RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
”ツンデレと無自覚に五題”でバレンタイン・デー!





1. 冷たい態度と無自覚の相殺効果(通じないにもほどがある)
『素直になれない』


「大丈夫なようだ」
「そうね・・動く様子は・・・ないようね」

360度、どこをみても青い海。
上は空、下は海。
鳥が飛び交い雲が流れている方の青が空。
優雅に潮の流れにのり、自分の色が一番奇麗だと自慢する魚たちがいる方が海。

「このまま、待機だ」

ドルフィン号と呼ばれる名のごとく、海陸用戦闘機は海の中にいた。

「私はこのまま眼も耳も・・」
「いや、いい」
「え?」
「・・・キミは部屋にもどって、いい」
「敵がいつ私たちの隠れている場所を嗅ぎ付けてくるかわからないのよ?」
「僕がいいって言ってるんだ。休んで、003」
「いいえ、このまま両方のスイッチは入れおくわ、だから009こそ休んで。交代なしでずっと操縦席に座ったままよ」
「僕よりもキミだ」
「いいえ。私よりもアナタよ」
「いいから、休め!」
「も、何をムキになってるの?ね、部屋に戻って休んで」
「ムキになんてなっていない・・」

お互いがお互いに休憩をすすめ、譲り合う。

「009、無理は禁物よ」
「キミの方がだ、003。部屋に戻れ。いざって言うときにばてられたらそれこそ困る!・・だから、命令だ」
「そんなヘマしません!」

---もお!せっかくさっき、コーヒーカップをキッチンへ運ぶついでに・・・アナタの部屋へチョコレートを置いてきたのに!

---ったく、・・・今日は何の日かわかってるだろ?・・気づけよ。・・・一応、用意してあげたんだから、な。



「部屋で休め」
「いいえ、009。アナタからどうぞ」



---あと、15分で今日が終わってしまうわ・・

---今日中に見つけてもらわないと、間抜けだろ!


コクピットにいて、二人と同じように見張り当番にあたっていたもう一人の仲間が密やかに笑う。

「二人とも!僕には休憩をすすめてくれないのは、何か”理由”があるわけ?ねえ?003、009、それは今日が”ヴァレンタイン・デーってことに、関係あったりするぅ?」
「「ない(わ)よ!!」」




---まあったく、これ見よがしにイチャイチャしないでよねえ・・・。僕だからいいけど、他の連中だったらと思うと。ヤレヤレ・・もう少し自分たちがラブラブ・オーラを出してるって自覚、ないのかなあ?

end.




2.ズレてる感度のハロー効果 (神々しいほど無頓着)
『付き合いが長いとイベントなんて・・結局は』


「チョコレートが食べたいなー」
「・・いきなりだね」

ジョーの部屋。

「食べたいわ」

先日にコンプリートさせたミッションの報告書兼データ整理のために、ジョーはデスクの上に置いたパソコンにかじりついていた。

「そう・・」

フランソワーズの会話に全く興味を持つ様子はなく、ジョーの部屋でただごろごろとベッドの上で転がっている暇そうな、彼女。

「ねえ、ジョーは食べたくない?」
「別に」

彼の枕をぬいぐるみの代わりに抱きしめた。上向けにねっころがって天井を睨む。

「食べたいわよね?」
「・・・特には」

そっけないジョーの返答など、別に気にする事なく、そのまま言いたい事を口にする、フランソワーズ。

「どうせなら、ジョーと一緒に食べたいなー」
「そんなに食べたいなら買ってきたら?ボクはいいから」
「もお・・・。食べたいの」
「食べたいなら、食べればいいだろ?ボクはいらないって言っているんだから」
「乙女ごころがわからない人ね!」
「・・・フランソワーズ」

深いため息を長く吐き出しながら、デスクチェアをくるっとまわして、彼は自分のベッドの上で寝転がっている人へと面倒くさそうに視線をむけた。

「14日なら、少しはつきあってあげようと気持ちくらいはあったよ、いくらボクでも」
「え?」
「・・・今日は何日だ?」
「日曜日よ、バレンタイン・デーでしょ?」

だからチョコレートが食べたいって言ってるのよ。と、つぶやきながらベッドから身を起こしたフランソワーズにむかって、ジョーは言った。

「ばか、・・・バレンタイン・デーは先週の日曜日だ」
「えーっ!うそでしょっ!!」
「ミッション中だっただろ?」
「うそおおお・・ジョーに高いチョコレートを買ってもらおうとおもってたのにーっ!」

ぽてん。と再びベッドに背中からひっくり返って悔しさに悶えるフランソワーズに、ジョーはあきれかえる。
のっそりとデスクチェアから立ち上がってベッドへと近づき、右の片膝をベッドの上にのせた。フラソワーズの膝上をまたぐように左足もネッドへとのせて彼女にに被いかぶさる。

「逆だろ?キミが、ボクに、だろ?」
「もー・・・ホワイトデーにミッションが重ならないようにしてねー・・」

天井が消えて、ジョーの顔だけがフランソワーズの視界を占領する。

「ホワイトデーまで・・がっつくなよ」

おりてくるジョーの顔、伏せられた瞳。重ねられた唇。断りなく潜入してくる、舌。
重力が増したようにかかってくる彼の体重と、彼女の間にある枕がぺしゃんこになる前に、ジョーの手によって救出された。

<ねえ、チョコレート・パフェ食べにいかない?>
<・・・この状況わかってる?>

「気分はバレンタイン・デーでチョコレートだったの。今は何されても駄目だとと思うわ。今はチョコレートにしか興味ないわ・・・」
「・・・・それ、本当かどうか・・・・・確かめてみるよ、」
「・・・お腹すいちゃうじゃない、よけいに!」
「我慢、我慢・・疲れた後に甘いものって最高に美味しいらしいよ?」

end.




3.君が甘える異化効果 (キミガワルイ)
『キミが誘ったんだ』


「003」
「イエス、009」
「・・・ココアなのは、なんで?」
「今日がバレンタインデーだからよ♪」
「僕が頼んだのは、コーヒーだけど?」
「残念なことに、ドルフィン内にチョコレートがなかったの。うっかりしていたわ!」
「・・・だから、コーヒー」
「でも、ココアがあったの♪」
「僕は、コーヒーを頼んだんだ」
「ええ、そうね。でもせっかくだもの、戦闘待機中でも、これくらいはいいと思うでしょう?」
「いいけれど、僕がオーダーしたのはコーヒーで、・・」
「みんなはおいしそうだね、ありがとうって受け取ってくれたのに・・」
「”みんなに”ね、”みんな”・・・・そう、・・ありがとう。でも、コーヒーお願いしていい?」

---”みんな”と同じもの・・・、か。


「我がままねえ、了解、009。今”アナタ用のコーヒー”をいれてくるわ」


---甘くないようにしたのに・・・。


「ねえ、009」
「なに?」
「一口くらい飲んでくれてもいいじゃなくて?せっかくいれたんですもの、・・・駄目、かしら?」


---甘いのは駄目ってわかっていても、一口くらい。アナタが苦手な甘さじゃないから。



フランソワーズは兄におねだりするときのような、甘えた上目遣いでジョーを見つめた。

「・・・味見くらい・・・なら・・ね」

ジョーが、そっとカップに唇を寄せて、なめるように一口だけココアを飲んだ。確かに、彼女が言う通り甘くなく、さらりとした舌触り、そして、カカオ独特の苦みが強めに出ていたもので、悪くない。と感想を持った。
ジョーの唇が離れたのをみて、そのカップへとフランソワーズが手を伸ばしてきたため、ジョーは今更”おいしいから全部飲む”と伝えるタイミングを逃してしまい、小さく舌打ちした。

「・・・」

その音には気づかないまま、フランソワーズはジョーから受け取ったココアを飲んだ。

---誘ってるのかよ?

ジョーの好みにあわせて作ったので、それはまったくフランソワーズの口に合わない。ぐっと我慢して熱さも気にせず一気に飲み干した。

「ふうううう・・・・。ごちそうさま。待っててね、009!」

置かれたカップにまだ1口分ほどの量が残っている。
ちらっと視線をそこへ投げた。

「・・・まあ、せっかくなんだし、残したら悪いし」と、言い訳しながら、フランソワーズが唇寄せた部分を意識して、同じ場所に重ねて残りを飲み干した。



---僕は小学生か・・・・・。



僕が飲んだ、ところに、キミの唇が。
そして、その場所に再び、僕が。

「・・・・甘すぎる」

<003、今すぐに部屋で待機>
<え?>

---キミが悪い、こんな甘ったるいココアをいれた、キミがね。

<待機だ。少し話がある>
<・・・り、了解>

end.




4.らしくないのは逆効果 (無理は禁物)
『そういうキャラじゃなかったようだ』


「フランソワーズ」
「なあに?」
「・・・・その」
「?」
「・・・・・・・・今日は、そういう日だし」

二人は、周りの大きなお世話的気遣いによってリビングルームを占拠していた。
聞き耳をたてられているのかもしれないと、最新の注意を払った009。・・・が、一階には今自分とフランソワーズだけであり、みんなは二階にあるリビングルーム、コモンルームでバレンタイン・デーにかこつけた宴会を初めていた。
きっかけは、グレートが買い込んできた世界のウィスキー・ボンボンコレクション。

「まあ・・・(一生に)一回くらい、ちゃんと言っておいても、いいかな・・ってさ」
「どうしたの?」
「・・・・キミのこと・・・・・、・・・、・・・・・。・・・・あ。あ・・愛、して・・る、から」
「ジョーっ!」
「!?」
「風邪っ!?熱!?っやだっどうしましょうっ!!!博士ーっ!ギルモアっはかせえええええっジョーがあっジョーがああああああっ大変ですううううううううううううううううううううっっ」
「い’’っ!」

大パニックに陥ったフランソワーズは新型加速装置がつけられたのかと思うほどのスピードで二階へと走っていった。
「ジョーが私を”愛してる”なんて言うんですっ!!あの”ジョー”がっ!」
「なにーっマジかよっ!ジョーっ!おいっジョーはどこだっ!」
「それは本当か?」
「どうした。ジョー、壊れたか。」
「すごいねえ、ジョーがとうとう口にしたんだ!」
「アイヤーっ!!どうするアルかー!!
「おおおお!とうとう孤高の戦士は、気づいたのだ!!どんなときでもそばを離れぬ一輪の花にっ!!祝いだっ酒だあああ!」
「すぐにジョーをメンテナンスルームへ!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」


ジョーは加速装置を思い切り噛んだ。


end.




