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Day by Day・54
(54)





ジェットとピュンマの部屋がある、アルタイル寮から、ジョーがデネブ寮の自室に戻ってきたとき、当麻は”マリー”に電話をかけていた。
ジョーが部屋に戻ってきたことで、入れ違いに、部屋を出て行った当麻は、携帯電話を手に5分ほどで戻ってきた。

ジョーは、トランクケースの中の物をクロゼットへ片付けていたときだった。


久し振りに持つルームメイトと目線があい、照れたような笑顔を浮かべる当麻。
ジョーは何ごともないように、淡々とクロゼットへと荷物を片付けていく。


「何か、手伝おうか?」
「・・・・そんなに、荷物は持ってきていないので、大丈夫です」
「島村君、敬語じゃなくてもいいよ?同じ年なんだし」
「・・・そうだ、ね」
「あのさ・・・・突然、なんだけど。その、訊きたいことがあって」


ジョーの手が止まり、当麻を見る。


「・・・・なに?」
「その、ほら・・・この間、うちに迎えに来た、だろう?」


当麻は、右側の、自分のベッドに腰かけながら言った。


「・・・はい」
「あの、さ。マリーさんとは、初めて会ったの?それとも、前から知り合い?」
「・・・・・お世話になっている、後見人が同じ人なので、それなりに以前から交流はありました。他の編入してき2人も、同じです」
「そうなんだ・・・。さっき・・・あの。さっきの電話は彼女だったんだ」


ジョーは再び、手を動かしてトランクケースの物を、クロゼットへと移し替え始めた。


「・・・それで?」
「彼女、何が好きかな?・・・週末は忙しいからって、会うのを断られてしまって。日本に来て間もないし、来て早々にドタバタしてたから仕方ないんだけど・・・。その、不慣れなここでの生活が始まるわけだし、物も色々と入り用だろうと思うから、次ぎにあったときにでも、何かプレゼントしたくて」
「・・・・・そういの、本人に訊いたらどうです?」
「断られるよ、きっと。だからサプライズにしたくて・・・」


トランクケースの中の物をほとんど取りだして、空に近い状態で、トランクケースを最後にクロゼットの中に押し込み、ドアを閉めた。

ベッドの上に置いた、細々したものを、タンスやデスクの引き出しに仕舞っていく。
その様子を当麻は見ていた。


「・・・女の子が喜びそうなものなら、なんでもいいと思います、けど?」
「なんでも、って言うのが、イヤなんだ」
「・・・・・それなら、本人に訊いた方がいい」
「そうだけど・・・。何か、気づいたこととかないかな?」
「・・ほとんど、入れ違いで自分はこっちに来たから、思いつかない、です」
「あ、そうか・・・。そうだよね・・・・うん。島村君だったら、何をあげる?」
「俺?」


ジョーは最後に、邸からもってきたラップトップ・コンピューターをデスクに乗せて、電源を壁にあるコンセントに差し込んだ。


「そう。・・・・何をあげるかな?」
「・・・・・ケーキか、な」


ジョーの応えに、当麻は不思議そうな表情を浮かべた。


「ケーキ?」
「・・・・・・美味しい、ケーキ屋にでも連れて行って、好きなだけ食べさせる」
「それは、会ったときにカフェくらい行くから・・・」
「・・・他は、たこ焼きとか?」
「え・・・・・・・・」
「焼くところが見たいって、言っていたから」
「・・・そ、そうんだ」


ジョーから笑みがこぼれる。

片言の日本語で話す。カードを一生懸命に選ぶ。商店街の人混みに紛れてしまった自分を見失って、彼女は泣いた。泣いたのに、泣いてない。と、言い張った。

たこ焼きを買っても、結局ジェットに食べられてしまい、ひと口も食べることができなくて、怒っていた。
買い出し当番の誰もが、”フランソワーズ用”に小さな駄菓子を買ってくる。
夜遅くまで起きているとき、それらの”フランソワーズ用”の駄菓子をそっと部屋に持ち込んでいるのを、ジョーは知っている。


