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Day by Day・45
(45)



姿が見あたらないフランソワーズに、ジョーの胸が不安に竦む。
苛立ちはしなかったか、肺を押さえつけられたような息苦しさを感じた。


洗濯をしているかもしれない。と、張大人に訊いて覗いたバスルームにも、夜の時間であるイワンの世話をしているかもしれないと。と、足を伸ばした1階のコモンスペースにも、フランソワーズはいなかった。

ジョーはリビングルームへと戻ろうとしたとき、コモンスペースに繋がるジェロニモの部屋のドアが開いた。


「・・・フランソワーズ」
「?」


ジェロニモの部屋から、シーツを両手に抱えて姿を現したフランソワーズにジョーは驚いた。と、同時に息苦しさが消えて、胸に大きく新鮮な空気を吸いこんだ。

フランソワーズの頭越しから、ジェロニモはジョーの姿を見つける。


「・・・どうした、ジョー。」


フランソワーズはジェロニモの声に押されたように、彼の部屋から出て、洗濯機のあるバスルームにむけて歩き出した。


「いや、・・・・なんでもない」


ジョーのそばを通り抜ける途中、フランソワーズは足を止めてジョーに向かって微笑む。


「ジョーもシーツを出しておいてくれるかしら?天気予報で、今日、明日はお洗濯日和って言っていたから、洗ってしまいたいの」
「・・・・・なるべく、キミは安静にしてないといけないはずだよね?」
「気になって、じっとなんてしてられないわ・・・。それに、別に病気でもないし」
「・・・シーツは出しておくけど、自分で洗う、よ」
「・・・・・出しておいてくれるだけで、いいの。お願いね?」


何かを言いたげなジョーを遮って、フランソワーズはバスルームへと向かった。


「ジョー」
「なに?」
「・・・・・今すぐにシーツ出せ。」
「・・・」
「面倒なことがいっぺんにすむ。みんなの分もジョーが集めてきたら、フランソワーズは楽だ。」
「・・・・・・そうだね」


ジョーはバスルームに居るフランソワーズを追いかけるように、コモンスペースから離れ、向かった先の、リビングルームにいるジェットとピュンマに声をかけて、部屋に入る了解を得る。


2階に赴き、アルベルトの部屋のドアをノックする。
室内から短く、「誰だ?」とアルベルトの声。


「俺だよ、シーツを出して欲しい」


少しの間をおいて、アルベルトの部屋のドアが開いた。


「なんだ、手伝いか?」
「・・・・・じっとしていないんだ、彼女」
「だろうな。昨日も夕食の片づけをすました後に、嬉々としてキッチンのコンロを磨いていたからな」
「・・ああ、それで?・・・遅くまで起きていたんだ」


ジョーは苦笑する。
フランソワーズらしい。と、思いながら。


「入れ、シーツだけか?」
「・・・・多分、枕カバーとかも、かな?いつも彼女が洗う分」
「わかった」


ジョーは部屋に入り、窓際に寄せられた、シングルベッドからベッドシーツなどを取り外すアルベルトを黙って眺める。

壁際に、アルベルトが気に入った本を収めた扉突きの本棚が並ぶ。
クローゼットが部屋についていないために、西洋タンスなどがアルベルト好みのデザインで統一されて、部屋の中央に四角い黒の珈琲テーブル。その上に3つの白い形違いのキャンドルが置かれ、ついになったベイ・リーフ・カラーの2人掛け用のソファにパーソナルチェア。と、背の高いフロアランプ。


部屋には一切無駄がなく、センス良く配置された家具。
ここがどこからショールームか、オープンハウスのようにさえ感じる。


「・・・コンピューターって、そこの中?」
「そうだ」


滅多に入ることがない、アルベルトの部屋。その一角をさす。
そこには観音開きの背の高いタンスがあった。


「開けてみて、いい?」
「ああ、かまわん」


ジョーは、取っ手を両手で握り、ゆっくりとドアを開いていく。
中にきっちりと納められた、1台のデスクトップと2台のモニター。キーボードは引きだすようになっており、下をのぞき込むと、プリンターとスキャナーが置かれていた。


