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Day by Day・40
(40)


懐かしい、声を聞いた。
懐かしい、香りが包む。
懐かしい、温もりに触れる。



懐かしい、手。











「・・・Fanchon!お~き~ろ~~~~~っ!」
「・・・・・・・っm?」
「朝だよおっ?」
「・・・・・・・・あ、さ・・・?」
「ふぁ~~~~~んしょ~~~~~~んっお腹空いてますよ、お兄さんはっ!」
「ええっっ?!」

がばっと、上半身を勢いよく跳ねるように起きあがり、その勢いにイスに座っていたジャンは、両腕を宙でぐるぐるっとまわして、イスごと後ろにひっくり返った。

「いててててっっ急に起きるヤツがあるかあ?・・・ったく・・朝だよ、御飯は?」
「・・・・・・・・・ど、どうして・・私、ここにいるの?」
「ど、どうしてって・・いてて・・・」


尻餅をついた、少しばか打った腰をさすりながら、倒れたイスを立て直し、再びそのイスに腰を下ろしたジャンは、心配げに妹、フランソワーズを見つめる。


「ここは、ファンションの家で、僕の家で、君の部屋だよ?・・お~~~~い、頭、入ってますかあ?」
「・・・・にい、さん・・?」
「はい、はい?」


こぼれそうに大きな空色の瞳は長い睫に縁取られ、何度も瞬きながら、兄、ジャンの顔を穴が開くほどに見つめた。


「・・・どうした?」


その尋常でない真剣な表情に、ジャンの胸が不安に締め付けられた。


「兄さんっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
「うわっっったああああ?!」
「兄さんっ!兄さんっ兄さんっ兄さんっっっっっっ兄さんっっ!!!!」


フランソワーズは渾身の力でジャンに抱きついて、しがみつく。
何度もジャンを呼び、泣き始めた。


「なんだっ・・・・なんだああ?・・・・・・・ファンション?・・・・いい年令して、怖い夢でも見たのかい・・・・・ああ、何泣いてるんだい・・ほら、どうしたんだよ?ファンション?・・・泣くなよ夢くらいで・・・ホントに、いくつになっても泣き虫だなあ・・」


ジャンは優しく妹の背に腕をまわし、自分の亜麻色の髪よりも輝きのある、艶やかなフランソワーズの髪を優しく、優しく撫でた。


「泣かないで、僕のファンション・・・いいかい、僕の分のハッピー・ポイントをひとつあげるから、泣かないでいいんだよ、・・・・・怖い夢をみた分、幸せになろうね?ファンション?」
「兄さん・・・・兄さん・・・・・・・兄さん・・兄さん・・・嫌よ、絶対に、もう離れないでね?1人にしないでね?」
「・・・・・・いったい、どんな夢を見たんだい?」
「に、兄さんが、いないの・・・兄さんがいなくて、1人で・・・でも・・・・・仲間がいて・・・・・でもっ兄さんがいないのっっ」
「・・・・・・・僕がいなくて、1人で、仲間がいる?・・映画の見過ぎだよ、ファンション・・ほら、しょうがないなあ・・・・今日の朝食は、マリエールおばさんのところに行こうか?フルーツワッフルに、カフェオレでどうだい?」
「・・・兄さん、兄さん・・・・」
「ブラコンじゃないって言ったのは、どこの誰だい?・・・・これじゃあお嫁さんにやれないなあ・・・・っていうか、その前に恋人さえできやしないよ?」


ーーーそれでも、いいんだけどねえ、僕は・・・・・



愛しい、大切なたった1人の家族である妹、フランソワーズを抱きしめて、その髪を撫でながら、いつか妹が自分の手を離れ、怖い夢を観たと泣いて頼る腕は、自分のものではないことを、それがほど遠くない未来であることを、ジャンはなんとなく感じていた。
だからこそ、今、どれほど自分が妹、フランソワーズを愛しているか、自分の想いを込めて、一生懸命にジャンはフランソワーズを抱きしめた。

「僕の可愛い、ファンション・・・・泣かなくていいよ・・・」









####

昨日の雨が、風が嘘のように静まりかえった朝、ジョーは部屋を出て地下のメンテナンスルームへと向かった。


ギルモアは、昨夜にすべきことを済ませ、仮眠を取っている。彼の隣にあるクーファンの中でイワンの微かな寝息が聞こえた。
いったい彼らが何を自分に見せたくなかったのか、おおよその見当はついている。自分よりも、今、眠っている2人の方が、まだ自分にそれらを見せる”覚悟”がないことに、苦笑する。

