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Little by Little・19
(19)



あやめ祭2日目途中、ジョーとフランソワーズの二人の行方が判らなくなり、連絡も途絶えたまま一夜が明けた。
すでに時は昼を過ぎて、ムードメーカーな人類の夢と言うべき能力を足に持つ仲間の数字を指していた。




家族たちは、任務を放り出した2人に対して口では厳しいことを言いつつも、いつかこの日が来ることを予測していた。いや、予測というよりも、訪れることを期待していたと言った態度だった。

けれど、彼らが、”彼ら”であるために。
けじめは必要だった。





2人の消息を追おうと思えば、様々な方法で彼らは簡単に2人を見つけだしただろう。
そこまでの労力をかけて2人を追跡しようとする者はいなかったが、その中で唯一、擁護者の願い出を受けて2人を追跡することになった006こと、張大人。

007であるグレートは、003/フランソワーズが行方を絶った当時に一緒にいたため、その責任感から2人を追跡したい気持ちが強かった1人であったけれど、今回のミッションの擁護者の篠原当麻の申し出とギルモアからの命を受けた張大人に任せて、ギルモアと一晩を過ごした。

ジョーとフランソワーズを追い、見つけることが006こと張々湖の”任務”となったけれど、追跡しながらも自分がジョーとフランソワーズを見つけることをあまり良いようには考えていなかった。


根拠のない理由からだけれども、家族の誰もが2人が2人の意志で”自分のために”動くことを望んでいたからだ。

1人1人がそれぞれに、2人について思うことがあると同じように、張大人にも彼なりに2人にたいしての思いがある。
最終的には、2人がギルモア邸にいることを知り、夏になってせっかちな太陽が早い時間に空から月の姿を隠し始めたころに、運転する車を数日帰っていない邸に停めた。
連絡を入れてはいなかったにも関わらず、自分と擁護者が邸に帰ってくることを知っていたかのように、張大人の運転する車を出迎えた家族の1人によって、一晩かけて追いかけたにも関わらず、2人に会わないままホテルに戻るように指示された。

ホテルに帰りつき、擁護者である篠原当麻に彼が泊まるホテルの部屋に戻って休むように言ったけれども、彼は頑なにそれを拒否して、00ナンバーサイボーグの父とも言うべき人が泊まるホテル・ロビーの端、壁に寄せられた、椅子に腰を下ろした。
006として命を受けている以上、その任が解けるまでは彼から目を離す訳にはいかず、張大人は、仕方なく彼のとなりに腰をおろした。

篠原当麻は、遠慮がちに自分につき合わなくて言いと申し出た。
ホテル内から出ることない、ただ、ここで待っているだけだからとも付け加えて。
張大人は、その申し出ににっこりと微笑んで、まだまだ若いもんより体力、気力共に劣ってはいないと、鼻息を荒くしておどけてみせる。

そんな中でそっと盗み見る篠原当麻の横顔から、彼が今、何を感じ、何を想い、部屋に戻ることなくホテルロビーにいるのかを読みとろうと試みる。
しかし、張大人の頭の中では別のことが浮かんだ。
ジョーの申し出を素直に喜べない。と、003のメンテナンス前に、ギルモアが張大人にこぼしたことがある。


「限りある時間のウチに、ジョーなら。と、思う・・・。じゃが、儂はそこまでジョーを縛りつけとおない。儂の亡き後のことはすでに001と話し合っておる。それ相応の準備を始めるつもりじゃし、すでに・・・」


言葉を途中で切ったギルモアは、張大人がそっと置いたショウガ湯の甘くて鼻奥をじんわりと刺激する湯気を深く吸い込みながら、両手で湯飲みを包み込んだ。


「ジョーが・・・・な・・・。正直に言えば、命令したい思いもあった。009、お前は誰よりも・・・だから、そうしろ、と。な・・・・じゃから、ジョー自身から申し出てくれたことに、儂は・・・・、儂は、じゃ。・・・儂は、これ以上ジョーをどうしようというんじゃろうなあ・・・・」


湯飲みを口に運び、熱いショウガ湯を音を立てて啜る。
張大人はジョーの口から報告される以前から、ギルモアの夜食の合間からこぼれた愚痴よりも前から、気づいていた。
00ナンバー・サイボーグのリーダーとして、いついかなるときも万全の体制で戦うためには、そして、全員が必ず”生き延びる”ための戦いのためにはと、最前を尽くす彼が、思いつかないはずがない。


ジョーは常に今ではなく、明日を見据えて動く男だ。
過去に拘りながらも、ひたすらまっすぐに、明日だけを見つめている。




常にキッチンに立ち、メンバーの心理的健康管理状態に心配る張大人。
ドルフィン号の中でも、引っ越した邸でも、食料貯蔵庫から冷蔵庫、おやつ缶に至るまで、食に関する全てが彼のテリトリーだ。
なんだかんだと、必ず足が向く先はサイボーグとなっても腹が減り、喉が乾く躯のため。

その先の主である張大人のため、家族達の大体の生活行動は把握済み。



ジョーは大体珈琲を求めてキッチンにやってくる。
そんな彼が小脇抱える専門書のタイトルが否応なく目に入り、彼が好んで使うボールペンはいつも同じメーカーのものであると気づいたときには、いつの間に購入したのか、専門書と一緒にラップトップを持ち歩く姿に気が付き、張大人はこころに留めて置いた。

たまにその書物がカバーのかかった小さな単行本のときもあり、そういうときは大抵家族の誰かが買ってきた本を借りているときであることは、短い日本の生活中ですぐに発見できた。

見張りを交替でしなければならない戦いが、夢であったかのように感じ始める中、彼が小脇に抱えて歩く書籍類やデータファイルは浮いていたために、張大人はすぐにジョーが何を考えているのか気づくことになったが、それを敢えて口に出してジョーに尋ねたりはしない。


「ジョーが、したいことをさせたらいいネ」


張大人は、好奇心から一度だけジョーが持っていた専門書のタイトルを口に出して読み上げたことがある。


「そんな難しい本、補助脳があっても読みたいなんて思わないアル」


すると、ジョーは張大人がいれた珈琲マグを手にして、恥ずかしそうに、けれどいたずらっ子のようにきらり。と、その年令に似合った輝きを持った瞳で笑った。


「うん。すっごく難しいんだけどね。面白いんだ・・・博士を驚かせることが、さ」


タイミング良く、「ジョー、悪いが手伝ってくれんか」と、キッチン・カウンターテーブルから顔を出したギルモアにむかって、はい。と、彼らしい返事を返し、キッチンから出ていくジョーにむかって張大人は言った。


「あんまり博士をビックリさせたらダメね、博士の歳を考えるアルヨ」


了解。と、ジョーは張大人の声にたいして、笑ったまま軽く頷いた。
戦いが続いていたら、きっと観ることが叶わなかっただろう、ジョーの、年令相応な素直な笑顔。


ジョーは自分が必要とされることを望み、その望みを叶える自分でいることが嬉しいようだった。
ギルモアは結婚していない独身貴族だけれど、ジョーに対しての接し方は、優秀な生徒や助手と言うよりも息子に対するようなものだった。

口で厳しいことを言いつつも、態度ではかなり甘やかしている。
そんな様子を見ては、こっそり影で、博士はジョーに甘すぎる!と、ぼやく家族を知っているだろうか。











いい子アルヨ。
とっても素直で、いい子アルヨ。


ジョーは、本当に本当に、素晴らしい男の子ネ。
だから、いっぱい、いっぱい幸せになって欲しいネ。









「・・・・喉とか、乾かないアルか?」
「いいえ・・・大丈夫です」


実年齢は違うが、同年代と考えておかしくない、篠原当麻の横顔と、リーダーである009、島村ジョーの横顔を重ねた。
生まれ育った環境も、何もかも違う2人であるけれど、張大人は根本的な部分で2人はよく似ていると思っている。


「昨夜から、何も食べてないネ。フランソワーズが悲しむアルヨ」
「・・・あとで、いただきますから」


愛されることよりも、人を愛したいと渇望しているとろこが、得に。
まだ未成熟なために、自分なりの”愛”という形ができあがっていない、当麻とジョー。




ジョーは、愛することに”資格”がいると思いこんでいる節がある。
人を愛するためには、人を愛することが許された人間じゃなければいけないと、自分を否定する。

当麻は、1度でもこころから愛したものは、絶対に手放してはいけないと思いこんでいるように思えた。
その愛を手放したら、二度と愛することも愛されることも、できなくなると、二度と手に入らないと怯えて必死になっている。




愛したいと、渇望し飢える相手が、同じ女性。
フランソワーズは生まれもって愛される才能があるのだろう。








張大人は、あくびをかみ殺すように目尻に浮かんだ涙をごまかした。


誰からも愛される才能は、奇しくも”B.G”をも魅了したのか。と、自分の至った考えに、息苦しさを覚えて、椅子に腰を下ろしていた姿勢を変えた。


「・・・今後も、フランソワーズは天から授かったその素晴らしい才能に、悩まされる事アルヨ」


張大人の呟きに、当麻はゆっくりと首だけを動かして彼を観る。
大きいとはいえない、つぶらな黒目勝ちの瞳が、真摯に当麻を見据えて、深く、深く、ホテル独特な空気を吸い込みながら、はっきりと当麻に自分の考えを告げた。


「ワタシは、このミッションの後、あんさんの我々に関する記憶を消すことを提案するアルヨ。海さんも同じね。ピュンマには悪いけれど、彼ならどこの学校へ通わせてもきっといいお友達できるネ。あんさんらは、我々らに深く関わり過ぎたから・・、我らにとって危険アルヨ」


本当を言えば、我々にとってではなく、当麻と海にとって危険なのであるが。
張大人は敢えて、そう言った。









####


当麻、張大人の2人とギルモアが泊まるホテルのロビーで合流し、ピュンマ、海はジョーに指示された用に部屋で時間がくるまでの間休むことにした。
当麻の顔色が優れないことを心配するフランソワーズと共に、半ば強制的にジェットが当麻を連れて、ギルモアが泊まるホテルとは別のホテルへと戻った。

フランソワーズはこころから当麻を心配しているが、途中で任務放棄するような行動に出た自分がギルモアに謝罪もしないままに自室で休むことはできないと言い張り、当麻が部屋で休むことを確認したらすぐに戻ってくると言った。
しかし、ジョーはフランソワーズの訴えを一蹴する。


「リーダーである、僕が君を巻き込んだ。が、事実だ。博士には個人的に話したいこともあるから。キミはすでに博士と電話で話したんだ、それでキミが取った今回の件は終わっている。003、時間まで休むこと、ここれは命令だ」


ジェット、当麻、フランソワーズ、と別れて、ジョーは海、ピュンマ、そして、超大人とエレベーターに乗り込んだ。
海とピュンマよりも先にエレベーターを降りたジョーと張大人は、そのまままっすぐにギルモアの部屋へと向かう。


「無事で何よりネ」
「・・・大人。心配をかけて、ごめん」


ロビーでは明るく会話をし、エレベーター内では海に話しかけていた張大人だったが、一歩エレベーターから降りると、和やかさは消えて、ぴりっと引き締まったジョーの空気に合わせた。
彼がそうしたいのであるなら、張大人それを崩すつもりはない。


「気にする事ないアルヨ」
「・・・」
「気にしない、気にしない・・。みんな解ってるネ」
「・・・・・ありがと」


エレベーターのある位置から一番離れた部屋は、緊急用非常口に一番近い。
何かと都合良く使えて便利であるために、ギルモアの部屋は一見不便そうに見える場所に部屋に取ってある。
その部屋前で、腕に赤ん坊を抱いた見慣れた人影を、ジョーは長い廊下を歩きながら捕らえた。


「イワン、アルベルト・・・」
「アイヤー・・」

2人の姿を、アルベルトが確認する。
彼はその場から一歩も動くことなく、近付いてくる2人に視線を投げて自分たちの前までくるのを待った。


「不良息子、無事に帰ってきたか」


1mほど近付いた、ジョーにアルベルトは挨拶抜きの言葉をかけた。


「・・・今回のことは」
「言い訳は聴きたくないな」


明らかにアルベルトの態度は、ジョーに対して不満を露わにしたものだった。
張大人は、ため息をこころの中で吐きつつも、彼の態度が本当の意味でジョーに対して不満を持っているわけでないことを、彼の口元から読み取ったので、張大人は身長差のあるアルベルトに向かって、注意を促すような睨みだけ投げて終わらせた。
アルベルトの腕の中にいたイワンが、周りに人気がないことを確認して、ふわりとその腕から躯を浮かせると、そんな張大人の腕に収まって、くすくすとした笑いを含んだような声を響かせた。


<博士ハ此処ニハイナイヨ>


004から、007はすでに篠原さえこの元へと向かったと報告を受けた。
海の姉である2人とはすでにアルベルトの方から海に頼んでメールで連絡を入れてもらい、ホテルのロビーで待ち合わせではなく、月見里学院のホール前で待ち合わせることとなっていると続けて報告される。


「篠原さえこは学院だ」
「わかった、005は病院」
「了解」
「008は津田と部屋にいる。002、003と篠原当麻は向こうのホテル、時間まで待機」
「ワタシは博士とイワンに一緒するアルヨ」


006の声に、004と009は同時に頷いた。


「了解した」
「それで、博士は?」


腕の中のイワンを、張大人は揺らすように抱き直した。
彼の腕にされるがまま、ただお気に入りのまんまるい黄色のおしゃぶりもごもごろ動かしているイワンは、自分が報告すべき事はもうないと言う態度で何も言わない。ジョーは張大人の腕の中にいるイワンをのぞき込んだ。


<博士ハ、ジョーヲ待ッテル>


告げられた場所は、ホテルから10分ほど歩いた場所にあるレストランだった。











####

ジェットは、当麻、フランソワーズを連れて部屋のあるホテルに戻って来た。
ギルモアが泊まるホテルのようにロビーに、そこそこの口うるさい人間を満足させる喫茶室はなく、代りにコンビニエンスストアのような店が入っていた。どちらかと言えば、サービスよりも利用客に気楽な便利さを提供することに長けた、ビジネスホテルと言う感じだ。
部屋の内装も必要最低限の清潔感以外の取り柄はない。


ホテルに戻る道中、当麻とフランソワーズの間に会話はなかった。
2人の雰囲気を察っするくらいの、気遣いができるジェットは、自分の性格からはあり得ないシチュエーションを作り出す人間関係図に、ほとほと呆れ返っていた。

グレートの言葉を借りれば、恋愛に神も仏もないらしい。
あるのは、愛で得られた平穏と、ぴったり釣り合った愛によって与えられた不安のみだと言う。

どちらの天秤が傾いても、文句をいえないのが恋愛だと言う。そして、そのどちらも経験しなければ、恋愛の素晴らしさを知ることはないと言った。


ジェットはそれらを理解できているようで、はっきりと言えば理解しなくてもいい問題だと思う。
好きな女が自分を見ないなら、その女を振り返らせる力と魅力がないのだと判断し、それっきりだ。

振り返らせる努力をしない訳ではない。
けれど、しつこく食い下がるような事はしない。

なぜなら、その女が自分を見ないなら、自分は女にとっては1人の雄としての価値が低いのだ。
自分の価値を低く観る女など、こちらから願い下げだ。



それが世界で経った独りの女だったとしても。
ジェットは、自分の価値を知らない女とどうこうなる選択はしない。




フロントの前を通るとき、チェックインをしたときに担当した男が、軽く会釈した。
ジェットは応えて、手を挙げずに、同じように会釈した。
自然に動いてしまった躯に苦笑しながら舌打ちする。




---変わったのか・・・も、なあ・・・。気づいてないだけでよ・・。





他人の問題を自分の事のように考えてしまい勝ちで、昔の記憶を引っ張り出せば、スイたハレたと騒ぐ、自分が統括していた地域の仲間の間で起るすったもんだには、自分の腕力(おせっかい)を振りかざしていた。その青さが、今はなかったことにしたいくらいに、恥ずかしい。
むしゃくしゃと、イライラさせる関係に、見て見ぬ振り(見守る)ことができる自分に、大人になったいう表現は使わず、年を取ったという感想を描いた。


「よお、フランソワーズ」
「?」
「ジョーに全部、任ちまえばいいからよ!なあ、篠原センパイ」


年齢は明らかにジェットの方が年上だけれど、ジェットは月見里学院に入学して以来、日本風に1学年上である当麻に対して一貫して”センパイ”を付けて、彼を呼ぶ。


「な、に?」


フランソワーズにむかって話しかけていたのに、急に自分に話題が自分に向けられたことに、当麻は素直に戸惑いを露にする。


「フランソワーズは、誰のもんでもねえよ。・・フランソワーズはフランソワーズだからな。フランソワーズがそうと決めたら、それがフランソワーズってことで、文句があんならジョーに言えよ!」


ジェットの言葉に驚いたのは、当麻ではなくフランソワーズだった。


「ジェット?」


すたすたと歩調を緩めることなく、ジェットはまっすぐに2台あるエレベーターの間にある、働き詰めの四角いボタンを押すと、力なくオレンジ色のライトがそこに点ると、正三角形のイラストが赤くオレンジ色に照り出された。

フランソワーズは背の高い、赤毛の彼を見上げる。
その瞳は驚きと微かな戸惑いに揺れて、瞬きを繰り返しながら、頬が少し色ついていた。
彼が何を言わんとしているのかを察した反応が、すべての応えのように思えて、左肩に顎を寄せるように首を動かしたジェットは、にやっと、その口元をひっぱりあげた。


「・・・島村に、か・・・・」
「当麻さん、あの・・」


数字を下ってきた四角い箱がチン♪と、フランソワーズの言葉を遮るように到着を報せるベルを鳴らし、同時に左右にすっとドアを開いて3人を迎える。
そのために、当麻へ言葉をかけようとしたけれど、タイミングを逃してしまったフランソワーズは黙ってしまった。

一番先に乗り込んだのは、ジェット。
そして、続いたフランソワーズに、少し間をあけて当麻が、エレベーターの中へとすすんだ。

ジェットがパネル前に立ち指定の階のボタンを押す指を見ていた、当麻。
狭いエレベーター内は5人乗り。

当麻はちらりと視線を投げて、自分とジェットの間に立つ口数少ないフランソワーズの様子を見る。

彼女は左手の手首を強く右手で握っているの自分の手元を見ていた。
その、力の入った握り方が、彼女に何かの決心を促しているように見えて、当麻のこころがぞくり。と、震えた。



再びドアが、チン♪と音を鳴らしてドアを閉じようとした瞬間(とき)。




「話しなら本人から聞く」
「!」


当麻はフランソワーズの手をとって力任せにひっぱり、箱のドアが外界を遮断しようとした隙間から素早く抜け出した。


「当麻っさっ!!
「なっおっっっ!!ふっ」


突然の当麻の行動とその素早さにあっけにとられて、慌ててジェットが押したボタンは”閉”を示すイラストだった。


「変わってねー・・・かも・・・」


取り残された箱の中で、長い脚を折って娑婆見込んだ姿勢は俗にいうヤンキー座り。
盛大なため息と一緒に、今目の前で起った事を連絡するべきかどうか悩んだジェットの前で、再びエレベーターのドアが開くと、腕を組んだカップルがヤンキー座りのジェットを無言で見つめ、乗り込まずに’”閉”のボタンを押す。







「当麻さんっ!!」


強く引っ張られた手を、取り戻すようにぐっと脚に力を入れて踏ん張ったフランソワーズは、瞳に写る、柔らかな少し癖のあるブラウン・ヘアから視線をそらしていった。


「ジョーが好きなのっ・・・ごめんなさいっ・・・」















====20へ続く




*ちょっと呟く*
・・・あーららら、ら・・・ら。
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You are the reason
このお話は、大地くんに出会う前。
フランソワーズ・香奈恵さんの通うバレエスクールの移転前のお話です。ので、ジョーはまだフランソワーズにたいして”逃げ腰”なヘタレ満開な彼です。





街を行き交う人々の服装が夏なのか、秋なのか、曖昧である。
どちらとも言えない曖昧な季節だけれども、自然はゆっくりと秋へと移り変わっているのを証明するかのように、木々を彩る緑が紅へと美しく染まっていく。


「ジョー!」

いつものように、いつもの場所で。
茜さす日の昏れに色映す栗色の髪を、風が遊ぶ。
ジョーはガードレールに腰掛けて、珈琲缶を手にフランソワーズを待つ。
彼女から電話かメール、もしくはジョーに仕事がない限り。彼は1秒の狂いもなく、いつものように、いつもの場所に現れる。

フランソワーズはバレエスクールのエントランスから素早くジョーの姿を見つけ、軽やかに走り寄り、両手を広げて彼の胸に飛び込んでいく。フランソワーズが一歩ビルの外へ出た瞬間、ジョーの視線は、彼の視界はすべてフランソワーズにだけになる。

夕映えの街の中を一際輝く彼女は眩しく、一直線で自分へと足を運ぶフランソワーズにジョーの胸は安堵する。いつも、彼はこの瞬間を言葉には言い表せないほどに緊張を強いられるからだ。
自分の胸に飛び込んできた、レッスン後のシャワーを浴びたフランソワーズからほのかに香る石けんの香りにこころ擽られながら、彼女をそっとその腕の中に閉じこめる。

通りすがりのOLらしき女性達は、そんな彼らを目にしてキョロキョロと辺りを見回した。ドラマかCMか・・・何かの撮影かと勘違いをしているのだ。

フランソワーズを追いかけるように歩き、ドラマのような日常を演出している2人を”現実”へと引き戻すのは、いつも彼女、香奈恵の仕事になってしまっていた。


「はいはいはいはいはいはいっ!毎度、毎度、懲りないわね!!あんたたちはっここは日本!公共の場!いちゃつくのは自分の家!自分の部屋!それ以外はホテルか、どっかの裏路地か、車を山奥にでも走らせなさいな!!」


「ごめんなさい、ジョー・・・遅くなっちゃったわ」


フランソワーズは、ジョーの胸に埋めていた顔を上げて申し訳なさそうに謝った。
ジョーは優しく微笑みながら、首を左右に2,3度振った。
香奈恵のお小言が始まる前に、ジョーはフランソワーズを自分の腕から解放するが、フランソワーズはジョーに甘えるようにその胸に躯の体重をかけたまま、またその胸に顔を埋めてしまった。


「?」


ジョーはフランソワーズの様子がおかしいことに気がつく。気がつかない方がおかしい。


「あらら、あんだけ強気だった癖にっ、いざ島村のヘタレっちを前にして、それじゃあやっぱり口だけじゃないっフランソワーズってば」


呆れたように、けれどもそれが面白いとばかりに、香奈恵はフランソワーズを笑い飛ばす。


「・・・・・だって」
「・・・?」


フランソワーズは香奈恵に文句を言いたいようだが、ジョーの胸から顔を上げることができずにいた。
ジョーはその腕をもう一度フランソワーズの背にまわして、優しく撫でる。


「しっかりしなさいよっ!ヘタレっち!!そうじゃないとフランソワーズを取られちゃうからね!」
「・・・・取られる?」
「告白されたのよ!フランソワーズっっ相手は、うちのスポンサーの息子よっこれがまた、いい男なのよ~。私的にはオススメね、フランソワーズも一度はああいう”大人の事情”を知り尽くした男に可愛がってもらうと女があがるってもんよ?」


香奈恵は自分のことのように自慢げに話して訊かせる。
全身の血が逆流し始め、心臓が早鐘を打つ。背中に流れる汗を感じながら自分の動揺を必死で隠し、腕に抱くフランソワーズにそれが伝わっていないことを願う。


「・・・・よくあることだろ?フランソワーズだから・・・」
「んままままあああああああ!それを知っていて、あんた何にもしないわけ?さすがヘタレね!」
「・・・・・」
「ひどいわっ香奈恵さんっっ!!言ってしまうなんて・・・・。それにちゃんとお断りしたもの!!」


ジョーの胸に躯を預けたまま、フランソワーズは香奈恵に非難めいた言葉を投げた。


「あんた、その様子じゃあ、言わないつもりだったんでしょ?」
「・・・・・ちゃんと言うもの、ジョーには隠し事なんてしないもの」
「じゃあ、ちゃんと言いなさいよ”あのこと”もね」
「香奈恵さん!!!!」
「じゃっっ!帰るわっ!またね~~~~」


香奈恵は今にも泣きそうなフランソワーズの視線を軽く交わして、2人から飛ぶように離れていった。


「・・・・あのこと?」
「・・・・・」
「フランソワーズ、あのことって何?」








####

夕食後のギルモア邸で、張大人が淹れた珈琲を手にジョーとフランソワーズそして、ギルモアがソファに座ってフランソワーズの話しを訊いていた。


「モデル?」
「・・・・・ええ、宝生グルーブが今度ウェディング産業に関わるらしくって、それで・・・都内に新しくホテルと提携して建てたウェディングガーデン・チャペルのプレゼンテーション用の写真のモデルを頼まれたの・・・」
「宝生グループ・・・フランソワーズのバレエ団の筆頭スポンサーじゃのう?」
「・・・・・そうなの、だからお断りするのが難しくって」
「・・・・・」
「儂は、特に問題ないと思うんじゃが、プレゼンテーション用ということは一般には出ないのじゃろう?」
「ええ、会社内と取引先、もしくはグループの会員にお知らせ用のパンフレットくらい、と訊いてます」
「どうして、フランソワーズが?」
「ジョー、何を今更言ってるんだ!」

グレートと張大人がリビングに顔を出し、そのまま3人の話しに参加する。


「艶やかに甘く輝く、ハチミツ色の髪に、寒水石のごとく白き肌に色さすはジューンブライドの時期に咲き誇るイングリッシュ・ローズ。緑風に揺られる長い睫に縁取られた、奇跡に光る海の宝石・・・日本女性よりも慎ましやかなその仕草を表すかのような撫子色の唇・・・・・フランソワーズをひと目見て、彼女以外の誰にモデルを頼むってんだよ、まったく!ジョーっっお前はフランソワーズのどこを見てるんだ?」


グレートは大げさな身振り手振りをつけて、どれほどフランソワーズが美しい女性であるかを、彼独特の言い回しで表現し、張大人は、香ばしい薄焼きのセサミ・クッキーをテーブルに置いた。

ジョーはグレートに言われて、自分の隣に座るフランソワーズを真剣に見つめた。


「え・・・やだ!! そんな風に見ないで・・・恥ずかしいわ!!」


フランソワーズは間近で感じたジョーの視線に、顔を朱色に染めて俯いた。
グレートの言う、艶やかに甘く輝くハチミツ色の髪が、さらりと肩から流れて幕となり、ジョーの視線を遮った。


「・・・・・・その宝生グループの人に告白された?」



香奈恵の言葉を思い出し、彼女の言葉をなぞるようにジョーの口から零れた。

グレートの絶叫と、張大人のアイヤ~~~~!と言う、誰もが想像してしまう中国人らしいリアクション、そしてギルモア博士の、フランソワーズは自慢の娘だから、モテて当たり前じゃ!と意味のない自信の言葉が邸中に響き渡ったがために、邸にいた全員に知られてしまった。



誰もいなくなったリビングルーム。
フランソワーズはジョーの頭をその胸に力いっぱいに抱きしめる。ジョーはフランソワーズにされるがままに、彼女の柔らかな胸から聞こえる作られた心臓のリズムを数える。


「愛してるわ」




本当に?





