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Little by Little・29
(29)









<・・・フランソワーズ?>


頭の中で声が聞こえる。


「zっ了解っ・・・!」


今のフランソワーズは寝ぼけているせいか、慌てているせいなのか、声をかけてきた主がジョーだったためか。
聞こえるはずのない、声に出して返事をしてしまった。
答えなければ!という意識が強く出てしまったのんか、予想以上に自身でも驚くほどの大きな声を出してしまう。


「口に出したって聞こえねーっつーの。通信だぜ!通信!」


ドア越しに、耳のスイッチを入れずともしっかりと聞こえた、声。
さらに、フランソワーズは驚いた。




<こちら、002!003の分も了解!>


突然の声(音声)に潜っていた湯船のお湯を思いっきり飲み込んだ。ジョーは湯船にたっぷりといれた温泉の素に後悔する。

ピュンマは「うわあ!」と突然大声を出したので、隣にいた海がその声に「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた。
同時に、ピュンマと海の2人とリビングルームへと移動して一緒に居たアルベルトが、淹れたてのコーヒーを吹き出し、着ていた綿パンを汚してしまった。
慌ててキッチンへと駆け込んで布巾を手に戻り、着ていた綿のパンツに飛んでしまっていた珈琲のシミに、苛ついた脳波通信を飛ばした。


<おいっ・・・お前・・っ>


グレートは座っていたデスクチェアごと勢い良く倒れ、当麻を驚かせて苦笑い。


<いやあ、参った・・・驚いたぞお。ジェット、大丈夫なのか?・・出てきちまって。ジョーからの報告はなかったんだが・・何かい?吾輩うっかり聞き逃しちまったのかい?>
<ジョーは知らねーよ、だって地下にはいなかったんだからな>


張大人は地下室にあるメンテナンスルームでジェットに会っていた。
通信で受け取る反応をギルモア博士に教えながらニンマリと両者、顔を見合わせて笑っている。そんな2人の居る隣の部屋で、ジェロニモが全身の内部スキャニングを受けていた。


「ジェッ・・と・・?」


残念ながら、イワンはまだ夜の時間のため眠っている。


<ジェッ・・と・・?>


とりあえず、何も着ていないままでいるわけにもいかず、バスルームのドアから覗いていたバスローブを掴み、慌てて身につけたフランソワーズは、恐る恐る自室のドアを開けた。
眼のスイッチを入れて視た相手だったが、信じられないようだ。


「オレ以外に002を名乗る男がいるのか?フランソワーズ」


フランソワーズが開けたドアは、ほんのちょっぴり。細く開けたドアの隙間からジェットを見上げた。
不審者を確かめるようなドアの開け方をしたフランソワーズに、ジェットは自慢の鼻を鳴らすように笑う。


「・・どうしたの?」
「どうしたのって、そっちこそ・・・」


目の前にいるのは確かにジェット。
蒼の双眸が映すのは、フランソワーズが初めて出会ったサイボーグ。

サイボーグ002。


「予定では・・まだ、でしょう?」


ジェット・リンク。


「・・・つーか、フランソワーズ、」


視界の端でフランソワーズは自分と同じような視線をジェットへと投げている人物が見えた。
リビングルームのドアから不満そうな顔をした、アルベルトだ。


「なんて格好してんだよ・・」


ゆっくりとドアを押し開き、ジェットと正面から向きあった。


「ごめんなさい、まだ・・その、・・支度できてなかったの」


シャーベットカラーの、薄いストライプ柄がプリントされたモコモコとしたバスローブ姿で部屋から現れたフランソワーズ。
夏用のためか、太ももが露になったミニ丈なのが、いただけない。
触り心地良さそうな、バスローブの記事もさらに余計な演出をしていることが、いただけない。


