RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
Day by Day・57
(57)






本館前で保健医である石川と待ち合わせしていた津田海は、ピュンマが午前中のクラスで話していた、”自慢の妹”と言った女性の容貌、そのままのフランソワーズを見つけたので声をかけた。

ピュンマは学院本館にある、応接室へ向かう途中、津田海と一緒にいたフランソワーズを見つけた。
彼女の様子がおかしいと思いつつ、それは、ジョーのために作ったケーキを落としてしまったせいだと思う。




落とした箱の中身を確認するために、使った003の能力。
偶然が重なった。







”眼”のスイッチを入れたまま、海の声に振り返ったフランソワーズ。















人でない、人の、足
















「・・・・何があった?」


ジョーの、第一声は009のものであった。





ピュンマと一緒に本館に入り、面会受付の手続きを済ませて応接室へと入った2人を出迎えたのは、先に来ていたジョーとジェットであった。



学院内で生徒が外部の人間と会うことが出来るのは、ここ、本館の応接室のみである。彼ら以外にも、何組かの生徒とその家族や友人の姿が見られた。

金曜日の授業は午前中のみである。
午後は自主的にカリキュラムを組んでいる、特別クラスに参加予定の生徒のみ。
授業を終えると、ほとんどの生徒が一目散に学院から姿を消すために、寮、校舎内は午前中の賑わいが嘘のように静まりかえっていた。


応接室は、ヨーロッパ18世紀後期のサロンのような豪華な内装が施されており、初めて応接室に足を踏み入れたジョーとジェットは、あまりにも派手な、映画のセットのような室内に、国と時代をタイムスリップしたような感覚に襲われた。
互いに目を見合わせて、自分たちほどこの部屋に似合わない人間が、この世にいるだろうか?と、声を出さずとも、以心伝心。通じ合う。

目立たないように、部屋の最奥、暖炉が置かれた位置にあるソファセットに、座り心地が良いはずのそれにも関わらず、身を固くして座り、フランソワーズとピュンマが訪れるのを待っていた。




しばらくして、ピュンマの姿を部屋の入り口に見つけて、ジョーが立ち上がる。
ジェットは、幾分慣れてきたのか、ギルモア邸のリビングルームでくつろぐように、ソファに身を沈めていた。

ピュンマの背に隠れるようにしているフランソワーズに、ジョーはすぐに反応した。
ジェットも、フランソワーズがピュンマと一緒に部屋に入ってきたことを確認する。

ピュンマは立ち上がったジョーに気づき、手を挙げてジョーに応えた。ピュンマがフランソワーズに言葉をかける様子をジョーは見ている。

遠慮がちにピュンマの背から顔を出し、ジョーとジェットの方へむけたフランソワーズ。





彼女の瞳の色で、ジョーはすぐさま009としての”感”が働いた。


ピュンマとフランソワーズが、ジョーとジェットがいる場所へと近づいてくる。
応接室にいる何組かの訪問客と、生徒が、部屋の中を歩いていくピュンマとフランソワーズに視線を送る中、1人の男子生徒がフランソワーズを足先からゆっくりと、値踏みするような視線を投げかけたので、ジェットは鋭く、その生徒を殺気を込めて睨み付けた。

さっと、フランソワーズから視線を外した男子生徒にむかって、ふんっ!と息をつき、居心地の悪い応接室の不満を少しばかり、解消させる。





「フランソワーズ、なにかあった?」


フランソワーズが座るなり、009が問いかけた。
ピュンマはフランソワーズを庇うように、手に持っていた白い箱を、猫足の過度な装飾を施されたテーブルに置いた。

白い箱の角が歪んでいる。

事前にピュンマから、フランソワーズが持ってくるであろう物について聞かされていた。そして、絶対にそれについて、からかわないこと!と、強くピュンマから注意されている。各メンバーからも、煩いくらいに”それ”についてのメールが届けられていたので、ジェットは口に出さない。


ジョーはテーブルに置かれた箱には目もくれず、まっすぐにフランソワーズを見つめて、009として問いかける。

フランソワーズの瞳に透明な幕が下りるのに気づいたジョーは、すぐに脳波通信に切り替えた。


<・・・フランソワーズ?>
<ジョー・・・私・・・・>


フランソワーズは、ちらり、とピュンマを見た。


<言いにくい、こと?ピュンマが、どうかした?>


黙り込んだ2人に、ジェットが苛つきはじめて口を開いた。


「っだよ!土産はねえのかよ、フランソワーズ!挨拶もねえし、イワンせいで機嫌が悪いのをここまでもってくんなよな!」
「ジェット!・・・・フランソワーズ、ほら、せっかく持ってきたんだし、気にしないで、ね?」
「・・・・なにを持ってきたの?」


ピュンマの言葉に、ジョーが初めてテーブルの上に置かれた、角が歪んでしまった白い箱に注目した。そこでピュンマが、さきほど海から聞いた、ケーキを落とした原因を説明することになった。


「ったく、それくれえで、なに泣きそうになってんだよっ!地面に落としても中身は無事なんだろ?」


ジェットは、呆れながらフランソワーズを見る。
ピュンマも、ジェットの言葉に頷きながら、フランソワーズを励ますが、ジョーはフランソワーズの様子がおかしいのは”ケーキを落とした所為”ではないことに、気が付いていた。


再び、ジョーは脳波通信でフランソワーズに話しかけた。


<話しづらい?・・・ピュンマと一緒だと、何か都合が悪い?>
<あの、津田海さん。と、言う方とピュンマは、・・・親しいのでしょう?>
<出会ってすぐに、意気投合して・・。ピュンマは俺と違って社交的だし、ジェットみたいに、学院の雰囲気から浮いてもいないから、ね。何人か友人はできたみたいだけど、津田海とは・・・親友って言うに近いかな・・・。それがどうした?>
<・・・・ジョー、あの、ね・・・・>
<待って>


「ジェット、今日はどうするんだ?予定通り、ギルモア邸に戻る?」


脈絡もない突然のジョーの言葉に、ジェットは目を白黒させながら、答えた。


「お、・・おお・・・。そのつもりだぜ?・・・フランソワーズが帰るとき、一緒に戻るつもりだけどよお、それがどうしたっつうんだよ?」
「帰る準備は出来てる?」
「いや、別にこれといって・・」
「部屋に行って準備してこい、よ。ピュンマ、ジェットを手伝ってやってくれる?」
「え?・・・・う、うん・・・いいけど・・・あの?」
「じゃ、今すぐ。行ってくれる?」
「・・・・へ?」
「うん!行くよっ!ジェットっ!!!ほらっ、フランソワーズを待たせたら駄目だろっ!!学生coopでお土産も買わなきゃっっ!!」


ピュンマは嬉々として立ち上がり、力任せにジェットの腕を引っ張り無理矢理立たせると、引きずるようにして、部屋を出ていく。

ジェットはピュンマに引きずられながら、フリーズしてしまった脳を一生懸命に解凍すると、ギリギリ、応接室のドア前で振り返って、ジョーにウィンクを投げた、と、同時に脳波通信で一言、ジェットらしい余計な一言を残した。


<ジョー、連れ込むならオレらの部屋使えよ!まだ当麻のヤツは学院に居るんだろっ!30分ほどで部屋を空けてやるからよっ、あとはご自由に!>
<・・・・・それはどうも>