5.自意識の意地と無意識な意地悪の相乗効果 (結果オーライ)
『ご利用(バレンタイン・デー)は計画的に』


「・・・・疲れてるの、かな」

地下の研究室から戻ってきたジョーは、どっかりとリビングのソファに腰をおろした。

「どうしたの、ジョー?」

昼食を済ませてから、それほど時間が経っていない。

「いや・・・」
「?」

いつもなら、フランソワーズが所用でジョーを呼びに行っても、「手が離せない」の一言で片付けられてしまうはずの、時間帯。

「・・・甘いものが、ちょっと欲しいかなって気分で」
「あら、そうなの?」

「珍しいわね」と、つぶやくが、ジョーのためにキッチンへ向かう様子などみせず、膝に広げた情報誌をぱらりとめくり、ちらっとつけっぱなしのテレビが映したCMに視線を投げた、フランソワーズ。

「このごろ夜も遅かったし・・」

そんなフランソワーズの様子を、視線だけでちらちらと伺うジョー。

「そうかもよお・・。今日は博士のお手伝い・・、お休みしたら?」

ジョーのことなど興味ない様子の、フランソワーズが、また、ぱらり。と、ページをめくった。

「・・・そうもいかないよ」
「休むことも、大切よ?」
「・・・・わかってる、だから」


---疲れをとるために、甘いもの、が、キミからもらえないかって訊いてるんだ・・・。


「まあ、みて!ジョー」
「・・・・」
「すごいわ!あのデパートにフランスの老舗チョコレート店が期間限定で、オープンですって!!やだ、今日までじゃない」
「・・・・へえ」


---気づけって!!でかでかと”バレンタイン・デー、チョコレート大特集!って書いてあるだろ!


「おいしいわよお、きっと!!」


うふふ♪と、そのチョコレートの味を想像して楽しむフランソワーズの隣に座るジョーは、深く、深くため息をついた。


---自分が食べる事しか考えてないんだね・・・。


「ねえ、ジョー。疲れているところ申し訳ないのだけれど・・」
「・・・・・そのデパートまで車出して欲しいんだ?」
「ええ、お願い!ジョーにも一個、食べさせてあげるから♪」


---一個だけだとっ!


「しょうがないわねえ!特別に2個あげるわ、特別によ、特別!」
「もういいよ。・・・いらない」
「・・・え?いらないの?」
「ああ、いらない。フランソワーズからのチョコレートはい・ら・な・い」
「そ!ふふ♪わかったわ、でも、車はお願いね!私、おでかけの準備してきまーす!」

フランソワーズは嬉々としてスキップするように、自室へと向かった。

「・・・・めちゃくちゃ高いやつ、その店で僕用に買ってもらうからね、絶対に」

その後ろ姿を見送りながら、今日のミッションについて様々なシチュエーションにあわせた策を練り始めた。








結果は5時間後。
デパートの地下駐車場で。

end.


Fortune Fate 写真素材 ミントBlue








*すっごくすっごく、む・・難しかった・・・、です(大汗)
スポンサーサイト
web拍手 by FC2
不安/その日を意識する関係。
注意)フランソワーズは(ジョーのアルバイト先の)水沢(美奈子)さんがジョーをあきらめた(失恋した)ことを知りません。










クリアボックスに保管している食玩をそおっと並べながら、ため息をひとつ吐いたフランソワーズは、キッチンカウンター・テーブルの脚の長いカウンター用チェアに正座するように座っていた。
カウンター・テーブルに体重を預け、並べ終えた百鬼夜行の出来映えを様々な角度からチェックする。

「2月...」

チェックした後に、新しく購入した仮面ライダー(平成版)大特集2010!の日替わりカレンダーの1枚をぺりっとやぶいて日付を見つめた。

「あと、一週間」

いつの間にかできたキッチンカウンター端の棚、一角にある”フランソワーズ・コーナー”。
食玩好きなフランソワーズのコレクションが並べられている...のは、そこだけではなく、ジョーの部屋の本棚の一角も占拠しており、彼女は最近そことこことのディスプレイにこだわりを持っていた。

「...なのねえ」

今月のキッチンのディスプレイは妖怪百鬼夜行である。
『ニッポン妖怪辞典・シリーズ第4弾』をコンプリートしたフランソワーズは、1~4のすべてを奇麗にならべていた。
今月のジョーの部屋は百鬼夜行にかけて、陰陽師シリーズ『戦え!安倍晴明』だった。実際の俳優をモデルにして精巧につくられたそれは、毎晩ジョーにむかってお札を向けて睨んでいる。

ジョーは並べられたそれらの視線が気になって仕方がなく、なんとか別のディスプレイにしてくれとフランソワーズに願ったが、それならキッチンに並べる予定の”妖怪百鬼夜行”に変えると言われてしまい、渋々、戦う安倍晴明に睨まれる日々を過ごしていた。

「みんなにはいつもどおりカードと・・」

何かを送っていたのであるが、去年の12月から続くプレゼント(×家族分+ジェロニモ、G博士、ジェットのお誕生日)などで、フランソワーズの懐は淋しく、コツコツとためていた貯金がうっすらとそこが見え始めていた。
今後は春がすぎるまで普段の1/3で過す予定。そうしなければ、また5月のジョーの誕生日が”フランソワーズ、なんでもします券”になってしまう。

ノートパソコンにフリーのおこずかい帳をダウンロードしたのは、去年の12月31日。
今年の抱負は”おこずかいの利用は計画的に!”な、フランソワーズ。


「うー・・・っん!!カードだけで今年は我慢してもらいましょう!・・そのカードは私の写真・・・なんて、・・ほら、たまにジョーが買ってる漫画の雑誌に載ってる、グラビアアイドルみたいなセクシーショットとか?なら、カードだけでも許してくれると思わない?」

カンターチェアから猫のように音もなく降りると、フランソワーズの亜麻色がふわりと空気をふくんで揺れた。

「なんて、私なんかじゃ駄目よね、・・・・さ!・・・・ジョーを起こして・・」

起こしてこようかしら?と思った足が、止まる。
キッチンへ行くこともなく、ジョーの方へと向かうこともなく、その場に止まった。






---2月14日のヴァレンタイン・デー・・に。・・絶対、あの人から、・・もらって・・くる・・・・わよね・・。












あの、人。
・・・・ジョーの、アルバイト先の大学にいる、・・・水沢・・美奈子さん。






ほんのりブラウンに染めた髪をふうわりとユルくたて巻き風に巻いた髪型の、本物のモデルさんのような、彼女。
ジョーのことを「島村くん」と呼ぶ、彼女がつけていた香水はラルフローレンのロマンス。


初めて彼女を知ったのは、駅。


ジョーと楽しそうに話していた。(by切なくて息苦しい/アタシは平気、なの。)



妹さんがネイルアーティストと教えてくれた。
その妹さんの練習台になっていると言って、いつも奇麗なかわいらしいその爪先を、つややかなリップグロスでかざった唇近くに添え、くすくすっと笑う姿がフランソワーズの瞳に焼き付いてる。

その指先のネイルをみせてくれて、妹さんのお店を教えてくれたのは、京都の旅館。(by『もじもじ京都・嵐山2泊3日旅行編』)










いつでも、どんなときでも、彼女の視線は”島村くん”へと向けられていて。
島村くんは、その視線に気づくととても、優しく彼女へと笑いかけて。

「・・・・好きなのよね」

そうすると、彼女は本当に、嬉しそうに、嬉しそうに・・幸せそうに微笑み返すの。
恥ずかしそうに、くすぐったそうに、頬を高くして。




---そして、・・ジョー・・は?





「彼女のこと、好き?」


フランソワーズはゆっくりと体をねじりって天井を見上げ、ある方向にむかって顎の角度をあげた。
静かなジョーの寝息が、まるで彼のベッドの枕元に耳をよせたように、はっきりと聞こえる。


「・・・・好き?」


フランソワーズはゆっくりとまぶたを閉じて、”眼”は使わずに、”耳”だけ音量をあげて彼の呼吸音に集中させた。



『・・好k・な・・ん、だ』
「え?!」


ジョーのタイミングの良い寝言にびくん!跳ねた肩が、がくがくと震え、足下からひゅうっと上り上げる寒気に、フランソワーズの心臓が凍り付く。

押し上げられた、まぶた。

青い双眸が映していなければならない天井、から透けて、ジョーの部屋の床、から彼が身を横田和されているはずのベッドが、視えない。

”眼”が壊れてしまったかのように、真っ黒なスクリーン。


---好きなの?・・・ジョーは・・美奈子さんが・・・好きな・・n・・っ。







真っ暗な眼に、彼女が朗らかに笑う。


『島村くん、ねえ、あのね・・』


リップグロスで色づいた彼女の唇がジョーを呼び、それがくっきりと瞼裏の黒いスクリーンに浮かんだ。






『ウン・・。・・・辛い・・・zzz・激辛・・かっぷ・・麺・・・、が、・・好きで・・・ZZZ』
「!」



耳のスイッチが入ったままのフランソワーズに届いたジョーの寝言に、膝から力が抜け落ちてその場に崩れ落ちた。

「そ・・う・・・ジョーは、何よりも激辛カップ麺が好きなのね・・。・・・ジョーが久しぶりに食べたいって、カップ麺・・・残ってたの、醤油味とシーフードしかなかったものね・・」

激辛カップ麺や系スナックが好きな、ジョー。
ギルモア邸は料理ができない(しない)家族のために一応、保存食として買い置きしているインスタント類がある。先月はじめまで滞在していた家族の誰かが、日本滞在組なら手に取ることがない、ジョーが好んで買い置きしておいたものをいつの間にか食べきってしまったようだった。

食べたいときに食べたかった激辛カップ麺がなくなっていることに拗ねたジョーは、コンビニまで買いに行くのが面倒臭く、なんとなくフランソワーズに八つ当たり気味に、「夕食はカレーじゃないと食べない」などとフランソワーズに注文し、辛さもジョー好みの、「辛さ×10倍じゃないと食べたくない」と言われた。そのためにジョーの分は別につくらなっければならなくなったのは、昨夜の話し。

「私の作ったカレー・・じゃ、やっぱり満足できなかったのね・・・」

すん。と小さく鼻を鳴らした、フランソワーズ。

---彼女の・・手作りなら、・・辛くなくても大丈夫・・・だったりするの?

