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Day by Day・61
(61)


昨日の雨が嘘のように、晴れ渡った青空の白く射すような光。
目覚まし時計をセットしていた時間よりも早く、当麻は目覚めた。

寝起きは悪いほうではない。
今日は特に、それを感じている、当麻。
心地よい深い眠りを得られたんだろう。

瞼が重く、張り付くような感覚もなく、視界がぼやけるようなこともない。
はっきりと白い、寮の天井を見ると、おろしていたブラインドの影が、大きく斜めに映し出されていた。


身をゆっくりと起こす。
視線は自然と置かれているデジタル式の時計に移っていく。
毎朝の習慣が、朝の儀式のように、どんな時でも同じ動きを模す。


隣のベッドには、いつ帰って来たのだろうか、ルームメイトの島村ジョウが眠っていた。
頭まですっぽりと覆った掛け布団からはみ出した栗色の髪が、部屋を覗く太陽の光にあてられて、金茶色に輝いている。

鳥たちの朝の会話を耳にしながら、それらにまぎれて島村ジョウの寝息が聞こえた。


ブラインドの紐を引こうと、腕を伸ばすが、当麻は止めておいた。
勤めを果たす事ができなかった、デジタル時計のアラームをオフにする。
足を床につけて、いつも使用している室内履きに足を置く。

ぐううっと腕を天井に着きそうなほどにあげて、背骨がなりそうなほどに伸ばし、そして、左右にひねった。

週末のカフェテリアは10時からしか開かない。
それまで、当麻の胃が持つはずがなく、月曜日から金曜日までの規則正しい生活を崩すのには、ちょっとした努力を強いられる。
寮生活6年目を迎えようとしている、当麻以外の生徒も、同じように感じているのかもしれない。


ベッドから立ち上がり、500mlのペットボトルの水を取り出して、本棚の右端のプラスティックケースを”食器入れ”にしておいた、その中からグラスのコップを取り出して、注いだ。

グラスに注がれていく、水の音が手に持ったペットボトルの心地よい冷たさを、より強調していく。


ペットボトルの口を締めて、冷蔵庫に戻してからグラスに口を近づけていく。
くちびるが、水に触れようとしたとき、部屋のドアをノックする音が聞こえた。





当麻は、グラスからくちびるを離して、それを冷蔵庫の上に乗せ、1度、眠っている島村ジョウの様子を窺い、彼がドアをノックする音で起きなかったことに、少しばかり安心して、部屋のドアへと急ぎ足で進んでいった。


「・・・はい?」


ドア向こうの、ノックの主に当麻は声をかけた。


「私よ、当麻」
「さえ・・・こさん?」


当麻は狼狽えた。

いつも母である、篠原さえこの訪問は突然である。
全寮制のこの学院に、アポイントメント無しで入り、学院生及び関係者以外の立ち入りを禁止し、滅多に学院生の保護者も入る事ができない寮内に、好きなとき、好きなだけ出入りができる。それは、彼女がこの学院、月見里(やまなし)学院創立者の孫娘であり、時期、学院の経営者兼理事長となるからだろう。


当麻のドアノブを回す手が、ほんの少し震える。


「開けなさい」
「・・・・はい」


ぐっと手に力を入れて、ドアを開けた。


「・・・・アレをどこへ持ち出したのっ!?」


目の前に立つ、母、篠原さえこの取り乱した姿に、当麻はなす術もなく、腕を掴まれて、部屋の壁に体を押し付けられた。


「当麻っっ!!!言いなさいっ!アレをっ、あのっおじいさまから頂いたっあの”資料”をどこへやったのっ!!持ち出したのっ?!誰かに渡したの?!どうしたのっ!!」


今にも泣き崩れてしまいそうに、顔を歪めて、悲痛な声で訴える。


「え・・・・・・あ、・・さえ・・・・お母さん?・・・・・・え?ぼく、は・・何もしらな・・・」
「あなた意外っ誰が持ち出すのっ!誰があの”資料”の存在をしっているのよ!!」
「し・・・資料?」


大声で叫ぶ、さえこの声に、目を白黒させて、身動きができない当麻は、自分たちに近づく、人の気配に気がついた。


「・・・・篠原?」
「あ・・・・・・ごめん、島村・・起こして」


ジョーの声に、ぴたり。と、さえこは声を出す事を止めて、ジョーの方へと視線を動かした。
ブラインドの隙間からの強い白の光が逆行となって、ジョーの躯を黒いシルエットで浮かび上がらせる。


