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Little by Little・9
(9)







篠原当麻は、自分の身の回りにおこった今回の事件(ミッション)の全貌を知らない。

彼は元・BG研究員”トーマス・マクガー”の孫。
その研究資料を保管していた、月見里学院理事、篠原さえこの(義)息子。
事件の首謀者だった篠原グループ総帥、故・秀顕の孫。

そして、未だに交通事故から意識を覚醒させない、サイボーグ再開発の主犯、石川斗織を実父とし、当麻の戸籍上は母である篠原さえこの親友であった、故・篠原秀顕の娘であったために、当麻の実母”小石川美涼”は、さえこの異母姉妹。


親族経営で運営される”篠原グループ”において、故・秀顕の跡を継いだ篠原さえこの息子である”当麻”は当然、次期TOP候補である。

さえこは、当麻に跡は継がせないと言い、水面下で彼と”篠原”の縁を断ち切るように動いてるが、実際にそれが表立って公表されたとして、彼の”価値”は今のところ変わらない。



故.篠原秀顕と石川斗織が津田海を実験体として、再開発を進めていた”サイボーグ”計画は、今回無事に未然に防がれた。
過去、闇の組織(B.G)がおこなっていた”ビジネス”とは違い、その戦略と目的の差異に感謝するサイボーグ00メンバー。







「時代が変われば、戦いのフィールドも変わる。」
「・・・」




「情報社会。
誰もが、キー、ひとつ押すことで、自分の世界を電子の世界に気づき上げ、神にもなれ、悪魔にもなる。


誰もが”B.G”となるチャンスが与えられた世界。
何も知らないままに・・・、そのキーひとつで。





千、万、億の命が散っていく。」




「p・・・ピュンマ、こ、怖い・・・・・・・・」


ピュンマと海は、(末っ子をおいかけていった)ジェットが去った後、ぐるりと第1グランドに並ぶテナント・ブースを見て歩き、第二グラウンドへと向かう前に、飲食店が集まっている、第一グランドから見て、北にある高等部の校舎へと寄った。


「・・・・・・・・な~んてね!あははは!どお?迫力あった?」
「・・・・・・・・・・怖いよぉ、」
「でも、本当の事だから!」
「ええええええええええええええええええええっ!」


適当に選んだ店で購入した、氷ががちがちに詰められたMサイズのアイス珈琲を手にしたピュンマは、海の反応を楽しむ。


「海の”あの”足が公開されていたら、もおおおおお、大変なことになってたよ!まず、経済に影響が出るよね、世界の株価も変わってさあ、急に潤う国が出て来たりして、世界のパワー・バランスが崩れてた。これも事実」
「・・・・・・・・・」
「ちゃんと知って欲しいから、話すんだよ?」
「う、うん・・・」


海は気づいてないようだったが、2人が校舎へと入ったとき、ピュンマと海がいる位置から一番離れた教室から、見慣れた栗色の髪の、青年を見つけた。


「医療面で多くの人を助けて感謝される。その裏では、多くの命を奪うものにもなるんだ。使う”人間”次第で神の遺産にもなれば悪魔のジッポにもなる」
「・・・・・・・・・あ、悪魔の、し、シッポ?」


栗色の髪の青年は、ピュンマの家族の1人。
その傍らに、黒髪を肩で切りそろえた女の子が一緒にいた。


「あ。これは僕的表現!悪魔のシッポってさあ、コスプレしたり、漫画では可愛いけど~」
「・・・うん」


彼もピュンマの姿に気づいた様子で、校舎から出て行くとき、ピュンマにむかって一瞬、視線を合わせた。
ピュンマは励ますつもりで、力強く彼にむかって頷いてみせた。


---ジョー、自分を誤摩化したりしちゃ駄目だよ。ちゃんとさくらの気持ちも受け止めた上で、がんばれ!




「みかけ以上に怖いもんだって言う意味をこめて、使ってみたんだよ!どおかな?」
「・・・まあ、うん。別にいいと思うけどさあ、それで?・・・篠原がどうしたの?」


ジョーが出て行った方向に気を使いながら、彼らを避けるようにして彼らが使った出入り口とは別のを使い、外へ出た。
太陽が力強く、じりじりと空気を焼き付ける時刻。
高台に建ち、自然に囲まれた月見里(やまなし)学院であるが、風が止んでしまった今、あやめ祭に訪れた多くの人が、夏の暑さから逃れるように、校舎内に集まり始めていた。


海は、Lサイズの絞り立てオレンジジュースのカップにさした、ストローを噛み潰しながら、ピュンマについて歩く。


「篠原グループと今、完全に手を切るのは、どうかと思うだよね。・・・・今のトップはさえこさんだし。彼女はこっちの事情も知ってるから、give&takeで、色々とこちらの都合良く動けると思うんだ。まだ、調べないといけないことも多いし~。発端となった(N.B.G)”篠原グループ”は、過去、僕たちが関わった企業(B.G)とも深いからさ」
「うん、うん。それで?」


北校舎を抜けて、第一グランドから離れ、自然と足が伸びて行くのは、”学院生”である、彼らが住み慣れた”寮”。
あやめ祭の間は寮内へのアクセスは禁止されているが、3つの建物からなるその周りは、遊歩道があり、ちょっとした広場になっている。


「今回、公開されるはずだった”取引される予定だったもの(石川開発の海の足)”とは違ったでしょ?」
「うん・・・」


ピュンマと海は自分たちが寝起きするアルタイル寮近くの木蔭になった芝生に、ごろん。と寝転がった。
普段は、”立ち入り禁止”の芝生だけれども、あやめ祭の間は”立ち入り禁止”の寮であるために、誰も2人を注意する者などいなかった。


「それで今、地下で波風が立つ、立たないで、僕たちはちょっぴりピリピリしてんだよ♪」


008はまわりに人の気配がないからこそ、その場所を選んだ。



「・・・・・してない、ピュンマ、してない・・・・・リーダー歌ったし、ジェット、プロム・キングだし、クイーンなんて・・・(汗)それに、ギルモア博士とコズミ博士、カラオケ大会にサイン・アップしたってさっき言ってたじゃないかあ・・・。あ、時間」


海はひんやりと冷えた芝生に心地よさそうに寝転がった状態で、くっきりと時計の後がついた手首を目の前まで持ち上げた。


「観に行く?まだ大丈夫だよ、・・・・で、地下ではけっこうそこまで嵐が来てます」
「ええええええ?!ほ、本当に?!」


起き上がることなく、顔だけを隣に足を伸ばして左手に体重を預けたピュンマを見上げた。



「(裏社会に)繋いでないから、今はわかんないけど、・・・・そこそこに出てる筈だよ、それは前もってシュミレーションされていた範囲内だから僕たち動かない♪プ・ラ・スその辺の攻略ブックは我らが001様が!ですので、ご安心を」
「スーパー・・・」


はああ・・っと、溜め息をつきながら、思い出す001と呼ばれる赤ん坊のイワン。
海もすでに、イワンが”ただの”赤ん坊でないことを知っている。


「それでね、問題は・・・」
「問題は?」
「海!」

がばっ!っと、海の体に多いかぶさるようにして、ピュンマは海の目の前に右手の人差し指をさした。



「ぼくうううううううううううう?!」


目の前に突きつけられたピュンマの人差し指に寄り目になる海。


「と、篠原先輩!」


躯を元の位置に戻しながら、人差し指を魔法でもかけるようにくるくるとまわした、ピュンマ。


「篠原も!?」
「まあ、海のほとぼりが冷めるあたりまで、ぼくは君専属さ!」
「ぴ・・ピュンマ~~!!」


起き上がった海は、ピュンマに抱きついた。


「僕は学院に残るしさ!・・・本当はそこまでする必要はないんだけどね。定期視察なんかで十分なんだ。でも、僕が勝手にそうしたいから、するだけなんだけど・・・。海よりも実際問題、心配なのは”篠原当麻”なんだよねえ・・・」


そんな海に、よしよし。と、彼の頭を撫でながらも、暑いから離れて。と、彼を躯から引き離す。


「?」


海が離れると、次にピュンマが、ごろり。と横になり、芝生の冷たさを背中に感じた。


「彼の利用価値は”篠原”であるかぎり続くし、”篠原”でなくなったとしても、彼が”篠原”であったことはもう、変えられないし」
「あ・・・・・。そうか・・篠原1人っ子だ」
「さえこさんがいくら彼を遠ざけても、”血縁者”である事実は拭えない」
「まあ、確かに・・・」


2人の間に沈黙が訪れる。
止んでいた風が再び、むき出しになっている肌を撫でる。
その暑さと、じめっとした湿気の含み具合から、ピュンマは一雨くるなあ。と、手に触れていた芝生を軽く握って、ちぎった。


「ここで、問題です」
「?」

腕をあげて、ちぎった緑をぱらぱらと落とすと、風が吹く方向へと流されながらはらはらと落ちて行った。


「なぜ、我々は篠原グループから手をひくと思う?」
「利用されるから?」

海は置いていたカップを手に、溶けた氷のせいで薄まったオレンジジュースを、噛んでぺたんこになってしまったストローからちびちび飲んでいた。


「ぶー」


ピュンマも起き上がって、わきに置いていた、氷ががちがちに入ったカップを手に取った。
そこにはもう、アイス珈琲が入っていた名残の色しかない。


「ギルモア先生が篠原グループに取り込まれちゃうから!」
「ぶぶー!」
「ん~・・・・理事長が・・島村先輩に気がある?」
「ブーっ。だけど、なんか近い?」
「ええええ?!ち、近い?!」
「うん・・・・ヒント!」
「御願いしますっ!」


芝生の上で姿勢を正した。


「ジョーが不機嫌です、彼が不機嫌になる原因は?」


海の眼が点になる。


---島村先輩が不機嫌?







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ!」
「あ?」
「フランソワーズさんと篠原がっ」
「正解!」
「・・・・・・・・・え、本気(まじ)で?・・・そんなことで、ミッションって左右されるの?」
「と、言うのが、全て僕の想像なんです」


うん、うん。と、1人納得するように頭を振るピュンマは、手に持っていた冷たいカップにささっているストローを抜き取り、プラスティックの蓋を外すと、中にある氷をいくつか口に含んだ。


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!ピュンマあああ!?今までの話し、全部うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!」
「ははは、嘘と真実50/50!」


がりがりと氷を噛み砕きながら、ピュンマは空を見上げた。


「でも、・・・・・ジョーは異常に篠原(全体)を警戒していて、できれば関わりたくないって、さ・・・・。ちょっと揉めたんだよね」


ざらっと、カップに直接くちびるを付けて、流し込む氷。
カップに浮かんだ水滴が、ピュンマの顔に降る。


---ん?






「・・・・そうなの?」
「私情は挟んでないとは思うんだけど、その頑に拒む理由がわかんないんだ。だから、自分が納得できるように、言い訳付けたのが」
「恋のすったもんだ?」
「そう!」


海には聞きこえない距離から、近づいてくる足音に008は反応した。


「・・・・・・・なんか、すんごく軽いんだね、サイボーグってさ」
「え?見かけより体重重いよ?」


海に気取られないように、そちらへと意識を向かわせる。
なんとなくだが、”海を狙って”でないことが長年の戦いの経験から解る。あまりにも、その歩みが遅いために。
けれども、警戒することに越した事はない。


「いや、そうじゃなくてさああ・・・」
「ねえ、海」


ピュンマは手に持っていたカップを芝生に置いて立上がった。


「なに?」


立上がったピュンマを見上げる、海。



「恋愛したことある?」
「な!・・・なにを、と、突然・・・中高一貫の寮生に・・」


海も立上がろうとしたのを見て、ピュンマが海に向かって手を差し出した。


「だね~」


ピュンマの声に、しょっとむっとした表情を作りつつ、彼の手を借りて立上がると、海は土を払うかのように、ぱん、ぱん、と、腰回りを払った。


「・・・・そおいうピュンマは?」


008の補助脳が耳に捉えた足音からその距離を分析、知らせる。


「あ、ぼくは独立運動で毎日ドンパチ、忙しかったから」
「・・・」


海を立たせ、彼の姿をピュンマの右後方から聞こえてくる足音の主から隠すように彼の背を押して、足音とは反対の報告へ向かわせた。
近づいてくる者が何者であるか、一応の確認をするために、ピュンマは芝生においたままだった2つのカップを拾い上げるために体勢を低くして、3メートル強ほどの距離にまで縮まった相手を見た。


---さ・・・・・・




北校舎から左右に伸びる遊歩道のうち、自分たちが使わなかった方から、来る。
木蔭に身を置いていた、ピュンマの膝した半分も満たない半円のループで囲われた芝生の中。

見覚えのある色が、木々の合間を縫ってピュンマの眼に入った。


「さくら!」


ピュンマの声にさくらはびくん!と体を跳ねさせて足を止めた。
海はピュンマの肩越しから、さくらがいると思われる方向へと視線を投げた。


「・・・・・p・・ん、ま?」
「さくら・・・ジョーはどうしたの?」


ピュンマと海は、その場に立ち止まったさくらへと近づく。


「・・・・・・・・・ジョー・・」


ピュンマが”ジョー”の名を出した途端、さくらは足から崩れ落ちて、地面にしゃがみ込んむ。


「さくら!どうしたのっ?」


慌ててさくらのそばに駆け寄り、彼女の傍らで膝をついたピュンマ。
覗き込んだ、さくらの瞳からとどめなく溢れる涙に、ピュンマは黙って背後にいる海へと振り返った。









力一杯に抱きしめた。
さくらの想いを腕に、彼と重なり合う体に、すべてに込めた。

脚がつってしまいそうんだほどに、背伸びをして、すり寄せた頬。
近距離で聞く、彼の呼吸の音。

すうっと、吸い込まれた空気が、くっと、止まる。
その空気が、彼の体内で暖まって吐き出されるのをさくらの耳がとらえるはずだったが、空気は、彼の声帯を揺らして、音となって放たれた。


「離せよ」
















さくらを人の賑わう場所へと連れて行くのは憚われた。
彼女の腕をとり、立たせたピュンマは先ほどまで海と一緒に涼んでいた芝生へと再び戻る。

さくらはピュンマのされるがままに、体を動かし、芝生の上に腰をおろした後もただ泣き続けた。
なんとなく、どうしていいかわからずに、ピュンマが座った左斜め後ろに腰を下ろした海だったが、何か飲み物でも買ってくるよ。と、腰を上げたところで、ピュンマに止められた。


「・・・だめだよ、一人は、だろ?」
「大丈夫だって、ちょっとそこまでだし!」
「海」


ピュンマの瞳がくっときつくなる。


「わかった・・・」


海は再び芝生に乱暴に座り直して、足を投げ出した。

















「離せ、さくら」











陽が傾き始めたが、長く空に居続けるようになった太陽の色は、それほど空の色に変えることはなかった。


コズミ、ギルモア両博士と張大人がホテルに戻る1時間ほど前に、ピュンマ、海、さくらの3人がホテルに戻った。


ピュンマはホテルへ戻ったことだけを、ホテル内にいる00メンバーズに脳波通信で報せると、さくらを連れて、海と一緒に泊まっている部屋で、コズミ博士の帰りを待つことにした。

ギルモアの泊まる部屋にはフランソワーズがいるからだ。
ただ泣くばかりで、一言も言葉を発しない、さくら。






ジョーがさくらに『何かを言った』ことは明らかで。
その言葉を発したのは、ジョーがフランソワーズを想っているために。

さくらは、ジョーがフランソワーズを想っていることを知っているから。



彼女が泣かなければならない原因は、フランソワーズ。



「・・・寝ちゃったね」
「あんだけ泣いたら、まあね・・・・」
「それで、ピュンマ・・?」
「・・・学院を出る前に通信を飛ばしたんだけど、応答なし」
「誰も?」
「いや、張大人と、アルベルト、ジェットからはあった。なかったのは、ジョーだけ」
「ふうん・・」
「もうそろそろ、コズミ博士もこっちに戻ってくるだろうし、グレートか、ジェットあたりが、さくらとコズミ博士を送っていくんじゃないかな?」




















「離せ。・・・離れろ、よ」

















アルベルトが、ジェットとともにホテルに戻ってきたころ。
星が少しずつ瞬き始めた。


2人はホテルに戻る途中、ジェロニモへ連絡を入れた。


『ジョー・・・?いや。こっちには来ていないが?・・・どうかしたのか?』
「わかった、んなら、いいぜ。・・・心配ねえ」
『何かあったんだな。』
「まあ、ホテルにいるかもしんねえし、”あった”時は、”あった”で、連絡するからよ!」
『・・・ジェット。』
「じゃあな。ジェロニモ、邸の留守番頼むぜ!』


滞在するホテルが建つ街の駅で、つんつんとした赤毛が濡れて、いつもよりも元気がないようにみえた。


「スコールみてえに、一気にきやがったな」
「これで、少しは涼しくなるだろう」
「アルベルトの長袖姿が少しはなじむってわけか?」
「・・・そこまではいかんだろう」


駅から出ると、乾ききらないアスファルトの、独特な匂いが鼻をつく。
歩道と車道の段差にたまった水たまり。

バスターミナルの待合室の透けた壁にぴたり。と、寄せられたゴミ箱に入る予定だったのだろう、週刊誌が、水気を含んで路上にあった。
ゴミといえば、それくらいしか眼につかない。

通りがかりに、アルベルトは重みを増した、そのゴミをひょい。と、拾い上げて、4つ並んだ箱の一つに入れた。


「悪ぃ」
「・・・何がだ?」


徒歩へホテルへと戻る。


「放っておかねえほうが、よかったのかなあってよ・・・」
「放っておけ」
「でもよ、・・・なあ?」
「これくらいのことで、いちいちお前はアメリカから飛んで帰って来るのか?人の色恋沙汰よりも、自分の今後を心配した方がいいと思うが?」


確かに。と、ジェットは溜め息をついた。
アルベルトの隣を少し遅れがちに歩くジェットは、自分が見ていた一部始終を思い出す。











####




「・・・・・こんなことしても、何も変わらないから・・・・・」













さくらが、ジョーを抱きしめていた。
必死で。

ジョーは、一言、二言、彼女の耳元で何かを呟くと、さくらは首をかぶり振って、さらにジョーにしがみつく。
ああ、なあにやってんだよ!と、突っ込みをいれるジェットは数メートル離れた位置からジョーの背を見ていた。


首にまわされたさくらの腕を、しがみついている彼女を、ジョーはあっさりと解き放つ。


「・・・ごめん。俺が自分らしくいられるのはフランソワーズと一緒のときだけ」


ジョーに掴まれ、距離を取らされた腕を振り払うかのように、さくらの体が揺れる。


「・・俺が、俺らしく、自分でさえも・・・驚くんだ、フランソワーズといると、ただ、フランソワーズをみているだけでいいから・・・」


ジョーに掴まれ、距離を取らされた腕を振り払うかのように、さくらの体が揺れる。


「何も考える必要がなくて・・・フランソワーズに、好きって言葉じゃ、足りないんだ」


見上げているジョーの瞳が、だんだんと冷たくなっていく。


「この気持ちを言葉にするなんて、この世界にないよ・・・足りない。」


光を失っていく。


「ないんだ、言葉がない。みつからない、足りないし、どうすればいいか解らなくて、苦しい・・・・」


塗りつぶしただけの褐色。


「大切で、すごく大切で、大切すぎて、でも、彼女に触れるのは自分以外許したくないくらいに、彼女の髪を揺らす風にさえも、嫉妬するくらい・・・だから、篠原も・・・仕方ない・・・?」



冷たい微笑。


---俺は、・・・・彼女が欲しくて、欲しくて、欲しくて、欲しくて、・・・・欲しくて。



ジョーは、小さなさくらの体を腕を伸ばして、自分からさらに距離を取らせた。
さくらは体を揺らして、ジョーの腕から離れようとする。が、びくとも動かない、その腕の力に、ぞっとした。

必死でさくらはジョーの腕から逃れようとする。
けれど、ジョーの腕は、さくらを固定したままの状態で、1mmたりとも動かない。

いくら、相手が男で、さくらよりも体格が良いとしてもおかしい。





---手に入らないなら、・・・・他のヤツの手に渡すくらいなら、・・・・。











暴れるさくらを。
自分から距離を取ったさくらを。

ぐいっと引き寄せてその耳元に唇を寄せた。


「俺は、フランソワーズが好きだ。それ以外ない・・・・・・たとえ、彼女に受け入れられなくても、嫌いだって言われても・・・・フランソワーズしかいない」








構えたスーパーガンが、その胸にあてがわれた。
スーパーガンのトリガーを引く、慣れてしまった、感触。

愛らしくふっくらとした形良いくちびるが、微笑みを形作りながら、最後の言葉を音にして、手が、009の手と重ねられていた彼女の手が、重力に従い落ちた。(day73)



---・・・・・ジョー・・・?











それが。



---・・・・・・魂は誰も手の届かないところへ、この世から消えて、彼女の躯は、永遠に俺のもの。




俺の本当の姿。




---・・殺してでも手に入れたいんだ、フランソワーズを・・・。彼女が関わる周りの男を殺すよりも、楽だし、”完全”に俺のものになるから・・・・・・でもっ!それじゃ駄目なんだっっ








本当にフランソワーズが好きならっそれじゃっっ駄目なんだっっ!!!






















ジョーはぎゅっとさくらを抱きしめた。



「俺はフランソワーズの生きる世界に生きたい、・・・・」



そして、抱きしめた腕を解き、ジョーは自分から数歩、後退してさくらから離れた。


「・・・・・・・・・・さくら・・・・・・そのまま、”そこ”にいればいいよ。俺は行く。もう、嫌だ・・・、”自分で選択しようがなかった”ことに振り回されて、見失って、取りこぼしてしまった、ものを、取り戻したい。さくらが、求めているものは、俺の何を見ているか、わかる。けど、俺はそこから離れたい。今のさくらにはっ無理だ、俺の気持ちなんて変えられない、どころかっ・・・俺がずっと逃げ出したくてっ超えたかったことをっ・・・・・・・・・・・・邪魔しないでくれ」


ジョーの足が、少しずつ、さくらから距離を取る。


「もう嫌なんだよ。俺は好きで”捨てられた”んじゃない。・・1人になったんじゃない。ずっと、ずっと誰かにすがって、ここから出してくれってっ。連れ出してくれって・・・・泣いてた」








繰り返すだけの毎日。
退屈な毎日。

時間が早く過ぎていけばいいと願った毎日。

朝がくることを呪った。






夜なら、目立たない。
自分の中にある、真っ暗な世界とひとつになって溶け出し、どこかの誰かと交わりながら、息を顰めて、確かめ合う。




自分だけじゃない。
この闇は自分だけじゃない。











太陽の陽射しが、朝が怖かった。
逃げるように、安い事以外に何もない部屋に帰って、布団に潜り込む。


そして、後悔する、毎日。
助けて。と、泣きながら眠る、毎日。
枯れてしまった涙に慣れてしまった、過去。













「俺はどうしたらいいか、わからない。なんでこっちにくるんだよ?・・・あの時、さくらは言ったのに・・・」


ジョーが指した”あの時”を瞬時に思い出すことができない、さくらの眼が泳ぐ。



『うん、さくらを見ていたら・・・わかるよ』
『・・・え』
『さくらが、とても幸せな家庭で育ったんだって、わかる」
『ほ、ほ、本当に!?』
『うん』
『本当に!!私は、私は幸せに見える?』
『うん、見えるよ』
『・・・・日本に来ることを反対されたんだけど、無理矢理来たの。名乗らなくても、お互いがわからなくても、見せたかったの、どこかの町でどこかの店で、どこかですれ違うかもしれない、私の本当のお母さんに、”私は幸せです!”って』(Day16)









さくらの、ジョーの腕に抱きしめられた部分が、急激に冷えていく。


「さくらは、もう、自分でちゃんと乗り越えて、俺が望む世界を知っている子だって、こっちには来ないって思っていたのに・・・」


ジョーが触れていた部分がだけが、まるで、違う細胞で作られているかのように。



「なんでっどうしてだよっ、なんでっ俺に関わったら、みんな”こっち”に来るんだよっ!!!!!俺はっもうっ嫌なんだっっっっっっっ!」
「ジョ・・ー・・・ウ」
「好きになるわけないっ、好きになるかよっ!!俺と同じヤツなんてっっ重たいだけだっっっっ!!」









ジョーの瞳に再び浮き上がった、膜が、雫となってぼろぼろとこぼれ落ちた。











「さくら、ごめん。・・・・・ごめん・・・・俺のせいだよね。・・・・・前は違ったのに・・・・俺がそういう風な”考え方”しかできない子にさせた。俺の、俺が、・・さくらが、俺に会ったせいで・・・・、ごめん」


さくらは、ちゃんと自分が呼吸できているのか、信じられないほどに、喉を詰まらせ、躯を硬直させていた。




生温い風が視界を歪ませる。
風にさらされた瞳をまばたきさせたとき、目の前に誰もいなかった。

















加速装置をプライベートで使用。
それも、”さくら”の前で。





ジェットは、さくらが混乱しているときであるために、まだ良かったと胸を撫で下ろしたが、彼女が冷静になって今日の事を思い出した時、疑問に思われないかを案じたために、ホテルに戻ってすぐ、イワンにむかってだけ、そのことの報告を済ませておいた。

ジョーを追いかけることはせず、さくらを見守っていたジェットは、さくらが偶然にもピュンマ、海と合流したことで、さくらから離れた。


ジェットは、ジョーを追うつもりはない。が、絶対に言ってやるっと、こころに決めたことがある。















ジョー、お前は、最後の希望、未来の証だった・・・・・・。
オレたちは009/島村ジョーによって、今、夢に見た”未来”に生きている。と、







B.G(闇)に流れ落ちた希望の星だった。







さくらには、さくらの。
ジョーには、ジョーの。
オレには、オレの。


みんなには、みんなのこころに抱えた、夜がある。




ジョー、みんながお前に救いを求めてるんだぜ?気づいてるか?
みんながお前の”闇”に引きこめれて、お前に近づくんじゃねえ!




