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Day by Day・33
(33)

昼食をとって以来、ジョーはギルモア、イワンと共に地下に籠もったままであった。フランソワーズが作った”レーズンとナッツのパウンド・ケーキ”と、珈琲をトレーに乗せてピュンマが、夕食は張大人が地下の研究室へと届けた。
ミルクとオムツの時間になると、ふらり とクーファンに乗ってやってくるイワンは、何も語らない。





翌日。


ギルモアは昼近くになってから自室へと戻ったようだが、ジョーは地下の研究室に丸一日籠もったままだった。


「なんじゃ、ジョーはまだ地下か?」


夕食前にリビングに顔を出したギルモアは驚いたように言った。


「・・・博士、何かお飲みなります?」
「おお、フランソワーズ熱い紅茶を頼むよ・・・うむ・・・研究室に運んでくれるかな?・・できればジョーの分も頼むよ」
「ええ、博士・・・お夕食は今日も・・・?」
「いや、こっちでいただこうかのう・・・・・アレは楽しいしのう」
「とか、いいながら、博士は時間を忘れてしまうんですよ!」


ピュンマは持っていた本をテーブルに置いて、ぐんっと両腕を上げて伸びをした。ピュンマの言葉にギルモアは特徴ある大きな鼻をぽりぽりと掻いて、申し訳なさそうにする。


「いや、まあ・・・つい夢中になると、こればっかりは・・・」
「・・・お年を考えて欲しいアルねぇ」


ジャスミンティを入れた湯飲みを持ち、溜息交じりに呟く帳大人。


「なに、まだまだ儂は元気じゃ!やりたいことが多すぎて、時間がいくらあっても足りんわいっ」
「それでも、どうか休息のお時間だけはしっかり取っていただかないと・・心配です。できれば、このまま地下には行かずに、お夕食がすむまで、ゆっくりしていただけませんの?」


心配げに揺れる、フランソワーズの宝石のように魅力的な大きな瞳に見つめられては、ギルモアは何も言えなくなってしまう。


「そうする方がいい。博士。」

ジェロニモは視線でギルモアのために購入した、安楽椅子へ座ることをすすめる。


「紅茶をすぐに用意しますわ、ね?博士」


にっこりと微笑みながらソファから立ち上がり、フランソワーズはギルモアの腕を取って甘えてみせた。自分の娘以上に可愛がっている、目にいれても痛くないほどに愛しいフランソワーズに、甘えられるように言われてしまっては断ることができない。ギルモアは安楽椅子へと足を向けて、腰を下ろした。


「・・・誰か、ジョーを呼んできてやってくれんかのう」
「僕が呼んできます、博士」


ピュンマは立ち上がり、フランソワーズと並んでリビングルームを出る。キッチンへ向かう彼女と別れ際、一緒にジョーを呼びに行かないか、とフランソワーズを誘った。


「ほら、イワンもそろそろミルクの時間だろ?たまには”ママ”に迎えに来てもらったら嬉しいんじゃないかな?」
「そうかしら?・・・私、お茶の用意もあるのよ?」
「少しくらい遅くなったって博士は文句なんて言わないよ?」
「でも、変よ・・2人で呼びに行くなんて。1人で十分でしょ?」
「別に変じゃないよ!全然。どうして1人じゃないといけないのさ?別に2人でも5人でも全員でもいいじゃないか」
「・・・・美味しいお茶を淹れてリビングへ持っていくわ、そろそろ夕食用の電気プレートを出しておかないと・・・」


フランソワーズは止まっていた足を再び動かして、キッチンへと向かって歩き出した。ピュンマはその背に小さな溜息を吐いて、地下への階段を下っていった。







####



研究室のドアから零れる光。
ピュンマはドアをノックすると、内側からジョーの短い声が聞こえた。

「僕だよ、ピュンマ。入るよ?」

ドアの隣にあるセンサーパネルにロック解除のための暗証番号を打ち込んでから、ドアノブをゆっくりと回して研究室に入った。
ギルモア邸のリビングルームより少しばかり広い研究室は、ギルモア、そしてイワンが開発した世に出ることが許されるない、機械(もの)たちが壁となり、床となり、動き続けている。どれが一体何の役目を果たしているのかピュンマ自身にはまったく理解できないが、補助脳の助けによってある程度は判る。

ギルモアの研究室にある6台のコンピューターの一台”α”alphaに座り、何かのデータを打ち込んでいるジョーは、これら全てを把握できているのか、訊きたくなってくる。


