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距離、200メートル。
移り変わりの激しい都心のど真ん中に、新しくオープンしたベーガン用のカフェ。
肉・魚はもちろん、卵もミルクも、動物製品は一切使っていないという。

そんなカフェがあるとどこかの雑誌で目にして、「へえ、おもしろいな」と
感想を持ったために覚えていた。

残念ながら(?)共同生活をしている多国籍な住人たちの中には、ベーガン
はいなかった。
日本ではベジタリアンはよく耳にするけれど、ベーガンと呼ばれる人には
滅多にはお目にかかれないと思う。・・・と、そう思っているのは、僕だけで。
実は意外にたくさんいたりするのかも?


「ご注文はお決まりですか?」

珍しく日当りの良い店には、僕以外の客はまだいなかった。
開店時間の10時を少し過ぎただけだから、当然なのかもしれないけれど、ちょっと
意味なく静まりかえった店内に緊張してしまった。

案内された席で笑顔で接客してくれるウェイトレスさんの手から、紙ではない丸い
コットンのコースターがテーブルに置かれ、ミントの葉がちょこんと乗っている水の
注がれたさわやかな印象のグラスが僕の目の前にやってきた。

「えっと、・・・珈琲を」
「ミルクはソイミルクになりますが、大丈夫でしょうか?」
「ブラックでいいので、ミルクはいりません」
「かしこまりました」

ウェイトレスさんがさらりと長方形のプラスティックホルダーの上で、僕の
注文(オーダー)を書く。
その間に、店に僕以外の客が入って来たので、少しばかり緊張していた躯を
もそもそとほぐした。


「少々お待ちくださいませ」

決まりゼリフを言い切らないうちに、席を離れたウェイトレスさんと、レジ近く
に立って客に”2名さまですか?”と尋ねていたもう1人のウェイトレスさんの
スカート丈を、無意識に見比べた。


「ふうん・・」

僕の注文(オーダー)を取ったウェイトレスさんのスカート丈が異様に短い。
視線だけでスカート丈が短いウェイトレスさんを見送りながら、尻の下敷きに
なっていた携帯電話を救出する。

服以外に身に何かをつけるのが、苦手な僕は、腕時計もズボンに突っ込んでいた。
今は携帯電話のおかげで、時計を何回も洗濯機に放り込んでしまうこともなくなって、
助かっている。


さすがに、携帯電話は洗濯機に放り込むことはしないから。
時計の買いなおしや修理代が浮いてとても助かっている。

時計の役割が90%を占める僕の携帯電話で、今日も時間を確認する。
ついでにマナーモードに切り替えてテーブルの上に置いた。
手持ちぶたさを誤摩化すように、テーブルの上に置かれたままのグリーディング
カードのようなメニューを視線で追ってみる。


「・・・健康そう」


さっと目を通しただけで勝手に頭の中のHDみたいな場所に記録されてしまった
ことに苦笑しつつ、頭に入ってしまったメニューをじっくりと復習しはじめる。


彼女が来たら、軽く何かを食べようと考えながら視線をあげて、目の前の空席を
見つめた。



僕の眼の前に、誰も座っていない椅子がお行儀よくテーブルにぴたりとひっついている。
その椅子の背を通り過ぎて、案内されたテーブルに着いた2名様へ注文(オーダー)を
取りに行く、短すぎるスカートのウェイトレスさん。の、次に、視線をテーブルの上に
置いた携帯電話へと視線を移した。




彼女との約束の時間まで、あと53分22秒・・1、19、18・・・。



約束の時間までをカウントしながら、目の前の空席に思い浮かべた彼女は、
両腕をテーブルについて可愛らしい顎を載せた手に、ふにっと膨れた頬を描く。

きらきらの晴れた青が僕を見ている。



キミはこの店のメニューを見て、どんな顔をするだろう?
どうしてこの店を選んだの?って訊かれたら、「おもしろいだろ?ちょっと
覗いてみたかったんだ」って答える予定だ。

僕が座る椅子の背にかけたジャケットのうちポケットには、「そうだ、こんなのを
バイト先で見つけて」と言って取り出す練習済みの、前売りチケット。


ナッツクラッカーの公演チケット。
残念だけど、24、5日のは売り切れで、22日公演だ。





今日のイベントはコズミ博士のお膳立てだけど、次に繋ぐのは僕自身。
だから、季節的に狙うはクリスマスっしょ?


驚くかな?
びっくりするよね、きっと。
だって、僕がだし。

それとも、もしかして・・・・。
いやいや、そんなハズはないと思うんだけど、・・どうだろう?

僕の気持ち、まったく解ってないはずはないと、思うけれどさ。





「・・・・あのぉ・・」
「!」


うわっ。


「お待たせいたしました」
「あ、はい、はいっっ・・・ありがとうございます」









うわー・・・にやにやした顔で空席を見つめてたから、変なヤツって思われた?!


「ごゆっくり」
「ど、ど、どうもっ」


ウェイトレスさんの笑いを堪えるような引きつった笑顔が、僕の頬を赤く
染めた。







フランソワーズとの約束の時間まで、あと・・・。
冷静になろう。

変な妄想しないように、僕はテーブルの上の携帯電話を睨んで彼女との約束の
時間までをカウントしていたら、淹れたての珈琲をあっと言う間に飲み干して
しまった。


「・・・・すみませー・・ん」


彼女が車であと何杯、珈琲頼むんだろう、僕・・・。








***

彼が「ここで待ってるから」と言ったカフェ。
聞き慣れない”ベーガン”と言う言葉に、「店でメニューを見たらわかるから、
楽しみにしていてよ」とジョーに言われたけれど、我慢できなくてバレエ仲間に
尋ねた。

何人かの人が、最近できた可愛いくてちょっと珍しい0店だと教えてくれた。




「・・・うそ、約束の時間までまだ・・・」

彼と外での待ち合わせは、珍しくない。
そんな待ち合わせは行く先が決まっている。だから、待ち合わせ場所も、彼が
路上脇に寄せた車だったり、駅だったりが常だったけれど、今日は違う。


コズミ博士の、お気遣いに感謝して。





「・・・30分以上も前よ?」

腕時計を確認にて、私は笑いが溢れた。
彼も彼なら、私も私。

カフェの内部がよく見える、大きなガラス窓の向こうにいる、癖のある髪の人は
簡単に見つけられた。
もちろん、私がいる場所はその店から約100mほど離れた交差点だけれど。

嬉しさと恥ずかしさに、興奮した気持ちに反応して急いた、足が悪いのよ。
時間までどこかで暇をつぶせないかしらと、眼を使う。


一応、約束のカフェの場所を、その眼で確認したときに知ってしまった。







「・・・・ふふふ、ねえ、ジョーも・・・・私と同じ理由なのかしら?」




どうしよう?
約束の時間きっちりに行く?
待たせちゃう?

それとも・・。


いますぐにでも、走り出したくて、ウズウズしている足。
じんわり広がっていく、わくわくとした好奇心と対象的に、ばくばくと音を
立てる緊張した心臓がくすぐったい。






私はもう一度、視線を左手首の時計に戻した。
そして、彼へと再び視線を戻す。

さっそく珈琲のおかわりを頼む彼が視えた。
せっかくのベーガンのお店で、いつもと同じ珈琲だなんて、おもしろくないわ。


<009、珈琲のおかわりはそこまでよ!>
<!?>
<人の足ばっかりじろじろ観てるなんて!ジョーのH!!>
<はっ?!え、うそっ観てないっ!!観てないよっ!!絶対に観てないっ、て、
フランソワーズ、キミどこにいるのっ!>


んふふふ♪
あなたまで、距離、あと200メートル。







end.        







写真素材byミントblue
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Little by Little・22
(22)





学院本館との間に中庭園をはさみ、向い合うようにして建てられている星辰(せいしん)館。
そのメイン・エントランスは学院本館の裏にあたる、第一グラウンドに面している。

第一グラウンドに作られたイベントブースはすでに片付けが始まっていた。
そのためにメイン・エントランスは使用できないように鍵がかけられ、エントランスのドア前に警備員が1人、折りたたみ椅子に腰をおろし、右耳につけたイヤホンから流れるJ-popを聴いている。

星辰(せいしん)館と中庭をはさんだ本館を繋ぐドア1つだけしか生徒、一般来客者は使用できない。

関係者以外立ち入り禁止となっている地下への道は、当然のごとく解放されておらず二人の警備員がその場を守っている。
警備員は暇そうに手持ちの携帯ゲーム機で対戦ゲームを楽しんでいたが、後夜祭/プロムパーティが終わりに近付くにつれて、慌ただしくなってきたために、ゲームどころではなくなった。


「IDカードはお持ちですか?」


開け放ったドアを通りすぎようとしたノータイの、青みがかった黒いスーツ姿のドイツ人を、呼び止めた。


「ああ、すまない・・・」


男は容姿からは想像できないほどに流暢な日本語で話しながら、スーツの上着から銀のチェーンに通したIDカードを出した。
この真夏日に手袋をしていたことが印象的だった。
警備員の一人はIDカードをさっと確認して彼を星辰(せいしん)館内への入場を許した。













####

大ホールへの出入り口は東西わかれて5カ所に設えられている。その内の1つはロビーから二階席へと続いて、第一グラウンド前エントランスに繋がっている。

大きく開け放たれている今回使用されている大ホールで入り口のドアを出ると、待ち合い室を兼ねるロビーが広がり、絨毯が敷かれた左右に広がる廊下が視界に入る。
ホールを出て左手に、手荷物を受付用の小さなクロークコートが設けられていた。
ホール内で溜まった熱気は開け放たれたドアからロビーに移動する。中庭を繋ぐ観音開きのドアもめい一杯開かれており、星辰(せいしん)館内の冷やされた空気が夏夜の空気に混じり合う。
人の流れからそれた人々によって小さなグループが忙しなくそのメンバーを変えながら、ロビーにいくつもの和を描いた。その中に2人の学院生と1人の参加者が、壁際に並ぶ近代的な室内に会わせたモダンなデザインの長椅子前にいた。
彼らの会話はロビー内のざわめきに飲み込まれて、誰も気にする者はいない。その場の空気に馴染んだ、1枚絵にきちんと描かれるのに相応しい3人。
ホールから出て来た人の波を縫い、ジェット、フランソワーズの前に立ったジョーは、彼女とは視線を合わせずにジェットへと視線をむけた。


「アルベルトが駄目なら、君がフランソワーズをホテルまで送っていってくれ。空から戻って来てくれたら、そのまま任務についても問題ないだろ?」
「断る、その2」


009なのかジョーなのか、判断しづらい彼は、入学案内のパンフレットに載ってもおかしくないほどにきっちりと規則正しく制服を着こなしていた。対するジェットは、彼流に制服を着崩している。
学院指定のネクタイは、パーティが終わったと言うとこでブレザーの右ポケットに突っ込まれ、収まりきれなかった部分がはみ出している。



「・・・・リーダーとして命令する、002」
「けっ!関係ねーよ。004が断った理由考えろって。なんで粧した他人の女、しかも”リーダーの彼女”を送らなきゃなんねーんだよ」
「「!」」


ジェットの発言に、敏感に反応した2人。
ジョーとフランソワーズ。




昼食後、ホテルに戻ったギルモアは、自分が手に入れた情報をまるで芸能リポーターが特ダネを速報で流すがごとく、携帯メールを使い00メンバー(001、003、009を除く)へと”ジョー告白!フランソワーズと想い通じ合った。公式に2人の交際を認める。が、このことに関しては他言無用。”と一斉送信した。

ジェットがそのメールに気づいたのは、制服に着替えるためにホテルの部屋へ戻ったときだ。
他言無用の意味がない。と、受け取った者全員がこころの中でギルモアに突っ込みを入れたが、意味としてはジョーとフランソワーズに余計なことを言うな、今まで通りでいろと言いたかったのだろう。
各々に同じような考えでギルモアからのメールに答えを出した。


けれど、ここに裏切り者が現れた。


「みーんな知ってるんだぜ、お前らが”両想い”ってこたあよ。2人で外泊して、なんでもなかった”俺たちは別に~”で通じるかっつーの。・・・博士に報告したのが、まあ、失敗だったな」


にやあああ。と口角をU字を描いた笑顔。



「・・・・・・・・・・・・・・・ミッション中」


ジョーは009として冷静に、答えた。
フランソワーズの思考は停止。美しい彫刻となってぴくりとも動かない。


「どうせ戻ってくるんだったら、誰が送っていっても一緒だろ?だから、お前が送っていけよ。なあ、フランソワーズ、そっちの方がいいだろ?」


フランソワーズはジェットの声に反応しない。
2人を視界から外して俯き、固くなっているフランソワーズに、ジェットは軽くため息をつきながら腕を自分の隣に立つ彼女の背中へと回した。
フランソワーズの背後から人差し指で、むき出しの丸く柔らかそうな曲線を優雅に描く大理石のようにつるりとした、思考停止中のフランソワーズの肩を指し、ジョーに言う。


「おい、いいのかよ?この、”フランソワーズ”を独りでホテルに戻らせてよ!」
「・・・ぜ、004と合流することになっている」


軽く舌打ちをつくように、口元を歪ませたジョーの視界がフランソワーズの肌に注目した。
露出を控えた服を選び、好むフランソワーズが、春少し前に”ローレライ”と言う店で、彼女自らが手に取り選んだワンピース。
とてもフランソワーズに似合っている。
彼女のためにオーダーメイドで仕立てたと言っていいほどに。けれども大胆な肩周りの露出に、ジョーは目線の置き場が、どうしても見てはいけない部分へと流れて落ち着かない。


「オレが合流すれば良いだろ?」


頭1つ分半ほどジョーよりも背が高いジェットは、軽く腰を曲げてわざと視線をジョーに合わせた。
フランソワーズの肌をジョーの視線が犯すのを防ぐつもりで動く。


「・・・命令しっxて、して、いるのは、お、・・ぼ、僕だ」


顔はにやにやと笑っているが、からかいを含まない真剣な瞳で「お前がフランソワーズをホテルへ連れて帰れ」と命令するジェット。
その彼の視線を振りきろうと、顔を右へと振ってジョーは大げさにジェットから顔をそらした。


「だから、なあ、こm」
「ジョー・・・が、言ったの?」


ジェットの声にからまったフランソワーズの声。

星辰(せいしん)館内のロビーは、いつの間にか人の流れが途切れていた。
チャンネルのあっていないラジオが流れているような雑音が、会場内から微かに流れているだけだ。
それらの音とボリュームが変わらないフランソワーズの声に、ジョーとジェットは彼女の声に耳を傾ける。


「博士に、・・・その・・・言ったの?」


か細い声がジョーとジェットの耳に切れ切れにとどく。ジェットは躯を引いて、ジョーの視界にフランソワーズを戻した。
ジョーとジェットの視界に、細く華奢なあごを胸元にくっつけ、まとめていない髪が亜麻色のカーテンとなって表情を隠しているフランソワーズがいる。
彼女が着ているワンピースと同じコーラルピンクのカチューシャが視界にはいり、そのカチューシャが同色のレースによって模様がついていたことに、今初めて気づいた、ジョー。


「ね・・・ジョー?」


ミシン色のようにぴん。と張った細い声が、ジョーに答えを求めた。



「・・・うん」


ジョーはこくん。と、小さくうなずきつつフランソワーズの声に答える。


「・・・・・昨夜のこと、を、謝罪したときに、その・・・言ったというか、言わされたというか、・・なんて、言うか・・博士に・・その」
<バカっこういうときははっきり、堂々と言えよ!”つきあいはじめました!”って報告したってよっ>


しごろもどろで答えるジョーに、脳波通信でするどく突っ込むジェット。


<付き合いって・・>
<好きって言って、言われて、んじゃっ、付き合うってことだろうよっ!>
<・・・・・・・・・・>


---おい・・・ジョー、てめえ、告白しただけで終わりとか思ってんじゃねえだろうなあ?!



「・・・・・・・s、そういうの、博士や、みんなに、言うこと、かしら?」
「え?」
「・・・・ひどいわ」
「ご・・・め、ん」
「・・・」


ジョーとフランソワーズが話し出した、その会話の雰囲気から、自分が参加するのはあまり良くないだろうと、”長年の経験”が自然と躯を動かす。


「私,みんなにどんな顔をして・・」
「・・・」


2人から意識的に足をひきつつ、脳波通信で004の個人チャンネルに合わせて報告しつつ。
耳の聴音レベルは最大にしておくことは、忘れない。そんなジェットがそっと左足を一歩後ろに下げて2人から離れようとしたとき、フランソワーズが顔をあげた。



---フランソワーズ・・・・・襲われっぞ、というか・・・・・襲ってくださいと言ってるようなもんだぜ?



