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Day by Day・69
(69)




篠原グループ本社は、都心にある篠原総合病院とは違い、オフィス街と呼ばれる街からかけ離れた場所にある。

駅を使用する人間のほとんどが”篠原”専用と、数少ない住民が皮肉を込めて言うように、そこはすべてが”篠原”のために、篠原の裏金によって成り立つ小さな町であった。
篠原本社ビルが設計される企画があがった数十年前、なぜこんな場所に。と、町に住む人々から疑問の声が寄せられたが、篠原秀顕の先見の目は確かなものであった。

公共機関のすべてが都心に繋がっている。
ある一定の距離をおくことで、むやみやたらに他社からの影響を受けない。
多くの疑問の声は今の篠原を見て、押し黙るしかない。
一国家的な規模を時間と手間をかけて、その地域一帯に”篠原”を築き上げたために。




世間で言う、その道の評論家や学者たちは別の疑問を持つ。
医者の家系で都内のたかだか総合病院経営者が、どうやって成功できたのか。

篠原総合病院を中心に、製薬会社、医療機器関連の輸入、輸出、開発、研究所、学校経営、など、”篠原”の名前をネット上で検索をかければ、一目瞭然。小学生でもどれほどの企業であるか知る事ができた。

ほかに例を見ないほどのスピードで、日本経済に影響を与える大企業として成長した”篠原”に、あらぬ噂が立ち始めたのは、四友会社の所長兼代表が行方不明になった事件直後のことである。
なぜなら、企業としてのフィールドが違う四友の株を篠原が1/3を所有していたことが発覚し、行方不明になった代表の代わりをつとめる人間が立ったのにも関わらず、裏では篠原が四友を吸収合併する形で、”篠原グループ”関連企業の一つとして、四友が加わったからである。





表向きは、さほどの変化はない。
企業の歯車のひとつとして働く個人にとって、養う家族を路頭に迷わす事なく、定年後の保証さえ整っている事が、すべてである。

そこに”会社”が存在し、与えられる仕事に見合った収入があればいい。

起きて、会社に行き、働き、帰り、眠る。
その合間、合間に、おこる人生の悲喜交々に、時間は流れていく。

生まれ、愛され、勉学に励み、成長し、職を得て、人生の伴侶と出会い、愛し、結婚し、子どもを授かり、年老いていく両親の世話をし、成長する子どもたちを守り、育て、そして・・・・。











「その先に、何があるんだろうかねえ・・・。そうやって歴史は繰りかえし、環境や生活様式、形は時代によって違うけれども、結局は何も変わらないんだと思うよ。人と言うものは、それが我が社の新入社員でも、この秀顕でも、人として見れば、さほど変わりない生活を送っていると思うのだが、どうだろう?・・・・君らはどれくら長く生きているのかな?普段はどんな生活をしているのか、興味があるねえ。私としてはボグートが行方不明になり・・・」


70を超えたその男は、間接照明だけのライトが届かない闇に語りかけていた。
その滲むような光は、外からの夜景を楽しむには十分のゆるさ。

薄暗く感じるが、不便ではない。


篠原本社ビルの最上階にある、篠原秀顕の私室。そこへ彼以外のものが入室することはほぼ、不可能であった。
彼専属の秘書でさえも、特別な何かがない限り、入室は許可されない。くわえて、娘である篠原さえこも同じであった。
孫である当麻は、ビル内にそのような部屋がある自体、報らさせれてはいないだろう。

部屋はすべて一流のイタリア製家具で統一された、ホテルのスイートルームのリビングを思わせるような部屋であった。




今、篠原秀顕は、1人ではない。


部屋の角に間接照明の淡くにじむような光が届かない世界に佇む客人にむかって語っていた。
彼が。いや、”彼ら”がいつ頃からそれこにいるのか、どうやって部屋に入ってきたか、など、秀顕は考えることを諦めている。
闇に立つ人影の中で、秀顕の目に確認できるのは、淡い栗色と思われる髪の者のみ。
秀顕は、深く、深く、焦げ茶のソファに身を沈め、リラックスした状態で、闇に立つ者へと話しかけている。


