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Day by Day・62
(62)





人の姿が消えていき、街の喧噪が消えていく。
走る車のエンジン音に波音が交じり始めたことで、当麻はピュンマ越しに、車の窓が青に染まっていることに気が付いた。


失われた海と空の境界線。




海沿いを走る車は、まるでプログラミングされたコンピュータが、運転するかのように、正確に、カーブを曲がっていく。

彼がアクセルをその足から離れるときは、信号が変わる時のみ。と、思う。






すれ違った車はバスが1台。













街はずれの、海岸沿いに隠れるように建てられた洋館。
こんな場所に、ぽつん。と、建てられた洋館は誰かの別荘だろうか?と、そんな風に考えていたら、車が止まった。



「車を裏にまわす、ここで降りて」


運転していたのは、自分のルームメイトの島村ジョウ。
当麻はピュンマとアルベルトの2人にはさまれる形で後部座席に座っていた。
アルベルトはドアを開けて車から出ると、当麻の母、篠原さえこが座っている助手席のドアを開けた。

無言で、さえこが車から降りる。
続いて、後部座席の当麻もピュンマに促される形で車から降りた。
ドアが閉まると、篠原さえこの車を、ジョーは運転して去っていく。彼が言った通りに洋館”裏”に止めてくるのだろう。


アルベルトは、さえこの腕をしっかりと掴んでいる。
当麻はその手に自然と視線が向かった。

当麻の視線に気が付いたアルベルトは、彼独特の左口角を上げて、ニヤリと嗤ってみせた。


「ここまで来て逃げられたんじゃ、みんなに合わす顔がないからな」





ーーーみんな・・・・・?


















外観から想像するよりも、中は広かった。
観音扉の重いドアを開けると、日本宅のような玄関もなく、吹き抜けの部屋。
靴のまま吹き抜けの部屋を歩き、左手に見えた広い階段を見上げる、当麻。

踊場のようなスペースの窓にはステンドグラスでも取り付けてあるのか、虹色に輝いている。



リビングルーム。と、言うには広過ぎる部屋に、特注と思われるL字型の革製の白いソファが置かれており、そのソファを中心に、様々なチェアがセンス良く置かれていた。

ソファと対面するように、ミニ・シアターに使用するような、大型液晶テレビにDVDプレイヤーなどの娯楽機器を一つにまとめた薄茶の棚、それと対になっているのであろう、左右にDVDやCD、本などを収めらっれたガラス戸がついた背の低い棚。

ソファには色とりどりのクッションが置かれ、壁に掛けらた絵や写真。
観葉植物に花々がいけられた花瓶、に飾られた小物類。

リビングルームから庭へと通じる、壁一面のガラス戸に掛けられた、2重になった白のレースとベージの刺繍が施されたカーテンは両端に束ねられて、陽の光に淡く輝いて見えた。



「ようこそ、って言うのも変だよね。・・・・こういう風にここへ招待したくなかったんだけど・・・。どうぞ、座ってください」


リビングルームに入り、アルベルトは掴んでいたさえこの腕を放すと、自分たちが入ってきたドアとは別のドアへと消えていった。

さえこは、ピュンマに勧められてもソファに座ることはなく、庭へと通じるガラス戸の前に立ち、空とも、海とも解らない青色の風景を見つめる。
当麻は素直にソファに座り、ピュンマは人掛け用チェアに腰を下ろす。


<張大人、フランソワーズ?>


いつもなら絶妙なタイミングでお茶や御菓子を運んでくる、張大人の姿が現れない。張大人ではなくても、フランソワーズなら”眼”を使って自分たちがやってくる”タイミング”を逃すこともないはずだが、彼女も姿を見せなかった


<大人、まだ戻らない。フランソワーズは津田海といる。アルベルトが珈琲を淹れている。心配ない。>
<ジェットは?>


「よ!早かったじゃねえか・・・」


聞き慣れた声に、当麻は振り返る。
ツンツンとした赤毛がトレードマーク。長身に長い鼻、細身のジーンズに、何処で買ったのか解らない、赤字に派手なグラフィックデザインが施されたTシャツを着たジェットがリビングルームへと入ってきた。


「ジョーの運転だからね」
「ヤツは?」
「裏だよ。すぐにこっちへ来ると思う・・・」
「よお、センパイ。朝飯喰った?」


どっかりと、当麻の隣に腰を下ろしたジェットは、ぶっきらぼうに訊ねた。


「い、いや・・・まだだけ・・ど」
「起きてすぐ、だったみたいだからね、カフェテリアに開いてなかったし。それより、ジェットがこんな時間に起きている方が、おかしいよ?」
「寝てねえんだよ!ったく、人使いの荒いリーダーだからなっ、ジョー!」


ジェットはソファに身を深く沈め、天井を煽るように見上げる形でソファの背の縁に首を預けると、逆さまに、リビングルームへと入ってきたジョーを見た。


「・・・・こんな時間に起きてるなんて・・珍しい。今日も雨か・・」
「寝てねえっつってんだろっ!」


リビングルームのドア口に立ったまま、ジョーはさえこを観る。
彼女はリビングルームへ入ってきたジェット、そしてジョーにさえ感心を示さず、ただガラス戸の風景を一心に見つめていた。ジョーはその背に向かって声をかける。


「座って下さい・・。話しを始めましょう”マクスウェルの悪魔”さん」
「・・・・当麻は、関係ないでしょ」


ジョーの視線に、ピュンマ、ジェットが頷いたとき、ダイニングルームに通じるドアが開いた。


「お帰りなさい、ジョー、ピュンマ・・・・」
「マリー・・・・」
「・・・当麻さん」


今の状況で、”いらしゃい”と言うのもおかしく、何と挨拶すればいいのか解らずに口籠もってしまったフランソワーズを助けるかのように、ソファから立ち上がりながらジェットが言う。