真っ赤にそまった顔はイチゴと言う例えが似合いすぎるほどに赤く、染まった頬を両手でおおっているために、その手の白さが対照的だった。


「・・・も・・・、恥ずかしい・・・。やだ・・・みんな、本当に、その・・・・」


空色の瞳は戸惑いと恥ずかしさの熱に潤み、ミッション前にさんざん泣いたフランソワーズの涙腺はかなりゆるんでいるようだ。


「ふ・・ら・・」


無言の悲鳴がフランソワーズからきこえる。
ジェットは素早く足を動かした。


「・・・・ま、そういうことで!009、後はまかせとけ!戻って来なくても問題ねえぜ」
「待てっ、ゼロz」


ジョーはジェットを呼び止めようとしたが、視線はフランソワーズから離すことができなかった。






<そういうこったでミッション変更、009が003を送って行く。ついでに裏ミッション完了ってか>
<お前に009の役は重すぎるだろうが、仕方ないな>


さすがに加速はしなかったが、ジェットは眼にも留まらぬ早さで2人だけを残して地下へと向かい、009の代りに004と合流する。


<・・・・あんなフランソワーズ、初めて見たぜ>
<フン、どんなだ?>
「こんなだ!」


アルベルトの前に現れたジェットが、眼に焼き付けたフランソワーズの真似をしてみせた。


「撃ち落とされたいか?」


ジェットからの報告に対する感想は、冷たい一言で終わったけれど、アルベルトの足取りがいつもよりも軽やかにジェットにはみえた。













####

「みんなに言うなんて、私、考えてなかったの、だって、その、今日で、昨日で、まだ、1日しか・・・」


恥ずかしさにもだえるこころを解放して、きゃあああ。と、叫べない場所なために、必死で押さえているが、全身を包む羞恥心の限界は近いらしい。


「・・ジョーの、っ」


恥ずかしがるフランソワーズを目の前に、ジョーの思考は”可愛い”と言う文字がぽんぽん飛び跳ねていた。


「H」
「え・・・ち・・って、この場合は・・・。あ、でも」


こんな、フランソワーズは知らない。
出会ってから今まで過ごした時間の中で、一度も目にしたことがない。

バレエを一筋に生きていたために、一般平均的な少女たちよりも遅かった恋の目覚め。
雑誌や小説の中でなら、いいな。と思えた人は、まるで白馬に乗った王子様のような、夢の中の存在。
一度、淡く胸を高鳴らせたのは、当時のオペラ座で1stプリンシパルのダンサー。



リアルに恋をしたと気づいたときには、すでに思い出として胸奥へと沈めておかなければならなかった、フランソワーズ。



「・・・・・・あの・・・さ・・・キスしたことは、言ってないから」
「!・・・やっ・・・。言わないでっ」


頭を左右に振って、亜麻色の髪がロビーのライトをきらきらと弾く。


「~~~~~~~~っどうしたらいいの・・」
「どうもしなくていいんじゃない、かな?」
「よくないわ、よくないのよ・・」
「よくないなら、よくなるようにしよう」


パニックに陥り始めたフランソワーズを、ジョーは腕をのばして、その胸に抱きしめた。


「!?」
「・・・・ジェットはもういないよ」


「人に見られるわ!」と、ジョーの背後を通りすぎていく、会場内から出て来た何人かを意識して、フランソワーズはジョーの腕から逃れようとした。
けれど、ジョーはその抵抗を押さえ込むように腕にぐっと力を入れた。意識して、素手がフランソワーズの肌に触れないように気をつけながら。


「ジョーっ・・・あの、」
「・・・・・・うん、観られてるね」


ホールから出て来てたのは、数人の学院生だった。
「あれ、誰だよっ誰だっ」「シニア、だ、シニアのほら!」と、ひそひそとした声が、ジョーの背後を流れていく。


「ミッション中・・よっ」
「・・・・キミを送っていく。それもミッションの1つだ。・・・・それに、僕がリーダーだし、僕がいいって言ったら、いいんだと思わないかい?イワンだって何もないって宣言してたし、あとは002と004にまかせて遊びに行ってもいいくらなのかもしれないよ?」
「え・・、あ。え??」
「グレートじゃない、本物の俺だよ」


さらに、ジョーはフランソワーズを抱きしめる腕の力を強めた。フランソワーズの混乱は深まる。
ジョーがジョーらしくない。009が009としての務めを放棄するような発言。


「フランソワーズ・・、キミに、お願いがあるんだ」
「?」


フランソワーズの髪から香る、昨夜と同じ香りを胸に吸い込みながら、ジョーは言った。




「邸に戻ったら、篠原当麻とは関わらないで欲しい」























篠原、フランソワーズをあきらめてくれ。










フランソワーズのこころの奥底にある願いを、篠原を通して気づいた。
それがどういうことか、よく、わかっている。




ずっと彼女を見てきたから。
アランのことも、あった、から・・・・・。


たとえ、ひとときでも、その想いが満たされるのなら、彼女が取り返せない時間を取り戻すことができるなら、それを彼女が望むなら。





フランソワーズが望むなら。







望んでいるから。


知っていたから。





















悔しいけれど。

俺の手で、どうにかしたくても・・・できない。
彼女の望みはイワンでも、難しくて。






けれど、手に入るかもしれない。
篠原当麻という存在を通して、彼女は連れ去られる”前の日”に帰ることができる・・・。



限りある時間だけれど。
それを望むなら・・・。


望んでいないとは、いえない、彼女だから。


わかってるだろうけれど、俺は、篠原、君みたいな男にはなれないんだ、よ。
なりたいと言っても、なれないことは、解りきっている。





彼女の望みを叶えて、あげるなんて、・・・。
・・・俺は、そんなにできた人間じゃないんだ。






彼女が取り戻せない時間なんて、俺には関係ない。
それは、俺が知らない、俺がいない、出会う前の彼女だから。



そんなの、知るかよ。




















考えない。
もう、考えない。



怖がらない。
逃げない。













ジョーは、ゆっくりと腕からフランソワーズを解放した。




---俺は、強くなる・・・。今よりも、それよりも、・・・・・強く、なる。




「・・・・大切な人を重ね続けるなら、・・・だけど。でも、できたら・・・。今までのように、ミッションで関わった人たちと同じように、・・・思い出にしてほしい」
「・・・・」
「もっと欲張ったことを、言わせてもらうと・・・。その、・・・・キミに、ちょっかい出す、奴、・・・・・・我慢できないと、思う、から。俺が、喧嘩ふっかけないうちに、・・・・危ないし、・・人身保護のためにも・・・・・」















残る者も、一足早く旅立つ者も、6年間の日々を長いようで短かった青春の日々を胸奥に誇らしげに飾り、月見里(やまなし)学院を後にした、今日。

高等部のシニア以下の学生たちはこのまま夏休みに入り、新学期は9月半ばから始まる。
退寮するシニアは週明けの月曜日に、寮内にある荷物を引き取ることになっていた。










####

「あっと言う間だなあ、まったく・・・,」

リビングルームの飾り棚に置かれている世界の名所シリーズの日めくりカレンダーをぺりっと剥がしたグレートが、自分で調合した紅茶の香りを楽しみつつ、呟いた。


あやめ祭3日目の翌日、ミッション終了1日目。

先に邸へと戻ったギルモア、篠原当麻、そして明日に戻ってくる予定の津田海、ピュンマの4人以外のメンバーが家路に着いた。その日のうちに、ジェットは009の手によってメンテナンスの準備に入る。
リビングルームから昼食後に庭に出て、メンテナンス前の最後の一服をアルベルトと”とある報告を含んだ”会話中のジェットに、時間だと脳波通信で001から呼ばれた。


「過ぎてしまえば、まるで泡沫・・・どんなに辛く苦しいことでも、よき経験となり思い出となって懐かしむことができる・・ハズなんだが」



ミッション終了3日目。

津田海とピュンマの両名がギルモア邸に帰宅。
彼は通いの病院のスケジュールの都合により、実家に戻るまでの間、ギルモア邸に滞在することとなっていた。予定では1週間ほどだったが、お盆近くまで滞在したいと言ってきた。


「実は、海の(競技用)カーボン繊維製の義足を調整中らしくって・・実家に帰ると調整が先延ばしになっちゃうらしいんだ」


海の姉二人と一緒に海の義足を手がける、篠原グループが運営する篠原技研を訪れたピュンマの報告により、ピュンマの弟のような存在の海に対して誰も異議を唱えるメンバーはいなかった。



破り取った日付を見ながら、グレートはくしゃりと握ってそれを手にため息をついた。


「時間ばかりが過ぎ去る世の中にて、時の流れにのれずに彷徨うのは、我が身が普遍の躯であるからか・・ああ!の呪うは行き過ぎたテクノロジー!鋼の躯と無敵の勇気っ!!」


そして、009がミッション終了と宣言してから、数えて一週間目の今日。


「朝っぱらからつまらない事いってないで手伝うヨロし!」


ダイニングルームから顔を出した張大人がふん!と鼻息荒くグレートに文句を言った。


「へーへー・・フランソワーズはどうしたんだよ、大人?」
「フランソワーズはゲストルームよ、博士と一緒に当麻くんの診察中アル」
「・・・・そっかあ。調子は大分いいみたいだけどなあ」


月見里(やまなし)学院、9月の入寮までの間、篠原当麻を預かって欲しいと言う篠原さえこからの依頼。
あやめ祭3日目の体調不良がたたり夏風邪をこじらせたために了承する形となった。



「無理させてまた、病気は可哀相アルからしてネ!とっとと手伝うヨロシ!」
「人使いが荒いんじゃないの~?朝のモーニングティを楽しむ暇もないなんて、トホホ」


手の中の過ぎ去った昨日の日付が書かれた紙を、ぽい!っと部屋の隅にある屑篭へと投げる。


「仕方ないネ!暇してるのはあんさんくらいヨ」
「ピュンマは?」


遠くはなれた屑篭内にと見事命中させた様子を視線だけで追った、張大人は答えた。


「海くんの病院に付き添ってるネ、もうとっくに出かけたアルよ」


ウッシャ!と、命中させたことに小さくガッツポーズを取ったグレートが言葉を続ける。


「ジェロニモは?」
「地下アルヨ」
「ジェットは?」
「それを聴くのことか?!」
「あ、ああ・・そうだ、そうだったなあ」


---ジェットは昨日から本格的にメンテナンスに入っていたんだっけか・・・。


「ついでに004は調査に出てるアル」
「クラークんとこかい?」


手伝う気がないのか、のんびりとグレートはソファへと腰をおろして、紅茶を手に取った。



「絵里子・レキシントンを調べているアルヨ」
「っつーことは、朝飯は我が輩と大人だけかあ?」


胸いっぱいに紅茶の香りを吸い込んだ。


「当麻くんに博士と、フランソワーズ、そしてジョーもまだアル」
「その、ジョーは?」
「もちろん地下ネ!」
「・・・相変わらずかあ」


ズズズ。と、紅茶をすすったグレートは、紅茶の味など感じる余裕なく重いため息を吐き出した。


「結局、何も変わらんなあ・・・片思いだろうと両思いだろうと・・・」
「あんさん、何を期待していたアルか?」


ダイニングルームへのドア前に立っていた張大人は、スリッパを鳴らすことなく歩を進めて、グレートと同じようにL字型のソファに腰を下ろした。


「何って、別に・・・決まってるじゃないかあ!・・って、おお、それより。土地の交渉はどうなってるんだ?」
「今はそれどこじゃないアル、もう少し落ち着いてからでいいネ。イワンも夜の時間に入ったアルし」
「でもよ、早くしないと売れちまうんじゃねえか?」
「その時はその時なのね、ご縁がなかったと言うことアルヨ」


張大人はにっこりと笑った。










===23へと続く




・ちょっと呟く・

ハッピーフィーリング、ハッピーエンディング!と呟き続けて、書き直し続けて。
幸せになれ、幸せになれ、と願って。
22とうまくつながってますように・・サンタさん。
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君に振り回される自分がいる/7(完)
「足下にお気をつけ下さい、ドアを閉めます」


係員の誘導に従ってゴンドラに乗り込んだ、ジョーとフランソワーズ。
外側から係員がドアをがつんと力強く押し、銀色の取手を両手で握りしめると、ぐっと両肩に力をいれて、体重を載せるようにしてドアをロックした。

丸いゴンドラの中で、ジョーはまっすぐに建てず、少し腰を曲げながら、くるっと躯を回転させて、フランソワーズと向い合わせになるようにふっくらと綿がビニールの中に詰められたベンチに腰を下ろした。フランソワーズはゴンドラに乗り込んですぐに、入って右側のベンチに腰を下ろすと、躯を捻って少しずつ遠ざかって行く観覧車乗り場ゲートの係員に小さく手を振った。
フランソワーズのすぐ後ろに並んでいた、Wデートらしき4人のうちの1人がゴンドラの中でそんなフランソワーズを見上げていたので、自然に視線がその1人とぶつかってしまい、フランソワーズはにっこりと視線があった人にむかって微笑むと、躯の位置をただして、ジョーと向き合った。


「マーブルチョコレート♪」


ゴンドラの中で、肩からかけていた小さな皮作りのポシェットに手を伸ばしたフランソワーズ。
その中には、薄いお財布(所持金3000円)と着ぐるみショーでもらった年間フリーバス(乗り放題)に、プリクラのシールが2枚、きちきちに入れられて、筒状の箱2/3が突き出すように出ている。そのせいで、彼女のポシェットのマグネット式のボタンが中途半端に開いていた。


「まだお腹いっぱいで、食べられないよ・・・」
「お菓子は別腹よ!」


ジョーはフランソワーズの膝上にある、彼女のポシェットを見る。
筒状のそれはフランソワーズの手の動きに合わせて、かしゃかしゃ。と、鳴った。


「無理だって・・」


眉根を下げて苦笑しながら、ジョーは躯をフランソワーズが身を乗り出すドアとは反対方向に捻り、窓から外を見た。


「・・・思ったよりも進むのが早いね。世界最大級って言うけど、本当なのかなあ?30分って短いと思うんだけど?」
「ふふ、何色がいい?」
「!」


正面のベンチに座っていたフランソワーズが、すっと軽やかに立ち上がり、一歩半、宙を舞うように足を出すと、すとん。とジョーの隣へと座った。


「ね?」


回転焼きのような形をしたゴンドラは、半分が透明な窓となっている。高く、高く、上がって行くゴンドラの窓が飾るのは、太陽の光に薄まる柔らかな乳白色の空。


「な、何色でもいいよっ・・」


花の香りが舞い、ハチミツ色の髪がジョーの目の前で揺れて、窓枠の銀色の部分からきらっと弾けた昼間の明るさが、フランソワーズの髪を撫でた。
肩と肩が触れ合っうと、フランソワーズが、つんと愛らしい丸みのある顎を上向けにして微笑む。

窓側に捻ってい躯のまま、振り返るように見たその笑顔に。
かしゃ。と揺れたマーブルチョコレートの箱が傾いて、しゃらしゃらと流れ出した。


「ちっちゃくて可愛い♪」


フランソワーズの手のひらに溢れたカラフルにキャンディ・コーティングのミルクチョコレートたち。


「フラン、こんなにはいらないよ」
「食べて!」


フランソワーズは手のひらいっぱいに乗せたチョコレートを落とさないように、恐る恐る移動させて、ジョーの目の前までもってくる。


「半分でいいって・・・」
「だめ!これはジョーの分なの」


そうなれば、そのチョコレートたちを受け取らない訳にはいかないので、ジョーは両手を水を掬うような形をつくる。


「にっこりがいっぱいだわ♪」


ざら。と、ジョーの手のひらにマーブルチョコレートをうつした。


「・・・・にっこり?」


フランソワーズは、ジョーの手のひらに乗せたチョコレートたちの中の、1粒、ピンク色をつまんだ。


「ふふふ」


それを、ぽい!と、口に放り込む。


「フラン?」


かり。と、奥歯で噛んだ。
甘い見る行くチョコレートが口の中に広がって。


「甘くて、ふふふ♪・・美味しいの!」


満面の笑みのフランソワーズの頬が、嬉しそうに高くなる。


「・・・にっこり、ってそういうこと、ね」


片手にチョコレートたちを集めて、緑色の一粒を、つまんで食べた、ジョー。


「美味しいってすごいことだと思うの」
「うん」


2人は同時にもう一粒づつ、ジョーの手のひらからつまんだマーブルチョコレートを食べて、微笑みあった。







世界一のシェフが作った、世界一贅沢で、最高の料理でも。

1人じゃ、ぜんぜん美味しくない。
”美味しい”を一緒に楽しんでくれる誰かがいないと、そしてその誰かが。




こころから、大好きなキミとなら。



たとえ、公園の水道水を汲んだ一口の水でも、世界で一番美味しい水になる。



















「お誕生日おめでとう、ジョー」
「・・・・ありがとう、フランソワーズ」



ゴンドラはゆっくりとゆっくりと2人を乗せて、広い空色の世界へとのぼっていった。













***

温かな昼下がり、気持ち良くレジャーシートの上で昼寝をしていたギルモア博士が、子どもたちの歓喜の声にふと目を覚ました。


「・・・なんじゃ?」


青空を飛ぶ、竹とんぼが、ギルモアの視界を横切った。


<子ドモタチガ見ツケタ樹ノ枝ヲじぇろにもガネ>
「ほおほお・・・」


どこから見つけて来たのか、数人の子どもたちが引きずるようにして持ってきた枝を見て、大人たちが危ないから枝で遊ばないようにと注意した。
その一部始終を見ていたジェロニモは、イワンを寝ていた博士の隣に座らせると、子どもたちが拾った枝を果物ナイフで削り、竹とんぼを作って空に飛ばしたのだ。