「愛してる」






サイボーグ同士だから?




「好きよ」









キミがサイボーグでなくても?












「ジョー・・・だけよ」





俺がサイボーグでなくても?







「アイシテル」









こんな形でしか出会えなかったのに?








こんな形だから、キミは俺をアイシテクレルの?
こんな形でなかったら、キミは俺をアイシテクレテいないだろ?


ジョーは少し乱暴にフランソワーズの包容を解き、今度は彼女を自分の腕の中に閉じこめた。







「ジョー?」

小さな線の細い、フランソワーズの躯はすっぽりとジョーの躯の中に包まれる。
この世の誰も、フランソワーズを見つけられないように。








たった一言。










自分の気持ちを、自分のものだと、フランソワーズのこころに刻みたい。

喉を押し上げる、灼熱の息。
胸を痺らせる、不安な未来。









フランソワーズは事も無げに、ジョーが言えない言葉を星の数ほどに彼の胸に光らせる。
ジョーはまだ一度も、フランソワーズの胸に、その星を輝かせたことはない。


「・・・・・・どんな男(ひと)?」



ーーーキミに相応しい人?
   キミがサイボーグでも、キミをアイシテクレル人?
   キミがサイボーグでも、キミがアイセル人?



「スポンサーの息子さんで、小さい頃にバレエを習っていたらしいの・・・それだけ」




ーーーソレダケ? もしも君がサイボーグではなかったら・・・答えは違った?




「ドレスも着るし、お化粧とかいろいろするから、印象が変わってしまうと思うわ」


撮影当日、香奈恵も「面白そうだから!絶対に行くわよ~!」と、理由でレッスンを休んでフランソワーズに同行することにした。ジョーもフランソワーズに頼まれて彼女を撮影現場のガーデン・チャペルがある、都心から少し離れた街へ、朝未きの路に車を走らせた。


「・・・・帰るの?」
「・・・・関係者じゃないし」


車をガーデン入り口で停める。


「・・・・1人は・・・いや」
「香奈恵さんが先にいるんだろ?」


助手席に座ったまま、シートベルトも外さない、フランソワーズ。


「ジョーは、一緒にいてくれないの?」
「部外者だから」
「だったら、香奈恵さんもよ?」
「彼女はバレエ団の人間だろ?」
「同じよ」
「・・・・・」
「ジョーも来て」
「・・・・・」
「来て」
「・・・・・」
「お願い」


ジョーへは視線を向けず、カーウィンドウの外に並ぶ車を数える。


「・・・・・」
「今日は何もないんでしょう?」
「・・・・・うん」
「・・・・私を1人にしないで」
「香奈恵さんがいるだろ?」
「宝生さんがいるもの。彼、モデルが本業なの、今回も・・・・」
「・・・・・・断ったんだろ?」
「だから・・・・そばにいて・・・・」
「・・・・・」



ーーーそばにいたいよ・・・・。






「・・・・断る?」
「もう無理よっ・・・だから、お願い・・・ジョー」
「・・・・・・」


こういうときこそ、フランソワーズを抱きしめて、その髪を撫で、彼女を安心させるために頬にキスすればいい。

頭ではわかっている。



彼女の視線がそれを求めていても…。







「わかった。一緒に行くよ・・・」






そういうのが精一杯だった。







####

秋色風が心地よく舞い上がり、整えられた色とりどりの花たち。
まだ日が昇らないうちから多くの人が、今日の撮影のために広いガーデンを右往左往に走る。


3台が寄せ合うように止められた大型のバン。
外に投げ出されるように積み上げられた、黒い箱。
伸びる黒いコード、黒い布に覆われた機材たち。

自然豊かなガーデンに、異質なそれらを横目に捉えつつ、フランソワーズは不安げにジョーの手を握ったまま、ある人物を捜していたが、フランソワーズが見つける前に、聞き慣れた声が2人の耳に届いた。


「こっちよ!フランソワーズ!!とおまけの島村っっっっっちっ!!」


元気な香奈恵の声に、2人は振り返る。
長い黒髪を靡かせて、早足で2人に近づくと2人の繋がれた手を見てニヤニヤと、彼女の大きな口が左右に引っ張られた。


「おーおー、仲がよろしいことで!」
「こんにちは!香奈恵さん」
「時間通りね!フランソワーズ、それにおまけの島村っち!」
「・・・・ち?」


ジョーは眉間に皺を寄せて、それが自分を指しているのか?と顔で聞き返す。


「いやねえ、さすがに見ず知らずの他人の前で”へたれっち”とは呼び辛いわよ~・・・だから省略してみたのよ、島村のヘタレっちイコール、島村っちよ!ヘタレが治ったら、愛を込めて・・・そうね、・・・なんて呼ぼうかしら?」
「・・・ジョーが島村”っち”?」
「・・・・・」


フランソワーズは隣に立つジョーを見上げる。
ジョーはきょとん。と、香奈恵を見ていた。
今までジョーはニックネームとは無縁な人間だっただけに、なんと対応していいかわからずに戸惑っている。
フランソワーズは”島村っち”ともう一度呟いてみたとき、ジョーは困ったようにフランソワーズを見た。
その顔がフランソワーズはおかしかったらしく、彼女はガーデンに咲き誇る花たちよりも鮮やかに笑った。


「”島村っち”!ふふふふっっ素敵ね!!ジョー、が島村っちって呼ばれるなんて、みんなに教えてあげなくちゃ!」
「・・・・・・・フランソワーズ」
「私のネーミングセンスは抜群よ~!ね!!」


香奈恵とフランソワーズは楽しげに笑い出す。
ジョーはただ、立ちつくしてそんな2人を見ているしかなった。が、自分たちに向かって歩いてくる人物を彼の目は捉えた。


すらりとした長身の、ジェットよりも少し高いくらいだろうか?
少し長めの黒い髪を丁寧に撫でつけて、岩緑青色のスーツを着こなし、背筋の良く見栄えのいい男が近づいてきた。整えられた鼻筋に、口元は微笑みを象っている。


「よくいらっしゃってくださいましたね、アルヌールさん。お待ちしていましたよ、今日はよろしくおねがいします!・・・それにしても楽しそうですね?」
「あら。宝生さん!まだ準備してませんでしたの?」
「男よりも、女性の方が時間がかかりますからね。女性の後でも十分に撮影に間に合いますよ」


男は親しげに香奈恵と会話を交わす。




ーーー宝生 忠?・・・・この男が?




ジョーはフランソワーズに目線を落とす。
フランソワーズはジョーの手を強く握り、彼に目線を合わせて静かに微笑んだ。


「宝生さんは、初めてですよね?彼が”噂”の島村ジョーさんですわ」


香奈恵は朗らかに微笑みながら宝生にジョーを紹介する。


「ああ、やっぱり! 初めまして宝生 忠(ただし)です。あなたのことは色々とバレエスクールで・・・有名ですからね、あなたは」
「・・・・・・・・有名?」


ジョーは訝しげに”有名”と言う言葉を聞き返しながら、宝生が求めてきた握手に答えようとしたとき、ジョーの手の指と指の間に絡める、フランソワーズの手。




そのために、一緒にフランソワーズの手もついてきた・・・。


彼女はしっかりとジョーの手を握ったままで、どうやら離すつもりがないらしい。
4人の視線が、宝生の差し出したまま宙に浮いた手と、その前に出された握られた2つの手に注がれる。


「・・・参ったなあ」


苦笑しながら、その手を自分の体に引き下ろした宝生と、呆れた顔でフランソワーズとジョーを見る香奈恵。


「・・・・フランソワーズ?」
「・・・・ごめんなさい」


ジョーは少し咎めるように彼女の名前を低く呼んだが、それでもまだ手を離さそうとしないフランソワーズが、愛しかった。繋がれたままの手は温かい。


「ちょっと!!失礼にもほどがあるわよ!!!」
「・・・・ごめんなさい」
「まあ、まあ・・・龍さん・・・・」
「スミマセン」
「いえ、そんな・・・あ!!ほら。そろそろフランソワーズさんは支度に行かないと、時間が・・・」


宝生は腕に付けていた時計をわざとらしく見て、大げさに言った。


「じゃあ!行くわよ!!」


ジョーの手を握っていない方のフランソワーズの手を取って香奈恵は歩きだそうとしたが、ジョーの手を離さないフランソワーズのせいで、3人は連なって歩くことになる。足を止めて香奈恵はフランソワーズを嗜めた。


「フランソワーズ!島村っちに”着替え”やメイクも付き合ってもらう気?」
「・・・・・ダメ?」
「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい?あ、あ、あんたっっなあああに考えてんの?」
「大丈夫よ、ジョーは見慣れてるもの」
「そういう問題じゃない!!!」
「・・・・・だめ?」
「っっっんとに、もう!!!いったいぜんたい!どうしたって言うのよ、今日は!」


ジョーは優しく、フランソワーズの手を離した。
フランソワーズは離れていくジョーの手を追いかける。ジョーはその手を取り軽く握る。


「”今日は”ここに、いるよ」


そして、ゆっくりとフランソワーズの手を離した。


「よし!じゃあね!宝生さん、島村っち!」


香奈恵に引きずられるようにしてチャペル内に連れて行かれるフランソワーズは、何度も振り返りながらジョーを観ていた。


「ぼくが、入り込む余地なんてないなあ・・・本当に・・・噂通りなんですね?」
「・・・・噂?」
「あ、・・・ぼくの方がよっぽど失礼ですよね。すみません」
「・・・・・・いえ」


男2人、朝明けのガーデンに立ち香奈恵とフランソワーズの姿が消えるのを見送る。


「あなたの存在は知っていたんですが・・・アルヌールさんのことが好きです。自分の気持ちをこのままなかったことにしたくなくて、彼女に告白しました。1秒の間も開けずに・・・断られました。気持ち良いくらいにはっきりと、です」


宝生は、香奈恵とフランソワーズが消えた方向を真っ直ぐに見据えたまま、落ち着いた声でジョーに話しかける。ジョーは宝生を見ずに足下に咲く、名前のわからない白い花を見ていた。


「・・・・あなたに、どんな魅力があるんですか?アルヌールさんがあれほどまでに・・・想われる、あなたはいったい・・・・・。男のぼくには、きっと理解できない何かがあるんでしょうね、羨ましいですよ」





ーーーこの男との違い・・・サイボーグということ。が、俺の魅力?







「・・・・でも、今日は申し訳ないが、彼女の隣に立つのは僕だ」
「?」


宝生は硬い表情で、ジョーの瞳を真剣に見た。
ジョーはその目を自然と受け止める。
宝生はジョーの表情から、何も感じられず思わず眉間に皺を寄せて訝しんだ。


「・・・・ご存じないのですか?」
「何を?」
「今日はウェディングの撮影で、ぼくが新郎役なんですよ・・・」
「・・・・・そうなんですか?」
「・・・ええ。・・・・・・彼女のウェディング姿の隣に立つのは・・・あなたではなく、ぼくなんですよ?」
「・・・・・それが?」
「・・・・あの、・・・なんとも思わないんですか?」
「どうしてですか?」
「仕事でも、頼まれたことでも・・・愛する女性が自分以外の男と結婚式の真似事をするんですよ?・・・・・平気なんですか?」






ーーー教会でドレスを着て、写真を撮るだけだろ?









「・・・・・・写真を撮るだけでしょう」
「っだけ・・・・・て・・・・・・嫌じゃないんですか?」
「・・・・・」
「ぼくだったら、絶対にこんなことさせませんよ?・・・・・・自分以外の男とウェディングドレスを着せるなんて」





ーーーこんな機会でもなければ、彼女がウェディングドレスを着られないのだったら?









「・・・・・よく、わからないから」
「は?・・・・わからないって」











ーーーわかるもんか・・・・・結婚なんて・・・・・












「・・・・・・夫婦というものを知らないから、俺」
「え?」
「親を知らない人間に、結婚とか言われても・・・・ね」



ジョーは微笑んだ。



曙光降る中に、柔らかく琥珀色の髪が風光る。
東洋と西洋の血が混じり合った、魅惑的な顔立ちに陰ができる。
褐色とアンバーの曖昧な色加減が、ジョーのこころの揺れを見せているかのように感じるが、その不安定に揺れ動く色合いが、宝生を引き込んでいく。


ジョーの瞳の奥に ゆらゆら と ゆらゆら と、危うげに揺れる色。

ゆらり、ゆらり、と揺れる影。















「宝生さん!そろそろ着替えて下さい!!」



ジョーに飲み込まれる一歩手前。
撮影ののアシスタントである女性が、大声で宝生を読んだ。


男に見惚れてしまっていた気恥ずかしさから、彼は逃げるようにジョーの前から去っていく。
去り際に、慌てて宝生を呼びに来たアシスタントの女性に「彼は大切なゲストだから、みんなに言っておいて・・・あと頼むよ」と、囁いた。


女性は頷いて、ジョーのそばに行き挨拶をする。



「私、今回の企画のアシスタントで大倉と言います」
「・・・・・島村です」
「アルヌールさんのお連れの方ですよね?」
「・・・・・・そうです」
「やっぱり!」
「・・・・・・・噂ですか?」
「ええ、噂でした!」













####

「ひゃあああああああああ!さっすがフランソワーズ!!! 綺麗よ・・・って言うか、綺麗って言葉しか言えないのが、恥ずかしいけど、綺麗って言葉はあんたのためにあるようなもんだわ、これ!」
「・・・・やだ、大げさだわ、いつもの舞台衣装よりちょっと派手なだけよ?」
「馬鹿!これウェディングドレスよっっ!舞台衣装と較べるなんて馬鹿よ!・・・・ったく、これが見せたくて島村のへたれ野郎をここまで連れてきたんでしょ?」
「別に、そういうわけじゃないわ・・・それに、私が汗まみれのレオタードを着ようと、今日のようなドレスを着ようと、彼は何も変わらないわ」
「なっっ!馬鹿なこと言うんじゃないわよっ!どの口が言うのよ!」


チャペル内に用意された、花嫁のための控え室。
12畳ほどある広々とした部屋に、着替えるための個室が2つを備えられていた。
温かなアプリコット色から白へのグラデーションを効かせた色調の部屋の、南向きの壁一面に広がるように飾られた姿見は、花々を象った白のフレームに縁取られていた。

腰の低い背もたれがないチェアに座り、鏡に自分の姿を映すフランソワーズ。
舞台衣装を着慣れ、パーティ時に頻繁にドレスに袖を通すために、慣れているとはいえど・・・真珠色に輝くドレスはやはり特別である。

香奈恵はフランソワーズを鏡越しで見ていた。
碧瑠璃の瞳は美しく、とろり と艶やかに輝きながらも哀しい色だった。



「・・・・だって、ジョーは・・・ジョーだけが」



ーーー本当の私を知ってる・・・。




どんなに綺麗に着飾っても、この手に握ったスーパーガンが命を奪ったことは変わりない。
どんなに容姿を褒められても、作られた皮膚の下に脈打つのは人の温かさのない人工心臓が流す人工の血。
人でないサイボーグ。

作られた躯。


物。


でも、私のこころは人。


私は人なの。


彼だけが、ジョーだけが・・・私が人である証拠なの。
私が人であり続けられる理由。

私はジョーを愛してる。

彼を愛し続けることが、私が人である証拠。
彼を想うだけで、私のこころは、魂は震えるの、熱く、熱く、強く震えるわ。

愛してる。

私は人を、彼を、ジョーを愛することができる。

彼だけが、知ってる。
本当の私。

彼だけが知ることを許されている、本当の私。


彼は私の魂の証明。








ーーージョー・・・。








瞳を閉じて、フランソワーズは愛しい人の名前を唱える。
胸に広がる甘く、熱く、強く、清らかに、フランソワーズの胸を喜びに包む。










ーーー愛してるわ。











ゆっくりと長い睫を微かに揺らしながら、目蓋を開ける。
ごくり。と、香奈恵は生唾を飲み込んだ。

フランソワーズの瞳は綺羅星のごとく、美しく幸せに輝いていた。







アイシテルワ。






言葉が、フランソワーズの声が、ジョーの胸に優しく舞い降りる。
彼女が着替えをすませてきたのかと、周りを見渡したが、フランソワーズの姿は見えなかった。


「どうかしました?」


ジョーのためにと、大倉が気を使って撮影風景が見やすい位置にイスをすすめていた。


「・・・・・・いえ」


ジョーはすすめられるままに、イスに座る。


彼女が耳に付けているイヤホンは、腰のレシーバーに繋がっている。時折不愉快な雑音が、ジョーの耳に入る。彼は無意識にそれらに脳波通信を合わせてしまうのだ。
けれども、先ほどの・・・フランソワーズの声は、明らかに脳波通信から伝わってきたものではない。





こころで聴いた。







そう言った方が正しいが、ジョーは自分を自嘲の笑みを浮かべる。


ザザっ。とレシーバーが通信を拾う。


『花嫁役のアルヌールさん支度完了!そっちに向かいます』
「島村さん、彼女さんっお見えになりますよ!!絶対に綺麗ですよ!」



大倉が興奮気味にジョーに伝えた。








陽が昇り始め、空は青さを増していく。
優しい温かさがジョーの頬を撫でる。



数人の女性スタッフに囲まれ、フランソワーズの隣を歩く香奈恵は、彼女がまるで自分の娘のように、自慢げな足取りでやってくる。


すでに着替えを済ませて、カメラマンやスタッフと談笑していた宝生は、シルバーに近いライトグレーのタキシードに身を包み、その胸に花嫁役のフランソワーズが持つブーケとそろいのコサージュが風に揺らせる。
彼らも、フランソワーズの姿に気がついて、彼女に熱い視線を送った。








ジョーの耳にグレートの言葉が甦る。









“艶やかに甘く輝くハチミツ色の髪に

寒水石のごとく白き肌に頬色さすは

ジューンブライドの時期に咲き誇るイングリッシュ・ローズ

緑風に揺られる長い睫に縁取られた、奇跡に光る海の宝石・・・

日本女性よりも慎ましやかな、その仕草を表すかのような撫子色の唇・・・・・”









真珠色のウェディングドレスは、プリンセスライン。
ウェストを絞り込んで、羽のようなデザインの幾重にも重なりあった柔らかなスカートは、チューリップのようにふっくらと膨れあがり、彼女が一歩足を進めるごとに、優雅に舞う。肩を剥き出しにしたベアトップはのカッティングは大きくひらき、彼女の美しい肩胛骨を見せて、胸元に繊細に飾られたスワロスキーのビーズが陽に光る。ほっそりとした腕に、二の腕までの長さのレースで仕上げたグローブをつけ、小さな白い薔薇で作られたブーケを持っている。
細い首に、真珠で作られたチョーカー。
髪は高く、フランソワーズの前髪も一緒に結い上げられていた。
前髪をおろしていないフランソワーズは、見慣れていないせいで別人に見える。
繊細に編まれたレースのベールは彼女の頭から柔らかに覆い、後ろに流れ、女性スタッフの1人が、ベールの裾を両腕に抱えてフランソワーズについて歩く。





宝生は、花嫁役のフランソワーズを手を差し出して迎えたが、フランソワーズの瞳はジョーを捉えていた。




ジョーが驚いている。


彼の褐色の瞳が陽の光に照らされて、薄い琥珀色に変わっている。
大きく目を見開いて、彼は息を止めているように見えた。





くすり とフランソワーズは微笑んだ。



<ジョー?>


宝生の賛辞を耳にしつつ、フランソワーズはジョーに脳波通信で読んでみる。


<ジョー??>


彼は答えない。


<・・・ジョー・・・?>


フランソワーズは胸に不安が広がる。
咄嗟に”眼”のスイッチを入れる。
まるでジョーの腕に抱かれている時のように、彼の顔を見ることができた。

フランソワーズの様子がおかしいことに、気づいた香奈恵は彼女の腕を引く。


「どうしたの?」
「あ・・・ジョーが」
「ああ、島村のヘタレっち?」


香奈恵の言葉に、宝生が驚いた。


「ヘタレっち?」
「あ、・・・・ま、そういうことです」


ニヒヒと愛嬌良く笑う香奈恵。


「ジョー?」
「ちょっと、何処行くの?あんたは仕事!」


今にもジョーの元へ走り出しそうなフランソワーズを思いとどまらせた。


「で、でも・・・ジョーが!」
「ったく、甘やかすな!アイツを!」
「でも、ジョーが!」
「はい、はい、はい!あのヘタレがまた変なこと考えて、あんたから逃げようとしてるのね?」
「逃げる?!」


宝生が香奈恵の言葉に驚きの声を上げる。


「宝生さん、フランソワーズをお願いしますね?この子、あのヘタレを目にすると飛んで行って公共わいせつ罪すれすれのことをしてしまうの」
「・・・・・こ、公共わいさつ罪」


香奈恵は彼女にできる最高の笑顔と甘えた声で、宝生に有無を言わさない迫力で迫った。



「いい、フランソワーズ?あんたは仕事!頼まれたことを一度引き受けたら、フィールドは違えどプロに徹しなさい!島村っちは、私が一発殴ってくるから、撮影が終わるまでは逃げないわ!いいわね?・・・まったく、なんであんたのウェディング・ドレスを見て逃げ腰になんのよ!!ヘタレも超特大級ね!」


香奈恵はジョーに向かって歩き出す。
彼女の後を追いかけようと、フランソワーズが足を踏み出したとき、その腕を宝生が優しく捉えた。


「だめですよ、アルヌールさん・・・香奈恵さんが言っていたでしょう?ぼくは彼女が恐いから、あなたを彼の所へ行かせることはできませんよ?」
「・・・宝生さん」
「アルヌールさんと彼がどういう関係で・・・その、お付き合いしているのかわかりませんが、まだ、ぼくにチャンスがあるんでしょうか?・・・彼、”嘘”でも、この状況に興味がないみたいですしね・・・普通は嫉妬しませんか?自分の彼女がこんなに美しくウェディングドレスを着て、自分以外の男の隣に立つんですよ?・・・親を知らないから、夫婦を知らない、結婚なんてわからないなんて・・・言い訳ですよ。アルヌールさん、彼は君に相応しくない・・・」
「・・・・言い訳じゃないわ」
「え?」
「彼は、本当に知らないの。彼は・・・。何も知らないのよ・・・、人に愛された”記憶”がないんですもの。今まで、親も兄妹にも・・・関係なく、ずうっと1人で生きてきたから・・・」
「・・・まさかっ!」
「いるのよ。宝生さん、この世の中にはあなたが知らない、いいえ・・・・知っても信じられないことがたくさんあるのよ?・・・あなたはとても恵まれた人だわ、だから・・・それを大切になさってね?」


フランソワーズはにっこりと微笑んだ。


ーーーあなたは目の前にいる、私がサイボーグだと知っても信じないでしょう?