ジョーは、壁に貼り付けたライティング・ボードにあったメモに指示されていた計器のメモリをチェックし、セービング・カプセル内で眠るフランソワーズの状態が良好であることに些か緊張した気持ちを落ち着けた。


カプセルの中を直接見ることはできない。
カプセル内の様子は、モニターを通すか、もしくはカプセル内に内蔵されているスピーカーを通して内部にいる人間の声を聞くことのみ。


[・に・・・・・い・さっん・・・・・・・]
「・・・・・夢で、会えた?」


スピーカーから微かに聞こえる、フランソワーズの声に、ジョーの胸が痛み出す。
昨夜のジェットとアルベルトの言葉が、ジョーの決意を揺さぶり、不安にさせるが、スピーカーからこぼれた、フランソワーズの声が、ジョーを奮い立たせる。


「・・・・・・ごめん、フランソワーズ。キミは嫌だろうけれど・・・・ね。・・・わかっているんだ。言われなくても、ジェットとアルベルトに言われなくても・・・わかっている。・・・・それでも俺は・・・・キミのためにも、みんなのためにも・・・・・始めたい。それが、フランソワーズ、キミからだったなんて、俺だって・・・・驚いた、よ。」


ーーーでも、それで良かったと・・今は思っているんだ、よ・・・・・フランソワーズ・・・










「なに、ぼうっとしてるんだい?」
「あ。・・・・え?呼んだ?」
「うん、”なに、ぼうっとしてるんだい”って言ったよ?」
「そうじゃなくて・・・フランソワーズって、呼ばなかった?兄さん・・」
「呼んでないよ?なんだい?どっかの馬の骨がまた、その辺でファンションを待ち伏せしてるのかい?」

幼い頃からジャンとフランソワーズを見守ってきた、マリエールが営むバール”マリエール。行けばかならず、たっぷりのカフェオレに、特別に多く載せたフルーツワッフルの朝食を出してくれる。ジャンにはマリエール特製のショコラ・クロワッサン。


「・・・・や、やっぱり、なんでもないわ!きっと気のせいね!」
「・・・・・・ファンション?」
「気にしないで、兄さん!ねえ、天気もいいし・・・・」


フランソワーズは晴れた初夏の愛するパリの空を仰いだ。


「え?」









立ち上がる黒い煙は風に流れることなく空を覆う。

鼻を突く硝煙。

何が燃えているのかわからない、異臭が立ちこめる。

鳴りやまない爆撃音が常に鼓膜を極限にまで振動させる。



見る必要のないものが”視える”。
訊く必要のないものが”聴こえる”。


ーーーどこ?


ここは、どこっっっっっ!!



















「・・・・フランソワーズ?」
「私の名前は、フランソワーズ・アルヌール・・・003よ」



















「ファンション」
ーーーなあに?兄さん




























「フランソワーズ」
ーーー誰?・・・呼ぶのは・・誰?
























「003っ」

突然、赤い躰がフランソワーズにぶつかり、彼女を躰の下に組み敷いて、全身で投下された爆撃から庇う。

「なんでぼうっと突っ立ってるんだ?!005からの通信を聴いていなかったのかっ!!」
「・・・・え?」
「退却令が出てただろっ!!なんでドルフィン号に戻らないっ!」
「・・・・ジョー?」
「しっかりしろっ!」
「・・・・009?」



















「・・・ジョーって言うの?」
「・・・・シマムラ・ジョー・・・・・日本人だ、よ」










いつから、あなたを好きになったのかしら。
どうして、あなたを好きになったのかしら。


日本人にしては色素が薄い、栗色の髪は光に当たって金茶色に変わるの。
柔らかな髪は、くせっけで後ろ毛が跳ねているのよ。
気が付いているのかしら?

長い前髪に隠れた片方の瞳は、何を視ているの?
褐色に揺れる寂しげな瞳は、何を映しているの?


遠くを見つめているわ。
あなたはいつも、どこか遠くを見ているの。
何を見ているのか知りたくて、一度あなたに尋ねてみたことがあるの、覚えているかしら?
あなたは、何も言わずに空を指さした。

何もない空を。
月のない空を。
星のない空を。



「・・・・何があるの?」
「・・・・・・・・・・・・明日」










あした。
あさって。
しあっさて。












私も一緒に明日をみることができる?














