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Little by Little ・14
(14)






「フランソワーズとジョーは、両思い。愛し合ってるネ・・・・・」


月見里学院で一年に一度行われる、学院祭。
卒業式も、入学式もない、イベントらしいことを一切排除した学院にあって、この3日間は特別なものである。


シニア(高校3年生)となり、学院生活最後の学院祭、”あやめ祭”。
それは当麻にとって特別なものとなっていた。


あやめ祭前に巻き込まれた、事件。
巻き込まれたと言うが、彼自身、その詳細は全く知らない。
知りたいとも思わない。

知ったところで、その事件はすでに片付いているために、今更、当麻自身にどのような影響があるのか?と、問えば、帰ってくる答えは、決まっている。

それは、当麻が篠原である限り、必ずついてまわる決まり文句だ。




けれど、その詳細のわからない事件は、まるで小説か映画のような、夢にも思わなかった出会いを当麻にもたらせた。





サイボーグとの出会い。




003/フランソワーズ・アルヌール




日付が変わろうというのにも関わらず、ホテルに戻ってこない、2人。
家族の誰もが心配しつつも、信用していた。


ジョーが一緒なら、と。












009/島村ジョー








車の中で室内灯に伸ばした手をおろし、張大人から受け取ったフランソワーズの携帯電話を両手で握りしめながら当麻はふうっと深いため息をつき、助手席のシートに深々と身を預けた。


「運命の相手だとしても、・・・かならず幸せになる、ハッピーエンドで終わる恋なんて、現実問題、なかなかないと思うんです。・・・人は生きて行く上で、生まれた時代で・・・妥協しなければいけないことだってあるんですから、たとえ、神さまが認めてなさっても」
「・・・」


オレンジ色の室内灯に視線を固定する当麻を張大人はあまり好きになれないシートベルトを外して聞く。


「・・・・・本当に好きな人とは結ばれないって言う、言葉。があるんです。どういう意味か、わかりますか?」
「・・・」
「人間、100%幸せだって言う人の方が現状の不満にたいして的確に答える事ができて、80%、ほどほどに幸せだって言う人の方が、現状の不満がなんなのか、はっきり言えないらしいですよ」
「そう、アルか・・・」


シートベルトに押さえられていた、いい具合に出ているお腹をさする。


「アンさんは、やっぱり・・・さえこさんの息子さんやねえ・・・」


張大人の言葉に、当麻はふっと笑った。


「もちろんです、さえこさんにきっちりと教育されましたからね」
「ワタシらは、悪いけど・・応援してあげられないアルよ?」


当麻にむかって申し訳なさそうに、けれどもはっきりと言い切る、張大人。


「わかってます・・・もちろんですよ。島村は・・・みなさんの家族だし」
「フランソワーズの家族でもアルよ」
「はい・・」
「ジョーの方がたくさんリードしてるネ・・・、それでもいいアルか?」
「・・・・諦められないですから」
「叶ったとしても、たくさん、たくさん、障害があるアルヨ・・?ジョーはものすごく、ものすごおおおおおおっく、ああ見えて、ものすごおおおおおっく、根に持つタイプ・・・ワタシが蛙の肉を鶏肉言うて食べさせた事を、未だに恨んでるアル(いい加減忘れて欲しいネ)・・・、もう赤ちゃんがランドセル背負えるくらい前のことアルに。あっさりしているように見えて、実は一番物事に執着するネ・・・・フランソワーズに対してなら、尚更ネ。」
「・・・」
「フランソワーズは頑固ネ」
「それは、意外でした・・・あと、すっごく食べることも・・ホームステイの間は、ごく普通だったんですけれど」
「あのときは、・・・まあ、今だから言うアルけれど、とある目的があってホームステイしていたアルし・・・(他にも色々理由はアルけれど)緊張していて食欲なかったと思うネ。・・料理人としては、フランソワーズの食べっぷりは嬉しいアルねえ」


張大人は少しずつ、当麻の知らないフランソワーズについて、ジョーについて、話し始めた。


もちろん、”規則(ルール)”として、機密厳守な情報を省き。
終わりなんてないのではないかと、思われた戦いの日々に訪れた、平穏な日々の出来事を。








2人の出会い。

003と009の初めての喧嘩。



いつの間にか、名前で呼び合っていることに気づいた日。


大怪我を負ったとき、なかなか食欲が戻らないジョーに何が食べたいかと、尋ねたら”日本食が食べたい”と言った。(day5)

日本風のお米の炊き方が解らないと、泣き出しそうになり、お味噌汁の具になるのが、ないと、唇を噛み締めて、何かないかとドルフィン号の冷蔵庫に首を突っ込みながら、必死だった。

(太平洋のど真ん中にいたために、002、008に無理矢理に頼んで買い物へ行かせた・・・003の涙の威力)


003と009の2人、マンツーマンのチームが当たり前になったころ、みんなが2人を冷やかし始めた。



そのあたりから、2人は互いに、ある一定の距離を置き始めた。







お互いが、お互いに抱く気持ちに気づいたために。
それは、仲間と家族とは、別のものであるために。











サイボーグであるために。





きっと、彼/彼女には、自分よりもずっと素晴らしい人が・・・と、考えて。










「当麻くんが、もう少し早くフランソワーズと出会ってれば、物語は違っていたかもネ・・・」


張大人は再びシートベルトを付け直すと、キーをまわして、エンジンをかけた。


当麻はただただ、黙って張大人の話を聞いていた。


「だから、ジョーとフランソワーズは、そういう風になるように、なっているって事だと、言いたいネ」
「・・・」
「サイボーグにされた可哀相な少女は、同じ苦しみを耐え、過ごし、戦い抜いた仲間である青年と、末永く幸せに暮らしました。・・アル」


張大人はアクセルを踏み、ハンドルを右へと傾けた。


「サイボーグにされた可哀相な少女は、ある事件で出会った青年と恋に落ち、どんな障害をも乗り越えて、人である幸せを取り戻しました・・・でも、いいと思います」


当麻はフランソワーズの携帯電話のアドレスに登録してある名前を選び、通話ボタンを押した。


コール音が留守番電話サービスに切り替わるのを待つ。


「・・・・・島村?」


張大人は黙って運転し続ける。


「何度も言うよ・・・ぼくは、フランソワーズが好きです。・・・ぼくは君ができないことが、できる。島村が、ぼくができないことができるように、ぼくが、ぼくでしかできないことを、フランソワーズにしてあげられるんだ・・・。それだけ、言いたかったから」


通話を切った当麻は張大人にむかって言った。


「フランが、ぼくを通してみている先にあるものが、ある限り、・・・島村には負けません」


焦るな。と、何度も、何度も当麻は自身に言い聞かせながら、グレートとの会話や、今までのフランソワーズとのことを思い返した結果を、口にした。



当麻の言葉に張大人は、はっとする。







---ジャン・アルヌール・・・。












フランソワーズの当麻にたいする態度などを張大人はすべてを理解した。



「それは、恋うんぬんではない類いのものアルよ・・・」
「それが恋に変わらない、保証もありません」


張大人は当麻に気づかれないようにため息をついた。




---根性が座ってるネ。いい男アル・・・・




けれど。と、続く言葉を自ら飲み込む。

まだまだ若い彼は、これからの人。

色々な経験がさらに、彼を磨き、成長させていく。
その成長のためには・・・。



これもサイボーグ009(島村ジョー)に用意されたミッションだったということアルか。
B.Gには考えつかないミッション(戦い)あるネ。







そう簡単にお姫様は手に入らない、それは物語の常識。











####


お互いの想いを、お互いの腕に、こめる。
布越しに感じる、共有する機械の躯。




どれくらいの時間を、そのままでいたのだろうか。

会話が止まったときから、重ね合わせた躯だけがお互いの意思を確かめ合う手段となっていた。


不意に、彼女の眼のスイッチがはいったことにジョーは気づいた。
視なくていいよ。と、言う意思を伝えようと、言葉ではなく、フランソワーズの後頭部に手をあて、髪を撫でるようにし、彼女の視線が自分の腕の中だけに留まるように、固定する。が、フランソワーズは眼の透視強度をあげてジョーの躯を通り越し闇の向こうを探った。


微動だにしないフランソワーズのために、ジョーはフランソワーズが透視していることを知る。


ジョーの求めるもの(マリア像)を探すために。
彼の腕に抱かれて、その背に、しがみつくように抱きしめながら。

どんな動きも、言葉も、口からこぼれる微かな吐息さえも、すべてを共有しているかのように、ぴたりと、抱き合う状態の中で。



ジョーの腕の力が緩む。
それに伴い、フランソワーズの手がジョーの背から離れると、彼のTシャツの裾をにぎった。


「フランソワーズ・・・」


彼女は真剣だった。
そして、何よりも美しくフランソワーズの凛とした顔がジョーの瞳に映った。


「みなくて・・・いい」


神秘的な色を放つ青。
どの青にたとえていいのか、わからない、フランソワーズだけの青。

その瞳に自分はどのように映っているのだろうか。と、考えたとき、意味のわからない腹立たしさを覚えた。


ジョーの手が移動して、フランソワーズの頬に触れた。


「フランソワーズ」


003でいる彼女であってもいいと、フランソワーズがフランソワーズであるならば。と、思うことができるようになったにも関わらず、こんなプライベートなことに、彼女が”眼”のスイッチを入れてしまう状況を作り出してしまった自分に。


「視るな」


あてられたジョーの手がフランソワーズの顔を上向きに誘導する。それを拒むように、フランソワーズの首に力が入る。
ジョーはフランソワーズが動かないならと、自分が、彼女へと合わせた。


「!」


触れ合った唇にフランソワーズの眼のスイッチがオフになる。
全身が痺れたように震えた。


「・・視るなよ」


一度離れた唇が、フランソワーズに伝えると、再び重ねられた。






フランソワーズにとって、2度目のキス
ジョーにとって、3度目のキス。





相手に秘密にしなくていい、キス・・・・。









「どうして・・・キス・・する・・の・?」


離れた唇が三度重なろうしたとき、フランソワーズから、溢れた。

揺れ溢れた言葉に、涙が後を追う。



ずっと胸奥に仕舞われていた言葉。(day14)







フラソワーズの言葉に、ジョーの胸が切なく縮む。
悲鳴を上げたいほどに痛い。


「フランソワーズ・・・俺は・・・・・」


幾筋もの煌めきが頬を伝う。





---言葉にすればいい。この想いを音にすればいい。






「ジョー・・・泣かないで・・・・・」















言えっ!!
言ってしまえ!!





「泣かないで・・・・・・・」


フランソワーズは頬を包むジョーの手に自分の手を重ね、空いている手を伸ばし、ジョーの頬に、触れた。












「・・・ごめん」









==== 15へと続く



・ちょっと呟く・

ひねくれものがココに1人。
後先考えずに進んでいます。

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なんだか嫌な予感がする/009の予感は常に正しい?

「寂しいのか?」


突然降ってきた言葉に、フランソワーズは瞬きすることを忘れて固まった。


「帰りたい、のか?」


その言葉はフランソワーズのこころの奥底にしまい込んでいた感情を、表に導き出した。
普段の彼女なら、瞬時に精神をコントロールし、何事もなかったかのように振る舞えただろう。

けれど、問いかけて来た家族の言葉は、じんわりとフランソワーズを包み込み、彼女の小さな抵抗を簡単に取り去ってしまう。


「・・・・・」
「ジョーのバイトが忙しくなったのが、原因か。それとも・・・何か、あったのか?」


黙り込んでしまったフランソワーズは、ただじっと、ジェロニモを穴があくほどに強く見つめた。










***

アメリカにいたジェロニモが、ギルモア邸に帰って来た。
理由は勤めていた先の仕事の契約が切れて、更新することができなかったため。
ある程度の蓄えができていたことと、ここ数年はずっと働き通しだったために、この機に全身メンテナンスの予定を入れて今年1月のフランソワーズ、ギルモア博士の合同誕生日会以来、ギルモア邸に住んでいる。


「怖がらなくていい。」


太陽の香りがする大きな手でフランソワーズの頭を優しく撫でると、春風のような温もりとともに、優しくフランソワーズを抱きしめた。


「帰って来て以来、思っていたことだ。」
「・・・・・」


フランソワーズは身を固くして、その温かな包容を拒む。
ジェロニモは気にする事なく、膝の上にフランソワーズを抱き上げた。



昼下がりのリビングルーム。



相変わらずギルモア博士は地下の研究室。
イワンは夜の時間。


張大人はお店、グレートも同じ。


ジョーは朝から大学のバイト。


フランソワーズはいつものように午前中の家事を済ませ、昼食の準備には時間がある、ぽっかりと空いてしまった空間を、朝の散歩から戻って来たジェロニモを捕まえて、ジョーの誕生日の計画を嬉々として語っているときだった。



『○×遊園地の仮面○イダー・ショーのチケットを張大人の店の商店街運営委員会関係でもらったんですって、それを私にくれたの!!』


今月のお小遣いをすでにギルモア博士から前借りをし、絵本4冊、そして、『歴代全員大集合!仮面○イダー・食玩キーホルダー』を全種制覇のために、大人の箱買い(2つ)をしたために、ジョーの誕生日プレゼントに悩んでいた、フランソワーズ。


『お誕生日に遊園地って素敵でしょう!16日は土曜日でジョーのバイトがないもの!ね?たくさんジョーの好きなランチを作ってお弁当にするのよ!あ、心配しなくても大丈夫よ、ちゃんとジェロニモと博士の分もランチボックスにして置いておくわ♪』


止まらない機関銃のように、計画をあれも、これも!と話すフランソワーズだが、まだちゃんとジョーを誘ってはいない。張大人からチケットをもらったのは、2週間前にも関わらず。






「寂しいのか?」









止まらないフランソワーズのおしゃべりに、唐突と言っていいタイミングでジェロニモが落とした音。







勤めていた仕事の都合でギルモア邸にはタッチ&ゴーの状態だったために、誰よりも滞在日数が短く、帰宅回数も少なかったジェロニモは、ここ数ヶ月の滞在で知ってしまったことを、口にする。


「モノでは、寂しさは癒されないぞ。・・・・好きなのはわかるが。」


ジェロニモの言葉に反応を示したフランソワーズの唇が動くが、言葉にするまえに一文字を描いてきゅっと固く締められた。

フランソワーズの座るソファの周りに散らばっている食玩、ぬいぐるみ、絵本、雑誌に、先月から購入し始めた”超絶保存版・テレビシリーズ・仮面○イダー・/コレクション”。

最近、フランソワーズ子供向けアクション・ヒーローに夢中になっており、テレビ・シリーズの初代から追い始めていた。




コレクター気質は元々なのだろう。
何か1つにハマると、とことん突き詰めないと気が済まない性格なのもジェロニモは知っている。


「ジョーがいないと・・・。イワンが夜の時間、いつも1人なのか?」


ギルモア邸はフランソワーズ1人でケアするには大きすぎるために、プロの清掃員が年に何度かやって来る。
それ以外は、全てフランソワーズ1人でケアしている。
プロなどもう、呼ぶ必要はないわ!と、彼女は言うけれど、やはり、それは無理がある上に、そこまでフランソワーズ1人がつとめる必要もないと家族の誰もが思っていた。


けれど、フランソワーズは、ギルモア邸に関することは、何もかも1人でこなそうとする。


家事も、掃除も、洗濯も、料理も、・・・・・何もかも。



全て、を・・。






けれど、住んでいるのは常識を持った身の回りの世話を自身でできる者ばかり。
手のかかるはずの赤ん坊は、そんな大人たちよりも実は手がかからなかったりする。

フランソワーズの手を煩わせるような家事はないに等しい。

毎日、こなす家事の時間を含めて、フランソワーズはどこかへ出掛ける事もなく、ずっとギルモア邸にいる。


家族が帰郷してるときには、気づかない、気づくことが出来なかったことを、ジェロニモは知った。









フランソワーズは1人。




波音が聞こえるだけの、大きな洋館に。




ぽつん。と、1人でテレビを観る。

本を読む。


集めた食玩を並べたり、整理したり。


冬なら、編み物で時間をつぶす。



海辺まで散歩に出ても30分以内には戻ってきて、リビングルームのソファに小さくなって座る。
ジョーから、家族からメールが届くことがあるために、肌身離さずジョーとお揃いのストラップがついた携帯電話を持ち歩く。

毎日、何かしらのメールをジョーに宛てて打つが、送信されることは滅多にない。




昼食の準備の時間がくると、あれやこれやと凝ったものを考える。
お菓子も作る。

夕食の献立を考える。



午後の家事が終わる。



また、リビングルームに戻って、小さくなって座る。


壁にかかる時計をちらちらと見て、秒針の音を追いかけるように数える。








キッチンで、ストックの整理なんかもする。
毎日のことなので、すべて把握しているが、何もしないよりは。と、手を、躯を動かす。





夕食の支度の時間を待つ。
ジョーが好きな料理をいっぱい考える。
ジョーが好きになってくれる料理をいっぱい考える。

美味しいって言ってくれる姿を想像する。






その声が、”さすが僕の妹、フランソワーズだね”と、褒めてくれる人の声に代わる。
恋人にむかって”フランソワーズのお菓子が一番!”っと屈託なく自慢する、兄の声。



その声を振り払うかのように、バスルームに向かい、24時間いつでも入られるようになった変化のないお風呂の温度を確認して、誰もいないリビングルームに戻って来る。



何も考えないでいいように、漫画を読む。
フランスにはいない、日本の妖怪をみつけて、その妖怪に関する逸話にびっくりしたり、笑ったり、ちょっとぞっとしたり。

仮面○イダーの歴史を調べたり、過去の俳優さんが今どうしているのか、ジョーの部屋のパソコンを借りて調べたり。







『ジャンが正義のヒーローなのは当たり前よ!』








関係のないことをしようとして、周りをみれば、すべてジャンと繋がってしまう。



フランソワーズの唯一の、いや、今は唯一ではなくなってしまった、兄、ジャン。
元々、日本のmanga・ファンだった彼からの影響で妖怪だのなんだの、を知った。

婚約者であるエヴァは、外資系輸入会社に勤めていて、取引する先が日本企業だったために日本を良く知っていた。
フランソワーズがジャンからエヴァを紹介されたとき、2人は日本を知っていると言う共通点から、とても仲良くなった。ジャンがヤキモチを焼いて拗ねてしまうほどに。


『ジャンは私にとって、王子様・・・ううん、正義のヒーローなのよ!彼は私の運命の人!』


妹には照れて、どのようにしてエヴァと出会ったのか、語らなかったが、女2人のアペリティフ・タイムには隠し事などない。


『ジャンが正義のヒーローなのは当たり前よ、エヴァ!だって私の兄さんだもの!!』


酔いに任せて、自慢の兄を、恋人をお互いに惚気合った。


















「ジョーに、なぜ言わない?」


ジェロニモは末弟が、今、膝に抱く愛らしい妹に好意を寄せていることは当然のごとく知っている。
観ていて苦笑してしまうほどに、彼女を大切に、大切にしていることを、よく知っている。

少しばかり、過保護すぎないか?と、心配になってしまうほどに。


「遊園地は、オレに言う前にジョーに言うべきだろう。」
「・・・・まだ、日はあるもの」


聞き逃してしまいそうなほど、小さな小さな声で呟かれた。


「寂しくなんかないわ」


ジェロニの胸に顔を埋めて、子猫のように躯を丸くして、フランソワーズは言った。
フランソワーズの頭を撫でてやりながら、ジェロニモはこの数ヶ月見てきたフランソワーズを思い出す。




彼女はジェロニモが帰郷したことを一番喜んでくれた。
それと同時に、見られないように、気づかれないようにと、彼女は孤独を隠し始めた。



見ていて辛いほどに、元気で明るく、変わらないフランソワーズ。




『最近、フランソワーズは無駄遣いし過ぎだよ!』
『も!春は新商品がたくさん出る時期なんですもの!!』




隠すために。





ほら、アタシはこんなに忙しいの!
いっぱい、いっぱい、楽しいことがあるの!
毎日が忙しくって、大変よ!








毎日・・・・楽しくて、忙しくて、たくさん、たくさん、時間が・・・。























イワンも気づいているのだろう。
昼の時間でも、研究途中であろうと、フランソワーズが彼を求めるとぱっとテレポートして彼女の腕に抱かれている。
黙って、静かに赤ん坊独特のミルクの香りとその体温の高さで、フランソワーズを温める。







「帰らないのか?」
「フランスはもう、私が帰るべき場所じゃないわ」


即答だった。
そして、しっかりとはっきり言い切った。




ジャンとエヴァの間に娘(フランシーヌ)が生まれ、大切な家族を護るために。






フランソワーズの覚悟と強さに、哀しみを覚える、ジェロニモ。








フランソワーズはジェロニモに甘えた。
彼の膝上で、太陽の香りに包まれて。

まるでひなたぼっこをしているかのような、心地よさに甘えた。





「踊ればいい。我を忘れて、全てを忘れて、内にある想いをすべて踊りではらせばいい。」


フラソワーズは、首を左右に振った。


「こんな躯じゃ、踊ってもフェアじゃないわ・・・。」
「人のために踊るんじゃない、自分のために踊るんだ。」






ジェロニモの胸が涙に濡れる。








「誰でも祖国は恋しいものだ。家族が愛おしいものだ。その想いに代理はない。」












ジェロニモは泣き寝入ってしまったフランソワーズを自室へと連れていき、そっと寝かした。
時間をみて、昼食の時間が過ぎていることに気づき、ジェロニモはフランソワーズに代わってキッチンに立つ。


「なんじゃ、フランソワーズはどうした?」


いつもの時間帯に昼食の声がかからないために、ギルモアは地下の研究室から出てくると、キッチンに立つジェロニモに驚いた。


「博士は、気づいてましたか?」
「何をじゃ?」
「フランソワーズのことです。」


ジェロニモの手にかかると、キッチン用品全てがまるでフランソワーズが買ってくる食玩のおもちゃのようにギルモアの目に映った。


「季節的に、ホームシックにかかりやすい時期じゃて・・・」


ギルモアはヒゲを撫でながら、ため息混じりに言い、視線をフランソワーズの部屋のある方角へと動かした。


「ジョーは何も知らないのですか?」
「ジョーはジョーなりに、がんばっとるよ・・・。フランソワーズのために」


ジョーが通う大学の慰安旅行(お題・17/京都2泊3日の旅)から帰ってきた直後、ギルモアはジョーからジャンの連絡先を教えてくれと言われたことを、ジェロニモに告げた。密やかに彼は彼女のために慎重に動いていると。


「もうすぐ、ジョーの誕生日です。」
「んー。そうじゃったのう・・・・」
「張大人に言っておきます。」
「それがいいな、2人じゃし」
「はい。」
「ジェロニモ、かぶらんようにせんとな」
「博士。」
「なんじゃ?」
「部屋はまだ早い。」
「・・・・・・・いや、ほれ、ホテルのレストランじゃ、ついでに・・と」
「フランソワーズのヒーローが、まだジョーじゃなく、ジャンのうちは、止めておいた方がいい。」


腕を組んで真剣に悩み始めたギルモアに苦笑を残して、ジェロニモは昼食の準備に集中した。










***

「ただいまー!フランソワーズっ」


ギルモア邸のドアを開けて、まず彼女の名前を呼ぶ。
そのままエントランスの吹き抜けを通り抜け、自室に戻らずにリビング・ルームへ。
L字型のソファに持っていたメッセンジャー型の鞄を放り置いて、キッチンへとジョーの足が急ぐ。


「お帰りなさい、ジョー!」


キッチン・カウンター越しに、ジョーは夕食の支度をするフランソワーズを観る。
振り返って、微笑む大切な、大好きな人。


「御夕食の準備は出来てるの、すぐにテーブルに運ぶわね」
「お腹すいたよ!」
「まずは手を洗って来てちょうだい」
「うん!っと、その前に・・・」
「?」


ジョーはもぞもぞと、ジーンズのポケットを探りはじめた。
フランソワーズは緑茶のために用意していたお湯の火を切って、キッチン・カウンターに近付く。


「あのさ・・・、好きだよね?」
「?」
「最近、ほら、よく・・・集めてるし」
「?」
「湯田さんに、その話しをしたら、そこでバイトしてる人がいるって・・・それで」


キッチン・カウンターの上に、フランソワーズの部屋の鏡台の引き出しに仕舞われた同じ紙が2枚、置かれた。


「・・・その、さ。・・・・・・(2人で)行かない?」


きっとすごく喜んでくれるだろう。と、想像していた。
色んなリアクションのフランソワーズをずっと帰りの道中、想像しては、怪しくニヤけてしまうのを必死にこらえながら。


「あの・・、フランソワーズ?」


けれど、ジョーの予想に反してフランソワーズは押し黙ったまま、じっとカウンターの上に置かれたチケットを見つめていた。



なんだか、嫌な予感がする。
じわじわと、不安がジョーの胸に広がっていく。


009の予感は的中率が高い。

---この嫌な感じは、多分・・・・・・・・・・。
















「・・・・・・・・ジョー」
「は、・・・・はい」


黙り込んでいたフランソワーズが、やっと声を出した。
奇妙な緊張感が走り、背中に冷たい汗を掻く。


いくら好きで集め出したといえど、遊園地の着ぐるみショーなんて、やっぱり。なのか???と、焦り始める。


「あのさ、別に、ショーは観なくてもっ!ほら、遊園地!これっ!!乗り物券はついてないけどッ、入場料込みだからッ!」
「ジョーっ!!」
「は、はいっ!!!」


キッチン・カウンターに乗り出して、ジョーの顔を真剣に見つめる、フランソワーズの勢いに驚く。


「これで4枚よ!」
「?!」
「ジョーの2枚っ、アタシの持ってる2枚!」
「え・・、フランのっ2・・???え?」
「イワンは無料だからっあと2枚でみんなで行けるわっっ♪」












「・・・みんなと一緒の方が楽しいから・・ね」



ジョー/009の”嫌な予感”が的中。

たまには外れろよ・・と、ぼやいてします。








「アイヤー!そうアルか、そうアルか。ならもう2枚、こっちでなんとか調達するアルヨ!」

フランソワーズとの電話のやり取りの後、こっそり、ジョーの携帯電話に謝りのメールをいれる張大人。気を利かせたつもりが裏目に出てしまった。と、反省する。


「こういうコトあるかもネー、と、早めに渡したアルに・・・上手くいかんもんアルねえ」
「それなら、当日ドタキャンするかあ?」
「駄目アルよ・・・フランソワーズ、すごく楽しみにしてるネ」
「あちゃー・・・・」





***

「博士、みんなで行くなら別のもの考えた方がいい。」
「むう・・・困ったのう」
「旅行券とか、なしです。」
「なに!・・・・・・じゃあ、どうすればいいんじゃああああっ?!」



ジョーの誕生日、16日は家族で遊園地(着ぐるみショー)に決定した。





25)へと続く。


end.


