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Treat me
肩がつん、とふれあったとき、彼の体温にじん、とやけどした。


「あ、ごめん」
「ううん」


慌てて大丈夫よ、と首を振って答えた。


「寒くない?」


触れ合った場所が、じんじん痛み出す。


「え、ええ。大丈夫よ」


私は横座りしていた膝を立てて、両腕で抱き込んだ。
そんな私の様子を伺う、彼の視線から逃れたくて、私は外の状況を逐一報告する。
報告ないように、うん、うん。と、彼らしく相づちを打っていたら、寒さを忍ぐためにシェアしていた薄い毛布が、私の肩から落ちた。


「もう少し・・・こっちに寄ってもらえないかな?」
「・・・」


彼は私の肩に毛布をかけ直しながら、声のボリュームを1つ落としてつぶやく。


「その、動くたびに、ほら・・ね?」
「・・・」


かけ直してくれた薄い毛布を手に、ぐっと肩を抱かれた。
膝を抱いていた私は、バランスを崩して、彼の胸に頭を預ける姿勢になって。


「こっちの方が、ほら、温かい、し・・・その、さ」


やけどが広がっていく。
じんじん。じんじんと、熱い。


触れ合う場所が、焼けていく。














「ジョー・・・?」
「・・・・うん」




ギルモア邸の地下倉庫で。

久しぶりに集まった仲間に攻め立てられるようにハロウィンのパーティ準備に取りかかり、去年のクリスマスで使用したパーティグッズなどなどを探すためにジョーと一緒に訪れた地下倉庫。

どうしてか、ジョーと私はそこで”不審人物=侵入者”と判断されて緊急用のセキュリティー・ロックが発動。



ねえ、もうわかっているでしょ?






命に別状はない状況下なので、009は無理に倉庫のドアをこじ開けたりはしない。
修理する方が大変だしね。と、苦笑する。


階上にいる仲間たちに脳波通信で助けて欲しいと連絡を取るも、みんな何か意味の分からない理由をつけて、博士が戻ってくるまで我慢しろ!とのこと。

協力してくれて、ありがとう。











ねえ、ジョー。
気づいているわよね?





緊急用のセキュリティにロックがかかったとして、地下の電源が落ちるわけないでしょう?
冷暖房、温度調節パーフェクト管理で、いくら倉庫でもここまで冷えるなんておかしいわ。

どうしてここに、ドルフィン用の毛布が1枚だけあって、ジャック・オー・ランタン(お化けカボチャのランタンの中にろうそく。ライターも一緒にころがっているのかしら?

夕飯を食べそこなることがわかっているかのように、生活雑用品の用の倉庫にドルフィンに積む予定の非常食を詰めた箱があるのかしらね?





ちらっとジョーもその箱に視線を投げたの、知ってるのよ、私。

箱の中は、”非常食”とはみかけだけで。
なんだかとっても美味しそう。



2人だけで、ちょっとしたパーティができそうよ?



「・・・雨、まだ降ってる?」
「ええ、降ってるわ。だから冷えるのね」



私の肩を抱くジョーの手にぐっと力が入った。
















****



「ったく、まだかよ!!何もたもたしてやがんだよ!」
「まあまあ、相手はジョーだから、とにかく・・・放っておいていいじゃないの?」
「いくらなんでも、ジョーだって気づく。」
「みえみえアルからねえ~。でも、それで何もなかったというアルなら・・」
「さすがに、the endだなあ」


ギルモア邸リビングルームでくつろぐ、仲間たち。


「ばかばかしいな」


その姿は、仲間の二人が地下倉庫に閉じ込められていることに全く関心がない様子。


「ばかばかしいことしなけりゃー、なかなか進まんのでなあ、これが」
「で、今回は一体誰の作戦なんだ?」
「アイヤー、あんさん知らなかったアルか?」
「くだらんことに使う耳は持ち合わせてないんでな。・・・いい加減に出してやれ」


アルベルトは、テーブルの上に置かれたコーヒーカップを持ち上げた。
あきれて物が言えんとばかりに、ため息をつきながらコーヒーを飲むアルベルトにたいしてジェット、ピュンマ、グレート、張大人、そしてジェロニモが視線を合わせ、にいっと笑いあい、声を揃えて今回の作戦提案者の名を言った。


「「「「「フランソワーズだぜ、だよ!アル、だ。姫!」」」」」
「・・・ついに動いたかのか」





****







<だって・・・、一緒にいる時間がすごく減ってるの、最近>










それに、何度も何度も、星の数ほどチャンスはあったのに、なかなか言ってくれないんだもの。

ジョーが、そのチャンスを手に、気持ちを伝えようとしてくれたことは、わかってるわ。




そんな彼の気持ちが、私と同じだって80%くらいわかっていても、言葉なんかじゃないって、わかっていても、やっぱりちゃんと言われたいの。

一緒に過ごす時間が減っている、このごろだから。
ちゃんと、したいって思ったのよ・・・。





その言葉1つで、私は。
その言葉だけで、私は。






きっと、何があっても後悔することなく、・・・・・だから、ね?





「ジョー・・・?」
「・・・・う、うん」







だから。
言って欲しい。


間違ってないわよね?
私、勘違いなんてしてないわよね?



「Trick or treat!」


ジョーの隣に座っていた私は勢いをつけて、彼の正面に座り直した。


「え?」
「いたずらしちゃうわよ?」
「え、え???」
「浮気するんだから!」
「あ、え?う、浮気って、あ。」
「他の人、好きになっちゃんだから!」
「ええっ、それは駄目っ駄目だよ!!」
「じゃあ、私は、ずっと・・・片思いなの?・・・・どうすればいいの?」


ジョーの手が、のびてきて。
私の手を、強く握った。


「駄目だよ。他の人を・・・その、好きになるとか、駄目だよ」
「でも」


さらに強く、ジョーは私の手を握った。


「フラン、僕の気持ちはわかってるだろ?」
「・・・」
「ずっと、言葉にはしてこなかったk」



♪♪♪♪♪♪♪~♪
彼は慌ててポケットから携帯電話を取り出した。


「・・ジョー?」


ジョーの手が、ばっと私の手から離れた。
握られていた手の強さが信じられなくなるほどに、簡単に。


「あ!そうだった・・今夜でかける予定があって、・・・」
「え?・・・でかける予定だったの?みんなが揃っているのに?」
「ちょっと顔を出すくらいのつもりで・・・」


通話のボタンを押したと当時に飛び出した、声。


『ジョーっ!おせーよっ!お前抜きではじめちまうぞ!お前が”可愛いっ”て言ってた、あの林田さんがまってるぞお!な!いい感じなんだろ?お前ら!!林田さんとこの間デートしたんだってな!今夜決めるつもりなのか、林田さんちょー、いいぜ!!あと、綺麗なお姉様、工藤さんもジョーはまだかって、お呼びだぜ!こっちも気合い入ってるぜー!』


私に聞こえてない筈ないなんて、思っているわけないわよね?


