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Day by Day・64
(64)







「・・アンディ?・・・・懐かしいでしょう?アンディ、って呼ばれるの・・・・・っ、怒鳴らないでよ、しっかり聞こえているわ。・・・・・・・・・・謝るわよ。連絡が付かなかったのは・・・・・・・ごめんなさいね。こっちも色々とあったのよ、・・・・ええ。・・・・・・・・津田君を見つけたわ・・・。・・・・・そうよ。焦らないで。・・・・また、改めて電話するわ。詳しくは、その時に。わかっているわ。落ち着いてちょうだい、あなたらしくないわ・・・・・斗織、心配しないで。大丈夫よ・・・・。大丈夫よ、斗織・・・。愛しているわ・・・」


電源を切り、携帯電話をベッドに放り投げた。
















####

張大人が用意した夕食がリビングルームに並べられたころ、石川斗織を見張っている007の元にいた002がギルモア邸に戻ってきた。


「今のところ、石川に何も動きはないぜ。四方八方電話しまくって篠原さえこの居所を探している。さえこの秘書から”休暇”を取ったと聞いたが、信じられないみたいでよ。今でも携帯電話を握りしめてパニくってんじゃね?ホテルに缶詰状態ってワケで、オレが007のそばにいても、何もすることなんてねえから、帰ってきたぜ」


地下の研究室前の廊下で009に報告する002。


「・・・わかった。悪いけれど、002・・・彼が変身状態だと携帯電話からのメールを受け取れないし・・・。できれば応援要因として、007と当分は一緒に行動して欲しいんだ」
「んだよ、とんぼ返りかよ?」
「疲れているだろうけど・・・」
「こんなもん、疲れるうちに入るかよ!前もっとすげえのを、こなしまくってたじゃんかよっ!・・・・っつうか、オレよりも、ジョー、お前の方が、顔色わりいぞ?」
「・・・・・・せっかく帰ってきたから夕食くらい食べていけばいいよ、それくらいの時間はある。篠原さえこ、当麻はこちらで抑えているから、ね」
「んで・・・どこまで話させたんだよ?」


002が廊下の壁に背を預けて、腕を組んだ。


「彼女が知るすべて、だよ・・・。確認のために、イワンに”読んで”もらった。彼女は嘘も誤魔化しもしていない、信じて良いだろう」
「初めから、そうしろよ」
「・・・・それで、すべてが上手くいくなら、ね。イワンの力を頼り過ぎるのは危険だ、人以外の力の介入はなるべく、避けたい。それが遠回りになっても・・。そうだろう?」
「信じていいのかよ?本当に・・・嘘を言ってない、誤魔化していないってことは、解ったけどよ、だからといって、”篠原さえこ”自身については別じゃねえか?」
「・・・・・イワンの力は、あくまでも”最後の手段”だ、よ」
「その割にゃあ、”便利屋”にされてっけどよ!・・・・で、当麻はどうすんだよ?」
「・・・博士は篠原なら秘密を守れると、思っている。博士の意思を尊重したい」
「甘えな・・ったく、平和呆けしてんじゃねえよっ!どこにそんな保証があんだよっ!」


002の言葉に、009は苦笑する。


「今までだって、そうしてきた人もいただろ?忘れたのかよ?」
「当麻の”中”もみたのかよ、イワンは?」
「ああ、その辺は・・・仕方ない。彼は、白だったよ。何も知らない。知らなさすぎてこちらが不安になるくらいに、ね」
「でよぉ、反応はどうなんだよ?」


ジェットの言葉に、眉根を寄せたジョーは、彼の言葉の意味を計りかねた。
ジョーの態度に、ちっ、と小さく舌打ちするジェット。


「オレたちが”サイボーグ”だって知って、アイツどうしてんだよっ」
「・・・会ったんじゃないのか、上で?・・・ピュンマに色々聴いたみたいだけど?・・・・さあ、その後・・・話しはしていないから、なんとも言えない。驚いていただろうけど」


のんびりとしたジョーの応えに、ジェットは余計に苛々が増していく。


「ばっか!そういう意味じゃねえよっ!・・・・フランソワーズに対してだよ、・・・アイツもサイボーグだって、知ったんだぜ?・・・・・好意を持っていただろ、フランソワーズによお。フランソワーズが、人じゃねえって知って、・・・・・傷つけるようなコトしてねえよな?」


