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Day by Day・63
(63)








話し合いの場を、ダイニングルームからリビングルームへと移す。

当麻に支えられるようにして、リビングルームへと移動したさえこは、子猫のように体を小さくして、その瞳は焦点が定まらず、噛みしめるくちびるは歯がかみ合わないかのように、震えていた。
そんな様子の母、さえこを当麻は初めて見る。


「・・・・・サイボーグ、と言われても」


ギルモアに突然、「自分以外はサイボーグ」だ。と、告白されても、あまりにも非現実的すぎて信じられず、異様に冷静だった。

さえこが言ったように、”漫画やアニメ”の世界。と、言いたくなる気持ちが沸き上がるが、自分と母を優しく背後から労るようにダイニングルームから、ここ、リビングルームへと向かう、ギルモアの温かく、雄大さを感じる雰囲気を持つギルモアが嘘を付いているようには思えない。のと同じく、実際に目の前で見せられたジョーの”力”を、どのように受け止めたらよいのか解らなかった。


”サイボーグ”だから、軽く拳をテーブルに置くような仕種ひとつで、10人が余裕で食事ができる、大テーブルを、小枝のごとくV字に割ることができた。

それが、”サイボーグ”の力。
突然現れた、祖父、トーマス・マクガーが置いていった、ケースの中に何が入っていたのかは、祖父からも、そして母、さえこから何も知らされていなかった。

当麻が祖父から訊いた言葉。









”夢はずっと、夢であり続ける。
けれども、遠い未来・・・この夢を必要としてくれる時代が来るまで、
君の手で護っていてほしい・・・。いいね?”






今、当麻は祖父の言っていた”夢”が何であるか知った気がした。


しかし、それは光をさして言った言葉だろうか?
それとも・・・・。





















安楽椅子に座り、パイプに火を灯すギルモア。


ダイニングルームとリビングルームを繋ぐドア口で、当麻の自宅までマリー/フランソワーズを迎えに来た、アイスブルーの瞳に、白銀の髪をした、ドイツ人。と、1学年下に、島村ジョウと編入してきた、ジェット・リンクとピュンマ・ギルモア、そして、自分のルームメイトである島村ジョウが、短く言葉を交わし合い、ドイツ人の方が、ダイニングルームとは違う方のドアから、リビングルームを出て行く。



ジェットは何がそんなに楽しいのか、ご機嫌にジョーの肩に肘を乗せ、体重を預けるかのようにもたれかかり、ピュンマの広いおでこをピンッ!っと指で弾いた。


「ば~かっ熱いんだよっピュンマは!真面目一辺倒で通るかよ、青春映画じゃねえんだぜ?」
「・・・・重いから、どけろよ」
「うるさいなあっ!・・・熱いんだったらジェットの方だよっ・・・・博士に言われたくせにさっ」
「ああ?ピュンマの熱さと、オレのハートの熱さを較べるんじゃねえよっ、次元がちげえんだよ、次元が!」
「・・・・・2人は、どうする?」
「できれば、僕はここに居て話しを聞きたい・・、009が許してくれるなら」


ーーー009?




3人の会話が嫌でも当麻の耳に届く。
さえこの背中にぞくり。と、寒気が走った。




「・・・・わかった」
「オレはひとっ走り006の様子を見に行ってくるぜ?・・・遅いだろ、いくらなんでもよ?」
「連絡は?」
「最後に入ったのは、明け方だった?」
「ああ、オレが受け取ったぜ・・・そんときにゃ、終わっていたんだけどよ、戻って来ねぇっておかしいだろ?連絡もないんだぜ?」
「・・頼むよ。できれば007とコンタクトを取って、006の後にそちらも頼む」
「了解!」


ジェットは、ジョーの肩に置いていた肘に反動をつけて離れると、ばん!っと彼の背中を叩いた。


「あれくらいの潔さで、攻めろよな!”アイツ”にもよっ」


ニヤニヤとした嗤いを浮かべながら、ジェットもアルベルトに続いてリビングルームを去って言った。


「・・・・・過ぎるお節介は迷惑にしかならない」


ジョーの呟きに、ぷっ。と、笑いがこぼれるピュンマ。


「ジョー、ありがとう・・・。嬉しかったよ、僕は」


面と向かって笑顔で礼を言われたために、俯くようにして、長い前髪に表情を隠すジョーの耳に、カラン。と、氷がグラスに揺れる音が耳に届いた。


「アイスティで、いいかしら?」


トレーに人数分のミント・アイスティーを乗せて、リビングルームに入ってきたのは、フランソワーズ。


「・・・・十分だよ。・・・・落ち着くまでは話しができそうに、ないし」
「そうね・・・」


体を小さくして当麻に寄り添うように座る、さえこへと視線を向けた。


「・・・ごめん、フランソワーズ」
「?」


小さな声だったが、はっきりとフランソワーズの耳に届いたジョーの声に、視線を彼に戻した。


「こんな形で・・」


最後までジョーが言わずとも、フランソワーズには彼が何を言おうとしているのかが解る。


「・・・事実。ですもの」
「ジョーのせいじゃないよっ、僕も・・、僕だって・・・。ごめんね、フランソワーズ」


ピュンマも、ジョーに続いて謝る。
フランソワーズはにっこりと、いつものように、光が舞うような明るい笑顔をみせた。


「謝るなんて、おかしいわ・・・ね?」
「こりゃ。そんなところで、いつまで立ち話をしているつもりじゃ、ジョー。ピュンマ、フランソワーズも、こっちへ来なさい」


ギルモアの声に、びくり。と、大きく体を揺らしたさえこ。
そんなさえこの様子を見ながら、ギルモアはゆったりと彼女に話しかけた。


「・・・サイボーグだからと言って、むやみやたらに人を傷つけるようなことはせん。・・・・勘違いせんで欲しい。それとも、何かご存じなのでしょうかな?・・・サイボーグと言う存在・・・・ある組織によって作られた”役割”を」


