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Day by Day・41
(41)




目覚めたら、闇だった。
何もない、黒い世界。
無音の黒い、世界。


触れるもの全てが、何かわからない。
自分を包むシーツさえも、怖い。

見えない世界。
聞こえない世界。

自分が生きているのか、死んでいるのか、どうやって確認すればいいのか、わからなかった。





生きている証拠は、”痛み”。




自分の躯を、傷つけて確認する。
抓る。切る。ぶつける。

鈍く、ときに、鋭く、皮膚を襲う痛み。



生きている証拠。





以前は・・・・そうやって”確認”することで、安心していた。














####


甘くて、優しい、朝の香りがフランソワーズを落ち着かせた。


浮き上がる意識の中で、イワンの声が頭に響く。
フランソワーズは自分がどこかのベッドに寝かされていることに、気づくのに時間はかからなかった。

目蓋をゆっくりと開いてみる。
変わらない闇に、何を期待していたのか、無意味に落胆した。
わかっていたことでも、ほんの僅かでも光を感じられるかもしれない、と期待してしまった自分を自嘲する。


「?」


脳波通信は使えない。
視力と聴力が正常であることが確認されるまで、補助脳の機能も一時的にスリープ状態にされている。

フランソワーズは、自分が出している声も聞こえないために、自分がちゃんと発音できているのかわからない。声の大きさは?抑揚は?


「・・ぇオ・レ?」



フランソワーズの”覚醒”に立ち会ったのは、ギルモア、イワン、そしてジョーの3人。
何度も瞬きを繰り返し、天井を一点に見つめる瞳は、焦点があっていなかった。
ゆっくりと手を動かして、ベッドのマットレス、枕を触って確認し、上半身をそろり、そろりと起こしていく。


何も見えていないことを、聞こえていないことを、ギルモアが確認し、イワンを通じて今の状況をフランソワーズに説明する。


「・・・・カフェ・・・オ・・レ?」
<じょーガ 約束 シタッテ>


甘くて、優しい、朝の香りは、カフェオレの香り。


「大丈夫のようじゃの、頭痛もないようだし、落ち着いておる・・・これほど落ち着いているのは、初めてじゃないかのう・・・・」
「・・・・前は違ったんですか?」
「いや・・・・なに、やっぱり・・・・怖いじゃろ?・・・その、な・・何も見えん、聞こえんのは。003は普段から、人よりも聴こえて、視えるんじゃ。そのギャップは大きかろう?・・・なあ?」
「・・・・・そうですね」
「フランソワーズ、気分はどうじゃ?・・・・ジョーが淹れてくれたカフェオレを飲むか?」
<博士ガ、気分ハドウカ?って訊イテルヨ。かふぇおれハ じょーガ 淹レテクレタンダヨ、飲ム?>
「・・・・・・気分、は・・・悪く、アリマセン。少シだけ躯が、重たいです・・・・・頭モぼんやりした感じがします・・・・・ジョー?」


自分の話している声でさえ、まったく聞こえていないために、とても細く、小さな声で不安気に言葉を音にしていく。
フランソワーズはジョーを探すかのように、少しばかり首を巡らせた。
その動きが、ぎこちなく・・・自分が立っている方向とは別の位置で止まったことに、意味のわからない悔しさがジョーの胸を突き上げた。

昨日、メンテナンス中に目にした彼女が”サイボーグ”であると言う”事実”が、ジョーの意志とは関係なく、脳裏を駆けめぐる。事実、彼女の”内部”を目にしたことで動揺し、戸惑った。


「・・・こっちだよ」


自分の立ち位置を知らせるように、そっとフランソワーズの肩に手を置いた。聞こえない、見えない状態の彼女が、脳波通信が使えない以上、そうするしかなかった。


「・・・・ありがとう。・・・・・カフェオレ、もらっても、いい?」


彼女の肩を一度、ぽんっと優しく、たたく。それがyesの合図のように。
ジョーは診療台に取り付けられている、治療器具を置く台の上のカフェオレを手に取った。
フランソワーズの右手をゆうっくりと持ち上げて、大きめのマグに半分だけ淹れた、カフェオレをフランソワーズの手に乗せた。フランソワーズは、手に感じるマグカップを包み込むようにして持ち、それを確認してから、ジョーは手を離した。






