RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
好敵手
注意)2→3←9な関係です。93は変わってませんが地雷な方は回れ右でお願いいたします。
注意書きを付け加えたのは、半日過ぎてからです。注意書き以前に読まれてしまって、地雷だった方がいらっしゃいましたら、すみません。




003の頬を伝った雫に、どうしたの?と、声をかけようとして、言葉よりも先に動いた手が、行き場を失って宙を漂うことになったのは、ほんの少しだけ、彼女の泣き顔がいいな。と、思った不謹慎さが原因。


「めそめそすんなって、仕方なかったつーの、あんときゃ」


ひと呼吸の差。
僕の手が伸びるよりも早く、伸びた手は、僕よりもずっとずっと長く、彼女が003として生きる事になったときからそばにいる、彼女よりも1つ少ない数を持つ、彼。


「ったく、いつまで”泣き虫”やってんだよ、変わらんねーな!」
「だって、・・・」


呆れたようなため息とともに、彼の効き手がつんつんとした髪をかきむしる。


「泣いてる暇があったらよ、今度は絶対に同じ失敗はしねえって、努力すりゃいーじゃんか」
「・・・でも」


僕は冷たいドルフィン号の赤に背を押し付けて、2人の会話を聞いていた。
そのまま、ジェットに任せて去ればいいのに、足は動かない。


「ここにずっと居るつもりかよ?そろそろ出発しなきゃいけねんだからよ」
「・・・・」


そうか。と、気づく。
ジェットも、僕と同じように彼女を捜して、ドルフィン号の甲板に出て来たのか、と。

違う出入り口から、彼は僕とほぼ同じタイミングでフランソワーズを見つけた。


「ねえ、ジェット」
「なんだよ?」


手の甲で涙を拭い、すん。と、鼻を鳴らしてジェットを見上げた、フランソワーズ。
沈んでゆく太陽がつくる、オレンジ色の世界でくっきりと浮かびあがる長い、長い、二つの影が、僕の存在に気づいたように、足下まで伸びていた。


「私、また・・ジョーの足を引っ張ったのよ・・・」


フランソワーズの口から自分の名前を聞いて、どきん。と、心臓が緊張に汗をかく。


「仕方ねーだろ?あんときゃ・・」
「でも、それで・・・彼は」
「でももへったくれもねーって。それが009のやんなきゃならねーことだったし、怪我っつっても、絆創膏1つくれーのもんだろ?・・オレがその場にいたら、おんなじようにしてたぜ、アイツだって気にしてねえよ」
「・・・」
「つーか、なんでお前はよ、ジョーのときは足引っ張った、迷惑かけた、っつって泣くんだよ?」
「・・・」
「同じことが起きたって、オレにはちっともそんなしおらしいこと言わねーだろ?」


ジェットはぶすっと不満いっぱいに、フランソワーズの顔を覗き込む。


「だって、ジェットだもん」
「はあ?」
「ジェットだもの」
「なんだよ、オレだもんってよ?」
「だって、そうでしょ?」
「わかんねーよ」
「ジェットはジェットだし、だから、別にいいと思うの・・・でも、ジョーは・・・・」



---僕は?







思わず、首を伸ばして、影ではなく、2人を見ようとする。
オレンジ色が眩しくて、ジェットの姿が逆光のため、見ていた影と同じような”形”でしか捕らえられなかった。


「出て来いよ」


言葉を最後まで言い切らないままに、ドルフィン号の中へと戻って行くフランソワーズの姿は見る事ができなくて。

出て来いよ。と、声をかけられたけれど、僕の足は動かない。


伸びに伸びた影が、さらに長くなっていくのを見ていた。


「よお」
「・・・・」


影はいつしか、消えてしまい。
その影を作っていた人と僕は並んで、ドリフィン号が浮かぶ海を、見る。


「003が、お前の足引っ張ったってよ」
「・・・・うん」
「引っ張ったのか?」
「・・・・ううん」
「じゃあ、なんでそう言ってやんねーんだよ?」
「・・・・うん」


フランソワーズがそういう風に思っていたなんて、知らなかったから。と、言葉にしなくても、彼には僕の表情でそれを理解したようだった。


「なあ」
「うん」
「・・・・オレはオレらしいぜ?」
「うん」
「んでよ」
「うん」
「・・・・・・オレはオレなりに・・」
「うん」
「・・・最新型だからってよ」
「うん」
「負ける気ないかんな」
「・・・・・・・・・・・・・・・最新型とか、関係ないよ」
「ああ、関係ねえよな」
「・・・」
「けど、最新型の”009”には迷惑かけたくなくってよ、40年ものの”002”のオレには迷惑かけても、別にいいって、あべこべなこと言ってるんだぜ、アイツ」
「・・・うん」










”ジョーにだけは、足を引っ張ったり、足手まといな、私でいたくないの”













「女ってわっかんねーよな」
「・・・うん」


面倒臭そうなため息と一緒に、ジェットは僕と同じように冷たい壁に体重をあずけて、両腕を頭の後ろにまわした。
僕よりも背の高いジェットを、視線だけで見上げてみる。


「甘えてんだよな、オレに」
「・・・そう、思う」
「で、お前の前じゃ、甘えたくないらしいぜ?」
「・・・・・」
「立派にミッションをこなせる003でいたいんだってよ」


僕の視線に、ジェットが合わせる。


「・・・ジェットが羨ましいよ」
「オレはお前が羨ましいぜ?」


口の端でジェットが笑う。
僕もつられて笑う。


「オレの方が一歩リードしてるよな?」
「・・・」
「な!」


認めろよ!っと、ジェットがヘッドロックをかけてくる。
それを上手くかわしながら、ドルフィン号の中へと戻っていく。


「ジェット」
「んだよ?」


泣き顔がいいな。と、思った。
その泣き顔が、僕のせいだったことに、満足した。


「・・・違うと思うんだ」


リードしているのは、どう考えても僕だ。


「フランソワーズが泣くのは僕のせいだから」


ドルフィン号のコクピットに向かう。
自動ドアが開く。

操縦席に座った僕は、もう泣いてはいない003をちらっと、見た。
彼女の瞳のふちが少し赤くなっていることが、彼女が泣いていた証拠。

それが、すごく愛おしい。


002と僕がコクピットに戻ったころ、買い出しのために使用していたモングランをドルフィン号内に収納した。


「全員揃ったな・・・ギルモア博士、出発しますか?」
「うむ、そうじゃのう・・・とにかく空でなく海底にじゃ」


無線から、買い出し担当の006の今日の夕食の献立が報告されて、出発の号令がかかる。


もう一度、視線を003へ。
偶然、僕のと彼女のが計ったようなタイミングで合ってしまった。

戸惑い気味に微笑んだ彼女に、僕も微笑んで、力強く頷いてみせた。


瞳のふちに残る、泣いた跡がやっぱりいいな。


「ドルフィン号、出発!」





僕のために、たくさん泣いてくれる。
あの素敵な泣き顔は、僕のためにある。


<ジェット、悪いけど・・・負ける気がしない>


泣き虫な彼女が一生懸命になってくれるのは、僕のため。



ジェットのためじゃない。
僕のため。







僕の通信に002から返って来た返事は舌打ちだった。





end.


*前からちょっと書いてみたいなーっと思っていた、2→3←9な関係です。
平ぜろベースですね。そうなると。
2が4になると・・・あの小説ベースになる、と・・・。
スポンサーサイト
web拍手 by FC2
涙を禁じえない/ジョー、フランソワーズはお前じゃないとダメだ・・


珍しくミッションの遂行のためのOperational estimate(作戦見積)で、意見が対立した。
009が起てたOPLAN(作戦計画)に対して一応全員が賛成したものの、不満を口にしたのは002だった。

彼は今回、作戦実行チームに参加せず、作戦実行プランAに予期せぬハプニングが起きたときのプランB、攻勢作戦へと切り替えるための主要要員としてドルフィン号に残ることになっていた。が、002はBG研究施設への特攻は、自分の役目だと言って聞かない。
Ground Operationsをメインに進めてきた今までのプランの中で、はじめの”撹乱”はミッションが成功するかどうかのキー・ポイントとなることは誰もが解っていた。
今回、002に変わって、そのキー・ポイントを勤めることになっているのは005と007の2人。


敵方に自分たちのassault(突撃)パターンを分析され始めたことによって、前回の戦いで辛酸を嘗める思いにさらされた00メンバーたち。
そのために、今回はまったく違う戦術を組んだと説明したが、それでも納得できないと、002はミーティングルームから出て行った。

彼が出て行ったことで、誰しもが今日はミーティングを続けることができないと判断し、気まずい雰囲気から逃れるようにして、出て行くメンバー。その場には009と003だけが残ったが、009はもう一度Operational estimate(作戦見積)を見直すから、少しの間独りにしてくれと、003に部屋から出る事を促した。

003は促されたままにミーティングルームを出て、002の様子を見に行ったが、そこには既に、006と004がいた。
彼らに任せておけば大丈夫だとほっと安心して、再び009のいるミーティングルームへと戻るが、ミーティングルームのドアを開くためのボタンに触れることなく宙を漂う。

ドア前からでも、感じられてしまう重い空気が、003がその部屋へと踏み込むことを戸惑わせていた。


いけないことかもしれない。と、フランソワーズは迷うが、彼の様子が知りたい。
部屋に入る勇気がなく、そんな自分を情けなく思いながら、眼と耳のスイッチを入れた。



OPLANを映し出しているプロジェクターはそのままだった。
数回の潜入調査によって綿密にBGの実験施設内部の設計図を作り上げた。
侵入経路が赤く点滅している中、009はモニターを観る事なく、手に持つファイルを睨んでいる。




フランソワーズの耳に深いため息が聞こえた。
そのため息に、フランソワーズの胸が曇り淀む。


「・・・ジョー」


ボタンに伸ばした手を一度固く握りしめた。
親友と言って良いほど仲の良い002に反対されたことは、かなり彼にとって辛いはずだ。


自分に何ができるかわからないけれど、彼のそばにいたい、と。





薄く開いた唇からすっと深く空気を吸い込んだとき、聞こえてきた声。


『・・・今日は・・そっか、6月6日・・』


フランソワーズはジョーの独り言に耳を澄ませた。


『日本は梅雨入りの時期・・か・・・・・・』


フランソワーズの眼に、ジョーの手にあるファイルの中の1枚の紙が引き出されて、裏返しにされたのが視えた。
カチっと、ボールペンのキャップが外される。


『・・・・葉っぱかな?』


フランソワーズはジョーの手元に集中した。


『葉っぱじゃないよー・・カエルだよ』


横に棒線が引かれて、その上下に半円が描かれると、彼の言葉通りに葉っぱの絵。・・・に目玉がついた。


『カエルじゃなくて・・アヒルなんです』


---・・カエルさんじゃなかったなんてっ!すごいわっ。


ジョーの描いた絵に、フランソワーズは感動する。


『ろっくがつむっいかに♪』


---あら、手・・・ができちゃった!


『雨ざーざーふってきてー♪三角定規にひびいってー』


---雨と三角定規になんの接点があるのかしら???


『あんぱん二つー♪ 豆みっつー♪』


---あんばん?・・と豆?まあ、餡はレドビーンズだからいいのよね?


『コッペパン二つーくださいな・・っと』


---こっぺばんって何かしら?


『あっと言う間にかわいいコックさんー・・・♪』


---まあ!ほんと可愛い♪


『・・・って、何やってだよ、ボクは・・』


描いた絵を見つめて、ジョーは自嘲気味に笑い、紙をくしゃっとまるめてモニターにむけて放ったときミーティングルームのドアが開いた。


「ジョーっ」
「フラン・・・」

ミーディングルームのドアに背を向けていたジョーはぱっと、そちらへ振り返った。
1人にしておいてくれと、自分が望んだことだけれど、彼女が戻って来てくれたことがすごく嬉しかった。
が、次の台詞にジョーの気持ちは沈んだ。


「せっかくジョーが描いた可愛いコックさんがっ!!」
「・・・あ。コックさん・・・・」


ジョーのそばではなく、その足は、モニター前へと早足に近付き、くしゃっと丸められた紙を拾い上げ、皺をのばす。


「も!可愛いのコックさんが可哀相よ!!ほんとに可愛いのにっ」
「・・・・・観てたの?」
「ね、描いて、もう一回!・・・ね、ね?ジョー、ね?」


紙の皺をのばしながら、フランソワーズはジョーの隣に座っておねだりする。


「あ、そういえば、あのね、ジョー、お歌もあるの?」
「・・・・聞いてたの?」
「どうして三角定規にヒビが入るの?雨が降ったのと関係があるのかしら?」


ふふふ。っと愛らしく笑って小首をかしげる、フランソワーズ。


「・・・・フラン」
「ね?教えて?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「教えて!ジョー、お願い、ね?」
「はい、はい・・」


ジョーはファイルの中からまた、作戦のためにまとめた紙を一枚取り出して、その裏をテーブルの上に乗せた。


「まずは・・・」
「可愛いコックさんなら、絶対にジェットを説得できると思うわ」
「・・・は?」
「だって、可愛いもの!」


ふふふ。っと笑って、ジョーに、早く、早く!っと描くようにせがむ、フランソワーズのままに、ジョーはその日1日可愛いコックさんを歌い続けて、書き続けた。


重要書類の紙の裏を使って。











***


イライラとした気持ちは沈まないままに、このままではどうにもならないから、とにかく009とゆっくり話せ、009の気持ちも考えろと、周りにいわれ、ジェットはミーティングルームのドアを開けた。




「あっひるだよー♪」
「あひるなあああのよー♪」

「?!」


「フラン・・・これくらい、ちゃんと歌ってよ」
「歌ってるわよ?」
「・・・本気で・・言ってる?」
「も、ちゃんと歌ってるわ!!」
「・・・じゃ、もう一回、始めから」
「「はっぱかなー?はっぱじゃないよー♪」」
「あっひるだよー♪
「あーひーるううううっ♪」
「フラーン、だから、違うって。”あっひるだよー♪”だって」
「もっ!!歌ってるのー!!だから、先、いきましょー、先!!」
「・・・じゃあ」
「ろっくがっつむっいかに♪」
「ろっくがああつううのっむいいかああぁああああぁああに♪」
「なんで演歌調?!なんで??なんでここで?」
「だって日本のお歌ですもの!」
「意味わかんないよ-・・・・フランー」


足下に落ちていた1枚の紙を拾った、ジェット。
その、重要書類裏に描かれた間抜けなアヒル(らしき)絵を観て、素直に009の起てたOPLAN(作戦計画)に全面的協力を誓ったのだった。









==ミッション後の2人===


「ジョー・・、悪かったな」
「いいよ。済んだことだしさ・・・それに、協力してくれたし」
「一言、言っていいか?」
「なに?」
「・・・・・フランソワーズには気をつけろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・どういう、意味?」
「よく、夫婦は似てくるっていうじゃんか?」
「ボっボクたちくはっ別にっ!!」
「・・・・・・・・・」


慌てふためくジョーに対して、ジェットの瞳は、何かを訴えているようであると同時に、慈愛にも満ちて、彼を見つめていた。


「・・・ジェット?」
「フランソワーズは・・・、お前じゃないとダメだ・・・から・・な・・」


ジョーは感動に言葉をなくした。
ジェットはもう、それ以上にかける言葉が見つからなかった。



そんなジェットの持つ、うすっぺらいスケジュール帳の端っこに”可愛いコックさん”の絵が描かれている事など、誰もしらない。





end.






