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Day by Day・55
(55)






月見里(やまなし)学院に編入生が来ることは、それほど珍しくない。と、ピュンマは津田 海(つだ うみ)から教えられた。
新学期が始まって1ヶ月半が過ぎた中途半端な時期。と、言うことを覗けば。とも、付け足した。
ピュンマとジェットはクラスが別れた。しかし、学院の高等部第2学年には、2クラスしかなく、人数も少ないために、合同授業も多い。午後からはそれぞれ個人で組んだカリキュラムで授業を受けるために、高等部に”学年”と、言うものが存在しなくなってしまう。

中等部から、高等部、学年が上がっていくごとに、生徒数が少なくなっていく。


「高等部の授業カリキュラムが特殊だからね、高校は他へ行く子が多いよ。あとは、高等部に進学してから途中で他の学校へ移る。高等部でシニアまで残っているのは、本当に”希”な人間なんだよ。もう将来が決まっているような人ばっかり」
「海は?」
「ぼく?・・・ぼくは・・・そうだね、面倒臭いから!」
「・・・・そうなの?」
「中等部からずっとここだし、気に入ってるんだよね。ぼくのカリキュラム、”研究”って名前の自由時間だし♪」
「え?そんな風に使えるの?!」


廊下を歩きながら、カフェテリアのある、”紫微垣(しびえん)”に向かっていた。
クラスでピュンマの隣に席になった、津田とピュンマは、午前中の授業の合間に意気投合してしまい、一緒にカフェテリアへと向かっていた。


「へっへっへ。そうだよ!学期末に、共通アカデミックの学力テストと、提出しなきゃいけない”自由研究”が間に合えばいんだから、ね!ぼくは、将来スポーツ医療に行きたいから、自分を使って”走ってます”で、いいんだよ」
「はい?・・・・何、それ・・・?」
「ぼく、これでも一応、走高跳の選手だし・・・。体力測定や、運動による負荷が与える筋繊維発達とか、そういうのをやってるんだ。自分を使ってね!」
「・・・・ここって、スポーツって言うか、そういうクラブ的なものってあった?」
「中等部にはあるよ。体育もね。週1,2で中等部の方のクラブに参加してる。テニスとか、ゴルフとか、趣味でやってるヤツらもいるけど、室内競技とかもさ、でも、本格的にスポーツしてるの、ぼくくらいだから、高等部のグラウンドは、ほとんど”ぼく”専用だね」


学院内の本館は、ほとんどが高等部が占領しており、中等部は東館、南館を中心に使っている。
”紫微垣(しびえん)”のカフェテリアは、中・高等部・職員、その他の関係者が使うために、ビュッフェ形式を取っている。


授業は朝の8時から始まり、昼の13時まで。
昼休みを含めて2時間の休憩があり、15時から19時まで授業が行われる。
中等部は、違うスケジュールで動いているために、カフェテリアが混雑することは滅多にない。


カフェテリア内に入り、ピュンマは入り口に置かれている、トレーを手に取る。
海と話しながら、脳波通信でジェットとジョーに声をかけると、すぐにジェットから返事が返ってきた。彼らはすでに、昼食を取っている様子で、ピュンマは一緒にいる海が同席しても良いかどうかを訊ねた。


「あのさ、海、僕と一緒に編入してきた、2人と一緒に食べる約束してるんだけど、いいかな?」
「ぼくは、適当にしてるから、気にしないでよ」
「よかったら、紹介するから一緒しない?」
「いいの?」
「いいよ、ちょっと変なヤツらだけど」
「1人は赤毛の、派手な人でしょ?・・・・ビックリしたよ、あ。居た。ピュンマ、彼でしょ?」
「・・・・・・本当に、目立つなジェットって・・」


広いカフェテリア内。
昼食時と言うこともあり、同じ制服を着た、同じ年の学生たちで賑わっている中。一目でジェットがどこにいるかが判った。

ツンツンと跳ねた自慢の赤毛に、長い鼻。
無個性になる意味の制服が、個性を引きだす役割を果たしているとしか思えなかった。
周りにいる学生と同じ制服、であるだけに、違いがはっきりとわかる。

自分の方がよっぽど、この制服の持つ味を引きだして、本来の目的にかなった着こなしをしている、とピュンマは思った。


「・・・一緒にいる人が、シニアに編入した人?」
「ああ、うん。そうだよ、紹介するね」
「彼も、目立つね・・・、日本人?・・・・かな?」
「ジョーはハーフなんだよ」
「へええ・・・・・ハーフ、なんか雰囲気がある人だね」


ピュンマは、海の視線を追うようにして、ジョーを観た。
仲間であり、家族とかわらないように、いつも一緒に居て、寝食を共にする彼らを、客観的に見るのは、初めてだったのかもしれない。



ーーージョーは日本で生まれて、日本で育ったんだよね・・・・。日本人だし。


ジェットとジェロニモのみ、00メンバー内で出身国が同じであった。
けれども、ジェットはイタリア人系アメリカ人。ジェロニモはネイティブ・アメリカンである。




単一国家民族と呼ばれる、日本。

カフェテリア内には、一般的な学校に較べたら多くの留学生の姿を目にすることができた。
しかし、ここは日本にあり、日本の学校、比率的に日本人が多くなってしまう。


日本人の中に、日本人であるジョーがいる。






しかし、彼は異質だった。

東洋と西洋のバランス良く混じった神秘的な顔立ちに、浮かべた形良いくちびるの端が微笑んでいた。栗色の髪は、中庭に通じるカフェテリアの窓から差し込む光に金茶色に変わり、彼がジェットの言葉に頷くたびに、長い前髪がふわりと揺れて、隠した表情が少しばかり窺えた。
手に持った珈琲マグを、口へと運び、軽く閉じた目蓋を縁取る、睫が長い。
再び見ることがかなった、アンバー・カラーの瞳は、吸いこまれそうな程に、透明感がありながら、闇色のカーテンが引かれていて、それ以上は踏み込むことはできない。