遠目にジェロニモを見ていた子どもたちが、きらきらとした好奇心を瞳一杯に宿しながらも、体を強張らせながら、恐る、恐る、彼に近づいてきた。


「飛ばしてみるといい。」


手早く2つ目を作り、子どもたちの中でも負けず嫌いそうな男の子に、ぬっと腕を伸ばして差し出した。
ジェロニモの顔をと手にある竹とんぼを交互に観て、男の子はやったあ!っと、声をあげると、ジェロニモの手に飛びついた。
それを機に、子どもたちが私も!僕も!と、ジェロニモに竹とんぼのおねだりを始めた。

眠っているギルモア博士を起こさないようにと、2、3mほど離れたところでジェロニモは子どもたちに囲まれた。



<気持チイイネ>


体を起こしたギルモアの膝の上に抱かれたイワンが空を見上げた。
彼の視界の端っこにいったいいつの世界最大級なのか、大きな観覧車がゆっくりと円を描いてまわっているのが見える。


「おーい!」
「お待たせネ!」


いくつかの箱を手に抱えた張大人とグレートが、ギルモア博士とイワンに向って、大量大量!と、声を上げて戻って来た。


<じょーノオ誕生日第2弾ハ、キノコぱーてぃニナルノカナ?>


















***



かり。と、チョコレートコーティングキャンディを噛む音以外、ゴンドラ内は静かだった。
ときおり響く観覧車の活動音と、前後のゴンドラに乗っている人たちの笑い声が耳に届く程度。






お誕生日おめでとう。



改めて、フランソワーズからお祝いされたジョーは、ありがとう。と、返事をしたものの、なんとなく気恥ずかしくなって、それ以上の会話を繋ぐことができなくなった。


「どうしたの?」
「え?」


ジョーはお腹が一杯で食べられないと言いつつも、手のひらに乗せたチョコレートを全部一度に口に放り込み、ゴロゴロと口の中でぶつかり合うチョコレートの粒たちをガリガリと噛んだ。


「?」
「ん・・降りたら、なにか飲み物が欲しいかなーって」


そわそわとしたジョーの雰囲気にフランソワーズも多少感化されてしまったのか、いつもよりも瞬きが多く、落ち着きなく視線をきょろきょろとさせた。


「そうね」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」


お互いに隣あって座るのは特別なことでもなんでもない。日常の中で当たり前のことなのにも関わらず。


フランソワーズは右側がぴりぴりと痺れている感覚に、戸惑った。
ジョーは、左側だけ日焼けサロン用の紫外線ライトを当てられている感覚に陥った。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


ゴンドラ内が、2人が出す意識的な緊張の雰囲気にあっと言う間に空気をかえる。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」」


なんとなく、息苦しい。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(大汗)」」


酸欠状態になることなどないと解ってはいるけれど、なんとなく落ち着かなくなってジョーは立ち上がった。
左右の窓すべてを全開にする。けれど、窓自体は高さ15cmくらいしか開けることができない。もちろん、それは窓から落ちないようにと、安全のため。


「・・・窓を開けた方がいいかなーと・・・・ね?」


訊かれたわけではないけれど、窓をあけた理由を口にした。


「そ、そうね!」
「ね?」


ジョーはフランソワーズの隣には戻らずに、彼女の正面に座り直したことに、少しほっとしてこころの緊張を解きほぐしつつ、何か会話と頭をフルに回転させたが、こういう時に限って、ごちゃごちゃと意味の解らないことばかり思い出し、気の利いた言葉が浮かんで来ない。


「「・・・・・」」



再び、ゴンドラ内に沈黙が訪れる。



「「・・・・・」」



とにかく、落ち着こうと窓の外から聴こえる遊園地を楽しむ声に耳を傾けた、ジョー。
いつも通り!いつも通りに話せよっと、自分に突っ込みながら。


「「・・・・・」」



フランソワーズは、窓の外に視線を固定して躯をひねり、ジョーを視界から消した。



「「・・・・・」」




窓が飾る晴れた5月の青空を背に飾るフランソワーズに、今更ながら2人きりでいる状況に緊張する胸を抱える中、あらためて、フランソワーズ・アルヌールという、仲間を、家族を、目の前に居る一人の女性を見つめた。













ため息が自然とジョーの口からこぼれおちる。






---・・・フランソワーズ・アルヌール/サイボーグ003。フランス人、17歳。



「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」


ジョーは無心に、フランソワーズを見つめた。



「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」


飽きることなく、彼女を見つめる。






亜麻色と呼ばれる髪色が、天使の輪のような光をつくっていた。
髪に飾ったカチューシャは、彼女にはかかせないトレードマークの1つ。

こぼれ落ちそうな空色の瞳はいつもキラキラに輝いて、たくさんお希望と夢を描いて、語尾を跳ねさせるようなアクセントがあるフランス語を話すのに相応しいハート形のくちびる。
つんとした生意気そうな、小さな形よい鼻は知的に流れて、美しく優雅な横顔のラインとなっていた。






「・・・・・」
「・・・・・」


フランソワーズは窓の外の小さくなってしまったミニチュア模型のような園内を、強化グラスの窓におでこをこすりつけるように、身を乗り出して楽しげに眺めている。



「・・・・・・」
「・・・・・・」


その、横顔をジョーは見つめる。

















ボクは、・・・


きっとボクは。










キミを好きになるために、島村ジョーとして今日、産まれてきたんだ。








---好きだよ、フランソワーズ。
















「・・・・・・」


ジョーに観られている。


「・・・・・・」


ジョーにみられることは、別になんでもないことだけれど、なぜかいつもよりもくすぐったく、彼の視線を意識していしまう、フランソワーズ。


「・・・・・・」


こくん。と、甘い口内にたまった唾をフランソワーズが飲み込んだとき、窓の外へとむけていた視線を、ジョーへとむけた。










---・・・ああ・・・・・。




心臓が、恋の熱にチーズみたくとろとろに溶けていく。




























窓を囲う、銀色のセーフティー・バーに、肘を置いて。
頬杖をついた、角度に傾いた、顔。


同じ方角に流れた前髪が、ゆったりと白い光を流し弾いて。




滅多にみることがない、琥珀色の双眸がやわらかに細められていた。
手が包んだ頬に微かに触れている、微笑みを形作っていた唇が、かすかに動いた。
























”好きだよ、フランソワーズ”






















---え?






彼の、くちびるの動きに。


「・・・・・・」


彼の、琥珀色の両の瞳に。


「・・・・・・」


魅せられて。


「・・・・・・」


外せなくなった、視線。


「・・・・・・」



とろとろと溶けてしまった心臓が、今度はぐつぐつ煮立ってくる。



「・・・・・・」


ぐつぐつ、ぐつぐつ、大きな音で熱されていく音をごまかすように、手にしていた2/3ほどなくなったマーブルチョコレートの円柱の筒をぐっと握りしめてかしゃかしゃ。と、鳴らした。


「・・・・・・」


確実に大きくなっていく心臓の音を消してと願い、かしゃかしゃと鳴らし続けた。



---さっき、・・・え?・・・・そんな。・・まさか・・・・。








ゴンドラが、間もなく最も高い位置、頂上へとたどり着く。

窓を開けたために、ごー、ごーと、ジェットコースターが勢い良くレールの上を滑る音に、楽しげな絶叫が聴こえてくる。
かしゃかしゃと、マーブルチョコレートの筒は鳴り続ける。







・・まさか・・・・。
























”好き”って・・・・?・・・・そんな、の・・・。






















「ダメよっ!」


突然、フランソワーズが叫んだ。


「?!」


2人が乗るゴンドラが一番上に上りきったとき、かしゃ。と、フランソワーズの手の動きを止める。
フランソワーズは膝上にマーブルチョコレートの筒をおく。けれど、ころころとそれは彼女の膝から転がり落ちた。


「あ。」


ジョーは頬杖を解いてさっと立ち上がり、音をたてて落ちた、それを拾い上げた。




「笑ったらダメよっ」



フランソワーズへと渡そうと、顔をあげたとき。



「あっぷっぷいいいいいいいいっ!!」
「な?!」


汗ばんでむくんでしまった手で、おもいっきり今フランソワーズができる最高傑作の”変顔”を作った。




「むいいいいいいいいいいっっ」
「フランっっな、なっっんてっあはははっははっ今の顔!!やっやめなってっhははっあははあはははっひーっっあははははははははははっ、うっははははっははははははははははあっははっshっっっはははっははhsっっっしゃはははっっっ!!」


ジョーの腹の底から笑う声に、何事かと2人の乗る前後のゴンドラに乗っていた乗客が、覗き込むように様子をうかがった。


躯をくの字におって、笑いころげる栗色の髪の青年と、その彼にむかってうにうにと自分の顔を変形させている美少女がいた。








---もっ。アタシってば!ジョーがアタシに好きなんてっ、そんな妄想っ!もっ!もっ!もっ!もっ!!!もおおおおおっ!もっ!もっ!もっ!もっおおおおおっ!!





世界一の観覧車の頂上で、ジョーは人生でこれ以上笑うことはないだろうというくらいに、おもいっきり笑った。




「そ、それ以上はっ・・ふら、フランっ・・か、顔がっ・・・き、kキミの。っっはっgはははあっ顔っがっ」
「むにゅううううううううっっんっ」




















***

史上最強のサイボーグ戦士009、観覧車内で笑い死にす・・・ることはなかったけれど、頂上から残りの半周、ずっと笑い続けて、腹筋を確実に痛めたジョーだった。

フランソワーズは、にこにこと満足そうに「グレートよりすごいかもしれないわ、アタシ!」と笑っているが、どことなしに様子がぎこちない。そんな2人を打ち合わせていなかったにも関わらず、観覧車搭乗口で出迎えた家族たち、と合流。



閉園時間まで、家族みんなで思いっきり遊んだ。






















くたくたに疲れて邸に帰ってきたときには、車内でギルモア博士、張大人、グレート、フランソワーズは夢の中。


<マッタク。赤ン坊ニ世話ヲサセルナンテ>と、文句をいいながら、ふよふよとテレキネシスで家族をそれぞれの寝室へと運んだ、イワン。
ジェロニモはイワンに礼を言いながら彼を抱いて車から降り、トランクから荷物や園内で購入したお土産などなどを次々におろしていく。手伝おうとしたジョーに、「主役の手は借りれない。」と、言って早々に部屋で休むように促した。


「気にするな。楽しい気持ちのままベッドへ入れ、これらはリビングルームに置いておく、明日てつだってくれたらいい。・・ケーキは明日になってしまったな。」
「いくらなんでも今からケーキは無理だよ、ジェロニモ。夕食だって予定外にホテルのバイキングでだったし・・・いったい何回ボクはロウソクの火を吹き消せば良わけ?」

グレートと張大人が遊園地と一緒に経営されていた植物園と提携して『きのこのこのこ・春の味覚フェアー』をやっているホテルへとむかったのだ。
そのホテルでは、デザートコーナーでケーキをフランソワーズに皿に載せる度にろうそくをさし、火をともしては、ジョーに吹き消して!とフランソワーズにお願いされたことを思い出し、苦笑したジョーに、ジェロニモは楽しそうに微笑み返した。


「いくらでも吹き消せば良い、今日と言う日にたくさん感謝し、明日からのことを願いたいだけ願えばいのだから。」
「・・・・まあ、あの歌さえなければ、別にいいんだけど」

吹き消す前にはフランソワーズにアレンジされたハッピーバースデーの歌が疲労された。


「・・・あんなにたくさんバースデーソングがあったとは知らなかった。」
「ジェロニモ、違う、違うから。あれはフランソワーズが原曲を無視して、勝手に彼女が作り上げたのだから、ね」
「うむ・・。フランソワーズに作曲の才能があったとは。」
「・・・・・ま、そういうことで。・・今日は、ありがとうジェロニモ」
「ジョー、誕生日おめでとう。来年もまたみんなで、遊園地へ行こう。」




「うん・・来年も、また、その次も・・だったら、いいなあ」





ジョーはジェロニモの言葉に感謝して、後のことは彼にまかせ自室へと向かった。
途中、リビングルームをのぞき、そのままにしてある大量のてるてる坊主たちに、にっこり笑って礼を言う。


「今日1日を、ありがとう。最高の誕生日だったよ」
















自室のドアを開けて、ルームライトをオンにして、ジョーは手早くシャワーを浴びようと着替えを用意する。
ベッドの上に投げ置いていたはずのパジャマが消えて、奇麗に畳まれていた上に、見慣れない封筒が置かれていた。


「?」


白い封筒を手にとり、びりっと素手で封を切った。
広げたカードから飛び出した、大きなケーキの立体イラストと、ハッピーバスーデーのメロディが鳴り響く。




ジョーへ。




おたん生日、おめでとう。

アタシからのおたん生日のプレゼントは、”フランソワーズ、なんでもします!ケン”5まいです。
来年の5月16日までゆーこうで、このケンをしよおする内ように、アタシはぜったいに”NO”と言いません。


ようく、かんがえて使ってね♪




フランソワーズより。







「なんでもします、ケン?」



封筒の中から、ビジネスカードサイズの厚紙が5枚。



1枚、1枚、カラフルなペンで、色々なイラストと一緒に手書きの文字。
その文字の癖から、フランソワーズの字だとわかった。



---ケンって、券のこと?・・・って・・



「フランソワーズ、なんでもします!券っってっ・・っ!!!ノーと言わないっ?!」



ジョーは5枚のカードを固く胸に抱きしめて、ベッドへダイブした。


「誕生日、最高・・・・!!」






















end.












*6からかなり間が開いてしまいました...が!無事に(?)ジョー誕09’はこれで完です。
最後まで読んでくださってありがとうございました!


『フランソワーズ、なんでもします!券』の使用方法、募集中(笑)です。
使うことなく大切に保管される。が、私の妄想なんですけれど・・・。


今後のもじもじで出てくるのか、は、そのときの妄想力で!