テーブルの上にトレーを置き、コースター、そしてミント・アイスティーを、さえこの前に置き、その手が当麻の前に伸びたとき、頭ではなく、当麻の体が動いた。


フランソワーズの手を握る、当麻。


「当麻、さ、ん?」


握られた手の力の強さに驚いて、フランソワーズは驚きに見開いた、大きな空色の瞳でまっすぐに当麻を見つめた。


当麻の手が握る、フランソワーズの手を見つめる、さえこ。



「・・・・・・ギルモアさん、が仰ったことが、本当なら、この邸にいるギルモアさん以外は、サイボーグだと・・・言うなら・・・・マリーも?」


フランソワーズの手を握る力がぐっと、強くなる。


「そうよ、当麻さん。私はサイボーグ・・・・。今から何十年も前に・・・、当麻さんが生まれる、ずっと、ずっと、ずっと・・・ずっと遠い昔に、改造されたの」



神秘的に輝く、パライバトルマリンのような、深い青の中に浮かぶ碧。揺れる光に漂う波色。


「・・・・遠い、昔?」
「ええ。遠い、遠い、昔に・・・・・。だから、こんなおばあちゃんの手を、握っていても・・・ね」


当麻の手の力が、フランソワーズの”おばあちゃん”と言う言葉に緩む。
その隙を逃さずに、フランソワーズは当麻の手から自分の手を引いて、トレーの上のものを乱暴にテーブルへと移すと、早足にリビングルームから出て行こうとするが、ドア口に立っていたジョーがフランソワーズの腕を掴み、耳元で囁いた。


「・・・自分をそういう風に言うな、よ。フランソワーズは、フランソワーズだから」
「ジョー・・・」
「フランソワーズは、フランソワーズだ」


フランソワーズの腕から手を放したジョーは、ドア口から、フランソワーズから、離れる。
歩き出したジョーを振り返るようにしてフランソワーズは、視線で彼を、追う。

微かに首をフランソワーズの方に残していたジョーと、触れ合った視線は、フランソワーズを強く包み込む。







ピュンマの瞳に2人が眩しく映った。


「そろそろ、イワンが寂しがるんじゃないかな?ね、フランソワーズ」
「そうね、ピュンマ。ミルクを用意しなくちゃ」


微笑むフランソワーズがリビングルームを出て行く姿を見送ったピュンマは、ギルモア、当麻、さえこ、そしてジョーが座った、リビングルームの一角へと足を向けた。

















####

さえこは、条件を出してきた。

「・・・ひとつは、当麻は関係ありません。だから、この子をすぐにでも学院に返して。一切関係ない。今回のことに彼が関わる必要がないわ。当麻、今訊いた全て、全て忘れるのよ、いいわね?・・・もうひとつは、当麻を護ること」
「何か、矛盾した条件じゃのう・・・何も知らずに、護られる彼の身にもなってみなさい。それに・・・当麻くんも無関係とは言い難いじゃろうに」


ギルモアの言葉に、当麻は頷く。


「・・・祖父が残した物が、何であったのか解った以上、それに津田が・・・。ぼくは知る権利がある、と思う。どうして、どうして母さんは、ぼくを遠ざけるの?」
「黙りなさい、当麻・・・。いい、あなたは自分のことを、自分の将来だけを考えていればいいのよ、篠原のことも、この、・・・ことも、あなたは何も関わる必要なんてないの」
「・・・・母さん・・」
「当麻、さえこ、でしょう?」
「・・・・・・」

厳しい視線を当麻へと送る。


「なんじゃ、母親を”お母さん”と呼んではいかんのか?・・・変わった教育方針じゃのう?」
「私たち親子の問題です・・・、この条件を受け入れられない限り、私は何も話さない」


さえこは体を小さく強張らせながらも、先ほどよりも強く己を主張する。
噛みしめていたくちびるが、妙に紅く染まり、色を失った顔に鮮やかに浮かぶ。


「・・・・いいでしょう。あながたお話下さるのなら、全てをの条件をこちらは受け入れますが」


丁寧な口調で、穏やかに話すがその視線はあくまでも009でいる。


「彼が”勝手に得た情報は、知りませんよ?・・・・あなたがた”親子の問題”に、我々も関わるつもりはありません。従って、彼が何をしても我々は無関係です。それから、”護る”とは、どの範囲で、ですか?」
「・・・・全てがクリアになるまで」

