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あの星空を2人で
ランドリー・ルームの熱気にあてられた肌が火照り、じんわりと白い肌を潤わせるが、さらりとした感覚とはほど遠い。
べったりと肌につく襟ぐりがV字に大きく開いたワンピーズの胸元をつまみ、風を作った。

ランドリールームの窓を叩く雨音は、風に従順に踊る。
フランソワーズの胸元から起きた風は、額にはりつく前髪を揺らすほどの強さはない。

日本の梅雨と呼ばれる時期の洗濯ものほど、楽しくないものはない。と、ため息をついた。
ドアを開け放ち、エアコンディショナーで人工的に覚ました空気を呼び込むけれど、乾燥機が作り出す熱には追いつかなかった。
いつもはランドリールームで畳み、アイロンがけもすますけれど、乾燥機で乾かした洗濯物を、空になったカゴに入れて、それをエアコンディショナーがよく効いたリビングルームに持ち込んで、たたむことをに決めた。

リビングルームのドアを通り抜け、ひんやりとした空気に人心地つく。
そんな、彼女をちらり。と、ページをめくる瞬間に盗み観ただけの、午前中に1時間ほど家を開けていた人。

フランソワーズは、フローリングの床にきちんと正座して座り、膝をつかって畳んでいく。
カゴから1枚ずつ取り出す布の温かさを指先で感じながら。

一枚、一枚、丁寧に。



「足、痺れるよ?」


フランソワーズは、洗濯物をたたんでいた手を止めて、視線を動かした。
リビングルームのソファに座り、買ってきたばかりの雑誌をソファとセットになっているロー・テーブルの上には置かず、自分のおもちゃを取られないように警戒してい子どものように、自分のすぐ脇に置いているジョーに、フランソワーズはくすっと笑った。


「大丈夫、慣れてるの」
「慣れてる?」
「ええ、慣れてるのよ」
「ふうん」


それ以上の会話は交わされず、ぱらり。と、ジョーは、持っている雑誌のページをめくった。
窓を叩く雨音がリビングルームの壁に飾られている時計の秒針の音に絡まる。

洗濯ものをすべて畳み終えたフランソワーズは、すっくと立ち上がり、エアコンディショナーによって清々しく火照りが引いた躯に、足取り軽く、痺れなどないと証明するようにすたすたと歩いてリビングルームから出て行った。


「・・・可愛くないなあ」


出て行ったフランソワーズが後ろ手に閉めたドアの閉まる音を聴き、3冊目の雑誌を閉じて、読み終わっていた2冊目の雑誌がある、自分の座るソファの左側に置いた。
ジョーの右側には、未読の雑誌があと1冊。


「わざとでもいいから、こう、・・・可愛く、・・」


ジョーはソファの背にだらしなく躯を預けて、リビングルームの天井を見上げた。
日が高い時間の午後だが、重く厚い雲に覆われてしまっている空のために、ルームライトを付けていなければならない。

煌煌と光るルームライトにむけて瞳を細めた。
ライトの光がにじみ視界いっぱいに広がり、脳内で想像した数パターンの”足が痺れたフランソワーズ”が上映される。


「・・・・うーん、2番目のが、好みかな?」


ジョーの手が動いて、最後の雑誌を掴み、膝の上にそれを置いた。


「いや・・・でも・・・・」


ぱたぱたとなるスリッパが再びリビングルームへと近付いてくる。
いつの間にか、聞こえなくなっていた雨の音に気づいたのは、その足音のせいだった。


「ねえ、ジョー」
「なに?」


4冊目の雑誌を膝上で開いた。


「雨、止んだみたい」
「そうみたいだね」


リビングルームに入って来たフランソワーズへ視線は移さずに、雑誌に集中する。


「ねえ」
「なに?」


一人分の間を開けて、フランソワーズはジョーの右側に腰をおろした。


「雨がやんだのよ」
「うん」


フランソワーズはジョーの顔を覗き込むように、少し背を屈めた。


「ねえ」
「うん」


雑誌から視線を外す様子のないジョーにたいして、フランソワーズは少し拗ねたように、唇を尖らせた。


「だから、雨が止んだの」
「そう」


2人の座る間にあった一人分の空間が1/2になる。


「・・・・ねえ」
「なにかな?」
「だから、雨がね」
「うん、止んだね」


ジョーの膝上にある雑誌のページが、ぱら。と、めくられた。
新しいページに書かれている文字を、フランソワーズもジョーと一緒に読む。


「・・・」
「・・・・・」


書かれている記事の特集内容に、意を決してフランソワーズはジョーの着ている半袖のシャツ、二の腕部分へと手を伸ばし、そっと、触れた。


「雨がね、止んだの・・・。だから、ね?」


いつの間にか、2人の間にあった距離がなくなり、寄り添うようにソファに座っている。
ジョーの二の腕部分に触れているフランソワーズの手から伝わる、彼女の体温。
室内にずっといた、ジョーの冷えた皮膚の、その部分だけがじんわりと暖まる。


「今夜、晴れるとは限らないよ?」
「でも・・・」


触れていただけのフランソワーズの手が、甘えるように、ジョーの袖を握って、1度、それを引っ張っる。ジョーは、答えるように、膝上にある、まだ読み終えていない雑誌を閉じた。


「そんなに慌てなくても、星は逃げないよ・・・夏は長いんだし」


視線をゆっくりとフランソワーズへむけたジョーは、彼女の控えめなおねだり。が、可愛いな。と、思う。
雑誌に書いてあった日本全国、花火大会/夏祭りマップを目にしていながら、フランソワーズは、それに連れて行って。とは、言わない。
ジョーは、フランソワーズに言われたら、面倒臭いや、人の多さが嫌だとか、そんな事は言わず、さらりと彼女の希望に答えただろう。


「・・・もちろん、わかってるわ。・・でも」




少し時間を過去へと巻き戻す。
それは、数年前の出来事。

短い旅を終えた後に、体験した不思議な出来事を、邸に戻ってきたときに土産話として、夕食の席で披露したとき、フランソワーズがうっとりと言ったのだ。


『見上げたら、星だけの世界だったなんて、素敵・・・』


先週、テレビのニュースで流れた”七夕まつり”の話しで、ジョーの旅の話しを思い出したフランソワーズが、独り言のように呟き、それにジョーが答えた。





『観てみたいわ・・・ジョーがみたのと、同じ、星の世界』
『観たい?・・・だったら、この雨が止んだら出掛けよう』
『連れて行ってくれるの?』
『・・・・・・うん』





拗ねたように、下唇を押し上げて尖らせていた唇。


「・・・観たいんだもの」


上目遣いに、ダメなの?と聞く、久しく観ていない青空の色。
つん。と、袖をひっぱる力が1度目よりも強めに感じる。


「今夜は、ここで晴れるかどうか確認しよう。出掛けるのは、晴れてから。・・・明日がいいよ」


ジョーは、彼女を困らせることになるだろう。と、今、未来の彼女に謝っておく。
自分が観た、同じ”星の世界”が観たいと言った、彼女のリクエストに忠実に守るため。
数年前にたどった道を、今度は独りでなく、2人でと、考えて。

日帰りできない、距離。
そんなことを一言も言わず、彼女を連れて行く自分は、彼女にとってどんな男に思われるのだろう。


「・・・明日ね?」
「うん、明日」
「・・・珈琲、いる?」
「うん、いれてくれる?」
「ええ、待っていてね」


袖を引っ張っていたフランソワーズの手が離れ、彼女はすっくとソファから立ち上がった。


「明日よ?」


ダイニングルームへと続くドア前で、確認するように、ジョーの後頭部に向って言った。
ジョーの返事は片手を上げて、Thumbs up。


「・・・?」


ドアが閉まる音が聞こえないのを不思議に思い、ジョーはソファに預けていた重心をただして、ダイニングルームに繋がるドアへと振り返った。


「・・・・何泊くらいになるのかしら、ね?」
「?!」


振り返った先には、あでやかに頬を染めて微笑む、フランソワーズ。
ぎょ!っと、驚きの顔で固まったジョー。
・・・・の、止まった時間が動き出したとき、呟いた。


「・・・やっぱり、・・可愛くない」


紅い顔をして、雑誌の文字など、まったく頭には入ってこないだろうことにも関わらず、閉じた雑誌を再び膝上で広げた。
晴れるかもしれない、翌日を考えて、プランを練り直しながら、エアコンディショナーのリモートコントローラーの温度設定を、2度ほど下げた。








end.