そんな底なしの闇を抱えながらも、真っ白で、あまりにも綺麗なこころのままでいる、お前に憧れて、吸い寄せられてんだよ。























オレも、オッサンも、みんな。
フランソワーズも、・・・・・・・お前の、何にも染まらない、光っていっちまった方がいい白さに救われてんだ・・・。





====10へと続く。


・ちょっと呟く・

こ・・・こんな感じですが・・(汗)
難しかった・・・。
さくらをふったと言うか・・彼女を正したと言うか...。

ところで9はどこへ行ったでしょう?
加速したらしい!・・服の心配をしてしまう・・・(あ!)
ってことで、次回は3メインでやっっと3日目!!突入か!?

盛り上がってきて・・ないっすね・・・ない・・・ない・・・(駄目やん!)



付けたし/2って覗き趣味があったのかー・・・。
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2月2日/逆チョコっての知ってるか?
春までもう一息。

日が少しずつ長くなっていくように感じては、触れる空気の冷たさが和らぎつつあることに春の訪れが近いとわかった。

雪が降ることが稀な街は、木々から消えた色と、行き交う人々の服装で冬らしさを飾る。
そして、年末から立て続けに続く日本中を上げてのイベント事に彩られることが、”冬”であることを確かめる証のような。




クリスマスはカフェ・”Audrey”にとって、年間イベントの中でもかなり重要なイベントで。

年末年始はカフェ・Audreyは、まるで”冬休み”とばかりに長い休みを取る。
実家に帰省する前に、兄貴は毎年フランスの師匠の元へ、新作のレシピとともに行くためだ。


慌ただしく1月が終わると、街中がピンクと赤色に染まって、バレンタインがやってくる。

後には、日本中に”桜”と言うことばが溢れ出す。

水色の空とピンク色のさくら。
パステルカラーで染まる次期。









その次は・・・なんだったっけ?

コップに残っていたさめた紅茶を嘗めるようにちびちび飲んでいたら、兄貴が、ティーポットを持ち上げた。
オレの視線は兄貴にむかい、コップをテーブルにおく。
ティーコゼーに覆われていたポットの中の紅茶は、ごくごくと飲むにはまだ熱い。


「まだ飲むなら作りなおそうか」


軽くなったポットをテーブルに置きながら言った。
兄貴をみる、オレ。


・・.一体どこの国のなんの祝い事なのか、祭り好きな兄貴は色んな行事を日本へ持ち込む。
いつのかそれらが、クリスマスに次ぐほどのイベントになったら、・・・なんて、想像してしまう。


ああ、兄貴。
いつでも勉強を怠らない、兄貴。
尊敬してます、口ではいいませんが、兄貴のそういうところ。


そんな兄貴が最近。毎日が誕生日♪と、”365日花言葉”集や、誕生石、誕生花を調べまくってっていた結果が、今のオレの生活費を支えています。


ケーキ職人になる!っと決めた、あの南野山公園、『大輝、砂場の誓い』から今日まで。


すげえ。の、一言。




「で?ダイ、明日は?」
「ん~?明日のお花は~」


最近新しく購入した、ラップトップを、店のテーブルに出して、かたかたとキーボードを打ち込む。
オレ的にはマックを勧めたのに、”高い!”の義姉さんの一声で・・・です。




月が変わった今日は、2月1日。


閉店したばかりの店内は、昼のように明るいまま。


月末の決算に、自営業ならではの”確定申告”を助けてもらう、税理士さんへ渡す書類をまとめて。
2月のイベントや、色々、色々、本当に色々。
チェックに、チェックを、チェックで重ねて、ごちゃごちゃとした雑多な仕事は、毎日閉店後、1時間ほどコツコツとこなしていく。

もちろん。兄貴がじゃなくて、義姉さんが、です。

兄貴が店を持つ!っといったとき、外大に通いながら専門で1年経営を習った義姉さん。


すげえ、オレの周りはなんでこんなにエネルギッシュなんだ?


「明日はあ。2月2日だから、パンジー/物思い。フリージア(白)/あどけなさ、無邪気。木瓜/情熱・平凡・妖精の輝き!いいなあ。この妖精の輝き~!」
「ダイ、こっちの本は、セツブンソウ/人間嫌い」


兄貴が買って来たミニ本でチェックを入れる義姉さん。


「やだなあ。そんなのお菓子にするなんて、どきどきしないし。なんといっても愛らしくない!」
「売れないわ、却下」


乙女度は兄貴の方が高いんです・・・我が家は。


「じゃ、パンジー?」


妖精の輝き・・・新作に名前が使われるのだろう。
兄貴が持ちあるく手帳に書き込まれた。


「個人的には、木瓜でいきたいけれど、・・・妖精の輝き・・・まあ。親しみあるパンジーでいこうか」





今年から始めた、Audreyの新企画。

『毎日がバースデー!/美味しい花を、一緒に食べよう』

その日の誕生花を兄貴が簡単にデフォルメして、シュガー・コーティング(カラー・フロスト)をしたクッキーにするんです。

1日オンリー50枚限定もの。(予約有り)
(1枚240円とちょい高め・・・。5枚で950円税別です。)



兄貴は画像を検索し、ささっとスケッチブックに明日に焼くクッキーのデザインを描く。
ここだけの話、クッキー企画のために、(売り上げが低い)ケーキが3つ減りました。

コスト削減政策も含まれて・・・がんばっているAudreyです。
紅茶のセットですと、お得です。

(オレ、営業がんばってるよっ!!)





「これでどおかな?」


兄貴がノートサイズのスケッチブックをオレと義姉さんに見せた。





---この”毎日がバースデー”企画。
・・・続いている。と、いうことは予想以上に順調ってことです。


「あら、可愛い!黄色にするの?」


基本のクッキーはすでにレシピがあるので、あとは形とフロストの色。



「春が来るって感じでな。薄紫でもいいけど、ここは黄色でしょう!幸せな色だし。リボンも黄色で白の細いのと合わせて」
「はい、はい♪」


と。言う事で、本日のミーティングは終了した。




フランソワーズさん、気に入ってくれるかなあ~。
明日は、バレエ・スクールのミーティングとかで、“フランソワーズさんの日”じゃないけれど、来るんですっ!!

午後の講義のノートはすでに頼んであるし!
出席もまわされてくる紙に名前を書けばいいだけだから、代筆も既に頼んである。

日頃の行いがいいから♪







日頃の行い・・・。





オレは今年のフランソワーズさんの誕生日に、この企画を利用して兄貴に特別に頼んで作ってもらった水仙(1月の誕生花)をイメージした、たった1つのケーキ!!を・・・。



まあ、ジョーだしい。

オレが好きになった人は、島村ジョーの彼女だった。・・・んだし・・・。









日本とイギリスとの時差はー9時間。
片道約12時間20分の空の旅。

滞在時間は飛行機が遅れたせいで、たったの3時間、空港内。

24日ギリギリ間に合わせた。


勢いだけで飛行機に飛び乗って日本に戻って来たジョーに、譲った。



ったく、フランソワーズさんを驚かせようとして、誰にも連絡せずに日本に着いたら、あと3時間でとんぼ返りって馬鹿じゃねえの?!


ろうそくと、Audreyのケーキをフランソワーズに持たせて。と、メッセージを受信した、オレ。




だから。





オレは、その、世界で1つしかない、フランソワーズさんのための、フランソワーズさんだけの誕生日ケーキを・・・ジョーに譲った。













オレって、いい人・・・。

は!!!


それで終わっちゃいかんのだああああああああ!!



勢いよく椅子から立ち上がり、椅子の背にかけてあったコートを、最近はまっている昭和・○イダー・シリーズの主人公がごとく、羽織ってみた。

けれども、主人公ならではな、皮ジャンではなく・・・

ブルー地のタータンチェック、ハーフPコートって言うのが悲しい。
いや、これはこれで、気に入ってるんだけど!

ここのブランド、最近メキメキ伸びていて、今のオレの一番のお気に入りっす!




「ねえ、ダイ」
「?」
「最近、大地・・・・変じゃない?」
「?」
「一人妄想の世界に居るっていうか・・・ちょっと心配なのよ、ほら。今だって、なんかずーんって落ち込んでたかと思うと、・・・今、激しく復活したじゃない?」
「ははは、大地も年頃だから、ってことじゃないかな?放っておいてあげたらいいよ。大地も色々とあるんだから」
「でもねえ・・・」


心配いりません!!












####


モーニングは出さないけれど、ブランチは出す!
カフェ・Audreyの開店は10時ですっ。


ブランチは定番の2種。
(土日のみ別メニュー)

ランチ・メニュー(高田さんが主に作ってます)は日替わり3種。


今日は朝から準備万端!
朝にすっきりシャワーを浴びて。


昨夜にきっちり、ぴっちり、しっかり、くっきりアイロンがけしたシャツを、スタッフルームで着替えました!


さあ来い!
じゃなかったっ。いつでもどうぞおおおっv

フランソワーズさんっ、あなたの大地がお待ちしておりますっ!!







ドアのチャイムがちりりん。と、鳴る。
いらっしゃいませ♪と、今日一番のお客様へご挨拶。




「・・・・いら・・へ、ヘロオウ・・」
「あ?」
「へ、ヘロオウ」
「は?」


ね、義姉さあああああああああああああああんんっ
英語ぺらっぺらなお義姉さまああああああああああああああっんっ


「慌てんなよ、日本語話せるからよ」


すらっとした長身で、つんつんとした赤毛の髪がすっと流れている。
・・・ライダー・ジェケット似合い過ぎ。



「よお、ここがAudreyであってんだよな?」
「は、はい・・・・い、いらっしゃい、ませ・・」


オレを遥かに高い位置から見下ろす、鷹の目のような鋭さに、引き上げた口元が、にやり。と笑う。


「お前、井川っていうのか?」


オレの胸にあるエプロンにつけたネームプレートをみて、赤毛のアメリカ人?の男が興味深げに、長い鼻をオレに突きつけるようにして、顔を近づけた。


「は、はい・・・そうですけれど、あの・・」
「んじゃ、大地ってお前のこと?」
「え?なんで、知って・・・・・・」
「へえええええ、お前がかああ・・・ふううううんっ・・・ほおほお・・・」


値踏みされるようにじろじろとみられ、ケーキを飾るショウケースを乗り越えてきそうな勢いに、オレは自然と体を仰け反らせる。


「は!聞いていたイメージより随分、柔いなっ。ま、いいか。よお、なんか1日限定もののクッキーがあるって聞いてきたんだけど?」


---聴いていた???
  ああ、クッキ-っすか・・・クッキーっすよね・・??





「あ、あの、こちらになり、ます、が・・・」


その客の雰囲気に完全に飲まれてしまっているオレは、ただ、望まれた品をショーケースのスライド式の扉を開いて、示した。


「へえ、これねえ・・・」


ヤンキー座り。が、これほど似合う外人がいるとは。
長い足が左右に突き出す形でおられて、ショーケースの磨かれたガラスに長い鼻を押しつけている。


「よ、これ、何枚あるんだ?」


座ったまま、オレを見上げた。


「あの、50枚です。それ以上は作っていませんので・・・2日前まで予約をいただきましたら、ショーケース内のものとは別にお作りいたしております。
「そうかよっ、じゃあ、これ全部包んでくれ」
「は?」


---全部?!


「聞こえてるか?全部、I wanna take it all!」
「ええっと・・・あの、袋に・・・?それとも箱で・・・」
「あ?適当につめてくれりゃーいい。どうせ食うんだし」
「り、りぼんは、どうなさりますか?」
「ああ、そういうのあんの?適当でいいぜ」


にいいっと、笑った顔が、意外と人懐っこく見えた。
立ち上がって、無造作に突っ込んだジーンズから、引き抜いたカードを、レジにおいてある長方形のトレーにのせた。


「カード使えんだよな?」
「はい・・・大丈夫です。クッキーをお包みしますのに、少々お時間をいただくことになりますが・・」
「おお、いいぜ。・・・けどなるべく早くな」
「はい」


ケースからクッキーの入ったカゴを取り出して、壁にしつらえてある作業台の上にのせた。
面倒だから、このままカゴごと持って帰って欲しい気分。

客に背中をむけて、クッキーを箱に収めていく。
専用の箱はなので、5枚一組にして、セロハンの袋にいれテープを止めずに、箱に並べていった。


ふっと背中に感じていた影が消えたのが気になったので、ちらり。と視線だけで振り返ると、赤毛の髪をつんつんさせた、長身の立派な鼻を持つお客様は、物珍しそうにショーケースがくっついている壁に並ぶ焼き菓子などを見つめ、まだ誰もいない店内をゆっくりと歩いて進む。


そして。


ジョーがいつも座る席につくと、頬杖をついて、まるで。

そこに彼がいるのかと、一瞬見間違えるかのように、同じ仕草で、同じ視線で、同じ表情で、窓枠に収まった街を見つめた。









---?



厨房に居た義姉さんが、フロアに出てきた。
テーブルにいるお客様に気がつく。

オレが箱につめているクッキーを見て、少し驚いた様子だったけど、すぐに状況がわかったようだった。
メニューは手に取らず、水と、おしぼりだけをトレーにのせて、たった1人のお客様にサーブする。


「お待ちになっている間、何かお飲みになりますか?」
「・・・・どれくらいかかんの?」


面倒くさそうな仕草で義姉さんをみる、お客様。


「珈琲を飲み終わられるころには」
「んじゃ、珈琲」
「はい、かしこまりました」


テーブルから離れようとした、義姉さんの、オレと色違いのエプロンについた名札に視線が止まる。


「もしかして、あんたが、・・・萌子?」


その名札に書かれた、オレと同じ名字に、お客様は義姉さんを呼び止めた。


「はい、いつもフランちゃんと島村っちさんにはお世話になっております、井川萌子です」


いきなり呼び捨てにされても、義姉さんは動じることなく、にっこりと、笑った。





ね、義姉さんっ!?
なんで、そうなるんっすか?!


その、のっな赤毛の目つきの鋭い(悪い)ちょっと人懐っこそうだけど、鼻の高さがプライドの高さを表している、外人なのに、フランソワーズさん並にべらべらの日本語を話す、オレは二輪でぶいぶい走るぜ!的な格好がめっさ違和感なく似合いすぎているお客様がっ・・・・いきなりどうして、フランソワーズさんの知り合いになるんっすかあああああああああああ?!


あ。

日本人じゃないから?
でも、それは安易すぎるっ!!

外国の人みんなフランソワーズさんの家族って言う考えは安易すぎるっす!!



「ジェット・リンクだ」
「いらっしゃいませ♪今日は、・・・島村っちさんの代わりに、お迎えですか?」



あ。




---当たり・・・。
   フ、フ、フランソワーズさんのご家族・・・の、方・・・・。




頬杖をついていた手を義姉さんの方へと差し出したので、2人の握手する姿を、オレはセロハンに4枚目のクッキーをつめながらみた。




義姉さん・・・オレの素朴な疑問です。
どうしてそんなに肝が据わっていると言うか、感がいいと言うか、物事に動じないと言うか、マイペースと言うか。

・・・・男らしいっすね・・・・。




「あ?違う、違う。なんでオレが人の女の足になんなきゃなんねえんだよ?ジョーと一緒にすんなよ」
「あら、ごめんなさい」
「まあ・・・どんな店か興味あったな。フランソワーズのヤツがここのばっかり買ってきてたんだけどよ、ジョーがあっち(海外)に行ってから買ってこなくなっちまって」
「そういえば・・最近御持ち帰りしないわねえ・・・フランちゃん」



耳ダンボにしながら、もくもくとクッキーを箱に詰めていく。
5枚づつ、セロハンの袋に詰めて×10。

箱の蓋をテープで止めて。
兄貴が壁にとりつけたリボン専用の棚から、艶のある太い黄色のりぼん。と、オーガンジー素材の透けた薄紫の細いリボン、と、同じ細さの、光沢ある白のリボンを重ねて箱を飾った。


ラッピングは意外と楽しい。



最近、手芸本コーナーなんか・・にいます。
・・・・兄弟なんだなあ。と、”可愛いラッビング100!!”と言う本を手にレジに並んだとき、ちょっと哀しかったオレです。



義姉さんがおしゃべりしているために、ジェット・リンクさんの珈琲は出されることなく、オレはクッキーが入ったずっしりと重い箱を手に、2人のいるテーブルへとそれを持っていった。


「できたのか?」
「はい・・」


忘れちゃいけないのは、レシートと、クレジット・カード!!
箱の上にそれらを置いて、テーブルに置いた。


「まあ!珈琲!!」
「いいって、またゆっくり来るからよ、萌子」
「・・・・お待たせいたしました」


なんで、初対面同士なはずなのに、呼び捨てなんですか?
そして、妙に和気あいあいな空気を作っているのは、どうしてなんですか?



「それで、頼みってのが、・・・・」


ジェット・リンクと名乗った、フランソワーズさんの家族(いったい、何人いるんだろう・・・)が、オレと義姉さんにむかって話始めた。














####


ドアのチャイムがちりりん。と、鳴る。
チャイムもフランソワーズさんが好きなのか、彼女のときだけちょっとだけ音色が違う。


・・・気がするのはオレだけ?




「大地さんっ」
「フランソワーズさんっっ!!」


あああんっ!
今日も可愛いっ。


潤いが光を跳ねてきらきらの蜂蜜色の髪に、飾られたカチューシャの、左耳の部分に、咲く様々なピンク色のスワロフスキービーズの花たち。

その色に合わせた、薄いピンクのコートはAラインの胸上切り返された、膝丈の長さ。
袖はバルーンの形で膨らんで、七部袖。

薄いグレーのニットの手袋は肘までのロング・ヴァーション。

膝頭が隠れてしまう長さのロングブーツも、ブレーだけれど、シルバーがかった感じの、かかとなしの丸いトウが可愛いっっっ!!



ドアがあいた瞬間に、フランソワーズさんの口もとに白い息。
ぼやけた唇から覗いた下が、乾燥した唇を少しだけ嘗めた。

・・・・男って意外と見てます。



溢れ落ちそうな空色の瞳が輝いて。
オレはもう、その瞳の中に吸い込まれて、永遠にあなたの色で溺れていたいっす!!


「こんにちは!」
「いらっしゃいませっ」


店に入ってきて、フランソワーズさんがすること。
ショーケースの中のケーキをチェック!


味はどのクッキーも一緒だけれど、見た目が違うのがよいらしく、フランソワーズさんが来る日には、彼女が食べられなかった日のクッキーを、ちょっとしたセットにして、彼女用にとってある。

今日の分もちゃんとフランソワーズさん用として1枚、あるはず。






「・・・大地さん?・・・今日のクッキーどうなさったの?」
「あ。もう完売したんですよ」
「ええ?!」



驚きに見開かれた瞳を縁取るまつげがくるん、とカールしている。


ん?




からりと晴れたような麗しい青が陰った。


「どうかしたんですか?」
「・・・・ミーティングの前にくればよかったわ」
「クッキーですか?」
「ええ・・・そうなの。予約しておけばよかったわ・・・でも、まだこの時間ならあると思って・・・・」
「フランソワーズさん様は別にちゃんとありますよ?」
「それとは別に、買いたかったの・・・今日のクッキーを・・・・」


拗ねるように形よい、愛らしい唇を尖らせた、フランソワーズさん。
さがった眉根が、あああああっ、オレっ、我慢だっ。


抱きしめたいっっ!!




「すみません・・・連絡をくれたら、取っておいたんですけど」
「ううん。いいのよ!別のにするわ!!」


オレにむかって微笑む笑顔。
純白の雪の表面が、少し解けて、太陽の光にきらり、きらりと輝くような清々しく、もう、フランソワーズさんの笑顔を見られただけて、オレは人生大往生っす!


あ!






忘れちゃいけない!
頼まれたことがあったんだっっ!!







「フランソワーズさん」


ショーケース前に屈んでぴったりと、おでこをつけた、彼女と同じ位置までオレは腰を下ろした。



「預かりものがあるんですけれど」
「?」



















『逆チョコって知ってるか?』



ジェットさんは、テーブルにおかれた箱を見ていった。



「日本には逆チョコってあるらしいじゃん?色々とちょっとあってよ、・・まあ、ちっとばかしジョー・ネタでフランソワーズと喧嘩みたいな感じになって・・・。詫びってわけじゃないんだけどよお。アメリカに帰る前に、機嫌を直してもらっておこうってな・・・ことで。ここのんなら、何でもいいっぽいけど、ジョーが言うには、毎日限定のクッキーがあるって言うし。それが最近のフランソワーズのお気に入りって情報が入ってな。・・・まあ、逆誕生日・プレゼント?ってな感じでよ。・・・・渡してくれ」




逆チョコならぬ。
今日、誕生日のジェットさんから、フランソワーズさんへのプレゼント。


「このままの足で空港行くから・・・・」


ジェットさんはポケットから、一言メッセージ用のカードを取り出すと、箱を飾ったリボンにそれを挿んだ。


「アイツとこれからも、仲良くしてやってくれな。ああ見えて、実はジョーと変わらないくらい、泣き虫だしよ・・」


ジェットさんは、少し照れたように言いながら、席を立ち上がった。



「ま、そういうことだ」






店を出て行くジェットさんに、義姉さんは慌てて、飛行機の中でつまんでください。と、店からの Birthday presentとして、いたずら天使の宝箱(焼き菓子のセット)の箱を、紙袋に入れてジェットさんに渡した。


いいのか?と、聞き返すような視線を義姉さんにむけて。




「thanks!」









と、

義姉さんの頬にちゅ!っとキスっっっっっっっっっっっs!!!





「お誕生日、おめでとうございます・・・ジェットさん・・・・」



茹で上がる、茹で上がっていく、義姉さんっ。
義姉さんっ!


駄目だああああっ!!




「素敵・・・・」








兄貴っ、兄貴っ!!!!!
浮気っ!!浮気っしてるっ!!

浮気されてるううううっ!





真っ赤になった義姉さんにむかって、微笑みながらウィンクを飛ばし。その視線がオレに向けられた。


「大地!ジョーからフランソワーズを本気でかっぱらうなら、協力してやってもいいぜ!今度あったとき、決心できてたら言えよ!」










ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっs!!



なんで知ってる?!
アルベルトさんについで、協力者出現!?







・・・・ジョー、お前・・フランソワーズさんとの交際を、実は家族のみなさんに受け入れられてない?





ドアのチャイムがちりりん。と、鳴る。
またのお越しをお待ちしております!ジェットさん。











オレはちょっと不思議に思った。
それにしても、なぜ・・・いきなり呼び捨て?!


「はあ・・・いいわあ・・・・」


義姉さんっ?!













end.






・あとがき・

勢いだけで書きなぐった2月2日の
2フィーバーなジェットの誕生日。

アップの順から言うとジェロさんで、博士なはずなのにっ
博士とジェロさん差し置いて(涙)
長いんですよ、長いんですよ・・・クリスマスだから(笑)
博士は・・・出だしでつまづいた(汗)


ま!とにかくっ。

1日遅れましたが。
久しぶりの大地くん!でしたっ。
(私はぜんぜん久しぶりじゃないけれど_汗)

野田ジェットっぽくなってたらいいんですが・・・。
野田ジェットはアルベルトとかぶりやすいので、気をつけないといけない。
むう・・・。


ここの2は3としょっちゅう揉めます。
それも、いつも9に関してで(笑)

29要素・・・ある?!いえ、ないですっっ。



・・・ないです。


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Little by Little・10
(10)






偶然は必然。




偶然は未来。
必然は過去。

偶然に起こったことも通り過ぎてしまえば、そうであるべきだったのだ。と、都合良く自分なりに解釈してしまう。


そうなるようになっていたのだと、考えて。
今の自分を過去からの出来事で固定する。


それなら、未来の自分にとって、”当たり前”に起こるべきできごとだったと、必然だったと言う日がくるのだろうか。
















定期的に耳のスイッチをいれて、周りを確認する003の耳がその音を、聞き逃すはずはなかった。


---・・・加速装置・・・?


偶然、スイッチを入れたときに、耳に飛び込んできた音に、フランソワーズの心臓が止まる。







月見里(やまなし)学院にいるはずの、ジョー。
今、さくらと一緒にいるはずの、彼。


<ジョー?>


加速を解いたときの、独特な空気を焼き切るような独特な音。
そして、立て続けに聞こえたのは、それと似ているけれども、口では説明しづらい違いの、音は、009が加速装置のスイッチを押したときのもの。




とっさに眼のスイッチを入れて、位置を確認する。


ホテル裏の駐車場。
従業員専用出入り口から少し離れた場所・・・耳にした音から、補助脳がはじき出した場所を疑うことはない。

残像のような、栗色の髪がフランソワーズの瞳に残った。


音を追う。
どこで止まるかを知りたいために、集中する。











「フラン?」


ホテル1階の喫茶室にいる、当麻とフランソワーズ。
紅茶を手にもったままフランソワーズの意識が自分から離れ、空色の瞳が、どこか遠くを見つめていることに、こころが少しばかり重くなる。


「ごめんなさい、当麻さん、わたし・・・行かないと・・・・。今、グレートを呼んだわ」
「え?」


話の途中にも関わらず、フランソワーズは手に持っていた紅茶を置いて、膝に置いていた白のショルダーバックから紅茶の代金を置いて立ち上がった。


「何かあったの?」


当麻はフランソワーズを引き止めるように、立ち上がる。


「・・・いいえ、まだ何もないわ」


<姫、今エレベーターに乗ったぞ、少しくらい坊ちゃんが一人になってもイワンがいるから心配ない。が・・どこに行くんだ?>
<・・私が泊まっているホテルに、一度戻るわ>


問いに答えながら、フランソワーズの顔を当麻から逸らして、顎を右方につけるように首を巡らせた。




---何を視ているの?