*親友(ジョー)がどんどん遠い世界へ(笑)
 彼が出来ると、女友達が変わって行くように、男同士の友情にも多少の影響があるんだと・・・いうことで。

涙を禁じえないのは、ジェット(日本のファンシーグッツがちょっと気になる彼)なのでしたー。
でも、可愛いコックさんを歌い始めた時点でそうとう3の影響が・・とか思ったらダメですよ?
web拍手 by FC2
Little by Little・16
(16)







<何モ心配ナイ>
<ありがとう、本当にありがとう、イワン。・・・あのまま、あの場所にいたらとっても困ることになっていたと思うわ>


あの場所とは、ジョーが幼少時に一時期身を寄せていた教会の跡地。
気を失ってしまったジョーを腕に、フランソワーズはその場から動けなくなったとき、一台の車が人が歩く早さで、青緑色のフェンス越しに現れた。


<礼ハイラナイヨ。僕ハ僕ガスベキコトヲシタダケダカラ>


車のヘッドライトが、夏の夜の深い宵色に隠されていた姿を意地悪く浮かび上がらせて、乗用車とは明らかに違う装飾を施された車体に、フランソワーズは焦った。

フランソワーズの視界には、フェンスを飛び越えたときに落としたショルダーバック。と、向かい合ったパトカーが止まる。
助手席から出て来た、制服を着た警官が、それを拾い上げて、周りを見回した。が、そこに人の気配どころか、夏の夜独特な湿気臭さと、今になって耳届く虫たちの鳴き声がフランソワーズの緊張をさらに高めた。






「・・落とし物?」


長く放置されていた教会の敷地が、どのような経路をたどったのか、有名な不動産会社の手にわたり、マンションを建てる予定が立って敷地がフェンスで囲まれるまでの間、教会は取り壊されたものの、昔からあったマリア像を中心にしたガーデンを、周りの住人や教会に通っていた人々の手によって美しく維持されていた。

敷地は子どもたちの良い遊び場、地域交流の場として愛されていたが、同時に、夜になれば、人気がない場所であることを利用して、地域住民の安全を脅かす輩のたまり場にもなっていた。

そのために、パトロールコースとして、定期的に見回るようなって数年が過ぎる。
フェンスで囲まれて以来、厄介なことはそう起きなくなったはずだったが、不信な大きな物音がすると連絡を受けて、パトロールの時間外にやってきた。


「おい」


運転席にいた相方が、開けていた窓から顔を出した。


「女のものだな?」
「通報では、不信な物音だけで・・・悲鳴やそういうのはなかったみたいだけど、一応連絡しておくか・・」
「もう少し先まで行って観た方がいいな。この先は、”天王山”だ・・そっちに連れて行かれていたら、問題だ」


急ぎ足でショルダーバックを手にパトカーに乗り込んだ。


「?」


無線機のマイクを手に取った、運転席の警官が、助手席の相方を見る。


「どうしたんだ?」
「・・・え、ああ・・・・いや」
「どうやら、何もないみたいだな・・・ここにフェンスが建って以来、パトロールも楽なもんだ」
「ああ、そうだな」


{えー・・こちら、××ー△○区・・不信な物音があったと報告された教会跡地、問題なし}


報告し終えて、マイクを戻す。


「蝉が鳴かなくなったよなー・・最近は」
「ああ、そういえば、そうだなあ、昔はうるさくて眠れなかったんだが・・・」


不思議そうに聞き手をを開いたり、閉じたりしながら、警官は頭をひねる。


「何かを持ってたような?」
「ん?」
「いや、・・何か拾わなかったかなーっと・・・」
「意地汚いな、警官が拾い食いか?」
「そんなことするか!って・・そういえば、小腹が空いたな」
「帰りになんか買ってくか・・・」
「そうだな」
「牛丼?」
「さっぱりしたのがいいなあ」








<イワン、ありがとう・・・・>






####



昼の時間のイワンは、赤ん坊の躯に負荷がかからない程度の軽い睡眠を必要とする。
能力を使えば、使った分の体力を取り戻すために眠りにつく。が、今回はそれほどの能力を使わずに昼の時間が終わりそうだ。と、思う。が、能力以外のことでは、いつもよりも疲れたように感じている。


<ヤレヤレ・・・>


ギルモアとグレートが休んでいるホテルに一緒にいたはずのイワンだったが、今は、その身をアルベルトが泊まるホテルの部屋に移していた。


「何かあったのか?」


赤ん坊らしからぬため息をついたイワンに、手にしていた単行本から目を離した。


<・・・・結果ヲ聞キタイ?ソレトモ、経過カラ順ヲ追ッテ知リタイ?>
「(やっと)教えてくれるのか?」
<009ト003ノぷらいばしーヲ侵害シナイ範囲デナラ教エテアゲルヨ>
「大げさだな・・・」
<僕ニのぞきノ趣味ハナイシ、芸能関連記事ミタイニ、ムヤミヤタラニ人ノすったもんだニ鼻ヲ突ッ込ム趣味ハナイカラネ>
「まるで、オレはあるみたいに聞こえるが・・・」


イワンは、ツインのベッドが2つ並んだ、窓側のベッドに寝かされていた。同じベッドに、アルベルトはヘッドボードに背を預け、脚を伸ばしてナイトスタンドの明かりを頼りに単行本を読んでいた、アルベルトの手によって抱き上げられる。


<マズ、2人ハ今、ギルモア邸ニ帰シタ>
「向こうに?、こっちではなく・・・?」
<ウン。じぇろにもニ任セタ。・・・張大人ト篠原当麻モ、ギルモア邸ニ辿リ着クダロウケド、じぇろにも二頼ンデ、彼ラハホテルヘ戻ッテキテモラウ>
「無事なんだな?」
<事件性ハナイト、言ッタヨ?>
「解ってはいるが・・・」


あやめ祭に遊びに来た、コズミ博士とさくらをコズミ博士の家へと送るために、ジェット、ピュンマ、海が同行した。
5人を見送った後、アルベルトは夜の時間のように、大人しいイワンへと呼びかけると、イワンは、素直にアルベルトの呼びかけに答えて、彼の泊まる部屋へと姿を現した。
アルベルトからのイワンへの要求は、ホテルに戻ってこない009と003を行方を追うこと。張大人、篠原当麻の安全の確保と彼らの行く先を常に報告すること。そして、彼らが009と003に接触することをさけること。

イワンはそれらを承諾したが、張大人と篠原当麻の乗った車の行き先を一定間隔で報告する意外は、2人のことの”経過”をアルベルトに一言も伝えることはなかった。

始めに、009と003は一緒に居て、無事である事だけをアルベルトに伝えただけ。
それから数時間の間、張大人と篠原当麻の行く先の街の名前や走っている道などの報告以外は、お互いに会話らしい会話もなく過ごした。


<誰よりも一番心配性デ過保護ナノカモネ、あるべると>
「妹と言うより、娘を持った父親な気分だな」
<息子ジャナイノ?>
「息子は放っておけばかってに育つだろ?」
<あるべるとガ本当ニ娘ヲ持ッタトキ、僕ハキットソノ子ニ多大ナル同情ヲ寄セルコトニナルト思ウ>
「どういう意味だ?」
<ソウイウ意味ダヨ・・・、息子ジャナイ、弟ニタイシテ、これダカラネ>
「弟妹両方だからな、2倍だ」
<相手はじょーダヨ?タッタノ2倍?>


アルベルトは苦笑して、抱き上げたイワンの前髪を撫でるようにかきあげた。
いつもは髪に隠れているイワンの双眸と、視線が合う。


「今日はそのままギルモア邸か?」
<みっしょん中ダヨ>
「イワン、お前が前に言ったように、今日は何もないと言うなら・・・」
<ソレハあるべるとガ決メルコトジャナイ。僕デモナイ。009ダヨ>
「それなら、戻ってくるな、絶対に・・」


ヘッドボードにもたれさせていた背を離し、間に置いていた枕の位置を変えて、アルベルトは再び背をヘッドボードに寄せた。


<ソウダネ>


膝に抱くイワンを抱き直しながら、ナイトスタンドに置いた、読みかけの単行本を手に取った。
彼の口角の端が、くっ。と、嬉しげにあがった。


「やっと、か・・・」
<ヤット。カナ?>
「なんだ?」
<アノ2人ノコトダカラネ>
「ああ、そうだったな。あの”2人”だからな・・・」


ぱらぱらと読みかけていたページを探す。
単行本の紙が作り出す微かな風は、優しくイワンの頬をくすぐった。
印刷されたインクと、古書独特な香りを胸いっぱいに吸い込んで、イワンは言った。


<2人ヲコッチニ連レテクルノハ、アノ3人デイイヨネ。ツイデダ>
「本当についでか?」
<ウン。ツイデダヨ>
「・・・ついで、か?」
<ソウダヨ>
「ママを取られたから・・・、じゃなく?」
<やだナ、あるべると。僕ガソン小サイ男ダト思ッテイルノカイ?>
「実際に(躯は)小さいから、いいんじゃないか・・・・・?」
<ダヨネ>
「・・・」











####


「んだって、直でホテルに帰らず、ギルモア邸に寄らなきゃなんねーんだよ!」


ジェット、ピュンマ、イワンはさくらの失恋のウサをはらさせるために、買い込んだ食料品とともにコズミ邸で一晩を過ごした。
ただ、泣き続けるだけのさくらに対して、彼ら3人は特に何も言葉をかけることなく、さくらの部屋としてあてがわれている、2階の1室で、派手に食べ始めた。

自分を心配してきてくれたはずの3人に構われることなく、ホテルにいたときのような慰めの言葉も書けてもらえない状態で放って置かれっぱなしのさくらは、さめざめと泣き、自分がどれほどジョーにひどいことを言われたのか、そして、どんなにジョーを好きだったかを、3人にむかって自分への対応の抗議も兼ねて涙にむせた。
聞き取れない日本語で話し始めたと思えば、海が英会話ができることを知り、さくらは英語でべらべらと不満と怒りをぶち巻き始めた。

どうやら、彼女は日本語よりも英語の方が、気持ちを伝える方法として楽らしい。


ジェットがこっそりコズミ邸のキッチンから失敬して来たアルコールも手伝って、胸に支えた思いをすべて吐き出させた後、こんな駄菓子なんて口に合わないだから!っと、言いつつも、海が進めた激カラスナックを頬張ったまま眠ってしまったさくら。

定時にやってきたコズミ邸のお手伝いであるミズエに、ピュンマがさくらのプライドを傷つけることのないように、事の起こりを説明し、後を任せた。

さくらの車でコズミ邸までやって来た3人は、タクシーを使ってホテルに戻ることにする。
コズミ邸から電話を入れてタクシーを呼んでもらったとき、イワンから直接テレバスが飛んで来た。


「うわっ」


頭に直接響く、幼い子の声に海はその通り飛んで驚いた。


「イワン。おはよう」


飛んで驚く海にたいして、ピュンマは笑いながらイワンに朝の挨拶をする。
そして、彼から伝えられた”ぷち・ミッション”のために、タクシーの運転手に伝えた行き先は、ギルモア邸。

ジェット、ピュンマ、海の3人は今、邸のリビングルームにいる。
正確には、海が、だ。
夜通し起きていた海は、タクシー内でうつらうつらと船を漕ぎ始め、そのまま起こされることなく、今はリビングルームの特大L字型ソファを1人で占拠していた。

海を起こさないように、ジェット、ピュンマはジェロニモが入れてくれた珈琲を手にダイニングルームにいる。


「・・・知らん。」
「イワンがさ、ギルモア邸で珈琲を飲んでからこっちに帰ってこいって言うんだ」
「・・・・・・そうか。」
「っでよ、ジョーとフランソワーズは結局どうなったんだよ?」
「・・・」


さくらの相手をしながらも、ずっと携帯電話からの報告を待っていたジェットとピュンマ。
イワンからのテレパスを受信したとき、もしや。と、身構えた。

それが、”ギルモア邸で珈琲を飲んでから帰ってこい”とのこと。



「あいつら、マジに無断外泊かよっ!?」


何も答えないジェロニモにたいして、ジェットが驚きの声をあげた。
ピュンマは静かに、いつもよりも少し薄めの珈琲を楽しみながら、ジェロニモとジェットの様子をうかがっていた。


「・・・むう・・・・」


ジェロニモは悩んだ。
ジェットに言うべきか、言わないでおくべきか。
(ピュンマ1人ならきっとジェロニモは迷うことなく言っていただろう。)


2階にいる、2人のことを。


いったい、何を意図していこの3人をギルモア邸にわざわざ呼んだのか。
ジェロニモはイワンの考えが理解できないでいた。

それならば、張大人と篠原当麻を追い返した理由に意味がないではないか。と、天才児に疑問を投げかける。


「イワンが意味もなく、僕たちをここに呼ぶわけないから・・・何かあるんだよ、ジェット」


ピュンマはちら。と、ジェロニモに視線を流した。
迷いのあるジェロニモは、反射的に、ピュンマから視線をそらせてしまった。その自分の行動に、あ。と、後悔した。


ピュンマは戦いのプロであり、策士でもある。
敵との見えない心理ゲームにおいて、彼のその野性的感と洞察力は009に匹敵すると言ってもいいほどに鋭く群を抜いて優れている。


「・・・ジェロニモ」
「なんだ。」


喉を鳴らして、咳払いをするジェロニモの怪しげな態度。


「ジョーとフランソワーズは、どこにいるんだろうね?本当に何も知らない・・・はずないよね?」
「ん、・・・あ・・・珈琲のおかわりはいるか?」
「まだ連絡がないって言うのは変だよね。張大人と篠原先輩はどうしたの?」
「ホテルにいるだろう。」
「じゃあ、ジョーとフランソワーズは、見つかったってことだよね?」
「・・・む。」
「でも、ホテルにはいないんだよね?」
「ああ・・・」
「じゃ、ここに居るんだね?」


ジェロニモは深く、深くため息をついた。




まだ、ジョーは起きてはいないのだろうと、ジェロニモは考えている。
きっと起きていたら、とっくに顔を出しているころだと思えたからだ。

イワンの瞬間移動(テレポーテーション)によって邸に戻ってきた2人。
意識を失っているジョーはともかく、意識のあるフランソワーズも一緒だったことにジェロニモは驚いた。


<彼女ノこころハじょーノコトデイッパイデダッタカラネ、余計ナモノガナカッタカラ問題ナク>


どうやら、イワンは自身の能力の成長をきちんと把握しているらしく、以前は物体(意識をなくした人)以外の瞬間移動(テレポーテーション)は無理だったが、最近は意識のある人間でもその人物の思考が1つのことに集中し雑念がない場合なら可能になったと言う。


ジョーとフランソワーズの間に何があったのかは、イワンのような”能力”など必要なかった。
イワンから連絡を受けてジョーの部屋に居たジェロニモに、姿を現したフランソワーズを観れば、言葉など何もいらない。

フランソワーズと一言、二言、言葉を交わし、ジェロニモはジョーの部屋を去った。
2人には、2人だけの時間を誰にも邪魔されることなく過ごしてほしい。と、ジェロニモは願ったからだ。のにも関わらず。


「いる。」


ジェロニモの発した二文字に、ジェットは驚きと意地悪な悪巧みに加えたニヤけた顔がいっしょくたになった、とても奇妙な顔で、珈琲を一気に飲み干した。


「ダメだよ!ジェット」


先に素早く釘を刺す、ピュンマ。
ニヤニヤとした笑いを顔中にひろげて、ジェットはジェロニモに珈琲のお代りを催促した。


「これで、まったくぜんっぜんっ、蟻の一歩ほどにも、進展がなかったらよっ、さくらのためにも、フランソワーズのためにも、オレは009に決闘を申し込むぜ!」
「放っておいてやれ。」
「・・・・003を省いて、まあ、001もかな?」


