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青の世界
「好き」と言葉にしてしまうのは、とても簡単なコトかもしれない。
この気持ちを素直に表すのは、「好き」と言う言葉が一番適しているかもしれない。

言ってしまえば、楽になるのも確か。
けれども、言ったからこそ失ってしまう感覚も、あるのかもしれない。

この想いを、どう表したらいいんだろう?
この想いは、言葉として言い表すことができるのだろうか?


====
「複雑に考える必要があるのか?」

ジョーは先日買ってきたばかりのウィスキーを手に、
004こと、アルベルトの部屋を訪ねていた。
グラスについだ茶色の液体に、歪な形の氷が浮かぶ。
アルベルトの言葉にただ黙って聞いているジョーの視線の先には、
彼の部屋の窓から見える、月明かりに照らされた、夜の海。
そして不規則なリズムでうつ波の音。

「このまま・・・の・・・」
「ん?」

ジョーは掠れるような音で答える。

「このまま・・・じゃ・・・ダメなのかな?」
「おまえさんは、このままの関係がいいのかい?」
「ーーーーよく・・・わからない。でも、彼女がそばに居て、笑ってくれて。
みんなが居て、それ以上を求めてもいいのかな?」

「誰か、求めちゃダメだとでも言ったのか?」

アルベルトの問いに、小さく首を横に振る。

「好きなんだろ?」

アルベルトがもつ、グラスの氷がカランっと音を立てて崩れる。
その音に誘われるように、ジョーはアルベルトの持つグラスを見た。
視線はそこにあるものの、ジョーの目は彼のグラスを見てはいなかった。

ジョーの瞳には、今日の昼の出来事が。
フランソワーズのその顔が思い浮かぶ。

====
ギルモア邸から歩いて5分ほどの場所にに広がる白い砂浜。
午前中に済ませた、洗濯と掃除。
お昼の準備には少し早い、中途半端な時間。
フランソワーズは、ほんの少しの自分だけの時間を、この砂浜で過ごすことが多い。

食後の運動。と理由をつけて、たびたびジョーはフランソワーズのこの時間を
共有するようになって早3ヶ月。

彼女が「そろそろお昼ね」と声をかけるまで、海を眺め、
そして風のように跡が残らない日常の過ぎゆく淡い会話を重ねていく。

その日は、とても綺麗な青空が広がっていた。
梅雨明け一番の初夏を告げる夏の青。
海と空との境界線が解らないほどに、世界は青かった。

ジョーはただ、海なのか、空なのか解らないその一面の青い世界を見入っていた。
少し離れたところから、フランソワーズは彼の背中越しから、
その世界を感じていた。

「変なカンジだね」
「・・・?・・・なにが?」

自分の後ろに立つ、フランソワーズへは視線を向けずに
ジョーは彼女に話しかけた。

「君の瞳を見なくても、今、君の瞳を見てるような気がする。」
「?」
「今日の空、かな? 海・・・なのかな・・・君の蒼い瞳の色に一番近いよ」
「・・・」
「ずっと、見ていたいね、この色を。すごく気持ちがいい」

ジョーは独り言のように、話し続ける。
今日の、彼はいつになく素直に自分の感じたことを音にする。
この美しい青いの世界が、彼の気持ちを素直にさせているのかもしれない。

「僕の一番好きな色なのかも・・・な・・・・」

ジョーの言葉に、フランソワーズは胸を熱くさせる。
少しずつ、自分とジョーの距離が近づいているのを感じつつある、この頃。
日に日に、彼への想いも強まっていく。
戦いの中では保たれていた、仲間として、最強のサイボーグ、009への尊敬と
信頼の気持ちが、いつしか、彼が不意に見せる本来の「島村ジョー」の姿によって
恋心と変わっていくのはそう時間がかからなかった。

期待してもいいのかもしれない?
彼も私と同じ気持ちを?

何度も不定しつつも、毎日の小さなふれ合いが、彼女の胸を淡い期待に染めていく。

何も話さなくなったフランソワーズに、ジョーはやっと視線を青い海と空から離し、
フランソワーズへと移した。

「どうしたの?」
ジョーはゆっくりと、フランソワーズに歩み寄る。
フランソワーズはいつの間にか自分が、俯いて足下を見つめていたことに気づく。
「フランソワーズ? 気分でも悪いの?」
ジョーは何も答えない、そして俯いたままの彼女の顔を見るために、
下から覗き込むような仕草で話しかける。

「フランソワーズ?」

突然に彼女の目の前に現れた、優しい褐色の瞳。
心配そうに覗く、その目にフランソワーズの顔がが映し出される。

大きく、彼女の心臓が跳ねる。
全身の血が一気に自分の胸に集まっていく。




「私、ジョーが好き」





波の音にかき消されそうなほど、小さな声。
けれどもはっきりと、その唇から発せられた言葉。
彼女の顔を見つめるジョーにとって、聞き逃すはずがない。





「好きなの」


声にならない声で、もう一度言う。


フランソワーズはぐっと、瞳を閉じる。
彼を直視できないから。
彼の瞳が、自分の言葉と同時に大きく揺れたのを見てしまったから。


告白するつもりはなかった。
勢い、と言うか。
場の雰囲気、というか、空気に飲まれてしまった、後悔と恥ずかしさ。
言いようのない不安と、もう抑えることができないほどに高まってしまった
彼への気持ち。

