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お早うが言いたくて/京都・嵐山2泊3日の旅・2.5
からからと音を立てて玄関を開けた、ジョーの手を見ていた。
繋がれたジョーの手が火傷しそうなほどに熱くて、びっくりした。


半分も食べていなかった夕食を、ジョーが心配する。


「夜中に、絶対にお腹がすいたって起きるよ?ここは邸じゃないから、好きなときに冷蔵庫を空けるなんて、できないしさ?」


お座敷に戻って、夕食の続きを促したが、フランソワーズは戻らないと言った。


「も、食べられないわ!なんだかそんな気分じゃないもの」


気分で食べるの?と、不思議そうにジョーは首を傾ける。
きっちりと、いついかなるときも、それが絶対に破られてはいけない法律であるかのように3食、かかさずに食べるジョーは、食べたり食べなかったりする、ましてや気分で食欲の増減が決まるのが、病気など身体的問題がないかぎりは納得いかなかったりする。

食べられるだけ幸せ。
食べられるときに、しっかり食べておくこと。

お金よりも、その日、3食きちんと食べる事の方が大切であると育ったために。
けれども、それは胸の中にだけにしまっておく疑問であるために、決して口には出さない。


「じゃあ、もう一回お風呂?」
「・・朝に!」
「そっか」


フランソワーズの部屋へ向かいながら、自分の体温が伝わって、温まり始めたフランソワーズの手のように、暴れていた心臓も落ち着き始めていた。


「端っこでいいよね?」
「こっち側に敷いて!」


フランソワーズの部屋まで彼女と手を繋いだまま向かい、部屋で彼女の分の布団を押し入れから出し、レクチャー付きで用意をして、畳(床)に直接敷いた布団にはしゃぐフランソワーズに頬が高くなりつつ、湯田の余計な一言”くるくる御代官様しないとなあ?”を思い出しては1人顔を風呂上がりのように朱色に染めた。


「ねえ!ジョーっ”ふわっ!”てしてっ!!ふわっ!って♪」


掛け布団を手にもったジョーを見て、ごろん。と、布団の上に転がる。
眩しい白の上に広がるハチミツ色の波。

長くメンテナンスルームに拘束されなければならなかった時期。
フランソワーズがやってきては、それをジョーにしていたことを、拘束から解かれた後も、たまにお互いが要求し合う習慣ができた。


「いいよ」


今はジョーがフランソワーズにしてあげることの方が多い。
メンテナンスルーム以外では、冷え込んできた季節、週末の映画の時間、リビングルームのソファの上でみられる二人のやりとりでもある。


「早く!」
「わかってるって・・いい?」


くすくすと、嬉しそうな笑いが止まらない、フランソワーズ。
ジョーは布団の端をしっかりともって空気を捕らえるように、掛布団を宙にはためかせ、ふうわり、と、フランソワーズの上に落とす。


「んふふふっ♪」


捕まえた空気と優しく躯を包んだ布団の感触に、躯をジョーの方へと傾けて、膝と腰をくの字に折り、むずむずとする躯を零れる笑みと一緒に我慢する。


「もう一回?」
「もう一回!!」


嬉しそうに、ジョーからのアンコールに頷いた。
すると、一度目よりも、高く布団を宙に浮かせて、たくさんの空気を掛布団に含ませた、ジョー。
浮かせた掛布団の下で、子猫のように丸くなるフランソワーズが、じっと自分を見ていた。
落ちてくる布団が与えるくすぐったい感触に期待を込めて、きらきらに輝く碧と、くすくすと笑いを零す口角があがったチェリーカラーの唇に、嬉しさに上気させた頬が、ジョーを安心させた。






---明日がキミにとって素敵な日になりますように・・・・。


ジョーの願いも含んだ掛布団が、フランソワーズの躯を包む。











***


習慣は旅先でも失われる事はない。
ギルモア邸で目覚める朝の時間と同じように、遠く離れた旅先でも、フランソワーズの瞳はぱっちり。と、爽やかに目覚めた。

自室ではないことが、掛布団から顔を少しだけ出したフランソーズに飛び込んで来た映像から、ここが旅行先であることを確認する。
隣に、千里。その向こうにりか子、そして美奈子と並んだ布団。

部屋は2間になっており、起き上がったフランソワーズの視界に昨日のまま、テーブルに置かれた湯のみや茶菓子の包みが映った。


「・・・・・・お風呂」


いつものように、手早くシャワーを、と。思いつくが、そう簡単にはいかない。
昨日、オオガミに教わったことを記録した補助脳から取り出して反復しながら、温泉へ向かう支度を整えようと躯を動かすが、ジョーを起こす時間まで、かなりの間がある。

いつもなら、朝起きて、手早くシャワーを浴びた後、キッチンへ。
イワンのおむつを替えて、ミルクを与える。そして、朝ご飯の支度をしながら、自分の分のカフェオレを用意する。

お天気がよければ、キッチンで飲み終えたカフェオレの後に、洗濯機をまわして、ギルモアが地下にいるか、自室にいるかを確認し、起きているときは、朝の挨拶をする。
そうこうしている間に、キッチンに張大人がやってきて、朝ご飯の支度の続きを手伝ってくれる。
起きて来たグレートは、珈琲派ではないので、自分で紅茶の支度を始める。と、張大人が、邪魔アルね!と文句を言う。邸に帰って来ている家族がいれば、次々にダイニングルームへと集まって来て、次第に賑やかになっていく。


隣で眠っている千里の寝息が、フランソワーズの耳に届く。
いつ彼女たちが部屋に戻って来たのか、フランソワーズは覚えていない。

色々と緊張もしていた。
久しぶりに声を上げて泣いたので、頭皮がつっぱるような疲れも感じていた。

それだけじゃない。

ジョーが”ふわ!”をしてくれた嬉しさと、熱かったけれど、じんわりと伝わった彼の手の温度のせいもある。


繋いでいた右手に、左手を添えて、昨夜の彼の手の温かさを思い出しながら、ことん。と、再び布団に躯を倒した。

掛布団をひっぱり上げて、頭まですっぽりとかぶると、朝の静寂を纏う空気にさらされた肩が温たかくなる。



背中から、彼の腕に包まれたぬくもりも、一緒に思い出す。



---ジョー・・・。



膝を折って、躯を丸めた。
ゆっくりと瞼を閉じて、そうっと彼の名前を空気には震動させずにくちびるだけ、その音を形作って呟く。



---ジョー・・・。





たくさんの彼を思い出す。
どのジョーも、フランソワーズが大好きで、好きで、好きで、たまらなくなる。

けれど、あまり好きじゃない彼もいた。
同じジョーなのに、ジョーじゃない、彼。

大好きだけれど、好きな彼のカテゴリーに入れたくないと、下くちびるに力が入る。













それは、”水沢美奈子”が好きなジョーだから。


















「気持ち良さそうに寝てますねえ・・・」


千里が覗き込んだ先に、まるで童話のお姫さまが何を間違ってか、温泉浴衣に身を包んで眠っていた。


「起こした方がいいんじゃない?」


りか子は、その寝顔を見て、王子様のキスじゃないと本当に起きないんじゃないの?と言う言葉を口にしそうになったが、思いとどまる。
昨夜のことを思い出して、少しばかりこころが沈むが、日付が変われば過去のこと!と、自分の気持ちを立たせる。


「アルヌールさん?・・・アルヌールさん・・?」


美奈子がフランソワーズの肩を遠慮勝ちに揺らした。
揺れにあわせて、光弾く亜麻色の髪は絹糸のようにさらさらと流れる。
金色の波が、枕からうっとりと流れて、真珠色の頬にかかっていた。

長い睫はピューラ-など必要としないだろうほどに、愛らしさをともなってくるりとカールしている。
つん、と突き出すような形に寝息をこぼすくちびるの、艶やかなチェリーカラーは、乾燥体質のせいもあり、毎日のリップケアをかかせない美奈子にとって、嫉妬したくなるものだった。
そして、思いを寄せるジョーの片思いする人であるために、女のコンペティティブな競争心と混じり合う。



あまりにも綺麗な作り物のような、出来すぎた容姿。
触れている肩の華奢さに。




「アルヌールさん!」
「?」


ゆったりと幕が開く。と、大きなパライバトルマリンが現れて、美奈子を驚かせた。
映画を見ているかのようなその、眠りから目覚めて行く様子に、同性でありながらも目がはなせなかった。


「・・aれ?」
「お早うゴザイマス、アルヌールさん・・・朝ですけど?」


美奈子ではなく、千里が声をかけた。


「!今っ何時ですか?!」
「7時50分だけど」


りか子がフランソワーズの問いに答えた。


「寝過ごしちゃうなんてッ」
「だいj」


美奈子の声をさえぎるようにして、跳ね起きたフランソワーズは、そのまま走るように部屋を出た。
その勢いに、部屋を出て行くフランソワーズを黙って見送った美奈子、りか子、そして千里の3人。


「いったい、何なの?」
「・・・どこへ行ったんですかね?」
「・・・・」


3人の頭にはある人物が浮かんでいるが、あえて口にしなかった。









###

ドアがノックされて、同期で同じセミナー生である岸辺とじゃんけんに負けたために、橋本はあくびをしながら、のろのろとそのドアを開けた。


「!!」
「おはようございます!あの・・・ジョーは・・・?」


乱れた髪を手で撫で付けながら、少し息のあがった様子はピンク色の真珠があることを思い出させて、乱れた襟の合わせから覗く、鎖骨の芸術的なラインから視線が下がっていく。

惜しい!と、舌打ちしたくなるぎりぎりのところで、きっちりとガードされていた。


「アルヌールさん?」


ドアから耳心地良い女性の声に、短い髪が右から左へと風になぎ倒された稲のように一定方向に流れている、寝癖をつけた湯田がひょっこりと橋本の後ろから顔を出した。



「お早うございます、ジョーは?」
「お早う・・・島村はまだ起きてなくて・・・」
「よかった!」
「え?」
「御邪魔しますね♪」


うきうきとした様子で、部屋に入ってくるフランソワーズを橋本、湯田が左右によけて迎えた。


「うわあ!?」


寝ていた間にいつの間にかどこかへいってしまった帯。の、ために、浴衣をひっかけて、トランクス1枚といってもいいような状態でぼーっと布団の上に座っていた岸辺は、突然現れたフランソワーズに慌てて、浴衣の前あわせて逃げるように湯田と橋本の方へと駆け寄った。


「お早うございます・・・御邪魔しますね?」


そんな岸辺ににっこりと挨拶をして、その視線を湯田へと繋げた。


「あの、お願いがあるんですけれど」


ジョーが寝ている布団の枕元に座って、湯田に、いや、ドア口近くに立つ3人の男たちにむかって微笑む。


「なんですか?」
「証人になっていただけます?」
「しょうに・・ん?」
「はい!」
「えっと?」
「今から、ジョーを、ジョーがいう”普通”に起こすので!起きなかった時の証人です」
「いいですよ?」
「ありがとうございます」


3人は興味深げにフランソワーズと、寝ているジョーの2人が視界に入る位置へと移動して、腰を下ろした。
その間に、フランソワーズは躯をジョーが眠る布団のわきに座り、俯せになって抱き込んだ枕に頭を乗せた状態の、ジョーの額にかかる髪をかきあげて撫でる、その動作を繰り返しながら、声をかけた。


「ジョー・・?」
「・・・zzzz」
「ねえ、ジョー・・起きて?」
「ZZZ・・・zzz・・・」
「起きて、時間が過ぎてるの!」
「zzz・・・ZZZZ・・・」
「ねえ。起きてくれないと、別の手段に出るわよ?」


ジョーの頭を撫でていた手を、彼の肩へと移動させて、躯を揺すった。
すると、その揺れに反応して枕を腕から離し、寝返りを打ってフランソワーズに背をむけてしまう。


「ジョー?・・ジョーってば!!」


彼の肩、二の腕に両手を置いてゆさゆさと揺らす。が、ジョーはそれから逃げるように、再びうつぶせになって眠り続けた。


「朝が極端に弱いって聴いていたけど、相当だなあ・・・」
「島村さんにも弱みってあったんですね」
「これって弱みに入る?逆に”可愛い!”とか言って、モテ要素になんね?」
「・・・・可愛いもんなあ、島村の寝顔・・・襲いたくなるくらいに」
「「湯田サン、しゃれになんないです・・・」」


岸辺、橋本は昨夜のことを思い出してげんなりと肩を落とした。
酔うとキス魔と化す湯田の犠牲者はなぜか男に限られる。それは、酔っていても格闘家としての”女性の厭がることをするのは腐った男のすることだ!”精神が、そうさせるのか、彼の深層に眠っている”ある要素”が目覚めるためか、誰もその辺は突っ込みたくない。

フランソワーズと分かれてから、一度座敷に戻ったジョーは、昨夜、真っ先にその犠牲者候補にされたのだ。



「も!!起きなさいっ!!」


ぐらぐらとフランソワーズが力任せに揺すったにも関わらず、平気で寝ているジョーに関心してしまう、同室の3人。
毎朝のことだけど、ここでもなの!?と、呆れているフランソワーズ。


「・・zz・・・す・・・・りぃ」
「?」


そんなジョーがやっと反応をみせた。


「・・・・・静か・・に」
「きゃあ!」


揺らすフランソワーズの右手を掴む。


「「おおおっ!!」」
「動きが慣れてるようにみえるのは、オレだけか?」


フランソワーズ側に躯を回転させるようにして掴んだ手を自分の方へと引き寄せて、仰向けになったその胸にフランソワーズを抱きしめた。


「・・・・・しnいと・・・みつ・・かr」
「っジョー!」
「だm・・て・・・」


どうやら夢の中で”ミッション中”らしい。

左の眉頭に皺を寄せて、フランソワーズの後頭部に右手が。
そして、左手でしっかりと背中をホールドする。


「見ていていいんです・・か?これ・・」
「証人だしなあ。いいんじゃないか?」
「島村サン、すげー・・・」


ジョーの左肩があらわになるほど着崩れてしまった浴衣。
そのために、ジョーの素肌に直接フランソワーズの頬が触れる。


いつもよりもゆっくりと鼓動を打つジョー心音が、フランソワーズの耳に聞こえる。
規則正しい音に、眠っているジョーの少しだけ高くなっている体温に、フランソワーズは瞼を降ろしそうになる。が、ここでそんなことをしてしまうわけにはいかず、頬に感じる素肌の感触を思考から切り離そうとしたとき、思い出した。


「・・・あ。」


3つ前のミッションで、ジョーは擁護者を庇って爆風を浴び、背中全体にひどい火傷を負ったとき、メンテナンスにて火傷を負った部分を開発中だった新しい人工皮膚に取り替えた。

その手伝いをしたことを思い出したフランソワーズは、ゆっくりと顔を上げて眠っている009を見つめる。
強度が増した皮膚は、少々のことでは痣や火傷などを負うことはない”らしい”。
日常生活の中、人らしさを失わないぎりぎりのラインで、その強度を高めたとギルモアは語った。

取り替えた部分は、頬が押し当てられている、胸元ではなく・・・。


「どうしたのかな?」
「なんか、どきどきするんですけど?」
「浴衣ってエロい・・」


ジョーの胸の上で、フランソワーズはそっと躯を上にずらした。


「えっと・・確か・・・・」


取り替えた部分の境目などないために、記憶をたぐり寄せる。


---首の後ろから左肩で・・・。


「「っ!!!」」
「おおっと・・・」


むき出しになった左肩から視線を流す。
鎖骨のくぼみがなだらかな三角の影を落とす部分に、フランソワーズの唇が寄せられると、お早うのキスにしては意地悪に、人工皮膚をつうっと吸い上げた。


「n・・・fん?」


甘い感触を首元に感じて。
強くなったフランソワーズだと認識できる香りを鼻腔に捕らえ。
腕に感じるリアルさに、ジョーの眉がぴくり。と動く。


抓られる痛みよりも尾骨が痺れるような感覚。が、離れて、夢からも離れていく。


「だめねえ・・・・」
「・zzz・・・」
「ここはどうかしら?」


頷くように頭を下げると、肋骨の二本目と三本目の間に唇を寄せて同じように吸い上げる。


「・・・・・haaぁぁ。。。んnっ・・・・」


溜め息に似た、声帯を擦った音が朝の清々しさに似合わない色を含む。
そんな自分の声に、ジョーは急速に眠りから浮き上がる。
そして、うっすらと開いた瞼の2.39:1の画面アスペクトの視界に映った、胸上に抱く片思いの相手のハチミツ色。


