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Day by Day・58
(58)







座っていた主を失った2脚のイス。
唐突に、ジェットはジョーの腕を掴んで立ち上がり、カフェテリアから出て行った。
ピュンマはすぐに脳波通信で、ジェットに「何かあったの?」と、訊ねたが、彼からは何も返事が返ってこないままであった。


カフェテリア内に残された、ピュンマ、フランソワーズ、そして当麻は、そのまま夕食をすすめて、フランソワーズがトレーに乗せた料理の2/3以上を食べきったころ、ピュンマと当麻は食後の珈琲をテーブルに置いていた。

ジェットとジョーが席を離れてから、フランソワーズは迷ったけれども、”眼”のスイッチを入れて、2人を探し、その姿を地下の1室で見つけた。
こぼれ落ちそうにおおきな瞳を、不安そうに瞬かせて、少しばかり切なげに寄せた眉根が、よりいっそう、フランソワーズの美しさを強調させる。


<心配しなくても、大丈夫だよ!ジョーと一緒だしね>
<ピュンマ、2人は地下にいるわ・・・、何か・・話し込んでるみたい>
<聴いたりしたら駄目だよ?・・・あとできっと報告してくれるだろうし、ね?>
<わかっているわ、ピュンマ。でも・・・突然、どうしたのかしら?それに、ジェットが怒っているみたい、ジョーに・・>
<2人は大丈夫だよ、だから、視なくていいよ。それより・・・ほら、ぼーっとしない!>


「マリー?・・・・気分でも悪い?」


ピュンマの脳波通信の声と、当麻の声がかぶった。
黙り込んでテーブルの一点を見つめているマリー/フランソワーズをのぞき込んだ、当麻。思いの外当麻の顔が近く、フランソワーズは背をそらせるような感じで、躯を使ってその視線から逃れた。


「え、・・・・あ、大丈夫よ。私も珈琲をいただいてくるわ」
「それじゃあ、ぼくが行くから、待っていて」


立ち上がろうとしたマリー/フランソワーズを制して、当麻が立ち上がり、ドリンク・コーナーへと歩き出した当麻の背を見ながら、ピュンマは呟いた。


「彼がいると、やりにくいね・・・。007からの報告によると・・もしかしたら、なんだよね?」


ピュンマには津田海の”足”のことを省いて、報告を済ませていた。



「ええ・・・。まだ007が姿を現さないということは、結果が出てないってことでしょうね。あくまでも、2人がホテルで話していた会話から。だったから、ただの恋人同士、かもしれないのだけれど・・・・・」
「彼と石川先生が並んで立つ姿を見たことがないから、難しいなあ・・。想像できないよ」
「・・・・なんとなく、当麻さんの日本人離れした容姿は」
「父親譲り、って見えるけどね」
「そうね・・・。でも、ジョー・・・は、ある程度予想していたみたいな、感じだったわ」


ピュンマはミルクを入れた珈琲を一口飲んだ。


「まったく、ジョーには驚かされるよ!ほんと、・・・僕たちの中で、補助脳を120%使いこなしてるのは、009だね。時々なんだけど、もしかしてジョーは、イワンと同じような力があるんじゃないかって思うよ、そう思わない?」
「そうかしら・・・。だったら、もう少しちゃんとネクタイを締めることができてよ?」


フランソワーズは微笑みながら、愛らしく首を傾げてみせた。。


「器用な方だと思ってたんだけどね、ジョーって」
「どうしてみてあげないの?ピュンマは気にならないのかしら?」
「気になったよ!!勿論っ!でも嫌がるんだよ、直してあげるって言ったのに、こんなの誰も見てないから、適当でいいって!」
「ジェットよりも、ヒドイなんて・・・」
「・・・・絶対自己流だと思うっと、噂をすれば、ほらっ。戻ってきた」


ピュンマはカフェテリア入り口に向かって指を指した。









ドリンクコーナーで、フランソワーズの分と、自分の2杯目の珈琲を淹れてトレーに乗せたところで、カフェテリア内に入ってくる人影に気が付いた当麻は、それがジェットとジョーだと気が付いた。