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愛のlumiere
注意

3は9の前に、それなりにおつきあいを経験していて、深い中になった恋人がいた。という設定です。
駄目な方は避けてください。










自分の価値観を押し付けるつもりなんてない。
ただ、私が味わった感動を、あなたにも。
あなたにも伝えたかっただけ。

私が好きだと感じ、触れた一説を、あなたの瞳にも写してみて欲しかった。
ただ、あなたの瞳に、私がこころ動かされたその言葉を読んで欲しかった。




愛をえがいて欲しかった。
私とあなたの関係を、もう一歩、先の未来へと進めるために。







「セバスティアン・・・・・」


25日の、昼過ぎ。
長いイブの夜を2人きりで過ごした昨夜を引きずるように、けだるげな躯を手近にあった彼のローブを拝借して、キッチンへと向う。
香りが抜けきってしまった、半分ほど残ったワインをグラスについで、聖夜の名残で喉を潤した。



喜びと幸せに浸された躯はこころから、生誕の祈りを捧げるに相応しい愛に充ちている、・・・充ちて、いたはずだった。


「・・・フランソワーズ、先にシャワー浴びるよ」
「ええ」


小さなすれ違いは何度かあった。
気にしすぎているだけだと、友人たちは笑って答えた。
その笑顔が、瞼に張り付いている。


その笑顔と交互に、小さなキッチンに似合う、小さなバタフライ式の簡易テーブルの上に広がっている夢の後の残骸に紛れた本が映っていた。
卵から孵化ったばかりのひよこがおしりに殻をくっつけているような、そんな中途半端状態の破かれたラッピング。


「プレゼントのセンスが、ないのよ」


デザートのブッシュ・ド・ノエルを前にして、交換したプレゼント。


「・・・・ありがとうって、大切に読むよって言ってくれたじゃない」


手に取れば、食べこぼしたチーズがべたりとラッピングをおいかけてきた。


「・・・・・」


小さなすれ違いは何度か、あった。
彼も私も出会うまでに、様々な経験を得ている。育った環境も、場所も友人も違う。



だから、面白い。

だから、魅力的に思えて。





だから、自分とは違う部分に惹かれて。







だから、・・・・。







どんな小さな「?」を胸を駈けても、それが彼の個性、彼らしさ。と、私は受け入れた。
私は彼じゃないし。彼も私じゃない。


愛するこころからお互いが歩み寄って、彼と私の中で新しい共有の彼と私を作って行く。






と、信じて。







耳に届いていたシャワーの音が止まった。
私は手に取った彼へのプレゼントを、もとの位置に戻した。





ニュー・イヤーの夜に会う約束をしていたけれど。
少しフライングして、でかけた彼の部屋。


愛のささやきに答えながら、聖夜の夜と変わらない夢を観る。






夢はいつも、愛し合った後の甘さは含まなかった。



あの本はどこにあるの?
彼の寝室にも、小さなキッチンにも、エントランス近くの書棚にも見つけられない。



夢の中の私は、彼の部屋を冒険するワルキューレ。











宝箱に眠る秘宝は見つからないまま。
彼との間の一つ先の未来への一歩も、見つけられなかった。











『ああ、あの本?あるよ、机の引き出しに大切にして・・・・別に、趣味とかは一緒じゃなくてもいいだろ?そういうのじゃなくてさ。ぼくとフランソワーズで、一緒に同じ時を過ごす中で養っていく価値観の方を優先したい、そう思うのは間違ってることかな?」






友人は、自己中心的な考えね!と、彼ではなく私を否定した。
セバスティアンは素敵な人だと、パートナーとして申し分ない人だから、一度”ジャン”に会わせてから考えなさいとアドヴァイスしてくれた。


けれどかたくなに、私はあの本にこだわった。


金色の、可愛い天使の絵が切り抜かれたしおりと一緒にはさんだ、メッセージカードにこだわった。


”Je t'aime”








”Je suis amoureuse de toi.”(私はあなたに恋してる)と言い続けた私の、・・・本当に言いたかった言葉を、彼はみつけてくれなかった。









私はまた同じ事を繰り返す。


「?」
「ジョー、今日は25日よ」


きょとん。と、不思議そうな顔で私の顔を見返して来る彼に、くすりと笑った。


「あ・・・。そうか、そうだ。もう12月で、今日は・・・」


クリスマスを世間一般に祝う余裕などない日々を送っているけれど、そんな日々だからこそ、世間一般に模様されて愛されるイベントを大切にしたいと思う。


「ありがとう、フランソワーズ」


照れたような、はにかんだ笑顔で、私の手からそれを受け取ってくれた。


「・・・ジョーの好みじゃないかもしれないけれど」
「なにかな?見ても良い?」


滅んだ筈のBG。


予想していなかった見えない敵からの襲撃によって破壊された、ギルモア研究所。
敵の動きを負いながら身の置き場所コズミ邸に移し、交代制でいつでもドルフィン号を常に出動できる状態にしておく。
3日交代で任務につく、今日は、私と009の当番だった。


「25日かあ・・、じゃあ昨日はイブだったんだね?」
「ええ・・。みんな忘れてるのかしら、ね?」


仲間へは、みなそれぞれ違うものを、コズミ博士を含めて、リビングルームのテーブルに置いて出て来た。


「クリスマスを?・・そんなことはないとは思うけど・・」
「あら、でもジョーは忘れていたじゃない」


私が今、手に出来る物で、みんなへの感謝と愛を込めて。


「まあね・・、クリスマスだからって特別なことをした記憶なんてないからなあ」
「もしかしたら、向こうではお祝いしてるかもよ?私たちに、クリスマスにドルフィンの当番で運がなかったんだーって言われてたり」


几帳面な彼の性格を現すように、丁寧にラッピングをといていく手元を見つめながら。
微かな不安に、こころを揺さぶられていた。






それはまるで、恋占いの結果を知るような期待に似た、寂しさ。
高揚する緊張と一緒に、諦めている自分を眺めている、素直さ。


「・・・本?」
「ええ、・・・フランス語のなのだけど、日本語訳のがあるって知って」
「ありがとう、フランソワーズ。・・・・でも、なんだか申し訳ないなあ」
「?」
「僕は、知っての通り、今日がクリスマスだって忘れていて・・だから、その」
「気にしないで。・・・私があなたに贈りたかったから、だけよ」







ハードカバーの本にクリスマスカードをはさんでおいた。

私の好きな、一文をフランス語で書いて。






”偶然に重なり合った雲と雲。通り過ぎる風に誘われて振り返ったときにできた隙間に、一筋の光がきらりと差し込んだ。それは、愛だ。私の胸に宿る愛が視えた”














end.









*告白・・って言えば告白もの・・・。なんです。
ああ、この人となら。と思う瞬間を、3に味わっていただきたく。
↓に。その後のちょっとした蛇足文ありです。



「愛って、・・よく、まだ、その・・・わからないんだけど、・・・・・・何かを大切だ、愛おしいって思う気持ちは、ゆるい陽射しの温かさにほっとするのに、似てるかなって、そんな風に思えた」



私に背中をむけたまま、まっすぐに反応のあったレーダーから視線を外さずに、言った。


「読んでくれたの?」
「とても綺麗な文章だけど、頭に入ってこなくて、もう少し時間が・・っていうか、・・・その、クリスマスカードだけ、読んで、その前後を眼で追っただけしか・・。・・・ごめん」
「いいの。カードに気づいてくれて、ありがとう」
「・・・・そうだ、ねえ、フランソワーズ」
「なあに?」
「この戦いが終わったら、一緒に空を眺めようね」
「・・・・・・?」
「何も考えずに空だけを眺めよう。もしも空を眺めていることに飽きたら」
「・・・飽きたら?」
「飽きたら、きっと僕にも視えてる・・・かな。・・キミと同じ光が・・。視えてると、思う。ううん。・・・・見たいと思った」





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眩暈
目眩いがした。


この世のものとは思えない、すべらかさに。
すらりと乾いて、温かさを感じながらも、ひんやりとした印象を伝えられて、心地よいという清涼感が躯の底から沸き起こった。

吹きガラスでつくられたつるりと滑らかな、婉曲したグラスの清純さ。もしくは芸術的な奇跡の技術で塗られた漆椀の、潔いひかりを滲ませた艶やかさ。


ほんの一瞬触れてしまっただけの彼女のむき出しの腕に、全身を繁殖期の猫のように、喉を鳴らした。








ドナシファン・レンスバレロ 元子爵、ヨーロッパ間の貿易に大きな影響力を持つ彼が、ある組織から、ある物資の郵送を拒み、取引を断った事から、命の危ぶむ出来事が相次ぎ、その出来事の以上さからギルモア博士の知人を通じ、僕たち00ナンバーに助けを求めて来た。


彼の命を護るために、華美(はで)な場所への出席は遠慮願いたいと申し出たけれども、どうしても今夜のパーティに出席しなければならないと言われ、承知する。



「思ったとおりだ・・。とてもよくお似合いですよ」
「こんな素敵なドレスを・・・、申し訳ありません、ムッシュ・レンスバレロ」


元子爵が出席するクリスマス・パーティに、彼の身を守るためパートナーとして、フランソワーズ/003が彼にエスコートされる。


元子爵の友人が所有する、シュヴェルニー城で開かれるパーティ。
その規模と、ヨーロッパの階級制度が現在でも存在することを証明するような場と、その場に相応しい要人たちが揃った。






「少し、外の空気を・・・」

独身貴族として名高い、レンスバレロ元子爵がパートナーとして選びエスコートする謎の美女。
その日の主役となったと言って過言ではないフランソワーズは、人の輪を抜けて会場と鳴った大広間から、そっとバルコニーへと抜け出した。


<会場内にいる人をざっと視たけれど、サイボーグは見当たらないわ>


脳波通信で連絡を取り合う中、ショール1つ持たずに会場の外へと出たフランソワーズに、009は、いや、ジョーは音もなく近づき、雪よりも白く、星よりも厳かに綺羅めく肌を自分の背広をかけて隠した。


その、ほんの一瞬。



ジョーの指が、フランソワーズの生の腕に、触れた。














---っ・・・・・・・・・ああっ・・フラン・・っ!!










腰からまっすぐにすらりと伸び上がる、背につづいて、ゆるやかに結い上げられた亜麻色の髪がいつもは隠しているうなじ。

無駄のない、細胞がしきつまった健康的なボディラインをぴったりと浮かび上がらせたシルエットを、品よく装うドレス。マーメイドのようなタイトなスカートがよく似合う張り出した腰。深く切り込まれたスリットから、ぴんと張りつめたような緊張感漂う太もも、彼女の強気な意志を表す高い胸。


「風邪をひく・・・っ」


理性と言う水が、砂漠へと舞い降りたときのように一瞬かすかに触れただけで、フランソワーズの肌によって蒸発させられた。


「あ、・・・ありがとう」


はりのある艶が描くなめらかな輝きを放つ爪。それを飾る華奢な指先が、ジョーがパーティ会場の給仕(ボーイ)として着ていた背広の前をつまみ、寒さを遠ざけるように前を合わせた。

そして、ジョーに気づかれないように、そっと胸いっぱいに、彼の香りを吸い込んだ。


「009・・・」


会場の華やかさと世間から切り離された夢のような空間に身を置くフランソワーズの意識は、普段よりも大胆な思いを胸に描く。
けれども、残念なことに高性能の耳は、生演奏が途切れなく続きパーティに相応しいににぎわう談笑が絶え間ない会場内のささやかな会話を捉えてしまった。


「なに?」

会場内で、お連れの方はどちらへ?と、レンスバレロ元子爵に尋ねた人が現れて。
彼の視線が、こちらへちらりと流れただろう。


「・・・・・・・メリー・クリスマス」
「うん・・」


フランソワーズは、戻らなければならなくなった。


「戻ります」


レンスバレロ元子爵のパートナーが、”給仕(ボーイ)と逢い引き中と噂がたたないように。


「飲み過ぎたら、駄目だよ?」

時間にして、ジョーがたまに食べたいという、インスタントヌードルが出来上がるかどうかの、つかの間の、休憩。


「任務だということを、忘れてないわ」


フランソワーズは肩から、ジョーにかけてもらった背広をするりとおろし、彼に返した。


「あと、1杯だけだからね。6杯目からは、ノンアルコールで」
「まあ、数えてたの?」
「リーダーとしてね」
「嫌な人ね」


くすりと笑ったフランソワーズの唇の端が、魅力的にきゅっと上がる。


「何が良い?」


フランソワーズから受け取った背広を羽織り、ジョーは微笑んだ。
微笑むことで、今日のフランソワーズを観る視線に1枚の厚いフィルターをかぶせる。

一度失った理性を取り戻すのは、至難の技。
今、009と言う使命がなければ・・・。と、喉に力を入れた。


「あなたの、オススメがあるなら、それを・・・」


会場へと戻り任務をこます気持ちを引き締めるため、ひんやりと冷えた12月の空気を薄く吸い込んだ。
フランソワーズの後ろ姿を見守りながら、ゆっくりと彼女のくちびるから線を引くように流れる白へと、くちびるをよせていく躯が、自然と彼女を追うように動く。






そして、想像する。




あの肌に、指をすべらせ、唇で吸い上げ、舌を這わす。


あの肌に、無我夢中になって昼も夜も見失い、寝食を忘れて貪りつくす。


あの肌に、溺れて堕ちていくだろう、自分の姿に、


その、自分の姿に、目眩いがした。















+++



<ありゃあ、まるでロミオとジュリエットだなあ>


さまざまな物/者に姿を変えて会場全体の様子を見守る007


<どっちかというと、タイタニックじゃないか?>


ジョーと同じホール給仕(ボーイ)の仕事に精を出しながら、こっそりポケットに電話番号のかかれたメモを溜めていく002。

会場の外にいるメンバーたちは、2人からの報告(プレゼント)を楽しんだ。










end.






*イベントにおけるほど、クリスマスしてないと思ったので、ショートへ置きます。
・・・今夜、素敵にドレスアップした3に、キスするかどうか、をかけていたと思われる00ズさんたちを妄想してしまったことを、書いときます。

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PRENDRE UN CANON

日が沈む早さに感謝した者は、彼以外いないだろう。
自国の大型ショッピングセンターでこれでもか!と言うほどに買い占めてきた彩り鮮やかな電球たちを、みんなへのクリスマスプレゼントだ!と、自慢の高い鼻をさらに高く、高くした、ジェットがギルモア邸に帰って来た。


「ふふふっとっても素敵なサプライズだわ!」


喜びと興奮に、躯が自然と跳ねた、フランソワーズから鈴の音が聞こえた。


「だろ?フランソワーズ、今年のクリスマスは半端ないぜ!!」


ジェットのスーツケースの中にめいいっぱい押し込まれていたイルミネーション用の電球をみながら、その多さと種類と、なるべくは世間一般の眼から隠れていなければいけない身分の者が住まう邸を飾り付けるのか。と、呆れながらも、さっそくインターネットで自宅をデパートメント顔負けのデコレーションをほどこす、クリスマス・イルミネーション画像を色々と検索しはじめた、00メンバー内でアーティスティックなセンスが光る、ピュンマ。
黙って邸の地下からざっくり必要かと思われる数のパワー・エクステンションコード類を用意するジェロニモは、木々に飾り付けることだけは断固として反対する。
なんだかわっくわくするアルネ!と、何やら楽しげにお茶と中噛まんを用意しはじめた。
イブの夜、ほんの数時間くらいならいいんじゃないか。と、顔をしかめて反対意見を口にしそうなお固いドイツ人をまあまあと宥めるイギリス紳士は、飾り付ける邸の外観部分を、一般道に面していない、裏手の海側部分だったらと妥協案を提示する。
ばかばかしい。子どもじゃないんだぞ、子どもじゃ。本来クリスマスは乱痴気パーティのネタじゃなく。と、蘊蓄が飛び出してきそうな口もとをぐっと堪えたには、訳がある。










『ジョーが・・・、帰って来ていない?』

それは本格的な冬の訪れを告げる季節風と一緒に、海外組の00メンバーへと日本組のでこぼこコンビが送ったメールから始まる。


彼の趣味なのか、なんなのか、ジョーはふらりと定住している邸からいなくなる。
予定も行き先も何も告げずに外泊を重ねることに、難色を示す仲間たちの忠告など右から左へと聞き流し、その放浪癖は変わることなく続いていた。
せめて”万が一”の出来事に備えて行き先は言っていけ。と、家族を代表して言ったアルベルトにむかってみせた、携帯電話。


『買って来た。・・今後は肌身離さずにこの電話を持っているから』


その後は、自分が買ったのと同じモデルを持たせたフランソワーズに、外出先から連絡(メール)が入るようになった。


”フランソワーズ、僕は南にいます。元気です。”




けれども、今年の9月末から出て行ったきり、クリスマスを3日前に控えた今日まで、一度も連絡が入らない。
こちらから何度も携帯電話にメールし、電話をかけるけれど、留守番電話サービスのアナウンスばかり耳に響かせる日々が続く。


『クリスマスには帰ってくるわ、だって約束したもの。一緒に・・って』


心配などしていないと笑って答え続けるフランソワーズの、その余裕ぶりにもしや彼の居場所を知っているのかと、何気なく昼の時間のイワンに尋ねた。


<ふらんそわーずハ何モ知ラナイ>







では!と、かけ声をかけたのは、009ではなく、008だった。
ギルモア邸イルミネーション計画の総指揮を取る。彼は手早く海側に面したギルモア邸の外観を写真に撮り、2D、3D使用で外観設計図を作った。その設計図を元に、おおまかなイルミネーションの配置をデザイン。ジェットの買って来た電球の種類、ケーブルの長さ、色、形別にリストを作成。


「全部アメリカのなら、電圧変換機がいるな。」
「邸になかったっけ、005」
「地下から繋げるか?・・それなら電圧も問題ないんじゃあないのか?ドルフィンでもいいんだろうけど、ここに着陸させるわけにはいかんだろうしなあ」
「地下からだと、かなりの長さが必要になる。ブレーカーが落ちないか?008」
「地上に建てられている邸の電気配線は一般のと変わらないからなあ。一応シュミレーションして計算するけど。・・・、点灯時は邸内の電気をすべて落とす予定だから心配ないよ、きっと」


美的センスに信用がおける004と相談しながらデザインを絞り、オーソドックスな定番の飾り付けに、邸のリビングルームとは別に、2階のフランソワーズの部屋にあるバルコニーに、クリスマスツリーを置くことにした。
彼女の部屋の隣のコモンスペースはステンドグラスが埋め込まれているので、内側から光をあてポイントにする。


「ツリーは、光ファイバーの白いのがいいなあ。ロマンチックだ。あのほんのりとした色のグラデーションがなんともいえん。姫の部屋のカーテンに外からもうっすら幻想的に光るだろうて」
「ジェットの買ってきたのは、品のない配色の電球を使用しないとして、これだと足りん。買い出し部隊がいるな」
「何いってんだ、この配色こそがクリスマスって色じゃないかよ!」
「我が輩が、姫へのクリスマスプレゼントと、その1として、ツリーを買おうぞ!」
「決まりだな、この品のない電球は排除だ」
「なにっ!」
「まあまあ、色は白とブルー、グリーン、黄色っぽいので統一するから、その派手なのは、・・・」
「ドルフィン。」
「そうだね!僕たちの大切なドルフィン号もクリスマス仕様にね!」
「だーーーーっ!」
「おおお~いっついでに必要なものがあるなら買って来るよ~っ!、006っ何かあるぅ?」
「アイアイね~!今かき出すのことヨ」
「じゃあ、我が輩が車を出すとのことヨで。002!お前もくるんだろ?」
「その間に下準備をしておこう。004」
「もちろんっ。久しぶりの日本だからな!PS3を買うっ」
「了解、005」
「なんで向こうで買わないの?」
「向こうはすでにWiiがあるからな」
「えー、買うならW 8000 iiにしてよ。みんなでテニスとか、ほら、ダンスダンスのマットとかー。パーティで楽しいのがいいよ」
「PSでもあるから心配すんなって」