テーブルに、珈琲マグを置く、手の動きが、スロー・モーションのようにみえた。
ジョーの動きが、気になる。



彼の動きひとつ、ひとつが、絵になる。



彼のまわりが切り取られたフレームのように、そこだけ時間の流れが違うように感じた。











「・・・俺はどこへ行っても中途半端なんだ、よ。」


月見里学院の編入手続きを済ませたとき、不意にピュンマが、日本の学校についてジョーに話しを訊いた流れから、なぜジョーが高校を途中で辞めてしまったのか、訊ねた。

ジョーは義務教育である中学校を卒業後、働く予定であったらしいが、成績がよく、奨学金を得ることができて、高校へ通っていた。と、アルベルトから訊いた。


「初めは、良かったけど・・・・。周りの目が変わっていくんだ。何をやっても、一生懸命にやっても、どんな結果を出しても・・・”可哀相な子”なんだ。・・・同情されるなんて、ごめんだよ。自分より、下の人間なんだって、目でさ・・・・・。無意識なんだろうけど、ね。なんでもかんでも、周りは、俺を”不憫で可哀相な、不幸な子”としか扱わない。・・・それ以上であったら、面白くない。それ以下であったら、重すぎて見てられない。奴らの求める、ちょうどよい”可哀相な子”で居続けるのに、疲れた・・・のか、な・・・。夜の街の方が面白かったし、気が付いたら、学校なんて忘れていた、よ」


高校を卒業するまでの間、施設に留まることもできたが、ジョーは出ることを選んだ、と言う。


「施設で”ただ働き”させられるくらいなら、早く自分で自由になる金が欲しかったし、ね・・・。俺から学校の話しなんて、訊かない方がいいよ?」




母は日本人。





父は?




「・・・・・この容姿が、羨ましいって、言うヤツがいるけど、俺は逆に、そう言ってくる、そいつらが羨ましくてたまらなかった、よ・・・・・。ちゃんと”見て”わかる、だろ・・・。アジア人って。日本人だって・・・。俺は、いったい、誰なのか判らない」






日本人、半分。






「勝手に羨んで、勝手に疎んで、勝手に想像して、勝手に嫌う。いつも決めつけられるんだ・・・。学校ってところは、そういうオブション付きのガキを嫌うんだよ、”乱れる”って・・。髪の色、癖毛、瞳の色、ぜんぶ・・・”違う”から、”同じ”線の上に並べないんだ、よ。並べない、と言うか、並ぶ価値がない?」



ジョーの斜めなモノの見方や、考え方を、ピュンマは好ましく思っていなかった。

自分の国と較べれば、彼は十分に幸せだと思うからだ。

親がいなくても、”施設”で育ってくれる。
雨風を凌ぐ家に、温かい御飯が与えられる。その上に、ちゃんと学校へ行かせてくれるのだ。
ジョーはさらに義務教育を終わっても、認められて高校への進学も可能にした。


ジョーの、それは”甘え”だと、ピュンマは思っていた。









ピュンマはピュンマであって、ジョーにはなれない。
だから、本当の意味で彼の辛さや、こころの奥にある”痛み”はわからない。






日本という民族は和を重んじる。と、ピュンマは解釈していた。

和。




たくさんの良い意味がある。
しかし、時にそれが悪い意味にも取れた。





馴染まない。
和に、馴染まない。




ジョーは、ジョーである。

日本人であるかどうかなんて、本当の意味で、それはほとんど重要ではない。

ジョーが、ジョーであるなら、それでいい。それで十分。





けれども、それは・・・。自分が”ムアンバ共和国”の人間である。と言うアイデンティティがあるから言えることなんだろうか?


僕には故郷がある。
自信をもって、僕は言える。
そして、僕は国のために何かしたい。







ジョーは、違う?


ーーー根本的な問題として・・・彼は、自分が何者であるかが・・・わからないから・・・?




母の顔も、父の顔も知らないと言う、彼だから。
自分の存在を、自分自身を固定することができない?






だから?





ジョー、だからなの?













ピュンマは初めてジョーの孤独に少しだけ、触れた気がした。















ジェットが何かを一生懸命にジョーに話しかけていた。
ジョーは静かに頷きながら、ジェットの話しを聴いている。
周りは、珍しい時期にやってきた編入生の2人にちらちら、と視線を送る。


ジェットはまったく気にしていない。

日本の街に出ればジェットに向けられる視線は、こんなものじゃない。
彼はそれを良いように、受け止めていた。
けれども、彼はアメリカ人。ここでは、そういう目で見られても仕方ない、と思っている部分もあるのかもしれない。それは、ピュンマも同じだった。


ジョーは、それらの視線を無視していた。
気が付いていないように。




「・・・ピュンマ?」


ぼうっと立って、友人だと言った2人に視線を向けたまま固まっていたピュンマに、海は声をかけた。


「あ、な、なに?」
「何食べる?お友達も待ってるだろうから」
「う、うん」
「ぼくは、ツナサンド頼もうかななあ、あとはサラダ・バー」
「・・・あの、カレーライスを取ってくるよ、僕!」


今日のランチ。と、書かれたホワイト・ボードにある、文字をピュンマは指さした。



ーーー篠原当麻も、ジョーと同じ・・・ハーフじゃないけど、さ。




ジョーと同じような思いをしたことがあるんだろうか?

