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Little by Little・4
(4)




上手から舞台に立ち、下手へと戻って来た。
代表会(生徒会)の1人が、篠原当麻にパイプ椅子に座ることをすすめる。

生徒は、自分を落札してくれる相手がわかるまで、舞台下手で待つことになっていた。
予定通りに当麻よりも先に舞台に立った島村ジョーは、学院理事であり、自分の母親である篠原さえこが、今時点でオークション最高値で落札。

司会者のおどけたセリフに対して、マイクを渡されたさえこは、そのパフォーマンスに答えた。



「これでも独身ですからね。・・・・息子のルームメイトで、彼を良く知っていますし、私だって可愛い旦那さまが欲しいんです。ばりばり働いた後に、家で歌って癒してくれるなんて、CMのビュー○くんみたいで、素敵だと思いません?」



オークションも半数の生徒が順調に落札されていき、盛り上がっている。


「篠原先輩、落札されました。名前は・・・えと、アルヌールさんです・・・、ご存知ですか?」
「ああ、・・・・・・もちろん。そういう約束だったから」
「そうですか!オークションの値は今のところ5番目です」
「そう、ありがとう」

暗い舞台袖で、ペンライトを手に、渡されたばかりのメモから当麻に報告を済ませる、生徒。


「全員のオークションが済むまでは、リハーサル室にいてください」
「うん」
「おつかれさまでした!」
「ありがとう」


パイプ椅子から立ち上がり、別の生徒が当麻を下手で入り口へと誘導する。
当麻は、ライトアップされた舞台を振り返ると、足を止めた。

司会者が次の生徒のナンバーを読みあげて、紹介している。


「どうかしました?」
「あ、ごめん・・・」


ゆっくりと音を立てないようにして、生徒が開けたドアを抜けた。
当麻の背後でドアが静かに閉まる。


「よ、お疲れさん、センパイっ!!」


護衛役の002が待っていた。
当麻は笑って彼に答える。


「ジョーの機嫌が最低もいいとこだぜ、あんま刺激しねえでくれよ!」
「まだなおらないんだ?・・・以外と」
「ガキだってか?今更!」
「いや、・・・初めの印象と言うか、彼が009でいるときの、様子をみてるからね」
「ヤツがライバルで、楽だろ?」
「・・・・そう、かな?」
「あんなガキンチョ相手に、まごまごしてるセンパイの方がヤバくね?」


ジェットのストレートな言い方に、苦笑する当麻。


「けど、ジョーだからオレは諦めだんだぜ?」
「・・・!」


当麻の足が止まる。
驚きの視線と、動揺を隠す事無くジェットにむけた。

数歩、当麻の先を歩き、振り返ったジェットは今まで当麻が観た事がない彼だった。


「オレのコードナンバー言えるか?センパイ」


ごくん。と生唾を飲み込んで、当麻は答えた。


「ぜ、00。2・・・」
「そうだ、・・・・オレが一番、誰よりもフランソワーズと長く過ごしている・・・、ぽっと出のてめえなんかに持って行かれるくらいなら、・・・・オレだって参戦してえんだけど?」


に、っと嗤った、その笑い方が、004と呼ばれる男のものと酷似していた。


「し・・・・島村は、知って・・・?」
「さあな!鈍感野郎のくせに余計なところは009してんだから、どうだろうな!


ジェットは、言葉半ばで再び歩き出した。
当麻は彼を追い掛けて隣に並ぶ。


「それをぼくに言って・・・どうするの?」
「・・・・ジョーだから諦めたっつたろ?」


今度は、当麻が足を止めた。
ジェットも、並んで足を止める。


「・・・・本当に、諦めた、の?」


当麻が真剣にジェットへと聞き返した。
ジェットの瞳が、逡巡する。

おどけるようにウィンクをしつつ、先を、リハーサル室へと続く道を親指でさした。





「オレはジョーとフランソワーズのどっちも選べねえくれえにベタ惚れなんだよ!・・・どっちかっつうと、今はジョーよりってか?!」













####


ジェットと共にリハーサル室へと入っていく、当麻。

津田海が、ピュンマが、そしてジョーが、当麻を迎えた。
お疲れさま!と声を掛け合う、その中に憮然としてパイプ椅子に座り腕と脚を組み座る、当麻のルームメイト、ジョーがいた。

彼がリハーサル室へ戻ってきたことを確認する視線だけを投げかけて、オークションを終えた生徒とは思えない態度が、先刻ジェットが言っていた通り、相当機嫌が悪い事を表していた。