意外なピュンマの台詞に、ジェロニモが驚く。


「博士もこっちだぜ!」
「僕だって、そろそろ胃痛から解放されたいんだよ」


驚いているジェロニモに対して、にっこりと笑ったピュンマの目は本気だった。















####

「ジョー・・・?」


枕の布擦れの音に、フランソワーズはジョーが目を醒すのだと、緊張した。
ずっと、にぎっている彼の手に思わず力が入ってしまう。

もうそこまで浮かび上がっている意識に呼びかけるように躯をジョーの眠るマットレスに体重をおき身を乗せて、彼の顔を覗き込む。

その行動に、ちょっとしたデジャブを感じた。













躯を完璧に修復されたというのに、長く、意識が戻らない、009と、002。

奇跡の生還と喜んだのは、ほんの一瞬のこと。
海底に沈んでしまったドルフィン号(1st)のような、以前構えていた研究所のような施設などなかったために。
自分たちの手で潰し、BGから放棄されたいくつかの、研究施設を頼り、がらくた同然の機材をなんとかより集めて、反BGを訴えるギルモアを通して活動していた研究者たちの援助の元、懸命に2つの命を繋ぎ止めようとした時間。


処置が手遅れだったのかもしれない。と、諦めかけながらも、希望を捨てきれなかった。


同時に。


2人を科学の力で”甦らせる”ことなく、願わない死ではあるけれど、サイボーグであっても自然の摂理から言えば、2人をこのまま安らかに眠らせるべきではないのか。という声も聞こえていた。

安らかな眠りの先には、もう戦いはないのだから。と、何人かの学者たちがギルモアに意見しているのを、フランソワーズは聞いた。



「博士、ダメですよ・・。ジェットもジョーもお寝坊さんなんですから・・・・。もう少し待ってあげなてください・・・」


毎朝、フランソワーズは決まってギルモアに言い、意識のない2人の世話をし続けた。


「まだ、ジェットはお腹が空いてないんですわ・・・。ジョーは、きっと夢の中でも旅をしているのね」


そんな毎日の中でジェットの、ジョーの、”目覚め”のサインを見つけたのは、フランソワーズだった。
見間違いかもしれないと、彼の反応を確かめたくて、じっと、じいいっと、身を乗り出してジョーの顔を覗き込む。

陽の色によってかわった髪色を枕に押し付けるように、微かに左右に振る。
重たい瞼を押し上げるために、力が入った眉が眉間に皺を作った。
潤いのない声帯をかすめた空気が、かすれた音を出す。
握られている手に反応して、肩がびく。と、震えた。

ジョーの動作のひとつひとつを見つめる、フランソワーズ。


「・・・m・・・・n・・?」


覗き込むために体重をかけていた両肘が、その重さから解放されると、握ってた手が離れる。
握られて動きを制限されていた手が、自身の顔まで移動すると、額にかかっていた髪を鬱陶しそうに梳きあげるように払いのけて、乾燥している唇を巻き込み噛んだあと、浅いため息が漏れた。


睫毛が揺れ続けて。
揺れる睫毛の間から見える、琥珀色の輝きに、フランソワーズの胸が興奮に早鐘を打ち、高鳴り、心臓の動きに会わせて躯が揺すぶられて。

あのときは声が出せなかったために、脳波通信から送られた電子信号だったけれど、今は、その声を耳で聞いた。


<・・・・・ここ、は?・・・僕は・・?・・・・・・・・>
「・・・・・ここ、は?・・・俺は・・?・・・・・・・・」





ジョーの視線がぼんやりと人物を映し出す。
瞳の焦点をあわせようと、何度も瞬きを繰り替えす姿をフランソワーズは見つめる。


「ここは、・・・ギルモア邸の、ジョーの部屋よ・・」














####

黎明。と、言う言葉をいつどこで読み知ったのか、ジョーは覚えていない。
言葉とはそんなものだ。と、思う。

意識して、学業として学んだ言葉もあれば、無意識に過ごす日常で聞き知ったものもある。


心地よい目覚めだった。
躯もこころも羽のように軽く、季節風のようにさらりと、目覚めることができた。


視界にはいった眩しい光の中に綺羅めく蒼色に、朝焼けの海の香りにを感じて不意にそんな言葉が頭の端をよぎり、自分の今いる場所がどこなのか、なぜ、ここにいるのか、無意識に発した言葉に返って来た声で理解した。




ここは、”家”か。と、頭の中で言った。
”家”と意識した言葉に、ジョーは安堵している自分が不思議だった。


「・・・・部屋?」


ピントがずれた視界は線のない水彩画ようで、ぼんやりとしている。
数回またたきを繰り返しながら、ゆっくりと自室のベッドの上に横たわる躯を、起こそうとした。


「・・・ジョー、気分はどう?」


耳に心地よく響いた声が、脳内のあるスイッチを押した。昨日のことをクリアに”現実に起こったこと”として、ジョーに総てを告げる。



「・・・・・・・・・・・・・悪く、ない・・よ・・」


ゆっくりと上半身を起こす。
利き腕を支えにして、枕元近くに付き添う、フランソワーズには視線を合わせず、マットレスの端に行儀よく添えられた彼女の爪先に視線を置いて。


「・・・悪く、ない・・・・・」


床にぺたり。と、座り込んでいるフランソワーズは躯を起こしたジョーを見上げる。
窓からの光に細められた蒼は、観なければ一生後悔すると思わせるほど美しく輝いていた。


「イワンが・・」
「・・・・うん。・・・・・・・・だと、思った、よ・・」


フランソワーズの爪先から、時間をかけて視線を上げていく。
途中、彼女の唇を捕らえたとき、彼の動揺を顕すかのように、視線が離れ、幾度かその瞼が忙しなく動いた。


長く耳に残るゆるやかな波音を聞く。














フランソワーズから離れた視線がむかった先は、窓の外。
空の青か海の青か、わからない一面の青に瞳を染める。


「・・・・・・・・・・昨日、のこと、・・・dけど」
「・・・・」
「その場の、とか、・・・・・・・・一時的な、そういのじゃ、ない」
「・・・・」
「・・・でも、・・・・押し付ける、つもり、ないから・・」
「・・・・、しない、わ・・・」
「・・・・・・」
「・・・あんな、キス、私・・・、はじ、めて・・、で・・・・・・・」


上半身を支えているジョーの手が、ギュっとシーツを握りしめた。







見上げるジョーの背中。

いつも、その逞しく、強靭な背を見慣れているはずなのに、フランソワーズの瞳には、少年から青年へと変わろうとする狭間に立ちながら、必死に力をいれて、”男”であることを主張している、形にこだわる背中にうつっていた。

躯を支えるジョーの手が、握りしめているシーツの手が、汗ばんでいく。
その手とは違う、手を伸ばした。

行儀良く、マットレスの端にそえられた手が、力強く、握られた。
痛いくらいに、強く。



「俺も・・だ、よ・・・・」



その、手に視線を落とす。




フランソワーズが先に。
続いて、ジョーが。

握ったフランソワーズの手を見つめた。
握られたジョーの手を見つめた。










この手は、常に。






「・・好きだ、よ。・・・・・好き、だ、から・・・・フランソワーズのこと、好きだから、・・でも・・」





彼女の手を取り。
俺の手に取られて。


でも。





---それは、仲間だから・・・、・・・・キミにとって、俺は・・・。









「・・・・キス、して、キミの、気持ちを、無視して、・・・ごめん・・・・・。オレが、かってni・・・きmi・・・w」


ぽたり。と、手の甲に落ちた雫に、ジョーは跳ねるようにフランソワーズを観た。

今日、初めてフランソワーズを、観た。







「・・・・・・ 好 き ・・・・・・」








ぎしり。と、マットレスが大きく傾いた。









「・・・・・・・好き、な、の・・ジョーが、好き・・・・・・私・・、ずっと・・・」















---ずっと、ずっと、ずっと・・・・好きでした。










ずっと、ずっっと、ずううううっと・・・・。
あなただけを見て、あなただけを想って、あなただけを、・・・・。
















海鳥が風に乗り、気持良さそうに空を泳いで鳴いている。
近くの車道をバスが走り抜けていく。


停車したバスのアナウンスが、微かに耳に届くと、それにおおいかぶさるように、波がざああっと砂浜に打ち上げられて、引いていく。
白い泡が追いかけていくけれど、同じように残された貝殻の中で弾けて潮の香りとなって漂う。


砂の上のいくつもの跡が、波に消されて。
青に溶かされて。


繰り返し、繰り返し、終わりのないサイクルを繰り返し、繰り返し。

けれど、今の波と、これから来る波は、同じものでなく。
繰り返すけれども、同じ波は繰り返さない。

同じ波でも、同じ海から同じ浜にむかってくる波でも、それは常に新しく。








波と言う単語が同じなだけで、それは違うもの。
少しだけ、以前とは違う、それとなって。


変わらないように見えて、常に変化している。







少しずつ、・・・・少しだけ・・・・・けれど、確実に・・・・・。











「信じられ・・ない・・・・」


固く、固く、想い人を腕に抱きながら、呟いた。
胸元をその人の熱い涙で濡らし、亜麻色の髪に唇を寄せながら、何度も、信じられない。と、音にする。


腕の中の、人が、頭を動かして、同じ想いを通わせた人を見上げた。



「・・・・・・・・信じて・・・」



空気を揺らしただけで音にならなかった声。




「・・・・・・・・・・・フランソワーズ」









好きだから、・・・・・キス、したい・・・・・・。


キスをするのは・・好き、だから。











重ねられただけの、それが感じたのは、海に潜ったときに感じるのとかわらない味が、した。
どちらの、涙が、そうだったのか。

わからない。

















「・・・ジョー」
「・・・・・・、な、に?」
「・・・・・・・・・・・おはよう」






ジョーの唇から離れた、それが、頬に触れた。



「おはよう・・フランソワーズ・・・・・」
















====17へと続く。








・ちょっと呟く・

ここの9ですからね、また気絶(笑)
...いえ、大丈夫ですよ。
一回空気抜きましたからね。

00さんたちの予想より遥かに進展した2人でしたー(笑)


本当は3のお返事を引っ張ろうとしたんですが。
なんだか妙な展開になりそうだったので自粛。
web拍手 by FC2
素敵な偶然?
注意)239です。
2→3←9なのか、どうか・・・は、どうなんでしょう。
でも、完全なる93です。
すみません、わからないです。なので、地雷な方は避けてください。