「・・・甘い御菓子、くらいしか思いつかない、な」


労働後の甘いもの。と、言い訳しながらフランソワーズがジェットの買い置きのチョコレートを食べて、それをみつけたジョーに向かって、眉根を下げ、ジェットに言わないで。と、お願いされた。それは、1度や2度のことではない。


何気ない、毎日。
何気ない、言葉。
何気ない、仕草。



大切で、大切で、大切すぎて・・・。
そのすべてが愛おしくて、護りたくて。










でも、傷つけてしまった・・・。



つまらない、理由で。












「・・・そういえば、毎晩、一生懸命にレシピを探していたんだよね、チョコレート・ケーキを作るって・・・。ザッハ・トルテ、だったかな?ケーキ、か・・・うん。いいかもしれない」
「・・・」
「ありがとう、助かったよ」
「・・・・・」










脳波通信で、最後に交わしたフランソワーズとの会話をジョーは思い出した。


<・・・・キミを傷つける、ようなことを言ったと、思う・・・。イマサラだけど、ごめん。・・・それから、ありがと。色々と・・・ありがとう。手・・・ごめん、ね。留守中、気をつけて>
<ジョー・・・、ごめんなさい>
<・・・どウs>
<煙草、抜いておいたわ・・・・・。代わりのを、入れておいたから、それで我慢してね>
<っえ?!>
<気を付けて・・・・それkr・・・・・>
<・・え・・・・・・fra・s・・・・>






それから。












ーーーそれから・・・。なに?・・・・フランソワーズ、キミは何を言おうとしたんだ?

















####

22時前、携帯電話にメールが入った。

イワンは夜の時間ギリギリまで能力を使い続け、疲れ切った状態で眠りについたにも関わらずに、予定していた昼の時間よりも3日も早く目が覚めてしまったために、最悪な寝起きとなった。その上に、目覚めてすぐに、イワンは、ジョー、ピュンマ、ジェットの月見里(やまなし)学院への編入するために必要な書類などを、その能力を駆使して存在しない”人間”を仕立てあげたのだ。

彼の機嫌は悪くなっていく一方である。
イワンは、フランソワーズが篠原邸から戻ってきてすぐに彼女を独占し、再び眠りにつこうとするが、昼の時間に起きてしまったイワンは、夜の時間のように深くは眠ることが出来ないために、機嫌は斜めに傾いたまま。

フランソワーズに抱かれていないと、大声で泣き、彼女を呼ぶ。
泣いて呼ぶぐらいならいいが、無意識に強くフランソワーズを求めるので、暴走する超能力が、邸中を嵐のようにひっくり返してしまうのだった。
こういう状態のイワンには、誰が何を言っても、無駄である。
ただ黙って、フランソワーズはイワンの気が済むまで抱いてやるしか、解決方法はなかった。




マナーモードにし忘れた携帯電話の音に、やっと寝付いたイワンが起きてしまわないかと肝を冷やしながら、フランソワーズはそっと、子ども部屋、1階、コモンスペースのイワンのベビーベッドから離れて、リビングルームのソファに躯を投げ出すかのように座り、携帯電話のメールを確認した。



=それから・・・?今朝、聴き取れなかったので教えて欲しい=


フランソワーズは、送信者の名前を何度も確認する。
何度見ても、JOE/009。





ジョーの携帯電話がメールを受信。と、知らせた。

=・・・気をつけて。それから、週末に約束のケーキを焼きます。遅くなったけれど、お誕生日、おめでとう。=





フランソワーズが握りしめていた、携帯電話が震えた。

=週末、邸に戻ることを楽しみにしています、ありがとう。・・・・・キミに、ちゃんと謝りたい=












2人の携帯電話が、伝え続ける。



=謝らないで。あのとき、安易な考えでものを言った、私にも責任があります。ジョーが怒ったのも、わかります。それにそういう風に見られる、私が悪いです=
=関係ない、キミは何も悪くない。何も、キミの責任なんてない。余計なことまで言って、キミを傷つけた=
=本当に、もういいの。だから気にしないで=
=キミに失礼なことを言ったのは、かわらない。だから、謝りたい=
=ジョーの気持ちはわかりました。それで十分です。それよりも、博士から訊きました。眠るためにお薬を使うこと、大丈夫ですか?=
=一時的なことで、常用するつもりはないから、大丈夫です=
=でも、ひどくうなされていたので、心配です。博士にも報告しました=
=あの時、ずっと居てくれた?=
=博士に頼まれて、お水を持って行きました。でも、ジョーは眠っていて、すぐに、部屋を出て行くべきだったのでしょうけれど、とても辛そうで。お薬が合ってないように思います=
=今晩、もう一度使ってから、博士に相談します。手の痣は、俺のせいだよね?=