「・・・・島村」
「予定通り、003が落札できたみたいだ、ね」


態度に反して、声はいつもの彼だった。


「ジョー、じゃあ僕と海、に”おまけ”のジェットは、準備に行くよ」


ピュンマの言葉に、ジョーの眉間に皺がより、当麻にかけた声とは全く違う色で文句を言った。


「・・・・・・3人でパフォーマンスするってこと、なんで俺は知らされなかった?ハブんなよ」
「初めは僕と海だったんだよ!ちゃんとっ。でもさあ、ギリギリになってジェットが、ねえ?」


ピュンマのいい訳に、うん、うん、と同意を表して何度も首を縦振る海。
機嫌が悪いジョーがちょっぴりコワイらしい。


「ったく、いまさら駄々こねてんじゃねえよっ終わった事によっ」
「五月蝿い、・・・お前らが悪いんだろ、俺ばっか・・・」
「ぐずぐず渋ってたからだぜ!」


ジョーはかなり嫌そうな顔でジェットを見上げる。その生意気な視線にたいして、ジェットは長い腕を伸ばして、両手でぐしゃぐしゃとじょーの髪をかき乱し、頭を振り回す。

ジョーはジェットの手を掴んで乱暴に振りほどいた。


「さわんな、よ」
「なら、いい加減終わったことをぴーぴー、言ってんなよ!」


2人の間に割って入るようにして、ピュンマがジョーに声をかける。


「ジョー、回線開いておいてよ。僕たち、ここを離れるんだから・・・」
「わかっている」


オークションを終えて開いた回線に、待ってました!とばかりに送られてきた、ミッションとは関係な報告の嵐に、009は回線を完全に閉じて、必要な連絡はすべて002か008を通して行っていた。


「それによ、誘ってやったとしても、てめえ、踊れんのかよ?」
「・・・・・踊る?」


数回、まばたきしたジョーのアンバーカラーの瞳にむかって、ジェット、ピュンマが顔を見合わせて嗤った。


「海ってば!すごいんだよっ。出来たら生で観て欲しいんだけどね!」














司会者が、残りの生徒をカウントした。
あと、5人。

けれど、うち3人は合同パフォーマンス。

1人の持ち時間が3分。
3人×3分=9分間のパフォーマンスとなる。


ぐっとマイクを握る手に力を入れて、鍛えた腹式呼吸で声を張り上げた。



『みなさま、残すところあと3組ですっ』


会場の照明が消えた。



紹介が始まると同時に、ど。ど。ど。ど。と、会場全体が揺れるほどのベース音が響き渡った。
その音に負けじと、さらに声をはる。


ストロボライトのように、激しく点滅するライト。
ムーブライトがランダムに色を選び交差せさた。



『ジュニアの3人が、みなさまに最高のブレイクダンスをご披露いたしますっ』


シンセサイザーの、高音から下る電子独特の音が降ると同時に、舞台袖からジェットは、必要ないが、一応のために助走つけて側転から、バック転を2回、そして宙で1回くるりとまわり、着地と同時に、ステップを踏むと、その後に続いて、海が、同じように、側転から、バック転を繰り返し、舞台中央で、逆立ちした状態で、片腕で静止。


ピンスポットで浮き上がる、彼の陸上競技で鍛えた肢体。


上半身に、重ね着しただぼだぼの派手なTシャツを重ね着し、ずたずたに切り裂いた、海のサイズよりも2、3サイズは大きいようにみえるジーンズが、重力に伴って落
ちる。と、彼の”義足”である左足がさらされた。

海の躯の動きに合わせて篠原技研が持つ技術を駆使して作り上げたそれは”人”の脚を象ってはおらず、銀色に光る。
何度も改良を繰り返し、週末ギルモア邸で過ごす間にギルモアの手を借りた、世界にひとつしかない、最高の1足。









ジェットの登場に沸き立った会場の誰もが海に注目した瞬間、不可解な線が会場中をめぐり、不穏な空気が流れた。




それを打ち消すかのように、ピュンマが、バック転から入り、宙で1回まわり、躯を1/2捻らせて、着地すると、中央をジェットに譲った海。

3人が舞台に揃い、曲のテンポに会わせて、同じ振りを踊り出した。
会場が3人の派手なダンスにヒートアップする。




<003、”耳”は大丈夫か?>

予想を超える爆音に、004を初め仲間たちから通信が入る。


<001がサポートしてくれているから、大丈夫よ・・・>
<動きは?>


派手に色を変える照明ライト、リミックスされた曲が、各3人の特徴あるパフォーマンスをささえる。


<009、何人かが・・・会場を出ていくわ>


普段の服装を、もっと”それらしく”みえるようにアレンジされていたジェットは、どこからみても”ストリートパフォーマー。
ピュンマは、普段の彼のファッションからは想像できないほどに、そして、意外な彼の一面を魅せる。


