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Day by Day・60
(60)





「・・・まだ、起きてたんだね」
「ちょっと色々とあって」


デネブ寮の自室に、フランソワーズが作ったザッハ・トルテを取りに戻って来たジョーは、ドアを開けて部屋の明かりがついていることに、多少の戸惑いを感じた。


「あの、2人のところかい?」
「・・そう。夜食を取りに、ね」

冷蔵庫へと歩み寄り、白い箱を取りだす。
ジョーの動きを視線で追う、当麻の手に握られているのは、携帯電話。


「電話、出ないんだ」
「・・・・・」


ジョーの背に向かい、当麻が呟いた。
冷たい白い箱を手に、冷蔵庫を閉めたジョーは、当麻へと振り返った。


「マリー、なんだけど」


当麻の言葉は簡単に予想できた。
フランソワーズが彼からの電話に気づいていたが、ずっとミーティングを行っており、先ほどまで003として、009と津田海の”足”を視ていたのだ。
彼女に、携帯電話をとる時間などなかった。


「・・・・もう、寝ているかもしれない、よ。ここまで来たから疲れて、早や目に休んだんじゃないか?」
「なんでも知ってるんだね、島村は」


当麻が淋しげに言った。
ジョーの肩が微かに揺れる。


「・・そうでも、ない」
「本当にそう思う?」
「・・・・そう、思うよ」


当麻はデスクチェアに座った状態で、ジョーを見つめた。
ジョーの表情からは、彼が何を意図して自分が物を言っているのかを、理解しているのか、どうか。判断がつきにくい。


「そっか・・。うん、また明日にでも電話してみようかな、島村も、あんまり根を詰めないようにな」
「・・・お休み」
「うん・・・」


部屋を出て行くジョーを見送りながら、当麻は深く溜息をついた。
どうにもスッキリとしない。

けれど、わざわざジョーを問いつめて、聞き出す勇気もない。
そしてそれはマリー/フランソワーズに対しても同じだった。



ーーー知らないまま、で。いいよね?
   ・・・・ぼくの勘違いかも、しれ・・・ない・・っていうことで。






握りしめていた携帯電話をやっと、手から離すことに成功し、自室のバスルームでシャワーを浴びたあと、当麻は眠りについた。















####


ピュンマは各フロアにある共同キッチンにお湯を沸かしに行き、戻る途中、白い箱を手にしたジョーと部屋の前で会った。


「インスタント、だけど。珈琲を淹れるね」
「・・・・ああ」


手にポットをもったピュンマは、ドアノブに鍵を差し込もうとして、その動きを止める。


「ジョー、海に何かあるんだよね?」
「・・・調べてからだ、よ」
「僕が、そんなに信用できない?」
「・・・・・そういう、事じゃない」
「嫌だな、僕だって00メンバーだよ?」
「わかっている、よ。もちろん・・」


ピュンマは真っすぐにジョーをみた。


「ジョーはさ、気を遣いすぎるって言うか、優しいんだけど、それってちょっと違うんじゃないかな?」
「・・・・」
「もっと、信用してよ。僕も、みんなも・・・。1人で抱え込まずにさ」
「・・・・信用、してるけど?」
「肝心なところで、いつもジョーは口を閉ざしてしまうだろ?そして、1人で片付けようとするし、1人で解決しようとして、なんでも1人で物事を進めていく。それって、みんなのことを思う優しさとは、違うよ。逆に、それってみんなに失礼なんだよ?」
「・・・なんでも、1人でこなそうなんて思ってない」
「そうかな?」
「そうだ、よ」


