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Little by Little・4
(4)




上手から舞台に立ち、下手へと戻って来た。
代表会(生徒会)の1人が、篠原当麻にパイプ椅子に座ることをすすめる。

生徒は、自分を落札してくれる相手がわかるまで、舞台下手で待つことになっていた。
予定通りに当麻よりも先に舞台に立った島村ジョーは、学院理事であり、自分の母親である篠原さえこが、今時点でオークション最高値で落札。

司会者のおどけたセリフに対して、マイクを渡されたさえこは、そのパフォーマンスに答えた。



「これでも独身ですからね。・・・・息子のルームメイトで、彼を良く知っていますし、私だって可愛い旦那さまが欲しいんです。ばりばり働いた後に、家で歌って癒してくれるなんて、CMのビュー○くんみたいで、素敵だと思いません?」



オークションも半数の生徒が順調に落札されていき、盛り上がっている。


「篠原先輩、落札されました。名前は・・・えと、アルヌールさんです・・・、ご存知ですか?」
「ああ、・・・・・・もちろん。そういう約束だったから」
「そうですか!オークションの値は今のところ5番目です」
「そう、ありがとう」

暗い舞台袖で、ペンライトを手に、渡されたばかりのメモから当麻に報告を済ませる、生徒。


「全員のオークションが済むまでは、リハーサル室にいてください」
「うん」
「おつかれさまでした!」
「ありがとう」


パイプ椅子から立ち上がり、別の生徒が当麻を下手で入り口へと誘導する。
当麻は、ライトアップされた舞台を振り返ると、足を止めた。

司会者が次の生徒のナンバーを読みあげて、紹介している。


「どうかしました?」
「あ、ごめん・・・」


ゆっくりと音を立てないようにして、生徒が開けたドアを抜けた。
当麻の背後でドアが静かに閉まる。


「よ、お疲れさん、センパイっ!!」


護衛役の002が待っていた。
当麻は笑って彼に答える。


「ジョーの機嫌が最低もいいとこだぜ、あんま刺激しねえでくれよ!」
「まだなおらないんだ?・・・以外と」
「ガキだってか?今更!」
「いや、・・・初めの印象と言うか、彼が009でいるときの、様子をみてるからね」
「ヤツがライバルで、楽だろ?」
「・・・・そう、かな?」
「あんなガキンチョ相手に、まごまごしてるセンパイの方がヤバくね?」


ジェットのストレートな言い方に、苦笑する当麻。


「けど、ジョーだからオレは諦めだんだぜ?」
「・・・!」


当麻の足が止まる。
驚きの視線と、動揺を隠す事無くジェットにむけた。

数歩、当麻の先を歩き、振り返ったジェットは今まで当麻が観た事がない彼だった。


「オレのコードナンバー言えるか?センパイ」


ごくん。と生唾を飲み込んで、当麻は答えた。


「ぜ、00。2・・・」
「そうだ、・・・・オレが一番、誰よりもフランソワーズと長く過ごしている・・・、ぽっと出のてめえなんかに持って行かれるくらいなら、・・・・オレだって参戦してえんだけど?」


に、っと嗤った、その笑い方が、004と呼ばれる男のものと酷似していた。


「し・・・・島村は、知って・・・?」
「さあな!鈍感野郎のくせに余計なところは009してんだから、どうだろうな!


ジェットは、言葉半ばで再び歩き出した。
当麻は彼を追い掛けて隣に並ぶ。


「それをぼくに言って・・・どうするの?」
「・・・・ジョーだから諦めたっつたろ?」


今度は、当麻が足を止めた。
ジェットも、並んで足を止める。


「・・・・本当に、諦めた、の?」


当麻が真剣にジェットへと聞き返した。
ジェットの瞳が、逡巡する。

おどけるようにウィンクをしつつ、先を、リハーサル室へと続く道を親指でさした。





「オレはジョーとフランソワーズのどっちも選べねえくれえにベタ惚れなんだよ!・・・どっちかっつうと、今はジョーよりってか?!」













####


ジェットと共にリハーサル室へと入っていく、当麻。

津田海が、ピュンマが、そしてジョーが、当麻を迎えた。
お疲れさま!と声を掛け合う、その中に憮然としてパイプ椅子に座り腕と脚を組み座る、当麻のルームメイト、ジョーがいた。

彼がリハーサル室へ戻ってきたことを確認する視線だけを投げかけて、オークションを終えた生徒とは思えない態度が、先刻ジェットが言っていた通り、相当機嫌が悪い事を表していた。


「・・・・島村」
「予定通り、003が落札できたみたいだ、ね」


態度に反して、声はいつもの彼だった。


「ジョー、じゃあ僕と海、に”おまけ”のジェットは、準備に行くよ」


ピュンマの言葉に、ジョーの眉間に皺がより、当麻にかけた声とは全く違う色で文句を言った。


「・・・・・・3人でパフォーマンスするってこと、なんで俺は知らされなかった?ハブんなよ」
「初めは僕と海だったんだよ!ちゃんとっ。でもさあ、ギリギリになってジェットが、ねえ?」


ピュンマのいい訳に、うん、うん、と同意を表して何度も首を縦振る海。
機嫌が悪いジョーがちょっぴりコワイらしい。


「ったく、いまさら駄々こねてんじゃねえよっ終わった事によっ」
「五月蝿い、・・・お前らが悪いんだろ、俺ばっか・・・」
「ぐずぐず渋ってたからだぜ!」


ジョーはかなり嫌そうな顔でジェットを見上げる。その生意気な視線にたいして、ジェットは長い腕を伸ばして、両手でぐしゃぐしゃとじょーの髪をかき乱し、頭を振り回す。

ジョーはジェットの手を掴んで乱暴に振りほどいた。


「さわんな、よ」
「なら、いい加減終わったことをぴーぴー、言ってんなよ!」


2人の間に割って入るようにして、ピュンマがジョーに声をかける。


「ジョー、回線開いておいてよ。僕たち、ここを離れるんだから・・・」
「わかっている」


オークションを終えて開いた回線に、待ってました!とばかりに送られてきた、ミッションとは関係な報告の嵐に、009は回線を完全に閉じて、必要な連絡はすべて002か008を通して行っていた。


「それによ、誘ってやったとしても、てめえ、踊れんのかよ?」
「・・・・・踊る?」


数回、まばたきしたジョーのアンバーカラーの瞳にむかって、ジェット、ピュンマが顔を見合わせて嗤った。


「海ってば!すごいんだよっ。出来たら生で観て欲しいんだけどね!」














司会者が、残りの生徒をカウントした。
あと、5人。

けれど、うち3人は合同パフォーマンス。

1人の持ち時間が3分。
3人×3分=9分間のパフォーマンスとなる。


ぐっとマイクを握る手に力を入れて、鍛えた腹式呼吸で声を張り上げた。



『みなさま、残すところあと3組ですっ』


会場の照明が消えた。



紹介が始まると同時に、ど。ど。ど。ど。と、会場全体が揺れるほどのベース音が響き渡った。
その音に負けじと、さらに声をはる。


ストロボライトのように、激しく点滅するライト。
ムーブライトがランダムに色を選び交差せさた。



『ジュニアの3人が、みなさまに最高のブレイクダンスをご披露いたしますっ』


シンセサイザーの、高音から下る電子独特の音が降ると同時に、舞台袖からジェットは、必要ないが、一応のために助走つけて側転から、バック転を2回、そして宙で1回くるりとまわり、着地と同時に、ステップを踏むと、その後に続いて、海が、同じように、側転から、バック転を繰り返し、舞台中央で、逆立ちした状態で、片腕で静止。


ピンスポットで浮き上がる、彼の陸上競技で鍛えた肢体。


上半身に、重ね着しただぼだぼの派手なTシャツを重ね着し、ずたずたに切り裂いた、海のサイズよりも2、3サイズは大きいようにみえるジーンズが、重力に伴って落
ちる。と、彼の”義足”である左足がさらされた。

海の躯の動きに合わせて篠原技研が持つ技術を駆使して作り上げたそれは”人”の脚を象ってはおらず、銀色に光る。
何度も改良を繰り返し、週末ギルモア邸で過ごす間にギルモアの手を借りた、世界にひとつしかない、最高の1足。









ジェットの登場に沸き立った会場の誰もが海に注目した瞬間、不可解な線が会場中をめぐり、不穏な空気が流れた。




それを打ち消すかのように、ピュンマが、バック転から入り、宙で1回まわり、躯を1/2捻らせて、着地すると、中央をジェットに譲った海。

3人が舞台に揃い、曲のテンポに会わせて、同じ振りを踊り出した。
会場が3人の派手なダンスにヒートアップする。




<003、”耳”は大丈夫か?>

予想を超える爆音に、004を初め仲間たちから通信が入る。


<001がサポートしてくれているから、大丈夫よ・・・>
<動きは?>


派手に色を変える照明ライト、リミックスされた曲が、各3人の特徴あるパフォーマンスをささえる。


<009、何人かが・・・会場を出ていくわ>


普段の服装を、もっと”それらしく”みえるようにアレンジされていたジェットは、どこからみても”ストリートパフォーマー。
ピュンマは、普段の彼のファッションからは想像できないほどに、そして、意外な彼の一面を魅せる。


<どこへ向かっている?>


009の声に、舞台に釘付けになった観客たちとは別の動きをする、003。

<招待客専用の出入り口・・・から、1、・・・3、いいえ、・・6人、一般の方へ、・・・3、4、・・・5人、バラバラ、で>


最高の盛り上がり、声援の声があがる中・・・。


<004、招待客側はいい、一般の方へまわってくれ>
<ああ、・・・追うか?>
<いや、顔を覚えておいてくれたらいい。オークションが終わって動くかどうかが問題だ・・・003>
<はい>
<視た人物を同じように、覚えておいてほしい。・・・001頼む、よ>
<了解、シタイケド>
<何か問題アルか?!>
<・・・・赤ん坊ガコンナ音量ノナカ平然ト居ルノ、不自然ジャナイノ?>
<・・・その辺りは各々の判断で>
<009、001を連れて会場を出るわ>
<関わらないこと、いいね?>
<はい>



イワンは早々にぐずってみせた。
フランソワーズはイワンをあやすようにして会場から出て行く。

会場を出る前に舞台へと視線を向けた。


左右から、ピュンマ、ジェットが片手ロンダート→バク転→バク宙で交差する、その下を抜けるようにして、海がブレイクダンス式のトーマス(技名)で、腕の力を利用し、大きくV字開脚で旋回した。

感嘆の声と、黄色い声が飛び交う。


上半身と腕を基本にしたパワームーブ系を海が披露していく中、それをサポートするように、大技をジェットとピュンマが魅せた。

”義足”とは考えられない大技を繰り出す海に、会場は驚きの連続である。


「・・・いつ練習したのかしら?」
<練習シタノハ、海ダケダヨ・・・>



会場を出て、003は”眼”を駆使する。
”耳”のスイッチをいれて、集中させてオークション前に聞いた声をトレースし、その声が再び聞こえてこないか注意した。




<終わったな・・・>


004は2階席から立ち上がり、混雑する前に会場から抜け出した。





最後の最後に、大きく盛り上り熱した会場のまま、オークションは終わった。
予定通りに、海の姉たちに落札されたピュンマと、海。
最高額を出したジョーを次席に追い込んだのは、ジェットと、彼を落札した理事長の美人秘書、だった。



<009…・・・みっしょん、終了ダネ>
<勝手に終わらすな、よ。まだだ>


リハーサル室でオークション終了の声を聞き、集まった学院生たちがが落札された、した、相手に盛り上がる。担当の教師から後夜祭についての細かな指示と、注意事項を説明される中、イワンのテレバスがジョーにだけ送られた。


<心配ナイ>
<001?>
<心配スルナラ、自分ノ事ヲ心配シタライイヨ>
<・・・とにかく001の言葉がそうであっても、今日1日は、このままでいく・・・まだ動きがなかっとは言い切れないだろ?>
<ボクヲ信用シテナインダネ?>
<リーダーとして、念には念を、だよ>


イワンのテレパスを退けるように、全員へ通信を送る。

<状況報告>













####

ランチタイムからすこし遅れて解放された学院生たち。
会場へ向かうもの、帰るもの、外に並ぶテナントへ向かうもの、紫微垣へ向かい、昼食をとるもの。みな興奮気味に、ばらばらと去って行く。

その中に、ジョー、ジェット、ピュンマ、そして海と当麻も含まれる。


「ジョー、これからの予定は?」
「博士たちと合流、・・・津田」
「え、あ、はい!」


009である彼に呼ばれて思わず背筋が伸びる。


「午後はピュンマとまわると言ったね?・・・悪いけどランチとその後もなるべくなら、僕たちと一緒に行動してほしい」
「・・・・う、うん。y・・姉たちが大丈夫そうなら、ぼくはかまわないですっ」
「なに緊張してるの?」
「え?あ、べ、別に!うん。お、お腹空いたね!」


誤摩化す海を、けらけらと面白そうに笑うピュンマ。


「よお、それだとかえって目立つぜ?団体さまだとよ?」
「観光団体じゃないんだ。・・・ぞろぞろ連れ立って歩くつもりはない。つかず離れず、で。行き先がわかる範囲でなら自由、ピュンマ、その辺りの指示はまかせる」


気がつけば、リハーサル室内に残っているのは5人だけになっていた。


「オッケー!ジェットは一緒に僕たちといるだろ?ジョーはどうするの?」
「一度、ジェロニモと連絡をとる。あとグレートに・・・、それは午後だね、アルベルトと行動する、よ。裏にまわる」








津田の姉、夢と林。ギルモア、イワン、張大人、アルベルト、そしてフランソワーズと合流した先は、紫微垣のカフェテリア。
解放されている各校舎にも、飲食系の店が多数出店しており、カフェテリア内はそれほど込み合ってはおらず、円形テーブル2つを寄せ合って席についた。



計12人での昼食。


<今度は林ちゃんアルか・・・>
<ったくよおおっ、なんでこうなんだ?!>
<プロム・キングはやっぱりジョーなんじゃない?>
<ジェットというのが信じられん。落ちたな、月見里学院の質が>


ビュッフェ形式のために、各自好きに食べたいものを取りに行き交い、会話はやはりオークションの内容が中心となり、ジョーは早々に黙り込み、耳と口を閉じてしまった。

合流した弟の友人の中に”ナンバー9”の学院生がいたことに、大興奮の林はちゃっかりジョーの隣に座り、それを目にした00メンバーは”またか”と、溜め息をつく。
そして、ちらちらと003の様子をうかがうが、彼女は何事もないように、いつもの彼女である。



<嫉妬とかねえのかよ?!>
<慣れているからだろう>
<今さらアルヨ・・・今更ネ・・>
<だよね・・・。悲しいけどさ、さくらのこともあるし>
<だああああああっっ!>
<どっちも似た者同士だな>
<っつうかよっセンパイっ!なんでいっつもフランソワーズの隣に座ってんだ?!>
<ジョーは人数が増えると、フランソワーズから距離を取るからな、恥ずかしいのかなんなのかわからんが・・・ドルフィンの作戦中くらいじゃないか?…隣に座るのは>
<あとは、イワン関連の時アルね>
<そう?・・・お茶の時間はだいたい一緒いるような・・・・・>
<オレたちの前では、少しはましになったわけだな?>
<”初デート”以来、お茶の時間は・・・・一緒にいること多い気がするネ>
<んな昔までさかのぼんのよか?!>
<あれでも、ちょっとは距離が縮まってるのかな???>
<・・今のこの状況見て、そう見えるアルか?ピュンマ>
<見えんな>
<みえるかっつうの!>
<何か動くかなあ、ジョー・・・>


回線チャンネルを、なぜか002個人に合わせ、それを介して004,006,008、の裏チャット話しが進む中、林は興味深くジョーに話しかける。


「プロを目指してるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ」
「ええ?目指したいいのにっもったいないわよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうでもいいです」


なんとか(ぎりぎり)失礼がない程度の対応で林には答えるが、機嫌が悪い事は明らかだが、助け舟を出すどころか、それに便乗する00メンバーたち。


「ワタシもびっくりアル、上手いとはフランソワーズが言っていたアル、けど、半信半疑だったアルからね」
「鼻歌程度はきいたが、あそこまで本番で歌える度胸がジョーにあったとはな」
「大変だねえ、ジョー・・・」
「・・・・ピュンマ?」
「今グランドに出たら、追っかけにもみくちゃにされちゃうよ!すごいんだよっ日本の女の子の情熱は!」
「・・・・・・・・・・もう、いいから」
「よ!せっかくみんな集まってんだからよっ、なんか歌えやっ」
「・・・・・」


ジェットの一言に、さらに機嫌が地を這り、うんとも、すんとも答えなくなったジョーは、席から立ち上がると、トレーを手に席を離れて皿を片付け、食後の珈琲をのせて戻ってきた。

手に持っていた珈琲をテーブルに置いただけで、席には着かず、ジョーはフランソワーズの元へ。

テーブルを囲っていた10人が興味深く彼の行動を見守った。
すると、彼が自分のそばにくることを知っていたかのように、フランソワーズはごく自然にイスをひいてジョーと向き合うように躯の向きをかえた。

その腕には、イワンが抱かれている。
フランソワーズの隣に座っている当麻は、2人に対峙するように視線をむけた。


00メンバーたちの裏チャットが再会される。


「・・・交代」


<偉いアル・・・ジョー、ちゃんと見ているアルねえ・・・>


フランソワーズのテーブルの上にある昼食が、ほとんど手が着けられていない事に気がついた。それは、当麻だけではない。



「でも・・・」
「・・・食べにくいだろ?」


<言い方を勉強しないとな>


「ジョーは・・・」
「もう、いい。・・・・イワンのミルクは?」


<っでもよ、やっぱイワンネタじゃんかよっ>



「オークションが終わってすぐに飲んだから、大丈夫よ」
<タップリトネ・・・今ハお腹一杯>
「そう、・・・ほら、俺が抱いてるから、ちゃんと食べなよ」
「私は大丈夫よ・・・」
「・・・前からだけど、キミの大丈夫はあまり信用できない・・・いいから、こっちに・・・」


<イワンネタでもっ!十分だよっ、ジョーが人前でっ注目を誘うようなことをするなんて!!小さいことだけど、ジョーにしては大きな進歩だよおおっ!!>
<ピュンマ、興奮するな・・・>



「・・・・ありがとう」


腰を折り、ジョーはフランソワーズの腕からイワンを抱き受ける。
フランソワーズは素直に、ジョーの好意を受け入れた。

当麻の目の前で、交差される腕。
当たり前のように、慣れたようにイワンを渡し、受け取る2人。


「ベビーカーとか考えないとね・・・外へ出る時、キミの負担が減るだろ?」
「抱いているのは、苦じゃないわ」


ジョーの腕の中で、イワンは心地よいポジションを探すように躯を揺する。


「こういう時、不便だよ・・・」
「滅多にないわ」
「今後はわからない、よ」


2人の会話を耳にしながら、夢がにっこりと、話しをテーブル上に引っ張った。


「ベビー用品で何か質問があるなら、なんでも聞いてください。6人目の妹に甥に、そういうのはプロですから!」
「お嫁にいってもいないのにねえ・・・」


林が、左隣の姉に突っ込みを入れる。と、テーブルの下で軽く蹴られた。


「・・・・妹?って、夢、林ねえっっ妹!?」
「「あ・・・」」


隣に並んで座る姉たちが、視線を合わせる。
海にはまだ7人目の性別を教えていなかったのである。話題は自然と津田家の7人目のベビーへ、そして最近の日本のベビー用品事情へと移る。

イワンを腕に席に戻ると、ジョーの右隣に座っていたギルモアが満足そうに頷いた。


「・・・博士?」
「よく見ておるのお・・・」
「・・・・・一応」


リーダーですから、の言葉は音にならずに消える。が、ギルモアはそれを否定し、声のボリュームを落として囁くように話しかける。


「関係ないじゃろ?・・・ジョー」
「?」
「・・・・・・そのままでいなさい。無理することもなければ焦らんでいい」
「・・・?」
「じゃが、極めどころを読み間違ってはいかんぞ?何事もタイミングじゃ」
「・・・・・いったい何の話しですか?」


ギルモアの視線がちらり。と、張大人をはさんだ向こう側にいる、フランソワーズへと向かう。
その様子にジョーは絶句し、さあっと背筋が寒くなる。

イワンはジョーの膝の上に座り楽しげに、愛らしい笑顔を林に振りまいていた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はか、せ?・・」
「儂がそれくらいの情報を見逃すわけなかろうて!」



ギルモアはウィンクをひとつ、パチン。と愛する息子へと飛ばす。
脳波通信で、ジョーはアルベルトに強烈な殺気を込めた言葉を送ったが、1言で片付けられる。


<報告義務があるからな>














####


約1名を除いて、楽しい昼食は終わりを告げ、脳波通信に疲れきった009の指示が入る。


<005,007は引き続き任務を続行、・・・007からの連絡ですでにセキュリティの映像とリストは準備できているらしい。それらの受け取りを004、頼む。ブラックマーケットの方を006。ホテルへ博士と001と一緒に戻ってくれ、005との連絡もそっちで。・・・あとは、津田海、篠原当麻から離れるな、以上」


<気づいているか?009>
<・・・気づかない方が変だろ?>
<009、彼らは・・・海さんが舞台に立った時にはみかけなかったわ>
<どっち狙いアルか?>
<・・・海だよね>
<はっきりさせようぜ!>
<でも・・・>

カフェテリアを出て、津田夢、林に挨拶を済ませる、ギルモア。
普段引きこもって研究ばかりしているために、人ごみに酔ったと言い、体力のない赤ん坊に夏の長時間の外出はあまりよくないと、張大人が腕に抱いて、ギルモアとともに帰路につく。


<・・・・003?>
<変な言い方だけど、素人・・・にしか>


量販店使用の、スーツに身を包んだ男が2人。
カフェテリアに入ってくるなり、食事らしい食事も取らず、飲み物さえも手にせず席についた。

彼らはちらちらと、あからさまに彼らへと視線をむけてくる。



<へったくそな尾行だかんな!>


紫微垣から学院本館前で、食後の散歩のようにのんびりと移動し、ホテルへと戻るギルモア、張大人、イワンを見送った。
その間、2人の男は彼らの後を追ってくる。

彼ら2人が会話することがあれば003の能力により、事前に彼らが何者であるかの予測がつくが、会話はかわされる様子もなく、おってくる。

身を隠す訳でもなく、ただ、距離をあけて、さも”偶然”同じ方角に、と言う感じを装っている。が、明らかに”目的意識”を持って、ついてきていることがわかった。


<二手に分かれる、津田と、篠原に分かれる、よ・・・>

<<<<了解>>>>







「これからどうすんだよ?」


ジェットが話しを切り出した。


「篠原が”理事長に会う予定”があるらしい、俺もお礼をいいに、ついて行く」


当麻が、ジョーを見る。
彼は微笑んでいるが、瞳は・・・違う。


こくん、と、頷いた、当麻。


「フランソワーズとオレは、展示会の方へまわる・・・途中まで一緒だな、ジョーたちと」


アルベルトとフランソワーズが微笑み合い、ジョーたちと頷き合った。


「僕たちは、第一グラウンドのテナントブースの方に行くから!どこかでまた会えるかな?」
「よお、オレもそっち参加していいか?」
「もしもお姉さんたちがよければね!」


ピュンマは夢と林にむかって笑顔をむけると、彼の白い歯がきらん、と輝く。その爽やかさに夢は日頃の仕事疲れを癒されつつ、ジェットにむかってにっこりと笑った。


「私たちの方が一緒してくださいって、お願いないといけないくらいですよ」


和やかな会話の中で海が緊張に視線を泳がせた。
ピュンマが海を安心させるように肩に手を置いて声をかける。


「どこからまわろうか!大丈夫だよ、・・・・このあやめ祭が楽しみで、マップがなくてもどこに何があるか全部わかってるから!まかせてっ」





”理事長に会う”と口にした009。
それが、自分たちの指示に従って欲しい。と、言うあらかじめ伝えられていた合図だった。









<こっち・・・か・・・・・>
<007、そっちはどう?>


ギルモアたちと分かれて5分後、学院本館前で002,008、津田海、夢、林と分かれた。
2人の男は、第一グラウンドへ移動する彼らを追っていかない。

その様子から、”津田海”が目的ではないことがわかった。が、注意を怠るようなことはない。


<・・・いや、こっちは何も無いスムーズに予定通りのスケジュールをこなしている、さえこ殿の周りも怪しいヤツは見当たらんぞ>


目的が津田海ではないならば、篠原グループのトップとなった篠原さえこ関連。
さえこの方への動きがみられないとなれば、彼らの目的は”篠原当麻”を使って何かをしようとしていることとなる。

彼を人質に、さえこを脅して”公開されなかった、サイボーグ技術を手にいれる。
サイボーグ技術を使った”義足”をもっていない津田海はお役御免と言うところだろう。

津田海よりも篠原さえこの一人息子、当麻に、価値が出てしまったようだった。



「・・・当麻さん」


当麻と003が並び、その後ろに004と009が並んで歩く。


「なにかな?」
「とても素敵な絵を描かれるのね・・・、ずっと油絵を?」
「油を触り始めたのは、高校に入ってからなんだ・・」


<・・・009、距離が>
<わかっている。・・・・003、俺と動く、よ。004、篠原を>
<<了解>>


2人の男たちが4人にとの距離を縮め始めた。
先頭を歩いている003は009の指示で人気のない場所へ、月見里学院内の西側へと誘導する。
植物学を選択する生徒のために用意されている施設と温室や植物庭園があるそこは、関係者でないかぎり、滅多に足を踏み入れない場所。


003は009の合図に、後方にいた009へと振り返る。
当麻も彼女の動きにつられて、振り向く。と、004に腕を取られた瞬間に視界が変わった。


「!」










フェスティバル独特な賑わいの雑音が遠くに聞こえる。
2人の男たちは、慌てて消えた4人がいた場所へと駆け寄った。


「え?!」
「あれ・・・え、今までここにっ」
「竹本さんっ消え・・・た?」
「ま、まさか!!」


あたりを見回すが、森のように木々に囲まれた小径。が、温室へとのびているだけ。


「用件は?」


びくんっ!っと体を跳ねさせた、2人。
誰もいなかったはずの背後から、声。



「あ・・・・・・」
「た、たけも、竹本さん、彼ですっ!!」
「・・・・・、用件は?なぜおってくる?」


彼らの前に、立つ、009。
近くに身を潜めて”眼”を使い、サポートするのは003。


<009・・・・、どうみても・・怪しいようなところは・・・・>


「よかった!ああ、は、はじめまして、いやあ、声をかけようにも・・・気後れしてしまいまして」


竹本と呼ばれた、紺地にブランドのロゴが派手にプリントされたネクタイを締めた男がスーツの内ポケットに手を入れる。と、009は警戒し殺気立つ。が、すぐに003が止めた。


<違うわっジョー・・・・彼らはっ>


「私、ジョニーズ・事務所の者です」
「・・・・・・は?」


目の前に出された名刺に、ジョーは目眩を覚えた。












####


学院温室前に続く小径のわきに置かれたベンチに、お腹を押さえて止まらない笑いを必死でこらえようとするが、どうにも止まらず、そのこぼれ落ちそうに大きな宝石からは、涙さえも滲ませている、フランソワーズがいた。


「笑い過ぎ・・・・・」


その彼女の隣に力なく足り込むように座っている彼は、ベンチの固い背に全身を預けるようにして天を仰ぐ。


「・・・ご、ごめ、ごめんなさ、いっ・・だ、だって、ふふ。ふふふfっ・・・ジョーっ・・ふふっ」



あやめ祭に、まさか芸能プロダクションの人間まできていたとは夢にも思わず、そしてその白羽の矢が自分に当るなど、さすがの009も、である。

001の<心配スルナラ、自分ノ事ヲ心配シタライイヨ>の言葉が、よみがえる。








スカウトマンの2人はしつこかった。

話しだけでも、事務所へ一度来て写真を撮らせて欲しい、モデルの経験は?歌手デビューの夢をもったことは?バンドとかしているか?など、質問に質問を重ねて食い下がった。
ジョーに邪見にされても、睨まれてもひくことをしない彼らにたいして、フランソワーズからの助け舟が出るまでの間、彼は怒るよりも何よりも、泣き出したい気持ちになったのが本音である。

フランソワーズが”フランス語”でジョーに話しかけ、彼らにもフランス語で対応したので、スカウトマンたちの勢いがそがれたのだ。
その上、ジョーもフランソワーズに便乗して”フランス語”で話し、途中から英語も交えて、彼らに取り合わなかった。が、なんとかスカウトマンの2人は、ジョーに自分たちの名刺を握らせることだけ成功させると、何度も、「call us!」と訴え、その場に彼らを残してジョーはフランソワーズを連れて早足にその場を離れた。

学院本館とは逆方向の道に進み、みつけたベンチにジョーが座り込んだのを見て、フランソワーズは笑いだした。




「j、ジョーは年を、取らない、ものね・・・ふふ、永遠の、アイドルっね?・・・ふふふっ・・f・・、ジョーがデビューしたら、ふふふf、ふふ、ちゃんとコンサートを観に行くわね?」
「・・・・フランソワーズ、・・・・・・頼むから、もう・・」


情けなく、眉根を下げて懇願するような視線をむけたジョーの表情に、フランソワーズの笑いは止まらない。
彼女は笑い上戸だったのか?と、疲れきった胸で呟いた。



夏の晴れきった青を見上げながら、ジョーは視界の端でフランソワーズをみる。

肩を揺らし、少し前屈み気味に笑わないように懸命に我慢するけれども、それがよけいに笑いを誘い、晴れた空に吸い込まれていく、耳心地よい鈴を転がすように愛らしい笑い声。


満面の笑みに、ジョーもつられて口元をほころばす。






「みんなに、報告は?・・・009」


ひとしきり笑って、呼吸を整え、涙がたまった瞳をこすり、はああ。と、深呼吸をしたフランソワーズは、ジョーに意地悪く訊ねた。


「・・・しない、よ」
「でも、・・・心配するわ」


首を傾けて、ジョーを見つめる。


「すでに、今回の件とは”全く”関係ない人物だったと報告を済ませた」
「え?」


長い前髪に隠れてしまって、ジョー表情をフランソワーズは読み取れない。


「・・・・・・キミが笑ってる間に」
「それだけで、みんなが納得できたの?」
「…・・知らない」


ジョーは短く答えただけで、立ち上がるとフランソワーズへと手を差し出す。


「出来てないんじゃなくて?」


その手に視線を移して、フランソワーズは手を伸ばそうと、腕を持ち上げる。と、ジョーの方からフランソワーズの手へと腕を伸ばして彼女の手を取り、フランソワーズを立たせた。