ジョーは微笑んだ。
そして、その微笑みは一瞬にして消え失せる。


「・・・・・誰が生かしておくんだよ?」
「・・・・」
「俺たちの、目の前でそんなことをして、誰が当麻を生かしておく?」
「そこで、”俺たち”って言ったお前を殴りてえよ、オレは」
「・・・・・・」
「気がついてんだろ。当麻の野郎は、フランソワーズに気があんのがよ」
「・・・・・・」
「気が付いてねえ、なんて言うなよ?・・・オレだってリミッター解除のフルなんだぜ?」
「・・・・・ああ」
「どうすんだよ。当麻がよお、サイボーグでも関係なくフランソワーズの事を想い続けるヤツだったら」


沈黙が訪れる。
静かに、冷たい地下の廊下に立つ、2人。






ジェットは黙ったままジョーの言葉を待つ。
何の感情も映し出さない、ジョーの顔。しかし、彼のアンバー色の瞳は徐々に暗く影に飲み込まれていき、光を失っていく。


地下のコンピュータ類が作動していることを証明する音。
センサー式の証明だけが白くジョーとジェットがそこにいることを、浮かび上がらせる。





「どうすんだよ。フランソワーズが当麻の野郎を受け入れたら」









ジョーの躯がびくん。と、跳ねた。








「ったく、やせ我慢してんじゃねえ~~~よっ!」


明るい声と共に、ジェットは組んでいた腕を解き、ジョーへと腕を伸ばすと、両手でぐしゃぐしゃとジョーの頭を、髪をかき回す。

されるがままのジョーは、驚きと困惑の色にそまった瞳をジェットへ向けた。


「忘れんじゃねえぞ!てめえはオレに誓ったんだぜ?いいな、絶対に、フランソワーズの笑顔を護れよ、それだけは、忘れんじゃねえぞっ・・・・。誓いを護れなかったときは・・・」


ぴたり。と、腕の動きを止めて、両手をジョーの肩に置く。
その力の強さにジョーは眉を顰めた。


「オレが本気で、てめえを殺るぜ?」


ジェットの射抜くような視線を受け止めて、ジョーは静かに頷いた。が、その口元に浮かんだのは、微笑みだった。


「・・・・・・・002に殺られるほど、009は弱くない」
「けっ!新作だからって、ナメてんじゃねえぞ?戦闘経験はこっちの方が上だぜ?」


ジョーは肩に置かれていたジェットの腕をどかしながら、後ろ手に研究室のドアを開けた。


「・・・どうやっても俺が勝つよ、・・・・食事が済んだら、もう1度ここへ来てくれ。そのときは、004も一緒に・・・」


ぱたん。と、ドアが閉まる。


「・・・・てめえはどうせ、最後のトドメがさせなくて泣くんだろ?・・・何回勝負しても、同じ結果しか出ねえから、オレの勝ちなんだよ」


ジェットは1階のリビングルームへと歩き出した。















####

「アイヤ~~~!ジョーはまた食べないアルかっ。怒っているネ・・・ワタシ帰ってくるの遅かったアルヨ・・・。だからジョーは怒ってここに来ないアルネ・・」


地下から戻ってきたのがジェット1人だと知り、張大人が落ち込む。


「関係ねえよ、いつもの事だぜ?気にすんなってっ!!大人。オレの分頼むぜ?・・・また、戻んなきゃいけなくなっちまったんだ、アルベルト、飯済んだら、ジョーが来いってよ」


どっかり。と、ピュンマの隣に座ったジェット。そのために、ピュンマが躯を少しばかり横へと移動することにより、続いて当麻も隣に座っていたフランソワーズの方へと寄った。

フランソワーズの二の腕と軽くふれ合い、当麻はそっと視線をフランソワーズへと向けるが、彼女は何も気にする様子はなく、アルベルト。と、呼ばれた銀髪の男を見ているフランソワーズに、少しばかり落胆する。


「ジョーが来ればいいだろう、夕食のついでに」
「知らねえって、ジョーに言えよっ。大人、オレの飯」
「わかってるアルヨ・・・。じゃあ、ついでにジョーの分を持って行って欲しいアルネ」
「持って行くからよお、オレの!」
「すぐネ、ちょっと待ってるアルヨ!」