「できるよ。キミと一緒にあしたを見たい。歩いていこう、よ。・・・一緒に行こう」





ーーー2人で一緒に行こう





だから、怖がらなくていいよ。
俺がそばにいるから、泣いていいよ。








キミは強い人。
誰よりも強い人。
















・・・・ジョー・・?


















####


ギルモアは、心地よい疲労感に包まれた体をリビングルームの安楽椅子に預けた。張大人に頼んだミルクを勢いよく飲み干したイワンは、仮眠を取ってもう一働きしてから、いつもよう少し早いが夜の時間に入るだろう。

ジョーがミーティングしている間に、003のoptic nerve、oculomotor nerve、trochlear nerve、abducens nerveの ケーブル、そしてauditory nerves、を入れ替えた。
蝸牛神経節のチェックを済ませ、各神経の接続にイワンの全面協力があったからこそ、ギルモア1人では、丸3日はかかるところを、一夜で終えることができた。

短い仮眠を取った後、すべての nerves systemとのバランスを見ながらの微調整。負荷が出ていないか、不具合がないかの術後のサーチ。各ケーブルが通常に機能しているかのテストを行った。
すべては順調であり、何も問題はなかった。

強化された”眼”と”耳”の最終チェックは、すべてが003の脳とのブレがなくなった状態、視力、聴力が戻った状態の003ととも行う。




ジョーを助手として共に作業すした内容は、通常のメンテナンスよりも少しばかり手の込んだものだった。
ギルモアは、ふううっと肩で息を深く吐いた。


ーーージョーの覚悟を空回りさせたかのう?






フランソワーズの、
003の”頭部”に収められた”科学技術”は、まさに研究者たちの”夢”。


彼らが追い求める結果が彼女の中にある。
世の中が彼女の中にある”夢”に追いつくには、最低でも200年はかかるやもしれない。


誰かが、護らなければならない。
彼女を改造した、自分の責任。


人として、003を護らなければならない。
フランソワーズは、それを望んで手に入れたわけではないから。



誰かに護られて、欲しい。
愛されて、欲しい。


幸せに、笑って、愛されて・・・・・暮らしているはずだった、すべてを奪ったのは自分の、研究者としての欲に駆られ、自分を見失ってしまっていた己のウチにあった悪。




そんなに好きなら、なぜ抱きしめてやらんのか。
黙って、腕を差し出してやればええじゃないか。



まったく、近ごろの若いモンは言い訳ばっかりしおってからに・・・・。


愛してやってくれんか?
もう一度、彼女に幸せを・・・・。








「・・・アイヤ~・・こんなところで寝たら風邪ひくアルネ!」
「自室で休んでいるかと思ったんだがなあ」
「博士。これお気に入り。」
「よっぽど好きアルねえ~~~」
「んじゃ、ジェロニモ、部屋に博士を連れて行ってくれるかあ?」
「わかった。」
「イワンはどうしたあ?」
「向こうのベビィベッドで寝てるアルネ」
「イワンとギルモア博士がこっちってこたあ、終わったのか?・・・フランソワーズ姫のメンテナンスは」
「まだ、ジョーが下。」
「ジョー1人じゃ何もできないネ?」
「どうだかなあ・・・今後はオレらのメンテナンスルームにも参加するくれえだしなあ」
「放っておく、一番。」
「そりゃ、そうだな」


ジェロニモは軽々とギルモアを抱き上げて寝室へと連れて行く。
その背を見送っていたところに、ジェットがリビングルームへやってきた。


「張大人っ夕飯まだかよっ!」
「今から用意するあるネ・・・なんかその辺に御菓子あったアルから、なんか食べとくネ」
「冷てえなっ!!」
「働かざる者食うべからずネ!・・・・って言うことで、ジョーにちょっと持って行ってほしいアル、ついでにジェットの分も用意するから、それでいいアルか?」
「・・・おお、喰いもんだろ?」
「ジョーは、朝も昼も食べてないネ。ギルモア博士とイワンがさっき下からこっちに戻ってきたのに、ジョーはまだ下にいるネ。下に運んだものも、博士は食べたみたいアルが、ジョーは手をつけてなかったネ、心配アル」










####

手早く張大人が用意した中華粥は2人分。
ジェットはトレーに乗せて、地下のメンテナンスルームへと向かった。

両手が塞がっているために、足で乱暴にメンテナンスルームのドアを2回蹴る。
数秒、間を開けて内側からジョーの声。


「・・・・・ジェット?なに?」
「開けろ、メシだぜ?」
「・・・・・・なんで?」
「なんでも、いいんだよっ!オレの分もあんだから、ジョーが喰わなくてもオレは喰うぞっ!開けろっ!!」


