアルバム”に加わりました。



「あんたの場合、そういうのすっ飛ばしている上に、やる事だけしっかり終わらせてるんじゃない、どうやっても無理よ!手なんか繋いで、イマサラ”どきどき、胸きゅん、はにかむ恋愛”するなんて、あり得ないでしょっ」


言い切った香奈恵さんは、ぴんっ、と。フランソワーズさんの愛らしい鼻先を弾いた。



「そうかしらあ?」


間延びした、義姉さんの声。
・・・最近、兄貴の口調に似てきてる気がする。
夫婦ってそういうもんかな?



「なあによ、モエモエ?」


・・・モエモエ・・・。



「私が思うに、だからこそ”イマサラ”って感じが重要に思えるわ。そういうのをすっ飛ばした、フランちゃんと島村っちさんだからこそ、今からでもゆっくりと振り返る”恋愛”でもいいと思うのよ」
「振り返る恋愛?」


振り返る?







オレと香奈恵さんの視線が、義姉さんに向かう。
フランソワーズさんは、ムースを掬い、義姉さんの次の言葉を待つ。


「そう、初心に返る!何事も、”初めての気持ち”ってあるじゃない。いくらフランちゃんでも、告白したときの緊張感やドキドキした気持ち、忘れてないでしょう?それに、島村っちさんだって、告白されたときの気持ちもあるでしょう?時間をかけて少しずつ、フランちゃんに好きって気持ちを伝えられるようになるまでの、こころの過程があるんですもの、ね?」
「う~ん、モエモエが言うこともわかるけどお、でも相手はあの島村っちよ?上手くいくかしら?」
「そこがポイントよ!カナカナ!」



か、カナカナ?!



前は、香奈恵っち、萌子っち・・だったような?



「・・・ポイント?」


フランソワーズさんの手から、銀のスプーンが離れた。
愛らしく小首を不思議そうにかしげる仕種は、どこかの鳥かごから外の世界へと冒険に旅立った小鳥が、初めての世界で知る全てに対して投げかける、無垢な仕種。


「そうなのよぉ。初心に返るけれど、昔の自分に戻っちゃうわけじゃないの。いい?気持ちだけ、そのときの感覚を思い出すの。その後、色々な経験をして島村っちさんもフランちゃんも恋愛において、お互いに成長したんでしょ?したはずよね!その上で今の関係が築かれているでしょ?築き上げた関係までキレイさっぱり”当時”に戻るわけないんだから!過ぎた時間が戻らないけど、気持ちは、振り返ることができると思わない?」
「モエモエ、それって・・・同じ人相手にもう一度”恋”する、と。今の状況の中で再恋愛?」
「そういうことお!カナカナ、いいこと言うわね、再恋愛!何度同じ映画を見ても、同じところで感動もすれば、新たな発見があるのと一緒みたいな感じかしら?」


にんまり。と、笑う、義姉さん。
義姉さんはいつでもポジティブなんだよなあ・・・。


「ふうん。モエモエは、そうやって倦怠期を乗り越えてきたってわけえ?」
「中学からよお?付き合い。まあ、ダイが留学していた時期は遠距離だったけれどねえ」


カナカナは興味深げに、モエモエを見つめた。
(口に出しては言えないなあ・・・)


「・・・・」
「で?私が手をつないでデートしてるのが、うらやましくて、拗ねて、不機嫌だったわけってか?」
「だって・・」


視線を再びフランソワーズさんに戻した香奈恵さん。
オレも、義姉さんも彼女へと視線を向ける。


「ほら、ここまで話がすすんでんだから、はいちゃいな!」


フランソワーズさんを煽る、香奈恵さん。
なんだかんだと、香奈恵さんはフランソワーズさんのことを、大切な友人として心配っていることがわかる。


「・・・ジョーは手を繋いでくれないの・・・手を握って引き寄せたり、って言う感じで・・・街中でデートしていても私の背に腕がまわされてるし、なの」
「フランちゃんは手を繋いで歩きたいわけね?」
「ったく、そんなことでイチイチ、街中の男が片膝をついてアンタのご機嫌取りをし始めるくらいの、悩ましげな憂いた表情(かお)で不機嫌にならないでよ!調子狂うわ!簡単じゃない、言えばいいのよっアンタ得意でしょ?フランソワーズのお願いを無視するような島村っちじゃないじゃないっイマサラよ、それこそ。不機嫌になる理由にもならないわっ!」


はああ。と、言葉の後に肩で息を吐き、チェアの背に倒れるように体重を預けた。


た、確かに!





華やかに、天上の光纏う虹色の笑顔に煌めく、この世の碧という碧の中で彼女のもつ碧は、地球上どこを探しても見つけることができない、神のしずく。
嫉妬する女神たちをも、彼女の笑顔を見れば、極上の天酒(アムリタ)を三日三晩呑み明かす、酔いの絶頂の瞬に夢心地を思い出し、ウットリとこころ嫉妬の織を溶かして、彼女の虜になってしまう。


そんな彼女が、悩ましげに、悲しげに、憂えた宝石さえも色あせる、神秘の秘宝の瞳と、愛らしく下げた眉根で街をあるけば!!

大変だああああああああっ!



男が、放っておかないっしょ?!
フランソワーズさんを衝動的に抱きしめたくなるのが、遥か太古の時代より、全世界の男と言う性のDNAに組み込まれてしまっているんですよっ!

自覚してくださいっ。





あなたは素敵すぎるんですっ、フランソワーズさんっ



興奮した気持ちと体を冷ますように、ストローなしでオレは一気にアイス珈琲を喉へと流し込む。
体の中を通る、キンっと冷えた珈琲が、胸に、胃にたまる。

ふうっと、グラスをくちびるから離して、息を吸い込んだ。
オレの手の動きに合わせて、グラスの中の氷が涼やかに、からん。と、鳴る。

手にしみ込む氷の冷たさが、グラスに浮かぶしずくが、手のひらに熱に消えていく。





「・・・・・一度ね、一度だけ、手を繋いでくれたことがある。の、は、ある。の・・・」


んんん?




囁く声は小さく、からん、と。レモネードのグラスで揺れる氷が動いて、オレがテーブルに置いたグラスの氷と輪唱すると、その声を消してしまいそうだった。





「それは、あの・・つき合う前で、私がジョーを好きと想う気持ちを、ちゃんと自覚する、ずっと前で・・・。彼から、ジョー,から・・・突然、”外へ行こう、海岸に行こう”って誘われて・・・・」



茹だるような真夏の熱さを、肌を撫でるようにして癒してくれる冷たい潮の香り含む風が、オレの脳裏を通り過ぎた。


波の音が、聞こえる。








フランソワーズさんの声に、仕種に、そして、言葉に、オレは見た事もない、2人の海を、描く。












一定のリズムを刻み、波打ち際にひいては、かえる。
貝殻たちを運ぶ、海水泡立った白が、きらきらと、反射しては一瞬にして消える。


その儚さに、目を細めた。





海面に光舞う彼方、遠い、遠い、フランソワーズさんの生まれた国がある。





彼女は、視界の両端で”地球が丸い”ことを感じ、この海が、彼女の生まれ故郷と繋がっていることに、淋しさをかくした。


見上げる空は、同じ空。
風を肌で感じているのに、空に浮かぶ、綿のような雲は、その位置を変えないために、リアルな絵を見上げている気分になる。



視線を空から・・・ヤツの、潮風にゆれる、クセのある栗色の髪へ。
明るい日差しの中、ヤツの髪は金茶色に変わっている。



太陽の熱を捕らえて離さない砂浜は、さらさら、と。風跡を刻む。



甘く豊かに香る、フランソワーズさんの花の香りは、うっとりとするハチミツ色の髪に絡まる甘えん坊な潮風が、彼女の香りを胸に抱いて、どこか遠くに旅立っていく。



2人は、一定の距離を開けて、波のリズムに合わせて歩く。


ジョーの、背中を見つめる、フランソワーズさん。
フランソワーズさんの、視線を意識する、ジョー。




2人は同じ、波の音に耳をかたむけて。
















「ただ、歩いていて・・・



ずっと彼は何も言わずに歩いていて、



そんな彼をずっと、追いかけて。




急に立ち止まったと、思ったら・・・




”手を繋ぎたい”



って一言。




びっくりして、でも、どうしてかは聞けなくて。





・・・どきどきして、・・・・・・・ちょっと怖かったかな?





でも。
断ることなんて、私にはできないの。






・・・彼の手に、自分の手が触れた、あの瞬間・・・を、思い出したのだけど、ちゃんとは思い出せないの。


それくらい、緊張して、パニックになってたのよ、私」







立ち止まり、振り返ったヤツは、陽光を背負い。
まぶしげに瞳を細める、フランソワーズさんの耳に届いた、言葉。







”手を繋ぎたい”






差し出された手。

戸惑う碧。





けれど、差し出したヤツの手のひらに重ねられた。




変わらない、リズムを刻む、波音。
変わらない、光と風。

変わらない、青と、蒼と、碧。







「それで、ね。


手を繋いで、


海岸を歩いたの。


ずうっと、黙ったまま。


手を繋いでも、彼の隣に歩くことはできなくて、


手を繋ぐ前と同じように、彼の背を追うように、


彼の手に引っ張られるような、


そんな風に手を繋いで。









ただ黙って海岸を歩いたの。



一言も、何も言わなかったのよ・・・。
そのまま、邸に帰って・・・。


今でも、あれは夢だったのかしら?って思うくらい・・・不思議なの。



ジョーに、・・・・あのときは、どうして?って訊きたいのだけど、訊けないままなの。



香奈恵さんが、・・・手を繋いでいるところを、見て・・・あの日のように・・手を、ね?手を・・・繋ぎたかったの・・・・」











二つのシルエットが、浮かぶ。




ヤツは、ジョーは、・・・・・・何を思って、フランソワーズさんと”手をつなぎたい”って言ったんだろう?

























「ふうん、そんなことがあったのねえ、なんだか、B級映画みたい」


ぽつり、ぽつり。と、途切れるように話したフランソワーズさん。
第一声はやっぱり、香奈恵さんだった。


失礼なっ!!
フランソワーズさん主演の映画が”B級”なはずないじゃないっすか!!




「でも、ね。その後にも先にも、手を繋いだのは、それっきりなの・・・。こう、危ないときとか、急ぐときとかには、”ひっぱる”って感じであるけれど、それは・・違うでしょう?」


冷えかけたアップルティを、大切そうに両手で包み込み、温め直すような仕種。
義姉さんは、うん。うん。と、同意するかのように頷いた。


「それで、その後つき合ってからも、ないのね?」
「私が、ジョーの腕に・・腕を組む事はあるわ。でも、だいたい彼の腕は私の背に添えられてるのよ」
「島村っちは、島村っちさんなりの考えがあるんじゃないのかしらねえ」
「だから昨日、言ったの」
「っなあんだ!!やっぱり”お願い”してるじゃないっしっかりとおっ!それで、何が不満なのよ?」
「・・繋いでくれなかったの」
「あらあら」
「ヘタレねっ」


オレは2人のリアクションに便乗する。

ジョーっ、何やってんだよっ!


「ごまかすみたいに、抱きしめられて、キスしてくれて・・・あとはいつも通り」
「どうせ、あ~んたたちのことだからさあっ!街のど真ん中で一目も憚らずでしょ?そっちの方が問題なの!手をつなぐ方が公共ワイセツ罪にひっかからないのよ?!」
「・・・理由、聞いてみたの?フランちゃん」
「昨日の、今日ですもの・・・聞いてないわ」
「ったく、簡単じゃなあいっ聞きなさいよっ!もしロクな返事がもらえなくて、あんたが変わらず”不機嫌”になるんだったら、私が一発ぶん殴ってあげるから!!!!!!」


ぶんっと香奈恵さんの拳が空気を切る。

・・・・いい左をお持ちですね、香奈恵さん・・こわっ・・・・。







「聞いても、いいのかしら?」


宝石を縁取るレースのようにととえられた、繊細に揺れる睫は、カフェに舞い散る、自然光を優しく集めるように、何度か不安げに瞬いた。


「良いに決まってるじゃなあいっ!”手をつないでくれないのは、どうして?何か理由があるの?”ってねえ?モエモエ」
「ええ!もちろんだわっカナカナの言う通りだと思うわ、フランちゃん」


・・・女子高校生のノリですか?
ちょっと、見ていてひいてしまうんですけど、オレ・・。
(義姉さん、高校卒業したの・・・ぐはっ、足っ足っっ、義姉さんっパンプスっか、っかか、かかっとおおおおっ!)




「フランちゃん、今日も、島村っちさん迎えにくるんでしょお?」


フランソワーズさんは、頷いた。
陽の光に、明るい亜麻色の髪が、彼女の動きを追いかける。

フランソワーズさんのトレードマークの細く、スワロフスキーのビーズをあしらったカチューシャが、きらり。と光って、オレは片目を細めた。













####


午後の光は木漏れ日のように淡く、ときおり揺れて影をさす。
ウィンドウのフレームで区切る街行く人々は、古ぼけた16mmフィルムのコマのように見えた。

店内に漂う、ほのかにパンが焼ける香り。
夕方の帰宅途中のOL、会社員、夕食の買い物途中のお母さんたちをターゲットに、明日の朝用?目的でお買い上げいただくパンを焼く。
これが意外と好評なのだ。

売り切れごめん!で、だいたい完売する毎日。



美味しそうな香りが店内を包むころ。
店が少しばかり慌ただしくなる。が、裏口から入ってきたのか、スタッフルームから姿を現した美恵子さん(義姉さんの高校時代の同級生で、カフェAudreyの唯一の正従業員)が、オレに向かって手を振った。

義姉さんも、オレの様子に気がついて振り返ると、柏手を打つように手を合わせ、ぺろり。と、下を出す。
すると、美恵子さんはおどけた様子で、拳を作り、はあっとその手に息を吹きかけて笑った。




ジョーが、いつも車を停める有料駐車上の方角から歩いて来るのが、カフェのウィンドウから見えたのは、話題のトピックがかわって、30分ほど経ったころ。


オレは、ヤツをウィンドウ越しに見る。




空気が違うんだ。
ヤツの周りだけ、空気。と、言うか、空間・・・が違う。

時間の流れの違いを、感じるんじゃなくて、”見る”んだ。




ゆったりと前に出す、足。
スニーカーは黒。


着慣れたジーンズは色褪せて。
癖のあるラインが、ジョーの仕種を表している。



暦の上では処暑を詠み、長い夏の終わりを告げようとしているけれど、相変わらず、店内の冷房の温度設定は変わらない。

・・・のにも関わらず、


ヤツを追い抜いて、歩き去るサラリーマン風の男のシャツは、べったりと体に張り付いてみえたのに。
無造作に着ているヤツのシャツは、歩く速度に合わせてゆったりと揺れる。




汗って言葉、知ってますか?
いや、それ自体が・・・お前人間じゃねえだろ?











ドアのチャイムがちりりんっと鳴る。
冷やされた空気が、ジョーを包み込む。と、ヤツはほっと、息を吐いた。


あ。やっぱり暑かったんだ・・・。
でも、なんでそんなにっ三、三、三組、爽やかさん(くみ)?!>知ってる人は知ってる。




レジ前にいた1人が、ジョーに気づく。と、彼女にむかって優しい、甘みを含んだ微笑み、(これを、老若男女問わず、ときめきプレゼント実施中!の、香奈恵さん曰く、容赦なく無駄にフェロモンをスプリンクラーのようにふきかけまくる状態)で答えて、テーブル席へと視線をむけた。


いつもの時間に来る彼だから、アルバイトの彼女もよく知っている。
彼が彼女のために、この店に来ていることを。
なので、そのまま彼をテーブル席に案内するようなこともなく、少しばかり上気した頬の色で、ジョーに向かって頷く仕種で答えた。




ヤツ独特の歩で、テーブルに近づいて来る。


「・・・・お揃いで」
「いらっしゃいませ、島村っちさん」
「よお、何にする?」
「・・・珈琲」


オレの前を通り、当たり前のように、フランソワーズさんの隣の席に座る、ジョー。


そう、・・・・そのために、この席は先ほど義姉さんが、フランソワーズさんから返してもらった少女漫画の入った紙袋を、スタッフルームへと置いてきた。






「島村っち、なんでアンタ、フランソワーズと手をつながないのよ?」



いきなりっすか?!



ジョーが席につくなり、香奈恵さんは今日のメインテーマをさらり。と、口にしてしまった。


「か、か、香奈恵さんっ!!」


ジョーに向かって微笑み、いつもように、彼にキスしようと腕をのばしたフランソワーズんさんの手が止まり、香奈恵さんの方に驚きの視線を投げた。


「手?・・・を、繋ぐ?」


香奈恵さんの言葉に、眉間に皺を寄せつつ呟かれた、ジョーの声。
が、しっかりヤツは、フランソワーズさんの頬に手を添えて、彼女の頬にキスを一つ。

フランソワーズさんは、頬で受け止めたジョーのキスの感触に、香奈恵さんから視線を外し、困ったように、眉根を下げてジョーを見つめて、そのくちびるにそっと、触れるだけのキスする。



いつもよりも、ほんの少し、・・・切なく見えた。


ジョーは目蓋を閉じる事なく、そのまま彼女のキスを受け止める。
フランソワーズさんの隠されていた、碧が再びこの世に現れて、・・・その宝石を覗き込み、言葉にせずに、ジョーは彼女へと問う。






”何の話し?”




「フランソワーズと手をつながないのは、なんでよ?」


香奈恵さんが、言葉を繰り返した。

「・・・別に、・・・・・必要ないから」
「あらあら・・」
「っっ!」
「っ香奈恵さんっ!!」


がたんっ!っとイスが、テーブルが揺れた。
勢いよく立ち上がって、腕を振りあげた香奈恵さんっ。

フランソワーズさんも立ち上がり、香奈恵さんを止める。


「ったく、相変わらずっヘタレへの愛よ、愛っっ!殴らせなっ」
「・・・いったい、何?」
「もう、お願い・・やめて香奈恵さん、ここは店内よ。萌子さんに迷惑がかかるわっ」


義姉さんの名前を出されて、ちらり。と、視線を義姉さんにむける。
ただ、香奈恵さんにむかってにっこり。と、いつものように義姉さんは笑った。

それだけで、香奈恵さんは振り上げていた拳を降ろして、大人しく席に着く。




・・・・じ、実は義姉さんが最強?!



「・・んだよ?」




あれ?
・・・・ジョーも機嫌が、あまりよろしく、ない?
香奈恵さんのせいもあるかもしれないが、いつもよりも対応が・・・?
まあ、この暑さだし、そういえば・・・ジョーってイギリスから帰ってきたの、2、3日前の、はず・・・。
あ、だからあの一流ホテルに・・・?


わかってしまう、自分が悲しいなあっ・・・まったく!!






オレは、残りのアイス珈琲を飲み干す。
使われなかったストローが入った白の封が、グラスに浮かんではすうっとテーブルに降りおりる雫に濡れた。



海外(向こう)での準備に、日本とイギリスを往復する生活を送っているジョーは、オレたちが想像するよりも、かなりハードな生活をしているらしい。
(先月のモータースポーツの雑誌で知ったんだけどさ)



ジョーの態度が不機嫌な原因はそのせいかも。
さすがに、疲れてるのかも?






「あのね、島村っちさん」
「・・・?」


義姉さんの声に、ジョーはフランソワーズさんから視線を外す。


「フランちゃんがね、島村っちさんが手をつないでくれなくて、淋しいって言うのよ」
「・・・・手、を?」
「そうよお。女の子にとってはとおおっても、大切なことなんだから!!」
「昨日っ!フランソワーズに言われたのにっ無視したんですってねえっ?ヘタレのくせにっフランソワーズのお願いを無視するなんて一億光年早いのよっ!!」


2人は交互にリズム良く、ジョーに先ほどの話題を聴かせた。
その、なんて言うか、顔で笑っていても・・・(いや、香奈恵さんは笑ってないけど・・・)


うわ・・・なんか、・・・怖いよぉぉぉぉ。
(婿養子ってこんな感じ?!)





「フランソワーズ、どういうこと?」


話し続ける2人の声を、遮るように、ジョーはフランソワーズさんに向かって訊ねた。


「・・・・・・・」
「・・・フランソワーズ?」


ジョーのアンバー・カラーの瞳がフランソワーズさんに訊ねる。
フランソワーズさんは、まっすぐにジョーの、その瞳を見つめて、すこし緊張気味に開いたチェリーカラーのふっくらとした、くちびるが動いた。


「昨日、・・・・手を繋ぎましょうって、言ったわ、私」
「・・・それで、繋がなかったからって、・・それがそんなに重要なこと?」


小さく、こくん。と、頷いた。


「・・・手を繋いだ事、ないもの」
「・・・・・あるだろ?」


2人は見つめあい、囁くようにして会話する。
それを、黙って見守るオレら、3人。


カフェ店内の、全ての音が。
ウィンドウ越しに聞こえてくる、街の雑踏から浮き上げっていく、2人の声。


「ジョーの言う、のと、少し違うわ」
「違うこと、ないよ・・・、俺が頼んで、邸近くの海岸、一緒に歩いたろ?」


オレの座る位置からは、ジョーの表情(かお)を見る事ができない。
ヤツの長い前髪が邪魔してる。


「あの日だけなの?」
「・・・・・・あの日は、・・・その・・・・・・・特別...」


ジョーの声は、甘いテノールに、低音のノイズをカットした。
心地よい響き。

ん?

でも、・・・なんか歯切れが悪いぞ?




「・・特別?」
「俺にとっては、ね・・・。でも、覚えてたんだ、あの日のこと」
「当たり前よっ!!だって、すごく・・・すごく・・・びっくりしたもの」
「・・・好きだったから、・・・・お願いしたんだ、けど?」


フランソワーズさんの空色の澄んだ空が、大きく深呼吸する。


「ウソ・・・だって、それじゃあ」


食い入るように、世界は彼だけ。と、言うように、見つめて。



「ウソじゃない。それが嘘じゃなかったら、キミより俺の方が・・・って?」
「・・・ジョー、だってあのときはまだ、私・・・」


---あなたに、009に憧れていて・・・・・・まだ、好きだって自覚は・・・・・・・。



「フランソワーズが考えているよりも、かなり前から好きだったんだ、よ。俺、キミのこと」
「・・・初耳だわ」
「・・・言った事ないもん、俺」



もん?!



「どうして?」
「・・・・・・もう、いいだろ?」
「知りたいわ!」
「いやだ」
「教えて?」
「ヤダ」
「も!どうしてっ!!」


フランソワーズさんの、小さくて白い手が、ジョーの、腕に。


「・・・・・・言ったら、笑う..よ」




それは、オレらが、か?!




ジョーは拗ねるような口調で、呟いて・・・・、俯いた。




「島村っちのくせにっもったいぶるんじゃないわよっ!しっかりはっきり、鍛えた腹筋を駆使して笑って差し上げるから!いいなっ」
「そうねえ、ここまで会話に参加してるんですもの、訊く権利があると思うのだけど?私は、笑わないように努力します!・・・大地っ珈琲は?!」
「は、はい!!」
「・・・まいった、な」


俯いた顔を上げて、ジョーは今日初めて・・微笑みを、その甘い顔に浮かべた。



オレは急いで、レジカウンター奥の厨房へと走り込む。
ジョーの分の珈琲を、カップに注ぎ、零さないように!と思うけれども、急ぐ足がつくる震動に、素直に答える黒い液体は、カップソーサーにたまる。

テーブルに置いた、それを見て呆れたように、またジョーは笑った。


なんだ・・・機嫌が悪いんじゃないんだ。
外の暑さでちょっぴり苛ついていたんだな!こいつう!


「大地、中身半分・・」
「あとで注ぎ直してやるって、で?笑うような理由なのかよ?」


再び、イスに座った俺。
女の人、3人の会話にはさすがに口を挟む(勇気がない)のは、遠慮していたが。
ここにジョーがいるなら、問題なし!


どんどん、突っ込むぜ!!

(あ、義姉さんが・・美恵子さんに・・・・)





「・・・う..ん・・・・・・人によってはだろう、けど。・・・・・・できたら言いたくない、よ」


美恵子さんが、ジョーのための、新しい珈琲をもってきて、オレがいれてきたのと交換する義姉さん。


・・・初めからそうしてくれたら、いいのに・・・。


「私にも?」


ヤツの腕を引いて、こちらを向いて。と、おねだりする。
フランソワーズさんは甘えて、上向き加減に顎を上げた仕種でジョーの瞳を覗きこみ、彼女の声は少しだけ、オレの胸を痺れさせた。


オレの腕にも甘えてくださいっ!


「・・・・・そういうの、あるだろ?」
「ないわ!」
「・・ないの?」
「ないのよ?」
「・・・・・・俺は、ある」
「全部知りたいの、私、ジョーの全てを私のものにしたいの。だから、ジョーに私の知らない秘密があるなんて、許せないわ!」
「・・・話さなかったら、どうなるの?」
「怒る」
「・・・怒るんだ?」
「ええ!とってもっいっぱい怒るわ」


香奈恵さんの大きな口が左右にへにいいいいっと引っ張られて、嬉しそうですね・・・。


「いいよ、怒ったら。怒ったフランソワーズも好きだから、ね」
「もちろん、どんな私でも、あなたは好きなはずよ?」
「うん」
「でもね、今回は違うの」
「・・違う?」
「そう、違うのよ?」
「・・・・・・どう、違うんだよ?」
「手を繋ぐから。・・・・ジョー意外の人と、手を繋ぐわ」


ジョーの肩が、息が止まって、アンバー・カラーの瞳が時間を失う。


「・・・俺以外の人と?手を、繋ぐ?」
「ええ、そう。・・・・・・ジョー以外の男の人とよ。手を繋いでくれる人と、一緒に街を歩くわ」


にっこり。と、花が咲く。


オレでも、いいっすか?!






「・・・・・・・泣くよ?」


ちょっ!!泣くのかよ!
・・・それくらいでか?



「泣いても知らないわ。勝手に泣いてちょうだいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、泣くよ?」
「ええ、どうぞ!ジョーが泣いてる間、私は楽しく手を繋いで街を歩いているわ、きっと」
「ふうん・・・」




おおっ!
大胆発言ですよっフランソワーズさんっ。
(オレでよければっ、この手をどうぞっ)




「本当なの」


自信たっぷりに言い切るフランソワーズさんは、愛と美の女神アフロディテさえも嫉妬して憤死すかねないほど、魅力的に微笑んだ。




「・・・そろそろ帰るよ」





ええ?!



席から立ち上がり、テーブルにあったレシートを持ってレジへと向かう、ジョー。
義姉さんがジョーを追いかけて行く。

フランソワーズさんではなく、義姉さんがジョーを追いかけていく。のに、フランソワーズさんは、席に座ったまま、離れて行くジョーの背を見つめていた。

香奈恵さんは、にやにやと面白そうに嗤っている。










フランソワーズさんは、ジョーを追いかけない。











「”手をつなぐ”くらいでっ!!ったく、弟よりもお子ちゃまねえっ」
「フランソワーズさん、ジョー、帰っちゃいます・・よ?」
「いいのよ、あ~~~~んな、ヘタレ。たかが”手を繋ぐ”くらいの事で、あんなにひた隠す方が悪いっ、フランソワーズ!あんなのポイっしちゃいな!ポイっ!よ、ポイっ!!いい男紹介するわっ、弟じゃつまんないもんねえ?」


ああっ香奈恵さん、オレの気持ちを・・・・・・・エスパー?





ゆっくりと、冷めてしまったアップルティーの、カップをそっと両手に包み込んで、薄くなってしまった香りを、求めるように、カップにくちびるを添えた。

フランソワーズさんの、喉が、こくん。と、鳴る。


カップをテーブルに戻したとき、フランソワーズさんの視線は、レジカウンターへとむけられた。



青空に雲の影。
おおきな、こぼれ落ちそうなほどに、おおきな瞳はレジ前に立つジョーの背に向かって問う。


”本当なのよ?”














オレはレジカウンターで支払いをしている、ジョーの方へと視線をむけた。


「・・・・あ、あれ・・って・・・」








フランソワーズさんが、イスから立ち上がった。












グー、パー。グー、パー。と、

開いて、閉じて、開いて、閉じて。と、動く、のは・・・・ジョーの手。
















カフェ・Audreyのレジ。
ケーキが並んだショウ・ケース、義姉さんはお持ち帰り用に・・何かを包んでいる。




ジーンズに財布を閉まったジョーの手が・・・不思議な動きをしていた。







グー、パー。グー、パー。

開いて、閉じて、開いて、閉じて。





手は、ジョーの背・・・ベルトあたりに添えられて、ぐー、ぱー。ぐー、ぱー。を繰り返した。






”フランソワーズ、来て...?”







フランソワーズさんは、慌ててジョーへと駆け寄っていく。
白に、薄いブルーの小花が散る、切り返しのないベビードール風のワンピースが、ふうわりと、眩しげに広がって・・・まるで・・・小さな女の子が飛んでいってしまう風船を捕まえるように。




しっかりと握られた、手。と。手。













んだよ、結局そうなのかよっ!
もったいぶってんじゃねえよっ、ジョーっ!





「ありがとうございました~♪ またいらしてね、フランちゃん、島村っちさん」


ジョーは義姉さんから、白い箱を受け取った。


「ええ、またね萌子さん。さようならっ、大地さん、香奈恵さんっ!」











手を繋いで。









幸せそうに輝く笑顔は、オレじゃやっぱり無理なんだよな・・・・。






歴史に名を残す、どんな天才画家でも、彼女のあの笑顔を再現することはできない。
カメラだって、その輝きを捕らえることなど、100年先の科学技術を持ってしても、無理だと思う。



不機嫌な果実は、ご機嫌の完熟食べごろ果実。に、早変わり。



右手にケーキの箱。
左手にフランソワーズさん。


ドアを肩と肘で開けたジョーは、こちらに振り向くことなく、長い前髪に隠しているために表情は見えない、が・・・。
店内に入り込む、オレのこころに答えてくれた夏を惜しむ風が、・・・・そして見えた、ヤツの・・・。



ドアのチャイムがちりりんっと鳴る。
手を繋いだ、初々しい恋人たちに、また来てね、と。

















「みたああああああああああああああああああああっ?!カナカナ!」


彼らが去った後。
義姉さんは大興奮で、レジカウンターからオリンピックの公式記録を塗り替えんばかりの勢いでテーブルに戻ってきた。

「ええっもっバッチリね!」


まあ、その興奮具合も分からなくないけどさ!


「・・・すっげえ・・・・・ジョーのやつ、顔も耳も・・・あれは絶対」
「全身茹で蛸よっ!!島村蛸ね!いい感じに茹であがってるわ~あれはっ」


変だぞ!
手を繋ぐぐらいで、何をそんなに・・・、ゆであがってるんだ?!



「フランちゃんが島村っちさんの手を取った瞬間っ、島村っちさんったらっ!ああ、私のボキャブラリーじゃ、あんなの表現できないわあああああああああっ!!」


お、落ち着いてくださいっ義姉さんっ!
(あなたは兄貴の嫁!)


「ふふふふふふfっ!!モエモエ~、私さあ、思うんだけどお・・・」


ああ、か、カナカナっ何か良からぬ事を考えてますねっ!!