*『アタシってばすごーい』と、言うお話を同じお題で書いています。
 その作品はこちら。からどうぞv。

お好きなお話を序章として妄想してくださいませ。

 どっちも、遊園地で御誕生日に繋がります。
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犬を拾った月曜日(09’ジョー誕)


「・・君はどこから来たんだい?」


茶色のふっさふさしたしっぽが千切れてしまわないか、心配になってしまう
ほどに、ジョーにむかって振られていた。


「こんなところをウロウロしていたら、保健所に通報されてしまうよ?」


ワン!ではなく、アン!と、疳高く響いた元気な鳴き声に、ジョーは微笑
む。


「じゃあね」


アンっ!アンっ!っと、二回鳴く。

ジョーは小さく子犬にむかって手を振り立ち去った。




アンっ!アンアンっ!アン!っと、聞こえる鳴き声は、いっこうに去る様子
はなく、跳ねるように走り出したかと思えば、ジョーを追い越し、彼の
前で止まると、後ろ足を投げ出すようにして座り込み、アンっ!!っと、
吠えて、可愛らしい舌をペロリと出した。


「・・・・・困ったなあ」


周りを見回すが、飼い主らしき人物は見当たらない。

鈍行しか止まらない駅とは言えど、それなりに昔は”ニュータウン”として有
名だった街。
通勤、通学ラッシュではない時間帯だが、リノベーションが済んだばかりの
バスターミナルはきっちり時間厳守で規則正しく活動している上に、免許を
持つ主婦が多いこのごろは、昼時の交通量を増やす手助けとなっている。


「危ないよなあ・・・」


ひょいっと、片手で道に落ちていた100円玉を拾うように、素知らぬ顔で
子犬を抱き上げた。













****

「それで、連れてきたアルか?」
「子犬一匹で、駅周辺は危ないし、首輪をしてるから・・・きっと近くに飼
い主がいると思ったんだけど、それらしい人は見かけなくてさ、放ってはお
けないだろう?」
「首輪にゃあ、飼い主の情報なんてもんはないなあ・・」


飲食店に犬を連れ込むのはどうか?とは、思ったものの、知人の店だと言う
ことで、多めにみてもらった。
ちょうど、ランチタイムのラッシュもすぎて、店内に人気がなくなったところに、
張々湖飯店は2時間ほどの休憩をいれる。
店のドアには”休憩中”と言う手書きの紙が貼られている。
配達注文は休憩中関わらず、受け付けていた。

店内にある、予約客用の個室のうちの1つ、小さい方の部屋にグレート、
フランソワーズと3人、ジョーが拾って来た子犬といた。


「ちっちゃい犬っコロ1匹いたって、ここに来る客は文句なんて言わないか
ら、心配すんなって」と、左目のウィンクで迎えいれてくれたのは、共同経
営者の、「”本業”は英国ロイヤルアカデミーの役者だ!」が持ちギャグだと
思われてしまっているグレート。
子犬から外した首輪を調べ終えると、それをテーブルの上に置いた。


「・・・首輪をしてるから、捨てられたとは思えないんだよね」
「でも、電話番号1つ書いてねえんじゃなあ・・・」


張々湖飯店で遅いランチを拾ってきた子犬と一緒に食べる、ジョー。

サーブしてくれたのは、新しい空色の同色の凝った花の刺繍を施されたチャ
イナドレスを着た、フランソワーズ。
今日は髪を二つに結い上げてなく、チャイナ服とお揃いの空色のカチュー
シャをしていた。


「さあ、あなたにはこっちね?」と、温めたミルクに、しっかりと焼いた後
に冷ましたミンチの肉を少し添えて、ジョーの座る椅子の下にいる子犬の前
に置いた。


「ありがとう、フランソワーズ」


膝を折り、肉を頬張る子犬の頭を撫でてやるフランソワーズに向かって声を
かけると、彼女は顔を少しあげて、ジョーに向かって微笑む。


「可愛いわね」
「うん」


新しいチャイナドレスを着ているフランソワーズを、ジョーは今日、初めて
見た。
確か、先々週あたりにグレートがオーダーしていたのが届いたと騒いでいた
ことを思い出す。

前のピンク色も似合っていて可愛らしかったけれど、彼女には、新しい今着
ている方がよく似合っていると、口に出してはなかなか言えない感想を心の
中で呟いた。

心の中で呟いたけれど、なんとなく、そういう風な視線で彼女を見てしまっ
たことが恥ずかしくて、フランソワーズから視線をそらすと、出されている
中華五目そばを子犬に負けじと頬張った。


「で、どうするアルね?飼うアルか?」


張々湖飯店の店主であり、コックでもある張大人がジョーに向かって。と、
言うよりも、ジョーとフランソワーズ、2人に向かって言った。
その手には、ジョーと同じテーブルについている、グレートと自分の分の昼
食がある。

待ってました!と、ばかりに、ぱん。と柏手を打つグレート。
彼は本当にイギリス人?と疑いたくなるほどに、「いただきます!」と言っ
た仕草が馴染んでいた。
人気のない店に、グレートが合わせた手の乾いた音が響く。


テーブルに置かれた賄い食は2人分。
張大人がテーブルに付き、ふうっと、疲れを吐き出すのと同時に、ジョーが
疑問を投げかけた。


「フランソワーズの分は?」


ジョーの足下で焼いたミンチ肉を食べ終わり、ミルクに取りかかり
はじめた子犬を眺めているフランソワーズではなく、張大人に尋ねる。


「私はいいの。予定があるから」


立ち上がったフランソワーズへと視線を移した、ジョーの顔に?マークが浮
かぶ。


「予定?」
「ええ、・・・今夜の夕食はグレートが届けてくれるわ」
「夕食って・・・?」
「もしかしたら、今日は遅くなるかもしれないから・・・」


二人のやり取りを張大人とグレートはニヤニヤとした薄笑いを浮かべつつ、
何も知りません。と、ばかりに、賄いを食べ始めた。


「どうして?」
「予定が、・・・あるの」


ジョーの邪気のない、素朴な疑問に戸惑うフランソワーズ。
困ったように、右手を頬に添えながら答えるが、口からははっきりとした
理由が出てこない。


「フランソワーズ、遅れるアルね。ココはもういいアルから行くヨロシ」


ジョーではなく、フランソワーズに助け舟を出したのは、張大人。
フランソワーズは頷いて、厨房裏のスタッフルームへとむかう、その姿を
見送った男3人。呆然とするジョーにむかってイヒヒっ。っと意地悪く笑った
グレートがジョーの背中をばんっ!ばんっ!と叩いた。


「デートだよ!デートっ!!フランソワーズ嬢はここに通って来る青年に
デートを申し込まれたんだ!」


背中を叩かれた衝撃に眉をしかめる、ジョーの頭の上に浮かぶ
「?」マークを消してやる。


「マドモアゼルはデートにでかけるんだ、それでランチはいらないんだよっ
ジョー!」


お腹いっぱい!と満足そうに、アン!っと、鳴いた子犬の声が、ジョーの耳
に届いたかどうか、わからない。
ただ、びっくりした瞳のままに固まってしまっていた。





「デート・・・・、フランソワーズ、が?」















火曜日に続く

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飼い方に悩んだ火曜日
月曜日の、夜遅くに1台の車がギルモア邸の近くまでやってきた。

地下の研究室ではなく、リビングルームでゆったりとジョーの入れ
た紅茶を楽しみながら、イワンを膝に抱き、研究結果をまとめた
資料に目を通していたギルモアが、聞き慣れないエンジン音に、
首を傾げた。


「客人かのお・・・」


そんな呟きに答える相手は、いない。
ジョーはギルモアに紅茶を入れた後、バスルームに向かった。

膝に抱くイワンは、夜の時間。


「・・・フランソワーズか?」


「今夜は遅くなるそうです」と、帰宅したジョーからフランソワー
ズについて聞いたが、なぜ遅くなるかまでは聞かなかった。

夕食を届けにやってきたグレートは、フランソワーズについて
何も言わなかった。
ジョーが連れ帰った子犬とおなじ姿になって、少しばかり遊んで
やってから再び店に戻っただけ。

その子犬は今、ジョーを追いかけてバスルームにいる。




玄関のドアが開く。
車が走り去っていく音が、近くの海の波音よりも小さくなっていった。


「あら、博士・・・まだお休みになっていらっしゃらなかったのですか?」
「おお、お帰り、フランソワーズ」
「遅くなってすみません、ただいま帰りました」
「ふむ・・・」


リビングルームに入ってきたフランソワーズをさり気なく、観察する。
今朝、張大人の店に向かったときと同じ服装であるが、化粧が違う。
そして何より、いつもと香りが違った。

アルコールを嗜んできたのか、瞳を少し夢見心地に潤ませて頬が
色付いている。どこか声も普段よりも明るい感じ。


「ジョーは、子犬を連れてきまして?」


フランソワーズはお財布が入るので精一杯という感じの小さな
ショルダーバックをギルモアが深く腰掛けるソファの端っこへと
置き、そのままキッチンへと向かった。


グラスコップに水を入れて戻ってきたフランソワーズにむかって、
ギルモアは答える。


「連れて帰って来たよ、飼うつもりなのかい?」
「ジョーはなんて言ってましたか?博士」
「何も・・・ただ、首輪がついてるから、としか・・・」


ギルモアが座るL字型のソファの短い部分に、ゆったりと腰を
下ろして、グラスに口を寄せたフランソワーズは一口、水を含んだ。


「そうですか・・・」


熱くなった喉を冷やして、フランソワーズは答えた。


「今は子犬と風呂じゃて」
「え?」


フランソワーズの瞼がぱっと跳ねるようにして数度瞬きを
繰り返すと、ギルモアを見つめた。


「一緒。とは、言わんが・・・のお・・・ジョーが風呂に向かったのに、
子犬がついていったんじゃ」
「まあ・・・。湯船に入れてなければいいんですけれど、博士、ジョーの
後にお入りになられるんですの?」
「いや、儂はジョーの前にさっとすませておいたでな」


フランソワーズのプライベートのことだから。と、ギルモアは
話題を子犬にのみにしていおいて、その夜は、手早く広げて
いた資料を片付けてリビングルームを去っていった。






***

朝、ギルモアがダイニングルームを除くと、フランソワーズが
朝食の支度を整えていた。

いつもなら、この時間帯、ダイニングテーブルでのんびりと朝食を
取っているはずのジョーの姿が、今日はなかったことに、ギルモアは
首を傾げた。


「ジョーはどうしたね?」
「お散歩ですって」
「・・・・飼うのかい?やっぱり」
「さあ・・・・」


トレーにギルモアの朝食を載せて、フランソワーズがキッチンから
出て来る。


「張大人の店にお手伝いにでかける日だったかのお??」


フランソワーズの装いが、張大人の店に出かけるにしては・・・。と、
言う疑問を含んだギルモアの問い。


「いいえ、今日は・・・」
「どうしたんじゃ?」


トレーからハムエッグとプチトマトを添えたサラダ、ケチャップ派の
ギルモアのために、小さな器にいれたケチャップ、2枚の焼きたての
トーストのそばに脂肪分カットされたバター。オレンジジュース、1人分
の紅茶セット。


「あの、・・・今日は遅くなると思います」
「そおか、ジョーと一緒なら問題ないj」
「いえ、ジョーは一緒じゃありません」
「?」

一緒じゃないのかね?と、問いかける瞳はさも不思議そうに
フランソワーズを見つめた。


「ご心配なく、大丈夫ですから」


フランソワーズはにっこりと微笑んで、ギルモアの前に彼の朝食を
置き、ティーポットから熱い紅茶を注いだ。


ジョーと一緒でもなく、張大人の店ではないなら?と、言う疑問を
ギルモアが舌に乗せようとしたとき、アン!アン!と、元気な
子犬の鳴き声が届く。


危ないから!と、足下に戯れつく子犬に向かって楽しそうな
ジョーの声が響いた。


ギルモアとの会話の途中だったが、フランソワーズは
リビングルームへとむかう。


「・・・・なんじゃ、フランソワーズとジョーは・・・本当に
”僕たちは別に”な関係だったのか?」







****


玄関を使わずに、庭に通じるスライド式のガラス戸を開けて、
リビングルームへと入って来た、ジョーと子犬。


「ジョー、ちゃんと足を拭いてあげてからよ」
「わかってるって、フランソワーズ・・足拭き用の・・・」


ガラス戸を開けると、子犬は見つけたフランソワーズに向かって
飛びつく。


「抱っこは、足を綺麗にしてから、ね?」


アン!アン!っと甘えてくる子犬に近づくように、フローリングの
床にペタり。と座り、頭を撫でてやる、フランソワーズ。


「・・・でかけるの?」


散歩に出る前に用意しておいた、子犬の足拭きようの布巾を手に、
フランソワーズの手から子犬を抱き上げた。


「ええ、・・・留守をお願いね」


ジョーを見上げて微笑む、フランソワーズ。


「・・・・今から出かけるの?」
「もう少し、・・・博士の朝食の片付けをしてから出るわ」


おろして!と、訴えるように暴れる子犬を胸に抱きながら、布巾で
綺麗に足を拭いてやるジョーの口元が、自然とへの字を描く。


「迷子になっただけかもしれないから、写真を取って、駅にチラシを
貼っておこうかと思うんだ。飼い主が”探してます”って逆にチラシを
出してるかもしれないし」


フランソワーズはゆっくりと立ち上がった。


「そうね、首輪に何も飼い主の情報はないけれど、首輪は買ったばかり
のように新しいものね・・」
「・・・見つかるまでは、ここで飼うよ」
「ええ、もちろん。張大人のお店じゃ無理だもの」
「うん。博士はダイニングルームにいるの?」
「ええ、・・・・。でも、ジョー・・見つからなかったときはどうするの?」


ジョーが子犬の足を拭き終わったのを確認すると、その手にある汚れた
布巾をフランソワーズが受け取った。


「・・・・新しい飼い主を探すか、ここで飼うか、またそうなった時に
考えるよ」
「珈琲、用意しておいたわ・・お昼用に簡単にサンドイッチを作って
おいたから、食べてね」
「ありがとう・・・」


ジョーの腕の中で暴れている子犬の頭をm手を伸ばして撫でてやる
フランソワーズから、彼女らしくない。と、ジョーが思う、香水の香り。


彼女らしくない、化粧。



そんな服、見た事ないよ。と、言いたくても言えない声が喉に使えて、
息苦しいというよりも分けも解らず、腹立たしさがふつふつと胸奥から
わき上がる。







『フランソワーズ、今日さ、一緒にこの子の写真を撮って、チラシを
作ろうよ。お昼の後、散歩がてらに作ったチラシを貼りながら駅に
行ってみない?』


朝一番に、キッチンに立っているフランソワーズに言う予定だった
言葉は、ジョーの胸にしまわれたまま。


『駅からほど近いところにある、公園の桜がそろそろ満開になるよ、
とっても綺麗だから』


今日はそういう予定だった。

そういう予定になるはずだった。






フランソワーズと一緒にでかけるつもりだった。
そうなることが、当たり前だと思い込んでいた。














フランソワーズはギルモアが食べ終わった朝食の後片付けを終え、
邸を出ていった。

「いってきます」と言った彼女の顔が忘れられない。







「あんなの、フランソワーズらしくない」と、思い出すたびに胸の
中で悪態をつく。


ジェットが忘れて帰ったデジタルカメラ借りて子犬を撮影するが、
一時も同じ姿勢を保たない元気な子犬にジョーは苦戦苦闘を強い
られながら。



「こら!」


遊んでもらおうとジョーの足にジャンプする。
ジョーが構えるデジタルカメラに興味を持ち、膝折ってかがんで
いることをいいことに、レンズをべろん!っと舐め、邪魔ばかり。


1人じゃなあ。っと、呟く声に、また思い出すフランソワーズ。





いってきます。と、声をかけてくれた、彼女。


「・・・・気にする事なんて、ないさ。フランソワーズだって、
友達の1人や2人いたっておかしくないし」







---友達の、1人、や・・・


自分の言葉に、自分で疑問を持った。









アン、アンっ!!っと鳴いた子犬がジョーの手から変な形の
おもちゃ(デジタルカメラ)を奪おうと、両の前足でジョーの手に
戯れる。



友達って?

女の子?
それとも?



『デートだよ!デートっ!!フランソワーズ嬢はここに通って来る男に
デートを申し込まれたんだ!』





冗談だと思っていた。
グレートのいつもの”冷やかし”を込めた冗談。






---それで、今日も?・・・って・・・・?








自室のデスクトップに取り込んだ写真の中から、ジョーなりにイケている。
と、思ったのを選び、プリントした。

勝手にピュンマが邸に帰ってくる度にアップデートされては増えていく、
滅多に触らない(用がない)ソフトの中から、チラシ作りができそうなのを
選ぶ。


フォントもシンプルに。
文字も、飾り気なく。
強調した部分は、




『迷い(子)犬預かってます』





こういうのが得意なのは自分じゃなくて、と、今は邸にいない仲間
を思い出す。









---1人より、2人、の方がいいのに・・・。


思い出した仲間を押しのけて浮かび上がった彼女の顔にむかって
への字の口を尖らせた。











いつもだったら、一緒にチラシをつくっていたはず。


いつもだったら。

今日はそういう予定だったのに。












うー、うー!っと、コンピューター・デスクに座るジョーの
ジーンズの裾を齧る子犬を抱き上げて、きゅうっと抱きしめた。


「ちっちゃいなあ・・・・。大丈夫。もしも飼い主が見つからな
かったら、僕t・・・と暮らそう・・・・」


僕『たち』と暮らそう。









デート。








デートだって。








そうか、デートか。





本当に、そうなんだ。


嘘でも、冗談でも、僕をからかうのでもなく、本当なんだ。




だから。

化粧をして、いつもと違う香りがして、見た事がない服を着て、
・・・僕とでかけるときとは全然違う、彼女になったんだ。











「別に、・・・いいさ」


本当に?





「・・・フランソワーズは、」



仲間だしさ。




くふーん。と鼻を鳴らした子犬をきゅうっと抱きしめて、その首も
とに顔を寄せた。






「なんだか、寂しいね」




---早く、帰って来てほしいな・・・・。















****


「なんとも味気ない広告アルねー・・・」
「んだなあ、ジョーには、こういうセンスがないってことだな!」
「フランソワーズは何も言わなかったアルか?」


大量にコピーした”迷い(子)犬を預かってます”のチラシを、
ベタベタと思いつく限りの場所に貼って歩いた帰り道。

余ったのを、駅にも近く人の出入りが多い張々湖飯店に貼ってもらう
予定だったために、開店前の店によった。


「フランソワーズは関係ないよ、僕が拾ったチビのだし」


ジョーの言葉に、グレートと張大人が顔を見合わせて驚く。


「なんだ?喧嘩でもしたのかあ?」
「よくないアルヨ、すぐに謝るネ!」
「喧嘩なんかしてないよ、勝手に決めないでほしいな。・・・フラン
ソワーズは、今日・・」


自然、口元が無意識に不満を表した。


「今日も、デートなんだよ」


ぶっきらぼうに言い切ったとき、グレートと張大人が、再び顔を見合わせて
驚き合った。


「なんだ!?3日連続か?!」
「アイヤー・・・、本当アルか?」


ジョーは歩き疲れて眠ってしまった子犬(チビ)を大事に膝の上に
抱き、その背を優しく、優しく撫でてやる。


「いつもよりもお洒落をして、今朝出かけていったよ・・・」


幾分か声のトーンが落ちたジョーの声に、グレートは髪のない頭皮を
ぽりぽりと掻いた。


「いや、・・・まあ。そういうコトなら、仕方ないなあ・・・」
「ジョー、日替わりランチのデザート用、ごま団子がアルね。
美味しいね!」


張大人はキッチンへと駆け込んでいく。


「シンプルでいいんじゃないか!うん。よく見れば、味がある!
チビの良さが、にじみ出ている写真だなあ・・・」


テーブルに置かれているチラシの1枚を手にとって、グレートは
ジョーが撮った写真を褒めた。


温かい子犬の体温がじんわりと手のひらにしみ込んでいく。
けれど、ジョーのこころは、何か冷たく、寂しい。


「その・・・さ」
「なんだ?」
「熱々、美味しいね!餡がとろとろ、ごまの風味でうまうま
アルよ!」


テーブルの上に、たっぷりと皿に盛られたごま団子が置か
れた。


「フランソワーズを誘った人って、どんな人?」











***

「今夜も中華か・・・」


ジョーが持ち帰った夕食に、ギルモアは呟いた。
張大人の料理は天下一品であるが、店を始めてから、本当に
”中華”一辺倒になってしまい、店を始める前のような、中華
以外のメニューがとんとご無沙汰になってしまっていた。

張大人が店を始めて以来、頻繁に台所に立つようになったのが
フランソワーズ。
張大人と比べては可哀想だが、一生懸命に、ギルモアの体調や、
ジョーの好み(日本食)などを勉強し、試行錯誤を重ねて、今は
なかなかの腕前となっていたために、彼女の留守が一大事の
ように感じて仕方がない。

それほど、フランソワーズは長く、色々と世話をしてくれていたの
かと、シミジミと感じたギルモアは、黙って1人、自分が食べたい
量のみを皿に取り分けた。


「・・・・やけに、邸が静かじゃなあ・・・」


朝は各自バラバラであることが多いが、決まってそこにフランソ
ワーズがいる。それは昼も同じ。
夕食は、互いに何か『用事』がない限り、ギルモア、フランソワ
ーズ、ジョー、イワンの4人だった。ときに、グレートと張大人が、
海外に住む仲間が加わる。


「さて、ジョーはどうしたんじゃろうか・・・」


3人分の夕食は、ギルモアが見た時点で誰の手にも触れられて
いないのは明らかだった。




「・・・・」


ジョーは自室のベッドの上に寝転がり、腹の上に子犬(チビ)を
のせていた。
チビは鼻をひくひく、はふはふ。何かを追いかけている夢でもみて
いるのか、ときおり投げ出している両手両足がぴくん、ぴくん、と
動いていた。


何も考えずに、眠っているチビを撫でてやりながら、天井を見つ
めている。




『初めはまあ、腹へった、中華屋がある、食っていこうって感じで
ふらっと入ってきたんだと思うぞ?』



3、4ヶ月前ごろから、張大人の店に頻繁にやってくるようになった
男は、新米社会人のようなスーツに着られている感のある、・・・・では
なく、きっちりとスーツというものがなんであるか解った着こなし方だ。
と、イギリス紳士は言った。

ランチラッシュの始まる少し前、11時ちょい過ぎにやってくる。
オーダーは常に日替わりランチ。

偶然にフランソワーズが店の手伝いの日にやってきた男は、
それからぴったりと、計ったようにフランソワーズの店の手伝い
の日にやってくるようになった。

意外とフランソワーズ目的にやってくる輩は多いので、その男も
そんな1人となったのだと、思われていたが・・・。


『お客から誘われても、フランソワーズはうまくかわしていた
かんなあ』
『”かわす”じゃなくて、キチンと”お断り”ヨ!その変のニュアンス
違うアル!』
『でも、あのお客さんのときゃあ、やけに楽しそうに挨拶を交わす
ようになって・・・』
『最近は名前まで覚えたみたいだったアルねえ・・・・そういえば』
『名前、なんつったっけなあ、大人?』
『あんた・・・物覚え悪すぎアルヨ・・・彼の名前は厨房にいる
ワタシでも覚えてるネ』
『そりゃ、大人。あんたの自慢は店の常連の名前と顔を全員
覚えてるってことだろ?』








「永尾・・さん」


ジョーが呟くとチビの耳がぴくん!と反応した。


「永尾さん、って人と出かけてるみたいだよ・・」


むにゃむにゃと口を動かす、チビの鼻をつん。と、つつく。
イヤイヤをするように、前足が、ジョーの指先をはじく。


「帰って来るよね・・」


ジョーのヘッドボードは棚作りになっており、そこに置いたデジタ
ル式の目覚まし時計を見るために、寝返りうつように躯を動かし
た。

ジョーの腹の上にいたチビは、するりと滑り落ちる。
あふあふ。っと、声にならない鳴き声をあげて、ぱち。っと、目が
驚きに見開くが、眠気が勝ったのか、そのままジョーの脇腹に頭を
預けて、再び夢の世界に入っていった。


うつぶせになり、見上げた時計が表示する時間にため息をつく。









「遅いよ・・・・いくらなんでも」









彼女の数字まで、あと1時間20分。










***

静まり返った邸の前に響くエンジン音が波音を消した。
フランソワーズは、そおっと、そおっと、邸の住人を起こさないよ
うに気をつけながら玄関の鍵をはずし、ドアを自分の躯が滑り込め
るギリギリの幅で慎重にあけた。


「おかえり、フランソワーズ」
「!」


一晩中付けられていた、ルームライトの眩しさに、そして、その声
の主が、拾って来た子犬を抱いて立っていたことに、フランソワー
ズの肩が驚きに跳ねた。


「・・・おはよう、の方がいいかな?」
「ジョー・・・起きてたの?」


フランソワーズは後ろ手でドアを閉めた。


「”起きてた”んじゃなくて、”起きた”んだよ、・・・・朝だから」


ジョーの嘘に同意するように彼の腕の中で、チビがアンっ!アン!と
鳴いた。



昨日の、フランソワーズがつけていた彼女らしくない香水の香りは
消えていた。
化粧をしていない、いつもの彼女が、帰ってきた。





ジョーの知らない石けんの香りをまとって。
トレードマークのカチューシャをなくして。













水曜日に続く


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手放す決意の水曜日
いつもなら、朝食の支度のためにキッチンに立っているはずの
フランソワーズだったけれど、今朝は違った。

彼女は、今、邸の玄関のドアを開け、帰って来たばかり。
そして、それを迎えたのは、チビ(子犬)を抱いたジョー。


「チビの散歩に行ってくる」
「あの、ジョー・・」


何かを言いかけたフランソワーズを無視して、彼女を押しのけるように
邸のドアを乱暴に開けて出ていった。


開け放たれたそこに、佇んでジョーを見送るフランソワーズの手は
伸ばされたまま、宙を漂い、不安げに彼女の胸に拳を作って押しつけた。









月が顔を隠して眩しい陽の光が海面の波に弾かれる朝に、フランソワーズは
帰ってきた。



邸近くの海岸を歩く、ジョーとチビ。
繰り返す波のようにジョーから走って離れては、遊んで!っと訴えるように、
ジョーの足下で勢い良くジャンブする。



「ほら!とっておいで!!」


適当に拾った枝を、軽く投げる。
大喜びで、砂をけり走っていくチビをみて、微笑んだジョー。



への字を描いたままの口元で。




ギルモア邸近くの海岸を歩き、そのまま歩き続けて。


長い長い、散歩になってしまったチビのお腹はギュルギュルと鳴り、
座り込んで、くううん。くううん。と鼻を鳴らしたころ、ジョーと
チビは駅近くまでやってきていた。

駅前にある、たった1つのコンビニエンス・ストア内にあるペット
コーナーで、よくCMでみる、1個400円もする、人も食べられる
んじゃないの?と思ってしまうような豪華なチビ用の朝ご飯と水、
自分に、缶のお茶、ツナマヨ、焼きたらこのおにぎりを買った。

レジでもらったレシートを見れば、チビの朝食はジョーの、よりも
高かった。


「今日だけだよ・・?お腹をいっぱい空かせてしまった、お詫びだ
からね」


バスロータリーの一番隅っこにあるベンチに座って、ふたりで朝食。
通学、通勤ラッシュのさまを眺めながら、ぼんやりと過ごした。


チビは基本、拾ったときにつけていた首輪のみで、リードをつけていない。
けれど、ジョーの半径1m以上離れることはなく、彼の足下、ジーンズの
裾と格闘し、スニーカーの紐とじゃれあった。

その様子を制服を着た団体の女の子たちが『可愛い~』など声をあげて、
通り過ぎていく。
愛想のよいチビは、アン!っと彼女たちにむかって愛らしい姿を見せた。


「・・・モテるんだね、チビ」


愛想を振りまくチビに苦笑するジョー。
子犬も確かに可愛いが、その視線が最後は自分に留まっていることに、
本人は気づいていない。





「さて、と。・・・チビ。どうしよっか?」


張大人の店への方角にジョーの足が勝手に向かおうとする。
けれど、今日はフランソワーズが店を手伝う日だ。と、思い直して立ち
止まった。
朝に邸へ帰ってきた彼女だから、店を休むかもしれない。という考えは
すぐに却下された。

彼女は約束はキチンと守る人だから。


どんなに疲れていても、事前にキャンセルの断りをいれてない
場合は、這いつくばってでも、ちゃんとお店のお手伝いをする。



だから、きっと店には彼女がいる。
もしかしたら、そんな彼女であることも、”永尾”さんは知って
いるかもしれない。

だから・・・フランソワーズのことを心配して、お店にやって
くるかもしれない。
張大人の口ぶりでは、フランソワーズが店に出る日を知っている
みたいだから。

きっと、いる。






「・・・」







フランソワーズのプライベートなことだから、僕には関係ない。


デートしようが。
それが誰と・・でも。


どこの誰とフランソワーズが、でかけて。








朝、帰って来て・・・・。




「心配だっただけだよ、・・・女の子だし。何かあったらっ
て、・・連絡もなくてさ・・・僕は、009だし」



つん。っと、鼻奥がしびれた。










目頭が熱くなる。
喉が閉まって、なんだか息苦しいと言うか、痛い。








「・・・チビ、おいで。帰るよ」







くるりと踵を返して、邸へ戻る道へと足を進めようとしたら、
ジーンズのポケットに突っ込んでいた携帯電話が鳴った。












***


「配達のアルバイトの子が事情で家に帰っネ・・・。助かるアルヨ」
「・・・・グレートは?」
「今日は”本業”の方へ行っていないネ」


週に2回、グレートは私営劇団のアドヴァイザー件脚本家として
活動するために店には出ない。


「ホールのアルバイトは午後からね。ランチラッシュで、ワタシも
フランソワーズも忙しくて店を離れられないアルよ・・・」


張々湖飯店が開店するのは、10時30分。


「ランチの間だけだよ?・・・チビの飼い主からもしかしたら連絡が
あるかもしれないし・・・」
「アイアイね!もちろん、昼が過ぎたら帰っていいアルヨ!夕方には
別のバイトが入るアルからね、アリガトね、ジョー!!」
「ボクが働いている間、チビはどうしたらいい?」
「1人ぽっち可哀そアルがランチタイムに店に置いておくのは、ちと
問題ね・・・。2階の部屋、使うネ」






