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Day by Day・31
(31)



いつものスーパーで、帳大人に頼まれていたものを買う。
それらは本当に小さなもので、そして料理には欠かせない物たちだった。


「途中でなくならないように多めに買っておいているのだけど・・・気が付けば、いつの間にか無くなってるの・・・不思議だわ」
「・・・・車の中に置いていても大丈夫なもの、ばかりだね?」
「ええ、冷凍ものとか、なまものはないわ。だから大丈夫よ」
「・・・・一度、車に荷物を置いて、それから商店街の方へ行こう」
「そうね・・・・・・思ったよりも多かったわね?」
「・・・・・・・ジェットの駄菓子が嵩張る」
「ほんと!・・チップスとチョコだけじゃないじゃないっ。も!!」
「・・・コーラとか水のように飲むよ、な」
「信じられないわっあんなショワショワするものをっ」
「・・・・ショワショワ?」
「?」
「・・・・・シュワシュワ、だろ?」
「ショワショワでしょう?」
「・・・・・・・・いや、シュワシュワ」
「ええ?」
「・・・・・・・・ショワショワってどこで聴いたの?」


スーパーの袋を両手に提げて、2人は駐車場へと向かった。


「開けましょうか?」
「・・・いや、大丈夫」

小さな袋ひとつしか持っていないフランソワーズは、車のドアを開けるために、ジョーが持つ車のキーを受け取ろうと手を出したが、ジョーは断った。車のロックをキーについたボタンを押して外し、後部座席のドアを開け、買ったものが落ちないようにシートに乗せる。フランソワーズの方へと振り返って、彼女が手に持っている袋も乗せてドアを閉めた。もう一度車のキーのボタンを押す。ロックできたことを知らせる妙な音がピュン!っと一度だけ鳴る。そして、商店街の方へ歩き出す。ジョーの少し後ろをフランソワーズが歩く。


沈黙と、会話。を繰り返す。
どちらともなく話しかけ、そしてそれは自然に消えていく。

ジョーは少し斜め後ろで自分について歩くフランソワーズの様子を見ながら歩く。
自分以外のメンバーがフランソワーズに”当たり前”のようにしてみせるレディ・ファストの行動は、見ている方が恥ずかしい気持ちにさせられたが、今はもうそれらに慣れてしまった。フランソワーズは何も疑問を持つことなく、彼らの行動を自然に受け入れているところから、そのようにされるのが当たり前の環境で育ったのだろう、と判る。ジョーは、自分には一生縁がない代物だ。と、思っていたが、メンバー達とギルモア邸で生活をしていく中で、自然とそれらの行動がうつってきているらしく、スーパーでの買い物中に、レディ・ファストをしている自分に気づかされて妙に焦っていた。原因はフランソワーズが小さな声でクスクスと笑いながら「ありがとう」と囁くために。

メンバーが周りにいれば、ジョーのその行動もあまり目立つことはない。
けれども、今はフランソワーズと2人のために、ジョーの行動は妙に浮いて見えた。


少しだけ歩く速度を緩めてジョーが車道側に立ち、フランソワーズに並ぶ。立つ。
風に揺れる亜麻色の髪が、そっとジョーの二の腕を撫でる。服に触れただけのそれがジョーの視界に入った。

歩く速度に合わせて微かに上下する、フランソワーズ。
並んで歩くと気づく、視線。


自分の隣を歩く彼女は、フランソワーズ。


ここは、日本。

人が住む街。

人が生活する街。


敵はいない。
爆撃も、銃声も、襲ってくるものは、何もない。



彼女はフランソワーズ。
003では・・・・ない。


フランソワーズがよく履く、踵のない靴。
膝頭が隠れる、ローズピンクの細かいプリーツスカートには少し光沢がかっている。フランソワーズが歩くたびにゆったりとそれらは揺れた。
ベージュカラーの透ける生地でできたブラウスの下に着るレースの模様のキャミソール。フランソワーズの二の腕や鎖骨周り、普段は見ることがない胸元がうっすらと浮かび上がり、目線がそちらへ向かないように意識する。フランソワーズのトレードマークである、スカートに合あった同じ色のカチューシャ。


ジョーが運転中、フランソワーズがそれを外した仕草に、思わず赤信号を見逃しそうになった。





「・・・・フランソワーズ」
「なあに?」
「・・・あれ、読める?・・・使わずに」


スーパーの駐車場を抜けて、数ブロック歩くと昔ながらのアーケード式の商店街にたどり着く。商店街の北側の入り口にある、看板をジョーは指さした。


「メガネや・・・ジョイフル・・?」
「・・・使ってないよね?」
「使ってません!」
「・・・・・じゃ、あれ」
「・・・たこやきや、はっちゃんのみせ」
「・・・・・・食べたことある?」
「タコを焼いて食べるの?」
「・・・・・ないんだ」