「フランソワーズ、当麻は朝飯喰ってないんだってよ、オレも腹減ったぜ。なんか用意してくれよ」


ジェットの言葉を聴き、ジョーに確認を取るように彼へと視線を向けると、ジョーは微かに頷いてみせた。


「わかったわ・・・当麻さん、こちらにいらして・・・ジェットも、ピュンマは?」
「僕は、珈琲をもらるかな?ジョーもだよね?」
「・・・ああ」
「珈琲ならアルベルトが今、淹れているわ・・・」


<ジョー、津田海さんが目を覚ましたのだけど、かなり混乱していらっしゃってイワンが、また眠らせたわ・・・。話しが終わってからだと、言って・・・>
<解った。篠原さえこは、話しを当麻に聴かれたくないらしい・・・・。彼もほとんど何も知らないだろうから、終わるまで、頼む、よ・・・・・>
<・・・・わかったわ>








ピュンマに腕を取られて立ち上がった当麻は、フランソワーズの後を追うように、ダイニングルームへと向かった。


「話してもらいますよ・・・何もかも」
「・・・・・なんなのよ、いったい・・・・・・何を話せと言うの?」
「あなたが知る、’トーマス・マクガー’について、”マクスウェルの悪魔”として知る、サイボーグ設計図に関わる全てを・・・。そして、石川斗織の、目的。僕たちはそのために、ここに、あなたを連れて来たのですから」
「何者なのよ・・・島村君。本当はいくつ?・・・」
「・・・・年を数える習慣なんて、この邸に住む者、誰も持ち合わせっていません、よ」
「可愛い顔して・・・。よく、うちの学院に入り込めたわね?」


さえこはガラス戸から離れて、ドア口に立つジョーの方へは振り向かず、ソファへと足を進めて座った。
ソファに座ったさえこを確認し、ジョー自身もさえこと向き合う形で、ピュンマが座っていた独りがけ用のチェアに腰を下ろした。


「それなりに、色々と苦労しましたよ・・・」
「簡単に、話すと思ってるの?私が」
「・・・・思いたいですね」
「どうして、私が島村君に話さないといけないのかしら?」
「・・・・”J”なら、話して下さいますか?・・”運命の日”は、そちらが指定してくださるようでしたけれど、短気なもので・・・こちらから伺ったんですけれど?」
「・・・証拠はあるの?あなたが”J”だと言う」
「何がいいですか?・・・・ゲーム上で僕が答えた全てを言いましょうか?・・言ってもあなたにそれが理解できるとは、思えないけれど・・・・。それとも、メール内容をプリントアウトしてもってきましょうか?」
「目的は、なに?」
「’トーマス・マクガー’の全て、です。彼がパンドラの箱に隠したものを、取りだした人間、それに関わった人間に、ついて・・・」


ダイニングルームから、アルベルトが3人分の珈琲をトレーに乗せて入ってきた。


「・・・あんなものに興味があるって言うことは、私よりも危ない人間って事ね?」
「自分が危ない人間って自覚が、あるのかい?・・・そっちの方が驚いた」


さえこの前に、珈琲を淹れたカップを置きながら、アルベルトは薄く笑いながら答えた。


「・・・いくら欲しいの?」
「金で解決できるくらい、可愛い問題だと良かったんだが」


ジョーに珈琲を手渡す。


「・・・・こちらがお支払いすることも、可能です、よ?」


アルベルトは自分の分を手に、さえことは距離を開けてソファに座った。


「お金に不自由しているように見えて?・・・・話して、何の価値があるの?私に何の利益が生まれるの?」
「何も・・・けれども、あなたは安全でいられる。今後も今までのように」
「安全ですって?」
「成長を続ける会社・・・は、まるでモンスターだ。伸びているときは良いが、下がり始めたときが厄介だな?好き勝手に、手を出しまくった結果か?・・・・父親の尻ぬぐいも大変だな。そう言う意味で一族経営って言うのは、ある意味便利そうに見えて、面倒だ」
「・・・」
「ずっと上り調子っていうほど、世間は甘くない。それなりに”表”に出せないこともしてきたんだろう?・・・・・けれども、それは”裏”であっても狭い島国でしかない」
「・・・・なにが、言いたいの」
「本当の”闇”に飲み込まれる前に、手を引いた方がいい。今なら、僕たちが助けてあげられる」
「助ける?たかが、高校生の癖に?」
「年令は、関係ないって言うことを言っておこうか。ここにはジョーを含めて仲間が9人いる。ジョーは・・・、その9人のリーダーだ」
「・・・・リーダー・・・ですって?・・・・年令的にあなたの方が」
「日本人の”年功序列”的な考えは、間違ってはいないと思うが・・・。こういう場合は、通用しないんでね」


ジョーはアルベルトが淹れた、いつもより濃い珈琲をゆっくりと口に含んだ。


「・・・オンライン・ゲームに。ある国の政府が関わろうとしていた事にお気づきでしたか?その他にも、あなたが出す”景品”の噂を聞きつけて”B.G”の影に鼻が効く・・・ハイエナのような闇社会の人間が動いていたことにも」
「・・・・政府ですって?・・”B.G”って・・・ブラック・ゴースト?」
「知っているのかい?」
「・・・・・・実在しない、噂だけの組織でしょう?世界水準を遙かに超えた高い軍事力と科学技術を持つ、神の・・いいえ、悪魔の組織。なんて言われているけれど、漫画やアニメの世界だわ!・・・信じられるわけ、ないじゃない。そんな組織がこの世に存在するなんてっ!名前だけが1人歩きしているだけよっ」