「可愛い?いい感じ?デート?今夜、そうだったのね?ごめんなさい、知らなかったわ」
「フランソワーズっ!ちがっこれったのっ、デートはっ映画チケットがその日が最終日でっっ1人じゃ見られないって、じゃなくってだからっ僕はっ」


ジョーは通話の相手に今ちょっと立て込んでるから後で連絡する。と、早口に一言言って電話を切った。


「・・・・私、ジョーと映画なんて行ったことないわ」
「?!」


ふっ。とろうそくを吹き消したように、一瞬で目の前が暗くなる。
なんだか、自分が盛り上がっていた分だけに、自分がしたことがあまりにも陳腐で情けなくなってきた。


「そうよね、そうだったのよね、ごめんなさいね、ジョー。私ってば、バカだったわ」


1秒でも早く、地下倉庫から出て行きたくて、ドアを、渾身の力で開けて部屋に駈け戻った。


「まっ・・・・・・・・・・・・・・・ッッフランソワーズs!」






ジョーの手が私の自室のドアノブを掴む前に、私はドアを締め、鍵をかけた。
デスクに飛びついて、ラップトップを立ち上げると、ブックマークされたウェブへと飛ぶ。






「好きだよっ!」


ドア越しに聴く声に、足下からほのかな温もりが灯る。


「フランソワーズっ!僕が好きなのはフランソワーズだよっ!ねえっ!!聞こえてる?!好きだよっ」


夢にまでみた、彼からの好きをたくさん聴いてる、今だけど。
手は、すらすらと、明日のフランス行きのチケットを探す。


「今夜はもう、・・・・十分に悪戯されましたので、お帰りください」
「フランソワーズ!!」
「イワンも、博士も、ジェットも、アルベルトに、ジェロニモ、張大人、グレートそしてピュンマが大好きですから!仲間ですものね!」
「ちが、それらと違うっ」
「フランスへ帰る準備がありますから、おつきあいしている時間なんてありませんわ」
「なんでっ?!」
「明日はもう空の上、フランスです!」
「ええ?!」
「林田さんをお待たせしたら可哀相だわ。今夜”決める”んでしょ?急がないといけないんじゃなくて?」
「行かないよっ!」
「約束しているのでしょ?そんなに簡単に約束を破棄してしまうの?」
「・・・・」


私は、ドア1枚はさんだ向こう側にいる、大好きな人を、瞳のスイッチを入れて観た。デスクの上に置いたラップトップに、明日の夜に発つ航空チケットを表示させたまま。

ジョーが、携帯電話を操作している姿が瞳に映る。
部屋のドア前まで、そっと近づいてジョーを見つめた。


「好きだよ・・・、ずっとちゃんと言葉にできなくて、ごめん。でもっ僕の気持ちっわかってくれてただろ?」


私がドア前に立ったことを、気づいたように、ドア向こうにいる私が見えるかのように話しかけて来た。
携帯電話をポケットにしまいながら。


「林田さんは?」
「だからっ、それはっ、…・・・ほら・・・・林田博士のこともあって、彼女は博士の娘さんで僕が009だって知っていてっ・・・その、色々とあって・・・・」
「可愛いわ、彼女」
「可愛いけど、・・・・・・それはっ、周りの一般的な評価であって」
「ジョーと林田さんはいい雰囲気なんでしょう?」
「他の人と、比べればってことだよ、・・・彼女は009でだることを知ってるから、他の人よりも懇意なだけで。それがそういう風に、勝手に周りが観てるだけ」
「今夜、決めるって何?」
「そんなの、僕が知りたいよ」


瞳のスイッチをoffにして、ドアノブを捻りゆっくりと深呼吸するようにドアをあけた。


「フランソワーズ・・・」


ほっと、肩から息を吐き出し、泣き笑いのようなジョーが立っていた。


「どっちが可愛いと思う?」
「へ?」
「林田さんと、私、どっちが可愛い?」
「ええ?!・・・・な・・んで?」
「・・・・ジョー、黒髪のさらさらとしたストレートヘア、好きよね?」


林田さんがそう。


「あのっだから、だって、それとこれとは」
「絵に描いたような、アジアン・ビューティな女性に弱いって知ってるわ、大きな黒い瞳の人、好きよね?」
「・・・・ちょ・・・それは・・・・・」
「知ってるのよ、私」
「フラン!」


ジョーがドアに手をかけて、30cmも開いていないドアを、広げようとしたけれど、私はそれを拒むように、ドアノブを手にして抵抗した。


「ジョーが好きなのは、林田さんのような人なんででしょっだからっ!」
「知らないんだよっ!」


ほんの少しのやり取りに、ドアが悲鳴をあげる。


「フランソワーズは何もわかってない!」


ドアを開く事を諦めると同時に、隙間からするりとジョーの手が部屋へ入ると私の腕を掴んだ。


「?!」


ジョーに引っ張られて、部屋から引きずり出される。


「離して!」
「やだ!」


彼の腕に引きずられながら、階段を降りる。
足を止めれば、ジョーのことだから、簡単に抱き上げられただろう。


「鍵はっ・・」

玄関前で、ジョーは車の鍵を持っていない事に気づき、舌打ちをうった。

私の腕を放さないままに、リビングルームへと向う。
飾り棚に置かれているキーケースの中から、彼が愛用する車のキーを掴むと同時に、リビングルームに集まっている家族にむかって、叫んだ。


「フランソワーズとでかけるから!パーティでもなんでも勝手にやってて!あとっ地下倉庫のドア壊れたからっ博士が気づく前に修理しておいて!」
「「「「「「「了解。」」」」」」」

何が起っているのか筒抜けの仲間たちは、ああそう。と、にこやかに見送られる。


「乗って!」


力の差を見せつけられるように、車に押し込まれた。


「どこへ行くの?」
「はっきりさせる!」
「なにを?」
「決まってるだろ、そんなのっ」
「・・・・」
「今日、バイト先のみんなに紹介するっ、電話をかけてきた野田はっフランソワーズ知らないから!キミを紹介したことないから、あんな物言いをするんだ!」
「・・・林田さんは私のこと知ってるじゃない」


キーを差し込んだ手は捻られずに、止まった。


「好きだよ、フランソワーズ」


耳が、じん。と痺れた。


「キミは?」


ジョーにみつめられて、みつめられている。と、意識した場所が燃え出す。


「・・・・・知ってる、でしょ?」
「知らない、言ってくれないとわからない」
「そんなの・・・」
「好きだよ」
「・・・・」
「フランソワーズは、知らないみたいだから。僕が、キミのことが大好きだってこと」
「言ってくれたこと、ないもの」
「・・うん。・・・ごめん、言いたかったんだよ、ずっと。ずっと、キミが好きだって、言いたかったんだ」
「・・・・・」
「もう、平気」
「・・・・・・」
「止められないよ、今まで言えなかった分、もう止まらない」


車は、車庫の中から出ることなかった。



「・・・・好きだよ、フランソワーズ」


ジョーからのTreatをたくさん手に入れた、ハロウィンの夜。


「ねえ、キミは?」
「・・・・・クリスマスまでとっておいてもいいと思わない?」
「・・・・・・・・・・・意地悪だ」
「待たされたもの、待っててくれてもいいじゃない?」


頬にふれられた手を、優しく拒みながら、私は考えた。


「キスは、そうね・・・来年の、ハロウィンまで、待って?」
「え・・・・?」
「ね?」
「せめて・・バレンタインとか・・・」
「ジョーのペースにあわせてるだけよ」




end.











*10月31日にアップできなかったのでありました。
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Little by Little・21
(21)






「話したいんだけど、時間は・・大丈夫だよね?」と、声をかけてジョーを呼び止めた当麻だけれども、目の前にいる彼に、当麻は自分の胸の中にある言葉を、音にすることができないまま時間を過ごした。


「・・・・・・・・」


脳内に広がる無数の言葉をかき集め、必死で掬いあげようとする。しかし、指の隙間から水がこぼれ落ちてしまうかのように、かき集めたはずの言葉は当麻の思考からすり抜けていくだけ。
もがくようにかき集めて胸に抱え込んだけれど、どこからともなく吹き付ける風にさらさらと吹き去っていった。


「・・・・・・・・・・・」


視線を落とした状態で沈黙を続ける視界に、自分が握り込む拳がある。
今日の気温の暑さにじっとりと汗ばむ手のひら。それは本当に、気温が暑いせいだろうか。何もまとめることができないカラッポの頭と同じくらいに、水分をなくしてしまっている口内で、何度かない唾液を飲み込むように当麻は喉を鳴らすように動かした。