アルベルトの”裏”報告によれば、篠原当麻は、たった1週間にも満たない間に、フランソワーズにかなり強く惹かれている様子で、週末に”東都タワー”へ行こうと誘っていたと言う。

フランソワーズが篠原邸に滞在中、彼は2時間かかる通学をこなし、自分の午後のカリキュラムを変更してまで、家に戻り、フランソワーズと一緒にいた、と言う。




ジョーも、当麻も、同じものをフランソワーズの中に見て、求めているのかもしれない。
けれども、そのどちらも本当の意味で、ちゃんとフランソワーズを見ているのか、求めているのか?と、ピュンマは思った。


じっと、見つめてくるピュンマの熱い視線を疑問に思いながら、プレーンヨーグルトをスプーンですくった。

ジョーの前には珈琲と、プレーンヨーグルトの容器が置かれている。
対照的に、ジェットの前には、今日のメインのカレーライスに、卵サンド、そしてサラダボールに山盛りに盛られたサラダ、とデザート用のクッキー全種1枚ずつ。


「ジョー、お昼それだけ?・・・ジェット、それは食べきれないだろっ!!お腹怖すよっ!?」
「うっせえな!頭使ったら、腹が減って死にそうなんだよ!」
「「頭を使った?」」


ジョーとピュンマの声が重なった。


「おう!・・・って誰だよ、てめえ?」


ジェットは、トレーを手に持ってピュンマの後ろに経つ、海を睨んだ。


「ちょ、なんだよっ、その言い方はっ!彼は津田くん、津田海くん、僕のクラスメートだよ、一緒に食事しようと思ってさ、ほら、まだ知らないこと多いし」


ピュンマは話しながら、ちらり、とジョーを観た。


「・・・はじめまして、島村ジョウです」
「こんにちは、津田海です」
「俺は、ジェット!」


ピュンマが、ジェットの隣に座ったので、海はジョーの隣の席に着いた。


「色々、教えてもらっていたんだよ、ほら、ジョーのルームメイトは篠原君だけど、僕はジェットだろ?だから不便極まりなくて・・」


深い、深い溜息と共に漏らした言葉だったが、当のジェットは、一生懸命にカレーライスを頬張っていた。


「島村先輩の、同室って・・・あの”篠原当麻”さん?」
「・・・知ってるんだ?」
「僕はここ、長いですから。それに、彼はこの学院の創立者の・・・ですから、知らないのがおかしいです」


ピュンマの時とは違い、ジョーに向かって敬語で話し始めた海に対して、ピュンマは”日本”を感じた。実際の年令は、ジョーよりもピュンマの方が年上である。それはジェットも同じであった。


「津田、海か・・うみ、って良い名前だね・・・」
「ありがとうございます。父親が海洋学者なんで・・・、って言いたいんですけど、上の姉たちは、まったく関係ないんで、単に思いつきて付けられたんですよ、揃って聴くと、猫か犬みたいですよ」
「へえっ姉貴がいんのかよっ。んで、どんな名前なんだよ?」
「夢(ゆめ)花(はな)林(りん)繭(まゆ)煌(きら)です」
「・・・・・5人?」


ジョーは目を丸く驚いて見せた。ジェットも口の前でスプーンが止まる。


「ええ、6人姉弟なんで、男が自分だけだから、次は男の子であって欲しいなあ・・・」
「次ぎだああっ?!」
「母は7ヶ月?あたりで、もう性別がわかるんだけど、また女の子だと気が滅入るから、って聴きたくないって」


ニッコリと笑って、海はツナサンドにかぶりついた。


「すごく素敵だねっ。新しい命が生まれてくるんだね!」


ピュンマの目がキラキラと輝くき、ジョーが微かに目元が優しく緩む。
意外な反応に海が不思議そうにピュンマを見た。


「すっげえことだぜっ!楽しみだなっ」


ジェットもウキウキと言葉を弾ませた。


「・・・予定日は、7月?」
「7月7日なんですよ。七夕。女の子だったら、七人目、七月生まれでってことで、七(なな)かなあ?なんて・・・。今、流行ってるし。他には文(ふみ)とか、夕(ゆう)夏(なつ)かな?」
「野郎の名前は考えてないのかよ?」
「あ・・・・・、そういえば、話したとき、みんな”女の子”の名前しか・・・あはは、きっと次ぎも女の子だって決めつけてる!」
「・・楽しみだ、ね」


海はジョーの言葉に頷いた。


「日本の夏だと、大変だねえ、海のお母さん・・・」
「っつうかよ!7人目だろ?大ベテランじゃん!」
「高齢出産のリスクがあるだろうけど、慣れたもんだろうね。津田を産んでから、大分経ってるから少し心配だろうけど」
「ね!会いたいなっ赤ちゃんっ!!」
「え?」
「すっごく可愛いよっ、きっと!女の子だったら尚更だよ」
「生まれたら、遊びにおいでよ・・・。あまり見たことない?赤ちゃん・・」
「「「・・・・・」」」


海の言葉に、3人が目を合わす。
彼らの脳裏に同じイメージが浮かび上がって消えたことは確かだった。


「いや、見た事あるっつうか」
「いるんだよ、赤ちゃんが、その・・・後見人の邸に」


ピュンマの言葉に、海は納得する。

自分の姉の話はたまに友人たちとの会話に出てくるが、ここまで長く、自分の家族の話を、まして17歳離れた妹か弟が生まれると言うことを、話したことはなかった。
この年頃特有の、気恥ずかしさが先立って、今まで自分でも意識的に話しを逸らしていた気がした。が、なぜかこの3人には、スラスラと心地よく自分のことを話すことができた。



ーーーなぜだろう?

彼らのまっすぐな、瞳が自分の言葉をちゃんと聞いて、受け止めてくれるから?
こんなにも、人の話を正面から訊いてくれる人っていたかな?


