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Day by Day・53
(53)





メンテナンス・ルームで一晩を過ごしたジョーは、自室に戻り、ハンガーにかけてあった、月見里(やまなし)学院の制服を手に取った。
視界に、自分の手が映る。


握っていたのは、フランソワーズの手。
夢を観ていたのか、見ていなかったのか、・・・何があったのか、まったく思い出せない。




いつ、なぜ、どのように、どうして、フランソワーズが?






思い出そうとすると、胸を締め付けられるような感覚に、心臓がどくん。と、胸を強く叩きつけて、こころが夢を思い出すことを拒否してるように思えた。

気持ちを切り替えようと、着ていたTシャツを脱ぎ捨てて、学院が指定するYシャツに袖を通した。






ー”制服”は、個性を無くし、誰もが学校に属する同じ”人間”となる。ー






首に、かけたカーディナル・レッド色のネクタイを、Yシャツの襟を立てて首にかけた。



同じ、黒い髪。
同じ、黒い瞳。

同じ、日本人。



俺は半分だけ。






アルベルトに教わった”基本”の、プレーンノットを結び。のど元で結び目を整えた。





ぐっと、喉に突き上げた、苦み。


「っっっ・・・・」


ジョーは部屋を飛び出して、ゲストルームへと走り込み、ユニットバスの床に膝をついて、胃の中にあったもの、全てを吐き出した。


喉を焼く。
にがい、苦しい。
咥内に充満する、ねばねばとした、異質の液体に・・咽せた。




みんなと同じ。
みんなと同じでなければならない。


黒い髪。
黒い瞳。
アジア人。
日本人。


中途半端な、自分。




違う。

みんなと違う。



髪の色も、瞳の色も、顔も、躯も、血も、何もかも。








俺は違う・・・。






胃の中はもう、何も入っていない。
それでも、胸を、喉を焼きながら、せり上がってくる、異臭を放つ苦い液に、ジョーは耐えた。

肩で、全身で荒く、空気を求める。


空気を、求める。




新鮮な、空気を求めては、激しくむせかえり、肺が縮む。
浅く、薄くしか得ることができない、空気に、息苦しさが、呼吸器官、すべてを締め付けた。



首にまとわりつくものを引き裂いた。



ーーー息がっっっ!!













「落ち着け。」


ジョーの背後から、大きな手が、激しく咳き込むために揺れ続ける彼の躯を、力強く支えた。


「ジョー。落ち着け・・・。大丈夫だ。慌てるな、ゆっくりでいい。息を、ゆっくり吐き出せ。苦しいかもしれないが、吐き出せ。そう・・・・、そうだ・・・。それでいい。慌てるな。ゆっくり、ゆっくり、息を、吸え・・・・。」


ジェロニモの声に、ジョーは導かれて、少しずつ、少しずつ、落ち着きを取り戻していく。
温かく、太陽の香りを放つジェロニモの手が、何度もジョーの背を往復する。


「・・・・・・っ」
「まだ、だ。慌てるな。ゆっくり、落ち着いて、静かに、続けろ・・。」


力無く、床に蹲るように崩れ落ちかけたジョーの躯を、ジェロニモが受け止めた。


「・・・・・・j」
「しゃべるな。・・・・まだだ。」


ジェロニモは、ジョーの躯を支えながら、ユニットバスの外に立つ、アルベルトとグレートを見た。


「大丈夫だ。心配ない。」
「・・・おいおい、心配ないって・・・ジェロニモよお・・・」
「・・・ピュンマがさっき、博士に知らせに行った・・・。地下に連れて行った方がいいな」
「運ぶぞ。」


ジェロニモがジョーの躯を持ち上げようと、腕に力を込めたとき、ジョーが拒むように、躯をずらして抵抗した。


「・・・・っ・・・・・いい、・・・大丈夫、だ」
「よくない。」
「いや・・・・、大丈夫、だから」
「ジョー、休め。今日はピュンマとジェット、グレートだけで行かせる。お前は明日だ」
「そうしろよ、ジョー。なに、一日くらい入寮が遅れても、何も問題ないさ。なんなら、吾輩がお前に変身して行ってもいんだからなあ・・・。そんな風にげえげえ、やられちまったら・・・。今朝までメンテナンス・ルームだったんだろ?何かあったのか?」


