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Day by Day・5
(5)




フランソワーズが目を覚ました時には、すでにみんなは夕食を終えていた。
彼女が最近、体調を崩し勝ちだったことをギルモアから聴いていたのだろうか、コズミ博士はフランソワーズを心配して、そのまま泊まっていくことを促した。
今日はコズミ博士の言葉に甘えよう、と言い出したのは、夕食時に出された酒によって気持ちよく酔っているジェットではなく、アルベルトだった。彼にしては珍しい、とフランソワーズは思った。


「それなら、ジョーも飲めるしな」


ジョーは帰りの運転のために出された酒に一切口をつけていなかった。


「せっかくなんじゃ、たまにはウチで遊んでいってくれたまえ!」


嬉しそうに言うコズミ博士。
大きな屋敷に1人住まいでは、やはり寂しいのかもしれない。

通いのお手伝いとして、ミツエ。と、言う女性がいる。
長くコズミの家に出入りしている女性だが、ここ2ヶ月ほど、諸事情により休みを取っていた。

さくらがコズミ博士の元に下宿し始めたのもほんの1ヶ月前ほどからと言う。
しかし、やはり相手は友人の大切な娘であり・・・とても仲が良くみえるが、無意識に何かと気を遣っているのかもしれない。
フランソワーズはコズミ博士が酔っているところを初めて見た。

顔を紅く染めて、八の字眉がさらに目尻とくっつきそうなくらいに下がっている。
いつもより大きな声で話すが、すこし呂律が怪しくなっていた。


「ギルモア博士なら大丈夫だと思うよ。・・・もしかしたらこうなることも予想していたかもね」


冷酒を小さな透明のグラスに手酌で飲むピュンマ。
彼もいつもよりも酒がすすんでいるように思えた。


「フランソワーズは、帰りたい?」

注がれたビールには手を付けずに、ジョーは優しくフランソワーズに訊ねた。
ここで今、「帰りたい」と言えば、ジョーはみんなを置いて自分だけでも連れて帰ってくれるだろう。
確信めいたものが頭によぎる。本音を言えば、帰りたいと思っているフランソワーズだったが・・・
ひと目この酒盛りの場を見てしまったら、「帰りたい」と言うことが酷く我が儘で、みんなが楽しんでいる場を壊すことになる、と思った。
そんな彼女のこころの動きを知っているかのように、ジョーは言葉を続ける。


「今は、キミの気持ちを優先したい、ボクたちのことは気にしなくていい、よ」


ジョーはフランソワーズを安心させるかのように微笑んでみせた。
ジェットとジョーの間に座っていたさくらは、ジョーとフランソワーズのやり取りを聴きながら、ジョーに甘えるように、彼の腕に自分の腕を絡めて甘えた声を出す。


「え~~~~~~~!帰るの~~~~~~~~?ジョー帰っちゃうの???どうしてぇ?みんな楽しいのに、せっかく仲良くなれたのに?」


そんなさくらの甘えた非難の声に同調するように、ジェットもさくらの物真似をして、いつもよりも高音で不気味な声色で文句を言った。


「え~~~~~~~!帰るのかよ~~~~~~?ジョー、お前飲んでね~じゃんかよ~!
なんでだよぉ、みんなで楽しんでんのによぉ!フランソワーズ、お前も飲め!!!」


ぐいっと溢れんばかりにビールが注がれたグラスをフランソワーズに突き出すジェット。無茶させるな、と言いたげに、フランソワーズに突き出されたグラスをひょいっと取り上げたのは、アルベルトだった。


「ジョーの言うとおりだ。フランソワーズ、お前が帰りたいのならオレたちは気にするな、帰ればいい。明日はゆっくりと電車にでも揺られて帰る」


フランソワーズの気持ちや体調を気遣って言ってくれているのは解るが、少しばかり「帰れ」と言われている気がしないでもない。違うと解っていても・・・、素直に「帰りたい」と言えるような雰囲気ではない気がした。


「せっかくですもの。みんな楽しんでちょうだい。ジョー、私は大丈夫よ。コズミ博士もああ仰って下さってるんですもの、今日はお世話になりましょう?」


わざと明るく普段よりも少し強めに言い切った。ジョーはフランソワーズのその返事に、少し首を傾げて表情は、「大丈夫?」と語りかけている。それも解っていたので、フランソワーズは笑顔を始終絶やさずにいることが、今夜の最後の仕事となった。













####

酒盛りは朝方まで続けられたようだったが、フランソワーズは早々にその席を外れて、先ほどまで横になっていた部屋に戻っていた・・・さくらと一緒に。さくらは「もう降参!」と言い、部屋へと戻るフランソワーズと共に酒盛りが行われていた部屋を出た。そして、せっかくだからと、フランソワーズと一緒に寝たいと言ってきたのだ。

