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egg
「夏にたくさん頑張った太陽だから、少し疲れちゃったのね。隠れちゃうのが昨日よりも早いわ・・・」

 ランドセルを背負った子どもをまだ見かける時間であるにもかかわらず、外灯に明かりが点いている。空気は昼間のぬくもりが嘘のように消えて、空は泣き出しそうな色を無理矢理に濃紺のハンカチでおおい隠そうとしていた。

「面白い言い方をするんだね・・」 
「明日は雨かしら?・・星が見えないわ」
「今日よりも寒くなるんだろうね・・・、もう秋も終わりだな」

 繁華街から離れていく足取りは、いつも歩く速さの半分もない。
 人家の明かりが星のようだ。とは思ったけれど口にせず、代わりに少し遅れて歩く人にむかって振り返った。

「まだもうしばらく歩くけど、大丈夫?」

 持たされた筒型のスポーツバックと、一週間は余裕で旅ができる大きさのボストンバックでは間に合わず、最後に買い物をした食料品店のロゴがプリントされたプラスティックバックが2つ、余分な手荷物が増えた。

「ジョーは寒くなくて?」

 ジョーから一歩半分ほど遅れていたフランソワーズが隣にやってきたタイミングで、二人は並んで歩き出した。

「平気」

 10月も終わり、秋と冬の間は不自然に温かい日が続くと思えば、突然冬の女王がご機嫌に歌い出したかのような寒さになる。今日はどうやら冬の女王は期限が悪いらしく、薄手のブルゾンを着ていても歩いているうちに汗ばんでくるほどの陽気だった。
 陽が落ちた今は手に持って歩く必要のない気温になってちょうどいい。

「今日は一日、気持ちの良いお天気だったわね」
「・・・やっぱりさ、僕が持つよ」

 荷物を持っているのにもかかわらず、腕を振って歩くフランソワーズがジョーは気になる。
 吐き出した言葉と同時に伸ばした腕は、断りの言葉は聞かないとばかりにフランソワーズが持つプラスティックバックの片方に触れた。

「きゃ!」
「え?」

 触れたのはプラスティックバックだけじゃなかった。

「もうっ」
「?」

 彼女の冷たくなった手のこうに、触れた。
 指の腹が押したというべきか。そのジョーの指の腹が触れた手の冷たさと、つるりとしたシルクのような感触を味わうかのように、何度もその感触を再現させる。

「びっくりしたのっ急に何よっ」
「ごめんっ」
 
 きつく責められるように言葉を投げられた。フランソワーズのその言い方にジョーの眉頭にシワが寄る。
 驚かされたのはこっちのほうだ。ジョーは下唇を軽く巻き込むように噛みしめ、外灯の電気が届かない稲刈りが終わった後の暗闇に包まれた田んぼへとそっぽを向いた。そこはまるで漣の音がない夜の海のようだ。

「ちょっと触れただけだろ?・・そんなに驚くことかよ?」

 本当に少しだけなのに。舌打ちをついて不快感を顕にしたジョーの態度が気になって、彼の表情を窺うためフランソワーズは一歩を大きく踏み出した。

「あっ」

 不自然な風がジョーの瞳に映る。同時にプラスティックバックの忙しない音がジョーの耳をかすめる。外灯の無機質で冷たい光を弾く亜麻色の髪を靡かせながらフランソワーズの後頭部が落ちていく。

「fr・・・っ」

 それはまるでスローモーションのようで、ジョーにとっては”見慣れた”動き。



 瞬間。とは言えない長い時間。




「大丈夫!?」

 伸ばした手は間に合わなかった。

「いったー・・・・いっ・・」

フランソワーズの膝がアスファルトを叩いたと同時に、彼女が手に持っていたスーパーのプラスティックバック2つの中に入っていた品が、悲鳴を上げた。

「怪我は?」

 肩にかけていた荷物を降ろし、素早くフランソワーズの前に回り込んで腰をおろした。

「・・・もー・・」

 フランソワーズはその場にぺたりとお尻をつけて座り込む。何も無いところでつま付き膝をついた自分自身に腹を立てているようで、ジョーの声は今しばらく聞こえないようだ。

「立てる?足をくじいたりしてない?」

 予想だにしなかった躯の落下に手を離してしまったプラスティックバックを2つたぐり寄せ、それを膝の上に置いて中身を確認するフランソワーズの、眉が歪んだ。けれど、ジョーからはそれが見えない。

「・・・買い直しだわ」

 フランソワーズの声にジョーは思い出した。荷物といっしょくたにしたら”危険”そうなモノをプラスティックバックにわけていれていたことを。

「割れてる?」
「壊れてるわ」

 フランソワーズはのぞいていた1つを見せようと膝から持ち上げたとき、ジョーはその音と半透明なプラスティックバックから透けて見えた色を確認した。

「あー・・・見なくても判る、けっこう酷いね」
「卵、・・Lサイズ12バック全滅だわ」
「全滅ってことはないと思うけど・・どうしよう、買いに戻ってもいいけど店はもう閉まってるだろうし」
「日付が変わったら移動でしょう?」
「次に陸にあがるのは4、5日後・・、でも卵は予備の”買い足し分”だから、そんなに重要ではないと思うけど・・・」
「私、買い直してくるわ。スーパーじゃなくてもコンビニとか開いてるし、売ってるでしょうから」