凍ってしまった時間。

体を堅くして、呼吸の仕方も忘れてしまっているかのように立ちつくすフランソワーズは、
自分から離れていく、ジョーの足音だけを聴いていた。

彼の足音が聴こえなくなった時、
彼女はその場に崩れるように、座り込み、呆然と先ほどまでジョーが眺めていた
世界を見つめた。

「バカ・・・」

彼女の瞳から溢れる涙は、透明で、ただ冷たいものだった。


====
ジョーは早足でその場を離れた。
何も考えることができなかった。
ずっとフランソワーズの声が、あの言葉が繰り返される。

ギルモア邸の玄関のドア勢いで開け、キッチンへと走り込む。
無造作に置かれたコップをつかみ、水道の蛇口を乱暴にひねる。
勢いよく流れる水をコップに注ぎ、一気に渇いた喉へと流し込む。
ガンッと、乱暴にコップを流し場に置いた。


「私、ジョーが好き」


彼女は確かに言った。
あのフランソワーズが、自分に向かって言ったのだ。



嬉しい。

それと同じくらいに

どうして。

そして今の生活が、今までの関係が音をたてて崩れていく。
不自然な怒りが、彼の心を支配する。

「お? ジョー、居たのか?」

間延びした、ジェットの声がキッチンの向こう側から聞こえてきた。

「なあ、お前さ、フランソワーズ知らないか?」

正直に、今、一番聴きたくない名前を出されて、ジョーの肩が震えた。
そんなことに気づきもせず、ジェットはジョーに話しかける。
「腹減ってさ~、そろそろ昼飯の用意してくんねーかな?って
言いたかたんだけどよ~」

「  」
「あ?なんか言ったか?」

ジョーの声が聞こえたが、はっきりとは聴き取れなかったジェット。

「知らない!」
「!!」

ジェットはその声の大きさ、鋭さに驚く。
普段のジョーでは、あり得ないその声に、ジェットは反射的に
ジョーの肩に手をかけようとした。

「おい、なんか・・・あったのか?」
「五月蠅い!」

彼の手を振り払い、その場から逃げ去るように自室へと
駆け足で階段を上っていく。
そんなジョーの後ろ姿を、ただ呆然と見送るジェット。

「なんなんだよ?・・・・・いったい・・・・」

わけがわからない。っと言った様子で短いため息をつき、リビングへと戻った。

「ケンカしたのか?」

リビングで、冷めたコーヒーに手をかけたアルベルトは、
平穏な日常生活では聴くことがないほどの鋭い声に、
思わずキッチンの方へと視線が向かう。
と、同時に、ものすごい早さで自室へと戻るジョーの姿を目撃し、
その跡を追うように、キッチンから出てきたジェットに話しかけた。

「ケンカも、何も・・・わけわかんね~よ!!」
「また、何か余計なことでも言ったんだろう?」
「言ってねーよ!ただ、フランソワーズがどこか聞いただけだっつーの。
なのに、あいつってばよ!”知らない!””五月蠅い!”だぜ?」

大げさに肩をすくめて、お手上げのポーズを取る、ジェット。

「・・・・ふん。フランソワーズとケンカか?」
「ってーか、フランソワーズは何処だよ?」
「この時間なら、外だろ。例の散歩だと、思うが?」
「腹減ったんだよな~・・・オレ」

ジェットの言葉に、ちらりと壁に掛かっている時計を見る、アルベルト。
時は、正午を過ぎていた。

====
空になった手元の缶をひょいっと近くのゴミ箱へと投げ入れる。

「初めてだよ、女の子のことをこんなに大切に想うのは。すごく不思議なんだ。
彼女が嬉しいと、僕も嬉しい。彼女が哀しいと、僕も哀しい。
・・・なんて言ったらいいのかな。
ちゃんと言葉にすることが、難しいんだけどさ。ずっと、
そばに居て欲しいんだ。・・・ただ・・・」

アルベルトは自分で空になったグラスに新しい液体を注ぎながら、
酔いの勢いで話すジョーの言葉を聴いている。
酒の力でも借りない限り、いくら男同士でも、ジョーの場合はこんなことは話せない。

「ただ、なんだ?」

アルベルトは、注がれたグラスへと氷を足す。
その動作を見ながら、自分の手にとった新しいビールの缶を少し強く握る。
アルミ缶が凹む音が、一瞬、波の音を遮る。

「・・・ただ、怖いんだよ」
「怖い?」
「特別・・・な人になってしまうだろ?」
「・・・それで?」
「だから、今までと違うようになるだろう?」
「どうして?」
「特別だから」
「今までも、そうだっただろう?おまえさんにとって、あの娘は特別だったろう?」
「そう・・・だよ。だって、女の子だしさ」
「それだけか?」
「・・・それだけって・・・」
アルベルトは、グラスをゆったりと持ち上げ、一口、
舌に乗せるように液体を味わう。
彼の眼はじっと、ジョーを見ている。
その視線からは彼が何を考えているのか、読み取ることは出来ない。

「じゃあ、訊くが・・・フランソワーズじゃない娘が、003だったら、
お前、どうだったと思う?」
「003がフランソワーズじゃないなんて、考えられないよ」
「例えばさ。今までお前が出会った女の子たちが、
003となっていた可能性もあるんだ。
フランソワーズとだって、003と、009として出会わないで、
もっと違った形で出会っていたら、お前さんは、どうだったんだろうな?」

