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秘密の共有者
あまり思わしくない内容に、ため息をつきながらジョーは言った。

「仕方ない、行くしかないよね」

ノートパソコンのウィンドウに表示させたブラウザは、フリーメールアドレスの受信ページ。
ジョー宛に、ではなく、それはギルモア博士宛だった。

「行くの?」
「うん」
「いつ?」
「明日の朝」
「博士へは?」
「電話しておくよ。・・留守をあずかっている僕が、今は”ギルモア”代表だからね」
「その、代表者が出ていったあとは、・・・どうなっちゃうの?」
「次の代表者をたてる」
「次はぁ、だあれだ?」

ジョーにコーヒーのおかわりを淹れてきたフランソワーズは手に持っていた丸いトレーを腕に抱き、くるっと180度躯を回転させた。
リビングルームには、くつろいでいる仲間たちがいる。
フランソワーズの態度は、次の代表者が自分ではないとわかっているようだ。

もちろん、ジョーがフランソワーズを代表者に選ぶことはない。
リビングルームにいる誰もがしっていた。


「悪いけど、・・そうだな、張大人とグレートは僕についてきてもらうよ」
「アイアイ!”ギルモア”博士、よろしくね!」
「了解いたしました、博士、吾輩がお供いたしまする」

科学会では伝説となっている”ギルモア博士”。
有名になればなるほど同時に、危険が伴ってくる。



アイザック・ギルモア。
彼だからこそ。


「ハイン、頼んでいいかい?」
「・・・何をすればいいんだ?」


ギルモア博士を守るため、00メンバー・サイボーグたちはギルモアの存在(姿)を隠した。
表(世間)から身を隠し、代理(00メンバーたち)が動くことで、アイザック・ギルモアという人物の情報操作をはじめた。

老若男女、年齢不詳。
自由気ままに返信したグレートがギルモアの名で現れるたびに、容姿や性別がかわる。
噂は尾ひれ背びれがついて混乱していた。
最近は代理と名乗る者が招待に応じることが多いせいで、死亡説も浮上している。

「朝晩、欠かさず”ギルモア”宛のメールをチェックすること。返事についてはマニュアルどおり」
「了解」
「あと、博士が存命である、てこと、強調」
「了解」

死亡説、に関してはギルモア博士自身が難色を示したので、本人の意思により、存命であることにこだわっている。

現在、ギルモア博士はジェロニモ、イワンと一緒にアンデス山脈の麓にある小さな村で暮らしていた。
赤十字グループから派遣された、ボランティアドクターとして。

他のメンバーも赤十字グループから派遣された調査員として、2,3ヶ月に1度、3人の元へと向かい交代する。
今はピュンマが出向いていた。

「じゃ、あとをよろしく」

テーブルに置かれた、コーヒーカップを持ち上げて、淹れたての薫りを吸い込んだ。

「ジョー、何泊くらいしそうだ?」
「新しいスーツケースの出番ある!」
「ジョーはスポーツバックでいいのでしょ?」

グレートが立ち上がったことで、広くなったソファにゴロリと寝っ転がったジェット。
退屈で仕方がない、と言いたげなあくびをした。
自分の名前があがらなかったことに不満はない。代理を引き受けるのは面倒だ。
けれど、なにもないってのもつまらない。

「3泊4日かな?延びる予定もいれて、一週間分かもね。予定が伸びたとしても、大人はこっちに戻ってきてほしいな。もうすぐピュンマと交代だし」
「あいあいネ。ワテは3泊4日の予定アルね!」

代理となったハインリヒは、ギルモア博士の特等席だったロッキングチェアに座っていた。
博士がいない今は、彼の定位置となっている。
今日の夕刊を、電車内で邪魔にならないサイズに畳んだサラリーマン風にして読む。

「フランソワーズ、スーツも用意してくれるかい?あと、キミのスーツケース貸して」

グレートと張大人はまるで遊びに行くかのように、ルンルンと弾んだ足取りでリビングルームを出ていった。

「いいわよ、貸してあげる。スーツは2着用意しておきましょう、シャツとネクタイはいくつくらいいるかしら・・あと、アメニティに・・」

2人の後を追いかけるように、丸いトレーを抱えたままのフランソワーズも部屋を出ていく。

「自分の荷物くらい、自分で用意しろよ」

小さな舌打ちと一緒にジョーを注意したジェット。

「ああいうの、苦手なんだよ」

即答する、ジョー。

「まあ、そういうな。ジェット。フランソワーズはジョーの世話をやくのがいいんだ。ジョーもそれをわかっていて・・だろう?」
「そういう女、重たくないか?」

ジェットがソファから起き上がった。よ!っと、口で勢いの音を出しながら。
ハインリヒとジョーが、ジェットの発言に思わず視線を合わせた。

「重いと感じたことはないな」

過去の、誰かを思い出したのだろう。
ハインリヒの口角が少しばかり甘くつり上がったのをジョーは観ていた。

「そうだなあ。僕は、重い、なんていう発想自体なかったよ」
「ああいうのは、あとでごたつくぜ?」

チラリと視線で、今しがたフランソワーズが出ていったリビングルームのドア口をみたジェットは、自慢の長い鼻で笑った。

「ごたつくってなに?」

ジョーはテーブルに置いていたノートパソコンを膝に置き、開いていたメールへの返信用文章を作成しはじめる。
目の前で作業し初めたジョーの、半分ほどになったコーヒーカップに手を伸ばし、ジェットはそれを飲み干した。

「別れるとき、面倒になるってことだ」
「なったことがあるのか?」

ハインリヒが間を開けずに聞いてみる。

「なったことはないけどよ、なってるのを見て、巻き込まれた経験はある」

思い出したのか、それはそれは苦く、まずそうな顔をしてみせた。

「それは・・・・おつかれさん」

ジェットはドア口に投げていた視線を、目の前のジョーへと移動させた。
途中、ハインリヒと目があったが、スルー。

「巻き込むなよ?」

意地悪な声だ。

「心配ご無用。僕らはずっと変わらないさ」
「それはそれで問題じゃないか、ジョー」

そうかな?と顔に感想を載せたジョーが、ノートパソコンから顔を挙げてハインリヒを観た。

「ジェットのような心配はしていないが、このまま変わらないのはどうかと思うぞ」
「どうしてさ?円満だし、問題もないし・・・」
「今はそれでいいかもしれないが、少しはその先も考えてやれ。フランソワーズも女の子なんだ」



女の子なんだ?

ジョーはハインリヒの強調した言葉を口の中で反芻した。
ジェットはジョーよりも先にハインリヒが何を言いたいのかを察したようだ。
先程よりも大きな舌打ちをつき、再びソファにゴロリと寝っ転がった。

「そんときは、ハインと2人でBlack Eyed PeasのI Gotta Feeling を歌ってやるよ」
「なに?」
「知らないのか、ジョー。アメリカでその歌は結婚式で歌う最近の定番曲だ」
「けっ・・・・結婚!?」
「ジェット、一人で歌え。オレは(everything i do)i do it for youをピアノで弾こう」
「ぼっ僕らはそんなっまだ・・・先走りすぎだよっ・・・・・」

ジョーのキーを叩く音が大きく、早くなった。
真っ赤な顔をして、ノートパソコンの中に入り込んでしまいそうなほどに躯を小さくし、2人の視線から身を隠す。


ジェットとハインリヒは顔を見合わせて笑った。












***

翌朝。
ジョー、張大人、グレートの3人は航空機は使わずにドルフィン号に乗り込んだ。
深夜に予定が変わり、張大人は帰還せずにドルフィン号に乗り直接ギルモア博士の滞在先へと向かうことになった。
そのため、一般航空機での帰還になるジョーとグレートの二人の予定が延びることになる。


現地に到着した、と連絡があり、1日が穏やかに過ぎていった。
ハインリヒは”代理”として朝夕の新聞の代わりにパソコンを膝に抱く。
ジェットはソファにゴロリと寝っ転がって彼専用となったテレビと更に仲良くなった。

1人、仲間がいなくなるだけで、邸の中が冷たくなる。
夏へと近づいているはずなのに、半袖を着用していることが間違っている気がするジェットは、自分の体感温度が狂ってしまったのかと、少しだけ首をかしげた。

