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Day by Day・37
(37)



カーテンを閉めないまま眠ってしまったので、窓から差し込んだ光を、ルームライトと勘違いして、電気をつけたまま寝ていたのか思った。さくらはいつもより重く感じる頭を引きずるように動かし、見慣れない天井に目を細めた後、ゆっくりと自分がしたことを思い出した。

ベッドから体を起こして、部屋にあるユニットバスへと向かい、顔を洗う。ホテルのように揃ったタオル類の一枚を手に取り、バスルームの入り口に立って、改めてゲストルームをぐるりと見回した。

クイーンサイズのベッドのリネンは温かな生成のリネンで統一されていた。
チェストの上に掲げられている大きな鏡が朝陽に反射する。
フローリングの床に楕円のふわふわとした感触が触れなくてもわかるマットの上に、パズルのピースを一つだけ拡大させたような不思議な形のロー・テーブル。卵色の2人がけソファは、まあるいフォルムが優しい。置かれた2つクッションは、黄緑色。
部屋は柔らかな木の素材の家具と、エッグシェル・カラーで統一されて、小物はペリドット・カラーで揃えられている。大きな3つの窓に置かれた小さな観葉植物たちは、窓の向こうに広がる、海の青なのか、空の青なのか・・・・一面の青の世界に命の輝きを放っている。どこでも目にすることができる、見慣れた品種のものだったが、さくらはそれらの名前を知らない。


さくらはドア近くの床にぽってりと放っておかれた枕を拾い上げた。


ーーー今、何時なんなの?

枕をベッドの上に戻して、ぐるりともう一度部屋の中を見回したが、時計が見あたらなかった。さくらは自分の携帯電話を探したが、いつも持っているはずのカバンがない。さあああっと、全身の血が退いていく感覚に耐えながら、昨日の夜のことをざっと意識的に思い返してみる。


ーーーあ、リビングルーム・・・

きゅうっと縮まった心臓の筋肉が、さくらがほっと息をついた瞬間に、どくん、どくん。と2回立て続けに脈打った。


ゲストルームを出て階段を下り、リビングルームへと入っていき、壁に掛けられた時計が朝の9時34分だと、教えてくる。

ダイニングルームから、珈琲の香りとともにパンが焼ける香りも一緒に漂ってくる。
とても懐かしい香りだと、さくらは感じた。

コズミ邸では和食一辺倒で、なかなかパンを口にする機会がない。
さくらが育った家では朝はトーストかシリアル、他は食べたい物を適当にしていた。義母がキッチンに立って料理を作っている姿を、一度も観たことがない。


さくらがダイニングルームと続くドア前に立つと、向こう側から声が聞こえてくる。


「アルベルト、珈琲のお代わりは?」
「ああ、いただこう」
「ごちそうさまっ!!まだ、オレンジジュースある?」
「あるわよ、待ってて」
「あ、いいよ。自分で行くよ」
「大丈夫よ」


フランソワーズはトレーに使い終わった食器を乗せて、キッチンへ行く。
ジェロニモが立ち上がってリビングルームに繋がるドアを開けた。
突然ドアが開いたために、さくらはびくんっと体を飛び上がらせて、2,3歩後退する。


「入れ。遠慮するな。美味しいぞ。」
「・・・・・私」
「用意はできている。」
「・・・」
「何も心配ない。誰も怒ってない。入れ。」

大きなチョコレート色の手が伸びてさくらの頭をくしゃくしゃと撫で、その手を小さな肩に置いて、そっとダイニングルームへと押した。


「フランソワーズ、さくらの分はあるか。」
「おっはよう、さくら。よく眠れた?」

ピュンマはおいで、おいで、と言う風に手を振ってさくらを自分の隣の席へと呼び寄せたので、ジェロニモは彼女の背中を押して、そちらへと向かわせた。さくらはぎこちなくピュンマの隣に座る。

キッチンからトレーにピュンマのオレンジジュースと、アルベルトの珈琲のお代わりを乗せてやってきたフランソワーズは、ジェロニモの言葉に、頷いた。


「ええ、もちろんよ。おはよう、さくらさん。すぐに用意するからまっていてくださる?・・・はい、ピュンマ。アルベルト・・・・えっと、飲み物は?オレンジジュースと、紅茶、緑茶に、珈琲とカフェオレが用意できるわ」
「・・・・・・・お水と、カフェオレ」
「甘くしていいかしら?」
「・・・砂糖なしで」
「わかったわ」