「・・・何か、あったのか?」
「い、いや・・・気にしないで。起こしてしまって、ごめん。さえこさん、ここだと・・・・」


自分の腕を掴んでいたさえこの手を、当麻はそっと離す。


「・・・当麻、家に帰る仕度をしなさい」


さえこは、ジョーを見つめたまま、いつもの口調で言い切った。


「・・・・・は、はい」


当麻は逆らうことなく、さえこの言葉に従う。


「・・・寮の前で待っています」




それだけ言うと、さえこは逃げるように。と、言わんばかりに部屋を出て行こうとした、さえこは、驚いたために身をひいた。
先ほどまで、誰もいなかったはずのドアに、3人の男たち。


「あなた方の身柄を、預からせていただきます・・・・。”マクスウェルの悪魔”」
「っs?!」


アルベルトが、低く言い放った。


「・・・篠原、着替えよう、時間がない」



















####

昨夜。


泊まるホテルから、石川斗織が学院に向かって車を走らせる後を、004が追う。
防護服着用しているために、目立つことはできないが、逆にそれは”人”では出来ない動きで、彼を楽々と追うことができた。
向かう先が学院である。と、道半ばで気が付いた004は、すぐにギルモア邸へと連絡を入れた・次ぎに、003へと連絡を入れるように言われて、そちらへも同じ内容のものを携帯電話から送信した。


合流する先は、002、008が部屋を持つ、アルタイル寮。
学院内に入っていく石川の車を確認し、脳波通信が使用できる範囲に入ってすぐに、通信を飛ばした。


<004だ。今、石川が学院へ戻ってきた。向かう先は・・・アルタイル寮だ>


石川の車が職員専用の駐車場へと入り、彼が走り出した先に立つ建物を見ながら言った。


<了解。そのまま003と009に合流してくれるかい?彼らは紫微垣にいるよ、ナビする>
<いや、その必要はない>
<?>
<吾輩が、お供つかまつる!>


勢いある羽音を鳴らしながら、004の胸に飛び込んで鳴いた、1匹の早とちりな蝉。



<007!>
<ちっと遅れちまったかい?・・・オレが担当していたオンラインゲームのプレイヤーの”景品”入れ替えに、ちょっと手間取っちまった>
<今、003と009は石川の部屋を終えたところ。009、聞こえる?>
<004は学院本館にある、篠原秀顕の理事長室、さえこが学院で使っている部屋へ向かってくれ。団体行動は避けたい>
<わかった>
<了解>
<008、引き続きサポートを頼む。今から003と地下の”倉庫”へ向かう。それと石川のデスクトップ・コンピュータをいじった。ギルモア邸のメインと繋がっている。すべての情報はそっちへ流した>
<了解、009。確認しておくよ。最後には、ウィルスでも撒いておくから>
<”マクスウェルの悪魔”関係のコンピュータには、全て撒いておくんだ、使い物にならないように、ね。データが他に保存されていないかは、001に探させる。007、君は004のナビが終わったら、悪いが篠原邸へ飛んでくれ。”トーマス・マクガー’の資料をギルモア邸で預かる>
<そこまでするのか?今夜中に>
<津田海が、鍵だったんだ。彼はもう僕たちの手の中だ。・・・・001が言うには、これ以上は無意味らしいから、一気に行こう>
<<<了解>>>












「それじゃ、深夜のデートと洒落こもうか?」
「色気がない空だがなあ」

雨はやんでいたが、空を覆う陰雲は重く、湿気を払う程度の風ではびくともしない。
職員用の駐車場を囲うように立つ木々の上に、緋色が靡いた。


「月も星も、オレたちの見方をしてくれているんだろう」
「いやいや、もしくは・・・恥ずかしくて見ていられないのかもしれんぞぉ?もどかしく、初々しい、あの2人になあ」
「何か、あったのか?」
「ジョーの純情具合を語りながら、参りましょうか?」
「そりゃ、楽しみだ」