嘲り嗤うさえこの態度に、アルベルトは左口角を上げて、逆にさえこに向かって嗤う。


「こんな世間知らずなお嬢さんがトップになった日には、あっと言うまに篠原グループは乗っ取られるな」
「なんですってっ!」
「あなたは、’トーマス・マクガー’の資料を見てないのですか?・・・それがどこで研究されていたのか、そして、彼がどこに所属していたのか・・」
「・・・・」


押し黙ったさえこに向かってジョーは、言葉を続けた。


「全てを話して下さるまで、僕たちは、あなたもご子息も・・・・ここから帰すわけにはいきません。会社の方は心配しなくても大丈夫ですよ。あなたの弁護士に、きちんと話しを通しておきましたし、そのためのスケジュール調整は済ましてあります」
「な・・そんなことがっできるわけないでしょうっ!これは完全に誘拐よっ警察にっ」
「通報しても構わんが・・・・。相手にされないと思うぞ。・・・こんなことが
”普通”に起きる世界に、身を置こうとしているんだ、アンタは・・そして息子の当麻も」


”当麻”と言う言葉に、反応するさえこ。


「・・・・・篠原さん。B.Gと言う組織は存在していました。そして、残念ながら、彼らの恩恵を受けていた闇の住人が、B.Gの残骸をかき集めるために、必死になっているんです。第2の彼らになりたくて・・・。それは色々な姿形に変えて・・・人の闇の中を渡り歩いて、いるんです、よ」


ジョーの言葉を聞きながら、さえこは、当麻が去ったダイニングルームへと続くドアを見つめた。


「信じられると、思う・・・?ブラック・ゴーストなんて・・・、寝言よ、サイボーグなんて、作れるわけないじゃないっ」
「信じる、信じないは、アンタの勝手だが・・・・・」
「・・・僕たちは、そのために動いているんですから」
「何者なのよ、あなたたちはっ」


アルベルトがジョーを見る。


「・・・・B.Gを知っている者。そして、闇の底に光る一縷の平和を見つけ出した者。でしょうか?」
「・・・ジョー、グレートの話しに影響されすぎだ」


ふっと、柔らかく口元に笑みを浮かべたアルベルトに、ジョーは応えるように微笑んだ。


「グレートじゃなく、学院で勉強させられた所為だ、よ」
















####

ジェットとピュンマに連れられて、ダイニングルームへと席を移動した当麻は、マリー/フランソワーズを前にして、心浮かれない。と言えば嘘になる。
自分が置かれている状況が全く理解できないままに、連れてこられた先はルームメイト、島村ジョウの自宅。
口悪く言えば、誘拐、拉致の類に分類されてしまうような状況であったが、それをそう思わせられないのは、マリー/フランソワーズ手製の朝食のためか、知り合いであるジェット、ピュンマがそばにいるためか。もしくは、この邸に漂う温かく、優しい雰囲気のためなのか。

当麻には解らない。


あまりにも長閑に時間が過ぎていき、食後に出された紅茶に舌鼓を打つ頃には、知らず知らずに強張っていた体も解きほぐされて、今置かれている状況よりも、目の前にマリー/フランソワーズがいることに、素直に嬉しい。と思う。

そんなひとときを当麻から奪い去ったのは、ピュンマの一言だった。


「フランソワーズ、海は・・・どう?」


手に持っていたティカップを、ダイニングテーブルに置いて、隣に座るピュンマを見つめた。


「心配ないわ・・・・今は博士がついていらっしゃるの」
「よお、篠原、お前は知ってたのかよ、津田の交通事故」
「ああ・・・・知っていたよ・・・中等部から一緒だったし・・」


手が震えだしそうなのを、懸命に抑える当麻。


「・・・・・それにしては、他人行儀だね?海もさ、ジョーに”篠原当麻さん”って言っていたし、学年が変わると、そうなっちゃうの?日本って?」
「いや・・・・そういうワケじゃ、ないんだ、けど・・・」
「足を怪我したことも知っていたのかな?」
「・・・学校に復帰したときには、松葉杖だったから」
「陸上競技の選手なんだろ?海ってよ、車にぶつかりそうになったら、ぽ~~~んっと飛んじまえばよかったのにな!」


戯けてみせたジェットの言葉に、引きつるような笑みを浮かべる当麻。
その様子を見て、フランソワーズは小鳥のように愛らしく首を傾けた。


「・・・・当麻さん?どうなさったの?」
「・・・・・・・あの・・・津田は、ここに居るんだよね?」
「ええ、いらっしゃるわ」
「どうして?・・・・・どうして、ここにいるの?」
「ええっと・・・養父がその・・」


フランソワーズは、隣に座るピュンマに助けを求めるように、彼に視線を送る。


「僕たちの後見人、養父なんだけど、とても有名なお医者様なんだよ。海の足が事故の後遺症からきてるかもしれないのが心配で、僕が相談したんだ。そしたら、すぐに診てみようって話しになって。かかりつけの病院に1度行って、こっちに来たんだ。いわゆる、セカンド・オピニオンってヤツかな?」
「そう、なんだ。それで、彼はここにいるんだね?」
「そういうこった!今週末はずっとここだし、もしかすっと欠席届けを出すことになっかもな。筋肉の状態とか、色々診てるみてえだしよ」


<ジェット、あんまり適当なこと言うなよ!・・・・たしかに海の症状は、肉離れだったけど>


「今はまだ、眠っていらっしゃるの・・・・・お会いになりたいのかしら?」


フランソワーズの言葉に、ビクン!っと大きく肩を揺らして動揺する当麻に、ジェットは素早く脳波通信で009と004に連絡する。


<004、009、篠原の野郎、怪しいぜ?・・・海絡みでよお>
<何か言ったのか?>
<言ったのは、フランソワーズだけどよっ、どうやら篠原は海に合いたくねえみたいだな?気にしてはいるが・・・何か篠原と海の間にあったんじぇねえのか?>
<・・・002、聞き出せる?>
<やってみるが・・・以外とガードが堅そうだぜ?>