フランソワーズは微笑んで、再びキッチンへと戻る途中、リビングルームとは反対側のドアが開いた。


「なんだ、寝ていないのか?」
「・・・・・いや、寝たよ」
「お早う、ジョー」
「・・・お早う、ピュンマ」
「寝ろ。顔色が悪いぞ。」
「・・・・・昼寝でもする、よ。後で」

さくらは、じいっとダイニングルームに入ってきたジョーを見つめる。ジョーはさくらがそこに居ることに、気づいて、ぱっと彼女と目が合う。すると、さくらは切れ長の瞳は眠った子猫のように細くまあるい半円を描きながら笑顔でジョーを見つめる。


「お早うっジョー」
「・・・・お早う・・さくら」
「ジョーばっかりがお仕事してるみたい・・・」

そう言うと、さくらはピュンマ、アルベルト、ジェロニモと順に視線を送り、再びジョーを見つめた。


「ジョー、こっちに来て座りなよ」

ピュンマがダイニングテーブルに座ることを促したとき、キッチンからフランソワーズがトレーに朝食を乗せて戻ってきた。ジョーはフランソワーズと入れ違いに黙ってキッチンへと入っていく。


「・・・・おまたせ、さくらさん」

トレーに乗せられていた朝食が、さくらの目の前に置かれていく。
籐のカゴには薄く切って焼いたフランスパン、クルミパン、レーズンパン、の3種類。
小皿に入ったバター。スコッチ・エッグと、生ハムのサラダ。そして、さくらが頼んだ砂糖なしのカフェオレに水。
テーブルに置かれていた洋なしジャム、アプリコットジャム、木イチゴジャム、そしてマーマレードの瓶をさくらの前に寄せた。



「あ、・・ありがとう」

並べられた朝食は温かい。
水を一口飲んでから、カゴの中のレーズンパンを手に取った。さくらは、ぱくり と口に入れたレーズンの甘さに頬を緩めて、ふうっと肩から力を抜いていく。


フランソワーズもトレーを持ってキッチンへと戻っていったのを、アルベルトはチラリとそちらへ視線を走らせた。


「珈琲?」
「・・・・うん、もらっていくよ」
「朝食は?」
「いや、いいよ・・・」
「・・・」

キッチンから聞こえてくる2人の会話が、ダイニングルームにいる全員の耳に届いている。


「・・・・・それ、焼いてあるヤツ?」
「ええ・・」
「じゃ、それだけもらう、よ」

ジョーは薄くスライスされたクルミパンを口に銜えて、珈琲の入ったマグを手にキッチンから出てきた。


「ジョー、座って食べたらどうだ?」
「・・・」

アルベルトの言葉にジョーは、ひらひら と、マグを持っていない方の手を振って、再び研究室へと戻っていく。さくらはジョーの消えた背中を目蓋に焼き付けながら、持っていたレーズンパンを生はハムのサラダを乗せた皿の端っこに置いて、クルミパンを手に取り、ぱくり。と食べた。


2人ではでかけられない。

それでも、いい。
今は、それでいい。
みんなで一緒に出かけても、きっといっぱいジョーのことを知ることができる。
ジョーも私のことを知ってくれる。

出された朝食をすべて綺麗に食べてしまったさくらは、コズミ邸へまもなく帰ると電話を入れた。










キッチンでフランソワーズはイワンのミルクの準備を始めた。
あと30分もすれば、イワンがミルクが欲しいと言う時間。 

イワン、お気に入りのメーカーの缶を開けて、専用のスプーンで掬う。



ーーー 一緒に・・・・・2人で行こう ーーー


何も言えなかった。
ジョーの言葉が嬉しくて、何も言えなかった・・・。

2人で?
一緒に?


何も言えなかった。
嬉しいのに・・・・・・哀しかった。


だめなの。
私が”仲間”と”家族”以外の想いを、期待をしてしまうから。


2人では出かけられない。

フランソワーズはお湯を哺乳瓶へ入れて、よく振ってから適温になるように溜めておいた水の中に哺乳瓶を入れた。













曖昧に微笑んで、フランソワーズは「あまり、無理しないでね・・・ジョー、おやすみなさい」と、会話を終わらせた、昨夜。

yesともnoとも答えてもらえなかった、言葉はどこへ行ってしまったのだろう?


