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Day by Day・6
(6)

幼い頃からバレエ一筋で芸術のために全ての時間を捧げてきたフランソワーズにとって、ごく普通の少女が経験する「恋」にとても疎かったような気がする。
フランソワーズの今までの人生で、一度も異性を好きになったことはない、と言うのはウソになるけれども、今までの彼女のそれは、現実に出会うことが難しい歌手やダンサー、またはフランソワーズのお気に入りのストーリーに出てくるヒーローにたいしてだ。

彼女の美しい容姿と、奥ゆかしい性格に繊細な優しさは、多くの異性を魅了して沢山の情熱的な愛の告白を受けた経験はあるが、フランソワーズ自体にあまり興味がなかったらしく、熱烈に愛の言葉を捧げていた人が気がつけば自然と彼女から去って行っていた、と言うのがいつものパターンだった。友人達のように恋人が欲しいと思ったことは幾度もあるけれども、現実問題として何よりもバレエが全てだったため、口で言うほど真剣には思っていなかったのだろう。

今となっては恋の一つや二つ、経験しておくべきだったかもしれない。

生身であった時に。
人として人を愛することが出来た、その時に。



ーーーそういえば、「彼」との関係は恋だったのかしら?
 今までなぜ思い出さなかったの?

B.Gに連れ去られる直前まで・・・
フランソワーズには、1人。とても仲が良かった青年がいた。
彼は同じバレエスクールに通っていた3つ年上の才能ある青年だった。
毎日、一緒にスクールに通い、公演を観に行ってはカフェで声を張り上げて観たばかりの公演の内容にけんか腰で討論した。
何度かフランソワーズのアパルトマンにも訪れたことがあり、ジャンとも・・・面識があった。サイボーグに改造される前のフランソワーズの生活の中で、「彼」が唯一フランソワーズが関わった・・・異性のはずだった。

ーーーああ、そっか、そうだわ。アランのこと思い出さないはずだわ・・・。


####

コズミ邸から戻ってきた翌日に、彼女のカバンから消えたスーパーガンが部屋に置かれていた。
彼女の部屋は相変わらず、ベッドと熱を出したときに運び込まれた簡易テーブルにスチールのイスのみだった。今はベッドの枕元に、フランソワーズの新しい友人である耳の異様に長い白い”うさぎざん”がいる。

スーパーガンを手に取ると、嫌なほどに手に馴染みながら気持ちがすぅと落ち着く。
愛らしい縫いぐるみよりも、戦車を爆破させ、人を殺すことができる、この小さな銃が一番こころの平穏を与えてくれるのだった。



「応援、よろしくお願いします、ね」



不意にさくらの声が頭の中に響いた。
意味がないと解っていても耳を塞ぎたくなった。

正直に、彼女が羨ましかった。
綺麗な女の子、艶やかな黒いストレートの髪に、思い切り声を上げて笑った顔には、三日月のように細くなった線のような目が、とても愛らしい。

生身の彼女。
数回しかあったことしかないジョーにほのかな想いを寄せて、自分のそんな気持ちにまっすぐに行動できる素直さ。明るくとってもおしゃべりだが、会話の内容を聞く限り、相手の様子をちゃんとみながら話しているし、とても頭の回転が速い。女の子らしい、女の子だった。

戦いの中で出会い守らなければならなかった、今までの女の子たちとは、違うような気がした。

平和な世界で、ごく自然に出会った異性。
特別なことは何もない。

普通が特別なのだ。


もしかしたら、ジョーはさくらさんを好きになるかもしれない。


彼女といれば、戦いのことなど考える必要もない。
彼女といれば、年齢相応の恋愛と生活ができる。
彼女といれば、ジョーも望んでいるだろう、本物の日常が手に入る。

本物の日常。

いつまでも続く、当たり前の毎日。


もしもそうなったとき、私はどうするんだろう?
みんなは?
このまま何事もなく、B.G.の陰も自然に消えていったら?

どうなってしまうの?

私は一体、だれ?なんなの?