<どこへ向かっている?>


009の声に、舞台に釘付けになった観客たちとは別の動きをする、003。

<招待客専用の出入り口・・・から、1、・・・3、いいえ、・・6人、一般の方へ、・・・3、4、・・・5人、バラバラ、で>


最高の盛り上がり、声援の声があがる中・・・。


<004、招待客側はいい、一般の方へまわってくれ>
<ああ、・・・追うか?>
<いや、顔を覚えておいてくれたらいい。オークションが終わって動くかどうかが問題だ・・・003>
<はい>
<視た人物を同じように、覚えておいてほしい。・・・001頼む、よ>
<了解、シタイケド>
<何か問題アルか?!>
<・・・・赤ん坊ガコンナ音量ノナカ平然ト居ルノ、不自然ジャナイノ?>
<・・・その辺りは各々の判断で>
<009、001を連れて会場を出るわ>
<関わらないこと、いいね?>
<はい>



イワンは早々にぐずってみせた。
フランソワーズはイワンをあやすようにして会場から出て行く。

会場を出る前に舞台へと視線を向けた。


左右から、ピュンマ、ジェットが片手ロンダート→バク転→バク宙で交差する、その下を抜けるようにして、海がブレイクダンス式のトーマス(技名)で、腕の力を利用し、大きくV字開脚で旋回した。

感嘆の声と、黄色い声が飛び交う。


上半身と腕を基本にしたパワームーブ系を海が披露していく中、それをサポートするように、大技をジェットとピュンマが魅せた。

”義足”とは考えられない大技を繰り出す海に、会場は驚きの連続である。


「・・・いつ練習したのかしら?」
<練習シタノハ、海ダケダヨ・・・>



会場を出て、003は”眼”を駆使する。
”耳”のスイッチをいれて、集中させてオークション前に聞いた声をトレースし、その声が再び聞こえてこないか注意した。




<終わったな・・・>


004は2階席から立ち上がり、混雑する前に会場から抜け出した。





最後の最後に、大きく盛り上り熱した会場のまま、オークションは終わった。
予定通りに、海の姉たちに落札されたピュンマと、海。
最高額を出したジョーを次席に追い込んだのは、ジェットと、彼を落札した理事長の美人秘書、だった。



<009…・・・みっしょん、終了ダネ>
<勝手に終わらすな、よ。まだだ>


リハーサル室でオークション終了の声を聞き、集まった学院生たちがが落札された、した、相手に盛り上がる。担当の教師から後夜祭についての細かな指示と、注意事項を説明される中、イワンのテレバスがジョーにだけ送られた。


<心配ナイ>
<001?>
<心配スルナラ、自分ノ事ヲ心配シタライイヨ>
<・・・とにかく001の言葉がそうであっても、今日1日は、このままでいく・・・まだ動きがなかっとは言い切れないだろ?>
<ボクヲ信用シテナインダネ?>
<リーダーとして、念には念を、だよ>


イワンのテレパスを退けるように、全員へ通信を送る。

<状況報告>













####

ランチタイムからすこし遅れて解放された学院生たち。
会場へ向かうもの、帰るもの、外に並ぶテナントへ向かうもの、紫微垣へ向かい、昼食をとるもの。みな興奮気味に、ばらばらと去って行く。

その中に、ジョー、ジェット、ピュンマ、そして海と当麻も含まれる。


「ジョー、これからの予定は?」
「博士たちと合流、・・・津田」
「え、あ、はい!」


009である彼に呼ばれて思わず背筋が伸びる。


「午後はピュンマとまわると言ったね?・・・悪いけどランチとその後もなるべくなら、僕たちと一緒に行動してほしい」
「・・・・う、うん。y・・姉たちが大丈夫そうなら、ぼくはかまわないですっ」
「なに緊張してるの?」
「え?あ、べ、別に!うん。お、お腹空いたね!」


誤摩化す海を、けらけらと面白そうに笑うピュンマ。


「よお、それだとかえって目立つぜ?団体さまだとよ?」
「観光団体じゃないんだ。・・・ぞろぞろ連れ立って歩くつもりはない。つかず離れず、で。行き先がわかる範囲でなら自由、ピュンマ、その辺りの指示はまかせる」


気がつけば、リハーサル室内に残っているのは5人だけになっていた。


「オッケー!ジェットは一緒に僕たちといるだろ?ジョーはどうするの?」
「一度、ジェロニモと連絡をとる。あとグレートに・・・、それは午後だね、アルベルトと行動する、よ。裏にまわる」