今日もフランソワーズは空色のチャイナ服を着ていた。


「ジョー・・・あの」
「大人、配達用に原付借りるよ?どれを使ったらいい?」


ジョーはそれらしいものは着ずに、長袖のTシャツとジーンズに
スニーカー。
配達の注文があれば外に出るので、わざわざ”中華店”の雰囲気
作りを手助けする必要はない。


「1台はパンクしたままアル」
「まだ直してないの?」
「そこまで頭まわらなくて、つい忘れるネ」
「僕が直すよ」
「そりゃ、助かるネ」


ジョーの眼の端に、フランソワーズがいる。
彼女は何度もジョーに話しかけようとタイミングをはかって
いたが、ジョーは意識的にそれをさけた。

始めはフランソワーズも開店準備の忙しさのせいと思っていた
けれど、自分が避けられていることに気づいた。

そのまま、2人は張大人の店を手伝うための必要最低限の会話
以外なかった。

2階の部屋に独りにさせているチビが気になる、ジョー。
ごくたまに、配達に出かける前、裏口から出て行くジョーの耳が
チビの鳴き声が聞こえたが、いつもと変わらない元気な声にほっと安堵
する。
そして、チビの悪戯に部屋がとんでもないことになってないことだけを、
祈った。

配達が終わって、1度チビの様子が気になって2階のドアの隙間からちらっ
と覘くと、まんまるいお腹をみせて、のんきに寝ていた。


張大人が用意してくれたのか、ミルクが入ったお皿が部屋の隅っこに、
置かれていた。









***

「ジョー・・あの、」
「休憩中の札は出しておいたよ」
「・・・ご、ごめんなさい」


2階へあがろうと、フランソワーズに背をむけて1段目に足を
かけたジョーの背に触れた声。


「どうして謝るの?」


喉が酸っぱくて痛い。


「あの、ごめんなさい、連絡もせずに、その・・」
「僕には関係ないことだよ」


ジョーが投げ捨てた言葉をその場に置いて、早足に階段を
駆け上がった。




ドアを開けるなり、ジョーの足跡を聴いて待ち伏せていた
チビがジョーに飛びかかる。
そのチビを抱きしめて、ジョーは言った。










「フランソワーズなんて、キライだ・・・」




---なんて、口で言えるほど簡単に嫌えたら、いいのに。








流すつもりはなかった涙を、チビは慰めるように一生懸命に
ぺろぺろとなめた。




「・・・・僕と一緒にいて”もしも”のことがあったら、君は
また独りになってしまう・・・」








今更、


この胸に

ぽっかりと空いてしまった

穴の痛みの

名前が

なんであるか

知ったところで、

何もできない。





「やっぱり、きちんとした飼い主を捜そう・・・」




フランソワーズは、仲間だけど。
フランソワーズは、仲間だから。

だけど・・・・。








「探そうね・・・・」


くぅぅぅぅん。と、小さく鼻を鳴らしたチビ。
ふさふさとした茶色の毛に頬をすり寄せて。


「うん・・・。探そう、僕みたいなヤツじゃダメだよ」





チビのぬくもりがじんわりとぽっかりと空いた穴を埋めていく。





---何をやってるんだろう、僕は。





「フランソワーズがキライなんてウソなんだよ、チビ・・
あのね、・・・・その、逆で・・・」


















木曜日に続く

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飼い主探し木曜日


急な呼び出しに応えてくれたジョーのために、腕によりをかけて
作ったランチは、2階から降りて来た『用事があるから、帰るね』
の一言に、慌てた張大人。
無理に引き止めるのも、フランソワーズの様子から、得策ではないと
考えて、彼を見送った。
作った料理は張大人と、フランソワーズの胃に収まることになったが、
フランソワーズは箸を手にしたまま、いっこうに料理に手をつける様子
はない。


「喧嘩、アルか?」


張大人はため息とともに話しかけた。


「・・別に・・・」
「何あったね?2人がそんなだと、こっちも調子が狂うアル。
相談にのるあるよ?」


優しい張大人の言葉に、フランソワーズの瞳にみるみる膨れ
上がった涙。


「アイヤイヤー!!」









「・・・私のこと、嫌いって・・・・・」


性能が良すぎる耳は、ジョーの絞り出した小さな声を聞き取っ
てしまっていた。
いたたまれず、その場から逃げるように離れてしまったために、
ジョーの言葉を最後まで聞くことはなかった。


そんなことないアルヨ!っと一所懸命に励ます張大人だけれども、
フランソワーズは力なく首を左右に降って、それらを否定する。
何があったネ?と尋ねられ、フランソワーズは素直に、朝帰りに
なってしまったと言った。


「・・・アイヤー・・・フランソワーズ、それは・・その・・」


口に出してはなんとも言いづらい内容なだけに「こういう事は
いつもグレートのっ!」と、肝心なときにいない共同経営者で
ある彼を恨んだ。

張大人はとにかく、涙を流すフランソワーズを励ますことだけに
集中することにした。


「気がついたら、もう、博士もジョーも、休んでいる時間だったから、
でも、でも・・・私、連絡すべきだったのね・・・」




---ジョーに、嫌われてしまうなんて・・・。





連絡をして、”朝帰り”します。とジョーと博士に宣言するのも、
何か間違っている気がしていならない、張大人。


「元気出すアルヨ、ジョーの機嫌が悪いのもちょっとの間ネ、
フランソワーズのこと、心配だっただけアルヨ、きっと」


その日、フランソワーズは張々湖飯店が閉店するまでお手伝いをし、
夜遅くに、グレートが運転する車でギルモア邸に帰った。












****


それからの2人は、意識的に”いつも”の時間をずらし、
お互いに顔を合わせないように過ごした。

ジョーが貼ったチラシはいつの間にか上から別のチラシが
貼られて、いつの間にか誰の目にも触れられなくなり、
定期的に駅周りを清掃する人に、綺麗サッパリはがされて
しまった。


結局、誰からもチビの飼い主だという連絡はなく、チビはギル
モア邸で日々を過ごす。


ジョーは、再度同じチラシをプリントし、駅など、以前と同じ
場所に貼っていく。

シンプルな見出しはいつしか”迷い(子)犬預かってます”
から、”飼い主を探しています”に変わっていた。

そのチラシを張大人の店へ行く途中に見つけるたびに、
フランソワーズは新しい広告たちに隠れているのを引っ張り
出して、貼り直し、はがれかけているのは、最近持ち歩くように
なった押しピンとテープでしっかりと綺麗に貼りなおした。




季節は少しずつ移り、ジョーがフランソワーズを誘おうと
していた樹から桜がは散り、その枝には気持ちの良い、
さわやかな緑を描く。



「散歩に行ってきます」


朝食、夕食の席以外で、滅多にフランソワーズとは顔を
合わさなくなっていたジョーは、”あの日”以来、張々湖
飯店へは足をむけていない。
店の手伝いを頼まれても、フランソワーズが店を手伝って
”いる”日以外の頼まれ事は、いろいろと用事をつけて
断っていた。それを責める張大人でも、グレートでもない。

フランソワーズは、朝に帰ってくることはないけれど、2日に
1回は出かけて、深夜の帰宅を繰り返しす。
出かける日は、博士とジョー、朝食、昼食をきちんと用意し、
ときには、夕食まで作り置いたりもした。

ジョーは、フランソワーズがきちんと邸に帰って来たことを
確認してから眠りにつくという、新しい習慣ができていた。













***



「なかなか、いい肉付きになってきたなあ!」


チビを抱き上げたグレートがそのカラダをマッサージする
ように触ると、チビはくすぐったそうにカラダをよじった。

人間の子どもをあやすかのように、チビを高い、高い、と
抱き上げるグレートに、ジョーは笑う。


今日はフランソワーズが店に出ない日なので、チビの
散歩と昼食に超豪華新メニュ-をごちそうするアルヨ!と
言う張大人の誘いにのって店に来ていた。

最近のジョーとフランソワーズについて、張大人も
グレートも他愛のないケンカだと踏んでいたが、こう長く
続くと心配になってきたギルモアから、店に2人の様子が
心配で電話をかけてくるようになっていた。

昼の時間のイワンに、2人がどうなっているのかとギルモアは
尋ねたが”プライベートな事は知らない”とフラれたらしい。

いくらなんでも今のままでは。と、心配する、張大人とグレ-トは、
ランチラッシュを終えた頃に店にやってきたジョーと一緒に昼食を
取った後、さあ、しっかり腰を据えて話すぞ。とそのきっかけを
狙っていた矢先。


「こんにちは」
「あーっっスミマセン今は休憩ちゅう・・で、し・・・て・・・」


昼食には遅く、夕食には早すぎる時間にやってきた
男性客の声に、チビを抱いていたグレートは、慌てて
チビを背中に隠した。


「アイヤー、フランソワーズに永尾さん、に・・・」


張大人が素っ頓狂な声をあげる。
店の入り口に背を向ける形で座っていたジョーが
振り返った。



ジョーの目の前に、一組の『カゾク』が飛び込んで来る。










「Bon jour!!」


永尾と呼ばれた男とフランソワーズの間に、4、5歳くらいの
小さな女の子が、愛らしくフランス語で挨拶をする。

女の子の元気な声に、グレートの背後に隠したチビが
アンアンアン!!っと鳴いて答える。
フランソワーズよりも濃い髪色の女の子に遊ぼう!っと
訴える。


「Le petit(e) chien(ne)!」


グレートの背中から暴れて飛び降り、姿を見せたチビに
たいして、フランス人形のように愛らしい女の子がニンマリと
笑い、今にもその子に飛びつきそうな勢いで駆け出すところを、
ジョーに捕まえられたチビに指差して叫んだ。

チビではなく、女の子の方が、チビを腕に抱くジョーに飛び
つかんばかりに駆け寄ると、両腕をいっぱいに伸ばして、抱っこ
させて!!っと訴え、ジョーは微笑んで、その小さな手の中にチビを
抱っこさせてあげた。

手が、動揺に震えていることに気がついたのは、チビの重さが
ジョーの手から離れたとき。


「 charmant(e)!!!」


子どもは力加減と言うものがわからない。
ぎゅうっと、アレクシアが思いのままにチビを抱きしめたので、
チビは苦しそうにキャン!っと鳴いた。

その声に、ジョーは動揺を振り払うかのように笑って、女の子の
手からチビを救い出し、再びその手にチビを抱いた。

チビと遊ぶなら、外の方が。と、言う視線を、張大人が言った
”永尾”と呼ばれた男ににむける。

そこで初めて、ジョーは名前だけの”永尾”を実態として認識した。







---彼が、フランソワーズ、の・・・・。






永尾だけを見たはずなのにも関わらず、彼のすぐ隣に
立つフランソワーズがジョーの視界に映る。

何かを言いたげに口を開いたフランソワーズを目に留めた
けれど、ジョーは彼女からも、永尾からも視線を外し、女の子を
見ながら言った。


「あの・・・店の中は、さすがに・・・表なら遊べるから」


ジョーにむかって永尾が軽く会釈する。と、それが了解の意と
とらえて、女の子にむかって外を指差し、チビと一緒に店先に
出たのが、20分ほど前。


まだ、ジョーは今日、フランソワーズと一言も口をきいていない。













***


「離婚した妻からアレクシアを引き取ったのですが・・・。
アレクシアはフランス語以外話せないから・・・」



永尾がちらり。と、張々湖飯店前の道で娘と遊んでくれている
ジョーへと視線を流す。その視線につられて、話を聞いていた
グレートも同じ方向へと視線を移動させる。


フランソワーズはギルモア邸に電話入れるために席を立っていた。


「素直にそうジョーに言やあ、いいことを、なんで隠してるんだ?」


永尾はいつもフランソワーズの口から聴かされていた”ジョー”が
誰であるか、店に入った瞬間にすぐに理解した。


「フランソワーズがきてくれて、本当に助かっているんです、
けれど、彼女がここ最近・・・は・・・」


仕事と育児。
永尾はフランス語の話せない両親にアレクシアをまかせた。
始めのうちは孫の可愛さに言葉が通じなくても、と、そのうち
日本語を覚えるだろうと踏んでいたが、アレクシアはいっこうに
日本語を覚える気はないらしく、頑にフランス語を通そうとした。

なかな意思の疎通ができないことに、疲れきった両親を気遣い、
フランス語が話せるベビーシッターを探した永尾だが、簡単には
見つからなかった。

そんなとき、同僚から中華レストランにチャイナ服を着た(超絶
美人な)フランス人がいるとの話しを聴き、張々飯店へフランソ
ワーズ目当てで来たのだと言う。

永尾から流暢なフランス語で話しかけられて、フランソワーズは
とても驚き、初めはなんとなく敬遠していたが、少しずつ永尾から
アレクシアの相談を持ちかけられて、誰か知り合いの方でフランス人
(もしくはフランス語の堪能な)ベビーシッターを引き受けてくれる人は
いないかと相談するまでになった。

フランソワーズも一緒になって探すが、思うようにことは
進まなかったために、フランソワーズ自身が、アレクシアの
面倒を見ると永尾に申し出たのだった。




「ベビー・シッターを申し出てくれたのは、さっきの彼の
ためなんですよ」


秘密にする必要があるのか?と、顔に浮かべる疑問を、永尾は
くすっと笑ってその答えを口にした。


「「?」」
「彼の誕生日が、5月だって・・・」
「ああ・・・そうえば、そうだ・・ったけ?」
「アイヤー、うっかりしてたネ」
「驚かせたくて、ここ以外で働いていることを内緒にしたかった
そうで・・・」
「それでも、こんな風になるくらいなら、別にばれたったかまわない
じゃないか、フランソワーズ」


邸に居るギルモアに張大人の店で一緒に夕食を。と、電話を
入れるために席を離れていたフランソワーズが席に戻って来る。
その彼女に向かってグレートは呆れたように言う。
その言葉から、永尾が自分が電話に立っている間に、彼らのに
全てを話したのだと、察しがついたフランソワーズは、抗議する
ように永尾を見た。


「っ優哉さん!」
「別に、グレートさんや張さんに秘密にする必要はないだろう?」
「秘密にしたい言うなら、ちゃああんと、黙ってるアルヨ!心配なのは、
こっちのおしゃべりネ!」
「あんだとお!」


フランソワーズを優しい眼差しで見つめながら、立ち上がって
椅子をひき、フランソワーズに座ることを促す、永尾。その自然な
行為に、永尾を1人娘を持つ親の感覚で見ていたグレートは、
さすが一度はパリジェンヌを妻にした男!と、感動しつつ、同じ
日本人でありがなら・・・と、店先で子犬と子どもと楽しそうに
遊ぶジョーにため息をつく。


「ケンカしていたら意味ないアルヨ?」


張大人は席に着いたフランソワーズに優しく話しかけた。


「・・・もう、いいの。私、アレクシアのことが大好きで、それに
・・・・・お金のためじゃないのよ、・・それに・・・・」




---ジョーは私からのプレゼントなんて、受け取ってくれないわ・・・。





「一体、何をプレゼントしようって思ってたんだ?そんな
高価なもんなのかあ?うちの稼ぎだけじゃあ、ダメなの
かい?」


永尾、グレート、張大人の視線を一身に集めて、その瞳が
こころから自分とジョーのことを心配してくれていると感じ、
観念したかのように呟いた。


「チケット・・・・なの」













***

どれくらいの時間を店先で過ごしたのだろう。
とにかく、ジョーはアレクシアがチビと遊びたいだけ
遊ばせるつもりだった。
店から誰かが呼びに来たら、そのまま邸に帰ろう。と、
考えている。

流石に、フランソワーズとその”彼氏”と一緒にいるのは辛い。



好きは子の彼氏の子ども。と、遊んでいる自分はいったい。と、
数回そんな疑問が脳裏を駆け抜けるが、店の中で当人たちと
世間話しをするよりもずっと楽だし、楽しいし。と、ジョーは
自分を誤摩化す。

本当は、チビを連れて加速してもいいくらいだ。と、思っていた。




小さな商店街の終わりにある張々湖飯店は、
車の往来がほとんどない道に面して立てられていた。

長くなった日は少しずつ傾き始め、少し早めに点いた街灯の
明かりが目立つようになってきたころ、店近くまでやってきた
タクシーに気づいたジョーは、チビを抱き上げてアレクシアの
手をとり、タクシーが自分たちの方へとやって来るかもしれない。
と、安全な場所、店のドア前まで移動した。


「ギルモア・・博士?」


タクシーは店前まではやってこなかった。
大通りから角を曲がったとろこで、停止し、車から降りた人物に
ジョーは驚く。


「おお、ジョー!・・・に・・・???」
「Bonsoir!」


ぴたり。と、店のドアの前に背中を押していたジョーの、
その背が内側から押された。


「博士、いいタイミングっすなあ!」
「un bebe!」


店からグレートが”臨時休業”のプレートを手に出てきた。
アレクシアはギルモアの腕に抱かれているイワンに興味を
しめす。


「グレート、ギルモア博士を呼んだの?」


アレクシアはギルモアに駆け寄り、赤ちゃんを見せて!と
飛び跳ねる。ギルモアは頬が落ちてしまわんばかりに
嬉しそうに笑いかけて、腰を屈めてアレクシアにイワンを
みせた。


「ああ、せっかくだからみんなで夕食にしようってな」


”臨時休業”の札をぺらぺらとジョーにみせて、それをドアに
かかっていた”営業中”の札と交換した。


「・・・僕、さっきの昼がまだ・・・夕食は遠慮するよ」
「おいおい、何を言うんだ、ジョー?せっかくあの子と仲良く
なったんだろ?」


グレートは顎でアレクシアを指しながら、ジョーの手の中に
いるチビの頭を撫でてやる。


「・・・別に」
「ったく、ジョー。フランソワーズはただ、フランス語しか
話せないあの子のベビー・シッターを永尾さんに頼まれた
だけだぞ?」
「え?」

ジョーが驚いたように、アレクシアにを写していた瞳を
グレートへとむけた。


「お前が思っているようなこたあ、なーんもない!誤解だ」
「・・・・ご、かい?」


ジョーの腕の中から、チビを抱き取り、手に持っていた”営業中の
札をジョーに渡す、グレート。
チビはふさふさな茶色のしっぽをぱたぱたと振り続けていた。


「お前が何を気にしてるかあ、しっかり解ってるぞ!」
「・・?」
「”あれ”は、久々にフランス語で相手をしてくれる人が現れて、
興奮してアレクシアちゃんが熱を出したから、一晩中看病して
あげてたんだとよ」
「!!・・・・・・・そ、う、なの?」


信じられない。と、何度も瞬きを繰り返す、ジョー。
けれど、ある種の希望が混じり合った複雑な色の瞳でグレートを
見つめ返す。


「なあ、ジョー・・・、逃げてないでちゃんとフランソワーズと話せ。
それでも009か?いったいどうしちまったんだい?お前もフランソ
ワーズも、遠慮し合ってないで、なんでちゃんと話し合わないんだ?」
「別に、」
「”別に、”じゃないだろお、いまさら”別に、”じゃあ!」
「・・・」


口を突き出すように、への字をつくって少しばかり睨む。


「ヤキモチ焼いてたくせに」
「!!」


にやーっと口を左右に大きく引っ張ったグレートは、ずいっと
ジョーの拗ねた顔に近付けて言った。


「失恋した!と、思ったんだろ?」
「っな!」
「認めろ!ジョー、お前、フランソワーズが好きなんだろ?」
「か、ぐ,グレートには、関係ないよっ」


顔を近づけるイヤラシい笑みを顔に貼付けた中年イギリス人の
顔をぐいーっと遠ざけた。


「チービ!お前のご主人様は好きな女の子に告白もせず、
しかも、フラれちまったと勘違いして、無駄な時間を
過ごしていたんだなあ!」


グレートはにやにやとした笑いのまま抱いたチビを高い、
高い、と腕を伸ばして掲げ上げた。


「グレート!!」
「ヤキモチ焼いて、相手に確かめもせずに勝手にフラれたって
勘違いして!まったく、すっとぼけた最強の戦士さまだよなぁ、
おい!」
「変なことチビに吹き込まないでよ!」
「本当のこったろうが!」


ジョーはグレートの腕からチビを奪い返す。と、びっくりしたチビが
キャン!と鳴いた、その声に。


『子犬ちゃんをいじめたら、や!』


ギルモアの側から駆け寄ってきたアレクシアが小さな手を
伸ばして、ジョーのジーンズにしがみついてきた。
アレクシアは、き!っとジョーを睨み、グレートにむかって、ぷう。と
頬を膨らませる。


「チビをいじめてるんじゃないよ?僕がこのおじさんに
いじめられてるんだから」


ジョーは日本語でアレクシアにむかって答えた。


「いたい、ゆった!」
「「?!」」


自分の口から飛び出した単語に、ジョーのジーンズから手を
離して、アレクシアは両手でぱ!っと口をおおう。


「・・・アレクシアちゃん、日本語話せないってえ・・・」


アレクシアは慌てて店の中へと駆け込んだ。











金曜日に続く

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情が移った金曜日


なんとなく邸に帰るタイミングを失ってしまったジョーは、夕食
を、永尾親子、フランソワーズ、ギルモア、イワン、そしてグレー
ト&張大人と取ることになった。

店先で、『永尾優哉はフランソワーズの彼氏ではない』と、『フラ
ンス語の話せないアレクシアのベビー・シッターのために、出掛け
ていた』とグレートから知らされたが、素直に、はい、そうです
か。と、今までとってきてしまった態度を急にかえることはできな
かった。

グレートの、仲間の言葉を疑うことはしたくないけれど、夕食時の
永尾、アレクシアそして、フランソワーズはどこからどうみても”カ
ゾク』としてしっくり馴染んでいたために。

ときおり<そんな目で心配すんなって!フランソワーズはただの、
ベビー・シッターだ!>とグレートがジョーの様子をみかねて励ま
すように通信を送ってくる。

余計なお世話だ。と、跳ね返したい気持ちもあるが、正直、その言
葉に何度も救われた。

アレクシアが日本語を口にしたことなど、このときには、すっかり
頭から抜け落ちてしまい、ジョーは話しかけることができない分、
ただ、ただ、フランソワーズに気づかれないように目で追う。



永尾を、フランス語しか話せずに寂しい思いでいる幼いアレクシア
を微力ながらも助けるつもりで始めたベビー・シッターだが、それ
は1日も早く目標金額に達成する意味もあった。

自分がアレクシアのベビー・シッターを始めると、ジョーや博士に
告げれば、きっと”無理して働く必要などない”と言われることなど
安易に想像できた。
理由が理由なだけに、認めてはくれるだろうが、意地になって押し
通せば、きっと何のために?と、聴かれるはずだ。

フランソワーズはその問いだけは避けたかった。




張大人はテーブルいっぱいに自慢の料理を並べ、アレクシアをとて
も喜ばせた。

あれも!これも!と、欲張るアレクシア。
小さなお腹はすぐにいっぱいになるが、それでも一生懸命に頬張ろう
とする。

無理したら、ダメよ。とフランソワーズが注意する。
デザートが食べられなくなるぞ。と、永尾が、娘の取り皿にとる
料理を調節する。


フランスにある中華料理店で少しの間手伝いをしていた。と、だか
ら張大人は子どもとの会話くらいは問題ないと言う。
フランスの劇団にゲストとして呼ばれて全幕フランス語で演ったこ
とがあると、グレートは自慢げに話した。
ギルモアはフランスの大学で講義を受けおったことがあるために、
日常会話程度なら聞き取れる。と、言うことで、フランソワーズの
周りにいる人なので、基本的はフランス語は大丈夫。と、いう少し
無理があるような、ないようなことで通した。


「じゃあ、島村くんは?」
「え?」
「アレクシアが言ってることわかってるみたいだから、君
も・・・」


永尾からの問いに、ジョーは何か上手い言い訳をようと頭を動かす
が、それよりも早く。

「ジョーはフランソワーズに出会ってから、必死に勉強したんでさ
あ、なあ!ジョー」


グレートが答えた。


「ああ、なるほど。じゃあ、日本語を島村くんに教わったんだね?」
「え?」
「?」
「そうそう!言葉が通じ合わないことなど、2人の間にはなあああ
んの障害にもならなぁかったぁがぁ!!お互いを思えば、思うこ
そ、互いをより深く理解し合うたぁめぇにい~」


グレートは舞台に立ったつもりで、身振り手振り大げさに話し始め
たが。


「教え合いっこしたネ。フランソワーズの方が優秀で、あっと言い
う間に日本語話せるようになったアルヨ」


さらと張大人に最後をもっていかれた。


「おいっ大人!オレが今こうやって、ドラマティックに説明
をっ!」
「あんさん、まわりくどいね、時間の無駄アルヨ」


永尾は2人のやり取りに笑って、フランソワーズ、ジョーを交互に
見る。

2人を隣り合わせに座られせようとしたけれど、イワンのミルクの
時間と重なったために、フランソワーズの隣にギルモアが座ってい
た。

自分たちのことを話題にされながら、ジョーもフランソワーズも
一言も口を挟まない。似たような態度で、同じ色に頬を染め、ちら
ちらとギルモア越しに、相手の様子をうかがっていた。


---落ち着かんなあ・・・・。


2人が向け合う視線を遮る障害物となっている感覚に、ギルモアは
苦笑する。


「もう、大丈夫だね」


アレクシアにジャスミンティーのおかわりをいれていたフランソ
ワーズに永尾はそっと話しかける。
永尾の言葉にフランソワーズは答えなかった。


「?」







***


「Non!」


夕食を終え、永尾がそろそろ。と、アレクシアの様子をうかがいな
がら、帰路につくことを口にした。

張々湖飯店が灯す明かりの下、チビに「さようなら」のために抱っ
こしていたアレクシアは、ぎゅう。っとチビを抱きしめて、離さな
い。


「ダメだ、アレクシア。その子犬は島村くんのわんちゃんなんだ
から、ちゃんと”さようなら”をしたら、かえしなさい」


永尾は日本語でアレクシアに注意する。
けれど、アレクシアは日本語を話す父親に対して、ぷいっと背中を
向けてしまった。


その小さな背中を見ていたジョーの意識に、流れ込んてきた声。






<<ママンとパパが離れているのは、ママンが日本語話せないか
ら。

パパのお仕事が日本になったから。

ママンは日本語ができないで日本にいくのが怖いの。

だから、私がフランス語だけで大丈夫って、ママンに教えてあげる
の。

ウソはいけないから、ちゃんと、フランス語だけで、毎日するの。



ママンと、日本語をお勉強したけど、ママはうまくなくて、とって
も悲しいお顔で泣くの。



ママン。




ママン。











アレクシアがいなくて寂しくなあい?


ママン。


どうしてお電話してくれないの?

もう、アレクシアのこと、忘れちゃったの?






ママン。










日本語がじょうずなアレクシアは嫌い?