ピュンマは苦笑する。


「もっと、僕たちを頼ってもいいんだよ?・・・そして、甘えても、ね。ジョーは末っ子なんだし!それに、僕の事を思って、海のことで何か隠してるみたいだけど、・・・・・それも、余計なことだ。ちゃんと僕を見て。ジョー、僕をそんなに弱いと思ってるの?」
「そうじゃ、ない」
「僕は008だよ」
「わかっている、よ」
「ジョー。確かにみんな、平和な日常の中で、今後どう生きていくかを真剣に考えているし、そんな平和が永遠に続けばいいと、望んでいる。けれど、今回のミッションも、もしかしたら今後、起こるかもしれない戦いも、君の所為で起こるわけじゃないんだよ?・・・なにもジョーに責任なんてない。ジョーは009で、最後にサイボーグ化された。プロトタイプの中でも、1~8までの技術をバランス良く搭載した、最強の戦士。そのせいでジョーはリーダーかもしれないけれど、それは、ただ、それだけでしかないんだ。いいかい?ただ”それだけ”なんだよ」
「・・・・・それ、だけ・・・」
「誰が、”009”であっても、おかしくなかったんだ。偶然、ジョーだった。偶然、008が僕だった。それは、もしかしたら逆だったかもしれないんだ。・・・覚えておいてね、ジョー。君も僕たちと同じように、生きて、そして自由でいるべきなんだ。みんなの平和な生活を守るのは、君の義務でも、勤めでも、なんでもない。自分たちの幸せや、平和な日常は、ちゃんと自分たちで護る。もちろん、僕たちは、家族で仲間なんだから、力合わせて、色々なことを乗り越えていくだろうけれど、みんな、もうすでに良い大人なんだから。・・・・ジョー、自分のことをもっと、大切にしてよ。そうじゃないと、悲しいな。みんな、悲しいよ」





ーーーそして一番、哀しむのは、君が好きな人なんだよ。







ピュンマは、ドアノブに鍵を差し込んだ。


「みんなが幸せであることを、君が望むなら、僕たちみんな、君が幸せになることを望む。誰1人、誰かの犠牲になることなんて、望んでいない。ずっと、僕はジョーに言ってるよね?ちゃんと、ジョーは、ジョー自身のために、ちゃんと自分と向き合ってよ。そして、そのために、生きて欲しいな。・・・・・さあ!美味しいケーキを食べよう、そして、話してくれよっ。全部!僕はそれを望んでいるんだから。”マクスウェルの悪魔”がもしも、海だったら、ってちょっとヒヤヒヤしたんだよね。さっき」


鍵をひねり、ドアノブを押す。


部屋の中から、ジェットとフランソワーズの声が聞こえてくる。
ジョーは、返事をしないままピュンマの後を追うようにして、部屋に入った。









ーーー自分が、自分のために、自分と向き合う。



部屋に、フランソワーズがいた。
ジョーが手に持つ、白い箱を目にして恥ずかしげに俯くと、ハチミツ色の髪がさらり。と、彼女の肩から一房流れて、彼女の頬にかかる。


着ていた、生成色とベージュの細いストライブ・プリントが施されたフレアスカートと、セリアンブルーのアンサンブルは、ジェットに連れられて”空”から学院に戻ってくるとき、雨に降られて濡れたため、ピュンマが洗濯室にある乾燥機へと、湯を沸かしに行くついでに持って行った。


「・・・フランソワーズ、食べられる?」
「無理だなっ!夕飯、喰った量を考えてみろって!」


フランソワーズではなく、ジェットが応えた。


ジェットはピュンマのデスクにある、彼のラップトップ・コンピューターを使っていた。
フランソワーズは先ほどいた位置に、ピュンマのベッドに座っていた。


「私だけ、のけ者にするの、ジェット?」
「お前のことを考えてやってんじゃんかよ、腹壊すぞ!」
「そんな柔な躯じゃありません」
「いや、そこんところは、柔でいいじゃねえの?」


ギルモア邸にいるような、そんな錯覚がジョーを捕らえた。

フランソワーズは立ち上がり、ピュンマがジェットのデスクに置いた、インスタント珈琲の粉を、紙コップへと入れていった。



”食器だと、洗うのが面倒だって言って、ジェットは洗わずに何度も使うんだよ、不衛生極まりないんだ!だから、もうここは割り切って紙コップに紙皿!”






