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Day by Day・4
(4)




1週間も経った頃、注文した家具類などが次々にギルモア邸へ運ばれてきた。
個人の部屋以外のものは、フランソワーズが中心となって片づけられていった。
力は人並み以上の彼らのため、細かい飾りつけ以外は面白いように簡単に片づいていく。メンバーだけで暮らしているからこそ、できること。


人が住んでいる。
人が生活している。


忘れ去られていた洋館が、彼らの手によって蘇る。
珍しくギルモアは邸の中をイワンを抱きながらぐるぐると歩き回る。
よっぽど嬉しいのだろう。始終、彼の顔には深い笑い皺を作ったままだ。

力仕事に精を出すメンバーたちに、早めの夕食の準備に取りかかるフランソワーズをギルモアはキッチンから呼び出した。リビングのテーブルに置かれたのは、2枚のクレジットカード。


「こんな男所帯じゃし、何かとお前さんを頼ることになってしまうと思うからの、こっちは、そのためのもんじゃ。そしてこっちは・・・必要だと思うものがあったら遠慮なく遣いなさい。フランソワーズ専用じゃ。心配せんでも、みんなにも渡してあるから」
「・・・・」
「これから、みんながどう生きるか、ちゃんと考えなくてはな。この世の中を生きていくためには、どうしても必要な物が出てくる。
・・・仕方がないことじゃがな。」


テーブルに置かれた2枚のカードをそっと手に取る。


「ありがとうございます。博士。大切に使わせて頂きます。でも・・・いつかいつかは・・・」




ーーーこのカードを必要としない日が




ギルモアがフランソワーズの言葉をどのように受け取ったかは解らないが、
満足そうに頷いて、ぐるりとリビングを見回した。


「温かいのぉ・・・」


ただ置かれていた、ソファにテーブルだけのリビングに今は、カーペットがひかれ、ジェットとピュンマが選んだ大型テレビにDVDプレイヤーなどの娯楽機器を一つにまとめた薄茶の棚、
セットで左右にDVDやCD、本などを収めるためのガラス戸がついた背の低い棚。
色とりどりのクッションに、壁に掛けらた絵や写真、階段へと続く廊下の壁に飾りだな、その上には観葉植物に花が飾られた花瓶、フランソワーズが選んだ小物類。リビングから庭へと通じるガラス戸に掛けられた、2重になった白のレースとベージの刺繍が施されたカーテン。外で組み立てられているであろう本棚も加わる予定である。

明日にはギルモア用の安楽椅子に、リビング用のイワンのベッドも届く予定だった。


<博士・・・コズミ博士ノコト、忘レテルヨ>
「! おお、そうじゃった、そうじゃった!」


クーファンの中で眠っていると思われたイワンの突然のテレパスに、慌てて現実に引き戻されたギルモア。


「実はな、コズミ博士の友人の娘さんが一時的にだが、彼の家に下宿することになったようで、こちらに来たばかりで友人もいないその娘さんと一緒に、買い物などをフランソワーズに頼めないかと・・・」
「私・・・ですか?」
「う、うむ。年頃も同じようでな。その彼女は父親の仕事の関係で2年ほどフランスに住んでいたこともあるらしくてね、それでフランソワーズさえよければ・・・と」
「・・・でも、買い物と言われても、私はここから近い町のスーパーか商店街くらいしか知りませんのよ?その娘さんも慣れていらっしゃる方と一緒の方が良いのではありませんか?」
「それは、そうじゃがな・・・」
「ジョーに車を出してもらえばいいじゃん!オレも行くぜ、それ!面白そうだしな!」