「B.G(ブラック・ゴースト)が突然、その動きがなくなり、いきなり”消滅した”だからねえ。その恩恵を受けていた団体が、企業が、政府が、国が、混乱していく中で・・・・得た情報では、”裏切り者”の手によって、滅ぼされた、と。そして、その”裏切り者”・・・B.G(ブラック・ゴースト)の手によって作られたプロトタイプのサイボーグたちも、ともに・・・と・・・。聞いていたんだがねえ。興味深い話しだったよ」


秀顕が口に出した、B.G(ブラック・ゴースト)と言う言葉に、栗色の髪の、青年と思われる、人物が、ゆらり。と1歩、秀顕に近づいた。


「知っているのかな?躍起になって探しているんだよ、君たちを。どこの誰かとは、訊かないでくれたまえよ?それこそ星の数ほどいるんだからねえ・・・・多くの者が、サイボーグである君たちを求めていたんだよ、いや、いた、ではないねえ。今現在も、だ。ときどき、ふとしたところで、”サイボーグ00ナンバー”の名前が聞こえてくるんでね、亡霊かなにか、にしては、あまりにも真実味を帯びた情報だったからねえ」


部屋の間接照明がじんわりと、彼の足下から、斜めに線を引くように浮かび上がらせた、奇妙な紅の服に、緋色のマフラーらしきもの。


「・・・・ああ。言っておくが、私はB.G(ブラック・ゴースト)ではないんだ、私にはB.G(ブラック・ゴースト)の、やり方や、その組織の存在目的に、なんら興味もないし、魅力を感じた事もない。関わっていたのは確かだが、しかし、それはあくまでも、法に乗っ取った形でのビジネスだ。君に、いや・・・君たちに命を狙われるようなことを、した覚えはないんだけれどねえ。・・・・まあ、確かに、さえこと石川を使ったのは、認めよう。そして、B.Gの名の下に開発された技術を欲したことも、加えておくよ。それはこの会社にとって必要なことだったんだ」


彼らであることは確かだが、彼、以外はシルエット程度にしか存在を確かめる事ができない。


「訂正しよう、会社ではなく・・・。私に必要なことだったんだ」
「・・・わかっています」


初めて、青年の声を耳にして秀顕の目が鋭く闇へと投げられたが、すぐに元の好々爺的な眼差しへと変わる。


「家ネズミのように、うろちょろしておったさえこが・・・行方不明らしいが、君たちと一緒にいるのかね?」


恰幅良く、年齢に似合わないほどに引き締まった腹の上で手を組んだ、秀顕の質問に、青年は答えない。そして、彼の背後にいる者も、一様に言葉を発しない。


「やれやれ、サイボーグという者は、会話ができないのかな?それとも・・・戦闘兵器として作られたから、そういう”マナー”をデータとして持ち合わせていないのかね?」


ため息まじりな言葉をかけて、ぎろり。と、青年を睨んだ。
その視線に答えるように、1歩。
青年は秀顕に近づき、闇と間接照明との境界線が青年の体を這い上がり、首に巻かれた緋色のマフラーが浮かんだ。

あと1歩、青年が秀顕に近づけば、秀顕は彼の顔を見ることができるだろう。


「トーマス・マクガーと名乗ていた人物を拾って、恩田充弘の叔父夫婦に見張らせてていたのは、あなたですね?」


低音の、耳障りなバイブレーションをカットした、なんとも甘いテノールの声が、流れるように秀顕の耳に届くが、その声に含まれる隙のない鋭さと厳しさに、ぞくり。と秀顕は背筋を凍らせた。


「やっと、口を開いたと思えばしょうもない事を訊くんだねえ?・・・やれやれ・・・・そんな屑を引っ張りだしてきて、どうするんだい?サイボーグさん」


秀顕が久々に感じる、緊張感。
興奮してくるのが、わかる。
早鐘をうち始める老いた心臓を、優しく宥め落ち着かせながら、脂肪が失せたたくちびるを奇妙に歪ませながら、開かれた。