*夜には、空をおおっていた雲が風に流れ、ギルモア邸からでも、素敵な星空を2人で眺める・・・。の、数時間前の出来事。と、言う事で・・・。
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星嫌い




部屋のドア前に人の気配。
それを知っていても、その気配の人を助けるようなことはしない。

ジョーが気配を察知して、一度ベッドの上に横たえていた躯を起き
上がらせドアを見つめた。
ドア向こうにいる人が、その能力を使っていれば、自分が起きてい
ることを知っただろう。

けれどドアをノックする様子も、ドアノブをひねる様子も見受け
られなかったので、ジョーは再びベッドに躯を横たえて眠りにつく
ことにした。
気にならないわけではないけれど、今日がそういう日であることに
気づいていたので、敢えてジョーは何も助け舟らしきものを出す必
要はないと思う。


今日は、そういう日だから。


睡魔が人に施す魔力の効果がジョーにも表れはじめたころになって、
ようやくジョーの部屋のドアノブがひねられた。
廊下から溢れ入る光にのびたスラリとした陰が、ジョーの部屋に消
える。

ジョーの部屋に侵入してきた人物は、ひた ひた と、素足でフロ
ーリングの上を歩く。
そっと、部屋の主が横たわるベッドに遠慮がちに腰をかけたところで、
侵入者に背を向けていた主が寝返りうった。

「意地悪・・・」
「珍しいなあ、って、思ってさ」
「・・・知ってるくせに」
「今日に限って、・・・大胆になるんだね」

フランソワーズはジョーの言葉を不定するように首を左右に振るも
のの、彼からのばされた腕を拒むことなく、むしろ逆にその腕より
も強くしがみつくように、彼の腕の中へと収まった。

「星なんて、嫌い・・・。流れ星も、嫌い、七夕なんて、もっと
嫌い」
「一年に一度の恋人たちの、だよ?普通、ロマンチックだって思わ
ない?」

腕に抱いたフランソワーズの頭を抱きかかえるようにして、その額
に唇を寄せていった。

「思わないわ・・、満天の星空なんて、私には悪夢よ」

長く鬱陶しいほどに続いた梅雨が開けたばかりの空は、ニュースに
なるほどに美しい星空だった。まるで人口の星たちに、自分たちの
本当の美しさを粛々と示すように、輝かせた。
都心から離れた住まいは、海沿いであることもあって、それは見応
えのある星空に感嘆の声を家族たちは口にした。
その中で一人、ずっと沈黙を守っていたフランソワーズ。

その理由も、奥ゆかしい彼女が一人、夜中に家族の目を忍んで恋人
の部屋へやってきたことも、ジョーはわかっていた。

「どこにもいかないよ」
「でも、星になりかけたわ」
「かえってきただろ?」
「でも、星に惑わされたわ」

いったいいつの話しだよ。と、苦笑するジョーにたいして、フラン
ソワーズは、生きている限り星は好きにならない。と、告げる。

「星空の下で、なんて。そういうの、憧れない?」

ジョーはフランソワーズを胸に抱いた状態で上半身を起こした。

「憧れないわ」

そのまま彼女を軽々とベッドのシーツごと抱きかかえて、窓辺へと
歩く。

「じゃあ星たちに、見せつけてやろうよ・・・。僕たちが愛し合っ
てること」
「・・・」
「そうだね、牽牛淑女とどっちが・・」
「H」
「ロマンチックか、って言うつもりだっただけど?」

2階の窓から布をはためかせて飛び降り、ジョーが向かうの先は白浜
の沖に寄せた、ボート。

「そういうつもりで、部屋にきたんだろ?」
「違うわ・・・あなたが、星に連れて行かれないように・・ううん、
星にならないように・・陽が昇るのと一緒に、消えてしまわないよう
に・・・」
「じゃあ、星が出ている間中、キミとつながっていれば、平気。
それに、キミと二人でなら、星になってもいいし・・・。消えても
かまわない」

いつからそのボートが、あの場所に寄せられているのか、ジョーも
フランソワーズも知らない。
けれど、それは二人のために用意されたとばかりに存在していた。
恋人になったばかりの二人が家族たちの目を盗んで、二つの想いを
一つにするための上弦の月をかたどった船。



シーツごと、抱きかかえて連れ込んだ船の上に。


「このまま、天の川をわたって・・・旅に出てしまいたいな」


星明かりをたよりに、川の流れに揺られて。
行き先に終わりのない旅でも、二人なら。


「だめよ、明日のお風呂掃除は、ジョーの当番」
「足腰立たないほどに、愛したら当番免除。と言うのは?」


フランソワーズは固く、固く、瞼を閉じて、嫌いな星をその瞳に
映す暇もないほどに、ジョーが作り出す夢に翻弄されて。
夜空を飾るどの星たちよりも美しく、眩い光を放ち、愛されて。







愛されて。











「それでも、お風呂掃除、してください」
「・・・了解しました」






end.

画像byふわふわ。り

*拍手用09’作品でしたー。 保管日>7.21.09’
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totocalcio!
好きで、好きで、好きで。
彼のことが、好きで、好きで、好きで。

どうしていいのか、わからないくらいに、好き。

自分のこころが、このこころは、自分のもので、だけど、自分が、自分で、ないみたいに、コントロールできないくらいに、好きと言う想いに、振り回されてることが、少しだけ特別な気分になる。

何がそんなにスペシャルなのか、わからないのだけれど。
わからないことが多すぎて、わからないのだけれど。

彼を想うと、好きって言いたくて、仕方がなくなる。
なぜ、その言葉が出来て来るのか、不思議でしょうがないのだけれど、もう、その好き。と、いう言葉しか浮かんでこなくて。

胸が痛いくらいに熱い。
熱くて、痛いのに、痛くて、熱くて、苦しいのに。

好きって言う言葉の海に投げ出されてしまい、ふわふわと心地よく浮かんでいる。
そんな私は、緊張しているみたいに、胸のあたりが圧迫されて、心臓がいつもより上の方へ押し上げられてくるように感じていた。深呼吸が出来ないくらい肺が縮んで、呼吸困難に陥ったみたいに、脳に上手く酸素がまわっていないから。
きっとそのせいで現実と夢とがごっちゃになって。
彼と一緒にいた時間を思い出すたびに 躯がむずむず、こそばゆさに我慢できなくなる。

枕をぎゅうっと抱きかかえて耐えるけれど間に合わなくて。
ベッドの上から落ちない程度にゴロゴロと転げ回ってみたりしながら、1人反省会。


あのとき、こう言えばよかったのに!
なんで、そうしなかったの?!


その場ではできなかった行動の後悔と情けなさに、喉奥が締め付けられて、そんな風にしか受け答えできなかった自分を叱咤しながら、思い出す、彼の何気ない一言に、顔がにやけて、思わずこぼれてしまう彼の名前。


「・・・ジョー・・・・」


どうしてこんなに好きなのか、わからなくて、理由を探すのだけれど。
結局出て来る答えは、好き。なんだから、それが好きって言う理由なんだっていうこと。


「ジョー・・・・」


あのね、好きなの。
すごく好き。






何も視えない状況のベッドの中で、どうしても。
いつも、どうしても。



思い出すのは、彼のこと。
彼のことだけ。

彼との出来事。




『003、キミも飲む?』

ドルフィン号のキッチンで、彼が自分用に入れたマグをわたしてくれた。
それが、最後の、だったのに。

『自分で入れ直すから、いいわ。009』


私の言葉にはにかむように微笑って、首を少し傾ける。

『僕は、とくに何もないから・・・003は、博士に呼ばれてるんだろう?』
『ええ』
『じゃあ、これはキミのだよ、砂糖とミルク、だよね?』


本当なら、ジョーの言う通り。
ミルクと、お砂糖、小さじで3杯は入れる。
けれど、なんとなくそれが”子ども”な注文なように感じて、意味もなく、彼好みの方法で飲んでみたくもあって。


『いいの、ブラックで』
『そう?苦くない?』
『大丈夫。ありがとう』


ブラックなんて、苦くて、苦くて。
唇に触れさせて、それを嘗めるようにしか飲めないのだけど。

彼の手からマグを受け取る手が、緊張に少し汗ばんでいて、すべり落ちないように、しっかりと両手で受け取った、そのマグの重さが、リアルに今も手に感じる。


『無理しない方がいいよ?』
『べ、別に、無理なんてしてないわ』
『・・・・そう?』

彼は何か意地悪な意味でも含んだような笑みを口の端に浮かべたとき、「あ。そうだ。」と、独り言を呟いた。


『ねえ、003。みんなには内緒だよ?』
『?』



抱き締めている枕の腕をほどいて、目の前に掲げて見る手をみながら、彼の手の暖かさと大きさを思い出す。

マグを手にしてる手じゃない方の、手を、そっと包み込まれて、心臓が痛いくらいに跳ね上がった。


『これは、僕と003の秘密だからね』


彼の手の中にある、私の手の平の上にのせられた、1口サイズのミルク・チョコレートが3つ。
この間の買い出しのときに、買っておいたチョコレートたちとは違う、日本のメーカーのもの。
みんなが好き勝手に、食べられるように用意してある”お菓子箱”の中でも、見たことのないデザインの包み紙。


『どうしたの、これ・・?』
『ん?・・・それはキミにも秘密』


私の手のひらにのせた、一粒をつまみ取って、包みを解いた。
その指が、私の唇にむけられて。


『・・・あーん、は?』


また、ぎゅううううううっと、枕を抱き締めた。
心臓がここにあります。と、ドキドキと音を立てて訴える。









微かに唇に、ふれられた、指の、彼の、指の感触。
口の中で溶けていった甘い、甘い、ミルクチョコレート。








『どお?好きかな?』




---大好きっ!














