RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
Day by Day・35
(35)



ギルモア邸のキッチンで、張大人が悩んでいた。
そろそろ夕食の準備を始めたいのだけれども、外出組の4人はどうするのだろうか?コズミ博士とさくらには是非、自慢の腕を披露したいけれども、地下の研究室に籠もったままのジョー、ギルモアそしてコズミの分は地下へと運んだ方がいいのだろうか?

張大人の悩みを見透かしたように、アルベルトはキッチンでうん、うん唸る、張大人に声をかけた。


「外出組は、喰って帰るらしい」
「あいやぁ!アルペルトっ連絡あったアルか!」
「・・・・アル””ルトだ。・・・・ああ、さっきピュンマから、だから奴らの分は必要ないぞ」
「ふむふむ・・・地下の3人はどうするアルかねえ?」
「このままだと、困るな」

アルベルトが、彼らしくもない雰囲気で溜息をついた。

「どうしたアルか?」
「落ち着かんだけだ」
「まあ、仕方ないアルね!」

ゲームキャラクター達が叫ぶ、必殺ワザに決めセリフが、大音量でビングルームだけでなく、キッチンにまで届いてくる。ジェットが自室から持ってきたゲーム機をリビングルームのテレビに繋げ、今、ジェット、さくら、ジェロニモの3人で熱い戦いが繰り広げられていた。

「一度、様子を見に行った方が良さそうだな・・」
「ついでに、夕食はみんなと一緒かどうか、訊いてきて欲しいアルネ!」
「わかった、訊いてこよう」

いつもはキッチンの隣、ダイニングルームにあった収納室をを潰してつくった、地下への通路を使うのだが、あえてアルベルトはギルモアの寝室の隣にある別の通路から地下へと向かった。


階段を下り、研究室へ向かう廊下から話し越えが聞こえてきた。
声の方へと歩み寄っていくと、ちょうど研究室前に立つ3人の姿が目に入った。向こうもアルベルトに気がついたようで、彼の方へと振り返る。

「お疲れ様です・・・。終わったんですか?」
「おお、アルベルトくん」
「コズミ博士、お疲れ様です」
「なんじゃ、何かあったのか?」
「様子を見に来ただけですよ。もう、いいんですか?」

アルベルトはチラリとジョーに視線を向けると、ジョーは静かに頷いた。その表情からは彼らがどのような話しをしたのかは読み取れないが、しかし、彼の態度や落ち着き具合から、事が急ぎの物ではないことが解る。

「長いことスマンかったね、さくらは、退屈しとらんかな?」
「今、燃えてますよ」
「!さくらが料理でもしたのかっ」
「い、いいえ・・ゲームで熱戦中と、言うことです」

コズミの慌て具合に、アルベルトはくすり。と嗤った。本当にさくらは料理がダメなようだ。

「張大人が腕を奮ってくれるようですから、上に行きしょう」

アルベルトは、自分が先ほど使った方の通路へとコズミとギルモアを促して足を進めたが、ジョーは研究室前に足を止めたままだった。ギルモアは、ジョーが自分たちと”上”へは戻らないことを知ると、やや強い口調で言葉をかけた。

「ジョー、少しは休みなさい。・・・一緒に来るんじゃ」

ギルモアの言葉にジョーは微笑んだ。が、その言葉を受け取らない、と言う意思を持って首を左右に振った。

「いいえ、博士。みんなに話す前に・・・自分の中で整理をしておきたいんです」
「そんなもんは、一晩あればいいじゃろ?ミーティングは明日でいい」
「・・・そうですが、スミマセン」
「島村くん・・・・今、きみが何をしても、進展することはないんだぞ・・わかっているはずだがねえ?」
「コズミ博士・・・・解っています。ただ、少し独りになる時間が欲しいだけですから。ギルモア博士、大丈夫です・・から」