「・・・・・・?」


遠い昔に経験した事がある皮膚感覚を思い出すのに、寝ぼけた頭は上手くそれをフランソワーズの行動と結びつけることができない。


「ふふ♪ここはちゃんと赤くなったわ!」
「・・・F・・・rん?」


フランソワーズの声に、ジョーが覚醒する。


「 hickey ・・・」
「・・・起こすためにつけるもんですか?」
「・・・・・・島村サンが襲われてる」


3人は静かに目の前の2人を見守るしかなかった。


「・・・・ぜ・・・・3?」


乾燥した空気に喉がかすれる、その感覚に、咥内の唾液を無理矢理に飲み込んだ。


「んふ♪起きた?」


胸の上に乗っかっているフランソワーズ。
それくらいでは驚かない。ではなく、夢の中の状況を引きずっていたために半分ほど009モードであった。


「お早う、ジョー!」
「・・・・あ、・・・。・・・・・・・・・・・え?」
「あのね、ね♪ここには、つかなくて。ここは、赤くなるの!」
「・・・・へ?」


楽しそうに、指差されたポイントがなんとなく、甘く痛む。


「あのね、こうやって・・・」


寝ぼけているジョーにデモンストレーションしようと、そのままの状態で頷くようにして頭を下げると、右鎖骨の下ラインに、唇を寄せた。


ふっらあああああああああああああああああああああああっっsんんっっ


フランソワーズが人口皮膚を吸い上げる前に、ジョーは彼女を慌てて胸の上から降ろすと、転がるようにして部屋の角に逃げた。


「うん。この反応こそ島村らしい」
「・・・すっげー!今の逃げ方」
「ギネスもん!」


ジョーは部屋の角に背を埋めるようにして、その場に腰が抜けたように座り込み、はだけきった胸に視線を落とす。
赤くなった花びらが一枚、しっかりとついていた。


「なっっ、なあっっ!なっ!!!なっっ!!!!!!なああっっっなっ(何してんだよ!)」
「起きなかったんですもの」


ふふ、と微笑みながらフランソワーズは愛らしく小鳥のように首を傾けた。


「だっっ!だあああっっ!だっ!!だ!!!(だからって!)」
「博士に報告しなくちゃ!」
「はっっは?!はっ?はあああ?!(博士ってなんだよ?!)」
「そうね、この起こし方は・・・・・ギルモア式?」
「ふっらっっ!!な!!だ!!!!こっっっっ、ふっっ(何してんだよっ!これのどこが普通の起こし方?!)」
「普通に起こしたわ!でも、起きなかったのっ!」


フランソワーズはぷうっと頬を膨らませて、ジョーの同室の3人へと振り向く。
すると、3人が深く頷きあった。


「島村、お前が”普通”に起きないのが悪いとおもうぞ?」
「羨ましい・・・です、正直」
「ごちそうさまでした」


橋本の声に、3人が手を合わせて、ジョーにむかって頭を下げた。


「約束ね♪今晩、くるくるさせてねv」


すっと立上がって軽やかに部屋を去るフランソワーズを見送りながら、パニックを通り越して、呆然と魂が抜けていく。


「おーい、島村!まだ一日が始まったばっかりだぞお?」


そんなジョーの抜けていく魂をがし!と掴んで、朝の支度を急がせ、約束の時間までにジョーを正気に戻した湯田は、何度も訪れたことのある嵐山散策が少しばかり、楽しみになった。













へ続く(笑)


*おまけ?!
 2でここまで書く予定をカットしたんです。
 それを3の冒頭に...でも、2日目はイベントメインにしたくて。

 カットしようかと・・・思ったんですが、載せましょう。
 2.5ですっ(笑)



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雪山遭難
「フランソワーズ?」
「・・・ジョー、ほら・・・・・・」


愛らしい唇が寄せられた窓に、かかる白い息が、そこに小さなライトが点っているかのように、仄かに点滅してた。


「・・・・初雪だね」


2人分のマグを手に、ジョーはフランソワーズの背後に立つと、手に持っていたマグの1つをフランソワーズに差し出した。


「熱いから、気をつけて」


躯を捻って、ジョーの手から受け取る。
甘いココアの香り。
最近覚えた、ビター・チョコレートを削っていれることも、忘れてはいなかった。


「ありがとう」
「寒くなるね・・・」


ジョーは自分の分の珈琲にふうっと息をふきかけて、熱い湯気を遠ざけてからマグのふちに唇をよせた。


「風がないのね・・・綺麗」
「ゆっくり落ちていくね・・・」


窓のそばに立っていると、冷たくなった窓の空気を頬が捕らえる。


「・・・・ここに立っていたら、冷えるよ」


自分がキッチンへ行っていた間、ずっと彼女はここにいたのだろうか?と、それを確かめるように、フランソワーズの頬に触れた。


「ほら、冷たくなってる」
「ココアがあるわ、大丈夫」
「風邪なんかひかないで欲しい」
「大丈夫よ」
「キミの大丈夫は当てにならないの、知ってる?」
「まあ・・・酷いわ!」


下唇を押し上げるようにして、拗ねた仕種。


「・・・フランソワーズ」
「なあに?」
「ボクが風邪引きそう・・・」


甘えるような口調で、亜麻色の髪にキスを1つ。



「・・寒い?」
「珈琲じゃ、温まらない」
「風邪ひかないで」
「ひいちゃうかも」


口元だけに、浮かべた微笑み。
手に持つマグのココアよりも甘くなった人を見上げる。


「どうすればいいのかしら?」
「まず、ここに・・・」


頬をすり寄せるように少し屈むと、微笑みをかたちづくる、唇を彼女の瞳までにおろす。


「温まったキミのキスをください」
「それで?」


羽のような感触で、触れ合った。


「あの雪のように・・・僕を溶かして」









淡くはらはらと散る雪の、降りる場所は、あたたかな、キミの・・・・・・・・。


















「あら、違うわ。・・・・ジョーが私を、でしょう?」
「いえいえ・・・・。フランソワーズに溶かされっぱなしですよ、僕は」





2つのマグが、並んでライティング・デスクの上に置かれた。


















「寒いのに、服を脱ぐのって変だと思わない?」
「・・・・フランソワ-ズ」
「だって・・・、そう思ったんですもの」
「雪山に遭難したら、寒さをしのぐための人肌は常識です。だから、いいんだよ」
「も。ジョーって、そればっかり・・・。でも、遭難して・・・そこにジョーがいなかったら?」
「・・・・・・・・・・・・・怒るよ?」
「現実問題、あり得るわ」
「その時は、・・・どうしようか?」
「どうししたらいいの?今後のために、訊かせて?」




互いの体温を直接感じ合いながら。





「今日みたいに、温めてあげる」
「だから、ジョーがいなかt」
「009は、003の傍を離れるなんてあり得ないから、現実にはそんなこと、起きません!!」
「じゃあ、一緒に遭難するのね?」
「そうなん遭難です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・寒いわ」
「だから、ほら、こうやって・・・・・・・」


カーテンが開け放たれた窓から、月が輝かせる白のイルミネーション。






「一緒に遭難して、救助がくるまでか・・・ちょっと楽しそうだなあ」
「もうっ・・・・わざと遭難するようなこと、しないでね?」
「雪山ミッション、ないかなあ・・・」
「私、行かないから!」
「駄目です。ミッションですから」
「いや!絶対に行かないわ!」
「無理だよ、003。009の命令です、キミは僕と雪山で遭難して、救助が来るまで人肌で温め合って過ごすんだよ」


淡く溶ける、雪のようなキスがはらり、はらり、と舞い落ちる。












「・・・・・ジョー」
「なに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ずっと一緒にいてくれるのね?」
「うん」
「絶対に?」
「絶対に」
「・・・・・・・1人に、しないでね?」
「しないよ、しない。キミを1人になんてしない」


今にも消えてしまいそうな華奢な白を力いっぱい、想いを込めて抱きしめて。












「・・・・・ちょっとだけ、ロマンチックかしら?」
「シチュエーション萌えですか?・・・・・・・以外とフランソワーズってさ・・」
「!」


ぺし。と、頭をはたかれたジョーは、仕返しだと、・・・・・・・。
2人の雪山遭難を設定とした演習(?)は続く。






















*地下から出たら、初雪です。
 はらはら降る雪が、街灯に照らされて綺麗だなあ・・・と。
 それでこれか!?

 勢いって怖い。
 妄想って・・・・(笑)
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ヴァニラ味

温められたために乾燥したリビングルームから健やかな寝息が聞こえた。 スペシャル・サイズのL字型ソファの、端っこに隠れるように置かれた加湿器の 電源を通りがかったついでに入れる。 白い煙を吐き出しはじめて、彼の周りに目に見えない柔かな空気を作り出す。 人の気配に敏感なはずの彼らしくない。 渇いた唇を巻き込んで潤いを与える仕種に思わず魅入る。 毛足の長い、冬用のカーペットの上にそっと両膝をつくと、息を殺して彼の、 柔かな褐色の髪に触れる。 長い前髪が、ソファに押し付けられた方向に流れていたのをそっと持ち上げて。 滅多に見る事の無い、彼の隠れていない顔を見た。 規則正しい息づかい。 あわせるように、肩が微かに揺れる。 腕を折って、頭を置いて。 ソファの背に背中をぴたりをあわせて。 仰向けだった躯を、寝返りを打って横向きに態勢を変えたために、胸部分に 置かれていた雑誌がカーペットの上に落ちて変な折り目がついてしまっていた。 「風邪引くわよ?」 指が彼の髪から離れる。 その感触が皮膚に残る。 「襲っちゃうわよ?」 あまりにも可愛らしい寝顔に、言ってみた。 「・・・・なんて」 溜め息をついて、立上がる。 「・・・・・・ね」 遠ざかっていく、足音。 しゅうう、っと。加湿器がなる。 波の音が、ざああっと聞こえた。 妙に、時計の秒針の音が耳に響く。 キッチンから、こぽこぽと、珈琲サーバーがセットされた音に、髪と同じ色の 褐色の瞳が、片方だけ開く。 「襲ってくれて、いいのに・・・・」 再び、瞼を降ろした。 珈琲の香りが、ジョーの眠るリビングルームに届き始めたころ、聞き慣れた 足音が近づいてくる。 潤った空気に、満足げに微笑む。 さきほどと変わらない態勢の彼に、腕が痺れないのかしら?と、疑問に持ちつつ。 「・・・・そんなに安心して寝てると、危ないのよ?」 さっと、気まぐれの風が通る。 触れ合った唇に、ジョーは昼寝のフリを続けた。 再び、遠ざかって行く足音。 褐色の片目が薄く開いて。 閉じる。 香りよい珈琲の香りが、部屋を包む。 甘いヴァニラ・ビーンズの香りが混じる。 トレーの上に用意された3時のおやつ。 聞き慣れた足音が慎重にそれをリビングルームに運ぶ。 「・・・・・・起きて?」 寝たフリをする。 「ジョーの好きな、ヴァニラ・クッキー焼いたのよ」 寝たフリを続ける。 「全部、食べちゃうわよ、私が」 寝たフリをやめない。 「好きでしょ?」 「好きだよ」 ぱちり。と、褐色の双眸が開く。 「食いしん坊さん、おやつです」 「・・・フランソワーズ」 「なあに?」 ジョーの前に珈琲カップを置いた。 「・・・・・・おはよう」 「おはようございます」 「博士は?」 「地下なの、お茶の時間には呼んでくれてって言われて、 呼んだのだけど・・・」 のろのろと、ジョーは躯を起こす。 「出てこないみたいだね」 「あとで、様子を見て来てくれるかしら?」 ソファに座り直して、フランソワーズが焼いた丸いだけのヴァニラ・クッキーに 手を伸ばし、ぽん。っと口に放り込む。 「了解」 口元で微笑みを形作ったまま、手に取ったカップに浮かぶ自分を見つめて、 苦い液体で喉を潤す。 「ジョーってすごくシンプルな味が好きよね」 「好きだよ」 「また、焼くわ」 カップのふちに添えた唇が思い出す感触は、気まぐれな風。 「だから、ちゃんと襲ってよ・・・・今度から」 苦い珈琲とあっさり甘いヴァニラ・クッキー。 加湿器が必要とする水が足りないと赤ランプが点滅する。 「え?」 「こういう風に、ね?」 に手に持っていたカップがソーサーに重なる音と、驚きに揺れた亜麻色の髪。 「もっと好きになりそうだ・・この味」 1口かじっただけの、クッキーがフランソワーズの膝に落ちる。 お茶の時間にやってきた、足音がドア前で止まり、遠慮がちに引きかえしていく。 「ジョー・・・」 「駄目だよ、逃げたら」 膝の上に落ちていた、かじられたクッキーを、ジョーの指先が拾う。 「おやつの時間なんだろ?」 拾ったそれを、フランソワーズの唇にはさませて。 「いただきます」 両方を美味しく味わう、午後。 end. *ええっと、ヴァニラ味っていいですよね!飽きないですよね!  だから、なんだって言われても、わかりませんっ(泣)

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Little by Little・7
(7)






月見里学院、あやめ祭2日目の午後。


コズミ、ギルモア、そして張大人と別れた後、気がつけば、ジョーが予定していた通りに、さくらと2人きりになることができた。
ピュンマの、彼らしい気遣いが一緒にいるジェットと海をさりげなく誘導する形で、ジョーとさくらから離れていった。人ごみに紛れて、2人から離れて行く時、海の視線は自然とジョーを追う。




---・・・・恋人同士じゃん・・なのに、さあ・・・・・なんで?



「ねえ、ピュンマ」
「なに?」


2人の姿が見えなくなる。
人の流れに乗ってなんとなく歩く。


「変なこと訊いて良い?」
「変なとこ?」

規則正しく並ぶ、テナントブースに視線を泳がしていたが、それらの情報を脳は捕らえていなかった。
前を歩いていたい、びんびんと伸びた赤毛がピュンマと海の方へ、ちらりと振り返る。


「サイボーグ同士って恋愛しちゃ駄目なわけ?」


ジェットが口の端で笑い、その歩みを止めて後方にいた2人と並ぶと、海の隣に立ち、がしっと腕を乗せて、ついでに体重をかける。
その重みに少しバランスを崩しながら、海は自分よりも背の高いジェットを見上げた。


「んなこと、誰が決めたんだよ!」


すぐ後ろを歩いていた団体が、3人が突然足を止めたことに迷惑そうに、彼らをさける。


「・・・質問は、ぼくがしてるんだけど?」


海がジェットに聞き返しながら、瞳はピュンマを見ると、彼は笑っていた。


「サイボーグ同士で恋愛したら駄目だなんて、法律がある国があったら、すごいよね!あるなら、どういう理由からかなあ、・・・ちょっと興味あるなあ・・、ねえ、ジェット?」
「ロボットはあったよな!」
「ないよ!」


長い腕を首にまかれて、ぐっと海の周りの気温があがる。
眉間に皺を寄せて、海は、ジェットの腕をどけならが、するどく突っ込む。


「ああ?!あるぜ!」
「・・・・ジェット、もしかして、ロボット工学三原則(Three Laws of Robotics)の事?それって、SF作家(アイザック・アシモフ)が書いて有名になった話しで、実際の法律とかじゃ・・・ないから」
「へ?そうなのか・・?」
「ついでに、恋愛については一切触れてないよ?」


海の肩から腕をはずし、面倒臭そうに髪をかきむしる。


「ああああ!いいんだよっなんでも!!恋愛なんてもんは、してえやつがすりゃいいんだよっ、犬でも猫でもっ子孫繁栄に欠かせねえプロセスの一つだろっ」
「「・・・子孫繁栄」」


ジェットの口から、その言葉が出てくると、なんだかねえ?
そうだよねえ、人類にとっては重要な、少子化が進む先進国には非常に真面目な問題だけど、ジェットが言うとさあ、と。ひそひそと、ジェットを避けるようにして早足に歩き始めた。


「いきなり恋愛をそこに繋がるなんてさ」
「無粋な男なんだね、彼って・・・姉さんたち、男見る目ないなあ・・・」
「あれ?林さんは・・・ジョーじゃなかったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・最近、夢姉みたいにはなりたくないって」
「ああ、じゃあジョーはアウトだったわけね」
「浮いてなくて、硬派でいい!って・・・・」
「え?」
「でも、自分には、そんな彼を振り向かせるエネルギーないってさ」


---さくらは、あるってこと・・・だよね・・・・・。


ピュンマと海は人の流れに乗って、ぐるりとテナントブースを見て回った後、休憩がてらに、噂の”都内で人気のケーキ屋”へ寄ることに決める。

気がつけば、ジェットは2人から離れて単独行動となっていたが、008に一言残していた。



<何かあったら、呼び出せよ>
<了解!>



00メンバ-の中で、一番心配性なのはジェットなのかもしれない。
ギルモア博士以上に。


彼は末っ子が心配で、たまらないようだった。












####

「いいんですか?」


カフェテリアのある紫微垣に向かう、3人を、遠くから見てる2人。


「暑い上に、五月蝿いのはかなわん・・・ったく、大声で何を離してるんだ、あいつらは・・・」


立ち止まった彼らを見つけたときの、アルベルトの表情は言った台詞と180度違うものだった。
恩田ミツヒロは苦笑する。


「クラークがいなくて助かった、・・・悪いが・・・」


恩田が参加しているアーティスト・グループの1つが、今回のあやめ祭のチャリティに毎年参加していることは調べがついていた。そして、アルベルトは恩田が2日目の午前中が彼が店番のシフトであることを事前に知っていた。