そんな当麻の姿を、ジョーは見つめている。

一般道とホテル・エントランス前の道をを区切る鉢植えに、当麻は軽く腰を降ろし、ジョーは当麻の正面に立つ。2人の距離は3歩半あるか、ないか。

1台のタクシーが一般道路からぐるりと弧を描くように右折して、ロビー前に車を止めた。ジョーの視線が無意識に当麻から離れて、エントランス前に泊まったタクシー2台へと移ったとき、ジョーは囁いた。


「・・・言ったよ」


当麻の肩が、びくっと怯えたように震えた。


「俺の、気持ちをフランソワーズに言った。昨夜は、・・・そんなつもりでじゃ、なかったんだけど、・・・結果的にそうなった」
「・・・・」
「・・・フランsー」
「ずるいよ、・・・・・・島村」
「・・・・・・ずるい?」


走りさって行くタクシーから視線を改めて当麻へと戻した、ジョー。


「・・・・・・・・・・島村は、なんでも、・・・・・なんでも・・持ってるじゃないか」


青空に栄える緑が当麻の背を支えている。


「?」


午後の日差しは燦々と降り注ぎ、吸い込む空気は排気ガスにまみれた上に肺を焼くように熱かった。


「家族と呼べる、仲間、親友、・・・親(博士)、帰る家も、・・・・彼女と一緒にいる理由だって、なんだって、持っていて、それ以上・・・なんて、ずるい」


湿気に吸い取られていく体力。
人の行き来に、開かれた自動ドアの奥から流れ出る冷やされた空気が、ありがたいと思ったのは、ジョー。


「それ以上、何が、必要なんだい?」


植木の端に腰を下ろしてうつむき、視線を下げたままで当麻は言った。
彫刻のように動かない当麻の着ているシャツの襟が、太陽の光を鈍く反射させる。


「さあ、・・・な」


当麻は落としていた視線を顔と一緒に上げてジョーを観た。
彼の目が晴れた光に細められる。


「・・・・わからないの?」


青い空に描かれる栗色の髪が日差しを浴びて金茶色に変えたジョーに、視線を合わせながら、ゆっくりと立ち上がった。


「・・・・大切なものをこの腕で抱えて守り抜くには、さすがに限界があることだけ、わかってるけれど、ね」


ジョーは、寂しげに微笑み、言った。


「その腕に、フランも・・・だなんて、無理だよ」
「・・・」
「限界があるんだろ?」
「・・・・ああ」
「そんな腕に、守られる彼女が・・・かわいそうだと、思う」
「・・・・・・」
「ぼくは、島村のような力も強さも何もない、けれど・・・ぼくの腕は彼女だけのために、あった。ありたいと思って、ぼくは両手を広げて彼女を待っていた、ぼくは・・君とは違うぼくだからこそっ・・・」
「・・・」
「けれど・・・今、ぼくの腕には、何もない。彼女の手が選んだのは・・・」
「・・・」


昨夜、自分の告白をフランソワーズが受け入れてくれなかったら、立場はまるきり逆だっただろう。ジョーは今目の前にいる当麻を自分と重ねて見る。
出会ったときから、迷うこともなくはっきりとフランソワーズへと気持ちを打ち明けていた、当麻の前に震えだしそうな膝に力を入れて、必死でその場に立つ。


「・・・・フランソワーズに、告白したんだね」
「うん」
「島村は、フランのことが好きなんだね」
「・・・うん」
「・・・・・フランの気持ちも同じだった・・・んだよ、ね?」
「・・・・」


ジョーは、震えた当麻の最後の質問にたいしてうなずいただけで答えた。その姿をスローモーションをかけたような、映像のようにとらえた、当麻。
彼の胸の中が爆発したマグマのように沸騰し、かっと頭に血が上った瞬間、すうっと冷たく氷つく。
その落差に目眩を覚えた。


「どうして?」
「え?」


頬を伝った汗の鋭い冷たさに、当麻の後頭部がビリビリとしびれる。


「・・・・・いつから?」


口にしている言葉は、自分じゃない。まったくコントロールできていない、自分自信に、当麻は翻弄される。


「・・・・・・・・・ずっと前から、って言うと・・嘘になる、かな」
「・・・」
「彼女のことを、”好き”だって・・・この気持ちはそういうことだって思えたのは、最近で。・・・・・・色々、あって。本当に、色々と・・・・話すこともできるけど、長く、なりすぎる」


目の前にいる、勝利者にたいして、怒りも嫉妬も、敗北感もない。
ただ、彼の言葉を耳でとらえて、鼓膜をふるわし、脳内に電気信号として送り、言語を理解する。その奥に潜んでいるだろう音にされていない言葉の意味を読み取ろうと必死になった。


「サイボーグだから?」
「違うって言いたい。けど、嘘になる・・・。出会ったときすでに、そうだった」


当麻の頭と体とこころはシンクロすることなく、制御不能となった自身を投げは放ち、ジョーの前に立っている。


「じゃあ、003なら、・・・フランじゃなくてもよかったてことだよね?」
「・・・・今、彼女が003であるのは、まぎれもない事実だよ」


会話の中で、複雑に絡んだ感情と思考が解け合い1本の線を導きだした。


「・・・・彼女が、サイボーグだから、サイボーグ同士の傷のなめ合いとか、都合良く、とか、そんな考えなんかない」
「そういうことが言えるってことは、そう思ったことがあるってことじゃないのか?」
「篠原・・・?」


それだけを無我夢中で必死にたぐり寄せる。



「・・ぼくの気持ちは変わらない」
「・・・・・」


たぐり寄せたそれに必死にしがみついた。














『当麻さん』


フランソワーズが、オーブンから取り出したばかりの焼きたてクッキーを嬉しそうに見せてくる。


『良い香りでしょう♪』


無邪気に笑う、フランソワーズがいる。
彼女が見せてくれる、笑顔は誰にでもなく、自分にだけに向けられていたもの。たとえ、彼女の瞳が自分と別の誰かを重ねていたとしても、その誰かを重ねられるのは、島村ジョーではなく、自分。

あの笑顔は、まぎれもなく、島村ジョーへ向けられることはない。と、確信している。



フランソワーズに『兄』がいると知って気づいたこと。




彼女のそばにいられるなら、それでもいいと考えた。
いつか、彼女が自分に重ねる兄の姿との比率が逆転することを祈り、時間が解決してくれることを狙って。



「ぼくは、フランソワーズが好きだ。・・・・フランの口からはっきりと島村を好きだと聞いても・・・、それに、そんなこと・・・は、・・・・。それでも・・・かわらずに、彼女を好きと思う気持ちは、ここにあったから」
「・・・・けど・・フランソワーズは、俺の気持ちに・・答えてくれた」


ジョーは唇を噛み締めた。


「わかってる、ちゃんと理解してる」
「・・・・・・・・篠原、」


ジョーの言葉を遮った。


「わかってる・・・。島村、フランソワーズと、島村の気持ちが同じだと言うこと、わかってる、わかった上で、言わせて欲しいんだ」


昨晩一睡もしていないのが嘘のような、すっきりとした真摯な視線を揺るぎなくジョーに向けた。


「・・・・・・・ごめん、篠原・・・、俺はそんなにできた人間じゃないんだ」
「?」


眉根を下げて力なく首を左右に振り、肩の力を抜くように息を吐き出したジョーは、視線を当麻から外し、空を仰いだ。
正直、もうこれ以上彼を、当麻を観ていられない。


「・・・・暑い、な」


ジョーの動きに自然に当麻の視線がちらりと上へと投げられたが、一瞬だった。
ジョーは脳波通信を短く送信する。


「・・・島村、ぼくは」


じわり。と、会話の中で忘れられていた夏の気温が蘇ってくる。
ホテルのシャトルバスらしきミニバンが、ホテル裏側の駐車場から出て行き、エントランスへと回り込んでくると、2度、クラクションが鳴らされた。


