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Little by Little・7
(7)






月見里学院、あやめ祭2日目の午後。


コズミ、ギルモア、そして張大人と別れた後、気がつけば、ジョーが予定していた通りに、さくらと2人きりになることができた。
ピュンマの、彼らしい気遣いが一緒にいるジェットと海をさりげなく誘導する形で、ジョーとさくらから離れていった。人ごみに紛れて、2人から離れて行く時、海の視線は自然とジョーを追う。




---・・・・恋人同士じゃん・・なのに、さあ・・・・・なんで?



「ねえ、ピュンマ」
「なに?」


2人の姿が見えなくなる。
人の流れに乗ってなんとなく歩く。


「変なこと訊いて良い?」
「変なとこ?」

規則正しく並ぶ、テナントブースに視線を泳がしていたが、それらの情報を脳は捕らえていなかった。
前を歩いていたい、びんびんと伸びた赤毛がピュンマと海の方へ、ちらりと振り返る。


「サイボーグ同士って恋愛しちゃ駄目なわけ?」


ジェットが口の端で笑い、その歩みを止めて後方にいた2人と並ぶと、海の隣に立ち、がしっと腕を乗せて、ついでに体重をかける。
その重みに少しバランスを崩しながら、海は自分よりも背の高いジェットを見上げた。


「んなこと、誰が決めたんだよ!」


すぐ後ろを歩いていた団体が、3人が突然足を止めたことに迷惑そうに、彼らをさける。


「・・・質問は、ぼくがしてるんだけど?」


海がジェットに聞き返しながら、瞳はピュンマを見ると、彼は笑っていた。


「サイボーグ同士で恋愛したら駄目だなんて、法律がある国があったら、すごいよね!あるなら、どういう理由からかなあ、・・・ちょっと興味あるなあ・・、ねえ、ジェット?」
「ロボットはあったよな!」
「ないよ!」


長い腕を首にまかれて、ぐっと海の周りの気温があがる。
眉間に皺を寄せて、海は、ジェットの腕をどけならが、するどく突っ込む。


「ああ?!あるぜ!」
「・・・・ジェット、もしかして、ロボット工学三原則(Three Laws of Robotics)の事?それって、SF作家(アイザック・アシモフ)が書いて有名になった話しで、実際の法律とかじゃ・・・ないから」
「へ?そうなのか・・?」
「ついでに、恋愛については一切触れてないよ?」


海の肩から腕をはずし、面倒臭そうに髪をかきむしる。


「ああああ!いいんだよっなんでも!!恋愛なんてもんは、してえやつがすりゃいいんだよっ、犬でも猫でもっ子孫繁栄に欠かせねえプロセスの一つだろっ」
「「・・・子孫繁栄」」


ジェットの口から、その言葉が出てくると、なんだかねえ?
そうだよねえ、人類にとっては重要な、少子化が進む先進国には非常に真面目な問題だけど、ジェットが言うとさあ、と。ひそひそと、ジェットを避けるようにして早足に歩き始めた。


「いきなり恋愛をそこに繋がるなんてさ」
「無粋な男なんだね、彼って・・・姉さんたち、男見る目ないなあ・・・」
「あれ?林さんは・・・ジョーじゃなかったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・最近、夢姉みたいにはなりたくないって」
「ああ、じゃあジョーはアウトだったわけね」
「浮いてなくて、硬派でいい!って・・・・」
「え?」
「でも、自分には、そんな彼を振り向かせるエネルギーないってさ」


---さくらは、あるってこと・・・だよね・・・・・。


ピュンマと海は人の流れに乗って、ぐるりとテナントブースを見て回った後、休憩がてらに、噂の”都内で人気のケーキ屋”へ寄ることに決める。

気がつけば、ジェットは2人から離れて単独行動となっていたが、008に一言残していた。



<何かあったら、呼び出せよ>
<了解!>



00メンバ-の中で、一番心配性なのはジェットなのかもしれない。
ギルモア博士以上に。


彼は末っ子が心配で、たまらないようだった。












####

「いいんですか?」


カフェテリアのある紫微垣に向かう、3人を、遠くから見てる2人。


「暑い上に、五月蝿いのはかなわん・・・ったく、大声で何を離してるんだ、あいつらは・・・」


立ち止まった彼らを見つけたときの、アルベルトの表情は言った台詞と180度違うものだった。
恩田ミツヒロは苦笑する。


「クラークがいなくて助かった、・・・悪いが・・・」


恩田が参加しているアーティスト・グループの1つが、今回のあやめ祭のチャリティに毎年参加していることは調べがついていた。そして、アルベルトは恩田が2日目の午前中が彼が店番のシフトであることを事前に知っていた。