「・・・へえ、こういう風になってるんだ」
「見たことないか?」
「実際には、ね・・・」
「そこも開けてみろ」


取り外したシーツを几帳面にたたみながら、アルベルトは顎で背の低い、これも観音開きタイプのもの。を、指した。

言われるままに、ジョーはそれを開く。
中には均等に配置されたオーディオ機器とレコードプレイヤー。そしてスピーカーが納められていた。


「・・・なんだか、手品みたいだ」
「はっ、手品か?」


ジョーの言葉にアルベルトは笑う。


「なんでも隠すんだね、アルベルトは」
「生活感が出ているのが、あまり好きじゃない。落ちつかんだけだ」
「・・・他に、何を隠してるんだい?」
「それは、また今度だ。ほら、もって行け」
「・・換えは?」
「もちろん、隠してある」


ニヤリ、と片方の口角を上げて彼らしく嗤う。
ジョーはキッチリと畳まれたシール類をアルベルトから受け取って、部屋を出る。
続けて、ジェット、ピュンマ、そして自室を周り、両手いっぱいに抱えたリネン類を手に、廊下を歩いていたところ、後ろから起きたばかりのグレートに呼びかけられた。


「・・・・・なんだ、ジョーが洗濯するのかあ?」
「グレートの分も、出して欲しいんだけど?」
「んああ、もう持てないだろう?それじゃあ。さきにそれを持って行け、すぐに吾輩の分も持って行くから」
「わかった」













####

「いやあ、絶景ですね!!見応えがあります」


ギルモア邸の住人が遅めの昼食が終わったころに2階のゲストルームから降りてきたクラークは、開けられたリビングルームのガラス戸から、風にはためく、庭いっぱいに干されたリネン類に感嘆の声を上げる。

空気が澄んで、いつもより高く感じる空の青さに負けじと、白い布が太陽の光を受けて眩しい。


「こんにちは、Mr.リンツ。ゆっくりお休みになられましたか?」


洗濯物の合間を縫うようにして、姿を現したフランソワーズの声に笑顔で答える。


「ええ、もう十分に。すみません・・・。なんだか自分の家のようにくつろいでしまってます」
「いいえ。そう感じていただけて嬉しいですわ。どうぞダイニングルームの方へいらっしゃって下さい。張大人が昼食を用意してますから」
「ああ、それは嬉しいですね。彼の料理は素晴らしい!・・・・それと、どうか”クラーク”と呼んでください、マドモアゼル」
「では、私も”フランソワーズ”でお願いします」
「嬉しいですね、あなたのような美しい方と、ファーストネームで親しく呼び合うことができるなんて」
「大げさですわ」


フランソワーズは恥ずかしげにクラークから視線を外して、空になった大きな籐のカゴを手にリビングルームへと入る。


「大げさではありませんよ。あなたは本当に美しい。美しい、と言う言葉さえ物足りない」
「あの・・」


リビングルームのガラス戸の手前で、クラークは籐のカゴを持つフランソワーズの手に、自分の手を重ねた。


「・・・・自分はとても緊張してるんですよ?これでも。あなたのその、蒼い瞳を見る度に、胸が高鳴るのです」
「・・え・・・?」


重ねたフランソワーズの手を、クラークは自分の左胸へと押し当てた。
籐のカゴが音もなく床に落ちる。


「ほら?わかりますか?」
「?!」


ワイシャツ越し伝わる人肌の温度。


「ね?」
「・・っ」


屈むようにしてクラークはフランソワーズをのぞき込んだ。
驚きに見開かれた、こぼれおちそうに大きな瞳に映る自分をみつめる、クラーク。

フランソワーズの顔がイチゴ色に染まっていく。
近づいたクラークの顔に、ぱっと顔を背けたフランソワーズの動きを追う、絹糸ように細く繊細に揺れた、ハチミツ色の髪から強く香る、花。