コズミ博士はジョーの態度から、彼が絶対に意見を曲げないつもりであることを読み取った。ギルモアは、頭では解っていても、つい言葉を重ねて投げかけてしまいそうになるようで、口を開き変えたギルモアをアルベルトが止めた。

「コズミ博士、ギルモア博士、先に戻って下さい・・・」
「しかしなっ」
「ギルモアくん、いいじゃないか・・・ここは彼の言うとおりに・・・・旨い茶が飲みたくないかね?」

ギルモアはコズミの言葉に頷きながらも、心配そうにジョーへ視線をむけ、次ぎにアルベルトを見上げて、軽く息を吐いた。

「ジョーを連れてきてくれるか・・・?」
「・・・・腹が減れば、ヤツも折れますよ」

アルベルトの言葉に力無くギルモアは微笑んで、コズミと共に”上”へ向かった。


2人の背が見えなくなったところで、アルベルトは、早足に研究室へ戻ろうとしたジョーの頭を平手で、ぺしっと叩いた。

ジョーは後頭部に受けた軽い衝撃に、振り返る。

「バカか、お前は。ギルモア博士を心配させて」
「・・・・・・・心配させているつもりはないよ」
「事実、博士は心配しているんだ、つもりじゃないだろ?」
「・・ごめん」
「オレに謝っても仕方がないだろ?・・・謝るくらいなら、さっさと上へ戻るぞ?」
「・・・・」

ジョーは俯いて、アルベルトの言葉を聞いていないかのように、研究室へと入っていった。
アルベルトはジョーを追いかけて研究室へと入っていく。

6台のコンピューターを乗せたデスク意外に、2つのライティング・デスクが置かれている。一つはギルモア専用、もう一つはここでギルモアの仕事を手伝う者が使う。そのデスクの上に、コズミがもっていたアタッシュケースが置かれていた。

「お前らしくないじゃないか」
「俺らしくない?」
「・・・・ああ、そうだ。上に行きたくない理由でも、あるのかい?」
「・・・さっきも言ったように、コズミ博士の話しや、その他のことをちゃんと整理をして」
「言い訳はいい・・・男が仕事を色恋沙汰の言い訳にするなんて、情けないぞ」
「・・・言い訳になんかしてない、よ・・・事実を言ったまでだ」
「事実か?なら、少し休め。能率が悪い」
「・・・・・ここでも休める」
「上に戻りたくない理由があるんだろ?」
「・・ない、よ」
「ある、な」
「ない、よ」
「ある・・・・さくらだろ?」
「・・・・違う」

アルベルトは、”ζ”zetaのデスクチェアにどっかりと腰を下ろし、長い足を組んだ。
ジョーは立ったまま、起動中の”δ”deltaのモニターをチェックする。

「訊いたぞ」
「・・おしゃべりなヤツ、だ」

苦々しくジョーは口元を歪めたが、視線はモニターから外さない。

「今日は会わないつもりか?」
「・・・さあ」
「わざわざ、お前に会いに来たんだろ?・・・コズミ博士もそれを知っていて・・・」
「・・・・・知らない」
「ヒドイな」
「・・・・断った。それ以外どうしろって言うんだ、よ?・・・・」
「気持ち、わかるだろ?・・・・彼女が一生懸命になっている気持ちを、好きだと言う気持ちを・・今のお前なら・・・わかるから会い辛いんだろ?」
「・・・」