フランソワーズは先ほどまで自分たちがいた場所に向かって”眼”を使う。
さすがに、もうスカウトマンたちの姿はないだろう。と、思えたが、一応の確認を取る。


「大丈夫、彼らはもういないわ、ジョー」


くすくすっと、笑い、フランソワーズはジョーを見た。
彼はわざとらしく、ため息をついて長い前髪を吹き上げる。



「・・・・・口止め料」
「?」
「キミに、口止めする何かをしないと、ね」
「言わないは、大丈夫よ」
「・・・・・信用できない。前回のこともあるし・・ね。そうだ、イワンにも、だね」


その手を、離さない。


「・・・ひどいわ」
「ひどいのは、キミ。・・・001の言う通り、・・・・・・・ミッション終了だ」
「001が言ったの?・・009、でも・・・」
「・・・イギリスの交流会と、ブラック・マーケットのこともあるけど。それはまた別件で考えている」
「海さんの・・」
「ああ、彼に”それ”がないことを証明できたし。それに、・・・篠原さえこの方に動きがないのが何よりもの証拠だ。002、008からも何も報告もない」
「油断してはいけないわ」
「わかっている・・・。120%、危険がないことを確認できるまでは目を離すつもりはない、けれど、ミッションではないよ」
「・・・・」


日本独特の湿気を吹き飛ばすさわやかな風が2人の間に通り抜ける。

かすかに、蝉の鳴き声が聞こえた。
遠くでにぎやかな雑踏が聞こえた。

木々が彩る緑の香りが2人を包む。




---あなたのそばに、いられるだけでいい。・・・それだけでいい。


あなたが誰を想っても。
あなたが誰を愛しても。


・・・・私はただ、あなたのそばにいることができればいい。
愛してる・・、あなたを・・・・。





じんじんと痺れる緊張で、自分を見失うことも、胸を切なく締め付ける痛みもなく、壊れそうなほどに脈打つ心臓の動きもみられない。
ただ穏やかに、ジョーをその瞳に写し、彼の声を耳で拾うたびに、フランソワーズのこころに響く音。


眠る前に捧げる祈りに、明日を迎える喜びが芽生えるように。
繰り返す言葉は、フランソワーズを何事も受けいれられる勇気をくれる。




ジョー、あなたがこの世界にいるかぎり・・・・。
もう、何も怖くない。


愛している人がいる、生きている、だけで、いい。



瞼に、一瞬過る写真。


---兄さん・・・。

こころが震えるが、それに気づかないふりをする。














「ジョー、行きましょう・・・」


光りを弾く亜麻色の髪を肩先で揺らして、彼を促した。








---キミに、伝えたい言葉ある。


キミが誰を思っていようと、愛していようと、・・・関係ないと思っていた。
キミが誰のものになっても、サイボーグである限り、キミと俺との繋がりは消えないから。





・・・・けれど、もうそれだけじゃ駄目なんだ。
平気な顔でなんていられない。


キミへの想いが、なんであるかわからなかったこの気持ちの名前を知ってしまったときから。


自分がどれほど、キミに相応しくない男が知っている。
自分がどれほど、キミを苦しめることしかできな男かわかっている。



それでも・・・。
受け止めてくれなくてもいい、ただ・・・知ってほしいだけ、だから。

同じサイボーグと言う・・・キミとって不幸の始まりを喜びに変えてしまう、最低な男だけれど。






俺はキミが好きなんだ、よ・・。
初めて、好きになった人はキミだから。









この恋が実ることなんか願っては・・・いない。
何度も奇跡を起こせるほど、・・・・・009は、完璧じゃないから。




「・・・ジョー?」


もと来た道を引き返そうとしたフランソワーズを、つないだ手で引き止めた、ジョー。
歩き出そうとしていたフランソワーズの躯が、再びジョーと向かい合う。


「フランソワーズ」
「・・・?」
「キミに、・・・・・言っておきたいことがある」
「?」
「・・・前にも言ったけど、俺は・・・さくらにたいして、”友達”以上の、気持ちはない」
「・・・・それは・・・・でも」
「キミに、知っていて、覚えておいて欲しい、と、お願いしたよね?・・・変わらないから、それは。変わっていない」(day~28)


繋がれていた手が強く握られる。


「Francoise」


ジョーの声が、いつもと違うサウンドで彼女の名前を呼んだ。


とくん。と、胸が啼く。
見上げた彼の瞳の色が、初めて見る、その表情が、フランソワーズの空に浮かぶ。




見つめ合う、視線。



「・・・・・・・行こう、か」
「え・・・、ジョー?」


想いを舌にのせる緊張に身を委ねる前、ジョーの視線が、フランソワーズから離れた。
何かを、ジョーはフランソワーズに言おうとした、が、それを途中で彼は飲み込んでしまったように見えた。


フランソワーズは自分の頭上を通りすぎた先をみる、ジョーの視線を追うようにして、振り返る。



















====へと続く



・ちょっと呟く・

ストーリー展開、スピードアップ・・・内容詰め込みすぎなのはわかてます(涙)
でも、今までのペースだと・・・ここまでくるのに・・(汗)

詰め込み系でごめんなさい・・・。
このまま詰め込みでいくと、次でさっくらちゃん、きます!
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Chocolate Sundae
家族(仲間)は心配してくれる。

連絡を取っているのか?と・・・。
ちゃんと会っているのか?と・・・。



週に1度、かな?と、曖昧に答える。
そんなところだけ、よく似てきてどうする?と、なじられた。


似ているならと、曖昧に笑いながら話題を変える。





心配してくれる家族が去年のクリスマスにプレゼントしてくれた、カメラ付きのパソコンだけれど。
これで気軽に顔を見て話せるだろう。と、プレゼントしてくれた、それだけれど。

インカムなんかも、一緒にプレゼントしてくれた、それだけれど。
メールチェックするたびに、それを今日も使わなかったの、ごめんなさい。と、謝る。


淋しくないなんて、嘘はいわない。
けれど淋しいとは、彼には言わない。



言わない、言えない、言いたくない。
言いたくない、言えない、言わない、言うのがコワイ。



もしも言ったら、何かが変わるのだろうか?

もっと彼の傍にいられるの?
もっと一緒の時間を過ごせるの?


ううん、変わらない。




だから、コワイ。











言わない方がいい。
変わらなかったときがコワイから。


秋の夜空はしん、と冷えて、空気が澄み、群青色の空に星はなく、くっきりとした月光が部屋の窓から差し込んでくるけれど、部屋の奥のベッドの中で、毛布に、布団に頭からかぶってしまっている私には届かない。






今朝、リビングルームの電話が鳴った。


「帰れない。」

聞こえた。



電話に出たわけではないのに、聞こえた。
彼の”帰れない”の声。


すぐに、電話に出た家族が私へと振り返って、取り次いでくれようとしたけれど、彼は”急ぐから”と、言ってあっけなく電話を切った。

心配そうに見つめてくる、コードレスを持った家族の1人が言った。


「こんな薄情なやつ・・・・で、お前、いいのかよ?」






曖昧に笑う。
曖昧に答える。
曖昧に暮らす。



曖昧に・・・・ごまかす。



気づかないふり。






もう、わからないの。

液晶画面に映し出される、彼。
週刊誌や、ポスターや、ウェブページの、彼。


何かを通して知る彼。
私と彼のファンと何が違うの?







ある日、インタビューを受けていた。


『いよいよ母国GPですね!』
『はい』
『調子はどうですか?』
『今のままでいけば、・・・クルーを信じてますから、あとは自分のコンディション次第です』
『母国ですからね、日本には応援してくれる特別な人がいるんでしょうね?』
『・・・・大切な、家族が、そしてファンのみなさんがいますから、全力を尽くします』
『F1ファン以外の女性ファン層も広く、気になるところですけれど・・・?』
『今は、走る事が一番ですし、それ以上も以下もないです』
『レースが恋人ですか?』
『・・・走っている間はそうですね』



曖昧に微笑んで、曖昧に涙が浮かんで、曖昧にこぼれた。

それでも彼をおいかける。
一粒の砂ほどになった彼の存在でも、私のこころはその一粒を必死で抱き続ける。








***


吐き出す二酸化炭素でいっぱいになった布団の中は、少し息苦しくて、少し熱い。
顔にかかる湯気のような熱が重い。



甘えたら、何かがかわる?
言ったら、何かがかわる?

もしも変わらなかったら?
もしも今のままだったら?



後悔する。




淋しい夜も。
息苦しい布団の中も。
熱いくらいの湿気も。

曖昧に慣れた。





流す涙にも慣れた。
彼の居ない日々にも慣れた。




他に何に慣れるの?
他に何かあって?


瞼をぎゅうっと閉じて、明日の予定を曖昧に立てる。
毎日を同じように繰り返すから、少しだけ曖昧に変化をつける。



朝起きて、いつものカフェオレ。
朝食はトーストでなく、フレンチトーストにしよう。
メープルシロップじゃなく、はちみつをつかってみよう。
ウィップクリームにバナナとチョコレートソースをかけて、バニラアイスを添える。
それはおやつにしよう。

温かいお部屋で食べるアイスクリームは美味しい。



そう、明日は小さなチョコレートサンデーを作ってみよう。
のこりのカステラを細かく切って、背の高いグラスのコップの底につめるの。
コーンフレークも重ねようかな?・・・そうしよう。


明日はチョコレートサンデーの日にするわ。



甘くて、冷たくて、美味しい日。
甘くて、冷たくて、美味しい気持ち。





ジョーを想う気持ちに似ているわ。
そして、冷えきったあなたがベッドに潜り込んできたときの、感触にも・・・。



「ただいま・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・帰れない。って言ったわ」
「・・・・日本に居るのにさ、それって淋しいよ」
「・・・・・・・」
「こういうとき便利だなあ、って。009で良かったって思う」


冷たい躯を押し付けられて。
冷えきった空気が温めた空気を追い出していく。


「思ったより、冷えるね」
「・・防護服を着ればいいのに」
「どうせさ、・・・それに面倒だし」
「・・・・・・」
「ただいま。・・・もう寝るの?」
「寝ていたの」
「ふうん・・」


背中から抱きしめられて。
ウェストにまわされた手を直接肌で感じる。
膝を曲げた、彼のそこに座るような形で重なり合って。

耳元に触れるくすぐったい感触に、私は振り返る。


「おやすみなさい・・」
「・・・・・・・・駄目だよ」


背中から抱きしめられていたけれど、私の顔を覗き込むようにして躯を移動させる。
彼の手が、腕が、慣れたように触れて、なぞって、すべり、私をシーツから抜き出していく。

布団から、冷えた空気に白い煙が微かに散る。


「・・・いや」
「・・・・・・どうして?」


はっきりとは拒めないから、曖昧に拒む。


「フランソワーズ?」


いつもは、・・・・・・何も言わずに押し切るくせに。
今日に限って、耳を傾ける彼が憎い。


「いや・・・・」
「・・・・僕のこと、もう、・・・嫌?」
「す、き・・・・よ。、でも・・・・・・いや・・」


彼の手が、再び動き出して、私を形作る。


「いや・・・・・いや、いや。いや・・・・」
「・・・・・・・・何が?」
「いや・・・・いや・・・」
「・・・・・いや、だけじゃ、わからない・・・・」


否定を作り出す、喉を何度も彼のくちびるが往復する。
すがるように、あまえるように、ねだるように、泣きつくように。




「本当に僕がいや、なら・・・・・・・・本気で拒めよ」









言えばいい。
寂しい。って、傍にいてくれないのが辛いって。

ろくに連絡もくれなくて、長い間放っておいて、突然風のように現れて、私を抱くくせに。
何も言ってくれない。


レースが、恋人なんでしょう?
私なんか、・・・・思い出したときに、でしょう?







私は、あなたの、なに?




「いっ・・・・・・・・・・や・・・・っぁ」
「・・・・嘘つき・・・・・・・」





言わない、言えない、言いたくない。
言いたくない、言えない、言わない、言うのがコワイ。




知るのがコワイ。



言わない、私が悪いんじゃない。
何も言わない、彼が悪い。




「ちゃんと・h・・僕をっ」





絡み付いた、チョコレートソースはベタベタして気持ち悪い。
ぺろり。と、舐めると気持ち悪いはずのベタベタしたそれは、甘くて美味しい。

甘くて、美味しい彼への、ベタベタした気持ちを隠して。












「っ・・・h・・・・み、・て!・・fr・・・んっ」
「・・・・i・・yあっっ」



甘く、冷たく、溶けていく。


溶かされていく。
甘く、冷たく、溶けあっていく。



「Fr・・・・nっ」
「・・・・・い・・・!」










結局、私が弱いから・・・・・・、いや。
曖昧に、私は自分から目をそらす。
あなたに依存して、生きている私から目をそらす。



あなたがそばにいない、私は曖昧にしか存在しない。




「Francoise・・      」


落ちた私を抱きしめた彼の、最後の言葉がなんだったのか曖昧にしか聞き取れなかった。













***



甘いものを食べきった後、妙に喉が渇く。
からからに渇いた感覚とは違うけれど、同じように水をもとめる。


私だけになった部屋の中で、彼の匂いが染み付いた躯が、憎くて愛おしかった。
けだるい躯を動かすだけの気力が、どこに残っていたのか。


バスルームに入って熱いシャワーを用意する。
洗面台に取り付けられている鏡に映った自分をちらり。と、見る。







”I'm with you, here. "


朱の痣が舞う左の胸上に、油性ペンで書かれたいびつなハートの中に走り書きされた、ことば。










「・・・・・・ジョー」


















***


「で、ヤツは邸にもよらずに次のレースか?」


家族の1人が、呆れたように、私を慰めるような優しい視線で話しかけて来た。


「日本にいて、会えなかったとは、な・・・」


私は、曖昧に笑う。
チョコレート・サンデーを食べた日からまた、同じ日々が始まる。



「いいの、彼の気持ちはここに、だもの」
「それは、それは・・・ごちそうさま」


家族の誰もが、フランソワーズの曖昧ではない笑顔に気づいた。


「Chocolate Sundaeを食べられるのは、次はいつかしら・・・」
「なんだ?・・寒くなっていくんだぞ?」
「ふふ・・・寒いから、食べたくなるのよ」











end.





*せっつね~!!ってのが書きたかったのですが・・・・?
 私には無理?
 ここの9は何もかも解っている大人9であってほしかったんですけどね。
 サンデーに連載していたので、サンデーとか考えないでくださいね。
 え?だれも考えない!?
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こうすればあったかい/京都・嵐山2泊3日の旅・1
”オオガミ”と書かれたプレートが張られたドアの向こう側から、2人の女性の声が聞こえる。


「今回の慰安旅行に、一般の参加者は・・・ご家族のある方も遠慮していただいているはずですけれど・・・」


人類学デパートメントの秘書、水沢美奈子が旅行のスケジュールと、その参加者の確認のために、オオガミ教授の部屋を訪れていた。


「ああ、アルヌールさんでしょう?彼女は特別よ。私がお誘いしたから。彼女にはあの後もメールで何度も助けてもらったの、ずっとお礼ができてなかったし、島村くんも参加するならっていうことで、彼女の養父(保護者)のギルモアさんからも許可をもらったから、何も心配いらないわ」
「・・・島村くんが参加するから?」
「あら、知らないの?水沢さん、あなた島村くんと仲がいいのに・・・アルヌールさんと島村くんは一緒に住んでいらして、同じ方のお世話になっているのよ」
「え・・・・」
「コズミ博士のご友人らしくてね、ここに島村くんが来たのも、そのご縁からよ。そうそうコズミ博士が言うには、2人は・・・って、あれ?水沢さん?ちょっと??どこ行ったの?!」







***

ギルモア邸はフランソワーズの”旅行”にてんやわんや。


「も!大げさよっ、ドルフィンで世界中を駆け回っているのよ!!私だって!たかが京都じゃない!関西じゃない!八つ橋だし、きんつばに、抹茶ソフトクリーム、みたらし団子とたこ焼きよ!」
「・・・よく勉強してるね、でもたこ焼きは違うと思うよ」
「子どもじゃないわ!」
「・・・・じゃあ、そのわけのわからない・・・・・マスコットたちは置いていったらどうかな?」
「ええっ・・・駄目?」
「・・・・・何しにいくの?」
「えっと・・・」


ギルモア邸のリビングルームに広げられた、ジョーとフランソワーズの旅行支度のために用意された品々。

いくらジョーが同行しているといえど、彼女の知らない人間にまじっての旅行に、フランソワーズに今回の旅行を強引にすすめたギルモア自身が、今更になって誰よりも不安になっていたりする。
少しでもフランソワーズが旅行で困らないように、邸を離れた彼女が寂しがらないようにと、手放しにフランソワーズが旅行することを喜ぶグレートとともに買いそろえた物たちは、何に使うのかわからないものが多く混じっている。



それらを目の前にして、ジョーは深いため息をついた。
その中に、上手くフランソワーズは以前から欲しがっていたものをちゃっかり買ってもらっていたりするから、要領がいい。



「たった、2泊3日なのに・・・」
「そうよねえ・・・ちょっと多いわよね?」
「ちょっと?・・これだとさ、ジェットとジェロニモを訪ねて、アルベルトに会って、帰りに・・・・フランスで、3、4泊して帰ってこられるよ?」
「素敵ね!いいわね、それ!・・・でも、フランスは別にいいの、行かないでいいわ!」
「フラン・・・あのs」
「ねえ!!いつなら行けるかしら?」
「・・・・・・旅行?・・・行くなら春先かな?」
「大学は大丈夫?」
「・・・新学期が始まる前までなら」
「素敵だわ!ピュンマのところへ一度みんなで集まって、そこからみんなの国をまわるのはどうかしら?」
「ドルフィン出した方が良さそうだね」
「駄目よ!それじゃいつもと変わらないわ、ジョー、ちゃんと旅行がいいのっ」
「そうなると、博士に色々と負担が・・・さ」
「ん~・・・難しいわね」
「ボクはしがないアルバイトですから」
「あら、私なんて”家事手伝い”らしいわ」
「・・・あんさんら、・・・・二泊三日の旅の準備はどうしたアルか?」
「「あ・・・」」



彼らは昼食後に準備をし始め、今、夕食が出来たと、呼びに来た張大人は、会話を聞いて呆れてた顔で、リビングルームからダイニングルームへとつながるドア口に立っていた。


「な~んも変わってないアルよっ!いったい二泊三日の旅行の準備に、何時間かかってるアルか?!」









***

「例の子がくるんでしょ?」
「アルヌールさんのこと?」



O大学院、人類学部/文化人類学科研究室の2泊3日の慰安旅行兼、K大学で開かれるブラウンダイズ・ユニバーシティのDr.スティットの講演会の参加が、今回の目的である。


参加者は、人類学科のヘッド・プロフェッサー・オオガミを筆頭に、オオがミ研+サガミ研の学院生14名。セミナーから参加希望生徒5名+秘書(水沢)、研究室のアシスタント(島村)そしてオオガミのゲスト(アルヌール)の計26名


「彼女が来たとき、私いなかったから知らないんだけど・・・大丈夫?」
「なにが?」
「だって、すごく落ち込んでたでしょ?」
「気のせいよ。りか子ってば、そんなことばあっかり」
「島村くんのこと、好きなくせに」


リノベーションが済んだばかりの集合場所、東口エントランス/コインロッカー前で、集合時間よりも40分ほど早く来た、文化人類研究室の秘書、水沢美奈子と、同期であり、オオガミ研に属する稲葉りか子は、とても仲が良い。


「・・・別に、・・・アルヌールさん・・・・・彼女じゃないと思うし・・」
「でもすっごくからかわれてたじゃん!学校内で手を繋いで歩いてたの、坪井先輩が観たってすごく騒いでたし。あの後だって、どれほどそのアールヌーボーさんが可愛くて、綺麗だったか、研究室で持ち切りだったじゃない・・・、それに比例して美奈は元気なくなるしさあ・・・」
「もうっ、自分だって湯田先輩がアルヌールさんのことを根掘り葉掘り島村くんに聞いてるのとか、すごく気にしてたくせにっ。私のことより、自分のことを心配したら?」
「うるさいなあ!美奈の面食い」
「りか子の三枚目好き」
「元・ジョニーズのおっかけだっただけあるわよね」
「何よ、筋肉マニア」
「ボーイズラブ読者に言われたくない!・・・島村くん知ってるのかなあ・・・」
「りか子!」


きゃあ、きゃあと集合場所前で騒ぐ2人。
ぽつりぽつりと顔見知る人間が出てきて、2人の会話は別のトピックに代わったが、今回の参加者に女性がオオガミ教授を入れても8人。
集合時間10分前には、そこに女性だけのグループができていた。


「まだ来てないのは?」
「ええっと・・・」


オオガミ教授が携帯電話の時間をチェックして、美奈子に確認させた。


「・・・島村くんと、アルヌールさんだけです」
「あら。・・・こういうときだけはみんな遅刻しないのね?ま、島村くんが遅刻するわけないでしょうから、すぐ来るでしょう」


宝塚の男性役を彷彿とさせる振る舞いと、ルックスを持つオオガミ教授は、あたりを伺うように駅構内をぐるり。と、見渡した。


「あ・・・島村くん?」


りか子が声を出した方向へと視線が向かう、オオガミと美奈子。


ゆっくりとこちらへ向かってくる、栗色の髪の青年と、光を弾くように輝く亜麻色の髪の少女。

集まっていた学生がジョーの姿に気付き、その隣にいる異国の少女に視線を固定させると同時にみな一斉に話題のトピックを変えた。


「う・・・噂以上ね」


こそっと呟いた、りか子の声にオオガミは微笑む。


「そして噂以上に可愛くておもしろいわよ」
「おもしろい?」
「島村くん、おはよう」


自分の声が届く距離までに来たジョーに声をかけた。
その声に答えるように、微笑みながら片手をあげる。そして、ジョーの後ろに隠れるようにしてフランソワーズも、美奈子にむかって会釈した。


「おはようございます」


ジョーはオオガミの周りに集まっている全員にむかって挨拶すると、フランソワーズはジョーの後ろに立って、ぺこり。と、頭を下げた。


「おはよう、島村くん。ジャスト・タイムね・・・アルヌールさん、来てくれてうれしいわ」


オオガミに話しかけられたフランソワーズは、ジョーに背を押されて、挨拶するように促される。


「おはようございます。このたびはお誘いくださってありがとうございます・・。旅行中の間、どうぞよろしくお願いします」


恥ずかし気に少し頬を染めて、溢れそうな大きな瞳を瞬かせ、抜けるような青空色の瞳でジョーと同じだけの背丈があるオオガミにむかい、花が咲き揺れるように愛らしく挨拶をしたフランソワーズに、オオガミの頬は緩む。


「こちらこそ、たくさん楽しんでね」


オオガミの言葉に頷きながら、フランソワーズは自分の隣に立つジョーにむかって微笑む。と、”よくできました”と言わんばかりに、ジョーはフランソワーズの背をぽん。とたたいた。


初めてフランソワーズを目にしたりか子は、目を見開いて食い入るようにフランソワーズをじっと見つめ、周りにいた女の子たちも、フランソワーズに魅入る。その視線に、フランソワーズは少しばかり不安になるが、背に感じるジョーの手のひらに励まされて、にっこりと微笑みを絶やさない。



フランソワーズが遠出をするときは、”ドルフィン”を使う用事がほとんど。
個人的に外出すると言っても、商店街やスーパー、駅前。そして、電車に乗って彼女のいきつけのデパートぐらい。あとは、ジョーの運転する車で日帰りできるくらいの場所。

ギルモア邸とドルフィンでしか生活しないフランソワーズに対して、この機会に”女の子”の知り合いをつくり、外へ出るきっかけになればと、ギルモアは考えていた。

常に邸で赤ん坊と老人、酔っぱらいと口うるさい調理人の世話を焼き、肝心の青年はちっともそれらしい進展をさせないままで、彼女を外へと連れ出すのはもっぱら買い出しと、”ついでに”といいわけする、マンネリ化したデートコース。

いくらなんでも、年頃の女の子の生活にしては・・・と、トレンディ・ドラマをチェックしながらギルモアはフランソワーズを心配する。













***


「新幹線!」
「うん」
「これに乗るの?」
「そっちじゃなくて、こっちに来るよ。ほら・・・乗るのは東京 発 ~ 新大阪 行の、のぞみ、301号」
「でも、止まってるわよ?」
「でも、違うんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「どれくらいかかるのかしら?」
「約2時間20分」


見上げて、ホーム上に取り付けられている、電光掲示板を指差して説明する。


「・・・・あの、アルヌールさんは、もしかして・・・はじめて?」


2人のそばで会話を聞いていた美奈子が声をかけた。


「彼女は新幹線も、京都も初めてだよ・・・、普段は車ばかりだし」
「飛行機には乗るわ!」
「いったいいつの話し?」
「そうだけど・・」


む~ん、と、考え込むようにして、電光掲示板を見ていたと思うと、飛んで来た雀ががレールの上に止まったのを見て、ぱっとそちらに視線を移した、かと思えば、きょろきょろと興味深げに新幹線の到着を待つ人々に、ホームにある軽食店や、売店に次から次へと視線を移動させるフランソワーズの様子を見て、苦笑する。


「売店で何か買ってくる?」
「いいの?」
「何かお菓子でも買ってきたらいいよ・・・ついでに」
「わかってる!行ってくるわ」


ぴょん、っと、飛びはるようにして数メートル先の売店へ向かう、フランソワーズを見送った後、ジョーはあらたまって美奈子に声をかけた。


「・・・水沢さん」
「?」
「フランソワーズのことをよろしくお願いします」
「え、あ、もちろん。こちらこそ・・・」
「フランソワーズは旅館も初めてなんだ・・・、いつもどこかに泊まるときはホテルだからね。・・・何も知らないんだ、彼女。一応はそれなりに・・・まあ、ボクが知ってる程度のことを教えておいたけれど、それでも、色々とみんなに迷惑をかけることになると思うから・・・、でも、水沢さんと一緒だから、安心してる。・・・甘えてしまっていいかな?」


はにかむように微笑んだジョーに、美奈子の胸がどきん。と、跳ねる。
その音を聞いたりか子が会話に参加する。


「ねえ、島村くん。彼女どれくらい知らないの?」
「・・・畳の部屋に泊まるのも初めて、かな?布団の上げ下げもわからない・・・と思う。住んでいる邸が完全な西洋式で、土足OKで生活しているし、そういうことも含めて、・・・・温泉も初めてと言うか、パブリックバス自体が初めてで、ええっと・・さすがにその辺はお願いしたいんだけど?」


温泉。の、発言に照れてしまうジョーに、美奈子はくすくすと笑って、了解する。


「お箸の使い方は?」


冗談っぽく聞いてみる、りか子。


「あ、それは大丈夫。それだけはボクでも教えられたからね」
「本当に、”ちゃんと”教えられたのかしら?」
「ひどいな、水沢さん・・・、彼女の箸使いを見てから言ってくれる?」
「あんなに日本語が上手いのに、不思議だわ!」
「外出しない上に、あまり日本文化に接するような家でもないし」


”家”と言う言葉に、反応する美奈子。


「島村くん、オオガミ教授に聞いたのだけど・・・」












***


ジョーの”ついでに”である、ブラック缶コーヒー(無糖)と、自分用に紅茶(ホット)l。
ビッグアポロに、東京焼塩ポテトを2袋を購入し、それを両手に戻ろうとしたとき、視線の先に楽しげに会話する美奈子とジョー。そして、紹介されたばかりの稲葉りか子が、いた。


「・・・・」


先ほどよりもジョーと美奈子の距離が近い。
自分とジョーが一緒にいるときよりも、近いようにみえた。


彼女は今日もお洒落だった。

キャラメルカラーの厚手のトレンチコートの襟を立てて、腰のベルトだけを止めてウェストを絞り、膝丈のボックススカートは、雪のように白く、裾が2cmほどコートの裾から見える。コートよりも少し濃い色のブーツ。髪はゆるくアップ・ヘアでまとめて、わざとおろしている部分がくるくると巻かれている。



旅行鞄は、ヴィトンの柄にサクランボのイラストレーションがプリントされていた。
フランソワーズがちらりと見た彼女の爪は、小さく雪の結晶の絵が描かれていた。

今日の彼女の服装にとてもあっている。
くるりと巻いた髪が、ジョーと会話するたびに、やわらかく揺れる。
同じようにくるり。と、カールされた睫に、瞼はきらきらとしている。
くちびるがほんのりピンク色で艶があり、耳元に飾ったピアスがハートの形の小さな石で光っていた。



「どうかした?」
「!」
「あ、驚かしてごめんっ・・・アルヌール・・さんだよね?」


背後から声をかけられて、飛び上がらんばかりに驚いた。けれど、見た事のある顔に、落ち着きを取り戻す。


「前に一回会ってるんだけど?覚えてるかな?湯田みつる、オオガミ研です」
「はい・・・お久しぶりです」
「それで、どうかした?ぼーとしてたら、置いてけぼりくうよ?」
「い、いいえ、あ、す、スミマセン!」


湯田みつると名乗った青年は、ジョーよりも少し低いくらいの身長に、スポーツ刈りの、何か格闘技でもやっているのか、と思うくらいに、しっかりとした体格。
11月を迎えたばかりの季節だけれど、それにしては薄着で、フランソワーズは見ているだけでも寒く感じる。


「いや、謝らなくても・・・」


フランソワーズは、ぺこ。と、お辞儀をして、早足にその場から離れてジョーのいる所へと駆け出す。


「いや、そんな逃げなくても・・・」


苦笑して、走り去るフランソワーズを見つめた。











平日の木曜日。
普通車の指定席であったが、その車両はジョーたちの団体にほぼ占拠された。

ジョーとフランソワーズはごく当たり前に、2シート並んだ席に座る。
荷物棚に荷物をあげるとき、りか子は気づいた。


「・・・ねえ」
「なに、りか子?」
「・・・・・アルヌーボーさん」
「アルヌールさんよ!」
「荷物は?」
「え?」


彼らの斜め前の3シート並んだ席に座ったりか子と、美奈子、そして、サガミ研の原千里(はら ちさと)。
通路側に座っている千里はりか子の2年後輩にあたる。その彼女がそっと振り返って2人の様子を見た。


