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Day by Day・46
(46)





落ち着かない様子で、20分も早く指定されたレストランに訪れたクラークは、頼んだ珈琲にいつもは淹れないミルクをたっぷりといれた。
窓側にクラークが座り、正面には座るアルベルトは落ち着いた様子でポケットから薄い単行本を取り出して読み始め、彼の隣に座るジョーはブラック珈琲を飲んだ。

同じレストラン内の離れた席に、ジェットとフランソワーズが、クラーク、アルベルト、ジョーの3人がレストランを訪れる少し前に、席についていた。




恩田光弘に会うのはクラーク、ジェット、ジョー、アルベルトの4人であったが、昨日のメンテナンスルームにて、”安全”であるギルモア邸では、”眼”と”耳”の調子がよくわからない。と、フランソワーズがギルモアに言ったために、急遽、彼女も同行することになった。

003の能力テストを兼ねているために、ジェットとフランソワーズが来ていることはクラークには知らせていない。そのために、ジョーとアルベルトは、細心の注意を払って、ジェットとフランソワーズの2人から離れた席を確保した。



「視えるか?向こう側が」
「・・・・・ええ」
「なんか、問題はあるか?」
「ないわ・・・。スイッチも以前よりもスムーズに入るし・・・前よりもコントロールが出来るようになってる。でも、今は”透視”までは・・・」

2人掛け用の席に向かい合って座るジェットとフランソワーズ。
フランソワーズの右手側に通路を挟んでレジがあり、その斜め正面に向かって車道に面したウィンドウがある4人掛け用のソファテーブルに座る、アルベルトとクラークの後ろ姿を、ジェットの肩越しから捕らえることができる。

”眼”のスイッチを入れて、拡大させていくとクラークとアルベルトの間からジョーが珈琲を飲む姿を視ることができた。


「おい、無理すんなよっ。許可されていることしかすんなよ!知らなねえぞっ何かあっても」
「わかってるわ。今日はスイッチが入るかどうか、”眼”の拡大の距離と、その具合に、街中での”耳”の状況を把握すること。でしょう?」
「わかってんじゃん。んじゃ、それ以上のことすんなよなっ。オレは一応お前のお目付役なんだしよっ」
「頼りないわね、ジェットだと」


スイッチを切って、フランソワーズは視線をジェットに戻す。


「ああっ?!お前の我が侭でここまで来てんだぜ?わざわざ、ここでテストする必要ねえのによっ」
「いいでしょう?何かあるかもしれないもの」
「あってたまるかよっ!こんなレストランでっ」

ふんっと、鼻息荒くジェットが、どかっ とイスの背に体重をかける。と、派手なオレンジ色の制服に、マイクロミニスカート。その上にエプロンとしての機能があるのか?と思うほどに小さな白いエプロン近未来メイド服(?)とジェットが勝手に心のなかで名付けた制服に、レースのヘッドドレスをつけた、高校生くらいのアルバイトと思われる女の子が、トレーに2人の注文した品を乗せて、テーブルのそばに立った。


「失礼いたします。ご注文のスペシャル・チョコレートパフェと、紅茶のケーキセットでございます」
「おっ。まってました♪」
「こんな時に、それを頼むかしら?」

ウェイトレスは、トレーからテーブルにそれらを乗せると、軽く会釈して去っていった。
そのウェイトレスの笑顔に、チョコレートパフェに嬉しそうにはしゃぐジェットに対する、含みもあったような気がしてならない。


「おめえだってケーキ頼んでんじゃん」
「ケーキだものっ。そんな特大パフェじゃないわ」
「羨ましいんだろ~~っ。欲しくてもやんねえよっ!自分で頼めよ?」
「いらないわよ。ケーキがあるものっ」
「うっひゃ~っチョコレート、うめえ!」
「もう・・・静かにして!」


フランソワーズはジェットを睨みつけて、”耳”に集中してみた。
スイッチを入れるかいれないかの、ギリギリまで聴力を高めてみる。


ざわざわとした、聴き取れなかったノイズが次第にクリアになっていく。

ふれ合う食器の音。
布ズレの音。
行き交う足音。

ひとつひとつの音が、どこから、どのように発せられたかがフランソワーズには”視る”ように聞こえる。



聴いては失礼だとは思いつつも、離れた席に座る人々の会話も聞こえてくる。


「ねえ、向こうの席に座る3人、見て!」
「え?どこどこ?」
「ちょ~~~カッコイイの!」


「いらっしゃいませ、1名さまですか?」
「待ち合わせを・・もしかしたら来ているかもしれないので、探してみてもいいですか?」
「はい、どうぞ」


「外人じゃ~ん!いけてるっ!」
「日本語じゃないよ・・英語・・こういう時にもっと勉強しとけばあって思うわよねえ」


「ったく、やってらんねえって、まだ中間まえだぜ?」
「どうすんだよ、早いトコ決めちまえって、来年じゃあ遅いんだぜ、こういうの」
「はあああ、大学受験なんてやってらんねえ!」
「大学行かないで、どうすんだよ、専門?」
「その前に、何やりてえか、だろお?わかるかよっ」
「だから、とりあえず大学行っとけって、どこでもいいじゃん。お前頭いいんだし」


「レベル高い!」
「ね、誰が好み?」
「ブラウンの髪の彼、すっごく優しそう!」
「ええ?私は・・・ねえ、彼は日本人じゃない?」
「そういえば、それっぽいわね?ハーフかなあ?」
「私は彼だなあ・・・素敵、カッコイイ!!」
「彼もいいけど、あの本を読んでる人、いいな、私はあっちだなあ」
「ね、こっちも3人だし、声かけない?」
「ええ?!英語だよ?」
「でもオーダーとってるの、日本語だったよ?」
「なによ、ちゃっかりチェックしてたんだあ!」


「ご注文はおきまりですか?」
「ええっとお、ね。決まったあ?」
「もう少し待ってもらえますかあ?


