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Little by Little・3
(3)





オークション開始30分前。


最近の無線機はとてもスタイリッシュになっている。
フランソワーズの目に映ったそれは、明らかに彼女が知る時代のものとは比べられないほどに形を変え、軽量化されていた。

月見里学院の正門から、警備員を見かけるたびに、フランソワーズはその配置と数をチェックしつつ、その装備に興味深げに視線を走らせた。しかし、彼女はそれらよりもさらに進化した形で仲間たちと連絡を取る。


<津田は予定通り、ラストから3番目>


ホテルの喫茶室で朝食をすませ、同ホテルに部屋を取った津田海の姉、夢と林と合流する。
お互いに初めて会うが、ギルモア自身は何度も海の”足”について、彼の両親、主治医と電話で話しており、実際に今回のホテルを用立てる次点で、津田夢とはピュンマの養父として何度かメールで連絡を取っていた。

津田海とピュンマはすでにジェット、ジョー、そして篠原当麻と学院へ向かっていた。
そのためにギルモアが中心となり、それぞれに自己紹介と挨拶を交わし、ホテルのフロントで呼んでもらったタクシーを使い月見里学院へ向かった。

初めて学院を訪れる、ギルモア、張大人の感嘆の声を訊くフランソワーズ。
途中、学院本館前でアルベルトと分かれたが、何も問題なく会場とされる星辰(せいしん)館、大ホールへと辿り着いた。









「叔母?・・・それじゃあ、女の子アルネ!?」


フランソワーズの腕に抱かれているイワンを見ながら、きりっとしたキャリアウーマン風の津田海の姉、夢が「まさか、叔母と甥が同学年になるなんて・・・」と、次女も出産を控えた妊婦であることを明かした。


「名前は”なな”に決まりよね?ここのままだと・・」
「あの、海さんはご存知ですの?」


黒髪のベリーショートヘアに、きちっとしたパンツスーツに身を包んだ夢とは対照的に、ノーブルなワンピースは膝頭がみえるほどの長さに、かかとの細い、ストラップサンダルゆるくアップスタイルの林。耳を飾る大きいスワロフスキービーズのピアスが眩しいほどに光っている。


「うーちゃんはまだ知らないんじゃないかなあ?」


赤ん坊がいることで話題に事欠くことなくテーブル席の雰囲気を温める。


「う、・・・うーちゃん・・・?」


林の隣に座る張大人が、海のニックネームに反応した。


「ええ、姉妹全員そう呼ぶんです」
「花ちゃんは女の子を欲しがってたけど、こっちが女の子だったんだもの、甥っこでよかったわ!・・・イワンくん、ほんと可愛いわねえ」


長女、夢と次女、花は双子(28)らしい。
そして、少し年が離れて三女、林(26)、四女、繭(24)、五女、煌(21)と年子と続き、海(18)と教えてもらったフランソワーズ。

彼女が抱くイワンに、フランソワーズの右隣の席についた夢は、イワンの頬をむにむにとつつき、小さな手に湯とさし指を差し出しては握らってもらい喜んでいる。


「赤ちゃんってみんな可愛いけれど、外国の赤ちゃんはまた別よねえ!」


少し早めに会場入りし、中央少し後ろよりのテーブルを確保した。
時計の針が目的の数字へと歩を進めるにつれてテーブルは人で埋まっていき、それぞれのテーブルを超えて挨拶を交わす姿が見られ、強化されている耳は、それらの言葉を自然に拾っていく。

耳にする内容からしてテーブル席には、やはりオークションに出る学院生の家族が多いようだった。そして、時折聞こえてくる場に不似合いなビジネス的なやり取りも、003であるフランソワーズの耳に入ってくる。
悪いとは思いつつも会話に耳を傾けるが報告する必要のない内容ばかりが続き、安堵する。

006は会場全体の様子さりげなくうかがいつつ、”耳”を使用している003が津田の姉たちに気を取らて、本来の目的に支障がでないように、その上で彼女たちに対して失礼がない程度の対応ができるように気を配るため、テーブル上の会話は006が中心となった。
ギルモアはいそいそとラップトップコンピューターを開いて、篠原総合病院にいる005ことジェロニモのために音声と映像が伝えられるように準備をし始めた。