「それ、私も気になってたんですよ!島村くん、スポーツバッグ1つ肩にかけていて、一緒の彼女・・・ショルダーバッグだけでしたよ。森君や中岡さんも、言ってたし」


3人はさっとジョーとフランソワーズの座る席の荷物棚を確認する。


「・・・・1つですよね?」
「あれ持ってたの、島村くんよね?」
「・・・・・・さっき聞いたじゃない、りか子、・・・一緒の家に住んでいるって」
「ええ?!」


美奈子の言葉に、千里は大きなリアクションを見せて、りか子に口をぱっと塞がれた。
すると、声のボリュームを極端に落とし、ひそひそと話し始めた。


「一緒って・・・同棲?!」
「違うわよ!・・・・アルヌールさんと島村くんは、・・・お家が複雑らしくって養父になってくださってる方がアルヌールさんと同じ人なんですって、それでよ」
「じゃあ、兄妹なんですか?」
「さあ・・・、そうなのかしら?」
「ま、血は繋がってないから、そういうのは関係ないんじゃない?」
「でも、荷物が1つってどういうことですか?」
「泊まる宿も一緒だから、・・・それに帰る場所も・・・じゃないかしら?」
「でも、美奈子!それでも一緒の部屋に泊まるわけじゃないのよ?!」
「・・・え、ええ・・・・」
「なんだか、意味深・・・ですねえ・・・・。って言うか・・・・」


水沢美奈子がアシスタント(雑用バイト)の彼に片思いしていることは、文化人類学科の研究室にいる女性はほとんど知っている。美奈子に憧れる男子学生も多く、文化人類学科のアイドル的存在である彼女は、優しく面倒見良い性格に加えて、女性らしいファッションとスタイルに、男子学生同様に憧れる女学生も多く、彼女の恋を応援する女性も少なくない。が、ライバルも同じ。しかし、研究室に通う女学生たちのほとんどは、美奈子の恋を応援する傾向でいた。


「・・・強敵なライバルが出現ですよ・・・水沢さん」
「え、やだっ・・・もう、千里ちゃん!」
「この旅行でしっかり島村くんとの距離を縮めてください、アールヌーボーさんをできるだけ、私たちが島村くんから遠ざけますから、ね!りか子先輩」
「アルヌールさんよ!アルヌール、さん」
「うむ、ここは親友として、人肌脱がねば!」


小さく、りか子と千里は「えい、えい、おー!」と盛り上がった。




窓側の席に座らせたフランソワーズは始終ご機嫌で、初めての新幹線を満喫し、降り立った京都の、つん、と肌に凍みいる冷たさに驚いた。
ぶるっと、躯を震わせたフランソワーズに、ジョーは心配する。


「寒い?」
「大丈夫、新幹線の中が暖かかったから・・・」


見上げてくる、フランソワーズのちょっと興奮した様子に、ジョーは頬を弛ませる。


「知ってる?」
「なあに?」
「この京都駅のデザインはフランスの建築家らしいよ」


フランソワーズは”眼”も使い、くるり。と、その場で周り、後ろに倒れそうな勢いでを見上げた。


「・・・・・・日本にたいする愛情不足を感じるわ!」
「愛情って・・・厳しいなあ・・フラン」













***


K大学とは頻繁に交流があることから、参加者の半数以上が何度も京都へと足を運んでいることもあり、参加した学生のほとんどが東京とは違う交通機関の仕組みに慣れていた。そのため、移動も問題なく、京都駅から地下鉄で阪急線、烏丸駅で下車。烏丸駅から桂駅。そして、嵐山線へと乗り換えて、スムーズに予定時間よりも少し早めに終点の嵐山駅へと着いた。


気がつけば、ジョー、フランソワーズ、美奈子、りか子、そして千里、と、なぜか湯田みつるも加わって小さなグループが出来ていた。





阪急嵐山の駅に降りて、広がる道。
紅葉シーズンを少し過ぎた感じはするが、京都の雰囲気を味わうには十分に楽しめた。

徒歩で5分ほど歩くと、川の流れる音が聞こえ始め、中之島公演を抜けて、視界に桂川をとらえると、四方を山々に囲まれた風景が広がった。
全長250mの橋、渡月橋がかかる桂川。

団体は橋を渡る。





「同じ日本なのに、ぜんぜん違うわ・・・・・・」
「・・・日本らしい、って言うと変かな?」
「変じゃないわ!だって、ここ日本じゃない・・!ジョーが見せてくれた・・・、京都の写真の通りだわ・・・。綺麗」


うっとりと景観を楽しむフランソワーズに、ジョーの胸は弾む。


「・・・フラン、船に乗って旅館へいくんだよ、言ったかな?」
「え?船で?!」


先頭を歩いていたオオガミが、自分のすぐ後方にいたフランソワーズへと振り返る。


「アルヌールさん、この橋から南、の・・あの山だったかしら?標高375m・・・あたり?の、あれが”嵐山”よ・・・多分!」
「教授、多分って・・・どうなんですか、それ!」
「オオガミ教授の故郷なんですから、しっかりしてくださいっ!」
「地元だから知らないのよ、観光客の方がよく勉強してるわ・・・・宿へは別館前の船乗り場からいくの、姉が嫁いだ先が京都旅館で本当にラッキーよね!」


2隻の遊覧船に乗り込んで桂川上流、同じ川だけれど、途中で保津川と名前がかわり、その川をさかのぼって10分ほどで到着する。

オオガミ教授の身内、そしてシーズンオフということもあって多少の我が侭を融通してもらい、本館から2分ほどさらに上にあがった1棟を、文化人類学部だけで使う。


「オオガミ教授さまさま!」と、山奥の高台に立つ、風情豊かな純和風の建築に誰もが満足し、オオガミにむかって柏手を打って拝み、高笑いするオオガミは、姉(女将)を連れ立って、広い座席に集めらた学生たちに各自の部屋割りと大雑把にスケジュールを説明。


「ま、みんな知ってるだろうし、公演会は最終日の午前中だし、今日は1日温泉三昧か、この辺ウロウロしておきなさい。明日は観光組と勝手に彷徨い組、ショッピング組にだいたいわかれるでしょ?ああ、今夜は一応の宴会予定だから、外出組は午後の6時までにはここへ帰ってくること、遅刻者は、宴会参加資格無し!以上」


その大雑把な説明のあとに、細かく丁寧に秘書である美奈子が補足する。


割り当てられた棟は、6つの部屋と1つの座敷から成り立ており、2つを女性陣が、あとの4つを男性陣にあてがわれた。
フランソワーズはその場で、美奈子、りか子、千里の4人と相部屋が決まり、2部屋ずつオオガミ研とサガミ研に分かれた男性側で、ジョーは湯田、そして参加希望したセミナーの2名と相部屋となった。

オオガミ、サガミの両教授は本館に泊まる。



各自の部屋に移動するとき、ジョーはおもむろにスポーツバッグを開けて、中から雑誌が入る大きさのナイロン地で作られたピンクとグレーのトートバッグを取り出し、フランソワーズに渡した。


「これで全部?」
「ええ、・・・せっかくたくさん用意していただいたのに、申し訳ないわね・・・博士に」
「いや、これで正解だと思うよ・・・結局大人が全て詰めてくれて、楽だったし」
「でも、大人もイジワルよ・・・!」
「・・・・・なにに使うのか教えて欲しいんだけど、あれらを」
「ジョーは使わないの?」
「使わないから、普段からもってないんだけど・・・ね」
「帰ったらあげるわ!」
「・・・・・・・・・・・遠慮します」


荷物を受け取ったフランソワーズを、千里が確認してから話しかける。


「大丈夫ですか?お部屋にいきますけど?」
「あ、・・・は、い・・・・」


千里に声をかけられ、フランソワーズは戸惑いがちに返事をすると、美奈子とりか子もフランソワーズのそばによる。


「・・・・じゃあ、フランソワーズ。・・彼女のこと、よろしく御願いします」
「ええ、島村くん」


美奈子はジョーがフランソワーズを過剰に心配する様子に、少しだけ気になりながらも笑顔で答える。
湯田に呼ばれて、割り当てられた部屋に向かおうとしたジョーをフランソワーズが呼び止めた。


「ジョー、あのね」
「あ!そうか・・・博士に電話しないと。荷物をおいたら、そっちへ行くよ」


こくん。と、頷く。


「大丈夫?」


再び、フランソワーズは首を縦に動かした。


「じゃ、後で」
「ええ」


ジョーの部屋は玄関口から一番近い部屋。
フランンソワーズの部屋は、最奥の部屋。



「アルヌールさん、私たちも行きましょうか」
「は、はい・・・」
「そんなに緊張しないでよ、食べたりしないわ!」
「・・・はい」


不安げに見つめ返してくるその姿が、なんとも言えないくらいに、可愛らしい。


「・・・・可愛い」と、思わず呟いたりか子。
「夕食までどうします?」と、千里。
「温泉じゃない?この棟用の露天風呂があるんですって」と、美奈子。


部屋へと向かうために歩き出した3人について、フランソワーズも歩く。


雑誌から抜け出したような、水沢美奈子。
スポーティで、シンプルな、稲葉りか子。
流行ものをばっちり押さえた、原千里。


そこに、自分が知らない、ジョーが接する女性たちがいた。










***



4人で使うには十分過ぎるほどに広く、部屋から眺める景色に興奮し、おしゃべりを初めた3人。部屋に用意されていたポットからお茶を入れた美奈子は、その一つをフランソワーズにすすめた。


「そんなに、緊張しなくてもいいのよ?」


美奈子の優しい声に、フランソワーズは、こくん。と小さく頷く。


「アルヌールさんっていくつ?」

りか子が美奈子からお茶を受け取り、テーブルに用意されていた茶菓子の1つを口にしながら問う。


「・・・・・・j。17、歳・・・」
「え?高校生?!」
「いいえ、・・・学校には行ってません」


美奈子、りか子、そして千里の3人は、フランソワーズの答えに顔を見合わせた。
その様子に、フランソワーズの心臓がきゅううっと痛んだ。

17歳は・・変な事?何かおかしなこと、言った?と、不安になる。
実年齢を言えば、そっちの方がおかしい。そのために、改造された年の年齢を答える事が、仲間たちの中で暗黙のルールとなっていた。



「じゃ、普段は何してるんですか?」


お茶を啜りながら、千里が質問を続けた。


「・・・ご飯を作って、お掃除をして、お洗濯をして・・・、イワンのお世話に、お買い物や、博士のお手伝いや、張大人のお店のお手伝い・・・に、お菓子を作ったりとか、色々・・・・」


フランソワーズの答えに、視線を交差させる3人。


「お家の・・・お手伝いをしているのね?」
「はい」


それを”家事手伝い”と言う事を最近知った、フランソワーズ。


「そうなんだ・・・。それでさ、島村くんと一緒に住んでいるって聞いたんだけど?」
「・・・はい」
「ね、島村くんて家でもあんな風?」


りか子の問いに、不思議そうにフランソワーズは小首をかしげる。すると、ハチミツ色の髪がさらりと肩から流れて、彼女の細く白い首にかかった。

思わず、りか子もつられて首を傾けてしまいそうになる。


「ジョー?」
「そう、島村くん。ねえ、島村くんって家でいつもどんな風に暮らしているの?」
「りか!」
「い~じゃないっ!興味あるくせに!!せっかくだから、色々聞いておこうよっ」


にひひ、と嗤いながら、りか子は話しを続けた。


「島村くんて何が好き?」
「好き?」
「そう、例えば、食べ物とか!」
「・・・・なんでも、好きで・・嫌いなのはないと、思い、ま。す・・・・」
「朝は和食、洋食派?」
「りか!アルヌールさん、リラックスできないじゃない!!アルヌールさん、色々初めての体験で、疲れてるんじゃなくて?」
「あ、だ、大丈夫、です・・・」
「なによ、こうやってお互いの交流を深めていくもんなのよ!それで?」
「・・・毎朝、食パンにたっぶりバターを塗ってから、焼いたのが・・・。あと珈琲と、オレンジジュース」
「聞いた?美奈、パン党ですって、一緒じゃん」
「りか!」


美奈子の頬がうっすら紅く染まる。


「ほら、美奈子だって聞きたい事いっぱいあるんでしょ?島村くんについて!」


ずきん。と、フランソワーズの胸が痛む。


「ね、色々美奈子に教えてあげてね!」
「りか子、もうっ!」
「いいじゃない、減るもんじゃないんだしっ」
「・・・・」
「アルヌールさん、りか子の言ったことなんて気にしないでね?」
「・・・・あの、ジョーの、何が知りたいんですか?」


美奈子の気遣いに、見たくもない自分の中のどろっとした苦い感情に触れてしまい、フランソワーズは不快な気分になる。


「美奈子、ほら!教えてくれるみたいよ?」
「そんな、・・アルヌールさん、いいのよ、気にしないで」
「りか子先輩、水沢さん・・・は、今からどうされるんですか?」


突然、話しの流れを変えるように、新しいトピックを持ち出した千里は、フランソワーズにむかってにっこりと笑う。
その笑顔になんとなく、ほっとしたフランソワーズ。


「そうね、そう!せっかくだから、温泉にいきましょう、お昼は各お部屋にお弁当を配ってくださるから、その前にすっきりするのはどう?」
「お弁当っていつですか?」
「あと、1時間くらいかな?」
「それならとっとと行きませんか?お弁当がくる前に」
「続きは裸の付き合いね!ってことで、アルヌールさんも行くでしょ?」
「あ・・・・・・」
「初めてなのよね?別に怖いところじゃないから、安心して?私たちも一緒だし」


りか子が先頭をきって、温泉へ行く準備を始めた。


「浴衣があるけど、サイズは大丈夫かな?」
「何枚あるの?」
「一応5枚・・・あ、やっぱりサイズバラバラ・・・、服でもいいけど、旅館は浴衣じゃないと!」
「電話したら持って来てくれるはずよ」


美奈子がスピードダイヤルを確認し、本館へと連絡し、電話を終えて受話器を戻したとき、部屋をノックする音。
何をどうしていいかわからずに、ふかふかの座布団の上に小さくなって座り、傍観しているしかないフランソワーズは、その音が耳に届いていなかった。





手足がかじかむように、心臓が痛い。












「え?もう届けてくれた?!」
「そんなはずないじゃない、りか子」


どこか遠い会話。
けれど、水沢美奈子の声だけが妙にはっきりとフランソワーズの耳に届く。


「は~い!誰ですかあ?」


千里が大きな声で答えるが、ドアを開けに行く様子はない。苦笑しながら、すっくと立上がった美奈子が、ドアを開けた。


「島村くん!」
「水沢さん、すみません。フランソワーズは?」


ジョーの声に、フランソワーズはぱっとドア口を見る。


「・・どうぞ、入って・・・・アルヌールさん、島村くんが・・・」


「お邪魔します」と美奈子の後ろからジョーが部屋へと入って来た。
りか子は手をあげて答え、千里は笑って会釈する。


「フラン、博士に繋がってるよ」


ジョーの手には携帯電話が握られており、フランソワーズの隣に腰を下ろすと、彼女に持たせた。
あたりまえのように、フランソワーズの隣に座るジョーを横目に、美奈子は小さな溜め息をつく。


「・・・・博士?」


ジョーの手から、携帯電話を受け取ってそっと耳に押し当てた、フランソワーズ。


『フランソワーズか?無事についたそうじゃの』


ギルモアの声に、鼻奥がじいん、じいんと痺れる。
震え出すくちびるを噛み締めて我慢する。

まだ離れてから数時間しか経っていない。
買い出しに出て戻ってくるよりも短い時間。



『どうじゃ?嵐山は?紅葉はみれたのか?旅館のお部屋は気に入ったかのう?同室の人たちはお前に親切にしてくださっているのかのう?』


優しい、優しいギルモアの声。
きゅうっと、喉が締め付けられる。


『フランソワーズ、どうしたんじゃ?聞こえておるのか?』


ギルモアの声と一緒に、今の時間ならとっくに店にいるはずの張大人とグレートの声が聞こえた。
どうやら、博士の次にどっちがフランソワーズと電話で話すかで揉めているようだった。


「・・・・・・は、か・・せ」
『む?どうしたんじゃ?元気がないぞ』
『だ~からっ!次は吾輩だっつうの!』
『なああああああに言うアルか!何か忘れ物無いか、ワタシ確認する義務アルネ!』


瞳に浮かび上がった涙が熱くて、熱くて。
ギルモアに返事を使用と口を開けるけれど、肺が上手く動かない。


『フランソワーズ、聞こえんぞ?』
「・・・・・・博士・・」


しぼり出した声が、ひきうったような高い音。


『ん?なんじゃ』
「か・・・・え、る、・・・」


ジョーは、フランソワーズの言葉に驚いた。


「フラン・・・?」



ジョーの声に、ギルモアの、グレートの、張大人の、声に、ぽろ。と、こぼれ落ちる大粒の雫。
胸をつきあげてくる、淋しさが、なんなのかフランソワーズにはわからない。


『聞こえんぞ?どうしたんじゃ?』


ギルモアが、邸にばかりいる自分のことを心配してくれているのは、知っている。
だから、がんばろうと、思った。



「・・・・・・・・も、帰る・・邸に、帰りたい・・・」


するすると、フランソワーズの頬伝って、ぽたぽたと、彼女の膝に落ちていく。


『何を言ってるのか聞き取れんのじゃ、・・・もう少し大きな声で話してくれるかの、フランソワーズ』
「・・・・帰りたいっ!」


美奈子の、ジョーの分のお茶を用意する手が止まった。
ひっく、としゃくりあげたフランソワーズの声に、りか子が驚き、千里がフランソワーズにむかって身を乗り出すようにして彼女を見た。


「帰るっ!」



なぜ、淋しいのか、わからない。
なぜ、悲しいのか、わからない。


楽しまなくちゃ!と、自分に言う。
ジョーが誘ってくれたのだから!と、自分に言う。
迷惑をかけちゃ駄目!と、自分に言い聞かせる。


水沢美奈子に、ジョーが関わる、自分の知らない世界の彼を見ても、平気だわ!と、がんばる。





がんばれると、思っていた。




「はか、せ・・・博士、博士っっ・・・・・か、帰るうぅぅ・・・・博士、アタシ、・・・か、かえ、帰りたいいぃぃ・・・」
『フランソワーズ、泣いておるのか?!どうしたんじゃっジョーっ!何があった?!』


電話の向こうでパニックになるギルモア。そして、その声に、グレートと張大人が叫び出す。


「・・・・フランソワーズ」


フランソワーズの手から、そっと携帯電話を抜き取ると、パニックになっている博士と言葉を交わす、ジョー。
携帯を持っていない方の手で、フランソワーズの髪を撫でると、さらに激しくしゃくりあげて、泣き出す彼女の後頭部を押して、自分の胸に泣く彼女を支えた。

美奈子の視線がフランソワーズの髪に絡まるジョーの手に、そして、その腕の中に収まったフランソワーズに投げられて、りか子は、そっと心配そうに美奈子を見つめ、千里は驚きながらも、眉を下げてフランソワーズを見ていた。


電話越しに、ギルモアにもフランソワーズの大泣きする声が聞こえている。


『ジョーっ!フランソワーズは泣いておるのか?いったいどうしたんじゃ!!』


ジョーのシャツにしがみついて泣く、フランソワーズ。


「・・・博士、どうやらフランは、ホームシックにかかったみたいです」
『ホームシックじゃと・・・・?』
「ジョー、帰るぅぅぅっ・・・h・・く・・・ひ・・・か,え h・・・帰るのおおぉお」
「・・・また、かけ直していいですか?」
「だめぇっ!」


電話を切ろうとしたジョーにフランソワーズは泣き崩れた顔をあげて、訴えた。


「フランが落ち着いたら、またかけ直します・・・」
『大丈夫か?!ジョー、今すぐにでもフランソワーズをつれて帰っておいで!おお、可哀相に・・・・そんなに泣いて・・・』
「博士、一時的なことですよ。無事に旅館について、博士の声を聞いたから気持ちが弛んだんでしょう、様子を見ます。またかけ直しますから、グレートと大人にもよろしく伝えて下さい」
『しかしじゃな・・』
「またすぐにかけ直します、切りますよ?」
『う、うむ・・。ジョー、フランソワーズを頼むぞ?』
「・・・はい、失礼します」


「いやあっ、切っちゃ駄目っ博士っ!」


携帯電話を持つジョーの手へと腕を伸ばすが、それよりも早く、ジョーは携帯の通話を切った。
ひどい!と、ジョーをなじり、さらに激しく泣き始めるフランソワーズ。


その様子を美奈子、りか子、そして千里はみているしかなかった。
ジョーは苦笑しつつ、3人に詫びる。


「すみません・・・、あの、予定があったら、どうぞフランにかまわず行ってください、ボクは彼女を見てますから」


3人は視線を合わせて、考える。と、再び部屋をノックする音が聞こえると、本館から仲居が浴衣を届けにきた。そして、フランソワーズの泣く声に、驚き心配するが、ジョーは「しばらくしたら落ち着くと思いますから、大丈夫です。」と、心配していくれる仲居に礼を言った。


ここでフランソワーズが泣き止むまで顔を突き合わせっているのも、どうかと言うことと、自分たちがいるとフランソワーズをよけいに刺激するのでは、と言う考えがまとまり、3人はジョーにフランソワーズをまかせて、露天風呂へとむかう。が、美奈子は、そこから離れることが辛い。


ホームシックにかかったフランソワーズを、ごく自然に慰め、腕に抱く姿が、いつも大学で接する、美奈子が知る彼ではない。


初めて見る、彼だった。

フランソワーズにたいしてだから?
ジョーとフランソワーズの関係は”家族”だけではない気がしてならない。







つき合ってるの?
彼女は島村くんの・・・特別な人なの?














***




「びっくりだわ」

3人は横に並んで肩まで露天の湯に浸かり、しばしウットリと日頃の生活のことなど忘れて温泉を楽しんでいたが、頭のすみからフランソワーズの泣く姿が離れないでいた。


「・・・りか子があんなに質問するから、怖かったのよ、きっと」
「私のせい!?・・・たかが、あれくらいで?・・・それにホームシックって何よそれ?たった二泊三日の旅行に?」
「そういうこともあるんじゃないですか?修学旅行でホームシックにかかって泣く子もいるじゃないですか」
「・・・島村くんに、お願いされたのに・・・ちゃんとアルヌールさんの面倒をみるの・・泣かせちゃったら・・・」
「あっ、は~ん!そっちかい!そうよねえ、信頼が落ちちゃったわよねえ」


にやにやとした顔でりか子は美奈子を見た。


「それにしても、かっこ良かったですよね・・・、こう、アールヌーボーさんの髪を撫でて、引き寄せた感じが、・・・ドラマを見ているみたいで。絵になるなあ、って・・・・。島村くん、いつもよりもずっと、”男”らしかったですね」
「あ、私もそれ思った」
「りか子先輩が?!」
「私だって島村くんが見栄えのいい男だってことくらい、普通にわかります!でも、なんか優男な感じで頼りないし、いつもおだやか~に、人畜無害な顔してさ、誰にもでもいい顔ばっかりで、言われたことも文句一つ言わずに働くじゃない?たかだかバイトなのに、今じゃ、美奈子と同じくらい働いてさ、”いい人”過ぎるって、ちょっと気持ち悪いのよね!」
「島村くんのファンに殺されますよ、りか子先輩。カッコいいのに、それに全く本人が気づいてない感じがいいんですから」
「千里ちゃんって島村ファンだったっけ?」
「目の保養にはしています。癒されるのは、確かですね」
「それをファンと言うの!ま、美奈子の応援をするくらいの、ってことよね!で、美奈子、どうしたの?」


見下ろす絶景に、下に流れる保津川は歴史あるせせらぎの音。
目に染み入る紅葉のグラデーションに、落ちてくる葉の揺らめきの早さが、冬の訪れがすぐそこまできていることを伝えている。


「・・・・島村くん、彼女のこと”フラン”って呼んでたわ」


耳たぶが湯にさわるほどに身を沈める。
思い出す、ジョーが当たり前のようにフランソワーズを胸に抱き寄せた風景。


「フラン?・・お菓子ですか、それ?」
「ああ、そういえば・・・、そうだったような気がする」
「私は、いつまでも”水沢さん”で、あの子は”フラン”って・・・いいなあ・・・・」


りか子と千里が顔を見合わす。


「でも、水沢さん・・・恋人っていうよりも、妹の面倒みる”お兄ちゃん”って感じがしません?」
「そうよ!美奈子っ。一緒に住んでいるのだから、ハンディがあって当然じゃない。家族してるんだったら、恋愛なんてできないわよっ!ちゃんとアタックもしてないくせに、なにいじいじしてんのよ、美奈子、モテるじゃないっ。それを島村くんに使わなくてどうするの?さっきのだって、妹をなぐさめるお兄ちゃんの図よ!よくハリウッドとかでも見るじゃない、アールヌーボーさんにあわせて、西洋式に慰めたのよ、西洋式に!」


美奈子は、部屋を出る前の2人を思い出し、泣き出しそうにくちびるを尖らせたので、りか子に千里は言葉を並べて励ました。


「・・・いつも、肝心なところで、はぐらかされてる気がするの・・。私だって今までぼーっとしてたわけじゃないわよ」
「水沢さんに迫らせて、落ちないなんて・・・島村くん、さらに人気が出そうですね」
「あんたの押しが弱いのよ、・・・よしっ!!私がきっちりこの2泊3日の間、あの子の面倒を見るわ!島村くんの手が出ないくらいにね!!だから、しっかりゲットするのよっ」
「・・・・・・ありがとう」
「Dカップが泣くわよ、使わないと!しっかり島村くんに捧げないと!」


りか子はがばっ美奈子の胸を掴んだ。


「きゃっ☆りかっ!」
「むかつくなあっ!!このでかさっ。これだったら、アールヌーボーさんに負けないって!」
「・・・りか子先輩は湯田先輩に揉んでもらわないと、ですね?」
「・・・・・・ぐ」












***



部屋に戻った3人を出迎えたのは、ジョーでもなく、フランソワーズでもない、湯田だった。


「なんで湯田さんがここに?」
「湯上がり美女、3人!!いい眺めだねっ・・・・。島村がなかなか戻ってこないから、1人で美女4人を襲っているのではないかと、心配してだな・・・」


湯田の出現にりか子は動揺する。
美奈子と千里は、りか子の背で視線を合わせて微笑みあった。


「あれ、これ・・・もしかして」


部屋に入ると、すでに弁当が置かれており、数は6個。


「オレと島村の分。ここで喰っていいか?」


美奈子が腕で隣のりか子をつつく。
そして、りか子が美奈子をつつき返しながら、弁当の1つを前に座った。


「それで湯田先輩、島村くんとアールヌーボーさんは?」
「アールヌー・・・?・・・ああ、彼女ね!気分転換させるために、この周りを散歩させて来いって’追い出した。15分前くらいかな?弁当が届いているのは、知ってるからそろそろ戻ってくるだろうけど・・・」
「湯田先輩、彼女はまだ泣いてました?」
「いや、もう大分落ち着いてたよ・・・。かなり緊張していたみたいだね。まあ、初めて会った人間といきなり、寝起きを共にして、温泉だもんな。怖がって当然だし、これも予想範囲のことだったから、何も心配いらないよ」
「予想範囲?・・・て、湯田さん、どういうことです?」
「まあ、色々とね。・・・日本語ペラペラだから、日本で育ってみたいに勘違いしやすいけどさ、日本人じゃないんだよ、彼女。バスルームなんて、向こうは超プライベートエリアだし、島村が言うには・・・」


ヨーロッパの留学経験のある湯田は、ジョーからフランソワーズについて聞いた話しを混ぜて、日本とヨーロッパの生活スタイルの違いや、その考えを3人にレクチャーする。


「本当はこの旅行も初めは断ったんだよ、島村が」
「島村くんが?」
「うん、アイツってさ、彼女のこととなるt」


と、話しを続けようとした時、ジョーとフランソワーズが部屋に戻って来た。

ジョーは3人にあらためて、詫びる。
フランソワーズは目の縁を紅くして、まだ完全にはふっきれてはいない様子だったが、落ち着きを取り戻したのは確かなようで、ジョーに言われて、泣き枯れた声で3人に謝ると、水沢がフランソワーズを庇うように言葉をかけた。
フランソワーズへと話しかけながらも、美奈子は湯田の話しの続きが気になったが、それ以上の話しは本人の前ではできない。


「あのお・・・せっかくお弁当が届いているんだから、食べませんか?」


ぐうっとお腹がなった千里が、テーブルの上の弁当のふたを開けながら言い、すでに彼女の前にある割り箸が割られている。


「そうだな!これ喰ったら、島村、オレらも温泉いこうぜ」





昼食の間、湯田が中心となって会話が弾んだ。
その会話の運び方にフランソワーズの気遣いがみえ、ジョーは感謝する。

ジョーが研究室に通い始めたころ、美奈子よりも湯田が色々とジョーの世話を焼いたことがきっかけになり、今では邸の仲間たちとは違った意味で、ジョーの中で湯田は”兄”的存在になり、いつしか仲間には言えないような超個人的な相談もするようになっていた。
湯田だけが唯一、”サイボーグ”と言う事を除いた事情を知っている。




「・・・ジョー」
「ん?」


出された弁当は六つ仕切り(お造り・前菜盛・煮物・天盛・酢物・ご飯)に、お吸い物とフルーツが付いた弁当に、箸が進む。
明日はどこへ行くかと、テーブル上は盛り上がっている中、フランソワーズはそっと囁くようにしてジョーに話しかけた。


「・・・・・博士にお電話したいの」
「話せる?」
「・・・あのままだと、博士にご心配をおかけしたままですもの、もしかしたら、こちらへ来ちゃうかも・・・」
「正解」
「え?」
「・・・・・さっきメールが届いてたの、知ってるだろ?」
「いらっしゃるの?!グレートも?大人は?」
「・・いや、来ないよ」
「・・・・・」


しゅん。と、元気がなくなるフランソワーズ。


「フラン、帰ろうか?」
「・・・・・・」
「帰りたいなら、帰ろう・・・キミがそんな状態だとみんばに迷惑がかかる」
「・・・・・・」
「1人で帰らせることなんてできないから、ボクも帰るよ」