####


「ジョー?」

「ねえ、」

「じょお?」

「Joe?」

「ジョウ?」

「ねえ、ジョー?」


彼女を引っ張るようにして、歩いていたが、彼女は歩く速度を遅くして抵抗したために、彼は、彼女へ振り返らず、歩みの幅を狭めて、そして、そのテンポを彼女に合わせた。


「なに?」
「理由、教えて?」
「手を繋いでる。・・・これでいいだろ?」


ぶっきらぼうな言葉。


右手にケーキの箱。
左手にフランソワーズさん。



「もう、誰もいないわ、私だけよ?」
「・・・・・・・・・」
「どうして、”特別”なの?」
「理由なんてない」
「嘘」
「・・・うん、嘘」


ジョーが車を止めている有料駐車場は、カフェ・Audreyから角を曲がって2、3ブロック離れた場所に、オフィスビルに挟まれた一角にある。


「・・・・・・・私、あのとき・・・・、びっくりしたけど。嬉しかったのよ?009じゃない、ジョーの手が、嬉しくて、幸せで、ずっと、このままでいられたら、って思ったの」
「・・・」
「でも、正直痛かったわ」
「痛かった?」
「ええ、とっても、痛くて、辛いかったの。・・・・・・駄目だって、009だから、ジョーにはもっと私なんかより、素敵な、ふさわしい女性がるから・・・・・・」
「いなかった。キミしか見てなかった、よ・・・・ずっと」
「嘘つきね!」


ジョーが握っている手に、力を入れる。


「嘘じゃない」
「でも、知らなかったのよ?私。・・・こうやって、ね?手を繋いでいる事が、嬉しいの。でも、あの日はすごく変な気分だったわ。ふわうふわ、して、どきどきしているのに、ちくちくと、悲しかったの・・・憧れの人と一緒に・・・なのによ」
「・・・・・死ぬほど勇気がいることだったんだから、な。・・・手を繋いでほしいって言う、の・・」
「がんばったのね!」


隣を歩く、フランソワーズさんは興味津々にジョーの顔を覗き込むように窺う。
絶対に理由を言うまで、諦めない!と、彼女の意思の強さが碧の宝石を輝かせる。


「それで?」



この瞳をされたら、もう、話さないわけにはいかないことを、ジョーは長年の経験からよく知っている。
このまま黙っていたら、きっと彼女は・・・・・・。


ジョーは観念したかのように、早口に言い切った



「俺だって・・憧れてたんだ、よ。・・・・キミに、キミとっ好きな女の子と手を繋いで海岸を歩くことっ」
「・・・え?」


ジョーの頬にさす朱が濃くなる。


「っだから、もう俺の中で、あのとき、キミと手を繋いで歩いた。ってことが・・・特別、で。思い出すだけでも恥ずかしいんだよっ!もう・・いいだろうっ」




頬から広がっていく朱の色に、フランソワーズは釘付けになる。


「ジョー・・・あなた・・・・」









---憧れていた。

  強くて、気高くて、優しくて、愛らしくて、綺麗で、・・・温かくて、・・・どうしようもなく気持ちがキミへ傾いていく。

  


  だから、キミとだけ手を繋いで。
  だから、キミとだけ手を繋いで海岸を歩いた。
  
 






  憧れの、キミと手を繋いで海岸を歩くのが・・・・・・。



  唯一、あのときの俺ができる”好き”の表現方法だった・・・・・から。
  

















白い箱が落ちた。





同時に、その手が彼女の頬に触れて、誤摩化すように、キス。







落とした白い箱の中身よりも、甘くて、美味しいくちびるの、彼女。
今朝飲んだ珈琲の苦みを胸に残してながらの、彼。




繋がれた手は、そのままに。







立ち止まる事なく、通り過ぎる人々は自分が映画のエキストラになった気分だろう。
世界は、彼らだけを見ている。











街の雑踏にまぎれて、肺にこもった熱が作り出した音。



「告白してくれる?」




キスが・・・とまる。







「・・・・・?」
「ちゃんと、好きです。つき合ってくださいって言われたいわ」


愛らしく形良いくちびるが、囁いた。

「・・・・」
「ね?」
「・・俺、キミにプロポーズ、したんだけど?・・・・保留にされてるけど、ね」


頬にふれる、彼女のくちびるをくすぐったそうに、受けながら、ジョーも囁いた。


「・・・・言って?告白して?」
「・・・」
「もう一度、恋愛しましょう?」


ジョーの手を強く、握る。


「もう一度って・・・」



こぼれ落ちそうに大きな宝石は神秘的な碧の色を輝かせながら、強さを秘めた煌めきを生み出す。
瞬きもせず、フランソワーズさんは言う。



「あの日の続きをしましょう・・・・・あの日の、あなたに会いたいわ」








---・・・・・・・・好き、だ。


好きな女の子と・・・・君と手を繋いで海岸を歩く。ことに、憧れていた。
初めて観た映画の、初めて”恋人”と言う言葉を知った日から。


いつか、自分も同じように愛して愛されて、こうやって繋がれて歩くんだ。っと、憧れていた。






たった二文字が言えなかった、言う事を、諦めた・・・・・。
言ってはいけないと、こころの奥底に沈めた、あの日の、あのときの、俺。


手を繋ぐこと。
それが、唯一自分にできた表現。






「あなたの気持ちを伝えて・・・あの日の、”手を繋ごう”の・・・理由」







深く、深く、深く、慎重に息を吸い込む、ジョー。


「フランソワーズ、キミが・・好きだ。・・・・・・俺と、結婚を前提につき合ってください」

「いや」











「おい・・・・・」

















「結婚前提は余計なの!それはまだ、もう少し物語が進んでからなのよ?」


ジョーのアンバー・カラーの瞳が驚きに見開かれた。


「・・・物語って・・・・・」
「もう一回!」
「・・・・・っ」


びし!っと、人差し指をジョーの目の前に突き出す、フランソワーズさん。

ジョーは、彼女を抱き寄せていた手を解いた。
そして、半歩ほどフランソワーズさんから距離を取る。


「・・・・キミは、これから”島村ジョーの彼女”です、って自己紹介することを、命令する」
「初めまして、私は島村ジョーの彼女です。って?」
「そう」
「命令なの?」
「そうだ、よ。命令。だからキミは逆らえない」
「・・・・告白じゃないわ!」
「俺の命令は絶対」


ぷうっと頬を膨らませて抗議する、フランソワーズさんにたいして、微笑んだジョーは、繋がれたままの彼女の右手を持ち上げて、その手の甲にキスを一つ。


「好きだよ・・・フランソワーズ・・・・・・愛してる。キミに命令できるのは、009である俺だけだから、命令させて・・君は俺のだ、って」


ジョーの視線が、重なり合った手に落ちた。











あのときも、そうだった。


重なったキミの手は、小さくて柔らかくて・・・。

繋がれている手の温度があがって、汗を掻くのを我慢しないと。と、焦るほど、じわじわと表面に湿った感覚が襲ってくる。
どきどきと、気持ちは高鳴り、キミの顔がまともに見れなくて、ゆっくりと歩きたいのに、早鐘打つ心臓が、それを許してはくれなかった。

海岸に誘うだけでも、NBGと戦うよるも勇気が必要だった。
”手を繋いごう”と頼んだときの俺の気持ちなんて、・・・キミには想像できないだろう、な。





初めて観た映画のタイトルなんて、思い出せない。
・・・・けれど、思い出せば、そこに、手を繋いでいる、俺とフランソワーズの姿が浮かぶ。


















俺なりの・・・告白だったんだ、よ。
生まれて初めての。




「好きだ、よ。愛してるよ、フランソワーズ・・・キミ以外、いない」
「・・・・もう少し、歩きたいわ・・・・・、このまま」





手を繋いで。









「ケーキ、買い直さないと、な」



2人は、再び歩き出した。






































今、店に戻ってくるのは、あまりおすすめしないぜ、ジョー!









end.


















・言い訳・

はい~!
「9999番」を踏んでいただいた、y___さまへのキリリク・ストーリーでした。

リクエストをいただいたのは、”大地くん・シリーズ”で。
「自分では敵わない、だからこの二人なんだな。の、大地君が2人を見て感動してしまう、
二人の絆がわかる甘くて可愛いおはなし。とのことでした。

・・・・お答えできてますでしょうか?!
感動っていうか、”やっぱりな~・・”的なんですけれど・・・・。
絆=手を繋ぐ!と、単純脳細胞が妄想いたしました・・。

可愛いのポイントを、過去のウジウジ9(笑)に感じていただけると・・・嬉しいです。
幼い9が口をぽかん。と、開けて映画を見惚れているのを想像するのは、楽しかったです。

「ぼくもっ!ぼくも!!大きくなったら大好きな人と一緒にあんなふうに歩くんだよ!」

なあんて・・・。
ずうっと、こころの中に抱いていた野望?だったご様子です(笑)


今回もタイトルに再び悩みました。「Evergreen」は、ふと、添削中に思い浮かんだのですが・・・。
初めにタイトルをつけないので、一番時間がかかるのは、タイトルなのかもしれません。

意味は、永遠の緑(エバーグリーン)の意味の常緑の葉を花束に使うと、永遠の愛を贈る。ということらしいんです!!

もうっ!これっきゃないですよっ。
で、タイトルです。(密かに、9はまだまだ青いんですって意味も・・・?)


お花屋さんが言うには、プロポーズ時の花束には差し込んでおきましょう。だ、そうです。





こんな感じに仕上がりました(どきどき)が、もっと甘々でっ!可愛いのんっ!っと思われましたら、遠慮なく、本当に、遠慮なくお知らせくださいね・・・。>y___さま。



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あしくび/ボクのせい?キミのせい?
フランソワーズ!!と、ミッション中にもかかわらず、009は彼女の名前を叫んだ。
奥歯を強く、強く噛み締める。




止まった世界の中で、間に合え!と、叫んだ。











「い・・・たあい・・・」
「っ大丈夫?!けがはっっ?!」


腕に003を抱きかかえて、がらがら、と、崖からすべりおちる衝撃を背で受け止めながら、足を踏ん張り、土を蹴って飛ぶ。
人では考えられない脚力を使い、崖を軽々と駆け上がって行った。


---まさか、あの場面で撃ってくるなんて・・・。







009の判断ミス。
003を危険に晒してしまった。と、唇を噛み締めた。


仲間達と合流する。


腕に抱えていた003を降ろそうとそっと、003を地に降ろしたとき、彼女はの顔が痛みの衝撃にゆがみ、躯が大きくよろけたために009の腕にしがみつく。


「フランッ?!」
「・・・足を、少し」


009は再び003を抱き上げると、一足飛びにドルフィン号へと向かった。













####


「足首を不自然に捻ったようじゃなあ・・・。まあ、心配いらん。当分大人しくしてなさい。人工筋肉が切れているわけでも、伸びたわけでもありゃあせんでな、X 線で見る限り以上なしじゃ」


ギルモアの診断にほっと安堵の息を吐いた009の様子を見るギルモアは、こころなしか微笑んでいるように思える。


「でも、無理しちゃいかんでな、固定しておくがいい。009頼むぞ、そこに包帯があるから、湿布と一緒に持って部屋に連れて行きなさい」
「え?」
「儂はこのまま006を診るからのう。しゃっくりが止まらんらしい・・・まったく、しゃっくりするたびに、ぼ、ぼ、と火を噴かれていたら、このままじゃと邸があっと言う間に燃えてしまうわい」


ひいっく!ぼっ、あちゃああああ!!!
ひいいっく!ぼっ!うわあああああっこっち向くんじゃねええええっ!


派手な声がさっきからメンテナンスルームの外から聞こえてくる。


「ここに居たら、丸焦げになるぞ」


ギルモアは009の手に必要なものを持たせて、さっさと003と共にメンテナンスルームから追い出した。











####

ひょこり、ひょこり。と、捻った足をかばうように歩くために、手に持っていた湿布や包帯を003に押し付けてさっと、003を横抱きに抱き上げた。


「ったく、博士は・・・適当すぎるよ!」
「006の方が重傷よ?邸が燃えたら嫌だわ」


抱きかかえられて、普段よりももっと近くに見上げるジョーの顔。
長い前髪が歩く揺れに合わせて、ふるえる。

まっすぐに足を進めて割り当てられた003の部屋に向かう。





「…・・・」

整った美しいラインを描く顎のライン。
知的になだらかな頬骨に、アジア人にしては高いノーズブリッジが通路に備え付けられた無機質は電灯に晒されて影をつくる。

少し細められている瞳の色が、いつもより濃く、テラローズ・カラーに見えた。


綺麗。と、感想を持つ。
素直に言葉に置き換えると、その言葉以外思い浮かばない。


「?」


碧の宝玉の視線を感じて、ジョーは腕に抱くフランソワーズに視線を落とした。


「あ・・・」


見つめていた人が、自分を見返してくる。
純粋に迷いなく、見つめ返して来る瞳に、フランソワーズは戸惑い頬を染めた。


「・・・・ごめんね、フランソワーズ」
「ジョー・・・?」


フランソワーズの部屋前に立ち、壁に備えられているボタンを片足を上げて膝で押した。
シュっと、スライドする音が響き、ドアが開く。

4畳半ほどのスペースに、簡易バス。
シングルベッドと、壁際に備え付けられたライディングテーブルとイス。


ドルフィン号内では全員が同じ内装の部屋を割り当てられている。
その部屋が”フランソワーズ”の部屋であることを証明するのは、彼女が邸から持ち込んだ、乗組員達の部屋では見られる事のない女の子なアイテムたち。


そっとベッドの上にフランソワーズを降ろしてから、ルームライトをつけた、ジョー。


「なにが、ごめんなの?」
「・・・・・怪我、ボクのせい・・」
「ジョーのせいじゃないわ!・・・・・まさか、撃ってくるなんて思わなかったもの。誰のせいでもないのよ」
「それでも、ボクのせいだよ」
「ジョー・・・」
「・・足、見せて」


フランソワーズがベッドの端に腰掛ける正面に立つと、片膝をついてジョーはフランソワーズを見上げた。


「自分でできるわ・・・ジョー」
「博士に頼まれたんだよ、ボクが」


捻った左足を、そっと持ち上げて、ブーツを脱がす。
痛まないように、そろり、そろり、と注意しながら脱がしていく。

フランソワーズはただ黙って、ジョーの手元をを見守る。
素足があらわになり、ブーツに押し込んでいた防護服の裾を少しばかり巻上げる。


細く、白い、くびれた足首。
片膝ついた自分の膝上に、それをのせた。


触れるのは、素肌。
ジョーの手の体温が、伝わる。

響かないように、繊細に指先で動く。




”治療”なのだ。と、言い聞かせる。





ジョーの眉根が苦しげに下がる。









誰かの心臓が痛む。

緊張に。
後悔に。



閉ざされた空間に。
吐き出す二酸化炭素に埋め尽くされて。


頭が酸欠であることを訴えるように、痺れる。


「・・・後は邸に帰るだけだから、ゆっくり休んだらいいよ」


フランソワーズの膝上に置かれた湿布を手に取り、包帯で固定する。


「ありがとう」
「まだ痛む?」


見上げられる瞳に、フランソワーズの心臓が痛いほどに跳ね上がる。
これ以上の痛みは要らないとばかりに、首を左右に振った。


ルームライトにハチミツ色の髪が放つ光が舞う。
目を細めて眩しげに見つめる。

彼女の足首を、そっと指先で撫でて、膝から降ろすと、その手は撫でるように移動して、フランソワーズを再び横炊きに抱きかかえるように、シングルベッドに横たわらせた。


「眠るといいよ、起きる頃にはギルモア邸だから」


腕をフランソワーズの躯がから離して、彼女の赤いカチューシャに手をかけて外し、それをライティングデスクの上に置いた。


「じゃあね、おやすみ」
「ジョー・・・待って」
「?」


部屋を出て行こうとした、ジョーを呼び止める。


「・・・・もう少し、居てくれないかしら?」
「休んだ方がいいよ?」
「ほんの、少しだけ」


逡巡する思考がジョーの瞳の動きで、わかる。


「・・・少しだけ、ね」


ジョーはフランソワーズの横たわる、シングルベッドの端に腰を降ろすと同時に、ふうっと、溜め息がこぼれ落ちた。

その溜め息にいくつもの理由をフランソワーズは見つける。



「あのね、・・・」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとう。ジョーじゃなかったら捻挫くらいじゃすまなかったのよ?」
「・・・・・捻挫も必要なかったよ、ボクg」


伸ばされた白い手。


「っフラn」


上半身を起こして、フランソワーズはジョーを抱きしめた。


「お礼を言ってるの!ちゃんと受け取ってくださいっ」


きゅうっと腕に力を込めて、ジョーの首にまわした腕をひきよせると、姿勢を崩したジョーが倒れ込むようにしてフランソワーズの肩にかかる髪に顔を埋めた。




「ありがとう・・・、助けてくれてありがとう」
「・・・・」

彼の後頭部に手を回して、フランソワーズはジョーの髪に指を差し込んで撫でる。


「・・・あれくらいの爆風に巻き込まれるなんて、アタシも情けないわ!しかも崖に落ちちゃうなんて、恥ずかしい!」
「あれくらいって、フランっ」


跳ね上がるようにして、フランソワーズの肩から顔を上げようとしたが、それをぐっと、手に力を入れてフランソワーズは押しとどめた。


「あれくらいなのよ?・・・・ジョー、全部を自分のせいにしないで。アタシのミスは、アタシの責任なの。お願い、自分を責めないで。これくらいの事いつものことだわ・・・・」
「フラン」
「そっちの方が辛いのよ?」
「え?」
「これっぽっちのアタシの怪我くらいで、苦しそうに・・・」


フランソワーズの手がジョーの後頭部から離れると、自然とジョーは顔を上げた。
髪を撫でていた白の手が、ジョーの前髪を書き上げて、彼の眉間に指先が添えられた。


「皺を寄せちゃって!ジョーの綺麗な顔に跡がついちゃうわ!こんなに寄せちゃったら皺が残っちゃうじゃない!!」
「はあ?!き、綺麗っ?」
「駄目よっ!絶対に駄目っ!!」
「フラン・・・?」


ぺち。と、両手を頬で包まれた、ジョー。


「こんな小さな事で皺を寄せていたら今後どうするの?もっともっと辛い時、どうするの?」
「・・・・それでも、さ」
「も、いいのっ。アタシにちゃんと反省させてちょうだい!ジョーがそんな顔だと、できないわっ!!」
「・・・フラン」


ジョーは自分の頬を包む手に、自分の手を重ねた。


「ジョー・・・ね?・・・・お願いだから、これぽっちのことでそんな顔しないでちょうだい・・・」
「フランソワーズ・・」







囁くように名前を呼ばれて、じんっと、背中が痺れた。





「j・・・ジョー・・・?」







包まれた手が熱い。
ジョーの、頬も同じくらいに。





重なる視線。
見つめ合う瞳をそらせない。

息を吸うのさえも憚られる。
くちびるが妙に渇いているのを意識する。



どちらともなく、呼吸が止まった。
フランソワーズの手を握りしめるように、ジョーの手に力が入る。



伏せられるように、瞳が細められて。
促されるように、少しだけ首を傾けて。

近づく鼓動と体温と・・・・、ふれあおうとするのはチェリーカラーの・・・。






「いよっ!治療終わったってなっ!ほらよお、張大人がメンテ中だろっ?ミルクが熱過ぎるだの、冷た過ぎるだのっ、ウッセーンだよっ00す・・・」





開いたドアと、飛び込んできた声。





ベッドが置かれた壁際とは反対の壁に、背をぺたりと寄せたジョーと、不自然な位置に手を固定したまま、ベッドの上で固まっているフランソワーズ。


「んあ?なんだ、ここに居たのかよ009っ、お前でもいいからよっ001の満足いくのを作ってくれよっ、オレはやってらんねえよっ!!」
「う、うん!わかったよ002っ、じゃあね003、ゆっくり休んでっっ!!」
「え、ええ、ええ、ええっっ!!」
「行こうっ002っっっ!」
「お、おお・・・」


009に腕を引っ張られて、003の部屋から離れる002





「いててててて、いてててええっっいっててっ痛ってええええっっ!!!!ちっったっっ00っおいっいてえんだよっ!!」



009に握られた腕がぎりぎりと、食い込んでいった。


「いてえええええええええええええええええっって!オレをメンテナンスルーム送りにするつもりかよおおおおっっ!?」








どっどっどっっどっっどっっどっっど。と、急ぐ足音に合わせる心音。
無意識に握りしめる002の腕。

抗議の声が聞こえるものの、何がなんだか訳が分からずに、002の腕に頼るようにして、握りしめた。


---ボク・・・、何をしようと、した?!







瞬きするたびに、思い出す。



---フランソワーズの、碧と赤い・・・。



「なにやってんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「うがああああああああああああああああああっそれはオレのセリフだっ!!!」


廊下で叫び合う二人に奇妙な視線を投げ掛けるのは、アイス・ブルーの三白眼。
ドルフィン号、コモンルームのドア口に立ちながら、腕には001を抱いていた。



「なんだ?2人とも・・・003を襲いそこねたのか?」


004の言葉に足が止まる。



「ちげーよっ!コイツがっ」
「・・・・なんだ、襲い損ねたのはジョーか?」
「!!」


009に掴まれていた腕の力が一瞬、弛んだ隙に腕を振り解き009を見た002。


「襲ってなんかないっ!!」


真っ赤に茹で上がった見事な紅。
防護服よりも紅くみえる。



「おお、おお・・・全身防護服とは、さすが最新型だな?」
「マジかよっ?!・・・お前っフランソワーズに何しやがったっっ?!」
「な、何もしてないっ!!」
「じゃ、なんでそんなに茹で上がってんだよっ」
「生まれつきだっ!」


ぶっ。と、004が吹き出した。


<じょーガ、ソッチノみっしょんヲこんぷりーとスルナンテ、当分無理ダヨ・・・>
「ま、手を握るくらいで茹で上がってるみたいじゃな?」
「違うっkっ」


口を滑らせかけて、慌てて手で覆い言葉を飲み込んだ。瞬間に002が飛びかかって来た。


「はきやがれっ!!」


油断大敵。
動揺する009はバランスを崩した。











ドルフィン号が邸について。
005に抱えられて邸の自室に戻る003の後ろを、ひょこり。っと、足を引きずるように歩く不機嫌な009。


「まあ!ジョー・・・言ったわ、責任を感じないでって・・・。捻挫までして痛みをシェアしなくてもいいのよ?」
「・・・」


ボクの眉間の皺が深くなる。
それは、ボクのせい?キミのせい?









*おまけ*

邸の階段を上りきった後、ジョーは右へ、フランソワーズは左へと分かれていく、前。
フランソワーズはつん。と、ジェロニモに合図を送る。
ジョーの目の前で、そっとおろしてもらったフランソワーズは、腕をのばして、ジョーに捕まると・・・。


「お揃いね!」
「・・・」
「早くなおるおまじないしてあげるわ!」
「!!」






ちゅ!と音を立てて、ほおにキス。


ぼ!っと燃え上がったジョーを無視して、ジェロニモはフランソワーズを再び抱き上げて、部屋につれていった。


どた!っと、尻餅ついたジョー。
部屋から出てきた、ジェロニモに遥か高い位置から見下ろされて、一言。



「・・・・お前はフランソワーズにおまじないしないのか?」


---しようと思って失敗しました。






黙って立ち上がるジョーを助けた、ジェロニモは彼らしくなく、にやり。と、嗤った。












*お題は”あしくび”・・・・足首といえば捻挫!
 3に手を出すのはまだ早いってことですか・・・・。
 もじもじしてください(笑)
 
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フォーマルハウト


アポロンの翼が放つ光を集めた糸は、きらり、きらりとハチミツのように甘やかに、揺れて、靡いて、オレの胸をくすぐる薫りは言葉にできないほどの酔いをもたらす。

寒水石のごとくつるりとした肌は、神が奇跡と言う言葉を作り出した瞬間に生まれただろう、造形を象る。
広く愛らしい額に天上の神々は祝福の口づけを贈り、つん。と、すました鼻筋に、ゼウスは微笑みを絶やすことはないだろう。
すり寄せたくなるほどに、無邪気な頬はナルシスがうっとりと手を伸ばすし、なだらかに顎のラインを撫でるだろう。

ふっくらとした形良いくちびるの愛しさは、プシュケがエロスを魅了したくちびるよりも紅く熟れて、朝露を蓄える薔薇の花びらよりも、艶やかに潤う。

こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳は、ポセイドンが深海から生み出した碧の宝石。
名もないそれは、生命の碧。を、縁取る長く艶ある睫は歴史あるベネティアン・レースに使用された糸でも再現できない。

すらりとした肢体は、踊りの芸術バレエで鍛えられたもの。

ユリのように伸びる腕。
バレリーナなら喉から手が出るほど欲しがると言う、膝下が長い、弓のような足。

くびれたウェストは、コルセットをつけた時代の少女たちの羨望の的になっただろう細さ。
全体的に華奢な印象を与える躯つきだけれど、女性であることを感じさせる、豊かなふくらみは、あどけなさを残す表情と不釣り合いに感じた。










小鳥のように、小首をかしげて。
またたかせた瞼を追いかける長い睫が光を弾く。



「大地さん!」






眩しい戸惑いは一瞬にして、それが恋だと知った。
感覚を無くす痺れた痛みは永遠に、それが叶うことがないと教えた。


興奮に近い緊張。
緊張に似た興奮。

彼女が訪れる日を、指折り数え。
彼女の微笑みを、目蓋に焼き付けて。


彼女を思い出すたびに、雲にでも乗って、綺羅めく彼女の馨りと旅に出て行ってしまいそうになるほど浮かれてしまう。


恋をした。
オレは恋をした。








季節に咲く花のように、出会いの季節に恋の花を咲かせた。
その季節は・・・現実と同じように過ぎ去って、オレの恋は散っていった。



いつ、どうやって得た言葉なのか。
よくは覚えていない。

感動。とは、こころを”瑕つける”こと。




こころに瑕をつけることで、痛む。


その痛みに涙する。
その瑕は癒えても、その傷の”痛み”の記憶は永遠に。

喜びも、悲しみも、幸せも、淋しさも、全部同じ”瑕”で、その瑕を”どのようにつけたか”が、重要らしい。


瑕つけられたその痕に名前をつけよう。

オレの瑕はフランソワーズ。




永遠の恋がここにある。
この瑕とその名とともに。












「・・・・」


陽射しの強さ衰えて、柔らかさ増した陽の光が、色づいた葉がこすれ合う音の隙間を縫って、溢れ落ちた。
重なり合う影に、溢れ落ちた光は戯れて、冷たさを増した風が長い前髪を揺らした。

ジョーは手に持っていた、手のひらサイズの手帳をぱたり。と、閉じた。
ジーンズのポケットにしまっていた携帯電話を手に取ると、ある知人に電話をかけた。


「あ、グレート。ごめん、今いいかな?・・・・・いや、ちょっと見て欲しいものが、きっとグレートとすごく気にいると・・・なんていうか、感覚的な・・問題だと思うんだけど、今日、張々湖飯店は?・・・・ああ、そうなんだ、じゃ、邸で。うん、・・・・今?オレ?・・・ええっと」


ジョーは、手帳を開いた。
そして、目にとまった一節を読んだ。


「細身で華奢な躰、すらりと伸びた手足に、砂浜に打ち上げられた貝のように輝く白い肌。小さな顔に整った鼻と、サクランボのような艶やかな唇。長く クルリ とカールした睫に縁取られた大きなエメラルドグリーンのこぼれ落ちそうな大きな瞳は、光の加減によっては深い碧色に見えるときもある、トルマリンのような色彩。絹糸のような光り輝く柔らかな亜麻色の髪はゆったりと、肩にそっと寄り添うように、歩くたびに ゆらり と靡く。人を待ってるんだけど、ね・・・・」
『フランソワーズか!』
「・・・わかるんだ?」
『ジョー、それお前が考えたのか!?』
「いや・・・まあ、見せたいものの中の、ひとつ?」


手帳を閉じたジョーは、その手にこの手帳の主が用意した珈琲を飲んだ。


「・・・・・もらったんだよ・・・これ書いた人のお兄さんに・・・。本人に返した方がいいと思ったんだけど・・・お兄さん曰く、ちゃんとパソコンに清書したのを本人は持ってるから、心配ないって、・・・・うん。3冊あるウチの1冊らしい、よ・・・グレート好みだろ?」


珈琲を慌ててテーブルの上に置いて、少し腰を浮かせて手帳をジーンズの尻ポケットに突っ込んだ。


「フランソワーズが来たから、また後で・・・」


携帯電話を切り、それをテーブルの上に置きながら立ち上がり、微笑んだ。







ハチミツ色の髪が弾く光が彼女を包み込む。
あいらしく愛しい声が、心地よく自分の名前を音にする。


「ジョー!!」


腕に閉じ込める細く華奢な躯に、背にまわした手のひらで、感じる体温。
エロスさえも魅了する形良いふっくらとしたくちびるの色は熟れたサクランボ・・・・らしい。

くくく、と笑い、ジョーはフランソワーズの頬に自分の頬をすり寄せて囁いた。


「俺は一生言えないし、考えつない、よ・・・ごめんな?」
「?」
「・・・でも」
「ジョー?」


ジョーはフランソワーズの額にキスを1つ贈った。


「言葉じゃなく、俺は・・・キミを・・・・」



この躯で奏でる。
キミをこのくちびるで、指で、腕で、・・・全てを捧げて演奏するのは、俺だけだろ?


「じ。、」


重ねられたサクランボ色は、ついばむように熱い吐息を吸い込まれた。
首を傾けて、紅に埋め込まれた白をなぞり、絡めてくる熱は大胆に演奏準備に入ろうとする。


”・・・・ケーキ、持ち帰りでいい?”


脳波通信を通して伝える。
言葉を音にする口は今、別の仕事で忙しいために。





”ど、どうしたの・・・?”
”どうも、しない・・・よ”



続けられる口づけは、注目を浴びている。
フランソワーズは、息継ぎの間を上手く利用して、ジョーのくちびるから逃れる。

瞼をひらいて、フランソワーズは驚きと愛おしさにジョーを見つめた。



「どうして、泣いてるの?」
「・・・・・ん・・」
「何が哀しいの?」
「・・・・・n・・」


褐色の瞳を滲ませて。
震えるくちびる噛み締めて。

隠れている表情を確かめるように、そっと長い前髪をフランソワーズははらう。
伝う雫は幾筋もジョーの頬に線をひき、秋色の光に染まりながら、フランソワーズの瞳に映し出された。



「綺麗・・・」


嬉しそうにフランソワーズは呟くと、腕を伸ばしてジョーの首に絡まり、背伸びをして、くちびるをよせ雫を味わう。


「・・・・ねえ、どうしたの?・・何があなたを哀しませるの?」




オレは恋をした。



「可愛い人・・・ジョー・・ああ、もう・・・」




季節に咲く花のように、出会いの季節に恋の花を咲かせた。
その季節は・・・現実と同じように過ぎ去って、オレの恋は散っていった。




「泣きたいのね?」






いつ、どうやって得た言葉なのか。
よくは覚えていない。

感動。とは、こころを”瑕つける”こと。





「愛してるわ、ジョー・・・、愛してるわ」






こころに瑕をつけることで、痛む。





「ジョー・・・、好きよ」






その痛みに涙する。
その瑕は癒えても、その傷の”痛み”の記憶は永遠に。

喜びも、悲しみも、幸せも、淋しさも、全部同じ”瑕”で、その瑕を”どのようにつけたか”が、重要らしい。





「好き、愛してるわ、私はあなただけを愛してるわ」






瑕つけられたその痕に名前をつけよう。

オレの瑕はフランソワーズ。






「フランソワーズ・・・・愛してる、よ」








永遠の恋がここにある。
この瑕とその名とともに。





「俺を、俺だけを、愛して、キミが俺から離れたとき、この世は終わる、よ」
「ジョー・・・」
「本気で壊すから、覚えておいて、世界はキミの手の中だよ」
「・・・j・・?」


フランソワーズは腕を弛めてそっと振り返った。
ジョーの視線がちらり。と、放った先に、いた人。


「・・・・見捨てないで」
「!?」


強気の言葉に、弱気な言葉。
世界を壊すと脅しておきながら、すがるように、見捨てないで呟いた。

音もなくしゃくりあげる、肩に、フランソワーズは弛めていた腕に渾身の力でジョーを抱きしめた。
ジョーは甘えるように、花の薫り舞う亜麻色の髪に涙に濡れた顔を埋める。


「・・・フランソワーズ・・・・」
「秋は、夜が長くて美しい季節なの・・・・」
「・・・・・・・」
「愛して、ジョー・・・あなたの涙が枯れるまで・・・・あなただけの私であることを感じて」


yesの意味でジョーはフランソワーズの頬に唇をよせつつ、ジーンズに閉まっていた手帳を取り出すと、フランソワーズの背後で最低レベルに落とした加速で、手帳を燃やした。

一瞬で、灰になることもなく、この世から消えた言葉と彼女への想いは紅葉する葉よりも鮮やかな色を放った。


「・・・帰る、よ」


亜麻色の髪に埋めていた顔をあげて、ジョーはフランソワーズの瞳を覗き込む。


「壊れないで、ね」


不安げにまたたく褐色の瞳。


「壊さない程度に、愛して?」
「・・・・保証できない、な」


かすかに口元で笑ったジョーは、フランソワーズを抱きしめていた腕を弛めると、彼女もそれにならう。
テーブルの上に置かれた携帯電話を拾い上げ、代わりに珈琲代を置いた。


じっとジョーの動きを見ていたフランソワーズは、溜め息をひとつ。


「・・・・ケーキは?」
「なし」


またひとつ、フランソワーズは溜め息をついた。






end.










・あとがき・

気温もおちていき、季節の代わり目。
秋は何気にしっとりと物悲しさに愁える(愁傷、哀愁、悲愁)季節。ってことで!

大地くん出てきません・・(汗)
でも、彼の想いに9かなりやられてますね。

えっと、大地くんはお兄さんに手帳を取り上げられたのは、事実です。
いい加減、諦めて次にいけ!と、言う意味で、兄のムチ(笑)

取られてもへっちゃらだも~ん!ってパソコンに清書してましたが、まさか、その手帳がジョーの手に!とは、知りません。
ジョーも言う気はありません。



7は・・・?
えっと、7のお誕生日に続きます(→逃げ!)
いつだろう・・・(汗)





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Little by Little・1
(1)





日本国外で育った真鍋さくらは帰国子女として、この秋から私立女子大学へ通うことが決まっていた。
親元を、住み慣れたイギリスを離れるさくらにたいして、彼女の両親が出した条件は、ただ一つ。

大学が始まるまでは、父親の友人であるコズミ氏の元にいること。


年が明けてすぐに、生活になれるためにと、コズミ邸で下宿生活を始めた、さくら。
日本での生活も半年が過ぎて、季節は本格的に夏を迎えた。
まもなく世間は”夏休み”を迎えるだろう。


帰国子女のプログラムは秋学期から始まる。
コズミ邸から大学へは通えない距離ではないが、不便なのは確かである。そのために、大学付近にマンションでも探して、そろそろコズミ邸を出るための準備をすべきかもしれない。と、考えるが、その気になれないままに日々は過ぎて行った。



---もしも、ここ(コズミ邸)を出たら・・・。



さくらが瞼に浮かべるのは、輪郭部分がにじみ始めた人物。
詳細に思い出せた、彼の顔のディテールが長く会っていない時間の分、水彩画のように淡く頼りないものになっていた。


彼との出会いは、コズミ博士の親友であるギルモア博士が日本に定住することが決まったことから始まる。
年寄り1人に、通いのお手伝いさん1人の家に住む事になった、10代の少女にときおり訪れる年近い彼は格好の”お友達”候補であった。
長く日本を離れていたために、そして、知人らしい知人もいない彼女の生活に潤いをもたらせる理由にならないわけがない。
素っ気なく、口数少ない彼であったが、その態度はさくらを避けているのではなく、ただそういう人なのだ。と、いうことだった。

名前だけ知る、ギルモア博士の研究員として彼はコズミ邸を訪れては、少しばかりさくらの話し相手になり帰って行く。さくらの胸に新しい恋の芽がひょっこり顔を出す頃に、名案を思いついたとばかりに、コズミ博士が紹介してくれたのは、彼と同じギルモア博士の研究員、さくらと年近い女性。

必要ない、と。さくらははじめは断ったが、そのことがきっかけに前よりも彼に近づくことができた。



今は、仕事が急がしいらしい。
携帯電話のメールだけのやり取りが続いていたが、3週間ほど前から返信の感覚が空いていき、ある日を境に連絡が途絶えた。
何度か、彼と共通の友人にメールや電話をしたが、こちらも、同じ時期を境にして、連絡がつかなくなっていた。


彼から受け取ったメールは、さくらが望んでいた内容から遠いもの。

”気持ちは変わらないから。友達以上には思えない。”
”今は、みんな仕事が忙しい。”
”ありがとう”
”嬉しいし、こんな自分にそこまで思ってくれて、ありがとう。けれど、さくらの気持ちを受け止めることはできない。”
”今でも、未来でも、気持ちは変わらないと思う。”
”メールで申し訳ないと思うけれど、会っても同じことを言うと思う。何も変わらないよ。”




何度も一方的に贈り続けたメールにやっと返信してきた内容に、瞼を腫れさせて朝を迎えた。


”ごめん。気づいていると思うけれど、・・・・俺の気持ちは同じ邸にいる彼女にある”


その3日後、に彼と共通の友人ジェットからメールが届いた。

”sorry! 何かと忙しかったっ!”