一瞬の目眩がクラークを襲う。
力が緩んだクラークの手から、フランソワーズは彼の左胸に当てられていた手を引き抜いて、籐のかごを拾い上げ走るようにして、リビングルームから出て行った。


「あれ?・・・・どうもここでは、自分の”感”は通用しないようですね」
「どういう”感”か、知らんが・・・フランソワーズにちょっかい出すと、命がないですよ?」


ことの成り行きをソファに座って見守っていた、アルベルトが手に持っていた新聞を、硝子作りのテーブルに置いた。
ソファには、ジェット、グレート、そしてジェロニモがいる。


「おめえはジョー狙いじゃなかったのかよっ?」
「Mr.シマムラ!素敵ですねえ、まだ彼とは会ってないんですが?」


クラークはきょろきょろと、リビングルームを見渡した。その仕草にジェットは呆れる。


「・・・クラーク、婚約を破棄にしたのではなくて、”された”が正解なんじゃあないのかい?」
「失礼な!」
「その”軽さ”が原因で。」
「Mr.ジェロニモまで!」
「よお、恩田光弘ってえのが、てめえの本命なんだろ?いいのかよ、フランソワーズなんかに手を出して、バレちまったら意味ねえじゃん」
「女性ですからね。流石にMr.シマムラだと問題有りです。だから、ミツヒロに会うときは”男性”の付き添いよりも”女性”の方がいいんです」


クラークはソファに近づいて、ジェットの隣に腰を下ろした。


「しかし、逆に問題になりませんか?あなたが”女性”と婚約したことは知っているのでしょう?」
「ええ・・・・。当時、色々あって疲れてたんです、自分もミツヒロも・・・・。もう何もかもやりきれなくて、親の言うまま流されるのが自分の人生かも・・と。楽になりたくて選んだのに、結局は苦しくて、辛くて、後悔ばかりしていました。間違いに気づきながらも、だらだらと生きていて・・・。今更からもしれませんけれどね。ミツヒロと復縁できなくても、いいんです。ただ、正直な本当の自分を彼にぶつけたいんです。彼が住む、彼が生まれたこの日本で、もう一度やり直したいんですよ」


クラークの真剣な表情に、ジェットはフンっと鼻息を鳴らした。


「っなら、余計にちょっかい出すんじゃね~よ」
「あ、それと、これとは別ですよ!!」
「ああ?!」
「自分が、”本気”で愛しているのはミツヒロだけですが、ガールフレンドやボーイフレンドを諦めるつもりはありません!!」
「・・・・後悔したんじゃないのかあ。」
「しました。大いにしました。だからこそ、解っているつもりです。ミツヒロは”特別”だと。Miss.フランソワーズとは自分ができなかったことを、してみたいんです。・・・好きなんですよ、女性の服とか、自分じゃ着られないじゃないですか?好きで買ってもタンスの肥やしですからね。どうせなら、自分が好きで買った服をMiss.フランソワーズに着て頂けたら・・・。ついでに一緒に買い物を楽しみたいですね」
「じゃあ、ジョーとは何がしたいんですかねえ?」


黙って聞いていたグレートが身を乗り出すようにして、クラークに尋ねた。


「連れて歩きたい!!あんなに格好の良い、雰囲気ある彼と一緒に歩けるだけで、ふふふ。いやあ、楽しいですよ!あ、ジェットとアルベルトを連れてもいいですね。君たちと一緒のときはナンパの時の方が良さそうです、その時はヨロシク!」
「・・・・・どっちでだ?」
「もちろん!可愛い日本の男の子をです!」


