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Day by Day・66
(66)








ただ、もう一度飛びたかっただけ。








設定されたバーの高さはあくまでも、高く、高く、より空へと近づくための、切符。
バーを越える瞬間、開放される重力。

ぼくだけの時間。
ぼくだけの空。

ぼくだけの世界。








もう一度、空へ近づきたかったんだ。
自分の、足で。















地下のメンテナンスルームで、じっと津田海は、ピュンマの養父と紹介された、ギルモアの話を聞いていた。

自分のことだとわかっては、いた。
自分の足について、こと細かに、専門知識のない自分にも理解できるように、噛み砕いてゆっくりと、英語で今の状況を説明するギルモアの言葉。そして、その人柄は、嘘をついたり、自分を騙そうとしているような、そういう”悪い”人物には思えなかった。

何よりも、じっと自分のそばに居て、同じようにギルモアの言葉を真剣に、言えば、自分よりも真面目に話を聞いている、ピュンマを疑いたくはなかった。





事故から目覚めたとき、石川斗織は入った。


「君に、新しい足をあげよう。篠原グループが全総力を挙げて、作り出した最高の足を・・・・・」


「津田、いいかい?わたし以外の人間が、こんな技術を持っているとは、考えられない。そのために、多方面のあらゆる人間から狙われても仕方がないんだ」


「具合はどうだ?・・・・素晴らしいだろっ!!」


「・・・・・・・忘れるな、絶対に忘れるんじゃない。このことは、誰にも言ってはならない。もちろん、君の両親にも、だ。津田はただ、事故にあった。いいね?」













「約束できるなら、すべてをわたしに任せて、協力してくれるなら、もう一度君は跳べるんだ」
















手に入れた足は、今までと何一つ変わらなかった。
ただ、2週間に1度の検診と、自分が過去に記録し続けてきたデータと、同じように、新しい足のデータを取り続けること意外。



飲み続ける薬は、苦しかった。
季節の変わり目や、天候によっては気を失うことさえも許されないほどに、激しい痛みを伴った。

それでも、飛べる喜びには代えられない。












「高校入学していらい、公式戦には出てないと聴いておったんじゃが、なんでじゃ?」



今まで話の流れを塞き止める、突飛な質問に海は目を瞬かせた。


「でも、この夏・・・都大会には出るんだよね?」


ギルモアの質問に、ピュンマが新しい質問をかぶせてくる。


「・・・・石川先生が、出てみろって」


海は小さく答えた。
出たくない、わけではない。
けれど、自分の中で出てはいけない。と、言う声が聞こえたから。



フェアじゃない。



「理由を聞いていいかのう?・・・言いたくなければ、いいんじゃが・・・・・・・。やはり、”人の記録”ではなくなるからかのう?」
「・・・・」
「あの足で踏み切れば、オリンピック選手どころか、一躍時の人じゃったろ?・・・・飛んで、見たことはあるのかのう?」


海は、自分の体をすっぽりと覆っているシーツを、胸元あたりで握り締めた。


「・・・1度だけ、飛んで、自分の下に・・・・校舎の屋上が見えて・・・・」
「なんじゃとっ!それりゃやりすぎじゃわいっ!・・・・・あんな作りでは、筋組織がぶち切れるぞっ」
「・・・・・・左で、跳んでみせて欲しいといわれたから。ぼくは普段、右足で踏み切るので・・」


ギルモアは何度も首を横に振りながら、溜息を吐く。


「その後は、痛みがひどかったじゃろう?」
「・・・・」
「神経に相当な負担をかけたはずじゃ」
「・・・・」
「新しい足にするために、何度手術を受けたんじゃ?」
「・・・・」
「どれくらい、薬を飲み続けておる?・・・・辛かったじゃろう?足だけじゃない、はずじゃ。足だけの痛みが、徐々に上へと、全身へと広がっておらんかったか?足が痛み出す前に、頭痛が酷くなかったか?心臓が引きつるような、息苦しさは?切断したはずの足は、ひざ下20cm・・・あたりじゃなかったのかのう?事故当時の資料不足で、これらはあくまでも儂の推測でしかないんじゃがの。じゃが今は、膝頭さえ失ってしもうておるのう。手術のたびに・・・じゃな?・・・神経の接続がうまくいっておらんかった。そうじゃな?」
「・・・・・石川先生は、何も教えてくれないので、・・・・知りません」
「自分の足が、どれくらい事故で切断されていたのか、知らんかったのか?」
「・・・はじめは、直視することなんて、できなかった、から・・・でも、膝はあった気がします」
「いい機会じゃ、すべて、知っておきなさい。・・・・自分の体を。そして、自分が与えられていた足について、知るべきじゃ。・・・・逃げていちゃ、いかん。・・・誰のためでもない、自分のためにじゃ」