ジョーは力を入れて、ジェロニモの手から逃れる。
ジェロニモは、ジョーがしたいようにさせるつもりなのか、立ち上がろうとするジョーを助けながら、彼の足がしっかりと立つことが出来ることを確認した上で、ジョーから腕を離した。


「何も、ない。・・・・大丈夫、だ」


苦痛を強いられたばかりの、ジョーの顔は青ざめてはいたが、彼の鋭く精気ある眼差しは009であった。


「・・・・これ、を・・」


グレートと、アルベルトの影に隠れるように立っていたフランソワーズの手にあった、グラスを、バスルームから出てきたジョーに差し出した。

ジョーは、フランソワーズがいることに気づいていなかったために動揺し、反射的に躯が後ろへと退がる。


「口を濯いでも、気持ち悪いだろ?」


グラスを持つフランソワーズではなく、アルベルトがそれを飲むことをすすめた。
グラスの中に、輪切りのレモンが2切れ水に浮かんでいる。

フランソワーズは、アルベルトの言葉に同意するように頷いて、ジョーにグラスを渡そうと、それを彼に差し出す。

おおきく、色鮮やかなアクアマリン・カラーの瞳に、今にも零れてしまいそうに、瞳の縁にたまった朝露が、瞬くたびに、きらり。と、光る。
ジョーは、久し振りに正面から、まっすぐにフランソワーズを見つめた。


「飲んで、ジョー・・・」


先ほど、メンテナンス・ルームで聴いたフランソワーズの声色と、違った。



「昨日、夕食を食べなかったから、苦しかったでしょう?・・・胃に何もなかったのでしょう?・・・胃に負担をかけないものを作るから、少しだけでも食べて?」
「・・・・」



フランソワーズの、持つグラスへとジョーは視線を移す。


「・・あ・・・・」


視線を合わせていた、アンバー・カラーの瞳が、自分の手へと視線が落ちたために、慌てて、フランソワーズは両手で持っていたグラスを左手で持ち、利き腕である、右手を背に隠した。


フランソワーズが隠すよりも、早く、ジョーの瞳は白い手に浮かんだ、薄紫色に染まる人の指の形をしたような痣を捕らえた。

寝ている状態であり、脳からの電子信号を最低出力に抑え、”動き”を封じていても、リミッター解除中の彼が、一晩中握っていた手は、打ち身のような痣を、フランソワーズ右手に色濃く残した。


「ジョー・・・」


フランソワーズは、グラスをジョーに押しつけるようにして持たせた。
ジョーはグラスを手に持ち、何も言わずに再びフランソワーズを見つめる。フランソワーズは、ジョーのまっすぐな、強く、けれども、どことなく問いかけてくるような視線に耐えきれず、早口に、”温かいものの方がいいわね。”と、言いながら、ジョーの視線から逃れるようにゲストルームを去っていった。


よく冷えた水の感触がグラスを通り抜け、ジョーの人工皮膚に伝えて、荒魂に支配されていたこころが、落ち着いていった。


「大丈夫そうだな?」


アルベルトが、ジョーの様子を伺いながら、彼の肩に手を置いた。


「一応、博士んとこに、行っておいた方がいいと思うけどなあ・・」
「賛成だ。」


いつの間にか、ユニットバスの床に落ちていた、引き千切られた、カーディナル・レッド色のネクタイを手に、グレートの隣に立っていたジェロニモが、頷いた。


「新しいのが、必要だな・・・。今日はネクタイなしだ。編入早々、校則違反か?」


ジェロニモの持つ、千切られたネクタイに視線を向けたアルベルトが、ニヤリと、片方の広角を上げて嗤う。


ジョーは、グラスにそそがれた檸檬水を口に含み、体内に流し込んだ。
檸檬の強い酸味が、焼けた喉にしみ込むが、それが逆に心地よかった。


「心配かけて、すまない。・・・大丈夫、だから・・もう・・・・」




ーーー大丈夫。














####


ジョーは、ジェロニモに付き添われる形で地下へと向かい、張大人がフランソワーズが作った、マグカップサイズの巣ごもりスープを届けた。









呼んでおいた迎えのタクシーがギルモア邸のチャイムを鳴らし、3人のトランクケースが、タクシーに積み込まれていく。

ジョー、ジェット、ピュンマ、そして蟷螂に変身したグレートがタクシーに乗り込み、玄関先にて、アルベルト、ギルモア、ジェロニモ、張大人、そして、腕にイワンを抱いたフランソワーズが見送る。