「もうっ、やだっ・・こんなにジョーのこと好きになっちゃうなんてっ!!・・・どうするのよっ」


メンテナンスルームのベッドの上で、思い出しては、想像し、その想像にちょっとだけアレンジも加えたりしながら、じたばたとあばれている、003。
別にどこも悪くはないのだけれど、先のミッションの疲労が”眼”に表れていることから、今日一日は何も”視ず”全ての任務から解放。と、いうことで、メンテナンスルームにてアイマスクを付けて軟禁されている状態だった。

すぐに次のミッションが控えているために。






「『もうっ、やだっ・・。こんなにジョーのこと好きになっちゃうなんてっ!!どうするのよっ』だってよ!なあ、009!どうすんだよっ」
「・・・」


009の隣に座る、002の、あまりに似ていない003の声まね。を、009は聞かなかった事にしている様子で、テーブルの上に置いてある、いくつかの書類に目を通していた。


「今からでも、003に言ってきた方がいいのかのう・・」
「博士、それは逆に可哀相アルよ。聞かなかった事にするアルね」


ドルフィン号のミーティングルームには、メンテナンスルームにいる003以外が揃っていた。
夜の時間のイワンも、クーファンの中に眠りながら、ここにいる。


「003、何か嬉しい事でもあったのかな?ね、009」
「あの1人でのはしゃぎ具合、何か”乙女スイッチが入る”出来事があった、か?」
「004、ここは禁煙」


009が004にむかって静かに注意したが、彼は聞く気がないらしく、唇に煙草をはさんだ。


「小休憩せざる終えないだろ?・・火は点けない」
「だったら、他で吸うアルヨ」


無線から流れて来た003の独り言にたいして、006は落ち着かない様子である。


「おお!我らが姫、フランソワーズ姫を心躍らせ、その愛らしい唇から歌われる想い人の名は009!」
「ジョーだぜ、”ジョー!”」
「ナンバー呼びじゃないところが、いいよねー」


すっかり、ミーティングの雰囲気が壊されてしまい、今更真面目な話しに戻すのは不可能と判断したピュンマはマグに残っていた珈琲を飲み干した。


「博士、なぜ部屋の無線機切ってない。」


無線から聞こえて来た切なげに、苦しさそうな003の”ジョー”と呼ぶ声に、殺気立つような緊張が部屋を貼り巡ったことなど、それは遠い昔の出来事であったかのような、ミーティングルームの雰囲気に005はため息をついた。


「・・・今、眼を休ませるために、アイマスクで何も見えとらん状況じゃから、1人にさせて何かあったら、困るからと考えて・・・・・まさか、その、こんな事になるとは・・」
『・・・・・・どうしたらいいの・・?・・・・こんなに、好きになって、・・も・・・』


先ほどの声とは違う思い詰めたような、003の声がギルモアの声と重なった。


『ジョーは009だし、仲間だし・・・。それに、そんなの、絶対に・・・・・。・・・だって、ジョー、いっつも・・・』
「いっつもなんだっつーんだ?」
「それで、オレたちはミーティング中、ずっと”003の009への想い”を盗み聞きか?」


004が視線を009に向けて投げると、009は無言で席から立ち上がり、ミーティングルームから去って行った後、1分もかかることなく、メンテナンスルームの無線機のスイッチは切られた。


「進展なしで戻ってくるによっ、今晩のデザート!」
「進展あり。だけど”僕たちは別に”を押し通す!に、明日の朝食当番!」
「誤摩化す。先延ばし。10分以内に戻る。に、008と同じ。」
「じゃ、我が輩、とっておきの1本を進呈して、009の告白、戻ってこないだ!」
「009だぜ?007、告白するに根拠あんのかよ?いいのか?後からぐちゃぐちゃ言わず、潔く、出せよ!」
「男に二言はなーい!」
「きっと009は003を思って、聞こえていたとは言わないアルし、かと言って、このまま告白する009、想像できないアルヨ」
「儂はじゃ、真面目に注意するんじゃあ、ないかと思うんじゃがなあ・・」














結果はいかに?



「告白っぽいことを言うがはっきりとは”口では言わない”で押し倒し、最後まではいかないが、003にはかなりの衝撃だろう内容。の、後、何事もなかったフリに、1時間内に戻って来る。プラス003には”聞こえていたことを言う、だ。009が部屋に隠しているものの1つを盗み出してきてやろう」


004は席から立ち上がり、ライターを手にもってミーティングルームから出て行った。
彼に続く形で、「むっつり野郎!」と言う声とともに009の部屋に向かう002を「止めなきゃ!」と、言葉とは裏腹に便乗する、008に、「こらこら!」と、続く、007。
006は夕食の支度をすると言い、残った、005とギルモアは苦笑しながら、その場に残り、頓挫したミーティングを2人で続けることにした。


「大丈夫かのう・・こんな調子で」
「次は、ルーキンス博士に頼まれた、サンドウィッチ諸島付近の海底調査。BGは関わっていない。大丈夫だ。」
「そろそろ、イワンも目覚めるころだしのお」
「博士。」
「なんじゃ?」
「島でしばらくのんびりするのも、いいと思う。・・・もしも2人が上手くまとまれば。狭いドルフィンの中より、邪魔は入らない。」


005の言葉に、ギルモアは驚いた。が、すぐに破顔させた顔で、静かに頷いた。





end.










*・・・3の出だしはラブコメ・チャレンジしていたときのもの。を、使用して・・。
 こういう”うっかり”系告白もありかなあ。と・・・。
 はずみで告白とか・・・。

 あとはタイミングだったんよー。くらいに想いが近い93。









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その夏の出来事は、日本で。

梅雨と呼ばれる雨の季節が過ぎ去ると、日本に本格的な夏が訪れる。
小さな東の島国は、多湿な気候なために、テレビで観るコマーシャルのよくあるうたい文句”気分爽快な夏”なんてあり得なかった。
べたべたと肌にまとわりつく感覚は、エアコンディショナーが作動している室内以外、フランソワーズは蒸し風呂気分。と、言うよりもずっとサウナに入っているようだ。と言う感想をため息まじりに漏らす。

これぞ、日本の夏!と、夏ばて気味なグレートは、それを誤摩化すように団扇をあおぎ、どこから手に入れて来たのか、ちりりん。ちりりんと、愛らしく耳心地よい音を鳴らす風鈴を買って来た。
海沿いに立つ洋館は、人が立ち寄らないような場所にひっそりと建つ。海側に面したリビングルームの窓に飾ったガラス作りのそれを風の鈴と書いて、ふうりん。と呼ぶことを、ジョーから聞いたフランソワーズ。


昔の人は、この音を聞いて暑い夏を涼んだんだよ。
ささやかな風に揺られて、鳴る音に、風を感じるんだ。


風流だろ!と、その声に重なるグレートの声。
フランソワーズは耳を澄ませて海風に揺られて鳴る音に集中し、すゞやかさを感じようと、一度リビングルームのエアコンディショナーを切ってみた。