004は辺りの様子を窺い、木から飛び降りると、素早く身を近くの建物に隠しながら、007の語りに耳を澄ませた。


「・・・・・それくらいの方が、余計な心配がいらんで済むが」


気分は父親だなあ、と。蝉がジジジっと鳴いた。


「男としては、背中を蹴り倒したいな」


何せジョーにとっては”初恋”だからなあ。っと、蝉はミ~ンっと呟いた。


「気づいていたのか、007?・・・・・見ていればわかるか・・・。それにしても、2ndグレードのガキの方が、もう少しマシな風に”好きな子”に嫉妬するし、ヤキモチを焼くぞ。遅すぎる”初恋”ほど難儀なものはないな。ジョーは自分で自分を持て余しているんだろう、それが情緒不安定になり、入寮前の・・・過去に抱え込んだ感情をコントロールできなくなったんだろうな」


ジョーの嫉妬は激しいぞお。今度はどこの壁だあ?っと。蝉がジ~~~~っと呻いた。


「ガキだな、まだまだ・・・・。こんな状態じゃ、心配で帰れんな」


学院本館4階の、理事室前で004の肩にとまっていた蝉が飛び立った。















####

「004と007に本館を任せた・・・、これから地下へ行く、よ」
「・・・少し慌ただしくなってきたわ」
「石川が戻って来たからね。彼は今・・・?」


地下の廊下の壁際で003の背後にぴたり。と、寄り添う009。
彼女が南西の方へと首を傾けた。
数メートル先に、警備室がある。それを越えた向こう側に、”マクスウェルの悪魔”が使用するコンピュータが置かれた倉庫がある。


「アルタイル寮前で、寮監督と話しているわ・・・学生の2人は、津田さんの部屋よ・・・外出届けが出ていることを、確認したみたい・・・。石川斗織は、とても驚いているわ」
「当然だ、ね。部屋の鍵は他と違ってオートじゃないから。加速して倉庫へ行く。その間、ここで待っていて。石川の動きを追っていて欲しい・・・。こっちへおいで」


ジョーは地下にある、遊戯室の1室に003を案内する。
室内の電気は落とされたままであるが、目が自然に暗視モードに切り替わるために、問題はない。


「内側から鍵がかかるから、念のためにかけておいて」
「はい」
「通信は開いておく、いいね。何かあっt」
「009、心配し過ぎだわ」
「・・・・そうかな?」


009は口元で微笑んだ。
ミッション遂行中にも関わらず、フランソワーズの心臓が1つ飛ばして刎ねた。
痛みを伴うくらいに、強く。


「気をつけて・・」
「キミも、ね」






残像が残る。
それは、フランソワーズの瞼に焼き付いた、ジョーの微笑み。

目の前から消えた009は、今。
別の時間に生きている。

フランソワーズは知らない。
ジョーが奥歯を噛んだ後、彼の生きる、凍った時間の中で”ほんの少し”だけ、素直に、想いを込めて彼女を見つめる時間が存在する事を。

誰にも気づかれない。
誰にも邪魔されない。


凍った瞬間(とき)の中で、ジョーは素直になる。


















倉庫の鍵は、何も問題なかった。
警備室の壁に取り付けられていた、キー・ボックスの中の1つを手に入れる。
それは簡単なこと。

外側から物音を立てて、警備室に居た1人を部屋から出す。
その好きに加速して、鍵を入手する。
鍵を入手した後は、加速せずとも、人に”幻を見た?”程度の錯覚を与える速さで動くことなど、009にとって問題にならない。


<003、今から倉庫へ入る>
<視えているわ。石川はまだ、こっちへは来ないわ。津田さんの部屋へ向かったようよ>
<008?>
<なに?>
<ここもギルモア邸の方へ繋げる。こっちも石川の部屋のコンピュータ同様に、頼む>
<任せて>
<004、そっちは?>
<007は行ったぞ>
<向こうの方に?>
<篠原邸へ、だ>
<了解。そっちはどう?>
<こっちは繋がなくていいんだろう?すべてのデータをコピーしている。終わり次第、連絡する>


009は倉庫内で、007に教えられていたコンピュータを立ち上げて、素早く必要な作業を手慣れた手つきで進めていく。


<009>
<003、どうした?>
<石川斗織が、津田さんの部屋から出て行くわ>
<こっちへ向かっている?>
<・・・まって>


最後に、returnキーを押して、再起動を行う。
すべてが順調に進められたことを確認したとき、003から脳波通信で呼びかけられた。


<いいえ、009。彼は駐車場へ戻っていく・・・004。まもなく石川斗織が学院から出て行くわ>
<心配ない、石川の車に追跡用の発信器を取り付けておいた。泊まっているホテルくらいの距離なら、問題なく追える。こっちは後5分ほどかかる>
<済み次第、追ってくれ>
<了解>