ピュンマとジェットが応接室から出て行ったのをジョーは確認し、改めてフランソワーズを見つめた。


「・・・まだ、ここだと都合が悪い?」


フランソワーズは、周りの様子を伺うようにゆっくりと部屋を見回した。
自分たちの座る位置は、応接室の最奥、暖炉前の奥まった壁際に寄せられた場所。





白い雲に交じり始めた灰の色が、木々がまとう生命溢れる緑を色濃くし、大地に深い影を落とす。風が強まり、傾く枝が同じ方向を指し始めて、応接室のルームライトが灯ったことにより、一段と艶やかに、華やかに目に映った。

室内とは対照的に、窓の外が暗くなる。


ジョーと向かい合う形で座っていたフランソワーズは立ち上がり、ジョーの座る、先ほどまでジェットが腰掛けていた位置へと移動した。

隣り合って座る2人の様子を見て、ジェットに殺気のこもった視線で脅された男子生徒が、舌打ちした。


「・・・なにが、あった?・・・・津田海がどうした?」


フランソワーズはまっすぐに、アンバー・カラーの真摯に自分の言葉を待つ、009の、ジョーの瞳を見つめた。


「・・007が戻ってきたわ」


フランソワーズは囁くような小さな声で報告を始めた。


「・・・聞いている、それで?」
「偶然、篠原さえこが運転する車を見つけて追いかけていった007は、彼女の車に同席していたのが、石川斗織だったことを確認したの」
「・・・・石川が?」
「ええ。2人は同じ大学出身ですもの、ここでお勤めしているからには、何かしら御縁があってもおかしくないと、思うわ。・・・グレートが言うには、その・・・むかった先がホテルで・・・・・」


フランソワーズは、言葉を濁してジョーの瞳から視線を逸らして俯いた。


「・・・・そうか。石川と篠原さえこは」


ジョーの言葉に、フランソワーズは頷き、俯いたまま言葉を続ける。


「2人の会話から、彼らが昔からの付き合いであることが、わかったようよ。そして、ジョー・・あなたが007に調べるように指示した、答えがあったの」
「・・・・石川が、篠原当麻の父親。トーマス・マクガーの息子、だね?」
「会話の内容から、そう取れるって・・・・。今、007を中心に、004、005が調べているわ。本当かどうか・・・。もしそうなら、中井・マクガー・T・アンドリューは、行方不明になったんじゃなくて、ちゃんとここに居たの。なぜ、石川斗織と名乗って、当麻さんに父親であることを名乗らないままなのか、わからないけれど・・・」
「・・・・十分だ、よ。これで予測していた図面が完成する・・・それで、津田海だけど・・・?」
「ミツヒロさんが持っていたトーマス・マクガーの、遺品。と、病院から007がコピーしてきた彼のカルテ、に・・・お墓の中の彼自身の一部を採取・・005が向かったわ。今、指紋、やDNA鑑定をおこなっているの。ホテルから007が採取した、篠原さえこの髪、石川斗織の吸い殻・・それらも一緒に、当麻さんのものも、よ。博士が今日中に結果を出すって仰られたわ」
「わかった・・・、それで?」


フランソワーズはゆっくりと顔をあげる。
ふたたび潤み始めた空色の瞳に、ジョーは硬く拳をにぎった。


「・・・・ピュンマと、とても仲がいいの、ね?」
「そうだ、よ」
「ジョーも?」
「・・・・話しはする、ジェットの方が仲が良いかも、ね」
「足を・・・どうなさったの?」
「・・・・肉離れ、らしい。松葉杖は2週間ほど使うって言っていた、よ」
「大きな怪我をされた経験があるとか、聞いたことあるかしら?」
「・・・・高等部に入学したころに、交通事故にあって・・・。本当なら1学年上のシニアらしい」


フランソワーズの瞳が大きく見開かれ、そして、伏せられた。
レースのように繊細な睫の奥へと、美しい晴れた空色の瞳が隠れる。


「知っていらっしゃるのかしら?」
「・・・・何を視た?」


フランソワーズが下唇を噛んだ。
膝の上に置かれていた手がスカートをきつく握る。
じっと、ジョーはフランソワーズの言葉を待つ。


「・・・・・・ジョー、彼の足、左足は義足・・・・なの」


風に揺れ始めた窓の音に、掻き消されてしまいそうなほど、微かにこぼれた声だったが、ジョーの耳にははっきりと聞こえた。



「ま、さか・・・fr・・・・・、キミが視たのは・・」
「・・・・ええ、ジョー・・。彼の・・左足、膝下からすべて・・・・人工のもの・・・。今の義足を作る技術では、考えられないほどに、精巧に作られた・・・cyborg技術を使った、足」


閉じられた目蓋から流れ落ちた、雫は雨を呼んだ。
ぽつぽつと、窓を叩き始めた雨音に、気が付けば応接室に居るのはジョーとフランソワーズのみ。


「・・フランソワーズ、キミをギルモア邸に帰せなくなった・・・・・すまない・・・」


ジョーの言葉に首を左右に振る、フランソワーズ。


「ごめん、嫌な思いをさせた、ね・・・。キミは何も言う必要ない、よ。俺にまかせてくれるね?」


頷いた、その動きを追う亜麻色の髪は、オレンジがかったルームライトに照らされて、いつもよりも甘いハチミツ色に見えた。



こごり雲に支配された空から降り始めた雨が、激しさを増す。


「・・・津田は、たしか石川と病院に行ったはずなんだ。足のことがあるから、彼は今週末、学院に残る、と言っていた・・・」


喉を締め上げるように、力を入れて言葉を発した。


「もう一度、視てもらい、たい。・・・・どの程度の、ものかを・・・トーマス・マクガーの設計図にあった、技術かどうか、もしくは・・・それ以外の、ものかどうかを確かめないと、いけない、から」
「ええ、もちろんよ。設計図を確認したいわ、詳しく教えてください」


ジョーを見つめてくる、彼女は003であった。







ーーー俺は、キミに・・・辛い思いをさせてばかり、いる、ね












視たくないだろうに。
知りたくないだろうに。














ーーー俺のそばにいるから?






キミが、もしも・・・ギルモア邸を離れていたら、こんなことに巻き込んだりしない。
絶対に、キミの幸せを護るために。



003であったとしても、だ。





009は携帯電話を取りだして、002、008の2人に手短に指示を出した後、ギルモア邸へも電話をかけ、応対した006にも、新しい指示を出した。

携帯電話を切り、ジョーはフランソワーズを見つめた。
彼女はじっと、ジョーののど元を辺りに視線を留めている。


「・・・・・フランソワーズ?」
「ジョー・・・」
「・・・なに?」
「・・・・ネクタイ、やっぱり、変だわ」
「・・・・・そお?」
「ジェットより、変よ・・」
「・・・そんなにヒドイ?」
「ええ、設計図については教えてもらうことになるけれど、こっちは私が教えてあげるわね?」


フランソワーズが微笑む。
無理にでも、微笑んだ。

ジョーも、その笑顔を護るために、微笑んでみせた。


「・・・さて、どうやって、キミを隠そうか?週末は寮監督も1人、生徒もほとんどいないから、楽だけどね」
「男装しましょうか?」
「・・・いいね、それ」
「制服じゃないと、いけないかしら?」
「・・サイズは、ピュンマのでも流石に大きいね・・・・。2人に買い物してもらってこよう、だいたいでいいんだ。シルエットだけでも、男らしくみえたら、ごまかせるし。その前に」