津田の姉、夢と林。ギルモア、イワン、張大人、アルベルト、そしてフランソワーズと合流した先は、紫微垣のカフェテリア。
解放されている各校舎にも、飲食系の店が多数出店しており、カフェテリア内はそれほど込み合ってはおらず、円形テーブル2つを寄せ合って席についた。



計12人での昼食。


<今度は林ちゃんアルか・・・>
<ったくよおおっ、なんでこうなんだ?!>
<プロム・キングはやっぱりジョーなんじゃない?>
<ジェットというのが信じられん。落ちたな、月見里学院の質が>


ビュッフェ形式のために、各自好きに食べたいものを取りに行き交い、会話はやはりオークションの内容が中心となり、ジョーは早々に黙り込み、耳と口を閉じてしまった。

合流した弟の友人の中に”ナンバー9”の学院生がいたことに、大興奮の林はちゃっかりジョーの隣に座り、それを目にした00メンバーは”またか”と、溜め息をつく。
そして、ちらちらと003の様子をうかがうが、彼女は何事もないように、いつもの彼女である。



<嫉妬とかねえのかよ?!>
<慣れているからだろう>
<今さらアルヨ・・・今更ネ・・>
<だよね・・・。悲しいけどさ、さくらのこともあるし>
<だああああああっっ!>
<どっちも似た者同士だな>
<っつうかよっセンパイっ!なんでいっつもフランソワーズの隣に座ってんだ?!>
<ジョーは人数が増えると、フランソワーズから距離を取るからな、恥ずかしいのかなんなのかわからんが・・・ドルフィンの作戦中くらいじゃないか?…隣に座るのは>
<あとは、イワン関連の時アルね>
<そう?・・・お茶の時間はだいたい一緒いるような・・・・・>
<オレたちの前では、少しはましになったわけだな?>
<”初デート”以来、お茶の時間は・・・・一緒にいること多い気がするネ>
<んな昔までさかのぼんのよか?!>
<あれでも、ちょっとは距離が縮まってるのかな???>
<・・今のこの状況見て、そう見えるアルか?ピュンマ>
<見えんな>
<みえるかっつうの!>
<何か動くかなあ、ジョー・・・>


回線チャンネルを、なぜか002個人に合わせ、それを介して004,006,008、の裏チャット話しが進む中、林は興味深くジョーに話しかける。


「プロを目指してるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ」
「ええ?目指したいいのにっもったいないわよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうでもいいです」


なんとか(ぎりぎり)失礼がない程度の対応で林には答えるが、機嫌が悪い事は明らかだが、助け舟を出すどころか、それに便乗する00メンバーたち。


「ワタシもびっくりアル、上手いとはフランソワーズが言っていたアル、けど、半信半疑だったアルからね」
「鼻歌程度はきいたが、あそこまで本番で歌える度胸がジョーにあったとはな」
「大変だねえ、ジョー・・・」
「・・・・ピュンマ?」
「今グランドに出たら、追っかけにもみくちゃにされちゃうよ!すごいんだよっ日本の女の子の情熱は!」
「・・・・・・・・・・もう、いいから」
「よ!せっかくみんな集まってんだからよっ、なんか歌えやっ」
「・・・・・」


ジェットの一言に、さらに機嫌が地を這り、うんとも、すんとも答えなくなったジョーは、席から立ち上がると、トレーを手に席を離れて皿を片付け、食後の珈琲をのせて戻ってきた。

手に持っていた珈琲をテーブルに置いただけで、席には着かず、ジョーはフランソワーズの元へ。

テーブルを囲っていた10人が興味深く彼の行動を見守った。
すると、彼が自分のそばにくることを知っていたかのように、フランソワーズはごく自然にイスをひいてジョーと向き合うように躯の向きをかえた。

その腕には、イワンが抱かれている。
フランソワーズの隣に座っている当麻は、2人に対峙するように視線をむけた。


00メンバーたちの裏チャットが再会される。


「・・・交代」


<偉いアル・・・ジョー、ちゃんと見ているアルねえ・・・>


フランソワーズのテーブルの上にある昼食が、ほとんど手が着けられていない事に気がついた。それは、当麻だけではない。



「でも・・・」
「・・・食べにくいだろ?」


<言い方を勉強しないとな>


「ジョーは・・・」
「もう、いい。・・・・イワンのミルクは?」


<っでもよ、やっぱイワンネタじゃんかよっ>



「オークションが終わってすぐに飲んだから、大丈夫よ」
<タップリトネ・・・今ハお腹一杯>
「そう、・・・ほら、俺が抱いてるから、ちゃんと食べなよ」
「私は大丈夫よ・・・」
「・・・前からだけど、キミの大丈夫はあまり信用できない・・・いいから、こっちに・・・」