さえこは、静かに呟いた。


「了解しました。僕も、ジェット、ピュンマ、3人はクリアになるまで学院にいます。その範囲でお約束しましょう。・・・僕たちのことは、学院では・・・」
「わかっているわ」
「ありがとうございます・・・。しかし、彼を今、学院へ帰すワケにはいきません」


当麻は驚きの連続である。

彼の知るジョーは、何ごともマイペースに物事を静かに進め、会話をしてもいつも”受け身”であったように記憶している。会話の受け答えも思慮深く、そして言葉数も少ない。当麻の知る中で、マリー/フランソワーズが学院を訪れた時にランチを取った時、初めて”本当の彼”を知った気がしたが、今、目の前にいるジョーを考えると、当麻は混乱するばかりである。


「・・・」
「あなたにとってご子息は大切な存在です。”誰かが”あなたの”行動”を知り、彼に危害を加えようとする、危険もある。と、・・・・その可能性を考えていらっしゃるために、僕たちに”ご子息を護る”と、言う条件をお出しになられた。と、思いますので。彼は、僕たちと一緒に行動してもらいます。・・・ピュンマ」
「そうだね・・・」
「悪い」
「いや、当然の判断だよ。ジェロニモよりも僕の方が楽だろうしね」


ふと、ジョーがピュンマから視線を1,2秒ほど外した。


「・・・ゲストルームが使えるらしい、けど」
「そっちは、篠原くんのお母さんが使う方がいいよ」
「・・・・・俺の部屋か」
「ま、その辺は、僕にまかせてくれる?」
「頼む、よ」
「了解!」


ニッコリと微笑んだピュンマの口元から、白い歯がキラリと、光る。



2人のやり取りを訊き、当麻は自分がこの場から席を外すことを知り、隣に座る母親に視線をむけると、当麻に向かって無言で頷く。


「じゃ、行こうか篠原先輩!」


ピュンマは立ち上がると、ジョーに向かって笑ったように当麻にむかって笑顔を向ける。
ここで当麻は何もできない。そのために、彼らに、ピュンマに従うしかなく、ピュンマとともにリビングルームを去って行く。









ドアが、閉まる。
その音を確認し、さえこは振り返って、ドアに当麻がいないことを確認した後、ジョー、そしてギルモアを交互に見つめた。


「・・・・祖父、と・・言っても、トーマス・マクガーの方ではないわ。私の、篠原聡から、”B.G”の存在は訊いていたわ。その存在がどういうものであるかは、知らなかった。ただ、”B.G”と言う名を出す者には、一切関わるな。それが、私の祖父、篠原聡の遺言だったのよ」
「・・・・・・いつから?」
「いつも、何も・・・言った通り。私はその存在を”名前”しか知らないわ、実在する組織だったなんて、知らないわ。噂でしかね・・・・。あの資料が転がりこんで来るまでわ・・・・・・。どこまで、私のことを・・・・当麻のことを調べたのよ?」


挑戦するような目線で、ジョーを観る。


「あなたと、血のつながりはない。父親は石川斗織・・・中井・マクガー・T・アンドリュー」
「たいしたものね・・・・・、こっちも訊くわ、いつから?」
「知人が、交流会に出席したんで、ね」
「・・・ああ、それで?・・たった1ヶ月ほどで、ここまでこぎ着けたの?」
「たった?・・・・これでも慎重に、時間をかけたつもりです、よ。・・・・本来なら、1週間もかからない・・・。けれど、”力業”は通用しなくなった社会なんで」
「・・・・・よく、解っているじゃない。世の中は変わっていくわ、情報を制する者が、今の世界を制するわ」


カラン・・・と、静かに氷がグラスの中で溶けた。
ギルモアは何も言葉を挟まずに、静かにパイプを楽しむ。


「・・・・すべてを、お願いします」
「やっぱり、こっちが本当の”あなた”ね・・・・。学院は似合わないわ、ねえ。島村君?」
「・・・・・あなたも、さきほどよりも今の方が、”あなた”らしくて素敵ですよ」
「どこまで知っているのか、知りたいわ」
「”マクスウェルの悪魔”が使っていた”景品”は、石川が手に入れた?」
「・・・そうよ」
「6年ほど前に?”偽トーマス・マクガー”から?」


さえこの瞳が大きく見開かれ、そして、半円を描くように細められた。


「私が話す必要なんて、ないじゃない」


その言葉が、自分たちの推測が正しかったことを固定する。


「彼はすべてを同居人の・・・誰だったかしら?・・・そう、ミツヒロ?って子に渡して、ドイツ留学させていた、斗織に”父親”のフリして会いにきたの。あの資料を、”父親の証拠”として・・・でも、バカよね?年を取っても、本人かどうかなんて、すぐに解るのに、整形していても、偽物が、どんなに本人のことを知っていようと・・・。そう、思わない?一目で違う、と解ったらしいわよ。何が決め手になったのかなんて、知らないけれどね。その、偽物さんから資料だけを手に入れて、日本へ戻ってきたわ。その頃かしら、大学の先輩が結婚するからって、日本に帰国したときに彼女から”トーマス・マクガー”の名前が出てね。・・・・運命だと思ったわ。こういうの、偶然は必然ね」