こぼれおちそうに大きな瞳を少し細めて、白い頬に影を落とす。


「フラン、何か・・・視えるの?」


当麻はフランソワーズがサイボーグであることは知っているが、00サイボーグたち各個人の特化した能力については、知らない。


「気になることが少し・・・・・当麻さんはグレートが来るまで絶対にここを動かないでください、お願いします」
「ぼくもフランと一緒に行くよ」
「いいえ」
「!」


きっぱりと、即答されて当麻は驚いた。


「駄目よ。当麻さんには関係ないこと。007がきたら、彼の言う通りにしてください。私はここを離れます」


驚く当麻へと視線をむける。
いつもの、微笑みはそこにはない。


深い、深い、深い、・・・・蒼に、当麻は飲み込まれる。



<当麻くんと一緒にじゃないのか?>
<ええ。だから、お願い・・・・。後でちゃんと報告するわ>
<いやいや!報告無用、女性の”プライベートなことですからな!どうぞ、行ってくだされ。けれど・・・どこへ行くにしても、今はミッション中なので>
<わかっているわ。ホテル以外に行くときはちゃんと言うわ。当麻さんのことをお願いね、グレート>
<我が命にかえましても!>


フランソワーズは、当麻に座るように促し、彼が再び椅子に座ったことを確認した上で、ホテルの喫茶室から出て行った。


「フラン・・・」


不安に落ちていく、胸が汗をかく。



---こんなに・・はっきりとものを言う・・なんて・・・。



フランソワーズはいつも、自分の意見を言うにも控え目で、どこか相手に選択権を与えるような返答の仕方をする。


「003・・・?」


彼女の蒼の深さが当麻は自分とフランソワーズの距離だと感じる。
サイボーグ003と、当麻の距離。











---どこへ・・・・?



フランソワーズとほぼ入れ違いに姿を見せたグレートに当麻は尋ねたが、彼は、”女性のプライベートをあれこれ詮索するのは、紳士としてどうかと思うぞ!”っと、一喝された。


「気持ちはわかんではないが、な・・・。雁字搦めで、好きの一点張りはよくない、彼女に余裕を持たせないのも、どうかと、アドヴァイスしておこうかなあ・・・。当麻くん。フランソワーズがなぜはっきり君の気持ちに答えられないのか、ちゃんと考えてあげてやってくれんかねえ・・・」


テーブルの上にあったレシートを手に、グレートが付け足した。


「・・・嫌いじゃないからこそ、ってなあ・・・・・姫は・・フランソワーズは臆病なんだ。・・・・今までの人生、失うものの方が多すぎて。失うくらいなら、もう何も持たない、得ない方がいいと、考えている節がある・・・いつでもまた、戻る準備をしているのが、我が輩らは見ていて辛くてなあ・・・姫の部屋、みたことあるかい」
「・・・ないです・・・・・」
「そうかあ・・・、じゃあ。まあ、・・・」


レジで会計をすませるグレートの背を見つめながら、当麻はだまって彼の言葉に耳を傾けた。


「・・・やっと、一息つくことができた、”ここ”で出会った大切な人を、好意を持って接してくれている人を、・・・当麻くんを、フランソワーズがはっきり断ったとき、彼女はまた、・・・・人として出会った、人との繋がりを失ってしまうからなあ」
「どういう、意味ですか?」


エレベーター前で、グレートが、上を示すマークがついたボタンを押した。


「サイボーグ003として、当麻くんと会ったんじゃないだろう?フランソワーズは、”ただの留学生、マリー”として君とあったんだ・・・。そういう始まり、だったからなあ」


チン♪と、余韻をひくキィーの高いベルサウンドが鳴り、エレベーターのドアが開いた。


「我が輩らが誰もいない状態で暮らしたのは・・・、人だけに囲まれて、平穏に暮らしたのは、フランソワーズにとっていったい、何年ぶりのことだったのかと思うと・・・な」


乗り込んだエレベーターに、ビジネスマンらしき男、1人も一緒だったが、グレートはかまうことなく、当麻に話しかけた。


「それくらい、当麻くんに気持ちがあるってこったあなあ・・・」
「ぼくといれば、彼女は・・・忘れられるんですね?」
「はっきりとは、わからん。我が輩は姫じゃないからなあ・・でも、そう思えてならないこともある」


あやめ祭が始まるまでの、時間。
週末にジェット、ピュンマ、ジョーとともに、ギルモア邸にやってきて過ごした、海、当麻。



グレートにとって胸を切なく揺すった日々。
ときおり報告を兼ねて戻るギルモア邸で見た、フランソワーズと当麻の2人の姿。を、自分と同じ位置から2人を見る、末弟の姿。






その末弟の姿を、いつも探している、姫君。
視線が合った瞬間に、お互い、恥ずかしげに視線をそらすものの、再度、お互いの視線を合わせようとする仕草が、愛しくて。


『ジョー、報告はこれで終わりだが、ついでに姫がいれてくれた紅茶とお菓子を楽しんでから戻りたいのだが?』
『・・・わかった。呼んでくるよ』



『ジョー、我が輩、これで失礼するが・・ちょいとフランソワーズに用があって、どこにいるか知らんか?』
『さっきまで・・・キッチンにいたと思うけど?』
『悪いが、呼んでもきてくれないか?』
『いいよ』


そうやって呼びに行かせておいて、とんずらするのがパターンになっていた。








---もどかしいことこの上ない。と、思っていたけれど、さらに輪をかけてもどかしい関係になってしまって、何度ため息をついたことか・・・・。











グレートと当麻は、同乗したビジネスマンよりも先にエレベーターを降りた。
背後で、ドアが閉まる音を聴いた後、グレートは口を開こうとしたが、それよりも早く、当麻の方が言葉を音にした。


「リンクがアメリカに、ジェロニモさんも・・・。それなら、フラン、別にあの邸にいなくてもいいってことですよね?」
「ああ。我が輩らは・・自由の身だ。まあ、ちいっとばっかり”躯”のことや”仕事”のことで、離れられんがなあ」


非常階段近くの、部屋。
ギルモアが泊まる部屋のドア前でグレートは当麻と向かい合った。


「だけどな、フランソワーズが望むなら、だぞ・・・。彼女が、自分の意志で決めたなら、だ。誰のためでなく、あの邸を出るときは、フランソワーズ自身のためにだけだ。そして、それは・・・永遠にないな」
「!」
「・・・永遠にない」


グレートは言い切った。




当麻は固く拳を握った。
手のひらに、爪が食い込むほど、固く、強く、握り込む。


「フランソワーズがジョーから離れて、ジョーがフランソワーズから離れて、なんて、想像つかんからなあ・・」


---ギルモア邸の中で、あのちっこいドルフィン号の中でさえ、探して、探して、・・・未だにたどり着かんからなあ・・・。



「このまんまで、(どっちかが)ギルモア邸を出ていっちまったら、もう終わりだ・・・」


グレートは口の中でぼやいた。














####

苦みのある匂いが、鼻をつく。
焼けこげた衣服の欠片がぱらぱらとホテルの廊下に落ちた。

戦闘態勢でないかぎり、加速のレベルは常に5段階あるうちの1で使用するため、焼き消えてしまうことはない。
火災現場から逃げてきたように見えるくらいには、痛んでしまうが。


ジーンズのポケットの中の財布にいれていたキーカードは、みかけ無事だった。

財布も無事と言っていい。
使えないことは、ない。


いくつかのカード類は作り直す必要があるだろう。加速時の熱でおかしくなっていることなど、過去の経験でわかっている。

人目を気にしながらスライドさせたキーカードも、同じ理由で使い物にならなくなっているだろうと予測できたが、一応試してみる。


<ジョー、鍵が使えなくなってしまったのじゃなくて?>


飛び込んできた脳波通信の声の通り、キーカードは使えなかった。










フランソワーズが部屋からフロントに電話をかけ、ジョーの部屋のキーカードが使えないことを伝えている間、ジョーはフランソワーズの部屋のバスルームを借りて、シャワーを浴びた。


<鍵を受け取りに、部屋を出るわね>



ジョーの部屋のドア前で使えなくなったキーカードを、電話を入れてすぐにやってきたボーイに渡した。
ボーイがキーカードが本当に使えなくなったのかを確かめた後、新しいキーカードを受け取ったフランソワーズは、ジョー、アルベルトが止まる部屋へと入る。


フランソワーズが部屋に入ったことを確認し、ボーイが部屋のドアを閉めた。



---・・・窓側の・・ベッド・・・・の、



<ブーメランを逆さまにしたような、マークの、バッグね?>
<・・・・角が丸いチェック・マークみたいなの?>
<キャップが空いたままのペンに気づかないで、紙にペンがひっかいたような・・・>
<うん。それ・・・>


ジョーから教えてもらったスポーツバッグを手に、フランソワーズは部屋に戻った。
スポーツバッグの中から、適当な衣服だけを抜いてくる。と、フランソワーズは言ったが、ジョーは鞄ごと。と、フランソワーズにお願いした。


バスルームにあった2つのバスローブの1つを、フランソワーズが使っている様子がなかったので、それを羽織り、部屋に戻ってきたフランソワーズから、スポーツバッグを受け取ると、着替えを取り出した。


「多めに用意しておくのが当たり前になって・・・いいのか、悪いのか・・・・」


2つあるツイン・ベッドの1つに置かれたスポーツバックの中から取り出した着替えと一緒に、バスルームに戻って着替えを済ませる。
バスルームのドアが開くと、ジョーがスポーツバッグを受け取った位置から1mmも動かずに、立ったまま、じっと見つめてくるフランソワーズがいた。


「助かったよ」
「・・・・・・・・・」


濡れている髪が、Tシャツの首周りを濡らして色が少しかわる。


「シャワー、ありがと。鍵は?」
「ここに・・・」


フランソワーズは先ほどボーイから受け取った新しいキーカードを、スポーツバッグを置いた、同じベッドの上にあるショルダーバックから取り出した。
それを受け取ろうと、ジョーはフランソワーズに近づく。


「?」


キーカードを受け取ろうと差し出した手の上に、フランソワーズはキーカードを置かず、視線を、ジョーの手のひらにおいた。


「フランソワーズ?・・・・鍵・・・・」


フランソワーズの視線が見上げるようにしてジョーへと躯を捻る動きと一緒に移動する。


「・・・・どこへ行くの?」
「どこって・・・・・」


どこへ?と、尋ねられて即答で”学院へ戻る”と返せなかったジョーは、苦々しく唇を歪めた。


「・・・決まってる」


フランソワーズの声が頭に響いたとき。


「決まってるの?」


ジョーは動揺の波に自分を攫われることなく、逆にしっかりと自分を支えた。


「決まってるよ・・・」


ちゃんといつものように、フランソワーズを見て、彼女に笑いかけていられていると、言い聞かせている。


「ジョー・・・」





だから。
フランソワーズの目にも、いつもと変わらない自分である。と、思う、ジョー。


「私も一緒・・・に、いいかしら?」














####

「・・・どうなってんだよ!」
「さあな」


ジェット、アルベルトの2人が、ギルモアが泊まるホテルに帰りついたときには、すでに、邸にいるジェロニモ以外のメンバーが揃っていた。


「なんでフランソワーズがいねえだよっ?!」
「どこにいるかくらいは、携帯電話に電話すればいいだろう?」
「アイヤー・・・」


ギルモアの部屋は、今、人で埋め尽くされていた。
備え付けのエア・コンディショナーのコントローラーに手が伸びて、設定温度を下げたのは、ジェット。


「姫の携帯電話・・・は」


グレートは躯を小さくして、2つあるダブルのベッドの枕元に腰を下ろしながら、申し訳なさそうに、もじもじと胸前で左右の人差し指をとんとんと、合わせる。


<ココニ、アルンダヨ。”携帯”ッテ名前、意味ナイヨネ>


フランソワーズの持つ携帯電話を、グレートの隣に座る張大人に抱かれているイワンがふわり。と、浮かせてみせた。


「似たもの同士だな・・・」


窓際に背を預けた状態のアルベルトが、ふわり、ふわり、と、宙に浮く携帯電話を招きよせ、手に取りながら苦笑した。
ジェットはアルベルトと窓を挟んで、同じように壁に背を預けて部屋全体を見ていた。


「肝心なときに持ってなくて、何が携帯アル・・・」
「ジョーもよく、忘れるもんねー・・・・携帯」


うん、うん。と、納得するようにピュンマは首を縦に振った。
グレート、張大人と膝を突き合わせるように、向かい合い、隣のダブルのベッドに座る、ピュンマと、その隣に海。そして、2人分ほどの距離をあけて、当麻。


「フランソワーズは、まあ・・ほとんど邸にいるから、持ち歩く方が稀だ。仕方ないかもしれんが・・」


フランソワーズの携帯電話から、アルベルトはジョーへと電話をかけてみる。


「・・・壊れてるっつーの、ジョーのはっ」

携帯電話を耳にあてたアルベルトを見て、ジェットは呆れた様に声をかえる。


「一応の、確認だ」


2人のやり取りを耳にし、グレート、張大人を視界からはずすように首を伸ばすようにして、ジェット、アルベルトのやり取りに参加するピュンマ。


「なんでジョーのは壊れてるって知ってるの、ジェット?」


ピュンマの問いに、ジェットは右顎のジョイント部分あたりを、指した。


<加速!?>


ギルモアとは別のホテルに泊まっているフランソワーズと、『ホテルに戻る』と言って出て行ったきり連絡が取れない。
なかなか戻ってこないフランソワーズを心配して、グレートはフランソワーズの携帯電話に電話をかけたが、留守番サービスのアナウンスばかりが流れた。

フランソワーズの携帯電話はヴァイブレーション機能になっていたために、ギルモアの部屋のバスルーム、イワンのおむつが入ったバッグの上に忘れ去られていたことに、気づかなかったのだ。

バスルームに忘れられている携帯電話に気づかずに、電話をかけ続けるグレートを不憫に思ったイワンのお陰で
見つけられた、フランソワーズの携帯電話。

グレートは脳波通信で003個人のチャンネルに合わせて呼びかけるが、応答がない。
彼女の部屋があるホテルは、十分に脳波通信が届く範囲内にある。

グレートはイワンにどうなっているかを尋ねたが、イワンは”プライベートを覗く趣味はない”の一点張り。


そのイワンの”プライベート”と言う言葉に、グレートはなぜか、もしかしたら。と、予想するが、それが当麻には通じるわけはない。

時間が経つにつれて、彼はフランソワーズが戻ってこないことに、明らかに苛立ち始めていた。
冷静を装ってはいるが、今、ギルモアの部屋にジョーの姿がないことが、さらに彼の苛立ちに拍車をかけていることがわかる。



<さくらの前で加速したらしい。・・・おせっかいな鳥が目撃者だ>
<さくらの前って・・・大丈夫なの!?>
<ピュンマ、さくらと一緒に戻ってきたんだろう?そのことに関して気づいたことはなかったのかあ?>
<・・・泣いてばっかりで。・・・それに関しては、まったく・・そのまま泣きつかれて寝ちゃったし>
<ま、大丈夫だろーよ!な、イワン>
<ソノ辺ハ、僕ガ かばー シテオイタ ヨ>


さくらの前で加速装置を使用したことは、ジェットから個人的に報告を受けた、イワン。
すでに、さくらの記憶の中には、ジョーがさくらの元から走り去る後ろ姿の映像が残されていた。


「おお!イワンっ・・・イワンさま!」


突然、イワンを褒めたたえるグレートに、海がびっくりする。
当麻は、冷たくグレートを一瞥しただけで、膝の上に組んだ手に、視線を戻し、成り行きをただ黙って聴いていた。



<マッタク、コレ以上ノ、尻拭イハ、ソレナリノ ものデ 支払ッテ モラウカラネ>
<イワン、ジョーに言え>
<そういえば、防護服と同じ生地で作った携帯電話用の袋はどうしたアルか?あれに入れていれば、加速1には耐えられるはずアル>
<それ、ジョーってば1日でなくして帰ってきたじゃないか・・・、出し入れ面倒くさいって>
<アイツ、オレよりトロくせえ上に不器用な奴だからなっ、たく、世話のやけるヤツだぜ!>
<<<<ジェットに言われたら、ジョーも終わりだ(アル)・・・>>>>
<お前さんら・・・さくらの前で加速したことは問題にしないのか?>


携帯電話から聞こえ続けるコール音に耳を傾けながらの、脳波通信。



<イワンがなんとかしたっつうんだからよ、いいだろ?>
<しかし、だ>
<相当ジョーに振られたことが、ショックだったんだろうね・・・・目が解けてなくなっちゃわないか、心配だったよ>


ピュンマの感想に、話がそれる。


<ジョーがフランソワーズのこと好き、知ってたアルのに、・・それでも、がんばってた子が・・・>
<ジェット、ジョーのやつぁ、いったいどんな振り方をしたんだあ?>
<ね?気になるよね!>
<・・放っておいてやれ、その辺は>


アルベルトの耳に響いていたコール音が、留守番電話サービスのアナウンスに変わったので通話を切る。
次に、そのままフランソワーズの携帯電話でジョーの居場所を改良したGPS機能で確認する。


「・・・」


液晶画面に地図が出るが、何も表示されない。


「・・・地図は、この街じゃない・・な・・・・」


---完全に壊れているわけじゃ、なさそうだが・・・、携帯は持ち歩いているのか・・・。しかし、ここは、どこだ?




アルベルトが携帯電話を睨み合っている間に、話しは進む。



「むぅぅ・・・」


ギルモアが腕時計に視線を落とし、針が指し示す数字にうなった。


「青春じゃな、ギルモア君、ほっほっほ・・・・」


ブラウン・カラーのろー・テーブルを挟んで向かい合う、対になったシングル・ソファにそれぞれ深く腰掛ける、ギルモアとコズミ。

2人の前には、ガラスコップにミネラル・ウォーターがペットボトルから注がれていた。



「しかしじゃ!コズミくんっ無断外泊は許しとらんぞっ。特にフランソワーズは・・・若い娘がこんな時間になっても連絡もせずに帰ってこんとはっ!!間違いがあっちゃいかんっ。いくらジョーと一緒だとしてでもじゃっ、儂の許可なくっ」


コップを手にし、一気に水を喉へと押し流す、ギルモア。
年頃の娘を持つ父親とは、こういう感じかもしれない。と、その場にいるメンバーは微笑ましいような、気の毒なような印象持つ。


<(間違いが)ない方が男としてどうかと、思うが?>
<ううっ、・・・姫っ姫っ!大人っ!お赤飯っ>
<・・・アイヤアア・・・・やっぱり、そうアルか?>
<ジョーは博士の許可がないと、フランソワーズに手を出せないの!?・・・・でも、お赤飯って、こういう時もなの?>
<っつーか、さくらを振ったその日のうちに、フランソワーズと” にゃんvにゃんv”ってなんなんだよっ!!あいつはっ!>
<<<<にゃんvにゃんv・・・・>>>>


「博士、みんなもだ、・・・なぜ、ジョーとフランソワーズが一緒だとわかるんだ?」


当麻の肩がびくん。と、はねた。


「それは、だなあ、・・・・アルベルト」


アルベルトの素朴な疑問に、口を開いたのはグレートだった。

ギルモアがホテルに帰ってきた時点で、グレートはフランソワーズが携帯電話を、ギルモアの泊まる部屋に置きっぱなしにしていたことに気がついたグレートは、姿を変えて、フランソワーズが泊まるホテルの部屋を見てきたのだ。


「・・・女性の部屋に黙って侵入するのは、紳士として・・しかし、緊急事態のために、失礼させてもらった・・・ら・・・・・」


こりこり。と、人差し指の爪で、左の眉根を痒くもないのに、掻いた、グレート。


「ら?なんだよ!?」
「ジョーの荷物が、・・・姫の部屋にあって・・・」
「ジョーの荷物が?あの、スポーツバックが、か?・・・フランソワーズの部屋に・・・?ジョーは学院から一度、あっちのホテルに戻ったと言うことか?」
「あくまでも、推測なんだけどね」


グレートの言葉をついで、ピュンマが話しはじめた。


「学院から戻ってきたジョーに、フランソワーズが気づいた。と・・・考えられるんだよ・・。篠原先輩と一緒に下の喫茶室に居て、突然に”ホテルに戻る”って言い出したんだって。それで、グレートが部屋から1階に呼び出されて」
「我が輩、何か忘れ物でもした程度に思っていてなあ・・・。ホテル以外に足をむけるなら、報告するのが、当たり前だ。ミッション中であるからして、・・・姫に限ってそれはないと」
「グレート!!フランソワーズが一番”むちゃくちゃ”なのっ忘れちまったのかよ!?素人がうちっ放す機関銃みてえな女なんだぜっ」
「・・・うそお・・」


ジェットのフランソワーズに対する評価に思わず、声に出してしまった海。
ピュンマは、眉を八の字にして、海を見て、こそっと耳打ちする。


「・・・フランソワーズって、いざとなったら、・・・009よりも行動力があって強いんだよ・・・」
「!」
「あくまでも、・・・003の彼女だけどね」


<それにしても、ジェットに怒られるなんて・・グレート・・・>
<もう、終わりネ・・・>


同情の眼差しを張大人、ピュンマから向けられてさらに躯を小さくさせる、グレート。


「いやはや・・・・ここ最近、そういう無茶をするようなことなかったから、だから、つい我が輩・・・・」
「したじゃんか!突然、報告もなくいなくなったの、忘れたのかよっ?!」
「我が輩、その場にはいなかったもので・・・うっかり」
「うっかりですむかよっグレート!」
「落ち着け、ジェット・・・、子どもじゃないんだ。ちゃんと自分の立場くらいわかっているはずだ」
「んじゃっどこへ行っちまったんだよっ!!」


イライラと、ジェットはグレートから背を向けて、同じダブルベッドの左側にどっかりと、腰を下ろし、アルベルトを睨むように見上げた。

手に持った、フランソワーズの携帯の液晶画面を見ながら、アルベルトは推測する。


「(加速のせいで)鍵が壊れたか?」
「鍵壊れてて、どうやってジョーは荷物をフランソワーズの部屋に持ってたんだよ!?」
「多分、フランソワーズの部屋からフロントに電話をかけて、新しい鍵を受け取ったネ。」


張大人は首だけを巡らせて、ジェットの背に向かって言った。


「じゃあよっ、鍵があんならっジョーは自分の部屋で着替えりゃーいいじゃんかよ!」
「・・・届けられた新しい鍵を受け取ったのはフランソワーズだろうな。それで部屋に入って、ジョーの荷物を持って部屋に戻った、と。・・・いうことか?」
「そう考えてるアルヨ。一番妥当ネ」


イワンを抱いたまま、躯を捻り、張大人はアルベルトに視線をむけた。


「それで?ホテルで2人は一緒にいたことは予測できたとして、その後はどこへ行ったんだ?2人は一緒か?それとも、別々に行動しているのか?」


アルベルトの問いに、誰も答えなかった。
しばしの沈黙の後、ギルモアが言葉を口にした。


「不良息子め・・・。まったく・・・。もう夜も遅い、ジョーのことは放っておくがいいわい、そのうちひょっこりフランソワーズと帰ってくるじゃろう。帰ってきたら、しっっっっっっっっっかり灸を据えてやらねば・・・、儂の可愛いフランソワーズを黙って連れ出したんじゃ、それなりの覚悟はできとらんとなあ?コズミ君」
「ほっほ。・・・参加してもええかね?・・・可愛い、うちのさくらを泣かせるような”振り方しかできんかった、色男じゃて、それなりに、なあ?ギルモア君」
「最近、甘やかしてしまったかもしれん・・・。色々あったが、それはそれ。これはこれじゃ!」


テーブルに置いたままであった1リットルのボトルを手に、水を注ぎ足す、ギルモア。


「ふむ。男としての”けじめ”は教えておかんとの?」
「そうじゃ、コズミ君!」
「やれやれ、最近の若いもんは、物事の進め方が下手で、見てられんわい。もっと頭を使わんとのう?」
「まったくじゃ。これしきのことで、オタオタ、のろのろしておって、まったく、儂らの若いころに比べたら・・・これしきのこと、朝飯前の、寝起きの顔を洗うくらいの小さいことじゃ。のに、ちんたらと、まったく・・・」
「あの頃のギルモア君は、いやあ、素晴らしかった・・・女のさばき方は、なかなかの腕前!」
「何を言うか、コズミ君。シズカさんとの結婚前のこと、儂は忘れとらんぞ?」


不気味に笑い合う、老人2人に別の意味で言葉がなくなる、メンバーたち。


「・・・・あの、博士」
「ん?なんじゃ、ピュンマ」


勇気ある海の戦士が声をかけて、2人の思い出話を中断させた。


「フランソワーズと、ジョーは一緒だと、・・・?」
「当たり前じゃろ!ここにフランソワーズがいないなら、ジョーと一緒である意外、考えられるのか?」
「ですが・・、博士」


アルベルトがピュンマに援護するかのように、続けた。


「連絡がないことが、何よりの証拠じゃ!バラバラなら、それぞれに連絡してきておる。2人一緒じゃから、連絡してこんのじゃよ」
「っでだよ、博士!」


「あの2人のことじゃしな・・・。両方とも、お互いに確認せずに、もうすでに009は003が、003は009が”連絡した”と、思い込んでおるんじゃろーて。たまに、あったじゃろ?」
「「「「「あ・・・」」」」」
「そういうことじゃ。・・・心配なら、アルベルト・・・フランソワーズの携帯電話を貸しなさい。言ってあると思うが、個々の携帯電話は、お前たちの通信チャンネルと繋げておる。詳しくは端折るが、個人の携帯電話から、その持ち主を追うことは可能じゃと、説明したじゃろ?」