わざと、明るい会話を作る。


「?」
「・・・・・これ、俺に?」


ジョーはテーブルの上に置いてあった白い箱を腕を伸ばして、自分の膝の上に引き寄せた。


「あ・・・・・ちが・・・あの」
「・・・違うの?」
「・・・違わないけどっでも、・・・・作り直すわ・・・。落としちゃったし、それに・・・」
「・・・・ありがと。それと、ごめん」
「ジョー・・?」
「・・・・・ちゃんと、言わないと・・・。キミに失礼なことを言った。そして、キミの手を傷つけた」
「いいの・・に・・・・・もう・・・・たくさん、謝ってもらったもの」
「電話、でも言ったけど、キミに会って、言いたかったから・・・」


フランソワーズは、こくん。と、頷いた。


「ジョーは、大丈夫?」
「・・・・なにが?」
「クスリは?」
「・・・使ってないよ」
「ちゃんと、食べてるのかしら?」
「・・・・必要最低限は接種している、よ。それに、今からエネルギー補給するし、ね」


ジョーは白い箱をフランソワーズに断りもなく、あけた。


箱の右側に寄ってしまった、ザッハ・トルテ。
崩れた、と言うよりも、1/3ほど、押しつぶされたようになっていた。

箱の蓋と、側面に袋に入れて貼り付けられたドライアイスが、小さくなっている。
まだその効果は有効らしく、ジョーが箱を空けた瞬間にヒンヤリとした空気が箱に添えられたジョーの手を包んだ。


「あの・・・・やっぱり、ね・・・。また作り直すわ、だから・・・」
「これ、がいいよ」
「・・・・でも」
「いいんだ、よ」


嬉しそうに、箱の中を見つめるジョーに、フランソワーズは幸せな気分を味わった。








懐かしい感覚。





どきどきと、心臓を早めるようなこともなく、ただ、彼の嬉しそうな横顔を見つめて、こころの奥底からぽかぽかと温まっていく。

辛いことも、哀しいことも、苦しいことも、すべての哀しみは、あたためられて、砂糖菓子のようにさらさらと溶けていく。




ジョーが喜んでくれている。
あなたが、微笑んでくれている。





それだけですべてが、満たされていく。





ーーージョー、あなたは私が強いって言うけれど・・・。それはあなたが居るから・・・。
   あなたがこうやってそばに居て、笑ってくれる・・・・・だから、
   私はどんなことでも負けない。
   強く前を向いていられるの。










「・・・・初めて、かも」
「え?」
「・・・・・自分だけ、っていうの」
「自分だけ?」
「・・・・施設だと、誕生日は月ごとにまとめられて・・・同じ月に生まれた子と一緒に。ケーキも、ね。5月生まれの子みんなの、だったから・・・。だから、自分だけの、こういうの・・・初めて・・・だよ。自分の誕生日に、自分のケーキって、それに、リクエストもしたし、ね」
「・・・・・ジョー」
「・・・すごく贅沢だ、ね」
「お誕生日、おめでとう・・・。来年はちゃんと16日にお祝いしましょうね?」
「・・・・また、キミがケーキでも焼いてくれるなら、それで十分」
「焼くわ。リクエストしくれるかしら?毎年・・・。来年も、再来年も、ずっと・・・」


ジョーは、箱の中から視線を外して、フランソワーズをみつめた。



ーーーずっと?



フランソワーズは、ジョーの眼差しを、まっすぐ受け止めるように、空色の瞳にジョーを映す。




ーーーずっと・・・・。ジョーのために、ジョーのための・・・





強まる雨音のリズムに合わせるかのように、ジョーの心臓が暴れはじめた。
熱を帯びたように潤み、自分を見つめてくるフランソワーズの瞳。それは、過去に幾度も自分にむけられた視線の中で、ある種の共通した想いを含んだ視線に酷似している。




ーーーフランソワーズ?








世界中どこを探しても、たった9人の仲間である。
いつも一緒にいるのが当たり前の、仲間の1人であるフランソワーズが、仲間、家族とは別の、特別な存在。という位置に立つようになっていた。


特別な想いで、見つめる。
特別な想いで、接する。

特別なその感情は、”好き”という言葉で語られると意識し初めて、それほど時は経っていない。



久し振り、とは言い難い日数であったが、戦いの中で、狭いドルフィン号の中で常に仲間として、生活し続けていたジョーにとって、篠原当麻の家でフランソワーズがホームステイをしていた、6日間に加え、学院にジョーが編入してからの4日間。





仲間になって以来、初めて、キミがそばにいない生活を過ごす。















女の子。と言う印象が強い、フランソワーズ。


護るべき、想いをよせる女の子が。
手に入れたいと、欲望の熱を与える女性へと。







永遠に変わることのない、幼さを残した印象のあるフランソワーズの顔立ちにも関わらず、そこに、”女”の、フランソワーズが、いた。









見えない時間。
想う距離。


触れない時間。
慕う距離。


語らない時間。
焦がれる距離。


呼ばれない時間。
腕を伸ばす距離。




近すぎるために、気が付かなかった。







気づきたく、なかった・・・・・。























####

「・・・・ジョー、それ、ピュンマにいつ言うんだよ?」


ジョーに呼びだされたジェットとピュンマは、学院本館の応接室を再び訪れた。フランソワーズはピュンマに連れられて学院内の見学の手続きを取りに、面会手続きを取った事務所に向かった。
ジョーとジェットは、2人が戻ってくるのを応接室で待つ間、ジェットにフランソワーズから聞いたすべてを報告した。


「もう一度、003が確認して、その技術がトーマス・マクガーの、”マクスウェルの悪魔”が”景品”にしたサイボーグ設計図に沿ったものかを判断した後に・・。もしかしたら、津田海自身も、知らないかもしれない。むやみにピュンマを刺激したくないから、ジェット、気を付けてくれよ」
「・・・ああ、わかってるぜ。今回はなんか、オレやりずれえわ!」
「ジェットは実践型だからだろ?」
「そういう、お前もじゃねえかよ!」
「・・・・僕は複合型だ、よ」
「へえ、へえ。そうでしたあねえ!お前は最後の、オレらのいいとこ取りしまくった、ずりぃヤツだからんな!」


頭の後ろに両手を組み、どさっとソファに背中を預けて足をテーブルに投げ出した。
ジョーは、ケーキの入った白い箱を移動させた。


「ずるい?・・・ずるいのはジェットだろ?」
「ああ?」
「空、飛べるだろ?」
「まあな!」
「それに・・」
「んあ?」
「いや・・・。なんでもない」


言葉を飲み込んだジョーを無視するように、ジェットはテーブルの上の白い箱を見た。


「で、それ、喰うんだろ?」
「・・・このままだと傷むから、部屋の冷蔵庫に入てくるよ」
「なんだよ、オレらは喰わせねえねつもりかよっ!」


にやり、とジェットが意地悪く口角を上げて嗤った。


「あとで、ね・・・。とにかくフランソワーズをなんとかしないと、な。ジェットとピュンマの部屋でいいだろ?」
「当麻の野郎は、家に戻んだろ?お前の部屋でいいじゃねえかよ、ベッドが1つ空くんだしなっ!」
「・・・・使えば、すぐにバレるよ。一度、部屋に戻る。2人が戻ってきたら、紫微垣の入り口で待っていてくれ、生憎の雨だけど・・・。彼女の”眼”は関係ないから、ね」