「私に”風流・日本の情緒”・・日本のフィロソフィを理解するなんて無理なんだわ」
「え?」
「鈴の音を聞いても、全然涼しいなんて思わなかったもの。それに、コズミ博士がたてて下さったお抹茶も苦くて、苦くて、ミルクと砂糖が欲しかったわ。くださった浴衣も、ウェストが苦しいし、歩幅がとれなくて歩きにくい上に、すぐに来崩れちゃったし、下駄をけり投げちゃったりもしたし、山の形をしたかき氷を上手に食べられない」
「ああ・・・」

初めて日本で夏を過ごすフランソワーズの言葉に、苦笑気味に相づちを打つ、ジョー。
車庫に仕舞われている車を出そうとした車内はシートに腰を下ろす気にさせない熱気で充満していた。

「夏休みの宿題は朝顔の観察日記。なんて、言うのもよ」

ジョーは、エンジンをかけて4つのドアを開け放ち、エアコンの設定を強にした。

「どこで聞いたの?そんなこと」

開け放った運転席のドアに凭れたジョーは、驚くようにフランソワーズに聞き返した。
彼女はこれもまた、コズミ博士にいただいたレース作りの小さな日傘をさして、ジョーのすぐそばにたっていた。

すべて、コスミ博士の愛娘が置いて行ったものらしい。

「テレビドラマよ。・・・・夏だからって、朝顔でなければならない理由ってなんなのかしら?日本人は朝顔、好きね?」

もらった浴衣が朝顔の柄だったことをさし、そしてグレートが持ち歩く扇の絵だったことをフランソワーズは言う。そして、近くのスーパーにも何かとスイカに、朝顔に、花火のイラストが目に入るようになった。

「え・・・っと・・・」

そして、今から彼女を連れて行こうとしている場所も、朝顔。だったりすることに、ジョーは焦った。

夏の風物詩のひとつ、「朝顔市」

小学生の夏休みの宿題ではないけれど、新聞でその日を知ったジョーは、なんとなく朝顔の鉢をいくつか買ってこようと思い立った。「朝顔市」に行く事は、フランソワーズを驚かそうと内緒にしている。

ちょっと出るから、一緒にこない?と誘った。今までその言葉以外でフランソワーズを誘ったことはないけれど、一度も断られたことがない。
一緒にこない?と、誘ったドルフィン号の中でも、断られなかったから、彼女はここにいる。

「・・・朝顔は、gloire du matin。belle de jourでもいいと思うけど。有名な映画のタイトルになってるわ。その映画、知ってる?」

真っ白な日傘を左肩に当てて、くるくるとまわす。
レースの細かな模様目からおちる陽の光だけれど、まるでフランソワーズ自身が輝き弾く光のようにジョーの瞳に映り、眩しかった。

「い、・・いや・・・知らないよ」

そんなフランソワーズから、さっと視線を外し、腰を折って、車内に上半身を突っ込んだ。
他愛のない会話の間に、車内の温度は収まっていた。

冷たい風を作り送り出す送風口に、ジョーの長い前髪が揺れる。
顔をずらして、わざと頬に当てた。

その背をフランソワーズは見つめる。

「・・・・ジョー?」

手に持つ日傘をくるくるとまわす。

「なに?」

手に持つ日傘をくるくるとまわす、指先は迷いもなく、慣れたようにトリガーを引く。その感覚は消えることはなく、常にフランソワーズの指先にあった。
ジョーは車内に突っ込んだ姿勢のまま、運転席に乗り込んだ。
その彼を見て、今日こそ、見えない銃口を彼に向けてみてもいいかもしれない。と、フランソワーズは考えた。
そのために、ここにいる。


鍋の中でことこと煮込まれているような、日本で。
わけの解らない、フィロソフィに振り回されながら。




”一緒に来ない?”の言葉の意味を、確かめるために。




くるくると指先が遊んでいた日傘の回転が止まる。
夏の焼けるような痛みさえも感じる日差しに、フランソワーズのむき出しの白い肩が晒された。

「そろそろ、行こうか」

日傘がついっと、たたまれて。
助手席に向かわなければならない足が、2歩前に出て、運転席へ。

さきほどまでのジョーと同じ姿勢を真似て、車内に上半身を覗き込むように押し入れると、すぐ目の前に、どうしたの?と、問うてくる瞳。を、無視するように、瞼を閉じた。






驚きに見開いたままの瞳は動揺を彩りながらも、冷静に彼女の芸術的に薄く引かれたアイラインの美しさに気づいた。

心地良いとは言いがたい温度の潮風が、風鈴を鳴らす。

ちりりん。と、響いた音が波音に混ざり、それを合図にジョーは瞼を閉じた。
ちりりん。と、響いた音を耳にして、それを合図にフランソワーズは重ねていた唇を放した。

「日本の夏は、・・私には難しいわ」

ちりりん。と、風鈴が鳴った。
波音は季節とは関係なく、そこにある。


走り去った彼女が落とした日傘が、ジョーの視界に映る。

「簡単だよ・・」

フロントガラスに飾られた青に、初めて感じた感触を何度も再生させ、ごおごおと唸る車内の無機質に冷えたエアコンディショナーのに身を晒した。















木箱に入ったそうめん。
小さな鉢と、土と、朝顔の種。

花火セット。

フランソワーズの言った、映画のDVD。

コンビニエンス・ストアで買った、カチンカチンのかき氷。と、イベント情報雑誌。
に、観察日記用のノートを1冊。



そして、何度も車の中で反芻した言葉を胸に。
1時間後、それらを手に、彼女の部屋のドアをノックした。











end.




*予定では”もう、爽快感突きつける青春だね!きゃーっ”を目指したんですが・・・。
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Little by Little・18
(18)



耳を塞ぎたくなるような大声で話すのは、ジェットの特徴である。
彼が”内緒話”ができるのかどうかを疑いたくなるけれど、周りに人がいる場所で彼と秘密を共有しようと考える者など、家族たちの中に誰1人としていない。

ジョーにしがみついて離れないピュンマの様子に、ジェットはからかい半分、呆れ半分で自室から持ってきたデジタルカメラを使い”証拠写真”を数枚納めながら、今の状況を説明しろ。と、ピュンマの下敷きになっているジョーの足を蹴った。


「見ての通りだよ、ジェット。・・・ピュンマに襲われ・・ている」


ピュンマのいがぐり頭を胸上にすり寄せられ、がっちり腕で首周りをホールドされながら、ジョーは苦笑混じりにジェットを見上げる。


「っだからよ、その、原因はなんだっつーんだよ!」
「・・・・ちゃんと、帰ってきたから?」
「んなのったりめーだろ?!ミッション中に報告なしに外泊しやがって、わかってんだろーな!?」


ゲストルームのドアとしての役目を終えた板の上に乗るジョーは、相変わらずの場に似合わない声量で話すジェットのドスの効いた声にたいして片眉を顰めつつ、ピュンマごと上半身を起こした。
その動きに合わせるかのように、ピュンマもジョーの首に巻き付けていた腕を離し、ゆっくりと彼から離れる。そのピュンマの瞳はグレートや最近邸内を行き交っている少女漫画の絵のように、きらっきらと輝き、まっすぐにジョーに向けられていたままだ。
悦びを噛み締める唇は一文字に引かれて、頬はこれでもかと言うほどに高くなっていた。ジェットは腰を下ろしてまじまじとピュンマを見た後、彼の顔をアップでシャッターを切った。









####

騒々しい3人が2階から降りてくる声が聞こえた。
正確に言えば、騒いでいるのはジェット1人。

リビングルームにいる海にもジェットの声が、他、2人の声も届き始めた頃合いに、フランソワーズはソファから立ち上がった。


「あの、私・・・用事が・・」
「?」


落ち着かない様子で、さっと海から離れて、急ぎ足でダイニングルームへと続くドアへと消えていったフランソワーズとほぼ同時に、ジェット、ピュンマそしてジョーがリビングルームに入ってきた。


「・・・・津田も、いたんだ」


普段はギルモアの定位置である安楽椅子にどっさりと腰を下ろしたジェットは、フランソワーズが用意したピュンマの分のアイスティーを手をのばして、ストローを使わずに飲んだ。


「おはようござい・・ま、す」


ピュンマが海に頼まれた義足用のサポーターを渡しながら彼の隣に座る。海は上目遣いにジョーに視線をむける。


「おはよう」


ジョーは頷くような仕草を加えつつ言った。


「よお、海。フランソワーズはどおしたよ?これ飲んだら戻るぜ?」
「ジェット、そんなに急いで戻らなくても大丈夫だよ!ジョー、なんか食べるだろ?ダイニングにいるんじゃないかなあ、フランソワーズ!ふふ・・っ」