さえこは話しながら、ミント・アイスティーのグラスに浮かんだ水滴が落ちていくのを眺めた。


「・・・わかってるのよね?」
「すべては石川斗織の手によって、進められてきた。と、いうこと。ですか?」
「やっぱり、知ってるじゃない。私が話す必要なんてあるの?」
「あくまでも、推測の域をでなかったので・・・すべてを」
「疲れるわ」
「・・・・・では、こちらからの質問形式で、いいですか?」


ジョーは微笑む。
さえこは応えない。が、ジョーはそれをyes.と受け止めた。


ギルモアが吐き出した煙が輪を作り、ふわり、と浮かんだ。


「なぜ、彼は興味を持った?」
「父親の研究だったから」
「父親が所属していた”先”を知っていた?」
「どこかの研究所で働いている、素晴らしい学者だ。っと、言っていたわ。尊敬していたみたいね・・・。何を研究して、何を専門にしていたかは、知らなかったみたいだけど」
「・・・・手に入れた後、すぐに行動に移した?」
「まず、その日本に一時帰国しt」
「久保絵里子、絵里子・レキシントン。トーマス・マクガーが開いた勉強会から、今の交流会まで唯一在籍している、彼女ですね?」
「よく調べてるわね・・・。そうよ。その彼女と頻繁にコンタクトを取るようになったわ。色々訊いたんでしょうね」
「・・・・・彼、一人でここまで出来るはずがない」
「私が居るでしょう?」
「・・・・・・けれど、あなたは”非”協力的だ」
「”マクスウェルの悪魔”になったのに?」
「・・・ある意味、” マクスウェルの悪魔”。と、なることで逆に石川をコントロールしていましたよね?・・・・それは、ご子息のため?」
「・・・・」
「”マクスウェルの悪魔”となることで、石川の目を上手く誤魔化してました、ね?」
「嫌な子」
「護るためですか?」
「・・・・そうよ」
「もしかして、石川は、知らないんですか?・・・自分に息子がいることを」
「・・・・・・・・ええ。知らないわ」
「あなたと血の繋がりがない、ことも?」
「ええ。本当に私の子だと思っているわ。父親は当時のボーイフレンドの1人だったスイスの留学生だと、思ってるの。そういうことにしておいてね・・・。当麻は知る必要ない事よ、いいわね?」
「もちろん。これらはあなたが提示された、条件に含まれますから」
「良い子よ」


ジョーは、ふっと口角を上げて微笑んだ。


「彼の母親は、関係していますか?」
「・・・関係も何も、この世にいない人間がどうやって関係するのか訊きたいわ。・・・サイボーグがあの世と交信できるなんて、初耳よ」
「・・・・・・できない、とは・・言い切れない気がしますけど」

ジョーはギルモアの様子を窺うように視線を向けるた。
ギルモアはニンマリと、パイプを銜えながら、安楽椅子に身を深く沈める。


「面白い発想じゃ・・・・。念写よりも楽しそうじゃのう」


独り言のように呟いた。


「あなたと、石川は婚約者だった。と、訊いてましたが?」
「父が、気に入ったのよ斗織を」
「あなたは?」
「あら、興味あるの?」
「・・・・・婚約していたのでしょう?」
「好きよ、斗織が好き。愛してるわ。憎らしいくらいに・・・・斗織のためだったら、何だって出来るわ。・・・あの人の子どもですもの、当麻は・・・。あの人のために、私は当麻を護るの。美涼のために、あの子には私のようには・・・・・・・。篠原とは関わらせない。気になる?美涼が誰か?」
「・・・お話下さるのなら、訊きます」
「美涼は、私の妹よ・・・」
「・・・それは、調べても出てきませんでした」
「そりゃそうよ・・・。父の愛人の子ですもの、他にもいるんでしょうけど、興味ないわ。今の愛人が何人いるか、知らないけれど・・・。あなたなら、知ってるんでしょうね?」
「現在は4人。一緒に住まわれている方とはもう、40年ほどのお付き合いですね?」
「ああ、ルミ子さんでしょ。アレが本命よ。ちなみに美涼の母親はその中にはいないわ。父と別れた後、美涼を連れて再婚したの。美涼はね、とても幸せな家庭で育った子だったの・・・・羨ましかったわ、とっても。同じ父親の血を引いているとは、思えなかった。美涼は知っていたわ、自分の父親が誰か。私は・・・・当麻が生まれるまで知らなかった」


話しながら、氷が溶け始めた、ミント・アイスティーのグラスに触れて、雫を人差し指の腹に乗せて、それを親指で潰した。



「普通の家で、普通に成長して、普通に愛されて、そうやって育った、羨ましい子で、大好きだったの。・・・・斗織も、・・・知って居いるんでしょ?どういう生い立ちか?・・・だから・・・好きになったんでしょうね?・・・・私と婚約しても、私のことなんて放ったらかしで、ずっと美涼を大切にしていたわ。私たち3人でよく遊んだのよ、もちろん・・・斗織は私の婚約者として、私の親友である美涼と会う。と。言う形でね・・・、懐かしいわ、とっても懐かしい・・・・。一番、楽しかった時期よ、私の人生で。・・・・美涼がいて、斗織がいて、・・・・2人が愛し合うようになっていても、私は2人が大好きだったから、かまわなかったわ。父親の言いなりになって、・・・・まあ、斗織のことを好きだったのは事実よ、本当に恋は盲目とはよく言ったものよ?・・婚約したけれど、美涼と一緒にいるときの斗織が好きだったの。一番、好きだったは、美涼へむける微笑み。右頬にできるえくぼが、可愛かったわ。・・・私の憧れる世界で育った美涼と、斗織が一緒になって、私とずっと友人でいてくれる・・・。そっちの方がどれだけ”楽”で”幸せ”か・・・解るかしら?」


