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Little by Little・2
(2)




ホテルの部屋割りは、ジェットの鼾ではジョーに健やかな睡眠が与えられないと言う意見と、アルベルトがジェットとの同室に遠慮ない不満を現し、そんなアルベルトの躯を当麻に見せるのはどうか?と、言う疑問もあったたために、901号室に篠原当麻、ジェット。そして903号室に、アルベルトとジョーとなり、904号室に1人フランソワーズが泊まった。




あやめ祭、当日の朝。


耳に微かに届く聞き慣れた声がメロディにのって聞こえてきたために予定している起床時間よりも早く目覚めたアルベルトは、直射する朝日を遮る事ができない薄いカーテンがかかる窓を避けるように躯を寝返らせる。と、視界に浮かび上がったシルエットに目を細めた。

聞き覚えあるその節は、世界中を熱狂の渦に巻き込んだ、イギリスの・・・。
歌いなれているようすで節をまわし、狂いない音程にオリジナルよりも早いテンポを刻む。そして、彼なりにアレンジされたグルーブ感で口づさむ。


補助脳なしで発音よく英語を話せる彼の、理由が解った気がした。

誰かに習ったのか、もともとそういう才があったのか。
地声の声室は甘いテノールに低音のノイズをカットした耳心地良い声。その声で歌い上げられたら、女はイチコロだぞ?と、歌詞の内容が内容だけに、余計にだ。と微笑む。

フランソワーズが上手いと言っていた。が、それがどれほどの”上手い”なのか疑問に思っていたアルベルト。
今、耳にするその音は、アルベルトが十分に聴いていられるものだった。


「--Believe me when I tell you~・・・・・・I'll never do ・・・はあ・・まじでかよ・・」


最後の単語を歌いきらず、日本語で溜め息が漏れた。
ベッドの上で両膝を立てて膝頭の上に腕を乗せてそこへ顔を埋め、かなりの勢いで凹み始めたジョーの様子を目にして、思わず喉奥から嗤いが漏れた。


「っっく・・・く、・・・」
「!!アルベルトっっ起きてっ?!」


押さえられない嗤いに揺れながら、上半身を起き上がらせたアルベルトは、片手を上げて、すまん。と、一応謝ってみる。が、頬を染めて逃げるように、ベッドから立ち上がったジョーはバスルームへと向かう。
その彼を呼び止める。


「まあ、待て・・・いい声だ。それに確かに上手いぞ、お前・・・。そんな才能があったとはな、驚いた。習ったのか?」


顔は嗤っているが、からかうような意は含んではおらず、まじめに質問をしているようなので、ジョーはバスルームに向かわず、2脚向かい合わせにおかれていたシングルソファにどっかりと座り、テーブルに投げ置かれていGARAMの紅い箱からを1本取り出すと、テレを隠すように火を点けて、胸いっぱいにその白い毒を吸い込んだ。


「習ったことあるのか?」
「・・・・聖歌隊」
「ほお・・・・お前さんがか!」


ジョーは天井を見上げるように吐き出した煙を見つめる。


「11、2歳まで身を寄せていた施設は、全部教会系列だったんだ・・・。参加すると、色々なところへ連れて行ってもらえるし、・・・得することが多かったんだ、よ」
「基礎は出来てたってことか?」
「・・・・専門的な訓練はしてないと思う、よ。よくは解らない・・・あとは、まあ・・・」


左手の人差し指と中指に挟んだ煙草を再び口元へと運び加えると、アルベルトもベッドから起き上がって、履いていたズボンのポケットから煙草を取り出した。


「なんだ?」


ベッドに座り直して、取り出した煙草を加えると、ジョーはライターをアルベルトへと投げた。


「夜のバイト先が生バン入れていたんだよ・・・。週末はセッションとかしていて、おもしろ半分で。当時ヴォーカルの人にお世話になってました、以上」
「女か」
「・・・男でたまるか」


かち。と、100円オイルライターで火を点す。


「どおりで・・・聖歌隊じゃ、そんなグルーブ感は出せんからな」
「ドタキャン、だめかな?」
「009がか?」
「・・・・うん」
「想像できん」
「・・・・僕だって」