<今日ノ 昼過ギカラ てすと ヲ 始メルヨ。 調整ヲ シナガラ 僕ノチカラデ ”馴染マセ”テイク・・・・予想デハ、ふらんそわーずガ 思ッテイルヨリモ 早ク 通常生活ニ 戻レルヨ。ソレトネ・・・・。コレカラハ、じょーガ ギルモア博士ノ 助手トシテ オ手伝イ スルカラ。勉強ノタメニ ふらんそわーずノ、視力、聴力ノ回復でーたヤ 記録ハ じょーガ スルカラ。何カ 少シデモ 体調ニ 変化ガ アレバ じょーニ 言ッテ>

「・・・・・・助手?・・・・・・・ジョーが?・・」

<初メハ タダノ 記録係 ダヨ>

「・・・・・・・・・・・いつから?」

<細カイ 仕事ハ ズット前カラ 少シズツ。今日カラふらんそわーずの、調整 ヤ てすと カラ 本格的に、今後 ミンナノ めんてなんす ニ 参加シテイクンダ>

「・・・・・・・・今日・・から?今日からなのね?」


ジョーがメンテナンスの助手として参加する。そのことに、フランソワーズは明らかに動揺の色を見せた。
ギルモアは、心配げにフランソワーズではなくジョーを見るが、ジョーは黙って、フランソワーズの様子を伺っていた。


<ウン。・・・・・・・・・・じょーハ ”今日カラ ”ダヨ。・・・何モ 見テナイヨ>


イワンの小さな嘘はフランソワーズを安心させた。











####

見えない、聴こえない状態のフランソワーズから離れがたかったが、ギルモアとイワンが彼女のそばについていることから、メンテナンスルームを出て研究室に向かった。

昨日、ジェットが持ってきた張大人特製・中華粥の器がそのままに放置状態だったので、それらをトレーに乗せて、キッチンへと戻り、食器を洗ってステンレス製の水切りカゴへと戻した。

珈琲サーバーに残っていた冷たくなった黒い液体をマグに淹れて、ラップしオーブンレンジで温める。
スタートボタンを押すと、独特な機械音を唸らせてオレンジ色のライトが、オーブン内のカップを浮かべ上がらせた。


「なんだ?珈琲か?・・・新しく淹れなおさないのかあ?」


ピーッと甲高い機械音が鳴り、マグを取り出したところにグレートがキッチンに現れた。


「これでいいよ」
「ジョー、ちょっくらコズミ博士んトコロに行ってくるぞお、それからリンツ氏が”世話になる予定”の人物の調べがついた。恩田光弘(おんだ・みつひろ)ってヤツだ。ちょいと不思議なんだが・・・」
「・・・何が?」
「リンツ氏は”交流会”の参加者ってこたあ、学者の卵?なんだよなあ?・・・・どういう”知り合い”なんだろうなあ・・・」
「?」
「この恩田ってヤツあ、絵本作家らしいぜ?」
「・・・・絵本作家?」
「画塾っていうのか?そういうところで、絵を教えたりしながら、らしい」
「・・・・・・その恩田と言う人物のことも、頼む」
「OK!じゃあ、行ってくるぞ~」


グレートをキッチンから見送り、珈琲を手に再び研究室へ向かおうとしたとき、ピュンマがジョーを呼び止めた。


「ああ!ジョーっ、ちょうど良かった!!」
「・・ピュンマ」
「ちょっと、リビングで、いいかな?」


ジョーは無言で頷いて、ピュンマとともリビングルームへと向かった。


「”景品”を手に入れた4人、僕を含めてだけど、すぐに調べがついたよ・・・。ついでに管理人の方もなんだけど、さ・・・。それが・・・」
「どうした?」

リビングルームのソファに座りながら話しを進めていくピュンマ。
ジョーは手に持っていた珈琲を口に含んだ。


「・・・・学校なんだ」
「学校?」


ピュンマはラップトップの電源を入れて、立ち上がるのを待つ。


「・・・・すぐに調べられたんだけど、その”学校”もね、でも・・これじゃあ人物を特定するなんて、難しいよ・・・」
「・・・・・どういうこと?」
「”マクスウェルの悪魔”は、ある学校内の施設を使ってるみたいなんだ・・・だから、その学校内でコンピューターを使用する人物全員”マクスウェルの悪魔”の可能性があるってこと。学校関係者に絞ってもいいんだけど、もしかしたら”無断使用”しているのかもしれないしね・・プロバイダーにちょっと進入しただけだから・・・判ったのはここまで。」
「・・・・」
「ゲームを置いているサーバーは国内、海外入り交じってランダムに使われてる。・・・まだ、ジョーにはどういう風にゲームを進めていくか、言ってなかったよね?」
「ああ」
「イベントをクリアする毎に、URLが送られてくるんだ・・・cyborgになるまでのゲームを置いたサーバーは、国内のものだった、けど。・・・・その後は、前にプレイしたものは二度と出来ないようになっている。一度プレイしたイベントは2度とできない。再アクセスしても、URLは存在しません!だよ・・・。cyborgになるまでのゲームを置いたところが、唯一、そのままでさ。再アクセスも可能だったから、そこから辿ったら、ここ」