ママン。
ママン。








会いたいの、アレクシアはフランスでママンと暮らしたい。>>





「・・・イワン」


ジョーはギルモアに抱かれているイワンに視線を送る。
アレクシアのこころの声をジョーに届けたのは、イワンしか考えら
れないために。


イワンは夜の時間と思ってしまうほどに大人しいままだった。


ジョーはさっと周りを見る。
どうやら、アレクシアの声はジョーにだけ、届いたらしい。

フランソーワズには?と、視線をフランソワーズに止めた。


「・・・ジョー」


まっすぐに、フランソワーズと視線が合った、ジョーは、すごく
久しぶりにフランソワーズを見た感覚に陥った。

父親にではなく、助けを求めるようにフランソワーズに寄りそって
きた、アレクシアと同じ目線の高さににいるフランソワーズが、
ジョーを見上げていた。

その蒼い双眸から、フランソワーズはイワンの力を必要とせずとも、
アレクシアのこころの中の声をちゃんと聴くことのできる、理解で
きる女性だと知っていること再確認する。



チビの飼い主探しは続いている。


---もしも・・・。









『フランソワーズ、あまりアレクシアを甘やかさないで。この
ごろ、我が儘がひどいぞ、アレクシア』


フランソワーズが永尾の声からアレクシアを守るように、チビを
抱っこしたままのアレクシアを抱きあげた。


「我が儘じゃないわ、優哉さん。アレクシアはチビちゃんがとって
も好きなだけです。さよならに、時間がかかっても仕方ないわ」




<<ママン・・・>>



フランソワーズに抱き上げられて、そのフランソワーズの腕の中で、
思い描く人。
小さな唇が、なにかを堪えるように噛み締められるて、フランソワ
ーズの首筋に額をあてて、チビにほおずりを繰り返す。

一生懸命にチビがアレクシアの手を、顎を、頬をぺろぺろとなめて
いたのを、ジョーは見つめた。



---イワンのような力がなくても、何も言わなくても、チビには、
わかるんだね。





動物には人間にはない不思議な力が有る。
たとえ、小さな子犬でも。
ちゃんとその力を持っている。

言葉にしなくても、理解してくれる。
そして、言葉を使わなくても、支えてくれる。

子犬のぬくぬくとしたカラダに、ふさふさとした柔らかい毛の
1本1本に宿っている。

胸に開いた、寂しいと鳴く風穴をじんわりと温めて、閉じてくれる。




---もしも、それなら・・・。








ジョーはアレクシアとは少し違う環境で、母親を求めた経験がある。
アレクシアのように、母と過ごした時間はないけれど、母の顔も、
声も、どんな人であったかさえも解らないけれど。

アレクシアと、自分が、母親を思い、恋しいと、求める気持ちに
差なんかない。




---僕よりも、チビを必要としているなら・・・。











「優哉さん・・、私、今夜このままお邪魔してもいいかしら?」


しっかりとアレクシアを抱いているフランソワーズが言った言葉に、
張大人、グレートがそして尋ねられた永尾が驚く。

やっと、2人の雰囲気が以前のそれに戻りそうな、きっかけが
できたのに、ジョーの目の前で何を言うんだ!と、張大人、グレートの
視線がフランソワーズとジョーの間を行ったり来たり。
ギルモアはイワンを抱いたまま、軽くため息をついただけ。


『今夜は私が一緒にいるわ、ね?だから、チビちゃんに”さよなら”
をして、ジョーに、ね?』


抱いたアレクシアの耳元で、優しく、優しくフランソワーズはフラ
ンス語でささやいた。


「・・・」


アレクシアは、フランソワーズの言葉に、しぶしぶうなずき、
一度、ぎゅ。っとチビを抱きしめて、ちゅ。と、その鼻先にキスを
1つ贈ると、躯を捻ってジョーの方へと顔をむけた。
フランソワーズではなく、ジョーが自ら足を動かして、アレクシア、
そしてフランソワーズの前に立った。


「・・・ありがとう」


ジョーは日本語で言ったあとに、フランス語で同じ言葉を繰り返す。
そして、アレクシアからチビを受け取った。
ジョーの腕に引き取られたチビがくぅうん。と、悲しげに鼻を鳴らす。

”さよなら”をしたくないのは、チビも同じ気持ちらしい。
ジョーは大切にチビを胸に抱いて、その温もりと、勇気をわけてもらう。



まだ、少しの間、ジョーにはチビが必要のようだ。

それじゃあ。と、永尾はギルモア博士、張大人、グレートに会釈して、
今夜の礼を言い、「フランソワーズは責任をもって自宅までおくります」
と、告げた。
フランソワーズは視線をジョーへとあげないままに、永尾と彼の車を止め
ている商店街客用の無料駐車場へ向かおうと、ジョーの前から離れたとき。


「待って、フランソワーズ」
「!」


ジョーが呼び止めた。


「・・・あの」


ごくん。と、口内にいつのまにかたまってしまった唾液を飲み込む。
フランソワーズの気部元に顔を埋めていた、アレクシアも、ジョーの
声に彼をみた。


「僕が、迎え行くよ。遅くなってもいい。何時になっても平気だから、
・・・電話、待ってる」


手のひらに掻いた汗がチビのふさふさの毛をじっとりと重くする。


「待ってる、から・・・その、ほら、永尾さんは仕事とか、あるから、大変
だろ?・・・君の送迎なら、僕が・・・するよ」


フランソワーズはジョーの申し出に、驚き、何度も瞬きを繰り返す、そん
なフランソワーズを見守る張大人、ギルモア博士に、イワン。

おお!っと何かに期待する瞳でジョーを見たのはグレート。



「・・・あまり遅くならないように、お電話しますので、
よろしくお願いします」


答える様子のない、フランソワーズの代わりに永尾が答えた。











***

いつ電話がかかってきてもいいように、ずっとリビングルームにいた。
ジョーの膝の上で寝ていたチビは、いつの間にか、ソファの上でお腹を
丸出しにして、好きなようにカラダをのばして寝ている。

ときおり、寝言のようにハフハフ、何かを言っては、ピンク色の肉球を
ふるふるとふるわせて、夢の中でも走り回ってる様子をジョーに伝えた。

アレクシアが寝付いたころに。と、言われたけれど。と、疑問が
頭をよぎる。その疑問を何度から繰り返すうちに、その疑問と、
夕食前の店先でグレートに教えられた言葉が混ざりあう。ぐるぐると
回る声が、胸いっぱいに広がろうとしたとき、ジョーの耳に、邸の
電話が鳴る音が聞こえた。

日付が変わって10分ほど過ぎていた。


「遅くなって、ごめんなさい、・・・」
「今から出るよ」
「いいの・・・。もう遅いもの、優哉さんがもしもダメなら泊まっても
かまわないって言ってくださっているから、始発の電車で帰ります、だから」
「行く」
「・・・・ジョー,無理しないで・・迷惑をかけたくないわ」
「無理じゃないよ、すぐだから、出るから。切るね」


ジョーはフランソワーズの返事を聞かないままに、電話切った。
ジーンズのポケットに入れていた車のキーを確認するように、ぱん。っと、
たたく。

ソファの上で寝ていたチビがのそのそと置きだして、ジョーを追い掛けて
玄関までやってきた。


「行ってくるね、チビ」


玄関のドアを開ける。と、チビがしっぽをふってジョーよりも早く外に
飛び出した。


「・・・チビ、お散歩じゃないんだって」


アン!っと、外から聴こえた元気で可愛らしい鳴き声は、連れて行って!と
おねだりをしているように聴こえる。


「じゃあ、・・・僕の応援をしてれるなら、一緒に、いこう」









ギルモア邸から永尾に渡された名刺に書かれた家まで、2、30分
ほどの距離。

深夜と言うこともあって、スムーズに車を走らせることができた。


高級住宅地として有名な地域。
初めて車を走らせるその道に、見慣れた人が軽く手を挙げて、ジョーが
運転する車を呼んだ。

ライトに照らされて少しまぶし気に瞳を細めている。
車が止まったのを確認すると、助手席のドアに触れようと伸ばした手が、
一瞬止まり、後部座席のドアを開けて車に乗り込む。

そんなフランソワーズをバックミラー越しに見ていた。


「おかえり」
「・・・遅くに、どうもありがとう・・・・」


ブレーキを踏んでいた足がアクセルへと移動する。


「チビちゃんも来てくれたの?」


後部座席にいたチビを、フランソワーズは抱き上げて膝にのせた。
チビはフンフンと鼻を鳴らしてフランソワーズに甘える。


車をもと来た道に引き返させるために、大きな家の角の道を使い、
Uターンさせる。ハンドルをきり、後方を確認するために躯をねじって
振り向くと、フランソワーズと視線がぶつかった。

そのとき。

勝手に手と足がジョーの意思に反して動いた。
大きな家の長い塀にそって、車が止まる。


「どうして・・教えてくれなかったの?」
「・・・・」
「ベビー・シッターのこと、教えてくれなかったの?」


ジョーはハンドルを握ったまま、ライトが照らす道だけを見た。


「・・・・」
「・・・・」


沈黙の中に、チビの頭を撫でるフランソワーズの動きが作りだす
音が車内にうかぶ。


胃の中に残る夕食の残骸が、重さを増したように感じた。
酸っぱい何かが喉をせりあがってきそうなほどに、緊張して。


「fr・・n」
「お誕生日・・おめでとう・・・ジョー、少し早いけれど・・・」
「え?」
「おめでとう・・・」
「あ。・・・うん・・そういえば、そうか・・明日、だ・・」


フランソワーズに言われて、はじめて明日が16日であることに
気がついた。


「おめでとう・・・私から、なんて・・・迷惑かもしれないけれど、
でも、・・・でも、・・・・どうしても、本物を観て欲しいなって。
私からなんて、・・・イヤならいいの、また、別のを用意するわ」
「?」
「2枚、あるわ。グレートでも、張大人でも、他にお友達がいたら・・」
「?」
「・・・これを」


フランソワーズは持っていたトートバックの中に手をいれた。
届いて以来、いつでも、タイミングがあれが、渡せるようにと、ずっと大切に
持ち歩いていた。


1日早い、プレゼント。


白い封筒に入ったチケット。









伸ばされた指先が持つ、白い封筒がかすかに震える。
受け取った指先も、震えていた。




チビがアンっ!アンっ!と鳴いて、その封筒に興味を示す。
息を詰まらせて、緊張するジョーの指先が糊のはられていない封筒の
中の長方形の紙を取り出した。






「・・・これっ」




ジョーの誕生日の翌週に行われる、
全日本選手権/フォーミュラ・ニッポン第3戦決勝観戦

VIPスイート・プレミアムのチケット。






「一度は行ってみたいって・・・・」


チビが嬉しそうにフランソワーズの膝の上でしっぽをふる。


「・・・」


続けて封筒から、往復の新幹線、専用シャトルのフリー・パス、
そしてホテルの名刺。


「そういう、パッケージがあったの・・」
「フランソワーズ!!」


キャン!っとチビが驚きの声をあげた。


「!!」


ジョーはさっとシートベルトを外し、右手でリクライニング・
バーを引いて、バックシートを勢いよく倒した。
フランソワーズはびく!っと躯を跳ねさせてぎゅ。とチビを抱き
しめる。

運転席から身を乗り出して、ジョーはフランソワーズへと腕を
伸ばした。


「すごいっ!すごいよっ!!」
「・・・・」
「すごい!嬉しいっ!!」
「・・・・ジョー」
「フランソワーズ!!すごいっありがとう!」



チビのようにしっぽがないから。
嬉しい。と、言う気持ちがジョーの躯を動かす。



「一緒に見に行こう!!」
「・・・・・・」


ぎゅう。と、抱きしめられたジョーの腕に、フランソワーズは
抵抗するように、押し返した。


「・・・ジョー、無理しなくていいのよ?」














土曜日に続く




お題元 Fortune Fate素材/mintblue
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特別になりたい/男って以外とこだわるんだよ
このお話の序章として

03.何だか嫌な予感がする/アタシってばすごーい!(24a)
03.何だか嫌な予感がする/009の予感は常に正しい?(24b)

の同じ内容だけれど、アプローチの違う二つがあります。
けれど、このお話しだけでも大丈夫です!
___________


15日前夜。


「ただい・・・まぁあ・・・あ?!」



邸は異様な雰囲気に包まれていた。

朝からずっとチャンネルはニュースを放映しているチャンネルへと飛びに、飛ぶ。
ティッシュの箱が次々に空になり、海が見渡せるリビングルームの壁一面のガラス戸に、できた新しいカーテン。
これをカーテンと言っていいのかわかないが。

名付けるなら。


てるてる坊主柄・・・じゃない。
てるてる坊主の・・カーテン。
千羽鶴ならぬ、千個てるてる坊主・・・!?


「な・・・何事?」
「雨って言うんですもの!」
「・・・・・晴れてるよ?」
「今日じゃないのっ明日!」


---ああ、明日・・。


「・・・いつから作ってたの?」
「・・・明日午前中ににわか雨。降水確率12.234ポイントなの・・日本海側から流れて来る気流に乗った雲が多く、最近の気温の上昇具合から雨になるって・・・」

彼女は新しいティッシュの箱の切り込みの入った部分にずっぽりと指を入れると、行きよいよく細長い楕円の形に切り取った。


「いったいティッシュの箱、いくつ無駄にしたの?」
「?!」

フランソワーズの青色の大きな瞳が落ちてしまいそうに見開かれて、降水確率がどんどんあがっていく。


「ご、ごめん!だって、そんな、てるてる坊主なんて・・そこまでわかっているなら、ほら、明日は午前中だけなら、問題ないって!」


慌ててジョーは荷物を置いてフランソワーズの座るソファの隣に座り、箱から勢いよくティッシュをかき出して、丸める。


「ジョー、こういうのは信じることが、一番なのよ。疑っちゃダメなの。こうやって一つ、一つに、明日がdr・・だ・・・」

ぷん!っと怒ったような口調で始まった言葉が急に勢いをなくして小さくなった。


「明日が何?」


最後の部分が聞き取れなくなり、聞き返しながら取りすぎたティッシュのために巨大なてるてる坊主となってしまった手元に、ジョーは自分でまるめたティッシュに、少し焦る。


「あ、明日は・・っっ」



---だって、ジョーの誕生日ですもの!だから・・・絶対に晴れてほしいの。



「すごく楽しみにしてたからね、フランソワーズ、・・・ライダー・ショー」


手元のティッシュを減らしながら、ジョーが力なく言った。









そう。



明日、16日はジョーの誕生日。
お互いに密かに”お誕生日デート”が出来ればと甘い期待を胸底に隠して手にいれたチケットだけれど。

そこはそういう風になる運命だったのか。


偶然が重なり、手に入ったチケットは2枚・・・どころか。
今現在日本に在住する家族の分まで揃ったために。


5月16日・土曜日は家族(ギルモア・イワン・張大人・グレート・ジェロニモ)みんなで遊園地・仮面ライダー・着ぐるみショーで、ジョーの誕生日。
と、なったのだ。



今日、この日まで何気なく家族はf(フランソワーズにではなく)ジョーに気を使って、土曜日に何かうまい言い訳をみつけて2人きりにしようと試みるものの。

誕生日を迎える本人よりも指折り数えて、遊園地スペシャル・ランチメニュー・献立ブックなんてものを作り、念入りに移動と重さ、人数、そして持ち歩いても崩れない方法を毎日の食事で実験し、ギルモア邸から遊園地までのイワンを巻き込み過去の交通量を調べ、遊園地がオープンする時間に合わせて一番スムーズに到着する方法と時間を割り出し、その日に着ていくお洋服を毎晩寝る前に1人ファッション・ショーを繰り替えす、その姿は初めての修学旅行か、遠足に興奮して、おやつを1週間前に買いにいってしまった子のような。

話しかければ、「あと遊園地まで○日ね!」から会話を始める、宝石のようにきらきらに輝く瞳とともに、花が咲くように明るく愛らしい満面の笑みのフランソワーズにたいして、誰もが挫折してしまうのである。

ジェロニモの不屈の精神をもって、ジョーのため。ジョーの誕生日のため。と、念じながらも、フランソワーズを前にすると、「・・・荷物が重たくなってもオレが持つから心配するな」で、終わってしまう。



3日前に、全員がそれぞれにジョーにむかって謝った。




---別に誕生日にみんなで遊園地でも、ボクは嬉しいし、楽しそうだけど・・・メインが着ぐるみショーってのが。


ジョーの本音はそこだった。
確かに。

フランソワーズが仮面ライダーに夢中だと言ったことが縁で、偶然にも湯田(ジョーがバイトに通う大学の知り合い)の友人で遊園地でバイトをしているという人からもらった、遊園地がこの春GWから行っている、仮面ライダー着ぐるみショーチケット2枚(入園・着ぐるみショー・好きな乗り物1回フリー込)。

フランソワーズに一緒に行こうと誘った。


誘ったのだ。



自分が、着ぐるみショーに。
たとえすでに、フランソワーズも個人的に手に入れていたとしても。
家族みんなでなら、その部分を飛ばしてもいいんじゃないか?と、言うのがジョーの気持ちだったりする。

2人きりなら、いいのか?と、自分に訊ねてみる。
2人きりなら『あり』だと。答える自分がいる。


なぜ?と聞く。


「きゃあ!」


出て来た答えにジョーは、上手く作れていたてるてる坊主をひきちぎってしまった。


「あ・・・」



出て来た答え。
それは・・・。






彼女の好きを自分だけが叶えてあげたい。


我が儘。


彼女の好きを、自分だけが独占したい。
フランソワーズが好きな仮面ライダー・ショーを一緒にみるのはボクだけでいい。


ボクの誕生日にボクは、彼女の好きを叶えて、特別になりたい。




フランソワーズに、好きだって・・・言う予定だった?ライダー・ショー、で?!





「違うっ違うっ!!!ちがあああう!」
「ジョーっ!?大丈夫、あってるわよ!ティッシュだもの、ちぎれても作り直せるわ!」


それはどこかでみたドラマかCMのようなシリュエーション。


「違うんだよっ、別にっ、いや、そのっいや、違わないけどっ」
「何が違うの?ちゃんと首元をひもでしっかりとめて、逆さにならないようにするのよ?違わないでしょ?」


フランソワーズの特別になりたいのは本当だけれど。
告白するのに、そんな”ベタ”なシーンを思い描いていた自分にジョーは叫んだ。






フランソワーズの願いを叶えるのは自分だけでいい=フランソワーズの特別になりたい=告白する=それなら?




仮面ライダーショーの後、1回だけのフリー券を夕暮れの観覧車に乗る事に決める。
楽しかったわ。と、すごく嬉しそうに微笑むフランソワーズから、お誕生日おめでとう。の、言葉。


見下ろす遊園地のネオンが灯り始める。
空の色がグラデーションを描いて、不思議な空間を作る。

乗っているゴンドラが一番高い位置にたどり着いて。



着いて。







***

<ドウヤラ、じょーハ、昔ニハヤッタ少女漫画ヲ読ンダ影響デ、ソコデ 告白スルノヲ 想像(妄想)シテタ ミタイダヨ>
「・・・・マーブルチョコ、買っておかんとなあ」


夕食の時間だと呼ばれるのを待っているギルモアとイワン、そしてジェロニモは地下のギルモアの書斎にいた。
イワンはミルクが欲しいとねだるために、飛ばした思念がジョーの妄想をキャッチしてしまい、空腹感のために上手くコントロールできない。と、言い訳をつけて、それをギルモアとジェロニモ、3人で共有した。


「博士、マーブルチョコはなぜだ?」


フランソワーズの手になぜか握られていたお菓子に注目したギルモアに、素朴な疑問を投げかけた。


「観覧車に乗る男女に、マーブルチョコは必需品なんじゃ!」
「・・・・」
<ジョーガ読ンダ漫画ニソウイウしーんガアルンダヨ>
「・・・・」
<博士ハ○ITの日本アニメ(漫画)くらぶノめんばーダカラ♪>


ふう。っとジェロニモが軽く息を吐き出す。


「ジョーは以外と」
<夢見ル乙女ノヨウナ、ろまんちすとダッタリスルヨ>







***


「ジョー・・・そんなに落ち込まないで、ちぎってしまった、てるてる坊主さんはまた、私が作り直してあげるから・・・」
「いや・・あの・・・・、違うんだ、ええっと・・・」


心配そうに覗き込まれたフランソワーズの顔を見て、やっと自分世界から帰って来たジョー。


「お腹、空いたなあ・・・」
「あ!・・ごめんなさい、もう用意は出来てるの、ジョーの帰りを待ってたのよ、うっかりしてたわ!」


立ち上がってパタパタとスリッパを鳴らしてキッチンへ消えていくフランソワーズの背中を見送って。
先ほどの妄想を繰り返した後、ソファの上で暴れているジョーをそっと、リビングルームとダイニングルームの間から「用意できたわ♪」と、呼ぼうとしたフランソワーズが見守っていた。


「ジョー・・・そんなに明日の着ぐるみショーが、楽しみで興奮しているのね!」













end.


君に振り回される自分がいる(26)へ続く。





*・・・あれ?なんでこんな話しに・・・(焦)本題は???
 続くになってしまいました(滝汗)
 
観覧車にマーブルチョコは、”りぼんコミックス”矢○あい/「天使なんかじゃない」です。
すみませんー。知らない人には大変申し訳ありません。

すっごくまわりで流行ったんですよー(当時)・・・遊園地いくとき、買ってました。
ネタが古い・・・。
最近の漫画知らないから。
いえ、知ってるけど、少女漫画じゃない・・・。ここ、ラブコメ要素がんばれ!ですから(笑)

あ、M○Tに実際あります・・・クラブ。
毎週金曜日・・・朝からアニメ流れてます。
知り合いの目撃情報で、ママレー○・ボーイが1話からずーっと流れてたとか。
たまにゲストで大物がきます、プロデューサーとか、おもちゃ会社の企画者とか。
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君に振り回される自分がいる / 1
このお話の序章としまして・・・

03.何だか嫌な予感がする/アタシってばすごーい!(24a)
03.何だか嫌な予感がする/009の予感は常に正しい?(24b)

の同じ内容だけれど、アプローチの違う二つがありまして。

次に

特別になりたい/男って以外とこだわるんだよ(25)ー16日前夜の話し。

です。

けれど、前のお話を知らなくても大丈夫です。


☆長くなりますので、数回にわけます。
_____




フランソワーズはセットした目覚まし時計の時間よりも30分早く”飛び”起きた。
躯を起こした勢いにのせてベッドから離れると、小さなテラスがついた窓のレースと紗の二重になったカーテンを勢い良く開けた。

眠りが浅くなったフランソワーズの耳に届いた、さらさらとした音。
それが紛れもなく外から聞こえ、空から降るものの音だと、フランソワーズは一気に意識を浮上させたのだ。


「・・・・雨?」


夜明け前の、薄暗さは冬のそれとは違う。
全体に白が地上に線を引くように浮かび上がり、その白が青を押し上げて行く。
押し上げたられた青がまた白の下から同じ青でも違う蒼で顔を出す。

しっとりとした空気が昨日よりも湿気が濃いことを表している。
フランソワーズの耳に届く音が、フランソワーズの瞳に映らない。

それほどに、微かな霧のような雨。
落ちるというよりも、浮いて宙を舞っているかのように、窓をあけたフランソワーズの布に覆われていない肌の部分に吸い付いて来る。

陽が上ると、さらさらとした雨音は陽の温かさに消えてしまい、いつも見る朝よりもミクロの葉の産毛に雨の雫を弾いて、すべてがきらきらと輝く世界を作った。

じっと、きらきらの世界に見入ってしまっていたフランソワーズに届いた通信は張大人から。


<フランソワーズ、まだ寝てるアルか?そろそろランチボックスの用意しないと、予定の出発時刻に間に合わないアルヨ?>


「!」


慌ててフランソワーズは部屋にあるバスルームへと駆け込んだ。






***

「雨の匂いがする、・・・明け方にでも少し降ったのかな?」


一番最後に起きてきたのは、今日の主役。


ダイニングテーブルはランチに占領されていたために、リビングルームの低い楕円ローテーブルに用意されていた。
見るからに、”ランチボックスに入る予定だったけれど・・・”な品々。
テーブルに出ていたそれらを手にとって、くすっと笑う。

たくさん躯を動かして究極にお腹を空かせないとなあ。と、ひとりごちて、朝食を食べ始めた。


出発まであと30分。
邸内はそわそわとした雰囲気に包まれていた。

その”そわそわ”は、ミッションに出る前の緊迫した”そわそわ”したのとは全く違う。
なんだかくすぐったくて、気恥ずかしい、そわそわ。


「・・そわそわって、なんなんだろ?」


保温ポットにいれられていた珈琲をマグカップについで。
庭に通じるリビングルームの壁一面に広がる景色を、昨夜、”雨が降る”ことを必死になって防ごうとした(防いだ)てるてる坊主たちが邪魔をする。


「こうやってみると・・・ホント・・すっごいなあ・・・・」


カーテンのようにぎっしりと吊るされた、てるてる坊主たち。


「てるてる坊主、ありがとう」
「ジョー。起きたのか?」
「うわあ!!」


突然、天井から降ってきた声にジョーは躯が飛び跳ねる。
いつの間にかダイニングルームとリビングルームを繋ぐ戸口にジェロニモが立っていた。


「すまん。驚かせたか?」
「え、あ、ううん。ううん。車、どれで行くの?」


ジェロニモがダイニングルームから持って出て来た物をちらりと見て、ジョーは自分が運転して行くものと思っているために、マグを置いて立ち上がったが、それをジェロニモが制した。


「張大人の業務用のバンで行く。今日はグレートが運転するから、ゆっくりしていろ。」
「え?」
「主役は何もしなくていい。ゆっくり食べていろ。」


ジェロニモが微笑み、「食べ過ぎるなよ?」と言う言葉を残して出て行く。
彼をきっかけにして、リビングルームを何度も通りすぎる家族たち。
けれども決まって、主役は何もしなくていい!のんびり朝食を食べていろ。と、言われる。




出発時刻5分前。

リビングルームにあった朝食が手早く張大人の手に片付けられたころ、イワンを抱いたギルモアと一緒に張が道路沿いに停めたバンへとむかった。


「フランソワーズ、見ました?」


ジョーは起きてからまだフランソワーズに会っていない。どころ、その声すらも聞いていない。
邸にいる気配だけは、感じていたけれど。


「ランチの用意が済んで、部屋に駆け込んで行ったが、・・・・」


車内にフランソワーズを除いた全員がそろった、30秒後。


「ごめんなさい!」
「・・・・フラン」
「ほお」
「珍しいアルね!」
「いやあ、いいねえ、いいねえ、防護服以外のパンツルックも!」


運転席にいたグレートが振り返って、ジョーにむかって意味ありげなウィンクを飛ばした。









***

「ジョー、・・・どうかした?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「疲れたの?」
「ん?そんなことないよ」
「そお?」
「うん、大丈夫だよ・・・」


ジョーはちらっとフランソワーズから視線を下げた。


「・・・・変かしら・・?」


そのジョーの視線の動きに、フランソワーズは歩いていた足を止めて、不安げに大きな瞳をまたたかせた。


「へ、変じゃないっ変じゃないよっ!!!た・・だ・・・」
「ただ?」


可愛らしく、小首をかしげて、少し拗ねたように下唇を押し上げた、形が甘えているようにも見える。


---スタイルがよすぎるって話しで・・・。


”普段”のフランソワーズはひざ丈中心のスカートが多い。
多い。と言うのは間違っていて、毎日スカートだ。
躯のラインを出すことなく、ふんわりしたシルエットのものを好んで着ていた。
露出もあまり好まず、袖がない服をきているときなど、ジョーは見た記憶がないと思う。
(見ていたら、きっとぜったいに忘れないだろう)

露出しているフランソワーズと言って思い出すのは、いくつかのミッションの後に、気晴らしとばかりに仲間たちと海で過ごしたときの、水着姿くらいなもの。

邸から見下ろす海で泳いだこともある。
けれども、あれは、あれで、また健康的なスポーツのための。で、あり。
今日のような、虜出がないのに躯のラインがしっかりと解ってしまうような服装は、別の意味で水着よりも・・・。と、ジョーは唸った。


「ね、どうしたの?やっぱり、・・・おかしいのね?」
「違う、違うっ!!」


遊園地。と、言う事もあり、フランソワーズは着ぐるみショー以外でも楽しむつもりだったので、スカートでは楽しめないかもしれないと、今日この日のために考えたコーディネート。

ジョーに内緒で出掛けた、いつものデパートで店員さんが考え出してくれた。

白に近いグレーのウォッシュカラー・スキニージーンズ。
スパッツじゃないの?と、疑問を口にしたら定員さんに笑われたくらいに、それはピッタリとフランソワーズの躯のラインを浮き出していた。

そして、股下が浅い。浅すぎる。
フランソワーズの小指よりも短いファスナーに、下着まで買い足すことになってしまった。

不安を口にするフランソワーズにたいして、店員が進めたトップスは、丈の長い薄いブルーグレーのナナメストライプが可愛いキャミソール。裾が同じ生地で切り返しのフレアになっており、その部分がフランソワーズのウェストから下の気になる股下の浅い部分を上手く隠してくれていた。
上に重ねた 小さなドットの織り柄が入ったシフォン素材のふんわりブラウスは、ひらりと軽く広がるAライン、の長袖。
ボタンは留めずに羽織るだけにしてくださいね。と、アドヴァイスされた言葉を守る。
ピンク色のそれも可愛かったけれど、フランソワーズはターコイス・ブルーを選んだ。

上をブルー系で統一したので、足下をターコイス・ブルーとのコントラストのために違う色をと、濃いパッションピンクの先がつん!っと尖たパンプスをすすめれらたけれど、結局は持っていた、かかとのない白のバレエシューズを選んだ。
”ジーンズははき慣れてください”と言われたので、毎晩買ったトップス以外のものとファッション・ショーをしながら、屈伸したり、足をあげたり、ストレッチを繰り返し、はき慣れる努力をした日々。

その効果もあり、かなりフランソワーズ的に満足のいく着心地となって、彼女はジーンズも悪くないかもしれない。と、思えるほどになっていた。

家族たちの評判は上々。けれど、肝心の”彼”の反応がおかしい。


「なんて言うか・・・見慣れてないから、ちょっと・・・だけ、気になるだけだよ」
「見慣れてないから?」
「う、うん」
「じゃあ、おかしくないのね?」


---おかしくないどころか、似合い過ぎなんだよ・・・。足、細長過ぎで・・その・・・。


歩くとゆれるトップスからみえるは、絵に描いたような理想の上向きくっきりヒップ。
華奢で細いフランソワーズは、普段の服装からだと、凹凸のないイメージしか浮かばない。

以前にジェットが「003って意外とあるよな?」と、両手で作ってみせたジェスチャーを思い出してしまった。それは水着姿の彼女を見たときの話しだ。

あまりじろじろ見てはフランソワーズに失礼だから!と、意識的にジョーはフランソワーズの首から下は見ないようにしていたために、何色のどんな水着をフランソワーズが着ていたか思い出せない。

それが、思い出せそうだった。
今、ジーンズと言う布地にぴっちりと、皮膚を覆われて。

くっきり。
しっかり。
はっきり。

ジョーの目の前にさらされているフランソワーズの腰・ヒップ・太もも・ひざ・ふくらはぎ・足首の”形”。


---・・・ボクって・・・。


コズミ博士の紹介で通う事になったアルバイト先で、たまに話題にあがる”同性同士だから”の話し。
盛り上がった、”フェチ”度。

自分はそんなのない。っと言ったが、今なら宣言できるとジョーは思った。





足。

フランソワーズの足。



後ろ太ももから脂肪の少ない、筋肉がある分、きゅっと引き締まったヒップのトップにかけてのまるみ(曲線)の角度。

横から見た、それだ。


フランソワーズのその部分だけを切り取った静止画像で、思い出せた。
あのときの水着の色は。と、サイドに結ばれたリボンで思い出す、ジョー。


「んふふ♪」


そんなジョーの思考は現実世界の時間にかえせば、ほんの数秒のことだった。
思わず緩んだ頬を、フランソワーズはジョーにとって都合の良い勘違いに受け取る。


「それならよかったわ!ね、早く行きましょ!みんなと離れちゃうわ」


フランソワーズがぐい!っとジョーの右手を両手で掴んでひっぱり、遊園地の入場ゲートをくぐってすでに十数メートルほど離れた位置にいる家族の元へと走る事をジョーに促す。


---遊園地、いいかも・・・・。







ジョーと手を繋ぎ、くるりと背を向けたフランソワーズ。
彼女の手に引っ張られて、後方少しナナメで走る。

きゅ。っと、引き締まった形の良いヒップが、左右に足が出されるごとに魅惑的に揺れる。




---ボクって・・・・・・こんな人間(キャラ)だったんだ。



自分再発見。
フランソワーズのペースに飲み込まれて(?)知らない自分が、出てくる、出てくる・・・。
良いのか悪いのか、判断しづらい内容ではあるけれど。





---って!そうじゃないっ!!そんな目でフランソワーズを見るのはやっぱりダメだっ!!ジェットと同じじゃないかっ!!