美奈子が、箸を止めた。


「子どもじゃないもの、1人で帰れるわ」
「子どもじゃないなら、なんで泣くんだよ?」
「だって・・・」
「だってじゃない」
「おい、島村」


ジョーの強い口調に、湯田が注意をするように割り込む。が、それを無視して話しを続けた。


「帰るならボクも一緒、キミを1人にはしない」


美奈子がくちびると噛み、俯く。どういう意味?と、こころの中で叫ぶ。


「アルヌールさんを京都駅まで送って、向こうにご家族の誰かが向かえに来てもらうのだったら、新幹線の中で座っているだけだし、・・・・大丈夫なんじゃないですか?」


フランソワーズの正面に座る千里が声をかけた。


「ごめん、それも・・・。ちょっと事情があるんだ」


ジョーは困ったように、微笑む。


「・・・・お電話するわ」
「帰るって言うの?」
「・・・・」


フランソワーズは、微かに首を左右に振って否定した。
5人がそれを見ていた。


「食事が終わったらね、電話しよう」
「・・・・今じゃだめなの?」
「食事中に電話はマナーが悪いって言うの、だれ?」
「・・・」
「食事中はメールだって駄目っていうくせに・・・。全然食べてないよ?全部ちゃんと食べるまでは、電話はなし」
「・・・イジワル」
「いつもフランがボクに言う事だろ、食事中に本を読むなとか、色々、同じ事だよ」


ぷうっと頬を膨らませて、むんず、と箸を握りなおすと、フランソワーズはぱくぱくと、勢い良く食べ始めた。


「・・・お箸ちゃんと使えてるわね」


それを見て、ぼそっとりか子が呟いたので、ジョーは笑った。











***



昼食後の電話にて、フランソワーズはジョーの携帯電話からギルモア邸に電話をいれた。ギルモアに心配をかけたことを謝り、グレートに励まされて、張大人に慰められた。


「ジョー、博士がアナタと話したいって」


ジョーに携帯電話をわたし、ジョーがギルモアと言葉を交わしている間、フランソワーズは川が流れてゆく方向へと歩き出して、ジョーのそばから離れて行く。

電話をかけることと、フランソワーズをもう少し落ち着かせたいからと言い、湯田と温泉へ行く事も断って、彼女を保津川沿いまで連れて来ていた。





日が落ち始めて夕暮れの色が紅葉に混じりあう。
山の空気は冷えやすい。

川は豊かに穏やかに。
流れ行く先に瞳を細めながら、ジョーはギルモアと会話する。


冷たい風が通りぬける。
ざあああっと風が矢の木々を奏でる。

舞散る秋の葉が、旅に出る。


ギルモアが何を心配してくれているのか、ちゃんとフランソワーズにはわかっている。
こころの中で、甘えていてごめんなさい。と、謝る。











「・・・そろそろ戻ろうか」


携帯電話の通話を切り、時間を確認する。
いつの間にか、ジョーはフランソワーズのそばまで歩みよっていた、その彼に振り返って足を止めた。


「・・・あのね、ジョー」
「ん?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「どうして謝るの?」


流れる川の先を瞳を細めて見つめる、フランソワーズの顔を覗き込む。


「びっくりしちゃったの、・・・博士が、みんながいないって思っちゃったら・・ね?・・・何をしていいか、わからなくなったの・・・・・だって、お掃除もお料理も、・・・何もかもしてくださるんですもの」
「・・・ホテルだって、そうだろ?」
「ホテルでも、・・・イワンのお世話をするし、何かと忙しいのよ?・・みんながいるし・・・」
「・・・・みんな、か・・・。ボクだけじゃ、やっぱり頼りない?」
「ジョーはいるけど、いないの・・・」
「なに、それ?・・・・・ああ、部屋が別なのは、当然だろ?ドルフィンやミッションじゃないんだし・・・これは”普通”の旅行なんだよ?」


フランソワーズの言葉の意味を理解できていない、ジョー。
そんな彼に微笑みながら、フランソワーズは旅館へ戻る道を歩き始めた。


「寒かったの・・・」
「え?」
「急にね、しんしんと冷えたの」
「え・・・そんなに寒いかな?急ごう、風邪引くといけないし、躯が冷えた?温泉に入ったらいいんだけど、・・・駄目だったときはオオガミ教授が泊まっている部屋のバスを借りれるようにお願いしてあるから・・・」


ジョーの優しさに、フランソワーズは嬉しさを噛み締める。


「ごめんなさい」
「なにが?」
「・・・・・・色々と」


ジョーの瞳にうつる人は、フランソワーズではなく003。





きれいな、奇麗な、キレイな人。
哀しい運命に翻弄された、彼女。


「いまさらだよ、フランソワーズと一緒にいたら、いろいろと、ね」





003ではなく、フランソワーズに戻って、と、願いを込めて。
本当は加速装置を使ってでも、彼女を今すぐにでも、邸へとつれて帰りたい衝動を抑えながら。



「寒いなら、こうすればいい?」



散弾が降る中を駆け抜けるよりも、心臓に悪い。
でも、今行動しなかったら、・・・絶対に後悔する・・・ような気がした。

何かに凍える彼女のこころをあたためたくて。
どんなことがあっても、何があっても、たとえ、離ればなれになっても。

いつでもキミを想ってる。



寒くなんかないよ。
ボクはずっとそばに、いるんだよ。




正面から彼女を抱きしめる勇気は、・・・緊急事態(彼女が泣くとか、戦場とか?)でないかぎり、無理。
彼女の後ろから肩に緊張で震える腕をまわした。

引き寄せて。
閉じ込める。



彼女の背後から、肩に、腕をマフラーのように絡めることが今は精一杯。







人口血液が、足先から爆発するように逆流する感覚。
どん!どん!どん!どん!と、大和太鼓が胸で鳴り響く。



















「ジョー、アタシは大丈夫よ・・・・」












*おまけ?と言うか、これがモジモジ本編では?*
~9、こころの葛藤&3のつぶやき~






---どうしよう、た、タイミングがわからない!い、いつ、この腕を・・・え、と・・・・。


---・・・そろそろ宴会の時間じゃないのかしら?暑くなってきちゃったわ!ジョーの腕、重いのだけど・・・。


---・・・なんで、彼女はいつも良い薫りがするんだろう・・・。



少しだか屈むような姿勢で、フランソワーズの左肩に無意識に頬を寄せた、ジョー。



---あら、ジョーってば、リンスをさぼってるわね?も!ちゃんとしないとあっという間にごわごわになっちゃうのよ!人口毛髪の交換って大変なのにっ....あら?あそこにいらっしゃるの・・・。


「・・・ジョー」
「!!」


不意に、ジョーの顔がよった左肩へと振り向いたフランソワーズ。
予想していなかった近さに、フランソワーズのくちびるが作り出した、音を吸い込んだ、ジョー。

その距離、3cm強。




チャンス!と、いうこころの声に、心臓がロケットのように飛んでいく。


「オオガミ教授がこちらにむかってきていらっしゃるのだけど?」
「!?」






ばっと、腕を万歳するかのように上げた。
その様子を見た、オオガミの大きな笑い声が保津川の流れにのってジョーに届く。


「邪魔してごめんなさいねえ、島村くん!!ちょうど遊覧船からあなたたちが見えたから!!そろそろ戻って、遅刻は宴会に出られないのよ!」







旅行編へ続く。

*・・・・・プロットを無視しまくったので、今後どうなるかわかりません・・・
 どうしたらいいんでしょう・・・もじもじしてない!?
 これで終わってもいい感じ?・・・続き読みたい方います?・・・・多かったら書きます(笑)
 水沢さん、いたら大変なんだもんっ!もじもじできないんだもんっ。
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Little by Little・5
(5)







見つめ合う、視線。


手に感じる、フランソワーズのぬくもり。
振り払う事も、離す事もせずに、彼女は自分の手を握っていてくれる。


オークション前に見た、篠原当麻と繋がれた、手。
他の、誰にも、触れさせたくない。と、勝手な独占欲に占拠される思考。


彼女は誰の者でもないのに・・・。
俺のものでも、”まだ”篠原当麻のものでも、ない・・・、だれの者でもに、はず。


けれど、以前から彼女は自分の知らない”誰か”を想っている節がある。
その人物が一体どこのだれなのか、見当がつかない。


顔のない男の影がフランソワーズの隣に立つ、それだけの想像で、ちりちりと音をたてて心臓が焼け焦げた匂いを放つ。


「・・・ジョー?」


名前を呼ばれて、焦げた心臓が跳ねる。
青の輝きに胸が縮こまる。



繋がれた手が、ここにある。
その、振りほどかれる事がない手に、勇気を貰う。


「Francoise」


補助脳の力を借りずに発音するのは彼女の名前、彼女の国の、彼女が人であったころから呼ばれ続けられている、音で、呼ぶ。



想いを舌にのせる緊張に身を委ねる前。
薄く、息を吸い込んだ後。



「・・・・・・・行こう、か」
「え?・・」


ジョーの視線が、009の鋭い感覚が、自分たちにむけられた気配に気づかないわけがなかった。
何かをいいかけて、止めてしまったジョーを不思議そうに見上げていたフランソワーズも、彼の視線をおった先にいた人物に気づいた。


「当麻さん・・・、アルベルト」


繋がれている手がどちらともなく震えた。
そして、どちらともなく手が離されると思った。



お互いに、自分からではなく、相手が離すだろうと、思った。


学院へと続く小径から近づいてくる、当麻。
その後方に、彼の半分以下のスピードで歩を進めるアルベルト。



手が離れない。



フランソワーズは当麻を見ていた視線を地に落とし、どうして離さないの?と、緊張に喉を締め付けられた。

繋がれた手が、再び震え出す。


それがジョー自身からなのか、繋いだ先の彼女からなのか、わからない。
どうして離さないんだ・・・?と、近づいてくる篠原当麻よりも、フランソワーズを見つめた。


「フラン、島村・・・・」


当麻の声に、視線を上げたフランソワーズ。そして、足を止めて3人から距離を保ったアルベルトは、興味深げにその様子を見守る。


「よかった、2人とも大丈夫なんだね?・・・」


明るい声を出して、当麻はにっこりとジョー、フランソワーズにむかって笑った。


「ええ、当麻さん。何もないかったわ・・・。大丈夫よ・・」
「・・・みたいだね」


当麻は体を捻るようにして自分の方を向いているフランソワーズの、前に立つ。
そして、見下ろすようにして彼女の背後に隠れていた繋がりに視線を走らせ、そのままそれをジョーへとむけた。


「そういこと?」


当麻の問いかけに口で答えずに、視線だけを合わせた、ジョー。


「当麻さん?」
「・・・」
「島村、そういことなんだね?」
「・・・」



まっすぐに、ジョーを射抜くシナモン・カラーの瞳。



「・・・ぼくは、フランソワーズが好きで、彼女に交際を申し込んでいる」
「っ当麻さん!」
「・・何度か”2人”で外出もしていることを、リーダーの君だし知っているだろう?・・彼女からは返事はもらっていないけど・・・、友達からゆっくりと時間をかけて、彼女の気持ちがぼくに向いてくれることを望んでいるんだ。もちろん、彼女の状況も、特殊な環境もすべて理解した上でだよ・・・。サイボーグだからって、恋愛をしてはいけないなんて、法律もルールもない、そうだよね?・・・009」


わざと、彼のサイボーグの名を呼んだ。



「・・・・自由、だ。サイボーグだからと言って”人”としての人生を諦める必要は、ない、から」
「リーダーの、009が認めてくれるなら、安心したよ・・・それで」
「フランソワーズ」


ジョーは当麻の言葉を遮り、フランソワーズへと話しかけた。
自分の声を追い掛けるようにして、彼女を見つめ、繋がれている彼女の手のこうを、彼の親指が撫でた。


「!」


ジョーの指の動きに、フランソワーズの胸が震える。
見上げるようにして、ジョーと向き合う形に躯を動かした。


「・・・・キミは自由だ、よ。キミが望むこと、したいこと、すべてをすればいい」
「ジョー・・・」
「俺は今から005の様子を見に行ってくる。・・・動きも見られないし、報告もない。せっかくのフェスティバルだし、002や008と同じように楽しんで・・・・」


3人から離れてはいるが、しっかりとその声を捕らえる事ができるアルベルトの溜め息が、緑の色に紛れた。


「しまm」
「自由だ、・・・・・人として生きることを諦める必要は、ないから、ね・・・・。キミも”俺”も・・・」


当麻とジョーにはさまれる形で立つ、フランソワーズ。その頭上でぶつかり合った2人の視線。


「・・・フランソワーズ・・・1時間以内に」
「・・ジョー・・・」
「1時間以内に、連絡する・・・・・都内で人気のあるケーキ店が参加してるらしいから、行こう。案内する、よ」
「・・・」
「それまで、篠原を”視ていて”・・・・003、誰かが彼と行動しないといけないから」


ゆっくりと、ジョーはフランソワーズの手を離すと、アルベルトにむかって歩き出した。
フランソワーズの隣を抜ける途中、彼女にむかってはにかむように微笑む。


「そういうことだ、よ」


当麻とすれ違うさま、ジョーは囁いた。












<27点・・だ>


アルベルトはニヤリ、と、左の口角を上げてジョーを迎えた。


「004、オークションのビデオとリストの回収を頼む、それと、・・・できれば003と行動してくれ」


<・・・・・・邪魔したくせに>
<オレに見張り役をさせるとは、えらくなったもんだな?>
<・・・五月蝿い>


「了解、009・・・002たちと合流するぞ?」
「まかせる」


<それとも、2人きりでその人気の店へ行けるようにしてやろうか?>


「1時間以内には、戻ってくるんだな?」
「向こうに問題がなければ、だ・・・離れている間、004に一任する」


<・・・できるの?なら、頼む>


アルベルトの隣を通り抜けるとき、首だけを彼に残すように振り返りながら、ジョーは言った。


「そうか、なら・・・努力してみよう」
「期待しないでおく」


薄く笑ったジョーは奥歯を噛んだ。
吹き抜けた風は、ジョーが吸う煙草の薫りだけをそこに残した。

















####


005の元へ向かった009から、連絡が入ったのは約束の1時間を過ぎたころ。
問題なしとの報告が00メンバー全員に入った。

003、004、篠原当麻は、途中,002、008、そして津田海の姉たちと合流する。
月見里学院の正門が閉じられる時刻になっても、問題なし、と報告をした009は戻らなかった。


「ごめん、ね・・・自分で言っておきながら」
「何の話しだ?」


ギルモアたちと同じホテルに泊まる、ピュンマ、津田海、夢、林と別れて、ホテルに戻ると、ロビーの端っこで経営している24時間オープンのカフェにジョーとジェロニモの姿を見つけ、その席についた、ジェット、アルベルト、フランソワーズと、篠原当麻。


「ん?・・・別に」
「人気のケーキかなんかの店に案内すると、ジョーが、フランソワーズに約束していたんだ」
「そうか・・、すまないことをした。何故言わなかった?それがわかっていたら・・・」
「店はいつでもいけるし、ね・・・でも、ごめん」
「すまない。オレがジョーを引き止めた。」
「気にしないでジェロニモ、何かあったの?」
「そーだぜ!ここにジェロニモがなんでいんだよ?」


ジェットは6人で座れるように、テーブルを寄せた。



「・・・ジェロニモが邸を離れることになった」


席についたことを確認したジョーが、口を開いた。


「なんだよ?どういうこったよ!」
「ジェロニモ・・・説明してくれ」


カフェの一角に、身を寄せ合うようにして座った不思議な団体に、ウェイターがメニューと水を配り、去って行く。


「うむ。オレの部族は5つの小さな集落から成り立っていた。・・・・その内の1つの、オレの母方の筋にあたる娘と連絡が取れた・・・」
「彼女から会えるなら、すぐにでも、と・・。連絡を受け取ったんだ・・・。すでに博士には報告を済ませている。予定が変わってしまうけど、邸に戻り次第004と同じく005のメンテに入る。それが済み次第、・・・彼はアメリカへ帰る」
「急だな・・」
「オレも驚いた。こんなに早く連絡が取れるとは・・・。彼女の家は部族内でも、早く街へ出ていて生活や部族の歴史などを西洋学的視点から勉強していた。連絡を取り安いのは、そこからだと思った。そのことをジョーに話したのは・・いつだ?」
「2ヶ月くらい、前、かな?」
「それで、この通りだ。・・・ジョーの助けもあって、無事に連絡がとれた。」
「・・・」


ウェイターが再び彼らの席に戻ってきて、注文を取る。
フランソワーズが注文する様子がないので、ジェットが勝手に”コイツにアイスティ”と、頼んだ。


「よかったな、ジェロニモ」
「ああ・・・」
「でよ、向こうでなにすんだよ?」
「まだ、決めてはいないが、・・・部族についての本を書いているらしい。それを手伝う予定だ」
「・・・・・どうするの?」
「・・・・誠くんのことか?フランソワーズ」


こくん。と、頷いたフランソワーズの顔が、少しばかり青ざめてみえた。


「ああ?誰だよ、そいつ?」
「ジェロニモの朝のデートの相手だ」
「あの、英会話のか?そんな名前なんだ?」
「夏休みには間に合わん。が・・・、冬休みにアメリカに呼んでもいいかもしれない。と、考えている。彼も留学を希望している。ご両親に、きちんと話して了解を得た後だが。それに、今は色々と便利になった。問題ない。」
「・・・」
「それで、・・・ジェロニモが」

ジョーが話しの先を進めた。


「んだよ!?」


ジョーとジェロニモの視線が、自分に向いたので、ジェットは思わず身構える。


「ジェット、お前も帰るつもりだっただろう。一緒に帰るか?」
「へ?」
「・・・いきなり、NYではなく・・どうだ?オレと一緒に来るつもりはないか?」
「!」
「考えてみてくれ。」


フランソワーズは驚きに見開いた瞳をジェットにむけた。


「・・・・」


フランソワーズの空色の瞳が何を言っているのか、ジェットには簡単に読み取れる。


「返事、いそいだ方がいいのか?」


ウェイターが、トレーに載せて来た3つの珈琲とアイスティを、手早くテーブルの上にのせた。


「できれば、向こうにもお前を連れて行く事を事前に伝えたい。」
「わかった。あやめ祭が終わったら、返事するぜ・・、そんときゃ、オレのメンテもだな?ジョー」
「004、君に少しまってもらわないといけない・・・」
「かまわないが、いいのか?」
「そっちの方はおっているけれど、・・・今のところ動きはないし、動く様子もない。1週間ほど伸びても、問題はない、よ」
「なら、かまわん」
「・・・い、ギリス?」
「知ってる筈だが?向こうをなんとかするためにな、・・・その後はドイツだ」
「・・・・」


009が静かに告げる。


「・・・・・001の言葉通り、何も動きがみられなかった。このまま続けても変化はないだろう。あったとしても、それは全くの別件として考える。・・・このミッションは後夜祭終了と同時に終わりだ、以上」


それは、脳波通信を通し、006、008、そして、携帯電話から007に伝えられる。


「嫌よ・・・」


009のミッション終了の声に、フランソワーズが亜麻色の髪を揺らした。


「・・・・フラン?」


当麻の気持ちを代弁したかのような音に、当麻は驚いた。
ミッション、それが終了してしまえば、当麻はフランソワーズと会う機会がなくなると言ってもいい。


「嫌、嫌よ・・・どうして?・・・・・・」
「・・・・フランソワーズ、以前からこの話しは、」


アルベルトが、フランソワーズを諭すように話し始めたが、それを塞ぐように、言葉を続ける。


「ずっと一緒だったのにっ・・・どうして?急にっ、どうしてっなんでなのっ!?」
「フラン?!」


イスを倒さんばかりの勢いに立上がったフランソワーズは、駆け出すように席を離れた。


「行け、ジェット」


それをジョーが、当麻が追いかけようとしたが、アルベルトが腕を伸ばし2人を止めて、同じタイミングで立上がった、ジェットに、フランソワーズを追いかけさせた。


「ここはお前さんたちよりも・・・ジェットの方がいい」


ジョーは無言でアルベルトを見つめ、その冷たい瞳に浮かんだ意思に納得したが、当麻は、自分を椅子につなぎ止めたアルベルトの腕を払い、フランソワーズを追いかけたかったが、人である彼が、004の腕を簡単に払いのける事はできない。


「すまん。ジョー・・・」


もう仕分けなさそうに、ジェロニモがジョーに言う。


「・・・どうして、俺に謝る?」
「予定外だったはずだ。」
「一体何のさ?」


ジェロニモがちらり。と、当麻を見る。
当麻は、アルベルトに押さえられるかのように椅子に身を沈めて彼らしくなく、アルベルトを睨んでいた。


「オレたちがいなくても、お前は大丈夫か?」
「・・・・正直に言っていい?」
「かまわん」
「本音は・・・フランソワーズと一緒だ、よ・・・・」


眉を下げて、苦笑するジョーを、ジェロニモの太陽の薫りがする手が頭を撫でた。


「オレはいつでも、お前の声を聞いているぞ」
「・・・・うん」
「オレは、お前の父であり、兄であり・・・仲間であり、永遠の家族だ」
「・・・・・・・・うん」
「・・・。ジェットにその役を取られているようじゃ、まだまだだな」
「・・・・・」
「オレが行く前には、ケリをつけられんか?」
「・・・・・」


長い前髪に隠れたジョーのアンバーからーの瞳が当麻へとむけられた。















####



「待てよ!フランソワーズっ」
「嫌っ、離してっ」


掴まれた腕を振りほどく。


「どこ行くんだよっ!てめえっ」
「どこへでも行くわっみんなもそうでしょうっ!!」


振り払われた手を再び伸ばして、フランソワーズを捕まえる。


「ったく、なにを我が侭言ってんだよっ今頃っ」
「嫌っ」
「オレらがいなくても、お前にはジョーがいんだろっ!!」
「!」


足が向かうままに歩いた先は、ホテル専用の駐車場だった。


「お前のそばには、いつもジョーがいんだよっ、だからっ」
「勝手な事言わないでっ!!」


掴まれた左手首を振りほどこうとしながら、碧の双眸が、キっ。とジェットを睨みつけた。

その澄み切った色に。
まっすぐにむけられた視線に。

乱れ、揺れる亜麻色の髪から香る花に、ジェットは思い出す。






誰よりも、長くいた。
誰よりも、長く彼女を知っている。



誰よりも、・・・。







「変わらねぇな、フランソワーズ・・・お前、すっげえ、綺麗だぜ?」
「な・・・っ!」
「そうやってよ、怒ってるときとか、敵に向かってるときの、お前が一番綺麗なの、知ってるか?」


ニ、と笑ってみせた。


「ふざけないで!」
「大真面目だぜ?」
「っっ、離してっ」
「落ち着けよっ」
「!」


掴んだフランソワーズの手首を、ジェットは力任せに引き寄せて、抱きしめた。


「落ち着けっていってんだろ、このじゃじゃ馬」
「っ・・・」


細く、華奢で、柔らかく、花の薫り舞う、フランソワーズの躯を力一杯に抱きしめた。


「話しくれえ、訊けよ。なあ・・・?」
「・・・・・」


ジェットの腕の中で、フランソワーズの瞳に溢れる雫が流れおちる。


「何を訊くことがあるの・・・?あなたは、行くんでしょう?アルベルトも、みんな、私を置いていくんでしょう?」
「一緒にくるか?」
「・・・・・誘われたのは、ジェット、あなたなのよ・・・」


ジェットの胸に頬を押し付けて言った。


「お前がが同行したって、ジェロニモは文句言うようなヤツじゃねえよ」
「いや・・行かないで・・・・」


頬をすりつけるようにして、首を左右に揺らす。


「だったら、一緒に来い」
「いや・・・よ、どうして、このままみんなと一緒にいられないの?」
「・・・なんでだろうな?」
「わからないのに、行くの?・・・だったら、行かないで」


ジェットはゆっくりと、腕を離して、フランソワーズの顔をのぞくように視線を彼女へと落とす。


「フランソワーズ・・・」




見上げたフランソワーズの瞳に移る、ジェットは、フランソワーズが初めてみる、彼だった。


「j・・・t?」


優しく、温かく、慈しむように瞳を細めて。
微笑んでいる、ジェット。








「・・・ジョーのこと、好きか?」


穏やかにやわらかく、囁くような問いかけに、フランソワーズは数回瞼を瞬かせた。


「じぇ・・ト?」
「ちゃんと訊かせてくれ、お前は、ジョーが好きなんだろ?」
「・・・」


ジェットから視線を外し、顔をそらしたフランソワーズ。


「フランソワーズ、お前はオレとは来ない。アルベルトとも、だ・・・オレたちは言ったよな?ギルモア邸に仲良しこよしで、住むつもりはないってよ。そして・・・お前が望むなら、フランスでもどこでも、連れて行ってやるってよ?・・・・覚えてるか?・・・日本から出ようって誘ったこともあったよな?」
「・・・」
「オレは、お前が戦っているとき、003として、必死で敵を探っているとき、追っているときが一番、綺麗だと思う。戦っているときのお前は、最高にいい女なんだぜ?・・・・・けどよ、ジョーはそれを認めねえんだよ」
「・・・」
「ま、お前は知らないだろうけどよ、ジョーが仲間になってそれほど経ってねえときに、アイツがお前のこと、すごく綺麗な子だって、言ってよ・・・。オレたちがからかったんことがあってよ」


ジェットは優しくフランソワーズの亜麻色の髪を撫で始めた。
再び、ジェットへと瞳をあげる。


「戦闘中、003にずっと見惚れてたのか!って・・散々な・・・。そしたら、違うって怒ったんだぜ」
「・・・・」
「003はイワンのミルクを用意しているときが、一番綺麗だっ!てな・・・。ミルクが熱すぎないか、ちゃんと分量はあってるか、ひとつ、ひとつ、きちんとイワンのために、用意している姿が、一番綺麗だってよ・・・。そのときだけは、ちょっとだけ嬉しそうに微笑んでるから、綺麗だってよ」
「・・・ジョー・・・が?」
「ああ・・・。X島を出て追われてる緊張状態の中、・・・微笑んでるお前が見られるのは、そのときだけだから、ってよ」
「・・・・」


こぼれ落ちる雫が頬を伝い、幾重にも線をひく。


「そういうヤツだから、好きになったんだろ?・・・ジョーのそばだから、どんな戦闘中でも、笑ってられるんじゃねえのか?・・・そうだろ?おまえを不安にさせねえために、ジョーは、いつもお前に笑いかける。・・・それに、答えるように、微笑み返すじゃねえかよ・・・、初めて見た時、オレはぶん殴ってやろうかと思ったんだぜ?戦闘中になにを、ニコニコ笑いあってんだ!って・・・な・・・」


髪を撫でていた手が、フランソワーズの雫を拭う。





フランソワーズは瞼を閉じる。

そう・・・。
どんなときでも。

彼は、微かに、その口元を弛ませて、言う。


”大丈夫だ、003”














「・・・ジョーは、よ・・・魔神像に飛ばされる前でさえ、お前のために笑ったんだぜ?」


ジェットの手がフランソワーズの涙で濡れた頬を包む。


「オレが・・・オレたちなんかいなくても、たった1人、お前のためだけに微笑んでくれるヤツがいれば、いいだろ?・・・・フランソワーズ、ジョーが好きか?」
「・・・・・」
「訊かせろよ、好きなんだろ?」


ぼろぼろと溢れる、涙。
触れられた頬に、ジェットの気持ちが伝わる。


「・・・本当の、・・・お前で、フランソワーズが、フランソワーズでいられる、最高に綺麗に微笑むお前でいられるのは、ジョーの前だけだって、それはとっくの昔に、わかってんだ・・・」








ここにも一つ、フランソワーズが見失っていた、見つけられなかった想いがあった。





















「好き・・・・・・。私、ジョーが・・好きなの・・」

「やっと、言えたな・・・フランソワーズ・・・すっげえじゃん!」

















ジェットは親指を寄せて彼女の涙を拭い、その額にキスをひとつ贈った。



「・・・・・ちゃんと気持ちを伝えろ、いいな?時間がかかってもいい、焦る必要なんてねえ、けど、ちゃんとオレに言ったように、ジョーに伝えろ。アイツに振られたら、オレがこの足でお前を迎えに来てやる!!っつーか、アイツをまた宙へ連れてって今度こそしっかりこんがり燃やしてやるからよっ!!」



ジェットは、泣き止まないフランソワーズを、そっと再び腕に抱き、亜麻色の髪を撫で続けた。



「オレたちは、永遠に離れねえ。たった9人の仲間だぜ?物理的な距離なんか問題じゃねえだろ?」
「でもっ・・・・・・でも・・・」
「お前には、ジョーがいる・・・。信じろ、オレの、この002様のことをよっ!それによお・・・いますぐどっかにいっちまうわけじゃないんだぜ?」
「っh・・・っん・・・わかってるわ・・・わかっ・・・わかってるわ・・だけど・・」
「ったく、そんな調子で、どうやってさくらと戦うっつうんだよ?」


突然出て来た名前に、フランソワーズはジェットの腕の中から顔を上げて見上げる。


「フランソワーズが負ける訳ねえだろ?なんたって、お前は003なんだぜ?」
「・・・」
「篠原の事も、ちゃんとしろよ」
「・・・・当麻、さんの・・こと」
「わかってるよ、みてりゃあ、お前がちょっとばかしはあいつに惹かれてるくれえわよ・・・。でも、それは一時的なもんだぜ?言っておいてやるよ、お前は逃げてんだよ、ジョーのことが好きすぎて、それを言えねえまんまで、その思いを散らすために、当麻を使ってんだぜ・・・」
「・・ひど・・・い、わ・・・そんなっ」


白い手がジェットの胸を押して距離をとる。


「人間なんて、そんなもんだろ?・・・ジョーにむけられなくて溜まった思いを、都合よく現れた篠原で解消してんだよ、お前は」
「っそんなこと、」
「ないなら、とっとと、期待させるようなことしねえで、振りやがれ、アンタなんて、爪の先にほども想ってねえってよ」
「・・・・・」
「怖がるな、・・・人を傷つけないで生きて行くなんて無理なんだからな!お前の甘い考えだぜ、欲しいものがあれば、掴みたい何かがあるなら、人を蹴落として、傷つけても、掴み取れっ相手をかまうな、自分だけを見てろ」
「っ・・・」
「そして、踏み台にした奴らの分まで幸せになれ、なるんだよっ、ならなきゃなんねえんだよ!」


ジェットの胸に押されたフランソワーズの手を、握る。


「ジョーを想っているだけでいい、なんて、馬鹿な考えで諦めるな。この手が誰かを傷つけたなら、オレが全部そいつらの、恨みつらみを引き受けてやる、篠原に言え、さくらに言え、そしてジョーに伝えろ」
「ジェット・・」


握った手を離して、一歩、フランソワーズから離れた。


「・・・・なあ、フランソワーズ」
「ジ・ぇ・・」
「ジョーじゃなきゃ、許さねえぜ、オレは・・・・・なあ!オッサン」


ジェットの声に、振り返ったフランソワーズ。
彼女が泣いていたことを、いく筋もの光る路が証明し、アルベルトが苦々しく口元を歪めた。


「いい加減に戻ってこい、・・・怪しまれるぞ?」
「で、オッサンが迎えにきたのかよ?なんで、ジョーじゃねえんだ?」
「・・・ジェロニモを送っていったからな」
「え?」


2人へと足を進めたアルベルトは、フランソワーズの肩に手をぽん、ぽん。と2度やさしく触れて置いた。


「ジェロニモは邸へ戻って、オレが回収したビデオとリストの整理をする・・・、あのまま邸を無人にしておくのもな、何もないとは思うが、躯が空いたなら、戻らせるのがいいだろう」
「車じゃねーじゃん、こっちに来たときよ」
「レンタカーだ」
「は?んなもん、いつ・・・」
「もしもに備えて、向こうのホテルに2台、いつでも自由に使えるように借りて・・おい、・・・トリ。ミーティングでの話しを聞いていなかったのか?」
「あ?んなこと言ってたか?」
「・・・フランソワーズ、このトリと話すだけ無駄だ」
「アルベルト・・」
「泣くんじゃない」


ひんやりと、冷たい手がフランソワーズの雫を払う。


「んじゃ、篠原センパイ一人かよ?ったく、アブねえじゃん、いくぜ、オレ!」
「篠原当麻は部屋だ」
「OK」

ジェットがホテルの正面エントランスへ向かって歩き出した。


「フランソワーズ、オレはお前さんを置いて行く訳じゃない」
「・・・アルb」

フランソワーズの肩を抱いて引き寄せ、ジェットの後を追うように歩き出したアルベルト。


「戻れる邸があるから、旅立てるんだ・・・。あの邸はオレたちの家だ。どこへ行こうとも、オレたちが帰る場所は、ギルモア博士が、ジョーが住む・・・イワンのお気に入りのベッドがある・・・そして、お前さんの焼いた菓子が喰える、あの邸だ」


ニヤリ。と、彼らしく口角を上げて嗤う。と、ジェットが2人に振り返って、に。と笑いながらウィンクを一つ。


「帰って・・・くるの・・・?」
「ったりめーだろっ!」
「ドイツへは行くが、住むのはまだだ・・・。色々変わっているだろうからな、今回は下見だ」
「土産、考えとけよ!」
「・・・絶対よ・・・、忘れちゃ、嫌よ?」
「忘れっかよ!」
「ジェットには期待をするな、3歩歩けばすっからかんだ」
「ああっs!オッサンこそ、ボケはじめんじゃねえぞっ」


甘えるように、フランソワーズはアルベルトの胸に頬を寄せた。


「もう、今までのままでは・・・駄目なのね・・・」
「止まっていた時間が流れ始めただけだ・・・人としてのな」
「とっくの昔に、だけどよ、どっかの誰かさんがのんびりしてやがるから、やっとだぜ!」







<フランソワーズ・・・、自分のために生きろ>







自分のためだけに、生きていい。
自分のだめだけに、我が侭を言えばいい。

もう、我慢しなくていい。
怖がる必要なんてない。




ここは、もう戦場じゃない。


・・・今までの分を、取り返そう。

眠っていた間の分を、戦っていた時間を、・・・・・取り戻そう。









====へ続く。

・ちょっと呟く・

23・・・23ですねえ。そして43....いえ、ここは93サイトですっ!!
第一世代フォーカスでした。
・・あ、イワンっ(汗)

さくらちゃん次回!