送信ボタンを押して、すぐにジョーは携帯電話を持って部屋を出て行き、フロア内にあるコモンルームへ向かうと、2,3人の学生の姿が目に停まったが、部屋の隅に置かれたソファに座った。


=いいえ、違います。ジョーのせいではないです=



緊張する手の震えよりも、恋しくて、恋しくて、恋しくて。
止まらない気持ちは、フランソワーズの携帯電話の番号を押すように、指に命令する。








「・・・・フランソワーズ?」





彼女の驚きの声。そして、続けられる会話。


「・・ごめん、キミに失礼なことを言った、ね。・・・・フランソワーズ、ごめん。すぐに、謝るべきだった。けれど・・・、それと、手は・・・?大丈夫、それ、俺のせいだろ?」



優しく、耳に届く声。そして、003ではない、フランソワーズとの会話。


「週末、邸に居るんだ、ね?」


ジョーは微笑む。


「・・・多分、金曜日の夜に戻る、そして土曜日には、またこっちへ。校内に生徒がいないから、動きやすい」


声に出さず、相づちを打つように頷く。


「ああ、そういえば・・・、キャンディありがとう。ところで、抜き取った煙草は?」


こぼれる、笑い声。


「いいよ、気にしなくて。・・・・そう、・・・・うん、そうだ、ね。また、メールでも、電話でも・・・・。訊いてくれたら、いいよ。住所は、ひらがなでメールするから・・・。いいよ、付き合う。キミの日本語の練習になるだろ?それくらいの時間はある、よ。お詫び?・・そうだね、そう思ってくれたら」




嬉しくて、幸せで、温かくて、この時間を永遠に捕らえていたい。







物理的距離があるために、いつもよりも素直になれる、気が、した。




そうしないと、彼女に近づけないから。
そうしないと、彼女の声を聴くことができないから。
そうしている自分が、幸せだった。


少しだけ、前に出る。
見えない距離が縮まる。








「フランソワーズがケーキを焼くの、久し振りじゃない?」



いつもよりも、言葉が溢れる。



「え?・・・いいよ、そんなのケーキに書かなくて。ロウソク?!・・い、いらないよっ。恥ずかしいし・・・、16日はとっくに過ぎてるから、それにイマサラだから、ね。ありがとう」





携帯電話の良さなんて、あまり感じたことなどなかったけれど。
今なら、わかる。




ほんの少し、早口になっている。
ほんの少し、声が大きくなっている。

ほんの少し、いつもよりおしゃべりなキミ。




『ジョー、よかったわ。元気そうで・・・。朝・・・・すごく、心配したわ、みんな、気にしているのよ。でも、伝えておくわね、ジョーは大丈夫って。ネクタイは新しいの、買えたのかしら?』
「買えた、よ」
『どっちを?』
「前と同じ」
『ジェットとお揃いのね?』
「その言い方、ちょっとヤダ、な」
『それなら、ピュンマとお揃いにしたらよかったのじゃなくて?』
「・・・派手、じゃない?」
『あら、大丈夫よ。きっと似合うわ』
「次ぎにネクタイを駄目にしたら、考える、よ」
『ちゃんと結べるようになったのかしら?』
「一応、ね」
『一応なの?』
「なんとなくでも、大丈夫だろ?ああいうのって」
『だめよ。帰ってきたら、結んでみせてね?』
「いやだ、よ」
『見せて?』
「いやだってば」
『結んで見せてね?』
「だから、いやだよ・・・・、どうせ変だろうし」
『変なままでいいの?ジョー』
「・・・・いい、よ」
『私が、いやです。だって変だもの』
「なに、それ?」