ピュンマは、ギルモアの言葉に力強く頷いた。


「海、受け入れることから、始まるんだよ。・・・・本当の自分を、自分の体を、受け入れたとき・・・。僕は君に聞いて欲しいことがあるんだ」





























####

部屋にいる009の元に、002とともに石川斗織を見張っていた007が邸に1度戻ると、報告が入る。
007は篠原さえこに変身し、彼女が個人的に雇っている弁護士から、さえこの代わりに彼女が必要とするものを、受け取りに行くために、である。


<イワン、彼女は今・・・どうしてる?>
<僕タチノ 仕事ガ ヨッポド 気ニ入ッタ ミタイ ダネ。 ズット ふぁいる ト ニラメッコ シテル。ズット りびんぐるーむ ダヨ>
<そうか・・・。博士と、008は?>
<彼ラハ 彼ラナリニ 津田海 ト 話シテイル・・・。 時間ガ カカル>
<・・・急がせるようなことは、したくないんだけど、ね>
<こころノ 問題ハ 任セテ、 必要ナ 情報ハ 僕ガ 取リ出ソウ>
<008には、申し訳ないけれど・・>
<物事には、優先順位ガ アル>
<ついでに、ダイニングルームのテーブルもお願いする、よ>


ジョーは、自室のデスクトップの電源を切った。


<浴室ノ壁ノ穴、 僕ガ 直シタノ 知ッテイルノカナ?>
<どうして、欲しい?>
<2ツ、貸シガデキタネ>
<1つ、だよ・・・。この間のお風呂事件はイワンに協力しただろ?>
<ソレト、コレトハ 別>
<一緒だよ>


ジョーはデスクチェアから立ち上がり、薄く開けられていた部屋の窓を閉めた。


<モウ ソレハ 遠イ 昔ノ 出来事ダヨ 009.ダカラ かうんと サレナインダ。ソレニ、”誕生日ぷれぜんと”ヲ アゲタノニ 酷イヨ>
<プレゼント?>
<じぇろにもカラ モラッタ デショ?>
<・・・・・・・イワンが主犯だったんだ?>
<マッタク 勝手ニ じぇろにも ガ アゲルンダモン。僕の断リモナク。マア、ソレハ ソレデ ちゃらニシテオイテ>
<・・・イワン、可愛くないな>
<目ニ ごみデモ 入ッタノ?僕ハ 可愛イ盛りノ 赤ン坊ダヨ?>
<・・・見かけだけだろ?>
<失礼ダネ、じょー。ふらんわーずニ 言イツケル カラ! じょーガ イジメルって!>


ゆっくりと窓から離れていき、部屋を出るために、ドアノブに触れた。


<俺をいじめるのは、イワンだろ?俺の方がフランソワーズに言いつけるよ?イワンが俺をいじめるって、ね>
<僕ジャナイヨ、じょーヲ イジメテ イル ノハ 篠原当麻 デショ?>
<・・・>
<捕ラレテ イイノ?>
<可愛い、赤ん坊だろ?・・・・赤ん坊は、そういうこと言わないよ>
<・・・・じょー>
<何?>
<早ク、終ワラセヨウ。・・・・・練習ノ 成果ガ オ披露目デキル日 ニハ 歩ケルヨウニ ナッテル カモ シレナイ>


ドアを開けて、廊下へ出る。
脳波通信での会話は終わっていたが、ジョーの目元が優しく緩んでいる。




<すぐだよ、イワン。失敗しないように、しっかり練習しておけよ?>







イワンと入れ替わるように送られてきた、007からの通信に答えながら、1階へと向かい、邸に戻ってきた007と、そのまま広間で短く打ち合わせをした後、リビングルームへと入っていった。