3人分の夕食をダイニングテーブルにのせると、仲間たち全員が座っても余裕のあるため、なんとなくテーブルにたいして申し訳無くなってくる。
ジェット、フランソワーズ、ハインリヒに共通の会話はあっても、エンターテインメントに長けたキャラクタでもない3人。
サービス精神にあふれているわけでもないので、淡々と会話をし、ときおり笑いあい、いつもよりも早く食事を終えた。








そんな、2日目の夜。


「・・・なにをしているんだ?」

隠したはずのホネが見つからない犬のように、困惑した表情でくるくると廊下を歩きまわっている姿が奇妙だ。

「あ・・・」

モコモコとした、見た目ではなんとも表現に難しい、触り心地良さそうなパステルカラーのパーカーに、お揃いの7部丈パンツを着たフランソワーズがジョーの部屋前にいた。

「どうした?」
「え・・・・ハインリヒ、こそ・・?」

自分への問いをそのままハインリヒに返した。

「オレは、ピュンマの本を戻しに。借りてたんでな。・・・部屋に入ることは本人から了承してもらっている。
「そう」

ジョーの部屋の隣が、ピュンマだ。
グレートの部屋前にある廊下から曲がって、ピュンマの部屋。そしてその隣、一番奥にジョーの部屋となっている。2人が不在の今、ジョーの部屋の前にいることを誰かにみられるとは思ってもみなかった。

「それで?」
「なあに?」
「そこで、何をしているんだ?」
「・・・」

フランソワーズが、不満そうにくちびるを突き出した。
顎をひき、上目遣いにハインリヒを睨む仕草は、小さい女の子のようだ。

「どうした?」

ジョーが不在の間にフランソワーズに何かあっては申し訳がない。

「・・・その・・」
「言えないことか?・・それなら別に無理には言わなくていいが」


言わなくていい、と口では言っているがハインリヒの態度は違う。
彼の余計な几帳面さがしっかりと出ていた。

「・・どう思う?」

ハインリヒから視線をジョーの部屋のドアへとうつしたフランソワーズは、さくらんぼのように小さくぽつりとつぶやいた。

「何がだ?」
「・・・・・その、・・・・部屋で寝ようと思って」

フランソワーズの部屋は、階段を上がってジョーの部屋とは逆方向にある。当たり前だけれど、彼女が観ている部屋はジョーの部屋だ。

「いつもは外で休んでいたのか?それは知らなかったな」

ハインリヒはグレートに笑われるくらいの、大根ぶりをみせた。
ぷうっとフランソワーズは頬をふくらませ、ハインリヒに向かって抗議するような態度。

「早く寝ろよ」

現在進行形で恋をしている女の子がそこにいた。

「・・・内緒にしておいてね」

頷くことなく、ハインリヒはピュンマの部屋のドアノブに手をかけてひねった。








ドアを開けてピュンマの部屋へと入っていく。
ゆったりと余裕をもった動き。手に持っている数冊の単行本を、フランソワーズに見えるようにして。
フランソワーズは、黙ってハインリヒがピュンマの部屋へ消えていくのを見送った。
大きな青い瞳がゆっくりとハインリヒの動きに合わせて右へと動く。

人気のない廊下に響いた、ドアが閉まる音。
ドアノブの金具が再び合わさった、小さな、金属音。


部屋の中で、ハインリヒはドアに背中から貼り付いた。
冷たい手で口元を覆う隙間から溢れる空気。
クックックっと鳴っていた。

「内緒にしてろって?」

ドア越しに聞こえるフランソワーズの密やかな足音。
決心がついたのか、隣の部屋のドアが開き…、閉じた。


ピュンマの部屋の本棚にではなく、彼のベッドの上に借りていた単行本を置いた。理由は、彼なりにコーディネートされている並びを乱したくないからだ。

「・・・それなら、・・・まだ当分の間は、練習の必要がなさそうだ」

置いた文庫本の分、微かに沈んだ布団にハインリヒの頬が緩む。

今夜だけ、なのか。
それとも今夜から、なのか。



細く吸い込んだい空気が冷たく肺を満たす。
隣の部屋で、遠く離れた恋人を想い、彼の薫りがするであろうシーツに包まれて眠る乙女が独り。




部屋のドアを開け、廊下へと出る。
隣の部屋のドアへとチラリと視線をなげた。


「Gute Nacht」


呟いた声が、静寂に消えていく。







***

3泊4日の予定通りに、張大人はドルフィン号を操縦してギルモア博士とジェロニモ、そしてピュンマの待つ村へむかった。
グレートからの連絡により、3日後に帰還とのこと。

連絡を受け取ったのは、ジェットだった。
ハインリヒは報告を聞きながら、リビングルームに置かれた観葉植物の世話を焼く、フランソワーズの後ろ姿を眺めていた。

「帰ってくる前に・・何かやっておくことはあるかな、フランソワーズ」



たとえば。
内緒にしておくために、リネン類の洗濯など。


ジョーは疲れて帰ってきているのに、眠れなくなるぞ。
自分のベッドに、するはずのないフランソワーズの薫りがするのだから。

「さあ・・、得にないと思うわ」

サボテンに、あげる必要のない量の水をダバダバとそそぎ、ソファに長くなって寝っ転がっていたジェットが飛び起きた。







end.
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動揺を隠せない /ファースト・コンタクト


ただいま。と、一緒の意味で、ジョーは言う。
玄関のドアを開けると同時に。


「フランー・・・・っ」


誰も居ない邸の中に虚しく響く、声。
人の気配が感じられない邸の中で、苦笑い。

「って、呼んでも・・・今はいないんだって」


ーーーうっかり、うっかり。


「・・みんな張々湖飯店なんだから」


ーーーついいつもの癖でさ。



誰もいない邸で、ジョーは自分自身に言い訳をする。


「まいったまいった・・」


呟く声が自分の頭の中に響いていた。
別に誰かに観られていたわけでも、聞かれたわけでもないのに、顔が熱くなる。


「いやー・・」


わざと大きな音を立てて靴を脱いだ。
いつもの定位置におかれている自分用のスリッパに履き替える。
隣には、主人不在のピンクのスリッパが御行儀よく留守番をしているのが見えた。


「まあ、なんていうか。邸に誰もいないなんてさ、久しぶりのことだしね」


ポケットから携帯電話を取り出す。素早く動かした指が並べられた数字を正確に押した。
荷物を投げるようにリビングルームのソファへ置き、ジョーの足は止まることなく進んでいく。
サイボーグ00ナンバーであるがゆえに、設えられている地下へとむかって。

携帯電話で地下室への通路にかけているセキュリティロックを解くために、地下のメインコンピュータへ電話をかけて、コンピュータを遠隔操作で起動させる。
起動したコンピュータに脳波通信で接続し、ロックを解けば、キッチンとひとつづきになっているダイニングルームの一角にある、飾り扉の1つが開く。

邸内にはいくつかの”道”が用意されているが、一番使用度の高い道が、ダイニングルームにある飾りドア。
昔は裏庭へ出られるようにするためのドアだったけれど、改装したときに埋めてしまって今はアンティーク調のドアだけが残った。と、言うことにしてある。
そんな説明を用意されているが、ジョーはまだ一度も口にしたことがないセリフだ。


地下の設備は現在78%ほど完成させているが、まだ細部まできちんと整備されてはいない。
完成させていない部分は現在の00ナンバーの活動に支障を与えるものでないため、そのうちに、そのうちに・・が延びてしまっている状況だった。



「さて、と・・」


張々湖飯店でみんなは夕食をとっている。
今日は張大人の新作メニュー試食会兼夕食だ。
ジョーももちろん参加する予定だったけれど、このチャンスを逃す手はない。

邸で独りになれるチャンスを。






嘘をつくことに抵抗がないわけじゃない。
みんなに、得にフランソワーズに対してチクチクと胸が痛む。


「さっさとやってしまおうかな」


メインコンピュータの隣の部屋、サブルームの一角に設置した009用のデスク。
雑多な部屋から彼専用の改良が加えられたノート型コンピュータを手に取った。

一般人に観られても困るもの・・ではないと思うけれど。

万が一、録画されたりしていたら。
そんな動画が流出してしまい、観られては困る人間に運悪く観られてしまったら。



00ナンバーとして生活をしていく上で、最低限の規則(ルール)を守ることによって今の生活が成り立っていることを忘れてはいけない。

通信経路を知られないようにいくつかのトラップをしかけるための準備に取り掛かった。
メインコンピュータと接続させたノート型コンピュータを使用して、暫く作業に取り掛かる。


