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彼氏彼女


まあるく、マシュマロみたいな頬がピンクに染まって、きゅううっとミルクを吸い込むたびに、膨らんだり、しぼんだり。

慌てて飲んじゃ駄目よ。っと、注意をしつつ、ミルクの白がどんどんボトルのメモリを小さくしていく。


たまに外で取る、太陽の下でいただくご飯がとっても美味しいように、外での”ミルク”も家の中よりも、気持ちのいいものなのかもしれないわ。と、心の中で呟いてみた。


お散歩はいつも邸の近くを30分ほど歩くくらいで、ミルクや替えのおむつなんて持ち歩かない。

けれど、今日は。


彼の一言で。



「今日はすごく温かいよ、外でランチってどおかな?」
「外で?」






ギルモア邸最寄り駅に、小さなカフェができた。
夫婦で経営するそのカフェは、古い日本家屋を改装した和洋折衷の雰囲気の、ジョーが言うには、”レトロ”な感じがとってもオシャレで落ち着く、らしい。


店前からは解らないが、店内の奥に庭があり、そこがオープンカフェスペースとなっているらしく、そこへ行こうと誘ってくれた。

res_var02.jpg


「お外でのミルクは美味しいかしら?」


お店の奥さんが、私とジョーが頼んだランチセットを、大きなトレーにのせてサーブしてくれる。


んっく!っと、力強く最後の1口を飲みきったイワンは満足げにため息をついた。
その仕草に、奥さんが笑う。
テーブルに並べられたランチの美味しさな香り、たっぷりボリュームあるそれに、私は思わず歓声をあげてしまう。


「ごゆっくり」



奥さんがテーブルを離れていく。
平日のランチには少し早めの時間。
店内は、私たちともう2組のお客様のみ。

外にいるのは、私たちだけ。



「さ。食べよう!イワンを、ベビーカーに・・」


目の前に座っていたジョーが椅子から立ち上がってテーブルの側に置かせてもらったベビーカーを押して、私の側に寄せた。

肩にタオルをおいて、イワンを盾抱きに抱き彼の背中をぽん、ぽん、と叩く。
勢い良く胃から吐き出された空気の音に苦笑したジョーが、イワンを私の腕から抱き上げた。


「今度はボクたちの番だからさ」


イワンに”高い、高い”をするようにして彼はウィンクをひとつ。


<邪魔ってわけ?>
「そんな風に言うなって。・・・フランソワーズが食べづらいだろ?」
<食べづらいような状態じゃなければいいんだよね?>
「ったく、・・・フランソワーズ、イワンがベビーカーに座るの嫌らしいよ」


ふうっとわざとらしくついたため息が、長い前髪を吹き上げた。
ジョーの腕に抱き直されたイワンの位置から、彼の両目が見える。


せっかくの”2人”きり。のランチなのに!と、言っている。



<忙しいジョーが悪いんだよ>
「うるさいなあ、連れてきてあげたのは誰?」


むっとしたジョーが唇を突き出すようにして、赤ん坊のイワンを睨む。


「もう・・2人とも喧嘩しないでちょうだい」


私は腕を伸ばして、ジョーからイワンを抱き受ける。


「だって、さ。食べづらいだろ?せっかくのランチなのに・・・」
<ぶつぶつ文句を言ってると、その”せっかくのランチ”が冷めちゃうよ?>
「はいはい」


あきらめて席に戻り、イワンを抱く私を観る、ジョー。


「ボクは、フランソワーズ(だけ)を誘ったんだけど・・・」
<フランソワーズを誘った=僕も誘っただよ、ジョー>


なんだよそれ!っと、文句をいいながら、フォークを掴んだジョー。


「そうね、ジョーはいっつも忙しい、忙しいって私を放っておくんだもの、ね?」
「放ってなんかないよ!忙しいのは・・・ごめん。けど!それとこれが、どうして、今日のランチにイワンもなの?」


私とイワンは視線を合わせる。

言葉にしなくても、ちょっとした”力”を使わなくても、私たちはそれだけで通じ合う。
ミルクを飲んで体温が少しあがった、イワンのまあるいマシュマロの頬がリンゴ色に染まる。


「イワン、ジョーはまだ知らないのね?」
<みたいだね、とっくの昔に僕と君の関係を知ってると思ったんだけど?>
「?」


にいっと、笑った彼の頬が高くなり、くるん。と、癖のある前髪に隠れたつぶらな両目が細くなった。


<”彼氏”の僕の許可なく”彼女”に食事に誘うなんていい度胸だよね、009>
「?!」
「そうよ、私はイワンの”彼女”なの。だから、彼氏の”イワン”と一緒じゃないと、いくら009からのお誘いでも・・・勝手にでかけるなんて出来ないわ」





笑い合う私たちに、ジョーは目を白黒させて、時を止める。










大好き!フランソワーズ。
大好きよ、イワン。










「え?え?えええ?ど、どういう、どういうことだよっ?!」
「だって、イワンはちゃんと告白してくれたもの!」
<そうだよ。僕はフランソワーズが大好きで、その気持ちを毎日ちゃんと彼女に伝えてるんだからね。そして、フランソワーズも僕が大好きだってさ!」



「だから両想いなのよ、私たち。彼氏彼女の関係なの♪」










ボクたちは別にー・・・な。
いつまでもフランソワーズを待たせているから、こういう目にあうんだよ。









今さら、遅いからね!
譲る気なんてないよ、009。



僕を誰だと思っているの?


僕は、001。
イワン・ウィンスキー。







フランソワーズが大好きな僕に、勝つつもり?
受けて立つよ!さあ来い!







「・・・・・こ・・くは・・く・・・・って・・・・」


ああ、駄目だ・・・固まったまんま。
せっかくのランチが冷めるから、この話は食後にしよう。




ね、フランソワーズ。






end.








*3/1なのでがんばってみた。
・・・でも、続けられないと思います、なので、ショートに置いておきます。





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Little by Little・11
(11)





変わらない、と。
いつもの自分だ、と。

思い込もうとしているだけ。
そう、思い込んでいるのは、ジョーだけ。


「・・・私も一緒に、行くわ」








気がつけば。
さくらから逃げるように加速装置を使ってその場から離れていた。


さくらの目の前で。
彼女が、自分の言葉で傷ついた瞬間に閉じたまぶたの形が、未だにジョーの網膜に焼き付いている。







「・・フランソワーズ、戻っていいんだよ?」


ギルモアが泊まるホテルの裏口で加速を一度解いた。が、人の気配に気づき、すぐにその場を離れた。

次に向かったのは、自分が寝起きしているホテル。
運良く、清掃員が出入りするために、バケツをドアにはさんで解放された状態の非常扉をみつけた。

そこからホテルに入り、自分の泊まる部屋前で加速を解いた。


「・・・当麻さんにはグレートがいるわ、イワンも一緒だもの」
「・・・・」






---003に気づかれてしまうなんて・・・



リーダーとして、さすがだ。と、褒めていいのか。
・・・島村ジョーとして・・・悲しむべきなのか。



”ミッション中”であるために、彼女が定期的に”眼”と”耳”を使用することはわかっていた。


---わかっていた。けど・・・・・。偶然に?それとも・・・俺は・・・・・。



「ジョー・・・」
「キミはホテルに、・・・・戻るんだ」
「いいえ、一緒に行くわ。問題ないから大丈夫よ」


1人あの場に放り出してしまった、さくらが気になった。
彼女を放り出して逃げるように”ここ”にいる自分勝手な行動と、その弱さに腹を立てることを通りこして、ただ、無責任すぎるだろ。と、自分を蔑むしかない、ジョー。


「それで・・・どこへ行くの?」


学院へ、戻ることに決めていた。いや、戻らなければならない。と、奇妙な責任感が生まれてくる。


「学院」


2回目のフランソワーズの問いに、ジョーははっきりと答えた。
ジョーの言い切った言葉にフランソワーズの瞳が揺れる。キーカードを持っている手を、ジョーにむかって差し出した。


「・・・さくら、さん・・・を、待たせているの、なら、・・急いだ方が、いいわ」
「待たせていない」


フランソワーズからキーカードを受け取りながら答えた。


「待ってもいないよ・・・」


ジョーはキーカードを受け取ってゆっくりとフランソワーズから離れ、部屋を出るために足を意識的に動かした。
左右の足を交互に部屋のドアへと向かわせながら、キーカードをジーンズの右の尻ポケットに押し込んむ。
そこに、痛んでしまった財布と、使用可能か確認しなければならない携帯電話。


フランソワーズはショルダーバックを手に、ジョーに続いて部屋を出た。
背後に感じるフランソワーズの気配に、ジョーの胸がじんっと痺れ、手のひらにじんわりと汗が浮かんでくる。


背中で、全身で、彼女を見ている。
感じている。




<フランソワーズ・・・・・戻るんだ・・・・>


ホテルに戻ることを促すジョーからの脳波通信が1度だけ、届いた。駅に向かう道の途中に通りかかった、当麻がいるホテルの前で。


「・・・・」


フランソワーズは何も言わずジョーの背中だけを見つめて歩き、何も答えないままにジョーを追った。
ジョーは足を止めずに、ホテルの前を通り過ぎる。


1mほどの距離をあけて歩く2人。
生温く重たい湿気を含んだ風がフランソワーズの頬をなでた。


「・・・・また、雨が降るわ」


フランソワーズの声を背中で訊き、左右交互に出していたスニーカーのつま先を眺めていた視線をあげ、ホテルの部屋を出て初めてジョーはフランソワーズへと振り返ると同時に、足を止める。ジョーとの間に開けた距離を縮める気はないらしく、フランソワーズもその場に足を止めた。


「・・・・・・・・・・晴れてるのに?」


アスファルトが濡れていた。
”また”と言った言葉に、自分が学院にいる間にささやかな通り雨があったのだろうと、気づく。
しかし、ジョーの視界の上にとどまる空は、夏の空。と、言う感想しか抱けないほどに雲ひとつ流れることなく晴れやかだった。


立ち並ぶビルの一角にある電光掲示板に、気温と時間、そして最新ニュースが一定の時間を置いて流れる。
時間は邸にいる家族の1人が持つ数字を示していた。








####


言葉を交わす事なく駅までたどり着く。
乗車券販売機の前を無視して通り過ぎようとしたが、ジョーはふと、足を止めて財布の中にある関東圏のJR、私鉄,バスが1枚で乗り降りできるカードを出した。


「使えない、だろうな・・・」


切符を購入するために券販売機の人の列に加わった。
フランソワーズもジョーのすぐ後ろに並ぶ。

フランソワーズの視界がジョーの背中だけで埋まる。


「1人で、買える?」


1分も待つことなく切符を購入する順番が回ってくると、ジョーは財布からお札を1枚取り出した。
紙幣がなんとなく、くったりと柔らかい。

挿入口に紙幣を飲み込ませ、背後に並んでいるフランソワーズに自分が立っている位置を譲るように、躯をずらした。
フランソワーズのすぐ後ろに立っていたスーツ姿の男が、隣の券売機に移る。


「買えるわ」
「・・・・・・・覚えた?」



---篠原のおかげで・・・か・・。



篠原当麻がギルモア邸に出入りするようになり、フランソワーズの外出が増えた。
それに伴い、彼女は少しずつ”外の仕組み”を、邸の者に教わる事なく覚えていっていた。


「・・・・・ジョーが教えてくれたのよ・・・アランに会いに、ジョーがついてきてくれた日に」


フランソワーズの指が月見里学院のある駅名が含まれるエリアのボタンを押そうと、伸ばされた。


「2枚」


ジョーがそれを制するように、少しはずれた場所にあるボタンを押した。


「1枚、1枚、買う必要ないんだよ、ここに、・・・2、3、4枚、一度に買えるようになってる。往復券の場合は、ここだよ、フランソワーズ」


2枚。のポタンが押された。
フランソワーズはそのボタンが放つ光に緊張を少し緩めた。ジョーが同行することを認めてくれたと感じて。


「ジョー・・・?」


”2枚”のボタンを押したジョーの指が、迷う事なくフランソワーズが足をむけたことのないエリアのボタンを押した。
駅構内に満ちる忙しない音から隔離された、機会音がピーっと。鳴る。
受け取り口から、2枚の切符と金属が叩き合う音をたてながら出てきたおつりを取り、財布に仕舞わずに直接ジーンズのポケットへいれた。


「・・・・・・・ジョー、どこへ行くの?」
「学院だよ」


いつの間にか自分たちの後ろにできていた列。
背後にいた不躾な視線でフランソワーズを値踏みする女性と券売機の間から、ジョーはフランソワーズを守るようにして離れた。


「学院は、このエリアじゃないわ」
「・・・」


フランソワーズは視線をジョーから渡された切符に落とす。
印刷された漢字が、読めなかった。


「これで、合ってるんだよ・・・」


フランソワーズの背にまわした腕が感じる彼女の体温に、ぐっと縮まった距離から普段よりも強く香る彼女の香りに、視界に入る明るい亜麻色の髪が揺れて、こころが震えた。







---フランソワーズ・・・



瞼に焼き付いた、自分が言い放った言葉に傷ついたさくらが、ジョーを見ていた。













####

電車内は、予想していた以上の人の多さだった。
今日が、週末の土曜日であることを思い出す。

夏の暑さに汗じみたスーツを着た人々、平日なら制服姿であろう派手にお洒落をしたグループ、雑誌が推奨する”OL”ファッションを忠実に再現する女性たちなど、など。
私鉄電車と言う名の箱に集めた現代の日本人、コレクション・ボックス。

どやどやと狭い入り口から押し込まれるようにして電車に乗り込んだ、ジョーとフランソワーズ。
進行方向に向かって右側のドアからフランソワーズを先に乗せ、彼女の背を押すように誘導し、左側のドアの入り口の角ある、広告文のスペースに、ジョーは電車の壁と自分との間に、彼女を立たせると、ジョーの右腕がフランソワーズの肩の高さに伸びる。開閉するドアの銀色部分に右手をついて、さらに人々からフランソワーズを隔離した。

ホームから響く発車ベルの音。
ドアが閉まる。

ホームのアナウンスが遠くなると、電車が動き出した。
その揺れに合わせて、ジョーに遮られた視界の隅から見えた人々が進行方向とは逆に流れた。


ぎゅうっと押し込まれた車内に、人々の不満の空気がそこかしこに浮かび上がる。
頭をさらに傾けジョーの躯をよけるようにして、フランソワーズはこぼれ落ちそうなほどに見開いた蒼い瞳で車内を見た。