+++


「へーくっしょん!」
「ジェット風邪か?」


NY ダウンタウン/ブルックラインに向かってマンハッタンブリッジの上を走る列車の中。


「ん?ああ?・・・昨日の子がオレが忘れられないって噂してんだぜ、きっと。よお、グリフィス。それより見ろよ、いい胸してるよなあ、あの子」


ジェットが左斜め前のシートに座る子を顎で指した。


「でも、ま・・大きさで勝ってても、総合的にフランソワーズの勝ちだな、ありゃ」
「誰だよ、フランソワーズって?」
「いい躯をしてんのを出し惜しみして日本の萌えに貢献しているフランス女だ」
「?」
「そぅいや・・なんかメールが来てたよな・・・・」


+++





入園ゲートを抜けて立ち止まってしまったジョーとフランソワーズは、距離が開いてしまった家族たちに追いついた。


「好きに遊んでおいで、儂はゆっくり園内をイワンと散歩して、少し体を動かすかの」
「オレも博士と一緒します。」


そこでグレートが書いた寸劇が始まった。


「そうか、そうか。なら、一緒しよう。この園内には確か」


グレートが入園ゲートでもらったパンフレットをぱっと広げた。


「博士、この遊園地はもともと動物園と1つだったみたいですが、その動物園が移転した土地が、植物園になってますよ。そっちへ行ってみましょーか?」


さも、今発見したかのような言い方。


「ワタシは乗り物はあんまりネ。ジョーとフランソワーズは好きに乗って来るいいネ。荷物番は任せるアルヨ!」
「じゃあ、ライダー・ショーの行われるここで、待ち合わせはどうだろう。ねえ、博士?それぞれ行く場所が違うなら、分かれた方がいい」


さすがグレート。と、今ジョーが広げたマップを指差すグレートの自然な演技を讃えても、彼は喜ばないと思う。



「うむ、確かショーは」
「午前、午後の部で、2回に分けてあるみたいですねえ」
「午前の部は11時30分からだ。」
「そうアル、そうアル」
「せっかくフランソワーズがたくさん用意したんだ。ランチはショーの後でゆっくりとがいいだろう。」
「じゃあ、午前の部じゃのう」
「あと1時間半は待つネ」


彼らの計画が手に取るようにわかる。
午前中からライダーショー、ランチまでの間、遅刻して入り口がしまっていた、道がわからなかった。うっかり時間を忘れてしまった、などなどの理由をつけて、ジョーとフランソワーズを2人きりにしようと言う考えなのだろう。


だが。


「あら、たったの1時間と24分よ、一緒にいましょ!ね?自由席だもの、みんなが離ればなれに座ったら楽しくないもの!!」


---想像できなかったのかなあ。フランソワーズがそういうの。


冷ややかにジョーが見ていた、寸劇にフランソワーズが参加する。
入園ゲートから歩いて5分ほどで現れた、大きなメリーゴーランドの前。


「んー、そうかあ。なら、まずこの遊園地の売り物、世界最大級規模のメリーゴーランドから。で、どおだあ?」
「メインは最後でしょう?」
「最後は観覧車って決まってるんじゃよ、フランソワーズ」


に。っと、笑ったギルモアと視線が合ってしまったジョーは、いつもとかわらない微笑み返すしつつ、心臓はぎく。と、跳ねていた。

自分のちょっとした”理想(観覧車でロマンチック告白・シチュエーション)”をギルモアが知っているはずはない。と、跳ねてしまった心臓を落ち着かせる。


ギルモアの言葉に、そうなの?っと、フランソワーズがジョーを見上げて首を傾げる。


「最後にゆっくりと観覧車に乗って、1日遊んだ遊園地を見下ろして、その日を締める。っていうのは、けっこう定番かも」
「そう、それなら!始まりはメリーゴーランドで正解ね」


フランソワーズから繋がれた手は、そのままの状態。その手にきゅ。っと”いいでしょ?”の確認のように力をいれらえた。


一瞬だけおりた沈黙の間に、繋がれた手に注がれた、注目の視線。


さっとフランソワーズ以外の家族に視線をめぐらせた、ジョー。

みな不自然に視線をジョーからそらす。手を繋いでいるのを、見てないよ。知らないよ。と、ばかりに。

最近になって2人が手を繋いで歩く。と、”超小型改良版虫型カメラISー2009.G5.”の映像から知っている、家族たち。
ジェロニモはまだ、その探索機(テストのために、外界との接触が多いジョー(フランソワーズを)追っているという名目になっている)のことは知らないが、邸に住み始めて、ジョーとフランソワーズが駅から歩いて邸に戻ってくるときに、手を繋いでいる姿を何度か目撃したことがあるため、知っている。





「・・・・じゃ。メリー・ゴーランド乗っておいでよ」


フランソワーズが乗っている間に、一言言っておこう。と、ジョーは決めた。


「え?!」
「ん?」
「・・・・ジョーは?」
「え。ボク?」
「そうよ!みんなで乗るのよ!!」
「オレもか?」
「もちろんよ、ジェロニモ!メリーゴーランドですものっ」
「いやいや、儂は遠慮しておくよ、目がまわりそうじゃ」


さすがに、ギルモアには乗れとは無理強いはできない。


「じゃあ、イワンは私と」


フランソワーズがギルモア博士からイワンを抱き受けようと前に出る。すると、張大人がさっとイワンをギルモアの腕から引き取った。


「イワンはワタシとグレートとゴンドラ乗るアルヨ。フランソワーズ、イワン抱いてたら馬には乗れないあるからネ!」


変に気を使われている。
ジョーはそれが、なんだかすごく重たく感じてしまう。




みんなと一緒なら、みんなで楽しみたい。
無理にフランソワーズと2人じゃなくていい。

フランソワーズも一緒なんだから。





ふうっと。無意識に吐き出したジョーのため息に、ジェロニモが気づく。


<・・わかった。>
「?!」


短い一瞬のジェロニモからの通信。
すると。


「みんなで乗ろう。博士、外を見ていなければ、酔ったり目をまわしたりしない。」


そういって、フランソワーズと繋がれている手とは反対のジョーの手を取って、メリーゴーランド乗り場受付口へと歩き出した。
手を取られて引きづられるように足をすすめたジョーに、自然とフランソワーズもひきづられる。


「博士!」


フランソワーズが博士の手を取った。
続いて、博士が笑ってグレートの手をとり、グレートが。参ったなあ。と言う顔で張大人に振り返る。
張大人は、イワンを抱いているために、手を取らなかったが、スキップするように家族の手に続いた。


<イワン、ちゃんと撮ってるアルか?>
<モチロン♪>


今日、カメラらしきもの一切持って来てない理由を、確認する。
種がわからない無数の虫たちが、園内にひっそりと生息していた。






1台のゴンドラにギルモア博士、イワン、張大人、グレートが乗り、ジェロニモは天井のない馬車に1人で占領する。
フランソワーズはどの馬がいいか、うろうろと彷徨い、前足を高くあげたシルバーのティアラを頭部につけた馬を選んだ。ちょうどゴンドラに乗った4人の斜め前にあった馬だ。

フランソワーズの馬の隣の馬にジョーが乗ろうとしたとき、係員が声をかけてきた。


「あの馬でしたら、1台に2人乗れますよ」


点検にやってきた係員の声に、ぱっとフランソワーズが乗った馬をみたジョーは、そのシート部分が確かに2人用になっていることを知る。


「あ・・ええっと・・・」


戸惑っているうちに、係員はジョーから離れ、いつの間にかにぎやかな声に包まれていたメリーゴーランド内を歩いていく。「まもなく、動きまーす!」と、言う声とともに。


「ジョー、どうしたの?」



---う。・・・さすがに、それは(別の意味で)危険です。



嬉しそうに馬に跨がっているフランソワーズがジョーを見つめる。
その姿勢の良さから背景を替えれば。と、想像してしまうが、その夢のような想像を、リアルに映る、馬に跨がって形が変わった部分にいく。


「な、なんでもないよっ!フランソワーズ、ちゃんと捕まってなよっ・・」


ジョーはひらりと、目の前にあった馬に跨がった。
メリーゴーランドのまわりにあるセーフガード用の柵前にいた女の子たちのグループから小さな黄色い声があがった。

その声が誰に向けられてなのか、本人は気づいていない。
黄色い声の女の子たちと同じ気持ちを抱く、隣の馬に跨がる異国の少女だけが、少しばかり、む。として頬を膨らませた・・・、ことにも、気づいていない、栗色の髪が明るい日差しを受けて、金茶色にちかい髪色になっている青年。


彼のこころはここにあらず。




---ある意味、すごく嬉しいんだけどね・・・。



フランソワーズ、(外出時)ぴっちり(スキニーという名前を知らない)ジーンズ禁止令が新たにギルモア邸のルールに加えられそうだった。

動き出したメリーゴーランドが作り出す、風。
ジョーは自分以外の、視線がフランソワーズに注がれ始めているのに、気づき始めた、ために。





世界最大級、巨大メリーゴーランドは1週するのに、かなりの時間がかかった。
きゃあ、きゃあ♪はしゃぐフランソワーズの馬が、ジョーの乗る馬と交互に高くなったり低くなったり。
たまに、馬が支えられている棒を中心にくるん。と、まわったりする。

こんな仕掛けがあるんだ。と、ジョーは自分が乗っていた馬が、くるん。とまわったとき、思わず満面の笑みでフランソワーズを見た。
ふたりが乗る馬の前にある天井のない馬車に乗るジェロニモは、ときおり振り返って2人の様子をうかがった。

笑い合って、はしゃぐ2人にたいして、いつも通りが一番だ。と、呟く。



今日は、ジョーの誕生日。
ジョーがのぞむのは、家族と過ごす遊園地だ、と。





5.23.09
2へ続く。


*・・・予定では3回。でも伸びる可能性大。
 カテゴリーの方は、また、それ用にまとめたいと思います。
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優しい誰かに預けた土曜日






そこは、ジョーの知らない街だった。
始めて訪れた街の、道の、塀に、フランソワーズと2人きりの車の
中で、運転席から倒したリクライニング・シートから身を乗り出し
て、フランソワーズを嬉しさのままに抱きしめた。

本当に、嬉しかったから。


もしかしたら。
もしかしたら、もしかするのかも。

フランソワーズがベビー・シッターを始めた理由。

フランソワーズがベビー・シッターをしていることを隠していた理
由。



それが、僕。
それが、僕の。

それは、僕のプレゼントのため!



「・・・ジョー、無理しなくていいのよ?」


フランソワーズの声に。
ぎゅう。っと抱きしめた、とてもすごいプレゼントをくれた人の言
葉らしくない、言葉に。

胸を押し返された片腕。


押し返された反動にバランスをぐらり。と崩し、後部座席のバック
シートに左肩でささえ、どすん。と、尻餅をつくような形で座り込んだ。
右足だけを、そのまま倒したバックシートの上にのせた状態で伸び
きっている。


「・・・無理?・・・え?」


ジョーはフランソワーズではなくフランソワーズの腕の中にいるチ
ビを見た。


「無理、しないで」


次に、視線をあげてフランソワーズを見た。
彼女は微笑んでいた。

唇の端っこが震えている。
一生懸命に、微笑みを形作ろうとして失敗している笑顔だ。

ぐっと。固く瞼を閉じて、そして、たくさん瞬きを繰り返した。


「ジョー、いいのよ。別に・・・私からの、プレゼントで
も・・・。どうか、ジョーが一緒に楽しめる人と行ってちょうだい。
来週だから、今からジェットにもで連絡したらどうかしら?ピュンマ
は?・・・きっと喜んで飛んでくるわ・・そうね、ジェットがいいわね?
よく、車の話しを2人でしてるもの・・・」


ジョーは、フランソワーズが一体何を言っているのかよくわからな
かった。


フランソワーズは、ジョーから視線を逸らし、その視線をチビをに
落とす。チビを震える手で、忙しなく何度も撫でた。

その力加減がイマイチなのか、チビがふうん、ふうん。と、心地よ
い位置に躯をずらそうともがいた。


「一緒に・・・行ってくれないの?」
「私と・・・よりも、他の人との方がジョー、これは、あなたへプ
レゼントなの。だから、あなたが一緒に楽しんで行ける人と行って
ちょうだい」







わからない。


どうして?
どうして、フランソワーズ・・・。






「・・・じゃあ、いらない」
「っ・・・」
「いらない、せっかくだけど、すごく嬉しいけど・・・」


ジョーはいつの間にか握りしめてくしゃくしゃになってしまった封
筒を、倒した運転席のバックシートに乗せて伸ばしっぱなしのひざ
の上で封筒を撫でてしわをのばし、それをフランソワーズにむけて
差し出した。


「いらない」
「・・・・・気にしないで、私のことは。本当にいいの」
「よくない」
「お誕生日プレゼントなの。ジョー、誰とでも、好きな人といk」
「だからっフランソワーズと一緒に行けないならっいらない!!」


---あ・・・・・。



フランソワーズの腕の力が抜けて、チビのカラダが自由になると、
チビはひょん。っとフランソワーズのひざを降りて、後部座席の腕
からジョーがフランソワーズにむかって差し出している封筒に飛び
ついた。


かぷ。っとそれを口にくわえて、ひっぱる。
するっとジョーの手からぬける。





はふ、はふっと。嬉しそうに封筒を加えてしっぽを振るチビへと、
ジョーは顔を動かし、チビを抱き上げて、涎で濡れてしまった封筒
を、フランソワーズからのプレゼントをもう一度その手に持った。

アンアン!っとチビが『おもちゃ』を取りあげたジョーに抗議する
鳴き声をあげた。


「フランソワーズも、そのつもりでこれを、2枚にしてくれたん
じゃないの?」


ずるい言い方だ。と、思ったけれど、すでにそれは空気を伝ってフ
ランソワーズの耳に届いてしまっている。


「僕のなら、僕の分だけで良かったのに・・・・。2枚って、
さ・・・」


フランソワーズは躯を捻ってジョーに背をむける。
車の窓ガラスに映る自分の顔をじっとみる。


「一緒に行こうって言ってくれるんだと、思ってた」
「・・・」
「そのための、”2枚”なんだって思った・・・」
「・・・」
「・・・・ありがとう、フランソワーズ」
「・・・」
「本当に、嬉しい。だけど、・・・受け取れない」
「き・・」
「・・・・」
「・・・・・k・・rいっ・・・」


フランソワーズの跳ねた後ろ髪の先が揺れ始める。


「kら・・・いって・・・」
「・・・なに?」


華奢な肩が小さく、小さく縮こまる。
とたんに激しく揺れ始めると、フランソワーズの嗚咽が漏れ始めて。


「嫌いってっ!ジョーっ・・・私のことっ嫌いなんでしょうっ!」
「?!」


背をむけていたジョーへと振り返って叫んだ。
チビがビックリしてジョーのひざとバックシートの間に頭を突っ込
んだ。


「嫌いな私なんかっ仲間だからって言う義理でなんてっ!!無理し
なくていいわっ、ジョーが嫌いな私なんてっ一緒にいけるわけない
ものっ!!」


フランソワーズはドアを開けようとレバーを引っ張る。
けれど、ドアにはロックがかかっていたために、レバーは最後まで
引くことができずに、ガチっ。と、固い音を立ててフランソワーズ
の手に抵抗した。


「もうっ!」


怒りと悲しみに頬を濡らして、それらの感情を車のドアのロックに
ぶつける、フランソワーズはそれを叩いて解除した。


「嫌いなんて言った事ないよっ」


ドアのロックが外された音と重なって、ジョーが叫んだ。


「うそつきっ」
「うそじゃないっ!」


フランソワーズが車のドアを開けた。


「”フランソワーズなんか嫌いだ”って言ったものっ、聞いたものっ
張大人のお店でっ!」
「言っていないっ」


フランソワーズの足が、アスファルトを踏む前に、ジョーの手が伸
びて、フランソワーズを引っぱり車内に押しとどめる。


「離して!」


狭い車内で、倒れている運転席のバックシートのスペースを使い、
ジョーは躯を反転させ自分が座っていた位置にフランソワーズを
押し座らせて、彼女の躯を乗り越えて、開けられたドアを閉める。
と、フランソワーズは反対側のドアのロックを外し、レバーを引っ張り、
ドアを開けた。


「フランソワーズを嫌いになんかならないっ!絶対にない!」
「ウソ、ウソウソっ!!」


ジョーは素早く身を捻り、ドアにかかっていたフランソワーズの手
首を掴みぐっと車内中央に引っ張った。


「言ってない!!」
「ウソつきっ!!」


チビは2人のやり取りに驚いて、非難するように運転席のシート下
に潜り込んでしまっている。


「嫌いなんて言ってない」
「言ったわ、聞いたものっ」
「いつ?!」
「前にっ」
「前っていつ?!何月何日、何曜日!?」
「っ・・・そんなのっ」
「何時何分、何秒っ、いつどこで、聞いたの?!」
「アレクシアが熱を出した翌日よっ、連絡を入れることなんてすっ
かり忘れてっ気がついたら朝になってた日っ!!」


投げられた言葉に、ジョーは思い出した。







---聞いてた?・・でも、あの後・・・・










「嫌いっていったものっ、」
「うん・・・」





掴んでいた、フランソワーズの手首を、離した。
フランソワーズは離された手を胸前で手を重ね、必死で震えを留め
ようとぐっと力を入れるが、嗚咽と涙に支配されてしまった躯の揺
れは簡単には収まらない。


「朝に帰って来て、理由を言ってくれなくて、その影に知らない男
がいて、デートだって言われて、・・・嫌いに、なるよ・・でも、」
「デートなんかっしてないわっ・・言ってないわっ」
「そう聞いたんだ」
「どうして、私に聞かないのっ!」
「聞けるわけないよっ・・・聞けるわけないだろう・・・、教えて
くれなかったのは、フランソワーズ・・だろ・・・」
「・・・・」


ぼろぼろと落とす涙を拭う事なく、ただ流れるままに、漏れてしま
う嗚咽もそのままに、フランソワーズはジョーを見つめた。


「秘密に、してたの・・・・・僕に、何も言ってくれなくて、不安
にさせたの・・・・僕が、・・・」



---勘違いしたのはっ





「フランソワーズのせいだろっ!!」


ジョーが吠えた。
その声圧に、フランソワーズの躯がするどく跳ねる。

運転席の座席シートの下に潜り込んでいたチビーがジョーの声に反
応して顔をひょこ。と、出した。

見上げる2人に、音も鳴く鼻をひくひくと動かす。


「・・・・・・・・・だって・・・・・」
「・・言ってよ・・・・・フランソワーズの方こそ、なんで・・・・・」




どれだけ、寂しかったか。
どれだけ、胸が痛かったか。



どれだけ・・僕が・・・・・。



それが僕のためであっても、すごく嬉しかったけど。
だけど・・・






「・・・・・・プレゼント、私だけの、力で、お金で、買いたかっ
たんですもの・・・・・・・」
「・・・・」
「きっと・・言えば、ジョーは自分も・・行くのだからっ
て・・・、みんな・・・協力して・・・くれるでしょ?」
「うん、だって嬉しいし、その気持ちだけで、そういう風に僕のこ
とを考えてくれた、”こと”が嬉しいから」


ほら。と、

フランソワーズの唇が動く。


---ほらね。

   やっぱり、私の考えは当たっていたわ。





ジョーの手が、動く。







---でも。
  驚かせたかったの。
  びっくりして喜んでほしかったの。


  私だけの力で、誰のためでもなく。
  ジョーだけのために。
  あなただけのために。


  私だけの”ジョーへの誕生日プレゼント”を用意したかったのよ。





着ていたロングスリーブTシャツの袖をひっぱり。
ぐいぐいっと、乱暴にフランソワーズの涙でくしゃくしゃになった
顔を拭う。







---大好きなジョーへのプレゼントは、”私”が、あげたかったの。




「お誕生日、おめでとう・・・ジョー」
「嫌いって・・・言ってごめんね・・・・・」


不慣れな手に力まかせに流す涙を拭われながら、フランソワーズは
それを振り解くように顔を左右に振った。


「・・・すごく、悲しかったわ」
「僕もだよ」
「辛かったの・・・」
「僕も同じ・・・」
「でも、・・・・」
「・・・・」




僕も。





私も。








『好き』は、ずっとずっと変わらずに胸の中にあった。





「誕生日プレゼントを、ありがとう」



ジョーはそうっとフランソワーズを自分の胸へと抱き寄せた。



「・・・一緒に行ってくれる?」



フランソワーズは抵抗しなかったが、ジョーの問いには頷かなかっ
た。


「それは、もう・・ジョーのだから。・・・・ジョーが行きたいっ
て思う人と観に行ってちょうだい・・・」
「うん・・・だから、フランソワーズ」



ジョーは腕に少しだけ力を加える。



「・・・・・一緒に、だよ」
「私で・・・いいの?」
「うん・・・・」
「本当に?」
「・・・うん」
「あとから、やっぱり、ダメって嫌よ?」
「ならないよ・・・」
「・・・・嬉しい」
「僕も、嬉しい・・・」



フランソワーズが開けた、運転席側の車のドアは開いたままだっ
た。

2人がじっと重なりあって、動かなくなったとき、チビはひくひく
と鼻を動かしてまわりの様子をうかがっていた。


静かになった車内で。


何もかもが魅力的で面白そうなこといっぱいの世界が、チビを呼ん
だ。

開いていた、ドアの向こう。







チビはそおっと、倒されたリクライニング・シートの下をくぐって、
車から抜け出した。
ふにふにとした、柔らかい肉球をぽてん。とアスファルトの上にの
せて。

ふっさふさの茶色のしっぽを千切れんばかりに左右に振って。




真新しい赤い首輪に、ジョーが商店街で見つけた、『C』の文字が
入ったシルバーのキーホルダーをつけて。













***


ジョーとフランソワーズはチビがいないことに気づき、一生懸命に
探した。

アレクシアも、一緒になって懸命に探した。
駅に、商店街に、アレクシアの家の周りに、たくさんの『”子犬(チ
ビ)探しています。』のチラシが貼られた。

剥がされては、何度も、何度も、貼り直す。


「もう少し、可愛い写真はないの?」
「だって、大変だったんだよ、チビはじっとしてないし、カメラを
おもちゃだと思って取ろうとするんだから」
『ジョー、へたっぴなのね?』
「・・・・」
「アレクシアの方が上手かもね?」
「じょおず?」
「それじゃあ、サメだよ、サメ」
「?」
「ジョー、おもしろくないわ・・・アレクシア、変な日本語は覚え
なくていいのよ」
『その、”じょおず”と、じょーはお友達かなにかの関係なの?』





剥がされては、貼って。
先週は、ジョーの誕生日だった土曜日。


誰からも連絡が来ないままに。
今週は、フランソワーズと初めてのファーミュラー観戦。



チビの行方がわからないままに。

貼っては、剥がされて。










チビを拾ったときと同じように、誰からも連絡はなく。
そのうち、チラシを作り直さなくなったころ。


ジョーとフランソワーズの働きかけで、アレクシアはフランスにい
る母親と週に一度、電話で話すようになり、フランス語と日本語
の混じった手紙を送るようになった。







***

チビは車の外に出て、一度だけ降りた車へと振り返った。

バック・フロントガラスからのぞく、優しい栗色と亜麻色の髪の2人に
むかってふんふん。っと、鼻を鳴らした。


大きな長い塀に沿って歩いた。

暗くなって明るくなって、暗くなって。
点された街灯と街灯の感覚が面白かった。

どこまで続くんだろう?っと好奇心がチビのこころをくすぐる。


「え?!」


夜中にゴミ出しは、ルール違反だけれど。
朝どうしても起きられない彼女は、そうすることでなんとかゴミ収
集の車を逃さないことに成功していた。


どさ!っと置いた、先週逃した分の、ゴミ袋が突然チビの進む道を
塞いだ。


アン!っと抗議の声で鳴く。


「子犬?!・・・え?なんでこんな時間に・・・、どうしちゃった
の、チビちゃん・・・お家は?迷子になっちゃったの?」


彼女はチビをひょいっと腕に抱き上げた。
真新しい、赤い首輪にシルバーの『C』の形のキーホルダー。


「あはは、”チビ”ちゃんであってるのね!」




アン!アン!っと、嬉しそうにチビは、ふっさふさの茶色いしっぽ
を千切れんばかりに振った。








それは、遠い街の優しい手に、再び拾われた夜の、できごと。






日曜日に続く



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犬のいない日曜日



朝、目が覚めるとそこにいるはずの、・・と。
寂しい気持ちがジョーの胸によぎった。

誕生日を迎えてから、半年近くが過ぎても、その前夜に消えた、ふ
さふさのしっぽを千切れんばかりに振って鳴く声を、不意に目覚め
た朝に思い出す。


あれから、どうしたんだろう?
ちゃんと、ご飯を食べてる?