2人が吐き出す煙が部屋に浮かび、消えて行く。


「選曲、・・・コーコーセーには渋すぎないか?」
「ソラで全歌詞を歌えるのなんて、これくらい」
「こんなときこそ補助脳を使え」
「・・・・そうだね」


雀が鳴き、近くの車道を忙しなく行き交う車の音。
街独特な朝の騒音が耳に届き始めた。


「誰のために歌った?」
「・・・・歌ったら寝床に困らなかった」
「だろうな」


短くなった煙草を加えながら、ジョーは呟いた。


「・・・みんなに言っただろ?」
「もちろん」
「何のために?」
「心配するな、みんな(フランソワーズ)には言ってない」
「・・・・っ」


に。と口角上げてイタズラな笑み。
真四角なローテーブルの上に置いてある、グラスの灰皿に煙草を押し付けたジョーは、立ち上がってバスルームに向かう。


「...シャワー使うから!」
「ごゆっくり」


ばたん。とバスルームのドアが閉まり、シャワーがバスタブを叩く音が聞こえ始めた。


「・・・根が純で馬鹿がつくほど真面目だったから、影響されやすく、疑う事もしない。その上・・・騙されやすい」


アルベルトはベッドから腰を上げて煙草を、ジョーが使った灰皿に奥と、窓へと向かい、一気にカーテンを開けた。

「・・・・・悪ぶってるのか、本気で悪なのか、背伸びしているのか、していることが当たり前になってしまったのか・・・まったく、可愛い弟だ」



バスタブを叩き付けるシャワーの音が、ドア越しに籠った音で聞こえ続ける。


「・・・暑くなりそうだ」











####

オークション参加者は本番前に流れを把握するためのリハーサルがあり、2時間前には会場となる学院本館裏、中庭をはさんだ位置にある、オークション会場となっている星辰(せいしん)館(大)ホールに集合となっていた。

一般入場するのはギルモア、001、003、そして006。
007は姿を変えて、篠原さえこについて会場入りする。005はすでに篠原総合病院で石川斗織につきそっている。004は、篠原さえこの口利きで篠原グループの”特別”ゲストとして、自由に学院内どこへでもアクセスできるようになっていた。


<報告>
<003。001、006と博士、ホテルロビー・喫茶室>
<004。同じ>
<008。学院本館セキュリティ・ブース、問題なし>
<002。グラウンド、出店すっげ~ぞ!!ミツヒロ(とクラーク)が参加してるグループ発見。クラークとヒツミロの姿はなし!やっぱ作品だけなんじゃね?問題ねえぜ>
<002、008は戻ってきてくれ。そろそろ会場へ向かう>
<了解>
<OK>
<003、6、津田の関係者は?>
<予定通りに、ここで待ち合わせの約束を008が・・・。時間までまだ1時間ほど時間があるわ>
<わかった>
<よお、009、聞こえるか?>
<007・・・今は?>
<やっと通信が使える範囲に入ったなあ、なに、あと15分もしないで学院に着く>
<了解。じゃ、また30分後に>
<<<<<了解>>>>>


集合時間にはまだ20分ほど時間がある紫微垣(しびえん)の1階カフェテリアに、ジョー、当麻、そして海はいた。

ここ紫微垣(しびえん)は1階、2階のみを一般解放されている。
学院のグラウンドにはテナントブースを持つ参加者が、朝早くから準備にきているために、オークションに参加するために訪れる学生たちのために、カフェテリアはあやめ祭が始まる時間よりも早い時間に開いていた。


「・・・・そろそろピュンマとジェットが戻ってくる、よ」


集合時間までカフェテリアで朝食を済ました、その後、002,008は”仕事”に席を外していた。


「本当に・・・連絡取ってるんだよね・・・・?」


じっと、ジョーの顔を見つめて不思議そうに海は訊ねた。
ジョーは視線を海へとむけると、その好奇心ある色を含んだ瞳にむかって微笑む。


「・・・何かしようか?」
「何かって?」


首を傾げてみせる、海に、ジョーはちょっとした”サイボーグ”の機能のひとつを披露することにした。


<008>
<yes、009!>
<津田が脳波通信を不思議がってる・・・>
<はい?>

「何か、ピュンマに伝言は?」
「ええっと・・・、じゃ!オークションの後は姉さんたちと行動したいか聴いて、その答えを、ぼくの携帯に送ってもらえる?」
「了解」
<008、津田からの伝言。オークション後は津田の姉たちと行動したいかって聴いている。返事は直接彼の携帯にメールしてくれ>
<あははっ海ってば・・・それで?オークション後は?>
<海と一緒に行動してくれるなら、誰と一緒でもかまわない>
<了解、009>