「想像できないよ・・・そんなの・・・・」

「仲間の中で唯一、彼女だけが女の子だ。だから好きになったのか? 
お前さんの言う特別って
なんなんだろうな?」
「・・・・フランソワーズだから、さ。でも、考えられないから・・・それに、
それに・・・彼女は・・・」

ジョーは、言葉を濁す。そして、彼の言葉はアルベルトの問いに対して
答えになっていなかった。

「信じられないな。ジョー、お前は本当に、あの009かい?」
くくく、っと低く嗤い、彼独特の唇の動きをを見せる。

ジョーは何も答えない。

的確に、そして素早く状況判断し、絶対の自信と決断力で、チームをまとめ上げ、
どんな窮地に陥っても、激しい戦渦のなかでも、微塵もその強さを揺るがすことがない、
世界最強のサイボーグ戦士、009。

今、自分の目の前にいる青年が、最強の戦士009だと言って紹介されても、
絶対に誰も信じないだろう。
アルベルトは6本目のビールに手をかけたジョーを見て、戦いの中で接していた彼と、
今の彼を較べていた。同じ人物を較べると言う行為自体、おかしいが。と自ら訂正しつつも、
009と島村ジョーの差があまりにも違い過ぎて、自分でも不思議な感覚に陥っていた。

「なあ、ジョーよ。フランソワーズは綺麗な娘だよな?」

突然、話題が変わり、驚いたようにアルベルトを見るが、
彼の言葉にジョーは大きく首を縦に振る。

「あんな別嬪さんは、滅多にお目にかかれない。その容姿にも負けないくらい、
心も綺麗だし、思いやりもある、そして強い。辛い・・・ことも色々あったが・・・
なあ、あの娘がいてくれたお陰で、
どれだけ俺らが救われたか、・・・言わなくてもわかるだろ?」

アルベルトの言葉に同意するように、首を縦に振り続ける。



「そんな娘が、好きになった奴が・・・ジョー、お前さんなんだ」




====
部屋に響く時計の秒針の音がフランソワーズの気持ちを、紛らわす。
無心でいたいがために、秒針の音だけに集中するけれども、
いつしか、その音も耳から遠ざかっていった。


いったいどうやって、今日という日を過ごしたのか、フランソワーズは覚えていない。
とにかく、今、自分の部屋の、自分のベッドに居ることだけが、解っている。

その後、ジョーとは会っていない?
会っていたのかもしれない。
お昼に?それとも、夕食のとき?
自分は、昼食の用意をしたのだろうか?夕食は食べたのだろうか?

あの告白をした時と変わらない波の音。
耳を澄ませて、集中すれば・・・ジョーが作る「音」を聴くことが出来る。
彼を「視る」ことも出来る。

自分の思い上がりに腹が立つ。

彼との距離が近づいていた?なんてバカなことを思いこんでいたんだろう。
今まで少しずつ重ねてきた、大切な彼との日々をたった一言で壊してしまった。
頭では解っていたことなのに。
いままでの関係が、ジョーと自分にとっては一番良い関係が成り立ちつつあったのに。
自らの手でそれを壊してしまった。

後悔。

けれど、あの告白は紛れもなく自分の本当の気持ち。

もう、どうしたらいいのか解らない。
どんな顔をしてジョーに会えばいいのか解らない。
時間を戻せるのなら、今すぐにでもあの時に戻りたい。
そして、全てをなかったことに、重い鎖をつけて深い海の底へと沈めてしまいたい。

「・・・・バカだな、私って」


眠ることもできない。
このまま永遠に朝が来なければいいとも思う。
いっそのこと、「何か」が起これば、こんなことに悩んでいる暇がなくなり、
再び003として009との日々が始まるのに。
仲間として。

そんな考えが浮かんだ瞬間に、なんて身勝手な、我が儘な子なんだろうと、
自分が情けなくなってくる。

逃げ出したい。

何もかも捨てて逃げ出したい気持ちになっていたフランソワーズの耳に、
自分の部屋の戸をノックする音が聞こえた。

聞き間違えではない。

息を殺して、自分が不在であることをドアの外に居る人に伝えようとする。
数秒、間を開けて、2度ほどドアをノックする音が再び聞こえた。
それは、1度目よりも確実にしっかりとした戸を叩く音だった。
フランソワーズは、ベッドから起きあがるのも億劫で、人と会うという行為も
今の彼女にとって、とてつもなくエネルギーを必要とする行為だったため、
このまま、自分が不在、もしくは
もうすでに夢の中の住人となっているように、思われたかった。



====
「もっと単純なもんだよ、男と女なんてな。」
「それは、アルベルト・・・・だからだろ?」
「いや、誰にとってもさ。欲しいと思うか、思わないか。」
「・・・欲しい?」

「抱きたいか、抱きたくないか。」

呟くように発せられた言葉に、ジョーは非難の目でアルベルトを睨み、
そして自分の顔がアルコールの所為ではなく、
紅く染まる顔を止めることが出来なかった。

「おいおい、そんな・・・お前だってイマサラ、女を知りませんってわけじゃあ、
ないだろう?」
ジョーの素直な反応に、愉快そうに嗤うアルベルト。
「・・・そうだけど。」
「フランソワーズは、そういうものの対象外、なにかい?天使様か、聖母様かい?」