「・・・満員電車って初めてなんだね」


フランソワーズの頭上から落ちてきたジョーの声が、少しだけ笑いを含んでいるように思えた。
その声に、フランソワーズはジョーを見上げる。


「あ・・・」
「?」


フランソワーズが予想していた以上に近い距離に、ジョーの瞳があった。
反射的に、ぱっと視線をそらしたフランソワーズの瞳に、流れていく風景を飾る額。


「雨が・・・」


その額が水滴に滲んでいた。


「降ってきた、ね」


小さな箱の中に押し込まれた人間たち。
たくさんの人がいるにも関わらず、ジョーとフランソワーズの会話だけが、その車内に響いているように思えた。


「・・・ジョー」


流れる風景に視線を固定させたまま、フランソワーズが言った。


「切符のね、漢字が読めなかったの・・・・」
「後で、教えてあげるよ」








####

学院へ行かなければ。と、思う。
けれど、そこにさくらはもういない。と、わかる。

あのまま、ジェットがさくらを放っておくはずがない。



彼の気配を近くで感じていた・・・・。




それだけの理由。
それだけの理由で、学院へ戻らなければと言う考えに反した、行動を取った。


---フランソワーズが、ついて来たから。


彼女を言い訳にする自分をジョーは知る。
そして、自分の”どうしようない運命”なんてものを自覚するしかなく、覚悟を決めた。






戻って来た自分を見つけた、彼女。

フランソワーズが、ついて来たから。



---見つけて、欲しかったのか・・・、こうなることが、すでに・・・・。



「ジョー・・」
「心配ないよ」


大きなカーブを描くために、電車のスピードが落ちた。
車内が傾き、左側へと徐々に遠心力がかかっていくと同時に、車内の空気が重く、非難の色に染まっていく。
ジョーの背に、それらがかかる。

彼は平然とそれらを支える。
車両1つ分に乗り込んだ人々を軽々と背におい、フランソワーズを護る。


「でも」
「よく知ってるだろ?」


余裕の声。

ジョーの躯によって作られた小さなバリケード内に、フランソワーズはいるために、彼女は無事だった。
背中を電車の壁にぺったりともたれさせ、祈るように胸前に合わせていた手が解かれて、バリケードとなっている彼の右手に彼女は手を重ねた。彼のスポーツバックと同じブランドのものだと、彼の肩にプリントされているマークで気づく。

濡れていた髪は、完全に乾ききっていた。
そして、その髪に濡らされた首元も、夏の暑さに乾いていた。


「・・・ありがとう」

重ねれた手に、ジョーの視線が止まる。


「・・・・・・礼なんて、いいよ」


ぶっきらぼうに、言い放った。


「ありがとう、ジョー・・・」


カーブを曲がりきると、背中に背負った重さが少しずつ薄れていく。
それと同時に、フランソワーズの手が強くジョーの手を握り、彼女の躯が重ねられた手の方向へとねじられた。

凛とした、美しいフランソワーズの横顔を見下ろす、ジョー。
誰の目にも、誰にも触れさせないとばかりに、彼女を被う。


「今度は私の番よ。・・・・だから・・・あなたを1人になんてさせないわ」
「え?」
「独りでなんて行かせないの・・・、ジョーがそうしてくれたように、私も、・・・・」
「・・・」
「そうでしょう?ジョーは、いつでも・・・今みたいに、・・・ね?」




フランソワーズは思い出す。
日本を定住先に決め、そして、邸へと越して来た日からのことを。


昨夜のジェットの言葉から、その日からの日々を。
さらに遡って、戦いの日々を。

少しずつ、少しずつ、今までと違う目線で振り返る。


---・・・・ジョーのために私ができる事は・・・。


フランソワーズの胸にだけ、自分の中でだけ、許される行為。
愛している人を、抱きしめる。

現実には想いのままに抱きしめられないために、せめてその想いの分だけでも、彼のためだけに行動する。
今にも、脆く壊れてしまいそうな、大切な人を放っておくことなど、フランソワーズにはできない。



「・・・・フランソワーズ」
「泣きたいときに、泣ける場所が、辛いときに、その辛さを癒せる場所があるのって・・・・、素敵だと思うわ」
「!」
「間違ったかしら?」


フランソワーズはゆっくりと瞼を閉じると、彼女の瞳を縁取る、まつげが繊細に揺れて、頬に影を落とした。









初めて日本を訪れたとき。
戦いの中、つかの間の平穏を過ごしたとき。




日本にいる間。

何も言わずに居なくなる。

ふと、いなくなり、不意に、戻ってくる。

それは、決まった法則があるような気がした。

放浪癖のあるジョーの、気まぐれな旅。とは、違う。

都心から、それほど離れていない場所だと、思う。



誰も知らない、場所。
誰にも教えない場所。


誰も彼が居なくなっていたことなど、気づかない時間。


ジョーの秘密の場所が、どこかにある。







ないかも、しれない。








「・・・間違った、かしら?」


名前の解らない、駅名。そして、ジョーの今までの行動。

それだけを頼りにフランソワーズは語ったが、そんな場所があったと仮定しても、自分を連れて行ってくれるだろうか?と、フランソワーズは自惚れた独りよがりな想いと行動に、不安になり、ジョーの右手に重ねていた手を離した。


ジョーが”2人分”の切符を購入してくれたことへの、無意識の期待。


「そういう風な意識を持った事ないから、わからないな・・・」


離れていくフランソワーズの手を、ジョーが握った。




ホームに入ろうとする電車がブレーキを踏む。
車内が揺れる。

支えていた右手がフランソワーズの手を握ったために、ジョーの躯が電車の揺れに流れた。
フランソワーズを抱きしめるように、重なる。

ジョーは彼女の頭を、顎下に捕らえ左手が握っていた、銀色の棒にかすかに体重をあずけた。
握ったフランソワーズの手を、人の目につかないように自分の太ももあたりの位置までおろす。

解かれたバリケードに、隙間なく人が押し寄せる。
うつむいて、繋ぎ合った手に視線を落としたフランソワーズのおでこがジョーの胸に、あてられている。


「一緒にいてくれるんだね?」


明るい車内とは対照的に薄暗くなった外。
まぶしい蛍光灯が車窓に、人々を写し込む。


「私で、いいかしら・・」


強く、握り合った手。


「次で乗り換えるよ・・・」








俺は、さくらを、ちゃんと受け止めてあげられなかった。
・・・・今まで俺は誰1人と受け止めたことなんて、ない。

傷つけるか、切り離すか、忘れ去られるか、・・・捨てられる。か、しか、知らない。








「フランソワーズ、・・・・キミに、・・」


脳裏にこびりついていしまったさくらが、ジョーを見つめている。
これから起こるであろうことを、自分を、さくらに重ねた。


「?」


乗り換える。と、ジョーが言ったホームへと電車が止まる。
2人の視線が開かれたドアへと向かう。

自然と会話は止まり、人を押しのけるようにして2人は電車を降りた。
繋いだ手はそのままに。


「フランソワーズ」


混雑するホーム。
ジョーの手はフランソワーズを引っ張りながら、人をかき分けて、進んでいく。


「・・・・絶対に、手を離したらダメだよ」


振り返ったジョーの瞳が、浮かびあがった悲しみに揺れていた。
フランソワーズは何も言わずにしっかりと、頷く。


乗り換えるために、別のホームへと移動する。


素っ気ない利用者の目的だけを意識して作られた、段差の低い長い階段を上っていく2人。
人の波に埋もれてしまった2人。

誰も、2人が何者で、どこへ行くかなど、興味を示さない。






ただの人。
ただの、駅の利用者。

異国の少女など、見慣れてしまったように。
少し変わった髪色の青年など、最近の”若者”の1人だと。



空が夜の衣に着替える前に、家路を急ぐ。









###

「ここですか?」
「そうみたいネ!フランソワーズの携帯電話は、この街の地図を出してるアルヨ、ちゃんと見るネ」


張大人が運転するレンタカーの助手席に座っている当麻は、手に持っている携帯電話を見つめた。


「脳波通信が届く距離まで近づかないと、フランソワーズがどこにいるかポインターで表示されないネ」
「・・・じゃあ、この地図は?」
「少しずつ、拡大されて言ってる、イコール、フランソワーズとの距離を縮めてるって意味アルヨ!スンバらしいネ!その地図が縮小されたら、離れたってことアルから、よおく、見てるアルヨ!!」
「はい」
「それにしても、ここはいったいどこアルか~?フランソワーズと関係ないみたいネ・・あの子は行動範囲が狭いヨ。こんな所、知ってるはずないネ」


張大人の呟きに、当麻の脳裏にジョーが浮かぶ。
1日目の、オーディション後にしっかりと把握した、ジョーの気持ち。


「島村が一緒だということですね、それなら・・」
「・・・・そうアルネ」


張大人は、009、003に向けて、チャンネルを解放し、随時2人に呼びかけた。
携帯電話が、2人を発見する前に。と、願いながら。












====12へと続く。



・ちょっと呟く・

短!
そして、9・・・あなた、あんだけさくらのことで・・・ねえ、切り替え早いって(笑)

のんびりいかせてください・・・。
迷い迷いですので。

あ。泣かなかった。
いえ、・・泣いたのを書き直したのです・・あまりにあまりだったので。
予告になってねー(笑)
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太もも/ギルモア邸の新ルール?!
今年新しくしたマフラーを最近しなくなった。
コートから、初冬に着るジャケットに再び戻った。

そのジャケットも、なんだか重く感じるこのごろ。


空の青が少し変わった気がした。
海の青も心なしか、やらかいように感じる。


フランソワーズのお気に入りの、シルク素材の色とりどりの花がプリントされたスカートが、ふわり。と、邸の庭でまだ冷たい潮風になびいていた。


「寒くないの?」


起きたばかりのジョーは、パジャマのまま、ふああ。とあくびをしつつリビングルームから庭へと通じるスライド式のガラス戸を開いた。


「おはよう、ジョー!」
「おはよう」


邸のリビングルームを暖めるほど、太陽はまだこちら向いていない。
フランソワーズの服装は、ジョーの肌に触れた空気から計算すると、”気が早い”と言う感想を持つ。


「待ってね、これを干し終わったら、すぐに朝食の用意をするわ」


洗濯籠の中の量を観て、にっこりと微笑んだ。


「大分かかる?」
「いいえ、もう終わりなの。珈琲は用意できてるわ」
「わかった」


リビングルームの、スライド・タイプのドアを開けたままにして、ジョーはキッチンへと通じる、ダイニングルームへと向かった。


「その前に着替えてちょうだいっ!!」


背後からのフランソワーズの声に、ジョーは首だけで振り返り、舌をべー。っと出す。


「も!!」
「休みの日くらい駄目なわけ?」
「駄目です。着替えてくれないのなら、朝ご飯知りません!」
「・・・はい」


朝食を用意する。と、聞こえはいいが、ただバターを塗ってトーストを焼くだけのこと。
自分1人でだって、できること。


けれど、ジョーはまるで何も出来ないフリをする。

本当は何でも1人でできる。
何でも1人で出来るように、生きていけるようにと、幼少のころから”訓練”されていた、彼だから。








####

「ちゃんと1人で起きられたのね♪」
「まあ、もう11時だし・・・流石に目が覚めたよ。なんで今日は起こしてくれなかったの?」
「今日は大学がお休みでしょう?」


2杯目の珈琲をダイニングテーブルに置いて、フランソワーズは自信満々に答えた。


「まあ、ねえ・・・」
「それに、毎回毎回、怒るじゃない!」
「・・・・ちゃんと起こしてくれたら怒らないよ!」
「普通な起こし方じゃ、起きないのはどこの誰さんなの?」


新しい珈琲の香りをすうっと胸に吸い込みながら、むっとしたように突き出した唇でマグの端に触れる。
ずずっと、音を立てるようにして、1口、飲む。


「・・・ボクです」
「・・・ね!」


焼く前にたっぷりとバターを塗る。
それがジョーのお気に入りのトーストの食べ方。

お皿の上のトーストは、すでに半分ほどジョーの胃に収まっていた。
トーストを乗せたお皿の隣にはフルーツ入りのヨーグルトも一緒に置かれている。

フランソワーズはジョーの朝食を用意した後に、彼の隣のいつもの自分の席に座る。

彼女は戦闘中や、どうしようもない状況でない限り、絶対に家族を”1人で食事”させるようなことはしない。

相手が誰であろうと、その人が食事を終えるまで側にいるのが、フランソワーズ。
そのために、ギルモア博士はどんなに忙しく、研究に夢中になっても食事の時間は必ずダイニングルームへやってくるようになった。

研究室で1人で食事を取る(イワンは夜の時間だった)ギルモア博士を観てしまったフランソワーズは、その場で大泣きしたのは、いつだっただろう、と。ジョーは、ふと思い出そうと思考を巡らせた。







フランソワーズの前には、飲み物も何もない。


ジョーの隣に座り、両の肘をテーブルについて。
白くて可愛らしい手のひらに、芸術的なラインを描く顎と、ほんの少し色づいた頬を包み込むようにして乗せてジョーが朝食をとる様をじっと見つめていた。