偶然にも、2通の招待状が届いた同じ日だ。



1通はコズミ宛。
そしてもう1通は、さくらの父が受け取ったものを、さくら宛に送り直したものだった。





私立、月見里(やまなし)学院主催のチャリティ・イベント”あやめ祭”の招待状。


「おじさまも招待されたのでしょうっ?だったらギルモア邸のみなさんも誘うのはどうかしら!!チャリティ・イベントだし、大勢の方が楽しいと思うの!!」


---二人きりで会いたいけど・・・。




片思い。

彼にはさくらの気持ちを伝えてあるけれど、その彼からは色よい返事どころか・・・。
自分以外の女性に片思いをしている、彼。


さくらの目から観て、彼の片思いは、片思いではない。
本人同士に、彼らにどんな”障害”があって、そんな状況に陥っているのか、さくらには関係なく、関わろうとも思わないが、彼が思う女性にたいして攻撃的になる理由となっていた。


想い合っているにも関わらず、伝えない。
なんてバカなことだろう。

相手を思ってそうしているのだ。と、そんな2人を庇う”親友”の声。
けれども、さくらには理解できないでいた。



伝えないなら、その気がないのと同じ。
想うだけで満足なら、見えない神に一生祈りを捧げるシスターのように、生き続けていけばいい。


想うだけでは何も変わらない。
行動するからこそ、自分を自分でコントロールし、自分がイメージする道へと進んで行く先に近づける。


自信があるわけじゃない。
彼のこころが簡単に変わらないことも、わかっている。
それでも、さくらは諦めない。

彼らが行動に出ないかぎり。
自分にはチャンスがあると、信じている。


誰でも、人というものは、望みがないからこそ憧れて手を伸ばしてはみる。
けれども、そんなことをしても駄目だ。と、限界をしれば、手が届く場所にあるものに目をむけて、自分の領域にある、手が届くものを手にする。


それが私であればいい。




だからこそ、携帯電話を手にとりメールを打つ。
登録されたアドレス。


片思いの相手の名前は、島村ジョー。
その彼が想う相手は、フランソワーズ・アルヌール。



「さくら、チャリティの2日目なら時間があると返事があったぞ・・・」












####


あやめ祭の準備が着実に進む月見里(やまなし)学院は、当日の2日前、全学院生を寮から追い出した。

3日間行われる”あやめ祭は、参加者(シニア)、実行委員(代表会)以外の生徒は自由参加であるために、学院は1週間の休校。そのために寮はすべて閉鎖されるのである。

コズミ博士が持ち帰った、”サイボーグ”に関する資料から始まり、辿って行った先にあった事件を通して、002,008,009は月見里学院に生徒として滞在することになり、すでに1ヶ月が過ぎた。








ジョー、ジェット、ピュンマはギルモア邸に戻り、加えて篠原当麻、そして、津田海が身を寄せている。
昼間にコズミからの電話を受け取ったギルモアが、その内容を夕食の席で伝えたために、場は微妙な空気が漂った。


「・・・1日目のオークションさえ来なければいい。後は問題ない。3日目夜からの後夜祭はオークションにかかわった関係者と学院生、その家族のみだ。コズミ博士によると、招待状はそちらに関するものではないことが確認されているし、制服着用は義務づけられてないから、ごまかせるだろう。連日でくるつもりはないだろうしね。博士、いつでもいいので、・・・2日目なら、と。返事しておいてもらえますか?」


009の言葉に一同が頷き、落ち着きを取り戻したダイニングルーム。
張大人が用意した四川中華料理がテーブルいっぱいに並べられた席で、再びその味を楽しみ始めた。

食事中ではあったが、早々に立ち上がってリビングルームに向かい、置いてある子機からコズミ邸へと電話する、ギルモア。
ジョーの携帯電話が揺れたのとほぼ同じタイミングだったが、ジョーはそれを無視した。

ピュンマの隣に座っている海は、ひそひそと、”さくら”という名前の子の素性をピュンマに訊ね、同じようにひそひそと、簡単に”さくら”について説明した。


「・・・・彼女は無関係の人間だから、言葉に気をつけて欲しいな」


そんな様子を見ていたアルベルトが、ゲストである2人、当麻、海にむかって口添えた。

篠原当麻、津田海の両名は、さきのミッションを通して知り合った。
そして、今、ダイニングルームにそろうギルモア以外の全員が”サイボーグ”であることを知っている。
言葉は優しいが、その音に他言無用の意を含んだ力が込められている。
当麻と海は、真剣に頷いた。


「んでよ!ジョー、オークションの準備はできてんのかよっ!」


重くなり始めた雰囲気を取り戻すかのように、ジェットはごくん!と口に詰め込んでいたものを飲み込むと、ジョーにむかって握っていた箸で彼を指して言った。


「?」


テーブル越しに挟んだジェットへと視線を返して、きょとん。と、首を傾ける姿は009ではない。


「衣装は用意できてんのかよ?」
「衣装?」
「僕と海はね!」


間髪入れずに、ピュンマが声を出した。が、それを遮る。


「聞いてねえヨッ!」
「聞いてよっ!」


隣あって座る2人を交互に見ながら、ジョーは不思議そうにつぶやいた。


「・・・・衣装?」


左に向かって、フランソワーズ、当麻、ジェット、ピュンマ、海と、テーブルにつき、続いて、ギルモア。海の正面にジェロニモが座り、右に向かって、アルベルト、グレート、ジョー、そして、一番キッチンに近い位置に、張大人。

大家族。の、夕食風景である。


「島村、ぼく、言わなかった・・・かな?制服でオークションには出ないんだよ。それぞれが衣装を用意して”芸”を、というか、なんでもいいから3分未満の、パショーマンスをするんだけど?」


当麻の言葉に固まった、ジョー。
009の癖に、なんで”そこの”情報がすっぽり抜けてんだ!?っと、不思議に思いつつも、面白そうに見守る00メンバーたち。もちろん、彼らは事前にそのことを002と008から報告を受けていた。

会場となる予定の講堂へは、その本来の目的以外の意図があるためにか、”オークション用の招待状”を手に入れない限り、オークション参加は学院生でもできないが、しかし、身分証明さえすれば当日、会場に入る事はできると言う。


「・・・・ウソだろ?」


ジョーの手が止まり、じっと当麻を見つめるが、ジョーの期待できるような返事が帰ってくる事もなく、当麻は困ったような笑いを浮かべるだけである。


「えっと、ウソを言っても仕方ないし・・・」


はっきりといえば、009である彼にとって、表から参加する必要もなく、いくらでも会場への潜入方法はあるのだが、ギルモアが彼の参加を促したのだ。


---”もしもの事態を考慮に入れて、参加者である院生の身が一番安全であり、怪しまれんじゃろう?違うか?---



促されつつも、ぎりぎりまで参加を拒否していたジョーだけに、その情報が伝わっていなかったのだ。




「オークションだしな!ったりめーじゃんっ」
「いや、・・・関係ないと思う、学芸会でもないし・・・」


男子のみの全寮制、私立月見里(やまなし)学院が年に一度開催する、”あやめ祭”は、地域交流や、社会貢献を目的とし、3日間学院を解放して一般のお客様をお招きしながら、学院をお披露目しつつのチャリティ・イベントを行う。

一般の学校とはかなり違った教育システムを組んでいるために、”あやめ祭”は文化祭・学園祭のようなもの。と、言うのが一番近いイメージである。が、その内容と規模は”学校”の域を超えてしまっている。


「チャリティだしね!」
「いや、そういう問題でも・・・」


今年のあやめ祭のテーマは、”地雷の犠牲になった子どもたちに義腕、義足を”だった。
月見里学院には、イベントのメインの一つに、学院生(高等部/シニア・ジュニア)が参加するオークションがあり、後夜祭に開かれるパーティーを、Senlor prom (Promenade)代わりとし、参加した学生はオークションで競り落としてもらった相手をパートナーとして参加する。
このオークションで集まった資金はもちろんすべて寄付される。


「シニアは強制参加だから逃げられないよ、ジョー!一番高値をはじき出した人は、プロム・キング。で、払った人がプロム・クイーンっって知ってた?」(Day~54)
「・・・・逃げないけど・・それも知ってるけど・・さ」


ジョーはテーブルにそろう、家族の揶揄が含む顔をさっと見渡して箸を置き、出されいるジャスミンティーを飲んだ。


「楽しみだ。」
「いや、ジェロニモ・・本来の目的を忘れてもらったら・・」


ミッションはすでにコンプリートされていたが、その事件の後処理に追われる00メンバーたち。


「なんなら、吾輩がシェイクスピアの一節を伝授いたしましょうか?リーダー殿っ!」
「・・・グレート、なんでここにいるんだよ?」


学院で開かれるにも関わらず、学院生はほとんど何も関わらない。
高校3年生(シニア)と、希望者の2年生(ジュニア)のみが、学院名物の”シニアオークションに参加するか、もしくは姉妹校である聖ヘレナ女学院の生徒会と通じている代表会に関わる生徒のみ。


「なんだあ!しっかりお勤めをこなしてきた、我が輩に向かって!」


007は、当麻の母、現・月見里学院理事である篠原さえこの護衛役を続けている。が、最近は、まるでごく普通のサラリーマンのように、朝に出勤し、夜には帰ってくる。
あやめ祭が終わるまでは、24時間態勢でさえこの護衛を指示した009だったが、さえこと007は勝手に彼らの中でルールを決めたらしい。
009は報告を受けていないが、許容範囲であるために黙認していた。


問題なくミッション前の日常を取り戻しつつある、ギルモア邸の住人たち。
以前と違うといえば、月見里(やまなし)学院に滞在する3人が週末にしかギルモア邸に戻ってこないことだろう。


「あいやあ!衣装はチャイナ服で良ければ、ワタシがすんぐに調達してくるアルヨ?」
「スリットがごっそり入ったやつかよ!!」


そして、彼らの素性を知るゲスト(篠原当麻、津田海)が訪れることも、含まれる。


「バカか?」
「男の足、興味ない。」
「そりゃあ、女性物だぞお、ジェット」


ぼそ。と、つぶやいたジェロニモの言葉に、それぞれが、頷き合った。


「でもよっ会場には女子校の生徒会だの、なんだのが来るらしいぜ!」
「・・・だから、なんなんだよ?」
「チャリティだかんな!!しっかり”値をつり上げるためじゃんっ」
「で?」
「俺は脱ぐぜっ」


ジェットの言葉に、食べていた物を詰まらせ、口に含んだお茶を吹き出し、箸をテーブルに落とし、箸置きを発言者に向かって投げつける、などのリアクションがダイニングテーブルに巻き起こる中、深い溜め息を吐きながら早々に食器を重ねて、華やかに賑わうダイニングルームから離れて行く、ジョー。






あやめ祭の本当の目的。
それは、B.Gの科学力の一旦を担っていた”サイボーグ技術”の公開。

津田海の左足にあったそれはもう、ない。












リビングルームでコズミ邸への電話を終えたギルモアと視線が合った、ジョー。


「なんじゃ、夕食はもういいのか?」
「はい」
「今、話しをしての、2日目で大丈夫じゃろうとのことじゃ以外に遠いしのう・・・」
「明後日から3日間はホテルですしね、ボクらも」
「予約は大丈夫かの?」
「はい、問題なく・・・」


ギルモア邸から、月見里学院へ連日通うことは不便なために、駅で言えば3つほど離れた街のホテルに全員が部屋を取った。
あやめ祭の時期だけに、異国の人間が団体でホテルを取っても怪しまれることはないと思うが、念には念をいれておく。ホテルを2つにわけて、ホテルと言えばすぐに名を挙げられる有名なチェーンホテルに、ギルモア、001、005、006、008が部屋を取り、あやめ祭に訪れる予定の津田海の姉たちの部屋も、ギルモアが手配した。

同じ街の、さほど離れていないビズネスホテルに、002,003、004、009、そして篠原当麻が部屋を取った。
007は篠原さえこと行動する。


「多分、学院で待ち合わせずに、ホテルで落ち合うことになると思うんじゃ」
「わかりました。ホテルは博士がお泊まりの、ですよね?」
「うむ。そうなるじゃろうな」
「イワン、ギルモア邸のセキュリティの最終チェックを、君にたのめる?」
<みるくガ先>


今朝方に夜の時間から目覚めたばかりのイワンは、ふああ。と、あくびをしながら、ベビーベッドからふわりと浮き上がった。
目覚めたと言えど、まだ眠気がはっきりはれているわけでないらしく、うつらうつらと、まどろんでいる。

ジョーの腕に抱きとめられたイワンを観ながら、ギルモアは言った。


「儂がミルクを持ってこようかのう、さっき大人が用意しとったのが、キッチンにあるでな」












####


ソファに座ってギルモアから受け取ったミルクをイワンに飲ます、ジョー。
以前、キャップがしっかり閉まっていなかったことから、”ミルク漬け”になったジョーは、わざと、その原因を作ったイワンの目の前でボトルのキャップがしっかり閉まっている事を確認してみせてから、彼のディナーにつき合う。

満足げにミルクを飲み終えたイワンを、ジョーは慣れた手つきで立て抱きにする。
肩に置いたタオルがずれていないかを確認しながら、とん、とん。と、優しくイワンの背をたたくと、盛大な空気が音となってイワンの口から鳴った。


「・・・あ。分量多かった?」
<・・・・ミタイダネ>
「解っていて、欲張ったんだろ?・・・起きてすぐは量を心持ち少なめにって・・・・忘れてた、ごめん」
<イイヨ。作ッタノハ張大人。オ腹、空イテイタンダモン。作ッタノハ006ダシネ>


イワンを膝に抱き直し、汚れたタオルを丸めてテーブルに置いたとき、フランソワーズがリビングルームへと入って来た。
背中にあてられたジョーの手が熱くなったのを感じたイワンは、同時にジョーのこころが乱れたのを敏感に感じ取る。


「もう、飲んでしまったの?」
<ゴチソウサマ>


ゆったりと、ジョーの座るソファに、その隣に腰掛けるフランソワーズから花の香りが舞う。
ジョーの心臓がどっきん!!と跳ねて、その音がイワンの躯を揺らした。

フランソワーズは躯を折って屈むような姿勢で、ジョーの腕の中にいるイワンの頬に優しくキスを1つ。
ジョーの視界に亜麻色の髪がきらり、きらり。と天使の輪を作って輝き、見惚れてしまう。

イワンから顔を上げてジョーへと視線を移すしたフランソワーズは、彼にむかって柔らかく花のように微笑む。
その微笑み返す余裕もなく、イワンを乱暴に抱き直した。


なんなの?ジョーのこの心拍数と体温上昇、それに・・・・。と、イワンはジョーとフランソワーズを交互に見る。と、焦るジョーのこころにイワンの意識が引きずられて、自分が眠りについていた間のことをジョーの、009の目線で知る。
赤ん坊らしからぬ嗤いをしてみせるイワンを、ジョーはフランソワーズに抱き渡そうと、躯を動かした。

隣あってソファに座る、2人。

フランソワーズは何も言われなくても、ジョーの躯の動きで彼が何をしようとしているのかを理解し、イワンを抱き受ける途中、不意に、訊ねようと考えていたこととは違う考えが浮かび、言葉を飲み込んだ。

小首をかしげて浮かび上がってきた思いにしばし頭を巡らせる。

当たり前のようにジョーの隣に座り、ジョーに話しかけようとしている。
緊張もなく、戸惑いも、不安も、胸の高鳴りに心臓が早鐘を打つことなく、時を刻む針と戯れるほどにおだやかに落ち着いていた。

泣き出したいほどに焼け付く痛みも何もない。
フランソワーズは自分に問うが、答えはすぐには見つからなかった。









「フランソワーズ?」


ぼうっと、自分の世界に入ってしまったフランソワーズは、ジョーに名前を呼ばれ、そして腕に抱くイワンの重みに我に返る。


「あ、・・・あの」
「?」

しっかりとフランソワーズがイワンを抱きとめたことを確認して、ジョーは腕をイワンから離した。


「・・お、オークション、どうするの?」
「・・・・・適当にする」


その話しか。と、うんざりするような溜め息と一緒に答えが返って来た。


「いくらミッションと言っても、チャリティだもの。参加するならそれなりにきちんとした方がいいと思うの。どんな形でも、・・・・その・・・」
「どんな形でも、戦いに巻き込まれた子どもたちのためになる、から・・・?」
「・・・・ええ」
「それでもさ、衣装なんて適当でいいと思うんだけど?・・・問題はパフォーマンスで・・・」


はあ、と。再び深い溜め息を吐いて、ソファのに背を預けたジョーは、天井を見上げながら、何故に自分はオークション参加を決めたのか。と、過去の自分に後悔する。
腕の中にいるイワンを優しく包み込んであやしながら、フランソワーズはじっとジョーの横顔を見つめて、不思議そうに呟いた。


「どうして?」
「どうしてって・・・?」
「歌はないの?ジョー」
「!!」


ジョーの背がソファから離れた勢いに、長い前髪に隠れたアンバーカラーの双眸が見えた。


「私はてっきり、・・・ジョーは歌うのだと思ったわ」
<僕モ>
「な!」


フランソワーズとイワンは顔を見合わせた。


「ドルフィン号で、ときどき歌ってたわよね?」
<タマニ、僕ガ夜ノ時間ノ時ノ夢見ガ悪イとき、歌ッテクレテモイタヨ?>
「英語の歌だったわ」
<子守リ歌ニハ少シ不向キダケドネ>
「・・・・・き、いて、たのっ?!」
「いいえ、聞こえて来たのよ?」
<僕ニハ聴カセテクレテイタンダヨネ?>


ジョーは無言で、さっとソファから立ち上がった。
フランソワーズからは見えないが、彼の顔は紅い。


「ジョー?」
「・・・・・・・絶対に、言ったら駄目だよ、フランソワーズ」
「え?」
「誰にも言ったら駄目だよ・・・絶対に」
「・・・・・・・ごめんなさい」
「!」
<手遅レダヨ>



ばん!っと、ダイニングルームに続くドアが開いた。


「ジョーっ!飯喰いおわったからよっ!!今ギター持って来るぜっ!練習すんぜ!当日はオレとデュオだぜっ!」


そういうと、そのまま自室に向かって走り出したジェット。を、呆然と見送るのはジョー。
続いてダイニングルームからピュンマと海がリビングルームへと現れた。


「ジョー、僕知らなかったよ!聴きたいなっ!」
「カラオケに言って練習する?今からでも行かない?ね、ピュンマ駅前にあったよね?」
「・・・・・・・・フランソワーズ」
「ごめんなさい、ジョー・・・あなたがダイニングを出た後に、つい・・・・言ってしまったの。ジョーがオークションで何をすればいいのか、みんなで決めてあげないと、って盛り上がって・・・それで・・”夜の時間のイワンに、よく歌ってくれたりする”って言ったの、私・・・」
「・・・・・それじゃ・・」
「ごめんなさい、・・・。でも、すごく上手だと思うの、とても綺麗な声だもの」
「っ・・・・・・きれいって」


ジョーはソファに座って、申し訳なさそうに視線を落としたフランソワーズを見下ろした。


「黙って聴いていて、ごめんなさい・・・」
「べつに、それはいいんだけど・・・・・・・、人前で歌うなんて出来ない、よ」


ジェットが戻ってくる前に雲隠れすることを決め込んだジョーは、フランソワーズに自分は出かけた、と言ってくれと頼み、同じことをリビングルームに現れた2人に言った。が・・・。


<無駄ダヨ、じょー、きっと逃ゲ切キレナイ>


イワンの言う通りに、このギルモア邸の住人がジョー(の数少ないおもしろネタ)を見逃すわけがなく、今すぐ、この場では歌はなくてもいい事を条件に、あやめ祭オークションの舞台では”絶対に”歌う事。を、ギルモアから”命令”された。








####

あやめ祭前日。

ギルモア邸に移り住んで以来初めて、邸が空になる。
住人全員が邸を出払ったことを考えた上で、新しく作ったセキュリティの実験も兼ねた”外出”である。

すでに津田海は姉に会うために、ギルモア、001、005、006、008とともに邸を出た。
007は今朝早く篠原さえこの元へと”出勤”し、邸に残っているのは、002,003、004、009とそして、篠原当麻。


「ったく、何に手間取ってんだよ!」
「苛つくな、ジェット。さっきエラーが出たと言っていただろ?」


正門前で、2台のタクシーが縦に並んでいる、傍らにかたまって立つ3人。


「んだよっイワンが最終チェックしてオッケーだったんだろっ?!」
「だから、問題なんだろう・・・。黙って待っていろ、そこの坊やを見習え」


アルベルトは、顎で当麻をさした。
ジェットは隣にいる当麻を見る。
当麻は突然会話を振られて、ジェットを見返した。


「そういえばよ、センパイ大人しいじゃんかよ」
「大人しい?」
「気になんねえの?」


ジェットが何を言っているのか、わかっている。
当麻がフランソワーズに気がある事など、一目瞭然であり、当麻もそれを隠す気は全くないらしい。
事件に関する情報の代わりに篠原さえこが00メンバーに出した条件として、篠原当麻の護衛申し出た。それを受けて篠原当麻は事件から今日までの間、学院に滞在する002,008,009と行動を共にし続け、同じく津田海もその身柄の安全を護る意味で、ここ1ヶ月ほど週末はギルモア邸に滞在していた。

その間に、当麻は一目を憚ることなく、フランソワーズをデートへと誘い、何度か2人きりで外出することに成功している。
デートと言っても、邸近くの海辺の散歩や、駅前、食品の買い出しなど、日常生活の”ついで”のようなものであったが、当麻は無理強いすることなく、フランソワーズとの関係を築こうとしていた。

そのゆとりある、誠意ある行動を、当麻の人柄を知れば知るほどに、00メンバーたちは彼のフランソワーズにたいする真摯な気持ちを感じ、彼女が”サイボーグ”と知ってからも変らない態度でフランソワーズに接する強さに、感動しつつも複雑な心境で見ていた。


もしも、フランソワーズの胸に誰もいなければ。
その人物が、00メンバーの”誰か”でなければ。
フランソワーズが想いを寄せる人物が、同じように、フランソワーズへと想いを寄せていなければ。

本来なら両手を上げて応援していただろう状況に、ただ黙っているしかない、00メンバーたち。
フランソワーズの幸せのために、どちらが相応しいのか、それは001/イワンにさえも判断できない。


「気にならない、って言えば嘘になるけれど、彼女は今003としているんだし・・・だから009の彼と行動しているのに、焼きもちを焼いても仕方がないことだと、思わない?」


さらり。と、当麻は答えた。
優等生な解答に、ジェットは面白くねえな!と、呟きつつも、当麻のフランソワーズがサイボーグ003であることに、すべてを受け入れた上で好きだと言っていることを、改めて思い知らされた。


温室育ちの純粋なおぼっちゃん。
当麻の印象は変わらないジェットであるが、”純粋”に、常識を超えた事実をまるご受け止められる、そのキャパシティに、ジェットを感嘆させつつも、不満でもあった。

あまりにも出来すぎた人間、に思えてならない。
こういう人間だからこそ、”危ない”気がする。


自分の感なぞ、あまりアテにならねえがな!と、こころの中で呟きつつも、当麻の余裕の姿に、ジョーに同情してしまう。


---なんで付き合いが長い、両思いのはずのジョーがアップアップしてやがってよ、横恋慕のコイツが余裕なんだ?!





同じ疑問を003と009の関係を知る仲間は思っているに違いない。
けれども、それもこれも、あやめ祭が終われば。と、思う。


篠原当麻は人。
ジョーとフランソワーズはサイボーグ。

皮肉なことに、009と003は同じサイボーグであり、仲間であり、そして、同じ時間を生きる事が許されている。
同じサイボーグであることが、関係を進められないでいる理由でありながらも、2人を永遠に2人でいる理由でもある。


「大丈夫なのか?」


重い観音扉がばたん。と、閉まった音が3人の耳に届く。
見上げた視線の先に揺れる亜麻色の髪の女性が向かってくる、その後ろに栗色の髪の青年。

開けられたままの正門が、がしゃん。と、栗色の髪の青年の手によって閉められた。


「どうなんだ?」
「・・・ああ、博士が下のセキュリティロックを新しいのを使わず、古いコードを使ったのが原因」
「古いままでもロックできたのか?」
「上と下をバラバラでならね。でも、3つ同時の場合は一番新しいのに合わせて作ったのにしてもらわないと、問題有り。まだ少し改良が必要だ」
「で、行けんのかよ!?」
「待たせた、ね」


当麻は、そつなく車内の運転手にむかって言葉をかける。
ドアが開くと、一番先にフランソワーズを車へと乗り込ませた。ついで、自分が乗り込む。と、アルベルトが続いたので、ジェットとジョーは自然と後方の1台へと足を向けて乗り込んだ。


そんな行動に、ジェットはにやり、と笑う。


---口ばっかで、しっかり焼きもちな行動に出てんじゃんかよ!



フランソワーズに答えるような隙を与えない動き。
すぐさまジョーから引き離す行動。
しかし、それをすんなりと見届けて、自分と一緒に後方のタクシーに乗り込むジョーに溜め息を吐く。
アルベルトはなぜその席をジョーに譲らないのか?とも思うが、ジェットはわざわざそんなことを口で言うつもりはない。


「ったくよ、ジョー、センパイや、アルベルトみてえに動けねえのかよ?」
「たかがタクシーだろ?」
「そういう問題じゃねえっつうの!」
「一緒に乗りたかったの・・・?」
「てめえがだろ?!」
「別に、タクシーだよ?・・・運転するのが俺なら、そりゃね・・」
「・・・お前よお・・・いいのかよ、そんなのでよお・・・」
「いいも、何も・・・何が言いたいんだよ?」



ジョーがジョーであることに、何も変わらない。

004と005からジョー/009が”フランソワーズが好きだ”と公言した。と、報告されていたが、仲間たちが期待するようなこともなく日々は過ぎて行く。
それは、それでいいと思う。
今までが今までの2人なために、ジョーの気持ち一つで劇的に変わるなら、もっと早く何かしらの変化があったはずだと、考えられたからだ。

問題は公言してからのジョーが以前にまして奥手になっていることである。
何気に0009として003と行動を共にすることはあっても、それ以外のプライベートな部分では、どう考えても、以前の方が親密度が高かったと、いえる。


公言しておきながら、それか!と、何度仲間内で脳波通信で突っ込みを入れまくっていることか。


当麻と比べてジョーの方が何十倍もリードしているようにみえて、実は、当麻の方が、そうなのかもしれない。と、ジェットは深く溜め息を吐く。
そんなジェットの気持ちなど微塵も読み取ることもできないジョーは、鬱陶しい溜め息ばっか吐くなよ。などとボヤく。


<なあ、オッサン>


運転席と助手席の間から覗く、フロントグラスに、前を行くタクシーが見える。
大きなカーブをうねりながら進む2台のタクシーは、離されることなく縦に並んで走り行く。


<なんだ、トリ>


アルベルトが、振り返るようにして一瞬だけ後方のタクシーを見た。



<オレよ、・・・まとまってから帰ろうと思ってたんだぜ?オッサンから”報告”されてよ、これが終わるころにゃ、ケリが着くって踏んでたんだぜ?>
<それで?>
<・・・・100年経っても帰れねえ>
<万年だろ?>
<は?>
<亀なみだ>
<鶴になんねえのかよ?せめてよお・・・>
<トリ同士だろ、なんとかしてみろ>


ちらり。と、ジェットはジョーを見る。
窓の外を眺めていると思いきや、すうっと、静かな寝息。

ホテルまでの移動時間を使って仮眠を取っているのだろう、深く寝入っているようには見えない。
その証拠に、瞼が眼球の動きに合わせて動くのをジェットは見ている。


ジョーが不眠の気があることを仲間に知られたのは、彼がフランソワーズへの気持ちを公言したときと同じ日。
睡眠を誘導するギルモアが調合した薬の手を借りつつ、彼は自分の睡眠をコントロールしつつあった。

一定時間に長く、深い眠りを拒む傾向があるジョーは、ちょっとした時間に仮眠を取り、睡眠の時間を散らせる事でバランスを取り始めていた。




眠たいときに、眠る。
食べたいときに、食べる。


あまり食べない印象のジョーであるが、食が細い訳ではない。
食べたい時間に、食べたいだけである。
それはジョーの気分次第。


夕食の時間にそれがかっちり合えば、ジェットと同じ量をぺろり。と平らげる。


ドルフィン号での生活では見られなかった、ジョーの、009の、本性/我が侭が見え始めたのは最近のこと。
それは大なり小なり、ジェット自身を含めた仲間たちにも言えることであった。

見え始めたのではない、以前からそうだったかもしれない。
ただ、ジョーのそういう部分を理解できなかっただけなのかもしれない。

戦いだけに集中していたころには不必要な情報であり、そこまで一個人に深入りする必要もなかった。
戦うための”仲間”が、日々を分かち合って暮らす”家族”になっていく証のように思える。



イワンはその足で立った。
一生赤ん坊のままだと決めつけていたジェットは、その成長をさりげなく見守っていたジョーに驚かされた。


アルベルトは変らない。と、思っていた。
第一世代とされる自分とフランソワーズ、アルベルト、イワンは、つき合いが長い。
けれども、アルベルトの吸う煙草の銘柄を知ったのは日本で暮らし始めてから。そして、彼が音楽大学まで出てピアニストを目指していたと知ったのも、ジェットが購入したアコースティック・ギターを目にしたアルベルトから語られた話し。
ドルフィン号にもジェットはギターを持ち込んでいたが、それを目にしてもアルベルトは一言も自分が音大生であった過去など口にしたことはなかった。

昨夜、ジョーにオークションで何を歌うかを訊ねたアルベルトは、その選曲に何かしらアドバイスを送っていたことを思い出す。
そして、彼が買い求めるレコードは全てクラシックであることも、いつどこでジェットは知ったのか、思い出せないほどにすんなりと情報として持っていた。

イギリスの交流会の件に関して、ドイツへ帰る希望を出している彼がメインに動くため、あやめ祭が終わり次第に日本を離れるだろう。



邸に移り住んだばかりの頃のフランソワーズは、物思いに耽り、どんな苦しい戦いの中でも花のような明るさをたたえていた微笑みが失われつつあり、仲間たちを心配させていたが、彼女の部屋にある唯一の女の子らしいぬいぐるみが置かれてから、変っていった。
そのぬいぐるみがジョーからのプレゼントであることを、ジェットは知っていた。
それを購入しているジョーを見ていたのは、他ならぬジェットであったために。イワンへの土産だと思い込んでいたが、それをフランソワーズの部屋で見つけたときの、驚きは今も新鮮に思い出せる。

”アラン・モルディエ”と言う、フランソワーズが人であったころを知る人間が接触してきたことにより、彼女がバレリーナとして有望なダンサーであったことを知った。その上、大学で電子工学を専攻していたなどの余計な情報まで手にしたお陰で、X島で出会ったフランソワーズが、当時の科学者が口にする専門用語に耳を傾けて、何かしら次の実験の予想を口にしていたことを思い出し、それらが補助脳だけに頼ったものではないことが裏付けられた。

お菓子作りや、洗濯にそうじ、家事が好きなど、そんな女の子らしい女の子であるなんて、戦いの中では気づかなかった。
男ばかりのメンバーの中で1人しかいない女の子。だから、そういう部分が浮き彫りにされてしまうだけだと、思っていたが、実際に彼女はこころから楽しんで、広いギルモア邸を切り盛りしている。

憧れが恋に変って行くさまをずっと近くで見てきた。今後も、変らずその想いが叶う日をジェットは変らず見守っていきたいと思うのは、ジェットは自分勝手な子どもっぽい未練だと自嘲する。
時代を超える前の、遠い昔にほのかに想いを寄せた時期があったがために。