ジェットが、ジョーの肩を力強く叩いた。
長身のジェットを見上げるようにして、ジョーは笑い、そして何ごとかを呟いた。
当麻の立つ位置から、ジョーが何を言ったのかは聞こえないが、その言葉に、ジェットの瞳は大きく見開いて、・・・・・そして、その言葉に応えるように、ジョーの背中を勢いよく、カフェテリア内に響くほどに強く、叩いた。

ジョーの躯がその強さに、前へと傾く。


「オレの分の珈琲、頼むぜ!」
「・・・俺が?」
「おうよ!ったりめぇだろっ。ミッションとは関係ねえ労働させやがったんだ、これくらいっ!」
「ブラックと、・・・・・・チョコレートチップ・クッキーも?」
「わかってんじゃん!」
「・・・・・その代わり、ケーキ食うな、よ」
「ああ?!食うぜっ、決まってんじゃん」
「やだ」
「はあ?!」
「・・・・・・・・やっぱり、もったいないから、食べさせない、よ」
「だあああああっっ!なんでそこだけ素直になりやがんだよっ!ネクタイも満足に締められねぇやつがよっ!」


ジョーの背後からジェットは腕を伸ばし、その腕をジョーの首に巻きつけて、軽く首を絞めた。


「っっ離せっトリ頭!」
「てめえよりマシだっ!このっろくに告白もできねぇネンネのくせによっ!生意気なんだよっ」


カフェテリアの入り口で、取っ組み合いを始めたジェットとジョーに驚く当麻。しかし、彼らが真剣にケンカしているのではないこは、その表情からすぐにわかる。


離れたテーブルから、立ち上がったピュンマが叫んだ。


「な~~~~~~にやってんのさ!2人ともっっ!!じゃれてないでこっち来いよっ!まだ食事の途中だろっ!!」


フランソワーズが、ピュンマの声に合わせるかのように、2人に向かって手を振った。
ジョーから腕を離し、ジェットはフランソワーズに向かって応えるように手を振り、2人の座るテーブルへと向かう。
ジョーはフランソワーズの方へ視線を向けただけ。
当麻は、ジョーの視線を追って、その先にいるフランソワーズを見る。






形良い唇が、色よく輝き、微笑みをかたどる。
小鳥のように愛らしく、傾けた方向に投げかける、ロイヤル・ブルーの光あふれる瞳は、ゆるやかに彼を映していた。


彼を。




自分ではない、彼を。









刹那に絡められた視線は、甘く煌めいたように、当麻には見えた。









ジョーは、呆然とフランソワーズを見つめる当麻の近くに立ち、珈琲が入ったシルバーのポットから、ジェットと自分の分の珈琲を注いだ。


「これも、そのトレーに乗せてもらえる?」


声をかけられて正気に戻った当麻は、慌てて視線をドリンク・コーナーのテーブルに置いた、トレーに戻した。


「あ、・・・・・ああ・・。もちろん」


ジョーは当麻の前に置かれていたトレーに、珈琲を注いだ2つのカップを乗せる。そして、デザート・コーナーへと歩き出した。

そのジョーの背に向かって当麻は言葉をかける。


「で、デザート?」
「ジェットが、ね」


大きめに焼かれた柔らかいクッキーは、ジェットのお気に入りである。どうやらジェットは、かたく焼かれたクッキーはあまり好きではないらしい。ジョーにとっては、柔らかすぎて、それをクッキーと呼ぶのはどうか?と、疑問に思うのであるが、それ以前に甘すぎて、試しに食べた破片ですでに、胸焼けがしそうになったため、以来、口にしていない。

まとめて置かれているデザート皿から、2枚皿をとり、1枚ずつクッキーを乗せて、その2枚の皿もトレーに乗せた。


「リンクの分だけ、じゃあ・・・」
「・・・フランソワーズ、の分の珈琲だろ?それ」
「・・・・・・うん」
「砂糖も、ミルクも頼まなかったんだろ?」
「・・・・・・そうだけど・・?」
「もしかして、ほとんど食べた、あの量を?」
「2/3以上は」


当麻の言葉に、ジョーは苦笑する。


「・・・・・じゃ、きっとまだ、喰うな・・」
「えっ・・それはないって!」
「・・・・・・・このクッキー、フランソワーズに渡して。そしたらわかる」
「島村っ!無茶だよっこれ以上はっ」
「・・・・・・・・・・いいから。たぶん、大丈夫だ、よ」


