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Day by Day ・ 1
微睡みの中に自分はいると、わかっていた。
意識を呼び起こすことも、もう一度夢の中に戻ることも、どちらも自分の意思で向かうことができる。
そんな現実と夢の境目で、フランソワーズは安心していた。

なんの根拠があって、こんなに自分は心地よく安らいでいるのだろうか?




誰かがそばに居る気配がする。
それを確かめたい気もするけれども、からだも意識もそれを拒んでいるように感じた。




フランソワーズは自分の頬に誰かが触れるたように思う。
そして、とても優しく、温かく、大きな手が自分の髪を数度なでられたことを感じる。




ーーー誰?




声にならない声を、見知らぬ相手に投げかける。




兄さん?

それとも・・・。









「・・・おい?・・・起きられるか?」


聞き慣れた低い声。
いつもよりもささやくような声だった。
心地よい微睡みから抜け出すのに、少し時間がかかる。


「・・・辛いか?」

ゆっくりと首を声の主の方へと傾ける。
見慣れた、銀色の髪とアイスブルーの瞳が霧のかかったような視界に現れる。


「・・・ぁる・・あるべる・・・アルベルト?」


瞳がアルベルトの顔をはっきりとした形で捕らえる。
ノドにまったく水気がなく、声を出すのが辛かった。


「・・・どうやら熱が出たようだな?」
「え・・・・?」


いったい自分に何が起きたのだろう?

フランソワーズは自分に起きた状況が把握できていない。
それは発熱の所為でもある。


「奴が、様子が変だって言いにきたんでな。・・・博士は今、コズミのじーさんのところだ。まあ、メンテの後だし・・・少し疲れていたのかもな」



ーーーー熱?



「大したことは、ないと思うが・・・気分はどうだ?」




ーーーー気分?




質問される言葉に反応はするが、それに答えるのがとても億劫で、口を動かすが、ノドにに水気がないために、掠れたような音を紡ぎ出す。


「・・・今日は寝てろ」


そういうとアルベルトは、ぽん、ぽん、っと優しく彼女の頭に2回手を置く。



ーーーーさっきの手とは違う。




「・・・おい、・・彼女を部屋に運んでくれ。その間にオレは博士に電話して、氷でも持ってくる」


アルベルトの声は聞こえるが、話の内容までは思考がついていっていないフランソワーズ。次の瞬間に自分のからだが ふわり と浮かび、そして頬が逞しい胸にもたれかかる。

彼女は夕方から、ここギルモア邸のソファで寝入ってしまっていた。
メンテナンス後間もない彼女なので、みな疲れているのだろうと、そっとそのままにしておいた。が、ジョーは彼女をひと目見るなり、アルベルトを自室から呼んできたのだ。

フランソワーズは誰かに抱きかかえられているが、その、誰かがわからない。
けれども、その人に抱かれるのに、慣れている気がする。

からだに緩い風が触れ、自分が移動しているのがわかるが、振動が伝わってこないので、とても丁寧に、慎重に・・・。
自分を抱き上げてくれている人が庇ってくれているのがわかった。

自分の部屋に入ってきたことは、お気に入りのルームスプレーの香りで理解する。
壊れ物を扱うように、ゆっくりと、ゆっくりと自分のベッドに寝かされた。



ーーーありがとう



フランソワーズは自分が寝ているのか、起きているのかも、熱のために曖昧になっていた。彼女はベッドに横になった瞬間に、自分の額へ甘く柔らかな何かが触れたのを感じる。それは、少しずつ移動し、額から瞼へ、そして熱のために火照った頬へ。


ーーーー?


何が触れたのか彼女は判らない。けれどもそれは彼女を、とてもフランソワーズを安心させる行為であった。


「・・・・すぐによくなるよ」




優しい声。
耳元がくすぐったい。



ーーー009?







####

街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
そこには小さくギルモア研究所と言う表札が掲げられている。

住まう人種に統一感がなく、時々、甘いマスクを長い髪で隠す、日本人にしては彫りが深い、少し幼い面影が印象的な青年が自分の愛車を磨きあげている姿や、大きな蒼い目が美しい華奢なフランス人の少女が、ベビーカーを押して散歩に出かけようとしていたり、紅い髪と長い鼻、派手な服が街の景色と浮いているアメリカ人青年が、鼻歌まじりにテラスで煙草を吸っている姿が見られた。

たまに聞こえる家族の会話らしきものは、フランス語、ドイツ語、英語、その他の言語が入り交じり、この極東の島国には似つかわしい、異国情緒あふれる謎の多い屋敷。

この洋館に移り住んで、まだ1ヶ月と経っていなかった。







翌朝、ギルモア博士が調合した点滴を受けたことによって、熱もひき、調子がよいので昼から起きあがろうとしたが、そのまま安静にしているようにと言い渡されたために、大人しくベッドの中にいたフランソワーズは、昨日の熱に浮かされいた時に、自分に心地よい安心感を与えてくれて人を想った。なんとなく、あれは009だったのではないか?と、確信に近いものを持ってはいたが、自分がベッドに寝かされた後の「あの」甘く柔らかな感触は、紛れもなくキスだった。



ーーーまさか。あり得ない!