「今日のおやつだったのよ?」 ジェットの腕の時計へと視線を向けて、ため息まじりに呟いたのは、フランソワーズ。 「予想を超えて・・・の、この列だぜ」 「さっき、テレビ・クルーもいたわ」 「マジか?」 「ええ」 ジェットが気づいていなかったことに不思議に思いながら、真剣にフランソワーズは うなづいた。 「映ったのか、オレら?」 「いいえ、私たちが並ぶころには引き上げていったわ」 フランソワーズが目撃したときにはすでに引き上げようと、カメラなどを店の 端っこに寄せ付けた大きなバンに片付けていることろだった。 「すっげ-な、ドーナツ屋1つで、ニュースになるたあ・・・」 「地元ニュースならあるんじゃなくて?」 「ここは世界のTOKYOだぜ?ローカル局に入らねえって」 「ジェットはどうして、このお店を知ったの?」 「新聞」 「テレビと変わらないじゃない」 「そっかー?」 フランソワーズの視線が、ジェットの手首に再び絡まった。 デジタル表示の数字が気に食わない。予定としたおやつの時間はとっくに過ぎて、 夕食の支度にキッチンに立っているはずの数字だったからだ。 「ねえ、もう帰りましょうよ」 「は?!」 「また、騒ぎが落ち着いてからくればいいわ、ミスタードーナツも 美味しいもの」 「1時間以上も並んだんだぜ?もう少しじゃねーかよ!」 「でも、ちっとも動いてないんですもの、お夕飯の支度だってあるし・・」 フランソワーズはため息をつき、前に続く列へと視線を移した。 長い、長い列が、1つのお店のドアへと吸い込まれる事なくただ、そこにある。 「そんなの、張大人に任せとけって!」 「でも・・・」 「ここまで並んで、そりゃないだろ?」 珍しく男らしい凛々しい眉を提げてみせるジェットの表情(かお)に、フランソワーズは 深呼吸に近い深いため息をついて、彼の申し出を受け入れた。 ジェットとフランソワーズの2人は今、日本に上陸したばかりのドーナツ・ショップの前(?)にいる。 ジェットが言うには、アメリカではとっても有名で定番のドーナツ・ショップらしいが、 アメリカと言えば「Dunkin' Donuts」だと思っていたのは、フランソワーズ。 「Krispy Kremeの方が古いんだぜ?」 「あの時、ジョーってば、ドーナツは一生食べなくていいって言ったくらいよ? 案内してくださったメーガンがいつも待ち合わせ場所にDunkin' Donutsを 指定してくるから、朝食がどうしても、そこになっちゃって・・・」 Dunkin' Donutsは、博士のお供で行ったアメリカのMA州で、朝食として毎日の ように食べた。 先に音を上げたのは日本人のジョーで、彼はベーグルにクリームチーズさえ塗ら なくなってしまったほどだ。 Dunkin' Donutsは訪れた先のMA州が発祥の地だったらしく、それを知ったのは 日本に上陸したKrispy Kremeのドーナツを買うための列に並んで間もなく。 ジェットはフンっ!と、彼自慢の鼻で笑う。 「解ってねーなー、アイツは!まあ。日本はよ、朝っぱらから塩辛いからな・・ まったく」 「そうよね・・白ご飯はいいのよ、はじめは黒くってびっくりしたけど、ご飯に のせる海苔の瓶は甘いし♪ジョーがネットで取り寄せてくれた四万十川の 海苔も、緑色でなんで?と、思ったけどとっても美味しいわ」 「おお、あれは上手いな」 うん、うん。と、フランソワーズに深く同意する意思を表すように首を縦に振った。 「ピンクの粉(桜田麩)も可愛いし、好きよ!でも、朝からお味噌汁に、シャケに ・・ジョーが用意していくれる朝ご飯はとっても塩辛い献立なのよね」 「アルベルトもな・・」 「んー、でもパンとチーズに、たっぷりにのジャムで、ココアよ?」 「ココアは無糖じゃん」 「そうだけど・・・ジャム、は”塗る”じゃなくて、”乗せる”だもの」 「あの量はさすがに、なあ・・」 「でも、ジェットはチェリー(ジャム)ドーナツ好きでしょ?」 「おお、ジャムのドーナッツは好物だ」 家族の食の好みについての話題で幾分か、盛り上がりをみせて、ひとときをやり過ごす。 ロープで貼られた列に加わり、既に1時間が過ぎ、映画ならクライマックスにむけて 多いに盛り上がっているころだろう。 そんな長い時間を、気の短いジェットが黙々と自分の番がくるのを待っているのは、相当 食べたいのだ。と、そんなジェットが可愛い。と、フランソワーズは思う。 もしくは、たかだかドーナツ屋くらいで、お祭り騒ぎになる平和な日本の空気を 満喫したいのか。 お祭り好きな彼らしく、ちゃんとそのイベントに参加したかったのかもしれない。 けれど、1人ではこの列に加わる勇気がなかったらしく、偶然、今日のお茶の 時間の”おやつ”は何がいい?と、聴いてきたフランソワーズを連れて街に出て来たのだ。 ---ドーナツは、ジェットにとって故郷の味? ふと思い浮かんだが、どちらかと言えば、バーガーとか、ホットドックでは ないか?とも思う。 イタリア系アメリカンだ、とも言っていたので、ラザニア?とも浮かんだ。 「並んだの、後悔しないくらいに旨いからよ!な!」 「・・・」 人の列に加われば、自然とクリアに受信してしまう音たち。 前後のこそこそとした声だけでなく、最後尾についた学生グループの笑い声。 店の中でのやり取り。 ジェットとの会話に集中していたが、さすがに疲れはじめたフランソワーズ。 正直、好奇心もあってジェットについてきたけれど、ドーナツなら、日本のでも 十分にフランソワーズは楽しめる。 「みんなとは別に、好きなの買ってやるって!!」 「もう・・・、今日はこれで1日が終わっちゃうのね」 『いらっしゃいませー』 聞き飽きてしまった、甲高い、独特なイントネーションをつけた接客用の声が、 フランソワーズが立ち続けている間に、少し枯れてしまったように思えた。 買う方も大変なら、それの倍、売る方も大変なのね。と、感想を持った フランソワーズの耳に飛び込んで来た声。 『あの・・・オリジナルのを11個と、あとてきとーに・・・』 ---?! 聞き逃すはずのない、声。 絶対に、間違うはずのない、声。 今日、昼食の後、邸内で姿をみかけなかった、人の声。 じいっと、数メートルほど距離のある店を睨むフランソワーズに、ジェットは焦る。 なんとかフランソワーズの機嫌を取ろうと、あれやこれや、彼女が興味ありそうな ことを口にするけれど、フランソワーズは乗ってこない。 フランソワーズではなく、今度はジェットが深くため息をついた。 「わーったよ!なんでもフランソワーズが・・・」 お前がしたいこと、好きなのに、つきあってやっから・・・。の、言葉は舌に載せる事は なく、飲み下された。 「ふふ♪素敵な偶然ね!」 長い列から出てしまった、フランソワーズ。 それを舌打ちしながら追いかけるジェットの視線の先に、大きな箱3つを 特大の紙袋に入れ、それを手に提げて出て来た、栗色の髪の青年がびっくり眼のまま 足を止めた。 「・・・明日、僕が朝食当番だから、・・・・・ほら、前にさ、日本の朝食は塩辛いって 言ってたし、MA州に行ったとき、キミ、朝にドーナツでもいいみたいだったから、 その・・・さ。こういうの、の、方がいいのかなあ。って、思って・・・」 良く知る2人を前にして、ジョーは何も聞かれてもいないのに、自分がココにいる 理由を説明し、はい。と、特大の紙袋の中の、箱詰めにされた物とは別の、小さな 紙袋を取り出して、フランソワーズに渡した。 「なあに?」 フランソワーズは知らないフリをした。 「ん・・まあ・・・、その、もしもフランソワーズに見つかったら、朝まで待てない だろうと思って・・」 カスタードクリームの入ったドーナツが、好きなフランソワーズのために、その 1つだけを別に包んでもらった、ジョー。 『あの、フランソワーズ用にチョコレートカスタードを、箱に入れず、1つ別で・・。』 店内で、自分の名前がジョーの口から出て来るとは思わなかった。 しかも”フランソワーズ用”。 店員は気にする様子もなく、手慣れたようにチョコレートカスタードドーナツを1つ、 紙袋にいれた。その間、ジョーは口にしてしまった言葉に、1人焦る。 そんな彼を、視ていた、聴いていた、ことは、フランソワーズだけの秘密。 嬉しそうに微笑んだフランソワーズが、それを受け取ろうとしたとき。 ジェットの手が伸びて、紙袋を横から奪うと、その中のチョコレートカスタードを 取り出してばくん!と食べた。 「ちょっと!ジェット!!!ひどいっ」 「ジョー、なんで”ラズベリー・ジャム”じゃね-んだよ!」 「・・・ジェット、だって・・その、それは・・」 ばくん、ばくん!っと、あっと言う間に3口で、”フランソワーズ用のそれを食べきって しまった。 ぶうううっと膨れッ面のフランソワーズなど、放っておく。 ついでに、ジョーの手にある特大の紙袋を奪い、「オレが持って帰ってやるから」と、 さっさと駅へと早足で向かうジェット。 「ダメよ!朝ご飯にってジョーが!!」 紙袋にごぞごそと手を突っ込むジェットの背に向かって、フランソワーズが叫んだが、 ジェットは無視して、ドーナツを持った手のまま、高く掲げて、バイバイ。 「・・・・フランソワーズ」 「ジョーっ、なんでジェットに取られて、怒らないの?!」 小さくなっていくジェットの背中にむかって指を指し、今度はジョーにむかってフラン ソワーズはぶう。と、膨れてみせた。 「怒るって言うか・・・僕てきには、その・・」 「絶対に、邸に帰るまでになくなっちゃうわよ!」 「・・・キミがジェットと2人で、ここに並んでいたのが、・・・・」 「え?・・・・・ジェットと?・・だって、ジョー、誘ってくれなかったじゃない」 「う、うん・・そうだけど・・」 「私たちも帰りましょ、ジェットから取り返さなくちゃ!」 「・・・・あの」 「?」 ジョーは、ジェットの後を追おうとする、フランソワーズの手を取って引き止めると、 うつむき加減に呟いた。 「・・もう一回、今度は、ええっと、疲れてなかったら、だけど、・・イヤじゃなかったら、 なんだけど、僕と・・・並ばない?・・また、買い直せば、いいし、その・・・・・さ、あの、 ジェットに食べられちゃったし、キミのを」 ***** 駅に向かって歩くジェットは、遠く離れた位置から、振り返った。 派手なグリーン色の看板の下に並ぶ、人の列の最後尾についた、見慣れた 髪色の2人。 けれど、その列の中では一際目立つ、2人。 「帰ろーっつったの、どこのドイツだよ・・・って、アイツはフランス人だけど」 特大紙袋の中に手を突っ込み、セロハンテープで止められた蓋を変な折目を つけつつ、中からもう1個、ドーナツを取り出す。 ばくん、と、口に放り込んだ。 「お。今度はグレーズドレモン!」 口の周りをシュガー・バウダーで汚しつつ、甘酸っぱい、それに満足した。 「日本じゃ、恋はレモン味だったな」 end. *らぶらぶな時って、目的の物や場所よりも、並んでいる間の時間が楽しかったり しませんかー?  日本の朝食はしょっぱい!は、よく言われるのです・・・。  アメリカンもしょっぱいと思うんだけど・・・。ベーコンとか。  でも、ホットケーキのサイドに、ベーコンとスクランブルエッグが乗せられた、 学食にはびっくりしましたよ。甘辛い!? 写真by長靴猫 ⇒ 続きを読む
web拍手 by FC2
『少年マガジン2008/24号の特別トレビュート読み切り”009”』からの妄想です.
注意)これは『少年マガジン2008/24号の特別トレビュート読み切り”009”』からの妄想です。
知らなくても、ぜんぜん大丈夫です。が、あれはダメだ!と、言う方は避けてください。

(漫画はこんな感じでしたジャンが日本の少年院を訊ね、ジョーと少年院からの脱走を試みた村松と言う青年の面会から始まります。
村松から脱走した日のことを聴き、ジャンは、世界中で行方不明になった9人のことを村松に言います。そのうちの1人がジョーであり、1枚の写真を指差し、妹だ。と、告げて、自分は妹の消息を探しているうちに、世界に暗躍する何かしらの大きな組織が・・・となって、B.G内で009の目覚めになります。
そして、8人プラスG博士に出会い、BGとの戦いが始まる・・・endです。


93ウッスイです。出会いですから、そんなもんですかいなー?
(漫画は93要素なんて微塵もなかったですが・・・)
メインはジャンと3です。

なんて時期外れな・・・(汗)





「さっきの、あれ、誰だ?」

キッチンに立つ妹には視線を向ける事なく、ダイニングテーブルに置いたまま数週間経ってしまった、中盤で興味を失ってしまったミステリー小説を手に、バレエスクールからまもなく妹が帰って来るころだ。と、不意に見下ろした窓から眼にしてしまった光景を思い浮かべて、静かに言った。

オーブンにいれたチキンが焼ける、ほどよい香りが2人暮らしのアパートを満たす。
ダイニングルームとひと続きになったリビングルームの窓が開け放たれて、アルヌール家の夕食の献立が、近所に伝わっていることだろう。

「さっきの、あれ、誰だ。・・・って、何?」

兄の言葉をオウム返しで返したフランソワーズは、インゲン豆をさっと湯通しして、熱したフライパンにいれた。

「さっきの、あれは、あれだよ、・・・知ってるやつか?」

耳にここちよくプライパンの上で焼き跳ねるインゲン豆の音。
親しそうに妹とハグを交わして去って行った、少年とも青年とも見分けがつきにくい、妹と同年代であろう姿が、フライパンの上から飛び上がる油のように眼にチラついた。

「いやらしい」
「なんだと?」
「兄さん、いやらしいわ」

予想していなかった言葉が妹から返ってきたので、ジャンは持っていた本を投げるようにダイニングテーブルの上に置いた。

「なんだ、その言い方は!」
「だって、黙ってみてるなんて、・・いやらしいわ!」

コンロの火を止めて、2つの皿に盛った妹の後ろ姿を観ながら、ジャンはもう一度言った。
今度は、はっきりと。

「あの男は、誰だ?お前の、ボーイフレンドか?」

フランソワーズは、黙ったまま、使ったフライパンを流しに置いて、洗い始めた。
水道の水が勢い良く流れて、2人の会話の邪魔をしているかのように聴こえる。

「変なやつじゃないだろうな?」
「・・・」
その勢いは、まるで妹の”関係ないでしょ!”の声のようにも思えたが、意識的に声を大きくして妹に尋ねた。

「オレが家にいるのわかってて、挨拶もなしか?」

流しの水を止めて、フライパンをもう一度火にかけて水気を飛ばす。

「紹介できないようなやつが、なんでのこのこ、家にやってくるんだ?フランソワーズ」

コンロの下に備え付けのガスオーブンの中をのぞく。
とろりとした油をオーブン内のオレンジ色のライトに照らされる1/4lbの2つチキンが、とても美味しそうでしょうと、自らをアピールする。

「聞いているのか?フランソワーズ!」
「き、い、て、ま、す!」

オーブンの中をのぞくために屈んでいた腰を伸ばしたフランソワーズは、くるっと兄が座るテーブルの方へと向き直った。

「もうっ!!私だって16歳なのよ!ボーイフレンドの1人や2人!居ておかしくないんだから!!」
「な!1人じゃないのか!?」
「そうよっ!いーっぱい、いーっぱい、いるんだからっ!だから、いちいち兄さんに紹介している暇なんてな、い、の!」

”いーっぱい、いーっぱい”の部分を強め、腕を広げて、その数が多い事を主張したあと、くる。っと再び兄に背をむけると、お隣のマリアンヌおばさんからもらった、彼女特性のマッシュポテトとグレービーソースを2つの皿に平等に盛られたインゲン豆の隣によそった。

「ひ・・・とりじゃない・・・て、お前、は・・・」

ジャンは、言葉をなくして呆然と妹の背を見つめる。

「もう!いいじゃない!いい加減に妹離れしてちょーだい!」
「オレはお前を、そんな妹に育てた覚えはないぞ!!!」
「育てられた覚えありません!自分で育ちました!」
「!」

オーブングローブをつけて、ガスオーブンからチキンを取り出す。ハーブの香ばしい香りが一段と強くなり、ジャンの空腹の胃を刺激した。

このイライラは、空腹のせいなのか。いや、違う。と、オーブンから出てきた夕食のチキンにたいして口内に溢れる唾液を飲み下しながら、ジャンは思春期まっただ中の妹、フランソワーズに、今までとは違う”心配”をしなければならない時がやってきたのかと覚悟する。

バレエスクールに通う妹は、街でみかける同年代の少女たちに比べてとても細く、ダンサーとしては恵まれた肢体ではあるが、性的な意味での魅力はかけらも見当たらない。
けれど、身内ながらの贔屓目でみても、近所の評判通りの娘になった、いや、それ以上だと、ジャンは思う。

じいっと兄に無言で見つめられて、フランソワーズはため息をつきつつ、トレーにのせた夕食の皿をダイニングテーブルへと運んだ。

すでに4人がけのテーブルの上には2人分の夕食のためのテーブルセッティンが整っている。
兄の前に、得意料理の一つである、12種のハーブ焼きチキンの皿を置いた。

「心配しなくても、大丈夫よ。私には”手のかかる”スペシャルな人がここにいるんですもの、ただの”お友達”なの。今はバレエと兄さんで手一杯だわ」

幼少時のころと何一つ変わる事のない愛らしい笑顔でにっこりと微笑みながら、トレーをキッチンへと片付けて、ジャンの向かい側のテーブルに着いた。

「別に、ボーイフレンドができて悪いとは言ってない。ただ、ちゃんとそういう人ができたら、紹介しろってことをだな」
「紹介する前に逃げちゃうわよ、兄さんがLe Commandement de la Force aerienne de combat(CFAC)所属なんて知ったら・・・。当分無理だわ。私がお嫁さんになれなかったら兄さんのせいなんだから!」
「嫁になれないのを、オレのせいにするなよ」

じゃあ、いちいち詮索しないでちょうだい。と、言いたげなため息をついて、ジャンが手にしたミネラル・ウォーターを開けるのを見つめる。
開いた瓶からグラスに注がれて行く様子を観ながら、フランソワーズは言った。

「私はバレエで生きて行くの、だから、別にいいのよ。・・私は兄さんがいれば、いいの!」

妹の言葉に、じんわりと感動しながらも、兄としてはそれはそれで別の心配が胸を突く。
現役軍人である以上”もしも”がないとは限らない。

1人。この世にフランソワーズが1人きりになってしまう。


そう考えれば、いつか。




いつか、自分の代りに、いや、自分以上にフランソワーズを愛し、守り抜いてくれる男が現れてくれることを心の底から神に祈りたい。

「フランソワーズ」

ミネラル・ウォーターが注がれたグラスを手に、喉を潤したフランソワーズが、夕食のチキンにナイフを入れた。

「バレエもいいけど・・、フランソワーズ」
「なあに?」

熱々のチキンを口に入れて、今日の夕食の出来に満足そうに瞳を細めた。

「・・・・・・、幸せになろう、な?」

ジャンの言葉に咀嚼していた口が止まり、きょとん。と、見開いた空色の瞳が兄を見る。
父親譲りの、澄んだその色は、ジャンが一番好きな色だ。

「なろう、じゃないな・・・。絶対に、なれ、ならなきゃ、ダメだ。いや、なる!フランソワーズ、なるんだ」

テーブルの上に沈黙が落ちる。
真剣な表情で見つめてくるジャンにむかってフランソワーズは、くすっと、微笑んだのは、歩道で信号待ちしているほどの時間の後。

「いやね、・・・突然何を言い出すの?・・・私は、今で十分に、神様に感謝するくらいに、幸せよ。もう、いっぱい、いーっぱい!幸せなんだから、これ以上幸せになっちゃったら、何かすごく怖いことが起こりそうだわ!」
「怖いことなんて、起らないさ。Armee de l'air franeaiseが全力でお前を守るんだからな」
「公私混同!一般人の私のために軍が動く訳ないじゃない!」
「いいや、動く!動かしてみせる!」

ジャンの真剣な物言いに、フランソワーズの喉がきゅうっと、締め付けられて。
痺れるような感覚に瞼の奥が熱くなる。

誤摩化すように、フランソワーズはお隣のマリアンヌおばさん特性のマッシュポテトを口を放り込んだ。ジャンはそれ以上何も言わず、妹の得意料理を楽しんだ。


その年の短い休暇を終えて。


長い冬が去り、17歳になったフランソワーズへの、誕生日プレゼントとして、父の形見の1つであった懐中時計を譲った。
夏を前にして取った休暇を楽しみにしていると、妹から手紙をもらい、その手紙を手に、バスに乗って妹が待つアパルトマンへと向かう。

休暇前夜に入れる電話で、決まり文句の台詞として、「部屋で待っていろ」と、いつも妹に言うけれど、フランソワーズはアパルトマン近くのバス停で、必ずジャンを出迎える。

昨夜もまったくいつもと変わることなく、同じ台詞を言ったけれど、今日も、きっとあの場所で待っているだろう。と、ジャンは苦笑する。
戻る時間はだいたいでしか言っていない。何本ものバスを見送り、自分を待つ妹の姿を思い浮かべると、自然、こころが急いてくる。




待っているだろうから・・・。
あの、バス停で。




待って・・・いる、はず・・。


待っているんだろう?