「なかなか忙しくて、家にも滅多に帰ってきませんよ・・・日本の研究室に慣れるのに、かなり手間取っているみたいで・・・、彼がいたら、売り上げが大きく伸びる予定だったんですけれど」
「・・・どうだ、調子は?」
「変わりません」
「・・・そうか」


ブース内に並べられた、絵に視線を移す、アルベルト。


「絵を買ってくだされば、別ですけれど」
「すまない、まだ親のすねかじりだ・・・そのうち・・・。仕事が決まったときにでも、何か買わせてくれ」


気軽に買える値段の、レターセットや、絵はがき、などを手に取る。


「その時は、プレゼントしますよ。・・・トーマスの写真、かえしてくださってありがとうござました」


トーマスが”本人”であるかどうかを、確かめるために恩田から借りた写真を、アルベルトはずっと持っていた。


「借りたものは返すのが当たり前だ。・・・トーマスのことはあんたにとっては、知りたくないこと、だったかも・・・知れんが」


手に取った5枚一組の絵はがきを手に取り、表、裏、とひっくり返して眺め、葉書の端っこにかかれたサインを見て、それが恩田の絵であることを知る。


「僕にとってのトーマスは・・彼一人です。できれば・・・・・本当の名前が・・・どこで亡くなったかも・・」
「・・・・・イワンに頼んでみるが、期待しないでくれ」


2人の会話が止まったことで、数人の女性客が、恩田に話しかけてきた。
並べられていた絵の説明をし、そのうちの1人が、絵はがきのセットと、1枚の水彩画を買って行った。


「日本人ですが」
「?」


それらを用意していたノートにメモを取る。
売り上げの20%は、月見里学院へ寄付する事になっているために、テナント・ブース(場所)は無料だった。


「ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州に友人が居ます・・・夫婦で観光客相手の店を経営しながら、画廊を持ってます。最近になって、小さいペンションを友人と共同経営を始めたようで・・・。人でが足りないとか。ドイツ語に、日本語、英語が話せるあなたなら・・・・。イギリスの方はクラークに話しを通しておきます」


ノートを閉じて、空いたスペースに新しい品を並べる恩田。


「・・・ありがたいが・・いいのか?」
「あなたはとても・・・興味深い」


アルベルトは手に持っていた絵はがきを、恩田に渡した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味だ?」
「・・・600円になります。クラークは以外と嫉妬深いので、注意してください」
「困ったな」


財布から1000円札を出しながら、左口角を意地悪く上げて嗤った。


「困る・・?」
「写真を返す目的もあったんですが・・・もっといい男を紹介して差し上げたくて、ここにいるんですけどね」
「え?」
「休憩、あるんですよね?」
「ありますけど・・・」


恩田は不信そうに、アルベルトを見た。


「プロとして、見ていただけたら。と・・」













####


「オークションの、絵・・・ですか?」


フランソワーズの携帯電話にアルベルトから連絡が入った。
昼食を、グレート、フランソワーズ、イワン、そして当麻の4人で、ホテル近くのファミリーレストランで終えた、帰り道だった。

電話を受け取ったのはフランソワーズだったが、それを当麻へと差し出した。
彼は戸惑ったように、会話を始めた。


「他にも、色々ありますけど・・・寮と、美術室に、あとは自宅の部屋・・ですけど」


いくつかの質問に答えた後に、再び携帯電話を持ち主に渡すと、今度はフランソワーズが会話を始めた。


「・・・・・ええ、今はイワンとグレートと一緒に、・・学院へ?でも・・・・」


ホテルのエントランス前で、フランソワーズは足を止めた。


「でも・・・学院に今からなんて・・・・・・009の許可なく、当麻さんを1人で、なんて・・ジョーに、訊いて・・・私じゃ解らないわ」


会話をしながら、困ったように、フランソワーズはグレートを見た。
すると、グレートが手を伸ばして、携帯電話をフランソワーズから受け取ると、ホテル内へと歩き出し、アルベルトと会話した。


「どうしったてんだい?」
『おせっかいさ』
「おせっかい?」
『坊ちゃんの興味を妹から離そうと思ってな・・・』
「置き土産か?」
『まあ・・・そんなところだ』
「本気でか?」
『・・・・自分の芸術を見る目と言うものを確かめたくてな』
「ぼっちゃんのあの、絵か?」
『どう思った?』
「遠目であったが、悪くなかったのは確かだ・・・、光るもんはあるなあ」
『それで十分だ・・・恩田に会った。会う事は009にも報告済みだ」
「へえ、そうだったのか?・・・!・・ああ、それでかあ・・」
『趣味程度しか、と・・。言っていたからな。プロがいるんだ、見てもらえるなら、良いだろうと思ってな』
「本当に、おせっかいだなあ・・・。アルベルト、お前はいつからそんなおせっかい親父になったんだあ?」
『親父にオヤジと言われたくないな。・・・なに、芸術を愛するものとしての、自然な行動だ』
「009に訊けや」
『いや・・・009は今はいい』
「?」
『がんばっているころだろうからな』


電話越しであったが、グレートはアルベルトが彼らしい笑みを浮かべている事がわかった。


「では、ここは天才、001様の出番でござるな!」
『恩田は信用できる・・。だが、009には内密にな、洒落がわからんヤツだ・・』
「オーケー!オーケー!」


携帯電話を切り、それを持ち主であるフランソワーズへと返す。
イワンが、アルベルトの真似をしてにっ、っと嗤った。

グレートとイワンが眼だけで交わす言葉に、フランソワ-ズは気づかなかった。












ホテルのギルモアが泊まる部屋に戻って、当麻は絶句する。
美術室、寮のクローゼット、自宅の部屋に置いていた絵が、ギルモアが泊まる部屋の壁一面に並べられていたために。


「・・・・イワン殿、良い仕事してますなあ」
<僕ヲ誰ダト思ッテルノ?>
「グレート、イワン・・・どういう、こと?」


フランソワーズも当麻と同じくらいに驚いていた。
驚く彼女の腕の中で、いたずらっ子が笑う。


<ゲストガ来ルンダヨ>












1時間も経たないうちに、アルベルトに連れられて篠原当麻の作品が並ぶホテルの部屋の一室に姿を現した恩田の言葉は、当麻がまったく考えていなかった世界の門を開く。


「高3か・・・大学へ行くなら、今からじゃ遅いか?いや・・・月見里学院生なら学科は問題ないだろうけれど、デッサンが受験生のそれじゃない・・・、が・・その辺の美大なら、間に合う・・・、1年。1年時間を持って本気でやるなら、東芸に入れてあげられる・・・・。もしも、ご両親が許してくださるなら、日本じゃなくてもいい・・・。これなら、何人かの友人に紹介できる、・・・冬に、学生を対象にした都内のコンペティションがあるんだ・・・出してみたらいいと思う」


ぱらぱらと、当麻が最近描いたスケッチブックを見ながら、恩田は呟いた。


「・・・・本気でやってみる気ありますか?」


30分ほどの滞在でホテルを後にする恩田を、アルベルトが送って行く。
恩田は当麻に名刺を渡して、その気があるなら連絡をくれと、言った。


2人が部屋を出た後に、当麻の絵が一瞬にして消える。
恩田は、アルベルトが自分を連れてくる事を見越して絵を用意していたと思ったことだろう。





イワンの力ですべての絵が元の場所へと戻されたのだが、オークションに出した絵と、2冊のスケッチブックだけが、戻されずに残っていた。

オークションの絵はフランソワーズが落札したこと言う事で、当麻がイワンに言って残してもらったのだ。
その絵を渡すと理由をつけて、あやめ祭後にフランソワーズと会うことも出来たけれど、ミッションだったからと、断ってくる彼女を簡単に想像できた当麻だったので、どうしても彼女に受け取って欲しいがために、一番彼女が素直にそれを受け取る方法を選んだ。


”マリー/フランソワーズ”に出会った日から、何気なくコツコツと描いていた絵。
それは、まぎれもなく当麻の中に芽生えた、彼女への想いが表れていた。





グレートが、スケッチブックの1冊を手に取ったので、当麻は、深く、シングルソファに座ったまま、彼の動きを追った。


「・・・・こりゃあ・・また・・・・・」


イワンのおむつを替えるために、ユニットバスにいたフランソワーズはいない。


「ずっと、彼女をスケッチしていたんですけど・・・描けないんです」
「・・・・描けてるじゃないか・・」


そのスケッチブックを、先ほどまでいた恩田が見ていたら、なんて言っただろうか?と、当麻は思った。


「!」


グレートが、もう1冊のスケッチブックを手に取り、初めに開いた1枚目の絵に釘付けになった。



「・・・・」


どの絵を見ているのか、当麻はわかる。


「009と・・・003・・・」
「なんとなく、思いつきで描いたそれが、一番よく描けたと思うんです。・・・・。それ以来、描いてません」

以来、フランソワーズを描いていない、当麻。
その1枚には、日付が入っていた。


「・・・・・・わかっていても、止められないんです」


グレートの記憶が正しければ、日付は、当麻が”フラン”と呼ぶ前。
それは、ジョーの誕生日ケーキを焼いて、初めてフランソワーズが学院を訪れた日。




まっすぐに、こちらを見る009がいた。
彼を見上げた横顔の、003が、いた。

2人の距離が、まさしく、2人だった。
グレートがいつも見ている2人がいた。

ジョーとフランソワーズと言うよりも、その絵はまさしく、009と003の2人だった。
当麻が、まだ”サイボーグ”と知る前であるにも関わらず。







「才能、あるぞ・・・」
「・・・・・・・・・嬉しくないです」


ユニットバスから出て来たフランソワーズと、グレートがスケッチブックを閉じたのはほぼ同時だった。
イワンは黙ったまま、フランソワーズの腕に抱かれていた。

部屋の中で今、一番強い当麻のこころの動きに感化されないように、フランソワーズの胸に頬をすり寄せる。


当麻は座っていたソファから立上がって、ベッドの端に腰を下ろしていたグレートからスケッチブックを受け取ると、その1枚を破り取る。


「どうなさったの?」
「なんでもないよ、・・・昔のだから、いらないんだ」
「!」


その絵を破る事はしなかったが、ぐしゃぐしゃに丸めて、部屋のゴミ箱に入れた。


「それにしても、びっくりしたよ。すごいね001の力って」


にっこりと、何事もないようにフランソワーズにむかって微笑む、当麻。


「・・・ごめんなさい、当麻さん・・余計なおせっかいをアルベルトが」
「どうしてフランが謝るの?絵の道なんて思ってもみなかったから、すごく新鮮だったよ」


スケッチブックから、切り離すときに見えた、自分がその手で描いた、ジョー/009の姿が、当麻を苛立たせていながらも、それを悟られたくないプライドがある。


「でも・・・急なことで、ちょっとびっくりしてるって言うか・・・少し歩きたいな・・・・ホテル内でもいいから、フラン・・・つきあってくれるかな?」


当麻は、2冊のスケッチブックを残してくれとは、イワンには頼んではいなかった。

1冊はフランソワーズだけを描いて、納得できないまま、ページがなくなったスケッチブック。
もう1冊は、1枚目に”2人”を描いてしまったがために、そのまま忘れていたスケッチブック。


忘れようと、捨てようとしたけれど、捨てられずにいた、スケッチブック。


「いいかな?イワン君・・・・・少しの間、フランを借りても」


天才的頭脳を持つ、超能力者は、赤ん坊の姿。
彼に自分の意志を伝えるように、出来なかったことをしてみせた。


2人を描いた絵を、捨てた。


<・・・赤ん坊相手ニ、大人気ナイヨネ>
「それくらいじゃなきゃあ・・・003にアタックなんてできないと思うぞ?」


なんとなく、イワンがしたことを察したグレートが腕に抱いた赤ん坊を苦笑しながら見る。


「煽ってどうするんだ?イワンらしくないじゃないか?」
<・・・・僕ダッテ、ソレナリニ淋シイト言ウ気持チハアルンダ>
「ママを取られるからか?たとえ、ジョーとフランソワーズが上手くいかなくても、フランソワーズはイワンのママだろう?」
<ドウヤラ、・・僕モソレナリニ”平和”ナ日常ニ感化サレテ、多少、赤ん坊ラシクナッテキタッテ、コトダネ>
「なんだあ?どういう意味だあ?」



ホテル内なら、と、フランソワーズは当麻の申し出を受けて部屋を出て行った後に、部屋に残った、グレートとイワンの会話はそこで、止まった。











---ままダケジャ駄目ナンダモン。
  ・・・早クシナイト、僕ガ取ッチャウヨ?
  僕ハモウ、立テルンダカラ、アット言ウ間ダヨ・・・ワカッテルノカナ?



今朝同様に赤ん坊らしからぬ溜め息をついてみせたイワンにたいして、グレートは笑うことなく首を傾げただけにとどまった。














####

賑やかな人の声。
夏の空気。

雲一つない青空。


ときおり、暑さを癒してくれる風が運んでくる緑の香り。


自然が多く森のような木々に囲まれ、その上に都会よりも標高が高い丘に建てられた月見里(やまなし)学院に、さくらは住み慣れたイギリスの空気を思い出す。

しかし、本国を知るさくらにとっては、”造られた感”はぬぐい去れないでいた。けれども、ジョーと2人でいたかったさくらにとっては、彼の誘いは跳ねるほどに嬉しい。が、おなじだけの大きさでさくらの胸に不安が張り付いていた。


そして、もう一つ。


フランソワーズの隣に立っていた、”篠原当麻”と言う、彼の存在。
頭の隅に、女だけが持つ特別な計算機がかたかたと忙しく動く。



見た目、悪くはなかった。
どちらかと言えば、さくらの中で、かなり”好印象”に残る容姿だった。

純粋な日本人だとは、言えない色だったことを思い出す。
それはさくらが育った環境のせいで、判断が遅くなった。それに加えて、自己紹介されたときの周りの人があまりにも多国籍に飛んでいたせいもある。


「ええっと、津田海・・君に、誰だった?もう1人・・・しの、だ?」
「篠原、・・・・篠原当麻」
「2人とも、学院生なのよね?」
「・・・・・・・ピュンマの国は、こっちに見合うだけの学歴を証明する方法がなくて、ね」
「特別枠で入学を許可されて、お友達になったのよね?・・・・ピュンマが高校生なんてっ!変なのっ」
「・・・・・・」
「直接大学へ行けばいいのに!大検とって」
「・・・・・ピュンマが決めたことだし、1年だけだから」


当たり障りのない会話。
共通の友人に対する、情報交換。

さくらはジョーとの今の距離を測る。
彼の、2人きりと誘ってきた目的を推測するための資料として。


2人きりでは会うことはない。と、言った彼だけに、さくらの喜びと比例して警戒してしまう。




ハグも、キスも相変わらずない。
歩いていても、手も握ってもくれない。
さくらから、腕を組むけれど、人の波を上手く利用して、するりと外される、かわされる。

相変わらずなジョー。
それだけに、警戒心も強くなり、自分が夢見ていた状況が叶うために、2人きりになったのではないと言う事実を突きつけられているようであった。




けれども、変わらず優しい。


行き交う人々に、つい、ぶつかりそうになったとき、ジョーの腕がそっとさくらを背後から護る。
暑さに、少し疲れを感じれば、陰のある場所へと庇うように連れて行く。


飲食店は第一グランドから見て、北にある高等部の校舎にまとめられていた。
ほどよくエア・コンディショナーが効く校舎内に、2人はいた。


さくらが選んだのは、ストレート・アイス・ティー。
ジョーは炭酸水を、ペリエを頼んだ。


「車を買った日以来ね!」
「・・・・」
「嬉しいのよっ!とおおおおおおおおおおっっても!」


教室の一角で、それぞれに注文したものを受け取る。
さくらは自分の分も、いつの魔にか支払いを済ませてしまっていたジョーのスムーズな動きに、自然と頬があがる。彼女の知る限りの男性の中でも、その動きはジョーが一番洗練されていると思った。


飲み物を手に校舎から出て、テナントブースが並ぶグラウンドに戻ることなく、雑踏を離れて行くジョーについて歩くさくらは、ジョーと2人きりと言う状況の喜びと不安がバランス良く彼女のこころの天秤にかかっていた。けれど、それが少しずつ傾き始めていく。

緑色の瓶を手に、ジョーがさくらを人気の少ない場所へと連れて行くために。
少しばかりのロマンスを、期待できるような流れではないことは、理解したくなくてもわかってしまう。