「津田は、・・・・津田は喜ばないよ・・ぼくに会うことで、彼の体調を・・・」
「まあ、そんな風におっしゃるなんて・・・お友達なんでしょう?海さんと、当麻さんは・・・」
「・・・マリー・・・・それは、・・」


ぐっと、唇を噛みしめて、目の前に宝石のように輝く零れ落ちそうに大きなパライバトルマリンの余蘊あ神秘的な淡青色の瞳を見つめたながら、こころ落ち着かせようと、風に翻弄される波の音に集中する。

口を開きかけて、当麻の意思とは関係なく入り込んだ空気を飲み込んだ。
何度か繰り替えしていくうちに、空気が溜まった肺がパンパンに膨れあがっていき、心臓が押しつぶされそうになる。


ーーーここで彼らにその事を言って、何になる?





「ケンカみたいな。・・大したことじゃないんだけど、・・・そのままだから・・・・ちょっと気まずいだけだよ。仲直りするきっかけが、なくてさ。学年も違ってしまったし。お互い勉強で忙しいしね」


当麻は、笑ってみせた。



「・・・・・それは悲しいわ。もう、随分昔のことでしょう?海さんも気になさってるとは思えないわ。当麻さんから勇気を出して、声をかけたらよろしいのよ、ね?」



フランソワーズはゆったりと微笑んだ。
彼女は、当麻から話しを探り出すようなことをするつもりはないらしい。


「いつかは・・・・」
「いけないわ、当麻さん。いつか、いつか、とあてのない日を目指していたら、伸びていくばかりで、その日は来ないわ。だから、いつかじゃなくて、必ずとおっしゃって。必ず、と・・・」


真剣な表情で訴えるマリー/フランソワーズの言葉に、頷くが、彼の声は小さく頼りない。


「・・・・必ず・・」
「ええ。頑張って当麻さん。もしかしたら海さんもまっていらっしゃるのかもしれないわ。きっかけが持てずに」


当麻の言葉に満足そうに、マリー/フランソワーズは微笑んだ。が、面白くなさそうに、ジェットはフランソワーズに面白くなさそうな視線を投げた。


<オイ!フランソワーズ、邪魔すんなよっ!!海とこいつの間に何かあったかもしんねえんだぜ?もしかしたらよっ”関係”あるかもしれねえだぜ?!>
<それでもっ。ジェット、見たでしょう・・・当麻さんは酷く怯えていらっしゃるのを・・・無理強いは良くないわ>
<甘いこと言ってんじゃねっぇよ!今はミッション中だぜ?>
<そんなの関係ないわ。やめて、ジェット・・・これ以上、当麻さんを追い詰めるようなことはしないで。当麻さんは何も知らないのよ?・・・何も解らないままに、ここに連れてこられて・・不安なのに・・>
<そうは言ってもよ!あのまんま学院に置いておくわけにはいかねぇえだろっ、連れてくるのだって009の命令だしよ!オレのせいじゃねえよ、篠原が動揺したり、不安になったりしてんのは!>


つん。と、フランソワーズはジェットの言葉を跳ね返すような仕種をみせたので、ジェットは脳波通信ではなく、つい口で文句を言ってしまう。


「っだよ、フランソワーズ、えらく当麻の肩を持つじゃねえかよっ!」
「ジェットが意地悪なだけよ」
「解って言ってんのかよ、今、どういう状況かよっ!」
「ジェットよりもしっかり把握しているつもりです」
「2人とも!止めなよっもう・・・」


ピュンマが呆れたように、2人の口論とまでには達していない、間の仲裁に入る。


「どういう、状況か・・・・できれば説明して欲しいんだ、けど・・・?」


当麻は静かに言った。
その言葉は当然のように思われたが、改めて当麻の口から出てきたので、ジェット、ピュンマ、フランソワーズはお互いの視線を合わせて、押し黙ってしまった。


「さe・・・母と、なぜ島村が話しているんだろう?母のことを・・・変な風に呼んでいたよね?マクスウェルの・・・とか。島村が運転できるのに・・・・あまりに堂々と当たり前のように運転していたから驚いたけど、国際免許かな?・・・ギルモア、説明してくれるって言ったよね、車の中で。リンクは島村のことを”リーダー”って言っていたけれど、どういう意味?今朝早くに母は、祖父から預かっていた物がなくなったと言って、かなり動揺していたのに・・・・・今はすごく落ち着いているみたいだし・・・。そして、なぜ母と一緒にここへ、ぼくが・・・?申し訳ないけれど、見張られている気が・・・しないでもない。ごめんね、マリー・・・・君を疑っているわけではないんだけど、・・・やっぱり、不自然すぎて・・・。いや、こんな状況でのんびり、朝食食べて、美味しい紅茶を頂いている時点で、ぼく自身もかなり・・・・変だとは思うんだけど」


胸に溜まっていた一部を吐き出した、当麻。
マリー/フランソワーズは、黙って顔を左右に振ると、さらさらと、亜麻色の髪が揺れる。


「説明、したいんだけど、どこをどう説明すれば・・・いいのかなあ?」


ピュンマが苦笑する。
ふうっと、当麻の隣に座るジェットが軽く溜息をついた。


「こっちに、ジョーがいてくれりゃあ、簡単なんだけどよっ、あっちはあっちで取り込み中だしな」
「ジェット、ジョーばかりに頼らないで」
「普段は無口でなに考えてんだか解んね~、ムッツリのくせによ、こういう時はぺらぺらよく話すじゃんかよ、本当の事だろ?」
「ぺらぺらって・・ジョーは必要な事以外話してないよ?”必要な事”がたくさんあるからぺらぺら話さなきゃならないだけ。だと思うんだけど」


