RSSリーダー
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2
Day by Day・72
(72)






偶然か、それとも・・・。

ギルモア邸のサイボーグたちが動いたと思われる、その翌日に、篠原秀顕の遺体が娘である篠原さえこ、その弁護士、そして篠原グループの役員たちによって発見された。
死後硬直が始まっていた遺体は篠原総合病院に運ばれ、死因を急性心不全(きゅうせいしんふぜん、acute heart failure)と診断される。

009と話していた内容から、さえこの頭にこの自体をふまえて、ある”推測”が立ったが、それを胸の奥底にしまい込んだ。
”マクスウェルの悪魔”であった自分と一緒に。



前夜、彼女は006と共に都内の篠原第三ビルを訪れた。
事前に呼び出しておいた部下たちの手で開かれた、緊急役員会議。
001と009がさえこに渡したファイルを手に、早急に今回の爆破事件の責任を求めて篠原秀顕に引退を促す準備を整える。そして、今回の事件によって取り沙汰されるであろう四友と篠原との確執を考え、マスコミに対する対応などの説明のために株主総会を開く事を取り決めたが、篠原秀顕の死が確認されたことにより、株主総会を開くまでもなく、篠原グループ役員の90%賛同を得て彼女が篠原グループのトップとなり、すべては彼女のシナリオ通りに事が進んで行った。

さえこは四友を傘下から外し、”提携・協力”企業”として和解。大げさな記者会見を開き、それを全面的にアピールすることにより、四友工場の爆破をただの定期点検中によるミスからの”事故”として、篠原グループの”コネクション”で、”たち始めた噂”を捩じ伏せる。

今後の予定として、篠原グループ内の余分な分野を切除し、広がりすぎた事業を篠原総合病院を軸にして縮小を考えているが、変わらず”発展”のための”新技術”を求めて、新しいプロジェクトを精力的に発信することを誓った。

月見里(やまなし)学院はの経営は変わらず、篠原が続けることを付け加えておく。
彼女が書いたシナリオ通り、月見里(やまなし)学院は爆破の規模からも被害は旧校舎のみに留まり、006の放った火により、表向き、老朽化した建物からの自然発火と言う形でマスコミなどの目に留まる事はなかった。




「当分、周りがうるさいわ。父の葬儀もあるし、当麻は当分、学院か、ここ(ギルモア邸)で護って・・・。彼は絶対に表には出さないわ、まだ、”条件”は有効でしょう?”あやめ祭”があるものね?こちらも協力するかわり、当麻をお願いするわ。・・・・・・・篠原黄金期もこれで終わり。・・・それより父の愛人達が目の色変えて”責任”を問うて来るのをサバくのが面倒よ」





ミッションの後片付けに追われる日々が始まり、新たなミッションとして”あやめ祭”があげられ、潜入捜索と銘打って学院生になったジョー、ピュンマ、ジェットは”あやめ祭”が終わるまで、学院生として滞在する。



「あ~あ・・・今日もまた面白くもねえ、野郎ばっかのとこに戻るのかよぉ・・・」



”あやめ祭”のシニア・オークションにて、津田海の石川斗織がサイボーグ技術によって作った義足を公開する予定は変わっていない。


「仕方ないよ!ジョーは篠原先輩と学院に戻る予定だし、明日から僕も戻るんだから、あと1日の我慢だよ!3人とも欠席なんて変だから、ジェットだけでも戻るって、そう決めただろ?いいじゃないか、毎晩こっちに”飛んで”戻ってきてるんだし、そんなに愚痴るなよ」



”あやめ祭”は篠原秀顕(石川斗織)が中心に進めていた”プロジェクト”であり、その表向きの内容とは別に”裏”の内容があり、さえこの協力を得て、それらの情報を得るが、篠原秀顕の死によってどのように”裏”に影響が出るのか判断し辛く、さえこの周辺の人物の動きを見るために007が当分の間、彼女の護衛係を勤める。



「はいはいはいアルヨ!今のうちジェットはたくさん食べるネ、学院の料理よりワタシの愛情たっぷり料理が一番アルヨ!」



サイボーグ技術に興味を示す人間たちが、世界中から集まる予定であり、その中には、裏世界の人間、もしくはB.G、N.B.Gに関わっていた人間が潜んでいないとは言い切れない。
今後のことを考えて、シニア・オークションで集まる人間たちを調査し、得られるだけの情報は収集しておきたいと言う009の意見に従う。

学院へ行く3人以外の00メンバーたちは爆破された工場は旧月見里(やまなし)学院、篠原本社へと足を運び、その他に”サイボーグ”に関する資料が残っていないかを調査を開始。



「004は、四友なんだろ?」
「そうアル、警備員になって捜索してるアルヨ!005は明日からネ!」
「爆破された場所以外も調べないといけないし、夜には僕も参加する予定だよ」
「んで、なあああああああんで、オレが学院なんだよ!」
「向こうもちゃん再捜索しないと、ジェットが任されてるだろ?我慢してよ!」
「ああったく、学院はもういいんじゃね?」



001が取り出して持ち帰った篠原秀顕の補助脳および”人工知能(Artificial Intelligence)から得た情報量は、ギルモア邸地下にあるメインコンピュータを使っても、全てのデータ解読に1年近くの歳月を要するために、まだ篠原秀顕がどこまで裏社会に接していたのか、関係していた人脈もはっきりせず、そして、N.B.Gの存在も霧の中。