一緒に居たい。
ただ、それだけ。

2人ででかけられなくても、別に良い。
1秒でも一緒に居られるなら、フランソワーズの瞳に自分だけしか映らない”時”が一瞬でも存在するのなら、それでいい・・・。




何でもない時間が、特別になっていく。
当たり前だった会話が、特別になっていく。

2人だけで居合わせた一瞬の時間が、写真のように何枚も重なって胸にしまわれていく感覚。


もっと、長く。
もっと、もっと、もっと・・・・・。






「迷惑、だった・・・?」

「ん?どうしたんじゃ、ジョー?何か言ったか?」
「・・・・いいえ、博士」
「そろそろ、上に戻るかの」
「はい」


ジョーが珈琲を手に研究室へ戻ってきてから、2時間が過ぎた。
5分ほど前に脳波通信でさくらがコズミ邸へ戻ることを知らされて、”上”に戻ってくるようにジェットから言われたとき、ギルモアもそろそろ1階に戻ると言ったので、ジョーはギルモアと2人で地下の研究室を出た。

さくらがいるために、1階のコモンスペースのベッドで大人しくいるイワンの様子を見るギルモアとは、途中で別れ、ジョーはそのままリビングルームへと向かうと、そこにフランソワーズ、アルベルト、ジェロニモ、グレート、張大人の5人がいた。


「玄関に、今さっき向かったぞい」
「・・・」

ジョーは足を止めて、グレートの古葉に頷き、ざっとその場にいる全員を観た。


「・・・・すぐにミーティングに入るから」
「お茶の準備をするわ」

ジョーはフランソワーズに微笑んだ。フランソワーズもその微笑みに答えるように、ジョーに微笑みながら立ち上がってキッチンへと向かった。
フランソワーズの背を見送ってから、ジョーはリビングルームを抜けて広間へ。その先の玄関の扉は開け放たれていた。


「あ、ジョーっ!さくらが帰るって」

ピュンマがリビングルームから出てきたジョーに気が付いて声をかけた。
ジョーは無言のままピュンマへと近づいていき、一歩外へ出る。


季節の変わり目に崩れやすい空は、重く鉛色の雲に覆われて、静かに流れ行く風は生暖かく肌に絡みついて、雨の香りをジョーへと贈る。


「・・・雨が降る、ね」
「昨日はあんなに天気が良かったのにさ・・・」

空を見上げたジョーにつられて、ピュンマが、そしてさくらが空を見上げた。


「気をつけて帰れよ、ジーさんにヨロシクな。今度は”まとも”に遊びに来いよっっ!」
「は~いっ気を付けますっ!!」

ジェットの言葉に、さくらは戯けた返事を返しながらジョーを見上げた。
彼の視線はまだ、空へと向けられている。
調った顎のラインから、首筋。少しばかり出た喉仏、よれたTシャツの首周り。


「心配だから、ちゃんとコズミ邸に着いたら僕でもジェットでもいいから、携帯のメールに連絡してね、さくら」
「ええ、わかったわ。・・・・ジョーの携帯でもいい?」
「・・・う、うん」
「じゃ、携帯のメルアドを教えてくれる?ジョー」

さくらの言葉にゆっくりと視線を空からさくらへと移した。


「携帯のメールアドレス?・・・・自分のなんて知らない、よ?」
「ええ?!なんで?」
「・・・使わないから」
「じゃ、これからは使って!私にメールを送って!」
「・・・・携帯電話は部屋だよ」
「教えてくれないの?・・・私、ジョーの電話番号も知らないの・・・」
「・・電話自体使わないから、ね。滅多に・・・邸に電話をくれたらいいよ」
「さくら、あんまり遅くなるとジーさんが心配するぜ?ジョーのメルアドとかは、後でオレがパソコンの方から教えてやるからよっ」

ジェットがぽんっとさくらの頭に手を乗せて、くしゃり、と撫でた。


「絶対よ?忘れちゃイヤよ!」
「おお、だからよっ雨降る前に車に乗れや、・・・・雨だけじゃなさそうだしな・・・」

生暖かいな風が強さを増して吹き始め、雲の流れる速さを観ながらジェットはさくらを急がせた。


「荒れそうだね」

さくらが車を停めていた道まで出て、ピュンマが呟いた。

「・・・春嵐」

さくらが運転する車が消えるまでその場で見送った3人がギルモア邸へと戻ったころに、大粒の雨がギルモア邸の玄関のドアを、リビングルームの窓を弾き始める。










####

全員がリビングルームに揃ったときには、激しく吹き荒れる風に乗り、雨がギルモア邸の壁や窓を叩き続けていた。まだ正午を過ぎたばかりだと言うのにもかかわらず、太陽の光を失った宵の世界が広がる。アルベルトは立ち上がって、2重になっているうちのレースの方を引いて外とリビングルームの世界を切り離した。