エンジン音とともに遠ざかっていくギルモア邸を最後まで見つめていたピュンマは、ふうっと溜息を吐いた。


「短期間だって解っていても、なんだか寂しいなあ・・・。こういうの」
「ばっかじゃねえのっ・・・・仕方ねえだろっ!ま、週末までの辛抱だよなっ、ジョー!」
「・・・・」
「って、おいっ!!」


ジェットの言葉を無視して、一点を集中して見つめているジョー。


「・・・・・」
「j、ジョー?!・・・・気分でも、悪いの?」


その様子に、ピュンマが心配そうにジョーの顔をのぞき込んだ。
1時間前に、ジョーがバスルームに走り込んだことを思い出す。


「・・・・・あ、いや・・。何?」
「っだよっ!ぼーっとしてんじゃねえっつうのっ!しっかりしてくれよっ、ぜロぜ・・・」
「うわああああっ!!」
「だgpshjっqp!」


009。と、呼ぼうとしたジェットの口を慌ててピュンマが塞ぐ。
バックミラー越しに、運転手がちらり、と後部座席の3人に視線を送った。

















ギルモア邸では、言えなかった。
面と向かって、言葉をかける勇気がなかった。が、003ではない、フランソワーズとの会話を求めた。009ではない、自分でいたかった。


けれど、話しをするタイミングが掴めなかった。
なんとなく、周りに合わせては会話をする。
フランソワーズに、何をどう切り出せばいいか、わからない。ましてや他のメンバーが居る前では、余計にジョーは口を閉ざしてしまう。

邸を離れる前に。と、思いながらも、今日の日を迎えてしまった。



<・・・・キミを傷つける、ようなことを言ったと、思う・・・。イマサラだけど、ごめん。・・・それから、ありがと。色々と・・・ありがとう。手・・・ごめん、ね。留守中、気をつけて>
<ジョー・・・、ごめんなさい>
<・・・どウs>
<煙草、抜いておいたわ・・・・・。代わりのを、入れておいたから、それで我慢してね>
<っえ?!>
<気を付けて・・・・それkr・・・・・>
<・・え・・・・・・fra・s・・・・>



脳波通信が届く、ギリギリの距離で、ジョーはフランソワーズに話しかけた。
フランソワーズからの、返事は期待してはなかったが、返ってきたフランソワーズの声は、意外な内容だった。


「・・・ジェット」
「っsなだよっ」
「・・・・・煙草は?」
「おうっ!2カートン!ばっちしだぜっ」
「はあっ?!バカっ!!そんなの持っていたらあっという間に追い出されちゃうよっ!!」
「・・・大丈夫だと、思うよ。ピュンマ」
「そうだぜっ!見つかるようなヘマはしねえっつうの!」
「そういう問題じゃないって!!」
「心配ない、よ」


ジョーは微笑んだ。

ジェットとピュンマは、しばし見惚れるように、黙って自分を見つめてくるので、ジョーは怪訝そうに眉根を寄せた。


「・・・よかったあ!!ジョー、大丈夫だね!うん、心配ないね!」


ピュンマの、何か意味の違う言葉に、ジョーは不思議そうにピュンマを見るが、彼は嬉しそうに、何度も1人で浮かれる。


「おう!もう、心配なんかねえよなっ」


久し振りに、ジョーが笑った。
マイクロフィルムを手に入れた後から、口元で笑うような表情を見せてはいたが、それは、人形のように張り付いた、感情のないものだった。

その翌日には、1階バスルームの浴室の壁が消えた。


ジョーの情緒不安定な状態は、00メンバー誰もが手にとように感じていた。
009がいない間に話し合われた、今回の潜入捜査から009を外す。ということを、最後まで反対したのは、ギルモアだった。



「ミッションとは言え、一時的にでもここをジョーが離れるのは、賛成じゃ・・・」













####

タクシーを使い、いつも使う駅とは違う沿線の駅まで赴き、そこから電車とバスを乗り継いで、私立、月見里(やまなし)学院敷地内にある、3つの寮、ベガ、アルタイル、デネブ寮へと向かう。ピュンマ、ジェットは同室であり、アルタイル寮。ジョーは篠原当麻のルームメイトとして、デネブ寮。

