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ひとりじゃ眠れない/ひとり、を。ふたりに。



ふと、したきっかけで。
フランソワーズは兄、ジャンを思い出してしまった。











仲間の中で唯一異性であるフランソワーズは、多くの場面で”女の子”だからと、特別に扱われるが、それと同じくらいに、多くのことで、”男”と変わらない扱いを受けている。


時と場合によりけりだけれども、統計的にみて50/50だと思われる。






そのせいなのか。
フランソワーズの生まれもった性格のためなのか。

表情豊かなフランソワーズは、こころで感じるままに素直に気持ちが顔に出る。と、思われているせいか。

誰も彼女が毎夜見る夢に、悲しみ染まる瞳をおおう瞼を、冷たいタオルを乗せて過ごす時間があることを知らなかった。







「なに、してるんだい?」


びくん。とフランソワーズの躯が跳ねた。


「こんな時間に、お腹でも空いたの?」


なんとも彼らしい質問に、フランソワーズはほっと胸を撫で下ろした。


「まだ、起きてたの?」
「本を読んでたんだよ。・・・気がついたらこんな時間になってた」
「何か、飲む?」
「ん」
「麦茶、牛乳、オレンジジュースに・・・、温かいのがいい?」
「麦茶」
「氷は?」
「いらない・・・・・、それ何?」


フランソワーズの手にあるものを見て、ジョーは冷蔵庫前に立つ彼女に近づいて、不思議そうにフランソワーズを覗き込み、呟いた。


「アイスノン?頭痛でも...?・・・・目がうさぎ?」




つらそうに、渇きかけた碧にまじった赤を、手に持った”アイスノン”で消す前。


「泣いた、の?」


フランソワーズは何も言わずに微笑んだ。
それはいつものように、花が咲くような明るさをたたえているが、瞳元の腫れはごまかせない。



言葉で、ごまかす。


「アタシもね、読んでいたの。悲しいお話の本だったから、だから、ね?」
「どんな本?」


フランソワーズは冷蔵庫を開けようと、手を伸ばす。
ジョーの麦茶を用意するために。しかし、冷蔵庫を開けられない。

ドアを、009が手で押さえているから。
困ったような視線をフランソワーズはジョーにむける。と、彼の真剣な、・・・そこに009の眼差しとぶつかり、驚く。


「どんな本で、泣いたの?」
「ええっと、ジョーが好きじゃないジャンルの本」
「なんてタイトル?」
「い、いいじゃない、そんなの」
「タイトルは?」
「教えても、ジョーは読まないでしょ?」
「読む」
「・・・・・」
「キミが泣いた(泣かせた)本が、どんな内容なのか、知りたい」
「・・・」
「言えないの?」
「あ、ええっと、あの・・そう、忘れちゃったわ!」
「泣いてしまうくらいに感情移入してしまった本のタイトルを?」
「s、そう、ほら、それくらい、お話に夢中で」
「じゃあ、その本を貸して」


009は命令する。


やっと落ち着きを取り戻しかけていたこころの波が、再び大きく荒れ始めた。
碧に混じる紅にうっすらと溢れ出した、露がぽろぽろと落ちる。


「ボクが泣かせたみたいじゃないか」


薄く、下唇を噛み締めて、そっぽをむいてしまった彼は009ではない。


「ジョーの、せいよ・・・・」
「ボクじゃない。何がキミを泣かせるんだよ」
「・・・もう、会え、・・・会わないと決めた、人」


人。





誰だよ?