それらの調査も始めなければならなかった。


「念には念を入れておくアルヨ!今までがんばってきたから、ここでミスはしたくないアルヨ!あやめ祭もあるからネ」
「じーさんの脳みそをカチっとコンピュータに繋げりゃぜ~~~~~~んぶ、答えがそこにあんだから、終わるだろおおっ!!こんな手間ひまかけなくってもよおおおっ!なんでオレがまだ、あんなところ(学院)にいなきゃなんでねえんだよっ!」
「補助脳のにあった人工知能(Artificial Intelligence)は、あの7つ目の景品の映像からジョーがプロファイリングした年齢と、データー量から見て、秀顕氏が21、2歳ごろに取り付けられているからね、・・・50年分の情報を1年くらいで解読できるなら、まだ早い方だと思うよ、ジェットの好きなお祭りがあるだろ?これからっ」


地下の研究室からダイニングルームへと戻ってきたピュンマは、地味なミッションの後処理に嫌気がさしつつあるジェットの愚痴に、笑顔で答えた。



「ジョーが戻ったらいいだろおおおっ!篠原ならピュンマ、お前と一緒だっていいじゃんかよっ!いったいアイツは何やってんだよっ」
「うるさいなあ!ジョーはジョーでいつもちゃんとしてるだろ?009はいいんだよっ!今回、役立たずだったくせにっ!」
「役立たずだとおっ!?どこがだよっ!!」
「役に立つなら、ちゃんと自分の仕事終わらせて今晩中に学院に戻ってよね!明日遅刻するよ?」


ピュンマはびしっと、ジェットが座るダイニングテーブルに広げられたファイルを指差した。
そして、リビングルームのドアを開ける。














####

津田海はギルモア邸のリビングルームにいた。

彼は篠原さえこが手配した篠原総合病院に入院する。
津田海の左足について、石川との関係を省いた上で、津田海のまわりの人間に彼の左足が”ない”ことにたいする埋め合わせを行うのだ。


「石川先生が・・・衝突事故で・・・・・・・・意識不明?」




石川斗織は事故を起こし、運ばれた先の病院で手術を受け、失っていた意識を取り戻したが、それはほんの一瞬の事で、彼は再び昏睡状態に陥り、いまだ目覚める気配はない。
術後の経過を見て篠原総合病院へと転移させ、アメリカにいる石川の養父母へ連絡を入れ、彼の意識が戻るのを待つのは、さえこ。


<僕ハ、知ラナイヨ。・・・眠ッテイルコトニ飽キルマデ 寝サセテオケバイイ>



忙しく走り回る中、どんなに短い時間でも、毎日石川を見舞うさえこの姿がみられた。










「手術は成功したんだけど・・・意識が戻らないそうなんだ」



ピュンマは静かに頷いた。

自分の身に起きたことを、いまだ完全には受け止めきれてはいなかったが、ギルモアの誠意ある言葉によって、自分の”左足”に使われていた技術などの説明を受ける中、少しずつだが、自分の立っている位置を理解し正面から向き合い始めていた。


「意識が戻らない・・・か・・・・・・・、なんだか変なの、なんだか・・」
「偶然、に思えないよね・・・。海が言いたい事は分かるよ・・・」


海はなんと例えればよいのか分からない、複雑な表情を見せて、くちびるを噛み締めた。
ピュンマは黙って、彼のこころが落ち着くのを待つ。


「いっぺんに、一気に・・・いろんなことが起きて・・・・・。眠っていたら死にそうな足の痛みが襲ってきて、・・・気がついたらSF映画のような機械に囲まれた部屋にいて、左足が・・・・・・石川先生が・・それに・・・」


津田海は、自分の足に使われていた科学技術は、まだ世の中に出る事が難しい、”認められない”技術を用いている。と、いうことのみ、石川斗織から説明を受けていた。


「・・・それに」


海は、自分の隣に座る、ダーク・チョコレートカラーの肌をした、出会ってまだ一週間しか立っていないのにも関わらず、生まれてからずっと一緒に育ってきたような感覚の、留学生を見つめる。


「それに、なに?」
「ううん、なんでもないよ・・・・ピュンマ・・・石川先生が同じ病院なら、会えるね」


海は自分は微笑んでいると、思っているのだろう。
けれど、ピュンマの瞳には、ぴくり。と頬が痙攣するように1度、引き攣っただけだ。


「うん・・・そうだね」


篠原さえこは、今後、全面的に津田海の失った左足において責任を負うと言い、篠原技研が作る義足が無料で提供され、今後、彼は”今現代の”最新技術で開発された足でグランドを駆けることとなる。



「・・・ぼくは結局ズルをしていたんだ・・・。自業自得だよね。足は、誰のせいでもない事故だったんだ。篠原のせいでもない。・・・ない、ものは、ない。のに・・・だけど」




海はギルモアに泣いてすがり、再び自分の”足”で跳べる事を願い、訴えた。


怒ることもなく、咎めることもなく、海の訴えを聞きながらも・・・手術をすることは出来ないという言葉を、ギルモア博士から聴かされ続けていたが、可能性があるのなら、取り戻したい。と、願った。

最終的に、それが不可能である理由と、危険性、そして今年の”あやめ祭”の実態について聴かされた上で、ピュンマから、彼と、彼の仲間たちの秘密を打ち明けられ、そして・・・。


「・・まだちょっと、・・・・時間がいるかも・・・わかってるんだよ、ピュンマ・・・自分でも・・でも・・・まだ」
「・・・・・うん、僕も海の立場だったら・・・同じだったよ」


けれど、彼のこころの中にはまだ、・・・諦めきれない思いが残っている。
口にこそ出さなくなったが、その思いは誰の目からみても明らかだった。


「ピュンマ」










海は、姿勢を正してピュンマを見つめた。
まっすぐに。



人であり、人でない、人。













「・・・あきらめてるの?」
「?」
「ピュンマは、あきらめるの?」
「諦めるって・・何を?」
「サイボーグになっても、別に普通に生活できるんだよね?」
「う、うん」