バレエ公演の会場とは雰囲気が違う。

当たり前のことであるが、”舞台を観る”と思うとフランソワーズにとって”人”であったころの経験から、舞台=バレエと自然とつながってしまう。

イワンを夢に見せてやりながら、耳のスイッチはonの状態に維持している。
聞きたくもない流れ続けるラジオを聞くように、無遠慮に流れてくる言葉の洪水。

会場の予想以上の人の多さに、深呼吸する振りをして溜め息をつく。



そのため息の濃さに、緊張しているのだろうか?と、003は自分に問う。



腕の中の001は、夢にかまってもらっているためにご機嫌の様子であるが、ときおり003の心中を察するかのように、小さな手をフランソワーズに伸ばし、特別な声で彼女に話しかける。
その声に、003は優しく花が咲く揺れるように穏やかに微笑んでみせた。


<心配しないで、これくらい平気よ?私は003ですもの>
<理事長殿とその”美人”秘書、会場入り也!>


007から篠原さえこと一緒に会場入りしたと通信が入った。
事情を知らない夢と林に不自然に思われないよう、”眼”を使って確認し、その位置を仲間たちに報告する。


<・・了解>


ミッション中だけれども、009のどこか不機嫌さを纏う声に、003であることを忘れて声をかけたくなる。
先ほどの”報告”よりも明らかに、彼の声はトーンダウンしていた。

仲間にジョーが”歌う”ことを言ってしまったことに申し訳ない気持ちで反省しつつも、彼が狼狽えながら仲間たちから逃げて、必死でイヤだ!と拒んでいた、あの夜を思い出してはフランソワーズの頬があがる。と、同時に、自分しか知らない(イワンは知っていたけれど)秘密だったのだと感じて、ほんの少しだけ残念な気持ちにもなる。


フランソワーズが言ってしまったことを、怒ることも責めることもしなかったジョーは、黙って部屋に戻った。
彼が部屋に戻るとき、すれ違い様にあった視線は少しばかり、拗ねたこどものように見えたのは、気のせいだろうか?

ミッションが終わった後、そのまま学院に残りあやめ祭までの日々を過ごし、少しばかり雰囲気が変わったように思う。



一言では言い表せない微妙な変化。
言葉では言えない、小さな、小さな、違い。



季節が移り変わるときの風に含まれる予感が、フランソワーズの胸をくすぐる。








『義足の子は予定通りに?』









聞こえてきた内容に、は!と。息を飲む、003。


『今回はそのために、だろう?』
『しかし・・・』
『そう思っている奴らはオレたちだけじゃないはずだ』


飛び込んで来た会話に、”眼”のスイッチを入れて会話の聞こえた方向へと振り返り、忙しなく会場内に首を巡らせる真剣なフランソワーズの様子に、夢と林が驚く。


「イワンのおむつかのう?」


フランソワーズの左隣に座るギルモアが、フランソワーズの肩に手をかけてのんびりと声をかけた。


「あ・・・。え、ええ。そう思ったんですが・・・」


腕の中にいるイワンをあやすように、ゆらし抱き直しながら、夢と林の様子を知って自分のしたことに小さく後悔するが、彼女たちは別段気にする様子もなくギルモアの言葉を拾って会話を続けた。


「おむつ交換できるような場所あったかしら、林、知ってる?」
「どうかなあ・・?」
「・・・まだ時間があるみたいなので訊いてきます、ミルクの準備も今のうちに・・・・」


うむ。と、フランソワーズの言葉に頷き、彼女の腕からギルモアはイワンを抱き受けた。フランソワーズは足下に置いていた荷物の中からミルクの準備を整えた大きめのポーチを取り出して席を立つ。


「偉いわねえ・・林も見習ったら?」
「そういう夢ちゃんこそ、そろそろお嫁にいったら?」











####




オークション開始20分前。


<・・・見つけられないわ>









声が聞こえた同時に”眼”を使ったが、会話が途切れてしまったようで、人物を特定することができなかった。


「え・・赤ちゃんのですか?」


すでに開演のベルは鳴らされていたが本番前のパフォーマンスなどが繰り広げられながらも、まだ会場内の観客の出入りは激しく、ざわざわとした落ち着かない雰囲気であった。


「はい、もしもそういう場所がありましたらと・・」


会場出入り口付近に立っていた、案内係らしき人物にフランソワーズは話しかけて訊ね、困らせた。
寄宿制の男子学院であり、全体的にレディースルームが少ない。赤ん坊のおむつを換える用途などないに等しいことは明らかである。