「パパは~?」
「パパは会社よ」
「いつ帰ってくるの~?」
「もうすぐよ!・・・ほら、早く食べちゃいなさい」
「パパは~?」


「こちらがレシートになります。ありがとうございました~!」






「・・・・・・・クラーク」


ミツヒロは、2年ぶりに合うクラークに懐かしさと愛しさを感じる。
視界は彼だけ。

別れたときよりも、少しばかり短くなった髪。
いつものように、オーダーメイドのスーツをきっちりと着こなしている。

緑がかった瞳は柔らかく目尻に皺を寄せて、微笑んだ。


「いやあ、やっぱりミツヒロの声はいいね。うん」


クラークはのんびりと、ミツヒロを見上げた。

40歳近いと言う年令が、嘘だと言いたいほどの童顔に襟足が伸びた黒髪。
切れ長の瞳は猫のようにつり上がっている。浮世絵顔だな。とアルベルトは1人感想を持つ。
背もそれほど高くなく、ピュンマよりも少しばかり低いかもしれない。
色の濃いジーンズに履き崩しかけたローファーをはき、くたびれたアイロンがかかってないYシャツの上からジャケットを羽織っていた。

大学生でも通りそうな風貌の男が、恩田光弘だった。


「・・・・・あんたたちか?」


外見よりも、中身はしっかり年齢相応らしい、その発言にアルベルトよりもジョーが先に答えた。


「座ってもらえますか?・・・・少し長くなりそうなので」
「あんたたちが、トーマスの何を調べていて、何が知りたいのか知らんが、クラークは無関係だ。そんな人間を巻き込むのか?」
「ミツヒロ!いきなり何を・・・」
「クラーク、脳天気なのもいい加減にしろっ。どれだけ危険な奴らに関わっているのか、わかっているのか?!」
「・・・・ミツヒロ、彼らはただギルモア博士の盗まれた研究を探していて」
「はっ!どんな研究をしてたんだかっ!世に出たらまずいもんなんだろっどうせっ」
「ミツヒロっ!!」
「・・・ここでは、無理みたいだな」
「ここでも、どこでも、お前たちに話すつもりなんてないっ!行くぞクラークっ」
「え?ちょっ・・・・行きませんよっ」
「クラークっっ!!」
「・・・・・協力すると、コズミ博士にお約束したんだ。そうやって君に会う努力をしてここまで来たんだよ。約束は約束なんだ。自分は、彼らに協力するよ」
「バカか?!」
「うん、バカだよ。だから、面倒みてくれって頼んでるんだよ、ミツヒロに」


クラークはにっこりと微笑んだ。
ミツヒロは、自分がどれほど焦っているのか、目の前にいる2人がどれだけ危険な人物かを、脳天気な上流階級育ちのお坊ちゃんに怒鳴りつけたかったが、焦れば焦るほどにミツヒロの苛立ちは、あっさりとクラークののんびりとした雰囲気にのまれていく。

ずっと、そうやってクラークは自分を落ち着かせてきてくれたことを、思い出す。


「まずは、ちゃんと自己紹介しよう、ミツヒロ。君は自分の友人にとっても失礼な態度をとってますね?いつも言っていたよね、人の印象は初対面で初めの7秒で決まるんだ。ミツヒロは最悪ですね。でも、そんなところが、好きですよ」


ジョーはソファから立ち上がり、姿勢を正してミツヒロに向かって手を差し出した。


「・・・初めまして。ギルモア研究所の島村ジョーと申します。この度は、Mr.リンツにあなたをご紹介していただけると言うことで、伺わせて頂きました」


ミツヒロは、差し出されたジョーの手を見つめ、視線を上げてジョーを観た。


「彼は可愛いですね!そう思いませんか?いいね、やっぱりアジアの男の子はとってもキュートですよ。ミツヒロと並べるとすごくいいですね」
「・・・・・クラーク好みだな、確かに。・・・・・失礼しました。恩田光弘です」


ミツヒロはジョーと握手を交わた。
クラークの隣に座っていたアルベルトも席を立ち、ミツヒロと握手を交わして自己紹介を済ませて、クラークの隣の席をミツヒロに譲り、ウェイトレスを呼んで、彼の分の飲み物を頼む。


「・・・・・クラークがお世話になりました」
「ギブ・アンド・テイクと言うところです。・・・・仰りたくないことは、話さなくてもけっこうですが、できるだけ協力していただきたいのです。あなたが案じていらっしゃるようなことはありません」


アルベルトの言葉に、ミツヒロは素直には頷けなかった。


「・・・ここでは話しづらいですか?」
「いえ、そういうことではありません。ただ、証明していただきたい」
「なにを、です?」
「あなた方が、危険ではない。B.Gのものではない。と、言うことをです!」
「ミツヒロ、B.Gってそんな・・・・、あれはただの”噂”だろう?」
「・・・ただの”噂”だったら、な」


ミツヒロは呟いて、ジョーを睨みつけた。


<邸に連れて行くしかないな>
<・・・・恩田さんは、”関係者”だ、ね>
<行こう・・・信用もなにも、彼が何をどこまで知っているのか、オレたちは知る必要がある>
<・・・・ジェット、フランソワーズ、聞こえている?>
<おう、しっかりとな。フランソワーズの”耳”と”眼”の調子はばっちしだぜ>
<邸に戻る、よ>
<オレたちも、喰い終わったら帰るぜ!>
<・・・・食い終わる?>
<おう!今ストロベリー・サンデーを追加オーダーしたとこだっ>
<何やってんだ、お前は・・・>
<・・・・・・腹、壊すな、よ>
<フランソワーズだってケーキ2個目だぜ?>
<ジェットっ>
<・・・・フランソワーズ、調子が良いなら少し街を見てきたらいい。ジェット、よろしく>
<お、いいのかよ!わかったぜっ>
<でも・・・・>
<9時前には戻ってこい>
<門限つきかよっ>
<当たり前だ>















####


「っんだよ、帰りの時間を考えてもよっ、3時間ほどしかねえじゃんか・・・、どっか行きたてえとこあるかあ?」
「・・・ねえ、やっぱり帰りましょう?」
「リーダーの009がいいて言ってんだぜ?かまわしねえよっ!」
「でもっ!!」
「・・・・・・オレじゃ不服かよ?」
「そんなんじゃっ」
「やっぱ、ジョーとじゃないと、嫌だったかあ?」



クラーク、ジョー、アルベルト、そしてミツヒロがレストランを出た後、30分ほどしてから、ジェットとフランソワーズもレストランを後にした。
ニヤニヤと嗤い、フランソワーズが歩き出すのをレストランのドアから数歩ばかり離れて待つジェットの言葉に、フランソワーズはつんっと、すまして歩き出して、ジェットへ振り返らずに言った。