「・・・張大人は?・・・お腹が空いたの?」


さらに、部屋を尋ねた理由が「腹が減った」ことが理由と思われてしまっている部分が、いただけない。


「違う、腹は減ってない」


釣り気味の目を見開いてジェットは大げさに顔を斜め上へと反らした。


ーーー人の女って肩書きが追加されただけで前よりも・・・なんだかなあ・・・くそっ。


ジェットは瞬きをするたびに現れるフランソワーズの残像に苦く奥歯を噛み締める。


「・・・腹はいーんだ、腹は、あー・・それよりも・・」


急に声量をなくしたジェットは、言葉を噛み潰しながら特徴のある髪をガシガシと掻いた。


「随分早いじゃないか」


階段を上がってくる足音にジェットは救われる。
いつもの彼のペースよりも早い足運びにもかかわらず、足音は重力1.5倍という感じだ。


「よ。元気だったか?」
「聞いていないぞ」


階段を登りきったアルベルトはフランソワーズをちらっと投げて、そのあとは視線をジェットへと固定した。


「・・・はしたないから、部屋に入れ」


眉間に寄せた深い皺が、年頃の娘を持つ父親のとる態度と酷似していた。


「・・ごめんなさい、すぐに着替えるわ」


一目瞭然でフランソワーズはアルベルトの機嫌が悪いことがわかる。
瞳がアルベルトの綿パンについた珈琲らしき飛沫風のシミのせいだと、機嫌の悪い原因(の一つ)を見つけるが、何も口に出さず逃げるようにフランソワーズは部屋のドアを閉めて戻った。


「・・何もしなかっただろうな?」


フランソワーズの部屋のドアが閉まる音と同時に、アルベルトはジェットの隣に立ち、聞いてみた。


「何ってなんだよ?」
「メンテ後だからな、・・・ちゃんと”機能”しているのか?お前の頭」


ニヤリと左口角をあげて笑ったアルベルトに、ジェットも似たような笑みで返し、拳で軽くアルベルトの肩を小突く。


「人のモンには手を出さねーよ、そこまで飢えてないぜ。なあ!ジョーっ!!」


邸中に響きわたるほどの大声で、彼の名前を呼んだ。
呼ばれたジョーは、濡れぞぼった髪を庇うように、バスタオルを首にかけている。
Tシャツに短パンの普段以上にラフな姿だ。


「お前も寝起きだったのか?」


おせっかいなピュンマがリビングルームから出てくると、彼の首にかかっているバスタオルを奪うように取り、乱暴に彼の髪をワシャワシャと吹き始めた。
力任せにピュンマに髪を拭かれているジョーの頭が左右前後にされるがままに揺らしている。


「・・・・ああ、」


海がリビングルームの入り口から体半分、玄関前の広間の方へ出しいた。
彼はピュンマとジョーのやり取りと、チラチラと階上のジェットとアルベルトに視線を投げながら見守っている。


「びしょ濡れじゃねーかよ?そんな格好で博士のところ(地下)へなんて行けないぜ?」
「わかっている、よ」


ジョーの声は不機嫌だったが、驚きの方が強く出ているらしく、階上にいるジェットを凝視していた。


「ジョー、オレちょっくら出かけるから、今ついでだから言っとくぜ」


ジェットの声は、00メンバーの中で誰よりも大きい。よく通る声だ。反して、ジョーはどちらかと言えば、口元で囁くように話す。
ジョーは静かで耳心地良い音量を心得ていた。
階上にいる人間では聞き取れないと思われる音量でも、彼等だからこそ会話が成り立っていることに、海は不思議そうに2人のやりとりを眺めている。


「そこで、何をしているんだい?」


さらにピュンマがワシャワシャとおせっかいにもジョーの髪をタオルドライしてあげているから、ジョーの声はジェットよりも近い位置にいる海でも聞き取りにくいものであるにもかかわらず。


「なにって・・」


ジョーは素直にジェットがなぜフランソワーズの部屋の前にいるのかを尋ねた。


「・・・・ちいっとばかし、フランソワーズに用があってよ、あ、それに」


お前もな、と、付け足されたアルベルトは重い溜息をついてみせた。










***


「お前もな、」


部屋の中で耳を済ませて外の会話を聞いていた。
手早く着替えを済ませ、バスルーム内の鏡を使い髪に櫛をとおしながら、いつもの場所にあるはずのカチューシャが見当たらないことに気づく。