「なかなか忙しくて、家にも滅多に帰ってきませんよ・・・日本の研究室に慣れるのに、かなり手間取っているみたいで・・・、彼がいたら、売り上げが大きく伸びる予定だったんですけれど」
「・・・どうだ、調子は?」
「変わりません」
「・・・そうか」


ブース内に並べられた、絵に視線を移す、アルベルト。


「絵を買ってくだされば、別ですけれど」
「すまない、まだ親のすねかじりだ・・・そのうち・・・。仕事が決まったときにでも、何か買わせてくれ」


気軽に買える値段の、レターセットや、絵はがき、などを手に取る。


「その時は、プレゼントしますよ。・・・トーマスの写真、かえしてくださってありがとうござました」


トーマスが”本人”であるかどうかを、確かめるために恩田から借りた写真を、アルベルトはずっと持っていた。


「借りたものは返すのが当たり前だ。・・・トーマスのことはあんたにとっては、知りたくないこと、だったかも・・・知れんが」


手に取った5枚一組の絵はがきを手に取り、表、裏、とひっくり返して眺め、葉書の端っこにかかれたサインを見て、それが恩田の絵であることを知る。


「僕にとってのトーマスは・・彼一人です。できれば・・・・・本当の名前が・・・どこで亡くなったかも・・」
「・・・・・イワンに頼んでみるが、期待しないでくれ」


2人の会話が止まったことで、数人の女性客が、恩田に話しかけてきた。
並べられていた絵の説明をし、そのうちの1人が、絵はがきのセットと、1枚の水彩画を買って行った。


「日本人ですが」
「?」


それらを用意していたノートにメモを取る。
売り上げの20%は、月見里学院へ寄付する事になっているために、テナント・ブース(場所)は無料だった。


「ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州に友人が居ます・・・夫婦で観光客相手の店を経営しながら、画廊を持ってます。最近になって、小さいペンションを友人と共同経営を始めたようで・・・。人でが足りないとか。ドイツ語に、日本語、英語が話せるあなたなら・・・・。イギリスの方はクラークに話しを通しておきます」


ノートを閉じて、空いたスペースに新しい品を並べる恩田。


「・・・ありがたいが・・いいのか?」
「あなたはとても・・・興味深い」


アルベルトは手に持っていた絵はがきを、恩田に渡した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味だ?」
「・・・600円になります。クラークは以外と嫉妬深いので、注意してください」
「困ったな」


財布から1000円札を出しながら、左口角を意地悪く上げて嗤った。


「困る・・?」
「写真を返す目的もあったんですが・・・もっといい男を紹介して差し上げたくて、ここにいるんですけどね」
「え?」
「休憩、あるんですよね?」
「ありますけど・・・」


恩田は不信そうに、アルベルトを見た。


「プロとして、見ていただけたら。と・・」













####


「オークションの、絵・・・ですか?」


フランソワーズの携帯電話にアルベルトから連絡が入った。
昼食を、グレート、フランソワーズ、イワン、そして当麻の4人で、ホテル近くのファミリーレストランで終えた、帰り道だった。

電話を受け取ったのはフランソワーズだったが、それを当麻へと差し出した。
彼は戸惑ったように、会話を始めた。


「他にも、色々ありますけど・・・寮と、美術室に、あとは自宅の部屋・・ですけど」


いくつかの質問に答えた後に、再び携帯電話を持ち主に渡すと、今度はフランソワーズが会話を始めた。


「・・・・・ええ、今はイワンとグレートと一緒に、・・学院へ?でも・・・・」


ホテルのエントランス前で、フランソワーズは足を止めた。


「でも・・・学院に今からなんて・・・・・・009の許可なく、当麻さんを1人で、なんて・・ジョーに、訊いて・・・私じゃ解らないわ」


会話をしながら、困ったように、フランソワーズはグレートを見た。
すると、グレートが手を伸ばして、携帯電話をフランソワーズから受け取ると、ホテル内へと歩き出し、アルベルトと会話した。