海はテーブルの上に携帯電話を置く。当麻も思わず、その携帯電話を見つめた。
1分ほどして着信音が鳴り、海が慌ててそれを手に取った様子を、珈琲を飲みながら眺めている、ジョー。


「あ!」
「・・・・津田?」
「篠原・・・ほら・・・」


海は携帯電話を当麻に見せた。

”ちゃんと伝言受け取ったよ、喜んでお姉さんたちと学院をまわる!!楽しみだね。それとさ、ちゃんとジョーと通信できてるから、疑うなよ~! P”


「・・・納得?」


ジョーの言葉に海は大きく何度も頷いて、当麻は少しその表情を曇らせながら、ジョーに向かって訊ねた。


「・・・連絡って・・・その、フランとも?」
「・・・」


手に持っていた珈琲カップを置いて、ジョーは視線だけで当麻を見る。


「彼女は今、博士、イワン、張大人と、彼らが滞在してるホテルの喫茶室・・・・」


言葉を切って、脳波通信で003に訊ねた。


<003>
<009?>
<喫茶室?>
<・・・え、ええ・・朝食を・・・何かあって?>
<ちょっと、質問されて、ね・・・>
<質問?>
<脳波通信を疑われた>
<え?>
<今日のキミの朝食は?>
<・・・・命令?>
<悪いけど、命令>
<・・・カフェオレとモーニング・ワッフルにフルーツサラダ>
<・・・と?>


フランソワーズの沈黙。
ジョーは黙って次の彼女の言葉を待つ。


<・・・・・・・・・と。・・ストロベリームース>
<了解、ありがとう>
<・・・遊ばないで、009>
<・・・まじめだよ。訊かれると思うから、答えてあげて。以上>


楽しげに微笑んだジョーにたいして興味深く見守る海と、真剣な目でジョーを見る当麻。


「会ったときに訊いたらいい、よ・・・。フランソワーズの朝食はカフェオレ、モーニング・ワッフルにフルーツサラダと、・・・ストロベリームース」


当麻は海と同じように携帯電話を取り出して、メールではなく電話をかけた。
ちょうどそのとき、ジェットがカフェテリア内に姿を見せる。と、ジョーは片手を上げて答えた。


「よ、どこ電話してんだ?」
「・・・003の朝食をチェック中」
「ああ?」


なんだそりゃ?と眉間に皺を寄せながら、ジェットはどっかりとジョーの隣の椅子に座った。


「・・・通信が実際に使用されているか疑われた」
「それで、・・・?」
「通信で、俺が聞き出したのを、今、篠原が実際に彼女から聴くそうだ、よ」
「つまんねえことしてんじゃねえよっ、たく・・・で、フランソワーズ、何喰ったんだよ?」
「カフェオレ、モーニング・ワッフルにフルーツサラダと、ストロベリームースだ、そうだよ」
「朝っぱらからよく喰うぜ!」
「・・・・まあ、フランソワーズだし、ね。ジェットに負けず劣らずで別に問題ないだろ?」
「大有りだぜ?・・・オレと同じだけ喰ってどうすんだよ!」


まっすぐに姿勢を正した状態で、話し始めた当麻をみる、ジェット。


「フラン?・・・とうm」
『そうです、私の朝食はカフェオレ、モーニング・ワッフルにフルーツサラダと、ストロベリームースです』
「!!・・・本当に、そうなんだ?」
『・・・当麻さんも、ジョーも何をしてらっしゃるの?・・・』
「あ、・・・ごめんね」