アルベルトと同じようにジェロニモも変わらない。と、感じていた1人。

けれども、無口な彼が以外に話し好きであることを知った。
朝の散歩。と言ってでかける先に、散歩仲間がいるらしく、毎朝同じ時間に犬の散歩にやってくる中学生の男の子の英会話の練習につき合ってるらしい。
そういう接触を持っていいものかどうか、ジョーに相談していた。
彼はなんと答えたのかジェットは知らないが、その子との関係は続いているようなので、ジョーは了承しているのだろう。

普段は要点だけをまとめたような、話し方をするが、本来の彼の話し方は、どうやら子どもに寝物語でも聴かせるような感じで、まだジェットは直接耳にしたことはないが、彼の話しを聴きたがる人は多いらしく、週末の朝の散歩に出かけて帰ってくるのが、昼過ぎになることもあるようだった。

いっそのこと、ジェロニモ倶楽部なんて作ったらどうだあ?など、グレートが言ってたのを聴いた事があり、ジェロニモが語る話しのいくつかをネタにしてグレートは戯曲化を考えているらしい。



変らない、と言えば。張大人も、そんな1人に数えられるが、ジェットは知っている。
彼が再び自分の店を構えたいと願っている事を。

さきのミッションで偶然見つけた、主を失ったまま誰にも引き取られことのない中華料理店を見つけた張大人は、その土地を色々調べている上に、グレートを相談相手にして、動き始めたようだった。
書類上の関係で、イワンの手を借りる事となることを少しばかり心苦しく思いながらも、諦めるつもりはないらしい。

今回の件が済み、躯が空き次第、ジェットは手を貸すことをすでに約束している。
何が自分にできるか解らないが、人手がいるらしいことは確かだった。
ジョーも具体的な内容はまだ聞いてはいないようだが、協力することをジェットと同じように約束している様子であり、グレートは共同経営者となることをほのめかしていた。


張大人の店のこともあり、グレートはイギリスへ帰る気持ちはないらしい。
そのことを、酒の席で耳に蛸ができるほど聞いていた、ジェット。
役者であることは、舞台に立たずとも変らない!国は関係ない!と、口癖のように言う。
その通りに彼は小劇場へとこまめに足を運び、グレートが予想していたよりも盛んである日本の演劇界に夢中のようだった。
気に入った劇団がいくつかあるらしく、いそいそとチケットを取っては1人で見に行っているようだ。
邸の誰も誘わずに、1人で行くところがグレートらしい。

張大人を助けながら、好き勝手に戯曲を書き、もしかしたら日本のどこかの劇団に持ち込む気なのかもしれない。
そのうち、舞台に立つグレートを観に、邸を空にする日がくるのだろう。



今日のように、ジョーとフランソワーズが邸のセキュリティにエラーが出た、と。走り回る姿が想像できる。
公演の時間に間に合わない!と、先にみんなを行かせて、2人は邸に残る。
何か進展があるかもしれない。と、遅れて来た2人に期待するものの、結局はそんな期待をする方が悪い。の、繰り返し。


ふっと、手に取るように想像できた、長閑で手短な未来に笑みを浮かべたジェット。






タクシーは、走り続ける。
信号機が赤に代わり、運転手が踏んだブレーキに、タクシーが止まる。

がやがやとした雑踏が、閉められた車窓の外から聞こえてくる。



ジェットが知る時代のNYとはかけ離れた街。

ゴミ一つ、落ちていない。
街に設置されたゴミ箱は、紙、瓶、ペットボトル、など複数に分けられて、街全体がリサイクルを訴えている。

そんな時代があるとは。
そんな時代がくるとは。


ジェットは知らなかった。



第一世代と呼ばれる、時を超えたサイボーグ。
その中でもジェットのナンバーは002。
メンバーの中で一番古いサイボーグである。
001のイワンとはほぼ同時期にサイボーグ化の手術を受けているが、彼が001のナンバーを得た理由は、彼の能力故である。


「・・・高校生か?」


ジェットの視界を同じ服に身を包んだ、団体が通りすぎた。



---邸を一番に出て行くのは、オレだと思ってたんだけどよお・・・。






その役は008である、ピュンマのものとなった。

ピュンマは戦いが終わった後の話しとなると必ず、自国のために自分ができることをしたい。と、常々言っていた。
その考えは変わっていないが、ただ”何が”したいか。という、はっきりとしなかったビジョンが、ミッションのために通う事になった月見里(やまなし)学院が、きっかけとなり、彼の今後が明白に形となり、正式に009からの発表があった。
今回の件が片付いた後も引き続き、008は月見里(やまなし)学院に席を置く。

ピュンマは自国の問題を、外への情報が少ない事、それと同じように外からの情報が少ない事を言った。
産まれたときから、戦うことが当たり前であった彼は、サイボーグになって初めて”外”を知り、世界を知り、そして多くを学び、自国に必要なもの、足りないものを補うために、自分がすべき事は、中からの活動に見合う外からの影響だと、考えている。

その橋渡しをするためにも、彼はより多くの知識を得る必要があると、語る。



誰もピュンマを止めない。
止めるどころか、彼の大きな志に両手で彼の背を力一杯に押すつもりである。




走り出したタクシーは、ひたすら目的の地を目指す。
前を走っていたタクシーの姿が見えない。
いつ、どこで距離が出来てしまったのだろうか。



「・・・ジェット、どうかしたか?」
「いや、・・・なんだよ、起きちまったのか?」


瞼を重たげに瞬かせ、長い前髪を払う仕草。


「・・・・どれくらい?」
「ほんの2.30分くらいだぜ?」


珍しくジョーの双眸を見る。


「そう・・か・・・」
「ま。もうちっと寝てろや」


腕を伸ばして、隣に座るジョーの頭をシートに押し付けたジェット。


「・・・気色悪い」


その手を面倒臭そうに、払い除けながらジョーは呟いた。


「あ?」
「静かなジェットって・・・・ああ、イヤだな、また一波乱ありそうだね」
「はあ?」
「雨か嵐か・・・ジェットが大人しいなんて不気味だよ」
「うっせ!とっと寝ろっ」


ふあ、と、あくびを1つ。
そうするよ、と。ジョーは再び瞼を閉じた。

両腕を訓で、ドアとシートでできた角に躯を押し付けるようにして眠る。
窓から入る夏の陽射しが、ビルに邪魔されないかぎり、彼の髪は金茶色にみえて、ジェットはそれがフランソワーズの髪色とひどく似ている気がすると、思うが、質感的にいえば、フランソワーズの方が艶があり、しっとりと滑らかに光るように思えた。


瞼を閉じて、ジョーの長い睫が彼の幼い顔をより、幼くみせる上に、寝顔は可愛らしい、と言う言葉がよく似合う。





---コイツに躯をいじくりまわされんのかよ・・今後は。


本格的にギルモアの助手として勉強を始めたジョー。
誰かが、いつかは。と、思いつつも、人であるギルモアに迫る、限りある時間から目をそらし続けていたが、ジョーはその問題を正面から自分の腕で受け止めた。




少しずつ、何かが変わり始めている。
それはサイボーグにされてからの人生で初めての変化かもしれない。

せき止められていた何かが、緩やかに流れ始めている。



流れるままに、流れていいく。


---いつも自分の身の振り方に・・・、昔も今も変わらねえなあ・・・オレはよ!


ちっと、小さく舌打ちをつくと、運転手がバックミラー越しにジェット見る。
視線がぶつかると、慌てて運転手は目をそらした。








####

アルベルト、フランソワーズ、篠原当麻を乗せたタクシーが目的のホテルへ着き、5分遅れてジョーとジェットのタクシーがたどり着いたとき、大鼾をかいて寝ているジェットに、呆れ顔のアルベルトはジョーに同情した。


「貴重な睡眠時間がこのバカのせいでつぶれたのか?」
「ん?・・・そんなことないよ。・・・・まあ、目が覚めたのはジェットの鼾でだけどね」


タクシーの料金を払いながら答えた、ジョー。


「坊やとフランソワーズはロビーで待たせている」
「解った。適当に起こして」


タクシーから降りてぐん!と、両腕をあげて伸びをする、ジョーを横目にアルベルトは頷く。


「了解」


の、言葉と同時に、躯をタクシーへと半身潜り込ませると、ジェットの長い鼻を摘んで捻り上げるアルベルト。


「うが!!」


跳ね起きたジェットをタクシーから引きずり降ろして、彼の荷物を手に持った。


「オレも優しくなったもんだ・・・起きろ、もたもたするな」
「・・・・それで優しい?」
「十分にな」


ばたん。と、自動でタクシーのドアが閉まると、走り去っていく。
残された排気ガスを避けるように、すたすたとホテル内へと歩き始めた、アルベルト。
寝起きの頭でぼーっと地面に座り込んでいるのは、ジェット。そんな彼の腕を掴んで立たせた。


「起きた?」
「よお・・・ハヨ」


頭を振って眠気を振り払おうとするが、彼の寝起きの悪さは誰もが知っている。
焦点が定まっていない瞳をごしごしとこすりながら、ふらふらと、アルベルトの後を追う。


「ジェットの荷物、アルベルトが持ってくれてる、よ」
「おお。すげえ。偽物じゃねえのか・・・・あり得ねえ・・・・」
「・・・・イヤな予感がするよ・・・本気で」


ジェットが妙に大人しい。
アルベルトが妙に優しい。


その上に、何かが起こるとすれば・・と。
ジョーの胸は不安になる。


「かふぇいん」
「・・・・わかってるよ」
「じょー」
「なんだよ」
「いつだよ?」
「何が?」
「告白」
「・・・・・・・・・・今言う事かよ?それより、どうして知ってる?」


ホテル、エントランスの自動扉が開く。
こじんまりとした印象の、さほど広くないホテル内ロビーで、ジェットの寝ぼけた視界が急激にクリアになる。
目に映るフランソワーズと当麻、そしてアルベルト。


「今言うのも後も一緒じゃね?」
「・・・・・・俺はどうして知っているのかを聞いているんだけど」


あそこに居るべきなのは、アイツではなくて、コイツだろ?!と、眠気が覚める。と、大声で叫んだ。


「よおっフランソワーズっジョーがよおっ」
「なっ?!」


慌てたジョーはジェットに飛びつかんばかりにその腕をひいた。


「茶店で珈琲飲みてえってよ!」
「っふざっ!?」
「ああ?ふざけてねえよ、オレはただ珈琲が飲みてえだけだぜ?」


にやにやと、意地悪い笑みを浮かべるジェットに、ジョーの胸はさらに不安が広がったが、そんなジョーの不安などよそに、1日は穏やかに過ぎていく。





「・・・会場の配置は予定通りに、すべての監視カメラ映像と招待客の当日訪れたゲスト・リストを、後日映像と一緒にまわしてもらう。見ておくのは全体的な動きでいい。とにかく、津田海が舞台に立った時、その後の影響と、ネット上のBM(ブラックマーケット)の動きを見逃さないように。篠原さえこ、当麻に何かしらの影響が出るかもしれない、その点も注意しておいてくれ・・・005は1日目のみ、石川斗織がいる、篠原総合病院へ。もしもの事を考えて待機。津田海、008は津田の姉。篠原当麻は003。002は007。俺は篠原さえこに落札される・・・・以上」




明日、あやめ祭1日目、オープニングとしてシニア・オークションが開催される。











====へ続く


・ちょっと呟く・

ってことで新章はラブ・メインです・・・・?
3、どうした?!・・・ぐふふ。
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苛々/ライバルの正体は!

「フランソワーズ、でかけるアルか?」

張々湖飯店の定休日。
ごろごろと邸にいる張大人に、珍しく呼び止められたフランソワーズは、びくん!っと肩を跳ね上げて、そっと振り返った。
そこは、ギルモア邸の玄関前。


「え、ええ・・そうなのちょっと駅前まで」
「ならジョーに連れて行ってもらうといいアルヨ!jy」
「いいのっいいのよっ!!」
「bフォエア’オファホフぃhp」


慌てて張大人の口を塞いだフランソワーズ。


「ね、ね、ね?・・・ジョーはいいのよ!いっつも悪いもの、それに・・・ね?ジョーと一緒だとお買い物し辛いものもあったり・・・・ね?」


フランソワーズに、”女の子の買い物”と、言われた上に、愛らしく”内緒ね!恥ずかしいもの・・・”と甘えられては、さすがに、張大人も、009にどんな折檻を受けても、絶対に口を割る事はない筈であった。


「じゃあ、行ってきます!大人。2時間ほどで戻るわ」


ピョン!と、跳ねるようにして、ギルモア邸の玄関から出たフランソワーズは、きょろきょろと”眼”のスイッチを入れて、周りを窺いつつ、手帳に控えているギルモア邸最寄りのバス邸の時刻を歩きながら確認した。


その姿を、追う影に気づかないままに。






<駅前だね?大人>
<・・・・協力したくないアルヨ>
<大人、これはミッションだ>
<でも、ねえ・・・フランソワーズは悪い事してないアルネ>
<・・・006!>


009の厳しい声が飛ぶ。
ひ!っと、姿が見えない、邸にはいないはずの009が醸し出す殺気を感じて、006は飛び上がる。


<・・・駅前アル・・・・・2時間くらいと言ったアルから、そこからどこかに行くには無理アルヨ・・・>
<了解>


009からの脳波通信が切れて、ほっと。安堵の息を吐き出しながらも、なんとも言えない困惑の表情を浮かべる、張大人。


「009の奥さんなる人、大変ネ・・・・。すんごく嫉妬深くて、束縛する亭主関白アルヨ・・・」


そんな彼の”想い人”である、フランソワーズこと、003に同情する。


「変なとこバカリ、鋭くて肝心のトコ、鈍チンさんとはネ・・・」











####


四角い箱に千円札吸い込ませて100円玉に交換する。
ピュンマが京都へ言ったお土産のチリメン地でできた、小銭用のがま口財布にしまう。


平日の店内は薄暗く、有線で流れる最新のJ-popが妙に寒々しい。
店員は店奥に引っ込んでいて、働いているのかどうか、わからない。けれど、店はちゃんとオープンしている不思議。
爆発的にヒットしたと聞いている、写真型シール機が、占拠するそれほど広くない店内に、ぴったりと壁際に並ぶ、体感ゲーム機たちが、無人の店内で明るく楽しげに決められた台詞を発していた。


ここは、ギルモア邸に一番近い駅前にあるゲームセンター。
フランソワーズは表に並ぶ、一番端っこのゲーム機前に、立っていた。


「今日こそよっ!」


ufoキャッチャーの中に、無数のぬいぐるみが放り込まれている。


「003だもんっこれ以上は絶対にミスできないわっ!」
「何を狙ってるんですか?」
「あれ!」


不意に声をかけられて、疑いもなく反射的に透明な箱の中に入っている1つを指さした。


「・・・・最近、こそこそ出かけてたの・・・あれのため?」


ため息混じりの声に、フランソワーズのよく知る、その声に。


「きゃああああああああああああああああああああああああ!」
「っ!ふらっっ」












####


「ひどいわっ!私にはプライベートってないの!?」
「報告義務があるだけだよっ!別にゲームセンターへ行こうと、デパートへ買い物しようと、キミの自由だけどっ、ただ行き先だけは誰でもいいから教えておいてくれって言ってるだろ!」
「だから!大人に”駅前へ行く”って言ったもんっ」
「”駅前”じゃわかんないよっ、それに!それを言ったのは、出かける前に大人に呼び止められたからだろ!」
「っっ!!!まさか、ジョーっ」


フランソワーズは口元に両手を当てて、こぼれ落ちそうな瞳でジョーを見つめた。


「・・・・な、なに・・フラン・・?」


勢いを削がれて、急に弱気な声になる、ジョー。


「大人を使ったのね?!、私がどこに行くかっ!!そうなのね!?」
「べ、べ、別にっ」


びくっ!と、ジョーの肩が跳ねた。


「そうなのね!!」


ずい!と、ジョーへと詰め寄る、フランソワーズ。
に、大して、一歩後退する、ジョー。


「っっ・・k・・・・キミが黙ってるからだろ!」
「報告するほどのことでもないものっ!みんなだって、コンビニへ行くのに何も言わないじゃないっ!レンタルショップにDVDを借りに行くときもっジョー、私に何も言わないわっ!勝手にアナタが好きなのばっかり借りてくるのっひどいっ」
「だって!フランを連れて行ったらっ、いっつも同じもの借りるだろ!だからっDVD買ってあげたじゃないかっ」
「他にも観たいのがあるわっ!!」
「ホラーなんて、ボク観ないのにさっ!」
「アタシが好きなんだもんっいいでしょっ!!何よっジョーなんてHなシーンがいっぱいあるの選ぶくせにっ!」


ジョーの頬が紅くなる。


「なっっ!ボクはジェットじゃないっ!!勘違いするなよっ。一回だけだろっ、そういうシーンが長くあったのっ。それにっあれはそんなにHじゃないっ」
「やらしいっ!ジョーのHっ!!」


フランソワーズの言葉にむっとする、ジョー。


「やらしくないっ、そんなこと言ったら、フランソワーズが選ぶのだってそういうシーンがあるだろっ!」
「愛のある芸術的な表現だものっジョーが選ぶようなのと一緒にしないで!」
「一緒だよっ!」
「違うもんっ!」
「おんなじっ!」


う~~~~~~~~っとにらみ合う、ジョーとフランソワーズ。

















「あれに見えるは、我が邸の姫と王子で・・・・」
「みたいだね・・・」


”クリアに話しが聞こえるにはあり得ない距離”にも関わらず、駅から出て来たピュンマとグレートの耳に届いた、聞き慣れた男女の声。


「なんだか、幸せそうだね」


声が聞こえる方向へと首を巡らせる。
街から離れた”海水浴シーズン”以外に栄えることがない、駅。

新しく設えられたバスロータリーに、1台も止まっていないタクシー乗り場。
真新しいアスファルトが、車の往来が少ない事を示す。


「ジョーが車で来てるなら、ついでに我が輩たちも邸に連れてかえってもらうかあ?」
「いやいや、それはグレート。野暮ってもんでしょう?」


障害物らしい、障害物となるような建物はなく、駅前と言っても、バスロータリーを挟んだ大通りに並ぶ、雑貨ビル。
1ブロックほど、続く店だが、どの店も毎日が常連さんのために営業しているようなものである。


「ん~、確かに」
「僕さ、こういうの持ってるんだけど?」


そんな中に、ぽつり。と、営業するゲームセンター。
年代物のゲームもあれば、最新のプリクラ機もあったり、その統一感の無さが1シーズンだけの稼ぎで持っている。と、言わんばかりである。

けれども、小さな町には、それなりに暮らす人々がいて、家庭があり、週末には近くの小中学生の社交場となっている。
が、今日は平日のまだ、ランチを楽しんでいる人がいる時間帯。

ゲームセンター前で、亜麻色の髪の少女と、栗色の髪の青年が言い合っていれば、目立つ事この上ない。


「?」
「ほら、僕が勤務している保護地区は広いだろう?B.Gの虫型兵器を改造して、小型カメラにしたのを、譲ってもらったんだ。向こうで使用しながら、僕なりに手を加えたのを、今、持ってるんだけど?」
「ほお、それはまた、用意がいいといいますか?」
「いや、さっき秋葉原で買ったの、コイツをもう少し弄りたかったからなんだ」


大人の店を手伝うグレートは定休日の今日、日本に滞在中のピュンマにつきあって朝早くから出かけていたのである。


「それでは、使用してみますかいな?」
「そうだね、それの善し悪しで博士と”楽しみ”ながら改良しようかな?」


にやり。と、微笑み合い。ピュンマの手からグレートに見守られて飛んでいく、極小虫型カメラ。


「映像は僕のパソコンに繋がるようになってるんだ」
「電話したほうがいいなあ、博士に」
「急いで帰ろう!」
「じゃ、空から行きますか?」


きょろきょろと周りを見回し、見つけた物陰にさっと身を隠した2人。
グレートはその姿を変えて、ピュンマを連れて空から邸に戻った。












ふう~ん、と、飛んできた虫は、そっとufoキャッチャーの過度に止まり、二人を少しばかり見下ろす感じで止まった。







「も!いいもんっっジョーなんて知らないわっ」


にらみ合いを先に止めたのはフランソワーズ。
ふん!っと、ジョーから顔を背ける。


「いいよっ!知らなくてもっボクが把握できていれば!」
「いやらしいっ」
「何がだよっ!」
「ジョーってストーカーだったのね!」
「!」


フランソワーズの言葉に、カチン!と、ジョーの頭に火花が散る。
怒りの導火線に着火した模様。


「ストーカー?!」
「ええ!そうよっ!」
「っっ!」


ジョーの顔色が変わる。


「勝手にしろっ!!」
「い~~~~~っだ!」


舌を突き出して、ジョーに向かって思い切りあっかんべー!と、してみせた、そんなフランソワーズに、ジョーの怒りの矛先は・・・。


「っ!!!!!!!」
「あっ!ちょっと、何するのっ!」


フランソワーズを押しのけるようにして、ufoキャッチャーに向かい、ポケットに財布に入れず突っ込んでいた小銭を取り出すと、乱暴にゲーム機の縦長の穴に押し込んだ。

2人のテンションに合わない、間の抜けた長閑なサウンドが流れ始める。


「私がっっ」
「ボクの勝手だろっ、ボクはキミなんて知らないっ、このゲームをしに来ただけだっ」


フランソワーズを無視してスタートボタンを押す。
のんびりと、動き出したクレーンが向かう先に、フランソワーズの目の色が変わった。


「あっ!それっっやだっ、取っちゃだめえっ!!アタシが狙ってたのっ!!」
「知らないっ!」
「あ、あ、あ、あ、・・・駄目よっああああっっ!!」


ボタンを絶妙なタイミングで押して、離す。
フランソワーズは必死でジョーの邪魔をしようと、彼の腕にしがみついて、揺らすが、びくともしないのが009である、ジョー。003の腕の力くらいでは、邪魔できない。

のんびりと、ゆっくりと、クレーンは目的の景品へと降りていき、がっちり。と、掴んだ、それを眼にした、フランソワーズは。


「いやあああああああああああああああああああんっっ!!」


と、盛大な悲鳴を上げる。が、クレーンはそんな彼女の気持ちなどかまいもせずに与えられた命令通りに、それを持ち上げた。
ジョーの腕から手を離し、ゲーム機にぺたり。と張り付くフランソワーズ。


ゆらゆらと危なげに、掴んだものの重さに揺れながらも、しっかりとクレーンは目的の位置まで向かい、ぱっと、それを離す。
景品はプラスティックのホールへ吸い込まれて、箱から外の世界へと投げ出された。
がこん。と、商品受け取り口から、それを取り出したのは、フランソワーズではなく、ジョーの手。


「じゃ、ね。ボクは帰るよ。後は勝手にどうぞ」
「っっ・・・・ひどいっ・・・」


手に入れたばかりの景品を片手に、フランソワーズに見せつけるようにして、ぽんぽんとお手玉のようにそれを投げるジョーは、ufoキャッチャーから離れて、その場所をフランソワーズに譲った。


「これを取りにきただけだから、さようなら」
「嘘つきっ!!それっアタシが狙ってたのよっ!ひとつしかないのよ!!」
「知らない」
「すごく端っこにあって、やっと取りやすい位置にまで移動させたのよっっ!」
「知らない」
「っジョーの意地悪っ!」
「知らないよ」


無表情に、フランソワーズの言葉をかわして取り合わない。
こぼれ落ちてしまいそうな碧の空模様がみるみる変わっていく。

天気予報では、晴天確実な今日なはず。

止まっていた虫が飛んで、フランソワーズの方向へと移動すると、彼女の肩越しからジョーをみた。



ぎゅう。と、握りしめたスカートに、下唇を巻き込むようにして噛み締めて、ジョーを睨む、フランソワーズ。
そんな彼女を見下ろしている、ジョーは、ちくり。と、胸が痛み出し、ムキになった自分が情けなくなったりもする。
長い前髪に隠す表情(顔)は、フランソワーズよりも泣きそうに思えた。






「こんなの・・・・・、言ってくれればいつでも取ってあげるのに」


たった1回で手に入れた景品を、フランソワーズに差し出した。


「・・・」
「なんで、秘密にするの?そんな必要あるの?」
「・・・」
「黙ってる理由なんてあるのかよ?」
「・・・」

少しだけ乱れた口調。

握りしめていたスカートを怖ず怖ずと離した手で、フランソワーズはジョーが差し出した景品を受け取ると、その胸に抱きしめた。


「勝手にすればいいよ、もう、本当に知らないから・・・。黙って出かけるのはルール違反だ。駅前でも、たった2、3時間ほどでも、だ。・・・もう少し自覚して欲しい」
「・・・」
「以上。ここから離れないのなら、そのままいればいい。移動するときは・・・誰でも、ボクじゃなく・・いいから、移動先を報告するように」


くるり。と、フランソワーズに背をむけて、歩き出す。









歩き出す。
歩いて、離れる。







フランソワーズから、離れる。











ふと、気づけば、邸に彼女の姿がなかった。
誰に聞いても知らない。と、言われて、心配と不安と、焦りで胃がむかついて、心臓が押しつぶされそうだった。
慌てて邸を出ようとすると、ひょっこり。と何もなかったように帰って来る。


そんなことが繰り返された。




もしかして?と。
もしかして?と。






キミはボクに秘密にしなければならないことが?




キミが言わない、言えない。
言いたくない、秘密?






・・・・・・・プライベートなこと、だから。と、我慢していたんだ。



















他の、誰か。
自分のしらない、誰かと、会っているんじゃないかって。




















怖かったんだよ。
本当は、知るのが。


キミが内緒にしていることを、知るのは、怖かったんだよ?












<・・・・・・ジョー・・>











ぴたり。と、足を止める。
人には聞こえない、回路を通して、彼を呼ぶ彼女の声は、涙声。






<・・・ごめんなさい>













はああ・・と、全身で溜め息を吐く。
ボクも、ボクだ。と、ジョーは思う。

普通に、帰って来た彼女に”どこへ行っていたの?ちゃんと言ってからでかけてよ”と、気軽に声をかけられたら、それですんでいたのだ。



たった、それだけのことだったのに。

彼女のこととなると、変に臆病になる。
そして、彼女のすべてを把握してないと、気が済まない。



誰かに、報告するんじゃなくて、ボクに報告してほしいんだ。
ギルモア博士には、”散歩で駅前に”って、キミが通い出すころに報告していたのを、知っていたのにさ。
・・・ボクに車で連れて行ってもらえ、って、言われたのに、キミが断ったから。

張大人にも、そうだったから。











ボクだけが、キミの散歩を知らなかった。
すごく、腹が立った。


<ごめんなさい、ジョー・・・>





と、同時に、哀しかった。









くるり。と、再び180度の方向転換。
早足にフランソワーズに近づくと、また1つ溜め息を吐いた。



009を盾にしている、自分が情けなくて苛々するし。
大好きな彼女を責めた自分にイライラするし。
















もどかしいボクと彼女の関係にも、いらいら。



「心配、したんだよ。これでも・・・」














はっきり気持ちを伝えたいけれど、言えない臆病なボク。



「ごめん。・・・・・・フランソワーズ、ごめんね」
「・・・・・・」
「ごめん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


下に落としていた視線をゆっくりとあげて、フランソワーズはジョーを見上げた。
フランソワーズは、少しだけ恥ずかしげに瞬きをして、ぷうっと、頬を膨らませてみせた。


「アタシ、ちゃんと言ったもん。






苛々する。
妖怪、いったんもんめに、乗っている子泣き爺がプリントされているぬいぐるみ(?)、がキミの”逢い引き”の相手だったなんて・・・。


そんなのに、焼きもちやいてたのかよ、ボクは・・・・。















####


「ジョーって、遊び人だわ!」
「!?」
「だって、これをたった1回で取っちゃうんですもの!!」


”ストーカー”発言の次に、”遊び人”と言われたジョー。


「あんなの、クレーンは決まった動きしかしないし、それと景品の位置を考えれば誰だって簡単に取れる・・」
「嘘よ!」
「嘘じゃないよ、フランが下手なだけだよ」


そんな彼は、コンビニエンス・ストアのレジで、フランソワーズの分のヴァニラ・ソフトクリームの代金を払った。

店員から受け取ったソフトクリームを片手に、開いている方の手にジョーに取ってもらった景品を持つ、フランソワーズ。


エントランスのマットを踏んで、自動ドアが開く。

”ありがとうございました~”と、言う店員の声に見送られ、ジョーは手を伸ばしてフランソワーズが持つ、”いったんもんめに乗る子泣き爺”がプリントされた、ぬいぐるみ。と、言うよりも、クッション。を、受け取った。

フランソワーズも、当たり前のようにそれをジョーへと渡す。



追いかける虫は一定の距離を保って2人を追いかけた。


「報告します、009」
「?」


ぺろ。と、ソフトクリームを舐めてから、厳かに言った。


「ミッション・コンプリート!」
「・・・・・・・経緯を報告せよ」
「どうしても欲しかったの!」
「報告しなかった理由にならないよ」


2人は、ゆっくりと歩きながらギルモア邸へと戻る。


「・・・・・結局、またジョーにね?」
「なに?」


隣を歩くフランソワーズの歩くテンポにあわせながら、ジョーは彼女をみた。


「いっつも、いっつも、アタシ、ジョーの手で、力で・・・だもの」


ぺろり。と、舐めたソフトクリームが、あまり甘くない気がする、フランソワーズ。


「それがどうかしたの?」
「・・・・・・子どもじゃないわ」
「・・・そんな風に思ったことないよ?」
「欲しいものくらい、ちゃんと自分で手に入れるのよ?」


うん、わかっているよ。
でも、それでも・・・。
それをボクの手で、したいだけなんだよ。




キミの欲しがるもの、キミのすべてをボクの手で・・・ボクだけで埋め尽くしたいんだ。





「それなら、そのソフトクリームはいらないってことだね?」
「!」


フランソワーズは早足にジョーから離れた。


「それとこれは別なの!」
「自分で欲しいものは手に入れるんだろ?」


逃げるフランソワーズを追いかける。


「もっ!へりくつばっかり!」
「フランソワーズだってさ!」


すぐに追いついたジョーは、ソフトクリームを持つフランソワーズの手に自分の手を重ねて、逃げないようにすると、大口をあけて、ぱくり。と、食べた。


「いやあっ!ジョーっ、半分食べたっ!!」
「さっさと食べないと、溶けちゃうよ?」


また、食べようと、ソフトクリームへと顔を近づけるジョー。


「駄目っ!!」


フランソワーズはとっさにジョーの手から、”景品”を取り上げて、それをジョーの顔に押し付けた。


「・・・・・」










見事。
子なき爺のプリントされた絵の。
くちびる。と、くちびるがぶつかる。


「フラン・・・・・・・・・」
「あら、・・・しなかったわ!」
「・・・・」
「んふふ♪そういう仲なのね!」
「・・・ふざけんな」


ジョーは自分のポケットにある、携帯電話にぶら下がるそれに苛々をぶつける日々が始まる。



「お邪魔しちゃったら悪いわ!」
「おい・・・」






ふう~ん。と、飛ぶ虫が2人を追いかける。

帰り着いた邸でジョーを待っていたのは、”子なき爺がジョーの1stキスの相手”と言う声と、証拠映像をプリントした画像。


そして、ベストなカメラワークで捕らえた2人のツーショットは、ギルモア邸からのグリーティングカードとして、世にお披露目された。

それは3ヶ月ほど先ののクリスマスの出来事。








*おまけ*

日本を去る前日、ピュンマはグレートにあるDVDを渡した。

「いつかさあ、お祝いにこれをお式で披露したいんだけど?それで、君の意見を聞きたいんだ!」


渡されたDVD視聴会は、2人が”週末の買い出し”に出かけている時間に開かれることとなった。


DVDを見終わった、ギルモア、グレート、大人、イワンは大変に盛り上がり、早速ピュンマへと、賛辞のメールが送られた。






アコースティックギターに、女性ボーカルの落ち着いた声。
アップテンポな、どこにでもあふれているラブソング。

その曲にあわせて編集された、あの日の映像(+α)。




”ラストにさあ、2人のキスシーンでもあれば、満足なんだけどね!”


と、返信されたメールに。


”ま、気長に待つさ!小型カメラ大量生産してなあ”




と、送り返した。














*ってことだそうです(笑)
 今回は、あまり9を振り回してない3です。
 
相互LINKをしていただいた、りーみんさま(山の端の月・サイトさま)から ”いったんもんめと子なきじじい”のぬいぐるみ♪を教えていただいて、それは使わねば!と(笑)このお話ができました~。>ありがとうございます!