いまだ海には実感がない。
彼がサイボーグだと、ギルモアを除いたこの邸で出会った”人”、全員がサイボーグだということに。


「足がなくても、走りたい、跳びたい。・・諦めたくない・・だから・・・・諦めないでいい方法があるなら、ぼくはそれを諦めたくないっチャンスがあるならっ、ぼくは何だってするっ・・・したい・・・」
「海・・」
「同じだと思うんだけど?・・・・・・・・ぼくの気持ちと、違うのかな?」
「・・・海?」
「このまま、ピュンマは学院を辞めてしまうの?」


話しが自分に向けられて、ピュンマは驚く。


「え、ええっと・・僕?・・・あやめ祭まではいる、けど・・その後は・・・」
「辞めるんだ?」
「海…?」
「サイボーグだから?」
「違う、よ、違う。・・違う、とは言い切れないけど、でも、それは」


玄関に通じる、吹き抜けの広間へ通じるドアが開いた。


「迎えの車がきた。」


ジェロニモがリビングルームに入って来る。


「・・・・なんで学院にきたの?って訊いたときに、ピュンマが言ってくれた夢は、あの学院なら現実に叶うと思ってるよ、ぼく・・・・」
「っ?!」
「・・学院で会おう」


ジェロニモは海を軽々と抱き上げると、玄関へと歩き出す。
ピュンマは、呆然とその背を見送っていた自分に気づき、慌てて追いかけてリビングを出ると、そこにはギルモア、ジョー、フランソワーズ、そして、篠原当麻がいた。


「お世話になりました」


ジェロニモが玄関前で足を止めたために、海は短く、ギルモアにむかって挨拶した。


「・・・海くん、儂は・・・・・・儂は」


それをしない。と、9人の息子たちに誓った。
けれども、誓いはあくまでも”サイボーグ”である。



戦うための、兵器ではない。





---自分は誓ったのだ。



彼が望むものは・・・・・。



---自分は誓ったのだ。



何度も、何度も、何度も、ギルモアはこころの中で葛藤をし続けていた。







「新しい左足と一緒に、遊びにきますねっ」


明るい、とは言い難いが、しっかりとした海の声に、重力に負けていたギルモアの頭が、はっ!っと跳ね上がった。


「海・・くん・・・・」


ピュンマの後に続いてジェットも姿を現した。

ジョーは黙ったまま少し離れた位置から、ギルモアの背を見守っている。
その視線の中で、フランソワーズが、っとギルモアを思いやるように寄り添った。
ギルモアが何を言わんとし、何を胸の内で葛藤しているのか、その表情(かお)から読み取れる。


ジェットはジョーの隣に立ち、海を見送る。
ジェロニモは、海を抱えて邸の玄関を出て行き、その後をピュンマがついて歩く。




空の色が青を失い、あざやかな夕焼けの色を一面に飾った額縁となったのは、左右を開け放ったギルモア邸の扉。



「ジョー、お前ちゃんと生きてんのかよ?」
「・・変なこと言うね」


囁くように、ジェットは隣のジョーに話しかけた。


「報告、してねえじゃんかよ」
「何を?」
「報告義務があんだろ?」
「・・・報告はすませた」
「結果だけな、何があったか詳細は訊いてねえぜ?」
「報告した意外に、何も無い」
「・・・・・・・嘘つき野郎」


どんっ!と、ジェットはジョーの二の腕に拳を突いた。
ジョーは、ちらり。と自分の隣に立つジェットに視線を向けたが、すぐにまた視線をギルモアへと戻す。



「ギルモア博士、・・・・・お話があります」


厳かにジョーはギルモアに声をかけ、その声に振り返ったのは、ギルモアではなくフランソワーズだった。


「ジョー、今は・・・」
「・・・先に、(研究室へ)行ってます」


フランソワーズの言葉に何も答えずに、ジョーはリビングルームへと向かう。
その背にむかってジェットは舌打ちし、フランソワーズに向かって言った。


「おいっ、あの野郎に何があったんだよっ!!フランソワーズっ説明しやがれっ」


フランソワーズはただ、首を左右に振り、ギルモアへと視線を落とす。


「私が・・・知りたいわ」


当麻は、そんなフランソワーズだけをじっと見つめていた。



















####


<009・・・>

だらりと腕を下げて、その手にスーパーガンを持ったままの009の前に、動かなくなった秀明を見下ろす視線を遮るようにして現れた001は、言った。



<きみハ 人殺シ ジャナイ。 犯罪者ジャナイ>
「法律で・・・・裁かれないから?」
<違ウ>
「彼は”篠原秀顕、だったよ・・・」
<ソレガ ドウカシタノカイ?>


ふっと、口元がいびつに歪んだ。


「まるで004、みたいな言い方だね?」


009の声は枯れて、引き攣っていた。


<・・・・・じょー>
「・・・」
<終ワッタンダ、モウ ここニ君ガ居ル必要ハナイ」
「・・・後処理が残っているだろ?このまま、秀顕氏の両足と・・・頭部の補助脳と人工知能(AI)を放っておく、ことは、できない」
<ワカッテイル。ソレハ僕ガスル>
「・・・・・・うん。そうしてくれると助かる、よ」
<じょー>
「・・・・パラライザーをmaxで打ち込んだ、彼の死因は心停止で、通じる?」
<少シ細工ヲシテオクヨ>
「頼む」
<君ノセイジャナイ>