『夕食は、バイト先の人たちと先約があって』


と、いうことにしてあるので、今日の夕食はコンビニ惣菜。




作業を終えて立ち上がったジョーは、再び地上の邸宅、リビングルームへと舞い戻り、ソファに置いたカバンの中から2シーズン前に発売されたパソコンを取り出した。
パソコンの下敷きになり、ぺしゃんこになったおにぎりと唐揚げも一緒に救出。

キョロキョロと周りを見回して、リビングルーム内でも見栄えのいい場所を探し始めた。
昼間なら、リビングルームの一面の窓が飾る海と空がいいだろう。
残念ながら、夜の7時を過ぎた今は、カーテンがかけられていない黒い窓にピントのずれたリビングルームとジョーをうつしているだけだ。

いつも座っているソファの位置について、後ろを振り返ってみる。
ソファの後ろには高級感のある飾り棚と本棚が壁にそって置かれ、観葉植物が並ぶ。
その先に誰が使うのか、疑問に思うものが一つ目に飛び込んできた。

美大生がデッサンに使うような、アムールの半身像だ。
男性像であることが一目でわかるシンボルが気に入らない。


「まあ、距離があるし・・・あんなところまでは映らないから大丈夫だね」


いつから飾られているのか、誰が買ってきたのか、ジョーは知らない。
どうせならミロ島のヴィーナスの半身像だったらよかったのに、なんて思ったことは、家族(仲間)の誰にも知られたくない青少年の小さな囁き。

視線をガラス作りのローテーブルに戻して、パソコンを立ち上げる。
立ち上げを待っている間に2階の自室へと戻り、ウェブカメラを手に戻ってきた。
カメラをセットして、地下室のメインコンピュータがホストとなっているネットワークに接続。

ウェブカメラの位置をパソコンウィンドウを見ながら設定。
テーブルが低いので、心持ちカメラのアングルが下からジョーを見上げる角度になってしまう。
ちょっと印象が悪いような気がしたので、ソファから降りて、コットン生地のカーペットの上に腰を下ろした。
後ろの背景が皮のソファ一色に染まる。


「・・・んー・・・これはこれで、なんだか味気ない」


カメラをあっちに向けて、こっちに向けて、ベストな位置を探しているときだった。
インターネット電話サービスからの、コール音が鳴った。


「うわっ・・」


パソコンの音量がMAXだったことに気づいていなかったジョーは、突然のコール音に、ビクっと躯を跳ねさせた。
とにかく、手に持っていたカメラをもう一度ローテーブルに置く。
自分の姿が映っていることだけを確認して、コール音に応答するためにカーソルを合わせた。




『allow』


ブラウザの赤ボタンが緑に点滅して通話中、と表記された。


「あ、アロー・・」


脳内の言語回路をフランス語に切り替える。


『ジョー・・だね?はじめまして』
「h・・あ、はじめまして、ジャン・・・さん」


手に汗握る、ファースト・コンタクト。


『ジャンでいいよ、ジョー。はじめまして、というのも変かな?君とはメール友達、なんだから」


フランソワーズよりも濃い髪色。
彼女の空色の瞳よりも少しグレーがかった、落ち着いた色合いの瞳。
二重の感じが彼女にそっくりだ。
顎のラインがよく似ている。
微笑みを象る唇の感じも、フランソワーズを思い出させた。


『嬉しいよ、・・ジョーと話しができて。・・ありがとう』
「いえ・・」


画面に映る、ジャン・アルヌールはフランソワーズの兄だ。


『感謝しているよ、とても心から感謝している。フランソワーズの恋人がジョーであることに感謝しているよ』


現在フランスで妻のエヴァと娘のフランシーヌと3人で暮らしている。


「え”?・・・・こ・・・ん?こ、今、なんて・・え?」

エヴァがフランシーヌを身ごもったとき、半ば家出をするような形でフランソワーズはギルモア博士の元へと戻ってきた。


『声が聞こえづらいかい?・・・フランソワーズの恋人が、ジョー、君だから嬉しく思っているんだ』


以来、フランソワーズは兄との間に距離を取っていた。


「こっ恋人おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ?!」
『うわっ・・・・・耳がっ」


ジャンはコードレスイヤホンをつけていたらしく、ジョーの絶叫で大きく揺れた鼓膜に飛び上がった。


「こ、こ、い・・・b、ト。ボクがフランの・・・・・」



思考回路はショート寸前。

そんなフレーズを実体験することになったジョーは、ジャンに(フランソワーズとの清く正しい間柄であることを)報告しないといけない!という天使のお小言と、自分がジャンとコンタクトを取っていることはフランソワーズも誰も知らないのだから、このまま”恋人”気分を味わっておけ、という悪魔の囁きの板挟み。






ーーーあれ?・・・


海と時間を超えた島国に住む青年とのインターネット(カメラ付き)電話。
異国の青年は、ウィンドウの中で沸騰したポットように茹だった赤い顔で明らかに動揺していた。


「ジョー、どうかしたかい?」


初めて連絡をもらってから、何度もメールでやりとりをした相手である。
送られてくるメールの内容文から、妹であるフランソワーズへの愛情を感じていた。
1人の男性として、愛していることが読みとれるメール内容に兄であるジャンが心おだやかではなかった時期もあったが、それはほんの数日のことだ。

ジャンは何度もメールを読み返した。
ジョーと重ねるメールのやり取りの中から感じる妹への深い愛情に感謝せずにはいられない。
同時に、フランソワーズはもうジャン・アルヌールの”妹”、だけでは表現できないのだと知った。
サイボーグ003ではなく、ジョーの恋人である、フランソワーズ。



1人の女性としての幸せを手に入れることができたのだ。



「そ、その、あの、ええっとで、すね。なんといいますか、・・は、い・・・う”ーん・と、・・」


・・・と、思っていた。



動揺に揺れて焦点の合わない、アンバーカラーの瞳は何をいわんとしているのか。
あわあわと震える唇は、何を言っているのか聞き取れない。
想像以上に幼い印象を与える青年だったけれど。



デスクの上のパソコンから視線を外した、ジャンの視線が捉えたのは3つ折りになったフォトブック型の写真立てだ。

左端の1枚は妻と娘と3人で最近撮った写真。
真ん中の1枚は、妹を妊娠中だった母と父、幼い頃の自分の4人が写った写真。
右端の、最後の一枚は妻が撮った、兄妹の写真。

自分の傍で笑っている、妹の写真。


ーーー今は、・・・ジョー、・・・君の傍で、フランソワーズはどんな風に笑っているのだろうか。


『ところで、・・フランソワーズは元気にしているのかな?』
「はっ・・はい!とっても、げ、元気ですよ!!」


ほんの、30分ほどの会話だったけれど、フランソワーズのための大きな一歩を踏み出したのだと、ジョーは興奮していた。








end.





*・・月に代わっておしおきよ!・・が20年ぶりにアニメ化するってことで(笑)
一部引用いたしました。

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マリアージュ未満




晴れやかな、青。




テーブルを彩る、薫り。

賑やかな、歓声。
興奮の、時間。




「ヴァンダ、」

幸せの白に包まれた女性がドレッサーの前で、自分を見つめていた。
傍にいる亜麻色の髪と青い瞳が印象的な線の細い女の子が、ゆっくりと近づき、同じ鏡の中に映り込む。

「綺麗・・・・、」

後部へと流れていたベールを手に取り、ゆっくりとした動きでヴァンダと呼ばれた花嫁の顔を覆う。
レースに包まれた肩が、微かに震えた。

「・・・フランソワーズ」
「とっても素敵だわ・・」

レースの繊細な模様越しに、視線を合わせた。

「フランソワーズ、・・・ごめん、ね」
「・・・ヴァンダ?」




白いドレスが明るい未来を照らす。

拍手喝采を浴びたブーケが、宙を舞う。
口々に重なる賞賛の声が、入刀したケーキよりも甘く艶やかだ。
喜びと祝福をのせた顔がシャッター音に切り取られた。

「どうした・・?」
「・・別に」

山荘を貸しきって挙げる式は、すべてがオーダーメイド。
花嫁が一番好きな花と言った、ピンクのガーベラを基本にして作り上げられた。

「別に、・・・か?」

正装したハインリヒの手に、グラスが2つ。
差し出された赤に、フランソワーズは微笑んだ。

「ええ、別に・・」

グラスを受け取ろうと伸ばしたフランソワーズの手よりも早く、別の腕がのびてきた。

「それなら、もっと笑っていないとなぁ・・こんな端っこの木陰で隠れるようにしているブライドメイドなんて、不思議に思われるぞ」

いつの間に2人の傍に来ていたのか、グラスを受け取ったのは式の進行を請け負った司会者だった。

「そういうグレートこそ、いいのか?離れて」
「なあに、あとは時間まで飲めや歌えや・・だ。時間になったらお開きの宣言してお役ごめん」

赤を一息に飲み干したグレートは、空になったグラスをある方向に向けてふってみせた。
祝福の輪の中を縫うように機敏に動いていた、イベント用出張ウェイターの1人が気づく。
すうっとその場から消えて行くような、見事な足さばきで庭の端っこに固まる3人へと近づいた。