張大人は腰掛けていた、オットマンから立ち上がりキッチンへと向かう。


「まったく、ジョーは食事をなんじゃと思っておるんじゃ?みなが揃うときは、ちゃんと顔を出すのが礼儀じゃろ?・・・こうやって当麻クンも居るのにのう・・・・」


リビングルームには、L字方のソファの短い部分に座る、ジェロニモ、アルベルトと続き、角にフランソワーズ、その隣に、当麻、ピュンマ、ジェット。ギルモアは安楽椅子に座っている。


「・・・博士、多分ジョーは・・・・・」
「何じゃ?フランソワーズ?」



ーーーイワンのそばにいてあげている・・・




イワンは地下の研究室で、メンテナンスルームで眠らせている、津田海を見守っていた。


篠原さえこ、当麻にサイボーグであることを明かしたために、イワンの存在も知られても構わないのではないか。と、言う意見もあったが、それはまた別の問題らしく、009とギルモアの意見に従い、イワンは今までと同じように、その存在を隠すことになった。

学院から篠原母子をギルモア邸に連れてくると、連絡を受けた時点で、ジェロニモの手によってイワンのベビーベッドなど、彼の存在を現すものは片付けられていた。

それは、ギルモア邸を訪れる人間がいる限り、誰であっても、そうすることが規則(ルール)となっている。


人間のギルモアに脳波通信を使うことはできない上に、当麻の前でイワンの名前を出すことを躊躇わせる、フランソワーズ。

途中で言葉を消してしまったフランソワーズを助けるかのように、ジェロニモがフランソワーズの言葉を次いだ。


「1人にさせるのは可哀相だと、思った。ジョーは気にしている。・・・そうだな?フランソワーズ」


力強く、フランソワーズは頷いた。


「寝てるんだぜ?平気だろ・・・?」


この邸のどこかにいる、津田海のことを言っているのだと思った。
それはジェットも同じだったらしい。


「・・・・・トリが1匹紛れ込んでるな」
「夜だから、目が利かないんだよ、きっと」
「なるほど。」

アルベルト、ピュンマ、ジェロニモの呟きに、フランソワーズとギルモアが、悲しそうな瞳で、ジェットを見つめた。


「なっ、なんだよっ!いったいっっ!!」


<バカだなあ、イワンだよ、イワン!>


心優しきピュンマは、ジェットに脳波通信で教えた。

















<ミンナ ガ 心配シテルヨ?>


イワンはジョーの膝に抱かれながら、βのコンピュータ・モニターを覗いていた。


「どうせ、ろくなこと言ってないんだろ?放っておけばいい、よ・・・」
<ソウデモナイ>
「・・・ふうん。・・・・それで、これを見る限り・・・今の篠原グループは実質、篠原さえこが動かしている。と、言ってもいいんだ。利益を出しているのは、彼女が関わったプロジェクトがほとんど。余計な部分をそぎ落として」
<父親ノ 秀顕ガ関ワッテイル 部分 ダネ?>
「彼はここ5,6年ほど、ろくなことをしていない・・・。グループを、企業を拡大させることにばかりで、実益をちゃんと顧みていない。・・・実際に、篠原さえこがカバーしていなかったら、とっくに潰れていたんじゃない?」
<彼女、起業家トシテノ 才能ガ アルネ>
「コツコツと、積み上げることが上手い。堅実だし・・・。無謀なことはしない感じだね。プロジェクトを遂行させるにも、月見里学院のコネクションを使って、アドヴァイザーを雇い、何度もシュミレーションを重ねた上で実行しているし。企画も無理がないものばかりだけれど、新しい物も取り込んでいく姿勢が、出資者にも受けているみたいだ。自分に自身がないせいで、慎重になっているだけかもしれないけれど、これが良い結果を出しているね」
<・・・じょーガ シヨウト シテイルコト ハ 彼女ニ トッテ 良イコト?>
「イワンの方が、答えを知っていると思うけど・・・・。選ぶのは、彼女自身だよ・・・。あくまでもこれは、僕らが”消去”してしまったために崩れた部分を補強する、アイデアでしかない。・・・・それは薄々、彼女も気が付いているはずだ」


ジョーは膝の上のイワンを抱き直すとき、彼を立たせるような形へと動かした。自分の方へイワンの背を向けさせて、小さな足が、ジョーの膝を押し、デスクに紅葉のような両手が2つ、躯を支える形で乗せられた。