フランソワーズは興味深げに屋台のたこ焼き屋を覗こうとしたけれど、それをジョーに邪魔された。


「・・・食べてみる?・・・・焼いているところ面白いと思うよ、後でね」








ジョーとフランソワーズは商店街へと入っていく。

小さな店々が寄せ合うようにして左右に行儀良く並び、まっすぐに南側の出入り口まで伸びていく。
短いローカル線の一駅分の長さはある、この辺りでは一番大きな商店街。時間的に、夕食の買い出しに足を運んだ主婦や子ども連れの家族、学校帰りの学生や会社員などの様々な人々でアーケード内は人の波となっていた。いつも午前中や昼過ぎに訪れるフランソワーズは、夕方以降の時間帯は初めてのために、その賑わいと人の多さに圧倒されてしまい、足が止まる。

商店街に入ってすぐに、歩き続けるジョーを見失いそうになる。
人に押されて、前に進めばいいのか、避ければいいのか、右へ寄ればいいのか、左に寄ればいいのか、フランソワーズは混乱してしまい、そうこうしているうちに、フランソワーズの視界からジョーが消えた。


「ジョー?」


フランソワーズはきゅうっと胸が痛くなった。
日本人の波の中で自分はあまりにも異質に、浮き上がる。








一度だけ、パリのクリスマス市で迷子になったことがある。

周りは誰も知らない人。
手を繋いでいたはずの兄の手が、人の波に飲まれて離れてしまった。


怖くて、その場から一歩も動けなかった。
怖くて、一言も兄を呼ぶことが出来なかった。


小さな自分は遙かに背が高い大人達の森の中で、その場所に立ちつくして周りを ぐるぐる と、見まわして兄の姿を探す。


兄さんっ
兄さんっ!!


離れていたのは、ほんの数分間だけだったと思うが、小さかった自分には永遠の時間に思われた。
ジャンは離れてしまった小さな妹を見つけて、今度は離れないようにその手を力強く握りしめてくれた。

その日はずっとジャンと手繋いで過ごした。





「ジョーっ!」

「・・・・っどうした、フランソワーズっ?」





栗色の髪が見えた。


人の波に隠れていただけ。

ジョーはフランソワーズの数歩だけ先に、手を伸ばせば、触れることができる距離に、彼はいた。


琥珀色の瞳が心配そうにフランソワーズをみる。


ジョーは手を伸ばして、フランソワーズの白い小さな手を握った。


その手の温かさに、その手の強さに、その手が愛しくて。


「大丈夫か?・・・・フランソワーズ」
ー大丈夫だよ・・・・Fanchonー



小さなフランソワーズは、泣かなかった。






ジャンに”泣き虫だなあ”と言われるの嫌で、一生懸命に我慢した。
喉が熱く、締め付けられるのに堪えた。声を出せば涙が落ちてくるのがわかっていたから、何も言わなかった。

ぎゅうっとジャンの手を握り、彼について歩く。
自分と同じ亜麻色の髪。形良いジャンの後頭部をじっと涙で潤んだ瞳で見続けたながら、絶対に泣かない!っと自分に言い聞かす。







絶対に泣かない!
私はこんなことくらいで、泣かないもの!!

そんな、弱い子じゃないわ!









「フランソワーズ?」


後ろをついて来ていたはずのフランソワーズに名前を呼ばれて、ジョーは振り返える。
人の波の狭間で見えた、亜麻色の髪はとても綺麗だった。
もう一度、ジョーはフランソワーズに名前を呼ばれた。
その声はとても不安気に響いて、慌ててジョーはフランソワーズに駆け寄った。

躯を縮こまらせて小さい子のようにスカートをぎゅっと握りしめながら、フランソワーズの顔は、今にも泣き出しそうで、ジョーは彼女の手を取った。フランソワーズと繋いだ手は、強く、強く、握りかえされて、ジョーは驚く。


「・・・ごめんなさい・・・あまりに人が多かったから・・・」
「・・・・・大丈夫?」
「ええ・・もう・・・大丈夫よ」
「・・・・・・大丈夫じゃない、だろ?」
「え?」



「・・・泣くな、よ」



こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳を縁取る睫が瞬くたびに、空色の瞳から ぽろり と、雨が降る。
人の波がフランソワーズの周りをよけていくために、小さな空間がそこに出来た。