システム終了。

009は倉庫から出て、持っていた鍵をかける。
その鍵を、”落とし物”のように、警備室前の廊下にそっと、置いてから加速装置を使って003の待つ、遊戯室へと戻った。


009と003が再度合流した後、008とからの通信が届く。


<007が、”入れ替え”じゃなくていいのか?ってメールが来てるけど?>


予定では、オンライン・ゲームの”景品”を手に入れたプレイヤーと同様に、001が作った’偽’のトーマス・マクガー’の資料と入れかるはずであった。


<ああ。そっくりそのまま持ち帰ってほしい。入れ替える必要は、ない。それによって確認できるから、ね>
<わかったよ。007に伝えるね>
<・・・今から、003とそっちへ戻る。004?>
<もう、少しだ・・石川の方は、まだ追える距離内にいる。心配するな>
<任せるよ。008、002と連絡を取って欲しい。彼の体が空いているのなら、003を迎えに来てほしいと>
<このまま、学院に居たらいいんじゃない?もうすぐ始発が出る時間だよ?>
<・・・1人で返すわけにはいかない、だろ?>
<それなr>
<連絡を頼む>
<わかったよ。009>


「心配し過ぎよ、・・・電車も1人で乗れるし、ギルモア邸までの道も覚えているわ」


008と009の脳波通信でのやりとりを聴き、憮然とした態度で003は009を見上げた。
そのくちびるは、少しばかり突き出している。


「キミは学院から”昨日”出て行かなければならなかったんだ、誰かに見られたりしたら、問題になる」
「学院を出てしまえば、何も問題ないでしょう?」


003は”眼”のスイッチを入れて、紫微垣内の警備員たちの動きを視る。


「出るまでが問題だけれど、ある意味、そこからの方が心配なんだ、よ」
「警備室に、2人。外に・・・・ここには、警備室の2人だけよ。・・・駅からが問題?ちゃんと道は覚えているわ」
「さっきと、同じように屋上からアルタイル寮に戻ろう。・・・・・迷子になる、ならないは問題じゃないんだ、よ」


遊戯室から009と003は素早く身を出し、非常階段を使い屋上まで一気に駆け上がる。


「それなら、何が問題なの?」


屋上への扉を開ける前に、008にむかってセキュリティのロックがかかっていないかを確認する。


「・・・・何が問題か、本当にわかってない?」


扉を009が開けた。

空を覆っていた雲から切れ切れに覗く乳白色の空。
太陽がのぼり始めた方向にある、ちぎれ雲の隙間を通り抜けた白光が、3つの寮の建物の隙間を埋め始める時間。
心地よい冷気を含んだ風が009を出迎えた。防護服に身を包んでいる009にとっては、心地よいかもしれないが、サイズが明らかに大きく、半袖のTシャツ1枚の003にとっては、心地よいとは言い難い。
冷気にさらされた腕を抱きかかえるように、身震いする。


「私は子どもじゃないわ」
「だから、それが問題なんだ、よ」


009が003の肩を抱いた。
彼の体温が、Tシャツ越しに伝わってくる。
行きと同じように、009は003を横抱きに抱きあげると、地面を強く蹴った。


「寒い?」


大きく弧を画くように、天高く飛ぶ009の腕の中で、彼の心音を聴く。


「温かいわ」


009の腕の中で見上げる彼から瞳をそらさずに、003は呟いた。

















####

004が追った石川の行き先は、泊まっているホテルではなく、篠原さえこの自宅であった。
運転中に何度も彼は携帯電話からさえこへとコールしたが、彼女は一向に電話を出る様子がなく、イライラと何度も握るハンドルを拳で叩き付ける。
その姿を、学院から追いかける004が目撃していた。


ーーーどうやら、007とオールナイトらしいな。


<007?>
<おお?!我が輩を呼ぶのは、何処の精霊か?>
<・・・・004だ、まだ篠原邸か?>
<ああ、今から外に出るが・・・行きは手ぶらだが、帰りは土産があるんでねえ、セキュリティに引っかからねえようにしねえとなあ?って、なんで、004がここに居るんだ?>
<学院から石川を追って来たら、ヤツがここに来た>
<ここにゃ、篠原さえこはいねえぞ?住み込みのお手伝いさんだけだぜ?>
<・・・どうやら、石川はさえこの居所が解らないみたいだな?>
<どこに行ったんだ?>
<007、土産はオレが預かる。さえこを探してくれ。石川の車には追跡機をつけてあるから、放ってほいてもいいだろう、泊まっているホテルも確認済みだしな>
<了解した。んじゃ、そっちに行くから、今どこだ?>
<篠原邸の、裏だ>
<オッケー、オッケー!>