ジョーに背を押されて、当麻ははテーブルへと歩き出した。
その後ろをジョーが歩く。




















本当に、大丈夫だった。








テーブルにつき、トレーを置く。
フランソワーズは自分が食べ終わった食器類を片付けるために、席を立っていた。


「ジョー・・フランソワーズのやつよお・・」
「・・・・篠原から聴いた」
「アイツ、の胃・・・って・・・・・」
「・・・もしかしたら、まだ食べられるのかもしれない、よ?」
「ねえ、”大食い女子高生”で有名な子たいよね?・・・あの子とフランソワーズってどっちが凄いのかなあ?」
「フランソワーズだっつうの!」
「フランソワーズだと、・・・・・・・思う」


ピュンマの質問に、ジェットとジョーの声が重なった。
ジョーは席にはつかず、自分とジェットの分の食器をひとつにまとめて、指定の場所へと片付けるために、再び席を離れた。


ジョーと入れ違いに、フランソワーズがテーブルに着く。
ジェットがトレーから、先にチョコレート・チップ・クッキーを乗せた皿の方を取ったために、当麻は淹れてきた珈琲と一緒に、残った方の、ソフト・クッキー(ホワイトチョコレートとマカデミアンナッツ入り)を乗せた皿を、置いた。


「ありがとう、当麻さん」
「いいえ、・・・あの・・・」
「美味しそう・・・。ジェットが好きなはずだわ。これ、ソフト・クッキーね?日本はソフト・タイプってあまり売ってないもの・・・。私の分もとってきて下さったのね?ありがとう、当麻さん」
「・・・・・・t」
「だろっ!クッキーっつうのは、これくらいじゃねえとよっ!今度作れよなっ」
「そうね。・・・今度、作ってみるわ」


フランソワーズは一口サイズに、クッキーを割り、それを形良い唇の中へと運ぶ。
嬉しそうに満面の笑みがこぼれて、それを見ていたピュンマも、ジェットも満足そうに笑った。


「美味しい!・・・ふふ、ホワイト・チョコレートが一番ね」
「っだよ、邪道だぜ?んな、ホワイトチョコレートなんてよ!王道はこっちのチョコレート・チップだろ!」
「邪道でもいいでしょう、私が好きなんだもの!」
「・・・」
「へえ、フランソワーズはホワイトチョコレートが好きなの?」
「チョコレートはなんでも好きだけど、特に好きなのはホワイトチョコレートなの。どうしてかは訊かないでね?・・・・なんとなく自分用はホワイトチョコレートになってしまうの、でも、それはごく最近になってから」
「・・・・・・そr」


ーーーそれをとってきたのは、ぼくじゃなくて・・・









甘いクッキーに、気分が高揚するのか、花が咲くように明るい笑顔で話すフランソワーズ。
ジョーがテーブルへと戻ってくると、わざとらしい溜息をつきながら、呆れたようにフランソワーズにむかって話しかけた。


「・・・・・まだ、食べられるんだ、ね・・」
「失礼ね。言ったわ、私」
「「スイーツは別腹(なの)」」


ジョーがふっと口元で笑った。
フランソワーズは、重なってしまったセリフに、ムッとする。
大きく息を吸いこんで、言葉を続けた。


「「甘いものがないと、ブラック珈琲なんて苦くて飲めない(わ)」」


こぼれ落ちそうな大きな瞳をさらに大きく驚きに見開いて、フランソワーズのセリフをぴったり。と、当ててみせた、ジョーを見つめた。
レースのように縁取られた長い睫が、瞬く目蓋を追いかける。

そして、フランソワーズは、ぷうっと頬を膨らませてから、ジョーを睨んだ。


「「も、ひどい(わ)!」」


くくくっと喉奥で嗤いをかみ殺しながら、ジョーはテーブルの上に置かれたトレーにある、自分の分の珈琲をとって、飲んだ。


飲み慣れた、ブラック珈琲を初めて甘く感じた。



<・・・・生きててよかったよ、僕・・>
<はあ?!>
<・・ジェット、僕・・・・幸せだよ・・ジョーが、ジョーがっっ!!>
<ったく、これくらいで感動してんじゃねえよっ!>
<・・・でもっ・・いったい何したのさっ、ジェット・・・ジョーに魔法でもかけたの?!>
<魔法かあ・・・魔法っていやあ。魔法かもなあ?・・・・>


