連絡が取れない状況下。
携帯電話を被害を受けない、見つからない場所に埋めておく。
その場所に訪れた仲間が、その携帯電話からその持ち主を追うことができるようになっていた。


「題して、ヘンゼルとグレーテルの森・機能じゃと、言ったじゃろうが?」


<その題名のせいで、忘れてたよ・・・僕>
<いや、ふざけてるもんだと、ばかり、我が輩は・・そうか、本当にできる機能だったんだなあ・・・>
<じゃあ、ジョーが携帯電話忘れても、大丈夫ってことアルネ?>
<ジョーの場合、・・・それ、教えない方がいいと思うよ、僕>
<ジョーも忘れている機能かもしれんなあ・・>


アルベルトは、フランソワーズの携帯電話の電源を切った。



「・・・放っておきましょう。いくらなんでも、そこまでは・・・・。蹴られるどころか、消されてしまいますからね。帰ってきてから、じっくりと博士たちが据える灸に、参加させてもらいます」


にやり、と。片口角をあげて、笑ったアルベルトだが、目は笑っていない。
ジェットも、軽く首を縦に振ったことから、参加するのだろうことがわかった。


「教えてください」


当麻が膝上で組んでいた手の骨が軋むほどに、彼は力を入れて握り込んだ。
彼の吐き出した言葉が、その部屋にいた全員に届く。


「教えてください。・・・・今、2人は本当に一緒にいるんですか?確実に・・・・。そして、2人はどこにいるのか、教えてください。できれば、連絡できる方法があるなら、・・・連絡してください」
「篠原・・・」


当麻は、顔をあげて、アルベルトの持つフランソワーズの携帯電話を見る。
その横顔を、海が見つめた。


「好きにしろ」


アルベルトは、携帯電話を当麻にむけて投げた。
きれいな弧を描き、すとん。と、見事に当麻の広げたての上に落ちた。


「だが、自分の立場はかわっているな?独りで行動するな。オレはつきあわんぞ。・・・コズミ博士、さくらが車を運転してここまで来られたのでしたね?」
「ああ。そうじゃよ」
「お送りします。・・・さくらも一緒に」
「それは助かる。頼むかな、アルベルト君に」
「オレも、悪ぃが遠慮するぜ。・・・どーせ明日も”あやめ祭”なんだしよ、戻ってくるのが009だしな!」
「海、駄目だよ。君は体力温存。何かあったときにヘバったら困るし、・・・篠原先輩、すみませんが、僕はジョーを信じてるし、同じようにフランソワーズも。それに、・・・2人がミッション中であることを忘れるはずないから。それ以外に何かあったとしたら、すでに何かしらの連絡が来てるはず・・・・ミッション中だって、それなりに”プライベート”な時間があってもいいはずだから。・・・・アルベルト、僕らの部屋にさくらを寝かせてるから、一緒に行くよ。海、部屋に帰るよ」
「・・・p、ピュンマ、でも・・」
「人のことより、自分のこと!」
「う・・・うん・・・・」


ピュンマが立ち上がると、海に部屋に戻るように、有無を言わせずベッドから立たせた。
アルベルトはコズミ博士をエスコートするように、部屋を出て行き、それにピュンマと海が続き、ジェットも一緒に部屋を出る。


「コズミ君、今日は楽しかったぞ、また連絡するからの」
「ほっほっほ、次はカラオケ・バーで練習じゃな?・・・おやすみ、ギルモア君」
「お疲れさまアル、コズミ博士」
「大人、テレサ・○ンのレパートリー増やしといていておくれよ」
「アイヤ~・・・」
「おやすみなさい、コズミ博士」
「うむ、グレート君。あまり気にする出ないぞ」
「・・・はい」


ドアが閉まる直前にコズミ博士の軽い別れの挨拶が交わされた。


「やれやれ・・・」


ギルモアは、シングル・ソファの上で大きく伸びをする。


「グレート」
「はい・・・」
「お前さんは色々あっちこっち飛び回って、疲れておるじゃろ、今日はここで、儂とイワンと、一緒に休むがいい・・・。大人」
「アイアイね!」
「・・・当麻クンにつきあってやってくれるか?」
「まかせるアルね!」


ギルモアからの頼みに胸をはり、ぽん!っと、拳で胸を叩いた。


「当麻クン、携帯電話を貸しなさい。・・・ただし、1つだけ。儂に言わせておくれ」


張大人は、腕に抱いていたイワンをグレートの腕に抱きわたした。


「なんでしょう?」


ギルモアはゆっくりと腰をあげて、当麻の座るベッドに、彼の隣に腰を下ろした。
当麻は手に持っていた、携帯電話をギルモアに渡す。


「フランソワーズが誰を選ぼうと、フランソワーズの自由じゃ。儂は、ジョーだろうが、当麻クンであろうが、あの娘が幸せなら、何も言わん。・・・・・儂はこの限りある命を息子たち、そして、フランソワーズのために捧げておる。いや・・・はっきり言えば、フランソワーズに捧げておる。あの娘の全てに、儂は責任を持っておる・・・じゃから言うが、・・・・中途半端な気持ちでは関わらんでおくれ」
「・・・ギルモア博士・・」
「言っている意味がわかるかのう・・・?」
「・・・・」
「あの娘が、”ただの”娘なら、儂は間違いなく当麻クン、君を娘のボーイフレンドとして君を薦めておるよ、ジョーよりもな。しかし、じゃ。・・・悪いが、あの娘は”ただの”娘じゃないんじゃ・・・・。特別な子なんじゃよ・・・。儂のせいで・・・な・・・・・」
「・・・・」


ギルモアは、手に持ったフランソワーズの携帯電話の電源を入れた。


「儂がこの限りある命を終えた後、誰が護ってくれる?あの、可哀想な娘の、全てを、誰が護ってくれる?・・・息子たちじゃ。息子たちが、全身全霊で、フランソワーズを護ってくれるじゃろうが・・・、あの子は、女の子じゃ・・・。ただ、それだけで幸せなのかのう・・・・、女として愛し、愛されて、永遠に離されることのない腕で、フランソワーズの躯もこころも、全てを守り抜くことができる、男に、任せたい」


十字キーを器用に操作し、液晶画面に映し出した地図。
聞いたことのない、街の地図。


「永遠に・・・・」
「・・・同じ、サイボーグなら簡単じゃ」


ぐ。っと、当麻の空気が固まるのを、ギルモアは当麻と触れ合った部分で感じ取る。


「・・・・・・・・・・しかし、こころは、どうじゃ?いくらサイボーグでも、こころは別じゃ・・・。・・・・限りある命を終えた後も、フランソワーズのこころに生き続け、支え続けられる、強い、強い、男でいられるか?・・サイボーグ以上に、強い、意思と、こころと、愛。・・・死んだ後も通じ合える信頼関係が、な・・・。難しいぞ?・・・・相手は、ジョーじゃからな・・」


ギルモアはベッドから立ち上がると、携帯電話を張大人に渡した。


「一時的な気の迷い、・・・あの娘の容姿や、優しさに好感を持った程度じゃったら、関わらんでおくれ。あの子たちを悩ましたり、傷つけたりせんでおくれ、そっとしておいてやっておくれ。同じサイボーグ同士でも、なかなか、こころの方はうまくいっておらんでなあ・・・」


携帯電話を受け取った張大人が、ギルモアを思いやるように、腕を伸ばして軽く抱きしめた。


「当麻クン・・・すまんのう。疲れておるのか、ちょっと感情的になってしまったようじゃな・・・。・・・やれ、ジョーのせいじゃな。この年寄りを、まったく・・・」
「会ったら、がつん!っと殴っておくアルヨ!」
「ふっふっ・・一番、ジョーを甘やかしておる、大人がか?」
「一番ジョーを甘やかしてるのは、ジェットあるヨ!」
「いやいや、意外に・・アルベルトやジェロニモも、のう・・・」
「それを言うなら、ピュンマもですよ」


グレートがイワンをそっとベッドの上に寝かせると、立ち上がって張大人に代わり、ギルモアを支えた。

「アンタも相当ネ」
「大人には勝てないぞお・・・・博士、熱いシャワーをさっと浴びてきなさって、お休みください」
「むう、そうするかのう・・・」


ずずっと、鼻をすする音。
ギルモアの広い背中を見上げながら、当麻はこころの中で絡まった感情の糸を解きほぐすように、ギルモアの言葉を反芻した。


「当麻君、ホテルに戻るも、探しに行くも、ここを出るアルヨ、博士が休まれるからネ」




---結局、ミンナ、じょーヲ 好キデ 甘ヤカシマクッテルッテコト ダヨネ?・・・仕方ガナイ大人タチ・・・。




むにむにと、お気に入りのおしゃぶりを加えたまま、軽くため息をついた、イワン。


<グレート、オムツ!>
「お、おお!王子どの、しばし待たれよ、今バスルームから替えをとってくるからな!」




張大人と、当麻がホテルの部屋を出たころ。
街に落ちた人口の星が放つ光であふれ、昼とは別の顔を見せていた。






「・・・・・・・ジョー、どこへ行くの?」
「さあ・・・どこだろう」












====11へ続く


・ちょっと呟く・


・・・・正直に言います。

ホテルで落ち合った9と3。
何度描き直しても、大人になってしまいました・・・(笑)
告白も何もしてないのにっ、9、なんで?!3っそれでいいの?!っと、泣きました。

まだっまだだからっ。
ちょっとっ。確かにっ普通ならもう恋人ラブラブだろうけどおおおっ。
待って、もう少し我慢してーーーーーっ。
ひっつかないでーーーーーーーっ。

ハナレテーーーーーーっ!


当麻くんの意味ねーーーーーーーーーっ(←ひどい)


そうかあ、ここの93って、もう限界?なのかなあ。と、ちょっと反省(笑)
けれど、見事に引き離しに成功!
いや、引き離したって言うより、ホテルで2人きりの環境から追い出した?


ゴール近いかもですねえ・・・。
9がオオカミさんになりつつありますから・・・(笑)
耐えさせてる分、後が怖いなあ・・・。
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どうしようもなく嬉しい/それが、ボクの願い。
~甘いふたりで5題~(17)
(もじもじ京都・嵐山2泊3日旅行編)の続編となっております・・・。









「好き・・・だったのよ、島村君のこと」
「え、・・・ええ?・・え?・・・・み、水沢、さん?!」
「気づいてなかったんだ、やっぱり・・だと、思った!」
「あの・・・え、え?!」
「いいのよ、もうっ!もう・・・そういう気持ちは、ないのよ!!だって、アルヌールさんと一緒にいる、島村君を見たら、判るし、ちゃんと、うん。ちゃんと・・・判ったから」
「あの、みず・・さ、わ、さん?」
「だから、ありがとう」
「?」
「私、ちょっとだけ・・変われそうなの、島村君のお陰で!!」
「・・・」
「これからも、よろしくね?」
「あ、は、・・・はい」
「また、大学で!」



美奈子の、すっきりとした笑顔に、ジョーは余計な言葉を挟まなかった。




「フランソワーズと一緒に居るときの・・ボク・・・・」







それは、ジョーにとって、初めての経験だった。
今まで、言い寄ってきた女の子たちは、ジョーが誰とつきあってようと、誰と関係してようと、構うことなく好きだと言ってきた。そして、口々に自分がどれほど”余裕”があってジョーとつき合えるかを、競いあった。

無理して、大人ぶる必要なんかないのにも関わらず、年齢に見合わない台詞を吐く。
そうさせるのは、自分だろうけれど。
そうやって口にするのは、彼女たちだ。


勝手に好きになられて。
勝手に押し掛けてきて。
勝手に彼女になって。
勝手に怒って。
勝手に泣いて。


勝手に僕を捨てていく。




何もしてないのに。









ボクはここにいるのに、見えてない、彼女たち。
ボクのいったい、何を、どこを見ているのか、不思議で仕方がなかった。


「ボクの、おかげで・・・変われる?」





ジョーがアルバイトで通う大学の人類学科の秘書、水沢美奈子から頼まれて、彼女の妹の婚約者だと言う人に会った、ジョー。
美奈子が不安に思っていたことを理解するのに、それほど時間はかからなかった。


なぜなら、相手がジョーと同じ環境で育った人だったからだ。


美奈子は、結婚を家同士の、と。とらえている節があり、古風な部分があることをジョーに知られると同時に、彼女の不安な部分がジョーの胸を少しばかり傷つけた。


「自分は、父親しかいなくて、まあガキの世話してる余裕ないっしょ?男だし、若かったし・・・で。施設に預けられて、金はちゃんとしてくれたから・・・、高校まで行けて、正月だけはじーちゃん、ばーちゃんの家で過ごせたし、大学は国公立行くほどの頭、なかったし、やりたいことあったから、バイトしながら、専門行ったんですよ」


松田庸平と名乗った、奈々子(水沢美奈子の妹)の婚約者と、2人で飲んだ。
それは、4人で会った週末から数えてちょうど7日後。

松田から呼び出され、携帯のメルアドを交換しあっていた2人は、適当な駅前の居酒屋で落ち合った。


なんとなく、気があった。
そして、彼の気さくさ人柄と、おしゃべりで、何よりも、一人っ子だったからでっかい家族つくるために、バリバリ働くぞ!っと、奈々子愛してるぞ~!っと、終電がなくなった駅構内で叫んだ彼が、ジョーは応援したくなった。


ジョーは一生懸命に彼の良さを美奈子に伝えるために、大学の昼休みを利用することなく、彼女を土曜日の夕方にプライベートで呼び出した。


街を歩き、夕食を取り、その間、一生懸命に、松田庸平とのことを、自分がどのように彼を知り、思ったかを伝えた。






その、2週間後。
美奈子、奈々子の両親と松田は会い、そして、松田からの報告により、お互いの都合を合わせて、今度は、松田の父、祖父母を交えての食事をすることが決まった。



ちょうどお正月をはさみ、両家族が揃ったことをメールで報告してもらった。






お礼がしたい。と、美奈子に言われた日は、フランソワーズの誕生日だった。


翌週の、日曜に変更してもらえないか?とジョーは申し出た。
美奈子から理由を聞かれて、はっきりと言う。


「フランソワーズの誕生日なんだ、偶然に、養父が翌日で・・・」


クリスマスに邸に帰ってくることができなかった家族たち(照れくさい/そんな二人のクリスマス(18)参照)。は、お詫びとばかりに、いつもより長く、1月のフランソワーズとギルモアの誕生日まで滞在を延ばしたのだ。


「・・・・・・」
「急ぐ用事でもある?」


サガミ教授が借りた大量の書籍をジョーと2人で第二図書室へと返却し終えた帰り道。


「ううん・・・そういうわけじゃ・・ないのだけど、でも」




この恋は終わっている。
終わってしまったことはもう去年にわかっていた。
今年まで持ち込んで、ずるずると引っ張ったのは、自分の弱さと、未練と・・・・。

止まらない、好き。と言う気持ちから出た、足掻き。



認めたくない、わがまま。
言わないままでいようと思った。





失恋したことに目を瞑って。




「・・・うんっと、24日は多分、朝から忙しいと思うんだ、家族が今からそわそわしてるし。前日の金曜日なら、水沢さん、大学終わった後なら、どうかな?」




諦めるためと言い訳に重ねた、デート。
彼がそれを”デート”とは思っていないことくらい、わかっている。




それでも、以前よりも、昨日よりも、1時間前よりも、もっと、もっと、彼を好きになっていく。
止まらない想いに拍車をかける。


美奈子は、これ以上自分の気持ちを留めておくことはできなかった。

胸に留めておいても。
その想いはたまるばかりで、受け取ってもらえないもの。







先延ばしにしても、何も変わらないのだから。
いつ、終わりにしても変わらない。

それなら、今日がいい。
そうやって思えた今日、この日が一番いい。
この日を逃したら、また、私は・・・・・・・・・・・・・。





####


「好き・・・だったのよ、島村君のこと」






23日、金曜日。


大学の外で待ち合わせをして、早めの夕食を取り、駅まで見送った。
美奈子が選んだレストランは、昼間よく、湯田や大塚と一緒に訪れる場所だった。


ディナーは初めてだね、と、言い合い、食事が進む。





急に冷え込んだと思ったら、ちらり、ちらり。と、雪が降ってきた。
今年初めての雪に、こころが浮き立つ。



「好き・・です、私。ね、・・・島村君のこと、好き・・・」





駅までの道。


雪ね!っと笑っていた美奈子が、真剣に、ジョーを見つめた。



早足に駅に向かう人々。
大通りに出るまで、あとワンブロック。


街頭の下。



ロマンチックな、ドラマのようなシチュエーションにも関わらず、美奈子は、今日、1つの恋に終止符をうつ。









「・・好き”だった”・・・が、今は正解かな・・・」
「過去・・系?」




美奈子は泣き出しそうな笑顔で、ジョーに告白した。






「水沢、さん?」


ジョーの足が、止まる。


2、3歩の距離にいる、美奈子の、向こう側に、フランソワーズの顔が浮かんだ。


「うん、私ね・・・」




ジョーは首を素直に横に倒した。
きょとんと、動揺と驚きを載せた表情が、童顔な彼をさらに幼くみせた。


「好き・・・だったのよ、島村君のこと」


好き。を、強調して言ったとたんに、ジョーが慌てだした。


「え、・・・ええ?・・え?・・・・み、水沢、さん?!」
「気づいてなかったんだ、やっぱり・・だと、思った!」
「あの・・・え、え?!」
「いいのよ、もうっ!もう・・・そういう気持ちは、ないのよ!!だって、アルヌールさんと一緒にいる、島村君を見たら、判るし、ちゃんと、うん。ちゃんと・・・判ったから」
「あの、みず・・さ、わ、さん?」
「だから、ありがとう」
「?」
「私、ちょっとだけ・・変われそうなの、島村君のお陰で!!」
「・・・」
「これからも、よろしくね?」
「あ、は、・・・はい」


ジョーは勢いよく、首を縦に振った。
友達のままでいられることを確認できたことを、嬉しそうに、美奈子は笑った。



「また、大学で!風邪引かないでね、島村君っ!!」













一方的に、告白されて。
一方的に、過去のことだと、言われた。


「・・・告白されて、振られたってこと?僕・・・・」





早口に、その場をまとめて駅へと走り出した美奈子を、ジョーは呆然と見送った。













走り出した美奈子は、ちょっとほっとした。
ジョーが追いかけてこないことに、ほっとして。

そして、悲しかった。


---何を期待していたって言うのよ!







あの、慌て方。
思い出すだけで、笑いがこみ上げてきた。

大通りに出て、その足が止まりそうになるのを、無理矢理、動かした。
止まったら駄目!っと自分の足に命令する。


くすくすと笑いながら、雪のようにはらり、はらりと溢れていく涙。


止まったら駄目!っと、駅を通り過ぎる。


携帯電話を取り出して、バス停前。
ちょうど、やってきた人気のないバスに飛び乗り一番後ろの端っこに、体を押し込むようにして、りか子に電話をかけた。


『美奈?どうしたの』
「りか?・・・あのね、・・・私、今からりか子の家行っていい?」
『え?・・・今日は島村くんとデートって・・・・。最近よく2人で」
「告白したの」

りか子の声を遮って、言った。


「告白したの、もう、これで終わり。デートも、何もかも終わり。・・・もう、終わりにしたのっだから・・・」
『待ってるから、おいで!今どこよ!?』
「バスの中」


ぼろぼろと溢れ始めた涙を、何度も鼻をすすり上げながら、答える。


「明日は、・・・フランソワーズさんの誕生日なんですって・・・。何か、してあげたいね」
『美奈子・・・』
「せっかく、旅行でお友達になれたんだもん、ね?」











####

ジョーは駅についたが、そのまま改札口近くの壁に並んだ冷たい、水色のプラスティックのベンチに座った。
今、ジョーのいる駅からギルモア邸まで、2回の乗り換え、とバス。で、1時間以上かかる。



「フラン、なんて言ってたっけ?」


間に合うように帰らなきゃ、と、重たい腰を上げる。











時間が経つにつれて、色々なことが思い出された。
電車に揺られて、真っ黒に塗られた車窓に移る自分と、ときおり飛び込んでくる街の風景を交互に見ながら、美奈子の告白と、今の大学へ通いだしたころからのことが、ぐるぐると回る。


美奈子の気持ちに全く気づいてなかった。
考えたこともなかった。








その中で、もしかしたら、たくさん、たくさん、水沢さんを傷つけていた?








「彼女のためにも、もう少しちゃんと周りを見ろ。まわりの人間(女性)にもほんの少しでいいからアルヌールさんくらいに、注意を払え。それが、彼女のためになるから」








旅行中に、ユダに言われた言葉がジョーの脳天を殴りつけるように振ってきた。





「誰にでも優しい、みんなの”島村くん”でいられないときだってあるだろう?平和主義なのはわかるが、それだけじゃ世の中渡って行けないぞ?」

「もちろん、二股かける男なんかにはもったいないからなあ」

「水沢に協力しておきながら、アルヌールさんをキープって贅沢だなあ、・・・たらし慣れている」




「それなら、水沢に期待させるようなこと、するな」




「はっきり言うぞ。・・もっと水沢を注意してみろ」















---ああ・・・湯田さんは解ってたんだ・・・・僕は全然気がついてなくて、でも・・・。













告白されて、それは過去の気持ちだと言われた。
そのことが悲しいのか。



自分はフランソワーズが好きなのだ。と、言う気持ちは変わらないのにも関わらず、気分はどんどん沈んでいく。

きちんと水沢さんから告白されても、答えることはできない。
なぜなら、自分はフランソワーズが好きだから。


それなら、よかったじゃないか。
振る手間が省けた。






なら、なんでこんなに・・・・。













『島村?』
「・・・湯田さん、すみません」
『いや・・・どうした?珍しいな、島村から電話なんて」
「湯田さん、僕・・・・」
『どうした?』


ギルモア邸近くの駅。
田舎のバス停に、バスを待つためのしゃれた待合室などない。
雨よけもない、むき出ししの、刷れて色が剥げてしまったベンチにどっかりと座り込んで、冷たい冬の風に身を晒しながら、ジョーは湯田へと電話をかける。


「・・・・水沢さんに、今日、告白されました」
『・・・そうか・・・・・』
「返事も何も、する暇もなく、過去のことだって・・・好き”だった”と、言われました」
『・・・好きだった。か・・・、ちゃんと、決着つけられたんだ、水沢』
「・・・知ってたんです・・か?・・・」
『当たり前だ!馬鹿野郎っ!!・・・・・・・・みんな気づいてたよ、島村くらいだ』
「・・・・馬鹿です」
『おお、うましか島村。で?どうだ・・・?告白された感想は?』
「びっくりです」
『だろうな~・・・で?』
「・・・・・・はっきり言うと、落ち込んでます」
『なんでだ?』
「告白されて、過去だったから、と、言うことで、振られたんですから・・」


湯田の笑い声が、ジョーの耳に響く。
そんなにおかしなことを言っただろうか?と、困惑する、ジョー。


『なんだあ?!島村あ・・お前、水沢が好きだったのか!?』
「・・・・・・・・・フランソワーズの好きとは違う、友人としてですけど」
『なら、それでいいだろう・・・島村』
「でもっ・・・」
『島村、・・・言っただろう?ちゃんと周りを見ろって、・・・そういうことだ』
「・・・」
『お前が落ち込んでるのは、水沢の気持ちに気づかなかったからか?それとも、水沢の気持ちに答えられないからか?どれだ?』
「・・・・わかりません、ただ・・・びっくりして、でも、過去のことだからって、また大学でって言われて、走っていく、水沢さんを止めることも、何もできなまま見送って・・・ただ」
『ただ?なんだ・・・?』
「・・・・・彼女が、ありがとうって。・・ちょっとだけ自分が変われそうだって言われて・・・ボクは、何もしてないし、何もできなかったし、できなかったというよりも、気づいてなかったし、何をしたのか、わからないです・・・。ボクは・・」
『島村、フランソワーズさんは、そこにいるのか?』
「え?・・・いえ・・・・まだ家じゃないんで」
『じゃあ、フランソワーズさんに会ったら、答えがわかるんじゃないのか?』
「・・・・なんで、フランソワーズが出てくるんですか?」
『とっとと、家に帰って、フランソワーズさんが寝る前に会え、そしたらわかると思うぞお・・・、それでもわかんときは、明日の朝一に電話しろ、じゃーな!』
「ちょっ・・・湯田・・・・・・・さ、」


ツー、ツー、っと、通話が切られた音が、虚しくジョーの鼓膜を揺らす。


ぱあ。っと、ジョーの目に、バスのライトが飛び込んできた。
駅構内で暖を取っていた人々が走り込んでくる。





ベンチに座ったまま、ジョーは3本のバスを見送った。


携帯電話が揺れる。
11時を過ぎたあたりから、家族からメールが続々と届く。


帰らなきゃ。とは思うものの、足に力が入らない。



冷えた冬の空気が気持ちよかった。











12時、15分前。


ジョーの目の前に、1台のタクシーが止まった。


自動でドアが開く、と。
ほっそりとした足に、ぴったりとした焦げ茶色のロングブーツ。

そして、中から聞き覚えのある声。


「ジョーっ!」
「?!」
「あのねっケーキがっお財布っ」
「???」


フランソワーズの声を聞いただけで、ぐっと足に力が入る。
べったりと座り込んでいたベンチから素早く立ち上がり、バス停留所に止まったタクシーの後部座席を覗き込んだ。


「お財布がっケーキが壊れちゃうの!」
「フラン、?!」


お皿の上に載せられた、真っ白なホールのホワイトチョコレート・ケーキの上にろうそくがくるり芸術的な円を描いていた。
真ん中に、”Dear Fracoice”と、ピンク色の文字が書かれている。