リビングルームのドアが開く。
その音に素早く反応したさえこは、ジョーの姿を目にするなり立ち上がり、手に持っていたファイルをジョーに向けて投げつけた。
グレートは驚いて、反射的に蛙のように跳びはねて一歩退く。


「どういうことよっ!!これっ・・・私にっ私にっ・・・できるわけないでしょっ!」
「・・・お話した通りです。そして、あなた次第だといいましたよ、ね?」
「篠原グループの縮小っ、それに伴って”サイボーグ”に関わったすべてを無に返すっ!学院で”サイボーグ”に関わった生徒たちに対する処分っ。それだけだったはずよっ!」


躯にリバウンドして床に落ちたファイルを、ジョーはゆっくりとした動作で拾いあげた。


「・・・僕たちは、”篠原”の存在を甘くはみていません。今後のことを見据えて動いています。組織的な規模からみて、現在の篠原内部で、どこで、どのように情報が漏れているのか、確認するのは難しい。そのためにも、このまま放っておくわけにはいけません」
「それがっ、どうして父を引退させてっ私が!私が父の跡を継ぐのよっ!!そのつもりはないって言ったでしょうっ!!父がいなくなった後、筆頭株主として名前を置いておくだけでいる方針だったのよっ!会社は、すべて今の上役たちに任せるわっ、欲しければ斗織にあげるわっ!!もう、もう、篠原とは縁を切るつもりだったのよっ!!」
「・・・もったいない、ですよ?」
「何がよっ!当麻にも相続を拒否させるっ、あの子が20歳になったら、篠原から切れるのっ、当麻のためにも、今後っ当麻の人生に一切”篠原”が関わらないようにするのよっ!それなのにっ、なんで?!なんで私がっ、私が?!そこまで面倒を見てもらう必要もなければっ 、あなたたちに指示される権利も理由もないっ!」


肩で激しく息をしながら、さえこはジョーを睨んだ。


「・・潰れますよ?」
「潰すんでしょっ!あなたたちの手でっ」
「あなた、次第です・・・・気づいてますか?あなたは、”篠原の娘”という、名前だけの人間ではない。秀顕氏の方が名前ばかりで、・・・・今、篠原を動かしているのは、あなたなんですよ?・・・あなた意外に、篠原グループのトップにたてる人間はいませんよ。・・・たとえ石川でも、少しだけの間潰れるのが先送りにされるだけで、時間の問題です、よ」
「そんなのっ!わからないじゃないっ」
「わかっているはずです、本当は・・・」
「知らないわっ」
「もう少し、時間が必要のよう、ですね・・・・。さえこさん、逃げないでください。いや、もう逃げられません。夢の世界でも、夜の街でも、ない。あなたは”ここ”に生きているんです。そして、あなたはそれに相応しい才能をお持ちです、誰よりも。”マクスウェルの悪魔”であったあなたなら、できますよ」


ジョーはファイルを手にリビングルームへと入っていき、ガラス作りの珈琲テーブルの上に置いた。ジョーに続いて、グレートもリビングルームに入るが、そのままダイニングルームへと続くドアへと向かう。
さえこは黙ったまま、震える肩を抱き、先ほどまでジョーが立っていた位置を睨んでいる。



「珈琲でもいれてきます」


ちらり。と、さえこの横顔に視線を向けて、グレートの後を追うように、ジョーもダイニングルームへと向かう。その背で、さえこの、すすり泣く声が聞こえた気がしたが、ジョーは振り返らない。


誰にも頼らずに、篠原さえこ自信が答えを出さなければいけないから。







「アルベルトがいなくて、助かったよ・・・・きっと彼は反対するだろうからね」
「それより、ジェットだろうなあ、間怠っこしいやり方してんじゃね!ってイライラしただろうよ。だがな、今回はこれでいいのかもしれんと、思うから・・・。何か言われたら、ジョーの見方になるからなあ、我が輩は」


グレートがミルで珈琲豆を引き終えて、のんびりと答えた。


「相手がB.Gなら、問題ないんだ。力づくで潰して、すべてを更地に戻すだけで、良かった」
「そうもいかんからなあ・・・篠原グループは大きすぎて、日本の経済にも影響が出る。ただでさえ長引く不況に、暮らしづらくなってきてるからなあ。ガソリン代の高騰にゃあ、びっくりだぞぉ。経済大国日本は、もう遠い昔の話だなあ。時間の流れを感じるよ、まったく」
「関係ない人々の暮らしを・・・・奪い取る訳にはいかないんだから、ね」
「篠原が潰れれば、傘下の企業も、共倒れ、か?失業する人間が出る。そして、その裏に泣く家族、か・・・」
「・・・・」