「ジェット、俺は本当に、フランソワーズが好きなんだ、よ・・・」


















フランソワーズは、ジョーにむかって何かを言おうと、口を開けるが、またセリフを読まれるのではないか。と、言葉を選ぶ。
その間、口がばくばくと、空気を食べる仕草が可愛い。

当麻は黙ってジョーとフランソワーズのやり取りを見ている。
ジョーは美味しそうに珈琲を飲みながら、フランソワーズの様子を窺ってた。



<ジョーになにしたのさ!?>
<・・・・ん?・・・・ん~~~~~、気持ちって言うのはよお、認めるっつうか、口に出して初めて気が付くっつうか、始まるんじゃねえのか?>
<?>
<アイツがため込んでいたもんを、オレがちっとばかし、引き受けてやったんだよ、簡単なこった。アイツは009としては優秀で、リーダーとしても最高にできたヤツで、オレができねえことを99%やってのけるけどよっ、でも、オレにできて、ジョーにできねえことが1%あるんだぜ?>
<それはなんなの?>
<オレは、バカで脳天気、考えることが苦手でよ、人の気持ちを読んで行動するっつう、器用なまねできねえし、相手や周りのことなんてかまってられんえくらいに、自分のことで手一杯でよ、単純だし>
<へえ、ちゃんと自分を知ってるじゃん!偉いよ、ジェット!>
<ウルセ!・・・・・・・・・ま、00メンバー特攻隊長のオレを見習えってことだ!>
<ええ?!そんなの答えになってないよっ!>
<これが答えなんだよっ!>














” ’何もしない。何もすることができない’なんて嘘だろっ!たった1つっ、てめえができることがあるじゃんかっ?アイツを絶対に泣かせないことだ!ずっと笑わせてやることっ、いいか。ずっとだ。ずっと、永遠に、フランソワーズのそばにいるときはずっと、ず~~~~~~~~~~~~っと、だぜっ!それが、ミッション中でも、戦場でも、どこでもだっ。メンテナンス中でも、アイツが微笑んでいるくらい、だぜ?いいか、ジョー。それだけ、だ。アイツが何を”視て”も”聴いて”もすぐに忘れて、微笑みを取り戻せるくらいにしてやれよっ!フランソワーズが他の男のモンになってもっ本当に好きなら、好きな女の笑顔を永遠に護れっ。この1つだけ、やりとおせっ!オレに誓えよっ”





フランソワーズの笑顔を、永遠に・・・・・護ること。












彼女が幸せある、証。















”・・・ああ、誓う、よ。絶対に・・・護る”
















それで、十分なんだぜ?





フランソワーズを最高の微笑みは、お前と一緒にいるときにしか見られないんだからよ!
ジョー、お前はそのために、ずっとアイツのそばに居続けなきゃならねぇんだ。



ったく、こんなにシンプルじゃねえかよっ!




不幸になるわけねぇじゃんかよっ
120%お前らは、幸せなんだぜ!一緒にいるだけでっ!



だからよっ、オレが絶対に、お前らをまとめてやるからよっ!
このジェット様がだっ!




探していこうぜ!
お前らが好きだと言い合えるえる日を!



















次の言葉を一生懸命に考えるが、ジョーの余裕の態度が、次ぎの言葉も言い当てられそうだったので、フランソワーズは話すことを諦めて、もう話しません!っと言う意思を込めて大きな口を開け、ジョーが選んだクッキーとは知らないままに、それを口へと放り込む。




大好きな、ホワイトチョコレート入りのマカデミアン・ナッツ・クッキーを、花が明るく咲くように微笑んで、食べた。
















####

ーーーいやあ、こりゃ・・青春だね~・・・

雨を避けるように、紫微垣に入り込んだ1匹の赤い天道虫が、ふぅぅぅぅんっと、地下で偶然見つけた2人の仲間に話しかけようとしたが、話しかけ憎い雰囲気だったために、声をかけそびれてしまい、今、カフェテリア内の、5人グループのテーブル下で、4本ある腕を器用に組み、小さな躯を潰されないように、テーブル裏の蝶番部分に隠すように身を潜めていた。天道虫の脳波通信の回線をオープンにしているため、ここにいる00メンバーの通信も会話もすべて、天道虫に筒抜けであった。



ーーーま、そろそろいっかな?