触れたグラスの縁を、色づいた爪の人差し指で円を描くようになぞる、さえこ。


ジョーは応えない。


「較べようがなかったの、好きすぎて、愛しすぎて。私はどちらも選べなかったの。その所為で、美涼を苦しめていたなんて気づかなかった・・・。イマサラだけど。斗織との1度きりの思い出を胸に、美涼は私たちの前から姿を消したわ。まさか美涼自身もそれで妊娠してしまうなんて思わなかったでしょうね・・・。身重の女が1人で何ができるっていうの?篠原を舐めてたわよ、すぐに居所なんてわかったわ・・・・でも、教えなかったわ、斗織には。・・・・・・やあね。こういう話しだと、スラスラ口が動くんだから、関係ないことでしょ?」
「・・・・構いません。全てを、と言ったのは僕ですから」


柔らかい微笑みを絶やさないジョー。


「・・・・・雇った探偵の腕が良すぎてね。そこで初めて美涼が私の義妹だと、知ったのよ。そうしたら、余計に愛おしくて・・・・。ずっと1人だったから。嬉しかったと、言うのが正直な話しよ。だから当麻とは血が繋がってないことは、ないの。私は彼の母ではないけれど”叔母”なんですもの」


心の底の喜びは、自然とさえこの口元を少女のように綻ばせた。
初めてみる、さえこの表情にギルモアは、瞳を細めるようにしてさえこを見つめた。


「私は、嬉しくて、嬉しくて、美涼に伝えたかったの、私がどれほど孤独の中で”篠原’の中で生きていたか・・・。私は斗織との婚約を解消して、美涼を篠原で引き取り、斗織と結婚させる段取りを始めたわ・・・。でも、遅すぎたの。早産で、8ヶ月にさしかかったころ。私が差し向けた探偵を、勘違いして・・・。無理が祟ったのね。美涼はずっと、うわごとのように、私に謝り続けるの・”裏切ってごめんなさい。幸せを奪ってごめんなさい。そして、生まれてくる子には罪はないから、私は死ぬことでこの罪を背負って地獄に堕ちるから、当麻だけは助けて。護って。”と・・・・。悔しかったあ・・・・・、こんなに、美涼に憧れて、羨ましくて、斗織に愛される美涼になりたくて・・・でも、それは、美涼から見たら・・・・と、考えたら・・・・・。好きすぎて、愛しすぎて、幸せを願っても、人の見方によっては狂気に映る・・・。ね・・・?・・・・どんなに好きでも、愛しても、相手に通じない、受け取ってもらえなかったら、この気持ちは・・・、どこへ行くの?どこへ、・・・・・本当に、私は美涼のことを好きだった?愛していた?憧れていた?・・・・それは、嫉妬じゃなかった?妬んで・・・憎しみに身を焦がし、狂気した女にしか、映ってなかったの・・・よ・・・・・」
「・・・・人とは、だからこそ、人とは未完成なんじゃよ。人を笑い、哀しみ、憎しみ、愛し、怒り、そして反省し、・・・人が人である証拠じゃ」


ギルモアは優しくさえこへと言葉をかける。


「・・・あなたの子どもとして、彼を育てるために・・・・石川を遠ざけたんですね?」
「父を上手く言いくるめて、”篠原命、会社命、名声命、力と権力が全て”の父なんて、簡単よ。”迫が付くから”と、言う言葉と、彼の博士号をドイツで取らせること、斗織がバカだったら、無理だったけれど、彼に流れる血はちゃんとそれに応えられるものだったのよ。まさか、それが・・・、当麻のためにしたことが、こんなことになるなんて・・・。私って、・・・美涼じゃなく、私が地獄に堕ちるべきなのよ」


気持ちを切り替えるために、ジョーは深く息を吸いこんで、ゆっくりと吐き、そして質問を続けた。


「本物に、会わせなかった・・・のはなぜ?」
「・・・・会わせたら、トーマスはがっかりしたでしょうね。初めて会ったときに、彼は、斗織が理想とし、神格化してしまっている”父親像”とはかけ離れた人物だったから、怖かったの・・・・。すでに、”計画”は進んでいたもの。だから、当麻に会わせた。当麻が自分のルーツ・・・父親について、気にし始めているようだったから。それは、良かったと思っているわ」
「・・・石川が必死で探している遺産、を手に入れることが出来たから?」
「その通りよ・・・。そして、私は”マクスウェルの悪魔”にして、”篠原”の一人娘・・・。行方不明になった美涼については・・・。彼は一言も口を開かなかったし、その程度の男なのよ、結局・・・・。それでも、ずっと・・・好きなのよ、私は。だからずっと、愛してるわ。愛してるから、彼のために動く。彼のためになんでもするわ。当麻を護るわ。美涼に代わって、斗織の傍にいる。彼のために生きて、当麻を護るの・・・そして、愛しているから、彼のために・・・・私は裏切るの。彼のことを思って、彼を止めたくて、彼を護りたくて・・・・でも、いつも私は中途半端、私はずっと中途半端なの。愛した人に、愛されず、愛されたい人に、愛されることもなく」