「彼は篠原秀顕だった・・・・・」







---ソレガ、彼ガ選ンダ道ダッタンダ。
 ソレガ、彼ガタグリ寄セタ糸ダッタ。
















加速装置を噛んだ、009を見送った後に001は邸に戻り、揃っていた仲間たちへの報告を始めたころ、001がテレポートで姿を現した。
篠原秀顕の両足と、人工知能(AI)チップが埋め込まれた補助脳とともに。

その補助脳は研究室から通じる部屋にあるメインコンピュータに繋がれている。
人工知能(AI)チップが、メインコンピュータを取り込まないように、それを外した状態でデータの読み込み、解読が進められていた。







「・・・話し、とはなんじゃ、ジョー?」


地下の研究室に向かったジョーの後を追うようにして、姿を現した。
そこにはイワンもいる、が、夜の時間が近づいているために、彼はウトウトと浅い眠りについていた。


「篠原当麻と、学院へ明後日には戻ります」
「おお、そうじゃのう・・・その方がいいじゃろう、ピュンマもか?」


研究室に置かれている、ギルモア専用のでデスクチェアに腰を下ろしながら、ジョーの言葉を聞く。
ジョーは立ったまま、視線を床に落とした状態で会話する。

「ピュンマは・・そうですね、同じになると思いますが、明日からでも大丈夫でしょう。それは彼にまかせます」
「うむ・・・それで?」


ギルモアはジョーに”本題”に入る事を促した。


「・・・・博士が取り除いた・・僕の補助脳にあった端末を、元に戻してくれませんか?」
「なっ・・?!」
「そうです。・・・・・秀顕氏の人工知能(AI)と僕の補助脳を繋げて、・・・・ソースコードを読み込みます」


視線をあげて、ジョーははっきりと自分が何をしたいかを告げた。


「っならんっ!!絶対にっそんなことをしてはならんっ!!」


ギルモアは飛び上がるようにして腰を下ろしたばかりのデスクチェアから立ち上がる。


「・・・魔神像は、もう存在しません。僕がこの手で、この手、で、破壊しました。ですので、僕は自分を”失う”ことはないし、命令されることもありえません。・・・人工衛星の方も、次の001の昼の時間には処理できる予定ですし、その人工衛星とコンタクトを取れたとしても、僕が魔神像から受信するはずだったものとは、全くの別物でしょう。・・・僕が直接彼の補助脳から必要なデータ(情報)をトレースすれば、早く済みます・・・NBGのこともより早く分かります」
「馬鹿を言うでないっ!!補助脳を繋げるという事はだなっその人間のデータを、こころを、生きてきた歴史を、何を考え、何をしてきたか、すべてを”知る”ことになるんじゃっトレースするなぞっ!あの補助脳には人工知能(AI)チップが埋め込まれておるんじゃぞ!知能は生きておるんじゃっ、わかるかっ生きておるんじゃっ!!あのチップに、”篠原秀顕”はまだいるんじゃっ!」


ジョーへと駆け寄り、彼の腕をギルモアは力任せに掴んだ。


「だから、です。博士・・・直接、話しができる」
「馬鹿ものっ!!あれは人ではないっ記録されたデータを元に、答えを算出するコンピュータじゃっ話しなぞできんっ」


ジョーを全身の力を込めて、怒りに震えた腕で揺さぶる。

激しく抗議するギルモアを見ながらも、その意思は変わらない。
反対されることは、当然のごとく予想できていた。


「博士・・・」
「絶対に、ならんっならんぞ!!お前は絶対に、アレに触れてはならんっいいなっ!!009っ命令じゃっ」


ギルモアの怒り含んだ荒げた声。
強く言い切り”命令”するギルモアの姿は、B.Gの戦い以後、見た事はなかった。


「博士・・・・・」


<何ガ知リタインダイ?>


クーファンに乗って、ふよふよと2人の間に割って入るように浮かんだイワン。


「すまんっ・・・起こしてしまったかのう、イワン・・・」
<博士、血圧ガ上ガッタイル、少シ 落チ着イテ>
「しかしじゃなっ!この馬鹿息子がっ」


クーファンに向かって、ギルモアが話しかけながら、ジョーの腕を掴んでいた手を話し、イワンへと腕をのばすと、イワンはクーファンからテレポートして、博士の腕の中に移動する。


「・・・・・繋がる予定だったもの、だろ・・・」
<意味ガナイ>
「・・意味があるかないかは、僕が判断するよ」


会話が、ギルモアからイワンへと移る。
ギルモアは篠原グループ本社で何があったのか、唯一、イワンから詳細を訊いていた1人であった。


<ソンナコトヨリモ 大切ナコトを 君ハ 忘レテイルヨ>
「・・・・大切な、こと?」
<僕ノ夜ノ時間ガ近インダ、練習ノ成果ヲ見セイタイ・・・。ソレト、僕ダッテ、君タチト同ジヨウニ暮ラスコトヲ 希望スル>
「・・・イワン?」
<取引ダヨ、009。君が壊シタだいにんぐてーぶるヲ直シタンダ、今度ハ僕ノ番ダヨ>
「・・・」
<ミンナヲ りびんぐるーむニ集メテ>
「・・・・007,004、008は」
<全員ダヨ>


イワンは有無を言わさない口調で、ジョーに言った。そして…・・。


<ミンナは 大切ナもの ヲ 見ツケルンダ・・・君ハ、イイ加減ニ気ヅクベキダ>
















####

009からの呼び出しに、津田海を病院まで送り届けたピュンマ、警備員として四友工場へ潜入捜査を行っていた004、篠原さえこの護衛役の007が邸に戻り、リビングルームに揃ったのは、ギルモア邸に残るメンバーたちが夕食後の紅茶を楽しみ始めたころ。