「どうしったてんだい?」
『おせっかいさ』
「おせっかい?」
『坊ちゃんの興味を妹から離そうと思ってな・・・』
「置き土産か?」
『まあ・・・そんなところだ』
「本気でか?」
『・・・・自分の芸術を見る目と言うものを確かめたくてな』
「ぼっちゃんのあの、絵か?」
『どう思った?』
「遠目であったが、悪くなかったのは確かだ・・・、光るもんはあるなあ」
『それで十分だ・・・恩田に会った。会う事は009にも報告済みだ」
「へえ、そうだったのか?・・・!・・ああ、それでかあ・・」
『趣味程度しか、と・・。言っていたからな。プロがいるんだ、見てもらえるなら、良いだろうと思ってな』
「本当に、おせっかいだなあ・・・。アルベルト、お前はいつからそんなおせっかい親父になったんだあ?」
『親父にオヤジと言われたくないな。・・・なに、芸術を愛するものとしての、自然な行動だ』
「009に訊けや」
『いや・・・009は今はいい』
「?」
『がんばっているころだろうからな』


電話越しであったが、グレートはアルベルトが彼らしい笑みを浮かべている事がわかった。


「では、ここは天才、001様の出番でござるな!」
『恩田は信用できる・・。だが、009には内密にな、洒落がわからんヤツだ・・』
「オーケー!オーケー!」


携帯電話を切り、それを持ち主であるフランソワーズへと返す。
イワンが、アルベルトの真似をしてにっ、っと嗤った。

グレートとイワンが眼だけで交わす言葉に、フランソワ-ズは気づかなかった。












ホテルのギルモアが泊まる部屋に戻って、当麻は絶句する。
美術室、寮のクローゼット、自宅の部屋に置いていた絵が、ギルモアが泊まる部屋の壁一面に並べられていたために。


「・・・・イワン殿、良い仕事してますなあ」
<僕ヲ誰ダト思ッテルノ?>
「グレート、イワン・・・どういう、こと?」


フランソワーズも当麻と同じくらいに驚いていた。
驚く彼女の腕の中で、いたずらっ子が笑う。


<ゲストガ来ルンダヨ>












1時間も経たないうちに、アルベルトに連れられて篠原当麻の作品が並ぶホテルの部屋の一室に姿を現した恩田の言葉は、当麻がまったく考えていなかった世界の門を開く。


「高3か・・・大学へ行くなら、今からじゃ遅いか?いや・・・月見里学院生なら学科は問題ないだろうけれど、デッサンが受験生のそれじゃない・・・、が・・その辺の美大なら、間に合う・・・、1年。1年時間を持って本気でやるなら、東芸に入れてあげられる・・・・。もしも、ご両親が許してくださるなら、日本じゃなくてもいい・・・。これなら、何人かの友人に紹介できる、・・・冬に、学生を対象にした都内のコンペティションがあるんだ・・・出してみたらいいと思う」


ぱらぱらと、当麻が最近描いたスケッチブックを見ながら、恩田は呟いた。


「・・・・本気でやってみる気ありますか?」


30分ほどの滞在でホテルを後にする恩田を、アルベルトが送って行く。
恩田は当麻に名刺を渡して、その気があるなら連絡をくれと、言った。


2人が部屋を出た後に、当麻の絵が一瞬にして消える。
恩田は、アルベルトが自分を連れてくる事を見越して絵を用意していたと思ったことだろう。





イワンの力ですべての絵が元の場所へと戻されたのだが、オークションに出した絵と、2冊のスケッチブックだけが、戻されずに残っていた。

オークションの絵はフランソワーズが落札したこと言う事で、当麻がイワンに言って残してもらったのだ。
その絵を渡すと理由をつけて、あやめ祭後にフランソワーズと会うことも出来たけれど、ミッションだったからと、断ってくる彼女を簡単に想像できた当麻だったので、どうしても彼女に受け取って欲しいがために、一番彼女が素直にそれを受け取る方法を選んだ。