「恩田充弘の、叔父夫婦は二重スパイ。そして、偽トーマスも、・・・・元B.G研究員であることを利用して、ですね。本物は、ずっとあなたからも、B.Gからも逃げて隠遁生活を送っていた。自分の息子である、石川斗織を頼りに日本へ来たものの、すでにあなたの息がかかっているために、接触したくてもできなかった。・・・彼女が篠原の娘であることを隠して、さえこに接触させたのは、彼の持っていた研究資料が欲しかったため。彼がもっていたアタッシュケース内に、さえこ、そしてトーマス・マクガー以外の指紋が見つかりました。それは、あなたのだ。・・・石川には見せない、渡さない。と言う事を条件に、あなたは、さえこからそれを手に入れた。が、あたなが望んでいたほどのモノではなかった。・・・けれど、石川がそれを手にしていれば、変わっていたかもしれないのに,石川に渡さなかった。その、理由が聴きたい。そして、・・・・”8つ目の景品の映像として使われたサイボーグ手術の、・・・・青年はあなた。ですね?」


今度は秀顕が黙る番だった。


「あなたは、すべてを知っていた。その上で、個別に石川斗織、篠原さえこと関係していた。・・・本物のトーマス・マクガーがあなたの足の手術をした人物。僕はそう考えてます。違いますか?」


秀顕の表情は変わらない。
青年の言葉に、驚き、動揺、納得、同意、否定、それらの青年が予想したような感情は何も表さない。
ゆったりと、ソファに身を沈めたまま、青年の言葉に耳を傾ける姿は好々爺、そのものだった。


「・・・手術は日本で行われた。日本にもB.G研究施設があり、全面的に関わっていた企業が、四友。・・・・個人的にどのような経緯で繋がっていたのかは、掴みきれませんでしたが、篠原聡、あなたの父親ですね。総合病院の一人息子であった彼が、その地位を使って関係していたのは、有名でしたよ。すぐに調べがつきました。聡の父、桂(かつら)の反対を押し切り、B.Gと繋がり、今の”篠原”の基盤を気づいた。そして、石川が、津田海の手術を行った場所でもある・・・旧篠原総合病院は、月見里(やまなし)学院ですね。旧校舎がそうだ。そして、あやめ際のオークション会場でもある。・・・B.Gの実験体になった、いや・・・・あなたの父親の聡、さえこの祖父にあたる彼が、B.Gに手術を願い出た。が、正しいですか?」
「正しいねえ。・・・事故とはいえ、失ってしまったもにたいしての父の態度がねえ。自分が医者だっただけに、息子の手術をしたはいいが、失敗したなど、口が裂けてもいいたくないだろう?お陰で私は、歩く事ができなくなった。・・・が、まあ、B.Gがくれた足は、それなりに良く役立ってくれたよ。・・・それが、君達を作るための実験の1つだったとしてもねえ、そのときの映像は、父の聡が記録したものだよ。・・・医者のくせに、少しでもB.Gの科学技術を手に入れようとして、自分の息子のオペを利用し、・・・・酷い父親だと思わないかい?若い頃は、”わざと”父は私の手術をに失敗したのではないか?と、疑ったもんだよ。いやあ、つらくてねえ、そのB.Gの手術は・・・・今でも痛みで魘されてしまう。君達には感謝して欲しいくらいだよ、私の躯で行った実験が、君達の躯に活かされているはずなんだからねえ」