こういう風に、毎日、ずうっとキミと会話ができたらいいのに、ね。

ずっと、ずっと。ずうっと。

明日も、
明後日も、
明々後日も、



毎日、遠い未来まで。



終わることない、時間をずっと・・・・。








『気になるわ。兄さんがそうだったの。まったく結べなくて、大変だったのよ?』
「そこまで、変じゃないよ」
『そこまでって・・・見たことないでしょ?』
『フランソワーズのお兄さんだから、ね。想像つくよ』
「まあ!」





















大丈夫。






俺は、大丈夫。














彼女を好きだと、想い続けることが、俺を強く、する。








弱くも、する。












それでも、キミのために強くなろう。
もう、二度とキミにひどいことは言わない。
傷つけることはない。
自分の感情に、振り回されない。


キミが誰に愛されても、
ありのままの、キミが、キミでいてくれるなら。











キミが好きだから、俺は、大丈夫。


キミが俺を強くする。
キミが俺を支えてくれる。









キミが笑ってくれている限り、キミが愛する、生きる世界があるから。

俺は大丈夫。







『ジョー、ちゃんと食べてね?・・・寮だと”食事の時間”が決まっているでしょう?邸にいるようにはいかないもの』
「・・部屋に冷蔵庫があるんだ」


ーーーキミの作るもの以外、食べたくない。なんて、言ったら、どう思う?


調子に乗って、つい、思いついた言葉が口から飛び出しそうになって、慌てた。



『素敵ね。日持ちがするものを作っておくわ。寮に持って行って?そうしたらジョーはお部屋でも食べられるものね』
「・・・ありがとう、助かる」











####

時計の針が24時を指す前に、ジョー、ジェット、ピュンマの3人は揃ってアルベルトからの通信を受けた。

フランソワーズが篠原邸で使っていた物を、改良を重ね、今現在は複数の受信を可能にしたが、通信を返せるのは、脳波のチャンネルを合わせている者のみ、と言う段階である。

今回、ジョーの携帯電話をジェットの目覚まし時計、ピコチュウに隠した脳波増幅装置に繋げた。そのために、アルベルトが会話出来るのは、ジョーのみで、ジョーにチャンネルを合わせることで、ジェット、ピュンマはアルベルトとジョーの会話を聴くことができる。


<そっちで見てもらった招待状のリストの中で、誰か”交流会”関係者はいた?>
《関係者。と、までは行かないが、コズミ博士を交流会に誘った人物や、交流会に呼ばれた経験がある人物くらいだ。直接的な交流会のメンバーは入っていなかったが。大物がひっかかった。絵里子・レキシントン。交流会創立メンバーの1人だ。クラークから名前を訊いていただろう?旧姓の、久保絵里子(くぼえりこ)で登録されていた、007はそれで見落としていたみたいだ》
<・・・005が追っていたよね?>
《訊いている、詳しくは005が改めてそちらへ連絡を入れると言っている》
<了解>
《今はこれくらいだ。動くのは明日からだな?》
<ああ>
《ジョー》


009ではなく、”ジョー”と呼ばれた。
ピュンマとジェットはお互いの顔を見合わせた。


《声の調子から、体調は良いみたいだな?》
<・・・心配かけて、すまない。もう何も問題ないから>
《・・・・・だろうな、1時間近くもフランソワーズと”電話”していれば機嫌が悪いはずないからな》
<っ!?>


通信を通して、ジョーが驚きに固まる様子が想像できたのか、アルベルトの押し殺した嗤いがもれた。


「電話だあっ?!」
「いつの間にっ・・・ってケンカしてたんじゃないの?もう、仲直りしたんだね!」


《フランソワーズが言ったんじゃないぞ?・・・リビングルームで電話していたから、”聞こえた”だけだ》
<・・・・以上だ、004。また明日>
《003に報告させようか?・・・あ。また電話で話すから、いいか?》
<・・・・・・・・・また、明日>