レース仕立てのキャミソールに、七部袖の薄い生地を重ねた、襟ぐりが大きく開いたカットソーが引っ張られた感じに彼女の腕を露にする。


首元を飾るのは、ずっとつけっぱなしにしている、ジョーからのクリスマス・プレゼントにもらったペンダント。


「トーストのおかわりは?」


マグをテーブルに置いたとき、綺麗な左右の鎖骨の間に光る、ピンクゴールドの小さなローズに自然とジョーの視線が流れた。

彼女が口にした質問に合わせてかすかに揺れた。


「う、ん、あ?・・あ、ううんっ。大丈夫、これでいい、j。十分だよっ」


お皿の上に残っていたトーストをジョーは慌てて口の中に突っ込んだ。


「そお?」


本当にもういいの?っと問い返すように、ジョーの声を覗き込む青。
彼女瞼が数回瞬く。



その風に。
炭酸水のような、刺激。


シュワっと弾けた、想いが照れくさい。



「フランソワーズ、まだ外は寒いんだから、そんな薄着をしていたら風邪引くよ?」
「大丈夫よ、最近はすっかり温かくなったもの」


ふふ。っと微笑む。



「駄目だよ、油断大敵」
「邸の中だけでもいいでしょう?」


おねだりするような甘えた上目遣い。


「家事をするのに、汚れるよ?」
「そんなの気にしていたら、何も着られなくなっちゃうわ」


拗ねたように、頬を膨らませた。


「お出かけ用とか・・に、しない?お気に入りなんだろう?」
「そうやってクローゼットに眠らせておく方が、スカートに失礼だわ!」


火照る頬をごまかしたくて、ごくん。と、飲み込んだトーストの後に、冷たいグラスにもられたフルーツヨーグルトを手に取り、忙しなくデザート用のスプーンを動かす。


「ね、ジョー!」


キッチンとダイニングルームの仕切りとなっているキッチン・カウンター。


「観て!」


フランソワーズはついっとイスから立ち上がり、ダイニングテーブルとキッチン・カウンターの間の広いスペースに、フランソワーズは立った。



「?」


ジョーの視線がフルーツヨーグルトからフランソワーズへと移る。
右の頬がかきこんだフルーツのせいで膨らんでいる。

もくもく。と咀嚼をしながらフランソワーズを観る。


「ね、観て!!このスカートは毎日着たいくらい、素敵なのよ♪」


フランソワーズ軽く両手を肩の高さにまであげて広げた。
その優雅な動きと、ぴん。と指先まで行き届いた神経に、彼女がバレリーナであることを改めてジョーは意識する。


左足を軸に体重を預けた。
右足を30cmほどのに離れたところに添える。
膝を軽く曲げ、軸足のかかとが浮いた。
すっと珈琲の香り立つダイニングルームで深く息を吸うと肩が開く。
上半身が左の方向へと勢いによくひねると同時に、右足がフローリングの床を蹴った。


「!!」


くるり。っと、ピルエット。



ふうわり。っと、スカートが浮き上がる。
柔らかなスカートが、フランソワーズの回転に合わせて広がる。


「ね!素敵でしょう!」


また、くるり。くるり。と、さらに勢いをつけて回転した。




膝丈の長さのスカートが風に乗る。
浮き上がって、広がって、そして・・・・。





「あ」





普段滅多に観ることのない、引き締まった膝上。






春の花。

揺れるスカート。










ふとももが眩しい。








「ジョー!?」





目に飛び込んできた、輝きに手の力が抜けた。







「うわ!」


手に持っていた、半分も食べていないフルーツヨーグルトのグラスの器をジョーは膝上にべっとりと落とした。


「も!何やってるの?!」


ジョーの膝の上で跳ねたグラスの器が、フローリングの床でかしゃん!と音を立てて割れる。


「フランが悪いんだよっ!!急にっそんなっ邸でバレエ禁止!!!」
「ええ?!」


キッチンへ駆け込んで、布巾を手にもったフランソワーズに乱暴に言い放った。


「バレエも、回転もっスカートもっ禁止!」


フランソワーズは、割れたグラスを避けるようにしてダイニングテーブルの右側から回り込み、ジョーの元へと近づく。


「フランは、もうっ防護服かズボンだけ!」
「も!立って!!汚れちゃったズボン洗濯するから脱いでちょうだい!」
「うわああああああっっ!フランっどこにっ!!ちょっ!!グラスが危ないからっ!バスルームで脱ぐよっ自分で脱げるしっ!!」
「あっちもこっちも一緒よ!割れたグラスが跳ねてズボンについてるかもなの!だから、ここで脱いで!!」
「嫌だっ!駄目だっっフラアアアアアアアアアンッッ!」


わーわー、キャーキャー賑やかな声がギルモア邸のダイニングルームを彩る。


「も!ジョーの下着なんて見慣れてるし!誰が洗濯していると思ってるの?!」
「それとこれとはっ違うからっ!」
「駄々こねてないでっ!もうっそれでも009なの?!」
「関係なあああああああああいっ!!」
「ほらっ、イワンで慣れてるから」
「イワンって!!赤ん坊と一緒にしないでくれっ!!」








####


ギルモア邸の新ルール。


ー。 スカートでのピルエット(バレエ・回転技)禁止
ー。 緊急事態(戦闘時などの負傷の場合など)人のズボンを脱がすこと禁止(特にフランソワーズ!)






「・・・・禁止にしちまったらあ、ジョー自身があとで困らないかあ?」
「それは100年くらい先の心配アルヨ。その頃には、また新ルールができてるネ!」
「それに、フランソワーズはスカート派じゃ!関係ないぞ!」
「「博士・・・」」








end .





*久しぶりだと、ノリが変・・・(涙)
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「55555」番でイタダキました!@Critical Mach Number さま!



「いい天気!」


暖かさに、芽吹いた新緑の小さな命を見つけてはキミは微笑む。


いつものデパートへ。
何もない1日を、何気なく過ごす。


パステル・カラーがパレットからあふれて、街を春色に塗り替え始めたのは、ここ数日。
魔法の筆を持っているのは、誰?と、問いかけるように、キミは通りかかった公園へと足を踏み入れた。

春の足音にまぎれて、さりげなくキミの隣に座る。
まだ名残惜しそうに居座る冬の精が、一生懸命に冷やす空気を、キミは胸いっぱいに吸い込む。

キミの甘い、蜂蜜色の髪が、きらきらと日差しをはじいては、揺れる。

「気持ちがいいわ!春ね!!」
「うん」
「春が来たのね!」

満開のさくらが人々を魅了するように、キミの笑顔がボクを魅了する。

「もう少し、いいかしら?」
「寒くない?」

さあ、時間だよ。
駄々をこねてないで、遠い北へ帰らないと。


「大丈夫よ!」
「それなら、よかった」




緩やかな日差しがボクらの背中を暖めて。
その暖かさにまぎれて腕をキミへと伸ばす。



009_0903011.jpg
Critical Mach Number(c)ワカバ屋さま





触れた光の感触。




ちょっとびっくりした視線で、ボクを見るキミ。

上目使いの碧。
少し強張った感じに狭められた、肩。

甘い蜂蜜色の髪は、さらりと、ボクの指になじむ。
ふっとキミの緊張が解ける。

「・・・・いい天気だね」


触れたのは春の光。
去り行く冬の精が、最後にひと吹きした風に、花の香りが舞う。


「春、だね?」


さらりと、キミの髪をなでる。
自然と、ボクの指にキミの甘えたような重さがかかる。


「ええ・・・春が来たわ」


この日を、長く待っていたのは、誰よりもボクなのかもしれない。







end.














ワカバ屋さま、素敵な93イラストをありがとうございました!!
そして、・・・ふふふ。も、ありがとうございましたああ!!

b-002.jpg
Critical Mach Number さま!のサイト
illustration:ワカバ屋  さま
管理構成 :celica さま




ライン

続きは私の長いコメント+αです。
いやあ、せっかくのムード(?)を壊しそうなので、別ページにしようか悩みましたけど、(こういうとき、ブログって不便かな...)一気にいきますっ

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one-sided love?
ヘッチャラの、お茶の子なのよ!

ほら!だってね。
野営なんて当たり前だし、ドルフィンの部屋割りなんて適当で、その時々で使用する部屋も変わるし、シェアだってするわ。

それに、メンテナンスの時なんて、みんなズラーって同じ部屋で過ごすんだもの。


戦闘中は寝てる暇もなくて、休憩できる時間が少しでもみつけたなら、みんな所かまわずって言う感じだし、そんな特別なことじゃないの!



そうよ!



たまたま、今。

戦闘中じゃないって言うだけなの。
そう、たまたまなのよ。
偶然、そうだったの。



そしてね。



別に、誰も抵抗がないって言うこと。
慣れてるのよ、慣れっこだもの。




私がメンバーの中で唯一の女の子って言う、意識が低いの。
変に”意識されるよりもずっといいと思うわ!


私たちは、仲間で、家族ですもの!
死闘をくぐり抜けてきた戦士っ。




そう、だからっフランソワーズ!!


へちゃら~の。
お茶の子さいさい。


鬼を酢に指して食う!よ。

違ったかしら?


あ!
蛙の面に水ね!!


・・・日本語のことわざって意味がわからないわ。
だって、蛙は水の中が平気なのに、水をかけられたくらいで、びっくりするかしら?



「んん・・・」
「!」



23.png









いやあああっ!!
こっち向かないでよっジョーっ!!



鹿の角を蜂が刺すっなのっ。






003よ!
私は003なのっ。






蛙が一匹!蛙が二匹!蛙が三匹!






「h・aa・・・fuuuuuuuっ・・・・zzZZZZ」


きゃあああああああっ!!!息がっ!!













家族の寝息が聴こえる。

みんな深く、幸せそうに眠っている。

私の右側に、ジョーがいて。
左側に、イワンが。
寝相のいいピュンマがその向こう。




本当は、ジョーが寝ている位置に、私のはずだったの。
けれど”窓側に女の子は危ない”ですって。


どうして、そういう気の使い方ができてっ!










・・・女の子って解ってくれてるのに。
どうして、平気で私の隣でそんなに気持ちよく寝られるの?














***



一睡もできなかった。
樹の香りが満るリビングルームに眩しい陽の白さがはじけ、広がっていくのを黙ってみていた。



「・・・フランソワーズ?」


すうっと、何の前触れもなく、ジョーの瞼が開く。


「・・・・・・お、おはよう、ジョー・・・」


ジョーとシェアしていたシーツから出ようと、その場に身を起こしていた私にむかって、ジョーが伸びをしながら訊いてきた。


敏感な彼だから。
起こしちゃったのね。


「お早う・・・・・早いね」


ふああ、っと、のんきそうなあくび。


「・・・ジョー、あのね」
「?」




言えないわ。











無邪気な瞳をこちらに向ける、今の状況に何も疑問を持たない彼に、何が言えて?


「もしかして、フランソワーズって枕が変わると眠れないタイプ?」


そういう問題じゃないわ!
・・・・それに、今更な質問じゃなくて?


「まだ、起きるには早いよ?」


ギルモア博士のお知り合いの方が持つ、北の別荘。
いつの夏だったか、前にも一度、博士、イワン、ジェット、ジョー、そして私とで少しの間のヴァカンスを楽しんだ。

蝶のコレクターでもある、ご友人の別荘には、目を奪われる美しい、貴重な蝶たちが箱に収まっている。

そのコレクションをH大学の博物館へ寄付することになり、今年の夏は美しい蝶たちの移動を手助けすることも兼ねて家族全員で北の別荘に訪れた。





別荘だけれど、ほとんどの部屋を蝶たちに独占させられている状況で。
前よりも、さらにコレクションは増えていて。



涼しい夏山。
ひんやり冷えた床。
ベッドのマットレスを並べてシーツやクッションでアレンジ。
一番広いリビングルームの家具を移動させて作ったスペースに、10人がずらっと並んで雑魚寝。




すごく楽しいわっ♪。
みんなで夏のキャンプですもの!


ね?



でも、・・・ね。


「まだ寝ていていいんだよ?」
「で、でも・・朝食を・・・・」
「そんなの、いいって。・・誰かが買ってくるよ・・・フランソワーズは色々がんばったし、昨日」


同じように、身を起こしたジョーが微笑みながら、私の肩を通り越して、眠る家族へと視線をむけた。


「だけど、その・・・」
「寝不足は美容によくないよ?」
「!」











引っ張られた腕。
バランスを崩して、倒れ込んだ先の胸。

たくましい彼の腕を後頭部に感じる。


抱きしめられて。










「二度寝って、けっこういいよね・・・・」















すやすやと、漫画かアニメのような勢いで、さっさと再び夢の中についたジョーにたいして、私は緊張に身を固くして、1mmも動けませんっ。



「・・・・どうして?」



私がよくイワンにしてあげるように、優しく私の背中をなでるようにリズムよく打つジョーの手。









誰か、教えて。

片思いの相手と同じ布団で、眠るって、すごくラッキーなことなの?
それとも、平気で眠っちゃった相手にたいして、落ち込むべきなの?




抱き枕か、妹くらいにしか思ってないから、平気なのよ、・・・そうでしょう?










end.










*39なので!ラグビーさんありがとー♪


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私が好きになった人は島村ジョーの彼女に片思い。
お気に入りの、カフェ。
入り口のドアを開くと、ドアのチャイムがちりりん♪と鳴る。


チャイムの音に、どきん!っと跳ねて、きゅうっと私のハートを締め付ける。


「いらっしゃいませ」


彼は、美味しそうなケーキがたくさん並んだ、宝石箱のようなショーケースの向こう側から、笑顔で声をかけてくれる。


「こ。こんにちわ」
「こんにちは」


気軽に声をかけてくれる、彼。
その声に、縮こまっていたハートが、くん!っと跳ねると、今度は暴走機関車のように走り出す。

彼を意識しすぎた私のギコチナイ動きに、一緒にカフェにつきあってくれる友人はくくっと忍び笑い。

友人のえくぼがいつもよりも深くなった。


「ホールですか?・・・お持ち帰りですか?」
「いえ!あの・・・あ、あのっ・・あの、あ、わ、」
「アルバイトを募集してるって訊いて来たんです、彼女!」
「あ、ああ!そうですか」


彼が嬉しそうに笑った。
そして、私と友人と交互にみる。


「2人で、ですか?」
「はい!」
「わかりました、じゃあ、ええっと、・・・」


彼はきょろきょろとホールを見回した。
その仕草、ひとつ、ひとつに私は反応する。


「一番端っこの、席で待っていてもらえますか?」
「はい!」


友人が元気よく私の分まで、返事をする。
私は乾ききってしまった咥内に舌と上あごが引っ付いたまま、言葉を発することができなくて、ぐるぐるに巻いたマフラーに顔を半分うずめた。


「緊張しなくてもいいよ。面接に着たらちょっとした”ラッキーがあるんだ!楽しみしててね」


私の緊張が伝わったかのように、真剣な表情。が、くしゃって崩れて満面の笑顔。


ああ・・・いいなあ。
井川さん。


井川、大地さん。














彼の言う”ちょっとしたラッキー”は、カフェ「Audrey」のどれでも好きなケーキ!が1つ食べられることだった。

すごい!

アルバイトの面接ってこんなに素敵なの?


私と友人はいつもは”高く”て頼めないケーキを欲張って頼んだ。
オーナーの奥様である”萌子さん”はそんな私たちに、紅茶のお代わりを進めてくれた上に、もうすぐクリスマス(まだ12月にもなってないのに)だからサービス!っと、もう一つケーキをごちそうしてくれた。


すごい!


すごい、ここのカフェすごい!!
アルバイト経験のある友人は、もうメロメロ!