「・・・・・・ジョーだったらもっと素敵にエスコートしてくれたでしょうね」
「っ?!」


陽が長く鳴り始めた季節。
街のネオンが陽の明るさに紛れて灯る。
すれ違う家路を急ぐ人々。

閉店時間が延びたのか、まだ多くの店が開いていた。
ジェットよりも数歩前を歩くフランソワーズを、ジェットはのんびりと追いかける。


「ジェットよりも100倍マシだと思うわ。アルベルトだってそう。ピュンマも、ジェロニモも、グレートも、張大人も、ギルモア博士も、イワンだって、ジェットよりもずっと、ず~~~~~っと素敵にエスコートしてくれるわ」
「赤ん坊よりマシだよっ!!」
「いいえ、イワンの方がずっと紳士的よ」
「っだよ、付き合ってやってんのによっ!!」
「けっこうです。1人で帰りますっ」


歩く速度を上げて、ジェットから離れようとしたフランソワーズ。だが、ジェットはぴったりとフランソワーズから離れることなく、ついて行く。


「お~い・・・フランソワーズ・・」
「・・・」
「よお」
「・・・」
「おいってば!」
「・・・」
「返事しねえと、大変なことになるぜ?」
「っなによ?」
「・・・帰るのはいいけどよ、駅、反対だぜ?お前、逆方向に歩いてっぞ?」
「っえ?」


歩道脇でぴたり。と、足を止めたフランソワーズの前にまわって、ジェットは少しばかり屈んでフランソワーズをのぞき込むように見つめた。


「・・・・・ほんと、方向音痴なとこ、なおらねえよな?こういうときこそ補助脳使えっつうの」
「どうして早く言ってくれないのっ」
「行きてえとこあんのかなあって思ってよ!」
「・・・・帰るの」
「別に慌てる必要ねえじゃんかよ?」
「帰るの、帰りたいのっ!帰るっ!!絶対に帰るの・・・・帰りたいの・・・」
「・・・なんだよ、おい・・どうしちまったんだよ?」


俯いて視線を舗装されたアスファルトの上に落として、ジェットとは顔を合わせない。


「帰りたい・・・連れて帰って。ジェット、帰りたいの・・・・」
「フランソワーズ?」
「私、ずっとみんなと一緒に居たいわ。ずっと一緒に居たいの。私だって仲間よ?・・・もちろん、ジェットみたいに空も飛べないし、加速装置もついてない。アルベルトみたいに敵を倒せない、ジェロニモみたいにみたいに力もないし、張大人のように何でも溶かしたり、地中に潜ったりもできない。グレートみたいに万能に潜入捜査も・・・できないわ。ピュンマのように海で戦えない。・・・それでもっ。それでもがんばるからっ・・・・一緒にいたのに・・」
「・・・おい?どうしちまったんだよ、本当に・・ワケわかんねえよ?お前は仲間だぜ?なんだよ?003はオレの次ぎに古株じゃんかよ?3番目だぜ?あのオッサンよりも偉いんだぜ?」


走り行く車が出す排気ガスの臭いが、フランソワーズの香りを消してゆく。
ジェットはそっと、フランソワーズの肩に手を置くと、ぱっと顔を上げたフランソワーズの顔を真剣だった。






ーーーいつか、キミを003から解放してあげる、から







「・・・・・帰りたい。ジェット、帰りたいの」
「何か、あったのか?」
「ジェット、私・・」
「なんだよ?」
「・・・・・ずっと、私は003なのよね?私が、003よね?」
「はあ?・・・・003はお前だろ?」


フランソワーズはジェットに訴える。
こぼれ落ちそうな大きな空色の瞳が、必死になってジェットを映しながら、何度も訴えた。


「私が、よね?003でいいのよね?」
「お前以外に、誰がいるっつんだよっ?」
「私でいいのよね?」
「だからっ!お前じゃなきゃ、誰がだよっ?当たり前のこと聞くんじゃねえよっ?」
「がんばるから・・・・。ずっと、一緒にいて、ね?」
「・・・・オレに言うなよ、それ。オレじゃねえだろっ。そういうセリフを言うのはっ。がんばらなくても、お前は003なんだよっ!」


ジェットは車道に視線を移し、向かってくる一台のタクシーに向かって手を挙げた。


「一緒に、いてね。みんなで一緒にずっと暮らしていきたいの」
「・・・・ほら、乗れよ。連れて帰ってやるからよっお前が行きたい場所が、アンドロメダ星雲だっつっても、ぜってー、オレが連れて行ってやるから」
「・・・・本当に?」
「おい、そこだけマジに受け止めんなよっ・・・・。とにかくよっ、どこでも飛んでやるぜっっ。だからよ、話せよ・・・・。何がそんなに不安なんだよ?」












####

街からタクシーを使い、ギルモア邸前にジェットとフランソワーズが到着したころ、邸内ではすでにクラークから紹介される形でミツヒロはギルモアに会い、和やかとは言い難いが、無難に差し障りのない話しをリビングルームで交わしていた。

ギルモア邸に帰り着いて、すぐにフランソワーズは自室へと向かった。
タクシー内で、何度もジェットに”なぜ、帰りたがるのか、当たり前ことである、フランソワーズは003であると言う質問するのか。”聞かれたが、結局、フランソワーズは一言も”不安”になった理由をジェットには言わなかった。
貝のように口を閉ざしてしまったら最後、フランソワーズは絶対に言わない。その口の堅さは、ギルモアでさえも音を上げてしまうものである。


「ったくよ!なんであんなに頑固なんだよっ!!変なところで根性があんだからよっ」
「あ、お帰り~・・・って。あれ?・・・遊んでくるんじゃなかったの?そう聴いてたけど?・・・まだ7時前じゃない?」


吹き抜けの広間から自室に戻ったフランソワーズの背を見送ったジェットに、ちょうど2階から降りてくる途中のピュンマが声をかけた。


「遊ばせてくれなかったんだよっ!フランソワーズが」
「あはは、嫌われてやんの~♪・・・・で、そのフランソワーズは?」
「部屋にひっこんじまったぜ・・・ったく、なんだってんだよっ」
「ジェット、まさか・・・」
「あ?なんだよっ」