007から受け取った土産を手に、街が動き出す前にギルモア邸へと戻った004。007はそのまま石川の尾行を続けることになった。


ギルモア邸に帰り着いてから004は、現在、石川はフリーで動いている事、007が篠原さえこを探している事をメールで送信する。


002が学院へ戻って来たのは、009と003が008の部屋に戻って30分ほどしてからだった。


「ったくよ、オレはタクシーじゃねえぞ?!」
「・・・知ってる、よ」
「1人で帰らせろっつうの、フランソワーズだってよ、いい加減に日本になれなきゃいけねえだろうよ?」
「ねえ、ジェット。007が言っていたことを、もう、忘れたの?」
「覚えてっけどよっ!甘やかす方がよくねえじゃんか!今後もずっと、見てやれるってわけじゃねえんだしっ!」


食べ損ねていた、フランソワーズが作ったザッハ・トルテを頬張りながら、文句を言うジェットにこそっと耳打ちをするピュンマ。


「見てあげるつもりだから、甘やかしたいんじゃないの?ジョーは」


ピュンマの言葉に、ごくん。っと、口に放り込んだケーキを咀嚼せずに飲み込んだジェットは、まじまじとピュンマを見つめた。


「どっから、そんな発想が出てくんだよっ。こいつが未だにフラフラ煮え切らねえヤツだって知ってんじゃんかよ!」
「何に、フラフラと煮え切らないの?」
「?!」
「っ!」


学院へ来た時に着ていた、生成色とベージュの細いストライブ・プリントが施されたフレアスカートと、セリアンブルーのアンサンブルに着替えて、バスルームから出て来たフランソワーズ。


「・・・・服は、乾いてる?」
「ええ。大丈夫よ」


ジョーは、買っておいたうちの1つであった、フランソワーズが着ていた黒のスウェット・パンツと揃いのウィンド・パーカーを彼女の肩にかけた。


「まだ、空の上は冷える。着て帰るといい」
「・・・・ありがとう」


ピュンマは頬がこれ以上高くあがらないほどに、満面の笑みでジョーとフランソワーズを見つめ、ジェットは、面白くなさそうに、ふんっ!と鼻息荒く、ケーキを頬張るが、ちらり。と2人に向けた視線は、優しく、満足そうであった。


「今日は”眼”を酷使したから、帰って博士の検診をうけること、いいね?・・・メンテナンス後の調節が完全に終わったわけじゃないから。それに、暗視モードからの透視は、まだ正式な記録を取っていない,博士に報告するように」
「はい」
「んじゃ、行こうぜ、フランソワーズ。・・・オレはこっちに明日の朝一で戻ってくっからよ」
「ジェット、海のこと・・・」


立ち上がったジェットに向かって、ピュンマは呟いた。


「任せろって、心配すんなよ。博士はエキスパート中のエキスパートだぜ?なんかあったら連絡すっからよ」
「ピュンマ、大丈夫よ」
「うん、信じてるよ。でも、海自身が・・・」


ジョーが、ぽんっ。と、ピュンマの肩に手を置いた。


「・・・大丈夫だ、よ」







ジェットとピュンマのデスクに挟まれる形にある、窓の一つ開けられた。
ジェットの腕に抱き上げられる、フランソワーズに微笑みかける、ジョー。


「よっと!」


勢い良く、窓から飛び降りたジェットの躯は重力に従い落下しようとしたが、抗うように、足裏から放たれたオレンジの炎が、一気に空高く、ジェットとフランソワーズを押し上げた。


ごおおおおおっっと唸ったエンジン音に気づく者がいたとしても、人の目に届く距離に彼らの姿は見えない。


「・・・・ジェットに抱っこされてるフランソワーズに、ヤキモチ焼かない?」


窓から身を乗り出して、2人を見送ったピュンマは、ジョーに声をかけた。


「・・・ヤキモチ?」
「そう、ヤキモチ。知ってるよね?それくらい」


頭を室内へと引っ込めて、ピュンマはジョーへと振り向いた。


「・・・・ヤキモチ、・・・・・嫉妬ってことだよね?」
「う~・・・ん、嫉妬ほど重くないような。もう少し可愛い感じだよ、ヤキモチは」


しばし考え込むような仕種を見せるジョーにたいして、ピュンマは少しばかり不安になった。



ーーーま、まさか・・・ジョー・・・







「・・・・・・部屋へ戻る、よ」


ピュンマが真剣に答えを求めている様子ではなかったので、ジョーは1度部屋に戻ることに決めた。もしも、何か動きがあるとすれば、各方面に分散させた00メンバーの誰かから連絡がくるはずである。そして、蒔いた種が芽吹くのも、そう時間は必要ないと、考えている。