ピュンマは立ち上がったコンピューターで、ファイヤーフォックスを開き、登録しておいたウェブアドレスをクリックする。読み込まれた画面には近代的なビルと、その雰囲気にあった文字。


「私立、月見里(つきみざと)学院?」
「違うよ~!これで『やまなし』って読むんだよっ!月見里で、や、ま、な、し。やっぱり変わってるんだね・・・。この読み方は、山がなくて月がよくみえる。って言うところからきてるんだって。日本語ってすごいよね、・・・ていうか、とにかく、ここは寄宿制の男子校・・・・とても有名らしいよ、色々とネットで調べたんだけどさ・・」
「・・・・・どう、有名なんだい?」
「プライベート・スクールでも日本の一般教育システムと違うので、ね。・・・12、3歳から18、9歳まの6年制、偏差値に合わせたクラス分けらしいんだけど、はじめの2年間は全員同じカリキュラムを受けるみたいなんだけど、後は、それぞれが興味ある分野に分かれて専門的に勉強していくらしい」
「・・・・・・・・・へえ」
「まだリサーチし始めたばかりだから、・・・明日のミーティングまでには、調べられると思うよ」
「わかった。”マクスウェルの悪魔”はこの学校に居る可能性があるか・・・・。引き続き頼む・・・その学校のことについて判ったら、ミーティング前に俺の方へメールしておいてくれる?」
「了解!」


手に持っていたコーヒーを飲みながら、ソファから立ち上がろうとしたとき、ピュンマが再びジョーに話しかけたので、ジョーはソファに座り直した。


「ジョー・・・・フランソワーズは、どう?」
「ああ・・・、今回はイワンが全面的に協力しているからね。予定よりも早く終わりそうだよ。nerves systemをフランソワーズ自身がきちんとコントロールできるか・・・。今のところ心配されていた、負荷、不具合、拒絶反応も出てないし、さっき目を覚ましたときも、彼女は落ち着いていたよ」
「そっかあ・・良かった!!」
「・・・うん」
「ジョー、あのさ」
「なに?」
「う、うん・・・」
「?」


ピュンマは少しばかり迷った様子を見せたが、何かを決心したかのようにまっすぐにジョーを見つめると、早口に言い切った。


「なんでっフランソワーズに告白しないの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


ストレートなピュンマの物言いに、ジョーは瞳を大きく見開いて固まってしまった。


「フランソワーズの気持ちよりも、自分の気持ちに正直になるべきだと思うんだっ!」
「ピュンマ?」
「変だよっ!ジョー、仲間や家族の前に、ジョーはジョーであるべきだよ。だってそうだろう?どうしてさ?009は、島村ジョーがいてこそ009なんだよ!009である前に、君は島村ジョーであるべきなんだ!・・・確かに、博士とイワンだけでここに住まわせておくのは危険だし、ジョーの国だから、君がここで一緒に暮らしてくれるほど、安心なことはないんだけど・・・・・だからと言って、なんでジョーがギルモア博士の跡継ぎのようなことを背負わなくちゃいけないんだい?それは、それは本当にジョーの意思?フランソワーズにだってそうだろう?彼女がフランスに帰ることになったら、離ればなれになっちゃうじゃないかっ!ジョーはそれでいいの?想いを伝えずに離れ離れになってもいいの?誰かの手で幸せになったフランソワーズで、ジョーは満足?自分の手で、ジョー自身で彼女を幸せにしたいって想わないの?その努力をしないの?僕たちのために、ここに残って、ギルモア博士の代わりになる努力をするよりも、そっちの努力をしてくれよっ!!!」