<・・・ジョー、動いたよ>
「あれ?・・・・イワン、立てるんじゃないか?足の力が・・・。はいはい、は・・・出来たんだし、もしかして掴まり立ちは出来るように、なってる?」
<試シテミナイト、ワカラナイ>
「フランソワーズに報告しないとね。・・・それで、彼女は決心できたんだね?」
<完全ニ。トハ 言イ切レナイ。 ケレド、じょーの指示通リニ 1回目ノ 電話ヲ 石川ニ シタ>
「了解。・・・手を放したら、危ないかな?・・・・支えてないと、ふらつく?」
<じょーノ 膝ノ上 ダカラ 安定シナイ>
「あ、そうか・・・・。降ろそうか?」
<じょー ノ 前デ 掴マリ立チ 出来ルヨウニナル ヨリモ ふらんそわーずノ 前デ 出来ルヨウニ ナッタ方ガ 色々ト 楽シイ>
「・・・・あっそう」
<ボク ハ コレデモ じょー ノ らいばる ナンダヨ?>
「知らなかった、よ・・・・・。気を付けないとね」
 

両脇に手をいれて支えるイワンの躯。
小さな背中に向かってジョーは言った。すると、突然にイワンが膝と曲げたり、伸ばしたりを繰り返し、暴れ始めたので、ジョーは抱き上げて、自分の膝からイワンの小さな足を離す。


「イワンっ・・・暴れるなよ」
<足ニ 力ヲ イレテミタ。・・・・前ヨリモ 力ガハイルヨウナ 感ジガスル>
「今、呼ぶ?」
<・・・・ふらんそわーずニ 見セル前ニ、練習シテオコウ カナ>
「フランソワーズの前で、”初めて”を見せたいんだろ?」
<失敗シタラ 恥ズカシイ・・・。女ノ子ニ 期待サセテオイテ 哀シマセルナンテ 男トシテ 許サレナイ>


イワンの発言に、くくっと、ジョーは笑いを噛み殺した。


<コレデモ 僕ハ 長男 ナンダヨ? じょー、君 ヨリモ 確実ニ 長ク 生キテイルンダ 男トシテ> 
「そうだった、ね・・・失礼。・・・・それで、練習に付き合おうか?・・それなら向こうに行こう。津田は、もう少し眠らせているんだろ?」


ジョーはしっかりと腕にイワンを抱き、デスクチェアから立ち上がった。
2人が研究室からメンテナンスルームへと移動し、30分ほどした後に、張大人が用意したジョーの夕食を手に、ジェットとアルベルトがやってきた。

彼らは、イワンの掴まり立ちの練習を知らないままに、009からの指示を手に、それぞれギルモア邸を離れていった。













####

篠原さえこは、ゲストルームに籠もったまま出てこない。
1つかしかないゲストルームを、さえこに使わせて、今夜は帰ってこないアルベルトの部屋を当麻は使う。
ジェットの部屋に。とも、考えたが、アルベルトが自らそれを止めて、自分の部屋を使うようにジョーに言った。


”いくらなんでも、それは可哀相すぎるぞ・・・。寝るだけなら、オレの部屋を使え”




イワンが目覚めて初めの仕事は、ジョーの壊した”浴室の大穴”。
ジェロニモも、ミッションのために009から指示を受けた内容をこなしながらも、修理を続けていたが、どうにも時間がかかり過ぎるために、目覚めてすぐに、イワンに頼んだのは、ギルモアだった。

夕食後にピュンマに案内されて、一番風呂を使わせてもらった後に、アルベルトの2階の部屋へと連れて行かれた。


「ゲストルームは1つしかないんだ、ごめんね」
「ううん。・・・・ありがとう」
「アルベルトの部屋だから、何も心配ないよ!」
「・・・・・どういう意味?」
「これが、ジェットの部屋だと考えただけで、ぞっとするよ・・心配で僕は眠れない」
「・・・リンクの部屋って」
「いやあ、隣なんだけどね?」