フランソワーズの作った、ザッハ・トルテの入った白い箱を、大切そうに持ったジョーは、ジェットを応接室に残し、ブレザーを脱ぎ、箱を雨に濡れないように守りながら、デネブ寮に戻った。

彼の足なら、激しく降る雨もさほど問題ない。









応接室に1人残ったジェットは、ソファから立ち上がり、壁一面のガラス窓から、正門を見下ろした。風は止み、雨だけが垂直に地面へと重力の意思に従い、落ちていく。


ーーーオレなら、行ける。




陰雲を突き抜けて、青だけの世界、何もない、空へ。
何一つ制限されることのない、空へ。


ーーーオレは飛ぶ。




一面の青。
アイツの瞳と、同じ、青。






ーーー面倒臭い関係も、想いも、何もかも全部、吹き飛ばしてやるのによ!
   あの空へ行けば、
   お前らの気持ちが、小さくってくだらねぇもんに拘りすぎてるっつうのが、
   簡単にわかるのによ!
  

 
ちっせえっっ! ちっせぇなっ!ジョーっ、いい加減、男になりやがれっ!!













誰も何も思わねぇ、誰がフランソワーズを愛そうが、
世界はそんな小さいことなんて、気にしないんだよ!



気にしてんのは、お前たちだけだ。














ジェットは窓から離れる。
静かに応接室のドアへと向けて歩き始めると、ピュンマとフランソワーズが、ドア口にで彼を待っていた。


「早かったじゃねえか、急に学院見学の申し込みなんかしちまって、もっと手間かかるかと思ったのによ!」
「ラッキーだったよ。手続きをしてくれた人が、僕らのことを覚えていてね。手続きが事前に必要なことを知らなかっただろうから、仕方ない、って特別に許してくれたんだ」
「ジェット、ジョーはどうしたの、一緒じゃ・・?」


フランソワーズは、ジェットの背後、応接室をのぞき込んでジョーの姿を探した。


「ああ?アイツは部屋に戻ったぜ、オレらにケーキを喰わせねえように、自分の部屋の冷蔵庫にしまいにな!へっへっ、良かったじゃねぇか」
「嘘ついても、すぐにわかるわよ。傷むから、でしょう?ここにはナイフもフォークも、ケーキを食べるためのモノがないもの!」


ぷん。と、形良いくちびるを尖らせて反論するフランソワーズ。


「そう思ってろって、んじゃ、行くか」
「紫微垣のカフェテリアに行く?」
「ジョーが入り口で待ってろってよ」
「・・・・そう。でも・・僕、心配だなあ」


ジェットの言葉に、頬を膨らませたままのフランソワーズを見ながら、ピュンマは眉根を寄せて呟いた。


「オオカミどもの中に、ヒツジを放り込むんだかんな。カフェテリア内で待ってろ、て言わなかったヤツも、考えてんだろうぜ?」
「なによ、ヒツジって私のこと?失礼ね!そんなに私は変じゃないわよっ」
「・・・フランソワーズ、変って・・・。いや、ここがどこか、わかってるよね?」
「学校でしょう?」
「飢えた野郎どもしかいねぇんだぜ?」
「バカね、女の子を見たことないわけじゃないでしょう?ふふふ、余計な心配よ、私なんか見ても何も思わないし、誰も気にしないわよ。日本人じゃないからくらいでしょう?」


愛らしく微笑んだ、フランソワーズにピュンマとジェットは溜息を吐いた。


<僕さあ、前から思ってたんだけどさあ、もしかして、フランソワーズって自分の、その・・ねえ、気づいていないよ、ねえ。まあ、そこが彼女のいいところなんだけど、ある程度の自覚があっても、いいと思うんだよ、今後のことも考えてさ>
<まあ、なあ・・・サイボーグにされてからよ、戦いばっかで、そういう風に見られたり、扱われたことねぇだろうし・・・、オレらだって、慣れちまってるしよ、003は、003だしな。その前っていやあ、アランなんかが周りにいてよ、がっちりガードされてたんじゃね?フランソワーズも”バレエ”しか頭になかったって言ってたしよっ。バレエスクールなんっつうところに通う男なんて、クラークみてぇのの巣窟だったハズだぜっ。環境的な問題だな!>


ジェットが歩き出したので、ピュンマとフランソワーズも歩き出した。
学院本館を出る前に、ピュンマが先ほどジェットと購入した傘をさして、フランソワーズを自分の傘へといれた。


<グレートがさ>
<なんだよ?>
<フランソワーズを絶対に、1人で街に出したら駄目だって、叫んでたよね?>
<・・・そういえば>



「よお、フランソワーズ」
「なによ?」


ジェットは、ちらり。と振り返り、ピュンマと1本の傘をシェアするフランソワーズに話しかけた。


「今日、1人で来たんだよな?」
「?・・・駅までは、アルベルトが送ってくれたわ。そこから途中まで、教会に向かうジェロニモと、ギルモア邸から学院の正門前まで、天道虫になったグレートが一緒だったわ。正門前で別れたけれど・・・」


<<パーフェクト・・・>>













####

デネブ寮の自室に戻り、箱のままケーキを冷蔵庫へ入れた。
そのまま、紫微垣に向かおうと部屋のドアノブに手をかける前に、廊下側から誰かがジョーよりも早くドアノブをまわし、部屋のドアを開けた。

この部屋のドアを開けることができるのは、同室である当麻しかいない。
ジョーは一歩ドアから身を引いて、ドアを開けた人物を見た。


「あ、島村・・・」
「・・・帰ったんじゃ、なかったのか?」
「その予定だったんだけどさ・・・・。なんとなく面倒で、うだうだ居たら、この雨だろ?まだ終わってない課題もあるし、今週は学院に残るよ。そういう島村は?帰るって言ってたよね?」
「・・・こっちも予定変更。まだ学院内を把握しきれてないし・・・。色々と遅れているから、追いつくために、勉強したいと。ね」


<・・聞こえるか?ピュンマ、ジェット>
<よお、何やってんだよっ、さっさと来いよ!>
<・・・・篠原当麻が、学院に残るらしい。今、部屋で鉢合わせした>
<ええ?!嘘だろ?・・・面倒だよ、フランソワーズが居るんだよっ!>


「島村、カフェテリアに?」
「・・・ああ、少し早いけど、ね」
「友達も?」
「・・・・先に、向こうで待っていると思う」


<そこからフランソワーズを連れて離れてくれ、篠原もそっちへ向かうかもしれない>
<いいじゃねえか、会わせてやれば!>
<・・・面倒だ>
<仕方ねえじゃんよ!もうすでに、いろんなヤツにフランソワーズは目撃されてんだしよ、いまさら篠原に会ってもかわんねぇよ、フランソワーズが学院に”留まる”っつうことさえ、バレなきゃいいんだぜ?>


フランソワーズはジェットと一緒に、一度”帰るフリ”をして、学院を出た後、空から学院へと戻ってくる。と、打ち合わせしたばかりだった。


「じゃ、また一緒していいかな?この間は、津田が・・・。だしさ」
「・・・1人、ゲストがいるけれど、気にしないなら」
「え?そうなんだ・・・。それじゃ・・・、ぼくは遠慮した方が・・・家の人?」
「・・・・そう」