<よお、フランソワーズ!>
<ジェット・・なに?>
<当麻のやつ、スクランブルエッグを半分ほど残してやがる>
<・・・言うのね?>
<言ってくれ、おもしれえ>


『当麻さん』


溜め息がまじった声が電話越しに聞こえる。


「なにかな?フラン」
『スクランブル・エッグ、半分ほどを残していらっしゃるの?・・・ジェットが言っているわ』


跳ねるように視線をジェットにむけた当麻。


「あ、あの・・・また、あとで・・・」
『・・・また』


通話ボタンを切りながら、ジョーとジェットを交互に見る当麻は、あらためて、彼らが”人”ではないことを感じる。
ギルモア邸にいる間、それ以外もジョー、ジェット、ピュンマと1ヶ月ほど過ごした学院の寮生活の中で、彼らが”サイボーグ”であることを感じる事はそう稀にあるものではなかった。

一度だけ、祖父の葬儀に参加した夜。
島村ジョー、こと009の、手品のように目の前から消えたとき、以外。


「フランソワーズが言ったかよ?お前のその皿の上に残ってるのが何か?」


ニヤニヤとした笑いを浮かべながら、ジェットは当麻に訊ねた。


「・・・本当なんだね」
「頭ん中に通信機かあ・・・」


ぼそ、と海が呟く。
当麻は視線をジョーの琥珀色の瞳に合わせるが、彼はその視線に気づかないそぶりで長い前髪に表情を隠した。

フランソワーズとの、通信はつづいている。


<・・・遊ばないで、ジェット、・・・ジョーもよ??
<遊びじゃねえって!>
<遊びでしょ?・・・でも、ジョー・・・いいの?通信のことを・・・>
<心配ない。それが”できる”という情報くらいなら、ね。ここまでがmaxな情報だよ、各自の性能については知られないように、以上・・・。002もだ>
<OK!>
<・・・>
<ごめんね、フランソワーズ>
<・・・・・・ジョー?>
<?>
<珍しいわ、あなたが・・・>
<たまには、ね。・・・だから、ごめん>
<・・・たまに、なら>
<ありがと>


ジェットがニヤニヤとした笑みを、当麻からジョーへと移す。
その視線にジョーは、彼が何を言わんとしているかが手に取るようにわかったので、無視した。


<やるじゃん、ジョー>
<・・・・>
<1ポイント奪取ってとこか?>
<・・・・>
<動揺してんじゃん、センパイがよ!>
<・・・・そういうつもりは、ない>


ジェットは椅子を後ろに倒すようにしてゆらゆらと揺らし、肘をジョーの肩にのせた。


「なんだあ、僕が最後?」


カフェテリアに入って来たピュンマは、トレーにオレンジジュースを乗せてテーブルにやって来た。


「アルベルトから、馬鹿なことしてるんじゃないってさ!」


制服を着ていない学院生は学生証を見せる事でカフェ内の食事はフリーとなっている。ピュンマは学制書を財布にしまいながら、円卓テーブルの、空いている椅子に座った。


「こっちに言わず、お前にかよ?」
「呆れてたんじゃない?・・・まさかリーダーが率先してだなんてさ!」


ピュンマはジョーにウィンクを一つ投げる。それに対して、ジョーは苦笑するしかない。


「たまにはだぜ!たまにはっ、リラックスが必要だしよっ」


通話を切った携帯電話を当麻は強くテーブルの下で握りしめる。


「もう少ししたら、講堂へ行こうか・・・」


ジョーはピュンマにむかって時間を確認するように言った。


「うん、そうだね」



出会ってから過ごした時間の多い少ない、長い短いは恋愛においてさほど問題じゃないと、当麻は思う。
それはお互いの想いのベクトルが向かい合っている場合。


人である事。
ただ人であるということが、自分と彼女の縮まらない関係の要因なっているのだろうか?

サイボーグ同士。
惹かれ合いながらも踏み込めない一線にある理由がサイボーグなら、2人を強く結びつける鋼の糸でもある。



当麻は、その糸が永遠に切れる事がないことを知りつつも、フランソワーズと自分が繋ぐ糸はもっと人らしく温もりあるものに、と願う









####


「通信できることで、・・・か。お子様この上ないな」
「なに言うアルか!そいうことできるようになっただけでも進歩ね!大切な事ヨ」


ホテルのロビーに続く、喫茶室。

月見里(やまなし)学院にむかったメンバーと分かれて、アルベルト、フランソワーズは歩いて10分内にあるギルモア、001、005,006,008そして津田海と宿泊しているホテルで落ち合い朝食を取り、食後の珈琲を楽しんでいた。