ジョーはアルベルトの嗤いが残る通信を乱暴に切った。
ピュンマのデスクチェアから立ち上がったジョーを、素早くジェットが背後からジョーの胴体をがっちり掴み、持ち上げたかと思うと、そのままピュンマのベッドへと、ジョーに見事なジャーマン・スープレックスをかけた。


「逃がすかっ!!」
「うわあっ、僕のベッドが壊れるよっ!!」
「っな!ジェットっっ」


ジョーは、すぐに体制を整えてジェットから逃れる。
そこはさすが、009である。
しなやかな、流れるような動きで素早くジェットから距離を取った。


「逃がすかっ!」
「っっふざけるなよ」
「ったくっ!!心配ばっかりさせてよっ!結局お前ってヤツはそういうヤツだよっ!勝手にケンカしてっ心配してやっていたらっ、いつの間にか仲良く長電話かよっ」
「・・・勝手に心配したのは、そっちだろ」


ジェットはピュンマのベッドから跳ね起きて、ジリジリとジョーとの距離を縮めていく。


「だああああああっ!!うるせ!なんだってお前はっひねくれてんだよっ!!」
「・・・・・・好きで、こんな性格になったんじゃない、よ」
「じゃあっとっとと直しながれっ!フランソワーズに好きだって言いやがれっ」
「・・・ジェット、ここに何しにきたか、覚えてる?」


ジョーはジェットから逃れる道を計算するために、視線を部屋に走らせた。


「そうだよね、うん。そうだよっ!フランソワーズが好きなクセにっ。こんなにジョーのことを考えて色々アドヴァイスしてあげてるのにさっ」


普段の彼らしくない、強い口調に、ジョーは驚く。


「・・p、ピュンマ?」
「今日は僕、ジェットにつくよっ!はっきりしてよ、ジョー。フランソワーズが好きなんだろ?好きだから、そうやって僕たちに”内緒”で彼女と電話で話したんだろっ」


ジェットの隣に立り、同じようにピュンマもジョーにジリジリと詰め寄り始めた。
部屋の中央にいたジョーは、いつの間にか、ジェットのデスク側へと追い詰められ始めた。


「008っ逃がすなよ!」
「002、大丈夫さ、加速装置は使えないんだから」
「・・・おい」
「正直に言えよっ!お前、篠原当麻に嫉妬して、”あんなこと”をフランソワーズに言っちまったんだろっ!そうだろ?なっ?」
「ジョー、今日こそ君の口からちゃんと聴きたいよっ!いっつも”僕は別に。フランソワーズは大切な仲間で、女の子だ”とか、それ以上のこと、考えて想っているくせにっ!聞き飽きたよ!好きなんだったら好きって、堂々としてたらいいのにさっ!」
「浴室の大穴だってよっ、それに関係してんじゃねえのっ!?」
「今日は、もう何もないんだからっ、ここは邸でもないし、彼女に”聴かれる”心配もないんだよ。ね?」
「・・・」
「腹ああ、割って話そうじゃねえかっ!」


ジョーはさっと、視線を窓へと走らせた。
ここは4階。

部屋のドアに向かう道はひとつ。
ジョーの立つ位置からは、ピュンマとジェットを越えていかなければならない。
可能性的に、無難に抜け出すことができるのは、窓を使うこと。
日が暮れて、外は闇。
いくつかのライトが寮前の路を照らしているが、問題ない。
地上へ降りるとき、誰かに見られる可能性が高いので、上へ向かい屋上へ出た方が、リスクはすくない。


ジェットはジョーの視線の動きを追う。
彼が読む”逃げ道”を見つけるために。
ピュンマはジョー全体を見つめた。彼の動きにすぐに反応できるように。


「・・・窓に気を付けろ、ピュンマ」
「OK」
「・・・・・甘い、よ」


ジョーは躯を床に張り付かんばかりに、落とす。
咄嗟にピュンマがジョーにむかって大きく一歩を踏みだした、そのとき、ジェットとピュンマの間に出来た”道”に飛び込もうと、ジョーは右足に力を入れる。
ジェットがジョーの躯の重心が動いたことに素早く反応し、部屋を抜けるドアへの”道”を邪魔するように立ちふさがる。が、ジョーは計算済みで、そちらへは向かわずに、ピュンマが向かってきた方向とは反対側に、窓へと躯を移動させようと、目が窓を捕らえた。