自分とジョーの歩く距離に。

会話に。

視線に。

微笑みに。


雰囲気に。







以前とは違う彼を、感じて仕方がなかった。
その差は微々たるものであるけれど、それを、少しの間会っていなかったせいだと、言い訳してしまえるほどの、些細なものではなかった。

けれどそれを言葉にできてしまうほど、さくらは人生経験が豊富なわけでもなく、男の心理の変化を読み解くのに長けているわけでもない。


好きな相手なだけに、女の感が鋭くなっている。








「・・・・・・・・どうしたらいいのか、教えて欲しいんだ」


買ったペリエを飲む訳でもなく、手のひらに伝わる冷たさに、緊張を、今から言葉にしなければいけない、経験のない、痛みを沈めながら、歩みを止めた。


「ジョー、・・・・・・・・なんの話し?」


7月の風が駆け抜けると、木々が陽光に弾く葉を揺らして歌い出す。
揺れる葉の合間をすりぬけて、こぼれ落ちた光にさくらの視線が追う。

足を止めたジョーにならって、彼女もジョーの隣に立つようにして、足をとめると、新しく買ったサンダルの、パールストーンで飾られた飾りが、とても可愛いと、不安を乗せた天秤が傾きかけたために、一生懸命にバランスを戻そうとする。


「・・・・・・君の気持ちに答えられない、俺は、どうすればいい?」


さくらは微笑みながら視線をジョーへとむけた。


「どうもしなくていいわよ!あっ!!違うわ、どうもしなくてもいいんじゃなくて、好きになって、私を!」


手に持っていたアイスティーの、カップが地面に落ちる。

甘えるように、ジョーの胸に飛び込んだ。
そんなさくらを、ジョーは突き放す事も、腕に抱き閉める事も、何も出来ない状態で立ち尽くす。



「できない」



緊張に上擦った、と、言う音に近かったが、それは、絞り出したような、擦れた声だった。



「できない、よ・・・・」
「やってみなくちゃ、わからないわ!!」


ジョーのTシャツの胸元を握りしめて、頬を押し付けると、・・・不思議な、甘みのあるスパイシーな香料の香りが、さくらをさらに強くジョーにしがみつかせた。


「ごめん。・・・・どうしたらいい、かわからない。・・・・・・・さくらと同じように、人を、彼女を好きだから、好きな人が、いるから・・・・・それが、叶わないなんて、すごく、辛いとわかったから、そんな、気持ちに、さくらを・・・、だからといって、さくらが、俺にむけてくれる気持ちを受け入れることは・・・・・・できないんだ」





痛い。と、ジョーはのこころが泣く。
こんなにも、痛いのか?と、ジョーは泣く。


自分のような人間を好きになってくれた、人を、傷つけている。
その気持ちを受け入れられないために。










どうしたらいいか、本当にわからなかった。
さくらのために。


はっきりと、自分の気持ちがさくらにないと、伝えることが正しいと思った。

それしか、ジョーは答えが見つからなかった。

他にあるのなら、教えて欲しかった。


”もしも”自分ならと、置き換えて考えたとき、そうしてくれた方が、幾分か”まし”かもしれないと考えたから。





「好きな人がいるんだ。・・・・さくらじゃない」
「言わないでっっ!言わないでって言ったじゃない!!まだ、ちょっとしかっっ。ずっと会えなかったんだもんっ!!まだっまだっっ駄目っ!!言わないでっ」


悲鳴に近い、さくらの声がジョーのこころを切る痛みに、ジョーは自分の想い人への気持ちで覆う。






「俺は・・・フランソワーズが、好きなんだ・・よ・・・・」











たとえ・・彼女が俺以外を選んだとしても、永遠に・・・・・・。

フランソワーズが好きなんだ。














「・・・でも、フランソワーズさんの、恋人なんでしょ?・・・・あの、篠原当麻って人」


手に持っていた、緑のグラス瓶に、ぴしりと亀裂が入った。
耳に届いた、音、の後に、ジョーが手に持っていた、彼が購入したベリエの緑色の瓶が、かしゃん!と、地面に落ちて割れた。


飛び散った炭酸水が、サンダルを履いていたさくらの足に冷たくかかる。


ジョーの口からあれほど、訊きたくないと拒んでいた人の、彼の想い人の名前を訊いた、さくらだったけれども、想像していたよりも冷静な自分に驚いた、が。それよりも、とっさに口にした言葉の方に、本人自身がとても驚いていた。


"フランソワーズさんの、恋人なんでしょ?"



口が勝手に動くとは、こういう事を言うんだ。と、感じる。
そして、そのままの勢いに乗せて、彼女の唇は動いた。


「違うの?・・・・そういう風に私には見えたわ、・・・・。それでも、好きなの?」


ジョーが動揺したことが解る。


「・・・・」


さくらはジョーの胸に、頬を押し付けている状態で、瞼を閉じた。
ジョーの心音に耳を澄ませる。

彼の吸う煙草の匂いが夏の香りと混じり合う。



無意識に、ジョーの心音を数えた。

それが、10を超えたあたりで、深く息を吸ったために、さくらを押し返すようにジョーの胸が動く。と、同時に、深い溜め息がさくらの頭上を通り過ぎた。


「それでも、好きなんだよ」
「!!」
「・・・・・ずっと、フランソワーズが好きだった。好きという言葉に、この気持ちを乗せる勇気がなかったんだ。・・・・・・あまりにも、彼女が特別すぎて」


囁く声が、震えているように聞こえた。


「ジョーが誰を好きでも、ジョーが好き」
「・・・・ありがとう」
「だから、好きで居続けてもいいでしょう?・・・・ねえ、いい、でしょ?」
「・・・・待っていても、変わらないよ。・・明日も、明後日も、ずっと、・・・変わらない。1年後も、10年後も、100年経っても、ずっと、フランソワーズが好きだと、思い続けらる」
「無理よっ!!そんなのっ」


弾けるように、顔をあげてたさくらは、切れ長い目を大きく見開いた。


「無理じゃない。俺は、それが出来るんだ、よ・・・・たとえ、彼女に受け入れられなくても、出来るんだ」
「・j・・・お」


透明な膜が張る。


「・・・・・・初めて、なんだ・・・。初めて好きになった人、なんだ・・・。フランソワーズは、俺が初めて、・・・好きになった、人だから・・・・。俺は、ずっと、誰も好きになることなんて、ないと、思っていたのに。人を好きになるなんてこと自体、できない人間だと、思ってた」


それが彼の瞳のふちに集まって、盛り上がった。
アンバー・カラーが滲んで揺れる。





「ごめん・・・・さくら・・・・・」


アンバー・カラーが滲んで揺れる。


「なんで、泣い・・t」


彼が瞬いたとき、ひと雫、頬を伝い落ちた。


「ごめん・・・・ごめんね・・・・・、どうしたらいい?俺は・・・どうすればいい?いくら、さくらに好きだと言われても、どうすることも、できないんだ、よ・・・。何も、出来ないんだ・・・。さくら、俺は、君を傷つけることしか、できない」


次々にこぼれてゆく雫に、さくらは言葉を無くした。

















====へと続く。

・ちょっと呟く・

絡まらなかった糸・・・?
サブタイトル、変えないと・・・。さくら、どうするんだろう?
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銀色の。
鏡台に置いていた、銀色の、はがきサイズのフォトフレームを、そっと手に取った。
去年のクリスマスにもらったフォトフレームだったけれど、そこに、どんな写真を入れていいかわからずに、フレームだけを、写真のない、銀色のフレームだけを飾っていた。




銀色が触れた指先がひんやりと熱を失う。
吸い取られた体温が、銀色に映る。



傷のない、ガラスの面に映った自分の姿。
左手の人差し指の指紋がひとつ。






真っ白な、台紙だけを飾る銀色のフォトフレーム。



ここに、どんな写真を入れておくべきだったのだろうか、と。
考えを巡らせた。






それだけで、たくさんの思い出が色鮮やかに脳裏をかける。

瞳を閉じて。

胸に抱いた、写真のない銀色のフォトフレーム。





部屋をノックされる音が聞こえたけれど、答えたくはなかった。
ゆっくりと、再びノックされる、音。


返事を返さなかったのにも関わらず、部屋のドアが開いた。









「時間だ、・・・・・・・・003」


呼ばれても、振り向くことなく、鏡台前で。
写真のない、銀色のフォトフレームを胸に抱いて。



「約束、する・・・」



鏡越しに、彼女をみつめて。


「かならず、ここへ、戻ってくる。帰ってくる」



赤の服。



「キミを・・・必ず」


緋色のマフラー。


「・・・誓うよ」


抱いていた、銀色のフォトフレームを、元の位置に戻して、009へと振り返る。



「・・・・・・・・・・・・・写真、が、欲しいわ」
「写真?」


足音もなく、009へと近づいて。
ドア口に立つ彼の前に立つ。


「・・・帰ってきたら、一緒に・・・・・・ね?」
「・・・・・・一緒に?」


壁の、ルームライトのスイッチへと手を伸ばした。


「そう、一緒に・・」


ぱちん。と、ライトが消える。
009の背後の廊下の明かりが、部屋に差し込む。


「・・・・・・約束するよ」
「逃げないでね?」
「・・・・・・・・逃げないよ、写真くらい」
「そういって、一枚も取らせてくれなかったわ」
「・・・・帰ってきたら、二人の写真・・だね」
「ええ・・・欲しいの」
「うん」
















この部屋に、二人で写した写真を残しておこう。












帰ってこられなかったとき。
もしものとき。










誰かが見つけてくれるかもしれないから。













僕がキミを愛していたことを。
私があなたを愛していたことを。





幸せな日々がここにあったことを。














誰かが、見つけてくれるだろうから。
















フランソワーズの部屋のドアが、彼女の手によって静かに閉められた。
写真のない銀色のフォトフレームが、つるりと、細くなった月の光を弾いた。














































「すみません、あの・・・写真撮っていただけますか?」


亜麻色の髪を揺らして、近づいてきたこぼれ落ちそうな大きな青が印象的な、少女。
その背後に、恥ずかしさにこちらから、そっぽを向いた、栗色の髪の青年。


「いいですよ」


輝く、クリスマス・ツリーの下で。





「いいですか!3・2・・・1!!」








銀色のフォトフレームに、幸せなイブを過ごす二人がいた。


「ジョー、ありがとう」
「約束だからね・・・」


静かに流れるクリスマス・ソング。
聞き飽きたはずのBGMだけれど、妙にこころ浮かれてしまうのはなぜだろう?


誰がコントロールしているのか、誰もが同じ歩調。
そんな人ごみに埋もれた、2人。




この時間を過ごすために、帰ってきた。








「ねえ、今度はもっと大きなフレームをプレゼントしてね?もっとたくさん写真が飾れるのを」
「一枚でいいよ」
「駄目!もっと、たくさん写真を撮って・・・・飾るの」
「・・・・・飾るの?」
「ええ・・・たくさん、たくさん・・・飾るのよ」



永遠に、あなたと私と・・・。








ジョーが突然、足をとめた。




「フォトフレームもいいけど、同じ銀色のなら・・・さ、別のが欲しくない?」



人の流れが止まる。
迷惑そうに、2人を避けて追い越していく、波。

「ジョー?」

ごそごそと、ポケットから取り出した小さな箱は、クリスマスには”定番”すぎる、優しいターコイスグリーンと白のリボンが有名なお店のもの。


「・・・・・・・・・同じ、銀色の、ものだよ」



---あの、フォトフレームと同じ店の。



フランソワーズの手に、その箱を握らせて、光舞う幻想のイルミネーションの中。


「・・・・・毎年、一緒に・・・写真を増やしていこう・・・その前に・・・・新しいフォトフレームには、まず、・・・雪よりも白い、ドレス・・着て欲しいな」







end.












*・・・切ない?あれ?・・・ぷ、プロポーズ!? 直しいれたら、勝手にプロポーズっ?!!9!!
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僕の赤
見上げたアーケードに吊るされた、巨大なバルーンは、サンタクロースが雪車(そり)に乗っていた。

どこかの店から賛美歌がながれ、通りかかった雑貨屋でもJpopのクリスマスソング特集。かと思えば、だれもが口ずさむことができる、万国共通?に知られる真っ赤なお鼻♪


少しばかりのracismを感じさせられる歌だと、ジョーは思った。

たった一匹だけ赤い鼻であることが理由で同じトナカイたちに笑われる、その鼻をスペシャルだとサンタは言う。




スペシャルだと、サンタクロースは言って赤い鼻のトナカイを励ました。

赤い防護服に身を包み。
戦うことがスペシャルだと、選ばれた人間だと、言われた。





ぴかぴかの赤い鼻は、暗い夜空を照らしだす。

暗い世界をかけぬける、赤い服は何を照らし出すのだろう。
何を導くのだろう。

誰のために・・・?








商店街を抜けると、冷たい冬の凛とした空気にさらされて、強化されているはずの人口の肌がそれらしく神経をつついて、躯を縮こまらせた。



視界に入る空。
色のない街路樹。
忙しなく目の前に表れる赤と緑に金色の飾り。

そのチャームの一つ一つはこのシーズンを迎えるまで、長くほこりをかぶって出番を待っていたのだろう。

すれ違う人の会話がSurround soundのように、リアルに通りすぎる。
邸のリビングに、それを取り付けたのは去年のことだと、思い出した。







初めてのそれに、彼女はびっくりしてきょろきょろと周りを見回した仕草が、瞬きする瞬間に隔離される黒のスクリーンに眩しく映し出された。






いつもの歩道を、早足に通り過ぎる。
昼食をごちそうになった中華店でさえ、なぜかクリスマスの装飾がされていて、そのアンバランスさに苦笑した、今日。

クリスマス・スペシャルランチを食べた自分も、アンバランスな一人なんだと、ため息をつく。







いつもみんなの笑われものは、サンタクロースの言葉に自信を取り戻す。
これでいいんだと。


この赤い鼻は自分のスペシャルな部分だと。
人と違う部分を恥じるのではなく、それを活かすことへと変えていった。









目的の場所へと辿りついて、白く冷たいガードレールに軽く腰を下ろす。
見上げたビルからピアノの曲がきこえ、日本語ではないカウントが聞こえる。
厳しい叱責の声が聞こえたと思えば、少女たちのその年独特な賑やかな会話が聞こえてもきた。





「彼氏でしょ!」
「・・・もお、そんなんじゃないわっ!」
「嘘っ!だって今日はクリスマス・イブよ♪」
「恥ずかしがらない、恥ずかしがらない!!」
「行くんでしょ?白鳥バレエ団のクルミに!」
「いいな~♪し、か、も!!!S席っっ」
「クリスマス・イブ!彼氏とクルミ割り人形の舞台!!そして、そして、聖なる夜に瞬くツリーの下で!!」


きゃあああああ!!っと、歓声があがる。


「も!!だからっ、クリスマスプレゼントを聞かれたから、チケットを・・・」
「それが彼氏のお勤めでしょう!!」
「そうよお!!彼氏だからでしょお?!」
「ね!舞台を観た後はどうするの?」
「ディナーでしょう!ディナー!!」
「その後は、クリスマスイルミネーションで輝く街を歩いて・・・」
「「「「「きゃああああああああああああああ!!!」」」」」


そうか。
夕食のことは、考えてなかったな・・・と、その一人の声に、ジョーはぼんやりと考える。
25日に家族がそろうために、今夜はとくに邸での予定がなかったことも思い出した。

ガードレールから躯を離す。
フランソワーズの方へと歩き出す。



「来週のレッスンでじいいいいいいっくり報告してもらうから!!」
「それと!!進展があった場合は、今度のお茶はフランソワーズの奢りなんだからね!」


賑やかな少女たちの視界に、近づいてくるジョーの姿が見えたらしく、その声のボリュームを落とす。と、後方を歩いていたフランソワーズの背を押す。


「いってらっしゃい~♪」
「ハッピー・クリスマス!」
「またね!」
「ほらああ、”彼氏”さんが待ってるわよおっ、行きなさいよおっ!!」


薄く頬を染めて、バレエ仲間たちにむかって何かを言い返そうとしているフランソワーズがいる。



10月の終わりに、冬の新作コートはショート丈のダッフルコートがショーウィンドウを飾った。
フードがついているが”ふさふさ”としたファーの縁取りがなく、袖がバルーンタイプにふくらみができているデザイン。
『バルーンスカートなの』と、説明されたそれと同じデザインを要して作られた袖らしいが、ジョーにはよくわからないでいた。



蜂蜜色をたたえる明るい髪色に飾ったトレードマークの赤いカチューシャに、そのコートはよく似合っていた。
ミルク色のシンプルな、障り心地の良さそうな膝頭が見える、ボックススカートによくあっていた。
焦げ茶色のロングブーツはダッフルコートの留め具が木の部分とあっていた。



何もかもが彼女に似合っていた。












けれど、赤が似合うとは言いたくない。
そんな自分の気持ちなど無視して、彼女は平気でその色を選ぶ。











赤い鼻のトナカイは、サンタクロースの言葉を喜び、夜空を照らしながら駆けていった。
赤に身をつつむ彼女は硝煙舞う戦いの地を、駆けていった。



誰に、何を言われて、キミは?
キミのサンタクロースは誰だったんだろう?