ジョーは隣の”γ”ganmmaを乗せたコンピュータデスクに異動して、そのデスクチェアに座ったために、アルベルトの視界からジョーが消えた。

「当たりか?」
「・・・」

機械音が静かに唸る中、お互いの姿を捉えることもなく、会話が進んでいく。

「腹、減らないのか?」
「・・食べなくても死なない、よ」
「ジョー」
「・・・・」
「好きになって、次はどうしたい?」
「・・・・」

アルベルトは組んでいた足を解いて立ち上がると、デスクチェアがその重みから解放されて、きしり、と音を立てた。

「今回の事がクリアになったら、オレは一度、国へ戻ってみようと思う・・・」
「・・・・・」
「短期間だけだが・・・様子を見て・・・・できたら、向こうで暮らしたい」
「・・・わかった・・・・いつか、誰かが言い出すと思っていた、よ」
「連れて行くぞ」
「・・・アルベルト?」
「陸続きだ・・・・・ジョー、オレは彼女を連れて行くつもりだ」
「・・・え・・・」
「ここに居ても彼女のためにならないなら、何も変わらないなら、オレはフランソワーズを連れてドイツへ行く・・・・ジェットも、似たような考えだ。お前もその方が楽だろ?」
「楽・・・?」
「フランソワーズがいないなら、以前のように”来る者拒まず”な生活が出来て、楽だろ?」
「っ!」
「それに、フランソワーズが言ったんでな・・・”置いていかないで”って・・・な風に」
「?!」

アルベルトが立ち上がった位置から、ジョーの栗色の髪が見えた。
その位置からはジョーの顔を見ることはできなかったが、彼の動揺は手に取るように伝わってくる。

「付き合いは・・・長いからな。1人で寂しい思いをさせるくらいなら、一緒に連れて行って、フランソワーズがしたいことを助けるつもりだ・・・・いいな?」
「・・・・っ・・・・・・・・わか・・た」
「いいんだな?」
「・・・・・・・彼女・・が、それを・・望むなら・・・」
「お前は、それでいいのか?」
「・・・・・・・・・・俺は・・・・」
「ジョー、お前はどうしたいんだ?」
「・・・・・」
「フランソワーズが好きなんだろ?想っているだけで満足か?・・・・・それなら、それでいい。想い続けて、一生片思いでいろ。美しいじゃないか・・・・究極の純愛を貫き通せ。その代わり、絶対にフランソワーズに、触れるな、手を出すな、邪魔するな、嫉妬するな、絶対に自分の想いを隠し通せ。・・・・・他の男がフランソワーズを手に入れることを受け入れるんだぞ・・・、黙ってな。徹底的に彼女の仲間で、家族で居続けるんだ・・・一生だ。誓えるなら、オレはもう、これ以上何も言わない」

ジョーは微動だにせず、黙ってアルベルトの言葉を聞いていた。
響く機械音だけが正確なリズムを刻み、低音で床に響く冷却用モーターがいつもより煩く感じる。

「・・・・・誓える、よ」
「・・・ジョー・・・・」
「・・・・・もしも、もしもだ・・フランソワーズを本気で愛し、護れる男が、彼女を・・・幸せにできる男が現れた、なら・・・・誓う・・・・・一生、俺は自分の気持ちを伝えない。仲間として、家族として・・・・ずっと彼女を見守り続ける、よ・・・・・・」

アルベルトは深く溜息をついて、ジョーの背後に立ち、平手で彼の頭を先ほどよりも強く叩いた。

「オレは、そんなセリフが訊きたくて言ったんじゃないぞ?バカが・・・・」
「・・・・」
「なぜ、フランソワーズが日本語を勉強しているのか、ちゃんと考えたことあるのか?」
「・・・知ってるんだ」
「・・・・・気づくだろ?普通・・・翻訳機があんなボケた間違いをするか・・ジェットじゃあるまいし、な」
「・・・・真面目だから、彼女は・・」
「ああっ!っったく・・・・お前はジェット以上にバカだろ?・・・・・いい加減にして欲しいねっ、バカは鳥1人で十分間に合ってるんだ」