####

「しっかりその瞳に焼き付けなさいよっフランソワーズのウェディングドレス姿!」
「・・・・・」


香奈恵がジョーのそばに来たとき、彼は立ち上がって無言でイスを香奈恵に譲る。
その”慣れた”自然な動きに、香奈恵はよけいに苛立たしさが増す。
香奈恵はどっかりと堂々イスに座る。
ジョーは無言で彼女の横に立った。







撮影が始まった。


カメラマンの指示で、色々なポーズを要求される。
宝生はプロのモデルとして、フランソワーズをリードする。
ダンサーとしてポスターなどの撮影会に参加したことがあるフランソワーズは、さほど緊張も見せずに、リラックスして幸せな花嫁役を演じる。

2人は腕を絡め、寄り添いながら・・・微笑みあい、見つめ合う。
温かな日差しは、彼らを祝福するように、自然光での撮影に協力的であった。
真新しいチャペルの白が、初々しさを際だたせる。
宝生は、想い人であるフランソワーズを堂々と自分の方へ抱き寄せて、まるでジョーに見せつけるようにポーズを取っているかに感じられた。演出上、とても効果的なポーズである。

淀みなくリズムを刻むシャッター音が、彼らの撮影がスムーズに進んでいることがわかる。



「まあ、まあ、まあ、宝生さんってば・・・意外と大胆なのねえ?あんたが彼氏だっての知ってるのにぃ、島村っちより、根性あるじゃない?あんたがヘタレってわかって、フランソワーズのこと、諦めないのかしら?」


香奈恵はジョーを見上げる。
ジョーは何も言わない。
彼が無口であることは、重々承知している香奈恵である。
ふうっと短い溜息を吐いて、香奈恵はフランソワーズを見る。
嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに微笑みを絶やさずにカメラの前に立つフランソワーズは、宝生にリードされて、香奈恵の目には本物の結婚式をあげる恋人同士だと、錯覚しそうになる。


「・・・・香奈恵さん」


ずっと黙っていたジョーが声をかけた。が、すぐにそれがジョーのものだとは、香奈恵は気づかなかった。


「・・・香奈恵さん?」
「あ?・・・あら?何?」
「・・・・・香奈恵さんも、いつかああやってドレスを着たい?」
「当たり前じゃない!女に生まれてそれを夢見ない女なんて”男になりたい”女性くらいよ!」
「そう。・・・じゃあ、フランソワーズも?」
「・・・・・・あんた、何をイマサラ・・・・当たり前でしょ!!!!!!!!」
「そっか・・・・・・・・フランソワーズは、結婚したい?」
「・・・・はい?・・・・・・それ、私に聴くことじゃないでしょ?!」
「・・・・・・・そう?」
「あんた、馬鹿?」
「・・・・・・・結婚って何?」
「・・・・・」
「夫婦って、何?」
「・・・・・・島村っち?」
「幸せになる権利?・・・・・結婚して、夫婦にならないと・・・・彼女は幸せになれない?」
「・・・・・・・幸せに権利なんてないわよ!結婚しても、不幸な人生が待ってる場合だってあるわよ!あんた、離婚って言葉知ってる?件紺は人生の墓場って聞いた事ないの?」
「・・・・・じゃ、なんで夫婦になる?・・・・結婚するの?」
「あんた、それ・・・鶏が先か、卵が先かって聴いてるようなもんよ?・・・ちょっと違うけど」


呆れたように言葉を切った香奈恵は、ジョーを見上げた。


ジョーは、愛おしそうに、眩しそうに、優しく、包み込むような愛情を瞳に浮かべてフランソワーズに魅入っていた。
香奈恵は驚いて、ジョーを食い入るように見る。









諦めるの?


そんな単語が、香奈恵の脳裏を掠めた。


彼女が幸せなら、幸せになるなら、あんたはそれで満足して身を引くの?
自分の幸せは?
自分が・・・彼女に幸せを与えないの?

一緒に幸せになる道を探さないの!?




ーーーフランソワーズが望む本当の幸せに、いい加減気づきなさいよ!!





腹の底から怒りが噴出しそうになる香奈恵は、怒気の籠もった声で言った。


「超弩級のヘタレっっ!!!あんたはヘタレ島ヘタレーに改名しちまいな!」


香奈恵の怒りの罵声と同時に、ジョーは009の鋭さを込めた瞳で周りをサーチした。



ぐらり。と地面が横に揺れる。

どんっと突き上げる縦揺れが連続して地面を揺らす。



広がる悲鳴。



「地震だ!気を付けろ!機材!!」



誰かが叫んだ。


009は、イスにしがみつく香奈恵の周りに危険物がないことを確認する。
撮影は外のために、照明などのセットを組んでいない。上から物が落ちてくる危険はない。
積み上げられた機材周辺に視線を走らせる。


ーーー大倉さん!



取材用機材を積んだバンが数台駐車されている辺りは、室内での撮影用機材類を入れた黒い箱が無造作に積み上げられている。
彼女は、次の室内の撮影で使われる機材の確認をしていた。


ーーー加速は無理だっ


揺れる地面に足を取られることなく、009は素早く大倉の元へ辿り着き、手を引いて機材類から離れさせようとしたとき・・・・。
















フランソワーズは、地面の揺れを感じた瞬間に”眼”のスイッチを入れてジョーを、009を追った。
彼がバンが並んで駐車され、機材類が積み上げられた場所に立つ女性を、加速せずに助ける姿をみつける。が、そのとき・・・。


地鳴りととも、先ほどよりも大きな縦揺れの地震が3台並んで止めていたバン同士がぶつかり合い、中に何も乗せていない、軽くなった一台が、ジョーと女性側に倒れた。







サイボーグの躯。

ジョーは咄嗟に大倉の体を突き飛ばす。
地震の揺れに一瞬バランスを崩した躯が、影に飲み込まれる。






サイボーグの躯。

バンが009の上に倒れ込んできても、彼は軽々とそれに堪えられる。
バンは損傷し、009は傷一つない・・・多くの人の目の前で。





ーーーそれだけは!




009は最低レベルに抑えて加速装置を押した。影を抜けきった瞬間にそれを戻す。服の多少の損傷はごまかせる。
大倉が蹲る隣に膝をつく。揺れがおさまった。が・・・。

黒い箱のひとつが009の背中に降る。
ぎっしりと詰め込まれた照明類のそれが、おもちゃのように、彼の背中に落ちた。

「っ・・」



ぱきり。と、不気味な音。





フランソワーズの”眼”は見ていた。

009の背に落ちてきた箱の角が、彼の肩にめり込むようにぶつかる。
堅い躯がその箱を押し返し、箱は簡単に軌道を変えて009の背中に擦るようにして移動し、地面へと落ちた。







一瞬のこと。


人の”眼”には、
バンの近くに立つ2人の影が倒れてきたそれをギリギリによけたが、そのすぐそばにあった箱が2人をめがけて倒れ、男は“運良く”ぎりぎり、箱とは接触から免れた。と、見える。





「大丈夫か!」
「誰か!けが人はいるか!!」

口々に叫び、撮影現場は混乱に陥る。





ーーーサイボーグの躯で良かったのか、悪かったのか・・・





当たり所が悪かった。それだけだった。
肩の接続部分の部品のどれかが・・・破損したのだろう。
小さなネジ一本でも損傷があれば、009の躯は動きに制限が出る。





右肩が動かない。



大島は恐怖で地面に蹲ったまま。
ジョーは動かない肩をばれないように気を遣いつつ、左手で、大島の肩に手を置いた。




「大丈夫だよ・・・君は無事だ、大丈夫・・・もう恐くないよ?」


大島はジョーの言葉にゆっくりと強張った体の緊張を解くと、ジョーの優しい瞳に、胸に溜まった恐怖を吐き出した。涙で咽せる大島を、小さい女の子のように慰める、ジョー。


「・・・・・島村っち。あんた、何やってんの?」


香奈恵は地震のショックよりも、ジョーの、大島にたいする態度の方がショックだった。
これほど大きな地震があり、彼女であるフランソワーズの安否を確認する以前に、なぜ今日出会ったばかりの女性を優しく慰めているのだろうか?いくら女性が危険な目に遭い、それを彼が助けたとしても、だ。



数人のスタッフが彼らにかけよってくる。











フランソワーズは、黙ってその様子を見ていた。
いつもの009。

彼は009として動き、009として女性を助け、慰める。




見慣れた光景。




サイボーグである限り。

サイボーグであり、00メンバーだからこそ。





あと10秒。


フランソワーズは、知っている。





















<フランソワーズ?>






脳波通信でジョーから呼ばれた。


<ジョー、私は大丈夫よ>
<・・・本当に?・・・フランソワーズ>
<本当よ。怪我はないわ!・・・・ジョーの方こそ、肩・・・・>
<・・・・わかる?>
<ちゃんと視てたもの・・・傷む?>
<・・・・いや、動かないだけ。腕が上げられない・・指は動くけど>
<この分だと、撮影は中止よ>
<そうだね>
<良かった・・・・大島さんも怪我はないのね>
<・・・・・・嬉しい?>
<え?>
<ドレス、嬉しい?>
<ジョー・・・・?>
<・・・・・サイボーグでも、諦める必要ない>
<諦め・・る?>
<・・・・・キミが、その・・・・>







ーーー普通の女性として暮らすのは、難しいかもしれない。けれど、キミがそれを望むなら、俺は・・・全力を尽くす。





キミはサイボーグ同士だからといって、俺をアイスル必要なんかない。


キミは自由。


キミがサイボーグではなかったら、キミは俺と出会わなかった。
キミがサイボーグで、俺がサイボーグで。



もしもキミが、人であり続けていたら。
俺が、人で有り続けていたら。

アイスル以前に、出会うことさえなかったんだ。
サイボーグだから、だろ?


キミの幸せを奪った、サイボーグの躯。
キミを不幸にするだけで、幸せになんか・・・できない。





<ジョー?どうしたの・・・?>
<もう・・だめだ、よ>
<ジョー?何?何を言ってるの?>
<俺は、キミに・・・・>
<?>
<キミは、自由だから・・・・>



ーーーサイボーグだからこそ、キミは幸せになって欲しい・・・・。





<ばか>
<・・・・>
<ジョーのばか。香奈恵さんはジョーを殴らなかったのね?も!>
<・・・・>
<ジョー・・・・私、あなたを愛してる。私は自分でちゃんとわかってるわ!ジョー、愛してる。自由なのでしょ?だから、ジョー、好きよ>
<・・・・>













余震のことも考慮にいれて撮影は中止となり、日を改めて撮影を再開することとなり、直ちに解散となった。
大倉は、落ち着きを取り戻し、何度もジョーに礼を言った。

香奈恵は「他人の女より自分の女でしょ!」と散々ジョーに怒りをぶつけたが、ジョーは黙ってその言葉を聞いていたフランソワーズは、香奈恵を宥め「私の方は、安全だったんですもの」と、ジョーの行動は正しい。と、言い続けた。







003としての考えと行動がそこに見える。

宝生は始終彼女の様子を伺っていた。が、彼氏であるジョーの前では撮影時のように堂々とは振る舞うようなことはせず、ジョーは肩を痛めたことを隠していることにも気づくこともなく、タクシーで帰路につくことにしたジョーとフランソワーズを見送った。


何ごともなかったかのように、タクシーの中でもフランソワーズは変わらなかった。


ジョーは黙ったまま、ギルモア邸前に停まったタクシーから降りる。
玄関の戸をフランソワーズは開けながら、”眼”のスイッチを入れてギルモアの姿を探す。
もしもすでに就寝していたのなら「起こさず明日の朝に」と、ジョーに言うつもりであったが、ギルモアは地下の研究室でなにやら書き物に集中している様子が診えた。


「博士は、まだ起きていらっしゃるわ・・・診てもらいましょう?」
「・・・・明日でもいい」
「ダメよ、メンテナンスは明日でも、診てもらうべきだわ!」

フランソワーズは小さな子どもをしかるような口調で言いながら、ジョーの動かない腕にそっと自分の腕を絡めた。


「お願い・・・・心配なの」


フランソワーズに諭されて、ジョーは地下へと降りていく。
ギルモアの研究室のドアをノックし、簡単にコトの顛末を説明した。

ギルモアはジョーからの話しを訊き、メンテナンスルームにジョーを急かして移動する。
009の動かなくなった肩と腕をスキャンし、モニターに映し出した。


「むう・・・この間のメンテナンスでは気づかなかったのかのう・・ここ、この部分の接続する、見えるかジョー?ここに小さな亀裂が入っておったのじゃろ・・・。日常生活などには支障もないし、加速装置を使ってもなんら影響は出んわい。しかし・・・運が悪かったとしかいいようがない。見事にこの亀裂部分が入ったパーツに負荷がかかったんじゃ」


「・・・そうですか」
「うむ。パーツもある、ちょちょっと直すか?」


ギルモアはジョーに近づき肩の様子を診ながら、その手はベッドから伸びるコードにかかる。


「博士、今夜は遅いですし・・・明日でかまいません」
「何、そんなに時間はかからんぞ?・・・利き腕が使えんと、不便じゃろう?」
「一晩くらい、平気です」
「・・・じゃが、フランソワーズが心配するしのう」
「博士の体の方が心配です。どうか休んでください・・・急ぎの予定などありませ、から」
「じゃが、なあ」
「昨日もそう言って徹夜でしたよね?心配していましたよ」
「・・・いいのか?本当に」
「はい」
「いいか、朝一番になおすからな?」
「はい」


ジョーはメンテナスルームの寝台から立ち上がり、脱いだシャツを手に取る。


「しかし・・・誰もけが人が出なくてよかったのう・・・地震が多い島国じゃから仕方ないが・・・」
「・・・・」
「フランソワーズも、災難じゃな・・・せっかくのウェディングドレスじゃったのに」
「・・・日を改めて撮影し直すそうです」
「おお!そうかっ、それはよかったのう・・・どうじゃった?フランソワーズの花嫁姿は?綺麗じゃったろう・・・写真が出来たら見たいのう・・・できれば」


ーーーお前と一緒に並んでいる写真がよかったんじゃが・・・


ギルモアは自分の目の前に立つ009,島村ジョーという青年を見上げた。
いつから2人が”恋人”のような関係になったかは、はっきりとはわからない。
003,フランソワーズがいつ頃からか009を他の仲間達とは違う接し方をしていることにギルモアが気がついたのは、他の00メンバーに較べて早かったようにギルモア自身は思っている。
ジョーがフランソワーズのことを、どう思っているのかが判らず、ギルモアは娘のように可愛がるフランソワーズのために、何度その口からジョーに”気持ち”を訊ねようかと悩んだ日々に、他のメンバーは何度もフランソワーズに、「009はやめておけ」と忠告されていることを思い出した。


ーーージョー、幸せになりなさい。フランソワーズも、お前も幸せになる必要があるんじゃ。


「綺麗、でした」


物思いに耽っていギルモアの耳に、ジョーの声が届き現実へと引き戻された。


「・・・ジョー」
「フランソワーズ、綺麗でした。博士・・・」
「そうか、そうか・・・・綺麗じゃったか」
「はい・・・とても綺麗でした、よ。ドレス姿・・・」
「うむ、うむ。あの娘は何を着ても似合うじゃろうが・・・ウェディングドレスは特別じゃ。女の子なら、一度は着たいと思うものじゃしなぁ」
「・・・・・」
「お前が幸せになってくれんと、困るぞ」
「え・・・?・・・フランソワーズじゃ・・・・」
「お前が、じゃ」


ギルモアは、優しくジョーの動かない肩に触れた。
そして、しっかりとジョーの瞳をのぞき込むようにして言った。


「お前がフランソワーズを幸せにするんじゃよ」





ーーーお前が幸せになって、はじめてフランソワーズは・・・な・・・。



俺が、フランソワーズを幸せに?

この俺が?
・・・・・そんな権利があるのか?
俺に、そんなことできるのか?
俺は、彼女を不幸にするだけじゃないのか?


俺が、フランソワーズを幸せに・・・す・・・る?


ジョーは地下の階段を重い足取りで上がる。
電気がつけられていない、ダイニングを抜けて、リビングを通り、2階への階段を上がっていく。



動かない肩。
痛みもなく壊れた躯。








それでも、明日の昼までには何ごともなかったように動くようになる。


サイボーグにならなければ、なかった出会い。
人はそれを運命と言う。


そんな不幸な運命の中で、彼女は本当に幸せになるのだろうか?
同じ不幸な運命の男と一緒になって、幸せになるのだろうか?


フランソワーズの幸せ。
女の子の夢。


バレエ。
恋愛。
結婚。
夫婦。
子ども。
家庭。



ーーーわからない・・・・。




サイボーグであっても、人であっても、俺はフランソワーズを愛している。
それだけだ。





ごめん。





一度もキミに”好き”や”愛してる”と言ったことがないのに・・・・変だろ?







俺と言う男は、そいう男なんだ。



ごめん、フランソワーズ。

戦いの中なら。キミを銃からも、敵からも、与えられたこの躯を使って護ってみせる。
平和の中で、キミを・・・・何から護ればいいのか、わからない。
護る必要があるのかも、わからない。


何もわからないんだ。


俺はサイボーグで、最強の躯をもった009。
こころも・・・誰よりも、機械に近いのかもしれない。


きっと、キミはサイボーグ003だから、俺を好きになったんだよ。






人は人に想う。
サイボーグはサイボーグに想う。


キミのこころは温かく、優しい、”人”なんだ・・・ね?
だから、ちゃんと”人”をアイしたらいい。




簡単に壊れる俺なんて、捨てていいよ。













「ジョー・・・肩の具合はどう?」


翌日の朝、ギルモアが昨夜言っていた通りに起き抜けのジョーを引きずるようにして、地下のメンテナンス・ルームで”治療”を行った。

1時間ほどでジョーの肩は治り、腕を動かすことが出来るようになった。
以前と何も変わらず、傷ひとつなく。

肩をまわし、腕の動きを確認するジョーの隣にフランソワーズは寄り添うように立っていた。
彼の着ていたTシャツを渡す。


「大丈夫」

ギルモアはフランソワーズと入れ違いに、メンテナンスルームを出ていき、自分の研究室に籠もってしまった。


「よかった・・・・・」


フランソワーズの安堵の溜息が、ジョーの髪を揺らす。

不安だったのは、ジョーの肩ばかりではなかった。
昨夜、ジョーが地下から戻ってくるのをフランソワーズは自室から”聴き”、そして彼女の部屋のドア前に立ち尽くすジョーを”視て”いた。





部屋のドアをノックすることもなく。
彼はただ、ドア前に立つ。


フランソワーズはドア1枚隔てた部屋の中でジョーを”視る”。
そのドアを開けてくれることを祈りながら・・・・・ジョーの足音は遠ざかって行くのを”聴いた”。







ドアを越しに”視る”ジョーの表情は、何も表してはいなかった。

フランソワーズは寝台に座るジョーの正面に移動する。
ジョーの視界はフランソワーズの躯に遮られる。
フランソワーズはジョーの頭を腕に、自分の胸に抱きしめた。


「好きよ」


フランソワーズの香り。


「愛してるわ」


フランソワーズの温かな腕。


「・・・・フランソワーズ」


フランソワーズの柔らかな感触。


「ねぇ、お話ししましょう?」


ジョーはフランソワーズの腕を解いて、彼女を見上げた。


「話し?」
「そう。フランス生まれの女の子の話し」
「・・・・」


フランソワーズはジョーの髪を小さな手で触れ、その指で梳く。
無機質な蛍光灯の、目に痛いほど白い光に照らされる、ジョーの栗色の髪がいつもより明るい。


「バレエが好きで、好きで、好きで。自分にはそれしかないと、信じてた女の子は」


ジョーの髪を優しく触れ続ける。


「ある日、自分がマリオネットだったと気がついたの」
「・・・」
「哀しくて、淋しくて、辛くて、踊ることも出来なくて。泣いているのよ」


ジョーは自分の髪を弄るフランソワーズの手首を掴み、その手の動きを止めた。


「ずうっと誰かが助けに来てくれることを、夢みながら、信じていなかったわ」


フランソワーズはそおっと自分の手首を掴んだジョーの手を、もう片方の手で包み、その手を解く。


「ある日、小さな可愛い魔法使いが言ったわ」


ジョーの手を両手で包み、自分の心臓にあてた。


「”運命の人がやってくるよ、フランソワーズ。彼は希望。彼は勇気。彼は未来。彼は光”」


手に、とくん。とひとつ跳ねた心臓の音が伝わる。


「女の子は、諦めた想いを、諦めていた夢を、諦めていた・・・・人であり続けようとしたこころを取り戻したの」



ジョーの手に、とくん。ともう一度、心臓が跳ねた振動が伝わる。
自分の胸にあてているジョーの手から、二の腕。肩。首。顎。頬。へと片手でなぞる。


「その子が、マリオネットだと・・・・・知らなければよかった」
「そうね」


フランソワーズの手がジョーの頬でぴたり。と、止まる。


「知らなければ、哀しみも、淋しさも、辛さも、苦しみも・・・なくて・・・・好きなバレエも続けられた」
「ええ・・・・」
「・・・マリオネットでなければ、その子は、幸せだった」


フランソワーズはジョーの躯を力一杯寝台に押し倒した。


「違うわ!」


ジョーは寝台に仰向けに倒れ、その躯の上にフランソワーズは覆い被さり、抱きしめた。


「ジョーに出会えたのよ、人を愛するこころを手に入れたのよっ」


さらりと彼女の金色に近くなった髪が、ジョーの顔にかかる。


「人であったら知ることができなかった、哀しくて、辛くて、淋しくて、苦しい思いを乗り越える強さを手に入れて、私の魂に共鳴できる人に出会えたのっ」


ジョーはフランソワーズを見上げる形で彼女を見つめる。


「もう、マリオネットなんて、人であるかどうかなんて関係ない。躯は入れ物。私は魂で生きていることを、ジョーを愛する気持ちで生きていることを知ったのよ、素敵でしょ?」


フランソワーズの顔がジョーの顔に近づいてくる。


「素敵でしょ?」


ジョーの額にキスをひとつ。


「その子の幸せはね?」


目蓋にキスをひとつ。


「ウェディングドレスでも、結婚することでも」


右頬にキスをひとつ。


「夫婦になることでも、子どもを産むことでも、家庭をもつことでも」


左頬にキスをひとつ。


「バレエでプロになることでも、踊り続けることでも」


口元にキスをひとつ。


「過去に戻って人生をやりなおすことでも、元の人の体に戻ること・・・・でも、全部違うのよ?」


ジョーは、天井に取り付けられた白い灯に、目を細める。



「私の夢は、あなたがちゃんと言葉で”愛してる”って言ってくれること。
私の幸せは、あなたが永遠にあなたの魂で愛し続けてくれること、もちろん、私だけを」



ジョーの唇に触れるか、触れないかのキスをひとつ。



「・・・・サイボーグの運命を選ぶわ」
「・・・え?」
「あなたに出会うためなら、サイボーグでも、なんでも、・・・あなたが生まれ変わって、またサイボーグになるなら、私もよ?あなたが、どんな風に、どんな姿になろうとも、私たちはずっと一緒に生きていくのよ」


フランソワーズは、ジョーの胸へと頭を動かし耳を押しつけて、とくん。とくん。とくん。と、作り物の心臓は正しいリズムで動いているのを数えた。


「ジョー・・・・・あなたは、私の半身。もう一つの私の魂。あなたは、私なの」






サイボーグになっても。
サイボーグではなくても。


人でなくても。

機械であっても。


俺はキミの半身。
もう一つの、キミの魂。












ジョーは自分の体の上に乗る、フランソワーズの背に腕をまわした。
ゆっくりと躯を回転させて、体勢を入れ替える。

フランソワーズの背を寝台に寝かせ、ジョーはその躯の上に覆い被さる。
純白のシーズに広がる、明るく光る亜麻色の髪。






ジョーはフランソワーズの額にキスをひとつ。



「・・・・・わからないよ」


左目蓋にキスをひとつ。
右目蓋にキスをひとつ。


「わからない・・」


右頬にキスをひとつ。
左頬にキスをひとつ。


「・・・俺に何ができる?・・・キミのために・・・」


口元にキスをひとつ。


「サイボーグである能力以外、何もない俺に・・・・何が残されている?」
「1だけ、あるわ」








深く、唇を重ねてキスを星の数。
















「愛して・・・私を」























この世界に、”俺を愛してくれているキミ”が生きているから、俺は、・・・・。













####

一週間後に、撮影が再開された。
生憎の雨模様だったその日。外での撮影は中止となり、チャペル内での撮影となった。
多くの照明が、正装した宝生と、5着目のドレスを着たフランソワーズを煌々と照らす。


「ったく、よく平気よね!あんなにライトを浴びたら、火傷しちゃうわよ!」
「・・・・・プロだから大丈夫でしょう」
「面白くないわ、ヘタレっち」


チャペル内に並ぶ、ベンチの一角に座るジョーと香奈恵は撮影風景をそう遠く離れていない位置から見ていた。


「それにしても、フランソワーズは・・・何着ても似合いすぎるわ・・・逆にドレスの選びがいがないって感じよ!」
「・・・・・」
「そしてあんたもっ!無口過ぎて、面白くないわ!」
「・・・・・香奈恵さんが、おしゃべりなだけだから」
「私は普通よ!ふ・つ・う!!」






カメラマンが、叫んだ。






「これがラストっ!! せっかくだから、キスシーンでもお願いしようか!」


その言葉に周囲のスタッフが冷やかし、ピューっ!!っと口笛が飛び交う。


「あら~~~!!ちょっとどうするのっっ?へたれっち!」
「・・・・・」


これは面白い展開!とばかりに香奈恵はバシバシとジョーの腕を叩く。


「・・・・・・どうもしません」
「さすがヘタレね!フランソワーズのあの可愛らしい唇がっ他の男のとぶちゅ~~~~っとふれ合うのよ?もしかしたら、もうちょっと激しいかもよ?宝生さん上手いわよ、キス」
「・・・・・・知ってるんですか?」
「まあ、味見は必要よね?」