大量にあった、紙コップ、紙皿、プラスティックナイフやフォークは、すべて”ジェット用らしい。


「お湯は僕が入れるから、フランソワーズ、ケーキをお願いしていいかな?」


ピュンマはジョーの方へと振り向いた。
ジョーは白い箱をジェットのテーブルに置く。
フランソワーズが頷いたのをジョーは観ていたので、2人の邪魔にならないように移動すして、ジェットがのぞき込んでいる、ラップトップ・コンピュータのウィンドウを眺めた。


「・・・イワン?この、”踊る白いウサギ”って」
「じゃねえの?お前のHNより、いいじゃんか、”J”なんて、面白くねえしよ!」
「そういう自分は、どうなんだよ?”Celestial Knight”?」
「ああ?オレらしいだろ?な、ピュンマ!」


ジェットはぐぅっとデスクチェアにもたれかかり、視界を遮るように隣に立つジョーをよけて、ピュンマの方を見た。


「ナイトって言うガラかなあ?、どっちかって言うとさあ」
「なんだよっ!」


ピュンマが笑う。
その声を耳にしながら、フランソワーズは別の声を聞き取った。


白い箱を開けて、ザッハトルテにナイフを入れた手が、止まる。

フランソワーズが”眼”のスイッチを入れた。
ピュンマの方へ振り向いたジョーは、ピュンマの隣に立ち、自分の位置からは、彼の陰に隠れてしまっていたが、フランソワーズの様子を見過ごすようなことはない。


「フランソワーズ、どうした?何を”視てる”?」


ジェットとピュンマはジョーの声に、すぐさま003に注目した。


「津田海さんの部屋へっ!!彼の足がっ」


部屋を飛び出したのは、008。
それに続く、002。

ジョーはすぐさま、ピュンマのデスクにある、もう1台のコンピュータを使い、アルタイル寮内のセキュリティをすべてoffにし、防犯カメラに、2人が映らないように偽の映像を読み込ませた。


<部屋のロックは解いた。ドアを壊すな。誰にも気づかれるんじゃない>


脳波通信で002と008に注意を呼びかけながら、003に向かって訊ねる。


「フランソワーズ、彼は、石川に・・・・」
「連絡できるような状態では、ないわ・・・大丈夫なはず」
「・・・・ギルモア邸へ、連れて行くべきか?」
「009・・・」
「石川に任せても、同じことの繰り返しだ。彼が”トーマス・マクガー”の他の研究資料を手に入れない限り・・・」
「篠原の家には、あったのに・・・・どうして?どうして、その研究資料が使われてないの・・・?」
「理由は、本人に聞くしかない、よ。・・・・連れて行こう。彼をこのままにはしておけないし、あんな状態を放っておくこともできない」


003はスウェット・パンツのポケットに入れていた携帯電話を取りだして、ギルモア邸へメールで連絡を入れた。



<002、そのまま彼をギルモア邸へ連れて行くんだ。008、君は・・・心配だろうけれど、こっちへ戻って。003とここに残るんだ。僕が002と行く。ここで今日の予定をこなしてもらいたい・・・すまない>


フランソワーズの耳に、ジェットが空へと飛び立つ音が聞こえた。
津田海の部屋に、1人、残るピュンマをフランソワーズは”視る”。


「行く、よ」


ジョーの声に、”眼”のスイッチを切ると、いつの間にかフランソワーズの前に立っていたジョーは、着ていた制服のブレザーを脱ぎ捨て、ネクタイを外していた。


「ええ、009」
「・・・ピュンマのこと、頼む。説明してやって欲しい」
「はい」
「あと、予定通り・・・お願いする」
「はい」
「むこうが済み次第、戻ってくるから。・・・・気を付けて」
「・・・はい」


009の言葉に真剣に頷き、返事をするフランソワーズ。
その彼女の手元にある、白い箱の中で切り分けられた1つ、に、ジョーは腕を伸ばし、指で一切れつまみ上げて、一口、食べた。