「オレもか?」
「おおよ、ちょっと付き合ってくれ。・・ってことで、ジョー、・・3人で出るからな。行き先は、・・・そうだな、・・一番近くの繁華街くらいか」


どこに置いてしまったのか。
フランソワーズはバスルーム内をひと通り見て、部屋に戻る。


「勝手に人の予定を決めるな」


昨日、お風呂に入る前にはずして。
いつもの場所に、置いたはずなのに?と、見つからないカチューシャに焦る。


「どーせ、新聞呼んで、テレビ見て、珈琲飲んで、散歩して、本読んで、飯食って、ちょっとばかし”仕事”して寝るだけだろよ?」


部屋前には以前として、ジェットとアルベルトが居る。
目を使わなくても、声の音量でわかる。


「・・・大きなお世話だ」
「昼、外で食べようぜ」


ベッドのシーツをはいだ。


「お前とか?」
「おうよ、そんで、フランソワーズもな」
「ジェット。出かけるのはかまわない。博士が了承しているのなら、だけど?」


ジョーの声が2人に比べて遠い。
階下にいるまま、動いていないことがわかる。


「してるしてる、博士がしているから、オレがここにいるんだよ」
「終わったのか?」


ベッドリネン類をすべてフローリングの床に落とした。


「おーよ、説明なんてオレはできねーから、博士に聞いてくれ、な?」
「・・・博士からは、何も連絡をもらっていないよ、僕は」


むき出しになった、マットレス。


「そりゃ、お前が居なかったからだろー、”昨日”から全然来ないからじゃねーか、オレは日付が変わったころからしっかり起きてたぞ。どこほっつき歩いてたんだ?」
「・・・s、」
「ジョーは部屋に戻る体力がなかったらしくてリビングで寝ていんだ。ジョー、今度からはちゃんと自分の部屋で寝ろ、いいな?」


ベッドサイドのテーブルに置いていないことは、確実だ。
何も置いていないのだから。


「あ、ああ。・・・それで、いつまでそこにいるんだい?」
「フランソワーズ待ちなんだよっ」
「・・そうじゃなくて009が怖いんだろ?」


簡素な室内に、赤いカチューシャはよく目立つ。


「そんなわけあるかよっ」
「じゃあ、降りてきてよ・・・今は002からの報告を望んでいるのだけど?」


半分、開けたままの状態になっているクローゼットへと目線を移動させた。


「”彼女”を連れ出すんだから、それは至極当然のことだ」
「なんでだよっ」


そんなところに、しまった記憶などない。


「人の女に手を出さないってことだからだろ?筋を通せ、ジェット」
「筋って・・・フランソワーズだぜ?・・仲間じゃんかよ」


カチューシャに触れた、最後の記憶はやっぱりバスルーム。
昨日、半身浴する前に外したことが最後だ。


「”仲間”の前に、ってことだ。これからは”今まで”とは違うだろ、鈍いヤツだな」


早足にもう一度バスルームへと戻る。
バスタブに溜まったままの温いお湯が、天井の照明を映していた。


「ふざけんなっオレが鈍いわけないだろっ!ここまでくるのにどれだけっどーれーだーけーっやきもきされられて振り回されてたかっ!やっとこさでっかい荷物を下ろすことができてほっとしてるんだぜ?」


よく見れば、バスタブ周りに置いてあった色々な、アメニティ類が倒れていたり、荒れていた。


「・・ほっとしている、か?」


リアルに、昨夜(今朝)のことをフランソワーズに思い出させた。


「一応な・・・これで、オレも、お前も・・・歩き出せるんだぜ」
「妙な言い方だな」
「そうか?・・・そうだろ?・・・フランソワーズの傍にいる理由がなくなった、だろ?」
「理由・・なんてあったか?」
「・・・ジョー、オレは行くぜ」