ジョーは香奈恵の言葉に、少々呆れながらライトに照らされた、別世界に立つフランソワーズを見た。
宝生は、何かをフランソワーズに話しかけている。
フランソワーズは恥ずかしげに宝生を見つめるて微笑み、その頬は紅く。
それが、ライトのせいなのか、カメラマンの提案のせいなのかはジョーにはわからない。




<ジョー?>


フランソワーズから、脳波通信が届く。






ジョーの脳波通信の回線がoffになる。


宝生は眩しいライトの先に、ジョーを見つけた。
彼は黙って自分たちを、事の成り行きを見守る様子であると、思い込む。


「あなたには、相応しいとは思えませんね、彼」
「え?」
「キスしますよ、前に告白したときと、ぼくの気持ちは変わらない。アルヌールさん、好きです。だから遠慮するつもりも、あなたにキスができるチャンスを逃すつもりはありませんよ、ぼくは」


宝生は、フランソワーズの腰に腕をまわして抱き寄せる。
カメラマンが、調子の良い言葉をかけて宝生を煽る。

ジョーはゆっくりと立ち上がる。
香奈恵はニヤニヤと嗤って傍観する。


「ヘタレなりに、頑張れば?」


フランソワーズは、ジョーが席から立ち上がったのに気がついた。
照明が光り輝く世界から見る、ジョーの世界は闇。

強く殺気を込めて射抜く視線。
その視線の先は宝生ではなく、フランソワーズにむけられている。







ただ、それだけ。










ジョーは何も言葉にしない。
未だに好きも、愛してるも言ってくれない。


宝生の手が、フランソワーズの頬に触れる。
現場にいる全員が2人に注目する。

フランソワーズの腰にまわした腕に力を込めて、2人の体はIラインを描くようにひとつになる。
シャッターを切る音が、数回。




彼は、動くことができない。
それ以上、フランソワーズに近づくことができない。




固まったままの2人。







<キ ミ が 俺 の も の じ ゃ な く な っ た こ の 世 界 を、守るつもり、ないから>





フランソワーズに向けられていた殺気は、宝生も飲み込んでしまっている。
いや、この場を全てを飲み込んでしまっている。





誰もが無意識にジョーへと視線をむけていた。
モデルの2人ではなく、スタジオの端に寄せられた椅子から立ち上がった、”モデルの恋人”に。






空気が澱む。








「やっだ~~~~~!!!宝生さんでもっキスぐらいで緊張して固まっちゃうのねっっっっ!」


香奈恵が叫んだ。

彼女の声に場の空気が一瞬にして和み、笑い声が起こった。
その声に弾かれたように宝生とフランソワーズの体が離れる。と・・・・、ジョーが動いた。




闇から目が眩む光の中に、現れた。
金茶色に変わった髪の人。





フランソワーズの背後から歩み寄った、彼。

腕を伸ばして彼女のウェストへと腕をまわす。
引き寄せられるようにして、彼の胸にフランソワーズの背がぶつかる。

驚いて振り返ったフランソワーズの、顎を上向きに固定した、手。


「キスシーンだろ?」


ベアトップドレスの、むき出しになったフランソワーズの肩に、彼女の背後からキスをひとつ。
流れるように振り返ったフランソワーズ、の、頬に、キスをひとつ。




「こういう姿勢でキスする映画が、好きだったよね?」





フランソワーズの腰を抱き、その背を倒すように逸らさせて、彼女の体重をささせる。
自然に、フランソワーズの左手が、不安定な姿勢にジョーの腕へと伸び、もう片方の腕が、彼の肩に。


床と水平になるほどに、倒された、フランソワーズの体。
彼女の視界には、目が眩むライトの光と、逆光となった、ジョーだけ。














呆然と立ち尽す、新郎の目の前で。
花嫁は、Tシャツ・ジーンズ姿の青年から、”ハリウッド・キス”







カメラのシャッター音が連続して、3回。

















撮られた写真は、本人たちの手には送られることはなかった。


『もしもよ!もしもウェディング・ベルを鳴らす相手がフランソワーズじゃなかったら、超特大サイズに引き延ばして、送りつけてやるのよ♪誰にって?決まってるじゃなあい!!ね♪」






end.















*・・・大地くんでは絶対やらない!ルール(サイボーグしない)をかなり違反した作品(汗)
の上に・・・。なんだか気に入らなかったのです。
手直しに直しを入れて、やりすぎて・・(遠い目)
ホコリをかぶっていた作品ですが、・・・・ずっとファイルの片隅で私のこころを猛烈に悩ませた子(笑)です。アップに踏み切られるところまでになってよかった・・・。
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君に振り回される自分がいる/5




春の終わりごろ。
暖かさを手に入れた世界は新緑の色に満ちあふれ、風が運んで来る生命力の香りは誰もが深呼吸せずにはいられないほどに、清々しさを届けてくれた。今朝方に降ったと思われる雨露玉が、夏前の柔らかい陽光をじんわりと弾いて輝いている。
園内に溢れる彩り豊かな花たちが、くすくすと笑うように、温もりをました風に揺らされた。

今月頭になった国をあげての連休が過ぎて、園内の忙しさは一段落したものの、裏では引き続き、これから本格的な夏に向けて様々なイベント企画業務に忙しさがピークを迎えようとしている。

ここ、園内にあるイベント用野外特設ステージも例に漏れることなく含まれる。
GWから続く特別公演、仮面ライダー・アクション/ヒーロー着ぐるみショーは、野外ステージの天敵とも言える梅雨時期前が一番忙しい。
役者や関係者たちは、春の麗らかな様子とは180度違った心境で日々を過ごし、そのストレスのピークが限界に近かった。

まして、仕事をスムーズに運ぶための人間関係に少しばかりの摩擦があれば、気分的にその疲れはいつもより重く体を支配する。










***


舞台では仮面ライダーが敵のボス怪人に危機的状態に陥っていたが、ちびっ子たちの声援にみるみる逆転していくクライマックスへと突入していた。

司会者の女性が人質役として舞台に立つ栗色の髪の青年ににマイクを向けようとしたけれど、先ほどの彼の台詞が司会者の頭をよぎり、無意識にジョーにではなく、フランソワーズにマイクを差し出した。
フランソワーズの方へとむけられようとしたマイクは、人質役のフランソワーズのいる舞台下手側からひょっこり顔を出した、司会者女性のバイト仲間、短髪の青年の顔によって動きを止めた。
上演中は常に舞台に立ち続ける進行役の司会者。たまに、舞台裏で進行に関する変更事があると連絡係としてバイトの誰かが突然ひょっこり顔を出すのである。
大手アミューズメント・パークでは、緊急連絡事項はだいたい無線インカムを通して伝えられるのだけれど、未だ、それらしきものが配給される様子がみられない、ここは地元に愛されるローカル遊園地。

連絡伝達係と思われる短髪青年(野外ステージ関係者はみな短髪なのだけれど)のその手が招き猫のように、おいで。おいで。と、振られたことからフランソワーズから仮面ライダーへの応援スピーチをマイクに通すことができなくなった。


観客に背を向けることなく、つつつ、と、手招きされる方へと移動しながらも、マイクで一生懸命に舞台を盛り上げる。
女性司会者はマイクのスイッチを瞬時にオフにして、バイト仲間の青年からさっと耳打ちされた内容に、彼女は「ええ?!」っと、舞台上で素の声を出して驚いた。


「夏美ちゃん、これが僕たちにできる精一杯のことだからさ!今がチャンスなんだよっ」


マイクのスイッチを入れると同時に、夏美と呼ばれた女性司会者は力強く短髪青年に向かって頷いた。
彼が何を言わんとしているのか、夏美には説明などいらない。

仮面ライダー(濱田)のセクハラに一番の被害を被っているのは、彼女、粟田夏美かもしれない。
声優学校へ通い始めたが、いまいち画面に見る映像と決められた台詞を読み上げる中に、自分の感情を入れてキャラクタ-になりきることが出来ず、この道は向いていないのかと迷っていたころ、オフレコのときにかいま見せるアドリブの良さから紹介された司会業。

自分は声優業よりも、司会業のの方が向いている。と、園内特設ステージの司会進行役は天職に巡り会えたような幸せな職場だった。
今はバイトだけれど、プロダクションからの派遣俳優たちの手助けもあり、遊園地の専属イベント司会者として、声優学校を卒業する今年、就職が内定していた。そんな夢のような職場に唯一水を差す、男が1人。


「みんなー!仮面ライダーの必殺技をっ!!」


クライマックスに向けて、決め技を観客に促す夏美。
すでに連絡係の青年の姿はなく、彼女の元いた位置へと移動していた。

観客の声を味方につけて、オーバーリアクションと言われる言葉が似合うほどに腕を伸ばして観客席の方へとマイクを向けながら、人質役のジョーへと近付く。
フランソワーズは夏美がジョーに近付いたことを知って、なぜか無意識に2歩半、ジョーから距離を取った。それでも彼女がジョーに何を言ったか聞こえてしまう性能良く改造された耳。


「敵ボスが倒されましたら仮面ライダーが2人を呼びます。舞台の赤い×印のところまで行ってください」


ジョーは夏美の言葉に素直に頷き、舞台中央ど真ん中にある、×印に貼られた赤いテープを司会の端で確認した。
フランソワーズの視線も、自然とそのテープに向かう。

普段なら、敵ボスがやられた段階で、人質を仮面ライダーの元へと誘導するのが司会者の役目だけれど、それを変更しなければいけない理由ができてしまった。

成功するかどうかは、すべて彼の手にかかっている。



夏美はジョーのすぐ隣にいたはずのフランソワーズが少し離れていることに気づいて、彼女に向かってにっこりと笑いながら、軽く3歩ほど離れているフランソワーズにむけてマイクを差し出した。


「仮面ライダーの応援、よろしく!!」


フランソワーズが差し向けられたマイクにむかって「負けないでー!」と叫ぶのと同時に、ジョーの耳へ夏美ははっきりと告げた。


「お聞きになったと思いますが、あの仮面ライダーは偽物と言う設定なんです。人質役の方がそれを見抜くと言う事で、力いっぱい思いっきり殴って大丈夫ですから。お願いしますっ!!」
「・・思いっきりで、いいんですか?」
「はい!」
「わかりました!」


ジョーは夏美にむかって爽やかににっこりと笑った。
その笑顔を間近で見た夏美は顔を赤くしてマイクを強く握りしめてジョーから離れた。


---相手は彼女持ちなんだからっ!!





彼氏居ない歴3年の彼女に久々に仕事以外のときめきが胸をくすぐった。





***


敵ボスは、観客の声援とともに仮面ライダーの必殺技で見事に倒された。舞台左右に取り付けられている巨大スピーカーから、司会者の声ではなく、予め吹き込まれていたアナウンスが流れ、ストーリーの最後の締めをくくろうと、ナレーションが入る。

舞台中央で大歓声の中、数種類あるポーズを順に決めて行く、仮面ライダー。
重い仮面(ヘルメット)の中で、それらのナレーションを聞きながら、人質役のゲストへと大げさな動きで舞台中央へと呼び寄せた。すると、よどみなく流れていたナレーションが止まった。


「?」


スピーカーの故障か?と、疑問に思ったライダー役の濱田だが、司会者は何もフォローの声が入らない。
GWから耳にタコができるほど聞いている、エンディングのナレーション。そのために、すっかりナレーション内容は一字一句間違えることなく頭に入っている。
何度もショーを見に来ている一部の”着ぐるみ・マニア””アクション・ヒーロー・マニア”の大人たちがざわついたが、ほとんどの観客は気にしていないようだった。


「ジョー、呼ばれてるわ」
「そうみたいだね」


ショーの終わりを促すナレーションも流れて、何度も決めポーズを決め続けながら観客の声援に答える仮面ライダーの姿を見るジョーは、どうも”殴っていい”様子ではないように思えて仕方がない。
偽物なら何か、それらしいアクションをしてくれるはずでは?と、思わず進行役の司会者へと視線をむけたけれど、司会者はマイクを握り、ニコニコと笑ってジョーにむかって微笑んでいるだけだ。
彼の視線に気がついた夏美(司会者)は、どうぞ。と、小さく手を差し出すような仕草で舞台中央へ行く事をすすめる。

仮面ライダーの姿に扮し手舞台上手で控えている元敵兵師Cの南川が、そして、彼の案に賛同した仕事仲間たちが、舞台裏の控え室に固唾を飲んで控えている。
もしもゲスト(ジョー)がアクションを起こさなかったとき、偽物からゲストを救い出すべく、飛び出す予定だ。


---頼むっ殴ってくれ!!

<僕モ少シバカリ協力スルネ♪>


半円形、扇状に広がっている観客席やや中央より左、再後部席に座るジェロニモの腕に抱かれているイワンの、いつもはくるりとした白銀色の前髪に隠れたつぶら瞳が楽しげに輝いた。








「あ、フランソワーズっ!」


偽物です。と聞かされても、それとは別にして、フランソワーズは仮面ライダーに呼ばれたことが嬉しいらしい。
愛らしい微笑みをたたえながら、舞台中央で自分たちを呼ぶ仮面ライダーへと駆け寄って行く。その後ろを追いかけるようにジョーが続いた。


「助けてくれてありがとうっ仮面ライダーっ!」


狭いヘッドマスクの視界に飛び込んで来る輝くハチミツ色の髪をきらきらとなびかせ、絵に描いたような大きすぎる蒼い瞳の少女を、仮面ライダーは両手を広げて迎えた。

濱田はこっそりと思う。

自分はそっち(ロリ)方面の趣味を持ち合わせてはいないが”美少女”だと、話しは別。
どうやらアクションヒーローファンのようだから、この後・・・。と、今回のゲストである美少女(フランソワーズ)をナンパする算段を整え始めた。
そうでもしなければ、分厚い着ぐるみの中、アクションシーンをこなした後の、呼吸困難に陥りそうなギリギリの状態を我慢することなんてできない。
今日はラッキーな日だと、いつもよりも多めにポーズを決めていた。


「とっても強かったわ!!」


人質ゲストの美少女は、広げられた両手に嬉々として飛び込んでいった。

ごつごつとしたヒーロの着ぐるみで強く抱き締め、ゲストに不快だったなど、セクハラだのなんだの、昨今何かクレームがつくようになったため、今では遊園地側が訴えられて訴訟などを起こされないために、年に一回スペシャリストが来て、指導をうける世の中だ。

子どもならそのまま腕にお尻をのっけるようにして、抱き上げる。大人なら、軽く背中に腕をまわして、ぱんぱん!と、軽いハグ、もしくは握手ですませるのが、野外特設ステージがもうけた観客とコミュニケーション規則(ルール)だった。

本当ならぐっと抱き締めて、美少女の背や腰辺りを楽しみたいのだけれども、分厚い手袋では初めから無理な話しだ。昔の着ぐるみならそれなりに楽しめたのだけれど、最近のヒーローは凝った作りに着ぐるみ製作の技術がハリウッド特殊コスチューム並に発達した今日この頃。

感触を楽しむどころか、アクションシーンに問題が出るほどに何も感じられない。


ーーー今回もこの手でいくか・・。


その時々のゲストの雰囲気に合わせて軽くハグを交わすときに、「特別に写真撮影の時間をつくってあげるよ。」などを言えば、”特別”と言う言葉に惹かれて、公演後、だいたいは指定した入場ゲート裏で待っている。
そこで上手く口説くことができれば合コンなり、なんなり次に会うチャンスを得ることができた。
成功率は今のところ50/50。GWなどはファミリー、カップルが多いので、成功率は自然と低くなってしまう。が、ステージから離れた園内でのナンパ率は逆に上がるので、不思議だ。


「ありがとう、仮面ライダーっ!!人質を無事に助ける事ができましたっ」


フランソワーズが仮面ライダーの広げた手に飛び込んだタイミングに合わせて、司会者(夏美)が観客に向かって言葉をかける。と、観客から感動のフィナーレにむけて拍手と歓声がわき起こった。

舞台は今日も無事に成功を収めたと、いうように。



仮面ライダー(濱田)は軽くフランソワーズの背に腕をまわした。


---華奢だなあ・・。


その線の細さに驚くと、同時に。


---ん???


確かに背中にまわした筈の手が、なにやらとても美しいカーブを描く柔らかい線をなでていた。


---んんん???


背中にこのような芸術的なカーブと柔らかさが”ある”はずなどない。
腕に軽く閉じ込めているフランソワーズの右肩を見下ろすように、狭い視界をなんとか自分の手が触れてカーブを確かめるように動かしている部位へと移動させたときだ。

ぴきん!と、腕の中の美少女の空気が氷りついて固まった。



















その瞬間に何が起ったのか、濱田は思い出せない。




気がつけば、園内の医務室にいた。


ヘッドマスクが半壊し、脱がせることができず解体した、元仮面ライダーのマスクが無惨な姿で濱田が眠るベッドの周りの床に散らばっていたのを、まるでまだ着ぐるみのヘッドマスクを付けているような視界の幅から見えた。







***

ぴきん!と、腕の中の美少女の空気が氷りついて固まっただけでなく、その差を計る単位がこの世にあるのかと疑問に思うほど、ほぼ同時に会場中が騒然となる。

存在するのは、ばこぉっっと、響いた破壊音の残響。
幾つもの死闘をくぐり抜けた経験のある、数人のみが、聞き分けることができる破裂音が混じる。


<イクラナンデモ コンナ場所デ 本気デ殴るナンテ モゥ! チョット(分厚イ布デ覆ワレタ)手ガふらんそわーずノオ尻ノ上ニ乗ッタクライデ。危ナイジャナイカ、009!!>


宙に舞うヒーローをその能力を持って助ける001が叫んだ。


ほとんどモーションをつけずに繰り出された009の拳にイワンが張ったシールドが間に合ったこと事態、奇跡だと思いながら小さな胸に汗をかき、ため息にのせて拭う。
肝心の、背中にまわされるはずだった仮面ライダーの手を、ショーに協力するつもりでちょこっと悪戯に移動させたことは、イワンは自身の自らなかったことにした。

衝撃に気を失ってしまっているかもしれないけれど、命に関わるような重傷を負ったわけでもなし、怪我1つ負っていないことをさっと確認したイワンは、セクハラ・偽仮面ライダーを衝撃を受けさせないように床に寝かせたが、ちゃんと見た目は”吹っ飛ばされた”形にこだわった。



舞台上で見事に吹っ飛ばされた仮面ライダー(濱田)は意識を失った状態で、舞台袖に控えていた南川の足下で半壊されたヘッドマスクから、仮面ライダー(南川)を見上げていた。


「・・・う、あ・・・?」


見下ろす、仮面ライダー。
見上げる、仮面ライダー。


見つめ合う、仮面ライダーの視線をはずさせたのは、女性の声だった。


「いやあっんっ仮面ライダーがあっ!!」
「触ったっ!!あいつっフランソワーズのっ!!!にっ!!」
「でもっジョーっ!!」
「偽物仮面ライダーだからっ!あいつは偽物だっ!」


そんな会話が舞台上で交わされると、野外特設ステージ全体が動揺に揺れた。
目の前に起こったことに呆然としていた司会者(夏美)が司会業を天職として感じた、彼女の才能がこの危機を乗り越えるために、開花する。


「なんですって!?偽物っ!!みなさんっ聴いてくださいっ!!!!」


舞台左端の袖にいた夏美はバタバタと走り、舞台中央で声を張り上げた。



「私たちが応援していた仮面ライダーはなんと”未来からの敵!”偽・仮面ライダーでしたっ!それを見抜いた島村ジョー君っにっっっ拍手っ!!!」


夏美ジョーの腕をむんずと掴み、彼を今回の主役と言わんばかりに、自分の隣に立たせた。


何がなんだかわからないが、とにかく、司会者が拍手と言うのだから、拍手しなければいけない雰囲気を作り出し、強引にでも特設ステージ全体の雰囲気を一気に自分が発した言葉の方向へと引っ張る、夏美。


かなり無理矢理感ありありな感じだが、ここは遊園地、イベント用・野外特設ステージである。
子どもたちの夢と希望とあこがれを現実にさせる舞台、アクション・ヒーロー着ぐるみ・ショーだ。

多少のつじつまの合わないことでも、かっこよければ、ヒーローしていれば、子どもの夢を壊さなければそれでよし。


舞台中央後方から、熱心に拍手を送る赤ん坊のいるグループから次第に拍手の波となって舞台に届きはじめると、イベント参加希望の席から、舞台前列で首をしならせて見上げていた子どもたちから、すごーい!の歓声がわき始めた。


「島村ジョー君っ!彼に本物の仮面ライダーを呼んでもらいましょーっ!!きっと仮面ライダーは私たちのピンチを助けるために、近くにいるはずですっ!!!!」


拍手となんだか凄いパワーで偽・仮面ライダーを吹っ飛ばしたお兄さんにむけた子ども達の視線を一斉に集めることになったジョーだけれど、脳内は未だに目の前でぴっちりフランソワーズの躯にフィットしたジーンズを履いた彼女のヒップにのせられた手。に、胸はイライラとすっきりしないでいた。


観客の声に答えてくださいと、手を振るなりなんなりのジェスチャーを司会者(夏美)から要求される。
人前に出て何かするようなことに慣れていない、どちらかといえば、表だったパフォーマンスが苦手なジョーは、助けを求めるようにフランソワーズへと振り返った。


「フランソワーズ」


フランソワーズはジョーに吹っ飛ばされた仮面ライダーを気にしていたのか、ジョーの斜め後ろで視線を彼からそらせていた。


その、横顔が今には泣き出しそうで・・。
















さっきから、アタシ。
変。



ステージ入場ゲートでチケットを切った女性が、驚きに何かを含ませた顔で舞台にいるジョーへと熱い視線を向けている。
ジョーをステージ関係者と勘違いして話しかけてきた3人グループの女の子たちも、同じ視線だとすぐにわかる。

偽仮面ライダーをやっつけたジョーを、舞台中央前へと連れだった司会の女性の手は放れないまま、彼の腕に添えられていた。



偽仮面ライダーを吹っ飛ばしたジョーの一瞬殺気立ったオーラは、仲間のアタシが不快に感じたことを敏感に察知してくれたから。よね、009。


「大丈夫だから!!」
「・・・」


<ボクが居る限り絶対にもう二度と嫌な思いはさせないから!>


ジョーから名前を呼ばれるのと同時に、彼からの脳派通信。
フランソワーズは逸らしていた視線をジョーへと戻した。








ジョーの手がフランソワーズにむけて伸ばされた。









「島村ジョー君!偽仮面ライダーの正体を見破り!見事、愛する人を守りましたーっっっっ!!!では!ジョー君と彼女さんに本物の仮面ライダーを呼んでもらいましょー!!!」














ジョーは満員の観客の前で、フランソワーズの手をしっかりと握った。


「こんなすごい誕生日、一生忘れられないかも・・ありがとう」








冷やかし混じりの大歓声にジョーh恥ずかし気に、司会者に言われて歓声に応えるように手を振った。















竹岡は自宅に戻り、夕食ができていると声をかけられたが、その声に応えずに自室へと飛び込んでパソコンの電源を入れた。
バイト先で起こった今日のハプニングを、彼が通う道場の先輩であり、今回自分がバイトする遊園地のイベント用野外特設ステージで行われていたアクション・ヒーロー着ぐるみショーのチケットを頼まれた人へと報告するために。

どうやら、向こうも偶然メールをチェックしている時間だったらしく、メールを送信して5分も経たずして、先輩である、湯田みつるから電話があった。


それから3時間と少し。
男同士にしてはかなり長い会話が始まる。

ネタは他人事だから面白い。




司会をしている夏美は個人ブログで今日あったことを事細かく書いた。
ちゃんとゲストの2人から了解を得ている。
一緒に取った写真は顔が解らないように加工するならアップしてもかまわないと言ってもらったので、彼女は青年の顔に初代仮面ライダーのマスクをおいて、一緒にいたフランス人の彼女の顔にはそのときのヒロインの顔を重ねた。

何度も謝罪するジョーにむかって、よくやった!!と、盛り上がるバイトたち。
夏美とその他の女性スタッフにお願いされて”セクハラ”のクレームを申し出た、フランソワーズ。

そして、舞台の途中でどこへ消えたのか、行方知れずになっていた竹岡がなんと、イベント責任者を連れて姿を現し、その場の空気を凍り尽かせたが、その場でフランソワーズに深々と頭を下げて役者の不祥事を謝罪し、2人に遊園地の年間フリーバス・乗り放題のチケットをプレゼント。

ジョーはその対応に恐縮しまくっていたが、フランソワーズは素直にお気遣いありがとうございます。と、それを受け取って、その場を引き延ばすことなく納めた。
本当は、ジョーが殴った相手(濱田)に謝罪(見舞い)の申し出をすべきだろうけれど、責任者たちの様子をみると、連れてきた竹岡が彼らに今回の事以外の何かを吹き込んでいるらしく、そこは女の感というべきか、フランソワーズは何も言わずに、ジョーを促してその場を離れ、先にコインロッカーに預けた荷物を持って、閉鎖された動物園の後に敷地を縮小した植物園で2人を待っている家族。