正直、ジョーはフランソワーズを「女」として見てしまう自分に嫌悪感を抱いていた。
そういう行為を彼女に求める自分が、とても汚いモノのように感じているのが
本音だったりもする。

「・・・アルベルト、怖いんだよ。ただ、怖いんだ。・・・嬉しかった、
すごく嬉しかったんだよ、僕。
フランソワーズが、僕と同じ気持ちだったことが・・・・でも、
でもさ。だから、怖いんだよ。
いつか、僕は・・・・彼女を、大切な彼女を傷つけてしまうことが、そ
して失ってしまうことが、さ。」



「違うだろ、ジョー。自分が傷つくのが、自分が彼女を失ってしまうのが、
怖いんだろ?」



しっかりとした、そして強い言葉で、アルベルトはハッキリと言い切った。
その言葉に、ジョーは全身の血が退いていくのを感じ、
手足が冷たくなっていき、体を1ミリも動かすことができなくなった。


「お前さん、自分しかみえてないんだよ、結局は。フランソワーズのこと、
ちゃんと見ろ。あの娘は、幻でもなんでもない、ちゃんとした、生きている女なんだよ。
・・・逃げるな。」

====
「フランソワーズ・・・起きてる?」
部屋の戸を叩いた主は、ジョーだった。
ジョーの声を聴いた瞬間に、フランソワーズは、自分の体温が
一気に上がるのを感じると同時に、息をするのも苦しいほどに、
胸が締めつけられた。

なんと答えたらいいのか、どうしていいのかわからない。
体はジョーの声を聴いた時点で、身構えてしまい、動こうにも動かすことができない。

「遅くに・・・ごめんね。」

ジョーのささやくような声をフランソワーズは聴き逃さなかった。

彼がドアから離れる音も、彼女の耳は捕らえていた。

待って。
行かないで。

気持ちはジョーを引き留めるけれども、
声を出すことも、動くこともできない。


彼女の耳は、ジョーの足音をしっかりと聴いている。彼が自分の部屋を離れ、
そして彼の部屋の中へと消えていくのを黙って聞いていた。


フランソワーズは気が付いた。
自分は、あの告白以来、彼と一言も口をきいておらず、会ってもいない。
もう何日も過ぎてしまった、遠い昔のことのように思うが、
それは事実、今日、正確には昨日の昼前に起こったこと。


====
「ジョー? 彼はアルベルトのところだよ?なんか、飲んでるみたいだけど?」

今晩の夕食は大人に任せっきりだった。
大人が、ジョーとアルベルトが夕食の時間になっても姿を見せないので、
ピュンマに呼びに言ってくれと頼まれていた会話を聴いていたのだ。

「なんだよ?オレ達はのけ者かよ~!!」と、抗議の声を高らかにあげるジェット。
「珍しいよね、2人きりって。でも、たまにはいいんじゃない?ジェットと飲んだら、いつも
どんちゃん騒ぎになってしまうしさ。」

楽しそうに、ジョーとアルベルトの2人の呑み会を邪魔しないでおこうと、
ジェットを宥めるピュンマ。
彼は、その持ち前の気配り上手な性格で、すでに平和な日常に起こった
「何か」感じ取ったのしれない。

「食は大切アルね!何も食べずに飲む、空きっ腹にはよくないアルよ~?!」

そういうと、大人はキッチンへと向かい、手早く夕食の中から、
酒のつまみになりそうなものをお皿に盛りつけて、部屋へ運んで行った。

フランソワーズは、そこに居た。
けれども、ただ居ただけ。
そこで自分が、どのように過ごし、どういう風にみんなと接していたのか、
わからなかった。


====
彼女は眠ることが出来ず、朝を迎えた。
考えることも放棄してしまったかのように、日が昇るとともに寝間着のまま、
昨日、自分がジョーに気持ちを打ち明けた場所へと自然と足がむかっていた。

「ここに来たって、時間は昨日にはもどらないのよ?」

朝日によってキラキラと輝く海の水面を見つめ、
だんだんと色濃くなる空を仰ぐ。

昨日と変わらない、同じ青の世界。

けれども、昨日と今日はまったく違う、自分とジョーも・・・。

このまま、どこかへ行ってしまおうか?
そんな思いに駆られ、ゆっくりと波に誘われるかのように、
海へと歩き出すフランソワーズ。


履いていたサンダルを脱ぎ、

海水に包まれる素足。

退いては押し戻ってる波が、フランソワーズを誘う。

まだ海の水は思いの外冷たくて、体がその冷たさに震えた。

耳に心地よく響く波の音。

白い光を強く放つ太陽。

今自分は、海に立っているのか、空に浮いているのか・・・。





すべては、彼が好きだと言った青一色の世界。
彼が好きな色の世界。








「フランソワーズ!!!!!!!!!!」

自分の腕を強く引っ張る、誰かが居た。
すぐには、それがジョーだとは解らなかった。


「何してるんだ!いったい!!」


気が付けば、フランソワーズは胸下まで海水に浸かっていた。
「・・・え?」

呆然と自分を叱咤する相手をみつめる。

「寝ぼけてるの!?」

彼女の瞳は何も見ていないのと同じようだった。


「なんでこんな朝早くに海なんか・・・それも、そんな格好で!!」

海水に濡れたフランソワーズを抱きかかえたまま、
ジョーはフランソワーズを連れ帰り、着替えるように言い渡した。

====
アルベルトの部屋を後にして、自室に戻る途中、
フランソワーズの部屋を訪ねた昨夜。
結局、フランソワーズの部屋から何も反応がなかったので、大人しく部屋へ戻り、
眠れない時間を過ごしたジョーは、日の出と共に、
彼の部屋付きのバルコニーで滅多に吸うことのない煙草に火をつけた。
その時、彼の部屋から見える白浜に見覚えのある、亜麻色の髪の人を見つけた。