「・・・ロックしてるなんて珍しいね?」
「・・・・・・一応」
「ずっと、ここに籠もって・・・みんな心配してるよ?」


ジョーの背後に立ち、ピュンマはモニターをのぞき込んだ。


「イワン、そろそろミルクの時間だろ?ピュンマに上に連れて行ってもらったら?」
「ジョーもだよ。そろそろ夕食の時間、今夜はジェットがリクエストした、ほら、アレ。」


ふよふよと、研究室内で浮いていたクーファンが すううっ と、ピュンマに近づき、クーファンの中からイワンが躯を起こした。


<”γ”gammaニ でーたヲ 分析 サセル 間、夕食デ イインジャナイ カナ? 博士モ ソノツモリ デ 戻ッテ コナイ ミタイダヨ?>
「フランソワーズのお願い、は絶対だからね」


ピュンマはイワンにウィンクする。


「”γ”にデータを送った後に、”δ”deltaでこっちを再構築させる・・・し、できれば、コズミ博士が来る前に終わらせたいんだ」
「・・・ジョー、何か・・」
「詳しくは明日、コズミ博士が調べてくれていることを訊いてから、だ」
「・・・・・・・そう、上手くいくかなあ?」
「?」


ピュンマの含みのある言葉に、ジョーはやっとコンピューターのモニターから目は離してピュンマを見た。


「ジョーはずっとここに居たから、昼間の電話。誰からか知らないんだよね?」
「・・・・・電話?」
「コズミ邸から」
「!」
「博士はね、車で来るらしいよ」
「・・・・迎えに行くから、だろ?」
「うん。ジョーが行くってなってたよね?でも、その必要がなくなったんだ」
「・・・・・どうし、て?」


「さくらが運転してコズミ博士をここまで連れてくるから」


ピュンマの一言に、ジョーは夕食に出ることにした。






####


フランソワーズが用意したお茶はダイニングルームに運ばれ、ジョーとイワンがピュンマに呼ばれて地下の研究室から出てきてから、10分ほどで夕食が始まった。
野菜類は張大人の見事な包丁さばきで適度な大きさに切られ、肉は種類ごとにきちんと皿に並べれた状態でテーブルに並び、10人が余裕で席に着くことができるダイニングテーブルに置かれた、2台の大型電気プレートは十分に温められていた。


「生は駄目ネ!しっかり焼くアルよ!」
「博士。肉焼けた。」
「牛タンは・・・まだのようじゃの」
「ジェット!こっちに肉の皿を渡さんかいっ!」
「ピーマンがええのう」
「博士。これ、焼けている。」


プレート1を使用するのは、張大人、ジェロニモ、ギルモア、そしてグレート。


「ああっ!それ僕が焼いてた肉だよっ・・・自分で焼いてよっ・・・で!野菜も食べなよ」
「肉!そっちの皿の肉って、何の肉だ?あ!!オレの皿に野菜乗っけんじゃねぇ!」
「タレは?・・あれ?これ甘口だよっ醤油味は?」
「・・・・ピュンマ、こっちが醤油味のタレ」
「あ。ありがと」
「焦げるぞ?・・・ジョー、皿を貸せ」
「・・・・いいよ、そんなに」
「肉は今、喰っておけ・・・アイツが全部喰う前に」
「・・・・煙がすごい、な・・・キッチンの換気扇はつけてる?」
「窓はさっき開けたんだが・・・臭いがリビングの方にいくかもしれんな」


プレート2は、ジェット、ピュンマ、アルベルト、ジョー、そしてフランソワーズ、だった。


「おっせぇな、フランソワーズのヤツ!」
「・・・」
「30分は戻ってこれないよ、って・・・ああ!そんな焼き方しないでよっまだ、こっち焼けてないんだから!」
「博士。キャベツとモヤシ良い感じだ。」
「うむ。牛タンもじゃ。」
「我が輩のカルビの皿はっ?」
「レバーは体に良いアル!刺身にレモンかけるネ」
「リビングルームか?・・・こっちでミルクをやればいいだろう?」
「・・・・煙がね・・・それに五月蠅いし、あ。ナス・・・もらって、いい?」
「辛口タレ、どこだ。」
「・・・ここにある、よ。ジェロニモに渡してくれる?」
「椎茸が焼けたな」
「アルベルト、こっちの野菜食べる?」
「もらおうか」
「ハラミはどれだよっ!ハラミ~~!ハラミっ」