002はウィンクと一緒にサムズアップしてみせた。


「では、00メンバー諸君!」


ピュンマはリビングルームのソファから立ち上がり、集まっている全員とざっと視線を合わせた。


「ミッション、”星降る聖夜に願いよ届けっ!愛と平和(とジョーが戻って来る)を祈る、00ズ製作・イルミネーション”、始動!!」
「「「「了解(アル~)!」」」」
「・・・アニメ番組のタイトルコールみたいだな」


地下の研究室の隣に設えたギルモア専用の書斎から内線電話を使い、地上のダイニングルームの室内番号を押して子機を耳にあてがったギルモア。2度のコール音の後、涼やかに愛らしい娘の声が続いた。


『はい、博士。いかがなさいました?』
『おお、フランソワーズ・・・あと10分もしたらそっちへ上がるから、何か口に入れられそうな者を用意しておいてくれんか?』
『張大人の出来立ての中華マンがありますわ』
「いいなあ、それは。じゃあ後で・・・ん?』


フランソワーズの電話の向こうで何やら賑やかな声が聴こえてくる事に、気づいたギルモア博士。
フランソワーズはその様子を電話越しに読み取ってくすっと笑った。


『ジェットがとっても素敵なクリスマスを用意してますのよ』
『帰って来たのか?』
『ええ、博士にご挨拶もせず・・本当に困った人ですわ、そちらに行かせましょうか?』
「気にする出ない、どこも問題なく元気だというこであろうてな』


ふっふっと柔らかく笑ってギルモアは子機の通話を切った。


「あとは、末っ子だけか・・・。末っ子なだけにマイペースでのんびり屋とな」




誰1人として、ジョーの名前を出す者はいなかった。
12月に入り、ぽつり、ぽつりと帰省する仲間たち誰も、フランソワーズの前で”ジョー”と言う名前を問う事はなかった。


気を使わないで。と、キッチンに立つ3人目の父とも呼べる人にさりげなく言葉をかけると、その人はにこやかにクセのある話し方でフランソワーズを励ました。


「いつものことアルからねえ。みんな別に気になどしてないアル。気にしてるのは、フランソワーズね」
「・・・」
「約束してるなら、それでいいのね」
「亭主元気に留守が良い!アルヨ?」
「!!」
「ふふふのふ~♪妻はしっかり留守を護ってるスンバらしい、ねえ、フランソワーズは妻の鏡!」
「もっやめてちょうだい、張大人!」


真っ赤に頬を染めて可憐に恥ずかしがるフランソワーズに小さな目をさらに小さくして細め見つめる張大人は、知っている。
今朝早く、涙まじりの声で日めくりカレンダーを破った、フランソワーズを。






『・・・ジョー、どこにいるの?』




切り離した日付を屑篭に入れる、フランソワーズからちりりん♪と小さな鈴の音が聴こえた。







買い出し組が戻って来たころに、ちょうど夕食の時間となり、ギルモアとクーファンで眠るイワンもくわえて夕食の席、ダイニングルームはジェットの新しい仕事、”ラスベガスで闘牛士”の話題に花を咲かせた。
クリスマス時期は一番の稼ぎ時なのに”花形スター”がこんなところに居ていいのか?と突っ込まれるが、スターだからこそ貴重性が必要で、出て来て当然と思われる日に当たり前のようにショーに出たら価値が下がると、よくわからない理論を語る。

どこまでが本当なのか、よくわからない武勇伝に、テーブルは時間が経てば経つほど盛上がっていく中、冷ややかに「好きに生きてくれたらいいが、油断しするなよ」と一言注意することは忘れないアルベルト。
そんな彼にグレートは「どうだい、アルベルトもラスベガスで働けるんじゃないか?」と話を振った。


「なぜ、オレが・・・」
「そうだよ、グレート。ラスベガスでショーならグレートの能力が一番だよ」


今日の夕食は、みなでつつけば幸せいっぱいの、鍋料理。
はフランソワーズ。取り皿や、足りなくなった野菜類などのためにキッチンとダイニングルームを往復する中、
彼女からちりりん♪と鈴の音が聴こえるが、誰もそれを気に留める者はいない。


「我が輩が出ては、一躍ハリウッドスターとなってしまうではないか!ここは、マジックショーをアルベルトに譲ってだな」
「「「「マジックショー????」」」」
「アルベルトがあ?」
「何もできんぞ」
「ビックリショーには出れそうだ。」
「・・・ジェロニモ、お前も似たようなもんだろう?」
「オレはインディアンの誇り、捨てていない。」
「ドイツ人の誇りも一緒にしておいてくれ」
「マジックショーは立派な芸術!ギルモア博士がお手伝いしてくだされば・・・」


グレートの視線が、ほふほふと熱々の白菜を頬張るギルモアへと向き、みなの視線がギルモアに集まった。


「儂が、どうした?」
「アルベルトの躯に埋められているロケットなど、その他諸々の危なっかしいやつを取り除いて、代りに・・・」
「代りに、何をつむんじゃ?」


にやあ。と笑ったグレート。
みなその笑みにつられて、それぞれに想像する。




『さあさあ、おあつまりのみなさま!不思議も不思議、世界の不思議を、今ここに!』


派手な司会者のイントロから、漆黒のタキシードをばっちりと着こなした、アルベルトが現れた。
ラメで飾ったアメリカ国旗をはりつけたような衣装の司会者が、りんごをほい!とアルベルトにむかってなげた。

しゅぴぃぃんっ!と、するどく風を切る音。
おおおお~っと、感動の歓声が追わないうちに、つぎつぎに司会者が投げるリンゴを”素手”で、しゅっしゅっしゅっぴぃぃんっ!と切り裂いていく。


そして、


「アルベルトにしかできない芸当といやあ」


改造された肉体を駆使してさまざまな”マジック”を披露した、クライマックスには・・・。


「わかった。グレート、わかったぞ!万国国旗に、紙吹雪、鳩にうさぎに、じゃな!!」


膝を割って構えたアルベルトから出て来る、出て来る、夢ときめく不思議な世界。


「はでにどかーん!と、打ち上げる花火も、いいね!」
「ロケットはそのままもなかなか良いアルヨ、ロケットの中から色々出るってのもね!」
「日本の伝統芸、水芸をアルベルトの左手に仕込んで欲しいな、僕は!」
「いいねえ、いいねえ!それいっとこう!」
「アルベルト、いくつかショーのマネージャー知ってるから紹介するぜ!」


ギルモア邸が爆笑の声に揺れた。


「躯の中に、ウサギや鳩を飼えと・・?」
「膝から美女が出てくるっていうのも魅力的だなあ!」
「いっそのこと、グレートがアルベルトの中に住んだら良いと思うよ、コンビを組めば?」
「前もっていっておくが、オレは参加しない。」
「度は道連れ世は情け、仲間じゃないかっジェロニモっ」
「残念だなあ、僕は芸らしい芸がないやあ!がんばってね、応援してるよ!!」
「その気があるならいつでも言いなさい、アルベルト。それ用の改良を考えておくからの。仕込み用の小道具ま
できちんと面倒みるでな」
「博士、冗談を間に受けないでください・・」
「素晴らしいアイデアじゃと思っておる!」


そう、素晴らしい!新しい人生を謳歌できる素晴らしいアイデアだ!と、00メンバーがそれぞれの能力を駆使してエンターテイメント業界を駆け抜けるには。と、戦いのない世界で”お役御免”となったとき、など砂のように形にもならない、未来の話しでその日は終わった。







翌日。
昨夜のテンションを維持したまま賑やかに、イルミネーションの飾り付けが始まった。

あんまり高く飛ぶな!向こう側を通る車に目撃される!と、002が空へとすいっと飛ぶ度に、一喝する004は昨日の出来事をさほど気にしていないらしい。
今日アルベルトの機嫌が悪かったら、彼もまだまだっ・・・てコトあるからねえ。と、こそっとフランソワーズに耳打ちしたのは、電気ポットに温かなジャスミン茶を用意して、今回のイルミネーション・プランの指揮を取る008の隣に経つ、006。
現場監督気分の007が、もっと左だ、右だ、もう少し上だ、下だと細かな指示を出し、005が全体の動きを観て、必要な工具や道具、電球などを用意して作業がスムーズに運ぶように、大きな躯からは想像できない細やかに気を配る。

さすが00メンバーだ。と、自画自賛したくなる見事なチームワークで作業を進めていく。
その様子を普段と変わりない家事の合間に、手伝う事はない?と尋ねて来るフランソワーズから、ちりりん♪鈴の音が聴こえた。



しんしんと澄んだ気持ちよい空気の中で吐く息は白く、その白にジョーが邸を出ていった日を数えた。
着の身着のままで、出て行くこともあるけれど。
今回のように、きっちりと”予定”をたてていたとばかりに荷物をまとめて出て行くときもあった。
ジョーが持っている、スモールサイズのトランクケースと、スポーツバッグの両方を持って出て行くのは、初めてだった。


彼のクロゼットを確認したら、冬用のダウンジャケットも消えていた。



「もう・・・帰って、こないの?」









『フランソワーズ・・。これ』


ちりりん、と、鈴の音。
小さな小指の爪先ほどの猫が片手をあげておいで、おいで。の形をした、キーホルダー。


『招き猫。って言うんだ。・・・商売繁盛で、お金を呼んでいるポーズなんだけど、今はいろんな意味があるみたいで』


ピンク色の耳が可愛いだろ?と、笑った。


『幸せを呼ぶんだって、この招き猫は・・・・。だから、買って来た』


肌身離さずにいつでもジョーからの連絡を取れるように、邸内でも持ち歩く、ジョーからもらった携帯電話につけた。
彼女が歩くたびに、小さくちりりん♪と鳴る鈴の音。





私はここよ。

ジョー、ここよ。









あなたを呼んでるの。















私の幸せは、あなたが無事なこと。
あなたの、そばにいること・・・。





『色々なことが重なってさ、・・去年も一昨年も・・一緒にいられなかったから。今年のクリスマスは一緒にって約束する。うん、・・・一緒にって、約束しよう』


「まだ夏も終わっていないのに、もうクリスマスの話しなの?」と笑って、彼からの何かしらの”サイン”を見逃していたのかもしれないと。
フランソワーズは今更ながら、過去の自分を責めた。













ちりりん♪と、鈴が鳴る。

携帯電話につけた、それが鳴る。
時間を確認するようなフリをして、何度も彼からメールが来ていないかを確かめる。


クリスマス・イブ1日前の午後には、すべてのイルミネーションを、飾り付け終えた。
「予行練習は?上手く灯るかどうかテストしないの?」と、尋ねたフランソワーズにみなが口を揃えていう。


予行練習なんかしたら当日の感動も、楽しみもないだろう?
失敗も成功もひっくるめて、イブの夜のお楽しみだ、・・・と。





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イブ前日。

仲間たちとのパーティに備えての準備に走り回る。
室内のデコレーションは外ほど力は入っていないけれど、どこから仕入れられてくるのか、毎年ジェットよりも背が高く、ジェロニモと変わらない高さのもみの木がリビングルームに青々とした緑の香りを満たす。

たとえそれが”作り物”の木であっても、電飾は飾らない。
ジェットお気に入りな”クリスマス”らしいカラフルな電飾を巻こうとやっきになっていたけれど、ジェロニモが”点灯”しないならいいぞ。の言葉になんのための”チカチカ”だよ!と文句を言った。






『みてっ!!フランソワーズっ宝箱をみつけたよっ!』


飾り付けるためのオーナメントを納める、アンティークの木箱をみつけたのは、ジョーだったわ。と、ひとりごちた。
00メンバーの本拠地を日本に決めて。自分たちの身を守り、隠す場所に適した土地を探し、みつけた打ち捨てられた洋館。明治時代の歴史ある建物だと説明されて、希少価値のある建物がなぜに長い間誰からも忘れられて放っておかれたのかと、ジョーと一緒に首を傾げたことも思い出した。


---立地条件と、・・・潮風、吹きさらしにされて修復にかかる費用から、壊すこともできず、再建築することもできず・・・・。



『僕たちを待っていてくれたんだね。きっと・・・・。だから、ここが僕たちの家だ、他にはない、ここなんだよ。キミと僕と、・・・ね?』





自分たちの手で修繕していく洋館。
過去に暮らしていただろう人の名残を見つけながら、触れながら、そしてさようならと言いながら。

2階にある、細長いウィーキング・クロゼットのような収納室に、3階へ通じる秘密の階段をみつけたのは、その能力がある故のフランソワーズだった。
彼女から3階があることを報告されたジョーは、「誰にも言っちゃ駄目だよ」と彼女に口止めをする


『今日の夜、12時過ぎたら・・もっと遅い方がいいかな?13時くらいがいいかも。みんなに内緒で、そのくらいに僕の部屋に来て』


思いがけない誘いの言葉に、フランソワーズは胸に緊張を走らせた。
彼女の戸惑いと驚きに見開かれた瞳に、何かを勘違いさせたと気づいたジョーは慌てて、訂正する。


『あ、大丈夫っ!違っ!!違うよっ。フランソワーズ。安心してっ!!変な事をなんてしないよっ、考えっても、な・・、そのっああっ何を言ってるんだろう僕はっ!』


約束の時間に”何もない”とはわかっていながらも、”もしも”を無意識にときめかせる胸が、色付きのリップと、つけなおしたパルファンが表していた。


『楽しそうなことを、ちょっと独り占めしてみたかったんだ』


真夜中の宝探しを、密やかに告白するジョーの顔を、思い出す。





『フランソワーズっすごいよ!本当の宝箱だっ!』


大きなアンティークの箱は舶来のものね、どこの国かしら?と、誇りを払うフランソワーズの隣で、珍しく興奮にはしゃぐジョーがいる。
3階の部屋の隅っこに、色を変えてしまった子供用の毛布に覆われて隠れていた。


『クリスマス、これを飾ろうよ!たくさんあるから、おっきなツリーを探してこなくちゃ!』


おもちゃ箱と見間違えるような、ツリー・オーナメントがその箱一杯に納められていた。
他にも、大きさは小振りになるが、同じアンティークの木箱からも・・・・。









「フランソワーズ、どうしたの?ボーっとして・・疲れた?」


ピュンマの声に、自分の世界に浸っていたフランソワーズは現実の世界へと目覚めた。
手には、まあるい白い陶器のオーナメント。ブルーのインクで雪の街が描かれていて、制作者のサインが、雪の街を駈ける小さな男の子の足下に書かれていた。


「これを、見つけたときのことを思い出したの。本当にサンタクロースがいるのかと思ったのよ。私たちにこの邸と一緒にプレゼントしてくれたんだって・・・」
「帰って来るよ」
「!」
「だって、これらのオーナメントは彼と2人で見つけた宝箱じゃないか。それを置いたままでなんて、ないよ」


きらりと爽やかに白い歯を光らせて、満面の笑みで自信たっぷりに宣言したピュンマに、ずっと胸の底に隠していた不安が浮上してくる感覚に、瞼を何度も忙しなく動かして、気持ちを紛らわしながら、手に持っていたオーナメントーを背筋を伸ばし、つま先だってもみの木に飾った。


「でもよ、イブ前夜にツリーの飾り付けって・・・何やってたんだよ、フランソワーズ。いつもはもっと早くに・・・」


使用される様子のないクリスマスらしいカラフルな電球たちを手にしたジェットの声に、フランソワーズは堪えきれず「何か飲み物を用意するわ」と言いながらも、キッチンとは逆のドアへと消えて行った。


「ジェットおおお・・・」
「な、なんだよ?」


リビングルームに盛大なため息が次から次へと吐き出された。


「もう少し考えてから言葉を口にしろ」
「・・・去年も、一昨年も、その前の年もツリーが届いた翌日に、”2人きり”で1日かけて飾りつけていてなあ、知らなかったのか、ジェットは?」


飾り付けをする様子を、愛用の安楽椅子に体をあずけてパイプをふかしながら眺めていたギルモア博士が、口をはさんだ。


「しかし、このツリーが届いたということは、ジョーのヤツはちゃああんと帰って来るってこった」
「?」

グレートがツリーを見上げて、うんうん。と、1人納得する姿を目にして、ジェットは首を傾げた。


「それも知らないアルか?ジョーは専門業者にきっちり12月1日届くように、ずうっと予約注文してるアルよ。邸に引っ越してきたばかりのころのクリスマスにもちゃんと木があったネ」
「ずっと日本に住んでないんだから、知るかよ」