「紫微垣(しびえん)のカフェテリアへ行っていただければ、ミルクのお湯は大丈夫だと思います。けれどおむつ交換の方は・・・」
「わかりました、ありがとうございます」


言い淀む相手にむかって、にっこりと花が咲くように微笑みながら礼を言い、会場から出て行くフランソワーズ。
自分が会場から離れる事を伝えようとしたが、006が脳波通信で先に仲間たちに伝えてくれた。


「行って戻ってくる時間はないわ、きっと」


招待されたゲストが使用する出入り口を出ると、ロビーが広がり、絨毯が敷かれた左右に広がる廊下が視界に入る。
右は、舞台裏へと繋がり、左は、招待状を持たない一般客が出入りするための、グラウンドに繋がるエントランス。学院本館を中庭園をはさみ建てられている星辰(せいしん)館のメイン・エントランスは学院本館の裏にあたる、第一グラウンドに面している。

紫微垣(しびえん)へ向かうためには、正面エントランスよりも、学院本館へ戻ってからの方が近い。


「終わったらすぐに・・・。お腹空かしてイワンのご機嫌が悪くなったら大変だもの」


ホテルの部屋で用意したミルクはすでに飲み終わってしまっている。
こちらへ向かう前に洗う時間などなかったために、持ち歩いている使ったミルクボトルも洗いたかった。


フランソワーズはきょろきょろと自分が立つ周りを見回してから、手にしていたポーチを見つめて軽く溜め息を吐く。

招待客が出入りする入り口から、心持ち離れた場所、右側、舞台裏へと伸びる廊下側に立ち、オークション開始時間が近いことから込み合い始めた入り口を眺め、そのまま視線を上へと移動させて行く。
躯をひねるようにして振り返り見上げた廊下の壁が天井に繋がる部分に、横長い明かり取りの窓が取り付けられていることに気づいた。




夏色の空が、写真のように切り取られている。



---同じ空でも・・・・違う。




カラーでは思い出せなくなってしまった、フランスの空の色。
瞼に描かれるのは、日本の空の色。






<008。003、今どこかな?>
<招待客用の会場入り口よ>
<動かないでね、今ね・・・>
<そっちによっ、センパイが行ったぜっ>
<え?>
<ミルクを作るんでしょ?場所があるって>


突然の008からの通信。
舞台裏へと続く”関係者以外立ち入り禁止の表示が出されている廊下の先に、見覚えあるシルエットを003の”眼”がとらえる。


「フラン!」


小走りにフランソワーズへと駆け寄り、当麻はフランソワーズの手を取り、来た道へと彼女を誘う。


「・・・・・・・当麻、さん?」
「ミルクを作る場所なら、こっちに来て」
「で、でも・・・そっちは」
「大丈夫だよ、何かあったら”さえこさん”の名前を出すつもり」


ピュンマが「星辰(せいしん)館内でイワンのミルクを作れるような場所がある?」と、海に訊ねていた言葉を聴いて、今日はまだ会っていない彼女と会うチャンスだと、早々に「給湯室があるから」と、リハーサル室から出たのだ。
シニアのRA(Resident Assistant)である当麻は館内の施設のほとんどの使用を許可されており、鍵を持っている。
それには、各階にある給湯室への使用も含まれていた。


「そんなの、いけないわ」


手を取られて、当麻に促されるまま足を進めていたフランソワーズが、立ち止まる。
当麻も同じように立ち止まりフランソワーズを見る。と、彼は微笑んだ。


「前はぼくもそう思っていたよ」
「?」
「でも、いいんだって思う」
「・・・?」
「そう思えるようになったんだ、フラン。君たちのおかげかもしれない」


再び、当麻は絨毯が敷かれた廊下を”関係者以外立ち入り禁止”の方向へと歩き出した。
フランソワーズは、足を止める事ができずにそのまま当麻について歩く。取られた手に少しだけ力が込められて、フランソワーズの視線がその手に絡まる。