「り、了解」
「少しは休むんだ、よ。008」
「009もね・・・」
「・・・10時にカフェテリアで」
「うん」










防護服を脱ぎ、ジェットから適当な服を借りて、手に持っているのは、赤と緋色の二つを隠すように、脱ぎ捨てていた、学院指定のブレザーとネクタイ。




ーーーヤキモチ・・・・・?















デネブ寮の自室へと戻り、ベッドに潜り込んで2時間もせずに、ドアのノックする音で、009は目覚めることになる。

部屋を尋ねて来たのは、007が探していた篠原当麻の母、篠原さえこであった。













####


<007?いるのか?>
<004と今、正門近くにいる。星占いでもしたくなるくらい、004とよく会うなあ・・・って、連絡が遅くなってスマン。ちょっとやっかいな事になってきたぞ>
<004と?石川も学院に戻ってきた?>
<篠原さえこを追ってな・・・。けれど、篠原さえこは、まるで石川から逃げているみたいだなあ?あの様子だと、昨日の夜は、家に戻らず適当なシティ・ホテルに泊まっていたぞお、石川の車と同様に発信器を付けておいて、助かった>
<・・・篠原さえこ、当麻をこちらで保護する>
<なっ?!>
<おい、009、解っているのか?自分が何を言っているのか?相手は”マクスウェルの悪魔”だ>
<・・・・・だから、だよ。こちらの見方に付けるんだ。007、篠原さえこに変身して、石川を巻いて欲しい。004、008、篠原さえこ、当麻と一緒にギルモア邸へ戻る、よ>
<009っ・・・それって>
<以上だ。部屋に来てくれ、すぐに>






有無を言わせぬ、009の脳波通信を受け取った、004、007、008の3人は、今、篠原さえこ、息子の当麻、そして00メンバーのリーダーである009を目の前にしていた。


「どうやって、ここから出るの?」


篠原さえこが逃げられないように、ドアを背にもたれ掛かるようにして立つ、グレートとアルベルト。
家までマリーを迎えに来た、アルベルトの顔を覚えており、彼の方へと視線をむけると、アルベルトは片手をあげて、親しげにその視線に応えたため、当麻はどう対応していいか解らずに、背を向けてしまった。

ピュンマは部屋に足を進めて入り、当麻に着替えることをを勧め、彼を安心させるかのように、一言二言言葉を交わし、そのまま穏やかな声でジョーに話しかけた。


「彼は?」
「上手く、グレートが誘い込んで”閉じこめた”らしいよ、時間がくれば、掃除のおばさんか、休日出勤の職員あたりが、彼を見つけてくれるだろうって・・・携帯電話は使えない用に、電波妨害しておいた、1時間ほどは学院内で携帯使用はできないよ。僕たちの、ここは関係ないけどね」


戯けた様子で人差し指を使い、トントンっと、自分のこめかみ辺りを指した。


「・・・・そうか、それなら彼女の車で出よう、外泊届けは?」
「こういう時の、イワンだよね。連絡しておいた。ついでに欠席届けもね」
「・・気が利くね」
「海の分も・・・必要だったから」
「・・・・・行こう」


月見里(やまなし)学院指定の制服へと、黙って着替えを済ませた当麻は、ジョーの言葉に反抗するように、睨んだが、そんな視線など無視をして、歩き出したジョーに変わり、ピュンマが優しく、当麻の傍らに立ち、彼の背中をそっと押した。


「不安に思うよね、突然。ごめんよ。すべて・・・ちゃんと話すから。でも、今は一刻も早くここから出ないと、大変なことになるんだよ。君のお母さんも、ここへ君を迎えに来たのも、そのためなんだから・・・・。今はお願い、僕たちについてきて欲しい。悪いようにはしないから」