フランソワーズが差し出したケーキを、落とさないように慎重に受け取ると、フランソワーズはタクシーの料金をポケットから直接お札を取り出して支払った。


ケーキを手に、突っ立ったままのジョーを気にもせず、走り去るタクシーに手を振って見送る、フランソワーズ。


「・・・・・・フラン?」


タクシーを見送るフランソワーズに、恐る恐る、声をかけた。


「あ!まだ、まだ食べちゃ駄目よ!」


振り返ったフランソワーズが慌てて、ジョーに注意する。


「食べない・・よ・・・・・なんで、箱に入ってないわけ?・・今からどこへ行くの?」
「だって、私が作ったんですもの!箱なんてないわ!文字はね、張大人が入れてくれたの♪」
「・・・だから、このケーキを持って、どこへ行くの?」
「ジョーをね、迎えにきたのよ!」
「!」
「だって、間に合わなくなっちゃうわ!」
「ケーキは邸においてきたらいいのに・・・」
「待ってる間に12時になっちゃったら、嫌だもの。今年はジャストにろうそくの火を吹き消すって決めてたんですものッ」
「・・・・・それだけのために?」
「も!とおおっても、とおおっても、とおおおおおおっても大切なことなのよっ!!ジョーがバスを待っていてよかったわ、どうしてメールを返してくれないの?みんな心配していたのよ!」
「ね、ジョー、今何時?」


フランソワーズはジョーの手から再びそおっとケーキを受け取る。
ジョーはポケットで揺れ続けていた携帯電話を手に取り、時間を確認した。

ついでに、最後のメールだけ。
フランソワーズから届いたメールだけ、チェックした。


”ジョー、どこにいるの?・・・一緒に12時ちょうどに、ふうってしたいの。だから、駅でケーキと一緒に待ってるわ/F”


「一緒にって・・・?」
「ジョー、ライター!」
「え?・・あ、持ってないよ・・・」


フランソワーズが邸にやってきて以来、ジョーは禁煙しているためライターを持ち歩かなくなった。


「ええ?!」


ジョーが煙草を吸うことを知っていたために、フランソワーズは当然持っていると思い込んでいた。


「ここで待ってて、駅の売店は・・もう・・・あ!そこのコンビニで買ってくるっ」
「急いでっ!今、何時!?」
「すぐだよっ。間に合うから、フランはケーキを落としちゃ駄目だよ、ここで待っていてっ!!」








12時、6分前。


足には自信がある。
それは009だからじゃない。

009になる前から、徒競走のタイムは学年で5番内くらいに入っていた。







湯田さん。
明日の朝一に電話しないでいいみたいです。
けど、報告したいから、電話します。








自動ドアが開くのを待っているのも、もどかしく感じる。
手に200円ライターを握りしめて、走る。













走る僕をずっと”眼”で追っているフランソワーズ。












好き。


フランソワーズが、好き。
この気持ち・・・・・・・・。

いつも好きだって思っていても、彼女を目の前にすると、魔法がかかったように、こころの奥の奥の、奥から、じんわりと暖かくなる。
あふれてくる、想い。




キラキラに輝いて。
どきどきと焦って。

ぽかぽかにこころが暖まる。
ウキウキと気持ちが弾んで、嬉しくて、意味もなく頬が緩む。



人を好きだと想う、気持ちは、それだけじゃないんだよね。

















ごめんね、水沢さん・・・・・。
水沢さんの好きを、ちゃんと僕が受け止めて、返してあげられなくて、ごめん。



ごめんね。



僕が水沢さんにきちんと言うべきことなのにね。
ありがとう。って。



ボクなんかを好きになってくれて、ありがとう。
けれど、ボクは好きな人がいます。


フランソワーズのことが好きです、だから、水沢さんのことをフランソワーズと同じようには、思えません。


独りで、好き。を、諦めるのって・・消化させるのって。

すごく、辛いよね・・・。

そんな風に、させたのはボク。


気づいてあげられなくて、そして、そのせいでたくさん傷ついたんだろうね。



ボクがフランソワーズ、フランソワーズって言ってる間。


水沢さんは、・・・・・。







---人を好きになるって、すごく大変なことで。















「ジョー!」
「落ち着いて、ほら、ここ座って、ケーキを膝の上に・・・まだ時間があるから」
「早くっ!」
「慌てない、動いたらろうそくにうまく火をつけられないって!」






---大変だから、必死になって。この気持ちを受け止めて欲しくて。






---なんで、今までわかってあげられなかったんだろう。





1つ1つにゆっくりと火を点していく。
フランソワーズの顔に、オレンジ色の光が揺れる。


「ふふ♪ちゃんと一緒に火を吹き消すのよ?」
「フランソワーズの誕生日なんだから、フランソワーズがしないと・・・」
「駄目!ジョーも一緒によ?」
「何か、意味があるの?」
「ええ!願い事がかなうのでしょ?」
「まあ、一般的にそう言われているけど?」


吹きさらしの、バス停留所の置かれたベンチに、膝小僧をつき合わせるようにして座る、カップルの膝上にろうそくの火がともった、ホールのケーキ。


「2倍になるの!」
「は?」
「ジョーと一緒に、ふうっ♪ってすると、お願いも2人分よ!」
「・・・え?」
「せっかくのチャンスだものっ、明日は博士のケーキをふうっ♪するのよ、いっぱいお願いできるわ!!」
「・・・・・・いや、バースデーの人j・・ま、いいや。でも、それなら、僕じゃなくても・・」
「駄目なの、ジョーじゃないと!」
「どうして?」


携帯電話野デジタル時計の設定を変えて、秒数まで出るようにする。


「だって、ジョー」
「?」
「・・・・ジョーのお願いをかなえてもらうのが、アタシのお願いで、だから、ジョーがどんなお願い事があるのかアタシは解らないから、一緒にふうっ♪ってするのよ」
「・・・え・・・僕の願いを・・かなえるのが、フランの?」
「そうよ」


ジョーの手の中の携帯電話を覗き込む。



12時まで・・・・1分前。




「ちゃんと、お願いごと決めてね!もうすぐだからっ!!」
「ど、どうしてっ、フランが好きなことをお願いしなよ?」
「だあ、かあ、らあ、アタシのお願いごとは、ジョーの願いがかないますようにってお願いなの、そのために、ジョーと一緒にふうっ♪なの!」
「・・・・どうして?」
「も!どうしてばっかり、いいのっ、時間がないわっ」













---人を好きになるって、すごいこと。


嬉しいも、楽しいも、どきどきも、わくわくも。
痛いも、辛いも、悲しいも、切ないも。











全部、全部、人を好きになることで、深く、広く、新しいことを覚えていく。
同じ好きでも。






まったく違う、気持ち。









---水沢さん、ありがとう。そして、ごめんなさい。


















20秒前。








フランソワーズは携帯を睨む。
その横顔をジョーは見つめる。





5.


「あのね、・・・・アタシのお願いは、ジョー・・・が」


4.


「いつも叶えてくれるもの」


3.


「だから、ジョーのお願いを叶えるお手伝いしたいの!」
「?」


2.


「今年はね、2”009”年で、ジョーの年なのよ」
「・・・」



1.


「だから、いっぱいジョーのお願いが叶う年になるわ!」



0.


ふうっっ♪と、フランソワーズの息と混ざったジョーの息がが小さな火を吹き消す。









ろうそくの火が消えると、顔にあたっていた温もりが消えた。




「・・・ジョー、ちゃんとお願いごとd・・・」
「フランソワーズ・・・ありがとう、ボクの願いはね・・・・」

















キミの願いをすべてボクの手で叶えること。
キミの幸せをすべてボクの手でつくること。
キミに笑顔が永遠にボクのそばにあること。


人を好きになるって言う気持ちを、人を愛すると言うことを、今、ちゃんと理解できるようになりました。





フランソワーズを、人を、自分がちゃんと好きになったから、わかったんだ。
フラソワーズを好きなボクだから、わかる。


今だから、わかる。








教えてくれたのは、フランソワーズです。

気づかせてくれたのは、水沢さん。












「ジョー?・・・お願いごと、間に合わなかったの?」
「・・・・・・・・・ううん。叶ったんだよ」
「じゃあ、どうして・・・・」
「あ、気にしないで、ちょっと・・・ね」
「泣いたら、駄目よ・・・?ジョー、悲しいの?」
「・・違うよ、フラン・・その、逆」








嬉しくて。








「どうしようもなく、嬉しくて・・・、だよ。今日はすごいね。・・・フランソワーズの誕生日は、ボクの大切な記念日になったよ」









この気持ちをちゃんと言うから。
次のフランソワーズの誕生日までに。









それが、新しいボクの願い。













*ギャグなしです・・・。
 美奈子りんの気持ちがなんか宙ぶらりん♪だったので・・・。
 本当はお誕生日に出したかった(涙) ⇒ 続きを読む
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投げられたマーブルチョコレート/VD・1

~キミとチョコレート5題より~




ちょっと寄っていい?と指さされた場所。


1ブロック、左右の角っこに必ずある、コンビニエンス・ストアだった。
入っていったのは、真っ赤に看板が塗られて、”K”のマークがついている
方。


「すぐすむから、適当にまっていて」



こんなにいっぱいあって、誰が、どんな風になんのために使うのかしら?
と、いつも疑問に思う。

24時間開いているのは、素敵で、便利だと思うけれど。
町内に、何件ものコンビニエンス・ストアがあって、それも違う会社が
経営していて。

便利な日本だけれど、実はとっても面倒くさがり屋さんが多いのでは?
ちょっとそこまで。が、20分歩けばいいのに、もっと、近くに、もっと早く
に。って。


動く床があったのを大阪の地下街で見たとき、その動く床の上でさえ、
人はいそいそと歩いていたのよ。
そんなに急いでどこへいくのかしら?


急がないといけないような、スケジュールの組み方しかできなかったの?
日本人は時間をきっちり守って素晴らしいっていうけれど、でも、床を動
かしてまで、
そこまでして守らなくても、よくなくて?


「また、固まってる」


私はお菓子コーナーの前にいた。


「あ・・・」


ジョーの手に品物を入れるカゴはなく、数冊の雑誌を小脇に挟んで、声を
かけてきた。


「今度は何を考えてたんだい?」
「・・・あの、別に・・ただ、何のためにこんなにたくさん、コンビニエ
ンス・ストアが
あるのかしら?って」
「さあ。・・便利だからじゃない?」


お菓子の棚をざっと見渡して、いくつかを手に取って、不思議そうに、新
商品!っと書かれた
矢印の説明を読んでいた。


「そうよね・・・」
「治安がよくない地域だと、女の人は安心するらしいよ。コンビニエン
ス・ストアって
夜も開いていて、明るいから。・・・何かあったとき駆け込めるって」
「そう、そういう風な意味もあるのね?」
「まあ、そういう風な意味になってしまったこと自体は、残念なことだけ
どさ。何か、いるのある?」
「ないわ」
「じゃ、行こう」


私はジョーがレジに立っている間に、外へ出た。


制服を着た、女の子たちとすれ違う。


「うわ!外人っめずらしー」
「ちょっとお、失礼だよー、日本語わかったらどうすんのー?!」
「わかんないって、もろ、外人じゃんっ!」


私は意地悪だから、その子たちに向かってにっこりと笑ってみせる。
びっくりした顔が3つ並ぶ。


「ヤバいって、やっぱ日本語解ってるんだって!」
「ええ?・・・そお、解ってないから、笑ったんじゃないの?」
「もおお、いいじゃん、そんなことおお」


人を見かけで判断しないで。
まったく!


日本語どころか、世界中どこへ行っても問題ないのよ、私!!







「フランソワーズ」


ジョーの声と一緒に、自動ドアが開いた。
振り返ると、しゅっっと何かが弧を描いてこちらに飛んでくる。


「え?あ。なに!?」


飛んできたスティック状のものを、慌てて受け取った。


「おいしいよ、今日はチョコレートを食べる日だから、あげる」


M&M's?


「なあに?」
「マーブルチョコレート。好きでさ、前はよく食べてた」


筒状の箱をかしゃかしゃ鳴らした。
私が受け取ったお菓子に夢中になっている間に、ジョーはさっさと歩き出
す。
その彼を追いかける。

彼の脇に、買ったばかりの雑誌がコンビニエンス・ストア内で見たのと同
じように、
挟まれていた。


「駄菓子の中で、一番好きでさ。いろんな色があって綺麗だろ?」
「ありがとう」
「・・・フランソワーズ、それ、一応」
「?」









---逆チョコなんだけど?




わかってないんだろうなあ・・・。
街中が赤やピンクに染まっていて、LOVEだのなんだの、うたい文句が所
狭しと泳いでいるのに。

コンビニエンス・ストアの店内だって。
でかでかと、今日と言う日がなんであるかを訴えていたのにさ。




マラカスでも演奏するように、かしゃかしゃと鳴らす音。



人が考えたって仕方がないような、しょうもないことに、いつも意味もな
くぐるぐると考える癖に。
どうして、こういう世間一般、誰でも知っているようなことは気づかない
と言うか、考えつかないというか、・・・・。


「それが、一番ボクの好きなチョコレートなんだけど?」
「そうなの、知らなかったわ」
「・・・・それを、キミにあげたんだけど?」
「ありがとう、優しいのね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・バレンタイン・デーって知って
る?」
「ええ、知ってるわ。だから、今日は張大人のところで、豪華ディナー
じゃない」
「・・・」


だね。



「ジョー、今後はお菓子を投げたりしちゃ駄目よ?ちゃんと受け取れたか
らよかったけど、
他の人にあたったら危ないわ」
「・・・気をつけるよ」
「ね、何色がいい?」


かしゃかしゃと鳴らしていた筒のふたをぽん!っと抜いた。


「ピンク」


どうだ。
これなら・・・・。


歩いていた足を止めて、さらっと手のひらに乗せたチョコレートの粒た
ち。
2つのピンク色を選んで、あとはまた筒の中にしまう。


「はい♪」


そのうちの1粒が、ボクにむかって高く、投げられて。
綺麗にゆっくりと落ちてきたのを。ぱく。っと、口の中で受け止めた。



「じょうずね!」


ボクは犬か・・・。


「投げるなって言ったの、フランソワーズだよ?」


自分の分は、指先でつまんで舌に乗せた。


「私からのチョコレートはいらないっていうの?」
「・・・・」


ボクが買って、キミにあげたんだよ。
それ・・・。


かりっと。口の中でコーティングされたチョコレートを噛んだ。
甘くて、久しぶりの味。





「知ってるわよ」


フランソワーズはにっこりと笑った。
数歩ほどの距離をスキップするようにして縮め、ボクの隣に立つ。


「知ってるんだ?」


雑誌を持っていない方の、腕を、彼女が抱きしめる。


「今日がチョコレートの日くらい、知ってるわ。男の人があげるのを
逆チョコって言うんでしょ?
・・・ねえ」
「なんだよ」
「一番好きなのね?」
「お菓子の中じゃあね」


歩き出す。


「それをもらったの、私なのよね?」


口に出されると、ちょっと恥ずかしい。


「一番をもらっていいの?」
「一番だから、あげたんだけど」
「安いのね?」


歩く揺れに合わせて、”安い”それが鳴る。


悪かったな・・・・安いのしかあげられなくて。
今、何もバイトしてないの、知ってるくせに。

キミにあげるものを、”おこずかい”ですませたくない、男の小さな
プライドだよ。




「・・・・・・・・・・すみません」
「別に、謝らなくてもいいわよ。ブーさんだもの・・・ねえ、ジョーも
欲しい?」




プーさん・・・。




「用意してくれてるの?」
「今、用意するわ」
「え?・・・いま?」


フランソワーズの足が再び止まったので、ボクも止まる。

ボクの腕を抱え込んだまま。

ぽん!っとふたをあけて。

手のひらに乗せたチョコレートの粒たち。

また、ピンク色を選んで。


残りをスティックの中にもどした。


そのあと・・・。




「ん」
「・・・世界で一番高い、マーブルチョコのピンクだね」











瞳を閉じて。


丸いピンク色にコーティングされた、チョコレートが1粒、くちびるの上
に載せられて。


落とさないように、

ボクの腕にしがみついて、

バランスを取りながら、

空をあおぐ、

彼女。






吸い上げるように、舌先と上唇でチョコレートを受け取る。
そして、それをそのまま、彼女の口内へと挿し込んだ。











「うわっ生キスっ」
「さっきの外人だよっあれ」
「うわああ・・・さすがバレンタインデーっ外人っカップルっ」




そうです、私は外国人なの。
だから、外でキスしても、日本のマナー違反じゃないわ。


ふふ♪うらやましい?




・・・・あ。



ジョーは半分違反してるわね!






「・・・キスしてるときくらい別の事考えるの、やめてよ。フラン・・」


ピンク色がはげた、それをかり。っと、噛んだ。









Fortune Fate
end.


*なんだこりゃ。
 私の中で新しい93が生まれてる???
 しかも、お題は一瞬・・・(笑)




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甘くないのが好きなんでしょう?/VD・2

~キミとチョコレート5題より~ 「それ、僕の?」 フランソワーズの手にあった、綺麗にラッピングされた箱を指差した。 「いいえ、これは博士によ」 「じゃ、こっち?」 キッチンカウンターの上に並べられた、箱。箱。箱。 ちゃんと家族分の数がある。 「いいえ、この黒は、アルベルトのよ」 「じゃ、この赤いのは?」 「ジェット」 「・・・・これは?」 横一列に並べられた、形も大きさも、チョコレートのブランドも 違うそれらを、順番に指差していった。 「ピュンマ。ジェロニモ。グレートのよ、それ」 「・・・じゃあ、これ?」 「違うわ、張大人よ」 最後の一個。 「これだよね?」 「それはイワンのよ」 「・・・・じゃ、僕のは?」 「甘いの駄目なんでしょ、ジョーは」 ---だからってナシ!? 「甘くないのがいいんでしょ?」 「ビターは好きだよ」 フランソワーズは、箱と同じ数だけのメッセージカード。 書かれた名前を確認しながら箱の上に置いていく。 「ねえ、ジョー」 「なに?」 「何味かしら?」 カウンターを挟んだ、こっちとあっち。 「は?」 「私って、何味?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」 「ね、ジョーには、甘すぎる?」 どんな意味がるのか、ジョーは深い青をしっかりと見る。 「ちょうどいいよ。僕好みにちゃんと仕上がっているはずだけど?」 「それなら、よかったわ!」 満足げに、頷いた。 「ねえ、僕は?」 甘えてみる。 彼女はかなり、甘いのがお好みだ。 カウンター・テーブルの上で組んだ両腕に、顎をのせて、 上目遣いに見上げてみる。 「駄目よ、ジョー。私はあなた好みにビターに仕上がっていてよ」 「・・・・でも、キミ用に、僕はとても甘くなってる」 「ええ、とってもジョーは甘いわ・・・」 くすり。と、口元で微笑む。 「キミ好みに仕上がってるといいんだけど」 頭を寝かせて。 片目だけで、彼女を覗き込む。 最後のカードを置き終わった彼女の手が、まっすぐにのびてきて、 僕の髪に触れた。 まぶたをおろして、彼女の手のあたたかくて優しい感触。 けれど、すでにそれだけじゃあ足りない関係。 「まだ待たせるの?・・・キミが胸焼けしちゃうくらいに、 甘くなってしまうよ?」 瞼を押し上げて、キッチンカウンターの、背の高いチェアから降りる。 キッチンから出てきたフランソワーズにむかって両手を広げると、 彼女は当たり前のように、僕の腕にラッピングされた。 「・・・それで、僕の分は?本当にないの?」 「あるわよ」 「・・・なかったよ、イワンの分はあるのにさ」 「あるじゃない」 「どこにだよ?」 「チョコレートと私と、どっちが欲しいの?」 「・・・・・・」 わざと答えない。 「ひどいわ・・・」 僕の腕から逃れようと、強く胸を押した。 拗ねたように尖らせた唇に、ちゅっと、音を立ててキス。 「ん、ちょうどいい具合に、仕上がったね」 「もうっ・・・」 「最初に意地悪したの、フランソワーズだよ?」 「甘くないのが好きなんでしょ?」 「ほどほどにしてよ・・・僕自体は甘いんだからさ・・・・」 部屋に、ちゃんとカカオの渋みが効いた、僕好みのチョコレートが 用意されていたけれど、それを食べている余裕なんてなかったよ。 Fortune Fate end. *あれ?なんか精神年齢高い?(←え?・・・)  ちょっとツンデレな感じ・・・・。ツンデレってこんなんでしたっけ?  私が胸焼け・・・って、・・・そんあはずないじゃないですかああ(笑) 写真素材/ミントBlue

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生チョコ気分(溶けやすいから触らない)/VD・3

~キミとチョコレート5題~ ゆったりとした時間に、聞こえた穏やかな寝息。 クッキーだか、ケーキだか、フランソワーズが作っていたお菓子と 同じ甘い香りが彼女から漂ってくる。 「フランソワーズ、あぶないよ?」 あっちへぱたぱたと、走っていったと思えば、こっちへぱたぱたと、 文句をいいながらやってきた。 『あとは待つだけ、冷やすだけ~ぇ♪』 調子が外れた自作のメロディで、うきうきと歌っていたかと思えば、 今は乱れる事のない、静かな寝息を奏でている。 「・・・オオカミがくるよ?」 そっと、忠告する。 彼女のちょっと一休み。が、長い”昼寝”に変わってしまったのは、 1時間ほどまえ。 「襲われちゃうよ?」 ジョーの声に、んん。っと、フランソワーズの寝息が乱れて、彼女の 喉が鳴る。 その声が普段よりも甘えたような高いサウンドを作ったことに、 ジョーの気持ちがぐんっと引き上がる。 L字型をした特注の大型ソファに膝を折って丸くなる フランソワーズの姿はまるで子猫のよう。 「・・・・もう、限界なんだけど?」 はあ。と、深いため息をついた温度の高さに、彼は乾燥してしまっている 空気をゆっくりと吸い込み、意識的に吐き出した。 癖のある髪をぐしゃぐしゃと掻きむしり、そわそわと昂っている気持ちと 躯を持て余す。 「・・・参ったなあ・・・・」 右側にいる小さな自分が、いけ!男だろ!!っと発破をかける。 左側にいる、もう一人は、どれほどフランソワーズが心を許して、 自分を信頼しているかを滔々と語る。 「う...ん・・・・も、少しなの・・・・よ・・・」 「・・・・」 寝言に答えたらいけないと、誰から教わったんだっけ?と、 考えて、左右にいる2人(自分)を追っ払うきっかけにする。 ジョーの膝に支えられているフランソワーズのお気に入りの クッションに広がった甘い蜜色の髪が、頭の位置を動かしたために、 さらさらと流れを変えた。 「もう・・・すこ・・・し」 「何が?」 じっと見つめていた寝顔に変化が現れたことに気持ちが緩み、 思わずフランソワーズの声に答えてしまい慌てて口を手で覆った。 「ん・・・んn」 フランソワーズは眉間にしわを寄せて寝苦しそうに躯を捻ると、 また、元の位置へと戻る。 規則正しい聞き慣れてしまったフランソワーズの寝息がジョーの 耳に届いた。 「ふふふふふ・・・」 「?」 すぐ後に、嬉しそうな笑い声。 ゆっくりと躯を傾けて、フランソワーズにより近づいて覗き込む。 可愛いフランソワーズの寝顔をみているだけ。 それだけの予定だった。 口では色々いっているけれど、まだ、その勇気がない。 「起きないと、・・・襲うよ?」 自分の声を耳にする。 ピンと張られている見えない線を意識する。 切れそうで切れない。 超えられそうで、超えられない。 ちょっと触れただけで、切れてしまうことはわかっているけれど、 簡単に切ってしまってはいけないような、切ってしまった方がいいような。 細くてもろいはずの、線が、最強のサイボーグとにらみあっていた。 「・・・・僕だってさ」 逆さまにみるフランソワーズの耳にささやく。 「男なんだけど・・・。ちゃんと、わかってよ」 覗き込んでいた姿勢をさらに低くしていく。 「最後だよ。フランソワーズ今、起きないと・・・・・・」 ** 「レモンじゃなくて、チョコレート」 「え?」 「よく、キスはレモン味っていうけど、生チョコの方がリアルに 近いと思うんだ。味よりも・・・感触っていうか、質感?」 フランソワーズからもらった(家族みんな同じ)ヴァレンタイン・デーの 生チョコを食べながら、思ったことを正直に口にした。 「なに、急に・・・?」 「ちょっとね」 ひんやりと冷えた箱から、ココアパウダーにからまった、それを1つ つまんで口に放り込む。 唇をかすった柔らかさ。 舌の熱にとろりと形を崩して、さらさらとながれる質感。 「でも、どうしてレモン味なの?私そんなの聞いたことないわ」 「ん~・・・有名な話しだけど?・・・どうしてだろうね」 冷たいのに、溶けていく。 じんわりと熱がしみ込んでいく感覚。 ほんのりとした甘さに、もう一個。 もう少し、もうちょっといるかな、・・・・を繰り返して、箱の中は 空っぽになっていた。 「キスが生チョコっていうのも、ちょっと嫌よ」 「・・・そういうコンセプトのお菓子があるんだけど? ・・・ハーシーズのキスチョコとか、MeltyKissって言うお菓子、 チョコレートだし・・・、じゃあ、何に例えるの?」 「お菓子は、お菓子よ。・・・何にも例えないわ、だって、・・・・ キスは・・・・・その、その人とのキスだから、その人の・・・・、 もおっっ、なんでこんな話しをジョーとしなきゃいけないの?!」 真っ赤になってリビングルームのソファから立ち上がった フランソワーズはそそくさと、まだ重さのあるティーポットを手に キッチンへと向かう。 「フランソワーズ」 ダイニングルームへと続くドア前でフランソワーズを呼び止めた。 「なあに?何かいるの?」 彼女の頬はまだ赤い。 「フランソワーズ、気をつけないと駄目だよ」 「?」 何のこと?と、不思議そうに、首だけをこちらにむけた状態で 少し傾けた頭は、疑問を表している。 「今度から、生チョコレートが好きなオオカミに気をつけてね」 「生チョコレートが好きなオオカミ?」 「そう」 「?」 「フランソワーズなんて、あっという間に食べられてしまうから」 「???」 「今日は溶かさないように気をつけたけど、今度は違うから」 「もお、いったい何の話をしているの?」 ジョーが何を話しているのか飲み込めず、フランソワーズは ぷうっと頬を膨らませながら、自然とジョーの座るソファへと 足が向かう。 「だから、生チョコが好きなオオカミの話し」 生チョコレートがなくなった箱をフランソワーズにむかって 持ち上げ揺らして見せた。 「あんまり油断してると、襲うよ?」 フランソワーズの足が止まり、驚きをしっかりと表した 大きな瞳が見開かれた。と、同時にころころと笑い出した。 「ジョーが?!・・・ふふふ、もお、逆よ、逆!」 「なんで笑うんだよ」 予想外の反応に驚くよりも、眉をしかめた。 「ジョーの方が、私よりも襲われちゃうわ!」 「はあ?」 「ジョーの方が私よりも可愛いもの!」 「可愛い!?」 「ふふふっ。チョコレートが好きなオオカミさんに気をつけてね、 ジョー!!」 楽しそうに、愛らしい笑い声がダイニングルームへと消えていく。 「・・・・・僕が襲われるだって?!」 誰に?! この僕が!? 009なんだよ!? ぱさ。っと、突然ジョーの膝に落ちてきた1冊の薄い冊子。 <・・・・BLッテ知ッテル?> <イワン?!> <最近ノ女ノ子ニツイテ、ヨク勉強シヨウネ!> 膝におちた冊子の絵に、ジョーは絶句した。 Fortune Fate end. *つけたし(溶けやすいから触らない)という副題がついますので、  ・・・手は出せなかったです(笑)    なんだかよくわからないものになってしまいました。  ・・・腐女子な3。  ・・・・・いや、ネタ的にはあったんですよ、隠れBLファンな彼女。  使ってみました。  Photo by ミントBlue