<よ!お楽しみのトコロ申し訳ないが、学生諸君!>
<007!>
<よお、来てたのかよ!?>
<・・・・結果が出たのか?>
<ここで、聴くの?・・・当麻さんが・・>
<002、予定通り、フランソワーズと帰ってくれ>
<了解っ!雨ってのが最悪だな・・・>
<上のcoopがまだ、開いてるよね?フランソワーズの着替えとか適当に用意しておくよ、さすがに傘を差しながら飛ぶのは無理だもんね?>
<・・・007、003はここに残ってもらう、ギルモア邸に伝えて欲しい>
<それはいいが・・・何かあったのか?!>
<詳しくは、002、008の部屋で。ここを出よう>








時間なので、そろそろ帰る。と言う言葉を聞きながら、結局、当麻は来週の約束を取り付けることができないまま、フランソワーズとジェットを見送ることになった。



ただただ、好きと言う気持ちに、逆上せていた。
いつの間にかそれが、生々しく痛み始めた。

今まで、何人かの女の子に交際を申し込まれ、そのうちの何人かと、それ相応の付き合いを経験した。
それは、いつも突然向こうからやってくる。


自分からは、初めてだった。


付き合っている間は、もちろんそれなりに好きで、それなりの情をもって接していた。
けれど、何か冷めていた。






こんな風に感じるのは、初めてだった。
そして、こんな感情を持つのも、初めてだ。








結局、彼女はマリーと呼んで欲しいのか、フランソワーズと呼ばれたいのか、選んではくれなかった。
来週末のことも、約束することはできなかった。



リンクとは、”幼なじみ”のような、気心しれた親友のように、ポンポンと言いたいことを言い合う。

ギルモアとは、彼女を包み込むような優しさで接し、それは兄のようで、彼女も背伸びをする妹のような態度で甘えていた。

島村とは、・・・・・・・・・島村とは、・・なんて言えばいいのか、わからない。






部屋に当麻は1人で戻った。
ジョーはピュンマの買い物に付き合うといい、ジェットとフランソワーズを見送ることもしなかった。


同じ邸に戻るから。
同じ邸に住んでいるから。




何の努力もいらない。
彼女に会うために、努力をする必要がないんだ。









狡い。

















####

ジェットとフランソワーズは1度学院の正門を出たあと、すぐに裏門の方へと回り込み、ひと目をさけるようにして、ジェットは空からフランソワーズを連れて学院へと戻った。脳波通信でアルタイル寮の屋上に降り立つことを伝えた。



「雨が小降りになっていて良かったよ。でも、風邪引くといけないから、フランソワーズ、そっちがバスルーム。これに着替えて。中等部もあるから、サイズも問題ないと思うんだけどさ、流石に”男子校だからね・・・。可愛い色とか、デザインがないんだよ、ごめんね」


ピュンマから受け取ったのは、スポーツ・メーカーのロゴが大きく入った白地のTシャツに、同じメーカーの黒のスウェット・パンツ。

タオルでわしゃわしゃと髪を拭きながら、ジェットは横目でちらり。と、ピュンマがフランソワーズに渡した服を見て、溜息をついた。


フランソワーズがジェットとピュンマの部屋にあるユニットバスへと消えると、ジェットは、がしっっとピュンマの肩を掴んだ。


「ったく!気が利かねぇなっ。なんで”下”も買ってくんだよっ!」
「え?」
「男のロマンだろっ!だぶだぶのYシャツに下なし!とかっ」
「はあっ?!」
「学生coopなんて閉まってたっつってジョーのTシャツを着せるとかよっ!もちらんズボンなし!」
「ええっ・・・・。いや、ジョーのって言うのは別にかまわないけど、なんでズボンなし?!フランソワーズが可哀相だろ!」
「わかってねぇなっ!男物を女が着るとだなあ、こう、短いけども良い感じで、太腿あたりまで隠れて・・・そんでっっs痛てええええええええええええっ」