面接に来たことも忘れて、私と友人は萌子さんとのおしゃべりに夢中になる。
あのとき、どれくらい居たんだろう?




もうそれは、5ヶ月?くらい前のこと、だけど...。














私と友人は、その場でアルバイトの採用が決まった。

萌子さんの採用基準。



それは、ケーキが大好きなこと。
カフェで素敵な時間が過ごせる子であること。


何より、おしゃべりが好きで、そして・・・。







ドアのチャイムがちりりん♪と鳴る。
春がもうそこまで来てますよ、と。
春の妖精がこの世にいるとしたら、彼女のような姿なんじゃないかな?っと、私は思う。



「いらっしゃいませ」
「こんにちは!」
「こんにちは、フランソワーズさん」


明るい笑顔を今日もお客様へ。
春の妖精にはなれなくても、春の”日差し”くらいの明るい笑顔は作れりたい。





『あなたたち、ちゃんとこころから”笑える”から採用!カフェ”Audrey”で働きたいって思ってくれてありがとう』







「ああ!!フランソワーズさああんっ♪」


・・・・。


明るい笑顔。
明るい笑顔。



「もうっ、井川くんは”裏シフト(雑用/備品のチェックや継ぎ足し)”ですよ!」


今日は萌子さんは外回り/なので、いないのです。


「サラちゃん、厳しいー・・・」


くすくす。っと笑った、フランソワーズさんが、あまりにも可愛らしくて、つい見とれてしまう。


「じゃあ、更科さんにお願いしますね。今日はね・・・大地さんが好きなのをお願いします」
「え?!」
「Joyeux anniversaire!」
「ふ、フランソワーズ、さんっ!!知っていてくださったんですか?!」
「ええ、ジョーが昨日電話で教えてくれたのよ。それでね、ちゃんとプレゼントを預かってきたの!」


HP100は奪われた(笑)井川くん。


「・・・・ジョーが教えて、そして・・・ジョーからっすか」


フランソワーズさんは、ケーキが並ぶショーケース越しから手のひらに乗る小さな箱を手渡した。
なんだかAudreyのケーキより高そうなラッピング・・・。



せっかくプレゼントをもらったのに、がぼーんっと、目に見えて落ち込んでいます。

けど、それにまったく気づく様子がない、フランソワーズさん。
彼女ってば、プレゼントを渡して、井川くんの反応なんて全然興味ない様子。
彼の好きなのを。って言いながら、ショーケースの中の春の新作チェックに忙しい(笑)


可愛い人だなあ。




「井川くん、お店のケーキでどれが好きなんですか?」


私は隣で受け取った箱を静かに見つめて、丁寧にそのラッピングを解いていく彼にこそっと話しかけた。


「ん?」


ちょっとびっくりしたように。
実はプレゼントが(島村さんからのでも)嬉しくて、ウキウキしたオーラが、彼の優しい目元から。

私の質問を聞き返す、何気ない視線。
そして、ちょっと恥ずかしそうに左右に引っ張った口もと。








私の片思いの相手は、井川くん。

その井川くんの好きな人は・・・

私が好きになった人は、F1レーサー、島村ジョーの彼女に片思い、中。





「・・・・鍵?」
「大地さん、免許を取ったのでしょう?」
「はい・・」


いったい、何の鍵だ?っと、指先でキーホルダーをつまみ上げる。
ちゃりん。っと、金属がぶつかり合って鳴る音。


「ジョーのマンションの鍵よ。ジョーからの伝言は・・『地下駐車場に置いてある好きなのに乗ってくれ、そこに欲しいのがあったら1台選んでいい、よ』だったわ!車の鍵はマンションのお部屋に置いてあるの、場所が解らなかったらメールしてくれですって。リビングルームのテーブルの上の箱に入れてあるって行ってたのだけど、ジョーのことだから・・・」
「!!!!」
「車をプレゼントですか?!」
「それと、マンションは大地さん、自由にしてくれ。ですって、誰も使わないから好きに使ってくれだそうよ?」


すごいっ!
さすがF1レーサー!!
車いっぱい持ってるんだー・・・・。いっぱいもらうのかなあ?それとも、作ってもらうの???


「っつーか、マンションってなんすっか?!」
「大地さん、ご存知なかったの?ジョー、イギリスへ行く前にマンションを買ったのよ。色々と面倒なことを邸に持ち込みたくないから・・・日本ではそこに住んでいることになっているの、心配性よね!」


にっこりと、微笑んだフランソワーズさんからきらきらと、何かが弾けたように見えた。
島村さんのお話をなさる時のフランソワーズさんは、恥ずかしそうだけど、嬉しそう。なんだかこっちにも、彼女の島村さんへの気持ちが伝染してしまうような・・・。


フランソワーズさんは、いつでも、どんな時でも、離れていても、側にいても、島村さんに恋してる。






そんな彼女に恋する、井川くんに、私、更科のり子は恋してる。







「ね、それでね。せっかくですもの、高校が春休みに入った更科さんとドライブとかどうかしら?」
「!」
「・・・・へえ?なんでサラちゃんと?」


う~ん...
この片思いの道は険しい!


「私はどうせフランソワーズさんじゃないですから、駄目なんですよね?」
「え?いやっ、違う、違う、嫌とかそういうのじゃないよ、サラちゃん!!」



それにしても、どうしよう・・・・。
車のプレゼントの後に・・・、なんて私が用意した、の・・・
なんて、渡せないーーーーーーーーーー!






あれ?でも、どうしてフランソワーズさん、私ご指名なの?


「ふふふ、ね?更科さん、ドライブしたいわよね?」
「!」


こぼれ落ちそうなほどに大きな蒼い瞳が、何かを含むように悪戯に、煌めく。
その煌めきを、長いまつげが散らした。


まるで、映画を見ているような瞬間だった。





そんなことより!

気づかれてるーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
泉ちゃんっ(友人)、どうしよーっっフランソワーズさんに知られてるよー!!!






end.















*言い訳*


思いつくままに、(3/9/09’・・・ええっと21時くらいから書き始めて)今、書き終わったっす。
なんとなくイメージはあったのですが、形にならなかったお話。

・・・書き込めてなくてすみません。



新キャラであって、違う・・・ような?更科のり子ちゃん。高校2年生♪
彼女は、大学受験のためAudreyを辞めちゃいます。
友人の田中泉ちゃんは専門学校へ。
泉ちゃんは受験中も、その後もAudreyでバイトを続けます。

サラちゃんと言うニックネームの彼女。
下の”のり子”が思い出してもらえないという(笑)

大地くんには告白せずに片思い(憧れのお兄さん)のままで、大学入学してさっさと彼氏見つけます(笑)
Audreyには復帰しないです。
彼氏さんと同じところでバイトして、そのまま就職します。
その後はAudreyの常連さんに。

その彼氏さん、ジョーの大・大・大ファンだったり(笑)

妄想楽しいです。



大地くんに想いを寄せる子がいる。と言うお話でした。
3月9日は彼のお誕生日です・・・・。


もっと別のをアップしたかった。
でも、大地くんって思い入れが強いのか・・・書くのにエネルギーいることに、最近気づいた。縦揺れノリノリで書かないと!(笑)
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左右に揺れる亜麻色の髪
かしゃん。と、フランソワーズの手にあった、水を入れていたガラスコップがフローリングの床を跳ね、きらきらと光る星屑のように散った。

濡れた床に落ちた欠片たちが、ギルモア邸、ダイニングルームの照明に反射してきらり、きらりと輝いた。
その小さな輝きに、目を奪われて、ガラスコップが割れてしまったことにすぐさま反応する事が出来なかったジョーは、フランソワーズの声で我に返る。


「ごめんなさいっ!私ったら・・」
「いや、ごめん・・・」
「ううん、私がっ」


左右に揺れる、亜麻色の髪。


「ちゃんと受け取らなかったボクのせいだよ、ごめんね」


しゃがみこんで、グラスの欠片を拾うフランソワーズを見下ろす、彼女の髪は、左右に揺れ続けていた。


「すぐに片付けるわ」


触れ合うガラスの欠片たちが、かしゃり、と。鳴る。


「危ないよ、手を切る」
「平気」
「ボクが片付けるから・・・、キミは掃除機、持ってきて」


片膝をつく形で、ジョーもフランソワーズと同じ目線までしゃがみ込んだ。


「あ、ええ、掃除機、・・・そう?でも、もう大きな欠片は拾ってしまったから・・・」


拾える大きさに割れてしまったグラスの破片を手のひらに乗せた、フランソワーズ。


「・・・・・あの、さ」


ジョーは慎重に、フランソワーズの瞳を覗きこんだ。


「掃除機、すぐにもってくるわ。ジョーはリビングルームへ行っていて、ね?」


ジョーの視線から逃げるように、フランソワーズは固く瞼を降ろして立ち上がり、手のひらのグラスだけを見つめるために、蒼を甦らせる。


「そんなに驚かなくても、いいんじゃない?」


立ち上がったフランソワーズを見上げて言った。


「・・・」


無言でフランソワーズはダイニングルームを去って行く。





「・・・・・なんだよ」





去って行く、彼女の背を見つめながらため息を一つ。







足下の濡れた床。

拾えないガラスの欠片。






きらり。きらり。と、光る。
揺れる、彼女の髪の光り方とは違う。


「なんだよ・・・。聞かれて困るような相手なわけ?」


フランソワーズが持ち帰った小さな箱と、パステルカラーの細い、黄色とピンク、そして白の、3色のリボンで飾られた、とても可愛らしい、イワンのほっぺのようなマシュマロが5つ入った、透明な袋。



今日と言う日が、何の日で、どういう意味があるのかくらい知っている。




















あげたから、お返し?
・・・・誰にあげたの?




1ヶ月前に、キミは、いったい誰に、何をあげて、何を言ったの?



















ボクは聞いてない。
知らない。


















ボクは何も知らない。
ボクは何ももらっていない。
ボクは何も聞いてない。


ボクは何も、・・・・・・・・・・。



「!」





砕け散ったグラスの欠片が、星のように瞬いて。
その瞬きの一瞬に満たない早さで、ボクは彼女を捕まえた。


「なんで、わかってくれないんだよっ・・・・・・・ボクはキミのことが好きだっ!!」




亜麻色の髪が左右に揺れる。
否定を表す揺れ方に、さらに強くフランソワーズを抱きしめる。


『ウソ』と、形作る、愛らしい唇が憎い。




憎くて、愛おしくて。



「っ」


まだ、捨てられずに彼女の手のひらにあった、大きな欠片を握ってしまった、フラソワーズの手から、赤い雫が落ちた。


「!」


彼女の眉が、痛みに歪む。
ジョーは加減せずにフランソワーズを抱きしめてしまったと勘違いして、彼女を解く。


フランソワーズの手のひらにある、欠片が、光る。
赤く、光る。


ジョーは彼女の手から、それらを取り除いてバスルームへとフランソワーズを連れて行き、洗面台の屑篭にガラスの欠片を放り捨て、蛇口を捻って勢いよく出した水に、切ってしまった彼女の血を洗い流した。



流れていく。
水音。

フランソワーズを包み込むように、彼女の背中抱きしめて。



彼女の左肩に顎を預け、左耳にささやく。




「嘘じゃない、・・・どうして、信じてくれないの?」



視線をあげて、洗面台の鏡の中にいるフランソワーズに向って言った。
鏡の中の彼女は、きゅ。と、ジョーの手に固定されていない方の手で蛇口を閉めて、水の流れを止めた。

赤が滲む前に、手近にあったタオルへと腕を伸ばし、それで傷口を押さえると、その手の上に、ジョーの手が重なる。
フランソワーズの両手をジョーの両手が包み込む。


「信じる、信じないじゃなくて・・・・。・・・ダメなの」
「だ・・め・・・?」


かしゃん。と、先ほど聞いたグラスコップが割れる音がジョーの胸で再生された。


「ダメ・・。だって、・・・だって」


亜麻色の髪が、左右に揺れる。
もう、それが癖になってしまったかのように、風もない邸の、バスルームで揺れた。


「だって、なんだよ。ボクが、何だって言うの?」


乾いた唇を潤すように、巻き込んで。
そこで一時停止。






憎らしく、愛おしいと思う、唇が作り出す言葉に耳を澄ませた。つもり、だったけれど、ジョーは彼女の言葉を待つ時間を省略する。
聞く必要ないと、判断したために。









余計な言葉はいらない。と、フランソワーズの言葉を、飲み込むように。
彼女の両手を包んでいた手が、なぞるように腕から肩へと移動し、同時に重なっていた躯がずれて、鏡の中ではない、彼女と、向き合う。

逸らされた蒼の中に、ジョーは自分を見つける。
みつけた自分をそのまま固定するように、フランソワーズの頬を包み・・・・。




重ねる。



自分の気持ちを、彼女の気持ちを、何もかも1つにして、自分の胸に流し込むために。










かしゃん。と割れた、グラスが光る。
星のように、瞬いて。
きらり。きらり。と、輝いて。





砕けた欠片を拾い集めて、胸いっぱいに、煌めいて。



















「誰にもらったのか、言うんだ。ボクが返してくる」
「ダメよ」


癖になってしまった、左右に揺れる、亜麻色の髪。
上擦った声を、まだ言うのか?と言う疑問を乗せて。
ついばむように重ねる、憎らしくも愛おしい唇。



「受け取ったら、ダメだっ」
「いいえ、ダメ、いただいたのを返すなんてできないわ」
「キミには必要ない!」
「っそんなの、ジョーには関係ないわっ」
「あるっ!!」






彼女にむかって、彼にむかって睨み合う。
お互いの瞳が先ほどまでの甘さに潤みきっている恥ずかしさを、押し込めるように。








「わた、わ、私はっジョーの彼女でもなんでもっ」
「キスまでしてっ今更っ」
「勝手にジョーがっ!」
「フランソワーズっ!!ボクはキミが好きだっ、何があっても何がどうなっても、地球がひっくりかえって、南極ペンギンが赤道に住む事になったって、ボクはキミが好きでっ、好きなんだよっ」
「・・・・・だってっ!あれはっ」
「あれは何だよっ!」
「ローラにもらったんだものっ」
「・・?」













---ローラ?

キミの通うバレエ団の、プリマドンナ・・・ローラ・友美・甲斐田・・・の、こと?