学院にたどり着き、渡された生徒手帳を見せて正門の警備員から学院敷地内へと通される。
警備員がどこかへと連絡し、1人の男がやってきて、3人を学院本館に連れて行き、そこで入寮手続きの書類にいくつかサインを書かされた後に寮へと案内された。
初めにアルタイル寮へと連れられて、Prefect(監督生)とジェット、ピュンマの部屋があるフロアの担当RA(Resident Assistant)が待っていた。

お互いに簡単に挨拶をすませたジェットとピュンマは、アルタイル寮の自室へと向かった。
彼らと別れたジョーは、男に連れられて1人、デネブ寮へと向かった。
そこでも、アルタイル寮と同じように、デネブ寮のPrefect(監督生)とRA(Resident Assistant)
である、ジョーのルームメイト、篠原当麻が待っていた。


「・・・こんにちは。まさか、同室になるんて・・・。すごい偶然だね」


PrefectとRAは基本、1人部屋を与えられる特権があったが、短期留学生、と言うこともあってか、なんらかの”手違い”のために、RAである、篠原当麻と同室となった。気づいたときには、すでに全ての準備を終えていたこともあり、そして、篠原当麻と自身が了承したので、今学期いっぱいは、同室となることになった。


「よろしく」


当麻に連れられて部屋に案内された。

2面の窓を挟んで、左右対象に配置された、備え付けの家具。
ベッド、勉強机、本棚、専用クロゼット。


「ぼくは、こっち、右側を使っていたから、そっちで」
「・・・はい」
「他の家具類や、電化製品の持ち込みは大丈夫だよ、ドアの入り口にあった冷蔵庫はシェア。あれは、付属品。その上にある電気ポットやコーヒーメーカー、ぼくのだけど、自由に使ってくれてかまわないよ。浴室は地下。各フロアにトイレもあるけれど、一応、全ての部屋にユニットバスがついてるんだ。みんな地下を利用しているけどね。あと、一日置きに、シーツ交換がされるから、火、水、木曜日は、このフロアの洗濯室にシーツを出すこと。掃除も午前の授業を受けている間に来るから、捨てられたくないものや、大切なものは、なるべく、しまっておいた方がいいよ。ときどき、プリント類を間違って捨てられてしまうから・・・あとは・・、おいおい説明していくから、なんでも訊いて」


ジョーは室内を見渡しつつ、持ってきたトランクケースを左、壁際に寄せて、窓の外を覗く。

広い敷地内は、日本とは思えないほどに、目に鮮やかな緑青々と豊かに、夏の訪れを待ち、電線に、高すぎるビルなどもに区切られることなく、空は広い。
グレートが、故郷イギリスの香りがする。などと言っていたが、あながち嘘ではないようだった。学院の校舎や寮、敷地内の構造など、モデルにしているのは、ヨーロッパのボーディング・スクールに違いない。


「午後の授業が、そろそろ始まるから、行くね・・。島村君は明日から授業だったね?・・・同じクラスに、って言っても、高等部の3学年は1クラスしかないから、当然なんだけど」


当麻は、明るい声を出しながら、窓辺に立つジョーの隣へと立った。

「・・・」
「学院案内とかは・・」
「他の2人と一緒に」
「それはよかった」


ジョーは携帯電話を取りだして、時間を確認した。


「・・・あと、30分後に、彼らとまわることになってます」
「じゃ、大丈夫だね。これから、よろしく」


当麻はにっこりと笑って、ジョーに向かって握手を求めた。
ジョーは差し出されたその手を軽く握った。


「・・・こちらこそ、よろしくお願いします」


ジョーは、口元に浮かべた微笑みが、引きつっていなかったと、思いたい。










####

ジェット、ピュンマと再び合流したジョーたちは、事前に指定された場所、本館にある職員室へと向かった。それぞれの担任に挨拶をすませ、彼らの案内係として待っていたのは、保険医でもあり、学院内の寮を管理する寮監督の1人でもある、石川だった。
3人は石川から、敷地内の校舎や、学院の規則をなどを教えられながら、歩く。


「部屋はどう?・・・・僕、ジェットと相部屋で生きていけるか、ちょっと心配だよ・・・」
「ああ?!オレの方がだぜっ!・・ったく、何を好きこのんで、”男”ばっかのところなんか来なきゃなんねえんだよっ!!共学にしろっつうのっ、共学っ!!」