青年は、言葉を続けながら、1歩前へ出た。が、それは1歩、とは言いがたい。
形よい唇と、頬が青年。とは言いがたい印象を秀顕に与えた。


「その技術が、なぜ石川の手に渡らなかったのですか?」


青年の型をすり抜けた淡い光が、背後に控えている人物の金色に近い髪が、秀顕の視界に触れた。


「そちらの目的は?」
「あなたの目的は?」



沈黙。


「・・・・篠原が持つ、いや、あなた自身が持つサイボーグに関する情報、全ての消去、破棄」


秀顕の胸が大きく上下し、吐き出された息は深い。


「私に人殺しになれ。と、言うのかな?・・人の記憶までは消去できない。君たちのようにコンピューターはここに仕込まれていないんだよ、”人”は」


とん、とん。と、緩やかな動きで自分の額を指をさし、青年をからかうような視線。


「石川はどうするんだ?さえこは?当麻・・・は知っているのかな?ああ、そうだ津田君はどうだ?それに、石川の可愛がっていいた、生徒は?」


青年の口元が薄く笑ったのを秀顕の目は見ている。


「・・・・・愛人の久保絵里子(交流会)も、含まれますか?」
「そうだ、あの女も関わっていたね・・・忘れていたよ、すっかり。しかし、あれは”愛人”にはカウントできんな・・・。そういえば、その恩田と言う男と、クラーク・リンツと言う学者は、どうなのかね?知っているのかね?」
「そこまで、知っていいらっしゃるんですね?」
「・・・・これでも、金には不自由ない身の上だし、それなりに目を配るのがトップだと思わないのかな?人に自慢できる程度の地位と名誉、金を手に入れたと、思っておるよ」
「僕は、それとは違う理由でお尋ねしてます」
「・・・まあ、君たちほど”裏”には詳しくないし、”裏”に生きてはいないがね?」


秀顕は見えない青年の顔を伺うように少しばかいり顔を傾けた。


「そこははっきりとさせておいた方がいいからね。・・・・この年だし、父親が聡だ。それだけで分かるかい?・・・君たちなら分かるだろう?あのスカールと関わっていながら、天寿を全うした人間はそう数えるほどいないだそうし。父を調べたかね?彼は純粋なB.G(ブラック・ゴースト)関係者だったよ、いや、B.Gがまだ暗躍する前から、その組織がまだ小さな団体だったころからの関係だったかもしれない。私が産まれる前の古い話だ。父の跡を継ぐにあたっての一番の悩みどころだったのは、B.Gとどう繋がっていくか、だったねえ。いや、懐かしい。私の選択は間違っていなかった。当時の重役達は、今頃地の底で地団駄を踏んでいると思うな・・・。私は正しかったんだ。だからこそ、今がある。B.Gが滅んだ後でも、見るがいい・・・”篠原”は健在だ」


語尾を強く強調した。


「・・・それだけが理由、ですか?違うはず。だと、言っておきます」
「X島を破壊したのは、どこのどなたでしたかな?・・・・全てはそこにあった。それが、全てだった」


秀顕の指と指が交差する手の甲に力が微かに入ったのを、青年は見逃さない。
張りを失い、皮がたるんだ手の甲のしわが動く。


「変ですね?」
「・・・何が、かな?」
「あなたほどの人が、なぜ、X島へ入る許可を得られなかったのか」
「言っただろう。私はB.Gではない、とねえ」


青年は、しばし間を開けて、口を開いた。


「僕らが日本にいることを知ったのは、いつですか?」
「・・・小さな穴があけば、どんなものでも・・・漏れてしまうのが世の・・・そうじゃないかね?」
「穴をあけたつもりはないんですけれど、ね」
「そう思っていることが、危険だとは、感じないのかな?・・・さえこに同情しすぎるし、交流会に関わった人物が、ずぶの素人ではねえ」
「・・・・・その辺をつつかれると、なんとも言えませんが。対処可能な範囲内でした。と、ご報告しておきます」
「存在していることは、わかったが、確信はなかったんだよ、私もさすがに・・・。まさか、”裏切り者”が生きていて、・・・・B.Gの方が消えるとは、未だに信じられない部分が多い。それに、あまりにも君達に関する資料がなさすぎて、実態がない・・・お見事。としか、言いようがなかった」
「ありがとうございます・・・・」
「それに、・・・・だ。噂は噂でね。根拠のない、出所不明なものが多すぎる。最近はろくでもない情報ばかりが飛び交う世の中でね」
「・・・・時代、ですから。それに関しては、同意見ですよ・・・・、迷惑な話です」
「嘘か誠か、見極める目がないとねえ・・・・、その点、年の功というべきか、多少の”関わり合い”が功を奏した。と、言っておこう、こうやって君達と話ができたのは、そういうことの集大成だ」