フランソワーズの躯が熱く、火照る。
足先から上ってくる熱に、彼女の白い肌が綺麗に反応を表す。

耳たぶから、頬を染めて、全身が茹だっていくフランソワーズを、鏡に映るフランソワーズをジョーは見ていた。







「・・・・女の子同士でも、チョコレートをあげたりするのよ。それで、その・・ファン心理と言うか、みんなで、次回の公演をがんばってくださいって言う気持ちで、バレンタインデーにあげたの。・・・そしたら、今日、お返しにって、マシュマロをみんなにくださって、でも、なぜか、私には別にも・・あって・・・・・」





---まさか・・・。






「返してくる。相手がキミの憧れてのダンサーだったとしても!」
「嫌っ!!ダメよっ。私にその気持ちがないことは、そういう”恋愛”の兆候がないことをわかっていらっしゃる上でくださったんですものっ。彼女の勇気に、そして、そんな風に思ってくださっていたことに、水を差すようなことしたくないわ!!」
「許さないっ。女でも、男でもっ、機械でもっ、お化けでもっ妖怪、あああっ全部だっ全部っ!!ボク以外は許さないっ」
「ジョーが許さなくt」








解らないの?
まだ、解らないの?
まだ、ウソだと思っているんだろう?






----逃げないで、受け止めてよフランソワーズ!!












噛んだ加速装置。
燃え散った、彼女の傷口を押さえていたタオルと、衣類。



左右に揺れることが当たり前になってしまった亜麻色の髪の、輝き。
抵抗する彼女の弱々しさに、割れたグラスのコップの小さな欠片が、ジョーの胸をちくり。と、痛ませる。



そんな繊細な痛みを、ジョーは目の前にいるフランソワーズの初めて見る姿に、忘れ去る。














「ダメ・・・」


左右に揺れる亜麻色の髪が、枕カバーにこすれて布擦れの音。


ボクは聞いてない。


彼女の”ダメ”は口癖。
キミの髪が常に左右に揺れているような、同じ癖。



「こんなの、ダメ」



知らない。



「ダメなの・・・」
「ここまで、きて、・・・何が、ダメなんだよ」




うっすらと焦げた匂いが漂う部屋に不似合いな、声。










ボクは何も知らない。
ボクは何ももらっていない。
ボクは何も聞いてない。



だから。



ボクは知ろうと思う。
ボクはもらおうと思う。

ボクは、聞きたいと思う。






「好きだ、フランソワーズ・・・。だから、教えて、聞かせて欲しい。・・・・・・ちゃんと知りたい、言葉が、キミから」
「・・・・・・ダメ」
「フランソワーズ・・・・」


かしゃん。と、割れたガラスコップの欠片が煌めく。
見つからない欠片が、どこかでひっそりと、輝いている。




「言わないわ・・・言ったら、もう、逃げられないもの・・・・」
「・・・」
「ペンギンさんが赤道に住む事になっても・・・言わない・・・・ダメなの」




左右に揺れる亜麻色の髪。
その髪に、唇をよせて。


「好きだよ、フランソワーズ・・・キミが言わないなら、ボクが言い続ける、し・・・」


ダメ。っと、言われても。
激しく揺れて否定する髪も。




何もかも、愛している。














end.






*だああああい分前からあったロングストーリー用のお話だったんです。
 こういうのを書いて、べろーん。と、伸ばして、肉付けして長くなっていくんです。

 ちょこっと文章入れ替え・・・ホワイト・デー使用にしてますが、イベントには置きませんっ(涙)
 それように書いてないからが理由です。
   
 
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はあと
春の温かさが増して、満開の桜が散りゆく並木道。
桜色の絨毯がずっと遠くまで続いている。

こぼれ落ちる日差しがキラキラに輝いて。
どこか違う世界へ通じているのではないか。などと思わせる道を歩く。

フランソワーズも、ジョーも、いつもよりほんの少しだけ興奮しているようにみえた。




舞い落ちる花びらは恋の色。






「フランソワーズ、じっとしてて」
「?」


フランソワーズの前髪にふり降りた花びらを指先につまんだ。



「・・髪に・・・・」
「・・・ありがとう。・・・あ!」


ジョーの肩に舞い降りた、花びらをジョーがしたように、フランソワーズも指先でつまみ取った。
くすくすと笑い合いながら、互いの手のひらにある桜の花びらの感触を楽しむ。


「フランソワーズ」
「?」
「こうやってみると、ハートの形?」


手のひらにおいた花びらを、フランソワーズにむけて、ハートの形に見えるようにみせた。


「ピンク色だしさ。そう思わない?」


無邪気に笑って、見せる。小さなハート。


「もう少し、切り込みって言うのかしら?真ん中の部分が深かったら、もっとそう見えたわね」
「ハートの形って、いつから『そういう意味』で使われるようになったのかな?・・そして、この形を誰が考えたんだろ?」
「ハートの形?」
「そう、この形を考え出した人ってすごいと思わない?」


桜並木の右側よりの道で、立ち止まった2人。


「誰かが、じゃなくて、自然にそうなったのじゃなくて?」
「自然に?それなら別にこの形じゃなくてもよかったと思うんだけど?」
「別にいいんじゃなくて?今は、これが”ハート”なんですもの」


うーん。っと、納得できない様子のジョーは、口の両端を下げてへの字を作る。


「もう、ジョーったら。ハートはハートだもの。どうでもいいじゃない」


フランソワーズは綺麗なラインを描く顎を突き出すようにして、空を見上げた。


桜のピンクに挟まれた、パステルカラーの水色の空は、まるで川のようにのびていた。
ささやかに通り過ぎる風は、日差しの温かさを弱めるように、まだ冷たい。


「ダメだよ、フランソワーズ。これは重要なことなんだからさ」
「何が重要なの?」

フランソワーズは胸いっぱいに、冷たい空気と一緒に桜の香りを吸い込みながら、ジョーの言葉に応えた。


「ハートがこの形だから、今こうやって僕たちが一緒にいるんだから」
「え?」


空から視線をジョーへと戻した、フランソワーズの目の前に。


「やだっっ!!ジョーっなんでそれを持ってるのっ?!」
「ん?」


フランソワーズの手が素早く、ジョーの手にある”もの”に向かって伸ばされた。


「返してっ!」


ひょい。っと、フランソワーズの腕を軽々とかわす。


「なんで?これ、僕でしょ?」


次々に、あるものを奪い返そうと、003が繰り出す手。


「どうしてジョーが持ってるのっ!!」


・・・を、見事に読みきって、余裕でかわす009。


「さあ、どうしてだろうね?」
「返してっ!私のなのっ」


ぴたり。と、ジョーの動きが止まる。


「フランソワーズの、なんだ?」


その隙を逃さずに、フランソワーズはジョーの手から奪い取ったもの。


「ハートの形がハートだって言う事じゃなかったら、伝わらなかったよ。だから、ハートをハートの形だってした人に感謝しないといけないから、重要なんだよ」
「・・・」
「キミが僕のこと好きだってこと」
「・・・・・べ、別に、そういう意味で、これはっ・・」


奪い返したものを、フランソワーズは後ろ手に隠し、桜色よりも濃い色に染めた頬を片方だけ、ジョーに向けていた。


「そういう意味がないのに、どうして『ハートの形』の写真立てなんかに”僕”の写真が入っているわけ?説明してくれるかい、003。しかも、それ」
「な、なあ、に?」
「ニュー・イヤーにみんなが集まったときのを、切り抜いた、だろ?」
「!」
「違うかい?」


自信満々のジョー。
けれど、彼の膝がかすかに揺れて、先ほどフランソワーズの前髪からつまみ取った桜の、ハートの形の花びらが、汗ばんだ手に張り付いていたりすることに、気づく余裕がないのは、フランソワーズ。


「・・・そうよ・・・私は・・・あなたの、ことが・・好き。です・・」


はらり。と、ジョーの胸に舞い落ちた、フランソワーズの告白を、ジョーはほっと安堵の息を吐いて受け止めた。


「うん。・・・」


ジョーは目の前を舞う花びらをつまむ。と、フランソワーズの手をとり、それを乗せた。


「これが、僕の気持ちだよ」









end.



*・・・・旧?初の旧93?・・じゃないよなあ・・まだまだデス。
 原でもいいような。でも、平じゃないし、新ではない。超なことはあり得ない!
 ・・・オリジナル?
 

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自覚、はじまり/メンテナンス・ルームに通い始めたボク。
これは、『何だか芯がもやもやする/ハロウィンの呪い?(16)』・・・後、です。


_________






何をしているんだろう?






「・・・・」


真剣だった。
003は真剣に、何かを観ていた。


その003を、そっとドルフィン号のキッチンの入り口の壁に背を寄せて、息をつめてみていた。


003の緊張が勝手にボクにも伝わってくる。
ごくん。と、彼女の喉が鳴るのが聴こえてきた気がした。

ミッションを終えたばかりのドルフィン号の中は、ギルモア邸と変わらない穏やかな空気に包まれていると言うのにも関わらず、彼女は殺気立っていると言っていいほどに。

003のその気配につられて、ボクの喉が痛いくらいに引きつった。
持っていた空のマグカップを握る手に力が入ってしまって、慌ててその手をゆるめる。



「・・・・っ」





防護服を着た003の背中しか、見えない。
何かを真剣に・・観ている、ことしかわからない。

003の聞き手が、ゆっくり、ゆっくり、と、慎重に動き始めたことが、彼女の肘が開いていくのが見えてわかった。


「もおおおおおおおおおおおおおおおっ」
「003っ?!どうしたっ!」



びくんっ!!と003の躯が揺れて、弾かれたように身を引いたと同時に彼女の怒りを含んだ、悲鳴に近いような大声に、ボクはすぐさまキッチンへと飛び込んだ。


「お箸でグリンピースをお皿からお皿に移動させるなんて無理よっ!」
「・・・・・・・は?」


こぼれ落ちてしまいそうな碧が涙に濡れ、震える唇で訴えられた。


「お箸の持ち方がおかしいって言われたの!」
「003の?」
「正しいお箸の持ち方が出来るように、練習しないと恥ずかしい思いをするのはアタシだって!!」
「気にしなくていいよ、フランス人のキミがお箸を使えていること事態すごいんだから」
「一緒にいる相手にも恥をかかすって・・・ジョー、ごめんなさい・・」


今にも溢れてしまいそうなほどに、たまった雫がぽろ。と落ちる。と、留めなく、彼女の頬に線をひき始めて、ボクは慌てる。


「え?何がっ」
「アタシのせいで、嫌な想いをしたことがあったのでなくて?」


持っていたお箸を、ぎゅうっと胸前で両手に握りしめ、”お箸が上手く持てない”と泣く、003・・。


「・・ないよ、そんなの」
「ウソつかないで!」
「ウソをついて・・・って、つくほどのことじゃあ」


ボクはきょろきょろと、周りを見回して、持っていたマグを床に取り付けら得ているテーブルに置き、その上に放り出されていたハンドタオルを掴み、003にむかって渡そうと伸ばした。


「・・・こんなことくらいで、泣かないでよ」


---”こんなこと”くらいで、泣くなんて・・・。

ボクが泣き出してしまいたいときだって、003は「しっかりして!009」なんてボクを叱り飛ばして平気な顔で、ミッションをこなすのに。


「だってっ!だって、だって!!悔しいんですものっそれにっ、・・・ジョーに、みんなに、今まで恥をかかせていたと思うとっ」
「あー・・・・」


---いったい、どこの誰がそんなどうでもいいこと、言ったんだよ?


ひっく。と、肩を揺らし、今まで泣きたい気持ちだったのを我慢していたのか、幼い子のように、わんわん泣き始めた。
差し出した手にあるタオルは受け取ってもらえず、行き場をなくして注を漂う。

胸前にぎゅうっと握りしめたお箸がめきっと折れてしまいそうに、その力の入り具合に揺れている。


ドルフィン号の備品でも、お箸くらいはアルね!と、彼女用にピンク色の花がたくさん描かれたのを、買って来たのは、今回のミッション直前の買い出しに出掛けた、006と007。



「・・・・一緒に練習しようか?」


ボクは手に持っていたタオルを、半ばヤケ気味に、彼女の濡れた顔に押し付けるようにして、ごしごし、涙を拭った。
その、動きにフランソワーズの頭も一緒になって揺れる。


「一緒に、練習しよう。それに、こういうのは1日ですぐ出来るようになるものじゃないよ。毎日少しずつしないと。今日はもう部屋に戻って休むんだ、疲れているだろ?イライラしながらやっても意味がないと思うから。・・・明日から一緒に練習しよう、つき合うから」


フランソワーズの手が、タオルを持つボクの手の動きを止めるように重なった。
その感触に、どん!っと、心臓が大きく跳ねて、その跳ね方の異常さに、彼女の手を振り払うかのように、ボクはフランソワーズの顔からタオルを引き離した。

ボクの動きにびっくりしたような視線を、向けてくる。
けれど、それがすぐに、変わった。


「嬉しいっ!約束よっ、絶対よっ!!」
「・・・・う、ん」


涙で濡れた、フランソワーズ。の、花が咲くような、満面の笑顔に、ボクの全身が熱くなる。
どくん。どくん。っと、異様な早さで鼓動を刻み始めた心臓に、躯のどこかが壊れたのかと、博士の顔が浮かんだ。


「ありがとうっジョーっ!」







---メンテナンスの予定はないけど、一度観てもらった方がいいかも・・・。



「う、うん・・・」











end.