激辛カップ麺が相手なら、少しくらい希望を持っていてもいいかしら?と、一週間後のヴァレンタイン・デーをどうしようかと、ダイニングルームの床にぺったり座り込んだまま考えはじめた。

「・・・一緒に住んでるから、だから、だからね。お誕生日のお礼も・・あるし、いつもいつも・・お世話になってるから、なのよ、ね?フランソワーズ、そうよね?」

ジョーのことを考えながら、言い訳している声にフランソワーズは自分のこころの中で叫ばれる、”好き”という声に蓋をした。

















***

しばらくして、朝の散歩から帰ってきたジェロニモがダイニングルームの床にうなだれて座り込んでいるのを発見した。具合が悪いのかと心配されてしまい、フランソワーズは慌てて訂正する。

「こんなところに座り込んでいたら誰がみても心配するぞ。」
「ご・・、ご、ごめんなさい。ええっと、・・椅子に座る気分じゃなかったのよ、ね?日本だし!!」

ジェロニモはキッチンカウンターにある、フランソワーズ・コーナーのカレンダーへとちらり視線を走らせた。

「まもなく・・か。」

冷たい床がしっかりとフランソワーズの体温と同化していたことに気づきながら、彼女を床から立たせた。

「・・・?」
「日本では、女の子が愛を告白する日らしいが・・・?」

ジェロニモは彼女の顔を意味ありげに覗き込んだ。

「そう、ね・・。そ、そうらしいわね・・。でも、アタシはフランス人よ?日本は日本、フランスはフランス!ね?」

いつもと変わらない微笑みを顔に載せたはずのフランソワーズだけれど、頬が不自然に高くなっていた。
そんなフランソワーズをジェロニモは優しく見つめる。

「・・・その日が不安か?他の誰かの想いを受け取って来るかもしれないから。」

ジェロニモの言葉に、フランソワーズの顔が一瞬だけくしゃっと崩れて泣きそうになった。

「な、何を言ってるのよ!知ってるでしょ?ジョーってばすごくモテるのよっ!デパ地下の特設チョコレート売り場より、たくさん揃うのっ!!」

予想以上に大きな声が出てしまった、力なく響いた、からっぽな声。




グレートや張大人に、ギルモア博士。その3人からジェロニモは14日はフランソワーズに注意しろと、個々にアドバイスされていた。

日本滞在組しかわからない、事情。


バレンタイン・デーによせる、複雑な乙女心。
恋する女の子たちの不安と期待がピークに達する日。

ギルモア邸内はフランソワーズの不安の気持ちと、ジョーの期待の気持ちで微妙な雰囲気になる日でもある。




「フランソワーズ、今年の14日は日曜日だ。」
「え、・・・ええ。そうね」
「どうだろう。」
「?」
「たまには、オレとでもいいだろう。」
「え?」
「世話になっている。お礼がしたい。」
「ジェロニモ?」
「昨夜のカレーは最高に美味しかった。その礼もだ。」
「え、でも・・」

ジェロニモはにこっと満面の笑みで、フランソワーズの頭にぽんと手をのせた。

「民族博物館で、ポカホンタス展がやっている、行きたいと思っていた。一緒に行ってくれないか?」
「ポカホンタス?」

聞き慣れない単語に、大きな青い瞳が好奇心にきらりと綺羅めいた。

「自分のこころが語るままに生きた、女だ。・・・彼女は神(自然)の声よりも己の中の己の声に忠実だった。」
「・・・」

お日様の香りがする、ジェロニモの手で髪を撫でられると、すうっとこころにわだかまっていた濁りが彼の手の温かさに溶かされていくように感じる。

「どうだ?」
「ええ!喜んで、ジェロニモ連れて行ってちょうだい!」

花が咲くように明るい笑顔で微笑んだフランソワーズ。

「ああ。一緒に行こう。それで・・フランソワーズ。そろそろジョーを起こしてこないといけない時間だろ?」
「あら、いけない!もうそんな時間?遅刻しちゃうわ!今日はジョー朝の合同会議のセットアップにいつもよりも早めに出るって言ってたの!」

フランソワーズはピョン!っと跳ねるようにジェロニモの大きな躯をよけて、ぱたぱたと軽やかにスリッパを鳴らしながらダイニングルームから駆け出して行った。


「さて。ジョーは素直にフランソワーズとデートをさせてくれるのだろうか。」


当分の間、フランソワーズは初めて知った”ポカホンタス”と言う名前と、その人物について調べることでバレンタイン・デーのことは頭から消えているだろう。
思い出しても、「チョコレートケーキの材料を買わなくちゃ!」くらいだと、ジェロニモは考えていた。




ジョーへの気持ちを、頑に閉じ込めようとする彼女だから、きっと当日までそのこころの声に耳を傾けることを拒むだろうから。
いつの日か、好きだと思う気持ちを言える日が来ることを望みながらも、そのきっかけになり得る日が近づけば、色々なプレッシャーがかかって来る。



「たまには、・・・ジョーのことを忘れてみろ。」


---・・009を出し抜くのも、いいかもしれんな。



そうと決まれば。と、ジェロニモはさっそく行動に移した。












***


14日、ヴァレンタイン・デー当日。

朝、誰からも起こされることなく、自然と鳴った腹の虫のために起きることになったジョー。
昨夜は今日と言う日に色々な妄想を巡らせていたためなかなか寝付けなかった事が、原因。


「フランソワーズっ!」

2月も半ば。
春の足音が聞こえて来るには、まだ早く。どことなく人の息づかいが感じられないほどに冷えきった空気がジョーを不安にさせて、いつもよりも大きな声で想い人の名を呼んだ。

自分の声が床と壁の反響する感じがどことなくいつもと違う。


---気配がない・・。


日曜日も店を開ける張大人とグレートがいないのは、わかる。
今日、ギルモア博士が出掛けるという予定は訊いていない。イワンは夜の時間で邸から出る予定はフランソワーズが日光浴にでも連れ出さない限りない。

「・・・ってことは、散歩に出てるのかな?」

ジェロニモの日々のスケージュールは判を押したように決まっているので、心配はしていない。

「でもなあ・・」

フランソワーズらしくないと思った。
普段なら、日曜日でも昼前(11時頃)までに起きてこなかったら、起こしに来てくれるはず。
今は昼も過ぎて、午後のおやつの時間になろうとしていた。

散歩にでかけるなら、出掛けるで一声かけてくるだろうはず。
それはギルモア博士も同じ。

ジョーは妙に音が響く廊下を小走りにかけて、3段飛ばしで階段をおりてリビングルームへ。

「・・・あれえ?」

そこにはメッセージらしきものも、何もなかった。
一通りリビングルーム内を見回してから、ダイニングルームへと足を向ける。
さっと右側へと首を動かしたとき、ダイニング・テーブルの上に綺麗に並べられた5つの”赤い”色が目立つカップ麺が眼に飛び込んで来た。

「な・・」

ジョーはテーブルへと飛びついて、カップ麺の1つの上に置かれていた、綺麗なバレンタイン・カードを手にとった。


「っだよっこれえええええええええ!!!」




『ジョーえ、

ハッピー・バレンタインズ・デエ!


ジョーの大すきのげきからカップめんよ。
それも、ラーメンきょう会がえらんだ、2009年ベスト5!なの!

たのしんでね。


アタシはジェロにもと、きょ日はみんぞくはくぶつかんえ、いってきます。
おひるごはんは、カップめんがあるからだいじょうぶよね♪

おるす番をおねがいします。


フランソワあズより。

P.S
洗たくものをとりこんでおいてください、ごごは雨っていってました』



「・・ジェロニモと、デートなんてっ報告受けてないしっ昨日は何も言ってなかったじゃないかっ!!”明日はおっきなチョコレートケーキを焼くの!新しいレシピよ!”って言ってたしっ、え?えええっ、なんでっ?!いつこんな事になったんだよっ、ジェロニモっ!?」


一瞬、加速装置を噛みそうになるほど慌てて自室へと戻ったジョーは、部屋のデスクに置かれて充電中の携帯電話を手にとった。
マナーモードは解除してあったハズなのに、鳴らないように設定しなおされていたことに、ちっと舌打ちする。


---計画的犯行?!




『ジョー、黙っていてすまなかった。
お前だけがフランソワーズを好きなわけじゃないということ、わかってもらえれば嬉しい。


こういう事も、起こりうるということだ。

心配しなくても夕方にはもどる。
予定通り、ケーキを焼かないといけないらしいからだ。』



メール受信の時間は10時。
ジェロニモが邸を出るちょっと前に、ジョー宛に打ったのだろう。

「大人しく、2人の帰りを待っているとでも思ってるのか!」

メッセージにはどこへ行くとも情報は書かれてなかった。
携帯電話にはギルモア博士が改造した、GPS機能がついているので、2人の携帯電話から追うことができるけれどもギルモは博士が今回のことに一枚噛んでいるのなら。と、009はそれは使えないだろうと推測した。

夜の時間のイワンも連れて邸を空にするほどの徹底ぶりだ。

「ボクは009だよ!」

ジョーはパソコンを立ち上げた。

「ジェロニモと一緒にってことは、行き先は限られて来る!・・・・・。」

ジョーは脳内のコンピュータからここ1ヶ月ほどのフランソワーズの行動と彼女が口にした言葉(単語)を収集し、解析する。

「・・・・あっ!!アレだ!!フランソワーズがレンタルしたDVDはディ○ニーのポカホンタス!アレは、ネイティブ・アメリカンの女性の物語でっアニメでもいつものフランソワーズの傾向から少し離れたものだし、きっとジェロニモから教えてもらったんだろう!・・・それなら、ジェロニモが教えたきっかけがあって・・」

パソコンが立ち上がる間にさっと加速装置が使用可能な衣類に袖を通し、外出のための身支度をすませる。

「ビンゴ!!都立民族博物館が展示会やってるっ、そこだっ!!」

---そこならフランソワーズのお気に入りのデパートも近いっ。絶対に彼女は”あのカフェ”によってお茶するはずだ!一応、確認のために一度張大人の店に寄って・・それから・・・。

ジョーはシャットダウンにカーソルをあわせて、パソコンの電源を落とし、部屋から飛び出した。





”こういう事も、起こりうるということだ。”












さあっと血の気が引くような感覚が、ジョーを襲う。

いなくなる。
他の男と、こうやってボクがいない間に、知らない間に。

一緒にいるのがジェロニモ(家族)だと解っているのにも関わらず、緊張しているように手足に足をかく、不安に突き上げられた。


「解ってるっ!・・だから行くんだっ」




かち。と、小さなスイッチ音が鳴った瞬間、荒れ狂った竜巻が邸内を揺らした。












end.








-おまけ-

「もーっっ!!」
「・・・ごめん」
「洗濯物を取り込んでいてくれてなかっただなんて!!」
「ごめんなさい」
「ジョーにはお留守番頼めないわ!」
「・・うん、頼まないで」
「?」
「ほら、・・ね?こういうことになっちゃうからさ。・・・フランソワーズがいてくれないと、何もできないしさ、ね?」

ジェロニモとジョー、3人一緒に邸に帰ってきてから、夕食の後片付け、食後に披露するニュー・レシピのチョコレートケーキの用意に、ランドリールームで洗濯のし直しと走り回るフランソワーズの後ろを、まるでカルガモの赤ちゃんのようにずっとついて歩く、ジョーの姿を見つめる、家族たち。


「情けないアルなあ・・・」
「もっとこう、言い方ってもんがあるだろうっ言い方ってもんが!!」
「あんさん、ちょっとはジョーをその得意のシェークスピアはんとかで、なんとかしはったらどないアルか?」
「ジェロニモ、今回の計画はもちっと一押し足りなかったなあ」
「いや。・・・そうでもない」
「「?」」
「ハッピーエンドの舞台よりも、彼女はどうやら”悲劇”な舞台の役が多かったことがわかった」
「「?」」


---ポカホンタスに、スミスとロルフの関係。フランソワーズと話していてそれらの彼女なりの解釈を聞いてわかったことだが。


「ギルモア博士は?」
「博士はまだコズミ博士と一緒だと思うぞ、駅についたら我が輩が迎えに行くが・・」
「店があった、疲れているだろう。オレが行こう。」
「お、そうかあ?じゃ、頼むな!」
「了解。」


想いをとげても、かならずしも幸せにはなれない。と、どこかで暗示にかかったような、思い込みがある。
それなら何も伝えないままの今の関係でいた方がと、無意識に望んでいることも。


---フランソワーズは、・・兄(ジャン)をジョーに重ねて見ている節があるな・・・。


この躯のために、不安が先にたってしまうのは、仕方がないことだけれど。
そこから一歩踏み出さなければ、何も始まらないんだぞ。



ジョー、フランソワーズ。
・・・・そろそろ、いいんじゃないのか?