「泣いてなんか、ないわ・・」
「・・・・・これ、なに?」


フランソワーズの手を取っていない方のジョーの手が伸びて、彼女の頬に触れる。
その手に彼女は驚いて躯をびくっと揺らした。
フランソワーズの右頬を包み込みようにして そおっ と触れられたジョーの手は、親指で彼女の目元を拭った。


「・・・・泣いてないもの」
「・・・・・・別に、泣いても怒らない、よ?」
「泣いてないわ」
「・・・・人混みで少し離れたから・・・・怖かった?」
「怖いなんて、思わないわ・・・すぐ見つけられるもの」
「・・・ごめん。オレが悪い」
「ジョーのせいじゃないわ」
「・・・・・・この時間帯は、どこの街もこんな感じなんだけど・・こんなに人が多くて混み合ってるところ・・初めてだろ?」
「そんなことないわ」
「・・・・」
「泣いてないわ・・・私」


ジョーはその手でフランソワーズの涙を拭う。
その手に乗る温かな雫。


「・・・・泣いて、ない?」
「ええ、泣いてなんか・・・ないわ」


涙に濡れる瞳。
流れた雫の跡で頬を濡らしたフランソワーズは ぷうっと頬を膨らませた。


「・・・意地っ張りだ、ね」
「意地っぱりじゃないわ」


ジョーは微笑んだ。


「・・・・頑固だ、ね」


繋がれた手を引いて、ジョーは歩き出す。


「泣いてないもの」


フランソワーズはジョーに引っ張られるようにして、商店街の中を歩く。
いつもよりもジョーはゆっくりと歩き、人の流れに乗ってグレート指定の店に向かう。


泣いてない。と言い張るフランソワーズを、可愛い。と思う、ジョー。

フランソワーズは可愛い。

いつから、そういう風に思い始めたのかは覚えていないが、彼女の全てが可愛らしく感じて、目が離せない。それが戦いの地であっても・・・フランソワーズは可愛いい。と、ジョーは思ってしまうだろう。


「・・・・素直じゃない、な」
「・・・そういう風に育ったの」


商店街の人の波を亜麻色の髪をカチューシャで飾った少女と、栗色の長い前髪が東洋と西洋の混じった顔立ちを隠す青年が行く。すれ違う人々は、昨今珍しくなくなったはずの異国の少女に振り返った。



フランソワーズは目立つ。

すらりと伸びた姿勢の良さに。
寒水石のような白い肌に。
甘いハチミツを思わせる艶やか亜麻色の髪に。
愛らしいチェリー・カラーのふっくらとした形良いくちびるに。

線の細い華奢な、少女の面影を残す愛らしい彼女は、とても目立った。




フランソワーズが涙を流したのは、ほんの少しだけ。
すでに涙は消え去り、泣いてない。と、フランソワーズが主張する通りに泣いていなかったのかもしれないと、思いたくなる。が、フランソワーズの少しだけ拗ねたような表情が、”泣いた”事実を物語る。

滅多に人前で泣くようなことはしないフランソワーズは、誰もいないところで1人、ひっそりと泣くことをジョーは知っている。声を殺して、彼女は泣くのだ。

ジョーはフランソワーズと繋いだ手が震え出しそうで、それを必死で耐える。
その温もりに、その小さな手の柔らかさに、全ての意識が集中してしまうのを追い払うかのように、フランソワーズに話しかけた。


「・・・今から、使用禁止にする、よ」
「え?」


フランソワーズの足が少し遅くなる。


「翻訳機なしで話すこと。買い物が終わるまで・・・・命令」
「ええ?!」
「・・・・素直じゃないから」
「関係ないわ!」
「・・・・・命令」
「そんなのっ利かないわよっ」
「・・・もしもの時の訓練、なら?」
「そんな・・」
「・・・・・翻訳機無しで、英語を話せないよ。俺」
「それとどう関係があるの?」
「・・・・誰か1人くらい・・・日本語を話せてくれた方が助かる、な」
「ジョーが英語を勉強すればいいんじゃないの?」
「・・・・・それより、フランソワーズが日本語を話した方が早い、と思わない?キミ、英語も”なし”で話せるだろ?」
「話せるけど・・・」
「・・・キミも勉強できて、”もしも”の時には最低、メンバーの中でキミとは会話できる」
「・・・・・」
「・・・今から、いい?」
「・・・・・いいわ」


