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彼は泣く。


ドアのチャイムが ちりりんっと鳴る。

カフェ”Audrey”に冬のオリジナル・チョコレートケーキが並んだころ、明るい栗色の髪と端正な顔立ちの青年は、すれ違う女性達の視線を一身に浴びながら、そんなことは慣れている、という風に・・・全く気にしないというか、気づいていないと言った方がいいのか、同性からみて、かなり嫌味な態度・・・と、思わずにはいられない、が。それは彼が纏う独特な雰囲気によって、全てが許された。


「よう!」
「久し振り」


オレの名前は、大地。
このカフェのオーナーの弟で、バイト中。

この気障で物腰の柔らかい・・・ルックスの良い・・・(くそ!!)
男はの名前は、今をときめくF1ドライバー、島村ジョー・・・


オレの恋敵だった奴だ。


「テーブル?」
「うん」


オレは、ジョーを店の奥の目立たない席へ案内する、彼がそれを望んでいることを知っているから。


「あ、っそうか。今日だったけ?」


オレは、テーブルに水とおしぼりを置きながら思い出した。
フランソワーズさんは今、2週間の地方公演に参加していて、今日、彼女は戻ってくるんだ。
バレエ団がチャーターしたバスで戻ってくるはず・・・。


「そう、今日だよ」

ジョーは男のオレにむかって、日本人には珍しい褐色の・・・
色素の薄いその瞳を柔らかい光で輝かせながら、ゆったり と微笑んだ。
彼の・・・東洋人とも西洋人とも云えない、神秘的で魅力的な顔立ちで、微笑まれたら男のオレでも、心臓が どきり と飛び跳ねる。


「な、な、何にするんだよ!」


オレは乱暴に注文を取る。
ジョーは気にすることなく、一言。


「珈琲」
「何も食わね~の?」
「・・・多分、フランソワーズが食べたがると思うから、その時に」
「おう、わかった」
「新作、出たんだ」
「ああ・・・出たよ」


オレは軽くため息をつく。


「今回はなに?」
「・・・・オレに言わせたいのかよ」
「それが仕事だろ?」


ジョーは意地悪くニヤリと笑う。そんな表情も・・・
嫌味なくらいにさまになる。


顔がいい男は得だよなぁ。



「”包まれた愛にとろけるショコラ”
 
”キミの瞳が輝く瞬間(とき)を重ねて”{チョコレートスポンジにホワイトチョコのクリーム)
 
”冬の吐息は甘いチョコレート”(ブラウニー)

”手のひらにの小さな恋”(生チョコレート)だよ!」


オレが少し大げさに新作を読み上げた。
これらのネーミングはパティシエである、オレの兄貴が全部考える。

いったい、どうやったらこんな名前を平然とつけられるのか・・・。

同じ血が流れているとは思えない。





ジョーはくくくっと喉を鳴らして笑った。


「今回も抜群のセンスだね、フランソワーズが喜ぶよ」



フランソワーズ・・・さん。
彼の恋人の名前。


亜麻色の髪を綺麗にカチューシャでまとめて、長く柔らかな睫に縁取られた、大きな宝石のように輝く美しいパライバトルマリン色の瞳。
華奢な肢体はバレエで鍛えられてすらりと姿勢がよく、ころころとよく変わる表情の豊かさに、瑞々しいサクランボ色の愛らしいくちびるからこぼれる、涼やかな笑い声。
パリ生まれのパリ育ち。生粋のフランス女性はこの男の・・・愛する女性であり、オレの失恋相手で、