「覚えているあるか?フランソワーズをバレエ公演に連れて行くときのジョーの”報告”をネ!ワタシらが”デート言うたら・・・」(Day12)
「ああ、覚えている。”デートじゃない、フランソワーズに失礼だろ!”だったな」


選んだホテルは、学院から脳波通信が届く範囲内にあることを条件に、いくつか00メンバーたちの希望を含め、そして、津田海の親族である、今回のオークションに訪れた姉2人、長女、夢(ゆめ)、三女、林(りん)の部屋も都合し、その存在を目立たせぬようにできる場所を選んだ。


「なんと言うかのう・・。・・・やはり平和の中でこそじゃのう・・・こう、00ナンバーで呼び合う暮らしではなかなかのう・・・・。それぞれに見えんかった”素”の部分が出て来て、いいのう。いまだにお前たちにたいして新しい発見があるのは、嬉しいかぎりじゃよ」
「まだ邸での暮らしが始まって半年過ぎただけアルヨ、これからアル、これからネ!!」


むふふ。と、笑う張大人。
通りかかったウィエトレスに珈琲のリフィールを頼んだ、アルベルトがギルモアをに訊ねた。


「・・・そういえば、博士には話しましたか?」


フランソワーズがイワンを連れてレディース・ルームに向かった事をいいことに、先ほどのちょっとした”遊び”に意見したアルベルトをきっかけに、話しが”そちら”へと向かっていく。


「何じゃ?」


愛用のパイプを取り出して、そうじゃ。ここは禁煙席じゃったのう、と。それを上着にしまいつつ、アルベルトを見る。


「ジョーがフランソワーズが好きだと言ったことアルネ!それ、一番大きな変化アルヨっ」
「そんなもん、とっくの昔にじゃ。・・・訊く必要もないじゃろう?」


アルベルトが呼び止めたウェイトレスが、重たげにポットを持ち、3人のテーブル席に近づいてくる。


「いえ、博士、ジョーが”告白”する決心をしたことです」
「なに?!・・・・まだ言っとらんのか?」
「・・・まだアルヨ」
「まだです・・と、言う事はご存知だったんですね?」
「何をいったいモタモタしておるんじゃ・・・ジョーは・・・取られてしまうぞ・・・・・」


まず、アルベルトの珈琲カップに注ぎ、アルベルトは注ぎ終わったカップを見て、小さく礼を言う。


「告白したと、思われていたんですか?」
「・・・・告白してたら2人はもっと親密ネ、それに当麻クンにたいして、ネ?」


ウェイトレスは、その席にあるカップをみて、”お注ぎしますか?”と訊ねると、ギルモアと張大人が、同じタイミングで頷いた。


「じゃが・・フランソワーズは・・・前に比べてのう?」
「博士も、感じられてましたか?」
「うむ・・・」


テーブルに珈琲のすっきりとした薫りは、いつも邸でいれる珈琲とは違う薫りが漂う。
それは、喫茶室独特な朝の風景にとてもあっていた。


「ワタシも同じこと考えてたネ。・・・・当麻クンの誠意アル熱烈アピールを受けても、ちゃんと傷つけることなく”お友達”の距離で接してるアル。はっきり断らないのは、気まずいことにでもなって”ミッション”遂行に支障が出てはいけない思ってるネ・・・違うアルか?」


自分の考えがはずれていないか確かめるように、張大人はギルモアとアルベルトにお伺いをたてる。


「どうじゃろうなあ・・・」
「・・・・常に自分は後回しで・・・・、気がつけば自分の気持ちを見失っているんだよ、あの子は。不器用とと言うか、なんと言うか・・・のんびり屋か?素直そうに見えて、実は意地っ張りで頑固だから、いまいち掴めん」
「少し違うが、ジョーのマイペース具合と似ておるのお・・似た者同士か?」
「2人とも我慢強いネ」
「わざわざ恋愛で我慢強くなくてもいいだろうに・・・」
「後できっと、それがいい風に出てくるアルヨ。彼らには彼らのペースがアルネ・・・・あまりプッシュ駄目ネ!」