呼び出しておきながら、なかなか地下から出てこないジョーに痺れを切らしたジェットが立ち上がったとき、ギルモアがリビングルームに姿を現し、それに続いて、ジョー、そして、彼の腕に抱かれているイワン。・・・を、見て全員が慌てた。
ここには、滞在している篠原当麻がいるために。


日本に邸を構えることになり、サイボーグであるために、日常の暮らしの中に様々な”ルール’を作った。その一つに、イワンのことがある。

どのような問題が起ころうとも、イワンは”一般人”とは関わらせない。
それは、彼の持つ特殊な能力のために、彼の”成長”が未知数であるために、彼独特な生活リズムが危険を招く可能性があるために。


リビングルームに現れたジョーの腕の中にいるイワンを見た00メンバーの誰もが脳波通信をジョーに向けて飛ばす。と、ジョーの眉間に皺が寄る。

1つのチャンネンルに7人が一気に怒鳴り声に近い通信を送りつけてきたからだ。
その中で1人、フランソワーズだけは、ジョーに向かって度惑いがちに彼の名を呼ぶ。その声にジョーは他のメンバーを無視して、フランソワーズを誘った。


「フランソワーズ、イワンがね・・・ちょっと、こっちきて」


当麻はジョーの腕に抱かれている赤ん坊にかなり驚いていた。
それは、当然の反応である。


「島村、・・・子どもいたの?」


こぼれた当麻の言葉に、くっと喉で嗤ったアルベルト。と、ほぼ同じタイミングでジェットが言った。


「フランソワーズとジョーの子だぜ!」


その瞬間、ジョーとフランソワーズ以外の視線が一斉に当麻に向かい、彼の反応を見る。
当麻はすぐに自分の隣に座っているフランソワーズを見つめる。と、頬をうっすらと紅に染めた頬をこころなし膨らませてジェットを睨む、フランソワーズがいた。


「違うんだね・・・」


そんなことはない。と、思いつつも、ほっと安堵の息を吐く当麻。
冷静に判断する当麻にたいして、ジェットはからかいがいがない!と、ばかりに舌打ちを打った。
ジョーはジェットの言葉には無反応で飾り暖炉の方へと歩き出した。


ギルモア邸のリビングルームは、ダイニングルーム、広間へと向かうドアが向かい合うような形で取り付けられている。そのドアを中心に左が庭に面した壁一面のガラス戸。床には厚みのあるカーペットが敷かれ、特大の白い革製でできたL字型ソファ、ギルモア用の安楽イスに、形様々なチェアがバランスよく配置されて、硝子作りの珈琲テーブルを囲み、壁にはジェットとピュンマが選んだ薄型液晶大型テレビにDVDプレイヤーなどの娯楽機器を一つにまとめた薄茶の棚、それにはセットで左右にDVDやCD、本などを収めるためのガラス戸がついた背の低い棚。壁に掛けらた絵や写真、階段へと続く廊下の壁に飾りだな、その上には
観葉植物に花が飾られた花瓶、フランソワーズが選んだ小物類が並んでいる。

ドア挟んだ右に、飾り暖炉がついた毛の長いカーペットが敷かれ、壁に沿ってガラス戸付きの本棚が置かれているだけの広いスペース。
カーペットの上には、ソファからよけられた色とりどりのクッションが無造作に置かれていた。


ジョーは飾り暖炉の前まで歩くと、カーペットの上に胡座をかいて座り、その膝にイワンを抱く。と、もう1度フランソワーズを呼んだ。
飛び交う仲間からの脳波通信が五月蝿く、チャンネルを閉じる。
当麻は黙ってジョーと赤ん坊を見ていた。


ギルモア邸のリビングルームは、脳波通信で会話をしているために静まり返っている。



「ジョー・・・あの・・・イワンは・・」


フランソワーズは素直にソファから立ち上がり、ジョーのそばまで歩いて行くと、少し距離をあけてジョーの正面に座った。フランソワーズにつられるように、ぞろぞろと2人を囲むようにして、00メンバーたちが、ギルモア、当麻が集まった。


ジョーは何も言わずイワンを膝から降ろし、フランソワーズの前に座らせた。


<どこに捕まる?>
<心配ナイ>


イワンの躯を支えていたジョーの手が離れると、前屈みになって両手をつき、その右手を伸ばしてフランソワーズの膝に、ふくふくとした小さな手をおいた。
フランソワーズは訳が分からず、手を出して彼を抱き上げようとしたが、それをジョーに止められる。


「少し待って・・・・、見ていて、イワンを」


フランソワーズは正座を崩した形で横座りしている。
その膝に小さな紅葉の手が置かれ、そこに強い力とイワンの体重がかかる、そして、彼の足が床にぴったりと合わさって、膝が震えながら、のびようと、小刻みに上下する。

イワンの体重が、フランソワーズの膝におかれた彼の小さな手を通して伝わる。


「ほら、しっかり」


ジョーの手がイワンを手助けするように、彼のお尻をぽん!っとたたく。
その手がくれた勢いに乗って、イワンの膝がぴんっと、のびた。

「っ?!」
「・・できた」


びっくり眼のギルモア...。いや、彼だけじゃない。


「立っておるのか・・・?」


ジョー意外が、全員驚きに眼を見開いていると言っていい。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!すっげえじゃんっ!!」