だだだだっと残りの階段を駆け足で下りて、その勢いのままピュンマは応接室前のドアに立つにジェットに詰め寄った。


「変なことっフランソワーズに変なことっしてないよね!!」
「はあああ?!っばか言ってんじゃねえよっ!!なんでオレがだよっ!ジョーじゃあるめえしっ」
「じゃあ、どうしてすぐに部屋に入ったの?もうすぐ夕食なのに?」
「知らねえよっ!ったく、俺が知りたいっつうの!”ずっと、私は003なのよね?私が、003よね?”なんて、当たり前すぎること言い出すしっ帰りたがるし」
「・・・・・フランソワーズが003でなくて、いったい誰が003なんだい?」


ピュンマは丸く大きな瞳を見開いて、不思議そうにジェットに訊ねた。


「だよな?」
「今日、何かあったの?何も報告されてないけど?」
「何にもなかったぜ?・・・来てるんだろ?」
「うん。今、彼らはギルモア博士と話してるんだけど・・・Mr.リンツはB.Gのことをただの”噂”だと思っていて、現実にそういう組織があったことを信じてないって言うか、知らないんだ。彼にわざわざそれを教えるのもどうかと思うし、できれば伏せておきたいだろう?どこで、僕たちに繋がってしまうか、わからないし。だから、ちょっとややこしい事になっていて、さ。話が進まないのが現状。とにかく、昔話を促して、トーマス・マクガーの話しを引き出そうとしてるんだけど、今度はミツヒロさんの方が警戒してしまってさ・・・差し障りのない会話で進んでるけど、ちょっと面倒なことになってるよ。イワンは夜の時間だし、だから」
「だからなんだよっ?」
「・・・寝てもらうんだよ」


ピュンマはリビングルームのドアを見つめて溜め息をついた。












####

張大人が用意した珈琲を飲みながらクラークは、いまだに時差呆けの影響から来る睡魔と水面下で必死に戦い続けていたが、いつもよりも強く襲ってくるそれに、さすがに抵抗し続けるのが辛くなってきた。

ミツヒロと、世話になっている研究所のみんなとの橋渡し役にならなければ、と懸命にこころ砕くものの、人間の三大欲求の1つにはどうにも敵わないらしく、欠伸をかみ殺す仕草が目につき始めた頃、さりげなくアルベルトが言葉を添えて、クラークを部屋に下がらせることに成功させた。


「B.G仕込みですか?」


リビングルームからグレートに付き添われてゲストルームに向かったクラークを見送った後、棘のある言葉が突きつけられたが、その言葉に含まれている落ち着いた物言いに、彼自身もクラークが居ては話しづらいことがあるように思われた。


「彼がいては、あなたも同じとお見受けしましたので・・・」
「手段は選ばないってことですか?・・・いいでしょう、こちらにもそれなりの”用意”があることだけ、お伝えしておきますよ。わたしだって、それなりに知っているんです・・当たり前でしょう?」
「・・・・何か、あなたは大きな勘違いをなさっておるようじゃのう?」


安楽椅子に深く身を預けていたギルモアが、ゆっくりと姿勢を正した。


「・・ギルモア博士」


ギルモアの座る安楽椅子近くのソファに座るジョーが、視線をギルモアへと向ける。


「どう、思う・・・ジョー?」


ギルモアと合わせた視線に、彼の意図を読む。が、ジョーは静かに否定の意を現すかのように、首を左右に振った。


「・・・・・・恩田さん、僕たちが調べていることを正直にお話します。その上で、あなたが協力して下さるかどうかを考えてくださいませか?確かにギルモア博士は、B.Gの研究員として働いていらっしゃった時期もありました。ですが、今は違います。B.Gに対して、その組織の考え、方向性に僕たちは意を唱える者です。重ねて言います。僕たちは決して、B.Gの手のものではありません」
「証拠があるんですか?」
「・・・目に見えるものを見せろと仰られても、難しいです、ね。それは信じていただくしかありません」
「クラークやわたしに、何をさせたいんです?」
「させる、というわけではないんです。・・・ギルモア博士が研究していた資料の一部が、何者かの手によって流出してしまいました。それは、言えばB.Gの科学技術の欠片・・・と、でも言うものです。とても危険なんです。それをなんとか回収・消去するために色々と調べていたところ、Mr.リンツが在籍されておられた、”交流会”から、その一部が見つかりました。そしてそれは、トーマス・マクガーと言う方の研究資料も含まれていたのです」
「・・・・・あの”交流会”から?」


まっすぐにジョーはミツヒロの眼を見て話す。

不思議な雰囲気の青年。そう、クラークはミツヒロに言った通り、ジョーは人を威圧するような強い存在感を顕しながらも、同じの本陣でありながら、どこか西洋の色交えた端正な顔立ちが、優しげな印象を与え、強く、鋭い眼差しの中に光る淋しげな色の揺れに、目の前にいる怪しげな者たちを強く突き放せないでいた。


「・・・偶然にも知人が学会で、”交流会”に縁のある人間に招かれて行ったことで知ることができました」


彼らを信じても良いのでは、とミツヒロは先刻から思い始めていた。
それは彼らの真摯な対応が、物腰が、招かれた邸に垣間見る彼らの生活が、ミツヒロのこころ少しずつ軟化させていた。

ミツヒロが、言葉を慎重に選びながら口を開こうとしたとき、リビングルームのドアが勢いよく開いた。


「邪魔するぜっ!今、戻った、早くて悪かったなっ!!」


ミツヒロは、ジョーとの会話に集中していたがために、心臓が口から飛び出そうになる程、驚かされて、ジェットの声に、静まっていた空気の色を一気に変えてしまった。


「そんな風に入るバカがいるかっ!空気読め、空気!!」


ジェットの後ろから、先ほどクラークをゲストルームへと連れて行ったグレート、そしてピュンがが続く。


「入り方に、良いも悪いもあるかよっ!!・・・お、あんたがクラークの”ミツヒロ”?よっ。オレはジェット・リンクだ。ヨロシクな!」
「・・・・一応、言っておくよ。僕はちゃんと今、リビングルームで大切な話しが進んでいる。と、伝えたからね!」
「・・・・・」