「お酒?それともソフトドリンク?」

銀色のトレーには、すでに何も乗せられていない。
空っぽのグラスを、空っぽのトレーに置いて、ニンマリとグレートが笑った。

「さっき、ナンパされていただろ?可愛い子だったじゃないか」
「見てたの?」

驚きに見開いた目が、すぐに照れた様子で風に囀る枝を見上げた。

「参ったなあ・・・、せっかくのお誘いなんだけど、僕らはここをすぐに去る身だからなあ・・」
「一晩くらい、どうにかなるだろさ、なぁ?」

ニヤついた視線でハインリヒに意見を求めた。

「本気にならない保証があるなら、カバーしてやってもいいが?」

口に含んだ赤の薫りが鼻を抜けていく。
メインの子鹿によく合う赤だ。
さすが、張大人。と、この場にいないケータリング料理主任へ賛辞を贈ったのは、、ハインリヒ。

「ちょっと、ちょっと・・・今はそういう時じゃないだろ?」

困惑するピュンマは、チラリと視線を祝福の輪へと戻した。
バイキング形式のため、ウェイターでもコックの手伝いも兼ねている。
クジ運が悪かったとしか言い様がない、コック助手を勤めているジェットが恨めしそうにコチラををみていた。

「なに、気にすることないさ、・・・アイツもアイツなりに」

進行役を当てたグレートは、全体を見渡せる位置にいた。
ピュンマのこともよく見えた。同じく、ジェットもとてもよく見えていた。
ポケットに突っ込んだ番号の数は、ピュンマよりも多い。

「楽しんでいるさ」

手を止めたコック助手を叱責する料理主任は、くじを引く必要もなく張大人に任された。
2人へと視線をとめていた3人にむかって、ウィンクを一つ投げてよこす余裕ぶりだ。

「おおっと、仕事をサボっていると思われては、困るんで・・・」

料理主任は今日のウェイターたちの上司でもある。
視線が合ったピュンマは慌てた。

「じゃあ、赤をもう一杯」
「吾輩はスコッチ、ストレート常温で」
「フランソワーズは?・・飲み物以外でもいいよ」
「じゃあ・・何かフルーツを少しお願いしていいかしら・・?」
「かしこまりました」

敬々しくお辞儀してみせたピュンマは空いた2つのグラスと一緒に、3人から離れた。







交通が不便な、忘れかけられた避暑地の一角。
小さな山荘に、久しぶりに響く人の声。
何事かと、静寂の日々に慣れきっていた動物たちが遠目に見守る中、式は順調に進んでいった。

山の日暮れは都会よりも早い。
傾き始めた太陽の具合を見て、司会進行役のグレートは、最後の乾杯の音頭をとった。

予約を入れていた送迎用の車が次々にやってくる。
別れを惜しむ声が深林の中に吸い込まれ、人工的なエンジン音が遠ざかり、・・・今日のためだけに雇われたスタッフが手早く片づけに取り掛かる。
山荘に、事務的な作業の音だけが残った。


「疲れた?」

花嫁と新郎は人里離れた山荘の不便性を活かし、このまま2人だけの蜜月を過ごす。

「・・・ジョー」

フランソワーズはスタッフたちに加わり片付けを手伝っていた。
今日の主役はすでに用意された部屋にさがっている。

「僕は疲れたよ・・・」

働いている人の目もあり、あくびを噛み殺していたフランソワーズだが、ジョーは遠慮なく両腕を伸ばして大きくあくびをしてみせた。
準備は楽しいが、片付けは疲れも加わって面倒臭く感じてしまう。

「お疲れ様」
「キミもね」

使用済みのテーブルクロスを指定の袋へと詰め込んでいた、フランソワーズの手を、ジョーが止めた。

「ここはいいから、休んだらどうだい?」
「でも・・」
「せめて着替えたら?せっかくのドレスが、汚れてしまうよ?」

ジョーもまだ着替えてはいなかった。
胸に飾るコサージュが、式が始まる前と変わらずに美しい姿を保っている。

「でも、まだ・・」

チラリと投げた視線の先には、片付けの現場を仕切るピュンマと張大人がいた。
なんとかサボろうと隙を狙っているジェットだけれど、そんな彼の考えを先回りで読み取るハインリヒが上手く指示を出し、逃げ道を塞ぐ。

「彼らよりも、君の方が大変だったんだ。・・花嫁につきあって色々とさ」

ジョーの手を振りほどいたフランソワーズの手が、また動き出す。

「・・ジョーだって、そうでしょう?」

テーブルから取り外したテーブルクロスを、畳、袋につめる。

「僕はそうでもないさ、ただの、ベストマンだし・・」

ジョーは黙ってフランソワーズを見ていた。
綺麗にアップにした髪が、少し乱れてしまっている。
項近くを踊る、細い亜麻色の髪が、山荘から溢れる部屋の明かりを受けて、ときおり煌めいた。

「ジェロニモはどうしてるの?」

重たくなった袋を持ち上げようとして、踏ん張るとヒールの踵が芝生に沈んだ。
フランソワーズは諦めて、躯だけ次のテーブルへと進む。フランソワーズを追いかけるようにして、ジョーも一緒にテーブルを移った。

「ギルモア博士と一緒に居る・・イワンもだよ。ヴァンダはもう休んでいるみたいだね」

ジョーはヴァンダに割り当てられている部屋を見上げた。
庭から一番目立つ大きなメイン・バルコニーの部屋の電気は消えていた。

「ジェロニモ、素敵だったわ」

フランソワーズは再び同じ動作を繰り返す。

「・・そう?」

手早く畳んだテーブルクロスを、先ほどまでいたテーブルへと戻り、置いていた袋へ詰めた。これが最後だ。
各方面へ飛んでいた指示の声が、少なくなっていく。

「ええ、とっても」






ヴァンダ・フォン・デーゲンドル(男爵)。

彼女はBG組織支援者の1人だった。
潤沢な財産を惜しみなく科学の発展と未来のための宇宙開発に贈与していたが、騙されているとは知らなかった。
彼女はすべての現実から逃げるように訪れた地で、1人の男性と巡りあう。







「・・・あっと言う間だったね」


今日のために都市から運んできた色々な物たちが、車へと詰め込まれていった。
いつの間にか、薄く鋭い月が高く山荘を見下ろしている。

「そうね、・・終わってしまえば、どんなに大変でもそう思っちゃうのよね」

山荘裏に駐車されていた車の数が減っていくにしたがって、山の気温も下がっていき、薄いショールを巻いたベアトップタイプのドレス姿で、むき出しになったフランソワーズの腕が氷のように冷え切っていた。

「・・これを着て、フランソワーズ」

観ているだけでも寒そうな姿に、ジョーは着ている光沢のある明るいグレーのジャケットを脱いだ。

「大丈夫よ、・・レンタルでしょ?」
「・・・いいって、着なよ。寒そうで見ていられない」

フランソワーズが着ているドレスは、ヴァンダからのプレゼント。
薄いピンク色のシフォンを何層も重ねたデザインで、舞台衣装に近い華やかなデザイン。思わず踊りたくなると言って、足を高くあげてみせたフランソワーズの姿を、ジョーは忘れられなかった。

「それこそ、汚したら大変だわ」

遠慮したフランソワーズに、半ば無理矢理にジャケットを肩にかけてやった。
袖を通すように、と無言で手首を掴まれる。

ジャケットからほのかに立ち上った薫りに、心音が少しばかり乱れた。
掴まれた手首に触れられたジョーの手が、力強く、優しい。
相反する感触の違和感のないぬくもりに、フランソワーズはずうっと心の中で反芻していた疑問を口にした。