ピュンマの顔は、誕生日とクリスマスとお正月を一度に迎えたような、嬉しくて嬉しくて仕方がない。と、顔に書かれた表情でソファに座る事なく突っ立っているジョーにむかう。


「・・・・」


目は口ほどに物を言う。を、訂正してピュンマの顔は・・に変えた方がいい。と、ジョーは胸の中でため息をついた。
ピュンマの頭に花が咲いてるぜ!と、そ感想を抱くジェット。
ジョーから聞き出す必要もなく、ピュンマの様子で何かしらの進展があったことをジェットは知る事となったが、詳細については、ミッション中の無断外泊のペナルティを下すであろうメンバーたちに便乗しようと、今からその作戦を練り始める。

会話が途切れた合間に、海が義足を取り付け始めた。


「何か、用事があるっていって向こうに行ったんだけど・・・」
「用事!用事かあ!用事なら、ジョー、きっと君の珈琲だよっ、用意してるんだ!!」


いったん腰をおろしたソファから勢い良く立ち上がったピュンマ。その勢いに海がバランスを崩してソファの上でよろけた。


「さーさーっ!」
「ピュンマ!?」


ピュンマは素早くジョーの後ろへ回り込むと、ぐうううっと腕を伸ばしダイニングルームへと続くドアへとジョーの背を押していく。


「ほらほらほら」
「え。ちょっ」
「遠慮しない、遠慮しない!、遠慮なんか今更いらないから!」
「・・・っ」


ピュンマの浮かれ具合は異様だった。
敢えて止める必要がないジェットは、傍観に徹し、海は何がなんだかわからないままに、装具の取り付けていた手を止めて2人を見ている。


「ごゆっくり~♪」


ピュンマの浮かれ具合にどう対応すればいいのか解らないまま、ジョーは彼に背を押されてダイニングルームのドア前まで足を進めた。
ジョーの背後からにゅ。っとのびたピュンマの手がダイニングルームのドアを開け、どん!と彼の背を強く押してダイニングルームへと押し込んだ。
すぐ後ろでばたん。と、ドアが閉しまったが、10を数え終えたタイミングで、そろり。とそのドアが細く開く。

3人の野次馬の目を縦に並べて。











「・・・・ええっと・・」


それが、ダイニングルームに入ったときのジョーの第一声だった。

ギルモア邸の定番になりつつある香ばしい、滝れたての珈琲の香りに満ちたダイニングルームは、キッチンからささやかに聴こえる物音以外何もなかった。
その音から、ピュンマの予想通りにフランソワーズはキッチン内にいることがうかがえる。もしかしたらジェロニモかもしれない、などとはジョーの頭には浮かばない。


「・・・・・んん・・と・・」


ピュンマのピュンマらしくない興奮しきった態度と反応に、彼になら昨夜から今朝にかけてのコトをかいつまんで話してもいいかもしれない。などと思ったことは、星のまたたきよりも早く闇へと葬り去った。


---ジェットの方がマシなのかもしれない。


そんな風にジョーに思わせてしまうほどのピュンマの浮かれ具合に、全身に変な汗を掻いてしまったジョーは、もう一度シャワーを浴び直したい気分にさせられた。
けれど、そのおかげで自分は普段とかわらない顔でいられたと思えば、感謝するべきなのか?と頭をひねりながら、キッチン内にいる人に声をかけるべく喉を鳴らすように、生唾を飲み込んで気持ちを整える。


「・・・・ジョー?」


彼よりも、早く、彼女が声をかけた。
キッチンの奥から。


「あ・・・hi」


今、彼らの家となっている人目から忍ぶように海沿いに立つ洋館に越してくる前に、ダイニングルームとキッチンはひと続きになるように改装された。
元々独立した部屋となっていた内部を張大人の希望に壁を取り払い、横に5人がゆったりとすわれるほどの、収納棚式のキッチンカウンター・テーブルで仕切った。


”キッチンから食事をするみんなの顔が見られるようにしてネ!何かと便利アルからして。どう便利かあるか?それは使ってみての、リフォーム後のお楽しみネ!”


今では、たまにキッチンカウンターが即席のバー・カウンターに姿を変える工夫までされてしまっていた。


「・・・あの・・軽く、食べます、か?」


その、キッチンカウンターの奥から聴こえる声に、ジョーは胸をドギマギさせて反射的にびし!と直立姿勢をとる。

フランソワーズがジョーの部屋を出てから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
今朝方、お互いの胸の奥底にひた隠していた気持ちを打ち明けた、ジョーの部屋での出来事から。


「食べます・・」


2人ともか細い声で、なぜか他人行儀なですます口調で会話を始めた。


<なんなんだよっアイツらの会話はっ!確実になんかあったな!!ぜってーなんかあった!>
<しーっ!笑っちゃダメ!声出しちゃダメだよっ!!>


フランソワーズがジョーの部屋を出るきっかけになったのが、野次馬3人が乗り付けたタクシー。再びダイニングルームで2人になったのも、野次馬(二号)のせい。

ダニングルームのドア前に立ちっぱなしのまま動けないでいるジョーのため、そんな野次馬たちの目には、彼の背ばかりをうつしていた。
彼らの気配に簡単に気づきそうなものの、今のジョーに、海が笑ったときにでくる左えくぼほどの大きさの余裕さえ、ない。


「・・ホットサンドを用意したんです、けど・・」
「・・・お願いします..」
「・・はい」


吹き出しそうになる野次馬1号の口を押さえる野次馬二号。三号は大人しく誘われたままにドアからダイニングルーム内部の様子を見守っていた。


<ピュンマ、お前の浮かれっぷりといいっ、2人のこれといいっ!!>
<”確実”に決定的な現場を押さえたいんだっ!この眼でしっかりと見たいんだよっ!!僕はこころの底から本気で安心したいんだから!>
<決定現場か?!よっしゃっカメラ!・・いやっ、これならビデオだな、動画だっ!動画!!>


ジョーの躯がドア向こうの野次馬たちの視線から離れていく。
そのぎこちない動きに、右手右足が同時に出てしまっているようなジョーの動きを、ジェットは携帯電話内蔵のビデオカメラで撮影を開始した。


<見ろよっ!ジョーのあの壊れたロボコップみてーな歩き方っ!!>


ジョーはダイニングテーブールに手をついたとき、自分の手の平の汗に滑り驚いた。
彼のこころの狼狽え具合を表すように、がたがたと音を立てて椅子をひき、ダイニングテーブルに着く。

普段の彼ならキッチンカウンターに座り、フランソワーズが用意する様を眺めていただろう。家族が揃わないとき、各個人で食事をとるときなどは、みなカウンター・テーブルを愛用している。


「・・・」


そのカウンターの向こう側からこぽこぽと、彼の珈琲が注がれる音が聴こえた。
ジョーは落ち着かないままに、キッチンがある方向には背をむけて、ジェロニモが早朝届けられた新聞をダイニングテーブルに置いたままにしていたようで、躯を伸ばしてさっとそれを手に取った。すると、ジョーが手に持った部分が湿っていく。
一度テーブル前に新聞を置いてから、汗を振り払うかのように力任せに両手をぶるぶると振ったあと、再び新聞紙を取りあげて広げ、紙と印刷用インクの匂いを思い切り吸い込んだ。


「・・・用意、できました」


フランソワーズの履くスリッパの音が妙に大きく、ダイニングルームに響き、その音がジョーに近付いて来た。その音に合わせるかのように、ジョーの心臓の音も大きくなる。


「・・・うん」


ジョーは新聞の規則正しく並べられた字を読むのではなく、小さく隅っこにプリントされた天気予想図を意味もなく凝視した。
トレーがテーブルの上に置かれる音と同時に、彼女の香りが珈琲の香りに紛れてジョーに届く。新聞の紙と印刷用インクの匂いなど、遥か彼方へと吹っ飛んで、彼女の届けてくれた香りだけがジョーの躯の中を満たしていく。


「・・・・・」


置かれたトレーの上にある、ハムとチーズを挟んだホットサンドにちらり。と視線を動かすと、そのお皿を持ち上げたフランソワーズの手が視界に入った。お皿の縁にのる親指の爪がつるつるとした感触を想像させるように光沢を放つ。