ジェットの声と勢いに圧倒されて、言葉無く3人を見るミツヒロ。
彼の様子を、先ほどの会話の流れを気にすることなく、アルベルトがジェットに話しかけた。


「早かったな」
「ああ、フランソワーズのヤツが帰りてえって駄々をこねやがってよっ」


ジェットの言葉に、ジョーが眉根を寄せて反応する。


「・・・・具合でも悪くなった?」
「そういう感じじゃねえみてえだけどよっ!博士、様子を見に行ってやってくんねえか?久し振りに街に出たからよ、人に酔ったのかもなっ」
「・・・・・・今、彼女は?」
「部屋みたいだよ、ジョー・・・」


ジェットが答える前に、ピュンマが答えた。


「・・・・・いったい、ここには何人住んでいるですか?」
「10人ですなあ。さっき珈琲を運んできた、張大人、そして彼が、ピュンマ。あと2人、ジェロニモとフランソワーズと言う女性がるんですよお。大所帯でしょお?」
「初めまして、ピュンマです」


グレートに紹介されたピュンマは、にっこりと微笑んで、彼の口元から輝く白い歯の光に、ミツヒロは自分が変に警戒心を抱いていることが滑稽に思えてならない。


「・・・・女性もいるんですか?」
「1人。今は話しの通り、体調を崩しているみたいですが・・・」


アルベルトが低く、けれどもミツヒロを威圧するわけでもなく答えた。


「そうじゃの、ジョー、様子を診てくるか?儂が行こうか?」
「・・・・・博士、お願いします。いいですか?」
「うむ。そうしよう・・・・。ちょっと失礼しますよ、娘のように可愛い子なんでな・・・」


ギルモアは安楽椅子から立ち上がってリビングルームから出て行った。そのギルモアが座っていた安楽椅子にジェットが座る。


「クラークって、ジョーがお気に入りなんだぜ?」
「・・・・・・・・ジェット・・」


会話を元に戻そうと、ジョーが視線をミツヒロに戻したとき、ジェットがジョーを指さして言った。


「こいつのこと、可愛い!キュート!連れて歩きたい!って騒いでよ、昨日なんてジョーが油断した隙をついて、ほっぺにちゅうまでしやがったぜ?」
「ええ?!」


誰よりも早くピュンマがジェットの言葉に反応して、声を上げた。


「いや、マジでだぜ、なあ?」


昨日、現場に居合わせた2人、グレートとアルベルトに同意を求めるジェット。グレートは何度も深く首を縦に振り、アルベルトは口の端で笑っただけだった。


「ジョー・・・君は・・・」
「・・・ピュンマ、Mr.リンツが巫山戯ただけだから、な」
「いやあ、あれは嬉しそうだったなあ。恩田さんも、若い頃は・・・・ジョー並に可愛かったんでないかい?今でもクラークから聴いた年令が信じられないねえ、失礼だけれど」
「・・・・童顔なんで」
「それ、さあ・・・・フランソワーズは知ってるの?」


消え入りそうな弱々し声でピュンマが誰に問うわけでもなく、呟いた。


「オレ、言ってないぜ?」
「吾輩もだ」
「わざわざオレがそんなことをフランソワーズに言うと思うか?」
「・・・・・・言わなくて、いいから」
「フランソワーズが知ったら、やっぱり驚くのかな?」
「バレエ学校で見慣れているだろう、そんな風なことを言っていたしな」
「いやあ、意外と固まっちまうんでないかい?ジョーは挨拶のハグどころか”お早う、お休み”のキスさえマドモアゼルに贈ってやらねえんだ、それが突然、クラークに、だしなあ」
「ショックだろうぜ?・・・”ジョーは私とコミュニケーションを取りたくないのね!!”な~~んって泣きそうじゃねえか?」
「そうだね、この邸で唯一ジョーだけが、フランソワーズとそういうことしないもんね」
「日本にそういう習慣がないと知らなかった頃、悩んでいたからな、フランソワーズは」
「今でも、気にしてんじゃねえの、意外と」
「今日当たりから、がんばってみたらどうだあ?」
「うん。善は急げだね!」


ジョーは全身で深い溜息を履いて、仲間たちの会話を聴かなかったことに決め込み、ワントーン落ち込んだ声でミツヒロに話しかけた。


「・・・・・・・・・・・とにかく、恩田さん」
「・・・・・わたしも、挨拶のキスはどうにも慣れなくて苦労しましたよ。特に女性に対してはです・・・変ですが、お察しします」
「・・・・・・?!」


意外なミツヒロの言葉に、ジョーは驚くしかなかった。


一見見ただけでも解る、多国籍な研究員に言いたい放題言われている、同じ日本人(だと思う)ジョーが少しばかり不憫に思えて、声をかけてしまったミツヒロは、改めてリビングルームに集まった1人1人をじっくりと見た。

ジェットはウィンクを1つミツヒロに飛ばし、グレートは笑う。
ピュンマの歯はきらりと光、アルベルトの左端の口元が上がってニヤリと嗤った。
そして、ジョーは体制を整えて、ミツヒロを見ている。

ミツヒロは、薄く開いたくちびるから冷たい息を吐き出した。

「すべてを、話して下さい。それから・・・・です。あなた方が話すのに相応しい方か、信頼できる方か、判断した上で、知っていることを話しましょう」











####

ジョーが改めて丁寧にゆっくりと話した、彼らがなぜにトーマス・マクガーを追っているか、という内容に、納得がいかない部分があったのは事実であった。彼らが何かを隠していることが薄々解る。
話しているジョーも、ミツヒロ自身がそれに気が付いていることも、解っている様子であった。

ジョーはミツヒロが知っているとわかっている上で、あえてB.Gと言う言葉を避けていた。



リビングルームにいる、全員の真っ直ぐに真摯な瞳の強さに、信頼できると確信を得て、胸の奥底に鍵を掛けていた箱を開いた。
ずっと1人で抱えていた箱が、重さを失っていく。


「・・・・・両親を亡くしたのが、14歳の時・・。イギリスに住む叔父夫婦に引き取られて、1年ほど一緒にクラしました。叔父夫婦が、何の前触れもなく仕事でイギリスを少しの間離れる。と、言って出かけたきり、帰ってくる予定の日を過ぎても彼らは帰って来なかった・・・。代わりに、わたしの前に現れれたのが、トーマス。あたな方が追っている、トーマス・マクガーです。叔父夫婦に頼まれて一緒に住む。と、言われて・・・。6年前に彼が行方不明になるまで彼と住んでいました。わたしが日本に帰ってきたのは2年前。そして・・・行方不明になっていた彼に再会したのは、去年のクリスマス。・・・・トーマスは今年の2月に、日本で亡くなりました」


誰かに聴いて欲しかったのかもしれない。
1人で抱え込むには、あまりにも”B.G”と言う実体のない闇は恐ろしく大きかった。
トーマスが姿を消した後、彼の書斎から見つけたものから、叔父夫婦が”B.Gと言う組織に関わっていたために、亡くなったことを知った。

トーマスは、叔父夫婦とどういう関係だったか、最後まで訊くことができなかった。
トーマスが言った”友人”だった、と言う言葉を信じている。


”ブラック・ゴースト”とは?