「ここを自由に使って、水は冷蔵庫の中に・・・!」


リハーサル室からそれほど離れていない場所にある給湯室前のドア前で、フランソワーズの手を離そうとしたとき、フランソワーズが当麻の手を強く握った。

当麻は握られかえされた手の力に驚きながらも、嬉しさが胸に広がり、どきどきと心臓を高鳴らせてその手を離さず、ぎこちなくポケットからIDカードを取り出してドアノブ上に設置されている磁気カードロック(施解錠繰り返し型)にスライドさせた。


「当麻さん、・・・2日目は・・」
「・・・・フラン?」


丸い赤ランプが緑色に代わり、かちり。と、ロックが解かれて、フランソワーズと一緒に給湯室へと入って行く。






「・・・2人きりにさせんのかよ?」


つんつんの赤毛のアメリカ人がドア口に立つ、栗毛の仲間に声をかけた。


「このままここに突っ立ってんの?」


開け放たれたままのリハーサル室前の廊下がのびる先の角に、給湯室の入り口がみえた。
ドアの入り口に立ち、そちらを見つめたまま動かない彼の肩越しから、重ねるように視線を固定させるジェット。


「・・・・」


ジョーは当麻の後を追うようにして座っていたイスから離れてリハーサル室のドア口に立ち、そのままその場所から動かない。ピュンマは目線だけで彼を追い、海にむかって苦笑いをしてみせた。

海は親友のピュンマとジョーを交互に見て、その苦笑に含まれる意味を読み取ることができた。
篠原当麻と同じだけの時間をサイボーグたちと過ごして来た彼だけに、薄々、009、篠原当麻、そして003の間に何かがあることを感づいている上に、そのことに関して色々とピュンマの言葉が添えられていた。


「よぉ、てめえはここに突っ立って何がしてえんだ?」


給湯室のドアは閉められている。
003のような能力がない002と009には、その中での様子を知る事などできない。



ジェットは、ジョーの背後から、003/フランソワーズが給湯室に入る瞬間を見ていた。


普段なら、別に何とも思わない。
ミッション中である今、彼女が”サイボーグ003”であるために。

篠原当麻は、今回のミッションで00メンバーたちが護衛しなければならない人物の1人。
それは、栗色の髪をしたサイボーグのリーダーである彼もよくわかっていることだろう。



決心をしたんじゃないのか?と、ジェットはこころの中で言葉を投げる。

口では言わない。
言えない。
言うのは簡単な事だと、知っているからだ。


けれど、簡単なことなんだと、知って欲しいがために口にすることもある。
口で言ってしまえるほど、ちっぽけで、簡単なことなんだ、と。気づいて欲しい。



「それで?」





苛々とした気持ちが腹底からわき上がるが、それをぐっと、唾と一緒に飲み込んだ。


「仲良く密室だぜ?どうすんだよ、ジョー」


ジョーのこころの内を探るように002は声をかける。


「・・・・」
「さっきみたいに、”脳波通信”でか?仲間同士だから、って見せつけるのかよ?」
「・・・・・」
「003、ってことを優先させるアイツが嫌なんだろ?だったら、んなもんに頼るじゃねえよっ、都合良く”躯”のことを使ってアイツとの距離が近いなんてズルしてんな、まずは、自分が”島村ジョー”としてアイツのそばにいろよ」
「・・・・・ミッション中だ」


力ない声だったが、はっきりと言った彼は、今、009であることを選んでいる。
009は背後に居た002にむかって振り返り、002と対峙し、彼を見上げるようにして視線を合わせた。


「・・・篠原を1人で行動させるわけにはいかなかっただけだ、003と会えたなら何も問題ない」


002は肺に溜まっていた空気を一気に抜き出すような溜め息を吐き「それが問題だろっ!」と叫びたかったが、拳を作って009の肩先を小突いただけに留まった。


「OK、009。・・・・お前がそのつもりなら何にも言わねえが、後悔すんなよ?」
「プライベートな私情はミッションには持ち込まない。何がきっかけで事が転じてしまうか、わからないからだ」
「003として、見てんのかよ?」
「当たり前だ、彼女は003だから」