石川は前を歩くピュンマとジェットの会話に割り込んだ。


「昔は、この学院も共学だったんだよ。今から、約30年くらいまえかな?性格にはわからないんだけど、経営方針が変わってね。一応、姉妹校っていうことで、聖ヘレナ女学院とは交流があるから、もうすぐチャリティのための”あやめ祭”で、向こうの生徒会に助けてもらうこともあって、すぐに女子高生も拝めるさ」
「・・・”あやめ祭”?」


石川の、背後からジョー聞き返した。


「この学院の伝統行事のひとつだ。こんなところで・・・閉鎖的だろう?地域交流や、社会貢献、生徒達の社会経験・・・の一環として、学院を3日間解放して一般のお客様をお招きしながら、この学院をお披露目しつつ、寄付を募る。今回は・・地雷の犠牲になった子どもたちに、新しい義腕、義足を送るのが目的にしているから。他校のように、文化祭や、体育祭みたいなイベントがないからね・・・。その代わりみたいなものだよ。意外と派手にやるから、楽しみにしていたらいいよ。集まる人も世界中から、だしね」


石川の、クセのある金色に近い髪が柔らかく流れて、ジョーに振り返った。
”石川トオル”と名乗った彼は、その名に不似合いな容姿であった。不似合い、とは、彼が”日本名”を名乗ったからである。

ジョーは言葉を続ける石川を見る。いつの間にか、彼の隣に並んで歩いていた。


「島村はどっちが?」
「?」
「わたしは、父親が。違和感があるだろ?名前とこの顔に髪。母方の方を名乗っているからね、ちなみに母が1/2。どこの国のかは知らないけれど、余計に日本人らしくないだろう?わたしの場合は1/4日本人なんだ」


石川は明るく笑った。

カフェテリアは、3つ寮の地下で繋がる、学生のための施設”紫微垣(しびえん)”にある。
地下2階、地上3階建ての建物には、カフェテリア、娯楽室、勉強室、ジム、学生用coopが備わっており、生活に必要な物などが揃い、学院内で唯一、自由が許された生徒達の”城”である。


ひと通り、学院内をまわったところで、カフェテリアに案内されて、そこで4人は席に着き、早めの夕食を取り始めた。
カフェテリア内は、ビュッフェ形式で、自分が食べたい物をトレーに乗せていけばよかった。


「・・・父が」
「じゃ、島村は母方かい?」
「・・・・多分」
「多分?」
「・・・・・・知らないんで、何も」
「ふうん・・。そうか、いや、変な質問をして悪かったね」
「・・・いいえ、慣れてますから」
「じゃあ、ついでに。ここの2階でネクタイを購入できるから、食事が済んだら買いに行きなさい。今日は授業に出なくてもいいから、多めに見たが、明日からはペナルティになる」
「・・・・はい、わかりました」
「それと、だ」


石川のトレーに載っていた、ミートソースパスタと、カルボナーラの皿。そのうちのミートソースパスタを、ジョーの珈琲と、適当に選んだ温野菜を乗せた皿の隣に置いた。


「まだまだ育ち盛りなんだ、しっかり食べなさい」


石川とジョーのやり取りを食事を取りながら、黙って聞いていたピュンマとジェット。
2人はずっと、学院を案内している間から今までの、石川の様子を見ていた。彼はどうやらジョーに何かしら思うところがあるのか、彼をかまった。

人望があるらしく、生徒に会うたびに声をかけられては、何ごとかを相談したい様子をみせて生徒たちは去っていく、カフェテリア内でも、ぼつぼつと集まりだした生徒達は、彼に視線を送っていた。


<ジェット>
<っだよ?>
<ジョーってさ、母性本能だけじゃなくて、父性本能みたいなのもくすぐるのかな?>
<このおっさんも、きっとクラークと同類じゃねえの?>
<ばかっ!!石川先生に失礼だろっ!!彼の左薬指の。が、見えないのっ?」