「・・・・・かわいい、よ、な?」


ジョーが苦笑しながら、ピュンマとジェットを見た。


「でも、”ちゃんと”赤ちゃんが見たいっていうか・・・」
「ちゃんと赤ん坊だぜ?・・・・でもなあ?」
「・・・・・女の子じゃない、から?」
「ああ!そういうことですか!もしも、男の子だったら、ごめんよ、ピュンマ」


意味不明なコメントに、混乱しつつあった海だったが、ジョーの一言に頷いた。


「男の子でも、会いたい!」
「生まれたら、遊びに来てよ、ピュンマ!母の実家が瀬戸の網元でね、出産は・・・」


海とピュンマが色々な話しを展開していく。ときおり、ジェットが激しいリアクションを見せては突っ込みを入れ、ジョーは黙って話しを聴きながらも、話しの節々で、上手く会話をコントロールし、聞き出したい学院内部のことをそれとなく、海に怪しまれないように話させていた。
日常のことを交えながら話させるために、会話を誘導されているとは、海は微塵も気が付かない。


海の会話の中に、保健医兼カウンセラー、学院内の3つを管理する寮監督の1人で、ここ”紫微垣(しびえん)”で住み込んでいる、石川の名前が出てくることが気になった。

話しぶりから、かなり懇意にしている風に思えた。



3人は、学院内の最近の出来事、規則、教師や客員講師陣、卒業後の生徒のその後、そしてあやめ祭について、上手く引きだしていった。

彼らから離れた席に座る、他の教師に混じって昼食を取っていた石川と、何度かジョーは視線がぶつかった。その度に、何ごともなかったように、石川はジョーにむかって微笑む。









左手薬指に光る結婚指輪。
しかし、007の報告には、石川は独身者であり結婚した形跡がないと聞かされていた。












####

石川斗織(いしかわ とおる)

保険医兼、カウンセラー。
”紫微垣(しびえん)”の住み込みの寮監督。

彼は授業は一切受け持っていない。なら、時間がある。
学院内の施設を自由に使うこともできる。

保健医ではあるが、中高等部には彼を含めて他に3人の保険医がいた。
そのために、彼は専ら”カウンセラー兼寮監督”である。
どちらかと言うと、寮監督の仕事をしているイメージの方が強いかもしれない。


007が調査した中に、石川の名前があったことを009は忘れてはいなかった。
篠原さえこと、同じ大学、同期生。
生体学専攻、医学博士。ドイツで心療内科を専攻してPH.Dを取得している。


そして、その夜に005からの連絡があり、”交流会・創立メンバーの1人であった”久保絵里子(絵里子・レキシントン)も、篠原さえこ、石川徹と同じ大学の卒業生であり、石川と同じ生体学専攻であったことがわかった。

しかし、それだけである。


学院内に篠原さえこ、久保絵里子、そして石川斗織と同じ大学出身者は他にもいる。







近づいては遠ざかる。
そんな焦れったさを感じつつ、忍耐強く調査を進めていく。

004は”景品”には目もくれずに、ただ純粋にゲームを進めていく。
いまだ、誰もクリアしていないゲームに、主人公の親友emiの部屋を使ったBBSには、004のゲームの進み具合が話題になっていた。







同室の当麻が寝むった後に、ジョーはメールをチェックすると、受信箱に届いていた2通のメール。
そのうちの1つは、”マクスウェルの悪魔””から8つ目の景品であった。



008が入寮してすぐに、自身のコンピューターを使い、学院内のセキュリティ・システムに手を入れて、学院の警備システムなどを、こちらからもコントロールできるようにした。


ーーー間に合ったか・・・?





ピュンマの持ち込んだもう一つのラップトップ・コンピューターを交いしてギルモア邸の地下にある、メイン・コンピューターへと繋げる作業に取りかかっていた。
それらは事前に007が学院のネットワークに進入していたため、さほど時間がかからなかったが、8つ目の景品を受信した日時から、009がギルモア邸のメイン・コンピューターに繋がったと報告を受けた時間と重なるため、009はしばしマウスを動かす手が止まった。

一般に、インターネットの通信は暗号化されていない。そのために、インターネットを使用している者との中継点にいる人間、高い専門知識と技術があるものなら、閲覧できてしまうと言う欠点が未だに含まれており、それ以外にコンピューターが外部と接続されたことにより、故意に人がコンピューターを破壊、データの改竄などを可能になったままの状態である。

そのために、00メンバーたちは、お互いの連絡はコンピュータ・ネットワークを使用したメールのやり取りは控えていた。


008が進入した回路から、ギルモア邸のメイン・コンピュータがデータを解析し、学院内が生徒、教師に提供しているコンピューターを使用していれば、簡単にアクセス制御のログインの記録から、”マクスウェルの悪魔”を追うことができる。もしも”マクスウェルの悪魔”が個人のコンピューターを使用していたとしても、同じであった。






ジョーは8つ目の景品が添付されていたファイルを、デスクトップにダウンロードし、開いた。


「・・・・ブラック・ゴースト」




1通目は、写真。
2通目は、招待状。


トーマス・マクガーの写真。
B.Gの実験施設であった、X島の航空写真。




==================
J.


人類は今、”科学”との融合を求めている。

人は、神によって作られた。
人は、自らの手によって、進化する。






我々が向かうべき道は、エデン。
還ろうではないか、あの空へ。

見下ろそうではないか、人が築き上げた世界を。







その時は来た。
















君を歓迎する。



”マクスウェルの悪魔”

=======================







ジョーは、すぐに携帯電話を使って全員へと、このメールの内容を一斉送信した。
00メンバーの持つ携帯電話は、通信したものがすべて、暗号化されるように新しく改良が施されていた。

パソコン・ウィンドウに映し出された、デジタル時計を観た。
ギルモアに渡されたクスリを飲んでいては、目覚まし時計をセットした時間に起きられる自信がなかった。パソコンをシステム終了させた後、ジョーはそっと部屋を抜け出す。

その手に携帯電話を握ったまま。


外へと通じるすべての扉にロックがかかっているため、寮から出ることはできない。出ようと思えば、ピュンマにロックをハズしてもえば可能であったが。

セキュリティ用の監視カメラも設置されていたが、ジョーはその位置をすべて頭に記録していた。けれども、今はその死角をついて動くようなことはしない。その必要がないからだ。


各フロアに、共有キッチン、ランドリー・ルーム、グループで集まれるコモンルームがあった。

ジョーはコモンルームへと向かい、電気のついていないその部屋の、隅に置かれたソファに身を沈めた。部屋には、大型のTV、会議室に置かれているようなテーブルにその大きさにあった数のイス。ここに住んでいた寮生が置いていったと思われる書籍、VHS、DVD、などが壁に作りつけられた本棚に乱雑に並べられている。