ドア口から離れて008と津田海の元へと歩き出す009の視線は、002と重なり合った状態のまますれ違い、ジョーの言葉に、少し前の出来事を思い出す。




自分といるときに、”003”を優先させる”フランソワーズ”が嫌だと言った彼を。
だから、フランソワーズがフランソワーズでいるために、彼女には自分は相応しくない。と、言った。



幸せになって欲しいから、こそ。
戦いの日々を思い出させる、同じサイボーグである自分は、相応しくないと。




本当に好きだからこそ、中途半端。
そんな甘えたことを言っていたヤツだったよな?




---オレからみれば、変わらず中途半端なまんまなんだけどよ、変わろうとしてんだよな・・・?




まずは、・・・あるがままのアイツと向き合ってか?










「くそ真面目なヤツ、・・・何にも起きやしねえよっ、こんなに暇なんだぜ?」


すれ違い様に、ジェットは躯の向きをかえてジョーの後に続いた。


「何かが起こってからでは、遅い。ことを未然に防ぎ、最小限に抑えることを優先する」
「なあ、お前・・・そんなもんを忘れちまうくらい、がむしゃらにってなんねえのかよ?」
「・・・・・・」
「そうなったって、オレらがいんだぜ?ぜってーカバーしてやるっつうの・・」


大小のグループになった学院生たちの合間を縫いながら、歩く。
その背から少し離れて、ジェットは歩く。

009の背を見つめつつ、その隣に亜麻色の髪の仲間を想像の中で009の傍らに立たせてみた。
009の傍らに立たせた003は、防護服を着ていない。




---ったく、どうしてこう・・・単純なことがうまくいかねえんだよ?



忙しない足音が聞こえたので、振り返ってリハーサル室のドアを見たジェット。
続けて、ジョー、ピュンマ、海、リハーサル室内の学院生が、ドアへと注目した。


”代表会(生徒会)”の学院生が部屋に入ってくると、叫んだ。


「始まります!ナンバー5~10、来てください!」















####


開演ベルが鳴り終わり、会場を温めるためのユーモア溢れる学院、オークションをネタにした会話の後、ゲスト・アーティストのパフォーマンスが続けられていたが、司会者が改まった口調でそれらに終わりを告げると同時に、高々にあやめ祭開催の宣言し、オークション開始の言葉を口にした。

会場内は拍手の波に包まれる。
その波が終わらないうちに、篠原当麻がリハーサル室へ戻って来たと008から報告があり、同時に、003からの報告が入ってきた。


<003。席に戻りました。・・・会場内で海さんを観に来たらしい人物の居場所は、ごめんなさい、特定できないわ・・・>
<こう人がおおくちゃなあ>
<・・・来てるんだね?・・海の足目的で・・>
<だな!>
<それだけか?>
<ええ、他は何も・・・>
<方角的に、あんさんが座っている位置アルヨ>
<そうか・・・、男2人、だな?>
<さえこ殿のまわりには、それらしい接触はないままだぞ>
<004、それとみんなも、だ。こだわるな。003が聴いた2人だけ、とは限らない。これではっきりとした。津田海を目的にした人間が来ている、気を抜かないでくれ>
<<<<<<<了解>>>>>>>




すでにジョーが受け取ったナンバーは呼び出されており、薄暗い舞台袖へと移動していた。
照明ライトに照らされた白いだけの眩しい舞台を苦々しく見つめてながら、報告を受ける。


<それと、・・・・パフォーマンス中は通信を切らせてくれ・・・・以上>

冷やかしの声が飛び交う前に脳波通信を閉めようとしたが、回線(チャンネル)が009個人へと換えらて繋ぎ直された。


<・・あの>
<003?>
<・・・・・・お客様はみんな、チョコレート・トリュフなの>
<・・・h?>


突然の言葉に、ジョーの頭が真っ白に飛ぶ。


<とっても美味しい、トリュフなの・・・、だから怖くないの。だって、美味しいし・・・、それに甘くて、・・あ、違うわ、あの、そう思ったら、緊張しないと、そう思うと舞台にあがったとき、いつも緊張しないように、そういう風に、だから。・・あの、ご、ごめんなさい>
<・・・・・・f・・・、003、普通、石とかに例えない?>
<・・・石の前でパフォーマンスしても、楽しくないでしょう?・・・トリュフは色々あるし、味も形も、・・・・と、とにかく、ごめんなさいっ。あの、がんばって・・・・・ジョー>