ジェットの言葉に応えるピュンマは、紅茶にミルクを注ぎ足し、フランソワーズはテーブルの上のティカップを持ち上げた。


「お母さんは、君に知られたくないんじゃないかな?と、僕は思うんだけど・・・?」


遠慮がちに当麻をのぞき込むような視線でピュンマは彼を見た。


「母はいつも、ぼくを遠ざけるから・・・・」
「遠ざけるって?」
「うん、とおざk・・・」


当麻の言葉を遮るかのように、がちゃり。と、リビングルームのドアが開く。


「博士は?」


ジョーだった。
ドアを開けるなり、ダイニングテーブルに座るフランソワーズに話しかける。


「津田さんについていらっしゃるわ」
「呼んできてくれる?」
「僕が呼んでくるよ」


ピュンマは立ち上がって早足で、ダイニングルームにある地下へと繋がるドアではなく、ギルモア博士の寝室がある方のもう一つのドアへと急いだ。


「どうしたんだよ、ジョー?」
「・・博士に用があって」
「センパイが、説明して欲しいってよ?」
「・・・何を?」
「何をだよ、センパイ?」


当麻はジョーの方へと振り向いた。


「・・・島村、君は・・」


ドアを開けているので、ジェットとジョーの会話が聞こえたのだろう。
さえこは、リビングルームのソファから立ち上がり、ジョーを押し退けるようにして、ダイニングルームへ入っていき、ダイニングテーブルに近づく。


「当麻、帰りなさい。あなたがここに居る必要ないわ」


次ぎに、ドア口に立つジョーを睨み付ける。


「話させるために当麻を人質にしても、意味ないわよ。彼を学院に帰して」


さえこが言った、”人質”と言う単語が、当麻の脳裏を駆け抜けていく。


「ばっかじゃねえの?!人質に朝飯食わして、こんな悠長に茶飲んでるかよっ、アンタにたいしてだって、そうだろっ」


ジェットは声を張り上げるようにして、さえこに向かって文句を言った、その声に当麻の頭から”人質”と言う言葉が消えていく。が、不安に揺れる当麻の視線は母、さえこではなくマリー/フランソワーズへと向けられていた。


「・・・・ジェット、眠いのか?」
「はあ?」
「苛つくなよ。・・・・・ピュンマ、博士は?」


いつの間にかリビングルームに戻ってきてたピュンマは、1人だった。


「・・・連れて来いって」
「え?」
「その目で、自分たちが何をしたかを、見てみろって・・・・」


悲しげに眉根を下げて俯いてしまったピュンマを見ながら、深く溜息を吐いたジョーの表情に、”地下へは連れて行けない”と言う返事が、浮かんでいる。

津田海の足の様子は、実際に目にしてはいないが、003からの報告により、大体の状態は把握していたジョーにとって、ギルモアがどういう気持ちで、その言葉を言ったのか嫌でも理解できる。
その言葉を受け取ったピュンマの辛さも、そして、1人でここへ戻ってきた彼の気持ちも同じように。



フランソワーズは立ち上がって、ピュンマに近づき、そっと彼に寄り添うようにして、呟いた。


「ピュンマも疲れているのでしょう?ジェットと同じように、寝てないのじゃなくて?」
「いや、大丈夫・・・。ごめん、博士の・・・、もう1度行ってくるよ!」


ピュンマはもう1度地下へと向かおうとしたが、フランソワーズはそれを制して、ジョーに向かって言った。


「ジョー、私が博士を呼びに行くわ・・・・いいかしら?」


フランソワーズの申し出に、ジョーは頷く。と、フランソワーズは早足にダイニングルームから出て行った。
その背を見送った後、ジョーはダイニングテーブルに座って、フランソワーズが出て行ったドアを見つめる当麻にむかって、穏やかであるが、厳しさを含んだ声で話しかけた。


「篠原、津田海とどういう関係?」


ストレートなジョーの質問に、当麻は彼が何を自分に向かって言ったのか、瞬時に理解できなかった。

さえこは、ジョーの視線から当麻を隠すようにして立つと、親の敵と言わんばかりの、射すような視線でジョーを睨み付ける。が、そんなさえこの視線に怖じ気づくこともなく、その視線を受けた状態で、当麻に話しかけた。