何かが、おかしい。
ブラック・ゴーストとトーマス・マクガー。











彼は、ブラック・ゴーストの研究員の1人。
交流会に出された資料は、彼の研究の一部。
研究施設にいた時の物を持ち出したと思われる。恩田ミツヒロと暮らしていた間も大学で教鞭をとりながらB.Gと何かしらの繋がりがあったように、思われる。
トーマス・マクガーが行方不明になった時期・・・。それは自分たちがB.Gの本拠地に乗り込んだ時期と重なる。



トーマス・マクガーが、ギルモア博士のような大きなプロジェクトに関わっていたようには、思えない。
それは、篠原邸から手に入れて複製した”マイクロフィルム”を観て、確信した。

表の世界では、驚くべき価値のあるものかもしれないが、裏の世界では・・・・、ましてや、実際にブラック・ゴーストの科学技術を自身の躯で知っているからこそ・・・・・・。





サイボーグの設計や、人工臓器に関するものは、読み書きを覚えるために、アルファベットを学び、自分の名前がかけるようになった、こどもの、その程度の、レベル。

交流会に出されたものは、”生きた”状態である体に人工臓器を搭載する際に起こる拒絶反応を抑えること。”の研究。



ギルモアの声が聞こえた。


「現在の麻酔には限界があり、量を間違えれば死に至ってしまう・・が、ここにあるものは拒絶反応を抑え込むことが書かれていると言ったが・・・・・強すぎる”痛み”も人を死に追いやってしまう・・・耐えられんからじゃ。それを越えなければ・・・サイボーグ計画なんぞ出来んかった」




ジョーは暗い部屋の中、自分の右手を握ったり、開いたり、を繰り返した。






トーマス・マクガーの年令から考えて、ギルモアよりも年上であり、彼がB.G研究施設に入る前から、働いていたと考えられた。
ギルモアが、トーマス・マクガーのマイクロフィルムに目を通したときに、自分がサイボーグ計画に参加する前に指揮を取っていた、ブラウン博士が担当していた研究チームが3,4つほどあり、その内の1つのグループにトーマス・マクガーはいたのではないか。と、言っていた。
ギルモアが参加したあとサイボーグ計画は、本格的に進められ、X島にプロジェクト専用の研究施設が建設された。数多くの研究員がX島の研究施設に居たが、サイボーグ計画に関わっていた人間なら、ギルモアが顔を知らないはずがなかった。

”交流会”を調べていた005と006が手に入れた、トーマス・マクガーの写真を見たギルモアは、首を左右に振った。



ーーー・・・・え?





「001、そいつも死んじまってるのかよっ?」
<数年マエニ>
「数年前ってなんだあ、おい?」(37より)




思い出した、声と会話。





6年前にトーマス・マクガーが行方不明になるまで彼と住んでいました。わたしが日本に帰ってきたのは2年前。そして・・・行方不明になっていた彼に再会したのは、去年のクリスマス。・・・・トーマスは今年の2月に、日本で亡くなりました」(46より)




ーーー死亡した。と言うことにっ思いこんでいたっ!・・・くそっ! 





なぜ気づかなかった?!














イワンは、”数年前に死亡した”と言った。
恩田ミツヒロは去年の冬に会い、今年の2月に亡くなったと言った。







篠原当麻は実際にトーマス・マクガーと会い、彼から、彼の研究資料の全てを”マイクロフィルム”と言う形でもらっている。




イワンが間違っているのか?
恩田ミツヒロが嘘を言っているのか?




今年の2月に死亡したのは、本当にトーマス・マクガーか?





ミツヒロと、クラークがギルモア邸を去る前に交わした会話。



「何か他に訊きたいことがあれば、電話をしてください」
「・・・ありがとうございます、その時は、よろしくお願いします」
「篠原さんのお陰で○○○教会に・・・・トーマスはいます、から」
「・・・・・お亡くなりになったのは、篠原総合病院ですか?」
「いいえ、XXX赤十字病院です・・・何か?」(47より)











しっかりしろっ!
僕は009だろっっっっっっ!!
















右手を拳を作り、強く握りしめた。


ギルモア邸で、朝が早いジェロニモが受け取った電話。
すぐに彼は003、004、007を叩き起こして、ギルモア邸を後にした。

007はトーマス・マクガーが亡くなった、XXX赤十字病院へ侵入。トーマス・マクガーに関するのカルテを。
003、005はトーマス・マクガーが眠る、○○○教会へ。
004は、手に入れていたトーマス・マクガーの写真とともに、恩田ミツヒロの元へ。




<間違ッテナイ。とーます・まくがーハ、数年前ニ亡クナッテイル。>
「あいや~、それじゃ・・・ミツヒロさんは嘘ついていたアルか?!」
<嘘ハツイテナイ。彼ハ、去年 とーます・まくがーニ 会ッテ イルヨ>
「おかしいアルヨ!」
<ソウダネ。デモ とーます・まくがー ニ 会ッテイタノハ 事実>
「001、意味が判らないあるよ?!」
<簡単ダヨ>


イワンは006の膝の上でミルクを飲んでいた。
幾分か機嫌の悪さは納まりつつも、目が覚めてフランソワーズが出かけたと知ったときの、彼の恨めしそうに歪めた顔を、006は一生忘れないだろう。


「どこがアルヨ?!トーマス・マクガーは不死身あるか?!数年前に死んで、また生き返ったアルか?」
<ソモソモ、誰ガとーます・まくがーカ、ワカッテルノ?>
「?!」









####

ミツヒロは、朝早くに訊ねてきたアルベルトに驚いたが、彼に言われるがままに、玄関先で差し出された写真を注意深く見つめた。


「この中に、トーマス・マクガーはいるか?」


白黒の古い写真。
数人の研究者と並んだ写真だった。
トーマス・マクガーを調べている間に、005がB.Gに息のかかったいくつかの研究施設の資料から見つけ出した、トーマス・マクガーの名前と一緒に唯一手に入れた写真だった。
「・・・・いませんよ?」
「っ・・・・・そうか。悪いが、写真か何か・・もってないか?」
「トーマスの、ですか?」
「ああ、頼む」
「・・・・・少しお待ち下さい」