春が過ぎて、夏が過ぎて、そして、冬が来た。



ロング・スリーブのTシャツを着ていた季節から、ショート・ス
リーブにかわり、再び、あの日、フランソワーズの涙で濡れてし
まったTシャツに袖をとおして、その上に毛糸のセーターを着る季
節。


チビがいなくなってから、すぐに、フランソワーズはジョー
に内緒でそっとイワンにチビの行方について訊ねた。



<大丈夫。ちびハ元気ダヨ、心配シナクテモ、ソノ内戻ッテクルカラ>
















日曜日の朝。



静かな波音だけが、ジョーの部屋に響いた。
ベッドから身を起こし、寝ぼけた頭の中に響いた、元気な子犬の鳴
き声。


アンアン!っと、散歩をねだる鳴き声。
コンコン!っと、ジョーの部屋のノックの音。


「・・・フランソワーズ?」
「おはよう、ジョー」
「おはよう・・・」
「起きたのが”視えちゃったの”」


小さな赤い舌をぺろっと出して、ジョーの部屋のドアをちゃんと開
けずに軽く開けた隙間から顔を出して覗き込む。


「ね、お散歩しない?今朝はとっても空気が澄んでいて、綺麗な
の。今日は昨日よりもずっと暖かいみたい」


ジョーは笑って頷く。
こういう日は、かならずフランソワーズが”散歩”をおねだりしてく
ることを知っているから。


「5分で用意するから、待ってて」
「ね、朝ご飯を浜辺でなんて、どおかしら?」
「寒いよ?」
「だから、暖かいのよ、今日は!」


着替えて、バスルームに駆け込み、顔を洗って歯を磨いて。


「本当に、海辺で朝食?・・・もう11月だよ?」
「あら、私たちは平気でしょ?」


玄関で待っていたフランソワーズの手に、朝ご飯が詰められた藤の
カゴ。


「ちゃんと珈琲もあるのよ?魔法瓶にいれたの」
「じゃ、いいか・・・・。冬の海岸で朝食でも」


2人は揃って邸を出る。
歩いて15分ほどの、人があまり立ち寄らない海辺まで。


「そろそろ空港券を買わないとね」
「アレクシアは、12月10日のチケットよ」
「独りで大丈夫かなあ・・・」
「やっぱり、同じ飛行機のチケットにした方がいいかしら?」
「でも・・・」


ジョーとフランソワーズは視線を合わせて、同時に同じ言葉を口に
した。



「「1人でできるもん!」」



最近覚えた、アレクシアの日本語。
お気に入りのその言葉は、アレクシアの頑固さに拍車をかけた。

フランソワーズは、相変わらずアレクシアのベビー・シッターを続
けている。ジョーは、週に1度フランソワーズと一緒にアレクシア
の日本語の先生になる。



クリスマスをフランスで過ごすアレクシア。
その母と娘から、一緒にと招待されたジョー、フランソワーズ。

永尾は年始にジョーとフランソワーズとは入れ違いで母娘の元へ行
くことになっていた。



浜辺におり、海風に邪魔されないように岩場の影にフランソワーズ
が持参した小さなビニールシートに、2人は寄り添って座る。

フランソワーズの手で魔法瓶からそそがれた熱々の珈琲が出す湯気
に瞳を細めて、それを受け取ったジョーの耳に、届いた。







ワホッ!









「すみませーんっこらああっ!!チビっそっちはダメえええ!!」












”チビ”と言う名前と不釣り合いな立派な体格の成犬が、ジョーにむ
かって大ジャンプ。


「?!」


長く、もっさもさした茶色のシッポを千切れんばかりに振って。
赤い首輪に、シルバーのキーホルダーは『C』の形。


「きゃあああっジョーっ!」


ジョーの手から、彼お気に入りの朝の珈琲が浜辺に落ちて、犬の下敷きになる。


「あああああああっチビっ!!あんた、なにやってんのーーーーーっ!?」


わほ!っとジョーにむかってきらきらの好奇心いっぱいの瞳をむける。
そして、べろん!っと、ジョーの頬を嘗めて、フランソワーズにむかって、元気
よく、わほっ!っと吠えた。




<大丈夫。ちびハ元気ダヨ、心配シナクテモ、ソノ内戻ッテクルカラ>












藤のカゴから出したばかりの、銀色のアルミにつつんだ、美味し
そうなチーズの香り。

それを手に持つフランソワーズにむかって。


わほっわほっ!!
”いただきます!”





ジョーの朝食である、熱々のホット・チーズサンドをぱくり。と、くわ
えて走り去っていった。


「ああああっ!?ごめんなさいっごめんなさーーーーーいっ!すみませっ
取り返しますっチビっ!!まちなさいっ!!かえしなさーっいっ!!」


浜辺をチビに負けないで走る、トレーニング・ウェアに身を包んだ女性は、
”チビ”と言う名の大きな犬を、砂浜に足を取られる事なく追いかけた。





「・・・・ジョー、大丈夫?」
「う・・・・うん・・・・」


倒された躯を起こして、ジョーは小さくなっていく1人と一匹を見つめた。








「・・・・・・取り返してくださっても困るわね?」
「・・・僕の朝食・・・・なんだけど」
「チビちゃんにあげちゃっていいじゃない」
「・・・じゃあ、僕のは?」
「チビちゃんと、半分こするの?」
「ねえ、僕の分は?」


砂まみれになったカップをフランソワーズが指先でつまんでシート
の上にのせた。


「私と半分こは、イヤかしら?」






















end.






*間に合った・・・(汗)
 ジョー誕生日用/わんこで一週間。に、おつき合いくださってありがとうございました。
 



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君に振り回される自分がいる / 2
「意外に楽しいもんじゃなあ」


ギルモアたちが訪れている遊園地の売りの1つでもある、世界最大級メリーゴーランドを終え、園内中心にある室内遊戯施設にコインロッカールームと荷物預かり所をみつけたので、ショーの観劇の間手荷物を預けることに決めてた。

ショーが行われるのは野外にある、イベント用の特設ステージ。

荷物を預け、フランソワーズがイワンのおむつを換えにナーシング・ルームへと向かった。
その間、室内遊戯上を興味深く眺めている。

フランソワーズがいない間に、言っておきたい事があったけれど、なんとなくもう、それはいいような気がしたジョーは、ただ黙ってパンフレットを見ていた。


「絶叫マシーン系ってフランソワーズ大丈夫なのかな?」
「どうしたアルか?」


5人は案内所前のベンチ2つを占領してフランソワーズとイワンを待っていた。


「ん?ああ・・・フランソワーズって、乗り物どこまで大丈夫なのかなあ?って・・・ランチの後なら、少し間をあけて乗った方がいいんだろうけど・・・」
「平均的な女の子が大丈夫なものは心配ないじゃろう・・・」
「003だしなあ」
「そうアルねえ」
「そうかもしれない。」
「加速に耐えてるだろお?」


グレートの言葉にジョーは苦笑した。


「ほとんど周りが”止まってる”ようにしか感じないから、全然違うよ」
「そおかあ?」
「そうだよ。なんなら乗ってみる?」


ジョーは隣に座るグレートに向かって、手のひらを上にむけて”おいで”と言わんばかりに、両手を差し出した。


「いやいや、そこは姫君の特等席なので」
「アンタは姫になれるアル」


続いてグレートの右隣に、グレートたちが座る場所から少しスペースを開けておかれたベンチをジェロニモと2人で占領している張大人が言った。


「じゃあ本物の姫が心地よく腕に抱かれるためにも、ジョー、我が輩が練習台となっておくか!」
「いらないよっ・・・こんなところで変身されても困るっ」


ヘソのボタンに指を置いたグレートの仕草にジョーは慌てた。


「フランソワーズだ。」


イワンを抱いたフランソワーズが賑やかな家族たちの元へと、ナーチングルームから小走りにやってくる姿をとらえたジェロニモが、視線でジョーにそれを報告しつつ、口にした。
ジョーはさっとベンチから立ち上がる。


「危ないよっ!」


GWを過ぎたばかりなので、今日はそんなに混んではいないだろう。と、考えていたジョーの予想を裏切った入園者数に、彼は少しだけ気を引き締めた。


「あ、ごめんなさい!」


イワンを抱いて、彼の荷物が入ったキャリーバックを肩から下げているフランソワーズは、そのバックを彼女の進行方向を遮るように歩いて来た青年グループの1人にぶつけてしまった。


「すみませんっ」


軽いフットワークで素早くフランソワーズのそばに駆け寄り、彼女の隣に立つと、キャリーバックをぶつけた青年にジョーも謝った。


「い、いえ・・・」


ぶつけられた青年は目を驚きに白黒させて、ぶつけられたことよりも、目の前にいる亜麻色の髪の、自分よりも年下に思われる日本人ではない女性が腕に抱く、赤ん坊と、素早く駆け寄って来た、栗色の日本人離れした顔の青年を交互に見た。

お互いに頭を下げて、その場をやりすごした後に、青年は一緒にいた友人たちに向って言った。


「すっげー、外人のヤンママ!」


その声が、フランソワーズの、ジョーの、2人の耳に聞こえてしまった。


「いくつだと思う?」
「十代確実・・16.7っぽいよなあ?」
「あれ、犯罪じゃねえの?」
「結婚してんだから、平気なんじゃん?女は16で結婚できんの」
「男だってオレらとかわんなくね?」
「若いのになー」
「一家の主ってやつ?」
「家族サービスだぜ、家族サービス!」
「赤ちゃん連れて遊園地ってのが、オレらと年変わんねー証拠だよな!」
「気をつけよ!っと、ああはまだなりたくないからさ、オレ」
「彼女いねーくせに!!」
「うるせーっ、今日できんだよっ、今日!」


ひそひそとした声は人ごみの雑踏に紛れ、離れた本人たちに聞こえるはずはない。
そう、聞こえるはずのない、会話が聞こえてしまうのが、003であり、003ほどれはなくても、性能上、3、4mほどの距離くらいのひそひそとした声など軽く聞こえてしまう、009。


2人は、なんとなく視線を合わせた。
足の指先から一気に上昇してくる赤が、彼らの顔に到達するまでの時間は瞬きするよりも短い時間。

ベンチから様子を観ていた家族たちは、なんとも迷惑な場所に突っ立ち、真っ赤な顔でお互いに何を言えばいいのかわらかないまま、見つめ合っている2人に笑い合った。

2人に何があったのか、その場に居合わせたイワンがテレパスを使い報告していたせいで。









***


仮面ライダー着ぐるみショーが行われる野外特設ステージは、園内の東側にあると地図が示していた。


「まだ早いよ?」


微かに赤が残る顔でジョーが特設ステージに行こうと言い出したフランソワーズを止めた。


「早め早めが肝心なの!」


こちらも、少し頬にジョーと同じ色が残っている。


室内遊戯場を兼ねる、中央案内施設には入園者に向けて、色々なサービスが揃っていた。

移動式(持ち手がついているだけ)のクーファンをジェロニモが持ち歩いていたが、ベビーカーのレンタルができることを教えてもらい、クーファンをこっそりイワンの念動力(テレキネシス)で駐車した車の中に移動させた後。


「それにね、今日は応募者が多かったの!」
「「「「「?」」」」」
「だから、良い席をちゃんと確保しないと、選んでもらえないわ!」
「「「「「?」」」」」


いったい、フランソワーズが何を言っているのか、家族たちはまったく理解できなかったが、どうしても!っと言うフランソワーズに誰も反対する理由もなく、園内を散歩するように、のんびりと、東側にある野外特設ステージへとむかった。

入園者の数は、時間が進むにれて増える一方の上、東へと足を進めていくと自然と、人の流れに乗る形になっていった。


「みんな・・・特設ステージの方に、むかってる?」


ジョーがふと呟くと、フランソワーズは、ほらね!っとばかりに、胸を張った。


グレート、張大人が、きょろきょろと辺りを見回す。
自分たちの腰の位置あたりに頭がくる、子ども連れのグループ、親子、などが目立った。
先ほど、フランソワーズがイワンの荷物が入ったキャリーバックをぶつけた青年のようなグループは見当たらない。
しかし、子どもを連れた若い母親ばかり集まったグループが多く目についた。

そんな人々の隙間を縫うように、学生らしき人の輪もみかけられたが、彼らが特設ステージにむかっているのか、近くにあるお化け屋敷に向かっているのかは、判断がつかない。


「アイヤイヤイー・・並んでるネ」
「まだ入場できないようだな。」
「!!」


見えて来た特設ステージ入り口に列が出来ていた。
フランソワーズは早く列に加わろうと走り出そうとする。


「危ないからっ!!またぶつかるよっ」


そんなフランソワーズの腕を素早く掴んで引き止める、ジョー。


「だって!だって!!!」
「入場券はあるんだから・・・ね?」
「ダメよっ、座る場所が肝心なのよっ!ちゃんと”選ばれ”ないといけないんですもの!」
「フランソワーズ、さっきから選ばれる、どうのこうの・・・いったいなんなの?」
「参加希望者のことよ?」


あら、言ってなかったかしら?と、首をひねったフランソワーズ。


「・・・・参加?」
「入場が始まったようじゃなあ」
「当たり前でしょ!だってジョーのお誕生日ですものっ!スペシャルにしなくちゃ♪」
「まさかっボクが・・・参加する、の?!」
「もちろん♪ジョー以外の誰が参加するの???」


---フランソワーズ・・・・・以外、誰も・・・。



ジョーのこころの声と同調する4人(イワン除く)。


「ちゃあんっとね、事前にネットで申し込んだの!でもね、参加希望者が多いから、希望した人専用の指定エリアに座って、ショーの中で、選ばれるんですって、だから、急ぎましょ!!」
「・・・・」


フランソワーズが嬉しそうに笑う。
にんまり笑ってグレートが、任せなさい!っと走り出し、さっと列に加わった。



「・・・」

野外特設ステージ入場入り口でチケットを係員にわたすとき、フランソワーズは「参加希望者です!」と、嬉しそうに、肩にかけていた、手のひらに乗るサイズの小さな皮作りのポシェットから、細かく折り畳んだA4サイズの紙を取り出し、差し出した。

受け取った入場受付係の女性は、フランソワーズの容姿にほうっと見とれて、そしてその流暢な日本語に、少しびっくりしたように何度か瞬きする。

受け取ったプリントに仕事を思い出し、慣れた様子で少し高めのよそ行きの声を出し、プリントされている名前にさっと視線を流したあと、「島村ジョーくんですね~」と、読み上げると、フランソワーズから視線を下げた。


「ぼくが、ジョーくん?」


女性はひざを折って、フランソワーズの斜め後ろに張大人が押すベビーカーの中のまんまるい黄色のおしゃぶりを加えている”イワン”に話しかけた。


「いいえ!島村ジョーくんは、彼です」
「え?」


女性はひざを折ったまま、振り返り見上げた。


「・・・・・・ボクです」


フランソワーズの隣に立っていたジョーは、降参するように右手をあげて、参加希望者であることを静かに女性に伝える。
女性は手に持っているプリントされた紙にぱっと視線を移す。


名前、年齢、保護者名、参加希望理由を確認。


「・・・お誕生日、おめでとうござます」
「どうも」


参加希望の理由//16日の当日はジョーの誕生日です。


「参加希望者の方の指定エリアは、舞台最前列A席から、5列目までです・・・保護者の・・・アルヌールさま(?)は、一緒に指定エリアに入ってもらっても大丈夫ですので・・」


---保護者・・・?!フランソワーズが、ボクの保護者!?


ベビーカーから離れ、ジョーとフランソワーズの正面に立つと、女性は慣れたように、フランソワーズ、そしてジョーのチケットを切り、手に持っていた折り目のついたプリントに、赤ペンで指定エリアの席を書いた。


「それ以外はすべて自由となっています」


営業スマイルで、ジョーに笑いかける。
ジョーも反射的に、女性にむかって疲れ気味なはにかんだ微笑みでかえした。
その様子をフランソワーズは黙ってみている。


<009必殺技その1・優しさと孤独が同居した瞳、せつな甘い可愛い微笑み!>
<長い。>
<必殺技のネーミングセンスないネ>
<舌噛ムヨ。僕ハ噛マナイケド>


「どこかで見たことがあるような光景じゃなあ・・・」


ぼそり。と、呟いたギルモアの声。


「いつもの”パターンだ。」


ギルモアの声に、ジェロニモが答えた。
当2人以外が納得する。

ああ。003と一緒にいる009であるけれど惚れてしまう、ミッション関係者or救出者のトライアングル地帯か。と、納得する。
いつもは”防護服”で見られていた光景が”私服”だったために、少し違和感があったのだ。


「選ばれたらいいですね」


ジョーに微笑みかけられた係員の女性の頬が朱色に染まり、うつむき加減に変わった顔の位置から上目遣い。そして、もじもじとした様子でゲートをくぐって入場しようとしたジョーにむかって言った。


「・・・ありがとう」


フランソワーズが一番にゲートをくぐり、ジョーと入場し、張大人、イワン、ギルモア、グレート、そしてジェロニモと続いた。







***

最前列の上手に用意された指定エリアの最前列のベンチ中央にフランソワーズはジョーを座らせようとしたが、さすがに、それはダメだとフランソワーズを制した。


「ボクがここに座ったら、後ろの子が見えないよ」


何度かの押し問答があった末、なんとか最前列の一番端っこに座ったジョーは、はあ。っと、ため息をつく。

参加希望者の指定エリアには、早々に小学生低~中学年と思われる子どもたちが賑やかに座っていた。

最前列の端っこに静かに腰を下ろす青年と、今回のショーの関係者(女優)?と、勘違いされて、
特撮・ヒーロー好きな男性と思われる団体から入れ替わり立ち代わり、「写真を一緒に取ってください」「サインをください」と言われて、困ったように、「関係者じゃありません、ただの観客です」と、答える、フランソワーズがジョーの隣に子ども一人分のスペースを空けて座っていた。

ジョーはフランソワーズにむかって話しかけて来る彼らを鋭く睨み、それ以上の余計な言葉を言わせないように無言の圧力をかけつつ、「トイレはどこですか?」や、「一度入場したけれど、また外に出ても大丈夫ですか?」など、ジョーは指定席エリア内にいる”若い男”と言うことだけで、係員だろうと、勝手なイメージで判断され、同じ観客であるにも関わらず質問されながら、開演を待っていた。

指定席内に、子どもの”保護者”と見るからに判断できる人。意外の大人は、ジョーとフランソワーズくらいなもの。その”保護者”たちは、指定席の後列に座っているために、異様に目立つ2人。



「フランソワーズ?」


居心地の悪さをどうにかしたい。
けれど、その前に。


「ね、フラン?」
「なあに?」


子ども一人分ほどのスペースを開けてジョーの隣に座る、フランソワーズに疑問を持つ。
野外特設ステージは半円形の扇方をした客席に、4~5人がけのベンチが並んでいる。


この、子ども一人分。あいているスペースが、どうにも微妙過ぎて、気になる。





「・・・どうしたの?」


どこか、なんとなく、フランソワーズの様子がおかしい。


「どうもしないわよ?」


フランソワーズは話しかけているジョーの方へは向かず、入場時にもらったチラシを読んでいた。それは、ショーのポスターの縮小版に、今日演じられるショーのあらすじが書かれていた。


「気分でも悪い?」
「いいえ」
「お腹空いた?」
「ぜんぜん」
「疲れた?」
「まーったく」
「みんなと離れちゃったから、イヤ?」
「仕方ないもの・・」


ジェロニモは進んで自分の後ろに誰も観客が座る事のない、最後部席に座った。
フランソワーズがロープで囲われた指定席のすぐ後ろの席を勧めたが、入場者の込み合い具合に、ジェロニモは自分が邪魔になると判断したのだ。

ジェロニモを独りを座らせておくのは・・・、と、イワン、ギルモア、グレート、張大人も続く。
イワンはフランソワーズが抱いて一緒に居ようと言ったが、<マタ、勘違イサレルヨ?>との彼の言葉に、フランソワーズは渋々イワンをギルモアたちと一緒にいることを承知した。


「みんなの所に行こうか?・・・別に参加しなくてもショーはきっと楽しいと思うし、それに、・・・ボクは選ばれないと思うから。こういうのは、やっぱり、子どもが優先だし・・・・」


開演15分前。

すでに、参加希望者エリア席内は、子どもたちで溢れ返っていた。
観客生も90%以上人で埋まっている。
がやがやとした開演前の雑踏に、左右の舞台そでに取り付けられている巨大スピーカーから、ショーに関係する極が流れ、その合間に録音された甲高い女性の声で開演中の注意事項が流れる。を、繰り返していた。


「や」


ジョーの言葉に、フランソワーズは一言。で、返す。


「・・・」


あんなに楽しみにしていたのに、何が彼女の機嫌を損ねてしまったのか。
どう考えても、みんなと離れて座っていること”だけ”が原因ではないような、気がしてならない。

それは、フランソワーズと一緒にギルモア邸で暮らし始めてから培ってきた感覚が、ジョーにそのように、告げていた。


「あの・・さ、フランソワーズ」


つん。っと、した様子で、フランソワーズは首を巡らせて特設ステージ全体を見回し、最後に家族たちの方へ視線をむけると、彼女にむかって大きく手を張大人とグレ-ト振ってくれる。

嬉しそうに躯を捻り、そちらに向かって手を振る、フランソワーズを見ながら、言おうと思っていた言葉を、並べる。


---ジーンズ、すごく似合ってるよ。


「ここの遊園地のイメージキャラクターは好きなのかなーって・・」
「好きっ!あのね、さっき室内遊戯場でねっ」


頭に浮かべていた台詞とは全く関係のない台詞が出て来た。
そして、一瞬にして彼女の機嫌が直り、嬉しい反面、フランソワーズに振り回されまくっている自分に苦笑しつつ、それがむずがゆい感覚で、幸せかも。と、頭に浮かべた言葉に、ジョーは照れた。









***

「・・・あ、本当に来てる・・・・・」


舞台上の袖に設置されているカメラが撮る、参加希望者の指定席エリアをモニターから見ていた、竹岡。


「よお、誰にする?」


ジョーがアルバイトで通う大学で知り合った、湯田が通っている極真空手道場の後輩である竹岡は、仮面ライダー・ショーの敵の兵士C役。


「あのさあ、お願いがあるんだけど」


おなじ敵の兵士役Aの南川に、竹岡は手を合わせた。


「道場の先輩の友人が来ててさ・・・」







に続く。

*もう・・連載と言っていいですね・・・・これ。
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Little by Little・15
(15)






「・・・ごめん」と、ジョーは言い、涙をこぼす。

どうして泣くの?と、フランソワーズは問い、そして、どうして、キスをするの?と、尋ねた。
返ってきた返事は、ただ、涙と「・・・ごめん」

ジョーの頬を濡らす涙ごと、包んだ、フランソワーズの手。を、ジョーは痛いくらいに握った。


---キスにたいして?それとも・・・・・。



「ジョー・・・、いいの、気にしないで・・人にはそういうことが必要なときがある、くらい、わからないほど、私は子どもじゃ、ないわ」


フランソワーズの言葉に、ぐしゃ。不気味な音と共に、何かがひしゃげて、醜く潰れた。
激しく震えた膝に、ジョーは自分を支えることなどできず、泣き崩れた。


「違うっ!!フランソワーズっ!!・・ちがっ・・・そうじゃないっ。俺はっ・・・t」


その場にうずくまるように、ジョーは泣いた。
彼を追いかけるように、草も何もない、さらさらとした砂地にフランソワーズは座り込む。



「ごめん」
「ちがう」


の、3つの音を、繰り返し、耐えられなくなった嗚咽と一緒に、喉から絞り出す。


「・・・ジョー・・」


フランソワーズは、地をはうような姿勢で涙にむせて揺れるジョーを、自分の膝に抱きよせ、その背を守るように、おおった。

フランソワーズの膝の上で、ジョーは声を上げて、泣いた。
彼女にすがりつくようにウェスト部分に腕をまわし、きつく、きつく、きつく、抱きしめる。







「違うっ・・・・・・そうじゃないっ・・・・・・・」










小さな男の子が、泣く。

全身で。
こころの底から。


ただ1つだけを求めて。





泣くことでしか、訴えることができないために。









そうやって泣いても、求めても、与えられないことを、知ったのは、物心がつく前。


肌で知っていた。
ああ、この人は違う、と。




だから、泣き続けた。
喉が枯れて、躯中の水分が涙となって消えてしまうくらいに。


泣いても、泣いても、求めてる手はやってこなかった。


母の手は、泣く自分を見つけてもくれず、探してもくれず、抱きしめてもくれず。






伸ばされた手はすべて、母の手じゃないから、いらない。
いらない。



いらない。


誰の手もいらないっ。

















「一緒に来て・・・009、私たちと、一緒に・・・・」



いらない・・?









ずっと、ずっと、ずっと、ずっと・・・







「ごめんっ・・・・ごめっ・・・んっ・・・・・・ふr・・っ」






ずっと、ずっと、ずうっと・・・・。

いらない。と、意地を張って。
誰の手も必要とせずに生きている。と、言ってきた。

そうやって生きていかなければ、立っていられなかった。
その手を拒むことが、生きる支えだった。



「ジョー・・・・・・」




伸ばしてくれた手を、初めてあった、あのときから、ずっと、何度も再生している。




初めて、拒むことなく、とった手の、人。


「ごめっ・・・・・・フランソワーズっ・・f・・らん・・ズっ」
「ジョー・・・」


その手が、今、自分の背を撫でてくれている。


「なっ・・・こんな俺がっ・・・・・違うっ、違うからっ・・・ふrnっs」








<待ッテルダケジャ、だめダヨ。・・・伸バサレタ手ヲ掴ム勇気モ大切ダケレド、今ハ、君自身ガソノ手ヲ伸バス番ナンダ>










大きく震えた躯を、ジョーはさらに腕に力を入れてフランソワーズにしがみついた。





「ジョー・・・」


柔らかな癖のある、ジョーの髪に触れる。
泣き濡れたジョーの表情(かお)は、とても、とても、幼かった。


初めて知る彼の頬を、両手に包み込み、上向かせて言った。


「・・・泣かないで・・・・・」


フランソワーズはその唇にそっとキスを1つ置いた。
彼女自身、なぞそうしたのか、解らない。けれど、それが今、一番正しい行動であると、ジョーを思う気持ちが彼女を支配する。


「・・・私」


触れた感触に、涙溢れるジョーの時間が止まる。
滲んだ先に見える人の顔を必死で凝視しる。


「ジョーがそれで少しでも、楽になれるなら・・・・」


フランソワーズの言葉に、ジョーの時間が戻る。
見上げるフランソワーズに躯を、腕を伸ばしてまっすぐに蒼を見つめて勢い良く否定を現すように頭をかぶり振って叫んだ。


「違うっ!そうじゃないっフランソワーズっ!!違うっ・・・俺はっ」


言葉を最後まで続けることができずに、フランソワーズの唇に、噛みついた。


「.........んっ....!」


何が起きたのか、瞬時には反応できなかった。

それがフランソワーズにとって初めてのキスだと気づいたのは、、唇を割られて、触れ合うことがないはずの感触に、混じり合う熱。
いったいどちらの口内で何が触れ合っているのか把握できないままに、流された。

受け止めるだけで精一杯のフランソワーズに関わらず、ジョーはフランソワーズに答えろ。と、責め立てる。

翻弄される感覚に、理性なんてものはいらない。
なにもかも、複雑にする思考なんてものはいらない。



したいから、する。
されたいから、受け止める。


単純に、キスをしたいから、する。
されたいから、キスを続ける。








好きだから、好きな人と感じ合いたくて。
触れ合いたくて、キスをしたくて、キスをする。






呼吸のために解放された刹那を上手く使いこなすことができずに、開け放されただけの唇を塞がれる。


なにもかもが初めてのことで。
フランソワーズにとって、初めてのことで。



挨拶のキスで驚き照れて、戸惑い、迷惑そうに眉間にしわを寄せた、遠い日のジョーからは予想できなかった。

今でも、邸の中でフランソワーズが挨拶のキスをしないのは、ジョーだけ。







ジョーだけ。











そのジョーに。
自分が知らない、キスをされている。

そういうキスがあることを、映画や遠い記憶にあるバレエスクールの友人たちが、初めての彼氏との出来事を語ったときに、聞き、知った。


<・・・ジョー・・・・・・・・・>


舌を絡めとられて、音を発するための唇は塞がれて。
フランソワーズは無意識に、頭の中にある通信システムを使っていた。


<・・・ジョー・・・・・・・ジョー・・>



何度、彼の名前を呼んだのか、わからない。
ジョーの勢いに押されて、その勢いに必死にしがみつくだけで、精一杯だった。



<フランソワーズっ・・・>


言葉にしたい言葉を直接、その言葉を紡ぐ場所で触れ合う唇が、離れる直前に流れてきた切れ切りの通信。


<suki.........dakara.....kiss sitai........>


と、重なった声。


「ki・・・だから、キス、した・・・・・キスしたんだっ・・、フランソワーズが、俺はっ・・・俺はっ・・・・・・」












『キミが好きだ』


























目の前がスパークする。
何もかもが真っ白に飛ぶ。




「え・・・・!!・・・・・ジョーっ?!」














キミが好きで。
キミを好きになって。



こんな俺が、キミを好きになって、ごめんね。



ごめん・・・・フランソワーズ・・・。








親もいない。
財産もない。


高校中退。
警察には、キミが驚くなようなデータが残っているくらい・・・だよ。


自慢にも何にもならない、ただの暇つぶしでしかなかった、ロクでもない遊びと、キミが一生知る必要のない経験と知識。



俺と言う人間は、何も、本当に・・何もないんだ。



何もない。

何も持たない。



”人間”としてすら不十分で。
もっているのは、改造された、温もりも何もない、冷たい躯。






ギルモア博士のような、自分の過ちに気づいたことを命をかけて正そうとする、こころの強さなんてない。

イワンのような、超能力もない。

ジェットのような、仲間想いで、侠気もない。

アルベルトのような、博識で、芸術を理解できる、大人でもない。

ジェロニモのような、自分を信じる誇りを持ってもいない。

張大人のように、人のために、気遣うこころなんてもっていない。

グレートのように、優しく、こころの底から笑うことなんてできない。

ピュンマのような、熱く、まっすぐに、強い信念を持ってもいない。

さくらのように、自分をしっかりと知っても、いない。

海のように、辛い運命を受け止めるた上で、今までと変わらない自分であり続ける強さなんて、もっていない。

恩田のような、たった1人の人のために、去る勇気もない。

クラークのように、明るく、社交的でもない。

篠原さえこのように、その場の状況に必要な自分。を、コントロールする力なんてない。



アランのように、情熱を持ってキミの才能を活かし、伸ばすこともできない。


当麻のように・・・




まっすぐにキミだけを見て、好きだと言う、勇気がなくて・・・。











出会った人たちの、ひとかけらの、良さも、俺は持ち合わせてなんかない。




与えられた人殺しの能力しかない、俺。
ただの、サイボーグである、009/島村ジョー・・・。



たくさん、この手は、多くのものを破壊してきた。


それだけしかできない、・・・俺。
何も変わらない、何も変えようとも、変わろうともしない。
ずっと、過去にされたことだけを抱えて、立ち止まっている。



そんな、俺が、キミのような女性を好きになって、ごめんね。



キミを好きになって、ごめん。
勝手に、想って、勝手に、好きになって・・・・。












「澄(ジョウ)」

---神父さま?