「甘ええのはっ009っ」


ジェットは、「待ってました!」とばかりに、身軽に窓前に移動した、ときには、ジョーは部屋のドア前に立っていた。


「フェイクだよ、”目のフェイント”。002、視線を追うのはいいけど、躯の”流れ”を見ないと。俺の足を意識し過ぎ。利き足は”右”だけど、それだけだよ。ピュンマ、君は躯全体を大きく使いすぎる。水中ではそれが武器になるけれど、地上では、すぐに読めるし、ひとつひとつの動きが遅い、よ。踏み込みが強すぎるんだ。踏み込んでも、いつでも重心移動ができるようにしていないと、狙われたときに避けきれないよ?気を付けて、それじゃ。明日」


ドアが、ぱたん。と、閉じてジョーが部屋を出て行った。

窓際に立つジェットと、先ほどまでジョーが立っていた位置に立つピュンマ。
ふたりは顔を見合わせた。


「・・・・・っ空じゃ負けねえっっっっっ!!」
「っそれくらいフットワーク軽く、本気でフランソワーズにアタックしたらいいのに!」


閉じたドアに向かって叫ぶ声を、ジョーが訊いていたかどうかは、わからない。















####

ーーードアの鍵はかけたはず。







ドアノブをゆっくりと、音を立てないように、慎重に開ける。
アルタイル寮から地下でデネブ寮と繋がっている廊下を使い、自室に戻ったそこには、009がいた。




当麻が部屋にいたとしても、規則として鍵はかけることになっている。
電気がついていないために瞳を暗視モードに切り替えて、足音を立てずに壁に沿って気配を消す。




ジョーが部屋を出たとき、当麻はいなかった。


ーーー彼はまだ戻ってきていない?




人の気配がする。それは、当麻のものではない。





ーーーなら、なぜ鍵が開いている?


「・・・・・篠原?」


ドアが開いたままのユニットバスに身を隠すようにして、声をかけた。


「・・・あら、当麻じゃないの?」


女性の声。
ジョーはユニットバスから、警戒しながら躯を乗り出すようにして、腕を伸ばしルームライトをつけた。


「・・・誰、ですか?」
「あなたこそ、誰よ?どうして当麻の部屋にいるの、ここは篠原当麻の部屋よ?」


明るくなった部屋に、眩しげに瞳を細めて女性はジョーを観た。


「ここは僕の部屋でも、あります・・・今日からですが」
「変ね?・・・当麻はRAで、1人部屋でしょう?」
「・・・今学期いっぱいは、同室です」
「そうなの?・・・ま、いいわ。初めまして、ハンサムさん。私は篠原当麻の母親よ、それだけ言えばわかるでしょ?」
「・・・・・・初めまして」
「名前は?」


当麻の母親。
篠原さえこ、がいた。


「島村、です」
「ああ、あなたがコズミ博士の、ね?・・・訊いているわ。そうなの、あなたが」

さえこは当麻のデスクチェアから立ち上がり、足下からゆっくりと視線を上げて、ジョーを値踏みするかのようにじっくりと見た。







女が投げかける、色のある視線。
過去、ジョーはこの視線を何度も”女”たちから送られたことがある。

気持ちのいいものではない。
慣れる、こともできず、ジョーは”そういう道’には何度誘われても断った。





孤独を売って、お金に換える。
一晩の後腐れないルールは、お金で護られる、そういう世界もある。






「この学院に入学する子にしては・・・毛色がちがうわ。似合わないわよ、あなた。今頃”外”に出ていた方が、よっぽどあなたらしいんじゃなくて?」


さえこの言葉に、ジョー薄くくちびるを噛む。
確かに、さえこの言う通りである。

学院案内で歩いた、出会った、見た、生徒たちと自分は”同じ”とは思えない。
同じ人間であっても、そこに住む”色”が違う。


009が、彼女は危険である、と判断した。
さえこは、確かに篠原グルーブの令嬢であり、ジョーとは生まれも育った環境も違う人間であるが、さえこから、ジョーがよく知る”世界”の人間が放つものを、彼は肌で感じ取った。