(フランソワーズ??・・・こんなに朝早く・・・に?・・・)

彼の瞳は、彼女から離れることなく、じっと様子をみつめていた、そのとき。
ゆっくりとした歩調で、彼女が海の中へと進んでいく姿を見たのだ。
一瞬、何が起こったのか、わからなかった。
どんどんと、海の中へと飲み込まれていく彼女の姿に、恐怖を感じた。

(何考えてんだよ!)

慌てて、火をつけただけの煙草をバルコニーの手すりに擦りつけ、
そのまま2階から飛び降り、彼女の元へと走った。
なりふり構わず、そのまま海へと入りフランソワーズの腕を引っ張った。

大きな声で彼女の名を叫んでいたが、その声はまったくと言っていいほどに、
フランソワーズには届いていなかった。

彼女の瞳は、昨日の朝「お早う」と言ってくれた時に見た美しい蒼い輝きを失っていた。

====

フランソワーズの部屋の前で2度、3度と深呼吸をし、
ドアをノックした。

部屋の中からは、何も反応がない。
それも、予想できた。
もう一度ノックをして、それでも反応がなかったので、ドアノブに手をかけ、
ゆっくりとそれを回した。鍵はかかっておらず、金具が擦れ合わさる音と独特な、
金属音と共にそっと、ドアを開けた。
普段なら、絶対にこんなことはしないジョーだが、今は・・・。

「フランソワーズ?・・・・入るよ?」

返事はない。
けれども、彼女はベッドの上、ナイトスタンドに近い位置に座っていた。
「着替えて・・・ないの?」
海水に濡れたままの寝間着。先ほどジョーが見た姿のままのフランソワーズに、
ジョーはため息をつき、早足で自分の部屋からタオルを持ってきて、
フランソワーズに手渡した。

「風邪ひくよ?」

「・・・そんな簡単に風邪ひかないわ」

フランソワーズは、ジョーを見ない。ずっと俯いたまま。
彼女の声は震えていて、とても小さかった。

「まだ、泳ぐには早すぎるよ?」

「・・・・」

フランソワーズは動かない。
ジョーが差し出したタオルは、彼女のヒザの上に置かれているだけの状態で、
彼女の布団は彼女の寝間着と同じように、海水を含んで濡れていた。

「そんな格好で、ベッドの上に座ったりするから・・・」

ジョー自身、こんな状態のフランソワーズをどうしたらいいのか、わからなかった。
このまま自分が居ても、彼女は何も動かないだろう、なら、
自分が居ない方が良いだろうと思っていた。

ふうっと、ため息をついた時、フランソワーズの言葉が耳に入った。

「ごめんなさい・・・・ジョー、ごめんなさい・・・・・・・
あなたを、困らせるつもりないから・・・・・・・・」

小さな、小さな声だった。

彼女は俯いたまま、ジョーの顔を見ずに言葉を続ける。

「ジョー、ごめんなさい・・・・、怒ってるでしょ?
仲間なのにね。そう、大切な仲間なのよ・・・・・・・だから、気にしないで。
・・・・・・・あの、・・・・・・・あの・・・・・・・き、きの、、、、うの、、、、、、こと」

「・・・」

「ごめ・・・・・んなさ・・・・・・い・・・・・・・どう、か・・・忘れて・・・?」



忘れて?


ジョーは彼女の言葉を一つと聞き逃さないように、集中した。
それくらい小さな、小さな、微かなな声だった。


薄い生地で作られた寝間着は、濡れた所為もあって、
ぴったりとフランソワーズの体ラインを現していた。白に近いピンク色のそれは、
うっすらと彼女の肌を写し出してもいた。細く、
しなやかなフランソワーズの体のラインが、一目でわかる。

そんな姿のフランソワーズを意識してしまったとたんに、
ジョーにあのアルベルトの言葉を思い出させた。

”抱きたいか、抱きたくないか”

かっと、体が熱くなる。
全身に燃えるような、電流がかけめぐる。


今、目の前に居るのは、
今までの”フランソワーズ”ではななかった。

何かが変わった。
それが「何か」考えなくてもジョーはわかる。


ぐっと、拳を作り握りしめた手が汗ばんでいるのがわかる。

「・・・フランソワーズ、謝らないで。」

====
今日も、いつもと同じ朝だった。
キッチンにはフランソワーズが立ち、忙しそうに朝食の用意をしている。
彼女はいつもより少し寝坊をしたらしい。
ダイニングには、朝が早い彼らがすでに集まっていた。
アルベルトは今朝届いた新聞を読みながら濃いめに入れたコーヒー飲む。
ピュンマは部屋からパソコンを持ってきて、メールをチェックしてる。
ジェロニモは、庭に作った花壇の水やりを終え、
キッチンいるフランソワーズに「手伝いはいるか?」と
声をかけたが、「今は大丈夫よ」と言う返事を受けて静かに席につく。
普段ここに居るメンバーではない、グレートは自分で入れた紅茶に舌鼓を打っていた。