すうっと、さえこが息を吸いこむ音が、リビングルームに響いた。


「外に作った愛人宅へは帰っても、娘の居る家には帰らない。私を産んだことで、”篠原の嫁”の勤めを果たしたと言わんばかりに、お金に不自由するこなく遊び歩く母。恨んで、逃れたくて、悪ぶって・・・淋しさを埋める日々のつけがまわってきたのよ。・・・望んでも、子どもも産めない・・・・。よゐこ。にもなれなかったわ。私は・・当麻のように、斗織のように、恵まれなかったの、才能に。だから、夢の中に生きることにしたの・・・。斗織の夢の中に・・・・」


ギルモアは安楽椅子から立ち上がり、さえこの隣に座ると、そっとさえこの肩を抱いてやった。


「あなたは、素敵なお母さんじゃよ。・・・・当麻くんを見ていればわかる。一生懸命に育てたんじゃろう?誰の手も借りずに・・・。1人で、ずっと、1人で育てたんじゃろう?立派に育っておるじゃないか。目をみればわかる。当麻くんは、素直で、とても素敵な子に育っておるよ、人を1人育てると言うことは、とても大変な事じゃ。あなたは見事にそれをこなしておるよ・・・。そして、あなたのお陰で・・・石川から1人の青年を護ったことになる。・・・・儂が診た限り、彼が津田くんの失った”左足”以上のことはできんかった。そうじゃな?いくつか、手術跡を彼の体にみつけたが、あれも事故のときのじゃな?・・・・もしも、トーマス・マクガーの遺産であった、残りの資料が、石川の手に渡っていたかと、想像しただけでも、ぞっとするわい。・・・人工内臓などの配置は書いてあったが詳しい資料は全て、あなたが隠していたじゃろう。じゃから、情報をかき集めて、ゲームで”解答”されてゆくことで得た知識を使った。それにあなたや、篠原グループの力を利用して、”篠原技研’を造り、義肢の最先端の情報を使っても・・・あれが、現代の限界・・・・。そうじゃな?」
「はい・・・・。斗織は、いつか”父親”が自分を迎えに来てくれると、信じてました。頭がよかったんです。早熟で、そのせいで・・・養子先にもてはやされたのは、初めだけ。後は、あまりにも”できが良すぎて”不安に思い始めた、両親に・・・・。そのせいか、余計に・・・母親の従兄弟夫婦から訊く、母親が生前に語っていた斗織の父親についての情報が、大きく、妄想の中で、妄想を育てて・・・・」
「父親が、B.Gの研究員だった。そしてその資料を目にすることで、・・・父は現代医学では到達できないことを成し遂げようとした”天才”だったんじゃな?」
「・・・・」
「あなたは、もしかして・・・僕たちの存在も知っていた?」


ギルモアの手が優しく背をさすり、さえこを支える。


「・・・・・父は祖父を嫌っていたわ。仲が悪くて、犬猿の仲を絵に描いたような関係だったのよ・・・。父に確認したことはないけれど、斗織の素性は知っていたと思うわ。サイボーグなんて信じられなかったし・・・そんな物が作れるなんて、でも・・・斗織が持ち帰った資料を使って」
「人工臓器について、”B.M/ブラック・マーケット”で調べていたのは、あなたですね?」
「・・・そうよ。私・・・。その時に聴き知ったわ・・・、この世に”B.G’が作った完全なサイボーグが存在する、と。プロトタイプを00ナンバーで呼ぶこと・・・。そのサイボーグは、”戦闘用”として”兵器”として作られた・・・。噂だと、思っていたのよ。本気で・・・。あなたの”あの力”と”009”と言うコードナンバーを訊くまで」
「・・・・初めまして。ですね」
「・・・・・・」
「僕が、サイボーグ009・・・B.Gが作った、最後のプロトタイプ・サイボーグ。そして、組織を裏切ったサイボーグ戦士たちのリーダーです」
「儂が、彼らを作った・・・。B.G科学技術部・サイボーグ開発計画プロジェクト責任者じゃった男じゃよ・・・」


さえこはジョーを見つめ、そしてその視線を隣に座り、温かく優しく自分の背をさすり、支えてくれる人物へと向けた。

口元の深い皺は笑い皺のように見える。






彼はサイボーグ達を”息子、娘”と呼んだ。



「・・・・もっと、恐ろしい人だと、怖いものを想像していたわ」
「やれやれ・・・それこそ、”漫画やアニメ”の世界じゃぞい」
「それに、それは・・・”悪役”だと思いますよ?」