 もうひとつのプラスティックバックに入っている、目に留まった適当なスナック菓子類は中身を確認することはできないが、ほどよくダメージは受けているだろうが、卵よりは軽傷であること確実。

「いや、それなら僕がいくよ。ごめん。・・・僕のせいだし」
「ジョーのせい?・・・転けたのは私よ?」

 卵の入ったプラスティックバックを持ち上げたもののそれを手に取る気はないらしいジョーだったので、再び膝の上に置き直したフランソワーズは、目の前にいる困惑気味の彼の顔を覗き込むように首を傾げた。

「・・僕のせいだよ、だって僕だから、ほら・・絶対に支えられたはず、間に合ったはずだから」

 その長い前髪が邪魔なんだけど・・・。
 ただでさえいつも片方の瞳を隠して、表情も人の半分なジョーがうつむいてしまえば、カーテンのようになってフランソワーズの視界から消えてしまう。

「加速装置で助けられたっていうの?今日一日かかった買い物が全部だめになっちゃうじゃない」
「そういうことじゃないけど・・できて当たり前のことだし」
「サイボーグでいるからって”完璧”も”絶対”も”当たり前にできる事”なんて、ないわ」
「いや、・・でもキミが痛い思いをしなくてもよかったし、卵だって」
「自分が転けてしまった責任くらい、自分でとれるわ。そんなことくらいで誰かの手を借りようとか、他人のせいにすることなんてしません」
「そういう意味じゃなくって」

 フランソワーズの手が伸びた方向は上。

「じゃあ、どういう意味?・・ちゃんと、私の目を見て言ってちょうだい」

 髪を飾っていたカチューシャを外した。

「これですっきりするわ♪」

 フランソワーズの手で、ジョーの前髪がそのカチューシャによって持ち上がる。

「ちょっ・・何をっ・・」

 いつも以上に開けた視界。頭に乗せられた異物の感覚。

「だめよ!外しちゃっ邪魔なのよその前髪!ジョーはとっても素敵な瞳をしているし、ハンサムなのにもったいない!」

 いつもと違うバランスで見る、彼女の髪にトレードマークのカチューシャがない。

「え、なっ・・何を言ってっ・・そういう話しじゃっ」
「おでこ広いのねー!」
「みるなっ」
「照れてるの?」
「今、そういうことをっふざけるなよ」

 すぐさま前髪をとめているカチューシャをはずそうと手が動く。

「外しちゃだめよ!似合ってるんだから、そのままでいてちょうだい」

 フランソワーズの手がのびる。

「嫌だっ」
「だめったら!」

 ジョーの手が彼の頭へと赴くことを阻止するために、素早くフランソワーズが彼の両手首を掴んだ。

「離せっなんで僕が女の子のっ」
「いーからっそっちの方がいいでしょ?前髪をおろしているときよりも100倍モテるようになるかもしれなくてよ?」
「ならないよっ」

 力技でその手を振りほどこうとする。

「試してみましょうよ!ね?」
「試す必要なんてないからっ」
「いーじゃない、素敵な彼女ができるかもしれないわ」

 フランソワーズの腰が浮いて彼女の膝にあったプラスティックバックが落ちる。

「要らないよっ」

 力なら断然に最新型の彼の方がある。男と女の差よりも。

「やっ・・」

 手首を掴んだフランソワーズの手を振りほどくことなく腕の力だけを使い、左右に180度の線ができるように広げた。腕のリーチの差と、広げられた勢いにジョーの両手首からフランソワーズの手が自然に離れた。重心を腕にかけていた中途半端に膝立ちになっていたフランソワーズの躯がバランスを崩して、前のめりに倒れ込む。


 また、だ。

 加速したときのように周りがすべてスローモーションに見えた。




 驚きに見開いたフランソワーズの顔が、徐々に近づいてくる。
 初めてクリアな視界で真正面からフランソワーズを診たような気がした。

 大きすぎる空色の瞳。その色は今朝見上げた空の色よりも青い。コバルトブルーのような爽快さを持ちながら、どこか春のように温かく優しい柔らかさを備えている。それらぐるりと取り囲むように羽毛のようなまつ毛はくるっと乱れなくカールしていた。二重のラインが目尻で枝分かれしているのが、可愛らしい。
 ヨーロッパ人はみんな鼻が高い、とは思い込みだったようで、フランソワーズのそれは鼻筋は遠ているが”高い”とは言いがたい。まるっこさが人懐っこい彼女の性格をよく表していた。
 前のめりになっていく動作の中で、空気が移動して、いや、フランソワーズの躯が移動して創りだされた風に煽られた前髪から、普段は隠れている亜麻色の髪よりも濃い目の色の綺麗なラインを描く眉がちらりとみえた。彼女の意志の強さが出ているしっかりとしたけれど、どこか儚く流れている。