遊園地内では、持ち込み飲食は許可されていないが、植物園内では可能だった。
若いグループやカップル、その他多くの客が遊園地へやって来た1つの楽しみとして、園内にあるレストランやフードコートを利用する姿を多くみかけた。買ったそれらを植物園に持ち込む姿もちらほらとあり、誰でものんびりと芝生の上でくつろげる、植物園内の”グリーン・フィールド”と名付けられた広場は、昼食には少し遅いと思われる時間であったが、多くの人で賑わっていた。


そんな中。
超特大レジャーシートを敷き、花見でも始めるつもりかと思うほど、重箱に詰めた、華々しい料理たちを囲う、日本人らしき人間がいない、中年グループ。・・・の、中に混じった、異国の赤ん坊。は、とても目立った。

クーラーボックスから次々に出て来る、品々に、まわりの視線が自然と集まり、あまりにたくさんの物が詰められていたので、ぼーっと視線を彼らの箱に注目していた、小さな女の子が、”魔法の箱がある!”と、母親に言う声が聞こえた。












に続く。

*今から昼食編・・(汗)短くして、目指せ観覧車!!・・・・(のんびり)好きなだけ続けさせてください(遠い目・・)
変な妄想が出てこなければ、次でend。を結びたいです。



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視線の先/ボクは今から来年の夏が心配です。
キッチンとダイニングルームを区切るのは、キッチンカウンター・テーブル。その上は広々としているが、むかってダイニングルームから見た右側の、収納棚となっている場所の一角に、いつの間にやら”フランソワーズ・コーナー”が出来ていた。

彼女が大好きな食玩コレクションに、卓上日替わりカレンダー『水木○げる・浮世絵/妖怪道365』

つい先日までは日替わり”仮面ライダー”たちがふんぞりかえっていたが、現在は、お中元、お歳暮シリーズの食玩が、デパートの品物展示室のごとく、ディスプレイされていた。
手に入れる食玩の細かなディテールに、すごい!すごい!とフランソワーズが言うので、遊び心から実物と比べてみようと、ギルモア博士が食玩になっている実際の商品を1つの買って来た。
それは、洗濯洗剤などがぎっしりと詰まった、重たい箱だった。

フランソワーズは食玩のそれと本物を比べては、すごい、すごい!をいつもよりも多めに繰り返し、日本のお菓子のオマケのようなおもちゃ1つにも手を抜く事がない、精巧さと情熱に感嘆のため息をついていた、先日。

季節は早々と移り変わり、キッチン・カウンターの上のカレンダーも、2/3ほど切り取られて厚みをなくしていた。

「お早う、フラン」
「お早う♪ジョー、珈琲?」
「うん」

ジョーの部屋のドアが開く音を聞いて、フランソワーズはタイミングを計る。
彼がダイニングルームに入ってきたときには、彼専用のマグに注いだ珈琲が、ジョーがテーブルについたベストタイミングでフランソワーズの手によって運ばれる。
そして、彼女がキッチンに戻れば、チン♪と、甲高いベルがなり、ジョーが大好きな、焼く前にたっぷりと塗ったバターがしみ込んだトーストを皿の上に載せ、フランソワーズ特性のドレッシングがかかったサラダと一緒に、珈琲の後やってくる。

「フラン、朝刊は?」
「ジェロニモが持って行ったわ」

再びキッチンに戻ったフランソワーズの手で、油を落とすためにキッチンペーパーに包まれたベーコンが、フライパンにのせられて、双子のように卵が2つ落とされる。

「その、ジェロニモは?」
「朝のお散歩に出掛けたわ」
「で、新聞は?」

じゅううっと焼けるベーコンの香り。
ジョーはマグを手にもち、いれたてのブラック珈琲を嘗めるようにすすった。

「ジェロニモが持って行ったと思うわ」
「ふうん・・・」

キッチン・カンター越しに、自分の朝食を準備してくれるフランソワーズの後ろ姿。
見慣れてしまった定番の朝の光景。
けれども、ジョーにとってはかけがえのない、何事にもかえられない、大切な時間。

「ジョー、今日は?」

フライ返しを手に取ったタイミングで、ダイニングルームの方へと振り返って尋ねる、フランソワーズの笑顔。

「今日から一週間大学のバイトはないし・・・、どうしようかなあ。博士は?」
「イワンが今朝起きたの」
「ああ、じゃあボクの出番はないね」

フランソワーズはくるりとジョーに背をむけて、出来立てのベーコンエッグを皿にのせた。
それから、今朝のデザートである、ジェロニモが昨日買って来た秋の果物代表の梨と、自分用の紅茶を入れたティカップをのせ、トレーと一緒にテーブルについた。

「はい、どうぞ♪」
「ありがと」

ばくん。と、トーストを齧りながら、出来立てのベーコンエッグに視線をおく。使ったトレーをキッチン・カウンターに置いて戻って来たフランソワーズは、ジョーが朝食をとっている間、用事がなければその隣に座って紅茶を飲むのは、いつものこと。

「リンゴじゃないんだ?」
「ええ、リンゴじゃないのよ」

ガラスの小皿にある、それが定番のデザートのリンゴじゃないことに気づいたジョー。

「もう・・・秋かあ」
「それにしても、まだまだ暑いわ・・・」

多湿高温の環境が苦手らしいフランソワーズのちょっと眉間に皺を寄せた、拗ねた物言いに苦笑しつつ、ジョーは朝食をすすめる。

「今日はどうしよっかなあ・・」

不意にフランソワーズ越しにジョーの視線は、キッチンカウンター右端に設けられた”フランソワーズ・コーナー”を捉えた。
ジョーの瞳のビューポイントが、卓上日替わりカレンダー『水木○げる・浮世絵/妖怪道365』にフォーカスされる。

「どうしたの?」

ジョーの視線の先を追って振り返った先にある、卓上日替わりカレンダーを見たフランソワーズ。

「いや・・・」
「?」

ジョーはなんでもないよ。と、堅焼き目玉を口に放り込んで、かりっとやけたベーコンも一緒に詰め込んだ。




今日は、そうか9月3日なんのか・・・。




9月3日・・9月、3日・・。
9と3の日。


ボクの数字が9で、彼女の数字が3だから・・。





ボクとフランソワーズの日♪


とか・・・。

だから、今日は2人っきりで・・・出掛けようか?って誘う?・・・のは、変かなあ。




いいよね?



軽く、”あ、今日は93だね!”ってッ。
軽くだよ、軽く・・・。




ダメ、かなあ・・。


数字の語呂合わせなんて、この世にどれだけ転がってると思うんだ。と、自分で自分を突っ込んではおく。けれど、フランソワーズと2人で何かが出来る理由になるなら、この際なんだっていい。と、最後には開き直ってみたが、9月3日をボクたちの日と言うなんて、まるでなんでも”記念日”にしたがる女の子たちと変わらないじゃないか。と、自分の発想に少し凹んだ。

「ねえ、ジョー」
「なに?」

卓上日替わりカレンダーから、視線を戻したフランソワーズは、もくもくもくと、懸命に咀嚼するジョーに向って、楽しそうに笑いかける。


「気がついたかしら?今日はね、アタシとジョーの日なの♪」


口一杯に詰め込んだものが、ごっくん。と、飲み込まれて、喉を通りには適していなかったサイズだけれども、無理矢理にそれを珈琲で流し込む。

「ね!9月3日、9と3!アタシとジョーでしょう?」

ジョーは口内が熱さに痛むのなどおかまいなしに、マグの中の珈琲を飲み干した。

「・・・・」
「昨日はジョーとジェット、一昨日はイワンとでしょ・・」


---そうなるよね・・。


9月3日があるなら、その前後もそういうことだ。と、飲み終えたマグをテーブルにおいて、”特別感”を失っていく、93の日。



「でもね、今日はやっぱり3日で、アタシとジョーの日なんですものね」
「・・・」

ふふ♪と、フランソワーズは紅茶を2口飲んで、視線を動かした。
ジョーもつられてその動きを追う。

ダイニングルームの壁の1面は庭に通じる、スライド式のガラスドア。
月は9月を読んではいるが、空の高さはまだ前の月と変わらない。

「・・・そういえば、結局プールとかそういうところ行ってないね」
「そうねえ、海が近いせいかしら?」
<ジョー・・市営プールは今週の14日まで営業している。>
<ジェロニっ・・、>


突然飛び込んで来た通信。
その通信から少し遅れて、ダイニングルームへと入って来たジェロニモ。

「あ、お帰りなさい」
「戻った。」

いったいいつから聞いていたんだよ?と、言う声を瞳にのせてジェロニモを見たジョーにたいして、彼は余裕でにっこりと笑った。


手に持っていた、朝刊。
ジョーに渡したのは、新聞の方ではなく織り込み散らしの方だった。

「あら、まだプールってやってるのね!」

ジョーが渡されたチラシを覗き込む、フランソワーズ。

「・・・・・・・・」

それは市営プールが営業日を伸ばしたお知らせのチラシだった。

「連れて行ってもらえ。」
「え・・?」

ぽん。と、ジェロニモはフランソワーズの肩に手を置いた。

「暇なら、遊べばいい。」
「でも・・・」

フランソワーズはジェロニモを見上げて、次にジョーをみた。
フランソワーズの肩に置いた手を動かして、今度はジョーの頭をぐりぐりと撫でた、ジェロニモ。

「留守番なら、オレがいる。気にするな・・・、バイトがない今のうちに遊んで来い。」








ジェロニモに背中を押されるようにして、邸を追い出された2人。
93の日に相応しいデートになったのかどうかは・・・。

「もっ!!ジョーってばひどいの!!」
「?」
「・・・だってさ!」
「ジェロニモっ!聞いてちょうだいっジョーったら、せっかくのプールなのに、あれしちゃダメ!これしちゃダメ!なのっで、しまいにはもう帰ろうだものっ」
「だって・・フランソワーズっ」
「早々にね、プールから出ようって行ってね、もっ!なんのために行ったのかわかんなかったのよっ」
「だからっ代りに映画に連れてったしっ」
「でも、ジョーが観たいのだったもん」
「キミが観たいのないって言うから・・。でもっ!ドライブもしたし、お○場のガ○ダムだって、ライトとかスモークとかのイベントを見られたし、なんだかよくわからない、防護服に似た服を着た古いアニメのヒーローを使った”地球博”かなんかだっていけただろ?・・・プールで遊んでいたら、観られなかったよ?」
「でも・・プールでもっと遊びたかったもの!」
「だから、来年の夏の楽しみにしておこうよ、次は市営じゃなくて、もっと大きいところに連れて行くから」
「・・・・絶対よ?1時間も遊べないなんてなしなのよ?」

ああだった、こうだったと文句を言う割に、デート内容はとっても充実しいたようだった。

<・・それで、プールで何があったんだ、ジョー?>
<・・・・・・・・フランソワーズの水着が>
<水着が?>
<ボクが、無理な・・・・・その、一緒に遊べない状態になりまして・・・>
<・・・・・前は平気だっただろ?>
<前はね・・>


???以前は、意識してなかったもんなあ・・・。


自分が女性のどの部分(=フェチ)が好みだとか、そういうの。
(参照・振り回される自分がいる)




ジェロニモの視線の先に、お土産なの♪と焼き菓子の箱をリビングルームで開ける、フランソワーズと、その彼女のそばに少し赤ら顔の、ジョーがいた。

「・・・・・ジョー」
「何?」

博士を呼んでくるよ。と、立ち上がったジョーに、お茶の準備に一緒に立ち上がろうとしたフランソワーズをジェロニモがとめた。
たまにはオレがお茶を用意しよう。と言い、ジョーと一緒にリビングルームを出て行く。

「来年は大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・自信ないです」










end.



*93デーっ・・・だからと、勢いで書いたらいけません。
・・・アップしたの30分遅れたし・・・。
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キミに一番似合うのは。
フランソワーズは迷っていた。

彼女の左の手にあるそれは、可愛らしいガラス作りの靴がついたペンダント。
8月も過ぎて暦の上での季節はすでに秋であるけれど、現実は、ぎらぎらと照りつける眩ゆい太陽が青い空に描かれる白い雲を限りなく白く輝かせている。
7月中旬から始めた夏の装いに、まだまだ活躍の場がありそうな勢いのため、左手に持ったペンダントの出番も多い。

同じように右手の上にあるのは、白い貝で象られた甘くないデザインの、小さなリボンのイヤリング。
リボンのデザインは一歩間違うと、大げさに甘くなり”時代遅れ”な印象を与えるために、バランスが難しい。
けれども、今、フランソワーズが手に載せているそれは、小さく無駄な飾り気もない、とても落ち着いた結びをした”リボン”だった。
見つけた瞬間に、これ!っと、迷う事なく買った一品。

左右の手のひらに載せたそれらは、どちらもフランソワーズのお気に入りであり、彼女が身につけるために持つ数少ない装飾品の中でも、使用回数が多い二つ。



張大人が、「リボンのイヤリングのさりげない上品さが可愛くとても似合うアルヨ」と言い、「杏仁豆腐のように繊細で甘さ控えめネ!」と褒めた。
グレートは、胸元をさりげなく飾るガラスの靴がフランソワーズのイメージにピッタリだと、覚えきれない彼独特の台詞まわしで30分くらいは讃辞の言葉を並べた。
「いいね!可愛いよ、すごくフランソワーズに似合ってるね。それってイヤリングだけだった?今度お揃いでペンダントがあるかみてみたら?」と、女友達のようなアドバイスをくれるピュンマには、買ったその日のうちに付けて見せた。
ジェットはどっちでも良さそうで、興味がない感じだったけれど、ガラスの靴の繊細な輝きに、「いーじゃん、それ」と、呟いた。
耳元のリボンの形が甘くないデザインであることを見て、大人過ぎず、子ども過ぎず、それくらいがちょうど良く似合っていると微笑んだのは、アルベルト。
小指で恐る恐る、触れたガラスの靴に割れないように気をつけろ。と、注意をしたジェロニモは、その小さく細やかな技術に日本だな。と、笑った。
ガラスの靴が邸のリビングルームでキラキラと光るのを、ミルクを飲みながら面白そうに、光を追いかけるイワン。
ギルモア博士は、フランソワーズが身につける物ならなんでも可愛い、可愛いと褒めちぎる。

「・・・ジョーだけなのよね」
華奢で繊細なガラスの靴のペンダントをを見ても、上品で愛らしいリボンのイヤリングを見ても、いつもすうっと表情を長い前髪に隠してしまい、フランソワーズにそれらがどう似合っているのかなどの台詞は1つ彼の口から語られることはない。

フランソワーズは手に持っていた二つを、そっとジェロニモが作った小さな木造りのジュエリーボックスにしまい、、ため息をついた。



そのタイミングで、彼女の部屋のドアがノックされる。

「どうぞ」

フランソワーズは声をかけてから5秒、静かに待つ。
5と6の数字を頭に浮かべる間にため息をついたとき、フランソワーズの部屋のドアノブが遠慮がちにまわされた。

「・・・用意、できたかな?」
「ええ、・・・行きましょう」

薄くあけた部屋のドアの隙間から覗きこむ、女の子のアクセサリ-なんて興味がない人にむかって微笑んだ。

「ルーペンス夫妻の泊まっているホテルに行くのよね?」
「うん」

数日前のミッションで護衛したルーペンス夫妻を空港まで送る、今日。
フランソワーズの耳と首元にちらりと視線を動かしたジョーは、そこに何もないことに、フランソワーズには気づかれないように口の端に力を入れて強く一文字を描いた。

もう何も事件性のある出来事はないとわかっているけれど、それでも”もしも”のことが起きたとき、フランソワーズのお気に入りがなくなったり壊れたりするかもしれないから、今日は身に付けていないのは当然だよな。と、考える。

そんな理由ばかりがつきまとう外出でしか、2人ででかけることが出来ない自分に不満を抱きつつ。

「・・・・・・ペンダントとか、そういうのなくても、いつもフランソワーズは・・キラキラしてるし、十分に綺麗だから」
「え?」

ジョーはいつものように、長い前髪に表情を隠して、早足に階段を降りて行く。

「あっ・・・」

彼が言った言葉を飲み込めないままに、フランソワーズは慌ててジョーを追いかけた。

「・・・待って、ジョー」

ジョーの手が邸の玄関を押し空けると、差し込んだ強い光が白くまわりを消してしまう。
すべてを白に塗り替えてしまう光の中で、フランソワーズの瞳に写るジョーは逆光のせいで、切り絵のような形だけだった。


波音と潮の香りがする、光の中に進むジョーに、慌てて履いたサンダルの右足のストラップボタンを、バレエで鍛えた躯で膝を折ることなく腰を折り、パチン。と、止める。
そのままその足を一歩前に足を出し、左足を跳ね上げて、サンダルのストラップボタンをパチン。と、留めて大きく一歩踏み出して、彼を追いかけた。
かかとのあるサンダルが、こん、こん、こん、と早足にジョーに近付く。

玄関を出たフランソワーズが、「ジョー」っと、名前を呼ぶと、彼はジーンズの右ポケットに突っ込んでいたキー・ケースを取り出し、何かにつまずいたように躯を揺らして足を止めた。





「・・・・いつも笑ってるキミには、何もいらないよ・・・・・。」





ちらりとかすかに顎を肩に寄せて振り返ったジョーの瞳の中に、戸惑い微笑んだフランソワーズがいた。



「笑顔が一番、似合ってる」








end.








*・・3の笑顔は最高です・・・。いただいたお話の最後のイラストの微笑む3に・・・



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捕われの身の上
モニター画面の白い光だけが煌々と部屋の中で光るころには、薄暗くなった窓から涼しい潮風が部屋に紛れ込んでくる。


陽が落ちる時間が長くなり、夜が恋しいと思う季節。
夏の突き抜けるような爽快感と、長く保たれる明るさにこころ浮かれることがない。と、言えば嘘になるけれど、どちからと言えば、陽が短くなり始め、オレンジが駆る夕暮れに忍び寄る濃藍色の挟間がしっくりと肌に馴染むと、考えた。

利き手に持つマウスを動かして、画面をスリープ設定に切り替え、立ち上がって伸びをする。
固まっていた背がのばされて、左右に躯をねじり、背骨を鳴らした。


文章を書くことはキライではないけれど、今回頼まれた内容には、ほとほと手を焼いていた。が、時間を決めて、珈琲をデスク脇に置き、無理矢理にでも書き始めた1行目から、今。一気に書き上げることができた。と、満足気にふううっと、全身で息を吐き出した。

デスクトップ・コンピュータのスリープ機能が働いて、部屋の中が一段と暗くなる。
ドア口にある、ルームライトに手を伸ばすのを止めて、逡巡した視線はドアノブに手をかけた動きよりも早く、ジョーにあることを思いださせた。


一応の予定では、すでに愛車を走らせているはずだった。


部屋に入り込んできた冷たい風にさらされた、寂しさに、強く首を振ることで意味のないネガティブな思考をなぎ払う。
なぎ払う・・・が、それは風のない日でも変わることなく漂う波のように、ジョーの胸の中を押しては引いて、彼を翻弄していった。



こんなことは初めてだ。と、ひとりごちた。

好き。と言われる事には、正直うんざりするほど慣れていた。
それは、彼が持つ過去の経歴のためもある。
派手に世間をにぎわせるための、それなりの条件が勝手に揃ってしまう職業についていたために、彼の周りには受け止めきれないほどの多種多様な意味を持つ”好き”が、氾濫していた。

今回のそれは、その中に一切含まれない意味のものだ。と、ジョーは考えた。
もしかしたら類似した。いや、今回とまったく同じ意味を相手が持って訴えて来ていたかもしれない。けれど、受取り手であるジョーにその意味を汲み取る理解力に欠けていた上に、そんな余裕など彼にはなかった。


冷たい感触のドアノブが、ジョーの体温を真似てぬるくあたためられていく。
その温もりがジョーの体温よりも熱く感じ始める前に、彼はドアノブから手を離した。

フランソワーズを迎えに行くために、愛車を空港へ走らせていなければならなかった時間を、自室にて迎える。

3日前の電話の内容で、特に迎えに行くとは口にしていないけれど、彼女が乗る飛行機が国際空港へ着く時間を報告されているジョーにとって、それは、当然の予定であり、多分、彼女もいつものように、ジョーが迎え来てくれるものと、思っているのかもしれない。



いや、思っていないだろう。









数ヶ月前の別れ際に、聞かされた「仲間」以上の想いがあるとの台詞が原因だ。



「ずっとこのまま、胸に閉じ込めていたら、私が私でなくなってしまいそうなの。だから・・・聞いてくれる、だけでいいの。解放して・・・私を・・・あなたが好きだと想う気持ちから、私を、解放して・・・」











どういう、意味・・?













「好き・・・です、009。私、は、あなたが好き・・好きなの、みんなのことも好きよ。大好き。でも、私のこの気持ちは、009・・あなたを”仲間”として好きなのとは違う、まったく別な、気持ちなの」





ドア前で立ち止まった足が、鉛のように重く、少しずつ感覚を失っていく。
自分の足が、足でなくなったように。
自分の躯が、躯に感じられない。

今更になってきっちりと思い出して反芻させた003の言葉に、鈍い衝撃をうなじ部分に捉える。殴りつけられたような痛みではなく、重力が増して立っていることが辛くなる感じだった。

彼女が故郷のフランスに帰ってから、数回あった電話での会話。
好き。と、言う告白を受ける前と後の差は、そこには何もなかった。





解放された。と、言う事の証拠であるかのように。





立ち尽くしたドア前から、彫刻のように固まったジョーが反応した。
ベッドの上に投げ置かれていた携帯電話が、震え始めたためだ。
のろのろと首をそちらへと巡らせて、ぼやけた視界に液晶画面が映し出した文字を読んだ。

非通知。





普段なら非通知の受信に対応することはない。









よろけるようにして、もつれる足でベッドへと駆け寄り、携帯電話にむかって相手を確かめる事もせずに、003と、彼女だと決めつけた。
非通知の相手は、彼の応答にたいして驚くこともなく、押し殺したような声で一息に言われた。


『・・・会えないわ』















離陸していく飛行機の中で、秒刻みに後悔した。
フランスから日本までの直行便のチケットを買った自分を恨めしく思った。

いつもなら、フランスと日本の距離に、泣きたくなるほど切ない気持ちにさせられたけれど、今回は違った。
その距離に感謝しながら、フランソワーズは数回事務的な用件のために電話をいれなければいけない場所へと、数字を並べた。

受話器を握る手が湿気のないカラリと乾燥した空気の街に不似合いなほど、汗をかく。
部屋の隅に置かれた鏡台の鏡に映る自分を睨みながら、言葉を選んでいく。


「予定されている、私のメンテナンスのことなのだけど・・・都合がつきそうだわ。期間は短いのだけれど、来月初めにそちらへ行けそうよ、009」


伝えたら、もう煩わされる事がないと思った。
振り回される事がないと思った。

1度目の電話は、ギルモア博士が電話をとった。
009が応答すると気負っていた分、気持ちがほっとほぐれて、009に代わると申し出た博士の言葉に素直に頷いてしまったけれど、気持ちを打ち明けた前と後との彼の対応になんら変わりない様子をする事ができたので、意味もなく浮かれてしまったために、その電話は気持ちよく終えることができた。

2度目の電話は、予想通り009が応答した。
数日前から、彼が答えるであろう言葉を何度もシュミレーションしていたお陰と、手短な事務的用件だっために、何も問題なくその電話を終える事ができたのにも関わらず、あっけなく、切れた電話に意味のわからない不安と寂しさを覚えた。

3度目の電話で、フランソワーズは日本への訪問の日時と空港到着時刻、搭乗する飛行機のフライトナンバーを、報告した。


『了解、気をつけて・・・』






回線が切ったときの、ぷつん。とした音が、まるで自分と009の関係が”それだけ”であるかを強調しているかのようだった。
受話器から、回線が相手に繋がっていないことを示すデジタル信号の音。
一定のリズムを繰り返す、途切れた短い音の往復を一晩中聞いていた。


この向こうにいたはずの009の存在にしがみつきたい衝動を、受話器をおろす事ができないでいる手があらわしている。

受話器を握りした自分が鏡台の鏡に映し出されていた。
愛読したおとぎ話のような、純粋に綺麗なこころのヒロインにはなれない自分が、そこにいた。


夢物語だ。と、涙が溢れ出す。

ひいていたカーテンの隙間から、部屋のルームライトよりも明るく鮮烈な白が覗き込む。
嫌みなほどのその清々しい光にむかって、手にしていた受話器を投げつけたけれど、窓に届くほどの力はなく、躯がビクンっ!と跳ねてしまうほどの大きな音を立てて床に落ち、カバーが外れて、単三電池が無造作に床に転がった。


解放されるはずが、さらに複雑にフランソワーズのこころに絡み付き、それは以前にはなかった刺を持った。

好きな人に好きと伝えた後の、高揚感など微塵もない。
苦しいだけの恋に、終わり迎えることを望んでいたはず。

返事を求めなかったのは、彼の手を煩わせる事なく、自分の手で幕を下ろし、終わらせるためだった。
ひとかけらの望みを持つこともなく。





急ぎ足に飛行機を降り、すぐに公衆電話を探した。
迷う事なく、ギルモア研究所へ繋がる数字ではく、009個人が持つ携帯電話の数字を指が選んだ。

コール音が鳴り続ける。
運転中かしら?と、こころによぎった言葉に、自嘲した。
運転中かしら?の前にあった、迎えにきてくれるために。の、文字はあえて触れない。そして、その考えの前に勝手に指が彼個人の携帯電話の数字を選んだことも。