アルベルトの部屋のドア前に立つ、当麻は、ピュンマの視線の方向へと首を傾けた。
長い廊下の突き当たりに、明かり取りの窓が、瑠璃色に染まっている。


「その、右に伸びる廊下の左手が、僕の部屋で、その隣の、一番奥がジョーの部屋だよ。それと、フランソワーズは・・・」


ピュンマは躯の向きを変える。


「コモンスペースの隣。ひとつだけ、部屋があるでしょ?」
「・・・マリーはそこなんだ?」
「うん、女の子だしね」


当麻は、ピュンマの言葉に素朴な疑問を持つ。


「・・・マリーだけ?」
「え?」
「マリーだけ?・・・サイボーグにされた、女の子って・・・」


ピュンマは微笑みながらも、その瞳が哀しみに揺れた。


「彼女意外にも、いたかもしれない。けれど・・・わからない。僕たち9人以外にサイボーグにされた人間は存在する。・・・それは確かだったんだ。・・・でも、今はわからない。もしかしたら、僕たち9人が”最後”の生き残りなのかもしれない・・。そうなると、フランソワーズは・・・・。この世でたった独りの、女性サイボーグになるね」


当麻の胸が胃に落ちるような鈍い重さの感覚に、自分の周りだけ深海に閉じこめられたような重力の変化を感じた。


「ひと、り・・・。彼女、だけ?・・・・なのに、マリーは・・・・。ぼく、だったら、気が狂いそうだ・・・・・。考えられない」
「ジョーが、言うんだ・・・」


突然出てきた、名前に当麻はどう反応してよいか解らず、ただ真っ直ぐにピュンマを見つめた。
彼はじっと、フランソワーズの部屋のドアに視線を定めた状態で、話しを続ける。


「彼女は”強い”って・・・。9人いる、サイボーグ戦士の中で、1番強いのは、フランソワーズだって・・・・。ジョーが言うんだから、間違いないんだよ。だから、フランソワーズは大丈夫なんだ」
「・・・島村が?」
「そう!彼の言うことだから、間違いないよ」


うん!っと、強く頷いて、当麻の方へと向きな直ったピュンマの瞳に哀しみにの色はなく、逆に、強さと信頼の光に輝かせていた。




息苦しい。
本当にここは、海の底なのではないか?と、思わずにはいられないほどに、息苦しさを感じる当麻。


「島村って・・・・どんなヤツ?」
「え?」
「・・・・マリーの話になると、かならず名前が出てくるけど、どうして?」
「あ、え・・・どうして、って・・・・それは・・・」
「・・・・なぜ?」


返答に困るピュンマ。

なぜ?と問われても、それはジョーとフランソワーズだから。としか、答えられない。そして、それ以外の言葉が思いつかない。ついたとしても、009と003だから。

意味は変わらない。



長く、2人が一緒にいる時間を見てきたから。
惹かれあっていく、2人を見守ってきたから。

ときに、戦場で。
ときに、ドルフィン号の中で。
ときに、戦いの合間に訪れた休息の中で。



気がつけば、2人。
気がつけば、009と003。
気がつけば、ジョーとフランソワーズの2人。



「そんな風に、聞かれたことなかったから・・・困るなあ・・・・。なんて言ったらいいか、わからないよ」


苦笑するピュンマ。


「ただ・・・・」


当麻の顔色が変わる。


「・・・・ただ、さ。なんて言うんだろう・・・。僕たちにとっては、それが、”当たり前”で・・・。それだけでしか、ないんだけど。・・・・それだけの事が、僕たちを幸せにしてくれるんだ」