 間に合う、だろうな。


 ジョーはフランソワーズの手から解放された両腕の自由を感じている。
 今、彼女の肩でも押せば、前のめりになって自分へと倒れこんでくる躯との接触を免れることができると思う。
 ちょっと指がその手に触れただけで、不快を感じたと訴えるような悲鳴を短くあげた彼女だ。また、悲鳴をあげるかもしれない。
 そうなったら、そうなったでまた謝ればいい。
 ジョーの腕がフランソワーズの倒れこんでくる躯を支えようとして、動いた。

「!」
 
 肩に近い二の腕をつかんで押し返すはずの腕は、フランソワーズの腕を通り越して背に回された。
 倒れてきたフランソワーズを直接胸で受け止めて、その勢いに押されるように、立ち膝をついていたジョーの腰が地面へと落ちる。その衝撃から守るようにジョーの腕がしっかりとフランソワーズを抱き込んだ。

 フランソワーズの躯が接触とほぼ同時に堅まる。

「・・・」
「・・・」

 防護服でない状況下での今の現状のような接触は初めてと言っていい。驚きの悲鳴も抗議の責め句も出てこないフランソワーズの唇は凛々しく一文字を描く。

「今何時くらいだろ、・・・急がないとみんなが心配するね」
「・・・」

 独り言のようにつぶやいたジョーの声が大きい。その声を作るために発せられた空気さえもフランソワーズの耳に聞こえた。
 少しの間の後、ジョーの声に同意するようにかすかにフランソワーズの頭が動いた。すると、肩にあたってる顎が重くなったような気がした。
 のんびりとした感覚で立つ電柱に引っ付いている街灯と街灯の間は、そこだけが別の次元への落とし穴のように暗い。自分たちを挟んで前後を明るく照らす光は意地悪くも見えて、逆に気を使ってくれているようにも感じる。

「行こうか」

 汗ばんだ手のひらを確認するようにフランソワーズの背中から離してグー、パー、を繰り返した。動きがかなり鈍い。浮腫んでいのかうまく握り込めない。
 背に感じていた腕がなくなってから、フランソワーズはゆっくりとジョーの胸に預けていた躯を後ろへ下がるように動いた。

「・・・・返すよ」

 ジョーの前髪を抑えていたカチューシャは、すんなりと外されてフランソワーズの手に戻される。俯いた顔のままフランソワーズはそれを受け取った。
 ぺたりとへたり込むように路面に座ったフランソワーズをそのままにして立ち上がったジョーは、置いていた荷物を肩に担ぎ直した。

「卵は諦めよう。でもそれをここで捨てるわけにはいかないから持って帰るよ」

 少しだけ膝を曲げてからフランソワーズに立つことを促し、ジーンズの太もも部分で何度か往復させたその手を差し出した。
 こくり、と、深くうなづいたフランソワーズは黙ったままジョーの手に助けられて立ち上がり、スカートについた汚れを払う。その手にはカチューシャが握られている。
 フランソワーズの様子を窺いながら、彼女の足元にある割れた卵の入った袋とスナック菓子類しか入っていない袋の両方をジョーが持った。
 ジョーが歩き始めると、フランソワーズも歩き始める。
 二人が座り込んでしまった位置から一番近い外灯の下にたどり着いて、ジョーは足を止めた。

「顔紅いけど、風邪でもひいた?」
と、フランソワーズの顔をわざとらしく覗き込んだ。

 フランソワーズの瞳にいつもの前髪に顔を半分ほど隠したジョーが現れる。その口元がちょっと得意気で意地悪い形に笑っているような気がするのはフランソワーズだけだろうか。

「卵は壊しても、キミを壊すようなことは”絶対”に”当たり前”だけど、・・・ないようにするよ」
「・・・転けたくらいで壊れるほど脆くはないわ」

 言葉を返した語尾が意識していないのに震えた。
 足が止まったついでに。と、いう感じで固く力の入った声帯を知られなくなくて、ごまかすようにフランソワーズはカチューシャを髪に飾った。

 抱き受けられただけ。それに何の意味もない。意味なんてない。
 意味があったら?

「今夜はオムレツにしてもらうってどうかな?この玉子でさ」
「夕飯なら、もう用意してくれていると思うわ」

 二人は再び並んで歩き出す。

「そっか」
「そうよ」

 ジョーの手の汗はひかず、フランソワーズの耳はまだ赤いままの帰宅となった。

 



end.

















書き終わりに一言/私が書く93にしては不思議な・・関係な二人。そして私の書き方もちょっといつもと違いますような、同じなような???
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