ジョーはゆっくりと立ち上がり、アルベルトの方へと振り返ったが、彼の顔を見ることはなく、視線は床に落としていた。

「・・・・俺は・・・・・・」
「・・」
「・・・・・・・・・・・ただ・・・・」
「ただ、なんだ?」

ジョーは俯いた状態でアルベルトから離れ、ライティングデスクの上に置かれていた、アタッシュケースを開けた。アルベルトは視線でジョーを追う。

「・・・・・・・・・・・・・・フランソワーズが、いつまでも・・・笑って、幸せでいてくれること、だけを、望んでいる・・・・・・・・・それが・・」




ーーーそれが、俺の手によって・・・・なんて・・・・無理なんだ




言葉を詰まらせたジョーに向かって、アルベルトは言った。

「それがお前であれば、オレは安心してここを離れていくことができるんだがな」


ジョーはアタッシュケースの中から封筒を取りだして、その中の数枚のプリントを手に取った。
アルベルトは黙って研究室を出て行く。
ドアを閉める、その手を止めて振り返ったアルベルトは、数センチだけ開らかれたドアの隙間から、ジョーの背中が見えた。




戦場で、ぴったりと寄り添いながらお互いを護り合っていた。

009の背に護られた、003。
003に背後を委ねた、009。


それがなぜ、この平和な日常では見られないのだろうか?
お前たちは・・・・戦場の中でしか、お互いの気持ちを表現することしかできないのか?




戦うために生まれた、サイボーグ戦士として出会ったからか?








違う。

オレたちは、人だ。





ジョー、見せてくれ・・・・。
サイボーグでも、サイボーグ同士でも・・・・サイボーグだからこそ・・・・。





戦うためにしか生きられない、運命だと言うオレたちに
・・・・人を愛し、愛されるために生きることができると・・・・・














####

研究室から戻ってきたギルモアとコズミは、ダイニングルームで張大人が淹れた玄米茶を飲みながら夕食の準備が調うのを待っていたところに、アルベルトが姿を表してテーブルにつき、ジョーの姿が彼と一緒でないことに、ギルモアは短く溜息を吐いて、微苦笑した。

「ジョーは、来んのか?」
「・・・スミマセン」
「まったく・・・・・ジョーは、儂よりも仕事の虫じゃぞ?」
「いや、そういう事じゃないと思うんだがなあ、ギルモアくん・・・・その、ま。ナントカの病は・・ってことかの?・・・う~む、それはちと、違うか・・・こういう場合はなんと言えばいいのか・・」
「ナントカの病?・・・なんのことじゃ?コズミくん」
「コズミ博士、ジョーはただの仕事の虫ですよ・・・・009としての責任みたいなもんです、放っておいてやってください・・・少しばかり気負っているだけなんですよ、ジョーは」
「ジョーは病気なのか?・・・何も言っとらんかっとぞっ、いかんな、どんな小さな事でもちゃんと報告してもらわんと!」
「いやいや、いくらギルモアくんでも、こればかりはどうもできんぞ?」
「っ?!何っっ!!どういうことじゃ!」
「・・・そういう話しを、ギルモア博士からは訊いたことがありませんね、そういえば」
「ふむ・・・アルベルトくん、もしかしたら・・じゃぞ?」
「ええ、天才と言われるギルモア博士なら、ですか?」
「なんじゃっ?!いったい、なんの話しをしとるんじゃ?」
「ギルモア博士・・・」
「ギルモアくん・・・」

コズミとアルベルトの真剣な表情に、ギルモアは思わず身構えてしまい生唾を飲んだ。もしや、ジョーは何かとんでもないことを自分に隠しているのかもしれない、と。胸を縮こまらせた。

「恋の病、なんじゃ・・・・いや、なんというか恋愛問題じゃな」
「一方通行な片思いの三角関係・・・とでも、いうのか、ギルモア博士。ぜひ博士のご意見をお聞きしたいですね」

2人の重なった言葉に、ギルモアは目を白黒させて固まってしまった、と思ったら、素っ頓狂な声で、恋っ?!と叫び、アルベルトとコズミにその口を慌てて塞がれてしまった。

しばしの間、コズミとアルベルトへ交互に視線を泳がせながら、ギルモアは素直な自分の意見を口にした。

「なんじゃ?・・・・ジョーとフランソワーズは好きあってるんじゃないのか?なんと言うか、お互いに遠慮しあっておるようじゃが、何が問題なんじゃ?三角関係?・・・・ジョーが女性に優しすぎることを、フランソワーズが嫉妬でもして拗ねたのか?そりゃジョーが悪い、日本式に土下座でもして早いところ謝らせなさい」
「「・・・・」」