”マリー/フランソワーズ”に出会った日から、何気なくコツコツと描いていた絵。
それは、まぎれもなく当麻の中に芽生えた、彼女への想いが表れていた。





グレートが、スケッチブックの1冊を手に取ったので、当麻は、深く、シングルソファに座ったまま、彼の動きを追った。


「・・・・こりゃあ・・また・・・・・」


イワンのおむつを替えるために、ユニットバスにいたフランソワーズはいない。


「ずっと、彼女をスケッチしていたんですけど・・・描けないんです」
「・・・・描けてるじゃないか・・」


そのスケッチブックを、先ほどまでいた恩田が見ていたら、なんて言っただろうか?と、当麻は思った。


「!」


グレートが、もう1冊のスケッチブックを手に取り、初めに開いた1枚目の絵に釘付けになった。



「・・・・」


どの絵を見ているのか、当麻はわかる。


「009と・・・003・・・」
「なんとなく、思いつきで描いたそれが、一番よく描けたと思うんです。・・・・。それ以来、描いてません」

以来、フランソワーズを描いていない、当麻。
その1枚には、日付が入っていた。


「・・・・・・わかっていても、止められないんです」


グレートの記憶が正しければ、日付は、当麻が”フラン”と呼ぶ前。
それは、ジョーの誕生日ケーキを焼いて、初めてフランソワーズが学院を訪れた日。




まっすぐに、こちらを見る009がいた。
彼を見上げた横顔の、003が、いた。

2人の距離が、まさしく、2人だった。
グレートがいつも見ている2人がいた。

ジョーとフランソワーズと言うよりも、その絵はまさしく、009と003の2人だった。
当麻が、まだ”サイボーグ”と知る前であるにも関わらず。







「才能、あるぞ・・・」
「・・・・・・・・・嬉しくないです」


ユニットバスから出て来たフランソワーズと、グレートがスケッチブックを閉じたのはほぼ同時だった。
イワンは黙ったまま、フランソワーズの腕に抱かれていた。

部屋の中で今、一番強い当麻のこころの動きに感化されないように、フランソワーズの胸に頬をすり寄せる。


当麻は座っていたソファから立上がって、ベッドの端に腰を下ろしていたグレートからスケッチブックを受け取ると、その1枚を破り取る。


「どうなさったの?」
「なんでもないよ、・・・昔のだから、いらないんだ」
「!」


その絵を破る事はしなかったが、ぐしゃぐしゃに丸めて、部屋のゴミ箱に入れた。


「それにしても、びっくりしたよ。すごいね001の力って」


にっこりと、何事もないようにフランソワーズにむかって微笑む、当麻。


「・・・ごめんなさい、当麻さん・・余計なおせっかいをアルベルトが」
「どうしてフランが謝るの?絵の道なんて思ってもみなかったから、すごく新鮮だったよ」


スケッチブックから、切り離すときに見えた、自分がその手で描いた、ジョー/009の姿が、当麻を苛立たせていながらも、それを悟られたくないプライドがある。


「でも・・・急なことで、ちょっとびっくりしてるって言うか・・・少し歩きたいな・・・・ホテル内でもいいから、フラン・・・つきあってくれるかな?」


当麻は、2冊のスケッチブックを残してくれとは、イワンには頼んではいなかった。

1冊はフランソワーズだけを描いて、納得できないまま、ページがなくなったスケッチブック。
もう1冊は、1枚目に”2人”を描いてしまったがために、そのまま忘れていたスケッチブック。