「向こうのホテルへ戻ろう」


ジョーは左足を動かし、一歩、当麻から後退すると、くるり。と彼に背を向けた。
宙に浮いてしまった会話が、夏の気温に晒されて蒸発する。


「このままここで干上がるのは、勘弁してほしい。・・・篠原、顔色が悪い」


すたすたとホテル敷地内から出て行くように歩き出したジョーを、当麻が腕を伸ばして追い掛ける。


「島村、まだ話しはっ・・・」


話しは終わっていないと訴えた当麻が伸ばした腕が彼を引き止めた。
当麻の腕がジョーの肩をつかみ、ジョーの躯が当麻へと振り返る。


「?!」


ジョーの肩を掴んだ当麻の手が力なく落ちた。


「これ以上は無理するな」


くしゃっと潰した、泣き笑いの顔に褐色の瞳に揺れ溢れた涙がこぼれる。


「・・・・ピュンマ頼む」


予想もしていなかった人物の名前がジョーの口から発せられ、背後を振り返ったとき、その名の人が困ったような顔で立っていたことを瞳に写した当麻は、意識を手放した。


「一睡もせずに、炎天下の中・・・なにやらせてるんだよ、ジョー」
「すまない」
「・・・あーあー・・・」


腕に抱きとめた篠原当麻の顔を覗きこんだ、ピュンマは大げさにため息をついた。


「これでシニア・オークションの内容をだまっていたこと、チャラにしてよ・・・・?」
「・・・・このことは」
「誰にも言わないよ、約束する。・・・ジョー」
「・・・なに?」


ジョーは泣き顔を隠すように俯いて長い前髪に顔をかくした。


「ジョーはもっと自身を持って、宣言すべきだと思うよ。フランソワーズはオレの女だ!って」


当麻の体を支えるピュンマに背をむけ、彼の声に答えないまま足を部屋を取っているホテルへと進めた。

ジョーの背を見送りながら、ため息を1つその場に残してピュンマはひょいっと当麻を背におぶった。
通りかかる人々が何事かと、ピュンマに注目するが、ピュンマは今自分が友人を背負っている姿は何も問題などないと言うように、堂々と、当麻をホテルの海が待つ部屋へと連れて帰った。





<ピュンマ、・・・今、当麻とホテル前の一般道に、いる。・・・・助けて欲しい>








---ジョー、今、君は最高に幸せでいなきゃ、いけないのになあ・・・・。









####



あやめ祭、3日目。

月見里学院は日本の教育システムとはかけ離れているために、従来の入学・卒業式などがない。
高等学部シニアとして残っている生徒の半数は、その教育システムによって海外の大学へと進学を可能となっていた。
今年の9月から各大学にフレッシュマンとして進学が可能なために、留学を決めていた生徒は一般の留学生よりも3ヶ月~半年ほど早く日本を離れる。それを可能にしているのも、1年2学期制度と高等部は、一般大学と同じく単位取得制で卒業が決まるからだ。


今日、あやめ祭3日目に催されるシニアのためのプロム・パーティ(後夜祭)が卒業式の代りを兼ねてられている。

今年に新設された学院本館に付属する星辰(せいしん)館(大)ホールで行われたオークション会場と同じ場所でおこなわれている、後夜祭兼プロム・パーティ。
2階建ての大ホールは半円形を描く形に作られている。普段は並べられているヴォルカン色のシートは、1階席、2階席ともに今夜はすべて取り外されている。広いホール内の左側の壁にビュッフェ式の豪華な料理が並び、真白いクロスに覆われたテーブルを囲う人々の笑顔で埋まっていた。


<009。状況確認>


会場は学院生徒、関係者とオークション参加した者のみと限られていたが、毎年、華やかに賑わい、笑い声が絶えることのないまま終えようとしている。


<002、会場内!>


今年は、例年以上に盛り上がった。
理由はサービス精神旺盛なプロム・キング(002)とクイーン(007)のためだ。
やりすぎだ!と、キングとクイーンに飛ばされた彼、彼女(?)の家族たちからの通信は、ことごとく無視され、2人のムードが会場を包み込んだととき、あやめ祭の最後を締めくくるため、3日間で集まった寄付金などのおおよその金額などが発表された。今回のあやめ祭にたいする感謝の言葉を学院理事である篠原さえこが述べ、シニアたちにむかって月見里学院の生徒であったことを誇りに、新しい世界へ旅立って欲しいと願った。


例年にない盛り上がりに貢献したジェットにたいsて、シニア・オークション参加者のジュニアたちが「このまま学院に残れ!」と口々に叫ぶ。
ピュンマは残るのに!と、彼を引き合いに出されつつ、ジェットは嬉しさを隠しながら同級生たちにむかって「学院が”共学”になるならな!野郎ばっかで貴重な青春を棒に振ってたまるかっての!」と、一蹴した。


「あなた、もういいわ」


スピーチを終えたさえこの隣に立った美人秘書(に変身している007ことグレート)にむかって、穏やかに言った。


「企画・イベント/マーケティング部の方に明日から移動してちょうだい。私の秘書よりそっちの方が向いてるみたいね。派手な人は苦手なの。ここはそういうエンターテイメント性を育学校でもないから」


何の前触れもなく、その場で事異動を発表。
彼女の周囲に集まっていた人々が、さあっと潮が引いたようにいなくなった。
微笑んではいたが、さえこは明らかに不機嫌さを全身から発している。けれども、原因は美人秘書の派手なパフォーマンスだけではないようだが、周囲の人間がその原因に気づくことはない。


<そろそろ、帰って行く客が出て来たな、004セキュリティ・ルームから移動中>


004は会場となった本館内のセキュリティルームのある階にいる。
ノータイの青みがかった黒いスーツを着て、火がついていない煙草を口に銜えながら壁に背を預けた。


<無事に何もなく終わりそうだね。008、002と同じく、会場内>


ホール内で海と2人の姉たち、4人で動いていたピュンマが素早く答えた、学院生は全員制服着用、夏場だけれども正装(ジャケット、ネクタイ)を強いられている。


<あのバカ騒ぎじゃ動けば目立つから、動いてくれた方がありがたかったがな>
<あはは!海もコーラで酔っぱらったみたいになってしてるし、林ちゃんってばジョーからジェットに興味がうつったみたいだよ>
<マジ?やっりー!>
<でも、明後日にはメンテ入るんでしょ?デートとかしているそんな暇ないね>
<005と変わりゃいいんだよ!>
<うるさい、そういうのは口で話せ>


報告に必要のない内容が、今夜のミッションがどれほど緩いものかを現している。


<ほいほい~、006アル。ホテル。喫茶室から今部屋に戻って来たアルことね。料理は美味しいアルか?>


006はギルモア、001とそして、篠原当麻と一緒に宿泊ホテルに待機していた。


<おう!金かかってるぜ!>
<そんな料理の感想きいたことないよ、002!>


宿泊しているホテルは学院から脳波通信が届く距離を計算して選んでいるために、ホテルに待機している001、006も学院での仲間たちの動きを知る事が出来た。


<そうアルかあ、そっちに行けないのが残念アルよ。ああ、ミンナに005からの報告があるアル、005が今病院から出たそうね、お見舞いの時間がおわったのこと。今からギルモア博士を迎えに来るとの事ね、当麻くんも一緒に邸に戻るとのことヨ>
<<<<了解>>>>


宿泊ホテルのピュンマと海の部屋で、ジョーと別れてから1時間ほどで意識を取り戻した篠原当麻。けれども昨夜から一睡もしなかったことと、その間にろくに水も食事も取らなかったこと、精神的疲労が祟って体調を崩し、発熱。
シニアでありながらも今夜は欠席しているのは篠原当麻、そして六間口護(ろっけんぐちまもる)の2名。


<003>
<よお、お前どこいんだよ?>
<・・・・本館1階のロビー、会場入り口にいるわ。こちらも・・・・以上なし、よ。会場を出ていく人の中に、怪しい人はいないわ。1日目に私が聴いた声も、聞こえてはこないし、海さんを特別話題にしている会話もないわ。それに・・・・>
<どうした、003?>
<001が今日ここへこなかったことが、そういうことなんじゃないかしらって思っただけ>