今夜のギルモア邸の夕食は”焼肉”。
張大人が買い出し先で知り合った肉屋の主人から、安く大量に仕入れた様々な部位の肉。それを知ったジェットは、どこで訊いたのか、「日本の夏はビールと焼肉らしいぜ!」と、言った彼の一言に、「夏はまだ先だ」と、言う声が届くはずもなく・・・夕食のメニューが決まった。






####

フランソワーズは膝にイワンを乗せてミルクを与えながら クスクス と笑う。

愛らしい、マシュマロのように ふくふく と柔らかなイワンの頬がミルクを吸う力に上下して、小さな紅葉の手は、より小さくなって握り拳を作っている。一生懸命にミルクを飲むイワンを見つめながらフランソワーズは、ダイニングルームから聞こえる仲間達の声に、笑いがこぼれてしまう。。


「慌てないで、ゆっくり飲んで・・・夕食後にミーティングだって言っていたけれど・・・お酒がはいってしまって大丈夫なのかしら、ね?」


ジェットとグレートがお茶の時間の後に冷蔵庫へ大量のビール缶を詰め込んでいたのを知っていた。
哺乳瓶のミルクを最後の一滴まできちんと飲み終わったイワンは、フランソワーズにテレパシーで話しかける。


<ゴチソウサマ>
「・・・・お腹いっぱいになった?」
<ウン>
「一緒にダイニングルームの方へ行く?・・・ものすごく煙が出ていたけど、大丈夫かしら?」
<休ミタイカラ ココ ニ イル ヨ>

フランソワーズは用意していたタオルを肩にかけ、イワンを立て抱きにして慣れたように背中を優しくたたいた後、もう一度フランソワーズは膝の上に抱き直した。

「イワン、少し眠るの?」
<・・・ソウダネ、2,3時間モシタラ 起キルト 思ウ>
「ここじゃなくて、向こうのお部屋にいきましょうか?」
<ココデ イイヨ・・・みーてぃんぐニハ、参加シタイ>
「その前に、お風呂に入って欲しいかしら・・・」
<エ?>
「昨日、ずっと地下だったでしょう?」
<・・・・汗ヲカイテナイカラ、イイヨ>
「だめよ」

フランソワーズはイワンの頬をつんっと人差し指で突いた。

<・・・・>
「キチンと清潔にしてないと、だめ!」
<ふらんそわーずノ 分ノ 夕食ガ ナクナル ヨ?>
「あまり食欲がないの」
<焼肉ダヨ?>
「あら、イワン。”焼肉”って知ってるの?」
<知識トシテネ>
「私は、”お鍋”の方が好きみたい」
<・・・ドウシテ?>
「だって、落ち着かないわ・・・誰が焼いただの、何が焼けただの・・・」
<楽シソウダヨ?>
「・・・・・そうね・・・でも、それ以上にイワンと一緒にお風呂の方が楽しいと思うわ!」
<一緒!?>
「そう!イワンくらいなら、普通のお風呂に一緒に入っても大丈夫なんですって。インターネットで読んだの。ね?私もたまにはゆっくりと湯船に浸かりたいわ。一緒に入りましょう?せっかく大きなお風呂があるんですもの。男性陣ばかりが楽しむのは、ずるいと思わない?そうしましょう、ね!」


フランソワーズはイワンの返事を訊かずに、彼をクーファンに寝かせると、「お風呂の準備をしてくるわ」と、自室へ戻っていき、5分もしないうちに、着替えや自室に付属しているバスルームから色々な物を持ってリビングへと戻ってきた。


「さ、後はイワンの着替えを用意すればいいだけよ、もう少しまっていてね」


焼肉の独特な臭いと煙が広がったダイニングルームを急ぎ足で通り過ぎ、1階のコモンスペースに置かれたイワン用のタンスから、彼の着替えに、替えのオムツを用意して、1階バスルームに置いてからもう一度リビングルームに戻っていった。

ぱたぱた と、ダイニングルームを通り過ぎていくフランソワーズに、夕食の席に着いている、イワンを覗いた男性陣全員の頭上に?マークが飛び交う。
次ぎにフランソワーズがダイニングルームに姿を現したとき、彼女の腕にはイワンが抱かれていた。