ふんわり、と微笑みながらも、ピュンマの眼差しは真剣で、当麻に彼の言葉を拒む隙を与えなかった。

ピュンマは、ぴったりと当麻から離れないように、歩く。
ドア口まで近づいたジョーは、不安の色を見せながらも、挑むような視線を投げてくる、篠原さえこに向かって言った。


「そう、だ・・・・。初めまして、”J”です」


驚きに大きく見開いた瞳に向かってジョーは、微笑んだ。


「あ・・・・まさk」
「学院を出るまで、運転してもらいます。途中、僕と変わってもらいますけど、ね」









篠原さえこが運転する車のために、何も問題なく学院から出ることが出来た。

007は、そのまま学院に残り、石川を見張ることになり、ジョーの指示通り、学院を出て5分ほど行った先で、ジョーとさえこは運転を代わる。


「・・・あなたたちも、目的は”トーマス・マクガー”の?どうやって知ったか知らないけど、それはもう、私の手元にないわよ」


運転を交代する途中、ジョーの耳元近くで囁いた篠原さえこ。
こんな状況においても、彼女からはしっかりと廊下で会ったときと同じ、ムスクの香りをさせていた。


「全てを、話してもらいますよ・・・・」
「何を?何も話すことなんてないわ」
「・・・・口紅の色、前のように、薄い方が似合いますよ?」
「っ!」


ジョーが口元に浮かべた微笑が、あまりにも美しく、さえこは言葉を失った。


「乗って下さい。お見せしますよ・・・。あなたは”真実”から瞳を逸らしてはいけない」



助手席に篠原さえこを座らせて、後部座席に、当麻をはさむようにして、ピュンマ、アルベルトが座っている。
規則として学院内、そして外出時は制服着用のために、着ていたブレザーを脱ぎ、ネクタイを外した。学生だと解る服装で運転はできない。

無言で座っていたアルバルトが、「教えてやったのに、ジェットよりヒドイじゃないか」と、呟いた言葉は聴かなかったことにした、ジョー。

ネクタイを結ぶために、きっちりと止めていたシャツのボタンを2つほど外し、ハンドルを握って、アクセルを踏んだ。



バックミラー越しに、ジョーは篠原当麻を観る。
ジョーが予想していたよりも、彼は落ち着いていた。


その様子をアルベルトが察して、隣に座る当麻に話しかけた。


「度胸があるな・・・、こんな状態でパニックにならないとは」
「・・・変に聞こえるでしょうけれど、何度か経験していますから」
「経験?」
「誘拐されかけたことが、あるんで・・・・。パニックを起こして、騒げば騒ぐほど、命が危なくなるんです」
「・・・・そうか。篠原グループの御曹司で何不自由なく蝶よ、花よ、と育ったわけじゃないのか」
「それでも、ぼくは恵まれています、それに・・・」


助手席に座っているさえこが、俯いてぎゅっと手を握り、くちびるを噛み締めた。


「それに、なんだ?」
「島村とギルモアが・・・悪い人間には思えないから・・・・もしも」
「・・・もしも、そうなら、マリーも、と。いうことになるからか?」


当麻はアルベルトの口から”マリー”と言う名前に、ひどく動揺する。


ピュンマは、ぽん。と、当麻の肩に手を置いた。


「まだ、信じられないかもしれないけれど、僕たちは・・・、君が思っているような事を目的にしているんじゃないんだよ。ちゃんと、説明するから、それまでもう少しだけ辛抱して、僕たちに付き合って欲しい」
「・・・・どこに向かっているの、かな?」


当麻の質問に、ピュンマは車を運転するジョーへと視線を向けた。


「津田が、いるところ」


跳ね上げるようにして顔を上げたさえこは、ジョーの横顔を穴が空くほどに、見つめる。


「あなたが、探している全てを手に入れた男を、紹介します、よ」
「すべ・・・て・・・・・?」
「名前くらい、聴いたことがあるんじゃないですか?」
「おい・・・ジョー」


アルベルトがジョーの発言に注意を促した。


「大丈夫だ。博士も了承しているし、イワンがいる」
「・・・だが、しかし・・・・」
「アルベルト、まずは彼女に信用してもらわないと、いけないんだ。そして”知って”もらわないと、いけない」
「・・・・・わかった」


当麻は2人のやり取りに違和感を覚える。が、それを今ここで口にすることは躊躇われた。


「名前って、なに?」
「”マクスウェルの悪魔”なら、探していたんじゃないですか?その男を」
「・・・・」
「もしくは、実在しないと思っていたかもしれない、な・・・」
「わからないわ」
「・・・本気で?」
「・・・・・・」