ギルモアの言葉に付け足すように、ジョーは言った。


「よおく見なされ、ジョーは”悪役”顔ではないでしょう?あんなに愛らしい顔をして、ぱちりおメメに、しっかり二重、整った顔をしておる。初めてジョーを観たとき、B.Gは”顔”で選んでるのではないかと、疑ったもんじゃ・・・。なかなかのハンサムでなあ、息子達は、まあ、娘のフランソワーズは、診ての通りじゃ」
「ええ、・・・・あやめ祭は、盛り上がることでしょうね?」
「・・・・それまでには、撤退するつもりですよ」
「あら、もったいない」
「・・・・・」
「私が直々にオークションに参加して、競り落としてあげるわ、島村君なら」
「・・・・篠原がいるでしょう?」
「心配はいらないわ。あの子モテるのよ?・・・・・男同士じゃ、そういうのわからないかしら?」
「男に興味はありません」
「ジョーは、ちと前に、あってのう・・・。触れんでやってくれんか?」
「・・・好かれた経験があるのね?」
「うむ。かなり気に入られておるようでな」


話しが変な方向へと走り出したために、ジョーは困ったように、ギルモアの言葉を止めにかかった。


「・・・・・博士、無駄話は後で、お願いします」
「おお、怖い怖い・・・・。年寄りを苛めるとはのう・・・」


戯けてみせるギルモアに、さえこは微笑む。
その間もずっと、ギルモアはさえこの背をなで続けていた。





ただ、こうして欲しかったのかもしれない。




















誰かに、何でもいいから認めてもらいたかった。
中途半端な自分を。

何にも得られない、自分を。
何も残せない、自分を。



















愛する人を信じ抜くことも、止めることもできない、自分を。










ギルモアの言葉を反芻する。



”あなたは、素敵なお母さんじゃよ”










夢から覚めてもいいかもしれない。
温かな太陽が背中にあるの。






凍っていた、背中を強く、優しく温めてくれているの。
夢はもう終わりにしたい。








好きよ。
斗織。

愛しているわ。
アンディ。






だから、もう中途半端なままではいられないの。

許してね。
裏切る、私を許してね。



私は、愛しているの。
あなたを愛しているから、あなたを止めたい。

私は、愛しているの。
あなたを愛しているから、当麻を護りたい。






私は、あなたを愛しているから、あなたを裏切るわ。
愛しているあなたの子を護るために。

あなたを護るために。










私は、あなたを裏切るわ。

















「ここまでスッキリ話したんだから・・・責任取ってよ。最後まで、キッチリ最後まで・・・」
「もちろん、そのつもりです。すべてをこの世から’消去’します。・・・1文字たりともこの世に残すようなことはしないつもりですから、ご協力願います」
「覚悟は、出来たわ・・・・。けれど、条件は守って」
「・・・はい。必ず。・・・・・では、津田のことですが」


さえこはギルモアに支えられて、自分が知る全てをジョーへ、009へと話し始めた。




















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002と共に戻ってきた006は、予定していたよりも遅れたことを詫び、その理由に口を濁し、002は予定のことを終えてからのことだから。と、006を庇った。確かに、006は彼に振り分けられていた、ゲーム参加者の中で”景品”を持つ1人の家に行き、イワンの用意した”偽”の景品とすり替えた。その連絡は済ませていたために、009は、006に今まで何をしていたかは問わなかった。

002は009から新しい指示を受け取り、石川斗織の尾行を続ける007と合流する。現在、石川は週末に利用するホテルに戻っていた。




009、ギルモアと話しを続けたさえこは、昨夜からの疲れと、今朝から身に起こった緊張、不安などが現れ始め、キリが良いところで、009との話しを一旦切り上げさせてゲストルームで休むように言うと、フランソワーズが呼ばれ、さえこを2階のゲストルームへと案内させた。


ゲストルームへとさえこと向かい、キッチンへと戻ってきたフランソワーズは、トレーに軽食らしきものを乗せて、再びゲストルームへと向かう。


ふと、時計に目をむけると、午後7時を過ぎようとしていた。
さえこが疲れるのも理解できる。




つい、”人”であった時の”感覚”を忘れがちになり、不意に自分が不安になる。それを見透かしたように、自室からリビングルームにやってきたアルベルトが、ぽんっと、ジョーの肩を叩いた。


「お前さんも疲れているだろ?」
「・・・・いや」
「顔が疲れ切っているぞ?・・・・悪い癖だな、・・・・無理をする。自分の限界を無視してだ。それとも、自分には興味ないのか?」
「・・・自分に?」
「自分を好きになれないヤツが、他人に自分を好きになってもらおうなんて、虫が良すぎる話しだ、ジョー。もっと自分を大切にしろ。それと、自分の殻に囚われるのとは、まったくの別物だ」
「・・・・・興味ないな、自分になんて」


アルベルトが躯をずらした事により、ジョーの視界にゲストルームから戻ってきたフランソワーズが映る。
もう1度、アルベルトはジョーの肩をぽんぽん、と軽く叩くと、脳波通信を使う。