あの009が、自分に優しく触れ、しかもキスをするなんて!!
けれども、あの声は・・・あの優しい、自分を労ってくれるあの声は。確かに009の声だった。



ーーー・・・・すぐによくなるよーーー



頭の中で、何度も「あの声」を思い出す。
また熱がぶり返したかの様に、顔が熱くなり、手足がしびれるような感覚に陥る。
胸がドキドキと早鐘をうち、自分の心臓の早さに躊躇する。



ーーーどうしよう。


フランソワーズはずっと同じコトを繰り返し、繰り返し考えていた。
そんな時に、がちゃり、とノックもなく部屋の扉を開ける音が聞こえた。
驚いて、ベッドから跳ね起きるように上半身を起こす。


「お!わりぃ、寝てるかと思ってよ・・・起きたのか?具合どうだ?」


女性の部屋にノックもせずにドアを開けたことを詫びながら、ジェットが赤毛のツンツンとした彼独特な髪を揺らしながら、フランソワーズの部屋をのぞき込んだ。


「ふふ、大丈夫よ、もう熱はないの・・心配させてしまったわね?ごめんなさい」
「なに謝る必要なんてね~よ!まあ、元気でよかったじゃん」


ヒヒヒっと悪戯っ子のような笑顔をむけるジェットは、づかづかと彼女の部屋に入り、そしてそのベッドに腰をかけた。


「でも、珍しいな。お前が熱出すなんてよ、大分我慢してたんじゃね?」
「・・・そんなことないわよ?メンテナンスの後もちゃんと休んだのに・・・だめね、まだ日本慣れないのかしら?湿気も多いし」
「ふ~ん、確かにこの湿気はたまらんよな~!あ、そうそう!昼飯お前喰えるか?大人が用意してあんだよ」
「・・・そう、でも食欲があまりないの」
「なんだよ、そんなの関係ね~って、ちゃんと喰えよ、オレ持ってくるからさ」


そう言うとジェットはフランソワーズの返事など無視して、さっと部屋から出て行ってしまった。


「っもう・・・」


その夜。
熱が下がっていたのは昼の間だけで、再びフランソワーズは高熱のために寝込んでしまった。自分の躯が、自分のものではないように。



ただ熱い。



体中の間接がキシキシと傷む。
ノドがひりりと乾きを訴える。
自分は泣いているのでないか?と思うほど視界はぼんやりとした歪みを見せた。
耳の奥がちりちりと例えようもない妙な音を捕らえる。
それは熱のために狂ってしまった自分の聴覚を指す。

自分の肺から、喉を通って出される息が妙に熱いために、張大人が火を出すときはこんな感じなのかなぁ。と、フランソワーズはのんびりと考えてしまった。


博士が様子を診に来てくれたとき、「おかしいのぉ・・・」と不安げに呟き、再び熱であつくなった彼女の細い腕に新しい点滴を取り付けた。

リビングに戻ってきたギルモア博士の顔色は優れなかった。娘のように愛おしいフランソワーズの突然の発熱に、博士が一番苦しんでいるように思える。原因がわからない、と言う。風邪のような症状だが、それなら朝の分の薬で十分であり、このように再び前よりもひどい状態でぶり返すとは、博士自身が信じられないと言った。


「・・・精神的なもんかもしれんなあ、まだここにも馴染めんのかのう・・・」


哀しげに呟き、いつもよりも一回り小さくなったその背中を庇うように、ピュンマは博士を寝室で休むように促した。









####

長いドルフィン号での生活に終わりを告げた。

自分たちが居を構えるための必要条件がそろった、忘れられたように海沿いに立つ洋館をリフォームし、移り住んだ日は昨日のことのように思い出せる、が、すでに誰もが新しい邸になじみ始めていた。

広く、新しくなったその邸は、メンバーたちの各々に個室あり、10人が一斉に食事ができる大きなダイニングテーブルに、ジェロニモもが横になってくつろげる、大きな白い皮のソファのセット。張大人がフランソワーズと2人で立っても十分にゆとりある、収納を重視したキッチン。
地下への道は博士の書庫と研究室、そして3つのメディカル・メンテナンスルーム。特別に設えた邸内の道は海へと続く。そこは、ドルフィン号を隠すように作られた海の中の”専用”の出入り口。