握り拳を作って、力強く言い切ったクラーク。


「・・・女じゃねえのかよっ!」
「断る」
「ああ!解ってないんですよっ!!可愛い男の子と一緒に遊ぶ楽しみが!」
「野郎と、何して遊ぶんだよっ」
「ぐふっ・・・・色々とですよっ。教えて差し上げます」
「いらねええええええええ!」
「・・・・ジョー、呼んでこい。生け贄に差し出せ」
「そこに、いる。」


ジェロニモが指さした方向に、ダイニングルームへと続くドアが開かれて、ドアノブを握りしめたまま固まって立つジョーがいた。


「Mr.シマムラ♪いつからそこに?」
「グレートの質問あたりから、いた。」
「自分が言うのは変ですけれど、さあ、どうぞ座って下さい!」
「・・・・・いえ、今は遠慮しておきます」
「遠慮なんてしないでくださいっ!・・・・・話しがあるのですから、どうせ」
「・・・先に、食事を済まされてからでも遅くないと、思います。張大人が呼んでますよ」
「そうですか?・・・そういえばすごくお腹が空いてますね。では、いただいてきます」


クラークはソファから立ち上がる。
ジョーはドアを手で押さえた状態で、出入り口から躯を移動させた。

ご機嫌な様子でダイニングルームへと足を進める途中、素早く腕をジョーの肩に置いて、ちゅっ とワザと音を立てて彼の頬にキスをした。


「?!」
「コンニチハ!ですね」


一瞬の隙をつかれた、その行動にジョーは軽い殺意を持ってクラークの腕を振り解き、彼から距離を取る。
支えのなくなったドアが、閉じる手前でクラークがドアを捕まえた。


「怖いなあ、挨拶ですよ?」
「・・・・・・・っふざけないでくださいっ」
「自分は大真面目です、可愛いですねえ。Mr.シマムラは♪」


ばたん。と、ダイニングルームへのドアが閉まる。
ジョーはクラークのくちびるが触れた部分を乱暴に腕で擦った。


「ジョーにキスする隙を作るたあ、大物かもしれんなあ」
「・・・・・本物だぜ、あいつ」
「ジョー」
「・・なんだよっ」
「・・・男と”遊んだ”経験はないのか?」


アルベルトがニヤリと嗤う。


「・・・っっあってたまるかよっ!!」
「いい経験になるんじゃないか?」
「いらないっ」
「へっへ~!どんな気分だよっ野郎にモテるってえよお、すっげえじゃん!いっそのこと、クラークでいいんじゃね?相手してもえよっっ」
「・・・・ジェットが相手になれ、よ。可愛い男の”恋人”を紹介してもらえばいいだろ」
「けっ!興味ねえよっ野郎なんてっ」
「ん~・・・いっそのこと、ジェットとジョーが付き合ってることにしたらどうだあ?それなら、クラークもちょっかいださねえんじゃないかあ?」
「「なんでそうなるんだ(よ)っ」」


ばたん。と、広間の方へ通じるリビングルームのドアが閉まる音。


「ん?・・・誰だ?」


アルベルトがそちらへ振り返る。


「ピュンマだ。」


ジェロニモが気の毒そうに答えた。












####

張大人が用意した食事を済ませて、再びリビングルームに姿を現したクラークは、その場にいたアルベルトに電話を借りて良いかと、訊ねた。


「こういうのは、早いほうがいいですからね。それに・・・ミツヒロからも話しも聴きたいんでしょう?みなさんは」


リビングルームには、イワンと、食事の後片づけをしている張大人以外の全員が集まっていた。事前に、昨日の夕食の席で、クラークから話しを訊く席を設けることを予定していた。
昼食を楽しんでいたクラークは、ダイニングルームを通りかかったギルモアに、全員を集めてもらえるか頼んだのだ。


「ここで、ですか?」
「・・・もしも、ミツヒロに嫌われたら、そのまま電話をあなた方の誰かに引き継ぎます。会ってもらえないなら、意味がないですしね」
「いいのかよっ、オレらが聴いちまっても?」
「恥ずかしいことも、何もありません。隠すことでもありません、振られたら・・・今晩も呑んでいいですか?」