<イワンネタでもっ!十分だよっ、ジョーが人前でっ注目を誘うようなことをするなんて!!小さいことだけど、ジョーにしては大きな進歩だよおおっ!!>
<ピュンマ、興奮するな・・・>



「・・・・ありがとう」


腰を折り、ジョーはフランソワーズの腕からイワンを抱き受ける。
フランソワーズは素直に、ジョーの好意を受け入れた。

当麻の目の前で、交差される腕。
当たり前のように、慣れたようにイワンを渡し、受け取る2人。


「ベビーカーとか考えないとね・・・外へ出る時、キミの負担が減るだろ?」
「抱いているのは、苦じゃないわ」


ジョーの腕の中で、イワンは心地よいポジションを探すように躯を揺する。


「こういう時、不便だよ・・・」
「滅多にないわ」
「今後はわからない、よ」


2人の会話を耳にしながら、夢がにっこりと、話しをテーブル上に引っ張った。


「ベビー用品で何か質問があるなら、なんでも聞いてください。6人目の妹に甥に、そういうのはプロですから!」
「お嫁にいってもいないのにねえ・・・」


林が、左隣の姉に突っ込みを入れる。と、テーブルの下で軽く蹴られた。


「・・・・妹?って、夢、林ねえっっ妹!?」
「「あ・・・」」


隣に並んで座る姉たちが、視線を合わせる。
海にはまだ7人目の性別を教えていなかったのである。話題は自然と津田家の7人目のベビーへ、そして最近の日本のベビー用品事情へと移る。

イワンを腕に席に戻ると、ジョーの右隣に座っていたギルモアが満足そうに頷いた。


「・・・博士?」
「よく見ておるのお・・・」
「・・・・・一応」


リーダーですから、の言葉は音にならずに消える。が、ギルモアはそれを否定し、声のボリュームを落として囁くように話しかける。


「関係ないじゃろ?・・・ジョー」
「?」
「・・・・・・そのままでいなさい。無理することもなければ焦らんでいい」
「・・・?」
「じゃが、極めどころを読み間違ってはいかんぞ?何事もタイミングじゃ」
「・・・・・いったい何の話しですか?」


ギルモアの視線がちらり。と、張大人をはさんだ向こう側にいる、フランソワーズへと向かう。
その様子にジョーは絶句し、さあっと背筋が寒くなる。

イワンはジョーの膝の上に座り楽しげに、愛らしい笑顔を林に振りまいていた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はか、せ?・・」
「儂がそれくらいの情報を見逃すわけなかろうて!」



ギルモアはウィンクをひとつ、パチン。と愛する息子へと飛ばす。
脳波通信で、ジョーはアルベルトに強烈な殺気を込めた言葉を送ったが、1言で片付けられる。


<報告義務があるからな>














####


約1名を除いて、楽しい昼食は終わりを告げ、脳波通信に疲れきった009の指示が入る。


<005,007は引き続き任務を続行、・・・007からの連絡ですでにセキュリティの映像とリストは準備できているらしい。それらの受け取りを004、頼む。ブラックマーケットの方を006。ホテルへ博士と001と一緒に戻ってくれ、005との連絡もそっちで。・・・あとは、津田海、篠原当麻から離れるな、以上」


<気づいているか?009>
<・・・気づかない方が変だろ?>
<009、彼らは・・・海さんが舞台に立った時にはみかけなかったわ>
<どっち狙いアルか?>
<・・・海だよね>
<はっきりさせようぜ!>
<でも・・・>

カフェテリアを出て、津田夢、林に挨拶を済ませる、ギルモア。
普段引きこもって研究ばかりしているために、人ごみに酔ったと言い、体力のない赤ん坊に夏の長時間の外出はあまりよくないと、張大人が腕に抱いて、ギルモアとともに帰路につく。