ジェットの雄叫びと同時に、歓喜の声がリビングルームに響き渡った。


「すっごいよおっ!!イワンが立ったっ!イワンが立ったあああっ!」


ピュンマが飛び跳ねて、ジェットにしがみつく。
ジェットはピュンマの背をバシバシたたく。


「お祝いネ、お祝いするアルヨっ!!すぐ何か用意するアルヨおおおおおおおおっ」


奇妙なステップを踏み踊り始める張大人。


「おおおおおおおおおおっ吾輩っ感動したぞおおおおおっ!!イワンよくやった!よくぞここまで成長したなあああっ!!」


瞳の端を潤ませて、それをごしごしと服の袖で拭う、グレート。


「イワン。よかった。成長してる、ちゃんと大きくなっている」


泣き始めたグレートの背をその大きな手で撫でながら、ジェロニモは満面の笑顔で頷く。


「祝い酒じゃっ!祝いじゃっ!!立てるとはっすばらしいっ!!」


張大人と手を取り合って奇妙な踊りに加わるギルモア。


「よかったな・・・。押し車でも買って来るか?」


アルベルトの声がどこか弾んでいる。


<立テルンダヨ、僕・・・・チョット、変ダケド>


イワンのテレパスは、膝を借りたフランソワーズに送られた。
”変”と言ったイワンの言葉通り、彼の立ち姿は確かに”立った”と言うには少し、おかしい。

上半身を完全に手だけでは支えきれないために、フランソワーズの膝の上に突っ伏すような形で小さな躯をくの字におり、少し開き気味に立つ、頼りなげに震える脚。

上半身を起き上がらせようと、腕に力を入れて、脚でささえる。が、さすがにフランソワーズの膝ではどうも安定が悪く、しっかりとした”支え”にならないために、”変”な立ち姿になってしまったようだ。


<ドオ?ふらんそわーず?>


周りの仲間達のはしゃぐ様子に比べて、あまりにも無反応のフランソワーズ。
イワンは、ぽてん。と、膝の力を抜いて尻餅をつき、両足をのばす形で座ると、フランソワーズを見上げた。


<ふらんそわーず?>




震えていた。
彼女の手が、肩が、躯が。そして、綺麗でとても良い香りのする亜麻色の髪が、震えていた。



やさしく、だきしめてくれる。
美味しいミルクを作ってくれる。

大好きなフランソワーズの手が、彼女の顔を覆っているために表情を窺う事が出来ない。
何も言わない彼女から、自分が立ったことについての感想がもらえないイワンは不満そうに、彼女に呼びかけた。


<ネエ?ふらんそわーず?>


ジョーの手が、イワンを抱き上げる。
ふわりと宙に浮いたイワンの躯はフランソワーズの膝の上に乗せられた。


「フランソワーズ、褒めてあげないと。がんばったんだよ・・イワン」


ジョーの声に、フランソワーズは大きく頷いたとき、彼女の指の間から、こぼれ落ちそうなほどに大きな碧い瞳を縁取る長い睫が、艶やかに濡れて、またたきする度に、たくさんの雫を弾き行く筋もの涙が彼女の頬を伝っていることを知った。


<ふらんそわーず・・・?>


言葉が出てこないのである。
がんばったイワンに、たくさん、たくさん声をかけてあげたくても、喉がきゅうっと締めつけられて、なかなか言葉を作り出すことができない。
褒めてあげたくても、胸の底からこみ上げて来る表現し難い緊張に似たと興奮に躯が震え、涙が溢れて止まらない。

止まらない涙を隠すように覆った手が、震えている。


「・・・・フランソワーズ、見て」


ジョーの声とともに、膝の上が軽くなった。
イワンの両脇に手を差し込む形で、ジョーがフランソワーズの目の高さまで彼を抱き上げている。


「きっと、すぐに・・・キミの膝を借りなくても立ってるようになるし、歩けるようにも、ね」


目の前のイワンが、それを証明するかのように、足を曲げたり伸ばしたり、まるで平泳ぎでもするか、ポンプを握るとぴゅんぴゅん跳ねるカエルのおもちゃのような動きをしてみせた。


「っ・・・やだ・・イワンっ・・・ふf・・・」


その動きをみた00メンバー達が一斉に笑い出す。
顔を覆っていた手をイワンへと伸ばし、ジョーの手からイワンを抱き取ると、彼をぎゅうっと抱きしめた。



<ドウ?ふらんそわーず>
「すごいわ・・・・・・・・・イワン、素敵ね・・・・・・いつか、・・・・・・いつか・・・一緒に・・・・・・・」
<ウン、散歩シヨウネ。海岸ヲ歩コウネ>


フランソワーズはより強く、イワンを抱きしめた。
涙は止まるどころか、より一層溢れてくる。


「靴買わないとネ!イワンの初めてのアルヨ!」
「いいねえ、いいねえっ!!初めての靴!我が母国イギリスでは、初めての靴は銀で固めて記念に取っておくんだなあ!そういうのネットで売ってるか調べてみようなあっ」
「記念に、木靴を彫ろう。」



にぎやかな仲間達の声に囲まれて。



「んじゃっ今晩はこのままイワンのお祝いだぜっ!」
「そんな事言って!!駄目だよ学院をずる休みしようだなてっジェット!」
「おしゃぶりも卒業が近いかも、な」



ジョーは切っていたチャンネルをONにして、脳波通信で仲間達に短く”イワンの希望”を受け入れることを伝えた。
今後、彼は”ギルモア博士の知人の子”を一時的に預かっている。と、いう形で、邸を訪れた人間にのみ、その時々の状況に応じて、人と接することを伝えた。