トーマスが居なくなった書斎をひっくり返して見つけた、数少ない情報を手に、”ブラック・ゴースト”について調べた。





本当に、この組織は存在するのか。
本当は、存在しない、ただの噂ではないのか。

けれども、存在していたら?





答えが出ない。



調べてから、後悔した。
取り返しのつかない事をしたのかも、しれない。



知ってしまったが故に、触れてしまったがために。
関わってしまったとは言い切れない、中途半端な状況に。


不安と混乱の中で、クラークの見合い話が持ち上がり、全てをイギリスに置き去りにするように日本へ1人、逃げるように戻ってきた。全てを忘れるために仕事を探し、没頭する中で、トーマスに再び出会ってしまった。


トーマスが亡くなったことで、全てが終わった。と、自分はもう何も関係ない、知らないんだ。と、思っていた矢先に、クラークが・・・・。



知ってしまったがために、常にB.Gという闇に観られている?


「トーマスがどんな研究に携わっていたのか、わたしは知らない。大学以外の”仕事”を持っていたようだけれど・・・。そのことについて知ったのは、彼が行方不明になってから。トーマスは、わたしにそういうことを一切言わない人で、わたしも興味がなかったし、元々、研究者でもなんでもないんで。知りたいとも思ってなかったから。イギリスから姿を消して以来、トーマスはずっと日本に居て探していたんです・・・」
「・・・探して、いた?」
「奥さんと息子さんを・・・。日本で再会するまで、知らなかったんだけれど、彼は若い頃に、留学生っだった日本人女性と結婚していたらしくて・・・・。日本語、話せましたしね。わたしの前から消えたあと、ずっと探していたようです。・・・日本に行くなら一言言って欲しかった、けれど・・・」


淋しげにミツヒロは嗤った。


「結局、わたしは10年以上もトーマスと暮らしていながら、彼について何も知らない。知らされていない・・・。B.Gについても、自分が調べたことしか、知りません。あなた方がB.Gと関係しているのかも、自分の中で”予想”することしか出来ない。・・・アイザック・ギルモア・・・。ギルモア博士の名前を訊いただけで、わたしはそれだけでも十分、あなた方を避けて、できれば今すぐにでも、あなた方にあったと言うことを消してしまいたいのが、正直な気持ちです。」
「・・・・ギルモア博士の、名前は知っていたんですね?」
「・・・・・・トーマス経由でB.Gを調べていたんでね、すぐに出てきましたよ。ギルモア博士の名前は。裏切り者、の天才科学者。彼は自分の研究結果をすべて持ち出して、姿を消した。と・・・・。その研究結果はとても恐ろしいものであり、B.Gが血眼になって探していた。と・・」


平静を装いつつも、ミツヒロの言葉ひとつ、ひとつが00メンバーたちの胸を騒がせる。
目の前にいる童顔の40歳近い男が、B.Gについてどこまで知っているのか、彼の言葉からは”トーマス・マクガー”について以外の、ハッキリとした言葉を得られない。





彼はサイボーグのことを知っている?
それとも、この世にサイボーグという者が存在するとは信じていない?








「・・・日本でお会いになって、マクガー氏がお亡くなりになるまで、一緒にいたんですか?」
「ずっと一緒ではなかった。・・・知り合いを通じて”プロ”を雇い、彼が探している奥さんと息子さんを探す手伝いはしましたけど」
「っで、見つかったのかよ?」
「・・・・・奥さんは、トーマスと別れてすぐに亡くなっていました。そして、息子さんはどこかに養子に出された。と、言うことがわかっただけ・・・息子さんは・・・行方不明のまま」
「・・・行方不明」
「マクガー氏が亡くなったのは、日本で、といいましたなあ?」


グレートの言葉にミツヒロは頷いた。


「何か、その・・・・ねえ、残していませんでしたか?」
「遺留品は、体調を崩して入院した先で使用した着替えと洗面道具くらいなもんです。コンピューターどころか、紙らしい、紙も、本も何もありませんでした。驚かれました、医者や看護婦に彼が元大学教授だったと、言ったときには」
「何もなかった。あなたにも、ですか?」
「わたしは、すでにたくさんの物をもらっていたので。彼がわたしの前から姿を消した時、学費も、家も、当座の生活費も有り余るほど・・・。あと・・・・・クラークに会えたのはトーマスのお陰ですから、・・・それが一番です。・・・・彼が日本に来た目的は、違う形でも達せられたから、彼も満足だっただろうし」
「・・・目的?息子さんは行方不明のままだと?」
「ええ、息子さんは・・・。でも、孫には会えましたから」
「・・・・お孫さん、に?」


ジョーはミツヒロの言葉に、眉根を寄せた。


「行方不明の息子の孫なんてっどうやって見つけたんだよっ?!」
「孫たあ、また・・・飛ぶなあ・・・」


ミツヒロは、その場にいた全員の驚きを当然のように捕らえた。
自分も実際に、トーマスに孫がいる。と、連絡を受けたときの驚きを思い出す。


「どうして孫だと解ったんですか?」


ピュンマが遠慮がちに訊ねた。


「写真です」
「写真?」
「彼の奥さんの名前、”中井?子(なかい・みやこ)”の名前と、息子の”中井・マクガー・T・アンドリュー”で探していたんです。3ヶ月ほどしてから、トーマスの奥さんの写真と息子さんの子どものころの、写真。そして孫である当麻君の写真が、雇った探偵から届けられました」
「・・・当麻?」
「そうです。篠原当麻(しのはらとうま)トーマス・マクガーの孫の名前です」
「・・・・・篠原、ですか?」