<・・・・003?>
<変な言い方だけど、素人・・・にしか>


量販店使用の、スーツに身を包んだ男が2人。
カフェテリアに入ってくるなり、食事らしい食事も取らず、飲み物さえも手にせず席についた。

彼らはちらちらと、あからさまに彼らへと視線をむけてくる。



<へったくそな尾行だかんな!>


紫微垣から学院本館前で、食後の散歩のようにのんびりと移動し、ホテルへと戻るギルモア、張大人、イワンを見送った。
その間、2人の男は彼らの後を追ってくる。

彼ら2人が会話することがあれば003の能力により、事前に彼らが何者であるかの予測がつくが、会話はかわされる様子もなく、おってくる。

身を隠す訳でもなく、ただ、距離をあけて、さも”偶然”同じ方角に、と言う感じを装っている。が、明らかに”目的意識”を持って、ついてきていることがわかった。


<二手に分かれる、津田と、篠原に分かれる、よ・・・>

<<<<了解>>>>







「これからどうすんだよ?」


ジェットが話しを切り出した。


「篠原が”理事長に会う予定”があるらしい、俺もお礼をいいに、ついて行く」


当麻が、ジョーを見る。
彼は微笑んでいるが、瞳は・・・違う。


こくん、と、頷いた、当麻。


「フランソワーズとオレは、展示会の方へまわる・・・途中まで一緒だな、ジョーたちと」


アルベルトとフランソワーズが微笑み合い、ジョーたちと頷き合った。


「僕たちは、第一グラウンドのテナントブースの方に行くから!どこかでまた会えるかな?」
「よお、オレもそっち参加していいか?」
「もしもお姉さんたちがよければね!」


ピュンマは夢と林にむかって笑顔をむけると、彼の白い歯がきらん、と輝く。その爽やかさに夢は日頃の仕事疲れを癒されつつ、ジェットにむかってにっこりと笑った。


「私たちの方が一緒してくださいって、お願いないといけないくらいですよ」


和やかな会話の中で海が緊張に視線を泳がせた。
ピュンマが海を安心させるように肩に手を置いて声をかける。


「どこからまわろうか!大丈夫だよ、・・・・このあやめ祭が楽しみで、マップがなくてもどこに何があるか全部わかってるから!まかせてっ」





”理事長に会う”と口にした009。
それが、自分たちの指示に従って欲しい。と、言うあらかじめ伝えられていた合図だった。









<こっち・・・か・・・・・>
<007、そっちはどう?>


ギルモアたちと分かれて5分後、学院本館前で002,008、津田海、夢、林と分かれた。
2人の男は、第一グラウンドへ移動する彼らを追っていかない。

その様子から、”津田海”が目的ではないことがわかった。が、注意を怠るようなことはない。


<・・・いや、こっちは何も無いスムーズに予定通りのスケジュールをこなしている、さえこ殿の周りも怪しいヤツは見当たらんぞ>


目的が津田海ではないならば、篠原グループのトップとなった篠原さえこ関連。
さえこの方への動きがみられないとなれば、彼らの目的は”篠原当麻”を使って何かをしようとしていることとなる。

彼を人質に、さえこを脅して”公開されなかった、サイボーグ技術を手にいれる。
サイボーグ技術を使った”義足”をもっていない津田海はお役御免と言うところだろう。

津田海よりも篠原さえこの一人息子、当麻に、価値が出てしまったようだった。



「・・・当麻さん」


当麻と003が並び、その後ろに004と009が並んで歩く。


「なにかな?」
「とても素敵な絵を描かれるのね・・・、ずっと油絵を?」
「油を触り始めたのは、高校に入ってからなんだ・・」


<・・・009、距離が>
<わかっている。・・・・003、俺と動く、よ。004、篠原を>
<<了解>>


2人の男たちが4人にとの距離を縮め始めた。
先頭を歩いている003は009の指示で人気のない場所へ、月見里学院内の西側へと誘導する。
植物学を選択する生徒のために用意されている施設と温室や植物庭園があるそこは、関係者でないかぎり、滅多に足を踏み入れない場所。


003は009の合図に、後方にいた009へと振り返る。
当麻も彼女の動きにつられて、振り向く。と、004に腕を取られた瞬間に視界が変わった。


「!」










フェスティバル独特な賑わいの雑音が遠くに聞こえる。
2人の男たちは、慌てて消えた4人がいた場所へと駆け寄った。


「え?!」
「あれ・・・え、今までここにっ」
「竹本さんっ消え・・・た?」
「ま、まさか!!」


あたりを見回すが、森のように木々に囲まれた小径。が、温室へとのびているだけ。


「用件は?」


びくんっ!っと体を跳ねさせた、2人。
誰もいなかったはずの背後から、声。



「あ・・・・・・」
「た、たけも、竹本さん、彼ですっ!!」
「・・・・・、用件は?なぜおってくる?」


彼らの前に、立つ、009。
近くに身を潜めて”眼”を使い、サポートするのは003。


<009・・・・、どうみても・・怪しいようなところは・・・・>


「よかった!ああ、は、はじめまして、いやあ、声をかけようにも・・・気後れしてしまいまして」


竹本と呼ばれた、紺地にブランドのロゴが派手にプリントされたネクタイを締めた男がスーツの内ポケットに手を入れる。と、009は警戒し殺気立つ。が、すぐに003が止めた。