バスルームの中で立ち尽くすフランソワーズの耳に流れる会話は、まるでかけっぱなしにしているカーラジオのようだ。


「ジェロニモとは現地で合流つーことで、話しはついた。それまでは、自由気ままに過ごしたい。だから」


流れてくる内容は頭に入ってこないけれど、会話の中の単語は無意識に拾っていた。


「今日、オレはココから出ていくぜ」












背後でカシャンっ!と鳴った金属音に、階下にいるジョーを見下ろしていたジェットとアルベルトの2人が振り返る。
少しも降りて来る様子ない2人に、ジョーが自ら階段をあがろうとしたときだった。


「・・今、なんか聞こえたよな?」
「・・・フランソワーズ・・・か?」


ジェットと顔を合わせたアルベルトが、フランソワーズの部屋のドアをノックした。
階段を駆け上がってくるジョーの足音と絡む。


「どうした?」
「いや・・今なんか・・音が・・さ」
「?」


ジョーの耳には届いていなかったらしい。
2人に駆け寄ったジョーは、珍しく前髪をあげた状態でフランソワーズの部屋のドアをまっすぐに見つめた。


「フランソワーズ?」


2回。


「フランソワーズ・・・?」


4回。


6回。



ノックの回数が無駄に増えるだけで、フランソワーズからの応答がない。
ジェットから向けられた視線に無言で答え、アルベルトは立っていた場所をジョーへと譲った。

ジョーがフランソワーズの部屋のドア前に立つ。

彼は声をかけることなく、そっと部屋のドアノブを回した。ドアノブはいつものようにはまわらず、小さな抵抗をみせる。
カチっと音を立てて、ジョーの手から逃げるように元の位置へと戻った。
わかっていたことだけれど、掌に感じた感触がフランソワーズの本来の気持ちをあらわしているようにみえた。


今の状況かでは、ジェットにたいして。
本当に、そうだろうか・・・。






フランソワーズは、ジェットだけに、・・・だろうか。






「鍵・・が、かかっているな」


確認するように、アルベルトが口に出した。
邸に住んでいるのは、フランソワーズ以外全員が男である。
まかり間違って問題になるような事は考えられなかったが、一応形だけでも、と「必要ないわ」というフランソワーズの意見は隣に置いて設えられたロック。
実際に、昨夜ジョーがフランソワーズの部屋に訪れたときにも部屋に鍵はかけられていなかった。


しかし、今は違う。


「なんでだ?」


わけがわからない、と頭に大きなクエッションマークを掲げたジェット。


「・・・ジェットを行かせないために、かな?」


アルベルトは、珍しく目を見開いて驚いた。
まさか、と信じられないようだ。
ジェットは小さなため息をつき、自慢の鼻先をコリコリと掻いた。


「おーい、フランソワーズ!ちゃんと話してやるからよっ!オレ(&アルベルト)と昼飯食いに行かないか?おごってやるから!」


ドン!と、乱暴にドアを叩いたジェットに、ジョーが抗議の視線をぶつけた。


「・・・ワリイ」


ジョーよりもアルベルトの視線の方が痛かった。
フェミニストな彼はどんな状況下でも女性(フランソワーズ)にたいしては紳士的である。イギリスきってのフェミニストだと言うグレートも見習うほどにだ。


「・・鍵、くらいじゃ・・意味がないことはわかっているとは思うけど・・・」
「・・ジョー・・」
「そりゃ当然・・わかってるだろうよ」


女性の部屋前で団子状態になっている様を、階下から眺めているピュンマと海。
会話は海には聞こえていないが、ピュンマはしっかり聞こえている。


「一難去って・・また一難ってこと?」
「ピュンマ、ごめん・・・・いったいなにが去ったっていうの?」


サイボーグ戦士たちの、今までの詳細な(関係)経緯を何も知らない海でも、”用事”があって出ていたはずのジェットが突然どこからか現れて、階上でフランソワーズの部屋の前に何やら困っている様子の大の男3人を見あげれば雰囲気だけでわかる。


「本当だね~・・・問題ばっかが積まれてばかりで・・・」


濡れたタオルを手に、ピュンマはため息をついた。


「僕らってさ、・・・まるでご長寿ドラマみたく次から次へと問題が出てきてさ、・・ほんと、絵にかいたようなドラマティックな人生だよね・・」
「脚本家は・・ハシダ先生かな・・」
「5人娘じゃなくって、・・8人の息子と1人娘で放送中だよ、今、そこでまた、何か始まろうとしてる」