「・・・・・」


無言で、フランソワーズはホットサンドのお皿をトレーからテーブルに移し、次に、ことり。と、珈琲が注がれたマグがテーブルに置いた。


「ありが、と、・・う」
「・・・他に、なにか・・・いるかしら?」


ジョーのブランチを運んだトレーがテーブルから離れて、ダイニングルームの端に座るジョーの、すぐ傍らに立つフランソワーズが、ジョーに尋ねた。


「・・・・・いや、十分・・だよ」
「・・・・・本当に?」


その、なんとも言えない、言葉に表現しようのない、甘く痺れたような緊張感がダイニングルームを包み込み、野次馬たちにも感染していく。3人の頬がにんまりと高くなっていき、その笑いを我慢するかのようにくちびるに力が入っていった。


「・・うん」


ばさり。と、ジョーは態とらしく大きな音を立てて広げた新聞を畳む。そのジョーの手元を胸元にぎゅうううっと使ったトレーを抱き締めながら見ている、フランソワーズ。
ジョーが畳み終えた新聞紙を彼の右隣にある開いた椅子の上に置くと、偶然にもそれが、2人にとって合図となったようだ。


「「・・・・・あの」」


ジョーとフランソワーズ、2人が同時に口を開いた。
その声が見事にはもったので、ジョーは反射的に新聞紙からダイレクトに顔をフランソワーズへと移動させると、フランソワーズの瞳がジョーの視線に捉えられた。










好き。
















少し前の体験を2人の瞬きした瞼にフラッシュバック。
一瞬の映像が瞳に映った相手との続きを探す。

















キス。



















スキだからキスして、キスしたいほどにスキで。
キスをして、スキと言って。
スキとキスを繰り返した。





「「・・・・・・・・・・・・・・」」







吸い寄せられそうになる感覚に、耐えられそうにない2人の視線。


<おおおおおっ?!やっぱりかっ!とうとうこの日が来たのかああ?!>
<うわ、うわ、うわ、うわあああ!!>
「・・・・」


お互いの中の熱が、不足する燃料を感じてフラッシュバックした中の出来事を要求し暴れる。が、その想いをのせた舌が作り出したジョーの言葉は。



「・・・・今日の天気は良いみたい、だ、よ」
「・・・・それは良かったわ」



<<はあああああ?!!!>>
「・・・・っ重い~~~~っs


拍子抜けした野次馬一号、二号は縦に身を重ねるようにしてドアにはりついているために、三号の上に乗るように脱力した。



食い入るように見つめ合う2人のうち、琥珀色の瞳が意を決したように言った言葉の選択は、凝視していた新聞の内容が反映されてしまい、巧くいかなかった。
なんとか伝えるべきことをジョーに伝えなければという義務感から、会話をつなげようと、胸にトレーを抱きしめるフランソワーズが、次に口を開いた。


「・・・ジョー、私・・・博士と、話しました」


フランソワーズの口から出た、”博士”の単語にジョーの眉間がぴくり。と反応した。


「博士と・・・?」
「その・・・連絡、・・・昨日から、誰にも、どこにいるか、とか・・・報告してない・・・・」


ダイニングテーブルの上に置かれた珈琲がたたさせる湯気が、ジョーの頬にかかる。


「・・・あ、ああ・・・」


不意に胸が詰まったように息苦しくなり、慌てて、フランソワーズはジョーの視線から瞳をそらし、胸に抱えていたトレーに顔を埋めるように隠した。


「・・・・・・・反省、しなくちゃいけないことなのに、ミッション中で、みんなに、とっても迷惑をかけてしまったのに、私、・・・できない・・の・・・」


ホットサンドのチーズと、トーストの焼けた香りが珈琲に混じる。


「ジョー・・私、・・・・・003、失格です・・・・・」








がた。と、ジョーが立ち上がる反動に押された椅子。



<おっ!!>
「・・・・」
<今度こそ!?>


ジョーが立ち上がった勢いに野次馬たちが息をのむ。



「・・・・・。ごめんなさい」
「謝らないで・・・。俺の携帯は、使えなかったから・・仕方ないと思うし・・・。気にしなくて、いいよ。それに・・・・」


トレーに隠したフランソワーズの顔を覗き込む、ジョー。


「でも」
「責任は、俺にあるから」


その彼の手がそっとフランソワーズの肩に触れた。


「ジョー、・・違うわ」


否定するようにフランソワーズの髪が左右に揺れる。


「いや・・」
「私にあるのよ、だって・・」
























・・・・だって。





あのとき、私はすべてを忘れていたもの。















ジョー、あなたのことでいっぱいだったから・・・・・。
ミッション中で、003でいなければいけないときに、私は、私/フランソワーズだったから。



本当は、こんなことはあってはいけないこと。
いけない、こと。

許されてはいけない、こと。

















「俺の勝手な行動に、キミを巻き込んだんだ・・・それで、・・・」


ジョーの言葉に、フランソワーズはトレーから顔をあげて、彼を見た。


「それで、その・・・」
「でも、それは・・・」


お互いの目元が、まるで鏡に映した自分をみているかのように、同じ色でほんのり赤みをさしている。
それが2人に、あの告白が夢ではなく現実にあったことだと示し、海水のようなキスが唇によみがえ らせる。
フランソワーズの右肩に触れているジョーの手に力が入り、無意識に互いの視線が互いの瞳から下がっていく動き。が、同時にリビングルームへと通じるドアへと投げられた。













『ウオアーっっチャチャチャチャチャチャチャーっっ!!!!!!!!メッセージを受信した。お前はもう、読まずにはいられない。』














「あ、悪ぃっ!!メールだ、メールっ!!」


フランソワーズの右肩にあった手が、はい!と挙手するかのごとく天井へと伸び、フランソワーズはジョーから離れて、キッチンへと足早に向かった。





録画中だった携帯電話からのけたたましい、有名な格闘アニメの主人公役の声優が発する、決め台詞を少しかえた着信音は、場の雰囲気をがらり。とかえてしまい、それを機にジョーとフランソワーズは普段通りに近い態度を取り戻して、接する事ができるようになった。
逆に、恐ろしいほどにご機嫌だったピュンマの機嫌が地の底へと落ち、彼らしくなく、ぞんざいな舌打ちを鳴らし、ジェットの携帯電話を奪い取るようにしてグレートからのメールを読んだ。












####


005が5人をギルモア邸にある車でホテルへ送ると言ったけれど、009はそれを断った。
石川斗織が入院している病院の面会時間となるために、005は時間通りそちらへ言ってく欲しいと頼んだ。あやめ祭が正式に終わる今日までは、一応目を離さないようにして欲しいと言う009として指示を出した。
病室内にはすでに盗聴マイクと小型カメラをしかけてあるけれど、見舞いの人間を確かめるくらいの機能しかない。
今日、もしも何かしらの動きがあると想定す中に、石川自身に関わることも考えられる。石川が事故に遭って以来、00メンバーたちが危惧しているような動きは何も見られなかったけれども、彼は今回の事件で唯一の”キー”となった重要人物である。そのために、必要最低限の警戒は必要と判断していた。

車の運転になんら問題のない実際年齢の4人のサイボーグたち。しかし、その内の3人は、月見里学院の学生という立場のために、もしも誰かに目撃されて面倒なことへの引き金を作ることは避けなければならなかったので、運転は却下。
そうなれば残りの1人、003が運転することになるはずだけれど、009ではなく、002と008がタクシーを訴え、005がさっさとタクシー会社に電話をして車を呼んだ。
理由は、フランソワーズの目元の色と、一睡もしていない状態だろうと言った005の助言。の上に、泣き疲れと緊張と、1日でおこった大きな変化によって、時間が経つにつれて彼女があくびをかみ殺す仕草を見せるよになったため。

そして、グレートからのメッセージ。


=我が愛しき姫が無事にそっちにいると聞いた!009に”また”連れ去られないように、しっかりホテルまでの姫の護衛を頼むぞ!!=


昨日、003が単独行動しようとしたときに007である自分の対応が、009と003の行方を追えない状況を作り出した。そのことにたいする負い目を拭えないでいた、007の心情が表れたメールだった。



「博士への報告は僕だけでいい。003は篠原とホテルに戻ってくれ・・・ジェット、篠原と同室の君にも頼む。学院へ向かう前に一度集まればいい」
「了解」


ジェットのメールの着信音が、ジョーとフランソワーズに完全なこころの切り替えを与えたようで、邸のリビングルームで野次馬たちが目にしたような雰囲気が漂う様子がない。


「いいえ、009・・・休むのはいつでもできるわ。博士への報告には私も行きます」
「いや、今は今夜のことを最優先に考えて欲しい。キミの力に頼らないといけないことも多くなるだろう。学院に行くまでは休んで」