*と。言う事で。
 この後に『合鍵/ボクと彼女の関係は?(1)』のフランソワーズのキャラが掴めなくて・・・拗ねた?彼になって、
 『もじもじ京都・嵐山2泊3日旅行編』の、『1』の、「あ、それは大丈夫。それだけはボクでも教えられたからね」”になります。
 
 








*おまけ*

「どこも悪くないと、言っておるじゃろう・・・」
「でも、変なんですよ・・・・・・データにも出てます」
「そうじゃが、いいか009機械化されているといえど、完全ではないんじゃ、こころ一つ、気持ちの持ちようで、何も問題がなくても”不調”に感じることもある、病は気から。と、変わらんのじゃ・・・」
「でも!」
「データの誤差も、基準範囲内。心配することはない」
「博士!」


メンテナンス・ルームから出て行くギルモア博士を呼び止めようと、診察台から飛び降りる。


「そんなに気になるなら、日記をつけなさい」


ギルモア博士は、やれやれ。と、メンテナンス・ルームのドア前で振り返った。

「日記、ですか?」
「いつ、どういうときに、どんな風に、おかしかったかデータを記録しておきなさい。統合的に観てから、じゃ」
「はい・・・」





・・で。恋の病だったと(笑)





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LIttle by Little・12
(12)




ギルモアが泊まる部屋を出たとき、突然、海は何かを思いついたようにピュンマの腕をひっぱり、合図をするようにジェットと視線を合わせ、アルベルトとコズミにむかって、自分たちが戻って来るまで帰らないで欲しいと言った。

海の勢いに、ピュンマはただただ彼についていく。
走りだした海を追いかけるピュンマが投げた部屋の鍵をキャッチすると、アルベルトは、ふうっと、ため息を漏らす。


そのため息は、どこか楽しそうだ。


「ほほ、若いもんはエネルギッシュだねえ」
「すみません、お疲れでしょうに・・・」


いやいや。と、コズミは朗らかに微笑みながら、アルベルトとともにピュンマと海の部屋へとむかった。
そこに、コズミが預かった友人の1人娘、さくらが失恋で痛めた胸を抱えて眠っているはずである。


「あの子には、ええ経験じゃて・・・」


どことなく寂し気に呟いたコズミの言葉に、アルベルトは苦笑することでしか答えられない。


「・・・そう、考えてくださるとこちらとしても、助かります・・・・リーダーの至らないところは、我々が補わなければならいので」
「島村くんのせいじゃないのは、よう解っとる。初めから、島村くんが誰を思っておるかも、よう知っておったでなあ・・・。さくらは・・」
「ずっと、1人で抱え込んできた気持ちを、初めて”共有”できる相手を見つけたために、ですね」
「あの子が育った環境は・・・ちと変わっておるでなあ・・・。目に見えんが、いまだ階級(クラス)が存在する世界じゃからして」
「・・・世界は、広いですからね」


コズミが呼吸を置いた、その間にアルベルトが言葉を次いだ。


「・・・恋愛とすり替わっても仕方ない。しかも島村くんはそんじゅそこらにいない、”ナイスなイケメン”じゃし・・・ちと、優しすぎると言うか、”センシティブ”すぎるんじゃが、そこがいいんじゃろ?ほれ、”草食系”のイケメンとか言うでな?」


少しおどけたように、アルベルトにむかってニンマリと笑うコズミ。


「恋愛くらいのすったもんだですんで良かったですよ・・・。もしも、さくらが彼女の父親と関わりが深かったら、・・・そっちの方が危険でした」


ホテルの廊下をコズミの歩調に合わせて歩く。
日付が変わろうとする時間。


「・・・・・真鍋は悪い人間ではないぞ?」
「コズミ博士のご友人を疑ったりはしません、しかし・・・それだけ。では、我々は納得もできません」


コズミは、身長さのあるアルベルトを見上げた。


「島村くんは、もちろん知っておるのだろうねえ」
「・・・そんな理由で、ジョーがさくらを振ったわけじゃないですよ」


廊下に出ている人影はなく、しん。と、静まり返っていた。
どこかの部屋で、誰かがテレビを見ているのか、アルベルトが聞き慣れないイントネーションの日本語が、うっすらと壁から流れていた。


「それは、よおおく、よおおく、解っておるよ、そんな小さい男じゃないからねえ、島村くんは」
「小さい男ですよ、うちのリーダーは。・・・さっさとまとまっていれば、こんな面倒にならずによかったはずですから。しかし、こればっかりは・・・せっかくの科学力(補助脳)も役立たずです」


エレベーター前で、矢印が上へ向いたパネルを押した。
コズミは、アルベルトの指先を見つめながらニンマリと、笑った。


「科学は人の手で成長する。人はこころで成長する。人の手がなければなにもできん”それ”が、こころなんぞ永遠にコントロールなんぞできんわい・・計算じゃないんじゃ、知識でもない。経験と・・・」
「?」


アルベルトはコズミの次の言葉を待った。


「己の魂の声じゃよ」
「・・・確かに、それは・・・・科学力ではどうにもなりませんね」
「どうにかしようと言う考えの方が、間違っとる。科学技術はそれを知る手がかりになれど、それそのものになろうとは、間違った考えじゃ」
「人は、人でしかなく」
「科学は、科学でしかない、じゃな」


エレベーターのドアが開き、先にコズミを乗せたとき、ふと。ジェットの姿が消えていることに今更ながらアルベルトは気づいた。

一緒に部屋を出たのは覚えている。
海とピュンマと一緒に?と、疑問を顔にのせたとき、コズミ博士が言った。


「彼は自由の国の戦士じゃ、空が、彼を呼んだのじゃろうよ」
「・・・・・空が、ですか」
「人類の夢は、彼の足にあるのお」
「空を自由に、ですね・・・」
「見る目線が、違うんじゃ地上に生きる我らとなあ・・」
「ただのおせっかいな鼻ですよ」
「立派なもんじゃ」
「・・・コズミ博士」
「なんじゃ?」


エレベーターのドアが閉まる。


「豊富な経験と己の魂の声で選んだ、奥方(シズカさん)の話しは、いつ聞かせてもらえるんですか?」
「!」











####

「あれ?そういえば、ジェットは???」


一緒にジェットもついてきていると、勝手に思い込んでいた、海。
海がピュンマを誘ったとき、ジェットとも視線を合わせたことを覚えていたからだ。


ホテルの目と鼻の先にあるコンビニエンス・ストアに飛び込み、手に持った買い物カゴに思いつくままスナック・駄菓子・スイーツ、などなどを考えなしに放り込んでいく。
そのカゴから、吟味して不要と思われるものを商品だなに戻していく、ピュンマ。


「さあ?部屋を出たときにどっかに行ったんじゃない?放っておいたらいいよ、ジェットだし!海!ちょっと、なんでもかんでも見境なくカゴに入れちゃ駄目だよ!考えてよー!!」
「いいんだよっ!ピュンマっこれでっ!!何を勝手に戻してんの!?」


ピュンマがカゴから戻した商品の倍を、海はカゴへと入れた。


「うわわわっ海!こんなに食べるの!?」
「いいだって!食べられなくてもっ、これらが”ある”ことってのが重要なんだ!」
「???」
「急ぐよ!」


海はお腹が空いたのだと、ピュンマは単純に考えていた。
ギルモア、コズミ、悵大人は夕食をすませてホテルに戻ってきた。

その他の家族は食事を1日2日、抜いたところで、特に問題はない。
そのために、海が、さくらが、夕食を取っていないことをすっかり忘れていたピュンマは申し訳なく思う。





---こういうとき、人じゃなくなってしまったんだなあって・・思うんだよね。
   





居なくなるはずのない。
連絡が取れなくなるはずがない。

ミッション中。




---そういえば、篠原先輩も食べてないよね・・・。





事件に巻き込まれたのか、何かあったのか?と、疑った時間の長さが、今のピュンマの躯を重たく感じさせた。


「ジョー・・、フランソワーズも、ちゃんとご飯食べたかなあ?」


手に持ったスナック菓子の袋を見つめて呟いた。


「食べてるよ!美味しいのを2人で秘密で食べてるって!きっとさ!!帰ってきたら問いつめようね!さっレジに行こう♪」
「海?!な、」


ピュンマが物思いに耽っている間に買い物カゴが1つ増え、カゴから溢れんばかりに品が詰め込まれていた。


「これでいいのだ!」


何がいいんだよ!っと言葉を無くして呆れ返るピュンマに向かって、にいいい。と、笑った、海。


「人間、生きてる限りお腹が空くし!お腹が満たされたら、よけいなこと考えなくなるんだよ!!悲しいけど幸せなんだよ、お腹がいっぱいで!」


がっさがっさと、コンビニエンス・ストアのマークが入った買い物袋を両手に下げて急ぎ足に2人はホテルへ向かう。


「・・・海、これって、・・・・全部、さくら、に?」
「女の子を泣かせっぱなしにしたままなんて、男として最低だと思わない?」
「うん。うちのリーダーは本当、最低だよっ、ね!!」
「でも、・・・・それが似合うのが凄い」
「似合うって・・・・海、褒めてないよ、それ」
「ぼくは似合わないし、みんなに最低!って叱られる」
「あ、ボクも似合わないよ!!」
「うん、ピュンマが似合ったら、子犬でも似合うよ!」
「・・・・」
「そういう事が似合って、そして、それをしても周りから許されるって言うか、理解されている、・・島村先輩って・・・」
「?」
「・・・・・・・・・しんどいんだろうね」
「え?」
「・・・何をしても”ジョー”だから、”009”だからだと、言われたら、もしも自分が最低だ!って思っている事でも、周りがそうやって認めてしまったら、さ・・・。彼は、いつも、自分の気持ちを誰にも受け止めてもらえないままで、そして、誰からも面と向かって彼へ気持ちをぶつけていないってことじゃない?」
「!」
「別にっみんなが、ピュンマの家族がそうとは言ってないけどっ!!ほら、ギルモア先生が、帰ってきてからきつううううっく怒るって言ってたし!!」
「・・・・・・・・・大丈夫だよ、海」
「?」
「ぼくはどーーん!っとジョーにぶつけてるから!!帰ってくるのが楽しみ!」
「ピュンマ?」
「急ごう、短気なアルベルトの気が変わらないうちにね!」













####


暗く濁った空気の部屋。
さくらの涙の温度に等しいだけ、暖まった部屋。

そっと、コズミに肩を揺すられて目覚めたさくらは、コズミの声を聴いた途端、再びぼろぼろと泣き始めた。


起き上がったさくらは、腕を伸ばして、コズミにしがみつく。
泣き枯れてしまったせいで、まともに声が出ない状態。

コズミは、しっかりとさくらを抱きしめて、彼女のベッドに静かに腰を下ろした。
アルベルトは、窓を全開に開けて部屋の空気を入れ替える。
エア・コンディショナーの設定を下げて部屋を冷やすと、バスルームへ向かい適当に手に取ったハンドタオルを水で冷やし、固くしぼったそれを、コズミに向かって差し出した。


コズミがアルベルトの手から、冷たいおしぼりを受け取り泣き咽せるさくらの両瞼にあてがった。


「やれやれ、美人が台無しじゃなあ・・・」


ひっく。と、しゃくりあげるさくらは何かをコズミに語ろうとするが、まったく言葉にならない様子。


「いい、いい。無理せんでいい・・・」



窓から雨の街独特な匂いと、湿気が入り込む。
冷えた風、とは言い難い空気がのんびりと、入り込む。

エア・コンディショナーの人口の風が妙に新鮮に感じた。



全開にした窓を、1/4ほどにして、アルベルトは窓から離れた。


「ロビーで、一服してきます・・・」


アルベルトが、気を利かせて部屋を去ろうとしたとき、ノックもなくドアノブがまわされた。


「誰だ?」
「オレだよっ!!」


聞き慣れた、おせっかいな鼻の声。


「ジェット?」


アルベルトが、部屋のドアを開ける。
ドアを開けたアルベルトを無視してずかずかと部屋に入って来たのは、いつの間にか姿を消していたジェットだった。


「戻って来たのか?」


彼の背にむかってアルベルトが言った。


「戻って来ちゃ悪ぃかよ!ほらっ」


アルベルトへと振り返って、彼に向かって突き出したジェットの手に、ぶら下がるのは大きな紙袋。


「腹が満杯になりゃ、ちったあ増しになるかと思ってよ」


ジェットは顎で、ベッドの上のさくらを指した。


「・・・単純だな」
「夜遅くまで、ケーキ屋って開いてんだな、ま。そのおかげで買えたんだけんどよ」
「お前みたいなヤツが多いんだろうな・・・」
「オレ様のためか?いいじゃん、それ!」


突き出された箱を、中に入っているものが崩れないように(すでに崩れているかもしれないと、思いつつも)慎重にジェットから箱を受け取ったアルベルト。


「心配ねえって、中はエッグ・プティングのキャラメルソース(プリン)のと、クリームパフ(シュークリーム)だぜ」
「結構な量だな」
「あるだけつめさせたかんな。さくらが”駄菓子”ん中でも好きなもんだ」


ずっしりと腕にのせた重さに、紙袋の中を覗き込む。
ドライアイスが入っているのか、部屋より冷んやりとした空気が紙袋の中にあった。


<クリームパフの皮がよっ!あんなに薄くてふっくらしてんのって、世界中探したって日本の以外でねえし、プリンはまあ・・・思い出のってやつらしい>
「・・・そうか」


ジェットはアルベルトが受け取ったのを確認すると、コズミにしがみついて泣く、さくらに向かって大声を出した。


「ばーか!あんなつまんねえ、しょーもねえ男なんかのせいで泣くんじゃねえよっ!!もったいねえぞ、さくら」


長い足を素早く動かし、コズミとは反対側から、さくらへと近付く。
ジェットは彼女のベッドの上へと身を乗り出す形で、コズミにしがみつくさくらを背後から引きはがすようにして、抱きしめた。

さくらの瞼にあてられていた、おしぼりが、床に落ちる。


「ったくよお、おしめが濡れた赤ん坊みたいに泣くなって。さくららしくねえぜ?」


そして、布団の中に腕を通し、彼女の膝裏を抱えて抱き上げる。
抱き上げられたさくらは、ジェットの首に腕をまわし、彼の首元に顔を埋め、泣く。


「オレもジーさんの家、今晩邪魔していいか?」
「おお、そうしてくれるかい?」


コズミはゆっくりとベッドから立ち上がりながら、ジェットを見上げ、微笑んだ。


「運転・・・は、結局オレか」


ドアのロックが外される音と、アルベルトの声が重なった。


「「ただいま!!」」


ピュンマと海の声がぴったりとはもる。
そして、部屋に飛び込むように戻って来た2人の両手にぶら下がるコンビニエンス・ストアのマークが入った買い物袋を見て、コズミは声を出して笑い、アルベルトも面白そうに左の口端をあげて笑った。


「もう少し・・解っていると思っていたが、鳥と同レベルか?・・・ピュンマ」
「僕?!違うって、これは海が!!!」
「さあ!食べようっ!!!」


海のかけ声に、ジェットがにやっと笑う。


「おお、でもここじゃねえ、ジーさん休ませないといけねえしよ、やけ食い場所はコズミ邸だっ!!」
<・・・・ピュンマ>
<何?>
<変わってくれ>
<ん?>
<コズミ邸に海が行くなら、お前もだろう?それなら、運転はお前さんにまかせていいか?>
<いいけど・・アルベルト?>
<ジョーの、携帯は・・・壊れているわけじゃない>
<!?>
<そういうことだ>