「・・・フランソワーズ」


ジョーがフランソワーズに近づくのに比例して、フランソワーズのバレエ仲間たちは離れていく、その方角に向けていた躯を、振り返ってジョーを見上げた、フランソワーズ。


「・・・・ごめんなさい!待たせたかしら?」
「ううん・・・」











フランソワーズのサンタクロースは誰だったんだろう?
あの、戦いの中で・・・。





「車じゃないの?」
「ああ、店の駐車場に置かせてもらった・・・」
「そう、じゃあお店の方へいくの?」


フランソワーズの背後から、こちらを興味深げに観る彼女の友達たち。
そちらへと視線をむけたジョーは、ぺこり。と、頭を下げる仕草をしたために、フランソワーズが振り返る。と、蜂蜜色の髪が空気に揺れる。


大げさに、わざとらしく手を振る友人たちに、さらに顔を頬を染めるフランソワーズを観ながら、自分の赤を思い出す。










ここにいることができたのは、キミのおかげ。
あのとき、あの場所に、キミの声があったから。






















キミの赤はボクを導いた。
暗闇の中にいたボクを照らし出してくれた。






















「・・・・電車の方が便利だから」
「じゃあ、駅に行くのね?」


並んで歩き出す。
フランソワーズと一緒に歩き出す。
とくに何も話すこともないので、美術館でもまわっているかのように、浮かれる街をそれぞれの瞳に映しながら。



「サンタクロース」
「?」
「サンタクロースは、いると思う?」
「ふふ、いるって信じていたいわね」
「・・・・ボクへのプレゼントを忘れないで欲しいなあ、もしもいるなら」
「ジョーは、・・・何が欲しいの?」
「・・・聞きたい?」


フランソワーズは肩にかけているショルダーバッグをきゅうっと握る。その中には彼へのプレゼントが入っている。
鞄に入る大きさで、ラッピングがくずれないようにと苦心した。


「え、ええ・・・く、クリスマスでもすものっ・・・・私があげられるものなら、明日にまで用意できなくても、chあ」
「フランソワーズが欲しい」
「・・・・え?」
「フランソワーズが欲しい。フランソワーズ、が、・・・いい・・」






ボクはボクの赤を、スペシャルにするために、キミが欲しい。

















「キミをボクにください」















end.



*やっぱり告白で終わる。・・・いや『僕たちは別に~』の二人だから・・告白と言うより・・・あっちのお願い?(どっちだっ! 笑)

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イワンは密かに願いを叶えた
葉のない樹の枝につもった雪。
雪の重さに少しだけしならせた様は、とても綺麗だと思う。


自由に伸びた枝は、重なり合うことなく、広がり、伸びて行く先に次の季節に降り注がれるであろう、あたたかな陽光を想像させる。
まるで。



そう、まるで。


新しい未来に手を伸ばしているように。











ばん!!!っと、助手席のドアが乱暴にしまった。
大型バンに乗って街までの買い出し部隊に選ばれた、赤毛。


「ったく、ホワイト・クリスマスなんてロマンチックなんかじゃねえなっ。迷惑なだけだっ」
「まあねえ・・・この大荷物がなくて、同行者が恋人たちにガンを飛ばしまくって迷惑かけまくりのアメリカンに、クリスマスにも中華メニューしか考えない中国人、紅茶の葉を選ぶのに2時間かかる英国人。・・・と、一緒じゃなきゃ、それなりにこの雪もロマンチックだったと思うよ」


運転席から盛大な溜め息をこぼしたピュンマ。


「ほらほら、若いの。ぐちってないで、荷物を下ろすぞ!」
「アイヤー、さっきほりも雪ひどくなってるアル・・・」


車から降りた張大人は、腰近くまで積もった雪にずっぽりと埋まっていた。


「ジェロニモが雪かきしても、間に合わないなあ、こりゃ」


車庫から邸までの道は、昼間にジェロニモの雪かきをしてくれたお陰で、荷物を手にしても不自由無く歩く事が出来たが、すでに、その道も新しい雪が積もり始めて、あと数時間もすれば歩行困難な道になりそうだった。


<買イ出シオ疲レサマ>


玄関のドアが開く。


「あ。ジェロニモ!!ちょうどよかったアルネ」
「ああ、荷物はそのままでいい」
「アルベルト?」
「出かけるでな」
「なんだよっ、博士に・・・イワンもか?!」


トランクを開けて、運転席から出ようとしたピュンマを、アルベルトが再び車の中に押し込めて、ジェットにむかってニヤリと嗤い、その嗤いに含まれる意味をなんとなく理解して、ニヤニヤとした笑いに変えて進んで助手席に座り、シートベルトをパチンとはめた。
開けられたトランクをジェロニモが閉めて、雪に埋まっていた張大人をすぽん!と抜き出すと、後部座席へと座らせる。
イワンを抱いた博士に背中を押されて、グレートはわけも解らずに再び車内に戻った。





「どこに行けばいいわけ?」


運転席で、怪訝に眉を寄せたピュンマ。


「避難場所はコズミ邸と決まってる、だろ?」


答えたのは、肺に溜まった空気を吐き出したアルベルトだった。
ジェットはニヤニヤした笑いを浮かべたまま、後部席へと振り向く。


「「「「避難???」」」


わかっていないのは、3人。


「これ、アルベルト。そういう言い方はよくないぞ。・・・まあ、せっかくのイブじゃし、なんじゃなあ。ここ最近はばたばして、それに、この間のミッションは・・色々と誤解を生むような・・・・まあはっきりせんジョーが悪かったんじゃし、本人も身に凍みたじゃろうて・・」
「「「ああ・・・」」」


ギルモアの言葉に、ジェットをのぞいた買い出し部隊が納得する。


「ま!ホワイト・クリスマスは恋人たちの、ってことだな!!迷惑この上ないのは、ここでもってか?」
「何が起こるか、お楽しみ、だね!!」


ピュンマが再び、キーをまわしてエンジンを噴かす。


「まだ恋人同士じゃないアルよ!」
<・・・>
「形にこだわる必要ない。」


ゆっくりと、2人を残して邸を離れて行くバンが1台。


「まあ、いいじゃないか。ジョーがやっとこさその気になって”けじめ”をつけるんだからなあ!クリスマス・イブっていうのが、にくいねえ!」
「けじめだあ?今更んなもん、必要ねえだろ!?」
「必要あるネ!ちゃあんと、恋人宣言してないから、あんなラブトライアングル地帯が発生したアルよ!」
「見てる方はそれなりに面白いが・・・。とばっちりはたくさんだ」
「「「「「「「「003の機嫌がなあ・・・」」」」」」」


フロントガラスにむかってくる白を、きゅ。きゅ。とワイバーが機嫌良く左右にふりわける。


<今日ガ駄目ナラ、来月ノ誕生日ダネ>


おませな赤ん坊の一言に、誰もが苦笑いを浮かべる。


「悪いな、ジェロニモ。明日はお前さんの日なのに」
「形にこだわる必要ない。」
「いいじゃねえかよ!じーさん家で盛り上がるぜ!!」
「それでじゃ、ジョーが何をプレゼントするか、誰か知っておるか?」


のんびりとした、ギルモアの質問に、運転中のピュンマから答えた。


「本屋につきあったとき、モータースポーツ以外の雑誌を買ってましたよ、メンズ○ン○とか!初めてました、ジョーがそういう雑誌を買うの」
「オレのパソでネットサーフィンしてた履歴、女もんの店ばっかだったぜ?」
「ジェット、お前は人の履歴を覗くのか?」
「オレのパソだぜ?!何しようが、オレの勝手じゃん」


グレートは、二度とジェットのラップトップを拝借しないことをこころに誓った。
だいたい彼のは邸のリビングルームに放り出されているので、ちょっとしたときに使うのに都合がいいのだ。


「フランソワーズのお気に入りの店は、まだ日本には進出してないが、この間取り扱っている雑貨店があったのを見つけたと彼女と話している時、近くにいたな」
「物じゃなく、気持ちが大切。と、言っておいた。」


ジェロニモの言葉に、やはり今日が・・・と。一同同じ考えでまとまる。


「ワテ、何も知らんアルよ・・・」
「儂もじゃぞ」
<僕ハ・・・マア。黙ッテオクヨ>
「結局、ヤツが何を購入したか誰も知らないんだな?」
「「「「「「・・・・」」」」」」
「決まってるだろう!」

沈黙した車内に、グレートの芝居がかった声があがる。


「愛の告白=指輪だ!」
「プロポーズなんてゼッテー無理だって!」
「100億光年先の話しアル」
「そうじゃのう・・・、恋人になるのに、何年かかったことか」
「まだ、恋人になれたかどうかもわからないですよ、博士」
「本人の気持ち次第だ。」
「・・・しかし、だ。ああいうタイプは極端だからな」
<僕、妹希望>
「「「「「「「「!!!!」」」」」」」











####



飾り付けが終わったリビングルームのクリスマス・ツリー。
まもなく買い出し部隊が戻ってくるはず、だった。

フランソワーズが今日のイブのためにパーティの準備を整えていたけれど、当日になって、あれがない。これが足りない。と、自分たちの”定番”のものが出ない事に不満を言い出した我が侭な家族たち。

昨夜から降り始めた雪に、冷蔵庫の中身を心配する張大人。
当分、邸に籠る事になりそうだ。と、言う意見が一致して、買い出し部隊が結成された。


いつもなら、運転手役は誰も何も言うことなく彼になる。
けれども、今日は違った。

彼女の傍にいて、2人きりになるチャンスをうかがうために。
それとなく、そういう会話が始まった時そっとその場から離れた。









離れた先にいた1人の家族に声をかけられたことがきっかけになって、2人きりになるチャンスをくれた。







リビングルームにそれぞれが用意したプレゼントたちを、クリスマスツリーの下に置いた。
暖炉に火をくべて、温めた部屋。

フランソワーズがいれたエッグノッグ・ラテの味に、びっくりしつつ。


「エッグノッグって・・玉子が入ってるの?」


甘いけれど、ベタベタした甘さではなく、少しばかりのアルコールの香りがジョーの舌を楽しませた。


「少しだけ。基本は牛乳、クリーム、砂糖、溶き卵、シナモン、ナツメグで味付けをして、あとは好みのレシピね」
「ラム酒とか?」
「秘密よ、それは。003オリジナルだもの、簡単には教えてあげません」


暖炉の火を使って、焼く予定のフルーツ・ブレッドに、ジンジャー・クッキー。

フランソワーズが暖炉の火を使って料理すると言い、それを手伝うと申し出たのは、ジョーだった。
いつもなら、張大人がジェロニモが手伝うようなこと。

珍しい彼の申し出を、断ることはない。


「フランソワーズ」
「なあに?」
「気づいてる?」
「003よ、私」
「そうだよね・・。気づかないはず、ないか」


暖炉から離れて。
ソファに、微妙な距離感で座る、2人。


「帰って来てくれないと困るわ」
「困る?」
「だって、せっかく準備したのよ?私、すごくがんばったのに・・・たくさんお料理、用意したのよ?」
「・・・・・・知ってる、けど・・」


ぱちぱち。と、暖炉の木が火に跳ねる音。
飲み終わったラテを、珈琲テーブルにおいたのは、ジョー。


「あのさ」
「?」
「なんで、みんなが・・・・その・・・気を使ってくれたか、わかる?」
「・・・」


フランソワーズは無言で空になった、ジョーのマグを手にもって、立上がった。
ダイニングルームへと逃げるように去って行く、フランソワーズを黙って見送る。


脳波通信に感謝したのは初めてだったのかもしれない。
どんなに美味しい飲み物で喉を潤しても、緊張に固まった喉はなかなか音にしずらかった。



フランソワーズが座っていた場所に、そっと手を伸ばし、まだ彼女のぬくもり残るそれに勇気をもらう。
ソファから立上がって、リビングルームのライトを消した。

すっかり陽がおちてしまったリビングルームの庭に繋がる窓から、うっすらと雪の白が仄かに光ってみえた。
クリスマスツリーに飾り付けた、ライトの電源をいれようと、コンセント部分にふれたが、そのままオフにした状態でダイニングルームへと向かう。








足音を、耳に捕らえていた。

邸にみんながいれば、つぎつぎにテーブルに並べられる予定だった料理たち。
もうキッチン内で、フランソワーズがすることはなかったために。ジョーがつかったマグを洗うことにした。
緊張に震える心臓を落ち着けさせるために、スポンジをたっぷる泡立たせることに集中する。











<好きだ・・・>












ささやくような通信。
フランソワーズは、その声がきこえなかったかのように振る舞った。


<僕が好きなのは、フランソワーズだから>


フランソワーズは、そっと泡で包んだマグを湯で流した。


「・・・・・」


それを、軽くタオルで拭き、食器をしまう棚におく。。


<好きだ>


ダイニングルームから遠ざかっていった足音を、ためらいがちに追いかけた。
頭に直接響く、声に誘われて。












<部屋にいる・・・僕の気持ちを受け取ってくれるなら、来て・・・・>















ずるい。と、思うけれど。
自分も同じ。


答えを今日まで引き延ばしていたのは、自分だから。
ミッション中にも関わらず、好きだとジョーが告白してきたのは、擁護者の女性のせい。



そんな風に、告白なんてして欲しくなかった。

私が誤解するとでも?
あなたと他の女性に何かあることなんて、見慣れていたし、慣れてもいた私に、いまさら?






私のあなたへの”好き”がとても薄っぺらいものに感じてしまって。
やっと言葉にしてくれたあなたからの”好き”を保留にしていた。

”私たちは別に~”だもの。










<好きだよ・・・・・・フランソワーズ>













キッチンのライトを消す。
続いてダイニングルームのライトも。


誰もいないリビングルームのライトは消されていた。
窓からみえる淡く光る白に視線を移してから、クリスマスツリーのライトの電源をいれた。







<好きだ>










ちか。っと、光ったツリーのライトに合わせて、ジョーの声。


輝くツリーを残して、リビングルームを出て行く。
2階へと続く階段を上って、右に曲がる。

ジェットの部屋の前を過ぎて、グレートの部屋前で、再び右に曲がる。
長い廊下の突き当たりにある、灯とりの窓にかけたリースの、赤いリボンが瞳に飛び込んできた。


ふと、足をとめて。











<好きだよ>













また、足をすすめる。


一番端っこの彼の部屋のドア前に立って。
本当に、このドアをノックして良いものか、悩む。


クリスマスの魔法は、明日の朝にはなくなってしまって。
すべて。


彼の声は幻だったなんて。
夢だったなんて、ことになるのでは?と、疑ってしまう、自分が悲しかった。


それくらい長く、曖昧だったから。








「いつまで、そこに立ってるんだよっ」



突然、ドアが開いた。
伸びてきた腕に抱きしめられて。


「フランソワーズっ・・・・」



キスが降る。





降り止まないキスは、降り続く雪が止んだ後も、止まらなかった。

YESもNOも言う暇を与えなかった。
部屋のドアを、ノックしたわけでもない。

自分から、彼の部屋へ行ったけれど、その部屋に自らの意思で入ったわけじゃなかった。


答えは決まっていたけれど。
なんだか腑に落ちない。

それなら、イヤだと抵抗すれば良いのだけれど。
何もかも初めてのことで、初めての皮膚感覚に、流されてしまう。


触れられて。
口づけされて。

贈られた、彼自身。
受け取った、彼女自身。


本当にこれでよかったの?と、不安になったこころを溶かすのは、そんな不安を与えた本人である、彼だった。











「ジョーも?」
「ペア・リングだから、ね」

左手の薬指にはめてくれた、シルバー。


「・・・・」
「なに?変・・・?」


同じデザインのものを、ジョーは自分の薬指にもはめた。


「だって、これってまるで・・・」
「ああ。マリッジ・リングのコーナーで買ったから」
「マリ・・・え?」


横たわっていた躯をゆっくりと起こそうとするが、それを制された。


「僕はキミのものだよ、フランソワーズ・・・。永遠に、キミのものだから」
「ちょ・・・と、ま・・え?」


その彼女の上に、再び、躯を重ねる。


「待たない。・・と、言うか、・・・・・待たせてごめん」
「ちが、私がっ」
「不安にさせて、ごめん・・でも、もう大丈夫だろ?これで、結婚したことになるし」
「?!」
「僕を、受け入れてくれただろ?」
「だけどっ・・・」
「嫌?・・・・今後一生、僕以外を知る事なんてないんだし」
「それと、これとはっっジョーっ。いくらなんでも、そ・・っm・・・・!!・・・・・」
「順番とか関係ない・・好きか嫌いか、僕とキミが愛し合っているか、どうか・・・だけ。あとは・・・誰がみても、納得できる”形”が・・・欲しかったから・・・」



それ以上、フランソワーズに言葉を作り出す余裕などなかった。













強引すぎるわ!と。文句を言った朝。
幻でも夢でもなく、互いの薬指に残る揃いのデザインを見てしまっては、文句を言いつつも、喜びに浸る気持ちは隠せない。


25日の夕方に戻って来た家族+ゲスト1人。から、冷やかされ、お祝いされて、驚かせて。
誕生日のその人を牧師に見立てて開かれた結婚式。

宴会のついでみたいな結婚式?に、文句をいうのは、やはり、即席で白のワンピースに着替えさせられた花嫁。は、まさか、次のクリスマスに家族が一人、増えている未来が待っているとはまだ、知らない。





<妹、1人目ゲット♪>








end.