ピュンマは恥ずかしそうに笑った。
当麻は笑うことができなかった。


アルベルトの部屋のドア前で別れて、ピュンマは自室へと戻っていく。
当麻は、部屋のドアを開ける。

想像していたよりも広く、ホテルのように調われた部屋。


そこへは足を踏み入れずに、今一度、リビングルームへと向かうために階段を下りていった。

まだ、そこにフランソワーズが居る。



















####

食器を手に1階へと上がってきたジョーは、シンクに食器類を置き、水につけた。
そのまま手早く荒い、ステンレス製の水切りかごに置く。

適当に豆を轢き、珈琲サーバーの電源を入れてからリビングルームに通じるドアを開けた。


「・・・眠れない?」


明日に変わるまで、まだ15分ほどある。
ルームライトだけがつけられたまま、だと思われたリビングルームに、フランソワーズがいた。
その膝には絵本が置かれている。


「まだ、そんな時間じゃないわ」


壁に掛けられている時計を見上げる、フランソワーズの仕種を真似るように、ジョーも壁時計に視線をむけた。


「そうだね」
「休むの?」


壁時計に向けられていた、フランソワーズの視線がジョーへと移った。


「いや、・・・煙草」
「休まないの?」
「・・・・・”誰か”さんが煙草を”キャンディ”に替える魔法を使ったお陰で、大変だったよ」


ジョーはポケットから、真新しい箱とライターを手に取ってみせた。


「ジェットも?」


くすっと、口元で笑いながら訊ねる。


「・・・・彼はキミが抜いた分以外にも、持ち込んでいたからね」
「うそ・・・っ」


フランソワーズは跳ねるようにして、背を預けていたソファから躯を起こした。


「キミの行動をちゃんとジェットは見抜いていたよ・・・。用意した荷物を玄関先に置いている間に、入れ替えたんだろ?・・・ジェットは煙草を入れた”学院指定のカバン”は、大切に部屋から自分で持って、タクシーに乗り込んでいたからね」
「呆れたわ・・・・。学生鞄に煙草を堂々と・・・」
「・・ああ、そうだ。これは秘密にしてないと、いけなかったんだった・・・・疲れてる、ね。俺も・・・余計な事を言いすぎ」


ジョーはL字型の白いソファの、背を通り過ぎようとしたとき、フランソワーズの膝に置かれていた絵本を見て足を止めると、ソファの背の縁に手を置いた。


「勉強?」
「・・・」


フランソワーズは、よほどジェットの”煙草”がショックだったのか、それとも呆れすぎて物を言う気力を失ったのか、ジョーの問いに応えない。


「・・・”しろいうさぎとくろいうさぎ”・・・・・・日本の絵本じゃなかったんだ」


ジョーの手が、ソファの背からフランソワーズの膝の上に置かれている絵本に伸びてくる。
フランソワーズは絵本を手に取り、伸びてきたジョーの手へとそれを渡した。


「アメリカの方みたいガース・ウィリアムさん」
「・・・読めるようになったって言ったよね?」


ジョーは受け取った絵本をぱらぱらと、めくる。紙の音と、印刷されたインクの香りが、ふうわりと空気に溶け出す。

99%は平仮名で、漢数字の”二”しか、漢字は出てこない。


ジョーの頬が緩む。


「読めるわ」


躯を捩って、くるり。と、ジョーの方へと振り返ったフランソワーズの瞳は真剣。


「・・・・じゃあ、読んで?」
「え?・・・・読むの?」
「読めるんだろ?」
「読めるけど・・・」


開いていた絵本を閉じると、ジョーはソファの背をひらり。と、跨いでフランソワーズの隣に座り、絵本をフランソワーズの膝に置いた。


「読んで・・・。ちゃんと発音できているか、みてあげる」


急なジョーの申し出に戸惑うフランソワーズ。


「実は、読めない?」


のぞき込まれるようにして、ジョーの挑戦的な視線に擽られる、フランソワーズの”負けず嫌い”な一面。











膝の上に置かれた、絵本を小さな白い手が開いた。


「シロい、うさぎ、と クロい、うさぎ」


翻訳機を使わないフランソワーズの日本語が、形良い愛らしいくちびるから流れ始めた。

スケッチ調の色味を抑えた優しいイラスト。
フランソワーズはその絵がジョーに見えやすいように、彼の方へと少しばかり躯を寄せる。

「シロい、うさぎと、クロい、ウサギ。にひきの、チサナうさぎが。ヒロいもり、に。すんで いま、した。」


自分が読む文字を人差し指で、ひとつ、ひとつ、確認するように、文字をなぞる、フランソワーズ。その横顔を見ながら耳にする、優しい、音。




風が止んだのか、いつも聞こえる波の音が聞こえない。
フランソワーズのお勉強の時間に、遠慮しているかのように。

途切れ、途切れの日本語だったが、ちゃんと単語が理解できていた。
意味も全部わかった。と、言ったフランソワーズの言葉は本当だったと、ジョーは微笑む。



夢中で日本語を読むフランソワーズは、ジョーの変化に気づかなかった。











仲の良い、しろいうさぎとくろいうさぎ。
森の中を一緒に遊んでいても、ふと。淋しそうな顔をする、くろいうさぎ。

しろいうさぎは、くろいうさぎに訊ねた。
くろいうさぎの答えは”かんがえごとをしていたんだ。”


「いつモ、いつモ いつまでモ きみ と いっしょニ いラ れ。ます。よ、に、てさ。・・・クロい、うさぎ、は。いいまし、た」





くろいうさぎは、願う。
大好きなしろいうさぎと、いつまでも、ずっとずっと、一緒にいられるように、と。








ーーーいつまもで、いつまもで。ずっと、ずっと、一緒に。どうすれば、ずっと一緒にいられるの?