####

「映画に行かないかい?」

ランドリールームでアイロンがけをしていたフランソワーズに、ピュンマは訊ねた。

「なあに?突然、映画って・・・?」
「みんなで行こうよ」
「・・・みんな?」
「そう、ジェットにジョーにボクにさくら、そしてきみ!」
「・・・もう決まったみたいな言い方ね?」
「ジェットがネットでチケットを買ったんだよ、5枚」
「いつなのかしら?」
「明日だよ」
「まあ、急なのね?」
「よくわからないんだけど、ネットで試写会の申し込みをしたらチケットが
当たったみたいでさ」
「5枚も?」
「詳しくは知らないよ、でもジェットは5枚あるって言ってるし」
「・・・私ではなくて、アルベルトは?」
「行きたくないの?」
「そう言うワケじゃないけれど・・・」

「じゃあ決まり!」

嬉しそうに白い歯をきらりと見せて笑い、ピュンマはさっさとランドリールームから出て行った。フランソワーズは大げさにため息をついてみせる。


「応援、よろしくお願いします、ね」



さくらの声が聞こえた。


その声を振り払うかのように激しく首を左右に振る。
力任せにそうしたせいで、軽い目眩がフランソワーズを襲った。
持っていたアイロンの方に体が傾いていく。
地面がゆらりと沈んだように感じた。

「あぶない」

彼女の体を大きな手で軽々と支えたのは、ジェロニモだった。

「・・・ああ・・・ありがとう」

彼は、外に干していた洗濯物を取り込んで、アイロンがけをしているフランソワーズの元にそれを運んできたところだった。

「何か聞こえたのか?」

大きなからだを、小さくしてフランソワーズの様子をうかがえるように視線を合わせるジェロニモ。

「いいえ、ちょっと・・・」

変なところを見られてしまった気恥ずかしさから、頬が火照るのがわかる。

「・・・何も怖いことなどない。道は常に続いている、ただ信じて歩いていけばいい」
「?・・・ジェロニモ」
「それだけだ。道は常に続いている、太陽は沈むがまた、昇る。陰は光がなければ陰にならない。陰がなければそれが光とわからない」

ジェロニモは大きな手で、優しくフランソワーズの背中をなでてランドリールームから去っていった。


道は常に続いている。
じゃあ、その道は何処へ続いているの?



明日の予定を決めるぞ!とジェットに呼び止められたので、夕食後のリビングで、グレートが入れてくれた紅茶を飲みながら、明日の予定を訊く。今リビングにいるのはジェット、ピュンマ、グレートとフランソワーズである。ジョーの姿が見えなかったが、アルベルトと一服するために庭に出ているようだった。まだカーテンがひかれていないガラス戸には、部屋の明かりに反射したリビングの様子を映しだしていたけれども、注意深く見れば、ジョーとアルベルトが作り出す白い煙が見えないこともない。

「映画は夜なんだね?」
「ああ、明日の5時だ!」
「映画だけ見るの?それとも、もう少し早く街に出る?って言うか会場はどこ?」
「会場はXXX駅内にある”シアター10”だ。ここからだと・・・電車の方がよさそぉだな?」
「でも、さくらちゃんはどうするの?車だったら、コズミ邸に行って彼女を拾って行けると想うけど?」
「まあ、平日だしなぁ。そんなに混んでるはずないしなあ。おい!ジョー、車だせるか~~?」
「そんな大声ださないでよ!もう!」

突然、大声でジョーに向かって叫んだジェット、その声が聞こえたのか、彼は火のついた煙草を手にしたまま、庭へと続くガラス戸を開けた。煙が部屋に入ってこないように、煙草を持つ手を自分の背後に隠す。

「車にしたほうがいいんだ? いいよ、出せるよ」
「ジョー、コズミ邸によって、さくらちゃんを拾っていこうかって言ってるんだけど・・・どっちがいいかな?現地で落ち合うのと」
「・・・コズミ博士の家からだとどっちも一緒だと思う。でも5人か・・・ちょっと狭いね」