<違うわっジョー・・・・彼らはっ>


「私、ジョニーズ・事務所の者です」
「・・・・・・は?」


目の前に出された名刺に、ジョーは目眩を覚えた。












####


学院温室前に続く小径のわきに置かれたベンチに、お腹を押さえて止まらない笑いを必死でこらえようとするが、どうにも止まらず、そのこぼれ落ちそうに大きな宝石からは、涙さえも滲ませている、フランソワーズがいた。


「笑い過ぎ・・・・・」


その彼女の隣に力なく足り込むように座っている彼は、ベンチの固い背に全身を預けるようにして天を仰ぐ。


「・・・ご、ごめ、ごめんなさ、いっ・・だ、だって、ふふ。ふふふfっ・・・ジョーっ・・ふふっ」



あやめ祭に、まさか芸能プロダクションの人間まできていたとは夢にも思わず、そしてその白羽の矢が自分に当るなど、さすがの009も、である。

001の<心配スルナラ、自分ノ事ヲ心配シタライイヨ>の言葉が、よみがえる。








スカウトマンの2人はしつこかった。

話しだけでも、事務所へ一度来て写真を撮らせて欲しい、モデルの経験は?歌手デビューの夢をもったことは?バンドとかしているか?など、質問に質問を重ねて食い下がった。
ジョーに邪見にされても、睨まれてもひくことをしない彼らにたいして、フランソワーズからの助け舟が出るまでの間、彼は怒るよりも何よりも、泣き出したい気持ちになったのが本音である。

フランソワーズが”フランス語”でジョーに話しかけ、彼らにもフランス語で対応したので、スカウトマンたちの勢いがそがれたのだ。
その上、ジョーもフランソワーズに便乗して”フランス語”で話し、途中から英語も交えて、彼らに取り合わなかった。が、なんとかスカウトマンの2人は、ジョーに自分たちの名刺を握らせることだけ成功させると、何度も、「call us!」と訴え、その場に彼らを残してジョーはフランソワーズを連れて早足にその場を離れた。

学院本館とは逆方向の道に進み、みつけたベンチにジョーが座り込んだのを見て、フランソワーズは笑いだした。




「j、ジョーは年を、取らない、ものね・・・ふふ、永遠の、アイドルっね?・・・ふふふっ・・f・・、ジョーがデビューしたら、ふふふf、ふふ、ちゃんとコンサートを観に行くわね?」
「・・・・フランソワーズ、・・・・・・頼むから、もう・・」


情けなく、眉根を下げて懇願するような視線をむけたジョーの表情に、フランソワーズの笑いは止まらない。
彼女は笑い上戸だったのか?と、疲れきった胸で呟いた。



夏の晴れきった青を見上げながら、ジョーは視界の端でフランソワーズをみる。

肩を揺らし、少し前屈み気味に笑わないように懸命に我慢するけれども、それがよけいに笑いを誘い、晴れた空に吸い込まれていく、耳心地よい鈴を転がすように愛らしい笑い声。


満面の笑みに、ジョーもつられて口元をほころばす。






「みんなに、報告は?・・・009」


ひとしきり笑って、呼吸を整え、涙がたまった瞳をこすり、はああ。と、深呼吸をしたフランソワーズは、ジョーに意地悪く訊ねた。


「・・・しない、よ」
「でも、・・・心配するわ」


首を傾けて、ジョーを見つめる。


「すでに、今回の件とは”全く”関係ない人物だったと報告を済ませた」
「え?」


長い前髪に隠れてしまって、ジョー表情をフランソワーズは読み取れない。


「・・・・・・キミが笑ってる間に」
「それだけで、みんなが納得できたの?」
「…・・知らない」


ジョーは短く答えただけで、立ち上がるとフランソワーズへと手を差し出す。


「出来てないんじゃなくて?」


その手に視線を移して、フランソワーズは手を伸ばそうと、腕を持ち上げる。と、ジョーの方からフランソワーズの手へと腕を伸ばして彼女の手を取り、フランソワーズを立たせた。

フランソワーズは先ほどまで自分たちがいた場所に向かって”眼”を使う。
さすがに、もうスカウトマンたちの姿はないだろう。と、思えたが、一応の確認を取る。


「大丈夫、彼らはもういないわ、ジョー」


くすくすっと、笑い、フランソワーズはジョーを見た。
彼はわざとらしく、ため息をついて長い前髪を吹き上げる。



「・・・・・口止め料」
「?」
「キミに、口止めする何かをしないと、ね」
「言わないは、大丈夫よ」
「・・・・・信用できない。前回のこともあるし・・ね。そうだ、イワンにも、だね」