*・・・はい、はい。
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May wish...
A week before Xmas



あとでな!と、手を振って見送った相手は国人カップルにみえた。
ロックバンドのギターリスト?と、見かけステレオタイプなアイデアを与える彼は、赤い髪をつんつんとたてていた。


鋭い目つきに、整った容姿。
少し英語に覚えがある彼女は、気軽に声をかけた。


「ああ?・・・別に日本語でもいいぜ」


流暢な日本語で返されて、逆にたじろぐ。
そんな彼女をみて、笑った顔は、カッコいいというよりも、可愛いの部類に入るように感じた。


「茶は勘弁!さっき珈琲飲んだとこなんだ。どこ行くんだよ?」


逆ナンなれしている?
それとも、ナンパなれ?


「まあ、なんだ・・・ちょうどいいや、ちょい付き合わね?妹に、クリスマス・プレゼント買いてえんだけどよ、オレの趣味が悪ぃって、いっつもむくれちまうんだよ。暇なら助けてくれよ、礼にメシでもなんでもおごるぜ?」


悪くない。と、考える。
どうせ、暇していたし。

今年のクリスマスは1人の予定だし。
なんて、考える。楽しい1日を、彼となら後腐れ無くすっきり過ごせそう。


「っつうか、なんで英語話せんの?」
「留学してたから・・・」
「へえ!それで、外人専門?」
「初めてだよっ・・・まあ、別れた彼氏は・・こっちに英語を教えに来てるアメリカ人だったけど」


妹の分だけかと思っていたけれど、なぜか”家族分”のプレゼント選びにつき合わされた。
けれど、楽しくて、楽しくて。


携帯電話番号も、メールも、交換していなかったことに気づいたのは、別れた後。
ちょっとだけ惜しかったな、と、思ったけれど。


それは、それで良かったのかもしれない。











**********

「お願いします」


ギルモア邸最寄りの駅から、10分ほど離れた場所にある、区立図書館。
近くにインターナショナル・スクールがあるためか、外国語本が揃っていた。ドイツ語の古典と、それなりの専門書。そして、最近のベストセラーが入っているので、アルベルトは週に1、2度通う。



貸し出し受付のカウンターにて、2冊を利用者カードと一緒においた。


「こんにちは・・2冊ですね?」
「ええ・・お願いします」


カウンター越しに、座っている女性が、アルベルトのおいた2冊の本を手に取り、まるでスーパーのレジで品物の値段を読み取るように、本に張られたバーコードを透明な台に当てた。

モニター画面に映し出された本の題名を、確認のために読もうとするが、ドイツ語のために、戸惑う。


「BetrachtungとEin Landarzt,」


女性は顔をあげて、アルベルトを見て微笑んだ。


「日本語では、なんと訳すんですか?」
「『観察』 『田舎医者』 」


アルベルトの利用者カードを、同じように青白く光を放つ台に置き、彼が何者であるかを読み取った。


「フランツ・カフカの田舎医者は知ってます、アニメーションになってますよね」
「アニメ?」
「はい。あ・・、”アートアニメーション”です。その、商業系のじゃないのです」


女性は視線を2冊の本に戻し、それを再びカウンターの上に置いて、プリントされたレシートを1冊に挟んだ。


「12月30日から、1月3日まで当館はご利用できませんので、延長なさるときはメールか電話で29日までにお知らせください」
「借りれますか?」
「・・・え?」
「その、アニメーションとやら、ここにあるんですか?」
「い、いえ・・当館にはありません。でも,私持ってます」
「・・・持ってるんですか?」
「ファンなんです、その・・監督の」
「DVDになってるなら、レンタルショップで借りれるか・・・」
「・・・・あの」
「?」
「持ってきます。・・・・ご利用になられますか?」


アルベルトは口の左端を上げて、嗤った。


「急ですが、明日でも大丈夫ですか?」
「あ、はい・・。明日もいますから・・・」
「では、御願いします」
「かしこまりました」
「明日、の午後に」
「はい」





本を読まないトリにはちょうどいいかもしれん。
アニメーションの内容次第では・・・。
クリスマス・プレゼントにしてやろう。

末っ子でもいいが・・・。
まあ、末っ子には妹とデートさせるために、どこかのディナー券か、テーマパークのを考えているが。

グレートでもいいか?


いや、以外とイワンに・・・。
そういえば、ジェロニモがボランティアで児童館に通っていたな・・・。

アート・アニメーション・・。
少し調べてみるか・・・。







**********

「むう・・・」


しゅっ。しゅっと。ナイフが木を削る音。
ギルモア邸の近くに流れ着く流木を拾い、掘り出してく形。


静かに、割り当てられた邸の部屋で。
無心に木を掘り続ける。


拾った流木が、語り出す声に、耳を澄ませながら。


風に乗って。
波に揺れて。

空を見上げて。
星に照らされて。

月に見守られて。
雲と流れて。

雨に慰められて。
太陽に励まされて。



旅の始まりから終わりまでを聴く。


「そうか・・・・」

しゅっ。と、ナイフを当てて、掘り出した形に語りかけた。


「頼めるか?・・・お前のその旅で培った強さを、どうか・・・オレの大切な家族を護るために、使ってくれ」




1つ、1つの魂に語りかけて。
形を与えて、その存在をこの世に固定させる。
そして、戦いに身を置く家族たちに危険があったとき、その命の身代わりになってくれるようにと。


家族の分の木彫り人形が、ジェロニモにむかってささやく。




旅の終着地点は、形を与えてくれた主との契約。



護りましょう。
あなたの家族を護りましょう。と・・・ささやいた。


「頼む・・・。みんなが幸せになるために、頼む」









**********

店も大事だけれど、ギルモア邸の台所を預かる身としては、家族が揃う25日は一大イベント。
24日は店を開けるけれど、25日は店を閉める。

厨房のスタッフも、アルバイトの子たちも、そんなマスターの考えに”クリスチャン?”と疑問を持った。


「大人、何してるんですか?」
「アイヤ、休憩アルか?」
「はい」
「なに、25日のメニュー考えてたアルヨ」


厨房の一角の椅子に座って、小さな手帳とにらみあっていた張大人に声をかけたのは、ホールのアルバイトの1人。


「あれ?25日は店を閉めるって・・・」
「店のメニューじゃないアルよ!家族のネ!邸の分ネ!!」
「家でも、大人が作るんですか?」
「あったりまえアルよ!!」
「店でも作って、家でも・・・って、疲れません?」
「アイヤー!!何言うアルか!!これぞ人生の喜びアルヨっ」


ホールのアルバイトを初めて半年ほどになる青年は、じっと張大人を見る。
口では厳しいことを言っているが、本当はとても優しい。

以前にも同じ中華レストランでバイトしていた青年は、前の店の賄いと、今の店の賄いの違いに、まず驚いた。
スタッフのための献立があったのだ。

中華料理を扱っているから、見るのも食べるのも嫌になるだろう。と、賄いは和食と洋食が中心。たまに、店の新メニューが出たりするが、店に出すのと同じレベルで出されるために、それを楽しみにしているスタッフも多い。

厨房に4人ほどコックがいたが、スタッフの賄いをなぜか、オーナーであり、店のメイン・コックの張大人が作る。
賄いのために、店を辞められないと、笑い合う倍と仲間たち。


「・・・・・人生の喜び、ですか?」
「食は人間の基本ね!いいアルか?どんなときでも、食は人を癒しもし、そして、卑しくもするネ。とっても大切アルヨ」
「まあ、確かに・・・」
「美味しい、みんな笑顔になる。ケンカしながらご飯は食べられないね!泣いていても食べられないネ!みんな笑顔になる、それが食事の席アルヨ!彼女と別れたくなかったら、喫茶店で別れ話じゃなくて、レストランでするヨロシ」
「はあ?」
「ご飯食べながら、別れ話なんてできないアルからネ!」


ふん!っと胸を張って言い切った張大人に苦笑するしかなかった。
いつ、どこで聴いたのだろう。

青年がつき合って1年になる、彼女との関係が怪しくなりつつあることを。
クリスマスを前にして、なんとなく別れ話が持ち上がりつつあることを。


「連れてくるヨロシ」
「え?」
「ほれ、これは君にネ」


椅子から立ち上がり、ごそごそとポケットから出した、手書きの紙。


「24日の張々湖飯店、ディナー・特別ご招待券アル」


言葉の通り、張大人の手書きでそう、書かれていた。


「美味しい、美味しいのを用意してあげるから、あとはしっかり、がっちり、ハートをゲットアルよ!」


苦笑いする青年は、受け取った紙を丁寧に折ってポケットにいれた。

就職浪人となってフリーター2年目の自分。
大学を卒業して、きちんと一般事務に就職できた、彼女。


「大人、相談があるんですけれど・・・」


26日から、ホールから厨房へと移った。
青年は4月から調理師学校へ通う。


「ホール、1人足りなくなったアルヨ・・・ジョー、フランソワーズの誕生日プレゼントを買う資金は足りてるあるか?イベントが続くと大変あるね~」
「・・・週末だけなら」
「ああ~、それじゃ目標額に間に合わないアルよ?ランク落とすあるか?」
「(なんで知って・・)・・・わかったよ、でも出版社の方もあるから、空いてる時間じゃないと無理だよ」
「スケジュール調節はまかせるアル!」
「・・・」











**********

「・・・・チケット10枚」
「え?」
「いいから、10枚」
「で、でも・・・グレートさん」
「家族全員で、見に来るからな。吾輩の家族に多いにお前たちがすごい劇団だって言うからな!」


その場にいた、全員がグレートの言葉に彼を見た。


「いいか、シナリオは最高にいい。ちょっとした伝手があってな・・・。シナリオを英文にして吾輩の故郷イギリスに送るつもりだ」


初めて聴く話しに、団長が慌てた。


「静かに最後まで聴け!それと一緒に、初演をした劇団だと言う事で、ビデオも送る!いいか、それがお前たちにしてやれるクリスマス・プレゼントだ。だけど、そのプレゼントのリボンを解いて、包装紙を剥がし、中にある”チャンス”を掴むのは、お前たち自身だ!!いいか。イギリス国立演劇アカデミーで主演を張った吾輩が言うんだ、信じろっ!!!家族の前で吾輩に恥をかかせるなよ!」


グレートの声に、熱く力強い返事が返ってきた。


「じゃ!第一幕から通すぞっ!!」


箱(舞台)は、演劇用ではない公民会館。
コズミ博士の口利きでなんとか12月20日から1月31日までの間を借りる事ができた。

才能がある。
技術も、情熱もある。

足りないのは、彼らを売り出すための、外へと通じる窓を開けてやる手だ。と、グレートは考えていた。


「よおっし、いいかっ!これからの練習すべてが”本番だと思えよ!!」


25日の公演チケット2枚。
26日の公演チケット8枚。

それがグレートのみんなへのクリスマス・プレゼント。


もちろん。
25日は可愛い妹と末弟用。
26日は2人きりにさせてやろう、なんて考えも含まれて。

(26日にジョーの”バイト”が入っている事をまだ知らない、グレート)


博士に孫の顔を見せるお役に立てたかなあ?なんて、にやけていた。












**********

「今日はなかなかのアタリだったな♪」


邸の誰も知らないピュンマの趣味。
軍艦マーチが鳴り響く店もあれば、がんがんにJ-popを流し続ける店がある。
銀色の玉が綺麗に計算されて並べられた釘の上を跳ねて、整然と並べられた台に、しみついた煙草の匂い。

慣れるまでは性能良過ぎる耳には、騒音にしか聞こえなかったけれど、慣れてしまえば、その音がピュンマを誘う。


”釘師”なんていう職業があることを知って、興味を持ったけれども、それは約30年も前には消えてしまった職業だと聴いて、少し残念に思った。漫画の世界にだけしか今はいないらしい。

夜店にピンボールなんてものがあってな!と。(ネカセ)台で遊んだのがそのまま続いてるんだよ!なんて、会話をたまたま隣り合ったサラリーマン?らしき人に教えてもらう。

初めは何がなんだかわからなくて、ハンドルを握りしめていた。
通りかかった女性にいきなり怒られた。

そして、なぜか台の名称とその働きを2時間かけて教わってしまう。







凝り性の僕なんです。











パチンコ。って、日本カルチャーのひとつだよな。
経験しておこうと、軽く考えてた僕が悪かったです。

僕のツボをついた、世界でした・・・。
おかげで、みんなのクリスマスプレゼントを、”ここ”でゲットしよう!なんて、目標までできてしまって。


「よお、兄ちゃん!どうだい今日の出は?」
「よかったですよ。3列目の新機種が出ると思います」
「そうか!サンキュー!!」
「それじゃ」



必要な分だけ景品交換。
あまった分は、すべて食料にする。


通る公園のベンチに座る、あの人に渡すために。
ただ、だまって一点を見つめているだけの、名前も家もない人。






どの国にも、ある闇。

人は平等であろうとしながらも、それができない。
遺伝子に優劣があるように。


戦いのない国などない。
殺生することだけが戦いじゃない。


目に見えない、生きていくための、戦いは常に。
戦いに破れたのは、自分のせい?

国のせい?
政府のせい?
社会のせい?


誰のせい?






生きているだけで、幸せだと感じられたのは、遠い昔のことではないのか?
生きる意味を、目的を見出すことが難しいなんて・・・。

ただ、生きる。




それができないのは、なぜだろう?












天を見上げて。
ホットミルクをつくったその上に張る膜のような、空。


「・・・・・神は、もうこの地上を見捨ててしまったのだろうか?」


いつもの場所に、その人の姿はなかった。
交換した食料を違うベンチに横たわる人のそばに、置いた。


「この躯になっても、できないことが多過ぎる。・・・サイボーグって以外と役立たずだね」


呟いて。
ちょっとだけ、人らしいと感じてしまった。











**********

やれやれ。と、浅く息をはく。
先月参加した学会の、進展の無い研究発表にギルモアは落胆させた。

発表を聴きながら、思わず立上がって叫びたい衝動にかられた気持ちが胸のそこからふつふつと甦る。


自分が持つ知識を。
自分が得た技術を。


すべてをぶちまけたかった。





それをしてはいけないと、解っていながらも。
それをすべきだ、と言う声は常にギルモアの耳元でささやく。


冷えてしまった珈琲を口に運ぶ。
カップソーサーに添えられていた、人の形をしたクッキーに、フロスティングで描かれた顔は笑っていた。

にっこりと。
ぐいんっと深くカーブする口元は、日本で言うところの”kawaii”の一つだろう。


デスクの上に、人の形をしたクッキーを立たせるようにしてもった。



とことこと、歩かせてみる。
そして、自分にむけてお辞儀させた。


「・・・・関係ないわい。儂は息子たちと娘のためだけに生きとるんじゃからの?」
「?」


クッキーは笑ったまま、ギルモアを見る。


「お前さんがいると言う事は、・・・そろそろクリスマスなんじゃな?」
「・・・」
「そうじゃろう?」


卓上カレンダーに視線をむけた。


「ふむ・・・1週間前か・・・・・。今年もみんなで迎えられるんじゃなあ」
「・・・・」
「幸せじゃのう・・・。こんな日が来るとは、儂は夢にも思っとらんかったんじゃ」
「・・・・」
「よいかのう?これはお前と、儂の秘密なんじゃが・・・・」


にっこりと笑う、人の形をしたクッキーにギルモアは”秘密”を語り、その秘密を食べてしまう。


「さて。もう一仕事じゃ!」












**********

イワンはそうっと、そうっと、起こさないように気を使いながら首を動かした。
すると。

それを制するように、抱き直されて、柔らかな胸をきゅっと頬に押し当てられた。
いやいやを、するように、その胸に頬をする寄せる。
抱き直されたときに込められた腕の力が抜けて、無意識にほっそりとした長い指が、イワンの髪を書き上げように撫でる。

何度か繰り返されると、その手は移動して。
仰向けに寝転がる、イワンの胸を、イワンと彼女だけが共有するリズムを作り出す。


いつもくわえているおしゃぶりがなくて、口元が淋しい。


昼の時間の、軽いお昼寝は1時間も持たない。
だいたいが一緒に添い寝してくれる彼女が眠ってしまうころ、イワンは目覚めてしまう。

目覚める場所はリビングルーム暖炉近く。
の毛足の長いカーペットの上に引かれた、まったく部屋のインテリアに合わない”座布団”の上だったり。

ソファに座った彼女の膝の上のときもある。

彼女の香りに包まれることができる、ベッドでも。
けれども、今日はそのどこでもなかった。



<起きた?>


彼女を起こさないように、脳波通信を使った彼。
なんだか気に入らないので、答えない。


<・・・・ほら、彼女のベッドリネン類は、洗濯中で>


なにを言い訳してるんだ?と、おしゃぶりをくわえていないのを忘れて、くちびるをもごもごと動かすと、妙な感触に眉が寄る。


<それで、リビングは・・ツリーの飾り付けの途中で散らかってるしさ・・・>


だからなんなの?
イワンは、利き手の親指をおしゃぶりがわりにくわえた。


<寝不足だったし、イワンのお昼寝の時間だって言ったし・・・それでさ>


それで、君の部屋のベッドの上で彼女は僕とお昼寝してるんだ。
別に、ジェットでも、アルベルトでも、ジェロニモ、グレート、張大人、ピュンマ、それにギルモア博士の部屋、メンテナンスルームに、君の部屋じゃなくても他にいっぱいあるよ?