弱気なクラークの言葉に、すぐさまグレートが答えた。


「そのときゃあ、吾輩の秘蔵の酒をぜ~んぶ、クラークに呑ませてやるよお、楽しみに振られろやあ」
「ははは、それはいいですね。うん、ヨロシクお願いします」
「連絡先はご存じですの?」
「はい、共通の友人がいましてね。彼からすでに」


クラークはポケットから一枚の紙切れを取りだして見せた。
アンティーク調の飾り棚の上に置いてある、コードレスフォンを手にとって、番号を押していく。


集まった誰もがクラークを見ない。
彼に余計な緊張を持たせないように、ただ黙って耳を澄ませた。

003は、”耳”のスイッチを入れることを止められているが、距離的にも集中さえすればスイッチを入れずとも会話を聞き取ることができる。しかし、それをすることを無意識に拒んだ。
すべきこと、である。と解っていながらも、躊躇してしまう。会話がクラークのプライベートのことであるから余計に。


<・・・・気にしないで>
<009?>
<電話は地下の研究室のコンピューターに繋げてある。彼らの会話は録音されているから・・・>


フランソワーズの表情から、彼女が何を考えているか、手に取るようにわかった。
ジョーは脳波通信で、フランソワーズを諭すように言った。


<キミは”耳”も使ってはいけないはずだ、よ>
<・・・ええ、でもこの距離なら>
<それでも、いけない。キミの場合、僕の加速装置のような”切り替え”がはっきりしていないんだ。どういう状態がonになっているか、曖昧なんだ、よ。だから、会話を聴かないように。そっちに集中して欲しい。いいね?003>
<・・・わかったわ>


短い脳波通信でのやり取りの間、ジョーとフランソワーズはお互いを視界に捕らえることはなかった。










####

4回目のコール音が、クラークの耳に届く前、懐かしいミツヒロの声がクラークの耳を擽った。
彼はアンティークの飾り棚の前に立ったまま、動かない。



『恩田です』
「・・・・・相変わらず、いい声ですね。ミツヒロ」
『・・・・・・・・・・クラーク、か?』
「もう、忘れられたのかな?」
『ゲイルだな、教えたのは』
「彼を責めないで欲しいです。彼が押しに弱いの知ってるでしょう?」
『いまさら、何のようだ?』
「・・・・・・・逢えませんか?」
『逢ってどうする?』
「逢いたいなあって思ったんですよ」
『それだけか?』
「そうです」
『・・・幸せになれ。もう余計なことはするな。忘れろ。結婚して、家庭を持って親を大切にしろ』
「いらない、そんなの」
『・・・・・また、そんなことを言う。何度も同じことを繰り返して、なんになる?いい加減にしてくれ』
「いい加減にするのは、ミツヒロじゃないですか?」
『・・・忘れろ、婚約者が泣くぞ?知らないんだろ?』
「全部話しました」
『・・・・全部?バカか?』
「うん。それで、婚約も破棄して、親にも一族全員にすっごい泥・・どころじゃないですね?ま。そういうことです。こんな自分をさ、誰か面倒見てくれる人、知らしません?」
『・・・・・知らん』
「日本のどこかに」
『日本?』
「そう、日本。来ちゃいました。ミツヒロ・・・がいっぱい見せてくれた絵の場所にはまだ行ってない」
『・・・・・・バカだろ?』
「こんなバカと一緒に住んでくれるような、バカ、知らない?」
『日本の・・・・今、どこにいる?』
「留学を世話してくれた人の紹介で、ある研究所に世話になっています・・・。そこの人たちが”マクガー”教授を捜していてね・・・。そのこともあったんだですよ、電話」
『トーマスを?』
「うん、なんだかワケありでして・・・」
『厄介毎ばかり引き込むな、クラーク』
「そう思うなら、面倒見てくださいな・・・・ミツヒロくらいだろ?お人好しな知り合いって」
『・・・・いいだろう、会うことは会おう。トーマスのことが気になる』
「冷たいなあ」