ぐ。と、アルベルトに釘を刺す、張大人。
わかってます。と言う風に、苦笑するアルベルト。


「しかし、ジョーは本当に歌うのかのう?」
「そのようですね」
「まだ、知らないアルか?」


2つのカップに珈琲を注ぎ終えて、ウェイトレスはにっこりと微笑んでテープルから離れていき、入れ替わるように2人の女性がそのテーブルに近づいて来た。


「・・誰も言ってないなら、そうだろうな・・・オークションのパフォーマンスはべtsu・・」
「あの・・ギルモアさんですか?」


予定より少し早い時間に津田海の姉2人と合流し、イワンのおむつを換えて戻って来たフランソワーズは、自己紹介を済まして、ホテルフロントで呼んでもらったバン型のタクシーに乗り込んで月見里学院へと向かった。









####

一通りのリハーサルを終えて、オーション参加者は、舞台裏で待つのみ。


去年までは旧本館(旧篠原総合病院)のホールで行われていたが、1ヶ月ほど前におきた”火災(006)”にて、全焼してしまったために、今年からは新設されていた本館に付属する星辰(せいしん)館(大)ホールに場所を移した。
大ホール、小ホール、リハーサル室(練習室)、研修室、セミナー室、ギャラリー、多目的室があり、月見里学院の文化的活動を主として新設され、海外からのゲストの講演会に、全校集会などにも使われる。

外観は本館に合わせた作りだが、館内は近代的な内装を施されいる。ホールは半円形を描き、ヴォルカン色のシートが並ぶ、2階建て。1階席のシート半分を取り外し、円卓テーブルが並ぶび、真白いクロスに覆われたテーブル中央には、番号が振られたスタンドが置かれ、6、7人でそのテーブルを囲む。

本館から入り、中庭園を抜けて会場入りできるのは、円卓テーブルに席を得られる、オークション参加者であり招待状を持つ者のみ。
オークションには参加せず、そのイベントを楽しむ一般入場者は本館の裏、星辰(せいしん)館の正面入り口から入場する。


場を盛り上げるために、半地下堀になったオーケストラピットから、小編成のオーケストラが軽やかに誰もが耳にしたことがある定番曲を演奏していた。

オークション後、星辰(せいしん)館を解放し、様々なイベントが行われる予定である。





ざわざわとした、舞台裏。リハーサル室に集められた学院生たち。
その一番奥の部屋角にいる5人はパイプ椅子に座っている。

ジョーの機嫌は最低で、”言わなかった”ジェット、ピュンマはしれっと、きちんと”情報”を把握していなかった009が悪い。で通した。

あやめ祭のオークションは、”生徒”のパフォーマスとして、舞台での実演はもちろん、”作品”の出品でもかまわない。リハーサルのために、当麻は幼少時から趣味で続けている油絵の1つを持って現れたことから発覚したその事実に、ジョーは絶句した。
わざわざ”歌う”必要がなく、何か”自作”したものを手に舞台に立てばよかったのである。


「ボクと海とジェットは”パフォーマンス”するんだからさ!諦めてよ、ジョー」


ね?と、ぽんぽん。と彼の肩を叩くピュンマ。


「その、島村・・・ごめん、島村らなら知ってるはずだって聴いて・・・」


当麻の”訊いていた”に反応し、殺気の籠った視線をジェットへとむけるが、その程度でジェットは怯えたりしない。すでに彼の計画は成功したも同じであるために、余裕の態度である。


「っだよ!滅多にこんなチャンスねえんだから、楽しめっつうの!いいじゃんかよ、てめえは”リジチョー”に落札されんだぜ?オレなんか、禿げた親父だっつうのっ!」
「って言いながら、007に”変身”頼んだくせにっ


リハーサル室内の、ジョーの目に止まる生徒たちは緊張しているような、興奮しているよな、浮き足立った雰囲気でわいわいと賑わっていた。そんな様子に比べて、彼の気持ちはどんどん沈んでいく。


「・・・・・・覚えてろよ、ジェット、ピュンマ」


009の恨みの言葉を掻き消すように、002が定期連絡の号令をかけた。


<おう、報告たのむぜっ!>
<006アルヨ。会場入りしたネ>
<004。こちらも、表、裏、チェック隅。2階席確保。現在、星辰(せいしん)館、正面入り口>
<1階、003。・・・ギルモア博士、イワン。津田さんのお姉様方と。006と同じテーブル。>
<007。まだ会場入りはしてねえ、さえこ殿とその自慢の新人”女性秘書”として、席に着く>
<005からは?>
<連絡アリね!何もないアルヨ>
<ちゃんと009の”歌声は”スカイプ”で005届ける手はずになっているアルヨ、がんばるネ!>
<?!>