フランソワーズの代りにと、オーナメントを箱から出して磨く役割を、アルベルトに譲って、キッチンへと向うらしい張大人が呆れたようにジェットに教えた。


「知ってたぞ」
「うん、僕も」
「業者を紹介したのはオレだ。」
「ちっ、そういうことは早めに”ちゃんと”教えてくれって!」








部屋に駈け戻ってしまったフランソワーズは、溢れ出した涙を止めることができない。 ドアを締めると同時に、その場に座り込み、唸るように喉から壊れた笛のような音を出した。


両手で押さえた口元が、みるみる濡れていく。
大雨の日の車のフロントガラスは何度ワイバーで拭っても滲み濁るように、フランソワーズの視界はぼやけて。
フローリングの床と、着ているスカートの色が混じり合って。


冷えた床と接触する皮膚が冷たくフランソワーズの体温を奪うかのように浸食していく。



寒くもない部屋で、フランソワーズは肩を震わし、体を小刻みに揺らし、喉をきゅーっと締める筋肉の痛みに逆らうように漏らす音を唇を何度も巻き込んで噛み、飲み込む。けれど、それは嗚咽となって、別の音となって戻って来る。








寂しさがこんなに痛いとは思っていなかった。
肌がぴりぴりと何かを探している状態で毎日をごまかし、ごまかし、暮らしていた。

明日には。
明日こそ。

明日がくれば。











けれど、一度も彼からの連絡は来ない。


『ごめん、・・・また、連絡もしないで・・・』


フランソワーズの躯の揺れに、携帯電話につけた”幸せを呼ぶ招き猫の”鈴がなる。
スカートのポケットの中で、遠慮がちに、ちり、り。と鳴っていた。


涙でべたべたになった手でスカートのポケットに手をつっこみ、上下する肩で上手く操作できない指が、電話帳に1つしかない電話番号を選ぶ。
もしかしたら。と、願いを込めて。

通話のボタンを押す。


5回のコール音。








ぷつ。と、コール音が止む。





「おかけになった電話番号は、現在電波の届かないところにおられるか、電源が・・・」



「ジョーーっ・・・・・っっ・・ぉぉ・・」



「・・・・ピーッと言う発信音の後に、メッセージを・・・・・」



「ジョーっ、私っ・・・・・わたっ・・しっ・・・っ!!」









ピー・・っと、発信音が、フランソワーズの耳に届くと同時に、彼女は通話をオフにした。








「フランソワーズ、休んでいるのか?夕食の時間だぞ?」


背中に響いたドアのノックが、フランソワーズを気遣う優しい音だった。


<・・・・ちょっとはしゃぎすぎて疲れたみたいなの、今日はこのまま休ませて・・・・ごめんなさい>


壁一枚、ドアの向こう側に立つアルベルトに泣き枯れてしまった声を聴かれたくはなく、フランソワーズは脳波通信を使った。


「なんでしっかり首輪をつけて鎖で繋いでおかないんだ?まったく・・・」
<・・・・>
「曖昧な関係のままでいるから、こんなことになるんだぞ?ヤツが帰って来たらちゃんと伝えろ。いい大人だろう?」
<・・・・・・・・>
「お前が甘やかすから調子に乗るんだ。男はバカなんだからな」
<・・アルベルト、も?>
「ああ、オレもだ。・・・・”バカだった”からな。”こんなこと”になるのなら、毎日朝昼晩、どんな時だろうと場所だろうと、プライドも何もかなぐり捨てて、・・・あいつにお願いされなくても、言ってやればよかったと、思っている」









好きだ。

愛してる。


そばにいろ。







離れるな。












「そうやって言っていたとしても、・・・足りないと思って後悔しているんだろうが、な。・・・・・だから、ヤツが帰って来たら、おもいっきり殴って、おもいっきり抱きついて、・・・・遠慮するな」


遠慮するな。と、繰り返し、ドアを離れて行くアルベルトの気配を感じたフランソワーズは、座り込んだまま床にうずくまる形で固まってしまっていた躯をゆっくりと動かした。
どれくらいの時間を、そこで過ごしていたのか、じんじんと重く痛む頭と、床にひっついてしまった皮膚を剥がす感覚にフランソワーズは、微笑んだ。


「今ごろになって泣くなんて・・・、みっともないわよ、・・・003なんだから」












***


24日、クリスマス・イブ。
誰よりも早く起きたフランソワーズは、1つ1つ丁寧にこころを込めて、朝食作りに取り組んだ。


気持ちのゆるみは、こころから心配してくれて励ましてくれる、みんなが居るから。
つんと胸を張って立っていた自分のこころの奥底にしまい込んでいた感情を、出してもいいよ、受け止めてやるからと、みんながみんな両手を広げて温かく包んでくれるから。


幸せね。
私はみんなに会えて、みんなと仲間で幸せ・・・。


食器棚に手を伸ばした、フランソワーズのスカートのポケットの中から、ちりりん♪と、鈴が軽やかに鳴った。









幸せを呼んでくれてるわ。
あなたがくれた、猫ちゃんが呼んでくれてる。




















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11月16日。
朝5時から始まる国内Aライセンス講習会に、参加した。

各種規則に関する講義をこなした後の筆記試験と、走行実技の試験(サーキット走行時のマナーや、旗信号等の理解度確認)のためのレース。

全てを終えるのに、丸一日かかる。







国内Bライセンスは取得ずみだった。
車を走らせることは嫌いではなかったから、たまにカートを滑らせに行っていた先で、声をかけられて。


自分がどこの誰かを記す”証明書”が欲しくて取ったそれは、ちょっとした自己満足だった。


その後、助っ人ドライバーとしてのレース参加経験はあるものの、Aライセンス取得のための条件である、”レースを除く競技会(ラリー、ジムカーナ、ダートトライアル、サーキットトライアルなど)に1回以上出場して完走すること。”が、こなせていなかった。
紹介に紹介を次ぐ伝手を辿り、なんとか競技会に出場できる資格と車があるクラブに参加させてもらえることになり、クリアした。


こればかりは、運が良かったとしか言いようがない。

自費で走っているわけでもなく、所属するモータースポーツクラブがあるわけでもない、そんな僕を受け入れてくれた先があったことに、今日、講習会に参加できるこに、こころから感謝する。




かなりのお金が動く世界なだけに、自分が選んだことなだけに、さすがに頼るわけにもいかず、お金になる仕事があると紹介されれば、場所時間問わず駈けて行き、参加条件に必要な競技会を含めて日本中を旅することになった。
走らせる車も必要だった。


僕が、僕であるための使命もあって予定していたスケジュールはかなり狂ってしまったけれど、地道に時間をかけてやっとたどり着いた、国内Aライセンス講習会。






結果は、その日のうちに発表された。


「ジョーっおごるから、つき合えよ!」
「すみません、明日の朝一で仕事が入ってるから、すぐに戻らないといけないです」
「ええ!?」
「仕事が・・今から戻らないと遅刻なんで」
「なんだよそれ!まったく、オーナーの秘蔵ッ子のお前なのになあ。扱いあれーのなんの・・・ひでーよなあ」
「扱いが荒いとかっとんでもない!今日受講できたのも、何もかも全部オーナーのおかげですからっ」
「それより、クラブにいつまで居る予定なんだ?」
「仮ライセンスが届くのが2週間後で、・・・・その受け取り先をクラブにしてるから・・あと、少し頼まれ事もされたので・・」
「目的は達成できたんだから早く帰ってやれよ、写真のフランス子ちゃんが待ってるんだろ?」
「フランス子ちゃんって呼ぶの、やめてくださいよ、”フランソワーズ”です。とにかく、ライセンスが届いてからじゃないと。それを、・・・」
「ん?」
「・・・・クリスマス・プレゼントに、する予定なんです」
「この野郎っ!急に女子率が高くなったと思えばお前のせいだしっ、彼女のフランス子ちゃんは絶世の美女だしっ、このっこのっ」
「かっ!彼女じゃないですっ、フランソワーズはっ大切な人だけどっ別にっ、ぼ、僕たちはっ、別にっその、恋人とかじゃっ」
「嘘をつくなっ嘘をっ!」
「いやっ本当ですっ、本当ですからっ佐藤さん!!僕たちはっ!!って、聴いてます?!まだ僕の片思いでっ」








フランソワーズ、・・・ねえ、フランソワーズ。




クリスマス・ツリーはちゃんと届いたかな?



オーナメントを飾ってくれたかな?




僕が帰るのを待っていたら駄目だよ、フランソワーズ。


ちゃんと、飾っていてね。

楽しみに、してるから。








たとえ、僕がいなくても。


誰がいなくても。


1人でも。


1人になってしまっても。




好きなことを、諦めたら駄目だよ。










『いいなー・・』






『なに?』




『いいなー・・・って言ったの』


『なにが、”いいなー”なんだい?』

『・・・私ね、試験に受かったり役をもらえたりした経験はあるのだけど』
『うん?』
『賞をもらったり、”表彰”されたことは一度もないの』
『へえ・・・そうなんだ。僕も・・・ないなあ』


フィギュア・スケートに本選手権を観ていたときにのことを、覚えていだろうか。


『・・・・』
『?』
『コンクールに出ても、いつも結果を出せなかったの。いつも、いつも・・・でも、それでも好きだったから』
『フラン、・・踊りたいなら・・・・』
『この、躯じゃ踊れないわ・・・』
『そんなことないと』
『そんなことあるのよ。ダンサーの躯じゃないもの。”サイボーグ”の能力で踊っても・・・意味がないわ。ダンサーとして鍛えた筋肉と感性と、”生身”であることが、大切なのよ。・・・・私たちが”スポーツ”をしてフェアじゃない理由と一緒なのよ、ジョー』
『・・・そんなこと、ないと思う』


僕の財布の中の写真のキミは、楽しそうに笑っているのに、ときどき、瞳にいっぱい泪を溜めているようにみえることがある。
あのときの、泪に揺れた瞳を忘れられない僕だからなんだろうね。


その泪を忘れられない、僕だから。
その泪に何かを感じた、僕だから。









諦めちゃ駄目だよ、フランソワーズ。


好きって気持ちがあるのに、諦めたりしたら駄目だ。




踊ろう、フランソワーズ。

踊って欲しいんだ、フランソワーズ。




僕たちは、一体何のために戦い、そして戦い続けているんだろう?
もちろんBGを倒す目的があったけれど、BGほどではなくても、それに似た組織はたくさんあって、第二、第三の存在にならないように、それらが大きく成長していった先にある”破滅”を、僕たちを、僕たちと言う存在を通して、知って欲しい。





世界のために。


未来のために。





平和のために。







でも、本当にそうだろうか?
そんなテレビのヒーローが言う決まり文句のようなこと変わらない内容で、僕たちは戦っているんだろうか?



違うよね?
違うだろう、フランソワーズ。












僕はね、フランソワーズ。
僕以外の人間にとってはどうでもいいようなコト、のために戦っているんだよ。


とっても小さなことのために、必死になって護りたいから、どんなに辛くて苦しい戦況でも耐えられるんだ。







それは、世界の平和なんて言葉を口にする前の話し。


びっくりするかな?
呆れてしまうかな?













「受かって当然だと思っていたさ、・・・まあ、一応はおめでとうと言っておこうな」
「ありがとうございます。色々と、本当に・・・ありがとうございました」


ジョーは、きっちり90度に腰を折り、深々と頭を下げた。


「それで?」
「?」


ジョーが11月から身を寄せている、モータースポーツクラブ内の、オフィスに彼はいた。


「これから、どうするんだ?」
「・・・これからのことは、また改めて」
「本気でもうワンステップ、上を観たいと思ってないのか?」
「・・・Aライが取れたことによって、お前は国際Cレーズ除外者になるのも今の調子でいけば、最短コースだ。国際Bも範囲内とみてる」
「買いかぶりすぎです」
「・・・いままでのレースで、3位以下がない人間がえらく謙虚だな。コースの記録を塗り替えまくってるくせに」
「Bからは、世界が違います。・・・・・けれど」
「?」





フランソワーズ。


キミはどんな顔をするんだろう。









「世界一の、表彰台に彼女を立たせたいから・・・。」


サイボーグで、表世界から忍ぶように生きて行かなければと、暗黙のルールに縛られている僕(ら)が。
堂々と世の中に出て生きていこうとする、ことを。




フランソワーズ。


みんな(仲間)の反応は、それぞれに想像できるのだけれど、どうしても、キミがどんな反応をするのかが想像できない。

どうしてだろう。


ねえ、フランソワーズ。
どうしてだろうね。




「は!噂のフランス子ちゃんのために、世界一になろうっていうのか!!こりゃあいいっ!!謙虚どころかっバカだろ、ジョーっ!!いいなあっお前!女のために世界最速になるって言うか!」
「・・・”フランソワーズ”です」








僕はキミのために走るよ。
そのために戦って、世界一となるための”世界”を護るんだ・・・。

そして、それらは全部フランソワーズのものなんだよ。





僕が走ったすべての記録とか、賞とか、その他もろもろの、すべてキミのもの。
それは全部、キミが僕という人間を通して受け取ったものだから。

僕が結果を残せるのも、評価されるのも、すべてキミのおかげだからね。







フランソワーズ。

ねえ、フランソワーズ。





僕は何も怖くないよ。

サイボーグであることが世間に知られてしまったとしても。
僕は何も怖くないんだ。






どうしてだと、思う?



「本気で上、狙うんだな?」
「よろしくお願いしますっ!」







それは、



キミが好きだからだよ。


キミが好きで。
走ることが好きで。










好きなことから目をそらして、諦めて、好きという気持ち、自分の気持ちを偽って後悔する方が、怖いからだよ。







フランソワーズ、大丈夫だよ。


僕がいるから。
僕を観ていて。






大好きなバレエを始める勇気を、あげることができる男になるから。








「お前なら、口ばっかりの夢で終わらないかもしれんな!」









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イラスト by ふるるか

(F3、1のライセンス内容とかその他は・・・創作上の都合というか、無知さ全開で色々と適当です・・・。)
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PRENDRE UN CANON 4



時計の秒針の音が、かちり、こちりと鳴るのを無意識に数えてしまう。 ふとした瞬間に耳に届くその音を振り払おうとするけれど、振り払うどころか気づけば時計へと視線を走らせていた。


誰よりも早く起きて朝食の支度を整え、イブの夜に企画されているパーティのためのごちそうの下準備。に、加えて日常のこまごまとした、いつもの家事仕事。

邸にいる人数が増えれば、自然と家事もいつもよりも増えて。
食器洗いも選択ものも、屑篭のゴミを集めるのも、なにもかもいつもの倍に時間がかかる。何もイブの今日に限ってすることでもなく、1日2日くらい先延ばしにしても良さそうなものだけれど、躯を動かしていないとこころが落ち着かなかった。

家事の合間合間に通り過ぎるリビングルームには、フランソワーズが飾り付けを途中で放棄してしまったツリーがあった。仲間たちの手で去年と同じく枝にオーナメントを飾り終えていたのを観ると、ほっと安堵の息を吐き出す。
けれど、ちらっとそちらに視線をむけるばかりで、ツリー全体をじっくりと眺めるようなことしない。ぱたぱたとリビングルームを通りるだけで足を止めることはなかった。



午後のお茶の時間も、普段はリビングルームでこなすことを今日はすべてダイニングルームで何かの作業の傍らですませた。


「聴こえんなあ」
「グレート?」


リビングルームを通り過ぎて行くフランソワーズに視線でおいかけたグレートが、首を傾げた。


「ほれ、あのチリンちりん鳴る鈴が聴こえんなあと・・・」
「え?」
「フランソワーズが携帯電話につけているアクセサリーだ。」
「ああ!」
「聴こえなかった。」
「携帯電話を持ち歩いてないってこったなあ、それじゃあ」
「いいんじゃない?約束のクリスマスだしさ、今日か明日には帰って来るだろうし」
「けどなあ、今着いたよーとか、帰るからねーとか連絡がくるかもしれんだろう、なあ?」


昨日は久しぶりに我を忘れて童心に還り、外観のイルミネーションの飾りつけに燃えた。その反動からか、今日はまったりと、ゆるやかな時間の流れとクリスマスムードを満喫しているグレート、ピュンマ、ジェロニモ。
イルミネーション計画を昨日一昨日の夕方には完成させたので、あとは点灯を待つばかり。

張大人はずっとキッチンで奮闘中。
ギルモア博士にはクリスマスなど関係なく、いつもと変わらずに地下で研究を続けている。夜の時間のイワンは、ニューイヤーの前にならないと起きてこない。今も3人と一緒にリビングルームにあるベビーベッドですやすやと眠っている。

その眠っているイワンを、クーファンにうつしてツリーの下に置き、1人で聖劇、受胎告知をするぞ。と宣言したグレートは誰からも相手にされず、ちょっと哀しい気持ちで昼食をすませたのは、2時間ほど前。
アルベルトは朝食の後、姿が見えず、それはジェットも同じ。