いつもの朝の風景だが、
そこには見えない会話が飛び交っていた。

驚きの声と、からかいの声。
そしてどこかくすぐったいような、嬉しいような、気恥ずかしいような。

「ちょ・・・と、ジョー!!何やってるの?!焦げてる!!」
「え?!」

<今日「も」焦げてるみたいだよ、僕らの朝食>

ピュンマが台所から聞こえたフランソワーズの声に反応する。

<手伝っているのか、邪魔をしているのか・・・>
<ねえ、いつになったらちゃんと焦げてない朝ご飯が食べられるんだろう?>


いつぐらいからだろう。
朝の弱いジョーがフランソワーズと、朝食を作るためにキッチンに立つようになったのは。


いつもどこか不安げで、落ち着かない様子が捨てられた子犬のようで、
ある一定の距離以上は誰も寄せ付けない雰囲気をまとっていた彼。
仲間として、様々な経験から少しずつ、変わってきた彼だったけれど、
彼の瞳に宿す、何かに怯えたような光は消えることはなかった。

仲間を信頼しているのは確かだった。けれども、
ジェットと冗談を言い合って、お腹が痛いと言って笑い続けた時でも、
ピュンマと日本のお盆について、
説明していた自分が逆に彼から間違いを指摘された時でも、
博士が彼のメンテナンス中にちょっとしたサプライズをした時でも、
アルベルトがピアノを弾いてみせた時でも、
張大人が彼の誕生日にスペシャルメニューを用意した時でも、
ジェロニモが子猫を拾ったときでも、
グレートが、彼に変身してイタズラをした時でも、

どんな戦いの中にその身を置いても、

常に彼のこころの奥底には「孤独」の色がつきまとっていた。
そして彼の「外側」にしか自分たちは触れていない。
常に何か壁越しで彼に接していると、感じずには居られなかった日々。




朝、初めてキッチンに立つ2人をみたとき、
全員が全員、ジョーの変化に驚いた。


その仕草は、ゆったりと自信をもっていた。
物腰が落ち着く。とは、こういうことを言うのかもしれない。
慌ただしく、右へ左へと歩き回るフランソワーズの後ろに、
優しく彼女を包み込むような雰囲気で立ち、フランソワーズを見守るジョー。
フランソワーズに頼まれて、コップやお皿を取り出す、その動き一つ一つに
眼を奪われてしまうほど優美で、そして繊細なジョーの仕草。
時折、振り返ってお願いごとをするフランソワーズと交わす声も、
昨日と今日では雲泥の差で、優しく透き通るように・・・けれど、しっかりと芯の通った、
柔らかな声。人はこんなに優しい声を発することが出来るのか?と
誰もが疑問に思ってしまう。

おおらかで、ゆるやかな温かい雰囲気など、今まで一度たりともジョーの身から
発せられたことは、ない、はずである。


今、仲間たちの眼に映る彼は、
戦闘時の「009」でも、親から捨てられた過去を持つ「ジョー」でもない。

新しい「ジョー」だった。


その瞳に「怯えた色」は陰を潜め、新しい光が宿っている。

昨日と同じジョーであるはずが、ジョーでない・・ような。
突然の彼の変貌ぶりに、キッチンのドアに呆然と立ちつくした、
グレート、張大人、ピュンマ、ジェロニモ、そして朝から博士と共に
アメリカへ出発することになっていたために、普段は起きない時間に起きていたジェット。

面白いものが見られるぞ、と彼らをキッチンへ追いやった
アルベルトは、コーヒーを片手に、ダイニングで新聞を読んでいた。


「やだ! どうしたの?!」

フランソワーズの驚きの声に、一同がやっとジョーから視線をはずす。
ジョーもフランソワーズの声によってやっと、キッチンのドア前に立ち自分を凝視する
仲間達を見やった。

「なに?・・・」

少し戸惑ったように、けれども特別驚いた様子もないジョー。


「まあ!珍しい。ジェットが起こされる前に起きてるなんて!」
「う・・・ああ・・・あ、うん。」

急に話題を振られて、生返事をするジェットだが、彼の視線はフランソワーズではなく
ジョーに注がれていた。

「おいおい、通れないじゃないか・・・いったい朝から何事じゃい?」

キッチンのドアへと通じる廊下から、ギルモア博士の声。
博士の腕には先日目覚めたばかりのイワンが抱かれていた。

「あ、お、お早うゴザイマス、博士」

博士の声にいち早く答えたピュンマは、固まっていた思考をとくことに成功した。
彼らはもたもたとドアから移動し、キッチンへの道をあける。

「お早う。フランソワーズ、イワンのミルクはできてるかのう?」

そう言って、キッチンへと入っていった博士は、数分ほど前のみんなと同じように
ジョーを見つめ、固まってしまった。

その日の朝食は、
異様なほど静かだったが、フランソワーズとジョー以外の人間にとっては
朝の食卓で(脳内)会話がこの上なく盛り上がったことはことは言うまでもない。

====
アルベルトは、ジョーの口からその後、どうしたのか、何があったのかは訊いていない。
彼自身、訊く必要もないと思っていた。
それが良い方向へ行っていたのなら、なおさらである。
逆に結果が悪くなり、今後の「仲間」として動くときに支障が出ようとも、
彼にとってはさほど問題ではなかった。