その1人目として、当麻が。
イワンの存在を初めて知ることとなった。





「可愛いね、ぼくに紹介してくれるのかな?」



当麻はフランソワーズに近づいて、彼女の肩に優しく触れた。


「・・・・」


ジョーは、そっと立ち上がり2人のそばから離れようとしたとき、イワンのテレパスが飛んだ。


<じょーハ幸セ?>


フランソワーズは、顔を上げてジョーを見つめた。
その場から立ち去ろうと、片膝を立てた状態で固まっている。


他のメンバーたちも、そしてギルモア、当麻までもその声を訊いた。


「なっなに?!今っ頭の中でっ・・・・」


驚き、慌てふためく当麻。
ギルモアは、ぱっと当麻に駆け寄り、落ち着くように。と、囁くと、そのそばに寄り添った。


<じょー、僕ハ幸セダヨ>


ぴくん。と、ジョーの肩が反応する。
彼は長い前髪に表情を隠し視線を下へ落とした。



<僕ノ幸セナ ”今”ヲ作ッタノハ、じょーナンダヨ・・・。じょーガイタカラ、”今”ガアルンダヨ。君ガイタ過去ガ、僕ノ”今”ニツナガッテイルンダヨ。ツナガッタンダヨ。君ガアノ時、僕タチト来テクレタ、君ガ僕達ト言ウ”糸”ヲ握ッテクレタカラ・・・・。僕ニ”今”ガアル。じょー、僕ハ運命ナンテ信ジテハイナイ。決メラレタ人生ナンテナインダ。選ブノハ”今”ノ自分。選ンダノハ”過去”ノ自分。未来ハ常ニ陽炎ノヨウニ儚ク 移リ変ワッテイク。”今”コウヤッテ、僕ガ君トハナシテイル事モ、含メテ・・。僕ノ存在ヲ能力ヲ、篠原当麻に知ラレテモ、良イト判断シタノモ、僕ノ予測デキル範囲デノ未来ニハナカッタ・・・・。僕ハ、”今”ヲ僕ノ手デ作ッタ。ワカルカナ?>


フランソワーズは抱きしめていた腕を緩めて、イワンをそっと、ジョーと向かい合わせになるように座らせた。


<君ノセイジャナイ。彼ハ選ンダ。ソシテ、じょーモ選ンダ。ソレゾレノ糸ハ、ソレゾレノ未来ニ分カレタダケダ。終ワッタンダ。”今”ノ君ハ、幸セ?誰ト、ナニト、戦ウノ?ソノ目的ハ?ナゼ逃ゲルノ?・・・何カラ逃ゲルノ?・・・ドウシテ逃ゲルノ?君ノ目ノ前ニアル大切ナモノハ、手ヲノバシタラ、イツデモ届ク場所ニアル>


静かに、イワンのテレパスが語りかける。


<じょー、君ハ、僕タチハ殺人用さいぼーぐトシテ改造サレタ。”殺人用”さいぼーぐトシテ生キル道ヲ選バナカッタ。ソレガ全テダヨ。ミンナ、幸セニナル権利ガアル。権利トイウ言イ方ハオカシイカモ。デモネ・・・じょー>
「もう、いいよ・・・イワン」
<じょー・・・?>





サイボーグ戦士として動いた、夜。
篠原グループ内の本社で起こった事はギルモア以外、詳細を知らされてはいない。

結果のみが報告された。



”このミッションは、篠原秀顕の死によって終了。彼は両足と、頭部のみ、改造されたB.Gの・・・生き残りだった。すべては彼から始まったんだ。新しいミッションとして”後処理と、あやめ祭”を中心に動く。彼によって新たにNBGと言う存在が確認された、それを含めて調査も進める。”







イワンの言葉が、009自身の手が篠原秀顕の人生の幕を引いたことを、語っている。
篠原秀顕はサイボーグだったのか、人間だったのか、人工知能=コンピューター(AI)だったのかは、はっきりしないままに。















「もう、いいよ・・・・イワン」










・・・朝起きてからすぐにカーテンを開けて、晴れた空を見上げるんです。



・・・それが、曇りの日でも、雨の日でも・・・。



見上げる空のご機嫌をうかがう事から、1日が始まる。



・・・・そして、波の音を聞いて、窓を開けたら潮の香りが気持ちよくて、ときおり雨の香りが含まれる事もあるし、遠くの・・懐かしい香りもある。



・・・毎朝作る甘くしたカフェオレが、エネルギーをくれる。



早めに起きて作った少しだけ豪華にした朝食を喜んでもらって・・・・・・。(70)






「もう、いいんだよ・・・・イワン。ちゃんと、わかってるから」






色とりどりの洗濯物が邸をのぞきに来る潮風に揺れて、キミが手に取る洗濯物に戯れる風。


海の匂い。
空の広さ。

囁くように聞こえる、どこか遠くで車が走り抜ける音。
ギルモア邸から徒歩20分ほど坂を下ったところにある、停留所に泊まったバスのアナウンスが、風に乗ってときおり聞こえた。

耳に心地よい波の音。
砂浜に降りる光。
海カモメが鳴き、空に描くライン。


白い雲の形がどこか夏を感じさせて、



世界は





明るく光に包まれていた。






キミの髪は天使の輪を作り、風に靡いてはきらきらと輝いて、伸ばされた手にピンク色の洗濯ばさみ。
背伸びした後ろ姿は、華奢で折れそうなほどに細いライン。
両手に抱えた、太陽の香りに胸が好く。



キミの生きる世界が、あった。
キミが生きていた世界を、見た。




”ここ”であっては、いけないんだ。





帰ってこないで。
戻ってこないで。



そのまま、そこにいて・・・・・・。










そのまま、こっちへは来ないで・・・・。











「ちゃんと、わかっている・・・」













『・・・・・・なんのために、俺は戦ってきたんだろう?』
『ジョー?』
『・・・・・何も変わっていない、ね?』
『・・・・・』
『・・・B.Gは、消えたはずで。この手で、この手で・・・確かに・・・・・なのに、また・・・』
『ジョー・・・。今回は違うわ』
『同じだ、よ・・・。何も変わってはいない、結局、俺は・・・・』












「わかっている、よ・・・・」















ーーーキミを戦いの世界にしか、連れて行けない。













目の前にいる、彼なら・・・・俺と違って君をこの世界から連れ出してくれるだろうか?