にやり、と。薄い、色あせたくちびるが左右に引っ張るようにして、嗤う。
頬に刻まれた深いしわが、より濃く陰を作った。


「君達、と言ったが、・・・君の後ろにいるのは、1人だけ、かね・・・見たところ、女性のように思えるが・・・?」
「・・・あなたの目にそう見えるなら、1人なのでしょうね」


青年の言葉に、秀顕の肩眉がつり上がった。


「それは妙な話だね。冥土の土産にお顔を拝見したいのだが。ああ、失礼、ここからは・・・君の後ろの者が腕に抱いてる赤ん坊?を含めれば2人だ。その子は君の子か?・・・知らなかったねえ、サイボーグでも子が成せるのか?・・・・そこまでB.Gの科学技術は、神に等しい力を手に入れていた。と、言う事かな?・・・・・答えてもらるのだろうか?」
「勘違いですよ、・・・この子も、我々の大切な仲間です」
「赤ん坊がか・・」
「・・・資料不足は、そこまで深刻だったんですね、彼のこともさえ知らないなんて。”篠原”の名前が泣きますよ」


秀顕の両の口角がぐっと引き上がり、声もなく嗤う。


「泣く、か。この”篠原”秀顕が!いいねえ。久しぶりの感覚だ・・・。推理小説の探偵ごっこは止めにしてくれ。そちらで調べた事に、すべてYESと、答えよう。それで勘弁してくれないか?」
「石川は、あなたが望んだ事を成し遂げることができるだけの、力があると、思わなかったんですか?」
「・・・・思っておるよ、あいつは天才だ。父親以上のねえ、あの、少し臆病な、自分を信じきれない弱い部分さえ克服すればの話だ。運が悪かったとしか言いようがない。環境だよ、環境。どんな天才でも、環境一つで、馬鹿にもなりさがる。・・・・しかし、父親が残した遺産、あれを見せていれば、完全な足を津田君に贈っていただろう、たとえ足りない資料だとしても、だ。片足一本くらい、時間をかければ、できただろう」
「なら、なぜ?」
「・・・・わからんか?」
「ええ、わかりかねます。ぜひ、お教え願います」
「言っただろう、私はB.Gではない、と」


無数の、通信が青年の通信回路に届く。
薄く、青年が唇を噛んだ動きが、秀顕の興味をくすぐった。


「・・・・わからない、あなたはいったい、何がしたいんです?」
「何がしたい、か・・・・。それで?何かあったのかな?」
「009・・・」


青年の後ろからか細い女性の声が、彼を読んだ。


「009、そうか、君のプロトタイプ、コードは009か?」
「・・・・あなたの目的が聞きたい、そして、なぜ・・・・旧校舎を爆破したんですっ・・・」
「すごいな、君は千里眼でも持っているのかね?・・・・人殺しはしとらんよ?今夜、あそこの警備の人間は退けておいた」
「ええ、仲間が確認済みです。・・・・できれば爆破を阻止したかったのですが」
「仲間は、無事かね?」
「・・・・・ご心配いりません」
「よかったねえ」
「・・・石川が、接触事故を起こしたそうですよ・・・」
「な、なんと!!事故だとっ!」