今夜は篠原当麻のパートナーとなるはずだった003は、002にエスコートされて会場入りし、プロム・パーティ中は002と行動する意外は、単独で動いた。


<篠原当麻はいいとして、もう1人の欠席している生徒、六間口護の方はどうなってる?欠席理由などはわかったのか?009>


009は表からでも問題なくホールへと入る事ができたにも関わらず、ひっそりと裏から004と会場となっているホールへと姿を現し、クラスメートと短い会話を交わして出席していることだけを周囲に印象づけただけで、ホールから出て行った。


<彼は海外組じゃない。推薦で国内の大学が決まっているし、夏休み後も学院へ戻って来る。オークションで彼を落札したのは、彼の身内でなく姉妹校の生徒会の人間だ。その生徒も会場入りしていない。初めから参加するつもりはなかったのかもしれない。彼が今どこにいるかは把握できていない、001に報告はした。明日にでも彼の現在地と今夜何をしていたのかを一応調べたい>
<009が調べるの?>
<007、頼めるかい?・・欠席の連絡をしてきたのは、本人からだ。電話番号から電話をしてきた場所は彼の実家からだということはわかった>
<リーダーどの直々のご命令、しかと承りましたぞ!>
<007、さえこさんに当麻君は心配するほどの事じゃないと伝えてネ。博士が心配なら明日にでも邸へお越し下さいとのこと伝えるアル>
<了解、了解!>


007は篠原さえこと一緒にすでに星辰(せいしん)館(大)ホールを出て、学院関係者専用の駐車場へと秘書としての最後の勤めをこなしながら、009から伝えられた今夜の欠席者の情報を記録した。


<六間口はクラス内では大人しく寡黙な人物だった。石川斗織が開いていた勉強会とも関係がなかったから、さほど重要視はしていないけれど・・>
<009>
<yes,008>
<僕と海、と夢さん、林ちゃん、そろそろホテルに戻ろうかと思ってるんだけど?>


ほどよく酔っているご機嫌な海の姉の夢がピュンマと腕を組み、可愛い年離れた弟の海にデジタルカメラを押し付けていた。


<了解。008はそのままホテルへ戻ってくれていい。明日、2人の見送りまで定時報告だけで十分だ。任せる>
<了解、009>
<んじゃ、オレもそろそろ空に移動するぜ。上から余計な虫が悪さしないか観てなきゃな。帰りは単独で邸へ直帰予定>


ジェットは遠目にその様子を観ながら、同級生たちと別れの挨拶を交わしつつ、会場出入り口へと足を動かした。ホール内を進む途中、ピュンマが夢と写真を取り終えて、照れ笑いをジェットに向けた。
ジェットは4人とは少し距離があるために、大きく手を振り、会場出口を指差して自分がホールを出る事だけを伝えた。


<僕はこのまま学院に残って予定通り明日の朝までここにいる。004、頃合いを観て003とホテルに戻ってくれ>
<断る>


004の即答に、00メンバー内の会話が止まる。
その中でただ一人、002だけが楽しそうな微笑みを浮かべ、別れを惜しむ同級生たちにむかって新しくアカウントを開いて作ったメールアドレスを教えつつ、ホールの外のロビーに置かれたモダンなデザインの長椅子に遠慮がちに腰を下ろしている003へと歩み寄った。


<・・・004?>
<残るなら、003がいた方がいいだろう。オレは007のサポートにまわる>


脳内に響く会話を時差なく受け止める2人。


「似合ってんじゃん、って、言ったっけ?」


ジェットが異国の少女の隣にどっかりと腰を下ろしたのをきっかけに、同級生たちはジェットから離れ、ホール内へと戻って行った。
数時間前にホールへと吸い込まれていた人の流れが、今は逆にホールから外へと向う流れをフランソワーズはジェットへは視線を打つことなく静かに、見つめている。
ジェットは制服の内ポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認した。


デジタル表示が示した時間、10;13pm


「それ、お前らしいっていうか、・・・今までで一番似合ってると思うぜ」


制服の内ポケットに再び携帯電話をしまいながら、あと30分もすれば、学院内は関係者の人下だけになるだろうと頭に浮かべながら、フランソワーズに話しかけた。


「ありがとう」
「アルベルトの鋼鉄の鼻の下を伸ばさせたんだかんな、すげーな」


ジェットの言葉に、フランソワーズは口元だけで微笑んだ。

会場となっているホールから人が出て行く人波の中、ジェットの姿に気づいた学院生たちはにこやかに手を振ったり、日本風に頭を下げたり様々に、家族や友人たちに囲まれて星辰(せいしん)館を去って行く。それらに愛想よく答えながらジェットは通信を通してフランソワーズの口からではない声を聞いた。


<004、009をサポートしたいけれど、服装が・・・。当麻さんがいらっしゃらない報告を聴いたのが遅かったのは、言い訳にならないけれど・・着替えを用意していないの、ごめんなさい。・・・だから009の邪魔になるだけだわ>


呆れたように肩をすくめ、盛大なため息をつきながらジェットはフランソワーズの横顔を見る。
彼女の大きな瞳の目元は、化粧では隠しきれなかった色を載せたままだった。それは今夜の身支度までの時間、ずっと泣き続けたという証拠だ。
ホテルの部屋でフランソワーズが泣き止むのをずっと黙って見守っていたジェットだから、目元の色と腫れなぞ気にはしない。

ミッションの計画上、00メンバー全員で学院へ訪れなかった。
みな現地である学院内で人並みに紛れて顔を合わせ、脳波通信で連絡を取り合う中、フランソワーズの顔を観たメンバーはいったいどんな言葉をかけたのだろうか。ジェットは昨夜2人きりでいなくなり、結果的に”ハッピー・エンド”を結んだはずのフランソワーズの目の縁の腫れと朱色を、家族がどう感想を持ったのか、少しばかり気になった。


「よお、何にも起らねえって・・・そのままでいーじゃんかよ。そんな格好をしていて見つかるようなヘマを、009がすると思ってんのか?」


ジェットの声を聞きながら、フランソワーズは座っていた長椅子から立ち上がった。
立ち上がったフランソワーズを視線だけあげて観た、ジェット。

ほっそりとした肢体は春色に相応しい薄いコーラルピンク色。
肩がむき出しになったソリッドタイプのワンピースを着ている、フランソワーズの背がオレンジがかったロビーの照明に、鮮やかに栄えた。
柔らかく透き通るような薄いシフォンの布地が幾重にも重ねられたゆったりとしたデザインのワンピースは、ロウ・ウェストのカッティングにもかかわらず、フランソワーズが動けばフランソワーズの肢体に沿うように流れて彼女の躯のラインが美しく描かれている。


「まだ、その格好見せてないんだろ?」
「・・・会場のどこかで、私が出席していることを確認していると思うわ」


棒読みのような解答に顔を苦々しく歪め、フランソワーズの後を追うように立ち上がったジェットの視界の端に、交わした会話で名を口にはしなかった人物の姿を捉えた。


<006、005がホテルに到着したら、報告を頼む。004、007のサポートは明日からでいい。002?>
<悪ぃ。002、現在ホールの外003の隣!009と合流!>
<004、学院が完全に閉鎖されるまではいてくれ>
<・・・了解した>


00メンバーのリーダー、009は潜入捜査のために月見里学院生を装っていた。潜入捜査を終えて学院生でいる必要はなくなったが、様々なことが重なって未だに学院生を続けているために、ジェット、ピュンマと同じく指定の制服を着ている。

その制服に袖を通すのも、今夜と退寮の手続きのためにあと1回学院の門をくぐるときのみとなった。それは、ジェットも同じ。

プロム・パーティの会場となっているホールの出入り口からではなく、出入り口から出て左に伸びる、関係者以外立ち入り禁止となっている方角から、まっすぐに歩いてくる。
彼は夏のために使用者があまりいない手荷物受け付け口(クロックコート)の前を通り過ぎた。