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あたたかな雨

注意)3がふらふらしてます。いえ、最後はばっちり93ですけれど。








珊瑚のピアスをいただいた。
その色が私らしいと言って。


こういう色のイメージなんだと、自分で不思議に思う。

その人は、こうも言った。



「・・・つき合って欲しい」



お友達だと、とても素敵なお友達になれたと、思っていたのに、そういう目でみていたのかと、少しだけショックだったと同時に、いただいたピアスの色くらいに、胸がときめいたことは、本当。


返事は、微笑む事で流す。





それは、彼が素敵な人だから。

それは、彼の中に”彼をみつけたから。

それは、私が探していた彼かもしれないから。




それは、答えが”NO”と決まっているから。







優しい彼との”未来”などあり得ないから。
私のこころは”彼”しか見ていないから。









出会いはごく自然に。

出会いはバレエ教室の帰り道。

出会いは同じ教室に通う友人の・・お兄さん。


お兄さん。と、言う響きにどうしても弱い。
その中に、ジャンを探す。



ジャンのように微笑んで。
ジャンのように甘えさせて。
ジャンのように。


私の最愛の人のように。







私を愛して。











「・・・また、出かけるのか?」
「何か問題でも?」
「いや・・別にいいが、最近頻繁に会ってるな?」
「・・・いけなくて?」
「何も言わないのか?・・アイツは」
「アイツって誰のことかしら?」
「アイツって言えば、決まっているだろう?」
「アイツじゃ解らなくてよ・・・」
「フランソワーズ・・・」


兄の”ように”私を心配してくれる、彼が言う。


「どうした、これは?」


手が伸びて来て、私の頬に触れたかと思うと、指先がふれたのは耳朶に飾ったピアス。


「いただいたの」


「そういう、関係か?」
「ただ、いただいただけ」
「・・・・いいのか?」
「私は子どもじゃなくてよ?」
「だから、心配している」


心地よい響き。


「ありがとう・・・アルベルト」










デートをする。
待ち合わせの場所は、いつものカフェ。
今日はどうしようか?と、アイデアを出し合う時間。
いつものカフェオレ。

時々ランチ。
時々ケーキ。




時々のキスを時々に拒む。














「今日は楽しかったわ、ありがとう」
「・・フランソワーズ」


いつもの駅で、いつもの言葉。
いつもの時間に、いつものように分かれる。



彼の車の中で、シートベルトを外そうとしたら、彼がアクセルを踏んだ。



「え?・・」
「もう少し、やっぱり、もう少しつきあって」
「でも・・電車が・・・・」
「なくならないよ」
「終電が・・・」
「・・・・・・・始発があるよ」













ジャンじゃない。


彼は兄さんじゃない。
















「始発なんて・・・怒られるわ」
「・・・怒られないよ」
「いや、降ろして」
「・・・・・・・ちゃんとした付き合いをしたい」
「ちゃんと?・・・どういう意味?」


彼の握るハンドル。
彼の踏み込むアクセル。


走る目的地。






そこは、彼がジャンでない、兄ではないと証明する場所。
男と女である場所。



「そんなつもりはないわ」
「じゃあ、どんなつもりで・・・会っていた?」
「・・・お願い・・・・」
「好きだから、こういうことを望むのは駄目なことかな?」


名もないシティホテルの駐車場に止まった車。


彼が私の膝に置いたキー。


部屋番号が書かれたカード。







「会いたかったの」
「・・・会ってるじゃないか」
「・・・・・・・ええ、そうよ・・会いたかったの」




兄さんに。










「ごめんなさい」
「・・・どういう意味のごめんなさい?」


シートベルトをはずした。
車のエンジンを切って、キーを外す。


ドアを開ける。
膝から滑り落ちたカード。



助手席のドアを乱暴に閉める。

車のキーだけを握りしめて、運転席を開け放したまま走る。






逃げる。
追いかけてくる。

捕まえる。
捕まえられる。









そして私は、兄を失う。




「ごめんなさいっ!!」
「フランソワーズ!」
「私っ・・・・あなたとは、そういう風には考えられないっ」
「・・・そんなっ」






また、失う。



私のジャンをまた、失う。




















珊瑚のピアスを外して。

「私はこんなのが似合うような、女じゃないのっ!」




あなたを見ていたんじゃない。
あなたの中のジャンをみていた。









タクシーを見つけるのに、とても時間がかかった。
邸に着く頃には、始発の電車が走り出した頃だった。













自室の電気がついていた。
明るくなりはじめた部屋に、その光は無駄に思えた。

一晩中いたの?




「・・・おかえり」
「ただいま」
「遅かったね?」
「・・・なかなかタクシーが捕まらなくて」
「デート、だったんだろう?」
「デート、だったかもしれないわ」
「それで?」
「・・・・・ジョーには関係ないわ」
「いい加減にしたら?」
「関係ないわ」
「誰も、ジャンの代わりなんてできないよ?」
「ジャンの代わりなんて探してないわ」


座っていた、ベッドから立上がる。
私は慌てて部屋から出て行こうとする。


「ジャンの”代わり”を探さずに、ボクの”代わり”を探せばいいんじゃない?」


ドアノブをまわす前に、ジョーが後ろから抱きしめる。
その腕を振りほどこうともがく。



「見つかる訳、ないか・・ボクの代わりなんて」



もがく私を追いつめる。








私の抵抗なんて、無意味。



キスの雨が降る。

その甘さに、私は甘える。


私が深くジョーのキスに答える。

彼が微笑む。







「我が侭だよ、・・・ボクだけで満足できないのはどうして?」









哀しみに微笑むあなたから、あたたかな雨が降る。












「あなたは”兄さん”じゃないわ」
「ボクはキミの”兄さん”になるつもりはない」
















あたたかな雨が、躯中に降り注ぐ。




「私はただ・・・」
「人であったころを思い出したい?」
「兄さんに会いたい」
「会ってどうするの?」
「甘えたい」
「ボクに甘えたらいい」
「愛されたい」
「ボクが愛してる」




あたたかな雨にさらされながら。




「ジョー・・・兄さんに、会いたいの」
「必要ない」
「忘れそうで、怖いの」
「忘れたらいい、ボクがいる」



深く、深く、あなたを躯の中で感じながら。
















「ボクはジャンを超える・・・キミの兄さんを超える・・・・ボク以外の誰も、ボク以上にキミを愛する事なんてできない!」














あたたかな雨が降る。















兄さん・・・・・・・。
もう、あなたを思い出すことも、見つけることも、出来ない私を・・許して。
















end.







*ずいぶん前に書いた掘り出しもの・・・人によっては地雷と思いアップを悩んでました。
 更新してないから、いっか~!と・・・切ないし(笑)
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ドライフルーツのパウンドケーキのために

ふと気づけば、誰もいなかった。



今日のおやつはドライフルーツのパウンドケーキにする予定。
どこに型をしまったのかしら?と、首を御菓子作り用の器具を入れた棚に突っ込んで捜していた。



「?」





ふと気づけば、人の気配がなかった。





「?」








キッチンから出て、ダイニングルームへ。
午後のまろやかな光がフローリングの床をあたためていた。



「?」



ダイニングルームから、リビングルームへ。
いつもなら午後の紅茶を楽しんでいるはずのシェークスピアの姿が見えなかった。


「あ・・・今日はお店だったわ」


そのままリビングルームを抜けて、吹き抜けの広間へ。
二階へと続く階段を見上げたとき、ざあっと波が浜辺へと打ち上げる音が聞こえた。



「・・・・?」



耳のスイッチを入れてみる。


イワンの寝息。
地下室にいるはずの博士の独り言。


聞こえるはずの、音が聞こえない。
ただ邸近くの海が一定の感覚で鳴り響くだけ。


「?」


振り返る、リビングルームのドア。
首を巡らせて見上げる二階の自室のドア。



玄関のドア。


躯をくるりと360度回転させた。









静かな、静かな、人のいない邸。










静かな、静かな、静かな邸に、響くのは波の音と、邸を覗きにやってくる午後の光。
リビングルームの壁にかかっている時計の秒針が妙に張り切っている気がした。



「?」



一歩、リビングルームに踏み出した、スリッパの音が、ぱたん。と、響く。




ざあっと、波。
かちっと、秒針。


ぱたっと、自分の足音。



ざあっと、波。
かちっと、秒針。



ぽたり。と、雫。





がちゃり。と、玄関のドアが開く。



「ただいま・・・あれ?フランソワーズ、どうしたの・・・!?」




風に揺れた亜麻色の髪。
伸ばされた腕が、彼の首にしがみつく。




「え?え?え?ええ?えええ?・・・ふ、ふ、フランソワーズ!?」









邸に響く、ジョーの声。
抱きつかれた、ちょっと特別な気持ちで観ている彼女が泣いている。



声を上げて、ぼろぼろと行く筋もの光る雫の路。



「え?な、なんで泣いてるの?!え?あ?あれ?言わなかった?・・あの、博士とイワンをコズミ博士の家まで贈っていくって・・・え?あれ?ほら、朝ご飯のときに・・・言ったよね?」


首を左右に振って、いつもとかわらない花の香りを振りまきながら、フランソワーズは泣く。






ジョーの首にぶら下がる形でしがみつくフランソワーズの肩に、そおっとジョーは手を置くと、さらに、フランソワーズは腕に力を入れてジョーに抱きついた。


耳を塞ぎたくなるほどに、大きな声をあげて泣くフランソワーズに、ジョーはどうしたらいいのかわからない。





一人にしてしまったことを、後悔した。



「ごめんね、・・・」



不謹慎にも泣いてるフランソワーズが可愛いと思った。



「ごめん・・行ってきますって・・・言ったと思ったんだけど...気づかなかった?」



恐る恐るフランソワーズの背に腕をまわして、ぽん、ぽん。と叩いた。



「ごめんね、・・・一人にしてごめん」









ぽん、ぽん。と、彼女を落ち着かすために、動いていた腕は、いつのまにかフランソワーズを抱きしめていた。


泣く、彼女。
抱きしめる、彼。



ざあっと、波。
かちっと、秒針が張り切って駆け回る。










耳を覆いたくなるほどの鳴き声は、耳を澄まさないと聞こえないくらいに小さくなった。
落ち着いたのだと、ほっとジョーは安堵の息を吐いた瞬間。


ざあっと波。





「・・・ジョーのおやつ、今日はないのっ」
「ええ?!」


胸の中で泣き枯れた声だったけれどはっきりと言い切ったフランソワーズ。


「もう、今日はないの!」


かちっと、秒針がフランソワーズの味方になった。


「でもっ・・だって・・・・さ・・・・」


躯を離して、覗き込んでくるジョーの下がった眉根を見ながら睨むフランソワーズ。


「・・・反省してる?」
「してます!」
「じゃ、キスして」
「?!」
「キスしてくれたら、おやつを作るわ・・・・慰めて」


赤がまじった葵の瞳がいたずらに笑う。




ざあっと、波。
かちっと、秒針。



おはようも、お休みのキスもできない彼にちょっとしたお仕置き。




「なんて、・・・じょうだ・・・ん、・・・・」




涙に濡れた頬に吸い付く手のひら。







ざあっと、波。
かちっと、秒針。



邸を覗き込む好奇心いっぱいの午後の光。
初めてのキスは海と同じだけ、塩辛かった。







「!!!っホントにするなんてっ!」
「え?ええええ?!」
「もうっバカっ!」
「だっっ!!って・・・」
「バカっジョーの・・・バカ・・・」
「フランソワーズ・・・」
「バカ・・・」
「・・・・・・・・バカでいいよ」





ざあっと、波。
かちっと、秒針。



静かな、静かな、人の気配のない邸。
初めてのキスは3時のおやつの、ドライフルーツのパウンドケーキのためだった。










end.




*平?!・・・でしょうねえ・・・。
 禁断症状(笑)
 思いつきで書きました・・・エディター直書き・・・見直しなし投稿っ!
 いいんです・・・今、休憩中なんで、いいんです・・・。
 横で睨まれてますけど、いいんです(苦笑)



最新のマックだから描ける・・・(涙・・・作業しなきゃ!)

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もうすぐクリスマスがやってくる。



人工皮膚に沁みこんでいく冷気。
ひんやりとした膜がはり、感覚を無くして行く。

手袋をはめていない手を、薄いジャケットのポケットに突っ込んで、肩を狭めて歩く。



通りすぎるカップルの会話が耳に残る。
街に飾られた赤と緑。
金と銀。


毎年のことながら、よく飽きないな、と、こころの中で呟いた。

繰り返す毎日。
繰り返すイベント。

何も変わらないようで、何かが去年と違うのだろう。



意味も無く陽気な雰囲気を作り出す。
意味も無く人々を宗教イベントへとかり出す。



意味がないようで、意味があるのかもしれない。
僕にとってはないに等しいけれど。






もうすぐクリスマスがやってくる。










悪さをしてぶち込まれた、塀に囲まれた自由のないカゴの中。
その日が来たと知るのは、夕食にバターケーキのデザートがつくからだ。

外に”関係者”がいるヤツは、それなりの”プレゼント”や”面会”があったりもした。

バターケーキくらいしか、縁がなかった僕にとって、その日は特別でも、なんでもない。
ただ、世の中が商業戦争を生き残るためにむやみやたらに人を煽っているだけにしか、見えなかった。









今年も、もうすぐクリスマスがやってくる。







「クリスマス・ツリーをね、買いに行きたいの」




003が言った。


彼女もそんな浮かれた、商業戦争に感化された一人なのかと、ほんの少しだけ・・・落胆したと同時に、彼女が”クリスチャン”であったことを思い出し、舌打ちした。
彼女は”本当”にクリスマスと”縁”がある、人間だったんだ、と。


「いいよ・・・・、週末は人が多いだろうから、平日にしよう」


まだ日本に慣れていない003を、1人で運転させるわけにはいかなかった。
最新のカーナビよりも頼りになる、”眼”と”耳”があったとしても、現在のコンピューター以上の働きをこなす”補助能”があったとしても、だ。

デパートメントのイベント用会場となっている8階は、クリスマスデコレーション一色になっていた。
平日の昼間と言うこともあって、それほど人の姿もない。

派手に飾り付けられたそこが異質に感じたのは、僕だけだろう。
隣にいた003の瞳が大きく輝いて、クリスマスデコレーションと同化していた。


あれも、これも、可愛い!とはしゃいで、手にとっては僕に見せてくる姿は、正直に言えば、可愛かった。
そして同じくらいに、・・・・うざい、とも思った。


クリスマスを祝うことは、ある人の誕生日を祝う事。
自分の誕生日も満足に祝った事も無く、祝ってもらった記憶もない僕が、あったこともない”神”の誕生日をなぜ祝う必要があるんだろう?


神は一度だって僕を祝うことなどない。



この躯にされたときさえも。
カゴにぶちこまれたときも。

血のつながった人に捨てられたときも。





一度だって、その手を差し伸べてはくれなかったヤツを、どう祝えっていうんだ?










「何がそんなに楽しい訳?」


レジ先で受け取った品々を手に、デパートメントの屋上駐車上へと向かう途中、ノンストップでかかるクリスマス・ソングに頭がおかしくなっていた。


「え?」
「だから、クリスマスの何がそんなに楽しいの?」
「・・・・だって、クリスマスだもの!」
「答えになってないよ」
「009はクリスマス、楽しくないの?」
「楽しくない・・・日本人だし」
「あら!日本人だってとおおおおっても楽しんでいるわ!」


ほら!と言うように、屋上から見下ろす街を指さした。




003の眼には見えているのだろう。
浮かれる街を。
飾られた赤と緑。金と銀。


003の耳には聞こえているのだろう。
陽気なクリスマス・ソングが。
人々がプレゼントの相談をする声が。


だから、003も楽しいのか?



止めていた、乗用車のトランクをキーについているボタンを押してあけた。
ピピ!っと、電子音がロックを解いたと知らせる音と同時に、がこん。と、トランクが開く。


「・・・だって初めてなんですもの!」


両手に持っていた荷物を003は丁寧にトランクの中へと入れていく。


「なにが?」


彼女の手に荷物がなくなった後、僕も両手に持っていたものをトランクの中へ投げるように放り込むと、003がそれをきちんと整頓していった。


「クリスマスに1人じゃないもの!」


003は、トランクに突っ込んでいた頭を僕の方へとむけて、微笑んだ。


「・・・・・・1人じゃない?」


腕を伸ばして、トランクのドアを閉めようとする彼女の代わりに、僕がトランクを、ばん!と適当に閉めた。


「ええ、初めてなの!・・・・1人じゃないクリスマス」
「・・・・初めて?」
「・・・言ってなかったかしら?」


003が僕から離れて助手席のドアを開けた。


「聞いたことないよ・・・どうして、1人?君には・・・」


運転席のドアを開けて、乗り込むと、003も同じタイミングで助手席に着いた。


「兄がいたわ・・・でも、私は覚えてないもの、両親と過ごしたクリスマスがどんなだったかなんて・・・・」


僕よりも、先に003がドアを閉めた。
2秒ほどの差で、運転席のドアも閉まる。


「覚えてない、の?」
「小さかったの・・・両親が事故で亡くなったとき・・・・・死んだって言う事も理解できてなかったわ、きっと」


003がシートベルトに手をかけて、とまった。


「でも、お兄さんが・・・」
「初めから2人で暮らしていたわけじゃないの。・・・兄が経済的に私を養えるようになるまでは、私は親戚の家に預けられていたのよ、そこは・・・あまり裕福ではなかったわ。私は”仕方なく”の子で・・・クリスマスは・・・居ずらくて、申し訳なくて、お友達にのパーティに招待されたの、って言って、・・・・・教会に逃げてたわ・・・神父様も私の環境をご存知で・・・ミサが終わった後も、教会にいさせてくださったのだけど、ずっと1人だったわ」


しゅるっと、シートベルトが伸びて、かちん。と、金属音がなる。


「兄は1日も早く私を引き取りたくて・・・軍に入って、でしょう?・・・兄と一緒に暮らし始めても・・・簡単には家には戻ってこなかったの、クリスマスとかは、ね。”家庭”を持っている人が休暇を得るのを優先されたのよ、だから1人。で、クリスマス・ツリーも買えるような、余裕もなくて・・、すごく嫌いだったわ!」
「!」
「クリスマスなんてなんであるんだ~~~~~~~~~!!って、パリのクリスマス市のど真ん中で叫びたかったの!」
「それで・・・叫んだり、したの?」
「あら、よく解ったわね!」
「・・・・え?」
「そう、叫んだの!」
「・・・・本当に?」
「ええ、クリスマスなんて嫌いっ大嫌いっ!って」
「・・・・・で?」


003はクスクスと笑いながら、僕の方を見た。


「そしたらね、拍手喝采!」
「は?」
「そうだよね!プレゼント代だって馬鹿にならないよ!とか、毎年料理大変なのよ!とか、私振られて今年は1人よ!とか、みんなクリスマスに対する不満が次々に、おもしろかったわ!」
「・・・・・・」
「・・・淋しくて、泣いてたの・・・。今にして思えば、とっても恥ずかしいわ!!・・・ほんと、やんなっちゃう!ああっもうっ!009が変なこと言うから思い出しちゃったわっ」


両手で顔を覆う。
耳まで真っ赤になっている、003を見つめた。


「・・・嬉しいの」
「嬉しい?」
「だって・・・1人じゃないもの、今年は」
「・・・」
「ジャンがいなくても・・・・・・・私、1人じゃないもの」
「003?」
「だから、夢だったクリスマスがしたくて」
「・・・夢?」
「クリスマスツリーを飾って、暖炉に靴下を並べて、たくさんお料理を用意して、クリスマス・ソングを飽きるくらい聞いて、ちゃんとイブの夜には、ミルクとクッキーを用意して寝るの・・・。朝起きて、エッグノッグ・ラテを飲んで、お昼からケーキを食べちゃうのよ!チキンも、ジンジャークッキーも・・・カードからもクリスマス・ソングが流れて、・・・・・・変よね・・」
「・・・なにが、変?」
「人だったころに、あれほど・・・・夢みていた”クリスマス”が、人でなくなった今・・・・だもの」


顔を両手に隠したまま、003は動かない。
僕は右手で、シートベルトを引っ張り、かちん。と、それを止めて、車に鍵を差し込んでエンジンをかけた。


「・・・泣かなくても、いいだろ・・・・・」


ハンドルを切って、後方を確認しながら駐車場を出るために、車を走らせた。

珍しく、人がいた。
駐車券を確認する、年老いた男は、助手席で両手で顔を覆う003の様子を窺うように腰を曲げると、余計な一言を残す。


「ケンカかい?クリスマス前だ、早く仲直りしなよ!」






その声に、003の肩が揺れて、ごめんなさい。と、呟いた。


「お兄さんに、会いにいけばいいだろ・・・今ならちゃんと2人でクリスマスできるのに・・・・なんでフランスに帰らないの?」
「・・・・・・会えるわけないわ、こんな躯になって」
「でも、ちゃんと説明すれば・・・」
「説明して、”もしも”が起きたらどうするの?」
「もしも?」
「・・・・・・・・サイボーグの身内とわかって、得になるどころか、ジャンにどんな危険が」


会話はそこで止まったまま、車はギルモア邸へと走る。
シートに背を預けて、首だけを窓側へとむけてしまった003は、今、泣いているのかどうかは解らない。










「・・・クリスマスで、僕がしたかったことは」
「・・・・?」
「僕が、夢みていたこと、は・・・・・・。クリスマスツリーでも、ケーキでも、・・・賛美歌でも、なんでもないよ」


動かないままに、003は答えた。


「・・・じゃあ、何?」
「どうだろう?」
「?」
「君の夢にまでみた、クリスマスの協力をするから、僕がクリスマスにしたかったことを、協力してくれる?」



ギルモア邸裏にある車庫へと入れるまえに、一度ブレーキを踏んだ。
003が、ゆっくりと僕を見る。




すこしばかり、涙で滲んだ瞳が、綺麗だった。


「なにを協力すればいいの?」
「・・・・・・・003じゃないとできないこと」
「?」


不思議そうに、首を傾けた。


「サイボーグにならなかったら、会えなかった」








今年は、祝ってもいいかもしれない。
あなたの祝福があるならば。

















今ここに、勇気を持って伝えたる言葉を、彼女が受け入れてくれるなら。




















「日本のクリスマスは、家族よりも”恋人”のためのイベントって知ってる?」




みんなとクリスマスを楽しもう、キミが望むように。
けれど、ほんの少しの時間でいい。


僕のためのクリスマスが欲しい。






「・・・・・憧れていたんだよ、家族のいない僕にも、いつか・・・大切に、・・・その、・・・いつか恋人と一緒に過ごせる、あたたかなクリスマスが迎えられる日がくるかなって」













人工皮膚に沁みこんでいく冷気。
ひんやりとした膜がはり、感覚を無くしていく。

手袋をはめていない手を、薄いジャケットのポケットに突っ込んで、肩を狭めて歩く。





「も!またそんな薄着っ風邪ひいちゃうわっ」


バレエ教室へ通う彼女と、いつものデパートメントで待ち合わせをした。


「平気」
「駄目っ・・もうっ・・・今年はジョーに手袋ね!」


003の・・・フランソワーズの腕が僕の腕に絡んで、ポケットの中で手を繋ぐ。


「いらないよ、・・・それよりフランソワーズ、キミの手袋は?」
「ここにあるじゃない!」


ポケットの中の、彼女の手の力が・・・。


「・・・・じゃ、僕もいらない」
「今年はジョー、何がいい?」
「別にいいよ・・・・」
「駄目よっ!せっかくのクリスマスなのよ!」
「じゃあ、フランソワーズは?」
「そうねえ・・・今年もみんなと一緒がいいわ!」
「・・・・・たまには、2人きりでって考えてくれないの?」
「いやね!私の夢を壊さないで、意地悪だわ!」
「じゃあ、僕のはどうなるわけ?」
「私もいるじゃない、ジョーの夢もちゃんと叶えられてよ?」
「だから、確かに”みんな”の中に、キミも、いるけど・・そういうのは、そろそろさあ・・・・」
「ジョーのH!」
「・・・・・男ですから」
「もうっ、しっかりそういうところだけは”日本”のクリスマスに従うのね?!」
「日本人ですから」
「H!」
「・・・・・フランソワーズ、別に、”そういうこと”を目的で言ってるつもりはないんだけど」
「え?」
「フランソワーズのH・・・・。そんなことばっかり考えてたんだ?」


にんまり。と、僕は笑う。
ぼん!と、フランソワーズの顔が紅くなる。


「ん。わかった・・・じゃあ、僕からのプレゼントは、24日からの一泊二日のホテルだね、みんなと過ごした後なら、ディナーはいらないし。さて、どうやってみんなに知られないように邸を抜け出すかが問題で・・・あ、帰ってくるのもか・・・朝が早いのはゆっくりできなくて辛いね?」









通りすぎるカップルの会話が耳に残る。


「ジョーっ!やだっ、そんなプレゼントなんてっ」


街に飾られた赤と緑。
金と銀。


「落ち着かないよね・・・やっぱり。じゃ、クリスマス後でもいい?プレゼント・・・」



毎年のことながら、よく飽きないな、と、こころの中で呟いた。


「後?」




繰り返す毎日。
繰り返すイベント。





「ん、その方がホテルも予約取りやすいだろうしね」







何も変わらないようで、何かが去年と違うのだろう。




「!!」





意味も無く陽気な雰囲気を作り出す。
意味も無く人々を宗教イベントへとかり出す。



そんな人々の仲間入りをした、僕。




「みんなにも言い訳できるしね、色々と。・・・僕たちだけクリスマス、伸ばそうか?」
「もっ!なんでそんな風になっちゃうの?!」
「それだと、奮発してスイートとかにできるかもよ?」
「だからっジョーっ!」
「ルームサービスで、部屋で食べるのってどう?」
「ジョーっ!!」
「決めた!今年のキミへのプレゼントは、それにするよ。みんなの手前、一応当日のプレゼントは何かのカードでいい?」
「ちょっと!」
「じゃ、今から、どこのホテルがいいか探しに行こうか♪」





意味がないようで、意味があるのかもしれない。
キミと言う大切な人がそばにいてくれるから。




クリスマスと言うイベントが少しだけ待ち遠しい。




「ホテルのリクエストは?」
「・・・勝手だわ!」
「じゃ、僕が決めちゃうよ?」
「っ!・・・・・・ディズニーオーシャンズのホテル・・」
「ああ、はい、前にキミが・・そっか。それならみんなにも言い訳できるし、遊べるし。・・なんだ、しっかり決めてたんだ、フランソワーズのH♪」
「ばかあっ!!もうっジョーのプレゼントなんて用意しないんだからっ」
「いいよ、なくても・・・」







もうすぐクリスマスがやってくる。


「1人じゃないなら、・・・キミがいてくれるだけでいいから」





僕とキミだけの2日延びたクリスマスがやってくる。





end.










*歩いていて、クリスマスの飾り付けを眺めてました。
 もうバーゲンしてるのねえ・・・サンクスギビング前なのに?!