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溶けるくらい見つめて告白/VD・4

~キミとチョコレート5題~ 今日一日で耳を塞ぎたくなるほど、仲間にジョーはどうした? どこだ?一緒にいないのか?などと、フラソワーズは 声をかけられた。 それは、今日と言う日に、日本にいることが原因。 「ジョーはどこだよ、今日もバイトかよ?」 ---そして、おっせかいな鼻を突き出してくる トリのせいっ!! 「私は知りませんっ彼がどこで、何をしようが彼の 自由じゃないっ!」 「逆切れかよっ?!」 ---なんなのよっ。 「今日は特別な日なんだぜ?」 「特別な日なんかじゃないわよっ。ただのチョコレート会社の 戦略よっ商法よっ!!」 包丁を持ったまま、ジェットにむかって勢いよく振り返る。 「あっぶね!」 「ランチの準備をしているときに、話しかけてきたジェットが 悪いのっ邪魔!」 「逆ギレかよ?」 「もっ邪魔よっ」 フランソワーズは再びサンドイッチ用に食パンの耳を 切り落としていたまな板と対峙しつつ、長い影で 自分を背後から覆うジェットにむかって肘を使い ”離れて!”っと主張する。 「まあたサンドイッチかよ?料理がぜんぜん うまくなんねーな?」 「嫌なら食べないで」 4つ重ねた食パンの耳をざん!っと勢いよく切り落とした。 「張々湖はどうしたんだよ?」 「今日はお店の内装の打ち合わせに出るっ言ってたじゃない」 「昼飯の用意くらいして出かけてくれりゃーいいのになあ・・・」 「・・・・・」 パンの位置をくるっとまわして、包丁をあてる。 「ジョーの野郎、最近バイト、バイトで全然いねえしよ」 「・・・・」 張々湖のように、リズムよく切れないことに、苛つきはじめる。 もともと、できないのが当たり前なのだけれど。 「ったく、サイボーグがバイトしてどうすんだっつーの」 「・・・・」 「張々湖のヤツ、オレら(家族)の飯より赤の他人さまの 腹を満たすことに燃えてるっつうし」 「・・・・」 切り落としたパンの耳はちゃんと別で保存する。 かりかりに焼いて、あとで夕食のおかずの何かに混ぜると、 さくさくとした食感がするネ。と、 でかける前にフランソワーズにむかってちゃんと取って おくように言った、張々湖。 「暇だよなー。暇ってこたあ、いいんだろうけどよー、 なんつうか、なまるよなー躯がよっ!! 張りがないっつうか、なんて言うか、戦士としての 感っていうのがよ、・・・」 サンドイッチに使う四角い白を、お皿に載せて 乾燥しないように、ラップをかける。 「よお、ケチらずにがっつりロースト・ハムを重ね・・・」 耳のついた食パンに伸びたフランソワーズの手を 視線で追ったジェット。 その手が、袋の中にあるパンにではなく、ぐわしっっと、 袋をつかんだ。 「もうっうるさいっっっっっ!!」 「うげ!」 振り返り様に、食パンのはいった袋を振子の勢いを 載せて背後に立つジェットの顔をめがけて叩き付けた。 「なんなのよっ、みんな!たかがバレンタイン・デーじゃないっ。 ジェットのせいよっ」 「いっってーなあっっ!!」 「ジェットが余計なこと言うからっ!」 1週間ほど前に、日本の”バレンタイン・デー”が” 女の子が好きな男の子に告白する日”であることを、 ジェットが夕食の席でジョーに確かめたのだ。 『日本はそうだね。女の子のための日みたいになってるよ。 ・・・アメリカは、みんなの国は違うの?』 ジェットがもたらした日本のバレンタイン・デーについて その後各個人で調べた仲間たちは、何かにつけて、その話題を フランソワーズにふる。 しかも、個人的に。 ジョーのいないところで。 ”気持ちが大切だが、まあ、なんだ。小道具あってこそ 芝居の表現が引き締まる事もあるが・・・、カードもいいが、 想いは口にするべきだぞ” ”キッチンはいつでも使っていいアルから。何か質問アルとき、 遠慮することないネ。24時間いつでも訊くヨロシ” ”・・・甘いのは苦手らしいからな。気をつけろよ” ”出かけるなら、いつでも(ジョーに内緒で)車を出すからね、 どこのお店がいいか相談にのるよ?” ”チョコレートである必要はないらしい。” ”夜ノ時間ダカラ、何モ助ケテアゲラレナクテ、ゴメンネ” ”まあ、・・・無理しなくてもいいと思うが、・・・せっかくの日じゃしのお・・・。 ジョーと出かけたりする予定はあるのかのお?” 「放っておいてよっ!」 「お前のこと心配して言ってんだぜっ」 「余計なお世話っていうのっ!」 ジェットの顔から離れてフランソワーズの手にぶら下がった、 食パンの袋を再び、ぶん!っと勢いづけてジェットにむかって 振り上げたとき、慌てるジェットの背後に飛び込んできた人物を 視界にとらえて、フランソワーズが固まった。 振り上げ来た食パンは、ちゃんとジェットの顔にヒットするが、 1回目よりも勢いがなかった。 「何してるの?」 その声に、ジェットは勢いなく顔面に”あたった”だけの食パンの理由を知り、 フランソワーズの手から、さっとそれを取り上げた。 「よ!ジョー、昼飯が”また”サンドイッチだってさ」 フランソワーズが繰り出した1回目の衝撃をもろにうけた食パンは、 すでにサンドイッチに使えそうもない形に変わっていた。 「邪魔したら駄目だよ、ジェット」 ジェットがまた何かちょっかいを出して、フランソワーズを怒らせたと、 呆れたようなため息をついた、ジョー。 「どこ行ってたんだよ?」 「バイト。早朝シフトだったんだよ、今日は」 フランソワーズはジェットが差し出した食パンの袋を抱きしめるように 受け止めて、くるりと2人に背をむけると、再びまな板と向かい合いながら 耳は想い人の声を追う。 「ごくろーさんなこったで」 「ジェットもする?」 「ばーか、外国人はビザの関係で就労できねーんだよ!」 「・・・・どうとでもなるだろ?」 「オレは自由の国、アメリカ生まれだぜ?」 「それとバイトの何が関係あるんだよ? 「必要ねえことはしねえんだよ!」 「言ってること、めちゃくちゃだよ・・・」 苦笑しながら、ジョーは手にもっていた紙袋をキッチンの カウンター・テーブルにおいた。 「土産か?」 ジェットは軽い足取りで、ジョーがカウンター・テーブルに置いた 紙袋を覗き込んだ。 「土産って言えば、・・・そうかな?全部チョコレートだよ」 「はあ?」 「もらったんだ、ほら。今日はバレンタイン・デーだろ?」 「!」 「ほおおおおっ!?!」 「義理チョコレートっていうやつ。女の子が、まあ、職場や同僚、 お世話になった人に日頃の ”お礼”みたいなので、配る。そういうチョコレートがあるんだよ」 「へえええええええええええっ」 ジェットはわざとらしい大声をあげて、ジョーの言葉に納得する。 「バイトに行ったら、用意してくれていてね。・・・嬉しいけど、お返しの ホワイト・デーが面倒なんだよね・・・」 「ホワイト・デーだあ?」 「?」 「なんだよ、そのホワイト・デーって??」 「2月14日にもらったら、3月14日に今度は男がお返しするんだよ。 知らないの?」 「しらねーっ。ホワイトなんてねえよ!そんなもんっ!」 「え?・・・ないの?」 「初めて訊いたぜ?なあ、フランソワーズ!!」 2人の視線が、フランソワーズに向かう。 フランソワーズの止まっていた手が作業をしてました。と、 言い訳するように慌ただしく動いた。 「え、ええ。は、は、初めてきいたわ!フランスには、ないわ、 ホワイト・デーなんて・・・」 背をむけたまま、フランソワーズは答えた。 「でよお、マジでこれ全部、義理ってやつ?どっかに本気なのが 紛れ込んでんじゃねえの?」 がそごそと紙袋に手を突っ込み、チョコレートを次から次へと カウンター・テーブルに出していく。 「全部、義理だよ。・・・一緒になんかしないって」 フランソワーズは肩に唇を寄せるようにして振り返り、 ジェットの手から並べられていくチョコレートたちを見た。 「!」 「一緒にしたら、失礼だろ?・・・みんなで食べてよ。部屋に戻って ちょっと寝るから、・・お昼ができたら起こしてくるかな?」 最後の言葉は背を向けたままでいるフランソワーズに 向かって投げられた。 フランソワーズは、こくん。と頭を動かしたことで、返事する。 「なんだよ、その言い方っまるでもらったみたいなよっ!!」 「想像にまかせる。ジェットはおしゃべりだからね、サイボーグにだって プライバシーってあるんだよ」 「・・・・・・」 ひらひら、手を振りながら大きなあくびをその場に残して ジョーはキッチンを去っていった。 「よお、どうすんだよ?ジョーのヤツ、モテモテだぜ?」 「どうもしないわ」 去っていったジョーをカウンターテーブル越しに見送ったジェットは、 フランソワーズにぼそっとした小さめの声で話しかけた。 「どうもしないわ」 形を崩してしまった食パンの袋の口をきっちりと閉めて、 新しい食パンの袋をあける。 「”義理”だってよ、フランソワーズ。好きなヤツじゃなくても 日頃の”感謝”を込めて渡すらしいじゃん、オレらにチョコレートあんの?」 「ないわ。・・・そんなの・・・」 ジェットは小さくため息を吐きながら、フランソワーズに近づき 彼女の背中に多いかぶさる形で腰を曲げると、彼女の右肩に顎を のせてささやいた。 「今からでも用意しろよ、みんなと一緒なら別に問題もねえし、 いいじゃんか」 「もおっ!!チョコレートなんて用意する訳ないじゃないっ」 フランソワーズは振り返ってジェットの胸を両手でどん!っと押した。 「?!お、おいっ」 どん!っと、フランソワーズがジェットを押すと、その衝撃に負けて、 ジェットの足が一歩、二歩、と後退していく。 「私はフランス人っ!日本に住んでいるからってっ!どうして 日本式のバレンタイン・デーをしないといけないのよっ!もおっ!! 邪魔しないでっ出ていってっ!!」 どん!っと最後の力強い一突き。 「うわ!」 ジェットはよろけ、キッチンから出てダイニングルームで 尻餅をつく。その上にジョーの持ち帰ってきたチョコレートたちが バラバラと振ってきた。 「チョコレートを食べ過ぎて虫歯になればいいわっ」 #### 昼食が出来上がったと、一斉に”通信”で知らせる。 邸にいる家族たちがダイニングルームに集まってくる。 地下の研究室に籠るギルモアへはダイニングルームにある電話の 内線を使って知らされた。 2つの大皿に綺麗に並べられた、3種類のサンドイッチを好きなように 手に取り皿に載せ、テーブルについた者から食べ始める。テーブルには珈琲、 紅茶、オレンジジュースが用意されており、デザート用のフルーツも、人数分の グラスの器に盛られてあった。 しかしそこには今日の昼食を作ったはずのフランソワーズの姿はなく、 テーブルについた順に、フランソワーズは?と言う声が飛び交った。 そこにジョーがいないことを確認し、1番にダイニング・テーブルについていた ジェットがあるやり取りがあったことを素早く伝えた。 「ジェット、フランソワーズは?」 「知らねー」 ダイニング・テーブルにみんなに遅れる事30分。 「なんで?・・・一緒にいただろ?」 部屋で仮眠を取っていたジョーに昼食ができたと脳波通信で 教えてくれたのは、その場にいないフランソワーズ。だが、その彼女の姿が 見えないことに、ジョーは首をひねる。 「追い出されたかんな、チョコレートと一緒に」 ジョーは半分ほどになったサンドイッチが並べられた大皿から、適当に自分の 食べたいだけの量をのせた。 「チョコレートと、一緒に?」 「てめえのせいだよっ」 ジェットの隣の席につく。 「なんで、ボクのせいなんだよ?」 ジョーの正面に座るジェロニモが、ジョーの分のグラスの小皿に 盛られたデザートを、腕を伸ばして彼の前に置いた。 「てめえがっs」 それ以上は言うな。と、仲間たちがジェット個人に通信を送る。 「疲れたんだろ。あまり料理が得意じゃないからな。 ・・・最近は張々湖に代わって台所に立つ事が多いからな」 話しのトピックをアルベルトが替えた。 「あと少しだね、お店!」 「一番客として、みんなで行く。」 「グレートはどうしたんじゃ?一緒に店か?」 「そうみたいだ。」 「よお、ジョー」 「なに?」 「春にはオープンって言ったよね?」 「もう少し早くなるかもしれん。」 「時期的に店を開けるには、どうなんだろうな?」 「日本の4月は始まりの季節じゃし、いい時期じゃよ」 「義理じゃねえチョコレートはもらったのかよ?」 「「「「「「ジェットっ!!」」」」」」 ジョーにむかって言った言葉を、ジョーではなく、テーブルについていた 全員が突っ込んだ。その声に、ジェットではなくジョーが驚く。 「・・・・何?何かあるの?」 「あんなにがっつり、チョコレートもらってきてよお・・・他のお前と 同じバイトの奴らも同じ量をもらったのか?」 「さあ・・・、知らない。でも、いつももらう量ってあんなものだよ」 「な?!」 さらりと言ったジョーの言葉に、(今までの”経験”から)無言で納得しつつも、 なぜこんな奴がいいんだ?と言う声がギルモア邸のダイニング・ルームを泳ぐ。 「・・・・だいたいバレンタインってこんなもんだよ? みんなは違うの?」 サンドイッチを頬張りながら、立ち上がって軽くなってしまっている 珈琲ポットを手に、使われていないカップへ注いだが、半分ほど注いだところで なくなってしまった。 「・・・・誰か用意してる?」 視線がテーブルについている家族の顔を順に見ていく。 いつもなら珈琲党が多い家族のために、フランソワーズの手によって 予備のポットが常に用意され、なくなるということはない。 「しらん。」 「無精せんで、自分で用意したらどうじゃ?」 「さあな、ないからないんだろう」 「紅茶ならまだたくさんあるよ、オレンジジュースもね、こっちにしたら?」 「フランソワーズはどうしたんだい?」 椅子に座りなおし、家族の言葉を聞きながら、ジョーは半分しかない コーヒ-を飲み、テーブルに着いてすぐに尋ねた質問を繰り返した。 #### フランソワーズは昼食を準備し終えた後にそっと 邸を出ていった。 張々湖が新しい店の準備に外出が増えたついでに、 グレートも同伴することも多く、その帰りに買い出しをしてくるので、 フランソワーズは外に出る機会をなくしていた。 特に買い出し以外での外出を禁じられているわけではないが、なんとなく、 目的なく街に出る事は気が進まない。 「・・・・なんでチョコレートなのよ、バレンタイン・デーがなんなのよ・・・」 徒歩で最寄りのバス停まで15分。 時刻表と携帯電話が表示している時間と比べて駅まで歩くことに 決めた。 途中、バスに追い越されて、徒歩に決めた自分にむかって 腹を立てた。 駅について、券売機の前でしばし考えるが、いつもの街の、いつもの駅までの 切符を購入する。 それ以外の街に自分独りで足をむける勇気がない。 券売機の受け取り口からチューングガムサイズの切符を取る。 それを改札口へと飲み込ませた。 人の波に乗って、ホームへと進む。 「・・・今日は・・土曜日なのね」 日本のバレンタイン・デーについて、ジェットが自慢気に話す前から 知っていた。 偶然手に取ったファッション誌に特集が組まれていたからだ。 いつもはその場でパラパラとめくって終わり。なのだが そのときはなぜか買って帰った。 みんなから色々と個人的に言われたせいじゃないから!と、言い訳しつつ。 ベッドの中で、なんども特集記事に目を通し、おすすめ!っと書かれていた ブランドのチョコレートにたいする評価を読み、その中から選んだお店で、 ギルモア博士に頼まれた用事をすませるついでに、こっそりとチョコレートを 購入したのは、4日前のこと。 買った自分に浮かれたのはお店の中だけで、邸に持ち帰ってから後悔した。 あげて、どうするの? ジョーにこのチョコレートを渡したら、”好きです”って言うことになる。 冷蔵庫に入れることができなくて、部屋の中でも温度が低い クロゼットの中にクーラーボックスを持ち込んでしまい込んでいた。 その日から、こころが重くて。 意味もなく、”バレンタイン・デー”と言う言葉に過敏に反応する 自分が嫌で、イライラした。 たかがチョコレート。 お菓子会社の商業戦争にかこつけたイベント。 軽く考えてればいいだけなのに。 4日前に購入した店名が、プリントされれいる紙袋に入ったチョコレート。 フランソワーズはそれを持って邸を出てきた。 ジョーが持って帰ってきたチョコレートの数にも驚いたが、自分が 購入したものよりも高価なチョコレートのブランドがいくつか混じっていた (女性雑誌でリサーチ済み)のがショックだった。 そして、今、手に持っているのとまったく同じチョコレートが、あった。 用意した本命チョコレートと、同じ義理チョコレート。 「・・・・値段とかそういうのじゃないってわかってるわ、でも・・」 その中にはジョーに”本命”として渡されたチョコレートは 含まれていない。 彼は別にあるようなことを、ほのめかした。 ---もらったの?・・・受け取って、なんて答えたの? ・・・・・・・・・誰からもらったの? 『全部、義理だよ。・・・一緒になんかしないって』 『一緒にしたら、失礼だろ?』 「どんなチョコレートをもらったの?」 ---手作り?とても高価なチョコレート?それともジョーには、 どこかにお気に入りのメーカーとか、好きなチョコレートが・・・。 ほどよく人がいる電車内。 心地よい揺れが座るシートから感じる。 膝の上においた紙袋を見つめて。 ただ、見つめて。 気がつけば、降りる予定であった駅を通り過ぎ、初めて”終点の アナウンスを訊いた。 初めて降りた駅で見つけたゴミ箱へと持っていた紙袋を中身と一緒に捨てた。 小さな駅の改札口から出ることもなく、そのまま折返しの電車に乗った。 同じ揺れを感じながら、流れ行く景色を見る。 結局。 ---私はいったいどうしたいの? #### 「・・・・いない」 昼食後、フランソワーズの部屋のドアをノックした。 何度も。 人の気配がドアの向こう側に感じられないために、2、3回のノックで 自分がしていることの無意味さに気づいていたけれども、それでも、 ドア前に立ちノックを続けた。 キッチンはもちろん。 庭、ダイニングルーム、リビングルーム、ゲストルーム、客室、地下、 夜のイワンが眠っているコモン・ルーム、地下、メンテナンス・ルーム、 書庫、書斎、ドック、整備室、ギルモア邸から少し離れた場所にある車庫、 フランソワーズが散歩する海岸、バス停、どこにも、彼女の姿はない。 最後にもう一度戻ってきたフランソワーズの部屋前で、深くため息をついた。 「珍しいね、フランソワーズが独りで外出なんて」 1階の階段を上ってきたピュンマはジョーの姿を見つけて話しかけた。 「どこかにでかけるって訊いてる?」 ジョーは階段を上ってきたピュンマにむかって尋ねながら、自分は リビングルームに戻ろうと、階段を降りる。 「訊いてないよ。・・・・子どもじゃないんだし、夕食前には戻って くるんじゃない?」 「・・・・・・・夕食前に戻る方が子どもじゃない?」 2人の足が、止まる。 「心配?それとも、何かフランソワーズに何か用事があるわけ?」 「うん・・・ちょっとね」 何かを悟られたくないのか、ジョーは長い前髪に表情を隠した。 「ジョー」 「なに?」 「フランソワーズから、チョコレート欲しい?」 「・・・・・・・」 ピュンマのはっきりとした言葉に、ジョーはたじろぐ。 「義理チョコだったとしても欲しい?」 無言のまま躯の階下にむけて足を一段下におろした。 「・・・・・欲しいよ。でも、彼女は日本人じゃないし、日本に住んでるからって 日本のバレンタインじゃなくていいと思うから」 だだだっっと背後で駆け下りていった音を訊きつつ、ピュンマの頬は緩む。 「日本のバレンタインじゃないバレンタインを、ジョーはするって ことかなあ・・?」 #### リビングルームに置かれた、ガラス作りの巨大な楕円形のローテーブルの 上に、にぎやかな色が散らばっていた。 「アイヤー・・・もてもてアルネ・・・あんさん、どこで買ってきたアルか? 寂しい男ネ」 「は?!ジョーだよっジョーがもらってきたんだよっこれら全部っ!!」 「うはあ・・・これ、高いぞおお、な?!もうないのかっ!!」 「悪ぃ、とっとと食っちまった、うまかったぜ、それ」 「全部食べたアルか?!」 「オレだけじゃねえって、いくつか他の奴らもつまんでったぜ」 「ジョーのだろう、ジェット食っていいのかい?」 「あ?義理チョコだからよ、みんなで食ってくれって言って置いてったのは ジョー自身なんだから、いいんだよ」 「でも、ジョー宛だろうよ?」 「いいんだよっ!手伝えっまだ少し残ってんだよっ」 「・・・あいやあ、あんさん、舌はしっかりしてるアル・・・高いのばっかり先に 食べたネ」 よっこらっしょ。っと、口癖になった台詞と一緒にソファに腰を下ろした グレートは、テーブルの上にり出されている、箱を美しく飾っていたのであろう ラッピングたちの残骸を手に取ってしげしげと眺めた。 「なんで必死に食ってんだ?」 「こんなもんがあるから、ったく!」 「そういえば、フランソワーズはどうしたネ?夕食の下準備を 頼んでおいたアルのに・・・」 張々湖は腰を下ろすことなく、キッチンへとむかう。と、彼の悲鳴のような 言葉が聞こえた。 「なにアルか?!なんで昼食の片付けされてないアル?!食器洗いどころか、 テーブルから下げられてもないネっ!!」 「だってよお、フランソワーズがいねえんだ」 口の端をチョコレートでよごしたジェットが、張々湖ではなくグレートに 肩をすぼめて言った。 「で、ジェット。これを全部処理したらいいのか?」 「とにかくよ、フランソワーズの目に留まんなきゃいいだよっ」 フランソワーズがいない。 ジョーが持って帰ってきた大量のチョコレート。 今日はバレンタイン・デー 必死に食べて証拠隠滅?しているジェット。 何があったかは、長くつきあっているからこそなんとなくわかる。 「・・・・・・だからって、お前の胃に納めんでも・・ああ、ああ、 これなんて、・・・ジョーのヤツ、わかってんのかい?こんなバカ高い チョコレートを”義理”でくれるわけないだろうに・・・・」 テーブルの上に散らかされたラッピング類を足下に落ちていた紙袋に 放り込みながら、それらのメーカーを見ては、グレートは呆れたように ため息をついた。 「おお!そいつはすっげー、ばか旨だったぜっ!!」 「・・当たり前だ・・・・・、ジョーのやつ、これを”義理”って言ったのか?」 「ああ、言ったぜ。グレート、義理チョコって知ってんの?」 「知ってるさ。・・・・・・・こんな高価なものが義理なはずないだろう?カードとか、 そういうのはなかったのか?」 「知らねー、みてねえよ」 「その辺はしっかりしてるなあ・・・」 「高かろーが、安かろーがジョーにとっては義理なんだろうぜ」 「・・・王子は姫からのを待っていると、言う事か」 「けどよ、フランソワーズ、用意してねえってよ!」 「だがな、ジェット。女の子からのチョコレートは今や古いんだぞ?」 「?」 #### 「ただいまあ!」っと、元気な声がギルモア邸に戻ってきた。 「張大人、ごめんなさいっ私、夕食の下準備どころか昼食の 片付けさえも・・・」 帰ってくるなり、ばたばたとキッチンに駆け込み大きな箱をぽん。っと キッチン・カウンター・テーブルにおいた。 「心配しないでいいアルヨ!まずは手を洗って、うがいしてくるヨロシ、 もうすぐできるから、ゆっくりしてるいいネ」 「張大人、冷蔵庫にいれておいて!デザートを買ってきたの、配膳を手伝うわ」 「ありがとネ」 フランソワーズがバスルームに向かう後ろ姿をちらりと視線だけで見送った後、 彼はどこにいるのかわからない末弟にむかって脳波通信を送った。 <フランソワーズが帰ってきたアルヨ!バスルームにいるネ> 返事はなかった。 張々湖は返事がかえってくるかどうかなど期待していはなかった。が、 フランソワーズがなかなかバスルームから戻ってこないことが返事となった。 ジェロニモが配膳を手伝い、すっかり夕食の準備が整って家族たちに 通信と内線電話を使って夕食の時間だと伝えた。 「なんじゃ・・フランソワーズはどうした?昼も食わんで、夜もか?」 ダイニングテーブルについたギルモアの言葉に、家族たちは、 そこにもう一人姿が見えない人物の席に視線を送ると、にやにやと笑い合った。 「イワンのミルクを忘れないようにしないとネ・・・」 #### 手洗い、うがいを済ませてバスルームから出ると、そこにジョーがいた。 フランソワーズはびっくりして、ばたん!っと、バスルームのドアを閉めた。 「・・・・」 こころの準備ができてない。とは言わないが。 まだフランソワーズの中ではジョーに会う予定ではなかった。 その上、バスルーム前にいた彼の様子は一瞬しか見ていないが、 まるで自分を待っていたかのような?まさか!と。パニックに陥る。 ドアノブを固く握りしめた状態で、フランソワーズはドア向こうからの ノックの音を聞いた。 「フランソワーズ?」 冷静を取り戻そうと、深く深呼吸をする。 そうだわ、ジョーはバスルームを使いたかったのよ!と、自分に言った。 「ご、ごめんなさい!」 ゆっくりとドアノブをまわして、バスルームのドアを開けた。 「おかえり、フランソワーズ」 「・・・・・ただいま」 フランソワーズはバスルームをジョーに譲かのように、廊下の壁に 肩をひっ付けてキッチンへ向かおうとするが、その足をジョーが 話かけることによって止める。 「どこへ行っていたの?」 「あ・・・ええっと、・・・・・・・んっと、あ、チョコレート・ケーキ! チョコレートケーキを買いにっ。ほら、ね?ジョーがたくさんチョコレートを もらってきたでしょう?それで、ああ、バレンタイン・デーなのね!って・・・ せっかか、かく、んっああ、っと、せっかくだから、私から みんなにって、思って、思い立ったら即行動で日本語で良い日d」 「思い立ったら吉日?」 「そう!ええ、それ!!だから、チョコレートケーキを買ってきたのよ! デザートにいただきましょうね!!」 妙にテンションが高く、早口に話すフランソワーズをじっと、見つめるジョー。 「ね、楽しみだわ!・・・あ!たくさん歩いたから私すごくお腹空いたわ!」 「・・・・お昼ご飯、食べてないからだよ」 「え、あ、そうね、そうだったかしら?チョコレートケーキのことで頭が いっぱいだったのね、私!そう、忘れてたの、お昼の後片付けも、 忙しい張大人にかわって、がんばるって言ったのに、駄目ね、私ってば ・・ほんと、駄目ね!」 「・・・昼に出かけて・・・ケーキ1つ買うのに、こんなに時間がかかったの?」 「s、そうっそうなのっ。いざ買おうと思ったら、あの、・・・たくさんっ! バレンタイン・デーだから、たくさんあって、どれがいいか迷って、 それで、色々なお店を見て回って、あの」 だんだんフランソワーズの声が小さくなっていくのに比例して、 少しずつ横へ、横へと、キッチンの方へと躯をずらしていく。 じっと、まっすぐに見つめてくるジョーの視線に耐えられない。 彼の瞳をみることができない。 話している間、フランソワーズの視線は落ち着かず、あっちこっちに 忙しなく泳ぎ、足下へ落としたことで、泳ぐことを止めた。 「ケーキって、みんなへ?」 「え、ええ・・大きいのを、とっても大きいのを見つけたのよ、 落とさずにもって帰るの大変だったわ!」 「ふうん・・・」 「あ。あの、ジョー・・・わ、私、配膳を手伝うから、い、行くわね」 「どこへ?」 「き、キッチンよ」 「どうして?」 「お手伝いのために」 「フランソワーズが手伝わなくても、誰かがするよ」 ジョーはじいっと、まばたきすらも忘れてしまったかのように フランソワーズを見つめた。 「そ、そういう、わけには・・私、お昼の、後片付けも・・・」 なんとかジョーの視線から逃れられないものかと、頭を働かせるが、 フランソワーズの脳内を駆け巡るのは、駅のゴミ箱に捨てたチ ョコレートのこと。と、ジェットがジョーが持ち帰った大量のチョコレートたちから 取り出した、フランソワーズが購入した同じブランドのチョコレート。 2つの写真がスライド・ショーのように交代に浮かぶ。 捨てたチョコレート。 受け取ってもらったチョコレート。 同じブランドの、同じお店のチョコレート。 自分が捨てた。 勇気がなくて、怖くて、でも、普通の女の子たちと同じようにしたくて。 ジョーが持ち帰ってきたチョコレートの1つになりたくなくて。 その1つにさえもなる勇気がなくて。 変なプライド。 意地のようなもの。 勇気どころか、拗ねただけ。 ヤキモチを焼いただけ。 馬鹿みたい。 ホールのチョコレート・ケーキを買った。 みんなへの日頃の感謝の気持ちを込めて。 その1ピースが、ジョーに配られる。 それだけでいい。 それが今の自分。 大きなケーキの切り分けた1つ分の、チョコレートケーキの関係。 「・・・・フランソワーズ」 「私、お手伝い」 「泣くほどにお手伝いが嫌なのにするの?」 「・・・・・・・・・」 ジョーの言葉に、ふっと口元で笑みを象ったが、溢れてくる涙は止まらない。 「ごめんなさい、私、ちょっと・・・」 「どうしたの?」 ジョーの声が耳に届くと、チョコレートを捨てた瞬間を 思い出す。 軽くなった手。 ほっとした、気持ち。 これで、自分の気持ちをまだ打ち明けなくてすむと、 思った瞬間の情けない自分。 私はジョーへの気持ちを捨てた。 たかがチョコレート。 されどチョコレート。 「フランソワーズ?」 ぼろぼろと落ちる雫を拭うことも隠すこともせずに、視線を 足下に落としたまま。 「どうしたんだい?なんで泣くの?」 優しい言葉が鋭い棘にかわってフランソワーズの胸を刺す。 「や!!」 フランソワーズは自分にのばされたジョーの手を、振り払った。が、 ジョーはそんなことはおかまないなしに、手をのばした。 「泣くなよ、・・・フランソワーズを泣かせたのは、ボク?」 「ちが・・・」 触れられた頬。 拭われる、涙。 「フランソワーズに渡したいものがあって・・・待ってたんだ」 ジョーの手が離れる。 そのままどこかへ消えてしまいたい。と、なぜ、自分には加速装置が ついてないのかと、ジョーを目の前にして、フランソワーズは唇をかんだ。 「・・・ハッピー・バレンタイン・デー・・・・」 ごそごそと、ジョーはジーンズのポケットに突っ込んでいた、 手のひらにのる小さな長方形の箱を取り出すと、フランソワーズの手を取り、 それをのせた。 「珍しいんだって・・・ローズ・ジャムのトリュフなんだ。もっとたくさん 買いたかったんだけど、でも、ほとんど売り切れていてさ、一番ちっこいのしか なかったんだ。ここのお店はチョコレート・トリュフで有名だって教えてもらって」 「・・・・」 「その、・・・日本は女の子の、ためにだけど、フランスは違うんだよね?だから、 別に、男のボクからでも、おかしくないと思って、・・・・ほら、最近日本でも ”逆チョコ”とか言うし、・・・知らないかもしれないけど」 ジョーの声がどんどん遠くなっていく。 手のひらにのせられた、チョコレートの箱。 オールドローズ・カラーの箱に焦げ茶色のリボン。 リボンにプリントされたお店の名前は、フランソワーズが 忘れることができない店の名前。 捨てたはずのチョコレート。が、戻ってきた。 「・・・・・・同じの・・」 「え?」 小さな2粒のローズジャムの・トリュフが入った箱を両手に包み込んで ぎゅうっと胸に抱いた。 「ありがとう・・・嬉しい、・・・・・・すごく、嬉しい」 「よかった・・・」 二人の視線が1つのになる。 じっと見つめて。 お互いの思いを交換する。 「でも、・・・私は・・・・・・何も、なくて、ごめんなさい・・・」 「いいよ、・・・別に何も、いらない」 熱く見つめ合う視線に、お互いの瞳にうつる自分を 確認できるほどに近づいて。 「もう、泣かない?」 こくん。と、ジョーの言葉にうなずいた。 「・・・ボクの気持ち、わかってくれたかな?」 素直に、首を傾げたフランソワーズの仕草に、苦笑した。 Fortune Fate end. *告白シリーズは得意なはずなのに(笑)めっちゃ苦労した! あと、・・・切ないブームが終わったらしい(笑)+私って3からの 告白ってかけないのかも?!っと、ちょっと思ったのでありました。 (今まで書いたの全部9から?かも・・・。なんで?) ちなみに、この後ちゃんと”好き”って言うのに、 ものすごーく苦労する9なんです。 なので、夕飯食べてる暇なかったのです・・・ってことで。 Photo by ミントBlue