まだちょっと好きだったりしたりする。












オレは一度ジョーのいるテーブルを離れて、珈琲を淹れる。


「あら、島村っちさん、いらしてるの?」


厨房から顔を出した、オレの義姉・萌子はフランソワーズさんと、とても仲が良く、義姉さんとバレエ団の新進プリマ・香奈恵さんがそろったら最強だ。

ジョーのことを”島村っち”と呼ぶのは香奈恵さんの影響。







「そっか~、今日だったわね。フランちゃんが戻ってくるの。迎えにきたのね~」

義姉さんの独り言とは思えない声の大きさに、毎度、呆れつつ・・・。
オレはジョーの珈琲をトレイに乗せた。


「あら、珈琲だけ?」
「フランソワーズさんが後で何か食べたがるだろうから、今はいいって」
「や~ね!甘い物は別腹よ」

そういうと義姉さんは厨房へ行き、ランチタイムの時間は過ぎていたが、今日のオススメランチのサンドイッチを、簡単に皿に盛ったものをトレイに乗せた。


「残りもので悪いけど、これはサービスよ!」


オレは義姉さんのこういうところを尊敬している。

ジョーのテーブルに戻り、珈琲とサンドイッチを乗せた皿を置いた。
彼は持ってきていた雑誌から目を離し、驚いたようにオレをみた。


「ランチタイムの残りもんで悪いけど、だってさ。サービスだ」


ジョーはオレから視線を外し、レジに立つ義姉さんを見つけて笑顔で会釈した。
密かに、義姉さんはジョーのファンだったりして・・・
そのジョーの仕草にものすごく照れながら同じように会釈しかえした。


「いつも・・・悪いな・・・ありがとう」


もしかしたら、義姉さんはジョーが昼飯を食べてないって、
わかったのかな?女の感ってやつ?














####

ジョーが3杯目の珈琲を頼んだとき、外はすでに暗く。
彼は何度も携帯電話のデジタル時計を確認していた。


「・・・フランソワーズさん、何時に着くって?」
「3時前には、バレエスクールにバスが着くと言ってたよ」

オレは店に掛けられている時計を観た。
すでに、ジョーは4時間近くこのテーブルでフランソワーズさんを乗せたバスを待っている。
カフェは大通りに面しているため、バスが通ればすぐにわかる。バレエスクールはここから点滅信号を挟んだ向かい側にあるから、大型バスが通ればすぐにわかる。


ジョーは、何度も携帯からメールを送り、時々立ち上がってフランソワーズさんの携帯にコールしていたが、彼は何も言わず席に戻ってくるので、繋がらないのだろう。






さすがに”道路が混んでいた”が理由にはならなくなってきた。

義姉さんも心配になったのか、一緒にバスに乗っている香奈恵さんに店の電話から連絡してみる。だまって受話器を置いて、オレに向かって力無く首を横にふった。








カフェ”Audrey”の閉店時間は少し早く、8時。

ジョーはそれを知っているので、レシートを持って立ち上がろうとしたが、義姉さんもフランソワーズさんが、一緒にいるであろう香奈恵さんが心配なのだろう。店は閉めるがそのまま、ここで待っていたらいい。と、ジョーに言った。






オレも、ジョーにそうするように言った。

彼は、少し悩んだが俺たちの好意を素直に受けた。
義姉さんは時計を観た。







「・・・本当に、どうしたのかしら?」


ジョーとオレは窓側のテーブルに移動する。
もう客はいない。


兄貴はこれから厨房で明日の準備をするから、店は閉めてはいるが、まだ義姉さんもオレも普通にカフェにいる時間だ。

だからジョーに気にするな、と念を押す。










彼は何度も携帯をチェックするが、その様子はいたって冷静で・・・・落ち着いていた。
一度、”家の者”が心配していると思うと言い、携帯で自宅に電話した。



聞き慣れない名前が耳に入った。





「もしもし?・・・ああ、アルベルト?・・・・・・ああ、まだだ。
・・・・・そう。いや・・・カフェにいる・・・・・・・・もう少し待つつもりだ・・・・・
大丈夫だと思うが、万が一の場合も考えて・・・・・
そこまでじゃ・・・うん、そうだね、ありがとう、俺は大丈夫だよ。
また連絡する・・・うん、うん・・・じゃあ」









人の電話を聞いてはいけないと思いながらも、オレは・・・ジョーの”家の人間”にたいする会話に少し、いや・・・かなり違和感を感じた。
家族の会話に聞こえない。こういうのをなんて言うのを、なんと言っていいのかわからないが、テレビドラマの刑事ものや・・・、なんかそういうものを思い出させるような会話だった。


テーブルに戻ってきたジョーが、初めてオレの前で・・・ため息を吐いた。





それはとても小さなものだったが、ひどくオレを安心させた。

オレと義姉さんばかりがオロオロと焦っていて、彼は落ち着いていたから。
普通は逆なんじゃあ?っと思うが。


これがF1と言う、命をかけて走るレーサーの精神力って言うか、忍耐力・・・強さなのかな・・っと思ったが!
それと、愛する恋人のことは別物だと思い、少し腹が立つ!!!