「・・・そんなっ、僕は・・・」


ジョーはわざと”演技”する。
それが、わざとだと気づかれることを知った上で、純情そうに、何も知らない、わからない。と、世間知らずに、寮の自分の部屋にいた”女性”に驚いてみせた。


「ま、いいわ。当麻がどこにいるか、知ってる?」


ジョーはさえこの言葉に首を左右に振って応えた。


「ここに、手紙を置いておくから、読むように言って。それから、私が来たことも、ね。それくらい、この手紙は大切なの、いいわね?時間がないの、これ以上あの子を待ってられないのよ」


さえこは、デスクの上に白い封筒を置いた。
厚みのない、上質の紙で作れられている、それは、何かの招待状に見えた。


「・・・はい、かならず」
「良い子ね」


さえこは、にっこりと微笑んで、部屋のドアへと向かう。
ジョーは、道をあけるために、躯を移動させてドアへの道をあけた。


ドアへと歩きながらも、視線はジョーを捕らえたままのさえこは、ジョーの前を通り過ぎるとき、呟いた。


「ここに入学出来たうえに、コズミ博士がバックについてるんですものね。そんな子じゃないわね・・・私の感も鈍ったわ。イヤね、年をとるって」


くすり、と嗤う。
当麻の母親ではなく、”女”として、さえこはいた。


「・・さようなら」
「・・・・さようなら、島村君。お勉強、しっかりね」


ジョーは篠原さえこに嫌悪感を覚えてた。

さえこが部屋を出て行った後、廊下から彼女の足音が聞こえなくなったことを確認した上で、机に置かれたばかりの”封筒”をジョーは手に取り、003ほどではないが、封筒の中くらいの”透視”なら問題がない009は、封筒の内容を確認した。


「・・・篠原グループ主催の、パーティか」


009は、ポケットから取りだした携帯電話でメールを一斉送信する。
すぐに、006が篠原グルーブ主催のパーティの内容を調べることが決まった。

当麻が、部屋に戻ってきたのは、さえこが去ってから20分ほど経ったころ。
ジョーはさえこが来たことを、デスクの上に手紙を置いていったことを伝えると、当麻は素早く手紙の封を切って内容を確認し、溜息をついた。


「”あやめ祭の翌日・・・か、毎年同じだな」


ジョーは何喰わぬ顔で、バスルームを使う用意をする。
耳はしっかりと当麻の言葉を拾いながら。


「そういえば、島村君は”あやめ祭”は知ってる?」
「・・・少しだけ」
「これから、本格的な準備に入っていくから、忙しくなるよ。授業はそのままのスケジュールだから、大変だ」
「・・実際には、何を?」
「チャリティだからね、寄付を募るんだ・・・体を張ってね!」


手紙を封筒に戻して、当麻はそれをデスクの引き出しにしまう。
ジョーは部屋着を持ったまま、聞き返した。


「・・・・体をはる?」
「島村君なら、きっと貢献できるよ」
「・・・・何に?」
「オークションに、だよ。月見里学院名物の、ね」
「・・・・・オークション?」


ジョーは、ピクリ。と言葉に反応した。


「文化際や体育際なんかがないから、ね。ここには。高校だし、Senlor prom (Promenade)代わりかな?シニアは一応、強制的に出ないといけないけど」
「プロムって・・・ここは、日本だろ?」
「ここは日本であって、日本を無視した学校だからね」
「・・・・・プロムって、ダンスパーティだろ?」
「そう。だけど、ここは男子校だから、オークションで相手に選んでもらう」
「相手”に”選んでもらう?相手を選ぶのは自由じゃないのか?」