ソファに沈めた躯を1mmと動かさずに、秀顕は驚いてみせた。


「・・・役者には、なれませんね」
「生きているのか?」
「お教えできません。・・・・彼に次の手が伸びる可能性があるので」


秀顕がニヤリ。と、いやらしく嗤う。


「ああ。そうそう、訂正しておこう、・・・恩田のその夫婦は私のではなく、父の、だったよ。そして、偽も、だ。本物も、だね。本物はしくじって両方から命を追われることをになったので、私が助けてやったんだ、”手術の礼”としてねえ。・・・しかし、その恩も仇で返された、だから、息子に責任をとってもらおうとしてね」
「支離滅裂だ、あなたに何の利益も生まない、責任?・・・本当の意味で責任を取らせるのなら、トーマス・マクガーの資料を石川にわたして、研究チームを作り・・・あなたは”完全なサイボーグ”になっていたはずだっ・・・そして、そのチャンスだって、B.Gが存在していた間に、いくらでもあったはずっ」
「ふむ。・・・完全なサイボーグの躯か、確かに。・・・そうだねえ、そうだったかもしれない。この中途半端な躯を、完璧なサイボーグとする予定だったねえ。・・・・B.Gの、まだボグートが生きてい入れば、それなりの取引で手に入れていたかもねえ。そうだ、手に入れようと躍起になっていた時期もあった、ああ、懐かしい事を思い出させてくれてた。・・・・しかし、それは、君たちのせいで潰えたんだよ?」
「X島の破壊ですか?」
「そう、君たちの裏切りが、私の望むすべてを奪ったんだ。・・・・何、今は恨んでいないよ。心配しなさんな。・・・・君たちの後に作られたサイボーグたちは、ある男の手を省いて作られた、なんとも、不細工な、中途半端なものが多くてねえ。プロトタイプと呼ばれている、00シリーズが一番の出来だと、思っているよ」


青年は秀顕と会話しながら、通信回路のチャンネルを開いた状態で逐一仲間達から得る、情報を処理していく。


「あなたの目的は?」
「何が何でも、私の口から言わせたいのかな?」
「確認したいだけです」
「・・・すべて、あの男のせいだと言いたいねえ。だから、探していた。求めていた。何度もコンタクトを取るために、色々とそれなりの努力はしたんだよ?これでも、・・・・しかし、プロトタイプ00シリーズに目処が立つまでは、と。待たされてねえ。長い間、待たされたよ。待たせておきながら、サイボーグ計画のプロトタイプが完成した途端に消えたんだから、たまったもんじゃない。その上に跡形もなくX島は破壊されて・・・」


薄く吐く溜め息。
秀顕の口元は嗤ったまま。



「・・・多くの研究者がB.Gの闇から逃れたんだった。・・・そうだねえ、トーマスもその1人だったねえ、いや、違う。彼は・・・それより少し前だ、はて・・・いつだったか、よくは思い出せないが・・・私が良く知る科学者の名はブラウン。彼と父は何かと交流があったようでね。まあ、キレイとは言えない腹の探り合いだっただろうが、彼の研究チームの1つに、私は委ねられていたんだよ、そのチームの責任者がトーマス・マクガー。・・・昔話が好きだねえ、君は。いや、私かな?やれ、私はどうもおしゃべりになってしまうようだ。」
「ブラウン、博士・・・」



「君は知っているかな?改造される前にあっているのかね?ブラウン博士は、結局・・・生きている間に、拒絶反応を起こしたためにコールドスリープさせた実験体を起こす事ができなかったんだが・・・」


視界に入っていた金糸のような髪が揺れたのを、秀顕は眺めていた。


「仲間にその”コールドスリープ”させたプロトタイプはいるのかな?それとも、君自身なのかな?009と言うから9番目か?さて、君がいつ生まれたのか、まったく検討がつかないし、あの当時、何体のサイボーグがコールドスリープされていたのかも知らないんでね。しかし、それらは・・・アイザック・ギルモアが完成させた。と、聞いているが?その直後に反旗を翻したために、X島は見事なまでに破壊されて、鉄くずの島には何もなかったよ」
「あなたの、目的はギルモア博士・・・」
「彼以外に、本当の”サイボーグ”は作れない。・・・たとえ石川でも、いや、もしも石川が時同じくして、B.Gの研究員として、ギルモア博士とまったく同じ環境に身を置いていたら、変わっていたかもしれないが、だ」
「やっぱり、辻褄が合わない」
「おや?そうかね・・・十分に合っていると、思うが・・・」
「ギルモア博士を狙うなら、もっと」
「他にもっと、それを目的とした方法があったと、言いたいんだね?・・・・そうだね、確かにその通りだ、だから」


秀顕は深く、ソファに沈み込ませていた背をゆっくりと前屈みに倒して、影で隠れる、009の顔を下から覗き込むように動いた。






「すべて遊びだよ、遊び。暇つぶしに過ぎん・・・・探している間に、目的なんぞ忘れてしまったんでねえ」





















「楽しかった、ですか?・・・・自分の娘をつかったゲームは」
「それなりに、さえこが面白い動きをしたんでねえ、石川は予想通りだったが。ああ、当麻と言う面白いオプションもついてきたな」
「その、遊びに加わって、いや・・・・違う・・・違いますね。遊ぶようにしむけた。一緒に遊ぼうと、言い出したのは、誰です?」