あ。ゲストルームに、客間だって。



僕が寝る前まで、確かリビングルームの、僕のベッドにいたんだけど?


<博士は、地下だし・・・・君だけをリビングに残しておけないって彼女が>


その通信だけ、少しむっとした、”焼きもち”が見え隠れした。




<当タリ前ダヨ、僕ノコトヲ一番ニ、フランソワーズハ考エテクレルンダモン>
<・・・・・・そうだね。フランは君のママだから、ね>


露骨にむっとした、感情が手に取るように伝わって来た。
けれど、言葉も、ママの躯に隠れて僕の視界に見えない彼の表情も、きっと、いつもの彼なんだ。


男の部屋で。
そのベッドで、安らかに眠るお姫様。
・・・の腕には僕。


なかなか縮まらない距離を、僕のせいにしないでよね。


僕が。
じゃなくて、彼女が。
そうしてるんだからね。


好きな人の部屋に、呼ばれて。
平気な顔で行けるような、そんな積極的な女性なわけないじゃないか。


乙女心の繊細なこころを計算しないとね。



<クリスマスに、がんばれば?>
<・・・・・・・・・邪魔しないでくれよ?>


ああ。駄目だ、当分は僕だけのママだよ。
どんなに奮発した”プレゼント”でも、君の気持ちがその程度じゃね!













**********


---Xmas Eve



街はずれの海岸沿いに、隠れるように建てられた洋館がある。
なんのために、そんな場所に建っているのか、誰もが一目見ただけで首をひねってしまう場所。

そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられていた。




12月の今日。
世界共通と言ってもいい、イベントの日。

浮かれた街に負けないほどに10人の家族の、賑やかな声が響く。



「なんだよっこの!劇団のチケットつーのは!!しみったれてんなあっ、オレがあげたヤツ返しやがれっ」
「トリ頭に少しでもよりよい教養を与えてやろうと言う、吾輩の気持ちだ!!」
「あの・・・グレート、ジェットは26日で、なんで僕のは25日なんだい?みんな一緒にじゃ?」
「ピュンマ、この万年筆・・・。いいのか?」
「うん!その日は絶好調でさ!!」
「素敵・・・ありがとう・・・・ジェロニモ」
「いや。オレの方こそ、ありがとう。」
<・・・アニメーション、僕ニ・・・???>
「そろそろ、ケーキを切っていいかのう?」
「そうネ!!乾杯してから切るアル」



ダイニングルームで食事をおえて、リビンフルームへと移り、照明を落としたリビングルームに輝くツリー。
それぞれに好みの酒を手に取って。

んん。っと喉の調子を整えた、ギルモアがグラスのコップを天井に伸ばす。


「 Merry Christmas!!」
<「「「「「「「「 Merry Christmas!!」」」」」」」」>



May love be in your life, May hope be in your heart, May peace be in our world.







end.










*さて、質問です。
 25日、9と3(グレートのお陰で)2人きりで出かけますが、26日、9は大人の店でバイト予定。
 9と3以外は舞台を観に。なので、3は1人になっちゃいます。

 どうしましょう・・・・(汗)
 
 やはり9はバイトの日を変えてもらったんでしょうね・・・。
 書き終わって気づいたんです。
 妄想してください・・・何かが起こってそうです・・・逃げます。
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照れくさい/そんな二人のクリスマス
「ジョーと二人だけなんて、寂しいわね?」
「・・・・・・う、・・ん?」





12月22日から27日まで、ギルモア博士はコズミ博士の友人たちに混じって湯布院へ温泉旅行。
ちょうど、イワンが昼の時間ということもあり、一緒に連れて行くそうだ。

赤ちゃんが居る方がなにかと都合が良い、うにゃうにゃと、電話で話しているのを通りかかったジョーは聞いていた。それにたいして、何も突っ込むことはないが、なんとなく、博士とはそのとき視線を合わせておいた。


中華とクリスマスにどういう関係があるのかわからないが、商売人としては、外せないイベントらしく、すでに張大人の店はクリスマスから年末にかけて、忘年会に、新年会の予約でいっぱいらしい。
そうなると、もちろん、共同経営者であるグレートも同じように忙しいために、店に泊まり込むことになるようだった。


年末はどこの国もクリスマス、から新年にかけて忙しいらしく。
国に帰っているメンバーからぼつぼつと、邸には年が明けてから帰るとの連絡が入り始めたのは、12月の2週目がすぎたころ。






ギルモア邸で、ジョーとフランソワーズが二人きりになること自体は、さほど珍しいことではない。
けれど、二人きりで”クリスマス”とは。



初めてである。







####

「ね?せっかくのツリーも、お料理もケーキも、二人じゃ寂しいわ!!」
「・・・・じゃあ、どうするの?」
「そうねえ・・・」
「心配しなくても、プレゼントは届くと思うよ?」
「も!そんなこと、心配するほど子供じゃないわ!!!」


ぶう!っと頬膨らませて抗議しているが、ちゃっかり帰ってこないメンバーたちに、寂しいだの、ひどい!などのメールを送りつけていたフランソワーズ。

メンバーたちは、きっと可愛いフランソワーズのために、去年よりもうんっと奮発したプレゼントをクリスマス当日に合わせて送ってくるであろうと、想像している。

すでに、当日に邸にいない4人(ギルモア、イワン、張大人、グレート)から彼女宛のプレゼントを託されているジョーなために。

(ちなみに、ギルモア邸メンバー(フランソワーズ除く)からはクリスマス・プレゼントとして2代目の車(フォルクスワーゲン・ニュービートル)を4人から贈られていた、ジョーだったりする。フランソワーズの「可愛い!こんな車に乗りたいわ♪」の、言葉があったことは、ジョーは知らない





「今からだと、どこも予約でいっぱいだろうなあ・・・」
「予約?」
「二人分だけ作るのが寂しいなら、どっか外で食べてもいいだろ?」
「そうねえ、クリスマスにディナーなんていいわよね、ちょっと奮発しちゃって、トルコ料理のコースとか♪」
「・・・・・なんで、クリスマスにトルコ料理?」


リビングルームのソファにだらりと座り、膝の上に広げた「る○ぶ東京」の雑誌。類似した情報誌が、リビングのテーブルの上に数冊置かれていた。


「エキゾチックなクリスマス!」
「・・・もっと早くわかってたらなあ・・どこもかしこもいっぱいだろうなあ・・・」
「たとえば?」
冬用の毛足の長いカーペットの感触が気に入っているフランソワーズは、ソファに座らず、カーペットに直に座り込んでいた。


「・・・・まあ、別に、特に・・・・、定番だけど、イルミネーションとか観たい?」
「電気代いくらくらいなのかしら?」
「いや、あのさあ・・・・ほら、綺麗だよ?」


ジョーの足に躯を寄せて、彼の左の膝小僧に頭をもたれかけるような形でのんびりと過ごすお茶の時間。


クリスマスまであと一週間。





「どれえ?」


手に持っていた雑誌のクリスマスイルミネーション特集ページを、フランソワーズの顔前に開いてみせた、ジョー。


「ジョーはどこがいいと思ったの?」
「たて浜コズモワールドとか、いいかもね。観覧車に乗れるよ?」


ジョーから雑誌を受け取って、ぱらぱらとページをめくるフランソワーズ。
字を読む気はないらしく、写真のみを観ているようす。


「寒いのは、イヤねえ・・」
「色々アトラクションで遊べるけど?・・・それだと室内かあ・・・・。スケートとかは?」
「いや!」
「ベイサイドは?ショッピングとレストラン」
「クリスマスまでショッピングなんて、・・・嫌よ・・。もうくたくたなのお」
「いや、くたくたっていうのは、僕の台詞だよ・・」


大学研究室のアルバイトとギルモアの助手しかしていないジョーと、家事手伝いのみのフランソワーズにとって、家族全員分のプレゼントを揃えることは、かなり金銭的に苦しいために、いつの頃からかクリスマスプレゼントは、ジョー&フランソワーズ共同。と、なっていた。

そのために、フランソワーズと一緒にクリスマス・プレゼント選びが11月頭から始まり、先週ようやくすべてを揃え、各国に住む家族宛に包装を終えたのは、昨日。

それらはジョーの車のトランクに積んである。


「ジョーはくたくたじゃなくて、だらだら」
「はあ?」
「だらだらでしょう?」
「・・・・・・・当たり・・・今日くらいだらだらしたいよ。も、当分買い物は勘弁・・・珈琲とって」
「はい」
「ありがと・・。で?」
「なあに?」


フランソワーズからマグを受け取り、ぬるくなった珈琲をごくごく。と喉を鳴らして飲んだ。


「このままだと、邸でごろごろクリスマスだけど?」
「ねえ・・・。そうよねえ・・・・」
「別にいいけど、僕は」
「ねえ、ジョーはクリスマス何が食べたい?」
「クリスマス・・・だし。チキンかステーキでケーキ?」
「・・面白くないわ!!」
「面白さを求められても・・・じゃあ、ホワイトシチューとか?」
「王子様ね!」


フランソワーズは雑誌から視線を外して躯をねじってジョーを見上げる。


「それはカレーじゃ・・・」
「シチューの王子様ってあるのかしら?」


フランソワーズは雑誌を珈琲テーブルの上において、ジョーと向き合うように躯をずらすと、彼の膝上に腕を組んでのせて、その上に頭をあずけ、上目遣いにジョーを観た。


「さあ・・・。シチューって冬って感じじゃない?」


膝にかかるフランソワーズの重さに、どきっと。心臓が跳ねる。


「じゃあ、今晩、それでいい?」
「いいよ。白ご飯焚いてね」


フランソワーズを観ないように、手に持っているマグの、半分になった黒い液体に集中する。


膝が熱い。



「いやあよおお・・・なんで白ご飯とシチューなのお・・・?バゲットでしょう、塩味のきいたのか、ハーブのパンでしょ、普通はあ・・・」


なんとも面倒臭そうに答えたフランソワーズ。


「日本人に白ご飯は欠かせませんです」
「朝はパン党のくせにいい・・・」
「パン好きだけど、たまにはねえ」
「面倒くさいものお・・・白ご飯に、お味噌汁に、おかずでしょう?納豆なんて朝からみたくないわ」
「たまには、っだよ、たまには!」


残りの珈琲を一気に喉へと流し込む。
なんだか喉が渇いて仕方がなく、急に部屋が乾燥してきたような気がする、ジョー。


「じゃあ、クリスマスの朝は和食にするわ」
「・・・・いや、わざわざクリスマスの朝にしなくても・・」
「でもねえ、じょお、24日もお祝いして、25日もだなんて・・・ねえ?」
「いいんじゃない?あ・・・」
「ジェロニモに国際電話、忘れてないわ」
「うん。・・・携帯電話からだと高いよね」
「そうなの、邸から電話しましょう?」
「時差のことを考えると、やっぱりさあ・・・24日は邸に居た方がいいかなあ?」


フランソワーズが頭をあげて、ジョーの膝から離れると、彼の隣に、ソファへと座り直した。


「24日の夜がメインよね?」
「25日の朝にプレゼントを開けるんだよね?」


預かっているプレゼントをどうやって渡すか考えなきゃ。と、ジョーは胸で呟いた。


「何がいいかしら?ジョーは何が欲しいの?」


フランソワーズの躯の重さとぬくもりがなくなった膝が、寂しいな。なんて、考えていたときに、名前を呼ばれて覗き込まれたために、びくん!と跳ねるようにしてフランソワーズから距離をとる。


「え?な、何って?」

「クリスマス・プレゼントに決まってるじゃない!」









ごくん。と、乾いた咥内からかき集めた、唾液を飲み込む。
無意識に握りしめたマグが壊れそう。


「な、なんで、も、いいよ・・」
「なんでもじゃ、わからないわ!」
「べ、別に・・いいよ」


ジョーの頭に浮かぶ言葉は、小説やドラマや映画の台詞。
聴いている視聴者の自分が恥ずかしくて、コタツに潜り込みたくなるような。
(ギルモア邸のどこにもコタツなんてないけれど)


”フランソワーズと二人きりでクリスマスを過ごすことが、ボクにとって、最高のプレゼント”














どこかへ行かなくてもいい。
おいしいものなんて、別に。



クリスマスらしくなくていい。







世の中が、そういうイベントだと言う日に。
キミと二人でいられれば、それだけで最高。





「ね!ジョー」
「な、なにっ!」


フランソワーズは甘えるように、ジョーのセーターの袖を引っ張った。


「せっかく二人なんですもの!」
「う、うん・・」
「何してもいいわよね!」
「え、あ、何してもっ・・て、え?何がしたいの!?」
「ふふふ♪」
「な、なんだよ?」
「ね!アタシとジョーじゃないとできないこと、しましょう!」







---ボクとフランソワーズじゃないとできない、こと?!









ジョーの脳裏に一瞬で駆けたイメージ。



自分、フランソワーズ。



009、003。




男と女。






二人きり。











誰もいない邸。

誰もいない夜。







ロマンチックなツリーのイルミネーション。





クリスマス。





膝に感じていたい温度。
彼女の重さ。




香り。












恋人たちの時間。









プレゼント・・・・。










フランソワーズのカチューシャがラッピングリボンに早変わり。



蒸気機関車のように、速度を少しずつあげて走り出す興奮。
沸騰しだした頭が、ジョーのイメージをさらに膨らませる。





「ね?」






きらきらと煌めく宝石が、しっとりと艶めくような色をしているように見えた。





「あ、う。うんっ」










期待してはいけない。
フランソワーズのことだから、と冷静な声が聞こえてくるが、ジョーの頭に届いていいない。


「ドルフィン号で、でかけましょう!」
「え、・・・ど、ドルフィン・・・・?!」
「郵送しないの!」
「は?!」
「ドルフィンでサンタクロースよ!!」





各地に散らばる家族たちに、サプライズで訪れるクリスマス・プレゼント。





移動時間と、時差と、ドルフィンを停泊させる場所、そして家族が住む街までの距離を計算し、防護服を着込んで、会いにいった家族のために用意したプレゼントを手にもったフランソワーズを抱きかかえて、世界中を旅する二日間となった。




26日に日付が変わる頃に、やっと邸にもどってきた二人。

邸を空けていた間に何もなかったか、セキュリティをチェックし、郵便受けに入っていた不在届けの紙を忘れないようにキッチンカウンターにある、アクリルの中を泳ぐイルカのペーパーウェイトの下においた。


「つ、疲れた・・・」


クリスマスの朝に和食どころか。

チキンもステーキも・クリスマスケーキも何もないままに、26日へと進む、クリスマスの終わりを告げようとする壁時計を思わず睨んだ、ジョー。

こっそり用意しておいたフランソワーズへのクリスマス・プレゼントを、邸にいない4人の分と混ぜて、ドルフィンで出かける前に彼女の部屋に置いていったのが100年前のことのように感じる。








リビングルームで、防護服のままソファの上に寝そべって、暗いリビングルームの天井に視線を固定する。

何も考えずに、そのまま観ていた。


「ジョー」


先に部屋に戻ったはずの、フランソワーズの声。


「どうしたの?」


ジョーは視線だけを声の主へとむけた。


「ありがとう・・・」
「え?」


フランソワーズがリビングルームのルームライトを点けた。
今年は、何もクリスマスらしい飾り付けをしなかった、いつもの邸の、いつものリビングルームが二人の視界に現れる。