アタシが愛している人。
アタシと血を分けた人。
アタシが生まれたときを知っていて、アタシが人であったころを知っている人。


アタシがバレエを始めたときも、アタシが初めて舞台にたったときも。
辛くて、悲しくて、寂しくて、・・・そんな夜は、ホットミルクに、一粒のチョコレートを手に、部屋をノックする、人。




「大切な、人、私の大切な、大好きな、兄さん・・・」















「どんな人?」
「優しい人」
「どんな風に優しいの?」
「・・・温かくて、アタシのことを大切に、いっぱい愛してくれて・・・。生まれ変わっても、また兄妹になりたいくらいに、素敵な人」
「どんな風に素敵なの?」
「とってもモテるのよ、ジャンは・・・。自慢の兄なの。みんな、羨ましいって言ってくれるのよ。ジャンにとって私が一番なの。私を一番に考えてくれるの」
「一番、なんだ?」
「そう、一番なの・・・。お嫁さんになりたいって、小さい頃に言ったら、駄目!って。フランソワーズは僕の妹だから、お嫁さんになると僕のそばにいなく、そばに、いなく、いな・・・く、な・・・」


頬に描く、色のない絵の具が光の加減で、きらり。と、光り、フランソワーズの頬に線をひきつづける。

ぐっと、喉に力を入れたために、フランソワーズのふっくらとした、色つや良い唇が真一文字を結び、芸術的なラインをつくる顎が上下した。
それは、彼女が我慢した嗚咽のせい。






寂しい夜は、誰にもで訪れる。
色々な形に色に変えて、淋しい夜は訪れる。


温かさを知っている分に、その寒さはよけいに寒くて、寂しい。


知っている分に、淋しい。





どんなに着膨れても、どんなに毛布を、布団を重ねても。
部屋の暖房をmaxにしても、寒い。


寒くて、ひとりじゃ眠れない夜は、誰にでも訪れる。





でも・・・ひとりを、ふたり。にしてくれていた人は、いない。



そばにいない。

ジャンはいない。




瞳が溶けてなくなるほどに泣いても、

声がおばあさんのように嗄れるほどに叫んでも、

ジャンは温かいホットミルクと、1粒のチョコレートをもって、部屋のドアをノックすることは、永遠にない。

もう二度と、ない。



ない。









冷蔵庫のドアにいつの間にかジョーはもたれかかっていた。
フランソワーズとむきあって、見下ろす彼女の元気のない髪に、キッチンのライトは薄く天使の輪を作る。

背中に、冷蔵庫の微かな振動を感じて。
その振動が、ジョーのこころをも揺らす。




「寂しいのに、どうして言わないの?」
「・・・・言うような、ことじゃないわ。そうでしょ?」
「悲しくて、泣きたいのを、どうして秘密にするのかな?」
「・・・・・だって」
「隠しておくと、もっと悲しくて、寂しいままだと思うけど?」
「でも・・・」
「・・・・・みんなに言えないなら、ボクに言えばいいよ」
「ジョー、に?」
「うん」
「・・・でも」
「フランソワーズ、寂しい?」
「・・・・」
「逢いたい?お兄さんに、逢いたい?」
「・・・・」
「恋しい?」
「・・・・・・あ、い、・・・たいわ」
「淋しいんだろ?」


フランソワーズはジョーの言葉に戸惑いがちに頷く。が、その顔を上げる事ができない。
ジョーは、そっとフランソワーズの元気のない、しっとりと手に絡まるハチミツ色の髪に触れて、彼女の後頭部に、あてた手のひらに力を入れると、引き寄せて自分の肩で彼女の流れ落ちる色のない、しずくを受け止めた。


「寂しいよね、フランソワーズ・・・お兄さんに逢いたいんだよね?」
「っっ・・・寂しい・・・あいたい、あい、あ、あいたいのっ・・あいたいっ、あいたいわっ、ジョーっねえ、あいたいのっジャンにっ!!ジャンにっあいたいっ!!」
「うん、我慢しなくていいよ・・・ちゃんと声に出して、言いなよ・・聞いてあげるから」