ゆっくりとメンテナンスルームの扉が開かれる。
ジェットがすぐさま部屋に入ろうとしたけれども、ジョーがそれを押しとどめた。


「今、駄目なんだ・・・フランソワーズの視神経プログラムを組んでいるから、彼女に”刺激”を与えるものは・・・・」
「ただのメシだぜ?」
「彼女の意識が近くなると、無意識に”眼”の筋肉が動くんだよ・・・安静状態の視神経の動力を計っているんだ」
「・・・・ずっとついてなきゃいけねぇのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・」


ジョーはメンテナンスルーム内に視線を向ける。


「・・・・データが取れるまであと、2、30分は時間がある、よ」
「じゃ、喰えよ・・張大人が泣くぜ?」
「・・・隣の研究室でいいかな?」
「おお、いいぜ?」


ジョーとジェットは部屋を移動し、研究室へと入っていった。
2つあるライティング・デスクの、ギルモア専用ではない方に、ジェットは持っていたトレーを置く。ジョーはコンピューターα”alpha”のマウスを使って、作業し始めた。


「喰わねえのかよっ?」
「・・・・食べる、よ。・・・こっちに持ってきてくれ」


ジェットは、はああっっと溜息を吐きながらもジョーの分の張大人特製・中華粥をどん!っとコンピューター・デスク横に置いた。


「美味しそうだね・・」
「そう思うなら、喰えよっ!」
「・・・・うん、あ。ジェット・・・・悪いんだけど、オンライン・ゲームの招待状を俺にも出してくれないか?」


ジェットがライティング・デスクのイスに座り、中華粥の器を手にしてレンゲで熱々の粥を掬う。
顔にかぶさる熱い湯気がジェットの食欲を唆った。


「なんだよ、お前も参加するのかよ?」
「ギルモア博士と、イワン・・・または俺でね。ゲーム上のイベントにも何かがあるかもしれないから。あと、ジェットが今まで進めてきたゲームのイベント内容、ストーリーを次のミーティングまでにまとめてくれないか?管理人の身元を探るのに、傾向をみたいんだ・・・」
「・・・ジョー」
「・・・・なに?」
「お前、寝てる?」
「・・・・・寝てる、よ」
「昨日は寝たのかよ?・・・あの後、からずっとこっちだろ?」
「調べたいこともあったしね。部屋に戻って少し寝た・・・」
「その前は?」
「・・・覚えてない、よ・・・必要な睡眠は取ってる」


ジョーは画面から視線を外さないまま、中華粥の器に手を伸ばした。


「・・・それで、見たのかよ?」
「・・・・・ギルモア博士の方が嫌だったようで・・・ね。見ても部分的にモニター越しだよ」
「でも、見たんだな?」
「・・・俺的には”見た”うちに入らない、な」
「今、あいつ・・どういう状態なんだよ?」
「セービング・カプセル内にいるよ・・・」
「・・・・気になるんだ?」
「オレは002だぜ?003とは長いんだよ」
「・・・・・知ってる、よ」

ジョーは視線をジェットに向ける。
ジェットは黙ってその視線を受け止めた。


「招待状は、今日中に出す。ミーティングまでにイベント、ストーリーをまとめる」
「・・・頼む」
「フランソワーズを連れて、アメリカに行く気もある」
「・・・・・・」
「あいつには、訊かねえのかよ?昨日、オレたちに訊いたみたいによ?」


ジョーは粥を一口啜り、また視線をパソコンモニターに戻す。2人は無言で食事をすすめた。
パソコン機器に取り付けられている冷却装置のモーターが静かにまわる。


「・・・フランスに、彼女にお兄さんがいることは知ってるんだろ?」
「ああ、はじめのころ、”兄さん!兄さん!”ってぴーぴー泣いて、大変だったぜ?そのうち、泣けなくなってよ、・・・・泣きすぎて、涙が枯れるなんて・・・小説の中だけかと思ってたぜ。そのうち、うんとも、すんとも反応しなくなっちまって・・・・イワンに出会って変わったよな」
「・・・・イワンが、何かした?」
「いんや、何にもしねえ。ただ、イワンの世話を任せられただけだぜ・・・なんだかんだ言っても、女ってえのは、”赤ん坊”になんか感じるもんがあるんじゃねえの?」
「・・・・彼女はフランスへ帰るだろう、時期がくれば」