数分後、ミツヒロが数枚の写真を手に戻ってきた。

「こっちが、トーマスに会ったころ。これは、”交流会”の・・いや、勉強会のメンバーと食事をしたときの、です。日本では、写真なんかとってませんが、もいかしたら、孫の当麻君なら・・・」
「これを、少し預からせてもらってもいいか?」
「ええ、構いません」
「スマン。必ず返す」


アルベルトは、恩田に礼を言いギルモア邸に戻る前、003と005がむかったXXX教会へと車を走らせた。










「005」
「むう・・・。」


ミツヒロに教えてられた教会敷地内にある墓前を前に、003はその能力を使って地中に永遠の眠りについているトーマス・マクガーを確認した。


「004が来てから、夜を待ちましょう・・・」
「大丈夫か。」
「ええ、遺体の損傷はそれほど激しいものでは、ないわ・・・」
「そういう意味じゃない。」
「・・・・」
「オレは、連絡係を頼みたくて、003を起こしたんだ。・・・009は、ここへ来ることを指示したのは、オレと004だけだったんだぞ?」
「私の能力が必要でしょ?・・・遺体を掘り返す前に・・・。無駄足になったりしないように、ね?」


003は微笑んだ。


「・・・・009が哀しむ。」


005は、009がこの事を、彼女がここでトーマス・マクガーの遺体を能力を使って観たことを知ったときの彼の哀しみを思うと、胸が痛んだ。
003をギルモア邸に引き留めておくことも可能であったが、005は、003の気持ちも009と同じように理解できたため、連れてきてしまった。

そんな自分を後悔しつつ、湿度に滲む緑の中に立つ、フランソワーズの美しさに目を細めた。


「私は、003なの」

















####

002,008.の部屋に、009はいた。
昼食の時間を利用して、朝早くに指示を出した結果を、001から訊いていた。


「001、それじゃあ、やっぱり・・・、交流会を作ったトーマスと、日本で亡くなったトーマスは別人、なんだね?トーマス・マクガーは、2人いた。004が恩田に見せた写真の方が、”交流会”のトピックに使われた研究をしたトーマスであり、日本でなくなった方。そして、恩田が一緒に暮らしていた方のトーマスは、6年前に失踪した時点で、亡くなっていた・・・・。そういうことだね?」
<ウン>
「どちらが、本物?」
<ドッチモ>
「・・・・言い方を、変えよう。とぢらがマイクロフィルムの研究者?」
<日本デ亡クナッタ方>
「・・では、交流会の方に出た、研究は?」
<同ジ人>
「・・・・”マクスウェルの悪魔”が持っている、cyborg設計図は・・」
<一緒。ケレド、6年前ニ 失踪シタ方 ガ 持ッテイタモノ>
「・・・篠原当麻の祖父であるのは?」
<日本デ亡クナッタ方>
「・・・・恩田が暮らしていた十数年間、大学教授をしていた、”交流会”の創立者は、”研究者”ではない、トーマス・マクガー。だね?”マクスウェルの悪魔”から送られてきた、このトーマス・マクガーの写真の方が・・・、日本で亡くなった方だね?」
<・・・・・>
「001?」
<009、・・・・ソノ通リ ダヨ。デモ、ソンナ事ハ アマリ重要ジャナイ>
「・・・どういう意味?」
<B.Gハ 巨大ナ組織ダッタ。彼ラノ手カラ 逃レテ 生キルタメニ、 選ンダ道モ 決シテ 幸セトハ言エナイ、ソレハ 今モ・・・続イテイルンダ。タトエ、B.Gガ 滅ンデイテモ、 人ノ 心ニ 巣ッタ悪夢ハ、見エナイ 闇カラ 闇へト 渡リ歩ク。ソウヤッテ、成長シタ 悪夢ハ、人ノ中デ 生キルコトに 飽キテ 出テクルンダ。>
「・・・・イワン」
<過ギ去ッタ、時間ハ 二度ト 戻ッテ来ナイ。ケレド、同ジ事ハ 何度デモ 繰リ返ス。前ヲ見テ、009。人ハ 多クノ 間違イヲ 冒ス。ケレド、ソレヲ 繰リ返サナイ、強サガ 必要ナンダヨ。009、君ナラ、深イ悪夢カラ 目覚メサセテ アゲル 力 ガ アル>









 




切れた脳波通信。
ジョーは、携帯電話の通話を切って、繋がれたジェットの目覚まし時計に隠した、脳波増幅装置から、コードを抜いた。


ジェットは、わしゃわしゃと、自慢の赤毛を掻きむしった。


「だあああああああああああっ!なんでこんなにややっっこしいんだよっ!」
「・・・009?」
「・・・・トーマス・マクガーは、大学教授になる前に、入れ替わってるっていうこと、だ。彼の経歴はそのまま使っていたからね・・・・。トーマスにすり替わった、恩田と暮らしていた人物は、トーマス・マクガーと懇意にしていたか、かなり彼について深く知っていた、調べた人物と、言うことだね。多少の整形も施しているかもしれない。気づかなかった理由はトーマス・マクガーも、そして、彼自身もB.Gの研究施設にいたせいだろうね。元々、彼を知る人間がいない土地に行けば、簡単に成り代わることができるし」
「え?・・同じ、研究員?そうなの?」
「勉強会が交流会に、大学での講義・・・。トーマス・マクガーの研究資料はシロウトじゃ、扱える代物じゃない。自然に考えて、トーマス・マクガーと同じB.Gの研究員だったのでは。と、予測がつく。」
「なるほど、・・・そうか・・・・。彼と研究施設で知り合っていれば、彼の実験や研究資料も手に入れることだって、それほど、難しくないね」


002は、腰を下ろしていた。自分のデスクチェアから立ち上がり、自分に割り当てられた本棚の隣にある、備え付けの冷蔵庫の中から、コーラ缶を出した。それを、008のデスクチェアに座る009の方へと投げ、続けて、ベッドに腰掛ける008にジンジャエールを投げてから、自分用にもコーラを出した。