忘れようと、捨てようとしたけれど、捨てられずにいた、スケッチブック。


「いいかな?イワン君・・・・・少しの間、フランを借りても」


天才的頭脳を持つ、超能力者は、赤ん坊の姿。
彼に自分の意志を伝えるように、出来なかったことをしてみせた。


2人を描いた絵を、捨てた。


<・・・赤ん坊相手ニ、大人気ナイヨネ>
「それくらいじゃなきゃあ・・・003にアタックなんてできないと思うぞ?」


なんとなく、イワンがしたことを察したグレートが腕に抱いた赤ん坊を苦笑しながら見る。


「煽ってどうするんだ?イワンらしくないじゃないか?」
<・・・・僕ダッテ、ソレナリニ淋シイト言ウ気持チハアルンダ>
「ママを取られるからか?たとえ、ジョーとフランソワーズが上手くいかなくても、フランソワーズはイワンのママだろう?」
<ドウヤラ、・・僕モソレナリニ”平和”ナ日常ニ感化サレテ、多少、赤ん坊ラシクナッテキタッテ、コトダネ>
「なんだあ?どういう意味だあ?」



ホテル内なら、と、フランソワーズは当麻の申し出を受けて部屋を出て行った後に、部屋に残った、グレートとイワンの会話はそこで、止まった。











---ままダケジャ駄目ナンダモン。
  ・・・早クシナイト、僕ガ取ッチャウヨ?
  僕ハモウ、立テルンダカラ、アット言ウ間ダヨ・・・ワカッテルノカナ?



今朝同様に赤ん坊らしからぬ溜め息をついてみせたイワンにたいして、グレートは笑うことなく首を傾げただけにとどまった。














####

賑やかな人の声。
夏の空気。

雲一つない青空。


ときおり、暑さを癒してくれる風が運んでくる緑の香り。


自然が多く森のような木々に囲まれ、その上に都会よりも標高が高い丘に建てられた月見里(やまなし)学院に、さくらは住み慣れたイギリスの空気を思い出す。

しかし、本国を知るさくらにとっては、”造られた感”はぬぐい去れないでいた。けれども、ジョーと2人でいたかったさくらにとっては、彼の誘いは跳ねるほどに嬉しい。が、おなじだけの大きさでさくらの胸に不安が張り付いていた。


そして、もう一つ。


フランソワーズの隣に立っていた、”篠原当麻”と言う、彼の存在。
頭の隅に、女だけが持つ特別な計算機がかたかたと忙しく動く。



見た目、悪くはなかった。
どちらかと言えば、さくらの中で、かなり”好印象”に残る容姿だった。

純粋な日本人だとは、言えない色だったことを思い出す。
それはさくらが育った環境のせいで、判断が遅くなった。それに加えて、自己紹介されたときの周りの人があまりにも多国籍に飛んでいたせいもある。


「ええっと、津田海・・君に、誰だった?もう1人・・・しの、だ?」
「篠原、・・・・篠原当麻」
「2人とも、学院生なのよね?」
「・・・・・・・ピュンマの国は、こっちに見合うだけの学歴を証明する方法がなくて、ね」
「特別枠で入学を許可されて、お友達になったのよね?・・・・ピュンマが高校生なんてっ!変なのっ」
「・・・・・・」
「直接大学へ行けばいいのに!大検とって」
「・・・・・ピュンマが決めたことだし、1年だけだから」


当たり障りのない会話。
共通の友人に対する、情報交換。

さくらはジョーとの今の距離を測る。
彼の、2人きりと誘ってきた目的を推測するための資料として。


2人きりでは会うことはない。と、言った彼だけに、さくらの喜びと比例して警戒してしまう。




ハグも、キスも相変わらずない。
歩いていても、手も握ってもくれない。
さくらから、腕を組むけれど、人の波を上手く利用して、するりと外される、かわされる。

相変わらずなジョー。
それだけに、警戒心も強くなり、自分が夢見ていた状況が叶うために、2人きりになったのではないと言う事実を突きつけられているようであった。




けれども、変わらず優しい。


行き交う人々に、つい、ぶつかりそうになったとき、ジョーの腕がそっとさくらを背後から護る。
暑さに、少し疲れを感じれば、陰のある場所へと庇うように連れて行く。


飲食店は第一グランドから見て、北にある高等部の校舎にまとめられていた。
ほどよくエア・コンディショナーが効く校舎内に、2人はいた。


さくらが選んだのは、ストレート・アイス・ティー。
ジョーは炭酸水を、ペリエを頼んだ。


「車を買った日以来ね!」
「・・・・」
「嬉しいのよっ!とおおおおおおおおおおっっても!」


教室の一角で、それぞれに注文したものを受け取る。
さくらは自分の分も、いつの魔にか支払いを済ませてしまっていたジョーのスムーズな動きに、自然と頬があがる。彼女の知る限りの男性の中でも、その動きはジョーが一番洗練されていると思った。