「フランソワーズ?」




待って、いて、くれなかったの、か?




バス停に。
アパルトマンの部屋に、キッチンに、・・・・。


「フランソワー・・ズ?」


このフランスの、パリの、郊外の、小さな、街の、・・・どこかで・・・。




この世界の、どこかで・・・・!









****

蒸した熱さは、湿気のない国に住み慣れた彼に居心地が良いとは言い難い第一印象を与えた。
空港を出て乗り込んだタクシーの運転手に渡した、日本語のメモ。
そのメモを観た運転手が、少しばかり怪訝に眉間に皺を寄せて、バックミラー越しに端正な顔立ちの男を観た。

「just go... I have to go there to meet someone... It's very important」

口の中に籠るような言い方だった。
運転手は、前に止まっていたタクシーが動き出したために、仕方なくアクセルを踏んだ。

渡されたメモを持ったままハンドルを握大きく切り、右折するタクシー。
運転手が持つメモに書かれた日本語と同じものを、着ている背広の内ポケットにある手帳にも書かれている。



”Japon”
九里浜少年院 (Une kurihama ecole de la reforme)
住所 (Une adresse) _________
行方不明者(Une personne manquante)/JOE SHIMAMURA



タクシーの窓から見る日本の風景に、何も感動することなどない。
ただ、流れていく見慣れない町並みに映し出すのは、愛おしい妹のこと。


『いやね、・・・突然何を言い出すの?・・・私は、今で十分に、神様に感謝するくらいに、幸せよ。もう、いっぱい、いーっぱい!幸せなんだから、これ以上幸せになっちゃったら、何かすごく怖いことが起こりそうだわ!』


今でも思い出す、あの日の夕食。


「絶対に、・・・フランソワーズ、オレが、絶対に・・・待っていろ・・兄さんが絶対に!」


タクシーを降り、高く冷たい壁に覆われた壁の中へと入って行く。

きっちりと制服を着こなした男2人に案内されて、無機質な、生活感のない異質な空気を漂わせる廊下を歩き、厳重に閉ざされたドアを一つ、一つ、くぐり抜けて行った。

事前にある筋を通して手を打っていたために、面倒な手続きなどは総て省略されていることを、ジャンは感謝する。
通訳者の用意を頼んだが、彼の英語力はジャンが予想したほどの力はなく、書類などモタモタとこなしていたら、面会できる日はきっとジャンが滞在する間には叶わなかっただろう。




案内された面会室は、四角い古びたテーブルに向かい合うように置かれたパイプイスが2脚が中央に置かれていた。そして、壁にもたれかかったままの、たたまれた同じパイプイス1脚。
部屋に1つしかない窓からは日差しは入ってこないために、むき出しの蛍光ランプが点けられた。

部屋の窓は当然のごとく開けられておらず、空気の入れ替えなどされていないことが明らかにわかるほど、湿気たかび臭さが室内に充満していた。

部屋を静かに見渡したジャンは、付き添った2人の制服を着た男にカビ臭い部屋で待つように指示される。
視線を流した先の、鉄格子がはめられた開かない窓から見えた風景は、乳白色系の青い空だった。
ジャンは、パイプイスに腰を下ろし、両肘を冷たいテーブルの上に載せてそっと瞼を閉じた。

思い浮かべる、フランスの空。
その色こそ、最愛の妹の色。


待つこと、十数分。

オイルが切れた金具が悲鳴を上げるように、重たいドアが再び開いた。
何度も頭の中で再生する妹の姿を消して、父や妹よりも少しだけグレイがかった瞳を鋭く開かれたドアへと投げる。
ボキャブラリーの少なさが気にかかる通訳者と、見張り役の男が、薄ネズミ色の服を着た体格のよい青年を、ジャンが座るテーブルの前にあるバイプイスに座るよう、乱暴に誘導した。

「あんた、何者だ?・・・俺に、何のようだ・・・?」

冷たい濁った目つきで睨まれながら、その青年の言葉が英語に直される。

『・・・話を聞きにきた。『島村ジョー』の話を・・・・・・・』



村松。
ジャンの目の前にいる、この青年が、唯一、島村ジョーが拉致される直前まで行動していた人物。
そして、この日本には、多くの黒い影の”足跡”が残っている。


---まずは、ここからだ。







*****

「・・じゃあ、ここにいる全員が・・・拉致されて」

X島から脱出するために奪った万能戦闘機『ブラックファントム』の中で、改めて003と呼ばれる女性に様々な質問を投げかける。

操縦などは、オートシステム(自動操縦)に切り替えられたらしく、コクピットには、敵の襲撃に備えてレーダーを監視している004、008のみ。
今は、それぞれが役割を得て、『ブラックファントム』内部を調査していた。
ブラックファントムの前頭部に納められているという小型航空機、トルドーを調べるように言われた009。と、同じ方角へと向かう、003。は2人で短い廊下を歩く。

「あなたより、みんな、早くに目覚めたの・・・」

彼女は”眼”と”耳”を使いレーダーと同じ役割を担うため、敵の襲撃に備えてその能力を解放していると、009は説明されたけれど、見た目、009の前にはその能力が本当に使われているのか、判断がつかない。
自分となんら変わりない姿にしか映らない、003に少しばかりの興味を持った。

沈黙のまま歩を進める時間に、009は息苦しさを感じて「生まれてから一度も乗った事がない飛行機が、戦闘機だなんてな」と、003へと話しかけているのか、独り言なのか、判断しにくい言葉を呟いた。
その呟きが上手い具合に003のこころにひっかかり、2人の間に会話が始まった。

「・・・・あんた、も?」
「ええ」

009は、003が”外国人”であることをその容姿から理解している。けれど、自分が彼女との会話になんの苦労を強いられないことに対して、会話が進むにつれて今更ながら違和感を覚えて、そんな小さな疑問を003に尋ねた。

「私たちの”改造脳”には同時通訳機があるのよ・・」
「改造・・脳・・・?」
「・・・そう、私はフランス語を話しているけれど」
「え?・・フランス語?!」

009の足が止まってしまった。
あと1mも進めば、トルドーのハッチ(乗り込みゲート)へと続くドアがある。

「・・私は、フランス人よ・・あなたは・・・」
「日本人・・だけど」
「・・・じゃあ、あなたは今、日本語で話しているのね?」

くす。と、003は微笑んだ。
その微笑みがあまりにも愛らしく、可憐で、009は驚いた。

「ふ、フランスって、すごいな!」

自分の動揺を誤摩化そうと発した声が、なぜか裏返ってしまい、009は慌てる。

「何がすごいの?」
「え、あ・・・だって、・・、フランスだし」

009の言葉に、003はくすくすと笑い出した。

「フランスってすごいの?」
「あ、の、ヨーロッパだから・・」

これ以上一緒にいるのは、なんとなく避けたい気分になり、止まっていた足をさりげなく動かしながら、トルドーのハッチドアへとそろそろと向かう。

「ドイツも、イギリスもよ?」
「え、でも、有名だし・・」

そんな009にむかって003は、その場に留まったまま笑う。

「日本も、とっても有名だわ」
「そうなんだ・・いや、そうかな・・、あ、の、俺、そこに用があるから」

ハッチドアに指をさした、009にむかって003は頷いた。
逃げるように、ドアの中へと消えていった009を見送り、1人、ブラックファントムの廊下に立つ、003。

飛翔中にも関わらず、ブラックファントムはとても静かだった。

003は、そっと壁によりかかり、背を預けた。
拉致されたまま意識を取り戻す間もなく改造され、目まぐるしい日を、想像を超えた過酷な日が続く中でやっと、1人になることができた、瞬間。


瞳を閉じて、兄を思う。
心配している。

突然いなくなった、自分のことを、きっと、探している。


固く、固く、両手を強く合わせて祈った。


「兄さん・・・私は大丈夫よ・・・・。絶対に生きて、兄さんの元へ帰るから・・」




X島脱出後、BGへと戦いを挑むサイボーグたちをこころよく迎える意思を告げてきたのは、ギルモアがBGに組みする前から付き合いのあった古き友人。


そこは、009の国である日本。




「・・・兄さん」
「フランソワーズ・・・」


九里浜少年院で、ジャンが必要とした話しを村松と言う青年から得て、少年院のある市内に取ったホテルでチェックインを済ませて、部屋に入り、シャワーを浴びてながら、今日得た情報を頭の中で整理していった。

行方不明(何者かに拉致された)島村ジョーと、少年院を脱走し、唯一その消息を最後まで観ていた人物。


何らかの意図を持った、何らかの組織が世界を暗躍している。
その情報を得るために、リストアップした人々に会うことになっていた。

形がなかったただの黒い影が、少しずつその形をジャンの前に顕そうとしている。


シャワーから出ると、バスローブを羽織ったまま、ナイトスタンドの上に置いた手帳を手にして、ベッドへと腰を降ろした。

手帳の中に仕舞われている9枚の写真。
それらの写真を挟んだページに、書かれた面会リスト。

「Dr.Kozumi・・・」







『私は、今で十分に、神様に感謝するくらいに、幸せよ。もう、いっぱい、いーっぱい!幸せなんだから、これ以上幸せになっちゃったら、何かすごく怖いことが起こりそうだわ!』




---怖いことから、守ってやれなくて、ごめんな・・・。
 


「すぐに助けてやるから・・・!」


手がかりとなる、日本人青年JOE SHIMAMURAの写真を見た後、9枚のうちの1枚に含まれる、微笑みを浮かべたフランソワーズの写真を見つめた。









end.


プラス・・・

ーーーートルドーのハッチ内にて。

突然投げ込まれた戦いとは違った、何がなんだか解らない緊張がどっと押し寄せて来る。

耳から離れない、003のくすくすとした笑い声。
そして、彼女の澄んだ青い瞳の色と、微笑み。

厳しく、悲しげな色の表情(かお)ばかりしか観ていなかったために、突然、可愛らしく微笑まれて、動揺した。


「けっこう・・・笑うと可愛いじゃん・・・」


呟いた言葉と同時に頭の中に直接響く声が赤ん坊の声。
009は今の呟きを聞かれたのかと、誰もいない場所で独り、焦っていた。





ーーーー
*と、いうことで、こんなの書いてたんですね・・。
私、忘れてました。ちらっと書いて93じゃないやーんって放っていたんですよ。を、発掘。
93要素を付けてみましたが、なんだかなー・・・。

惜しいところで、3とジャンはすれ違う的な、展開を妄想してました。
漫画に関しては色々と意見があると思いますが、私的には二次創作的に観るとおもしろいかも。と・・・? 今読み返してみると、思います。
もしもoffで売られていたら、買います(笑)

タイトル・・(笑)は、思い浮かばなかったんで!
web拍手 by FC2
君に振り回される自分がいる/4
「仮面ライダーになんかに助けてもらう必要なんてないだろっ、ボク(=009)がいるんだからっ!」


飛び出したジョーの言葉が、偶然にも司会者が口元にさしだしたマイクを通し、テーマソングも鳴り止んでいたスピーカーによって野外特設ステージへと響かせた。

離れた場所で見守っていた家族が、驚きに口をばっくりと開ける。


<サスガ009ダネ♪>







***


落ちた沈黙と言う名の爆弾が爆発した。
大歓声中に入った鮮やかな笑いが、冷やかしの口笛とともに野外特設ステージを超えて、遊園地中に響き渡る。

遊園地3大名物の一つであるホラーハウスへと向かう人々が、一瞬何事かと足を止めて野外ステージの方向へと視線を止めた。







「・・・あ・・・・・・れ・・・・え?」


発した声を、自分の内部からではなく、外部スピーカーから聞いたジョーの両耳は火がついたように赤くなり、舞台に立つ敵兵士2人と主役の仮面ライダーは、009が加速装置を押してもいないのに結晶時間風景を作っている。


「じ、j。っ!ジョーっ!」


フランソワーズの声に、は!と、我に返った女性司会者。
どんなハプニングもこなしてみせる、それが、プロ!と、ぐっとマイクを握りしめて力いっぱいに2人にむかって、腕を伸ばして叫んだ。


「仮面ライダーっ!!愛する”恋人”を自らの手で守りたい、そんなジョー君のために、力を貸してあげて!」


司会者の叫びに、仮面ライダーは力強く握りこぶしを作り、顔前に持ってくると、ヒーローらしく、心得た!とばかりに大きくうなづいたことにより、舞台が再び動き出す。

司会者の『愛する”恋人”』と言う台詞に、フランソワーズがジョーを追いかけるようにして顔を紅く染まる。
特設ステージはさらに盛り上がり、その勢いに乗ってどこからともなく現れた、敵兵士Bが”いけ!”と号令をかけると、わらわらと未来からの敵兵士たちが仮面ライダーに襲い、戦いの火ぶたが切って落とされた。


「も!ジョーっ何を突然っ!」
「だって・・・さ・・」
「だってもなにも、お芝居なのよ?」


朱色の顔を長い前髪に隠しながら、恥ずかしさにジョーの視線は近くの舞台に設置されている階段へと向いていた。


「解ってるよ・・・っ」

---でもっ・・・!