5さんが参戦いたします♪彼は167G博士よりもけっこうまとも(笑)路線で2人をくっつけようとしてるようですね。今後に期待です!*
web拍手 by FC2
その一口が、幸せ。
お世話になっているコズミ博士の邸を出て、ドルフィン号でまた旅に出る。
未だに帰られることのできる住居を定めていないため、旅から旅の合間に身を寄せる場所は日本の、コズミ邸となっていた。
身を寄せる事を頼む度に、ギルモア博士はコズミ博士に根無し草の自分たちで申し訳ないと頭を下げた。

次回こそは迷惑をかけることのないようにすると頭を下げるギルモア博士に、帰ってきてくれなくては寂しくてたまらないからまた、必ずここに戻って来てくれと、何度も約束させられる。

そんなやり取りが始まれば、あと、2、3日中にここ、日本を離れると言うこと。





「ちょっと、出てくる」

リビングルーム(と、言っても広い畳の部屋で、いつの間にかそこが居候たちのたまり場となってしまったところ)にいる仲間に伝えた。
その中の1人だった私は、腕に抱いていたイワンをクーファンへとおろして、ジョーをおいかけた。
玄関で履き慣れたスニーカーをのヒモを結んでいたジョーの、まるまった背中を見下ろしながら、彼に声をかける。

「どこまで行くの?」
「・・・そこのコンビニ。雑誌類を少し買っておきたいから」
「そお・・。当分は(日本のを)読めなくなっちゃうものね」
「出発は明後日の夜だから」
「ええ」
「何か必要なの、ある?」

結び終えて、段差のある玄関に腰掛けていた彼が立ち上がると、私との身長さがなくなる。

「特には・・」
「何か必要な物があるなら、明日の午前中には手にいれておいて。移動は午後だから街に出てる時間はないよ」
「そうね。でも、・・・今のところ何もないわ」
「・・・本当に?」
「え?」

ジョーが何かを探るような視線で、私を見つめて来た。
その瞳の色がいつもの彼らしくない色をしていたので、私は戸惑う。

「・・・別に、ないならいいよ」
「え・・ええ。気をつけて」

彼を見送る言葉をかけて私の言葉に小さく顎を上下させたのを確認した。
くるっと背中をむけるだろう次の動作を無意識に頭に描いたのだけれど、彼は私の予想を裏切った。

「どうしたの?行かないの?」

玄関に突っ立ったまま、動かない彼と、まっすぐにぶつけあう視線。
私は、ジョーが何を考えているのか読み取ろうとまっすぐに彼の瞳を見つめた。

「・・・いや、なんでもない」

ジョーの小さく唇だけの動きを、読む。
声に出していたかさえも確認しづらいものだったけれど、私の耳には、・・・頭の中には確実に届いていた。

「いってらっしゃい」

ゆっくりと空気をゆらすことなく彼の躯がくるっと180度回転する。が、まわりきらないままに腰だけを残して、一度私から離れた彼の視線が再び戻って来た。

「・・・・一緒に、さ・・来ない?」

ちらりと私と視線を合わせたのは一瞬。
それを結んだスニーカーのヒモに落とした。

「コンビニへ?」

逡巡した私の考えを、彼が読み取ったかどうかはわからない。

「もしかしたら、・・店で品物を見ていたら、思い浮かばなかった必要な物とかみつけるかもしれないよ」

私はそれが”009の命令なら”と、変な言い訳を心の中で呟いた。
数秒の間をあけて「そうね。日本のコンビニも当分の間は行けなくなっちゃうものね」と、言葉を終わらせることなく、外出するためのコートを取りに、くるっとジョーに背をむけた。


コートとショルダーバックを掴んで、「でかけてくるわね」と、リビングルームにいる仲間へ顔を出すことなく通りすがりに声をかけていく。
背中でいくつかのリクエストを受けとった。

それらは、ドルフィン号に持ち込むためのものでなく、ちょっと口にしたい物たちで、日本に滞在している間はよく買っていた馴染みの品たちだった。







「それ、グレートが頼んだのだろ?」

買い物かごを手に取って、コンビニの中を歩き、すでにどこに何があるかを把握してきった店内で、迷うことなくリクエストのものを入れていった。

「わかる?」
「わかるよ」

購入予定だった雑誌を手早く選び、近づいて来たジョーが買い物カゴの中のものを覗き込んだ。

「じゃ、これは誰が頼んだのでしょうか?」
「ピュンマ」
「正解」
「今回は予定より長く居たからね」

くすっと微笑んだ、ジョーの頬が少し嬉しそうな色をしていた。

「ねえ、もういいの?」
「そうだね、・・雑誌はこれでいいけれど・・」

ジョーが手に持っていた(私が予想していたよりも)たくさん積み重なってる雑誌類を見た。

「漫画も?」

その一番上にある本に、眼を留めた私に気づく彼。

「この巻はもってないんだ」
「?」
「あ・・・ええっと、まあ、そういうことだよ」
「わからないわ」
「え、・・・。わかってよ」

もしかして、ドルフィン号のアナタのコンパートメント(個室)には、この漫画が揃ってるの?

「完結してないんだ。・・・だから、気になるだろ?」

漢字がたくさんならんだ漫画の表紙をじいっと観る私に、ジョーは何が恥ずかしいのか、それをくるっと回転させて一番下に伏せた。

「葛飾区って、実際にある地域よね?」
「・・・いいから、買い物の続きをどうぞ」
「ねえ、私もそれを読みたいわ」
「え?・・キミが???」
「あら、いけないの?」
「別にいけないってことはないけど「
「・・・もしかして」

私は買い物カゴを、後ろ手にまわして一歩ジョーへと近づいた。

「もしかして、なに?」

少し背を逸らして、気持ち私が近づいた半分、距離を取る、ジョー。

「私が読んだら都合の悪い内容なのかしら?」
「っ・・・ないよ、そんなのっ」

首を左右にぶんぶんと振った彼が作り出す風が頬を撫でて、名前のわからない彼の香りが鼻孔へと届く。

「ふふ♪慌てているところが怪しいわ」

買い物カゴを持ち直して、ジョーに背をむけた。
カゴの頼まれたものをチェックしながら歩き出す。

「じゃ、読めばいいよっ、僕が言いたいのは、この面白さがキミに理解できるかどうかで」

すると、後ろから私の背中についてくるジョーが、早口に言葉を繋げた。

「あとは・・何かあるかしら?」

彼の言葉を右から左に聞き流して、頼まれたものがカゴの中にそろっていることを確認しつつ、今度は自分の物を探す。
私が取り合わないということの意味をよく解っているリーダーの009は、軽くため息をついて、それが決定していることに一言だけ注意をする。

「誤解しないでよ、あくまでもフィクションなんだから全部信じないこと。いいね?」
「はーい」

よゐこのお返事にジョーは2回目のため息をついた。

「僕、こっちをみてるから」

彼は現実をうまく捻ったフィクションによって、私がとんでもない勘違いしてしまわないかと心配する。
漫画の内容に私が日本をミスジャッジする内容があるということなのだろう。漫画なのだから、エンターテイメント性を高めるために誇張して書いていることくらい、私にだって理解できるようになったのに。

「はーい」

私たちはまた店内で別行動とる。




・・・前にちらっと観た週刊雑誌の漫画で、ジョーも”不良/ぐれていた”=パンチパーマだったと信じ込んでしまった私のせいなんだけど。









コンビニ内を3周したところで、びっくりするくらいの種類がある、おにぎりコーナーで物色中のジョーの隣に立った。

「おわった?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「じゃあ、これと・・これ・・・かな?」

2つ手に取ったおにぎりが、買い物カゴに加えられた。

「お腹すいたの?」
「まあ、ちょっとね。キミは?」
「そうね・・」
ひとつの乱れなく綺麗にきっちりと並べられた商品の棚を左から右へと首を流して見渡す。
どの商品も綺麗にお洒落に、可愛く、またはセンスよくデザインされたパッケージにつつまれて、手に取ってもらえるのを今か今かと待っている姿が、私の瞳を占領する。

「いつもながら、迷っちゃうわね」
「別に急いでないから、もう少しみる?」

飲み物を置いているコーナーへと移動しはじめたジョーを追い掛ける。

「ううん、いいわ。これで。特にお腹が空いてるっていうわけじゃないもの」
「・・・本当に、これでいい?」
「ええ、もう十分よ」
「・・・・・・そう」

ジョーは小さなパックにはいっているアロエの実入りのジュースを手に取り、私が持っているカゴにいれた。

「重くない?」
「平気よ」
「・・僕が持つよ。本当に何もない?」

カゴを私の手からそっと取り上げる。
その力具合から、私が拒むことを許さない感じを受け取って、素直に彼にカゴを渡した。

カゴから解放された手。
ほんのちょっぴり身軽になった躯。


ジョーが他にないか、確認するようにレジへの最短コースではなく、ぐるっと大回りするコースを歩いて行く。

「・・・ないこともなかったわ」

レジへと進んで行く彼について歩く私は、気づかれないようにそっと棚へと手を伸ばして取ったそれを後ろ手に隠した。
素知らぬ顔でレジで会計をすませるジョーの後ろに並ぶ。
日曜日なのに、あまり客がいない時間帯らしく、いつもは2人いる定員が1人でレジを打つ。

彼がそれらに意識を向わせている間、彼の背後でショルダーバックの中をさぐって最後に選んだ商品の、値段+消費税分を手のひらに握った。

「ありがとうございましたー、いらっしゃいませー」

「いくよ」と声をかけるために私へとふりかえったジョーに「先に外で待っていて」と、視線で言う。
彼の瞳が、私の視線を聴いたあとにレジカウンターへと流れていき、私が何かを買い足したことを知る。けれど、とても優秀だった店員さんの手によって、ピッとバーコードを読み取られた瞬間にプラスティックバックの中へ飼った品は消えていた。

私は小銭置きようの小さなお皿にぴったりの数字を置いた。

「レシートはけっこうです」
「ありがとうございましたー」

一連のやり取りは、10秒にも満たなかった。

「いくよ」

私が受け取ったプラスティックバックがとても軽そうな様子を視線で追い掛けるジョーが、小さな声で帰ることを促した。
前後に並んでコンビニの自動ドアをくぐる。
私はスキップするように、2歩ほど跳ねて彼の隣に並んだ。

車が4台止められるスペースのある、コンビニエンス・ストアは、コズミ邸から歩いて10分強。
その斜め前にバス停があり、駅までの道のりを短縮してくれる。

バスに載る前に、ちょっと何かを。
バスから降りた後、ちょっとアレを。

利用者は馴染みのお客さんが多いのではと思う、そんなコンビニの馴染み客に加わるには滞在時間が短すぎた私たちは、最後の買い物を一緒にすませた。

「お行儀悪いかしら?」
「?」

私はプラスティックバックの中に手を突っ込んだ。

最後に選んだ商品は、長方形の薄い板。
かさかさとした銀紙に包まれて、その上をさらにつるりとした感触の紙がレトロなイメージで商品名をプリントされてくるっと包んでいる。

とてもシンプルな板チョコ。

「ミルクチョコレートなんだけど、一口いかが?」

ちょっとびっくりしたような瞳で私が手に持つ板チョコを観た後、はにかんだような笑みを口元に載せた。

「いただきます」

ジョーのためにひとかけら割った音が、まだまだ寒い空気に心地よく響いた。

「・・・・もらえないのかと、思った」

コンビニの一角に赤とピンクで専用コーナーが作られていたことは、大分前から気づいていたけれど。
あらたまってそういうの、恥ずかしいのよ。

「たかがチョコレートじゃない」
「されどチョコレートだよ・・・」

私とジョーの足が、歩道の真ん中でとまる。

「みんなには内緒よ?」
「了解」

二つにわけられた荷物を両手でもっていたジョーが、チョコレートを受け取るために片手に持ち替えようとしたけれど、私は、指先でつまんだひとかけらを彼の口元まで運んだ。

「どうぞ」
「あ・・・うん、」

少し寄り眼気味に口元にまで差し出されたチョコレートをみつめて、ジョーはキスするかのように瞼を閉じる。
私の指から薄く開いたジョーの唇に吸い込まれていく、ひとかけらのミルクチョコレート。


指先がキスした後のように感じた。

すごくくすぐったくて、私は手に持っていた板チョコを割る事なく、かっぷりとそれ自体にかじりついた。


「・・・本当に一口だけしかくれないんだ」
「おにぎりがあるじゃない」







end.