フランソワーズは足を止めて、その場にいる全員に言葉をかけた。


「イワンと一緒に1階のお風呂を使わせてもらうわね」
「なんじゃ、ちっとも食べておらんじゃろう?」
「そんなにお腹が空いてないみたいなんです、博士。イワンをお風呂にいれるついでに、私も一緒にと思って・・・」
「「「「「「「「「「一緒?!」」」」」」」」」
「そうよ、ベビーバスを卒業するの、ね?イワン」


フランソワーズがイワンにむかって微笑んだので、その場にいた全員の視線がイワンに集中する。それらの視線が心地よくないせいか、イワンはむずむずと躯を動かした。それをフランソワーズは焼肉の強い臭いと煙のせいだと思いこんで、「先にお風呂をいただいてきます」と言い残し、早足でダイニングルームを出て行った。

イワンの次ぎに全員の視線が、ジョーに注がれた。


「・・・・?」
「ジョー・・・」
「なに?」
「・・・あ。に、肉が焦げるよっ!」
「こっちの野菜っ誰か食べるアルかっっ?」
「もらおう。」
「博士っタレは足りてますかなっ?」
「おお、あ、グレートその、甘口を取ってくれんかのっ?」
「赤ん坊の免罪符っイワンのやろうっ上手くやりやがったぜっ!博士、イワンって念写できたっけ?」


プレートの上で焦げかけた肉を、手早く自分の皿に載せながらジェットはギルモアに向かって言った。


「念写か?・・・ふうむ・・・イワンならできるだろう。させたことはないのう・・・彼が捕らえたイメージを君たちの補助脳へデータとして送ったりはしていただろうが・・・、純粋に画像として、それらを映し出すことは、どうじゃろうなあ・・・ふむ・・・念写か・・・」
「博士、この鳥頭の言葉は、忘れた方がいいです・・・ろくなことを考えてませんから」
「いや、アルベルト・・・イワンの能力は未知数じゃ、念写か・・・。どんな小さなことでも、イワンのためになることは、考えるべきなのじゃ」
「そうだぜ!イワンのためだぜっ!博士っやってみようぜ!」
「・・・・ふむ」
「何を念写させるアルか?」
「決まってんだろっ!イワンが見たフランソワーズのっっ」


テーブルの下でピュンマがジェットのスネを蹴り上げた。
アルベルトがジェットの頭を拳で殴る、と同時にグレートがタコに変身してその口を塞いだ。


「・・・ふむ・・・・・イワンの目にどういう風に周りを捕らえているのか、もしくは・・彼の予知能力のヴィジョンと言うものが・・・ううむ。興味深いのう・・・手始めに、そうじゃのお・・・フランソワーズを念写させてみせるかのう」
「「「「「「博士っっ」」」」」」
「ヌードとは言っておらんっっ!!・・・・・ま、それでもかまわんが、お前達には見せんぞ?嫁入り前の大切なフランソワーズの、そんなものをっ見せるわけがなかろうっ!」

ふんっと鼻息で会話を一蹴したギルモアは、ジェットの言った”念写”について、不謹慎な考えではなく、研究者の立場から色々と考え始めた。

「ジョー」
「・・・・・・え?」
「生だぞ、焼かないのか?」
「・・・・・・・・・・あ」

ジョーの取り皿に置かれた生肉に生の椎茸。彼は無言でタレにまみれてしまったそれをプレートにおいた。プレートの熱でぶくぶくっと泡が立ち蒸発していくタレが、焦げてプレートにへばり付く。


<意外とムッツリだな>
<絶対に口に出したら駄目だよ、灰になる!>
<ぜってぇ想像してたぜ!アイツっ>
<ジョーも男だったてことだなあ>
<当たり前ネ!興味ない方がおかしいアルよ>
<フランソワーズの後、誰が風呂入る。>
<<<<<<!!>>>>>>
<・・・・・ミンナ H ダネ。コレダカラ 大人ッテ・・・>









####


「イワン?」


イワンを抱いて湯船につかっていたフランソワーズは、ピクリとも反応しなくなったイワンに驚いて、小さな体を少しばかり揺らした。

<ゴメン。チョット、”ムコウ” ト 会話シテタ>
「向こう?」
<ソウ。戦士デナイ トキ ハ、タダノ ショウモナイ 男タチ ダネ>
「ふふ、イワンったら」
<ミンナ、気ニシテルンダ、僕ガふらんそわーずト オ風呂ニ 入ッテイル ノヲ ネ>
「どうして?・・・変かしら?・・・確かに、私の国では赤ちゃんや、自分の子どもとプール以外で一緒にお風呂に入ることはないわね。一歩間違うと犯罪者にされちゃうわ!・・・でも、とても素敵だと思わない?家族でお風呂に入るなんて・・・日本の”大衆浴場文化”って素晴らしいわ。・・・・・・いつか”温泉”にも行ってみたいと思わない?屋外にお風呂があるのを、”露天風呂”って言うのよ?季節を楽しみながら入浴できるなんて・・・・・素敵・・」