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こぼれおちる・こぼれおちた

「009、・・・て呼ぶの、ちょっと困るんだ、けど?」 戸惑った口調で呟いた009。 ギルモア邸と呼べる、帰る家ができて1ヶ月ほどたったころだった。 朱の季節が終わりに近づいて、白の季節が始まろうとした季節。 しんしんと冷え出した空気は、湿気大国日本ならではに、身をしみるような寒さ。 邸が海沿いにあることも手伝って、吹きすさぶ冬の潮風は、簡単に003と呼ばれた 彼女から体温を奪っていく。 「・・・だから、名前」 薄暗いオレンジ色のフィルター越しに見える夕暮れが、冷えきった体温を 温めていく気がしたが、耳に届いた声がそれさえも遮った。 「その・・・・・・スーパーとか街中とかで、009って呼ぶの、どうかってこと」 人がやっと歩けるほどの幅に白線が引かれただけの車道を2人縦に並んで、歩く。 003と呼ばれた異国の少女は、両手に買い物袋を下げて歩く後ろを、 一目見ただけでは日本人かどうか、判断しずらい青年が歩く。彼の手にも同じように、 前を歩く少女の倍の買い物袋が両手にぶら下がっていた。 通りすぎる車もなく、街灯もぽつり。ぽつり。と、距離がある感覚に設けられている、 淋しい道を歩く2人。 「・・・ごめんなさい」 謝る必要がないのに、彼女の口からこぼれ落ちた、言葉。 右肩にくちびるを寄せるようにして、少しだけ振り返ってみる。が、003は後ろを歩く 009の顔ではなく、彼の手にある買い物袋を見て、再び視線を邸へと繋がる道へと戻した。 海風にさらわれてしまいそうなほど、細い声だったが、ちゃんと009の耳には届いていた。 そして、その単語を聴いて、009は溜め息をひとつ零した。 「べつに、・・・・003が悪いわけじゃないんだけど・・・」 言い訳する。 少し口調がきつかったか?と、反省するが、買い物先での出来事を思い出すと、 どうにも口調が荒くなってしまう。 それも003が悪いわけではなかった。 夕方の買い物ラッシュのスーパーで、大声で”名前”を呼ばれただけのこと。 名前。 「009っ!」 まだ馴染めないでいる日本での生活の中で”日本人である、009を頼るのは自然な事。 009も別に迷惑だとか、何も思ってはいない。 ただ、状況とその名前が場にそぐわなかっただけである。 「ごめんなさい」 003は前を向いたまま、こぼす。 その声もちゃんと、009の耳に届いている。 ごおおっと、強い海風が海岸から2人を襲う。 003の足が止まり、その強風に耐えるように少し膝をまげた。 亜麻色の髪が右側へと靡き、彼女の髪に飾られていたカチューシャが、外れた。 あ。と、003の短い声に、009の視線が飛ばされたカチューシャを追う。 かつん、と、アスファルトに叩き付けられて、それ跳ねる。そして、風に煽られて 2人よりも早く邸に続く道を走った。 「ごめんなさい」 誰に、何を謝っているのだろうか?と、009は003を見た。 彼女は慌ててカチューシャを追いかけて行く。 がさがさと両手に持つ荷物を揺らして。 ただ、走って行く003の姿を見ながら、彼女を追うこともせずに歩き続けた。 どうせ戻る邸は同じだから、と。 数メートル先で、003は立っていた。 大きなカーブを曲がったところで、やっと009の視界に003を捕らえる事が出来た。 003も、009の姿が見えたのだろう、彼女は確認するように少しだけ首を傾ける。と、 背の低いガードレールとその崖下、そして009を何度か視線だけで往復してから 再び歩き出した。無言で歩き続けていたら、いつの間にか009は003と数歩ほどの 距離にまで近づいていた。 何事もなかったように、003の後ろ姿を見ながら歩く。 まもなく、邸へと続く私道が見えてくる。 ** 帰り着いた邸の玄関先で、どかどかと、食料品を詰め込んだ袋をおろしていく。 温められた邸の空気がじんじんと、冷たい風に晒されていた素肌を攻撃していく。 とたんに、人工皮膚がかゆみに似た感覚と一緒に温まったいき、同時に、 頬が、耳が、ぽ。と、燃えるように熱くなった。 はあ、っと。寒さに凍えていた肺が、緊張を解いてその役割通りの空気量を取り込んだ。 「お疲れさまアルネ」 物音を聞きつけて、玄関までやってきた張大人。 「・・・メモにかかれていたものは、一応全部買えたよ」 「それは良かったネ。・・・寒い中、ありがとさん!」 「みんなは?」 「まだ、戻ってこないね。やっぱり、車が1台じゃ不便アルなあ・・・」 「そうだね」 張大人は、床におろされた袋を持てるだけ持って、ダイニングルームへと向かう。 靴を脱いで、009も再び荷物を持つと、それに続いた。 あ。と、外で聴いたのと同じ声が溢れた。 その声に振り返った009は、自分が持つ分がなくなって戸惑う003を見た。 「・・・これで全部だから」 「ごめんなさい」 003のそんな言葉に返事もせず、黙ってダイニングルームへと足を進めた。 リビングルームを抜けて、ダイニングルームへ。 キッチンとダイニングルームを隔てるのは、カウンターテーブル。 そのテーブルの上に荷物を置くと、張大人が再び、お疲れさんやったネ。と、ジョーに 声をかけて、熱々の紅茶を出してくれた。 「あれ、フランソワーズはどうしたネ?」 「さあ、部屋じゃない?」 「外は寒かったネ。あんな薄着で、フランソワーズは風邪引くアルヨ・・」 張大人はぱたぱたと、スリッパを鳴らしてダイニングルームから出て行く。 2階へ通じる階段から声が聞こえた。 「フランソワーズ!温かいティーいれたネ、こっちくるヨロシ!!」 その声から、10分経ち、30分経ち、1時間経っても003こと、フランソワーズは 姿を見せず、人が住めるようになってきた邸をさらに快適にしようと出かけていた、 外出組が帰って来ても、夕食の席にも彼女は姿を現さなかった。 「何かあったのか?」 フランソワーズの兄的存在である、アルベルトがジョーに訊ねた。 「別に、普通」 「普通、か?」 「・・・。買い物いって、帰って来ただけだけど?」 ジョーの話しを聞いて、アルベルトはふう、と溜め息を吐いた。 テーブルには張大人が愛情一杯栄養満点の夕食が並び、きちんと、フランソワーズの分も そこに並んでいた。 「またジョーがきつい事いったんじゃないの?」 ピュンマが眉間に皺を寄せた。 「なんで、ボクが・・・」 「疲れただけだろお・・きっと。やっぱ不便だぜ?1台で、この人数じゃあよお」 面倒臭そうにジェットが言った。 ジェロニモがゆっくりとその巨体を動かして椅子から立ち上がると、 ダイニングルームを出て行く。それを視線の端にテーブルにつくそれぞれが捕らえているが、 何も言わない。話題は彼女のことから離れて行った。 10分ほどして、ダイニングルームに戻って来たジェロニモの姿に、テーブル についている人数×2の視線がジェロニモに注がれた。 「ジョー、本当に何もなかったか?」 「え?」 彼は再び椅子に座りながら、訊ねた。 「009」 「ああ・・・。スーパーでそうやって呼ばれたから、・・・・それはちょっと、って話しを少し」 「なんだい、マドモアゼルはそんなことで叱られて部屋に閉じこもっているのかいな?」 グレートが、呆れたように呟いた。 その呟きに、ジョーは同意する。 ジェロニモは、それ以上何も言わない。黙ってダイニングテーブルの席に座り直したので、 なんだよ?と、ジョーは胸の中で呟きながらも、さっさと夕食を済ませてしまった。 ** 吐き出した空気が濃い白で、目で確認することができる、朝。 捨てられていた自転車をジェットとピュンマ、3人で使えるように手を入れた。 それを走らせて駅前のコンビニで出ているだけの新聞を買いに出かけるのが、 いつの間にかジョーの日課になっていた。 新聞の束を脇にかかえて、舗装されていない、砂利道のギルモア邸に続く道らしくない道を あがって行く途中、にゃあ。とジョーの足に絡まった。 「?」 どこからやってきたのか、薄汚れた白い子猫がにゃあ、なあ。と、甘えた声を出して ジョーの足にすり寄った。 ジョーの意識が子猫に向かうと、にゃああ、にやあ、なあ。と、足下にいる子猫と 輪唱するように、別の場所から鳴き声が聞こえはじめた。 持ち上げていた自転車を降ろして横倒しにし、その上に買って来たばかりの新聞紙の束を置き、 足に絡まる子猫をひょいと手の平に乗せて、輪唱する声の元へと歩いていった。 ギルモア邸の、リビングルームに繋がる庭にざっくりと毛糸で編まれた赤いカーディガンを 羽織った裾長いナイティを着たフランソワーズが居た。 冷えた大地に座り込んで。 膝に1匹。足下に2匹。 親猫と思われる、猫の喉を撫でてやり、膝の上にいる子猫にキスをして、落ちていた小枝を手に、 足下にいる2匹と遊ぶ。 なあ、にやあ。にゃにゃあ。なああん。と、子猫の戯れる声に紛れて、フランソワーズの くすくすとした、笑い声が混じる。 「んふふf、こっち、ほおおら・・・こっちよ?・・・ね?」 親猫から手を離し、膝上の子猫を撫でる。と、親猫は甘えるように、膝上の子猫と同じように フランソワーズの膝に乗ろうとしたので、小枝を持ったまま膝上の子猫を抱き上げて、 親猫を膝にのっけると、片手で子猫胸元で抱きしめた。 そのまま再び小枝を使って2匹の元気な子猫と戯れ始める。 「ここまで飛べるかしら?」 小枝をイタズラに子猫たちの頭3つ分ほどの高さで揺らす。 1匹の猫がひょん、と仁王立ちになって、枝にパンチ。 「あら、ずるいわ、立つなんてずるっこよ?」 ふふふ、っと笑って、また少し小枝の位置を高くした。 「ね?これならどおかしら?」 なあああっ!にゃおん。と、からだを伸ばす、子猫たち。 「飛んでごらんなさいな、ほおら、ここまで届くかしら?」 ジョーの手の平に乗っていた子猫の瞳にフランソワーズの揺らす小枝が 映り興奮したように、鳴いた。 なゃおおおんっ! フランソワーズの、手が止まる。 は!と、息を飲んで自分が遊ぶ子猫たちとは別方向から聞こえた子猫の声に振り返った。 ジョーは腰を屈めて子猫を地に降ろしてやると、薄汚れた白の子猫は走って 2匹の子猫に戯れついた。 「ご、ごめんなさいっ」 ジョーの姿を見て、フランソワーズは胸に抱いていた子猫を降ろし、膝の上の親猫も 同じように膝から降ろして立ち上がって慌ててリビングルームへと駆け込んで行った。 にゃああお、なああおん!と、残された猫たちが鳴いた声が、ジョーには自分を責めているように 聞こえたけれど、それよりも、彼女のくすくすとした笑い声が耳から離れないで、 ジョーの胸奥におちた。 「どうした、いつものは?」 張大人のお手伝いに、キッチンからトレーに朝食をのせて運ぶフランソワーズを見て アルベルトが珈琲を飲みながら彼女に尋ねた。 「え?」 「いつものは?」 トレーをテーブルにおいて、しばし考える。と、アルベルトが指で右耳から左耳にかけて 頭の上に線を書くように往復させてみせた。 「あ・・・うん。いつもの、ね?うん・・・そうね、どうしたのかしら?」 「答えになってないぞ?」 トレーの上のハムエッグの皿に焼きたてのトーストを積み上げた皿をテーブルにのせて、 うん、そうね、うん。と、1人で相づちを打ちながらキッチンへと引っ込んで行った。 そんなフランソワーズを見ながら、アルベルトは手にもっていた珈琲を飲み干して、 おかわりもらえるか?と、キッチンカウンターから見えたフランソワーズに声をかけた。 新しい珈琲マグに注いで、フランソワーズはそれをアルベルトに運ぶ。 「で?どうした?」 「あ、うん。はい・・・」 「ああ、ありがと・・・。それで?」 ええ、そうなの。うん。を、繰り返し空になったアルベルトのマグと一緒にキッチンへと 再びひっこんでしまった。 なんだありゃあ?と、ぼやくジェットに、そんなやり取りを見つめていたジョー、グレート、そして キッチンに張大人。 意図せずにしてアルベルトと視線があったジョーは、あ。と、昨日のことを思い出したが、 何も言わずに自分の分のハムエッグの皿を引き寄せる。 それから1週間。 彼女の髪にカチューシャは飾られたことがない。 たかだかヘアアクセサリーひとつ。 ジョーは何も気にしないが、ジョー以外の仲間たちは気にしている様子だった。 ** ジョーは毎朝、自転車を走らせる。 昨夜、夕食を終えてうとうとしていたら、そのまま朝を迎えてしまったらしく、早い時間に 目が覚めたジョーは、気にする事無く、いつもよりも1時間早く、駅前のコンビニへ 自転車を走らせた。 「・・・003?」 ガードレールから身を乗り出して、崖下の海を覗き込んでいる、人。 危ないな・・。と、胸の中で呟いて、薄明るい空の下を下りの道をさあああっと自転車で かけ行こうとしたが、無視する事もできずに、きい。と、急ブレーキをかけて、靴底で踏ん張って 自転車を止めた。 「!」 「危ないよ・・・勘違いされてしまうと思うけど?」 「あ、・・・」 崖下を覗くようにガードレールに身を乗り出していた人を、見間違えるのは少々難しい。それは、 ここが極東の島国であるせいかもしれない。薄白い濁る朝でも、彼女の亜麻色の髪は きらきらと光るために。 「こんな朝早く、何してるの?」 「あ・・・の、ごめんなさい」 「・・・・謝るの好きだね?」 「ごめんなさい」 「・・・ミッション中と、キャラ違うよね?」 「え、あ・・ごめんなさい」 「聞き飽きたから、なんか他の言葉ない?」 「・・・・・スミマセン」 「・・・・かわんないよ?」 「・・・」 自転車にまたがったまま、見る003。 何も言わずに押し黙ってしまった彼女に、取りつく島はなく、そして、009もそれ以上の会話を 繋げる努力をする理由もなかったので、ペダルに力を入れようとしたときに、細い声が 009の耳に届く。 「お、・・・お願いしたいことが、あるの・・・だけど・・」 進行方向へ視線を向けていた、009が003へと視線を戻す。 「お願い?・・・何を?」 「・・・・・・この、下の・・・下に、落ちたの・・」 003は視線を背後のガードレールに振り向くようにして、不安げに言葉を続ける。 「何が?」 「・・・一度降りてみたのだけど、岩と岩の間に・・・腕を伸ばして取ろうとしたらもっと奥の、 溝に入りこんで・・岩を動かすか、壊すか・・・・しないと・・」 「だから、何が?」 溜め息まじりに聞いた。 「…・・・・・カチューシャ」 「落としたの?」 「・・・はい」 「拾いたいんだ?」 「・・・はい」 「もっと早く言えばいいのに・・・どこ?」 009は自転車から降りて、自転車をガードレールにたてかけた。そして、003の隣に立ち、 さきほど003がしていたようにガードレールから身を乗り出して、崖したを見下ろした。 「あの、大きな岩と中くらいの岩の間に・・隙間があるでしょう?」 003は指をさして、波にさらされている岩のひとつを指差した。 「あれ?」 「ええ・・・。あの下に入り込んでしまって」 「視えるの?」 隣の003を見る。009に言葉にこくん。と頷いた。 「あそこまで降りたんだ?」 「・・・ええ」 崖下には足場らしい足場などない。 岩がむき出しになってより固まっているだけである。 「人が来ないように、見てて」 「・・・はい」 ひらり。と、ガードレールを飛び越えて、 十数メートル下へと軽々と着地する。 ぐらぐらっと揺れる岩から、岩へと飛び移り、指差された、軽自動車ほどの大きさの岩の下に できていた空間に片手を突っ込むと、ぐっと力を入れた。 地鳴りのような、岩と岩がこすれ合う音。 持ち上げた岩を、乱暴に押す。 波に逆い岩はどおおおおおおん!と、海へと投げられた。 視線を自分がどかした岩があった場所に戻すと、眼にしている自然の色に不釣り合いな赤、が 目に飛び込んで来たので、それを無造作に腰を折って拾ったとき、ぺき。と、軽い音がした。 「あ・・・」 引っかかっていたことにl気づかなかった。 プラスティックのそれは、2/3の部分だけ、003の手に戻って来た。 「009、ごめんなさい・・」 残りの1/3は潮風に煽られた波にさらわれて、ぐっしょり濡れた服のまま、朝の日課は キャンセルするしかない。 ごめんなさいは、こっちのセリフだろ?と思ったがその言葉を飲み込んで、黙って邸まで自転車を 押して003と邸に戻った。 すぐにシャワーを浴び、ベトベトした潮から解放されて1階のダイニングルームで朝食を。と、向かう。 ジョーの姿がダイニングルームに現れると揃っていた仲間が一斉に「新聞は!」の声。 キッチンでいつものように張大人を手伝っていた003は、そっとキッチンから出て行きながら エプロンを外して、玄関へ向かう、その行動を視界の端で彼女を追いながら、ジョーは答えた。 「今からだよ、寝坊したんだ・・・すぐ買ってくるから」 003を追うようにして009がダイニングルームを出て行く。 張大人が、朝ご飯の後でもいいアルネ。と声をかけるが、すぐだから。と、振り返る事なく返事する。 仲間たちは、何事もなかったように、003がキッチンから出て行った事もさほど気にする様子もなく、 いつもの時間に朝食をとり始めた。 ** 玄関を出て、ジョーは彼女を、003を呼び止めようとした。 003!と、声を出そうとするよりも、先に躯が動いた。 邸を出て私道の砂利道が、舗装されたアスファルトに変わる、一歩手前。 彼女の手首を掴んだ009。 ひきとめられて、振り返った003のの頬が赤く染まる。 その反応に、009は目をまんまるにして驚いた。 「・・・あ、あ、手・・・009、あのっ・・・手・・・手・・・」 上擦った、003の声。 「新聞はボクが買いに行くから、フランソワーズ」 ぼん!と003が、フランソワーズが噴火した。 「フランソワーズ?」 「あ。・・あ、あの・・・あの、し、し、しん、しんぶ、しんぶっhnは・・」 「自転車で行った方が早いから、フランソワーズは朝飯食べた?まだだろ?」 耳も首も真っ赤になって大きな瞳がさらに大きく見開かれて、顔からこぼれ落ちないのかなあ? と、のんびりと考えながらフランソワーズをみる、ジョーは、ふと。初めて面とむかって 彼女の名前を呼んだ気がした。 今まで、”仲間たち”の前ではその名を口にしたことはあるが、彼女本人にむかっては 呼んだことはない。 自分が彼女の名前を言っている事は、003であるから、どこかで聴いてはいただろう。 もしかしたら。と、思う。 「フランソワーズ、ってボクが呼ばないから、キミは009って呼ぶの?」 忙しなく瞬いていた瞼がとまった。 「そうなんだ?」 視線を逸らした。 「・・・・キミが先に呼んでくれたらいいのにさ?」 視線が彼に戻った。 「・・・・・呼んでも、いいの?」 「え?」 「だ、だって・・・にほ、日本の、日本の男の人の、ファーストネームを呼ぶのって、 ・・・その、特別、なんでしょ?」 「は?」 「あ、の・・その・・日本は、ファミリー・ネームで・・・呼び合うって・・・その、し、親しい、 間柄の、・・・ボ、ぼ、ボーイフレンドとか、そういう・・の、だって、聴いたから・・」 「え・・?だから、009なわけ?」 再び、視線をそらしたフランソワーズに、ジョーは質問を続けた。 それは、最近ずっと考えていたこと。 「じゃあ、なんでいつも謝るの?・・・キミは悪くないのに、さ」 「・・・そ、それは・・、その・・ま、前に・・だって」 「前?」 「前・・あの、・・・す、素直に、・・あ、謝ることが、出来ない子なんて、って。は、 話しを・・してた、でしょ?」 「?」 「ま、前の、ミッションで・・・そ、の・・・」 ああ・・・。 え?・・・それって、確か・・・・。 「ジェットの元カノの話し?・・・ヨーロッパの子はプライドが高くて、意地っ張りで素直に 自分の非を認めないから、面倒だって・・・言う、え?・・・っと・・」 だから、ごめんなさい? それって・・・・。 それって、さ・・・・。 彼女の手首を握っている009の手が、汗ばんでくる。 上昇する体温に、逆上せきっている彼女の、フランソワーズの体温に。 ファーストネームで呼び合うのは、ボーイフレンド・ガールフレンドの関係と 思っていた、フランソワーズ。 振られた彼女に対するジェットの不満をそのまま信じ込んでしまったヨーロッパに属する、 フランス出身の、フランソワーズ。 「いつも言うごめんなさいの理由が、それ?・・・そして、ボクを009って頑に 呼び続けていたのが・・」 思いつき、もしくは、男の感。 こころに浮かべた言葉がこぼれ落ちる。 「ボクのこと、好きだったりして?」 逸らされていた視線が、再びジョーに戻ってくる。 顔からこぼれ落ちてしまわないか心配なほどに、大きな、大きな瞳は、瞬きもせずに 空色の双眸に涙がたまる。 「え・・・・・。本気(マジ)で・・・・?」 「・・・ご、めんな、さい・・・・・」 こぼれおちたのは、涙。 こぼれおちたのは、ごめんなさい。と・・・・ こぼれおちたのは、ボクへの気持ち。 その涙を、その言葉を、その気持ちを、拾い上げるのに、ボクは大変な思いをした。 たくさんの経験が必要だった。 放っておく事だってできたのに。 落ちたそれを見てしまったから、放っておけなかった。 まず、新しい赤いカチューシャを探し出してプレゼントした。 そして、”フランソワーズ”とちゃんと彼女にむかって呼ぶ。 少しばかり、時間がかかったけれど、ジョーと、ボクの名前を呼んでもらった。 その後にも、たくさん彼女から、色々なものがこぼれおちた。 それを、必死で一つ残らずに拾い上げた。 絶対に、あの日のカチューシャのように、割らない、壊さないように・・・・。 けれどもたまに、ヒビがはいってしまって、辛くて、悲しくて、痛い思いもしたけれど。 ** 「これ、まだ持ってたの?」 「あ・・・ええ」 フランソワーズの部屋の、ベッドサイドに置かれたミニチェストの一番上の引き出し。 いつもはナイト・スタンドなど灯けず、取り出すためにその引き出しを開けるけれど、買って来た ばかりの箱をしまうために、開けて見つけた。 「欠けてるのに?」 「だって・・・捨てられないわ」 「どうして?」 フランソワーズはベッドの上に浅く腰掛けて、買ってきたばかりの雑誌を膝の上に広げた。 「どうして?」 もう一度訊ねる。 それを引き出しから取り出そうとしたとき、こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳を瞬かせながら、 雑誌から視線を離した。 「いいの。持っておきたいから」 「新しいの、いっぱい買ってあげたのに?」 「でも、それは特別なの・・・ごめんなさい」 「?」 「いっぱい買ってくれるのに、持っていてごめんなさい、ジョー」 「・・・?」 「ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなs・・イ」 急に、”ごめんなさい”を連呼し始めた、そのくちびるを塞ぐ。 喉奥で、まだ言い続けるフランソワーズの”ごめんなさい”を、直接飲み込んでいきながら、 紙とインクの匂いが強い、新しい雑誌を彼女の膝から床に落とした。 懐かしいな。と、思い出がこぼれおちる。 フランソワーズの”ごめんなさい”はとまらない。 ベッドに浅く腰かけていただけの彼女の背を押し倒しながら、開けたままになっていた 引き出しを閉めた。 広がるフランソワーズの薫りと、亜麻色の髪。 角度を変えるたびに、ナイト・スタンドの光を集めて輝く。 息継ぎのタイミングを逃さずに、フランソワーズの吐息とともに言葉がこぼれおちた。 「閉まっちゃったの?・・・じゃあ、今日は・・・」 「フランソワーズ・・・・」 「j・・よ・・・オ?」 疑問の声をふさいで続きをうながす。 「あの・・・・カチューシャ,を、見つけた・・・、だから・・・・・さ」 「・・・・え、・・・m?」 「ふ、らんそ・・・フランソワーズ・・・」 名前を呼んでぎゅっと、抱きしめた。 「ごめん、・・・フランソワーズ、あれは今後使わないよ・・・買って損したね」 「!」 言葉としてキミの耳にこぼれおちた、ボクの決心をキミは拾ってくれるだろうか? 「・・・・・返品できるのかしら?」 「ごめんなさい。これからはボクたち、使用しないことに決めましたからって?」 少しの間見つめ合って。 くすくすと、笑い合って。 深く、深く、いつもよりも深く、慎重にくちびるを重ね合わせて。 ジョーは腕を伸ばしてナイトスタンドの電気を消した・・・・その手で、彼女の髪から 赤いカチューシャを外す。 フランソワーズの薫りが、胸にこぼれおちて。 吐息がまじりあって、こぼれちて。 瑠璃色の空の星が、こぼれおちて。 月の光が、カーテンを引かない窓からこぼれおちて。 命が、あふれこぼれおちる。 2人で拾い受け止める。 そんな未来が溢れて。 そんな幸せがこぼれおちた先は、海沿いに立つ洋館の、リビングルーム。 真新しいベビーベッドの上に・・・。 end. ・あとがき・ 告白で終わるのが、私のパターン(笑)なのに! がんばった(?)大人・・・(汗)お、大人? 初93ベビー話(笑) 練習。 たぶん、何かの練習。 妄想で、練習・・・。切ないのが書きたいこのごろだけど、同時に大人もしたいこのごろ。 イラスト/ふわふわ。り

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ホテルの部屋割りは、ジェットの鼾ではジョーに健やかな睡眠が与えられないと言う意見と、アルベルトがジェットとの同室に遠慮ない不満を現し、そんなアルベルトの躯を当麻に見せるのはどうか?と、言う疑問もあったたために、901号室に篠原当麻、ジェット。そして903号室に、アルベルトとジョーとなり、904号室に1人フランソワーズが泊まった。




あやめ祭、当日の朝。


耳に微かに届く聞き慣れた声がメロディにのって聞こえてきたために予定している起床時間よりも早く目覚めたアルベルトは、直射する朝日を遮る事ができない薄いカーテンがかかる窓を避けるように躯を寝返らせる。と、視界に浮かび上がったシルエットに目を細めた。

聞き覚えあるその節は、世界中を熱狂の渦に巻き込んだ、イギリスの・・・。
歌いなれているようすで節をまわし、狂いない音程にオリジナルよりも早いテンポを刻む。そして、彼なりにアレンジされたグルーブ感で口づさむ。


補助脳なしで発音よく英語を話せる彼の、理由が解った気がした。

誰かに習ったのか、もともとそういう才があったのか。
地声の声室は甘いテノールに低音のノイズをカットした耳心地良い声。その声で歌い上げられたら、女はイチコロだぞ?と、歌詞の内容が内容だけに、余計にだ。と微笑む。

フランソワーズが上手いと言っていた。が、それがどれほどの”上手い”なのか疑問に思っていたアルベルト。
今、耳にするその音は、アルベルトが十分に聴いていられるものだった。


「--Believe me when I tell you~・・・・・・I'll never do ・・・はあ・・まじでかよ・・」


最後の単語を歌いきらず、日本語で溜め息が漏れた。
ベッドの上で両膝を立てて膝頭の上に腕を乗せてそこへ顔を埋め、かなりの勢いで凹み始めたジョーの様子を目にして、思わず喉奥から嗤いが漏れた。


「っっく・・・く、・・・」
「!!アルベルトっっ起きてっ?!」


押さえられない嗤いに揺れながら、上半身を起き上がらせたアルベルトは、片手を上げて、すまん。と、一応謝ってみる。が、頬を染めて逃げるように、ベッドから立ち上がったジョーはバスルームへと向かう。
その彼を呼び止める。


「まあ、待て・・・いい声だ。それに確かに上手いぞ、お前・・・。そんな才能があったとはな、驚いた。習ったのか?」


顔は嗤っているが、からかうような意は含んではおらず、まじめに質問をしているようなので、ジョーはバスルームに向かわず、2脚向かい合わせにおかれていたシングルソファにどっかりと座り、テーブルに投げ置かれていGARAMの紅い箱からを1本取り出すと、テレを隠すように火を点けて、胸いっぱいにその白い毒を吸い込んだ。


「習ったことあるのか?」
「・・・・聖歌隊」
「ほお・・・・お前さんがか!」


ジョーは天井を見上げるように吐き出した煙を見つめる。


「11、2歳まで身を寄せていた施設は、全部教会系列だったんだ・・・。参加すると、色々なところへ連れて行ってもらえるし、・・・得することが多かったんだ、よ」
「基礎は出来てたってことか?」
「・・・・専門的な訓練はしてないと思う、よ。よくは解らない・・・あとは、まあ・・・」


左手の人差し指と中指に挟んだ煙草を再び口元へと運び加えると、アルベルトもベッドから起き上がって、履いていたズボンのポケットから煙草を取り出した。


「なんだ?」


ベッドに座り直して、取り出した煙草を加えると、ジョーはライターをアルベルトへと投げた。


「夜のバイト先が生バン入れていたんだよ・・・。週末はセッションとかしていて、おもしろ半分で。当時ヴォーカルの人にお世話になってました、以上」
「女か」
「・・・男でたまるか」


かち。と、100円オイルライターで火を点す。


「どおりで・・・聖歌隊じゃ、そんなグルーブ感は出せんからな」
「ドタキャン、だめかな?」
「009がか?」
「・・・・うん」
「想像できん」
「・・・・僕だって」


2人が吐き出す煙が部屋に浮かび、消えて行く。


「選曲、・・・コーコーセーには渋すぎないか?」
「ソラで全歌詞を歌えるのなんて、これくらい」
「こんなときこそ補助脳を使え」
「・・・・そうだね」


雀が鳴き、近くの車道を忙しなく行き交う車の音。
街独特な朝の騒音が耳に届き始めた。


「誰のために歌った?」
「・・・・歌ったら寝床に困らなかった」
「だろうな」


短くなった煙草を加えながら、ジョーは呟いた。


「・・・みんなに言っただろ?」
「もちろん」
「何のために?」
「心配するな、みんな(フランソワーズ)には言ってない」
「・・・・っ」


に。と口角上げてイタズラな笑み。
真四角なローテーブルの上に置いてある、グラスの灰皿に煙草を押し付けたジョーは、立ち上がってバスルームに向かう。


「...シャワー使うから!」
「ごゆっくり」


ばたん。とバスルームのドアが閉まり、シャワーがバスタブを叩く音が聞こえ始めた。


「・・・根が純で馬鹿がつくほど真面目だったから、影響されやすく、疑う事もしない。その上・・・騙されやすい」


アルベルトはベッドから腰を上げて煙草を、ジョーが使った灰皿に奥と、窓へと向かい、一気にカーテンを開けた。

「・・・・・悪ぶってるのか、本気で悪なのか、背伸びしているのか、していることが当たり前になってしまったのか・・・まったく、可愛い弟だ」



バスタブを叩き付けるシャワーの音が、ドア越しに籠った音で聞こえ続ける。


「・・・暑くなりそうだ」











####

オークション参加者は本番前に流れを把握するためのリハーサルがあり、2時間前には会場となる学院本館裏、中庭をはさんだ位置にある、オークション会場となっている星辰(せいしん)館(大)ホールに集合となっていた。

一般入場するのはギルモア、001、003、そして006。
007は姿を変えて、篠原さえこについて会場入りする。005はすでに篠原総合病院で石川斗織につきそっている。004は、篠原さえこの口利きで篠原グループの”特別”ゲストとして、自由に学院内どこへでもアクセスできるようになっていた。


<報告>
<003。001、006と博士、ホテルロビー・喫茶室>
<004。同じ>
<008。学院本館セキュリティ・ブース、問題なし>
<002。グラウンド、出店すっげ~ぞ!!ミツヒロ(とクラーク)が参加してるグループ発見。クラークとヒツミロの姿はなし!やっぱ作品だけなんじゃね?問題ねえぜ>
<002、008は戻ってきてくれ。そろそろ会場へ向かう>
<了解>
<OK>
<003、6、津田の関係者は?>
<予定通りに、ここで待ち合わせの約束を008が・・・。時間までまだ1時間ほど時間があるわ>
<わかった>
<よお、009、聞こえるか?>
<007・・・今は?>
<やっと通信が使える範囲に入ったなあ、なに、あと15分もしないで学院に着く>
<了解。じゃ、また30分後に>
<<<<<了解>>>>>


集合時間にはまだ20分ほど時間がある紫微垣(しびえん)の1階カフェテリアに、ジョー、当麻、そして海はいた。

ここ紫微垣(しびえん)は1階、2階のみを一般解放されている。
学院のグラウンドにはテナントブースを持つ参加者が、朝早くから準備にきているために、オークションに参加するために訪れる学生たちのために、カフェテリアはあやめ祭が始まる時間よりも早い時間に開いていた。


「・・・・そろそろピュンマとジェットが戻ってくる、よ」


集合時間までカフェテリアで朝食を済ました、その後、002,008は”仕事”に席を外していた。


「本当に・・・連絡取ってるんだよね・・・・?」


じっと、ジョーの顔を見つめて不思議そうに海は訊ねた。
ジョーは視線を海へとむけると、その好奇心ある色を含んだ瞳にむかって微笑む。


「・・・何かしようか?」
「何かって?」


首を傾げてみせる、海に、ジョーはちょっとした”サイボーグ”の機能のひとつを披露することにした。


<008>
<yes、009!>
<津田が脳波通信を不思議がってる・・・>
<はい?>

「何か、ピュンマに伝言は?」
「ええっと・・・、じゃ!オークションの後は姉さんたちと行動したいか聴いて、その答えを、ぼくの携帯に送ってもらえる?」
「了解」
<008、津田からの伝言。オークション後は津田の姉たちと行動したいかって聴いている。返事は直接彼の携帯にメールしてくれ>
<あははっ海ってば・・・それで?オークション後は?>
<海と一緒に行動してくれるなら、誰と一緒でもかまわない>
<了解、009>

海はテーブルの上に携帯電話を置く。当麻も思わず、その携帯電話を見つめた。
1分ほどして着信音が鳴り、海が慌ててそれを手に取った様子を、珈琲を飲みながら眺めている、ジョー。