「・・私って、可哀想?」


ヴァンダが巡りあった男性は、BG組織の実験体であり、裏切り者だった。
彼女の寄与した資金が、男性の躯を奪い、人生を変えた。
実際に資金がサイボーグ計画のために使われたのかどうかは定かではないけれど、問題はそこではない。
BGに騙されていたとはいえ、支援した事実は変わりない。

心通わせつつあった2人に溝ができてしまうのは、仕方のないことだった。


「可哀想?・・・」


ヴァンダは、巡りあった男性の仲間の手助けもあり、BGとの関係を断ち切るための新しい人生を用意された。
デーゲンドル男爵の地位をすべて捨てて、生きていくことになる。

ヴァンダは、男性に願い出た。
ヴァンダ・フォン・デーゲンドルの最後は、・・・結婚式で幕を引きたい。


「ごめん、・・って言われたの」
「誰に?」

ジョーは小さい子に服を着せるようにして、フランソワーズの腕を動かしてジャケットをきせてやる。

「ヴァンダに・・・」
「どうして?」

問い返されて、微かに巻き込んだ下唇を噛んだ。

「・・・・あまり良くないことを、言っていい?」
「いいよ」

ジョーは、周りの目など気にせずにフランソワーズをそおっと自分の胸に抱き寄せた。


「私は、ジェロニモと同じサイボーグだから・・・サイボーグだから、ウェディングなんて・・・一生、縁のないものだから、見せつけたみたいで・・・、とか、・・・色々な・・そんな感じの、意味に・・思えたの」


一緒に居て、と願うヴァンダを断ったジェロニモ。
彼はヴァンダに生きる世界が違う、とは言わなかった。


『出会えたことが、すべてだった』


ジェロニモはただ一言、ヴァンダにささやいた。



「ただ・・ヴァンダは結婚式を望んだときに、反対されたのを・・・思い出して、迷惑をかけてという意味だった、かもしれないわ。・・・そうだと思うの。思うのだけど」




『出会えた証が欲しい。
だから、ジェロニモ、私と結婚式を挙げましょう。
私が私であった最後をあなたに受け取って欲しい。・・・私を、ヴァンダ・フォン・デーゲンドルをあなたのものにしてちょうだい。
あなたに受け取ってもらえたなら、私は、・・・安心して、旅立てる』





「・・・羨ましかった?」
「・・・」
「フランソワーズ、・・ヴァンダの結婚式を見て、羨ましかったかい?」

ジョーの胸の中で、深く息を吸う。
吸った息を言葉にしようとしたけれど、できないまま吐き出した。





ーーーそんな瞳で、・・・私は、ヴァンダを観ていたの?



曾祖母が着たという希少価値の高い純白のウェディングドレスに着替え、豊かな波打つブロンドの髪を結いあげて、メイクをし終えた綺麗なヴァンダ。
ドレッサー前に座った彼女を鏡越しに観る、自分の姿をフランソワーズは思い出そうとする。

「私は・・・彼女に嫉妬していたの?」
「嫉妬したのかい?」

フランソワーズは首を左右に振ってみせた。
それは嫉妬しなかった、という意思表示なのか、わからない、という答えなのか、ジョーには判断できなかった。

「フランソワーズ・・」

ウェディング会場となっていた庭の照明が落とされた。撤収作業が一段落したと知らせてくれる。
夜の影にまぎれて、男性が1人、足を音を忍ばせて遠慮がちに近づいてきた。給仕をしていた男性だと、ジョーは見覚えのある顔に警戒心を解いた。
男性が2人の近くにある大きな袋を持ち上げる。邪魔にならないように、よろけながら持ち去っていく姿を最後に、いつの間にか庭から人の気配が消えていた。

風がささやかに枝を揺らし、葉がこすれ合う音だけが駆け抜けていく。

「ジョー・・・、ジェロニモは本当にこれで良かったと思っているの?」
「彼が選んだ、そしてヴァンダも納得している」

2人の選択が間違っているというかのように、フランソワーズは腕を押してジョーの胸から離れた。

「永遠の愛を誓ったのに?・・本当に、お別れしてしまうの?」
「・・・愛の形は色々あるんだよ・・、きっと・・僕らにはわからない、彼ら2人だけの何かがあるんだと思う」
「おかしいわ、・・博士だって、一緒に居てもいいだって・・おっしゃって下さったのに」
「そうだね、・・、」

鼻奥がジーンと痺れ、こみ上げてくる感情を堪えようとして、強張る頬。反動でくしゃっと鼻柱に皺が寄る。

「ジョー・・・私、羨ましくなんか、・・嫉妬なんてないわ・・・、私は・・・・」
「だから、・・ごめんね。って言ったんだね、キミに・・」
「!」
「ヴァンダは、フランソワーズにもっと喜んで欲しかったんじゃないかな?・・大好きな人とたとえ一緒に居られなくても、永遠の愛を誓うことができたから・・みんなに、笑顔で祝って欲しかったんだ。でも・・悲しい気持ちでいる君を、理解できたから、・・・”ごめんね”」

フランソワーズの瞳から、ぽろり。と一粒涙がこぼれた。
震え出した躯は、寒さのせいじゃない。

ジョーはもう一度腕を伸ばし、彼女を抱き寄せようとした。
フランソワーズは、そんなジョーの腕から逃げるように、一歩足をひいて拒んだ。

「・・・フランソワーズ」



恋に酔い、愛に憧れを抱く、まだそんな年頃の女の子だから。
運命的な出会いに、童話の中のようなエンディングが訪れると信じていたのかもしれない。



「だから、みんなで反対したのよ。・・結婚式を挙げるくらいなら、・・」
「一緒に居られるのなら、式を挙げる必要なんてなかったんだ」

一歩、大きく足を踏み出したジョーの腕が、膝から崩れ落ちそうになったフランソワーズを抱きしめた。

「サイボーグだから、・・・か」

フランソワーズの耳元で、密やかに呟いた。

「そうかもしれないね・・・。サイボーグでさえなければ、キミも、ジェロニモも・・・悲しい気持ちになんてならなかったのに、ね。・・」

ジョーの胸からこぼれ落ちる、嗚咽。
熱く濡れていく、シャツ。


「・・キミのとき(結婚式)は、絶対に誰も悲しい気持ちになんてさせないから」


震える肩を、背中を、力強く抱きしめ続けた。













「・・、ジョー、・わ、たし、・・恋び。。とさえ、・・できた、こt,ないの、に、けっこん、だなんて・・」

長い、長い、沈黙の後。
涙声のフランソワーズがしゃくりあげながら、言った。

「・・・まあ、そうかもしれないけど・・さ・・・。まだ分からないよ」

ふふっと口元だけで笑ったフランソワーズに、今こうやって抱きしめている僕は一体キミにとってどんな存在なんだろう?と、尋ねたい。

「さあ、・・そろそろ部屋へ戻ろう・・・」

フランソワーズは肩を抱かれたまま、ジョーにしたがって素直に足を踏み出した。

「・・ね・・・、ジョー・・」
「ん?」
「・・・・わたし・・、け、っこん・・できる、かしら?」
「できるさ、・・・もしも100年経っても恋人ができずに1人でいるようなことがあったら、僕と結婚しよう」

彼女を抱くジョーの手に、力がはいった。

「・・・・・そうね・・・。それも、いいかも」
「・・・忘れないでくれよ?」
「ジョーこそ、・・いざと、なって、・・逃げない、で、ね?」
「逃げないよ・・・待っていてあげる」
「え?」

フランソワーズの足が止まる。

「・・・あっと言う間だよ」

ジョーは、少し強引に彼女が止めた足を前へと進めさせた。

「・・・100年、よ・・?」
「・・その日がきたら、きっとあっと言う間だったね、って笑い合ってるさ」












翌朝。
山荘は綺麗に片付けられて、前日に結婚式が執り行われたとは思えないほどの静寂に包まれる。
観たこともない航空機が山間から音もなく現れた。
逆方向に走り去る車を運転する女性が1人。

その日の夕刊に、新婚の2人を乗せた車が転落事故を起こし、行方不明。生存の確認が取れないと、小さな記事が掲載された。
事故現場近くの木にひっかかった、アンティークとして価値の高いレースのウェディング・ベールが発見された写真を添えて。







end.