「津田海の左足がどうなってるか、知ってる?」
「ひだ・・・り、足?」
「当麻、立ちなさいっ!帰るのよっ」


当麻へと振り返って、さえこは乱暴に彼の腕を掴むが、当麻はさえこのその手を振り払った。


「母さんっ・・・津田の足ってっ・・」
「何も知らなくて言いことよっ・・立ちなさいっ、帰るのよっ!!」


さえこは振り払われた手で、再び当麻の腕を取って力任せに引っ張り、当麻をイスから引きずるようにして立たせようとしたが、当麻は抵抗する。


「何を隠しているんですっ?!津田の足は問題ないってっ」
「そうよっ!何も問題ないわっ」
「問題ないならっ言ってくださいっ」
「当麻っ!」


ぱんっ!っと乾いた音がダイニングルームに響く。
思い切り当麻の頬を平手で叩いた。


「っ・・・・・言って・・下さい。・・・彼はっぼくの所為でっ」
「当麻、いい加減にしなさいっ私の言うことを訊いていればいいのよっ」


叩かれた左頬が、痺れるように痛み出す。


「島村・・・、高校入学する少し前に、ぼくは誘拐されかけたんだ」
「当麻っ黙りなさいっ!!」


再び振り上げられたさえこの右手を、ジェットがイスから立ち上がって当麻を庇うように掴んだ。


「いい加減に、子離れしろよな・・・・」


ジェットに捕まれた手首の力の強さに、さえこの顔が苦痛に歪む。


「ジェット、手加減しろ・・・」


リビングルームのとダイニングルームを繋ぐドアに凭れるようにして立つ、アルベルトが呟く。


ピュンマはゆっくりとさえこに歩み寄ると、深々と頭を下げた。


「何もかも話して下さい。海のためにも・・・彼のためにも・・・お願いします。どうか、お願いします・・・・。確か、いろんな意味で・・・サイボーグ技術は、多くの人を助けることになると思います。そんな日が来ることを、僕は・・・・僕たちは、こころから望んでいます。でも、それと同じくらいに、危険もあるんです。その技術が、平和のために、医療のために、役目を果たすだけのモノなら・・・。何も言いません。何も、こんな風に・・・・。でも、今は、今の状況ではまだ、トーマス・マクガーさんが研究してこられた技術は、今の世の中にはっ、その技術を受け入れるだけの環境が整っていないんです・・・。悪用されることばかりが・・・」


ジェットが、掴んでいたさえこの手を離した。


「軍事技術の発達は、それと比例して素晴らしい科学技術の発展に貢献してきました。多くの科学者が、人類の未来に希望を持って研究、開発した。と、僕は信じています。どのような”人類の未来”を科学者たちは夢みているのか、それは・・・本人じゃないと、僕にはわかりません。けれど、それらが必ずしも、正しい道へと人類を導くものでは・・・なかったりもします。戦争が・・・・、いい例だと、思います。国の活性化のために、と。戦いをしかけることもあります。国の利益のためにも、です。戦争を起こすことで潤う国もあれば、士気を高めてバラバラになった国民の気持ちを団結させる。という効果も、あります。・・・・平和のために、戦う。と、言うことも、あります。護るためにも、戦う。何が正義か、解らないけれど・・・。信じるもののために戦う」


ピュンマから体を捩って、さえこは彼を見ない。


「僕の生まれた国は、ずっと戦いを続けています。それは・・今も変わらない・・・。戦わなければならないために、武器が必要となり、勝つために、・・・より強い武器を得ようとします。そのために、科学技術は発達し、・・・・形を変えて僕たちの生活にとけ込んでいきます。良い意味でも、悪い意味でも・・・人類に大きな影響を与える。バランスなんだと、思います。すべては、バランスなんです。・・・今、保たれているバランスは、ちょっとしたことで、大きく傾いてしまう。良い方へ傾くなら、いい、でも・・・・・」


ゆっくりとピュンマは頭を上げて、自分に背を向けたさえこに向かって話しかけた。


「でもっ!!!!今、そのサイボーグ技術が世に出てしまったら、確実に”悪い”方へと傾いてしまうっ!解りますかっ!今、その技術を受け入れるにはっ僕たちはっこの世の中はまだっっ幼いっ、もっと、もっと、成長してからじゃないとっ危険なんですっ!!海のことを知っていれば、解りますよね?!彼の足のことを知っていれば、理解してもらえますよね!?・・・・彼の足だけなら・・・・。彼の足だけなら・・・、まだ・・・。想像してみて下さいっ。この世の中に、サイボーグ技術が流出したらっ、そのために犠牲になる人間が出るんですっ!医療目的で作られた手足を持つ人間以外にっ全身が”戦う”ためのサイボーグだって生まれるかもしれないっ、解りますかっ?!失われた手足や臓器を補うのではなくっ、健康な、自然な体を、何も問題がない体をっ改造して作る”サイボーグ”の存在をっ、あなたは本当の意味で理解してますかっ!サイボーグにされた人間は、永遠に”人”に戻れないっ、人が、人を殺めるための、人を作り出すんですよっ!この世の中の、争いが、犯罪が、どう変わっていくか、それによって、”戦争が”どう変わっていくか、人が変わっていくか、想像するなんて簡単でしょうっ!?」


ピュンマは先ほどよりも深く、深く、頭を下げた。


「お願いします・・・。全てを話して下さい。・・・・海の足のことを含めて、全てを話して下さい・・。止めて下さい。お願いします。・・・・・もう、僕は・・」





ーーー嫌なんです。僕たちだけで、もう十分なんです・・・・。








ダイニングルームに訪れた静けさの中、ピュンマは黙って頭を下げたまま微動だにしない。


部屋へと届く微かな波音に浚われることなく、ピュンマが噛みしめたくちびるの、血が滲むほどに噛みしめた思いが、ダイニングルームに伝わっていく。











晴れ渡った、青空に射すように強き白の光は、波に打ち上げられた貝立ちをきらり、きらり、と輝かせて、海カモメが心地よく、翼を広げて風に乗る。

陽の光が作った影は、車道を走るバスを追いかけて行く。














「週末に、学院から帰る途中に誘拐されかけたんだ」


当麻の掠れた声が、聞こえた。
さえこは当麻が話し出したにも関わらず、彼を止めない。


「抵抗したけれど、押さえつけられて・・・。子どもだったし、ね。ぼくが車に乗せられたところで、津田が・・・・大声を上げながら走ってきたんだ。慌てて車を発進させたところに、車を止めようと津田は飛び出してきて・・・・。津田の足はその時の・・、誘拐しようとした男達が、戸惑っている間に、ぼくは車から逃げ出したんだ。・・・学院から近くて、駆けつけた警備員によって、助けられた・・・。大怪我を負ったのは知っていたけれど、その誘拐自体が・・・、気が付いたら何もかもが片づいていて・・・。津田はただの交通事故となっていて」