「うん。入れ替わりは、ちょうど、B.Gの研究施設から出た、後と考えている。その間に何かがあった。イワンは、両方が”トーマス・マクガー”だと言っているから、・・・それでいいのかもしれない。
現時点で、拘っている場合ではないみたいだし、ね・・・。このことはあまり、”今は”関係ないように思えるから。けど、お陰で、今回のミッションを考えていく上で、視点を変えて、見ることができた。
気になるのは、6年前に失踪した方が、持っていたもの。それがどういう経緯で”マクスウェルの悪魔”の手に渡ったか。・・・もしかしたら、”マクスウェルの悪魔”は・・篠原当麻が、残りの研究資料を持っていることを知らないかもしれない」


009の意見に、ジンジャエール缶のプルトップを開けながら、008は反論した。


「変だよ、その考え・・・。それなら、”マクスウェルの悪魔”がここにいるのが、ただの偶然になってしまうよ?」
「・・・・・・・彼と篠原当麻の間に、もう1人のトーマス・マクガーが居たら?」
「だあああああああああああああああああっっ!余計わかんねえよっ!」


手に持つコーラ缶を握りつぶしそうになりながら、座っていたデスクチェアにどすんっ!と座る。


「うるさいっ!ちょっと黙ってよっっ・・・・・009、どういうこと?」
「・・・”マクスウェルの悪魔”は操られている、何かの理由で・・・何かのために・・・。名前も、名前だし・・・、彼の存在意義は”辻褄合わせ”であってもおかしくない。それに、使われている人形なら、他の人形の存在を知らなくても、いいはずだ。・・・ここに身を隠していながら、なぜ篠原当麻を狙わない?”マクスウェルの悪魔”は、トーマス・マクガーの写真を持っていた。少し調べれば、彼の孫が篠原当麻であることなんて、判るだろう?実際に、トーマス・マクガーは、自分の息子を捜すために探偵を雇って、篠原当麻を見つけ出しだんだから、ね」
「ミツヒロの野郎、気が付かなかったのかよ?入れ替わっちまってるの?一緒に暮らしてたトーマスとは違うトーマスだっつうのに!」
「・・・・6年間失踪している間に、色々あったと思ったんじゃないかな?病気も患っていたし・・。年を考えても少々の違和感なんて、気にならないだろう」


009の言葉に、002は不満そうであった。
自分なら、絶対に気づく!と言いたげな表情である。


「・・・うん、彼と、篠原当麻の接触がないのは、不思議には思ってたんだけど・・・・。まだ、マイクロフィルムも、同じ場所だよね?」
「マイクロフィルムが入っているアタッシュケースに取り付けた発信器は、まだその位置を変えていない。それに、ケースを開けられた様子もない」
「んなことまでわかんのかよっ!」
「取り付けたのは、”振動”に反応するタイプだからだよ。002・・・。でも、もしも篠原当麻自身が、すべてに関わっていた。となると・・・話しは変わってくるよ?」
「・・・・篠原当麻よりも、さえこの方が気になる。彼女は父の秀顕に変わって、最近は、学院の経営に出てきている、そうだろう?」
「合ったんだろ?009は、篠原さえこに」


009は受け取ったコーラ缶を、2,3口飲んで、デスクに置いた。


「部屋に篠原を訊ねてきたから、ね・・・・・。深窓のご令嬢って言う風には見えなかったな」
「は!あのでっけえ会社を切り盛りしようって女が、大人しくちゃ~飲んで微笑んでられっかよっ!」
「・・・内部でも噂になっている。そろそろ秀顕氏は、年齢的にも引退の時期なんじゃないかってね」
「自分が、篠原グループを引き継ぐにあたり、何かひとつ、大きなプロジェクトを成功させたい、そういう節がみられる・・・。箔が付くし、ね。自分に”篠原グループ”を統率する力がある、と周りに知らしめるためにも。そういう動きが予算にも現れていた、よ。まあ、これはマイクロフィルムを取りに行ったついでに、見つけたファイルの情報だけど」
「よお、それって・・・篠原技研のことかよ?」
「・・うん。・・・今回のチャリティ、あやめ祭も・・・・かなり関係しているみたいだし、ね。cyborg技術は、人工内臓だけが”売り”じゃないってこと、だ・・。義肢には最高のものだろう?」


ジョーは右腕を前に出し、拳を作る。
この腕は、障子に穴を開けるように、簡単に壁を突き破った。








この腕は、破壊するために作られた。
















人を生かす技術は、人を殺す技術にも、なる。


















####

004と合流した003と005は、途中、001からのテレパスにより、墓荒らしを中止した。
ほっと、3人は胸をなで下ろした。
いくら必要な事だと言っても、さすがに気持ちの良い作業ではない。
003の能力のお陰で、遺体があり、ここに”トーマス・マクガー”が眠っていることが確認できただけでも十分だった。


車を運転するのは、アルベルト。
サイボーグの改造を受ける前も、運送業についていた経験があったために、ジョーの次ぎに運転が上手い。何かと張大人と買い出し部隊となるグレートは頻繁に車を運転するが、アルベルトに較べて少しばかり集中力がないと言うか、”うっかり”が多く、ときどき心臓が縮み上がる思いをしなければならなかった。


「口直し・・・って、言うわけでもないが、ジェロニモ、フランソワーズ、どこか寄りたいところはないか?このまま邸に帰っても今日は何ももうないだろう、あったらすでに連絡が来ているはずだし・・・」
「オレは。いい。フランソワーズ。」
「え、あ。・・・あの・・・・」


突然自分に話しを振られて、戸惑いつつも、実は行きたい場所があったのだった。
明日の張大人の買い出しについて外出した際に、すませてしまおうと思っていたフランソワーズは、アルベルトの言葉に過度に反応した。