<よお、003が徹夜っつーのは、なんでなんだよ?>
<009に聞きなよ>
<・・・いくらなんでも、まさかっ・・・まさかっっっっっっっっ!!!!???>
<・・・え・・・・・・・、ジェット、それは・・・ないと、・・・いや、それだったらフランソワーズもだけど、ジョーだって・・いくらなんでも、それは突飛すぎるよ>
<けどよー、なんか変じゃね?>


彼ら2人を良く知る側から見て、多少のぎこちなさと微妙は違和感を感じさせるけれども、タクシーに乗り込み、ホテルに到着するころには、いつもの009と003がいた。


<ないね。絶対にない。僕的には、それはないと判断するよ。ジェット、それはない>
<なんの根拠があってだよ!?>
<ジョーとフランソワーズだからだよ!そんな簡単に2人が・・そういう関係になるんだったら、僕の胃痛の歴史はいったいなんだったんだよ?>


脳波通信でジェットと2人の間に何があったのかを詮索するような会話をしながらも、タクシー内で気持ちを整えてしまった2人にたいして、ピュンマの胸が重く塞いでしまう。


「ジョーもフランソワーズも、もっともっと自分勝手に我が儘になってくれた方が、僕らはすごく楽なのにさ・・・。もっと甘えてくれないかなあ・・・・。僕らは家族なんだし。心配してなんぼなことってあるのにさ・・」


ホテルに到着し、003と同じく部屋で休むように指示を受けた海に付き合う、彼と同室のピュンマのぼやきを海は聞いた。
海はそんなピュンマのぼやきを聞きながら、ホテルのロビーにて自分たちを出迎えた当麻のことを思い出す。

彼の目の下の青みがかった色が、明らかに一晩中フランソワーズの帰りを待っていたことをあらわしていた。彼につき合い、同じくホテルロビーにいた張大人には、当麻のような疲労の色は見えなかった。


ジョーとフランソワーズの無事な姿を確認すると、躯をゴム鞠のように跳ねさせて喜んだ。















====19へと続く


・ちょっと呟く・

長い3日間だ・・・やっと最終日に突入です。
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朝の報告
注意)ここの93は新婚です・・”朝の食卓”をベース(続き?)で
書いてます。