ピュンマは力なく指さしたところは、ゲストルームのドアがある方角だった。












===30へ続く





*ちゃららちゃらららら~らら~♪(テーマソング・・・)
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ひざまくら/キケン人物



静かな夜だった。

調査に出た仲間が戻ってくるまでの、つかの間の休憩。
ボクらは手頃な場所を見つけて、岩場の影に身を潜めながら夜を超える。
闇に浸した姿で危険に身を晒している仲間には申し訳ないけれど、日中に囮役として前線の敵を一手に引き受けたボクは、もう箸一本持ち上げる気になれなかった。


「・・009、眠れないの?」


硬い岩を背にしたボクの傍らに寄り添う003は、できるだけボクの耳元に唇を寄せ、葉擦れの音にも負けてしまいそうな囁かな声で語りかけてきた。


「ごめん」


答えるボクの声は空気が漏れたチューブのように、ただ息を吐き出して唇の動きを見せているだけ。
音になってはいない。


「どうして、謝るの?」


無防備になるボクをサポートするために、003は一睡もできないから。
常に耳と目をオープンにさせて周りを見張る。
・・・動くことが辛い、ボクを守るために。



「キミを・・危険にさらして、る・・」


ボクの唇を読む彼女と2人、明るい月明かりに晒された岩場のくぼみがつくる、影の中。
見上げる満天の星空があまりに美しく、今ボクらが置かれている状況とのギャップがひどすぎて、こういうときは逆に美しいものが気持ちを不安にさせるものだと知った。


「・・009・・」


日中の激戦を終えたのだから、身体的限界に近い現状況において、自分の不甲斐なさを嘆いても仕方がない。
溜めた息をはいたつもりだったけれど、それは音もなく、空気を振動させる力もないほどに弱かった。


「今夜はね、アタシがアナタを、・・・守る、の」
「・・・」


静寂の中、思えば今、とてもロマンティックな状況だよな、と頭の片隅で小さく舌打ちをつく余裕があるのだから、日が昇るころには、また戦える。
いや、いまどんな方向から敵が来たとしても、・・・キミのためなら、戦える。


「・・アタシじゃ、頼りないかもしれないけれど・・今は信じて、何があってもアタシが守るわ」


さらに寄せられたフランソワーズの躯のぬくもりに、甘えるように傾いていく躯は正直だ。
ここが、ギルモア邸のどこか、ならよかったのに。


残念で、仕方がない。


「躯を休めらるだけ、・・十分」


意識して腹に力を入れた。
彼女へと傾きかけた躯が、止まる。


「・・ねえ、ジョー・・・アタシにもっと・・」
「・・」
「アナタを、守らせて・・・、アタシがアナタを・・・・」



ーーー守りたい。





フランソワーズの手がボクの肩に触れる。
加えられた力に素直に傾いた、ボクの躯を、抱きしめた。


「フラっ・・・・n」
「いつも、守ってくれているでしょう?」


抵抗する力もなく、フランソワーズの胸の中に抱きしめられて。


「・・甘えていいって、言ってくれたでしょう?・・それなら、時には、アタシだって・・」


上半身を支えることができなまま、さらに傾いていく躯に、ボクは混乱する。


「ジョーと同じように、そうしたい、ときがあるの」


柔らかいぬくもりに、頬をのせるしかない体制になってしまった、ボクは。


「さあ・・・アタシにまかせて、眠ってちょうだい・・・。時間がくるまで、アタシがアナタを、守るの」


髪を優しく撫でられて、ボクは。


「おやすみなさい、・・・」


フランソワーズのひざ枕に、ボクは。


「・・・ジョー・・・」


ジンワリと、熱い何かが閉じた瞼を押し上げてくる。
ボクは微かに頭を左右にうごかすことで、フランソワーズのひざ枕に抵抗した、つもりだった。


「・・・fr、・・・n・・・」


太ももの感触が、疲れきった躯に悪影響を与えることを、どうやって説明すればいいのだろう。
フランソワーズを見上げる勇気がなく、ぎゅっと閉じた瞼に力をいれた。





ーーー別の意味で、休まらないよ・・・フラン・・・。



情けないような、嬉しいような、苦しくて、でもドキドキして、ラッキー、なんて気持ちもあって、どこか懐かしい感触が、吸い込んだ息といっしょに鼻孔を恐恐と通りぬけていく。