ジェットはピュンマの通信に、ちらりと、斜め前に座る石川の左手に注目した。
細い、シルバーの輪が、左手薬指に納まっていた。


「今日は、ここで解散。何かあったら、さっき教えた携帯に電話しなさい。私はここの3階に部屋を持っている。住み込みだ。各寮には”寮監督”がいるが彼らはあくまでも”寮”の監督だ。学院にカウンセラーはわたしを含めて4人いるが、わたし以外は通い。24時間、いつでもいいぞ。腹痛から、あっちの方面、そっちの方面、なんでもいいぞ」
「あっち、そっちって、どっちだよっ!」
「まあ、隠れて一服くらい、付き合ってやるし、健全な男子が不健全に投獄されているようなもんだし、色々だ」
「・・・・バレてます?」


石川は愛嬌ある顔で笑顔を崩さない。


「島村、リンク、週末まできっと我慢できないだろう?真新しい制服でも”匂う”ぞ。消臭スプレーは必需品だ、買っておきなさい。部屋はルームメイトによって密告される、気を付けること。あと、吸うなら夜、外で、だ。夜中の13時から6時までの間、寮の全扉に自動ロックがかかる。それは”寮監督”以外誰にも開けられないから、それまでに室内に戻ること、いいね?」


石川の言葉に、ピュンマは目を丸くする。


「あ・・・・の・・・いいんですか?そんな・・こと言って・・・」
「わたしは保険医兼カウンセラーであり、寮監督でもある。生徒たちの”健全”な生活と健康、こころのケアが仕事だよ、ギルモア。それに面倒なんだ、取り締まるのが・・・・。だから、上手くやってくれ。それだけだ」
「話しが解るじゃんっ!」


ジェットは石川にウィンクしながら、パクっとミートボールを頬張った。













「・・・・・ピュンマ」
「なに?」
「ジェットは、まだ荷物を開けてない?」
「うん、まだ何も手をつけてないよ」
「・・・そうだろう、ね」


石川と別れて、カフェテリアから寮へと戻る途中にジェットはグレートと合うために、指定されていた本館にある、学生たち用に解放されたコンピューター・ルームに向かった。

ジョーとピュンマは地下の廊下を着かずに、外を歩きながらそれぞれの寮へと向かう。


「どうかしたの?」
「煙草。抜かれてる、よ。代わりに、これが入ってた」
「?」


ジョーはズボンのポケットから取り出した物をピュンマの手に乗せた。


「煙草の代わりに、ってことみたいだ、よ」
「・・・・”アフタヌーン・ティー、キャンディ。カフェオレ味”ノンシュガー・・・って」
「カフェオレと、ブラック、あと、確か・・・カプチーノだったかな?」


ピュンマの手のひらに、小さなキャンディーが2個。
小さな包み紙には、丁寧に何味であるか書かれており、珈琲カップの写真もついていた。


「・・・・フランソワーズだね」
「だろう、な」
「アルベルト、に言われたのかな?」
「いや、多分・・・・張大人が、だろう?これを買ってきたのは、彼だろうし」


ピュンマは2つの内の1つを口に入れた。


「うわっ、本当にカフェオレ味!」
「・・・・これで我慢しろってことだ、ね。1週間は」
「我慢できる?」
「するしかない、学生coopには煙草、売ってないから」


そう言って、ジョーは手に持っていた、先ほど購入したばかりのネクタイを入れた袋をピュンマの目の前にまで持ち上げてみせた。


「仲直り、したの?」
「・・・・・・・・・・なにが?」
「フランソワーズと。だよ・・・すごく、みんな気を遣ってたんだけど?迷惑だよ、ジョーとフランソワーズがケンカなんてっ。すごおおく、居心地が悪くなるんだからっ!」
「・・・ケンカ、した覚えはない、よ」
「じゃ、いったいなんだったんだよっ!」
「・・・・俺が一方的に」
「フランソワーズにあんなこと言うなんて、失礼だよ・・女の子なのに。そんな子じゃないって、一番良く知っているのはジョーだろ?」
「勢い、って言うか・・・。聞こえてたんだ、やっぱり」
「2階の、あの場所にいたら、イヤでも聞こえてくるよ。訊かれてたくなかったら、どこか別の場所で話しなよ、階段下のリビングルームのドア前なんて、ところじゃなくて」
「そうだ、ね」
「それでさ、仲直りしたの?・・・しないで、ここに来たの?」
「・・・・・・したような、してないような、どっちだろう・・な」
「今日の定期連絡、どうする?」
「どうもこうも、それはそれだ。一度、寮の部屋に戻ってからそっちへ行く」