珈琲サーバーの電源を入れた、グレートの手が止まり、冷蔵庫にもたれかかるようにして、自分の背後に立つジョーへと振り返った。


「それで、もし彼女が”no”と言ったら、どうなるんだ?」
「想像通りの方法をとる」
「了解・・・。我々は、今2つの道を前にして、立ち往生ってか?」
「僕たちの道は、常に1つだ」
「潔いねえ、ジョー・・・お前の未来もか?もう決まっちまっているのかい?」


温まった湯が、こぽこぽと音を立て始めた。
ミルで挽かれた珈琲の香りとは、また少し違った香りがキッチン内の空気を染めていく。


「未来?・・・・」
「前途有望なる若者よ!もがき苦しみ、そして悩み抜いた末に見上げた空は、何色か?」
「グレート、ずっと外だっただろ?彼女が落ち着いてから、弁護士とのことを詳しく聞くから、少し休んだらいいよ」


ジョーの言葉に、グレートは大げさに両腕を高くあげて伸びをしてみせた。


「久しぶりの我が家よ、安らぎの香り、包み込む静けさ、愛しの我が家よ、今帰ってきたぞおおっ・・・・っと、それで?大人はどうしたぁ、腹減ってんだけど?」
「買い出し」
「姫は?」
「買い出し」
「例の、息子は?」
「買い出し」


心地良く伸ばした腕が肩から、重力に従い、だらんっ。と床に落ちた。
それは、人間では考えられないほどに、縄のように長い腕となって。


「3人でか?・・・ジョーっ!なんでお前こんなところにいるんだ?!」
「いたら悪い?」
「おいおい、ジョー・・・しっかりしてくれよぉお」


冷蔵庫に持たれていた背を離し、ジョーは食器棚から珈琲マグを3つ取り出して、グレートの隣に立ち、珈琲サーバー近くに並べる。


「俺が持っていくよりも、グレートの方がいいかもしれない、ね」
「・・・004の方からは連絡あったのかい?」


透明なガラスに表示されているメモリが、香ばしい香り放つ黒い液体に消されていく。
空気にじんわりと熱が含まれ始めた。
こぽこぽとなる音も、次第に途切れがちになっていく。


「秀顕は、動いていない。・・・・さえこが裏でいろいろと動いていることには、周りの人間から何かしら聞き知ってはいるみたいだ。けれど、興味がないのか、それに関しては何も手を打ってはいない。新しく石川との、篠原技研・・ああ、これはさえこが立ち上げたプロジェクトだけど、表では石川と秀顕となっていて、彼女の名前は出てないね。そっちに夢中になってるよ、津田海の足が公になれば・・・世界が”篠原”を知ることになるから、ね。彼はこのプロジェクトを最後の”花”にしたいんだろうから、何がなんでも成功させたいようだ。石川と、さえこの関係も知っているし、さえこが動いていても痛くも痒くもないんだろう」
「世間にお披露目する場が、”あやめ祭”って言うのは、おかしかないかい?」
「公に出すのは、まだ数年先だそうだよ、はじめは”裏”から、その技術を自分たちが持っていることを知らしめる。そして、それを高く、部分的に切り売りして、さらに進歩を遂げた技術を得る予定らしい。肝心なことは秘密にしておくみたいだよ」
「なんだあ、そりゃ?!」


大げさに驚いて見せたと同時に、腕がしゅるるっと、もとに戻った。


「小出しに技術を売って、それらを周りに競わせるように開発させる。その技術を取り入れて、さらに進化させた義肢を手に入れる。機械の足や手を生身の躯に取り付ける、肝心なことは秘密にしておくから、永遠に、・・・は、おかしいか。当分はこの分野を篠原が独り占めできる」
「は~・・・・ずるいと、言うか、なんと言うか・・・」
「B.Gは完全にこの技術を自分たちのものにしていて、量産型のサイボーグを作り出し、売ったり、自分たちの手足として使っていただろ?そんなこと、実際の企業ができるわけないからね。目的も違うし」
「ある意味、嬉しいがねえ・・・オレたちの体が、ちゃあんっと世の中の役に立つ、しかも良い方法であるってぇのなら」