「帰るっていう連絡は、入れるんだ?」
「いや、突然。気がついたら、ああ、ジョーがいるぞ。とは思うが、普通に夕食を食ってたり、リビングルームで寝ていたり・・・で、旅から帰って来たような感触がまったくなくてな。あれ?旅に出ていたんだよなあ?もしかしてこいつはずっと邸にいたのか?って思っちまうくらいの、リラックスぶりで。旅先の匂いとか雰囲気なんてもんがないんだ、おもしろいくらいに。そういやあ・・・一度も”お帰りなさい”とか、”どこに行ってたのよっ!バカっ!”とかそういうのも、聞いた事ないなあ」
「フランソワーズにだけ連絡してた、とか」
「携帯電話を持たせた意味が、わかんらないくらいに、連絡はない。」
「ジェロニモ、わかんないよ?」
「それは、ない。・・・”そういうのって恥ずかしいから”と、言っていた。今帰ります。と、報告するのは、自分を待っていてくれ、出迎えてくれと押し付けてる感じがするらしい」
「ほお」
「へえ・・・、でもジェロニモ、なんで知ってるんだい?」
「注意したからだ。こまめに連絡できないなら、せても帰ってくるその日くらい連絡を入れろ、と言った。」
「なに!」
「そうなの?」
「ああ。」
「で、その効果は?」
「全くない」
「「だろうなあ」」
「今回も、ないままだろうな。」
「帰って来るのかあ?」
「約束してるって、言ってたよねえ、クリスマス一緒に・・・って、フランソワーズ」
「前夜祭の今日か、それともご生誕の日か」


3人の視線が自然とリビングルームの飾り棚にあるアナログ時計にへとのびた。
時間はかちり、こちりと規則正しく過ぎて行く。



タイムスリップしたかのように、あっという間に日が沈み、各部屋のカーテンが幕を閉じはじめたころになって、イルミネーションの点灯をいつするのか?と言う話題になるころ、外出していたアルベルトとジェットが一緒に帰宅。
手みやげに、大量の酒、酒、酒。


それらをキッチンへと運びながら、今回の総てを仕切ったピュンマが言った。


「25日0時ぴったりにねっ!外でお祝いの乾杯をしようっ」







いつもの時間に、いつもとは違うクリスマス・イヴのための料理が、ダイニングルームのテーブルいっぱいいっぱいに並びはじめる。

リビングルームのツリーの下には大なり小なり様々に賑やかで派手なラッピングを施したプレゼントが、山となって積まれており、そのプレゼントをさらに派手にするのは、ジェットが買ってきた使用されなかった電球たち。ツリーとプレゼントを取り囲むように配置されて、照明を落としたリビングルームで、チカチカと元気よく、今日と言う日はなんて素敵な日なんだろう!と、光り続けていた。



「じゃあ、乾杯は0時までおあずけってことアルね」



ダイニングルームのテーブルには、9人分のディナープレートが用意されて、パーティが始まる。

イワンのクーファンにも、チカチカと光る派手な電球が取り付けられ、ダイニングルームに飾ったリースと一緒に並べて写真を撮った。
手編みの赤いとんがり帽子にふわふわのモヘアボールがついたのを被せるのも、忘れない。ついでに来年の干支だとシマシマの寅柄パンツ(おむつカバーパンツ)を着せられておもちゃにされつつ。次々に運ばれる料理に、シャンパンに、ワイン、ビールと、美味しい料理のせいにして酒が進む、進む。

アルベルトが用意したレコードプレイヤーに彼が選んだオーディオ機器セットがしっかり用意されていたのを観て、今の世の中はこれだ!と、ジェットは最新ミニマムサイズのipodとスピーカーで対抗し、一時期180度ジャンルがことなるクリスマス・ソングが流れ乱れた。


「ジェット、空を諦めてお前の足の噴射口の使い道がなくなったら、そのスピーカーを足裏に埋めたらどうだ?・・ジェロニモ、チキンをとってくれないか?」
「おお!人間スピーカー!白より赤はどこいった?なっもう空けてしまったのかいっ?!張大人、赤が足りないっ」
「そっちのマッシュポテト、まわして!それでさ足裏のスピーカーって・・・需要あるの?」
「ピュンマ、クランベリーとクスクスのサラダをこっちに、・・・。なんじゃ、それくらいならわざわざ噴射口をふさがんでも、つけてやるぞ?」
「あいあい~。出来立てガーリック・パンに、赤!チーズは足りてるアルか?」
「サラダボール空いたのね、大人、アスパラガスのを出して来ていいかしら?」
「お願いネ!」
「前から思ってたんだけさ、僕。サンタクロースの服って色のせいもあるかもしれないけれど、防護服っぽいよね?」
「そういやあ、そうだなあ」
「けど、何か足りない。オレ、まだ鮪のタルタール食べてない。」
「今日さ、街でおねーちゃんたちが着てたぜ!003の防護服の裾に白いふわふわしたやつがあれば、」
「イワンの赤のとんがり帽子は必需品だよね?ジェロニモ、お皿かして」
「それもいいけど、ズボンなし!これっきゃないだろっ!!なま足!黒ブーツっ」
「・・・マニアックだな」




「「「「「・・・(なま足、妄想中)」」」」」



「・・・色を変える時期がきたかのお」
「博士、色よりデザインを・・・」
「どうじゃ、手始めに来年の干支の’寅柄の模様にマフラーをかえるのは!」


ダイニングルームとキッチンを隔てるカウンターの上におかれた、デジタル時計が1分ごとに数字をかえていく。楽しい時間は確実に過ぎていく。


「携帯電話、持ってないのアルか?」
「え?」


キッチンに立ったフランソワーズを追い掛けるようにやってきて張大人は、冷蔵庫のドアを空けながら、他ずれた。


「鈴の音が、・・・聞こえないアルからなんだか寂しいネ。今日だからこそいっぱい鳴らさないといけない思うのネ」
「あ・・。ふふ、持っていても・・・連絡がないのだから。それに・・よく考えたら、別に持ち歩かなくてもメールが届けばどこにいても”聴こえる”のよ、私」
「・・・」
「でも、そうね。・・・クリスマスに鈴の音は、ね?」


みんながこころの中で描いていた?クゥエッション・マークに勇気を持って尋ねた、張大人の言葉に笑って答えたフランソワーズは、ジングルベルをハミングしながら、「部屋に行ってくるわね」と言い、パーティが続くダイニングルームを離れた。

プレゼントを護るようににチカチカと光る派手な電飾にふっと微笑み、通り過ぎる。
リビングルームを抜けると、少し温度が下がった、エントランスホールに出る。ドアをくぐった右手に二階への階段があり、見上げれば、吹き抜けの作りのためにフランソワーズが使う部屋のドアが見える作りだった。


「?」


最後に部屋を出たとき、ドアをきっちりと閉めたはず。フランソワーズはその時の自分の動きを脳裏に走らると同時に、見上げた自室のドアが、壁との間に黒い線を引いていることに、神経を尖らせた。

003が人の気配のない部屋の隙間から、ちりりん、と鈴の音がかすかにこぼれたのを、聞き逃さない。





---侵入者!?



眼と耳が、一瞬にして自室へとフォーカスされる。
ばつん。と、ギルモア邸が何の前触れもなく、闇に落ちた。







「何事だっ!」





「005っ!」


「博士、イワンはまかせろ。」

「奇襲かっ」

「地下へ急げっ002っオレと来いっ!」
「わかってるっ」

「003は部屋ネっ」










瞬く間も与えずに、サイボーグ戦士が戦闘態勢に入る。












「うわーっっ!すごいなあっっ今年はスペシャルだね!!」






興奮しきった感嘆の声が部屋奥のベランダから、003の耳に響く。


「ジョーっ!?」


003の驚きにひきつった叫び声が、ダイニングルームを満たした戦闘態勢の00メンバーたちへと届くと、おうむ返しに一同、同じ名前を一斉に口にした。


「「「「「「「「ジョーっ?!」」」」」」」


暗闇の中、我先にと走り出した00メンバーたち。しかし、ジェロニモは、その闇の中でギルモア博士が怪我をしないように気を配り、イワンと一緒に抱きかかえた状態で、メンバーたちをゆっくりと追いかけた。


「ジョーはどこだっ」
「外・・・」

一番に飛び出して来たジェットに声をかけられて反射的に答えた。
呆然と階段下で自室を見上げているフランソワーズを置いて、みなが外へと飛び出していく。
先頭を切って飛び出したジェットは、すぐに海側方面からの光に気がつき、みんなをそちらへと導いた。



「うおおおおおおおっすげっ」
「おおおっ美しいっ!さすがだなあっピュンマ!」
「なんでえええええええええええええええええええええええええっっ?!なんでっ???!!!」
「デモの3Dより迫力満点っ!大成功だなっオレのアイデアもなかなかのもんだろ?」
すごいっアルっすっごいアルっ!!うっひょーーーーっ」
「ジェット、屋根のセクション1-bから降りている、47番目と48番目の幅が他に比べて広すぎる、直せ」


ピュンマが宣言した点灯時間まで、まだ1時間以上もあるにも関わらず、燦々と輝く”星降る聖夜に願いよ届けっ!愛と平和(とジョーが戻って来る)を祈る、00ズ製作・イルミネーション”。




「あ!」





タイトル通り、ジョーがイルミネーションの点灯とともに、ギルモア邸に戻って来た。


「メリークリスマス!すごいね、そっちからはどお?すぐ下に降りるよっ」


フランソワーズの部屋に通じるバルコニーで、グレートが買った光ファイバー・ツリーの珍しそうに眺めているジョーが、見下ろす仲間たちにむかって、恥ずかしげに小さく手を振った。


「なにやってんだよっジョーっ点灯は25日0時きっかりって決めてたんだよおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「そうなの?」


ピュンマが悔しさを力一杯、叫びにかえる。が、ジョーにはその悔しさがイマイチ通じてはいない。


「なんでフランソワーズの部屋にいるんだよっジョーっ!」
「総てのケーブルがここに集まってたから、点灯用のスイッチがあるだろうなーって、それだけだよっ!このツリーっすごくいいねっ今流行の光ファイバーってやつ?」


バルコニーの手すりに近づき、身を乗り出して仲間たちの声に答える。


「我が輩からのっ姫へのプレゼントだっジョー」
「いいなあ、これ!どこで買ったんだい?」
「それよりっいつ戻って来たアルかーっ?」
「さっきだよ!タクシーが捕まらなくて駅から歩いてきたんだ。ホリデーはこういうとき不便だねっ」
「とにかくっ降りて来い!」
「わかったよ!待ってて」


ジョーと仲間たちの声を聞きながらジェロニモが玄関を抜けたとき、表に投げ出された見覚えのあるスーツケースと、スポーツバッグ。そして、帰りにデパートメントに寄ったのか、店名の入ったショッピングバックが3つが、ギルモア博士の目にとまった。


「やれやれ」


ギルモア博士はジェロニモの腕から降ろされながら、ふっと微笑んだ。


「やっと全員揃ったな」
「はい。」
「ジェロニモ、イワンをこっちへ・・・。ジョーの荷物を邸の中に入れてあげてくれんか」
「了解した。」
「そして、固まっとるフランソワーズを、」


ジェロニモはイワンをギルモア博士に抱き渡しながら、それは断る。と、首を左右に振り拒否した。


「それはジョーにまかせておいたら良い、博士」






仲間たちと楽しげに会話を交わすジョーは、邸を出て行く前と何一つ変わったところなどなかった。


「・・・j・・ぉ」


今、フランソーワズの眼も耳も、彼だけをフォーカスしていた。
バルコニーの手すりに巻き付けられている電飾を避けながら、階下にいる仲間たちへと身を乗り出す、その後ろ姿。クセのある跳ね方をした髪の色が、白い電飾に色が金色っぽくみえた。


彼がぱっと、ドアの方へと振り返る。
満面の笑みに、久しぶりに会う仲間にたいして少し照れた感じの目元と頬の高さが、とても彼らしい。


「あれ?・・・フランソワーズは・・・???」


再び、確認するように手すりへと上半身を捻って階下を見下ろしたが、そこに彼女の姿を見つけることができず、バルコニーから素早く部屋に戻った。
点灯と同時にギルモア邸内の電源がすべてoffになるように細工されていたらしく、邸内は真っ暗な闇におおわれていたけれど、不自由することなく闇の中をすたすたと問題なく歩いていく。
フランソワーズの部屋を出てドアを閉めると、乾燥した空気のせいか、力を入れて閉めたわけでもないのに妙に大きな音を立てた。
その大きな音に、階段下にいたフランソワーズはびくん!と躯を縦に跳ねさせると、がくがくと膝が笑いはじめた。

見上げたままの首が、廊下を歩き階段まで進んだ彼を追うように動く。
自分の眼と耳の性能には100%の自信があるものの、今はまったく信じられなかった。けれど、ジョーの口から自分の名前が出てきたのを聞き、彼は幻ではないのかもしれないと、放心するこころが呟き、瞬きを1つ。


乾燥した空気のせいで、とても痛かった。











「フランソワーズ?・・なんだ、そこにいたんだ」



吹き抜けの明かり取りのための窓から、海側の外観を飾るライトの光をうけて、霧のような白い光の膜を、薄いサテンの生地をたらすように、エントランスに差し込んでいた。

足音のない、足音。
空気を踏む微かな気配だけで階段をすべらかに降りて、ジョーはフランソワーズの前に立った。


「すごいね、外の飾り!」
「・・・」
「綺麗だよ、みんなも外だから一緒に行こう」


邸を出ていた時間を感じさせない。
ジョーが出て行く前まで、タイムスリップしたような感覚が、小刻みに揺れていたフランソワーズの膝の揺れに力を加えた。がくんがくん。と、揺れ始めて耐えられず、腰が抜けるようにべたん。と、座り込んだ。



「フランッs?!」


また、名前を呼ばれた。

座り込んだ位置から、見上げて。
何をそんなに慌てているのだろうか?と、フランソワーズがかすれた思考に浮かべたとき、ジョーはフランソワーズをおいかけるように片膝をついて、床に腰をおろした。
ジョーは凛々しい眉を下げ、心配そうなに覗き込んでくる褐色の瞳をフランソワーズへとむける。フランソワーズはなにがなんだからわからないと言う、焦点のあっていない視線でジョーの瞳の中にいる自分をみつめた。


「どうしたのっ?!どこか痛いっ??」


慌てふためくジョーをただただ保けたように見つめるフランソワーズに、彼女の肩に手をおいて、軽く揺すった。


「フランソワーズっ?!」



---ジョーの手は、大きくて、温かい。


フランソワーズは肩を揺するジョーの手に、自分の手を重ねた。


---今、肩に置かれている手も、同じ。


そして、重ねた手にぎゅっと力を入れて、握った。


「大丈夫、よ・・・なんでも、ないわ。・・・びっくりしただけ」


---ああ、ジョーなのね?


ジョーの手が、フランソワーズの肩を揺するのを止めて、握られた手に視線を映す。
すると、火がついたように、彼の手が熱くなった。


---本当に、ジョーなのね?