それ以上、さえこは話さなかった。







フロントガラスから見る道。
信号が、赤になり、青になり、黄色に点滅しては、角を迂る。
見知らぬ街へとひた走る車の中で、不安よりも、長く見続けていた夢から目覚められるのではないか。と言うこころの奥底に膜を張った、薄い期待に、全身で飛び込んで行きたい衝動に駆られながらも、自分がそうするこを許さなかった。


当麻がいる。

今、一緒にいるのが当麻であるから。




ーーー絶対に、当麻を護る・・・・・。それだけが、全て・・・・。













学院内で009たちと別れた007は、009、008、004、そして篠原親子が向かったことを伝えるために、駅の公衆電話へと急ぎ、戻ってきたときには、閉じこめていた石川斗織は、部屋からドアを自力で破り、デネブ寮の篠原当麻の部屋へと駆け込んだが、時すでに遅く、部屋はもぬけの殻であった。


同室である”島村ジョウ”の行方を追うが、すでに001が持つ能力で細工された外泊届けには、金曜日の午後から学院を出たことになっていた。


出されていた、欠席届も確認する。





日付からみても、彼が、津田海、篠原さえこ、当麻の失踪に関係あるとは思えなかった。
ピュンマ・ギルモアも同じ内容で、欠席届けが出されていた。
津田海と仲が良い、ピュンマ・ギルモアを疑い、彼の資料などを調べるが、何も手がかりが掴めまいまま、石川は苛々と、デスクチェアから立ち上げると、その足でチェアを蹴った。


デスクチェアは勢いよく、壁にぶつかり弾かれて倒れる。



<あいやいやいやい、相当きてるぜえ、こいつああ・・・・>

石川が学院から与えられている紫微垣、3階の個室。
窓に飾られた観葉植物の葉に同化した色の青虫が、たくさんある腕を組んで、唸った。















####

目覚めた津田海は、自分は”病院”にいるのだ。と、思いこんだ。


白い天井。

白い光。


寝かせられているベッドが、いつも使われているものよりも、ずっと上等な物であることに、気が付いた。




寝心地が良い。

体を動かして見ると、腕に付けられていた点滴の針が動いて、痛んだ。


何か違和感を感じる。
いつもよりも、すっきりとした目覚め。
左足の痛みもいつの間にか消えていた。


腕につけられている、点滴に注意しながら体を起こすと、部屋の様子が”いつもの病室”でないことに、驚いて、悲鳴を上げるように、自分の”治療”をおこなったはずの人の名を呼んだ。


「先生っ!!!どこっ!石川先生っ!先生っ!!!!」


声を聞きつけて、部屋へと入って来たのは、自分が呼んだ”石川斗織”ではなく、編入してきたその日のうちに、親友。と、言えるほどに仲良くなったピュンマが、自慢した、女性。

金曜日の午後、病院へ向かうために石川先生と待ち合わせしたときに、出会った、マリー・フランソワーズ・アルヌール。


その人だった。




「海さんっ!・・・大丈夫よ、・・・安心して」


こぼれ落ちそうな程に、大きな瞳は、長くレースのような睫に縁取られて、空色の瞳に映る、自分を見る、海は、自分が夢でも見ているのでは、と。ぽっかりと空いた口をそのままに、思い切り自分の頬を抓ってみた。


「・・・夢じゃなくてよ、海さん。あなたは今、ピュンマの家にいるの」


淡い光を灯したような、温かい微笑みに見惚れながらも、必死で頭をフル回転させる、海。


「p・・ピュンマ、の・・・?」
「ええ。そうよ・・・まだ、無理なさってはいけないわ、少ししたら博士がいらっしゃるから、その時にお話していただきましょうね」
「・・・・博士?」
「私たちのお義父様で、科学博士なの」


フランソワーズの言葉に、海は点滴で繋がれていない方の手で、下半身を覆っていたシーツを乱暴に取った。と、同時に、イワンの力が海の意識を奪い去った。


<・・・009タチノ 話シ ガ 終ワッテナイカラ ネ>


フランソワーズは、取り去られたシーツを丁寧に海の肩までしっかりとかけてやった後、”眼”のスイッチを入れて、海岸沿いの道を見つめた。


「・・・・・あと、2,30分ほどかしら?」











=====62へと続く




・ちょっと呟く・


・・・終わりを引き延ばしてる気がする(笑)
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