一緒にいたいから、考える。
どうやったら、ずっと大好きなしろいうさぎと一緒にいられるのだろう、と。

考えて、悩んで、願う。






ぱらり。と、ページをめくった、とき。





フランソワーズの肩に落ちてきた、重さに、頬に触れた柔らかな栗色の髪が起こした、風に驚いた。が、動くことはできず、心臓が3つほど鼓動を打つのを忘れた。






「にほんご、みてくれる、イイました、・・・ソレは、ジョー、なんです」



間近に聞こえる寝息は、規則正しく穏やかに。
重なり合った部分が、温かい。


絵本を膝の上に開いたままで、そおおおっと、フランソワーズはソファの背に躯の力を抜いて沈み込むと、よりいっそう、肩にかかるジョーの重さを感じた。





起こすことは躊躇われた。

ギルモアから、ジョーが”眠る”と言うことに関して問題を持っていることを訊いていた、フランソワーズ。クスリを使って睡眠を得ようとしていたことも、知っている。

そして、その眠りが彼にとって心地良い眠りではなかったことも、知っていた。





強く、強く、強く、握られた手の痛みは、まだ記憶に新しい。



”・・・・・そばに、いて・・・・。独りは、・・・・・イヤ・・・だ。・・・・・”





繰り返される、言葉。



”捨てないで”
”行かないで”
”独りはいやだ”




”誰か、そばにいて”










ジョーは自分を産んだ母親の顔も知らない。
父親も、”日本人ではない。以外、わからない。

施設を出てから、ずっと独りで生きていた。と、訊いている。
それが、どれほどの孤独だったのか、フランソワーズには想像できない。


時間をかけて、仲間として築き上げた信頼と絆は本物。
けれども、いまだにジョーは”本当の自分”を仲間に見せることはない。




越えられない川が自分たちと、ジョーの間に流れている。


その流れは穏やかで。
いつでも彼がこちらへ来られるように、手を差し伸べられているのにも関わらず、彼はじっと、その川を眺めるだけ。

ときおり、川の縁へ近づいてくる。
ときおり、差し伸べられている手に、触れてくる。


川を越えようとはしない。


自分たちには、その川の流れは穏やかに、浅く、とても清らかに見える。けれども、ジョーから見たら、それは違う川なのかもしれない。















「あのね、くろいうさぎは、ずっと、ずっと考えていたの。大好きなしろいうさぎと、どうやったら一緒に居られるのかなあ?って、しろいうさぎにね、もっといっぱい、強く、強く、たくさん、いっしょうけんめいにお願いしてみたら?って言われて・・・」



空色の瞳に滲み、涙が溢れる。
喉がきゅうっと締め付けられて、鼻奥が痺れた。



「2匹のうさぎは、同じ想いで・・・・。お話の最後は、ジョーの誕生日の季節に、咲く・・・黄色の花に誓うのよ・・・」





ーーー幸せな色に、誓うの。









眠りに落ちた、ジョーの躯はフランソワーズへと寄りかかり、彼の頭は彼女の肩に乗せられたまま、彼の胸は上下する。


フランソワーズからはジョーの眠る顔は見えない。けれども、彼女の耳に届く息づかいは、彼女のこころにとけ込んでいく。




「くろいうさぎさん、ほど、まだ強く、願えてないのかしら・・・・・」






ーーーずっと、ずっと、一緒に。いつまでも、いつまもで、ジョーのそばに。







「ダメね。・・・・・私だけが、想っていても仕方ないもの」


こぼれ落ちた涙が、絵本の紙を濡らす。















「この絵本はね、・・・・私の夢なの」


彼の寝息の規則正しさが、眠りの深さをフランソワーズに報せる。


聞こえている?
・・・・・聞こえていなくてもいいの。








これが、私の精一杯の告白。










「愛してるわ」



















そばにいるわ。
ずっと、そばにいるわ。


あなたは独りじゃない。
あなたを独りにはさせない。



あなたが、あなたの想う人と結ばれるまでは・・・・。









誰よりも強く、いつまでも、永遠に、あなたの幸せを願うわ。




あなたを想うこと。
想い続けること。













「お休みなさい、ジョー・・・。そばにいるから・・・・、怖い夢は、私が引き受けるわ」



ーーーだから、ここにいてもいいでしょう?