「N.B.G(ネオ・ブラックゴースト)」












青年の、009の手が、強く拳を作り、震え、そして001の、瞳の光を、腕に抱く003だけが知る。



「・・・・今の世の中に”団体”や”組織”に”忠誠”を誓うなど、そんな面倒なことは不要。流行らんのだよ。”誰か”のために動くなど、今の人間は”個性”を”自分”を訴える事が趣味みたいなもんでなあ、チャンスがあれば、それに食らいつき、人と違う、自分は”特別”なんだ、と。叫びたがる。・・・個人が名乗りを上げればいいんだよ。裏から情報を強い入れて、使い、利益を得て、そして表で涼しい顔で生きていく。合い言葉は”N.B.Gだ」
「合い言葉・・」


嗤いが落ちる。
肩を揺らし、楽しげに。


「何の、ために」
「暇つぶしだよ、遊びだ、遊び…・・・復讐も兼ねていたかな?こんな躯にした相手を潰してくれた恩義あるプロトタイプにも会ってみたかった。という理由もあるねえ」
「いつ、から」
「さて・・・通いのネットワークに、君たちの情報を見つけたのは、ボグートがいなくなった直後だ。ああ、四友も簡単に手に入ったねえ」
「合わない」
「なに、合わないかね?」
「・・・・・・6年前は、まだB.Gは存在していた」
「そうだったねえ、ボグートが行方不明になったのは、3.4年前だったかな?」
「・・・合わない」
「君達はB.Gを倒すことに必死で、気がつかなかっただけだろう?そういう”ネットワーク”があることを知ったのも、今回のことがあって、初めて、ではないかな?・・・・ああ、闇市(ブラックマーケット)など、そのほんの入り口程度だよ?勘違いしないでくれね。ここは年長者として、孫とかわらない年齢に見える、君に助言しておこう。わざわざ会いにきてくれた、礼も含めて・・・。何にでも正確な答えが出せると思う事は間違いだ。辻褄が合わないからこそ、いいんだよ。それが真実なら、それでいいんだよ?」
「改めて、お聞きします。・・・あなたの、目的、は?」
「言っただろう、暇つぶし、遊び、そして”情報”に便乗した、復讐か・・・?いまさらサイボーグ化した躯を得ても、・・・少しばかり考えてみればわかるだろう?この世に、人類の未来に、なんら楽しみが見いだせなくてな。半永久的な命よりも人として死ぬ事を選んだんだよ。潔く、それなりに遊んでから天に召されようとねえ。こんな躯でも、まだ土に還ることが許されている生身があるんでねえ。・・・それに、身の程はわきまえているつもりだ。私と言う人間の尺度をね。B.Gのように大それた野望など、とてもとても・・・」


くくく、と嗄れた喉奥の嗤いを堪えるように、たるんだ皮の、年老い得た手を口元に当てた。
ひとしきり嗤い、はああ。と、肺にこもっていた旧い空気を吐き出して、新鮮なものを取り込む。



「B.Gが築き上げたかった世界は、B.Gが滅んでこそ、動き出したんだねえ。いや、滅んだのではないねえ、彼らのその存在が、BG(花)が散ったことにより種を撒いた・・・そしてそれは進んだ現代の”電気通信網”などを通した、眼に見えない不確かな”情報”が苗床となった。すばらしいタイミングだったと、思うだが、どう思うかね、君は?」