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素直になれない/恋せよ、戦士。
009としての勤めを真面目にこなしながら、アルバイトももちろん一所懸命。

003としてできるかぎりのことをしながら、ギルモア博士、イワンに加えて邸の家事一般を張大人を抜けた分までがんばり過ぎるほどにがんばっている。

ギルモア博士は相変わらず我道を行くゆえにカウントされていない。

001に・・肉体労働を求めるのはもう少し成長してからでないと難しい。

005は、005らしい働きをする。臨機応変に動く彼。



同じ日本に暮らしていても、ギルモア邸から出ている2人。006と007。
そんな彼等も繁盛記シーズン以外はなるべく邸へと戻ってきて、(月に2,3度のペースではあるが)ドルフィン号の定期点検に加わっていた。

ドルフィン号の定期点検(最低でも3日1度)は欠かせない。
いつでもどんなときにでも、発進できるようにしておかなければいけないからだ。
そのために、日本のギルモア邸に滞在組の責任は重大だった。

2人が抜けた穴を埋めるように005が居るが、いくら005が立派な体格で006と007分は十分に補っているといえど、4本の腕が2本になってしまっては確実に009の負担が増えてくる。
そんな009を補うように003が動けば彼女の負担も増えたことになり、チリも積もればなんとやら。

定期点検 to do list にチェックされた内容と日付がずれ始め、周回遅れが決定。
ヘルプコールで他のメンバーを呼び出すほどではないけれど、予定表を手に悩ましげに眉を下げてつくジョーのため息を聞いていると、なんとかしなければ、という思いにかられてしまうのは005。

責任感の強い009は気軽に”頼みごと”や”お願い”ができない。
意地っ張りだからとか、プライドが高い、などの問題ではなく、彼の生い立ちが影響しているように思える。
人に頼る、ことが苦手なのだ。
人に頼ることなく、自分で生きていかなければいけない環境で育った彼だから仕方のない部分である。

003も009と似たようなところがある。
早くに両親を亡くし、年離れた兄に育てられた003は、できる限り兄の負担にならないことを心がけながら成長してきた。
妹らしく兄に甘えたりもしたが、甘えていいこと、駄目なこと、と自分の中で基準を設けた中でのことだった。


一つ余計な線を引いて他人との距離をとりがちな2人はよく似ている。
そんな似た者の2人を相手にする00メンバーたちは、2人が引いた線を堂々と踏み込んでいかなければいけなかった。

相手はまだ十代の少年少女だ。
オトナとして、眼を配らなければならないポイントだと思っている00メンバーたち。


005はこっそり006へと電話を入れた。
電話を受けた006が002,004、そして008に連絡を入れる。

現在、保護動物の監査役ヴォランティア・レンジャーとして活動している008が手を挙げてくれた。

「夏休みでさ、学生ヴォランティアがドサっとやってきてくれるからね、すぐに戻るよ」





すぐに戻るよ、と行った言葉どおりに、008、ことピュンマは連絡を受け取った4日後には邸の玄関に立っていた。
突然の帰宅に、喜びと驚きがまざった複雑な顔で迎えられたピュンマは、休むこともなく地下のドックへと降りていく。


<ジョー!>
<だから、フランソワーズ・・せっかく送ってきてくれたんだから、今日の夕飯は納豆スパゲッティのじゃなくてさあ>


アルバイトのない日は大抵地下のドックでドルフィン号の定期点検に明け暮れているジョーへ、フランソワーズから通信が入った。


<もーっ違うのっ>
<そうだよ、納豆は違うくてさ、辛子明太子d>
<ピュンマが帰ってきたのっ!ピュンマが!!>
<え?!>


「どうした?ジョー」
「いまさ・・フランソワーズが、ピュンマって」


オイルにまみれた指先で頭を差したジョーに、ジェロニモは微笑んだ。


「そうか。」


006に連絡を入れた後、何も報告が入って来なかった。
どうしたのだろうか、と疑問に思っていたジェロニモの心が晴れる。
連絡を入れて一週間経たない内に、仲間が1人帰ってきてくれた。


「急に・・どうしたんだろう、何かあったのかな?」


切なげに眉間に皺を寄せたジョーに、ジェロニモは当然の反応だと思う。


「少し休憩を入れよう。」
「そうだね、・・ピュンマに話しを聞かないと」


ジョーの足元に置かれた予定表。
また少し遅れるなあ、という言葉を喉へと押し込みながら、ジェロニモを連れ立ってドルフィン号を出ていった。


「ただいまー!」


ドルフィン号を出た2人の前に、ちょうど邸から降りてきたピュンマとフランソワーズがドックへと入ってきた。


「おかえり、ピュンマ」
「よく来たな。」
「んーっ!我が戦友にして心の宿っドルフィン号っ!!今から僕がたーーーーっぷりお世話してあげるからね〜」


久しぶりに目にした陸空海両用戦闘機、ドルフィン号にピュンマは大きく両手を広げた。


「今帰ってきたばかりだろ、ピュンマ、いいよいいよっ・・・それよりどうしたんだい?連絡もなくさ・・」


ジョーがドルフィン号に乗り込もうとするピュンマを慌てて止める。
彼の意見に賛成らしいフランソワーズが、ピュンマの後ろで大きく首を上下に動かして頷く。


「そうよっ!ピュンマっ!!連絡もなくて・・・」


ジョーに腕を引っ張られるようにして、ドルフィン号への足を止められたピュンマがフランソワーズへと振り返る。


「我が家へ帰ってくるのにいちいち連絡するものかな?帰ってきたいときに帰って来られる、これ、ホーム、スイート・ホームの基本でしょ?」
「ジョーは連絡くれるわ」
「・・・え?」
「するよ、最低でも邸に変える30分前にはフランソワーズにメールするよ、”今から帰ります”ってさ」


ジェロニモは黙って静かにうなづいた。
うなづいたけれども、ジョーのような豆さで連絡は入れていない。


「ねー、ジョーは一緒に暮らしているのに連絡くれるものねー?」
「うん、する。当然だよ」
「・・・あ、そう・・」
「それよりさ、何か、あったのかい?」


ピュンマは律儀なタイプの人間で、ほうれんそう(報告、連絡、相談)を怠らない。
その彼が何も連絡なく邸に帰ってくることは珍しい。
今までにあっただろうか?と記憶の糸を手繰り寄せるが、糸の先には何もひっかからなかった。
だからこそ、本人(ピュンマ)の口から聞き出さなければならない。


「何もないよ、・・ただ、ドルフィン号の定期検査がそろそろ大変になってくるころかなーって思ったから帰ってきただけ」
「・・・それだけ、・・・なのかい?」


ピュンマの腕を掴んでいたジョーの手の力が強くなった。
真剣な眼差しを向けてくるジョーに、ピュンマは苦笑いで答える。
彼の表情から、自分に”何か”があったと勘ぐっているらしい。フランソワーズも、明るく対応してくれてはいるが、その瞳が何かを訴えかけている。


ーーー張大人から、連絡があって。と、言えばいいかもしれないけれど。



ピュンマは脳波通信のチャンネルを、ただ黙って事の成り行きを見守っているジェロニモへと合わせた。


<言わない方がいいよね?>
<どちらでもかまわない。>


味気ない答えに、ピュンマは乾いた笑い声を出した。



ーーー言い出しっぺは自分だろ、ジェロニモ。



通信には載せなかったこころの呟き。
ほんの少し訪れた沈黙に、ジョーの瞳が不安げに揺れた。


「p・・」
「ははは、そんな深刻なことじゃないよ!・・・世間は夏休みだろ?僕のところにもさ、夏休みを利用した団体のヴォランティア学生が来て、それがまあ、当初の予定していた人数を大幅に超えていてね。僕が借りている部屋も学生に提供することに決めたんだ。街まで行けばホテルもあるんだけれど、そこから通うとなるとけっこう距離があるしさ、それならいっそのこと、今年はギルモア邸で日本の夏を楽しもーって。部屋を提供したその足で飛行機に乗っちゃったのさ」


スラスラと、ピュンマの口から今回の訪問の理由が告げられた。
話しを聞きながら相槌を打っていたジェロニモは、言い終えたピュンマに通信を送る。


<上等だ。>



半分は本当のことだ。
少し大げさに言っているだけで。


「そうなの?」
「そうなんだよ」


ピュンマの言葉を素直に受けとったフランソワーズは、納得できたらしく満面の笑顔を見せた。
突然のことで、おかえりなさいのハグもキスもまだだったことを思い出したフランソワーズが、ピュンマにむかって両手を広げた。
ピュンマもにっこりと微笑んで躯をフランソワーズの方へと傾けた。
腕を掴まれているので、途中動きを止めたピュンマへとフランソワーズが歩み寄り、軽く抱き合って頬を3回合わせる。