「あ!」
「・・・・津田?」
「篠原・・・ほら・・・」


海は携帯電話を当麻に見せた。

”ちゃんと伝言受け取ったよ、喜んでお姉さんたちと学院をまわる!!楽しみだね。それとさ、ちゃんとジョーと通信できてるから、疑うなよ~! P”


「・・・納得?」


ジョーの言葉に海は大きく何度も頷いて、当麻は少しその表情を曇らせながら、ジョーに向かって訊ねた。


「・・・連絡って・・・その、フランとも?」
「・・・」


手に持っていた珈琲カップを置いて、ジョーは視線だけで当麻を見る。


「彼女は今、博士、イワン、張大人と、彼らが滞在してるホテルの喫茶室・・・・」


言葉を切って、脳波通信で003に訊ねた。


<003>
<009?>
<喫茶室?>
<・・・え、ええ・・朝食を・・・何かあって?>
<ちょっと、質問されて、ね・・・>
<質問?>
<脳波通信を疑われた>
<え?>
<今日のキミの朝食は?>
<・・・・命令?>
<悪いけど、命令>
<・・・カフェオレとモーニング・ワッフルにフルーツサラダ>
<・・・と?>


フランソワーズの沈黙。
ジョーは黙って次の彼女の言葉を待つ。


<・・・・・・・・・と。・・ストロベリームース>
<了解、ありがとう>
<・・・遊ばないで、009>
<・・・まじめだよ。訊かれると思うから、答えてあげて。以上>


楽しげに微笑んだジョーにたいして興味深く見守る海と、真剣な目でジョーを見る当麻。


「会ったときに訊いたらいい、よ・・・。フランソワーズの朝食はカフェオレ、モーニング・ワッフルにフルーツサラダと、・・・ストロベリームース」


当麻は海と同じように携帯電話を取り出して、メールではなく電話をかけた。
ちょうどそのとき、ジェットがカフェテリア内に姿を見せる。と、ジョーは片手を上げて答えた。


「よ、どこ電話してんだ?」
「・・・003の朝食をチェック中」
「ああ?」


なんだそりゃ?と眉間に皺を寄せながら、ジェットはどっかりとジョーの隣の椅子に座った。


「・・・通信が実際に使用されているか疑われた」
「それで、・・・?」
「通信で、俺が聞き出したのを、今、篠原が実際に彼女から聴くそうだ、よ」
「つまんねえことしてんじゃねえよっ、たく・・・で、フランソワーズ、何喰ったんだよ?」
「カフェオレ、モーニング・ワッフルにフルーツサラダと、ストロベリームースだ、そうだよ」
「朝っぱらからよく喰うぜ!」
「・・・・まあ、フランソワーズだし、ね。ジェットに負けず劣らずで別に問題ないだろ?」
「大有りだぜ?・・・オレと同じだけ喰ってどうすんだよ!」


まっすぐに姿勢を正した状態で、話し始めた当麻をみる、ジェット。


「フラン?・・・とうm」
『そうです、私の朝食はカフェオレ、モーニング・ワッフルにフルーツサラダと、ストロベリームースです』
「!!・・・本当に、そうなんだ?」
『・・・当麻さんも、ジョーも何をしてらっしゃるの?・・・』
「あ、・・・ごめんね」

<よお、フランソワーズ!>
<ジェット・・なに?>
<当麻のやつ、スクランブルエッグを半分ほど残してやがる>
<・・・言うのね?>
<言ってくれ、おもしれえ>


『当麻さん』


溜め息がまじった声が電話越しに聞こえる。


「なにかな?フラン」
『スクランブル・エッグ、半分ほどを残していらっしゃるの?・・・ジェットが言っているわ』


跳ねるように視線をジェットにむけた当麻。


「あ、あの・・・また、あとで・・・」
『・・・また』


通話ボタンを切りながら、ジョーとジェットを交互に見る当麻は、あらためて、彼らが”人”ではないことを感じる。
ギルモア邸にいる間、それ以外もジョー、ジェット、ピュンマと1ヶ月ほど過ごした学院の寮生活の中で、彼らが”サイボーグ”であることを感じる事はそう稀にあるものではなかった。

一度だけ、祖父の葬儀に参加した夜。
島村ジョー、こと009の、手品のように目の前から消えたとき、以外。


「フランソワーズが言ったかよ?お前のその皿の上に残ってるのが何か?」


ニヤニヤとした笑いを浮かべながら、ジェットは当麻に訊ねた。


「・・・本当なんだね」
「頭ん中に通信機かあ・・・」


ぼそ、と海が呟く。
当麻は視線をジョーの琥珀色の瞳に合わせるが、彼はその視線に気づかないそぶりで長い前髪に表情を隠した。

フランソワーズとの、通信はつづいている。


<・・・遊ばないで、ジェット、・・・ジョーもよ??
<遊びじゃねえって!>
<遊びでしょ?・・・でも、ジョー・・・いいの?通信のことを・・・>
<心配ない。それが”できる”という情報くらいなら、ね。ここまでがmaxな情報だよ、各自の性能については知られないように、以上・・・。002もだ>
<OK!>
<・・・>
<ごめんね、フランソワーズ>
<・・・・・・ジョー?>
<?>
<珍しいわ、あなたが・・・>
<たまには、ね。・・・だから、ごめん>
<・・・たまに、なら>
<ありがと>


ジェットがニヤニヤとした笑みを、当麻からジョーへと移す。
その視線にジョーは、彼が何を言わんとしているかが手に取るようにわかったので、無視した。


<やるじゃん、ジョー>
<・・・・>
<1ポイント奪取ってとこか?>
<・・・・>
<動揺してんじゃん、センパイがよ!>
<・・・・そういうつもりは、ない>


ジェットは椅子を後ろに倒すようにしてゆらゆらと揺らし、肘をジョーの肩にのせた。


「なんだあ、僕が最後?」


カフェテリアに入って来たピュンマは、トレーにオレンジジュースを乗せてテーブルにやって来た。


「アルベルトから、馬鹿なことしてるんじゃないってさ!」


制服を着ていない学院生は学生証を見せる事でカフェ内の食事はフリーとなっている。ピュンマは学制書を財布にしまいながら、円卓テーブルの、空いている椅子に座った。


「こっちに言わず、お前にかよ?」
「呆れてたんじゃない?・・・まさかリーダーが率先してだなんてさ!」


ピュンマはジョーにウィンクを一つ投げる。それに対して、ジョーは苦笑するしかない。


「たまにはだぜ!たまにはっ、リラックスが必要だしよっ」


通話を切った携帯電話を当麻は強くテーブルの下で握りしめる。


「もう少ししたら、講堂へ行こうか・・・」


ジョーはピュンマにむかって時間を確認するように言った。


「うん、そうだね」



出会ってから過ごした時間の多い少ない、長い短いは恋愛においてさほど問題じゃないと、当麻は思う。
それはお互いの想いのベクトルが向かい合っている場合。


人である事。
ただ人であるということが、自分と彼女の縮まらない関係の要因なっているのだろうか?

サイボーグ同士。
惹かれ合いながらも踏み込めない一線にある理由がサイボーグなら、2人を強く結びつける鋼の糸でもある。



当麻は、その糸が永遠に切れる事がないことを知りつつも、フランソワーズと自分が繋ぐ糸はもっと人らしく温もりあるものに、と願う









####


「通信できることで、・・・か。お子様この上ないな」
「なに言うアルか!そいうことできるようになっただけでも進歩ね!大切な事ヨ」


ホテルのロビーに続く、喫茶室。

月見里(やまなし)学院にむかったメンバーと分かれて、アルベルト、フランソワーズは歩いて10分内にあるギルモア、001、005,006,008そして津田海と宿泊しているホテルで落ち合い朝食を取り、食後の珈琲を楽しんでいた。


「覚えているあるか?フランソワーズをバレエ公演に連れて行くときのジョーの”報告”をネ!ワタシらが”デート言うたら・・・」(Day12)
「ああ、覚えている。”デートじゃない、フランソワーズに失礼だろ!”だったな」


選んだホテルは、学院から脳波通信が届く範囲内にあることを条件に、いくつか00メンバーたちの希望を含め、そして、津田海の親族である、今回のオークションに訪れた姉2人、長女、夢(ゆめ)、三女、林(りん)の部屋も都合し、その存在を目立たせぬようにできる場所を選んだ。


「なんと言うかのう・・。・・・やはり平和の中でこそじゃのう・・・こう、00ナンバーで呼び合う暮らしではなかなかのう・・・・。それぞれに見えんかった”素”の部分が出て来て、いいのう。いまだにお前たちにたいして新しい発見があるのは、嬉しいかぎりじゃよ」
「まだ邸での暮らしが始まって半年過ぎただけアルヨ、これからアル、これからネ!!」


むふふ。と、笑う張大人。
通りかかったウィエトレスに珈琲のリフィールを頼んだ、アルベルトがギルモアをに訊ねた。


「・・・そういえば、博士には話しましたか?」


フランソワーズがイワンを連れてレディース・ルームに向かった事をいいことに、先ほどのちょっとした”遊び”に意見したアルベルトをきっかけに、話しが”そちら”へと向かっていく。


「何じゃ?」


愛用のパイプを取り出して、そうじゃ。ここは禁煙席じゃったのう、と。それを上着にしまいつつ、アルベルトを見る。


「ジョーがフランソワーズが好きだと言ったことアルネ!それ、一番大きな変化アルヨっ」
「そんなもん、とっくの昔にじゃ。・・・訊く必要もないじゃろう?」


アルベルトが呼び止めたウェイトレスが、重たげにポットを持ち、3人のテーブル席に近づいてくる。


「いえ、博士、ジョーが”告白”する決心をしたことです」
「なに?!・・・・まだ言っとらんのか?」
「・・・まだアルヨ」
「まだです・・と、言う事はご存知だったんですね?」
「何をいったいモタモタしておるんじゃ・・・ジョーは・・・取られてしまうぞ・・・・・」


まず、アルベルトの珈琲カップに注ぎ、アルベルトは注ぎ終わったカップを見て、小さく礼を言う。


「告白したと、思われていたんですか?」
「・・・・告白してたら2人はもっと親密ネ、それに当麻クンにたいして、ネ?」


ウェイトレスは、その席にあるカップをみて、”お注ぎしますか?”と訊ねると、ギルモアと張大人が、同じタイミングで頷いた。


「じゃが・・フランソワーズは・・・前に比べてのう?」
「博士も、感じられてましたか?」
「うむ・・・」


テーブルに珈琲のすっきりとした薫りは、いつも邸でいれる珈琲とは違う薫りが漂う。
それは、喫茶室独特な朝の風景にとてもあっていた。


「ワタシも同じこと考えてたネ。・・・・当麻クンの誠意アル熱烈アピールを受けても、ちゃんと傷つけることなく”お友達”の距離で接してるアル。はっきり断らないのは、気まずいことにでもなって”ミッション”遂行に支障が出てはいけない思ってるネ・・・違うアルか?」


自分の考えがはずれていないか確かめるように、張大人はギルモアとアルベルトにお伺いをたてる。


「どうじゃろうなあ・・・」
「・・・・常に自分は後回しで・・・・、気がつけば自分の気持ちを見失っているんだよ、あの子は。不器用とと言うか、なんと言うか・・・のんびり屋か?素直そうに見えて、実は意地っ張りで頑固だから、いまいち掴めん」
「少し違うが、ジョーのマイペース具合と似ておるのお・・似た者同士か?」
「2人とも我慢強いネ」
「わざわざ恋愛で我慢強くなくてもいいだろうに・・・」
「後できっと、それがいい風に出てくるアルヨ。彼らには彼らのペースがアルネ・・・・あまりプッシュ駄目ネ!」


ぐ。と、アルベルトに釘を刺す、張大人。
わかってます。と言う風に、苦笑するアルベルト。


「しかし、ジョーは本当に歌うのかのう?」
「そのようですね」
「まだ、知らないアルか?」


2つのカップに珈琲を注ぎ終えて、ウェイトレスはにっこりと微笑んでテープルから離れていき、入れ替わるように2人の女性がそのテーブルに近づいて来た。


「・・誰も言ってないなら、そうだろうな・・・オークションのパフォーマンスはべtsu・・」
「あの・・ギルモアさんですか?」


予定より少し早い時間に津田海の姉2人と合流し、イワンのおむつを換えて戻って来たフランソワーズは、自己紹介を済まして、ホテルフロントで呼んでもらったバン型のタクシーに乗り込んで月見里学院へと向かった。









####

一通りのリハーサルを終えて、オーション参加者は、舞台裏で待つのみ。


去年までは旧本館(旧篠原総合病院)のホールで行われていたが、1ヶ月ほど前におきた”火災(006)”にて、全焼してしまったために、今年からは新設されていた本館に付属する星辰(せいしん)館(大)ホールに場所を移した。
大ホール、小ホール、リハーサル室(練習室)、研修室、セミナー室、ギャラリー、多目的室があり、月見里学院の文化的活動を主として新設され、海外からのゲストの講演会に、全校集会などにも使われる。

外観は本館に合わせた作りだが、館内は近代的な内装を施されいる。ホールは半円形を描き、ヴォルカン色のシートが並ぶ、2階建て。1階席のシート半分を取り外し、円卓テーブルが並ぶび、真白いクロスに覆われたテーブル中央には、番号が振られたスタンドが置かれ、6、7人でそのテーブルを囲む。

本館から入り、中庭園を抜けて会場入りできるのは、円卓テーブルに席を得られる、オークション参加者であり招待状を持つ者のみ。
オークションには参加せず、そのイベントを楽しむ一般入場者は本館の裏、星辰(せいしん)館の正面入り口から入場する。


場を盛り上げるために、半地下堀になったオーケストラピットから、小編成のオーケストラが軽やかに誰もが耳にしたことがある定番曲を演奏していた。

オークション後、星辰(せいしん)館を解放し、様々なイベントが行われる予定である。





ざわざわとした、舞台裏。リハーサル室に集められた学院生たち。
その一番奥の部屋角にいる5人はパイプ椅子に座っている。

ジョーの機嫌は最低で、”言わなかった”ジェット、ピュンマはしれっと、きちんと”情報”を把握していなかった009が悪い。で通した。

あやめ祭のオークションは、”生徒”のパフォーマスとして、舞台での実演はもちろん、”作品”の出品でもかまわない。リハーサルのために、当麻は幼少時から趣味で続けている油絵の1つを持って現れたことから発覚したその事実に、ジョーは絶句した。
わざわざ”歌う”必要がなく、何か”自作”したものを手に舞台に立てばよかったのである。


「ボクと海とジェットは”パフォーマンス”するんだからさ!諦めてよ、ジョー」


ね?と、ぽんぽん。と彼の肩を叩くピュンマ。


「その、島村・・・ごめん、島村らなら知ってるはずだって聴いて・・・」


当麻の”訊いていた”に反応し、殺気の籠った視線をジェットへとむけるが、その程度でジェットは怯えたりしない。すでに彼の計画は成功したも同じであるために、余裕の態度である。


「っだよ!滅多にこんなチャンスねえんだから、楽しめっつうの!いいじゃんかよ、てめえは”リジチョー”に落札されんだぜ?オレなんか、禿げた親父だっつうのっ!」
「って言いながら、007に”変身”頼んだくせにっ


リハーサル室内の、ジョーの目に止まる生徒たちは緊張しているような、興奮しているよな、浮き足立った雰囲気でわいわいと賑わっていた。そんな様子に比べて、彼の気持ちはどんどん沈んでいく。


「・・・・・・覚えてろよ、ジェット、ピュンマ」


009の恨みの言葉を掻き消すように、002が定期連絡の号令をかけた。


<おう、報告たのむぜっ!>
<006アルヨ。会場入りしたネ>
<004。こちらも、表、裏、チェック隅。2階席確保。現在、星辰(せいしん)館、正面入り口>
<1階、003。・・・ギルモア博士、イワン。津田さんのお姉様方と。006と同じテーブル。>
<007。まだ会場入りはしてねえ、さえこ殿とその自慢の新人”女性秘書”として、席に着く>
<005からは?>
<連絡アリね!何もないアルヨ>
<ちゃんと009の”歌声は”スカイプ”で005届ける手はずになっているアルヨ、がんばるネ!>
<?!>


ジョーの目の色が変わる。
驚きの表情に固まった彼に、当麻と海は注目する。
横からさりげなく、ピュンマが”定期連絡中”と、2人に伝えた。


<録音もばっちりだとさあ、ギルモア博士がだったな?003>
<・・・・009、止めたのだけど・・・ごめんなさい>
<こちら008!009にバレちゃいましたっ>


これ以上、ジョーの機嫌を損ねないように、明るい雰囲気を作ろうとするピュンマ。


<・・・009、お前のミスだ、諦めろ>
<・・・・・004。も、みんな知ってたんだね?>
<009が知らない方がおかしいってこったなあ!でも、吾輩らもそれを知ったのは昨夜だぞ>
<003、篠原が何をするか知っていた?>
<いいえ・・・・楽しみにしておいて欲しいと言われて・・>


「003に言うわけねえじゃんかよっ、アイツが”秘密”に出来るとおもってんのか?!」


009の頭の中に今まで”あやめ祭”に関する情報が整理される。が、やはりどこにも、”それ”に関する情報がない。
中高一貫の6年制度としている学院のために、生徒たちは学院生活の中で自然とその情報を知る事となっていくのだろう。
”編入生”であり”短期留学生”の自分が、そういう情報を逃してしまったことは仕方ないことである。その上に、”短期留学生”という身分は仮であり、本来の目的は”ミッション”のため。


極力一般人(学院生)との”関わり”を避けていた。

ピュンマは持ち前の明るさと社交性を発揮して津田海を中心にしていつの間にか多く友人ができていた。ジェットはその行動や発言など、学院から”浮いて”いたが、彼の漢気ある言葉やムードメーカーなキャラクターは、彼が学院に馴染むのではなく、学院が彼に馴染んだように思える。


当麻から訊いたのか。
海からの情報なのか。



彼らはこの学院について、ジョーが持っていない情報を多く得ているだろう。
それは、002,008として報告義務がないもの。



けれど。


「・・・ジェット」
「おおよ!」


パイプ椅子に座って肩から項垂れているジョーの顔をジェットは覗き込む。


「・・・・マジ、むかつくんだけど?俺」
「ぐ・・」


視線だけ、ジェットへむけた。
数えきれないほどの死線をくぐり抜けた仲間だからこそ、わかる、009の”瞳”に、ジェットはさっと覗き込んでいた態勢から、身を引いた。



奏でられていたオーケストラの曲が止み、開演のベルが、ジェットの命を救う。


「ああっ!始まるみたいだよっ。ジョーも諦めて、ほら!楽しもうよっ」


明るい声を出して、ばしばしとジョーの背を叩く。


「・・・ピュンマもだから、ね」


ピュンマの手を止めると、にっこりと笑ってみせた、ジョー。


「?」
「俺、けっこう、しっかり根に持つタイプだから」


顔は笑っていても、ピュンマにむけられているその瞳は・・。
びくん!と、肩が跳ねてピュンマもジェットのようにジョーから離れて距離を取り、海のそばによった。


<や、やばいっ>
<やべえっっ、そ、そんな、オレたち・・>
<じ、じぇ、ジェットがい、い、言い出しっぺだからねっ!!>
<ずりっ!!おめえだってよっ>


リハーサル室の壁に埋め込まれているTV画面は、ホール舞台を正面から映し出している。
ちらり、とそのモニターへと視線を投げたジョーは、深く、深く、躯中から酸素と言う酸素を抜ききって、開演ベルの音を聞いてあがった室内の温度そのままに、吸い込んだ空気。



<指定配置、確認>



司会者の声が小さくTVモニターから流れた。
会場を温めるための、ユーモア溢れる学院、オークションをネタにした言葉が続き、ゲスト・アーティストの何人かがパフォーマンスを披露する。

<006ネ、003がちょっと席離れるアルヨ>



ナンバー1のプレートを手にしていたジュニアの生徒が呼ばれた。







====へ続く



・ちょっと呟く・

ひっぱる私を許してください・・・・。
次回は3視点かな。
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バスルームで鉢合わせ/彼女はボクのすべてを見ていた。

季節の変わり目に降る雨は、とても気分屋だ。
とつぜん機嫌を損ねた空は、秋空にそよぐ海風が気分良くて、駅から珍しくバスを使わずに邸へと散歩がてらに歩いていたジョーをおそった。

ぽつり。ぽつり。と、大粒の雫が落ち出して、どんよりと重たげな雲が早足に青を覆い、空を低くしはじめると、絶妙なaccelerandoで降り始めた。

アスファルトを叩くリズムがクリアに耳に届く。
ぼつん。と、Tシャツがドット柄に濡れる。


うわ!と、逃げるように走った。
なだらかな傾斜を描く道を色濃く濡れ染めるよりも早く、どんどん雫で雨色に染められいく服。

まるでジョーを引き止めるかのように、ジーンズが重く足に絡み付く。


「ついてないなあ・・」


走るのが無駄に感じてしまう。が、その足を止める事なく邸へと走り込み、玄関先で乱暴にスニーカーと靴下を脱いだ。
背負っていたバックパックをその場において、つま先だけで急いで向かう先は、バスルーム。


「フランソワーズっ!」


邸のどこかにいるであろう、彼女の名を叫ぶ。


「フランっ?!」


吹き抜けの広間を抜けてリビングルームへ。
誰もいない。

そのままダイニングルームへと入っていき、キッチンをカウンター越しから覗くが、いない。
しかし、そこに夕食の準備をしていただろう跡がみられた。
今日の夕食は、和食らしい。
シンクのふちに絶妙なバランスで、フランソワーズ愛用の”はじめて・シリーズ~これで料理上手な彼女になれる~和食編”が置いてたあった。

写真入りで、1つ1つ事細かく説明してあるのが気に入っているらしい。


「フラ~ンっ!」


聞こえていてもおかしくないはずである。
”邸”にいれば、だ。

ジョーは足跡を残すように、フローリングの床を濡らしながら、ダイニングを抜けてバスルームへと向かった。


「ったく、どこへ行ったんだよ!・・・聞いてないんだけど、でかけるなんてさあ・・」


夕食の準備の途中に出て行くなど、何かあったのだろうか?
それなら、何かしら連絡があっておかしくないはずだ!と、ぶつぶつ呟きながら、濡れた服を脱ぎ捨てて、汚れ物用のかごにポイ!と放り込んでいく。


「あ、靴下・・・あとでいっか・・・」


ベルトを外し、ジーンズはカゴにはいれず別にする。

ギルモア邸の浴室は「24時間風呂」に改装したばかり。
そのために、湯船に24時間いつでも適温、適量のお湯が入っており、いつでも入浴が可能になった。

昼夜関係ない暮らしを、何度注意しても止めない、ギルモア。
彼が湯船につかりたい時間も様々で、それに合わせていたら、用意をするフランソワーズの生活もおかしくなってしまう上、邸を出入りする家族の数も様々。

全員が揃えば、大変なことになる。
夜派、朝派、シャワーのみ、しっかり浴槽につかりたい(←ジョー)タイプもいて、ランドリー・ルームも兼ねる広い脱衣所は、賑やかにケンカの原因となり、使用率も高ければ、そうじの手間も増える。


”お風呂掃除をしなくてよいシステム”


TVのコマーシャルにこのうたい文句が出た瞬間、フランソワーズはギルモアにおねだりしたのだ。
可愛いフランソワーズのおねだりを、ギルモアが拒めるわけがなく、翌日にはニコニコ顔の業者がさっそく姿を現した・・・ことがまだ記憶に新しい。


ざっとシャワーを浴びて、大人が余裕で2、3人同時につかる事ができる広さの湯船に、ジョーは手足を伸ばして、肩というよりも顎までしっかりと浸かった。


「・・・・・ふああ・・・ぁあ・・・」


---フランソワーズ、いったいどこへ行ったんだろ?










####


「ひどいわっ!ジェットっ」
「うっせえってめえが悪ぃんだよっバイクいじってる時に、脅かすんじゃねえよっっ」
「脅かしてなんかないわよっ、ジョーがまだ帰って来てなかったら、夕食のためにお使いを頼もうとしたんじゃないっ!もういやああっっ、気持ち悪いっベタベタするっ!!」
「ったりめえだろ、化学合成油を頭からかぶっちまったんだからよっ!燃えちまうぞってめぇ!」
「いやあああああああああああっっ!!」
「買ったばっかのカラにしちまいやがってっ」
「アタシのせいじゃないわっジェットが悪いのっ」


どかどかっと、乱暴な足音と口喧嘩の声。


「・・・・ん?フランソワーズと、ジェット?」


ほっこり温まり、ふわふわと思考を春色に染めていたジョーは、耳にした声に反応した。


「おらっ!」


ばあああん!とバスルームのドアが開く。


「へえ?!」


その音に飛び上がるジョーあわてて、近づいてくる足音にむかって叫ぼうとしたが、遅かった。


「とっととオイル落とせっ、その間に足りねえの買って来てやるからよっ」
「待って、ジェッっフラッボクがまっっ」
「ジョー?っまっsジエ」


浴室のドアが乱暴に開けられて、ジェットに抱きかかえられたフランソワーズは宙を舞う。


「あ、ジョー、風呂使ってたのかよ?」


投げた先に、見つけたジョーにむかってのんびりと言った言葉が彼の耳に届いた瞬間。
どぼおおおおおん、と浴槽に投げ込まれたオイルまみれのフランソワーズ。


「きゃあっっ!!」


を、しっかりと湯船で受け止めたジョー。


「ちょうどよかったぜ、あと頼むな!オレ買い出し行ってくるからよ、車使うぜ?」


ぱたん。と、ドアを閉めて去って行く、ジェット。
ジョーは、腕に、服と靴を履いたまま油まみれのフランソワーズを抱えて湯船につかったまま固まっていた。





「何事だ?」


車のキーをリビングルームの鍵置き場から見つけて、ジェットはそれを手に玄関へ向かう途中、自室から出て、階段を降りてくるアルベルトに声をかけられた。


「よ、フランソワーズの奴がバイクいじってるときに邪魔しやがって、頭から化学合成油をかぶっちまったんだ。で、風呂場に投げて来た」
「・・・・お前・・・・・」
「心配ねえって!ジョーが風呂に入ってたからよ、なんとかすんじゃね?」
「・・ジョーが?・・・・それじゃ、2人仲良く混浴中か?」
「さあな、あ。暇ならなんかオイルが落ちそうなもん、持って行ってやってくれよ!」


じゃ!と、片手を上げてジェットは玄関を出て行く。


「わかった」


邸のドアが閉まり、にやり。と片方の口角をあげて微笑んだアルベルトがいた。












####


「も!乱暴ものおっっ!!・・・あ、ジョー、おかえりなさい♪」
「・・・た、ただいま」



湯船に広がる波紋が収まったころ、やっとジョーの口が開く。


「・・目は・・・・その・・・大丈夫?」
「大丈夫よ!」


フランソワーズは足を上げて、履いていたつま先が丸い白のかかとがない靴を見せた。


「お洋服のままならまだ・・・靴のままお風呂に入るなんて、初めて」
「・・・ボクも初めてみたよ」
「脱いだ方がいいのかしら?」
「靴はさすがに、ね」


フランソワーズは靴を両足とも脱いで、ぽい、と湯船の外に放った。


「お洋服、もう駄目かしら?」
「しっかり洗ったら大丈夫だよ、きっと・・・・でも、生地が痛むね」
「ジョー?」
「なに?」
「・・・お夕飯少し遅くなっちゃうわ」
「え、ええっと...仕方ないよ。別に気にしないで」


湯に浮かぶオイル。
フランソワーズは額にかかる前髪をかきあげて、カチューシャを外し、それを適当におくと、湯を手のひらにすくって髪をすすぐ。


「ジョー?」
「なに?」
「・・・一緒にお風呂なんて初めてね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


長い沈黙の後、ジョーは答えた。


「そうだね」


至って冷静に、にっこりと微笑みむジョーの抑揚のない声がどことなく機械的に感じる。


「良い湯加減ね!」
「そうだね」
「このオイル、大丈夫かしら?お風呂壊れたりしないかしら?」
「そうだね」
「明日にでも工事をしてくださった方に連絡したほうがいい?」
「そうだね」
「ねえ、ジョーはいつも髪から洗うの?躯から?」
「・・・・」
「アタシは髪からなの!」
「・・・・・フラン」
「なあに?」


リビングルームでお茶でも飲みながら会話するのと、なんら変らない態度のフランソワーズ。


「…・・・ボクも髪からだよ」


にっこりと何事もなかったかのように笑ってみる。


「同じね!」
「・・・・・そうだね」


この状況をどうやって切り抜ければ良いのだろう・・・。
いや、それ以前に、フランソワーズ・・・・?何も思わないの???

「ジョー?」
「なに?」
「・・・ここまでくるのに、廊下とか汚しちゃったの」
「掃除なら手伝うよ」
「ありがとう♪」
「フランソワーズ?」
「なあに?」
「・・・・・あのさ」
「ええ、なあに?」
「変に思わないの?」
「なにを?」
「いや・・・何をって・・・この、状況を」
「え?どおして?」
「・・・・・・・ボク、入浴中なんだけど?」
「あ!ごめんなさいっ!!ジョーまでオイルまみれになっちゃったわね・・・」
「いや、それはいいんだけどさ」
「?」




もしかしたら人生最大のピンチなのかもしれない。

---人間、本気で追いつめられると妙に落ち着いているもんなんだね・・・。


「ねえ、お洋服脱いだ方がいいかしら?」
「・・・・・・・・・・・ふ・・・・・脱がないほうがいいよ」
「あら、そお?」
「髪のオイルが取れるまで、そのままでいようね」


湯船に投げこまれたフランソワーズと一緒に、オイルにまみれた湯に浸り、(受け止めた状態のまま)身動きが取れないジョーは、この状況をごく普通の”ミッション”として捕らえ、009の補助脳がフル稼働中であった。

引き攣り始めた微笑みをたたえながら、ジョーは視線をフランソワーズの化学合成油にまみれた髪にだけ集中することで理性を保ち、これは猫っ、これは人語を話す猫っ!と、叫ぶこころは限界が近い。


そんなジョーに間もなく救いの手が差し伸べられようとしているが、その手が必ずしも良識ある救いとは限らない。


---補助脳の役立たずっっ!!