クラークは全身で溜息をついた。
しばしの沈黙の後、電話の向こうからも溜息が聞こえた。


『・・・・・・・待ってた』
「!?」
『お前はバカだから、待ってたぞ』
「・・・・・ありがとう」
『迷惑をかけてるんだろ、そこで』
「そうでもないよ?」
『いや、お前が知らないだけだ・・・』
「・・・・いつ、会える?」
『なんて言う、研究所だ?』
「ギルモア研究所。所長はDr.アイザック・ギルモア。生体工学の・・・」
『ギルモア・・・。アイザック・ギルモア博士?』
「そうだよ」
『日本に、いるのか?』
「う、うん」
『クラーク、お前は本当にバカだっ』


電話口で、いきなりミツヒロが怒鳴った。その声に狼狽えるクラークの姿をジョーは見つめた。


「え?!」
『すぐに、そこから出ろっ、どこでもいい、ホテルでも取れっ!!』
「ちょっ・・・ちょっとミツヒロ?どうして?・・ホテルに移れって・・・」
『危険だからだっ!』
「危険って・・・?」
『死にたくなかったらっ』


ジョーは立ち上がり、クラークに手を差し出す。
クラークは電話の向こうで怒りを露わにしているミツヒロの言葉に動揺しながら、ジョーを観た。


「・・・僕が話した方がいいと思いますから」


静かな声。
一筋の強い光を宿した琥珀色の眼差し。


催眠術にでもかかったように、ジョーの言葉に素直に従って、電話をジョーに渡した。



『クラークっおいっっ!!クラークっ!!聴いているのか!!!』
「・・・・・電話、代わりました」
『っっ!!誰だっ』
「・・・・・研究所のものです」
『クラークを人質にとって何を考えてるっ!!何が望みだっ!!』
「何も・・・知人の紹介でMr.リンツの世話を頼まれただけです。偶然、彼が”交流会”の関係者と聞きまして、こちらが調べていることをお聞きする機会を持たせてもらっただけです」
『クラークは無事なんだろうな!』
「・・・声をお聞きになられた通り、です」
『っ・・・・』
「お話をお伺いできますか?」
『何が知りたいっ』
「あなたが知っている、ことを全て」
『・・・・・誰だ、お前は・・B.G(ブラック・ゴースト)の残党か?』
「・・・っ。・・・・・いいえ。ただの研究員です」
『ギルモアがいるのにか?』
「・・・会ってもらえますか?」
『クラークは、帰してももらえるんだなっ!!』
「帰す、も何も・・・彼はただの客人です」
『・・・どこだ?』
「こちらから、出向きます。Mr.リンツと一緒に・・明日、時間を取っていただけますか?」
『・・・仕事が終わるのは、4時だ』
「かまいません」
『・・・都内で打ち合わせがある、4時30分に○▽○駅前のファミリーレストラン”スカイパーク”で』
「わかりました」
『・・・・・・クラークに代わってくれ』



ジョーは再びクラークに電話を渡す。
クラークは不安げにそれを受け取り、彼がミツヒロと会話する間に、ジョーは脳波通信で全員に伝えた。


<恩田光弘は、B.Gについて知ってる。ギルモア博士についても、だ。ただの”絵描き”じゃない。彼の身元をもう一度洗い直してくれ、007、006頼む。明日4時30分に○▽○駅前のファミリーレストラン”スカイパーク”にMr.リンツと行く。一緒に行くのは、002、004と僕。いいね。005は引き続き、C大学院の方からトーマス・マクガーを調べてくれ。交流会、そして、イギリス時代の恩田光弘とのマクガーとの関係もできれば・・・。008、”学校”の方をすべて任せる・・・ゲームの方も引き続き、だ>