ピュンマは肩で息をしながら、ジョーの手にあったマグを奪い取り、温くなった珈琲を一気に飲み干した。そんな彼をジョーは黙って見つめている。

苦い液体を飲み干して、ふうっと一息吐くと、ピュンマは落ち着いた口調で言葉を続けた。


「ジェットがさくらにジョーの携帯のメルアドを教えたって。電話番号は教えてないからかかってこないよ」
「・・・・・携帯電話、部屋に置いたまま・・見てない」
「さくらはきっと、ずっとあのままだよ。彼女は今、誰が何を言っても聞き入れないし、ジョーがフランソワーズのことを好きだって知っていても、諦めないだろうって。ジェットが言ってた。彼女は自分で気が付かないと駄目なタイプなんだって」
「・・・・ジェットが言った?」
「これはアルベルト・・・・自分で痛い目をみないとわからないタイプだってさ」


ピュンマは空になったマグを硝子作りの珈琲テーブルに置いた。


「・・俺の意志だよ、ギルモア博士の跡継ぎになろうなんて言う気持ちはないよ。ただ・・・自分の躯のことだから、知っておこうと思って・・・・。そこから始まったんだ。その延長線上に今はいる。それは博士も知っていることだから。・・・・知識として知っていても、やっぱり経験がないとね。”機械”だからと言って、机上での計算通りにいつもいくとは言えない。それは俺たちが一番良く知ってること、だろ?・・・メンテナンスに参加するのもそういう理由から。俺の躯は001から008、君までの改造を総合した躯なんだ。だから、結局はみんなの躯のことを知れば知るほど、自分に繋がってくる・・・そういう意味も含めてなんだ、よ」
「じゃあ、フランソワーズのことは?」
「・・・・彼女には想っている人がいる」
「確かめたの?」
「・・・いや」
「いたとしても、それが誰か知りたくないの?気にならないの?」
「・・・・・俺は・」
「俺はなんだよ?」
「今はそんなことを考えている場合じゃない、よ」


ジョーはソファから立ち上がると、空になったマグを取った。


「じゃあっいつ?いつだよっ!!いつなら考えるんだいっ。いつだったらいいんだよっ!!ジョー・・・君はそれでいいの?自分じゃない誰かがフランソワーズを幸せにするんだ。それでいい?ジョーは、あの、フランソワーズの笑顔を独り占めしたくないの?」
「・・・・・・ピュンマ」
「ジョー。僕はフランソワーズにも幸せになって欲しい。けれど、それと同じくらいに、君にも幸せになって欲しいんだよ?」
「俺には無理なんだ・・・・・フランソワーズの笑顔を奪うだけで、どんなに努力をしても無理なことも、ある」
「そんなのっ!!やってみないとわからないじゃないかっっ!!」
「やってみて、後悔するよりも、いい・・・・・・。ピュンマ、悪い・・・・もうこの話しはしないでくれ。俺は・・・・、もう決めたんだ」


ジョーはソファから、ピュンマから離れていく。その背に向かってピュンマは叫んだ。


「何をっジョーっ何を決めたんだよっ」


ダイニングルームのドアの手前で足を止めて、ピュンマに振り返る。


「・・・・彼女のために、彼女の眼と耳を、光と音を護りたい。ピュンマ、ありがとう。・・・もう放っておいて欲しい。俺は彼女に相応しくない。そして、この気持ちも、伝えるつもりは、ない、から」
「ジョーっそんなのおかしい!!自分で自分を制限するなんておかしいよ!誰が言ったの?どうしてさ?誰が”ジョーはフランソワーズが相応しくない”なんて言ったんだよっ!!」
「・・・・・彼女の不幸はサイボーグになったこと。俺が求めていた家族や仲間は・・・サイボーグになってから手に入れた・・・・」
「・・・・そんなの」
「俺といたら、常にサイボーグだと言うことを突きつけられる、だろ?戦いの思い出しかないんだ・・・辛いだけだ、よ・・・・。彼女の幸せだった日々を取り戻すどころか・・・彼女の不幸の始まりであった日々を重ねることしかできない」
「思いこみだよ・・そんなのっっ!!」
「・・・・・・俺は知らないから」


ジョーはピュンマに背を向ける。


「フランソワーズが暮らしていた、”普通の幸せ”というものを知らないから、どうやって彼女を幸せにしていいいのか、わからない」
「・・・・・・・・ジョー」
「・・・・俺が知っているのは、戦い方と、孤独を紛らわす遊びだけ、だよ」


ピュンマはそれ以上何も言わずに、ジョーがリビングルームから出て行くのを見送った。
立ち上げたままだったパソコン画面がスクリーンセイバーに変わる。ピュンマのスクリーンセイバーは、彼が初めて行った秋葉原で購入した、デジカメで撮って読み込んだ写真をランダムに表示されるように設定されたもの。