前回もだったので、バレンタイン/コンビニ・シリーズができそうです。
web拍手 by FC2
LIttle by Little・24
(24)




その日の夕食に、ピュンマの昼間の感想を述べる声がダイニングルームのテーブルを飾った。


「もーっほんっとにびっくりしたんだよー!」
「そんなことがあったなんて・・・。なんで教えてくれなかったの?」


朝早くに海の病院へ同伴したピュンマ。


「そりゃあね、まあ色々あるからだよ。でもさ、聞こえてたら聞こえてたで海、イルカ以上の聴力ってことだから」
「イルカ・・・」


彼らはタクシーではなく、電車とバスを乗り継いでギルモア邸へと戻って来たのは、ちょうど昼少し前。


「私たちだってとっても驚いたわ、あの音は初めてだったんですもの」


張大人が喜びのすべてを全身にこめて飛びついてきた衝撃を、受け止めきれなかったジョーが、地下へと通じるドアに思いきり頭をぶつけた。
00メンバーとギルモア博士以外の人間に使われる事がないよう、精巧にセキュリティを強化されていた、そのドアが衝撃を受けて侵入者と判断。


「なんだ?姫、一応の作動チェックの確認のために聴かされていただろうに」
「それは・・・”訓練”としてはでしょう?」


地下にある部屋のすべてに緊急用ロックをかけられるようになっていた設定だったため、メンテナンスルームにいたギルモアは、意識のない002と005と一緒に閉じ込められてしまった。


「アイヤー、そうあるなあ。ワタシもドキイイイっとしたアルよ!」
「って、なに言ってんだい、あれを鳴らしたのは、張大人のせいじゃないか」


邸に一番近いバス停に降りたとき、008として優れた聴力を持つ彼の耳にとどいた、人には聴こえることのない周波数でるくられた、警報音。そして、その音が発する独特なウェーブから彼の持つ補助(コンピュータ)脳が伝えた。


”侵入者アリ”



「あはは、海を連れて邸に戻るのも駄目だろ?かといって、バス停に放っておくのもさあ」
「珍しいな、ピュンマ。判断ができなかったのか?」
「怖いね・・・。一瞬だよ、ほんの一瞬だけだけど慌てちゃって、冷静に状況判断ができなくなってた」


即戦闘態勢に入り、海の安全確保を第一と考えて彼には悟られないように邸から距離を取りつつ、邸内にいるであろう仲間にむかって脳波通信で連絡を取った。


<すまない、・・・誤報だ。戻って来てくれて大丈夫だよ>


間髪入れずに帰って来た返事は、リーダーである009の力ない通信だった。
その通信を送ったときには、すでに009は地下へと降りて、警報音を解除。すべての緊急用ロックを解いてメンテナンスルームにいるギルモアに事情を説明していた。

ペナルティが3つ(ゲストルーム付属のユニットバスの壁に大穴/ミッション中の外泊/今回の警報音誤作動)揃ってしまったジョーは、ジェットよりも早くレッドカードを渡されてしまった。


「瞬きにもみたない一瞬の迷いが命取りになるって、嫌でも解っていたはずなのにさ・・・。ま!自分を責めるよりもリーダーの009の石頭を責めようかと思っている今ですよ、うん」
「あれくらいで警報音が鳴るたあ、どれだけ石頭に出来てんのか・・ジョーのやつ」
「ジョーの頭ってさあ、やっぱり僕たちと強化度が違うのかな?」


海は夕食の酢豚に入ったパナップルを皿の隅によけながら、隣に座るピュンマに尋ねた。


「ね、(サイボーグの頭って)どれくら固いの?」
「どれくらいかって?・・・うーん、どれくらいかなあ?」
「まあ、あれだ。ちょっとした大きさの岩くらいなら割れるだろうなあ」


ピュンマが海から受けた質問を視線を流して、ダイニング・テーブルの向かい側に座るグレートへと渡した。


「ちょっとした大きさってのが解らないよ、グレートさん」
「まあ、とにかく。岩は頭突き一つで割れちまうくらい、固いってことさ。海くんがやったら頭の方が割れちまうだろう?」
「当たり前だよ」
「その、当たり前のことが当たり前じゃないのが、我々なのさ!」


ウィンクを海へと飛ばしながら、グレートは焼き餃子を2つ一片に口に放り込んだ。


「あ!あんた食べ過ぎね、アルベルトの分残しとかないと駄目あるよ!」
「なに、また焼き直したらいいだろ?冷凍庫にまだあるのを我が輩はしかと観ておったぞ!」
「あれは、ジョーと博士の分よ」
「グレート、よかったら私のをどうぞ」


グレートの隣に座る張大人の向こう側から、すっと餃子の乗った皿が移動してきた。


「おお!これはこれは姫、優しきお心遣いに感謝感謝でございまするが・・・」
「駄目アルよ、このおっさんを甘やかしたら!!」
「手伝ってくださらない?」
「え?・・フランソワーズ、どうしたの?」


いつもの彼女なら、ぺろっと食べてしまえる量なのに。と、ピュンマは斜め前に座るフランソワーズにむかって心配そうに声をかけた。


「ふふ、まだびっくりしているのかもしれないわ・・。ごちそうさまでした」
「もういいアルか?」
「とっても美味しかったわ。ありがとう、張大人・・・それにしても、アルベルト遅いわね」
「なに、大人にゃ、大人の事情ってもんがーあるんでさあ、姫が心配するこたーねー」


フランソワーズがグレートに渡した皿の上の餃子をひょひょい!と、箸でつまみ、口に放り込む。
そのグレートがいつもの彼らしくない言葉遣いを披露したので、使用した食器を重ねようとしたフランソワーズの手が止まった。


「・・あんた、何者ネ?」
「岡っ引きぼくないか?」
「なにアルか?」
「せっかく日本にいるんだ、日本の時代劇っていう分野をちょっくら勉強してみてもおもしれーんじゃねーかと思ってよ!」


<ジェットっぽいね>
<ジェット・・ネ>
<岡っ引きって・・私わからないわ・・・>


「英国紳士の次はお侍さんですか?」
「はげてる侍なんていないよ、海」
「だーからー!侍じゃない!岡っ引きっていってんだろうが!てやんでいーっ」


乱暴にそれらしく中華スープなんちゃってツバメの巣っぽいものが入っているお椀を手に取り、ぐいっと飲んだ。


「アチっ!アチチっ!!」
「あー・・熱いにきまってるネ。さっきお代りしたばっかりよ」
「・・・・サイボーグって喉とか火傷するの?」
「全部が全部”機械”ってわけじゃないんだ、人工細胞で躯の中の機械と(生身の)組織を融合させるのにひ」
「ピュンマ、お願いがあるのだけど」


すっかりサイボーグメンバーの一員と家族のように馴染んでしまっている海の、好奇心旺盛でシンプルな質問にたいして、つい口が軽くなるピュンマ。聞いていたフランソワーズが、さりげなくそれ以上の情報を海に与えないように、会話を止めた。


<駄目よ、ピュンマ。あなたいつからそんなにおしゃべりさんになったの?>
<つい、・・・でもこれくらい大丈夫だよ>
<これくらい、これくらいって思っているうちに・・・。海さんのことを思うなら、どんな小さなことでも余計な情報は与えない方がいいと思うの>


「姫、何かお手伝いが必要なら、我が輩いつでも・・」
「岡っ引きはどこへいったあるか?」


<・・・・・・・余計、か>
<ごめんなさい。でも、ピュンマ・・>
<わかってる。ありがとうフランソワーズ。僕はどこか・・ネジが緩んでるみたいだね>


---・・・幸せだからさ。



旅から旅のドルフィン号での生活を離れて、定住場所のある安定した暮らしに慣れた今、ピュンマは自分がこころの底に大切にしていた、彼のもうこの世には存在しない家族との生活に今を重ねてしまっているのかもしれなかった。

ジェロニモのように部族単位の生活ではなかったけれど、ピュンマの育った村は団結力もあり、各々で作った自治体の構成も整っていた。
仲間も家族。家にはひっきりなしにピュンマが所属していた部隊の仲間が自分の我が家のように遊びに来ていた、父に母。そして妹。と、仲間。


今一度あのときのような、辛いけれども温かい日々が・・・。









「お願いって、なにかな?」


海はピュンマの説明が途切れた事はさほど気にする様子もなく、フランソワーズにピュンマとの会話を譲って、皿の上にある残りの餃子を食べ始めた。


「当麻さんの様子を、視て来てもらえて?」
「了解、夕食はどうするんだろう?」
「夕方に軽くとっていただいたのだけど、・・・」


隣に座る張大人に相談するように、彼へと視線を動かした、フランソワーズ。


「いままで点滴と流動食だったアルから、お腹が好いてどうしようもない様子ならおしえてネ、スープを用意するアル」


にっこりと笑って、フランソワーズにむかって返事をした。その声に頷いたのは、ピュンマ。


「ごちそーさん!」
「ごちそうさまでした!!」


グレートと海の声が重なった。


「篠原の様子なら、ぼくがみてきます。行ってきます!」
「海さん、あのっ」


間を開けずにダイニングテーブルから立ち上がった海に、フランソワーズもつられて立ち上がった。


「海、食器くらい下げてけよー」
「ピュンマ、あとよろしくー♪篠原の部屋に先に行ってるね、ちゃんと全部食べてからだよ、お残しはゆるしませんアル、ね?張さん」
「そうそう!ピュンマはしゃべるばっかりで端がちーっとも進んでないアルよ!」