心配じゃあないのか!?












オレの方が不安に胸が押しつぶされそうになる。

ジョーは、フランソワーズさんのこと心配じゃあないのかよ!

オレの怒りとフランソワーズさんを心配する焦りに気がついてないのか、ジョーはとりとめのない話しをする。オレも、ジョーの仕事の話しや通っている大学の話しをする。
厨房で手伝っていた義姉さんも、ときどき俺たちの様子を観にやってくる。







時計が、11時を指そうとしていたとき。

交通量が減った大通りに響く大型車のエンジン音が響いた。
窓ガラスに差し込んだ一瞬の強いライト。

観光バスは点滅信号を越えて、バレエスクールの前に ぴたり と停まった。
オレは慌てて店を飛び出した。











ドアのベルが ちりりんっといつもよりも強く鳴った。


ベルの音に気がついて義姉さんも厨房から小走りに出てきてオレの後に続く。
ジョーは・・・ゆっくりと席を立ち、一度閉まったドアを丁寧に開けた。









ドアのベルが ちりりんっと、いつもより静かに鳴る。

暗闇の中、俺たち3人はバスを睨むように見守る。
ドアが開き、バスの運転手が座席下にあるバスのトランクを開ける。
ガヤガヤと女性の甲高い・・・悲鳴のような賑やかな声が聞こえ始めた。


オレは何気なくジョーを観た。


「・・・・え?」


オレ・・・
オレは・・・・
生まれて初めて・・・
こんなに綺麗なものを生まれて初めて観た。










ジョーは、泣いていた。












カフェから漏れる光により陰影が濃くなったその顔に、微かに震える睫が落とす陰。
まっすぐに立ち、躯をバスの方へ向けたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。

彼は何かに堪えるように、少し唇を噛みしめて俯くと、何かを決意したかのように厳かに顔を上げる。
そして、瞼を開く・・・淡い褐色の瞳は普段より色が濃くなり

闇が見えた。





ジョーの瞳の闇が揺れた。








その瞬間、彼の眼から・・・この世の中にこんなに清らかな、透明なものが存在するのかと、


オレの胸に感動を与えた・・・。





ひとしずくの涙が彼の頬を伝う。


まるで意図的に作られた・・・映像のように。





隣に立つ、義姉さんもジョーに魅入られている。






バスから、1人の少女の姿。
夜の暗闇に光るネオンに照らされて、亜麻色の髪が地上に降る星のように輝いた。


彼女はまっすぐにこちらに向かってくる。
アスファルトに響くヒールの音が、少しずつ近づいてくる。


その音が作るリズムが少しずつ・・・早くなる。



彼女の白い肌が浮き彫りになる。
彼女が着ている服が、風に揺れる。



彼女は両手を広げ、走ってくる。


はあっ っと 彼女が大きくはいた息が、
オレの耳に届いたとき




「・・・フランソワーズ」





ジョーの声が天上から降ってきた。


フランソワーズさんは、勢いよくジョーの胸に飛び込み、彼を強く、強く、強く抱きしめた。

ジョーはただ、抱きしめられている。

ゆっくり と、フランソワーズさんはその腕を離し、彼女の白い手がジョーの腕から彼の頬を包むように移動する。
ジョーの瞳からは流れ続ける・・・清らかな涙。

フランソワーズさんは、愛おしそうにジョーの顔を見つめて微笑んだ。


「・・・ジョー 泣かないで・・・」



フランソワーズさんは美しい声で囁いた。
ジョーはその声に反して、・・・涙を流す。



「ジョー・・・? 大丈夫よ。私はどこにも行かないわ
      

        私はここにいるわ

  ジョー・・・・     

                          愛してるわ  ジョー


       ねえ・・・ジョー?