「・・・・すごく、可愛い・・・・」
「あ・・・、う。うん・・・、気に入ってくれてよかった・・よ」



ジョーは、寝そべっていた躯をソファから起こした。


「可愛いわ・・・」










アルバイト先の大学でランチに誘われ、その帰りに通りかかった店のショー・ウィンドウを、同じ研究室で秘書として働く人が、足を止めて「覗いていい?」と、訊いてきたので、「いいよ」と、答えた。


「妹に、そろそろ何か考えないといけないなあって・・・あと、りか子に・・」
「そうなんだ・・・。あ!」
「?」
「あ、ううん、な、なんでもない・・・。ゆっくり観たらいいよ、まだ時間もあるから」
「ありがとう、島村くん」
「・・・・」


女の子の御用達的な店の、居心地の悪さはフランソワーズを思い出して吹っ飛んだ。
”それ”を目にしてすぐに、フランソワーズの微笑む顔が、瞬きする一瞬の瞼に映し出されたために。


クリスマス・プレゼント用にラッピングしてもらうのが恥ずかしくて、サワラ心地の良い小さなピンク色の巾着のような袋に入れられただけの”それ”を隠すようにポケットに突っ込んで邸に持ち帰った。

次の日に行った本屋で買った、シンプルなクリスマス用のカードは、金の筆記体にフランス語で”Joyeux Noël”

カードについていた封筒に、”フランソワーズのための、それ”を、忍び込ませた。


「嬉しい・・・。素敵な・・プレゼント、を、ありがとう」


小指の爪先ほどの小さな、ピンクシルバーのローズが1つ。
フランソワーズの胸元に咲く。


照れくさくて、声の主から視線をそらしながら、フランソワーズが手に持っていたものが気になった。


「あのね・・・間に合わなかったの」
「・・・?」
「それでね。・・・・下手っぴなの」
「え・・?」
「ジョーはなんでもいいって言うばっかりで、いつも困るのよ?」


去年は、キー・ケースだった。
自分用の車を持ちなさいと、ギルモアがジョー専用に与えた軽自動車。と、作った邸のスペアキーをバラバラにもっていた彼のために。

一昨年は、携帯電話の時計に頼る彼に、腕時計贈った。



去年も、一昨年も、「別に何でもいいよ」と言った、ジョー。
きっと今年もそう言うんだろうと、想像していたフランソワーズ。



想像通りすぎた答えは、ちょっと腹が立ったのと同時に、おもしろかった。




「あのね、もうちょっとで完成するのよ。だから、いいかしら?」
「え、あの・・・ん?」


緋色のマフラーを外し、その上から、ざっくりと編まれた右腕の袖がないセーターを着た、ジョー。
気恥ずかしさから、フランソワーズをまともに観られるない。


「よかった!サイズあってるっ!!」


手編みとか、そういうのは、”重い”ためにプレゼントとして人気がないと、どこかで耳にした情報。



”お金”じゃ買えないものがよかった。(毛糸はさすがに買ったけれど)
家族の誰とも違うものをプレゼントしたかった。



「・・・編んだの?フランソワーズ・・が?」



彼の写真を手に、お店で選んだ色。



「あとね、右袖のね、肩の部分を少しなの、それをね、繋げるの!!」
「・・・・・・・僕に?」
「そうよ、クリスマス・・・プレゼントなの・・・だけど、間に合わなくて、ごめんなさい」



ソファに座るジョーの隣ではなく、毛足の長いカーペットの上に足を伸ばして座り、肩を彼の足にもたれかかるようにして、左袖の続きを編み始めた。

片袖のない、セーターをそっと撫でる。
温かくて、くすぐったい。







初めての、手作りのプレゼント。








かち、こち。秒針は規則正しく歩みを進めて、もうすぐクリスマスが終わる。

フランソワーズの蜂蜜色の髪をみつめて、思い出す家族たちの驚いた顔。



”よく来たな・・・。(ジョー・・・お前、クリスマスくらい・・・、二人きり、だと?ニヤリ。)
”ったく!何やってんだよっ!(特にジョー!ばかじゃねえの?せっかくのチャンスに・・・)
”顔が見られて嬉しいぞ。よく来てくれた。ありがとう・・・(だが、人のことより、自分の心配をしろ、ジョー)
”ジョー!フランソワーズ!!ハッピー・クリスマスっ!!で。時間あるなら、ジョー、ちょっとひとっ走りし、頼めないかな?(可哀想に・・・。せっかくのクリスマスなのにねえ・・・ま。そういう運命なんだよね!がんばれよ、ジョー)


そして。
みんな、両腕を広げて自分とフランソワーズをいっぺんに抱きしめてくれた。


「メリー・クリスマス、フランソワーズ」
「メリー・クリスマス!ジョーっ」



編み棒を動かす手を止めずに、ジョーを見上げて微笑むフランソワーズ。










かち。と、26日に日付が変わった。


















####

リビングルームのソファで目が覚めたジョーは、両袖がちゃんとある、空色のセーターを着ていた。




フランソワーズが毛糸を購入した先の店員が言った。
”彼には絶対に、あなたの瞳の色が似合いますよ”



防護服の上から空色のセーターを着たままの姿は変だけれど、用意された”和食の朝食”を着替えることなく食べた。

炊きたての白ご飯に、わかめとお豆腐と薄く切った油揚げで、合わせ味噌。
ほんのり甘くした卵焼きに、こんがり焼かれたシャケの切り身。ちゃんと納豆も用意されていて、芥子はパックに添えられているのではなかった。いつものサラダがガラスの小皿に。
フランソワーズ特性ドレッシングと、ジェロニモが持たせてくれた無農薬トマト。

和食にはおかしいけれど、いつもの珈琲がダイニングテーブルの上に和食と一緒に並ぶ。


午後のおやつは、ブッシュ・ド・ノルエになりそこなった、フランソワーズがつくったロールケーキが出される予定。


キッチンに立つ、フランソワーズの大きなあくび。
二人きりのロマンチックな・・・とは言えないクリスマスだったけれど・・・・と、ジョーは口元をほころばせて、ちょっとしょっぱいお味噌汁を飲んだ。


「・・・ちょっと、濃いかしら?」
「大丈夫」


キッチンカウンターから自分の方を観た、彼女の胸元の”それ”が照れくさい。
初めてフランソワーズにアクセサリーなんてものを、プレゼントしただけに。

自分の瞳の色と同じ色のセーターを着た、彼を観るのが照れくさい。
店員に言われなくても、ジョーにはこの色!と、即決したことは秘密にしておく。


そんな二人の、クリスマスじゃない朝が始まる。











*おまけ*

邸内の隅から隅まで、1と共同開発したカメラを外出前に設置したギルモア博士。
フランソワーズの眼と耳に細心の注意を払ったそれのはずなのにも関わらず、何も映っていなかったことにギルモア博士は、帰ってくるなり誰もいない邸だけを映したイメージに泣いた。


「なんでじゃあああああああああああああ?!」
「二人で外出することは頭になかったアルか?」
「そのためにっ!玄関に(超小型虫型カメラ)8匹用意しておったんじゃあっ・・・・二人の声紋にちゃんと反応して動くように・・・じゃぞお・・・」
「いやあ、地下から外出したんだってなあ、おい。ドルフィンで海外組に会いにいくのは、計算外だったってことですなあ、博士」


床にうずくまり、悔し泣きをするギルモアを慰める、6と7。


「リベンジじゃ!」


ぬおおおおっ!と、来年の豊富を高々と掲げた。




end.





*・・クリスマス、もじもじ・・・・?
 なんだかなあ・・もじもじより、ほのぼの?
 1を連れて行った先のG博士はとってもモテモテのクリスマスだったことだけ報告(笑)
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プレゼントは25日の朝(包装紙・リボンはきちんと再利用)
足先が痛いという感覚が、もうなくなってしまって。
凍ってしまったように感じる。

なんとか感覚を取り戻そうと、つま先立ってみたりして、血を送る。
張り切って履いて来たブーツのかかとが、尖っていて。

いつも履く靴よりもかかとが高いそれは、なかなか思うように動かせず、自分の体の一部のそこへ上手く血を巡らせることができなかった。



締め上げるような靴を履いて。
お洒落重視にコーディネートした服は、防寒にはまったく適していなかった。

せっかく、くるり。と、可愛らしく上手く巻けたと思った髪も、雨も雪も降っていないにも関わらず、重たい湿気に巻けてしまって、情けないよろよろとした巻き具合。

ピアスの穴は空いていないから。
なかなかクリップ式の、可愛いイヤリングが見つからない。
もう何年も”特別”な時につけていた、お気に入りのその片方を、待ち合わせ場所がウィンドウから見える、珈琲ショップで無くしてしまった。

”眼”の力を使って探したけれど、どこに落ちてしまったのか。
見つけられずに、諦めた。


諦めたと言えば、聞こえはいいけれど、結局、その珈琲ショップが閉店するまで居座ったのだから、諦めた。と、言うようりも、諦めさせられた。が、正しいのかもしれない。

店を出るときに購入した、ベンティ・サイズのカップに薄く残っていた、季節限定のエッグノッグ・ラテは、凍ってしまったかな?
スプーンでもありば、しゃくしゃくといじって、どんな風な味になったのか、ためせるのに。と、考える。


待ち合わせの駅のビル。
電光家地盤に光る、今の気温と、時間。







24日が、終わって。
25日が来る。










結局、イブを1人で過ごしたことになるのかあ。と、溜め息をついた。
解っていたことではあるけれど。









『24日の6時から10時くらいまでなら、会えるんだけど・・。007と変わってもらうから・・その・・』


---いいの?


『少ししか一緒にいられないけど・・・』


---駅ビルで夕食を済ませて、クリスマス・イルミネーションを観に行きましょう。


『うん、久しぶりに、会えるね』







---ええ!・・・ここずっと”そちら”ですものね。











『・・・ごめん。状況が変わった』



---いいのよ、気にしないで・・009。

  別に、クリスマスなんて毎年のことだもの。




  気にしないで。






『ごめん』


---気にしないで、ね?たかがクリスマスよ!
  どうか、怪我だけはしないでね。・・・気をつけて、・・・・・・・気をつけて009。













なんて、言っておきながら。
”もしかして”なんて、馬鹿な期待をして出て来てしまった。


邸には、バレエ教室のお友達と会うなんて、言って。


駅前の大通りの正面に、ドーナツ屋さんと、イヤリングの片方を無くした珈琲ショップが並ぶ場所から、数メートル離れた花屋さんが造る小さなガーデン。

白いゴシック調のデコラティブなフェンスに囲われた入り口をはさむように、その雰囲気にあったベンチ。
このあたりでは、ここが待ち合わせ場所の定番。



ベンチに座り続ける私は、たくさんの”待ち合わせ”に遭遇した。





いいな。と、呟く。
素敵ね。と、微笑む。

良かったわね。と、御祝いする。



いってらっしゃい。素敵なクリスマスを、と・・・・心の中で、声をかけた。








いい加減にしなさい。と、自分を叱る。
来ない人を待っているなんて、いい加減にしなさい、と。


けれど、嬉しかったから。
初めてだったんですもの。


ジョーから、誘ってくれるなんて。
ちゃんと、クリスマスだと言う事を覚えていて、そして・・、会おうって、会いたいって言ってくれたのは。


ベンチから、立上がる。
隣に置いていた、冷たくなったカップを手に取る。

視界にはいった手袋が、悲しかった。



とてもシンプルですっきりとした、薄いピンク色の手袋。
見た目とちがって、内側にもこもことした羊の縫いぐるみに使うような生地が使われていた。

手首が自由になるように、小さな切れ込みがあって、そこに、シルバーの小さなハートのチャームがついている。


去年、クリスマスが、ずうううっと過ぎた、年も明けてしまった時に、渡されたプレゼントだった。
誕生日も、過ぎていた気がする。

誕生日の前に用意してくれていて、誕生日の後に渡された。





肝心の誕生日は、いなかった。と、言うか・・・忘れられてたし。








そういう人なのよ。









近くのゴミ箱に、カップを捨てる。
終電を逃す訳にはいかないと、少し早足で駅に向かった。


大通りを渡るために信号機の前に立つ。
たくさんの人が、駅構内へと吸い込まれて行くのを目にして、その中の1人になるのか、と、ちょっとイヤな気分になった。


待っていても、帰っても結局彼はいないから。
けれども、帰らないわけにはいかない。



感覚のなくなった足先を前にだして。
普段はあまり聴くことのない、ヒールがアスファルトを叩く音。



24日が終わる。
25日がやってくる。



邸に帰り着き、あたたかな湯船で冷えきった躯を温めて。
楽しかったか?と、訊ねてくる家族に、楽しかったわ!と、嘘をついて眠りについた。















クリスマスの魔法は、24日ではなく、25日の朝にかけられる。

ぐっすり眠っていた彼女の部屋に、朝早く、赤い服を着る国際色溢れるサンタクロース、8人からのお届けもの。
彼らと同じように赤い服を着る、白のリボンで拘束された状態の・・・栗色の髪の・・・。






「きゃああああああああっっ!!」


青年が、降って来た。


「うわあああああああっっ!!」


どさ!と、彼女の上に。


「いやあああっ!」
「フランっs、僕だよっ・・・僕だっ!!」
「っジョー?!」
「・・・・・ふ、フランソワーズ・・・こ、これ、解いて・・」
「どうしてっ!・・・あ」


フランソワーズの手に、いつの間にか握られていたクリスマス・カード。






”メリークリスマス!今日1日、009は003のものです。 from 00サンタクロースズ”







「フランソワーズ・・、あの・・・、なんとか、これ、なんでか、はずせないんだ・・・」


両腕の自由を奪われている状態。
柔らかそうなリボンにも関わらず、009の力で解くことができない。


「・・・・・・・ねえ、ジョー」
「外すの、手伝ってくれないかな?」


躯をよじるようにして、必死でそれを外そうとしている彼に向かって微笑む。


「・・・だめ」
「ええ?!」
「まだ、だめよ。だって・・・、あなたは私のクリスマス・プレゼントなのよ?だめ。私がいいって言うまで、だめよ」
「ふ・・フランソワーズ?!そんなっ、いったい、それより、プレゼントって・・・。僕はまだミッションのっ」
「だめ」


意地悪く笑って、白のリボンでぐるぐるになったジョーを見つめながら、手に持っていたカードを見せた。


「ね?私の好きにしていいらしいわ」
「なっ・・・!!!!・・・こんなことできるのはっ・・・イワンまでっ!」


呆れると言うよりも、ショックの方が大きいらしい。
目の前にあるカードの文字を穴があくほどに見つめる、ジョー。


「さあ、どうしようかしら?」


カードをぽいっと、放り投げる。


「ふ・・フランソワーズ?」






ベッドの上。

彼女の上。


伸ばされた腕が首にまわされて。
起きたばかりの、少しあがった体温と、彼女のお気に入りのシャンプーの香り。


頬をすり寄せられるように、抱きしめられて。



「・・・・・・プレゼントなのよね?何しても、いいのよね?」
「あの・・あ、ふ・・・あの、ええっと・・フラン・・それよりもっ・・・・・さ、先にっ」
「ね?」
「え、あ・・あの、さあ・・・・・・・・そのっ」


慌てふためく、009。


「ん~・・・じゃあ。まずは・・お早うございます」
「あ。うん・・・・あ、ええ?あのっ・・・お。おは、お早う・・・」
「それから、メリー・クリスマス、ジョー」
「・・・・・・」


にっこりと、微笑んだフランソワーズと、ジョーが受け取ったテレパスはほぼ同時。


「どうしたの?」


固まってしまった、ジョー。
そして、彼の空気が変わる。


「・・・・・待ってたって・・どういうこと?」


眉間に皺を寄せて、睨むような視線。


今度は、フランソワーズが慌てる番。
ジョーの首にまわしていた腕を解く。と、同時に、ジョーを拘束していた白のリボンがするりと、彼を解放した。


「1人だったの?・・・・・友達と会うためにでかけたって訊いてたんだけど?・・嘘ついた?」


ジョーから逃げるようとするフランソワーズ。けれど、自由になった彼から逃れられことなどできない。


「あの・・ジョーっ・・・・」
「・・・・・今日1日、好きにしていいんだよね?」


ベッドの上で、彼女を捕まえて。


「そ、それは、私がっ」
「003は僕のものなんだよね?」


自分に使われていた、リボンを彼女に使う。



「ちが・・・・私がっなのっ・・・・・ジョーっっ!!!!!!!」
「そうだったね、じゃあ。・・・・・・・・・・・僕をあげるから、受け取ってよ」
「!」

「最高のクリスマス・プレゼントに、なるから・・・」








25日の朝に、クリスマス・プレゼントのリボンが解かれて。
再利用も忘れずに。
















*朝起きて、パソ開いて。書いたのが、これ!?・・・です。
  雪が膝下に届くかなあ?くらいにつもりました。
 って、書いたのは21日。(笑)の書きだめショートです。
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