ひとりで、泣かないように。
ひとりで、悲しまないように。

ひとりで、寂しがらないで。




ボクがいる。





眠れない夜には、かならずボクはキミのそばにいるから。
こころに閉じ込めていた声に揺れる肩を抱きしめてあげるから。

キミの頬を伝うしずくを全部、この肩に。
寂しさに潰される憶いを、あずけてほしい。





「あいたいっ!ジャン、ジャンっっ!!!寂しいのっどうして?!どうしてっそばにいてくれないのっ!どうしてっ!ジャンっあいたいっ、寂しのよ、アタシが一番だって言ってくれたのに、そばにいるって言ってくれたのにっジャンっ!」








ジャンの代わりには、なれない。
ボクは、ジャンじゃない。






今、キミのそばにいるのは、ボク。
今、キミの寂しさを受け止めているのは、ボクだよ。








声をあげて、泣いて。
訴えるキミを支えて。








キミがジャンを、兄を、恋しがって、寂しがるのに、会った事もない、その人に嫉妬する自分が情けない。



















「今夜はひとりじゃ、・・・眠れないだろ?・・・・そばに、いてあげるから・・・」





彼の肩に押し付けた、頬が温かくて、涙で湿ってしまった彼のシャツが嬉しくて。

でも・・・・・。









「ジョー・・・もう、大丈夫」










キミの大丈夫は、003のキミだけで、十分だよ。





ボクはキミのそばにいるのに。
キミはボクのそばにいない。





「よくないよ、こんなに泣いて、寂しがるキミを・・・ひとりになんかさせられない」
「ジョー、・・・でも」
「ひとりになんか、させないよ?・・・ちゃんとキミが眠るまでそばにいるから」



キミがボクのそばにいなくても、ボクはこうやってキミのそばへと駆け寄っていく。






「あの・・・ね?」
「なに?」


ほうっと、あたたかな溜め息がフランソワーズからこぼれた。
彼女はもう、泣いてはいない。
フランソワーズが泣いていた跡だけが、頬を濡らした光る路と、あかく、腫れたぼったい目蓋だけが、彼女の憶いを記す。


「・・・張大人が、キッチンを使いたいみないで、でも・・入って来れないみたいなの・・・・・ずっとウロウロ、してるのよ、さっきから・・・ダイニングルームの、影で・・・」


?!



朝!?
もうそんな時間?!




ええっっ・・・・っと。と・・・・と・・・。








ジョーの肩から顔を上げた、フランソワーズは目元をぶっくりと腫らしたままに微笑んだ。
赤がまじる碧だったけれど、いつもの碧の輝きに、頬があがる。




「部屋に戻るわ。さすがに、こんな顔だと・・・ジョー・・・ありがとう!」


ぱっと、離れた躯の重さを、追いかけたい。と、ジョーは思う。けれど、キッチンをのぞく丸い鼻が、照れているのか、邪魔してしまったこと困惑しているのか、それとも続きがあるのかと、訊ねるように揺れていた。







当分、ジョーの躯にしみ込んでしまった、フランソワーズの零したしずくたちが、彼を眠らせてくれないだろう。
















「ジョー、い、いいアルか?」
「いいよ、おはよう大人」


キッチンカウンターの隅っこに、ひょっこりと顔を出した大人。


「キッチンで立ったままだと、ムードもなにも、その先に続かないアルヨ?せめてリビングルームなり、部屋なりに、連れて行くことをおススメするネ・・・。次回はがんばるアルヨ・・・」






どうも、貴重なアドバイスをありがとうございます。









いつからいたんだよ・・・・。

油断も隙もないっていうか、この邸にいるかぎり・・・。








いや、別にそういうのは、その、ねえ・・・フランソワーズの、確かめたこと、ないけど...。
その、それなりに・・・、そう、それなりに・・・・・・。


「大人、お腹空いた」
「はいはい!今用意するネ」





それなりに、っと、言う事で自分の気持ちをごまかした。









いつかの未来に、ひとり、でなく、ふたり。で、眠れない夜を優しく包み合える日を願って。



























*パターンだ。・・・パターンです、定番です・・・切ないのも難しい。*
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