酔って勢いのあるさくらに言い負かされて、彼女の申し出を受け入れることしかなかった。
フランソワーズの布団の隣に部屋からもってきた布団を乱暴にひき、フランソワーズは小さなため息をさくらに気づかれないように吐いて、彼女の布団を綺麗に調えた。


「せっかくだもの!!!色々お話しましょ~!」


彼女は寝る気がないらしい。

電気を消さずに、布団へ入り込む。
フランソワーズから口を開くことはない。
今日の車内で話していたように、彼女は明るく会話を始めるものと思われていたが、フランソワーズの予想に反したものだった。


「みなさん、とっても素敵な人たちですね」


しっとりと、その年令よりもずいぶん大人びた声色でフランソワーズに話しかけた。


「・・そう思う?」
「はい!・・・とっても。今日みたいにショッピングできて本当に楽しかったし嬉しかったんです」
「私たちよりも・・・きっと大学へ通えば、もっと素敵なことが沢山あるはずよ」
「そんな・・・今日は本当にすごく楽しみにしていたし、楽しかったです。とっても嬉しかったんですよ、
まさかジョーも一緒だと思ってなかったし」


さくらの言葉に、フランソワーズは反応する。

ーーーああ・・・ジョーが好きなのね?


フランソワーズはこれまでに嫌と言うほど訊ねられた、あの言葉を再び聞いてしまうのかと、憂鬱になる。彼女は胸の中で次ぎに出てくるだろう、さくらの言葉を予想した。


「あの・・・聴いてもいいですか・・・」
「なにかしら?」
「ジョーは彼女がいるんですか?」
「・・・・」
「フランソワーズさんが実は・・・ジョーの彼女・・・さん?」


さくらはフランソワーズが予想した通りの言葉を口にした。
自分のカンの良さというか、これまで何度も訊ねられた経験と話の流れで、彼女”たち”が何を自分に尋ねたいのかがわかってしまう、自分に胸が痛んだ。フランソワーズの口からも再び、何度も言った言葉を口にしなければならない。グレートではないがその科白を言うときの演技力はなかなかのものだと思っている。


「私はジョーの彼女じゃないわ」


さくらの瞳を見つめてしっかりとした口調で、さらに優しく穏やかに、笑顔を保ったまま話しかける。


「彼とは・・・色々な理由があって、縁あって、ギルモア博士を通じて今は一緒に暮らしているけれど、
私にとってジョーは大切な、大切な家族なの。アルベルトやピュンマと同じなの。私には、兄が1人いたんだけれど・・・今は一緒に暮らすことができなくて・・・ね。
それでついジョーやみんなを兄のように慕ってしまうのよ。みんなも私のことを”妹”と思ってると思うわ。だから、ね?さくらさんが心配するようなことはないのよ。私とジョーには・・・それと、彼に彼女がいるって言う話は今のところきいたことがないわ」


淀みなくすらすらと言葉が出てくる。
はっきりと言い切るフランソワーズの言葉は、さくらを安心させたようである。
フランソワーズの笑みに答えるかのように、彼女の顔は喜びと興奮を隠せない笑みが溢れた。


「じゃあ・・・応援してくれすか?」
「え?」
「私、あの・・・まだ数回しかジョーと会ったことがないし、
一日一緒にいたのも今日が初めてだったんです。もっとジョーのこと知りたいし・・・
知って欲しいんです、私のこと。だから”妹”でもある、一緒にいるフランソワーズさんに応援してもらえたらなって・・・駄目ですか?」


フランソワーズは答えることが出来ずにただ、微笑みがその顔に面のように貼り付けていた。
さくらにとっては、その笑顔が”了解した”と、受け止められたと思っていた。














####

昼前にはジェットとコズミ博士以外は全員起きていた。コズミ博士の家には通いのお手伝いさんの「ミツエさん」がいるが、土曜日の今日は彼女にとって休日なので屋敷を訪れることはない。他人の家の台所・・・と、立ち入ることに気が引けたフランソワーズだけれども、さくらが一緒だったので、幾分気持ちは軽かった。

以前にも使ったことがある場所なので、大体の物はどこにあるかが検討がついたが、ギルモア邸では朝はフランソワーズが作りやすいように、と言うか、ほとんど毎日彼女が作るので、彼女好みの朝食となっていた。
トーストとサラダにスープや、ホットチーズサンドにスクランブルエッグやポーチドエッグ。日によって代わるが、完全なる洋食がテーブルに並べられる。