聞こえてくる観客の声と司会者の場を盛り上がらせる会話術、舞台進行をサポートする中等部学院生たち。ジョーも見覚えがある何人かの教員たちに、今回オークションのために外部から呼んだ舞台関係専門の技術者。


その動きと数を把握する、009。


星辰(せいしん)館の設計図は篠原さえこから手に入れており、今日出入りする業者関係の人間も調べがついていた。
オークション用に整えられた会場は、下見にきた篠原さえこにつきそった007が、危険な”細工”はないか、事前に調べ終えていた。

昨夜遅くに004、009の2人はここへ1度忍び込んでいる。



舞台袖は、華やかさなどなく、高い位置から吊るされた重々しく幾重にも重ねられたカーテンの匂いに、赤外線ランプが足下を照らし、舞台装置、音響のトラックの周りにだけ青白いペンライトが光る。

背の低い猫背の男が、進行表を確認していた。


---・・・以上なし。



人の顔が判別しにくい、不便な暗さが009にとって少しばかりの救いであった。
暗視モードに切り替えずとも、はっきりと周りを見る事ができる眼には舞台上から滲む光で十分である。




ふっと、肩の力が抜けた。


”・・・・・・お客様はみんな、チョコレート・トリュフなの”


苛々とした、苦々しく、無性に腹立たしかった気持ちは、パフォーマンスにたいしてなのか、教えてくれなかった仲間にたいしてか、篠原当麻とフランソワーズが手を繋いでいたから?

それを目撃したから?
見ていながら、行動しなかった自分に?
勇気がなくて009の影にかくれた情けない自分に対して?


固まって動けなかった足を、どうにかリハーサル室内へと動かし戻すことだけで精一杯だった。
たかが、手を繋いでいたのを見たくらいで、と、自嘲しながらも、こころが痛み、その痛みがひた隠しにしている獰猛な獣を起こそうとする。


ごちゃごちゃと様々な感情がまじりあって濁る中、その想いはすべて彼女にむけられていく。





キミは無防備すぎる。
男と言う生き物を知らなさ過ぎる。





「ナンバー確認させてください」
「・・・9」










司会者がジョークを交えて次のナンバーを読み上げて、手元に持つ資料からその生徒を紹介する。


『ナンバー9の生徒さんをご紹介させていただけますっ。編入して来たばかりのようですね!しかも今学期のみっ。学院の思い出作りに、一夜の夢を、お嬢様方っ準備はいいですか!彼はとってもハンサムさんですよっ、リハーサルでチェック済みです』


ジョーのナンバーを確認した学院生が、ジョーの背をぽん。と、押した。


「どうぞ、行ってください」


頷いて、ジョーは光の中に足を進める。
静まりかえった会場を舞台上から見下ろしながら、探すのは極上のチョコレート・トリュフ。




”がんばって・・・・・ジョー”


---フランソワーズ、俺は・・・・














####





熱い。



それが、舞台上での彼の感想。

どこにでも売っている無地のTシャツに、色落ちされたジーンズ。
有名スポーツメーカーのスニーカーを履いた青年の髪は日本人らしからぬほどに、舞台のライトに照らされて金茶色に光を弾いていた。

俯き加減に、長い前髪が彼の片方の瞳を隠している。


寝癖なのか、くせっ毛なのか、うなじで跳ねた髪に、可愛いんじゃない?と、囁く声。
さわさわと、葉が風にゆらされてこすれ合う音のように、ひそひそと交わされる会場内の会話。


コーディングされた舞台のフローリングに、赤のテープで×の印がつけられている位置に立つ。
パフォーマンスの内容はリハーサルで確認されていたために、ジョーの2つ前の生徒が舞台に立ったとき、彼のTシャツに小さなピンマイクがつけられた。