そんなフランソワーズの不意をついて、『003』と呼ぶジョーの声がフランソワーズの鼓膜を大きく揺らした。


「・・・会えないわ」


動揺に震える声を誤摩化すように、一息に言い切るつもりであった言葉は意図していた内容のものとはまったく違うものとなてこぼれた。



ツー。ツー。ツー・・・と、繰り返されるトーン音が、デジャブする。
握りしめている受話器は、トーン音を一定のリズムで繰り返し、フランソワーズにそれが繋がっていない事を伝え続ける。
瞳を開けていられないほどの鮮烈な陽光がフランソワーズの思考に飛び込んでくる中、彼女は、その場に膝から崩れ落ちた。

壁に沿って並ぶ4台の公衆電話。

フランソワーズの右側、1つあけて会話中だった男が、思わず会話を中断して彼女へと声をかけたが、フランソワーズの耳にはその声は届かない。
その場に座り込んでしまったフランソワーズを不振に思った人々のざわめきが広がる。何かあったのかと、急ぎ足に駆け寄ろうとした空港職員がいたが、彼らの足は一陣の風に止められた。




風に煽られた亜麻色の髪を綺麗に飾っていたカチューシャが、外れた。
かつん。と、音を立てて磨かれた床を跳ねる。



公衆電話を使用していた男が、その突風からはじき出されるように、尻餅をついた。








「003」



その小さな日常の中に起きた事件は、切り取られた写真のように、その場から抜き取られる。




「・・・・・・会えないって」




どこから現れたのか、誰にも説明できない。
緋色の長いマフラーが彼の作り出した余韻の風に宙を舞う。

目の覚めるような赤の、一言で言い表せる事ができない服を身にまとった青年が、受話器を手にしたまま、床に座り込む、亜麻色の髪の女性を抱き上げた。





「・・・・・・・・キミは一生僕から解放されることなんて、ない」






そして、消えた。
2人。

















その場は想像通りの騒ぎとなった。
夏の怪奇現象として、さまざまに噂され、空港内は一時期殺到する野次馬とネタに行き詰まった雑誌社などに振り回される事となった。



そこに何かがあったと記すのは、焼き切られた電話のコードと、忘れられた、右端が少し溶けた赤いカチューシャ。




















新聞を広げて、面白くおかしくネタにするイギリス人。
その後の2人を心配する中国人。
インターネットで、噂の出来事を検証するサイトをチェックするアメリカ人。
苦虫をかみつぶしたような表情で報告を受けたドイツ人。
2人からの便りを黙って待つ、ネイティブアメリカ人。
予定のメンテナンスの時期にやってきた人が、のんびりと3流雑誌の記事を手にして言った。


「博士、いいんですか?・・・このままで・・・」
「なあに、心配いらん・・・001が起きんのが、何よりの証拠じゃ」


メンテナンスの前に必ず行うカウンセリングのために、2人は書斎にいた。
007はいざ本人たちを目の前にして、それら”事件’について触れることができないままでいた。
006は元々、口を出す気はないらしい。
008は、日本滞在組がそんな調子なので、情報収集してこいと、海外滞在組から多大な期待を寄せられていた。


「人の噂は・・何日でしたっけ?」
「さあ・・ここまで背びれ尾ひれがついてしまっては、当分続くかもしれんなあ、まあ。それも平和な証拠じゃろう」


ギルモアはデスクに広げた008のファイルをめくりながら、パイプを加えた。


「それで、・・・なんで009は・・その、003とは・・・?」


口からやわらかな白い輪をふわり。と、浮かべたギルモアに向かって、ピュンマは座っていた安楽イスから身を乗り出すように背を離した。


「さあなあ・・・、008には、どう見える?」
「・・・」


瞳だけを上へとむけて、ピュンマはこの数日間のことを巡らせた。

ピュンマを空港まで迎えに行ったのは、ジョーだった。
ゲートを出て来たピュンマに軽く、手をあげて答え、彼なりの歓迎を見せた後、2人は空港内の専用駐車場へと向かう。
夏真っ盛りの気温は、南米にいるピュンマにとってそれほど苦に思うことはないけれど、一度建物から出れば熱気に当てられて、内と外との湿度のギャップにより、一気に旅の疲れを感じてしまい、サイボーグといえど精神的な影響からか躯が重くなるように感じる。

ピュンマの荷物をすべて引き受けて歩くジョーの背を見ながら、冗談半分に「加速装置は使わないの?」と尋ねたことを思い出す。
その手に唯一残った、今自分の膝上にある週刊誌の特集になっている記事について、疲れを吹き飛ばすような気持ちと少しばかりの好奇心から、尋ねたのだ。

ピュンマへと振り向くようにして、その週刊誌へちらり。と、視線を流したジョーは、特に反応を示すことなく、言った。


『間に合うように、邸を出たからね・・・』


まるで、フランソワーズのときは空港までの出迎えに間に合わないから、仕方なく”加速した”と解釈できてしまえる、言い方だ。けれど、話しを引っ張るきっかけには十分な回答だったために、会話を続けようとしたとき、それを続けることができなくなった。


『ピュンマ!』


空港内の駐車場が見えて来たときに、車の中から姿を見せた仲間のせいで。


『え?!・・・・フランソワーズ???』


彼女が、なぜココに?の疑問は目の前で微笑む彼女のあまりにも愛らしい姿に、ピュンマの舌に載ることはなかった。



2つ目の、柔かな白い煙が、ほう。と宙に浮いた。
ピュンマは、その白が消えるのをなんとなしに見送り、呟いた。


「とっても幸せそうですね、・・・フランソワーズよりも、ジョーの方が」




end.









*タイトル・・・、おいおい、タイトル・・・(笑)
英語のタイトルで考えたのは” love held him captive”
どっちもどっちだ。(笑)
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千年に一度のサービスデー?
「ね?」


きらきらの青。


「・・ね?って・・言われても」


動揺と理性の間で揺れる褐色。


「だって、ね!そうでしょう!!」
「うん、そうだけど・・・」
「ね、ね!!すごいと思うでしょ!!」


ジョーがバイトで通う大学が休みだった、一週間はあっと言う間に過ぎて、明日からまた、普段通りのバイト生活が始まる。


「ね!」


朝食の時間内に、ダイニングルームがある階下に降りて行かなかったなら、まだ、わかる。学生に合わせたスケジュールのために、朝が早いジョーのアルバイト。
朝があまり強いとは言えないジョーにとって、日によって目覚まし時計3つセットしても起きられない日があるため、フランソワーズの協力はとてもありがたかった。


「・・・・・・いや、それより、・・まともに、普通に起こしてくれる・・と、嬉しいんだけど・・・」


普通に起こしている間は。と、付け足しておこう。

ジョーは深い深いため息をつきながら、同じベッドの上にいるフランソワーズから腰を引くように距離を取る。
サイボーグ改造9番目の自分には、とある実験を考慮されて、”そういう機能”が残されていると、早い時期にギルモア博士から説明されていたため、一般青年男子の朝の事情をフランソワーズにバレないようにすることに必死だった。


「も!すごいのっ」
「・・・はい、わかりました。すごいです・・だから、さ・・・」


部屋のドアをバーン!っと勢いよく開けた瞬間、Diving Body Pressで、ジョーの上に落ちたフランソワーズ。の、第一声は「すごいわ、ジョー!」だった。

その言葉の意味を理解するまでの間、別の意味の”すごい”で、もしや朝の事情を見られたのかと狼狽える彼は、今が009抹殺の最大チャンス!と言えた。


「うふふ♪」
「・・うふふ、じゃないって・・・」


危惧していた内容ではないとわかったけれど、興奮気味な彼女にむかって、「サイボーグだから大丈夫とか、そういう問題じゃないんだよ!」と、怒るべきタイミングを逃してしまった、今日。


「ね、ね?素敵だわ!!」
「フラン、・・・あのさあ」


朝の起こし方シリーズにプロレス技が組み込まれたのは、ほんの数ヶ月前。
技の種類が豊富なことと確実に技を決めることから、フランソワーズの背後にジェット、もしくはピュンマがいることが解る。

普段なら、ジョーが起きたことを確認すると、さっさと部屋を出て行くので、それほど警戒することがないジョーだけれど、今日は違った。


「ちゃんと見て!!」


彼女のお気に入りの、卓上日替わりカレンダー『水木○げる・浮世絵/妖怪道365』を手にもって、ジョーに迫ってきたのだ。


「見てます・・から、ちゃんと、見て、・・・あの・・さ、・・・・み、見えるから、その、そんなに近付かなくても・・」


顔につきつけてくる、カレンダ-の日付が”9/9”プラス、”2009”。


「9がいっぱい!それにね、2”009”で、9月9日ってすごいと思うわ!!」
「・・・すごい、すごい、・・・だから、ね?」


---・・・勘弁してよ・・・マジで・・・。


棚作りになっているヘッドボードに背中を押し付け、ちらりと、棚の右側にある3つの目覚まし時計を見て、その6個の針が指している時間に、脱力する。

6時46分・・・(2)51”7”、(3)52”8”、(4)53”9”・・・3つの時計の秒針はカチカチと、それぞれ気ままに走っている。


「素敵よね!」
「・・・はい、素敵です」


躯の上に降ってきたフランソワーズを押し除けるのと一緒に、腰をぐっと引いて枕と掛け布団を重ねてカバーするジョーは頭の中でフランソワーズのプロレス技にかけて一生懸命に、プロレスラーのオイル過剰塗りな肉体美を想像し続ける。が、目の前のフランソワーズの姿に、それらはまったくといって役に立ちそうもなく、無駄な努力だった。


「今日はすごいわ!!」


ジョーの目の前にいるフランソワーズは、今朝起きてすぐにシャワーを浴び、身支度も整わないままに階下に降りたようだ。そして、リビングルームの日替わりを捲ったときに気づいた3つ並んだ9に興奮し、その足で(ボクの)部屋へやってくると、まさしく文字通り、飛び込んだ。


009は、003の数分前の行動をそのように予測しながら視線を必死で、フランソワーズの手に持つカレンダーへ集中させようとする。


「フラン・・・ほら、ね?あの・・・朝食の準備はいいの?」
「まだ大丈夫よ!」


・・・集中しようとするが、うまくいかないでいた。

乾ききっていないのか、いつもよりしんなりとフランソワーズを追うハチミツ色の髪に、彼女のトレードマークといっていいカチューシャはない。

太ももの付け根部分から下、布が見当たらないために、太もものむっちりとした生々しさがジョーの目に沁みる。

思わず、腰まわりをガードする掛け布団をしっかりと握り、その上に載せた枕を抱き込んでしまう。

頭の中に浮かべていたオイル過剰なプロレスラーなど、あっという間に吹っ飛んでしまっている。


「いや、ほら・・せっかく早く起きたなら、朝の散歩とか・・」
「ふふ、そうね!でもそれより今日はどんなお祝いをするかよ!」


華奢で柔らかそうな丸い肩から、今にもするっと滑りおちそうな位置にあるキャミソールの細いレース。
可愛らしいそれがフランソワーズの胸元を飾っているけれど、どうやら、洗濯すると少し伸びてしまうタイプの布地を仕様しているのか、フランソワーズにジャストフィットしない、サイズなのか。
ジョーのベッドの端っこに正座をするように座り、前屈み気味にジョーへと手に持ったカレンダーを突きつけるように見せている、フランソワーズ。
ジョーがフランソワーズから心持ち距離を取ろうと動くと、その動きに合わせて上半身を伸ばしすように重心を前に移動させるフランソワーズ。そのために、ゆるやかなラインで重力にそって流れ弛むレースと布が、フランソワーズの隠すべき肌を守り切れず・・・。








神様・・・。
















彼女は風呂上がりなので、もしかして、もしかせずとも、


・・・・・ノーブラなのですか・・・?







フランソワーズの肩に、それらしい”ヒモ”が見あたらない。
身に付けていれば寄せられたときにできる線が、たわわに逆U文字を描かれていた。



---・・・けっこうあるよな・・・・。



フランソワーズが見て!と突き出す卓上カレンダーは、はっきりと言えば眼中にまったくもって入らない。

ジョーの視線は、フランソワーズだけしか写らないように改造し直されたのではと思うほどに、彼女だけを捕らえていた。


「う・・・」


鼻奥が痛いくらいに熱くなるのを感じて、ジョーは出血してないか、慌てて手の甲で鼻下をがしがしとこすった。


「どうしたの?」
「あ・・いや・・・」


邸内でもあまりラフな格好では歩き回らないフランソワーズ。
部屋着と言っても、そのまま街まで出掛けても何ら支障がない着こなしの普段の彼女。





何がどうしてそうなったのか。




シャワーを浴びて、身支度を整えないままに階下に降りる用事とは一体なんだったのか。
そして、その格好のまま、ジョーにDiving Body Pressをかけて、卓上カレンダーをつきつけながら、無邪気に”専念に一度の9並び!”とはしゃぐ。

そんな可愛らしい彼女を目の前にして、ジョーの躯は可愛くもない、朝に不似合いな妄想と反応を示す。


「ね、何かお祝いしなくっちゃ♪」
「フランソワーズ、お祝いもいいけどさ・・・その前に、ね。朝ご飯、頼むよ・・・」


にっこりと笑い、フランソワーズの手から卓上カレンダーを受け取ったジョーは、完全に限界を超えていた。
脳内のどこかの線が焼き切れてしまったのか、パニックに陥ることも慌てることもなく、普段のジョーらしくない反応で、優しくフランソワーズに部屋を出ることを促していた。


「ジョー、お腹が空いてるの?」
「・・・そういう事にしておいて」


---別の意味では、かなり飢えてるんだけど・・・、朝ご飯で我慢するから・・・・。





ぴょん♪と、跳ねるようにベッドから降りたフランソワーズの、短パンとは言わないだろう!と叫びたくなる、太もも付け根から5cmもない布地のおかげで、彼女の尋常なく長く美しいカモシカのような白い足が、ジョーの瞳に焼き付いた。


「あ、ごめんなさい!・・アタシったらルームウェアのままだったわね」


---もしかして自室では、その格好なの!?




ベッドから離れて初めて、フランソワーズは自分の着衣に気づいたのか、恥ずかしそうにキャミソールの裾を引っ張る仕草を見せて、うつむき加減に首を傾けると、頬を染めた。


「え、あ、う、ううん・・ki、気にすることないよっ」



---ひっ・・・ひっぱったらっダメだって・・・!!



「後でね、ジョー♪」


くるり。と、背を向けたフランソワーズの後ろ姿に、ジョーは燃え尽きた。


「・・・・もしかして、2”009”年の9月9日だから、今日はボクのラッキーデー?」


手に持つ、卓上カレンダーに並んだ9.9.9の文字。


「千年に一度の日だから・・・?」


その場に前のめりに突っ伏したジョー。
用もないのに、気軽に男の部屋に入って来たらダメだと口酸っぱく注意しても、聴く様子のないフランソワーズ。

理由はわかっている。
彼女の背後にいる家族たちのせいだ。

『フランソワーズに突然部屋に入られて困るようなことを部屋でしてるのか?』

ニヤリと口の端を上げて笑う癖がある人の声が聞こえた。


してない!と言った記憶がある。
その会話をしたときに、フランソワーズがそばにいたかどうかまでは、覚えていない。

けれど、もしも会話を聴いていたと仮定し、入って来るな。と、フランソワーズに言えば、彼女に”秘密”を持つということになるだろう。





---それは嫌だし、起こしてくれなくなるのも嫌だし・・・。





ジョーはベッドの上で、様々な想いにのたうち回る。


正直に言えば、フランソワーズに”普通”に朝起こされるのは、嫌いじゃない。
どちらかと言えば、”好き”なのだ。

朝起きたときに、彼女の笑顔と一緒に胸を満たしてくれる彼女の花の香りが、好きだから。






---もう、なんでもいいから、とにかく・・・・普通に起こして・・・ほしい・・・。








ごろり、ごろりと、掛け布団をみの虫のように巻き込んで、その中に綴じこまる。


「・・・・ルームウェア・・・・お尻、見えそうっていうか、ちょっと見えてますよー・・・」


みの虫状態の中、思い出した画像にむかってではあるが、一応注意しておいた。


「・・・・・勘弁して、マジで・・ボクだって男で・・・我慢の限界があるんだからね」


はあああっと、大きなため息を全身でついて。
彼女が大切で、大切で、大切で仕方なく、本当に大切で、もう一つおまけに言っておくと、大切すぎて。

雄である自分が嫌になるときがある。


「なんで、そんなに可愛いんだよっ、スタイルが良すぎるんだよっもおおおおおおおっ!!」


3~40分ほど経った頃に、階下から何度かフランソワーズがジョーに朝食ができたと声をかけられたけれど、その声にジョーは気づかなかない。


「・・・・・・・フラン・・」
「なあに?」









いつの間にか2度寝に突入したジョーを、フランソワーズが起こしにやってきた。


「んふ♪」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっsふらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっs」
「朝ご飯が冷めちゃうのよ?」
「フランっ!!頼むからっ起こすなら普通に起こしてくれよっ!!」
「や!」
「え.....ええ?!嫌なのっ!?」
「ふふ♪」
「いや、あの・・”ふふ♪”じゃなくてさ・・・」
「今日はすごい日だから、よ!」
「よ!じゃなくって、うわっ駄目だよっ」


がばああ!っと掛け布団を引っぱりはがされた。


「も!いつまで枕を抱いてるの?」
「いや、これは、このままじゃないとっふらああああああああっ頼むっ、ちゃんと起きるから!!」
「我が侭は駄目よ!また寝ちゃうでしょう?」


フランソワーズの手が、ジョーが抱きかかえる枕にのびる。










---駄目だ!もうっボクはっっ・・・・っっ!!!










009、千年に一度のサービスデー大ピンチ






end.














*おまけ*

「朝から元気だ。・・今日からジョーはバイトだったか?」
「いや、明日からじゃろう・・・今日くらいまではゆっくりさせてやってもよいのにのお、フランソワーズも・・・」
<・・・仕方ナイナ・・・>
「イワン、どうしたアルか?」
<ふらんそわーず・・・おむつ!!>
「おいおい食事中だぞ、イワン」














*9.9.2009に、妄想種に載せました。

ちょっぴり書き足ししてます。
<br>を打ち込むのをさぼって、妄想種に載せず記事を作ったのでございます。
面倒くさがりでごめんなさい。








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Peace be with you
予想していたよりも、街の風は秋色を含んで冷たく頬を撫でた。




雑多な街の中のどこに視線を置いても、落ち着かないのは昔からそれほど変わらない。

歩くために左右前に出す足先だけを見てあるくので、自然、頭が下がってしまう。
デコボコなど見当たらない、綺麗に舗装された歩道を靴底をスリ減らしながら、黙々と歩き続ける。

視界の端に入って来る、見知らぬ人間たちの声と姿。
取り留めようもない、雑音が右から左、左から右へと耳を通り抜けて行く。

点滅信号機の色に従い、走ったり、止まったりを繰り返す車。
均等に配置された街路樹が、排気ガスにうんざりだと言わんばかりに枝をさげて肉厚のない葉を揺らしていた。



街を歩く。















僕は、歩く。











僕は、街を、歩く。

街を、僕は、歩く。























「ねー、ちょっと聴いたー?」
「なになにー?」




















街を、歩く、僕。

















何のために。
誰のために。













---自分のため、でしょう?









!!




人懐っこそうな、笑顔のまるっこい躯を跳ねさせて。

イギリス紳士の必需品と、スティックを手に。

季節に不似合いな革ジャンに派手な赤い髪をつんつんに跳ねさせて。

愛嬌よく、こちらに手を振りながら。

むっつりとした視線の割に、口の端をニヤリと上げて。

大きな躯を、縮こまらせることなく、堂々と。

柔らかく、優しい印象のヒゲを撫で付けて。





---私たちは、ずっと一緒に歩いて行くわ。


胸に、黄色いおしゃぶりをくわえた赤ん坊を抱いた、赤いカチューシャの人。







ああ、そうだね。
僕たちは、ずっと一緒に歩き続けるんだ。


街を、山を、丘を、海を、空を、・・・この星を。







戦い歩き続けるんだ。
自分のために。




「よお!日本は満喫できたかよ!」
「美味しいもん、なんか食べたアルか~?」
「紅葉前。残念だな」
「秋の日本は、まあまた今度だな」
「いいね、次に日本へ戻って来たら紅葉狩りなんてさ!」
「・・・時間じゃな」


<決心ハツイタノカイ?>





「・・・・行こう、みんな・・・・」









歩く。

僕は、歩く。


僕は、街を、歩く。



歩く、僕は・・・・、仲間たちとともに・・・。







「009・・・」




街を、この国を、世界を、守るために、


歩いていく。。








「・・・・003、訊いてもいいかな?」


仲間たちと少し距離をとって、003と並んで歩いた。


「なあに?」
「・・・日本の秋も綺麗だけど、きっとフランスの秋も素敵なんだろうね?」
「ええ、とっても、・・・ふふ。いつか、みんなをフランスに招待するわね」





歩こう、キミの街まで。
歩いて行こう。



戦い終わったその足で、・・戦い続けた足跡を、尋ねて歩こう。





「みんなあだあ?絶対に009だけだぜっ」
「ジっジェット!!失礼ね!!ちゃんとみんなを招待するわっ」
「我が輩の故郷、イギリスもなかなかのもんだぞ!最高のアフタヌーンティーをごちそうしよう!!」
「いっつも雨ばっかりって訊くけど?やだなあ、ちょっと・・・行くならNYの方が楽しそう」
「お、解ってるじゃん、ピュンマ!」
「霧のロンドン!素晴らしいではないかっ、あのアンニョイな芸術的な雰囲気を理解できんとは!!」
「アイヤー、ケンカは良くないね~!秋はどの国行っても美味しい季節なコトよ!う~、腕がむずむずするネ!最高の食材で最高の中華作るアルヨ!」
「食い物(中華)ばっかかよ!」
「おいっ何をモタモタしているんだ!」
「ひーっアルベルトに怒られたアルー」
「落ち着け。時間はある。」

「って言うか、ほらほら、2人の邪魔しちゃダメだよ!ね?」


「!」



「ぼ、僕たちは別にっ」




「そう言うならさっさと歩け」





「ほっほっほー・・・。わかっとる、わかっとる。照れんでよい、よい・・・ほらほら、もうちょっと2人と離れて歩かんと・・・」






「「博士!!」」








<馬ニ蹴ラレチャウネ・・・。ジョー、フランソワーズ、邪魔シテゴメンネ>










「イワンまでっもうっ!!」









「こっちにこい。」




<ウン>







「あ!」









「ダメよっイワンっ」









「「「「「「イワンっここは街中だっ!!!!」」」」」









May Peace be in The World.











僕たちは誰のためでもない、自分たちのために、戦う。

それが、きっと・・・。


いつか。















君の、君の家族の、君の友達の




君の愛する人の・・・・


全ての、平和に繋がって行くと・・・











「009、私ね・・」
「?」
「・・・世界のどこかで、誰かが、私たちが戦った分、心の底から幸せにたくさん笑ってくれる明日があるって信じてるわ・・・」







Peace be with you・・・・

僕たちは戦い続ける。





end.