「・・・・うん、美味しい。さすが、フランソワーズ。・・・・それじゃあ、ね」


フランソワーズは瞬きもせずに、ジョーの動きを追った。


「あ・・・、気をつけて・・」


驚きに見開かれた、こぼれ落ちそうに大きな瞳が、手に持ったそれと一緒に、部屋を出て行く、ジョーを見つめる。
その背に向かって小さく呟いた。

非常口へと向かう間に、ジョーはケーキを食べきる。口の中に残る、ほろ苦いチョコレートと、甘酸っぱい杏ジャムに、瞬きするたびに浮かび上がる、微笑んだフランソワーズに向かって、礼を言う。



ーーー今までで、一番嬉しい誕生日かも、な





それが、その日でなくても。





009は、奥歯の加速装置を噛んだ。









部屋に残されたフランソワーズは、目の前で起こったジョーの行動を何度か再生した後、気持ちを切り替えて、ピュンマに脳波通信を送った。


<ピュンマ、部屋に戻ってきて。いつまでも、そのままそこにいても、何も変わらないし、何もできないわ・・・・。あなたに聴いてもらいたいことが、あるの・・・・>


















####

少しの差であったが、ギルモア邸にジェットが津田海を連れて戻るよりも早く、ジョーは到着した。焼け崩れた服を、自室で着替えてから地下へと赴き、メンテナンスルームには、すでにイワン、そしてギルモアが、フランソワーズからの電話を受けて待機していた。

連れてこられた津田海の左足を見るなり、ギルモアの顔に浮かんだのは、苦渋と怒りの入り交じったものだった。
痛みにより意識が朦朧としている津田海は、今、自分に何が起こっているのかを認識する力はない。イワンは津田海の意識を深い谷底へと沈め込んでいく。
そして、ジョーの手によってかけられた麻酔は、津田の苦痛に歪んだ顔へ穏やかさを取り戻させた。

ギルモア邸で、津田海を地下へと運んだジェットは、1階のリビングルームに向かった。彼を労うように、張大人はグラスに氷をいれたコーラを出す。


「くっそ、喰い損ねちまったぜ!津田のやろう、あとで責任取ってもらうからな!」
「それは、ジョーも一緒アルヨ、またフランソワーズに作ってもらえばいいネ。それより、ちゃんと、ピュンマとフランソワーズに連絡したあるか?彼は博士の手に委ねられたから、心配ないってネ」
「ああ、さっき連絡したぜ」
「それは良かったアル。ピュンマは安心したネ」


キンっと冷えたグラスを手に、コーラをぐいっと飲む。
のど元を過ぎる炭酸の弾け具合が、心地よい。


「んじゃ、早速出かけるとすっかな。用意はできてんのか?」
「002次第ね」


ジェットはグラスを持ったままソファから立ち上がった。


「了解、10分後にな」
「アイアイね!・・・・急に忙しくなってきたアルヨ!」
「しゃあねぇよ、隠していたおもちゃを取り上げられた子どもが、騒ぎだす前に、その”おもちゃ”を扱うには100万光年早えってお仕置きしてやらなきゃいけねんだしよ」
「まったくネ!お尻ペンペンっじゃ、許されないアルヨ!」


















####

フランソワーズが想像していたよりも早く、ピュンマと2人でジェットからの連絡を受けた。その後に、フランソワーズは、紙コップにインスタント珈琲を入れて、紙皿にケーキを乗せたのを、ピュンマに渡して、自分が”視た”津田海の足について説明し始めた。


「・・・・それが、高等部に入学したころに起きた事故の怪我が原因かもしれなくて、海はの左足は」
「義足、よ。左足膝下から・・・。でも、どういう状況で、どうして彼の足がそうなっているのか、今までの流れから、ある程度の”推測”はできるけれど」