「・・・・・・その、・・・」


ジョーはフランソワーズを目の前にして、口ごもった。


「あの、ね・・、なんて、いうか」


邸を出ていた間のことを、その理由を、どんな言葉から彼女に伝えれば良いのか。


ギルモア邸へと向う道中、ずっと考えていたけれど、結局まとまらないままに邸に到着しまい、なんとなく邸に入りずらく、耳にうっすらと届くクリスマス・イブのディナーを楽しむ仲間たちの声を聞きながら、邸の周りをうろうろと歩き回った。
さっさと玄関のドアをあけて、”お腹が空いた!”とでも言いながらディナーに参加すればいい。途中で寄った駅の地下街で買った、お土産と一緒に。と、決心したとき、一般道に面していない、海側の外観がおかしなことになっていることに気づいた。
一応のことを考えて、それらをチェックし、外観を覆う大量の電飾ケーブルの線がまとめられていく先が総てフランソワーズの部屋のバルコニーだと知る。


自分の知らない間の出来事が、フランソワーズの部屋にある。そう思うとなんだかもやもやとした気持ちに押し出されるかのように、自分が暮らしていた邸にも関わらず気配を消して忍んでに邸へと入り、フランソワーズの部屋へとむかった。


「部屋に、勝手に入って・・・ごめん、ね・・・。びっくりさせて、ごめん・・・」


---ここにいるのは、紛れもない、ジョー、彼なんだわ。




「・・・ジョー」

「?」

「ジョー・・・」

「なに?」

「ジョー・・・・」

「?」

「ジョー・・・、ジョー・・・・・」

「フランソワーズ?」

「・・ジョー、・・・・・・・ジョー・・・・ジョー、・・・・・・ジョー、」







ぎゅっと握っていた手を、フランソワーズは離して、目の前の彼の頬にそっと触れた。
フランソワーズの動きとその指先の感触にびっくりしたジョーは、フランソワーズから躯を引いたが彼女の手は動じる事なくおいかける。


「っジョー・・・」


両手で彼の頬を、水面にはった氷にふれるかのように、包みこんだ。


「・・・・約束したからね」


両手に触れている、ジョーの頬の温かさを、フランソワーズの指先がなぞる。


「帰って来たよ・・・。僕が、帰ってこないなんて、ないよ」


ジョーは自分の頬を包むフランソワーズの手の甲に触れ、指先を滑らせるように、手首から腕。腕から肘、そして二の腕と伝い、彼女が自分の頬に触れているように、触れた。


「メリー・クリスマス・・ジョー」
「うん・・・。久しぶりだね」
「・・・・元気だった?」
「元気だったよ」


ジョーの手が、フランソワーズの手が、久しぶりに目にして触れるお互いがお互いの存在が此所にいることを、幻でもなく、夢でもなく、ちゃんと現実にいることを確認するように、髪に触れ、肌を撫で、肩を寄せ、腕に、抱きあった。


「・・・・温かい部屋で休めていて?」
「うん・・、ちゃんとした部屋で、生活していた」


胸の中にいるフランソワーズの、くぐもった声を拾おうと耳をよせる。



「病気とかしてなくて・・?」
「うん、大丈夫だった」


自然と、くちびるが彼女の甘い香りのする髪へと寄せられた。


「3食、きちんと食べていて?」
「うん、食べていたよ」


ジョーの胸に押し付けている頬が、彼の着ている服を超えて、伝えてくる体温に染まる。



「好き嫌いなく?」
「残さなかったよ」


華奢で細い背中をそっとなでた。


「・・・酢豚に入ってるパイナップルもよけずに?ポテトサラダにはいったリンゴも?マンゴーカレーのマンゴーも、ドライカレーのレーズンもちゃんと?」
「・・・・・・・残さなかったよ。っていうか、そういうフルーツが入った料理ってほとんどなかった」


細身な印象の見た目とは違う、厚みのあるしっかりと広い背中にまわした腕にいれた力を、少しゆるめて、彼の脇下あたりの布をにぎった。


「おやつのパンケーキにバナナを混ぜて、ハチミツと一緒に出されても?文句を言わずに食べたの?」
「だから、それはパンケーキで。僕が食べたい”ホットケーキ”は何も入ってない粉と牛乳と卵だけのプレーンなものをバターで焼いて、メープルシロップなんだよ」


こぼれる、クスクスとした笑いにゆれた、フランソワーズの亜麻色の髪が、彼女の華奢な背にまわしているジョーの手をくすぐった。


「ラムレーズのアイスクリームも食べていたの?」
「あれは鼻につんってくるから食べないんだよ、残すとかじゃない。初めから食べないって決めてる」


温められているギルモア邸内に、うっすらと冷たい風が紛れ込む。


「好き嫌いしてるじゃないの」
「趣向の問題で”好き嫌いに入らないよ」


薄く開かれたドアが、聞き耳を立てていた。


「・・たくさんの人に、出会ったのかしら?」
「うん、・・・たくさんの人に会ったよ、いろんなところへ行った。お世話になったし、親切にしてもらった」
「そう・・」
「うん」
「毎週、ジョーが観ていたドラマが終わったわ」
「知ってる、1話も飛ばさずに観てたよ」
「年始にね、スペシャル2時間ドラマになるのよ」
「それは、知らなかったな・・・」
「知らなかったの?」
「うん、知らなかった」

ジョーが真剣にうなずいたことを、フランソワーズはジョーの腕の中の揺れで気づく。


「・・・・お夕食は?」


揺れと一緒に、くうっとなったジョーのお腹。


「まだだよ、もちろん・・・僕の分、あるよね?」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ね?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・みんながもう全部食べちゃ・・った?・・・とか、ないよね?」


フランソワーズは、ジョーの胸から押し付けていた頬をはなして、彼を見上げて微笑んだ。


「ジョーの好きな、・・クラム・チャウダーを温めなおすわね」














入り込んでいた12月の冷えた空気が、ぱたん。と、途絶えた。


「で。・・・これからどうするの、僕たち?」
「まだ食い足りないぜ?」
「飲みたりないぞお!」
「博士、大丈夫ですか?」
「地下へ降りるかの、・・・」
「ドルフィンで二次会アルね!」
「酒あるのかあ?」
「こういうときにこそ、イワンが起きてればなぁ」
「このままいっそのことジョーの真似をして、みんなで旅にでちゃおうか?」


冗談とも本気ともとれないピュンマの発言に、その場にいた者全員が注目する。


「書き置きでもしてさ、”ニューイヤーには帰るから、約束する。”でいいんじゃない?僕たちが一生懸命に準備したクリスマスをぜえええええええんぶっジョーにあげてさ!」


彼はジョーが戻って来たことを喜びながらも、彼がしたことにたいしてそこそこ不機嫌なままだった。


「あげるっていうか、押し付けるか?」
「いいかもな、それ!」


1人、また1人と、邸の外からでも地下へと、ドルフィン号が納められているドックへと通じる場所へと歩き出した。


「アイヤー・・」
「それで、ドルフィンでどこへ行く?国外か?」
「そういえば0時の乾杯用に、シャンパンが外に・・忘れないようにしなきゃなあ」
「ふむ・・。どうせなら真夏のクリスマスとかどうじゃ?南半球で真夏のクリスマスを過ごすとかどうじゃ?」
「いいじゃん!それっ」
「おおっさすが博士っ!!」
「アイヤーっ!美味しそうね!!」
「オーストラリアあたり、ですか?」
「フランソワーズの携帯電話にドルフィンからメールを入れておこう。」
「決まり!常夏のクリスマスへ出動!」













携帯電話がゆれて、フランソワーズがつけいた幸せを呼ぶ招き猫のキーホルダーの鈴がちりりん、と鳴った。





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イラスト by ふるるか (あと、短いエピソードで終わる・・はずっ)
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PRENDRE UN CANON 5




空っぽの胃も気になるけれど、とにかくみんなが外にいるからと、ジョーはフランソワーズと一緒に外へ。
フランソワーズの話しによれば25日0時ぴったりに、その日が誕生日のジェロニモがフランソワーズの部屋のバルコニーのスイッチを押す役目だったらしい。

ギルモア邸の玄関の外に置いていたはずの荷物が、玄関”内”に移動していることに”あれ?”と首を傾げつつ。
「ジェロニモに悪い事しちゃったな」と苦笑したジョーに、フランソワーズはクスクスと笑いながら、言った。


「仕方がないわ、ジョーは知らなかったんですもの。それに少しでも”おかしい”と思ったら調べることがあなたのお務めだものね、みんな解ってくれているわ」






輝くイルミネーションに飾られた邸は、夢のように美しく、魔法の世界にでも紛れ込んだような錯覚にフランソワーズは感嘆の声を上がる間もなくうっとりと眺めた。
その世界で待っていてくれているはずの仲間たち。の、姿が見あたらず、リビングルームに繋がる庭に置かれていたはずの、ガーデンテーブルだけが、魔法世界で2人を迎えた。

2つのシャンパングラスとハーフサイズのシャンメリーと一緒に。


フランソワーズの耳に、携帯電話がメールを受信したと言う、振動がとどいた。
ちりりん、ちりりんと、揺れた鈴の音もフランソワーズにメールが届いたよ、と報せてくれる。








”みんなが誕生日の祝いとして、真夏のクリスマスに招待してくれた。31日には戻る。置いていったのではない。旅から帰って来たばかりのジョーをまた旅に出すのは、どうかと思っただけだ。フランソワーズ、ジョーのことをまかせた。こころから2人を愛している。そして、2人も愛しあう仲であることを、世界の平和とともに願う。メリー・クリスマス。by5”








クリスマスのデコレーションとして飾っていた邸内のロウソクを集めて、リビングルームでそのすべてに火を灯した。


「まったく・・・。電力を地下から繋げばいいのに。電飾を付けるために、邸内の電源を全部落とさないといけないなんて。もっと上手くできなかったのかなあ」
「ふふ、そうねえ。色々と考えたらしいのよ。イルミネーションを観ている間は、邸の中になんていないから、別に問題ないってことになったみたいなの」
「じゃあ、あれをつけたままの、僕たちが悪いってことなんだね?」
「ええ、私たちがルール違反なの」


温めた、ジョーの好きなクラム・チャウダーをスープボールにたっぷりとつぎ、3枚のプレーンクラッカーを添える。
外に出されていた、空になったシャンメリーとシャンパングラスを持ち帰り、新しいシャンパンを1本用意する。フランソワーズは白ワインも出して来た。

ダイニングテーブルに出された9人分+アルファされた量に、ジョーは「新年まで料理しなくていいみたいだね」と言って笑いながら、自分が食べたい好きな料理を大皿によそっていく。その雑さを見かねて、009にリビングルームで待機するように命令した、003に「yes、mam」とおどけた。


フランソワーズが大皿3枚に綺麗に見栄えよく飾った料理を運び、2枚の取り皿、銀のフォークとナイフ、そしてクリスマス用のイラストがプリントされたペーパーナプキンで、背の低いテーブルの上に小さなパーティをコーディネートしていった。

ッ準備が整うまでの短い時間を待ちきれず、すでにテーブルの上にあったクラム・チャウダーを無心に頬張るジョーを見て、呆れながらも嬉しそうに笑うフランソワーズは、ソファには座らず、テーブルを挟んでジョーの正面、彼と同じように毛足の長い絨毯の上に直接座ったとき、ジョーは手に持っていたスプーンを置いた。


「ちょっと、待ってて」
「どうしたの?」


ジョーはフランソワーズが、順簿を整え終えて腰を下ろした事を確認してから、おもむろに立ち上がった。


「眼を使って、僕を追いかけて見たら駄目だよ」
「ふふ、わかったわ」
「フランソワーズに、クリスマスプレゼントがあるんだ」
「あら、プレゼントは25日の朝に開けるものなのよ、ジョー」
「渡したいときに渡すのが、009流だよ」


ジョーは早足にその場から去る。
フランソワーズは、恥ずかしさに躯がくすぐったくて、もぞもぞと躯を揺すった。


ジョーの荷物はエントランスに置かれたまま。
待っている間、揺らめくロウソクの炎を見つめながら、フランソワーズはジェロニモから送られたメッセージを頭の中で反芻する。
ジョーには見せていない、メッセージ。


『ふうん、そうなんだ。気を使ってくれて嬉しいけど・・・。夏のクリスマスかあ、まあ、もう出てしまったんだから仕方ないね』


彼女は言葉で仲間たちがなぜ邸からいなくなったのかを伝えたときのジョーは、ちょっとそこまで買い物へ出た仲間たち。というような感じで捉えたようにみえた。


「フランソワーズ、・・はい、これ」


すぐに戻って来たジョーは、腰を落ち着かせるることなく立ったまま、まるで板チョコでもわけてあげるような気軽さで、B5サイズのシンプルな銀色のフレームを渡した。
クリスマスプレゼントと言われたけれど、ラッピングも何もない、むき出しのまま渡されたプレゼント に、フランソワーズは”これが009流?”と笑った。笑ったまま、受け取ったフレームのヒンヤリ冷えた感触に視線を落とす。


「ありが・・・と・・・・・」




固い文字が並ぶ、フレームの中に納められていた1枚の書類の文字を、一瞬で読む。
















フランソワーズの様子を窺いながら、ジョーは、2口クラム・チャウダーを頬張り、シャンパンではなく、フランソワーズが選んだ白ワインを開けて、グラスにそそいだ。


「それが、・・・邸を出ていた理由」


とくとくと音をたてて淡くゴールドがかった液体を見ながら、説明する。


「レーサーになる」


「嘘でしょう?!」と口から出ないかわりに、フランソワーズの瞳がおどろきに見開いて、ジョーを見た。


「・・・トップを目指す・・世界に出るよ、僕は。・・・見ていて、フランソワーズ。それはまだ”仮の国内Aライセンス”で、ちゃんとしたのが手に入るのは、2ヶ月後。それからCレース免除を狙う。・・・それでキミに、持っていて欲しいんだ。ここから始まる、僕の覚悟を」
「・・そんな、・・世界って、ジョーっ何を、・・・な、そんなのっだって、私たちっ・・・だって・・・無理よ・・何を言って・・・」


フランソワーズの困惑の顔と視線に、ジョーは余裕を持って対応した。


「無理じゃない。僕は諦めない、逃げない、サイボーグだからって、僕らは人間だよ。・・それに、サイボーグが世の中に出ていったらいけないなんて、法律はない、どこの国にも、ないよ」
「ジョーっそれはっ」


そそいだワイングラスを手にもち、フランソワーズへと差し出す。


「お祝いしてよ、クリスマスと一緒に」


差し出されたワイングラスと、手に持っているフレームに納められた書類を忙しなく往復させる瞳が、彼女の混乱と焦り、悲しみと不安、すべてを表している。


「一緒に・・僕のこれからを祈って・・・。キミが祝ってくれないと、僕は前に踏み出せない」
「ジョーっ、私っ・・・」
「本当は・・・見守っていてくれるだけでいいと思ってた。キミが見ていてくれるなら、何よりも心強い。でも・・・僕はそれだけじゃ満足できない我が儘な男なんだ。キミを連れて、世界に出ていきたい」
「連れて・・っ・・・ジョー、あなたが走ることは止めないわ。でもっ・・・上を目指すって、世界って・・・今までのように・・・どうして、今までのままじゃ駄目なの?」


ジョーは、グラスを持ったまま、腰を浮かせて躯をぐっと前に乗り出し、テーブル越しにいるフランソワーズの腕を掴んだ。


「どうしてだろうね?・・・それは、きっと・・・・・僕が、島村ジョーだからだよ」
「・・・ジョー・・・だか・・ら?・・・でもっ」
「009じゃなくて、島村ジョーとして生きて行きたいから、フランソワーズ・アルヌールに、訊いてるんだ」


フランソワーズはされるがままに、腕を引っ張られて、強引にグラスを握らされた。


「・・・たくさん、話したいことがある。・・僕と同じくらい、キミも言いたいことがあると思う。でも、これだけは譲れない・・。もしも、もしもキミが、」





反対するときは・・。









ジョーの手が、両手でグラスを握らせたフランソワーズの手を包む。
その、手の温かさと、大きさと、迷いない強さは、009ではない。


島村ジョーの、手だった。








---出会ったときから、ずっと、ずっと、変わらない。


これからも、きっと、変わらない。
信じている、こころから、ジョーを信じている。・・信じているから。


009じゃなくて、あなたを、・・・ジョーを、信じているから、




信じているのなら。







「PRENDRE UN CANON 」





フレームを床に置き、腰を浮かせて膝立ちになる。そして、グラスへと顔を、唇を近づけて、ジョーの両手が自分の手と一緒に支えているままのグラスの白を、一気に飲み干した。


その様を、傾いていく自分の両手と一緒にみていた。


「・・・ジョー・・・、私、・・たくさん酔って忘れてしまうわ。この躯のことも、過去も、ナンバーも・・・・・フランソワーズ・アルヌールとして、答えたいから・・」
「フランソワーズ」
「・・・情けないけれど、お酒の力でも借りないと・・・、私・・・」
「・・・・・わかるよ。僕の、想いを押し付けてるようなものだから・・・フランソワーズ」
「・・・」
「勢いで、言ってしまってよ・・・、今日のクリスマスのムードに、お酒の勢いに、さ・・それでいい」


フランソワーズの手が、動く。
グラスがテーブルの上に、置かれた。


「僕は、レーサーになるよ」


ジョーの手も、同じように、動く。
テーブルの上に置かれたグラスから離れた手を、フランソワーズが捕まえた。







「ジョー・・、応援するわ。世界最速の”島村ジョー”と世界中の人が、・・あなたを知る日が来る事を、私は、・・・信じてる。・・・置いて行かないで、私も、・・連れて行ってちょうだい。・・・・おめでとう、これからのあなたの・・レース人生に、ちゃんと乾杯・・しなくちゃ、ね」








フランソワーズの唇が、1つ1つ言葉を形作るのを、ジョーは見ていた。


「僕たちの新しい一歩に、・・・・乾杯・・」


その唇が作り出した言葉を訂正できないように、固く、鍵をかけるため、キスをした。


それは、いつ、どのタイミングで渡そうか、やっぱりやめておこうか、どうしようかとずーっと長い間迷っていた、内緒のクリスマス・プレゼント。






「キミの誕生日には、トゥ・シューズをプレゼントするって決めてるから」と、離れた唇が、告げた。





end.





*なぜか・・・単発連載になってしまったクリスマス(涙)のお話。
おつきあい下さってありがとうございました。
『PRENDRE UN CANON 』は親しい間柄で使う”乾杯!”の意味があるそうです。 本来は「今夜は飲むぞ!」「一杯飲むか!」に使うらしいです。



イラスト by ふるるか
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