<・・・篠原当麻と、そちらに向かう>
<え?・・・・当麻さん?!>
<・・・・今、会ったから。彼もカフェテリアへ向かうらしい>


当麻は手に持っていた教科書やバインダーをデスクに置いて、廊下に出た。部屋のドアはオートロックになっている。
ジョーは黙って彼がドアを閉めるのを待っていたために、ゲストがいるけれども、自分が夕食に参加しても良いと思っている、と受け取った。


「迷惑じゃなければ、一緒していいかな?」


あらためて、当麻はジョーに訊ねた。
ジョーは頷いただけで、無言のまま紫微垣へと足をむけた。



<・・・地下から、そちらに向かう>














自分は心労で倒れやしないか。と、ピュンマは深い溜息を吐き、ジェットは”土産話”が出来たとばかりに、目の前で繰り広げられるであろう、別の”戦い”に、ウキウキとこころが踊る。

フランソワーズは”眼”を使ってぐるり。と、紫微垣の内部を見渡した。脳波通信で連絡があったように、地下の通路を歩く、ジョーと当麻の姿を見つけて、”眼”のスイッチを切った。
















####

ピュンマ、ジェット、そしてフランソワーズは、紫微垣の入り口から移動して、1階カフェテリア入り口で待つことにした。
ゲスト・フランソワーズ・アルヌールと、名前と今日の日付、そしてピュンマの学生IDナンバーの書かれたネームプレートが、フランソワーズの胸元に付けられていた。



「あ・・・・ええ?!マリー・・・・マリーっっ!!」


デネブ寮の地下から紫微垣に繋がる廊下を歩き、階段で1階まで上がってきた当麻は、マリー/フランソワーズの姿を見つけるなり、駆け寄った。



「こんにちは、当麻さん」
「ゲストって、マリーだったの?!・・・ひどいな、島村!教えてくれたらいいのにっ!」


当麻はマリー/フランソワーズの手をとって、握りしめながらジョーへと振り返った。


「・・・・ごめん」


ジェットは、「よっ!」と、片手を上げてジョーを呼んだ。
ピュンマの視線は、当麻が握るフランソワーズの手とジョーを、行ったり来たりする。


「忙しいって言ってたよね?・・・ひどいなあ。こっちに来る予定だったなら、教えてくれたらよかったのに!」
「後見人の代理で、急にこちらに伺うことになったの・・・」
「会えて、嬉しいよ!・・・すごく、嬉しい・・・・・」


当麻は満面の笑みをフランソワーズに贈る。
フランソワーズも微笑むが、視線は当麻の耳元をから、後ろにいるジョーへと注がれた。





視線が、ジョーと合う。





フランソワーズはそっと当麻の手から、自分の手をはずした。
それを合図に、ピュンマがカフェテリアへ向かうことを促した。

ピュンマ、ジェット、そして当麻、フランソワーズと続いてカフェテリアへ入っていく。ジョーは急ぐことなく、4人を追うようにしてカフェテリア内に入っていく。フランソワーズは途中、歩調をゆるめて、隣に歩く当麻から離れて、ジョーと並ぶ。


「・・・ジョー、あの・・・」
「・・・・・なに?」
「さっき・・」
「?」


<さっき、石川斗織が戻ってきたわ・・・。けれど、津田海さんは一緒じゃないみたい・・>
<・・・彼は今、どこにいるかわかる?>
<3階・・・。あれは・・彼の個室?>
<津田は・・寮にいる?>
<ピュンマ、ジェットと同じ寮ね?>
<・・・南西の方角に、津田の部屋は2階>


歩みを止めて、フランソワーズは”眼”のスイッチを入れると、拡大していく映像に集中し始めた。ジョーはそんなフランソワーズのそばに寄り添う。


当麻はいつの間にか自分から離れてジョーと並ぶ、マリー/フランソワーズに振り返った。2人は足を止めて、カフェテリア内の出入り口付近に立っていた。


<・・・誰も、いないわ。2階には・・>
<帰ってきていない、か。あとで、もう1度・・視てくれるかい?>
<ええ・・>


何もない壁を見つめていたかと思うと、フランソワーズはジョーの方へと向き直り、真剣な表情で頷いた。そして、ジョーはまっすぐにフランソワーズを見つめ、優しく・・笑う。


「・・なにを食べる?少し早いけれど・・ね」
「グレートがね、羨ましがっていたわ。ジョー達よりも早く学院にいるのに、まだ1度も食べたことがないって。私、自慢できるわね?」


ふっと、緊張を解いて微笑んだ、フランソワーズ。


「・・・デザートは食べないで欲しいな・・・。みんなであの、ケーキを食べよう」
「あら、せっかく来たのに?両方食べるわ」
「・・・お腹壊すよ?」
「平気!・・・スイーツは別腹って言うんでしょう?」


2人は歩き出した。


「・・・・そんなことばっかり覚えて、どうするの?」
「どうもしないわ」
「・・他に、何か覚えた?」
「急に言われても、・・・あ。絵本!」
「どれ?」
「”白いウサギと黒いウサギ”の、ちゃんと全部読めたの」
「・・・・でも、ほとんど平仮名だったよね?」
「意味もちゃんと、日本語でわかったのよ」
「・・それじゃあ、お祝いしないと、ね。デザート食べる?」
「いいの?」
「お祝いだから、いいんじゃない?」


微笑み合う、2人。そんなジョーとフランソワーズを、当麻はじっと見ていた。
2人が当麻の立ち止まっている場所まで近づくと、会話がぴたり。と、止まる。




ジェットとピュンマは、トレーを手に持ち、遠巻きに3人の様子をうかがっていた。


「ジョーとフランソワーズのヤツ、絶対なんかあったぜっ?」
「なんだよ、急に」
「今までのジョーならよっ、篠原みてえなヤツを目の前にして、あんな感じでフランソワーズとしゃべってねえって!!無言で、フランソワーズのヤツを避けてよ、距離とってたじゃんか?見ねえ、聞ねえ、関わらねえって風にな!そんなジョーの態度と、機嫌の悪さの原因が自分にあるなんて、ちびっとも気づかねぇで、フランソワーズはオロオロとしてよお、結局は、どうしたらいいかわかんなくなって、しょげかえるっつうのが、パターンだったろ?」
「・・・・・ジェット、意外とちゃんと2人のこと見てたんだね・・・。うん。それが基本パターンだと思うよ」
「けどよ、どうだ?ちゃんと張り合ってんじゃんかよっ!!ジョーのヤツ!面白くなるぜっ!」
「張り合ってるう?!・・・普通にフランソワーズと話せるようになっただけ、ジョーが成長したってことだろ?ただ単に!・・・・面白くなる必要なんかないよっ!もう僕の心臓が持たないっ!!」
「んなもん、ちょちょいっとギルモア博士に直してもらえばいいじゃんか!気にすんなよ!大いに楽しもうぜ!!」
「・・・僕、食欲ない・・よ・・・」


ジェットは今日のメイン、と書かれたボードに視線を走らせた。


「お!生徒数が少ねえからよっ、凝ったの出てるじゃん!」
「・・・ぼく、お茶とヨーグルト・・」
「んなもんじゃあ、躯が持たねぇって!食っとけよ!しっかり!ほらよっ!」