飲み物を手に校舎から出て、テナントブースが並ぶグラウンドに戻ることなく、雑踏を離れて行くジョーについて歩くさくらは、ジョーと2人きりと言う状況の喜びと不安がバランス良く彼女のこころの天秤にかかっていた。けれど、それが少しずつ傾き始めていく。

緑色の瓶を手に、ジョーがさくらを人気の少ない場所へと連れて行くために。
少しばかりのロマンスを、期待できるような流れではないことは、理解したくなくてもわかってしまう。


自分とジョーの歩く距離に。

会話に。

視線に。

微笑みに。


雰囲気に。







以前とは違う彼を、感じて仕方がなかった。
その差は微々たるものであるけれど、それを、少しの間会っていなかったせいだと、言い訳してしまえるほどの、些細なものではなかった。

けれどそれを言葉にできてしまうほど、さくらは人生経験が豊富なわけでもなく、男の心理の変化を読み解くのに長けているわけでもない。


好きな相手なだけに、女の感が鋭くなっている。








「・・・・・・・・どうしたらいいのか、教えて欲しいんだ」


買ったペリエを飲む訳でもなく、手のひらに伝わる冷たさに、緊張を、今から言葉にしなければいけない、経験のない、痛みを沈めながら、歩みを止めた。


「ジョー、・・・・・・・・なんの話し?」


7月の風が駆け抜けると、木々が陽光に弾く葉を揺らして歌い出す。
揺れる葉の合間をすりぬけて、こぼれ落ちた光にさくらの視線が追う。

足を止めたジョーにならって、彼女もジョーの隣に立つようにして、足をとめると、新しく買ったサンダルの、パールストーンで飾られた飾りが、とても可愛いと、不安を乗せた天秤が傾きかけたために、一生懸命にバランスを戻そうとする。


「・・・・・・君の気持ちに答えられない、俺は、どうすればいい?」


さくらは微笑みながら視線をジョーへとむけた。


「どうもしなくていいわよ!あっ!!違うわ、どうもしなくてもいいんじゃなくて、好きになって、私を!」


手に持っていたアイスティーの、カップが地面に落ちる。

甘えるように、ジョーの胸に飛び込んだ。
そんなさくらを、ジョーは突き放す事も、腕に抱き閉める事も、何も出来ない状態で立ち尽くす。



「できない」



緊張に上擦った、と、言う音に近かったが、それは、絞り出したような、擦れた声だった。



「できない、よ・・・・」
「やってみなくちゃ、わからないわ!!」


ジョーのTシャツの胸元を握りしめて、頬を押し付けると、・・・不思議な、甘みのあるスパイシーな香料の香りが、さくらをさらに強くジョーにしがみつかせた。


「ごめん。・・・・どうしたらいい、かわからない。・・・・・・・さくらと同じように、人を、彼女を好きだから、好きな人が、いるから・・・・・それが、叶わないなんて、すごく、辛いとわかったから、そんな、気持ちに、さくらを・・・、だからといって、さくらが、俺にむけてくれる気持ちを受け入れることは・・・・・・できないんだ」





痛い。と、ジョーはのこころが泣く。
こんなにも、痛いのか?と、ジョーは泣く。


自分のような人間を好きになってくれた、人を、傷つけている。
その気持ちを受け入れられないために。










どうしたらいいか、本当にわからなかった。
さくらのために。


はっきりと、自分の気持ちがさくらにないと、伝えることが正しいと思った。

それしか、ジョーは答えが見つからなかった。

他にあるのなら、教えて欲しかった。


”もしも”自分ならと、置き換えて考えたとき、そうしてくれた方が、幾分か”まし”かもしれないと考えたから。





「好きな人がいるんだ。・・・・さくらじゃない」
「言わないでっっ!言わないでって言ったじゃない!!まだ、ちょっとしかっっ。ずっと会えなかったんだもんっ!!まだっまだっっ駄目っ!!言わないでっ」