ざっと冷蔵庫などを見たが、コズミ博士は完全なる和食派なようである。
どこにもトーストやパン類が見あたらなかった。


「少し時間がかかっちゃうけど、仕方ないわね・・・」


まずはお米を洗って、お湯をたっぷり用意して。と独り言を呟きながら朝食でなく、昼食の準備に取りかかった。








テーブルに並べられたのは、熱々の白米に、ネギ、豆腐、わかめのおみそ汁。
ほうれん草と黒ごまのお浸しに、だし巻き卵と、野菜炒め、そしてお徳用の冷凍されていた焼き鮭。
席に着いたピュンマと起きたばかりのコズミ博士が感嘆の声を上げる。
アルベルトは緑茶と人数分の湯飲みを乗せたお盆を持って入ってきたさくらに声をかける。


「すごいな・・・、ほとんどを海外で生活していたと聞いていたんだけれど」
「ち、ちがいます!私が作ったんじゃありません!私、料理はまったく駄目なんです!!」


アルベルトの言葉を遮るかのように慌てて、自分ではなく、フランソワーズが全て用意したと言った。


「フランソワーズが!彼女、日本食なんて作れたの!!」


素っ頓狂な声を上げて驚くピュンマ。
彼の記憶では・・・、日本食をギルモア邸で食べた記憶は一切ない。
それどころか、彼女は一度も作ったことがないように思われた。


「ここに居た時に、おみそ汁の作り方は簡単に教えたような・・・気がするが、帳さんも一緒になぁ」


コズミ博士はそう言いながら、ひょいっとだし巻き卵を一切れ口に放り込んだ。
ゆっくりと租借して、にんまりと笑う。


「たいしたもんだ。こりゃ上手い」
「ジョー、きみは知ってた?フランソワーズが日本食を作れたの」
「・・・作ってるから、作れるんだろう、ね」










ジョーはフランソワーズが日本食を作れることに、さほど新鮮な驚きはなかったが、今日のようにきちんとテーブルに用意された昼食には驚きを隠せなかった。

ずいぶん前の話しになるが、戦いの中で重傷を負ったジョーは、食欲がなかなか戻らず帳大人とフランソワーズを悩ませたことがあった。そのときにフランソワーズが「何が一番食べたいの?」と聞かれ、思わず「御飯とみそ汁」と答えたのだ。そんな物がすぐに用意できる環境ではないのはわかっていたが、つい口に出たのは食べ慣れた故国のそれだった。日本から遠く離れた、しかもドルフィン号での生活の中、そんな物が手に入ることはないと思っていたが、ジョーの予想を裏切って、翌日、フランソワーズがトレーに乗せてきたのは、白い御飯とおみそ汁だった。


「あまり上手に作れてないと思うの、ごめんなさい」と、ジョーが箸をつける前に謝ったフランソワーズ。

それ以来、ジョーが怪我をしたり、メンテナンス後の食事は主に”御飯とみそ汁とちょっとした何か”が定番になっていた。アルベルトとピュンマの反応を見る限り、彼らは知らなかったのだと、彼女が自分にだけにそのような食事を作ってくれていたことがわかった。そして、ジョーは彼女がそうやって日本食をたまに作ってくれていたことを、あえてここでは言わなかった。

フランソワーズはいつでも、どんな些細なことでも見逃さずに優しく、相手を思いやることが出来る女性であると、長い共同生活の中、十分に理解していたジョーだったが、今、改めて彼女の優しさに触れた気がした。














ジェットを起こしに部屋へ行っていたフランソワーズが1人で戻ってきて、昼食が始まった。
ジェットはやはり二日酔いがヒドイらしく、まだ起きられそうにないという。
フランソワーズが作った昼食に、口々に驚きと賛辞の言葉がテーブルの上を飛び交うが、フランソワーズはただ「大げさよ・・・食器が良いからそう見えるだけだと思うわ。それに帳大人の方がもっと上手に作れるわ」と、始終、彼女らしい謙虚な姿勢で恥ずかしがっていた。


「これからは、日本食も作ってよ」


ピュンマの言葉に、フランソワーズは微笑みながら「そうね、たまには作ろうかしら?」と曖昧に答えた。











####

ジェットが起き出してきた頃には日がすでに傾き始めたころだった。
思いの外長く滞在してしまったことを詫びながら、車に乗り込む4人。彼らが去るギリギリまで、さくらはジョーとジェットに話しかけていた。


「絶対よ!約束だから忘れないでね!楽しみにしてるから」
「おう!メールすっから、またな!」


そんな内容のやり取りが何度も繰り返され、車はコズミ邸を後にした。





フランソワーズは夕暮れの街を眺めながら、長かった2日間を思い出す。
そして、去り際の玄関先で・・・彼女はとても小さな声でフランソワーズにだけ話しかけた。


「応援、よろしくお願いします、ね」


さくらのその声がずっと耳に残って消えない。

応援と言われても、何をすればいいのかさっぱりわからない。
深く息を吸い込んで一気にはき出すことはせずに、胸に使えた鈍い痛みに触れないように
ゆっくりと息を吐き出していった。








=====  へ 続く




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こんな感じで・・・いいすっかね?


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