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Violet
朝起きてすぐにシャワーを浴びる。
少し熱いかな?くらいの温度で。

ユニットバスの洗面台下の扉にしまってある、それらを彼が観たときに、『え?!何これ、・・・たかがシャンプーなのに?!』と、言った”特別な”のを出す。

いつもは、こっちが困惑してしまうようなお金の使い方をするのに、細々とした日常品には、いちいち値段をチェックする彼が、愛しくて、思い出すたびに笑ってしまう。

幸せに胸がいっぱいになる、瞬間。



ポンプ式じゃない、その彼をビックリさせたボディ・ソープを開けると広がる香りはヴァイオレットの香り。
ディプティークの薔薇の香水も、キャンドルも大好きだけど、今日は・・・・。


石けんも、シャンプーも、リンスも。
ルーム・スプレーも、昨日焚いたキャンドルも、ヴァイオレット。




胸いっぱいに吸い込むと、なんだかむずむずと胸をくすぐる。
いつもと違う香りに着替えて、いつもと違う自分をつくる。



気づいてほしくて。
気づいてほしいの。

気づいてくれるかしら?
気づいてくれないとイヤよ?






バスローブに身を包んで。
ドライヤーでしっかり髪を乾かす。
そのままホットカーラーを使って、毛先を内側にカールさせる。

化粧水用パックを貼付けて、バスルームを出て、昨日から決められないコーティネートをおさらい。

再びバスルームの洗面台前に戻って、ぺろり。とはがれたそれを捨てて、たっぷりクリームをつける。
ホットカーラーをはずして、ヘアスプレーを。

ぱたぱた。っと、スリッパがなる。



あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。


化粧台の前に座って、ふう。と一息。
決まらない今日のコーディネートに少し苛々して、鏡に映った自分に駄目!っと、声をかけた。


ベッドの上に置かれた充電中の携帯電話が視界に入る。
化粧台のチェアから立ち上がって、それを手に取ってベッドの上に腰掛けた。

髪は予定通りにちゃんとできたから、寝転がることができないので、ちょっと残念。



携帯電話のスピードダイヤル。
ボタンを押して、耳に押し当てる。


3回目のコールで、出てくれた親友。


『ちょっと、今何時よ・・・・』
「朝の7時よ!おはようございます、香奈恵さん!」
『・・・・なあに?こんな早くっ・・・・・』
「決まらないのっ・・・ねえ、一昨日一緒にお買い物したときの、ブラックアンティークレースに、チャコールニットアンサンブルのと、シルク素材のピンクのアコーディング・ブリーツスカートを合わせたのに、ジョーが買ってくれたピンクパールとダイヤの四葉のデザインのを合わせたのか・・」
『靴は?・・・・ふああ・・・』
「ピンクのパンプス」


ベッドから立ち上がり、充電用のケーブルを抜いてクローゼットへと向かう。


『あんた3つくらい持ってるでしょ・・?・・・・・・なによ、まだ決めてなかったの?』
「トウが見える、ストラップの、薄いピンクの・・・。それと、ね。やっぱり、この間ジョーが」
『・・・島村っちはいいから!あんたが好きなの着なさいよっ!おやすみなさいっ!』
「あ!あ!ああっんっ!!待って、待って!切らないでっっ香奈恵さんっ!!お願いっ助けてえっ」


両手で携帯電話を握りしめる。


『・・・・ったく、そういうのは、弟に聞いた方が確実よ?』


クローゼットの扉にかけてある、ニットワンピースを手に取る。


「・・・大地さんに?どうして???」
『フランソワーズ・マスターじゃない!』


ふふ。と、口元だけでフランソワーズは笑った。


「違うわ、ジョーの方がマスターよ?」
『弟よ、島村っちは、夜のマスターでしょ?!昼間は弟の方がマスターよ?あんたに何が似合うか、よくわかってるのはあっち!』
「まあ!香奈恵さん、それはジョーに失礼だわ!ジョーだって・・・・」
『島村っちだって、何よ?どうせあのヘタレのことだから、”生まれたままのキミがいい”なんてぬかすんでしょっ!』



---ジョー・・・読まれてるわよ?・・・・可愛いわ!




『今、島村っちのこと、可愛いとか思ったでしょ?』
「まあ!香奈恵さんってエスパーなのっ!!」
『・・・・おやすみなさい』
「いやあんっ!ごめんなさいっ・・・香奈恵さん、ニットワンピースがあるの、躯の線が出過ぎるような気がして・・・・、まだ袖を通してないの・・・・」


ベッドから立ち上がり、あけられたままのクローゼットの中を探る。
右肩と、右耳に携帯電話を挟み、落とさないように気をつけながら、香奈恵のアドヴァイスを聞く、フランソワーズ。



『ああ、あの焦げ茶色の?ハイネックで、同じニットで花が首元に飾ってあるやつよね?半袖だっけ?』
「ええ、半袖の」

クロゼットの内側に貼付けてある鏡の前でまだ一度も袖を通していないニットワンピースを合わせてみる。
フランソワーズが選ぶものにしては、色がシックで、大人びた感じがするが、花の作りがとても愛らしく、購入したもの。


『いいんじゃない?脱がせやすいし』
「香奈恵さんっ!」
『!・・・怒鳴らないでよっ、あんたたちは”それ”しかないでしょ?』
「そんな言い方しないでっ。いやらしいわ、香奈恵さんっ私とジョーはっっ」
『はいはい。で、下着はどれつけてんの?』
「ジョーが、お誕生日に間に合わなくてごめんって送ってくれたのを・・・・」
『脱がされる気満々ね!』
「香奈恵さんっ!!だって、せっかくプレゼントしてくれたのよっ、見せなくちゃ!」
『そして脱がしてもらわなくちゃ!でしょ?』


電話口から香奈恵の笑い声が、フランソワーズの鼓膜を盛大に揺らした。


「もうっ!意地悪っ」
『ニットワンピの下に、薄い白のぴったりした長袖を重ね着するかしたら?黒はやめときなね。直接ニットワンピを着た方が可愛いわよ、きっと。ニットの花がでかいあkら、アクセはいつもしてるので十分でしょ。丈が短かったように思うんだけど?』
「ええ、膝上・・ミニより心持ち長い感じよ」


細長い全身鏡の前に立ち、躯を左右に捻るように動かす。


『下はレギンスでもいいんじゃない?でも、脱がせるには色気ないから、素足か、カラータイツでロンブーね』
「タイツもなんだか・・・。ストッキングは?」
『膝丈のニットにストッキングはないわ!あり得ないっ。まあ・・・ビリビリ破くのが島村っちの趣味なら、履いておいたら?』
「そっっそんな趣味っ・・・ジョーにはないわっ」
『あら、意外とストッキングって男のロマンが詰まっているもんよ?試してないの?』
「・・・そうなの?」
『知らないのおお?!・・・可哀相に、島村っち・・』
「あの・・こ、今度!今度ね?い、今はそれよりっ」


フランソワーズの慌て具合に、にいっと意地悪く香奈恵の大きな口の口角が左右にひっぱられた。


『ニットの色と同じ色っぽいのアンタ持ってたでしょ?ブーツ。かかとの高いの。それで、明るい色のコートにしておきなさいね。3色内にまとめなね』
「じゃあ・・このニットに決まりね・・・コートは・・・、あの少しダークな水色のでいいかしら?」
『いいじゃなああい!NYのMarie Belleのチョコレート、好きよ♪』
「あ、そういうイメージにするわ!ふふふっ。あそこのチョコレートは私も好きよ」


手に持っていたニットワンビースを、ベッドの上に置く。
続けてクローゼットから、空色のコートを出した。

ダッフル・コートなので、少し子供っぽいが、袖がバルーンになっているので、よしとする。
クローゼットの中にある、籐で編まれたカゴが引き出しになった4段のタンスから、ロング・グローブを取り出した。

バルーンになっている袖口は、寒いので、肘までの長さのt袋は欠かせない。


「香奈恵さん、手袋・・・色が白と、グレート、ブラウン、ピンクしか、私持ってないの」
『待ち合わせはどこよ?』


フランソワーズはバスローブを脱いで、ジョーが送ってきてくれた、彼女のお気に入りのヨーロッパ・ブランド(日本未上陸)の下着姿になった。


「いつものホテルよ」





本当は、たった3日間だけのオフなために、どうスジュールを遣繰りしても、日本へは帰ってこられないはずだった。けれど、ちょうどイワンが昼の時間であったために、彼に”ちょっとだけ”助けてもらう。

もちろん、それを提案したのはジョーだったために、彼とイワンの間でどのような取引があったのかは、フランソワーズは知らない。





週末や、オフのときはジョーは独りで遠出に出ると、周りに言っているらしい。
彼の趣味は”一人旅”となっているから、都合がいいようだった。
なので、彼の姿が見えなくなっても問題ないと言う。


まさか、彼が日本にいるなど、誰も想像できないだろう。







F1チームの公式サイトの短く簡素なプロフィールにある、彼の趣味の欄も同じ内容。

趣味/独り旅。


カフェ・Audreyのテーブルで、香奈恵が初めてジョーのが所属するF1チームの公式サイトを見たときの感想は・・・。

「なんで”ヘタレ”って書いてなのよ!あと、泣き虫で、フランソワーズ・オタク・・・ああ、それは弟ね!何これ?!全然仕事できてないじゃないっ!!私がしっかりみっちりびっしりがっちり書き直してあげてよ!!」だった。


それは、去年のこと。








『じゃあ、タクシーで直じゃない。足りないのは、島村っちに買ってもらえば?どーせ、服とか持っていかないんでしょ?』
「だって、ジョーってば・・私が荷造りしたバックを持ってるの、嫌がるんですもの・・・困るのよ?外泊する度に、新しい服を購入なんて・・・」
『変よねえ。なんで?理由があるわけ?』
「怖いんですって。私がそうやって荷物を持っているでしょ?自分が去った後も、荷物があるからどこへでも行けるって。そのまま自分が知らないところへ私が行くかもしれないって、想像してしまうから嫌なんですって・・・・。一緒に荷造りして、一緒にでかけて、一緒の場所に帰るなら、いいですってよ。んふっ♪可愛いでしょう、ジョーって」
『バカじゃないの?・・・いいヘタレっぷりねえ、相変わらず!!』


くすくすと笑いながら、フランソワーズは再びベッドに腰を下ろして、左足を右足にのせて足を組み、香奈恵と一緒に通うネイル・サロンで手入れをしてもらい、綺麗に塗られた(ラメ入り)パールカラーのグラデーションのネイルがほどこされた、足先をチェック。

指先も同じように、マニキュアが塗られているが、左手の薬指の爪、ヌルーラの部分ににだけハート型のストーンを中心にしてティアラのような飾りがつけられていた。


「シャワーも浴びたわ、今日のためのフルコースよ。それで・・髪はセットしたでしょう。お化粧はしないの。軽くルージュと、グロスで・・・。ネイルも大丈夫、お洋服も決まったし。・・・これで完璧(パーフェクト)だわ!ありがとう、香奈恵さん」
『この礼はわかってるんでしょーね?』
「ええ、もちろん!ジョーにおいしいワインを買ってもらうわ!!」
『おおっ!!成長したわね、フランソワーズっ!使えるものは使う!男の使い方、わかってきたじゃないのおおっ(喜)」
「も!違うわ、ジョーのことだもの・・・・。今日のコーディネートを可愛いって言ってくれて、私が香奈恵さんに手伝ってもらったの。って言えば、そうなることになるんだもの」
『ああっもーーーーーーーーっ、いいから、とっととホテルでもどこでも行って、抱かれてなかった日数分、たああああああっぷり愛されてきなさいな!!終わったらまた電話ちょうだいっおやすみ!』
「あら、二度寝なさるの?香奈恵さん、今日デートは?バレンタイン・デーなのよ?」
『あるわよ!デートっ。誰がこんな朝7時からデートの用意なんかするのよ!?恋人たちの時間が早くても午後6時からよっ!!』
「・・・・午後5時じゃなくて?」
『女には準備ってのがあるでしょ?』
「デートの本番は6時から?だから、準備時間の午後5時からは含まれないのね?」
「そういうこと!ったく、なんでこんなに朝早くに会うわけ?」
『本当なら、2月14日に日付が代わった瞬間かr・・・』



ぱさ。と、手から携帯電話がベッドの上に落ちた。

香奈恵のフランソワーズを呼ぶ声が聞こえる。








約一ヶ月ぶりのキスに、夢中になる。

触れられた柔らかさに。
口内を泳ぎ合う、大胆さに。







キスをしながらも、フランソワーズの手が、落とした携帯電話を探しだし拾うったけれど、その手首をつかまれて、誘導される。



『フランソワーズ?!ねえ、ちょっと?!何?!どうしたのっ???聴いてる?!フランっこらっフランソワーズってばっ!!!寝ちゃったの!?』



キスで塞いでいたくちびるを離し、ジョーが、フランソワーズの手に拾われた携帯電話に耳をくっつけて答えた。


「朝から、元気だね・・香奈恵さん、おはようございます」
『ヘタレっち?!』
「今から、俺だけの彼女だから・・・・また、後で連絡させます・・」





香奈恵の返事を聴くこともなく、ジョーは携帯電話から耳を離して、通話を切る、ボタンを舌で押した。



「ホテル・・・」


そのまま、携帯電話を持つ、フランソワーズの指に舌をはわせる。


「チェック・インは夕方でいい」


ゆっくりと、手首へと移り、肘の裏へと上って。


「ど、う、し・・・て?」


二の腕部分で、きつく吸い上げてキスマークをひとつ。


「ん?・・・間に合わせたかったから・・・」


そのまま肩についばむよなキスで上っていく。


「間に合わせる?」


フランソワーズのいつもと違う香りに気がついたとき。


「いい香り・・・がする。いつものじゃないね?」
「!」


ジョーは彼女の首元に、唇を寄せて、ゆっくりとフランソワーズの背をベッドの上に載せた。


「・・・・新しい?違うな・・・」


くるりと、カールされて、いつもと少し角度の違う輝きを放つ蜂蜜色の髪が広がる。


「わかるの?」


ジョーは指にフランソワーズの髪を絡めながら、彼女の額にキスをひとつ。


「わかるよ・・・。特別なときしかつけないの、だろ?」


携帯電話を手から離し、両手をジョーの首にからめて、ゆっくりとその手をジョーの背をなでるようにして降下させていく。


「そうよ・・・」


ジョーの唇が、瞼に落ちる。そして、両頬に彼の唇の感触を受け止めた。


「あの日と同じ香りがする・・・」


ゆっくりと下降した、フランソワーズの手が、ジョーの背から、彼のウェスト部分へとたどり着く。


「同じなの・・・」


彼女の手が、ジョーの着ていたTシャツの中へと進む。と、ジョーは躯をフランソワーズから離し、着ていたTシャツを脱いだ。



「ヴァレンタインだから?」
「それも、そうだけど・・・」



脱いだTシャツが、ジョーの手を離れてフローリングの床に落ちる。



「似合ってるよ・・・それ」


ベッドに横たわる、自分がプレゼントした下着だけを身に着けたフランソワーズを見下ろす。


「やっぱり、脱がせるために、くれたの?」


左の指先で、フランソワーズのウェスト横をなぞり、フロントホック部分へと移動させた。


「そう・・・。当たり前だろ?」


2つのホックが縦に並んだ、それを、つまんで、片手で外す。


「今日、これを着て正解だったのかしら?」
「正解だ、よ」


フランソワーズの両腕がジョーへと向かって、すらりと、まるで踊りの振り付けのように、のびた。


「今日は特別な日だからね・・・」


ジョーの腕が、伸ばされたフランソワーズの腕と交差する。




「初めて、ジョーを私の中で感じたわ・・」
「キミを、俺だけのものにした日、・・・・・手に入れた、のは、今日」






お互いを求めて。
お互いの腕を伸ばして。


お互いの体温を直接素肌感じあい抱きしめ合った。










「ジョー・・・愛して・・・」





日本とイギリスの時差、マイナス9時間。






「焦らなくていいよ・・・・・・まだ、向こう(イギリス)は13日にだから・・・」



















2月14日


ヴァレンタイン・デー。



フランソワーズが用意した、2粒だけのチョコレート。



その一粒を、ジョーはフランソワーズの目の前で食べた。


「甘いのとか、好きだろ?」


そして、震える手で、最後の一粒を、フランソワーズのくちびるに挟ませた。


「それ、俺が食べたのと、違う種類だよね?」












解け合ったチョコレートの

甘さと

苦みに

絡めた



舌触り。






解け合う、想い。

解け合う、躯。

解け合う、感触。

解け合う、熱。






繋がったために、初めて感じた


切なさ

と、

愛しさ。


















「ジョー・・・愛して。もっと・・・愛して・・・・。もっと、もっと・・・あなたを感じさせて。ここに、あなたがそばにいなくても、あなたを感じられるように、私の中に、あなたを残していって」


「愛してる、フランソワーズ・・・。愛してる・・・」


「いやっ・・・・・離れないでっ・・・まだ、まだ駄目・・・」











「離れない・・・、離れられないよ・・・・、キミから離れられるわけ、ない・・・・・」
「ジョー・・・っ」













「キミを手にいれた日から、俺が帰る場所は、ここしかない・・・・フランソワーズが、俺の還る場所・・」
「ジョーだけのものよ・・・・、私の全て、あなただけのもの・・・・ジョーのものよ・・」













「俺の、・・・フランソワーズ・・・・・・」
「愛して、・・あなただけの私を、もっと、愛して・・・・・・・愛してるわ、ジョー」


















end.