 

    私の還る場所は     

                                        あなたの腕の中なのよ?」











彼女は背伸びをして、ジョーの頬に、額に、瞼に、口元に、沢山のキスをする。

ジョーはそこでやっと腕をフランソワーズさんの背中にまわして、彼女を抱き寄せた。

フランソワーズさんのキスは続く。

それに答えるように、ジョーの腕の力は強まっていった。

フランソワーズさんは、引き寄せられたジョーの躯に全身の体重を預けて、彼の首に腕をまわした。

ジョーは、フランソワーズさんの髪にその泣き顔を隠すように埋めていった。














そして、ジョーの躯の中に溜まっていた不安の闇を全てはき出すかのように、




長く・・・深いため息を吐いた。




ことば には できない。



深く。気高く。甘く。切なく。強く。愛おしく。優しく。美しく。




愛し合う。




彼らは、愛し合っている。




これほどまでに、全身全霊・・・魂で愛し合ってる人はいるだろうか?



オレも義姉さんも・・・息ができない。少しでも音を出せば、この美しい恋人達の愛が汚れそうで。
ただ、ただ彼らの抱擁を見つめているだけ。

義姉さんの目に涙が浮かんでいるのは、気のせいだろうか?
オレの鼻の奥がつーんっとひきつっているのは・・・なんでだろう?




綺麗だ。

そんな陳腐なことばしか思い浮かばない、オレが情けない。








「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉおおお!人前で、公共の場で、何してんのよ、フランソワーズ!!!島村っち!!!」









あっという間に場の雰囲気を壊した、甲高い・・・・少し苛立った声の主。

はっとその声の主を観る。


「香奈恵さん!」

彼女の名前を叫んだのは義姉さんだった。
香奈恵さんは、両肩に1つずつ大きなスポーツバッグを掲げ、3つのスーツケースの上に無理矢理乗せた沢山の土産物っぽい紙袋・・・に、手で転がせないスーツケースを足で蹴りながら運んできた。


「っっっっったく!フランソワーズ!!!自分の荷物ぐらい先に取ってから島村っちといちゃつきなさいよおおおおおおお!」





・・・・明らかに、怒っている。



彼女のスッピンの顔やボサボサの髪から、長時間バスに押し込められていた疲れがありありと現れていた。


ジョーに抱きしめられたまま、フランソワーズさんは首だけを、香奈恵さんにの方に傾けて言った。











「ごめんなさい、香奈恵さん。・・・だってジョーは泣き虫さんなのよ?」











彼女は、それはそれは嬉しそうに言った。


さすがに・・・さすがの、香奈恵さんも何も言うことができないだろう。


ふか~~~~~~~~~~~~く
疲労のため息を吐き、ドサドサと荷物を地面に落とす。

オレは、今回ばかりは香奈恵さんに同情した。




本当に、ジョーは泣き虫だった・・・。
でも、フランソワーズさんはそんなジョーが一番好きなんだと思う。







やってらんね~!!!












end.





















・あとがき・

「俺が好きになった人は島村ジョーの恋人だった」シリーズ第一弾!

”彼は泣く”でした。
えっと、SSの”泣き虫”を書いた後に、
人前でジョーを泣かせてみたくなったんです(笑)
私、意地悪ですね・・・。

どういう状況で泣かせようか迷ったんですが・・・。

連載ものが・・・ねえ、ラブラブできなくて、
しかも、大地君ってばもう、すんごく動かしやすくって!

一般青年から観た39です。
そして3と9から人がもつ愛の深さを知る・・・みたいな?(^◇^;)> イヤァ~

大地君の成長を
9と3の恋愛と一緒に。

この世界はACHIKOはスラスラ書けちゃうので・・・シリーズ化!

またお会いしましょう(笑)
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