ギルモア邸前に立つ、日本風にピースしたピュンマ。
寝ているイワンの髪をリーゼントにしたジェット。
リビングルームのソファでうたた寝していたアルベルトの変な寝癖。
張大人の着替え中。
ジェロニモがその長身のためリビングルームの出入り口で頭をぶつけて、1人蹲っている姿。
ギルモア博士が夕食のおかずをつまみ食い。
洗濯物を干している、フランソワーズ・・・スカートが風で・・・(これを撮ったのはグレート!)
海で煙草を吸うジョーとジェット。
こっそり撮った、バレエ公演を見に行ったジョーとフランソワーズのドレスアップ姿。
イワンを抱く、ギルモア博士。
グレートの1人芝居。
キッチンで御菓子を焼くフランソワーズとコーヒー豆をひくアルベルト。
ジェットが昼寝をしている間に、鼻の長さを測ろうとしている張大人とグレート。
ジョーが雑誌を読んでいる隣でイワンにミルクをあげるフランソワーズ。
ジェット、アルベルト、ジョー、コズミ博士、そしてピュンマ。コズミ邸前で。
フランソワーズと、コズミ博士。






ドルフィン号の大掃除。

はしゃぎまくるジェット。
雑巾でスケートするグレート。
水浸しの床で滑って、壁に頭をぶつけて蹲るジェロニモ。
ふざけるジェットとグレートを怒るフランソワーズ。
イワンが掃除道具を宙に浮かせて、遊ぶ。
真面目に掃除をするジョーとアルベルト。
ドルフィン号のキッチンで掃除をしているフリをしながら、冷凍中華まんを1人温めて食べる張大人。
フランソワーズが持つバケツを代わりに持とうとするジョー。












「・・・・・増えたなあ・・」


スクリーンセイバーとして映し出される写真は、まだ1度も同じ写真が映し出されない。


ーーージョー、これが普通の幸せだよ?ちゃんと知っているじゃないか・・・。





スクリーンセイバーを止めるために、パソコンのキーボードに触れる。
ピュンマが最後に見た写真は、フランソワーズから珈琲を受け取るジョー。




ーーー幸せそうだよ・・・2人とも。




ピュンマが深く吐き出した息は、珈琲の香り。

















####


ジョーは地下の研究室へ戻る途中で再びキッチンに立ち寄る。お湯を沸かしながら、珈琲サーバーをセットしたところに、昼食の準備のために張大人がキッチンへとやってきた。


「ジョー、何してるアルか?」
「・・・紅茶と、コーヒーをね」
「ワタシが淹れるアルよ?」
「いや、大丈夫・・・自分でできるから」
「博士の分アルか?」
「・・・・・そうだ、ね」
「じゃ、もうちょっとしてから戻ってくるネ」
「今から、珈琲を淹れるのか?」


張大人と入れ違いに、アルベルトがキッチンへとやってきた。


「・・うん、アルベルト、いる?」
「頼む。ジェットから招待状を受け取った。今、管理人の返事待ちだ・・・」
「返事待ち?」


ジョーがアルベルトの方に振り返る。
こぽこぽ。と、湯が沸騰し始めた。


「ああ、招待状を受け取ったら、その招待状を添付して管理人へメールを送ることになっている」
「・・・面倒なことをさせるね」
「メールアドレスから、ピュンマが管理人を追跡中だ」
「サーバーからは、学校にたどり着いたらしい」
「聞いた。相手も色々と手の込んだことをしているな・・・それほど身元を知られたくないってことだ」
「それだけ、景品に出しているものが”危ないもの”であると、判っているっていうことだね」


ジョーは食器棚からティーポットとティカップを出した。


「なんだ?紅茶もか?」
「・・・下に持って行く」
「なら、甘いやつにしとけ、ミルクティーの方が好みだろ?」
「・・・・・ミルクをいれたらいいだけだろ?」
「そうじゃなくてミルクを沸騰させた中に、紅茶の葉を入れて、だ」
「・・・・面倒だよ」
「グレートは?・・・そういうのはアイツに聞けばいいだろ?」
「コズミ邸」


紅茶の缶をいくつか棚から出して、その文字を追いながら答えた。
アルベルトは、キッチンカウンターのイスに座り、紅茶を準備するジョーを見ている。


「どの葉にするんだ?」
「・・・・・この間、買ったのを、ね」
「この間?」


数日前にミツエのカードを買いに出た先で、グレートに頼まれ行った紅茶店で飲んだ紅茶を、フランソワーズは気に入り、自分用にと50gの”トロピカル・ホワイト・ティ”を購入していた。