手に持っていた、珈琲を円を描くように揺らし続ける、フランソワーズ。


「うん。・・・・・フランソワーズが言いたい事、わかるよ。すぐに調べる。ちゃんと把握しておかないとね。海が、自分の足について、知っているか、知らないのか・・・・。それによって、今後の彼への接し方も考えないといけない。・・・・ったく、心配性だよ!ジョーも、フランソワーズも!これくらいの事で、僕が取り乱したり、ミッションを遂行できなくなったりすると思う?」


ピュンマは笑顔で言った。


「・・・ジョーはね」
「それも、わかってる。ジョーは僕の・・・・日本での’初めての友人’を考えてくれて・・・でしょう?わかってるよ。十分に・・・・それでも、ちょっと腹が立つよ。変なところで気を遣って、肝心要なところを忘れてる!海も、足を痛めるなら、もう少し待ってくれたらいいのにさっ。・・・・・ケーキ、食べ損ねたんだよね?・・・・せっかく、フランソワーズが、ここまで持って来たのに。これなら、ギルモア邸に置いておいた方が・・・」


ピュンマは、紙皿の上に乗せられたケーキをフォークでさし、食べる。
今までフランソワーズが作ってくれたお菓子の中で、このケーキが一番美味しいと思う、ピュンマ。それは、材料が違うせいなのか、それとも、いつも作るケーキとは”違う目的”だったためか。は、解らない。


「・・・・美味しいって言ってくれたの」


フランソワーズは俯いて、呟いた。


「ッ食べたの?!そんな時間なんて・・」


ピュンマは持っていたケーキを落としそうになりながら、俯いてしまったフランソワーズを覗き込み、裏返った声で訊いた。
小さく、こくん。と頷いてみせる、フランソワーズの頬がほんのりと、色づいている。


「ここを出るとき・・・・切り分けた1つを持って・・・」













心配でたまらない、海のこと。
けれども、今、自分が海のためにできることは、何もない。

仲間を信じて、海を任せた。










僕は、今、僕ができることをするしかない。









ーーーだから、ジョー・・・・。
   海のことは、君に任せる。なにも心配してないんだよ、僕は。
   まだ出会って日が浅いけれど、海を大切な友人で・・。
   彼の足が、サイボーグ技術を使った義足だろうと、なんだろうと、何もそれは変わらない。
   彼のために、僕ができることを、僕は一生懸命に、その時がくれば動くだけさ。








ジェットは、君にどんな魔法をかけたの?








ミッションが始まる前の・・・・いや、もっと前かな?
アランとのことがあってから?


ときどきしか姿を現してくれない、恐がりな君が、こちらに向かって歩いてきている気がする。


ーーーもっと、もっと、本当のジョーに会いたい。
   ずっと、’見えない’壁の向こうにいた、本当のジョーに。
   


抑えつけていた。
抑えなければならなかった。

隠していた。
隠さなければならなかった。



もう、そろそろ自由になってもいいんじゃないのかな?
もう、そろそろ君は自分のために、我が侭を言ってもいいんじゃないかな?






ピュンマは隣に座る”自慢の妹”、フランソワーズを見つめた。


「フランソワーズ、海について僕のことは何も心配いらないよ。いいね?もしもジョーがまた、変な気を遣うようなことがあったら、そう言って欲しいな」


フランソワーズは顔を上げ、ピュンマに向かって、真剣な表情で頷いた。


「わかったわ」
「それと・・・・、よかったね。食べてもらえて!ジョーはすごく嬉しかったと思うよっ。残りはちゃんと保存しておこうね。まだ大丈夫だろ?」
「明日・・・今日丸一日は大丈夫よ」