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待ってたってアゲナイ/VD・5

右も左も。上も下も。
電車の中もデパートも、スーパーも、コンビニエンスストアも!

どこもかしこも、”バレンタイン”だった。





「・・・日本って本当にイベントにかける勢いっていうか・・すごいです
ね」
「普通よお、フランスは違うの?」
「あ!知りたい!」


通い始めた週に1度のお料理教室。
半年と受講期間が決まっているため、都合いい。

お店を始めた張々湖が忙しく、ギルモア邸の台所は当番制となったが
どうも上手くまわらない。料理以外の家事一般は、ほぼフランソワーズが
こなしているが、料理だけは・・・・”得意”ではない。

それなりに、簡単なものなら問題ない。
けれど、『それなりに簡単なもの』で毎日すませられないのが、大家族で
ある。


「日本みたいに、告白する日。じゃないくて。パートナーがいる恋人たち
のための日なんです」


選んだ受講コースは、結婚秒読み。花嫁修行。そろそろ周りがうるさい
の!など、”妙齢”の女性たちが多く、フランソワーズはその中で最年少、
フランス人。と、言う事もあって、妹のように同じコースを受講する女性
たちからかわいがられていた。


「恋人たちの日ねー。それってシングルには辛いわ!」
「フランスでは、シングルの人は全く無関心かしら?」
「気持ちわかるーっ!!」


授業で作ったものは持ち帰りOK。
その場で食してもOK。

日曜日の午前中。と、言う事も合ってランチとしてその場で食べてしまう
フランソワーズは、いつの間にか”居残りランチ”組のメンバーになってい
た。

持ち帰り組は、主婦(新婚?)や、彼氏がいる人。
だらだらと居残っているのは、・・・いつでも結婚OKよっ相手さえいれ
ばね!・・・な?、日曜日でも特に決まった予定のない女性たち。

事実婚が主流のフランスで育ったフランソワーズは、日本の”結婚”への
こだわりと憧れと、その”重要さ”に驚くばかり。


「でもさあ、この年で、”好きです(ハート)って、少女漫画じゃあるま
いし・・・ねえ?」
「あー、わかるっ!ヴァレンタインで告白なんて、・・新人研修でっ!」
「多少引き上げても25超えるときっついわー・・・」
「まあ、きっかけにはなるけどねー。あげるけど”告白”はつけないって」
「ヴァレンタインで結婚相手見つかるなら、がんばるけど、たかだか”告
白”でしょお?」
「意味ないよねー」
「その後がめんどくさいって」
「そうそう、その”後”が続かないのよ!」
「・・・・」
「ちょっとー、あんまり私たちの話しをフランちゃんに聞かせたら、ヤバ
いって、まだまだ可能性のつぼみちゃんなんだから!」


食事も終えて。
教室は次のクラスが始まるまで2時間ほど空いているために、勝手に
持ち寄った紅茶や珈琲、お菓子を広げるのが、いつの間にか当たり前に
なっていた。


「邸では義兄(あに)たちばかりと一緒にいるから、とっても楽しいで
す。だって、同性じゃないとできない話ってあるんですもの、いくら”家
族”だからなんでも話せって言われても・・・」


フランソワーズの微笑みながら、ついたため息。
それは、嫌だとか、疲れているなどとはかけ離れたもの。


「そうよねえ、いくらなんでもねえ」
「男じゃね!」


うん、うん。と、フランソワーズの言葉にテーブルーを囲う女性たちは頷
き合った。


「ねえ、そろそろ片付けた方がよくない?」


フランソワーズの隣に座っていた女性が、腕時計の針が指し示す時間に,
会話も一段落したちょうど良いタイミングで言った。


「もうそんな時間?」
「最近、2時からのクラスの人来るの、早いでしょ?」
「何はりきってんのかねー」
「ま、でも文句言われるよりは、ね」


それぞれにイスから立ち上がり、テーブルの上を片付けていく。
料理を習うクラスであるだけあり、片付けもいつの間にか”担当”が決まっ
ていた。

フランソワーズはクラス内で使った食器を洗っていく。
備えられている洗剤をたっぷりとつけて泡立てると、シトラスの香りが
フランソワーズに届けられる。と、同時に教室のドアが開いた。


「え?もう!?」


女性の1人が驚く。
あけられたドアに、全員の視線が集まった。


「あの・・・・」


そこに立つ青年は、びっくりしたように、半歩ほど左足を引いて、躯を
ドアから話したが。


「ジョー!」


彼をよく知る女性の声を聞いて勇気を得たのか、堂々と教室へと入ってき
た。


「・・・・メール、もしかして見てない?」
「メール?」


泡だらけの手のままに、きょろきょろと持ってきたはずのショルダーバッ
クを探す。


「ここよ、フランちゃん!」


テーブルに広げられていたお菓子を片付けていた女性が、フランソワーズの
座っていたイスの上におかれていた彼女のバックを手にして、フランソワーズに
見えるように掲げてみせた。


「あ!」


受け取ろうと腕を伸ばそうとしたが、泡が視界にはいる。


「すみません」


ジョーは女性たちの視線に耐えながら、フランソワーズのバックを受け取
ると、当たり前のように、そのバックの中から彼女の携帯電話を取り出し
た。


「・・・マナーモードになってるから気づかなかったんだね?ほら・・・」


ジョーは受信のファイルから、自分が送ったメールの内容をみせた。
フランソワーズは人数分のコップを洗いながら、それを見る。


「ほんと、・・・気づかなかったわ、ごめんなさい」
「いいよ、クラスは終わってるんだろう?」
「ええ」
「じゃあ、・・・ビルの前で待ってる。車止めてるから」
「すぐ行くわ」


ジョーはバックの中に携帯電話をしまい、それをシンク台の隣に付属した
作業台の上においた。


「ゆっくりでいいから、・・・・・」


ジョーはその場にいた女性たちにむかって、軽く頭を下げてから教室を出
ていく。
開けられたままだったドアが、閉まった、その音と同時に、その場にいた
女性陣が一気に質問の嵐をフランソワーズにむかって起こす。


「お兄さん!?」
「彼氏!?」
「誰!?」
「彼氏なんていないって言ったわよね!」
「可愛いすぎーーーーーーーーーっs!!」
「すっごい、かっこいいっ」
「いや、あれは可愛いんだって!」
「かっこいいのに、可愛いのよっ!!見た?”すみませんって言ったとき
の、ちょっと困ったような照れたような顔!!」
「いいの見たーっ!潤うーっ!!」
「今すごい癒されたわ!」
「「「「「「で?!彼は誰っっっ?!」」」」」」
「ジョー?・・・ジョーは・・・・」





**

みんながね、みなって言うのは、クラスのね、いつのもメンバーなんだけ
ど,そのみんなが、ジョーのことをすごく知りたがったのよ。
可愛いって言ってたし、かっこいいとも言ってたわ。
それでね、目の保養になるって。

目薬みたいね!

潤うって言ってたのよ、ジョーは何を潤わせたのかしら?
ジョーでね、癒されたって言っていたら、すごくよかったのよね。ジョー、
今度みんなと一緒にお茶しましょうね!!
みんなすごく喜ぶと思うの。







今日の夕食は、豆腐とワカメのお味噌汁。白ご飯。ほうれん草よりも鰹節
の量の方が多い、おひたし。冷や奴。焼いたほっけに、じゃがいもがまだ
少し火が通ってない気がしないでもない、醤油辛い肉じゃが(牛丼のように、
ごはんの上にかけたらちょうど良い濃さだった)。と、ふりかけ3種類。


ダイニングテーブルでフランソワーズが用意した夕食を文句を言う事なく
(フランソワーズが作った夕食に文句をいった者は、メンテナンス時に
(ギルモアorイワンによって)ひどい目に合うために言えない)楽しく進
む。


ご機嫌のフランソワーズは、夕食の席でずうっとしゃべり続けた。


<よお>
<なに?>

フランソワーズの話をにこやかに聞く家族たち。


<・・・他の女にモテてる彼氏を自慢してーのか?>
<知らないよ>


夕食の席で今日の出来事を報告するのは、フランソワーズのくせのような
もの。


<自慢よりも、焼きもちだろ?>
<フランソワーズ、可哀相・・・>
<ピュンマ、どうした。>
<だって、もう”ヤキモチ”なんて焼けないんだよ・・・感覚が麻痺して
るって言うかさあ、
だってジョーだからさあ・・>
<なるほどな>


毎日何をそんなに報告することがあるんだ?と、不思議に思うが、彼女の
口から語られる当たり前になってしまった日常の風景は、聞いていると、
それだけ今日も1日平和に幸せな1日だったんだと振り返る事ができた。


<それでこんなに、この生煮えじゃがいもの肉の、・・・なんだ?>
<肉じゃがだよ、ジェット>
<それ!感覚ねーから、こんなにショーユ辛いのか?!>
<関係ない。>


けれども今日はいつもと違った。


<日本食も大分つくれるようになってきたな>
<辛いけどね・・・ジャガイモ固いし・・・>
<ジョー、いい機会かもしれん。>
<なにが、ジェロニモ?>
<フランソワーズがどういう人と付き合いがあるのか、把握できるぞ。>
<うん・・・、でも、勘弁してよ。今日フランソワーズを迎えに行ったと
きなんて・・・。動物園の動物たちの気持ちがわかっちゃった・・・・。二度と
教室内には入らないよ>


フランソワーズは(クリスマスに美味しく簡単に魚が焼ける、赤外線グリ
ルをギルモアに買ってもらったのを使用)あつあつに焼けたほっけを満足
そうに頬張りながら、隣に座るジョーへ話しかけた。


「そういえば・・ジョー」
「あ、ん?・・・何?」
「どうして今日、迎えにきてくれたの?」
「え?」
「びっくりしちゃったわ」
「ええっと・・・いや。別に理由はないんだけど、ちょっと車を走らせた
かっただけで、だから」
「そう!」


<嘘つけ!狙って行ったんだろ?>
<・・・>


脳波通信のチャンネルはみんな009個人に合わせており、彼の頭の中が
チャット会場となっていた。
009にアクセスしないと聞こえない。003はそう滅多に脳波通信を使
わないので、そのやり取りを聞かれる事はないだろうとふんでいる義兄たち。


<今日は14日。>
<世の中はピンク色だからな>
<え!?ジョー、もしかして、まだもらってないの?!フランソワーズか
ら???本当にまだなのっ!?ええええ?なんで?だって君たち・・・>
<デートするつもりで夕食に誘ったのに、ジョーのヤツ、『今日は張大人
がいないから、また明日にしましょう』って断られてやんの!出かけると
きに、今日は適当にしてくれってわざわざ書き置きしてたのによ!にひっ
>
<書き置き?>
<出てって2時間もしねえで帰ってきたからよ、オレしか見てねえんじゃ
ね?>
<えーーーーーーーーーーーーーーっっ?!>
<なんだ。違ったのか。オレはてっきりとっくにつき合っていると思って
いたぞ。まだそんな程度か?>
<・・・つき合ってると思うよ、多分>
<<<<多分?>>>>
<いまいち、自信がない・・・>


はあっとジョーがため息をつくと、隣に座っていたフランソワーズが
ジョーの顔を覗き込んだ。


「どうしたの?」
「ううん、何も・・・お味噌汁、巧くつくれるようになったね」
「んふふ♪」
「はじめは・・・コンソメスープで作ったり、山車を取るって言ったら
チキンスープ使ったり、・・・色々あったからね。そういえば、赤みその
とき、砂糖を入れた事もあったよね」


ジョーの言葉にメンバーたちは過去を振り返る。そうすると、今目の前に
出されている料理が、どんな料理よりも価値のある最高のものに思えてな
らなかった。

食事を誰よりも早く食べ終わったギルモアが、ごちそうさま。と、声をか
けて立ち上がった。もうそろそろ地下でテストしていた物の結果が出てい
るはず。夕食中、フランソワーズの声に頷きながらも頭は今地下で書き出
されているテスト結果のことでいっぱいだった。


「博士、デザートがあるんですけど?」


立ち上がったギルモアに声をかける。


「地下に持ってきてくれんか」


はい。と、素直にギルモアの言葉に頷きながら、お茶は何がいいのか?
と、尋ねるフランソワーズ。


「デザートは、なんじゃ?」
「今日、車でジョーが迎えにきてくれたので、足を伸ばしてもらって洋菓
子店『プワワーク』のチョコレート・ケーキを買ってきたんです」
「ほお、それなら珈琲でお願いしようかの」
「ディカフでいいですよね?」
「いや・・・」


カフェインたっぷりで。と言いたかったが、微笑みながらも蒼い大きな瞳
が”また徹夜なさる気ですか?駄目です!”と言っていた。


「うん、ディカフじゃの、それで頼むの・・・・」


苦笑しながらダイニングルームを去っていくギルモアを機に、009脳内
チャットルームは閉まり、みな夕食をすませてそれぞれの時間を過ごすこ
とになった。


チャットルームに最後まで残っていたのは、ピュンマ。


<ジョー・・・チョコレートケーキ、っって・・・・・君もその中の1人じゃ
ないよね?>
<知らないよ・・。ケーキ以外、ないんだったらそうなる>







**


グレートと張々大人が邸に帰ってきたのは、チョコレート・ケーキのため
に用意したお茶の準備がととのったタイミング。
リビングルームに運ばれたそれをつつく義兄たち。

フランソワーズは地下にギルモアの分を運び、夜の時間のイワンの世話を
するため席を外していた。
耳の良いフランソワーズのために、再びチャット場が設けられたが、
開催地は009ではなく、話題を振った007。


内容は、ジョーがまだフランソワーズから何ももらっていないこと。
そして、今手にあるみな平等に配られた1ピースがフランソワーズの
ジョーへの気持ちなのだ、と。





1つのチョコレートケーキを平等に。
みんなと同じ。



「ジョー、お前がはっきりせんからだぞお?」


口に出してグレートが言った。


「はっきりしてるよ」


文句を言う。


「だが、これが証拠だ!」


グレートは最後の1口をフォークにさして、ジョーに見せるようにぱく
り。と、食べた。






**


「フランソワーズ」
「なあに?」


フランソワーズがキッチンシンクの中の使われた食器を洗っていく。
手伝うこともなく、ただそれを冷蔵庫にもたれかかって見ていた。

最後の、チョコレート・ケーキを載せていた皿が、フランソワーズの手で
水切りカゴにのせられた。


「ケーキ美味しかったよ」


フランソワーズは夜は甘い物を食べない。
なんでもバレエをやっていた時からの習慣らしく、夕食後のデザートは
朝にまわされる。
ジョーにとって、朝からケーキなんて信じられないが、”太らない”ために
は過度な糖分を含む食品は朝に食べるのが良いのだと言う。

踊っていないときでも、身に付いた習慣は抜けないらしい。


「よかったわ!・・・・ジョー、ここはもう終わり。お風呂はみんな入っ
たの?」
「さあ・・・」
「空いてるなら入ってしまって。私ももう寝るわ」


フランソワーズの部屋には邸にいるただ1人の女性である彼女のために、
ユニットバスがある。


「・・・・・もう寝るの?」
「ええ、だって、明日は仕入れのために張大人は朝からいないもの。
私が朝ご飯つくるの」
「そうなんだ」
「朝ご飯にいつか”日本食”が出せたら素敵ね」
「もう作れるだろ?」
「とんでもない!朝は忙しいのに数もいるし、大変なのよ!」


フランソワーズはエプロンを外しながらキッチンから出て行く。
ジョーもフランソワーズに続き、キッチンの電気を消す。


「大丈夫だよ」


手に持ったエプロンをダイニング・テーブルのイスの一つの背にかけた。
そのままダイニングルームを出て行く。


ジョーはフランソワーズの後に続きながら電気を消していった。




リビングルーム、広間、階段。



「じゃあ、おやすみなさい」
「・・・・・」


フランソワーズの部屋の前。


「お風呂、ジョーが最後なら湯船のお湯は洗濯機に移しておいてくれ
る?」
「わかった・・・」
「どうしたの?」


ぶすっと膨れっ面のジョーを見上げる。
拗ねたような視線をうけて、フランソワーズは小首をかしげた。


「・・・・・・・・・・・チョコレートケーキだけ?」
「?」
「みんなと、一緒?」
「?だってホールのケーキだもの・・・」
「そうじゃなくて・・・・何もないの?」
「え?」


ふうっとため息を1つ吐く。
その息がフランソワーズの頬にかかった。


「今日はさ、ヴァレンタイン・デーでさ・・・みんなと一緒?」
「それがどうかしたの?美味しかったのでしょ、ケーキ」
「・・・・・それがフランソワーズの気持ち?」
「何?ジョーってばさっきから!」


ぷうっとフランソワーズが頬を膨らませて抗議する。


「だから、今日はっ」
「女の子が好きな人に”告白”する日なんでしょ!日本はっ知ってるわ
よ・・・好きな人にチョコレートをあげるのでしょ?」
「別に”告白”だけのイベントじゃないよ?」
「・・・知ってるわ」
「だったら、なんでないの?」


知っててなんで?っと、ジョーが唇を尖らせて言い返す。


「・・・・あるわよ」
「え?」


フランソワーズの頬が染まっていく。
大きくすぎる蒼い瞳が少しばかり潤んで揺れた。


「ちゃんとあるの、考えてあるのけど・・・そのお・・・」
「考えてある???」


真っ赤に染まったフランソワーズに、ごくん。と生唾を飲み込んだ。








**

『ジョー?・・・ジョーは・・・・』


昼間の料理教室で。
フランソワーズは答えた。


「彼は、大切な・・・あの、好きな人で、でも、告白したわけじゃなくっ
て、でも、口に出す必要もなくて。でも、あの・・恋人とか、彼氏って言
うには、なんていうか、まだ・・・違う?ような・・、けどっ・・・私が
彼を好きってわかってくれていて、それで、ジョーもきっと同じだから、
一緒におでかけもして、だけど、ちゃんと好きって言ってもらったことな
くて、あ!でもね、好きって言われなくても大丈夫なの、わかるか
ら・・・あの、わかるの!・・・・で、だから、でも、はっきりした”恋
人”って言うには・・彼氏っていうのも、違うような、・・・」


もじもじと、フランソワーズは自分とジョーについて口にするが、上手く
説明ができない。
そこからの”先輩”たちはすごかった。

的を得た矢次ぎ早の質問に、ジョーとフランソワーズの状況を3分もかか
らず完璧に把握する。



「「「「「「”まだ”なのが問題なのよっ!しっかりモノにしないと駄目
よっ!!!!!!キープするのに手段は選んでられないよっ」」」」」」








**

「・・・・・・・・・・・受け取ってくれる?」
「あ、あ。当たり前だよっ!!!」


フランソワーズはきょろきょろと周りをうかがう。

静まり返った邸。
フランソワーズの部屋に一番近い、アルベルトの部屋からクラシック
ミュージックがかすかに聞こえる。


じっと、フランソワーズはジョーを見つめた。
フランソワーズも、同じように。


そして。






えい!と勢いをつけ、背伸びをした勢いのままジョーの両頬を手で包む
と、ちゅ。と、彼の唇の上に自分のを重ねた。


「おやすみなさい!」
「う、うんっ、お、おやすみ!!」



逃げるように部屋に入ったフランソワーズの、部屋のドアがバタン!っと
乱暴な音で閉まった。


廊下で1人、ガッツポーズを取る、ジョー。
心の中で、やったあああああああああああああああ!!!っと、叫びま
くっている。


ドア1枚挟んだ向こう側で。

顔を両手で多い、きゃあきゃあっと地団駄を踏みならす、フランソワー
ズ。




おはよう、でも、おやすみなさい、の頬や額じゃない、唇へのキス。





くちびるにキス!


---これって、もうっ完全にちゃんと恋人だよな!なんたってフランソ
ワーズからだし!
---私ったら、私ったらっっ・・・・でも、これでジョーは恋人って言っ
ていいわよね?








Fortune Fate
end.








*お題の色っぽい”お誘い”系を想像させる・・・のに、お答えできなくて(涙)
 いや、それでもよかったんですけど。
 最後はピュアにピュアに・・・(笑)
 
 待ってたって、アゲナイ。・・・すごいなあ。小悪魔チックな3でも
よかったんですが、書けなかったです。(来年かな?)
 でも、これ、お題と全然関係ないような・・・。いつもの9だったら、
みんなと同じチョコレートケーキでよかったんですが、
もうそれじゃあ、満足できなかったので、拗ねてがんばっておねだり、
なんてしてみた。と、受け取ってくださると嬉しいです。

 言い訳!・・・です(涙)

 そして、これが、今年最後の・・・。なんだかすっきりしないので。
 来年もお題でヴァレンタインできたらいいなあ。
 

あ。これ”もじもじ”じゃないですよ・・・(笑)




Photo by ミントBlue
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そんな彼女が可愛くて。
自販機にコインを落とす。
入れた回数だけ金属がぶつかり合う音が鳴った。


ぶうんんっと、冷蔵庫が夜中に鳴り続けるような振動がちょっとばかし強くなると、”押す”と書かれたボタンに赤いランプがつく。
適当に選んだ青リンゴの炭酸飲料。


ちょうどいい具合に冷えたそれが、がたがた自販機内を転がり、受け取り口に落ちてくる。

腰をおって、手を突っ込み。
取り出した缶のプルトップを開けて、彼女へ渡した。


「・・・・ストローは?」
「へ?」
「・・・・・ストローはどこかしら?」
「ストロー???」


彼女は缶ジュースを両手で受け取りながら、小首を愛らしく傾けた仕草でボクに訊く。


「ええ、そうよ」


当たり前でしょ。と、言いたげな大きな瞳。


「そんなの、ないよ・・・缶ジュースだよ?」
「でも、それだと・・・」


何が問題なんだろうか。
缶ジュースの飲み口に視線を落としてながら、唇を尖らせる彼女。

そんな彼女をそのままにして、ボクは自分の分を買った。


「問題ないよ。気にするほどのこと?」
「だって・・」


冷たい缶をバックから取り出したハンカチに包み、持ち直す。


「フランソワーズ、ほら」
「?」


ボクは彼女の手をつかむ。
彼女の手の中にある缶の、飲み口を自分の方へと近づけて。


一口、飲んだ。


「これで、問題ないだろう?」


飲めないなんて言わないでよ?


「勝手に飲むなんてひどい!」


そっちですか・・・。


「これで大丈夫ってことだよ!」
「大丈夫じゃないわっ・・だって、だって・・・だって・・・」
「だって何?」


ボクは自分の分の缶ジュースのプルトップをあけた。
真空になっていた中が空気を取り込み、ぷしゅ!っと気持ちよい音。


「・・・・・・・・これじゃあ、間接キスになるわ」
「問題ある?」
「・・・・・・・・・・・・・このまま飲むなんてできないわ」
「なんで?」
「だって・・・缶だもの」
「だから、ボクが先に一口飲んだから、大丈夫だよ」
「それはわかったけど、でも」


面倒臭いなっ!





はああっと、ため息をひとつ。
彼女はボクのそれに傷ついたような視線をあげた・・・、だから。

素早く、さりげなく。
軽く、だけど、気持ちはいつも100%キミを想っていることを乗せて。




缶には触れられない唇に、缶に触れて冷たくなったボクのを押し付けた。







ボクたちの前を通りすぎていく自転車に乗った学生服の集団が、まるでUFOでも発見したかのように騒ぐ声が、先の点滅信号機近くから聞こえた。


「ジョーっ!こんなところでっ!!公衆わいせつ罪でつかまるわっ」
「・・・・・・・・・・間接キスくらい平気になっただろ?」


いくら日本でも、外でキスしたくらいで捕まってたまるかっての。


「自販機じゃなくて、コンビニに行けば缶じゃないの売ってるのに!」
「・・・気が利かなくてスミマセン、フランソワーズ姫」


ああ、女って面倒くさい。
女じゃなくて、・・・フランソワーズが・・・だよな・・・。


「もう・・・ジョーってば、どうしてそう・・・・」


ぶつぶつと文句を言う彼女は、両手に持っていた冷たい缶を赤くなった頬に押し当て冷やす。


そんな彼女が可愛くて。
もっとキスしたくなる気持ちを押さえられなくなる。



たとえ最近の女の子の100倍面倒臭くても、そんな彼女が可愛くて。


「フランソワーズ姫、なんなら飲ませてあげようか?」


彼女の缶ジュースを、また、一口もらった。






「結構です!自分で飲めます!!」
「遠慮しなくていいのに」
「じ、自分の飲んでくださいっ!!」


可愛いなあ・・・。




end.





*ふと・・・思いつきで書いた・・・意味のないショート(汗)
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