ギルモアが泊まる部屋で、フランソワーズが忘れた携帯電話を手にしたときに確かめた。
ジョーの携帯電話は、送受信に何も問題はない。


壊れていない。と、思う。



<本人が、オレたちも、だが・・・”壊れた”と思い込んでしまっただけだ。と、考えている>
<でも、博士はそんなこと一言もっ>
<博士はオレたちよりも...だ>


先ほど、自分の手からフランソワーズの携帯電話を受け取ったギルモアが、短い時間ないに何かを細工した可能性がないとは言えない。と、胸の中でアルベルトは呟く。

そうなると。と、一晩中、その細工に振り回されることになるかもしれない、篠原当麻と張大人のことを考えた。


「ミッション中だと言うのに・・・平和、この上ないな」


イワン。と、アルベルトはずっと”夜の時間”のように大人しい001に話しかけた。

















####

フランソワーズでも知っている、大きな駅へ向かった。
そこから別の沿線に乗り換える。途中で電車を降り、各駅停車へと乗り継いだそこで、やっと座席を確保することができた。


「疲れた?」


亜麻色の髪が風もなく左右に揺れる。



電車を乗り換えるたびに、場所が変わるたびに、都心から離れて、彼の向かう目的地へと近付くほどに、景色を縁取る電車の窓は、どこか長閑さを含んでいた。






どれほどの時間を移動に使ったのだろう。
移動に時間がかかるほど。
都心から離れるほど。




繋がれているはずの手が、とても遠くに感じていた。




近くに居て。
直接、手に感じるジョーの体温。




にも関わらず、とても、遠く、遠く、に、感じる。

その感覚を、懐かしいと思ったのは、なぜだろう?と、フランソワーズはジョーを見上げて考えた。









ドルフィン号から邸へ越してから、まだ1年も経っていない。


その間に。






---素直に、あなたを愛していると想うことができるようになったの・・・
  ただ、それだけのこと。
  けれど、ずっとできなかった、こと・・・。








少しずつ、少しずつ・・・・。


















旅の終わりは、小さな駅だった。


「少し歩くよ・・・」
「・・・」
「そんなに遠くないから」




改札口が規則正しく動く。
通り過ぎた電車が走り去る。
人々の足音。







冷房が効いた列車の中で、冷えてしまった躯には、妙に心地よく感じてしまった夏の暑さ。
長く空を独り占めしていた太陽が、月にその場を譲らなかればならない時間。


知らない町の名前をジョーに教えてもらった。
知らない道をジョーと並んで、離れることがない手を、繋いで、歩く。


「本当に、疲れてない?」
「ええ」
「無理しないで、ちゃんと言って」
「電車に乗っただけだもの、大丈夫よ。でもちょっとだけ、文句を言っていいかしら・・・」
「文句?」
「・・・・漢字って意地悪だと思うの」


フランソワーズの言葉に、ふっと、口元で笑った。
けれども、彼の瞳から消えることの無い、哀しい色。











空が水色を薄めて暖色のグラデーションに染まり、短い夜の訪れを告げた後。

綺麗に舗装されたアスファルトが吸った昼間の熱が、ストラップサンダルを履いているフランソワーズの足首に絡む。

明るいとは言い難い街灯の感覚が開いていく。
電柱にかかる電線の色が藍色に紛れてしまう。

視界に入るフレームをなくした空が広く感じる。
都会と違って空をいびつに区切るビルは、なかった。


どこかで犬の遠吠え。


駅から同じ方角へ歩く人々にまぎれて。
駅の方角へと向かう人々とすれ違いながら。

ときおり、投げられる好奇な視線を受け止めつつも、ジョーはまっすぐに目的にへと足を進め、そして、フランソワーズはジョーについて行く。

何かを思い出したかのように、フランソワーズにむかってジョーは小さな駅のある、小さな町の説明をする。


「この道の向こうに、小学校があるよ・・そこに、半年だけ通った」
「半年だけ?」
「・・・うん、半年だけ」


「山が近いんだ・・・よく、怒られた。子供だけでは行ってはいけませんって」
「でも、行ったのね?」
「行くなって言われて、行かない子供はいないと思う」


1台の自動車が歩行者優先の道路を時速40km未満の速さで2人を追い越した。
車が通りすぎた先を追うように、2人は歩く。


フランソワーズの目に留まった道路標識。けれど、デザインが少しばかり違うように思えた。古いものを、未だに取り替えることなく使用されているのだろう。


2車線の大通りへと出ると、小さな店が寄り合っていた。



酒屋、ベーカリー、薬局、花屋、写真屋・・の角を曲がる。
民家が集まった地域から少し外れてくると、どこからともなく聞こえていた”生活”の音が遠くなる。


「・・ジョー・・・?」


更地にされた、何も無い広場の前で、ジョーは足を止めた。




「ここに、教会があったんだ・・・」



足を止めたフランソワーズにではなく、アスファルトに落ちていた自分の影に向かって言葉をこぼした。


「前来たときには、・・・こんなものなかったのに」


電柱に、ついでとばかりに取り付けられている白く眩しい光が、人気のない細い道を照らす。
フランソワーズの背後にある街灯の光に押し出されるようにして、青緑色のフェンスの影がフランソワーズの足下から薄暗いフラデーションを作り出しながら何もない更地へと伸びていた。


がしゃん。と、音を立てて揺れたフェンスに、フランソワーズの肩が跳ね、彼女は反射的にジョーを見あげた。
フランソワーズと手を繋いでいない方の手の指が、フェンスの金網に縺れて、留まる。


「ここに、こんなものは、なかった・・・・・」


街灯の明かりを弾く、フランソワーズの髪が揺れて、フェンスの網に取り付けられている、白いボードをみつける。
日が落ちた暗闇の中、街灯の光が届かない位置にある、その文字を読んだ。


---マンションが、建つのね・・・。







首を右にめぐらせれば、100mも離れてない場所に、建てられたばかりだろう新築の家があった。
窓に灯る明かりが優しい印象をフランソワーズに与える。

人が暮らしている光は、街灯となんら変わりないものであるにも関わらず、温かく優しい色に見える。


「なかったのに・・」



ジョーは立ち尽くし、フェンスに囲まれた何もない地面を長く、見つめ、音のない時間が2人を包む。












「!」


繋いでいた手が、突然、離れた。
フェンスが、揺れた音が、フランソワーズの耳に届く。

その音に、どこかにいる犬が反応して、吠えた。


「ジョーっ」


フランソワーズは離れた手を、追いかける。が、彼の両手はフェンスに触れて、ひらりと身を高く宙に浮かせ、向こう側へと。
青緑色のフェンスで囲まれた更地へと足を降ろした。


「・・・・」


金網で編まれたフェンス越しに、ジョーはフランソワーズを観る。




さらり、と。揺れる、亜麻色の髪は、艶やかに光を滑らせて、蜂蜜色のように甘く。
こぼれ落ちてしまいそうなほどに大きな瞳の色は、海のように深く、空のように澄み切って、煌めく。
どこかで観たことのあるような、けれど、決して同じ色であることはない、宝石を囲うまつげは長く、フランソワーズが瞬くたびに、くすぐったい風を生み出す。
ふっくらとした形よい、唇が、呼ぶのは、自分の名前。


「ジョーっ待って!」


金網に縺れた、長く細い、指。
フランソワーズが預けた体重に、傾き、それを弾き返るように突っ張るフェンス。


「そこで、少し待っていて・・・・・」


街灯の光が、スポットライトのように、フランソワーズに当てられていた。
眩しげに、瞳を細めて美しい人を観たほんの数秒後、ジョーはくるりとフランソワーズに背を向けた。


「っj・・・」














3cmほどのかかとがある、オープン・トウのストラップサンダル。
白のエナメル、留め金部分に貝殻があしらわれている。

その貝殻部分が可愛くて、大型スーパーで、まだセールになっていないことを気にするフランソワーズにむかって、荷物持ちのジェットが「イライラすんなあったく!これくらい買ったって世界は滅びねえよっ!」と、彼が買ったサンダル。が、フランソワーズの足を動かす。

フランソワーズが来ているノースリーブのシンプルなローウェストのワンピースは、アイスブルーの色。
「『ローレライ』で春夏物を一通り揃えたと言っても、足りないだろう」と、どこで調達してくるのか、どんな顔で1人、女物のワンピースを買ってくるのか。
ギルモア邸の七不思議となっている、アルベルトからの「土産だ」。の、ワンピースがフランソワーズの躯をふわりと、浮かせた。

脳波増幅装置をお腹に埋められたフランソワーズのお友達の『ウサギさん』のぬいぐるみに、「お腹の綿を抜いてごめんなさい」と、ピュンマが首に結んだ細い蒼のリボン。
そのリボンを観て、お揃いだ。と、グレートが買って返ってきた蒼のカチューシャ。を、「ウサギさんとお揃い?キミの瞳と同じ色だね」と、言ってくれたのが、嬉しくて、嬉しくて。・・・その日以来、ずっと髪を飾る蒼。

腕を伸ばして、フェンスのトップ部分に手を置く。
張大人が「お転婆は元気でいい証拠だけど、防護服でないとき気をつけるアルヨ!」とのお小言が、こんな時にも関わらずにフランソワーズの耳に届き、スカートが風に乗る。



星がまたたきが、視界をかすめた。





ジェロニモが言う。


「そのとき、その場所に、その行動を取ったこと。が、全てだ。理由は後からでもつけられる。自分のこころの声をきけ」








ジョーの声が聞こえた。
イワンの声と重なる。


<ドウシテ逃ゲルノ?君ガ逃ゲテイルカギリ、終ワラナイ>

「・・逃げているわけじゃない。ただ、・・・伸ばす腕が見当たらないんだよ」

<マズハ ソノ手ヲ、腕ヲ伸バシテミナイト、ワカラナイ、始マラナイヨ>
(day72)





フランソワーズの肩から落ちた、シャルダーバックがアスファルトに跳ねた。


「可愛いじゃろう!どうじゃ?インターネットで買ってみたんじゃっ。いやあ、女の子の買い物は楽しいのお!!さあ、これを持って外へお行き、何も怖がることはないんじゃ、儂らはここで暮らし、幸せになるんじゃからのお」














ひらり。と、フェンスを飛び越える短い時間。


「ジョーっ!」





走馬灯のように駆け抜けた、思い出。
まだ、1年も経っていない暮らしの中で、たくさんの思い出がある。
新しい私たちがいる。



サイボーグ・ナンバーとしての私たちじゃない、ギルモア邸に住む、家族。






新しい、自分がいる。

少しずつ、少しずつ、変わった。
変わっていないと、変わりたくないと、思っていた私を・・・・ジョー、あなたが変えてくれたのよ。




「フラっs、危ないっ!」








自分がフェンスを飛び越えたときよりも、はるかに大きな音が背後で鳴った。
反射的に振り返る。

呼ばれた名前。











空に浮かんだ・・・フランソワーズは淡い光に包まれて。



















ジョーは腕を伸ばした。
フランソワーズにむかって、まっすぐに、ただ彼女を受け止めたくて。

腕を伸ばした。







====13へと続く。


・ちょっと呟く・

すみません。・・・・12をアップした3/17/09’の最後、
「ここに、教会があったんだ・・・」から下を付け足しました(3/19/09’)

(13)を書いていて、そっちの方がいい気がして・・・。
『でい~・72』からの引き継いでます・・。


まだ迷いはあるんですが、なんとなく行き先決まってきました。
集中してどっぷり『リトル』だけの妄想に浸っていればなんら問題ないことだったのかも・・・。
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タイミング
隣に座っている、ジョーの左の肘が、ダイニングテーブルの上に乗せられていた、フランソワーズの右の肘に、触れている。
広げていたファイルの上に、とん。とん。と、先ほどから同じリズムでシャーペンの先を叩き、左手でばらり。と、ページをめくる。


めくった後に、また、同じ位置に手を戻すので、触れ合ってしまう肘。




触れられた瞬間に。は。っと、息が止まる。
触れ続けられる時間に、ぐっと。息をつめて、走り出す心臓の音がジョーに聞こえてしまうのではないかと、焦る。


聞こえるわけなんかない。と、解っているけれど、常人よりもすぐれた性能を持つ彼だから、油断できない。



肘が、離れて。
ぱら。っと、ファイルのページがめくられる。

とん、とん。と、叩いていた、シャーペンの端っこが、宙に浮く。


どきどきと、走り出したままの心臓の音だけが、ダイニングルームに響いた。
ぎゅっと、固く瞼を閉じて、フランソワーズは自分の心臓にむかって文句を言う。


---もう!集中できないわっ!黙ってっ!!