<心配、されてるぞ?・・・・安心させてれ、彼女も帰ってきてから、そのままギルモア博士の検診を受けて、満足に休んでいない>


リビングルームからダイニングルームのドアを開いたアルベルトの後を追うように、フランソワーズが歩き出し、途中、ジョーの顔色を窺い、足を止めた。


「・・・・・ジョー、無理しないで」
「キミだってそうだろう?」
「私は平気よ・・邸に戻ってきてかr」
「すぐに検診を受けて・・・そのままだよね?」


フランソワーズの瞳をのぞき込んだ。
ジョーの言葉に、頬を少しばかり膨らませると、今でここに立っていた男に文句を言った。


「意外とおしゃべりなんだから!・・・・ジェットよりもお節介よ、きっと」
「・・・意外と似てるよね、あの2人」
「今頃、気が付いたの?・・・・あの2人、表面は水と油みたいに馴染まないようにみえるけれど、本質の根っこの部分は、コピーしたように、似ているわ・・・。でも、本人の前では絶対に口が裂けてもいえないけど・・・」


絶対に口が裂けても・・と言うところで、言葉が空気に混じる。


「そうなんだ・・・・。知らなかった、よ」


アルベルトが出て行ったドアへと振り返るジョーを、フランソワーズは見上げるようにして、見つめる。


「お腹は空いてないの?・・・・さえこさん、昨日の昼食以来、今まで何も食べてなかったらしくて・・・」
「・・・・それは、申し訳なかったね・・配慮が足りなかった」
「朝から何も食べてないわ、ジョー・・・」
「それを言うなら、みんなも、だろ?・・・ここを占領していたから、ね」
「・・・ジョーは、知らないの?」
「・・・・何を?」


視線をドアからフランソワーズへと移すと、碧色が鮮やかにジョーの瞳に飛び込んできた。


「みんな、自室に色々と食料を持ち込んでいるのよ?」
「・・・・・それは、初耳」
「持ち込んでないのは、ジョーくらいかしら?」
「っと、言うことは・・・キミも?」
「いいえ、私h」
「・・・ああ。そうだった、ね。フランソワーズの場合は、持ち込んでもすぐに食べてしまって、”ストック”にはならないんだった」
「”だった”って!・・・・見ていたみたいに言うのね」
「・・・・そうなんだね?」
「ちょっとした御菓子だけだもの、ストックするために、持ち込むのじゃなくて、お部屋で少しツマムものが欲しくて、それで」
「言い訳しなくても、いいよ。そうか・・・、うん。フランソワーズ用の冷蔵庫を部屋に用意した方がいいね」


真剣に考え込むジョーに向かって、フランソワーズは抗議する。


「ま!・・・最近、ジョーはひどく意地悪だわっ」




「・・・意地悪?」
「前の方がずっと、ずっと、優しかったわ」
「・・・前って、・・・・いつ?」
「ここに移り住んだばかりのころ、よ」


ぷいっと、ジョーにそっぽを向いて、フランソワーズはダイニングルームへと向かう。
その背を見つめながら、ジョーは思い出す。


ここ、日本にギルモア邸を構えたばかりのころを。











フランソワーズのことが、大切で、心配で、目が離せなくて。
それが”好き”と言う言葉で表す気持ちだと気づかなかった自分は、かなり・・・。そう、かなり大胆なことを、フランソワーズに・・。と、ジョーは思い出せる範囲で、記憶を辿り、心臓が暴れ始めるのを必死で止める。


冷静に考えても、今のジョーでは考えられない。



今、同じようにしろ。と、言われても、絶対にできない。と言い切れる。














知らない。とは、なんて恐ろしく恥ずかしいことだろう。
逆に、そのときの自分に問いかけてみたい。と、ジョーは思う。














大切な彼女に、どうして手が出せたのだ?と・・・・。













2階から降りてきた、ピュンマと当麻がリビングルームへ入ると、ぼうっと突っ立ったままのジョーがいた。

その顔が紅く、ピュンマはジョーが熱を出したと、慌ててキッチンにいるであろう、フランソワーズを呼びに走ろうとしたが、腕を捕まれて、ジョーに止められる。が、しかし、ピュンマの腕を掴んだ手が熱く、汗ばんでいたことから、余計にピュンマが焦りだし、羽交い締めて、ジョーはピュンマがキッチンへと駆け込もうとするのを止めた。

その2人のやり取りを見つめ、当麻は思う。


ーーーサイボーグでも、何も代わらないな・・・。



躯の中が、機械でも。
その人自身が、代わることはない。





2階のピュンマの部屋で、当麻は色々な質問ピュンマに訊ね、ピュンマも差し障りがない程度に、応えた。
あくまでも、さえこが提示した条件に触れない範囲ないでの解答を。














サイボーグでも、マリーは、マリーだ。
マリーがサイボーグだからといって、ぼくが好きになった彼女には、かわりはしない。




握った手は、白くて小さく、温かかった。
それは人の手。

マリーの手。












ダイニングルームへと通じるリビングルームのドアが開くと、顔だけをひょっこり。と、出したフランソワーズが、告げた。


「リビングルームでお夕食を頂きましょうね、”誰かさん”がテーブルを壊したから、当分は、リビングルームよ」
「いv・・」


それだけを言うと、パタン。と、ドアが閉り、”イワンに頼む”と言う、ジョーの言葉が宙を泳いだ。





「あ~あ~、もう・・・ジョーがフランソワーズを怒らせた・・・。僕、とばっちりはごめんだよ?」









====64へと続く





・ちょっと呟く・

もう少しっ!
もう少しよっ!



・・・・当麻君、タフっ!
流石、さえこさんに育てられただけあるっ!
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