真剣な表情が柔らいで、やんわりと微笑んだフランソワーズ。


「さあ!僕たちもそろそろ、”仕事”をしようか。003、今日の君と009が行う予定だった内容をきちんと話して」


大きな口でぱくり。と、ケーキを食べきったピュンマが、珈琲を飲みながら言った。


「まず、グレートが見つけた紫微垣の地下のコンピュータ、それを確認して、そのコンピュータ以外のを”マクスウェルの悪魔”が使用していないかを確認。その後、石川が学院から与えられている私室へ。彼がラップトップ・コンピュータを持っていることは確認済みだけれど、部屋にはデスクトップもあるの。それを確認するわ。そして、学院本館にある、篠原さえこの父、秀顕の、理事長室、さえこが学院で使っている部屋もよ。そして・・・津田海さん個人のコンピュータ、石川斗織、”マクスウェルの悪魔”が接触していないかを調べるわ」
「009から言われた、彼の事故についても今晩中には調べたいな」
「この学院自体が、”マクスウェルの悪魔”の隠れ蓑・・・、だとすれば、篠原さえこに、協力者がいてもおかしくないと思うって」
「石川以外に?」
「あやめ祭自体にも、009は何かあるんじゃないかって、考えているみたいなの。今まで行われてきた、あやめ祭の後に、篠原グループは大規模な”パーティ”を開いているの・・・。その後、必ずと言っていいほど、篠原グループは企業として、大きく成長する、利益を上げているらしいわ・・・。統計的に見たデータから、パーティの前と後では、全然違うらしいの」


003の言葉を聞きながら、008はジェットの机に置かれたポットから2杯目の珈琲を淹れた。


「あやめ祭自体に、か・・・。チャリティイベントにしては、大規模だもんね。まあ、学園祭を兼ねてるから、普通だと思っていたけれど・・・」
「ゲストが気になるって」
「ゲスト?」
「毎年、学院側が招待する人間が・・、今年は医者、義肢技術者関係なんですって」
「まあ、確かに。それは当然かなあ?だって、チャリティ自体が、地雷の犠牲になった子どもたちに、新しい義腕、義足を送るのが目的だし」
「津田海さんも参加なさるのよ、ね?」
「希望すれば、ジュニアも参加できるらしいからね。聴いてなかったけど、参加するんだ?」


008は新しく淹れた珈琲を手に、003の隣に再び戻った。


「まだ、009はみんなに報告できるほどの確かな情報ではないって言っていたけれど、今のシニアの中に、サイボーグ技術に感心がある人間が・・・いる。と、考えているわ」
「・・・・え?!」
「表だっては、それを口にしてはいないらしいの・・でも、何人かは”篠原技研”と交流があるらしくて。その学生たちは、石川斗織ととても仲が良く・・・。シニアの中でも、彼らは少し異質・・。浮いているらしいわ。009の調べでは、勉強会と称してときどき集まっているらしくて」
「・・・・・べ、勉強会・ってなんだか、それ・・・」


熱い湯を注いで作ったインスタント珈琲の熱よりも、008の手のひらの温度が上がっていく。


「・・・その内の4人は、津田海さんと同じように中等部から。本当は、当麻さんと同じ、シニアだったのでしょう?お友達も多いらしいわね、シニアに・・・。当麻さんは、津田さんとずっと、一緒だったらしいわ。中等部までは仲が良かったらしいのよ」



ピュンマはふと、初めて海をジョーとジェットに紹介したときのことを思い出した。



”島村先輩の、同室って・・・あの”篠原当麻”さん?”
”・・・知ってるんだ?”
”僕はここ、長いですから。それに、彼はこの学院の創立者の・・・ですから、知らないのがおかしいです”




会話は、なにか不自然だった。
海の様子も、少しばかりおかしかった気がする。



ーーー交通事故で1年遅れてしまい、自分が”シニア”ではないことを恥じた?




ピュンマはすぐに否定する。
海は、そんなことで負い目のようなものを感じる、小さな人間ではない。


じゃあ、なぜ?