そこは教会の2階にある3つの部屋のうち、一番広い部屋だったことを、ジョーは覚えている。
木作りの窓枠は、立て付けの悪さに、すきま風が入り、夏は涼しく過ごしやすいが冬はなかなか部屋が暖まらないと、日曜学校の教室は教会の1階の神父の寝室となり、神父はその間、客室用の部屋で寝泊まりするらしかった。

小さなジョーが教会を訪れたのは、2枚しか持たないセーターを、1枚、施設を出るときに入れ替わりに入って来た子に譲ってやれと言われて置いて来たころだったので、その寒さがどれくらいの寒さなのか、想像することしか出来ない。

小さなジョーは、その部屋がどれほど寒くなるのか、知らないままに教会を出て行った。




ジョーが覚えているのは、日曜教室の部屋の、神父が経つ教卓の左端っこ最前列が、彼の席だったこと。
ミサの後、ランチを住ませた午後にその席に着くと、歌うような心地よい神父の聖書を朗読する声に、温かな日差しがカタカタと鳴る窓から差し込まれ、ジョーはうとうとと机に突っ伏して寝てしまう。



その教会にいたころは、一度たりとも日曜教室でうたた寝してしまったことに起られた記憶はない。
いつも気がつけば、おやつの時間を少しすぎたころに自室で目を覚ますのだ。



けれど、たった1度だけ、ジョーはその眠りを教室で起こされたことがある。
寝むたそうに目をこするジョーに、神父は頭を撫でてやりながら、
テーブルの上に、小さなジョーにはまだ読めない漢字を1字書いた、真っ白い紙を1枚置いた。


「?」


その紙をぼんやりと見つめて、一生懸命に学校で習った漢字かもしれないと、考えてみせるけれども、どうにも見た事のないそれに、首を傾げてから、隣の椅子に腰をおろした神父を見上げると、神父は、ジョーの頭を優しく撫でながら、ゆっくりと言った。


「澄、です」


頭を撫でた優しい手で、神父は小さなジョーを自分の膝の上に抱き上げた後、彼を背中から覆うような姿勢で、机の上に出してあったジョーの筆記用具を使って漢字の上に、”ジョー”とカタカナで書いた。


「寒流帯月澄如鏡(かんりゅうつきをおびてすむことかがみのごとし)」
「?」


神父が口にした、何かのおまじないのゆうな呪文を耳にしながら、じっ。と、ジョーは神父の書いた漢字を見つめた。


「唐の詩人・白居易(はくきょい)の楽天(らくてん)の詩のなかの一句からいただきました」


名前を書いた漢字の下に、神父はゆっくりと丁寧に1つ1つの書き順をジョーに見せるようにして、7つの漢字を並べた。


「あ!これはわかるよ、神父さま、”つき”!!」


小さなジョーは、自分が読める漢字の”月”に、嬉しかったのか、指差して神父に報告する。
神父はジョーの頭にキスをした後に、よくわかりましたね。と、毎日きちんと宿題をこなすジョーを褒めてやった。
ジョーは恥ずかしそうに頬を赤くしながら、嬉しそうに笑った。

神父は愛おしそうに彼を見つめながら、机の上の漢字を1つ1つ指さしながら、その意味を小さなジョーにでもわかるように説明を始めた。


「・・・いいですか?ジョー、これは、真冬の冷たい川に、映る月は、鏡のように、澄みきっている。と、言う意味です」
「・・ふーん」


小さなジョーの興味ない。と、ばかりの相づちに神父は苦笑し、ジョーの頭を大きく暖かいての平をいっぱいにつかって撫でてやった。


「ちゃんと、聞きなさい」
「はーい!」


小さなジョーは、神父にキスされることも、頭を撫でてもらう事も、膝の上の抱っこも、大好きだったことを、体いっぱいに表現するように、元気に神父の声に返事する。


「・・・ジョー・・」
「?」


撫でられていた手が、ジョーの頭から離すと、神父は膝の上のジョーを大切に、力一杯抱きしめて、その小さな方に顔を埋めるようにして、ジョーに語り始めた。


「月のように、感情豊かに満ちるこころを持ちなさい。人の見えない部分を照らし示す人でありなさい。・・・・いつかその、ジョーの心の中にある鏡のような月に映る人を、大切にして、愛し、愛される人になりなさい」
「?」
「澄みきったこころ(鏡)に、常に映るのは真実だけ。ジョー、真実だけをそのこころに、写しておきなさい。何があっても、起こっても、自分のこころに映ったことを信じなさい」


ジョーはいつもと違う、ぐっと力の入った強い包容に、されるがままに、されていた。
どれくらいの時間を、神父の腕に抱かれていたのか、よくは覚えていない。
けれど、今ジョーの眼の前にいる、小さな自分と、懐かしい、大好きだった神父は、永遠にそのままではないかと思ってしまうほど、長い時間、そのままだった。




---神父さま・・・・・。








神父は、何かを恐れているかのように、こわごわと抱きしめていた小さなジョーから腕を解き、テーブルの上にあった紙を、ジョーに渡した。



「島村澄(ジョウ)。これが、ジョーの漢字の名前です」




神父は、膝の上から小さなジョーを降ろした。小さなジョーは嬉しそうに、その紙を眺めて、自分の”漢字の名前”にはしゃぎ、みんなに見せて来る!と、教室を飛び出して行った。




その紙を、サイボーグにされるあの日まで、お守りのように肌身離さずに持っていた・・・。







---神父さま・・・!?



階段を駆け下りて行く、小さな自分の足音が消えると、イスから立ち上がった神父が微笑み、彼の正面に立った。
朗らかに、優しく微笑む神父は、ジョーの記憶にあるままの元気な姿の神父だった。

教会を出て行ったその年の冬に、体調を崩した神父は病院へ移り、何度もその病院へ見舞いへと足を運んだけれど、病室へは入る勇気がなく、廊下から、病室を出入りする誰かが開ける、ドアの隙間から盗み見るだけだった。

大学病院の5階。
4人部屋の病室、再奥のベッドに横たわる神父の顔は見えず、目を凝らせてやっと見て取ることができた、やせ細った手。
点滴に繋がれた腕に針を博すような真四角のガーゼ。
それが、ジョーの知る神父の最後の姿だ。






ちゃんと、聞きなさい、ジョー・・・。


病室のドアが開き、自分の姿を見られないように体を隠しながら、首を伸ばし、のぞく病室の景色に意識を取られていたジョーを、呼び戻す神父の声に、彼は、跳ねるように顔をあげた。





運命が、川。
映った月が、ジョーのこころ。

その月に映っている人を、大切にしなさい。
愛しているのなら、好きならば、何も言わず、何も語らず。
無駄に飾らず、ごまかさず、言い訳などせずに・・。



真に胸にある音だけを口にしなさい。



話し下手なジョーだから。
それが、一番いいのです。


照れ屋で、恥ずかしがりで、・・・・マイペースな上に頑固で、甘えん坊で、寂しがりやで・・・、独占欲が強くて、しつこくて、細かいことをずっと根に持ち、物事の執着心がすごくて・・・考えすぎに考えすぎてとんちんかんな・・・



---え、ええ?!し、神父さま・・っ!




初めて聞く、神父の自分に対する評価に、ジョーは慌てた。
その焦り慌てるジョーの様子を見て、神父は嬉しそうに、楽しそうに笑う。



変わらないですね、澄!
いくつになっても、サイボーグになっても、やっぱり、澄は、澄で、嬉しいですよ。





・・・変わることなく、誰よりも、優しいままの澄で嬉しい。





---・・・。







澄、ありがとう。


---神父様・・俺は・・・っ。




ジョーが言葉を発しようとしたけれど、神父はそれを、ゆっくりと首を左右に振って止め、代りに、もう小さくて自分の膝に抱いてやる事ができなくなった、青年のジョーをそっと腕に包んだ。


可愛い人ですね・・・・。
連れて来てくれて、ありがとう。




大切になさい。





背にまわされた、神父の大きくて暖かい手が、何度もジョーの背を撫でて往復する。
ジョーは神父の肩に顔を埋めて、されるがままに包容の中に包まれた。



ちゃんと、その手を伸ばして、守るもの得たのだから、もう、何も怖くないはずです・・・・。









---この、手を・・?


神父は力強く頷くと、包容を解いて、ジョーの左右の腕を、力を入れて掴んだ。そして、その手が彼の二の腕から撫でるように降りて、ジョーの手を固く握る。


「もう一度、今度は彼女の目を見て、言っておあげなさい」












####



「ここって・・・」
「ジョーとフランソワーズはここに居るアルヨ」
「でも、それなら・・」
「・・・。もしかしたら、ワタシらがここに着くことわかっていて連絡してこなかったかもしれないアル」
「ギルモア邸・・・」



街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館には、小さくギルモア研究所、と表札が掲げられていた。
車は、道路沿いからぐるっとまわって洋館の裏へと向かい、公道から私道と思われる細い道を車が入っていった。


「逆に安心したアルヨ・・ギルモア邸ならネ」
「・・・」
「ジェロニモが起きてたらいいアルが・・」


張大人は車を進めて邸の車庫へと車を止めようとしたとき、車庫の前にジェロニモがまるで、張大人と当麻がやって来るのを知っていたかのように、待っていた。

車庫前でブレーキを踏み、エンジンを止めて、張大人は車窓を開けると、ジェロニモは当たり前のように腰をまげて、窓からにゅっと顔を差入れるのにちょうど良い高さになった。


「アイヤー・・・なんで解ったアル?」

開けられた運転席の窓を覗き込み、張大人と助手席に居る篠原当麻を確認すし、静かに言った。


「イワンだ」
「イワンあるかー・・」
「このままホテルに戻れ。と、伝えに来た」
「あのっ!!」


当麻が言葉を口にする前に、ジェロニモがそれを両目を閉じる、また滝の動きだけで制した。


「解っている・・・。だが、やっと、本当の意味でジョーに夜が来た。・・・そっとしてやって欲しい。」
「?」
「fっ」


ジェロニモの目に見つめられて、言葉を飲み込んでしまった当麻。


「フランソワーズの事は心配ない。悪いがここまでだ。」
「夜って・・・どういう意味あるか?」
「・・・・」


張大人の質問に、ジェロニモは何もかもを見通しているように、優しく微笑んでいる。


「これで、安心してアメリカへ帰られる」


ジェロニモは、折っていた膝を伸ばし、邸の一角を見上げた。





その方角にある部屋に。
意識を失って眠る、ジョーがいる。



その手に、しっかりとフランソワーズの手を握りしめて。










「・・・・ひどいわ、ジョー・・」


『キミが好きだ』







「告白して・・・それで、気を失ってしまうなんて・・・・」


フランソワーズの瞳から、涙がこぼれ落ちる。


「もう一度、言って・・・欲しいとお願いするのは、我が儘かしら・・・?」



---信じられないんですもの・・・。だから、夢じゃないって・・・教えて、ジョー。


ジョーの部屋に、夏の明るい月の光が窓から差し込んでいた。
彼が眠るベッドの傍らに、砂で汚れたスカートのまま両膝をつき、繋がった手の上にもう片方の手で包み、頬を寄せて、眠っているジョーを見つめていいる、フランソワーズ。








『キミが、フランソワーズが、好きだ・・・・から、キス、した・・・い、キスするんだよ・・っ』




ジョーの手の甲に、そっと唇を寄せて。
目覚めた彼に、”おはよう”のキスができますように。と、祈りながら。


「私も、好きよ、ジョー・・・・・愛してるわ・・」


あなたに、伝えられるかしら・・・。






「私も・・・なの、よ・・・」


ちゃんと、あなたに、伝えたい。















====16に続く。



・ちょっと呟く・

告白して、そのいろんなもんがプッスー抜けて、気絶(失神?)した人です。
それが、ここのジョーです。

夢落ちじゃないから、安心してください・・・。


ーーーー

”澄”で”ジョウ”なんですが。
音読みの呉音で、”ジョウ”と読む事ができます・・・。

名のりには入っていませんけれど。
仏教用語かも(汗)です/神父さまなのに・・・。

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guerriere
珈琲をいれたの。あなたもどお?と、声をかけた。
彼は少しだけはにかむように笑ったけれど、その口の形はNOを現しているように見える。

クッキーを焼いたの。と、私の後ろから明るい声。
スティーナ(=クリスティーナ)が彼に駆け寄っていき、彼の腕に自分の腕を絡めて引っ張った。

彼は同じようにはにかんだ笑顔をスティーナに向けた。
その口の形はYESだった。



私が誘ったのと、スティーナが誘ったのと、同じ内容なのに。



珈琲を私が入れて、スティーナがクッキーを焼いた。
けれど、彼は私の誘いはNOで、スティーナの誘いはYES。






---嬉しそうね、・・009





「フランソワーズ、どこへいくの?お茶の時間だろ?」


ピュンマが声をかけてくる。
ドルフィン号の中、ミーティングルームは戦いがなければ”リビングルーム”と化す。
そこは、キッチンと繋がった部屋であるために。


ミーティングルームから出てきた私は、ミーティングルームへと向かうピュンマと廊下ですれ違った。


「そうよ、お茶の用意はできてるわ」
「君はいいの?」
「用意し終わったからいいの」










ドルフィン号内に持つ各個人のコンパートメント。
私の部屋は一番非常用脱出ゲートに近い。


そのせいで、一番ミーティングルームから遠い。



丸く刳り貫かれた特殊強化ガラスの窓は、開けることができない。
と、言っても、開けられたとしても開けたら大問題。


今は地中から数千メートルも離れた空の上だから。

だから、どこにも逃げる場所なんてない。
ドルフィン号の中で過ごす以外の道はない。


「なんなのよ・・・も!」


どすん。と、備え付けのシングルベッドに飛び乗って、ばたん。と上向けに倒れた。
見上げる天井は、ミーティングルームと同じ作り。

面白くもなんともない、天井。
面白くもなんともない、壁に、廊下に、部屋。


全てが”戦闘用”として作られ、統一された世界。
戦いに、”お洒落”や”可愛い”や”素敵”なものが不必要なのは解っている。





私は長い黄色のマフラーを掴んで腕をあげて、それを見上げた。
赤い防護服に包まれた腕も一緒に視界に入る。


戦闘に適した服。


「当たり前でしょ、・・・ミッション中なんだから」


スティーナは、ドルフィン号に乗り込んで以来、毎日水彩パレットのように色々な服を着こなしていた。
彼女はとっても可愛い。


くるくるとした天然カールの髪が内巻きになって肩にのって、ふわふわと揺れている。
髪色も明るくて、きらきらして、ふわふわして、くるん。

006よりは背が高いけれど、私よりは低い。
スティーナを包む雰囲気にあった優しい香りが殺伐とした何も面白くないドルフィン号の中を漂い、ぽっちゃりとした柔らかい二の腕が、ふるん。と、揺れると、鼻の下を伸ばす人が居て、鼻の下が伸びてるぞ。と、注意する人が居る。


何もかもが統一されて見飽きてしまった中にぽん!っとやってきたスティーナは、まるで初めて飼うことが許された子猫のよう。


彼女の行動すべてが気になって、可愛くて、見飽きない。
声をかけられれば、嬉しくて。
そばにいたら楽しくて。


ついつい一緒にいたくて、時間を忘れてしまうような感じ。



もう十分に彼女は彼女として可愛いのに。
毎日スティーナは雑誌から抜け出したような、可愛い服を着て、お化粧をして、おはよう。と、キッチンに立つ。


女の子はこうでなくちゃなあ。と、鼻の下が床についてびろーんと伸ばした人が言う。
花がある、明るくなる、癒される、可愛いね、素敵だね、エトセトラ、エトセトラ。


彼らがそんな言葉を言える口を持っていたなんて知らなかった。



「・・・私じゃなくて、スティーナだったら良かったのに」



じん。と、鼻奥が痺れた。


服とか、お化粧とか、お洒落ができなかったしても、スティーナはスティーナのままで、かわらないから、きっとスティーナが003だったとしても、みんな、同じことを言って、同じように接していると思う。



---003がスティーナだったら、よかったのに。そうしたらきっと、みんなは・・・・







009は・・・。









***


スティーナの祖父である、科学者ノヴァーリス博士の研究の全てを納めたコンピュータが、BGの手に渡った。
そのコンピュータには何重ものセキュリティロックがかけられており、解除・廃棄方法はただ1つ。孫である、スティーナ自身でなければならなかった。ノヴァーリス博士の研究を奪還することが出来なかった場合、破棄して欲しいとの、博士の遺言を守りたい。それが、00ナンバーサイボーグ全員の、ギルモア博士の願い。
そのために、狙われたスティーナを私たちが守り、保護し、BGからノヴァーリス博士の研究をBGの手から奪還することが、今回のミッション。



ミーティングを重ね、危険なBG研究施設内にスティーナを連れて行かないことに決めた結果、必然的に、ノヴァーリス博士の研究を納めたコンピュータを破棄する方向で考えるしかなかった。



「祖父の研究を守りたい気持ちはあります・・・。けど、今後また、同じように”悪用”されるくらいなら、いっそのこと・・・。私は祖父が何を研究していたのか、まったく知りませんし・・・また今回のように誰かに狙われたとき、それを守りきれるかと考えたら・・・残念ですけど・・・」


研究施設に乗り込む前日、最後のミーティングの席でスティーナは、涙を浮かべたスモーキー・グリーンの瞳を瞬かせながら言った。


「せめて、父が生きていれば・・・祖父の研究も守れたのですが・・・」


スティーナの父も祖父と同じ研究者だったけれど、研究に没頭して自分の健康を顧みず、躯を壊して数年前にすでにこの世を去っていた。

ミーティングはスティーナの気持ちの確認と、当初に立てた計画の再確認をして終わる。
ミッション中、イワン、ギルモア博士、そして008、006が護衛兼連絡係としてドルフィン号に残ることになった。


「あの・・・・、本当にあなたも行くの?」
「ええ、もちろん。009がそう言ったから」
「でも、・・・・・・」


ミーティング中に使った珈琲カップをキッチンで洗っていた、私にスティーナは話しかけてきた。


「私も彼らと同じだもの」
「でもね、危ないわ・・危険なのでしょう?」
「だからって、行かないなんて言えないもの」
「どうして?」


私は、スポンジを固く、固く、握りしめた。


「だって、私は・・・003だもの」
「怖くないの?」
「・・・・怖くない、って言ったらウソになるかしら?」
「それでも行くの?」


スティーナはゆっくりと私のそばに近づいてくると、隣にたって、水切りカゴの中にあったカップを食器拭きようのハンドタオルで、拭き始めた。


「ええ、行かなくちゃいけないから」
「どうして?」
「どうしてって・・それが、ミッションだから・・・」
「女の子なのに、そういう危ないことをするなんて、あまりよくないと思うわ」
「・・・・」


私は流し台の中にあった最後のカップを手にとってさっと洗い、それを水切りカゴに置いた。


「そんな戦闘服を着て、戦って、・・・イヤじゃないの?」
「・・・私はサイボーグだもの」
「もしも、私がサイボーグにされたら、・・・・嫌だけど、仕方ないかもしれないけど、それで”戦え”って言われたら、私は戦いたくなんてないわ」


スティーナが、私が水切りカゴに置いたカップを手にとって、それを拭き始めた。


「必要なときがくれば、男の子とか、女の子とか関係なく、戦わないといけないことがあるわ。それは・・・別に”戦闘”とは限らなくて・・・色々なことに関して共通していることだと思うわ、偶然、私のいる立場がこういう”戦い”の場であっただけで・・・」
「でも、怪我をしたり、人を銃で撃ったり、そんなことをする必要があるなんて、信じられないわ」
「・・・でも、実際、そうだから」


ふう。っと、ため息をついて、スティーナは私を見上げた。


「女の子なのに、そんな風に戦わないといけないのなんて、可哀相・・・。だから、なの?」
「?」
「だから、女の子だっていうことを忘れて、みなさんと同じなのね?そうしないと辛いものね・・・。私には耐えられないわ、きっと・・・。女であることを捨ててまで、男の人と同じようにするなんて、すごく、怖いもの・・」










私たちは予定していた通りに、BG研究施設へと乗り込み、その全てを破壊し、無に帰す事に成功する。
けれど、無傷の帰還とはならなかった。

BG研究施設にセットした一番協力な時限爆弾爆破ギリギリにドルフィン号に救出された。
ミッションの半ばでグレートに護衛されて先にドルフィン号へと戻って来ていたスティーナが私たちを出迎え、その彼女から驚きと困惑の視線を浴びる。


施設内の強化された警備に、苦戦を強いられた戦いの結果。


「悪いな、スティーナ。汚れてるからよ、また後でな」


みんな疲れきっていたけれども、スティーナを気遣い、元気なふりをして自室としてあてがわれている、コンパートメント、メディカルルームへと分かれて行くが、5分後にはまた、ドルフィン号コックピットに集合しなければならない。
それぞれが歩き出したことで、スティーナが、みんなの後方にいた私に気づいた。


「キャッァ!!」








ノヴァーリス博士のコンピュータを廃棄したスティーナがドルフィン号へ帰還したことを確認後、私たちはBG施設破壊のためのミッションへと移り、その中で私は、セットした順に始まった爆発を視ていた。

進行経路の確認、後方からの爆破。

その両方の経過を随時、仲間たちに知らせるのが、役目。BG研究施設の破壊には、侵入した時点で、施設内の移動とともにせっとした時限爆弾を仕様。けれども、予想以上に強化されていたサイボーグ兵士に手間取った私たちは、計画内で使用することが決まっていた脱出経路を封鎖され、新たな脱出口を見つけなければならくなった。

私は自分に備えられた能力をフルに使い、脱出口を探す。

意識をそれらにむけたために、守りがおろそかになり、警備兵、サイボーグ兵士との戦いと、後方から迫って来る爆発が起こす爆煙に身をさらされた、姿だった。


「メディカルルームへ行け、003」


004が振り返って私に言った。
右眼を爆発に生じた熱風で痛めてしまったことを指している。
左眼も煙の影響で視界が濁り、歩くのが困難な状況だった。


「スティーナ、003をメディカルルームに連れて行ってくれる?」


008と話していた009が言った。
スティーナは009の声に頷き、005にかわって私を支えようと腕を伸ばすけれど、途中、その手が止まった。



眼を痛めていてよかった。と、思った。
彼女が今、どんな目で、私を見ているか、見えなくてよかったと・・・。









女の子なのに。












でも、私はサイボーグで、戦わなくてはいけなくて。




”どうして?”

そんなの、考えても仕方がないこと。
生きるために、選択の余地なんてなかったから。





動かないスティーナの様子に、005が私の躯を支えていた腕にもう一度力をいれた。


「いい、僕が連れて行く。008、005に今のことを頼んでくれ。005、悪いけど、僕が戻るまで008を助けてほしい」


009が私の正面に立つのがわかった。


「スティーナ、僕たちは今も、戦っているんだ。追っ手が来ないとは限らないし、まだ戦闘状態を解除することはできない・・・、一緒に戦えないのなら部屋に戻って」


腕を引いて連れて行ってくれるのかと思っていた私の予想は裏切られる。
脚がドルフィン号の床を離れて、躯が二本の腕によって宙に浮いた。そのまま009の腕に抱かれて、メディカルルームへと連れられる。



「・・・ありがとう」
「?」


009が廊下を歩くことで作り出される風と一緒に、私の耳をなでた。


「・・・・・・・・今日まで、僕たちが無事に生きられたのは、003のお陰」
「・・・009?」


メディカルルームの前に立つと、2人分の重さに反応して、左右に滑り、ドアが開いた。


「おお!やっと来たな!009、003をそこのベッドに寝かせなさい!!」


ギルモア博士の声に、009は『はい』と、答えた後に、私をゆっくりと診察台の上に座らせてくれて、彼は言葉を続けた。


「フランソワーズが003で、ちゃんと僕たちと一緒に戦える、女の子でよかったと思ったんだ。そうじゃないと、きっと僕たちは、ここにはいなかったから・・・。フランソワーズ、ありがと」


喉がきゅうきゅうと締め付けられて、痛い。
鼻奥が痺れて、痛めた眼が熱くなる。

心臓が、どくん。どくん。と、強く鼓動を打つ。




009の手が、煤けて汚れた頬の汚れを、優しいとは言いがたい力加減で拭ってくれた。
なぜ眼を痛めてしまったのだろう。今、009がどんな表情(かお)をしているのか、はっきりと見えないことが、すごく残念でならなかった。



「003をお願いします、博士・・・」
「言われんでも解っとる!009」



メディカルルームの通信回路は常にどこかしらと交信する。


「お腹すいてないアルか?飲み物は?」
「よお!なんかいるもんあるか?」
「003、もう大丈夫だよ、追っ手は来ない。上手く逃げ切れたようだから、安心して」
「部屋に移るなら、運ぶ、言ってくれ。」
「容態はどうだ?もう痛まないか?」
「見えない間、我が輩の自慢の喉でリラックスー♪」



うるさい!と、ギルモア博士が無線のスイッチを切ると、今度は入れ替わり立ち代わり、メディアカルルームのドアが開いたり、閉まったりを繰り返し、ギルモア博士が呆れ返る。


「まーったく。これじゃあ003がちいっとも休めじゃろお・・・」







眼の完治に2日かかった。

スティーナを彼女の住む国へ連れて行く間、同じ日々が続く。
彼女の声に、笑顔に、仕草、その可愛くてお洒落な服に、鼻の下を伸ばし、それをからかう人が居る。
戦闘用として作られたドルフィン号の味気ない殺伐とした、内装と空気を、スティーナは、女の子らしく、女の子の香りで、柔らかく色をつけていく。


紅茶を入れたのだけど、いる?と、ミーティングルームにタイミングよくやってきた009に訊ねた。
彼は少しはにかんだ微笑みを浮かべるけれど、その口元はNOと言っているように思えた。
私の背後からにいた、スティーナが009に気づいて嬉しそうに、彼のそばまで歩み寄り、その腕に、自分の腕を絡めて、言った。


「アジアのデザートの”杏仁豆腐”っていうプティングの作り方を、006に教わってつくったの。初めてよ。ぜひ味見してちょうだい、009♪」


009ははにかんだ微笑みを同じようにスティーナにむけて、口元はYESと言いたげにゆるんでいた。
私は相変わらず、2色だけで統一された防護服に身を包んでいる。
今日のスティーナは、肩を出すデザインのサマーニットに、薄いピンク色のアコーディオン・スカート。彼女が動くたびに、それは優雅に揺れて、広がる。


「003」
「?」


私は2人をその場に残して、キッチンへと足を向けたけれど、呼び止められて、振り返る。


「・・・レーダーに少し気になる反応があって、キミに確かめてほしいんだ。だから、紅茶は2人分」


”紅茶は2人分”と言って、ピースサインを作った009の手が、可愛いな。と、思った。


「すぐに用意していくわ、今は何も聞こえないけれど・・・」


私は耳のスイッチを入れた。


「コクピットで待ってる」
「了解、009」











end.





*・・・ラブ度うすっ!