ジェットは、ハンバーグを皿にどん!どん!っと乗せた。






「島村は、”フランソワーズ”って呼んでるんだね?」
「・・・ああ。みんな、そう呼ぶから、ね」
「じゃあ・・・ぼくも、そう呼んだ方がいいのかな?」


当麻はフランソワーズにトレーを私ながら、訊ねた。


「どちらでも、当麻さんが呼びやすい方で」


トレーを受け取り、キョロキョロと周りの様子をうかがいながら、ジェットピュンマの姿を見つけて、フランソワーズはおかしそうに笑った。


「・・・フランソワーズ?」
「今日のメインはハンバーグでしょう?きっと、あれ、ジェットがピュンマのハンバーグに、ケチャップをかけたのよ!ピュンマはソース派なのに、ね?」


フランソワーズの視線の先で、ピュンマは自分の皿をジェットに付きだして、怒鳴るように文句を言っている。ピュンマのそんな勢いに、ジェットは焦りながら言い訳をしていた。
その手にはケチャップのソフト・チューブが握られてれている。


「・・・・・たかが、それくらいで」
「意外とうるさいのよ、ピュンマは。ソースでもデミグラスソースがいい。とか、和風ハンバーグはよくてもイタリアンハンバーグは嫌だとか」
「・・・・全部、同じハンバーグだろ?」
「ジョーもジェットと変わらないのね?ジェットはなんでもケチャップだけど、ジョーは・・」
「醤油?」
「・・・と、言うよりも味噌?」
「ああ。そういえば、そうかも・・・でも、ハンバーグにはつけないよ?」
「煮込みハンバーグは好きでしょう?」
「・・・・・嫌いじゃない、けど。それ味噌?」
「違うわ」
「・・・違うね」


当麻は、2人の会話に耳を澄ませて聴いていた。
マリー/フランソワーズが来日する前から交流があったと聞いいる当麻だったが、2人の会話の内容は、ずっと長く一緒に暮らしているような、とても日常に密接した会話だった。
食の好みなど、そんなに細かくお互いに知っているものだろうか?


島村だけではなく、ジェットやピュンマの好みであるけれど・・・。


「マリー、ハンバーグにする?」


ジョーとマリー/フランソワーズの会話が途切れたので、当麻がマリー/フランソワーズに話しかける。


「他は・・・トンカツ?」
「みたいだね、ぼくはハンバーグにするよ」
「・・・・トン?カツ?」
「え?マリー、知らない?」
「フィッシュ&チップの、フィッシュが、豚肉になったみたいなものだ、よ」
「豚肉を揚げたのね?どうして、トン?は豚さんよね?・・・カツは?」


マリー/フランソワーズの質問に、当麻は返答に困り苦笑する。
彼女と一緒にいると、こういう類の質問が多い。


「マリー、”トン”は、”豚”っていう漢字の音読みだけど・・・」
「・・・カツは英語の、”cutlet”が略されてるんだ、よ、語源は多分、”cotelette”」
「フランス語だわ!」
「カツレツってあるから、ね。日本って”名前”を省略したり、アレンジしまくるって、前、だれか言ってなかった?・・それもその1つかも。ポークカツレツより言いやすいだろ?・・・勝手な想像だけど、きっとね。食べてみれば?」
「ソースはケチャップ?」
「・・・お好きなのをどうぞ。トンカツソースって言うのがあるけど?」


メインの料理が置かれたコーナーで、じっと考え込むフランソワーズ。
ハンバーグも食べたいのだろう。と、ジョーは思う。


「マリー?」


当麻はマリー/フランソワーズをのぞき込むようにして見た。
脂っこいものは嫌なのかもしれない、と考えた。


「・・・・フランソワーズ、両方は止めておいたほうがいいよ、さすがに。向こうにも、他に色々あるから。まず、ひとつ取って、大丈夫そうなら、また取りに来たら?」


当麻はジョーの言葉に驚く。


「やっぱり、無理かしら?」


フランソワーズの言葉に、さらに当麻は驚いた。


「・・・・・胃薬なんて、持ってないよ?」
「無理よね・・」
「・・・・・・・自分で考えてみてよ・・大丈夫だと、思う?」
「マリー、ぼくがハンバーグだから、味見したらいいよ・・・。島村の言うとおり、両方は・・・」


何度もジョーは、フランソワーズの”食いしん坊”な行動にブレーキをかけながら、彼女につられて、思いの外多く皿に乗せてしまった料理を手に、ジェット、ピュンマが座る席へと向かった。


円形のテーブルに陣取ったジェットとピュンマ。
2人は先ほどから当麻、ジョー、フランソワーズの様子を窺っている。フランソワーズほどではなくても、人よりも”優れた器官”を持つ彼らにとって、自分たちの座るテーブルから離れた、彼らの会話は少しばかりの手中力があれば、簡単に聞くことができる。


ジョーとフランソワーズの会話は、ギルモア邸の中でも、周りにメンバーがいない(と、本人達は思っている。)ときに交わされる会話の”のり”そのもの。と言ってよかった。












「フランソワーズ、お前に甘えてねえか?」
「・・・・・・気のせいだ、よ」


当麻とフランソワーズよりも早く席に着いたジョーに、ジェットは早口で声をかけた。


「あれが普通なんだよ、フランソワーズの!」
「・・・・・疲れた・・」
「え?どうしたの?」
「・・・・・・・・ビュッフェ式の店に、フランソワーズを連れて行くのは危険だ。と、全員に報告しないと」
「あはははははっ!ジョー、それって!!」


心底疲れた。というジョーの表情が、おもしろい。


「・・・・・胃は1つだぜ?・・いくら”人よりも頑丈”でも限度があるだろ?なんで、食べきれないとわかる量を取りたがるんだ?」
「喰えねえって、ジョーが勝手に決めつけてんじゃねえの?」
「・・・・・ジェット、あれを見てからもう1回、同じセリフ言ってみろ、よ」


ジョーは呆れたように、フランソワーズの方を顎で指した。

少ししてから、当麻とフランソワーズが席に着く。
彼女のトレーの上に載せられた量に、あんぐり。と、ジェットは口を開けたまま固まった。
「お前はラガーマンか!」っと突っ込みを入れたい衝動が彼の胸を突き上げてくる。


「言ってみろ、よ。ジェット・・・」


低くジョーは呟いた。


「・・・・・いや、く、喰えるんじゃね・・・え・・か?・・・もしかした、ら」
「・・・・・・・これでも、止めたんだ・・途中で諦めたけど」
「ジョー、諦めちゃ駄目だよ・・・・その結果がこれ?」
「ピュンマ、胃薬持ってる?」
「・・・持ってない」


上機嫌で戻ってきたフランソワーズと一緒に席についた当麻は、困惑の色を端正な顔に刻みつけている。


「お待たせして、ごめんなさい」
「・・・・・フランソワーズ、大丈夫?・・・それ、食べられるの?」


ピュンマが遠慮がちに隣に座ったフランソワーズに声をかけた。


「も、お腹ぺこぺこなの。そういえば私、昨日の夕食から今まで何も食べてなかったのを思い出しちゃって・・・」
「よっしゃ!喰え!フランソワーズっ好きなだけ喰ってけ!ここのクッキーはうめえぞ!」
「あら、そうなの?」
「「ジェット・・・・」」