『・・・・本当に、仮面ライダー(ヒーロー)がいたら・・・きっと助けてくれていたわよね・・・』


不意に耳に飛び込んで来たフランソワーズの声にジョーの胸が軋み、ギリギリと彼の胸を押し潰すように責める。

それは今更な取り返しようのない過去のこと。
起きてしまった事は、どんなに後悔しても無駄なことだと解っていても、どうしてもジョーは、フランソワーズのことを、彼女の”家族(ジャン)”のことを思う度に、自分の数字を憾(うら)む。


彼女の数字は、003。
自分の数字は、009。

いくら無敵だ、最強だ、最新だと言われても、自分よりも先に改造されてしまったフランソワーズは、助けようがない。
彼女が改造されているころ、自分は何も知らない”一般人”だったのだから。



けれども、もしも、自分の方が早く改造されていたら。
絶対に彼女が改造される前に、助け出していた。


もっと早く、改造されていたら、よかった。

そしたら、フランソワーズを助けてあげることができた。
そしたら、フランソワーズはお兄さんと暮らせていた。

フランンスで。
幸せに。

バレエを踊り、新しい家族と一緒に・・・・。





---なんで最後に改造されたんだよ、ボクは。




だから、せめて・・。
過去に出来なかったことを未来に。

今のボクができる限りの全力を尽くして、フランソワーズ/003を、守りたい。


たとえ、それがお芝居であっても・・・・。







「わかってるよ、お芝居って、・・仮面ライダーだから、ね・・。ごめん、変な事言って」


ジョーは、静かに薄く全身の力を抜くようにして、息を吐き出した後に、フランソワーズにむかって照れたように紅い顔のままの笑顔で言った。


「ジョー?」
「うん、仮面ライダーだからね」
「ジョー、どうしたの?」
「どうもしないよ?」


フランソワーズは不安になる。

敵兵士Aの手をするりと抜けて、フランソワーズはジョーの傍らに寄り添い、彼の腕の袖を握って少し引っ張ると、ジョーはフランソワーズの方へと顔を傾けた。
左眉根が右のそれよりも下がり、含み笑いに似たその笑顔は、何かを我慢しているとき、何かをこころの奥に隠しているときに、使う笑顔だと、フランソワーズは確信した。


いつも、そうだ。と、不安になる、フランソワーズ。
自分はいつも”人のこころ”の動きをちゃんと把握することができない。


「ね、乗り物好きでしょ?仮面ライダーはバイクに乗れるのよ!」


相手の気持ちに反応するのがいつも、遅くて、鈍くて、そのときに必要である動きができない。

大好きな人なのに。
大好きな人のことなのに。

隠されてしまうジョーの本音(気持ち)が、ジョーと自分との関係が”それだけ”の関係であることを強調されて。

彼のことがいくら好きでも、彼との距離は常に”仲間=家族"。
見せてくれてない、言ってくれない本音を、聞けるのは”特別な人”だけなのね。と、不安になる。



---アタシは、なれないの・・・?



笑顔を客に向けたときに、ふっくらとした頬にできたえくぼが、可愛い人だったな。と、フランソワーズは入場ゲート入り口でジョーに手を振った女性を思い出した。


「ね、ジョー、乗り物好きでしょ?素敵なバイクに乗ってるのよ!」


知ってるでしょ?と、フランソワーズは明るい声でジョーに言った。
思い出した女性を、その”眼”で捕らえてしまうのを振り払うようにして、ジョーにだけ、ジョーに向かってだけ、笑いかける。掴んでいる彼の袖の手に力が入る。

敵兵士Aは自分の手から逃れた人質を観ながら、舞台上の進行をチェックする。敵兵士Cは、なんとなく2人の雰囲気(ムード)に押しのけられるように、ジョーの腕から手を放して、フランソワーズと入れ替わるように敵兵士Aの隣に立った。

観客はいつの間にか先ほどのハプニングを忘れ、舞台上のアクションに夢中となって誰も2人を観ていない。

耳を塞ぎたくなるような、大歓声と特撮アクション専用の効果音が鳴り響く舞台の上で、ぽっかりと、浮かび上がるように2人の周りだけ違う時間が流れる。
互いを見つめ合った刹那の時間に、飲み込まれた、竹岡(C)と南川(A)は舞台上の進行チェックを、自分たちの仕事を忘れて、人質役として連れて来たジョーとフランソワーズの2人から目が離せなくなっていた。


「うん。好きだよ。・・でも、バイクはボクだって乗れるし」
<ドルフィン操縦するんだよ、バイク以上だと、思わない、フラン?>


彼女のウェスト部分に添えられていた敵兵士Aの手が離れたことに、気持が少しばかり浮上することを感じてしまい、自分という人間の都合の良さに、苦笑しながらジョーは答え、口にしない言葉の続きを脳波通信を使った。


「赤いマフラーよ?」


ね?とってもかっこいいわよね♪と、同意を求めるフランソワーズは、一歩大きく踏み出して、ジョーの正面に立ち、小首を愛らしく傾けて、甘えるように、ジョーの腕を抱きしめた。


「いつの次代の仮面ライダーだよ・・ボクたちだって、さ、ね?」
<(みんなと(キミ)とお揃いのを持ってるし、黄色だけどっ赤にしたっていいんだからね。・・・防護服と見分けつかなくなるけど・・いいの?>
「ベルトがすごいの♪」
「つけてるだろ?」
<防護服にさ>


『”仮面ライダーを倒すんだー!!”』の、かけ声虚しく敵は、仮面ライダーにばった、ばったと敵が倒されていく。
少しずつ2人の空気が周りと馴染み始めていくと、は!として、竹岡、南川の2人は自分たちの今の立場に気がついた。



「ただのベルトじゃないのよ?」


左に傾けていた顔を、今度は右へかくん。と、移動させた。
観ていた敵兵士A(南川)が、思わずフランソワーズの動きにつられて、首を傾けてしまった自分に照れた。


「ベルト・・ねえ・・・」
<ボク(ら)のだってその辺じゃ買えないし売ってないんだけど?>
「決めポーズだってバッチリよ!」


ジョーの腕を放して、むん。と、両手の拳を力強く握ると、可愛らしいファイティング・ポーズっぽい形を作り、ジョーに訴えた。


「決めポーズならボク(ら)誰だって出来るよ、それくらい」
<1人より9人で決めた方が迫力があると、思わない?9人だよ、戦隊ものだって9人はなかなかいないんだからね>
「武器だって色々あるのよ!」


ほら、ほら!と、舞台上で、決めポーズを取る仮面ライダーの手を指差して、ジョーの正面から、彼の隣に移動する。


「すごいのなら、ボクらのもだよ」
<麻酔銃になるし、戦車だって一発で破壊できるし、氷付けにだってできるんだからさ>
「でもっでもっでもっ!」


何を言っても言い返してくるジョーに対して、必死にフランソワーズは仮面ライダーの素晴らしさを必死でアピールする。
当初はジョーの気分を盛り上げるためだったのだけれど。

そんなフランソワーズの思いには気づかないジョーだけれども、日頃の(マニアックな)勉強の成果を披露するように、一生懸命なフランソワーズの姿は微笑ましく感じるジョーは、胸に浮かび上がってしまった思いを、微笑ましいフランソワーズの姿を見る事で振り払う。が、どうにも好きな彼女から必死に別な男の素晴らしさを(いくら架空の人物でも)語られると無意識にライバル心が刺激されるようで、素直に”そうだね、すごいね”と、言えば済む事が言えなくなってしまっていた。


舞台上では、戦いが続いている。

一生懸命にアクションシーンを熱演している仮面ライダーの視界にちらちら映る、人質たちの様子。
仮面ライダー役の男は、何度も演じている決まりきった動きの余裕さからか、カップルで人質になっている、今回の参加者は、やけにイチャイチャと、自分たちの演技を観る事もなく2人の世界を作っていることに苛つき、意識がそっちへと向いてしまう。




「でもっ、(アタシたち)変身できないじゃないっ!!」
「っう・・・・」


2人のやり取りに、いったい何の会話なのだろうか。と、敵兵士Cの頭に?マークが浮かぶころ、舞台には敵兵士AとC、そして、いつの間にか現れた未来の敵ボスの3人のみとなっていた。

変身できない。の部分で押し黙ってしまったジョーは、ぐ。と喉に力がはいる。
確かに、仮面ライダーと違い変身はしない。



そのために、変身ポーズなどない。


「・・・・うん、そうだね。変身できるのは、すごいよね」


やっと、ジョーが認めた。始めはジョーの気分を盛り上がるつもりで言っていたのがいつの間にか目的が変わってしまっている会話内容。


「ふふふ♪ね、すごいわよね!ね!でしょう?素敵でしょう!」


ふと、ジョーの胸に、5月のさわやかな空には似合わない、冷たい風が吹く。
よく考えてみれば、常々、とんでもない物(者?)たちに張り合い、嫉妬している気がしてならないジョーは、アーチ型の屋根がある特設ステージから視線を、観客席にむかって流し、燦々と輝く太陽の眩しさに目を細めた。


「そうだね、変身できないよ・・・・。仮面ライダー(たち)みたいにはね、・・・・。子泣きじじいに、ひこにゃんとか、京都たわーのタワワちゃんに・・・さ・・」


そういえば、舞台前にフランソワーズのご機嫌を直したのは、当遊園地のイメージキャラクターだったことを思い出し、もしかしらた、自分は、キャラクター以下なのかもしれない。と、空の青さが目に染みる。


「仮面ライダー、残る敵はあと3人よっ!!」


司会者の声に、仮面ライダーはポーズを取った。
そして、いつの間にかジョーたちの近くに現れていたボス怪人に向けてビシっ!!と指差し勝利宣言。


「人質のお友達を今、仮面ライダーが助けますっ!みんなっ!!仮面ライダーを応援してね!!」



決まった。と、仮面ライダー役の男、濱田は自分に酔う。が、重たく汗臭いヘッドの狭い視界にいる参加者の1人はあらぬ方向でため息をつき、そんな青年に対して、街で見かけたら絶対に落ちるまで声をかける。と、思えた、女性は怪訝に首を傾げていた。

むか。と、苛立ちが暑苦しく汗臭い、重たい着ぐるみの中で何十倍にも膨らむ。


「ねえ、ジョー」
「んー?」
「どうして、ここで子泣きじじいさんが、なの?」
「えー・・・、と、まあ、同じ、キャラクターだから、かな?」


敵兵士Cである竹岡は2人の会話の子泣きじじいに戸惑いながらも、なんとか道場の先輩の知人であるジョーに一言、「あの、・・倒されにいきますので・・」と挨拶をすませ、敵兵士Aに、人質を任せる演技をした後に仮面ライダーに挑み、いつもよりも、乱暴に投げ飛ばされて舞台を去っていった。

そんな敵兵士Cを視界の端で見守りながら、ジョーは曖昧にフランソワーズにむかって笑いかけた。が、ぼそぼそとその口の中で日頃感じている不満を呟いた。
それらは”ヤキモチ”であり、つまらない”嫉妬”であり、なんともまとまりのない内容の日常の愚痴なようなもの。聞いてみれば”惚気”と取れないこともなかったが、近頃、敵兵士Aである南川の彼女は、あるアイドル・グループにはまり、熱中していく様を観ていて芽生えた複雑な心境がジョーの呟きにうん、うん。と、無意識に首を縦に動かしてしまう。

それらが自然とジョーの不満の呟きと重なったとき、彼の頭にぱあ。と、とある閃きが「仮面ライダーになんかに助けてもらう必要なんてないだろっ、ボク(=009)がいるんだからっ!」のジョーの声とともに降臨した。


南川の個人的なことであるが、先週の飲み会にたまたま顔を出した彼女に対して、平気でセクハラまがいなことをしでかした、仮面ライダー(濱田)は、南川の彼女であると、知っていながらも、携帯の電話番号とメルアドまで手にいれて、しつこく会おうなどと連絡を入れていたのだ。

それらの行動の被害は、昔からあったが、今は司会者の夏実ちゃんの友人から、案内(受付)のバイトの女の子たちへと広まって、いつの間にか野外特設ステージ関係者を超えて、園内の中での”ステージ関係”の評判は、たった1人のヒーロー(役者)のせいでどんどん、悪くなっていく。

部所が違うバイト同士の飲み会(コンパ)で、なぜかステージ関係者がハブられることも、しばしば。
野郎ばかりのステージ関係では、それは多いに痛い出来事である。


---どうせオレは・・・。それに、なんだか似たような苦労をしょっているみたいだし。


左右、フランソワーズとジョーに挟まれる形で立つ敵兵士Aは、ジョーの腕を離して、ぽん、ぽん。と、励ますように叩いて言った。


「あの仮面ライダー、実は偽物って言う設定なんで、思いっきり(日頃の鬱憤を晴らすように)殴っていいですよ!」
「え?」
「参加者はそういう役なんで、あの役者さん、鍛えられてますから、がんばって倒してくださいね」


敵のボス怪人が思わず声を出す。


「お。おい!」
「ボス、しゃべっちゃダメですよ!」


2人をボス怪人に引き渡しながら敵兵士Aはフランソワーズに挨拶し、派手なバック転を披露したものの、仮面ライダーにすっぱりといつもよりも多めに蹴られて舞台袖に消えた。


「・・・・殴っていいの?」
「偽物さんだったなんて・・・!」
「・・・」


律儀に、それは違います。と、言いたくても、舞台上では総ての台詞が録音テープで流される、ボス怪人のために、押し黙っていた。


「そっか・・・、偽物だからね」
「・・・でも、ジョー、だったら本物の仮面ライダーが・・」
「いや、ほら、だって・・・・仮面ライダーのお手伝いだよ、お手伝い!」


フランソワーズのウェスト部分に触れてい敵兵士Aの株が、ジョーの中で一気に上昇する。

観なかったことにしよう。そうだ。素手じゃなかったし、分厚い手袋だったから、感触とか解らなかっただろうしね。と、心の中で呟いた。










***


「おいっ!竹岡っ予備のライダーの衣装っどこだ!!??シナリオ変更っ!」
「え?!」


出番を終えた役者たちがごそごそと脱いだ衣装の汗臭さが充満した控え室のドアがバーン!と勢い良く開き、敵兵士A役の南川が、頭にかぶったヘッドを乱暴に脱ぎながら言った。


「本当の敵ボスは仮面ライダーだ!」


敵兵士A役の南川は、見事な素早さで来ていた衣装を脱ぎ、予備の仮面ライダーの衣装に着替えはじめた。
何がなんだかわからないが、マンネリ化したシナリオに舞台を永遠と繰り返す役者たちは”何か”を感じ取り、わくわくと、南川の案に耳を傾けながら、着替えを手伝う。


「濱田さん(仮面ライダー(主役しかやらない)/大ベテラン/ヒーロー役をやっていることを常にネタにして女の子を口説き周りに被害者続出)がそれでキレなきゃいいけど・・」
「いいんだよ!あのどーしよーもねえ、スケベ親父!オレの茉菜にしつこく手ぇ出しやがって!どんだけ周りに迷惑かけてんのか解ってないし!それにさ、今シーズンで(バイト)辞めるから、ちょっと予定より早いけどオレが責任取るっていう形で辞めりゃ、納得するだろ?大げさに、辞めてやるからっ」
「え?辞めるの!?」
「何も知らなかったで通せよ?これも、オレが勝手に用意していたってな!」
「でも、あの参加者がちゃんと乗ってくれるかなあ?」
「乗らなかったときは、そんときだよ!」
「それじゃ、夏実ちゃん(司会者)に言ってくるぜ!」
「頼むな!夏実ちゃんの助けがなきゃ、困るからなっ」
「でも、いーのかよ、せっかく台詞有りの役やってんのに・・」
「好きだけどさ、この道で食ってくなんて考えてないって・・・大学卒業したら実家継ぐから、地元に帰るし」
「へー。そっかあ、南川ってもう4回だっけ?」
「隣の部屋(プロダクションに入っている派遣の役者)には、どうする?」
「あ、黙っとけよ!邪魔されんの確実だかんな、揉め事に巻き込むのはちーっと、申し訳ない!」
「オッケー」
「5回、留年したからな」
「実家って何やってんだ?」
「米屋」
「ほー!」


その場にいた全員に勝手な行動に対する不安がないわけではないが、南川の英断と勇気に感謝した。
これ以上、(子どもたちの夢と希望を生む)愛する職場(バイト先)を、たった1人のセクハラ・ヒーローに荒らされては、良いものが作り続けられるとは思えない上に、園内での別の部所との関係を悪化させることは、今後の野外特設ステージの存続に関わって来る。


