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Day by Day ・3
(3)




B.Gが確実にこの世から消えた・・・とは言いづらい。
あれだけの巨大な組織が長い間、世界中で暗躍していたのだ。
いつまたどこで、再びその芽が出るか・・・。

00サイボーグ達は、復活を阻止するために。
そして、過去のB.Gが残した忌まわしき遺産とも言うべきものをこの世から消すために。
平和な日々を過ごす傍ら、常にその目を闇に光らせていた。








街はずれの海岸沿いに隠れるように建てられた洋館には小さくギルモア研究所、と表札が掲げられている。

初めに行われた邸のリフォームは、主にギルモア博士が必要とする物から始められた。そして、やっと人らしい身の回りの物を揃えはじめた00メンバーたち。メンバー各個人の部屋にもそれぞれの個性が表れ始めた。

インターネットや、取り寄せた家具などのカタログからそれぞれが必要なものを選んでいった。
ジョーが選んだのはシルバーのデスクトップ用コンピューターの机と、高さと幅のある本棚。これはピュンマとアルベルト、そしてグレートも同じ物を選んでいた。それ以外は、細々としたデスクランプなどの、事務的(?)用品が主だった他のメンバーも似たようなものを選んでいたが、ジェットはテレビにDVDプレイヤーなどの電化製品を中心。アルベルトはゆったりと座れる独りがけ用のソファと間接照明を選び、ジェロニモは日本の「茣蓙」に「座布団」を注文し、みんなに不思議がられていた。帳大人はカーペットや布物に拘りがあるらしく、グレートは自分用のアフタヌーティを楽しむためのテーブルやイスなどを選んでいた。イワンのためのベビーベッドやタンスも忘れていない。

インテリアや部屋作りを一番に楽しむだろうと思われていた、女性であるフランソワーズは、00メンバーが予想していた通りに、嬉々として主にみんなが使うリビング、ダイニング、バスルーム、ランドリールーム、キッチン、ゲストルームなど、より住みよくするために、色々と彼女なりに考えたものを選び出していた。

ふと、ピュンマがフランソワーズが自分の部屋に置くものを何一つ選んでいないことに気がついた。他のメンバーは彼女も一緒になって、カタログやコンピューターに写し出されるものを睨んでいたので、気が付いていない様子であったが、彼は改めに書き出された注文票などをざっと見る。

そこには・・・どう考えても彼女個人の物と考えられる品は書き出されていない。


「・・・?」
「どうした、ピュンマ?」


フランソワーズは帳大人と一緒にお茶を淹れるためにキッチンへとむかったところだった。注文票やメンバーが選んだ物を書き出した紙を見つめながら、首をかしげるピュンマ。


「いや・・・あの、さ・・・フランソワーズは何か頼んだ?」
「うるせ~くらいに、文句言ってたじゃんか、棚の数だの、カゴだの、アイロン台が必要だの!」
「・・・うん、そうだね」


これだから女は面倒臭い!とばかりにジェットは足をテーブルの上に置いた。


「おい、足をおろせ・・・」


アルベルトは、ぱしっ とジェットのマナーの悪い足を叩きながら、ピュンマの持つ紙をのぞき込んだ。


「・・・確かに、それらしいものはないな・・・」
「ね?」
「飾り棚とか言ってたじゃねーか、チェストとかも欲しいだのよ~」
「それ、ゲストルーム用だよ」
「なんだ?姫は何も選んでいなかったのかい?あれだけ一所懸命にカタログを見ていたのに?」
「いらねぇんじゃね?」
「そんなわけないじゃないか。女の子だよ?今だって・・・色々と不便なんじゃないかな?」
「ドルフィン号に居たときより、ましじゃんか」


アルベルトは、ピュンマからそれらの紙を受け取ってまじまじとみつめたとき、焼きたてのクッキーの香りと香ばしい珈琲の香りがリビングに広がった。


「さあ、お茶の時間アル!今日はフランソワーズが焼いたクッキーも一緒ネ!」


キッチンからリビングに入ってきた2人に自然と注目するメンバー、みんなの目線がフランソワーズに集まった。
それぞれに珈琲を配りながら、フランソワーズはみんなの視線が自分にあることに気が付く。