ピュンマとジョーはよけいなことを言うな!と、ばかりに非難の視線をジェットに向けた。

















####

早い時間に訪れたカフェテリア内は、週末と言うこともあり、かれら以外の生徒は、1,2組ほどで、席も離れていた。


和やか(?)な雰囲気で5人の夕食が始まる。
そんな中、フランソワーズがときおり”眼”のスイッチをいれていることに、ジョーは気づいていた。



自然な動作。

会話に頷きながら、水を飲む動きに、微笑んだ視線を次ぎに口を開いた者へと移す途中に。
”眼”のスイッチを入れると当時に、フランソワーズが”耳”を使っていることも知る。

彼女の癖を知っているから。
”耳”のスイッチを入れたとき、彼女は髪を左耳にかけるような仕草をする。




日常生活の動きにちりばめられた、”偵察”の仕草。
慣れているからこそ、それが自然であればあるほど、ジョーはフランソワーズを見ることが辛くなってくる。テーブルの上で交わされる会話の半分もジョーの耳には届いていなかった。


テーブルについていから、始終無言で過ごすジョーの様子が気になるのは、当麻。
さきほどまで、マリー/フランソワーズと交わしていた、ジョーが初めて当麻に見せた意外な一面に、それは”マリー/フランソワーズ”にたいしてのみの、特別なものでは?と、感じて、顔では笑っていたものの、胸奥にちらつく嫉妬に近い焦りが当麻を混乱させていた。

ジョーとマリー/フランソワーズの会話には2人の、2人だけが育んできたような”関係”が見えた。会話のテンポ、内容、やり取りの全てが、雰囲気が、当麻は気に入らなかった。



当麻から見た、マリー/フランソワーズとジェットは、”幼なじみ”のような、気心しれた親友。というように見える。彼らはポンポンと言いたいことを言い合う。兄らしく振る舞い、彼女を包み込むような優しさで接するピュンマに、背伸びをする妹のような態度のマリー/フランソワーズ。

自分はまだ、彼女と出会って、1週間にも満たない関係であることを思い知らされた。



何も、知らない。





マリー/フランソワーズのことを、何も知らなさすぎて、腹立たしい。
その上に、ジョーがさきほどまでマリー/フランソワーズに接していた態度。加えて、今は無言で、「生きるために必要だから」と、ばかりに、夕食を口に運ぶジョーの様子が、マリー/フランソワーズにたいしての、ある種の余裕を見せつけられているようで、当麻のこころが乱されていく。

何も話さないジョーにたいして、慣れているのか、ジェット、ピュンマ、フランソワーズは、気にしていない。ジョーに会話をふることもなく、その場にいるだけの彼。が、当たり前のようにみえた。




彼らのそんな関係が、強い連帯感のようなものが、当麻に淋しさを植え付ていく。そのせいか、当麻がいつもの当麻らしくない振る舞いを見せ始めた。

ピュンマは心配そうに、当麻とマリー/フランソワーズの会話を聴く。ジェットは始終おもしろそうな笑みを口元に浮かべ、隣に座るジョーの二の腕をつつく。


「マリー、の方が呼びやすいんだけどね。でも、フランソワーズの方をみんなが呼ぶなら、ぼくもそうしようかな?」
「当麻さんが、呼びやすいように呼んで下さったらいいわ」
「どっちがいい?」
「え?」
「ぼくに、どっちで呼んでもらいたい?」
「・・あ・・・・え・・・どちら、でも・・」
「選んでくれるかな?」
「・・・私、が?」
「そう、マリーが、あ。それともフランソワーズ?」


そんな会話が始まり、そしてそれは、今週末に誘った”東都タワー”の話題へと移っていった。


「今週が駄目なら、来週でもいいんだけど?」
「来週のことは、まだ・・・わからないの、その。こういう風に急に頼まれたりもする、し・・」
「インターンって週末はないんでしょう?少しは息抜きしないとさ!」
「その、お世話になっているお家のことも、色々あるから・・・」
「マリーはハウスキーパーをしに日本に居るわけじゃないんだから、別にいいんじゃないのかな?」
「・・・でも、本当に忙しいの」
「1日も暇がないの?・・別に”東都タワー”でなくても、お茶くらいも駄目なのかな?」
「お世話になっている邸が、少し遠いから・・・」
「ぼくがその家の近くまで行くよ?」
「・・・・当麻さんも、お勉強がお忙しいのでしょう?」
「マリーに会う時間を作るのに、邪魔になるようなことはないよ。マリーと会うためなら別に、学校の課題の1つや2つ、平気だよ」
「そんな・・・。そんな風に言わないで。当麻さんはシニアなんでしょう?とても大切な時期なのに」
「勉強は一生のもの。でも、マリーとの時間は、・・・・・・今なんだと思うんだ」



甘えるような声色を含めて話しかけながら、当麻は自分の隣に座るフランソワーズの横顔をのぞき込んだ。
フランソワーズは、ピュンマに助けを求めるような視線を投げかける。ピュンマはその度に助け船を出そうとするが、絶妙なタイミングでジェットが脳波通信でピュンマに話しかけるために、当麻とフランソワーズの会話に入るタイミングを逃し続けていた。


<いい加減にしてよっジェット!フランソワーズが困っているだろっ>
<ば~かっ!だから余計なことすんじゃねえっつうんだよっ。いっつもお前に助けられてばっかりじゃ、意味ねえだろ?自分のことは、自分でケリつけさせろっ。甘やかすんじゃねえ、ジョーが何もしねぇのが悪いんだからよっ>


ジェットは横目でジョーを見る。
俯き加減の彼は、表情を長い前髪に隠しているため、彼がいったい今、どういう気持ちで当麻とフランソワーズの会話を聴いているのか、読むことはできない。


ジェットはジョーの足を、力任せに踏みつけた。


「っ・・・・なんだよ?」


突然、足を踏まれて反射的にジェットに向かって顔をあげる、ジョー。
その表情に、瞳の色に、ジェットは驚いた。と、同時に苦いものを噛みしめたような表情で舌打ちをついて、ジョーの腕を取り、立ち上がった。

当麻、フランソワーズ、ピュンマは、突然ジョーの腕を乱暴に掴んで立ち上がったジェットに驚く。


「食事中に悪ぃいなっ!ちょい席を外すぜっっ。思い出した用があんだよっ、すぐ戻るから気にしねぇでくれ!」
「はっ・・」


ジョーはジェットに捕まれた腕を振り解こうとしたが、ぐっと、捕まれたジェットの手の力の強さに、逆らうことができなかった。


「ジョー、つきあえって、悪いようにはしねえからよ!」






















####

ジェットに腕を引っ張られる形で、地下へと連れられていく。
地下にある遊戯室のひとつの部屋をのぞき、誰もいないことがわかると、ジョーを力いっぱい床へと投げた。

投げられるままに、床に倒れ込んだジョーは、すぐに体制を整えたが、立ち上がらない。
ジェットは、床に膝をついてジョーの胸ぐらを掴みあげた。


「バカか?」
「・・・・・ジェットに」
「オレに言われたくないってか?じゃあっそんなツラしてねぇでっ!とっととなんとかしやがれよっ!中途半端なんだよってめえはっ!!」
「・・・・」
「言ったよな?フランソワーズが幸せでいることが、お前自身の望みだってよ?」
「・・・・・・・ああ」
「お前自身がアイツを幸せにできねえって言ったよな?資格がねえって、アイツを不幸にさせるだけだっつってよっ!!じゃあ、なんでフランソワーズのメンテナンスに参加したっ!2人きりで長電話したりしてっ、なんでケーキをリクエストしたりするんだよっ、嬉しそうにしゃべって、優しく笑いかけてっ、フランソワーズにむかって好き好き光線出しまくりじゃねえかっ!!」
「・・・・」