今ギルモア邸が所有する車は3台ある。
今回のようにメンバーの足となる車は普通乗用車だ。
もう一台は何処から手に入れたのか、救急車並の大きさのバンで、そしてなぜか、軽トラック。日本の地理にも車を運転慣れしているジョーが主に運転手となっている。

「そんなに長く乗ってるわけじゃねーし、大丈夫だろ?」
「じゃあ、いいよ。狭い思いをするのは、キミたちで俺じゃないからね」
「それじゃあ、いつものじゃない方で行こうよ?」
「あれは・・・街中では目立つ」

「いつも、いつも・・・ジョーにばかり運転させて悪いわよ、電車はどうして駄目なの?」

ジョーが再びガラス戸を閉めて、庭へ戻ったことを確認してから
フランソワーズは呟いた。

「いいんだよ!あいつは好きで運転してんだから」
「・・・私、まだ日本の電車やバスに乗ったことないのよね」

「ええ?! そうなの?」
「ううぇええ? んだ、そりゃ?!」

ピュンマとジェット2人が奇妙な驚きのリアクションをフランソワーズに見せたとき、ジョーは煙草の香りをさせながらリビングへ戻ってきた、が、そのままキッチンへと向かう。自分でコーヒーサーバーに残っていたのをマグに淹れて、リビングへ入ってきた。ジェットとピュンマが並んで座っていたソファは、男が3人座っても十分に余裕があるが、ジョーは対になっていた、もう一つのソファ、フランソワーズの隣に座った。

ジョーがは運んできた外の空気に混じる煙草と珈琲の香り。
意味もなく、彼が男であると意識させられる。
ギルモア邸に女はフランソワーズしかいないのであるが、なぜか「男」としてフランソワーズが意識してしまうのはジョーにたいしてだけだった。そのことに気づかされるたびに、彼女の胸に焦りと、熱く火照る想い、そして必ずその後にやってくる絶望に近い憔悴感。

「ジョー、こいつまだ日本の交通機関を使ったことがねぇってよ」

ジョーは隣に座るフランソワーズをちらりとみる。

「そうだろうね。買い出しは車がないと無理だから」
「って!そういう問題じゃねぇだろう?」
「フランソワーズが、あまり外出しないことは知ってたけど・・・」

ここに居を構えた時、メンバー内で最低限の生活のルールを決めた。それはサイボーグとして生きる彼らにとって、必要不可欠なものであったからだ。それ以外は自由だった。それぞれが、好きな時間に外出することができた。その場合、必ず連絡できる状態であること。単独行動の場合は回線を開いておくこと。単独での外泊の場合は事前に宿泊先を知らせること。全員に配られた携帯電話には、日本国内のみであるが、それぞれの現時在地が解るように、特殊な改造を施されてもいた。

「だって、別に・・・生活には困らないもの」
「日本って面白いよ?この間、ボク”はとバス”で観光してきたんだ」
「ジェロニモとだろ?」
「そう!すっごく面白かったよ、浅草!煙をねこうやってかぶるんだよ!」
「・・・」

いつの間にか。
彼らはいつの間にか、自分の時間を楽しんでいる。

ピュンマは日本の古い神社やお寺に興味があるらしく、ジョーを捕まえてはガイドブックを見せて色々と質問している姿を何度か見たことがあった。

ジェットとピュンマは明日の予定から見事に打線していた。
フランソワーズも得に何も言わない。ジョーも黙って彼らの話を聞いていた。

ティーカップにうっすら残る、茶色の液体。
このまま放っておいたら、グレートが一目惚れしたと言う、とても綺麗なカップに茶色い線のシミをつけてしまう。漂白してもいいけれど、それだと綺麗に描かれた繊細な花の絵柄が傷んでしまう。
テーブルからカップを手に取り、両手で包み込む。
一滴ほどの液体は、フランソワーズがカップを傾けると、傾けた方向へ流れていく。

ーーーグレートはどこでこのティーカップセットを買ってきたのかしら?