人里離れて静かな海沿い近くの雑木林に、まるで浮き世の世界から その存在を隠すように建てられた洋館がある。 鬱蒼と茂る木々に囲まれて、波音がざざざと砂を引く音が爽快な 青空の下、少し不気味な雰囲気を醸し出している。が、住人たちは 夏の太陽に負けないほどのエネルギ-を持って、今日も慌ただしい 朝を迎えていた。 ちん♪と甲高いベルの音がなる。 今日もフル稼働で働くオーブントースタ-は日本ではあまり見かけ ない3段式。 毎朝のメニューはだいたい決まっている。 芸がないなどと言う者がいれば、二度とダイニングルームの席に 着く事を許されないだろう。 Lサイズの卵パック2つを使いきったのにもか変わらず、新しい パックを、ばり とあけて、底の深い銀色のボールに割る準備。 かん!と銀色のボールのふちに卵を当てて1つ1つ丁寧に両手を 使って割る彼の姿を見た張大人。 彼の丸っこい手が伸びて卵を掴むと、ひょうい、かん!ぽてん。ひょい、 かん!ぽてん。と、リズムよく片手でするするあっと言う間にすべてを 割り終えてしまった。 「・・・僕が・・・・」 割り終えた1パック分の卵を菜箸を使い、持ち上げた銀のボールの 中で見とれてしまうほどの見事な、混ぜ技術を披露する。 「パンが焼けたアルから、ダイニングルームに持ってくネ!」 食パンよりもロールパンが特売売りをしていたために、今日はふっ くらあつあつ焼き立てバターロールがカゴに載せられて朝の食卓に 並ぶ。 「パン焼けたよ」 大家族の朝食はすでに始まっていた。 睡眠不足な眠たい頭と躯にむち打ち、いつもより1時間も早起きし たジョーは、フランソワーズの代りに、張大人の朝食の準備を手伝い 整えた、家族の朝食はあっと言う間になくなり、足りない!と、次から 次に色々と要求された。 「ジョー!遅いぜっ」 寝坊したジェットは、始めに出されたパンにありつけなかったた め、次に焼き上がるのを待っていた。 ジョーがカゴをテーブルに置くのが待てなくて、腕を伸ばして3つ を一度にとると、「行儀が悪いぞ!」とアルベルト。 彼も焼きたてロールパンを今か今かと、庭の端っこに作られたジェロ ニモ菜園で取れたプチトマトを口に放り込みながら待っていたた めに、フライングしたジェットに文句を言った。 「ジョー、珈琲ない!」 空になってしまったポットを指差したピュンマ。その隣で「んー・・・!」 と、満足げに唸るグレートは、今朝のヌワラエリヤの葉に1人だけの 世界に浸る。 ジェロニモはヨーグルトに載せるジャムがなくなったことを瓶を持 ち上げてジョーに見せて訴えた。 「卵はっ?」 ふわふわのスクランブルエッグは、大家族の朝に欠かせない定番中 の定番メニュー。 「今作ってるよ、大人が」 空になったコーヒーポットを受け取りながら、はあ。と、ため息を ついたジョー。 「ジョー、ロールパン、もうないよっ!」 「ええ?」 ピュンマが最後の1個を手に取って言った。 「ジョー、シリアルはどうした?」 「はあ?」 ベーコンにアスパラガスをまいて爪楊枝で止めて茹でた、それを ナイフとフォークで優雅に切り分けるグレートは、どうやら今朝は パンではなく、シリアルな気分らしい。 「ブルーベリージャムの換え、あるんだろうな?」 ジェロニモが手に持ってジョーに見せて訴える、空になったジャム の瓶をみながら、お皿においたロールパンを綺麗に二つに割いた アルベルト。 「ジョーっ卵っ!パンに挟むんだから、卵だせ!」 「ジョー、サラダ用のマヨネーズが出ていない。」 「ジョー、珈琲がないなら、オレンジジュース!」 「ジョー、我が輩はソイミルクでな」 「・・・・・っ」 ちん♪とオーブントースターが鳴った。 「次、焼けたアルヨ!ジョーっ!」 研究室に籠っていたギルモア博士がひょっこりダイニングルームに 姿を現したことに、ジョーは気づかなかった。 「ジョー、儂n」 「うるさい!」 ダイニングテーブルとキチンカウンターの間の空間に立っていた ジョーの肩に、ぽん。と、ギルモアの手が置かれた。 「そうか・・・、すまんかったな。うるさいか・・」 ぎょ!っと驚きにめいいっぱい見開かれたジョーの瞳。と時間を止 めてしまった家族たち。 「はっ博士っっ!!」 「大人、儂の朝食を頼むよ」 「博士、おはようさん。アイアイねー!すぐアルねー!」 キッチンカウンターから覗き込むようにしていギルモアは張大人に 言った。 「博士っ僕は別にっ」 「「「「「「おはようございます、博士」」」」」」 テーブルに着く家族6人の声が揃ってギルモアに挨拶をする。 「うむ、おはよう・・・」 「は、博士、あのっ・・・」 慌てるジョーに対してにんまり笑い、気にせんでええ。と、言う言 葉を呟きながら、すたすたと足を進めてダイニングルームの定位置 に席に着くと、間髪入れずにグレートが彼の自慢のモーニング ティーを呼びのティカップに注いでギルモアに出した。 それが合図となり、動きを止めていた家族たちが再び賑やかに ジョーを呼び始めた。 「ジョー、パンが焼けたってさ。もってきてよ!それと珈琲!」 「マヨネーズ。」 「ジョー、卵っ」 「ジョー、我が輩のシリアルは?」 「ジョー、ジャムがないぞ」 「はいはい、おまっとさんネー!!ふわふわふんわり、特上エッグよ! ジョー、博士の分をすぐ運ぶアル!」 フライパンを片手にキッチンから出て来た張大人からふわふわふん わり・スクランブルエッグの美味しい香り。 その香りにジョーのお腹が、ぐううっとなる。彼の分の朝食はきち んと彼の席に用意されているものの、その席について食事をする暇 などまったくなく、悲しい事に、ふわふわふんわり・スクランブル えぐはすでにつやを失い、冷めてしまったベーコン巻きアスパラガ ス。添えられているプチトマトだけがつややと皿の上で美味しそう な色を放っていた。 「はいはいはいはい、はいネ!ジャムはブルーベリーじゃないアル ヨ、ワイルドベリーで我慢ネ!マヨネーズ受け取るヨロシ!シリア ルとソイミルク!焼きたて熱々ネ、ロールパンお待ちーっ♪珈琲は も少しかかるアル」 ダイニングルームに着いたギルモアの前に朝食の皿を置くまでの間 の時間、まあるい躯を素早く動かして、張大人が家族たちのリクエ ストにあっと言う間に応えていく。 「ジョー、ありがとね。もう席に着くヨロし、せっかくの朝食がひ えひえネ」 張大人に言われてやっとダイニングテーブルに着いたジョーの目の 前にどん!と置かれたオレンジ100%ジュース。 「珈琲はまだないアルヨ」 「・・・・・うん」 「大人っコーラ!」 「ジェット朝からアルか?!」 「関係ねーよ、飲みたいときが飲み時なんだぜ」 すっとジョーの隣の空席に身を滑り込ませた張大人は、ジョーの皿 の上の冷たくなってしまったスクランブルエッグを、手に取ったあ つあつのロールパンに切り込みを入れ、グラスの小皿にもられたレ タスとあわせて、ジョーのためにミニ・サンドを作った。 ばちん。とウィンクひとつをジョーに残して軽やかにキッチンへと 向かった張大人。 「フランソワーズはどうしたんじゃ?」 ケチャップをたっぷりスクランブルエッグにかけながらギルモアが 家族たちを一人一人の顔を確認するように見てから言った。 「今朝はフランソワーズの代りにジョーががんばってくれたアル よ!」 キッチンカウンターテーブルからひょっこり顔を出した張大人が 言った。 ダイニングテーブルに着く、全員がサンドイッチロールを嬉しそう に頬張るジョーに注目する。 ジョーはゆっくりマイペースに咀嚼してごくん。と飲み込み言っ た。 「こんなに朝が忙しくて大変だなんて、知らなかったよ・・・」 ちん♪とオーブントースターが鳴った。 あと何回この音を聞けば朝食の時間が終わるのだろうか。当分は パンを食べたくない気分にさせられそうだと、ジョーはため息をつい た。 「姫もときにはゆっくり寝坊でもしたいだろうさ」 受け取ったシリアルにソイミルクをかけた。 「お勤めご苦労さんだな!(にやにや)」 やっとできたふわふわふわふんわりのスクランブルエッグをたっぷ りとロールパンに挟んで頬張る。 「今後はフランソワーズが大人を手伝えない日も出て来ると思うか ら、みんなも協力してくれないか?」 「てっきりジョーは(今まで以上に)亭主関白になると思ってたの に!」 ジョーの言葉に間髪入れずに突っ込むピュンマは躯を伸ばして、 オレンジジュースのパックを手に取った。 「調子悪いのか?」 ジェロニモはデザートのヨーグルトを彼の人差し指よりも小さな スプーンですくう。 「夏風邪でもひいたのか?」 ジェロニモの言葉をついで、アルベルトが家族を代表するように 尋ねた。 「ジョー、それならフランソワーズを儂のところに連れて来な さい」 ギルモアがケチャップをたっぷりかけたスクランブルエッグを 口に運ぶと、彼の立派は口ひげを赤くした。 「いえ、風邪じゃありません」 「じゃ、どうしたんじゃ、フランソワーズは?」 「・・・ああ、・・・でも、博士には報告しておいた方がいいの かな?」 独り言のように呟いたジョーは、皿の上のベーコン巻きアスパラガ スを口に放り込んだ。 ギルモアだけでなく、家族が、再び手を止めて彼の”報告”を待つ 中、張大人が新しく焼き上がったロールパンを入れたカゴを手にダ イニングルームにやってきた。 喉にごくん。と、口に放り込んだものを通した後に、ギルモアが座 る席にむかってジョーは姿勢をただした。 「彼女の生物学的バイオリズムに合わせてこれから生活をしてい こうと話し合いました。ちょうど今の仕事先との契約も切れるし、 この不況時、契約更新ができるかも解らないので、彼女の望むこと を最優先に、僕たちの遺伝子共有者を増やす努力をしようと決めま したので、よろしくお願いします」 「「「「「「?」」」」」」 ダイニングルームに浮かび上がる無数のクエッションマーク。 「・・・・と、いうことは、じゃ」 ギルモアはジョーから視線をお皿の上にスクランブルエッグに視線 をうつして、静かに言った。出来立てのそれはほかほかと優しく美 味しそうな湯気をたてて次の一口をギルモアに促している。 「・・・・・フランソワーズの・・・に、合わせて、今後は集中的 に子づくりに励むと?」 超大人の手から離れたカゴが落ちて、焼きたてのロールパンが床に 転がった。 「やだな、博士・・・。そんなダイレクトに・・・。せめて、家族 を増やすと言ってください、まだ朝なんですから」 ほんのり頬を染めたジョーは、恥ずかしさを誤摩化すように大急ぎ で皿の上を片付けて、契約社員として働く先へと出掛けて行った。 「イワンが拗ねなければいいが。」 時間が止まったままのダイニングルームに穏やかな波音と海鳥が鳴 く声が響き渡るほどの静寂に包まれていた。 デザートのヨーグルトにワイルドベリージャムをのせて食べ終えた ジェロニモが、デザート用のスプーンをテーブルに置いた音で、時 間が動き始めた。 「つーか、・・・できるのか?」 ジェットの素朴な疑問が口火を切る。 「・・遺伝子共有者・・・・?って、子ども???え? 子ども?!」 「クローンだったり、しない、アルか?」 「姫は、その・・・いや、ジョーもだが、・・・博士?」 「2人は、そういう家族を増やす・・・生物学的な繁殖機能が 備えられているということで、あってるのですか?」 家族の視線がギルモアに集まる。 ギルモアはじいいいいっとスクランブルエッグを見つめたまま、 言った。 「可能性は、2人の努力次第じゃ・・・・」 昨夜が生物学的バイオリズムが出した、遺伝子共有者を有する ために最も適した日であったために、今朝は伴侶となった人の許しを 得て、自室のベッドで安らかに眠っていたフランソワーズは、夢の世 界から、ダイニングルームで朝食をとる家族たちの歓喜に近い雄叫 びにより、起こされた。 「・・・・・・え・・っ!?」 フランソワーズがフランソワーズであるために、その会話の内容 は全て耳に届いてしまい・・・。 「ジョーっ!ひどいわっ!!どうしてっ、どうして私たちのプライ ベートなことをみんなに言っちゃうのっ!?」 フランソワーズが手にするもの全てが、帰宅したばかりのジョーに むかって投げられた。 「博士には報告する義務があるだろう?僕たちの躯のことだしさ」 見事な反射神経で、愛妻が投げて来るものを一つとして取りこぼす ことなく、キャッチしていく、我らが009。 「朝の食卓の席で言う必要ないじゃないっ!みんなの前で言う必要 だってないじゃないっ!!」 「けれど、みんなの協力があれば、目的達成はよりスムーズに・・」 フランソワーズの周りには、もうすでに投げられるような物は見当た らない。 「ばかああああっっ!!ミッションじゃないのよっ!」 「いや、これは僕とキミにとっては大切な人生のミッションで」 仁王立ちになった彼女は、がし。と室内で5番内に入る家具をがっ しりと掴んだ。 「もおおおおおおおおおおおっ!!!」 「落ち着いて、フランソワーズ・・・それは、いくらなんでもっ!」 「いやああああああっっ!!」 「うわあああっ!」 恥ずかしくて家族たちの顔をまともに見られない!と、フランソ ワーズは、実家(フランス)へ帰らせてくださいっ!と、初めての 夫婦喧嘩が勃発した夜。 家族たちはその物音の激しさから、一晩中若夫婦の部屋の壁 にへばりついていたと言う。。 最愛の兄、ジャンへ伴侶となった人に対する愚痴の電話をかける と、さっそく飛行機のチケットが最速便にて送られてきた。 そして、その朝の報告以来、遺伝子共有者がこの世に現れる可能性 のパーセンテージを下げ続けている。 end. 「・・・結婚して変わるのは、男じゃないと思う」 朝の食卓にて、彼はそう家族に報告したことを付け足しておく。 写真素材 ミントBlue
*うーん...朝の食卓が好きな方のイメージを壊してしまったら、ごめんなさい。 ⇒ 続きを読む
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ciel fourmillant d'étoiles/水無月りら様から頂きました!
ciel fourmillant d'étoiles。
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