その手を、離さない。


「・・・ひどいわ」
「ひどいのは、キミ。・・・001の言う通り、・・・・・・・ミッション終了だ」
「001が言ったの?・・009、でも・・・」
「・・・イギリスの交流会と、ブラック・マーケットのこともあるけど。それはまた別件で考えている」
「海さんの・・」
「ああ、彼に”それ”がないことを証明できたし。それに、・・・篠原さえこの方に動きがないのが何よりもの証拠だ。002、008からも何も報告もない」
「油断してはいけないわ」
「わかっている・・・。120%、危険がないことを確認できるまでは目を離すつもりはない、けれど、ミッションではないよ」
「・・・・」


日本独特の湿気を吹き飛ばすさわやかな風が2人の間に通り抜ける。

かすかに、蝉の鳴き声が聞こえた。
遠くでにぎやかな雑踏が聞こえた。

木々が彩る緑の香りが2人を包む。




---あなたのそばに、いられるだけでいい。・・・それだけでいい。


あなたが誰を想っても。
あなたが誰を愛しても。


・・・・私はただ、あなたのそばにいることができればいい。
愛してる・・、あなたを・・・・。





じんじんと痺れる緊張で、自分を見失うことも、胸を切なく締め付ける痛みもなく、壊れそうなほどに脈打つ心臓の動きもみられない。
ただ穏やかに、ジョーをその瞳に写し、彼の声を耳で拾うたびに、フランソワーズのこころに響く音。


眠る前に捧げる祈りに、明日を迎える喜びが芽生えるように。
繰り返す言葉は、フランソワーズを何事も受けいれられる勇気をくれる。




ジョー、あなたがこの世界にいるかぎり・・・・。
もう、何も怖くない。


愛している人がいる、生きている、だけで、いい。



瞼に、一瞬過る写真。


---兄さん・・・。

こころが震えるが、それに気づかないふりをする。














「ジョー、行きましょう・・・」


光りを弾く亜麻色の髪を肩先で揺らして、彼を促した。








---キミに、伝えたい言葉ある。


キミが誰を思っていようと、愛していようと、・・・関係ないと思っていた。
キミが誰のものになっても、サイボーグである限り、キミと俺との繋がりは消えないから。





・・・・けれど、もうそれだけじゃ駄目なんだ。
平気な顔でなんていられない。


キミへの想いが、なんであるかわからなかったこの気持ちの名前を知ってしまったときから。


自分がどれほど、キミに相応しくない男が知っている。
自分がどれほど、キミを苦しめることしかできな男かわかっている。



それでも・・・。
受け止めてくれなくてもいい、ただ・・・知ってほしいだけ、だから。

同じサイボーグと言う・・・キミとって不幸の始まりを喜びに変えてしまう、最低な男だけれど。






俺はキミが好きなんだ、よ・・。
初めて、好きになった人はキミだから。









この恋が実ることなんか願っては・・・いない。
何度も奇跡を起こせるほど、・・・・・009は、完璧じゃないから。




「・・・ジョー?」


もと来た道を引き返そうとしたフランソワーズを、つないだ手で引き止めた、ジョー。
歩き出そうとしていたフランソワーズの躯が、再びジョーと向かい合う。


「フランソワーズ」
「・・・?」
「キミに、・・・・・言っておきたいことがある」
「?」
「・・・前にも言ったけど、俺は・・・さくらにたいして、”友達”以上の、気持ちはない」
「・・・・それは・・・・でも」
「キミに、知っていて、覚えておいて欲しい、と、お願いしたよね?・・・変わらないから、それは。変わっていない」(day~28)


繋がれていた手が強く握られる。


「Francoise」


ジョーの声が、いつもと違うサウンドで彼女の名前を呼んだ。


とくん。と、胸が啼く。
見上げた彼の瞳の色が、初めて見る、その表情が、フランソワーズの空に浮かぶ。




見つめ合う、視線。



「・・・・・・・行こう、か」
「え・・・、ジョー?」


想いを舌にのせる緊張に身を委ねる前、ジョーの視線が、フランソワーズから離れた。
何かを、ジョーはフランソワーズに言おうとした、が、それを途中で彼は飲み込んでしまったように見えた。


フランソワーズは自分の頭上を通りすぎた先をみる、ジョーの視線を追うようにして、振り返る。



















====へと続く



・ちょっと呟く・

ストーリー展開、スピードアップ・・・内容詰め込みすぎなのはわかてます(涙)
でも、今までのペースだと・・・ここまでくるのに・・(汗)

詰め込み系でごめんなさい・・・。
このまま詰め込みでいくと、次でさっくらちゃん、きます!
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