ジョーもフランソワーズも、いつかはぶつかる問題であったから。
ぶつかるなら、早ければ早いほうがいい。
まだ、2人の気持ちが同じ方向へ向いているほど、
お互いが純粋な気持ちであればあるほど。
時間が経ち、沈殿した行き場を失った想いが積もれば積もるほど、
水が濁るように、
気持ちにも素直さがなくなり、意味のないすれ違いや勘違い、
誤解が生まれてしまう。

フランソワーズのは、それに近かった。
自分で自覚したのが早かっただけに・・・。
告白したのは結果的に偶然であったとしても、
遅かれ早かれ、ジョーに自分の気持ちを伝えなければならない状況に
追い込まれただろう、と。

ジョーのが張り巡らせた壁は、
自分たち、仲間に向けたものではなく、アルベルトの眼から見れば
フランソワーズ、ただ1人にに向けてのものだったのではないか、と彼は思う。
今となっては確かめる方法はないけれども。


仲間たちは突然のジョーの変身に驚いていたが、
あれが、本来のジョーの姿なのだ。


自分から逃げるのをやめて。
相手からも逃げることをやめて。

自分と向かい合い、
相手と向かい合い。

そして
一歩前に出てみた世界は、
彼を本来の姿へと導き、そして「男」としても成長させた。


人の想いを受け止める、自分の想いに責任をとる。
その覚悟が出来たということ。

護るものが出来たということ。


変わらない方が変だろう?


「なあに?ニヤニヤしちゃって・・・気持ち悪いわ。」
「ん? 嗤っていたか?」
「ええ、どうせスケベなコトでも考えていたのでしょ?」
「・・・まあな」
「!!」

食後のコーヒーを飲み終えて、
リビングでくつろいでいたアルベルトが、どこを見る風でもなく、
ニヤニヤとしていた様子がおかしくて、フランソワーズは声をかけた。

「出かけるのか?」

軽く自分がからかわれたことに気づいていたフランソワーズは、
少し頬を膨らませるような仕草で、アルベルトを睨んだ。
そんなコトはお構いなしに、話しかけるアルベルト。

「ええ、ジョーと下へ」
「たまには街まで連れて行ってもらえばいいだろうに・・・」
「夕方にはスーパーへ出かけるもの」

ジョーとフランソワーズはデートするわけでもなく、
依然と変わらず、昼食の前にギルモア邸近くの海へと散歩にでかける。

夏も終わりに近づいてきた。



====
空は高く、青く。
海は深く、青く。


フランソワーズは、ジョーの背中越しに、空と海を眺めていた。



「・・・フランソワーズ、謝らないで。」



遠くなく、それでも近くはない、あの日。

莫迦な自分は彼が好きがだと行った世界へ逃げたかった、あの日。

彼の手によってその世界から引き戻された、あの日。






「・・・フランソワーズ、謝らないで。」


ジョーはゆっくりとフランソワーズの所へ近づいてきた。
彼は床に膝をつき、俯いたフランソワーズの顔を覗く。
フランソワーズは思わず全身に力を入れて、身を固くし、
体育座りのように両膝を腕に抱いて、顔を埋めた。

丸く、小さくなるその姿は、全てを否定するように。

「・・・・忘れることなんて出来ないよ」

喉の奥から絞り出すような声。

「忘れたく、ないよ・・・・。でも正直に、言うと困る。」

ジョーの「困る」という言葉に、彼女の体が揺れた。

「僕なんかが、君の気持ちを受け止める資格なんてないんだから。
・・・・・・僕は、こんなにダメな人間なんだし。」

フランソワーズは黙って彼の言葉を聞いている。

「独りの方が、楽だと思ってた。独りでいる方が慣れてたから。
人を・・・信じるのはとってもエネルギーがいるって、知ってる?
期待をすれば、期待をするだけ・・・疲れるんだよ。
どんなに求めても得られないものを、いつまでも追いかけ続けるって、
本当に強い人じゃないと、堪えられないんだ。

諦めるってことを覚えたのは、いつだろうな・・・。
でも、諦めきれない場合はどうすればいいんだろう?

・・・だったら、逃げてしまえばいいんだよね。
何もかも「知らない」ように自分をコントロールすれば、
それだけで、僕は楽だったんだよ。

君の気持ちも知りたくなかった。
今までの生活が心地よかった分・・・・余計に。」

ぐっと堅く握られたフランソワーズの手にさらに力がはいる。

「・・・・でも、はっきりと君の口から聴いてしまったんだよね。
もう、知らないふりはできないし、君を避けることも出来ない。
だから・・・ねえ、フランソワーズ」

ジョーはゆっくりとフランソワーズの手の上に自分の手を重ねてた。
そして、その手は彼女の手から肘、二の腕を優しくなでるように、上へと上がっていき、
彼女の肩で止まる。