ジョーの目の色が変わる。
驚きの表情に固まった彼に、当麻と海は注目する。
横からさりげなく、ピュンマが”定期連絡中”と、2人に伝えた。


<録音もばっちりだとさあ、ギルモア博士がだったな?003>
<・・・・009、止めたのだけど・・・ごめんなさい>
<こちら008!009にバレちゃいましたっ>


これ以上、ジョーの機嫌を損ねないように、明るい雰囲気を作ろうとするピュンマ。


<・・・009、お前のミスだ、諦めろ>
<・・・・・004。も、みんな知ってたんだね?>
<009が知らない方がおかしいってこったなあ!でも、吾輩らもそれを知ったのは昨夜だぞ>
<003、篠原が何をするか知っていた?>
<いいえ・・・・楽しみにしておいて欲しいと言われて・・>


「003に言うわけねえじゃんかよっ、アイツが”秘密”に出来るとおもってんのか?!」


009の頭の中に今まで”あやめ祭”に関する情報が整理される。が、やはりどこにも、”それ”に関する情報がない。
中高一貫の6年制度としている学院のために、生徒たちは学院生活の中で自然とその情報を知る事となっていくのだろう。
”編入生”であり”短期留学生”の自分が、そういう情報を逃してしまったことは仕方ないことである。その上に、”短期留学生”という身分は仮であり、本来の目的は”ミッション”のため。


極力一般人(学院生)との”関わり”を避けていた。

ピュンマは持ち前の明るさと社交性を発揮して津田海を中心にしていつの間にか多く友人ができていた。ジェットはその行動や発言など、学院から”浮いて”いたが、彼の漢気ある言葉やムードメーカーなキャラクターは、彼が学院に馴染むのではなく、学院が彼に馴染んだように思える。


当麻から訊いたのか。
海からの情報なのか。



彼らはこの学院について、ジョーが持っていない情報を多く得ているだろう。
それは、002,008として報告義務がないもの。



けれど。


「・・・ジェット」
「おおよ!」


パイプ椅子に座って肩から項垂れているジョーの顔をジェットは覗き込む。


「・・・・マジ、むかつくんだけど?俺」
「ぐ・・」


視線だけ、ジェットへむけた。
数えきれないほどの死線をくぐり抜けた仲間だからこそ、わかる、009の”瞳”に、ジェットはさっと覗き込んでいた態勢から、身を引いた。



奏でられていたオーケストラの曲が止み、開演のベルが、ジェットの命を救う。


「ああっ!始まるみたいだよっ。ジョーも諦めて、ほら!楽しもうよっ」


明るい声を出して、ばしばしとジョーの背を叩く。


「・・・ピュンマもだから、ね」


ピュンマの手を止めると、にっこりと笑ってみせた、ジョー。


「?」
「俺、けっこう、しっかり根に持つタイプだから」


顔は笑っていても、ピュンマにむけられているその瞳は・・。
びくん!と、肩が跳ねてピュンマもジェットのようにジョーから離れて距離を取り、海のそばによった。


<や、やばいっ>
<やべえっっ、そ、そんな、オレたち・・>
<じ、じぇ、ジェットがい、い、言い出しっぺだからねっ!!>
<ずりっ!!おめえだってよっ>


リハーサル室の壁に埋め込まれているTV画面は、ホール舞台を正面から映し出している。
ちらり、とそのモニターへと視線を投げたジョーは、深く、深く、躯中から酸素と言う酸素を抜ききって、開演ベルの音を聞いてあがった室内の温度そのままに、吸い込んだ空気。



<指定配置、確認>



司会者の声が小さくTVモニターから流れた。
会場を温めるための、ユーモア溢れる学院、オークションをネタにした言葉が続き、ゲスト・アーティストの何人かがパフォーマンスを披露する。

<006ネ、003がちょっと席離れるアルヨ>



ナンバー1のプレートを手にしていたジュニアの生徒が呼ばれた。







====へ続く



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