ホールから出て来た人の波を縫い、ジェット、フランソワーズの前に立ったジョーは、フランソワーズとは視線を合わせることなくジェットに視線をむけた。
その不自然さに、ジェットはジョーにむかって舌打ちをつく。

仲間が合流した姿をピュンマは視界の端で捕らえながら、一緒にいる3人が仲間たちに気づく事がないように上手く流れにのせ、人の波でロビー側が見えないように誘導しながらホールを出て行った。


<008、これからタクシーを使ってホテルへ戻るね>
<了解>


通信で届いた報告に、短く答えたジョーは、そのまま通信の会話を繋げる感覚で言葉を口にした。


「ジェット、アルベルトが駄目なら、君がフランソワーズをホテルまで送っていってくれ。空から戻って来てくれたら、そのまま任務についても問題ないだろ?」






====22へとつづく






・ちょっと呟く・

次から次へと、・・・大変な2人です。


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ロマンチックください!
「003」

呼んでみたけれども、反応がなかった。

「・・・003?」

009は、003そして007と共に北ヨーロッパの国を訪れていた。

「・・・」

新しいBG研究施設が出来たという情報を得て、詳細を調べるために訪れた国の小さな街は、豊かな自然と民族工芸などを売り物にした観光地。
それらしい施設があれば簡単に見つけられると考えられていたけれども、逆にそれらしい施設などまったく見当たらず、捜査は難航していた。

---デマだったのかな?

確かな情報とは言いがたい内容だったために、00メンバー全員で調査するようなことはせず、イギリスに里帰り中だった007と現地(今いる街)で落ち合い、009と003は日本から1週間前に今座っているカフェの斜め前にあるホテルへと姿を現した。

「003、疲れたかい?」

小さなカフェは4つのテーブル席しかなく、ほとんどの客が持ち帰り用のオーダーだけで、早足に店を去って行く。
この一週間の間、決まった時間にかならず訪れる観光客の男女のカップルは、決まって店奥の小さなテーブルに向い合って座る。

窓にぴったりと寄せられた円形のテーブル。その上に載せられている陶器でできた、シュガー・ソルトカップ、テーブルに置きっぱなしの長方形のメニューなどを窓枠の上に毎回移動させるのは、
やわらなかな栗色の髪の青年だった。
決まって彼は、珈琲とチーズサンドトースト、サラダセットを頼み、ドレッシングはブルーチーズを選ぶ。
向かいあって座るカチューシャで亜麻色の髪を飾った、大きな青い瞳が印象的な女性は、かならずカフェオレをオーダーし、ワッフルかフレンチ・トーストのどちらかを頼み、ついでブルーベリーを添えるようにお願いする。


さすがに3日も続けば、店の者も顔を覚えられてしまい、今日は”いつもの?”だけで通じてしまった。

「・・・・」

目を離してしまうのが惜しいと思う情景から、ゆっくりと視線を009へとむけた003は、ため息とともにテーブルの上の置かれたカフェオレのカップを持ち上げた。

「別に」

カップのふちを唇によせる寸前に3文字、音にする。

「別にって・・・大丈夫?」
「・・・・」

003は静かに1口、2口、と、カフェオレを含んだ。
首を傾けて見守る009の視線は、003をいたわるような優しさがあふれている。

「003?」

その様子はどこをどう観ても、彼らは”恋人”か、”同じラストネームを名乗る者”だとしか見えない。





なかなか進展を見せない調査に息抜きをしようと言い出した007が、行ってみようと2人を街一番人気のレストランへと誘った。
予約していたグレートのラスト・ネームを告げて店内を案内されたとき、ウェイターから”Miss”ではなく”Mrs”で呼ばれ、明らかに2人は社交的に公式なカップルであると認識された扱いを受けた。




「・・・」

こくん。と、喉に通したカフェオレで潤した口内で、003はぽつりと呟いた。

「どうしたの?」
「・・・ただちょっと」
「ちょっと?」
「・・とっても素敵なところだったなあ、って思い出していただけよ。・・007が予約”してくれた”’レストラン」
「ああ!うん。とっても素敵だったね。料理もとっても美味しかったし。007が来れなくなったのはとっても残念だったけれど、004と合流するためだったから仕方ないね。でも申し訳なかったなあ、007には。007が誘ってくれて、予約までしてくれたのに。僕たちだけでおいしいご飯を食べることになっちゃったからね。僕が代わるって言ったのに・・・ね?悪かったなあ、本当に」
「・・・・・」

眉根を下げて007に申し訳ないと口にしていたが、手元の珈琲カップがすでに空になっていることに、目がいき、ジョーはレジ近くでスツールの椅子にどっしりと腰を下ろした、いつもオーダーを取る中年所背にむかってにっこりと微笑みながら手をあげ、珈琲のリフィールを頼んだ。

「そうね・・・。残念だったわ・・・」

009は003の言葉に、うん、うん。と頷きつつ、なんとなくテーブルの上に置かれているフォークの柄の部分を指先でなぞった。







---007は気を使ってくれたのよね・・・。


009と二人きりで素敵なレストランでディナー。
まるで、004と予め計画していたようなタイミングだったから。と、003は胸の中で呟いた。




ムードある素敵なレストランでの食事でも、せっかくの2人きりのディナーであるにも関わらず、昨夜はドルフィン号または、ギルモア邸のダイニングルームとなんら変わらなかった。

楽しく食事を進めて、ワインをグラスで3杯ほど楽しみほろ酔いになったけれど。レストランからタクシーでまっすぐに宿泊するホテルに戻り、「じゃ!また明日」と、日付けが変わる2時間前には、部屋前で分かれてしまい、デート云々とは言えない状態だった。


「・・・もう」

フランソワーズは銀色のケトルを持った女性がジョーのコーヒーカップに2杯目の珈琲を注ぐのを見つめながら、彼に見つからないように静かにため息をついた。

「ん?どうしたの?」
「待たせた!」

ジョーの声とキッチンに居た中年女性のパートナーらしき転がった方が早くテーブルまでたどりつけそうな男性の声とが重なった。立派に蓄えた口ひげをぴん!とはねさせた男性は、ジョーとフランソワーズが良く知る”アイヤー”が口癖の仲間を彷彿とさせる。

「ありがとう」

その男性がトレーに朝食を乗せて運んきたので、ジョーはにっこりと微笑みながら英語で例を言う。

「1週間きてる、気に入った?ここが」

テーブルに二人の朝食をおきながら、男性がたどたどしく並べた英単語で訪ねた。

「ええ。とっても素敵でついつい次の国へ行きそびれてしまっているわ」

答えたのは、フランソワーズだった。

「ハネムーンはバタバタ観光より、ゆっくり二人きりで過ごすのが何より!次の国なんていかず、ここでゆっくり二人きりの時間を楽しんだらいいと思うわ。子どもが生まれたらあっと言う間に、年を取ってムードもへったくれもなくなっちゃうんだからね!」


ねえ、アンタ!と隣に立った男性の脇腹をドン!と肘でつき、鉛のある英語だったけれど、女性の方がすらすらとした英語で会話に加わった。

「?」

ジョーは一体誰のことを言っているのだろう?と、不思議そうに女性を見て、何の話かな?と、フランソワーズに尋ねる視線を投げた。しかし、フランソワーズはそんなジョーの視線に気づかないふりをして、にっこり微笑み、とっても美味しそう!と、話題を並べられた朝食へとと切り替えようとした。

あら?と、女性が首を傾げる。
男性はサービスしといたよ、と。ブルーベリー以外にも4種のベリーを混ぜておいたことをフランソワーズにむかってウィンクし、余計なことには首を突っ込む気はないと言う感じでその場をいそいそと立ち去った。