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ルームライトを落として、暖房さえも入っていない部屋に響く音は、10本の指が 忙しなく打ち続けるキーボードの音。 青白いモニターの光が浮かび上がらせるのは、それを使いこなす人。 警備員なんていない、雑居ビルの4階に1人。 校了前でもなんでもないのにも関わらず、その日はそこに居座った。 彼専用ではないデスクとチェア。 パートタイムの人間が共同で使うために用意されているそこに、彼の名前が書かれた 鍵付きの引き出しが一つ。 彼がこの雑居ビル内にかまえる出版社に関わる人間である、唯一の表記。 ラップトップの傍らに置いていた、マグに手をのばす。 とっくの昔に飲み干してしまった珈琲の薄シミだけが、目にはいる。 冷たいマグを片手に取って、立上がる。 編集長、・・・彼の上司のデスクの後ろにある、窓のブラインドを一気に引っ張る。 ざあああっとぶつかり合うプラスティックの音。 かち。と、金具が細く、薄汚れた紐をホールドする。 薄氷のように冷たくなった窓ガラスに、映りこむ彼の姿。 スクープを得るのに、一番簡単な方法が頭をよぎる。と、薄く口元だけが 引き攣った。 見下ろす車道は車の行き来も無く、信号機が誰のために点滅して色を 変えているのかわからない。 そこに”居ないはずの”人がいて、その人のために点滅しているのかもしれない。 と、想像してみる。 想像してみる。 こちらのビルに向かってくる人。 十字路になっている、その一つの信号機のボタンを押す指の先が 桜貝色につるりとしている。 柔らかに光りを弾きまとう、髪の色は、紅茶におとすハチミツのように、 ほんのりとした甘さを感じさせて胸をくすぐる。 華奢なラインを描くかかとがこつこつとアスファルトを叩く。。 信号が青になるのを待っている間、プレゼントした、腕時計を何度もチェックする。 腕時計から視線を離して、見上げるのは、信号機のちょうど真上にあたる ビルの4階の・・・この窓。 数回、瞬きを繰り返し。 眩しげに瞳を細めて。 声に出さない口の形だけで、呼ばれる。 わたした原稿を上司が読んでいる間、さりげなく窓によって見下ろしたそこに、 彼女が待ち合わせの時間よりも早く来たことを知り、嬉しい気持ちと、 焦る気持ちがまじりあい、奇妙な顔つきで、上司の言葉を受け取る事になる。 時計の針が昼を指す。 いくつかの手直しの指示を赤ペンで書きなぐられた、それを受け取って。 受け取ったにも関わらず、それを名が記されたデスクの引き出しに投げ入れる。 エレベーターを使用するよりも階段の方がはるかに早く、1階まで辿り着けることを 知っているから、ちょっとだけ人ではない力を使ってズルをして、急ぐ。 こつん。と、窓におでこを押し当てて。 その冷たさに背筋がすこし震えた。 持っていたマグに視線を落とす。 空っぽのマグのように、自分も空っぽであることを感じた。 打ち続けていたキーボードがモニターに表す言葉は、上司に見せるために 書いているものではない。 この窓を見上げてくれる瞳に映るためのもの。 窓に映る自分に聞いてみる。 「好きなくせに・・・」 言葉にできないなら、文字にしようとする単純な思考回路は、今現在を生きる 科学者たちが必死になって開発しようとしているものが詰まっている。 恋愛に関してまったく役立たずなそれは、先の未来には、少しはましな情報と 判断を下してくれるようになるのだろうか? 車が走る音が、時折、彼の耳に入ってくる。 パリに帰ると言った彼女を。 お兄さんがいるし、そうした方がいいよ。と、聞き分けよく見送った、彼。 彼女から送られてくるメールに、まだ1度も返信していなかった。 けれども、”下書き”のフォルダには、彼女が送ってくれたメールと 同じ数が記されている。 何度書いても、考えても、連ねた言葉の情けなさに、送信にカーソルを 合わせることなんてできなかった。 はあ。と、溜め息をついた、白が窓に張り付く。 じわじわと小さくなっていく白にまた、はあ、と息をふきかけて、 情けない自分の姿を消してから窓から離れた。 き。と、ブレーキを鳴らして、どこか、彼がいるビル近くで車が止まった。 耳にしたそれを気にもとめずに、彼は珈琲サーバーがおかれている2畳ほどの スペースもない給湯室へと入った。 ばたん。と、タクシーのドアが閉まり、走り去る。 邸に帰っても、まだ彼が仕事先から帰っていない事を聞かされて、 帰ってくるかどうかもわからない状況に業を煮やした。 ビルのエントランスが、閉まっているのはわかっている。 小さなそのビルに警備員なんて、便利な人はいない。 車が通らない真夜中の車道を、律儀に横断歩道の信号機が青に変わるの待つ彼女。 華奢なラインを描くかかとをこつこつと鳴らして、早く、早く!と睨む信号機。 そのまま視線を上に上げて、6階建ての雑居ビルの窓を数える。 ブラインドがあげられた、4階の窓に視線を固定させたところで、 瞳を細めて呼びかける、名前。 彼女はちょこっとだけ、人が持ち合わせていない”機能”を使ってズルをする。 唇が形作る音は、彼の脳に直接届けられる。 <ジョーっ!> 駆け下りる階段。 駆け降りるというよりも、飛び降りる。が、正しい。 <フランソワーズ!!!> 戦闘用マシーンとして作られた機能を、恋愛に役立たせようとするボクらは、 ずっと先の未来を生きていると思わない? それを使う人間の上手い、下手はあるかもしれないけれど、ね。 たった1人の人と向き合うことができなくて。 たった1人の人に自分の気持ちを伝えられなくて。 なにが最強? もっと上手くそれらを彼女のために使いこなせるようになったとき、ボクは本当に ’地上最強”のサイボーグになるのかもしれない。 送る事ができなかったメールは、彼女に読ませることなく、 ボクの補助能が勝手に記録する。 end. *ええっと、何が書きたかって言うと、わかりません。  おかしいな・・・、連載もののプロット中だったはずなのに(笑)   題名もおかしい...思いつかなかった。

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おやすみが言いたくて/京都・嵐山2泊3日の旅・2
保津川で出会ったオオガミにフランソワーズは誘われて、初めての温泉にチャレンジすることになり、ジョーも同じく宴会(夕食)前に湯を楽しむことにした。

誰しも同じ考えらしく、湯は学生たちで賑わっていた。



隣の湯にいるフランソワーズの方もそうなのかもしれない。と、ふと、不安になる。




フランソワーズにとっては、初めてのパブリック・バス。
海やプールとはまた違う。


脳波通信で、彼女に声をかけようか、ジョーは迷う。


なるべく緊急でないかぎりは、この旅で”サイボーグ”である能力は使わないでいようと、旅に出る前に彼の中で決めていた。
そういう小さなことが、きっとフランソワーズのためになる。と、信じて。







1人、室内の湯に浸っていたジョーに、後から入って来た同室であるセミナー生の岸辺が露天の方へいかないか、と誘われた。
その誘いに頷いて、移動する。


「おお、島村!」
「あ、湯田さん・・・」
「噂をすれば!だな」
「噂?」
「隣に、来てるだろ?アルヌールさん」
「え?」


ジョーはさっと、露天風呂のまわりに視線を走らせた。
無造作に岩で囲われて、自然のままの状態に極力手を加えないように作られた露天風呂。
山の傾斜から護るように竹の柵で囲ってあるのみで、空の青を隠すものはない。

全体的に楕円の形をしていると思われるが、その中央を分断されて小枝で隙間無く編まれた簾が立ち、、アルファベットのDの文字のような形に見える。


「・・・ここ、もしかして・・元々はひとつの湯です・・か?」
「みたいだな、こっちとあっちをわけているのは、あの簾で・・、小枝を使って編んだもんなんて、粋だなあ・・・」


『トロッコ列車?』
『そうよ、そこにほら、見えるかしら?』


「フラン?!」
「よく聞こえるだろ?」


湯田が笑う。


足を進めて、湯田の前に腰をおろしたジョーは耳を澄ます。と、オオガミと一緒に温泉を楽しむフランソワーズの声が聞こえてくる。
向こうはこちら(男湯)ほど人がいないらしい。

聞こえてくる声は、フランソワーズとオオガミの2人。


「さっきまで、水沢や稲葉、に原、と・南川とか、けっこう居たんだけどな」
「そうなんですか?」
「みんな宴会前にひと風呂って考えるのは一緒みたいですね。でも、島村さん遅いですよ!」


露天へと誘った岸辺が言う。


「そういう、お前もだろ?」
「遊覧船を1つ乗り過ごしちゃったんで」
「なんだ、出てたのか?」
「ええ、こっちに友達がいるんです」
「へえ、地元こっち?」
「中学まで」
「そうだったのかあ・・・でも関西弁じゃないな?」
「使い分けれるんですよ!関西人は」


湯田と岸辺の会話を聞きながらも、ジョーは簾の向こう側から聞こえてくるフランソワーズの声を意識する。
聞き取り辛い音量であるが、”人”でない彼にとってはさほど問題ない。


その会話の様子から、彼女からは昼間のホームシックの名残はなく、こころからオオガミとの湯を楽しんでいるように聞こえて、ほっとする。


『亀岡までのんびりと列車に乗って、そこから川を下ってこちらまで戻ってくるのよ、川下りしたことある?』
『川下り・・・』



どうやら、湯から眺めることができる列車に興味を持っている様子で、オオガミが細かくフランソワーズに説明している。
トロッコ列車専用の嵐山駅から亀岡まで。そして亀岡から保津川下りをすることを進めていた。


『そう、川下りよ!』
『・・・・似たような経験は・・・・・』


フランソワーズの解答に、思わず思い出すミッションでの出来事。
それとは全く違う!と、突っ込みたくなる、ジョー。

川を下ったんではなく、あれは川に飲み込まれて・・・。と、こころの中で呟く。



「島村?」
「・・あ、はい!」
「なに、ニヤニヤしてんだ?」
「え?!」


ごまかすように、両手で湯を救い上げて顔にかける。


「ははあ~ん・・・」


湯田が意味有り気に笑う。


「な、なんでもないです!」


そんな2人のやり取りに割って入る岸辺。


「極新空手の黒帯有段者の、湯田さんはわかるんですけど、島村さん、いい体してますねえ・・」
「え・・・、そうかな?湯田さんに比べたら・・・」


ジョーは鍛え上げられた、湯田を見る。


「うん、島村の躯はいいなあ・・・お前のは、オレのと鍛え方と違うって言うか、無駄な筋肉がないなあ、何かスポーツをしていたのか?水泳とも違うし、体操競技とかそっちとも違うよな?」


湯田は腕を伸ばして、ジョーの二の腕を掴むと、押すようにして、彼の背を見る。


「・・・・モータースポーツを少し」


首だけを湯田にむけて言った。


「モータースポーツ?」
「F3で、見習いドライバーをしていた時期があります」
「ドライバー・・・へえ、初耳だな」
「ここにいるってことは、才能がなかったってことです・・・。それにほんの少しの間でしたし」


躯の向きを元に戻しながら微笑み、ゆっくりと露天の湯に躯を沈めながら、過去、夢中になったその世界のことを思い出す。
戻ろうと思えば戻れたが、拘束される時間とその自由が利かないスケジュール、そして、補助脳がはじき出した”危険性”のパーセンテージに素直に従うことにした。


「車、好きな理由はそこか」
「運転も好きですけど、・・・いじるのもですよ」
「改造しまくってんもなあ、お前の」
「あ、わかります?」
「叔父夫婦が整備工場経営してるって言わなかったか?高校時代はバイトしていたから」
「そうでしたね!・・・なんて言うか当時の名残で、・・トレーニングは続けてるんです、なんとなくですけれどね」
「元レーサーか・・・いろんな意味で、・・・モテるはずだな」
「は?!」


再び、にやにやとした笑いに変わる、湯田。


「島村さん、格好いいですもんね・・元ドライバーなんて、モテるネタが増えましたね・・」
「そんなことないよ、普通!!」


はあ・・・と。深く溜め息をついて見せたのは、岸辺。


「いいなあ、島村、・・・その顔に、その体に・・・」
「!」


2人の視線がジョーの顔から徐々に下がっていき、湯に隠れた・・・。


「どこ見てっ!っ見るのはあっちっ!!!!」


ジョーは京の山々を指差す。が、誰一人そちらへ視線を向ける者はいない。


「お前、ハーフだったな?やっぱそこは日本人してないんだなあ。ご両親に感謝しろよ!!」
「!」

ばしばしと、ジョーの背を叩く湯田の力具合がいつもより強く感じたのは、ジョーの気のせいではない。


「いや、ぼくから言えば、湯田さんも島村さんも同じくらいにムカつきます!!」


色白でひょろりとした体系の岸辺が文句を言う。
気がつけば、隣の湯からいつの間にかフランソワーズの声が聞こえなくなっていた。














***


「フランソワーズ?」


湯からあがって荷物を置きに一度部屋へ戻ると、部屋前に湯上がりのフランソワーズが居た。


「ジョー!」
「どうしたの?・・・なんでここに、せっかく温泉で温まったのに冷えるじゃないか!」
「見て!着せていただいたのっ」
「オオガミ教授は?」
「お座敷へ行かれたわ!」
「なんで、キミも一緒しないんだよ?」
「・・・・・・・だって」
「廊下にいたら風邪引くよ!」
「大げさだわ、ジョー」


女性用の浴衣に薄桃色の丹前を着て、いつものカチューシャ姿ではなく、バレッタでひとつにまとめた髪。
後れ毛がまだ濡れていて、真珠色の細い首に流れている。

いつもと違うフランソワーズにたいして、心臓が五月蝿い!と、自分で自分を叱る勢いが、そのままフランソワーズに向かってしまう。


「大げさじゃない!ちゃんと髪渇かした?」
「も!アタシは子どもじゃないわ」
「キミが風邪引いて怒られるのは、ボクなんだから!」
「大丈夫よ!」


2人のやり取りを聞きながら湯田は笑いをかみ殺し、ジョーに足りない言葉を足す。


「アルヌールさん、よく似合うよ、温泉浴衣。可愛いね」


ジョーの斜め後ろに立っていた湯田、そして岸辺に、気づいていなかったのか、フランソワーズはびっくりした様子で、ぱちぱち。と、瞬きすると、湯上がりの頬をほんのり染めて微笑み、両手をぱっと胸元によせ、その手に顔を隠すようにして上目遣いに湯田を見る。


「あ。ありがとうございます・・」


なんとも可憐なリアクションに、湯田の頬が弛み、岸辺の顔が茹で上がった。
女心がわかっていないジョーを湯田がさりげなく肘でつつく。


「フラン、ボクだって浴衣だよ?」


湯田に褒められて恥ずかしがるフランソワーズの反応に、少しばかりジョーはむっとする。


「・・・張り合ってどうするんだ?島村」


褒めてやれ!と、言う意味を込めた肘が、またジョーの腕をつつく。
岸辺はくくく。と、鈍いジョーに対して笑った。
彼のこういうところが、同性からみても面白いと思えた。

セミナー生である岸辺は、ジョーがどれほど大学内でモテるのか知っている。
その彼にどれだけの女生徒が憧れていることも、そして、さりげなくアピールをしている場面にも何度も遭遇していた。
しかし、結局、ジョーはジョーで、その人の良さと朴念仁具合が同性内では受けていた。


「ジョーは似合って当然だわ!」
「どうして?」
「だって日本人ですもの!」
「日本人でも、半分だよ。似合わないかもしれないだろ?」
「大丈夫よ、ジョーだもの!」
「だから、どうしてそうなるんだよ?」


2人の会話が続く中、部屋の鍵を開ける湯田。そして、それに続く岸辺。
同室である、もう1人のセミナー生の姿はなく、ドアを開けると、そのままジョーも岸辺に続き、フランソワーズも部屋へと入って行く。


「ね」
「なに?」
「いつするの?」
「何を?」
「ほら!」
「?」
「御代官様!」
「は?」


ジョーは突然出て来た単語に、目を白黒させて、フランソワーズを見た。


「ご無体な!あ~れ~!!くるくるくるっって!」
「?!」


手に持っていた衣類を畳に落とす。


「な・・・に・・…?」
「だって、”しないと駄目”なんでしょ?」


フランソワーズの発言に、湯田、岸辺が2人を、いやジョーを見る。


「島村さん・・・そういうことを教えてるんですか・・」
「いやあ・・人の勝手だけど、一歩間違ったら犯罪だぞ?・・・そうかあ・・・そういう趣味があったのかあ、いや、あれは一種のロマンだがなあ」
「違うっ!ちがっ!!!!フランっそんなこといつ覚えたんだよっ!?ボクは言ってないしっ!って言うか、なんでそんなこと知って?!」
「あら、温泉で浴衣を着たら、絶対はやらないといけない儀式だって・・・・だから、ちゃんとジョーにしてもらいなさいって・・・」
「「島村(さん)・・・」」


湯田と岸辺の呆れた視線がジョーに刺さった。


「ボクが言ったんじゃないっ!!してもらえって?!誰がキミに言ったんだよっ!」


必死で汚名を晴らそうとする、ジョー。
彼の頭にはある人物がのニヤリと嗤う顔が浮かんでいる。


「アルベルトよ!」
「!」

当ったこと自体が泣きたいくらいに、腹立たしい。
いつ、どこで、ドイツに居る彼がそんな情報をフランソワーズに与えたのだろうか。


「してもらえなかったら、今度ちゃんと誰かがしてくれるように頼んでくれるんですって」
「っ!!!」
「ジョーがイヤならいいわ、他の人でも問題ないみt」
「イヤとは言ってないっ!!!!!」
「やっぱり、そうか・・・・島村、恥ずかしがらなくていいぞ・・・そういうプレーが好きなんだな・・・うん。そうかあ。新発見だ」
「島村さん、いいですよ、ここだけの話しにしておいてあげますから」
「ちがあああううっ」
「も!するの?しないの?」


ジョーの着る、鶯色の丹前の裾を引っ張るフランソワーズ。
彼女がその”本当の意味”を知った時が、怖い。そして、それを自分が説明しないといかない状況が、ジョーにとっては拷問に近い。


「フランソワーズっ・・・・・・・・あとで、ね。あとで、ちゃんと説明するから、今は・・・・勘弁してくれる?」


なんとかその場を納めて、少し不満顔のフランソワーズを、夕食の料理について話すことで頭を切り替えさせた。



---アルベルト・・覚えとけよっ!!














***

座敷には半数ほどの生徒が集まっていた。
きょろきょろとあたりを窺い、ある人物を探す。


その姿が座敷にないのを確認すると同時に、彼と一緒にいると思われる女性の姿も見当たらず、胸が痛む。
脱衣所ですれ違ったとき、彼女はオオガミ教授と一緒であった。

湯からあがった、美奈子、りか子、千里の3人は時間まで宴会(夕食)まで、気楽に女同士で過ごしていた間、一度オオガミに連れらえて、湯上がりのフランソワーズが部屋に戻って来たが、すぐにオオガミとともに部屋を出て行った。

その後、彼女がどうしたかは知らない。

3人が座敷にやってきたときには、すでにそこにオオガミがいた。
宴会(夕食)の準備を進める仲居たちを見ながら、ときおり楽しげに会話していた。



「アルヌーボーさん、オオガミ教授と一緒じゃないのね?」
「みたいですね」
「・・・多分、一緒なのよ」


美奈子、りか子、そして千里は隣あって、膳の前に座る。


「いい?美奈子、アルヌーボーさんが居たとしても、ちゃんと声をかけてこっちへと誘うのよ!!」
「そうですよ!」
「とにかく、近くにいることが大切なんだしっ!そして、宙ぶらりんになったままの、明日の予定、ちゃんと一緒に行動するようにしないと!」
「この夕食で約束を取り付けないと、明日1日、結局アールヌーボーさんと2人きりにさせてしまいますよ?」
「・・・ええ、わかってるわ。でも、・・・ね。島村くんはどうせ・・・彼女と行動するのよ?だから・・・」
「だ~か~ら~!!私たちがアルヌーボーさんを誘うわよっ!」
「そうですよっ!どうせりか子先輩は湯田さんを誘えないし!」
「ちょっ・・・私だってっ!!」
「いえいえ、わかってますよ、りか子先輩・・・無理な事くらい」
「ち~さ~と~ちゃ~ん・・・・」


りか子の手が伸びて、千里の首を閉めようとする。


「ここは水沢さんに集中するんですよね!ね!友情ですっ!!りか子先輩は友情に熱い!」


その手から逃げるようにして、千里は美奈子に助けを求める。


「告白、しようかなあ・・・」
「「!」」
「どうせ駄目なら、早い方がいいもの」
「駄目って決まってないでしょ!」
「・・・でも、2人きりなんてチャンスないわよね」
「あるわよっ!」
「ありますよ。そんなのたくさん!」


そんな会話をひそひそと続けているとき、湯田が座敷に姿を現した。
続いて、岸辺。

岸辺は、同じセミナー生の友人を見つけると、そちらの席へと進んで行く。
湯田はきょろきょろと座敷口に立ち、全体の様子を眺め、上座に座っていたオオガミ・サガミ両教授を見つけて挨拶のために言葉を交わし、その間にジョーとフランソワーズが座敷に姿を現した。


そのフランソワーズの手が、ジョーの丹前の裾を握っているのが、美奈子の目に飛び込んでくる。


座敷に入り、湯田に続いて両教授と挨拶を交わしながら、ジョーはオオガミにフランソワーズと湯に入ってくれた礼を言った。
フランソワーズも花のような笑顔で、礼を言い、サガミに挨拶をする。

60に手が届く年齢のサガミは、まるで孫娘を迎えたように目尻を下げてフランソワーズの浴衣姿を褒めた。



そんなやり取りの間に、ふと、湯田の視線がフランソワーズの同室の3人に止まる。
彼の視線がこちらへ止まった隙を逃さず、千里が軽く手を挙げると、りか子も千里に習って手を振った。
すると、湯田がジョーに何事かを囁き、ジョーの視線が3人へと向けられると、美奈子がジョーに答えるように、遠慮がちに小さく手を振った。


ジョーが美奈子にむかって微笑む。
それだけで美奈子の体がふんわりと浮く感覚。




りか子の手が、おいで、おいで。と振られて、美奈子のとなりの空いた席を指差した。
湯田が先に、動く。

すると、ジョーもそれにならって3人の元へと移動すると、りか子、千里は視線でやった!と、合図する。



「隣いいのかな?」
「どうぞ。温泉いかがでした?」


湯田が美奈子に話しかける。


「よかったよ。なあ、島村」


振り返って話題をジョーに振りながら、美奈子の隣の席をさりげなくジョーに譲る。
湯田は美奈子がジョーに気があることを知っているために、だ。


そして、その隣にフランソワーズが座ったのを確認して、湯田もフランソワーズの隣の席についた。





「揃ったわね!じゃあ、適当に楽しんで、適当に勉学に励んで、適当に有名になって、この恩をしっかり返してちょうだい、以上!乾杯っ」



座席に用意された膳に合わせて人が埋まったところで、オオガミが音頭を適当に取ると、笑い声と一緒に、「かんぱ~い!!!」っと26人の声が座敷を響く。



膳にならぶ、秋草やほどよく色づいた柿の葉などをつかい、秋らしさをほどこした八寸。熱々の煮物椀に、牡蠣しんじょうのみぞれ仕立て。お造りに湯葉蒸しと、揚げたての活車エビ、むかごにショウガ汁が香ばしくかけられていた。
落ち葉焼きと言う、京野菜を包みやこんで和紙に敷かれた焼き物に、、牡蠣ご飯、かにミソ炊き、松茸ご飯、の3種のご飯が、紅葉に象られて並ぶ。
そして、デザート皿に柿と梨が並び、小皿に栗羊羹。

大学の慰安旅行に出される膳には考えられないほどに贅沢さに、歓喜の声があがり、みな口々にオオガミを讃えた。


しかし。
旅費のほとんどが今夜の宴会(夕食)につぎ込まれており、明日、明後日の食事は出ない。
それは事前に、秘書である水沢から伝えられていた。




「とっても美味しいわね?」
「4食分だしね」
「そんな言い方だと、せっかくのお料理のムードがなくなっちゃうわ!」


隣にジョーがいる。
彼は暑いと言って早々に丹前を脱いだ。


大雑把に着た、浴衣の襟の合わせが広くなっている。
普段見る事が無い、優しい顔立ちからは想像できない逞しさに、美奈子は逆上せていく感覚に、コップに繋がれたビールを飲むピッチが早くなる。


湯田と会話するフランソワーズ。
ジョーは静かにその会話を聞いている。時折、焦ったように、フランソワーズの言葉を訂正する様子が、可愛らしく美奈子の目に映る。




大学で、ときどきだがジョーとランチを一緒する美奈子。
たまに隣合って座る事もある。

何に緊張する必要があるのか、なかなかジョーとの会話が弾まないままに夕食が進んでいく。
りか子と千里が、そんな美奈子を応援するかのように、会話をジョーに振るが、美奈子の口数少ない様子に、話しは盛り上がる前に途切れてしまう。


「小食だね?」


そんな湯田の声が、美奈子の耳に届いた。


「猫舌なんですよ」
「へえ、そうなんだ・・・」


湯田の言葉にフランソワーズではなく、ジョーが答えた。
美奈子の視線がフランソワーズの膳に向かう。
確かに、彼女が手をつけた皿は熱を持たない皿ばかりだった。

りか子、千里も首を伸ばすようにして、会話に参加する様子をみせた。


「まだ熱いかな?」
「ん~・・・・」



フランソワーズの手が動いた。


「はい♪」
「あ・・」


フランソワーズの箸が、揚げたての活車エビを割って、ジョーの口へともってくると、絶妙なタイミングで出されたそれを、ぱくんと、口の中に。


「「「!!!!」」」
「慣れてるなあ・・・」


のんびりとした、湯田の声。


「熱い?」


もご。と、ジョーの口が動く。
秋の紅葉が染まっていく様子を早送りで見るかのように、彼の頬から耳へ、首へと染まって行くと、口元を押さえて目を伏せる。


「・・・ふら・・・・・・ん・・・」
「ね、まだ熱いかしら?」
「・・・・・・っm」


恥ずかしい。
かなり恥ずかしい。
一体、何人の人間に今のを見られたのだろうか。






たまに、ごくたまに、あること。

食事中にフランソワーズは、誰彼かまわずに食べさせる事がある。
彼女はそれを”恥ずかしい”とは思っていない。

食べさせる方よりも、食べる方が恥ずかしいのだ。
それを解らせようと、彼女へ食べさせればいいのだ。と、思うが、それを実行できないままでいた、ジョーが、食べさせる方も恥ずかしい。と、わかったのは、ごく最近での邸での出来事。


「まだ熱いかしら?」


ジョーの様子を覗き込むように窺う。


「・・・・・・・・食べられると、思う」
「そう?本当に?・・・ねえ?」


2、3回噛んだだけで、ごくん、と、飲み込んで頷いた。
味も何も解らない。



美奈子はただ黙ってフランソワーズとジョーを同じ視界の中に入れてみている。


「んふふ♪じゃ、大丈夫ね!」


ジョーの答えにフランソワーズは機嫌良く、箸で牡蠣しんじょうのみぞれ仕立てを掴むと、ぽんっと口に放り込んだ。


「フランっ!違っ、え?!エビじゃないの?!」


ジョーが慌てる。


「ぅ・・!!!」
「ああっ!、そんな固まりっ、そっちは熱いに決まってるよっ!」


箸を持ったまま両手で口をおおい、はあっ、はあっっと口を開けて熱を逃がし、口の中の牡蠣のしんじょうを舌でころがす。


「出して!」


イヤ!と首を振って抵抗するフランソワーズ。
団子になっている実を噛めばましになるかと、噛むと、中からじゅ!っと熱い汁が出てきた。


「ふぅううんんっっ!!」
「!」


フランソワーズの背に腕をまわし、彼女の両手を払いのけてジョーの左手がフランソワーズの口を覆った。
その熱さに耐えられずに、ジョーの手に吐き出す。
フランソワーズの口元にあてられていた手が、離れていくと、湯田が慌てたように、ジュースが入ったコップをフランソワーズへと渡す。

コップを手にフランソワーズは涙目で口にジュースを流し込み、ジョーは手にあるそれを、近くの盆にのせられていた布巾を取った美奈子から受け取り、包む。


「熱いわっ!!ジョーの嘘つきっ」
「エビを食べろよ!!」
「だって熱くないって!」
「それはエビ!」
「だって、このお団子が食べたかったんですもの!」
「だったら、そっちをボクに食べさせたらいいだろ?!」
「ジョーはエビが好きなんですもの!」
「いや、好きだけどっ!熱いかどうかを確かめさせたいんだったら、自分が食べたいのを、確かめさせろって!」
「口の中痛いっ!」
「あたりまえだよっ」


熱さで痛む咥内に、再びジュースを流し込む。
空になったコップを見て、湯田がきょろきょろとジュースを探す。


「ぅ~・・・ん・・熱いのいや・・」
「・・気をつけてよ・・・・びっくりするから」
「・・・じゃ、このお野菜もまだ熱いのね?」


落ち葉焼きと言う、京野菜を包み焼いた、和紙に敷かれた焼き物をフランソワーズは視線で指すと、ジョーが包まれていた秋の葉をよけた。


「包んだままだと、熱は逃げないままだよ?もうしばらく、このままにしてたら食べられるよ・・・」
「ジュースより、お水の方が・・・取ってくるわ、隣の準備室にあるはずだから」


美奈子が立上がる。と、ジョーがそれを止めた。


「いいよ、水沢さん座っていて、ボクが行ってくるから」
「ついでにビールの数も確認してくるわ、そろそろ足した方がいいと思うから・・・」
「じゃあ、一緒に行きます。持ってくるなら、男手がいるでしょう?」
「でも・・・」


美奈子の視線がフランソワーズへと向かう。


「行ってこいよ、島村。水頼むな」
「はい」
「じゃあ・・・」


ジョーも立ち上がり、美奈子について歩き出す。


「フラン、待ってて」


フランソワーズの背に向かって呟き、美奈子と一緒に座敷を出て行った。
その姿に、小さくガッツポーズを取るりか子と、うん。と、納得する千里。

「・・・」


熱さで涙が滲む瞳がジョーを見送る。
まだ、彼女が、どこの誰か知らないときに、見た、2人が瞬きする瞼の裏に思い出す。



「大丈夫ですか?」


ジョーと美奈子がいなくなったために、千里とりか子の姿がフランソワーズの視界に入る。


「・・・ごめんなさい」
「謝ることないわよ、熱かったんでしょ?」


千里の背後から、りか子が見えた。


「・・・・」


こくん。と、小さくフランソワーズは頷いて答える。


「仲いいんですね・・・、普通、あんな風に手でなんてしませんよ、ねえ?」
「?」
「ああ、まあ・・・それが、島村なんじゃないか?」


湯田がビールの注がれたコップを人差し指と親指で摘むようにして持ち上げて飲んだ。


「いっつもそうなの?」
「?」
「あんな感じなの?」
「?」
「島村君って」
「そうです・・・・」
「ふうん・・・そうなんだ」
「島村だから、なあ」
「湯田先輩、それなんなんですか?”島村だから”って・・・」
「いや、そのまんまだよ、原」


空になったコップに手酌でビールを注ごうとすると、フランソワーズが湯田の手にあるビール瓶に手を添える。


「お、スミマセン」


ビール瓶を受け取って、フランソワーズは無言のまま湯田のコップにビールを注いだ。
その動作がとても絵になる上に、場所が場所だけに雰囲気も良く見えた。


千里の視線が、りか子へと向かう。
言葉にしなくても、彼女が自分に何をいいたいのか理解する。


”ああいうのが出来ないと!りか子先輩!!”