体重を右足にかける。
左、つま先を上げて、とん。とおろす。

そのまま、一定のリズムで踏んでいく。


1、3のリズムを足先で作り、2、4の裏を左手の指で鳴らした。
裏のリズムを、自分が歌いやすい間に捕らえたところで、足をとめる。









会場内に、ジョーの鳴らす指音だけが響いた。










ぱちんっ!と、ひときわ大きく指を鳴らした時、会場内はジョーの雰囲気に飲み込まれて、彼に染まる。

(『』内は英語で歌ってます)










『o・・ooh・・・ Darling,・・・、お願いだから信じてくれ、よ』



ライトに焼かれた空気を吸い込んだ彼が作り出す音に、引きづり込まれた。




『♪俺はキミを傷つけることなんて、しない

♪お願いだから俺の言うことを信じて、

決してキミを傷つけたりしない、よ』










彼のならす指音と、歌。




『Oh・・・Darling, キミがもしも俺から去って行ってしまうなら

♪きっと俺は1人じゃ何もできないんだ、よ

♪頼むから信じてくれ、よ・・・俺を

♪俺を1人にしないで、くれ・・、置いて行かないで・・・・・・・!』






リハーサル室のTVのボリュームをRA(Resident Assistant)の当麻に頼んで最大に上げてもらった。




『♪キミが俺なんて・・もう必要ないと言ったときに

♪Well ・・・知ってるかな・・・俺は崩れおちて泣き出したことを

♪俺なんか必要ないと、キミが言ったときだ、よ

♪Well you know  ・・・俺は崩れおちて、死にたくなったんだ・・・』





「・・・・・・・マジ、・・かよっ?!・・アイツっ」
「すご・・・、ジョー・・・・すごい、よ・・・」
「うわあ・・・・プロだったの?ねえ、009ってプロ?!」
「・・・・・・」



伴奏も何も無い、アカペラで歌う、彼。


歌う9







『Ohっっ! Darling, ・・・・もしキミが俺から去って行ってしまったら

♪俺は1人でなんて生きて行けない、よ・・・

♪Believe me ・・お願いだ、よ。

♪絶対にキミを傷つける事なんてしないと、言うから・・』






オリジナルよりも早いテンポで、少しばかり軽く歌い上げる。





『♪キミが俺なんて・・もう必要ないと言ったときに

♪Well ・・・知ってるかな・・・俺は崩れおちて泣き出したことを

♪俺なんか必要ないと、キミが言ったときだ、よ

♪Well you know  ・・・俺は崩れおちて、死にたくなったんだ・・・』







ジョーの声が、熱した空気を震動させる。









『o、o.oOH、Darlingっっ!お願いだ、俺を信じてくれ、よ・・・・!

♪キミを失望なんてさせない・・・

♪信じて、俺を・・・。俺は・・絶対に、

♪キミを傷つけることなんてしない、から・・、

♪絶対に・・・誓う、よ・・・』







肺から出し切った音に、鳴らしていた指は2小節ほど、長めにリズムを刻んだ。



テレ隠しのように、無愛想にちょこっと頭を下げて早足に舞台袖に引っ込んだ彼の背に、ぱらぱらとした拍手が鳴り始めて、それはスコールのように突然激しく会場を沸き立たせて鳴り響いた。
























[Oh!Darling] by Lennon/McCartny......(対訳・Achiko・・・ジョーらしく?)




ふふふ...ふふ、ふふふっっ。
いただいたイラスト挟み込みの術!


====へと続く


・ちょっと呟く・

はーい♪
歌っていただきました、ビートルズ!!
ちょこっとだけ「リトル~2」で書いたんですが、
それだけで曲を当ててくださった!!方もいらして、(感動)
おねだりしてしまい・・・(←遠慮がなくて、ずうずうしい、・・・スミマセン)
書きましたあっ!いかがでしたでしょうか?妄想の種になったでしょうか...どきどきです

1日目はまだまだ、まだまだ・・・続きます。(え?)
9があの5人の中では先陣を切りましたとさ。です。
2、8、のパフォーマンスみたいですか?
・・・ここで訊くなよ・・。


・・英訳はジョーっぽく、です。一応ね。
一応、です。
一応なので、突っ込まないでください。

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