ピュンマのデスクの上に置いてあった分厚い辞書の角で、グレートはジェットの頭を殴った。


「っだよっ、グレートっ!!」


突然の頭部への衝撃に、床に蹲るジェット。


「吾輩の麗しき姫に、お前のような男の前でそんな格好をさせるなど許すかっ!ちったあ、ピュンマやジョーを見習え、ジェット・・・まったく、お前の頭ん中はどうなってんだあ?」
「頭ん中を知りたきゃ、博士に聴きやがれ!」
「博士だって知りたがってるよ。補助脳ならまだしも、脳は”生身”だもん!博士よりもイワンに訊いた方が良いと思うよ、グレート」
「だなあ、そりゃもっともな意見だ」
「イワン、見るの嫌がると思うわ」


アルタイル寮のジェット、ピュンマの部屋には今、グレート、そしてフランソワーズが居る。
いつの間にかバスルームから出てきたフランソワーズが、男3人の会話に割り込んできた。


「おお!姫っ。何を着ても可愛らしいっ・・・意外と、そういうのも似合うねえ、うん」


グレートはフランソワーズの声がした方へと振り返り、Tシャツ、スウェットパンツ姿のフランソワーズをマジマジと見つめた。


「だよ、Tシャツのサイズでけえじゃん、ピュンマ」


目尻にほんのり涙を溜めて、頭をさすりながらジェットは立ち上がった。


「細身だけど、Mだからね。XSでも良かったんだけど、ジョーが・・・さ」
「ああ?!っやっぱりアイツムッツリだぜっ!ほらみろっジョーだって同じようなこと考えてんじゃんっ」
「バカっ!ジョーはっもしも、寮内の監視モニターにフランソワーズが映ったとしてもっ、すぐには”女の子”って判らないようにした方がいいからって、躯のラインが出ないようにっ大きめを選んだんだよっ!!ジェットとは違うよっ!あ、フランソワーズ、そのスウェットパンツとお揃いのウィンド・パーカーもあるからね♪」


<いやあ、吾輩的には、そっちの考えの方が・・・>
<ムッツリだよなっ!!ぜって~、そうだよなっ!”躯のラインを隠すための大きめサイズ”だぜ?>
<・・・・・・むう・・・。ジョー、なかなかやるな・・>
<な?>


「それなら、髪をまとめた方がいいかしら?」
「・・・そうだね。できたら、そのカチューシャも・・・」
「ええ。・・・・・ところで、ジョーは・・どうしたの?」


フランソワーズがジェット、ピュンマの部屋に訪れたとき、そこにジョーの姿はなく、天道虫姿から戻ったグレートだけだった。


「そういやあ・・・、ジョーのやつ遅いなあ、何してんだ?」
「部屋に戻ったの?」


ピュンマがグレートを見た。


「いや、吾輩は訊いてないが・・」


グレートはピュンマの視線をジェットへと流した。


「知らねえぜ?・・・・そういやアイツ、どこ行っちまったんだ?」


グレート、ピュンマの視線にジェットは肩をすくめてみせた。


「ジェットとフランソワーズを迎えに行っている間、グレートと一緒だっただろう?ジョーは、この部屋で」
「ああ・・・で、吾輩がバスルームを使っている間に・・・お前らが戻ってきて、その時にはジョーはいなかったなあ、そういえば」
「呼び出してみっか?」
「学院内なら、どこにいても通信は届くしね」
「携帯でいいじゃね?」