ふわふわとした銀色に近いイワンの髪が、湯船につかる前に洗髪されて、頭の形にぺったりとひっついていた。イワンが逆上せないように気を付けながら、フランソワーズは片手でしっかりとイワンの躯を抱いて、もう片方の手で湯を掬うと、イワンの首、肩、そして胸にそろそろと湯をかける。


<ふらんそわーずハ 日本ガ 好キ ナンダネ>
「ええ、とっても・・・とても素晴らしい文化を持った国よね」
<ズット ココ ニ イタイ?>
「・・・・・・さあ、どうかしら?」
<フランス ヨリモ 日本ガ イイ?>
「較べるものじゃないわ・・・私はフランスで生まれて、育ったのよ?」
<・・・生キテルヨ>
「・・・知ってるわ」
<居場所ハ・・・ふらんそわーず、僕ハ イツデモ 教エテ アゲラレル>
「ええ、前にもそう言ってくれたわよね?・・・確か、B.Gとの戦いが終わって・・・今後のことを話し会っている時に」
<幸セニ暮ラシテイル>
「・・・・・ええ、あの時もそう言ってくれたわ」


フランソワーズはイワンを、抱きしめた。


<・・・・ふらんそわーず?>
「・・・・・・言わないで、お願い」
<ゴメン>
「・・・・・・・・・・・・イワンは、どこにも行かないわよね?」
<僕ノ オ父サン ハ ギルモア博士、ダヨ>
「・・・・私もよ」
<デモ、おじいちゃんッテ 言ッタ方ガ、イイヨネ?>
「そうね、おじいちゃんの方が、自然かもしれないわね・・・怒るかしら博士・・?」


イワンの躯をそっと離して、フランソワーズは優しくイワンの頭を撫でた。


<僕のママは・・>
「私でいいかしら?」
<ふらんそわーずジャナイト、嫌ダヨ。・・・ぱぱハ・・・・>
「人もいるじゃない、素敵なパパたちが・・・」
<チョット嫌・・・>
「あら、贅沢なイワンね!」
<僕ニ ダッテ 選ブ 権利ガ アルト 思ウヨ!>
「んふふ、誰がいいのかしら?」
<僕ニ ふらんそわーずノ ぬーどヲ 念写 サセヨウト スルヨウナ ぱぱ ハ イラナイヨ>
「?!」
<結局、ミンナ タダノ 男ダネ>
「っっっっっ誰がそんなこと言ったのっ!!!!」
<博士>
「ええっ?!」
<・・・・・発言者ハ、じぇっと>
「・・・」





####

湯冷めさせないように、手早くイワンの躯を拭き、粉をはたいて、オムツをつける。白地に青の水玉模様のパジャマを着せ、イワンの頭をフェイスタオルでターバンのようにクルリと巻いた。


「ふふ、可愛いわよ、イワン」
<・・・・ソウ?>
「ちょっと、待っていてね」


バスタオルを躯に巻いた状態だったフランソワーズも自分の身支度をさっと整えた。シェルピンク・カラーの、フランソワーズには少し大きいサイズに思われる、長袖のトレーナーは彼女の太腿までの長さがあり、左胸元には赤い糸でハートの刺繍が小指の爪くらいの大きさで一つだけ施されていた。グレーの膝頭が隠れる長さのレギンスの裾には細いレースが付いている。


「イワンとおそろい♪」

フランソワーズも、自分の濡れた髪をクルリとタオルで巻いて見せた。
イワンはふわりと浮き上がり、フランソワーズの腕に抱かれる。フランソワーズの髪を隠したタオルを見上げるようにして見て、イワンはニッコリと笑った。


<一緒ダネ>
「ね!」

イワンは小さな腕を伸ばして、フランソワーズの首にきゅうっと抱きついた。フランソワーズもイワンを優しく抱きしめた。
湯船で温まったイワンの躯の温かさに、石けんの香り。マシュマロのように柔らかな頬を首元に感じながら、フランソワーズはイワンの背を優しく撫でる。