####


ジェットから放り投げられたフランソワーズを抱きとめて、彼女を膝に抱えたまま、どうすることもできないジョー。

もちろん、彼は入浴中であったがために、フランソワーズのように服を着ていない。


「・・・えっと、普通、服とか着て入らないよね?」
「やっぱり脱いだ方がいい?」
「・・・・・・・着ていてください。いや、ボクが・・」
「あら!そんなことを気にしていたの?」


一生懸命に髪を湯船ですすぎながら、フランソワーズはクスクスと笑った。


「そ、そんなことって・・・フラン?」
「見慣れてるから、気にしないで!」
「っはいいいいいい?!」
「ジョーの裸なんて、メンテナンス中のお手伝いで見慣れてるわ!」
「ええええええええええええええええええっっ?!」
「今更なにを驚くの?当たり前じゃない!見慣れてて。変なジョー!ジョーだってアタシの見慣れてるでしょ?」
「見慣れてるわけないだろっ!!!」
「え?そうなの?」
「当たり前だよっっ!」
「あら、アタシはてっきり・・・・、じゃあ、アタシばっかりが見てたのね?」


フランソワーズは少し困ったように、眉根を寄せた。


「み、見てたって、・・・・何をどこまで・・・・フランソワーズ・・・・?」
「ふふ、全部に決まってるわ。だから、気にしないで?」


にっこりと、花が咲く笑顔とは対照的に北極圏の熊が気絶した。


「嘘だろ・・・・」
「やっぱり不公平よね?アタシだけ見たなんて、・・・・ごめんなさい」


ジョーの、009の、すべての思考回路は火花が散る。と、同時に、フランソワーズは着ていたブラウスのボタンを外しにかかったので、慌ててジョーがそれを止めた。


「何やってんだよっ!」
「え?・・・だって、不公平でしょ?だから・・・」
「ッスットオオオオオオップ!!!」


<誰でもいいっ!風呂場に来てくれっっ!!頼むっ!>


009の絶叫が脳波通信で送られて、やっと(不適な笑みを浮かべた)004が救いの手を差し出した、が・・・・。
その手は天からではなく地の底からの手だったと、009は後に語った。






*・・・・なんだこれ?鉢合わせ?・・・鉢合わせなのか?!
 もじもじ9、私ってば本当に好き勝手に・・・9ファンの人に怒られませんかねえ・・・・。
 いや、私9ラブですけどね!
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(3)





オークション開始30分前。


最近の無線機はとてもスタイリッシュになっている。
フランソワーズの目に映ったそれは、明らかに彼女が知る時代のものとは比べられないほどに形を変え、軽量化されていた。

月見里学院の正門から、警備員を見かけるたびに、フランソワーズはその配置と数をチェックしつつ、その装備に興味深げに視線を走らせた。しかし、彼女はそれらよりもさらに進化した形で仲間たちと連絡を取る。


<津田は予定通り、ラストから3番目>


ホテルの喫茶室で朝食をすませ、同ホテルに部屋を取った津田海の姉、夢と林と合流する。
お互いに初めて会うが、ギルモア自身は何度も海の”足”について、彼の両親、主治医と電話で話しており、実際に今回のホテルを用立てる次点で、津田夢とはピュンマの養父として何度かメールで連絡を取っていた。

津田海とピュンマはすでにジェット、ジョー、そして篠原当麻と学院へ向かっていた。
そのためにギルモアが中心となり、それぞれに自己紹介と挨拶を交わし、ホテルのフロントで呼んでもらったタクシーを使い月見里学院へ向かった。

初めて学院を訪れる、ギルモア、張大人の感嘆の声を訊くフランソワーズ。
途中、学院本館前でアルベルトと分かれたが、何も問題なく会場とされる星辰(せいしん)館、大ホールへと辿り着いた。









「叔母?・・・それじゃあ、女の子アルネ!?」


フランソワーズの腕に抱かれているイワンを見ながら、きりっとしたキャリアウーマン風の津田海の姉、夢が「まさか、叔母と甥が同学年になるなんて・・・」と、次女も出産を控えた妊婦であることを明かした。


「名前は”なな”に決まりよね?ここのままだと・・」
「あの、海さんはご存知ですの?」


黒髪のベリーショートヘアに、きちっとしたパンツスーツに身を包んだ夢とは対照的に、ノーブルなワンピースは膝頭がみえるほどの長さに、かかとの細い、ストラップサンダルゆるくアップスタイルの林。耳を飾る大きいスワロフスキービーズのピアスが眩しいほどに光っている。


「うーちゃんはまだ知らないんじゃないかなあ?」


赤ん坊がいることで話題に事欠くことなくテーブル席の雰囲気を温める。


「う、・・・うーちゃん・・・?」


林の隣に座る張大人が、海のニックネームに反応した。


「ええ、姉妹全員そう呼ぶんです」
「花ちゃんは女の子を欲しがってたけど、こっちが女の子だったんだもの、甥っこでよかったわ!・・・イワンくん、ほんと可愛いわねえ」


長女、夢と次女、花は双子(28)らしい。
そして、少し年が離れて三女、林(26)、四女、繭(24)、五女、煌(21)と年子と続き、海(18)と教えてもらったフランソワーズ。

彼女が抱くイワンに、フランソワーズの右隣の席についた夢は、イワンの頬をむにむにとつつき、小さな手に湯とさし指を差し出しては握らってもらい喜んでいる。


「赤ちゃんってみんな可愛いけれど、外国の赤ちゃんはまた別よねえ!」


少し早めに会場入りし、中央少し後ろよりのテーブルを確保した。
時計の針が目的の数字へと歩を進めるにつれてテーブルは人で埋まっていき、それぞれのテーブルを超えて挨拶を交わす姿が見られ、強化されている耳は、それらの言葉を自然に拾っていく。

耳にする内容からしてテーブル席には、やはりオークションに出る学院生の家族が多いようだった。そして、時折聞こえてくる場に不似合いなビジネス的なやり取りも、003であるフランソワーズの耳に入ってくる。
悪いとは思いつつも会話に耳を傾けるが報告する必要のない内容ばかりが続き、安堵する。

006は会場全体の様子さりげなくうかがいつつ、”耳”を使用している003が津田の姉たちに気を取らて、本来の目的に支障がでないように、その上で彼女たちに対して失礼がない程度の対応ができるように気を配るため、テーブル上の会話は006が中心となった。
ギルモアはいそいそとラップトップコンピューターを開いて、篠原総合病院にいる005ことジェロニモのために音声と映像が伝えられるように準備をし始めた。





バレエ公演の会場とは雰囲気が違う。

当たり前のことであるが、”舞台を観る”と思うとフランソワーズにとって”人”であったころの経験から、舞台=バレエと自然とつながってしまう。

イワンを夢に見せてやりながら、耳のスイッチはonの状態に維持している。
聞きたくもない流れ続けるラジオを聞くように、無遠慮に流れてくる言葉の洪水。

会場の予想以上の人の多さに、深呼吸する振りをして溜め息をつく。



そのため息の濃さに、緊張しているのだろうか?と、003は自分に問う。



腕の中の001は、夢にかまってもらっているためにご機嫌の様子であるが、ときおり003の心中を察するかのように、小さな手をフランソワーズに伸ばし、特別な声で彼女に話しかける。
その声に、003は優しく花が咲く揺れるように穏やかに微笑んでみせた。


<心配しないで、これくらい平気よ?私は003ですもの>
<理事長殿とその”美人”秘書、会場入り也!>


007から篠原さえこと一緒に会場入りしたと通信が入った。
事情を知らない夢と林に不自然に思われないよう、”眼”を使って確認し、その位置を仲間たちに報告する。


<・・了解>


ミッション中だけれども、009のどこか不機嫌さを纏う声に、003であることを忘れて声をかけたくなる。
先ほどの”報告”よりも明らかに、彼の声はトーンダウンしていた。

仲間にジョーが”歌う”ことを言ってしまったことに申し訳ない気持ちで反省しつつも、彼が狼狽えながら仲間たちから逃げて、必死でイヤだ!と拒んでいた、あの夜を思い出してはフランソワーズの頬があがる。と、同時に、自分しか知らない(イワンは知っていたけれど)秘密だったのだと感じて、ほんの少しだけ残念な気持ちにもなる。


フランソワーズが言ってしまったことを、怒ることも責めることもしなかったジョーは、黙って部屋に戻った。
彼が部屋に戻るとき、すれ違い様にあった視線は少しばかり、拗ねたこどものように見えたのは、気のせいだろうか?

ミッションが終わった後、そのまま学院に残りあやめ祭までの日々を過ごし、少しばかり雰囲気が変わったように思う。



一言では言い表せない微妙な変化。
言葉では言えない、小さな、小さな、違い。



季節が移り変わるときの風に含まれる予感が、フランソワーズの胸をくすぐる。








『義足の子は予定通りに?』









聞こえてきた内容に、は!と。息を飲む、003。


『今回はそのために、だろう?』
『しかし・・・』
『そう思っている奴らはオレたちだけじゃないはずだ』


飛び込んで来た会話に、”眼”のスイッチを入れて会話の聞こえた方向へと振り返り、忙しなく会場内に首を巡らせる真剣なフランソワーズの様子に、夢と林が驚く。


「イワンのおむつかのう?」


フランソワーズの左隣に座るギルモアが、フランソワーズの肩に手をかけてのんびりと声をかけた。


「あ・・・。え、ええ。そう思ったんですが・・・」


腕の中にいるイワンをあやすように、ゆらし抱き直しながら、夢と林の様子を知って自分のしたことに小さく後悔するが、彼女たちは別段気にする様子もなくギルモアの言葉を拾って会話を続けた。


「おむつ交換できるような場所あったかしら、林、知ってる?」
「どうかなあ・・?」
「・・・まだ時間があるみたいなので訊いてきます、ミルクの準備も今のうちに・・・・」


うむ。と、フランソワーズの言葉に頷き、彼女の腕からギルモアはイワンを抱き受けた。フランソワーズは足下に置いていた荷物の中からミルクの準備を整えた大きめのポーチを取り出して席を立つ。


「偉いわねえ・・林も見習ったら?」
「そういう夢ちゃんこそ、そろそろお嫁にいったら?」











####




オークション開始20分前。


<・・・見つけられないわ>









声が聞こえた同時に”眼”を使ったが、会話が途切れてしまったようで、人物を特定することができなかった。


「え・・赤ちゃんのですか?」


すでに開演のベルは鳴らされていたが本番前のパフォーマンスなどが繰り広げられながらも、まだ会場内の観客の出入りは激しく、ざわざわとした落ち着かない雰囲気であった。


「はい、もしもそういう場所がありましたらと・・」


会場出入り口付近に立っていた、案内係らしき人物にフランソワーズは話しかけて訊ね、困らせた。
寄宿制の男子学院であり、全体的にレディースルームが少ない。赤ん坊のおむつを換える用途などないに等しいことは明らかである。


「紫微垣(しびえん)のカフェテリアへ行っていただければ、ミルクのお湯は大丈夫だと思います。けれどおむつ交換の方は・・・」
「わかりました、ありがとうございます」


言い淀む相手にむかって、にっこりと花が咲くように微笑みながら礼を言い、会場から出て行くフランソワーズ。
自分が会場から離れる事を伝えようとしたが、006が脳波通信で先に仲間たちに伝えてくれた。


「行って戻ってくる時間はないわ、きっと」


招待されたゲストが使用する出入り口を出ると、ロビーが広がり、絨毯が敷かれた左右に広がる廊下が視界に入る。
右は、舞台裏へと繋がり、左は、招待状を持たない一般客が出入りするための、グラウンドに繋がるエントランス。学院本館を中庭園をはさみ建てられている星辰(せいしん)館のメイン・エントランスは学院本館の裏にあたる、第一グラウンドに面している。

紫微垣(しびえん)へ向かうためには、正面エントランスよりも、学院本館へ戻ってからの方が近い。


「終わったらすぐに・・・。お腹空かしてイワンのご機嫌が悪くなったら大変だもの」


ホテルの部屋で用意したミルクはすでに飲み終わってしまっている。
こちらへ向かう前に洗う時間などなかったために、持ち歩いている使ったミルクボトルも洗いたかった。


フランソワーズはきょろきょろと自分が立つ周りを見回してから、手にしていたポーチを見つめて軽く溜め息を吐く。

招待客が出入りする入り口から、心持ち離れた場所、右側、舞台裏へと伸びる廊下側に立ち、オークション開始時間が近いことから込み合い始めた入り口を眺め、そのまま視線を上へと移動させて行く。
躯をひねるようにして振り返り見上げた廊下の壁が天井に繋がる部分に、横長い明かり取りの窓が取り付けられていることに気づいた。




夏色の空が、写真のように切り取られている。



---同じ空でも・・・・違う。




カラーでは思い出せなくなってしまった、フランスの空の色。
瞼に描かれるのは、日本の空の色。






<008。003、今どこかな?>
<招待客用の会場入り口よ>
<動かないでね、今ね・・・>
<そっちによっ、センパイが行ったぜっ>
<え?>
<ミルクを作るんでしょ?場所があるって>


突然の008からの通信。
舞台裏へと続く”関係者以外立ち入り禁止の表示が出されている廊下の先に、見覚えあるシルエットを003の”眼”がとらえる。


「フラン!」


小走りにフランソワーズへと駆け寄り、当麻はフランソワーズの手を取り、来た道へと彼女を誘う。


「・・・・・・・当麻、さん?」
「ミルクを作る場所なら、こっちに来て」
「で、でも・・・そっちは」
「大丈夫だよ、何かあったら”さえこさん”の名前を出すつもり」


ピュンマが「星辰(せいしん)館内でイワンのミルクを作れるような場所がある?」と、海に訊ねていた言葉を聴いて、今日はまだ会っていない彼女と会うチャンスだと、早々に「給湯室があるから」と、リハーサル室から出たのだ。
シニアのRA(Resident Assistant)である当麻は館内の施設のほとんどの使用を許可されており、鍵を持っている。
それには、各階にある給湯室への使用も含まれていた。


「そんなの、いけないわ」


手を取られて、当麻に促されるまま足を進めていたフランソワーズが、立ち止まる。
当麻も同じように立ち止まりフランソワーズを見る。と、彼は微笑んだ。


「前はぼくもそう思っていたよ」
「?」
「でも、いいんだって思う」
「・・・?」
「そう思えるようになったんだ、フラン。君たちのおかげかもしれない」


再び、当麻は絨毯が敷かれた廊下を”関係者以外立ち入り禁止”の方向へと歩き出した。
フランソワーズは、足を止める事ができずにそのまま当麻について歩く。取られた手に少しだけ力が込められて、フランソワーズの視線がその手に絡まる。


「ここを自由に使って、水は冷蔵庫の中に・・・!」


リハーサル室からそれほど離れていない場所にある給湯室前のドア前で、フランソワーズの手を離そうとしたとき、フランソワーズが当麻の手を強く握った。

当麻は握られかえされた手の力に驚きながらも、嬉しさが胸に広がり、どきどきと心臓を高鳴らせてその手を離さず、ぎこちなくポケットからIDカードを取り出してドアノブ上に設置されている磁気カードロック(施解錠繰り返し型)にスライドさせた。


「当麻さん、・・・2日目は・・」
「・・・・フラン?」


丸い赤ランプが緑色に代わり、かちり。と、ロックが解かれて、フランソワーズと一緒に給湯室へと入って行く。






「・・・2人きりにさせんのかよ?」


つんつんの赤毛のアメリカ人がドア口に立つ、栗毛の仲間に声をかけた。


「このままここに突っ立ってんの?」


開け放たれたままのリハーサル室前の廊下がのびる先の角に、給湯室の入り口がみえた。
ドアの入り口に立ち、そちらを見つめたまま動かない彼の肩越しから、重ねるように視線を固定させるジェット。


「・・・・」


ジョーは当麻の後を追うようにして座っていたイスから離れてリハーサル室のドア口に立ち、そのままその場所から動かない。ピュンマは目線だけで彼を追い、海にむかって苦笑いをしてみせた。

海は親友のピュンマとジョーを交互に見て、その苦笑に含まれる意味を読み取ることができた。
篠原当麻と同じだけの時間をサイボーグたちと過ごして来た彼だけに、薄々、009、篠原当麻、そして003の間に何かがあることを感づいている上に、そのことに関して色々とピュンマの言葉が添えられていた。


「よぉ、てめえはここに突っ立って何がしてえんだ?」


給湯室のドアは閉められている。
003のような能力がない002と009には、その中での様子を知る事などできない。



ジェットは、ジョーの背後から、003/フランソワーズが給湯室に入る瞬間を見ていた。


普段なら、別に何とも思わない。
ミッション中である今、彼女が”サイボーグ003”であるために。

篠原当麻は、今回のミッションで00メンバーたちが護衛しなければならない人物の1人。
それは、栗色の髪をしたサイボーグのリーダーである彼もよくわかっていることだろう。



決心をしたんじゃないのか?と、ジェットはこころの中で言葉を投げる。

口では言わない。
言えない。
言うのは簡単な事だと、知っているからだ。


けれど、簡単なことなんだと、知って欲しいがために口にすることもある。
口で言ってしまえるほど、ちっぽけで、簡単なことなんだ、と。気づいて欲しい。



「それで?」





苛々とした気持ちが腹底からわき上がるが、それをぐっと、唾と一緒に飲み込んだ。


「仲良く密室だぜ?どうすんだよ、ジョー」


ジョーのこころの内を探るように002は声をかける。


「・・・・」
「さっきみたいに、”脳波通信”でか?仲間同士だから、って見せつけるのかよ?」
「・・・・・」
「003、ってことを優先させるアイツが嫌なんだろ?だったら、んなもんに頼るじゃねえよっ、都合良く”躯”のことを使ってアイツとの距離が近いなんてズルしてんな、まずは、自分が”島村ジョー”としてアイツのそばにいろよ」
「・・・・・ミッション中だ」


力ない声だったが、はっきりと言った彼は、今、009であることを選んでいる。
009は背後に居た002にむかって振り返り、002と対峙し、彼を見上げるようにして視線を合わせた。


「・・・篠原を1人で行動させるわけにはいかなかっただけだ、003と会えたなら何も問題ない」


002は肺に溜まっていた空気を一気に抜き出すような溜め息を吐き「それが問題だろっ!」と叫びたかったが、拳を作って009の肩先を小突いただけに留まった。


「OK、009。・・・・お前がそのつもりなら何にも言わねえが、後悔すんなよ?」
「プライベートな私情はミッションには持ち込まない。何がきっかけで事が転じてしまうか、わからないからだ」
「003として、見てんのかよ?」
「当たり前だ、彼女は003だから」


ドア口から離れて008と津田海の元へと歩き出す009の視線は、002と重なり合った状態のまますれ違い、ジョーの言葉に、少し前の出来事を思い出す。




自分といるときに、”003”を優先させる”フランソワーズ”が嫌だと言った彼を。
だから、フランソワーズがフランソワーズでいるために、彼女には自分は相応しくない。と、言った。



幸せになって欲しいから、こそ。
戦いの日々を思い出させる、同じサイボーグである自分は、相応しくないと。




本当に好きだからこそ、中途半端。
そんな甘えたことを言っていたヤツだったよな?




---オレからみれば、変わらず中途半端なまんまなんだけどよ、変わろうとしてんだよな・・・?




まずは、・・・あるがままのアイツと向き合ってか?










「くそ真面目なヤツ、・・・何にも起きやしねえよっ、こんなに暇なんだぜ?」


すれ違い様に、ジェットは躯の向きをかえてジョーの後に続いた。


「何かが起こってからでは、遅い。ことを未然に防ぎ、最小限に抑えることを優先する」
「なあ、お前・・・そんなもんを忘れちまうくらい、がむしゃらにってなんねえのかよ?」
「・・・・・・」
「そうなったって、オレらがいんだぜ?ぜってーカバーしてやるっつうの・・」


大小のグループになった学院生たちの合間を縫いながら、歩く。
その背から少し離れて、ジェットは歩く。

009の背を見つめつつ、その隣に亜麻色の髪の仲間を想像の中で009の傍らに立たせてみた。
009の傍らに立たせた003は、防護服を着ていない。




---ったく、どうしてこう・・・単純なことがうまくいかねえんだよ?



忙しない足音が聞こえたので、振り返ってリハーサル室のドアを見たジェット。
続けて、ジョー、ピュンマ、海、リハーサル室内の学院生が、ドアへと注目した。


”代表会(生徒会)”の学院生が部屋に入ってくると、叫んだ。


「始まります!ナンバー5~10、来てください!」















####


開演ベルが鳴り終わり、会場を温めるためのユーモア溢れる学院、オークションをネタにした会話の後、ゲスト・アーティストのパフォーマンスが続けられていたが、司会者が改まった口調でそれらに終わりを告げると同時に、高々にあやめ祭開催の宣言し、オークション開始の言葉を口にした。

会場内は拍手の波に包まれる。
その波が終わらないうちに、篠原当麻がリハーサル室へ戻って来たと008から報告があり、同時に、003からの報告が入ってきた。


<003。席に戻りました。・・・会場内で海さんを観に来たらしい人物の居場所は、ごめんなさい、特定できないわ・・・>
<こう人がおおくちゃなあ>
<・・・来てるんだね?・・海の足目的で・・>
<だな!>
<それだけか?>
<ええ、他は何も・・・>
<方角的に、あんさんが座っている位置アルヨ>
<そうか・・・、男2人、だな?>
<さえこ殿のまわりには、それらしい接触はないままだぞ>
<004、それとみんなも、だ。こだわるな。003が聴いた2人だけ、とは限らない。これではっきりとした。津田海を目的にした人間が来ている、気を抜かないでくれ>
<<<<<<<了解>>>>>>>




すでにジョーが受け取ったナンバーは呼び出されており、薄暗い舞台袖へと移動していた。
照明ライトに照らされた白いだけの眩しい舞台を苦々しく見つめてながら、報告を受ける。


<それと、・・・・パフォーマンス中は通信を切らせてくれ・・・・以上>

冷やかしの声が飛び交う前に脳波通信を閉めようとしたが、回線(チャンネル)が009個人へと換えらて繋ぎ直された。


<・・あの>
<003?>
<・・・・・・お客様はみんな、チョコレート・トリュフなの>
<・・・h?>


突然の言葉に、ジョーの頭が真っ白に飛ぶ。


<とっても美味しい、トリュフなの・・・、だから怖くないの。だって、美味しいし・・・、それに甘くて、・・あ、違うわ、あの、そう思ったら、緊張しないと、そう思うと舞台にあがったとき、いつも緊張しないように、そういう風に、だから。・・あの、ご、ごめんなさい>
<・・・・・・f・・・、003、普通、石とかに例えない?>
<・・・石の前でパフォーマンスしても、楽しくないでしょう?・・・トリュフは色々あるし、味も形も、・・・・と、とにかく、ごめんなさいっ。あの、がんばって・・・・・ジョー>


聞こえてくる観客の声と司会者の場を盛り上がらせる会話術、舞台進行をサポートする中等部学院生たち。ジョーも見覚えがある何人かの教員たちに、今回オークションのために外部から呼んだ舞台関係専門の技術者。


その動きと数を把握する、009。


星辰(せいしん)館の設計図は篠原さえこから手に入れており、今日出入りする業者関係の人間も調べがついていた。
オークション用に整えられた会場は、下見にきた篠原さえこにつきそった007が、危険な”細工”はないか、事前に調べ終えていた。

昨夜遅くに004、009の2人はここへ1度忍び込んでいる。



舞台袖は、華やかさなどなく、高い位置から吊るされた重々しく幾重にも重ねられたカーテンの匂いに、赤外線ランプが足下を照らし、舞台装置、音響のトラックの周りにだけ青白いペンライトが光る。

背の低い猫背の男が、進行表を確認していた。


---・・・以上なし。



人の顔が判別しにくい、不便な暗さが009にとって少しばかりの救いであった。
暗視モードに切り替えずとも、はっきりと周りを見る事ができる眼には舞台上から滲む光で十分である。




ふっと、肩の力が抜けた。


”・・・・・・お客様はみんな、チョコレート・トリュフなの”


苛々とした、苦々しく、無性に腹立たしかった気持ちは、パフォーマンスにたいしてなのか、教えてくれなかった仲間にたいしてか、篠原当麻とフランソワーズが手を繋いでいたから?

それを目撃したから?
見ていながら、行動しなかった自分に?
勇気がなくて009の影にかくれた情けない自分に対して?


固まって動けなかった足を、どうにかリハーサル室内へと動かし戻すことだけで精一杯だった。
たかが、手を繋いでいたのを見たくらいで、と、自嘲しながらも、こころが痛み、その痛みがひた隠しにしている獰猛な獣を起こそうとする。


ごちゃごちゃと様々な感情がまじりあって濁る中、その想いはすべて彼女にむけられていく。





キミは無防備すぎる。
男と言う生き物を知らなさ過ぎる。





「ナンバー確認させてください」
「・・・9」










司会者がジョークを交えて次のナンバーを読み上げて、手元に持つ資料からその生徒を紹介する。


『ナンバー9の生徒さんをご紹介させていただけますっ。編入して来たばかりのようですね!しかも今学期のみっ。学院の思い出作りに、一夜の夢を、お嬢様方っ準備はいいですか!彼はとってもハンサムさんですよっ、リハーサルでチェック済みです』


ジョーのナンバーを確認した学院生が、ジョーの背をぽん。と、押した。


「どうぞ、行ってください」


頷いて、ジョーは光の中に足を進める。
静まりかえった会場を舞台上から見下ろしながら、探すのは極上のチョコレート・トリュフ。




”がんばって・・・・・ジョー”


---フランソワーズ、俺は・・・・














####





熱い。



それが、舞台上での彼の感想。

どこにでも売っている無地のTシャツに、色落ちされたジーンズ。
有名スポーツメーカーのスニーカーを履いた青年の髪は日本人らしからぬほどに、舞台のライトに照らされて金茶色に光を弾いていた。

俯き加減に、長い前髪が彼の片方の瞳を隠している。


寝癖なのか、くせっ毛なのか、うなじで跳ねた髪に、可愛いんじゃない?と、囁く声。
さわさわと、葉が風にゆらされてこすれ合う音のように、ひそひそと交わされる会場内の会話。


コーディングされた舞台のフローリングに、赤のテープで×の印がつけられている位置に立つ。
パフォーマンスの内容はリハーサルで確認されていたために、ジョーの2つ前の生徒が舞台に立ったとき、彼のTシャツに小さなピンマイクがつけられた。



体重を右足にかける。
左、つま先を上げて、とん。とおろす。

そのまま、一定のリズムで踏んでいく。


1、3のリズムを足先で作り、2、4の裏を左手の指で鳴らした。
裏のリズムを、自分が歌いやすい間に捕らえたところで、足をとめる。









会場内に、ジョーの鳴らす指音だけが響いた。










ぱちんっ!と、ひときわ大きく指を鳴らした時、会場内はジョーの雰囲気に飲み込まれて、彼に染まる。

(『』内は英語で歌ってます)










『o・・ooh・・・ Darling,・・・、お願いだから信じてくれ、よ』



ライトに焼かれた空気を吸い込んだ彼が作り出す音に、引きづり込まれた。




『♪俺はキミを傷つけることなんて、しない

♪お願いだから俺の言うことを信じて、

決してキミを傷つけたりしない、よ』










彼のならす指音と、歌。




『Oh・・・Darling, キミがもしも俺から去って行ってしまうなら

♪きっと俺は1人じゃ何もできないんだ、よ

♪頼むから信じてくれ、よ・・・俺を

♪俺を1人にしないで、くれ・・、置いて行かないで・・・・・・・!』






リハーサル室のTVのボリュームをRA(Resident Assistant)の当麻に頼んで最大に上げてもらった。




『♪キミが俺なんて・・もう必要ないと言ったときに

♪Well ・・・知ってるかな・・・俺は崩れおちて泣き出したことを

♪俺なんか必要ないと、キミが言ったときだ、よ

♪Well you know  ・・・俺は崩れおちて、死にたくなったんだ・・・』





「・・・・・・・マジ、・・かよっ?!・・アイツっ」
「すご・・・、ジョー・・・・すごい、よ・・・」
「うわあ・・・・プロだったの?ねえ、009ってプロ?!」
「・・・・・・」



伴奏も何も無い、アカペラで歌う、彼。


歌う9







『Ohっっ! Darling, ・・・・もしキミが俺から去って行ってしまったら

♪俺は1人でなんて生きて行けない、よ・・・

♪Believe me ・・お願いだ、よ。

♪絶対にキミを傷つける事なんてしないと、言うから・・』






オリジナルよりも早いテンポで、少しばかり軽く歌い上げる。





『♪キミが俺なんて・・もう必要ないと言ったときに

♪Well ・・・知ってるかな・・・俺は崩れおちて泣き出したことを

♪俺なんか必要ないと、キミが言ったときだ、よ

♪Well you know  ・・・俺は崩れおちて、死にたくなったんだ・・・』







ジョーの声が、熱した空気を震動させる。









『o、o.oOH、Darlingっっ!お願いだ、俺を信じてくれ、よ・・・・!

♪キミを失望なんてさせない・・・

♪信じて、俺を・・・。俺は・・絶対に、

♪キミを傷つけることなんてしない、から・・、

♪絶対に・・・誓う、よ・・・』







肺から出し切った音に、鳴らしていた指は2小節ほど、長めにリズムを刻んだ。



テレ隠しのように、無愛想にちょこっと頭を下げて早足に舞台袖に引っ込んだ彼の背に、ぱらぱらとした拍手が鳴り始めて、それはスコールのように突然激しく会場を沸き立たせて鳴り響いた。
























[Oh!Darling] by Lennon/McCartny......(対訳・Achiko・・・ジョーらしく?)




ふふふ...ふふ、ふふふっっ。
いただいたイラスト挟み込みの術!


====へと続く


・ちょっと呟く・

はーい♪
歌っていただきました、ビートルズ!!
ちょこっとだけ「リトル~2」で書いたんですが、
それだけで曲を当ててくださった!!方もいらして、(感動)
おねだりしてしまい・・・(←遠慮がなくて、ずうずうしい、・・・スミマセン)
書きましたあっ!いかがでしたでしょうか?妄想の種になったでしょうか...どきどきです

1日目はまだまだ、まだまだ・・・続きます。(え?)
9があの5人の中では先陣を切りましたとさ。です。
2、8、のパフォーマンスみたいですか?
・・・ここで訊くなよ・・。


・・英訳はジョーっぽく、です。一応ね。
一応、です。
一応なので、突っ込まないでください。

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波音

潮風と戯れる波の音が、星の瞬く音を打ち消していく。 月がインディゴカラーに穴を空けたように見えて、その向こうの宙が 見えるかもしれないと、思った。 冷やされた空気は振動することなく、肌をなでる。 静寂は、何色をしているのだろう?と、瞼に描いてみるけれど、 本当の静寂を知るときは、自分が”停止”するときだと、自嘲した。 波が砂浜に寄せられて、引いていく音が子守唄。 子守唄を追って、呼吸を整えていく。 心臓の音が聞こえ出す。 <・・・もう、寝た?> <・・・・いいえ、起きてるわ> 音でなく、振動でもなく、人工的に届けられた人の意思。 ベッドの上で寝返りをうった。 シーツが絡まって。 掛け布団がねじれて。 マットレスが軋む。 枕に頬を押し付けて。 耳が波の音を忘れた。 <・・・・来ない?> <・・・・・え?> 心臓の音が彼女の意思を邪魔をする。 <・・・・・・・・眠れないから> <・・・何か、暖かい飲み物でもいれましょうか?> また、寝返りを打って、天井を見上げた。 <・・・・・・来て> 波の音が戻ってくる。 <来て・・・・。眠れないから> <・・・・こんな時間に?> <こんな時間だからだよ?> 仰向けの状態で、首だけを窓へと傾ける。 カーテンを閉めていないけれど、カーテンを閉めているように感じる。 瞼を閉じて。 ふう、と息を吐き出した。 瞼に浮かべる静寂の色は、何色でもない。 黒。でもない。 ただ、何も映し出していないだけ。 耳に心地よい波の子守唄。 こん、こん。と、調子が外れたリズムを聞いて、跳ねた勢いに マットレスが偏って沈む。 フローリングの床につけた素足が冷たさで火傷しそうだった。 <ジョー・・?> ひとつ、深呼吸をしてから、ひんやりとしたドアノブを握り、 音を立てないようにそっとドアを開けた。 「・・・・眠れないんだ」 「私も、よ・・・・」 部屋に引き入れて、昼間と同じように抱きしめる。 彼女のお気に入りの、シャンプーの香りは変わりなく、甘く、胸をくすぐる。 「落ち着かないんだ。・・・・・まだちょっと信じられない」 腕の中の彼女が身じろぎしたので、腕を緩めて彼女の顔を覗き込んだ。 「・・・信じてくれないの?」 震える声が、空気を振動させる。 「・・・・もっと、確実に信じたい」 頬にキスを一つ。 そのまま離さずに、ささやく。 「もっと、ちゃんと信じさせて」 頬の熱がくちびるに伝わる。 彼女の戸惑いと緊張と、困惑の揺れが抱きしめる腕に、躯に伝わる。 「まだ・・・・・・・、そんな・・・の、・・だって・・・私たち・・」 腕に力を入れて、より彼女の躯と隙間なく密着させて、 彼女の亜麻色の髪に顔を埋めた。 「・・・眠れないから」 「・・・・そんな、の・・・」 「・・・じゃ、どうして来たの?」 首筋に、彼女の長いまつげが作る風がかかり、彼女の想いを知る。 「・・・怖い?」 こくん。と、素直にうなずかれた。 「・・・・無理強いはしない。キミが嫌という限り、何もしない。 ・・けど・・・・眠れないから、一緒にいたい」 「私も・・・一緒に、いたいわ・・・。で、も・・」 腕を解いて、彼女の手をとり誘う先に、彼女の足はすくむ。 「・・・・・誓うよ」 「・・・何に?」 「・・・キミを好きだと言う気持ちに」 同じ音を聞いて。 同じ子守唄を聴いて。 緊張に強張っていた躯を解いて。 おいかけ合う息づかいは、安らかに。 波の子守唄に誘われて。 初めてお互いの気持ちを伝え合った日、その夜を一緒に過ごした。 end. sozai/ふわふわ。り

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握りこぶし/綺麗な、キレイな、きれいな。

こぼれ落ちそうな瞳に、今にもこぼれ落ちそうなしずくが揺れ溢れている。
ふっくらとした唇を巻き込むようにして噛み締めて。

瞬くたびに、彼女の顔は空をあおぐ。



はあ、と。吐き出す息は哀しみの色。




目の前に広がる焼けた荒野。

ここに、街があった。



黒い残骸。

ここに、人がいた。





鼻をつく異臭。

ここに、笑顔があった。





ここに、命が輝いていた。








黒と夕のコントラストが、彼女の背中をかたどる。
風がないのにも関わらず、彼女の緋色が揺れた。

ただ、ボクは彼女の傍らに立つ。



彼女が何を思い、何を悲しみ、何に胸を痛めているか。
ボクの気持ちと重なる。


「003・・・・、我慢しなくていい」




それだけ言うのが精一杯だ。
目の前に広がる光景を観て、何を言葉に置き換えることができるだろう。
何が彼女を慰めることができるだろう。




ちっぽけなボク。
最強のサイボーグの名が、空々しい。





そっと視線だけで彼女を観る。
不謹慎にも、その横顔があまりにも美しく、息をのむ。

キミは本当にあの、フランソワーズ?