「ああ。勘違いなさってるんですね。僕たちは別に・・そういうのじゃなくて、仕事でここにいるんですよ」

ワンテンポ遅れて、やっと女性の言った内容を理解したジョーが、きちんと訂正をいれた。

「仕事が長引いてるんで、ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ええ」
「仕事仲間・・なのかい?」
「はい」

はっきりと言い切った、ジョーにむかって恨めしげな上目遣いの視線を一瞬だけ投げた、フランソワーズ。
銀色のケトルを持ったままの女性が、ジョーとフランソワーズを大きいとは言えない瞳をまんまるく見開いて、2人を交互に何度も見た。





---まあ、まあ・・こりゃ、可哀想に。


女性は、ジョーにむかってにっこり笑いかける。
むっくりと鼻よりも高く盛り上がる頬が健康的なピンク色で、とても愛嬌のある笑みだった。

「また珈琲がいるなら、呼んでちょうだいな」
「はい」
「・・・どうも」

ジョーはにっこりと女性へと微笑み返し、朝食をスタートさせた。
フランソワーズはナイフを手に取り、ざっくりとワッフルを大きく切り分けて口いっぱいに頬張った。





***


「・・・ねえ、お嬢さん」

朝食を終えた二人がテーブルで支払いをすませて店を出るとき、女性はフランソワーズを呼び止めた。


「あの、これ・・・?」
「もっと食べてないと!」
「え?」

紙袋に入れた焼きたてのクッキーをフランソワーズは押し付けられて、大きな青い瞳を困惑の色に染める。

「もっとこうっ!あたしみたいにさ!バーンっと胸にも尻にも肉をくっつけないと駄目駄目!!そっちの方が簡単なんだから!」

バッチン!とウィンクをひとつ。

フランソワーズよりも背の高いその女性は、まるまるとした体を少し前屈みにして、スイカ並みの丸く豊かな胸を揺らしてみせた。

「ロマンチックな展開なんて待ってたら他の女にかっ攫われちまうよ!早いとこ勝負に出ないとねっ。また明日もおいでね!」


びっくりしているフランソワーズをぎゅうっと抱きしめて両方にちゅ!ちゅ!とキスをした。

「誰に似たのか、アンタみたいに細くてねえ!私の娘もそっちで苦労したもんさ!」












***


店を出て004、007と合流するために中央駅へと向かう途中、ジョーはフランソワーズが手に持つ紙袋からクッキーの甘い香りに鼻をひくひくさせた。

「いただいたクッキー、すごく美味しそうな匂いがするね」

時代をタイムスリップしてしまったかのような、美しい17世紀後期ヨーロッパの街並を残した、ロマンチックな街道を歩く中。
やっとジョーが話かけてくれた思ったら、クッキーの話題。

フランソワーズはこれ見よがしに盛大なため息をつき、晴れたスカイブルーと言うのに相応し空にむかって、叫ぶ。













---誰か!私に(できればジョーとの)ロマンチックくださいっ!!


「ねえ、1枚・・食べたいんだけど?・・・駄目かな?」
「私がもらったのよ。だからジョーにはあげません!」
「えー・・・・1人で食べるの?」
「そうよ!」
「・・そんなにいっぱい食べたら、太っちゃうよ?」
「っ太りたいの!」
「ええ?!・・・なんで?普通は女の子って痩せたいんじゃないいのかなあ?」
「どうせ、普通じゃないもの!」
「いや、そういう意味じゃなくって・・・、フランソワーズ?」


フランソワーズは歩くスピードをあげてジョーから距離を取ると、ガサガサと紙袋からクッキーを取り出し、ばくん!っと大きな口で食べた。

「太るわ!いっぱいいーーーーーーーーーーっぱい太るって決めました!ジョーが持ち上げられないくらいによっ」
「ええ?!・・・ちょっ、フランソワーズ?!」





end.

















*こういう二人を書けて楽しかったです!

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awake
防護服を新素材を使用して新調するとギルモア博士が言った。
一般に市販されている服とは明らかに違う上、普通の布ではないために製造法も少しばかり手間がかかる。9人分を揃えるのに約1年ほどかかったが、ようやく今、00メンバー全員に配れることとなった。


海に面した岸壁と雑木林に護られ、人が滅多に近づくことのない荒れた地に建てたられた洋館は、階上3階、地下5階の作り。
洋館の最下層ドックにはドルフィン号と名付けられた陸海平用戦闘機が納められている。




「これが、008の分」

そのドルフィン号内、ミーティングルームで1人、コードナンバー003を持つ、少女と呼ぶには彼女が醸し出す雰囲気とは少し差がある、不可思議な魅力を持つ亜麻色の髪の女性が、同じコードナンバーで呼ぶ合う仲間の新調された戦闘服を揃えて、テーブルの上に並べていた。


「そして、これが最後・・」


健康的な色の爪を持つ指が白い箱から取り出した、ビニールに包まれた赤。
そして、付属する黄。

フランソワーズはテーブルの上にそれを大切に置いて、そおっと壊れ物にでも触れるかのように表面を撫でた。

「・・・・」

彼女の手が赤ん坊の頬をなでるかのように往復すると、ビニールの中へと移動し、きっちりと折り畳まれている黄色の布を取り出す。
自分以外はココには誰もいないと知りつつも、手に取った黄色を胸に抱ききょろきょろと辺りを見回して、用心深く眼のスイッチも入れたりし、階上の部屋にいるギルモア、イワンの様子をうかがった。

日本組と称されるメンバーは自分を含めて、張大人、グレート、そして、ジョー。3人は朝早くから海釣りに出掛けていてまだ帰宅していない様子をその青い眼で知る。
張大人の経営する中華料理店は今日、定休日。いつ頃からか、その日は決まって3人は釣りにでかける日となっていた。

「・・・・・・・いいわよね、長さだって・・そんなに変わらないもの」

フランソワーズはゆっくりと右へと6歩移動する。
テーブルの上に置かれた自分用の防護服の中から、同じ黄色の布を取り出し。そして、胸に抱えている布を自分の防護服の上に置き、取り出した自分のと、ドキドキと緊張する胸を押さええて入れ替えた。


再び密やかに6歩左へと移動し、黄色の布がない防護服前で手に持った自分の布へと顔を近づけた。

「ジョーと、・・・ずっと、一緒にいられますように」






口づけをひとつ。
黄色に願いを込めて。



「彼を護ってください・・・」



フランソワーズは秘密めいた手つきで黄色を最後に置いた、9番目の防護服を包むビニールバックの中に納めた。

















***


クリスマスを前に海外組と呼ばれる仲間たちが日本へと、ギルモア邸へと帰ってきた。
ドルフィン号の整備や、その他周辺機器のアップデータに関する説明を009から手短に受けた後、ミーティング・ルームでそれぞれ、新調された防護服を手に取った。

「前とどこが違うアルか?」
「ちーっとも差がないように見えるがなあ」
「新調するって訊いたらから、てっきりデザインも変更になったのかと思ってたよ」

それぞれ以前のとなんら一つとして変わることのない防護服に関して好き勝手にコメントする。

「○ヴァっぽいのとか、いいんじゃん?」

ジェットがほれほれ!と、この夏公開されて一代センセーショナルを起こし、海外でも知名度の高いアニメーションの主人公が着るプ○グ・スーツみたいなのがいいよな。と、周りに同意を求めた。

「嫌よ!あんなにピッタリとしたのなんて、着たくありません!」
「何言ってんだよ、あれくらいの方が何かと動きやすくていいんじゃねーか!それに、よく似合うと思うぜ!003」
「おお、それは我が輩、姫のチャイナ服の次に興味がありますぞ!」
「もうっH!」
「それなら日本の戦隊物シリーズとかどうかな?何かベルトとか腕時計とか使って変身!。着替える手間が省けるって感じでよくない?」
「それなら007には必要かもしれんな。変身を解く度に服を持ち運びせずにすむ」
「004、008。防護服のデザインだ。」