009が008を見た。


「了解」
「グレートの報告を訊いた002が戻ってきたら、動く」
















####

本館、東側にある、図書館と隣接されたコンピューター・ルームの、窓際の席に座ったジェットに、すぐに”脳波通信’で007から話しかけられた。

002は、何もないようにsafariを開き、メールをチェックをし始めた。


<よ、お疲れさん!>
<007か?どこに居んだよ?>
<それは、秘密だあなあ。とにかく、ピュンマが言った通り、ここらのコンピューター回線は、ひとつ。ここから割り出すのはかなり、苦労させられるぜ>
<それで?>
<なんか、もうすぐイベントか、祭りだかが、学院内で開かれるらしい>
<あ、それ。今日訊いたぜ>
<招待状のリストってヤツを手に入れた。紛れ込んでるかもしれねえしなあ、その中に”クラーク”と”コズミ博士”も含まれていた>
<コズミ博士はわかるけどよっ!なんで、クラークが?>
<あいつの奨学金は、全部”篠原グループ”からなんだぜ?知らなかったのかよお?002>


002のマウスを持つ手が、止まる。


<げ!?そうなのかよっ!>
<みんな知ってるぜえ、お前・・・もう少し集中してミーティングに出ろ>
<じゃ、クラークと鉢合わせに・・・?>
<その辺は009が考えるだろ?兎に角、招待リストは今、お前が座っているイスの裏、だ>


マウスから手を離し、002はコンピューター・デスク脇に置かれていたメモパッドを落とす。
それを拾うフリをしながら、イスの裏を見た。

セロハンテープで貼り付けられたポータブルUSBが目に入る。
それを素早く手に取り、メモパッドと一緒にデスクの上に置いた。


<thanks、で。007はこれからどうすんだよ?>
<そのコピーを持って邸に戻る、あとは009からの指示を待つさ>
<了解!>


007との交信を切って、ジェットはメールの受信箱にいくつかの未読メールがあるのを見つけると、それをチェックし始めた。20分ほど経ったころ、コンピューター・ルームから出て行った。








アルタイル寮の部屋に戻ったジェットを待っていたのは、ピュンマ、そしてジョー。
ジェットはグレートから預かったUSBをピュンマに渡す。


「なんとか祭ってのの、招待リストだってよ」


008はそれを、ラップトップに接続し読み込んだ。


「他には?」
「学院全部がひとつの回線でまとめられてるらしいぜ、だから、特定のを追うのは無理だろ?」
「時間がかかるな、それだと。いつ”マクスウェルの悪魔”がコンピューターを使っているのかもわからないしね」
「あぶり出せねえのかよっ!」
「現時点では・・・どうするの、009?」
「少し、乱暴だけれど・・・・学院のネットワークを、事故に見せかけて使用不可能にする。回線の1つを邸と繋げて、追う・・・邸のメイン・コンピューターを、使う」


ピュンマが、デスクに座っていた位置から躯をずらして、002と009に裸婦トップのウィンドウが観易いようにした。


「これ、だね」
「クラークと、コズミ博士も含まれているらしいぜ」
「コズミ博士は、当然だな・・・。ここに何度か講演に来ているから・・・。クラークも言えば、関係者だし、ね」
「007は、これを邸に持って帰ったの?」
「おう、それで009の指示を待つってよ」
「・・・・リスト内に、クラーク以外の”交流会”関係者がいるかあらってみてもらおう。あと、今回の”あやめ祭”が誰がメインで動いているか、だ。毎年のチャリティ内容は変わるみたいだけど、今回が”義肢”って言うのが、タイミング的に気になる」
「009、僕も変だと思うよ。確かに、医療関連で大きな力を持つ篠原グループだけど、出来たばかりの”篠原技研”の、成長の仕方が気になるし・・・・」
「なあ、篠原技研の人間っつうのが、”マクスウェルの悪魔”じゃねえの?」
「・・・・それなら、なんのために”オンライン・ゲームを行う?」
「趣味」
「002・・・・」


即答した、002に008が脱力した。


「技研の人間なら、直接的に会社ぐるみで動くはずだ。どう考えても”マクスウェルの悪魔”は、”個人”で動いているとしか、考えられない」
「わかんねえんじゃんかよ、そんなのっ」
「団体だったら、もう足が出てるよ、技研も、篠原グループの”裏”の動きは把握済みだもん」
「008と、裏ってなんだよっ」
「裏は、裏。政治的繋がり、金銭的繋がり、闇取引、に・・・。表に出ない、裏。だよ、ね?009」
「あれだけの規模を誇る”グループ”な上にすべて家族経営。叩けば色々出てくる、が。今回はあまり関係ない。僕たちが手を出す必要はない、ことだ」