フランソワーズが止めるのも聞かず、海は元気いっぱいにダイニングルームのドアへと移動する。


「起きてるとは限らないよー?」
「そのときはまた、こっちにもどってくるよ!」


じゃね!と、テーブルについているサイボーグメンバーに手を振って、ダイニングルームを出て行った。


「海の義足、前よりも軽くなってるんだ。長時間義足をつけてると接続部部がどうしても痛むっぽかったんだけど、やっと改善されたんだよ、今日」


海を見送ったピュンマは、止まっていた箸を動かし始めた。
フランソワーズは立ち上がったついでに、そのまま重ねた食器をキッチンへと運んだ。


「そうか、それでご機嫌さんかあ」
「帰ってきてから、まだ外してないだろ?」
「よかったアル~♪」
「なあ、ピュンマ」


張大人も、フランソワーズを追いかけるように、テーブルの上にある使用済みの食器を重ねてキッチンへと向った。


「なに?」
「・・・・・平和だなあ」
「・・・・・・・・・・・・・・って、思ってるのは、僕とグレートくらいかもね」
「そおかあ?」
「そうだよ」


ピュンマは酢豚の中のパイナップルも気にせずにぱくぱくっと口にいれて、茶碗の中の残りのご飯も一緒にかきこんだ。


「我が輩もちゃんと命じられた仕事はこなしておるぞ?」
「わかってるよ、その上でそう感じてるってことが、僕とグレートくらいって話し」
「みな、贅沢だな」
「そうだね」


最後に中華スープで喉へと流し込み、ごちそうさまの声と同時にピュンマはイスから立ち上がった。


「さて、と」


<ぼっちゃんのことで一つ聞いてもらいたいことがあるんだが..>


グレートは海とピュンマの分のあと片付けを引き受けた。











####



篠原当麻が使用しているゲストルームへと一足先に訪れた海が、ドアをノックすると、予想通りに彼は起きていたらしく、返事がすぐに帰って来た。


「久しぶり」
「・・・津田」


ドアからひょこっと顔だけだした友人に、当麻はためらいがちに微笑んだ。


「入っていい?」
「うん、・・・なんだかすごく久しぶりな気がする。津田と話すの」



当麻はベッドの上で読んでいた本を、膝上に伏せて置いた。


「はは、そうかもね。・・・・具合はどう?」
「もう大分いい。・・・病み上がりにあまりウロウロしていると余計な心配をさせてしまうみたいだからね」


海はゲストルームへと入り、手近にあったライティングデスクのイスをベッドわきまで寄せて、それに座った。


「お腹はすいてない?さっき、ぼく夕食をすませてきたんだけど」
「・・夕方食べたので、今は大丈夫」
「それなら、よかった」


海はにっこりと笑った。
微かに、彼の肩が緊張しているのか力がはいって碇気味になっている。


「優しいね、みんな」
「・・・そうだね」
「ちょっと大げさなくらいに、親切で、・・・よくしてくれるね」
「うん、本当に」


当麻は海の顔を見ずに、手元近く、膝上に伏せた本の背表紙をぼんやりと眺めた。


「それってさ、やっぱりぼくらが”人間”だからかな?」
「・・・・・」

ささやくようにこぼれ落ちた海の言葉に、当麻は短く「さあ」と、かすれる声でだけ応答した。
海は、まっすぐに座った位置から当麻を観る。

その視線の強さと固くなっている態度が、海が何か言いたい言葉があることをはっきると当麻に伝えていたので、当麻はゆっくりと視線を海へとあげた。


「単刀直入に聞くよ?」
「津田らしいね」

視線が合った瞬間に、海がはっきりと言いたい事を言います。と宣言する。
その様子にくすっと口元だけで笑った、当麻は初めて海と出会った中等部1年後期を思い出す。
彼は陸上競技の練習などのため、見た目の体格は変わったけれど、性格は中学のころのまま、変わらない。


「今後、どうするの?」
「どうするんだろう・・・」


微笑んだ口元のままやんわりと答えた。


「聞いたんだけど、その、」
「どこまで知ってるかわからないけれど、・・・9月には篠原じゃなくなるかもしれない。まだ祖父母に会ってないから正式に決まったわけじゃないんだ」
「・・・・そっか」


おせっかいなところも、当時のままで変わっていない。


「さえこさんは籍が変わっても”約束”だからって、今まで通りぼくの保護者(後継人)でいてくれるようだけど、・・・今までの形ではなくなってしまう」
「・・今までの?」
「・・・母と息子は解除ってことだよ」
「え?」


親子の縁をきられるようなことを、さらっと何ごともないように言ってのけた当麻に、海は驚きをそのまま表情に載せた。


「そのための養子縁組だし・・・。それがさえこさんの望みなんだ」
「なんのために?」
「もちろん、篠原の家とぼくを完全に切り離すためさ。説明はちゃんとしてもらったから」
「それでいいの?」


当麻が誘拐されそうになっていた場所に遭遇した海は、そのときの負傷のために左膝から下を失うその日まで、海は当麻の中で彼のおせっかいな性格が上手く働いて、一番身近な友人であった。
当麻は自ら進んで友人を作ることなどしない、タイプだったので声をかけられれば、来る者拒まず。誰とでもつき合っていた。
声をかけてくる回数が一番多かったのが海であった。と、言えばいい。


「それで良いも、悪いも・・・ぼくは」
「・・・・どうしてもさ」
「?」
「どうしても、言っておきたいことがあって、病み上がりの篠原に、こんなこと言うなんて最低かもしんないけど、早い方がいいって思って・・」
「津田?」
「フランソワーズさんはそんなお前だから、・・・」
「・・・・」


海は、先ほど胃に納めた夕食が競り上がってくるような感覚に襲われた。
鼻から深く適度に冷やされている空気を吸い込んで、ゆっくりと肩から吐き出し、気持ちを整ええた。

きっとまた、余計なおせっかいだと思われて、いつものように微笑まれて”ありがとう”なんて思ってもいない言葉で軽く流されることだろうと感じている、海。

もしかしたら、今度(ミッション/恋愛)のことがきっかけとなって、今までは答えてくれなかった見せてくれなかった当麻自身の考えが聞けるかもしれないと、緊張に似た期待をぐっとせりあがってくる夕食と一緒に押させ込む。


「そんなお前だから、・・・・・優しくしてるだけだと、思う。放っておけないんだよ、自分が辛くて哀しいこをいっぱいいっぱい、経験してるから、・・みんな、ぼくらが想像できないようなこと、いっぱいいっぱい・・いっぱい、経験してるから、しってるから、嫌なくらい人の痛みをしってる人たちだから・・・。それは平等な立場からの想いじゃないから、」
「なんだよ、津田・・・同情されていることに勘違いしたぼくの独り相撲っていいたいの?」


尖った言葉がむけられたけれど、今までの当麻らしくない解答に、海の心拍数が上がった。


「そうじゃない!そうじゃなくってさ!!」
「・・・」

あれも言いたい、これも言いたい、と今まで当麻には言えなかったまま沈めていた言葉たちが頭の中が言葉の洪水となって海の胸を満たし、頭の中が興奮にかっと沸騰しそうになった。


「上手く・・言えない・・」


けれど、渦巻くどの言葉も、今一番当麻に言いたい言葉に適していなくて、海はため息と一緒に興奮を体から追い払った。


「ごめんな・・ちゃんと整理したつもりなんだけど、いざこうやって話そうとすると、色んな事がごちゃごちゃってなって・・。でもさ。篠原」
「なに?」


海は、いつも思っていたことを口にした。


「どうして言われたままのことしか、しないの?理事長が養子縁組を持ち出したって、篠原が嫌っていえば、・・・」
「さえこさんの言いなりになってるようにみえる?」
「そんな風には、・・言ってないよ」


病み上がりには、やっぱり聞かない方がよかったのかもしれないと、海は刺々しい反応はしんどいせいからかもと、今更ながらいつもの当麻らしくない返答の理由に気づき、言葉が弱くなる。


「・・自由にしたらいいって言ってもらえてるし・・縁組みについては向こう方の出方次第なんだ」
「なんか、さ。・・・・良いも悪いもずっと理事長のために良い子でいて」
「逆らう理由がないからだよ、さえこさんの言う事に自分が納得していたなら、当然だよ」
「・・・自分のこと、自分で決められないわけ?18になるんだから、今更養子なんて、必要ないじゃないか」
「決められるよ。・・・・津田・・心配してくれるのは嬉しいけれd」


当麻は徐々に視線をさげていき、膝上の伏せた本へと戻すと、右手でそれに触れた。



「可愛そうだよ、フランソワーズさん」
「可哀相・・・?」


話しのトピックが急に変わったことに、当麻は素早く反応して、うなだれ気味だった顔をぱっとあげた。


「迷子になって泣いてる篠原を見捨てることなんて、できる人じゃないよ」


すうっと大きく息を吸い込んだ海が、今までの会話で一番強く主張するかのように言い切った。


「たとえ、自分が選んだ人がいても、最後にはきっと篠原の手を離さないままなんだ。・・・・・離すなら、きっと強い人の手を離す方を選ぶんだと思う・・・そんなことをすきな人に選択させていいの?」


話題がフランソワーズのことに触れられて、当麻は動揺する。


「津田、言っている意味がわからないよ。どうして、ぼくが迷子なの?それに・・。もう少し要点をまとめてくれないかな?」


彼は海が何を言わんとしているかが飲み込めず、困惑の表情をその眉間によせた。


「ごちゃごちゃ言って、よけいに混乱させ、てごめん」


上手く伝えられない事に、海は悔しげに下唇を噛んだ。


「ぼくはちゃんと自分のことをわかっているし、迷子になんてなってるつもりはないよ」


当麻が、ため息をついた。
そのため息の深さが、部屋を出て行ってくれといわんばかりの空気を作り出そうとしていたので、海は勢いにまかせて口を開いた。


「フランソワーズさんはサイボーグなんだよ。みんなはサイボーグで、ぼくと当麻とは違うってことをちゃんと、わかって欲しいんだ。現実として考えて欲しいんだ」
「サイボーグなんて関係ないっ!彼女は人だっ!!」


当麻は感情的になって叫んだ。
海は初めて、当麻の荒げた声を聞いた。
誘拐されかけていた、自分の身の危険を感じているときでさえ、声を荒げて助けを呼ぶ事などなかった、彼が。


「津田はギルモア(ピュンマ)と凄く仲が良いのにっいまさらそんな風に差別するのかっ!!」


当麻は身を乗り出して海に近づいた。


「違うっ!!違うんだよっ!ぼくが言いたいのはっそうやって平等な線の上でみんなと接すること自体が、逆にっ」


デスクチェアから腰を浮かした勢いで、ベッドに両手をつき訴える海。


「津田の方がわかってないんだよっ何もかもっ」
「わかってるよっ」
「わかってなんかないっ、その性格もっ中学時代から変わってないのと同じでっっ!ぼくの気持ちだって、フランソワーズだって、何もかもっ何もかもわかったような口で話しかけて来るけどっ」


手をのばせば海の襟首をつかめそうな距離に、当麻の手がのびる。


「篠原っ!ぼくはっ」
「そこまで!」


ドアがノックもなく、開かれ、ぱん!っと乾いた音が、始まりかけていた言い争いを、助走程度で留めた。


「ピュンマ・・」


顔色が冴えない当麻であるが、止められていしまった会話に納得がいかないらしく、行きどころを失った手を掛け布団を握りしめてることで表していた。


「海が言ってくれている内容は、・・・・人に言われて解るもんじゃない。教えられて納得できるような、ものじゃないから。それに気がついて、考えてくれて、感じてくれて・・・自分で発掘してくれないと、到底無理なことだと、アドヴァイスはしておくね」



---・・・嬉しいよ、海、僕は本当に・・嬉しい・・・.