ジョーがこぼす寝息がフランソワーズの耳をくすぐりはじめた。
ひざ枕の体制になった直後、カチカチに固まっていたジョーの躯が、今はゆったりとリラックスしている。

膝に抱くジョーの体温。
撫でる指に絡む栗色の、やわらかな感触。
前髪をそっとかきあげて、見下ろす彼の横顔にフランソワーズは唇の乾きを意識してしまった。
唇をきゅっと噛み締める。


「・・・ん・ぅ」


いまさら過剰に動悸を打ちはじめた心臓へ追い打ちをかけるように、ジョーが寝返りを打つ。


「・・・ジョぉ・・」


枕を抱く癖があるのだろうか。
ジョーは腕を伸ばし、フランソワーズの細いウェストにぎゅっとしがみついた。


「・・・アタシ・・、いつか・・・我慢できなくなって、ジョーを襲っちゃうかもだわ・・」


困ったようにほおっと躯にたまるばかりの熱い息を吐き出した後、ジョーが目をさますまでの間、星の数でも数えて気を紛らわす。


「・・・・・もしかして、・・今のジョーにとって、一番の危険人物って・・アタシ?」















end.








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イラストをいただきました!@chisaさま「009分室」






ライン
38-1.jpg

ライン


「009分室。」のchisaさまから
この度とっても素敵な2人をいただいきました!

添付ファイルを開いたとき
「大地君、ここにいたーーーっ!!」
と叫んだ私ですv 

今、目の前に大地くんがいるーーーーっ!

この感激を「大地くんシリーズ」を読んでくださったみなさまにもっ!と
イラストの掲載をお願いいたしましたところ、
OKのお返事がいただけたのですv

chisaさま、素敵なイラストをありがとうございました♪

bana.gif
可愛い!かっこいい!
素敵なジョーがいっぱいのchisaさまのイラストサイト
「009分室。」はバナーからどうぞ!





***


いただいた大地君にムズムズっと指が動いて
短いですがお話を書かせていただきました(^^♪
直通はこちら
大地君のカテゴリ内のメニューにはお話のページで掲載(リンク)しています。


三次創作については「about」を御覧ください。
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8月16日のできごと/イラスト付きv
『8月16日の出来事』




「恋の女神に捧げるforet noire(フィレナワール)」
「・・・・ko...i?」
「恋の女神に捧げるforet noire(フィレナワール)」
「・・・・誰にささげるって?」


木漏れ日と呼ぶにはあまりにも淡く、頼りない光。


「だーかーらっ”恋の女神!”にっ!が、今月の新作ケーキの名前!」
「・・・・・・・・誰が?」


濃淡のついた葉の重なりの隙間を縫うように通ったそれは、アスファルトに自分を主張する光を作り出すことはかなわず、はかなく熱風に揺れる輝きとなって散っていく。


「誰でもだよっ、捧げたいやつがみんな!」
「・・・大地も?」
「え?・・・あ・・・・m,もっちろんのすけ!!」
「・・・無駄だよ?」


切り絵のようにはっきりとした影の濃さが、今日の太陽の強さの証。



「なっ?!無駄って決め付けんなよっ人の恋の結果をかってに決めないでくれっ!よーっし!それじゃっオレは捧げまくってやるっす!いいかっジョー、オレは精一杯恋の女神に捧げてっ幸せを掴みとるため新作を売りまくって売りまくって売りまくってえええええっ!」
「がんばって売って叶うものかい?」
「ようは気持ちの問題だっ!ゲン担ぎ!おまじないっ!兄貴のケーキのすごさを証明してやる!」
「大地。結果はさ、・・・でてるだろ?」