ピュンマは、ジョーをちらりと見た。
ジョーはじっとミツヒロを見ている。


「・・・・”篠原総合病院”を知ってますか?移植などで実績を上げている・・」
「・・・・名前だけは。有名ですから、ね」


頷きながらジョーは答えた。
ピュンマは手のひらに浮かぶ汗が気持ち悪く、膝にそれを擦るように拭いた。



「そう、その”篠原グループ”の令嬢、篠原さえこと付き合っていたらしく、・・・さえこさんは、行方不明になった婚約者を捜していて、偶然にもトーマスを探し当てたようです。トーマスの息子である、婚約者との間の・・・。未婚のまま当麻君を産んだそうです。・・・・さえこさんは、当麻君の名前をトーマスからもらった、と・・・・」
「・・・・篠原・・当麻・・・」
「トーマス自身が当麻君に会って”そうだ”と納得していたし、彼が息子にと渡したかったものを、孫である、当麻君に渡すことができたので、ほっとしたんでしょうね。体調を崩して、そのまま・・・」


ミツヒロから、彼が知っている限りのトーマス・マクガーについて、彼の胸に抱え込んでいたものを吐き出すかのように話した。そして、彼が知っているB.Gに関することへと話しは自然と流れていき、ミツヒロから、”絶対にクラークにB.Gについて関与させない。”と、言う条件付きで、彼が持つ全ての情報を、00メンバーは手に入れることができた。





最後までミツヒロの口から”サイボーグ”と言う言葉は出てこなかった。







ジョーはミツヒロの条件をそのまま受け入れる。
クラークは研究者であり、”交流会”にも関わっていた人物である。避けられる、危険な可能性はどんなに些細なことでも細心の注意を払うつもりであったため、ミツヒロの条件はそのまま当てはまる。

すでにクラークからは、交流会”でコズミが得た資料についての情報と、”交流会”とは何を目的とした集まりなのかの2つに絞り話しを訊いていた。


ミツヒロは早朝に、どうしても外す事ができない仕事があると言い、明日、もう一度ギルモア邸に来ることを約束しして、グレートが運転する車で自宅へと帰って行った。
自室で眠っているクラークを連れて帰ることをしなかったので、ジョーたちを信頼してくれたのであろう。









####

張大人の用意した夕食をかき込んで、一度、自室へ立ち寄りUSBを手にして、ジョーの部屋に向かったピュンマは、ジョーのデスクトップコンピューターにそれらを読み込ませ、開いて見せた。


「どうしてもすぐに見て欲しいものがあって・・・。ゲームに出てきた学校と、調べている月見里(山梨)学院の共通点は、ぱっと見た感じ、ないように思うんだ。グレートが2日前に学校の方へ行ってきて、学院内、寮、敷地内の写真を取ってきたよ、校内の見取り図も007が書き取ったものを清書したんだよ。学校の住所からウェブで拾った航空写真で全体が見られる。あと、ゲームで主人公が住む地域と活動範囲を地図にしてみたんだ・・・・」



カチ、カチ、とリズム良く鳴る、ピュンマが操るマウスの音。

ジョーの部屋の壁に寄せられていた、家具が揃っていない間に使っていた折りたたみイスを引っ張り出してきた、それに座ったジョーは、じっとコンピューターモニターを睨む。


「・・・・共通点はないようだ、ね・・・。一応、地下の方で、色々な方向から探ってみたい、な。」
「ジョー、この学校は私立でさ。・・・・経営者が誰だか、知ってる?」
「・・・いや。そこまでは・・・・」
「創立者は篠原桂(しのはかつら)、その息子、聡(さとし)、その孫の秀顕(ひであき)、と続いて、今はひ孫のさえこ。と、続く、一族経営なんだよ」
「さえこ?・・・・篠原?・・・・・ピュンマ、さっきの話しで・・・」


ジョーはコンピューターのモニターを見つめるピュンマの横顔へと視線を向けた。
ピュンマは静かに、頷く。



「・・・・篠原って言えば、心臓移植で有名な篠原総合病院や、その他の医療機器開発でも有名なんだ。医者を多く出してるけど、研究者や大学教授も多いね。・・・でも、学校経営までしていたなんて・・・。こんなに手を出してさ、不況をよく乗り越えたよね。後ろにどれくらいの大物がついているのやら・・・。あ、でも・・・確か、学校の方は共同経営だったはず。・・・息子の代で、一緒に経営していた方が手を引いたんだよ」
「理由は?」
「経営方針の違い、じゃないのかな?以前から変わっていたみたいだけど、完全に今の教育システムになったのは息子の聡からだしね。それを引き継いだのが、今の娘さんみたいだよ。秀顕は名前だけで、実質はさえこが仕切ってるみたい。彼女はそれ以外も色々と手を出していて、義足や義肢などを作る技術者のための研究施設も設立してるしさ。篠原技研って言うんだ」


ピュンマは篠原技研とかかれたHPを開いて見せた。


「・・・トーマス・マクガーの孫が、篠原当麻。篠原グループの跡継ぎ」
「トーマス・マクガーが、篠原当麻に渡した物ってなんだろう・・・?」
「・・・・・・・恩田さんは、それが何であったか知らないと言っていた、けど」
「本当かな?」
「今は、いい。・・・・月見里学院の経営者が、篠原さえこ。当麻の母親・・・」
「”マクスウェルの悪魔”が身を隠しているかもしれない、学校のね。ジョー・・・・繋がってきてる?」


ピュンマはマウスで、自分のフォルダをデスクトップ上のゴミ箱へと移動してUSBを抜いた。


「008、みんなを集めてくれ。10分後ミーティングを開く」
「了解」


ピュンマはデスクチェアから立ち上がり、ジョーの部屋を出て行き、脳波通信で邸内にいる00メンバーにミーティングを始めることを伝えた。

ジョーは腕を伸ばしてマウスを手に取り、”システム終了”にカーソルを合わせた。が、もう一度メールをチェックするために、safariを開き、ゲーム用に新しく作った無料メールサービスの、Yメールにログインする。
"未読メッセージはありません”と言う表示が表れて、ジョーは短く溜息を吐いた。