合っているようで、微妙にズレたギルモアの言葉にそれ以上、コズミもアルベルトも話題にはしなかった上に、ギルモアの言葉を訂正するつもりもなかった。このまま、そう思っているギルモアが幸せに思えたからである。




夕食の準備が調ったと言う声に、リビングルームで熱戦を繰り広げていた3人、ジェット、ジェロニモ、さくらがダイニングルームへとやってきて、それぞれテーブルに着いたとき、さくらはジョーの姿がないことに全身で落胆して見せた。

ジェロニモは一度席についたが、立ち上がってダイニングルームにある電話機を取り、内線番号で地下の研究室へと電話をした。数回のコール音で、ジョーが電話に出ると、ジェロニモは小声でジョーと話しながらリビングルームへと移動した。

張大人が忙しなく、キッチンとテーブルを行き交う。
2、3分ほどして、ジェロニモは再びダイニングルームへ戻り、電話機を元に戻して席について、一言、キッチンからトレーを持った張大人に告げた。

「あと、20分ほどでジョーも来る。」
「アイヤ!そうアルか!!よかったネっ。ずと研究室だったから、きっとお腹ぺこぺこアルヨ!」

ジェロニモの言葉に、張大人は嬉しそうにキッチンへと戻っていった。
アルベルトは、少しばかり驚いたような視線をジェロニモに向けていた。それにたいしてジェロニモはニヤリと笑う。

「押してダメ。引いてみる。ジョーは単純」
「・・・・ほお、それで?」
「余計なことしない、言わない。それがジョーのため」

自分が研究室でジョーに言ったことをジェロニモは知っているのか。と、疑いたくなるような言葉に、アルベルトは苦笑するしかなかった。

「ジョーに会えるのね!」

さくらは、ジョーと会えると解り、それだけで頬を上げて嬉しそうに笑った。




ジェロニモが言ったとおりに、みなが食事を始めてから少し遅れて、ジョーはダイニングルームを訪れた。さくらが一番に声をかけ、ジョーは微笑んだ。

夕食の席の話題は、主にコズミ邸での出来事が中心になり、その場にいないピュンマがサカナにされて、ここぞとばかりにジェットは色々なネタを披露したが、結局は最後、ジェット自身がサカナにされて夕食は終わっていった。

和やかな雰囲気に包まれたダイニングルームで、コズミが食後のお茶を啜りながら静かに口を開いた。

「そろそろお暇させてもらうかの、夕食まで御馳走になってしまって・・・とても楽しかったよ。本当に、張大人の中華は世界一じゃな・・・さあ、さくら。帰る支度をしなさい」

「ええっ・・・おじ様・・・もう?」
「十分じゃろう・・私の用事も済んだんじゃしなあ」
「・・・」

テーブルを挟んだ向かい側に座る、ジョーを見つめるさくら。
ジョーは視線に気づいて手に持っていた湯飲みから視線を上げようとしたとき、リビングルームに置いてある電話機が1つコール音を鳴らすと、その子機であるダイニングルームの電話機も追いかけるようにして鳴り始めた。ジョーは立ち上がって電話に出る。

「・・・はい」
『ジョーかな?グレートだ』
「ああ、グレート・・・・」
『こっちは夕食をすませたトコロでなあ、イワンのオムツの替えもつきたし、そろそろ戻ろうかとおもっとるんだがねえ』
「・・・どの辺?」