今夜だけ。
あなたの温もりを独り占めしてもいい?












雨模様の空は閉じて、混じり合う体温に、こころを解放させ夢をみる。











ーーー愛してるの、ジョー・・・、私はあなたを愛してるわ
















「・・・・f・・・ra・・・ん」








絵の具で塗りつぶした、青の下。



陽の光は天使の輪を与え、肌に心地よい風は、天使の羽を与えた。
飛ぶように、軽やかに。
砂浜を歩く彼女は笑っている。

自分にむかって笑っている。



名前を呼んで、欲しい。
キミに、呼ばれたい。



















キミだけに。







「ジョーっ!」





呼ばれたい。




















####

ジェロニモは、ピュンマと電化製品の有名な街へと出かけたときに、彼に勧められて手に入れた、デジタルカメラを手にして部屋を出た。


<写真ガ 欲シインダ>


イワンのイタズラな笑いを含んだテレパスを受け取ったジェロニモは、断る理由もないので、イワンに従い、まだ使ったことのないデジタルカメラを持って、リビングルームに向かう。

ダイニングルームを抜けて、ルームライトが眩しい、リビングルームへと足を踏む入れる。と、吹き抜けの広間の方へと通じる、ドアに立つ人影に気がついた。
その影は、ジェロニモがリビングルームに入ってきたことにより、逃げるように、去っていった。


「むう。・・・・フラッシュはいらないな。」





ピュンマを呼べば、プロ顔負けの絶妙なカメラワークで形に残すだろうに。と、胸の中で呟く。


<ぴゅんまハ 黙ッテラレナクテ みんなニ 一斉送信 スル。コレハ 僕ト じぇろにもダケノ 秘密ダヨ>


「何枚いる?」
<イッパイ。じぇろにもガ 好キナヨウニ 撮ッテ>
「むう・・。起こさないように。難しい。」
<起キナイヨ、ダイジョウブ>



大きな手に、小さなデジタルカメラは、まるで消しゴムのように見える。
シャッターボタンを慎重に押し、ソファの上でフランソワーの肩に頭を預けて寄りかかって眠る、ジョー。その彼の頭部に頬を寄せて、眠るフランソワーズ。


寄り添うに。
重なるように。



口元に微笑みを浮かべて。

温もりを分け合い。
夢を分け合い。



「前も、あったな。あの時は防護服だった。」


かしゃり。

かしゃり。






かしゃり。


「今の方が、幸せそうだな。・・・戻るときライトは、消してもいいか。」
<問題ナイ>





かしゃり。


かしゃり。



「ジョーは、眠っているな。・・・・ちゃんと眠っている。久し振りだと思う。」
<じょーガ 不眠ニ ナッテルノ 知ッテイタンダネ>
「大人になる。不安な事だ。・・・・得にジョーは自分と戦わないといけない。」




かしゃり。
かしゃり。





「だから。フランソワーズが必要なんだ。」
<・・・彼ニ 取ラレナイ?>


かしゃり。




「それは、ジョー次第だ。・・・・未来は決まっていない。」
<・・・・ウン。>
「イワン。余計なことするな。いいな。未来を見えても、選ぶのは、本人たちだ。1分1秒先までも、変わる。本人次第だ。」
<ソレ、僕の個人アドレス に 送ッテ オイテ>
「わかった。」



ジェロニモは、リビングルームの照明を落とす。
暗闇の中に消えた2人に向かって、祈りの言葉を囁いた。


そして、去っていった影、当麻へもジェロニモは祈る。










ーーー何も決まってはいない。未来は、自分次第だ。




















=====65へと続く。


・ちょっと呟く・

1と5の最後の・・・悩みました。
飛ばしても良かったんです。
良い感じで、きれたのに・・・・(汗)
こういうの、前まではとことん削っていたのにさ。
最近、5の出番がないのでねえ・・・。


事件、忘れないでください(-∧-;) ナムナム




3と9が読んでいるのは、こちらの絵本。
文章も引用させていただきました。
しろいうさぎとくろいうさぎ
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