「どこから話そうかのう・・・」
 
静かに口を開いた安楽椅子に座るギルモアは、ちらりと視線を009へと向けた。009の瞳は穏やかにギルモアを見守っていた。


「・・・資料についてより詳しく説明するとじゃ・・・サイボーグ計画の初期プロジェクトの1つであった研究・・・人体、とくに”生きた”状態である体に人工臓器を搭載する際に起こる拒絶反応を抑えること。の研究資料じゃった。・・・・生身の体が異物であるそれらと共存できるようにするためには、”神経”を触らなければならん。それらは脳へと繋げられていく・・・”痛み”云々の話しではなくなってくることは、解るな?」
「その資料は、どこまで・・・書かれていたんですか?」
「資料と言っても、初期の物じゃ・・・紛失したのか、発表されなかったのか・・・隠されたのか、解らんが・・足りない部分が多くてな・・。脳神経や・・・言えば一番”要”になる部分がそっくり抜け落ちておるんじゃ・・・・・」

ギルモアはふうっと溜息をついて、安楽椅子に背を預けた。


「資料は、穴だらけでな・・・実験内容と記録がランダムに記載されておっての、それらを含めて考えても現在の技術では、いくらこの資料があっても・・・今の状況では”実験”する以前の問題じゃ・・・前のミーティングでも言ったが、それらのアイデアに、理論と方法を与えてしまったんで時間の問題かもしれんが・・・・」
「・・・・”どんな痛みをも断つことができる”と聴いてましたが・・」
「うむ。・・・・・現在の麻酔には限界があり、量を間違えれば死に至ってしまう・・が、ここにあるものは拒絶反応を抑え込むことが書かれていると言ったが・・・・・強すぎる”痛み”も人を死に追いやってしまう・・・耐えられんからじゃ。それを越えなければ・・・サイボーグ計画なんぞ出来んかった」
「本当に、初期の初期、そのまた初期なものアルネ・・・・・」

張大人は手に持っていた湯飲みをクルクルとまわす。


「・・・・今の技術でも追いつけてしまえる距離、という物ほど危険視しなければならんと思っとる。方向が間違えば・・・・実際に取り入れられてB.Gと同じ道を辿るきっかけになるかもしれん」
「資料がごく個人的な物であるメモや筆跡を残してあった、と報告した通り、それらを色々と調べてみた。そこから実験を行っていた人物の名前を見つけて・・・名前が書かれていた人物の生存確認を001に頼んだんだ」
<009ニ 教エラレタ 研究員たちハ 全員ノ死亡ヲ確認シタ>

フランソワーズの膝に抱かれたイワンは冷たく言った。イワンを抱くフランソワーズの手に少しばかり力が入る。


「一昨日のミーティングで{B.Gの研究所からの流出ではなく、”B.Gの研究所に勤めていた一個人の資料”}と言った通り、それは固定していいと思う。この資料がどこの闇市(ブラックマーケット)からなのか、個人で”交流会”に持ち込まれたものなのなら、それは誰が、だ」
「009は儂と一緒にこの資料によって現在の科学、医療にどれだけの影響が出るかも調べてのう・・・そっちはイワンの協力もあって、今のところ心配ないわい。じゃが、あくまでも今回は、じゃ。次はどうなるか・・・」
「・・・・コズミ博士が懇意にしてる知人の紹介で、コズミ博士は初めて”交流会”に参加した。その”交流会”自体がB.Gの息がかかっていたものなのか、闇市の関係なのかはっきりしない。参加していたのは、ほとんどが将来有望な”若い学者や技術者”だったらしい」
「危険だ。」
「005の言うとおりじゃ。とても危険な因子を含んでおる・・・」
「コズミ博士も色々と”交流会”の方を調べてくださって・・・コズミ博士と同じように”交流会”に招かれた何人かは、”交流会”の危険性を唱えていると・・・・。その中にはあくまでも”噂”としてB.Gの存在を知っている人もいたみたいだ」
「でっけえ組織だったんだぜ?・・・それがどれだけの規模だったかなんて、”ゴースト”って名乗るくらいだからよっ・・・・・噂くらいで納まっているが方が変じゃねえの?」
「噂だから危険。噂は怖くない。存在見えない。でも、”B.Gの遺産”と言う名前が存在する。自分たちがすべきことを”先に”実験して結果を出した技術、科学・・・喉から手が出るほど欲しいと思う。」
「・・・多分、知ってる人は知ってるとは思うけど、関わりたくなくて、怖くて、知っていても口を閉ざしている人の方が多いんじゃないかな?」
「あり得るねえ。ピュンマの言う通り・・・うっかり口にして巻き込まれちまうなんてこたあ、避けたいだろうなあ」
「”元”B.Gだと言うヤツも・・もしかしたら紛れているかもしれん」
「009・・・」
「・・・?」
「B.Gの研究所に勤めていた一個人の資料と、どうして断定できたの?前もそう言っていたけれど・・」
「資料がごく個人的な物であるメモや筆跡を残している、と言ったよね?それらを調べて・・・。実験の報告書に、複数の研究員のサインがされてあったんだけれど、かならずトーマス・マクガーと言う名前があるんだ・・」