電話の相手が外出組であることを知ったコズミは立ち上がって、目線でさくらに帰り支度を促す。

『まだ、○○だが・・タクシーで帰ろうか・・どうしようか迷っていてなあ』
「電車でなら駅まで迎えに行く、よ・・・疲れているならタクシーでもいいじゃないかな?」
『まだ・・・いるのかな?コズミ博士と、さくらちゃんは』
「・・・うん・・・・だけど・・・・・」

ジョーはコズミがリビングルームへ向かう姿を見つめ、コズミに続いたさくらと視線が合ったが、何ごともないように、彼女から視線をはずして、会話を続けた。

「・・・・気を付けて帰ってきてくれ、よ」
『そろそろ、いいのか?』
「うん」
『わかった、また連絡するな』
「・・・駅についたら電話してくれるかい?・・タクシーなら、邸に着く前にでも」
『了解した!』
「じゃ」

電話を切って、元の位置に子機を戻すと、ジョーは顔を傾ける。
ジョーのそばに、さくらは立っていた。

「・・・・なに?」
「ジョーのお部屋、見せてもらったわ。お邪魔した後に言うのも変だけどっ!」
「・・・・・・ああ、うん。散らかったままで、ごめん」
「そんな!ぜんぜんよっ!!」
「・・そう」
「会えて嬉しいわっ!!・・お仕事で、遊べなかったのが残念だけど・・・。ねぇ、私ね、行きたいところがあるの」
「・・・・」
「どうかしら?」
「・・・・・・仕事が忙しくなると、思うけれど・・・ジェットやピュンマに相談してみるよ。どこへ行きたいの?」
「・・あ・・・・・う、うん。ええっと、あのね」
「・・・後で、ジェットにでもメールしておいてくれたら、いいよ」
「あの、そうじゃなくって・・・」


簡単な一言が出てこない。
さくらは焦れば、焦るほど、言いたい言葉が喉に届かずに沈んでいく。



ジョーの瞳が冷たい。
何も、映っていない。



ジョーの目の前にいて、彼の瞳を見ているはずの自分がいない。









「・・・・メールしとくね!!」


そういうのが、精一杯だった。






ーーー2人でどこかへ行きたいの、連れて行って。


言えなかったのでなく、言わせてもらえなかったのが正しいのかもしれない。





ギルモア邸を出て、見送られながらコズミと共に家路につくさくらは、運転しながら何度も溜息を吐く。助手席に座るコズミは、さくらの溜息の原因をよくわかっていたが、言葉をかけてやることができなかった。

こんな形で出会わなければ、ジョーを自分の養子に迎えたかったと、思う気持ちに偽りはない。
フランソワーズのことも、ギルモアほどでなくても自分の娘のように可愛らしく感じ、その彼女が背負ってしまった運命にこころが傷み、幸せを願わずにはいられない。

コズミがさくらと初めて会ったのときは、まだ彼女が3,4歳の、ろくに自分の名前を言うことができない時期だった。


「さくら、溜息ひとつ吐けば、幸せがひとつ、逃げていくんじゃぞ・・・?」








####

コズミとさくらを見送った後に、フランソワーズからタクシーで邸に戻ると連絡が入った。
外出組の4人がギルモア邸に帰ってきたのは11時少し前。

留守番組へのお土産を手に戻ってきたグレートは、早々に部屋へと引き上げて行き、ピュンマはバスルームで一番風呂を楽しんだ。

ピュンマにお風呂を譲ったので、フランソワーズはイワンをベビー・バスにいれて、着替えさせた。めったに外出することがないイワンは、流石に疲れたのか、夜の時間ではないがコモンスペースの揺りかご式のベビーベッドで、すやすやと眠りについた。

イワンのベッドを左右に揺らしながら、フランソワーズはイワンが眠ったことを確認し、おやすみのキスをひとつ彼のマシュマロのような ふくふく とした頬に贈る。座っていた背もたれがない飾りイスから立ち上がり、コモンスペースから短い廊下を歩いてダイニングルームへ。そこからキッチンにいる張大人に手伝うことはあるかしら?と、訊ねたら、何もないアルよ!と言われたので、冷蔵庫からコップにオレンジジュースを半分くらいついで、リビングルームへと向かう。