悲鳴に近い、さくらの声がジョーのこころを切る痛みに、ジョーは自分の想い人への気持ちで覆う。






「俺は・・・フランソワーズが、好きなんだ・・よ・・・・」











たとえ・・彼女が俺以外を選んだとしても、永遠に・・・・・・。

フランソワーズが好きなんだ。














「・・・でも、フランソワーズさんの、恋人なんでしょ?・・・・あの、篠原当麻って人」


手に持っていた、緑のグラス瓶に、ぴしりと亀裂が入った。
耳に届いた、音、の後に、ジョーが手に持っていた、彼が購入したベリエの緑色の瓶が、かしゃん!と、地面に落ちて割れた。


飛び散った炭酸水が、サンダルを履いていたさくらの足に冷たくかかる。


ジョーの口からあれほど、訊きたくないと拒んでいた人の、彼の想い人の名前を訊いた、さくらだったけれども、想像していたよりも冷静な自分に驚いた、が。それよりも、とっさに口にした言葉の方に、本人自身がとても驚いていた。


"フランソワーズさんの、恋人なんでしょ?"



口が勝手に動くとは、こういう事を言うんだ。と、感じる。
そして、そのままの勢いに乗せて、彼女の唇は動いた。


「違うの?・・・・そういう風に私には見えたわ、・・・・。それでも、好きなの?」


ジョーが動揺したことが解る。


「・・・・」


さくらはジョーの胸に、頬を押し付けている状態で、瞼を閉じた。
ジョーの心音に耳を澄ませる。

彼の吸う煙草の匂いが夏の香りと混じり合う。



無意識に、ジョーの心音を数えた。

それが、10を超えたあたりで、深く息を吸ったために、さくらを押し返すようにジョーの胸が動く。と、同時に、深い溜め息がさくらの頭上を通り過ぎた。


「それでも、好きなんだよ」
「!!」
「・・・・・ずっと、フランソワーズが好きだった。好きという言葉に、この気持ちを乗せる勇気がなかったんだ。・・・・・・あまりにも、彼女が特別すぎて」


囁く声が、震えているように聞こえた。


「ジョーが誰を好きでも、ジョーが好き」
「・・・・ありがとう」
「だから、好きで居続けてもいいでしょう?・・・・ねえ、いい、でしょ?」
「・・・・待っていても、変わらないよ。・・明日も、明後日も、ずっと、・・・変わらない。1年後も、10年後も、100年経っても、ずっと、フランソワーズが好きだと、思い続けらる」
「無理よっ!!そんなのっ」


弾けるように、顔をあげてたさくらは、切れ長い目を大きく見開いた。


「無理じゃない。俺は、それが出来るんだ、よ・・・・たとえ、彼女に受け入れられなくても、出来るんだ」
「・j・・・お」


透明な膜が張る。


「・・・・・・初めて、なんだ・・・。初めて好きになった人、なんだ・・・。フランソワーズは、俺が初めて、・・・好きになった、人だから・・・・。俺は、ずっと、誰も好きになることなんて、ないと、思っていたのに。人を好きになるなんてこと自体、できない人間だと、思ってた」


それが彼の瞳のふちに集まって、盛り上がった。
アンバー・カラーが滲んで揺れる。





「ごめん・・・・さくら・・・・・」


アンバー・カラーが滲んで揺れる。


「なんで、泣い・・t」


彼が瞬いたとき、ひと雫、頬を伝い落ちた。


「ごめん・・・・ごめんね・・・・・、どうしたらいい?俺は・・・どうすればいい?いくら、さくらに好きだと言われても、どうすることも、できないんだ、よ・・・。何も、出来ないんだ・・・。さくら、俺は、君を傷つけることしか、できない」


次々にこぼれてゆく雫に、さくらは言葉を無くした。

















====へと続く。

・ちょっと呟く・

絡まらなかった糸・・・?
サブタイトル、変えないと・・・。さくら、どうするんだろう?
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