いつの間にリビングへやってきたのか、ペットボトルをラッパ飲みしながら、乱暴にフランソワーズの隣に座ったジェット。


「面白いってそんな! ちょっと・・・コップに入れて飲んでよ!それに、ゼ・・・ジョーの都合もあるでしょう?・・・・女同士の買い物に付き合わせるなんて可哀相よ」
「だーかーらー、オレが一緒に行ってやるんじゃあねーかよ!あいつだけだと”可哀相”じゃん」
「まだ、行くとは決めてません!」
「行こうぜ!オレも街まで出たいんだよ」
「勝手に行けばいいじゃない、いつものことでしょ?」
「だ~!博士!その”コズミ博士の友人の娘”って可愛いのかよ?!」
「うむ、素敵なお嬢さんじゃったよ、この間までイギリスに住んでいたらしくてな、
日本の大学に入るためにこちらに戻ってきたと言っておった。名前は”さくら”さんじゃ」
「おお!可愛い名前じゃね~か!決まりだ、博士。フランソワーズが嫌でもオレが友達になってやるよ!」
「ちょっ と!! あなたなんかと友達になったら彼女がヒドイ目に遭うわ!」
「じゃあ、一緒に来たらいいじゃんか」
「!?」
「決まりだ!博士、コズミのじーさんに連絡してくれ。明日でもいいぜ、なあ、ジョー?」


ジェットは庭の方にむけてペットボトルを突き出す。
フランソワーズが驚いたように振り返ったそこには、開け放たれたドアの向こうにジョーが立っていた。


「いいよ」








####

その日の夜のうちに、ギルモアがコズミ博士に連絡を取り、2日後の金曜日に
フランソワーズ、ジェット、ジョーの3人でコズミ邸へ行くことが決まった。


ーーー行きたくない。





フランソワーズはその言葉を必死で飲み込みながらその日を迎えた。









コズミ邸までは車で約2時間ほどかかるが、ジョーの見事な運転とカーナビのお陰で予定よりもかなり早く、コズミ邸に着くことになってしまった。

フランソワーズは車から降りて、コズミ邸の門の前で足を止める。

X島から脱出して身を寄せていた、この邸は自分たちの所為で一度は半壊された・・・。が、今は何事もなかったかのように綺麗に修復されていた。
ジョーや他のメンバーは博士の送迎などで、何度かこのコズミ邸を訪れていたが、フランソワーズは日本に居を構えてから初めての訪問になる。久し振りなためか、些か緊張しているのがわかった。

普段は昼近くまで寝ているはずの、ジェットとジョーだったが流石に今日は朝の食卓を他のメンバーと共にした。


「おい」


ぼうっと邸を見つめているフランソワーズの背中を押して、中へ入ることを促したのはアルベルト。朝食の席で、彼ら3人がコズミ邸に向かうと言うことを聴き、アルベルトとピュンマが同行を訴えた。
コズミ博士から借りていた書籍類を返したい、と言ったアルベルト。
将棋にちょっと興味があるんだ、と言うピュンマ。

狭い車に詰め込まれた5人は、今コズミ邸の座敷に通されて出されたお茶と和菓子に舌鼓をうっていた。


「島村くんの運転と聞いておったでな、多分予定より早く来るとわかっておったよ!」
「大勢で押しかけてしまって、申しわけない」
「いやいやアルベルト君、こちらはいつでも大歓迎じゃ」


そんなやり取りのなか、襖の奥から女性の声が聞こえた。


「失礼します」


ゆっくりと襖があけられ、姿を現した女性は、ストレートの艶やかな黒髪を肩に乗るか乗らないかのところで、切りそろえられ、切れ長のアジア人らしい黒い瞳。薄い唇は上品な桃色に熟れながら微笑をたたえている。白い肌は彼女の若さを象徴するように潤っている。
絵に描いたような日本美人、と言う言葉がぴったりと似合う少女の面差しを残した女性だった。


「紹介しよう、真鍋さくらさんじゃ。さくらさん、こちらがフランソワーズさん、ジェット君、島村くん、ピュンマくんにアルベルト君じゃ。ギルモア君の大切な・・・家族じゃ。そういえば、さくらさんと島村くんは・・・」
「はい、おじ様。ギルモア先生がいらっしゃった時に何度かお会いしました、ね?ジョー?」


さくらと名乗るこの女性とジョーはすでに何度か会ったことがあったと言う。それは事実なのだろう。けれどもジョーは今日まで一言もそんなことは言わなかった。


「なんだよ、お前は彼女と面識あったのかよ!」


拗ねたようにジェットはジョーをなじる。しかしジョーは何事もないように、「ああ、そうだよ」とそっけなく答えた。






簡単な自己紹介を済ませた後、4人、さくら、ジョー、ジェット、フランソワーズは留守番組に見送られて車に乗り込んだ。


「大丈夫かなぁ・・・」


走り去る車を見ながらピュンマは独り言のように呟いた。


「何がだ?」
「・・・わかってるだろう、アルベルトなら。だからここまでついてきたんだろう?」
「オレはじーさんに返す物があったんだ」
「ボクももちろん将棋のためなんだよ?」
「・・・もう、子どもじゃないんだ」
「うん」
「そろそろ、しっかり立ってもらわないと、歩き出せん」
「うん、そうだね」
「・・・手のかかる妹は可愛いがな」
「弟も、悪くないよね?」