「電車、乗ってるみる?」

「電車とバス、乗ってみたい?」

耳元で聞こえたジョーの優しい声に、驚いて顔を上げてジョーみた。
彼は口元を微かに緩めて、フランソワーズの顔をのぞき込むように首を傾けていた。

「あの・・・」
「どっちでもいいよ」

フランソワーズもはっきりと言えばどちらでも良かった。
できれば映画にさえ行きたくはなかった。

映画は、よくわからない○リウッドのサスペンス・アクションだった。

「車にしようよ! 映画だけなんて面白くないから、ちょっと早くに出てから、さくらちゃんを拾ってドライブなんてどお?」

ピュンマの一言で、全てが決まった。


ドライブのために、明日9時にはここ、ギルモア邸を出る。
11時ごろにさくらを拾い、新しく出来たばかりの水族館へ行くことになった。
もちろん、全てピュンマの意見だった。


####

ジョーの運転の技術もそうだが、道路が空いていたせいもあって1時間近くも早くコズミ邸につき、予定よりもかなり早い時間に、目的地であったXXX水族館についた。

平日の所為で人もまばら。同じ服を着た団体がいる。・・・多分どこかの日本の学生たちだと想われた。
さくらは「水族館は夏に観るモノなのに」っとずっと笑っていた。
なぜ夏と限定するのか、フランソワーズは不思議に思っていたが、日本人は目で見て涼むと言う文化があると、ピュンマが教えた。熱い夏に、海の生物、水にを見ることで、熱さを凌ぐ。そういうことで夏の水族館はたくさんの人が訪れるという。風鈴と同じような効果なのかな?と、フランソワーズは考えた。

チケットを購入するときに、係の女性に英語で対応された。
留学生のグループに思われてたのだろう。
チケットは、何も言わなくても学生料金になっていた。

広く白と水色で統一されたエントランスを抜けると、3階吹き抜けの大きなグラスが立ちはだかる。そこに広がったのは神秘的な海の世界。

一日かけて早足で見てまわっても全部は周りきれないくらいに大きかった。

12時を過ぎたところで、時間に正確なジェットの腹時計が鳴った。
館内のフードコートで昼食を取ることにする。レストランもあったが、手軽に済まそうということと、日本では珍しいファスト・フードショップもあったので、ジェットの希望が通り、そういうことになった。

「日本のバーガーはボリュームがなくって、小せえからやっぱ不満なんだよな~」
ジェットがトレーに乗せてきたのは、アメリカで有名なバーガーチェーン「バーガー・○ング」の一番大きいサイズ・セットだった。

それぞれが好きな店で食べたいものを購入し、席へ戻ってくる。

フランソワーズはクラムチャウダーとパンを購入し、甘い物が欲しくて、レジ近くにあっ3枚入りのクッキーを買い、珈琲は頼まないつもりだったが、多分クッキーを食べてると欲しくなるだろうと、珈琲も買い足した。
ピュンマもフランソワーズと同じ店で買った。彼はBLTサンドとサラダにスプライトを注文している。
ジョーとさくらは、まだ何を食べるか決めかねているようで、2人歩いている姿が見えた。

「気になる?」

無意識に、2人を目で追っていたフランソワーズに、それを咎める風でもなくピュンマが話しかける。

「・・・私は別に・・・」

トレーを持ってピュンマとフランソワーズはジェットのいる席へと歩き出す。

「そう?気にならないの?・・・ボクは気になるな~」
「・・・どうして?」
「だってさ、さくらちゃん可愛いもん」
「そう・・・ね、とっても魅力的な子よね」
「うん、だからジョーもジェットもきっとさくらちゃんのこと好きだよ」
「・・・ええ、そうね」
「でもさ」
「・・・・」

「フランソワーズの方がもっと、もっと素敵だと思うよ」

フランソワーズは足を止めて、ピュンマを見る。

「ジョーもジェットも、さくらちゃんよりもフランソワーズの方が大好きだとも思うよ」

ピュンマはにっこりと満面の笑顔で自信満々に宣言する。

「・・・ありがとう」

フランソワーズは正直に嬉しかった。
ピュンマの言葉にこころから感謝しする。しかし、一瞬にしてその喜びは消え去り、頭の中に浮かんだのは・・・

ーーー同じサイボーグの仲間だから。








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