冷たくもない迷惑なだけの嫌われ者となった風が、不機嫌さを訴える。


「結果なんていくらでも書き換えられるっ!(・・と思う)」


直接浴びる日差しが耳辺りにからみつき、鼓膜の奥まで日焼けしていく。


「書き換え、ね・・・。まあ、やってみたらいいよ、・・・がんばって」


夏の暑さにあてられて、フィジカルに勘違い。
だから、メンタルに勘違いしてしまっても仕方がない。


「え・・あ・・・・まさか、・・ジョー応援して・・・くれるっすか?」


恋の成就を願って熱く燃える太陽に、我が身をささげて叶うものなら、いくらでも!


「・・・あ、・・・・駄目だ。・・泣きそうになる」
「ちょ、ジョー?!」


灼熱の太陽よ、アポロンの翼を解かした熱で、この想いを灰屑と化して忘れさせてはくれないかっ。
届かない想いを翼にかえて、勇気を持って飛び立たせた先にまっているのは、何も手に入れることなく燃え尽くした形ない影だけだろうから。
すべてが影となって地上に墜ちる前に。



恋の女神よっ!


オレは、今あなたに、この、フランソワーズさんが「可愛い!!」とぞっこん惚れ込んでいる、泣き虫ジョーを捧げますからっ!
ちゃちゃっと誘惑してフランソワーズさんに振られちゃうようにしてくださいっ!!
そしてその後に、オレのこの切ない片思いを成就させてくださいっ!






「じょ、な、泣くようなことか?、あ、そうだっ・・・ら、来月の、来月のっ生ケーキの新作は1つだけで、あとは去年に出したのをアレンジするんだってさ」


角を曲がったところで、大通りへと出れば、オレたちの足が目指す場所までもう少し。
肩を落として頭を下げていたジョーが、おもむろにジャケットの内側からハンカチ・・ではなく、携帯を取り出した。


ーーー・・・おい、泣きそうじゃなかったのかよっ?!



「な、・・なにしてるんだよ?」
「・・・・ただのメール」


行儀がいいとは思えないけれど、オレジョーが携帯電話をあやつる見事な親指さばきを覗きこんだ。


「なぁ、どんなときでも声が聞ける方を選ぶじゃなかったっけ?」


ちらっと見えた、TO,のエリアにFの文字。


「・・・・メールでいい、よ」
「そんなに言いたくないか?」


メールを打ち始めたジョーの緩めた速度に合わせる、オレ。


「いや・・・そうじゃない。今、フランの声を聞いたら、・・・その、(涙を)堪える自信がないだけ」
「なっ?!」


うつむいて携帯電話に集中する姿は情けないはずなのに、・・なんでこいつは、こんなに憂いをともなう秋の香りを漂わせられるんだろう。
残暑の熱がまるで、照明のごとく演出されているとしか思えないくらいに、ジョーのまわりをキラキラときらめいて。
オレはジョーの隣で歩いていることがむず痒く。
意味もなく直射日光に当たるウナジ部分をガリガリと引っ掻いた。


「・・・・・俺はもう、さ」


文字パネルの上をすべっていたジョーの親指が止まった。


「?」


オレよりもほんのちょっぴり、だと思いたい身長差の分だけ、ジョーをみあげる。


「身も心もフランソワーズに捧げきって何もないんだ、だから・・、」


隣あって歩くよりも近くなったオレとの距離に、なにを照れる必要があるのか、琥珀色の柔らかな髪が、ゆれて、日本人っぽいけど、日本人っぽくない顔を隠した、彼を観た。


タレ目ぎみで、くっきりとした二重の綺麗なアンバー色の瞳の片方が、前髪に隠れてしまってなんだかもったいない気持ちにさせられる。
オレとの距離が問題なのか、それとも携帯電話を覗きこまれてフランソワーズさんのメルアドを知られることがイヤなのか、(ケチ!)居所悪そうなくちびるが、ごにょっと何かを呟いたのを、オレは聞く。


「捧げるより、・・恋の女神が、俺にささげろって・・・いう気持ち」


じーーーーーぃ・・と過ぎゆく夏を惜しむように蝉が鳴く。







ジョーっ!