その間もピュンマの腕を掴んでいるジョーの手はそのままで。
さっきまでと今と、掴んでいる理由が変わっていることをジョーの手の温度と力加減でわかる。
密やかな笑みを口元に浮かべながら、再びジョーと向きあった。


「それで、作業途中だったんだろ?」
「う・・・うん」


ちょっと複雑な想いと一緒に、長い前髪に表情を消した。


「じゃ、まずは夕飯まで、付き合うよ!」
「い、いやっ・・・それは・・、帰ってきたばかりだしさ」
「狭い座席にじーっとしっぱなしでさあ、ちょっと動きたいんだよ、腹ごなしも兼ねて」
「ちょうどいい。今とりかかっている分を終わらせてしまおう。ピュンマも参加してくれれば一時間もかからない。」


ジェロニモの声もかかり、ジョーは頷くしかない。


「じゃ、お夕飯は1時間後にね!」


冷凍していた博多明太子をすぐに解凍しなくちゃ!と、独り言を言いながら、ドックを去っていくフランソワーズ。


「今日の夕食は明太子がメイン?」


3人がフランソワーズを見送った後に、ピュンマが第一声を発した。


「コズミ博士が今九州地方で学会があって・・送ってくれたんだ、たくさん」
「へー!僕大好きだよ、明太子vじゃあ今夜は明太子たっぷり白ご飯にvv」
「いや、パスタになるだろう。」
「うん、今日はパスタ」


ゆっくりとした動きでジョーはピュンマの腕から手を放す。
前髪に隠していた表情を、今はみせていた。


「フランソワーズが作るんだからな。ジョーの好物の一つ、辛子明太子スパゲッティ(刻み大葉入り)だ。」
「いやちがっ・・彼女は初めっなst」
「ふーん・・じゃあ、明日の朝のお楽しみにして、今夜はパスタかあ」
「sせっかくピュンマが帰ってきたんだしっ、ピュンマが食べたいものをつくってもらおうよっ!!」
「えー、いいよお、009にヤキモチ焼かれたら身がもたないもーん」


少々ジョーに腕を掴まれてもなんてこともないのだけれど、ピュンマはこれみよがしに、眉間に皺をよせて、掴まれていた部分に息を吹きかけたり、摩ったりしはじめた。


「ったく・・・挨拶くらいさせてよねー・・」


唇を尖らせてジョーを見上げる視線は拗ねている。


「え?!・・あ、・いさつ・・したじゃないか、目の前で・・」
「いつもしてるのとちが~う、なんか違ったー、腕掴まれてたしさあ・・・・もー、ジョーの前でフランソワーズと挨拶なんてできないよ、ね、ジェロニモ」
「ピュンマと挨拶ができなくなる状況の原因の一部はフランソワーズにもあるのだから仕方ない。」
「フランソワーズにはないよっ・・」
「だよね。さ、そういうことで、さっさとやってしまおう、ジェロニモ」
「うむ。」
「・・・え・・」


腕を掴まれていなかった方の手で、ピュンマはポン!とジョーの肩に手を乗せた。


「いーかげん、素直になりなよ。僕達にも、フランソワーズにもさ」
「・・・」
「大変なときは、ちゃんと”大変なんだ!”って声かけてくれないと、寂しいじゃん?・・そういうのとフランソワーズも同じさ」
「!」











夕食ができました!の声がかかり、男三人で手早く風呂に入り油と汚れ、汗を流してダイニングテーブルにいた。
先に食事を始めていたギルモア博士とピュンマが挨拶を交わし近況報告を始めた、ピュンマ。
話しは地下で聞いたものと重複しているために、ジェロニモとジョーは相槌を打つのみだった。
隣の席でコロコロと愛らしく笑い声をあげるフランソワーズをチラチラと横目で観察するジョーは、考えていた。





ーーー・・好きって言っても・・・いいのかなあ。








ボクの好きなもの。
素直になんでもフランソワーズに話せるのに、一番言わなくちゃいけないかもしれないことを、彼女に言えていない。



だけど。

だけど、だけど、だけどっ。



だけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっだけどっ


ーーーこっ・・告白っ・・・なんてさあっ・・・!!!





ブンブンブンっと千切れんばかりに首を左右に振りまくった。
突然のジョーの動きに、フランソワーズが驚き躯をジョーの席とは反対方向へと避けた。
フランソワーズの躯が急によってきて、ぶつかったギルモア博士は、フランソワーズ側へと手を伸ばして持ち上げていたビールの入ったグラスを反動で投げてしまった。




そのグラスが、ひゅーっと飛んだ。
博士の前に座っていたピュンマへクリティ☆カルヒット。



「…馬に蹴られるってこういうこと?」


左のこめかみを抑えつつ。ビールのかかった服を見つめながら、隣でテーブルの上を汚したビールを拭くジェロニモに呟いた。

「「ピュンマ!!」」
「おおっすまん、すまん・・・」
「ジョーってばっ!急に変な動きをするからっ!」
「博士にぶつかったのはフランだろーっ」
「だからっジョーが変に動いて、アタシが避けてっ」
「すまん、すまん、ピュンマ・・・儂がしっかり持っていなかったからじゃ」
「いいえっ博士っ」
「そうですよっフランソワーズがボクを避けるからっ」
「だからっ好きで避けたわけじゃないわよっ急にこーんなっ動きをするんですものっ!」


ジョーを真似をしてフランソワーズが頭を思い切り、力一杯頭を左右に振ってみせた。
すると、彼女の髪に飾られていたカチューシャが遠心力が働いて。

ひゅーっと飛んで・・・。



「イテッ☆」


服を着替えようと立ち上がったピュンマの頬にヒット。


「ごめんなさいっピュンマっ!」
「なにをやって・・・」


日本にやってきたばかりだと言うのに、2度も馬に蹴られることになったピュンマ。


「だからっアタシはジョーの変な動きをしたってことをっジョーのせいよ」
「ボク?!なんでボクっ!!今のは関係ないよ」
「ジョーの真似をしたのっ」
「しなくていいことをするからだよ」
「でもっこーんな動きが変でっびっくりしたからっ博士にぶつかっちゃってっビールがバーンっとこぼれてよっ」
「・・・ピュンマ」
「はい、・・博士」
「おかえり」


キャンキャンと言い合うジョーとフランソワーズの、喧嘩しているのにもかかわらず、どこか楽しそうな声が響くリビングルーム。


「あーーーーっもう頭振らなくていいから、わかったからっ」
「・・あ、・・・少しフラフラする・・」


静かに落ち着いたギルモア博士の、優しい声。


「・・帰って来ました」


満面の笑みで答えたピュンマは、言い合うジョーとフランソワーズを見つめて思う。


「そんな力いっぱい頭を振るからだよ・・・、大丈夫?」
「・・んー・・・」
「ちょっとじっとして」
「ん、・・」
「・・・まだフラフラする?目が回ってる?」
「・・・大丈夫っぽいわ」
「っぽいじゃ駄目だよ、・・横になる?」
「そこまでじゃないわ」
「でもさ」


恋をしている、2人のやりとりに観ている方が、ハラハラドキドキ。
むず痒くて、・・ニヤつく頬をがんばって堪えるのが大変だ。


「着替えてくるね」






ダイニングルームを出たピュンマがむかったバスルーム。
脱衣所で脱いだTシャツが、ビール臭い。


「・・・ホントに素直じゃないのは、僕だよねえ」


ーーー逃げてきちゃったんだし。


毎年夏にやってくる、ヴォランティアの学生たち。
今年の学生リストの中に、去年ピュンマが指導したグループに参加していた学生の名前があった。




『来年の夏に、ぜったいにまた戻ってきます。そのときに返事をください。』


さよならの日の告白から逃げる口実ができた。


「そんな僕だらか、これくらいは仕方ないよね」


洗面台でTシャツを水でささっと洗ってから洗濯機へ。
フランソワーズからの脳波通信で、リビングルームに置きっぱなしになっているスーツケースから適当に着替えのTシャツを持ってきてもらった。







end.