電話を切った後、クラークの様子は依然と変わらなかった。
ミツヒロの狼狽ぶりから、クラークがこちらに警戒心を持つことを危惧したが、それが彼の性格からくるものなのか、こちらを信用しているのか、ジョーにはわからない。


「ミツヒロは、心配性で、なんでもことを大きくしてしまうクセがあるんで・・・」


だされた紅茶にミルクを淹れながら、苦笑するクラーク。


「大丈夫アルか?」
「はい、とにかく逢えますしね!・・・・それに、待っていたって言ってくれたし・・・」
「ほおっ!待っていたとなあ、そりゃあ、よかったじゃないかあ!!」
「ええ・・・まさか、ねえ」


クラークは気恥ずかしいのか、紅茶を飲むことで、グレートの言葉をやり過ごした。


<ジョー、クラークからは訊かねえのかよっ?>
<・・・恩田が彼に何を言ったか、調べてからだ。こちら側に”興味”を向かれては困る。彼も研究者で”交流会”と縁がある人間だ。彼から話しを訊く時間はあるから、今日はいい。明日でも遅くない>
<のんびりしてんじゃねえよっ!>
<いや、ジョーの言うとおりだ。電話での様子もおかしかった。恩田から何を吹き込まれたか・・・怪しまれても困るのは確かだ>
<下に行って、調べてこようか?>
<・・・僕が行く>
<あ、逃げるのかあ?>
<きっとクラークは、ジョーには居て欲しいアルヨ~>
<・・・・・・・行ってくる。全員ここに居なくても、いい。以上>


「呑み会はなしかあ、残念だなあ、クラーク!」


戯けたようにグレートが言った。
それを機に、ジョーは座っていたパーソナルチェアから立ち上がる。と、フランソワーズも立ち上がった。


「・・・まだ洗濯物が少し残っているので、行きますね」
「お茶のお代わり、誰かいるアルかあ?」
「なんか、つまめるもんないのかよ?」
「見てみるアルヨ!」


クラークは不思議そうに立ち上がった3人を見る。


「あれ?・・・話しはいいんですか?」


<話す気満々だぞっ!?>
<・・・・・兎に角、下に行ってくる>
<なんか、やりにくい。>
<・・・チェックが済み次第、戻ってくる>


「儂も、ちいっとばかし昼寝がしたい・・・クラーク君。すまんのう、色々とあって疲れておるんじゃ・・」
「お察しします・・・。大切な研究が誰かの手になんて、同じ研究者として、なんと言葉を・・・」
「・・・ありがとう。詳しいことは、ここに居る誰でもいいから、話しておいてくれないかのう・・・。それぞれに手持ちの仕事があって、バタバタしていて申し訳ない」
「いいえ、こちらこそ。大変な時期にとても温かく迎えて下さって・・・感謝しています」
「何々、こちらも知りたいことがあったんじゃ。夜の”呑み”の方には付き合うからのう、声はかけとくれ」


にっこりとギルモアは笑った。














####

ダイニングルームへ入って、張大人はキッチンへ向かう。ジョーは地下へと足を向けたとき、バスルームの方へ向かっていたフランソワーズをギルモアが呼び止めた。


「フランソワーズ、洗濯は後にして・・・今の内に、今日の分をやってしまおうかのう」
「・・・え?」


ジョーは地下の通路のドアを一度開いたが、ギルモアの声にドアを閉じた。


「・・・・夜は昨日と同じになるやもしれんし、なんだかのう・・・落ち着かんのじゃ。今のままでも生活に支障はないが、ちゃんとしておかないと、”もしも”の時を考えるとのう」
「・・・・・”もしも”ですか?」
「いや・・・。003の”能力”がきちんとしていれば、儂も安心なんじゃ・・・。少しでも身を守る助けになるからのう」
「解りました、博士」
「ジョーや、少し手伝ってくれるか?」
「・・・はい」