「未成年なのに、変に慣れてるのね?」
「え?」
「男の人に食べさせたり、お酒注いだり・・・家でそういうことしてるの?」
「稲葉」
「自然過ぎて・・・びっくりするわ」
「・・・あの」
「ああ、ああ、気にしなくていいよ、アルヌールさん、稲葉は少し酔ってるだけだから」


湯田がフランソワーズを庇う。
それが、なんとなく気に入らない。

先ほどから、ジョーよりも湯田の方がフランソワーズと会話が弾んでいた。
美奈子のことを考えれば、その方が都合がいい。

現に今、ジョーと美奈子が2人きりで準備室にいることが出来ているのは、湯田の一言のお陰だ。


「フランスって、自由恋愛の国って言うし、男の人にたいして、そういうのが当たり前で自然に身に付くの?」


ジョーと仲が良い湯田であるからと理解しているが、なぜ湯田が?と、言う疑問は消えずにりか子の胸を引っ掻く。
昼間のこともそうだ。と、思い出す。

湯田は昼食時も、その前も、フランソワーズに気遣い、庇っていた。


「稲葉は、もう飲むのは止めた方がいいみたいだなあ・・・」


千里がそっとりか子の膝の上に手を置いて揺ったことで、はっとりか子の曇った視界がクリアになった。


「・・・・兄との夕食には、必ずワインをあけてましたから」


ついっと、湯田に注いだビール瓶を持ったままフランソワーズは立ち上がり、席を離れる。
湯田がどこへ?と訊ねると、にっこりと微笑んでオオガミ教授に。と、呟いた。


千里が視線でフランソワーズを追う。
フランソワーズはオオガミの隣に座り、ビールを注ぎ、談笑しながら、サガミ用に用意されていた熱燗を手にお酌した。


「稲葉ぁ・・・?」
「すみません・・・」
「やっぱり、飲み過ぎだなあ・・・疲れてるか?この間、論文あげたばっかだからな」


湯田はりか子を叱ったりはしないが、かわりに4つ分離れた席から、体と腕を伸ばして、空になったコップを差し出した。


「注いでくれ、それで許してあげよう」










***

準備室の冷蔵庫を開けて、2?のボトルに入った水を2本取り出す。
積み上げられた、ビールケースと、日本酒の瓶。
それらを数えて、のこりを確認する。


「26人で、これって多くないかな・・」
「おつまみの方が先になくなりそうね。でも、飲めなかった分は払い戻しにしてくださるから、大丈夫なの」
「そうなんだ」
「島村君、お水だけでも重いでしょう?誰かに・・・」
「いえ、水と・・・」


ここにあるビールケースくらいなら、余裕で運ぶ事が出来るが、よく考えて答え直した。


「1ダースくらい、平気かな・・・。日本酒の、それくらいも足してもいけるはず」
「無理しないでいいのよ?また取りくればいいんだし」
「これだけ運んで、あとは飲みたい人が各自で、でいんじゃないかな?」
「そうね・・・」


ジョーはビールケースの上に、水のボトルを置いた。


「島村君」
「はい?」
「・・明日は、どうするの?」
「明日は・・・・トロッコ列車と川下りをして・・・・あとはその辺を回ろうかと・・・ここに来るまでに人力車を見ていて、興味があるみたいだし・・そうだ!」


美奈子の気持ちが沈む。
ジョーの予定は、すべて彼女のための予定。


「抹茶と、小豆と、きな粉に・・・栗だったかな?」
「なあに、それ?」
「ソフトクリーム」
「ソフトクリーム?」
「京都限定のを全部食べないと帰れないって言って・・・・」


困ったような笑いを浮かべる。


「まだ売ってるかしら?夏ならわかるけど・・・」
「この辺になかったら、河原町とかに出たらあるかな?」
「繁華街なら売ってそうね」
「そこまで出ると・・・どこをまわったらいいのかなあ・・・定番だと、八坂神社に円山公園と・・清水寺に七年坂かな?」
「・・・・島村君って」


美奈子は準備室の流し台にもたれて、室内用に用意されているスリッパを足先で揺らす。


「?」
「なんでも、アルヌールさんね?」
「え?」
「私は、・・アルヌールさんの予定を聞いたんじゃなくて、島村君の予定を聞いたんだけどなあ?」
「あ・・・え?・・・・でも」
「明日も、一緒なのね?」
「え・・っと、・・・・はい、でもそれが?」
「・・・・当たり前なのね?」
「ええっと、・・・そういう風に言われたの、初めて」
「初めて、なの?」
「・・まあ・・・・・フランソワーズだし」
「どういう意味なのかしら?」
「意味・・・と言うか、意味なんて、なくて・・・ただ、フランソワーズだから・・・」


ジョーの解答が美奈子を混乱させる。
”ただ”なんなのだろう?と。


「一緒したら、迷惑かしら?」
「え?・・・水沢さんは、稲葉さんと予定とかあるんじゃ?」
「毎年だもの、それに、K大学で何かあるたびに来てるし、行きたいところはだいたい見てるのよ。だから、みんなと一緒の方が、楽しいかなあって思ったんだけど・・・それに、私はまだ”川下り”未体験なのよ!」












***


「戻って来た、戻って来た!」


座敷にジョーと美奈子が戻ってくると、そこに何人かの学生が集まって手にビール瓶を抱える。
すると、美奈子が「あとは飲みたい人が自分で準備室から取って来てね!」と声をかけた。


ジョーは水のボトルを手に、席へと戻る。


「・・・大丈夫そうでよかった」


オオガミと楽しそうにしている様子を視界の端に捕らえて、ほっと安堵する。


「遅かったな」
「けっこうな数がありましたよ・・・」
「それで1ダーズだけしか運んでこないとは・・・その躯は見た目だけか?」
「じゃ、湯田さんはどれくらいいけます?」
「ん?・・3はいけるな。4は・・・どうだろうな?」


それを聞いて、ジョーは今後の一応の参考にする。


「プラス水2本と2升瓶だったんですけど?」
「なら2ダースはいかないとな」


美奈子も席に戻ると、ジョーをよけるようにして、湯田が声をかけた。


「おつかれさま、あとは好き勝手にって感じかな?」
「慰安旅行ですもの、秘書もお仕事から解放されて慰されたいです」


ジョーは隣に座っていたフランソワーズの膳を見る。
自分が席を立ったときと何もかわっていない。


「・・・・」
「心配性だなあ、島村」
「・・・・・・・・ボクだけじゃなく、邸にいる全員がです」


湯田は自分のそばにキープしているビール瓶を持ち上げて、ジョーのコップに注いだ。


「まあ、飲めよ・・・・。何かあるのか?」
「・・・・色々ですよ」


注がれたコップを手に持って、苦みを舐めるように飲む。


「お兄さんがいるらしいなあ、彼女」
「誰がっ言ったんですっ?!」


ジョーの驚き具合に、2人の会話に耳を傾けていた美奈子、りか子、千里がジョーに注目する。
湯田の酔いが醒めそうなほどに、ジョーの瞳が険しくなった。


「いや・・・・どうした?・・会話の流れで、アルヌールさんが・・・」


湯田の言葉に継ぎ足すように、りか子がジョーの背中にむかって言った。


「”兄との夕食には、必ずワインをあけてましたから”って言ったの、彼女が・・・・」


りか子の台詞に、ジョーの視線が湯田から、上座にいるオオガミの隣に座って笑っているフランソワーズへと向けられた。


「フランソワーズが・・・・・・」
「彼女のお兄さんも、一緒に住んでいるのか?」


まっすぐに、フランソワーズを見つめるジョーの横顔を美奈子が、湯田が見る。
湯田の質問に、首を左右に振っただけで答える。


「・・・・・・彼女は二度と、会わな・・会えないんですよ・・・・・二度と」
「お兄さんに、か?」


複雑なんですよ。と、呟いて、ジョーはビールを一気に飲み干した。


「・・・・夜中に、1人で泣くから・・・・」
「?」
「毎日、笑っているのに、・・・・・普段は声を押し殺して黙って1人で泣くんですよ、彼女・・・”兄さんがいない”って」
「いない、か・・・・お兄さん子か?」
「彼女が物心ついたときには、両親が事故でって聞いてます。・・・こっちに来るまではずっと兄妹2人きりで」
「・・・そりゃ、お兄さん子だな」
「今日みたいに、いつも泣いてくれたら・・・。我慢強いっていうか、・・・なんというか」


はあ・・・っと、ジョーは深く溜め息をついた。
空になったジョーのコップにビールを注ぎ足す、湯田。


「博士・・っと、・・養父(ちち)が言うには、フランソワーズには同性の友達がいないせいだ!て、心配してるんです。今回の旅行も、一つは、邸にばかりこもって、外に出ない彼女に、女の子の友達が出来たらって・・・・」


ジョーは、美奈子、りか子、千里の方へと振り向く。


「水沢さんと、少し話して・・・昼間にはまだ決まってなかったですよね?・・・何も予定がまだなかったら・・・・なんですけど」












***


ほどよく酒がまわってきたころには、未成年も成人も関係なくビールに日本酒を煽っていた。
賑やかな笑い声に、話し声。


宴会が盛り上がる。


オオガミとサガミの元で、フランソワーズは楽しんだ。
ビール瓶が座敷に転がり始める頃には、小さなグループが少しずつ大きな輪を作りはじめる。


視界の端で、ジョーが座敷に戻って来たことを知っている。
美奈子と一緒に。


”耳”の良い彼女は少しそちらへ意識を集中させただけで、会話を聞くことができた。が、わざと自分の中からその部分を消した。


ジョーの視線が、自分にむかったとき。
彼が何かに気づいたことを、悟った。




邸の中で、いつの間にか”禁句”となっている、兄、ジャンのこと。







サイボーグにされた躯。
身内がサイボーグだと知られたとき、兄にどんな危険が降りかかるかわからない。
兄妹だけの生活に、新しい変化があったことを境、フランソワーズは兄(たち)と二度と会わない、関わらない。と、決めた日から、ずっとフランスへは帰らずに日本にいる。

そのことがきっかけとなって、無意識に”外”とは関わらないようになった。
日本に住み始めたころには通っていたバレエ教室へも、足が遠くなっていき、いつの間にか辞めていた。







ジョーが心配する。
彼は優しいから、本当に心配してくれる。








だから、泣いたら駄目なのに。
彼の前では・・・泣いてはいけない。










優しいから。

平気なの、アタシは平気。



アタシは大丈夫。
だから、ね?

心配しないで。
心配しないでちょうだい。













ジョー・・・・。
兄さんみたいに、心配しなくていいの。










アタシは一人でも平気なの。















「じゃあ、そろそろ行きますかあ!」
「オオガミ教授?」
「本館に戻るわ、そろそろ。明日は朝が早いのよ。それにサガミ教授が船をこぎ出す前に戻らないと、ね!」


オオガミの声に、程よく紅く色づいたサガミが笑う。


「べっぴんさんにおぶってもらえんのかのお・・・」
「甘えていたら、あっという間に足腰立たなくなりますよ!これもサガミ教授のためですっ」
「はっはっは、相変わらずじゃなあ・・嫁に行き損ねてるのはソコだと思うぞ?」
「嫁に行くんじゃなくて、嫁が欲しいんですよ、私は!」


オオガミはさっと立上がると、サガミの腕をぐいっと引き上げる。
フランソワーズはくすくすと笑って同じように立ち上がり、サガミの隣に立った。


「玄関まで御見送りしますね」


サガミの垂れ下がった目尻がさらに下がる。


「いいねえ、いいねえ・・・どうかなあ?個人的に私の秘書にならないかい?」
「いいえ、そんな予算はありません!アルヌールさんは私の専属通訳者なんですから、駄目ですよ!」


座敷を出る前に、オオガミが振り返って学生たちに言う。


「ほどほどにね!何かあっても私たちは一切責任は取らないからっ後始末くらい自分たちでつけてちょうだい!以上っ!!」


オオガミらしい挨拶にどっと、笑いが起こり、酒に酔った機嫌良い返事が返ってくると、オオガミが手を挙げてそれに答えて座敷を出て行く。

フランソワーズの視界に、ジョーが自分を見ている視線を捕らえた。
捕らえただけで、彼女は何も言わずにそのままオオガミ、サガミと座敷を出て行った。






フランソワーズが出て行った後、すぐに、ジョーが立上がろうとしたので美奈子が彼を呼び止める。


「島村くん、準備室へ行くの?」


違うことなど、解りきっているが、あえて聞く。


「・・・・・あのままきっと部屋に戻ると思うから、ベッドメイキングはプロみたいに上手いけど、”布団”はね・・」
「くるくる御代官様しないとなあ?」
「湯田さんっ!・・・・・・・忘れてください」
「ま、今日じゃなくても明日もあるし♪」
「酔ってますね?」
「いえいえ、まだまだいけますよお・・・。つうか、アルヌールさんがこっちに戻ってこなかった理由わかってるかあ?」
「・・・」
「で、なんで島村は彼女のそばに行かずにここに居続けたのか、オレは謎だぞ?」
「・・・・・たまに、避けるんですよ、ボクのこと」
「ほお!」
「警戒されてる間に近づくと・・・もっと離れて行くから・・・・そういうときは距離を取るんです」
「へえ!」


心配そうに見上げている美奈子に向かって、ジョーは笑う。


「女の子って不思議だよね?」
「え・・・」
「謎すぎる」
「そうかしら・・・男の人の方が私には謎なんだけど?」
「男は単純、ですよね?湯田さん」


湯田がうん。と、力強く頷いた。


「どこが単純なの?」


りか子、千里が次のジョーの答えに耳を傾けた。


「・・・・・なんでもフランソワーズになってしまうから」


ついっと立上がって、ジョーが早足に座敷から出て行く。
固まってしまった美奈子に、湯田が一言。


「島村の片想いだってさ、・・・・・・・けっこう前かららしいよ」











***

フランソワーズはオオガミ、サガミを見送ったその足のまま、玄関先に出て、ほんのりと白くてまあるい提灯の薄灯りの下、秋の夜空を見上げていた。




足下を照らす、豆電球が、まるで蛍のように見えた。
しかし、実際にフランソワーズは蛍火を目にしたことはない。
いつだったか、テレビのニュースで放送していたのを見たのだ。


一定間隔で光るそれは、なだらかに下って本館へと繋がっている。
少し先を歩いて、石段を数段下ると、本館の灯が見える。

さあっと冷えた風が、フランソワーズに棟へ戻る事を促すが、ぶるるっと躯を振るさわせてもう少しここにいる。と、主張した。
自然のままに残されて草木が、藍色に染まり、足下を照らす灯りが届く範囲の色が幻のように彩ることを許されている。



両腕を組んで、寒さに耐えるように躯を強張らせた。

17歳と、答えたために。
それがオフィシャルな年齢のためにアルコールは一切口にしなかった。

邸なら、ほどほどに楽しんでいたはず。
そして、実年齢ならば、何も問題なく、コップに注がれるアルコールを喉に通していた。



見上げた空は澄んだ空気にさらされて、星がどれほど美しく瞬くかを競い合っているように見えた。
遠くに賑やかな声が聞こえる。


まだまだ宴会は続くのだろう。



明日はどうしたらいいのか?と、フランソワーズの頭をよぎる。
きっとジョーは昼まで寝ているだろうから、と、決めつける。


朝早くにトロッコ列車に乗って、川下りをしてしまうのはどうだろう?
そして、お昼頃に戻って来て、ジョーが起きた頃に・・・と、考える。

水沢美奈子と、楽しげに話す彼を思い出す。






邸にいるときは、違う笑い方をすることに気がついた。













そういう風にも笑うのね?と、視界の端で驚いた。
見た事も無いジョーがいる。



大学内でのジョーとは、また違った。
邸のときでも、009のときとも違う、フランソワーズが知らないジョーがいた。




ジョーはいるけれど、いない、と。保津川のほとりで彼に言った通りだ。
フランソワーズの知るジョーはいない。

ジョーは同じジョーだけれど、いない。












手足がかじかむ。
どんどん宵に体温が取られていく。

髪をひとつにまとめていたバレッタを外して、髪を下ろしたら、じんっと。頭皮が痺れた。


このまま冷気にさらされて消えてしまったら、楽なのかなあ?とこころに浮かべる。




”素直にならないと、クリスマス・プレゼントはなしだよ!”

突然振ってきたジャンの声に、フランソワーズの躯が跳ねる。





いらないわ・・・・・。
本当に欲しいものなんて、手に入らないもの。









絶対に、手に入らないもの!









「フラン!」
「!」


力強い両の腕が、冷えきった躯を捕らえて引き寄せる。
それは、まだ日付が変わらない、今日二度目の出来事。


「なんでこんなところにいるんだよっ!!びっくりして・・・棟中、走ったよ・・・・ボク」
「・・・・あら、見えなかったの?」
「玄関からだと、ここ曲がり角で見えなかったんだよ!!」


フランソワーズの耳元で、ジョーの盛大な溜め息が聞こえた。


「御見送りしたの!」
「うん、わかってるけど、・・・・それならなんですぐに戻ってこないの?」


ぎゅうっと、ジョーの腕の力が強くなる。
宵の中でなら、少しぐらいの大胆さを持っても、まだ心臓が壊れないと、信じて。


「お部屋に戻ろうと思ったのよ、私も」
「なら、どうして部屋にいないんだよ?」


フランソワーズはジョーの腕に手を置いて、その腕を解いて、彼へと振り返る。


「おやすみなさい、ってジョーに言いたかったの・・・」
「それで?」
「だから、ここにいたのよ」
「・・・・意味わかんないよ」
「だって、ほら、ジョーはここにいるわ!」


ジョーの胸を押すようにして、フランソワーズは両手を当てる。


「うん、キミを探して見つけたからね」
「ね?」
「・・・・解らないです」
「あら?そお?」
「・・・・・・フラン・・・」


いつも飾られているはずのカチューシャがない、冷たくなった髪を撫でる。
その手にフランソワーズは自分の手を重ねて止めた。


「心配しすぎだわ!私は003よ?」
「キミは003で、”視”ることも”聴く”こともできるけど、ボクはできないんだよ」
「そうね」
「そうだろう?だから、・・・・・・お願いだから、ボクが見えるところに居てください」
「・・・・イヤよ」
「フランソワーズ・・・なんで?」
「だって、アタシは・・・・」
「?」
「・・・いなくても・・視えるわ」
「だから、キミが視えてもっ」
「009は、009のお勤めがあるもの!」
「今はミッション中じゃないよ?」
「視てるだけでいいもの・・・・」
「え?」
「おやすみなさい、ジョー!」


ジョーのそばをすり抜けるようにして、棟へ戻ろうとしたフランソワーズの腕を取ってとめる。


「明日、早いよ!」
「・・・?」


その手を、びっくりするほどに冷たくなっていた手を、強く握って、手を繋ぐ。
異様に火照った躯に心地よいほどの冷たさだ、と。ジョーは思う。


「朝ご飯は適当にして、始発って言っていいのかな?トロッコ列車に乗って、保津峡の川下り」
「!!」
「その後は、ソフトクリームを探して、お昼を食べて、人力車でぐるっと嵯峨・嵐山をまわって、夕食はまだ決めてない」
「それで、頼むから・・・・ちゃんと起こしてください」
「いつもの時間でいいのかしら?」
「うん。・・・・・ついでに、”まとも”に起こしてください」
「?」
「・・・・・他の人も同じ部屋にいるから絶対に”アルベルト流”や”ジェット直伝”はやめて」
「あら、それが一番効果的なのよ?」
「・・・・・・・・・・・・ちゃんと起きるから」
「起きなかったときは?」


玄関のドアをからからと開ける。


「・・・・・・御代官様をします」
「ふふ♪ならいいわ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、ボクがされます」
「ジョーがくるくるまわってくれるのね!」
「はい・・・・・・・」




絶対に起きる!と、空高く半月になった月に誓った。



















3の前2.5に続く(笑)。
すっとばして3へはこちらから

*宴会で野球拳やら、王様ゲームやら書く予定だったけれど、大変だったので撤去。
 温泉内での会話はもっときわどいものだった(笑)
 
 御代官様ごっこするかしないか?!
 ・・・・・・・・みたいですかあ?

 っていうか、お題がとってつけたような感じで・・・。次回は”名前を呼ぶだけで”です。
 どうなることだか・・・(汗)
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朝の食卓

ちん♪とオーブントースターがなる。 3段式の特別サイズは、毎朝フル稼働。 玉子Lサイズは2パックあっても、たまに足りなくなる。 生クリームを多めに足して、ちょっと誤摩化した感じの朝食の定番、 卵をかき混ぜるのに、なぜに手が疲れるのだろうか?と 疑問に思うのは毎日の事。 何枚焼いたか数えてる場合じゃないベーコンをカリカリに焼いて、 3玉のレタスを手でちぎり、輪切りにしたトマト、 昨日の夕食時に作りおいておいたマッシュポテトでサラダを作って ドレッシングをかける。 珈琲サーバーに作っておいたはずのそれは、あっと言う間になくなって、 オレンジジュースの新しいパックをどん!とダイニングテーブルに載せる。 「今、新しく豆を挽くから!それまでは紅茶か オレンジジュースね!」 大家族の朝は、忙しい。 ジェットが朝からコーラを飲みたがる。 珈琲を切らせてしまって、不機嫌なアルベルトが、焼き上がった トーストを重ねた皿から一番新しいのを選ぶ。 ジェロニモがマッシュポテテを掬ったフォークがまるで デザート用にみえる。 はいヨ!と、フライパン片手にできたてのスクランブルエッグを おかわり!の声の人の皿に載せていく張大人。 1人優雅に紅茶の香りを楽しみつつも、すでに3枚目のトーストに お気に入りのアプリコットジャムを塗り終わる、グレート。 かりかりベーコンが大好きなピュンマは、口にそれを加えながら、 今朝届けられたばかりの新聞を読んでいる。 おかわしたふわふわのスクランブルエッグに、ケッチャップを たっぶりかけているのは、ギルモア博士。 「ジョー・・紅茶でいいかしら?」 「ん」 一番最後にテーブルについた、彼の分のサラダと、かりかりベーコンに、 先に彼の分を張大人から確保してお皿キープしておいた、それを置く。 「お早う、フランソワーズ」 「お早う、ジョー・・・今日は出版社の方へ行くの?」 「ん~・・・別に行ってもいいような、行かなくてもいいような」 のんびりと答えた彼が、寝癖でぴんぴん跳ねた、相変わらずの 髪を掻く。 「ねえ午後に、ちょっと街まで出たいのよ」 「そうなの?」 「ついでにって思ったのだけど・・・行かないならいいわ」 ティカップを持ち上げた彼に、話しかけながら、フランソワーズは キッチンへと戻る。 「あ!・・・そうだ、フランソワーズ」 「なあに?アナタのトーストはもう少しで出来るわ!」 ジョーに呼ばれて、キッチンカウンターから身を乗りだすように、 フランソワーズがダイニングテーブルの一番端っこに座る 彼にむかって微笑む。 「結婚しよう」 ちん♪とオーブントースターが鳴った。 それはジョーのための、焼く前にたっぷりとバターを塗った一枚。 「・・・・・・え?」 「あ。焼けたね!」 「え、ええ」 フランソワーズは聴き間違えたかと、空耳かと、なにごともなかったように、 トースターからジョーの分を手に取って、他のトーストとは別にして ダイニングテーブルへと、トレーに乗せて運ぶ。 ジェットが口からだらだらと、コーラを流す。 アルベルトの手からブルーベリージャムを塗ったパンが、ベトっと彼の膝に落ちた。 ジェロニモが、ぱく。と、トマトをほおばった。 ピュンバが手に持っていた新聞を綺麗に二つに破いた。 張大人が中身の無いフライパンをフライ返しで、さもそこにスクランブルエッグが あるかのように、グレートの皿に載せ続ける動きをしつつ、グレートは口まで 届いていないカップを斜めに傾けた状態で、見事に紅茶を床へと流し、 ひげをケチャップで汚したギルモアが、ひっく。と小さくしゃっくりをした。 フランソワーズはトレーから、ジョーのバターがたっぷりしみ込んだトーストを、 彼の前に置いた。 「ありがと」 「どういたしまして・・・」 テーブルにつく固まった全員の目だけがジョーとフランソワーズに向かう。 「それでさ」 「・・・はい」 「結婚しようよ」 目の前におかれた皿の上のトーストを、嬉しそうに頬張りながら、 トレーを手にジョーの傍らに立つフランソワーズを視線だけで見上げる。 「・・・・・・・・ジョー・・?」 「イヤ?」 「あ・イヤとか・・・えっと、その・・別に断る理由はないの・・・だけど」 「ん、良かった。じゃ、そういうことで、結婚するよ?」 「・・・はい」 「それで、午後に街まで出たいんだよね?」 「え、ええ・・・」 「ん。車をだすから、指輪、フランソワーズが好きなの選んで」 「・・・え?」 「左手につけるんだろ?そういうのって、よくわかんないから、 キミが好きなの選んでよ」 「え、あ、はい・・・」 「あと、結婚するのに何が必要?」 ばくばくと、トーストを食べ続けながら、ジョーは話しを進めていく。 「ドレス・・・かしら?」 「ああ、そういうのって女の子の夢なんだよね?」 「い、ち、おう・・」 「わかった。それも観に行こう」 「k、今日?」 「別にいつでもいいけど、早い方が良いかもね」 ジョーの前に座る、グレートが思わず口を挟んだ。 「式は・・どこだ?」 「教会。・・・昨日、取材に行った先の教会がとっても可愛かったんだ。 フランソワーズが好きな感じ。すごく人気があるらしくって、 興味本位で空きがあるから訊いたら、ちょうどキャンセルが出てて ちょうど一ヶ月後に空きがあるって言うから、予約した。 一ヶ月も先の話し出し・・・ああ、みんな、そういうわけだから、 スケジュール空けておいてくれよ」 ジョーは紅茶を一口、ごくんと、飲んだ。 「本気か?」 しっかりとした声でジェロニモがジョーに訊ねた。 「予約しないよ、本気じゃなかったら」 「冗談だよなあ?・・・おい」 「ジェットと一緒にしないでよ、エイプリルフールはまだ先!」 「それでいいのか?」 「僕はいいよ、フランソワーズもいいっていってるしね、アルベルト、 パン落ちてるよ?」 「ああ・・・わかっている」 「アイヤ~・・・」 「張大人、フライパン空だよ?」 「おめでとう・・かな?」 「ありがとう、ピュンマ」 「儂に何か言わんのか?」 トーストを食べ終わり、フォークをつかんだジョーにむかって、 口のまわりについたケチャっプを拭いつつギルモアが言った。 「・・・ギルモア博士、僕はフランソワーズと結婚します」 「・・・フランソワーズや」 「はい・・・」 「ジョーでいいのか?」 「・・・・・え、、あ」 ダイニングルームの全員の目が、フランソワーズに集中する。 その視線に耐えきれずに、真っ赤になった顔を手に持っていたトレーに隠して、 こくん。と、頷きながら、言う。 「結婚します・・・・・・ジョーと」 いつもの朝。 いつもの時間。 いつもの朝食がちょっとスペシャルになった日。 「打ち合わせとか、以外と面倒なんだよね・・・、なんでもフランソワーズが 好きなようにしたらいいよ。僕はとにかく、あの可愛い教会でキミと結婚できたら それでいいし」 結婚する当人、教会の予約"だけ"入れた新郎以外がてんやわんやで 1ヶ月を過ごした。 赤ん坊のイワンさえもかり出されて・・・。 ちなみに、新婚旅行は新婦の故郷フランスで、電話一本で結婚報告をされたまま 放っておかれた実兄が、首を長くして最愛の妹をいきなり奪った数回しか面識が無い、 童顔な日本人の男を首を長くして待っていた。 end. *ははは・・・は・・・はは・・・・ははは(汗) 写真/ミントブルー

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Little by Little・6
(6)





先ほどから様子が気になる同室のピュンマへ、身支度を整えながら海は話しかけた。



「誰と会うんだっけ?」
「コズミ博士と真鍋さくらちゃんだよ」


あ、そうそう。と、今日会う予定の人を確認する、海。


「ギルモア先生の・・」
「うん、親友。で、さくらは・・」
「確か、下宿だっけ?」
「コズミ博士とさくらのお父さんがお友達なんだって」
「ふうん・・・で、ピュンマ」


ユニットバスに置いていた歯ブラシを手にとって、歯磨き粉をどこに置いたっけ?と探しながら、海はクロゼットに頭を突っ込んで荷物整理をしているピュンマへと少し声を張り上げて聞いた。


「なに?」
「なんで溜め息ばっかりついてるの?さっきから」
「え?!・・そ、そう???」


彼の慌て具合に、見つけた歯磨きと歯ブラシを持って、ユニットバスから顔を出す。


「うん」
「いや・・・そ、そんな事ないよっ?!」
「何か・・・心配事でもあるのかな?」
「いやっあ・・あるのは、あると言えばあるけれど、それはやっぱり、僕の出る幕ではないけれど、でも気になるし・・・」


もごもごと口ごもるピュンマ。
彼の持って来たスポーツバッグの中から、Tシャツを取り出すと、それに袖を通した。


「?」
「・・・・何もかも、ジョーがモテるのが悪いんだ・・・・・」


すぽん!と丸首の穴から顔を出して、深く、深く、ふかああく、溜め息をついたピュンマ。


「モテるのってそんなに悪い事かなあ?」


歯磨き粉のチューブのキャップを洗面台のシンクに置いて、にゅる。と、昨日から使い始めたばかりの、まだなんとなく馴染まない歯ブラシの毛先にのせた。


「モテるのは、別に悪くないんだけど”モテすぎる”のが悪いんだヨ!」
「・・・・そんなに、モテるの?」
「そんなにモテるんだよ・・・」
「ピュンマの方が、カッコいいよ?」
「え!!???」
「ぼくが女の子だったら絶対にピュンマに惚れる!」