####

携帯電話から訊く、コール音。
メールを出そうか迷ったが、声が聴きたくて、電話をかけることに決めた。

家から学院に戻り、”いつもの”生活に戻った当麻だったが、”いつもの”生活に戻ったのは生活習慣だけで、こころは未だ、マリーと過ごした時のまま。


コール音の回数を数えながら、それが留守番サービスに切り換わったときのセリフを考え始めた。


カウント5。で、聴くことできた。

『・・・・はい』
「マリー?」
『・・・当麻さん?・・・こんばんは。どうなさったの?』
「あ、うん・・・。あのさ」


胸が甘く、擽られる。
肺が熱くなっていく。


『・・・?』


部屋のドアに金属音がぶつかる音が聞こえた。
当麻は、ドアへと振り返る。

ドアノブがまわされて、部屋に入ってくる人物。
今日から、同室となったルームメイト。


「あ、マリー、ルームメイトが戻ってきたから、場所を移るよ、そのままでいてもらっていいかな?」


当麻と同室のジョーは、彼が携帯電話に向かって言った言葉を聞き逃さなかった。
ジョーとは入れ違いに、部屋を出ようとする、当麻。


「あの、今週末のことだけど、考えてくれたかな?」


ジョーが部屋のドアを閉める背後で、そんな当麻の声がジョーの胸を殴りつけた。
黙って、部屋の鍵を割り当てられた、ピュンマのデスクと寸分の違いもないデスクに、渡されたばかりの、キーホルダーも何も付けていない”鍵”を投げた。

ぶつかり合って、跳ねる音。
静寂の中に紛れ込む、隣室の誰かが聴いているのだろう、英語のラジオニュースが聞こえる。


ベッドの上に、腰掛けて深く、ゆっくりと息を吸いこみ、それを全身で吐き出した。
起きっぱなしにされていた、購入したばかりの、カーディナル・レッドのネクタイを袋から取りだして、手に持ったそれを見つめる。

ジェット、ピュンマ以外の留学生の姿をちらほらと、学院内でみかけた。
見慣れない生徒がいることから、好奇心の目が自分たちに向かうのは、仕方のないこと。向けられる視線の中に、ジョーが過去に浴びた”視線”を感じることはなかった。








ここでは、浮くことはない。

ここでは、異質ではない。

ここでは、・・・・・”半分”でも、いい・・。











「・・・マリー・・か・・・・」



”危険がないように、できれば行き先は事前に教えておいて欲しい。
あと・・・夜は、外泊になるなら、ギルモア博士が心配しないようにキミから言っておいて欲しい。
キミのことは娘のように思っているから”




”・・・夜は、外泊になるなら、”









そういう、考えしか浮かばない、自分が最低で、そういう事しか”知らない”自分が、汚い。



そういう、”付き合い”しか、知らないから。
そういう、ふうにしか”付き合わなかった”から。








一晩の熱と、人肌が、孤独を忘れさせてくれた。


誰でもよかった。
誰でも声をかけてきた。



都合が良い。









面倒もない。











そんな風な自分の尺度でしか見えず、フランソワーズに言葉を投げつけた事を後悔するばかり。

今日の朝、邸を出るとき、ずっとフランソワーズは利き腕を背に隠していた。


指の痕。




強く、握っていたために。












一晩中、拒まれることなく。













こんな自分でも、彼女は何も言わずに・・・・・・。

仲間だから。













「・・・・・フランソワーズ」





愛しい人の、名前を。
想いをこめて、呼んでみる。


















当麻が5分ほどで部屋に戻ってきた。
部屋でジョーと顔を合わせると、少しばかり困ったような笑いを見せた。










====54へ続く

rugbyさんに、無理をかなり重ねて描いていただきました!
制服姿!の2.8.9ですっっっ  \(^ ^)/ バンザーイ


・ちょっと呟く・

プチ・ケンカ?
ケンカのようで、ケンカじゃない。


でも、フフフ ( ̄+ー ̄)キラーン
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