####

週末の街だが、金曜日の午後と言うこともあってか、車もスムーズに駐車場へ預けることができた。ジョーの隣、助手席にはさくらが座り、あれこれと色んな質問をして車内での会話に花を咲かせた。その間、フランソワーズはこれと言って何も話さずに、さくらから問いかけられた時のみ会話に参加した。すっかりジェットはさくらと打ち解けていて、昔から知っている友達のように、話し込んでいた。

車から出て、どこへ行こうかさくらがジョーに話しかけようとしたとき、ジョーはフランソワーズの隣に立ち、彼女の肩に手を置いた。突然、声もなくジョーの手が自分の肩に置かれたことに動揺するフランソワーズ、にかまわず彼女を心配そうに見つめる。

「・・・”それ”がないと不安?」
「え・・・」

ジョーが何を言っているのかまったく解らなかったが、ジョーの視線が、彼女が胸に大事そうに抱え込んでいた、白のショルダーバッグを見ていたことから、彼が何を言いたいのか理解出来たのと同時に、フランソワーズは狼狽した。


ーーー知ってるの? 私が”これ”を持ってきていることを、知ってるの?


「車に、置いていかない?」


フランソワーズはジョーの顔をみる。その表情は怒っている様子はなく、いつもより少し哀しみを帯びた色の瞳でフランソワーズをみつめる。


「・・・だって」


フランソワーズは一度大きく深呼吸をする。


「だって、いつ何が起きるかわからないでしょ?もしもを考えて行動するのが私たちじゃなくて?」


そう言うと花が咲くように可憐に微笑んだフランソワーズは、足早にジョーから離れた。




ジョーの足下に何か冷たくて重い金属がぶつかる音が聞こえたような気がした。
自分の目の前にいた、美しい亜麻色の髪の宝石のように輝くパライバ・トルマリンの艶やかな蒼い目をした、この少女が、他人とは絶対に共有できないと思っていた世界を知っている。

同じ世界を共有できる喜びと、そんな世界でしか通じ合えないと言う悔しさ、そして、その世界から救ってあげることができない自分に、ジョーの心臓をぐうっと握りつぶされたような痛みに襲われた。


「ジョー! ジェットと話したんだけど、大通りを歩きながら店を色々と見ていってもいいかな?」


フランソワーズと入れ替わるように、さくらがジョーの隣にたち、そんなに高くない身長のために、後ろに倒れてしまいそうな勢いでジョーと目線を合わせようと首を上へと傾けた。


「好きなところに行ったらいい、よ」


ジョーはさくらと一緒に歩き出した。

フランソワーズは背中にも目があるのかと自分で思ってしまうくらいに、後ろを歩く2人が気になった。さくらが入りたいと言う店に入り、あれこれと物色したり、試着したりする。いくつかの店にはジョーとジェットも店内に入ったが、大概は増えていく紙袋と一緒に外でやり過ごしていた。フランソワーズは勿論、さくらと一緒に店内に入る。

店内に綺麗にディスプレイされている、それらに目を奪われ、心が弾まないと言えばウソになる。

フランソワーズも楽しんでいたが、商品を手にとってもさくらのように購入することはなかった。
彼女が購入を悩んでいる様子だとアドヴァイスをし、一生懸命に話しかけてくる彼女の言葉に優しく答える。

一見、親友のように仲良く見えるが、その実はある一定の距離を保ったままであった。



大通りから少しはずれたカフェで4人は休憩をとることにした。春が近づいているとはいえ、肌寒くまだジャケットは手放せない。


「もっと暖かくなったら外でお茶したいわ~!ね?」


隣に座り、珈琲を手にするジョーに甘えるような目線を送る。


「なんだよ、オレは誘ってくれね~のかよ!」
「もちろん、ジェットでもいいわよ!」
「んだよ!”でも”って、"DEMO”ってなんだぁ?」


3人のやり取りを黙って聞いているフランソワーズ。膝に置かれたバッグを大事そうに片時もその手を離すことはない。彼女の目線はテーブルに置かれた紅茶にのみそそがれいた。