ばく。と歯ブラシを加えた、海。


「へへ・・・ありがと!!」
「あれ?」
「ん?」


海の頭の中にある図式が出来上がる。


篠原はフランソワーズが好きだと公言しいて、何度か2人きりで出かけたことは海も知っている。お土産だと、フランソワーズが買って帰って来た焼きプリンがすごく気に入って、どこで買って来たのかを篠原に訊ねたことも記憶に新しい。

その彼女の本命はジョーであるらしく、彼もそうらしい。
はっきりとしない関係の2人を”カップル”のように扱っているのは、彼らの家族、と言う、仲間たち。

ギルモア邸で初めて”さくら”と言う子の名前が出たとき、微妙な空気が流れたのを、海はしっかりと感じていた。
それ以後も、”さくら”と言う名前が出るたびにその名前には似つかわしい空気を伴った。

そして今、ピュンマの”ジョーがモテるのが悪い”発言と憂鬱な溜め息が、中学からずっと全寮制の男子校で青春を過ごす、恋愛に少しばかり縁遠い海でも、気づいてしまう。


「もひかひて・・・」


口よりも、眼が海の思考をピュンマへと伝えた。


「・・・・はい、海・・大当たり~」


ピュンマから、話しても問題ないと009の承諾を得た範囲で、彼らについてのおおよその経歴と過去を知った、海。

彼らがなぜ、サイボーグになったのか。
なぜ”サイボーグ”であるのか。

なんのための戦いを強いられてきたのか。





事件に関わったことから、サイボーグたちの監視下の中で生活する海にとって、サイボーグたちの”プライベート”な部分が見え隠れする環境が、小さい頃に大好きだった”戦隊モノ”と呼ばれる子ども向けのTVヒーロー・シリーズには無かったものだ。

それは当たり前か、と思いつつ、なんともアニメや映画と現実は違うんだなあ、と言う感想を持たせる。

アニメや映画のような存在の彼らの人生は、それらのように、綺麗に起承転結でまとめられてはいなかった。
一緒に生活することで知った、普通過ぎる彼らの生活は、奇妙な感覚をもたらせることの方が、大きい。その奇妙さは、自分が彼らを”サイボーグ”と言う特殊なフィルターを通して見ているからで、どうしてもそれは、好きだったヒーローたちの生活にあてはめてしまうためであると、気づいている。

ヒーローには必ず、ヒロインがいる。

恋愛問題は老若男女、万国共通だが、サイボーグにも共通していたのかあ。と、そこはハリウッド映画の定番的な展開だけど、と考えた。

この場合、ヒーローとヒロインは必ず”結ばれる”ことが前提でシナリオが進む。
それはもう1+1=2と決まっているのと、同じに、絶対なのだ。



---そう考えると・・・

「ヒーホーってひうより、・・・ねへさんたひの、しょうしょ漫画のせかひだへ」


力ない拍手を海へと送るピュンマは、なぜかすでに疲れていた。


「篠原先輩は、フランソワーズで、フランソワーズは、さ。それでジョーは、ね。さくらはジョーなんだよねえ・・・」


小さなつぶらな瞳をまん丸く見開く、海。


「うは~・・・ふ、ふくざとぅ・・」


ユニットバスへと引っ込んで、しゃこしゃこと歯磨きに集中する。










####


イワンがふう、と溜め息をついた。
その溜め息のつき方が妙にマセた感じがすると、グレートが笑う。


<篠原さえこハイイノ?>
「午後に合流する手はずだ!なあに、今日は朝から石川んとこだしよ、ジェロニモがいんだろな?」
<・・・イナイヨ>
「なぬ?!」
<ア~、コレガ009にバレたら?ドウナルンダロウ???>


グレートは慌ててスズメバチに変身すると、篠原総合病院へと向かった。


「イワン、ミルクよ・・・」
<ウン>


ギルモアが泊まるホテルの部屋で、イワンのミルクを用意したフランソワーズがクーファンに寝かされていたイワンをそっと抱き上げると、ベッドの上に腰を下ろして抱く。


「イジワルなイワンね?少しくらいグレートがここに居ても、ジョーは怒ったりしないわ」
<009ガ『みっしょん終了』シナイカギリハネ、ソレナリニけじめハ必要ダヨ>
「ま!厳しいのね?」


んく。んく。っと、超食のミルクを勢い良く吸う。


<ボクハ001ダヨ?>


テレパスで話しかけながらも、その口はミルクを吸う事を止める事は無く、くすくすとフランソワーズが笑う。


<泣イタノ?>
「・・・・」


自分を見下ろす、きらきらの碧の宝石のふちがいつもより赤い。


<ふらんそわーずヲ泣カセルナンテ 僕ガ許サナイヨ?>
「そうなの?」
<ウント、オ仕置キシナイト!>
「?」


力強く吸い上げたミルクをごくん!と喉を鳴らして飲み込んだ、イワンの眼がいたずらに光り、イワンがミルクでお腹一杯にさせた直後に、フランソワーズは脳波通信を受信した。





「ぐわああっっまずっsっっっ?!」


ホテル・ロビーの喫茶室で、朝食を囲うのは、ギルモア、張大人、アルベルト、ジェット、ジョー、ピュンマ、津田海、篠原当麻。


「!?」
「こっちに飛ばすなっ」
「うわっ汚いっ!!」
「トリっ!」
「アイヤ~!!!!」
「これ、行儀が悪いぞ、ジェット」


リフィールしたばかりの珈琲を一口飲んだ途端、その奇妙な味に吹き出した。
ジョーが、テーブルにあったペーパーナプキンをジェットに渡す。


「ちげっ、珈琲の味が変なんだよっ!」


その言葉を受けて、同じようにリフィールされた珈琲を飲む、ジョー。


「・・・・・・おかしくない、よ?」
「かせっ!!」


ジョーの手から奪ったカップから珈琲を飲む。と、・・・同じように吹き出した。


「gだああああああああっっ!?おかしいじゃんかよっ!!」
「・・・・汚い」
「うるさいぞ、トリ。大人しく珈琲のひとつも飲めないのか?」
「これっ飲んでみやがれっ!」


ずいっと、手に持っていたジョーの分の珈琲をアルベルトに差し出す。
苦い顔をしながらも、ジェットの手からカップ取り、一口飲む。


「・・・・・・普通だが?」
「はあ?!そんなはずねえよっ!!!」


アルベルトの手から珈琲を奪い、再びそれを飲む。
さきほど味わったこの世のものとは思えない奇妙な味が、消えて、ごく普通の珈琲だった。


「あんさん・・・・イワンに何かしたアルか?」


張大人の一言に、アルベルトとジョーが納得する。
イワンのことだ。何かしら昨日の事に気づいて、その原因の一端が”ジェット”にあると気づいたのだろう。
イワンの”ママ”である、フランソワーズ。彼女が泣いたことに関して、何かしらの”お仕置き”があって当然だろうと、2人は視線だけで頷き合った。

イワンが”ママ”のための、小さなイタズラのような”お仕置きは、仲間内では誰もが経験済みであるために、昨夜のことを知らない00メンバーとギルモアでも、なんとなく気づく。


「イワンだあっ?!」
「・・・すみません」


ジョーは手をあげて通りかかったウェイトレスを呼び止めた。


「問題ないぞ?」


アルベルトは手に持っていた、まだたっぷりとあるカップをジョーの方へとむけてテーブルに置く。


「・・・・・・気分的にもう、飲みたくない」
「僕、追加でフルーツヨーグルト御願いします。で、ジョーは珈琲?」


ウェイトレスを呼び止めたジョーではなく、ピュンマが先にウェイトレスに追加注文する。


「いや・・・カフェオレ、と・・・」


テーブルの端にキープしていたメニューを取り、朝のモーニングセットに目を通す。
ウェイトレスが、ジョーの斜め後ろに立ち注文を待つ。


「・・・・・・リコッタチーズのフレンチトーストにサイドでイチゴとブルーベリーをつけて、メープルシロップも・・・。あと、グラノーラー・ヨーグルトをプレーンで」
「はい、かしこまりました」


ウェイトレスは笑顔でジョーの注文を取り、席を離れていく。


「ええ?!ジョー、まだ食べるの?!」
「っつか、そんな甘えの、てめえ喰えるのかよっ!」
「食の好みが変わったアルか???」
「まるで、フランソワーズじゃのう・・・」
「フランソワーズの、だろう、ジョー?」


アルベルトの言葉に、微かに口元で笑ったジョーは席から立上がると、テーブルから離れて喫茶室を出る。ロビーと繋がっている喫茶室。
ロビーとの区切りはプランタに品良く植えられた観賞植物のみ。
そのために、テーブルについていた全員がジョーの背を追うことができた。


ジョーはまっすぐに、フロント脇にある2つのエレベーターのうち、左側のドア前に立った。
四角いプレートの数字が小さくなっていく。

1階を現すRの文字のプレートが光ると、エレベーターのドアが開き、何人かがエレベーターを降りてくる中に、赤ん坊を腕に抱いた、光弾く亜麻色の髪の少女のような女性が姿を現した。



海は、そっとテーブルに着く全員に視線をめぐらす。

隣のピュンマは嬉しそうに笑っていた。
ジェット、アルベルトは何か含みのある笑いをつくり視線で会話し、張大人は何事もないように、テーブルの上のモーニングセットBを腹にしまう。
ギルモアはジョーの飲まなかった珈琲へと腕を伸ばして手に取って飲んだ。が、ブラックは苦かったらしく、ミルクを足す。

篠原当麻は、どこか悲し気にエレベーター前から少し離れて向かい合って会話する2人を見つめていた。
ぐるりと、それぞれの反応を見回した後、海の視線もジョーとフランソワーズへと向かう。


何を話しているのかは、距離的には聞こえない。
もしかしたら、ピュンマは聞こえているのかな?と、海は思う。

頭の中にある通信機でフランソワーズと連絡を取り、こちらへ来る前に彼女の分の朝食を注文した?と、想像し、なぜ、それがジョーであったのかを考える。


009が訊ねたのか?
いつ降りてくるのか、朝食は何にするのか?と?



003がちょうどエレベーターから降りてくるタイミングで、彼女を迎えに行った、009。
ここには、002、004、008が、009以外の003の仲間がいる。


その中でも、009が。


彼は彼女を想い、彼女は彼を、と、ピュンマからはっきりとは言葉にしなくても、それとないニュアンスで訊いている。








「・・・・完全に恋人同士じゃん」


ぽつり、口の中で呟いた海の声は、隣の席にいた当麻に届いていた。
















「キミの分、頼んでおいた、よ」
「ありがとう、ジョー」
「イワンと少し・・・話しがあるから」
「ジョーは、もう食べ終わったの?」
「食欲を減退させられたから、イワンのせいで、ね」
「え?」


エレベーターから降り、ジョーに誘導されてドア前から離れる。


「まあ、そういうことで・・・」


フランソワーズの腕に抱かれている、イワンに向かってこっちにおいで。と、彼を抱き受けようとする。


「どこへ行くの?」
「・・・・ちょっと目のふちが赤いね・・」


イワンを抱き取ったジョーは彼を縦に抱く。
ジョーの言葉に、少し俯き加減に瞳を伏せた、フランソワーズ。


「・・・ジョー・・・イワンとどこへ?」


話題を逸らそうと、質問する。


「朝の散歩・・・このあたりをぐるっと回ってくる・・・・・それだけだ、よ」


ジョーの肩にマシュマロの白い頬をぶに。と押し当てているイワンが、お腹がいっぱいになった満足感に、ジョーから香る、彼が吸う煙草の香りに、満足気にあくびをした。


「・・・イワン?眠いの?」


ジョーが少し膝を曲げるようにして、躯を揺らした。


「お腹がいっぱいなのよ、まだ夜まで長いわ」


ジョーの肩にぐりぐりと猫のように顔を左右にすりつけるイワンの仕種に、フランソワーズは微笑みながら、イワンの顔が見える位置へと移動して、彼を覗き込む。
そのために、ジョーとの距離が一気に縮まると、ジョーの鼻腔に届くフローラルの香り。
いつもと、少しばかり違う気がするのは、ここが邸ではないからかもしれない。


「イワン、すごくあったかいんだけど?」
「ミルクの後だもの・・・冷房が効いているいるから、いいのだけど・・・」
「そうだね・・・今日は昨日よりも暑くなるよ・・きっと」
「ジョー、私はやっぱり報告したように、今日はここにイワンと残るわ・・・ギルモア博士も、コズミ博士も、そう向こうには長居なされないでしょうし・・・」
「・・・・・どうする?イワン」


ジョーがイワンを見る。
フランソワーズがジョーと同じように、イワンを見る。
イワンは紅葉のような小さな手を、ジョーの躯に押して、彼の肩にもたれていた上半身を起き上がらせて、ジョー、フランソワーズと、交互に見た。


まぐ、もぐ、もぐ、と、黄色いお気に入りのおしゃぶりを揺らす。


フランソワーズはジョーにすり寄るようにして、さらに近づく。
ジョーのイワンを抱く腕が、フランソワーズと自分が、イワンの視界に入るように抱き直した。


防護服を着ていない2人がイワンの視界に映る。







自然に寄り添う彼らの距離。
009でも003でもない日常で、やっとここまで縮んだ、距離。


満足そうにイワンはリンゴ色の頬を高くする。




人の未来を覗くことは、そしてそれを弄ることは彼のルールに反している。が、彼もたまには、自分のためにその先を覗いてみたくなる。


<・・・・・>
「イワン?どうしたの?」
「・・・何、考えてる?」


フランソワーズのやわらかい手が伸びてきて、イワンの頬に触れる。


<ここニ、残ルヨ>
「2人だけは、少し不安だな・・・」



<007ヲ呼ンンダライイ。向コウハ何モ起コラナイ・・・。007ハモウ、彼女カラ離レテ問題ナイ。>
「・・・・解った。・・・イワンががそういうなら、そうしよう・・・フランソワーズは、それでいい?」
「もう・・・さっきまでグレートはホテルにいたのよ?イワン、あなたがグレートを病院へ行くように言ったのに」


柔かなくるりとした癖のあるイワンの猫っ毛を撫でながら、フランソワーズは、困ったように、眉根を下げた。


「そうなのか?」
<時ト場合ニヨリケリ。臨機応変ニ対応デキナイトネ!>


イワンをはさんで、普段では絶対にないと思われる至近距離まで近づいた、2人の視線が交差して、可愛いらしい容姿とは裏腹な、人使いの荒い天才児に苦笑しあう。


「・・・あまり長くは駄目よ?」
「散歩?・・・うん、わかってる」


イワンがわざと甘えるように、ぱたん。と、ジョーの首元に、顔を埋めるようにして上半身を再び、ジョーに預けた。
その動きを支えるようにして、ジョーの腕がイワンを抱き直す。


「・・・・・ジョー・・あの、・・」
「?」


ジョーが、イワンを抱き直した躯の揺れに、フランソワーズの手がイワンから離れて、彼女の胸元へと軽く拳をにぎるようにして戻る。


「覚えてるから・・」
「・・・え?」
「・・・・・・・友達以上には思って、ないのでしょう?・・・・それは」
「フランソワ・・ズ?」
「それは、私も・・同じなの・・・・・」
「!」


視界の端に、ジョーが注文してくれた朝食がテーブルに運ばれるのが見えた。


「行ってらっしゃい、2人とも気をつけてね」


フランソワーズは、早足にジョーから離れて喫茶室のテーブルへと向かう。
離れて行くフランソワーズを追いかけるようにして振り返ったジョーは、フランソワーズの言葉を頭の中でリピートさせた。








---同じ?
  さくら、のことを、友達以上に思っていない気持ちが、・・・同じ?
  














<篠原当麻ノコトニ決マッテルジャナイカ。他ニ誰ガイルンダイ?>


---本当に?・・・・・それは、俺のことじゃ?


<ドウシテ、ソウ自身ガナイワケ?>


---あるわけ、ないだろう・・・・・、自信なんて・・・・・。














<ソウイウ気持リガ、彼女ニモ伝染シテシマウンダヨ?>




















少し、目元が赤くなっていることに気がついたのと同時に、なんとなく緊張しているような、焦っているような、恥ずかがっているような、・・・カフェオレボールを両手に包み込んだ指先が震えているのに、海は気がついた。

テーブルに着いてすぐに、砂糖を足さずにカフェオレを飲むフランソワーズにたいして、ピュンマがさりげなく砂糖の入った容器を彼女の近くに置いたが、それに礼を言っただけで、彼女は甘くないそれが今は必要なのだと、言うように飲んだ。


「なんでジョーがフランソワーズの朝食がわかってんだよ!」


と、ジェットがからかうようにフランソワーズに言う。


「・・・・さあ、どうしてかしら?」


アルベルトが、フランソワーズの答えに驚き、優しげに瞳を細めて彼女を見つめる。
ジェットは素直に驚き、たじろいだ。
ピュンマは、フランソワーズの言葉の意味を探ろうとしたが、そのままにしてフルーツヨーグルトを口に運んだ。


フルーツの甘さに、ほんのり酸っぱく感じるプレーンヨーグルト。
恋の味とは、こんな感じかなあ?と、思いながら、フランソワーズを見るピュンマ。美味しそうにフレンチトーストを頬張るフランソワーズが、昨日とは別人のように感じた。

ピュンマと同じように、海も、目元の赤い色が彼女を昨日とは違う人のように見せていた。













####


朝食を済ませて、各自、自由となる予定であったけれども、イワンと朝の散歩に出かけていたジョーが戻る前に、007が001からのテレパスによって009からの指示を受けて再びギルモアの泊まるホテルに戻った。
フランソワーズがイワンとジョーの帰りが遅いと心配しはじめた頃、2人はギルモアの泊まる部屋に帰ってくる。


004が朝食後に、その足で月見里学院に単独で向かったと、報告を受けた009。
その場で、007と003が001とホテルに留まることを伝えると、当麻も学院へは行かないと言った。

それについて、009は何も言わない。
003は一言、言い添えた。


「最後なのに、よろしいの?」


と、彼の高校生活最後の”あやめ祭”を楽しまないでいいのかと、心配する。

海の姉たちは明日の後夜祭までは別行動となっていた。
彼女たちは1日目ですでに満足したらしく、それぞれにしたいことをするために、朝早くからホテルを出ていた。


「6回目だし・・・。少し疲れたのも正直な気持ちなんだ・・・やっぱり緊張していたんだね」


そのように答えて、自分が彼女と残る事を否定されなかったことに、安堵する。
ギルモアの部屋に集まった全員が今日のスケジュールをチェックしていた途中、ジェットが座っていたベッドから腰を浮かせて携帯電話を取り出した。数秒後に、ジョーの携帯も揺れた。


ジェットが携帯電話のメールを確認するが、ジョーはしない。


「・・・・予定より早いみたいだぜ?13時じゃなく、こっちに12時には着くってよ!」
「わかった」


ジョーは時間を確認しようと、ジェットから視線を外して室内を見る。


「10時54分アル!」


張大人が、懐中時計をポケットから出して確認した。


「あと、約1時間だね・・・ロビーで会う事になってるから、まあ・・・それまでは、自由・・・・それで」
「オレは適当にすんぜ!学院にはいるからよ、なんかあったら呼び出せや!」
「了解・・ピュンマたちは?」


ジェットと同じベッドに腰をおろす、ピュンマ、そして海を見る。


「みんなで遊ぶつもりだったんだけど?」
「・・・・・それは、遠慮してもらって良い?」
「?」
「さくらと、約束してるから」
「約束?」
「・・・・・・ああ、2人でまわる約束だから」


とっさに、その場にいた00メンバーたちはフランソワーズを見る。
彼女は、その視線に気づいていながらも、気づかないフリをする。

動揺しないわけではない。
けれども、”覚えている”から、こころは落ち着いていた。


フランソワーズではなく、彼女が座るシングルソファと対になった正面に置かれたソファに座る、当麻の方が動揺する。


”さくら”と言う女性について、彼はただ”知人の家にいる、サイボーグである彼らをサイボーグとは知らずに付き合いある女性”としてしか把握していないためだ。

海ほどに、彼は”サイボーグ”である彼らの生活に興味を示していない。
彼が興味を示すのはすべて”フランソワーズ”関する情報のみ。
彼の身のまわりで起こった”事件も、彼はほとんど把握していないのと、ほぼ同じような状況だった。


「いっつの間にだよっ!それっ」
「・・・・昨日、ちょっとね」
「だよ!だからかよっ決めていた時間よりも早く来るのはよっ!

ジョーの言葉に混乱する当麻。



昨日、ジョーは自分に宣戦布告したのではなかったのか?と、思い出そうとする。

手を繋ぎ合ったままのフランソワーズと009。


『(島村も、フランが好きだと、)そういうこと?」と、当麻はジョーに訊ねた。
帰ってきた答えは「(彼女を想っている、)そういうことだよ」と、当麻の考えを固定するものだった、はず。




なら、なぜ?
”さくら”と言う女性と2人で?









自分にむかって言った言葉はなんだったのか!と、言う疑問と、フランソワーズが彼を想う気持ちを察した、怒りに近い気持ちが混じりあった視線をジョーに投げつけた。


「non of your business」


薄く笑った口元で答えられたが、その瞳はぞくりと当麻の背を一瞬で凍らせて、静かにギルモアが、無言の気配でジョーをたしなめた後、息子たちに注意を促した。



「やんちゃなのもほどほどにしておかんと、いかんぞ、ジェット、ピュンマ、・・・そしてジョー、まだお前たちは”学院生”だと言う事を忘れちゃいかんぞ?・・・最後の最後で問題を起こされてはかなわんわい!」













####


「ジョー!!!」っと、甲高い女性の声。
その発音が、JOEであることに違和感を持った海が、その声の主の方へと視線を走らせた。


さらさらとした黒髪を肩先で切りそろえた、日本人形のような容姿の女性が、ジョーの前に嬉しそうに立つと、腕を伸ばしてハグを求めるが、ジョーは困ったような顔をして、それをさりげなく拒否する。女性は一瞬、傷ついたように切れ長い瞳を揺らせたが、すぐに元の笑顔に戻り、相変わらずね!と、拗ねたように言った後、ジョーの隣に立つジェットに、久しぶり!と、ハイ・ファイブで、ぱん!と渇いた音をホテルのロビー内に響かせて、その音の反響が消えないうちに、素早くキスと、ハグを交わす。
次に、はピュンマへと、同じようにキスとハグ。

その自然な動作が、彼女が日本で育ったのではない事を告げる。


ギルモアに対しては、敬愛をこめて、少しゆったりとした動作で、挨拶をし、それは張大人とグレートへも同じだった。
腕にイワンを抱くフランソワーズに驚きの視線だけを向けて、彼女にだけはなぜか、頭をぺこり。と、下げただけで”日本風”に挨拶をしつつ、フランソワーズの隣に立つ、篠原をさっと値踏みするかのように視線をむけ、それを誤摩化すように微笑んだ。

その彼女の後方からひょろりとした、スーツに身を包んだ初老の男がニコニコとした笑みのまま、ゆっくりと彼らに近づいてくる。


ピュンマは、コズミ博士にむかってにっこりと笑いかけ、そして、2人を紹介する。


「コズミ博士、さくら、紹介します。彼は僕たちの友人で、津田海くん、そして、こちらが、篠原当麻くん」
「こんにちは、津田海です」
「・・・・はじめまして、篠原当麻です」


細い瞳を子猫のようにっ半円を描くように細めて微笑みながら、さくらは2人に挨拶をする、人懐っこい、その表情があっと言う間に、海と当麻の初対面に対する警戒心を解かす。


「はじめまして、真鍋さくらです。ヨロシクね!」
「ギルモアくんから訊いとるよ、はじめまして。コズミじゃ・・・・おやおや、イワンくんもか!」


コズミは00メンバーたち、それぞれに言葉を交わしながら、フランソワーズに近づき、彼女が抱くイワンを覗き込んだ。


「起きとるのか?」
「はい・・・」
「フランソワーズさんや、ミツエさんから預かりもんじゃ」
「?」


ごそごそとスーツの内ポケットからグリーティングカードを出した。


「彼女は先週末に娘さんと北海道へ行って来ての、送る予定だったんじゃが、こっちの方が早いからのお」
「コズミ博士、ありがとうござます・・」
「んん。・・イワンくんや、フランソワーズさんのこれをちょっと持っていてあげてくれのお」


カードをそっとイワンの胸に奥と、小さなふくふくとした手が、しっかりとそのカードを握りしめた。


「じゃあ、グレート、ヨロシク頼むぞ」


ギルモアがグレートの二の腕をぽん。と、触れた。


「アイアイ・サー!姫と王子は騎士・グレートに御任せあれ!」
「なんじゃ?フランソワーズさんは行かんのか?」
「夏の暑さは赤ん坊にはきついでなあ」
「そりゃ、儂らも同じじゃて」
「ふむ・・。確かに」
「まだまだ、夏の暑さに負けるような、博士たちじゃありませんわ。楽しんで来てくださいね」


ジェットが、学院へ向かうことを促す。


「行ってくるアルネ!グレート、ちゃあああんっとフランソワーズとイワンを頼むアルよ!!」
「大人に言われなくても、大丈夫だ!それより、大人こそ、しっかり博士たちを頼むぞ!!」
「行ってくるね!!何かいるものがあったら、連絡して!」
「んじゃな!土産はジョーに頼めよ!」
「・・・」


エントランスのドアに向かって、歩き出す。

先頭を歩くのはジェット。
続く、ピュンマと海。そして、張大人とコズミ・ギルモア博士。さくらはジョーの腕を取り歩き出し、途中、振り返ってフランソワーズと、紹介されたばかりの当麻を見る。
腕を絡められた、それを、そっと外しながら、ジョーは、ちらりと当麻を見ると、視線がぶつかり合った。

怒りに似たような視線をそのまま受け止めた状態で、ジョーは視線をフランソワーズへと移す。




<行ってきます・・>



人である当麻が絶対にできないことで、彼女との距離を縮める。
使えるものは、なんでも使う。







---覚えていて・・・・










今日、きちんとさくらに、自分が誰を好きであるかを伝えるから。
その後に、きっと必ず・・・・。







だから、どうか、覚えておいて。
彼女には友達以上の気持ちはない。





俺のすべては、キミだけに・・・・・。








<昨日の、ケーキの件ももあるし・・・。お土産、待っていて、ね・・・フランソワーズ>
<・・・・・・>






”伝染”するなら、いっそのこと、この想いも、俺がキミを想う、この気持ちも伝染してくれればいいのに。








「我々も部屋に戻りますか!」

家族たち、と、その友人がホテルのドアを抜けて真夏の街へと消えて行った後、涼しいえあ・コンディショナーに、汗を忘れ去った皮膚が、少しばかり冷えてきたのを合図に、グレートが部屋に戻ることを提案した。


「ええ」
「まあ、なんつってもじいっとホテルにいる必要もねえしなあ・・・ランチは我々も外に出てみないか?」
「そうね・・・イワンのお昼を済ませて、近場ならいいわね?」
「・・・」




見送るフランソワーズの視線は、ただ1人に固定されていた。
当麻はジョーに向けていた腹立たしさを、正直な想いを乗せた言葉を受け入れてくれないフランソワーズに、薄くつもり始めた苛立ちに乗せてしまう、自分に気づいていなかった。
















====へと続く。


・ちょっと呟く・
さくら出ました!
当麻くん、ジョーとさくらの関係に純粋に(勘違いして?)怒ってます(笑)


海くん・・・注目!
さて、2日目に突入でが、もう7・・・なの!?

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名前を呼んで。
触れ合った柔らかさに、瞳を閉じることなんてできなかった。


「・・・・」


ついばむように、続けられるキス。
瞳を伏せた彼の瞼の二重のライン。
睫が長く、頬に影が落ちる男の人は、珍しいのかもしれないと、頭の中が妙に冷静に言葉を並べたとき、彼の唇が私の上唇を左右に撫でた。


薄く開いた瞳の揺れが、お土産にいただいたアイス・ワインのような甘さをとろりと含んで揺らめいた。
彼が作り出すキスのリズムの波のパターンがアナライズされても、つぎのキスが、強く唇を吸い上げてくる、アクションであることを予想が出来ても、壊れてしまった瞼は降りてこない。


「・・・瞳を閉じないんだ?」
「・・・・・・」
「別に、いいけど」


壁に押し付ける背の体温が、交換されていく。
温まる壁に、冷えてく背中。



彼の手のひらに、私の体温が。
彼の手のひらの体温が、触れられた頬に、顎に、髪に、交換されていく。



重なる唇に、混じり合う息。




「・・・・・003?」


どれくらい長く、どれくらいの時間を、そこで過ごしたのだろうか。
甘く囁かれたコードナンバーが、私でない気がした。


「ちが・・・・・」
「・・・・・?」
「・・・・・・・・・・Francoise」


瞼を閉じて、久しぶりに音にした自分の名前に震えた。


「Francoise・・・」


009の唇から音にされた名前を耳にして、固まっていた心臓が動き出す。
足の指先が熱く燃えていく。

寒い外から暖かい部屋へ戻って来た感覚。
耳が痛いほどに熱い。



忙しなく瞬いた瞼が、渇きかけていた碧を潤していく。


「そう・・・003、キミの名前はフランソワーズか・・・」










『FRANCOICE』


擦れた、音にならない空気の振動を作り出す唇が、重なる。










『FRANCOICE』


心地よく、彼の囁きに酔っていき、閉じられた瞼の暗いスクリーンが眩しくスパークする。










『FRANCOICE』


深さを増していく熱に答えるように、離れた唇を淋しく感じたために。










「009・・・あなたの、名前は?」

「ジョー・・・・島村、ジョー・・・」

「ジョー・・、ジョー・・・・ね・・」

「そうだよ」











私たちはもう、戦うためのサイボーグじゃない・・。

呼び合う名前は、音にする名前は、愛し合う、人である証。










忘れないで、私の名前を。


『FRANCOISE』


忘れないわ、貴方の名前。



『JOE』











この戦いが終わったあと、もう一度、聴かせて。
そしてキスして。



そして、人であることを思い出させて。



名前を呼んで。
私の名前を・・・・・。



end.










*いきなりですか、9・・・。
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