ジョーがちらり。と、アルベルトへと視線を送ると、彼は微かに頷いてリビングルームから出て行った。


「・・・左足、津田の、左足は・・・何も怪我の後遺症もなく・・・。傷ひとつ見あたらないまま、彼は走高跳びの選手として復帰したから・・・・。何も疑問に思わなかった・・・・・教えて欲しい、彼の足は・・・・、今の、ギルモアの、言葉からだと、・・・津田の足はっ・・・・」
「てめえのジーさんが残した技術を使った足なんだよっ」


ジェットは怒鳴るように当麻に言い、つかんでいたさえこの手首から手を離すと、どかっと、イスに腰を下ろした。


「当麻、こんな話しを真に受ける必要ないわ。あなたには関係ないことです」
「そんなっ!」
「知らなくていいことよっ!」
「ぼくの所為なのにっ?!」
「あなたの所為じゃないわっ、当麻、誘拐は未遂だったのよっ忘れなさいっと言ったでしょうっ!何が”サイボーグ技術よ!偉そうにっ、そんなモノがこの世にあるわけないじゃないっ、最近の子はっ漫画やアニメの見過ぎよっ、現実と夢の区別がついてないんじゃないのっ?!人間が簡単に改造できるわけないでしょっ!そんなっくだらない話しを訊かせるために、ここまで私たちを連れて来たって言うのっ!」


ジョーはゆっくりと足を進めてピュンマの隣に立ち、腰を折ったまま動かないピュンマの背を撫でるように、その手を置くと、ピュンマはのろのろと頭を上げるが、顔を上げずに俯いたまま。


「漫画やアニメの世界かどうか、見てみろよ・・・・」


ジョーの声とも、009の声とも違う声に、跳ね上げるようにしてピュンマはジョーを見る。ジェットは隣に座る当麻のイスを力任せに引いた。瞬間。


テーブルに拳を置くような仕種にも関わらず、10人が余裕で食事をとることができる、大テーブルがV字に折れた。


まるで小枝でも折るかのように、簡単に。



自室に戻っていたアルベルトが、下から聞こえた破壊音を訊いて、すぐさまダイニングルームへと駆け込んでくる。
同じく、ジェロニモもアルベルトより一寸早くダイニングルームへと駆け込んで、見事に2つになったダイニングテーブルを見た後、力無く首を左右に振ると、また自室へと戻って行った。
アルベルトは、一体何が原因でダイニングテーブルが2つに折れているのかを、ジェットに脳波通信で訊ねたが、ジェットは応えず、アルベルトの方に向かって嗤いかけながら、口笛をヒュ~っ♪と鳴らした。


「・・・・漫画やアニメの見過ぎで、こんなことできるはずねぇよ、な?」


<ジョーが切れた?!>
<・・いや、切れたウチに入らん>
<いやっ切れてるぜっ?!>
<本気じゃない・・・・”ちょっと、腹が立った”くらいだ>
<<嘘・・・>>
<まだ、言葉が綺麗だからな>



さえこの、ガタガタと震えだした膝では体を支えることが出来ず、床へと崩れ落ちていった。
ジョーは、さえこの正面へと移動すると、膝をついて腰を落とし、さえこの恐怖に染まった瞳を真っ直ぐに射抜く。

瞳を逸らしたくとも、捕らえられてしまった視線を動かすことができない。1mmでも、ジョーの視線から逃れれば、2つに折られたテーブルのように、自分も・・・。と、さえこの背に”死”と言う言葉が張り付いた。


「・・・・人を、虫みたいに殺すことが出来る躯にされて、嬉しいと思うかよ、なあ?アンタが足を踏み入れた世界は、こういう世界、なんだぜ?覚悟、あんのかよ?」


琥珀色の薄い光は鋭く、人が、これほどに冷たい視線を相手に、人に、投げかけることが出来るのかと、芯から震えだした体は、わざと体を揺すっているように見えた。



何もない。
何も彼の瞳から”熱”がない。


冷たく、薄く、鋭く、ピンっと貼られた硬鋼線のよう。


その線に触れてはいけない。

人としての本能が、叫び、訴える。



その線に触れてはいけない。

生物としての、細胞ひとつ、ひとつが、悲鳴を上げる。








声にならない、言葉にならない、うめき声が喉を通る。












ジョーが再び、口を開こうとしたとき、フランソワーズの悲鳴がジョーの耳に届いた。


「きゃああああっっ!テーブルがっジェットがしたのっ?!」


パシンっ。と、ジョーの中で何かが弾けた。

ジョーが振り返った先には、大きな空色の瞳をさらに大きく見開きながら、口元を抑えて、フランソワーズがドア口に立っていた。その後ろに立つギルモアは、眉間に皺を寄せてジョーを呆れたように見つめる。


「ジョー、お前・・・か?・・・・・二度あることは三度ある。と、言うが・・・。罰として、当分はフランソワーズの手伝いじゃな・・。フランソワーズ、ジョーが邸にいる間、家事は全てジョーにやらせなさい。いいかね?お前は指示を出すだけじゃぞ?」
「は、博士・・・これ、を・・ジョーがしたとおっしゃるの?・・・ジョー?」


ギルモアの言葉が信じられない。と、ばかりに、フランソワーズはジョーに問いかけるような視線をむけた。ジョーはフランソワーズに向かって、苦笑すると、声を出さずに、口の動きだけで言葉紡ぐ。
「ごめん」と。


ジョーは立ち上がり、驚きに固まったままのピュンマの肩を2度ほど叩くと、魔法が解けたように、ピュンマは動き出し、ジョーの顔を見ると、彼は悪戯っ子のように、ぺろり。と、小さく舌を出してみせた。そして、キッチンカウンター前に立つ、アルベルトの前へと歩いていく。


「・・・すまない・・・、それに・・・」
「言わなくても、解るさ・・・。あんなものが転がっていればな。ま、時間の問題だったろうし・・。博士。これはジョーだけの責任ではありません。止められなかったジェット、ピュンマにもあります」