「・・・・来てない、か」

”マクスウェルの悪魔”に送ったメールに対する返事が未だに来ない。
Yメールからサイン・アウトして、再びカーソルをシステム終了に合わせ、コンピューターの電源を切った。



イスから立ち上がったとき、ジョーの部屋のドアを2回、軽くノックする音が聞こえた。


「・・・誰?」
「私・・フランソワーズです」
「・・・・フランソワーズ?」


ジョーは部屋のドアを開けると、外出した時の服装とは違い、邸内でよくフランソワーズが好んで着ている、黒と白の細かいギンガムチェックのシャツワンピースを着て、立っていた。


「少し、いいかしら?」
「・・・うん」
「10分後に、ミーティング・・・なのよね?」
「・・・そうだ、よ」
「ギルモア博士に、今日の分を・・・さっき始めると言われて」
「・・・・・そう。キミはそちらを優先して」
「でも、ずっと私・・」
「・・・ミーティングの内容はいつでも教えられるし、まだキミが思うほど進んではいない、から」
「・・・・・メンテナンス以来、何もしていないわ」
「ちゃんと体調を整えてくれる事が、今のキミの仕事だ」


フランソワーズはジョーの言葉に頷いたが、納得できないでもいた。が、それを口に出す勇気はなかった。



「何もできなくて・・・ごめんなさい」


ジョーはフランソワーズが”ごめんなさい”と謝った言葉に、表情を曇らせながら、俯いて話すフランソワーズに話しかけた。


「・・・・大丈夫?」
「え?」
「・・気分は?」
「あ・・・ええ。大丈夫よ、少し緊張していたみたいで・・・・」
「本当に?」
「ええ。そうよ・・・何も、問題はないわ」
「・・・・辛くはない?」
「大丈夫よ」


ジョーは部屋から出てドアを閉めた。
その行動から、彼がミーティングのためにリビングルームに向かうのであると、フランソワーズは気が付いて、ジョーの少し後ろをついて歩き始めた。


「早く帰ってきたと、訊いたから・・・」
「ジェットには申し訳なかったわ。でも・・・」
「・・・いや、キミがそうしたかったのなら、それで良かった、と思う」
「ごめんなさい・・・。せっかくジョーが街を見たらいいって言ってくれたのに・・・」


フランソワーズの”ごめんなさい”に、ジョーが溜息を吐いた。


「・・・謝る必要、ないよ」
「・・・・でも」
「どうして?」
「?」
「・・・・キミは、どうして俺にいつも謝るの?」
「どうして、って言われても・・」
「必要ない、って言っているのに」
「・・・・・・・ごめんなさい」
「・・・・また」
「あ・・・。でも、あの・・・」
「今度、言ったら・・・怒ろうかな?」
「・・・」


手すりにそっと手を置いて、沿うようにジョーは階段を下り始めた。


「それか・・・・」
「・・・」
「平仮名の書き取り?・・いや、もう平仮名は書けるんだよね?」
「え?」
「平仮名は書けたよね?」


少しだけ後ろへ振り向いて、ジョーはフランソワーズを見上げる。
フランソワーズの足がしばし止まる。


「ええ、平仮名、は・・・片仮名も・・・・」
「じゃあ、漢字の書き取り、だね」


再びフランソワーズは階段を下り始めて、ジョーはフランソワーズが自分と並ぶのを足を止めて待っていた。


「・・・・ジョー?」
「今度、”ごめんなさい”を言ったら、”漢字の書き取り”してもらう、よ」
「・・・・漢字の書き取り?」


不思議そうにジョーを見つめるフランソワーズ。彼女が自分の隣にまで階段を下りてきたところで、ジョーは再び足を進めた。


「そう。1つの漢字を20コずつ、覚えるためにノートに書くを、ね」
「・・・・・・それって・・いいことじゃなくて?」
「そうだね、そうかもしれない。でも、キライだったし・・・俺・・面倒だし、おもしろくない、よ」
「漢字を20コ書くの?」
「そう、キミの知らない漢字を・・・10コを選んで、ひとつの漢字にたいして20コの書き取り」
「・・・・手が疲れるわ、きっと」
「そう、それをしてもらうから、今度キミが必要のない、口癖のような、”ごめんなさい”を言った時に。気を付けて、ね」


そう言って、ジョーはリビングルームへのドアを開けた。
















=====47へ続く


・ちょっと呟く・

長い!!!!!
キリがいいところが、見つからなかった・・・( p_q) シクシク
ええっと、話しがあっち行ったり、こっち行ったりしてますが(汗)

長いついでに・・・。









=登場人物=

”マクスウェルの悪魔”>002が参加している、オンラインゲームの管理人。”景品”として、サイボーグの設計図を出している。景品はトーマス・マクガーのもの。


トーマス・マクガー>コズミ博士が”交流会”で持って帰ってきた研究資料に乗っていた名前。”マクスウェルの悪魔”の景品にも彼の名前があった。イギリスのC大学の元教授。
恩田光弘と住んでいた。B.Gの研究員だったと思われる。

クラーク・リンツ>分子生物学の研究者。”交流会”の創立時からのメンバーでコズミが出会い、日本留学の世話をしてもらう。トーマス・マクガーの開いていた、勉強会に参加していた。

恩田光弘>トーマス・マクガーと暮らしていた。日本在住のクリエイター(自称・絵本作家)。クラークの恋人。

中井都>トーマス・マクガーの奥さん(故人)

中井・マクガー・T・アンドリュー>トーマス・マクガーと中井?子の息子(行方不明)。

篠原さえこ>篠原グループ代表、篠原秀顕の娘。トーマス・マクガーの息子である、中井・マクガー・T・アンドリューの婚約者。篠原当麻の母。

篠原当麻>さえこの息子。トーマス・マクガーの孫。



B.M(ブラック・マーケット)=闇市>表には出せない”情報”交換がなされる。B.Gの名残のようなもの?世界中の至る所で、さまざまな情報や”取引”に活用されている。

”交流会”>コズミが知人に誘われて出席した、科学者の集まる”倶楽部”みたいなもの。始まりはトーマス・マクガーの勉強会から。

オンラインゲーム>002が遊んでいたゲーム。管理人はマクスウェルの悪魔。

月見里学院>マクスウェルの悪魔が使っているIPアドレスから辿って見つけた寄宿制の男子学校。

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