ジョーの”命令”から会話が止まり、商店街の左側に並ぶビリジアン・カラーとアンティーク調の雰囲気ででまとめられた小さな店の前で、ジョーの足が止まった。


「・・・ここだよ」


フランソワーズはジョーの言葉に頷いた。


「・・・・ずっと話さない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はなスs」


商店街の雑音に紛れてしまう、フランソワーズの声を耳にしてジョーは笑った。


「・・・・たこ焼きか、ここで休憩、どっちがいい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ココ、でオチャ。するの?」
「・・・・疲れてない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・rぃヨウほー。が、イイ」
「・・・りょう、ほう?・・・・・贅沢だな」
「りヤう?」
「りょ・う」
「ろおう?」
「りょ」
「りょ?」
「そう。りょ・う・ほう」
「リョウホー」
「・・・・・・うん、両方」




細長い店内の入り口から少し離れた席に案内されて、出された水とおしぼり、そしてメニューに目を通す。

ジョーは普段よりも2.3倍ゆっくりと話すように心がける。


「・・・・読める?」
「・・・・・・たいたい」
「・・・・”だ”いたい」
「だいたい」


ジョーは店のオリジナルの紅茶を頼み、フランソワーズはトロピカル・ホワイト・ティーを頼んだ。グレートから頼まれたダージリンを200g頼むことも忘れない。


「・・・・カードは、どこで買う?」
「ざっかや、サン。か、ほんにゃ、さん」
「・・・・・ほんやさん」
「?」
「ほん、や」
「ほn・・・ほん?」
「ほん、や」
「ほん、や?さん?」
「・・・うん・・・本屋・・」
「・・・・ドコ?」
「・・・・・・商店街の外に、大きい本屋がある、よ」
「shiよてんかいの、そと?」
「商店街の外」
「?」
「・・・・商店街・・わからない?」
「・・・・そと。は、わかる」
「ええっと・・・この店の、・・・・・・スーパーの近くに本屋がある」
「・・・・わかル!」


ーーーフランソワーズの知らない単語が出てきたら、説明するのが・・・大変だな・・・


運ばれて来た紅茶の香りに、フランソワーズは嬉しそうにそれを見たが、ジョーはフランソワーズの知らない日本語の単語が出てきたとき、どうすればいいのかに悩んだ。


「じょー、どした、の?」
「・・・いや・・」
「・・・・・・・・おシえるもたいへんです。ね?」


フランソワーズの言葉にジョーは苦笑し、フランソワーズはにっこりと微笑んだ。


「・・・め、れいしたの、じょー、でスね?」
「・・・・め・い・れい」
「めぃれい?」
「め・い」
「め・い?」
「めいれい」
「めいれい」
「・・・・そう。命令した、よ・・・うん。俺も日本語、勉強しないといけないかも、な・・・いや、それより・・・」
「ハヤいでス・・・なていった、の?」
「・・・・・・わからなくていい、よ。・・・”なんていった”」
「ハヤい、でス!」


翻訳機を通さずに話す、フランス語の発音が残るフランソワーズの日本語を聴くたびに心地よく、少しだけくすぐったい。入れ立ての紅茶の香りを胸に吸い込んでから口に含み、ジョーは喉を潤した。


「・・・・・・本屋でいい?」
「ほんや、イキまショ!」







####

商店街を出て、車を停めているスーパーの方向へ向かう途中の交差点を渡った角に○X書店がある。6階建てのビル全てを使った大きな本屋で、ギルモア、アルベルト、グレート、そしてピュンマのお気に入りの場所の一つでもある。

4階のステーショナリー・ギフトエリアにカードコーナーが広々と設けられていた。
ジョーに連れてこられたフランソワーズは、興味深げに周りを見回しながら、自分の予想を遙かに超えた量と種類のカードに驚きつつ、嬉々としてカード選びを楽しんでいた。

あれが可愛い。こっちの方が素敵。絵がおもしろい。飛び出す細工がしてある。など、フランソワーズはなかなか1枚のカードを選ぶことができずに、カードコーナーから動かない。
ミツエ宛のカードを1枚買うのに、1時間近くも時間がかかるとは思ってもいなかったジョーは、苦笑するしかなかった。
ジョーはただ黙ってフランソワーズのカード選びに付き合う。本当は彼女がカードを選んでいる間、適当にその辺でも見てまわろうとしたのだが、諦めなければならないことが起きたからだ。



スーツを着た会社員らしき若い男2人が、カードを探しているような感じで、フランソワーズに近づき、流暢な英語でフランソワーズに話しかけた。


『捜し物ですか?』
『ええ・・・お礼のために』
『じゃあ、”ありがとう”だね、日本語で』
『・・・そうですね』
『1人?・・・僕たち、仕事がら英語、大丈夫だよ』
『これから、どこか行くの?・・・電車とか、わかる?』
『大丈夫です』
『この辺に住んでるのかな?・・・暗くなると意外と危ないんだよ、この辺り』
『そうだよ、君みたいな子が1人だと、危ないと思うから・・・送っていくよ』
『いいえ、大丈夫ですから、ご親切にありがとうございます』
『あ、このカードとか、かわいいよ』