「もう、夕食は終わったかしら?」
<ミンナ りびんぐ・るーむ ニ 移動シテル>
「テーブルの片づけは、まだ?」
<ミタイダヨ>
「・・・・ミーティングは、始まってるのかしら?」
<マダダヨ>
「イワンはもう、これから何が起こるのか知っているのね?」
<・・・・・少シダケ・・じょート博士ニハ、話シタヨ>
「また、始まるの・・・?」
<始マルカモ、シレナイ。始マラナイ、カモ シレナイ。ソレハ、マダ ヨク ワカラナイ・・・・デモネ>
「?」



<ミンナは 大切ナもの ヲ 見ツケル>







####


夕食の後片づけもそこそこに、リビング・ルームへと場所を移し、たわいない会話をしながら徐々に本題へと入っていく。


「明日の2時にこちらへ着くように、俺がコズミ博士を迎えに行く予定だった、だろ?」
「今日の昼間に電話があったんだよ。コズミ博士から・・・」
「・・・なぜ、知らせなかったんだ?電話を受け取ったのは誰だ?」
「ワタシが電話受け取ったアルネ。・・・・コズミ博士、とても申しわけなさそうに、何度も謝っていたネ」
「メールで、儂も知った・・・こればっかりは仕方がないわい・・・・無理に拒めば怪しかろう?」
「博士・・・しかし、さくらが来たら全員でミーティングは不可能です」
「来てすぐに追い返すなんてこともできんしなあ・・・」
「ッて、言うかよ・・・・それほどの”問題”になってんのかよ、ちゃんと説明しろよ、ジョー」


ジョーは安楽椅子に座るギルモアに視線を向けると、ギルモアは静かに頷いた。


「イワンと、フランソワーズがまだだ、様子を見てくる」


ジョーとギルモアの様子から本格的に話しが始まることを察して、アルベルトがソファから立ち上がったとき、ふよふよと浮いたイワンが、リビングルームに現れた。
ジェロニモが手を伸ばして取ったクーファンは彼の膝に置かれ、そのクーファンの中へと小さな躯を横たえた。

<今、ミンナノ 分ノ 紅茶ヲ 用意シテルヨ・・・会話ハ 僕ガ フランソワーズに 送ルカラ 始メヨウ>

 
ジョーはちらり、とダイニングルームに続くドアを見てから、薄く息を吸い込み、009として話し始めた。リビングルームの空気の色が静かに変化していく。


「結果から言う。コズミ博士が学会外で行われた”交流会”で手に入れた資料は、B.Gの物だった。これらがどこから流れてきたかは、コズミ博士が懇意にしている教授を通して知り合った、”交流会”に出入りしている学生から情報を提供してもらえるように、働きかけてもらっている・・・。その辺は明日、より詳しく判ると思う。今のところ、闇市(ブラック・マーケット)からの流出と、考えている。どこの闇市(ブラック・マーケット)からかは、まだ判っていないけれど・・・資料がごく個人的な物であるメモや筆跡を残していたことから・・・」
「個人の持ち物だったのか?」
「B.Gの研究所からの流出ではなく、”B.Gの研究所に勤めていた一個人の資料”が正しい、と思う」
「その研究員が、売ったってことかな?」
「・・・まだ判らない」


ダイニングルームへと繋がるリビングルームのドアが静かに開いた。


「B.Gの規模の大きさは把握できとらんのじゃ・・・いったい、どこからがB.Gで、どこまでがB.Gであるのかのう・・・大元は失っても・・・影に魅入られた者たちは、いまだ影として活動しとるんじゃ」


テーブルの上に置いたトレーから、人数分のティカップを並べ、レモンを乗せた小皿、ミルクポット、ハチミツの瓶、そしてシュガーポットをテーブルに移して、フランソワーズは再び立ち上がりキッチンへと戻っていく。