「やっぱ辞める前に一回くらいは、な!」
「おい、急げよっ!栗原さん(いつも敵役・濱田と同じのキャリア/人望特有)が戻ってくる!」


仮面ライダー・スーツに身を包んだ、南川は控え室のドア前で、くるり。と、室内にいる仲間に言った。


「正義は勝つ!!」




竹岡は南川が控え室を出ると同時に、後方部観客席の壁に隠れるように設置されている、舞台装置・音響ブースへと携帯電話を片手に走った。








5に続く。





*・・・ふ。
 設定を広げすぎて・・・はは。このまま”お誕生日からはじまった”連載・・・に・・・・言い訳させてくださいな。もう6月も終わりですね-(涙)
web拍手 by FC2
雨の日、シェルブール気分。



薄汚れた白が、狭いビルとビルの間、無理矢理に押し込まれていた。

渋滞する車道から吹き出す色が肺を満たすごとに、キッチンの換気扇
フィルターの汚れを想像させられて、入ろうかと迷った、アメリカ発
のコーヒー・チェーン店へ向かおうとした足を鈍らせる。

街全体が少しばかり、生活のリズムを終わりに向けて早めていく中で、
不安気に見上げた視線を、安心させるかのように肩にかけていたカバン
から取り出した、カラフルな折りたたみ傘。

「傘?」

隣りを歩く連れが手に持つ折りたたみ傘は、購入したばかりのものかと
思うほどに、きっちりとたたまれている。
物持ちが良い連れが、その傘を選んだ日を覚えている。そんな意味の
ない記憶力は、喧嘩するたびに、終わってしまった過去のことを、まるで
3分前に起きた出来事のように、クリアに並べ立てる女のようで、長く
愛用している連れの傘に対する、感想は言わないことに決めた。

いまだに新品とかわらない傘に、連れの性格が出ているな。と、感じ
ながら歩いていたら、「傘?」の問いに答えてはくれなかった連れが、
「よかったの?」と、空にむけていた視線をこちらにむけて、別の
トピックを立てた。

結局は通り過ぎてしまった、アメリカ発のコーヒー・チェーン店に
たいしての答えは、首を縦に一度動かしただけで、終わらせる。


肌にまとわりつく湿気のために、歩いていても本当に足が前へと
進んでいるのかわからない。歩く速度に合わせた風を観じることが
できず、往来する車の排気ガスが空中に散っている感覚も感じられない。
通りすぎる人々とすれ違い様に生じるはずの空気摩擦も、すべてが
空気中に舞う水分によって和らげられてしまう。

重力と言うものがあるような、ないような。
不可思議な皮膚感覚から生じてしまう、視界に映る街と
聴覚から得る情報がブレて、数値にしがたい微妙な感覚のづれ。
その狭間に、すこん。と、思考が落ちてしまうことを、連れは
よく知っている。
こういう時の会話は短く、主題のないものになることが多く、
続かない。けれど、慣れているので、連れはまったく気にしない。



視界の端にちらつく、カラフルな折りたたみの傘は、その身を
銀色のボタンで、まとめられていた。
ぷちん。と、はじけるような音がきこえ、続けて、ナイロン地が
こすれ合う、さらさらとした音。
連れの利き手首が左右にひねられると、まとめられていたときには
わからなかった、絵柄がわかるようになった。

次の点滅信号から住所が変わる事を示すための、日本だと
いうのに横文字で書かれた町名を表示している、標識。それを
無意識で読んだ後、朝よりも薄まってしまった、連れの香りを
探すように、足を止めた。
連れも、同じように足を止める。

「雨?」
「ええ、くるわ」

2段階式のはじきを手で伸ばし、玉留部分にあるボタンを
押した。
ぽん!と、勢い良く開いた傘が、周りの、自分たちが立つ歩道の。
いや、連れの差した傘が目に入る人々、全員の注目を、浴びる。

傘はすっくと立ち上がり、連れと自分との間を細い銀色の線で
隔てながら、街から持ち主プラス1人を隠すと、歩道を行く人の
足が鈍り、おもしろいように、みな視界を上へとむけた。


そんな人々を目にして、くすっと笑った連れが、「潮がひいて戻って来る
瞬間の、少しだけ留まる間の音に、少しばかり似ているのよ」と、教えて
くれた。


耳をすませて。

その音が聴こえるかどうか、集中してみる。
雑多で意味のない人工音に埋もれてしまったこの街の中に立ち、
家近くの海辺を思い出す。

「くるわよ」

ぽつん。と、連れの差した傘を弾いた雫が一滴。

それが、始まりの音だった。

不可思議な視線で、連れが差した傘を見ていた人々、街、に、
彼女の意図が通じた瞬間だ。

周りから驚きと動揺の声は、彼女の言った意味とは違うけれど、波が
浜辺にかえしてきたときの音に、似ているな。と思った。
空は何を勘違いしたのか、そんな街の声を歓迎されていると受け取った
ようで、バケツをひっくり返した勢いで、雨を降らせる。
やんちゃないたずらっ子が、町中を蹴飛ばすように、アスファルトを
弾いて、弾いて。弾いて。

雨音が響く中で突然、鳴らされたクラクションが、まるで連れを褒めて
いるかのように聴こえた。

アスファルトから跳ね返る雨と、その冷たさに、ジーンズの裾が重く
なる。傘を持つ連れの手に、自分の手を重ね、連れの手が離れて、傘を
持つ、担当をかわってもらう。

「この傘じゃ、ダメかもね」
「そお?」
「戻ろうか」

さっき通りすぎた店を指して言った。

「あなたがそうしたいなら」
「キミは?」

連れの答えは、誰もが梅雨時に待ち望む、晴れ渡った青空の
ような笑顔。
激しくなる雨の勢いに合わせて、濁り霞む街の中に栄える、
目の覚めるような、カラフルな傘は、連れの故郷で買ったもの。

「この傘、お気に入りなの」

あっと言うまにできた、水たまりを遠慮なく壊して走り行く
車から、連れをかばい、歩き始めた。

「この雨でキミの躯が冷えきってしまう前に、温かい紅茶
でもカフェオレでも、・・・飲ませたいと、思ってる」
「ねえ、Les Parapluies de Cherbourgの映画、観たくならない?」
「あまり好きじゃないんだ、その映画」








end.



*もう、2週間くらいずーっとぐずぐず雨です。
 今日も朝起きて雨・・・。
 雨。

 9は嫌いと言ってますが、私は好きな映画です・・(笑) 


写真素材(c)NOION
web拍手 by FC2
Little by Little・17
(17)



ジョーの部屋を後にして、自室で身支度を整えて階下に降りたフランソワーズは、リビングルームのドアを開ける前に、深呼吸を繰り返した。
未だに躯の芯に残る熱を外へ追い出そうとするけれど、頭の中は、熱いシャワーを浴びてすっきりした感覚とはまったくかけ離れた、飽和状態。

どうしよう。と、考えれば考えるほど平常心から離れていく。けれど、たまにはムラのある気分のときが、あったりするのは当然なのだから。と、自分勝手な都合で解釈した後に、ドアの取っ手を強く握りしめた。

リビングルームのドアをゆっくりと開ける。すると、リビングルームに置かれているソファに、のびのびと体を横たえて眠る、海の健やかな寝息が、邸近くの波の満ち引きよりも少し遅れたタイミングでフランソワーズの耳に響いた。
そのなんとも長閑な寝息に、フランソワーズの胸はすっと落ち着いていく。と、ずっと昨夜からの色々なことに、緊張していた躯の強張りが抜けていった。
くす。と、微笑み、ソファで眠る海の寝顔を観て「merci」と呟き、続くライニングルームのドアノブに手をかけたとき、聞こえてきたピュンマの声。


「僕だって、そろそろ胃痛から解放されたいんだよ」


驚いているジェロニモに対して、にっこりと笑ったピュンマの目は本気だった。


「ピュンマ、いつからなの?・・大丈夫なの?」


聞こえた言葉にフランソワーズは驚きながら、ドアを開けた。
話題の人の突然の登場に、さらにジェロニモは驚き、ピュンマは勢いで飲み込んだ唾液が器官の変な場所へと入って咳き込んだ。


「よっ!不良娘っ!!噂をすればなんとやらだな!」


げほげほ咳き込むピュンマにかまうことなく、ちょうど空になった珈琲マグを、当たり前のようにフランソワーズにむけて差し出した。


「なんか飲むんだろ?ついでに、珈琲入れ直してくれよ、ジェロニモのは、薄くってな!」
「ジェット好みだろ。」


苦しそうに咽せるかえる、ピュンマの背を撫でてやりながらジェロニモが言い、フランソワーズはジェットを無視して、ピュンマのそばに駆け寄った。


「おっさんのせ-で、舌が変わっちまったんだよ、最近は」


毎朝ドイツ人のいれる、濃い目の珈琲を飲み続けていたために、”アメリカン”では、満足しない、アメリカンになったんだ。と、面白くもないジョークを言った。


「フランソワーズ、おはよう」


はあーっと、ため息をつき、目のふちにのった涙を拭いながら、傍らに立ち、心配そうに覗き込んでくるフランソワーズにむかって、ピュンマは言った。


「だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫だよ・・はは。びっくりしちゃった」
「本当に?」
「うん、本当に・・・胃痛も心配しないで。ジェットと一緒にいたら、誰でもなっちゃうもんだからね」


<オレじゃなくて、”ジョー”だろ、”ジョー”!>と、脳波通信が飛んでくるが、ピュンマは無視する。
ジェロニモが”気になること”を訊く役目を負わないことは、明白であるため、どっちが先に、”その話題”を出すか、お互いの動きをお互いに分析し合う、2人。

ジェットとピュンマは相手がフランソワーズであるため、慎重になっていた。
ジョーだったら遠慮なく雁字搦めにして、ミッション中にも関わらず、報告もないままに行方知れずとなったことを、リーダーという立場を強調して追求し、昨夜からの詳細を、事細かく聞き出していたことだろう。

009の全力の抵抗があったとしても、002,008、そして005の3人に、いざとなれば、それぞれが”隠し持つ”切り札(交換条件用物品/ネタ)を出してでも。


「それよりよ、珈琲!」


昨夜から今までジョーとフランソワーズは2人きりだった。しかも、今まで一切の報告もなく、行方知れず。ミッション中に、だ。


<なあ・・>


さくらの”失恋の傷”を軽くするために訊いていた愚痴の中に含まれた、ジョーの台詞が、ジェット、ピュンマの期待を無意識に煽る。
実際に、さくらとジョーのやり取りの一部始終を訊いていたジェットは、ピュンマ以上に気持ちが急くが、フランソワーズが泣いたかもしれない、赤みがかった瞳を観れば、安易に踏み込んではいけない気分にさせられて、滅多にかけないブレーキをかけている。


<うん・・・泣いたみたいだね>
<・・訊くなら、ジョーにしろ。>


ピュンマも、ジェットに倣うように、すでに空になっていたマグを手に、フランソワーズのカフェオレが飲みたいな。と、お願いした。
いつもと違った、ぎこちない笑顔をみせならがフランソワーズは、ジェットとピュンマの2つのマグを持って、キッチンへ向かう。
その彼女に向け、付け足すように「フランソワーズ、緑茶も頼めるか?」ジェロニモが声をかけた。
フランソワーズは振り返って頷き、ジェロニモの緑茶も入れる事を快く引き受けてキッチンへと入っていった。


「っだよ、じゃ珈琲じゃなくって緑茶を自分でいれりゃーいーじゃん、始めっから!」


瞳のふちをうっすらと染めている色は、心配するような意味ではないと、笑顔をみせるフランソワーズにたいして。ダイニングルームに残った3人は考えた。


「自分でいれたら、なぜか薄くなる。」


泣いた形跡の色は、何を意味しているのか。
謎を解く鍵を握る、彼が姿を現すまでは、お預けとなった。


「ねえ、3人とも、・・・朝ご飯はまだなのかしら?」


キッチンカウンターテーブル越しのフランソワーズの声に、「」これ以上は食えねえよ!と、言ったジェット。
「胃薬がいるかも。」と眉尾を下げて額に八の字を描いたピュンマ。
2人から、”さくら、失恋自棄食い大会”の話を聞いていたジェロニモは、笑いながら、自分は「まだだ。」と、フランソワーズに伝えた。








####

寝返りうった体の、ソファから落ちかけてバランスを崩した感覚が、海の目覚めを促した。


「・・・?!」


腕を振って、慌ててソファの背の方へと体を移動させ、”墜落”を免れることを確認する頭は、すっかり眠りから覚めてしまい、海は、のろのろとその体を起こす。
両手を天井にむかって伸ばし、意識して空気を吸い、顎が外れてしまわないか心配なほどに大口を開けてしっかりと眠気を払う、あくびを1つ。
腕をおろして、体の向きを変えると、足をソファからおろして、ガラス作りのロー・テーブルと向かいあった。
テーブルの上に、自分の携帯電話が置かれていたので、それを手にとり、登録したばかりの名前とメールアドレスへと短いメッセージを送った。


「ピュンマー・・・」


メッセージを送った後、携帯電話をテーブルに置き、親友を呼ぶ。

義足を付けっぱなしで寝てしまったので、固定していた部分が、痛痒く、海はごそごそと、それを外して、フローリングの床に置く。切断した足の部分にかぶせている専用の布も取り、空気に触れさせた。
義足を取り付けるために、接続させる皮膚部分は布に覆われて固定された状態になる。そのためこれから本格的に訪れる季節には、衛生的な面でいろいろと面倒なケアが必要になることを、ぼんやりと思い返した。


「ピュンマー・・・?」


義足を外したために、松葉杖がないと歩行が困難になる。また、カバーを付けて義足を取り付ければいいが、汗が染みているカバーを再び付けるのは、少し抵抗がある。別のものでも代用が効くので、ホテルに戻る間くらいなら、問題ないだろう。と、考えながら、ピュンマを呼んだ。
この邸のどこかにいるだろうし、彼なら、邸内に居る限り、聞こえないことはないだろう。


「ねえ、ピュンマー、どこおお?」


寝起きのかすれた声で、親友を呼ぶ。と、ダイニングルームへと繋がっているドアが開いた。


「おはよう、海、起きた?」
「ごめんー・・ぼく、寝ちゃったんだね・・・いつギルモア邸についたのか、わかんない」
「あはは、タクシーに乗ってすぐ寝ちゃったからね!起きれる?」
「うん・・・あのさ」


昨日から一睡もしていないと思われるピュンマだけれど、普段と変わりない爽やかな満面の笑顔で、海の座るソファに近付き、彼の隣に座った。


「何か飲みたい?冷たいものがいいかな?」
「冷たいの」


ピュンマに訊かれて、海は自分の喉の乾きに気づき、頷きながら、カバーの代用になるタオルか何かを借りられないか、頼んだ。


「代用じゃなくて、僕の部屋にカバーの予備があると思うんだけど?」
「え?そうだっけ?」
「うん、週末用の、あれ全部ホテルに持って行ってないだろ?」
「あー・・・そうだあ」


あやめ祭が終わるまで、サイボーグメンバーたちの監視下にいることを指示されている海は、常にピュンマと行動していた。
週末、ピュンマ(サイボーグメンバー)が月見里学院の寮を出てギルモア邸に戻るとき、当然海も一緒にギルモア邸に戻る。それは、篠原当麻も同じだった。