短髪を少し明る目に染めた男が言い、フランソワーズに渡した。
フランソワーズは微笑んでいたが、そのカードはあまりにも幼稚に感じる。ミツエに贈るには可愛すぎる絵柄だ。と、こころの中で溜息をついた。


『あの・・・』
『ね、よかったら送っていってあげるから、さ。美味しい寿司を食べさせてくれるところ知ってるんだ、好きかな?』


ジョーがカードコーナーから数分ほど離れて戻ってきてみれば、2人の男に左右に挟まれて立ちつくしているフランソワーズの姿。彼女は断りの言葉を口にしようとしているが、男達の誘い慣れした話しの流れに見事に流されていた。しばし様子を見ていたジョーは深く溜息を吐いて、1人で街へ行かせられない。と、今夜にでもメンバーに報告しよう、と決めた。


「・・・・・フランソワーズ、何してるんだ?」


2,3歩、フランソワーズに近づいてから声をかけた。


「じょーっ」
「・・・・・カード決まった?」


ジョーの声にフランソワーズは満面の笑みを浮かべた。男達はジョーとフランソワーズを交互に見るが、フランソワーズの、その花が咲きこぼれるような明るい笑顔に見惚れてしまう。


「・・・・知り合い?」

ジョーはわざと、フランソワーズに訊ねた。彼女の知り合いではないことはわかっている。
男達はジョーが日本語でフランソワーズに話しかけていること驚いている。


「なんだ、日本語話せるんだ~」
「言ってくれたらいいのに!・・・彼、弟さん?」
「?」
「・・・・・」


派手なネクタイをした男の言葉に、ジョーは微かに反応を見せた。
フランソワーズは男の日本語が早くて聴き取れずにいるため、何が起こっているのか把握できずにジョーを見つめる。彼女の様子を見る限り言語翻訳機は切っていなくても、フランソワーズはこの状況を理解できていなかったのかもしれない。


「・・・・カードは決まった?」
「・・・ま、まだ・・・」


ジョーは男達がその場にいないような仕草でフランソワーズに話しかける。


「・・・・もう少し、見る?」
「イイ?」
「・・・・いい、よ」


フランソワーズに微笑んだジョー。
2人の様子を見ながら短髪の男が小さく舌打ちを鳴らして、派手なネクタイの男に目線で合図する。彼らは何も言わずにフランソワーズのそばから離れて、ジョーの横を通り過ぎた。


「・・・・?」


不思議そうに去っていった男達を見送るフランソワーズの横に立ち、フランソワーズに翻訳機を使うように、ジョーは頭に指さして言った。言われてフランソワーズは素直に翻訳機を使い会話を始めた。


「どうなさったのかしら?・・・・ジョーが来たから、大丈夫だと思われたのね?」
「・・・・・・少し目を離した隙に・・1人での行動は許可できない、な・・・」
「どうして?」
「・・・・どうしてって、フランソワーズ・・・」
「ちゃんとお話を聞いてさしあげて、お断りすればいいだけよ?」
「・・・・・話しを聴く?」
「ええ。何かを勘違いなさってることが多いから・・・」
「・・・・・・ナンパって知ってる?」
「失礼ね!それくらいわかりますっ!!お誘いを受けることでしょっ」
「・・・・どんな誘いを・・考えてるのか知らないけど、今のがそうだよ?」
「ええっ!?・・・違うわよ、私が日本語がわからないから、親切にしてくださったのよ?」
「・・・・・日本語より、キミ用の特別社会勉強が必要かな」
「ナンパなはず、ないわ!」
「・・・・・いや、キミが思っている”親切”の99%はナンパだよ」
「そんなわけないじゃない!ジョー、人の親切をそういう風に言うべきではないわ!!」
「・・・・・」


軽く溜息を吐きながら、すっと手を伸ばしてジョーは一枚のカードを手に取った。


「・・・・・色々あるんだ」
「そうなのっ・・・・色が綺麗で、絵もいっぱい・・・」


ジョーが手に取ったカードを開くようにジョーに促した。フランソワーズに促されたままにカードを開くと、ポップアップ・カードになっており、描かれた2匹のウサギが1冊の本を持ち、立ち上がると同時に、本が開いて”ありがとう”とシンプルなレタリングで書かれていた。


「これにしようかしら・・・」
「・・・かわいい、ね。・・・・・ほかは、どれを選んだの?」


フランソワーズが手に持つ数枚のカードをジョーは見せてもらう。


「・・・決められない?・・・これ、全部買っておいたらいいよ・・・また使うかもしれないし」
「使うかしら・・・」
「・・・買っておいて、邸でどれにするか考えたら・・・きりがない、よ?」
「こんなにたくさんのカードがあるなんて、思ってなかったもの・・・すごいわね」