9.09.2009.
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君に振り回される自分がいる/6


家族や友人たちと遊園地内で離れてしまった場合、最近は小学生でさえ持っていても当たり前になってしまった携帯電話を使い、連絡をとるのだろうが、携帯電話を使うという手間を惜しんで使ってしまう、携帯以外の通信機器が彼と彼の家族の間にはある。

通信可能な距離ならば、携帯電話よりもちょっと人には言えない家族間のみの通信機を使い、手っ取り早く自分たちの合流場所を決めた。


ジョーとフランソワーズとは別行動となり、遊園地に隣接する元動物園、現在の植物園内にあるグリーンフィールドと名付けられた広い原っぱのような場所で昼食の準備万端整え、今日の主役を待つ。

昨日の夕方から一生懸命に今日のためのランチを作ったのは、フランソワーズ。
天才料理人も、今日ばかりはフランソワーズ以上の料理を作ることはできないと笑いながら、クーラーボックスからずっしりと重い箱を次々に出していく。


料理は愛情。


今日の料理にふんだんに使われているだろう、フランソワーズの秘密のスパイスの言葉を彼は気づくだろうか?と、ちょっぴり恋愛事に鈍感らしい青年を心配していた。


「凝っていたのお、まさかショーのゲストが最大の敵ボスだった偽・仮面ライダーを倒すようになっておったとはのお、小さい子だったら、倒せんが・・・」


一足早くランチのミルクを楽しむイワンを膝に抱くギルモア博士。


「とっても面白かったアルネ!」
「博士、そんときゃきっと偽物と見破ったってことで話がすすんだんじゃないでしょーかねえ」
「おお、そうか、そうか、さすがグレートじゃな」
「だが。」


先ほどまで観劇していた、遊園地内の野外特設ステージで行われていた仮面ライダー・着ぐるみショーについて興奮気味に会話を弾ませている中、ジェロニモが言った。


「フランソワーズが関わると、ジョーが少し・・・。」


苦笑まじりに彼は一言注意を添える。


「まあ、それはのお・・」
「「・・・・」」
「相手が無傷で何事もなく良かったが。」


ジェロニモは、勢い良くミルクを飲むイワンへと視線を投げた。


「あまり関心しない。」
<ア。気ヅイタノ・・・?>


仮面ライダーの手をフランソワーズの”お尻”の上に置いたことを。


ジェロニモの視線を受けて、イワンはジェロニモをちらり。と観た。
グレート、張大人、ギルモア博士の3人の頭にクエッション・マークが浮かぶ。


「気をつけろ、今度からは。いいな?」
<ハーイ>
「なんの話しじゃ?」
「何かあったアルか?」
「お、主役が来たぞ!!」

グレートの視界に飛び込んで来た、小さな2つの人影。
2人はゆっくりとこちらにむかって歩いていたが、自分たちの姿を確認するや、少しずつその歩みのペースを上げて、しまいには手を振りながら走って来た。

ギルモアの目でも確認できる距離になる辺りで、家族たちは徒競走でもするように駈けてくる2人に微笑んで手を振っていた。




***

ジョーは生まれて初めて限界にチャレンジした。と、言っていい量をお腹に詰め込んだ。

重箱に籐籠のボックス、たくさん広げられたそれらの中に、形よく、色よく詰められたどの料理は、全部彼の好きなもの。

梅おかかと、明太子マヨネーズ、のりたまふりかけの、おにぎり。
太巻きとお稲荷さん。
鳥の唐揚げに照り焼きバージョンもある。
あっさりレンコンの練り辛しの挟み上げ。
ほうれん草のおひたし。
五目ひじき。
出し巻き卵。
ポットに入れた、椎茸のサワー・スープ。
ほくほくコーン・コロッケ。
ミニハンバーグにチーズをのせて、隣にタコさんウィンナーとセロリのオリーブオイル付け。
温野菜のチーズがけに・・・・ホワイトマッシュルームの薄切りとホワイトソールで合えた、白身魚。

それに、・・・・それに、それに・・。


右を見ても、左を見ても、食卓でジョーが美味しいと言い、これ好きだよ。と口にしたことのある品々が並ぶ。

うわー!っと感嘆の声をあげたジョーに、プラスティック・カップに注がれた、麦茶を渡されて。


<「「「「「「おめでとう、ジョー!!」」」」」>



乾杯!








ジョーが取り皿に次々と料理を載せてもらっている間に、彼の携帯電話がタイミングを計ったように3度、揺れた。


"wishing you a day as special as you are... Happy Birthday! P"
"Good Luck on your Birthday! yo, I'm gonna send you some gift. 2"
"Herzlichen Glueckwunsch zum Geburtstag. Sch?nen Tag noch! A.H"
"


初めに頬張った唐揚げと一緒ににんまりと笑いながら読む、海外で生活する家族からのお祝いのメッセージ。

少ししめった短い芝生。
鮮やかな緑色に、日陰をつくる木々の葉が夏の訪れを告げるようとする風にささやき合う。

高く広がる青空に、気持ち良さそうに流れて行く白い雲。
例えようのない形だけれど、芸術にうるさいグレートがアブストラクト・ドロ-イングうんたらかんたらと、ジョーには宇宙語にしかきこえない内容の話しが面白かった。

小学生くらいの男の子たちが遊び始めたフリスビーの黄色が空を横切る。
小さな女の子が、きゃーっと歓声をあげながら走って父親の胸に飛び込んだ。


「・・・・ありがとう」


隣に座っているフランソワーズが、ジョーの取り皿に綺麗に形よく、バランスよく具を巻き込むことができず、何度も、何度も、やり直しをした太巻きをのせた。


「ふふ♪いっぱい食べてね!!」


お店で売っているようにできないの!っと訴えて、張大人に見本を作ってもらい、一生懸命に巻いたそれは、結局成功したのは2本だけ。
2本できれば十分アルヨ!と、励まされたけれど、もっとたくさん用意したかったと、お弁当を詰めながらため息をついていたのを、そっとリビングルームのドア越しに聞こえた。

今日のランチのために、ジョーの好きなものリスト、”遊園地スペシャル・ランチメニュー・献立ブック”なるものを作っていた、フランソワーズ。
その内容をフランソワーズには内緒でチェックしてくれと、グレートが数日前の夜にこっそりとジョーに見せた。

料理の内容が決まらないと、買い出しにいけないからだ。


リストの内容に、ジョーは驚いた。
どれもこれも自分が好きなもので、リストを見ながら、ああ、好き好き!っと、何度も頷いた。
フランソワーズが悩んでいる項目をさっと目を通して、全部好きだから!っと、グレートに告げると、グレートはさりげなくフランソワーズにジョーの好きはこのリスト内容全部、間違いないから自信を持って作れば良いとアドヴァイスをした。

サプライズ予定だったアルヨ!っと確認後に張大人に怒られていたグレートだったけれど、メニュ-がわかって逆に、楽しみで、楽しみで仕方がなかった、ジョー。


昼食中にグレートが取り出したデジタル・カメラをジェロニモが受け取り、写真を撮り始めた。

彼の大きな手にすっぽり包まれてしまうカメラは、写真を撮られていることを気づかせない特技があった。



もちろん、今日この日のために改良に改良を重ねて進化した”虫”たち(G博士とイワンの2人しか今日の”虫”の存在を知らない。)が園内にいるけれど・・・。







総勢6人でとりかかった昼食に、全員が全員苦しいほどにお腹を満たした後、さすがにギルモア博士は午前中のショーでの人疲れか、普段地下の件中室に籠っているための運動不足のためか、うつらうつらと心地よい午後の空気に船を漕ぎ始めた。

ジェロニがイワンと博士と一緒にこのままグリーン・フィールドで一休みしていると言い、張大人は植物園内にある”世界の名きのこ展”と言うエキシビジョンに興奮し、「ちょっと見て来るネ!」と丸い躯をぽんぽん跳ねさせた。
そんな張大人にグレートがつき合うと言い、ぐるりと植物園内も見学してくると付け加える。


「あー・・!もう、動けないっ!」


ギルモア博士つられるように、レジャーシートの上にごろん。と、寝転がったジョーを、のぞきこむフランソワーズ。


「ごちそうさま?」
「うん、ごちそうさま!すっごくすっーーーーーぅぅっごく美味しかった!!いっぱい食べたー・・」
「ケーキは邸でね」
「ケーケ?!・・もう食べられないよ!」
「ケーキは別腹なのよ、日本人でしょ?」
「はは・・それは日本人とか関係なくって、女の子がだよ」


くすくすと笑うジョーに、フランソワーズも笑う。
食べ終えたランチの後片付けを始めたフランソワーズを、ジョーは寝転がった姿勢のまま彼女を見上げた。

亜麻色の髪が、陽光をつやつやと弾く。
ほっそりとした白い手が、日に当たってまるで浜に打ち上げられた貝殻のように輝いていた。


「なあに?」
「え?」


片付け終えたランチボックスたちを、駐車している車に置いて来ると言ったジェロニモをその場で見送り、腕にイワンを抱くフランソワーズが、再びジョーを覗き込む。


「何か言い足そうな顔してるわ」
「え、・・・あ・・・・別に・・・」


ふわり。と、5月の風がジョーの前髪を揺らし、珍しく彼の双眸が表れる。
空の青を切り取った青の中にいる自分と視線が合う。





ボクってこんな表情(かお)してたっけ・・・。


青の中にいる青年は、満たされて、幸せそうで、けれどちょっと照れた笑いを浮かべている。













いつから、誕生日の日に決まって自分に殴りつけていた言葉、”生まれてこなきゃ良かった”って・・・思わなくなったんだろう。


それどころか。

自分の誕生日には願い事が叶うと、どこの誰が言ったのか。
施設ではその月の生まれた子、みんな一緒に祝っていたから、自分だけの誕生日ケーキに灯したろうそくの日を消すような経験なんてない。



だから、願ったことなんて、なかった。
願ったところで、それが叶うなんて信じてんかったボクなのに。





ろうそくの火を吹き消す前に、願いたいと思った内容は・・・


ボクの誕生日にボクは、彼女の好きを叶えて、特別になりたい。





過去の自分からは想像できないくらい変わってしまった、青の中にいる自分にむかってジョーは笑った。







---いいな。・・・・ずっと、ずうっとみんなと一緒に、フランソワーズと一緒に・・・・このままがいいな。










「ジョー、あのね」


じっとまっすぐに見つめられて、その視線がいつもと雰囲気が違うことを感じたフランソワーズは、瞬きを繰り返した。

長くカールした睫毛が起こした風を、青の中にいる自分ではなく、ビュー・ポイントを広げて、フランソワーズと、フランソワーズが抱くイワンを視界に入れた。


「・・・うん」
「おやつにね」
「フラン、もう食べられないよ・・・さすがの009の胃も、降参」


はは、っと、苦笑いするジョー。


「でもマーブルチョコレートをね、今朝早くにコンビニでグレートがたくさん買ってきてくれたの」
「マーブル・・って、え?なんで・・・?」
「ジョーがこのお菓子と一緒に観覧車に乗るのが、夢だって言って教えてくれたのよ・・・」
「へ?」


ジョーは昨日思いめぐらせた妄想を甦られた。

仮面ライダーショーの後、1回だけのフリー券を夕暮れの観覧車に乗る事に決める。
楽しかったわ。と、すごく嬉しそうに微笑むフランソワーズから、お誕生日おめでとう。の、言葉。


見下ろす遊園地のネオンが灯り始める。
空の色がグラデーションを描いて、不思議な空間を作る。

乗っているゴンドラが一番高い位置にたどり着いて。



着いて。




自分世界の妄想シチュエーションだったはずなのに。


<イワンっっ!!>


考えられる事は1つ。
彼の妄想を読み取れる人物が昼の時間であること。そして、その妄想をシェアしてしまった人物。

レジャーシートの上で寝転がらせていた躯を跳ね起こさせて、フランソワーズの腕に抱かれているイワンを睨んだ。
別に悪いことなんてしてないよ。と、言いたげにイワンはお気に入りの黄色いぼんぼりがついたおしゃぶりをモゴモゴと動かす。


<ジャア、じぇろにもガ戻ッテキタラ2人デ乗ッテキタラ?>


すました顔でジョーにではなく、フランソワーズに言った。


「観覧車なら博士も大丈夫だから、みんなで行きましょうよ」
<イヤ、博士ハあれデ、アマリ高イ所ハ好マナインダヨ。キットじぇろにもハごんどらノ規定カラ外レテルダロウシ・・・ぐれーとト張大人ハ、当分戻ッテコナイ>
「でも、せっかくジョーの・・・」
<午後ハ、”半分”自由行動デイインジャナイ?ネエ、じょー>


ショーの中で彼女に嫌な思い(仮面ライダーの手をフランソワーズのお尻に触らせた)に対する(あくまでもジョーではない)イワンなりのお詫びのつもりらしい。


<ミンナガツキ合エナイヨウナ、乗リ物ヲコナシテオイデヨ、2、3時間後に、マタ合流シテ、一緒ニ園内ヲマワッタライイト思ウ。僕モ、タクサンノ人ノ思念ニチョット疲レタシ>


---本当は、それくらい全然平気なんだけどね。






タイミング良く荷物を駐車している車に置いて戻って来たジェロニモも同じような内容(イワン、事前にテレパスを飛ばして、ジェロニモを巻き込んだ)で、2人で遊んでくるように勧められ、背中を押させる形で、植物園から遊園地内に戻って来たジョーとフランソワーズ。



食べてすぐだから、絶叫系はダメ!っと言うフランソワーズに、ボクの胃はそこまで柔じゃないよ。と言ったけれど、フランソワーズは食後1時間はダメ!と、まるで小さな園児にお昼寝を教養する保母さんのように調子で言う。


そんなフランソワーズが可愛いと、頬が緩む。




ショーの後にもらったフリーバスがあるので、どの乗り物でも好きなだけ乗る事ができる、2人。


「ね、早速、観覧車行きましょ!ジョー、好きなのでしょ?」
「う、あ・・・え、あ、もう少し後に・・ほら観覧車は最後って言うのが、定番で・・・」


フランソワーズの鞄の中には筒状の形をしたマーブルチョコレートが3本はいっている。
彼女がスキップするように跳ねると、かしゃかしゃ。っと音が鳴り、ジョーの心臓がおいかけるように、どきどきと鳴る。



---こころの準備がいるんだよ・・・。









興味なんかなかった少女漫画。
施設の中でお小遣いを出し合って買い集めていた女の子たちが夢中になっていた、それ。

暇つぶしに手にとった。




話しの内容は覚えていない。
けれど妙にその”遊園地と観覧車で、マーバルチョコレートのシーンだけは、鮮明に覚えている。




ゴンドラの中でばらまかれた、色とりどりのチョコレート。
主人公は片思いの相手に、・・・・好き。を、伝えていた。















***

園内の地図が欲しいと言った、フランソワーズ。

植物園から遊園地内に戻って来た2人は、園内中央にあるインフォメーション・センター兼室内遊戯(アーケード・ゲーム/AC)場を訪れた。
UFOキャッチャーが好きなフランソワーズだけれど、駅近くのゲームセンターの外のゲーム機、それらでしか遊んだ事がない。

ばこばこと叩いているグループの笑い声に誘われるように視線を向けると、ジョーがやってみる?と声をかけた。

ずらっと並んだワニがランダムに出て来るので、それを付属されているハンマーで叩くと言う単純なゲーム。
隣にはモグラヴァージョンがあるが、家族に連想させる人物がいるので、それはちょっとと、フランソワーズは笑った。


「003ですもの!これくらい100点よ!」と、鼻息荒く胸を張ったフランソワーズだけれど、ある得点を超えて、”も~怒ったぞー!”と声が流れると、ほぼ一斉におもちゃのワニが出てきて、出て来るスピードもあがる。

ワニワニ・ばにっく!と言う名のゲームの通り、彼女はパニックに陥った。


「きゃああああっや、や、や、っやだっ!!やっやっ来ないで、来ないデッs!」
「ほらっしっかりフラン!!、そっち、ほら、こっちも、ほらほらっ!!」
「いやーっんっ、いやーっっやっやっや、もおおおおっ!!」

ハンマーを振り回して、ぱこぱこぱこぱこワニを叩くフランソワーズの慌て具合にジョーはお腹を抱えて笑う。

イテ!イタ!っとワニが叫ぶ。


「フランっフランっ!こっちこっち」
「やああああああっ」


ゲームが終わったときの得点に、不満顔のフランソワーズ。


「こんなのっ!ズルいっ無理よッ絶対に無理だもんっ!!」


と、逆ギレモードに、ジョーは、「じゃあ見ててね」と、100円玉をいれ、フランソワーズからハンマーを受け取ると、にやっと笑った。


「よ、よ、よ、よ、よ・・っと」
「噛まれちゃう、ッジョーっ、噛まれちゃうっ!!」
「ない、ない。大丈夫って・・ほっ、よっ!っと・・ね。か、ま、れ、ないっと!!」

見事にワニを叩いていく余裕のジョーに対して、ちょっと面白くなく感じた、フランソワーズ。


「・・・・噛まれちゃえ!」
「あっ邪魔しないでよっフランっ!」


ハンマーを持つ手の、右脇をくすぐった。


「ワニさん、ジョーを噛んじゃって!」
「こらっ!よっ・・・・と」
「もっ!噛まれちゃって!」

ジョーの右腕にぶら下がる、フランソワーズ。
けれど、素早くひょいっとハンマーを左手に持ち替えて叩き続ける、ジョー。


「噛まれませーんっっと・・」
「もっもっもおおおっっ!!!」





”あー負けちゃった・・・”と、ゲーム機が降参したとき。
邪魔をしたにも関わらず、高得点の更新をしたジョーに対して「009だもんっ、当然よね!」と、言いながら拗ねるフランソワーズを引っぱって、対戦式のバスケットボール、3ポイントシュート・ゲームにジョーは誘った。


「なんか、久しぶり♪ゲーセンで暇潰してたからなー・・・」


華麗にシュートを決めていくジョーに、戻ってくるボールが追いつかない。
ジョーの圧勝に、ますます拗ねていくフランソワーズの手を引っ張って、エア・ホッケーゲームへと連れて行く。

ゲーム台の穴からの空気に浮いた固い円盤(パック)を、マレットもしくはスマッシャーと呼ばれるスタンプのようなラケットで打ち合う。

初めて見るそのゲームをジョーに軽く説明してもらい、フランソワーズは”009”に真剣勝負を挑んだ。


「ゴール!」
「させませんっ!」


白熱する2人の熱戦に通りかかった人たちが素晴らしいラリーにほお、っと感嘆しつつ、あまりに真剣なやり取りに笑いを提供したりもした。


「うおりゃ!」
「いやああああああああああっ!!」


バックがフランソワーズの守るポケットに轟音ととにも入り、最後のゴールをジョーが決めた。

今回のエア・ホッケーゲームでの勝負もジョーが勝利をおさめた。
ますます、ぶーたれるフランソワーズの手を取り、ジョーは一角にあるお菓子ゲーム機やフランソワーズの好きなUFOキャッチャーへと連れて行き、彼女の機嫌を直そうと移動する途中、フランソワーズがジョーの腕を引っぱりその足を止めさせて、あれはなあに?と、ずらっと並んだ機種の1つを指差した。


「・・ああ、写真だよ。あの中に入って写真を撮るとシールにしてくれるってヤツだよ」
「・・・写真をシールにしてくれるの?」
「そう。撮ったシールを友だち同士で交換したり、持ち物にはったりして、すごくブームになったんだけど、今じゃもうそれほど・・・」


派手な広告デザインのプラシティック制の垂れ幕がかかる大きな箱の中から、チカッとフラッシュが光り、賑やかな声が聞こえている。

ブームは去ったけれど、まだ人気があると言えば、あるのかもしれなかった。



ジョーが知っているとても流行っていた当時に比べて、台数は激減し、使用率も低くなっている様子で、他のゲーム機に比べて隅っこに追いやられているように感じるけれど、機種の周りで出来上がったシールシートを、どこから持ち出したのか、業務用の大きなはさみで切っている姿の女の子たちのグループがいた。


「ねえ、やってみたいわ♪」
「・・・いいんじゃない?」


---フランソワーズのプリクラ、・・・欲しいなぁ。
  どこに貼ろうっかな。
  ・・定期入れ、携帯電話・・それとも・・・。





「ね!ジョーのお誕生日シールを作るの♪」
「え?ボク?!」



---いらないよ!自分のなんてっ。





「そうよ♪ほかに誰がいるの?」


フランソワーズに決まってるだろ。と声を大にして言いたいのを我慢する。


「・・・・・って言うか、ボク独りで写るの?やだよ、そんなの」
「どうして?」
「どうしてって・・・こういうのは、ほら・・みんな友達とかこ・・」




---恋人同士とかが・・・。


  遊園地に遊びにきた記念にって、さ。



  別に、”友達”・・・同士でも。











できたら、本音は”恋人”でプリント倶楽部/プリクラしたい。


「じゃあ、私と一緒ならどう?みんなとは後で一緒に撮りましょうね♪」
「まあ、・・1人じゃないんだったら」


---携帯電話に1枚、貼ろうかな。





どの機種を選べばいいのかわからないフランソワーズに、全身を撮るのか、顔だけメインで写るのにするのかを、ジョーは尋ねた。

プリクラに関する一般的な知識があるジョーだけれども、本当の所はフランソワーズと同じ”未体験”。

今の世の中、誰も読まなくなってしまっただろう、機種にラミネートされてぶら下がっていた説明書を読み、垂れ幕をくぐってライトで眩しい中途半端な密室へと入っていった。

変にハイテンションな説明アナウンスを耳にしながら、ペンタブレットを手に、フランソワーズと一緒に画面を睨みながら、シールのタイプ、サイズ、シリーズ、などを細かく決めていく。

「2枚プリントしてくれるのね?じゃあ、1枚は16分割で、もう1枚は、大きめにしましょう♪」


さすが、女の子?プリント倶楽部の順応力にジョーはこころの中で苦笑する。


「カキコミ有り?」
「有り!」
「フレームは?」
「・・いっぱいあるのね・・・・」
「みたいだね、こんなの選べないよ・・・」
「芸能人、変装、メルヘン、激可愛い、ミラクル、イベント、アニメ、スペシャル、・・・・・意味がわかんないわ、このフレームカテゴリー・・・」
「・・・・うん」

フレームチョイスに制限時間があるために、急がないといけないが、選択肢の多さに戸惑う2人。


カウントダウン10秒を切ると、急かせるような音楽が鳴り始めて、慌てるフランソワーズ。


「ジョー、どうしましょ?」
「フランが決めてよっ」
「そんな!ジョーのお誕生日記念シールだもんっジョーが決めて!!」
「え、ええ?!写ろうって言ったのフランs・・・」
「あ・・」


ちゃらり~ん♪と、音がなり、偶然ペンタブレットが触れていたフレームに決まってしまった。


変更は3回できるらしい。


「・・・どうする?」
「これでいいわ♪」
「・・・でも、これ・・・・・て、まあ、いいけど」


フレームカテゴリーは”激可愛い”。
ピンク、ピンクなフレーム。


「ものは試しだもの、撮っちゃいましょ♪気に入らなかったもう一回ね!」


モニターに”撮影するよ!”と表示が出ると、上、中央、斜め下に設置されているカメラを選ばないといけなかった。


「うーん、どれがいいかしら?」
「ふつう」


中央を選ぶジョーに、どうしてさっきのフレーム選びのときにそういう風に決められないの?と文句を言うフランソワーズ。


「わかんないよ、ああいうのは!・・・ほら、カメラ見てっ」


直立不動で横に並ぶ2人。
ジョーはフランソワーズを、フランソワーズはジョーを、カメラ写りを確認できる画面越しに見る。


”撮影しまーす”





「・・・なんか、ポーズがいるのかな?」


見本の写真には、雑誌に乗っているような色んなポーズをつける、女の子たちがいた。




3.


「どうすればいいの?」


2.



「例えば・・」


1.


ほらっと、機械画面の周りに、所狭しと貼られまくった無数のプリクラシールたちを指差すジョー。



カシャ!