「全部が全部、B.G経営だったとは思えないアル・・・提携していたり、協力していたり・・・色々な形でB.Gと関わっていたトコは、B.Gが消えても、残したモノを取り込んでいっぱい悪いコトするアルネ・・・」
「組織的な動きが見られるのか?」
「いや・・・今回はそういう感じではない様子・・なんだ。ハッキリとは言えないけれど」
「009,その流出したってえ、内容は・・・004から、ちいっと訊いたんだが・・」
「そう、それだ。・・・・理論的に可能だがけれども、実際にはどうだろうか。と、言うところで止まっているらしい、・・・ですよね。博士」
「そうじゃ。・・・・今の状況では”実験”する以前の問題じゃ・・・しかし、そのアイデアに、理論と方法を与えてしまったんじゃ。時間の問題かもしれんわい・・・・まったく、困ったもんじゃよ・・・・感覚・知覚機能と言うものを失わせることが、どれほど恐ろしいことか・・・確かに、様々な点に置いて、それは素晴らしいことかもしれんが、それ故に逆の可能性も広がっていくのじゃからな」


キッチンから戻ってきた003は、トレーに乗せた2つのポットをテーブルに置いた。


「広まってしまったものは、仕方ない。」
「そうじゃな・・・」
「どこからその情報が流出したのか、突き止めないといけないね」
「他にもあるのなら、それらを全て回収したい、と思う」
「今んところ、それだけってことかよ?」
「コズミ博士からもらった資料、だけの話しだと、そうなる」
「回収だけじゃあ、つまんらんぞ?」
「一個人の資料の流出。が現状況だから、組織的なものが見えたら・・・もちらん。だ」


ポットを持ち上げて、ひとつ、ひとつ、ティカップに紅茶を注いでいくと、リビングルームに淡く紅茶の柔らかな香りが広がっていった。


「どう、動くつもりだ?009」
「より詳しい情報が必要だ・・・まずは、”交流会”と闇市(ブラック・マーケット)について。そして研究員の身元を知りたい。それと同時に、もう少し資料を詳しく分析していくつもりだ。まだ解読していないメモや、走り書きの跡があるから・・・個人情報に繋がるといいんだけれど」


人数分のティカップに紅茶が注がれて、それを順に配っていく。各々にそれを受け取って、自分好みにレモンやミルクを入れていった。


「ヤバくねえか・・・さくらが来んの、全員でコズミ博士とミーティングってのは、無理だぜ?こんな話し聴かせられねえだろ?」
「今さら断るのは、不自然だ。」
「005の言う通りじゃ・・・・これからはこういうことも頻繁に起こるかもしれん・・・そうじゃと思わんか?お前達は、これからどんどん一般社会にとけ込んでいくんじゃ、少しずつであっても今までのようにはいかんことも、多くなる。わかるじゃろう・・・?」
「どうしたもんかねえ・・・」
「僕は・・・」


スライスされたレモンを一つ、紅茶に入れた008が呟いた。


「僕は、普通にしていたらいいと思うよ・・・意識する方がおかしいよ。さくらが来たって、やることはやらないとね。それに、コズミ博士の話しを全員で聴かないといけない理由もないし・・・さ」
「ピュンマの言うとおりだ。誰が来ようと、関係ないだろうな・・・オレ達のやることはかわらん」
「さくらさんがいらっしゃってる間、001は・・・」
<イツモ通リ、地下ノ研究室ニ イルカラ 心配ナイヨ>
「・・・・001の、ミルクやオムツ、必要な物は地下に用意しておかないと、な」
「このまま、さくらさんには001の存在を隠したまま・・・なの?」
「付き合いが長くなればなるほど、不自然だろう?」
「わかっているわ、でも・・・」
「003の気持ち、解るアルネ。でも、これはみんなで決めたことアルよ、イワンも納得してるアルネ」
「・・・ええ。そうだけど」
「地下に籠もらせるのが不憫に思うなら、003,001と一緒に出かけるかぁ?どうだ?」
「え?」
「全員ここに居たってぇ、意味がないみたいだしなぁ、どうだろう?001と003、そして他の誰かと一緒に観光にでもでかけちまうっていうのは?」