「そっちはどう?何か見つかった?」


びくん!っと、全身で驚く。


「あのっ」


がたん!っと、イスを蹴飛ばすように立ち上がった。



「の、の、喉が渇かない?!」
「・・・・」
「おあ、お茶にしましょうっ、す、す、少し、休憩っ、ね、そうしましょうっ」


逃げるように、キッチンへと飛び込む、フランソワーズを見つめて。
シャーペンのしんが、ファイルの上の髪にぐちゃぐちゃとした、線を描く。


「何回お茶、すればいいのかなあ・・・」


ふうっとため息をついて。
シャーペンをファイルの上に投げた。


頬杖をついて、キッチンへと視線を向ける。

フランソワーズの変な緊張が伝わってきて、落ち着かない。
さっきから眼を通しているファイルの内容が、全然頭に入ってこない。


「そんなに嫌なのかな・・・」


話しかけるたびにお茶をいれ直すと言い、キッチンへ駆け込む、フランソワーズ。


ばさ。っとファイルを閉じて、立ち上がったジョーはダイニングルームとキッチンを仕切るカウンター・テーブルからキッチン内にいる、コンロの上にポットを乗せたフランソワーズへ向って言った。


「今日は、この辺で止めておこうか。・・・天気もいいし、邸で資料と睨めっこばっかりだと、ね。・・・気分転換に外へ行ってくる」
「そ、そお?」
「うん、だからお茶はいい」
「あ、ええ、わかったわ・・」


ジョーに背をむけたまま、答える。
そんなフランソワーズの背を見ながらジョーはため息を吐きつつ言った。


「・・・そんなにボクと一緒は嫌?」
「?!」
「一応、・・・・事件じゃなくても、これも大切なミッションだから。だけど・・・。誰か手の空いてる人に頼むね、手伝ってくれてありがとう」
「!!」


遠ざかって行く、ジョーの足音。
ごくん。と、大きく喉を鳴らして、フランソワーズはキッチンから飛び出した。


「ま、ちがっ!違うわっジョーっ!!違うのっ」








追いかける、足音。
立ち止まった、足音。












「あのっ・・・嫌じゃないのっ!違うのっ、そうじゃなくって」
「無理しなくていいよ」


追いかけて来たフランソワーズと向き合い、悲しそうに、けれど穏やかに笑う、ジョー。


「別に、フランソワーズを責めてるわけじゃないよ、・・・ただ・・・」
「だから、っそうじゃないのっ、嫌じゃないのっ嫌なんかじゃなくてっどっちかって言うとっ」
「?」
「どっちかって言う・・・とっ・・・・」
「フランソワーズ?」
「あのっ・・・・・」
「?」
「嫌とかじゃなくてっ、だからっ。そのっ」


---好きだからっ。



全身に力が入った瞬間。








ぐぅぅぅぅぅ・・・。

















ジョーはにっこりと満面の笑顔で言った。


「お腹が空いてたの?・・・・それならそうだって言ってくれたらよかったのに・・・、ボクに言いにくかった?」
「・・・」
「ごめんね。そういうことに気がつかなくて、そういえば・・お昼ご飯の事忘れてたよ」
「・・・」
「仲間なんだから、そういうことは遠慮しなくて言ってよ、今度から」
「・・・」
「張大人がいないから、つい忘れがちなるね・・・。散歩ついでに、何か買ってくるから、待っていて」
「・・・」
「すぐ、戻るよ」



とにかく、ジョーを嫌がってない。と、言う事だけは伝わった。と、言うことで、良し。とする・・・・しかない。
ギルモア邸の玄関のドアが、ばたん。と、閉まったとき、フランソワーズはヘナヘナと床に崩れ落ちた。


「わたしって、どうして、いつも、いつも・・・もおおおおおおおおおおっ!!」








end.





*なんて言うか、純粋などっきどきラブロマンスな少女漫画展開なんてもん、無理かなあ・・・。



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死が2人を分つまで
日に日にリビングルームのフローリングが、人工の力を借りることなく自然の力で暖まっていく。



ジョーはうたた寝していたソファから起き上がってスリッパに足を通さずに、直接、暖まったフローリングの床を足裏に感じた。








何も無い、午後。
















ちょっとしたDéjà vuが駆け抜ける。








昼寝をしてしまったのは、昼食をいつもより多めに食べたせいに、した。
多めに食べてしまったのを、フランソワーズが作る、ふわっふわな卵で包んだオムライスのせいに、した。

ふわっふわのオムライスを作るとき、フランソワーズはジョーがいつもよりも多めに食べることを見越して、お皿に盛ってくれた。

ちょっとだけみんなのよりも重みの増したお皿を大切そうにトレーに乗せて運んでくる、フランソワーズを、ジョーはダイニングテーブルから観るのが好きだった。



ジョーの眠りを妨げることがないように。と、庭へと通じるリビングルームのガラス戸にレースのカーテンがひかれていた。


レースの柄など、白いからなんでも同じに見える。と、言ったことを思い出す。








確か、前に邸の1階をリフォームしたときに、・・・だ。










ジョーは、スリッパを履くことなくソファから立ち上がり、レースのカーテンに触れる。

指先で触れただけの動きを、ささやかに波立たせて揺れた、カーテンに合わせて、フランソワーズが気に入った柄を落としていた影の形が変わる。


柔らかい感触を指の腹で感じながら、選んだ白いレースのカーテンを嬉しそうに胸に抱きしめた、フランソワーズの笑顔がきちんとフォーカスされることなく、滲む。







さあああああっと、カーテンレールがひっぱられる音がリビングルームに響い、た。























「・・・キミのそばにいることを、誓っていいかな?」


外された、白いレースのカーテンが、ふわっ。と、診察台の狭いベッドで眠っているフランソワーズを包む。


「・・・勝手に、だけど・・・・。あ、プロポーズ、が先なんだよ、ね・・・・」






地下のメンテナンスルームは、昼間のリビングルームよりも明るい。






「でも、同じこと、だし・・いいよね・・・・」


規則正しい健やかな息づかいに、かすかに胸が上下している。
それに合わせて、繋がれたコードが読み取る音が、電子図面に線を描き照らし出された。





















・・・・死が、2人を分つまで。






















「誓います・・・・・・」



フランソワーズの頬に唇を寄せて。



「・・・ううん、死が、2人を分つ”まで”じゃない。・・・分かれた後も、永遠に愛してる」







--- I ....







「違う・・・・やっぱり、・・”分かつ”・・・なんて、あり得ない・・・よ」





頬に押しあてた、唇をフランソワーズの、と、重ねる。















「そうだろ?フランソワーズ・・・」




--- I....





「・・・君も、誓ってくれるかな・・・?」






汝、病むときも健やかなるときも、死が2人を分つまで、愛を誓いますか?



--- I ....











汝、病むときも健やかなるときも、死が2人を分つた、その後も、変わることのない、永遠の愛を誓いますか?




---Yes, I do. 







「誓ってくれる、よね・・・」



end.










*...あれ?

 (付け足し) ちゃんと、3は生きてますっ・・・。
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ちょっとそこまで。
階段をおりる足音の軽さから、その音の主がフランソワーズだと背中で意識した。
そろそろ買い替え時かもしれない、スニーカーのかかとを人差し指でねじ込んで履く。シュー・レースを結びっぱなしのまま履けるほどに馴染んでしまったスニーカーと、お別れするのは少し寂しい気持ちになる。だから、まだいいか。と考えた。

けれど、すでに新しく買うなら”あれ”。と、決めてあるのも事実。


それなら”あれ”が売っているかどうか、賭けてみようと思う。
あっちまで足をのばしてみようか。と、考えた。
店に”あれ”があれば・・・。と、今日の予定をさっと組み上げる。

・・・と、なんとなく、とても”忙しい人”のような頭の使い方だけれども、ただ、夕食前に一度車を出して欲しいと頼まれているので、その時間までに帰ってこられるかどうかを考えただけだったりして。


かかとと一緒に埋まっていた人差し指を引きぬいて、落ちていく足先をこんっ。と、玄関の大理石に跳ねさせた。


「いってらっしゃい」
「うん」


階段を降りきって自分に向かって声をかけてきたフランソワーズの方へ振り返ることなく、ジョーは答えた。


「気をつけてね」
「うん」


トレーナー素材のパーカーのポケットに左手を突っ込み、観音扉になっている邸の玄関の右のドアノブを握る。


「どこまで行くの?」
「ちょっとそこまで」


いつもの会話。
何もかわらない会話。


もう一度、ジョーはスニーカーの足先を、こん。っと鳴らすように大理石に当てた。


「そお、忘れないでね」
「うん。覚えてるよ」


玄関の扉を押して、春だよ、っと歌っている日差しを邸に迎え入れる。
予想していたよりも、ずいぶん暖かい。


「いってらっしゃい」
「うん」








ちょっとそこまで。




「・・・・」


フランソワーズはジョーの背中に向かって微笑んでいた。
毎日どこかへ出かけていく、ジョーを見送る。


どこへ行くの?っと、訪ねれば、いつも返ってくる答えは『ちょっとそこまで』
その『ちょっと』がどれくらいの『ちょっと』で『そこ』がどこなのか、フランソワーズは知らない。


「いってきます」
「いってらっしゃい」


バタン。っと、邸の扉が重々しく閉じる。


「・・・・・」


ふうっと、胸にたまった息を吐き出して、フランソワーズは暗くなった邸の玄関を見つめた。


「私も、ちょっとそこまで・・出てみようかしら」


独り言をつぶやいて、リビングルームへと向かった。






***

玄関の外。
履き馴らしてしまった、換え時のスニーカーを見下ろしながら、玄関の扉にもたれた。


「いい、天気だなあ・・・」



顔を空へ見上げるようにあおげば、眩しくて瞼が自然とおりる。


「・・・あったかいなあ」


ジョーの足が、光りの中へと進んでいった。




















「!」


リビングルームのL字型のソファを贅沢に独り占めして、ゆったりと座っていた、フランソワーズ。
読みかけていたハードカバーの小説を膝にのせたとき、ふと。良く知る人の、気配。


「・・・どうしたの?・・出かけたんじゃ・・忘れ物?」
「なんて言うか、・・・」


何の前触れもなくガラス戸が開き、ジョーが、そこに立っていた。


「だから・・ちょっとそこまで、さ」
「?」
「ちょっと、だし、そこまで、だけど、どおかなあ?って・・・」

へへ、っと照れた笑いを浮かべながら、そわそわと跳ねた後ろの髪を意味もなくわしゃわしゃとかきむしる。


「・・・・そこまで?」
「うん」


フランソワーズはソファから立ち上がり、開かれたガラス戸へと歩み寄る。
リビングルームと庭に段差があるため、いつもは見上げているジョーへの視線を下にして捉えると、あけられたガラス戸のふちに手をそわせた。


一瞬、ジョーの視線がフランソワーズの手を追う。


「どっちでも、いいんだけど・・・」


そう言いながらも、ジョーは頭にあった手をフランソワーズに向けて差し出した。
キミの手は、ここに。と、誘っている。


「・・・どこへ行くの?」
「・・・とってもあったかくて、天気がよくて、気持ちがいいよ」
「ジョー、それじゃ、わからないわ」


フランソワーズはガラス戸にそわせた手を離してジョーの手を取り、彼にエスコートされながら、庭においてあるサンダルを履いた。


「別に、どこって言うほどのところへは行かないし」
「出かけるなら、ほかの靴がいいわ・・」


庭用に買ってある、フランソワーズのサンダルはトウ・シューズのような形で、ビニール?でできている。キラキラとしたラメがたっぷりはいった、バービー人形の。みたいな、おもちゃみたいな、靴

濡れても何しても大丈夫!っと、ピンクと透明なそれは、2足で985円。


「大丈夫だよ」


にっこりとジョーは笑った。






「「ちょっとそこまで」だかr」









フランソワーズの声が重なる。
びっくりしたように、ジョーはくるりと目を丸くした。








二人の笑い声が、午後の光にとけていく。




「おや、お出かけかい?」


庭から出て行く二人に気づいた、グレートが紅茶のカップを片手にダイニングルームから出てきた。

グレートへと振り返った二人は視線を合わせて微笑みあい、秘密めいた、くすくすとした笑いをこぼしながら、言った。












「「ちょっとそこまで(よ)!いってきますっ」」













end.




*・・・春ですからね。
 お散歩、寒くないですからね。・・・のほほーん。
 原かなあ、と。個人的に。
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A YEAR AFTER
二車線の大通り、左側の歩道を歩いていた。
寒さに身を縮ませていた日から、そんなに遠くないはずの今日。街路樹がうっすらと新緑の芽を飾り始めていることに、なんとなく目を留めた。

すれ違う人々の足取りも軽く、ついこの間、同じ道を、同じ時間帯に歩いたときと大分違う印象を持つ。

こころなしか、街の雑踏も軽やかに歌っているようだ。


そんな風に感じてしまう、自分自身が一番浮かれているのではないか。と、人をよけたときに大きく一歩近づいた、小さなビルのガラス窓に映り込んだ自分と視線が合った。
すると、ちょうどガラスの中にいた、煙草を吸っていた男性と目がばっちりと合ってしまい、大げさに首を振って視線を外し、早足にその場から離れた。


自意識過剰な人間に思われたかな?と、思う自分がすでに自意識過剰。




まだ、慣れない?っと、自問自答。
そして、苦く口の端で笑う。






サイボーグにされて何回目の春かなあ。と、視界の上1/5を空の青に染めながら考えた。


「まだ、ちょっと早いか・・・」


3ブロックほど歩いたところで、点滅信号にひっかかった。
チカチカと白い人が青緑色のライトに照らされる。

赤のライトを背負った棒立ちの白い人と入れ替わったので、自分も倣って立ち止まる。
せき止められた水のように、人が迂曲したガードレールの囲いの中に溜まる。




立ち止まった人を首を巡らせてさっと見る。
巡らせた視線を、右折した白の乗用車へと投げて追いかけた。





車に乗っていた人間は3人。










<そっち向かったぜ!>
<うん、今・・ちょうど目の前を通ったよ・・・>


赤が点滅する。
車が止まる。その後ろに列をつくる。

せっかちな人間が、人を押しのけるように、足を踏み出す。


青緑のライトが光る。
白い人が、車道を渡っていいですよ。と、全身で表現する。






一斉に歩き出す。
フライングした人間はすでに向こう側。


自分と同じ位置から、歩き出す人の、波に乗る。
正面から向かってくる”人”と、交差する。


「ジョー」


名前を呼ばれて。


「変更なし、そのまま追って」


返事を返した。


刹那の会話に誰も気づかない。



「了解」



それほど珍しくなくなった、国外からの訪問者。
けれど、やっぱり・・・彼女は目立つ。








車道を渡り終えて、振り返った。











数人の、男が、自分と同じように立ち止まって振り返り、彼女の後を雄の本能丸出しにした視線で追う。


<やっぱり行き先は予定通りの場所みたいよ>
<わかった・・・>


彼女も、ほぼ、自分と同じタイミングで振り返った。









信号機が点滅する。
排気ガスの臭いがきつくなった気がした。














「ジョーっ!お仕事が終わったらヒ○トンのイチゴ・フェアっ!バイキングに連れて行って!!」

「!?」


ぐんっ!っと躯をのばし、背伸びをしながら勢いよく走り出す車に視界を邪魔されながらも、大きく両腕を優雅に振る、その人の声に、ぎょっ。と、目を見開いて驚く。


「・・・・・は、い・・」


周りの視線が心地よく痛い中、自分の”彼女”にむかって軽く小さく、遠慮がちに手をあげて答えると、彼女はとびきりの笑顔をそこにおいて、去っていく。


一瞬に切り取られた、ハプニングは、走りゆく車が放つ排気ガスにまみれて消える。









流れる人波に紛れていく、彼女の背を瞼に残して。

頬がかすかに熱いのを、今日の気温のせいにして。





<作戦、開始>
<<<<<<<了解>>>>>>>





---イチゴ・フェアって、いつまでだったかな。








号令をかけた後、島村ジョーのままでいた自分は、ふと気がついた。
フランソワーズに自分の気持ちを伝えてから1年経ったんだ。と・・・・。









end.



*告白後の二人。

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