「なに?・・・どうしたのよ?」
「いや、あのさ・・」
「お前は何もいらないのか?」


ピュンマが口を開こうとしたとき、その声と重なるようにアルベルトが少し大きめの声でフランソワーズに訊ねた。そのストレートな物言いに、ピュンマは目を白黒させる。


「・・・オーダーを出すのは明日でしょ? もう少し考えさせて?」


にっこりと微笑み、この話題は終わりとばかりに、地下に籠もるイワンと
ギルモア博士を呼びにそそくさとリビングを去っていった。


「女ってぇもんは、こういうのに時間がかかるんだよな~」










####

地下に用意された、ギルモア専用の研究室にはイワンと、そしてジョーが居た。ジョーがいつの間にリビングからここへ来たのか、フランソワーズはまったく気が付いていなかった。彼はときどき風に流される雲のように、そこに居たかと思っていても、いつの間にか、ふわり とその姿をどこかへと隠してしまう。
今日もみんなと一緒にリビングで賑やかな輪に入っていたはずだった。彼女は彼が必要だと言ったものを、きちんと紙に書いたのを覚えている。


「・・・博士、お茶の用意ができましたので、休憩なさってください。イワンもお腹が空いたでしょ?ミルクを用意したの。ジョー、あなたも・・・」


フランソワーズが声をかけたとき、博士の隣でとても厚い本を膝に抱え込むようにして読んでいたジョーが、ゆっくりと本から視線を外してフランソワーズをみる。
その瞳はとても柔らかな光を宿していた。ジョーの瞳を見てしまったために、彼女の言葉は途中で空気に紛れてしまい音にならなかった。ジョーは視線をギルモアに移し、本を自分が座っていた椅子に置いてから、ギルモアの肩に手を置いて声をかけた。


「博士、お茶だそうですよ。せっかくフランソワーズが淹れてくれたのが、冷めてしまいます。一度リビングへ行きませんか?」


ジョーの座っていたイスの横に置かれていたベビーベッドから、イワンはその小さな手をフランソワーズに向けて差し出した。


<ボク、お腹スイタ>


イワンは短くテレパスでミルクをフランソワーズにねだる。
どうやら彼は自分で移動する気はない様子なので、フランソワーズは彼を抱き上げて、もう一度ギルモアに声をかける。


「博士? こちらにお茶をお運びすることもできますけれど・・・みんながリビングにいるんですもの、せっかくですから博士もいらしてくださりません?」


フランソワーズは丁寧な言葉でギルモアを誘うが、その語尾は父親に甘えるような調子が含まれていた。自分の娘、いや、それ以上の愛情を持って可愛がっているフランソワーズの、そんなお願いを無碍に断ることができないギルモアは、ふう と短い息を吐き、やっと重い腰を上げてリビングへ向かうことにした。ジョーはギルモアを先に部屋から出ることを促し、そしてフランソワーズの後についてリビングへ戻った。

フランソワーズは、何事もなかったかのように日々を重ねていく。「あの日」から一週間が過ぎた。ジョーの態度も今までと変わりなく・・・、自分ばかりが胸を弾ませてしまうことに、少しばかりの淋しさを感じていた。ジョーは誰にたいしても優しい。


ーーーー突然に体調を崩して倒れた、仲間だから・・・彼は気遣ってくれた・・・・。



あのキスも・・・彼は半分は西洋人だし、教会で育ったと聞いている。
自分が知らなかっただけで、日本人はそういう”挨拶”はしない。と自分が思いこんでいただけで、もしかしたら彼にもそういう習慣があったかもしれない? 
仲間同士での”挨拶”は恥ずかしかったのだろうか?




ーーー・・・・他の女の子にはしていたのかもしれない・・・?



なんとか「あの日」の出来事を普通のことと思いこむように努力をして、彼に接するたびにフランソワーズは自分の気持ちを引き締める。


<ふらんそわーず・・・ミルク・・・>


キッチンでその腕に小さなイワンを抱きながら、湯煎で温めた哺乳瓶を握りしめ、じっ と立ちつくすフランソワーズ。イワンは彼女が自分の世界に入ってしまっているのに気がついていたが、それがどんな世界であるか覗くような無粋な真似はしない。彼女が自然とこちらに戻ってくるのをまっていたかったが、流石にお腹が空いて、遠慮がちに声をかけた。


「あ! ごめんさいイワン!」


フランソワーズは慌ててイワンにミルクを与える。少し冷めてしまったミルクだけれど、イワンをそれを一生懸命に飲む。ふくふくとした白い頬にピンク色のくちびるが、本当に愛らしいイワン。イワンの、赤ちゃんが、赤ちゃんらしい姿でいることを、フランソワーズはこころから愛おしく、飽きることなくその姿を優しい微笑みでみつめる。


「・・・粉ミルクって美味しいのかな?」


キッチンの入り口でトレーを抱えたジョーが立っていた。
フランソワーズの心臓がその声にいち早く反応する。
フランソワーズはジョーの方へは振り返らずに、視線はイワンにむけたままで彼の声に答える。