篠原当麻だから?
それも、おかしい。



彼と、石川斗織の関係を知っていれば・・・。
いや、そうじゃない。










「003、急いだ方がいいみたいだね・・・。”マクスウェルの悪魔”が、篠原さえこ。それなら、誰が海の足を手術したんだろう?なんのための、勉強会・・・。その勉強会が海の”交通事故”から始まったのだったら・・。そして、篠原さえこと深い関係者である、石川は・・・医学博士であり、実際に医師免許ももっているし・・・・。”マクスウェルの悪魔”が情報収集者、そして石川が実行する・・・」
「誰か来るわ!」


008の話しの途中、部屋に近づいてくる複数の足音を003が捕らえた。



「003、こっちへっ」
「生徒らしき2人と、・・・・教師らしい男が1人っ」


”眼”を使って報告する、その彼女の手を引いて窓をあけた。








部屋のドアを強くノックされる。


「・・・はい・・?」
「寮監督の、岩垣だ。開けなさい」


ピュンマは恐る恐る、ドアを開ける。


「あの・・・・どうしたんですか?」


岩垣の後ろに控えている学生は、シニアの学生と思われた。


「名前は」
「ピュンマ・ギルモアです。同室はジェット・リンク。彼は今週末外泊届けを出して家に戻っています」
「・・・部屋に入るぞ」
「どうぞ・・・・あの、何か?」


デネブ寮の監督である岩垣は、乱暴にピュンマを押しのけるようにして部屋へと入っていく。
2人の学生もそれに続いた。


「・・・・いない、か。もしかしたら。と、思ったんだが」


岩垣の呟きから、彼らが”学院生以外の立ち入り禁止の寮に女性がいる”と、フランソワーズを探しているのではない。ことが判った。


「誰か、探しているんですか?ここには僕1人ですよ?」


学院生の2人が、それぞれ、部屋のバスルーム、クロゼットなどを開けて”人”が隠れられそうな場所を念入りに調べ始めたために、岩垣は驚いたように、2人を止めた。


「こらこらっ!そこまでする必要ないだろうっ!!いい加減にしない」
「・・・・いきなり、ひどいじゃないですか、なんなんです?」
「いや・・・・外出先から帰ってきていたハズの生徒が1人、部屋にいない、と・・・この2人が言ってきてね。君は彼と仲が良いらしいから、こっちの部屋に来ているのではないかと・・。各寮は夜中の13時から6時までの間、全扉に自動ロックがかかる。それは”寮監督”以外誰にも開けられないから・・・行き来が出来ない、彼らはデネブ寮でね・・」
「・・・もしかして、津田クンを探しているんですか?編入したばかりの、僕の仲が良い友人といえば、彼くらいしか思いあたらないので」


学生のうち1人が、ピュンマに視線を投げた。
その視線をまっすぐに受け止めたピュンマに向かって、呟くように問いかける。


「・・・今日、彼に会った?」
「本館前で石川先生と待ち合わせしてる時に、1度。それ以来あってませんけど?」


ピュンマに質問をしなかった方が、舌打ちする。








ーーー海は、003が見ていた。・・・病院から帰ってきた彼はずっと1人で、
   002と駆けつけたときも・・・。
   こいつら、見張っていたのか?もしくは・・・・海を・・・。








「ふむ・・・困ったな」
「彼は病院から帰ってきてるんですよね?」
「ああ、この2人が一緒だったらしいからな。知ってのとおり、津田の足のこともあって、今日はルームメイトがいないから、彼の部屋に泊まる約束だったらしいんだが、いつまでたっても連絡が来ないらしくて・・・・困ったな。石川先生に連絡して・・・。すまなかったなギルモア、このことは口外しないように。もしかしたら散歩にでも出て寮に戻れなくなったのかもしれんし・・・、おい、戻るぞ」



<今、石川先生に知られるのは、まずいよね?003>
<もう、あの2人の内のどちらかが連絡を入れたみたいよ>
<ええ?!>


岩垣に促されて、学院生の2人が部屋を出て行く。その2人の後をついて、岩垣も出て行った。



<石川斗織を見張っていた004から連絡が来たわ>
<それで?>
<ギルモア邸に連絡を入れて、こちらに向かっているわ>
<どうしょうか?>
<・・・004と合流してからだ・・003、008>
<<009!>>