特注の大きな白い皮のソファがフランソワーズを誘っていたが、そこへ一度腰を下ろしてしまえば、心地よい感触に自室へ戻る時間がどんどん延びてしまう。
フランソワーズは自室へ戻ることに決めて、リビングルームを出て行こうとしたとき、突然、真っ暗な影に覆われて、躯を後ろへひいたけれども間に合わず、その影とぶつかった拍子にもっていたコップが かつんっ と、フローリングに1度は大きく跳ねて、2,3度繰り返し跳ねながら、床に転がった。

「あっ!!」
「・・・うわっちゃ~~~~っ!!」

柑橘類独特な香りがフローリングに広がって、ジェットは慌てて足を上げて液体を避けた。

「ぼうっとしてんじゃねぇよっフランソワーズ!!」
「っそっちこそっ!!」

フランソワーズは屈んでコップを拾い上げようとしたとき、ギルモア邸の玄関のチャイムが鳴った。


ジェットが、フランソワーズが、キッチンにいた張大人が、すぐさま反応する。
1階の自室にいたジェロニモが、その巨体からは想像できない素早さで自室から出て、コモンスペースで眠るイワンを抱き上げた。自室にいたアルベルトは、広間にむかって取り付けられている吹き抜けの明かりを拾う飾り窓の壁際に躯を沿わせ、玄関に向けて5つの銃口を構えた。ピュンマはバスルームから飛び出しジェロニモの隣に立つ。グレートはその身を小さなネズミに変えて、階段の手すりの影に隠れた。

地下にいたジョーからチャイムとほぼ同時と言っていいほどの素早さで脳波通信による指示が入った。

<003!>

ジョーの声と同時に”眼”のスイッチを入れた。
距離を測って玄関先にまで映像をズームにし、透視する。








前にも一度あったことが、再びギルモア邸に訪れた。

<・・・・・・さくらさん。よ・・・彼女1人。周りには・・>

フランソワーズは首を巡らせて用心のために、ギルモア邸の周囲を一周する。

<誰もいないわ・・・・コズミ博士は一緒じゃないみたい、1人で戻ってきたみたいよ>

<<<<<<<・・・・・・・>>>>>>>




「二度あることは三度ある。と、言う言葉が日本にはあるんだ」と言っていた・・・ピュンマの豆知識が妙に腹立たしく感じたのは、その場にいた誰だっただろうか。


空気が緊張から解放される。

はあ、と溜息をついて、濡れた躰に着込んだパジャマがぺったりと張り付いたピュンマは、再びバスルームに戻り、ジェロニモは、そうっとイワンを再びベビーベッドに寝かせると、そっと揺りかごのようにそれを左右に揺らしてから自室へと戻った。アルベルトはちっと小さく舌打ちをうって、窓から離れ、投げ捨てた文庫本を拾い上げた。グレートはネズミの姿のまま自室へと戻っていく。張大人は再び食器を棚にしまい始めた。

ジェットは、赤毛の髪をわしゃわしゃと掻きながら玄関へと歩いていく、その姿を見つめながらフランソワーズは、落としたコップがもう二度と使えないことに、ふうっと息を吐く。

「このカップ可愛かったのに・・・」

割れてはいないが亀裂の入ってしまったそれを、拾い上げて珈琲テーブルに置いてから、ティッシュペーパでさっと、フローリングに広がったオレンジジュースを拭き取り、トイレ横にある、掃除道具用の収納室からフローリング用のクイックルワイパーでジュースのべたつきがないように掃除した。