ピュンマは開けたドアをゆっくりと閉める。
途中、アルベルトが帰って来たのであろう、邸のドアが開く音が聞こえた。



「・・・ピュンマのこと、きっと根っこの部分ではちゃんとわかってあげられない・・と、思う。力になろうとしたら、きっと余計に迷惑をかけてしまうと思う。・・でもさ、でもっ・・・友達でいたいから、ここに住むみんなの、友達で、いたいから・・・。ちゃんと言うし、ちゃんと理解しようと思う。ピュンマとみんなはサイボーグ。ぼくらとは違う。生きて来た世界も、経験したことも、全部、違う」


ドアを閉めて、嬉しさいっぱいのにこやかな笑顔で、2人に近づいた。


「・・・うん。そうだよ、僕らはサイボーグ改造された半分機械の躯」
「でも、」
「そうだよ」
「だから、」


---対等でいたいから、・・・ちゃんとピュンマと対等で、友達で、みんなとこれからも会っていたいから・・受け入れなければならない事実を、ぼくが”片足を義足で補っている人”であるのと一緒で、”サイボーグ改造された人”として、ぼくはっ



「うん、海が言いたい事、全部わかってるから・・・きっと、みんなも同じだよ」


海の頭に手をおいて、くしゃくしゃっと撫でてやる。そうしながら、ピュンマは当麻が座るベッドの端に、海と膝頭を浮き合わせるようにして座り、腰を捻って当麻を見つめた。


「言葉で理解できないこともあるからね。自分が経験してみないとわからないことだと、思うから」
「・・ピュンマ」
「でも海、それを強要しちゃ駄目だよ、ね?当麻センパイ、センパイはセンパイの方法で、海が自分自身で導き出した、僕らがそうあって欲しいと望んでいることに、たどり着いてください」
「・・・」






サイボーグだけど人間。
人間だけれど、サイボーグ。

改造された躯は残念だけれど、人という基準からみれば、人ではなくなっている。
それは絶対的な事実であり、受け入れて生きていかなければならず、同じように、受け入れてもらわなければならない。
その事実を避けること自体、不可能なこと。


なぜなら、実際に存在し生きている僕らが避けると言う事は、僕ら自身が自らの手でその存在を消さなければならないから。


言葉や文化、風習などで、どうしても埋められない感覚にひどく似ている気がする。
人類の長い歴史の中で、数えきれないほど理解の相違によって争い、・・・改造なんか”されてない”同じ人間であっても、起きてしまうこの世界だから。

・・・僕らのような存在を理解されて受け入れられる環境になる世界は、まだまだ未来(さき)の話し。
解ってるからこそ、細心の注意を払って、生きて行くためにいくつもの規則(ルール)を己に課している。


機械を組み込むことで強化された躯を持つ、人間。



人間なんだ。
けれど・・・、かならず”機械を組み込むことで強化された躯”と言う言葉が生む違いを・・・。



理解してくれないと。
受け入れてくれないと。



それらは、決して難しいことじゃない。
日本は主食がお米だけれど、アメリカはパンやパスタだってことくらいの違い。慣れてるか、慣れてないか、理解しているか受け入れてみるか。

クジラを食べる民族か、食べない民族か、そういうのに似た違いかもしれない。
食べることを責める前に、どうして食べるのかを理解して、知る努力を惜しまないことと同じ。


髪が黒いのか金髪なのか、赤毛なのか、くらいの違い。
「あなたの髪は赤いのですね」と、受け入れた時点で、その人は赤い髪の人。として向き合ってもらえる。
同じように、「ああ、あなたは躯を強化する改造をほどこされた人なんですね」って、改造された人として、向き合って欲しい。

サイボーグ(改造された躯)であることを理解し、その差異から眼をそらさずに、その人はそういう人なんだと、向き合ってもらいたい。


人であり、人でない。
サイボーグと言う”人”であることをふまえてつきあっていこうとしてくれる・・海が、見つけてくれた。

サイボーグ改造された人間として、その存在を知らなかった世界に受け入れられた、気がした。
この世界に海のような人がいるのなら。





---僕らのこれからはとっても素敵な未来への道がまってるってことだよね!







「センパイ、疲れさせてごめんなさい。僕たちは行きます」


当麻の顔へとずいっと近づけて、そのシナモンカラーの瞳を覗き込み、至近距離でにっこりと笑ってみせた。


「海はせっかちさんだから、伝えたい!って思うともうレーザー光線みたいにぴゅーっていっちゃうみたいで、その辺りの性格は、ボクよりも当麻センパイの方がよくわかっているんでしょう?気にしない、気にしない♪」


ピュンマのにこにこスマイルにつられて、引きつったように頬があがった当麻。


「ぴ、っピュンマ!」
「そんなことよりも、早く体調を整えてください。海と取っ組み合っても誰も止めないで楽しく観戦させてもらうから。ケンカ上等なのが2人いるし。ここは海岸が近いから、太陽のバカヤローと叫ぶ青春ができますから!」



---喧嘩上等ってピュンマ・・1人はジェットで、もう1人って誰???



白い歯をキラリと輝かせて、ピュンマはさきほど海にしてやったように、当麻の頭もくしゃくしゃっと撫でた。


「じゃ、ゆっくり休んでください、また明日、おやすみなさい。」


撫でられたままに髪が乱れた当麻は、立ち上がって再度「おやすみさない」といったピュンマにたいして、何も答えなかった。
ピュンマに促されてデスクチェアから立ち上がった海も、デスクチェアを元の位置に戻したとき、当麻の方へと振り返った。


「おせっかいだってわかってるけど、ぼくは篠原の友達だから早く気づいて欲しいから、・・・・おやすみなさい、篠原」



何も返事を返さずに黙ったまま伏せていた本を手に取って文字を追い始めた当麻を、一度だけちらりと振り返って、ピュンマは海と一緒にゲストルームから出て行った。








####


...ピュンマ。



<ピュンマ。ぼっちゃんのことで一つ聞いて欲しい話しがあるんだが・・・昼間ちいっとぼっちゃんと話していて気づいたことがある。お前の眼でみて、どう思ったか聞かせてくれないか?我が輩、自信がないのだが、もしや・・恋(フランソワーズ)で現実(今置かれている自分の立場)を直視するのを避けるためのフィルターにしているんじゃないのか?今の現状から前に進むために、フランソワーズへの想いや、そばにいることがぼっちゃんのこころの支えになっているのならいいが、それが”逃げ道”であるなら、我が輩は張大人が提案した記憶改竄に賛成だ。もう一度、ギル博士と009に提案する。・・・悪いな、ピュンマ。そうなると海くんも巻き込むことになる>
<・・珍しいね、グレートがそんなことを言うなんて>
<こころのリハビリまで、我々が請け負う必要はないってことだ>
<うわ!それもグレートらしくないよ、・・どうしたの?>
<心配なんだよお、・・・あの2人が>
<え?>
<・・・・両思いになれた、お互いの気持ちはわかった。で、終わっちまうんじゃないかってなあ・・・>
<ええ!?>
<お互いに思い合って強ーーーい絆がある!だから、『私は当麻さんを支えるわ、それは私にしかできないこと。ジョーに思われていたってわかっただけで、私は幸せよ。彼をあんな風にしてしまった私たちの責任もあるわ、ジョー・・許して』『わかったよフランソワーズ。僕の気持ちを知った上で、彼を選ぶなら・・仕方ない。僕たちはサイボーグだ・・・いつの日か、僕たちが晴れてまた手を取り合う日まで・・・見守っているよ、フランソワーズ』『ああ!ジョーっ』『フランソワーズっ』『ジョーっ』>
<・・・・はいはい>
<なんてことになんないかと、心配でなあ・・あの2人のことだから・・。それくらいに今のぼっちゃんはなんだか危うい魅力があってなあ>





海を連れてゲストルームを出たピュンマは、ゲストルームで聞き耳を立てている間にかわした内容の、グレートが心配するようになるならなるでいいんじゃないか、と言う気持ちになっていた。


「青春だねえ」
「ぼくの努力をその一言で片付けるのは、ちょっと酷いよ・・・」


ゲストルームのドアを閉じると同時に呟いたピュンマの言葉に、脱力した海。


---離れられるもんなら、離れてみろっての!あの2人がそんな選択ができるか逆に見物だね。


と、心の中で言いつつも、きゅうっと夕食を食べたばかりの胃が縮まったような痛みを感じた。




「ピュンマ、海」
「アルベルトさん、こんばんは」
「おかえり、アルベルト」


ちょうど、自室にいたアルベルトが出て来てゲストルーム前に立つ2人に声をかけた。


「ぼっちゃんの具合はどうだ?」
「あー・・良好だけど、明日は具合が悪くなってるかも?」
「なんだ、・・・何かあったのか?」
「あったといえば、今あった。けど、なかったとされたなら、なかった」


微かに感じる胃の縮小に、ピュンマはアルベルトにたいする返事が適当になってしまった。


「ピュンマ、何か悪いものでも食ったか?」
「酢豚に入ってたパイナップルをよけずに食べたのがいけなかったのかな・・」
「夕食は酢豚か?」
「と餃子と中華スープにエビ入り生春巻きでしたよ」
「・・食っとくか」
「まだ食べてなかったの?」


ピュンマはちらっと、アルベルトが手にしている茶封筒へと視線を流すと、アルベルトが、く。と、左の口角を上げて嗤った。


「ああ・・・ちょっと雑用があってな。下に行くのか?」
「うん、まだ寝るには早いしね」


態とらしく茶封筒でピュンマの頭にぽん!と叩くいた。
ピュンマとアルベルトのやり取りをみていた海は、あの頭を撫でたりする動きは、アルベルトからの影響なのだと、観察していた。


「それなら、支度を頼んでおいてくれ、オレはその具合が悪いか悪くないのか看てから行く」


アルベルトは海とピュンマの間を割って押し退けるようにすすみ、ゲストルームのドアをノックした。


「了解」


そのノックにたいして返事が返ってこない。


「やれやれ、・・・具合が悪いようだな」


返事がないのにも関わらず、ドアをあけてゲストルームに入って行くアルベルトに、海はピュンマの腕を掴んで『入って行くけど大丈夫かな?!』と訴える。


「さ、僕らの使命はアルベルトが夕食を食べられるように、キッチンへいって彼の夕食の用意。大人まだキッチンにいるかな?」
「・・さっき僕らが出て行くときの篠原の様子がさあ・・」
「ほっといたらいいよ、アルベルトには何があったか一応は報告するから」
「通信?」
「そ!通信♪」


ピュンマはとんとん!とこめかみ部分を利き手の人差し指でノックした。








脳波通信で話しかけてきたピュンマの声を、作業の片手間に聞くラジオのように頭の隅に置きながら、ベッドの上でうつぶせになって体を横たえている、当麻へと近づいた。


「起きてるのか?」


その問いかけに、蚊の鳴くような声で律儀に「起きてます」と答えた当麻に、アルベルトは、ふっと鼻で笑った。


「土産だ。・・覚えてるだろう?学院でお前さんが絵をみせた恩田充弘という男。今日会ってきた。・・・渡してくれと頼まれたんでな。置いておくぞ」


アルベルトは、ライティング・デスクの上に土産だと言う茶封筒を置いて、部屋から出て行く。


「・・・いい傾向だ。やっと”甘えん坊”な温室育ちの”箱入り息子”な地をみせてくれるようになったか?」


起きてます。の一言しか反応しなかった当麻にむかってではなく、独り言のように呟いた。


「電気消すぞ。・・・そのまま寝るだろう?」


部屋出る前に、ルームライトのスイッチに手をかけて、ベッドに向って言ったが、当麻の反応はない。
気にする事なく、返事がないならyesだ。と、言って、ルームライトを消し、ゲストルームを出て行った。