<ドウシテ逃ゲルノ?君ガ逃ゲテイルカギリ、終ワラナイ>











####


当麻の前で繰り広げられる不思議な・・・会話。

頭に響く、幼い子の声。

その声のイメージからはかけ離れた会話。

イワンと呼ばれる赤ん坊が話しているようだった。



フランソワーズの肩に触れた手に力が入る。
当麻に寄り添うようにしている、ギルモア博士は当麻を安心させるようにして、微笑んではいたが、双眸は厳しさを含んだ色だった。







「・・逃げているわけじゃない。ただ、・・・伸ばす腕が見当たらないんだよ」


彼らがいったい何の話しをしているのか、見当がつかない。
しかし、その話しの内容は、当麻の胸に一生忘れられない言の葉となって胸底にゆらぐものとなった。









「ここに、あるわ・・・ここに」


フランソワーズが、膝の上に乗せていたイワンを抱き上げて、ジョーへと近づこうと躯が動く。
彼女が動いたためにぐっと、さらに当麻の手に力が入ったが、彼女はかまわずジョーへと躯を動かした。


当麻は”今”その手を離してはいけない。と、思う。
しかし、それでも彼女は離れていく。




離れていった。







「ここに、あるわ。ジョー・・・」







『魔法の手、だね?』

『私の手が・・・・そうなら、ジョーの手は、たくさんの人を護っている、手・・・よ。とても強くて、優しい・・手』

『・・・・そうかな、この手は、多くを破壊してきた、よ?』

『それでも、この手はずっと護るために戦って、傷つきながらも、優しさを見失ったりしない・・・みんな、知ってるわ』

『簡単に人を殺すことだって出来る、サイボーグの手』

『それなら、私も・・同じだわ』

『・・・・・違うよ。キミは違う』

『同じよ?・・・・・どうして、違うの?』

『・・・・そんなことさせない、から。・・・・みんな全力で、キミにそんなことをさせないように護る、よ』(59)









「この手が、私たちの”今”を作ってくれた手よ。この手を、腕を・・・・ね?」


イワンを片手に抱き、フランソワーズは幾筋もの涙のあとが残る、頬をきらり、きらり、と綺羅めからせてジョーの手を取った。
ジョーの視線が、自分の手とフランソワーズの手に落ちる。


細くしなやかにのびる指先。
やわらかく、あたたかな、華奢な白い手。


「この手が、ずっと一緒に戦ってきたわ、護ってくれたわ、たくさんの希望をくれたわ・・・ちゃんとここにあるわ」
<ソウダヨ>


フランソワーズの腕の中から、小さなイワンの手も伸びてきたので、彼女はイワンの手が届くところまで、ジョーの手を自分の胸元に抱くイワンへと近づけた。

小さな手が2人の手に重なる。


「未来は君たちの手の中にあるんじゃ・・・ジョー、それは誰に等しく、お前自身にもあるんじゃ」


皺だらけの、強く、けれど温かい手が。
そして・・・・。


「っだか訳わかんねえんだけどよっ!ウジウジしてんじゃねえよっったく・・・いつまでたっても、成長しねえヤツだよな!」
「まったくなあ、ジョーは日本人らしい、日本人だと思うぞお?なんでそんなに謙虚なんだかなあ?」


次々に重ねられる。


「もっと自信もってよね!ジョーはリーダーなんだし、それに、遠慮し過ぎだよ!!もっともっとジョーは甘えてよ、僕たちにさあ」
「口に出せ、お前はすぐに自分の中に問題を抱えてしまう、迷惑だ」


大小さまざまに。
その形さまざまに。


「恥ずかしがる必要ないアルヨ!可愛い末っ子ジョーのためネ!いつでも応援するアルヨ!」
「なんのための、仲間だ。家族だ。1人でも見失っていてはいけない。みんなが幸せであることに意味がある。」


ぬくもり、さまざまに。


「ジョー・・・ここにあるわ。あなたが何を思い、何を悩み、何を背負い、・・・見失ってしまっても、あなたが伸ばす腕を見つけられなくても、私たちの手が、腕があるわ・・・・そうでしょう?」


重なりあった手に。
重なり合った過去が甦る。










のばした腕を、手を






・・・・・・振り払われるのが、怖い。
何も掴まなかったら、怖い。


誰にも届かない、ときは?











<マズハ ソノ手ヲ、腕ヲ伸バシテミナイト、ワカラナイ、始マラナイヨ>





どこへ?










<過去ヘジャナイ。B.Gデモ、N.B.Gデモ、魔神像デモ、篠原秀顕デモナイ。009デモナイ。自分ノタメニ、じょー自信ノタメニ。明日ヲ選ブ、”今”ヲチャント生キルンダ。チャント見ルンダ、じょーの”今”ヲ、君ハソノ手ヲドコヘノバシタイ?>



















当麻は彼らが眩しかった。
そして、羨ましかった。



強さに、温かさに、優しさに、固い絆に・・・・・。












視線をあげたジョーがまず見つめた先に、碧い瞳。
涙に濡れてきらり、きらりと光る、碧い双眸。


ぐるりと、仲間達の顔を見渡して、はにかむように微笑んだ。













====73へと続く。





・ちょっと呟く・

9・・・。
実は一番後ろ向きな人(笑)で、自分のことは常に後回し。
秀顕さんに色々影響されてますね(ニヤリ)

web拍手 by FC2
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。