「・・・フランソワーズ」

ゆっくりと彼女の名前をささやく。
何度も、何度も。

「フランソワーズ」

ジョーの手は、彼女の髪を優しくなでていた。
彼女の髪は海水で、濡れている。
冷たくなったその髪を愛おしそうになで続けるジョー。

「フランソワーズ」

ジョーは少しずつ顔を彼女の耳元近くまで近づけて、
フランソワーズの名前を呼び続ける。

「・・・・フランソワーズ、僕はまだ本当の意味で
人を好きになったコトがないんだよ。・・・人を好きになるっていう感覚が
イマイチ解らないんだ。どこかにそういう感情を忘れてきてしまったのかな。
・・・それとも生まれたときから、持ち合わせていなかったのかもしれない」

フランソワーズはこんなに長く、たくさんの話しを、
彼自身の気持ちを語るジョーを知らない。

次第に、彼の言葉に誘われるかのように、
全身をまとっていた力が徐々に緩まっていくのがわかる。
それでも、ジョーの顔を直視する勇気はまだなかった。

ジョーも少しずつではあるが、彼女の力が抜けていくのを
その手で感じていた。

「そんな、僕でも・・・君のことが気になって仕方がないんだ。
君が哀しいと、すごく辛い。君の姿が見えないと、胸の奥がぐっと苦しくなる。
君が笑ってくれると・・・ぼくはその日一日がすごく特別なことのように感じる。

こんな風に人を想うことって生まれて初めてで、
怖かった。

すごくビックリして、こんな気持ちで君を見てたらダメだと思った。」

ジョーはぴたりと、その手を止めた。

「もしも、もしも・・・・。この気持ちを君に知られて、
君が、僕のもとから去っていったらと思うと、怖かった。
だから、君に知られたくなかったし、君が僕のことを好きになって欲しくないとも思った」

ぴたり、と止めたジョーの手に微かな振動を感じた。
ゆっくりと、ゆっくりと、フランソワーズは顔を上げていく。
髪が邪魔をして、彼女の横顔が隠れているため、その表情を見ることができない。

「・・・私が好きになったんだもの。かってに・・・・
ジョーの気持ちとか、関係・・・なかったの・・・」

細い声でフランソワーズは答えた。

「僕は、最低な人間だよ?」

フランソワーズは微かに首を横に振る。
ゆらり、と彼女髪が揺れる。

「君を傷つけるだけで、何もしてあげられない」

同じように、首を横に振る。

「僕は、いったい誰なのか、自分でもよくわかってないんだよ。
そんな中途半端な人間なんだよ」

少しずつ左右に首を振る力が強くなっていく。

「・・・はっきり言って、自信がないんだ。君は特別だけど
それが好きって言うことなのか、どうか・・・それでも・・・


君は待っててくれる?



僕が、ちゃんと・・・・・・・」

ジョーは言葉を続けることが出来なかった。


突然に彼の顔を覆ったフランソワーズのからだ。
しっかりと、彼の頭を胸に抱きしめた。


「・・・・僕がちゃんと君に好きって言える、その日まで」



彼の言葉は、フランソワーズの胸の中に消えていった。



「・・・私、ジョーが好き。
あなたが、どう感じても、おもっても、私の気持ちは変わらないの。
だから、あなたの気持ちを待つなんて考えない。

ずっと、好きだから。

好きでいてもいい?

私は、ジョーを好きでいてもいい?」


ジョーはゆっくりとフランソワーズの包容から離れた。
そして、彼女の顔をしっかりとみつめる。

綺麗な碧の瞳が涙に溢れている。
ナイトスタンドにある、小さな電球の光に照らされて、
キラキラと輝いている。

====
「好き」と言葉にしてしまうのは、とても簡単なコトかもしれない。
この気持ちを素直に表すのは、「好き」と言う言葉が一番適しているかもしれない。

言ってしまえば、楽になるのも確か。
けれども、言ったからこそ失ってしまう感覚も、あるのかもしれない。

この想いを、どう表したらいいんだろう?
この想いは、言葉として言い表すことができるのだろうか?




「愛してる」







ざああっと、強い風が舞う。
「キャア・・・」っと小さなフランソワーズの悲鳴。
風に巻き上げられた砂が彼女の眼に入ってしまったのか、
彼女はごしごしと手でこする。

彼女の声を聴いて、振り返ったジョーは慌てて彼女に駆け寄り、
眼をこする手を止める。

「ダメだよ、こすったら・・・・」
「う~・・・・だって、砂が・・・」

彼女は眼に涙を溜めて、訴える。
どうやら左眼に砂が入った様子で、彼女はウィンクするように固めを閉じている。

ジョーはフランソワーズの顔に手を添えて、自分の方へ傾けさせる。
顎を突き出すように、ジョーの方をみる、フランソワーズ。

「眼、開けられる?」

痛がる彼女の眼をのぞき込む。

「・・・」
「・・・・ああ、大丈夫。砂はとれてるみたいだよ?」



空と海のように
澄んだ青い瞳。


吸い込まれるような、青い世界がジョーの目に映る。



「愛してる」



「・・・え?」

声にならない、唇だけの動き。
彼女はそのジョーの唇の動きを読んだ。


青い世界は閉じられた。
ジョーはそれ以上、何も言わない。
フランソワーズも、何も言うことができない。

ゆっくりと重ねられた唇から、先ほどジョーが吸っていた煙草の香り。


end.

N.B.G投稿作品
(いつもお世話になってます・・・)


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