ジェットはズボンのポケットから、携帯よりも主張の激しいキーホルダーをジャラジャラ鳴らしながら、ジョーの携帯を呼びだした。


「・・・・・・・ジョーの携帯電話って、あれ?」


フランソワーズの声に、彼女の指がさす先を辿ると、ピュンマのラップトップ・コンピューターの隣に置かれた携帯電話がジェット、ピュンマ、グレートの視界に入った。


ジェットの耳に届く、留守番サービス・センターのアナウンス。


「だあああああっ!!なんのための携帯だあああああああああっ!」


ジェットの声はしっかりと留守番サービスセンターに預けられた。

















####

アルタイル、デネブ、ベガ、3つの寮はそれぞれ地下で繋がり、そして学院内の生徒達の唯一の自由を満喫できる、紫微垣と続いていた。

ジョーはジェット、ピュンマの部屋を出て監視カメラの位置をあらためてチェックする。すでに、月見里(やまなし)学院内のセキュリティ・システムはピュンマ、そしてギルモア邸のメイン・コンピューターの管理下に置かれているため、さほど問題はないが、どこでどのように足跡を残してしまうか判らない。出来るなら、初めから”残さない”ことが懸命だと考えていたからだ。





夕食前に、紫微垣に戻ってきたと003から報告された石川斗織は、彼らがカフェテリアを出る少し前に学院を出た。007に後を追ってもらおうと考えていたが、石川の車の種類とナンバーで、イワンが追うことができる。ギルモア邸に連絡を入れると、006を通してイワンの言葉が伝えられた。


<彼ハ ほてるダヨ。週末ハ イツモ 同ジ トコロに 泊マル ヨウダネ。>



004に、石川の泊まるホテルへ向かうように指示し、その前に、津田海が通っている病院へ行くことも付け加えた。


「・・・メールで知らせた、津田海だけど、入院、とは訊いていない。篠原総合病院だけれど、本当に彼がそこにいるか、治療を受けているか調べてくれ。彼はまだこちらへは帰ってきていないんだ。今週末は学院に残ると行って外泊届けはだしていない。だから、津田の家の方へは帰っていないはずだけれど、そっちも”確認”してくれ」













アルタイル寮からデネブ寮へと通じる廊下で、携帯電話を切った。
1度、自室へ戻ろうかと考えたが、一歩足を前に出しただけで、そのままジェット、ピュンマの部屋へ引き返そうと背を向けたとき、近づいてくる足音が聞こえた。


「あら、島村君でしょう?」


アルタイル寮の地下まで下りてきたジョーに向かって女性の声。
週末の学院内。

寮に女性がいるとすれば、紫微垣の学生coopか、カフェテリアで働く人間。の、中で自分の名前を知っている人がいるとは思えない。


聞き覚えがあった。







「・・・・篠原の・・、こんばんは」


ジョーは軽く頭を下げた。


「こんばんは、島村君。なあに?あなたはお家に帰らないの?」


近づいてくる篠原さえこが纏う、香水の香りがジョーを警戒させる。



「・・・・はい、学院に早く慣れたいので、今週は」
「真面目なのねえ、良い子よ。そお、で。当麻と仲良くしてる?」
「・・・・・良くしていただいてます」
「それは良かったわ、あの子、誰に似たのか意外と世話好きなのよね、それで?」
「・・・それで?」
「ここで何してるの?」
「・・・友人の部屋へ向かうところ、です」
「あら、もうお部屋に行き来するお友達ができたの?いいわね・・・」
「・・・・友人が待ってますので、これで」


強いムスクの香りから逃れるように、ジョーは足を踏み出した。


「待って、ねえ」


さえこは、綺麗に手入れをされた清楚さを装ったフレンチネイルの指をジョーの腕に絡めた。


「島村君って、ハーフ?」
「・・・・」
「あなたのファイル、見たわ。お母様の名前があったけれど・・・・、いないのね?お父様はどこの人か、知ってるの?」
「・・・・それを言わなければ、ここを追い出されますか?」
「やあね、そんなに意地悪じゃないわ、私。心配してるのよ?当麻と一緒だから」
「・・・・・一緒?」
「あの子も父親がいないの。ね?一緒でしょ?」