ぽりぽりと、はげた頭を掻きながら、ため息まじりに言うグレート。


「・・・・・博士は、協力したいんだろうね」


ジョーの呟きにグレートの瞳が揺れた。
静かになった、珈琲サーバーのポットを手に取ると、ゆっくりとそれをマグに慎重に注いでゆく。


「正直、博士は篠原技研に自分が出向いて行き、そのプロジェクトに参加したいんじゃないのかなって思う。津田の足も・・・。口では”2度とサイボーグは作らない、手を出さない。と、言っているけれど、実際は・・・・どうだろう?」
「反対なのか、ジョーは?」
「同じことを繰り返さない。という、保証はどこにある?」
「博士を信じていないのかぁ?」


3つのマグに注がれた、珈琲から立ち上がる湯気を吸い込み、ふと、こころの隙間に触れられたような気がする。


「・・・・・そういう意味じゃない、けど」
「実験のために、誘拐、拉致。・・・人を買うヤツらがいるから、売るようなヤツらも存在するってか?それよりも、自ら志願するヤツの方が多いような気がするなあ」
「誰が、こんな躯に・・」
「ジョー、今の世の中なら、なりたい。と、言うヤツらも出てくるかもしれんぞ?」


グレートは、ジョーが珈琲を注いだマグをひとつ、手に取った。
キッチンのルームライトが移る、それを覗き込むようにして胸いっぱいに香りを吸い込み、深く息を吐き、ずずずっ、と啜るようにして珈琲を飲む、グレート。


「生きづらいこの世の中で人間でいることが、何の価値がある?なら、サイボーグになってみよう、そうすれば、人生もっと面白いかもしれない、何かが変わるかもしれないって、な?・・・・ハリウッド映画の世界だなあ、いや、アメリカン・コミックスか?・・・なんにせよ、時代はかわりつつあるってことだ。どちらが表で、どちらが裏か。結局は1枚の同じ紙の上の話しだからな。日のもとにさらしてみれば、透けてみえちまうってな」
「・・・・結局、俺たちがやっていることは、日に透けてしまうような、意味のないこと?」
「日に透けてすべてが、消えてなくなれば、なあああああんって、無理な話だなあ、ま。我が輩の戯れ言だから、気にすんな。・・・・しかしだ、これはジョーが持っていくべきだと、思うだけだ」


グレートは視線で、ジョーの目の前に置かれている2つのマグをさした。


「いつもの”キレ”が鈍っているように思うが、それは平和惚けのせいか、それとも・・・何か判断に迷うことがあるのかい?我が輩のよく知る009だったら、あんな状態の篠原さえこを放っておくなんてこたあ、しないねぇ。彼女のそばにいて、必死で説得しているのが、今までの009なんだがなあ?・・・・それとも、何かい?今は”島村ジョー”なのかあ?」


グレートの言葉に、息が止まる。
そんなジョーの様子をじっくりと、見つめているグレート。


「ジョーの頭には”009”用の脳みそがもう1個あるんだって言うのが、ジェット説だったが・・・どうだろうなぁ?今のお前はどっちかな?009か、島村ジョーか?それとも、両方か?・・・・みんな薄々感じてはいて、口に出しては言わないが、ジョー、お前こそ逃げているんじゃないのか?」
「逃げて、る?」
「そうだ・・・・。今まで通りに、事が運べないことも、理解している。戦う場が、環境が変われば、それなりに手順も方法も変わるってえのが、普通だしよ、しかしだ。思ったよりも時間がかかっている上に・・・・。なんだなあ、消極的に思えてな、受け身と言うか・・・。もしかして、今回のミッションが起こったことで、なんていうかなあ、ショックを受けている、っていうかなあ、動揺しているのは、誰でもないお前自身なんじゃないか?」
「・・・・俺、が?」