やんや、やんやと賑やかな声で色めくミーティング・ルームの中、ギルモア博士は夜の時間のイワンに彼の分の緋色のマフラーを首にそっとかけてやった。

「どうしたんじゃ、009」

久しぶりにミッションに関係のないイベントで仲間たちが全員顔を合わせ、ギルモア博士は幸せを噛み締める中、防護服の置かれたテーブルの端っこで黄色のマフラーを手にぼおっと突っ立ち、こころここにあらずと言ったジョーに声をかけた。

「!」

ギルモア博士の声に、009は、は!と我に返ると同時に耳を真っ赤に染め、それがリトマス試験紙に例えるがごとく、顔の色を変えた。

「009?新しい防護服に何か不都合があるか?」
「い、いえ!・・・す、すみません。ちょ・・ちょっと・・・」
「ちょっと、なんじゃ?」
「なんでもありません!っあ、僕、さ、さっさっき、コクピットの方に、わ、忘れ物がっ」

ジョーは自分の新調された防護服をがばっと両腕に抱えると、そのまま早足にミーティング・ルームを出て行った。
そんな彼に特に注目している仲間たちはおらず、ギルモア博士は首をかしげて、彼を見送った。















「・・・・なんで僕のマフラーから・・フランソワーズの香りがするんだ?」

ミーティング・ルームを早足に出て、ドルフィン号のコクピットに向う足がスピードを落として行く。
廊下の途中で足を止め、ジョーは腕に抱えた防護服に視線を落とした。


真新しい布地の香りに混ざって、確かに香るフランソワーズの香り。
それがどんな香りであるかを言葉では簡単に説明できないジョーだけれど、ただ、防護服を取り出したときにジョーを包み込んだ、香りは絶対に間違いなくフランソワーズの香りだと自分が009であることに懸けて宣言できた。


「・・・・フランソワーズの、・・」


胸をすくような甘みのある色鮮やかな花の香り。
ヴァニラ・エッセンスが訊いた、クッキーのような温もり。
明るく晴れた空にちりばめられた、陽の光。

瞼を降ろして、緋色のマフラーに顔を埋めたジョーだけに見える世界。
フランソワーズの香りから、ジョーは永遠の旅に出る。










どのくらい、そうやって廊下に立ち尽して、黄色のマフラーに顔をうずめていたのか判断できないが、満足して深く息を吐き出し現実の世界に戻って来たとき、ジョーは黄色のマフラーから顔を離してふと考えた。

「・・・・これをミーティング・ルームに用意したのはフランソワーズだから、香りが移っていても・・」

でも、それならみんなのにも、彼女の香りがついているってことか。と、誰に言うでもなく呟いてジョーはミーティング・ルームのある後方へと振り返る。


うっすらと、仲間たちのはしゃぐような声が聞こえて来る。
その中にかの人の声もときおり混じる。



『そのアイデア、素敵だわ!』



耳に届いたフランソワーズの声にどきり。と、心臓を跳ねさせて、その内容にも冷や汗をかく。
会話の内容は、防護服から自然とクリスマスの内容に進んで行った様子で、今年はプレゼントをシークレット・サンタにしようなどと、盛り上がっていた。


「・・・シークレット・サンタは・・ちょっと」


まもなくやってくるクリスマス。
そのパーティの内容の1つにたしいて、シークレット・サンタになったら困るなあ、と。離れた場所から会話に参加する。



先月の話し。
通りかかったデパートメントのおもちゃ売り場で、こぼれ落ちそうなほどに大きな青をめいいっぱい大きくして、「すごいっ可愛い!」と歓喜の声を上げたフランソワーズを思い出す。
「私も抱っこしてみて、いいかしら?」と、子どもたちに混じって、おどおどとおもちゃ売り場に置かれたサンプルの巨大な大ト○ロのぬいぐるみを抱き締めた。

フランソワーズはそのキャラクターがいったい何のキャラクターか知らなかったが、そのまんまるいフクロウのゆうな不思議な容姿にすっかり魅了されたようで、しきりに、ジョーに説明を求めた。
売り場に置かれた巨大なぬいぐるみが欲しい。と言う気持ちがありありとフランソワーズの全身から発せられている姿から、彼女にしては本当に珍しいことだったので、「ジョーは買って帰ろうか?」と、尋ねた。

びっくりする大きさではあるけれど、これくらい1つ、フランソワーズが部屋にあって誰かに迷惑をかけるわけじゃないし。と、ジョーはフランソワーズに数回尋ねたが、彼女は恥ずかしげに微笑みながら、「もう子どもじゃないもの、ぎゅうってできただけでいいわ。」と言い、小さなキーホルダ用のマスコットだけを購入した。

口で説明するよりも、観るのが一番だからと、翌日にレンタルショップでそのキャラクターの映画を借りてきたジョー。午後のおやつの時間に観賞したフランソワーズは、すっかりト○ロ・ファンとなっていた。

家事をする彼女の口から「あっるこ~♪あっるこ~♪」と、ちょっと調子の外れた主題歌が聞こえてきたりするようになり。

普段にあまり見せないフランソワーズの可愛らしいプライベートな一面をジョーは知り、小さな女の子のようにキャラクターに夢中になるフランソワーズを、今までとは違った目線で見て接するようになっていた。

もしかして妹がいたらこんな感じかな?とふと思い描く日もある。




そんな日々の中、デパートメント内の書店にて取り寄せを頼んだ帰り、ふらりと、おもちゃコーナーへと立ち寄った。
フランソワーズが小さな子どもたちに紛れてぎゅうっと抱き締めた巨大ト○ロを購入するために。
週末であったため、巨大ト○ロを購入するジョーの姿を羨望の眼差しで見つめる子どもたちの瞳に苦笑しながら、それを、フランソワーズのクリスマス・プレゼントとして購入することに少しばかり興奮しつつ。


満面の笑顔で、巨大ト○ロをぎゅうううううっと抱き締めるフランソワーズを想像すると、ジョーはすごく幸せな気分になる。

頬が上がり、滅多にフランソワーズが出入りしない地下4階の第3倉庫隠しているぬいぐるみを今すぐにでも彼女にプレゼントしたくなって、ウズウズしてくる。


仲間たちの会話を耳に、シークレット・サンタの案は却下されるように願いつつ。









---僕もフランソワーズをぬいぐるみみたいに、ぎゅうっと・・できたらいいのになあ。


胸の中の自身の呟きに、ミーティング・ルームとコクピットを繋ぐ廊下で009はおおいに狼狽えた。





「って!何考えてんだよっ!僕はっっ」




呟きとともに、とある日にぎゅうっと巨大ト○ロを抱き締めたフランソワーズに重ねて、自分が同じようにフランソワーズを抱き締める様子を描いてしまったがために。

「したいけどっ、いや、そういうことじゃなくって!フッフランソワーズはっ、なっ仲間なんだぞっ!!」

真っ赤な顔で、フランソワーズの香りがする黄色のマフラーを手にしながら、
のんびりと一歩、恋の道へと足を踏み入れた。







end.















*猫バスのティッシュケースが欲しくて仕方なかった時期があります(大分昔の話しですが)。
欲しいときに限って見つからない・・。
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冬の観覧車@ラグビーさんイラストに、いらんことする私
iRugby39comic_20091130002524.jpg


ふふふ。
以前に遊んびで作った○泉○のフレームを使ってです(あ、フレームと色塗り担当はachikoです)
”夏”にいただいたんで、季節を考えて(笑)いままでホールドしておりました!


ラグビーさんと、”39”巻か”93”巻にするかで、93巻はないでしょーっ!と(笑)
と、言うわけで。

どんな内容のコミックスなのかは、みなさんお好きに妄想☆してくださいねー。
とにかく、39巻まで続く長編です(笑)


時間があれば色塗りとかまた別ヴァージョンでお届けできれば・・と思っております。
クリスマスモードとかで♪・・お正月モード♪とか・・・時間があれば・・・・・
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