「イワンには御馳走なのよ、でも、毎日こればっかりだとちょっと可哀相になってしまうわ。離乳食くらい、食べられるようになってくれたら・・・イワン、美味しい?」


<トッテモ 美味シイヨ。ジョー、キミも飲ンデミタラ イイヨ。ボク オススメ ノ ブランド ダヨ>


「はは、それじゃあ今度キミと一緒にいただこうかな?」


ジョーは2人の邪魔にならないように、トレー置いて、下げてきたカップや皿をシンクへとうつす。彼がスポンジに手をかけたとき、フランソワーズは優しくそれを止めた。


「置いておいて、私が洗うから」
「・・・ありがと」


フランソワーズに背を向けていたジョーは振り返って、彼女に一歩近づき、ミルクを んぐ、んぐ と微かな優しい音をたてるイワンをのぞき込む。ジョーの動きに揺れる、柔らかな明るいブラウンの長い前髪が、フランソワーズの前髪と重なり合う。

不意にフランソワーズの鼻腔をくすぐるジョーの香りに、フランソワーズの心臓が大きな音を1つ打つ。

それをきっかけに、彼女の心臓は少しずつ鼓動が早くなっていく。今にもふれ合いそうな、彼の額と、自分の額。フランソワーズの意識は否応なくそこへ集中してしまう。


「本当に、美味しそうに飲む、ね」


フランソワーズはイワンからその目線をジョーにうつす。

間近で見る彼は、綺麗だった。
男の人に「綺麗」と言う言葉を使って良いのか、フランソワーズはよく解らないが、彼の東洋の顔立ちに混じる、西洋の色は、バランスが良く神秘的な魅力をジョーにもたらしている。

大きいとは言えないが、この邸のキッチンには窓がある。
まだカーテンは掛けられていないために、その窓から燦々と太陽の光をキッチンに注ぎこむ。


「キミの分の珈琲が冷めてしまったから、淹れ直そうか?」


ジョーの瞳とフランソワーズの瞳がぶつかった。


「クッキーもちゃんと残ってるよ」


微かに口角を上げて、微笑むジョー。
その距離はとても近い。


「キミが作ったクッキーだけどね」


首を少し傾けて、フランソワーズにより近づこうとするジョーの仕草。

早鐘を打つ心臓が、きゅうっ と急停止して、縮こまる。
ぐっと喉の筋肉に力が入って息苦しくなる。


「僕はもう一杯もらうから、キミの分も一緒に、ね?」


何も答えないフランソワーズのそれを、ジョーは勝手に「yes」と受け止めて、フランソワーズから離れて、棚からコーヒーミルに豆を取り出す。

空になった哺乳瓶をいまだに口に含んだままのイワン。
ぼうっとジョーに見とれているフランソワーズに気づいて欲しくて、イワンはいやいやをるすように顔を左右に振った。
フランソワーズの手に力は入っておらず、イワンの口から離れた哺乳瓶は彼女の手から滑り落ちて、空っぽの哺乳瓶は予想以上に大きな乾いた音を立てた。

ジョーはすぐに音に反応する。
フランソワーズも自分の耳に届いたその音に、弛んだ気持ちを叩かれた。
彼女が、慌てて哺乳瓶を拾うために手を伸ばそうとするが、その両腕にはイワンがいる。一瞬イワンを抱く手に戸惑ったときにはすでに、ジョーが哺乳瓶を拾い上げていた。


「・・・だいじょうぶ?」
<ふらんそわーず、疲レテイルミタイ ダネ?>


ジョーの声とイワンのテレパスが重なった。
イワンはフランソワーズの手からふわり、と浮き上がる。


<ボク 博士ノトコロニ 戻ルね。ミルク アリガト>











####

別に疲れてなどいない。
一生懸命にフランソワーズは、自分をコントロールしようとしている。





考える必要のなかったこと。

感じる必要がなかったこと。

思い出す必要がなかったこと。

自分の気持ちに向き合う必要がなかったこと。




今はあれほど焦がれていた「時間」がある。
フランソワーズが求めていた、「日常」がある。





一時的なものかもしれない。けれども手に入れた日常に、彼女はこころの底から喜びを感じながらも、壁一枚隔てた向こう側には恐怖がある。

どんなに平穏な時間を過ごそうと、常にフランソワーズには見えている闇。
闇に飲み込まれそうになったとき、助けを求める自分の手が「彼」に伸ばされる。

仲間以上の関係を求めてはいけない、とウソをつく。
それ以上でも、それ以下であってもいけない。





翌日。
フランソワーズはオーダー表に何も、書き足すことはなく彼女の手によって
注文が送られた。












=====  へ 続く
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