フランソワーズはテーマ毎に並べられたカード類を納める、4列に並ぶ棚を見た。


「・・・・私が知っているのは、タワーみたいになっていて、こう・・クルクルまわるのにカードが入っていたの・・・あとは、カフェやニュース・スタンドのレジ下に置いてあったり・・・」
「・・・・・また、来たらいい。・・・・・・・・もう7時だし・・・・あまり遅くなったら夕食に間に合わない、よ?」
「7時っ?!」


ジョーの言葉にフランソワーズは飛び上がらんばかりに驚いた。


「・・・・うん」
「帰らなくちゃ!」
「・・・・そうだね」


選んだ6枚のカードを手に車を停めてあるスーパーの駐車場へ戻り、ギルモア邸へ着いたのは7時43分。荷物を抱えてキッチンへ向かい、それらを帳大人に渡す。リビングに置いたおみやげの”たこ焼き”は、いつもの夕食の時間より遅くなっていたために、お腹を空かせていたジェットの胃の中に全て消えてしまった。
ランソワーズはそのままキッチンで夕食の準備を手伝い、ダイニングルームに夕食の支度が調ったのは8時37分。もちろん、ジェットは夕食も綺麗に平らげた。途中、イワンにミルクを与え、入浴させる。
全員が夕食を終え、飲ま夕食の後片づけを終えたのが11時51分。フランソワーズがリビングルームのソファに座ってふうっと短い溜息をついた時間は、11時53分だった。


気が付けばリビングルームのカーテンは閉じられていた。
温かくなったといえど、夜の冷気がヒンヤリと窓から入ってくる。
いつもならリビングルームにまだ誰かがいるはずの時間帯だったが、今日はフランソワーズ1人がそこにいた。

白いソファの背に力無く背中を預けて、そのまま、ずるずるずる。と 左へと上半身を倒していき、頬に冷たい皮の感触が触れた。躯を回転させて仰向けになり、スリッパを脱いで膝を立てた状態でソファに乗せた。そのせいで、着ているスカートは膝頭より少し短めのスカートだっため、するり と重力に負けてフランソワーズの膝から滑り落ち、くしゃくしゃと嵩張った。両手を重ねて胸の上に置き溜息をつく。しばしリビングの天井を見つめた。


ーーーひと口も食べたられなかったわ、たこ焼き・・・・も!ジェットは!!


12コ入りを5船買ったが、その全部を夕食前に食べられていたことを、今更ながらフランソワーズは腹を立てた。買いに寄った時間が遅くなってしまい、たこ焼きを作っているところは見られなかったが、あの丸い穴の凹みがたくさん並んだ鉄板で焼いたと思われる”たこ焼き”は半円でなくてはならないのに、丸かった。ジョーに説明してもらったフランソワーズだが、キリでくるっと穴の中で回転させる。と言うイメージが思い浮かばない。
そんなことを考えていたら眠気が襲ってくる。重くなってくる目蓋に瞳を開けている感覚が短くなっていく。




2回、名前を呼んだ。
ジョーが振り返る。
慌てて彼が近づいてくる。
伸ばされた彼の手が、自分の手を強く握る。


思い出すシーンは、今日の商店街でのこと。
ジョーが触れた頬がジンジンと熱くなっていく。










「フランソワーズ!」
「っ!?」


ばさりっと足にかけられたのはバスタオル。
閉じていた目蓋をパチリとあけて、フランソワーズは上半身を跳ねるように起こした。


「女の子だろっ!!!そんな短いスカートでっ膝立ててっっ」
「・・・・あ」
「あ!!じゃないよっっ女の子なんだよっ君はっ!!」


湯上がりの石けんの香りをさせて青地のコットン素材のパジャマに身を包んだピュンマは、フランソワーズの顔をのぞき込むようにして厳しく注意した。
ピュンマは浴室から出て、ダイニングルームを通りリビングルームの入り口からフランソワーズの姿を目にして慌てて浴室にもどり、真新しいバスタオルを手に戻ってきたのだった。


「だって、誰もいなかったんですもの・・・」
「だってじゃないよっ!誰かがやってくるかもしれないだろっ!!」
「すぐ、気が付くわ」
「僕が来たのに気が付いてなかったじゃないかっ!!」
「・・・ごめんなさい」


素直に謝ったフランソワーズにそれ以上何も言わず、ピュンマはフランソワーズの隣に腰を下ろした。


「びっくりさせないでよっ。これがジョーだったら・・・」


ピュンマは自分で言いつつ、想像してみた。




ジョーだったら?
彼はどうする?