ジョーを庇うようなアルベルトの言葉に、ジェットは脳波通信で文句を言った。


<オレらは関係ねえぞ!>
<ある、止められなかっただろ?>
<ジョーがテーブルを割るなんて、誰が予想できたんだよっ!それに、てめえは席を外していて、知らねえだろっ何があったかなんてよっ>
<ジョーが何かする”感”はあっただろう?篠原当麻が、なんで、そんな壁際に移動している?お前が移動させたんだろう?・・・・・想像はつく。ピュンマの言葉を蔑ろにするような、態度をとったんだろ?あの女が。009がミッション中にこんな子供じみた、衝動的な行動は起こさないからな>


「イワンが起きておるから、まあ、大目にみてやるかのう・・・」


独りごとのように呟いて、ギルモアはゆったりとした歩調でさえこに近づき、床に腰を下ろして、朗らかに微笑んだ。


「儂の息子が、驚かせてしまったようじゃのう・・・。すみませんなあ、あの子にはよおおく、言い聞かせておきますから、許してやってください。・・・・初めまして、アイザック・ギルモアです」


ギルモアは手を差し出して、握手を求めた。が、差し出されたギルモアの手から逃れるように体を引いた。


「おやおや、怖いですか?・・・・儂の、この皺だらけの手が・・・。そうじゃのう、怖いかもしれんのう・・・。しかし、この手は、あなたが向かおうとしている道の果てを掴んだ、手なんじゃぞ?」


ギルモアの声が、変わった。
笑みは消え、そこにいるの、B.G科学技術庁・サイボーグ開発計画プロジェクト責任者、全ての指揮をとった、Dr.アイザック・ギルモアだった。


「あなたが、進んでいくであろう道を、先に歩んだ男の手をとることができないで、どこへ行く気じゃ?・・・・これくらいで恐がり、恐怖しているようじゃ、先が見えとるのう・・・・・。そんなに早死にしたいのかね?最近の人は・・、ん?」


ギルモアの語りかける言葉は優しい。

ガクガクと震えるさえこにむかって、差し出した手を、次ぎに当麻の方へと移動させた。イスに座る彼を見上げるようにして、微笑む。


「篠原当麻、君じゃな?」
「・は・・・・i・・・」
「息子の、ジョーが同室だそうで・・・。迷惑をかけとらんかね?愛想がないように思うかもしれんが、・・・とても、とても、とても・・・優しくて、責任感が強く、どんな小さな事にも、気が付く、優しい、優しい子なんじゃ。少しばかり、恥ずかしがり屋でのう・・・、なかなか素直に自分が出せなくて、誤解されやすいんじゃが、ジョーほど、人を思いやって行動する子はおらんと思うとる、まあ、自己犠牲精神は直して欲しいところなんじゃが・・・。あと、もう少し、甘えて欲しいのう・・・変に我慢強くて困ったもんじゃ。そんな、ジョーじゃが、仲良くしてやっておくれ・・・・。ジェットは、口は悪いが、面倒見が本当に良くて、お節介過ぎて失敗もするが、明るくムードメーカでなあ。どんなに辛いことや悲しいことがあっても、彼の一言で、みんなが気持ちを強く持つことができる。熱いこころを持っとる子なんじゃ、きっと、何かあったら助けてくれるぞ。口は悪いがの。ピュンマは、生まれついての戦士じゃ。彼ほど自分を冷静に見極め、高い志を持って生きている青年はおらんぞ。まっすぐに自分の信じた道を歩いていく強さ、忍耐力、プライド、どこを見ても、彼ほどの男は見つけられん。家族を思い、和を大切にする・・・温かさを持ち合わせた、素晴らしい子じゃ・・・。そういえば、フランソワーズが、一週間ほどお宅でお世話になったんじゃったの?」


当麻は頷いた。


「フランソワーズは儂の、大切な、大切な、大切な・・・・儂の、大切な一人娘なんじゃ。あの子のためなら儂は、いつでもこの命を差し出す覚悟が出来とる。あの子のためなら、なんだって出来る。フランソワーズが幸せになることが、・・・・いつか、彼女のすべてを無条件で護り、愛してくれる人が現れることを祈っておる。可愛くて、可愛くて、しかたがなくてのう・・・・。春の女神のように、周りに明るく花を咲かせてくれて、美味しいお茶に御菓子を作ってくれて、邸中をくるくる、走り回って、・・・可愛くてのう。儂は自慢したくて、自慢したくて、たまらんのじゃ。こんなに優しく、愛らしく、華やかで、美しい子が、この世のどこにいる!この子は儂の娘じゃぞ!っとな。なんだかんだと、忙しくて、まだフランソワーズとデートしておらんのが、悔しくての」


慈愛に満ちた光を宿す、ギルモアの穏やかな表情に、いつの間にか当麻は自分も微笑んでいることに気が付き、差し出されたままのギルモアの手を、おずおずと、握った。


「・・・・・初めまして、アイザック・ギルモアじゃ。ようこそ、我が邸(や)へ。そして、ようこそ、・・・・ギルモア研究所へ。ここに住んでいるのは、儂を含めて計10人。・・・そして、儂以外は、みなサイボーグじゃ」


ギルモアの瞳が哀しみに揺れたと思うと、鋭利に当麻のこころに向かって言葉を投げた。


「・・さ、サイボーグ・・・・・」


当麻の手をぐっと力を込めてギルモアは握った。


「・・・・・・儂の手によって、改造された。この世でたった9人しかおらんサイボーグ戦士たち、じゃ」











=====63へと続く




・ちょっと呟く・

当麻君・・・もっとカッコイイはずだったのに?!
なんか、ダメダメ・・・(汗)

今後の彼の動きに注目っっ!!
元に戻しますっ(笑)
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