「・・・ズ?」
「フランソワーズ・・・?」


自分の名前が呼ばれていることに、すぐには気がつかなかった。
目線を上げるて飛び込んできたのは、真向かいの席に座るジョーだった。


「あ、ごめんさない」
「んあ?なにぼうううっとしてんだよ?疲れたのか?」


ジェットの言葉に力無く首を横に振りいつものように笑って見せた。


「日本ってすごいな~って思ってたの。こんなにいっぱいお店を巡ったのって本当に・・・・・・・・ほんとうに久し振りだし・・・・」
「フランソワーズさんは、何も買う物とかないんですか?」
「あ・・・フランソワーズでいいわよ、さくらさん。ええっと・・買う物・・・特には・・今は別に。色んなお店を見てるだけでとっても楽しいわ!」



フランソワーズは膝の上のバッグをぎゅっと握りしめた。










夕食はコズミ邸でと言われていたので、6時を過ぎたころには車のある駐車場へと戻ってきた。
さくらが購入したものをトランクへに押し込んで、4人はコズミ邸へと向かう。行きしなと同じように、さくらは助手席に乗り込んで、コズミ邸に着くまでの間おしゃべりを続けた。




ーーー本当によくしゃべる、明るい子。



さくらは、キラキラと黒い目を輝かせながらジョーを見つめる。
小さな形良い唇から流れるように出てくる話しは、どれもとても面白く、相手を疲れさせることもない。身長がこの4人の中で一番小さいせいか、彼女が歩くのが遅い所為なのか、数メートル歩くと一緒に歩いていたジョーと少し距離が出来てしまい、小走りになる。そんな姿がとても愛らしい。

フランソワーズがフランス人形と言われるなら、さくらはまさしく日本人形。


車の窓から見える町並みを、意識することなく見ていたフランソワーズは、日が暮れて暗くなった窓に反射した自分を見つけて堅く目を閉じた。
滅多に日常品や食料品以外の買い出し以外で外へ出ることがないフランソワーズは、さすがに疲れたのだろう、彼女の意識は深く、車の振動に誘われて落ちていった。その手にはしっかりと、誰にも触らせないという意思を持っているかのように、バッグを握っている。


彼女が目を覚ましたのは、見覚えのあるような、ないような・・・木の天井。
はっと、息を飲んで彼女は飛び起きた。
フランソワーズは畳の部屋にひかれた布団の上に寝かせられていた。




ーーーああ、そうか・・・起こしてくれなかったのね?




コズミ邸に着いて車内で眠ってしまったフランソワーズを、誰も起こすつもるはなかったらしく、コズミ博士に頼んで、彼女を寝かせる用意を調えてもらったことがすぐにわかった。

広い家だけれども、003の耳に届く距離にみんなは居た。
話し声が聞こえ、聞き覚えのある声を聴いただけで、フランソワーズは安堵の息を吐く。枕元に置かれた、彼女のバックが目に入り慌ててそれを手に取ると、カバンを開けて中を確認する。



「!?」



そこにあるはずの物がなかった。
彼女が持ち出したスーパーガンが・・・ないのである。

その替わりに、ノートか何かから破いた紙の切れ端と、耳の異様に長い白いウサギの縫いぐるみが変な形で押し込まれていた。



”スーパーガンは今だけ預かります。それとキミの新しい友達です。”



書き殴ったその字を、愛おしそうに指でなぞる。



ーーーいつ、どこで、どんな顔をしてこれを買ったのかしら?



無理矢理バッグに押し込まれていた、窮屈そうにからだを歪めていたフランソワーズの”新しいお友達”を丁寧にその手にもつ。

柔らかな、ふわふわとした短い毛並み。
糸で縫いつけられた、目尻が下がった小さい瞳。
くたくたとした異様に長く作られたウサギの耳は、少しとぼけた印象を作っていた。




「はじめまして、うさぎさん。私の名前はフランソワーズよ。あなたのお名前は?」




=====  へ 続く



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