当麻はジョーが何も知らないことに気が付いて、面白そうに微笑み、ジョーはTシャツを握りしめたまま、立ちつくしていた。


「ぼくたち、シニアの生徒全員がオークション品になるんだよ。あやめ祭のメインイベントなんだ。1人ずつステージに立って、”買って”もらうんだよ。オークション形式で。お金はすべて寄付されて、ついでに、ぼくらは後夜祭のパーティに伴うパートナーができる、って言う仕組み」
「・・・・・え?」
「島村君はぼくと同じ、高校3年生。シニアだから、強制参加だよ。一番高値をはじき出した人は、プロム・キング。で、払った人がプロム・クイーン」
「・・・・え?」
「希望者は、ジュニア(高校2年)でも出られるけどね」
「・・・・・生徒をなんだと、思ってるんだ?」
「これも社会経験、ってことでしょう?女性をエスコートできて一人前、しかも初対面の女性を飽きさせずに、楽しませることを目的って言うけれど、実際は、家族や友人なんかがオークションをするんだから、遊びだよ。でも、意外と有名なんだよ、あやめ祭。許可なく出入りできるのはも、あやめ祭のときだけだし、ローカル・アーティストなんかの作品展示もあったり、けっこう派手なんだ。行事らしい行事なんて、このときだけだから、ね」


地下の大浴場で風呂を済ませた当麻は、ジョーがバスルームに向かうと、早々にベッドに入って眠りについた。

ジョーは当麻の説明を頭の中で繰り返しながら、部屋に付属されているユニットバスでシャワーを浴びる。


ーーーミッションはなるべく”あやめ祭”までに終えたい、な。

参加するつもりはないが、閉鎖されている空間であるからこそ、00メンバーは動きやすい。他のメンバーを呼ぶのに、あやめ祭は便利であるが、できれば大事に動くことは避けておきたかった。



熱い湯を全身で受け止めながら、今後の予定を考えはじめた。


ーーー篠原主催のパーティの内容にもよる、か・・・。どこまで”裏”に手を出しているのか、把握しておくべきなのかもしれない。あの”マイクロフィルム”が篠原の手にある限り・・・・。あれがあの場所にあるうちに、廃棄するべきだな・・・・・。



8つ目の景品をメールで申請して、3日経つ。
そろそろ”マクスウェルの悪魔”から、連絡が来てもおかしくないころだった。



ーーー”マクスウェルの悪魔”が景品に出していたのは、確かにあのマイクロフィルムの一部だ。抜け落ちていたファイル番号の、ものだと思うけれど・・・・、何か。何かおかしい・・・・。何かを見落としていないか?


005とコズミ博士が”交流会”の動きを追っていた。
しかし、”交流会”自体は、学会シーズンが過ぎれば、あまり活動しないらしく、その後の動きはない。結局、”交流会”で提示されたトピックは話題にはなったが、誰もそれに深入りするようなことはなかった。
興奮していた、若い学者たちも自分たちの目の前にある研究に日々を追われている。と、コズミ博士は言う。

それでも、安心はできない。”裏”に通じる、知識のある人間ならば、公開されてしまったという事実を忘れることはできない。


ーーー”交流会”的には、それは成功だったのか?失敗だったのか?本当の目的は・・・・別にある?


時期的なことだけで、全てを繋げて考えるのは危険である、と。言われた。
けれども、ジョーは全てが繋がっているようにしか思えない。


1体のマリオネットを動かすため、何本もの”見えない糸”を使って操る。

手、足、腰、首、頭・・・・・・。
それらは上へと伸びていき、操る”人”の指に絡まる。



繋がれている場所は違うが、目的はひとつ。
人形を立たせて、歩かせる。

踊らせる。

部位にばらばらに繋げられていても、実際は、ひとつの”人形”を動かすための1本の糸。





ーーーすべてには理由がある。









人形を歩かせる、理由が。






糸は1本。
繋がれている場所に、惑わされるな。





動くのは1体のマリオネット。
あやつる指は、舞台からは見えない。








目的は、サイボーグ。


再び、サイボーグをこの世に作り出そうという動き、が見える。









「・・・・・・許さない」










====55に続く




・ちょっと呟く・

遠距離再び。
離れているから、ちょっぴり大胆。
いつもよりも積極的なのは、顔が見えてないから。
ケンカ(?)しちゃった分、いつもよりも・・・(。-_-。)ポッ

リビングルームで、嬉しそうに電話しているフランソワーズを、
ギルモア邸、居残り組は見ていた!

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