お前はっ恋の女神までも虜にするのかーーーーーーーっ!



「お前っ泣きそうだって言ってたくせにっそんな不埒なことを考えてたのかっ?!いいかっジョー!フランソワーズさん以外の女性と浮気するなんてっオレが許さんっフランソワーズさんを泣かせるようなことはっ絶対にっぜーーーーーーーーーーーーっったいにさせないからなっ!!たとえ、相手が女王陛下だろうが、天使だろうがっ女神にっ人魚に、あーーっもうっフランソワーズさん以外はフランソワーズさんのためにも絶対にだめだっ!!!」
「うん、・・そんなことする気なんて、ないけど。了解」
「・・・・あ・・・れ?・・・ってオレ」



ーーー・・オレ、なんだか矛盾してないっすか?







***

ドアのチャイムが ちりりん っと鳴る。
今日も暑かった。
ジョーと駐車場前でばったり出会ってしまったから、余計にいつもよりも・・・体力を消耗したような気がする。


「いらっしゃいま・・、あら、大地、に・・あらら、島村っちさん♪も大地なんかと一緒だったんですか?いらっしゃいませ~!」


ーーー”大地なんか”とはなんなんっすか!義姉さんっ!


出迎えてくれたのは、オレの兄貴の嫁であり、バイト先の上司である義姉さんの接客慣れした声。


「今日は、フランちゃんはどうなさったの?」
「こんにちは。アイス珈琲、お願いします。・・出掛けにイワンがものすごくぐずってしまって・・・、すみませんが萌子さんのおすすめを箱に詰めてもらえますか?」
「はい、承りました♪・・・大地、お席にご案内したらすぐはいってよ!」
「ええっ!?バイトの入りまであと20分あるっすよっ!義姉さんっオレにもアイス珈琲くださーいっ」
「大地、ありがとう。・・ご馳走してくれるなんて、なんだか悪いな」
「ちょっとまて!オレはおごるなんて一言も言ってないぞ!」
「あら、たまには素敵なことをするのね?じゃあ、(バイト代から)引いとくから♪」
「義姉さーーーーーっ?!」
「さてっと・・・、電波が悪いみたいでなかなか送信できないみたいで。・・・電話をした方がいいみたいなんだけど、それならフランソワーズからも大地に礼を言ってもらった方がいいよな・・・」
「し、仕方ないなっ、き、今日だけだぞ!ジョー!」





まもなく始まるバイト前に、オレは”島村ジョーの彼女”に胸を高鳴らせながら考える。

終わりも結果もわかりきっている、永遠の一方通行でしかない片思い。しかも、なんでか恋敵であるジョーに、想い人であるフランソワーズさん以外の女性と浮気を許さない宣言するという、摩訶不思議なオレの片思い。
恋の女神も呆れ返って匙を投げ出してしまう恋だけれど、オレは・・・・


オレは、





「あ、そうだわ!島村っちさん、新作ね、さっき1個増やしたんですよ。フランちゃんに教えてあげてくださいねv」
「!」


「ふっふっふ、ジョー・・・電話ならその口でしっかりと新作の名前、言わないとな!」




38-1.jpg


オレは、・・頑固一徹、屈強のヘラクレス相手でもこの恋心、諦める気がしないっす!!







『もしもし?大地さん、こんにちは。』
「はい!大地っす!こんにちはっフランソワーズさんっ」
「大地、フランソワーズとの会話が強制終了されるまで、あと10秒、9,8.・・」
「?!あ、えっあっあのっそのですねっ・・ジョーっっお前っ」
「5,4,3,・・」
「すっすみませんっフランソワーズさんっジョーがっ!!」
「2,1,・・はい、終わり」


あああああああああああっっ!!!フランソワーズさああああっんつД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚






end.


bana.gif
「009分室。」のchisaさま
素敵なイラストをありがとうございましたv


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