半分ほど食べた粥の器を置いて、ジョーは再びコンピューターのマウスを手に取った。
ジェットからは、ジョーが何をしているのかは見えないが、カチ、カチ、とマウスを操る音が、妙にジェットを苛立たせる。


「時期が来たら、どうすんだよっ」
「・・・・フランスへ行くんだろ?」
「お前っオレがあいつをアメリカに連れて行くって、アルベルトが連れて行くって言って、平気なんだなっ!」
「・・・・・・彼女のために、考えた行動に何を文句を言う必要がある?」
「っっんだ、それはよっ!」
「・・・・ジェットは、フランソワーズが好きだろ?」
「っ?!」
「違う?」


ジェットは言葉に詰まった自分に舌打ちする。
ジョーの刺すような強い視線に、ビクンっと心臓がおびえた。


「・・・・ず、ずっと、イワンは研究員と一緒だったしよ・・・004が来るまで2人でやってきたんだぜ?・・・色々とあって、本当に、色々あって・・・・よ。好き云々なんてえもんを考えてる暇なんかなかったよっっ!!ただっっあいつは、オレにとっちゃっっアルベルトにとってもだっっ誰よりも幸せになって欲しいやつなんだよっ!!」
「・・・・・・・・・・・うん。俺もだ、よ・・・・。彼女には幸せになって欲しい」
「・・・だったら!」
「みんな、何か勘違いしてないか?」
「勘違いぃぃ?」
「・・・・・・フランソワーズには好きな人がいる、よ。・・・・それが・・誰か知らないけれど、ね」
「はああ?」
「・・・・・・・・日本にいる人なのか、いつ出会ったのか、ジェットは知ってる?」
「なあああああ?」


口から魂が出る。
そういう表現を日本の漫画のコミックスで見たことがあったジェットは、今まさに自分がそういう状態であることを、どこか遠い目で見る、もう1人の自分が冷静に観察している。


「・・・・・いつか、その人物がちゃんと、彼女がサイボーグであることを受け止められる人物か、話していい人物かどうか、会ってみないと、ね・・・・・」


ジョーの言葉に、全エネルギーが抜け切ってしまったジェットは、さっさと自分の分を食べ終えてから、食器やトレーをそのままに研究室から出て行った。











####

ギルモアが仮眠を終えて、軽食を取って地下のメンテナンスルームに戻ったとき、すでにイワンがいた。ジョーの姿が見当たらず、あたりを伺うと、ギルモアのすぐ後からメンテナンスルームのドアからジョーが戻って来た。


「博士、もういいんですか?」
「ああ、スッキリしたぞ、ジョーは大丈夫か?」
「・・・はい。さっきイワンに見てもらったデータを向こうに移してきた所です」
「うむ・・で、どこまでできたんじゃ?」
<全部ダヨ>
「んん?」
<じょー、1人デ 全部 終ワッタヨ。じょーガ マトメタ でーたニ 目ヲ通シテモラッテ nerves systemノばらんすヲ 見ナガラの、極端ナ 負荷 カ 不具合ガナイカヲ 見タラ、終ワリ。アトハ ふらんそわーずノ 意識 ヲ 戻シテ カラノ てすと ダケ>
「なんじゃ?!それだけかっっ?!」
<博士、じょーハ 機械類ト トテモ相性ガ イイミタイ ダネ・・・でーたハ 僕ガ 見タ ダケデモ 完璧ダッタヨ・・・手際ノ 良サヤ 段取リノ 良サハ 009デアル コトデ スデニ解ッテタケド、ココデモ コンナニ 発揮スル ナンテ ネ>
「こりゃ・・・楽じゃわい・・・」
「・・・ギルモア博士、イワンと話していたところですが、今晩中にイワンに接続部分の最終チェックと、彼女をサポートしているケーブルの電源を切って、意識を明日の朝には戻せたら、イワンが夜の時間に入る前に彼女の視力、聴力を予定よりも早く回復できると・・・」
「・・・・・本当に楽じゃな。・・・ジョー」
「はい?」
「お前は、儂の自慢の息子じゃ!」
「!」


ギルモアは両手を広げて、ぐっとジョーを抱きしめた。ジョーは驚いて身を固くする、が・・・ギルモアの力強く、あたたかなハグに、そして、ギルモアから香る彼愛用のバイプの独特なそれに、嬉しさがじんわりと胸に広がった。