さえこはジョーの腕に体重を預けてきた。
強くなる香りに、ジョーは苛立ちを覚え始める。


「けれど、篠原にはちゃんと”母”と呼べる人がいます」


さえこが預けてきた体を、彼女の腕を掴んで力任せに引き離した。
ジョーのそんな態度にも、さえこは余裕の笑みを浮かべる。


「そうね、私ってば当麻の”お母さん”よね?年を取るって本当にいやね。ここじゃないところで、出会っていたら、少しは相手をしてくれたのかしら?」


自分の腕を掴んだジョーの手に、手を重ねて、ジョーの手を自分の腕から解いた。



「・・・そんなこと考えられません」
「じゃあ、今度会うまでに考えてみて、そして教えてちょうだいね?・・・さようなら」


くすくすと嗤いながら、ジョーの横を通り過ぎて、まっすぐにデネブ寮へと向かう。
篠原当麻の部屋にでも行くつもりなのだろう。


ジョーは振り返ることなく、体に滲みたさえこの香りを振り払うように早足にアルタイル寮へと引き返した。



















ジョーとさえこが接触したことを、”眼”を使ったフランソワーズにより、すでにジェット、ピュンマ、グレートに報告されていた。
脳波通信で呼びかけるよりも早く、フランソワーズの”眼”がジョーを見つけたのだった。

アルタイル寮の部屋に戻ってきたジョーから、放たれた甘い香りに、目蓋に焼き付いてしまったジョーの腕に絡まるさえこの、爪、指先、腕、肘、押しつける体。


女、だった。












大胆に、余裕を持って。
大胆に、美しく。



ジョーにぴったりと、体をよせて、体重をかけていく姿。







簡単に、ジョーの腕に。






あの、腕に。








あの、手、に。







あの手は、”独りにしないで。”と、私の手を握っていたのに・・・。















「いや・・・・」
「え?・・・・フランソワーズ?」


ジェット、ピュンマの部屋に戻ってきたジョーは、手短にギルモア邸に出した指示などを伝え、自分が部屋を出ていたときに見た、監視カメラの状態を008に報告し、再度、セキュリティ・システムの確認をさせた上で、007からの報告を聴く前に、003に篠原さえこが、息子である当麻の部屋にいるかどうかを、視て欲しい。と頼んだ。


聞き返された009の声に、びくん。と、躯を跳ねさせ、自分を不思議そうな表情で見つめる仲間達の視線に、やっと気が付いた。


「・・・あ。ご、ごめんなさいっ!ち、違うのっ・・ええっと・・・」


003は慌てて、自分が話しを聴いてなかったことを恥じた。
そんな彼女を見つめていた、009の表情が一瞬崩れたのを、002は見逃さない。


「・・・・彼の、プライベートは護るつもりだから、篠原さえこが今、どこにいるか。だけを知っておきたいんだ・・」
「ええ、わかっているわ・・・ごめんなさい」


003は009に謝りながら、”眼”のスイッチを入れて、当麻の部屋、ジョーの部屋でもあるデネブ寮へと視線を向けた。


「・・・・・いない、わ。当麻さんだけよ」
「寮内には?」


003の瞳はゆっくりと上へと移動し、左右に動きながら徐々に下へとむけらていく。


「・・・・寮内には、いないわ・・紫微垣かしら?」
「石川はいねぇんだろ?」
「・・・・イワンが確認している」
「まって、視てみるわ」


003は首をゆっくりと紫微垣の方向へと向けた。


「・・・・いない、わ」
「もう、学院を出たんじゃないかな?」
「石川斗織は篠原さえことここへ戻ってきたのかねえ?」
「・・・フランソワーズ、ありがとう。もういい、よ。・・・・・007、話してくれ」


フランソワーズは”眼”のスイッチを切る。
ジェットは自分のデスクチェアに座り、ジェットのベッドにグレートは座っていた。
ピュンマと並んで彼のベッドに座り、ジョーはピュンマのデスクチェアに座っている。


「・・・驚かねえで聴いてくれや、ま。009が驚くかどうかは、しらねえがなあ、このミッションも、70%は見えてきたんじゃねえか?」









====59へと続く


・ちょっと呟く・


9、いろんな意味で、がんばってる。
3、大食い発覚。
2、オレさま系、イノシシのごとく余計なお世話になる危険有り。
8、もう少ししたら、君がメインだ!
7、・・・・語って頂きましょう、グレート・ブリテンさんによるっ”みなさん!事件です!”

当麻、・・・・・いや、うん。君いい男だから!もう少しだけ待っていて!





さくら、・・・・・・・・・・・・・・・・・f(^_^; スンマセン
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