グレートはジョーから視線を外し、手の中のマグの中に移る、もう1人の自分と視線を合わせた。


「宙まで行って、命がけで戦ってきた、ジョー、お前が1番、今回のことを望んでいなかったはずだからして、な?」
「・・・今回のような、大きなものではなかったにしろ、終わってからも、色々とあっただろ?」
「あったが、それは009がちゃあんと、こなしてきたからなあ」
「グレート?・・・・・・何が、言いたいんだ?」
「学院で動いたときは、ジョーはちゃんと009でいた。ミッション中、009は、009だ。ジョーにはならなかった。違うか?」
「009も俺も、同じ人間、だ・・・そうだろ?」


グレートの手が揺れて、自分が歪む。


「切り替えができていた、ってことだ、我が輩が言いたい事は」
「・・・」
「戦うことを嫌がっている。とは、思えない。けれど、何か違うんだな、それが何か?と言われて、口でうまく言えない、のが、役者はセリフがあっての者だって、思う。うん。・・・今回はどうも違う気がする。ジョーはジョーで居続けようとしている。切り替えとかじゃなく、ジョーはジョーとして、009でいようとしている・・・そのせいで、今までと違うんだと、我が輩は思えてなあ・・・・・。うまく言えんが、009でいる自分とジョーでいる自分の境界線がなくなってきた、と言うか、・・・・」


語尾に力がなくなり、消えかかるグレートの言葉と、自分のこころの声が重なった。





ーーー003じゃない。フランソワーズはフランソワーズだ。










フランソワーズに向かって言った言葉が、自分にむけられた。
ジョー自身にむけられた。


「・・・・珈琲、頼む」


キッチンから出て行くジョーに向かって、グレートは何も言わない。
ダイニングルームを抜けて、リビングルームを通るときに見たさえこは、ソファに座り、小さくなって、膝の上に顔を伏せたまま、動かなかった。


その姿を目にしても、ジョーは足を止める事なく、リビングルームを出て行く。




ーーー009だったら?













今までの僕だったら?








唇を噛み締めて、早足にリビングルームを出て行く。

















ジョーが去ったキッチンで、グレートは静かに珈琲を口に含んだ。


「やっと、生身のジョーを感じられて、嬉しいんだがなあ・・・・.ついでに、姫以外の女性にむやみやたらに優しくしないところも、気に入っているんだが・・・・。ジョーがジョーであるときに、009の、強さがなぜ消えてしまうのか、わからん。役者がその役になりきると、たまに、奇跡が起きる。一度もダンスを踊った事がない者が軽やかにステップを踏み、生まれて一度もピアノの鍵盤を触ったことがない者が、すらすらと、ピアノを弾いてみせる。・・・あくまでもそれは、”みかけ”だけだけれど・・・・、ジョーは違うんだなあ。本物なんだよ、ジョーは。009でいるときも、ジョーはジョー。・・・・裏も表もない。ただ、009と言う名前を借りて、奥底に眠っていた部分がでてきた過ぎないんだがな・・・・」
「あんさん、何ブツブツ1人で言ってるネ、気持ち悪いアルヨ?」


両手に荷物を下げた、張大人がキッチンの戸口に立っていた。


「帰ってきたなら手伝うヨロシ!荷物はまだあるネ」
「ええっと・・・・、我が輩は、っっと、これを邸のお客様であられる、さえこ嬢に持っていかなければならないのであって、・・・ではではっ!」


グレートは素早く、自分の分とは別のマグをつかみ、キッチンから逃げるように、リビングルームへと向かった。


















####


「あ、島村」


張大人が運転した車を、邸の玄関に一番近い位置にまで寄せて、トランクから買い出しの荷物を取り出していた当麻は、玄関から出てきたジョーに気づき、ジョーは、そのまま玄関を出て、正門を抜け、車が止められているそばに歩み寄った。


「・・・・出かけるのか?」
「少し、ね」


今にも自分がトランクに積まれてしまいそうな体制で、荷物を取り出していたフランソワーズは、当麻の声に、顔をあげる。


ジョーはまっすぐに、フランソワーズを見つめた。。






”ジョー。私が003でなくなったら、サイボーグである私の存在理由がなくなってしまうのよ・・・ひどいわ、そんなの。もう・・・私は人にも戻れない。完全な機械でもない・・・。003でなくなったら・・・。私はいったい誰なの?”







篠原の家へ、ホームステイをする、少し前にフランソワーズが言った言葉。








”ジョーはジョーで、居続けようとして、いる。切り替えとかじゃなく、ジョーはジョーとして、009なんだ”







グレートの言葉。















今まで、どうやって生きてきたんだ?
サイボーグ009、は俺・・・・だろ?