いくつかの紅茶缶を出して、やっと見つけた他の紅茶缶よりも小さな缶を、ジョーは開ける。
ほんのり甘みのある、香りが胸を擽った。


「・・・他は?」
「・・・・・・ブラック・マーケットの方は、以前から目をつけていた、いくつかがあるが、そこからはトム・マクガーの名前などは見つからんようだ」
「・・・景品を手に入れた、3人の身元がわかった、そっちも任せていいかい?」
「そのつもりだ。返事が来るまでオレは何もできないからな・・・ピュンマから3人については聞いてあるが・・・回収するのか?」
「いや、まだいい。トップだけを探って欲しい。ピュンマが持つ3枚以外の2枚が、どういう物かを知りたい。それによって判断する。まだギルモア博士には例のを見せてないんだ・・・」


適当に紅茶の葉をティポットに入れて、出した紅茶缶類を元の場所へと戻していく。
ガスコンロの日を切って、沸騰したお湯を注ぎ始めた。


「・・・フランソワーズの様子はどうだ?」
「今朝、目を覚ましたよ。イワンがサポートしているからね・・・・昼過ぎからテストに入る。上手くいけば、明後日までには、視力・聴力が戻ると思う・・・」
「・・・・・大丈夫だったようだな」
「博士の方が、だめだったみたいだ、よ」
「どういう意味だ?」
「ほとんど、見せてはもらえなかった」
「・・・そう、か・・・」


お湯を注ぎ終わったティポッと、2対のカップ、そしてシュガーポットをトレーに乗せてから、冷蔵庫を開けて、クリームを小さなミルクカップに注ぎ、それもトレーに乗せた。


「確か、トップは”ラムダ”だったね?」
「そうだ、ありがたいことに、住んでいるのは都内だ」
「どういう人物?」
「名は大沢勇一。都内の総合病院でレントゲン技師」
「・・・彼がいない間に、なんとかできる?」
「ほかの2枚か?」
「そう」
「・・・・自宅なら、なんとかなるが、仕事先でとなると面倒だな」

ジョーはステンレス製の水切りカゴに置かれたままのマグを1つ取り、そこに珈琲を注いで、キッチンカウンターに座るアルベルトの前に置いた。


「自宅からで、いい」
「わかった」
「あと、ラムダが進んだ分のゲームのセーブデータを手に入れられないか?」
「・・・どうだろうな、ピュンマに相談してみる」
「頼む・・・。ジェットの方はどうなってる?」
「今日はまだ、会っていない。昼食の時にでも会うだろう・・・これを飲み終わったら、オレは少し出るぞ?」
「うん」
「携帯電話、持ち歩いてくれないか」
「そうする、よ」


ジョーは先ほど使用していたマグに珈琲を注いで、それらを乗せたトレーを持ち上げた。


「茶菓子はなしか?」
「あ、そうだ・・・・何か適当に美味しそうな御菓子を買ってきてくれないか?・・・グレートにも連絡して欲しいな」
「なんでもいいのか?」
「生菓子でも、日持ちするものを」
「・・・下にか?」


ジョーはトレーを持ってキッチンから出て行く。
アルベルトはそれを視線で追う。


「見えない、聞こえないなら、楽しみは味わうこと、だろ?」
「なら、香りの良いものの方がいいな?」
「・・・そんなものある?」
「探してみよう・・・・太らせるなよ?」
「・・・少しくらい、平気だろ?」
「良い感じなところについてくれたら、な」
「・・・・・・・・・・・むっつり、はアルベルトだって、ジェットに報告しておく、よ」
「太らせなくても、育てる方法があるの知ってるだろ?」
「・・・・君が一番、やらしいよ」
「男だからな」
「・・・・・・・・あ、そう」
「襲うなよ?」


キッチンの隣にある、地下へと続くドア前に立ったジョーに、アルベルトはトレーを持っているために両手が塞がっているジョーのために、立ち上がってそのドアを開け、ニヤリと、片方の口角を上げて笑った。
ジョーは、何も答えずに地下へと足を進めていく。


「・・・・・・・キスした、よ」


少し離れた場所から、呟いた言葉はアルベルトの耳には届いていない。





=====42へ続く





・ちょっと呟く・

事件が進みはじめましたが、ゆっくりです。
3のことがあるしね~!

ジョー・・・・手を引き気味です。
逃げ気味です!!
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