地下通路へと続くドアのドアを開けて、ギルモア、フランソワーズに先を譲り、2人の後について地下へと降りていく。


センサー式のライトが、先頭を行くギルモアに反応して明るく通路を照らし出す。
フランソワーズの絹糸のような艶やかな髪が、彼女の肩先で揺れて、空気に少しばかり留まる花の香りが、ジョーを誘う。

触れて、と揺れる。

触れて、と香る。

触れて、と語る。





ぐっと、拳を握って理性を保つ。
ギルモアがロックを解いて、メンテナンスルームのドアが開いた音に、ジョーは意識を切り替える。


「すまんが、先に準備をしておいておくれ、メディカルルームの方にちょっと取りに行きたいもんがあるでな」
「行ってきます、よ?」
「いや、儂が言った方が早いんでな・・・・。準備の方を頼む」
「わかりました」


ギルモアはジョーとフランソワーズをメンテナンスルームに残して、メディカルルームの方へと向かった。

ジョーはフランソワーズを促して、メンテナンスルームへと入る。
フランソワーズを寝台に座らせて、いくつかの色のついたコードを取りだし計器類の確認をする。フランソワーズ用のデータチップをコンピューターに差し込んで、今までのデータを読み込ませた。


「・・・どっちを先にしようか?」
「どちらでも・・・」
「・・・今のところ何も問題ないみたいだね?・・・昨日と今日で何か違和感があったり、痛みがあったりした?」


ジョーの質問に首を振ってno.と答える。
モニターに映し出された、今までのデータを見ながらジョーは言葉を続けた。


「今までと、何か違う?」
「・・・・耳は、テレビやラジオに近づいたときの、ノイズが少なくなったわ。あと、無意識に傍受することも・・・。でもそれは街に出てみないと、わからないわ。外を飛び交う電波に反応してしまうこともあるから」
「・・・・電波を?」
「・・・世の中の通信機器類は常に発達していくでしょう?私の”耳”もそれらに合わせて幅を広げてるから・・・。”音”以外のモノも拾いやすくて・・・・。あとは日常でも自分で音量調節がしやすくなったかしら?突然大きな音を聞いても、耳鳴りが残ることもないわ。邸内にいる分には何も問題がないと思うの・・・。街や戦場は、違うもの」
「・・・・・・・”眼”は?」
「スイッチを入れない限り、普通の状態よ・・・。”眼”の方は前とはそんなに差がない気がするわ」
「・・・焦点が合わないとか、かすんだり、疲れやすかったりは?」
「今のところは・・・大丈夫よ」
「・・・・・そう」
「・・・コードを繋ぐのでしょう?」
「・・・・・・・」
「・・・?」


ジョーはモニターを見つめたまま、動かない。
フランソワーズは、自分に背を向けて立つジョーの跳ねた後ろ毛を見る。


「・・・・ごめん、ね」
「・・・・ジョー?」
「・・・・・・キミの聞こえすぎる”耳”を、見えすぎる”眼”を、”普通”に戻すことだって可能なのに」
「・・・どうして?私は003よ、そのための”能力”よ」
「きっと、いつか・・・」
「・・・・・・?」
「・・・いつか、キミを003から解放してあげる、から」
「・・・え?」
「待たせたのうっ!始めるぞ」


メンテナンスルームに入ってきたギルモアの声に、2人の会話が中断された。







ーーーいつか、キミを003から解放してあげる、から







解放?
どういう意味?



・・・・・どういうこと?








私は、仲間よ?
00メンバーよ?






私が003でいることが、009である、あなたとの繋がり。
誰でもない、私とあなたを繋いでいるの・・・に?




003の能力がなくなったら、ここに居る理由がない・・わ・・・・。













=====46へ続く



・ちょっと呟く・

書いていて、言葉が足りないって怖いなあ。と。
同じ言葉でも、全然違う意味になってしまうなあ。と。


すれ違ってますねえ・・・。
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