恋せよ、戦士2」へ












*実は8さんが一番素直じゃない。
9(3)さんに加えて8さんまで!なので、ギルモア邸は甘酸っぱい薫りに満ちています(笑)
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もどかしい想い/恋せよ、戦士2
こちらのお話は「素直になれない/恋せよ、戦士1(36)」の続きっぽくなってます。
(バラバラで読んでも大丈夫なようには、仕上げています)

(注意)恋するピュンマさん関連のもじもじは一応、”続き”としてつなげていきますが、「連載」ではありません。








笑顔が弾けてる、なんて言い方はおかしいかな?


「・・ジョーはさ」







でも、本当に、弾けるように明るく笑うんだ。


「ピュンマ、こっちのデータを確認してくれる?」
「了解」


一年も、会っていない彼女(ひと)の笑顔を鮮明に思い出せてしまう、僕も・・。



「で、なに?」



ーーーやっぱり、・・・好きだったんだよ、ね・・。



「ジョーはさ、・・ん、博士の言った通りだ。・・確認OK。」
「了解。で、ボクがなに?じゃあ、ドックからドルフィンを出してみようか」
「了解。・・・エンジンかけるよ、あのさ」
「了解。・・・海か、空か・・・どうしようか?」


祖国で動物保護監査役役員をしているピュンマがギルモア邸に「夏休み帰宅」をした翌日。


「海でいーんじゃない?ステルス使わずに、ソフトキルでいけるし、この辺りぐるっと廻るくらいだろ?」
「それじゃ、そうしようかな。・・そういえば吸収型の方に力をいれてるんだよね・・博士」


予定よりも周回遅れになっていたドルフィン号のメンテナンス&テスト運行に参加してもらった。


<ジェロニモ、ドルフィンを出すよ、海から行く>
「え・・黒くみえるよ?」
<了解。・・第3ゲート、オープン。ハッチ開くぞ。>
<<了解>>


床がゆっくりとまわり始める。


<了解。第1ゲート、オープン。海水、入ります。>
「・・見えていーんだって」
<了解。第1ゲートまで、ドルフィン号移動します。>
「見えていーの?」


第3ゲート(メンテナンスのための収納庫)から、スライドするようにドルフィン号が移動していく。
管理室からジェロニモがドルフィン号の移動をナビゲートしていた。



「うん、見えてい-んだってさ」
「・・・今よりも堕ちるじゃないか」


可視領域の電磁波(光)での探知を困難にする、光学ステルスが搭載されているドルフィン号である。電波吸収体または電波吸収材料(RAM)と呼ばれる物質を使って電波を吸収し反射波を減らす技術はすでにドルフィン号では無用のものだった。

<現在、第2、通化。>
<<了解>>


高速エレベータに乗り込んだような、不快感を感じる。
急激に下がっていく速度に、空っぽになってしまっている胃にはこえたえた。


「あ、ごめん。ドルフィン号じゃなくって、飛行中のジェットのことなんだ。光学ステルス機能を積み込むのはさすがの博士もまだ無理だから、吸収型ならなんとかなるんじゃないかって・・・」
「ああ、ジェットね・・・・」


そういえば、まだお昼ご飯の声がかからない。


「けっこう良い感じの皮膚ができてたよ・・カッチカチで伸縮しないけど」
<第1、到着まで、10秒前。>
「色々考えるね、博士ってば」
<<了解>>


お昼ご飯=作る人=フランソワーズ=ジョーの好きな人。


<到着。レーダーによる周辺探査異常なし。>
「この間の空中散歩?っていうの?それでレーダーにひっかかったジェットが悪い・・むやみやたらに飛びまくるからさ」
<<了解。>>
「ふーん、・・で、さあ。さっきの話しなんだけど」
<第1ゲート、海水IN。>
<<了解>>
「え?さっきの話し?・・・て、なんだっけ?・・エンジンかけるね」
<ドルフィン号、エンジン点火>
<了解。>
「了解。・・・ジョーはさ、フランソワーズとさ・・・」
<満水、ハッチドア、オープン。出発準備、完了。発進していいぞ。>
「キス以上のこと、・・・した?」


驚きに飛び跳ねた躯を土台に、魂はあっという間に大気圏をつきぬけて成層圏へと飛び出した。
ジョーの(意識がぶっとんだ)抜け殻(躯)は、無言で操縦桿(サイドスティック)を前方へと倒し、ドルフィン号を出発させる。











「・・してないの?」


どこか遠い国の誰かが叫んだ声のように、ぼやけた印象で受け止めた言葉。
まったくピュンマと視線を合せることができなくなって、コックピット内の温度を一気に5度ほど下げた手でジョーは、燃え上がっている皮膚を2回、ペチっ、ペチッ、と叩いた。


「そういうこと、したいな・・って・・・健全な男子なら、・・・思うよね?」


出発してしまえばオートドライビング・モードでいい。


「・・・ボクらでもさ、一応は・・、ね」


手早く表示ウィンドウパネルに打ち込んだピュンマの指が、自分自身を指した。


「・・こんな躯だけどさ」


空調調節パネルを閉じた、ジョーが赤い顔のままやっとピュンマの方へと顔をむけた。
しかし、まだ彼の目は泳いでいる。


「と、唐突に、なんだよっ・・ピュンマっ・・そ、そんなことっ・・k、か・・・考えたことなんて、さ・・・ないよ」
「うっそだー」
「ないよっ!」


語気を荒げて不定したジョーだけれど、”考えた”ことはなくても反射的に”想像”してしまったことがある。
それは自分がフランソワーズとどうした、というものではなくて、フランソワーズのあられもない姿を想像してしまった、であって、ピュンマの指す事とは別だ、と瞬時に結論づけた。


「・・、その、ボクとフランはさ、つ、つ、t・・つきあったり、して、ないからさ・・そういうのは、ないよっないっ急になんだよ、ピュンマっ!!」
「・・・キスもまだなの?」
「ないよっ」


本当は、ある。
記憶の奥底に大切しまわれているデータはいつでも取り出せ、そして鮮度が高く、感触を今でも、キスされたときに戻ったようなかのように感じることができる。

そんな大切で貴重な1回だけの思い出を、わざわざピュンマに報告する必要はない。
たとえ”ほうれんそう”が大切でも、だ。これはプライベートなときにおこったのだから。


「それはどうして?」
「どうしてって・・」
「一つ屋根の下、・・チャンスはいろいろあっただろ?」
「c,チャンスって・・・」
「フランソワーズとはそういうことをしたくないの?」
「めちゃくちゃしたいよっ!」


ーーーあ・・・



とても反射の良い、すばらしくハッキリとした解答に、ピュンマのくりっとした愛嬌のある瞳が驚きに見開いた、後。ニヤリと意地悪く笑った。


「・・・やっぱり考えてたんだ」


まるであのドイツ人のように片口角をあげて。


「っいっ、今のはっ」
「なのに、・・キスがまだ・・・・我慢強いよねえ、009は」
「違うからっ・・今のはっちょっと口がすべってっ」
「ねえ、ジョー」
「なしっ!なしだよ、今のはなしっ」
「・・・羨ましいなぁ・・」
「な、な、何が・・」
「人を好きになるってさ、最高に勇気がいることだからさ」
「!」



オートドライビング・モードで進む、ドルフィン号のコクピットに、サイボーグ戦士が2人、きり。


「・・・人を好きになるって、いいことだよね」
「p.・・・ピュンマ?」
「あ”ーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「?!」

突然、ピュンマは絶叫した。


「僕だってさああーーーーーーーーーーーーっ!イチャイチャしたいよっ!!ジョーとフランソワーズみたいにっさっ!!だけどっ・・・どうしてもっ”そういう先”のことを考えてしまっちゃってさーっっ!!尻込みするっていうかセーブするっていうかっ勇気がないんだよーーーーーーーっ!」
「いっイチャイチャなんてっしてないよっっ!!手を繋ぐのにもやっとでっキスだって不意打ちみたくで1回っきりなのにさっっっ!!」
「あ””ーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・っ・・・え?・・・キスしたことあるの?」
「っいや、その・・それよりさっ!!!!ピュンマ、君っ!・・す、好きな人ができたのかいっ!?」
「なんだよっ!!さっき1回もないっていったよね?!嘘ついたってこと?!ひどいよっ・・!」
「そのっそれはっ!だってさあーっ!!話しすり替えるなっ聞いているのはボクだよっ」


話しを必死にそらしたが、ドルフィン号が帰還するまでの間にすっかり微に入り細に入りの質問に答えるはめになってしまった009は、もう二度と008とはテスト運転に出ない!とへそを曲げて部屋に閉じこもってしまった。









end.










青春まっただ中な2人でした。
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