アルタイル寮は6階建てであり、ジェットとピュンマの部屋は5階。

008は思い切り勢いをつけて、窓から上にむかって003を投げた。008の腕力により003は十分に屋上までジャンプすることができ、今、彼女は屋上にいる。

003は”眼”と”耳”を使い、008の部屋の様子を窺っている時、004からの連絡が入った。
そして、突然、耳を掠めた空気を切り裂く鋭い音に振り返ると同時に、瞳に映ったのは、見慣れた紅い防護服を身に纏い、1時間ほど前に別れたばかりの009が、いた。


<008、君はそのまま部屋に待機。・・・・彼らが戻ってこないとは言い難い。そこから僕たちをサポートして欲しい。津田の家の方には、すでに006が連絡を入れてある。”友人宅で週末を過ごす”という風に、ね。外泊届けなども、001が”作って”くれた。彼らがもう1度確認すれば、自分たちが見逃していた。と、思うだろう・・・これから、僕は003と動く。まもなく、007もこちらへ来る>


009は脳波通信で008と会話しながら、003の傍に寄る。
003も2人の会話を脳波通信を通して聴いている。自分のすぐ隣に立つ009を見上げるようにして、009の指示を待つ。


<005、006、002が、”景品”を手に入れた者たちの家に行き、001が用意した”偽物の景品”とすり替える、今晩中に終わる予定だ。今から、月見里(やまなし)学院にある”マクスウェルの悪魔”のすべてを消去する。オンライン・ゲームの方も・・・、だ。”彼ら”を追い込む、よ。どうやら、僕は大切な”おもちゃ”を取り上げてしまったようだから・・・・。急ぐ。悪戯はここまで、だ>


「私が一緒だと、加速できないわ」
「・・・大丈夫、必要ないよ」
「ここからでも、”視て聴く”ことが出来るわ」
「確かにね、でも、ここに居て安全かどうか、は保証できない。一緒に来るんだ。今、008の部屋に戻るのも、安全とは言い切れないから、ね。・・・・急ぐよ、石川が来る前に、紫微垣(しびえん)の方を終わらせたい」


009は003の背中に腕をまわし、少し屈んで、彼女の膝下に腕を通すと、軽々と003を横抱きにしてだきあげた。


<008、紫微垣へ向かう>
<了解、セキュリティとかは気にしないで、こっちでカバーするから。ドアを開けるときには、一応報告してね。009>
<了解>


009は地面を蹴り、6階屋上を囲うように取り付けられたフェンスの上に立つ。


「003、見回りの警備員がいるんだ、視て。」
「・・・・紫微垣、正面口に1人、アルタイル寮の裏口に2人、・・・さっき、008の部屋に来た3人と話しているわ。地下の警備室に2人。寮の敷地内の警備員は計5人」
「・・・部屋に来た3人?詳しく訊きたい。キミが屋上に居た原因はそいつらの所為?・・・何を話している?」
「津田・・海さんの行方を探しているわ、もしかしたら、学院内のどこかで、何か問題でもあったのではないかと・・・・、警備員に学院内の捜索を頼んでる...」

「・・・・・放っておいていいな。石川がこちらに向かっているし。混乱させておいた方が、都合がいいから、ね。正面口に1人か、・・・・地下の警備室は、確か007が見つけた部屋の近くだ。3階の石川の部屋から始めた方が良さそうだね。・・・上から、行こう」
「・・・行けるの?」


003の言葉に、009はくすり、と笑った。


「余裕だ、よ・・・。フランソワーズ、僕は誰?」



009は抱き上げている003の腕に力を入れる。
蹴ったフェンスの揺れる音が、深い闇の中に響き渡った。


「サイボーグ、009」





宙(そら)に、鋭い風の路が通り、フランソワーズの声はジョーの胸の中でささやかれた。






=====61へ続く




・ちょっと呟く・

大幅に筋書き変更いたしました(汗)
前半、話しを引っ張りすぎっっ( p_q) シクシク

一気に行きますっ。→とか言いながら、結局引っ張っていそう
事件ですからっ、これが009でしょう?!って言うふうに書けたら
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいですねえ┐( ̄ー ̄)┌ コマッタナ





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