009の言葉に002と008がばっと目を見開いてを視線を絡ませた。

「・・・資料に残されていた筆跡や、メモとの筆跡鑑定の結果、トーマス・マクガーの字であることがわかったんだ。003、この資料は”トーマス・マクガー”と言う人物の個人所有物であったと言っていいと思う、よ」
「ト・・・トーマス・マクガー・・・で間違いない・・・009?」
「・・・・うん」
「001、そいつも死んじまってるのかよっ?」
<数年マエニ>
「数年前ってなんだあ、おい?」
「コズミ博士が手にれた資料の持ち主がトーマス・マクガーであった。数年前に死亡している。その2つしか今は解っていない。」
「009、そういう大切なコト早く言うアルネ!」
「・・・すまない。今後のことだけど・・・・・・”交流会”創立メンバーの1人”クラーク・リンツ”氏をコズミ博士が日本に呼んだ。1週間後に来日する。彼はここ、ギルモア邸で世話をすることにした」

009の突然の報告に、緊張が走る。


「009、創立メンバーって・・大丈夫なのかあっ?」
「僕たちのことは・・・・?」
「なんだか、とっても危ない気がするネ!」
「おいおいっそのリンツってヤツが怪しかったりしねえのかよっ!!」
「そいつの身元はちゃんと調べたんだろうな?009」
「・・・リンツ氏はコズミくんに、気持ちを切り替えてもう一度、勉強をし直したいと、連絡して来たらしくてのう。何があったのかはプライベートなことじゃから知らんが、とにかく日本へ留学できるように面倒を見てやって・・・・その交換条件として、リンツ氏が知っている”交流会”の情報を提供してくれると言うんじゃ・・・。ほれ、コズミくんトコにはすでにさくらがいるじゃろう?それでの・・・その・・・まあ、なんと言うか、コズミくんの家は都合が悪いしのう・・・なんでも、こっちに知り合いが居て、その人の世話になる予定らしくて、それまでの間・・・っと言うことで・・・の?」
「引き受けたんですね?・・・博士が」
「うむ・・・・」

アルベルトの言葉に、申し訳なさそうに小さな声で返事をしたギルモア。リビングルームに張りつめていた空気が一気に緩んだ。


<大丈夫。何モ 危険ハ ナイ・・・・・ムシロ、都合ガ イイ>
「都合がいいの?イワン」
<ウン。・・・・・・ソレデ彼ガ 来日スルカラ、早メタインダ。ふらんそわーず>
「え?」

膝の上に抱くイワンが伸ばした小さな紅葉の手を、フランソワーズはやさしく自分の手の中につつんだ。


「儂は延期にした方がええのではと思うんじゃが・・・イワンもあと3,4日で夜の時間じゃしのう・・・」
「早めるって・・・博士・・・・」

フランソワーズの瞳が不安の色に染まり、薄く下唇を噛みながら、ギルモアを見つめた。


「お前の”眼”と”耳”のnervesの入れ替えをな・・・」
<来週ニハ りんつ氏ガ来ル・・・・今ガイインダ>
「・・・・イワン」

視線をイワンに戻して、くるりとした癖っ毛に隠れた奥にある、瞳を見つめる。
3人の会話が途切れたところで009は、ミーティングをまとめるように話し始めた。


「”交流会”のことは、リンツ氏が来てから手を入れていこうと思う。今は闇市(ブラック・マーケット)について調べ始めたい。それと、トーマス・マクガーについては全てだ。彼自身が情報を流したのか、他の第三者なのか・・・・・、僕自身も、もう少し整理がしたい。夜までにはスケジュールを立てるつもりだ・・・・・・フランソワーズ」
「・・・・」