まっすぐに睨み付けるように見ていたジェットの瞳から、ジョーは視線を逸らし、唇を噛んだ。


「その上、赤ん坊だって、サルだって気が付くような嫉妬してんじゃねえよっ。俺以外の男と話すな、親しくするなって、訴えるような泣きズラしやがって、お前はいったい何がしたいんだよっ!!アイツの幸せを望む。とか言っておいてっっ、結局、中途半端な態度のままのお前が一番アイツを不幸にしてるっつうのがわかんねえのかよっ!!邪魔してんじゃねえよっ。フランソワーズの幸せはっフランソワーズが決めるんだっ、てめえじゃねえっ、009でもねえっ。アイツ自身なんだっ。自分の気持ちをカッコつけた言葉で誤魔化してんじゃねっ!!逃げてるだけじゃんかっ。お前はっ逃げてんだよっ。現実からっ!フランソワーズは、フランソワーズだっ!そしてアイツはサイボーグに改造された003なんだよっ!003であることが、フランソワーズなんだよっ。フランソワーズでいることがっ、003でいることだっつうのがわかんんねえのかよっイマサラっ!」
「・・・・ジェット・・・・」


ジョーの胸ぐらを掴むジェットの手が、さらに強くなった。


「オレが命をかけて、宙(そら)から連れ帰った男は・・・・、誰だよ、ここにいるお前だっつうのかよ?・・・・情けねえっ」


ジェットはジョーから手を離し、顔を背けた。
ジョーは床に、胡座をかくように座る。


「嫉妬、してたように、見えたんだ・・・。はっきり言って、おもしろくないよ、篠原がフランソワーズに話しかけるのも、誘うのも、全部・・・。だけど、それ以上に・・・・」
「・・・んだよ、それ以上に」


ジョーの声は、弱々しく、吐き出した自分の言葉に興奮冷めないままのジェットだったが、高ぶった感情を抑え込むようにして、ぶっきらぼうにジョーの言葉を促した。


「気づいてた、か?」
「なにに、だよ?」
「フランソワーズが、”眼”を、”耳”を使っていたの」
「・・・・・・なんとなくは、やっぱり使ってたのかよ?・・・お前、わかってたのか?」
「見てれば、わかる。フランソワーズには、俺の加速装置みたいに”スイッチ”がない、からね。自然に、フランソワーズの中で、ある動作をすることで、スイッチの代わり、みたいな”切り替え”をしているみたいなんだ。それが癖になってるし。だから、すぐに気がつく」
「だから、それがなんだよっ」
「・・・・・指示してない。確かに、俺はカフェテリアに入る前、フランソワーズが石川がここへ戻ってきたと言ったから、彼女に石川斗織の所在地を確かめてもらった。津田が寮に戻っているかどうか、も。それだけだ・・・。でも、フランソワーズは、ずっと・・・」
「石川の動きを、追っていたのか?」


ジョーは頷いた。


「通信で、今は、いいと。言った・・・。彼女は、”わかった”と、いいながら・・」
「やめなかったんだな?」
「そう、だ・・・・」



篠原当麻と一緒にいようと、他の男と一緒にいようと、それが誰であっても、フランソワーズは003として動くだろう。

トレーに乗せた皿に、美味しそうな料理をたくさん選んで乗せても、大好きな甘い御菓子を並べても、それに夢中になることなく、彼女の”眼”は”耳”は、冷静にターゲットを追う。












”普通”の女の子が、することだろうか?
”普通”の女の子が、できることだろうか?










戦いのない日常生活に身を置いても、戦いに染まった躯は、そのままなんだろうか?
平和な世界に送り出すことが出来ても、彼女の躯は一生、戦いの名残りを残したままなんだろうか?


一生、彼女の躯から戦いは消えない?



それが




哀しくて、悲しくて、寂しくて、淋しくて、口惜しくて、悔しくて、そして、愛おしくて。












抱きしめたい衝動を抑えるのに、耐えた。




強く、強く、強く、



この腕が持つ力をすべて、で。





強く、強く、強く、そして、強く、



抱きしめたかった。








視なくていい。と叫びたかった。
聴かなくていい。と、怒鳴りたかった。

















気が付かなければよかった。





女の子。と言う印象が強い、フランソワーズ。


護るべき、想いをよせる女の子が。
手に入れたいと、欲望の熱を与える、女であったことなんて。







永遠に変わることのない、幼さを残した印象のあるフランソワーズの顔立ちにも関わらず、”女”であることを、みせられた。







女である、フランソワーズに、気づきたくなかった。



高まる熱を、抑えるのが苦しくなるだけだから。
その全てを奪いたくなる、だけだから。


めちゃくちゃに、したい。と、芯に眠る男の俺が吠える。




















触れない。と、誓ったから。
ただ、苦しみが増すだけ。







中途半端?

サイボーグである、自分の存在そのものが、中途半端じゃないか。
人間でもない、機械でもない。

好きな女性を、戦いの世界しか連れて行けない。














フランソワーズ、俺はキミが、好きだ、よ。










「・・・好きだから、中途半端・・・・なんだぜ?ジェット」
「・・・・・・どういう、意味だよ?」



ジェットはまっすぐにアンバー・カラーの瞳を見据えた。


「矛盾した現実と、俺が望む理想の中で、一番バランスが取れた選択だったんだ・・・・。俺は、フランソワーズが好きだ、よ。だから、何もしない。何もすることができないんだ・・・・。003として生きる時間の方を優先させてしまう、から」
「フランソワーズを優先させるよう努力すりゃいいじゃんかっ」
「・・・・・俺といると、フランソワーズが003でいることを優先させる。彼女自身が、003でいようとするんだ。俺の存在が・・・フランソワーズであることを奪う」


ジョーは、微笑んだ。
ジェットは、痺れた鼻奥を息を止めて、耐えた。



泣きたくなったが、耐えた。



「ジェット、俺は本当に、フランソワーズが好きなんだ、よ」










やっと聞くことができた、ジョーの本心に。
嬉しさと哀しさが半分、半分。





「・・・・ああ、オレもフランソワーズが好きだ。そして、同じくらいおめえもよ、だから探していこうぜ、オレたちは家族だろ?誰1人、不幸にさせるもんかっ。オレが許さねえっ・・・・。絶対に、みつけてやるっ、このオレが。おめえも、フランソワーズも両方120%幸せになるっつう道をな!」
「・・・・・j・」
「オレは、奇跡を起こした男だぜ?・・・・宙(そら)からお前を連れかえってきたんだ。朝飯まえだぜ!」


ジェットは、ジョーの髪をぐしゃぐしゃにかきまわした。
その手が、自分をもう1度、フランソワーズに逢わせてくれたことを、思い出した。














=====58へと続く





・ちょっと呟く・

事件を忘れないでください(笑)















web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。