007の意見に、しばしの沈黙が流れたが、すぐに002がその意見に賛成した。


「いいじゃんか、それ」
「001が一緒だから、何も心配ないネ!」
「そんな・・・遊んでなんかっ」
「遊びじゃねえっつうの、これもミッションだぜ?なあ?」
「いいんじゃないか?・・・はとバスでも乗ってこい」
「アルベルトまで!」
「いいアルネっ003はあまり外でないネ!001も同じアル、2人で行ってくるヨロシ!!」
「うむ。どうじゃ、イワン。フランソワーズと観光でもしてくるか?」
<楽シソウダネ。ソウイエバ、寄生虫博物館ッテ アルラシイネ>
「あ、そこ!僕も行きたいんだよっいいなぁ・・・・」
「おいおい、イワン、ムードがないねぇ、そんなこったあ将来モテないぞ?」
<・・・・スケベなコト シカ 思イ浮カバナイ 大人ヨリ イイト 思ウ>
「「「「「「「!?」」」」」」」」
「・・・・寄生虫博物館で見たものを”念写”したらいいんじゃないかしら?」
<ウン、博物館中ノ寄生虫ヲ映シ出スヨ・・・・トッテモ詳細ニネ>
「得に、ジェットは喜んでくれそうよね?・・・・ねえ?ジェット・・・」
「えprjsぴgっdそgjげbう゛ぁgjdあhtっっっっっっっ!イワンってめっ!!!」
「ジェットは、とってもイワンの”念写”能力に感心があるみたいだから・・・しっかり映し出さないと、ね?イワン」
<じぇっとノタメニ、僕ハ ガンバルよ!!絶対ニ、観テヨ じぇっと>
「~~~~~~~~っっ!!」
「・・・・・イワンが一緒でも、2人だけと言うのは・・あと1人か2人一緒に行ってもらいたい」


紅茶を飲み干して、ジョーは静かに言った。フランソワーズは空になったジョーのティカップに紅茶を注ぎ足すかどうか、ジョーに視線を向けると、彼はそっとティカップをフランソワーズの方へ移動させたので、フランソワーズは2杯目の紅茶をティカップに注いだ。


「じゃっ僕が行く!・・・ジョーも行こうよっ」
「・・・・俺?・・・は、コズミ博士の話しを訊きたいから残る、今調べていることも続けたい」


2杯目の紅茶を受け取りながら、ジョーは言った。


「我が輩がお供しよう!」
「グレートとピュンマで十分だな、イワン、フランソワーズ、遊んでもらってこい」
「その言い方、私がまるで子どもみたいじゃない?」
「オレから観れば、ガキンチョだからな」
「っ失礼ね」
「そう言うなら、少しは女っぷりを上げたところを見せてもらいたいね」


軽口をたたき合い始めたアルベルトとフランソワーズを止めるかのように、ジョーは口を開いた。


「明日は4人が外出、行き先は・・・自由でいいけれど、連絡を怠らないようにしておいて欲しい。コズミ博士の話しの内容次第では、すぐに戻って来てもらうこにとになるかもしれない。コズミ博士が来るのは明日の2時だ。ギルモア博士とオレはコズミ博士と一緒に地下の研究室で話し合うことになると思う。イワンのこともあるから、外出組はコズミ博士が来る前に・・・駅までオレが車で送る、よ」
「お、そりゃあ、助かるな!」
「じゃあ、昼前がいいね。昼食は外食しようよ!・・・11時くらいかな?」
「それくらいがいいわね」
<ジョー、今日ハ 寝テヨ。運転ヲ 君ガ スルンダッタラ、徹夜明ケノ 運転手ノ 車ナンテ乗リタク ナイヨ>
「・・わかっている、よ。イワン」


明日の予定が立ったところでミーティングは終了し、張大人とフランソワーズが夕食の後片づけのためにキッチンへ戻り、ジェットはリビング・ルームに残されてた、みんなが飲み終わったティカップなどを、片づけていた。フランソワーズにたいする謝罪のつもりなのかもしれない。


「・・・・ジェット?」
「なんだよ?」
「言わない・・の?」
「まだ、わかんねぇだろ?・・・・やっとこさパスワード入手するためのメルアドをゲットしたとこだぜ?」


リビングルームにジェットと共に片づけを手伝うピュンマの2人だけだった。


「・・・そうだけど、さ」
「あっちと、こっちが繋がってるって言う保証なんてねえんだしよ、ややこしいことにしたくねぇ」
「時期が合いすぎるよ・・・」
「オレも、そう思うけどよ・・・・・・。もしも、もしもだ。その”一個人の資料”の”個人”の名前が・・・よ」
「トーマス・マクガーだったら、繋がる・・・ね」
「いいか、ピュンマ明日まで、コズミのジーさんの情報を待つんだぜ?・・・オレたちが見つけたことなんてもんは、もしかしたら、ただの”お遊び”で・・・架空のものかもしんねえんだ・・・今日中にメールを送って・・・手に入れてみねえとな」
「・・・サイボーグの”設計図”をね・・・・・・・」
「知覚・感覚機能を一切排除する、それと、設計図・・・・あぶねえな・・」














====34 へ 続く

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