「もちろん、イワン!お前は儂の一番の孝行孫じゃぞ!」
<ヤッパリ、僕ハ 息子ジャナクテ 孫ダヨエ>


ギルモアはジョーの背を2度、ぽんっぽんっと叩いてから、ハグを解いて、ジョーが研究室へと移したデータをチェックしに研究室へと向かった。


<ヨカッタネ>
「え?」
<嬉シソウ ダヨ・・・・泣ククライ嬉シイ?>
「っ!!」


ジョーは慌てて自分の目元を拭う。確かに感じた、微かに腕を濡らした熱い雫の感触。


<僕モ 嬉シイヨ・・・ウン。じょーナラ、イイヨ>
「・・・・?」

ーーー僕ノ ぱぱッテ 認メテモ。






<じょー、博士ガ でーたヲ 見テイル間ニ 接続部ノ ちぇっくヲ 始メル。スベテ ソレラモ 記録シテ欲シイ>
「・・・わかった、すぐ始められるかい?」
<モチロン!>


最終チェックを終えた後、ギルモアがメンテナンスルームに戻って来ると、イワンが言った通りのスケジュールで事が進んでいった。
セービング・カプセルから繋がれていた、フランソワーズの生命維持をサポートしていた電源が切られ、ケーブルが外されると、フランソワーズはイワンの力で診察用ベッドへと移された。
すべての神経が何も問題なく繋がり、データ上から危険視するような負荷も、不具合も見られなかったことに、3人は胸を撫で下ろす。

明日の朝、頃合いを見てフランソワーズの意識を戻すことになり、深夜2時には、ギルモアは自室へと戻り、イワンはミルクをジョーに作ってもらうと、早々にクーファンの中で眠った。夜の時間が近いせいか、徐々にイワンの眠る時間が多くなってきている。


ジョーは診察台用のベッドで眠るフランソワーズの傍らに椅子を移動させて、座った。






美しく眠り続ける、彼女を目覚めさせるのは、真実の愛。




それは、小学校に通っていたころにクラスで演じた、白雪姫の話。
それとも、フランソワーズと一緒に見に行ったバレエ公演の、眠りの森の美女の話。


おとぎ話の彼女たちは、目覚めた後、本当に幸せに暮らしたのだろうか?
それが、本当に真実・・・・だった?




ジョーが見つめる、長いレースのような繊細な睫は、重たげに、真珠のように輝く真白い肌に陰を落とす。
限りなく深く沈ませている意識の底で、フランソワーズは眠りについている。




朝、キミのために用意した、甘い、甘い、カフェオレの香りで目覚めて欲しい。

それが俺にできること。




誰が、好きなんだ・・・?
誰が、キミのこころを占めている?
誰を、想っている?



誰が、そのキラキラと輝く亜麻色の髪に触れる?
誰が、その愛らしいくちびるで、名前を呼ばれ、愛をささやいてもらえる?
誰が、その華奢な肩を抱く?


誰が、キミに愛される?






誰が、キミにキスをする?










誰が、俺からキミを奪う?












フランソワーズ・・・・・・





キミのそばにいる、よ。
キミだけを見てる、よ。







キミだけを想っている、よ。












キミのために、キミに触れない。








好きだ、よ。










ジョーは椅子から立ち上がり、両腕をフランソワーズの枕を左右、はさむようにして置き、体重を支えた。









かすかに聞こえる、規則正しいフランソワーズの息が乱れて、

ゆっくりと、重なった想い。



















彼女との2度目のキスでも、魔法は解けなかった。
眠ったまま目覚めない、フランソワーズ。



美しく眠り続ける彼女を目覚めさせるのは・・・・・俺じゃない。



俺では無理なんだ、よ・・・・・・・。





キミのために、キミに触れない。








・・・・・好きだ、よ。フランソワーズ。
キミは俺の初めての恋の相手。
初めて好きになった人。

キミが最初で最後。










好きだから、キミのために。
好きだから、沈めよう。
好きだから、キミに知られてはいけない。

好きだから、この気持ちを深く、深く、深く、誰の目にも触れられない、誰の手にも届かない場所へ



沈めてしまわないと・・・・。


フランソワーズのために。
自分のために。
























キミが明日を生きていくために、俺は選んだ。
キミのそばにいる、よ。
キミを護る。


ずっと、ずっと、ずっと、キミが誰のものになっても・・・
キミが誰を想い、好きであっても・・・・

俺とキミを繋ぐものは、サイボーグと言う躯。








愛おしい。と、これほど、この躯が愛おしいと、思ったことは、ない。















=====41へ続く


・ちょっと呟く・

ちゅー2回目!!!
しかもっっ寝込みを襲撃っ2回ともっ!


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