・・・・・理性が保てただろうか?
いや、彼のことだから無理にでも・・・009になってでも・・?
ボクみたいに何か、かけてあげるかなあ?
フランソワーズをすごくきつく怒りそうだけど、さ。
怒った後に、猛烈に自己嫌悪に落ちいって・・・沈んでそう・・・はは。


・・・・懐かしいな。
ドルフィン号で生活してるとき・・・003の無茶な行動で何度、009は003を叱り飛ばしただろう・・・。その後の009の姿を、きっと彼女は知らないんだよ、ね・・・・。

教えるつもりないけど、さ!



あ・・・・。
でも、意外と・・・・・。



・・・黙って見てたりして。

滅多に見られないし、呆然とフランソワーズが気づくまでマジマジと見てるかも?

ジョーってさあ、ジェットやアルベルトが言うところ・・・・女性にあはかなり慣れてるらしいし・・・見慣れてるかな?

あ。でも、フランソワーズの足(+α)だしなあ・・・。


ここがリビングって言うのも考慮にいれて考えて・・・彼は慎重だしぃ。
ぼーっとしてるように見えて、2手3手先を読むんだよね。
・・・その辺は009とジョーは一緒だなあ。


計算高い?



驚いてダイニングに引っ込むけれど、そのまま放っておけずに・・・そうだね、わざと何か”物音”を立ててフランソワーズの注意を促すかな?

きっとそれだね。



・・・無難だなあ・・・・。











「ピュンマ?・・・・ジョーがどうしたの?」


言葉の途中で自分の世界に入ってしまったピュンマにフランソワーズは声をかけた。
不思議そうに、彼女はピュンマをみつめる。


「・・・・あっ!・・ん?いや、ちょっとね。・・・・それよりフランソワーズ、疲れてるなら自分の部屋に行って休んだ方がいいと思うな。・・・・今日は買い出しで外に出ただろう?・・・夕方の、あの人混みにすごく驚いていたって聴いたよ。疲れただろ?ジェットもウルサかったしね。久し振りのギルモア邸で興奮してるみたいだったしさっ」


ピュンマはフランソワーズの隣に座った。


「ふふふ。子どもよね、ジェットって・・・・でも、ピュンマもずっと嬉しそうだったわよ?」
「もちろん!ここはボクらの”家”だもん!たった1週間ちょっとでも・・・・帰る家があるのは、すごく・・嬉しい。幸せだよ・・・ここは、ボクらの家だ・・・ねっ?」
「ええ、そうよ。ここは、私たちの帰ってくる・・・お家」
「すごいね!」
「ええ!すごいわっ」


ピュンマは微笑む。
フランソワーズも花が咲きこぼれるように微笑んだ。


「おみやげのたこ焼き、ジェットにぜ~んぶ食べられたのが残念だったよ。ボクも食べてみたいって思ってたのにさ!・・・お腹壊してないと、いいけど・・」
「ほんと!せっかくジョーが教えてくれたのにっ・・・焼いているところは見られなかったから、次回は絶対に見たいわ!どうして丸く焼けちゃうのか不思議なんだもの!」
「そうかなあ?半分火に通して表面が かりっ と焼けたところを、キリでくるっとひっくり返すだろ?そうすると、まだ火が通ってない生の部分が下にきて、もう半分が焼けるから、丸くなるんだよ?」
「口で説明されてもわからないわ!見たいのっ」
「じゃ、またジョーに連れて行ってもらったらいいよ、たこ焼きデート!」


ピュンマの最後の言葉にフランソワーズの笑顔が不自然にひきつった。
それは一瞬のことだったが、彼女のその変化をピュンマは見逃さない。


「・・・・フランソワーズ、どうしたんだい?デートくらい・・・別に誰でもするよ?」
「やだ、ピュンマ・・・何を言い出すの?」
「ちょっと、気になってたんだけど、さ・・・コズミ邸で何かあった?」
「・・・・どうして?」
「さくらの様子が・・・・ボクの感だから、なんとも言えないけれど・・・ちょっと感じることがあったから」
「・・・・・・さくらさんは、ジョーが好きなのよ」
「うん・・・」
「・・・ほら、私・・・ギルモア邸で1人だけの女だし。街に出たときにジョーと一緒に帰ってきたから、・・・・やっぱり、気持ち良いものじゃないでしょう?自分が好きな人と別の女性が仲が良かったり、車に一緒に乗ったり・・・・・出かけたりしたら、ね?」
「・・・・フランソワーズも同じ気持ちになるんだから、イーブンだよ?」
「ならないわ」
「・・・・・ボクの前まで無理しなくてもいいよ?」
「無理なんてしてないわ」
「・・・・フランソワーズ」