脳裏によみがえる、20時間前のキミ。


とんちんかんなことを言う、キミがいい。
お菓子が大好きな、アイスクリームが大好きな、キミがいい。
ちょっと理解できない趣味の、キミがいい。



綺麗な、キレイな、きれいな、003。



だけど、ボクは・・・。



理解できない、女の子な、キミがいい。





「・・・・003、そろそろ行こう。ここはもう」
「もう少し・・・、もう少しだけ、お願い・・・・・」
「ここに居ても仕方ない」
「・・・・・・忘れたくない」
「・・・」



一粒だけ、彼女の頬を伝ったしずく。
スローモーションのように流れて彼女のあごを伝い、落ちた。

乾いた大地に落ちた、それを見つめて、ボクは願う。









いつの日か、そのしずくの落ちた先に花が咲くように笑う、キミ色の花が咲きますように、と。

その花が咲く頃には、・・・・この腕にキミを抱きしめていられる男でありたいと願う。








太陽が沈みきった空気は冷たく、ボクらを包む。


「もう、いいだろう・・・行こう003」
「・・・・ええ、009・・・ありがとう」


満点の星空に、どの星よりも輝く笑顔。




ぐっ。と、固く握りしめた拳。



「絶対に、止めてみせるっ」
「行きましょう、009」





落ちたしずくに、キミの涙に誓う。



「003、無事に帰ったら・・・・」
「もちろんっ・・・・季節限定のソフトクリームを買ってね!」
「それに、細胞君シリーズ、第二弾だろ?」
「ええ!・・・・ええ・・・・」


早足に、ボクよりも先を急ぐ。






「フランソワーズっ」
「っ?!」




キミは驚きに振り返った。





「オオガミ教授が秋の慰安旅行にキミを連れてきてくれないかって、言われてるっっお礼したいからって!」
「え?」
「だから、さっさと終わらせるっ」











ボクは、走り出した。
そして、キミの手を取り、抱きかかえると加速した。















*シリアスもじもじ・・・。そういうこともあるさ。
 旅行なもじもじ書きたいんです。(マーメイドな彼女もね!)
 いつになるか・・・。

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ハロウィン!ラブv
祝ハロウィンで、いただきました!
らぶい、93です♪

ハロウィン



ちょいとACHIKOの勝手な妄想始まります↓
(しかもパラレル・・・ 汗)


吸血族(血を吸わないと生きていけない上に、変身できないし、太陽浴びられない。)の長の1人息子と、コウモリ族(変身できるけど血を吸わずにいきていけるし、朝日は苦手だけど、普通に生活できる。)の正統王位継承権を持つ娘がいましさとさ。

祖を辿ると同じでありながら、長い年月の間、二つの族に分かれたがために、DNAにも変化が現れた。
お互いに同じ祖を持つもの同士、いがみあうことはないけれど、昼の世界を生きられない吸血族を尻目に、こうもり族はどんどん人と交わり、その血を薄めていくのでありました。

その様子を見ては、吸血族は嘆き、祖の血を汚すもの!として、関わることを禁じたのであります。



しかし。
年に一度、10月31日のお祭りの日は、古の習慣、慣わしに従って、闇の魔族が集まる異界に還り、共に楽しく、他の魔族と交流を深めて楽しむのです。




会場となるのは、魔の世界唯一の城。
1年に1度しか足を踏み入れることが許されない、宵の城。



****

今夜の主役は吸血族の先代の一人息子。
彼は今日が社交界デビュー。

彼とともに城に姿を現した、親友であり、同じ吸血族で貴族の、ジェット。
吸血族とは長年の友好関係を気づいている死神族、アルベルト。
闇の世界の管理人、ジェロニモと、そのジェロニモがなぜか、世話する不思議な赤ん坊(とっても偉いらしいが、誰もなぜ偉いか知らない)。
海の底の世界を統一した戦士の一族代表、ピュンマ。
魔の世界のルールを統べる、ギルモア博士、とその秘書、流れ魔族のグレート。


「なんだあ?!吸血族ばっかじゃん!」


彼らは吸血族長の忘れ形見を大切に育てて見守ってきた、後見人たち。


「そうでもないみたいだよ、ほら!」


会場に案内されて、彼の眼に飛び込んでいた、吸血族が忌み嫌う太陽の光のようにきらきらと輝く髪の娘。


噂のコウモリ族の娘か、・・・魔の血を汚す奴らがなんでここにくるんだ?と、睨むは、吸血族の長の忘れ形見。


年も頃合い。
次の世継ぎを、考えている噂が流れて、今宵は華麗に装った吸血族の娘たちでごったがえしておりました。





ピュアな血を持つ彼は、魔の世界ではとっても貴重な存在です。











華麗に着飾る娘たちを見ながら、年頃になった彼に、相応しい相手を捜すのが、今宵の裏ミッション。


「ったくよ!だ~れが流したんだよっ!!事は内密にって言ったのっ!もろばれじゃんっ!!」
「しらん」
「僕だって」
「・・・・・」
「吾輩でもないぞ!」
「違う。」
<ボクモダヨ>
「「「「「「「ギルモア博士・・・・」」」」」」」
「・・・・結婚なんか、しないよ」


ぶすっと、機嫌が悪い、忘れ形見。

両親を知らずに育った彼。
たくさんの友人、知人、に囲まれて、幸せに育ったのですが、母親の愛情を知らないこと、そして、周りが男だらけ(ピュアな血が汚されては困るので。。。 笑)な環境で、蝶よ、花よ、と、温室育ちなために、”女性”にたいして、少し”苦手意識”がある(と思われている)上に、周りの吸血族の大人たちから、コウモリ族にたいして良くない意識を吹き込まれていたので、初めて目にしたコウモリ族の娘にたいして、嫌悪感を抱きます。

社交界(魔族界)のデビューの日の今日は、たくさんの初めてに、緊張にこころが強張っているのでした。

自分を囲む親友たちに護られながらも、初めて見る”吸血族”以外の闇の者たち。
彼がコウモリ族を目にしたのも、今日が初めて。




「んだよ?何観てんだ?」


ジェットが忘れ形見の視線の先を探ります。


「へえ、コウモリ族の噂の娘じゃん!あの子は去年いなかったから、お前と一緒で今日がデビューなんだな!」
「・・・・・・・・・コウモリ族のくせに?」
「ま、こっちに来られるってこたあ、それなりの身分ってこったな」
「・・・身分、ねえ」


細めた瞳で、彼はコウモリ族の娘をしっかりと睨みます。







「なんて恥知らずアルか!」


不躾な視線に素早く反応したコウモリ族の男がいました。


「どうしたの?大人?」
「あそこにいるのは、吸血族の忘れ形見!なんて眼でワテのおひいさんを見るあるか!」
「え?どこ、どこ???」
「・・・あそこアルよ」


コウモリ族を代表して、お目付役として今日のパーティーに参加している教育係の張が、そっと耳打ちします。


闇の人間とは思えないほどに、陽光の輝きを放つ髪と、人間の世界の”空”を抜き取ったような瞳が子猫のように、興味を示しました。

彼女はそおっと自分と同じ祖を持つ吸血族の忘れ形見、古の血を護り続ける人へと視線を動かします。


「!」
「!」




娘を睨んでいた彼と、娘の視線が ばちん。と、合わさった瞬間。










イワンが、に。と、笑いました。

















「お、おい、ジョー・・・どこ行くんだよ!」
「駄目だよっ、ケンカしちゃっ、いくらコウモリ族でも・・・ちょ、ジョーっ!!」
「早まるな!」
「まあ、待ちなさい。ジョーも長になる身じゃ。あの子はコウモリ族でも王位継承権を持つ子じゃろう?同じ祖を持つ同士。挨拶なしは失礼じゃて」
「でも・・・博士、そんな雰囲気にゃあ、みえねんだが・・・・」


後見人たちの心配をよそに、集まった魔族たちをかき分けて、コウモリ族の娘に近づく、吸血族の後継者。


集まった魔族たちが緊張の視線とともに、忘れ形見、と呼ばれるジョーに注目します。
その場がしん。と静まり返りました。


とうとう、吸血族とコウモリ族は決別する?!

ジョーの厳しい表情と、まっすぐに迷い無く進む足が語り、なんとも言えない緊張の空気を作り上げます。



ぴたり。と、ジョーは足を、コウモリ族の娘の前で止めました。
ごくり。と、みなが生唾を飲み込む音がひびきます。











「・・・・・名前は?」
「・・・・・・・・・・・」


彼を目の前にして、戸惑い俯く、娘。


「な・ま・え」
「ふ、・・・・フランソワーズ・・・」
「フランソワーズ・・・か。僕は」
「知っているわ・・・・ジョーでしょう?」


恥ずかしげに、頬を染めて見上げる視線。


「・・・・・うん」


自分の名前を音にした、フランソワーズのくちびるに迷いなくジョーは、吸い付きました。





それは魔の世界にいる誰もが瞼を降ろすことを忘れてしまった瞬間でした。







「・・・・m・・・あ・・・・・の?」
「黙って」


一度離れたくちびるを、再度重ね合わせて、華奢で細い背に両手を添えてゆき、引き寄せながら、何度も、何度も、彼女をあきることなく味わう、ジョー。


予期できなかった出来事に、ぽかん。と、見ていた、フランソワーズの教育係が叫びます。


「うちのっ!うちのっ!ワテのおひいさんに何するアルかああああああああああああ!!!」


その叫びに、固まっていた時間がもどります。
みな、一斉に瞬きを繰り返し、悲鳴が上がり、どよめきに魔の世界に揺れました。





<一目ボレってヤツだね!>





イワンの一言で、その場は治まり、そして、全ては決まりました。(笑)


「なんだよ!おもしろくねえな!」
「・・・・ムカつくっ」
「・・・ああ、ピュンマは確か・・・・・」
「ファン倶楽部に入っていた。」
「そうだったな・・・」
「ジョーは女の子苦手じゃなかったかのう?」
「いやあ、そんなのは関係ないでしょう、いざとなれば!”そっち”の知識はそれなりにたんと、入れておいたしなあ?」


頷き合う、後見人たち。


「なんじゃ、そうじゃったのか・・・てっきり儂は、うぶもうぶな、サクランボさんだとばかりになあ」
<チャント、影でソレナリノ予習ハシテイタヨ・・・フフ♪>







めでたし、めでたし・・・なはずだけれども、ジョーとフランソワーズは、吸血族とコウモリ族の間に挟まれ、多くの試練を乗り越えなければなりませんでした。が、彼らの恋を応援しながらも、・・・・・な、ジョーの後見人たちの力添えがあり、時間はかかりましたが、2人は結ばれて幸せに暮らしました、とさ。













***

「グレート」
「ジョー、気に入ったか?!」


グレートが書く物語に、自分たちの名前を借りる。と、言うので、一応の内容チェックを入れるために、ざっと、話しを読んだ、ジョー。


「・・・・いや、別に、ハロウィン用の児童書にしてはちょっと・・・・大人過ぎない?別にいいとは思うんだけど、さ」
「そうかあ?」
「・・・・・・・・・・それでさあ・・・・・・・・白インクで重ねられている、話しは、何?・・・しかも、これ、・・・・博士が暗号用に開発中のだろ?特殊効果塗料を混ぜ込んだ・・・やつだよね?」
「!?き、気づいたのかっ」
「・・・・・・・・・・・・たしか、読むための専用のライトが地下に・・・・・」
「待てええええええええええええええええええっ!いかんっ!!!それはっ読んではいかんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!ここではっこのblogでは載せられないんだああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「はあ?」

飛びついてきたグレートをひらり、とかわし、ジョーは鋭い視線を、フローリングの床に倒れたグレートへと投げつけた。


「どういう内容な、わけ?」


がくがく、ぶるぶる。と、震えるグレート。


「・・・・・・・・・そういう、内容なんだ?」
「そ、それはだな!・・・子ども用があれば大人用もなければ、バランスが・・・」
「・・・・ハロウィンだよ?子どもだけで十分じゃん?」
「し、しかし!り、リクエストがあったからして・・・なっ!やはり、その・・・なあ!・・・・ピュアな血を残さねば!それが長たる使命だしっ!!ふ、2人がどのように仲睦まじく・・・」
「ふうん・・・・。どのように、ね?それは”長”として知らないと、駄目だよね?」


き。と、視線でグレートを床に沈めたジョーは、地下へと専用ライトを探しに降りて行ったとさ。




<誰か!例のものがジョーの手にっ助けてくれえええっっ>





end・・・・・・(滝汗).




*********
イラストを、リンクさせていただいている、「Ambiguousness」さまのm_kaoさまからイタダキました!

勝手に(スミマセンっ)・・・お話くっつけて。
しかも・・・・・・ねえ(笑)です。

イラストのサインに、ほら・・・出典元のカテゴリーが載っていたので、それに・・・続かないといけないのかなあ?と、思っただけです・・・。思ったので、書いてみました。(どきどきどき

グレートが何を書いたかは・・・・グレートが本当に書いたかどうかは、まあ、さだかではありませんが・・・彼のためにそう、書いておこう 笑。えっと、逃げますっ(必死で!)



12/9/08'
→この続きが実は!?
絵をくださったm_kaoさまのサイトにある、ブログに!
カテゴリーは、”succession blood”となって掲載中!

大人な2人に出会えますよお♪

詳しい説明はここ

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何だか芯がもやもやする/ハロウィンの呪い?

爆発音がSurround soundのように、ぐるりと時間差でまわる前、ビジュアル的には凍って眼に映った。

手に持つ、従来の銃とは形が異なった、まるでSF映画に出てくる”未来”の武器を連想させるそれから放たれる光。
奥歯を噛み締めて、止めた空間。
加速を解いて、動き始めた秒針の音が、かちん。と刻んだ1秒。


目の前が爆煙に包まれる。
熱風から守るように、腕で顔を覆った。


頭の中に直接響く声、声、声。


手に入れる情報を自分の意思とは無関係に処理していく、コンピューター(補助脳)。
それはごく自然に”自分が思いついた”的になじむ。


大地を踏みしめて、膝を曲げる。
笑ってしまいたくなるほどの高さまでジャンプする。
重力を感じないほどに、軽やかに。


追ってくる、黒いラバースーツに包まれた・・・敵。
自分とは違う改造を施された人間の、一点だけを狙う。


苦しみもがき、地に落ちていく彼らを踏み台に、高く、高く、上を目指す。
見下ろした地上は戦火の炎と煙に見えなくなった大地。

視界に入る紅と緋。








次の動きをトレースする。






加速を解いて、銃を、スーパーガンを構える。
仲間の赤毛が同じ加速装置を使ってボクの背後につく。


「相変わらずっ最新型はいい動きをするぜっ」
「002!」


ひじをつかまれる。

宙に浮く躯。




「このままLポイントまで!」
「オッケー!」


ごおおおっとジェット音がうなる。
数回旋回し、目的方向へと一気に飛ぶ。





見下ろす大地、見上げる空。








その狭間を行く赤と緋。














「よお、009」
「・・・・」
「お前、003のことどう思ってんだ?」
「彼女の眼と耳は、・・・戦闘には向かない、だから今回は」
「違う、違うっ!」
「?」


鼓膜が裏返るような感覚。
押し返すように息をのむ。


「女としてだよ!」
「は???」
「おっと、行き過ぎるっ離すぜっ」


躯が90度ローテーションし、ぱっと離された。
重力に従い足から落ちていく。





「009っ!003はてめえに、ほの字だんだぜっっ!!」

















遠のいていく002の声。

落下速度を和らげるために、躯を丸め込んで回転する。
下から放たれる閃光。


それを視界に捉えながら、奥歯を噛み締めた。





---なんだって?




止まった空間を駆けながら、頭の中でリピートする002の声。





---ほの字って・・・アイツ、アメリカ人だろ?!





加速を解くと同時に打つ、スーパーガン。





---って、・・・・003がボクに・・・ええ?!






その光りが敵を打つ前に、再び加速する。





---ちょ・・・待ってよっ。








<009、ドルフィンの用意ができたわ!戻って!!>

「うわあっ?!」










003の声に、驚いて踏ん張れなかった。
どすん。と、尻餅をついた、その隙を逃さずに、襲いかかってきた黒い人。


「っ?!」


が、宙に浮いて手足をジタバタと動かした瞬間、ひょいっと遠く彼方へと投げ飛ばされた。


「大丈夫か?009」
「005、あ。・・・ありがとう」
「通信聞いた。いくぞ」
「う。うん」





---い。行きたくない。







どんな顔で003に会えばいいのか、わからない。



「009」
「?」
「うまく行けばハロウィンに間に合うぞ」
「・・・え?ハロウィン???」
「003がジェックランタンを作りたがっていた」


どきん。と、心臓が跳ねた。
なんで、ここで003の話題が出るんだ!?


みんなグルか?!


「どうした?」
「い、いや、ほら、うん。あの、・・・日本はハロウィン、そんなに浸透してない、から」
「そうなのか?」
「う、うん」


<そこから1km離れた場所に、ドルフィンをおろすぞ009、・・005も一緒か?>
<004、一緒にいる>


「走るよ、005!」
「おう」







予定通り、ドルウィン号に迎えられて。
002は何食わぬ顔で、ボクの前にあらわれる。


作戦中も。
検査中も。


003が気になって、気になって、気になって、もうひとつ、気になって。
自然に視線が彼女を追いかける。








ボクに”ほの字”らしい、003。
002の言うことだから、どこまでが本当か・・・。










003?



「・・・ねえ」
「なあに、009」
「・・・・003って、名前じゃない、よね?」
「え?」
「名前」
「ええ・・・ナンバーはコードネームだもの」
「なんて名前?」


ドルフィン号で、ギルモア博士に頼まれた雑用をこなしていた009の前に、診察台のシーツの交換に現れた003に、話しかけた。


「・・・・どうして?」
「いや、なんとなく」


003はシーツを引っぱりはがすような乱暴なことはせずに、マットの下に織り込まれていたシーツの裾を丁寧にマットから離すようにして、シーツを取り去る。


「009は?」
「え?ボク?」


手に持っていたバインダーをアルファベット順に壁に備え付けのためにしまっていく、009。


「人に名前を尋ねるなら、まず自分から名乗るべきじゃないかしら?」


新しいシーツを広げながら、笑った。


「・・・ジョー、だよ。島村、ジョー」


空気を取り込んでふくれたシーツを、手で押さえながら、003は言う。


「ジョー・・・・、私はフランソワーズ。フランソワーズ・アルヌールよ」


お互い名乗り合ったものの、それ以上会話が続かない。
003シーツのしわをのばして、ぴっちりと診察台のシーツ交換をすませた。

汚れたそれも綺麗に畳んで腕に抱き、メンテナンスルームを出て行こうとする003を視界の端でとらえながら、009の頭の中で彼女の名前を何度も繰り返し、魔法の呪文のように唱えた。


ドアのセンサーが、003に反応して開く。


「あのさ、ジャックランタンってなに?フランソワーズ」


閉まりかけたドアの向こうで、フランソワーズと呼ばれた003が驚きに振り返った。
タイミングが、少しばかり遅かったと舌打ちする。


ふう、っとため息をついて、手に残った最後のバインダーを棚におさめたとき。
メンテナンスルームのドアが再び開いた。


009は振り返る。


「まあ!ジョーってば”ジャックランタンを知らないなんて!!切り殺されちゃうわよ?!」
「き。き、切り殺される?!」


そのときには、もう、009の優秀なはずの頭から、002に言われた”ほの字”なことはすっかり消えていた。


「ええ!ナイフで!いくらジョーが最強のサイボーグでもジャックには、勝てないわ!」
「な!」


後に解ることだが、この時、フランソワーズは”切り裂きジャック”と”ジャックランタン(ウィル・オー・ウィスプ)”を間違って覚えていたために、ジョーは大変な恥をかくことになる。


「たかがランタンだろ?」
「いいえ!カボチャなのよっ可愛いの♪」
「・・・可愛い?カボチャはおいしいじゃないの?」
「ジョーは食いしん坊ね?」
「どうして、そうなるの?」
「だって、カボチャはおいしいって」
「いや、ランタンの話だし」




このとき、とんちんかんな会話さえしなければ。
ジャックランタンの話など始めなければ。

2人の恋はもじもじしなくてすんだのだろう。









「ジョーって、・・・変」
「はあ?!・・・いやボクより、フランソワーズだよ・・・」















####


「今年も作るんだ?」


ダイニングルームのテーブルに並んだ、日本のサイズでは考えられない大きさの色鮮やかなオレンジ色のかぼちゃがごろん、ごろん、と並ぶ。


「もちろんよ♪」


キッチンカウンターから身を乗り出して、興奮気味に答えたフランソワーズ。
初めて、”ジャックランタン”を知った日を思い返しながら、ジョーのこころに、何かがひっかかった。


急に真顔でかぼちゃを見つめるジョーに、フランソワーズは不思議そうに小首をかしげる。


「どうしたの?」
「・・・ん?・・・・いや、何か・・・大切なこと、忘れてるような・・・・???」
「博士のご用事はすませたの?」
「ああ、さっき」
「大学は・・・今日は水曜日だから」
「うん、大学は明日」
「お昼ご飯は」
「しっかりいただきました」
「そうよね?・・他になしかしら?」
「ん~・・・なんか、そのかぼちゃに関係しているような?」
「ジャックランタンに?」


キッチンから出てきたフランソワーズは、考えあぐねるジョーを覗き込む。


「ん、何か・・その前?」
「ジャックランタンの前?」
「ん~~~・・・、誰かに言われた、ような?」
「そんなに大切なこと?」


覗き込んでくる、フランソワーズの蒼と視線がぶつかる。






なんだか、すっきりしない。
もやもやと、霧がかった声。


「ねえ、ジョー」
「ん?」


いつの間にかキッチンから出てきたフランソワーズは、少しだけ甘えた声をだす。


「今年は仮装してみない?」
「はあ?!」
「張大人とグレートの店がある商店街でね、仮装大会があるの!」
「・・・・それって、子供用だろ?」


何を言い出すかと思えば、やはり、ハロウィン関係のこと。


「親子参加ですもの!」
「・・・・誰と、誰が親子?」
「ジョーとイワン♪」
「アルベルトとイワンの方がしっくりくるよ?」
「それじゃ駄目なのっ!可愛くないわっ!!」
「・・・・アルベルトに可愛さを求めななかったキミの成長がボクは嬉しいよ。でも、ボクに求められても、嫌なんだけど?・・・・・で、キミの予定では、ボクは何になるの?」
「んふふふっ♪」


フランソワーズの満面の笑みに、一歩後ずさるジョー。
こういう笑いをするときは、よからぬことを考えている証拠。


「や、やっぱり、アルベルトがベストだよ!」


なすり付けてみる。


「可愛くないわ!」
「させてみないと、さ!ほら、グレートに、大人だって試してみないとさ!!」


また一歩、フランソワーズから距離をとる。


「ジョーが一番なの!」
「な、なんで?!」
「だって!鬼太郎と目玉親父なんですものっ♪」









---・・・・子泣きじじいじゃなくて、良かった・・・。








「で!なんで鬼太郎?!っていうか、どうして知ってるの?!」
「全巻、博士が買ってくださったの!」


博士・・・・。と、肩を落としたジョー。
厳しいことを言っているが、いざとなれば、フランソワーズを激甘に、甘えさせてしまうのは邸の中で博士以外にいない。


「目玉親父がイワンなわけだね?・・・もっと可愛い格好をさせてやろうよ・・」


イワンが気の毒で仕方がない。


「だって、ジョーはいつも片方の眼を隠してるし!知ってる?鬼太郎はハーフなの!人間と幽霊族の!」
「・・・・・それで?」


フランソワーズが興奮気味に説明を始めた。
その手がしっかりとジョーの左腕にしがみつく。


「ジョーもよ!人間と機械のハーフ!!」
「・・・・・・それで?」
「も!素敵でしょ!イワンに頼んで、ステージでピン!って毛を逆立ててもらうの!!」
「・・・・」


期待にきらきらと光る宝石が、まぶしい。
嫌なくらいにまぶしい。


「で、キミは何もしないわけ?ボクとイワンに仮装させておいて?」
「するわ!」
「なに?」
「猫娘にゃああんv」


フランソワーズは手をくるんと丸めて、頬によせ、招き猫のようなポーズをとった。
ジョーの脳裏に”猫耳”フランソワーズがぽわん。と、浮かぶ。


---にゃああんvって・・・にゃああんvって、か、可愛いんだけどっっっ。
   う。・・・み、みたい・・・。



「もし、嫌だって言ったら?」
「そうねえ・・・、他を考えるわ、私とイワンでもいいのだけど、なかなか思いつかなくって、鬼太郎と目玉親父がベストなのよ?今日中にお返事してね?」





リビングルームのダイニングテーブルに新聞を広げて。
オレンジのカボチャの中をほじり出す作業をしながら、もんもんと悩む青年が一人。



短パン、下駄、古い学童服にちゃんちゃんこ姿を世間にさらすのと引き換えに、短い赤のスカート姿の”猫耳”フランソワーズが拝める。



---観たい、けど・・・鬼太郎って・・・。












悩め、009。
きっと思い出しても、フランソワーズがジョーに”ほの字”であるなどと、信じられないだろう(笑)



















*おまけ*


「ねえ、ジョー」
「なに?」
「猫の耳って売ってるかしら?」
「うん。ネットで買えるし、そういう専門店にいけば買えるよ」
「専門店?」
「コスチューム・プレイする人が買うようなところ」
「・・・・コスチューム・プレイ!」


---しまった!



「ねえ、そこへ連れて行って?」



かぼちゃまみれのフランソワーズに可愛くおねだりされて、盛大に後悔のため息をついた、ジョー。

翌日の朝。
嬉々とするフランソワーズの後ろを、歩く、陽炎のようなジョーの姿を、ジャックランタンのようだったと、後に語ったのは、フランソワーズに今まで最高額のお小遣いを渡したギルモア博士である。














*というわけで、ハロウィンの呪いです(笑)
 きっかけは002の一言ですが、毎年思い出そうとして、思い出せないんですよ、9!
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Trick or treat!
歩道に舞う枯れ葉がちょっとだけロマンチックに見えた。
艶やかな緋色が敷かれて、目に沁みる落ち葉のカーペット。
木々の葉が彩り豊かに、緑に朱に、黄色に・・・バラエティに飛んでいるように思えても、その色はきちんと街になじんで秋を伝える。

こころもち夏の空よりも優しくなった空は穏やかに。
秋の雰囲気は四季の中で一番オシャレに感じるのはオレだけだろうか?



ただ歩道を歩くだけで、落ちてくる色鮮やかな枯れ葉が、少しだけ特別な今日を演出してくれた。

いつどこで季節は変わったのか。

腕をなでた風の冷たさに、長袖のシャツを羽織るようになったのは、いつだったろう?
痛いくらいに冷えきった缶ジュースを求めて、ワンブロックごとに販売機を無意識に視界に入れていたのは、いつだっただろう?



ドアを開ると、流れ出る冷えきった風に人心地ついていた夏は去り、露出度が減った女の子たちが両手で包むようにティカップの紅茶の香りを楽しむ。

そんな風景が当たり前になった、10月も終わり。


イベントらしいから、それに便乗するのが商売というもので。
カフェ”Audrey”もハロウィンケーキをショーウィンドウに並べる。


リンゴとカボチャとシナモンをベースにした3つの新作。


”魔女の初恋はリンゴのプティング”
”ジャックの秘密(彼はキミが好き)/かぼちゃのタルト”
”大好きな君にTrick or Treat!”








売れ行き上々!

商売繁盛!

井川家は安泰でございます!
(ありがとうございます!)






ほっこり暖まった懐ににんまり、頬が高くなる。

夏はガッツリバイト三昧だった、オレ。
・・・と、言っても、オレが本当に欲しいものは、金じゃ変えないんだけどさ。



いつもは通らないその道は、義姉さんに頼まれて寄った花屋からの帰り道。

車の通りもなく、かさかさと踏みしめる落ち葉に視線を落として。
両手に持つ、観葉植物のライムカラーが妙に浮いて見えた。

その色だけが、その手に持つ色が、変わりきれないままの季節を語り、諦めきれないオレの気持ちを表しているように、思えた。


---・・・・フランソワーズ、さん・・・・。






揺れる花の香りは、フランソワーズさんの香り。
晴れた青空色の宝石はきらきらに輝いて、彼女の瞳に映し出されたすべては、喜びに歌いだす。
宝石を守るように縁取るレースは、光を弾いて、彼女の瞼の動きを重たげに追いかけながら、頬に影をおとす。

彼女の癖は、頷くと同時に、ミルクのみ人形のように瞼を閉じてしまうこと。
その仕草が愛らしくて、愛らしくて。

1つのケーキじゃ足りなくて、追加オーダーするたびに、恥ずかしげに、頬を染める色は、完熟の桃よりも甘い。

彼女のお気に入りのアップルティをいれたカップに添えるくちびるの動きから目が離せない。





瞳を閉じて。
・・・ふっくらとした、愛らしいそれがティカップの温度に温まって色濃くなり、少しだけ形を崩したくちびる・・・・。


柔らかいんだろうなあ。







思わず、抱きかかえてしまう1鉢のライム・ポトフ。
元気にのびた葉が、オレのくちびるに触れる。


その冷たさに、オレは・・・、泣きたくなった。




瞬きするたびに、クローズド・アップする、フランソワーズさんのくちびる。と、交互に浮かび上がるのは、ヤツと彼女のキス。


ちゅ。と、音が聞こえる、軽いキス。

いたずらに、くちびるをなぞるだけの、キス。

甘えるような、紅茶に解けた角砂糖のようなキス。

小鳥たちのまねをする、ついばむような、繰り返しのキス。

火傷するほどに、熱した空気を作り出すキス。

細い首をのけぞらせて、訴えるキス。

ヤツの名前を何度も、喉奥で呼び続けるキス。





キス、キス、キス・・・・そして、キス。






彼女のくちびるからこぼれ落ちる吐息を、拾い上げるのはオレじゃなく、ヤツ。




島村ジョー。
F1レーサーに昇格した、男。







通称、へたれっち。
つい最近?、昇格して、島村っちとなった。




ヘタレな男、らしい。
どこがどうヘタレかは、フランソワーズさんの親友で、うちのお得意様である香奈恵さんから聞かされたけれど、そのヘタレ具合が”格好良い”と感じてしまうのは、なぜだ?



「Trick or treat!」
「うわあっ!?」


自分の世界に浸っていたオレは、背後から近づいてくる、その足音が耳に入っていなかった。

どん!っといきなり背中を押されて、心臓が飛び出しそうになる。


な、なんだ?!




「ふふ、大地さん!どこまでいらっしゃるの?」


---ふ、フランソワーズさああああんん!


「え、と、こんにちは」
「こんにちは。大地さん、それでどちらへいらっしゃるの?」
「ほええ?・・・カフェまでっすけど?」


は!と気づく。

カフェは遥か彼方た後方に去り、・・・オレは慌てた。
くすくすと笑い続けるフランソワーズさん。


「私もなの、ご一緒していいかしら?」


黄色とオレンジのグラデーションが柔らかな午後。


「あ、は、は、はい!」


ロマンチックな街路樹からあたたかにこぼれ落ちる、午後の陽の光は風もなく揺れてささやき合いながら、夜の時間が長くなるよ、と教えてくれて、傾く日差しに自分の影が長くなる。

たった1ブロックの道を、並んで歩く。


「”ジャックの秘密(彼はキミが好き)/かぼちゃのタルト”がすごく好きなの」
「s、そう、そうなんっすか?」


何もかもが煌めき、輝く。


「お兄さまのカボチャのタルトはね、3層になってらして少しずつ違うのを発見したわ!色が一緒で解らなかったの、でも、ビスケットの部分がすごくとろりとした甘さが、トップのカラメルのような苦みがきいているとおもったら、しっとりと甘い一番下のかぼちゃのクリームが・・」


光が弾かれて、まるでティンカーベルのようにフェアリー・パウダーが彼女を包んでいるようにみえる。

思い出す、兄貴が作ったケーキに微笑んで、頬が高くなる。
くるん、と、カールした長いまつげが揺れて、見上げてくる碧。

耳をくすぐる愛らしい鈴の音は、ふっくらとしたくちびるから香る、香奈恵さんとお揃いだという、ローラ・メルシアのリップグロスの・・・。



彼女のくちびるから目がはなせない。
















リンゴの季節に、その色よりも美しく実る果実。
この果実を味わうために、手を伸ばせば、届く・・・かも・・・・。

















「大地、さん?」
「・・・・・フランソワーズさん」

















足が止まる。
彼女も。

まっすぐに碧を見つめる。
彼女も。







好きです、好きなんです。
あなたが、フランソワーズさんが、好きなんです。


たとえ・・・アイツがいたとしても。
この気持ちは、変わらない。

たとえ・・・あなたがアイツを愛してると知っても。
この気持ちは、変わらなかった。












「Trick or treatって言ってくださる?」
「え?」
「ハロウィンなのよ?大地さん!」


フランソワーズさんは、にっこりと花が揺れるように、ゆったりと微笑んだ。


「え?ええ?え?・・・あ、の・・・なんで?」
「言ってくださらないなら、treatはなしなのよ?」
「あ、はっはいっ言いますっ!!!言わせてくださいっトリックオアトリートっ!」



真珠のような白い手が、オレのシャツの胸元に触れて、きゅ、、と、それを握りしめると、彼女のこぼれ落ちそうな瞳が、閉じられた。





---フランソワーズさん?!




頬に、感じた・・・・果実。
今、この瞬間に死ぬことができたら・・・幸せなのかもしれない。


だけど。


最高に嬉しくて。
最高に哀しかった。




「happy Halloween!」


汚れない天使の笑顔が、無邪気に笑う。
















####

ドアのチャイムがちりりん。と、鳴る。と・・・
彼女を待っていた彼が、席から立ち上がった。



「ジョー!」



彼女は、オレには絶対に見せることがない笑顔を彼にだけに贈る。

特別な微笑み。


彼女は腕を伸ばして甘えるように、彼の胸の中におさまる。

特等席。







彼の首元に、・・・・果実を寄せて、ささやいて。
彼が彼女の顔を覗き込むように、熟れて柔らかくなった果実を、食べた。


触れて、なぞって、重ねて。
くちびるで噛む。




















オレの頬によみがえる感触が・・・痛いくらいに熱い。


「義姉さん、これ」
「遅い!!フランちゃんと一緒だったの?って、今までどこほっつき歩いてたの!?」





秋だなあ・・・・。



「大地、フランソワーズにアップルティーと新しいタルト、俺に」
「お前は二度と甘いもんを食うな!!!」
「は?」


フランソワーズさんのくちびるだけで十分だろっ!!
もう何も食うなあああああああ!!










ジョーに秘密にしといた方が・・・いいよな?
end.








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