「温室箱入りではないけれど、ジョーもにたようなもんだ」


---男運がないのか、ないっていうよりも、悪い、だな。



後ろ手にゲストルームのドアを閉めて、階下におりていく階段の途中、何もいれていなかったアルベルトの胃がぐうっと鳴いた。


<ピュンマ、オレの夕飯できてるか?>
<アイアイね!今熱々焼きたての餃子いっちょあがったアルよ!>
<それはたまんらんな>
<ビールいっとくう?>
<1缶、用意してくれ>
<<アイアイね~♪>>


ピュンマと張大人の域のあった返事に微笑んだアルベルトは、いつもよりも柔らかかった。


「・・・俺にはなし?」


アルベルトよりも少し早く、地下から休憩がてら夕食を取るためにダイニングルームにやってきていたジョーは、自分には出ないビールに不満そうに、唇を尖らせた。


「レッドカード保持者はアルコールないないネー!」
「・・・・・(いったい誰のせいで..)」
「え・・それ以前に、島村先輩、未成年じゃ・・・」
「餃子に、ビールってすごくいいよ・・・、代わりに津田が飲む?」


はあ。と、ため息をついたジョーは昼間あったときよりもかなり疲れているようだった。


「え?!ぼ、ぼくぅ?」
「・・・ピールなんて、ジュースと変わらない、よ」
「いえ、まだいいですっ」
「・・そう?」


<こらこら、ジョー!未成年は未成年らしくねっ>
<もう学院生じゃないよ、俺は>


「いたのか?」
「・・います」


ダイニングルームに入ってきたアルベルトは、その部屋が”家庭”の香りに満ちている事に、帰ってきた家を間違えたのかと、平行感覚を失ったような一瞬の目眩に教われた。

ダイニングルームに、海とジョーが向かい合わせで座っている。ピュンマがトレーに生春巻きできたての餃子と茶碗にたっぷり持った熱々の白ご飯を配膳するためにアルベルトの前を横切る。


「なんだ、みんなそろってるのか?」
「おかえりなさい、アルベルト」


キッチンから顔を出したフランソワーズが、アルベルトへと近づいておかえりなさいの挨拶のキス(頬をあわせる)。

「博士は?」
「地下にいらっしゃるの。今はどうしても動けないっておっしゃられて、サンドイッチを持っていったわ」


ふれあった頬から薫るのは、うまそうな酢豚なことにアルベルトの頬が苦笑気味にあがる。


「で、助手のお前さんが休憩か?」
「・・・役立たずなもので」


面白くなさそうにダイニングテーブルに頬杖をついて視線だけで2人をみているジョーの目の前に、ピュンマがにひにひとした、彼の今言わんとしようとする台詞が頭の中に直接響いてくる笑みと一緒に、夕食が並べられた。


「海、フルーツ杏仁豆腐を出してくれるって」
「え!本当っ食べる食べる♪」


フランソワーズから離れて、アルベルトがジョーの斜め前、海の隣の席についた。


「アイサツだ」


<今更そんな顔するな・・・。お前のこころはペットボトルのキャップよりも小さいってことになるぞ>


「・・・俺は何も言ってない」
「目は口ほどに物を言う」
「・・・アルベルト」
「なんだ?」
「・・・・・何を企んでる?」


ジョーは配膳されたエビ入り生春巻きを手でつまみ、添えてあったピーナッツソースに浸して、ばくん。と、食べた。ぴりっと辛みが効いて甘みが控えられてはいるがしっかりと味のする濃厚なソースに、ジョーはつぎの一口のため、たっぷりめにソースをつけた。


「企んでるようにみえるか?」


トレーに載せたお皿の配膳をすませたピュンマが、使ったトレーをキッチンカウンターに置いた。


「なんか、みんなここにそろっちゃったね、当麻センパイ1人が部屋っていうのも気になるし・・・」
「寝ているから、今日はいいだろう」


キッチン内にいたフランソワーズの優美な曲線を描く顎がくっとあがった。

眼と耳を使ってゲストルームの様子をうかがう。
ルームライトは消されて入るが、呼吸は眠っている人間のものではない。
スイッチを切り、脳は通信でピュンマに通信を送った。


<そっとしておいてあげましょう、まだ本調子ではいらっしゃらないはずよ>


「アルベルト?」
「恩田が土産に美大受験や画塾なんかの資料預かったから、渡しに行っただけだ」
「・・・・」
「企むというなら、才能ある若者にその道への応援をしているということだ」


手に持っていた生春巻きをばく、ばくんっと食べきった、ジョーはもう一つに手を伸ばそうとしていた。


---機嫌が悪いな。


今夜はどうやら彼の機嫌”も”イマイチのようだ。
休憩と言ったが、集中して”マッド”と化したギルモアに地下のメンテナンスルームから厄介払いされたのかもしれないと、アルベルトは考えた。
ギルモアの悪い癖は熱中しぎると、周りが見えなくなりどんな小さなことでも総て自分の手でやらなければ気が済まなくなるのだ。


「はい!お待たせあるー!!おいしあげたてあつあつとろとろ酢豚二人前アルよ!」


そんな彼の呼吸にあわせて助手をすることは、とても難しい。
BGで働いていたときはすべてチームでこなしていた上に、それらのメンバーはみな、ギルモアの地位を脅かすほどに優れた才能をもった科学者たちだったという。
ギルモアの過去のチームメンバーと比べられては、ジョーが可哀想だというものだ。


「ご苦労さんだな」
「・・・・」


素手で手にした生春巻きをピーナッツソースにつけたとき、トレーに残りのおかずをのせてやってきたフランソワーズの優しくも厳しい、どことなく緊張したような声がダイニングテーブルに夕食よりも先に渡された。


「手は洗ったのかしら?」
「・・・・洗いました」
「お待たせしちゃったから配膳が整うまでまてなかったのはわかるけど、せめてお箸を使ってください」
「・・・・・了解」


深いため息と一緒に、むすっと完全に機嫌を損ねた顔をしたジョーなど気にせずに、まるで逃げるようにフランソワーズはトレーの上の皿を配膳し終えて、キッチンへと戻っていった。

その様子に、さらにジョーの機嫌が悪くなる。


<・・・・まったく、進歩したどころか後退したようにしかみえないじゃないか>
<そういうのを初々しいって言うんだよ、アルベルト♪>


フランソワーズと入れ違いに、2人分のフルーツ杏仁豆腐とアルベルト用のグラスについだビールをのせたピュンマがテーブルに着いた。


「海、おまたせー!」
「ピュンマーっ(この2人と一緒だと何を話していいのかわかんないよーっ_涙)


ピュンマがジョーの隣の席につきながら、そのまま脳波通信を使用し、今日の昼間の出来事の一番のニュースであるジョーの頭突き警報事件と、イエローカードが3枚そろってしまい、ギルモアからメンバー内で初めに要注意のレッドカードをもらったのが地上最強の戦士さまであると報告した。


「本当に、ご苦労さんだったんだな。今日は」
「・・・うるさい」


早かれ遅かれ知られる事になるだろうこと。
キッチン内からくすくすとした、フランソワーズと張大人の笑い声が聞こえてくる。


<張大人、いったい誰のせいで・・>
<あいやー!わかってるアルよー>


個人チャンネルにアクセスがあり、通信を送ってきた相手にだけチャンネルを開いた。


<ピーナッツソース、甘過ぎなくて?>
<・・?>
<・・・他のよりもピリッと辛めに仕上げてあるの・・・>


「アルベルト」
「どうした?」
「・・・可哀想に思うなら、その生春巻きこっちによこせ、よ」
「・・・・いきなりな、・・・・。まあ、いい。これで機嫌がなおるなら」
「このソース、もっとある?」
「アイアイ!アルアルたくさんアルアル♪」


キッチン内でジョーの声に張大人が答えながらフランソワーズにむかってだけ、小さくウィンクをした。
フランソワーズはうつむいて、ピーナッツソースを少しぴりっと仕上げる用意をいそいそとし始めた。


「なんだ、オレのにもあるぞ?・・何かジョーのと違うのか?」
「・・・もらうのは生春雨だけだからだ、よ」
「ジョー、こっちにはビールがある。生春巻き分餃子をわたせ」
「・・・・・・1個でいい?」
「ふざけるな」
「・・・・2個?」
「半分だ」
「・・・・・可愛そうだからくれたんだろ?」
「世の中はそんなに甘くない」


なま春巻きの皿がアルベルトからジョーに移動していくのを見ながら、海が遠慮がちにつぶやいた。


「あのー・・みなさんそろってるって言われたんですけどお」


キッチンにいる張大人、フランソワーズがカウンターから顔を出した。
テーブルについている、アルベルト、ジョー、そしてピュンマが、ダイニングルームにいる全員が、海に注目する。


「グレー・・・トさん、は、どこに行っちゃったのかなー・・なんて、・・あの・・」
「「「「「!!」」」」」」
「・・言わない方がよかったのかなぁ・・・」
















====25に続く








*ちょっとつぶやく
本気で7を忘れてました・・うわっ・・・・。
ええっと、彼はどこにいるのかと言うと・・・夕食をすませたあと、ひっそり隠したお酒を1人のみしてもうちょっと、もうちょっと飲むぜと・・部屋で酔っぱらって大いびきで、お願いします(苦笑)

7、ごめんなさーいっ


それにしても当麻くん、どうしちゃったのだろうか。
熱を出してる当麻くんの看病の間みな心配していたけれど、普段のノリ的にはこんな日常だったのかなあ、です。









web拍手 by FC2
ニアピンでイラストをいただきました!@水無月りら さま
キリリク・イラスト!






kiririku-63393_nakijoe.jpg












ライン


zerozeroマニアの水無月さまサイトで、”常に”キリ番を狙っている(笑)私。 このたび、ちょっきり数字ではありませんでしたが、
ニアピンナンバーとしてリクエストをさせていただきました♪

私のリクエスト内容は、
『どんな泣き方でもとにかく、一生分の涙を今ここで流してます的なジョー』
(本来のリクエスト内容から略してます)

ジョーを泣かせてください!!
な、我が儘にリクエストにお答えくださいました♪


いただいた日から毎日イラストを眺めているのですが、時間が経つにつれて(はじめは抱きとめるお嬢さんにばっかり注目していた_汗)、胸がいっぱいになってます。



ジョーの涙にどのような思いが込められているのか、妄想してくださいませ♪







***

水無月さま、ジョーに素敵な涙をありがとうございました!!
次回もキリ番踏むぞ!と決意の涙を流して、喜んでいます♪


joe-banner2.jpg
水無月りらさまのサイト♪はバナーから♪



ー追記ー
5.16.10’に、いただいていた、別バージョンのイラストをアップいたしました。 タイトルはBELIEVEです。




背景素材/ふるるかさま
web拍手 by FC2
| home |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。