俺が俺として、009でいるのは、当然だ、ろ?







違うのか?




003じゃない。フランソワーズは、フランソワーズ。














違うのか?



















「ジョー?」


立ち尽くして、穴があくほどに自分を見つめてくるジョーの様子に、フランソワーズは不安気に、彼の名前を呼んだ。
名前を呼ばれ、ジョーの瞳が揺れた。が、視線はそのままフランソワーズに注がれている。
当麻は、いつもと雰囲気の違う、ギルモア邸でのジョーとは、また違う彼に、どう声をかけていいのかわからずに、事の成り行きを見守る事にした。


「どうしたの?・・・・何か、あったの?」


優しく穏やかに、語りかけるフランソワーズの声に、ジョーの口からこぼれた音は、形になる。


「・・・・フランソワーズは、フランソワーズ・・・だろ?」


当麻の頭に?マークが浮かぶ。何を言い出すのかと、眉根を寄せた。


「どの私?」


フランソワーズは驚く様子もなく、答える。


「どの・・?」
「ここにいる、私?昨日の私?それとも、去年?一昨年?・・・003の私?戦っているときの私?お料理をしているとき?掃除をしているとき?買い物の荷物が重たいって思っているときの、私?」
「・・・・」
「ずっと前に、ジョーが言ってくれたわよね?・・・・・私は003じゃなく、フランソワーズだって・・・私は、私だって。色々と考えたの。すごくいっぱい、考えたの・・・」


フランソワーズは車のトランクから、買い物袋を順におろしていく、その動きを見て、当麻が黙って手伝い始めた。


「考え、た?」
「そう。ジョーが言う、私って誰だろう?って、改造された、003でいる自分は、誰だろうって?でも、わからなかったわ。改造される前と、後で、私は違う人間になってしまったの?眠らされている間に、時代を超えてしまった私は、もう前の私と違うの?・・・・003じゃないって、ジョーは言ったわ、覚えているかしら?」


当麻に、手にした荷物を渡しながら、ジョーに訪ねると、彼は静かに頷いた。


「ひどいことを言うわ!って、悲しかったの。だって、そうでしょう?・・・・・003でいることを否定されたら、私は誰なの?人間でもない、完全な機械でもない、中途半端な私の存在はいったい、なんなの?誰なの?って・・・。結局、私は私でしかないけれど、今日の私と、昨日の私は同じであって、違う人間だったの」


当麻の手が止まった。


「毎日が、同じ人で居続けることなんて、できないわ。毎日同じ空でも、曇りの日もあれば、雨も降る。同じ”青い空”であっても、昨日の”青い空”ではないのと同じで、風も、そう。同じ”風”でも、吹く時間や方向が違えば、季節が違えば、違うの。吹き荒れるときもあれば、涼やかに穏やかなときもある。でも、それは”風”なのよ。”風は風”であり続けるわ。季節は巡るけれど、必ず”同じ季節”であることはない。去年の春と、今年の春は、同じ”春”と言う名前でも違うわ・・・・。私もそうなのかもしれない、って・・・・。同じフランソワーズでも、今日と昨日の私は違うの。ジョーから見る私もいるけれど、当麻さんから見る、私もいるわ。それは違う、私なのかもしれないし、同じ私かもしれない。すれ違う街の人が見る私と・・・」



フランソワーズは躯をひねり、視線を海側へと向けた。
緩やかな風に乗り、飛ぶ鳥たちの声が波音にまぎれて聞こえてくる。


「あの、鳥たちが見下ろす私は、同じかもしれないし、違うかもしれない、でも、私はフランソワーズでいるの」
「・・・・」
「003でいる私も、私。フランソワーズでいる私の呼び名が、そのときに相応しい形に変わっただけで、でも、ここに私はいるわ・・・・、多分。よく、わからないのだけど、結局私が、私でいるかは、私でしか、わからないのかもしれない・・・、ごめんなさい。何を言っているのか、よくわからないわね、まとまりもないし」