ジョーがフランソワーズに話しかけたのでと全員の視線が集まる。


「・・・・イワンがキミのメンテナンスを明日の朝には始めたいと言うんだ、さっきまでその準備をしていた・・・・・。本当は次の昼の時間にって、なっていたらしいね・・・ごめん。リンツ氏のことに関しては、断ることも出来たんだけれど・・・」
「フランソワーズのnerves systemを・・・ですか?博士」

アルベルトが視線を手に持った空のマグに落として言った。


「今回は通常のメンテナンスと言うよりも・・・・・。フランソワーズの場合はお前達とは、また違ってな・・・この間のメンテナンスの時に見つけた誤差の原因がoptic nerve接続部分が古いのと・・・。なあに、バラバラに調節して入れ替えたりしていた神経ケーブル類を統一して、同一規格のものにすることでより負荷を減らそうとするもんじゃ。今のフランソワーズのそれらは、あまりにも統一感が無さ過ぎて・・・のう、気にはしておったんじゃが、なかなか満足のいくものが作れんかったんじゃ・・」
「作れたアルか?!」
「うむ。耐久力も高い、負荷も今よりも断然に少なくなる・・・・しかしじゃ、ギリギリじゃのう・・」
「・・・・馴染むまで、2、3週間かかるとイワンは・・・」
<僕ガ助ケルヨ・・・りんつ氏ガ来ルマデニハ チャント 眼モ耳モ 使エルヨウニ、通常ノ生活ニ戻レル・・・今ガべすとナンダヨ>


フランソワーズはイワンの言葉に頷くしかなかった。







####

雨は激しさを増すばかり。
バラバラと叩きつける雨音が邸内に染みこんでくる。ごおおっと強く唸る音は風の音なのか波の音なのか、よく解らない。

ミーティングの続きは夕食後となった。
昼食は張大人が作った中華マン、5種類。それぞれが好きな具と数を取ってダイニングルームや、リビングルームで、みなそれぞれにくつろぎ始めた。



中華まん3つを載せた皿を手に自室へ向かう途中のジョーはフランソワーズの部屋のドアが少しばかり開いていることに気が付いた。ミーティング後、1階で彼女の姿は見ていない。イワンがジェロニモに抱かれてミルクを飲んでいたのを、つい先ほど通ってきたリビングルームで見ている。

いつの間にか忍び足で近づいていたフランソワーズの部屋のドア前に立って、ジョーは開いた隙間を覗くことはせずに、ドアをノックした。

きぃいっと、ノックされた反動で開いていくドア。


「・・・・・フランソワーズ?」

掠れるような、小さな声で彼女の名前を呼んでみたが、返事はない。
ジョーは躊躇いながらも、指先でそっとドアを押した。

1/3ほど開かれたドアから見えた真っ暗な室内に、彼女の姿は見えない。
溜息をひとつ、緊張した胸から吐き出してジョーはドアノブに手をかけた。


「だれ・・?」
「・・・・・フランソワーズ、いる・・の?」
「・・・・・・ジョー?」
「・・・部屋のドアが、開いていて・・部屋の電気もついてなかったから・・・・・・」
「・・・・・」

ジョーは暗い部屋の中を凝視すると、ベッドの上に人がいる膨らみに気づいた。


「ごめん・・・」
「ううん・・・・・・・」
「・・・・・・・なんで、キミは泣いてる・・・・・・の?」


ジョーは深く空気を吸い込み、部屋へ一歩足を踏み入れてドアを後ろ手に静かに閉めた。











=====38へ続く




・ちょっと呟く・

ジョー・・・中華マン片手に~?!

えっと、時間的にコズミ邸から帰ってきて4日くらいしか経ってません。
前のミーティングは2日前(一昨日)です。
32から・・・ここまでなんでこんなに・・・・・・(汗)
さくらちゃん、君は話しの流れを止めるプロですね・・・ヾ(@† ▽ †@)ノうわーん
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