話しかけておきながら、009の反応など気にせずに、言葉を次いだ。


「そこに善悪が存在するのだろうか?存在などしない、そこは人の欲だけだと思うねえ。善悪じゃないんだ。私利私欲の”個”が放つ”願望”が同じものを望むものを引きつけて、輪になり、目的達成後は、散っていく。まるで、餌に群がるハイエナのように。そこに”肉”があるから寄り付き、”骨”になれば散っていく。我が身可愛さに身を隠しながらも虎視眈々と個の欲を狙っている。・・・・人は人としてのコミュニケーションを、関わりを捨て去ったときから、団体であることを放棄したんだ。そのうち、・・・遺伝子レベルでの”属”、いや”族”と言うものが消えていくかもしれないい、と私は考えているよ。・・・地球、その規模で人。だと、言う時代がくるときは、・・・ないか。その前に、人が人として人を消滅させているかもしれん。それは、”個”を選んだ、我々の愚かさなのかもしれんがねえ。B.Gは本物のゴーストになったんだよ。ネットワークと言う、通信技術の中で進化して。本物の亡霊となったんだよ。

滅んでこそ、B.Gは本来の目的を遂げる事に成功したんだよ、
君たちは、それを行うために用意された駒にすぎなかったんだねえ」




009の脳は通信に届いた、篠原旧校舎に引き続いての四友工場の爆破。
警察が”テロ事件”として慌ただしく動きだした、と報告が入る。











001は、動かない。
それが今夜、計画的に行われる事を知っていたかのように。

不意に胸底にわいた疑問に答える者がいた。


<過去ヲ振リ返ッテモ、何モ出来ナイ。忘レナイデ、過ギ去ッタモノハ、今ニ繋ガッテイルンダヨ。未来ハ 僕ニダッテ 予測シ難イモノダ。自分ノ都合ノ良イ方ヘ 選択サセルコト、導クコトノ方ガ簡単ダヨ。・・・・未来ハ 1ツジャナイ。無数ニノビル糸ヲ 1つ選択スルコトデ ソコカラ マタ 新シク分カレテ、イク。 君ガ、秀顕ヲ手ニカケル未来ト、生カス未来ノ先ニ広ガル糸ハ、今ハ分カレテイルカモ知レナイ。デモ、ソノ先ニ再ビ絡マリアッテ、同ジ未来ヘ向カッテイルモノモ アレバ、全ク違ウ世界ヘト繋ガッテイルモノ モ アル。君ノ手ニアル糸ト 秀顕ノ糸ガ触レ合ッテイルハ ”今ダ”。今ヲ選ブノハ 君ダ 009。>


001のテレパスに、視線を自分の背後で003に抱かれている彼にむけた。
秀顕は、振り返る仕種を見せたために、端正に描かれた009の顎のラインを、その視界に捕らえる。


「相手は”個”であり、その目的も多様化した上に”真実”であるかどうかを、確かめるための”情報”自体が、すでに、NBGの手の中なんだ。そう、言えば君たちも裏に生き、関わること自体、正義の名乗りを上げたNBGだと言う事だよ。そうなると、今までのようにはいかないねえ。」
「あと、・・・どこを爆破する予定ですか?たしかに、僕たちが望んだのは、あなたが持つ、知り得る、サイボーグに関する全ての消去、破棄だ」
「ご希望に答えられて嬉しいねえ・・・君たちに見つかってしまった以上、ゲーム終了だ。後片付けはしないといけないからねえ。私は満足だよ、いやあ、楽しかった。この目で”アイザック・ギルモア博士”の芸術的完全体サイボーグ、プロトタイプ・コードナンバー00シリーズを確認できたんだ。それはどんな情報よりも確実で確かなもの、満足だよ」
「あなたは、いったい何がしたいだ?」


009の効き足が、1歩前へ出る。と、同時に背後から、涼やかに、愛らしく、けれどもしっかりとした芯の通った声が秀顕に語りかけた。


「・・・わからない。のですね?・・・自分でも、自分が、自分をどうしていいのか、もう・・・わからないのでしょう?」















====70.へ続く



・ちょっと呟く・

つ、つらいっす・・・・。
もじもじで、気分転換。
大地くんで息抜き。しながら書いてますので、更新遅いです・・・。
ああ、ただでさえ遅れてるのに・・・(汗)



もうちょっとで山場乗り切りますので、しばしおつきあいを・・。
このあと、たあああああっぷり憂さ晴らしに、あのイベント!・・・早く書きたいっ。
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