「誰だ~?」

扉の向こうにいるのが”さくら”であるとわかっていたが、すでに午前1時を過ぎた時間である。玄関のドアを開ける前に、声をかけてみた。

「・・・・ジェット?」

扉に阻まれたさくらの声は遠い。

「さくらか?」
「・・・・・・・・・うん」

ジェットは、観音扉式の右側だけをゆっくりと開ける。と、そこに申し訳なさそうに、体を小さくして立つさくらがいた。

「・・・お前、何考えてんだよ!・・・とにかく、入れっ・・・・コズミ博士は?」
「おじ様は家よ・・・1人で戻って来ちゃった」

ジェットはさくらを室内に入れて、扉を閉めると鍵をかけた。

「なんで引き返してくんだよ・・・・今、何時かわかってんのかっ?!」
「・・・・・ごめんなさい。でも、でもっっ!!どうしても言いたかったのっっ言えなかったから・・・・さっき・・・・」
「ったくよ・・・何を言いたくて戻ってきたっつうんだよ?」
「・・・ジョーに会ってもいいかな?」
「・・・・ジョーは研究室だ・・まだ仕事してるぜ?」
「え・・・まだ?」
「ああ、色々ちょっとあってよ・・ま、いいや。とにかく来いよ」

ジェットはさくらをリビングルームへと連れて行こうとしたとき、自室から出てきたアルベルトが、階段を降りながら冷たいアイスブルーの瞳でさくらを射抜くように見つめたために、彼女はリビング前で足を止めてアルベルトの方へと視線を向けると、彼の威圧感ある雰囲気にぱっと視線を床へと落とした。

「・・・・・・非常識だな」
「・・・ごめんなさい」
「用事があるなら、明日でもよかったんじゃないのか?」
「・・・どうしてもっ・・・言いたかったの・・・気が付いたらここに・・・」
「コズミ博士は知っているんだろうな?」
「あ・・・」

弾かれたように顔を上げたさくらだったが、それはほんの一瞬で、再び視線を床に落として力無く首を左右に振った。

「げっ・・知らねえのかよっジーさん!・・・・お前、フランソワーズじゃあるまいし・・」
「・・・・ごめんね、ジェット」
「心配して、大事になる前に電話をするんだ。今すぐに」

アルベルトは視線をさくらからジェットに移す。ジェットは短く頷いて、自分の背に隠れるようにして立っているさくらを促してリビングルームに入り、すぐにコズミ邸へと連絡させた。

リビングルームのソファに座り、小さくなるさくら。
アルベルトも2人を追う形でリビングルームにやってきてソファに腰を下ろした。ジェットはダイニングルームへ向かうと、キッチンの片づけを済ませた張大人の姿はなく、お湯を沸かしているフランソワーズに声をかけた。

「何やってんだよ、フランソワーズ」
「お茶を淹れてるの・・・・紅茶でいいかしら?」
「長居、させるつもりねえぞ?」
「お茶くらい・・・」
「・・・・・湯が沸く前に、終わるぜ?」
「私も飲みたいの・・・誰かさんの所為で、ジュースをこぼしちゃったし!」
「・・・・・・・わりぃ」
「そんな、素直に謝るジェットなんて気味が悪いわ!」
「・・・ジョーに言いたいことがあって、戻ってきたらしいぜ?」
「そう・・・じゃあ、早くジョーを呼んであげて?」
「・・・・・・」

ジェットはキッチンの入り口にもたれるようにして、フランソワーズの後ろ姿を見つめたまま脳波通信を使った。

<ジョー、訊こえっか?>
<ああ・・>
<客だ>
<・・・・・仕事中だ>
<言ったぜ、でも・・・・お前に言えなかったことがあるらしいから、戻ってきたんだとよっ>
<・・・・・>
<訊いてやってくれねえと、帰らね、かもしんないぜ?>
<・・・今行く>

「呼んだぜ・・・」
「ジョーの分も・・いるわね?」






=====36へと続く


・ちょっと呟く・

さくらちゃん・・・・君はお話ストッパーです。
先に進ませて下さいっっ(ノ_<。)うっうっうっ

web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。