ピュンマは脳波通信を使い、朝食の後片付けをしているフランソワーズへと飲み物を頼みながら、にやあ、と、ジェットを彷彿とさせる笑みを作った。


「な、なに?・・・p、ピュンマ・・」


ぼんやりしていた海の頭の霧がさあっと引いて行く。


「起きて速攻、さくらにメール?」


ソファとセットになっているテーブルの上に置かれた海の携帯電話を手にピュンマは、ずい!っと、それを海の目の前にまるで”印籠”でもつきつけるかのように、持った。


「みてたのっ?!」
「えっ!?本当にさくらにメールしたんだっ!!?」


冗談だったのに!と、大げさに驚いてみせる、ピュンマ。


「!?」
「いつの間にメルアド交換したの?僕知らないよっ訊いてないよっ?」


海が起きたようだと、ピュンマに教えたフランソワーズ。
その海が、起きてすぐに携帯電話を持ったことから、何かあったのかと警戒したのも、彼女。通話ではなく、メールであることを、ピュンマに報告した。

海が事件に深く関わってはいない。不運にも篠原当麻の誘拐に遭遇し、友人を助けたい正義感からの行動で失ってしまった左足を、サイボーグ実験モデルとして補われただけだ。
それでも、総てがクリアされるまで、津田海の行動は”全て”、サイボーグメンバーの手によって様々な手段で記録されていた。
彼の日常でサイボーグメンバーたちが、知らない行動はない。それは、篠原当麻よりも徹底されて、完璧な”監視”であった。

あと、1日。
今日が終わり、何もなければ、それらの監視はなくなる。
完全に監視の手を解放するわけではないが、今までのようなプライバシーがない状態ではなくなる。

ピュンマは早くそうなればいいと、願い、今日1日、無事に何も起きる事がないように。と、祈った。


「ピュンマにいちいち言わなくてもいーだろ!」
「あ!ひどっ海っひどいよっ僕と海の仲なのにっ!!」
「たいしたことじゃないって!ただっ、おはようって・・・挨拶!挨拶だよっ!!」


ピュンマの手から携帯電話を奪い返した海の顔が、面白いように朱色に染まっていく。
泣いて、愚痴って、食べて、疲れはてて眠り込む寸前まで、さくらはジェット、ピュンマではなく、ずっと、うん。うん。と、さくらの言葉に聞き役に徹する海にべったりだった。


「僕より先に朝の挨拶ー?知り合ったばっかりのさくらにー?えー?」
「別に、メールだし!」


長期滞在経験のある、コズミ博士の屋敷の台所から、さくらの部屋に持ち込んだアルコールで、ほろ酔い加減のジェットが海とさくらの様子を観ながら言った言葉をピュンマは思い出す。


『恋で傷ついたら、それを治すのもまた”恋”だっ!・・失恋に効く薬は、新しい恋ってな!!いい感じじゃね?』
『そんな簡単にいくかなあ・・・』
『女ってのは、都合主義な部分があるかんな、男より逞しいぜ?』
『でも、違うと思うよ。・・・そんなに簡単に切り替えられなんじゃない・・さくら・・・』


どうやら、違っていたのはピュンマの方らしい。
そしてそれは”さくら”の方ではなく”海”の方に、芽生えが訪れた様子だ。


「アイスティでいいかしら?」


ダイニングルームへと続くドアが開くとトレーに2人分のアイスティーをのせた、フランソワーズが姿をみせると、海にむかってピュンマが人差し指で蟀谷(こめかみ)部分をとんとん。っと叩いた。
「ああ、通信ね」と、納得する海にむかって、驚かしちゃったかしら?と苦笑しながらフランソワーズがリビングルームに入って来る。

サイボーグ・メンバーとの暮らしに大分慣れて、その独自の通信機能を使ったコミュニケーションを、何度も目にするが、なかなか慣れないなあ。と、海は思い、自分に”それ(脳波通信)がないから、それを使った感覚と言うのが、わからないせいだ、と答えを出した。


「おはようございます、海さん。ピュンマの分も用意したの・・・だけど・・」
「あ、うん。ありがとう。僕ちょっと2階に用があるから、すぐ戻るけど、ジェットは?」
「ジェロニモの部屋よ」
「え?」
「アメリカ行きの、こと・・・で・・」
「・・そう」


海から観て、彼らが通信と言語を上手く使いわけているのも、とても興味深い。
ピュンマはソファから立ち上がると、「すぐに戻るから」と、言い、リビングルームを出て行く。
フランソワーズはアイスティーをビーズで作られた丸いコースターの上に置いて、海にすすめた。ピュンマの分のアイスティーも、その隣に、色違いのコースターの上に置く。


「おはよう、フランソワーズさん」
「おはようございます」


海が座る位置から少し距離をあけて、L字型ソファの2人がけ用部分。海からみて、右斜め前に座ったフランソワーズは、トレーを膝においた。


「邸にいたんですね」
「え?」


海はフランソワーズにたいして、出会ったときから変わらず、敬語で話す。ジョーにたいしても、微妙な敬語だったりもするが、それは月見里学院内の学年の差のせいかもしれない。けれど、怪我で留年している海にとって、ジョーは年齢的には同じ年。


「みんなすごく心配してたんですよ」
「・・・、え?」
「?」
「心配・・・?」
「そうですよ、だってどこへ行ったか連絡1つ寄越してこないって・・それd」
「!!」


フランソワーズは海の言葉に飛び上がらんばかりに驚き、立ち上がると、リビングルームに置かれたコードレスフォンに飛びついた。
すっかり慌ててしまったフランソワーズは、”イワン”の力によってギルモア邸に戻って来たことを忘れていた。

そのイワンからホテルにいる家族に、自分たちがギルモア邸にいることが伝わっているだろうし、ジェロニモがジョーの部屋で瞬間移動(テレポーテーション)されてくる自分とジョーを待っていたのだから、ジェロニモがホテルへ連絡していてもおかしくない。それに、ここには今、ジェット、ピュンマ。そして、海がいるのだ。

彼らが、ギルモア邸に来たことを自身の”能力”で知ったフランソワーズ。
その彼らの会話も聞いていたので、自分とジョーを迎えに来たと、知っていたはずの、彼女。だけれども、先ほどから顔を合わせていた3人から、一言も昨夜からのことを話題にはされず、その間にフランソワーズは、自分を含めてジェロニモとジョーの3人分の朝食を作り、片付けを済ませ、それらにこころ集中させ、”普段”と変わらない生活空間に身をおくことにより、すっかり落ち着きを取り戻してしまったばかりに、当たり前に気づきそうなことが抜け落ちてしまっていた。

そして、彼女は未だに、自分が”携帯電話”をギルモアが泊まるホテルの部屋に忘れている事に気づいていない。


「私ったら、私ったら・・・!」


フランソワーズの指先が迷いなく押す番号は、ギルモアの携帯電話。
泣き出しそうなほどに慌てふためくフランソワーズを観て、海は自分が何か悪いことでも言ったのかと、焦った。









####


リビングルームを出て2階へと階段を上がり、右手へ曲がる。
階段をあがってすぐに2階の開かれたコモンルームが目に入り、ローテーブルの上に置きっぱなしになっている、雑誌の表紙にプリントされた『F1 RACING』が目に入った。

誰のだろう?と疑問に思う。
乗り物関係なら、ジェットかジョーだね。と、ひとりごちて、そのまま自室へ向かうために足を進めた。

ちょうど、ゲストルームのドア前を通り過ぎようとしたとき、ごん!と、勢いのよい音と、うわあ!と、悲鳴に近いピュンマの声があがる。


「え?・・・ピュンマ?」
「ジョー・・・・」


ゲストルームのドアが固い何かにぶつかった衝撃を手に感じつつ、ぶつかった”何か”が家族の1人であることに驚いた、ジョー。


「ひどいよ・・・気をつけてよお・・」
「歩くなら、もう少し真ん中歩いたら・・ぶつからないと思うんだけど」
「僕のかってだろ、真ん中歩こうが、端っこ歩こうが!」
「・・・いや、一休さんは、端(橋)を歩かず、真ん中を歩いたから・・・・」


ぶつけられた後頭部をさすり、文句を言うピュンマに対して、ゲストルームに付属する、ユニットバスに置かれたフランソワーズ・チョイスのアメニティグッズの香りをまとうジョーは、ぶつけたピュンマではなく、ゲストルームのドアの方を気にしつつ、ピュンマに謝った。


「・・ごめん。考え事してたから・・・気づかなかったんだ」


ジョーはゲストルームから出て、ドアを閉めた。
家族(ギルモア除く)全員が”石頭”なので、ドアくらい軽くぶつけたくらいでは、怪我などしない。心配するのは、ぶつけられた人物よりも、ぶつけてしまった物になってしまうのは、仕方ない事かもしれない。が、普段の彼なら、ピュンマを心配していたことだろう。
彼のこころの準備が整わないままに出会ってしまったピュンマ(家族)にたいして、ジョーなりに精一杯、平常心を保とうとした結果の、行動だった。


「僕の気配に気づかないくらいに、考えてた事って、一休さんについて?庄屋さんがなぜいつも”悪者”で”意地悪”なのか?それとも」
「?」
「フランソワーズとの無断外泊。僕たちの知らない空白の一晩に”した”ことかな?」


ピュンマは後頭部に受けた衝撃がスイッチになって、いらない一言を口にしてしまった。が、自分の耳でその台詞を確認しながら、素早くジョーの反応に予想を立てる。


予想その1。
もしも2人が”両思い”になっていたら、ジョーはきっと狼狽えて、躯中を防護服よりも栄える色に全身を染める。

その2。
もしも何もなかったなら、ちょっと拗ねた感じで「”した”ってどういう意味?」とつっかかっりながら、ポーカーフェイスを装う”努力”が観られて、言い方を変えた”同じ内容”の台詞を効くはめになる。(そのときは、胃痛の薬の調合をかえてもらわう必要がある。)

その3。
自分たちから観たら、それは蟻一歩にも満たないことだろうけれど、2人にとってはものすごく進展した内容の、ものだったら。ジョーは普段通り。

その4。
フランソワーズの泣いた形跡かr・・・・・・?



「向こうで、話す・・・か、な。多分、・・・うん、多分・・・。でもまだ・・・もう少し時間がほしいから」


ジョーは、戸惑い気味に苦笑しつつ、答えた。
少し恥ずかしそうに、視線をピュンマから逸らし、中途半端にドライヤーで乾かした髪が、めんどくさそうに、首を左へと動かしたジョーを追いかけた。


「・・・時間が欲しい???」
「あ、・・・・うん。・・・まだ、ちょっと、色々・・・いや・・別にたいしたことじゃないのかもしれないんだけど、なんていうか、・・・うん。少し時間が欲しいな。できれば・・」


ピュンマはぽかん。と、間抜けな顔で、長い前髪に隠れて表情が読めないジョーを、食い入るように観る。彼の髪からのぞいている耳が、こころなしか朱い。
それは、シャワーを浴びた後だからなのか、どうか、判断しがたいほどの微妙な染まり具合。だけれど、次に。


「だから、その・・・頼むんだけど、”そのこと”には、触れないで欲しいんだ、py」


ピュンマから逸らしていた瞳を、まっすぐに彼へとむけ、視線を合わせたたとき、ピュンマは奇声とも、悲鳴とも、歓声とも、なんとも言えない叫び声をあげて、ジョーに思いっきり抱きついた。


「んまっっっっ!?」


ギルモア邸を揺るがす、ピュンマの雄叫び。
008の力で009を絞め殺さんばかりの遠慮のない腕が襲い、どおおおん!っと、勢い良く008から体当たり(抱きつき)をくらい、突然のことに、バランスを崩したジョーは、そのままゲストルームのドアに倒れ込む。


ギルモア邸の作りは、それほど柔にできてはいない。
けれど、さすがに改造されて強化された、人並みはずれた”力”は、ちょっとした隙をついて、日常に出てしまう。


「う・・ああっ・・・・・いっ・・・・・pう…・・」
「ジョーっ!!何も言わなくていいよっ!僕、わかったからッ!!!」



ゲストルームのドアが2人のサイボーグの、スキンシップによって壊された。




何事だ!と、駆けつけたのは、言うまでもなく邸内にいた002と005。
003は通話中の子機を持ったまま、リビングルームで海を守るように、眼と耳のスイッチを入れて待機。


「・・・ジェロニモっ、カメラ!」
「なぜだ。」
「オレが壊したんじゃなくって、ジョーとピュンマだっつー証拠がいんだよ!!」
「ジョーっ!!僕はっ僕はっ!!」
「く・・r、し・・ちょ・・・・ぴゅ・・んm」


眺めてないでなんとかしろ!と言う視線は、壊したドアの上に乗っかり、その上に抱きつくピュンマの腕に苦しめられているジョーの、珍しい姿を見下ろす、ジェットとジェロニモに向けられる。


「ジョー、風呂入ってたのか?つーか、ピュンマ!ちょっとそのまま、ジョーを締めてろ!デジカメ、デジカメっと!!」


ジェットは素早く、ゲストルームの斜め前の自室へと駈けていく。


「フランソワーズが、ブランチ(朝食)を用意している。」


ふ。っと微笑んだジェロニモは、ピュンマをジョーから引きはがすことをせず、のんびりとその場を離れて階下に降りていきながら、フランソワーズに通信を送る。


<心配ない。ピュンマがジョーを襲っただけだ。>
<お、襲・・・?ジェロニモ???>


眼で確認する限り、襲撃や、事件、などではないことに、ほっと安堵する、フランソワーズ。
ゲストルームのドアは破壊され、倒れているジョーの上に抱きつき、ぐりぐりといがぐり頭を押し付けているピュンマに、カメラを手に駆け寄って証拠写真だ!浮気現場だ!と、写真を撮るジェット。

海の視線はきょろきょろと、破壊音が聞こえた2階と、フランソワーズを往復する。


<ジョーの分の珈琲を入れて、まっていればいい。>
<・・・>


何が起ったのか理解できないが、とにかく、ゲストルームのドアが被害にあったことだけに納得して眼のスイッチを切った。


<ああ。それから。>


脳波通信を使っていたジェロニモは、言葉の途中で脳波通信を切る。
のこり、3段となった、階段を歩調を心持ち早めて降り、開けらたままのリビングルームのドアをくぐると、まっすぐにフランソワーズの座るソファの前に立つと、膝を折り、フランソワーズの視線に合わせた。


「アメリカへ行く。・・・ジェットも一緒に。・・・大丈夫だな?」


海は天井とフランソワーズから、一体何がどうなってるのか、理解できないままに、今度はジェロニモとフランソワーズを交互に見つめた。


「ジェロニモ・・」
「大丈夫だな、フランソワーズ」


フランソワーズの頬がうっすらと色づき、こくん。と、小さく縦に首を1度動かすと、ジェロニモの太陽の香りが近付き、ふわり。と、フランソワーズを抱きしめた。

フランソワーズの手にあった子機から、『おーい!何があったんじゃっ?!』と、ギルモアの声。
その声に、「あ、いけない!」と、会話の途中だったことを思い出した、フランソワーズの手から、子機をジェロニモが取った。
ジェロニモの大きな手のために、おもちゃのような存在になった子機を持ち、立ち上がりながらフランソワーズの代わって、電話の向こうにいるギルモアと話しはじめた。
話しながら彼は、リビングルームから出て行き、ダイニングルームを通りすぎて、自室へと向かう。


「博士、みんな、昼過ぎにそっちへ戻るだろう。」
『なんじゃ?いったい、何がどうしたんじゃ?』
「・・・なにが、どうなったか、楽しみにまっていてくれ。それと、1つ報告がある。」












====Little by Little 18へ続く。

・ちょっと呟く・

あれ、ここ89?
いえいえ29・・・違います93ですっ(笑)


さて、これからどうなりますやら・・・。
当麻くんがいますからねー。
そうすんなり幸せになれると思うなよー(←?!)
web拍手 by FC2
| home |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。