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君に振り回される自分がいる / 3
「道場の先輩の友人が来ててさ・・・」


仮面ライダー・ショー、のアクション担当役者として敵の兵士役Cをこなす竹岡は、ジョーのアルバイト先である大学の友人、湯田(竹岡にとっては空手道場の先輩)にチケットを渡すとき、ジョーの名前を聴き知っていた。
その名前をネットを通して集めた、ショーへの参加者希望リストの中から見つけたときの驚きを思い出す。

年齢、名前ともに、同じ。
そして、カメラが撮るモニターから、子どもたちとその親。しかいない参加希望者のための指定席エリアに躯を小さくして座っているジョーをみつけた。


以前、湯田が京都土産を道場に持って来たきとに見せてもらった写真から、島村ジョーと言う青年がどのような容姿であるか、知っていたのだ。


「いいけど・・子どもじゃなくていいのかなあ?」


同じ敵の兵士役Aの南川と2人、竹岡は指定席エリアの中から子どもを、ショーのための演出上、選ぶことになっていた。


「誕生日らしいから。ほら、誕生日、そういう子を選べって書かれてたよね?」
「ああ、そうそう」


選ぶ基準などは事前にマニュアルをもらっており、それに従う。
希望者が少なければ、希望する子ども(たまに大人)を選択するようななことなく、全員(グループ)で参加してもらうが、今日のように、立ち見も出て来るような日は、リストの中の参加希望理由から選び、エリアの中からその子どもの名前を呼んだり、理由なくその日たまたま目があったから。と、言う理由でも選んだりする。

込み合った日に複数の参加者を選ばないことになっていた。
過去の経験上いろいろと面倒な問題がおこったため、暗黙のルールとなっている。


「じゃ、決まり」
「・・・いいのかなあ」


竹岡はモニターに指をさしたとき、下手から舞台に出る予定だった南川は舞台進行の係員に呼ばれた。


「んじゃ、そういうことで!」
「オッケー」


開演、5分前の出来事。

舞台上では入場入り口にいた係員たちと同じ遊園地の制服を着た司会役の女性が、「みなさーん、こんにちは~」と、客席にむかって演技中の注意事項などを観客席にむかって話していた。










***

派手な爆発音がスピーカーから流れ、ざわざわとしていたイベント用野外特設ステージ内に緊張が走った。

その場にいる全員が舞台に注目する。
舞台袖から、傷ついた敵役が現れると、悔しげに叫んだ。


「こんなはずではっ!こ、こんなはずではっっ!!」


地鳴りのような、何かが崩れていこうとする音が爆発音に混じる。
すると、倒れていた科学者らしき男が、傷ついた敵に這いつくばって近付き言った。


「まだ、完成していないが・・・、ぐっ・・タイムマシンが、あるっぐおおおっ、過去に戻り、我々を潰した、があああっ・・・ライダーを、仮面ライダーをっ倒すのだあああああ!」

今まで一番大きな音で、爆発音が鳴る。
たくさんのスモークが舞台を包み、敵の声。


「行くぞっ過去へ!!そしてっ仮面ライダーをこの世から抹殺するのだーっ」


敵の声とともに敵兵士たちの気合いの入った応答。


「大変っ!未来から仮面ライダーの命を狙う強敵がやってくるなんて!!」


司会の女性が、舞台上ではなく、関係者入り口の半円アーチを描きカーテンで仕切られた場所からマイクを手に出て来ると、客席から拍手が湧く。

舞台の上はスモークで隠されているようで隠されていない状態で舞台転換。


「仮面ライダーは未来から敵がやってくるなんて、知りません!」


大げさなジェスチャーで観客に訴える。


「どうなるのっ仮面ライダー!!」


言葉と一緒意、大きく腕を振りあがながら舞台を指すと、指した方向へと会場中の視線が移動する。
すると、ライダーが舞台中央に、いつの間にかできた岩の上で、ポーズをとっていた。

ヒーローの登場に拍手喝采の中、仮面ライダーの名を叫び、子どもたちの歓喜の声ががわき上がる。
舞台には、仮面ライダーが倒したと思われる、敵がごろごろ転がっていた。


「この世の未来と平和と夢を守るっ!!」


派手に岩から飛び降りて、ポーズを決めると、さらに特設ステージは盛り上がった。
司会役の女性が出て来た場所と同じところから、倒れている敵たちとは別の(デザインの着ぐるみを着た)敵兵士たちがワラワラと登場する。


舞台の筋書きは、ずっとGWから繰り返されているもの。

敵は、自分たちの組織が潰される原因である仮面ライダーを倒しに未来からやってきた。彼らは未来からやってきたので、仮面ライダーの行動がすべてわかる。
危機に陥った仮面ライダーだが、敵が未来からやってくるところを見た人間(参加希望者)が人質になったことで、過去にはなかった出来事のために、未来が狂い、仮面ライダーはその人質(参加希望者)のお陰で敵を倒すことができた。で、ある。


「ああ、未来からの敵が!」


司会者が叫ぶ。
仮面ライダーにはその敵は見えていないようだ。


「見たなっ!!」


敵兵士の1人が、舞台から見て左端最前列、ロープで仕切られたエリア(参加希望者指定席)の前に立った。

子どもたちから悲鳴と喜びが入り交じった声が飛び交う間、わくわくとした、期待に胸を膨らませる青い瞳が真剣に敵兵士を見ていた。


「仮面ライダーに報告されては困るぞ!」
「よしっ!人質だっ!」


敵兵士が、さっと移動して、今日の参加者を決めた。


「え?」
「な?!」


がし。っと、観客の1人の手を掴む。と、拍手がおこった。
適役の兵士に優しく立つことを促されたのは、明らかに子どもではない、そして、髪色、その容姿から日本人とは思われない、スタイルのよい女性が特設ステージ内の注目を一斉に浴びる。


「あ・・・ちがっ」


後方に居た、別の敵兵士役が、仲間が掴んだ参加者に驚き、声を上げた。


「見られたからにはっ、一緒に来てもらうぞ!」
「あのっアタシじゃなくてっ!」


敵兵士は、フランソワーズの腕を取っていた。
指定席内の子どもたちから羨望の眼差しがフランソワーズに向けられる。


「ああ!!仮面ライダーっ”お友達”が危ないっ」


司会の声がスピーカーを通して、拡大される。


「ジョーっ」


呆然と状況を見ていたジョーにむかってフランソワーズが、彼の名を呼んだので、無意識にジョーの躯が動く。


これは、ショーなのだ。
実際の”敵”なんかじゃない。

当たり前のことを、当たり前に頭で解っていながらも。


「離せっ」


ジョーは敵兵士の手からフランソワーズの手を振り解いた。


「人質だ!」


ハプニングなのか、これは演出なのか、会場中の雰囲気が何かの期待に色が変わる。
敵兵士は、ジョーのことなど気にしない様子で再びフランソワーズの腕を取ろうとした。


「彼女は違うんですっ」


その敵兵士の手を再び払う。


「見ていただろっ!!見られたからには人質として来てもらうっ!!」
「ジョーが人質になるわ♪」


フランソワーズはにっこりと微笑みながら、敵兵士に言ったが、敵兵士は自分の手を払った青年を一瞥しただけで、首を左右に振って断る。


「いや、君に来てもらう」


敵兵士役A、南川は、同僚バイトの竹岡が指差した相手を、勘違いしてしまっていた。モニターの荒れた画像で、あまり視力が良いとは言えない南川は、派手な髪色のどっちかだと、曖昧に判断していた。その上に、男よりも可愛い女の子の方がいいという私情も挟んで、選んだのは、ジョーではなく、フランソワーズ。


「ジョーじゃないとダメよ!」


フランソワーズは手にもっていた参加希望用紙を敵兵士に見せようとしたとき、もう1人の敵兵士が言った。


「2人一緒にくるんだ!」


フランソワーズを捕まえた敵兵士(南川)の相方である、敵兵士(竹岡)は、ジョーの腕を掴むと、「どうぞ舞台の方へお願いします」と、丁寧にジョーにお願いしたのだった。


そんな様子を観客席後方から観ている、ものすごくテンションが高くなった日本に観光でやってきた(?)グループと思われる、赤ちゃん連れの一行がいた。









***

「ああ!仮面ライダーのお友達が未来からきた敵に捕まってしまいましたっ」


敵兵士に連れらる途中、入場ゲート入り口でチケットを切っていた係員のうち1人が、ショーの様子を眺めていた。
連れて行かれるジョーにむかって頬を染めて微笑み、口元に「よかったですね」と言う形を作り、手を振る。その姿に気づいたジョーは、恥ずかしそうに手をあげて女性の言葉に答えながら、係員の女性の前を通り過ぎた。
その様子をフランソワーズはジョーの後ろを歩きながら、しっかりと見ていた。


舞台に立つ事になってしまった、ジョーとフランソワーズ。
舞台上でポーズを決めたままの仮面ライダーは、オブジェのように動かず、成り行きを見守っている。


「大変ですっ」


司会の女性が、持っていたセカンドマイクをジョーの腕を掴んでいる敵兵士に渡した。
舞台に上がった2人は舞台中央に迎えられる。
ちょうど、仮面ライダーを隠すように。注目が舞台上の人質に映ると、仮面ライダーは舞台セットの岩の裏に引っ込んだ。


---・・その手、それ以外の場所に動いてみろ・・・。


ジョーは舞台云々よりも、フランソワーズの腰を抱くようにして、彼女を捕まえている敵兵士が気に食わない。顔には出ていないと思っているのは本人ばかり。


「アイヤー。ジョー不機嫌ネ」
「敵の命が(本当に)危ないかもしれない。」
「お芝居ってことわかってるよな・・・?ジョー・・」
「うむ・・・003に何かあると、感情的になってしまうのはあまり関心せん傾向じゃな・・・」
<博士、オ芝居ダカラ>
「いやいや!芝居だからと言っても、あの態度はよくない!!芝居だからこそっよくないっ!」


素人でも舞台に立つなら最低限のマナーが!っと、鼻息を荒くするグレート。


「でも、恋人と一緒に人質になってしまい、彼女を守れなかった不甲斐なさで機嫌が悪いって解釈できるネ」
「なるほど。」
<アノふらんそわーずヲ捕マエテイル敵役、ヒッツキスギ>
「しかし、せっかくジョーだけでなく、フランソワーズも選ばれたのに、なんじゃ・・・フランソワーズも浮かない顔をしておるのお・・・」
<ヒッツキスギ・・・>


自分の知らない人間がフランソワーズに意味もなく、近付くことをあまり快く思っていないイワンの機嫌がナナメに傾きはじめた。





「人質になったからには、名前を教えてもらおうっ」
「・・・」


司会者からマイクを受け取った(ジョーと共通の友人を持つ)兵士が訊ねるが、ジョーは思いっきり無視をする。


「そうか!名前は島村ジョーだな!!」
「!?」


教えてもいないのに、敵兵士はジョーの名前を大きな声でマイクにむかって叫んだ後に、そのマイクをフランソワーズを捕まえている敵兵士に渡した。

敵兵士はこそっと、ジョーにむかってささやく。
マスクをしているので、すこし籠った音になり、小さい声のために、ぼそぼそと聞こえたが、彼の言葉はしっかりジョーの耳に届いた。


「湯田先輩の後輩の竹岡です、来てくださってありがとうございます」
「名前はっ!」
「あ!!・・え....!あの、今日のチケットの?・・え、役者さんだったんです・・・か?」
「フランソワーズです」
「はい・・、楽しんでくださいね」
「どこから来たんだっ」
「すみません、知らなくて・・・チケット、どうもありがとうございました」
「日本」
「日本のどこだっ」
「いやよ、それは教えてあげられないわ」


思わずジョーは姿勢を正してチケットの礼を述べて頭を下げようとしたが、竹岡がそれを止める。


「敵ですから!」
「そうだ・・すみませんっ」
「日本人ではないなっ?」
「でも日本に住んでいるわ」


客席から笑いが起こる。
その笑い声に、ジョーと竹岡が敵兵士Aとフランソワーズのやり取りに気がついた。


「どこの国の生まれだっ?」
「あなたに関係あることかしら?」
「フランソワーズ・・・」


彼女の返答の様子から機嫌が再びナナメになっている気がしてならない、ジョー。
楽しみにしていた仮面ライダー着ぐるみショー。しかも(予定通り?)フランソワーズ自身がショーに参加できたにも関わらず、なぜだ?とジョーは悩む。けれども、どうやら会場はそんなフランソワーズにかかわらず盛り上がりを見せた。


「あることだ!!」
「それなら。フランスです」


自分は名前だけだったのにも関わらず、なぜフランソワーズにはたくさん質問するんだ?と、ジョーがむっとした様子で敵兵士Aを睨むように見る。


「では、マドモアゼル」
「mademoisellle」
「?」
「mademoisellle」
「...もぁどまあぜう?」
「・・・ダメね、国際的悪の組織に所属してるのに、そんなんじゃ、兵士さんは一生そのまま兵士さんで出世できないわ」
「大きなお世話だ!・・・で、いくつだっ?」
「万国共通して、女性に年を聞くなんて失礼だわ」
「それは確かに。・・・すみません」


敵兵士Aはおどけたように、フランソワーズに謝った。
会場内に和やかに楽しい雰囲気で笑いが起こる。


「フランソワーズ!君は仮面ライダーを知っているな!」
「ええ、もちろん♪」
「しかし、助けを求めても無駄だ!」
「そうだ、仮面ライダーを呼んでも無駄だぞ!」


竹岡が間の手を入れるようにして、会場内にむかって言うと、場内にいる子どもたちから、仮面ライダー・コールがはじまった。
その中の声に、助けてあげてー!捕まっちゃったよー!!お友達が大変だよー!などの声もたくさん含まれる。


「無駄だ、無駄だ!!いくら仮面ライダーとは言え、未来からきた我々だ!仮面ライダーの戦い方は全てお見通しだ!!」


言い終えると、ジョー、フランソワーズを連れて、敵兵士の2人は司会者のそばまで移動する。


「仮面ライダーっ!お友達が捕まってしまったわ!!助けて!さあ!みんなで仮面ライダーに教えてあげましょう!!」


司会者が会場中に呼びかけて、仮面ライダーを呼ぶコールを促した。
舞台中央の岩のセットの影に隠れていた仮面ライダーが、舞台中央にいた敵兵兵士2人と、ジョー、フランソワーズが舞台袖に移動するのと同時に、出て来ると、仮面ライダーにカラー・スポットライトが当たり、テレビでおなじみのテーマソングが流れ始める、と、一気に特設ステージ内がヒートアップした。


「すごいわ!こんなに間近で見られるなんて♪」
「・・・フラン」


舞台の上で仮面ライダーがテーマソングに合わせて、捕まった友達(ジョーとフランソワーズ)を探すと言う名目でワンマンショーを繰り広げ始め、フランソワーズは嬉々としてショーを同じ舞台の上から観劇する。


「素敵ね!」
「あの・・、フランソワーズ?」


ジョーにではなく、花が咲くように愛らしい満面の笑顔で人質らしからぬ態度で敵兵士に微笑みをむける。


---いったい、何なんだよ・・・。ただの着ぐるみショーだし、本物じゃないし、あれくらいのバック転、ボクだってできるし・・・。


何をたかだか特撮ヒーローと張り合う理由があるのか。
現実と”ショー(お芝居)”は違うと、わかっているけれど。話しかけても、聞こえないかのように舞台の上で繰り広げられている仮面ライダーのワンマンショーに、魅入っているフランソワーズにたいして、むくむくと沸き出す嫉妬心。

ジョーが邸内以外では着てほしくないと思う、とっても似合う、ぴったりとフランソワーズの足の形を現すジーンズ姿。

そんな、フランソワーズに寄り添うのは、自分ではなく、敵兵士。心配したくなるほどに、括れたウェストに添えられたグローブをつけた手。

ジョーを担当する敵兵しは、ただジョーの腕をもっているだけで、フランソワーズのそばにいる敵兵士のような密着はない。(あったら、あったでジョーは困るだろうけれど。)


「すごいっ。すごい♪」
「いやいや、あれくらい!相手になりませんな!」
「フランソワーズ、ねえ」
「でもっ、仮面ライダーですもの!」
「未来から来ましたから!仮面ライダーの動きはすべて予測できるんです」


ジョーの声など聞こえないとばかりに、敵兵士Aと楽しそうに会話を続ける、フランソワーズ。
その原因が、自分にある(入場入り口チケットの係員とのやり取り)とは爪の先ほどにも想像できない、ジョー。

舞台の盛り上がりに、敵兵士Aとの会話が途切れたのをチャンス!と、ばかりにジョーがフランソワーズにむかって自分の方へと意識を向けさせようと、彼女の手へと腕を伸ばそうとしたら、不意に、フランソワーズが小さくささやいた言葉が耳に届いた。




「・・・・アタシだけのヒーロー・・が・・・・・仮面ライダーが、ずっと、そばに居てくれたら・・いいのに」







決め台詞と、ポーズをばっちり決めて、盛大な拍手と喝采を浴び、さあ。今から人質(参加者)を助けるための、山場、アクションシーンに切り替わる、会場中が再び舞台の端っこにいた人質たちに注目された、刹那の、見事なタイミング。


「フランソワーズっ」
「人質になったジョーくんと、フランソワーズさんを仮面ライダーが助けますっ!」


司会者が、人質であるジョーに”仮面ライダーに助けを求めてください。”と、言うためにむけたマイクが偶然にもジョーの口前にもってこられたとき。


「仮面ライダーになんかに助けてもらう必要なんてないだろっ、ボク(=009)がいるんだからっ!」


嫉妬と舞台上にいる高揚感がぐるぐると混ざりあった気持ちに、普段の彼らしくない言葉が、マイクを通し、テーマソングも鳴り止んでいたスピーカーがジョーの台詞を野外特設ステージに響かせた。


「・・・あ・・・・・・れ・・・・え?」







に続く。



*・・・長いですね、ははは、3回どろこじゃない。
5月が終わる・・・(汗)
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イチゴジャムは甘すぎて。


「・・・ああ、これ?・・・・リズにもらったんだ、誕生日プレゼントにって・・」



反BG運動の1人であるギルモア博士の友人、タフツ博士の姪のリズ(エリザベス)が、行方不明になった。その影にははやり、BGの動きがあったため、リズの救出とともに、発見したBGの軍事施設を1つこの世から消す事に成功した。

根無し草のように、ドルフィン号以外に居住地を定めていない00メンバーたちに、タフツ博士は、戦いの疲れを少しでも癒してくれと、屋敷に留まることを勧めてくれた。

いつ、何が起きても行動でき、BGから襲撃があっても誰にも被害を与えないようにと、定住地を持たない00メンバーたちにとって、タフツ博士の申し出はとても嬉しいことと同時に、”もしも”を考えると、やはりすぐにでも、その場を離れることが良いと言う結論を出した。

けれど、礼をしたいと言うタフツ博士の言葉と、そうして欲しいと言うリズ、そして彼女の両親も勧めてくれる上に、ギルモア博士が土地の学者たちとの情報交換に加え、影ながら00メンバーたちを支援してくれている反BG運動メンバーたちと腰を据えて今後のことを話し合いたいと望んだため、しばらくの間、タフツ博士の屋敷に世話になることになった。





「た、・・・んじょう・・日?」
「うん、・・・・先週の土曜日だったんだ」
「お、おめでとう・・・・」
「ありがとう、003」


009は見慣れないものを、首にかけていた。

タフツ博士の屋敷で世話になっている間も、交代制でいつでも出撃(出発)できる用意をする00メンバーたちは、日替わり当番制でドルフィン号に待機する。


今日は、003と009が当番の日だった。


「リズが2日間ほど郊外へ林間学習に行っただろう?お土産も兼ねてもらったんだよ」


彼がアクセサリーをつけている姿をみたことがなかったので、すぐに、それに気がついた。
昨日はつけていなかった。・・・と、思う、フランソワーズ。


「そう・・なの、よかったわね・・・・」


009は首もとにある細い鎖に、人差し指をひっかけて、小さな十字架のモチーフを見せてくれた。
きら。と、光ったシルバーが、安っぽいテラテラとした鈍い輝きではなく、ドルフィン号のコックピット正面の強化グラスを抜けて射し込んで来る陽光を鋭く弾く、輝きだった。


---先週の土曜日・・・は、16日・・・・・。



リズは林間学習がおこなわれた地域で有名なお菓子屋に立ち寄り、店で一番大きな焼き菓子の詰め合わせを持ち帰ってきた。おやつとしてにいただいた、それらの中でもブルーベリー・ジャムをはさんだクッキーを、フランソワーズは好んだ。




---5月16日。



今日の日付から逆にこころの中で指を折って数えた。












***


ブルーベリージャムをはさんだクッキーは、本当にとても美味しかった。
ほかにも彩り豊に、美味しそうな焼き菓子たちが、大きな箱の中にたくさん詰まっていたけれど、フランソワーズはいくつか口に運んだそれらの中で、やっぱりブルーベリージャムをはさんだクッキーが一番好きだった。
アプリコットジャムを挟んだ形が違うクッキーもあったけれども、断然、ブルーベリーがいい。と、思った。





「ブルーベリーが好きなんじゃなかったの?」


ドルフィン号から戻ったその足でむかったダイニングルームで朝食を取る、ジョーとフランソワーズ。
リズは向かい側に座るフランソワーズが手に取ったジャムの瓶を目にして首を捻った。
フランソワーズの手にあるのは、ジャムの王様と言っていいイチゴジャム。


朝の食卓の席に、今朝早くタフツ博士とでかけたギルモア博士と006。すでに仕事へと向かったリズの父親、夜の時間の001と、ドルフィン号待機組として009、003と交代した004、005をのぞいたメンバーとリズに、朝食を用意してくれたリズの母、リディアが揃っていた。
タフツ邸の常時ダイニングルームにある大きめの6人用のテーブルでは間に合わず、年に数回おこわなわれる祝いの行事に使われる、円形の大テーブルが付け足されていたが、朝はあまり役に立たない。
形の違うテーブルを寄せ合い、テーブルクロスをかけたとき、前方後円墳みたい。と、呟いて、リズにそれは何かと訊ねられていた人が、フランソワーズの隣に座っている。


「別に、特別ブルーベリーが好きなわけじゃ、ないのよ・・」


ジョーはいつの間にか、フランソワーズが見つけたものをはずしていた。
ダイニングテーブルに着いたジョーが、それを身に付けていない事に気づいたフランソワーズは、自分が指摘してしまったために、彼が気分を害して身につける事をやめてしまったのかと、気分が落ち込んでいく。


「そうなの?」


ダイニングテーブルに並べられる、イチゴ、ブルーベリー、マーマレードのジャムと、バター、ピーナッツ・バター・クリームに、ヘーゼルナッツ・チョコレートクリーム。それらの中で、彼女が焼いたトーストにのせるのは専らブルーベリージャム。

リズはミックス派で、ピーナッツ・バター・クリームとその日の気分で選んだものをトーストにのせる。


「そういう気分だっただけで・・今日はイチゴが食べたいなって・・・・思ったの」


イチゴジャムをのせて、一口齧った焼きたてのトースト。
フランソワーズはマーマレードにすればよかった。と、フルーツ独特な苦みのない、ただ甘いだけのイチゴジャムに後悔した。
ブルーベリージャムが嫌いになったわけではないけれど、それを手に取るのが理由もなく、ただ今朝はイヤだっただけ。


「ね、こっちのヘーゼルナッツ・チョコレートクリームも試してみて!美味しいからっ!!」


リズの首にはシルバーの細い鎖がフランソワーズの視線を固定させるかのように、きら。っと魅力的に光った。
トーストを持った手を止めてしまったフランソワーズの、まっすぐな視線は、リズが指差したヘーゼルナッツ・チョコレートクリームのジャーではなく、自分の首もとにむけられた。


「あ、これ・・?」


首にかけているシルバーのそれの、小さな十字架のペンダントトップ部分を指につまんで持ち上げた。
フランソワーズは不躾に彼女の首にあるものを見ていたことに気づき、慌ててあやまった。


「ごめんなさい・・・あの」
「素敵でしょ?」


視線をトーストに戻したとき、フランソワーズの視界に、同じものを身につけている人が、珈琲が半分ほど入ったマグを手に持ち上がるのが見えた。


「え?・・ええ・・・とっても素敵ね」
「この間の林間学習で言った街に友達のお兄さんが、シルバーアクセサリーの店を持っていてね、そこで買ったのよ」


フランソワーズは微笑んで首を縦に1度振り、微笑みながらリズの言葉を受け止めた。


「アシュレーってば、あんなに素敵なお兄さんを隠していたなんて!すっごく、すっごくひどいと思わない?」


”すっごく”の部分をかなり力んで言ったリズにジェットが反応する。


「リズ、ソイツはそんなに格好良かったのか?オレよりもか?」
「もちろん!ジェットなんかに太刀打ちできないくらい、格好良かったわ!」
「我が輩よりも?」


リズが屈託なく笑う。


「ええ!グレートさんよりもすごく紳士的でユーモア溢れる人だったの!」
「じゃ、僕は?」
「んー・・ピュンマかあ。悩むなあ・・・・、でも、やっぱりアシュレーのお兄さんかな!」


珈琲のお代わりはいかが?と、キッチンに立っていたリズの母、リディアがコーヒーポットを手にダイニングテーブルにやってくる。
どれほどアシュレーの兄が格好良いかを話し始めた娘に、特定のボーイフレンドを持ってもおかしくない年齢になった娘を持つ母親になってしまったのね。と、思いつつも、食卓の上で、夢中になったアイドルについて語るときとさほどの差のない表現に、安心したと同時に別の意味の心配を胸に抱いてしまい、自分勝手な娘の成長の願いに苦笑する。そんな思いを隠すように、フランソワーズの隣に座っている、口数少ない娘と変わらない年頃の青年のマグに珈琲を注ぎ足した。


賑やかな会話が朝の食卓の上に次々に飛び交った。
それぞれの皿とカップの中身が消えた頃合いに、それぞれがその日の食事に礼を言いながらテーブルを離れて行く。


フランソワーズは後片付けを手伝うために、テーブルを立つ。すると、同じタイミングでリズも立ち上がった。
リズは学校までスクールバスで通う。

全てのミッションは終えてはいるが、滞在中は姿を換えた007がリズにつきそう。
林間学習の2日間の間も、007が”もしも”に’備えてつきそっていたので、本当のところ、彼はリズの友人のアシュレーの兄が、自分よりもジェットよりも、そしてピュンマ以上にどれだけ素敵な人だったか目にしている。


「リズ、バスに遅れなようにしなさい」
「はいはい!もう出るわ」


キッチンから飛ぶリディアの声は、毎日同じ時間に、同じ台詞。
答えるリズも同じで、彼女はダイニングルームのドア近くの飾りイスに置いたデイバックを手に屋敷を出て行く。


「リズ、いってらっしゃい」


その背にむかって3杯目の珈琲を終わらせながら声をかけた、彼と。


「また後でね!ジョー」


笑顔で答えるリズの、ちょうど真ん中にいたフランソワーズ。自分を超えて、かわされた会話から逃げるように、忙しなくテーブルの上を片付けはじめた。


「あ、そうだ!」


ぱたぱた。っと、スリッパを鳴らしてかけよってきたリズが、フランソワーズの前で両手を首の後ろの留め金部分へとまわした。


「・・・リズ?」
「あげるわ!」
「え?」
「2つ買ったら、30%オマケしてくれるって言われたの。来週末にアシュレーと一緒にお兄さんのお店へ行く約束をしてるから。これはフランソワーズにあげるわ!」


外した、それを、フランソワーズの手の平の上にしゃらり。と、置いた。


「私とお揃いよりも、フランソワーズとお揃いの方がジョーも嬉しいだろうから!」


リズは大げさなほど躯を傾けて、フランソワーズの後ろにいる、同じものを持っている人を覗き込むようにして視線をあわせると、ウィンクを一つ飛ばした。


「リズ!バスに遅れてしまいますよ」


娘に急ぐように。と、声をかけながらリディアがキッチンから出て来る。
リズは元気よく、行ってくるわ!と、母親の首に飛びついて、その頬にキスを贈ると、ダイニングルームを飛び出して行った。


「まったく・・・。あの子もちゃんとした恋の1つもすれば、少しは落ち着くのかしら?ねえ、どう思う?」


ダイニングルームに取り残された2人に話しかけると、ジャムにするには少し早い、フルーツの青みが清々しく感じられる香りが、ダイニングルームを包んでいる。

まだ恋らしい恋をしていない娘が、ちゃんと”そういうこと”に気づいたことにたいして、少しだけ誇らしさを感じたリディアは、再びキッチンへと姿を消した。










end.





*結局つけられなくって、大切に大切に2人とも保管してるとおもわれます。
 





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「・・もらっても、いいのかしら・・・・・」
「・・・・・いいんじゃ、ないかな・・その」
「?」
「僕とお揃いでも、よかったら・・・だけど・・・・」
「あの、でも・・ジョーは、・・・・イヤじゃない?」
「いや、僕よりもフランソワーズの方が、なんていうか、・・・イヤじゃないかな・・?」
「そんな・・こと・・・でもジョーは」
「いや、フランソワーズが・・気にしないのなら・・・」
「私だって、ジョーが・・その、いいのだったら・・」






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もーじもじもじもじ、もーじ、もじもじもじもじ・・・・。
なんて言うやりとりが、延々と続いたと思われます(笑)
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