「「あ・・・」」


画面に写ったのは、画面に近付きすぎてアップになった素面のジョーだった。


「ふふふ♪これ!これいいわっこれで決定♪」
「ダメだよっ、こんなのっ!!!ダメっ絶対にダメ、ダメ!!取り直しっ」


決定ボタンを押そうとするフランソワーズを慌てて止める、ジョー。


「これがいいのーっ!」
「やだよっ絶対にヤダっ」
「いいのっいいのっ!!決定♪」
「ダメダメっ、絶対に!フランっこの画像の使用は認めないっ」
「知りませーん!」
「リーダー命令!」
「こういう時には使えませーん!」


中途半端な密室内で、笑い合って揉める2人。
いつの間にか、ジョーのアップ写真は保存されてしまい、次の写真撮影カウントが始まっていた。


カシャ!っと、フラッシュと一緒に鳴ったシャッター音に、2人の悲鳴が重なる。


「あーーーーっ!!」
「きゃあっ!!」


笑って取っ組み合う(じゃれていると言った方が良い)2人がそこにいた。


「「・・・・」」


その画像を目にしたとき、反射的に2人はぱっと距離をとるように離れた。


「え、あ、あの・・あと、何回撮影できるのか・・な?」
「ら、ラスト、チャンスじゃないの?・・だって、・・・」
「そ、そ、そ、そう、いや、あと・・あと!2回できるみたいだよっ」
「よ、よかったわ!」
「次、次だね、次」
「ええ!次いきましょう!次はちゃんと撮りましょうね!」



三度目のシャッター音がなったとき、意識しすぎて変に距離をとって立つ、フレーム内に収まるギリギリの2人の顔は真っ赤だった。







写真を撮り終え、予定よりもイマイチなそれらだけれども、”初めて”だしね。とお互いに照れ笑いしつつ、今日の日付と名前を書いた。




”激可愛い”のフレームは、全面ピンク色に、まるっこいフォルムの可愛い天使のキャラクター・イラストが色々な楽器を持って飛んでいた。

偶然に決まってしまったフレームだけれど、フランソワーズの目には、ジョーのお誕生日をお祝いしている天使さんたちに思えた。



けれど、どこをどう見ても・・・
”仲の良い”2人を祝福する天使たちにしか見えなかった。








シールが出来上がるのをプリクラ機の中途半端な密室から出て待ち、プリントされたシールを銀色の受け取り口から手にして、2人は出来上がったそれをチェックした。・・のは、一瞬。


「すごいわ!!ね、ね、ね♪ほんとにシールなのね!」


邸に帰ってはさみでジョーの分をあげるわね。と、直視できないプリクラシールをカバンに仕舞う、フランソワーズ。


「ぼ、ボクのこのアップのっいらないからっ」


クオリティの高い写真に2人は再び気恥ずかしさに顔を染めつつ、気分を変えるために、ジョーが遊ぼうと指差したのは、体感筐体 のF1カーゲーム機。

2人はプリクラを忘れようとする勢いに、はしゃいでゲームを楽しみ、ここでも(3戦して3戦とも)ジョーの圧勝。

フランソワーズの機嫌がまた、斜めに落ちた。




***

カーレースゲームのトップの記録を余裕で抜いたジョーはご機嫌に、JOEと名前を打ち込んだ。


「もっ、ジョーばっかり!」
「フランソワーズだって、けっこういい線いってるよ、さすがだね」
「褒めてるようで、褒めてない!」
「・・・ボクに勝つなら、がんばって通わないとね」
「絶対に勝つわっみてらっしゃい!!」
「いつでもチャレンジを受けるよ、なんなら、PS2でもやる?」
「あのちっちゃいコントローラーがヤ」
「そういえば、前もそんなこと言ってたよね?」


ジョーはフランソワーズのご機嫌を戻そうと、フード店が揃う場所へと足を向けた。
そこでソフトクリームを・・と、考えている。


ぷんぷん。と、不機嫌にジョーについて歩くフランソワーズが園内で”眼”のスイッチを入れて、くるっと見回す。

余裕で彼女の能力範囲内の遊園地と植物園。
家族がいるであろう、方角が解っているので、時間をかけずとも家族を見つけられた。


”世界の名きのこ展”内にまだいる張大人と、案内係のおネーさんに自分はイギリスのロイヤル・アカデミー出身だと自慢するグレート。

グリーンフィールドのレジャーシートの上で、気持ち良さそうに昼寝をしているギルモア博士と、イワンを膝に抱きながら瞑想するジェロニモ。の、近くを小さい子どもたちが外国のあかちゃんにむかって手を振っていた。
イワンも小さく応えるように手をあげている。


「・・・・フラン?」
「え、あ・・・」


ジョーに呼びかけられて、眼のスイッチをoffにした、フランソワーズはペロっと舌を出して肩をすくめた。


「大丈夫ってわかっているのだけど・・・」


優しい、フランソワーズ。と、思うけれど、周りの”優しい女の子”のそれと理由が少し違う。


「ボクがいるし、・・・何もないよ」
「・・・・・ええ、わかってるわ。ごめんなさい、・・でも、ね?やっぱりね?」
「あのさ、フランソワーズ」


ジョーは足を止めた。


「?」


フランソワーズも、止まる。


「・・・」


ジョーは言おうとした言葉を、やっぱり言わないと、決めた。


「ふふ、”癖”なのよ」
「観覧車」


フランソワーズが続けようとした言葉を遮るように、ジョーは少し声を大きくして単語をかぶせた。


「本当は、閉園前とか、もっと日が暮れた時間に乗りたかったんだけど、定番に沿ってさ」
「?・・・じゃあ、そうしましょうよ」
「今、乗りたい」


他の乗り物をすべて飛ばして、まっすぐに観覧車乗り場へ歩き出した。

ジョーの隣を歩くフランソワーズのバックには、2枚のブリクラシールと、筒状の箱の中でかしゃかしゃとシャッターを切るような音を出す、マーブルチョコレート。







「お二人様ですか?」

世界最大級!という宣伝の通り、乗り場から見上げる観覧者の大きさに、フランソワーズは感嘆の声を上げ、後ろに倒れないか心配なほど反り返って見上げて目をまるまると見開く彼女に、くすくすと笑いながら着ぐるみショーに付属しているフリー券を切った、チケット切りの人。


「一周に約30分かかります、お楽しみください。」



a href="http://lovezero9.blog45.fc2.com/blog-entry-466.html" title="君に振り回される自分がいる/7">7に続く。







*やっぱり・・・・つ、続いてしまいました(涙)
もじもじ9は願望妄想の通りに、観覧車告白するのかな!?

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IN TEH BLINK OF AN EYES






指先に乗るくらいの小さな四角いフィルムに焼き付けられた映像が、連続的に流れて。


1秒。


32フレームで少しもどかしい感じの、無重力体験をしているような、スローモーション。


1秒。



瞬きをした瞬間に切り離される、世界。


だれかが、どこかで。

その1秒の中で。





私の知らない、時間を生きている。




「ジョー!!」



瞬きをしている間に起る、私の知らない全ての1秒を、手に入れたい。


あなたの全てを。















「フランソワーズ・・」










私だけの、あなたを・・・・。



















「・・・キミを撮りたくて買ったんだよ?」
「ダーメ!もっとたくさんジョーを撮るの!」








私だけの1秒。














end.




*3にしか見せない満面の笑みの9ってのが、いいんですっ!
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Little by Little・20
(20)






「ジョーが好きなのっ・・・ごめんなさいっ・・・」


当麻の耳に届いた、言葉。
フランソワーズの声がはっきりと、当麻の鼓膜を響かせる。


「当麻さん、ごめんなさい・・っ」


彼の脳へ、胸へと、投げられた。
ぱしゃり。と、静かな音をたてて投げられた、一言が、当麻の意思に反して彼の中に浸透していく。




---うん、・・・知ってる・・・し、わかってたよ・・・。



足下から吹き上げた風が当麻を包む。
せり上がってくる冷たい風が、じんじんと頭皮を痺らせ、一歩前に出した足が床におりたときに受けた衝撃が全身を震えさせた。
指先まで届いた震えのせいで、フランソワーズの手を握っている指に力がはいらない。


「当麻さん、私っ・・・・・・」


フランソワーズは強く引っ張られた手を、取り戻すようにぐっと脚に力を入れて踏ん張った状態で、視線を磨かれた床に反射した自分を見下ろした。


「散歩、してくるよ・・・、1人で・・・いいいかな・・」







フランが、ぼくを通して、ぼくではない誰かをみていたことも。
それでもぼくは、いいと思った。

島村にはできないこと。
ぼくだからできること、だと、思ったから。
君とは違う、サイボーグじゃないぼくだからこそ、島村よりも・・・。

ぼくは、ぼくで、フランを好きでいることに、島村より劣ることなんてない。
たとえ、彼が”009”だととしても。


たとえフランが島村/009を好きでも・・・。





「当麻さんっ」


握られていた、手が、するり。と、離れた。
その手を、追いかけようとした。




<<駄目ダヨ、ふらんそわーず。彼ガ求メルモノニ答エラレナイノナラ、オイカケチャ駄目。>>





腕をのばせば届く距離にある、当麻の手。
その手に向かってのびていく途中、フランソワーズは落としていた視線を上げた。


柔らかなカールを描くブラウンカラーの髪。
陽にあたると、亜麻色よりも少し濃い目の色になる。

シナモン・カラーの瞳。
まっすぐに、自分が信じていることを、ありのままの姿を受け止めて、みつめる。
嘘のない、強い光。



純粋さが。
素直さが。
誠実さが。
笑ったときの瞳の細め方が・・・。

ジャンと、同じ色の、髪。
陽にあたると、亜麻色よりも少し濃い目の色になる、髪色。




最低。
私は、最低・・・・・。


自分のことしか考えられなかった。
自分のことだけしか、感じられなかった。

サイボーグを理由にしても、それでもいいと言ってくれる、当麻さんに救われていた。
望めない現実に。





取り戻すことができない、過去の風景を感じられて。
あのときに、あのころの、私を感じていた。


私は、当麻さんの好意に甘えていた。
私は、当麻さんを通してその後ろに、いる、人を、みていた。





兄さんを・・・・






サイボーグとなった自分を受け入れてくれる、ことを。
昔のように、一緒に暮らせる、ことを。


人として、妹として、・・・・家族として。
受け入れてくれる、ことを。


人として会い、サイボーグだと言うことを知っても、かわらずにいてくれた、から。
優しいあなたに、好きだと言ってくれる想いに、私は、夢を見ていた。








ジョーに・・。


それを、


仲間に、

家族に、

それらを求められなかったから。





「わかってるよ、みてりゃあ、お前がちょっとばかしはあいつに惹かれてるくれえわよ・・・。でも、それは一時的なもんだぜ?言っておいてやるよ、お前は逃げてんだよ、ジョーのことが好きすぎて、それを言えねえまんまで、その思いを散らすために、当麻を使ってんだぜ・・・」



ジェットの言う通り・・・。



「・・・ジョーにむけられなくて溜まった思いを、都合よく現れた篠原で解消してんだよ、お前は」



私は、当麻さんの気持ちを、利用していた。
しっていながら、ダメだとわかっていながら、・・・当麻さんの気持ちを傷つけたくないと、言う理由をつけて。



「怖がるな、・・・人を傷つけないで生きて行くなんて無理なんだからな!お前の甘い考えだぜ、欲しいものがあれば、掴みたい何かがあるなら、人を蹴落として、傷つけても、掴み取れっ相手をかまうな、自分だけを見てろ」



卑怯な言い訳・・。
誰も傷つけたくないと言いながら、結局、誰よりも一番自分が傷つきたくなくて。


また、私は逃げていたのよ。

色々な理由をつけて、当麻さんの気持ちから逃げていた。
自分にとって都合のよいように解釈して。





自分のことだけで精一杯で。
今の自分を立たせることしか考えられなくて。
私はまた、同じ事を繰り返して・・アランに、彼にしたことをと、同じことを繰り返して・・・る・・・。













どうして?
どうして好きって思ってくれるの?



『フランソワーズが、好きだ』



こんなに、卑怯な私を・・・。
ちゃんと、向き合う事ができない私を。

人に、人を、好きだと言われる、思われる、資格なんてないわ・・・。





立ち止まった、フランソワーズはのばしかけた利き手を押さえるように左手で包み、ぐっと胸へと押し付けた。
乱れることも歩調を緩めることもなく、当麻はフランソワーズから離れていく。


開いていく当麻との距離に、フランソワーズはこれからの自分が見えた気がした。



当麻の、その背をフランソワーズは見送ることができずに、固くまぶたを閉じる。
ホテル入り口の自動ドアが、当麻がのせた足に反応する。


「当麻さん・・ごめんなさい・・・・本当に、ごめんなさい・・・・」


その場に立ち尽くしたままだったフランソワーズは、深く、深く、彼にむかって頭を下げた。




エレベーターのドアが、フランソワーズの背後で開くと、長身のつんつんとした髪を逆立てた赤毛の男が、出て来た。
泣きむせて揺れる躯を必死になって支え踏ん張って頭を下げた姿勢のフランソワーズに近づくと、その背に優しく手を置いた。


「・・・・泣くんじゃねえよ、これでいいんだぜ」


フランソワーズはゆるゆると、首を左右に振り、ジェットの言葉を否定した。


「よくない・・・わ・・・・・ぜんぜん、よくないの」









####


「やれ、ずいぶん待たせられたのお」
「博士、申し訳ありませんでした・・」


アルベルト、ギルモアそしてイワンはの3人で昼食のためにでかけたが、ギルモアだけがその場に残ったと、ジョーは説明された。


「座りなさい」
「・・・連絡もせずに、無断で・・・」

教えられた場所は、ギルモア博士が泊まるホテルから最寄り駅の途中にある、小さなカフェだった。


「ジョーや・・・」
「ゼロz・・・フランソワーズには、一切責任はありません・・・僕が、連れ出しました。申し訳ありませんでした」


こじんまりとしたカフェは、数年前の流行を取り入れたままの現状維持の店内。
日本人がヨーロッパを意識したときに脳内に描くカフェを体現しようとしたインテリア。
薄い卵色の壁には、ローアカル・アーティストの作品展示場所としているようで、今週のアーティストの画風と、店内のミスマッチ具合が妙に微笑ましい。

そんなカフェに足を踏み入れたジョーは、案内のウェイトレスには片手を上げただけで、まっすぐにカフェ内の最奥の壁に設えられた4人席へと向った。ゆったりとした2人がけのソファに座った立派な白ヒゲを蓄えた、初老と目が合うと、彼は席にもつかず、その場で腰を90度に折り、深々と頭を下げた。


「ギルモア博士、申し訳、ありませんでした」


トレーに水を入れたグラス、そしておしぼりをのせてジョーをおいかけたウェイトレスが、びっくりしながら、持って来た水とおしぼりと、ジョー、を交互に見ながら、彼の背後に立つ。


「すまないね」


ギルモアは、目尻に深い皺をよせてウェイトレスに話しかけた。


「・・・これ、ジョー・・お仕事の邪魔をしてはいかん。座りなさい」


”座りなさい”と最後に言った言葉を強調した、ギルモア。その令に従い、すっと頭を上げたジョーはギルモアから視線を外さずに、向い正面に腰を下ろす。ウェイトレスは自分の勤めが果たせるようでほっと胸を撫で下ろし、業務用の笑顔を取り戻しながらジョーの前にグラスとおしぼり、そして小脇に挟んでいた、メニューを置いた。


「ご注文がお決まりでしたら、うかがいますが?」


ジョーは置かれたメニューを、手にとり首を横に振りながら、何もいらないと示した。
そんなジョーを眺めていたギルモアが、にこやかにウェイトレスに声をかけた。


「儂にロイヤル・ミルクティーのおかわりを、そして彼には珈琲じゃ」
「珈琲はアイスですか?ホットですか?」


ウェイトレスの質問に、ギルモアはジョーを見た。


「・・・ホットで」


ギルモアと視線を合わせたジョーが、応えた。


「かしこまりました」


ウェイトレスがにこやかにジョーから受け取ったメニューを手に、去って行く。
その後ろ姿を見送りながら、ジョーが口を開く前に、ギルモアが会話をの主導権を握った。


「可愛いウェイトレスさんじゃな、フランソワーズと・・・”みかけ”変わらんくらいの年齢じゃろうて。アルバイトかのお?・・・さっきな、ランチセットを頼んだんじゃが、ほれ、ここのチキンはマスタードのぴりっと効いたやつらしくてな、・・・辛さとか心配してくれたんじゃ」
「はk」
「謝るくらいなら、初めからフランソワーズを連れて行くんじゃない」


ぴしゃり。と、ジョーの言葉を遮った。
ジョーの肩が、揺れて、彼の前髪がその揺れに反応する。


「ですがっ」
「・・・・終わってしまったことを、ぐずぐず言うでない、ジョー。お前たち2人が何事もなく無事であったことがわかれば、それでいい。誰も今回の、009、003の行動を責めてはおらん。ミッション中の無断外泊に関してはのまた別の機会に償ってもらう。今はこれでしまいじゃ」
「博士・・」
「しまいと言っておろうが」
「でも」
「聞き分けなさい、009」


眉根を下げ狼狽しきっているジョーの表情に、ギルモアはなんとも言えない、慈しみのを込めた微笑みで見つめた。


「そんな顔をするでない、まったく・・・。これくらいの悪さ(ハプニング)で、みんながいちいち動揺して腹を立てると思っておるのか?」
「けれど・・」
「誰も気にしとらん、気にしておるのは、本人ばかりじゃ」
「・・・・博士」
「何か思うところがあるなら、自分なりに行動で示しなさい」
「・・・・・・・・・・・・・はい」


泣き笑いに近い微笑をつくり、ジョーは静かに頷いた。



---ふむ・・・・・。



その頷きに、幼い顔立ちの印象が拭えなかったジョーの表情の変化を見つけた。



「それで、明日からどうなるんじゃ?」
「・・・明日から、ですか?」
「そうじゃ」


ギルモアは自分の言葉を繰り返しながら頷いた。


「明日からじゃ」
「・・・・・・・明日は、ホテルを午前中にチェックアウト。津田の姉2人はもう一泊します。ですので、津田と008は1日遅れてホテルからギルモア邸に戻ります。新学期が始まるまでの間、津田は実家に戻りますが、戻るまでの一週間ほど今まで通りにギルモア邸に滞在します、彼の通う病院へはギルモア邸の方が都合がいいので、実家に戻る前にあと2回通院予定です。007はそのままあやめ祭の後片付けが済むまで篠原さえこの警護。006には石川(斗織)の方へ。また篠原さえこが彼の転院を考えているようですので、その辺りを007と2人で任せます。004のメンテナンスは週明けから。ですが、先に005と002のメンテナンスをすることにスケジュールを変えました。002から始めます。その間に004にはコズミ博士、恩田から交流会の動きをより細かく調査してもらい、ブラック・マーケット(BM)の調査をしていた005の方も引き継いでもらいます。002と005の2人がアメリカに行くのですが、004がイギリスで調査するので、その補佐としての役割を負担してもらいます。002が向こうで動けるのは助かります。001はまもなく夜の時間ですから、3人のメンテナンスのヘルプには僕が。篠原当麻ですが、篠原さえこから篠原本家の住み込みの手伝いを頼んでいた女性が体調不慮から辞めたいと言われたようで、これを機に家を処分するようです。ですので、開寮までの間、篠原当麻の身柄をギルモア邸で預かって欲しいらしく、007からそのように報告がありました」


切りの良い部分で、009は報告を止めた。


「お待たせいたしました」


トレーにのせた、ギルモアがオーダーしたロイヤル・ミルクティと珈琲が配膳された。
ギルモアがウェイトレスにむかって、ありがとう。と、礼を言うと、ウェイトレスは小さく頷くような仕草を見せて、席から離れた。


すっとジョーの唇が開き、エア・コンディショナーで冷やされた店内の空気を肺に送った。


「篠原当麻のギルモア邸滞在の件に関しては」


ジョーが続きを語ることをギルモアが盛大なため息をついてみせることで止めた。


「バカもん・・・儂はそんな事は聴いとらんぞ」
「でも、博士・・」

ギルモアは、テーブル左端っこに置かれている砂糖の瓶を手に取り、白い陶器でできた蓋の突起をつまんだ。


「儂が訊いとるんは、明日から、・・・ジョー」


そなえつけの銀色のスプーンで砂糖を一さじ、ロイヤル・ミルクティーにいれる。
ジョーはギルモアの声に耳を傾けながら、落ちていく砂糖を見ていた。


「お前はアルベルトとイギリスへ行く準備をするのか、フランソワーズとのデートの準備をするのか、どっちじゃ?」


スプーンを戻し、蓋をして、瓶をもとの位置に置いたギルモアは、カップソーサーにそえられている、装飾が少し凝ったティ・スプーンを持ってゆっくりとロイヤル・ミルクティをかき混ぜた。


「アルベルトに同行するなら、メンテナンスは009、お前からじゃ。次に004。009の世話なんぞなくとも002と005は勝手にアメリカへ行くじゃろうて」


ジョーはさっと長く伸ばした前髪に表情(かお)を隠し、視線を珈琲カップにそそがれた漆黒の液体に固定させた。


「デートの準備なら、手伝わないいかんからのお。・・・・その前に、006の発案に対して真剣に考えねばならんな」
「006?」


ジョーは固定させていた視線を、ギルモアへと移した。
ギルモアはすするように、ほんのりと甘くしたロイヤル・ミルクティで口内を潤した。


「001が起きている間に、篠原当麻、津田海、篠原さえこ、恩田充弘、クラーク・リンツ、以上5名の我々に関する記憶を消す事じゃ」
「!?」
「今朝、006が001に言ってきたそうじゃ。・・・002,008,009、の3名の短期留学生としての記憶だけ、残すのじゃ、恩田氏とクラーク氏に関しては、コズミ博士を通してい知り合ったドイツ人、004のみ、記憶に残させる。今後のつじつまを合わせるためにじゃ。海くんには改竄した記憶を与える。詳しいシナリオは007と考えるが、008の学院滞在のこともある。”足”のこともな。表で公表している通り(ないと思われていた事故の後遺症の発見が遅れ、悪化、左足膝下から切断)のラインにそわせるじゃろう。008との関係はそのままにしておいてやりたいし・・やれ、ちと大変じゃな」
「なぜです・・なぜ、・・・記憶を・・・それは、以前にも話し合いました。僕たちに関わった事で、関わった人たちの人生にBGに狙われる危険性がない限りは、人の経験を、真実を、・・・取り除くような不自然あ行為はしないと・・・。そういうことをし始めたら、切りがない上に・・・、そのことに対して、記憶除去に関しては006が一番・・・」
「006が一番反対していたのお、サイボーグであることを恥てはいない、サイボーグであると言う事実を隠すなんておかしい。そして、サイボーグがこの世に存在し、自分たちを理解してくれる未来を作るためにも、と・・・なあ。その006からの案じゃ」
「・・・」


ギルモアから訊かされた、006の案に、ジョーは苦しげに首を左右にふった。


「許可、できません」
「理由はなんじゃ?」
「・・・・・・・・その、必要がないからです」
「危険性と言う面で、篠原さえこ、当麻、両名は・・・」
「博士」


ジョーは肺が取り込めるありったけの量の空気を一気に吸い込んだ。


「記憶改竄の件については、すでに話し合いました。それでみんなも納得できているはずです」
「確かしにのお、しかしじゃ」
「いいえ、博士。・・・・僕たちはこれから・・・人として歩き出すんです。戦い守って来た、世界で、生きていくんです。日本に”邸”を構えると決めたときに誓い合いました。まずは、ここからと・・・。今からであっていく人たちを信じることから初めなければ・・・。人が、人として生きて行く中で”自然”であるべきだと思います。ミッションが絡んだ今回のことで出会った彼らですが、・・・彼らを信頼できないなら、今後も同じだと思います。邸を日本に構えた意味もありませんし、みんなでまたドルフィンの生活に戻った方が、いい・・・ですよね?」
「・・人と関わり、生きて行こうと選んだのは、お前たち自身じゃ」
「・・・はい。だから・・・・・006には俺から言います。大丈夫だと言うことを、です。張大人に謝らないと・・本当に心配をかけてしまって・・・」


ふうっと、全身で息を吐き出すと、ジョーは珈琲カップを手に取り、熱いそれを無理矢理に喉に流し込んだ。


「俺も、・・・フランソワーズも、・・・・ちゃんと、ここで生きて行くんですから・・・・・何が起きても・・この、世界で」


珈琲カップを置き、ジョーは店内へと視線を巡らした。


小さな街の、小さなカフェに。
偶然、その時間に居合わせて、同じ空間を共有している客たち。
カフェの外を行き交う、人の流れ。


「そうじゃな・・・」


ジョーの横顔にむかって、ギルモアはにっこりと微笑んだ。
言葉にするには些かたよりない、小さな変化だけれど、ギルモアはこころの中でジョーを抱き締める。


2人は、それ以上の会話を続ける事はなく、ギルモアはゆっくりと2杯目のロイヤル・ミルクティを飲み終えた後に、カフェを出た。


「で、昨夜にフランソワーズに告白したんじゃな」


カフェを出てホテルへと歩き出したギルモアが隣を歩く、息子と言うには少し若すぎる青年を見上げ、にニヤリと嗤った。
ジョーはすっきりと綺麗に舗装されて、ゴミ一つ、小さな石ころ一つ見当たらない歩道で躓いた。


「はっかsっっっ」
「告白したんじゃろ?」
「・・・・っm・・あ、っsと、ええっと、ですね」


よろけた体勢を整えて、意味もなく喉を鳴らした。


「言ったんじゃな?」


ギルモアはずいっとジョーの方へと躯を寄せて、目に力を入れてきらりとした好奇心の眼差しをジョーへとむけた。


「あの・・それについて、報告の義務はないと思うんですが・・」
「何を言っとるか!たまには、儂が誰よりも早く新鮮な最新情報を仕入れてたいんじゃっ、儂には”通信”がないせいで、いつも後回し!いつもいつも事が起きた大分後に聴かされるばかりで!!」
「博士・・」
「恥ずかしければ、YESかNOで答えなさいっ!」


ジョーはギルモアの迫力に、冷や汗をかきながら、こくん。と、浅く首を縦に振った。


「YESか!?」
「・・・・YES、・・・・です」
「そうか!とうとう!うむ!!」


立派な白いヒゲをゆっさゆっさと揺らして、軽やかなステップでスキップする老人の後ろを、人間、ここまで“赤く”顔を染める事ができるのか?と、人々の視線を浴びる、ジョーの2人が、ホテルへと帰って行った。






「・・・・島村」

その視線の中に、まったく別の意味でジョーへと投げる視線。







ギルモアとはホテルのロビーで別れたジョーは、気持ちを入れ替えた。
フロントデスクの端に置かれた、プラスティック性の無駄をいっさい省いたデジタル時計が示す時間から、今日の”ミッション”開始時間を逆算する。
事前に立てられているスケジュールと照らし合わせて、今、009がすべきことはまだない。


ホテルロビーを出ると、ホテルエントランスと一般道とを分ける、植え込みがある。
その植え込み部分に軽く腰を下ろしている人物と視線を合わせた。そして、その相手から視線を外すことなく近づいた。


「1人なのか?」


ジョーから声をかけた。


「・・・ここにぼくがいることが、みえた?」
「いや、・・・・カフェを出たとき、篠原は駅にむかっての対岸の歩道を歩いていただろ?・・・そっちが俺と博士に気づいて、ここまでついてきた、違うかな?」
「ぼくに気づいていたんだね?」
「今日までは1人では行動しないでくれと、頼んだはずだったんだけど?」


当麻の周りを見回すように、首を巡らせたジョーだけれど、すでに009として仲間の”気配”がないことに、彼が単独行動したことは解りきっていた。


「問題ある?・・・・・島村だって、昨夜・・無断でいなくなったじゃないか」
「俺と、篠原は別問題だよ」
「・・・・そうでもないと思うけど、・・・・・無断で、フランと2人でいなくなったんだから」


当麻は体重を預けていた植え込みから立ち上がった。


「話したいんだけど、時間は・・大丈夫だよね?」
「・・・・・ああ」









====21へと続く。


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