ピュンマは膝の上に重なっているフランソワーズの手の上に、自分の手をそっと重ねた。


「フランソワーズはボクの大切な妹なんだから。ちゃんとフランソワーズの恋を応援したいな。ボクは」
「ピュンマ・・・」
「・・・・・ボクに妹がいたの、知ってるでしょ?・・・彼女にしてあげられなかったことを、君してあげたい。・・・ボクの勝手な思いだけれど、妹は”恋”をしていたのかどうか・・・知らないんだ。せっかく・・・・女の子に生まれてきて、恋も知らず・・・に・・・・・もしも、もしも、さ。妹に好きな人がいたんだとしたら、妹は、ちゃんとその気持ちを打ち明けたことがあったのかなあ・・・って時々思う。家族に愛されるのと、それは違うからさ・・・・・ね?だからさ!!余計にフランソワーズが、気になるんだよ!!相手が・・・・・・・・手のかかる兄弟なだけにねっ」
「・・・・・ありがとう、ピュンマ。嬉しいわ・・・そんな風に思ってくれているなんて、嬉しい!・・・ありがとう・・・・でも」
「・・・?」
「でもね・・・・・ピュンマ」
「・・・なに?」
「・・・・・・・さくらさんがジョーを好きなの」
「それがどうしたのさ?」
「人であるさくらさんが、彼を好きなの。」
「・・・・・フランソワーズ、それを言ったら・・・」
「彼にはチャンスがあるわ。人らしく生きる・・・それがたとえ数年でも、サイボーグであることを忘れる時間を、好きな人と想い合って生きる時間が」
「それは、フランソワーズも同じだし、・・・さくらじゃなくても、いいんだよ・・・それに」



ーーーそれが、フランソワーズであることを彼は望んでいるんだよ



「・・・ジョーが・・・・・・・彼が想いを寄せている人は、さくらさんじゃないみたい・・・・さくらさんの気持ちを受け入れないって、彼は言ったわ・・・それは、他に想う人がいるから・・・でしょう?」


ピュンマの心臓が、どくん。と、強く脈打った。
フランソワーズがソファから突然立ち上がり、ピュンマは慌てる。


「フランソワーズっ待ってっ・・・」
「私の知らない人だもの・・・。だから、彼にこれ以上は心配されないように、迷惑をかけたり、優しい気持ちに甘えないように、しっかりしないといけないわよね?・・・もっとその人と過ごせる時間を作ってあげないと、ね?」
「ええ?!」


フランソワーズの笑顔に、そしてその発言にピュンマは言葉を失った。




ーーー絶対に、泣いたりしたらダメ・・・・特にジョーの前では・・



「私の応援より、ジョーの方を応援してあげて?・・・大切な9番目の”弟”ですものね!・・・タオルありがとう。これからは気を付けるわ!ピュンマ、お休みなさい」


フランソワーズはピュンマの頬にお休みのキスを一つ贈り、リビングを出て行った。呆然と1人リビングに残されたピュンマは、いったいどこから話しがおかしくなってしまったのかを知るために補助脳をフル稼働させた。


戦闘に恋愛についての知識は一切排除されている。
さすがの補助脳も男女の”恋愛”に関するこころの機微までは分析できず、データもストックされていない。



ーーー何がどうしてっ!?どうなてるのっっ?!



・・・・・今のボクのせい?ボク、言葉を間違えた?!っていうか!・・・・ジョーには好きな人がいるからっさくらを拒んでるって?







当たってるけど!

・・・その相手がフランソワーズの知らない“人”ぉぉぉぉ?
やっぱり、気づいてないんだ・・・フランソワーズはジョーの気持ち・・・いや、そうだろうけどさ!!

でも・・・


でも・・・それって・・・



「それって・・・・フランソワーズには自分じゃない、他の人が好きだとジョーは思いこんでいて・・・フランソワーズも、ジョーには・・・って・・・・なんだよっっそれえええええええええええええ!」




春の星座が美しく夜空に瞬き、穏やかな波音が眠りを誘うなか、ピュンマは1人リビングのソファに座りもんもんと悩む彼にジェットの声が届いた。


<ピュンマっ今夜もALLで頼むぜっっ>
<・・・・・・昼寝してないよ、ボク>







====32 へ 続 く


・ちょっと呟く・

今の9、3のデート?はこんなもんですかね?
お互い意識しまくってますし、それをひた隠しにしてますし。

8は苦労しますなあ。

もう少し日常を続けますです。



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