そんなフランソワーズの様子をバックミラー越しに見るアルベルトに、フランソワーズの隣に座るジェロニモは、彼女の表情を見ただけで、察することができた。


「どこだ?」
「あ・・・・でも」
「行きたい。フランソワーズが行きたいと言う場所、興味ある」
「・・・・・・その、デパート、なの・・・。週末にケーキが焼きたく、て・・・」
「構わないが・・・、どこのデパートだ?」
「あの、・・・***デパートの、地下に」
「わかった。ジェロニモ、いいか?」
「いい。」
「ありがとう・・」
「それで、何を作るんだ?」
「Sachertorte(ザッハー・トルテ)・・・なの。カカオが90%のビター・チョコレートと、杏ジャムが欲しくって・・・・杏ジャムが、いつも行っているスーパーには売ってなくて、調べたら、ヨーロッパの食材を輸入しているお店が、そのデパートの地下に入ってうて・・・。電話して訊いたら、あるって・・・」


少しずつ俯いていくフランソワーズを、ジェロニモは見ていた。

白い首が、ほんのりと染まり、カチューシャが覗く耳元まで紅い。
小さくなっていくフランソワーズの声に、思わず口元がほころんでしまう。

いつものスーパーで買える材料でも十分に美味しい御菓子を作ってきた、フランソワーズである。
足りない食材があっても、「ない物はないんだから!」と、自分なりのアレンジを加えて御菓子作りを楽しんでいる姿を、ドルフィン号での生活の中でよく見かけていた。

そのために、欲しい物があるかを、わざわざ店に電話をして店に訊ねるような、気合いの入れように、”カカオ90%のビター・チョコレート”と聞けば、いったい誰の”好み”に合わせて作るのか安易に想像がついた。


「で、それはオレたちもご相伴に預かれるのか?」
「っ!」


俯いていたフランソワーズの顔がぱっと跳ね起きた。
ちょうど、点滅信号にひっかかりアルベルトはブレーキを踏んだ。


「ふん。そのために東都タワーに行かないのか?」
「っアルベルト!」
「東都タワーがどうした?」
「どうもしないわ、ジェロニモっ。気にしないで」


アルベルトは、ブレーキを踏んでいた足を緩めてアクセルに、置いた。


「デートに誘われたんだ、例の・・・」
「篠原当麻。にか。」
「そうだ」
「・・・・っ」

フランソワーズは、バックミラー越しにアルベルトを紅い顔のまま、潤んだ、こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳で睨んだ。



「フランソワーズ。」


温かく、優しいジェロニモの声が頭上から舞い降りる。


「ケーキを作ってくれたお礼に何かしたい。と言われたら、素直に、東都タワーに連れて行け、と言うんだ。それくらいの我が侭は、普通だ。フランソワーズのケーキだったら、それ以上のことをしても不足ない。」
「そ・・・んな、それにっ・・・・」


ーーージョーだけのため・・じゃ・・・ジョーの・・・誕生日ケーキだけど・・・。


フランソワーズはジェロニモを見上げた。
そのジェロニモの穏やかに微笑む表情に、フランソワーズはさらに顔を紅く染め上げて、小さく、小さく、こくん。と頷いた。


「・・・・もしも。訊かれた・・・・よ」


車のエンジン音に?き消されそうなほどに、小さな声で、反論したフランソワーズは、流れる街並みに視線をむけた。


<・・・あとは、任せたぞ。>
<ああ。それくらいなら、簡単だ。・・・・昔に較べて、素直になってきたもんだ>
<離れている。見えない相手に想いが強くなっていく。2人は変に近すぎてお互いが見えなさすぎるんだ。たまにはいい。>
<・・・・・それは同感だ>


ーーーヨーロッパと日本では、遠すぎるか?

















####

マリー/フランソワーズに、忙しいことを理由に週末を会うことを断られた当麻は、週末の帰宅届けを出さなかった。
ルームメイトである島村ジョウに、週末はどうするのかと訊ねたら、「金、土で1泊してくる」と短く答えた。
彼の帰る先に、自分が会いたい相手マリー/フランソワーズが住んでいる。

島村と一緒に編入してきた、2人も同じである。
部屋に戻ってきたジョーと、一緒に連なってやってきた2人を、当麻は簡単に紹介された。
赤毛の派手はツンツン頭のジェット・リンク。そして、落ち着いた、明るい笑顔に白い歯が印象的なピュンマ・ギルモア。

今からカフェテリアへ行き、夕食を取ると言う。


「一緒しませんか?」


誘ったのは、ピュンマだった。
その言葉に、当麻の心臓が、どきり。と汗を掻く。


彼らが編入する、ほんお、2,3日前にマリー/フランソワーズは、彼らが住む邸に移った。けれども、ジョーの言う言葉から、マリー/フランソワーズと彼らは、彼女が日本に訪れる前から交流があったと言う。


「いいかな?ちょうど、ぼくも行こうと思っていたところだったから」


当麻は笑顔でピュンマの申し出を受けた。
ジェットは、ピュンマの卒のない行動に舌打ちしながらも、内心は”よくやった!”と心躍らせた。それは、ミッション関係でないことは明かである。


ジェットのそんな一瞬の表情を見逃さなかったピュンマはさっと、ジェットに注意を促した。


<僕は、”ミッション”のために誘ったんだからね!余計なこと言うなよっ!!>
<っけ!たまには息抜きってえのが、必要なんだぜっ>
<多少の息抜きは多めにみるけどっ!羽目を外すような、”ジョー”の気持ちを乱すようなことは気を付けてよっっ>
<これくらいで、ぐらつくようなヤツじゃっ、009なんて、オレたちのリーダーなんてやってられねえっつうのう!>


3人に当麻が加わり、地下の紫微垣へと繋がる廊下を歩いて、カフェテリアに向かった。








====56へ続く


・ちょっと呟く・

(;´д` ) トホホ
プロット立てていたのに、どこがどうして?ってな感じで、複雑に(汗)
書いている時間が長くなってきて、一日置きが・・・・伸びそうです。

だからっ!
ミッション以外のエピソードを削らないと!
・・・・・ねえ・・デパートに行ってる場合じゃ・・(涙)

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