フランソワーズは恥ずかしげに俯いて、再びトランクの中を覗き込んだ。が、ふと、再び顔を上げてジョーを見た。


「・・・・ジョー、私は誰?」
「キミは、・・・・・・・・・・・フランソワーズだ、よ」


ゆったりと、大きな、こぼれ落ちそうなほどに大きな瞳は長いレースのように縁取られたまつげを揺らし、幾度か嬉しげに瞬きながら、愛らしい口元が微笑み形作る。


「ジョーが、そういうなら、私はフランソワーズなのよ・・・・、ジョーが003と呼ぶなら、私は003なの。いっぱい、たくさん、考えたけれど、答えは出なかったから・・・」



ーーーあなたが、009でいる、ときは、私は003でいるの。






















「俺は、誰?」







キミに、呼ばれたい。







「今はミッション中?」
「・・・・だね」








「サイボーグ、009」












そう、”俺”は、サイボーグ009


キミを、戦いの世界にしか連れて行けないのなら、その戦いを、早く終わらせる。
キミを、戦いの世界にしか連れて行けないのなら、その戦いを、未然に防ぎたい。








逃げていたのは、俺だ。
逃げいていたんじゃない、ちゃんと見ていなかったのは俺だ。


















キミを理由に、逃げていたのかもしれない・・・・・、戦うことから。















ーーー・・・・・・なんのために、俺は戦ってきたんだろう?
    ・・・B.Gは、消えたはずで。この手で、この手で・・・ 確かに・・・・・なのに、また・・・





何も変わっていない?
変わっていないように、思いたかっただけだ。

宙から、還ってきてから・・・・。
そのままであって欲しいと、キミに重ねて思い続けていた。








キミが、俺の”戦いのない、平和の証”だから。




















悪の種はすでに蒔かれている、いつ、いかなるときでも芽を出す可能性を秘めている。
B.Gは滅んでも、消えない。






戦いは続く。


それが、どんな形の戦いであるかは、わからない。














今までと同じじゃない、同じである必要がない。

グレートが言うなら、そうなのだろう。
彼の目に映る、自分は今までの自分と違う。



仲間たちの目に映る、今までの自分と違和感があるのなら、それはそうなのだろう。












自分は、自分で、自分でしかない。
俺は、あくまでも俺で・・・・・・・・。





















そして、フランソワーズが呼んでくれる、俺は・・・・・・





















ジョーが微笑んだ。


「・・・・やっぱり、フランソワーズは、00メンバーの中で1番強い、よ」
「女性に、”強い”って言う言葉は、あまり響き的によくない気がするわ、それも仲間の中で1番だなんて・・・」


再び、フランソワーズは手を動かし始めた。


「・・・・003、少し出る。色々と整理したいことがあるから、回線を切る。連絡は携帯電話で、002、004から連絡があったら、邸に戻るように伝えて」
「時間は?」
「戻り次第、おって僕から連絡する」
「わかったわ」


一歩足を踏み出して、フランソワーズと当麻から離れ、背をむけたとき。


「ジョー、お昼はどうするの?」


呼び止められた。


「さあ・・・どうしよう」
「食べてくれるのかしら?」
「・・・・誰が作るの?」


振り返って答えた。


「お昼は私が作るわ」
「・・・・適当に、残しておいて」
「なくなるかもしれなくてよ?」
「・・・なら、命令しておくよ、リーダーの俺の分を残しておくように」
「了解」













走るようにして海岸へ下る道へと去っていく、ジョーの姿を見送った、フランソワーズと当麻。


「あ、・・・ジョーに車を車庫へ入れてもらえばよかったわね?大人は同じところをいつもぶつけてしまうのですもの」


柔らかく、微笑んだフランソワーズの笑顔が、あまりにも眩しくて、眩しすぎて、傷みとなって当麻の胸に沈み込んだ。


「マ・・・・、フランは、フランソワーズは、島村が好きなの?」














フランソワーズの携帯が、00メンバー全員の携帯が震えた。


『石川が動いた。篠原秀顕に連絡を取った。2』

















====67へ続く





・ちょっと呟く・


47.48のお話の・・・・答えでした。
60最後でも、3と同じ台詞が交わされます、今回は”俺”!

こころを引き締めさせたかったんですっ!
なんか最近、9はゆるゆるだったので。



パソが壊れて、続けて書けなくなったので、
プロットを立てたそのときの高揚感が切れてしまって、難しいです。













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