誰もが先の戦いで疲れた体とこころを癒すために、この邸で静かに暮らしていた。


「精神的なものか・・・」


博士が呟いた言葉を、もう一度、確認するように呟いたアルベルト。
煙草を口に銜え、そしてすうっと深く肺へと吸い込み、ため息とともにはき出した。


フランソワーズの熱は下がらなかった、3日目の夜。
彼女は熱のために朦朧とした辛い現実の中にいた。







ここは彼女の愛したフランスのアパルトマンではなく、
兄はいない。

ここは、バレエの夏期スクールで過ごした楽しい寮ではなく、
親友のカトリーナは笑わない。

ここは、B.Gによって拉致された研究施設や実験施設でも、
用意されたバトル・フィールドでもなく、暗闇の中で膝を抱えて過ごした
冷たい部屋ではない。

仲間と共に過ごした狭いけれども、守られていると言う確信のある
慣れたドルフィン号の狭い部屋でもなく、
小さな堅い簡易ベッドが波に揺れることもない。


見慣れない天井に、馴染まない大きな柔らかなベッド、ふわふわと歪な枕。
そして真新しいシーツはまだ袋に詰められていたころのビニールの独特な香りが、彼女の熱のために汗ばんだからだにからみつく。


胸の中にふくれあがる不安と恐怖、そして痛みと哀しみ。




怖い。
ここは、どこなの?

怖い。
なぜ、私はここにいるの?


フランソワーズの熱に潤んだ瞳から、その熱にも負けないほどに
熱い涙が零れ落ちる。


彼女は自分の腕で自分を抱く。


そうやって堪えてきた。
そうやって励ましてきた。

今までも。これからも。そして永遠に。

孤独。


いつしか自分の耳にチューニングが狂った雑音と共に、嗚咽が聞こえ始める。
喉に突き上げてくる、空気の固まりが喉を鳴らす。

彼女の海よりも深い蒼い瞳は、淋しさを押し出すように流れ続ける涙は果てることもなく。

部屋に響く、フランソワーズ自身の泣き声。
切ないその孤独な声は、ベッドだけが置かれた部屋に響いた。


誰かが、私の背中をなでた。

誰かが、私を抱きしめた。

誰かが・・・・。





ーーーー 泣くなよ     どうした?
      


      なぜ泣いてるの?             ほら、大丈夫だよ。



                 辛い?    

 


                     熱のせいだね。




・・・・怖くないよ、誰も、君を傷つけたり、ひどい目に遭わすなんてことはないんだ。
     
     


               泣くなって          もう、泣く必要はないんだよ?

 


         熱がまた上がってしまう。     さあ、横になった方がいい。




     大丈夫、僕はここにいるから。

                       どこにも行かないし、そばに居るよ。
 
                ぼくはここにいるんだ。

 
     大丈夫。 すぐによくなるよ。
                     003・・・・

               泣くなよ。
 
        泣かないで。          フランソワーズ    

                もう泣かないで。








ーーーー009?


どうして、彼だと思ったのだろう?

彼は、戦闘中いつも私を庇ってくれていた。
それは私が00メンバーだから。
女だから。
生身に近いサイボーグだから。

けれど一度、戦闘を離れれば、彼は私との間に距離を置く。

彼はその腕に、私以外の女性を何度も守った。
その胸に、私以外の女性が何度も涙を流した。

私は生身に近くても、生身ではないサイボーグ。


あくまでも私はサイボーグなのだ。



彼は、平和な生活の中で私を見ない。
彼は、私と必要最低限のこと以外話さない。
彼は、戦う同志、仲間。



ーーーー009


そう。彼は最後で最強のサイボーグ戦士009


私の願望だ。
私の夢だ。
愚かな私の・・・。



声を聞き届け、そっと部屋に入ってくる。
冷たい水と氷の入った洗面容器にタオル・・・。
そしてよく冷やした飲料水のボトル。

そっとそれらを彼女のベッドサイドに置かれた安定しない簡易テーブルへ置く。

フランソワーズの部屋には他のメンバーよりも少し大きめのベッド。そして熱に苦しむ彼女の看病をするために置かれた、スチールイスと簡易テーブルのみ。開かれたままのクロゼットには、・・・彼らの身を保護するための深紅のそれと黄色のマフラー。そして、数着しかない貴重な彼女の普段着が申し訳なさそうに収められている。


ベッドの隅で小さく丸くなり、自分で自分を抱きしめながら、何かに堪えるように啜り泣く彼女の背中を、彼は遠慮がちに そっ となでた。



何度も。
何度も。




そして、ゆっくりと彼女の躯を包み込むように抱きかかえ、乱れた亜麻色の髪を整えるように、慈しむ。




繰り返し。
繰り返し。




熱で火照った彼女の躯が、可哀相で、辛そうで、そして愛おしくて。


彼には彼女がなぜ泣いているのか解らなかった。
何に怯え、何を恐れ、何を痛み、何を哀しんでいるのか。

彼女の涙を彼の胸で受け止める。
彼女の震えるからだを、彼の腕の中に納める。


ーーーだいじょうぶだよ、フランソワーズ    ・・・すぐによくなるよ・・・








====へ続く



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UP・2/26・08’
ちょっぴりお直し(6/16/08’)
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